特表2021-523702(P2021-523702A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-523702ヒト抗AAV2カプシドポリクローナル抗体エピトープ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-523702(P2021-523702A)
(43)【公表日】2021年9月9日
(54)【発明の名称】ヒト抗AAV2カプシドポリクローナル抗体エピトープ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/35 20060101AFI20210813BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20210813BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20210813BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20210813BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20210813BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20210813BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20210813BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20210813BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20210813BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20210813BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20210813BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20210813BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20210813BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20210813BHJP
   A61P 31/00 20060101ALN20210813BHJP
【FI】
   C12N15/35ZNA
   C12N15/10 200Z
   C12N15/13
   C07K16/08
   C12Q1/6869 Z
   C07K14/015
   C12N15/864 100Z
   C12N15/63 Z
   C12N7/01
   A61K35/761
   A61P37/04
   A61K39/39
   A61K48/00
   C12P21/08
   A61P31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2020-561751(P2020-561751)
(86)(22)【出願日】2019年5月6日
(85)【翻訳文提出日】2020年12月23日
(86)【国際出願番号】US2019030955
(87)【国際公開番号】WO2019213668
(87)【国際公開日】20191107
(31)【優先権主張番号】62/667,360
(32)【優先日】2018年5月4日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】508136375
【氏名又は名称】オレゴン ヘルス アンド サイエンス ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 圭
(72)【発明者】
【氏名】チャン,シャオ,ラン
(72)【発明者】
【氏名】中井 浩之
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA17
4B063QQ10
4B063QQ28
4B063QQ43
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR33
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QR79
4B063QS03
4B063QS05
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA13
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA45
4B065CA46
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB311
4C085AA03
4C085AA38
4C085DD86
4C085EE06
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB31
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045CA40
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
中和抗体のエピトープを含むヒト抗AAVカプシドポリクローナル抗体立体構造エピトープが提供される。このエピトープは、ヒト抗AAV2又は他のAAV株由来カプシドポリクローナル抗体によって認識できる。エピトープのうちの1つ以上を変異させて、抗体中和を回避できるAAV2及び他のAAV株由来カプシドを形成してもよい。ヒト抗AAVカプシドポリクローナル抗体立体構造エピトープを同定する方法も提供される。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のAAV株のAAVカプシドタンパク質上の1つ以上のエピトープを同定する方法であって、
複数のAAVカプシド変異体を準備する工程であって、各AAVカプシド変異体は第2のAAV株由来の改変されたカプシドタンパク質を含み、前記改変されたカプシドタンパク質は1つ以上の改変されたアミノ酸を含み、前記1つ以上の改変されたアミノ酸は前記第1のAAV株の前記AAVカプシドタンパク質由来の対応するアミノ酸のうちの1つ以上に置換される、工程と、
前記複数のAAVカプシド変異体を複数の抗体と反応させる工程であって、各抗体は、前記第1のAAV株の前記AAVカプシドタンパク質上の1つ以上のエピトープに結合する、工程と、
1つ以上の抗体に結合する前記AAVカプシド変異体を回収する工程と、
1つ以上の抗体に結合する前記AAVカプシド変異体を同定する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記第1のAAV株がAAV2である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のAAV株がAAV9である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のAAV株がAAV5である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
1つ以上の抗体に結合する前記AAVカプシド変異体を回収することが、1つ以上の抗体に結合する前記AAVカプシド変異体を免疫沈降させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
各AAVカプシド変異体が、前記第1のAAV株の前記AAVカプシドタンパク質由来の5つの対応するアミノ酸によって置換される少なくとも5つのアミノ酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
各AAVカプシド変異体が、前記第1のAAV株の前記AAVカプシドタンパク質由来の6つの対応するアミノ酸によって置換される少なくとも6つのアミノ酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
各AAVカプシド変異体が、前記第1のAAV株の前記AAVカプシドタンパク質由来の12の対応するアミノ酸によって置換される少なくとも12のアミノ酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの改変されたカプシドエピトープを含むAAVカプシド変異タンパク質であって、前記少なくとも1つの改変されたカプシドエピトープは、少なくとも1つの改変されたアミノ酸を含む、AAVカプシド変異タンパク質。
【請求項10】
前記変異体AAVカプシドタンパク質が、抗体結合又は中和を回避するように構成されている、請求項9に記載のAAVカプシド変異タンパク質。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のAAVカプシド変異タンパク質を含む、AAVベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のAAVベクターと、薬学的に許容されるアジュバント、賦形剤、担体、又は安定剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項13】
請求項9に記載の変異体AAVカプシドタンパク質をコードする、核酸配列。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸配列を含む、プラスミド。
【請求項15】
前記少なくとも1つの改変されたカプシドエピトープが、少なくとも2つの改変されたアミノ酸を含む、請求項9に記載のAAVカプシド変異タンパク質。
【請求項16】
前記少なくとも1つの改変されたカプシドエピトープが、少なくとも3つの改変されたアミノ酸を含む、請求項9に記載のAAVカプシド変異タンパク質。
【請求項17】
前記少なくとも1つの改変されたカプシドエピトープが、少なくとも4つの改変されたアミノ酸を含む、請求項9に記載のAAVカプシド変異タンパク質。
【請求項18】
前記少なくとも1つの改変されたカプシドエピトープが、少なくとも5つの改変されたアミノ酸を含む、請求項9に記載のAAVカプシド変異タンパク質。
【請求項19】
少なくとも2つの改変されたカプシドエピトープを含み、各改変されたカプシドエピトープは、少なくとも1つの改変されたアミノ酸を含む、請求項9に記載のAAVカプシド変異タンパク質。
【請求項20】
請求項15〜19のいずれか一項に記載のAAVカプシド変異タンパク質を含む、AAVベクター。
【請求項21】
請求項20に記載のAAVベクターと、薬学的に許容されるアジュバント、賦形剤、担体、又は安定剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項22】
エピトープ1、エピトープ2、エピトープ3、エピトープ4、エピトープ5、エピトープ6、エピトープ7、エピトープ8、エピトープ9、又はエピトープ10のうちの少なくとも1つから選択されるエピトープのアミノ酸配列中に1つ以上の変異を含む、AAVx由来カプシド。
【請求項23】
前記エピトープの前記アミノ酸配列がランダム化されている、請求項22に記載のAAVx由来カプシド。
【請求項24】
前記エピトープのアミノ酸配列における前記1つ以上の変異がAAVx以外のAAV株に由来する、請求項22に記載のAAVx由来カプシド。
【請求項25】
AAVxがAAV2である、請求項22に記載のAAVx由来カプシド。
【請求項26】
前記抗体エピトープのアミノ酸配列における前記1つ以上の変異がランダム化されている、請求項25に記載のAAV2由来カプシド。
【請求項27】
前記エピトープのアミノ酸配列における前記1つ以上の変異がAAV2以外のAAV株に由来する、請求項25に記載のAAV2由来カプシド。
【請求項28】
エピトープ中のアミノ酸配列における前記1つ以上の変異が、
エピトープ1:439−DQYLYYLSRTNTPSGTTTQSRLQFSQAGASD−469(配列番号5);
エピトープ2:650−NTPVPANPSTTFSAAKFASFITQ−672(配列番号6);
エピトープ3:700−YTSNYNKSVNVDFTVDTNGVYSEPRPIGT−728(配列番号7);
エピトープ4:243−STRTWALPTYNNHLYKQISSQSGASNDNH−271(配列番号9);
エピトープ5:320−VKEVTQNDGTTTIANNLT−337(配列番号10);
エピトープ6:498−SEYSWTGATKYHLNGRDSL−516(配列番号11);
エピトープ7:523−MASHKDDEEKF−533(配列番号12);
エピトープ8:534−FPQSGVLIFGKQGSEKTNVDIEKVMIT−560(配列番号13);
エピトープ9:570−PVATEQYGSVSTNLQRGNRQAATADVN−596(配列番号8);あるいは
エピトープ10:409−FTFSYTFEDVPFHS−422(配列番号52)のうち、少なくとも1つから選択される、請求項22に記載のAAVx由来カプシド。
【請求項29】
AAVxがAAV2である、請求項28に記載のAAVx由来カプシド。
【請求項30】
前記AAVx由来カプシドが、抗体結合又は中和を回避するように構成されている、請求項22〜24又は28のいずれか一項に記載のAAVx由来カプシド。
【請求項31】
前記AAV2由来カプシドが、抗体結合又は中和を回避するように構成されている、請求項25〜27又は29のいずれか一項に記載のAAV2由来カプシド。
【請求項32】
請求項22〜29のいずれか一項に記載のAAVx由来カプシドを含む、AAVベクター。
【請求項33】
治療的有効量の請求項32に記載のAAVベクターと、薬学的に許容されるアジュバント、賦形剤、担体、又は安定剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項34】
請求項33に記載の医薬組成物を含む、ワクチン。
【請求項35】
変異体エピトープ1アミノ酸配列を含むAAV株のAAVカプシドであって、前記変異体エピトープ1アミノ酸配列は、GGTAATE(配列番号14)、TQEARPG(配列番号20)、TPTPQFS(配列番号22)、TLEPLIT(配列番号24)、PFETDLM(配列番号26)、LQEAHLT(配列番号28)、EEGGRPK(配列番号29)、EGDGGCL(配列番号31)、DGGAGSW(配列番号32)、AEGGGGG(配列番号34)、AGGGEMG(配列番号36)、GEAAAPA(配列番号37)、SVEGGAW(配列番号38)、又はSLASTLE(配列番号40)を含む、AAVカプシド。
【請求項36】
前記AAV株がAAV2である、請求項35に記載のAAVカプシド。
【請求項37】
前記AAV株が、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、及びAAV13からなる群から選択される、請求項35に記載のAAVカプシド。
【請求項38】
前記AAV株がカプシドエンジニアリング変異体である、請求項35に記載のAAVカプシド。
【請求項39】
変異体エピトープ2アミノ酸配列を含むAAV株のAAVカプシドであって、前記変異体エピトープ2アミノ酸配列は、PARQL(配列番号15)、PRPVQ(配列番号19)、PSALM(配列番号21)、ADSLL(配列番号23)、PASVM(配列番号25)、PRPLM(配列番号27)、AQPVM(配列番号30)、SEKQL(配列番号33)、APAMC(配列番号35)、DRRLL(配列番号39)、又はTLPMK(配列番号41)を含む、AAVカプシド。
【請求項40】
前記AAV株がAAV2である、請求項39に記載のAAVカプシド。
【請求項41】
前記AAV株が、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、及びAAV13からなる群から選択される、請求項39に記載のAAVカプシド。
【請求項42】
前記AAV株がカプシドエンジニアリング変異体である、請求項39に記載のAAVカプシド。
【請求項43】
変異体エピトープ3アミノ酸配列を含むAAV株のAAVカプシドであって、前記変異体エピトープ3アミノ酸配列は、SVDGN(配列番号16)を含む、AAVカプシド。
【請求項44】
前記AAV株がAAV2である、請求項43に記載のAAVカプシド。
【請求項45】
前記AAV株が、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、及びAAV13からなる群から選択される、請求項43に記載のAAVカプシド。
【請求項46】
前記AAV株がカプシドエンジニアリング変異体である、請求項43に記載のAAVカプシド。
【請求項47】
前記AAVカプシドが、抗体結合又は中和を回避するように構成されている、請求項35〜46のいずれか一項に記載のAAVカプシド。
【請求項48】
請求項35〜46のいずれか一項に記載のAAVカプシドを含む、AAVベクター。
【請求項49】
請求項47に記載のAAVカプシドを含む、AAVベクター。
【請求項50】
治療的有効量の請求項48に記載のAAVベクターと、薬学的に許容されるアジュバント、賦形剤、担体、又は安定剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項51】
請求項50に記載の医薬組成物を含む、ワクチン。
【請求項52】
治療的有効量の請求項49に記載のAAVベクターと、薬学的に許容されるアジュバント、賦形剤、担体、又は安定剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項53】
請求項52に記載の医薬組成物を含む、ワクチン。
【請求項54】
請求項35〜46のいずれか一項に記載のAAVカプシドをコードする、核酸配列。
【請求項55】
請求項54に記載の核酸配列を含む、プラスミド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2018年5月4日に出願された米国特許仮出願第62/667,360号に対する優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(連邦政府の資金提供による研究の記載)
本発明は、国立衛生研究所から支給された認可番号NS088399の政府援助により行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ウイルス中和抗体(NtAb)エピトープマッピングは、感染症の予防及び/又は治療のための新しいワクチン及び医薬品の開発を支援することができる。加えて、ウイルスNtAbエピトープマッピングは、遺伝子導入ベクターの開発を支援することができる。ウイルスNtAbエピトープの同定及びそれに関する知見は、宿主免疫応答が有効なin vivo遺伝子療法に対する障害であり得るため、宿主免疫応答を回避できるウイルスベクター成分の遺伝子工学に役立ち得る。
【0004】
アデノ関連ウイルス(AAV)は、遺伝子療法のための有望なin vivo遺伝子導入ベクターである。しかしながら、in vivo遺伝子導入ベクターとしてAAVを使用する際、臨床的に有益な結果のための大量のベクターの必要性、有効性を制限するウイルスタンパク質に対する宿主免疫応答、無差別なウイルス親和性、及びヒトに予め存在する抗AAV中和抗体の確率などの、克服されるべき様々な問題が残っている。
【0005】
多くの天然に存在する血清型及びサブタイプが、ヒト及び非ヒト霊長類組織から単離されている(Gao G et al.,J Virol 78,6381−6388(2004)及びGao G et al.,Proc Natl Acad Sci USA 99,11854−11859(2002))。新たに同定されたAAV単離株の中でも、AAV血清型8(AAV8)及びAAV血清型9(AAV9)は、これらの2種類の血清型由来の組換えAAVベクターが、末梢を介した全身投与後に、肝臓、心臓、骨格筋、及び中枢神経系を含む様々な器官を高い効率で形質導入できるため、注目を集めている(Foust KD et al.,Nat Biotechnol 27,59−65(2009);Gao et al.,2004,supra;Ghosh A et al.,Mol Ther 15,750−755(2007);Inagaki K et al.,Mol Ther 14,45−53(2006);Nakai H et al.,J Virol 79,214−224(2005);Pacak CA et al.,Circ Res 99,e3−e9(2006);Wang Z et al.,Nat Biotechnol 23,321−328(2005);及びZhu T et al.,Circulation 112,2650−2659(2005))。
【0006】
AAV8及びAAV9ベクターによる継続的な形質導入が、これらの細胞型の強い指向性、ベクターの効率的な細胞取り込み、及び/又は細胞内のビリオンシェルの急速な脱殻の要因であると推定されている(Thomas CE et al.,J Virol 78,3110−3122(2004))。加えて、より良好な性能を有するカプシドエンジニアリングAAVベクターの出現が、ベクターツールキットとしてのAAVベクターの有用性を大幅に拡大している(Asokan A et al.,Mol Ther 20,699−708(2012))。AAVベクターを介する遺伝子療法の概念実証は、ヒト疾患の多くの前臨床動物モデルで示されている。第I/II相臨床試験が、なかでも、血友病B(Manno CS et al.,Nat Med 12,342−347(2006)及びNathwani AC et al.,N Engl J Med 365,2357−2365(2011));筋ジストロフィー(Mendell JR et al.,N Engl J Med 363,1429−1437(2011));心不全(Jessup M et al.,Circulation 124,304−313(2011));失明に至る網膜症(Maguire AM et al.,Lancet 374,1597−1605(2009));α1アンチトリプシン欠乏症(Flotte TR et al.,Hum Gene Ther 22,1239−1247(2011));及び脊髄性筋萎縮症(Mendell JR et al.,N Engl J Med 377:1713−1722(2017))などの遺伝子疾患に対して始まっている、又は完了している。
【0007】
AAVベクターは、前臨床動物試験で広く使用されており、臨床安全性試験において検討されてきたが、現在のAAVベクターを介する遺伝子導入システムは概して、より広範な臨床用途に最適ではないままである。AAVウイルスカプシドタンパク質の配列は、特定のAAVベクターの多数の特徴を定義する。例えば、カプシドタンパク質は、カプシド構造及び会合、Rep及びAAPタンパク質などのAAV非構造タンパク質との相互作用、宿主体液及び細胞外マトリックスとの相互作用、ウイルスの血液クリアランス、血管透過性、抗原性、NtAbに対する反応性、組織/器官/細胞型の指向性、細胞接着及び内部移行の効率、細胞内輸送経路、及びビリオンの脱殻速度などの特徴に影響する。更に、あるAAVカプシドアミノ酸配列とAAVベクターの特性との関係は予測不可能である。
【0008】
高い確率でヒトに予め存在する抗AAV中和抗体によって、AAVベクターを介する遺伝子療法の成功に対して著しい障壁がもたらされる。NtAbを回避できる「ステルス型」AAVベクターの開発に関心が集まっているが、このようなAAVベクターの作成は、一般にNtAbエピトープに関するより包括的な情報に依存し、これらの情報は、動物及びヒト血清中に存在するポリクローナル抗AAVカプシド抗体のエピトープを容易かつ効率的にマッピングする方法が存在しないため、現在は限定されたままである。
【0009】
DNAバーコーディングしたAAV2R585Eヘキサペプチド(HP)スキャニングカプシド変異体ライブラリが作製されており、ここでは、AAV2由来HPを他の血清型由来のもので置換されている。これらのライブラリを、抗AAV1又はAAV9カプシド抗体を保有しているマウスに静脈内注入することで、マウス血清中の抗AAV NtAbsに対するエピトープとしての、AAV1カプシド中の452−QSGSAQ−457(配列番号1)及びAAV9カプシド中の453−GSGQN−457(配列番号2)同定につながっている(Adachi K et al.,Nat Commun 5,3075(2014))。これらのエピトープは、カプシド上の3回対称軸の突起の一番高いピークに対応する。加えて、この領域はまた、同じin vivo法を用いて、マウス抗AAV7 NtAbsのエピトープとしても機能し得る。AAVバーコード−Seqと呼ばれる、配列ベースのハイスループット法は、数百の異なるAAV株の表現型の特徴確認を可能にでき、抗AAV NtAbエピトープマッピングに適用することができる。
【発明の概要】
【0010】
本明細書に開示される実施形態は、添付の図面と併用して、以下の記載及び添付の特許請求の範囲からより完全に明白となるであろう。これらの図面は、典型的な実施形態のみを描写しており、それらは、添付の図面を使用して追加の特異性及び詳細と共に記載されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】AAV2 pAの下流に1対の12ヌクレオチド長のDNAバーコード(lt−VBC及びrt−VBC)を含有するDNAバーコーディングしたAAVゲノムのマップを示す。各ウイルスバーコード(VBC)は、別々にPCR増幅され得る。この種のDNAバーコーディングしたAAVベクターゲノムを、本発明の発明者らの以前の研究、例えば、Adachi K et al.,Nat Commun 5:3075(2014)に公開されているもので使用した。
図1B】DNAバーコーディングした二本鎖(ds)AAV−U6−VBCLibベクターゲノムのマップを示す。dsAAV−U6−VBCLibベクターゲノムは、1対の12ヌクレオチド長のDNAバーコード(lt−VBC及びrt−VBC)を含有する0.6kbのヒトU6核内低分子(sn)RNAプロモーター駆動性非機能性非翻訳領域RNA発現カセットを有する(Earley LF et al.,J Virol 91(2017).)。ベクターゲノムはまた、細菌lacZ遺伝子の翻訳領域(ORF)に由来するスタッファーDNAも含有する。dsAAV−U6−VBCLibベクタープラスミドは、AAVベクター形質導入細胞内のRNAバーコードとしてDNAバーコードを発現するように設計された(Adachi K et al.,Mol Ther 22(2014))。以下に提示されるものを含む我々の最近のAAVバーコード−Seq研究の多くは、dsAAV−U6−VBCLib AAVベクターゲノムを使用している。
図1C】AAV9カプシドの二重アラニン(AA)スキャニング変位導入を示す。
図1D】2アミノ酸間隔でのAAV2R585Eカプシドのヘキサペプチド(HP)スキャニング変位導入を示す。
図1E】AAVバーコード−Seq分析の手順を示す。各サンプルから得られたPCR産物に、PCRプライマーに取り付けたサンプル特異的バーコードを用いて印を付ける。これにより、多重ILLUMINAシーケンシングが可能になる。表現型値の差(PD)は、各血清型又は変異体について、表現型(受容体結合、形質導入、指向性、血液クリアランス、NtAbへの反応性、血液脳脊髄液関門(BCSFB)透過性など)に関する情報を提供する。
図2】AAV9由来ヘキサペプチド(HP)又はドデカペプチド(DP)がAAV2に由来するもので置換されている、AAV9HPスキャニング変異体及びAAV9DPスキャニング変異体を示す。
図3】AAV5由来ドデカペプチド(DP)がAAV2に由来するもので置換されている、AAV5DPスキャニング変異体を示す。
図4】IP−Seqの手順を示す。
図5】AAV9−HPライブラリを使用してヒト血清サンプル中に存在するポリクローナル抗AAV2抗体の立体構造エピトープのマッピングの結果を示す。4つの異なるカットオフ値を使用して生成されたデータを比較する。この分析により、共通のヒト抗AAV2カプシドポリクローナル抗体の立体構造エピトープが明らかになる。
図6】AAV9−HP及びAAV9−DP変異体の両方を含有するライブラリを用いてIP−Seqによって同定された、共通のヒト抗AAV2カプシドポリクローナル抗体の立体構造エピトープを示す。
図7】AAV5−DP変異体ライブラリを用いてIP−Seqによって同定された、共通のヒト抗AAV2カプシドポリクローナル抗体の立体構造エピトープを示す。
図8】AAV9−HP変異体ライブラリを用いてin vivoPK−Seqによって同定された、共通のヒト抗AAV2カプシドポリクローナル中和抗体の立体構造エピトープを示す。
図9】AAV9−DP変異体ライブラリを用いてin vivoPK−Seqによって同定された、共通のヒト抗AAV2カプシドポリクローナル中和抗体の立体構造エピトープを示す。
図10】ヒト抗AAVカプシドポリクローナル中和抗体−エスケープ変異体を同定するために使用した方法を示す。
図11】ヒト抗AAVカプシドポリクローナル中和抗体を含有するGammagard(静注用ヒト免疫グロブリン)の存在下又は非存在下における、AAV2、AAV2Ep123mt1、及びAAV9ベクターのCHO−K1細胞形質導入能を示す。
図12】20μLの血清サンプル又は1×1011vgのAAV9粒子を有するIVIGのプレインキュベートが、AAV2に結合する抗体を保持しながらAAV9に結合する抗体を除去するのに十分であることを示しているELISAデータを示す。
図13-1】図13は、AAV2カプシドに対するものとして我々が同定したエピトープ、及び他のAAV血清型の潜在的エピトープ(AAV1、3B、4、5、6、7、8、9、10、11、12、及び13)を示す。
図13-2】図13−1の続きである。
図13-3】図13−2の続きである。
図13-4】図13−3の続きである。
図14】AAV5−DP変異体を使用したIP−Seqが、AAV9−HP変異体を使用したIP−Seqが同定できない抗AAV2抗体を含む、より多くのアミノ酸配列を同定できることを示す例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態は、本明細書に概して記載されるように、例示的であることが容易に理解されるであろう。以下の種々の実施形態のより詳細な説明は、本開示の範囲を限定することを意図するものではなく、単に種々の実施形態を代表するものに過ぎない。更に、本明細書で開示する方法のステップ又は操作の順序は、本開示の範囲から逸脱することなく、当業者によって変更され得る。換言すれば、ステップ又は操作の特定の順序が実施形態の適切な実施に必要とされない限り、特定のステップ/又は操作の順序/又は使用を変更してもよい。
【0013】
本開示は、変異体AAVカプシドタンパク質を同定する方法を提供する。特定の実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、第1のAAV株であるAAVxの野生型配列に対して「変異」又は「改変」されており、変異体AAVxカプシドタンパク質は、少なくとも1つの改変されたカプシドエピトープを含み、この方法は、(1)複数のAAVxカプシド変異体を準備する工程であって、各AAVxカプシド変異体が、1つ以上の改変されたアミノ酸を含み、各AAVxカプシド変異体が、ウイルス特異的バーコードを用いて印付けられている、工程と、(2)複数のAAVxカプシド変異体を複数の抗体と反応させる工程であって、各抗体が、AAVカプシドタンパク質上の1つ以上のエピトープに結合する、工程と、(3)1つ以上の抗体に結合するAAVxカプシド変異体を回収する工程と、(4)1つ以上の抗体に結合するAAVxカプシド変異体を同定する工程と、を含む。変異体AAVカプシドは、抗体結合又は中和を回避するように構成され得る。
【0014】
遺伝子を指すとき、用語「野生型」は通常の意味で使用され、動物種、細胞、又はウイルス株における対応する遺伝子と同じタンパク質コードヌクレオチド配列を有する遺伝子として定義される。多型である遺伝子配列については、「野生型」は、動物種、細胞、又はウイルス株における遺伝子の最も一般的な形態の配列を指す。養母「野生型」はまた、アミノ酸配列がそのタンパク質のアミノ酸配列の最も一般的な形態と同一であるタンパク質と関連して使用され得る。特定の株、例えば、AAV株と関連して使用される場合、「野生型」は、その株における特定のタンパク質の最も一般的なアミノ酸配列を指す。用語「変異体」又は「変異された」もまた通常の意味で使用され、動物種、細胞、又はウイルス株における対応する野生型遺伝子と同じタンパク質コードヌクレオチド配列を有さない遺伝子として定義される。変異は、(1)1つ以上のヌクレオチドにおける変更であって、特にその変化がヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列を改変する、変更、(2)1つ以上のヌクレオチドの欠失、又は(3)1つ以上のヌクレオチドの挿入、のうち、1つ以上であり得る。用語「改変された」は、野生型とは異なるヌクレオチド又はタンパク質配列を用いて合成的に生成されたヌクレオチド又はタンパク質を示すために使用され得る。用語「変異体」はまた、遺伝子のコピー数、又はその発現を制御する要素のうちの1つ以上の改変も指し得る。
【0015】
特定の実施形態では、1つ以上の改変されたアミノ酸は、ランダム化又はランダムに決定される。他の実施形態では、1つ以上の改変されたアミノ酸は、AAVxではない第2のAAV株に由来する。
【0016】
「AAVx」中の「x」は、任意のAAV株(血清型、多様体、及びカプシドエンジニアリング変異体)を指し得る。特定の実施形態では、第1のAAV株のAAVxはAAV2である。かかる実施形態では、複数の抗体は、抗AAV2カプシド抗体を含み得る。他の実施形態では、第1のAAV株のAAVxはAAV9である。複数の抗体は、抗AAV9カプシド抗体を含み得る。
【0017】
変異体AAVカプシドタンパク質を同定する方法の特定の実施形態では、(3)1つ以上の抗体に結合するAAVxカプシド変異体を回収する工程は、1つ以上の抗体に結合するAAVxカプシド変異体を免疫沈降させることを含む。実施例は以下に提供される。
【0018】
本明細書に記載される方法の工程(4)である、ウイルス特異的バーコードを用いて印付けられており、かつ、1つ以上の抗体に結合するAAVxカプシド変異体の同定は、本明細書に記載されるように、又は、別の次世代DNAシーケンシング(NGS)又は別のハイスループットシーケンシングを用いて行うことができる。
【0019】
本開示はまた、上記の方法を用いて同定される変異体AAVカプシドの産生;かかる変異体AAVカプシドを含むAAVベクター;かかるAAVベクターと、薬学的に許容されるアジュバント、賦形剤、担体、又は安定剤と、を含む、医薬組成物;かかる変異体AAVカプシドをコードする核酸配列;並びに、かかる核酸配列を含むプラスミド及びウイルスゲノムなどの遺伝子構築物についても提供する。本明細書に記載のAAVベクターを使用して、例えば、遺伝子療法のために哺乳類細胞に遺伝子を導入してもよい。医薬組成物は、遺伝子療法に、ワクチンとして、又は他の治療目的に使用され得る。
【0020】
本開示はまた、治療的有効量の1つ以上の本明細書に記載のAAV由来カプシドと、医薬的に許容されるアジュバント、賦形剤、担体、又は安定剤と、を含む、遺伝子導入ベクター製品を提供する。AAV由来カプシドは、AAV2由来であってよい。
【0021】
本明細書で提供される遺伝子導入ベクター製品及びワクチンは、薬学的有効量の少なくとも1つの本明細書に記載のAAV由来カプシド又は新規AAVカプシドを含み、当該技術分野において既知の好適なアジュバント、賦形剤、担体及び/又は安定剤を利用して、1つ以上の遺伝子を標的細胞若しくは組織に導入する、又は、接種用として、抗体の産生を刺激することによって、疾患に対する免疫応答を示すことができる。本発明において有用な賦形剤、担体及び/又は安定剤は従来のものであり、緩衝剤、安定剤、希釈剤、防腐剤、及び可溶化剤を含んでもよい。一般に、担体又は賦形剤の性質は、使用される特定の投与方法に依存する。例えば、非経口製剤は、通常、溶剤として、水、生理食塩水、平衡塩溶液、水性デキストロース、グリセロールなどの薬学的かつ生理学的に許容可能な流体を含む、注射可能な流体を含む。固体組成物(例えば、粉末、丸剤、錠剤、又はカプセル剤)については、従来の非毒性固体担体として、例えば、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、又はステアリン酸マグネシウムを挙げることができる。生物学的に中性の担体に加えて、投与される医薬組成物は、少量の非毒性補助物質、例えば、湿潤剤又は乳化剤、防腐剤、及びpH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウム又はモノラウリン酸ソルビタンを含有することができる。
【0022】
ワクチンに含まれるアジュバントは、鉱油系アジュバント、好ましくはフロイントの完全又は不完全アジュバント、Montanide不完全Seppicアジュバント、好ましくはISA、水中油型エマルションアジュバント、好ましくはRibiアジュバント系、ムラミルジペプチドを含有するsyntaxアジュバント製剤、及びアルミニウム塩アジュバントからなる群から選択され得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、アジュバントは、鉱油系アジュバント、特にISA206(SEPPIC(Paris,France))又はISA51(SEPPIC(Paris,France))であるか、又は、CpG、イミダゾキノリン、MPL、MDP、MALP、フラゲリン、LPS、LTA、コレラ毒素、コレラ毒素誘導体、HSP60、HSP70、HSP90、サポニン、QS21、ISCOM、CFA、SAF、MF59、アダマンタン、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、及びサイトカインからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、本発明による組成物、ワクチン及び/又は遺伝子導入ベクターは、2つ以上の、好ましくは2つのアジュバントの組み合わせを含む。
【0024】
用語「治療的有効量」又は「薬学的有効量」は、そのような治療を必要とする対象(例えば、ヒトなどの哺乳動物)に投与されるとき、以下に定義する治療をもたらすのに十分な量を指す。治療的又は薬学的有効量は、治療される対象及び疾患状態、対象の体重及び年齢、疾患状態の重症度、投与方法などによって異なり、当業者によって容易に決定することができる。例えば、本明細書に記載されるAAV2由来カプシドの「治療的有効量」又は「薬学的有効量」は、対象(例えば、ヒト)において免疫応答を生じさせるのに十分な量である。いくつかの実施形態では、免疫応答は、対象における関連するカプシドに対してAAVカプシド中和抗体を増やすのに十分である。
【0025】
スキャニングペプチドの長さは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30などの任意の長さであってもよい。特定の実施形態では、スキャニングペプチドは、長さ6〜12個のアミノ酸である。特定の実施形態では、各AAVxカプシド変異体は、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも12個、又は6〜12個の改変されたアミノ酸を含む。
【0026】
本開示はまた、エピトープ1、エピトープ2、エピトープ3、エピトープ4、エピトープ5、エピトープ6、エピトープ7、エピトープ8、エピトープ9、又はエピトープ10のうちの少なくとも1つから選択されるエピトープのアミノ酸配列中に1つ以上の変異を含むAAVx由来カプシドも提供する。変異したエピトープアミノ酸配列はランダム化されてもよい。あるいは、変異したエピトープアミノ酸配列は、AAVx以外のAAV株に由来してもよい。特定の実施形態では、AAVxはAAV2である。
【0027】
特定の実施形態では、AAVx由来カプシドは、エピトープ1:439−DQYLYYLSRTNTPSGTTTQSRLQFSQAGASD−469(配列番号5);エピトープ2:650−NTPVPANPSTTFSAAKFASFITQ−672(配列番号6);エピトープ3:700−YTSNYNKSVNVDFTVDTNGVYSEPRPIGT−728(配列番号7);エピトープ4:243−STRTWALPTYNNHLYKQISSQSGASNDNH−271(配列番号9);エピトープ5:320−VKEVTQNDGTTTIANNLT−337(配列番号10);エピトープ6:498−SEYSWTGATKYHLNGRDSL−516(配列番号11);エピトープ7:523−MASHKDDEEKF−533(配列番号12);エピトープ8:534−FPQSGVLIFGKQGSEKTNVDIEKVMIT−560(配列番号13);エピトープ9:570−PVATEQYGSVSTNLQRGNRQAATADVN−596(配列番号8);又はエピトープ10:409−FTFSYTFEDVPFHS−422(配列番号52)のうち少なくとも1つから選択されるエピトープのアミノ酸配列中に、1つ以上の変異を含む。AAVxはAAV2であってもよい。本明細書で提供されるAAVx由来カプシドは、抗体結合又は中和を回避するように構成され得る。
【0028】
本開示はまた、このようなAAVx由来カプシドを含むAAVベクター、及び、治療的有効量のこのようなAAVベクターと、薬学的に許容されるアジュバント、賦形剤、担体、又は安定剤と、を含む医薬組成物も提供する。ベクター及び医薬組成物は、遺伝子療法に、又はワクチンとして使用され得る。
【0029】
本開示はまた、変異体エピトープ1アミノ酸配列を含むAAV株のAAVカプシドも提供し、この変異体エピトープ1アミノ酸配列は、GGTAATE(配列番号14)、TQEARPG(配列番号20)、TPTPQFS(配列番号22)、TLEPLIT(配列番号24)、PFETDLM(配列番号26)、LQEAHLT(配列番号28)、EEGGRPK(配列番号29)、EGDGGCL(配列番号31)、DGGAGSW(配列番号32)、AEGGGGG(配列番号34)、AGGGEMG(配列番号36)、GEAAAPA(配列番号37)、SVEGGAW(配列番号38)、又はSLASTLE(配列番号40)を含む。特定の実施形態では、AAV株はAAV2である。特定の他の実施形態では、AAV株は、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、及びAAV13からなる群から選択される。AAV株はまた、別の天然に存在するAAV多様体又はカプシドエンジニアリング変異体であってもよい。
【0030】
本開示はまた、変異体エピトープ2アミノ酸配列を含むAAV株のAAVカプシドも提供し、この変異体エピトープ2アミノ酸配列は、PARQL(配列番号15)、PRPVQ(配列番号19)、PSALM(配列番号21)、ADSLL(配列番号23)、PASVM(配列番号25)、PRPLM(配列番号27)、AQPVM(配列番号30)、SEKQL(配列番号33)、APAMC(配列番号35)、DRRLL(配列番号39)、又はTLPMK(配列番号41)を含む。特定の実施形態では、AAV株はAAV2である。特定の他の実施形態では、AAV株は、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、及びAAV13からなる群から選択される。AAV株はまた、別の天然に存在するAAV多様体又はカプシドエンジニアリング変異体であってもよい。
【0031】
本開示はまた、変異体エピトープ3アミノ酸配列を含むAAV株のAAVカプシドも提供し、この変異体エピトープ3アミノ酸配列は、SVDGN(配列番号16)を含む。特定の実施形態では、AAV株はAAV2である。特定の他の実施形態では、AAV株は、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、及びAAV13からなる群から選択される。AAV株はまた、別の天然に存在するAAV多様体又はカプシドエンジニアリング変異体であってもよい。
【0032】
特定の実施形態では、上記のAAVカプシドは、抗体結合又は中和を回避するように構成され得る。
【0033】
本開示はまた、上記のAAVカプシドのいずれかを含むAAVベクター;治療的有効量のこれらのAAVベクターの1つ以上と、薬学的に許容されるアジュバント、賦形剤、担体、又は安定剤と、を含む医薬組成物;かかるAAVカプシドをコードする核酸配列;並びに、かかる核酸配列を含むプラスミド及びウイルスゲノムなどの遺伝子構築物も提供する。本明細書に記載のAAVベクターを使用して、例えば、遺伝子療法のために哺乳類細胞に遺伝子を導入してもよい。医薬組成物は、遺伝子療法に、ワクチンとして、又は他の治療目的に使用され得る。
【0034】
IP−Seq(免疫沈降後のAAVバーコード−Seq)の手順は、プロテインA/G磁気ビーズを用いて最適化されている。この手順は、2015年4月24日出願の国際出願PCT/US2015/027536号に記載されている。完全なAAV2粒子(A20)に対するマウスモノクローナル抗体によって認識されるAAV2カプシド中のエピトープは、IP−Seqによってマッピングされている。AAV2ベクターの静脈内注射によって免疫化されたマウスで生じたマウスポリクローナル抗体によって認識されるAAV2カプシド中のエピトープがマッピングされている。抗AAV中和抗体−エスケープAAVカプシド変異体の作製に対する戦略は、新たなIP−Seqデータに基づいて開発されてきた。
【0035】
PK−Seq(AAVバーコード−Seqによる薬物動態プロファイリング)は、AAVカプシド中和抗体エピトープを、各AAV−HP又はAAV−DPのAAV−バーコード−Seqに基づく薬物動態学的プロファイリングによって同定できる手順である。この手順は、2015年4月24日出願の国際出願PCT/US2015/027536号に記載されている。簡潔に言えば、AAV−HP又はAAV−DPカプシド変異体のセットを含むDNA/RNAバーコーディングしたAAVライブラリ、及び基準対照AAV(例えば、HP又はDPスキャニング変異体と共にパッケージ化されたDNA/RNAバーコーディングされたdsAAV−U6−VBCLibライブラリ)を、37℃で1時間試験管中のヒト又は動物血清と共にインキュベートする。次に、AAVライブラリと各血清サンプルとの混合物をマウスに静脈内注入し、注射後1分、10分、30分、1時間、及び4時間の時点で血液サンプルを採取する。AAVウイルスゲノムDNAを各サンプルから抽出し、AAVバーコード−Seq分析(Adachi K et al.,Nat Commun 5、3075(2014))にかけてAAVライブラリに含まれる各AAV株の血液クリアランス速度を決定する。
【0036】
そのHP又はDPアミノ酸配列が抗AAV中和抗体エピトープを含むAAV−HP又はDP変異体は、抗AAV中和抗体を含むヒト又は動物血清とプレインキュベートされると、血液クリアランスが加速される。
【0037】
時間及び労力が大幅に低減されたハイスループット様式で、少数の対象(例えば、組織培養及び実験動物)のみを使用して、数百の異なるAAV株(すなわち、天然に存在する血清型及び実験的に改変された変異体)の表現型の特性評価を可能にするNGS系の方法である、AAVバーコード−Seqが、最近確立されている(Adachi K et al.,Nat Commun 5、3075(2014))。この方法を使用して、血液クリアランス速度、形質導入効率、組織指向性、及び抗AAV NtAbに対する反応性が挙げられるが、これらに限定されない、生物学的側面を評価することができる。図1A図1Eは、AAVバーコード−Seq法を概略的に示す。この方法の原理は以下の通りである。多くの異なるAAV株を含むライブラリストックが特定の種類のサンプル(例えば、細胞)に適用されるとき、AAV集団の構成は、AAV株のそれぞれがある状況下で正確に同一の生物学的特性を有する場合、元の入力ライブラリとサンプルから回収されたライブラリとの間で理論的には変化しない。しかしながら、一部の株が、他と比較して異なる生物学的特性(例えば、より速い血液クリアランス又はより効率的な細胞内部移行)を示す場合、入力ライブラリ(すなわち、ライブラリストック)と出力ライブラリ(すなわち、サンプルから回収されたライブラリ)との間の集団構成に変化が存在する。基本的な方法は、RNA−Seq(Wang Z et al.,Nat Rev Genet 10,57−63(2009))に用いられるものと同様の原理を使用する、入力ライブラリと出力ライブラリとの間の生物情報学的比較からなる。この方法は、異なるAAV株間の表現型差を株の統計学的特性の関数としての定量化を可能にすることができる。このような分析は、特有の短いDNAバーコードで各AAV株をタグ付けし、得られた集団にILLUMINAバーコードシーケンシングを適用することによって可能となる(Smith AM et al.,Genome Res 19,1836−1842(2009))。
【0038】
AAV DNA/RNAバーコード−Seqと呼ばれる、RNAバーコードを発現する一般的なバーコード−Seqシステムが考案されている(Adachi K et al.,Mol Ther 22(2014))。このシステムでは、各ウイルス粒子が、rep及びcap遺伝子を欠いているが、それ自体のカプシドに固有のRNAバーコードに転写されるDNAゲノムを含有する、AAVライブラリが作製される。このRNAバーコードシステムであるAAV DNA/RNAバーコード−Seqは、抗AAV NtAbエピトープマッピングに用いられている。
【0039】
このシステムでは、HPスキャニング変異体と共にパッケージ化されたDNA/RNAバーコードdsAAV−U6−VBCLibライブラリを作製することができる。かかるHP変異体は、抗AAVx NtAbエピトープマッピングのためのAAV2R585E−HPスキャニング変異体(x=抗AAV2 NtAbと交差反応しないAAV2以外の任意の株)及び抗AAV2 NtAbエピトープマッピングのためのAAV9−HPスキャニング変異体であり得る。AAV2R585E−HP変異体の構造を図1Cに示す。AAV9−HP変異体は、AAV9 HPがAAV2カプシド由来のもので置換されているものである。
【0040】
ヘキサペプチド(HP)の代わりに、ドデカペプチド(DP)を、抗AAVx NtAbエピトープマッピングのために同様に利用することもできる。図6及び図9に示すように、多くのAAV9−DP変異体の作製に成功している。
【0041】
出発血清型としてAAV9の代わりに、AAV5を、抗AAVx NtAbエピトープマッピングのために同様に利用することもできる。図7に示すように、多くのAAV5−DP変異体の作製に成功している。他の一般的な血清型よりもヒト集団において抗AAV5抗体の存在率が低いため、AAV5が、抗体エピトープマッピングのためのHP及びDPスキャニングのための有望な基盤になる。
【0042】
IP−Seqをベースとする方法は動物を必要とせず、多重ILLUMINAシーケンシングを使用して、複数のサンプルの抗体エピトープを一度にマッピングすることができる。IP−Seqをベースとする抗AAV抗体エピトープマッピングの手順は、以下の通りとしてよく、図4に簡単に説明する。まず、25μLの血清サンプル(抗AAV NtAbを含有)及び20μLのプロテインA/Gプラス−アガロース(SANTA CRUZ、sc−2003)を、回転装置上で、4℃で1時間、1.5mL容チューブ内で、PBS中100μLの総体積でインキュベートしてよい。PBSで洗浄した後、DNA/RNAバーコーディングしたdsAAV−U6−VBCLibライブラリ及び免疫グロブリンでコーティングされたアガロースビーズを、総体積100μLのPBS中で混合し、次いで、回転装置上、4℃で一晩インキュベートしてよい。翌日、標準的なIP手順を続け、上清及び免疫沈降物を回収し、Wako DNA抽出キット(例えば、FUJIFILM Wako Pure Chemical Corp.から入手可能なDNA Extractor(登録商標)シリーズのキット)を使用してウイルスゲノムDNAを抽出し、その後、サンプルをプロテイナーゼKで処理してよい。
【0043】
後続の手順は、Adachi K et al.,Nat Commun 5,3075(2014)に記載されているAAVバーコード−Seqに使用されるものと同様であってもよい。簡潔に述べると、左側及び右側のウイルスクローン特異的バーコード(図1A〜1E中のlt−VBC及びrt−VBC)を、IP上清及び沈殿物から回収されたウイルスゲノムDNAを使用してPCR増幅してよい。PCRプライマーは、サンプル特異的なDNAバーコードを用いて印付けすることができる。次いで、全てのPCR増幅産物を混合してプールし、このプールをILLUMINAシーケンシングに供してもよい。ILLUMINAシーケンシングデータを生物情報学的に分析し、各サンプルにおけるAAVライブラリの統計学的変化を検出することができる。この方法の原理は、他よりもサンプル免疫グロブリンに対する高い結合活性を有するウイルスクローンが、ILLUMINAバーコードシーケンシングによって、上清中で減少又は枯渇している一方で、沈殿物中に濃縮されているクローンとして検出できることである。そのようなクローンは、検査中の抗AAV抗体のエピトープを担持している可能性があり、抗体によって標的化されたエピトープは、統計学的変化を示す特定のAAVクローンのカプシドに組み込まれた異種ペプチドであり得る。1.5mL容チューブあたり、1×10、1×10、及び1×10vgが使用されてきた。一連のIP−Seq手順では、IP沈殿物から回収されたDNAのみから信頼性が高く再現可能な結果を得ることができる。
【0044】
本明細書では、IP−Seq手順を利用した。この手順では、野生型AAV9(陰性対照)、並びに野生型AAV2及びAAV2R585Eヘパリン結合欠損変異体(陽性対照)に加えて、合計153のAAV9−HP変異体を含む、DNAバーコーディングしたAAV9−ヘキサペプチド(HP)スキャニングカプシド変異体ライブラリを作製した。各AAV9−HP変異体は、野生型AAV2カプシドの異なる領域由来の6つの連続するアミノ酸の置換を含有しており、AAV2カプシド内の様々なHP領域は、ほぼ天然の四次構造の異種AAV9カプシド上に呈することができる。AAV2カプシドのHPスキャニングを2つのアミノ酸間隔で実施し、153の重複するHPを作成した。これらAAV9−HP変異体は、AAV2のカプシドとは異なるAAV2カプシドアミノ酸の大部分を包含する。AAV9−HP−584−00002及びAAV9−HP−586−00002の産生は乏しかった。これらの2つの変異体は、AAV2カプシド、585−RGNR−588のヘパリン結合部位にわたり、したがって、AAV9−HP変異体を使用する方法は、ヘパリン結合部位が抗体エピトープを構成するかどうかを判定することができない。この欠点は、以下に記載されるAAV9−DP変異体法を適用することによって克服することができる。
【0045】
IP−Seq手順は、(1)AAV9−HPライブラリ(DNAバーコーディングしたゲノムを含有するAAVウイルス粒子)の、市販の試薬又は動物血清中に存在するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体とのIP;(2)免疫沈降物からのDNAバーコーディングされたゲノムの抽出;及び(3)回収されたウイルスゲノムのILLUMINAバーコードシーケンシングと、後続の生物情報学的分析の工程を含み得る。最適化実験により、A/Gプロテインでコーティングされた磁気ビーズの組み合わせ及び2%BSAによるブロッキングは、ライブラリクローンの結合を制限することなく非特異的結合を低下させるための最適条件であることが明らかになった。IP−Seq分析では、各変異体の試験サンプルへの結合の有無を、PD値に基づいて決定した。特定のAAV−HP又はAAV−DP変異体のPDが、AAVカプシド変異体ライブラリに含まれるAAV株の全てのうち極端な外れ値として同定されるとき、このような外れた変異体は、抗AAVカプシド抗体に結合するAAV−HP又はAAV−DP変異体とみなされる。極端な外れ値とは、(1)同じ種から得られた抗AAVカプシド抗体−陰性血清サンプルから得られた全てのPD値の第3四分位値(Q3)から、四分位範囲(IQR)の2倍よりも高いPD値を示すもの、(すなわち、>Q3+2IQR);(2)>Q3+3IRQ;(3)>M(平均)+2SD(標準偏差)、及び(4)>M+3SD、のうち、いずれかとして定義される。外れ値に対する4つの基準のうち、Q3+3IQRは最も厳密なカットオフであり、M+2SDは最も厳密ではないカットオフである。5つの最も一般的なエピトープのうち4つは、どの基準を使用しても、AAV9−HP系IP−Seqによって容易に同定できる(図5)が、PK−Seqによって明確に同定され得るいくつかのエピトープは、Q3+3IRQを用いるとIP−Seqによって同定できなかった。例えば、Ep8が中和抗体エピトープであるとPK−Seqがはっきり示したにもかかわらず、Q3+3IRQカットオフを使用したとき、Ep8は、IP−Seqによってエピトープとして同定できなかった。M+2SDカットオフを使用したとき、Ep8を容易に同定することができた。したがって、全ての後続のIP−Seq実験にはM+2SDカットオフを選択した。
【0046】
M+2SDカットオフを選択したことにより、この選択がエピトープの同定力を増加できるにもかかわらず、Q3+3IRQカットオフを用いた同定と比較して、IP−Seq分析における偽陽性発見率(FDR)が増える恐れがある。偽陽性信号及び偽陰性信号の可能性の識別を助けるために、我々が行ったIP−Seq分析は、野生型基準対照(例えば、AAV9又はAAV5)に対する、各変異体が抗体でコーティングされたビーズに結合する能力を示す2つの追加データ(全IP−Seqデータ中のパネルB及びC(図5図6、及び図7)を常に伴う。
【0047】
これらの2つの追加のデータセットにおいて、抗AAV抗体−陰性ヒト血清サンプル(図5図6、及び図7中のパネルB)、及びエピトープシグナルに対して陽性のサンプル(図5図6、及び図7中のパネルC)を用いて、結合能を決定した。抗体−陰性サンプルにおいて〜1の相対結合効率を示すエピトープ(図5図6、及び図7中のパネルB)、及び抗体エピトープ陽性サンプルにおいて1をはるかに超えるもの(図5図6、及び図7中のパネルC)は、最も可能性の高い真のエピトープである。一方、偽陽性は、1に近い相対結合効率を示すものの中に含まれ得る。したがって、Ep4の上流のN末端領域で同定された陽性シグナルの一部又は多くは、真のエピトープを示していない場合があり、異なるAAV9変異体ライブラリを使用した2つの別個のIP−Seq実験において再現されなかった(図5及び図6)。
【0048】
AAV9−HP変異体ライブラリ及びIP−Seq手順を使用して、完全なAAV2粒子に対するA20マウスモノクローナル抗体の既知のエピトープに含まれるアミノ酸が同定され、この方法の原理が実証された。続いて、同じ方法を使用して、ポリクローナル抗AAV2カプシド抗体のエピトープをAAV2免疫化マウスの血清中で同定した。同定されたエピトープには、複数の血清サンプルにおいて共通である、261−SSQSGA−266(配列番号3)(A20のエピトープと同じ)及び451−PSGTTT−456(配列番号4)を含む。
【0049】
ヒト血清の初期ELISAスクリーニングは、多くの抗AAV2抗体陽性ヒト血清サンプルも抗AAV9抗体に対して陽性であることが示されている。このことは、いくつかの状況において、抗AAV2抗体エピトープの有効なマッピングが、サンプルがAAV9に結合しない場合にのみ通常は可能であるため、IP−Seq手順をヒトサンプルに直接適用することを困難にし得る。この問題に対処するために、ヒト血清を過剰量のAAV9粒子と共にインキュベートし、その後その血清をIP−Seqに供する抗AAV9抗体中和法が開発され、ELISAにより確認されている(図12)。したがって、ヒト血清をスクリーニングして、IP−Seqと、ポリクローナルヒト抗体エピトープの同定に好適な血清サンプルを見出すことができる。IP−Seq手順は、立体構造抗AAVカプシド抗体エピトープのマッピング、及び将来的な抗AAV中和抗体−エスケープ変異体の開発のための有効なアプローチであり得る。
【0050】
20μμLの、抗AAV2及び抗AAV9カプシド抗体の両方を有するヒト血清サンプル中に存在する抗AAV9カプシド抗体活性を中和するのに十分なAAV9ウイルス粒子の量を決定するため、4つの異なる量のAAV9ベクター粒子、0vg、1×10vg、1×1010vg、又は1×1011vgと共に37℃で1時間プレインキュベートしたヒト血清サンプル又はIVIGを用いて、抗AAV2カプシド抗体ELISA及び抗AAV9カプシドELISAを実施した。サンプルとAAV9とのプレインキュベートは、ELISAによって測定される抗AAV2抗体力価に顕著な影響を及ぼさなかったが、抗AAV9抗体レベルは、プレインキュベートに使用したAAV9ベクター粒子の量に依存して減少した。1×1011vgのAAV9とのプレインキュベートが、ヒト血清中に存在する抗AAV9カプシド抗体を中和するのに十分であることが判明した。この結果を受けて、1×1011vgのAAV9を使用して抗AAV9カプシド抗体活性を中和し、その後in vitro及びin vivo試験で使用した。
【0051】
同じプレインキュベート法を確立し、AAV5−DPライブラリを用いるIP−Seqの使用に成功した。
【0052】
AAV9−HP変異体ライブラリに加えて、AAV9−HP+DPライブラリも作製し、エピトープマッピングに使用した。DPスキャニング法は、AAV2カプシド由来の585−RGNR−588ヘパリン結合モチーフを有するAAV9変異体、すなわち、AAV9−DP−582−00002(H584L/S586R/A587G/Q588N/A589R/Q592A)、AAV9−DP−584−00002(H584L/S586R/A587G/Q588N/A589R/Q592A/G594A/W595D)及びAAV9−DP−586−00002(S586R/A587G/Q588N/A589R/Q592A/G594A/W595D/Q597N)の産生を可能にする。この試験に使用されるAAV9−HP+DPライブラリは、33のAAV9−HP変異体と19のAAV9−DP変異体を含んでいた。AAV9−DP−578−00002及びAAV9−DP−580−00002の産生が乏しかったため、これら2つの変異体からデータを収集しなかった。
【0053】
AAV9−HP及びAAV9−DP変異体ライブラリに加えて、図7で使用したAAV5−DPライブラリを構築した。合計68のAAV5−DP変異体カプシドを構築した(表4)。これらの中でも、18の変異体は産生されないか、されても低力価であったため、AAV5−DPライブラリから除外した。
【0054】
ヒト血清中に存在する抗AAV2カプシドポリクローナル抗体の立体構造エピトープを構成し得る、AAV2のカプシドタンパク質中の短いアミノ酸配列が同定されている(IP−Seqを使用)。ウイルス中和抗体NtAbエピトープマッピングは、感染症の予防及び治療のための新しいワクチン及び医薬品の開発において役割を果たすことができる。エピトープマッピングはまた、宿主免疫系を回避できる新規遺伝子導入ベクターの開発においても役割を果たすことができる。多くの個体で共通の抗AAV2カプシドポリクローナル抗体エピトープを同定することにより、宿主免疫応答(有効なin vivo遺伝子療法に対する障害)を回避する新規ベクターの設計に役立ち得る。
【0055】
ペプチドスキャニングなどの従来の方法を使用した以前の研究では、限られた量のヒト抗AAVカプシドエピトープに関する情報しか得られなかった。しかしながら、IP−Seqを使用して、AAV2に感染している多くの個体で共通の5つのヒト抗AAV2カプシドポリクローナル抗体立体構造エピトープ(Ep1、Ep2、Ep3、Ep4及びEp5)を同定した。これらの共通エピトープに加えて、Ep6、Ep7、Ep8、Ep9、及びEp10も同定された。Ep6、Ep7、Ep8、Ep9、及びEp10は、Ep1、Ep2、Ep3、Ep4、及びEp5よりも共通性は低いが、M+2SDカットオフのIP−Seq又はPK−Seqのアッセイのうち少なくともいずれかにおいて、抗AAV2カプシド抗体に対して陽性である34例の個体のうちの少なくとも5例に見出すことができた(図5図6図7図8、及び図9参照)。Ep1、Ep6、及びEp10内には、IP−Seq及びPK−Seqのエピトープヒートマップ(図5及び図8)においてギャップが存在するが、これらは、隣接エピトープ含有スキャニングペプチドがギャップ上に重なるため、それらを単一のエピトープとみなす。同定されたエピトープのN末端側に隣接する更なる5アミノ酸、及び同定されたエピトープのC末端側に隣接する更なる5アミノ酸を、エピトープの一部として特許請求することに留意されたい。DP
【化1】
(Ep3)を有するAAV5−DP−656−00002が、DPのN末端において基盤となるカプシドから1つのアミノ酸の違いのみを有することを見出した
【化2】
。また、HP
【化3】
(Ep7)を有するAAV9−HP−524−00002が、HPのC末端において基盤となるカプシドから1つのアミノ酸の違いのみを有することも見出した
【化4】
。抗原と抗体の接点は、複数のアミノ酸の接触を必要とするため、Ep3及びEp7は、A及びDだけでなく、A及びD残基に隣接するアミノ酸を、それぞれ三次又は四次構造において含有すべきである。したがって、特定されたエピトープの潜在的部分として、スキャニングペプチドの両側に隣接する5アミノ酸を含むことは妥当である。
【0056】
明示的には、Ep1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10として示されるアミノ酸配列はアミノ酸残基であり、これらは、抗体結合エピトープの形成に重要であるが、抗体結合部位の構成に必ずしも十分ではない。より明示的には、アミノ酸付加、欠失又は置換によって改変されるとき、Ep1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10中のアミノ酸配列は、抗AAVカプシド抗体に対するウイルスカプシドの結合能力の喪失をもたらす可能性がある。
【0057】
上述したように、以下の5つのエピトープ、Ep1、Ep2、Ep3、Ep4及びEp5を同定した。これらは、AAV2に感染している多くの個体で共通の、共通ヒト抗AAVカプシドポリクローナル抗体立体構造エピトープである。これらのエピトープのアミノ酸配列は以下の通りである。
【0058】
【化5】
下線を有する太字で示されるアミノ酸配列は、IP−Seq及びPK−Seqのいずれか又は両方によって同定されたエピトープであり、エピトープのN末端及びC末端のそれぞれに付加された追加の5アミノ酸は、上で説明したエピトープを含有し得るアミノ酸であることに留意されたい。
【0059】
抗AAV2カプシド抗体を含有する34のヒト血清サンプルのうち少なくとも5つで見出されたその他のヒト抗AAVカプシドポリクローナル抗体立体構造エピトープは、以下を含む。
【0060】
【化6】
【0061】
AAV9−HP−582−00002及びAAV9−HP−588−00002を用いてその配列が決定されたEp9は、実験であまり共通性がないことが見出されたが、この研究で使用した方法では、エピトープであるEp9の実際の頻度の判定において結論がでなかった。これは、AAV9−HP−584−00002及びAAV9−HP−586−00002変異体の産生が乏しかったため、エピトープに関する情報を提供することができなかったからである。
【0062】
とはいえ、この問題は、AAV9−DP変異体を使用することによって部分的に解決されている(図6)。
【0063】
これらのアミノ酸領域(Ep1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10)は、ヒト抗AAV2カプシドポリクローナル抗体によって認識され得るエピトープである。これらの領域内のアミノ酸配列を最初にランダム化し、続いて、定向進化によって結合しなくなった抗体を選択する方法を使用することにより、抗体中和を回避できる新たなAAV2由来カプシドを作製することが可能であり得る。
【0064】
新たな抗体回避性AAV2由来変異体カプシドを作製するための上記の定向進化法の原理を実証するために、ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞において、AAV2Ep123カプシドライブラリを使用した定向進化実験を実施した(図10)。AAV2Ep123カプシド変異体ライブラリは、AAV2カプシドのEp1、Ep2、又はEp3エピトープ領域における7マー、5マー、及び5マーのペプチド配列がランダム化されている、多種多様な変異体を含んでいた。
【0065】
AAV2Ep123カプシド変異体ライブラリを以下のように構築した。AAV2Ep1カプシド変異体ライブラリ、AAV2Ep2カプシド変異体ライブラリ、及びAAV2Ep3カプシド変異体ライブラリを、HEK293細胞において独立して作製した。生成されたウイルス粒子から抽出されたウイルスゲノムDNAのEp1、Ep2、及びEp3コード領域を、まず別々にPCR増幅し、Golden Gateアセンブリによってランダムに結合した。得られた組換えDNAを使用して、HEK293細胞でAAV2Ep123カプシド変異体ライブラリを作製した(図10)。
【0066】
AAV2Ep123カプシド変異体ライブラリを、まず、AAV2を含む様々なAAV血清型に対する中和抗体を含有するIVIGと共にインキュベートした。次いで、IVIG処理したAAV2Ep123カプシド変異体ライブラリを、アデノウイルス5型の存在下でHEK293細胞に適用した。HEK293細胞中の増幅AAV変異体ウイルス粒子を回収し、HEK293細胞での次のセレクションに使用した。合計4回のセレクションを行い、抗AAVカプシド抗体による中和に対して耐性を有するAAV2Ep123変異体を得た。
【0067】
この定向進化実験で、AAV2Ep123mt1が最も豊富である少なくとも16のAAV2Ep123変異体を同定した(表4)。この変異体は、Ep3エピトープ位置において非天然アミノ酸配列を有する唯一の変異体であった。全ての他の変異体、AAV2Ep1mt2〜mt16は、Ep3エピトープ領域において野生型配列を有しており、Ep3領域が、Ep1又はEp2領域ほどアミノ酸変化に対して寛容ではないことを示している。AAV2Ep123mt1は、Ep1のGGTAATE(配列番号14)、Ep2のPARQL(配列番号15)、及びEp3のSVDGN(配列番号16)を有している。
【0068】
抗体媒介性中和に対するAAV2Ep123mtの回避能を、2回の個別のin vitro細胞培養実験によって評価した。1×10ベクターゲノム(vg)のAAVベクター粒子(AAV2−CMV−luc又はAAV2Ep123mt1−CMV−luc)を、10μLの様々な濃度(1、3及び10mg/mL)のIVIGと37℃で1時間反応させ、ルミノメーターを使用してルシフェラーゼ活性を測定することによって、残りのウイルス感染性を評価した。AAV2−CMV−luc及びAAV2Ep123mt1−CMV−lucは、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)の前初期エンハンサー−プロモーターの制御下で、蛍ルシフェラーゼを発現するAAV2ベクターである。結果は、AAV2Ep123mtが、3及び10mg/mLのIVIGによる中和に対して、それぞれ約7倍及び約11倍耐性であることを示した(図11)。
【0069】
上記の定向進化法に加えて、この情報は、他の種類のAAVカプシドエンジニアリングに利用することができる。IP−Seq及びPK−Seq法は、ヒト抗AAVカプシドポリクローナル抗体立体構造エピトープの同定のために、他のAAV血清型又は変異体に適用することができる。
【0070】
上述したように、バーコーディングしたヘキサペプチド(HP)又はドデカペプチド(DP)スキャニングライブラリをハイスループットで用いたウイルス中和抗体(NtAb)エピトープマッピングの原理実証は、AAVについて確立された。Clustal Omegaを使用したAAV1、2、3B、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13のVPタンパク質の配列アライメントによって、非AAV2血清型由来のAAVカプシドの抗AAVカプシド抗体エピトープである可能性が明らかとなる(図13)。この情報は、様々な血清型由来の新規AAVカプシド、及びNtAbに対する耐性をより有するカプシド変異体の開発に利用することができる。
【実施例】
【0071】
以下の実施例は、開示される方法を例示するものである。本開示の見地から、当業者は、開示した方法のこれらの実施例の変形、及び他の実施例が、過度な実験をすることなく可能であることを理解するであろう。
【0072】
実施例1
553人分のヒト血清サンプルをOregon Health&Science University(OHSU)での血液検査によって採取し、ELISAによる抗AAV2カプシド抗体についてスクリーニングした。ELISAによる高抗体価を示した最大34人分のヒト血清サンプルを、IP−Seqに供し、抗AAV2カプシドポリクローナル抗体立体構造エピトープを決定した。
【0073】
実施例2
AAV9−HPスキャニング変異体と共にパッケージ化したDNA/RNAバーコーディングしたdsAAV−U6−VBCLibライブラリを作製した(表1参照)。dsAAV9−HP−U6−VBCLibと呼ばれるこのライブラリは、153のAAV9−HP変異体(1つの変異体につき2つのクローン)、AAV2(2つのクローン)、並びに2種類の基準対照、AAV2R585E及びAAV9(それぞれ15のクローン)を含有していた。PIERCE(商標)プロテインA/G磁気ビーズを、ヒト血清サンプルとインキュベートし、抗AAV2カプシド抗体でビーズをコーティングトした。次いで、抗AAV2抗体でコーティングされたビーズを、dsAAV9−HP−U6−VBCLibライブラリと共にインキュベートした。標準的な免疫沈降手順により、ビーズに結合したAAVクローンを沈殿させた。沈殿したウイルス粒子からウイルスDNAを抽出し、AAVバーコード−Seq分析(Adachi,et al.Nature Communications 5:3075,2014.)に供した。全ての値を、AAV9基準対照から得られた値で補正した。
【0074】
実施例3
AAV9−HP及びAAV9−DPスキャニング変異体と共にパッケージ化した別のDNA/RNAバーコーディングしたdsAAV−U6−VBCLibライブラリを作製した(表2参照)。dsAAV9−HP+DP−U6−VBCLibと呼ばれるこのライブラリは、33のAAV9−HP変異体(1つの変異体につき2つのクローン)、19のAAV9−DP変異体(1つの変異体につき2つのクローン)、AAV2(5つのクローン)、及び1つの基準対照、AAV9(15のクローン)を含有していた。このライブラリを用いたIP−Seq分析を、上記と同様に行った。
【0075】
実施例4
上述のdsAAV9−HP−U6−VBCLib及びdsAAV9−HP+DP−U6−VBCLibライブラリによるIP−Seq法は、抗AAV2カプシド抗体エピトープを同定することができる。しかしながら、IP−Seqにより同定されたエピトープに結合する抗体がAAV感染の中和能を有するか否かについて判定することはできない。この欠点に対処するために、dsAAV9−HP−U6−VBCLib又はdsAAV9−HP+DP−U6−VBCLibライブラリを使用したin vivoPK−Seq法が開発された。このin vivo法の概念は、2015年4月24日出願の国際出願PCT/US2015/027536号に記載されている。50μLの抗AAVカプシド抗体含有サンプル(3種類の抗AAV2カプシド抗体陽性ヒト血清サンプルと10mg/mLのIVIG)又は抗体陰性対照サンプル(3種類の抗AAV2抗体陰性ヒト血清サンプルとPBS)を、1×1011vgのAAV9−CMV−lacZ(20μL中)と共に37℃で1時間インキュベートし、抗AAV9カプシド抗体活性を中和して、更に1×10vgのdsAAV9−HP−U6−VBCLib又はdsAAV9−HP+DP−U6−VBCLib(20μL中)と共にもう1時間インキュベートした。ex vivoインキュベーションの完了後、PBS/5%ソルビトールを使用して、サンプル量を300μLにした。上記300μLの混合物を、8週齢のC57BL/6雄性マウスに尾静脈からボーラスで注射した。血液サンプルを、注射1分、10分、30分、1時間、及び4時間後に採取し、AAVバーコード−Seq分析に供した。抗AAV2カプシド抗体エピトープを有するAAV9−HP及びAAV9−DP変異体は、抗AAV2カプシド抗体を含有しないサンプルと共にプレインキュベートした場合よりも、抗AAV2カプシド抗体を含有するサンプルと共にプレインキュベートした場合の方が、極めて速く血流から消失した(図8及び図9)。サンプル当たり2例のマウスからデータを収集した。PK−Seq分析により、3つのヒトサンプル(ID365、ID402及びID481)で同定されたEp5はエピトープを中和しないが、Ep1、Ep2、Ep3、Ep4、Ep8、及びEp9はエピトープを中和することが明らかになった。更に、PK−Seqは、IP−Seqが同定できなかったエピトープ(例えば、サンプルID365及びID481中のEp4及びEp8)を同定することができた。したがって、PK−SeqはIP−Seqを補完し、抗体エピトープのより感受性の高い検出をもたらし、エピトープを中和する抗体と中和ない抗体を区別する。しかしながら、6つのAAV9−HP及び3つのAAV9−DP変異体は、マウスにおいて抗AAV2抗体が存在していなくても、静脈内注入後に非常に急速に血液循環から消失した。これにより、これら9つの変異体のエピトープを評価することが困難になる。
【0076】
実施例5
抗AAV9抗体も有する抗AAV2カプシド抗体陽性ヒト血清サンプルを、AAV9ウイルス粒子とのプレインキュベートにより予め除去し、サンプルから抗AAV9ポリクローナル抗体を除去した(図12)。図5に示すIP−Seq分析では、4つの異なる基準を使用して、陽性(すなわち、ビーズに結合するAAV9−HP又はAAV9−DP変異体)を定義した。図5の一番上と上から2番目のパネルでは、抗体陰性サンプルから得られた、上位四分位値を超えて四分位範囲(IQR)の2倍及び3倍超(>Q3+2IQR及び>Q3+3IQR)を示す値を、陽性(すなわち、ビーズに結合するAAV9−HP又はAAV9−DP変異体)とみなし、それぞれ黒色ボックスとして示す。図5の一番下と下から2番目のパネルでは、抗体陰性サンプルから得られた、平均値を超えて標準偏差の2倍及び3倍超(>M+2SD及び>M+3SD)を示す値を陽性とみなし、それぞれ黒色ボックスとして示す。多くのサンプルで共通する5つの共通エピトープ(Ep1、Ep2、Ep3、Ep4及びEp5)が見出され、共通性は低いが、少なくとも5つのサンプルで共通している5つのエピトープ(Ep6、Ep7、Ep8、Ep9、及びEp10)も見出された。図5の上から6列は、抗AAV2カプシド抗体ELISAによって評価した抗AAV2抗体を持たないヒト血清を示す。2つのAAV9−HP変異体、514−00002及び516−00002、並びに野生型AAV2は、抗AAV2カプシド抗体の非存在下で非特異的にIPビーズに結合でき、抗AAV2カプシド抗体陰性ヒト血清サンプルによってバックグラウンドシグナルが高くなることが見出された(図5B)。高いバックグラウンドにより、真の陽性の検出力が犠牲になり得ることを考慮すべきである。AAV9に対する各AAV株(AAV9−HP変異体及びAAV2陽性対照)の結合効率は、このデータが決定的な結論を提供しないものの、IP−Seqデータを解釈するのに有用な情報を提供する(図5C)。つまり、高値(すなわち、1.0より有意に高い)は、真のエピトープであることを強く示すが、低値(すなわち、1.0に近い)の陽性は、必ずしも真のエピトープである可能性を排除するものではない。
【0077】
実施例6
AAV9−HP変異体を使用してIP−Seqにより同定できた共通エピトープはまた、AAV9−DP変異体を用いてIP−Seqによっても同定された。AAV9−DPを用いるIP−Seqが、AAV9−HP変異体を用いるIP−Seqに対していくつかの利点を有することが見出された。第1に、AAV2カプシド、585−RGNR−588のヘパリン結合部位を含有する4つのAAV9カプシド変異体のうち3つは、後続のIP−Seq手順に十分なレベルで産生され得る。すなわち、585−RGNR−588を含有するAAV9−DP580−00002、AAV9−DP582−00002、AAV9−DP584−00002、及びAAV9−DP586−00002のうち、AAV9−DP580−00002のみの産生が乏しかった。第2に、AAV9−DP変異体を使用するIP−Seqは、真のエピトープを同定するためのより良好な能力を有する。例えば、エピトープとしてEp8を同定する際に、より高い感度が証明された。ヒトサンプルID402及びID481の明らかな中和抗体エピトープとして、Ep8がPK−Seqによって同定され(図8及び図9)。AAV9−DPを用いたIP−Seqはまた、Ep8がこれらのサンプルのエピトープであることを明らかにできた(図6)一方で、AAV9−HP変異体を用いたIP−SeqはエピトープとしてEp8を同定できなかった(図5)。
【0078】
実施例7
AAV9−HP又はAAV9−DP変異体を使用してIP−Seqにより同定できた共通エピトープはまた、AAV5−DP変異体を用いてIP−Seqによっても同定された(図7)。AAV5−DP法が、AAV9−HP及びAAV9−DP法により同定できなかったエピトープを同定できたことで、AAV5−DP変異体法がAAV9−HP及びAAV9−DP変異体法を補完することが見出された。例えば、AAV5−DP−235−00002、AAV5−DP−237−00002、AAV5−DP−239−00002、AAV5−DP−241−00002、AAV5−DP−243−00002、AAV5−DP−245−00002、及びAAV5−DP−247−00002(図14A)は、抗AAV2抗体陽性ヒト血清サンプルでのIP−Seqによって外れ値として沈殿されたため、ALPTYNNHLYKQISSQSGAがEp4を含むアミノ酸であることの同定につながった。しかしながら、Ep4の左半分であるALPTYNNHLYK配列は、AAV9−HP変異体を用いるIP−SeqによってEp4の一部として同定することができなかった(図14B)。
【0079】
実施例8
抗AAV2中和抗体エスケープAAV2変異体を同定することを目的とした、一連のAAV2Ep123mt変異体を産生した手順によって例示されるように、エピトープ情報を利用して、既存の免疫を回避できる任意のAAV株由来の新規変異体(共通の血清型、様々な天然多様体、及びカプシドエンジニアリング変異体)を開発できる。手順の例は、以下の通りである:(1)各共通中和エピトープにおいてアミノ酸をランダム化する、又は合理的に改変する;(2)適切な抗AAV中和抗体の存在下又は非存在下で適切な方法を用いて、アミノ酸配列が改変された単一エピトープ又は2つ以上のアミノ酸配列が改変されたエピトープの組み合わせを含むAAVカプシド変異体の定向進化又はスクリーニングを行う;(3)適切な抗AAV中和抗体の存在下又は非存在下で適切な方法を用いて、手順(2)によって選択された配列が改変されたエピトープの組み合わせを含むAAVカプシド変異体の更なる定向進化又はスクリーニングを行う;及び(4)適切な方法を用いて、それぞれの選択されたAAVカプシド変異体の、抗AAV抗体媒介性中和の回避能と、培養細胞中の標的細胞又は動物中の標的器官の形質導入能を評価する。
【0080】
【表1】
以下の手順を用いて、ヘキサペプチドスキャニングAAV9変異体を命名する。左3桁は、AAV9 VP1に基づくヘキサペプチドの最初のアミノ酸位置を示す。右5桁は、各ヘキサペプチドが由来するAAV血清型、10000はAAV1、06000はAAV6、00700はAAV7、00080はAAV8、00009はAAV9、00002はAAV2を示す。ヘキサペプチドのアミノ酸配列が複数の血清型で共通しているとき、右5桁は2つ以上の正の整数を有する。AAV9−HP−584−00002及びAAV9−HP−586−00002の産生が乏しいので、これら2つの変異体からデータは収集されない。
【0081】
【表2】
ヘキサペプチドスキャニングAAV9変異体と同じ手順を使用して、ドデカペプチドスキャニングAAV9変異体を命名する。AAV9−DP−578−00002及びAAV9−DP−580−00002の産生が乏しいので、これら2つの変異体からデータは収集されない。
【0082】
【表3】
ヘキサペプチドスキャニングAAV9変異体と同じ手順を使用して、ドデカペプチドスキャニングAAV5変異体を命名する。これらの68のカプシドを使用して、AAVベクター産生を作成し、試験した。AAV5−DPライブラリに含まれなかった18の変異体は、後続するライブラリ作製に十分な力価を生成しないものである。
【0083】
【表4】
AAV2カプシドVP1タンパク質のアミノ酸位置は、エピトープ1、2及び3の、それぞれ455〜461、663〜667及び713〜717である。
【0084】
本開示で引用される全ての参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。
【0085】
本発明の根本的な原理から逸脱することなく、上述の実施形態の詳細に多くの変更を加えてもよいことが、当業者に明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲のみによって決定されるべきである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図13-3】
図13-4】
図14
【配列表】
2021523702000001.app
【国際調査報告】