特表2021-524007(P2021-524007A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユー.エス. ツバキ ホールディングス,インコーポレイティドの特許一覧

特表2021-524007耐久性を増したステンレス鋼ローラーチェイン
<>
  • 特表2021524007-耐久性を増したステンレス鋼ローラーチェイン 図000003
  • 特表2021524007-耐久性を増したステンレス鋼ローラーチェイン 図000004
  • 特表2021524007-耐久性を増したステンレス鋼ローラーチェイン 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-524007(P2021-524007A)
(43)【公表日】2021年9月9日
(54)【発明の名称】耐久性を増したステンレス鋼ローラーチェイン
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/06 20060101AFI20210813BHJP
   F16G 13/02 20060101ALI20210813BHJP
   B65G 17/38 20060101ALI20210813BHJP
【FI】
   F16G13/06 Z
   F16G13/02 G
   F16G13/02 F
   B65G17/38 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-513364(P2021-513364)
(86)(22)【出願日】2019年5月7日
(85)【翻訳文提出日】2020年12月23日
(86)【国際出願番号】US2019031062
(87)【国際公開番号】WO2019217378
(87)【国際公開日】20191114
(31)【優先権主張番号】62/667,902
(32)【優先日】2018年5月7日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】16/405,003
(32)【優先日】2019年5月7日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520435197
【氏名又は名称】ユー.エス. ツバキ ホールディングス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100169856
【弁理士】
【氏名又は名称】尾山 栄啓
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ アール.モンティ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル シー.ホーガン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ジェイ.ホーガン
(57)【要約】
改良ステンレス鋼ローラーチェインが炭素鋼の強度及び耐久性を示しながらステンレス鋼の耐食特性を維持するような改良ステンレス鋼ローラーチェイン及びステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐久性を増したステンレス鋼ローラーチェインであって、
複数のスチールブッシングと、
複数のスチールローラーと、
複数のスチールピンと、
複数のスチールサイドプレートと、
を備え、
前記複数のスチールピン又は前記複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上の表面が精密成形工程によって生成された細密表面仕上げを有し、
前記複数のスチールブッシング、前記複数のスチールローラー、前記複数のスチールピン又は前記複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上に表面処理を加えることが、前記ステンレス鋼ローラーチェインのために耐食性を強化する、
ステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項2】
前記複数のスチールブッシング及び前記複数のスチールローラーが、炭素鋼材料組成を持つローラーチェインプレートと同様の降伏強度及び耐久性を達成するステンレス鋼ローラーチェインを形成するために、前記複数のスチールピンを前記複数のスチールサイドプレートにプレス嵌めすることによって前記複数のスチールサイドプレートに固定される、請求項1に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項3】
前記表面処理が、耐食性を増し前記表面からフェライトを還元するための不動態化工程を含む、請求項1に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項4】
前記表面処理が、耐食性を増し前記表面からフェライトを還元するための化学的不動態化工程を含む、請求項1に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項5】
前記表面処理が、前記複数のスチールブッシング、前記複数のスチールローラー、前記複数の硬化スチールピン又は前記複数のスチールプレートの前記1つ又はそれ以上の前記スチールの強度を増すための衝撃表面処理を含む、請求項1に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項6】
前記衝撃表面処理がショットピーニング衝撃工程を含む、請求項5に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項7】
前記精密成形工程が、更に各スチールサイドプレートの形状を画定することを含む、請求項1に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項8】
前記精密成形工程が、機械加工工程、レーザーカット工程、高圧水流カット工程又はブランキング工程の1つ又はそれ以上を含む、請求項7に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項9】
各スチールサイドプレートが、前記スチールサイドプレートの析出硬化スチールを所望の硬度レベルに調整するために、精密成形工程前に各スチールサイドプレートの硬度を下げるために熱処理を施される、請求項7に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項10】
前記複数の硬化スチールブッシング、前記複数の硬化スチールローラー、前記複数の硬化スチールピン又は前記複数の硬化スチールプレートの1つ又はそれ以上が従来のステンレス鋼より大きい最大許容荷重容量を持つ、請求項1に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項11】
前記従来のステンレス鋼が600シリーズ合金鋼及び304シリーズステンレス鋼の一方である、請求項10に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項12】
前記複数のスチールブッシング、前記複数のスチールローラー、前記複数のスチールピン又は前記複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上のためのスチールが,40〜65HRCのレベルまで硬化された硬化性スチールである、請求項1に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項13】
耐久性及び耐食性を増したステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法であって、前記方法が、
複数のスチールブッシングを成形することと、
複数のスチールローラーを成形することと、
細密表面仕上げを得るために精密成形工程によって複数のスチールピン及び複数のスチールプレートを成形することと、
前記ステンレス鋼ローラーチェインのために耐食性を強化するために、前記複数のスチールブッシング、前記複数のスチールローラー、前記複数のスチールピン又は前記複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上に表面処理を加えることと、
を含む、方法。
【請求項14】
前記複数のスチールサイドプレートを成形することが、更に各スチールサイドプレートの形状を画定することを含む、請求項13に記載のステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法。
【請求項15】
前記精密成形工程が、機械加工工程、レーザーカット工程、高圧水流カット工程又はブランキングの1つ又はそれ以上を含む、請求項14に記載のステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法。
【請求項16】
前記複数のスチールサイドプレートを形成することが、更に、前記精密成形工程前に各スチールサイドプレートの硬度を下げるために前記複数のスチールサイドプレートを熱処理することを含む、請求項15に記載のステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法。
【請求項17】
前記表面処理を加えることが、更に、耐食性を増し前記表面からフェライトを還元するために不動態化工程を加えることを含む、請求項13に記載のステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法。
【請求項18】
更に、炭素鋼材料組成を持つローラーチェインプレートと同様の降伏強度及び耐久性を達成するステンレス鋼ローラーチェインを形成するために、前記複数のスチールピンを前記複数のスチールサイドプレートにプレス嵌めすることによって、前記複数のスチールブッシング及び前記複数のスチールローラーを前記複数のスチールサイドプレートに固定することを含む、請求項13に記載のステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法。
【請求項19】
耐久性を増したステンレス鋼ローラーチェインであって、
複数のスチールブッシングと、
複数のスチールローラーと、
複数のスチールピンと、
複数のスチールサイドプレートと、
を備え、
前記複数のスチールピン又は前記複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上が、精密成形工程によって生成された細密表面仕上げによって形成され、
前記複数のスチールブッシング、前記複数のスチールローラー、前記複数のスチールピン又は前記複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上に化学的不動態化工程表面処理を加えることが、耐食性を強化し、前記ステンレス鋼ローラーチェインの前記表面からフェライトを還元する、
ステンレス鋼ローラーチェイン。
【請求項20】
前記ステンレス鋼ローラーチェインが、930°Fまでの作動温度において強度の特性及び強化された腐食性を保持する、請求項19に記載のステンレス鋼ローラーチェイン。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年5月7日に提出された「耐久性を増したステンレス鋼ローラーチェイン」と題する米国仮特許出願第62/667902号及び2019年5月7日に提出された米国特許出願第16/405003号(その全体が、あらゆる目的のために参照により本出願に援用される)に対する優先権及びその利益を主張する。
【0002】
工業用ローラーチェインは、伝動、食品加工、大量運搬、製品梱包などを含めて多様な用途に使用される。多くの潜在的な工業用ローラーチェインの用途は、炭素鋼材料組成で得られる強度及び耐摩耗性を必要とするだけでなく、ステンレス鋼材料組成に関連付けられる耐食性も必要とする。従来のローラーチェインは、これらの特性の1つしか提供しない。具体的には、従来のローラーチェインは、最終最小引張強度及びスプロケット歯断面形状寸法など精密伝動ローラーチェイン、アタッチメント及びスプロケットに関する規格の概要を定めるASME(米国機械学会)B29.1を遵守するが、強度と耐食性の両方は兼ね備えない。
【0003】
1つの従来のローラーチェイン製品は、ある程度の耐摩耗性を持つが炭素鋼ローラーチェインの強度には匹敵できない硬化ピン及びブッシングを持つ、合金鋼“AS”(又は600)シリーズのステンレス鋼ローラーチェインである。普通鋼“SS”クロム/ニッケル(又は304)シリーズのスチールなど、他のタイプのスチールも、炭素鋼の強度には匹敵できない。したがって、ステンレス鋼の耐食性と炭素鋼材料の強度を兼ね備えることができるローラーチェインが必要とされる。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、概略的にステンレス鋼ローラーチェインに関する。特に、改良(された)ステンレス鋼ローラーチェイン及びステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法が提供されて、改良ステンレス鋼ローラーチェインは、炭素鋼の強度及び耐久性を示しながら、ステンレス鋼の耐食性を維持する。
【0005】
改良ステンレス鋼ローラーチェインは、革新的な設計及び材料選択をプロセス層化技法と結合させることによって、この特徴のある特性の組合せを得る。いくつかの事例において、設計及び製品は、「スーパーステンレス」ローラーチェインと記載することができる。
【0006】
開示する実施例において、耐久性を増したステンレス鋼ローラーチェインは、複数のスチールブッシングと、複数のスチールローラーと、複数のスチールピンと、複数のスチールサイドプレートと、を含む。複数のスチールピン又は複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上は、精密成形工程によって生成される細密表面仕上げによって形成される。複数のスチールブッシング、複数のスチールローラー、複数のスチールピン又は複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上に対する表面処理によって、ステンレス鋼ローラーチェインの耐食性が強化される。
【0007】
いくつかの実施例において、複数のスチールブッシング及び複数のスチールローラーは、炭素鋼材料組成を持つローラーチェインプレートと同様の降伏強度及び耐久性を達成するステンレス鋼ローラーチェインを形成するために、複数のスチールピンを複数のスチールサイドプレートにプレス嵌めすることによって、複数のスチールサイドプレートに固定される。
【0008】
実施例において、表面処理は、耐食性を増し表面からフェライトを還元(減少)するために不動態化工程を含む。
【0009】
いくつかの実施例において、表面処理は、耐食性を増し表面からフェライトを還元するために化学的不動態化工程を含む。いくつかの実施例において、表面処理は、複数のスチールブッシング、複数のスチールローラー、複数の硬化スチールピン又は複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上のスチールの強度を増すために衝撃表面処理を含む。いくつかの実施例において、衝撃表面処理は、ショットピーニング衝撃工程を含む。
【0010】
いくつかの実施例において、複数の硬化スチールサイドプレートの各スチールサイドプレートは、各スチールサイドプレートの形状を画定するために成形工程を施される。
【0011】
いくつかの実施例において、複数の硬化スチールブッシング、複数の硬化スチールローラー、複数の硬化スチールピン又は複数の硬化スチールプレートの1つ又はそれ以上は、従来のステンレス鋼より大きい最大許容荷重容量を有する。
【0012】
いくつかの実施例において、従来のステンレス鋼は、600シリーズ合金鋼及び304シリーズステンレス鋼の1つである。いくつかの実施例において、複数のスチールブッシング、複数のスチールローラー、複数のスチールピン又は複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上のためのスチールは、40〜65HRCのレベルまで硬化された硬化性スチールである。
【0013】
いくつかの開示された実施例において、耐久性及び耐食性を増したステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法は、複数のスチールブッシングを成形することと、複数のスチールローラーを成形することと、細密表面仕上げを得るために精密成形工程によって複数のスチールピン及び複数のスチールプレートを成形することと、ステンレス鋼スチールローラーチェインの耐食性を強化するために複数のスチールブッシング、複数のスチールローラー、複数のスチールピン又は複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上に表面処理を加えることと、を含む。
【0014】
いくつかの実施例において、方法は、複数のスチールサイドプレートを成形することを含み、更に各スチールサイドプレートの形状を画定することを含む。
【0015】
いくつかの実施例において、精密成形工程は、機械加工工程、レーザーカット工程、高圧水流カット工程又はブランキング工程の1つ又はそれ以上を含む。
【0016】
いくつかの実施例において、方法は、精密成形工程前に各スチールサイドプレートの硬度を下げるために複数のスチールサイドプレートを熱処理することによって複数のスチールサイドプレートを成形することを含む。
【0017】
いくつかの実施例において、方法は、耐食性を増し表面からフェライトを還元するために不動態化工程を加えることによって表面処理を加えることを含む。
【0018】
いくつかの実施例において、方法は、炭素鋼材料組成を持つローラーチェインプレートと同様の降伏強度及び耐久性を達成するステンレス鋼ローラーチェインを成形するために、複数のスチールピンを複数のスチールサイドプレートにプレス嵌めすることによって、複数のスチールブッシング及び複数のスチールローラーを複数のスチールサイドプレートに固定することを含む。
【0019】
開示される実施例において、耐久性を増したステンレス鋼ローラーチェインは、複数のスチールブッシングと、複数のスチールローラーと、複数のスチールピンと、複数のスチールサイドプレートと、を含み、複数のスチールピン又は複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上は、精密成形工程によって生成された細密表面仕上げによって形成され、複数のスチールブッシング、複数のスチールローラー、複数のスチールピン又は複数のスチールプレートの1つ又はそれ以上に化学的不動態化工程表面処理を加えることによって、耐食性が強化され、ステンレス鋼ローラーチェインの表面からフェライトが還元される。
【0020】
実施例において、ステンレス鋼ローラーチェインは、930°F(500℃)までの作動温度において強度の特性及び強化された耐食性を保持する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の形態に従った、改良ステンレス鋼ローラーチェインの例を示す。
図2】本開示の形態に従った、改良ステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法の例のフローチャートである。
図3】ローラーチェインの製造に使用される多様な材料について耐荷強度と耐食性の関係を示す図表の例である。
【0022】
図は必ずしも縮尺通りではない。適切な場合には、同様の又は同一の構成要素を指すために同様の又は同一の参照番号を使用する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示は、改良ステンレススチールローラーチェインのためのシステム及び方法について説明する。改良ステンレススチールローラーチェインは、明確に設計された寸法、材料及びプロセス層化(process layering)を使用して炭素鋼ローラーチェインの強度及び耐久性とステンレス鋼ローラーチェインの完全耐食性の結合を達成する。
【0024】
ローラーチェイン又はブッシュローラーチェインは、工業用及び農業用機械、コンベア、印刷プレス、自動車、モーターサイクル及び二輪車などを含めて多様な状況において機械的動力の伝達を駆動するために広く使用されるタイプのチェインである。ローラーチェインは、サイドプレートによって一緒に保持される一連の短い円筒形ブッシング及び/又はローラーによって構成される。作動時に、ローラーチェインは、伝動の単純、確実かつ効率よい手段のために歯車又はスプロケットによって駆動される。一例は、一連の交互に組み立てられたローラーリンク及びピンリンクによって形成されたコンベア型チェインであり、ピンは、ローラーがブッシング上を自由に回転できるようにブッシング内部に関節接合される。ピン及びブッシングは、例えばプレス嵌めによってそれぞれのリンクプレートに固定できる。
【0025】
しばしば、規格は、ローラーチェインが、所定レベルの耐食性を持つことを要求する。これは、ローラーチェインが作動する環境並びに食品加工などチェインにさらされる製品のタイプのためで有り得る。但し、効果的に腐食に抵抗する材料の耐久性及び/又は耐荷容量は低い。トレードオフとして、特徴の1つが特定の用途にとってより貴重である場合又は安全性又はその他の規格が要求する場合に他の特徴に優先して1つの特徴を選ぶことが必要になる。
【0026】
図1は、強化されたサイドプレート16を持つ改良ステンレス鋼ローラーチェイン10の一例を示す。例えば、サイドプレート16の設計は、硬化性等級(hardenable grade)のステンレス鋼を含むことができる。サイドプレート16は、強化された物理的輪郭を含めて又は含めずに設計できる。いくつかの実施例において、硬化性等級のステンレス鋼は、40〜65HRC等級の硬度レベルを含む。但し、その他の等級の硬化ステンレス鋼も、本開示の範囲において想定される。実施例において、ピン18の周りのプレート16及びブッシング12の寸法は、従来のローラーチェインに比べてスプロケットの適合性に対する影響なしに引張強度及び疲労強度を増大するように設計される。いくつかの実施例において、寸法の1つ又はそれ以上は、従来のローラーチェインに比べて拡大されるが、従来のスプロケットの適合性の閾値限度内にある。標準ローラー寸法は、0.090インチ(2.286mm)のローラー直径を持つRS11SSチェインタイプ及び1.875インチ(47.63mm)ローラー直径を持つRS240チェインタイプ並びにRS11SS及びRS240との間のローラー直径を含むその他の標準チェインタイプに関連付けられるローラー寸法を含むことができるが、これに限定されない。その他の標準寸法(ブッシング、ピン、プレート、間隔など)は、従来のチェインタイプと同様でも良い。例えば、プレート16の中央部の幅20(即ちワイドウェスト)は、ピン18を取り囲むプレート16の寸法と比べてわずかしか狭くならない(例えば、約90%の中央幅)。
【0027】
いくつかの実施例において、サイドプレートは、伝統的炭素鋼材料組成(例えば40〜48HRCの硬度)を持つローラーチェインプレートに匹敵する引張り及び降伏強度を得るために硬化される。サイドプレート16は、間にブッシング12を持つ内側プレート13の外部に配列される。ピン18は、向かい合うプレート16を固定するために孔14に通して嵌められる。
【0028】
設計に対する改良に加えて、本出願において開示する工法は、更に、開示するステンレス鋼チェインの耐久性及び耐食性の組合せを強化する。図2は、本出願において開示する改良ステンレス鋼ローラーチェインを製造する方法30を示す。図2のブロック32に示すように、プレート(例えば、内側プレート13及びサイドプレート16)は、例えば、機械加工、レーザーカット、高圧水流カット及びブランキング工程を含めて(但し、これらに限定されない)成形工程によって成形される。いくつかの実施例において、成形工程は、アタッチメントプレート(例えば、ベントアタッチメントプレート、リンクプレート)などに対するように所望の硬度レベル(例えば最低可能硬度レベル)まで析出硬化スチールを調整するために熱処理工程を施される。いくつかの実施例において、これは、成形特徴部又はその周りにおける材料の裂けなしに部品を精度公差の範囲で成形できるようにする。いくつかの実施例において、プレートは、図1に示す「ワイドウェスト」設計で成形できる。これは、上記の成形工程の1つ又はそれ以上によって得ることができる。
【0029】
ブロック34において、ピッチ孔(例えば孔14)が、機械加工及び/又は化学的工程などによって疲労析出点を緩和しながらピンとブッシングの係合及び境界を成す表面積を最大限にするためにピッチ孔全体に細密表面仕上げ(表面にほこりが溜まらないようにかつ/又は他の面との間の相互作用が不当な摩耗、ギシギシ、腐食、剥離、摩擦などを生じないような)を得られるように精密成形される。これは、精密ミリング、工業規格より著しく細かいダイクリアランスを持つ2段階穿孔工程又は圧縮残留応力を加えながら円滑な仕上げを得るためのボーライジング/スエージング法によって、得られる。本出願において開示するように、成形工程は、析出硬化スチールを所望の硬度レベルに調整するために熱処理工程を採用して、成形特徴部又はその周りにおける材料の裂けなしに、部品を精度公差の範囲で成形できるようにする。
【0030】
ブロック36において、プレートは伝統的炭素鋼材料組成を持つローラーチェインプレートに匹敵できる降伏強度を達成するように硬化される。いくつかの実施例において、プレートは、ロックウェル硬度検査分類に従って40〜65HRCまで硬化できる。但し、これより低い、高い及び/又は別の硬度規格を適宜使用できる。
【0031】
ブロック38において、プレートは、ショットピーニング(又は他の適切な技法)などの付加的強化工程を施される。ブロック40において、プレートは、更に耐食性を強化するための作業として不動態化工程を施される。
【0032】
ブロック42において、ピン(例えば、ピン18)が、弾性で円滑な軸受け面を得るように細密表面仕上げに精密研磨される。ブロック44において、ピンは、伝統的炭素鋼材料組成を持つローラーチェインピンに匹敵できる降伏強度を達成するように硬化される。いくつかの実施例において、ピン、ブッシング及び/又はローラーは、ブロック46に示すように更に耐食性を強化するための作業として(時には最終作業として)不動態化工程を施される。摩耗受け面(wear bearing surface)上のこれらの特徴のこの組合せによって、同様の条件下(即ち、同様の荷重、速度、潤滑条件など)の炭素鋼チェインと同様又はこれに等しい摩耗寿命を持つステンレス鋼チェインが得られる。いくつかの実施例において、ピン(又はその他の構成要素)は、所望の硬度レベルまで硬化される。硬度レベルは、例えば40〜65HRCであるが、これに限定されない。
【0033】
ブロック48において、ピンは、ピンリンクプレートの中にプレス嵌めされ、ブッシングは、ローラーリンクプレートの中にプレス嵌めされる。その結果得られる改良ステンレス鋼ローラーチェインは、改良ステンレス鋼ローラーチェインを駆動するために隣り合うローラーの間にスプロケットが嵌れるように、プレートにリンクすることによって保持される内側プレートと外側プレートとの間の複数のブッシング及びローラーを含む。この配列は、従来のステンレス鋼設計を大幅に上回るレベルの無欠性を改良ステンレス鋼ローラーチェインに与え、かつ従来の炭素鋼製品に伴う強度及び耐久性と両立する。
【0034】
組み立てられると、改良ステンレス鋼ローラーチェインは、図3のグラフに示すように、耐食性と強度を兼ね備えることができる。改良ステンレス鋼ローラーチェインは、600シリーズステンレス鋼ローラーチェインの耐食性並びに伝統的高強度炭素鋼ローラーチェインの荷重容量に充分に対抗でき、これらは全て業界で前例がない。
【0035】
図3に示す実施例において、図は、ローラーチェインの製造に使用される多様な材料について耐荷強度と耐食性の関係を示す。図に示すように、600シリーズ(AS)スチール及び304シリーズ(SS)スチールは、好ましい耐食性を示すが、炭素鋼、ニッケルメッキ鋼及び/又はプレミアムコーティングを持つスチール製品の耐荷容量の一部分しか与えない。逆に、炭素鋼並びにニッケルメッキ鋼、プレミアムコーティングを持つスチールなどは、より大きい強度を与えるが、耐食性はあまりない。本出願において開示する改良ステンレス鋼ローラーチェインは、他の材料/設計には欠けている強度、耐久性及び耐食性の結合を与える。したがって、改良ステンレス鋼ローラーチェインは、矢印50で示すように、合金鋼の最大強度及びステンレス鋼の最大腐食性に近づく。
【0036】
改良ステンレス鋼ローラーチェインは、又、伝統的炭素鋼ローラーチェインのために設計された標準及び/又はカスタムのアタッチメントリンクプレートに対処できる。付加的又は別の熱処理工程を採用して、製造段階又は加工段階において析出硬化スチールを最低可能硬度まで調整して、成形特徴部又はその周りにおける材料の裂けなしに部品を精度公差の範囲で成形できるようにする。硬化工程を含めて製造完了後に、これらのカスタムの改良ステンレス鋼ローラーチェインリンクプレートは、同等の硬化炭素鋼部品と同様の強度を得るが、耐食性強化の利点も持つ。
【0037】
したがって、実施例において、改良ステンレス鋼ローラーチェインの構成要素(例えば、ピン、ブッシング、ローラー、サイドプレート及び内側プレート)は、改良ステンレス鋼チェインの強度、耐久性及び/又は耐荷特性を更に改良するために、組立前に1つ又は複数の技法によって硬化される。例えば、ピン、ブッシング及び/又はローラー(例えば、耐荷要素)の設計は、特殊な耐食性高硬化性等級のステンレス鋼を利用できる。これは更に本出願において開示される先進的工法に合わせて設計され施工される。いくつかの実施例において、本出願において開示する成形工程及び技法は、構成要素の1つ又はそれ以上のための多様な硬化ステンレス鋼に応用できる。いくつかの非限定的実施例において、硬化ステンレス鋼のタイプは、合金を含めて、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼並びに多様な等級の硬化ステンレス鋼の1つ又はそれ以上を含むことができる。
【0038】
いくつかの実施例において、構成要素の表面に圧縮力を加え(ショットピーニング又はその他の同様の工程によって)、その後研磨及び/又は不動態化工程を加えることは、基礎材料全体の疲労寿命及び耐食性を著しく改良する。例えば、研磨/不動態化工程は、表面から残留表面欠陥及び遊離フェライトを除去して、ステンレス鋼にとって最も有利な不動態化形態の1つのためにクロム/ニッケル表面層を強化する。その結果得られるステンレス鋼チェインは、改良された耐食性レベルを示す。
【0039】
例えば、不動態化法は、材料を「不動態化」するように調整し、それによって、環境腐食の効果を抑制する。いくつかの実施例において、不動態化工程は、基礎材料との化学反応の結果、コーティングとして塗布される材料層を生成する。それに加えて又はその代わりに、コーティングは、空気中の元素に曝されたときの自発的酸化から構成される。技法として、不動態化は、腐食に対する外殻を生成するための、金属酸化物などの保護物質のライトコートの使用である。不動態化は、金属物質を強化しその外観を保存する。それに加えて又はその代わりに、空気に曝されたとき、多くの金属は、自然に、銀の変色など、硬質で比較的不活性の表面を形成する。
【0040】
ショットピーニングは、金属表面に圧縮残留応力層を生成し、それによって基礎金属の機械的特性を修正するために使用される工程である。いくつかの実施例において、材料の表面は、材料の塑性変形を生じるのに充分な力のショット(例えば、丸い金属、ガラス又はセラミック粒子)の衝撃を受ける。この技法は、金属構成要素を強化し、その応力を軽減する。
【0041】
改良ステンレス鋼ローラーチェインの組立及び組成は、従来のローラーチェインを凌ぐ更なる利点を有する。例えば、開示する材料タイプの組合せは、典型的な外因性腐食に対して強いだけでなく、腐食テストにおいて目立つ電食腐食を示さなかった。
【0042】
ピンリンクプレートへのピンのプレス嵌め及びローラーリンプレートへのブッシングのプレス嵌めは、従来のステンレス鋼設計を大幅に上回る無欠性のレベルを改良ステンレス鋼ローラーチェインに与え、かつ従来のステンレス鋼ローラーチェインより欠陥に対する回復力が強く、従来の炭素鋼のみに通常関連付けられる一貫した強度及び耐久性を有するローラーチェインを与える。その結果、改良ステンレス鋼ローラーチェインは、不整合及び捻じれに対する強さを含めて多様な用途において欠陥に対してより回復性が強い。
【0043】
サイドプレートは、ローラーチェインが引張り荷重を受けたとき自然のプレート「カッピング」が好ましく作用して上記の成形工程の1つ又はそれ以上の結果である疲労強度を増大する特定の向きに組み立てられる。例えば、機械加工は、制御された材料除去及び/又は精製工程によって材料を所望の形状及び/又はサイズにカット(又は機械加工)する多様な工程を含むことができる。レーザーカットは、工業製品製造用の金属などの材料をカットするためにレーザーを使用する技術及び技法を採用する。高圧水流カッター(ウォータージェット)は、金属部品の製作において採用できる高圧水又は水と研磨物質の混合を使用して多様な材料をカットできるカットツールである。ブランキングは、金属製作工程であり、この工程中、金属加工品は、パンチされたとき一次金属ストリップ又はシートから取り外される。本出願において説明する改良ステンレス鋼ローラーチェインの場合、取り外された材料(例えば、ブランク)は、サイドプレートである。
【0044】
更に、ピン、ブッシング及びプレートの硬度仕様は、例えばローラーとブッシングのスライド面間が接触したとき付着によって生じる摩耗など、伝統的ステンレス鋼ローラーチェインに生じる可能性のある焼付き又は「コールドウェルディング」を防止するように設計される。焼付きは、特に、ローラーチェインが重荷重を受けて作動するときに問題になる。例えば、アルミニウムは、非常に焼付きし易い金属であり、一方、焼きなまし(軟化)スチールは多少焼付きに強い。逆に、完全に硬化されたスチールは、焼付きに対して非常に強い。
【0045】
構成要素の工程、設計及び配列の結果として、本出願において開示する改良ステンレス鋼ローラーチェインは、従来のステンレス鋼ローラーチェインと比べて無欠性を増し、炭素鋼ローラーチェインに対抗できる。
【0046】
従来のローラーチェインに対する本出願において開示するステンレス鋼ローラーチェインの改良点は、最適化された構成要素の精密製造及び組立てによって得られる。その結果、炭素鋼材料の強度及び耐摩耗性と、ステンレス鋼材料の耐食性及び耐熱性を結合しながら、応用又はOEM機械への修正なしに改良ステンレス鋼ローラーチェインが任意の既存のローラーチェインに取って代われるように、ASME B29.1に完全準拠する。
【0047】
改良ステンレス鋼ローラーチェインは、工場事前潤滑(factory pre-lubrication)又は表面コーティングなしに完全ステンレス鋼組成を持つ。したがって、既存のステンレス鋼チェイン製品と同等に清掃及び衛生用途(食品インターフェイスなど)に適する。
【0048】
改良ステンレス鋼ローラーチェインのステンレス鋼構成は、開示する性能強化の特徴と結合して、高温でも(即ち約930°F又は500℃)、従来のローラーチェインに比べて強化された強度及び摩耗特性を改良ステンレス鋼ローラーチェインに与える。
【0049】
改良ステンレス鋼ローラーチェインは、食品加工、化学薬品曝露及びオーブンを含めた(但しこれに限定されない)多様な用途に付加価値を与える。これらの用途において、既存の市販製品は、現在、耐食性の低さ又はその固有の強度の低さのために耐用寿命が短い。このような「スーパーステンレス」スチールチェインは、これらの条件において秀でると期待される。
【0050】
本出願において使用する場合、「及び/又は」は、「及び/又は」に伴うリストの中の項目の1つ又はそれ以上を意味する。例えば、「x及び/又はy」は、3要素セット{(x)、(y)、(x、y)}の任意の要素を意味する。言い換えると、「x及び/又はy」は、「x及びyの一方又は両方」を意味する。別の例として、「x、y及び/又はz」は、7要素セット{(x)、(y)、(z)、(x、y)、(x、z)、(y、z)、(x、y、z)}の任意の要素を意味する。言い換えると、「x、y及び/又はz」は、「x、y及びzの1つ又はそれ以上」を意味する。本出願において使用する場合、「代表的」は、非限定的例、事例又は例証であることを意味する。本出願において使用する場合、「例えば」は、1つ又は複数の非限定的例、事例又は例証のリストの起点となる。
【0051】
本出願のローラーチェイン、方法及び/又はシステムについて、特定の実現形態を参照して説明したが、本出願の方法及び/又はシステムの範囲から逸脱することなく様々な変更を加え、同等物で代替できることが当業者には分かるはずである。例えば、方法及び/又は工程を含めて開示する実施例のブロック及び/又は構成要素は、組合せ、分割、再配列及び/又はその他の修正を加えることができる。更に、本開示の範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本開示の教示に適応させるために多くの修正を加えることができる。従って、本出願の方法及び/又はシステムは、開示する特定の実現形態に限定されない。本出願の方法及び/又はシステムは、文字通りかつ均等論に基づき、請求項の範囲に含まれる全ての実現形態を含む。
図1
図2
図3
【国際調査報告】