(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-524016(P2021-524016A)
(43)【公表日】2021年9月9日
(54)【発明の名称】タンパク質のハイスループット分析法及びその適用ライブラリー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20210813BHJP
C40B 50/06 20060101ALI20210813BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20210813BHJP
C07K 2/00 20060101ALI20210813BHJP
C40B 20/04 20060101ALI20210813BHJP
C40B 30/04 20060101ALI20210813BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20210813BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20210813BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20210813BHJP
C12N 5/075 20100101ALN20210813BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20210813BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20210813BHJP
【FI】
G01N33/53 D
C40B50/06
A01K67/027
C07K2/00
C40B20/04
C40B30/04
C12N15/62 ZZNA
C07K19/00
C07K16/00
C12N5/075
C12N5/0735
C12N5/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2020-542301(P2020-542301)
(86)(22)【出願日】2019年1月9日
(85)【翻訳文提出日】2020年8月5日
(86)【国際出願番号】CN2019071005
(87)【国際公開番号】WO2019149040
(87)【国際公開日】20190808
(31)【優先権主張番号】201810096299.3
(32)【優先日】2018年1月31日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520285879
【氏名又は名称】中国科学院分子細胞科学卓越創新中心
【氏名又は名称原語表記】CENTER FOR EXCELLENCE IN MOLECULAR CELL SCIENCE, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】李勁松
(72)【発明者】
【氏名】蒋▲ジン▼
(72)【発明者】
【氏名】▲ジョウ▼▲ユン▼
(72)【発明者】
【氏名】李林
(72)【発明者】
【氏名】李党生
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AA91Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA46
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
タンパク質のハイスループット分析法及びその適用ライブラリーであって、タンパク質のハイスループット分析法では、タグ付きセミクローンマウスライブラリーを使用し、1又は複数のタグタンパク質抗体で複数の興味のある異なる標的タンパク質を並行的に特定して分析する。前記のタグ付きセミクローンマウスライブラリーにおいて、各セミクローンマウスは、雄性発生半数体胚性幹細胞を卵子に注入し、培養して取得したセミクローンマウス又はその有性生殖の子孫である。前記雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれているため、前記セミクローンマウスは、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能である。これにより、生体高分子の研究に、ハイスループットであり、生体内におけるリアルタイムで動的な研究に適した体系が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質のハイスループット分析法であって、
タグ付きセミクローンマウスライブラリーを使用し、1又は複数のタグタンパク質抗体で複数の興味のある異なる標的タンパク質を並行的に特定して分析し、上記のタグ付きセミクローンマウスライブラリーにおいて、各セミクローンマウスは雄性発生半数体胚性幹細胞を卵子に注入し、培養して取得したセミクローンマウス又はその有性生殖の子孫であり、前記雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれており、前記セミクローンマウスは、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能である分析法。
【請求項2】
前記分析法は、更に、
A1)前記興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、前記タグタンパク質の全部又は一部は融合タンパク質の表面から露出しており、
A2)前記興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、前記タグタンパク質は興味のある標的タンパク質のN末端又はC末端に位置しており、
A3)前記タグタンパク質は、Flag、HA、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、橙色蛍光タンパク質、Myc、His、GST、Strep、CBP、MBP、iDimerize、ProteoTuner、Shield1、SNAPタグ、CLIPタグ、ACPタグ、MCPタグ、Haloタグ、Aviタグ、TAPタグ、Lumio(登録商標)タグのうちの1又は複数から選択され、
A4)前記雄性発生半数体胚性幹細胞のH19 DMR及びIG−DMRはノックアウトされ、
A5)前記雄性発生半数体胚性幹細胞は、タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーに由来し、前記タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーにおいて、各雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれており、
A6)前記タグ付きセミクローンマウスライブラリーにおいて、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質は全て同じであるか、或いは、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質がタグタンパク質の組み合わせを構成し、
A7)まず、タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーを用いてタグ付きセミクローンマウスライブラリーを構築し、前記タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーにおいて、各雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれている、
のうちの1又は任意の複数の特徴を含むことを特徴とする請求項1に記載のタンパク質のハイスループット分析法。
【請求項3】
前記タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーにおいて、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質は全て同じであるか、或いは、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質がタグタンパク質の組み合わせを構成することを特徴とする請求項2に記載のタンパク質のハイスループット分析法。
【請求項4】
前記分析法は、生体内におけるリアルタイムで動的な分析に適していることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質のハイスループット分析法。
【請求項5】
前記タンパク質の分析法には、興味のある標的タンパク質の抗体の調製又は使用は含まれないことを特徴とする請求項1に記載のタンパク質のハイスループット分析法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタンパク質のハイスループット分析法に適用され
るタグ付きセミクローンマウスライブラリーの構築方法であって、
1)興味のある標的タンパク質の組み合わせを決定し、前記組み合わせに対応するタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーを提供し、前記タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーにおいて、各雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれており、
2)タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーにおける各雄性発生半数体胚性幹細胞をそれぞれ卵子に注入し、培養してセミクローンマウスを取得し、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能なセミクローンマウスをスクリーニングし、スクリーニングした初代のセミクローンマウス又はその有性生殖子孫によってタグ付きセミクローンマウスライブラリーを構築する、とのステップを含む構築方法。
【請求項7】
前記タグ付きセミクローンマウスライブラリーは、更に、
B1)前記興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、前記タグタンパク質の全部又は一部は融合タンパク質の表面から露出しており、
B2)前記興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、前記タグタンパク質は興味のある標的タンパク質のN末端又はC末端に位置しており、
B3)前記タグタンパク質は、Flag、HA、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、橙色蛍光タンパク質、Myc、His、GST、Strep、CBP、MBP、iDimerize、ProteoTuner、Shield1、SNAPタグ、CLIPタグ、ACPタグ、MCPタグ、Haloタグ、Aviタグ、TAPタグ、Lumio(登録商標)タグのうちの1又は複数から選択され、
B4)前記雄性発生半数体胚性幹細胞のH19 DMR及びIG−DMRはノックアウトされ、
B5)前記雄性発生半数体胚性幹細胞は、タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーに由来し、前記タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーにおいて、各雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれており、
B6)前記タグ付きセミクローンマウスライブラリーにおいて、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質は全て同じであるか、或いは、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質がタグタンパク質の組み合わせを構成する、
のうちの1又は任意の複数の特徴を含むことを特徴とする請求項6に記載のタグ付きセミクローンマウスライブラリーの構築方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタンパク質のハイスループット分析法に適用されるタグ付きセミクローンマウスライブラリーであって、
前記タグ付きセミクローンマウスライブラリーにおいて、各セミクローンマウスが発現する興味のある標的タンパク質はいずれもタグタンパク質と融合発現し、各セミクローンマウスは、雄性発生半数体胚性幹細胞を卵子に注入し、培養して取得したセミクローンマウス又はその有性生殖の子孫であり、前記雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれているタグ付きセミクローンマウスライブラリー。
【請求項9】
前記タグ付きセミクローンマウスライブラリーは、更に、
C1)前記興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、前記タグタンパク質の全部又は一部は融合タンパク質の表面から露出しており、
C2)前記興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、前記タグタンパク質は興味のある標的タンパク質のN末端又はC末端に位置しており、
C3)前記タグタンパク質は、Flag、HA、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、橙色蛍光タンパク質、Myc、His
、GST、Strep、CBP、MBP、iDimerize、ProteoTuner、Shield1、SNAPタグ、CLIPタグ、ACPタグ、MCPタグ、Haloタグ、Aviタグ、TAPタグ、Lumio(登録商標)タグのうちの1又は複数から選択され、
C4)前記雄性発生半数体胚性幹細胞のH19 DMR及びIG−DMRはノックアウトされ、
C5)前記雄性発生半数体胚性幹細胞は、タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーに由来し、
C6)前記タグ付きセミクローンマウスライブラリーにおいて、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質は全て同じであるか、或いは、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質がタグタンパク質の組み合わせを構成し、
C7)前記タグ付きセミクローンマウスライブラリーは、請求項6又は7に記載の方法で構築して取得される、
のうちの1又は任意の複数の特徴を含むことを特徴とする請求項8に記載のタグ付きセミクローンマウスライブラリー。
【請求項10】
タンパク質の分析、タンパク質の機能研究又は薬物研究分野に適用される請求項8又は9に記載のタグ付きセミクローンマウスライブラリー又は前記ライブラリー由来のセミクローンマウスの用途。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタンパク質のハイスループット分析法に適用されるタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーの構築方法であって、
1)興味のある標的タンパク質の組み合わせを決定し、前記興味のある標的タンパク質の組み合わせにおける各興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子をそれぞれ含むよう、各雄性発生半数体胚性幹細胞をそれぞれ遺伝子改造し、
2)興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能な雄性発生半数体胚性幹細胞をスクリーニングし、
3)スクリーニングした雄性発生半数体胚性幹細胞の初代細胞又はその継代半数体細胞を品種保全し、ライブラリーを構築してタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーを取得する、とのステップを含む構築方法。
【請求項12】
更に、
D1)前記興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、前記タグタンパク質の全部又は一部は融合タンパク質の表面から露出しており、
D2)前記興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、前記タグタンパク質は興味のある標的タンパク質のN末端又はC末端に位置しており、
D3)前記タグタンパク質は、Flag、HA、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、橙色蛍光タンパク質、Myc、His、GST、Strep、CBP、MBP、iDimerize、ProteoTuner、Shield1、SNAPタグ、CLIPタグ、ACPタグ、MCPタグ、Haloタグ、Aviタグ、TAPタグ、Lumio(登録商標)タグのうちの1又は複数から選択され、
D4)前記雄性発生半数体胚性幹細胞のH19 DMR及びIG−DMRはノックアウトされ、
D5)前記雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーにおいて、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質は全て同じであるか、或いは、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質が複数のタグタンパク質を含む組み合わせを構成する、
のうちの1又は任意の複数の特徴を含むことを特徴とする請求項11に記載のタグ付き
雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーの構築方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタンパク質のハイスループット分析法に適用されるタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーであって、
前記タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーにおいて、各雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれており、前記雄性発生半数体胚性幹細胞を卵子に注入し、培養して取得したセミクローンマウスは、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能であるタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリー。
【請求項14】
前記タグ付きセミクローンマウスライブラリーは、更に、
前記興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、前記タグタンパク質の全部又は一部は融合タンパク質の表面から露出しており、
E1)前記興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、前記タグタンパク質は興味のある標的タンパク質のN末端又はC末端に位置しており、
E2)前記タグタンパク質は、Flag、HA、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、橙色蛍光タンパク質、Myc、His、GST、Strep、CBP、MBP、iDimerize、ProteoTuner、Shield1、SNAPタグ、CLIPタグ、ACPタグ、MCPタグ、Haloタグ、Aviタグ、TAPタグ、Lumio(登録商標)タグのうちの1又は複数から選択され、
E3)前記雄性発生半数体胚性幹細胞のH19 DMR及びIG−DMRはノックアウトされ、
E4)前記タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーにおいて、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質は全て同じであるか、或いは、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質がタグタンパク質の組み合わせを構成し、
E5)前記タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーは、請求項10又は11に記載の方法で構築して取得される、
のうちの1又は任意の複数の特徴を含むことを特徴とする請求項13に記載のタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリー。
【請求項15】
タンパク質の分析、タンパク質の機能研究又は薬物研究分野に適用される請求項13又は14に記載のタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリー又は前記ライブラリー由来の雄性発生半数体胚性幹細胞の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学分野に関し、特にプロテオミクス研究分野に関し、とりわけ、タンパク質のハイスループット分析法及びその適用ライブラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ヒトゲノム計画によって、タンパク質をコードする26000余りの機能遺伝子が発見及びマッピングされている。しかし、このうち42%の遺伝子については未だ機能が知られていない。また、既知の遺伝子については、酵素が10.28%、ヌクレアーゼが7.5%、シグナル伝達が12.2%、転写因子が6.0%、シグナル分子が1.2%、受容体分子が5.3%、選択的調節分子が3.2%等となっている。これら機能遺伝子の働きを発見及び把握することは、生命の理解や新薬のスクリーニングにとって重要な意味を持つ。タンパク質機能の研究では、対応する抗体の調製が不可欠な作業となるが、抗体の取得には、1)調製が煩雑であり、コストが嵩む、2)多くのタンパク質は抗体を持っていない、3)由来の違いによる抗体の特異性や研究目的の違いによって、同一のタンパク質にも様々な種類の抗体が存在するため、実験の違いに応じて異なる抗体を選択せねばならない、4)細胞内及び体内においてタンパク質を研究する場合、抗体の多くは十分に機能を発揮できない、5)同一の抗体メーカーであっても抗体の調製ロットによって自然な差異が存在する場合がある、等の課題が存在する。これらの課題は科学研究の時間や経費の膨大な浪費につながり、研究者にとって極めて手間がかかることから、研究の進捗が制約されている。
【0003】
卵子と精子が結合して形成される全能性の受精卵から生命は始まる。胚が発育し、最終的に200種類あまりの異なる体細胞を備えた生命個体を形成するという過程は極めて複雑である。受精卵から生物個体への発育過程において、細胞は、それまでの個性や状態を維持するか、別の個性や状態に変化するかという選択に常に直面することになる。細胞の個性や状態の維持及び変化は、細胞自身に内在する遺伝的要因に制御されるほか、細胞を取り巻く環境要因によっても調整される。つまり、細胞内外の要因が互いに作用し合うことで、細胞の運命に変化可能性や転換といった特徴が備わることになる。また、生命個体は誕生後にも、成長、成熟、老いという過程を経るが、このような全ての変化の物質的基礎はタンパク質を含む生体高分子である。しかし、生体高分子は生命活動においてどのようにその機能を発揮するのだろうか。また、生体高分子同士はどのように協調し、役割を発揮しているのだろう。これらの問題提起は生命を理解するための一助となり、且つ、生命を更にコントロールし、疾病を回避するための理論的裏付けを提供することにもなる。ところが、現在のところ、生体高分子の研究については、生体内におけるリアルタイムで動的な研究に適した体系が不足している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の欠点に鑑みて、本発明は一の局面において、タグ付きセミクローンマウスライブラリーを使用し、1又は複数のタグタンパク質抗体で複数の興味のある異なる標的タンパク質を並行的に特定して分析するタンパク質のハイスループット分析法を提供する。タグ付きセミクローンマウスライブラリーにおいて、各セミクローンマウスは、雄性発生半数体胚性幹細胞を卵子に注入し、培養して取得したセミクローンマウス又はその有性生殖の子孫である。前記雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれているため、前記セミクローンマウスは、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能である。
【0005】
本発明は、第2の局面において、更に、上記のタンパク質のハイスループット分析法に適用されるタグ付きセミクローンマウスライブラリー及びその構築方法を提供する。
【0006】
本発明のタグ付きセミクローンマウスライブラリーにおいて、各セミクローンマウスが発現する興味のある標的タンパク質はいずれもタグタンパク質と融合発現する。各セミクローンマウスは、雄性発生半数体胚性幹細胞を卵子に注入し、培養して取得したセミクローンマウス又はその有性生殖の子孫である。前記雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれている。
【0007】
本発明におけるタグ付きセミクローンマウスライブラリー又は前記ライブラリー由来のセミクローンマウスは、タンパク質の分析、タンパク質の機能研究又は薬物研究分野に適用可能である。
【0008】
本発明は、第3の局面において、更に、上記のタンパク質のハイスループット分析法に適用されるタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリー及びその構築方法を提供する。
【0009】
本発明のタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーにおいて、各雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれている。前記雄性発生半数体胚性幹細胞を卵子に注入し、培養して取得したセミクローンマウスは、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能である。
【0010】
本発明におけるタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリー又は前記ライブラリー由来の雄性発生半数体胚性幹細胞は、タンパク質の分析、タンパク質の機能研究、薬物研究分野に適用可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の有益な効果が得られる。
a)タンパク質の科学研究が大幅に簡易化され、煩雑で複雑な抗体調製過程が回避されるとともに、高価な抗体を必要とすることもない。これにより、抗体の調製が難しいという標的タンパク質研究における課題が解決される。また、一般的な「タグ」抗体を利用することで、プロテオーム解析及びタンパク質間相互作用ネットワークの解析を実現し、薬物標的を手軽にスクリーニングできるため、疾患の診断や治療に良質の解析手段及び手頃な解析コストを提供可能となる。
【0012】
b)本発明を応用することで、タンパク質研究を、細胞から各発育段階、更には成体の各組織・器官にまで水平展開可能となる。本発明を利用すれば、生体内におけるリアルタイムで動的な定性・定量観測の実現、細胞内のタンパク質又はRNA分子間の作用ネットワークの解明、未知のタンパク質発現プロファイル及び生理機能の探索、個体の全発育過程の監視制御の実現等が可能となる。
【0013】
c)同一基準でタグを調製し、同一の抗体を応用することで、研究システムの一致性を向上させられるため、結果の信頼性が大幅に上昇する。よって、低コスト、高効率、大規模との特性を有する。
【0014】
d)タグが付加された興味のあるタンパク質をコードする遺伝子は細胞形式で保存可能であり、タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーを構築している。よって、必要
なときに卵子に注入してマウスを取得すればよく、動物飼育等のコストが大幅に節約される。また、従来のタンパク質過剰発現の研究方法と比較して、研究開発の時間が極めて大幅に短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、Brd4の内在性ゲノムにおけるTAPタグの付加を示す図であり、
図1のAは、マウスのBrd4ゲノム及びその3つのアイソフォームを示しており、
図1のBは、Brd4の全長タンパク質のアイソフォーム3のゲノムにおいてC末端又はN末端にTAPタグを付加した場合を示しており、
図1のCは、Brd4のC末端又はN末端にTAPタグを付加した場合に対応するアイソフォーム1、2及び3を示している。
【
図2】
図2は、Brd4−N−ATFのタグ配列である。
【
図3】
図3は、Brd4−C−FTAのタグ配列である。
【
図4】
図4は、Brd4−C−HTAのタグ配列である。
【
図5】
図5は、TAPタグが付加されたBrd4のタンパク質の発現検出を示している。
【
図6】
図6は、細胞内におけるTAPタグが付加されたBrd4のマッピング検出を示しており、
図6のAは、Brd4−C−HTAが付加された雄性発生半数体胚性幹細胞及びこれに対応するICAHCIにより構築されたES細胞系(#で示すサンプル)の免疫蛍光検出図、
図6のBは、Brd4−C−FTA、Brd4−N−ATFが付加された雄性発生半数体胚性幹細胞及びこれに対応するICAHCIにより構築されたES細胞系(#で示すサンプル)の免疫蛍光検出図である。
【
図7】
図7は、TAPタグが付加されたBrd4のCo−IPによるタンパク質結合検出を示しており、
図7のAは、NC及びBrd4−N−ATF雄性発生半数体胚性幹細胞のCo−IPによる検出結果であり、
図7のBは、Brd4−C−FTA、Brd4−N−ATF及びBrd4−C−HTA雄性発生半数体胚性幹細胞のCo−IPによる検出結果である。
【
図8】
図8は、TAPタグが付加されたブロモドメイン遺伝子のタンパク質発現レベルの検出を示しており、
図8のAは、DKO−AG−haESCs雄性発生半数体幹細胞系のC−HTAタグが付加されたブロモドメイン遺伝子におけるAtad2b、Baz2b、Brd3、Cecr2のタンパク質発現レベルの検出結果であり、
図8のBは、DKO−AG−haESCs雄性発生半数体幹細胞系のC−HTAタグが付加されたブロモドメイン遺伝子におけるBaz1b、Pbrm1のタンパク質発現レベルの検出結果である。
【
図9】
図9は、Phf7のN末端にKI Flagが付加されたマウスにおいてゲノム上のPhf7の結合部位を研究したものであり、
図9のAは、雄性発生半数体胚性幹細胞のPhf7内在性ゲノムのN末端に3×Flag配列を挿入した場合を示す図であり、
図9のBは、ICAHCI注入によりPhf7−KI−Flagヘテロ接合マウスF0を取得し、F1ヘテロ接合マウス同士を交配させて取得したPhf7−KI−Flagホモ接合雄マウスについての検出結果であり、
図9のCは、Phf7−KI−Flagホモ接合雄マウスから分離した異なる生殖細胞から検出したPhf7−Flagの発現の結果であり、
図9のDは、Co−IPによってPhf7−KI−Flagホモ接合雄マウスの生殖細胞におけるPhf7−Flagの発現を検出した結果であり、
図9のEは、Flag抗体を用いてPhf7をchip−seq検出し、プロモーター/エクソン/イントロン/インタージェニック領域におけるエンリッチメント状況をH3K4me3 chip−seq及びubH2A Chip−seqの結果と比較したものであり、
図9のFは、Phf7 chip−seqとH3K4me3 chip−seqの結合領域におけるpeaksの重なり度合を示すベン図であり、
図9のGは、H3K4me3&Phf7 common、H3K4me3 unique、Phf7 uniqueの結果におけるubH2Aの信号分布を示すヒートマップであり、
図9のHはubH2Aの信号結果の値である。
【
図10】
図10は、Hspg2のC末端にKI Flagを付加したマウスの胚期E15.5日目のタンパク質検出を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明におけるタンパク質のハイスループット分析法では、タグ付きセミクローンマウスライブラリーを使用し、1又は複数のタグタンパク質抗体で複数の興味のある異なる標的タンパク質を並行的に特定して分析する。上記のタグ付きセミクローンマウスライブラリーにおいて、各セミクローンマウスは、雄性発生半数体胚性幹細胞を卵子に注入し、培養して取得したセミクローンマウス又はその有性生殖の子孫である。前記雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれているため、前記セミクローンマウスは、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能である。
【0017】
タンパク質のハイスループット分析法と称するのは、次の理由による。即ち、当該分析法では、タグ付きセミクローンマウスライブラリーを使用し、ライブラリー内のタグに対応する有限個数の汎用的なタグタンパク質抗体を利用するだけで、ライブラリー内の興味のある複数の標的タンパク質を同時に並行研究可能である。そのため、興味のある標的タンパク質の抗体を調製する必要がないだけでなく、同様の操作フローを用いて同時に複数の興味のある標的タンパク質につき生体内研究を実施することも可能である。これは、興味のある標的タンパク質の抗体を調製せねばならない従来の研究方法とは異なっており、タンパク質の科学研究が極めて大幅に簡易化されるため、研究効率が向上する。本発明におけるタンパク質の分析法によれば、興味のある標的タンパク質の抗体を調製又は使用する必要がない。特に、抗体の調製が困難な場合や、非常に高価な抗体しか持たない標的タンパク質の研究にとっては十分明らかなメリットがある。当該方法は、一般的なタンパク質の生体内研究の考え方を変えるものであり、薬物スクリーニング、薬物の作用メカニズムの分析、薬物代謝等の研究に極めて大きな利便性をもたらすものである。且つ、同様の抗体を用いて研究を行うため、抗体と抗原の結合親和性等も比較的一致することになる。よって、興味のある標的タンパク質の違いに応じて異なる標的タンパク質の抗体を利用する場合と比べ、並行比較を行う際に、タグタンパク質抗体の研究が成熟していることも相まって、感度及び特異性のいずれにおいても発現が安定的となり、参考可能性にいっそう優れる。
【0018】
本発明における前記雄性発生半数体胚性幹細胞は、幹細胞の自己複製能力と多能性を有しているため、精子に代わって卵母細胞と結合し、胚の完全な発育を支えることが可能である。
【0019】
本発明で記載するセミクローンマウスとは、雄性発生半数体胚性幹細胞を卵子に注入したあとの各段階での形態のことであり、二倍体胚性幹細胞形態、胚期形態、誕生後の各発育成長段階の形態を含み得る。
【0020】
タグタンパク質抗体を利用して興味のある標的タンパク質を特定し、分析する際には、主に、タグタンパク質抗体とタグタンパク質との抗原抗体結合の性質を利用する。興味のある標的タンパク質とタグタンパク質は融合発現するため、タグタンパク質抗体は興味のある標的タンパク質を合わせて特定可能である。
【0021】
ウェスタンブロッティング、免疫蛍光検出(IF)、免疫沈降(IP)、共免疫沈降(Co−IP)、クロマチン免疫沈降(Chip−seq)、RNA免疫沈降(RIP)、クロスリンク免疫沈降(CLIP)、質量分析法MS、Elisa、タンデムアフィニティ精製、蛍光共鳴エネルギー移動技術、レポーター遺伝子融合マッピング等を含む(ただし、これらに限らない)従来の抗原と抗体との特異的結合反応を利用する免疫分析試験法
は、いずれも本発明におけるタグタンパク質抗体を利用した興味のある標的タンパク質の特定・分析に適用される。具体的な分析・実験の実行時には、分析サンプルとして、各形態のセミクローンマウスから採取した生体切片、組織サンプル、体液サンプル、インビトロ細胞サンプル、器官サンプル等を使用可能である。
【0022】
本発明におけるタンパク質の分析法には、タンパク質の発現、タンパク質の時空間マッピング、タンパク質間相互作用、タンパク質の代謝、タンパク質のDNA結合ドメイン、タンパク質とRNAの結合ドメイン等の分析が含まれる(ただし、これらに限らない)。
【0023】
具体的には、ウエスタンブロッティング及びElisaによってタンパク質の発現状況を特定可能であり、免疫蛍光検出及びレポーター遺伝子融合マッピングによってタンパク質の時空間マッピングが可能である。また、共免疫沈降技術、タンデムアフィニティ精製技術及び蛍光共鳴エネルギー移動技術、共免疫沈降−質量分析法(Co−IP−MS)によってタンパク質間相互作用を分析可能である。また、核磁気共鳴(NMR)、質量分析法(MS)、クロマトグラフィー(HPLC,GC)、及びクロマトグラフィー−質量分析法技術によってタンパク質の代謝を分析し、Chip−seqによってタンパク質のDNA結合ドメインを分析する。また、RIP、CLIP、ノーザンブロッティングによってタンパク質とRNAの特異的結合ドメインを分析するとともに、上記の各システムによってタンパク質の生理代謝ネットワークを総合的に分析・研究する。
【0024】
本発明を利用してセミクローンマウス由来の各成長段階、各組織のサンプルを分析することで、タンパク質について、マウス体内の各組織における発現、任意の具体的成長段階における発現、又は一定の成長段階における発現を理解可能となる。よって、本発明のタンパク質の分析法は、生体内におけるリアルタイムで動的な分析に適していると考えられる。
【0025】
なお、理解すべき点として、本発明におけるタンパク質の分析法は、疾患の診断や治療を目的とするものではない。
【0026】
本発明におけるタンパク質の分析法は、タグ付きセミクローンマウスライブラリーを利用して実現可能である。本発明のタグ付きセミクローンマウスライブラリーにおいて、各セミクローンマウスが発現する興味のある標的タンパク質は、いずれもタグタンパク質と融合発現する。各セミクローンマウスは、雄性発生半数体胚性幹細胞を卵子に注入し、培養して取得したセミクローンマウスとしてもよいし、その有性生殖の子孫としてもよい。セミクローンマウスを構築するための雄性発生半数体胚性幹細胞には、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子が含まれていなければならない。
【0027】
タグを付加可能な雄性発生半数体胚性幹細胞はICAHCIのドナーであり、ICAHCI法によってセミクローン胚が得られる。また、更に、胚移植法によって適切な母マウスの体内で前記セミクローン胚を培養することで、セミクローンマウスを得ることが可能である。
【0028】
構築済みのタグ付きセミクローンマウスライブラリーをベースに、当該ライブラリーから研究対象の標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を融合発現可能なセミクローンマウスを選択するだけで、タンパク質の生体内分析を迅速に実現可能である。
【0029】
セミクローンマウスの繁殖や品種保全には多大なコストがかかるほか、広大な場所を占有する必要もある。そのため、本発明におけるタンパク質の分析法では、タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーを優先的に利用してセミクローンマウス又はセミクロー
ンマウスライブラリーを作製する。合理化された雄性発生半数体胚性幹細胞技術に基づけば、雄性発生半数体胚性幹細胞を体外で複数回にわたり遺伝操作し、且つ体外で長期間培養したとしても、セミクローンマウスを安定的に取得可能である。また、構築済みのタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーをベースに、タンパク質の分析前にライブラリーから標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質の発現に適した雄性発生半数体胚性幹細胞を選択して卵子に注入するだけで、わずか1ヶ月で所望のセミクローンマウス又はセミクローンマウスライブラリーを得ることが可能なため、調製時間が短く、効率がよい。且つ、大量のマウスを飼育するためのケージや時間が節約されるため、コストが大幅に削減される。タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーは細胞形式でされ、必要なときに卵子に注入するだけでマウスを得ることが可能なため、動物の品種保全に要するコストが大幅に削減される。
【0030】
研究開発の目的に基づき、タグ付きセミクローンマウスライブラリー又はタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーから、タグタンパク質と融合発現する興味のある標的タンパク質を発現可能な種類を決定し、興味のある標的タンパク質の組み合わせを構成することが可能である。そして、興味のある標的タンパク質を発現可能な組み合わせのうち、各興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質におけるタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞又はタグ付きセミクローンマウスを組み合わせることで、タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリー又はタグ付きセミクローンマウスライブラリーを構成する。
【0031】
興味のある標的タンパク質の組み合わせにおける各興味のある標的タンパク質の選択は、必要に応じて設定すればよい。例えば、ドメイン分類、機能分類、位置分類、シグナル経路分類、疾患経路分類等に基づき、興味のある標的タンパク質の組み合わせの構成を決定すればよい。ドメイン分類には、ブロモドメインファミリー、デス・ドメイン(death−domain)ファミリー、PHDフィンガーファミリー、POUドメインファミリー、リングフィンガーファミリー、SETドメインファミリー等が含まれる(ただし、これらに限らない)。機能分類には、細胞接着、RNA結合、DNA修復、細胞表面受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、転写因子、炎症関連因子、キナーゼ、脂質輸送代謝関連因子、ストレス関連因子、アポトーシス、核内受容体、細胞周期調節因子、熱ショックタンパク質、成長因子、遊走等が含まれる(ただし、これらに限らない)。位置分類には、細胞質、核小体、核膜、中心体、ゴルジ体、小胞体、ミトコンドリア、リボソーム、細胞膜、リソソーム等が含まれる(ただし、これらに限らない)。シグナル経路分類には、カスパーゼファミリー、IAPファミリー、TRAFファミリー、TNF受容体ファミリー、TNFリガンドファミリー、P53シグナル経路、DNA損傷応答経路、細胞周期停止通路、Notchシグナル経路、低分子量GTPアーゼタンパク質シグナル経路、Wntシグナル経路等が含まれる(ただし、これらに限らない)。疾患経路分類には、癌、免疫系疾患、神経変性疾患、循環器系疾患、代謝障害、感染症循環器系疾患等が含まれる(ただし、これらに限らない)。
【0032】
タグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞の構築には、:
1)各興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現する遺伝子を含むよう、雄性発生半数体胚性幹細胞を遺伝子改造するステップ、
2)興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能な雄性発生半数体胚性幹細胞をスクリーニングするステップ、及び
3)スクリーニングした雄性発生半数体胚性幹細胞の初代細胞又はその継代半数体細胞を品種保全し、ライブラリーを構築してタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーを取得するステップを含む。
【0033】
ステップ1)では、従来技術を用いて雄性発生半数体胚性幹細胞の遺伝子改造を行えば
よい。本発明の遺伝子改造では、マウスの雄性発生半数体胚性幹細胞に存在している興味のある標的タンパク質をコードする遺伝子について、遺伝子改造により本来の位置(in
situ)にタグタンパク質遺伝子を導入してもよいし、マウスの雄性発生半数体胚性幹細胞内に、外来の興味のある標的タンパク質をコードする遺伝子を導入してから、当該外来の興味のある標的タンパク質をコードする遺伝子の本来の位置(in situ)にタグタンパク質遺伝子を導入してもよい。或いは、マウスの雄性発生半数体胚性幹細胞に、タグが付加された外来の興味のある標的タンパク質をコードする遺伝子を直接導入してもよい。遺伝子改造は、ZFN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)、TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)及びCRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeat)等の遺伝子操作を含む(ただし、これらに限らない)従来の遺伝子ターゲティングや相同組換え等の技術を用いて完了すればよい。本発明の好ましい実施形態では、CRISPR−Cas9技術媒介型の遺伝子編集技術を利用し、雄性発生半数体胚性幹細胞に対し遺伝子ターゲティングを行うことでタグタンパク質遺伝子を導入する。
【0034】
ステップ2)では、PCRによって遺伝子型を鑑定し、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能な雄性発生半数体胚性幹細胞をスクリーニングすればよい。遺伝子型については、鑑定対象の具体的状況に応じ、複数組のプライマーをデザインして決定すればよい。更に、タグタンパク質抗体を用い、正確にシーケンシングされた雄性発生半数体胚性幹細胞をウエスタンブロッティング検出することで、興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質を発現可能な雄性発生半数体胚性幹細胞をスクリーニングしてもよい。
【0035】
ステップ3)では、一般的な細胞の継代及び品種保全の方法を雄性発生半数体胚性幹細胞の継代及び品種保全に用いればよい。また、半数体細胞はフローサイトメーターを用いて収集すればよい。
【0036】
タグタンパク質抗体を利用して興味のある標的タンパク質を検出しやすいよう、好ましくは、雄性発生半数体胚性幹細胞又はセミクローンマウスが発現する興味のある標的タンパク質とタグタンパク質との融合タンパク質において、タグタンパク質の全部又は一部は融合タンパク質の表面から露出している。例えば、OMIC Tools、I−TASSER、HHpred、RaptorX、IntFOLD、NAMD(NAnoscale
Molecular Dynamics)及びVMDといった関連のシミュレーションソフトによって、デザインする融合タンパク質がタグタンパク質を露出可能か否かを予測すればよい。
【0037】
好ましい方式としては、前記タグタンパク質を興味のある標的タンパク質のN末端及び/又はC末端に位置させる。このような方式は、大多数の興味のある標的タンパク質に適合し得る。また、タグタンパク質を興味のある標的タンパク質のN末端又はC末端に位置させたとき、タグタンパク質のエピトープを露出させられないことが分かった場合には、タグタンパク質を興味のある標的タンパク質における適切な位置に挿入することで、エピトープを露出可能としてもよい。例えば、OMIC Tools、I−TASSER、HHpred、RaptorX、IntFOLD、NAMD(NAnoscale Molecular Dynamics)及びVMDといったソフトウェアによって関連のデザインを行ってもよい。例えば、シグナルペプチドが存在する場合には、タグタンパク質を興味のある標的タンパク質のC末端にデザインしてもよいし、タグタンパク質をN末端のシグナルペプチドの後方にデザインしてもよい。
【0038】
興味のある標的タンパク質のN末端にタグタンパク質を融合する場合には、タグタンパク質の遺伝子を、興味のある標的タンパク質の開始コドンATGの後ろであって興味のあ
る標的タンパク質をコードする遺伝子の前に導入すればよい。また、興味のある標的タンパク質のC末端にタグタンパク質を融合する場合には、タグタンパク質の遺伝子を、興味のある標的タンパク質の終止コドンの前であって興味のある標的タンパク質をコードする遺伝子の後ろに導入すればよい。また、興味のある標的タンパク質のN末端にシグナルペプチドが存在する場合には、興味のある標的タンパク質のシグナルペプチドのコード遺伝子と興味のある標的タンパク質の残りのコード遺伝子との間にタグタンパク質の遺伝子を導入すればよい。
【0039】
本発明で使用するタグタンパク質は、Flag、HA、緑色蛍光タンパク質(TurboGFP、TagGFP2、mUKG、Superfolder GFP、Emerald、EGFP、Monomeric Azami Green、mWasabi、Clover、mNeonGreen、NowGFP、mClover3)、赤色蛍光タンパク質(TagRFP、TagRFP−T、RRvT、mRuby、mRuby2、mTangerine、mApple、mStrawberry、FusionRed、mCherry、mNectarine、mRuby3、mScarlet、mScarlet−I)、青色蛍光タンパク質(ECFP、Cerulean、mCerulean3、SCFP3A、CyPet、mTurquoise、mTurquoise2、TagCFP、mTFP1、monomeric Midoriishi−Cyan、Aquamarine)、黄色蛍光タンパク質(TagYFP、EYFP、Topaz、Venus、SYFP2、Citrine、Ypet、lanRFP−ΔS83、mPapaya1,mCyRFP1)、橙色蛍光タンパク質(Monomeric Kusabira−Orange、mOrange、mOrange2、mKOκ、mKO2)、Myc、His、GST、Strep、CBP、MBP、iDimerize、ProteoTuner、Shield1、SNAPタグ、CLIPタグ、ACPタグ、MCPタグ、Haloタグ、Aviタグ、TAPタグ、Lumio(登録商標)タグ等の1又は複数から選択可能である。具体的なタグタンパク質を選択するにあたっては、次の原則を順守すればよい。即ち、蛍光共鳴エネルギー移動技術、レポーター遺伝子融合マッピングの場合には、必要に応じて、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、橙色蛍光タンパク質、SNAPタグ、CLIPタグ、ACPタグ、MCPタグ、Lumio(登録商標)タグ等を選択すればよい。また、特異的コントロールによるタンパク質の高速分解においては、必要に応じてProteoTunerを選択すればよい。また、誘導的タンパク質再配置又はタンパク質の相互作用を実現する際には、必要に応じてiDimerizeを選択すればよい。また、ウエスタンブロッティング、免疫蛍光検出(IF)、共免疫沈降(Co−IP)、Chip−seq、質量分析法MS、Elisa、タンデムアフィニティ精製技術、ノーザンブロッティングの場合には、必要に応じて、Flag、HA、Myc、His、GST、Strep、CBP、MBP、Haloタグ、Aviタグ、TAPタグ等から1又は複数を選択すればよい。1つのタグ部位に複数のタグタンパク質を用いる場合には、各タグタンパク質同士を直接連結してもよいし、C−ペプチドを介して連結してもよい。何度も操作しやすいように、タグタンパク質の間には、特定の酵素によって酵素切断可能なタンパク質又はポリペプチド配列等を挿入してもよい。本発明の具体的実施例では、3×Flag−TEV−Avi、3×Flag−TEV−Avi及びHA−TEV−Aviをそれぞれブロモドメインタンパク質のタグタンパク質として選択する。
【0040】
研究により、雄性発生半数体胚性幹細胞のH19 DMR及びIG−DMRをノックアウトすることで、セミクローンマウスの出生効率の低さ及びセミクローンマウスの発育欠陥との課題を解決可能なことが分かっている。よって、本発明の雄性発生半数体胚性幹細胞は、H19 DMR及びIG−DMRがノックアウトされる雄性発生半数体胚性幹細胞とすることが好ましい。
【0041】
H19 DMRとは、H19−Igf2インプリンティングクラスタ内のメチル可変領域(DMR:differentially methylated region)のことである。H19 DMRの具体的な位置及び配列は、従来のメチル化シーケンス又は相同配列分析予測等の方法で明らかにできる。ヒトのH19 DMRは染色体1 1p1 5.5領域に位置しており、ネズミのH19 DMRは、7番染色体の遠位端におけるH19とIgf2の2つの遺伝子の間であって、H19遺伝子の上流の2kbから4kbの位置にあることが知られている。H19 DMRは父系対立遺伝子上でメチル化状態となる。これにより、CTCFタンパク質がこのメチル化領域に結合不可能となり、H19下流のエンハンサーがCTCFという障害を乗り越える必要がなくなる結果、上流のIgf2の発現が強化される一方、H19の発現は低下する。また、母系対立遺伝子上では脱メチル化状態となり、CTCFタンパク質がこのメチル化されていない領域に結合可能となる。これにより、H19下流のエンハンサーはH19の発現のみを強化可能となり、上流のIgf2についてはコントロール不可能となる。また、父系のH19 DMRをノックアウトした場合には、H19下流のエンハンサーはIgf2の発現を増加させられる。雄性発生半数体は父系由来であるため、理論的には完全なメチル化状態となるはずである。しかし、研究の結果、体外で培養した雄性発生半数体のH19 DMRのメチル化には異常な消去が発生し、脱メチル化状態となる結果、H19の発現が異常に増加する一方、Igf2の発現は減少することが分かった。そこで、H19 DMRをノックアウトすれば、このようなH19の発現の増加及びIgf2の発現の減少という異常状態を是正可能となる。
【0042】
IG−DMRとは、Dlk−Dio3インプリンティングクラスタ内のメチル可変領域(DMR:differentially methylated region)のことである。IG−DMRの具体的な位置及び配列は、従来のメチル化シーケンス又は相同配列分析予測等の方法で明らかにできる。マウスの場合、IG−DMRは12番染色体上であって、インプリンティングクラスタのDlk1とGtl2の2つの遺伝子の間における4.15kbの反復配列に位置しており、ヒトの場合には14番染色体(14q32.2)に位置することが知られている。IG−DMRが父系対立遺伝子上にある場合、この領域にはDNAメチル化が発生する。これにより、このインプリンティングクラスタの遺伝子Gtl2及び一部のmircroRNAは発現しないが、遺伝子Rtl1、Dlk1及びDio3は発現する。一方、母系対立遺伝子上にある場合には、この領域にDNAメチル化は発生しない(脱メチル化状態)。そのため、Gtl2及び一部のmircroRNAは発現するが、遺伝子Rtl1、Dlk1及びDio3は発現しない。研究の結果、雄性発生半数体(父系由来)と先天異常のあるSC動物では、本来はメチル化状態となるはずのIG−DMRのメチル化に異常な消去が発生する結果、遺伝子Rtl1、Dlk1及びDio3が沈黙し、Gtl2及び一部のmircroRNAが異常に活性化することが分かった。
【0043】
タグ付きセミクローンマウスライブラリー又はタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーを利用してタンパク質分析を行う場合、好ましい実施形態では、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質を全て同じとする。この場合には、1つのタグタンパク質又は複数のタグタンパク質を用いて興味のある標的タンパク質をタグ付け可能である。例えば、興味のある標的タンパク質のN末端又はC末端のみにタグタンパク質を融合発現させるか、興味のある標的タンパク質のN末端又はC末端に異なるタグタンパク質を用いて融合発現させる。複数のタグタンパク質を用いて興味のある標的タンパク質をタグ付けする場合には、各興味のある標的タンパク質がいずれも同様のいくつかのタグタンパク質と融合発現するよう保証するだけで、各興味のある標的タンパク質が同じタグタンパク質を備えるよう保証可能となる。また、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質を全て同じとすることで、並行分析操作を更に簡易化できるため、並行分析がより容易となる。
【0044】
言うまでもなく、タグ付きセミクローンマウスライブラリー又はタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞ライブラリーでは、各興味のある標的タンパク質と融合発現するタグタンパク質を異ならせてもよい。この場合にも、ライブラリー内のタグタンパク質は有限数のタグタンパク質から構成される組み合わせとなるため、当該有限数のタグタンパク質から構成される組み合わせのうちの各タグタンパク質の抗体を使用すれば、興味のある標的タンパク質の抗体を調製する必要なく、各興味のある標的タンパク質を同様に並行分析可能となる。
【0045】
本発明で提供するライブラリー内のマウス又は雄性発生胚性幹細胞を利用すれば、興味のある標的タンパク質を分析可能なだけでなく、薬物研究も実施可能である。本発明におけるライブラリー内のマウス又は雄性発生胚性幹細胞を薬物研究に適用する実施形態では、薬物の作用前後に興味のある標的タンパク質を研究することで薬物の作用メカニズムを理解する。また、他の実施形態では、薬物の作用前後におけるマウス体内の各興味のある標的タンパク質の発現の変化から、特定の作用を有する薬物をハイスループットスクリーニングしてもよい。また、他の実施形態では、タグ付きの毒性モデル動物を作製し、薬物の作用前後において、対応する毒性タンパク質の発現の変化を検出することで薬物代謝について生体内研究を行ってもよい。
【0046】
本発明で提供するライブラリー内のマウス又は雄性発生胚性幹細胞を利用すれば、興味のある標的タンパク質の発現のノックダウンについて機能研究を実施することも可能である。Trim21はE3ユビキチンリガーゼであり、抗体のFc領域と結合することで、抗体によって特定の認識エピトープ(即ち、抗原)に導かれ、下流のタンパク質分解経路を誘導することで、抗体が認識した抗原タンパク質を特異的に分解可能とする。本発明におけるライブラリー内の雄性発生胚性幹細胞をTrim21とタグタンパク質に対する特異的抗体に導入すれば、一過性トランスフェクションがなされるか、或いは、ゲノムがTrim21とタグタンパク質に対する特異的抗体のDNA配列に統合される結果、タグタンパク質と融合発現する標的タンパク質の特異的で迅速且つ高効率の分解を実現可能となる。且つ、条件付きでTrim21及びタグタンパク質抗体を発現させる場合、例えば、誘導型プロモーターTet−On/Offシステムで発現を駆動する場合には、ドキシサイクリン/テトラサイクリンで媒介される誘導型の特異的で高効率且つ迅速な標的タンパク質の分解を実現可能である。また、本発明におけるライブラリー内のマウスからF0世代のヘテロ接合タグを取得し、マウスにノックインしたあと、更に交配によってホモ接合タグがノックインされたF2子世代マウスを取得してもよい。ホモ接合F2子世代マウスは、組織特異性プロモーター又は誘導型プロモーターTet−On/OffシステムによってTrim21及びタグタンパク質抗体の発現が駆動されたツールマウスと交配することで、標的タンパク質の誘導可能な分解制御を実現することができ、これによりマウスの表現型及び生理指標の変化が検出される。
【0047】
以下に、特定の具体的実施例によって本発明の実施形態につき説明する。なお、本発明の保護の範囲は後述する特定の具体的実施方案に限らないと解釈すべきである。また、本発明の実施例で使用される用語は特定の具体的実施方案を記載するためのものであって、本発明の保護の範囲を制限するものではないと解釈すべきである。本発明の明細書及び請求の範囲では、本文中で別途明示しない限り、「1つ」「一の」及び「この」といった単数形には複数形が含まれる。
【0048】
別途定義しない限り、本発明で使用するあらゆる技術用語及び科学用語は、当業者が一般的に理解する意味と等しい。また、実施例で使用される具体的方法、デバイス、材料以外にも、当業者による従来技術の理解及び本発明の記載に基づいて、本発明の実施例における上記の方法、デバイス、材料と類似又は同等の従来技術における任意の方法、デバイ
ス及び材料を用いて本発明を実現してもよい。
【0049】
別途説明している場合を除き、本発明で開示される実験方法、検出方法、調製方法には、当業者にとって一般的な分子生物学、生物化学、クロマチン構造及び分析、分析化学、細胞培養、組換えDNA技術及び関連分野の一般技術が採用される。これらの技術については、従来文献に十分に説明されている。
【0050】
実験材料及び方法:
1.雄性発生半数体胚性幹細胞系の構築
すでに報告されている方法に基づき構築する(Yang,H.,Shi,L.,Wang,B.A.,Liang,D.,Zhong,C.,Liu,W.,Nie,Y.,Liu,J.,Zhao,J.,Gao,X.,et al.(2012).Generation of genetically modified mice by oocyte
injection of androgenetic haploid embryonic stem cells.Cell 149,605−617)。
【0051】
方法:
MII卵子の細胞核を除去して対応する精子頭部を注入した。マウスのMII卵子をヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)で処理してから14時間後に収集し、ピエゾ針を用いて、5μg/mlのサイトカラシンB(CB)を含有するHEPES−CZB培養液中で核を除去した。徐核後に、単一の精子頭部を卵細胞質に注入した。再構築した胚をCZB培養液内で1時間培養したあと、1mM Sr
2+を含有する活性化液に移して活性化した。活性化後に、全ての再構築胚をアミノ酸を含有するKSOM培養液に移し、37℃、5%CO
2条件下で培養した。そして、3.5日後に、桑実胚又は胞胚段階となった再構築胚をESC培地に移植した。
【0052】
再構築胚の透明帯を酸性タイロード(Acid Tyrode)液で消化して除去した。次に、各々をマウスの線維芽細胞栄養膜を敷き詰めた96ウェルマイクロプレートのウェルに移動させ、20%血清代替物(KSR)、1500U/ml LIF、3M CHIR99021及び1M PD0325901を含有するESC培地を用いて培養した。4〜5日培養したあと、細胞クローンをパンクレアチンで消化し、新鮮な栄養膜を敷き詰めた96ウェルマイクロプレートに移動させた。そして、細胞を更に大きくなるまで培養したあと、48ウェルマイクロプレートに継代し、更に6マイクロプレートへと継代した。日常的には、6マイクロプレートにのみ細胞を維持すればよいとした。半数体細胞を選別するために、胚性幹細胞をパンクレアチンで消化したあと、PBS(GIBCO)で1回洗浄してから、15μg/mlのHoechst 33342を含有するESC培地で30min水浴させた。その後、フローソーターBD FACS AriaIIで半数体1Nピーク形状の細胞を選別して収集し、続く培養によって雄性発生半数体胚性幹細胞系を取得した。
【0053】
H19 DMR及びIG−DMRをノックアウトした雄性発生半数体胚性幹細胞DKO−AG−haESCsを従来技術を参照して構築した。具体的には、国際公開第2017/000302号の記載を参照すればよい。
【0054】
2.タグ付き雄性発生胚性幹細胞の構築
CRISPR−Cas9プラスミドの構築:合成されたsgRNAの順方向オリゴヌクレオチド鎖と逆方向オリゴヌクレオチド鎖をアニーリングし、2本鎖のオリゴヌクレオチド鎖を取得したあと(本発明において、sgRNA配列とは、sgRNAの順方向オリゴヌクレオチド鎖の配列のことをいう)、BbsI(ニュー・イングランド・バイオラボ社)で酵素切断したpX330−mCherry(Addgene#98750)と接続し
た。
【0055】
KIドナーベクターの構築:合成した左右のホモロジーアーム増幅プライマーを用い、興味のある標的タンパク質遺伝子を含むゲノムから左右のホモロジーアームを増幅した。興味のある標的タンパク質がマウスの内在性タンパク質の場合には、マウスのゲノムを鋳型としてホモロジーアームを増幅可能であった。また、タグタンパク質の遺伝子が例えば20〜70bpのような非常に小さな断片の場合には、1本鎖DNAの合成及びアニーリングによって調製可能であった。また、タグタンパク質の遺伝子の長さが比較的長く、そのままでは合成不可能な場合には、Tベクター上に構築するか遺伝子合成を行ったあと、タグのハイフィデリティーPCR増幅を行うことで調製可能であった。左右のホモロジーアーム断片、タグタンパク質遺伝子断片及び線形化Tベクターをシームレスクローニング試薬キット(Seamless cloning kit)を用いて接続し、KIドナーベクターを取得した。
【0056】
構築した対応プラスミド及びKIドナーベクターを、説明書に従ってLipofectamine 2000(ライフテクノロジーズ社)により雄性発生半数体胚性幹細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションから12時間後にフローソータ(FACS AriaII,BDバイオサイエンス社)によって半数体細胞を選別したあと、比較的低い密度で敷き詰めた。そして、4〜5日成長させてから、クローンを1つ選別して続く株構築を実施した。最後に、取得したタグ付き雄性発生胚性幹細胞系をPCRシーケンシングの手法で鑑定した。
【0057】
CRISPR−Cas9技術媒介型の遺伝子編集技術は成熟した技術であり、CRISPR designサイト(http://crispr.mit.edu:8079/)を用いれば、オンラインで所望のsgRNA Oligosをデザイン可能である。sgRNAのデザインは、タグタンパク質を予め挿入する遺伝子座付近の25〜40bpのゲノム配列を選択して行った。また、タグタンパク質を予め挿入する遺伝子座の上流及び下流からそれぞれ適切な長さ(1kb〜1.5kb)のホモロジーアームを選択し、オンラインプライマーデザインサイトprimer3(http://primer3.ut.ee/)を利用して、左右のホモロジーアームの増幅プライマーをデザインした。そして、これにより、左右のホモロジーアームを増幅してKIドナーベクターを構築した。CRISPR−Cas9媒介型の遺伝子操作によって、雄性発生半数体胚性幹細胞の遺伝子編集を行い、タグ付きの興味のある標的タンパク質を発現可能な雄性発生半数体胚性幹細胞を取得した。
【0058】
興味のある標的タンパク質がマウス由来でない場合にも、CRISPR−Cas9技術媒介型の遺伝子編集技術を用い、発現される興味のある標的タンパク質を含有する雄性発生半数体胚性幹細胞を構築してから、更にタグタンパク質を挿入すればよい。
【0059】
3.タグ付きセミクローンマウスの構築
細胞質基質に対するタグ付き雄性発生半数体胚性幹細胞の注入(intracytoplasmic AG−haESCs injection,ICAHCI):
【0060】
セミクローン(SC)胚を取得するために、0.05μg/mlのコルヒチンを含有する培地でタグ付きAG−haESCsを8h処理し、細胞をM期に同期したあと、卵子の細胞質基質に注入した。消化されたAG−haESCsをHEPES−CZB培養液で3回洗浄してから、3%(w/v)ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone,PVP)を含有するHEPES−CZB培養液で再懸濁した。次に、ピエゾマイクロマニピュレータを用いてM期の各AG−haESCsの細胞核をMII卵子に注入した。そして、再構築した胚をCZB培養液内で1h培養してから、CBを含有しな
い活性化液で5〜6h活性化した。活性化後に、KSOM培養液内で、全ての再構築胚を37℃、5%CO
2条件下で培養した。そして、ICAHCI胚をKSOM培養液内で24h培養することで2細胞期胚を取得した。
【0061】
ICAHCIから取得した2細胞期胚を、0.5dpc(交配から0.5日後)の偽妊娠ICRマウスの各子宮内に30〜40個ずつ移植した。母マウスは妊娠から19.5日後に帝王切開を行うか、自然分娩した。出生したマウスは体表の液体を除去したあと有酸素インキュベーター内に入れた。続いて、代理出産母マウスによって生存生きているマウスを養育した。
【0062】
4.ウエスタンブロッティング(Western blot)分析
タンパク質阻害剤を含有するRIPA細胞溶解液(セル・シグナリング・テクノロジー社)を用いて検出対象の細胞を溶解し、BCAタンパク質濃度測定試薬キット(碧雲天(Beyotime)社)でタンパク質濃度を測定した。次に、タンパク質サンプルをSDS/PAGEで分離したあと、湿式法でニトロセルロース膜に移した。そして、5%のスキム粉ミルク/TBSTを用い、室温で膜を1時間ブロッキングした。一次抗体は4度で一晩ハイブリダイズし、TBSTで3回洗浄した。また、二次抗体は室温で1.5時間ハイブリダイズし、TBSTで3回洗浄した。最後に、発色液(天能社)を用いて発色させ、全自動化学発光画像解析システム(天能社)で撮影した。
【0063】
5.免疫蛍光分析
細胞をPBSで1回洗浄したあと、4%PFAを用いて室温で15分間固定するか、−20度に予め冷却しておいたメタノールを直接用いて5分間固定し、PBSで3回洗浄した。次に、0.2%トリトンX−100を用いて30分間透過処理を行った。続いて、ブロッキング溶液(1%BSAを含有するPBS)内で1時間ブロッキングしてから、細胞及びブロッキング溶液内で希釈された一次抗体を4度で一晩インキュベートし、PBSで3回洗浄した。次に、細胞及びブロッキング溶液内で希釈された二次抗体を室温で遮光しながら1時間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。そして、細胞及びPBS内で希釈されたDAPIを室温で遮光しながら5〜10分間インキュベートし、PBSで1回洗浄した。最後に、蛍光封入剤で封入し、4度で遮光して保存した。
【0064】
6.Co−IP分析
タンパク質阻害剤を含有するTNE細胞溶解液(50mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、1%NP−40)を用いて検出対象の細胞を溶解し、BCAタンパク質濃度測定試薬キット(碧雲天社)でタンパク質濃度を測定した。次に、適量の磁気ビーズを用い、定量後の細胞溶解液を4度で1時間前処理(pre−clean)した。そして、磁気ビーズを除去したあとに、タグ抗体と結合した磁気ビーズを添加し、4℃で回転させて一晩反応させた。続いて、タンパク質阻害剤を含有するTNE細胞溶解液を用いて磁気ビーズを4度で10分間、3回洗浄した。これに適量体積の1×SDS−PAGEタンパク質用サンプルローディングバッファを添加し、100℃の空気浴で10分間加熱した。IP後のタンパク質サンプルはSDS/PAGEで分離したあと、湿式法でニトロセルロース膜に移した。そして、5%のスキム粉ミルク/TBSTを用い、室温で膜を1時間ブロッキングした。一次抗体は4度で一晩ハイブリダイズし、TBSTで3回洗浄した。また、二次抗体は室温で1.5時間ハイブリダイズし、TBSTで3回洗浄した。最後に、発色液(天能社)を用いて発色させ、全自動化学発光画像解析システム(天能社)で撮影した。
【0065】
7.Chip−seqライブラリーの構築及びデータ分析
細胞に対し、ホルムアルデヒド固定、超音波粉砕及び異なる抗体添加による精製等のステップを実施したあと、最後に、精製断片のサイズが200〜500bpのDNAをライ
ブラリー構築に用いた。各抗体は10
7個の細胞に対応していた。ライブラリー構築に合格した各サンプルライブラリーをイルミナ社のNovaSeqにかけ、読み取り長150bpのリード(reads)を生成した。各サンプルライブラリのリード数は少なくとも20兆よりも多かった。測定したデータをマウスのゲノムmm10と照合し、1つだけ照合された場合にはリードを保持した。また、複数位置のリードが照合された場合には、照合結果が最良であった1つの位置を任意に選択して保持した。また、タンパク質作用エンリッチ領域(Peak)をデフォルトパラメータを用いて取得した。
【0066】
8.TAPタグが付加されたゲノムコピー数のリアルタイム定量PCR検出
ゲノムDNA抽出試薬キット(天根社)のフローを用い、検出対象サンプルのゲノムDNAを抽出した。リアルタイム定量PCRは、SYBR GreenリアルタイムPCRマスターミックス(東洋紡)を用いて完了した。20μlの反応系のうち、ゲノムDNA鋳型は10倍に希釈して1μl添加した。また、バイオ・ラッドCFX96リアルタイム定量PCR計で40サイクル増幅を行った。コピー数の計算にはTAPタグの値を用い、標的とする内在性ゲノムDNAの値と比較して算出した。また、データはCFX96リアルタイム定量PCR計付属のソフトウェアで分析した。
【実施例1】
【0067】
ブロモドメインを含む40個のマウス遺伝子に対するTandem affinity purification(TAP)タグの付加:
【0068】
ブロモドメインを含む40個のマウス遺伝子(表1)に対し、それぞれTandem affinity purification(TAP)タグを付加した。そして、TAPタグを用い、タグタンパク質と結合したタンパク質複合体又はDNA配列を抽出したあと、質量分析法MS及びChip−seq実験を行った。類似のブロモドメインを含む40個のマウス遺伝子についてMS及びChip−seq検出をそれぞれ実施し、これらに結合したタンパク質ネットワーク及びDNA結合ドメインの特異性を分析することで、ブロモドメインタンパク質の機能及び役割分担について研究を深めた。
【表1】
【0069】
A.TAPタグの配列及び付加位置の選択
Brd4タンパク質の場合を例示すると、Brd4は全部で3つのアイソフォームを有していた。アイソフォーム1、2、3はそれぞれ1401個、724個及び1402個のアミノ酸を発現したため(
図1A)、全長タンパク質のアイソフォーム3を選択してタグ
を付加した。このとき、対応するゲノムにおいてN末端とC末端にそれぞれタグを付加し、Brd4タンパク質に対するTAPタグの付加状況を検出した(
図1B)。Brd4のアイソフォーム1及び3のC末端は同じであったため、C末端のTAPタグはアイソフォーム1及び3に同時に付加可能であった。また、アイソフォーム1、2、3のN末端は全て同じであったため、N末端のTAPタグは3種類のアイソフォームに同時に付加可能であった。TAPタグについては、3×Flag−TEV−Avi又はHA−TEV−Aviの2種類の形式を選択した(
図1C)。N末端には3×Flag−TEV−Aviを付加し(N−ATFと略称)、C末端には3×Flag−TEV−Aviを付加するか(C−FTAと略称)、HA−TEV−Aviを付加した(C−HTAと略称)。具体的なタグ配列(
図2、
図3及び
図4参照)は、それぞれ次の通りであった。
Brd4−N−ATFタグのアミノ酸配列(SEQ ID NO:1):
GLNDIFEAQKIEWHEENLYFQGDYKDHDGDYKDHDIDYKDDDDK
Brd4−C−FTAタグのアミノ酸配列(SEQ ID NO:2):
DYKDHDGDYKDHDIDYKDDDDKENLYFQGGLNDIFEAQKIEWHE
Brd4−C−HTAタグのアミノ酸配列(SEQ ID NO:3):
YPYDVPDYAENLYFQGGLNDIFEAQKIEWHE
【0070】
B.Brd4ゲノムに対するTAPタグの付加
上記の2で記載した実験方法に基づき、DKO−AG−haESCs雄性発生半数体幹細胞系において、それぞれBrd4ゲノムDNAに対し、Brd4−N−ATF、Brd4−C−FTA及びBrd4−C−HTAターゲティングを行った。また、ホモロジーアームの増幅用鋳型はマウスのゲノムDNAとした。シーケンシングで正確に検証された細胞系をICAHCI注入することでセミクローン胞胚を取得し、相応のヘテロ接合を行って二倍体ES細胞系を構築した(表2及び表3)。
Brd4−N−ATF sgRNA配列(SEQ ID NO:4):
TGGGATCACTAGCATGTCTA
Brd4−C−FTA sgRNA配列(SEQ ID NO:5):
AATCTTTTTTGAGAGCACCC
Brd4−C−HTA sgRNA配列(SEQ ID NO:6):
AATCTTTTTTGAGAGCACCC
Brd4−N−ATFタグの塩基配列(SEQ ID NO:7):
GGTCTGAACGACATCTTCGAGGCTCAGAAAATCGAATGGCACGAAgagaacctgtacttccagggcGACTACAAAGACCATGACGGTGATTATAAAGATCATGACATCGACTACAAGGATGACGATGACAAG
Brd4−C−FTAタグの塩基配列(SEQ ID NO:8):
GACTACAAAGACCATGACGGTGATTATAAAGATCATGACATCGACTACAAGGATGACGATGACAAGgagaacctgtacttccagggcGGTCTGAACGACATCTTCGAGGCTCAGAAAATCGAATGGCACGAA
Brd4−C−HTAタグの塩基配列(SEQ ID NO:9):
TATCCGTATGATGTGCCGGATTATGCGgagaacctgtacttccagggcGGTCTGAACGACATCTTCGAGGCTCAGAAAATCGAATGGCACGAA
Brd4−N−ATFの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Brd4−gN−F4(SEQ ID NO:10):ggctgccatgtagttccagt
Brd4−gN−R4(SEQ ID NO:11):ggcctgcgttgtagacattt
Brd4−gN−F6(SEQ ID NO:12):ccaagcccagatagatggctagt
Brd4−gN−R2(SEQ ID NO:13):aaccattcactggggttcagatt
Brd4−C−FTAの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Brd4−gC−F(SEQ ID NO:14):gaggagaagattcactcaccaatca
Brd4−gC−R(SEQ ID NO:15):caagccagaatacctagttgcttca
Brd4−C−HTAの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Brd4−gC−F(SEQ ID NO:16):gaggagaagattcactcaccaatca
Brd4−gC−R(SEQ ID NO:17):caagccagaatacctagttgcttca
【表2】
【表3】
【0071】
TAPタグが付加されたゲノムコピー数をリアルタイムPCRにより検出した。TAPタグ配列の違いごとに2対のプライマーをそれぞれデザインし、Brd4のN末端とC末端の内在性ゲノムDNA配列を参照遺伝子として比較した。各雄性発生半数体胚性幹細胞は、それぞれICAHCIにより構築された2〜4株のヘテロ接合ES細胞系(「#」で表示)に対応していた。また、ターゲティングされていない雄性発生半数体胚性幹細胞をNCで示した。結果より、雄性発生半数体胚性幹細胞のTAPタグのコピー数は約1であり、ヘテロ接合ES細胞系のTAPタグのコピー数は約0.5であった。これより、TAPタグは定位置融合であって、組み換え遺伝子のランダムな導入は存在しないことが示された(表4)。
Brd4−N−ATFリアルタイムPCRの増幅プライマーの配列:
FTA−F1(SEQ ID NO:18):CAAGGATGACGATGACAAGg
FTA−R1(SEQ ID NO:19):CTGAGCCTCGAAGATGTCGT
FTA−F2(SEQ ID NO:20):CAAGGATGACGATGACAAGg
FTA−R2(SEQ ID NO:21):TTCGTGCCATTCGATTTTCT
ATF−F1(SEQ ID NO:22):CTTCGAGGCTCAGAAAATCG
ATF−R1(SEQ ID NO:23):GTCTTTGTAGTCgccctgga
ATF−F2(SEQ ID NO:24):AAATCGAATGGCACGAAgag
ATF−R2(SEQ ID NO:25):GTCTTTGTAGTCgccctgga
HTA−F2(SEQ ID NO:26):GCGgagaacctgtacttcca
HTA−R2(SEQ ID NO:27):TTCGTGCCATTCGATTTTCT
HTA−F3(SEQ ID NO:28):TATGATGTGCCGGATTATGC
HTA−R3(SEQ ID NO:29):CTGAGCCTCGAAGATGTCGT
Brd4−gN−CN−F(SEQ ID NO:30):gtccacagtggcctttcaat
Brd4−gN−CN−R(SEQ ID NO:31):agctgtcttcagaccctcca
Brd4−gC−CN−F1(SEQ ID NO:32):ttgccttgaacagaccctct
Brd4−gC−CN−R1(SEQ ID NO:33):acacaggtgggaaggaactg
Brd4−gC−CN−F2(SEQ ID NO:34):acagaagcaggagccaaaaa
Brd4−gC−CN−R2(SEQ ID NO:35):aaaggtcaagaggcaggtga
【表4】
【0072】
C.TAPタグが付加されたBrd4のタンパク質発現レベルの検出
Brd4−N−ATF、Brd4−C−FTA及びBrd4−C−HTAが付加された1〜2株の雄性発生半数体胚性幹細胞(例えば4等の単数字で示す)と、これらにそれぞれ対応するICAHCIにより構築された2〜4株のES細胞系(例えば4−5等の「数字−数字」で示す)を各々選択し、サンプリングしてタンパク質電気泳動検出を行った。また、ターゲティングされていない雄性発生半数体胚性幹細胞をNCで示した。Flag又はHA抗体を用いて検出したところ、C末端のTAPタグはBrd4の大きなタンパク質(約250kDa)を特異的に検出できるにすぎなかったが、N末端では確実にBrd4の大きなタンパク質と小さなタンパク質(約120kDa)を特異的に検出可能であった。ただし、タンパク質の大きさはいずれも予測よりもやや大きかった。また、ヘテロ接合ES細胞系のTAPタグが付加されたBrd4の発現量は雄性発生半数体胚性幹細胞よりも明らかに少なかったが、双方ともに発現が見られた。ヘテロ接合ES細胞の発現量から見た場合には、C末端のTAPタグの方が良好であった。また、Brd4抗体によって検出した場合には非常に強い非特異的バンド(約150kDa)が見られ、250kDa付近でのみ微弱なタンパク質信号を検出可能であった。しかし、露光を強くしたところ、バンドの大きさがTAPタグの有無によって変化し、当該バンドが確かにBrd4のタンパク質であることが示された。WB(westen blot)の結果から見ると、FlagタグとHAタグはいずれも成功しており、Brd4タンパク質のN末端及びC末端のTAPタグも成功していた。TAPタグの抗体は、特異性及び感度の双方においてBrd
4自身の抗体よりも明らかに優れていた。
【0073】
D.細胞内におけるTAPタグが付加されたBrd4のマッピング検出
Brd4−N−ATF、Brd4−C−FTA及びBrd4−C−HTAが付加された1株の雄性発生半数体胚性幹細胞と、これに対応するICAHCIにより構築された1株のES細胞系をそれぞれ選択し、免疫蛍光検出(IF)を実施した。HA抗体とBrd4抗体はいずれも特異的に細胞核内にマッピングされ、IF検出の感度はHA>Brd4であった(
図6A)。また、Flag抗体は、細胞核内にマッピングが見られるが、細胞膜上にもマッピングが見られることを検出可能であった(
図6B)。これより、C−HTAの核注入は正常であったが、C−FTA又はN−ATFでは一部のタンパク質が核注入されなかったことが示された。IFの結果より、HAのTAPタグはFlag TAPタグよりも優れていた。
【0074】
E.TAPタグが付加されたBrd4のCo−IPによるタンパク質結合検出
Brd4−N−ATF、Brd4−C−FTA及びBrd4−C−HTAが付加された1株の雄性発生半数体胚性幹細胞をそれぞれ選択し、TAPタグが付加されたBrd4のCo−IPによるタンパク質結合検出を行った。その結果、NC及びBrd4−N−ATF雄性発生半数体胚性幹細胞系については、Brd4抗体を結合したビーズによって内在性のBrd4タンパク質を確実にIP可能なことが分かった。Brd4抗体を用いて検出することで、250kDaの大きなタンパク質と110/120kDaの小さなタンパク質の双方を検出可能であった。また、LB3溶解液条件下では、更に150kDaの不純タンパク質も検出可能であった。Brd4−N−ATFの大小のタンパク質におけるN末端にはTAPタグが付加されているため、大小のタンパク質の分子量はいずれもNCよりも大きかった。一方、Flag抗体で検出した場合、NC細胞は完全なネガティブコントロールとなったが、Brd4−N−ATF細胞については250kDaの大きなタンパク質と120kDaの小さなタンパク質を検出可能であった。また、NC及びBrd4−N−ATF細胞は、Co−IPによって既知の結合タンパク質CDK9との結合を検出可能であった。ただし、IP前の細胞溶解液全体のinputと比べて結合効率は低く、LB1溶解液条件下の方が結合は多かった。また、NC及びBrd4−N−ATF細胞は、Co−IPによってH3タンパク質との結合を検出可能であった(
図7A)。また、Brd4−C−FTA及びBrd4−N−ATF雄性発生半数体胚性幹細胞系は、Flag抗体を結合したビーズによって内在性のBrd4タンパク質を確実にIP可能であった。また、Flag及びBrd4抗体を用いた場合、Brd4−C−FTAについては250kDaの大きなタンパク質のみが、Brd4−N−ATFについては250kDaの大きなタンパク質と120kDaの小さなタンパク質がそれぞれ検出された。また、Brd4抗体のinputについては、不純タンパク質の発現量が高過ぎたため、不純タンパク質しか検出されなかった。また、Brd4−C−HTA雄性発生半数体胚性幹細胞系は、HA抗体を結合したビーズで内在性のBrd4タンパク質を確実にIP可能であったが、HA及びBrd4抗体では250kDaの大きなタンパク質のみがそれぞれ検出された。inputとの比率から見て、HA−ビーズはFlag−ビーズよりもBrd4の回収効率が高く、HTAタグの方が良好であることが示された。また、Brd4−C−FTAとBrd4−C−HTAについては、Co−IPによっていずれもH3との結合を検出可能であり、LB1溶解液条件下では結合がより多くなった。Brd4−C−HTAの結合量はBrd4−C−FTAよりも多く、HTAタグの方が良好であることが示された。また、Brd4−N−ATFについては、Co−IPによるH3との結合が相対的に弱かった。これは、小さなタンパク質の作用が関係している可能性がある(
図7B)。実験より、次の点が証明された。即ち、Brd4−N−ATF、Brd4−C−FTA及びBrd4−C−HTAの付加は正確であった。また、TAPタグが付加されたBrd4の機能は正常であり、報告されているタンパク質との結合が確実に可能であった。HTAタグはFTAタグよりも優れていおり、LB1溶解液下でのCo−IPが条件としてはより適切であった。
【0075】
F.TAPタグが付加されたその他のブロモドメイン遺伝子のタンパク質発現レベルの検出
上記の実験結果を参照して、ブロモドメイン遺伝子におけるAtad2b、Baz2b、Brd3、Cecr2、Baz1b、Pbrm1に対し、DKO−AG−haESCs雄性発生半数体幹細胞系にC−HTAを付加した。sgRNA及びホモロジーアームとそのプライマーのデザインには一般的なものを採用し、TAPタグが付加されたブロモドメイン遺伝子のタンパク質発現レベルを検出した。その結果、以下が明らかとなった。即ち、細胞系Atad2b−C−HTA−9、Baz2b−C−HTA−4/7/10/26、Brd3−C−HTA−2/4/14、Cecr2−C−HTA−9/22/26/28はいずれもタグ付けが正確であり、HA抗体でも発現を検出可能であったが、タンパク質の大きさは予測よりも30kDaほど大きかった。発現の強弱については、Brd3(露光5s)>Cecr2(30s)>Atad2b/Baz2b(180s)であった(
図8A)。また、細胞系Baz1b−C−HTA−22/24、Pbrm1−C−HTA−15/22/30はいずれもタグ付けが正確であり、HA抗体でも発現を検出可能であった。発現の強弱については、Baz1b(HA抗体,露光10s)>Pbrm1(HA,20s)>Pbrm1(Pbrm1,20s)>Baz1b(Baz1b,120s)であった。また、HA抗体の感度及び特異性はいずれもタンパク質自身の抗体よりも優れていた(
図8B)。且つ、当該方法によれば、HA抗体を用いるだけでこれらTAPタグが付加されたタンパク質の発現量の違いを水平比較可能なため、異なる組織におけるゲノムの全タンパク質の発現プロファイルが実現される。
実験で使用した関連配列:
Atad2b−C−HTA sgRNA配列(SEQ ID NO:36):
ACTCAGCATGAGAAGTTCAT
Baz2b−C−HTA sgRNA配列(SEQ ID NO:37):
ACAACTTCAGCTCACTTTGA
Brd3−C−HTA sgRNA配列(SEQ ID NO:38):
ACTCAGAGTGAACTCGGACT
Cecr2−C−HTA sgRNA配列(SEQ ID NO:39):
TGTACTTTCAGAGCTAGTCC
Baz1b−C−HTA sgRNA配列(SEQ ID NO:40):
CGGAGACAGAAGAAGTAAAG
Pbrm1−C−HTA sgRNA配列(SEQ ID NO:41):
GATGTGATTAAACATTTTCT
Atad2b−C−HTAの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Atad2b−gC−F(SEQ ID NO:42):
AGGAGCCGCCAGAAATGAAA
Atad2b−gC−R(SEQ ID NO:43):
TTTGCCTCTTTGCAACTGCC
Baz2b−C−HTAの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Baz2b−gC−F(SEQ ID NO:44):
CGGGCGTGACTCGTCTATTA
Baz2b−gC−R(SEQ ID NO:45):
TCTATGTGCCTCCAACAGGC
Brd3−C−HTAの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Brd3−gC−F(SEQ ID NO:46):
CAGATGACAGGTCGTAGCCC
Brd3−gC−R(SEQ ID NO:47):
GAACAGGGACCCGTGTCAAA
Cecr2−C−HTAの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Cecr2−gC−F(SEQ ID NO:48):
AACAGTTGCCACCGCATAAG
Cecr2−gC−R(SEQ ID NO:49):
GAGGGAAAACTCCATTGACCCC
Baz1b−C−HTAの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Baz1b−gC−F(SEQ ID NO:50):
TTGATCGCGGCATCACTTCA
Baz1b−gC−R(SEQ ID NO:51):
GATGCTGACACTCCGCTAGA
Pbrm1−C−HTAの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Pbrm1−gC−F(SEQ ID NO:52):
AGTCTGCCAAGCTGTTCACT
Pbrm1−gC−R(SEQ ID NO:53):
ACCACCCAAGCAGGTTCAAA
【実施例2】
【0076】
Phf7のN末端にKI Flagが付加されたマウスの構築:
市場には使用しやすいPhf7抗体が存在しないため、当該遺伝子の機能を研究するために、雄性発生半数体胚性幹細胞のPhf7内在性ゲノムにおけるN末端に3×Flag配列を挿入し(
図9A)、ICAHCI注入によってPhf7−KI−Flagヘテロ接合マウスF0を取得した。そして、F1ヘテロ接合マウス同士を交配させ、Phf7−KI−Flagホモ接合雄マウスを取得した(
図9B)。
Phf7−N−Flag sgRNA配列(SEQ ID NO:54):
TTCTAGATAGGAAGGACAGA
Phf7−N−Flagの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Phf7−gN−F(SEQ ID NO:55):aaagtagatccccgtggggacac
Phf7−gN−R(SEQ ID NO:56):gtttgtacggctgacaaggagc
【0077】
Phf7−KI−Flagホモ接合雄マウスから分離した異なる生殖細胞から、Phf7−Flagの発現を検出した(
図9C)。且つ、Co−IPによってPhf7−KI−Flagホモ接合雄マウスの生殖細胞におけるPhf7−Flagの発現を検出した(
図9D)。また、Flag抗体を用いてPhf7をchip−seq検出し、エクソン/イントロン/インタージェニック(exon/intron/intergenic)領域におけるエンリッチメント状況をH3K4me3 chip−seq及びubH2A Chip−seqの結果と比較した(
図9E)。また、ベン図は、Phf7 chip−seqとH3K4me3 chip−seqの結合領域におけるpeaksが高度に重なり合ったことを示している(
図9F)。また、ヒートマップは、H3K4me3&Phf7 common、H3K4me3 unique、Phf7 uniqueの結果におけるubH2Aの信号分布状況を示しており(
図9G)、ubH2Aの信号結果の値を具体的に統計している(
図9H)。実験より、Phf7−KI−Flagが付加されたマウスの構築はPhf7抗体による限界から解放され、Flag抗体を用いることで、タグ付けされ
たマウス体内の内在性Phf7タンパク質の機能研究を完了可能であることが明らかとなった。
【実施例3】
【0078】
Hspg2のC末端にKI Flagが付加されたマウスの構築:
市場には使用しやすいHspg2抗体が存在しない。そこで、当該遺伝子の機能を研究するために、Hspg2タンパク質のN末端にシグナルペプチドが存在することを考慮して、雄性発生半数体胚性幹細胞のHspg2内在性ゲノムにおけるC末端に3×flag配列を挿入し、ICAHCI注入によってHspg2−KI−Flagヘテロ接合マウスを取得した。
Hspg2−C−Flag sgRNA配列(SEQ ID NO:57):
TCATAGGCACCCACCTGCCT
Hspg2−C−Flagの左右ホモロジーアーム増幅プライマーの配列:
Hspg2−gC−F(SEQ ID NO:58):GTCCTAATGTGGCGGTCAAC
Hspg2−gC−R(SEQ ID NO:59):ACCTCTTCCAGTCCCCTTGTC
【0079】
胚期E15.5日目のHspg2−KI−Flagヘテロ接合マウスの胚を採取し、全ての胚サンプルにつきタンパク質電気泳動を行ってHspg2−Flagの発現を検出した。その結果、Hspg2タンパク質のC末端のタグ付けに成功したことが示された(
図10)。
【0080】
上記の実施例は本発明の原理と効果を例示的に説明するものにすぎず、本発明を制限するものではない。本技術を熟知する者であれば、本発明の精神及び範囲を逸脱しないことを前提に、上記の実施例を補足又は変形可能である。従って、本発明で開示した精神及び技術的思想から逸脱することなく当業者が遂行するあらゆる等価の補足又は変形もまた本発明の特許請求の範囲に含まれる。
【国際調査報告】