(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-523947(P2021-523947A)
(43)【公表日】2021年9月9日
(54)【発明の名称】腫瘍を予防又は治療する薬物の製造におけるバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラの用途
(51)【国際特許分類】
A61K 35/74 20150101AFI20210813BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20210813BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20210813BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20210813BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20210813BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A23L33/135
C12N1/20 A
A61P35/00
A61P37/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2021-514459(P2021-514459)
(86)(22)【出願日】2018年6月1日
(85)【翻訳文提出日】2021年1月18日
(86)【国際出願番号】CN2018089561
(87)【国際公開番号】WO2019218401
(87)【国際公開日】20191121
(31)【優先権主張番号】201810479187.6
(32)【優先日】2018年5月18日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520452301
【氏名又は名称】レヴァイッサント (シェンジェン) バイオサイエンシズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】REVAISSANT (SHENZHEN) BIOSCIENCES CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽 谷城
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD85
4B018ME02
4B018ME14
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BA30
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4C087BC53
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4C087MA35
4C087MA37
4C087MA44
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
腫瘍を予防及び/又は治療する薬物の製造におけるバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラの用途を提供し、当該薬物は腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進する。さらに、腫瘍を予防及び/又は治療する薬物組成物、食品、ヘルスケア製品、食品添加物における用途を提供し、当該薬物組成物、食品、ヘルスケア製品、食品添加物はバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することを特徴とする腫瘍を予防及び/又は治療する薬物の製造におけるバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)又はアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の用途。
【請求項2】
前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のいずれか1種であることを特徴とする請求項1に記載の用途。
【請求項3】
前記腫瘍は固形腫瘍であることを特徴とする請求項1又は2に記載の用途。
【請求項4】
前記腫瘍は乳がん、又は肝臓、肺、皮膚、口腔、食道、胃、腸、腎臓、前立腺、脳、神経系、膀胱、リンパ、膵臓に関する腫瘍のうちのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の用途。
【請求項5】
薬学的に有効な用量のバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラと、薬学的に許容される担体とを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することを特徴とする腫瘍を予防及び/又は治療する薬物組成物。
【請求項6】
前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のいずれか1種であることを特徴とする請求項5に記載の薬物組成物。
【請求項7】
バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することを特徴とする腫瘍を予防及び/又は治療する食品。
【請求項8】
前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のいずれか1種であることを特徴とする請求項7に記載の食品。
【請求項9】
バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することを特徴とする腫瘍を予防及び/又は治療する食品添加物。
【請求項10】
前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のいずれか1種であることを特徴とする請求項9に記載の食品添加物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬品の分野に関し、具体的には、腫瘍を予防及び/又は治療する薬物の製造におけるバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは人類の死亡の最大の要因になっている。世界保健機関(WHO)が発表した「世界がんレポート2014」では、これから全世界のがん患者数が急増し、2012年の1400万人から、2025年の1900万人になり、そして2035年に2400万人に達すると予測している。全世界で毎年の新規がん患者は約700万人で、腫瘍患者の死亡者数は約500万であり、これは平均で6秒に1人が腫瘍のため死亡するという計算になる。現在、一般的に認められる治療法は化学療法であり、主な目的は体内のがん細胞を死滅させることである。しかし、化学療法薬はがん細胞を死滅させると同時に、正常なヒト細胞にダメージを与える。乳がんは悪性腫瘍で最も一般的な1つであり、多くの女性の命や健康を奪い、生活の質を低下させる一般的な疾患である。乳がんの治療方法は外科的治療、化学療法が主であり、遺伝子診断と個別治療の発展により、乳がん患者の予後が改善されるが、様々な理由により、ほとんどの患者には満足のいく効果が得られない。そのため、抗乳がん薬の研究が大きな意味を有することである。米国臨床腫瘍学会(ASCO)が2016年2月4日に発表した「がん対策の進歩に関する年次報告書2016」では、免疫療法は2015年のがん研究における最大の進歩としている。ASCO会長のJulie M.Vose医師が「免疫療法はがん分野で最も革新的なブレークスルーであり、この新しい療法が患者の生活の質を改善させるだけでなく、将来の研究の方向性を示している」と述べている。現在、腫瘍免疫療法は手術、放射線療法、化学療法に続く第4のがん治療法になり、安全性が高く、安価で、効率的で副作用の少ないがん免疫療法薬を開発することは研究のホットスポットになる。
【0003】
現在、臨床効果が良好な腫瘍免疫療法は主に2つがあり、一つは養子免疫細胞療法であり、患者体内の免疫細胞を取得し、腫瘍抗原標的の性質に基づいてインビトロで傷害能力を持つ細胞を誘導し、これを体内に戻して抗がん作用を発揮させることである。例えば、キメラ抗原T細胞(CAR−T)等である。もう一つは抗体標的治療であり、標的治療薬が腫瘍の増殖と転移に必要な特定の分子標的と互いに作用してがん細胞を阻害することである。現在では、CTLA4、PD−1、PD−L1等のT細胞疲弊性分子阻害抗体薬が存在する。このような抗体阻害による腫瘍治療が一部の患者や特定の腫瘍にある程度の臨床効果が得られるものの、かなりの患者において阻害抗体薬は依然として無効であり又は効果が低く、しかも腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞(CD8+T細胞と略す)の浸潤又は蓄積の不足は、免疫療法が振るわない主な要因の1つである。CD8+T細胞は直接的に腫瘍細胞を傷害する機能を有するだけでなく腫瘍患者のCAR−TやT細胞疲弊性分子阻害抗体等の免疫治療手段に対する応答を明らかに高めて免疫療法の効果を向上できることから、腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤又は蓄積の促進は、腫瘍免疫療法で早急に解決すべき技術的課題になっている。
【0004】
がんの治療における細菌の使用は19世紀後半に遡り、その前にもがんの治療における細菌の効果が報告された。プロバイオティクスは宿主に有益な活性微生物であり、ヒトや動物の体内に摂取されると腸粘膜に定着し、腸内にコロニーを形成して有害な微生物の付着を防ぐことができ、腸内の天然微生物叢を保持して、生物体における有益な微生物製剤の正常な成長を促進することで、ヒトや動物の健康を保つ。現在、プロバイオティクスに目を向ける研究者が多くなり、その優れた治療効果が認識されるようになる。最近行われてきたがんの細菌療法の多くは非病原性株を起用している。ビフィズス菌は非病原性の偏性嫌気性菌であり、標的腫瘍に対する使用や治療担体としての使用に成功しているが、腫瘍溶解性の有無が判明しなかった。近年、一部の研究では、腸がんに対して大腸菌が、肺がんに対して肺炎桿菌が、それぞれ「部位特異的免疫調節剤」として使用され、腫瘍の増殖に明らかな阻害効果が得られる。しかし、腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤又は蓄積の促進に関してはプロバイオティクス又は腸内細菌の使用が報告されなかった。
【0005】
バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)はグラム陰性、桿状で、両端が鈍円で濃く染色された、莢膜があり芽胞を持たない不動性の偏性嫌気性細菌であり、エンテロトキシン生産型及びエンテロトキシン非生産型に分類される。バクテロイデス・フラジリスはヒトや動物の腸内常在細菌叢の一部として、主に結腸に存在する。また、気道、消化管、泌尿生殖器にも定着し増殖する。多くの研究からは、バクテロイデス・フラジリスが急性・慢性の腸炎や腸内菌共生バランス失調、上気道感染症、神経症等の予防と治療に優れた効果があることが示される。
【0006】
アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)は楕円形の腸内細菌であり、ウェルコミクロビウム門に属し、鞭毛を持たず、芽胞を生成せず、不動性でグラム陰性の嫌気性菌である。アッカーマンシア・ムシニフィラは腸内微生物全体の1〜3%を占め、人体の腸内優勢細菌群の1つとして粘液層に定着し、ムチンを特異的に分解することができる。関連の研究では、アッカーマンシア・ムシニフィラの人体における定着豊かさと肥満や2型糖尿病に負の相関があり、生物体の代謝に重要な役割があることが判明された。
【0007】
しかし、現在、バクテロイデス・フラジリス及び/又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含む腸内細菌を利用して腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することで腫瘍の予防及び/又は治療を実現することに関する報告はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、腫瘍免疫療法で腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞(CD8+T細胞又はCD8+CTLと略す)の浸潤及び/又は蓄積が不足するという問題点に対し、腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤又は蓄積を促進して腫瘍を予防及び/又は治療することができる薬物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、腫瘍を予防及び/又は治療する薬物の製造におけるバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)又はアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の用途を提供し、前記薬物は腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進する。
【0010】
好ましくは、前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のうちのいずれか1種である。
【0011】
好ましくは、前記腫瘍は様々な固形腫瘍であり、その非限定的な例は、乳がん、又は肝臓、肺、皮膚、口腔、食道、胃、腸、腎臓、前立腺、脳、神経系、膀胱、リンパ、膵臓に関する腫瘍のうちのいずれか1種以上(例えば、肺がん、悪性黒色腫、肝臓がん、前立腺がん、線維肉腫、膀胱肉腫、神経膠腫等の固形腫瘍)である。
【0012】
さらに、本発明は、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)又はアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)を利用して腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することで腫瘍を予防及び/又は治療する方法を提供する。
【0013】
好ましくは、前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のうちのいずれか1種である。
【0014】
特定の実施形態では、腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進して腫瘍を予防及び/又は治療する方法と、他の、腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進して腫瘍を予防及び/又は治療する方法とを組み合わせる。特定の実施形態では、前記他の、腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進して腫瘍を予防及び/又は治療する方法の非限定的な例は、化学療法、放射線療法、遺伝子療法、手術及びこれらの組み合わせである。
【0015】
本明細書には、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含む治療用又は予防用の組成物も開示される。特定の実施形態では、前記治療用又は予防用の組成物がバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含む。特定の実施形態では、前記治療用又は予防用の組成物は他の微生物株を含まない。一態様では、前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは腫瘍の増殖を遅らせることができる。一態様では、前記腫瘍は固形腫瘍である。特定の実施形態では、前記腫瘍の非限定的な例は、乳がんである。
【0016】
さらに、本発明の一態様によれば、薬学的に有効な用量のバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラと、薬学的に許容される担体とを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進する、腫瘍を予防及び/又は治療する薬物組成物をさらに提供する。前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは有効成分である。
【0017】
好ましくは、前記薬物組成物で、前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のうちのいずれか1種である。
【0018】
好ましくは、前記薬物組成物で、前記薬物組成物は薬学的に実施可能な1種以上の剤形であり、その非限定的な例は錠剤、カプセル、経口液剤、凍結乾燥粉末である。
【0019】
好ましくは、前記薬物組成物で、前記薬学的に許容される担体は無脂肪乳、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンノース、トレハロース、デンプン、アラビアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油のうちの1種又は複数種の混合物である。
【0020】
本発明は、上記の目的の一層の実現のために、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進する、腫瘍を予防及び/又は治療する食品をさらに提供する。
【0021】
好ましくは、前記食品で、前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のうちのいずれか1種である。
【0022】
本発明は、上記の目的の一層の実現のために、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することを特徴とする、腫瘍を予防及び/又は治療する食品添加物をさらに提供する。
【0023】
好ましくは、前記食品添加物で、前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のうちのいずれか1種である。
【0024】
本発明は、上記の目的の一層の実現のために、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進する、腫瘍を予防及び/又は治療する食品添加物を提供する。
【0025】
好ましくは、前記ヘルスケア製品で、前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のうちのいずれか1種である。
【発明の効果】
【0026】
本発明では腫瘍移植の方法でマウス乳がんモデルを作成し、マウス乳がんモデルにおいてバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラの作用を検出又は同定する実験で、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラがインビトロで乳がんの増殖を有意に阻害し、マウス体内の移植腫瘍の増殖を効果的に阻害することが証明され、腫瘍の臨床治療で関連の開発や使用において、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラが大きな価値を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、マウス乳がんモデルで、バクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリスによる腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の蓄積の促進及び治療効果を検出する実験のプロセスの概略図である。
【
図2】
図2は、乳がん細胞移植マウスにバクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリスを投与した後の、群ごとの1匹のマウスの代表的なフローサイトメトリー結果であり、右の象限はCD8+T細胞であり、右の象限の数値が腫瘍微小環境の細胞全体にCD8+T細胞の占めるパーセンテージを示す。
【
図3】
図3は、乳がん細胞移植マウスにバクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリスを投与した後の、腫瘍微小環境の細胞全体にCD8+T細胞の占めるパーセンテージの統計分析図である。
【
図4】
図4は、バクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリス治療後の乳がんマウスの腫瘍のサイズの比較図である。
【
図5】
図5は、バクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリス治療後の乳がんマウスの腫瘍のサイズの比較の統計分析図である。
【
図6】
図6は、マウス乳がんモデルで、アッカーマンシア・ムシニフィラによる腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の蓄積の促進及び治療効果を検出する実験のプロセスの概略図である。
【
図7】
図7は、乳がん細胞移植マウスにアッカーマンシア・ムシニフィラを投与した後の、群ごとの1匹のマウスの代表的なフローサイトメトリー結果であり、右の象限はCD8+T細胞であり、右の象限の数値が腫瘍細胞全体にCD8+T細胞の占めるパーセンテージを示す。
【
図8】
図8は、乳がん細胞移植マウスにアッカーマンシア・ムシニフィラを投与した後の、腫瘍微小環境の細胞全体にCD8+T細胞の占めるパーセンテージの統計分析図である。
【
図9】
図9は、アッカーマンシア・ムシニフィラ治療後の乳がんマウスの腫瘍のサイズの比較図である。
【
図10】
図10は、アッカーマンシア・ムシニフィラ治療後の乳がんマウスの腫瘍のサイズの比較の統計分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、図面及び特定の実施例を用いて本発明の更なる説明を行う。なお、本発明に係る腫瘍を治療及び/又は予防するバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、又はバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含む本発明の薬物組成物、食品、ヘルスケア製品、食品添加物は、被験者に投与する場合、いずれも前掲の適応症に適し、上記の機能を示すことができる。これに関して、本発明で記載される全ての剤形において検証済みである。実施例の部分では説明の目的でその小さい一部を説明するが、本発明に何ら限定を加えるものと見なされない。
【0029】
本発明で、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラの非限定的な例は、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のうちのいずれか1種である。
【0030】
前記腫瘍は固形腫瘍である。特定の実施形態では、前記腫瘍の非限定的な例は、乳腺腫瘍である。
【0031】
本発明は、さらに、薬学的に有効な用量のバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含む抗腫瘍用の薬物組成物を提供する。用語「薬学的に有効な用量」とは10
6〜10
10CFUであり、10
9CFUであることが好ましい。前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のうちのいずれか1種を含む。前記薬物組成物の非限定的な例は、錠剤、カプセル、経口液剤、凍結乾燥粉末である。前記薬学的に許容される担体の非限定的な例は、無脂肪乳、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンノース、トレハロース、デンプン、アラビアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油のうちの1種以上である。
【0032】
本発明でバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは食品、ヘルスケア製品又は食品添加物等に製造されてもよい。前記食品、ヘルスケア製品又は食品添加物はいずれもバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のうちのいずれか1種を含む。前記食品、ヘルスケア製品又は食品添加物はいずれも腫瘍の治療及び/又は予防に使用できる。
【0033】
実施例1:バクテロイデス・フラジリスの培養
培養手順:
ステップ1、凍結乾燥下で保存したバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)菌株(ATCC公式ウェブサイトより購入)に、200μLのTSB培地を加え、再溶出し、20μLを吸い取り、血液寒天培地プレートにおいて画線培養を行い、嫌気タンクに入れてガス制御システムによって排気した後、インキュベーターで、37℃で48時間嫌気培養した。
ステップ2、モノクローナルコロニーをピックアップして10mLのTSB培地に接種し、37℃で12時間嫌気培養した。
ステップ3、1ボトル分の500mLのTSB培地を使用し、1%(v/v)で菌株を接種し、37℃で48時間嫌気培養した。
ステップ4、菌液を採取して6000rpmで10分間遠心分離した。生理食塩水で2回洗浄し、最後に生理食塩水でスラッジを再溶出し、使用に備え生菌数をカウントした。
【0034】
実施例2:アッカーマンシア・ムシニフィラの培養
培養手順:
ステップ1、凍結乾燥下で保存したアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)菌株(ATCC公式ウェブサイトより購入)に、200μLのTSB培地を加え、再溶出し、20μLを吸い取り、血液寒天培地プレートにおいて画線培養を行い、嫌気タンクに入れてガス制御システムによって排気した後、インキュベーター、37℃で48時間嫌気培養した。
ステップ2、モノクローナルコロニーをピックアップして10mLのTSB培地に接種し、37℃で12時間嫌気培養した。
ステップ3、1ボトル分の500mLのTSB培地を使用し、1%(v/v)で菌株を接種し、37℃で48時間嫌気培養した。
ステップ4、菌液を採取して6000rpmで10分間遠心分離する。生理食塩水で2回洗浄し、最後に生理食塩水でスラッジを再溶出し、使用に備え生菌数をカウントした。
【0035】
実施例3:バクテロイデス・フラジリスによる腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤及び/又は蓄積の促進及び腫瘍治療効果に関する実験
図1は、バクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリスによる腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の蓄積の促進及び治療効果を検出する実験プロセスの概略図である。
【0036】
1.培養手順:
バクテロイデス・フラジリスの培養手順は実施例1と同じである。
【0037】
2.サンプルの調製:
1)バクテロイデス・フラジリスZY−312生菌体の調製
ステップ1、凍結乾燥下で保存した菌株(市販品)に、凍結乾燥下で保存した培地200μLを加え、再溶出し、20μLを吸い取り、血液寒天培地プレートにおいて画線培養を行い、嫌気タンクに入れてガス制御システムによって排気した後、インキュベーターで、37℃で48時間嫌気培養した。
ステップ2、モノクローナルコロニーをピックアップして10mLのTSB培地に接種し、37℃で12時間嫌気培養した。
ステップ3、1ボトル分の500mLのTSB培地を使用し、1%(v/v)で菌株を接種し、37℃で48時間を嫌気培養した。
ステップ4、菌液を取得し、遠心分離機において6000rpmで10分間遠心分離し、生理食塩水で2回洗浄し、最後に生理食塩水でスラッジを再溶出し、使用に備え生菌数をカウントした。
【0038】
2)バクテロイデス・フラジリス不活化菌体
70℃水浴で30分間加熱して、不活化菌液を得た。
【0039】
3)バクテロイデス・フラジリス溶解液
バクテロイデス・フラジリス培養菌液に対し、超音波セルディスラプターで超音波破壊処理を行い、実行2秒と停止5秒の交互で20分間継続することで、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解液を得た。
【0040】
4)バクテロイデス・フラジリス培養上清
バクテロイデス・フラジリス培養菌液に対し、遠心分離機において6000rpmで10分間遠心分離して、バクテロイデス・フラジリス培養上清を得た。
【0041】
3.バクテロイデス・フラジリスによる腫瘍の予防及び治療効果に関するマウス実験
実験動物は、中山大学実験動物センターから購入される3〜4週齢のBALB/cマウス36匹を用いた。マウスの様態に特に異常がなかった。ランダムにマウスを3群に分け、1群当たり12匹とし、3群はそれぞれ対照群(生理食塩水)、生菌胃内投与群(バクテロイデス・フラジリス生菌体)、不活化菌胃内投与群(バクテロイデス・フラジリス不活化菌体)であり、3群のマウスにそれぞれ10
9CFUのバクテロイデス・フラジリス又は対照を胃内投与し、毎日体重を測定した。後に、マウスの腫瘍(乳がん)細胞4T1が対数増殖期に増殖すると、TEで細胞を消化し、培地で中和し、遠心分離して細胞を収集し、DPBSで2回洗浄し、残留した血清を除去し、DPBSで細胞を再懸濁した。細胞をカウントし、各マウスに対し右側の腋窩に10
6個の細胞を皮下接種し、継続してマウスにそれぞれ胃内投与治療を行った。その後、担がんマウスを殺し、それぞれその場で腫瘍細胞を収集し、フローサイトメトリーにより腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の含有量を検出し分析した。
【0042】
実施例4:アッカーマンシア・ムシニフィラによる腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤及び/又は蓄積の促進及び腫瘍治療効果に関する実験
図6は、アッカーマンシア・ムシニフィラ及び不活化アッカーマンシア・ムシニフィラによる腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の蓄積の促進及び治療効果を検出する実験プロセスの概略図である。
【0043】
1.培養手順:
アッカーマンシア・ムシニフィラの培養手順は実施例2と同じである。
【0044】
2.サンプルの調製:
1)アッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体の調製
ステップ1、凍結乾燥下で保存した菌株(市販品)に、凍結乾燥下で保存した培地200μLを加え、再溶出し、20μLを吸い取り、血液寒天培地プレートにおいて画線培養を行い、嫌気タンクに入れてガス制御システムによって排気した後、インキュベーターで、37℃で48時間嫌気培養した。
ステップ2、モノクローナルコロニーをピックアップして10mLのTSB培地に接種し、37℃で12時間嫌気培養した。
ステップ3、1ボトル分の500mLのTSB培地を使用し、1%(v/v)で菌株を接種し、37℃で48時間を嫌気培養した。
ステップ4、菌液を取得し、遠心分離機において6000rpmで10分間遠心分離し、生理食塩水で2回洗浄し、最後に生理食塩水でスラッジを再溶出し、使用に備え生菌数をカウントした。
【0045】
2)アッカーマンシア・ムシニフィラ不活化菌体
70℃水浴で30分間加熱して、不活化菌液を得た。
【0046】
3)アッカーマンシア・ムシニフィラ溶解液
アッカーマンシア・ムシニフィラ培養菌液に対し、超音波セルディスラプターで超音波破壊処理を行い、実行2秒と停止5秒の交互で20分間継続することで、アッカーマンシア・ムシニフィラ溶解液を得た。
【0047】
4)アッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清
アッカーマンシア・ムシニフィラ培養菌液に対し、遠心分離機において6000rpmで10分間遠心分離して、アッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清を得た。
【0048】
3.アッカーマンシア・ムシニフィラによる腫瘍の予防及び治療効果に関するマウス実験
実験動物は、中山大学実験動物センターから購入される3〜4週齢のBALB/cマウス24匹を用いた。マウスの様態に特に異常がなかった。ランダムにマウスを2群に分け、1群当たり12匹とし、2群はそれぞれ対照群、生菌胃内投与群(アッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体)であり、2群のマウスにそれぞれ10
9CFUのアッカーマンシア・ムシニフィラ及び対照を胃内投与し、毎日体重を測定した。後に、マウスの腫瘍(乳がん)細胞4T1が対数増殖期に増殖すると、TEで細胞を消化し、培地で中和し、遠心分離して細胞を収集し、DPBSで2回洗浄し、残留した血清を除去し、DPBSで細胞を再懸濁した。細胞をカウントし、各マウスに対し右側の腋窩に10
6個の細胞を皮下接種し、継続してマウスにそれぞれ胃内投与治療を行った。その後、担がんマウスを殺し、それぞれその場で腫瘍細胞を収集し、フローサイトメトリーにより腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の含有量を検出し分析した。
【0049】
結果分析:
図2、
図3、
図7、
図8は、1匹のマウスの代表的なフローサイトメトリー結果及び各群の複数匹のマウスに対する統計結果である。
【0050】
図2は、乳がん細胞移植マウスにバクテロイデス・フラジリスを投与した後の、群ごとの1匹のマウスの代表的なフローサイトメトリー結果であり、右の象限の数値が腫瘍微小環境の細胞全体にCD8+T細胞の占めるパーセンテージを示す。フローサイトメトリー結果の分析から、生理食塩水対照群と比べ、バクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリスがCD8+T細胞の相対数量を約20倍増やしていることが分かった。
図3は、乳がん細胞移植マウスにバクテロイデス・フラジリスを投与した後の、腫瘍微小環境の細胞全体にCD8+T細胞の占めるパーセンテージの統計分析図である。統計図から、生理食塩水対照群と比べ、バクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリスが腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の数量を有意に増やしていることが分かった。統計分析図では、*はstudent t−testでp<0.05であることを、**はstudent t−testでp<0.01であることを表す。p<0.05であると、統計的有意差がある。各処理群はマウス12匹である。
【0051】
図7は、乳がん細胞移植マウスにアッカーマンシア・ムシニフィラを投与した後の、群ごとの1匹のマウスの代表的なフローサイトメトリー結果であり、右の象限の数値が腫瘍微小環境の細胞全体にCD8+T細胞の占めるパーセンテージを示す。フローサイトメトリー結果の分析から、生理食塩水対照群と比べ、アッカーマンシア・ムシニフィラがCD8+T細胞の相対数量を約13倍以上増やしていることが分かった。
図8は、乳がん細胞移植マウスにアッカーマンシア・ムシニフィラを投与した後の、腫瘍微小環境の細胞全体にCD8+T細胞の占めるパーセンテージの統計分析図である。統計図から、生理食塩水対照群と比べ、アッカーマンシア・ムシニフィラが腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の数量を有意に増やしていることが分かった。統計分析図では、***はstudent t−testでp<0.001であることを表す。p<0.001であると、統計的有意差がある。各処理群はマウス12匹である。
【0052】
結果からは、バクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリス、アッカーマンシア・ムシニフィラはいずれもマウスの腫瘍の形成及び増殖に明らかな阻害効果があることが分かった(
図4、
図5、
図9、
図10)。また、
図4、
図5、
図9、
図10の実験結果から、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラ胃内投与マウスは対照の生理食塩水群より腫瘍体積が有意に小さいことから、バクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリス、アッカーマンシア・ムシニフィラはインビボで腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することで抗腫瘍作用を高め、腫瘍の増殖を阻害しており、乳がん等の腫瘍の予防及び治療に優れた効果があることが示された。
【0053】
上述した内容は、本発明の好ましい実施形態を用いて係る技術的解決手段を一層詳細に説明するものであり、本発明が上記の説明に限定されると考えられない。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく単純な変形や置き換えを行うことができる。これらも本発明の保護範囲に属すると見なされるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2021年1月18日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
本発明は、上記の目的の一層の実現のために、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進する
、腫瘍を予防及び/又は治療する食品添加物をさらに提供する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
本発明は、上記の目的の一層の実現のために、バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進する、腫瘍を予防及び/又は治療する
ヘルスケア製品を提供する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
3)バクテロイデス・フラジリス溶解液
バクテロイデス・フラジリス培養菌液に対し、超音波セルディスラプターで超音波破壊処理を行い、実行2秒と停止5秒の交互で20分間継続することで、バクテロイデス・フラジリ
ス溶解液を得た。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
3.バクテロイデス・フラジリスによる腫瘍の予防及び治療効果に関するマウス実験
実験動物は、中山大学実験動物センターから購入される3〜4週齢のBALB/cマウス36匹を用いた。マウスの様態に特に異常がなかった。ランダムにマウスを3群に分け、1群当たり12匹とし、3群はそれぞれ対照群(生理食塩水)、生菌胃内投与群(バクテロイデス・フラジリス生菌体)、不活化菌胃内投与群(バクテロイデス・フラジリス不活化菌体)であり、3群のマウスにそれぞれ10
9CFUの
生理食塩水、バクテロイデス・フラジリス又は
不活化バクテロイデス・フラジリスを胃内投与し、毎日体重を測定した。後に、マウスの腫瘍(乳がん)細胞4T1が対数増殖期に増殖すると、TEで細胞を消化し、培地で中和し、遠心分離して細胞を収集し、DPBSで2回洗浄し、残留した血清を除去し、DPBSで細胞を再懸濁した。細胞をカウントし、各マウスに対し右側の腋窩に10
6個の細胞を皮下接種し、継続してマウスにそれぞれ胃内投与治療を行った。その後、担がんマウスを殺し、それぞれその場で腫瘍細胞を収集し、フローサイトメトリーにより腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の含有量を検出し分析した。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
3.アッカーマンシア・ムシニフィラによる腫瘍の予防及び治療効果に関するマウス実験
実験動物は、中山大学実験動物センターから購入される3〜4週齢のBALB/cマウス24匹を用いた。マウスの様態に特に異常がなかった。ランダムにマウスを2群に分け、1群当たり12匹とし、2群はそれぞれ対照群、生菌胃内投与群(アッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体)であり、2群のマウスにそれぞれ10
9CFUの
生理食塩水及びアッカーマンシア・ムシニフィ
ラを胃内投与し、毎日体重を測定した。後に、マウスの腫瘍(乳がん)細胞4T1が対数増殖期に増殖すると、TEで細胞を消化し、培地で中和し、遠心分離して細胞を収集し、DPBSで2回洗浄し、残留した血清を除去し、DPBSで細胞を再懸濁した。細胞をカウントし、各マウスに対し右側の腋窩に10
6個の細胞を皮下接種し、継続してマウスにそれぞれ胃内投与治療を行った。その後、担がんマウスを殺し、それぞれその場で腫瘍細胞を収集し、フローサイトメトリーにより腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の含有量を検出し分析した。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0050
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0050】
図2は、乳がん細胞移植マウスにバクテロイデス・フラジリスを投与した後の、群ごとの1匹のマウスの代表的なフローサイトメトリー結果であり、右の象限の数値が腫瘍微小環境の細胞全体にCD8+T細胞の占めるパーセンテージを示す。フローサイトメトリー結果の分析から、生理食塩水対照群と比べ、バクテロイデス・フラジリ
スがCD8+T細胞の相対数量を約20倍増やしていることが分かった。
図3は、乳がん細胞移植マウスにバクテロイデス・フラジリスを投与した後の、腫瘍微小環境の細胞全体にCD8+T細胞の占めるパーセンテージの統計分析図である。統計図から、生理食塩水対照群と比べ、バクテロイデス・フラジリス及び不活化バクテロイデス・フラジリスが腫瘍微小環境におけるCD8+T細胞の数量を有意に増やしていることが分かった。統計分析図では、*はstudent t−testでp<0.05であることを、**はstudent t−testでp<0.01であることを表す。p<0.05であると、統計的有意差がある。各処理群はマウス12匹である。
【手続補正7】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に有効な用量のバクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラと、薬学的に許容される担体とを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することを特徴とする腫瘍を予防及び/又は治療する薬物組成物。
【請求項2】
前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のいずれか1種であることを特徴とする請求項1に記載の薬物組成物。
【請求項3】
前記腫瘍は固形腫瘍であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬物組成物。
【請求項4】
前記腫瘍は乳がん、又は肝臓、肺、皮膚、口腔、食道、胃、腸、腎臓、前立腺、脳、神経系、膀胱、リンパ、膵臓に関する腫瘍のうちのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬物組成物。
【請求項5】
バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することを特徴とする腫瘍を予防及び/又は治療する食品。
【請求項6】
前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のいずれか1種であることを特徴とする請求項5に記載の食品。
【請求項7】
バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラを含み、且つ腫瘍微小環境におけるCD8陽性傷害性T細胞の浸潤及び/又は蓄積を促進することを特徴とする腫瘍を予防及び/又は治療する食品添加物。
【請求項8】
前記バクテロイデス・フラジリス又はアッカーマンシア・ムシニフィラは、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ生菌体、遺伝子組換え、改変もしくは修飾、弱毒化、化学的処理、物理的処理もしくは不活化されたバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ、バクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ溶解物、及び/又はバクテロイデス・フラジリスもしくはアッカーマンシア・ムシニフィラ培養上清のいずれか1種であることを特徴とする請求項7に記載の食品添加物。
【国際調査報告】