【実施例】
【0063】
本発明は、以下において、実施例により詳細に説明される。しかしながら、以下の実施例は、本発明を単に説明するものであり、本発明は、それらに限定されない。
【0064】
I.実験用調製物及び実験方法
実施例1.動物モデル
C57BL/6野生型(WT)マウス(Damul Science、韓国)を用いてCcl2−/−マウス(Jackson Laboratories、米国)を10回戻し交配することによって、モデルマウスを作製した。18月齢のCcl2−/−マウスにAAV9−VLP又はAAV9−CCN5を注射した。全ての動物実験の方法及びプロトコルは、光州科学技術院(Gwangju Institute of Science and Technology)、生命科学研究科の動物実験委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee of the School of Life Science)によって承認され、承認されたガイドライン(IACUC GIST−2015−24)に従って、そこの施設において実施した。ここで、VLPは、ウイルス様粒子を意味する。
【0065】
受け入れたAAV9−VLPを有する月齢が一致するWTマウスをコントロールとして使用した。当該マウスを、3:1の比のZoletil 50(Virbac、フランス)及びRompun(Bayer Korea、韓国)の腹腔内注射によって麻酔した。外科処置後、有害事象が生じないか確認するために、当該マウスを1日おきにモニタリングした。モニタリングの結果、有害な臨床症状は、他の器官において認められなかった。12週間後、当該マウスをCO
2で安楽死させ、眼を摘出した。
【0066】
実施例2.試薬
組換えTGF−β2をPeproTech Korea(韓国)から購入した。ARPE−19細胞を10ng/mlの当該組換えTGF−β2で処理した。Invitrogen(米国)から組換えEGF及びFGF−2を購入した。ARPE−19細胞を1mMのEGTA、10ng/mlのEGF、及び20ng/mlのFGF−2で処理した。さらに、ARPE−19細胞を、3種の抗VEGF薬であるベバシズマブ(0.25mg/ml、Genetech/Roche、米国)、ラニビズマブ(0.125mg/ml、Novartis Pharma Stein AG、スイス)、及びアフリベルセプト(0.5mg/ml、Bayer Pharma AG、ドイツ)で処理した。
【0067】
実施例3.アデノ関連ウイルス(AAV)ベクター及びアデノウイルスの作製
作製及び精製のために、CMVプロモータを使用してヒトCCN5遺伝子を発現するAAV(セロタイプ2及び9)を、米国企業Virovek Inc.に要求することによって獲得した。そのようにして、AAV2−CCN5及びAAV9−CCN5を得た。さらに、アミノ末端ヘマグルチニン(HA)をタグ付けしたマウスCCN5を発現する組換アデノウイルスを作製及び精製する方法は、以前の研究(Yoon POら 「The opposing effects of CCN2 and CCN5 on the development of cardiac hypertrophy and fibrosis」, J Mol Cell Cardiol. 2010; 49(2): 294〜303)に記載されている。この方法において、それぞれLacZ及びCCN5をコードする遺伝子を含有するアデノウイルスであるAdLacZ及びAdCCN5を作製した。
【0068】
実施例4.CCN5をコードする修飾されたmRNAの作製
作製及び精製のために、米国企業TriLink BioTechnologiesに要求することによって、CCN5をコードする修飾されたmRNAを獲得した。この修飾されたmRNAを5’末端においてCleanCapでキャッピングし、ポリAテールを3’末端に結合させた。さらに、この修飾されたmRNAは、5−メチルシチジン及び2−チオウリジンを含有する。
【0069】
実施例5.細胞培養
網膜色素上皮細胞株(ARPE−19; ATCC、米国)を、1%の抗生物質(Gibco、米国)と10%のウシ胎仔血清(FBS; HyClone、米国)とを含有した、ダルベッコ改変イーグル培地及びハムF12 栄養混合物培地(Ham’s F12 Nutrient Mixture medium)(DMEM/F12; Welgene、韓国)を使用して、5%のCO
2インキュベータにおいて37℃で培養した。当該培地を、1日おきに新鮮な培地と交換した。当該細胞が、培養プレートにおいてある程度まで培養されたとき、これらの細胞を、0.25%のトリプシン/0.02%のEDTA(Gibco、米国)を使用して、継代培養した。
【0070】
ヒトiPSC由来網膜色素上皮(RPE)細胞を、Axol Bioscience(米国)から入手した。当該細胞を、7:3の比で2%のB−27補足物質(Gibco,米国)と1%の抗生物質の抗かび薬(Gibco、米国)とを含有した、ダルベッコ改変イーグル培地及びハムF12栄養混合物培地(DMEM/F12;Gibco、米国)を使用して、5%のCO
2インキュベータにおいて37℃で培養した。当該細胞を、マトリゲル(Corning Life Science、米国)で予めコーティングした8ウェルチャンバースライド(Corning Life Science、米国)に、1ウェルあたり100,000細胞において播種し、当該培地を毎日新鮮な培地と交換した。
【0071】
培養した細胞を、以下の2つのグループに分け、薬物処理を施した:一方は、間葉細胞への網膜色素上皮細胞の分化誘導が抑圧されたグループ;及び、もう一方は、間葉細胞への分化を誘導された網膜色素上皮細胞を、正常な網膜色素上皮細胞へと戻したグループ。当該ARPE−19細胞を無血清培地において24時間増殖させた。次いで、当該細胞を、50感染多重度(MOI)においてAdCCN5で処理し、続いて、10ng/mlのTGF−β2(PeproTech Korea、韓国)によって処理するか、又はTGF−β2で処理し、その後にAdCCN5で処理した。
【0072】
実施例6.ウェスタンブロット法
インビトロ実験のために、当該培養したARPE−19細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、冷RIPA緩衝液(1%のNP−40、50mMのトリス−HCl[pH7.4]、150mMのNaCl、及び10mMのNaF)とプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche、ドイツ)とによる混合溶液に懸濁させた。当該細胞懸濁液に、超音波発生器による処理を、2秒オン/1秒オフのサイクルで5%の振幅において5分間施した。
【0073】
インビボ実験のために、眼をCcl2
−/−マウスから摘出した。網膜/脈絡膜/強膜複合体のみを各眼から取り出し、冷RIPA緩衝液に入れた。当該複合体に、超音波発生器による処理を、1/8インチマイクロチップを使用して、2秒オン/2秒オフのオン−オフサイクルで、5%の振幅で10秒間施した。当該細胞溶解物を、13,000rpmで20分間、遠心分離処理した。タンパク質が溶解している上澄みを採取し、その中のタンパク質濃度を、ビシンコニン酸タンパク質アッセイキット(BCA、Thermo Fisher Scientific、米国)を使用して測定した。同量のタンパク質試料を、5×SDS緩衝液と混合し、SDS−PAGE電気泳動にかけた。次いで、当該タンパク質を、二フッ化ポリビニリデン膜(Millipore、米国)に移した。当該膜を、5%のスキムミルクを含有するトリス緩衝液において1時間ブロックし、次いで、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。次いで、当該膜を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP、Jackson ImmunoResearch)でコンジュゲートした二次抗体と共にインキュベートし、化学ルミネセンス基質(Amersham)で処理し、ImageQuant LAS 4,000Mini画像表示装置(GE Healthcare)によって現像した。ImageJソフトウェア(NIH)を使用して、タンパク質定量分析を実施した。
【0074】
実施例7.免疫蛍光染色
各ウェルがカバーガラスを備える12ウェル培養プレートに播種して増殖させた細胞を、4%のホルムアルデヒドで固定し、0.2%のTriton X−100で10分間処理した。当該細胞を、PBS中における5%ウシ血清アルブミンの希釈溶液でブロックし、抗ZO−1及び抗α−SMA抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。二次抗体に対して、当該細胞を、FITCコンジュゲート二次抗体又はAlexa Fluor 594コンジュゲート二次抗体を用いて、f−アクチン染色に対してはテキサスレッドコンジュゲートファロイジン(Invitrogen、米国)を用いて、及び核染色に対してはHoechst 33342(Invitrogen、米国)を用いて、室温で1時間インキュベートした。当該結果を、落射蛍光顕微鏡(Zeiss、ドイツ)を使用して観察した。網膜フラットマウント実験のために、当該眼をマウスから摘出し、各眼を4%のホルムアルデヒドで24時間固定した。RPE/脈絡膜/強膜複合体を、半透過性溶液及びブロッキング溶液を含有する溶液で、それぞれ2時間及び1時間、室温において処理し、次いで、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。当該複合体をPBSで洗浄し、二次抗体と共に室温で2時間インキュベートした。PBSによる洗浄を実施し、DAPI(Sigma Aldrich、米国)によって核染色を実施した。当該RPE/脈絡膜/強膜複合体を、再びPBSで洗浄し、Fluoromount(Sigma Aldrich、米国)によってマウントした。観察は、蛍光顕微鏡下で実施した。
【0075】
一方、本発明において使用した一次抗体についての情報を下記の表1に示す。
【表1】
【0076】
実施例8.RNA抽出及び定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
トリゾール(Invitrogen、米国)試薬を使用してRNAを抽出し、逆転写キット(Promega、米国)を使用してcDNAを合成し、SYBRグリーン(TAKARA、日本)を使用してリアルタイプポリメラーゼ連鎖反応を実施した。RNAのレベルを、増幅反応曲線を分析することによって分析し、この分析は、トリプリケート又はクワドルプリケートにおいて実施した。遺伝子の相対発現レベルを、18代rRNAへの正常化によって定量化した。
【0077】
実施例9.コラーゲンゲル収縮アッセイ
以前に説明されるように、コラーゲンゲル収縮アッセイを実施した(Liu Yら 「Induction by latanoprost of collagen gel contraction mediated by human tenon fibroblasts: role of intracellular signaling molecules」, Investigative ophthalmology & visual science, 2008; 49(4): 1429〜36)。詳細には、培養したARPE−19細胞を、1.2mg/mlのコラーゲン溶液(Invitrogen、米国)と混合し、1NのNaOHを加えて当該コラーゲン溶液のpHを中性化した。コラーゲンゲル懸濁液(1×10
5細胞/ウェル、500μL)を24ウェル培養プレートに加え、37℃で1時間、重合させた。コラーゲンゲルが形成されると、当該ゲルが培地に懸濁されるように、その端部をピペットチップで除去した。次いで、様々な試薬の処理を実施し、コラーゲンゲル収縮の程度を、ImageJソフトウェアを使用して測定及び分析した。
【0078】
実施例10.細胞移動能力のインビトロ分析
細胞移動能力を測定するために、ARPE−19細胞を12ウェル培養プレート上に位置させ、各ウェルはカバーガラスを備え、培養された細胞がカバーガラスの全領域を覆うまで当該細胞を培養した。試薬による処理を実験設計に従って実施し、次いで、当該細胞を200μLチップを使用して引っ掻いた。24時間後、当該細胞をDAPIで染色し、蛍光顕微鏡下において観察した。その後、細胞移動距離をImageJソフトウェアを使用して測定した。
【0079】
実施例11.食作用アッセイ
ARPE−19細胞を、1ウェルあたり5×10
4細胞の密度において24ウェル培養プレートに播種し、AdLacZ又はAdCCN5及びTGF−βによって処理した。食細胞活性に対するTAMRA標識アポトーシス胸腺細胞又は1mg/mlのpHrodo Red BioParticles(Invitrogen、米国)による処理の効果を観察するために、それらの処理を、5%CO
2インキュベータにおいて、37℃でそれぞれ6時間及び4時間実施した。
【0080】
TAMRA標識アポトーシス胸腺細胞を作製するために、5〜6週齢のC57BL/6マウスから胸腺を採取し、単一の胸腺細胞を分離するために、5mlの注射器ピストン及び細胞ストレーナを使用して解離させた。当該胸腺細胞を、50μMのTAMRA−SE(Invitrogen、米国)を用いて、細胞インキュベータにおいて37℃で30分間染色した。その後、当該胸腺細胞を、10%のウシ胎仔血清及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを含有するRPMIにおいて、37℃の条件下で20分間インキュベートすることによって脱染色し、完全RPMI(complete RPMI)によって1回洗浄した。CO
2細胞インキュベータにおいて50μMのデキサメタゾン(Calbiochem、ドイツ)を用いて37℃で4時間処理することによって、当該胸腺細胞のアポトーシスを誘発させた。その後、当該細胞を完全RPMIで3回洗浄し、2×10
5のアポトーシス胸腺細胞を300μlの食細胞培養培地に再懸濁させた。
【0081】
当該アポトーシス胸腺細胞懸濁液を、ARPE−19細胞と共に細胞インキュベータにおいてインキュベートした。その後、当該食細胞を冷PBSで5回洗浄し、トリプシン処理し、完全培養培地に懸濁させた。次いで、FACSCanto(商標) IIフローサイトメータ(BD、米国)を使用して分析を実施した。
【0082】
そのようなARPE−19細胞を、前方散乱/側方散乱プロットに従ってゲートすることにより、食作用を実施したARPE−19細胞と、そうでないARPE−19細胞とを区別した。ゲーティングのためにマーカーM1を使用し、次いで、1試料あたり20,000個の生細胞からの蛍光ポジティブ事象の割合を計算した。FlowJoソフトウェアを使用して、データを分析した。
【0083】
実施例12.AAV9−CCN5及びAAV9−VLPの硝子体内注射
AAV9−CCN5を、手術用顕微鏡(Leica Microsystems Ltd.、ドイツ)の下、33G針を使用して硝子体内に注射した。もう一方の眼は、AAV9−VLPコントロールとして機能した。
【0084】
実施例13.統計分析
定量的遺伝子発現分析を3回以上繰り返した。実験結果は、平均±標準偏差の形で表現され、スチューデントt検定を使用して、統計分析を実施した。統計的有意性は、アスタリスクで示される(*、p<0.05、又は**、p<0.01)。
【0085】
II.ARPE−19細胞におけるCCN5の効果の特定
実験的実施例1.ARPE細胞の線維性変形に対するCCN5の阻害効果の特定
ARPE−19は、ヒトRPEから分化するように自然に誘導された細胞株である。成熟ARPE−19細胞は、丸石様単層を形成し、上皮細胞に対して特異的なマーカータンパク質を発現する。培養されたARPE−19細胞を、5ng/ml又は10ng/mlにおいて2日間、TGF−βによって処理した(
図1a)。結果を
図1bから1dに示す。
【0086】
図1bに示されるように、TGF−βによる処理の後、当該ARPE−19細胞は、線維芽細胞様形態を獲得した。特に、
図1cに示されるように、TGF−βによる処理は、ヒト由来CCN5タンパク質の発現レベルを著しく低下させることが特定された。並行して、間葉マーカータンパク質、α−SMA、ビメンチン、フィブロネクチン、及びI型コラーゲンの発現は増加され、その一方で、上皮マーカータンパク質、ZO−1、及びオクルジンの発現は、著しく低下した。さらに、免疫蛍光染色により、TGF−βによって処理した場合、α−SMA及びf−アクチンの発現が増加され、密着結合の形成は阻害されることが特定された(
図1d)。これらの結果から、TGF−βによる処理は、ARPE−19細胞の線維性変形を誘発することが見出された。したがって、後続の実験において、当該ARPE−19細胞を10ng/mlのTGF−βで48時間処理して、線維性変形を誘発させた。
【0087】
当該ARPE−19細胞に、マウス由来CCN5又はコントロールとしてのAdLacZを発現する組換えアデノウイルス(AdCCN5)を感染させた。感染の2日後、当該細胞をTGF−βで処理した(
図2a)。結果を
図2b〜2dに示す。
【0088】
図2bに示されるように、AdCCN5は、TGF−βによって誘発される形態変化を著しく阻害した。さらに、
図2cに示されるように、ウェスタンブロット法は、AdCCN5が、TGF−βによって誘発された、間葉マーカータンパク質及び上皮マーカータンパク質の発現における変化を正常化することを示した。これらの変化は、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実験によっても特定された(
図2d)。さらに、ZO−1に対する免疫蛍光染色により、密着結合がTGF−βによって破壊される現象が、マウス由来AdCCN5によって阻害されることが見出された;並びにTGF−βによって誘発された、α−SMAの発現の増加及びf−アクチンの形成が、AdCCN5によって阻害されることが特定された。
【0089】
一方、α−SMAの発現の増加による収縮能力の増加は、上皮細胞の線維性変形における顕著な特徴であった。コラーゲンゲル収縮アッセイは、TGF−βによって引き起こされた細胞収縮性の増加が、マウス由来AdCCN5によって著しく減少することを示した。これらの結果を
図2fに示す。
【0090】
A83−01は、ALK5阻害剤に対して構造的類似性を有する、TGF−β受容体の阻害剤である。ヒト由来CCN5が、TGF−βによって誘発されたARPE−19細胞の線維性変形をA83−01と同じレベルまで阻害することが、ウェスタンブロット法によって認められた(
図3)。
【0091】
上記の結果から、CCN5が、TGF−βによって誘発されたARPE−19細胞の線維性変形を予防することが見出された。
【0092】
実験的実施例2.ARPE−19細胞の機能低下に対するCCN5の予防効果の特定
TGF−βは、形態変化と同様にARPE−19細胞の機能低下も引き起こす。当該ARPE−19細胞に、2日間、マウス由来AdCCN5又はAdLacZを感染させ、次いで、再び2日間、TGF−βで処理した。当該細胞単層を引っ掻いた。24時間後、当該細胞単層を顕微鏡下において確認した。結果を
図4aに示す。
図4aに示されるように、TGF−βは、ARPE−19細胞の移動能力を増加させ、ARPE−19細胞の移動は、AdCCN5によって著しく阻害された。
【0093】
酵素RPE65は、正常な視力にとって必須であり、並びに、オールトランスレチナール(all−trans retinal)を11シスレチナール(11−cis retinal)へと変換する働きをする。さらに、タンパク質MerTKは、RPE細胞の食細胞活性において重要な役割を果たす。ウェスタンブロット法は、酵素RPE65及びタンパク質MerTKの発現レベルが、TGF−βによる処理後に著しく低下したこと、及び並びにそのような低下が、マウス誘発AdCCN5によって阻害されることを示した。これらの結果を
図4bに示す。
【0094】
RPE細胞の食作用機能を、pH感受性フルオロフォア標識物質、pHrodo Red標識BioParticles、及びTAMRA標識アポトーシス胸腺細胞を使用して観察した。当該フルオロフォア標識物質は、酸性ファゴソームによって飲み込まれる場合に活性化される。RPE細胞を、これらのフルオロフォア標識物質と共にインキュベートし、フローサイトメトリによって分析した。結果を
図4c及び4dに示す。
【0095】
図4c及び4dに示されるように、RPE細胞の食細胞活性は、TGF−βによって著しく低下され、この現象は、マウス由来AdCCN5によって大いに阻害された。上記の結果から、AdCCN5が、TGF−βによって誘発されるARPE−19細胞の機能低下を予防することが見出された。
【0096】
実験的実施例3.TGF−β−SMADシグナル伝達経路に対するCCN5の阻害効果の特定
ウェスタンブロット法を使用して、ヒト由来CCN5が、TGF−β−SMADシグナル伝達経路に対して効果を有するか否かを特定した。結果を
図5に示す。
【0097】
図5に示されるように、TGF−βは、TGF−β受容体であるTGF−βRIIの発現レベルと、TGF−βによって誘発される上皮間葉移行に関与する転写因子であるSNAI1及びSNAI2の発現レベルとを増加させた。しかしながら、これらの転写因子の発現は、AdCCN5によって大いに低下した。さらに、AdCCN5による処理は、TGF−βによって引き起こされるSMAD2のリン酸化の増加を阻害し、並びにTGF−βによって引き起こされるSMAD4の発現の増加を阻害した。さらに、AdCCN5による処理は、TGF−βによって引き起こされるSMAD7の発現の低下を阻害した。CCN2は、RPE細胞の線維性変形に関与する線維化促進分子であり、並びにTGF−βシグナル伝達の下流標的である。CCN2の発現レベルは、TGF−βによって増加され、そのような増加は、AdCCN5によって阻害された。上記の結果から、CCN5は、TGF−β−SMADシグナル伝達経路を阻害することが見出された。
【0098】
実験的実施例4.ARPE−19細胞の線維性変形に対するCCN5の回復効果の特定
ヒト由来CCN5が、TGF−βによって既に形成されているARPE−19細胞の線維性変形を回復させることができるか否かを確認するために実験を行った。このために、ARPE−19細胞を、TGF−βで2日間処理し、続いて、AdCCN5又はAdLacZを感染させた(
図6a)。結果を
図6b〜6eに示す。
【0099】
図6bに示されるように、TGF−βによって誘発されたARPE−19細胞における形態変化は、AdCCN5によって原形へと回復した。さらに、ウェスタンブロット法は、AdCCN5が、共にTGF−βによって誘発される、間葉マーカータンパク質(α−SMA、ビメンチン、及びフィブロネクチン)の発現増加及びTGF−βによって誘発される上皮マーカータンパク質(ZO−1及びオクルジン)の発現低下の両方を、著しく正常化することを示した(
図6c)。さらに、免疫蛍光染色は、TGF−βによって破壊された密着結合が、AdCCN5によって著しく回復すること、並びにAdCCN5が、TGF−βによって引き起こされたα−SMAの発現増加を正常化することを示した。さらに、ファロイジン染色は、AdCCN5が、TGF−βによって引き起こされたf−アクチンのレベル増加を正常化することを明らかにした(
図6d)。さらに、コラーゲンゲル収縮アッセイは、TGF−βによって引き起こされた細胞収縮の増加が、AdCCN5によって著しく減少することを示した(
図6e)。上記の結果から、CCN5は、TGF−βによって誘発されたARPE−19細胞の線維性変形を回復させることができることが見出された。
【0100】
実験的実施例5.ARPE−19細胞の機能低下に対するCCN5の回復効果の特定
ARPE−19細胞をTGF−βで2日間処理し、次いで、ヒト由来AdCCN5又はAdLacZを感染させた。次いで、ARPE−19細胞の機能について分析した。結果を
図7a〜7dに示す。
【0101】
図7aに示されるように、TGF−βによって誘発されたARPE−19細胞の移動能力の向上は、AdCCN5によって著しく減少した。
図7bに示されるように、AdCCN5は、TGF−βによって低下されたタンパク質RPE65及びMerTKの発現を正常化した。さらに、フローサイトメトリ分析は、TGF−βによって低下した食細胞活性がAdCCN5によって著しく回復することを示した(
図7c及び7d)。上記の結果から、CCN5が、TGF−βによって誘発されたARPE−19細胞の機能欠損を正常へと回復させることができることが見出された。
【0102】
TGF−βによるARPE−19細胞の処理の2日後、TGF−β阻害剤である式1のA83−01(Sigma−Aldrich、米国)による処理を実施した(
図8a)。
【化1】
結果を
図8bに示す。
図8bに示されるように、CCN5とは異なり、A83−01は、間葉マーカータンパク質(α−SMA、ビメンチン、及びフィブロネクチン)並びに上皮マーカータンパク質(ZO−1及びオクルジン)の発現における異常な変化を正常化しなかった(
図8b)。上記の結果から、TGF−βシグナル変換の阻害は、TGF−βによって誘発されたARPE−19細胞における線維性変形を予防することができ、並びに既に形成されている線維性変形を回復させることができないことが見出された。
【0103】
実験的実施例6.RPEの線維性変形に対するCCN5のインビボでの回復効果の特定
高齢のCcl2
−/−マウスは、RPEの線維性変形を含む乾性加齢黄斑変性症の特徴を有する。硝子体内注射を使用して、18月齢のCcl2
−/−マウスの右眼にヒト由来CCN5を発現する組換えアデノ関連ウイルス(AAV9−CCN5)を注射し、左眼にはコントロールウイルス(AAV9−VLP)を注射した。注射の12週間後、当該眼を摘出してRPE層を入手し、分析を実施した(
図9a)。結果を
図9b及び9cに示す。
【0104】
図9bに示されるように、CCN5の発現は、正常(WT)なマウスの眼のRPE層と比較して、Ccl2
−/−マウスの眼のRPE層では著しく低下し、そのような低下は、AAV9−CCN5によって回復された。間葉マーカータンパク質(α−SMA、ビメンチン、及びフィブロネクチン)の発現は、Ccl2
−/−マウスのRPEにおいて著しく増加し、その一方で、上皮マーカータンパク質(ZO−1及びオクルジン)及びRPE機能関連マーカータンパク質(RPE65及びMerTK)の発現は、大いに低下した。そのような変化は、AAV9−CCN5によって、正常な状態へと回復した。
【0105】
さらに、RPE細胞の密着結合の独特な特徴を特定するために、RPE/脈絡膜/強膜複合体を調べた。結果を
図9cに示す。
【0106】
図9cに示されるように、AAV9−VLPを注射された18月齢の正常なマウスのRPEにおいて示されるような秩序だった六方晶系の形状の密着結合の構造が、コントロールウイルスを注射された同月齢のCcl2
−/−マウスのRPEにおける異常な形状へと変形していることが認められた。逆に、AAV9−CCN5を硝子体内に注射された同月齢のCcl2
−/−マウスのRPE細胞では、密着結合は正常な形状へと回復していることが特定された。さらに、同時に、タンパク質RPE65の発現の低下が正常化され、α−SMAの発現も低下した(
図9c)。上記の結果から、高齢のCcl2
−/−マウスのRPEにおいて示される線維性変形が、CCN5によって回復されることが見出された。
【0107】
実験的実施例7.密着結合の破壊によって引き起こされるARPE−19細胞の線維性変形に対するCCN5の予防効果
細胞密着結合は、RPE機能にとって重要であり、密着結合の破壊は、様々な眼の疾患に密接に相互関連している。RPE細胞がEGTA、EGF、及びFGF−2(以下においては、EEF)の組み合わせによって処理される場合、当該RPE細胞の密着結合は破壊され、結果として、RPEの正常な形態及び機能が失われる。
【0108】
ARPE−19細胞にヒト由来AdCCN5又はAdLacZを2日間感染させ、次いで、再びEEFで2日間処理した(
図10a)。結果を
図10b〜10dに示す。
図10bに示されるように、AdCCN5は、EEF処理によって誘発された形態変化を著しく阻害した。ウェスタンブロット法は、AdCCN5が、共にEEFの組み合わせによって誘発される、CCN2及び間葉マーカータンパク質(α−SMA、ビメンチン、及びフィブロネクチン)の発現の増加及び上皮マーカータンパク質(ZO−1及びオクルジン)の発現の低下の両方を阻害することを示している(
図10c)。CCN5の発現がEEFによって低下することは、注目に値する結果である。さらに、免疫蛍光染色は、AdCCN5が、EEFによって誘発された密着結合の破壊を阻害し、並びに、EEFによって誘発されたα−SMAの発現の増加を阻害することを示した。ファロイジン染色は、AdCCN5が、EEFによって形成されたf−アクチンを阻害することを示した(
図10d)。上記の結果から、CCN5が、EEFによって誘発された密着結合の破壊によって引き起こされるARPE−19細胞の線維性変形を予防することが見出された。
【0109】
実験的実施例8.ベバシズマブによって誘発されるARPE−19細胞の線維性変形に対するCCN5の予防効果
新生血管形成を阻害する抗VEGF薬の使用は、湿性加齢黄斑変性症を治療するために広く使用される方法である。しかしながら、この方法は、RPE細胞において形態的及び機能的変化を引き起こす副作用を有する。ベバシズマブは、様々な癌又は湿性加齢黄斑変性症を治療するために一般的に使用される第一世代の抗VEGF薬である。この実験的実施例において、ベバシズマブがARPE−19細胞の線維性変形を誘発するか否か、及びそのような有害な結果が、ヒト由来CCN5によって予防されるか否かを調べた。特異的実験プロセスが実施例2に示されており、この実験プロセスは、
図11aに図式的に示されている。当該実験結果を
図11b〜11dに示す。
【0110】
図11bに示されるように、ARPE−19細胞がベバシズマブで処理される場合、当該細胞の形態は変化し、この現象は、AdCCN5によって阻害された。ウェスタンブロット法は、AdCCN5が、共にベバシズマブによって誘発される、間葉マーカータンパク質(α−SMA、ビメンチン及びフィブロネクチン)の発現の増加及び上皮マーカータンパク質(ZO−1及びオクルジン)の発現の低下の両方を阻害することを示した(
図11c)。CCN5の発現が、ベバシズマブによって低下することは、注目に値する結果である。さらに、免疫蛍光染色は、AdCCN5が、ベバシズマブによって誘発される密着結合の破壊を阻害することを示した(
図11d)。上記の結果から、CCN5が、ベバシズマブによって誘発されるARPE−19細胞の線維性変形を予防することが見出された。
【0111】
実験的実施例9.CCN5をコードする修飾されたmRNA及びCCN5タンパク質の効果
ヒト由来CCN5をコードする修飾されたmRNA(以後、modRNA−CCN5と称する)又は精製されたヒト由来CCN5タンパク質を使用して、
図12a及び13aに図式的に示された実験プロセスに従って実験を実施した。結果を
図12b〜12c及び
図13b〜13cに示す。
【0112】
ウェスタンブロット法は、ARPE−19細胞において、modRNA−CCN5及び精製されたCCN5タンパク質が、TGF−βによって誘発される、間葉マーカータンパク質(α−SMA、ビメンチン、及びフィブロネクチン)の発現の増加を阻害し、並びに同じくTGF−βによって誘発される、上皮マーカータンパク質(ZO−1及びオクルジン)の発現の減少を正常なレベルへと回復させることを示した(
図12b及び13b)。さらに、免疫蛍光染色は、当該modRNA−CCN5及び精製されたCCN5タンパク質が、TGF−βによって破壊された密着結合を正常な状態へと回復させることを示した(
図12c及び
図13c)。当該結果は、CCN5が、修飾されたmRNA及び精製されたタンパク質の形態において移入される場合でさえ、それらは、TGF−βによって誘発されたARPE−19細胞の線維性変形を回復させる優れた効果を有することを示している。
【0113】
実験的実施例10.抗VEGF薬(ベバシズマブ、ラニビズマブ、及びアフリベルセプト)によって誘発されるARPE−19細胞の線維性変形に対するCCN5の予防効果
抗VEGF薬であるベバシズマブ、ラニビズマブ、及びアフリベルセプトが、ARPE−19細胞の線維性変形を等しく誘発するか否か、及びこの変形が、ヒト由来CCN5によって予防されるか否かについて調べた(
図14a)。実験プロセスを
図14aに図式的に示し、実験結果は、
図14b及び14cに示す。
【0114】
図14bに示されるように、抗VEGF薬であるベバシズマブ、ラニビズマブ、及びアフリベルセプトは、等しくCCN5の発現を低下させ、CCN2の発現を増加させ、この現象は、CCN5タンパク質によって阻害された。ウェスタンブロット法は、CCN5が、共に抗VEGF薬によって誘発される、間葉マーカータンパク質(α−SMA、ビメンチン、及びフィブロネクチン)の発現の増加及び上皮マーカータンパク質(ZO−1及びオクルジン)の発現の低下の両方を阻害することを示した(
図14c)。さらに、免疫蛍光染色は、CCN5が、いずれも抗VEGF薬によって誘発される、密着結合の破壊、α−SMAの発現の増加、及びf−アクチンの形成を阻害することを示した(
図14c)。これらの結果は、抗VEGF薬によって誘発されるARPE−19細胞の線維性変形が、CCN5によって予防されることを示している。
【0115】
実験的実施例11.TGF−βによって誘発されるiPSC由来RPE細胞の線維性変形に対するCCN5の予防効果
TGF−βによって誘発されるRPE細胞の線維性変形に対するヒト由来CCN5の予防効果を特定する実験を、ヒトiPSC由来RPE細胞において実施した。当該iPSC由来RPE細胞を播種し、2週間後、当該細胞にAAV2−CCN5を感染させた。次いで、25日間培養を実施し、次いで、TGF−βによる処理を3日間実施した(
図15a)。細胞を播種した2週間以内に、当該iPSC由来RPE細胞は、密集した丸石形状を示した。1カ月後、当該細胞は、円蓋形を形成しつつ、RPE細胞特異的な着色を示し始めた。当該結果を
図15bに示す。
【0116】
免疫蛍光染色は、AAV2−CCN5が、いずれもTGF−βによって誘発される、密着結合の破壊、α−SMAの発現の増加、及びf−アクチンの形成を阻害することを示した。上記の結果は、TGF−βによって誘発される、iPSC由来RPE細胞の線維性変形が、CCN5によって予防されることを示している。