(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-524032(P2021-524032A)
(43)【公表日】2021年9月9日
(54)【発明の名称】GASP−1顆粒を標的とする結合性タンパク質及びキメラ抗原受容体T細胞並びにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20210813BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20210813BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20210813BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20210813BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20210813BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20210813BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20210813BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20210813BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20210813BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20210813BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20210813BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20210813BHJP
C12N 5/09 20100101ALN20210813BHJP
【FI】
G01N33/574 A
A61P35/00
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61K47/68
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C12Q1/04ZNA
C07K16/46
C12N5/0783
C12N5/10
C12P21/08
C07K14/705
C07K19/00
C07K16/18
C12N5/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2020-564392(P2020-564392)
(86)(22)【出願日】2019年5月9日
(85)【翻訳文提出日】2021年1月9日
(86)【国際出願番号】US2019031556
(87)【国際公開番号】WO2019217705
(87)【国際公開日】20191114
(31)【優先権主張番号】62/768,325
(32)【優先日】2018年11月16日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/670,182
(32)【優先日】2018年5月11日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520442704
【氏名又は名称】ハルシオン セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン・フランク・エヌ
(72)【発明者】
【氏名】ツジンスキ・ジョージ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】ルオ・ソロモン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ジェフ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
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4H045FA71
4H045FA74
(57)【要約】
Gタンパク質共役型受容体関連ソーティングタンパク質1(GASP-1)又はその断片を発現する顆粒を有する細胞を検出するための方法が提供される。検出方法は、(a)細胞を有効量の結合性タンパク質と接触させること(ここで結合性タンパク質はGASP-1に特異的に結合する抗原結合性断片を含む);及び(b)結合性タンパク質に結合した顆粒を有する細胞を特定することを含み得る。GASP-1顆粒は、細胞質中又は細胞表面上にあり得る。また、キメラ抗原受容体を含むT細胞、抗GASP-1抗体又は二重特異性結合性タンパク質を生産するための方法が提供される。さらに、GASP-1介在性の疾患を処置するための、又はエクソソーム、マイクロベシクル若しくはオンコソームを不活性化するための方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gタンパク質共役型受容体関連ソーティングタンパク質1(GASP-1)又はその断片を発現する顆粒を有する細胞を検出する方法であって、
(a)細胞を有効量の結合性タンパク質と接触させること(ここで結合性タンパク質はGASP-1に特異的に結合する抗原結合性断片を含む);及び
(b)結合性タンパク質に結合した顆粒を有する細胞を特定すること(ここで特定された細胞はGASP-1顆粒を有する細胞である)を含む、前記方法。
【請求項2】
細胞におけるGASP-1顆粒の径が、0.1から5.0 μmの範囲内である、請求項1の方法。
【請求項3】
細胞におけるGASP-1顆粒の平均数が、細胞あたり20から150個の範囲内である、請求項1の方法。
【請求項4】
GASP-1顆粒が、細胞質中又は細胞表面上にある、請求項1の方法。
【請求項5】
細胞が、腫瘍にある、請求項1の方法。
【請求項6】
腫瘍が、固形腫瘍又は血液腫瘍である、請求項5の方法。
【請求項7】
細胞が、がん細胞である、請求項1の方法。
【請求項8】
細胞が、がんを有する対象内にある、請求項1の方法。
【請求項9】
がんが、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、頭部がん、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、肺がん、メラノーマ、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、頸部がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌よりなる群から選択される、請求項8の方法。
【請求項10】
がんが、膀胱がん、乳がん、大腸がん、グリオブラストーマ、肝がん、肺がん、メラノーマ、卵巣がん、膵がん及び前立腺がんよりなる群から選択される、請求項9の方法。
【請求項11】
乳がんが、高グレードの非浸潤性乳管癌(DCIS)又はトリプルネガティブ乳がんである、請求項9又は10の方法。
【請求項12】
肺がんが、非小細胞肺がん(NSCLC)である、請求項9又は10の方法。
【請求項13】
対象が、がん処置を受けたものである、請求項8の方法。
【請求項14】
細胞のがんバイオマーカーを検出することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項15】
がんバイオマーカーが、CA125、CA19-9、CA15-3、CA27.29、AFP、BRCA1/BRCA2、EGFR、HER-2、KIT、VEGF、KRAS、ALK、PSA、HE4、CYFRA 21-1、NSE、PD-L1、TIMP-1、TIMP-2、HGF、OPN、MSLN、MMP2及びCEAよりなる群から選択される、請求項14の方法。
【請求項16】
結合性タンパク質が、ヒト化抗体又はキメラ抗原受容体(CAR)である、請求項1の方法。
【請求項17】
抗GASP-1一本鎖可変断片(抗GASP-1 scFv)を含む、結合性タンパク質。
【請求項18】
抗GASP-1 scFvが、可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖を含む、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項19】
VH鎖が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項18の結合性タンパク質。
【請求項20】
VH鎖が、配列番号2のアミノ酸配列からなる第一の相補性決定領域1(VHCDR1)、配列番号3のアミノ酸配列からなる第二の相補性決定領域2(VHCDR2)、配列番号4のアミノ酸配列からなる第三の相補性決定領域3(VCCDR3)、又はそれらの組み合わせを含む、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項21】
VL鎖が、配列番号9又は17を含む、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項22】
VL鎖が、配列番号10又は18のアミノ酸配列からなる第一の相補性決定領域(VL1CDR1)、配列番号11のアミノ酸配列からなる第二の相補性決定領域(VL1CDR2)、及び配列番号12のアミノ酸配列からなる第三の相補性決定領域(VL1CDR3)を含む、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項23】
VH鎖が、リンカーでVL鎖に連結されている、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項24】
リンカーが、配列番号21のアミノ酸配列を含む、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項25】
抗GASP-1 scFvが、GASP-1の免疫優性エピトープに特異的に結合し、前記免疫優性エピトープが配列番号22のアミノ酸配列を含む、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項26】
結合性タンパク質が、組換えモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体及びそれらの抗原結合性断片よりなる群から選択される抗体である、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項27】
結合性タンパク質が、ヒト化抗体である、請求項26の結合性タンパク質。
【請求項28】
結合性タンパク質が、抗GASP-1 scFvを含むキメラ抗原受容体(CAR)である、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項29】
抗GASP-1 scFvが、配列番号36及び43よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項28の結合性タンパク質。
【請求項30】
結合性タンパク質が、配列番号1-4、9-12及び17-18よりなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項31】
結合性タンパク質が化学療法剤とコンジュゲートされる、請求項17の結合性タンパク質。
【請求項32】
化学療法剤が、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、パルボシクリブ、リボシクリブ、ネラチニブ、アベマシクリブ、オラパリブ、レゴラフェニブ、トレチノイン、アキシカブタゲン シロロイセル、ダサチニブ、ニロチニブ、ボスチニブ、イブルチニブ、イデラリシブ、ベネトクラクス、ポナチニブ、ミドスタウリン、エナシデニブ、チサゲンレクロイセル、イボシデニ(Ivosideni)、デュベリシブ、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、ソラフェニブ、アビラテロン、クリトジニブ、ベムラフェニブ、例えば111In及び90Yなどの放射性同位体、例えばオーリスタチンなどの毒素、マイタンシノイド、ドキソルビシン、タキソール、シスプラチン、ビンブラスチン、カリケアマイシン並びにシュードモナス(Pseudomonas)・エクソトキシンAよりなる群から選択される、請求項31の結合性タンパク質。
【請求項33】
(a)抗GASP-1一本鎖可変断片(抗GASP-1 scFv)を含むCARをコードする遺伝子をT細胞に導入すること、(b)前記T細胞に抗GASP-1 scFvを発現させること、及び(c)抗GASP-1 scFvを発現するT細胞を分離することを含む、キメラ抗原受容体を含むT細胞(CAR-T細胞)を生産する方法。
【請求項34】
抗GASP-1 scFvが、配列番号36及び43よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項33の方法。
【請求項35】
免疫原としてGASP-1ペプチドを宿主に免疫することを含む、抗GASP-1抗体を生産する方法。
【請求項36】
GASP-1ペプチドが、配列番号22のアミノ酸配列を含む、請求項35の方法。
【請求項37】
請求項16の結合性タンパク質を付加的なヒト化抗体と組み合わせることを含む、二重特異性結合性タンパク質を生産する方法であって、ヒト化抗体よりも良好な免疫療法特異性及び/又は有効性を有する二重特異性結合性タンパク質が生産される、前記方法。
【請求項38】
結合性タンパク質が、ヒト化GASP-1抗体又はキメラ抗原受容体(CAR)である、請求項37の方法。
【請求項39】
付加的なヒト化抗体が、リツキシマブ、アレムツズマブ、アダリムマブ、エファリズマブ、セツキシマブ、ベバシズマブ、ナタリズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、イピリムマブ、ベリムマブ、オビヌツズマブ、ペルツズマブ、ベドリズマブ、ラムシルマブ、エボロクマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、レスリズマブ、ネシツズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、オファツムマブ、ドゥルバルマブ、ボルテゾミブ、エロツズマブ、アベルマブ、セミプリマブ及びオララツマブよりなる群から選択される、請求項37又は38の方法。
【請求項40】
請求項37-39のいずれか一項の方法に従って調製される、二重特異性結合性タンパク質。
【請求項41】
請求項17-32のいずれか一項の結合性タンパク質又は請求項40の二重特異性結合性タンパク質、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項42】
有効量の請求項41の医薬組成物を対象に投与することを含む、その必要がある対象においてGASP-1介在性の疾患又は障害を処置する方法。
【請求項43】
GASP-1介在性の疾患又は障害が、腫瘍である、請求項42の方法。
【請求項44】
腫瘍が、固形腫瘍である、請求項43の方法。
【請求項45】
腫瘍が、血液腫瘍である、請求項43の方法。
【請求項46】
GASP-1介在性の疾患又は障害が、がんである、請求項42の方法。
【請求項47】
対象が、がんの処置を受けたものである、請求項42の方法。
【請求項48】
GASP-1が、対象の細胞の顆粒に発現している、請求項42-47のいずれか一項の方法。
【請求項49】
顆粒が、細胞質中又は細胞表面上にある、請求項48の方法。
【請求項50】
有効量の請求項41の医薬組成物を細胞に投与することを含む、GASP-1を発現する細胞の増殖を阻害する方法。
【請求項51】
細胞が、がん細胞である、請求項50の方法。
【請求項52】
細胞が、がんを有する患者内にある、請求項50の方法。
【請求項53】
有効量の請求項41の医薬組成物をエクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームに投与することを含む、GASP-1を発現するエクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームを不活性化する方法。
【請求項54】
エクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームが、がんを有する対象内にある、請求項53の方法。
【請求項55】
エクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームが、対象の血液循環中にある、請求項54の方法。
【請求項56】
がんが、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、頭部がん、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、肺がん、メラノーマ、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、頸部がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌よりなる群から選択される、請求項46、52又は54の方法。
【請求項57】
がんが、膀胱がん、乳がん、大腸がん、グリオブラストーマ、肝がん、肺がん、メラノーマ、卵巣がん、膵がん及び前立腺がんよりなる群から選択される、請求項46、52又は54の方法。
【請求項58】
乳がんが、高グレードの非浸潤性乳管癌(DCIS)又はトリプルネガティブ乳がんである、請求項56又は57の方法。
【請求項59】
肺がんが、非小細胞肺がん(NSCLC)である、請求項56又は57の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年5月11日に出願された米国仮出願第62/670,182号及び2018年11月16日に出願された米国仮出願第62/768,325号の利益を主張するものであり、これらの各々の内容は、全ての目的のためにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、GASP-1顆粒とも呼ばれるGタンパク質共役型受容体関連ソーティングタンパク質1(GASP-1)を発現する顆粒、GASP-1顆粒を標的とする結合性タンパク質及びキメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞、並びにがんの検出及び処置のための前記結合性タンパク質及びCAR-T細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
がんは米国において死因の第2位であり、心臓病に次いで多い。がんの罹患率は、進行の早期に検出されないと著しく増加する。症候が現れる前のがんの早期検出は、がんに対する最も効果的な抑止力である。例えば、結腸直腸ポリープをがんに進行する前に検出し摘出することを可能にする結腸直腸がんスクリーニング検査によって、結腸直腸がんの発生率は過去20年のうちほとんどの期間で低下してきた(1985年の1,000,000人あたり66.3人から2007年の45.3人に)。
【0004】
がん細胞から放出される細胞外小胞(EV)は、がんの進行及び転移に関与している。EVとしては、エクソソーム(直径約30-100 nm)、マイクロベシクル(直径約100-1000 nm)、ラージオンコソーム(直径約1-10 μm)等が挙げられる。エクソソームは、後期エンドサイトーシス経路の多胞体(MVB)に由来し、細胞膜との融合によって放出される。他方、マイクロベシクル及びオンコソームは、細胞膜からの出芽によって放出される。
【0005】
GASP-1の過剰発現は、がんの発生とがんの進行の両方に必要とされる。例えば、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞を用いたノックダウン実験では、GASP-1の発現レベルが低い細胞は、野生型細胞よりもはるかに緩徐に増殖した。GASP-1が完全にダウンレギュレーションされると、細胞は死滅し、増えることができなくなる。
【0006】
安全で効果的ながん治療を追求して、研究者は、がん細胞上にのみ見出され、健常細胞上には見出されない抗原を特定しようと探求してきた。このような腫瘍特異的抗原(TSA)の探索は成功していない。現在のCAR-T療法は、がん細胞の表面上にただ優先的に存在するバイオマーカーを標的としており、このことは、それらが正常細胞上にも存在することを意味している。これは結果として、望まれない重篤な副作用をもたらした。加えて、現在のCAR-T処置は血液腫瘍に対してのみ有効であり、固形腫瘍に対しては有効ではない。いくつかの理由が、固形腫瘍に対する現在のCAR-T療法が効果的でないことに寄与している。第一に、固形腫瘍は不均質である。表面上に相当に全面的にCD19を有するがん性B細胞とは異なり、必ずしも全ての固形腫瘍細胞がCAR-T細胞が攻撃するように設計された抗原を保有するわけではない。第二に、単一標的のCAR-T療法が腫瘍の根絶に成功したとしても、がんは、その抗原が脱落した後に再発することがある。第三に、固形腫瘍は数百あるいは数千層の厚さの細胞の固体塊を含有し、このことがCAR-T細胞の浸潤を困難にしている。
【0007】
がん細胞、特に固形腫瘍のがん細胞を標的とすることで、正常細胞への副作用を最小限にする効果的ながん処置へのニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば細胞質中又は細胞表面上の、GASP-1顆粒としても知られるGタンパク質共役型受容体関連ソーティングタンパク質1(GASP-1)を発現する顆粒を標的とすることによって、がん患者を特定(identify)して処置するための新規方法を提供する。
【0009】
Gタンパク質共役型受容体関連ソーティングタンパク質1(GASP-1)又はその断片を発現する顆粒を有する細胞を検出するための方法が提供される。検出方法は、細胞を有効量の結合性タンパク質と接触させること、及び結合性タンパク質に結合した顆粒を有する細胞を特定することを含む。結合性タンパク質は、GASP-1に特異的に結合する抗原結合性断片を含む。特定された細胞は、GASP-1顆粒を有する細胞である。結合性タンパク質は、ヒト化抗体又はキメラ抗原受容体(CAR)であり得る。
【0010】
この検出方法によると、細胞におけるGASP-1顆粒の径は、0.1から5.0μmの範囲内であり得る。細胞におけるGASP-1顆粒の平均数は、細胞あたり20から150個の範囲内であり得る。GASP-1顆粒は、細胞質中又は細胞表面上にあり得る。
【0011】
この検出方法によると、細胞は、腫瘍にあり得る。腫瘍は、固形腫瘍又は血液腫瘍であり得る。細胞は、がん細胞であり得る。
【0012】
この検出方法によると、細胞は、がんを有する対象内にあり得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、頭部がん、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、肺がん、メラノーマ、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、頸部がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌よりなる群から選択され得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、グリオブラストーマ、肝がん、肺がん、メラノーマ、卵巣がん、膵がん及び前立腺がんよりなる群から選択され得る。乳がんは、高グレードの非浸潤性乳管癌(DCIS)又はトリプルネガティブ乳がんであり得る。 肺がんは、非小細胞性肺がん(NSCLC)であり得る。対象は、がん処置を受けたものであり得る。
【0013】
検出方法は、細胞のがんバイオマーカーを検出することをさらに含み得る。がんバイオマーカーは、CA125、CA19-9、CA15-3、CA27.29、AFP、BRCA1/BRCA2、EGFR、HER-2、KIT及びCEAよりなる群から選択され得る。
【0014】
結合性タンパク質が提供される。結合性タンパク質は、抗GASP-1一本鎖可変断片(抗GASP-1 scFv)を含む。抗GASP-1 scFvは、可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖を含み得る。
【0015】
VH鎖は、配列番号1のアミノ酸配列を含み得る。VH鎖は、配列番号2のアミノ酸配列からなる第一の相補性決定領域1(VHCDR1)、配列番号3のアミノ酸配列からなる第二の相補性決定領域2(VHCDR2)、配列番号4のアミノ酸配列からなる第三の相補性決定領域3(VCCDR3)、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0016】
VL鎖は、配列番号9又は17を含み得る。VL鎖は、配列番号10又は18のアミノ酸配列からなる第一の相補性決定領域(VL1CDR1)、配列番号11のアミノ酸配列からなる第二の相補性決定領域(VL1CDR2)、及び配列番号12のアミノ酸配列からなる第三の相補性決定領域(VL1CDR3)を含み得る。
【0017】
結合性タンパク質において、VH鎖はリンカーでVL鎖に連結され得る。リンカーは、配列番号21のアミノ酸配列を含み得る。
【0018】
抗GASP-1 scFvは、GASP-1の免疫優性エピトープに特異的に結合し得て、この免疫優性エピトープは、配列番号22のアミノ酸配列を含み得る。
【0019】
結合性タンパク質は、組換えモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体及びそれらの抗原結合性断片よりなる群から選択される抗体であり得る。結合性タンパク質は、ヒト化抗体であり得る。
【0020】
結合性タンパク質は、抗GASP-1 scFvを含むキメラ抗原受容体(CAR)であり得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号36及び43よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含み得る。
【0021】
結合性タンパク質は、配列番号1-4、9-12及び17-18よりなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含み得る。
【0022】
結合性タンパク質は、化学療法剤とコンジュゲートされ得る。化学療法剤は、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、パルボシクリブ、リボシクリブ、ネラチニブ、アベマシクリブ、オラパリブ、レゴラフェニブ、トレチノイン、アキシカブタゲン シロロイセル、ダサチニブ、ニロチニブ、ボスチニブ、イブルチニブ、イデラリシブ、ベネトクラクス、ポナチニブ、ミドスタウリン、エナシデニブ、チサゲンレクロイセル、イボシデニ(Ivosideni)、デュベリシブ、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、ソラフェニブ、アビラテロン、クリトジニブ、ベムラフェニブ、例えば
111In及び
90Yなどの放射性同位体、例えばオーリスタチンなどの毒素、マイタンシノイド、ドキソルビシン、タキソール、シスプラチン、ビンブラスチン、カリケアマイシン並びにシュードモナス(Pseudomonas)・エクソトキシンAよりなる群から選択され得る。
【0023】
キメラ抗原受容体を含むT細胞(CAR-T細胞)を生産するための方法が提供される。CAR-T細胞の生産方法は、抗GASP-1一本鎖可変断片(抗GASP-1 scFv)を含むCARをコードする遺伝子をT細胞に導入すること、前記T細胞に抗GASP-1 scFvを発現させること、及び抗GASP-1 scFvを発現するT細胞を分離することを含む。抗GASP-1 scFvは、配列番号36及び43よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含み得る。
【0024】
抗GASP-1抗体を生産するための方法が提供される。抗GASP-1抗体の生産方法は、免疫原としてGASP-1ペプチドを宿主に免疫することを含む。GASP-1ペプチドは、配列番号22のアミノ酸配列を含み得る。
【0025】
二重特異性の結合性タンパク質を生産するための方法が提供される。二重特異性結合性タンパク質の生産方法は、本発明の結合性タンパク質を付加的なヒト化抗体と組み合わせることを含む。得られる二重特異性結合性タンパク質は、ヒト化抗体よりも良好な免疫療法特異性及び/又は有効性を示す。結合性タンパク質は、ヒト化GASP-1抗体又はキメラ抗原受容体(CAR)であり得る。付加的なヒト化抗体は、リツキシマブ、アレムツズマブ、アダリムマブ、エファリズマブ、セツキシマブ、ベバシズマブ、ナタリズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、イピリムマブ、ベリムマブ、オビヌツズマブ、ペルツズマブ、ベドリズマブ、ラムシルマブ、エボロクマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、レスリズマブ、ネシツズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、オファツムマブ、ドゥルバルマブ、ボルテゾミブ、エロツズマブ、アベルマブ、セミプリマブ及びオララツマブよりなる群から選択され得る。
【0026】
各々の二重特異性結合性タンパク質の調製方法について、調製された二重特異性結合性タンパク質が提供される。
【0027】
医薬組成物が提供される。医薬組成物は、本発明の結合性タンパク質又は二重特異性結合性タンパク質、及び薬学的に許容される担体を含む。
【0028】
その必要がある対象においてGASP-1介在性の疾患又は障害を処置するための方法が提供される。処置方法は、対象に有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含む。GASP-1介在性の疾患又は障害は、腫瘍であり得る。腫瘍は、固形腫瘍であり得る。腫瘍は、血液腫瘍であり得る。GASP-1介在性の疾患又は障害は、がんであり得る。対象は、がんの処置を受けたものであり得る。GASP-1は、対象の細胞の顆粒に発現し得る。GASP-1顆粒は、細胞質中又は細胞表面上にあり得る。
【0029】
GASP-1を発現する細胞の増殖を阻害するための方法が提供される。阻害方法は、細胞に有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含む。細胞は、がん細胞であり得る。細胞は、がんを有する患者内にあり得る。
【0030】
GASP-1を発現するエクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームを不活性化するための方法が提供される。不活性化方法は、エクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームに有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含む。エクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームは、がんを有する対象内にあり得る。エクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームは、対象の血液循環中にあり得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、頭部がん、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、肺がん、メラノーマ、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、頸部がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌よりなる群から選択され得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、グリオブラストーマ、肝がん、肺がん、メラノーマ、卵巣がん、膵がん及び前立腺がんよりなる群から選択され得る。乳がんは、高グレードの非浸潤性乳管癌(DCIS)又はトリプルネガティブ乳がんであり得る。肺がんは、非小細胞性肺がん(NSCLC)であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、細胞膜から突出した膜ブレブを介して前立腺がん細胞から細胞外オンコソームが放出されるが(右のパネル)、正常な前立腺細胞からは放出されない(左のパネル)ことを示す。
【
図2】
図2は、高グレードDCIS乳がん細胞の細胞質中に大きさの異なるGASP-1顆粒が蓄積するが(右のパネル)、正常な乳房細胞では蓄積しない(左のパネル)ことを示す。
【
図3】
図3は、高グレードDCIS乳がん細胞の細胞膜又は膜断片に付着した多数のGASP-1顆粒を示す。
【
図4】
図4は、トリプルネガティブ乳がん細胞の細胞膜上にある異なる大きさのGASP-1顆粒を示す。
【
図5】
図5は、非小細胞肺がん(NSCLC)細胞の細胞質中には大きさの異なるGASP-1顆粒が蓄積するが(右のパネル)、正常な肺細胞では蓄積しない(左のパネル)ことを示す。
【
図6】
図6は、グリオブラストーマ細胞の細胞質中及び細胞膜上にはGASP-1顆粒が蓄積するが(右のパネル)、正常な脳細胞では蓄積しない(左のパネル)ことを示す。
【
図7】
図7は、VL特異的プライマー(レーン1)又はVH特異的プライマー(レーン2)を用いたPCRの産物を示す。レーンM:2000 DNAマーカー、上から下に向かってそれぞれ:2000、1000、750、500、250、100 bp。
【
図8】
図8は、シグナル配列、可変軽鎖(VL)、リンカー、可変重鎖(VH)及びヒトIgG1 Fc(HIgG1-Fc)を包含する4911 bpのscFv1-Fc又はscFv2-Fc発現ベクターの概略図を示す。
【
図9】
図9は、一次抗体としてscFv1-Fc(右のパネル)又はscFv2-Fc(左のパネル)を、二次抗体としてPE-抗ヒトIgG Fc抗体を用いて染色したPC3細胞のフローサイトメトリー解析(FACS)を示す。
【
図10】
図10は、一次抗体としてGASP-1モノクローナル抗体を、二次抗体としてAlexa Fluor-A-抗ヒトIgG Fc抗体を用いて染色したA549肺がん細胞(左のペイン(pane))又はSKOV3卵巣がん細胞(右のパネル)のフローサイトメトリー解析(FACS)を示す。
【
図11】
図11は、10,228 bpのキメラ抗原受容体(CAR)Lenti-EF1a-scFv1-CD28-CD3z-T2A-EGFRtの概略図を示す。
【
図12】
図12は、T細胞の34.9%がCAR陽性であることを示す。
【
図13】
図13は、CAR-10217-SIA-CAR-T細胞に曝露した際のがん細胞によるIFN-γ(左のパネル)及びIL-2(右のパネル)の放出を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、抗Gタンパク質共役型受容体関連ソーティングタンパク質1(GASP-1)一本鎖可変断片(scFv)を含む結合性タンパク質、並びに例えば細胞中の顆粒内又は顆粒表面上にあるGASP-1又はその断片を発現する細胞を検出するための、及びGASP-1を発現するがん細胞を標的化するための抗体又はキメラ抗原受容体(CAR-T)を含むT細胞を生産するための抗GASP-1 scFvの使用を提供する。本発明は、抗GASP-1一本鎖可変断片(scFv)、及びGASP-1が高度に濃縮された顆粒(GASP-1顆粒)という、本発明者らの驚くべき発見に基づいている。GASP-1顆粒は、粉粒、細粒から、表面が滑らかでない粗粒までにわたる異なる大きさである。粗粒の大きさは、粉粒の約数百倍であり得る。GASP-1顆粒は、がん細胞の内部又は細胞膜上に、例えば細胞膜の下、細胞質中、核の周辺にクラスター化して又は核の内部に広く分布していることが見出されている。様々な大きさのGASP-1顆粒が、乳がん、トリプルネガティブがん、前立腺がん、肺がん、肝臓がん、膵臓がん、卵巣がん、グリオブラストーマ、膀胱がん、メラノーマ又は大腸がんの細胞において発見されている。
【0033】
本発明者らはまた、驚くべきことに、がんが進行するにつれてGASP-1顆粒の数及び大きさともに増加し得ることを発見した。がんの早期ステージでは、GASP-1顆粒は粉粒から細粒が優勢であり得る。トリプルネガティブ乳がん(TNBC)及びグリオブラストーマ等の高浸潤性侵攻性がんの末期ステージでは、GASP-1顆粒は、主に粗いGASP-1顆粒(GASP-1粗粒)であり得る。
【0034】
正常細胞において、GASP-1は、細胞質中では最小限にしか発現していない又は発現していないものであり得て、存在する場合は粉状形態であり得る。GASP-1顆粒は、正常細胞の細胞質中には最小限に存在するが細胞膜上には存在しないものであり得る。GASP-1顆粒は、いくつかの正常細胞の核に存在し得る。GASP-1顆粒ががん細胞の表面上にのみ存在し、正常細胞には存在しないという驚くべき発見は、腫瘍特異的抗原(TSA)の最初の例を提供するものである。この発見により、GASP-1は、例えばGASP-1 scFv配列を含有するCAR-T細胞又はヒト化モノクローナル抗体を用いたがん免疫療法の理想的な標的となる。その理由は、がん処置のためにGASP-1顆粒を標的にすることは、正常細胞に対する副作用が最小限であるためである。
【0035】
用語「Gタンパク質共役型受容体関連ソーティングタンパク質1(GASP-1)を発現する顆粒」及び「GASP-1顆粒」は、本明細書中で交換可能に用いられ、GASP-1又はその断片を含有する顆粒を指す。その大きさによって、GASP-1顆粒には粉粒、細粒、粗粒の3つの形態がある。
【0036】
本明細書中で用いられる用語「粉状のGASP-1顆粒(GASP-1粉粒)」は、径が0.1から0.4 μmの範囲内であるGASP-1顆粒を指す。本明細書中で用いられる用語「細かいGASP-1顆粒(GASP-1細粒)」は、径が0.4-1.0 μmの範囲内であるGASP-1顆粒を指す。本明細書中で用いられる用語「GASP-1粗粒」は、径が1.0-5.0 μmの範囲内であるGASP-1顆粒を指す。GASP-1粗粒は、細胞外マイクロベシクルよりも径が大きい。GASP-1顆粒は、細胞質中又は細胞表面上にあり得る。GASP-1顆粒は、エンドソームであり得る。
【0037】
用語「一本鎖Fv」及び「scFv」は、本明細書中で交換可能に用いられ、抗原に対する抗体のVH鎖及びVL鎖を含む一本鎖のペプチドを指す。例えば、抗GASP-1 scFvは、抗GASP-1抗体のVH鎖及びVL鎖を含む単一のペプチドを指す。scFvは、VH鎖とVL鎖との間にポリペプチドリンカーをさらに含み得て、これによりscFvが抗原との結合のために望まれる構造を形成することが可能になる。抗体がヒト化抗体である場合、抗体のVH鎖及びVL鎖を含む一本鎖ペプチドは、ヒト一本鎖Fv又はhscFvである。
【0038】
本明細書中で用いられる用語「マイクロベシクル」は、細胞膜によって形成され、細胞、例えばがん細胞の細胞膜表面から放出される細胞外小胞(EV)を指す。マイクロベシクルの径は、0.1-1μmである。マイクロベシクルは、例えば血液、唾液、尿及び脳脊髄液などの生物学的液体中に存在する。マイクロベシクルは、GASP-1を発現し得る。
【0039】
本明細書中で用いられる用語「エクソソーム」は、後期エンドサイトーシス経路の多胞体(MVB)に由来し、細胞膜との融合によって放出される細胞外小胞(EV)を指す。エクソソームの径は、30-100 nmである。エクソソームは、例えば血液、唾液、尿及び脳脊髄液などの生物学的液体中に存在する。エクソソームは、GASP-1を発現し得る。
【0040】
本明細書中で用いられる用語「オンコソーム」は、細胞膜によって形成され、細胞、例えばがん細胞の細胞膜表面から放出される細胞外小胞(EV)を指す。オンコソームの径は、1-10 μmである。オンコソームは、例えば血液、唾液、尿及び脳脊髄液などの生物学的液体中に存在する。オンコソームは、GASP-1を発現し得る。
【0041】
本明細書中で用いられる用語「有効量」は、決められた目標(例として、GASP-1顆粒を有する細胞を検出すること、その必要がある対象においてGASP-1介在性の疾患又は障害を処置すること、GASP-1を発現する細胞の増殖を阻害すること、及びエクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームを不活性化すること)を達成するために必要とされる、結合性タンパク質又は二重特異性結合性タンパク質を含む医薬組成物の量を指す。医薬組成物の有効量は、決められた目標及び組成物の物理的特性に応じて変動し得る。
【0042】
Gタンパク質共役型受容体関連ソーティングタンパク質1(GASP-1)又はその断片を発現する顆粒を有する細胞を検出するための方法が提供される。検出方法は、細胞を有効量の結合性タンパク質と接触させること、及び結合性タンパク質に結合した顆粒を有する細胞を特定することを含む。結合性タンパク質は、GASP-1に特異的に結合する抗原結合性断片を含む。特定された細胞は、GASP-1顆粒を有する細胞である。
【0043】
検出方法によると、GASP-1顆粒は、細胞質中又は細胞表面上にあり得る。1つの実施形態において、GASP-1顆粒は、細胞の細胞質中にあり得る。別の実施形態において、GASP-1顆粒は、細胞表面上にある。なお別の実施形態において、GASP-1顆粒は、細胞の核に存在しないものであり得る。
【0044】
検出方法によると、細胞におけるGASP-1顆粒の数は変動し得る。細胞あたり約10-1,000、20-500又は20-200個のGASP-1顆粒があり得る。細胞におけるGASP-1顆粒の平均数は、20から150個の範囲内である。GASP-1顆粒は、粉粒、細粒から粗粒までにわたる異なる大きさであり得る。GASP-1粗粒は、同一細胞における粉粒の少なくとも10、50、100又は500倍の大きさであり得る。GASP-1顆粒の径は、約0.1-10、0.1-0.4、0.4-1.0、1.0-5.0、0.1-1.0、0.1-5.0、0.4-5.0、0.2-10、0.2-3.0、0.2-5.0、0.5-1.0又は0.5-5.0 μmの範囲内であり得る。1つの実施形態において、GASP-1顆粒の径は、0.2から3.0 μmの範囲内である。本発明者らは、がんが進行するにつれてより多くのGASP-1粗粒が見出されることを発見した。これは、粉粒(及び/又は細粒)の成熟、又はこれらのGASP-1顆粒の凝集によるものである可能性がある。1つの実施形態において、GASP-1顆粒の少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%は、がん細胞におけるGASP-1粗粒であり得る。GASP-1顆粒の少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%は、より侵攻性のがん、例えば、高グレードDCIS、トリプルネガティブ乳がん及びグリオブラストーマからの細胞におけるGASP-1粗粒であり得る。GASP-1粗粒は、核膜の周辺及び/又は細胞膜上にクラスター化し得る。
【0045】
検出方法によると、GASP-1顆粒を有する細胞は、腫瘍にあり得る。腫瘍は、固形腫瘍又は血液腫瘍であり得る。腫瘍は、対象内にあり得る。対象は、がんを持ち得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、頭部がん、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、肺がん、メラノーマ、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、頸部がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌よりなる群から選択され得る。例えば、がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、グリオブラストーマ、肝がん、肺がん、メラノーマ、卵巣がん、膵がん又は前立腺がんであり得る。乳がんは、高グレードの非浸潤性乳管癌(DCIS)又はトリプルネガティブ乳がんであり得る。肺がんは、非小細胞性肺がん(NSCLC)であり得る。対象は、がん処置を受けたものであり得る。
【0046】
検出方法によると、GASP-1顆粒を有する細胞は、がん細胞であり得る。細胞は、対象内にあり得る。対象は、がんを持ち得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、頭部がん、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、肺がん、メラノーマ、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、頸部がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌よりなる群から選択され得る。例えば、がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、グリオブラストーマ、肝がん、肺がん、メラノーマ、卵巣がん、膵がん又は前立腺がんであり得る。乳がんは、高グレードの非浸潤性乳管癌(DCIS)又はトリプルネガティブ乳がんであり得る。肺がんは、非小細胞性肺がん(NSCLC)であり得る。対象は、がん処置を受けたものであり得る。
【0047】
検出方法は、GASP-1顆粒又はGASP-1若しくはその断片を有する細胞のがんバイオマーカーを検出することをさらに含み得る。がんバイオマーカーは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、頭部がん、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、肺がん、メラノーマ、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、頸部がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍又は胃腺癌に適した任意のバイオマーカーであり得る。例えば、がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、グリオブラストーマ、肝がん、肺がん、メラノーマ、卵巣がん、膵がん又は前立腺がんであり得る。乳がんは、高グレードの非浸潤性乳管癌(DCIS)又はトリプルネガティブ乳がんであり得る。肺がんは、非小細胞性肺がん(NSCLC)であり得る。例示的ながんバイオマーカーとしては、CA125、CA19-9、CA15-3、CA27.29、AFP、BRCA1/BRCA2、EGFR、HER-2、KIT、VEGF、KRAS、ALK、PSA、HE4、CYFRA 21-1、NSE、PD-L1、TIMP-1、TIMP-2、HGF、OPN、MSLN、MMP2及びCEAが挙げられる。
【0048】
検出方法によると、結合性タンパク質は、抗GASP-1一本鎖可変断片(抗GASP-1 scFv)を含み得る。結合性タンパク質は、抗GASP-1抗体又はキメラ抗原受容体(CAR)であり得る。抗GASP-1抗体は、GASP-1又はその断片、例えばEEASPEAVAGVGFESK(配列番号22)のGAPS-1ペプチドに結合することが可能な抗体である。抗GASP-1抗体は、組換え抗体又はその抗原結合性断片であり得る。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体又はヒト化抗体であり得る。
【0049】
抗GASP-1一本鎖可変断片(抗GASP-1 scFv)を含む結合性タンパク質もまた提供される。抗GASP-1 scFvは、可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖を含む。結合性タンパク質は、抗体又はキメラ抗原受容体(CAR)であり得る。
【0050】
抗GASP-1 scFvのVH鎖は、配列番号1のアミノ酸配列を含み得る。VH鎖は、配列番号1のアミノ酸配列からなり得る。VH鎖は、第一の相補性決定領域1(VHCDR1)、第二の相補性決定領域2(VHCDR2)及び第三の相補性決定領域3(VHCDR3)を含み得る。VHCDR1は、配列番号2のアミノ酸配列を含み得る。VHCDR1は、配列番号2のアミノ酸配列からなり得る。VHCDR2は、配列番号3のアミノ酸配列を含み得る。VHCDR2は、配列番号3のアミノ酸配列からなり得る。VHCDR3は、配列番号4のアミノ酸配列を含み得る。VHCDR3は、配列番号4のアミノ酸配列からなり得る。VHCDR1は、配列番号6を含むヌクレオチド配列によってコードされ得る。VHCDR1は、配列番号6のヌクレオチド配列によってコードされ得る。VHCDR2は、配列番号7を含むヌクレオチド配列によってコードされ得る。VHCDR2は、配列番号7のヌクレオチド配列によってコードされ得る。VHCDR3は、配列番号8を含むヌクレオチド配列によってコードされ得る。VHCDR3は、配列番号8のヌクレオチド配列によってコードされ得る。
【0051】
抗GASP-1 scFvのVL鎖は、配列番号9のアミノ酸配列を含み得る。VL鎖は、配列番号9のアミノ酸配列からなり得る。VL鎖は、第一の相補性決定領域1(VLCDR1)、第二の相補性決定領域2(VLCDR2)及び第三の相補性決定領域3(VLCDR3)を含み得る。VLCDR1は、配列番号10のアミノ酸配列を含み得る。VLCDR1は、配列番号10のアミノ酸配列からなり得る。VL1CDR2は、配列番号11のアミノ酸配列を含み得る。VL1CDR2は、配列番号11のアミノ酸配列からなり得る。VL1CDR3は、配列番号12のアミノ酸配列を含み得る。VL1CDR3は、配列番号12のアミノ酸配列からなり得る。
【0052】
抗GASP-1 scFvのVL鎖は、配列番号17のアミノ酸配列を含み得る。VL鎖は、配列番号17のアミノ酸配列からなり得る。VL鎖は、第一の相補性決定領域1(VLCDR1)、第二の相補性決定領域2(VLCDR2)及び第三の相補性決定領域3(VLCDR3)を含み得る。VLCDR1は、配列番号18のアミノ酸配列を含み得る。VLCDR1は、配列番号18のアミノ酸配列からなり得る。VL1CDR2は、配列番号11のアミノ酸配列を含み得る。VL1CDR2は、配列番号11のアミノ酸配列からなり得る。VL1CDR3は、配列番号12のアミノ酸配列を含み得る。VL1CDR3は、配列番号12のアミノ酸配列からなり得る。
【0053】
抗GASP-1 scFvは、配列番号5のヌクレオチド配列によってコードされる可変重(VH)鎖及び配列番号13のヌクレオチド配列によってコードされる可変軽(VL)鎖を含み得る。VH鎖は、配列番号21のアミノ酸配列からなるリンカーでVL鎖に連結され得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号22のアミノ酸配列からなるGASP-1の免疫優性エピトープに対して選択された抗体であり得る。
【0054】
抗GASP-1 scFvは、配列番号5のヌクレオチド配列によってコードされる可変重(VH)鎖及び配列番号19のヌクレオチド配列によってコードされる可変軽(VL)鎖を含み得る。VH鎖は、配列番号21のアミノ酸配列からなるリンカーでVL鎖に連結され得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号22のアミノ酸配列からなるGASP-1の免疫優性エピトープに対して選択された抗体であり得る。
【0055】
抗GASP-1 scFvは、配列番号1のアミノ酸配列からなる可変重(VH)鎖及び配列番号9のアミノ酸配列からなる可変軽(VL)鎖を含み得る。VH鎖は、配列番号21のアミノ酸配列からなるリンカーでVL鎖に連結され得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号22のアミノ酸配列からなるGASP-1の免疫優性エピトープに対して選択され得る。
【0056】
抗GASP-1 scFvは、配列番号1のアミノ酸配列からなる可変重(VH)鎖及び配列番号17のアミノ酸配列からなる可変軽(VL)鎖を含み得る。VH鎖は、配列番号21のアミノ酸配列からなるリンカーでVL鎖に連結され得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号22のアミノ酸配列からなるGASP-1の免疫優性エピトープに対して選択され得る。
【0057】
抗GASP-1抗体又はscFvのVH鎖は、配列番号2のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号3のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸配列からなるCDR3を含み得る。
【0058】
抗GASP-1抗体又はscFvのVH鎖は、配列番号6のヌクレオチド配列によってコードされるCDR1、配列番号7のヌクレオチド配列によってコードされるVHCDR2、及び配列番号8のヌクレオチド配列によってコードされるVHCDR3を含み得る。
【0059】
抗GASP-1 scFvのVL鎖は、配列番号10のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号11のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸配列からなるCDR3を含み得る。
【0060】
抗GASP-1 scFvのVL鎖は、配列番号14のヌクレオチド配列によってコードされるCDR1、配列番号15のヌクレオチド配列によってコードされるCDR2、及び配列番号16のヌクレオチド配列によってコードされるCDR3を含み得る。
【0061】
抗GASP-1 scFvのVL鎖は、配列番号18のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号11のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号12のアミノ酸配列からなるCDR3を含み得る。
【0062】
抗GASP-1 scFvのVL鎖は、配列番号20のヌクレオチド配列によってコードされるCDR1、配列番号15のヌクレオチド配列によってコードされるCDR2、及び配列番号16のヌクレオチド配列によってコードされるCDR3を含み得る。
【0063】
結合性タンパク質において、VH鎖はリンカーでVL鎖に連結され得る。リンカーは、配列番号21のアミノ酸配列を含み得る。リンカーは、配列番号21のアミノ酸配列からなり得る。
【0064】
抗GASP-1 scFvは、GASP-1の免疫優性エピトープに特異的に結合し得る。免疫優性エピトープは、配列番号22のアミノ酸配列を含み得る。免疫優性エピトープは、配列番号22のアミノ酸配列からなり得る。
【0065】
結合性タンパク質は、組換えモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体及びそれらの抗原結合性断片よりなる群から選択される抗体であり得る。1つの実施形態において、結合性タンパク質は、ヒト化抗体であり得る。
【0066】
結合性タンパク質は、抗GASP-1抗体であり得て、GASP-1又はその断片、例えばEEASPEAVAGVGFESK(配列番号22)のGASP-1ペプチドに結合することが可能な抗体であり得る。抗GASP-1抗体は、組換え抗体又はその抗原結合性断片であり得る。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体又はヒト化抗体であり得る。
【0067】
結合性タンパク質は、抗GASP-1 scFvを含むキメラ抗原受容体(CAR)であり得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号36を含むアミノ酸配列を含み得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号36のアミノ酸配列からなり得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号43を含むアミノ酸配列を含み得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号43のアミノ酸配列からなり得る。
【0068】
結合性タンパク質は、配列番号1-4、9-12及び17-18よりなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含み得る。結合性タンパク質は、配列番号1及び9のアミノ酸配列を含み得る。結合性タンパク質は、配列番号1及び17のアミノ酸配列を含み得る。結合性タンパク質は、配列番号2-4のアミノ酸配列を含み得る。結合性タンパク質は、配列番号10-12のアミノ酸配列を含み得る。結合性タンパク質は、配列番号11、12及び18のアミノ酸配列を含み得る。結合性タンパク質は、配列番号1及び10-12のアミノ酸配列を含み得る。結合性タンパク質は、配列番号1、11、12及び18のアミノ酸配列を含み得る。結合性タンパク質は、配列番号2-4及び9のアミノ酸配列を含み得る。結合性タンパク質は、配列番号2-4及び17のアミノ酸配列を含み得る。
【0069】
結合性タンパク質は、化学療法剤とコンジュゲートされ得る。化学療法剤は、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、パルボシクリブ、リボシクリブ、ネラチニブ、アベマシクリブ、オラパリブ、レゴラフェニブ、トレチノイン、アキシカブタゲン シロロイセル、ダサチニブ、ニロチニブ、ボスチニブ、イブルチニブ、イデラリシブ、ベネトクラクス、ポナチニブ、ミドスタウリン、エナシデニブ、チサゲンレクロイセル、イボシデニ(Ivosideni)、デュベリシブ、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、ソラフェニブ、アビラテロン、クリトジニブ、ベムラフェニブ、例えば
111In及び
90Yなどの放射性同位体、例えばオーリスタチンなどの毒素、マイタンシノイド、ドキソルビシン、タキソール、シスプラチン、ビンブラスチン、カリケアマイシン並びにシュードモナス(Pseudomonas)・エクソトキシンAよりなる群から選択され得る。
【0070】
キメラ抗原受容体を含むT細胞(CAR-T細胞)を生産するための方法が提供される。CAR-T細胞の生産方法は、CARをコードする遺伝子をT細胞に導入することを含む。CARは、本発明の抗GASP-1一本鎖可変断片(抗GASP-1 scFv)を含む。CAR生産方法は、T細胞に抗GASP-1 scFvを発現させること、及び抗GASP-1 scFvを発現するT細胞を分離することをさらに含む。
【0071】
CAR-T細胞の生産方法によると、抗GASP-1 scFvは、配列番号36のアミノ酸配列を含み得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号36のアミノ酸配列からなり得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号43のアミノ酸配列を含み得る。抗GASP-1 scFvは、配列番号43のアミノ酸配列からなり得る。
【0072】
CARは、シグナルペプチド(配列番号35)、CD8ヒンジ(配列番号37)、CD28膜貫通細胞内ドメイン(配列番号38)、CD3ゼータ(配列番号39)、T2A(配列番号36)及びEGFRt(配列番号41)をさらに含み得る。例えばインターロイキン、ケモカイン、免疫チェックポイント阻害剤等のエレメントは、それらが共発現している場合にCAR-Tの有効性を高め得る。 インターロイキン-12(IL-12)を例として用いると、CAR配列は、CAR-T2A-EGFRt-T2A-IL-12、CAR-T2A-EGFRt-IRES-IL-12又はCAR-T2A-EGFRt-T2A-PGKプロモーター-IL-12であることができる。共刺激ドメインは、4-1BB、OX40等であることができ、これらのエレメントは同様にCAR-T処置を改良し得る。共刺激ドメイン(4-1BB、OX40等)は、以下の例を包含するCARの共刺激ドメインに付加することができる:
(a)CD8ヒンジ、CD28膜貫通、4-1BB細胞内ドメイン、CD3ゼータ;
(b)CD8ヒンジ、CD8膜貫通、4-1BB細胞内ドメイン、CD3ゼータ;
(c)CD8ヒンジ、CD28膜貫通、OX40細胞内ドメイン、CD3ゼータ;
(d)CD8ヒンジ、CD8膜貫通、OX40細胞内ドメイン、CD3ゼータ;及び
(e)CD8ヒンジ、CD28膜貫通細胞内ドメイン、4-1BB又はOX40、CD3ゼータ。
【0073】
現在利用可能なCAR-T療法は固形腫瘍に対してむしろ有効でないという点から、GASP-1 CAR-T療法は、現在承認されているCD19産生細胞を追ったチサゲンレクロイセル(Kymriah)又はアキシカブタゲン シロロイセル(Yescarta)等のCAR-T処置と、かかるCAR-T処置の有効性を改善するために組み合わされ得る。CD19又は他のがん表面抗原に対する付加的なCAR配列を含有するGASP-1 CAR-Tもまた用いられ得る。GASP-1 CAR-Tとチェックポイント阻害剤と呼ばれる別の免疫療法との組み合わせも提案される。チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、ダルバルマブ又はセミプリマブであり得る。
【0074】
抗GASP-1抗体を生産するための方法が提供される。抗体の生産方法は、免疫原としてGASP-1ペプチドを宿主に免疫することを含む。GASP-1ペプチドは、GASP-1に由来する任意のペプチドであり得る。GASP-1ペプチドは、配列番号22-26よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含み得る。GASP-1ペプチドは、配列番号22-26よりなる群から選択されるアミノ酸配列からなり得る。GASP-1ペプチドは、配列番号23のアミノ酸配列を含み得る。GASP-1ペプチドは、配列番号23のアミノ酸配列からなり得る。GASP-1ペプチドは、配列番号24のアミノ酸配列を含み得る。GASP-1ペプチドは、配列番号24のアミノ酸配列からなり得る。GASP-1ペプチドは、配列番号25のアミノ酸配列を含み得る。GASP-1ペプチドは、配列番号25のアミノ酸配列からなり得る。GASP-1ペプチドは、配列番号26のアミノ酸配列を含み得る。GASP-1ペプチドは、配列番号26のアミノ酸配列からなり得る。
【0075】
二重特異性結合性タンパク質を生産するための方法。二重特異性結合性タンパク質の生産方法は、本発明の結合性タンパク質を付加的なヒト化抗体と組み合わせることで二重特異性結合性タンパク質を生産することを含む。二重特異性結合性タンパク質は、付加的なヒト化抗体よりも良好な免疫療法特異性及び/又は有効性を持ち得る。結合性タンパク質は、本発明のGASP-1抗体又はCARであり得る。付加的なヒト化抗体は、リツキシマブ、アレムツズマブ、アダリムマブ、エファリズマブ、セツキシマブ、ベバシズマブ、ナタリズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、イピリムマブ、ベリムマブ、オビヌツズマブ、ペルツズマブ、ベドリズマブ、ラムシルマブ、エボロクマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、レスリズマブ、ネシツズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、オファツムマブ、ドゥルバルマブ、ボルテゾミブ、エロツズマブ、アベルマブ、セミプリマブ及びオララツマブよりなる群から選択され得る。
【0076】
各々の二重特異性結合性タンパク質の生産方法について、生産された二重特異性結合性タンパク質が提供される。二重特異性結合性タンパク質は、本発明の結合性タンパク質及び付加的なヒト化抗体を含む。二重特異性結合性タンパク質は、付加的なヒト化抗体よりも良好な免疫療法特異性及び/又は有効性を持ち得る。結合性タンパク質は、本発明のGASP-1抗体又はCARであり得る。付加的なヒト化抗体は、リツキシマブ、アレムツズマブ、アダリムマブ、エファリズマブ、セツキシマブ、ベバシズマブ、ナタリズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、イピリムマブ、ベリムマブ、オビヌツズマブ、ペルツズマブ、ベドリズマブ、ラムシルマブ、エボロクマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、レスリズマブ、ネシツズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、オファツムマブ、ドゥルバルマブ、ボルテゾミブ、エロツズマブ、アベルマブ、セミプリマブ及びオララツマブよりなる群から選択され得る。
【0077】
本発明の各々の結合性タンパク質又は二重特異性結合性タンパク質について、医薬組成物が提供される。医薬組成物は、本発明の結合性タンパク質又は二重特異性結合性タンパク質、及び薬学的に許容される担体を含む。
【0078】
その必要がある対象においてGASP-1介在性の疾患又は障害を処置するための方法が提供される。処置方法は、有効量の本発明の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0079】
処置方法によると、GASP-1介在性の疾患又は障害は、腫瘍であり得る。腫瘍は、固形腫瘍であり得る。腫瘍は、血液腫瘍であり得る。
【0080】
処置方法によると、GASP-1介在性の疾患又は障害は、がんであり得る。対象は、がんの処置を受けたものであり得る。GASP-1は、対象の細胞の顆粒に発現し得る。GASP-1顆粒は、細胞質中又は細胞表面上にあり得る。1つの実施形態において、GASP-1顆粒は、細胞の細胞質中にあり得る。別の実施形態において、GASP-1顆粒は、細胞表面上にあり得る。別の実施形態において、GASP-1顆粒は、細胞の核に存在しないものであり得る。
【0081】
処置方法は、がん処置前の対象の細胞におけるGASP-1顆粒の平均数、及び/又は平均径、及び/又は安定性を決定することをさらに含み得る。処置方法は、がん処置後の象の細胞におけるGASP-1顆粒の平均数、平均径、及び/又は安定性を決定することをさらに含み得て、また、がん処置前の対象の細胞におけるGASP-1顆粒の平均数、平均径、及び/又は安定性を、がん処置後のそれと比較することをさらに含んでもよい。
【0082】
処置方法によると、がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、頭部がん、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、肺がん、メラノーマ、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、頸部がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌よりなる群から選択され得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、グリオブラストーマ、肝がん、肺がん、メラノーマ、卵巣がん、膵がん及び前立腺がんよりなる群から選択され得る。乳がんは、高グレードの非浸潤性乳管癌(DCIS)又はトリプルネガティブ乳がんであり得る。肺がんは、非小細胞性肺がん(NSCLC)であり得る。
【0083】
GASP-1を発現する細胞の増殖を阻害するための方法が提供される。阻害方法は、有効量の本発明の医薬組成物を細胞に投与することを含む。細胞は、がん細胞であり得る。細胞は、がんを有する患者内にあり得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、頭部がん、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、肺がん、メラノーマ、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、頸部がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌よりなる群から選択され得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、グリオブラストーマ、肝がん、肺がん、メラノーマ、卵巣がん、膵がん及び前立腺がんよりなる群から選択され得る。乳がんは、高グレードの非浸潤性乳管癌(DCIS)又はトリプルネガティブ乳がんであり得る。肺がんは、非小細胞性肺がん(NSCLC)であり得る。
【0084】
GASP-1を発現するエクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームを不活性化するための方法が提供される。不活性化方法は、有効量の本発明の医薬組成物をエクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームに投与することを含む。エクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームの不活性化は、例えばエクソソームの場合はCD63、CD9又はCD81;マイクロベシクルの場合はCD45、CD47;及びオンコソームの場合はヒートショックプロテインHSPA5及びHSPA9といった表面バイオマーカーの数の減少によって証明され得る。エクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームは、がんを有する対象内にあり得る。エクソソーム、マイクロベシクル又はオンコソームは、対象の血液循環中にあり得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、頭部がん、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、肺がん、メラノーマ、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、頸部がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌よりなる群から選択され得る。がんは、膀胱がん、乳がん、大腸がん、グリオブラストーマ、肝がん、肺がん、メラノーマ、卵巣がん、膵がん及び前立腺がんよりなる群から選択され得る。乳がんは、高グレードの非浸潤性乳管癌(DCIS)又はトリプルネガティブ乳がんであり得る。肺がんは、非小細胞性肺がん(NSCLC)であり得る。
【実施例】
【0085】
実施例1.前立腺がんにおけるGASP-1オンコソーム又はマイクロベシクルの同定
前立腺がん細胞におけるGASP-1の発現を、EEASPEAVAGVGFESK(配列番号22)に対するポリクローナル抗体を用いて調べた。GASP-1オンコソーム又はマイクロベシクルは、細胞膜からの出芽によって放出された。
図1に示されるように、正常な前立腺細胞はGASP-1オンコソーム又はマイクロベシクルを放出しないが(左のパネル)、GASP-1オンコソームは、放出される前にがん細胞膜から突出した膜ブレブの形成を介して細胞膜から出芽するのを見ることができる(右のパネル中の矢印を参照されたい)。オンコソーム又はマイクロベシクルは、がん細胞膜の特定領域に最初に集中していたGASP-1に由来するようであった。完全に放出されたオンコソーム又はマイクロベシクルは、放出領域の近くにも見ることができる(右のパネル)。
【0086】
実施例2.がん細胞における様々な大きさのGASP-1顆粒の存在
様々ながん細胞におけるGASP-1の発現を、EEASPEAVAGVGFESK(配列番号22)に対するポリクローナル抗体を用いて調べた。上記実施例1に記載の放出された細胞外GASP-1オンコソームとは異なり、GASP-1を発現する顆粒は、乳がん、トリプルネガティブ乳がん、前立腺がん、肺がん、肝臓がん、卵巣がん、グリオブラストーマ、胃がん、膀胱がん、メラノーマ又は大腸がんといったがん細胞の細胞質中又は表面上に見出された。GASP-1の過剰発現はがんの発生及び進行に必要とされるため、GASP-1顆粒の産生は、がんの進行に必要とされるステップであり得る。
【0087】
図2は、EEASPEAVAGVGFESK(配列番号22)に対するポリクローナル抗体を用いた高グレードDCIS乳がんの免疫組織化学(IHC)染色を示す。正常な乳房細胞において、GASP-1は一部の核にのみ発現し、細胞質には発現していない(
図2左のパネル)。がん細胞において、GASP-1顆粒は細胞膜と結合していたり、細胞質中にあったり、核膜の周辺にクラスター化していたり、また核の内部にあった(
図2右のパネル及び
図3)。
【0088】
GASP-1顆粒は、エンドソームに由来する可能性がある。しかしながら、成熟時の径が0.5 μmであるエンドソームとは異なり、粉粒、細粒から、粗粒までにわたる様々な大きさのGASP-1顆粒が、このがんに存在している(
図3)。径が1.0から5.0 μmであるGASP-1粗粒は、エンドソームより大きいものであり得る。さらには、
図1に記載の細胞外GASP-1オンコソームとは異なり、GASP-1粗粒は細胞膜に付着したままであり(
図3の矢印を参照されたい)、細胞膜から放出されない。GASP-1顆粒はまた、オンコソームの顕著な特徴である細胞膜から突出した膜ブレブを形成しない。GASP-1粗粒は、おそらく、より小さい顆粒の成熟によって、又はより小さい顆粒の凝集によって形成される。細胞膜上にこれほど多くのGASP-1粗粒が結合することで、膜の不安定化及び細胞膜の破壊(又は断片化)が引き起こされる可能性がある。断片化した細胞膜片は、それらに付着した多くのGASP-1顆粒をなお含有している(
図3)。細胞膜を破壊することの一つの結果として、元々細胞の内部(細胞質中、核膜上にクラスター化して、又は核)に存在していた多くのGASP-1顆粒が腫瘍微小環境に放出され、後に血液循環に放出されることになる。本発明者らはまた、がんが重症化するにつれてGASP-1顆粒の大きさが大きく、かつ粗くなることを見出した。
【0089】
GASP-1顆粒ががん細胞表面上に存在し、正常細胞表面上に存在しないことは、がん細胞を特異的に標的化して正常細胞に害を与えない機会を提示するものである。がん細胞表面上にGASP-1粗粒が大量に存在することはまた、GASP-1標的化がん処置をより効果的なものにすることができる。DCIS乳がんや他のがんのような固形腫瘍においては、GASP-1顆粒は異なる細胞層の表面上にも見出された。このことはまた、GASP-1顆粒を標的とする免疫療法をむしろ効果的なものにする。その理由は、これらががん治療剤にアクセス可能なためである。
【0090】
トリプルネガティブ乳がんは、非常に侵攻性の高い形態の乳がんであり、高グレードDCISとほぼ同一のGASP-1顆粒パターンを示す(
図4)。 繰り返しになるが、粉粒、細粒から、粗粒までにわたる様々な大きさのGASP-1顆粒が、このがんに存在している。 矢印は、細胞膜又は膜断片になお付着しているGASP-1顆粒を指している。
【0091】
肺がんは、男女ともに最も致命的ながんの一つである。その死亡率は、3大がん(大腸がん、乳がん、膵臓がん)を合わせたものを超えている。非小細胞肺がん(NSCLC)は肺がん全体の約85%を占めており、新たに診断された肺がん患者のほとんどが末期である。早期検出は非常に重要であって、生検サンプルを利用できるなら、細胞質中のGASP-1顆粒の存在及び存在量(abundance)は早期検出となる可能性がある。
図5は、NSCLCの代表的なIHC染色を示す。正常な肺細胞においては、GASP-1顆粒は一部の核にのみ発現し、細胞質には発現していないが(左のパネル)、NSCLCにおいては様々な大きさのGASP-1顆粒が細胞質に存在し、又は細胞膜に付着している(右のパネル)。右のパネルの矢印は、GASP-1顆粒と細胞膜及び膜断片との結合を指している。したがって、肺がんが疑われる人の肺組織のGASP-1顆粒をIHC染色することで、肺がんの存在が確認される。
【0092】
図6は、グリオブラストーマ細胞におけるGASP-1顆粒を示す。GASP-1顆粒は正常脳細胞には存在しなかったが(左のパネル)、グリオブラストーマ細胞には非常に多く存在していた(右のパネル)。様々な大きさのGASP-1顆粒が、グリオブラストーマ細胞の細胞質中及び表面上に存在している。
【0093】
同様に大量のGASP-1顆粒が、卵巣がん細胞、大腸がん細胞、メラノーマ細胞、胃がん細胞及び前立腺がん細胞の細胞質中又は表面に存在することが見出された。
【0094】
がん細胞の内部に様々な大きさのGASP-1顆粒がこれほど多く存在することは予想外である。 GASP-1顆粒は、本発明者らが試験した全てのがん細胞の表面上に存在しており、例えば子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、喉頭がん、卵巣の粘液性嚢胞腺癌、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌等の他のがん細胞表面にも存在すると推測することができる。このように、GASP-1は普遍的ながんバイオマーカーであって、GASP-1顆粒の産生はがんの進行において必要とされるステップとなり得る。したがって、がん及びがんの重症度を評価するため、GASP-1顆粒の存在、その細胞内局在、その存在量等を用いることができる。
【0095】
実施例3.GASP-1 scFv配列
GASP-1ペプチド断片EEASPEAVAGVGFESK(配列番号22)に対してモノクローナル抗体を生産した。いくつかのクローンが単離された。クローン14B8は、GASP-1ペプチドに対して最も高い力価を示した。クローン14B8からの細胞溶解液をTriZol溶液中で保存した。細胞溶解液中のtotal RNAからcDNAを逆転写し、その後に抗体の可変領域(重鎖(VH)及び軽鎖の両方)のPCR増幅を行った。
図7は、VL特異的プライマー(レーン1)又はVH特異的プライマー(レーン2)を用いたPCR産物のゲル分析を示す。得られたPCR断片を次いで標準的クローニングベクターに別々にクローニングし、配列を決定した。PCRを用いて、クローン14B8の重鎖及び軽鎖を配列決定し、2つの可変軽鎖配列を見いだした。
【0096】
表1は、クローン14B8の種々のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列、例えば、その第一、第二及び第三の相補性決定領域(VHCDR1、VHCDR2及びVHCDR3)を包含する可変重(VH)鎖、その第一、第二及び第三の相補性決定領域(VL1CDR1、VL1CDR2及びVL1CDR3)を包含する第一の可変軽(VL1)鎖、並びにその第一、第二及び第三の相補性決定領域(VL2CDR1、VL2CDR2及びVL2CDR3)を包含する第二の可変軽(VL2)鎖を示す。2つの軽鎖配列は、CDR1の1個のアミノ酸のみが異なる(配列番号9と17を比較)。NからYへの変化は、配列番号13及び19に示されるようにTATからAATへのコドンの変化によるものである。この不一致は、標的サブクローンの多重コロニー性(multiple coloniality)に起因する可能性がある。ヌクレオチド及びアミノ酸の変化は、太字及び下線で強調されている。
表1.クローン14B8の配列
【表1】
【0097】
実施例4.抗GASP-1 scFv-Fcタンパク質
抗GASP-1 scFv-Fcタンパク質は、クローン14B8の配列に基づいて作製した。異なる可変軽(VL)鎖配列を用いて、2つのscFv-Fc発現ベクター、scFv1-Fc及びscFv2-Fcを調製した。発現ベクターのコンストラクト設計は、
図8中に示される。scFv1-FcのVLは1468軽鎖#2(配列番号9)であり、scFv2-FcのVLは1468軽鎖#1(配列番号17)である。発現ベクターをHEK293細胞に一過性にトランスフェクトし、Gibco(登録商標) FreeStyle(商標)293 Expression Mediumを使用してHEK293細胞においてscFv-Fcタンパク質を発現させた。
【0098】
scFv-Fcタンパク質をProtein Aアフィニティークロマトグラフィーによって精製し、標的のPC-3がん細胞への親和性を解析した。フローサイトメトリー解析(FACS)において、5 x 10
5個のPC-3細胞をscFv1-Fc又はscFv2-Fcタンパク質で染色し、その後に二次抗体としてPE-抗ヒトIgG Fc抗体で染色した。
図9は、scFv1-Fcタンパク質によってPC-3細胞の49.4%が認識されたのに対し、scFv2-Fcタンパク質によってはPC-3細胞の8.39%しか認識されなかったことを示しており、このことはscFv1はPC-3細胞に対して顕著に高い親和性を有することを指し示す。
【0099】
実施例5.がん細胞表面上のGASP-1発現
様々ながん細胞におけるGASP-1の発現を、EEASPEAVAGVGFESK(配列番号22)に対する抗GASP-1モノクローナル抗体を用いて調べた。GASP-1は、肺がん細胞及び卵巣がん細胞の表面上に見出された(
図10)。肺がん表面のGASP-1の出現は、がん細胞表面上のGASP-1顆粒の存在を示す免疫組織化学(IHC)分析の結果(
図5)を確認するものである。GASP-1はまた、フローサイトメトリー解析によって調べた他のがん細胞、例えば大腸がん細胞、乳がん細胞、白血病細胞、メラノーマ細胞、グリオブラストーマ細胞及び膵臓がん細胞の表面上にも見出された。これらの結果に基づくと、GASP-1は普遍的ながんバイオマーカーであり得て、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、グリオーマ、肝細胞癌、浸潤性乳管癌、喉頭がん、腎細胞癌、小腸悪性間質性腫瘍及び胃腺癌といった他のがんの細胞表面上に出現している。GASP-1顆粒と多くのがんの細胞膜とのむしろ安定的な結合によって、GASP-1顆粒は、多くの固形腫瘍を包含するがんを処置するための、CAR-T及びヒト化組換え抗体の両方についての良い標的となる。
【0100】
実施例6.CARベクターの構築
GASP-1顆粒は異なるがん細胞層の表面上に存在し(
図3及び
図4を参照されたい)、細胞層の内部に埋もれておらず、正常細胞の表面上にはないことから、scFv1を有するキメラ抗原受容体(CAR)の全長を合成し、レンチウイルスベクターにサブクローニングした(
図11)。サンガーシークエンシングによりインサートを確認した。
【0101】
表2は、CARカセットの生産のために用いたヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。CARコンストラクトは、Lenti-EF-1αプロモーター(配列番号27)、シグナルペプチド(配列番号28)、scFv1(配列番号29)、CD28ヒンジ(配列番号30)、CD28膜内配列(配列番号31)、CD3z(配列番号32)、T2A(thosea asignaウイルス2Aの自己切断ペプチド)(配列番号33)及びEGFRt(トランケートのヒト上皮増殖因子受容体ポリペプチド)(配列番号34)のヌクレオチド配列を用いて調製した。GASP-1 CARコンストラクトは、シグナル配列(配列番号35)、scFv1(配列番号36)又はscFv2(配列番号43)、CD28ヒンジ(配列番号37)、CD28膜貫通配列(配列番号38)、CD3z(配列番号39)、T2A(配列番号40)、及びEGFRt(配列番号41)のアミノ酸配列を含む。scFv1は、scFv2(配列番号42)で置き換えられ得る。
表2.CARコンストラクトの配列
【表2】
【0102】
GASP-1顆粒をCAR-T標的として用いると、がん細胞表面のGASP-1顆粒を標的としたCAR-T療法は新たなアプローチとなり、血液腫瘍と固形腫瘍の両方に対して有効である。
【0103】
実施例7.CAR-T細胞
CAR-Tのパーセンテージを評価するため、CAR-T細胞を抗EGFR及びPEコンジュゲート抗ヒトIgGで染色した。フローサイトメーター解析は、34.9%の細胞がCAR陽性であったことを示した(
図12)。
【0104】
CAR-Tの有効性を試験するため、CAR-T細胞を異なるE/T比で24時間、標的細胞株PC-3と共培養し、上清を採取してサイトカイン放出の測定を行った。データは、CAR-T細胞により分泌されたIL-2及びIFN-γは腫瘍細胞と会合(engage)した後に増加したことを示した(
図13)。
【0105】
実施例8.抗GASP-1 scFv配列を含有するヒト化抗体の構築
scFv1配列を含有するヒト化抗体を調製した。第一の抗体は、可変領域VH(配列番号1)及びヒト定常領域(配列番号45)を包含する重鎖(配列番号44)、並びにヒト定常領域(配列番号47)がつなげられた可変領域VL1(配列番号9)を包含する軽鎖(配列番号46)のアミノ酸配列を含み得る。第二の抗体は、可変領域VH(配列番号1)及びヒト定常領域(配列番号45)を包含する重鎖(配列番号44)、並びにヒト定常領域(配列番号47)がつなげられた可変領域VL2(配列番号17)を包含する軽鎖(配列番号48)のアミノ酸配列を含み得る。表3は、抗GASP-1ヒト化抗体を作製するために用いた種々の配列を示す。設計したキメラ抗体鎖を合成し、哺乳動物発現ベクターにサブクローニングし、HEK293細胞に一過性にトランスフェクトした。mAbは、Protein Aアフィニティークロマトグラフィー及びSEC-HPLCによって精製した。限外ろ過後、最終生成物を0.2ミクロンの滅菌ろ過に供した。タンパク質の純度は>99%であり、エンドトキシンは1 EU/mgより少ない。
表3.ヒト化抗GASP-1抗体の配列
【表3】
【0106】
本発明は、本明細書において特定の実施形態を参照して図示及び説明されるが、本発明は、示された詳細に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明から逸脱することなく、特許請求の範囲の等価物の範囲及び範囲内で、様々な改変が細部においてなされ得る。
【国際調査報告】