特表2021-523153(P2021-523153A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-523153癌の治療に使用するための医薬併用剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-523153(P2021-523153A)
(43)【公表日】2021年9月2日
(54)【発明の名称】癌の治療に使用するための医薬併用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20210806BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210806BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210806BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210806BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210806BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20210806BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20210806BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20210806BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20210806BHJP
   C12N 15/117 20100101ALN20210806BHJP
【FI】
   A61K45/06
   A61P35/00ZNA
   A61K39/395 N
   A61K39/395 T
   A61K39/395 D
   A61K39/395 E
   A61K45/00
   A61P43/00 121
   A61K31/713
   A61K31/711
   A61K9/08
   C07K16/28
   C12N15/117 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2020-562688(P2020-562688)
(86)(22)【出願日】2019年5月7日
(85)【翻訳文提出日】2020年12月24日
(86)【国際出願番号】EP2019061683
(87)【国際公開番号】WO2019215151
(87)【国際公開日】20191114
(31)【優先権主張番号】18170999.9
(32)【優先日】2018年5月7日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520363878
【氏名又は名称】ユニバーシタッツメディズィン デア ヨハネス グーテンベルク−ユニバーシタット マインツ
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ロージヒカイト,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ボッカンプ,エルンスト−オット
(72)【発明者】
【氏名】シュパン,デトレフ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB11
4C076CC27
4C076FF68
4C084AA24
4C084ZB261
4C084ZC202
4C084ZC751
4C085AA13
4C085BB11
4C085EE03
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、成分:a)少なくとも1種の制御性T細胞(Treg)除去剤、b)少なくとも1種のトール様受容体9(TLR9)アゴニスト、c)1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤を含み、ヒトまたは非ヒト哺乳動物の癌の治療に使用するための医薬併用剤に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬併用剤であって、成分:
a)少なくとも1種の制御性T細胞(Treg)除去剤、
b)少なくとも1種のトール様受容体9(TLR9)アゴニスト、
c)1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤、を含み、ヒトまたは非ヒト哺乳動物の癌の治療に使用するための、医薬併用剤。
【請求項2】
前記成分a)のTreg除去剤が、表面抗原除去抗体または抗体フラグメントである、請求項1に記載の医薬併用剤。
【請求項3】
前記成分a)のTreg除去剤が、CD25、CD15s、GITR、CCR4、CTLA−4、OX−40、LAG3、GARP、ZAP−70またはPD−1表面抗原に対する抗体または抗体フラグメントである、請求項2に記載の医薬併用剤。
【請求項4】
前記成分a)のTreg除去剤が、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスホスフェート 3−キナーゼデルタ(PI3K)阻害剤である、請求項1に記載の医薬併用剤。
【請求項5】
前記成分b)のTLR9アゴニストが、非メチル化CpGジヌクレオチドを含むCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)で構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬併用剤。
【請求項6】
前記CpG ODNが、式CCx(C以外)(C以外)xxGGGで構成され、式中、xは、修飾または非修飾A、T、C、Gまたはその誘導体からなる群より選択される任意の塩基である、請求項5に記載の医薬併用剤。
【請求項7】
前記CpG ODNが、1種または複数のヌクレアーゼ耐性ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドを含む、請求項5または6に記載の医薬併用剤。
【請求項8】
前記CpG ODNが、核酸配列:
5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT−3’(配列番号1)、
5’−GGGGGACGATCGTCGGGGGG−3’(配列番号2)、
5’−TCGTCGTTTTCGGCGCGCGCCG−3’(配列番号3)、
5’−GGGGTCAACGTTGAGGGGGG−3’(配列番号4)
5’−TCCATGACGTTCCTGACGTT−3’(配列番号5)、
5’−TCCATGACGTTCCTGATGCT−3’(配列番号6)、
5’−TCGACGTTCGTCGTTCGTCGTTC−3’(配列番号7)、
5’−TCGTCGTTGTCGTTTTGTCGTT−3’(配列番号8)、
5’−TCGCGACGTTCGCCCGACGTTCGGTA−3(配列番号9)、
5’−GGGGACGACGTCGTGGGGGGG−3’(配列番号10)、
5’−TCGTCGTCGTTCGAACGACGTTGAT−3’(配列番号11)、
5’−TCGCGAACGTTCGCCGCGTTCGAACGCGG−3’(配列番号12)、の内の1個または複数を含む、請求項5に記載の医薬併用剤。
【請求項9】
前記成分b)のTLR9アゴニストが、大腸菌、他の原核生物およびウィルスに由来し、TLR9、または細菌性またはウィルスDNA TLR9アゴニスト中のリン酸ジエステル骨格などの非メチル化CpG配列を模倣し、ダブルステムループ免疫調節剤(dSLIM)として知られるTLR9を活性化する能力を有するダンベル様構造体に折り畳まれるものに結合する能力を有する一本鎖または二本鎖ゲノムDNAである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬併用剤。
【請求項10】
前記成分c)の1種または複数のチェックポイント阻害剤が、CTLA4、PD−1、PD−L1、PD−L2、LAG3、B7−H3、B7−H4、KIR、OX40、IgG、IDO−1、IDO−2、CEACAM1、TNFRSF4、OX40L、TIM3、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN−15049、CHK1、CHK2、A2aR、およびB−7またはこれらの組み合わせからなる群より選択されるチェックポイントタンパク質を阻害する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬併用剤。
【請求項11】
a)前記制御性T細胞(Treg)除去剤が、CD25に対する抗体または抗体フラグメントである、
b)前記トール様受容体9(TLR9)アゴニストがCpG ODNである、
c)1種または複数の前記免疫チェックポイント阻害剤が、CTLA−4およびPD−1抗体である、請求項1に記載の医薬併用剤。
【請求項12】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、単一注射溶液で希釈されたCTLA−4およびPD−1抗体の組み合わせである、請求項10に記載の医薬併用剤。
【請求項13】
前記組み合わせが、成分a)が、成分b)および成分c)の前に、1回または繰り返して投与され、任意選択で、成分b)が、成分c)を癌患者へ投与する前に、1回または繰り返して投与されることを規定する投与計画をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬併用剤。
【請求項14】
前記投与計画が、
a.成分a)が、+1日目の前に5〜9日間注射される、
b.成分b)が、+1日目に開始して、1回または複数の注射により、3または4日目毎に注射される、
c.成分c)が、+1日目に開始して、1回または複数の注射により、3または4日目毎に注射される、ことを規定する、請求項13に記載の医薬併用剤。
【請求項15】
3種の成分a)〜c)の全てが、その後の癌患者への注射のための、別々の注射溶液として封入される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の医薬併用剤。
【請求項16】
前記組み合わせがキットオブパーツである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の医薬併用剤。
【請求項17】
組織中の腫瘍細胞の増殖を漸減させるエクスビボ法であって、
a.少なくとも1種の制御性T細胞(Treg)除去剤の適用ステップ、
b.少なくとも1種のトール様受容体9(TLR9)アゴニストの適用ステップ、
c.1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤の適用ステップであって、少なくとも前記TLR9アゴニストが、Treg細胞除去後に続けて適用され、1種または複数の前記免疫チェックポイント阻害剤が、少なくとも1種の前記TLR9アゴニストの後に、またはそれと同時に適用される、適用ステップ、を含む方法。
【請求項18】
前記Treg除去剤、前記TLR9アゴニストおよび/またはチェックポイント阻害剤が、請求項1〜15で定められるいずれか1種である、請求項17に記載のエクスビボ法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物の癌の治療に使用するための医薬併用剤およびキットオブパーツに関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの癌は、全体的にみて予後不良であり、早期に診断された場合にのみ、手術およびアブレーション療法により治癒を提供し得る(Siegel et al.,2017年)。しかし、多くの場合、および特に肺癌に関しては、悪性疾患は進行期にのみ診断され、化学療法剤の場合には、放射線および、いくつかの事例では、チロシンキナーゼ阻害剤が寛解をもたらし、生存期間を延長する(非特許文献12;非特許文献27)。免疫チェックポイント阻害剤と免疫ワクチン接種との組み合わせは、唯一の利用可能な代替治療選択肢として残されている(非特許文献3;非特許文献6;非特許文献8;非特許文献14;非特許文献17;非特許文献21)。
【0003】
生理的状態下では、刺激および阻害経路の両方は、病原体に対する炎症性免疫応答を調節し、自己抗原に対する耐性を維持する。これらは、一連の多様な免疫チェックポイントにより調節され、それにより、健康な組織を損傷から保護する。悪性腫瘍はこれらのチェックポイントを利用して、免疫応答を抑制し、免疫系による破壊を回避できる。臨床的進展が認められる典型的な免疫チェックポイント阻害剤は、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA−4)およびプログラム細胞死1(PD−1)であり、これらは、抗癌剤開発担当者の初期標的となってきた。PD−1およびCTLA−4、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA;CD272)、T細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン−3(TIM−3)、リンパ球活性化遺伝子−3(LAG−3;CD223)、などの共抑制受容体は、多くの場合、チェックポイント制御因子と呼ばれる。
【0004】
CTLA−4およびPD−1経路は、免疫応答の異なる段階で機能する。CTLA−4の早期T細胞活性化に対する影響と対照的に、PD−1経路は、(後期)エフェクター段階でT細胞応答に影響を与えるように見える。PD−1は、持続的抗原暴露後、通常は慢性感染症または腫瘍に応答してT細胞上で発現上昇している。PD−1にリガンドであるPD−L1およびPD−L2は、腫瘍細胞、ならびにいくつか他の造血および非造血細胞型により発現され得る。
【0005】
CTLA4の臨床的抑制は、イピリムマブおよびトレメリムマブを用いて行われてきた。しかし、イピリムマブで治療した患者の集積データでは、これは、約3年で生存のプラトーに達し得るように見える。その後、3年間生存のまま残った患者は、持続性長期生存の恩恵を経験する可能性があり、これには、最大10年間にわたり続く一部の患者が含まれる。このような抗CTLA−4 mAb療法の1つの主要な欠点は、それ自体を低減させる能力をなくした過剰免疫系に起因する自己免疫毒性の可能性があることである。イピリムマブで治療された患者の最大25%が、皮膚炎、小腸結腸炎、肝炎、内分泌疾患(下垂体炎、甲状腺炎、および副腎炎を含む)、関節炎、ぶどう膜炎、腎炎、および無菌性髄膜炎などの重篤なグレード3〜4の有害事象/自己免疫型副作用を発症したことが報告されている。従って、チェックポイント阻害剤は、応答対象集団での癌治療に極めて効果的であるが、癌対象の約75%は、この療法に応答しない。加えて、応答集団であっても、応答は必ずしも完全または最適ではない。
【0006】
Herbstら(非特許文献19)により報告された臨床試験は、ヒト化モノクローナル抗PD−L1抗体を用いて単一薬剤安全性、活性およびPD−L1抑制の関連バイオマーカーを評価するように設計された。抗CTLA−4の経験とは対照的に、抗PD−1療法は、耐容性がより良好であるように見え、比較的低比率の自己免疫型副作用を誘導する。
【0007】
従って、これらの第一世代抗癌免疫治療薬の臨床適用は、一部の患者(例えば、肺癌の約20%)のみが、免疫チェックポイント遮断療法に応答することを示した(非特許文献6;非特許文献7;非特許文献35)。
【0008】
古典的な治療戦略の失敗および第一世代チェックポイント遮断免疫療法に対する限定的な応答性は、新規の、より良好な治療選択肢が癌療法に必要であることを明確に示している。免疫チェックポイント制御因子単独の応答性および臨床的成功が限られているという事実を考慮すれば、相乗的治療法、すなわち、免疫チェックポイント制御因子と追加の免疫調節経路との組み合わせは、抗癌免疫療法の有効性を高める合理的方法といえる。自然免疫応答は、獲得および自然免疫の両方に基づいているので、抗癌免疫ワクチンは、獲得(TおよびB細胞)ならびに自然(樹状細胞、自然リンパ系細胞、マクロファージ、NK細胞および顆粒球)免疫応答の両方を刺激する治療薬の組み合わせ作用から恩恵を受ける。
【0009】
腫瘍微小環境の再形成ならびに成熟、抗原提示および腫瘍特異的細胞傷害性リンパ球のプライミングの強化が可能な相乗的共治療薬の1つのグループは、トール様受容体(TLR)である。TLRは、免疫系の多くの細胞上に存在し、自然免疫応答に関与することが示された(非特許文献20)。TLRは、脊椎動物が外来性分子を認識し、免疫応答を開始する重要な手段であり、また、自然および獲得免疫応答を結び付けることができる(非特許文献2;非特許文献25)。一部のTLRは、細胞表面に配置され、細胞外病原体を検出し、これに対する応答を開始し、および、細胞内に位置する他のTLRは、細胞内病原体を検出し,これに対する応答を開始する。加えて、TLRは、危険シグナルを検知し、免疫刺激抗癌応答を促進できる(非特許文献24)。
【0010】
TLRアゴニストは、自然および獲得抗癌免疫応答の橋渡しをする能力を有する。しかし、増えつつある証拠は、種々のTLRは、癌発生に対し、異なる副作用、いくつかの事例では、望ましくない副作用を有し得ることを示唆する。(非特許文献32)この理由のために、併用療法での免疫増強剤としてのTLRの適用については、この問題を明確にしなければならない。
【0011】
TLRの中で、TLR9は、免疫療法の強化のための良好な候補であるように見える。理由は、TLR9刺激は、Th1および炎症促進性サイトカインの産生を特徴とする自然免疫応答を促進するためである(非特許文献30)。TLR9は、細菌およびウィルスDNA、合成IMO−2055(EMD1201081)および免疫調節オリゴヌクレオチド(例えば、IMO−2125またはIMO−20155)ならびに細菌またはウィルスDNA中の非メチル化デオキシシチジレート−ホスフェート−デオキシグアニレート(CpG)配列を模倣する他の合成オリゴヌクレオチド中でよく認められる非メチル化CpGモチーフを認識することが知られている(非特許文献13;非特許文献18)。加えて、リン酸ジエステル骨格を含み、MGN−1703およびMGN−1706などのダブルステムループ免疫調節剤(dSLIM)として知られるダンベル様構造中に折り畳まれるTLR9アゴニストは、TLR9アゴニストとして機能する(非特許文献13;非特許文献26)。さらに、TLR9の天然起源アゴニストは、抗腫瘍活性(例えば、抗腫瘍増殖および抗血管新生)を生じ、有効な抗癌応答、例えば、抗白血病応答を生じることが示された(非特許文献33)。TLR9標的化は、肺治療適用に特に好都合である。理由は、TLR9は,マウスおよび人の気管支上皮、血管内皮、肺胞中隔細胞、肺胞マクロファージ、樹状細胞およびB細胞で発現しているためである(非特許文献30;非特許文献31)。加えて、TLR9アゴニストは、臨床試験で使用されてきた。発表データは、有害毒作用を示さず、いくつかの事例では、小さい臨床的有用性も示されている(非特許文献9;非特許文献23;非特許文献36)。
【0012】
TLR9およびチェックポイント阻害剤の個々の欠点を考慮して、免疫チェックポイント調節物質またはチェックポイント阻害剤が、1種または複数のTLR9アゴニストと一緒に癌患者に同時投与される併用療法が開発された。
【0013】
特許文献1は、医薬、特に、癌の予防および/または治療で使用するための、免疫チェックポイント調節物質および細胞透過性ペプチド、少なくとも1種の抗原または抗原エピトープ、およびTLRペプチドアゴニストを含む複合体の組み合わせについて記載している。さらに、この発明はまた、医薬,例えば、癌の予防および/または治療に有用な、医薬組成物およびワクチン剤などの組成物も提供する。
【0014】
特許文献2は、癌に対する免疫応答を誘導する方法を記載し、該方法は、癌患者に1種または複数のTLR9アゴニストおよび1種または複数のチェックポイント阻害剤を同時投与することを含む。
【0015】
特許文献3は、癌の治療または抗腫瘍応答を必要としている対象の癌の治療または抗腫瘍応答を開始、強化、または持続させる方法を記載し、該方法は、チェックポイント阻害剤と組み合わせて、治療薬を対象に投与することを含む。
【0016】
特許文献4は、TLR9アゴニストを、CTLA4、PD1、PD−L1、LAG3、B7−H3、B7−H4、KIR、OX40、IgG、IDO−1、IDO−2、ICOS、CECAM1、TNFRSF4、BTLA、OX40LまたはTIM3の阻害剤などの1種または複数のチェックポイント阻害剤と組み合わせて使用する癌の治療方法を記載している。該方法は、特定のCPGオリゴヌクレオチドの局所投与および抗PD1抗体、抗PD−L1抗体および/または抗CTLA4抗体などのチェックポイント阻害剤の全身投与を含む。
【0017】
特許文献5は、有効量のTLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤を対象に投与することにより癌の治療のための方法を記載し、TLR9アゴニストは、腫瘍中に、または腫瘍にほぼ隣接して投与される。TLR9アゴニストは好ましくは、CpG DNAであり、チェックポイント阻害剤は好ましくは、CTLA4、PD1および/またはPD−L1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントである。
【0018】
チェックポイント阻害剤および/またはTLRを用いた癌免疫療法の成功を妨害するさらなる障害は、免疫抑制性制御性T細胞(TregまたはTreg細胞)である(非特許文献34)。Tregの固有の機能は、病理学的自己免疫を抑制することである。癌では、免疫系は、免疫学的な攻撃に対して腫瘍を保護するように働くTreg細胞を生成するために再プログラムされる。免疫応答は、免疫応答を抑制するために、共抑制受容体の発現上昇をもたらす。T細胞上の発現上昇共抑制分子の典型例は、CTLA−4、PD−1、TIM−3およびLAG−3である。共抑制受容体の発見は、T細胞活性化を継続させ、Treg細胞により阻害させないために、これらの受容体に対する抗体の開発に繋がった。この機序により、T細胞は、種々の標的の攻撃を開始する。
【0019】
現在まで、TLRまたはチェックポイント阻害剤を用いて、癌の効果的治療をもたらし、前述の欠点を回避し得る信頼性の高い療法または活性薬剤の組み合わせは存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公開第2016/146261号
【特許文献2】欧州特許出願公開第3204040号明細書
【特許文献3】国際公開第2015/069770号
【特許文献4】国際公開第2016/057898号
【特許文献5】国際公開第2016/109310号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Ahmad,S.,Abu−Eid,R.,Shrimali,R.,Webb,M.,Verma,V.,Doroodchi,A.,Berrong,Z.,Samara,R.,Rodriguez,P.C.,Mkrtichyan,M.,and Khleif,S.N.,“Differential PI3K5 Signaling in CD4”,Cancer Res,2017,77(8),1892−1904
【非特許文献2】Akira,S.,Takeda,K.,and Kaisho,T.,“Toll−like receptors:critical proteins linking innate and acquired immunity”,Nat Immunol,2001,2,675−680
【非特許文献3】Antonia,S.J.,Villegas,A.,Daniel,D.,Vicente,D.,Murakami,S.,Hui,R.,Yokoi,T.,Chiappori,A.,Lee,K.H.,de Wit,M.,et al.,“Durvalumab after Chemoradiotherapy in Stage III Non−Small−Cell Lung Cancer”,N Engl J Med,2017,377,1919−1929.
【非特許文献4】Ali,K.,Soond,D.R.,Pineiro,R.,Hagemann,T.,Pearce,W.,Lim,E.L.,...Vanhaesebroeck,B.,“Inactivation of PI(3)K p110δ breaks regulatory T−cell−mediated immune tolerance to cancer”,Nature,2014,510(7505),407−411
【非特許文献5】Bowers,J.S.,Majchrzak,K.,Nelson,M.H.,Aksoy,B.A.,Wyatt,M.M.,Smith,A.S.,Bailey,S.R.,Neal,L.R.,Hammerbacher,J.E.,and Paulos,C.M.,“PI3K6 Inhibition Enhances the Antitumor Fitness of Adoptively Transferred CD8”,Front Immunol,2017,8,1221
【非特許文献6】Brahmer,J.,Reckamp,K.L.,Baas,P.,Grind,L.,Eberhardt,W.E.,Poddubskaya,E.,Antonia,S.,Pluzanski,A.,Vokes,E.E.,Holgado,E.,et al.,“Nivolumab versus Docetaxel in Advanced Squamous−Cell Non−Small−Cell Lung Cancer”,N Engl J Med,2015,373,123−135
【非特許文献7】Brahmer,J.R.,Tykodi,S.S.,Chow,L.Q.,Hwu,W.J.,Topalian,S.L.,Hwu,P.,Drake,C.G.,Camacho,L.H.,Kauh,J.,Odunsi,K.,et al.,“Safety and activity of anti−PD− L1 antibody in patients with advanced cancer”,N Engl J Med,2012,366,2455−2465
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従って、本発明の目的は、抗腫瘍ワクチン接種の効率を高めるための薬学的活性成分および抗癌免疫応答を改善するための薬学的活性成分の治療薬の組み合わせを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的は、請求項1で定める個別の成分を含む医薬併用剤により解決される。医薬併用剤の好ましい実施形態は、従属請求項の一部である。
本発明の医薬併用剤は、以下の3種の成分を含む:
a)少なくとも1種の制御性T細胞(Treg)除去剤、
b)少なくとも1種のトール様受容体9(TLR9)アゴニスト、
c)1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤。
【0024】
各成分は、好ましくは、その他の成分から離され、互いに独立して、ヒトまたは非ヒト哺乳動物対象に投与される。代替的実施形態の一部として、成分b)および成分c)はまた、投与時に治療効果を得るために、癌を罹患している対象に対し、単一投与量として一緒に組み合わせてもよい。
【0025】
腫瘍細胞の増殖および進行に与える抑制性治療効果を考慮して、本発明は特に、ヒトまたは非ヒト哺乳動物の癌の治療で使用するための発明に基づく医薬併用剤に関する。基本的には、医薬併用剤は、全ての脊椎動物に好適し、これは、ヒトおよびその他の哺乳動物で存在するものと類似のシグナル伝達およびチェックポイント経路を有する。本発明の医薬併用剤は、少なくとも1種のTreg除去剤、少なくとも1種のTLR9アゴニストおよび1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤が、癌に罹患している対象に適用可能な異なる区画、容器または注射溶液中に含まれるキットオブパーツの形で設計されるのが好ましい。
【0026】
成分a)によるTreg除去剤は、制御性T細胞(Treg)を除去するか、または不活化する。この手段は、腫瘍微小環境をプレコンディショニングし、抗腫瘍ワクチン接種の効率を高める。好ましくは、成分a)のTreg除去剤は、表面抗原除去抗体または抗体フラグメント、例えば、抗原認識および結合に必要な可変重鎖および軽鎖ドメイン(VおよびV)を含むFcフラグメントである。好ましい実施形態では、成分a)のTreg除去剤は、CD25、CD15s、GITR、CCR4、CTLA−4、OX−40、LAG3、GARP、ZAP−70またはPD−1表面抗原に対する抗体または抗体フラグメントである。表面抗原に対する除去抗体または抗体フラグメントは、Tregに特異的であり、制御性T細胞を除去して抗癌免疫応答を改善する能力を有する。例えば、Treg除去抗体αCCR4は、ヒトにおいて有害毒性副作用を示すことなく、エフェクターTregを除去できる。
【0027】
Treg除去標的構造の代わりに、または追加して、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスホスフェート 3−キナーゼデルタ(PI3Kδ)の阻害も同様に、Treg細胞を特異的に標的にして、哺乳動物における高められた免疫療法効果を生じさせる。Treg除去剤の適用と、それに続く、TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤の適用の本発明の組み合わせは、ヒトおよび非ヒト哺乳動物における癌の治療に対する有望な手法である。理由は、この手法が、療法の有効性および治療患者の生存を顕著に高めるためである。従って、本発明の相乗的療法は、PD−1および/またはCTLA4などの免疫チェックポイント調節阻害剤の作用を追加の免疫調節経路と一緒に組み合わせる。この手法は、Tregの特異的標的化および除去を行い、それより、TLR刺激の結果として免疫応答を高めることにより、抗癌免疫ワクチン接種の治療作用を改善する潜在力を有する。本発明は、TregまたはエフェクターTreg細胞の事前の除去が、免疫チェックポイント調節剤およびTLR9アゴニストの注射後に、腫瘍進行を停止させることを示す前臨床データにより裏付けられる。この目的のために、マウスモデルを生成し、免疫チェックポイント阻害剤およびTLR9アゴニストの組み合わせを適用した場合のTregの事前の除去の相乗効果を評価した。マウスにおける後続するチェックポイント阻害性抗体およびTLR9アゴニストの注射の事前のTregの除去は、既に1ヶ月の治療後であっても、腫瘍量を低減させる。
【0028】
最も重要なのは、Treg除去剤単独によるTreg除去、または事前のTreg細胞除去のないTLR9アゴニストおよび/またはチェックポイント阻害剤の適用、またはチェックポイント阻害剤単独の単回注射は、本発明による医薬併用剤および投与方法で見られるような、劇的な腫瘍低減をもたらさなかったことである。1回または複数のTLR9および免疫チェックポイント阻害剤注射後のTreg細胞除去剤の適用の治療効果は相乗的であり、従って、明白な腫瘍低減を生じる。本発明の医薬併用剤の成分の一般的作用モードは、マウスおよび人で類似であるので、本明細書で提示したデータは、ヒト患者に適用可能なだけでなく、哺乳動物一般にも適用できる。さらに、本発明の医薬併用剤の全成分の作用モードは、抗原非依存性であり、抗原特異的ワクチン接種により特異的に標的化される特定の腫瘍新抗原の発現に依存しないので、本発明の組み合わせは、肺癌に関して機能するのみでなく、任意の種類の悪性癌の治療にも好適する。治療されるのに好ましい形態の癌は、肺癌、黒色腫、腎臓癌、肝細胞癌および多分その他の癌型である。
【0029】
本発明の医薬併用剤の第2成分b)は、いずれの既知のTLR9アゴニストでもよい。好ましい実施形態では、成分b)のTLR9アゴニストは、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)、好ましくは、1種または複数の非メチル化CpGジヌクレオチドを含むCpG ODNである。CpG ODNは、非メチル化CpG ODN、特に、配列構成(CpGモチーフ)を含む合成オリゴヌクレオチドである。これらのCpGモチーフは、哺乳動物DNAに比べて、細菌DNA中に約20倍大きい頻度で存在する。CpG ODNは、強力な免疫賦活効果に至るTLR9により認識される。
【0030】
好ましくは、医薬併用剤で使用されるTLR9アゴニストは、式CCx(C以外)(C以外)xxGGG(式中、xは、修飾または非修飾A、T、C、Gまたはその誘導体からなる群より選択される任意の塩基)で構成されるCpG ODNを含む。ある実施形態では、本発明のCpG ODNは、1種または複数のヌクレアーゼ耐性ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドを含む。
【0031】
好ましくは、TLR9アゴニストとして本発明の組み合わせで利用されるCpG ODNは、下記の核酸配列の1個または複数を含む:
5’−TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT−3’(配列番号1)、
5’−GGGGGACGATCGTCGGGGGG−3’(配列番号2)
5’−TCGTCGTTTTCGGCGCGCGCCG−3’(配列番号3)
5’−GGGGTCAACGTTGAGGGGGG−3’(配列番号4)
5’−TCCATGACGTTCCTGACGTT−3’(配列番号5)
5’−TCCATGACGTTCCTGATGCT−3’(配列番号6)
5’−TCGACGTTCGTCGTTCGTCGTTC−3’(配列番号7)
5’−TCGTCGTTGTCGTTTTGTCGTT−3’(配列番号8)
5’−TCGCGACGTTCGCCCGACGTTCGGTA−3(配列番号9)
5’−GGGGACGACGTCGTGGGGGGG−3’(配列番号10)
5’−TCGTCGTCGTTCGAACGACGTTGAT−3’(配列番号11)
5’−TCGCGAACGTTCGCCGCGTTCGAACGCGG−3’(配列番号12)
【0032】
既知のクラスA、BまたはCアゴニストのいずれか1つのグループに入る、ヒトTLR9、マウスTLR9またはその他の哺乳動物TLR9の使用が好ましい。
【0033】
代替的実施形態では、成分b)のTLR9アゴニストは、大腸菌、他の原核生物およびウィルスから単離され、TLR9、または細菌性またはウィルスDNA TLR9アゴニスト中のリン酸ジエステル骨格などの非メチル化CpG配列を模倣し、ダブルステムループ免疫調節剤(dSLIM)として知られるダンベル様構造体に折り畳まれ、TLR9アゴニストを活性化するものに結合する能力を有する一本鎖または二本鎖ゲノムDNAであってもよい。
【0034】
本発明では、TLR9アゴニストまたは異なるTLR9アゴニストの組み合わせは、単回注射用量または反復投与注射用量で、単独でまたは1種または複数のチェックポイント阻害剤と組み合わせて投与できる。別の形態では、従って、TLR9アゴニストは、免疫チェックポイント阻害剤の存在しない別の注射溶液で提供される。代替的実施形態では、TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤は、本発明の医薬併用剤の一部として、単一注射溶液で一緒に提供される。この組成物では、可能な治療効果を最大化するために、2種以上のチェックポイント阻害剤が、別のチェックポイント阻害剤および/またはTLR9アゴニストと組み合わされる。しかし、医薬併用剤の正確な組成またはその投与方法は、治療される癌の種類に依存する。本明細書で示されるように、治療効果および有害副作用の抑制は、制御性T細胞の事前の除去に強く依存する。Treg細胞の除去がその最大に達する場合、TLR9および/またはチェックポイント阻害剤の適用およびそれらの治療効果は、最も効率的になるであろう。
【0035】
本発明の医薬併用剤で利用される好適なチェックポイント阻害剤は、CTLA4、PD−1、PD−L1、PD−L2、LAG3、B7−H3、B7−H4、KIR、OX40、IgG、IDO−1、IDO−2、CEACAM1、TNFRSF4、OX40L、TIM3、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN−15049、CHK1、CHK2、A2aR、およびB−7またはこれらの組み合わせからなる群より選択されるチェックポイントタンパク質を阻害するのが好ましい。好ましい実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、αCTLA−4およびαPD−1抗体の組み合わせであり、単一注射溶液中で希釈されるのが好ましい。好ましい投与方法では、αCTLA−4およびαPD−1抗体は、単一注射溶液中で1:1に希釈される。
【0036】
代替的実施形態では、Treg除去剤はまた、TLR9アゴニストおよび/または免疫チェックポイント阻害剤の適用中またはその後に注射できる。例えば、腫瘍進行の低減により測定できる治療の成功をさらに高めるために、PI3Kδ抑制剤を用いて特異的にTregを阻害できる。従って、例えば、チェックポイント阻害剤の適用時に患者が過剰な免疫反応を示す場合には、連続的なTregの供給も制御できる。
【0037】
いずれかの投与方法は、キットオブパーツとして設計されるのが好ましい本発明の組み合わせの一部である本発明の投与計画の一部であり得る。キットオブパーツの各成分は、他のものと組み合わせて作用し、所望の治療効果を達成する、すなわち、罹患腫瘍組織中での腫瘍進行を遅らせる。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明の組み合わせまたはキットオブパーツは、成分a)が成分b)および成分c)の前に1回または繰り返して投与されることを規定する投与計画をさらに含み、任意選択で、成分b)は、成分c)の投与の前に、ヒト患者または動物患者などの癌患者に1回または繰り返して投与される。好ましい実施形態では、投与計画は、
i.成分a)は、+1日目の前に5〜9日間注射される、
ii.成分b)は、+1日目に開始して、1回または複数の注射により、3または4日目毎に注射される、
iii.成分c)は、+1日目に開始して、1回または複数の注射により、3または4日目毎に注射される、ことを規定する。
【0039】
通常、Treg細胞除去は、最後の注射後の7〜10日目に、最強の効果に到達する。チェックポイント阻害剤適用は、+1日目に開始して、合計3回以上の注射、好ましくは、合計5回の注射が繰り返されるのが好ましい。TLR9アゴニストの適用は、+1日目に開始して、2日置きに、または3日置きに行われる。しかし、最も効率的な治療効力の促進および望ましくない毒性副作用の許容範囲内のレベルまでの低減の両方を行うために、治療の動力学、治療の組み合わせおよび期間は、個別の癌サブタイプ、全体の健康状態および当然ヒト癌患者あるいはその他の脊椎動物の恐怖に対して調節する必要がある。
【0040】
キットオブパーツの形態の医薬併用剤の提供が好ましい。このようなキットオブパーツでは、各成分は、別々の区画または注射溶液として提供される。好ましくは、3種の成分a)〜c)の全てが、その後の癌患者への注射、好ましくは反復注射のための、別々の、独立した注射溶液として封入される。
本発明はまた、組織中の腫瘍細胞の増殖を漸減させるエクスビボ法に関し、該方法は、下記のステップを含む:
i.少なくとも1種の制御性T細胞(Treg)除去剤の適用、
ii.少なくとも1種のトール様受容体9(TLR9)アゴニストの適用、
iii.1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤の適用であって、少なくとも1種のTLR9アゴニストが、Treg細胞除去後に続けて適用され、1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤が、少なくとも1種のTLR9アゴニストの後に、またはそれと同時に適用される、適用。
【0041】
Treg除去剤の適用は、微小環境のプレコンディショニングの過程中に表面特異的抗体もしくは抗体フラグメントを用いて、またはホスファチジルイノシトール−4,5−ビスホスフェート 3−キナーゼデルタ(PI3Kδ)抑制剤の適用により、またはTLR9および/またはチェックポイント阻害剤適用前または適用中に実施できる。
【0042】
本発明による組成物および方法は、患者の癌の治療に好適することが明らかであり、該方法は、次のステップを含む:
i.少なくとも1種の制御性T細胞(Treg)除去剤の適用、
ii.少なくとも1種のトール様受容体9(TLR9)アゴニストの適用、
iii.1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤の適用であって、少なくとも1種のTLR9アゴニストが、Treg細胞除去後に続けて適用され、1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤が、少なくとも1種のTLR9アゴニストの後に、またはそれと同時に適用される、適用。
【0043】
組み合わせおよび投与は、本明細書で記載のいずれか1つであってよい。好ましい組み合わせは、下記のものである:
a)制御性T細胞(Treg)除去剤は、CD25に対する抗体または抗体フラグメントである、
b)トール様受容体9(TLR9)アゴニストはCpG ODNである、
c)1種または複数の免疫チェックポイント阻害剤は、αCTLA−4およびαPD−1抗体である。
【0044】
a)〜c)の本発明の組み合わせの成分は、免疫細胞の挙動を特異的に調節する。従って、免疫細胞は、本発明の組み合わせの標的である。本発明の組み合わせは、一般的免疫調節治療手法であるので、その治療機序は、癌の病期(すなわち、原発性腫瘍または二次転移腫瘍を治療する場合)に依存しない。同様に、本発明の組み合わせは、特定の癌型(すなわち、肺癌、結腸癌、黒色腫など)に限定されない。従って、本発明の組み合わせの作用モードは、最適抗癌応答を誘導するための患者の免疫系の有益な調節として最も良く記述される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の医薬併用剤を用いて1ヶ月の治療後の腫瘍量の減少を示す。グラフは、治療開始時(白色四角)、治療なしの腫瘍進行の1ヶ月後(黒色逆三角)および本発明の組み合わせの適用1ヶ月後(黒色四角)のマウスの平均腫瘍量を示す。各記号は、個々の1匹のマウスを示す。***、p≦0.001。
図2図2AはK−Ras/p53遺伝子スイッチ誘導の1ヶ月後(黒色ドット)、治療開始時(黒色逆三角、TAM注射の4ヶ月後)、治療なしの15日(白色リング)および1ヶ月(黒色十字)後のマウスの平均腫瘍量を示す。図2Bは治療なしの5ヶ月目(非治療対対照)、TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤(CPI/CpG)を用いた1ヶ月の治療を含む5ヶ月目、またはTreg除去抗CD25抗体、TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤(プレCD25+CPI/CpG)を用いた5ヶ月目のマウスの平均腫瘍量を示す。
図3】本発明の組み合わせ(LC−1+プレCD25+CPI/CPG)を用いた治療は、極めて有意な治療効果を示した。
図4】8.5x10個のB16−F10黒色腫細胞のC57BL/6Jマウスへの皮下注射は、線形腫瘍増殖を生じ、および、この場合も、本発明の組み合わせを用いた治療は、B16−F10誘導皮下黒色腫のサイズを顕著に低減させた。
図5】LC−1肺腫瘍細胞の皮下適用(図5の−9日目に開始)後の、CAL−101の2日間の腹腔内注射と、−6日目のこれの第2の注射による反復、これに続く、CpG TLR9アゴニスト性オリゴヌクレオチドおよび抗CTLA4/抗PD1抗体の1日目およびその後の2日置きの規則的注射で構成される使用した治療スキームを示す。
図6】1x10個のLC−1細胞をC57BL/6Jマウスの皮下に注射後の種々の時点で測定した腫瘍サイズを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下の実施例によって、本発明はさらに説明されるであろう。
実施例:
概念の立証のとして、抗CD25抗体、TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤からなる医薬併用剤を、マウスモデルで所望の治療相乗効果を達成するための成分として使用し、この結果はヒトを含む他の哺乳動物に同様に適用できる。
【0047】
抗CD25抗体を免疫抑制性Tregを除去するためのプレコンディショニング手段として使用した。TLR9アゴニストを用いて免疫系の自然群を刺激した。既知のCTLA−4およびPD−1チェックポイント阻害剤の組み合わせを用いて、T細胞活性を高め、制御性T細胞の存在または活性を低減させた。Treg除去の初期段階として、αCD25注射溶液(抗マウスCD25)をPBS中で500μg/200μlに希釈した。Treg除去後、TLR9アゴニストと一緒に免疫チェックポイント調節剤のいくつかの注射を適用した。治療効果を前臨床マウスモデル(SCKPマウスモデル)を用いて測定した。このモデルは、TAM注射時に、発癌性K−RasG12Vを誘発し、肺上皮細胞中のp53腫瘍抑制因子遺伝子を不活性化する(Cre/loxP系)条件付き遺伝子スイッチを含む。この設定は、ヒト肺癌で見つかる最もよくある遺伝子ドライバー変異を再現する。Scgb1a1−CreERT2/K−RasLSLG12V/p53fl/fl(SCKP)マウスモデルでは、肺癌は、タモキシフェンの単回注射により誘導され、タモキシフェンは発癌性K−RasG12Vを活性化し、肺上皮のクララ細胞、いくつかの肺胞のII型細胞および気管支肺胞幹細胞(BASCS)のp53腫瘍抑制機能を不活化する。治療は、タモキシフェン注射の4ヶ月後、約20%の肺が増殖腫瘍から構成されたときに開始される。治療開始の1ヶ月後(すなわち、タモキシフェン注射の5ヶ月後)、発明者らは、この投与計画の治療効果を定量化した。
【0048】
治療が開始されたとき、肺腫瘍量は、総肺質量の20%超であった(非治療4ヶ月;4M)。1ヶ月後(5M)、治療を受けていないマウスは、約30%の平均肺腫瘍量を有した(非治療5ヶ月)。治療(αCD25プレコンディショニングとこれに続くCpG/チェックポイント治療)が適用され、治療の1ヶ月後に腫瘍質量の減少が測定されたとき、腫瘍量は、総肺質量の平均約10%にまで顕著に低減された。また、治療を受けたマウスに明らかな有害毒性および副作用は確認されなかった。
【0049】
図1は、本発明の医薬併用剤を用いて1ヶ月の治療後の腫瘍量の減少を示す。グラフは、治療開始時(白色四角)、治療なしの腫瘍進行の1ヶ月後(黒色逆三角)および本発明の組み合わせの適用1ヶ月後(黒色四角)のマウスの平均腫瘍量を示す。各記号は、個々の1匹のマウスを示す。***、p≦0.001。
【0050】
対照尺度として、Treg除去単独または事前のTreg除去なしのTLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤の適用も試験した。治療Xは、α−CD25抗体(Treg除去抗体)、CpGオリゴヌクレオチド(TLR9アゴニスト)およびα−PD1/CTLA−4抗体(チェックポイント阻害剤)からなる本発明の組み合わせを意味する。
【0051】
図2は、プレコンディショニング単独(抗CD25)、事前のプレコンディショニングのないTLR9およびチェックポイント阻害剤の作用の本発明の組み合わせ、チェックポイント阻害剤単独(PD−1およびCTLA−4に対する抗体)の効果およびTreg除去剤の適用に続くTLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤投与を含む本発明の組み合わせの結果としての腫瘍低減の治療効果を示す。本発明の組み合わせの治療効果は相乗的である。腫瘍低減は、Treg除去がTLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤と組み合わされる場合のみに達成される。
【0052】
図2Aのグラフは、K−Ras/p53遺伝子スイッチ誘導の1ヶ月後(黒色ドット)、治療開始時(黒色逆三角、TAM注射の4ヶ月後)、治療なしの15日(白色リング)および1ヶ月(黒色十字)後のマウスの平均腫瘍量を示す。治療群を表す結果は:プレコンディショニング単独(抗CD25)の治療作用を示す黒色菱形、プレコンディショニングのないTLR9およびチェックポイント阻害剤の作用を示す黒色三角、チェックポイント阻害剤単独(PD−1およびCTLA−4に対する抗体)の効果を表す白色逆三角およびα−CD25/CpG/CPI(治療Xと表す)からなる本発明の組み合わせの結果としての腫瘍低減を示す黒色四角である。各記号は、個々の1匹のマウスを示す。
【0053】
SCKP治療データを図2Bにまとめており、これは、治療なしの5ヶ月目(非治療対照)、TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤(CPI/CpG)を用いた1ヶ月の治療を含む5ヶ月目、またはTreg除去抗CD25抗体、TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤(プレCD25+CPI/CpG)を用いた5ヶ月目のマウスの平均腫瘍量を示す。各記号は、個々の1匹のマウスを示す。
【0054】
自発性SKP由来のインビボデータ
SKPマウスモデルからのデータは、Treg除去(抗CD25Treg除去によるプレコンディショニング)単独でまたはTreg除去なしのTLR9アゴニスト(CpGオリゴデオキシヌクレオチド)およびチェックポイント阻害剤(PD−1およびCTLA−4)の適用またはチェックポイント阻害剤単独の投与は、本発明の組み合わせによる治療時で認められるのと同じ劇的な腫瘍低減をもたらさないことを明確に示している。抗CD25抗体、TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤の相乗的使用は、TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害剤だけの組み合わせよりも、極めて良好な治療効果をもたらす。
【0055】
本発明の組み合わせはまた、二次的転移腫瘍における強力な治療効果をもたらすことを実証するために、本発明者らは、自発性SKPマウスモデルから新規肺癌細胞株(LC−1)を樹立した。5x105個のLC−1細胞のC57BL/6Jマウスの側腹部への皮下注射は、触知可能な腫瘍を生成し、これは、15mmの直径に到達するまで直線的に成長し、その時点で、我々は、実験を終了した。
【0056】
図3から分かるように、本発明の組み合わせ(LC−1+プレCD25+CPI/CPG)を用いた治療は、極めて有意な治療効果を示した。5x105個のLC−1細胞をC57BL/6Jマウスの皮下に注射し、本発明の組み合わせLC−1+プレCD25+CPI/CPGまたは何ら追加の治療法なし(LC−1非処理)、を用いて腫瘍の発生を測定した。データは、本発明の手法の治療効力は、癌の病期に依存しない、および本発明の組み合わせは、原発性内在性肺腫瘍(図1および2参照)および二次的皮下腫瘍の転移設定の両方で極めて効果的であることを示した。
【0057】
本発明の組み合わせおよび手法を異なる癌型に効率的に適用できることを立証するために、本発明者らは、明確に定義されたB16−F10黒色腫細胞株(ATCC(登録商標)CRL−6475(商標))を用いて同じ実験を実施した。図4に示すように、8.5x10個のB16−F10黒色腫細胞のC57BL/6Jマウスへの皮下注射は、線形腫瘍増殖を生じ、またこの場合も、本発明の組み合わせを用いた治療は、B16−F10誘導皮下黒色腫のサイズを顕著に低減させた。本発明の組み合わせ(B16−F10+プレCD25+CPI/CPG)または任意の追加の治療法(B16F10非処理)を用いずに、異なる時点で腫瘍サイズを測定した。この結果は、本発明の手法の治療効力は、特定の癌型に限定されないことを明確に示している。本発明の組み合わせの免疫細胞に対する直接作用を考慮すると、異なる癌型における本発明の手法の一般的作用が予測され得る。
【0058】
種々のTreg除去剤を治療−Xに使用できる
本発明により実証されるように、抗CD25抗体によるTreg細胞の除去は、TLR9アゴニスト性およびチェックポイント阻害治療法の組み合わせの抗癌治療効力を顕著に高めた。抗CD25抗体注射の作用が、第2のTreg不活化化合物により置き換えることができるかどうかを試験するために、抗CD25抗体注射をCAL−101(イデラリシブまたはZydelic)で置換した。所定のCAL−101投与量の使用は、フォスフォイノシチド 3−キナーゼデルタ(PI3Kδ)の活性をインビボおよびインビトロで妨げ、それにより、マウスおよびヒトTregの機能を特異的に阻害することが示された(非特許文献1;非特許文献10)。CAL−101のみでなく、PI3Kδに特異的に作用する他の化合物も同様に、Treg機能を阻害し、これらの化合物は異なる経路を介して適用できることに留意すべきである(Ali et al.,2014;Erra et al.,2018)。
【0059】
非抗体ベースTreg不活化剤が本発明の手法における抗CD25作用を置換できることを示すために、1x10個のLC−1細胞をC57BL/6Jマウスの皮下に注射し、種々の時点での腫瘍増殖を測定した。使用した治療スキームを図5に示し、これは、LC−1肺腫瘍細胞の皮下適用(図5の−9日目に開始)後の、CAL−101の2日間の腹腔内注射と、これの−6日目の第2の注射による反復、続けて、CpG TLR9アゴニスト性オリゴヌクレオチドおよび抗CTLA4/抗PD1抗体の1日目およびその後の2日置きの規則的注射で構成される。CAL−101媒介PI3Kδ阻害単独の治療効果を試験するために、追加のTLR9アゴニストおよびCTLA4/抗PD1抗体の非存在下で、LC−1注射C57BL/6Jマウスを2日置きのCAL−101注射で治療した(図5)。
【0060】
図6では、1x10個のLC−1細胞をC57BL/6Jマウスの皮下に注射し、種々の時点で腫瘍サイズを測定した。CAL−101注射と、これに続く、CpG TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害性抗体による治療は、腫瘍増殖を効率的に阻止し(プレCAL+CPI/CpG)、CAL−101単独の場合には、マウスの治療効果は認められなかった(CAL)。CpG TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害性抗体と組み合わせたPI3Kδ阻害剤CAL−101の投与は、極めて強力な治療効果を誘導し、皮下LC−1腫瘍のサイズを有意に低減させた。対照的に、CAL−101単独の適用は、何ら治療効果を示さなかった。これらの結果は、CpG TLR9アゴニストおよびチェックポイント阻害性抗体と組み合わせて使用した場合、他のTreg阻害剤が同様に極めて効率的な抗癌治療効果を誘導することを示す。
【0061】
材料および方法:
マウス
発癌性K−RasG12Vの条件付き発現および肺上皮細胞のP53遺伝子機能の条件付き不活化のために、本発明者らは、LSL−K−RasG12Vノックインマウスモデル(非特許文献15)、条件付きp53ノックインマウスモデル(非特許文献22)およびCreERT2 Creリコンビナーゼ融合遺伝子を含むScgb1a1−CreERT2ドライバーノックインマウスモデル(非特許文献16)を、セクレトグロビン1a1遺伝子座位転写制御下(非特許文献29)で交雑させた。本発明の医薬併用剤および投与計画を試験するために使用した条件付きLSL−K−RasG12Vマウス遺伝子型は、Guerraおよび共同研究者により記載されたものと同じであるが、ROSA26遺伝子座位に追加のノックインを含み、TAM注射時に、EYFPレポーターの条件付き活性化を可能とする。全ての条件付き遺伝子(発癌性K−RasG12V、p53機能の欠損および2個の共レポーター遺伝子EYFPおよびlacZ)は、タモキシフェン(TAM)の腹腔内(i.p.)注射時に活性化される。3つ全ての遺伝子型を組み合わせたマウス(Scgb1a1−CreERT2/LSL−K−RasG12V/p53fl/flモデル)は、C57BL/6 Jacksonの遺伝的背景を有した。
【0062】
追加の情報:Scgb1a1−CreERT2/LSL−K−RasG12V/p53fl/flマウスのTAM注射は、肺癌の発症および肺腫瘍形成の進行性発症を促進する。所定量のTAMの使用は、全てのマウスで肺癌表現型の完全浸透をもたらす。動力学および誘導表現型の両方は、個別マウス間で高度に再現可能であり、注射したTAMの量に依存する。
【0063】
タモキシフェン(TAM)を用いたマウスのCreリコンビナーゼ活性の誘導
TAMストック溶液の作製のために、100mlのひまわり油をオートクレーブで処理した。最初に、1gのTAM粉末を37℃の10mlのエタノール中で希釈した。この希釈液を90mlのオートクレーブ処理したひまわり油と室温で混合し、混合物を一晩震盪した。均質溶液をエッペンドルフチューブに分注し、−20℃で貯蔵した。成体マウス(8〜12週齢)の治療のために、100μlのTAM溶液をマウス当たりの単回i.p.注射として投与した。短期の使用のために、TAMを4℃で最大5日間貯蔵した。TAMを光曝露から常に保護した。
【0064】
腫瘍量の可視化のための透明肺のホールマウントLacZ染色および腫瘍量の定量化
単回TAM注射の5ヶ月後にマウス由来の肺を切開し、治療開始の1ヶ月後に分析し、氷冷PBS(pH7.4)中で洗浄し、アセトン中、4℃で8時間固定した。次に、肺をPBS中で5分間の洗浄を2回行い、X−gal緩衝液(pH7.4、X−gal不含)中、振動台上で、4℃で8〜12時間放置した。これは、組織への完全な浸潤および7.4のpHの確立に必要であった。肺を20mlのX−gal染色溶液中に移し、100rpmで震盪し、暗所で37℃下、6〜12時間インキュベートした。次のステップでは、肺をPBS中で5分間の洗浄を一回行った後、4℃で1週間、4%のホルムアルデヒドおよび1%のグルタルアルデヒドを含む固定緩衝液中で終夜固定した。脱水肺に対しては、最初、振動台を用いて室温で5分間のPBS中洗浄を3回行い、各肺当たり50mlの体積を使って別のメタノール/PBS緩衝液中に移した(室温で)。その後、肺をPBS中の25%メタノール中に1時間または臓器がガラスびんの底に沈降するまで置いた。このステップを、PBS中の50%および75%のメタノールを用いて反復し、および100%の濃度のメタノールを用いて3回繰り返した。最終的に、肺を100%のメタノール中、4℃で少なくとも12時間インキュベートして、水不含組織を確保した。前処理肺を透明にするために、肺を20mlの安息香酸ベンジル:ベンジルアルコールの2:1の混合物中で2〜3分間インキュベートした。強力な光源(3200Kの光および60msの露光時間)を備えた双眼鏡を用いて、透明肺の画像を直ちに取得し、倍率1.6x10で記録した。透明肺の画像を使って、NIHの撮像ソフトウェアパッケージを用いて腫瘍量を定量化した(https://imagej.net/Welcome)。いずれの場合も、Scgb1a1−CreERT2/LSL−K−RasG12V/p53fl/flマウスを100μlのTAMの単回腹腔内注射により誘導して肺腫瘍形成を開始し、4ヶ月後に本発明の医薬併用剤および投与計画を用いて治療した。いずれの場合も、分析は、TAM注射の5ヶ月後に実施した。
【0065】
医薬併用剤の組成物
治療相乗効果を得るために、本発明の組み合わせを、抗CD25抗体(免疫抑制性制御性T細胞を除去するために)、TLR9アゴニスト(免疫系の自然群を刺激するために)およびチェックポイント阻害剤(T細胞活性を高め、制御性T細胞を低減させるために)から構成した。
【0066】
制御性T細胞の除去
マウスの制御性T細胞の除去のために、500μgのInVivoMAb抗マウスCD25(BioXCell)を、−9日目および−8日目の2連続日に腹腔内注射した(+1日目に、TLR9アゴニストおよびPC−1/CTLA−4抗体を初めて注射する)。除去は、記載のように、最後の注射後の9日目に、その最強の効果に到達する(非特許文献28)。あるいは(我々の初期の実験構成では用いなかったが)、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスホスフェート 3−キナーゼデルタ(PI3Kδ)阻害剤を用いて、制御性T細胞を枯渇させることができ、免疫機能を強化できる(非特許文献1;非特許文献5)。
【0067】
TLR9アゴニスト適用
マウスのTLR9の全身刺激のために、Metabion International AGでCpGアイランドを産生し、ホスホロチオエートを安定化した。配列5’−TCCATGACGTTCCTGATGCT−3’を用いた。理由は、この配列は、マウスの制御性T細胞媒介CD8耐性を効率的に回復することが示されたためである(非特許文献37)。免疫療法治療中、+1日目に開始して、3日目または4日目毎に50μgのCpGを実験動物に注射した。
【0068】
チェックポイントメディエーター適用
効果的T細胞応答を高めるために、100μgのαPD1(クローンRMP1−14、カタログ:BE0146)と組み合わせた100μgのαCTLA−4(クローン:9D9、カタログ:BE0164)を、免疫療法治療中に+1日目に開始して3日目または4日目毎に実験動物に合計5回の注射を実施した。
【0069】
ストック溶液
αCD25注射溶液:InVivoMAb抗マウスCD25(IL−2Rα)(クローン:PC−61.5.3、カタログ:BE0012)をBioXCellから購入し、PBSで500μg/200μlの濃度に希釈した。
CpG注射溶液:Metabion International AGでCpGを産生して、凍結乾燥し、オートクレーブ処理したHddで50μg/200μlに希釈した。
αCTLA−4ストック溶液:InVivoMAb抗マウスCTLA−4(クローン:9D9、カタログ:BE0164)をBioXCellから購入し、PBSで100μg/50μlの濃度に希釈した。
αPD1ストック溶液:InVivoMAb抗マウスPD−1(クローン:RMP1−14、カタログ:BE0146)をBioXCellから購入し、PBSで100μg/50μlの濃度に希釈した。
チェックポイントメディエーター注射溶液:実験動物に注射する前に、CTLA−4およびPD1ストック溶液を1:1に希釈した(100μlの合計注射体積)。
【0070】
LC−1細胞株の生成
安定なヒト肺癌細胞株を樹立するために、SKPマウス(TAM注射の5ヶ月後;SKP肺癌モデルに関するさらに多くの情報については、我々の元の出願を参照されたい)由来の肺腫瘍を外科的に取り除き、細かく切り刻み、C57BL/6Jマウスの皮下に注射した。4週後、皮下腫瘍を無菌下で切除し、細かく切り刻み、消化緩衝液(150mMのNaCl、10mMのヘペス、10mMのCaCl・2水和物、2,4U/mlのディスパーゼおよび0,3U/mlのコラゲナーゼ(両法ともRoche Diagnostics,マンハイム、ドイツ))中、56℃で90分間インキュベートした。脱凝集細胞を70μmセルストレーナーを通過させて、15%のFCS、1%の非必須アミノ酸、グルタミン、ペニシリンおよびストレプトマイシンを補充したDMEM培地中で培養した(37℃、5%CO2)。これらの初代培養物から、限界希釈により、LC−1細胞株を含むいくつかのクローン細胞株を樹立した。
【0071】
LC−1およびB16−F10細胞株の注射
注射の前に、LC−1細胞またはB16−F10黒色腫細胞(ATCC(登録商標)CRL−6475(商標))を、10%のFCS、1%の非必須アミノ酸、グルタミン、ペニシリンおよびストレプトマイシンを補充したDMEM培地中で40〜60%集密度まで増殖させ、トリプシンで脱凝集させ、PBS中で2回洗浄して、計数した。皮下注射に関しては、示した細胞数を100lのPBS中に再懸濁し、C57BL/6Jマウスに皮下注射した。
【0072】
CAL−101作製および注射
CAL−101(C22H18FN7O)を最初にDMSO中に50mg/mLの濃度で溶解し、分取量を後日の使用のために−80℃で貯蔵した。各適用に対し、4μlのこのCAL−101/DMSOストックを100μlのH2Oに加え、C57BL/6Jマウスの腹腔内に注射した。抗CD25置換実験では、2種のCAL−101注射を使用し、1x10個のLC−1細胞の皮下適用の2日後に開始した(図3の−9日目および−6日目)。CAL−101をTLRアゴニストおよびチェックポイント阻害性抗体と組み合わせて使用する場合、100μgのα−CTLA−4(クローン:9D9、BE0164)と一緒に50μgのCpG 5’−TCCATGACGTTCCTGATGCT−3’ TRL9アゴニスト性オリゴヌクレオチドを、100μgのα−PD1(クローン:RMP1−14、BE0146)と組み合わせて、実験動物に、我々の元の適用で以前に記載したように、+1日目に開始して、3日置きに注射した。ノギス測定により腫瘍発生を記録した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2021523153000001.app
【国際調査報告】