特表2021-525221(P2021-525221A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオクソデスの特許一覧

特表2021-525221好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用
<>
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000007
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000008
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000009
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000010
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000011
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000012
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000013
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000014
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000015
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000016
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000017
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000018
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000019
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000020
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000021
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000022
  • 特表2021525221-好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用 図000023
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-525221(P2021-525221A)
(43)【公表日】2021年9月24日
(54)【発明の名称】好中球の活性化に関連する疾患を処置するための抗凝固性タンパク質およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/81 20060101AFI20210827BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210827BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20210827BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20210827BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20210827BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20210827BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20210827BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20210827BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20210827BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20210827BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20210827BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20210827BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20210827BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20210827BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20210827BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20210827BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20210827BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20210827BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20210827BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20210827BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20210827BHJP
   A61L 33/12 20060101ALI20210827BHJP
   C07K 14/435 20060101ALN20210827BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20210827BHJP
【FI】
   C07K14/81
   A61P43/00 105
   A61P29/00
   A61P7/02
   A61P9/00
   A61P9/10 101
   A61P9/10
   A61P19/02
   A61P29/00 101
   A61P37/02
   A61P31/04
   A61P1/04
   A61P7/04
   A61K38/16
   A61L27/34
   A61L27/40
   A61L27/54
   A61L29/08 100
   A61L29/12
   A61L29/16
   A61L31/10
   A61L31/12
   A61L31/16
   A61L33/12
   C07K14/435ZNA
   C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2020-542238(P2020-542238)
(86)(22)【出願日】2019年2月1日
(85)【翻訳文提出日】2020年9月18日
(86)【国際出願番号】EP2019052542
(87)【国際公開番号】WO2019149906
(87)【国際公開日】20190808
(31)【優先権主張番号】62/624,997
(32)【優先日】2018年2月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】18186061.0
(32)【優先日】2018年7月27日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520283990
【氏名又は名称】バイオクソデス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ピレオ,バレリー
(72)【発明者】
【氏名】デムーラン,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ゴッドフロイド,エドモンド
(72)【発明者】
【氏名】タシニョン,ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】デロシェット,サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ギュイヨー,ミッシェル
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C081AB31
4C081AC06
4C081AC08
4C081BA05
4C081CD112
4C081DA01
4C081DA03
4C081DC03
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA20
4C084BA23
4C084CA49
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA451
4C084ZA452
4C084ZA531
4C084ZA532
4C084ZA541
4C084ZA542
4C084ZA681
4C084ZA682
4C084ZA961
4C084ZA962
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB151
4C084ZB152
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB351
4C084ZB352
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA20
4H045CA51
4H045DA56
4H045EA24
(57)【要約】
本発明は、外因性凝固経路を阻害するため、および外因性凝固経路の活性化の後の好中球の動員および活性化に関連する疾患および病態を処置および/または予防するための、マダニの唾液腺ポリペプチド、そのフラグメントまたはバリアントを含むタンパク質またはポリペプチド、およびその使用に関する。特に本発明は、外因性凝固経路の活性化の後の好中球の動員および活性化に関連するいずれかの血栓イベントの処置および/または予防のための、マダニの唾液腺ポリペプチド、そのフラグメントまたはバリアントを含むタンパク質の使用に関する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/または好中球細胞外トラップの形成(NETosis)を阻害するために使用するための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチド。
【請求項2】
前記タンパク質またはポリペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、請求項1に記載の使用のためのタンパク質またはポリペプチド。
【請求項3】
血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisを阻害することが、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisに関連する疾患または病態を処置および/または予防する、請求項1または請求項2に記載の使用のためのタンパク質またはポリペプチド。
【請求項4】
前記血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisに関連する疾患または病態が、静脈血栓症、動脈血栓症、血栓炎症(thromboinflammation)、および循環器疾患を含む群から選択される、請求項3に記載の使用のためのタンパク質またはポリペプチド。
【請求項5】
前記血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisに関連する疾患または病態が、血栓炎症である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用のためのタンパク質またはポリペプチド。
【請求項6】
前記血栓炎症が、アテローム性動脈硬化、プラーク破綻、装置誘導性の血栓炎症、カテーテル法および/またはステントの位置決め手法により誘導される血栓症、体外循環により誘導される血栓症、脳損傷後の血栓形成、冠動脈疾患、急性心筋梗塞、癌関連の血栓症、転移関連の血栓症、脳卒中関連の血栓症、ベーチェット病(BD)、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、高安動脈炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、家族性地中海熱、閉塞性血栓血管炎(TAO)、敗血症、炎症性腸疾患、ヘパリン起因性血小板減少症、免疫学的血栓形成、子癇前症に関連する血栓症、細胞および細胞クラスターの移殖および全臓器移植または移植片における血栓性合併症、静脈血栓塞栓症、動脈瘤、ならびに骨格筋における虚血−再灌流症候群を含む群から選択される、請求項5に記載の使用のためのタンパク質またはポリペプチド。
【請求項7】
前記血栓炎症が、アテローム性動脈硬化である、請求項6に記載の使用のためのタンパク質またはポリペプチド。
【請求項8】
前記血栓炎症が、カテーテル法および/またはステントの位置決め手法により誘導される血栓症である、請求項6に記載の使用のためのタンパク質またはポリペプチド。
【請求項9】
前記血栓炎症が、血液と接触する医療機器誘導性の血栓炎症である、請求項6に記載の使用のためのタンパク質またはポリペプチド。
【請求項10】
前記血栓炎症が、プラーク破綻である、請求項6に記載の使用のためのタンパク質またはポリペプチド。
【請求項11】
前記血栓炎症が、体外循環に関連する血栓症である、請求項6に記載の使用のためのタンパク質またはポリペプチド。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用のための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用のための配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドを含む医薬。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用のための配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有する単離されたポリペプチドでコーティングされている医療機器。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用のための配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有する単離されたポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好中球の活性化に関連する疾患および病態を処置および/または予防するための、マダニの唾液腺ポリペプチドを含むタンパク質およびポリペプチド、ならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ホメオスタシスは、出血を止め、分子レベルおよび肉眼レベルの両方で血液循環の統合性を保護する生体機能である。ホメオスタシスは、従来より、2つの変換酵素カスケード:血管系の血液由来の成分により誘発されるカスケード(内因性経路)または損傷した血管壁に対する血液の曝露により誘発されるカスケード(外因性経路)に分けられる凝固カスケードを含む。
【0003】
内因性経路および接触相(血漿カリクレイン−キニン系とも呼ばれる)は、酵素前駆体の第XII因子(FXII)、第XI因子(FXI)およびプレカリクレイン(pKKまたはPK)、ならびに補因子の高分子キニノーゲン(HK)を含む接触相のタンパク質によって惹起される。第XII因子は、負に帯電した表面に結合する際の自己活性化を経て、立体構造の変化により活性化した第XII因子(FXIIaまたはαFXIIa)を産生する。次に、αFXIIaは、PKを活性化した血漿カリクレイン(KKまたはPKa)に変換する。少量のPKaが形成されると、これらは、表面に結合した第XII因子のαFXIIaへの変換を触媒し、この系に強力な正のフィードバックをもたらす。このプロセスの間、第XII因子の活性化は、一連のタンパク質分解のステップをもたらすことにより、一連の異なる活性酵素(XIa、IXa、VIIIa、Xa)の産生をもたらすことによって、最終的にプロトロンビンのトロンビンへの活性化およびフィブリンの形成をもたらす。
【0004】
外因性凝固経路または組織因子(TF)経路は、多くのセリンプロテアーゼ、補因子、カルシウム、および細胞膜の構成要素からなる。TFは、内皮下層で発現し血小板組織因子、第III因子、トロンボプラスチン、またCD142とも呼ばれ、外因性凝固経路を活性化する。よって、TFは、曝露した内皮下細胞によりもたらされ、血漿中の第VII因子に結合して外因性凝固経路を誘発する。結果得られる複合体は、凝固カスケードを開始し、第X因子を第Xa因子に変換することにより、最終的にトロンビンの産生をもたらす。トロンビンは、血小板を活性化し、フィブリノーゲンをフィブリンに変換する。血小板およびフィブリンは両方とも、血管の破れの密閉に寄与している止血栓の重要な要素である。外因性経路は、in vivoでの凝固プロテアーゼカスケードの主要なアクチベーターであることが提案されている。その後の血栓の増殖(propagation)は、さらなる血小板の動員および凝固カスケードの増幅に関与している。
【0005】
さらに、炎症性刺激などの病態下では、TFは、単球、好中球、内皮細胞、および血小板により発現されることにより、循環性のTF陽性のマイクロパーティクルのレベルの上昇をもたらす。よって、外因性凝固経路はまた、凝固因子の活性化に加え、細胞にも関与する。重要なことに、血小板は、血栓を形成する表面を提供することによって、凝固カスケードの増幅に重要な役割を果たしている。
【0006】
過去10年間にわたり行われている研究により、好中球が血栓のプロセスに有意に寄与しているとの高まる見解が裏付けられている。好中球が欠失した血栓動物モデルにおける血栓の提示の減弱は、血栓症におけるこれら細胞の寄与を示している。好中球は、好中球細胞外トラップ(NET)の放出により、病原性の静脈血栓症および動脈血栓症に寄与し得る。NETの放出は、敗血症、深部静脈血栓症、および悪性腫瘍などの病態における血栓形成に対する主要な引き金として新たに出現している。さらにNETが、フィブリン沈着および血小板の捕捉、ならびにその後の活性化に対する足場を提供することが示唆されている。さらに、好中球由来のものを含む血液−細胞由来のマイクロパーティクルは、血栓の形成に関与している。またいくつかの研究により、in vivoおよびex vivoでの好中球によるTFの産生が裏付けられている(Kambas et al., 2012)。
【0007】
in vivoでの実験的な血栓症および炎症により駆動される血栓性疾患における好中球の能動的な役割は、実証されている。外因性凝固カスケードの活性化における好中球の寄与は、エラスターゼの放出を介したTFPIの分解である(TFPIは、TFの主な阻害剤である)(Massberg et al., 2010)。さらに、損傷した内皮への好中球の結合が、レーザーにより誘導される内皮損傷のモデルにおいて血栓の形成をもたらす一連のイベントの最初のステップであることが例証された。この好中球の重要な役割は、これら細胞が血栓の形成で必要とされるTFの主な供給源であるという知見により補強された。血管壁への好中球の結合の阻害は、TFの存在を低減し、フィブリンの産生および血小板の集積を減少させることが示された(Darbousset et al., 2012;Darbousset et al., 2014)。さらに、同じモデルにおいて、第XII因子の欠損は血栓の産生を減弱しなかった(Darbousset et al., 2012)。よって、好中球は、外因性凝固系の活性化に重要な役割を果たしており、NETは、フィブリンの沈着および血小板の捕捉、ならびにその後の活性化に対する足場を提供し得る。
【0008】
過去50年間にわたり、抗凝固的処置は、2つのクラスの作用物質:ヘパリンおよび抗ビタミンK(antivitamins K)が主要であった。ヘパリンは、いくつかの活性化凝固因子(特にトロンビンおよび第IXa因子および第Xa因子)に関してこれら因子を間接的に阻害することにより抗トロンビンの阻害性作用の速度を速め、非経口的に投与される際に唯一活性である。抗ビタミンKは、4つの凝固因子(プロトロンビン、ならびに第VII因子、第IX因子、および第X因子)の最終的な合成を予防する。両クラスの作用物質は、凝固の外因性経路を阻害する。しかしながら、これら作用物質の治療ウインドウは狭く、患者を注意深くモニタリングする必要がある。実際に、これら作用物質は、出血のリスクを回避しつつ十分な抗血栓的な有効性を確保するために、注意深い臨床試験を必要とする。
【0009】
よって、出血性の副作用のない新規の抗凝固薬が強く必要とされている。
【0010】
以前に、本出願人は、ダニのI.ricinus(マダニ)の唾液腺から単離されたポリペプチドのIr−CPI(マダニ接触相阻害剤)が、凝固因子の第XIa因子および第XIIa因子を特異的に標的とすることを証明した(欧州特許第1892297号および同第2123670号;Decrem et al., 2009)。これにより、マダニの唾液腺ポリペプチドは、内因性凝固経路の特異的な阻害剤であることが見出された。実際に、in vitroにおいて、Ir−CPIは、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を長期化することにより内因性経路に干渉することを示しつつ、プロトロンビン時間(PT)、トロンビン時間(TT)、および希釈ラッセル蛇毒時間(dRVVT)(3つの試験は外因性または一般的な経路の活性化因子での血液凝固の誘発を試験する)に作用しないことが示されている。さらに、エラグ酸(内因性経路活性化因子)により誘導されるトロンビン産生の強力な用量依存的な低減とは対照的に、Ir−CPIは、トロンビン産生が低濃度のTF(5pM)(外因性経路活性化因子)により誘導されるトロンビン産生アッセイにおいて極めて不活性であることが報告された。5pMのTFでのトロンビン産生の小さな阻害は、低濃度のTFでは、トロンビンが、内因性経路のFXIを活性化して、トロンビン、FXI(a)、FIX(a)、FX(a)、および(プロ)トロンビンを含むフィードバックループを作製することができ、外因性経路を維持するとの事実により、説明されている(Keularts, Zivelin et al. 2001)。
【0011】
見込みのある作用機構として、この分子は、第XIIa因子により第XI因子およびPKの活性化を阻害し、第XIa因子により第XII因子の活性化を阻害することが示されたが、凝固経路の他の標的、特に現在利用可能な非経口的および/または経口的な抗凝固薬および抗血栓薬剤の標的であるトロンビンおよび第Xa因子では、全体的に不活性であった。以前に開示された結果は、凝固経路の因子のみを含むin vitroでのアッセイで得られたものであり、よって外因性凝固経路に関与する細胞の活性を示唆し得るものではなかった。
【0012】
内因性凝固経路に及ぼす特異的な作用のため、Ir−CPIは、現在の非経口的な抗凝固薬の主な副作用を構成する出血のリスクに関してより大きな治療ウインドウを有することが予測される。実際に、本出願人は、この分子が、薬理的な治療上有効な用量で、げっ歯類の実験モデルにおいて出血を増大させないことを示した(Decrem, Rath et al., 2009)。
【0013】
これまでに、本出願人は、マダニの唾液腺ポリペプチドが、TFに強く依存しておりFXIIとは無関係であることが報告されている実験マウスの細動脈レーザー損傷モデルの病変部位で、多形核好中球(PMN)および血小板の動員を、予想を超えて阻害することを見出した(Darbousset et al., 2012)。さらにまた、本出願人は、in vitroにて、マダニの唾液腺ポリペプチドが、PMNの活性化および好中球細胞外トラップの形成(NETosisとも呼ばれる)を阻害することを見出した。理論により拘束されるものでは全くないが、これによって本出願人は、Ir−CPIが、病変部位で好中球の動員および活性化を阻害し、よって、外因性凝固経路が活性化される際に関与する細胞の動員および活性化にある役割を果たしていると結論づけた。
【0014】
よって、マダニの唾液腺ポリペプチドは、外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態、たとえば血栓症などの処置および/または予防、ならびに血栓の傾向を伴う炎症性疾患および血栓炎症(thromboinflammation)の処置および/または予防に有用である。
【0015】
Ir−CPIポリペプチドの作用機構におけるこれらの新規の性質の発見によって、これら分子の大元の化合物は、内因性経路を阻害できるだけでなく、トロンビンおよび/または第Xa因子の阻害剤とは全く異なる機構を介して、TFに関与する凝固および/または血栓のプロセスに作用することができる。
【0016】
よって、本発明は、好中球および/またはNETosisの活性化に関連する疾患および病態の処置および/または予防に使用するための、マダニの唾液腺ポリペプチドを含む抗凝固性タンパク質、およびそれらの使用に関する。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/または好中球細胞外トラップの形成(NETosis)を阻害するために使用するための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドに関する。
【0018】
一実施形態では、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisを阻害することは、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisに関連する疾患または病態を処置および/または予防する。
【0019】
一実施形態では、上記血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisに関連する疾患または病態は、静脈血栓症、動脈血栓症、血栓炎症、および循環器疾患を含む群から選択される。一実施形態では、上記血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisに関連する疾患または病態は、血栓炎症である。
【0020】
一実施形態では、上記血栓炎症は、アテローム性動脈硬化、プラーク破綻、装置誘導性の血栓炎症、カテーテル法および/またはステントの位置決め手法により誘導される血栓症、体外循環により誘導される血栓症、脳損傷後の血栓形成、冠動脈疾患、急性心筋梗塞、癌関連の血栓症、転移関連の血栓症、脳卒中関連の血栓症、ベーチェット病(BD)、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、高安動脈炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、家族性地中海熱、閉塞性血栓血管炎(TAO)、敗血症、炎症性腸疾患、ヘパリン起因性血小板減少症、免疫学的血栓形成、子癇前症に関連する血栓症、細胞および細胞クラスターの移殖および全臓器移植または移植片における血栓性合併症、静脈血栓塞栓症、動脈瘤、ならびに骨格筋における虚血−再灌流症候群を含む群から選択される。
【0021】
一実施形態では、上記血栓炎症は、局所的な血管狭窄の部位でのカテーテル法および/またはステントの位置決め手法により誘導される血栓症である。別の実施形態では、上記血栓炎症は、血液と接触する医療機器誘導性の血栓炎症である。別の実施形態では、上記血栓炎症は、体外循環に関連する血栓症および/または凝固である。
【0022】
また本発明は、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisの阻害に使用するため、ならびに/または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisに関連する疾患もしくは病態を処置および/もしくは予防するための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0023】
また本発明は、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisの阻害に使用するため、ならびに/または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisに関連する疾患もしくは病態を処置および/もしくは予防するための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドを含む医薬に関する。
【0024】
本発明の別の目的は、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisの阻害に使用するため、ならびに/または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisに関連する疾患もしくは病態を処置および/もしくは予防するための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有する単離されたポリペプチドでコーティングされている医療機器である。
【0025】
本発明のさらなる別の目的は、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisの阻害に使用するため、ならびに/または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisに関連する疾患もしくは病態を処置および/もしくは予防するための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有する単離されたポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドを含むキットである。
【0026】
さらに本発明は、それを必要とする対象の外因性凝固経路の阻害に使用するための配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドであって、外因性凝固経路を阻害することが、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/または好中球細胞外トラップの形成(NETosis)を阻害することを含む、タンパク質またはポリペプチドに関する。
【0027】
また本発明は、それを必要とする対象の外因性凝固経路を阻害するための方法であって、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有する単離されたポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドを上記対象に投与するステップを含む、方法に関する。
【0028】
一実施形態では、上記外因性凝固経路の阻害は、外因性凝固経路の活性化に関連する疾患または病態を処置および/または予防する。一実施形態では、上記外因性凝固経路の阻害は、外因性凝固経路の活性化に関連する血栓症を処置および/または予防する。一実施形態では、上記外因性凝固経路の阻害は、静脈血栓症を処置および/または予防する。一実施形態では、上記外因性凝固経路の阻害は、動脈血栓症を処置および/または予防する。一実施形態では、上記外因性凝固経路の阻害は、癌関連の血栓症を処置および/または予防する。一実施形態では、上記外因性凝固経路の阻害は、脳卒中関連の血栓症を処置および/または予防する。一実施形態では、上記外因性経路の阻害は、血栓の傾向を伴う炎症性疾患を処置および/または予防する。一実施形態では、上記外因性経路の阻害は、血栓炎症を処置および/または予防する。
【0029】
また本発明は、本明細書中上述されるそれを必要とする対象の外因性凝固経路の阻害に使用するための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0030】
また本発明は、本明細書中上述されるそれを必要とする対象の外因性凝固経路の阻害に使用するための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドを含む医薬に関する。
【0031】
また本発明は、本明細書中上述されるそれを必要とする対象の外因性凝固経路の阻害に使用するための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリペプチドを含むタンパク質またはポリペプチドを含むキットに関する。
【0032】
また本発明は、本明細書中上述されるそれを必要とする対象の外因性凝固経路の阻害に使用するための、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも75%の配列同一性を有する単離されたポリペプチドでコーティングした医療機器に関する。
【0033】
定義
本発明において、以下の用語は以下の意味を有する。
【0034】
ある値に先行する用語「約」は、上記値の±10%を意味する。
【0035】
用語「アミノ酸の置換」は、ポリペプチドにおける1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置き換えを表す。一実施形態では、1つのアミノ酸が、類似の構造的および/または化学的な性質を有する別のアミノ酸と置き換えられる(たとえば保存的アミノ酸の置き換え)。「保存的アミノ酸の置換」は、関与する残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の性質の類似性に基づきなされ得る。たとえば、非極性(疎水性)アミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンを含み;極性の中性アミノ酸は、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンを含み;正に荷電した(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リジン、およびヒスチジンを含み;負に荷電した(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。非保存的な置換は、これらクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴う。たとえば、アミノ酸の置換はまた、1つのアミノ酸を、異なる構造的および/または化学的な性質を有する別のアミノ酸と置き換えること、たとえば1つのグループ(たとえば極性)由来のアミノ酸を異なるグループ(たとえば塩基性)由来の別のアミノ酸と置き換えることをもたらし得る。アミノ酸の置換は、当該分野でよく知られている遺伝的または化学的な方法によりもたらされ得る。遺伝的な方法は、部位特異的な変異誘発、PCR、遺伝子合成などを含み得る。化学的な修飾などの遺伝子操作以外の方法によるアミノ酸の側鎖基を変更する方法もまた有用であり得ることが企図されている。
【0036】
用語「同一性」は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の同一性の測定値を表す。一般に、これら配列は、最も高次の一致が得られるように配列されている。「同一性」自体は、この分野で認識されている意味を有し、公開されている技術を使用して計算され得る。たとえば、Computational Molecular Biology, Lesk, A.M., ed., Oxford University Press, New York, 1988;Biocomputing: Informatics And Genome Projects, Smith, D.W., ed., Academic Press, New York, 1993;Computer Analysis Of Sequence Data, Part I, Griffin, A.M., and Griffin, H.G., eds, Humana Press, New Jersey, 1994;Sequence Analysis In Molecular Biology, von Heijne, G., Academic Press, 1987;およびSequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds, M Stockton Press, New York, 1991を参照されたい。2つのポリヌクレオチド配列間またはポリペプチド配列間の同一性を測定するための多くの方法が存在しており、用語「同一性」は、当業者によく知られている(Carillo and Lipton, SIAM J Applied Math, 1998, 48:1073)。2つの配列間の同一性または類似性を決定するために一般に使用される方法として、限定するものではないが、Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, ed., Academic Press, San Diego, 1994;およびCarillo and Lipton, SIAM J Applied Math, 1998, 48:1073に開示される方法が挙げられる。同一性および類似性を決定するための方法は、コンピュータプログラムで体系化されている。2つの配列間の同一性および類似性を決定するための好ましいコンピュータプログラム法として、限定するものではないが、GCGプログラムパッケージが挙げられる(Devereux et al., J Molec Biol, 1990, 215:403)。最も好ましくは、同一性のレベルを決定するために使用されるプログラムは、以下の実施例に使用されている、GAPプログラムであった。
【0037】
例示として、少なくとも、たとえば参照ヌクレオチド配列と95%の「同一性」を有するヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、このポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、参照ヌクレオチド配列の各100のヌクレオチドあたり平均して最大5つの点変異を含み得ることを除き、参照配列と同一であることが意図されている。言い換えると、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るためには、参照配列において最大5%のヌクレオチドが欠失もしくは別のヌクレオチドと置換され得るか、または参照配列の総ヌクレオチドの最大5%の数のヌクレオチドが参照配列に挿入され得る。これら参照配列の変異は、参照ヌクレオチド配列の5’末端もしくは3’末端の位置、もしくはこれら末端の位置の間のいずれかの場所で起こり得るか、参照配列のヌクレオチド配列の間でそれぞれ個別に散在され得るか、または参照配列の中の1つ以上の連続したグループに散在され得る。
【0038】
用語「ペプチドリンカー」は、「スペーサーペプチド」とも呼ばれ、2つのペプチドまたはポリペプチドをまとめて結合するために使用されるペプチドを表す。一実施形態では、本発明のペプチドリンカーは、3〜50アミノ酸を含む。ペプチドリンカーは、当該分野で知られているか、または本明細書中記載されている。
【0039】
用語「薬学的に許容される賦形剤」は、動物、好ましくはヒトに投与される際に、有害反応、アレルギー反応、または他の望ましくない反応をもたらさない賦形剤を表す。これは、あらゆる溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤、ならびに吸収遅延剤などを含む。薬学的に許容される担体または賦形剤は、いずれかの種類の、非毒性の固体、半固体、または液体の増量剤、希釈剤、カプセル化材料、または製剤化助剤を表す。ヒトの投与では、調製物は、FDA局の生物製剤の基準(FDA Office of Biologics standard)が必要とする無菌性、発熱性、一般的な安全性、および純度の基準と一致しなければならない。
【0040】
用語「ポリヌクレオチド」は、修飾されていないRNAもしくはDNAまたは修飾されたRNAもしくはDNAであり得るいずれかのポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを表す。「ポリヌクレオチド」は、限定するものではないが、一本鎖および二本鎖のDNA、一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖のRNA、ならびに一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖であるかまたはより典型的には二本鎖もしくは一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であり得るDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子を含む。さらに「ポリヌクレオチド」は、RNAまたはDNAまたはRNAおよびDNAの両方を含む3本鎖領域を表す。用語ポリヌクレオチドはまた、1つ以上の修飾された塩基を含むDNAまたはRNA、および安定性または他の理由のため修飾された骨格を伴うDNAまたはRNAを含む。「修飾された」塩基は、たとえば、トリチル化した塩基および異常な塩基、たとえばイノシンを含む。様々な修飾が、DNAおよびRNAになされており;よって、「ポリヌクレオチド」は、自然で通常見出されるポリヌクレオチドの化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態;ならびにウイルスおよび細胞に特有のDNAおよびRNAの化学的な形態を包有する。また「ポリヌクレオチド」は、多くの場合オリゴヌクレオチドと呼ばれる比較的短いポリヌクレオチドをも包有する。
【0041】
用語「ポリペプチド」は、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合により互いに結合した2つ以上のアミノ酸を含むいずれかのペプチドまたはタンパク質、すなわちペプチドアイソスターを表す。「ポリペプチド」は、ペプチド、オリゴペプチド、またはオリゴマーと一般に呼ばれる短い鎖、および一般にタンパク質と呼ばれるこれよりも長い鎖の両方を表す。ポリペプチドは、20の遺伝子によりコードされるアミノ酸以外のアミノ酸を含み得る。
【0042】
用語「タンパク質」は、100超のアミノ酸の配列および/または多量体の実体を表す。本発明のタンパク質は、特定の長さの産物に限定されない。用語「ポリペプチド」または「タンパク質」は、天然に存在し非天然に存在する、タンパク質の発現後の修飾、たとえばグリコシル化、アセチル化、リン酸化など、ならびに当該分野で知られている他の修飾を表すものではなく、または排除するものではない。このような修飾は、基本的なテキストおよびより詳述された研究書、ならびに多くの研究文献に十分に記載されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシル末端を含むポリペプチドまたはタンパク質のいずれの場所でも起こり得る。同じ種類の修飾が、所定のポリペプチドまたはタンパク質のいくつかの部位に同じまたは様々な度合いで存在し得ることを理解されたい。また、所定のポリペプチドまたはタンパク質は、多くの種類の修飾を含み得る。ポリペプチドまたはタンパク質は、ユビキチン化の結果として分岐していてもよく、これらは、分岐を伴うかまたは伴わない環状であり得る。環状ポリペプチドまたはタンパク質、分岐したポリペプチドまたはタンパク質、および分岐した環状ポリペプチドまたはタンパク質は、翻訳後の天然のプロセスからもたらされてもよく、または合成方法により作製されてもよい。修飾として、アセチル化、アシル化、ADP−リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスホチジルイノシトール(phosphotidylinositol)の共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合の形成、脱メチル化、共有結合性の架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸塩の形成、ホルミル化、γ−カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカーの形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化(selenoylation)、硫酸化、トランスファーRNAが介在するアミノ酸のアミノのタンパク質への付加、たとえばアルギニル化(arginylation)、ならびにユビキチン化が挙げられる。たとえば、”Proteins−structure and molecular properties”, 2nd Ed., T. E. Creighton, W. H. Freeman and Comany, New York, 1993;Wolt, F., ”Posttranslational Protein Modifications: Perspectives and Prospects”, Posttranslational covalent modification of proteins, B. C. Johnson, Ed., Academic Press, New York, 1983, pgs. 1−12;Seifter et al., ”Analysis for protein modifications and nonprotein cofactors”, Meth Enzymol, 1990, 182:626−646;Rattan et al, ”Protein Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging”, Ann NY Acad Sci, 1992, 663:48−62を参照されたい。タンパク質は、タンパク質全体またはその下位配列であり得る。
【0043】
「単離されたタンパク質またはポリペプチド」は、その天然の環境の成分から同定、かつ分離および/または回収されたタンパク質またはポリペプチドを表す。好ましい実施形態では、単離されたタンパク質またはポリペプチドは、
(1)ローリー法により決定されるタンパク質またはポリペプチドの80、85、90、または95重量%超まで、最も好ましくは96、97、98、または99重量%超まで、
(2)スピニングカップシークエネーターの使用によりN末端または内部のアミノ酸配列の少なくとも15残基を得るために十分な度合いまで、または
(3)クマシーブルー染色、好ましくは銀染色を使用する還元条件または非還元条件下でのSDS−PAGEにより均一となるまで、
精製される。
【0044】
単離されたタンパク質またはポリペプチドは、タンパク質またはポリペプチドの天然の環境の少なくとも1つの成分が存在していないため、組み換え細胞の中のin situのタンパク質を含む。しかしながら、通常、単離されたタンパク質またはポリペプチドは、少なくとも1つの精製ステップにより調製される。
【0045】
用語「融合タンパク質」は、それらの個々のペプチド骨格を介した共有結合により結合した、最も好ましくはこれらタンパク質をコードするポリヌクレオチド分子の遺伝子発現を介してもたらされる、2つ以上のタンパク質またはそれらのフラグメントを含む分子を表す。融合タンパク質を形成するポリペプチドは、通常、C末端−N末端に結合するが、これらはまた、C末端−C末端、N末端−N末端、またはN末端−C末端に結合し得る。融合タンパク質のポリペプチドは、任意の順序で融合し得る。
【0046】
用語「融合されている」は、ペプチド結合によるか、直接または1つ以上のペプチドリンカーを介して結合している構成要素を表す。
【0047】
用語「ネイティブなIr−CPI」は、たとえば安定性などのその性質の1つ以上を変更するために天然に存在するIr−CPIから修飾されている「修飾されたIr−CPI」とは反対の、天然に存在するIr−CPIを表す。修飾されたIr−CPIポリペプチドは、たとえば、アミノ酸配列の修飾、たとえばアミノ酸の置換、欠失、または挿入を含み得る。
【0048】
用語「対象」は、哺乳類、好ましくはヒトを表す。一実施形態では、対象は雄性である。別の実施形態では、対象は雌性である。一実施形態では、対象は、「患者」、すなわち、医療の受診を待機しているか、または医療を受診しているか、または過去/現在/将来に医療の対象であった/ある/あり得るか、または疾患もしくは病態の発症に関してモニタリングされている温血動物、より好ましくはヒトであり得る。一実施形態では、対象は成年(たとえば18歳超の対象)である。別の実施形態では、対象は、小児(たとえば18歳未満の対象)である。
【0049】
用語「治療上有効量」は、有意な負のまたは有害な副作用を標的にもたらすことなく、(1)好中球の動員、好中球の活性化、もしくは外因性凝固経路の活性化に関連する疾患もしくは病態の遅延もしくは予防;(2)好中球の動員、好中球の活性化、もしくは外因性凝固経路の活性化に関連する疾患もしくは病態の1つ以上の症状の進行、憎悪、もしくは悪化の遅延もしくは停止;(3)好中球の動員、好中球の活性化、もしくは外因性凝固経路の活性化に関連する疾患もしくは病態の症状の改善をもたらすこと;(4)好中球の動員、好中球の活性化、もしくは外因性凝固経路の活性化に関連する疾患もしくは病態の重症度もしくは頻度の低減;または(5)好中球の動員、好中球の活性化、もしくは外因性凝固経路の活性化に関連する疾患もしくは病態の予防を目的とする作用物質のレベルまたは量を意味する。一実施形態では、治療上有効量は、防止的または予防的作用のため、好中球の動員、好中球の活性化、または外因性凝固経路の活性化に関連する疾患または病態の発症の前に投与される。
【0050】
用語「処置すること(treating)」または「処置(treatment)」または「軽減(alleviation)」は、治療上の処置および防止的または予防的な手段(ここでの目的は、好中球の動員、好中球の活性化、または外因性凝固経路に関連する疾患または病態を予防または遅延する(弱める)ことである)の両方を表す。処置を必要とするものは、好中球の動員、好中球の活性化、または外因性凝固経路に関連する疾患または病態をすでに罹患しているもの、および好中球の動員、好中球の活性化、または外因性凝固経路に関連する疾患または病態を有する傾向のあるもの、または好中球の動員、好中球の活性化、または外因性凝固経路に関連する疾患または病態を予防すべきものを含む。本発明の方法によりタンパク質またはポリペプチドの治療量を投与した後に、患者が、以下:病原性細胞数の低下;病原性である細胞の総数のパーセントの低下;および/または好中球の動員、好中球の活性化、または外因性凝固経路に関連する疾患または病態に関連する症状のうちの1つ以上のある程度までの緩和;罹患率および死亡率の低下、ならびにクオリティオブライフの問題の改善のうちの1つ以上の観察可能かつ/または測定可能な低下または非存在を示す場合、対象または哺乳類の感染の「処置」が成功している。好中球の動員、好中球の活性化、または外因性凝固経路に関連する疾患または病態の処置の成功および改善を評価するための上記パラメータは、医師によく知られている規定の手法により容易に測定可能である。
【0051】
用語「バリアント」は、それぞれの参照のポリヌクレオチドまたはポリペプチドとは異なるが、本質的な性質を保持しているポリヌクレオチドまたはポリペプチドを表す。典型的なポリヌクレオチドのバリアントは、別の参照ポリヌクレオチドとはヌクレオチド配列において異なっている。バリアントのヌクレオチド配列の変化は、参照ポリヌクレオチドによりコードされているポリペプチドのアミノ酸配列を変えてもよくまたは変えなくてもよい。ヌクレオチドの変化は、後述されるように、参照配列によりコードされるポリペプチドのアミノ酸の置換、付加、欠失、融合、およびトランケーションをもたらし得る。典型的なポリペプチドのバリアントは、別の参照ポリペプチドとアミノ酸配列において異なっている。全般的に、差異は、参照ポリペプチドおよびバリアントの配列が全体的に密接に類似しており、多くの領域で同一であるように、限定されている。バリアントおよび参照ポリペプチドは、任意の組み合わせの1つ以上の置換(好ましくは保存的置換)、付加、欠失により、アミノ酸配列において異なり得る。置換または挿入されているアミノ酸残基は、遺伝子コードによりコードされるアミノ酸であってもよくまたは当該アミノ酸でなくてもよい。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドのバリアントは、対立遺伝子のバリアントなどの天然に存在するものであってもよく、または、天然に存在することが知られていないバリアントであってもよい。ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの天然に存在しないバリアントは、変異導入技術または直接的な合成によりなされ得る。バリアントは、参照ポリペプチドの生体活性のうちの1つ以上を保持していなければならない。
【0052】
詳細な説明
よって、本発明は、外因性凝固経路を阻害するため、およびこれにより外因性凝固経路に関連する疾患および病態を処置および/または予防するため、特には外因性凝固経路の活性化に関連する血栓を処置および/または予防するための、マダニの唾液腺ポリペプチドまたはそのフラグメントまたはバリアントを含むタンパク質またはポリペプチド、およびその使用に関する。
【0053】
一実施形態では、本発明は、外因性凝固経路の細胞部分を阻害するための、マダニの唾液腺ポリペプチドまたはそのフラグメントまたはバリアントを含むタンパク質またはポリペプチド、およびその使用に関する。一実施形態では、用語「外因性凝固経路の細胞部分」は、血小板の動員、好中球の活性化、および/または好中球の動員、および/またはNETの形成を意味する。よって一実施形態では、外因性凝固経路の細胞部分を阻害することは、血小板の動員、好中球の活性化、および/または好中球の動員、および/またはNETの形成を阻害することからなる。
【0054】
一実施形態では、外因性凝固経路を阻害することは、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisを阻害することを含む。よって、一実施形態では、本発明は、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisを阻害するための、マダニの唾液腺ポリペプチドまたはそのフラグメントまたはバリアントを含むタンパク質またはポリペプチドの使用、およびその使用に関する。また本発明は、血小板の動員、好中球の活性化、好中球の動員、および/またはNETosisに関連する疾患および病態を処置および/または予防するための本発明に係るタンパク質またはポリペプチドに関する。
【0055】
一実施形態では、外因性凝固経路を阻害すること、特に外因性凝固経路の細胞部分を阻害することは、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisを阻害することからなる。
【0056】
一実施形態では、本発明は、外因性凝固経路、好ましくは外因性凝固経路の細胞部分を阻害するため、または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisを阻害するための、マダニの唾液腺ポリペプチドまたはそのフラグメントまたはバリアントを含むタンパク質またはポリペプチドの使用に関する。
【0057】
一実施形態では、外因性凝固経路を阻害すること、特に外因性凝固経路の細胞部分を阻害することは、組織因子(Tissue Factor)などの外因性凝固経路に特有の(specific of)組織因子を阻害することを含まない。一実施形態では、外因性凝固経路を阻害すること、特に外因性凝固経路の細胞部分を阻害することは、外因性凝固経路に特有の凝固因子を阻害することを含まない。
【0058】
一実施形態では、本発明のタンパク質またはポリペプチドは、単離されたタンパク質またはポリペプチドである。
【0059】
一実施形態では、本発明のマダニの唾液腺ポリペプチドは、Ir−CPI(マダニ接触相阻害剤)である。本明細書中使用される場合、Ir−CPIは、IrCPIとも呼ばれ得る。
【0060】
一実施形態では、本発明のIr−CPIポリペプチドは、配列番号1の配列を含むかまたは当該配列から構成されるアミノ酸配列を有する。一実施形態では、本発明のIr−CPIポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列に対応するcDNAによりコードされている。
【0061】
一実施形態では、本発明のIr−CPIポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1と少なくとも75%同一、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である。
【0062】
一実施形態では、Ir−CPIポリペプチドのフラグメントもまた、本発明に含まれている。本明細書中使用される場合、用語「フラグメント」は、上述のIr−CPIポリペプチドのアミノ酸配列の全てではないが一部と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。Ir−CPIポリペプチドと同様に、フラグメントは、「独立して構成(free−standing)」されていてもよく、またはある一部または領域を、最も好ましくは単一の連続した領域として形成するより大きなポリペプチドの中に含まれていてもよい。本発明のポリペプチドフラグメントの代表的な例として、たとえば、アミノ酸数約1〜20、21〜40、41〜60、61〜80、81〜100、および101からポリペプチドの末端までのフラグメントが挙げられる。この文脈では、「約」は、いずれかの端部または両端にあるいくつかの、5、4、3、2、または1つのアミノ酸だけ大きいまたは小さい、特に記載される範囲を含む。
【0063】
好ましいフラグメントは、限定するものではないが、アミノ末端を含む残基の連続したシリーズもしくはカルボキシル末端および/もしくは膜貫通領域を含む残基の連続したシリーズの欠失、または1つがアミノ末端を含み1つがカルボキシル末端を含む2つの残基の連続したシリーズの欠失を除き、Ir−CPIポリペプチドのアミノ酸配列を有するトランケーションポリペプチドを含む。また、α−ヘリックスおよびα−ヘリックス形成領域、β−シートおよびβシート形成領域、ターンおよびターン形成領域、コイルおよびコイル形成領域、親水性領域、疎水性領域、両親媒性α領域、両親媒性β領域、可動領域、表面形成領域、基質結合領域、および高抗原指標領域(high antigenic index region)を含むフラグメントなどの、構造的または機能的な性質を特徴とするフラグメントが好ましい。他の好ましいフラグメントは、生物学的に活性のフラグメントである。生物学的に活性のフラグメントは、同様の活性を有するか、活性が改善しているか、または望ましくない活性が減少したフラグメントを含む、Ir−CPIポリペプチドの活性を調停(mediate)するフラグメントである。
【0064】
一実施形態では、これらポリペプチドフラグメントの全ては、Ir−CPIポリペプチドの生体活性の一部を保持している。
【0065】
一実施形態では、Ir−CPIポリペプチドのバリアントもまた本発明に含まれている。好ましいバリアントは、保存的アミノ酸の置換によりIr−CPIポリペプチドとは異なるバリアント、すなわち、残基を別の同様の特徴を有する残基で置換するバリアントである。典型的なこのような置換は、Ala、Val、Leu、およびIleの中;SerおよびThrの中;酸性残基AspおよびGluの中;AsnおよびGlnの中;ならびに塩基性残基LysおよびArgの中;または芳香族の残基PheおよびTyrの中で、行われる。いくつか、5〜10、1〜5、または1〜2つのアミノ酸が、任意の組み合わせで置換されているか、欠失しているか、または付加されているバリアントが特に好ましい。最も好ましいバリアントは、マダニの唾液腺に存在するIr−CPIポリペプチドの天然に存在する対立遺伝子のバリアントである。
【0066】
一実施形態では、本発明のIr−CPIポリペプチドは、N−グリコシル化を予防するために、配列番号1のアミノ酸配列の54位に対応する位置のアスパラギン酸のグルタミンでの置き換えをもたらす変異を含むアミノ酸配列を有する。一実施形態では、本発明のIr−CPIポリペプチドは、配列番号2の配列を含むかまたはこれより構成されるアミノ酸配列を有する。
【0067】
一実施形態では、本発明のIr−CPIポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2と少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である。
【0068】
一実施形態では、本発明のIr−CPIポリペプチドは、いずれかの適切な方法で調製され得る。適切な方法により調製されたペプチドの例として、限定するものではないが、単離された天然に存在するポリペプチド、組み換えにより生成されたポリペプチド、合成的に生成されたポリペプチド、またはこれら方法の組み合わせにより生成されたポリペプチドが挙げられる。このようなポリペプチドを調製するための手段は、当該分野で十分に理解されている。
【0069】
一実施形態では、本発明のタンパク質は、Ir−CPIを含む融合タンパク質である。
【0070】
本明細書中使用される場合、用語「融合タンパク質」は、本明細書中上述されるIr−CPIポリペプチドと、少なくとも1つの他のポリペプチドとの融合物を表す。
【0071】
一実施形態では、Ir−CPIポリペプチドは、Ir−CPIの生体活性を保持する単一のタンパク質を生成するような方法で、少なくとも1つの他のポリペプチドに結合されている。
【0072】
一実施形態では、融合タンパク質のポリペプチドは、C末端−N末端で結合している。別の実施形態では、融合タンパク質の構成要素は、C末端−C末端で結合している。別の実施形態では、融合タンパク質の構成要素は、N末端−N末端で結合している。別の実施形態では、融合タンパク質の構成要素は、N末端−C末端で結合している。
【0073】
一実施形態では、融合タンパク質のポリペプチドは、任意の順序で融合され得る。
【0074】
一実施形態では、ポリペプチドは、単一の連続したポリペプチド鎖で配置される。
【0075】
一実施形態では、本発明の融合タンパク質は、少なくとも1つのペプチドリンカーをさらに含む。一実施形態では、本発明の融合タンパク質のポリペプチドは、1つ以上のペプチドリンカーを介して互いに結合している。
【0076】
一実施形態では、用語「Ir−CPI融合タンパク質」または「融合タンパク質」は、無差別に、リンカー配列が付加されていない融合タンパク質またはリンカー配列が付加されているタンパク質を表す。
【0077】
一実施形態では、リンカーペプチドは、2つの部分の間により大きな物理的な分離を提供し、よって、マダニの唾液腺ポリペプチドの利用可能性を最大限にする。リンカーペプチドは、可動であるかまたはより強固であるようなアミノ酸からなり得る。
【0078】
一実施形態では、本発明のペプチドリンカーは、1〜60アミノ酸、好ましくは2〜50アミノ酸、より好ましくは4〜40アミノ酸を含む。一実施形態では、本発明のペプチドリンカーは、5〜50アミノ酸、10〜50アミノ酸、15〜50アミノ酸、または20〜50アミノ酸を含む。別の実施形態では、本発明のペプチドリンカーは、6〜20アミノ酸、8〜20アミノ酸、または10〜20アミノ酸を含む。別の実施形態では、本発明のペプチドリンカーは、2〜10アミノ酸、5〜20アミノ酸、10〜30アミノ酸、または15〜40アミノ酸を含む。
【0079】
一実施形態では、本発明のペプチドリンカーは、in vivoで切断可能なリンカーではない。一実施形態では、本発明のペプチドリンカーは、in vivoで切断可能なリンカーである。
【0080】
本発明の融合タンパク質は、たとえば固相でのペプチド合成(たとえばメリフィールドの固相合成)または組み換え生成により、入手され得る。組み換え生成では、たとえば本明細書中上述されるような、融合タンパク質(フラグメント)をコードする1つ以上のポリヌクレオチドが単離され、宿主細胞でのさらなるクローニングおよび/または発現のため1つ以上のベクターに挿入される。このようなポリヌクレオチドは、従来の手法を使用して、容易に単離およびシーケンシングされ得る。
【0081】
当業者によく知られている方法を使用して、適切な転写/翻訳制御シグナルと併せて、融合タンパク質(フラグメント)のコード配列を含む発現ベクターを構築することができる。これら方法として、in vitroでの組み換えDNA技術、合成技術、およびin vivoでの組み換え/遺伝子組み換えが挙げられる。たとえば、Maniatis et al., MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y. (1989);およびAusubel et al., CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, Greene Publishing Associates and Wiley Interscience, N.Y (1989)に記載される技術を参照されたい。発現ベクターは、プラスミド、ウイルスの一部であり得、または核酸フラグメントであり得る。発現ベクターは、融合タンパク質(フラグメント)をコードするポリヌクレオチド(すなわちコード領域)が、プロモーターおよび/または他の転写もしくは翻訳制御エレメントと作動可能に結合してクローニングされる発現カセットを含む。本明細書中使用される場合、「コード領域」は、アミノ酸に翻訳されるコドンからなる核酸の一部である。「ストップコドン」(TAG、TGA、またはTAA)はアミノ酸に翻訳されないが、存在する場合はコード領域の一部とみなされてもよいが、全ての隣接する配列、たとえばプロモーター、リボソーム結合部位、転写ターミネーター、イントロン、5’末端および3’末端の翻訳されない領域などは、コード領域の一部ではない。2つ以上のコード領域が、単一のポリヌクレオチドコンストラクト、たとえば単一のベクター上に、または別々のポリヌクレオチドコンストラクト、たとえば別々の(異なる)ベクター上に、存在し得る。さらに、いずれかのベクターが、単一のコード領域を含み得るか、または2つ以上のコード領域を含み得、たとえば、本発明のベクターは、タンパク質分解性の切断を介して最終的なタンパク質に翻訳後または翻訳と同時に分離される、1つ以上のポリペプチドをコードし得る。さらに、本発明のベクター、ポリヌクレオチド、または核酸は、本発明の融合タンパク質(フラグメント)をコードするポリヌクレオチドに融合しているかまたは融合していない、異種性(heterologous)コード領域、またはそのバリアントもしくは誘導体をコードし得る。異種性コード領域として、限定するものではないが、分泌型シグナルペプチドまたは異種性の機能的ドメインなどの特化したエレメントまたはモチーフが挙げられる。作動可能な結合は、遺伝子産物、たとえばポリペプチドに関するコード領域が、制御配列の影響下または制御下で遺伝子産物の発現を設定するような方法で、1つ以上の制御配列と結合している場合である。2つのDNAフラグメント(ポリペプチドコード領域およびそれと結合しているプロモーターなど)は、プロモーター機能の誘導が所望の遺伝子産物をコードするmRNAの転写をもたらす場合および2つのDNAフラグメント間の結合の性質が遺伝子産物の発現を方向付ける発現制御配列の性質に干渉しないかまたは転写されるDNAテンプレートの性質に干渉しない場合に、「作動可能に結合している」。よって、プロモーターがポリペプチドをコードする核酸の転写に作用できる場合、プロモーター領域は、この核酸に作動可能に結合している。プロモーターは、所定の細胞でのみDNAの実質的な転写を方向付ける、細胞に特異的なプロモーターであり得る。プロモーターに加え、他の転写制御エレメント、たとえばエンハーサー、オペレーター、リプレッサー、および転写終結シグナルが、細胞に特異的な転写を方向付けるためにポリヌクレオチドと作動可能に結合し得る。適切なプロモーターおよび他の転写制御領域は、本明細書中開示されている。様々な転写制御領域が、当業者に知られている。これらとして、限定するものではないが、脊椎動物細胞で機能する転写制御領域、たとえば限定するものではないが、サイトメガロウイルス由来のプロモーターおよびエンハーサーセグメント(たとえば、イントロンAと結合した最初期プロモーター)、サルウイルス40由来のプロモーターおよびエンハーサーセグメント(たとえば初期プロモーター)、ならびにレトロウイルス(たとえばラウス肉腫ウイルスなど)由来のプロモーターおよびエンハーサーセグメントが挙げられる。他の転写制御領域として、アクチン、ヒートショックタンパク質、ウシ成長ホルモン、およびウサギのa−グロブリン、ならびに真核細胞での遺伝子発現を制御できる他の配列などの、脊椎動物の遺伝子由来の領域が挙げられる。さらなる適切な転写制御領域として、組織特異的なプロモーターおよびエンハーサー、ならびに誘導可能なプロモーター(たとえばテトラサイクリンを誘導可能なプロモーター(promoters inducible tetracyclins))が挙げられる。同様に、様々な翻訳制御エレメントが、当業者に知られている。これらとして、限定するものではないが、リボソーム結合部位、翻訳開始コドンおよび翻訳終結コドン、ならびにウイルス系に由来するエレメント(特に、配列内リボソーム進入部位、すなわちIRES、CITE配列とも呼ばれる)が挙げられる。また発現カセットは、複製起点、および/または染色体の組み込みエレメント、たとえばレトロウイルスの長い末端反復(LTR)、またはアデノ随伴ウイルス(AAV)の末端逆位配列(ITR)などの他の性質を含み得る。
【0082】
本明細書中記載されるように調製された融合タンパク質は、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、分子ふるいクロマトグラフィーなどの当該分野で知られている技術により精製され得る。特定のタンパク質を精製するために使用される実際の条件は、正味の電荷、疎水性、親水性などの要因に部分的に依存しており、これは当業者に明らかである。アフィニティークロマトグラフィー精製では、融合タンパク質が結合する抗体、リガンド、受容体、または抗原が使用され得る。融合タンパク質の純度は、ゲル電気泳動、高圧液体クロマトグラフィーなどを含むよく知られている様々な分析法のいずれかにより決定され得る。
【0083】
また本発明は、外因性凝固経路を阻害するため、好ましくは外因性凝固経路の細胞部分を阻害するため、または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisを阻害するため、ならびにこれにより外因性凝固経路、または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisに関連する疾患および病態を処置および/または予防するための、本明細書中上述されるIr−CPIポリペプチド、そのフラグメントまたはバリアントを含むタンパク質またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは核酸、およびその使用に関する。
【0084】
一実施形態では、本発明のポリヌクレオチドまたは核酸は、配列番号3の配列を含むかもしくはこれより構成されるか、または配列番号3と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%の同一性を有する配列により構成されるヌクレオチド配列を有する。
【0085】
一実施形態では、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号3に記載のヌクレオチド配列を有する。
【0086】
一実施形態では、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、融合タンパク質全体をコードする単一のポリヌクレオチドとして、または共発現される複数の(たとえば2つ以上の)ポリヌクレオチドとして、発現され得る。共発現されるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドは、たとえばジスルフィド結合または他の手段を介して結合して、機能的な融合タンパク質を形成し得る。
【0087】
一実施形態では、ポリヌクレオチドまたは核酸は、DNAである。別の実施形態では、ポリヌクレオチドまたは核酸は、RNA、たとえばメッセンジャーRNA(mRNA)の形態のRNAである。本発明のRNAは、一本鎖または二本鎖であり得る。
【0088】
本発明の別の目的は、外因性凝固経路を阻害するため、好ましくは外因性凝固経路の細胞部分を阻害するため、または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisを阻害するため、およびこれにより外因性凝固経路、または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisに関連する疾患および病態を処置および/もしくは予防するための、本発明のタンパク質またはポリペプチドをコードする1つ以上のポリヌクレオチドを含むベクター、およびその使用である。好ましい実施形態では、本発明のベクターは、発現ベクターである。
【0089】
また本発明は、本明細書中上述されるタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、またはベクターを含む組成物に関する。
【0090】
さらに本発明は、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、またはベクターと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0091】
これら組成物で使用され得る薬学的に許容される賦形剤として、限定するものではないが、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、バッファー物質、たとえばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的なグリセリド混合物、水、塩、または電解質、たとえば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質(たとえば、カルボキシメチルセルロースナトリウム)、ポリエチレングリコール、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、および羊毛脂が挙げられる。
【0092】
本発明の別の目的は、本明細書中上述されるタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、または医薬組成物を含む医薬である。
【0093】
一実施形態では、本発明の医薬組成物または医薬は、本明細書中上述されるタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、またはベクターの治療上有効量を含む。
【0094】
本発明のさらなる目的は、本明細書中上述されるタンパク質またはポリペプチドによりコーティングされた医療機器である。
【0095】
さらに、本発明の別の目的は、医療機器をコーティングするための、本明細書中上述されるタンパク質またはポリペプチドの使用である。本発明のさらなる別の目的は、医療機器をコーティングするための本明細書中上述されるタンパク質またはポリペプチドである。
【0096】
よって、本発明はまた、本明細書中上述されるタンパク質またはポリペプチドでコーティングされた医療機器に関する。
【0097】
本発明のタンパク質またはポリペプチドによりコーティングされ得る医療機器の例として、限定するものではないが、冠動脈ステント、人工心臓、人工心臓弁、中心静脈ライン、心筋保護液送達システム、拡張器、トンネリング機器、ステントグラフトカニューレ、カテーテル、限定するものではないが体外式膜型人工肺システムを含む体外循環システム、(自己)輸血システム、動脈フィルター、血液透析システム、プラスマフェレーシスシステム;身体の外側にある血液回収のために使用される医療機器;ならびに/または、限定するものではないが、チューブ、カニューレ、遠心ポンプ、バルブ、ポート、および/もしくはダイバーター、狭窄および動脈瘤のための動脈ステント、および左室補助人工心臓を含む上記装置のいずれか1つのアクセサリが挙げられる。
【0098】
本発明は、外因性凝固経路を阻害するため、好ましくは外因性凝固経路の細胞部分を阻害するため、より好ましくは外因性凝固経路に関連する血栓性疾患を処置するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0099】
本明細書中上述されるように、一実施形態では、外因性凝固経路を阻害すること、特に外因性凝固経路の細胞部分を阻害することは、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisを阻害することを含む。
【0100】
予想外なことに、本出願人は、本発明に係るIr−CPIポリペプチドが、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、およびNETosisを阻害することにより、外因性凝固経路に関連する血栓症を阻害することを見出した。
【0101】
実際に、本出願人は、Ir−CPIポリペプチドが、外因性凝固経路が血栓イベントをもたらす重要な要因であることが知られている精巣挙筋細動脈をレーザー損傷させた実験動物モデルにおいて、驚くほど保護効果があることが明らかとなったことを示した(Darbousset et al., 2012)。このモデルでは、Ir−CPIは、病変部位で、フィブリンの産生だけでなく、血小板の動員をも阻害する。またIr−CPIポリペプチドは、レーザー損傷が、癌細胞由来のマイクロパーティクルにより発現される組織因子に主に依存するモデルの腫瘍を担持するマウスに適用された際に、活性であった(Thomas et al., 2009)。好中球は、レーザー損傷モデルにおいて組織因子依存性経路の活性化に重要な役割を果たしている(Darbousset et al., 2012)ため、次に、好中球の存在および活性化が、Ir−CPIの存在下または非存在下で比較された。本出願人は、in vivoにおいて、Ir−CPIが、損傷部位で、集積する好中球の量および好中球エラスターゼの活性を有意に阻害したことを観察した。また本出願人は、in vitroにおいて、Ir−CPIが、好中球の表面でのCD11b、CD11b活性型またはLy6Gの発現の検出を介して観察されるように、TNFα(腫瘍壊死因子α)でプライミングするかまたはアデノシン三リン酸(ATP)とインキュベートした好中球の活性化を有意に阻害したことを示した。活性化の後、好中球は、ヒストンでコーティングされたクロマチンフィラメント、プロテアーゼ、ならびに顆粒タンパク質および細胞質タンパク質の構造物である、「好中球細胞外トラップ」(NET)をもたらし得る。NETは、フィブリンの沈着および血小板の凝集を促進することにより血栓症に寄与していることが、研究により示唆されている。本出願人は、in vitroにおいてIr−CPIがまた、TNFαでプライミングしPAF(血小板活性化因子)で活性化した好中球によるNETの形成(すなわちNETosis)を有意に減少させたことを観察した。血栓イベントの発生における好中球の寄与は、様々な実験のパラダイムで例証されている。NETの放出におけるオートファジーの影響、および組織因子のNETへの送達、およびNETと血栓症との間の関連は、炎症性経路と血栓性経路との間の相互作用における好中球の重要な役割を示唆している(Demers et al., 2012;Leal et al., 2017;Mauracher et al., 2018)。好中球の欠乏により血栓動物モデルで血栓の出現が少なくなることは、血栓症におけるこれら細胞の寄与を示している(von Bruhl et al., 2012)。好中球により産生および/または獲得されるTFの発現は、いくつかの炎症性障害を特徴づける血栓イベントの病理発生におけるこれら好中球の関与を示唆している。よって、Ir−CPIは、組織因子などの外因性凝固経路に特有の凝固因子の阻害を介してではなく、血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETの形成の阻害を介して、この外因性凝固経路の活性化後の血栓の形成を阻害する。
【0102】
よって予想外なことに、本出願人は、Ir−CPIポリペプチドが、血栓症および/または凝固が血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETの形成に依存する疾患および病態における血栓イベントの予防および/または処置を目的とする治療指標に使用され得ることを見出した。また本出願人は、Ir−CPIが、外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態における血栓イベントの予防および/または処置を目的とする治療指標で使用され得ることを示した。
【0103】
本発明は、それを必要とする対象の血小板の動員、好中球の活性化、好中球の動員、および/またはNETの形成に関連する疾患および病態を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0104】
一実施形態では、それを必要とする対象の血小板の動員、好中球の活性化、好中球の動員、および/またはNETの形成に関連する疾患および病態を処置および/または予防することは、外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態を処置および/または予防することからなる。
【0105】
本発明は、それを必要とする対象の外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態、好ましくは外因性凝固経路に関連する血栓症を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0106】
一実施形態では、外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態は、血栓症(静脈血栓症および動脈血栓症を含む)、血栓の傾向を伴う炎症性疾患、血栓炎症(装置誘導性の血栓炎症を含む)、心臓の外科的介入に関連する疾患および病態、循環器疾患、癌、ならびに転移を含むかまたはからなる群から選択される。
【0107】
外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態は、血栓の傾向を伴う炎症性疾患を含む。本明細書中使用される場合、用語「血栓の傾向を伴う炎症性疾患」は、「炎症性疾患における血栓性の合併症」と置き換えられ得る。
【0108】
一実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の外因性凝固経路の活性化に関連する血栓症を処置および/または予防するための本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0109】
一実施形態では、外因性凝固経路の活性化に関連する血栓症は、静脈血栓症、癌関連の血栓症、および脳卒中関連の血栓症を含むかまたはからなる群から選択される。一実施形態では、本発明は、静脈血栓症を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。別の実施形態では、本発明は、癌関連の血栓症を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。別の実施形態では、本発明は、脳卒中関連の血栓症を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0110】
よって、一実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の血栓の傾向を伴う炎症性疾患を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0111】
一実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の炎症性疾患に関連する血栓症または血栓炎症を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0112】
一実施形態では、本発明は、癌関連の血栓症、転移関連の血栓症、脳卒中関連の血栓症、ベーチェット病(BD)、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、高安動脈炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、家族性地中海熱、閉塞性血栓血管炎(TAO)、敗血症、炎症性腸疾患、アテローム性動脈硬化およびプラーク破綻、冠動脈疾患、急性心筋梗塞、脳損傷後の血栓形成、血液と接触する医療機器誘導性の血栓炎症、局所的な血管狭窄の部位でのカテーテル法および/またはステントの位置決め手法により誘導される血栓症、体外循環により誘導される血栓症、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)、免疫学的血栓形成、子癇前症に関連する血栓症、細胞および細胞クラスターの移殖および全臓器移植または移植片における血栓性合併症、静脈血栓塞栓症、動脈瘤、ならびに骨格筋における虚血−再灌流症候群を含むかまたはからなる群から選択される、血栓の傾向を伴う炎症性疾患または血栓炎症を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0113】
一実施形態では、上記血栓炎症は、局所的な血管狭窄の部位でのカテーテル法および/またはステントの位置決め手法により誘導される血栓症、アテローム性動脈硬化、プラーク破綻、冠動脈疾患、装置誘導性の血栓炎症を含むかまたはからなる群から選択される。一実施形態では、装置誘導性の血栓炎症は、血液と接触する医療機器誘導性の血栓炎症を含む。別の実施形態では、上記血栓炎症は、癌関連の血栓症、転移関連の血栓症、および脳卒中関連の血栓症を含むかまたはからなる群から選択される。
【0114】
外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態は、血液と接触する医療機器誘導性の血栓炎症を含む。一実施形態では、血液と接触する医療機器誘導性の血栓炎症として、限定するものではないが、アテローム硬化性のプラーク破綻のリスクおよび下記介入の後のその後の血栓症の再発(re−thrombosis)およびカテーテル血栓症のリスクを考慮した、局所的な血管狭窄の部位でのカテーテル法(たとえば経皮血管形成術)および/またはステントの位置決め手法;ならびに体外循環により誘導される炎症が挙げられる。
【0115】
一実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の装置誘導性の血栓炎症を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0116】
よって、一実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の局所的な血管狭窄の部位でのカテーテル法(たとえば経皮血管形成術)および/もしくはステントの位置決め手法;ならびに/または体外循環により誘導される血栓症を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0117】
外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態は、心臓の外科的介入(たとえば冠動脈バイパス移植手術(CABG)、開胸手術)の状況の中で行われる体外循環に関連する血栓症および/または凝固を含む。
【0118】
よって、一実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の心臓の外科的介入の状況の中で行われる体外循環に関連する血栓症および/または凝固を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0119】
外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態は、癌、特に癌関連の血栓症を含む。
【0120】
実際に、組織因子およびNETosisを含むマイクロパーティクルはまた、癌に関連する血栓形成にも関与している(Thomas et al., 2009;Demers et al., 2012;Mauracher et al., 2018)。
【0121】
よって、一実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の癌および/または転移を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0122】
一実施形態では、癌および/または転移は、外因性凝固経路に関連している。一実施形態では、癌および/または転移は、血栓症に関連している。特定の実施形態では、癌および/または転移は、外因性凝固経路に関連する血栓症に関連している。
【0123】
一実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の癌および/または転移に関連する血栓症を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0124】
一実施形態では、本発明は、それを必要とする対象の脳卒中関連の血栓症を処置および/または予防するための、本発明のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器の使用に関する。
【0125】
また本発明は、それを必要とする対象の血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisを阻害する方法であって、本発明の治療上有効量のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、医薬組成物、もしくは医薬、またはコーティングされた医療機器を、上記対象に投与するステップを含む、方法に関する。
【0126】
さらに本発明は、それを必要とする対象の血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisに関連する疾患または病態を処置および/または予防する方法であって、本発明の治療上有効量のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、医薬組成物、もしくは医薬、またはコーティングされた医療機器を、上記対象に投与するステップを含む、方法に関する。
【0127】
一実施形態では、本発明の方法は、静脈血栓症、動脈血栓症、血栓炎症、循環器疾患、癌、および転移を含むかまたはからなる群から選択される外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態を処置および/または予防するための方法である。
【0128】
また本発明は、それを必要とする対象の、外因性凝固経路を阻害する方法、好ましくは外因性経路の細胞部分を阻害する方法、または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisを阻害するための方法であって、本発明の治療上有効量のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、医薬組成物、もしくは医薬、またはコーティングされた医療機器を、上記対象に投与するステップを含む、方法に関する。
【0129】
さらに本発明は、それを必要とする対象の血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisに関連する疾患または病態を処置および/または予防する方法であって、本発明の治療上有効量のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、医薬組成物、もしくは医薬、またはコーティングされた医療機器を、上記対象に投与するステップを含む、方法に関する。
【0130】
さらに本発明は、それを必要とする対象の外因性凝固経路に関連する疾患または病態を処置および/または予防する方法であって、本発明の治療上有効量のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、医薬組成物、もしくは医薬、またはコーティングされた医療機器を、上記対象に投与するステップを含む、方法に関する。
【0131】
一実施形態では、本発明の方法は、血栓症、血栓の傾向を伴う炎症性疾患、装置誘導性の血栓炎症、心臓の外科的介入に関連する疾患および病態、ならびに癌および転移を含むかまたはからなる群から選択される、外因性凝固経路の活性化、または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/もしくはNETosisに関連する疾患および病態を処置および/または予防するための方法である。
【0132】
本発明の別の目的は、それを必要とする対象の、血栓の傾向を伴う炎症性疾患または血栓炎症、特には、血栓症に関連する炎症性疾患または炎症性疾患に関連する血栓症を処置および/または予防する方法であって、本発明の治療上有効量のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、医薬組成物、もしくは医薬、またはコーティングされた医療機器を、上記対象に投与するステップを含む、方法である。
【0133】
一実施形態では、本発明の方法は、血栓症に関連する炎症性疾患、炎症性疾患に関連する血栓症、癌関連の血栓症、転移関連の血栓症、脳卒中関連の血栓症、ベーチェット病(BD)、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、高安動脈炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、家族性地中海熱、閉塞性血栓血管炎(TAO)、敗血症、炎症性腸疾患、アテローム性動脈硬化およびプラーク破綻、冠動脈疾患、急性心筋梗塞、脳損傷後の血栓形成、血液と接触する医療機器誘導性の血栓炎症、局所的な血管狭窄の部位でのカテーテル法および/またはステントの位置決め手法により誘導される血栓症、体外循環により誘導される血栓症、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)、免疫学的血栓形成、子癇前症に関連する血栓症、細胞および細胞クラスターの移殖および全臓器移植または移植片における血栓性合併症、静脈血栓塞栓症、動脈瘤、ならびに骨格筋における虚血−再灌流症候群を含むかまたはからなる群から選択される疾患または病態を処置および/または予防するための方法である。
【0134】
本発明の別の目的は、それを必要とする対象の局所的な血管狭窄の部位での全てのカテーテル法(たとえば経皮血管形成術など)および/またはステントの位置決め手法における血栓症を処置および/または予防する方法であって、本発明の治療上有効量のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、医薬組成物、もしくは医薬、またはコーティングされた医療機器を上記対象に投与するステップを含む、方法である。
【0135】
本発明の別の目的は、それを必要とする対象の心臓の外科的介入の状況の中で行われる体外循環に関連する血栓症および/または凝固を処置および/または予防する方法であって、本発明の治療上有効量のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、医薬組成物、もしくは医薬、またはコーティングされた医療機器を上記対象に投与するステップを含む、方法である。
【0136】
本発明の別の目的は、それを必要とする対象の癌および/または転移、特には癌関連の血栓症を処置する方法であって、本発明の治療上有効量のタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、医薬組成物、もしくは医薬、またはコーティングされた医療機器を上記対象に投与するステップを含む、方法である。
【0137】
一実施形態では、対象は、血栓、特には外因性凝固経路に関連する血栓を形成しやすい。一実施形態では、対象は、血栓、特には外因性凝固経路に関連する血栓を発症するリスクがある。別の実施形態では、対象は、血栓、特には外因性凝固経路に関連する血栓を罹患しているかまたは罹患したことがある。
【0138】
血栓、特には外因性凝固経路に関連する血栓を発症するリスクの例として、限定するものではないが、血栓の傾向を伴う炎症性疾患の存在、血管狭窄のレベルで局所的な血流を促進させることを目的とする介入を必要とするアテローム硬化性の病変の存在、体外循環の実施、心肺バイパスに関連する冠動脈バイパス移植手術(CABG)、および癌の存在が挙げられる。
【0139】
体外循環は、実際に、外因性経路の活性化によるトロンビンの産生を媒介し得、それは、血液の空気および創傷のTFへの曝露と、その後の、血液の喪失を低減するために使用される開心術の吸引によるこの血液の再循環とを介することによる。
【0140】
一実施形態では、対象は、癌および/または転移を発症しやすい。一実施形態では、対象は、癌および/または転移を発症するリスクがある。一実施形態では、対象は、癌および/または転移を罹患しているかまたは罹患したことがある。
【0141】
一実施形態では、対象は、最近外科手術を経験した。「最近」は、一実施形態では、1日以内、2日以内、3日以内、4日以内、5日以内、6日以内、またはそれ以上の日数以内を意味する。別の実施形態では、用語「最近」は、2時間以内、4時間以内、6時間以内、12時間以内、18時間以内、または24時間以内を意味する。
【0142】
別の実施形態では、対象は、外科手術を受けることが計画されている。「〜することが計画されていること」は、一実施形態では、2時間以内、4時間以内、6時間以内、12時間以内、18時間以内、または24時間以内を意味する。別の実施形態では、用語「〜することが計画されていること」は、1日以内、2日以内、3日以内、4日以内、5日以内、6日以内、またはそれ以上の日数以内を意味する。
【0143】
一実施形態では、対象は以前に血栓に関して処置されていなかった。別の実施形態では、対象は、以前に、1つ、2つ、またはそれ以上の血栓に関する他の処置を受けていた。
【0144】
本明細書中使用される場合、用語「処置」は、防止的処置および治療的な処置を包有する。
【0145】
一実施形態では、本発明の対象は、高齢者である。本明細書中使用される場合、用語「高齢者」は、対象が、少なくとも50歳、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、または90歳であることを意味する。
【0146】
一実施形態では、対象は雄性である。別の実施形態では、対象は雌性である。
【0147】
本発明のタンパク質、ポリヌクレオチド、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬の一日の総使用量は、妥当な医学的判断の範囲内で、担当医により決定されることを理解されたい。いずれかの特定の患者に特有の治療上有効な用量レベルは、処置される障害および障害の重症度;使用される特定の作用物質の活性;使用される特定の組成;患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、および食事;使用される特定の作用物質の投与時間、投与経路、および排泄速度;処置の継続期間;使用される特定の作用物質と併用または同時に使用される薬剤;ならびに医学の分野でよく知られている同様の要因を含む様々な要因に応じて変化する。たとえば、望ましい治療効果を達成するために必要な用量よりも低いレベルで作用物質の投与を開始し、この用量を望ましい効果が達成されるまで徐々に増加させることは、十分に当業者の範囲内にある。しかしながら、生成物の一日用量は、1日あたり、成年あたり約10〜約10000mg、好ましくは1日あたり、成年あたり100〜約5000、より好ましくは約200〜約2000mgの幅広い範囲にわたり変動し得る。好ましくは、本組成物は、処置される患者に対する症状に関する用量の調節のため、10、50、100、250、500、1000、および2,000mgの有効成分を含む。医薬は、通常、約10〜約10000mgの有効成分、好ましくは5〜約5000、より好ましくは約10〜約2000mgの有効成分を含む。薬剤の有効量は、通常、1日あたり、0.01mg/kg〜約100mg/kg体重、好ましくは1日あたり約0.05mg/kg〜40mg/kg体重、より好ましくは1日あたり約0.1mg/kg〜20mg/kg体重、より好ましくは1日あたり約0.2mg/kg〜1mg/kg体重の用量レベルで供給される。
【0148】
対象への投与に使用するために、本発明の組成物、医薬組成物、医薬は、対象への投与のため製剤化される。本発明の組成物、医薬組成物、医薬は、経口投与、非経口投与、局所投与、吸入スプレーによる投与、直腸投与、経鼻投与、バッカル投与、腟内投与、または移植されたリザーバを介して、投与され得る。本明細書中使用される用語投与は、皮下、静脈内、筋肉内、眼内、関節内、関節滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、肝臓内、病巣内、および頭蓋内への注射または注入技術を含む。
【0149】
一実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物、医薬は、局所投与に適した形態である。
【0150】
局所投与に適した形態の例として、限定するものではないが、液体、ペースト、または固体の組成物、より具体的には、水溶液、点滴剤、点眼薬(eye drops)、点眼剤(ophthalmic solution)、分散剤、スプレー、マイクロカプセル、マイクロ粒子もしくはナノ粒子、ポリマーパッチ、または徐放性パッチの形態が挙げられる。
【0151】
一実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、局所投与に適した製剤化のため、1つ以上の薬学的に許容される担体を含む。
【0152】
一実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、眼内、筋肉内、皮下、皮内、経皮、または静脈内への注射または注入などの、注射に適した形態である。
【0153】
注射に適した形態の例として、限定するものではないが、液剤、たとえば無菌性の水性の液剤、分散剤、エマルジョン、懸濁剤、使用前に液体を添加することにより液剤または懸濁剤を調製するための使用に適した固体の形態、たとえば散剤、リポソーム形態などが挙げられる。
【0154】
本発明の組成物、医薬組成物、医薬の無菌性の注射可能な形態は、水性または油性の懸濁剤であり得る。これら懸濁剤は、適切な分散化剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して、当該分野で知られている技術により製剤化され得る。また無菌性の注射可能な調製物は、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒における無菌性の注射可能な液剤または懸濁剤であり得る。使用され得る許容されるビヒクルおよび溶媒の中に、水、リンゲル溶液、および等張性塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌性の固定油は、溶媒または懸濁化媒体として従来より使用されている。この目的のため、合成のモノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意のブランドの固定油が使用され得る。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体などの脂肪酸は、オリーブ油またはヒマシ油など天然の薬学的に許容される油である場合、特にそれらのポリオキシエチル化されたバージョンでは、注射剤の調製に有用である。これら油の液剤または懸濁剤はまた、長鎖アルコールの希釈剤または分散剤、たとえばカルボキシメチルセルロース、またはエマルジョンおよび懸濁剤を含む薬学的に許容される剤形の製剤化で一般に使用される同様の分散化剤をも含み得る。他の一般に使用される界面活性剤、たとえばTweens、Spans、および薬学的に許容される固体、液体、または他の剤形の製造で一般に使用される他の乳化剤またはバイオアベイラビリティ促進剤もまた、製剤化のために使用され得る。
【0155】
特定の実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、眼内投与に適した形態である。
【0156】
一実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、少なくとも1日に1回、それを必要とする対象へ投与される。たとえば、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、1日1回、1日2回、または1日3回、投与され得る。好ましい実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、1日1回、それを必要とする対象へ投与される。
【0157】
別の実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、少なくとも1週間に1回、それを必要とする対象へ投与される。たとえば、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、1週間に1回、1週間に2回、1週間に3回、1週間に4回、または最大1週間に7回、投与され得る。
【0158】
別の実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、1カ月に1回、1カ月に2回、2カ月ごと、2カ月もしくは3カ月ごと、1年に2回、または1年に1回、それを必要とする対象へ投与される。
【0159】
一実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、血栓を発症するリスクに曝露される前に、それを必要とする対象へ投与される。一実施形態では、用語「前(before)」は、曝露の少なくとも1週間前を意味する。別の実施形態では、用語「前」は、曝露の5日前、4日前、3日前、2日前、または1日前を意味する。別の実施形態では、用語「前」は、曝露の24時間前、18時間前、15時間前、12時間前、6時間前、4時間前、2時間前、または1時間前を意味する。別の実施形態では、用語「前」は、曝露の1時間未満前、たとえば曝露の45分前、30分前、15分前、10分前、5分前、または曝露の瞬間を意味する。例として、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、長期間の旅行の24時間前、12時間前、6時間前、もしくは1時間前、または長期間の旅行の開始時に、対象へ投与され得る。
【0160】
別の実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、血栓を発症リスクに曝露された後に、それを必要とする対象へ投与される。一実施形態では、用語「後(after)」は、曝露の5分後、10分後、15分後、30分後、または45分後を意味する。別の実施形態では、用語「後」は、曝露の1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、15時間後、18時間後、または14時間後を意味する。別の実施形態では、用語「後」は、曝露の1日後、2日後、3日後、4日後、または5日後を意味する。別の実施形態では、用語「後」は、曝露の1週間後またはそれ以降を意味する。例として、本発明の組成物、医薬組成物、または医薬は、長期間の旅行の直後、長期間の旅行の1時間後、2時間後、6時間後、または12時間後に、対象へ投与され得る。
【0161】
一実施形態では、本発明のタンパク質でコーティングされた医療機器は、対象への投与のために組み立てられている。本発明のタンパク質でコーティングされた医療機器は、非経口投与もしくは局所投与されてもよく、または移植されてもよい。
【0162】
一実施形態では、本発明のタンパク質でコーティングされた医療機器は、心臓系または循環系に移植される。
【0163】
また本発明は、本発明に係るタンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、もしくは医薬、またはコーティングされた医療機器を含むキットに関する。
【0164】
一実施形態では、本発明のキットは、タンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、は医薬、またはコーティングされた医療機器を、それを必要とする対象に投与するための手段をさらに含む。
【0165】
一実施形態では、本発明のキットは、タンパク質もしくはポリペプチド、ポリヌクレオチドもしくは核酸、ベクター、組成物、医薬組成物、医薬、またはコーティングされた医療機器を上記対象へ投与するための説明書をさらに含む。
【0166】
一実施形態では、本発明のキットは、外因性凝固経路、特には外因性凝固経路の細胞部分を阻害するため、または血小板の動員、好中球の動員、好中球の活性化、および/またはNETosisを阻害するために使用される。一実施形態では、本発明のキットは、外因性凝固経路の活性化に関連する疾患および病態を処置および/または予防するために使用される。一実施形態では、本発明のキットは、外因性凝固経路に関連する血栓症、好ましくは癌関連の血栓症を処置および/または予防するために使用される。一実施形態では、本発明のキットは、外因性凝固経路に関連する血栓症の形成および/または血栓の成長を予防するために使用される。一実施形態では、本発明のキットは、癌および/または転移を処置および/または予防するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0167】
図1図1は、マウスで血管壁損傷により血栓形成が誘導された後の、血小板(A)およびフィブリン(B)のin vivoでの検出を示すグラフの組み合わせである。フィブリンおよび血小板は、それぞれ、Alexa Fluor 488でコンジュゲートされた抗フィブリン抗体およびDyLight649で標識された抗GPIb抗体を使用して検出した。経時的な(短期間の)積分蛍光の中央値は、グループあたり5匹のマウスで産生された53(対照)および54(Ir−CPI)の血栓で提示されている。AU:任意単位。
図2図2は、NaCl(対照)またはIr−CPIで処置したマウスにおいて血栓の形成を誘導する血管壁のレーザー損傷から30、60、120、および180秒後にin vivoで撮影された蛍光顕微鏡の代表的な画像の組み合わせである。フィブリンおよび血小板は、それぞれ、Alexa Fluor 488でコンジュゲートされた抗フィブリン抗体およびDyLight649で標識された抗GPIb抗体を使用して、検出した。破線で囲まれた領域は、血小板の集積を表し、点線で囲まれた領域は、フィブリンの集積を表している。バー:10μm。
図3図3は、マウスで血管壁損傷により血栓形成が誘導されてから90分間の経過時間の間のフィブリンのin vivoでの検出を示すグラフである。フィブリンは、Alexa Fluor 488でコンジュゲートされた抗フィブリン抗体を使用して検出した。経時的な(長期間の)積分蛍光の中央値は、9匹のマウス(n=グループあたり9匹のマウス)で産生された53(対照)および50(Ir−CPI)の血栓で提示されている。AU:任意単位。
図4図4は、マウスで血管壁損傷により血栓形成が誘導されてから90分間の経過時間の間のフィブリンのin vivoでの検出を示すグラフである。フィブリンは、Alexa Fluor 488でコンジュゲートされた抗フィブリン抗体を使用して検出した。四分位数範囲内の中央値は、9匹のマウス(n=グループあたり9匹のマウス)で産生された対照で処置したマウス(n=53の血栓)およびIr−CPIで処置したマウス(n=50の血栓)で提示されている。AU:任意単位。
図5図5は、NaCl(対照)またはIr−CPIで処置したマウスにおいて血栓の形成を誘導する血管壁のレーザー損傷から30、60、120、および180秒後にin vivoで撮影された蛍光顕微鏡の代表的な画像の組み合わせである。PMNは、PEで標識した抗Ly6G抗体を使用して検出した。破線で囲まれた領域は、PMNの集積を表している。バー:10μm。
図6図6は、マウスで血管壁損傷により血栓形成が誘導された後のPMNのin vivoでの検出を示すグラフの組み合わせである。PMNの集積は、PEで標識した抗Ly6G抗体を使用することにより評価した。経時的な積分蛍光の中央値(A)および対応する曲線下面積(B)は、8匹のマウス(n=グループあたり4匹のマウス)で産生された26(対照)または27(Ir−CPI)の血栓で提示されている。AU:任意単位。統計解析にマン・ホイットニー検定を使用した(***p<0.001)。
図7図7は、マウスで血管壁損傷により血栓形成が誘導された後の好中球エラスターゼの活性のin vivoでの検出を示すグラフである。好中球エラスターゼの活性は、エラスターゼの蛍光標識した基質としてのBODIPY−FLで標識したDQ−エラスチンコンジュゲートフラグメントを使用することにより評価した。経時的な積分蛍光の中央値は、7匹のマウス(対照のマウスではn=3およびIr−CPIで処置したマウスではn=4)で産生された31(対照)または23(Ir−CPI)の血栓で提示されている。AU:任意単位。
図8図8は、マウスにおけるマウスのPanc02細胞の移植後の腫瘍体積を示すグラフである。レーザー損傷実験の前に、腫瘍体積を、Panc02細胞により誘導される異所性膵腫瘍を有するマウスで評価した。黒色では、マウスは、対照処置、すなわちNaClを受けており(n=5)、灰色では、マウスは、Ir−CPI処置を受けた(n=4)。平均腫瘍体積±SEMが表されている。
図9図9は、マウスで血管壁損傷により血栓形成が誘導された後のin vivoでの血小板の検出およびフィブリンの産生を示すグラフの組み合わせである。フィブリンおよび血小板は、Alexa Fluor 488でコンジュゲートされた抗フィブリン抗体およびDyLight649で標識された抗GPIb抗体を使用して、検出した。血小板の曲線下面積(A)またはフィブリンの積分蛍光強度(B)は、41(NaCl WT、すなわち癌を有さない(cancer−free);n=3匹のマウス)または40(NaCl 癌;n=6匹のマウス)の産生された血栓で提示されている。統計解析にマン・ホイットニー検定を使用した(*p<0.05)。
図10図10は、20.5mg/kg(ボーラス)+3.7mg/kg/h(注入)(すなわち高用量)で処置したマウスでの血管壁損傷により腫瘍を有するマウスで血栓形成が誘導された後のin vivoでのフィブリン(A)および血小板(B)の検出を示すグラフの組み合わせである。フィブリンおよび血小板は、それぞれ、Alexa Fluor 488でコンジュゲートされた抗フィブリン抗体およびDyLight649で標識された抗GPIb抗体を使用して、検出した。経時的な積分蛍光の中央値は、14匹のマウス(NaCl 癌を有さないマウスではn=5、NaCl 癌のマウスではn=5、およびIr−CPI 癌のマウスではn=4)において産生された44(癌を有さないマウスへのNaClの投与に対応する、NaCl 癌を有さない)、34(腫瘍を有するマウスへのNaClの投与に対応する、NaCl 癌)、および39(腫瘍を有するマウスへのIr−CPIの投与に対応する、Ir−CPI 癌)の血栓で提示されている。AU:任意単位。
図11図11は、高用量のIr−CPI(NaCl 癌を有さないマウスではn=5、NaCl 癌のマウスではn=5、およびIr−CPI 癌のマウスではn=4)で処置した14匹のマウスにおいて産生された44(NaCl 癌を有さないマウス)、34(NaCl 癌のマウス)、および39(Ir−CPI 癌のマウス)の血栓で提示される血小板の積分蛍光強度(曲線下面積)を示すグラフである。血小板は、DyLight649で標識された抗GPIb抗体を使用して、検出した。統計解析にマン・ホイットニー検定を使用した(*p<0.05;***p<0.001)。
図12図12は、10.3mg/kg(ボーラス)+1.9mg/kg/h(注入)(すなわち低用量)で処置したマウスでの血管壁損傷により腫瘍を有するマウスで血栓の形成が誘導された後のフィブリン(A)および血小板(B)のin vivoでの検出を示すグラフの組み合わせである。フィブリンおよび血小板は、それぞれ、Alexa Fluor 488でコンジュゲートされた抗フィブリン抗体およびDyLight649で標識された抗GPIb抗体を使用して、検出した。経時的な積分蛍光の中央値は、14匹のマウス(NaCl 癌を有さないマウスではn=3、NaCl 癌のマウスではn=6、およびIr−CPI 癌のマウスではn=5)において産生された41(癌を有さないマウスへのNaClの投与に対応する、NaCl 癌を有さない)、40(腫瘍を有するマウスへのNaClの投与に対応する、NaCl 癌)、および40(腫瘍を有するマウスへのIr−CPIの投与に対応する、Ir−CPI 癌)の血栓で提示されている。AU:任意単位。
図13図13は、14匹のマウス(NaCl 癌を有さないマウスではn=3、NaCl 癌のマウスではn=6、およびIr−CPI 癌のマウスではn=5)において産生された41(NaCl 癌を有さないマウス)、40(NaCl 癌のマウス)、または40(Ir−CPI 癌のマウス)の血栓で提示されている血小板の積分蛍光強度(曲線下面積)を示すグラフである。Ir−CPI 癌のマウスは、10.3mg/kg(ボーラス)+1.9mg/kg/h(注入)のIr−CPI(すなわち低用量)で処置した。血小板は、DyLight649で標識された抗GPIb抗体を使用して検出した。統計解析にマン・ホイットニー検定を使用した(*p<0.05;***p<0.001)。
図14図14は、NaCl野生型(すなわち癌を有さない)マウス、Ir−CPIで処置した野生型(すなわち癌を有さない)マウス(低用量および高用量)、ならびにNaCl 癌を有するマウス、またはIr−CPIで処置した癌を有するマウス(低用量および高用量)の出血時間(秒)を示すグラフである。統計解析に、一元ANOVAを使用した(***p<0.001)。8匹のマウスを含んでいたNaCl野生型のマウスのグループを除き、試験した全てのグループは、7匹のマウスを含んでいた。
図15図15は、異なるin vitroでの実験条件(表記されるような、未処置の対照、血小板活性化因子(PAF)での活性化を伴うかまたは伴わない腫瘍壊死因子α(TNFα)でのプライミング、ならびに/またはIr−CPIとのインキュベーション)の下でNETosisを比較したグラフである。NETosisのパーセンテージ(中央値)は、免疫蛍光染色およびNETの長さを解析した後に計算した(n=5つの独立した実験;条件あたりの5つのランダムな領域を解析した)。統計解析にウィルコクソン検定を使用した(ns:統計的に有意ではない;*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001)。
図16図16は、異なる実験条件(表記されるような、未処置の対照、TNFαでのプライミング、および/またはIr−CPIとのインキュベーション)の下での、好中球の表面でのCD11bの発現を比較したグラフである。データは、平均値±SEM(n=3つの独立した実験)として表されている。統計解析に、一元ANOVA、次にテューキーの多重比較検定を使用した(ns:統計的に有意ではない;*p<0.05)。
図17図17は、異なる実験条件(ATPにより活性化した対照、Ir−CPI[0.65または2μM]とインキュベートし、ATPで活性化した好中球)の下での、好中球の表面のLy6G(A)、CD11b(B)、および活性化したCD11b(C)の発現を比較したグラフである。データは、平均値±SEM(n=2つの独立した実験)として表されている。
【発明を実施するための形態】
【0168】
実施例
さらに本発明を、以下の実施例により示す。
【0169】
実施例1:外因性凝固経路の活性化を含むモデル
材料および方法
材料
試験物質
Ir−CPI(MW=7660Da)は、Bachem(散剤、バッチ 1060411、純度:98.4%)から入手し、使用するまで−80℃で保存した。
【0170】
Ir−CPIは、試験日に、50mg/mLの濃度(溶解度の問題の回避に至るための最大濃度に対応)に達するまで、NaCl(0.9%)への溶解により新たに調製した。
【0171】
NaCl(0.9%)を、対照として使用した。
【0172】
動物
Janvier LABSから購入した雄性のマウス(C57BL/6JRj)を、この試験に使用した(5〜8週齢)。
【0173】
方法
投与
Ir−CPIを、ボーラス(20.5mg/kg)として静脈内投与し、直後に3.7mg/kg/hの速度で連続注入した(以下の表1を参照)。マウスでのIr−CPIの迅速な分布および排出のため(t1/2α=14分およびt1/2β=236分)、血液中に一定のIr−CPI濃度を維持するためにボーラスおよび注入の組み合わせが選択された。
【表1】
n=使用したマウスの数
【0174】
精巣挙筋の微小循環の生体顕微鏡検査
精巣挙筋の微小循環の生体内ビデオ顕微鏡検査を、以前に記載されるように(Falati et al., 2002)行った。
【0175】
マウスに、ケタミン(125mg/kg)、キシラジン(12.5mg/kg)、およびアトロピン(0.25mg/kg)の腹腔内注射を用いて麻酔をかけ、熱制御したげっ歯類用の毛布で37℃に維持した。
【0176】
気管チューブを気管に挿入して呼吸を促した。ペントバルビタールの投与のため、カニューレを頸静脈に挿入した。ペントバルビタール(12mg/kg)を、20〜30分ごとに頸静脈に投与し、操作の間マウスを麻酔下に維持した。同じ頸静脈カニューレを、血栓の発症(フィブリンおよび/または血小板および/または好中球および/または好中球エラスターゼの活性の検出)を追跡するために必要な蛍光色素に結合した抗体および酵素基質の投与に使用した。またカニューレを、ビヒクルまたは試験項目(Ir−CPIまたはNaCl)の投与のため、第2の対側の頸静脈に挿入した。
【0177】
陰嚢を切開した後、精巣および周辺の精巣挙筋を、生体顕微鏡のトレイの上に露出させた。この精巣挙筋を、実験の間、熱制御(37℃)しつつ、通気した(95%のN、5%のCO)重炭酸緩衝生理食塩水を用いて連続的に灌流させた。
【0178】
微小血管のデータは、60×0.9−開口数の水浸対物レンズを有するOlympus AX61WI顕微鏡を使用して得た。デジタルワイドフィールドの蛍光顕微鏡システムは、以前に記載されている(Falati et al., 2002)。デジタル画像は、Cooke Sensicam CCDカメラを用いて640×480の形式で撮像した。
【0179】
レーザーにより誘導される損傷
血管壁の損傷を、以前に記載されるように(Dubois et al., 2006)、顕微鏡の対物レンズを介して焦点を合わせ、焦点面と同一焦点であり、血管壁を対象とする、Micropoint Laser System(Photonics Instruments)を用いて誘導した。通常、1〜2回のパルスが、血管壁の損傷を誘導するために必要であった。
【0180】
複数の血栓を、単一のマウスにおいて、試験下の動物で早期に産生された血栓からのいずれの寄与も回避するために早期の血栓の上流で形成された新規の血栓を用いて、試験した。レーザービーム損傷を、試験項目の投与の開始後の様々な時間で行った(Ir−CPIまたはNaCl(対照)のボーラス投与から+5分〜最大約150分後)。
【0181】
画像解析は、Slidebook 4.1(Intelligent Imaging Innovations)を使用して行った。蛍光のデータを、1秒あたり最大50のフレームでデジタル式にて撮像し、以前に記載されるように(Falati et al., 2002)解析した。血栓形成の動態を、最小数20の血栓において、経時的な中央蛍光値を決定することにより解析した。
【0182】
この手法の後、ペントバルビタール(120mg/kg)を過剰投与することによりマウスを安楽死させた。
【0183】
in vivoにおけるフィブリン、血小板、PMN、および好中球エラスターゼの活性の検出
フィブリンのin vivoでの検出を、Darbousset et al., 2014由来のAlexa Fluor 488でコンジュゲートされた抗フィブリン抗体を使用して行い、これをマウス1gあたり0.5μgで静脈内投与した。
【0184】
血小板のin vivoでの検出を、Emfret製のDyLight649で標識された抗GPIb抗体を使用して行い、これをマウス1gあたり0.5μgで静脈内投与した。
【0185】
in vivoでのPMNの検出を、PEで標識した抗Ly6G抗体を使用して行った。
【0186】
好中球エラスターゼの活性のin vivoでの検出を、Life Technologies製のBODIPY−FLで標識したDQ−エラスチンコンジュゲートフラグメントを使用して行い、これをマウス1gあたり0.3μgで静脈内投与した。
【0187】
血液のサンプリングおよび血漿の調製
実験の終了時(ボーラス投与から約150分後)に、血液を、下大静脈から回収し、0.109M 3.2%のクエン酸ナトリウムチューブ(クエン酸塩/血液、v/v 1/9)にセットした。血漿(約250μL)を、2500g、18〜22℃で15分間、遠心分離した。血漿を再度遠心分離し(2500g、18〜22℃で15分間)、ポリプロピレンチューブの中に−80℃で保存した。その後、血漿サンプルを、ELISAによる循環濃度のIr−CPIの投与のため、ドライアイス上に凍結した。
【0188】
血漿サンプル中のIr−CPIの定量化
血漿サンプル中の循環するIr−CPIの定量化を、Eurofins, ADME Bioanalyses(Vergeze, France)でELISAにより評価した。サンドイッチイムノアッセイを、2つの抗Ir−CPI抗体を使用して行った。捕捉モノクローナル抗体(Ir−CPI3)を、マイクロタイタープレート(Nunc, ThermoFischer Scientific, USA)に、PBS(Hyclone, USA)中1μg/mlにて、4℃で一晩コーティングした。ウェルを、室温(RT)で1時間、PBS BSA(2%)(Sigma−Aldrich, USA)を用いてブロッキングした後、洗浄した。サンプルをこのウェルに添加し、RTで2時間インキュベートした。あらかじめPBS BSA(1%)(Sigma−Aldrich, USA)で希釈したビオチン化検出抗体(L39−ビオチン)をウェルに添加し、PBS BSA(1%)で希釈したストレプトアビジン−HRP(REF)で補完した。TMB SureBlue(KPL,REF)およびHSO(1N)(VWR, USA)を、分光光度法による検出(450nm)で使用した。
【0189】
データ処置および統計解析
データは、サンプルの大きさ(n)と関連させて、中央値および四分位数範囲として表した。Ir−CPIで処置したグループ由来のデータ対対照グループ由来のデータの統計的な比較は、マン・ホイットニー検定を使用して行った(***p<0.001)。
【0190】
結果
本試験の目的は、マウスの血栓症の実験モデル(ここでの血栓症は、レーザービームでの精巣挙筋の細動脈の局所的な損傷により誘導された)においてIr−CPIの抗血栓性の効力を評価することであった。この血栓症の実験モデルは、外因性凝固経路の活性化に関与し、組織因子が介在するトロンビンの産生をもたらすと考えられている(Dubois et al., 2007;Darbousset et al., 2012)。実際に、このようなモデルでは、トロンビン形成およびフィブリン産生の動態は、低組織因子(TF)マウスで顕著に低減することが報告されており、対して第XII因子の非存在(FXII−/−マウス)は、効果がなかった(Darbousset et al., 2012)。よって、レーザーにより誘導される血管壁損傷モデルは、外因性凝固経路に関与する血栓症に及ぼすIr−CPIの阻害性作用を評価することを可能にする。
【0191】
対照およびIr−CPIで処置したマウスでのレーザー損傷後の血小板およびフィブリンの集積のモニタリング(短期間の測定)
損傷した血管壁での血小板の集積およびフィブリン産生を、以下の蛍光標識した抗体:DyLight649で標識された抗GPIb抗体およびAlexa Fluor 488でコンジュゲートされた抗フィブリン抗体をそれぞれ使用することによりモニタリングした。
【0192】
対照のマウスでは、血小板は、約T114秒でピークに達するように損傷部位で迅速に集積し(血小板の積分蛍光の中央値:508 541AU)、その後、T228秒で測定期間が終了するまで減少した(血小板の積分蛍光の中央値:209 893AU)。損傷部位でのフィブリン産生は、測定期間が終了するまで継続的に増加し、フィブリンの積分蛍光の中央値は、T228秒で16 686AUであった(図1および図2)。
【0193】
Ir−CPIで処置したマウスでは、血小板の集積の動態は、対照のマウスの動態とは異なるものであった。血小板の集積は、対照のマウスと比較して顕著に減少した。測定した血小板の積分蛍光の最大中央値は、T214秒で121 783AUであった。T228秒(すなわち測定期間の終了時)では、血小板の積分蛍光の中央値は、101 887AUであった。さらに、フィブリン産生は、レーザー損傷後の最初の3.8分間の間、対照のマウスよりもIr−CPIで処置したマウスで重要性が少ないと思われた。T228秒では、フィブリンの積分蛍光の最大中央値は、7 539.7AUであった(図1および図2)。
【0194】
約150分の手法の後にIr−CPIで処置したマウスで測定した平均血漿中濃度は、6.48±1.02μg/mL(平均値±SEM;n=5)であった。
【0195】
対照のマウスおよびIr−CPIで処置したマウスにおけるレーザー損傷後のフィブリン産生の動態(長期間の測定)
フィブリン産生の動態を、対照のマウスおよびIr−CPIで処置したマウスにおいて、血管壁のレーザー損傷後90分間の間に測定した。測定した全ての時間(0、15、30、45、75、および90分)で、フィブリンの積分蛍光強度の中央値は、対照のマウスよりもIr−CPIで処置したマウスで低かった(図3および図4)。
【0196】
好中球の集積に及ぼすIr−CPIの効果
多形核好中球(PMN)は、レーザーにより誘導される損傷後に血管壁に集積する最初の細胞であることが例証されていた。活性化した内皮細胞とPMNの相互作用は、血栓の形成の開始に必要とされている(Darbousset et al., 2012)。
【0197】
Ir−CPIが損傷部位でのPMNの集積に影響を有するかどうかを決定するために、損傷した血管壁でのPMNの集積を、Ly6Gを対象とするPEで蛍光標識した抗体を使用してモニタリングした(図5)。
【0198】
対照のマウスでは、PMNは、T42秒でピークに達するように損傷部位で迅速に集積した。(血小板の積分蛍光の中央値:1.60×10AU)。PMNの積分蛍光の中央値は、T270秒で1.10×10AUであった(図6)。
【0199】
Ir−CPIで処置したマウスでは、好中球の集積の動態は、対照のマウスの動態とは異なっていた。実際に、レーザー損傷後最初の4.5分間の間、PMNの集積は、対照のマウスと比較して、顕著に減少した。測定した血小板の積分蛍光の最大中央値は、T261秒で3.02×10AUであった。T270秒(すなわち測定期間の終了時)で、PMNの積分蛍光の中央値は、2.78×10AUであった(図6)。同様の結果が、PMNの活性のマーカーとしてのエラスターゼの蛍光標識した基質を使用する場合に得られた。好中球エラスターゼの活性に対応するシグナルは、対照のマウスと比較して、Ir−CPIで処置したマウスで顕著に低下した(図7)。
【0200】
結論
まとめると、これら結果は、予想外なことにIr−CPIが、外因性凝固経路の活性化に関与することが知られている実験モデルで活性であることを示している。これら結果は、Ir−CPIが、その既知の標的(すなわち第XIa因子および第XIIa因子)に必ずしも関連しない抗血栓作用を発揮することを示している。驚くべきことに、Ir−CPIは、病変部位で、フィブリンの形成だけでなく、血小板の集積、さらには、レーザー損傷の部位での血栓の形成に必要とされるTFの主な供給源であるため外因性凝固系の活性化に重要な役割を果たすことが知られているPMNの早期の出現をも阻害する(Darbousset, Thomas et al. 2012)。
【0201】
実施例2:in vitroでの血小板凝集アッセイ
材料および方法
回収前の15日以内に抗血小板の作用物質を摂取しなかった、健常なヒトのドナー由来の血液を、クエン酸チューブに回収し、200gで13分間遠心分離した。血小板を多く含む血漿を回収し、0.2%のBSA、アピラーゼ(0.02U/mL)およびPGI(500nM)を含むTyrodeバッファー(138mMのNaCl、2.9mMのKCl、12mMのNaHCO、5.5mMのグルコース、1.8mMのCaCl、および0.4mMのMgCl、pH7.4)において、900gで13分間遠心分離した。洗浄した血小板を、Tyrode/BSA(0.2%)/アピラーゼ/PGI溶液に再懸濁し、900gで13分間遠心分離した。血小板を、3.10の血小板/mLの濃度でTyrode/BSA(0.2%)溶液に再懸濁した。血小板を、4μMのカルシウムおよび6μMのマグネシウムを含む溶液に、37℃で30分間保存した。次に、血小板を、ADP(アデノシン二リン酸)、TRAP(トロンビン受容体活性化ペプチド)および/またはIr−CPIと共に、血小板凝集計APACT 4004で5〜10分間撹拌しながら37℃でインキュベートした。
【0202】
結果
血小板凝集に及ぼすIr−CPIの効果を、単離したヒトの洗浄した血小板(n=1)を使用することによりin vitroで評価した。
【0203】
洗浄した血小板を、最初に、ADP(アデノシン二リン酸)(血小板凝集を誘導しない血小板の活性化因子)、またはTRAP(トロンビン受容体活性化ペプチド)(血小板凝集の活性化因子)とインキュベートした。予測され、以下の表2に示されるように、ADPは、血小板凝集を誘導せず(最大凝集:6.9%)、TRAPは、血小板凝集を活性化した(最大凝集:58.6〜59.5%)。
【表2】
【0204】
洗浄した血小板へのIr−CPIの添加は、血小板凝集を活性化しなかった(最大凝集:4.1%)。洗浄した血小板へのIr−CPIおよびTRAPの両方の添加は、陽性対照条件(TRAP単独:最大凝集:58.6〜59.5%)と比較して、血小板凝集を有意に改変しなかった(最大凝集:71.7%)。TRAPをIr−CPIに添加した場合、この作用は、同様の結果(最大凝集:73.5%)ではあったがより長い潜伏期間(231.2秒)を提示した(表2)。
【0205】
実施例1の結果は、Ir−CPIが、in vivoで血小板の集積を阻害することを示した。しかしながら、Ir−CPIは、in vitroでの血小板凝集アッセイで血小板凝集を阻害しない。まとめると、これら結果は、Ir−CPIが、血栓形成に関与する血小板よりも別の標的に作用し得ることを示唆している。
【0206】
レーザーにより誘導される血管壁損傷モデルにおいて、多形核好中球(PMN)が、活性化した内皮へ結合することにより、血小板に先行して病変後数秒以内に損傷した血管へ接着することが知られている。血管壁に結合することにより、PMNは、早期の血栓形成における血液由来のTFの主な供給源である(Darbousset et al., 2012)。内皮細胞とPMNの相互作用は、血栓症の惹起のための血小板の集積に先行する重要なステップである。
【0207】
実施例1の結果は、Ir−CPIが、損傷した血管壁へのPMNの動員を減少させたことを示している。同様に、好中球エラスターゼの活性の低下が、Ir−CPIでの処置の下で検出された。しかしながら、このエラスターゼの活性の低下は、病変部位で動員された好中球の数の減少からもたらされ得る。
【0208】
実施例3:癌関連の血栓症のモデル
材料および方法
材料
試験物質
Ir−CPI(MW=7660Da)は、Bachem(散剤、バッチ 1060411、純度:98.4%)から入手し、使用するまで−80℃で保存した。
【0209】
Ir−CPIを、試験日に、50mg/mLの濃度(溶解度の問題の回避に至るための最大濃度に対応)に達するように、NaCl(0.9%)への溶解により新たに調製した。
【0210】
NaCl(0.9%)を、対照として使用した。
【0211】
動物
Janvier LABSから購入した雄性のマウス(C57BL/6JRj)を、この試験に使用した(5週齢)。
【0212】
方法
投与
Ir−CPIを、本明細書中上述(実施例1参照)され、以下の表3にまとめるように、投与した。
【表3】
n=使用したマウスの数;WT(野生型)は、癌を有さないマウスに対応する。
【0213】
【表4】
n=使用したマウスの数;WT(野生型)は、癌を有さないマウスに対応する。
【0214】
異所性腫瘍の誘導
マウスのPanc02細胞(マウスの膵管腺癌細胞株)を、5%のCOの湿潤した雰囲気下にて37℃で、10%のFCS(PAA)、1000U/mLのペニシリン(Life Technologies)、100μg/mLのストレプトマイシン(Life Technologies)、および0.1%のファンギゾン(Life Technologies)を補充したRPMI−1640培地(Life Technologies)において80%のコンフルエンスまで培養した。対数増殖期に達した後、細胞をPBSで3回洗浄し、非酵素性細胞解離バッファー(non−enzymatic cell dissociation buffer)(Life Technologies)に短時間曝露して、細胞を剥離した。この細胞を、注意深く3回洗浄し、PBSに再懸濁し、所望の濃度に希釈した。
【0215】
5週齢のC57BL/6マウスの右側腹部に、腫瘍細胞懸濁液(100μLのPBS中10個の細胞)を皮下注射した。腫瘍が触知できるようになった際に(0.2cm)、2次元での測定をカリパスで行い、各腫瘍の体積を、楕円体の体積の式:π/6×a(b)(式中aは腫瘍の最も大きい直径であり、bは、腫瘍の最も小さな直径である)により計算した。
【0216】
精巣挙筋の微小循環の生体顕微鏡検査
精巣挙筋の微小循環の生体内ビデオ顕微鏡検査を、以前に記載され(Falati et al., 2002)、本明細書中上述されるように(実施例1参照)、行った。
【0217】
レーザーにより誘導される損傷
血管壁の損傷を、本明細書中上述されるように(実施例1参照)、Micropoint Laser System(Photonics Instruments)で誘導した。
【0218】
損傷後の血小板およびフィブリンの集積を、本明細書中上述されるように(実施例1参照)モニタリングおよび検出した。
【0219】
尾の出血時間のアセスメント
NaClまたはIr−CPIでの処置(低用量または高用量)の下での尾の出血時間のアセスメントを、麻酔をかけた野生型(すなわち癌を有さない)マウスまたは癌を有するマウスで、以前記載されるように(Mezouar et al., 2015)行った。簡潔に述べると、尾の末梢部の1〜3mm部分をマウスから除去し;この尾を等張食塩水(37℃)に浸し、血流の停止が完了するまでの時間を記録した。出血時間は、最大10分間モニタリングした。
【0220】
データ処理および統計解析
腫瘍体積のアセスメントでは、データは、関連するサンプルの大きさ(n)と共に平均値±SEMと表した。腫瘍を有するマウスにおける血小板の集積およびフィブリン産生に及ぼすIr−CPIの効果のアセスメントでは、データは、経時的な積分蛍光の中央値として表した。統計解析ではマン・ホイットニー検定を使用し、尾の出血時間では、一元ANOVAをテューキーの多重比較検定と共に使用した。
【0221】
結果
同じ血栓症誘導のモデルを使用して、Ir−CPIの抗血栓性作用を、膵臓癌を有するマウス(異所性モデル)で評価した。実際に、膵臓癌細胞は、in vivoで血栓形成に鍵となる役割を果たす組織因子(TF)を有するマイクロパーティクル(MP)を産生することが示されていた(Thomas et al., 2009;Mezouar et al., 2015)。このモデルでは、2つの用量(高用量および低用量)のIr−CPIを試験した。
【0222】
別の実験では、野生型(癌を有さない)マウスおよび癌を有するマウスの、尾で出血が停止するまでの時間を、NaCl(対照)またはIr−CPI処置(低用量および高用量)の下で評価した。
【0223】
レーザー損傷実験の前の腫瘍体積のアセスメント
この試験のマウスのモデルにおいて、癌は、マウスの膵臓(Panc02)癌細胞の皮下注射により誘導された。腫瘍を有するマウスを、無作為に、2つのグループ(対照およびIr−CPI)に分けた。Panc02細胞を移植してから22日後に、両グループ由来のマウスに、ビヒクル(NaCl(対照))または試験項目(Ir−CPI)を注射し、血栓誘導のため、精巣挙筋の微小循環のレーザー損傷に供した。図8に示されるように、2つのグループの平均腫瘍体積は、22日目では統計的に異なるものではなかった(対照:372.6±45.3mm;n=5およびIr−CPI:365.0±52.1mm;n=4)。後者のマウスは、高用量のIr−CPIでの処置を用いる実験に使用した。同様に平均腫瘍体積は、低用量のIr−CPIでの処置を行ったマウスにおいて統計的に異なるものではなかった(データ不図示)。
【0224】
レーザー損傷後の血小板およびフィブリンの集積のモニタリング
腫瘍を有するマウスは、Ir−CPIで処置したグループ(Ir−CPI 癌)または対照のグループ(NaCl 癌)に起因していた。さらにまた、NaClで処置した癌を有さないマウス(NaCl 癌を有さない)を、陰性対照として使用した。全てのマウスは、精巣挙筋の細動脈へのレーザー損傷に供し、血栓症を誘導した。Ir−CPIで処置したマウスには、低用量または高用量の試験生成物を投与した。
【0225】
損傷した血管壁における血小板の集積およびフィブリン産生を、以下の蛍光標識抗体:DyLight649で標識された抗GPIb抗体およびAlexa Fluor 488でコンジュゲートされた抗フィブリン抗体をそれぞれ使用することによりモニタリングした。
【0226】
NaCl 癌のマウスは、NaCl 癌を有さないマウスと比較して、損傷部位で、著しい血小板の集積および多量のフィブリン産生により評価されるような血栓形成促進状態を提示した。実際に、血小板およびフィブリンの標識の積分蛍光強度(曲線下面積)は、対照 WTのマウスと比較して、対照 癌のマウスにおいて有意に高かった(*p<0.05)。対照 癌のマウスおよび対照 WTのマウスでは、フィブリンの積分蛍光の中央値は、T278秒でそれぞれ59 172AUおよび23 005AUであった(図9および図10)。
【0227】
血小板の集積およびフィブリン産生の有意な減少が、NaCl 癌のマウスと比較して、高用量および低用量のIr−CPIで処置した癌のマウスの両方で観察された。図11に示されるように、血小板標識の積分蛍光強度(曲線下面積)は、NaCl 癌を有さないマウス(*p<0.05)およびNaCl 癌のマウス(***p<0.001)よりも高用量のIr−CPIで処置した癌のマウスにおいて有意に低かった。同様の結果が、低用量のIr−CPIで処置したマウスで観察された(図12および図13)。
【0228】
尾の出血時間のアセスメント
尾の出血時間は、腫瘍を発症しなかったマウス(たとえば、野生型(すなわち癌を有さない)NaClで処置したマウスの出血時間の中央値は147秒であった)と比較して、腫瘍を発症したマウスにおいて有意に低下した(たとえばPanc02癌細胞を投与したNaClで処置したマウスの出血時間の中央値は75秒であった)(***p<0.001)(図14)。尾の出血時間に関するIr−CPI処置(低用量および高用量)の有意な作用は、NaClで処置したマウスと比較する際に、癌を有さないマウスおよび癌を有するマウスにおいて観察されなかった(図14)。
【0229】
結論
癌の血栓形成促進状態の病態形成は、腫瘍細胞に増殖の利点を提供する局所的および全身的な凝固性亢進状態/血栓状態の産生に関連する。膵臓癌細胞は、in vivoで血栓形成に鍵となる役割を果たす組織因子(TF)を有するマイクロパーティクル(MP)を産生することが示されていた(Thomas et al., 2009;Mezouar et al., 2015)。癌を有するマウスのPMNは、好中球細胞外トラップ(NET)−外在のクロマチンおよび分泌型プロテアーゼにより形成されるクモの巣様の構造;NETosisと呼ばれるプロセスを形成する傾向を増大させた(Leal et al., 2017)。さらに、NETの形成を介して放出される細胞外クロマチンは、癌関連の血栓症の原因であることが示されていた(Demers et al., 2012;Mauracher et al., 2018)。
【0230】
実施例3の結果は、Ir−CPIが、マウスのレーザー損傷モデルにおいて癌に関連する血栓形成促進状態を阻害することを示している。実際に、異所性膵腫瘍を有するマウスで、Ir−CPIは、レーザー損傷部位で血小板の集積およびフィブリン形成を有意に減少させている。重要なことに、癌を有さないマウスおよび癌を有するマウスでは、Ir−CPIは、尾の出血時間に効果を有さず、ホメオスタシスを弱めないことを示している。
【0231】
実施例4:NETosisアッセイ
材料および方法
材料
好中球は、FR−1が結合した磁性ビーズ(抗Ly6G Microbead Kit, Miltenyi Biotec)を使用して以前に記載されるように(Hu 2012)マウス(C57BL/6)の大腿骨の骨髄から単離した。
【0232】
方法
in vitroでのNETosisアッセイ
細胞を回収し、遠心分離し、ハンクス溶液(Gibco)において2ng/mLのTNFαを伴うかまたは伴わずに、30分間インキュベートした。好中球を、ポリ−L−リジンでコーティングしたスライドに播種し、ハンクス溶液において37℃で1時間インキュベートした。次に、好中球を、ハンクス溶液中25μMの血小板活性化因子(PAF)±Ir−CPI(0.65または2μM)を伴うかまたは伴わずに活性化した(37℃、3時間)。NETの形成を、4%のPAF(パラホルムアルデヒド)での好中球の固定ならびにシトルリン化ヒストン(H3抗体)および核(Hoechst)の蛍光標識後の免疫蛍光検査(Leica製の蛍光顕微鏡)により評価した。画像の処理および解析は、FIJIソフトウェアを使用して行った。
【0233】
データ処理および統計解析
NETosisのパーセンテージ(中央値)は、5つの独立した実験で提示した。統計解析には、ウィルコクソン検定を使用した(ns:有意性なし;*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001)。
【0234】
結果
実施例3の結果を受けて、PMNの活性化状態に及ぼすIr−CPIの効果は、NETの形成を評価することによりin vitroで評価した。実際に、癌を有するマウスのPMNは、癌関連の血栓症の原因であることが示されている好中球細胞外トラップ(NET)を形成する傾向を増大させたことが報告されていた(Demers, Krause et al. 2012, Mauracher, Posch et al. 2018)。
【0235】
in vitroでのNETosisに及ぼすIr−CPIの効果
癌を有するマウスのPMNは、好中球細胞外トラップ(NET)−すなわち外在のクロマチンおよび分泌型プロテアーゼにより形成されるクモの巣様の構造;NETosisと呼ばれるプロセスを形成する傾向を増大させたことが報告されていた(Leal et al., 2017)。さらに、NETの形成を介して放出される細胞外クロマチンは、癌関連の血栓症の原因であることが示されていた(Demers et al., 2012;Mauracher et al., 2018)。
【0236】
NETosisに及ぼすIr−CPIの効果を評価するために、免疫蛍光染色(DNAではHoechstおよびシトルリン化ヒストン標識ではH3Cit)を、マウスの大腿骨の骨髄から単離したPMNで行い、図15に示されるように、異なるin vitroでの実験条件(未処置の対照、PAFでの活性化を伴うかまたは伴わないTNFαでのプライミング、および/またはIr−CPIとのインキュベーション)に供した。
【0237】
NETの形成の陽性対照として、TNFαでプライミングしPAFで活性化したPMNを使用した。これらPMNは、未処置のPMNと比較して、NETosisのパーセンテージを増大させ(***p<0.001)、これによりこのモデルを検証した(図15)。
【0238】
図15に示されるように、PMNをTNFαでプライミングし、PAFで活性化し、かつIr−CPI(0.65および2μM)とインキュベートした場合に、NETの形成のパーセンテージの有意な低下が、TNFαおよびPAFとインキュベートしたPMNと比較して観察された(0.65μMのIr−CPIでは*p<0.05および2μMのIr−CPIでは***p<0.001)。
【0239】
これら結果は、in vitroにおいて、Ir−CPIが、活性化した好中球とインキュベートした際にNETosisを低減させることを示している。
【0240】
実施例5:好中球の活性化に及ぼすIr−CPIの効果
材料および方法
好中球は、以前に記載されるように(Hu 2012)、FR−1が結合した磁性ビーズ(抗Ly6G Microbead Kit, Miltenyi Biotec)を使用して、マウス(C57BL/6)の大腿骨の骨髄から単離した。TFNαでの活性化では、細胞を回収し、遠心分離し、ハンクス溶液(Gibco)において2ng/mLのTNFαを伴うかまたは伴わずに、30分間インキュベートした。次に、好中球を、ハンクス溶液においてIr−CPI(0.65または2μM)とインキュベートした(37℃で1時間)。ATPでの活性化では、細胞を回収し、遠心分離し、ハンクス溶液においてATP(10μM)およびIr−CPI(0.65または2μM)とインキュベートした(37℃で1時間)。細胞の洗浄の後、CD11b、活性化したCD11b、またはLy6Gの発現を、フローサイトメトリー(Beckman Coulter Gallios)により評価した。好中球の同定および活性化の解析に使用した抗体は、IRR IgG1−FITC(無関係な抗体)、抗CD45−APC、抗Ly6G−PE、および抗CD11b−FITC、またはAlexa Fluor 647抗活性化CD11b−であった。結果の解析は、Kaluzaソフトウェア(Beckman Coulter)を使用して行った。
【0241】
データ処理および統計解析
活性化マーカー発現のパーセンテージは、平均値±SEM(TNFα活性化ではn=3つの独立した実験、およびATP活性化ではn=2つの独立した実験)として提示した。TNFα活性化を用いた実験では、統計解析に、一元ANOVA、続いてテューキーの多重比較検定を使用した(ns:有意性なし;*p<0.05)。
【0242】
結果
実施例4の結果を受けて、PMN活性化状態に及ぼすIr−CPIの効果を、好中球を活性化することが知られている分子、すなわちアデノシン三リン酸(ATP)および腫瘍壊死因子α(TNFα)とインキュベートした後の好中球活性化マーカーの発現を評価することにより、in vitroで評価した。
ATPは、好中球の活性化に寄与することにより、フィブリンの産生およびその後の血小板依存性の血栓形成をもたらす必要なステップである、レーザーにより誘導される内皮損傷部位での好中球の接着をもたらすことが示されている(Darbousset, Delierneux et al. 2014)。さらに、別の好中球活性化因子であるTNFα(Futosi, Fodor et al. 2013)をこの実施例で試験した。
【0243】
TNFαとのインキュベーション後の好中球の活性化に及ぼすIr−CPIの効果
マウスの大腿骨の骨髄から単離した好中球を、異なるin vitroでの実験条件(未処置の対照、TNFαでのプライミングおよび/またはIr−CPIとのインキュベーション)に供して、これらの活性化状態に及ぼすIr−CPIの効果を評価した。この活性化状態は、好中球の表面でのCD11b発現のパーセンテージを解析することにより評価した(図16)。
【0244】
Ir−CPI(0.65および2μM)と未処置の好中球のインキュベーションは、CD11bの発現に効果がなかった。TNFαでプライミングした好中球は、好中球の活性化の陽性対照として使用した。図16に示されるように、TNFαでプライミングした好中球は、未処置の好中球と比較して、CD11bの発現が増大した。TNFαでプライミングし、Ir−CPI(2μM)とインキュベートした好中球は、著しく、細胞表面で発現したCD11bの有意な低下を示した(*p<0.05)。
【0245】
これら結果は、Ir−CPIが、in vitroでのCD11b発現の減少を介してTNFαにより誘導される好中球の活性化を変えることを示している。
【0246】
ATPとのインキュベーション後の好中球の活性化に及ぼすIr−CPIの効果
マウスの大腿骨の骨髄から単離した好中球を、異なるin vitroでの実験条件(未処置の対照またはIr−CPIおよびATPとのインキュベーションまたはIr−CPIを伴いATPを伴わないインキュベーション)に供して、これらの活性化状態に及ぼすIr−CPIの効果を評価した。この活性化状態は、好中球の表面でのCD11b、活性化したCD11b、およびLy6Gの発現のパーセンテージを解析することにより評価した(図17)。
【0247】
Ir−CPI(0.65および2μM)と未処置の好中球のインキュベーションは、CD11bの発現に効果がなかった(図17B)。にもかかわらず、驚くべきことに、Ir−CPIは、好中球の表面で活性化したCD11bの発現を減少させた(図17C)。またLy6Gの発現も、Ir−CPIとインキュベートした場合に、好中球の表面で減少した(図17A)。
【0248】
これら結果は、in vitroにおいてIr−CPIが、活性化したCD11bの発現の減少を介してATPにより誘導される好中球の活性化を変えることを示している。
【0249】
よって、Ir−CPIは、組織因子(TF)などの外因性凝固経路に特有の組織因子の阻害を介してではなく、好中球の動員、活性化、およびNETの形成の阻害を介して、この経路の活性化の後の血栓形成を阻害する。これらイベントは、レーザーの内皮損傷後の外因性凝固系の活性化およびその後の血栓形成をもたらす最初のステップである。
【0250】
参照文献
Darbousset, R., et al. (2014). ”P2X1 expressed on polymorphonuclear neutrophils and platelets is required for thrombosis in mice.” Blood. 124(16):2575−2585.
Darbousset, R., et al. (2012). ”Tissue factor−positive neutrophils bind to injured endothelial wall and initiate thrombus formation.” Blood. 120(10):2133−2143.
Decrem, Y., et al. (2009). ”Ir−CPI, a coagulation contact phase inhibitor from the tick Ixodes ricinus, inhibits thrombus formation without impairing hemostasis.” J Exp Med. 206(11):2381−2395.
Demers, M., et al. (2012). ”Cancers predispose neutrophils to release extracellular DNA traps that contribute to cancer−associated thrombosis.” Proc Natl Acad Sci U S A. 109(32):13076−13081.
Dubois, C., et al. (2007). ”Thrombin−initiated platelet activation in vivo is vWF independent during thrombus formation in a laser injury model.” J Clin Invest; 117(4):953−960.
Dubois, C., et al. (2006). ”Glycoprotein VI−dependent and −independent pathways of thrombus formation in vivo.” Blood. 107(10):3902−3906.
Falati, S., et al. (2002). ”Real−time in vivo imaging of platelets, tissue factor and fibrin during arterial thrombus formation in the mouse.” Nat Med. 8(10):1175−1181.
Futosi, K., et al. (2013). ”Neutrophil cell surface receptors and their intracellular signal transduction pathways.” Int Immunopharmacol. 17(3):638−650.
Hu, Y. (2012). ”Isolation of human and mouse neutrophils ex vivo and in vitro.” Methods Mol Biol. 844:101−113.
Kambas, K., et al. (2012). ”The emerging role of neutrophils in thrombosis−the journey of TF through NETs.” Front Immunol. 3:385.
Keularts, I. M., et al. (2001). ”The role of factor XI in thrombin generation induced by low concentrations of tissue factor.” Thromb Haemost. 85(6):1060−1065.
Leal, A. C., et al. (2017). ”Tumor−Derived Exosomes Induce the Formation of Neutrophil Extracellular Traps: Implications For The Establishment of Cancer−Associated Thrombosis.” Sci Rep. 7(1):6438.
Massberg, S., et al. (2010). ”Reciprocal coupling of coagulation and innate immunity via neutrophil serine proteases.” Nat Med. 16(8):887−896.
Mauracher, L. M., et al. (2018). ”Citrullinated histone H3, a biomarker of neutrophil extracellular trap formation, predicts the risk of venous thromboembolism in cancer patients.” J Thromb Haemost.
Mezouar, S., et al. (2015). ”Inhibition of platelet activation prevents the P−selectin and integrin−dependent accumulation of cancer cell microparticles and reduces tumor growth and metastasis in vivo.” Int J Cancer. 136(2):462−475.
Thomas, G. M., et al. (2009). ”Cancer cell−derived microparticles bearing P−selectin glycoprotein ligand 1 accelerate thrombus formation in vivo.” J Exp Med. 206(9):1913−1927.
von Bruhl, M. L., et al. (2012). ”Monocytes, neutrophils, and platelets cooperate to initiate and propagate venous thrombosis in mice in vivo.” J Exp Med. 209(4):819−835.
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2021525221000001.app
【手続補正書】
【提出日】2020年10月21日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【国際調査報告】