(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-526075(P2021-526075A)
(43)【公表日】2021年9月30日
(54)【発明の名称】収着剤及び収着デバイス
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20210903BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20210903BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20210903BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20210903BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20210903BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20210903BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20210903BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20210903BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20210903BHJP
B01J 20/282 20060101ALI20210903BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20210903BHJP
【FI】
B01J20/26 G
C08L101/00
C08L83/04
C08K3/04
B01J20/28 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/34 G
B01J20/34 H
B01J20/20 A
C02F1/28 A
B01J20/282 J
B01J20/281 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2020-566717(P2020-566717)
(86)(22)【出願日】2019年5月31日
(85)【翻訳文提出日】2020年12月21日
(86)【国際出願番号】AU2019050566
(87)【国際公開番号】WO2019227177
(87)【国際公開日】20191205
(31)【優先権主張番号】2018901934
(32)【優先日】2018年5月31日
(33)【優先権主張国】AU
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】504427673
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・タスマニア
【氏名又は名称原語表記】University of Tasmania
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ポール,ブレット
(72)【発明者】
【氏名】ハサン,チョウドゥリー・カムルル
(72)【発明者】
【氏名】ネステレンコ,パベル
(72)【発明者】
【氏名】シェリー,ロバート
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
4J002
【Fターム(参考)】
4D624AA05
4D624AA10
4D624AB04
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4D624DA07
4G066AA04D
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4G066AB13D
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4G066AC13B
4G066AC16B
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4G066AC23B
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4G066AC28B
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4G066BA22
4G066BA25
4G066CA01
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4G066FA21
4G066FA25
4G066FA40
4G066GA01
4G066GA11
4J002BB031
4J002BE021
4J002CD001
4J002CF181
4J002CG001
4J002CH001
4J002CL001
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4J002CP031
4J002DA016
4J002FA091
4J002FD147
4J002FD206
4J002GD02
(57)【要約】
本発明は、化合物を抽出するための収着剤及び収着デバイス全般に関する。本発明は、ポリマー及びマイクロダイヤモンドを含む収着剤に関する。本発明はまた、収着剤を備えた収着デバイスにも関する。本発明はさらに、流体から有機化合物を抽出するための、及び分析のための有機化合物を含有するサンプルを調製するための、収着デバイスを用いる方法にも関する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数の有機化合物を抽出するための、多孔性ポリマー及びマイクロダイヤモンドを含む収着剤であって、前記ポリマーが、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエポキシド、及びこれらのコポリマー又はブレンドから成る群より選択される、収着剤。
【請求項2】
前記ポリマーが、ポリシロキサンである、請求項1に記載の収着剤。
【請求項3】
前記ポリシロキサンが、ポリ(ジメチルシロキサン)である、請求項2に記載の収着剤。
【請求項4】
前記マイクロダイヤモンドが、約2.0g・cm−3〜約4.0g・cm−3の範囲内の密度を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項5】
前記マイクロダイヤモンドが、約1μm〜約20μmの範囲内の粒子サイズを有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項6】
前記マイクロダイヤモンドが、約1μm〜約10μmの範囲内の粒子サイズを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項7】
前記マイクロダイヤモンドが、約2μm〜約4μmの範囲内の粒子サイズを有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項8】
前記ポリマーが、約1.0g・cm−3よりも大きい密度を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項9】
前記収着剤が、中実ロッド、中空ロッド、球体、ディスク、フィルム、膜、繊維、コーティング、又は粒子の形態である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項10】
前記マイクロダイヤモンドが、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせの総重量に基づいて、約15重量%〜約70重量%の範囲内の量で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項11】
前記マイクロダイヤモンドが、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせの総重量に基づいて、約55重量%〜約65重量%の範囲内の量で存在する、請求項10に記載の収着剤。
【請求項12】
前記マイクロダイヤモンドが、前記収着剤の総重量に基づいて、約15重量%〜約60重量%の範囲内の量で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項13】
前記マイクロダイヤモンドが、前記収着剤の総重量に基づいて、約30重量%〜約60重量%の範囲内の量で存在する、請求項12に記載の収着剤。
【請求項14】
前記ポリマーが、前記収着剤の少なくとも30重量%の量で存在する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項15】
前記収着剤が、充填剤を含まない、又は20%以下の量で充填剤を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項16】
前記収着剤が、ナノダイヤモンドを含まない、又は5%以下の量で充填剤としてナノダイヤモンドを含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項17】
前記収着剤が、収着デバイスの形態である、又は収着デバイスの構成成分を形成する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の収着剤。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の収着剤を備えた収着デバイス。
【請求項19】
中実ロッド、中空ロッド、球体、ディスク、フィルム、膜、フィルター、繊維、又はカラムの形態である、請求項18に記載の収着デバイス。
【請求項20】
流体から1又は複数の有機化合物を抽出するための方法であって、
i)1又は複数の有機化合物を含有するキャリア流体と、
ii)ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエポキシド、及びこれらのコポリマー又はブレンドから成る群より選択されるポリマー、並びにマイクロダイヤモンドを含む収着剤とを、
1又は複数の有機化合物が前記収着剤の中又は前記収着剤の上に収着されるように接触させること、
を含む、方法。
【請求項21】
前記キャリア流体が、キャリア溶媒である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
分析のための1又は複数の有機化合物を含有するサンプルを調製するための方法であって、
a)
i)1又は複数の有機化合物を含有するキャリア流体と、
ii)ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエポキシド、及びこれらのコポリマー又はブレンドから成る群より選択されるポリマー、並びにマイクロダイヤモンドを含む収着剤とを、
1又は複数の有機化合物が前記収着剤の上又は前記収着剤の中に収着されるように接触させること、並びに
b)前記収着剤から前記1又は複数の有機化合物を脱着して、分析のための前記1又は複数の有機化合物を含有する前記サンプルを提供すること、
を含む、方法。
【請求項23】
前記キャリア流体が、キャリア溶媒である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記脱着工程が、前記1又は複数の有機化合物が前記収着剤から空気中へ脱着されるように、前記収着剤を加熱することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記脱着工程が、前記収着剤と脱着溶媒とを、前記1又は複数の有機化合物が前記収着剤から前記脱着溶媒中へ脱着されるように、接触させることを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記脱着溶媒が、メタノール、エタノール、ニトロメタン、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ペンタン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、トリクロロエチレン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルアミン、及びトリエチルアミンから成る群より選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記脱着溶媒が、メタノールである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記サンプルを分析することをさらに含む、請求項21、及び23〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記分析工程が、前記1又は複数の有機化合物を分離することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記分離が、ガスクロマトグラフィを用いて行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記分析工程が、前記サンプル中における前記1又は複数の有機化合物の存在を検出することを含む、請求項28〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記検出が、質量分析を用いて行われる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記検出が、水素炎イオン化検出器を用いて行われる、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記収着剤の前記ポリマーが、多孔性である、請求項21、及び23〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記キャリア溶媒が、水である、請求項21、及び23〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記収着剤が、収着デバイスの形態である、又は収着デバイスの構成成分を形成する、請求項21、及び23〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記接触工程が、前記キャリア溶媒と前記収着デバイスとを混合することを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記収着デバイスを複数回にわたって再利用して、複数サンプルの調製を完了することを含む、請求項36又は請求項37に記載の方法。
【請求項39】
工程(a)及び(b)を実施すること、前記デバイスを洗浄すること、並びにキャリア溶媒及び分析を必要とする有機化合物の別の組み合わせで工程(a)及び(b)を繰り返すこと、を含む、請求項36〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記洗浄が、前記収着デバイスを洗浄するのに充分な熱処理を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体を含む収着剤を製造するための方法であって、
ポリマー前駆体、マイクロダイヤモンド、及び硬化剤を組み合わせて混合物を形成すること、
前記混合物を成形すること、
前記混合物を硬化すること、及び
前記混合物を乾燥して前記収着剤を形成すること、
を含む、方法。
【請求項42】
前記ポリマー前駆体、マイクロダイヤモンド、及び硬化剤を、ポロゲンと組み合わせて、前記混合物を形成すること、並びに硬化後に前記硬化した混合物の前記ポロゲンを除去すること、を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記ポリマー前駆体が、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエポキシド、及びこれらのコポリマー又はブレンドから成る群より選択されるポリマーの製造のための前駆体である、請求項41又は請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記成形工程が、前記混合物を、中実ロッド、中空ロッド、球体、ディスク、フィルム、膜、繊維、又は粒子の形態に成形することを含む、請求項41〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記硬化した混合物を洗浄することを含む、請求項41〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記硬化した混合物を熱処理することを含む、請求項41〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記方法が、請求項1〜16のいずれか一項に記載の収着剤の製造をもたらす、請求項41〜46のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を抽出するための収着剤に関する。本発明はまた、収着剤を備えた収着デバイスにも関する。本発明はさらに、流体から有機化合物を抽出するための方法、及び分析のための有機化合物を含有するサンプルを調製するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)などのポリシロキサンを含むいくつかのポリマーは、化合物を収着し、脱着する能力を有しており、収着デバイスにおける収着剤として用いることができる。これらの収着デバイスは、化合物の抽出又は予備濃縮に用いることができる。例えば、収着デバイスは、溶媒から収着デバイス上へ又は収着デバイス中への化合物の収着、及び続いての、サンプルを提供するための収着デバイスからの化合物の脱着を含むサンプル調製技術に用いられ得る。
【0003】
PDMSは、収着デバイス中の収着剤として用いられ、高い疎水性、熱及び酸化安定性、生体適合性、耐久性、並びに重合での柔軟性を含む好都合な特性を有している。加えて、PDMSは、極性溶媒中では最小限の膨潤を、非極性溶媒中では最大限の膨潤を呈し、このことによって、PDMSベースの収着デバイスからの化合物の効率的な脱着が可能となる。他方、PDMSは、比較的低い密度を有し、したがって、水を含む様々な溶媒中では沈まない。PDMS収着デバイスの浮遊は、接触表面積を減少させ、デバイスの収着/抽出効果を低下させる。PDMSベースのデバイスの密度及び/又は効果に対処する試みが行われてきたが、収着デバイスを用いた有機化合物の抽出のためのより効果的な収着デバイス及びプロセスを作製するためにできることはまだ存在する。
【発明の概要】
【0004】
したがって、本出願は、現行の収着剤及び収着デバイスに付随する問題点の1又は複数を解決し得る収着剤を提供しようとするものである。
第一の態様では、1又は複数の有機化合物を抽出するための、多孔性ポリマー及びマイクロダイヤモンドを含む収着剤が提供される。ポリマーは、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエポキシド、及びこれらのコポリマー又はブレンドから成る群より選択され得る。
【0005】
第二の態様では、上記で述べた収着剤を備えた収着デバイスが提供される。
第三の態様では、流体から1又は複数の有機化合物を抽出するための方法が提供され、その方法は:
i)1又は複数の有機化合物を含有するキャリア流体と、
ii)ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエポキシド、及びこれらのコポリマー又はブレンドから成る群より選択されるポリマー、並びにマイクロダイヤモンドを含む収着剤とを、
1又は複数の有機化合物が収着剤の上又は収着剤の中に収着されるように接触させること、
を含む。
【0006】
第四の態様では、分析のための1又は複数の有機化合物を含有するサンプルを調製するための方法が提供され、その方法は:
a)
i)1又は複数の有機化合物を含有するキャリア流体と、
ii)ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエポキシド、及びこれらのコポリマー又はブレンドから成る群より選択されるポリマー、並びにマイクロダイヤモンドを含む収着剤とを、
1又は複数の有機化合物が収着剤の上又は収着剤の中に収着されるように接触させること、並びに
b)収着剤から1又は複数の有機化合物を脱着して、分析のための1又は複数の有機化合物を含有するサンプルを提供すること、
を含む。
【0007】
注目すべき実施形態では、キャリア流体は、キャリア溶媒である。したがって、溶媒から1又は複数の有機化合物を抽出するための方法が存在し、その方法は:
i)1又は複数の有機化合物を含有するキャリア溶媒と、
ii)ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエポキシド、及びこれらのコポリマー又はブレンドから成る群より選択されるポリマー、並びにマイクロダイヤモンドを含む収着剤とを、
1又は複数の有機化合物が収着剤の上又は収着剤の中に収着されるように接触させること、
を含む。
【0008】
また、分析のための1又は複数の有機化合物を含有するサンプルを調製するための方法も提供され、その方法は:
a)
i)1又は複数の有機化合物を含有するキャリア溶媒と、
ii)ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエポキシド、及びこれらのコポリマー又はブレンドから成る群より選択されるポリマー、並びにマイクロダイヤモンドを含む収着剤とを、
1又は複数の有機化合物が収着剤の上又は収着剤の中に収着されるように接触させること、並びに
b)収着剤から1又は複数の有機化合物を脱着して、分析のための1又は複数の有機化合物を含有するサンプルを提供すること、
を含む。
【0009】
第五の態様では、ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体を含む収着剤を製造するための方法が提供され、その方法は:
− ポリマー前駆体、マイクロダイヤモンド、及び硬化剤を組み合わせて混合物を形成すること、
− 混合物を成形すること、
− 混合物を硬化すること、及び
− 混合物を乾燥して収着剤を形成すること、
を含む。
【0010】
これらの態様は、以下の詳細な記述においてより充分に記載される。
本発明を、以下の図面を参照して、単なる例としてさらに詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、水中におけるPDMSのみを含有するロッド(
図1a)及びPDMS−マイクロダイヤモンド複合体を含有するロッド(
図1b)の画像を示す。
【
図2】
図2は、PDMS−マイクロダイヤモンド複合体、及びPDMSのみの材料の画像を示す。
【
図3】
図3は、顕微鏡画像から特定した多孔性PDMS−マイクロダイヤモンド複合体の細孔サイズ分布を示すグラフを示す。
【
図4】
図4は、異なる形態のPDMS−マイクロダイヤモンド複合体の画像を示す。
【
図5】
図5は、異なる収着デバイス中の収着剤としてのPDMS−マイクロダイヤモンド複合体の模式図を示す。
【
図6】
図6は、多孔性PDMS−マイクロダイヤモンド複合体、及び多孔性のPDMSのみの材料の構造安定性試験の画像を示す。
【
図7】
図7は、PDMS−マイクロダイヤモンド複合体、及びPDMSのみの材料の熱安定性(
図7a)並びに分解速度(
図7b)を示すグラフを示す。
【
図8】
図8は、異なる精製方法を用いたPDMS−マイクロダイヤモンド複合体から浸出したシロキサンのクロマトグラムを示す。
【
図9】
図9は、異なる時間にわたってメタノールに浸漬した後、PDMS−マイクロダイヤモンド複合体から浸出したシロキサンの動態を示す。
【
図10】
図10は、PDMS−マイクロダイヤモンド複合体及び市販のPDMSデバイスを用いた溶媒逆抽出によってワインサンプルから抽出された有機化合物のシグナル強度を示すクロマトグラム(
図10a)及びクロマトグラフィピーク面積を示すグラフ(
図10b)を示す。
【
図11】
図11は、非多孔性PDMS−マイクロダイヤモンド複合体及び市販のPDMSデバイスを用いた溶媒逆抽出によって合成ワインサンプルから抽出された有機化合物のクロマトグラフィピーク面積を示すグラフを示す。
【
図12】
図12は、多孔性及び非多孔性PDMS−マイクロダイヤモンド複合体、並びに市販のPDMSデバイスを用いた溶媒逆抽出によって合成ワインサンプルから抽出された有機化合物の回収率パーセントを示すグラフを示す。
【
図13】
図13は、多孔性及び非多孔性PDMS−マイクロダイヤモンド複合体、並びに市販のPDMSデバイスを用いた溶媒逆抽出によってワインサンプルから抽出された有機化合物のクロマトグラフィピーク面積を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
他に定めのない限り、本明細書で用いられるすべての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野における当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実践又は試験において、本明細書で述べるものに類似の又は同等のいかなる方法及び材料が用いられてもよいが、好ましい方法及び材料が記載される。本発明の目的のために、以下の用語が以下で定められる。
【0013】
本発明を記載する文脈における「1つの(a)」及び「1つの(an)」及び「その(the)」の用語、並びに類似の指示概念の使用は、本明細書においてそれ以外が示されない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を含むものとして解釈されたい。
【0014】
以下の請求項において、及びそれに先立つ本発明の記述において、明示的な言語又は必要な暗示によって文脈上他の解釈が必要である場合を除き、「含む(comprise)」の語、又は「含む(comprises)」若しくは「含んでいる(comprising)」などの変化形は、包括的な意味で用いられ、すなわち、本発明の様々な実施形態において、記載された特徴の存在を指定するが、さらなる特徴の存在又は追加を排除しないという意味で用いられる。
【0015】
「収着する」の用語は、吸着する及び/又は吸収する、を包含する動詞である。本出願の文脈において、これは、流体からの化合物の吸着及び/又は吸収を意味する。「収着された」、「収着する」、及び「収着剤」(すなわち、収着する材料)は、対応する意味を有する。収着剤の上又は収着剤の中に収着される化合物に言及する場合、この表現は、吸収若しくは吸着、又は両方の機構による収着を包含する。ポリマーは、「吸着剤」特性が支配的であるものが知られているが、「吸収剤」特性が支配的であるものも知られている。収着の特定の機構(例:吸収)が本明細書で指定される場合、ポリマーの既知の特性から、どの収着機構が用いられるかが推測され得る。
【0016】
収着剤
本明細書において、流体から1又は複数の有機化合物を抽出することができる収着剤が記載される。収着剤は、ポリマー及びマイクロダイヤモンドを含む。収着剤は、ポリマーとマイクロダイヤモンドとの複合体、いわゆるポリマー−マイクロダイヤモンド複合体、を含んでよい。
【0017】
ポリマーは、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンなどのポリアルキレン、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエポキシド、及びこれらのいずれかのコポリマー又はブレンドから成る群より選択され得る。ポリマーは、上記ポリマーのいずれか1又は複数によるサブグループから選択されてもよい。いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリシロキサンである。1つの実施形態では、ポリシロキサンは、PDMSである。
【0018】
ポリマーは、1又は複数のポリマー前駆体を用いて適切に製造されてよい。例えば、ポリマーがPDMSである実施形態では、ポリマーは、シリコーンエラストマーベースから製造されてよい。上記で述べた別の選択肢としてのポリマーの各々に対する適切なポリマー前駆体の選択は、当業者に周知である。
【0019】
収着剤に用いるのに適するポリマーは、収着特性を有し、すなわち、ポリマーは、有機化合物を吸収及び/又は吸着することができる。好ましい実施形態では、ポリマーは、吸収剤特性を有し(吸着剤特性ではなく)、すなわち、それは、有機化合物を吸収することができる。PDMSは、吸収剤特性を有するポリマーの例である。
【0020】
好ましい実施形態では、ポリマーは、PDMSである。PDMSは、好都合な収着特性を含む、収着剤のポリマーベースとして適するものとなるのに好都合な特性を有している。Baltussen et al.によって行われた研究(E. Baltussen, P. Sandra, F. David, H.-G. Janssen, C. Cramers, Study into the Equilibrium Mechanism between Water and Poly(dimethylsiloxane) for Very Apolar Solutes: Adsorption or Sorption? Analytical Chemistry, 1999, 71, 5213-5216)では、PDMSが水から有機化合物を吸収することができることが示されている。しかしながら、PDMSは、比較的低い密度を有し(0.96g・cm
−3)、したがって、水などのいくつかの溶媒中では沈まない。このため、PDMSベースの収着デバイスのこれらの溶媒中での浮遊が引き起こされ、そのことは、接触表面積を減少させ、そのようなデバイスの収着/抽出効果を低下させる。カーボン系充填剤、無機酸化物充填剤、及び塩充填剤を含むPDMSベースの収着デバイス中に組み込むための高密度充填剤が、これまでに検討されてきた。デトネーションナノダイヤモンド(DND)粒子などのナノダイヤモンドも、PDMSデバイス中の充填剤として用いるために検討されてきた。ナノダイヤモンドは、ナノ範囲の粒子サイズを有しており(すなわち、少なくとも1nm及び1μm未満の平均粒子サイズを有する)、したがって、一般的には極めて微細なサイズである。ナノダイヤモンドのナノスケールのサイズ範囲は、比較的極性である表面をもたらし、このことは、PDMS前駆体中で粒子を非常に凝集させ、その結果、PDMSマトリックス中で凝集体を形成する。このため、低い充填剤含有量(3%未満)及び一貫性のない特性を有するPDMS−ナノダイヤモンド複合体が得られる結果となる。
【0021】
そのような先行技術のナノダイヤモンドベースの複合体とは対照的に、本発明の収着剤は、マイクロダイヤモンドを含む。マイクロダイヤモンドは、マイクロメートル範囲の粒子サイズを有する(すなわち、少なくとも1μm及び1mm未満の平均粒子サイズを有する)粒子状ダイヤモンド材料である。ダイヤモンドは、天然又は合成であってよいが、一般的に、マイクロダイヤモンドは、所望される粒子サイズ及び他の特性を実現するために、合成によって製造される。したがって、典型的な実施形態では、マイクロダイヤモンドは、合成ダイヤモンドであり、高温及び高圧下で合成される。
【0022】
マイクロダイヤモンドは、好都合な硬度及び熱伝導性、並びに極僅かな線熱膨張を含むその物理化学的特性のために、様々な用途に用いられてきた。ナノダイヤモンド粒子とは異なり、マイクロダイヤモンド表面の極性の度合いは、比較的中程度である(すなわち、ナノダイヤモンドよりも著しく極性が低い)。例で示す実施形態では、複合体を製造するために用いられる組成物の総重量に基づいて、高くて約60重量%の濃度のマイクロダイヤモンドを含有するPDMS−マイクロダイヤモンド複合体が製造される。これらの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、複合体全体に分散されていることが示され、複合体中で凝集体を形成しない。加えて、複合体の熱安定性、熱伝導性、及び機械的堅牢性が、マイクロダイヤモンドを含有しない比較ポリマーサンプルと比較して改善される。
【0023】
ポリマー及びマイクロダイヤモンドは、典型的には、ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体の形態である。複合体は、該当するポリマー前駆体及びマイクロダイヤモンドを含む組成物の重合生成物である。マイクロダイヤモンドは、重合が発生するに従ってポリマーマトリックス中に散在された状態となる。したがって、複合体は、ポリマーマトリックス全体に分散されたマイクロダイヤモンドを含む。マイクロダイヤモンドは、したがって、ポリマー全体に散在され、封入される。
【0024】
いくつかの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、収着剤が特定の溶媒中で沈むような密度をポリマー/ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体に与える。これによって、収着剤を溶媒中に沈んだ状態とすることができ、そのことは、ポリマーと有機化合物との接触表面積を、したがって相互作用を増加させる。これによって、収着剤の上又は収着剤の中への有機化合物の収着、及び溶媒からの有機化合物の抽出が改善される。
【0025】
したがって、いくつかの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、ポリマー(複合体)を特定の溶媒中で沈ませるのに適する密度を有する。いくつかの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、約2.0g・cm
−3〜約4.0g・cm
−3の範囲内の密度を有する。いくつかの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、約3.5g・cm
−3の密度を有する。例えば、約3.5g・cm
−3の密度の言及は、3.5g・cm
−3±0.5g・cm
−3の密度を意味する。
【0026】
マイクロダイヤモンドは、適切には、ポリマー(複合体)の必要とされる密度を実現するのに適する粒子サイズ(すなわち、平均粒子サイズ又は粒子サイズ範囲)を有し得る。いくつかの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、約1μm〜約40μmの範囲内の粒子サイズを有する。いくつかの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、約1μm〜約20μmの範囲内の粒子サイズを有する。いくつかの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、約1μm〜約10μmの範囲内の粒子サイズを有する。いくつかの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、約2μm〜約4μmの範囲内の粒子サイズを有する。マイクロダイヤモンドの粒子サイズの特定は、例えばマイクロダイヤモンドを塩基水溶液(例:5mM 水酸化カリウム)で洗浄する沈降プロセスによるサイズ分画を行い、続いて走査型電子顕微鏡(SEM)画像から、Image Jソフトウェア(National Institute of Health,USA)を例とする適切な分析技術を用いることによって粒子サイズ分布を特定することによって行われてよい。いくつかの実施形態では、粒子は、比較的狭い粒子サイズ分布を有する。95%の粒子が1〜10μm、好ましくは1〜8μm、1〜6μm、2〜6μm、又は2〜4μmの範囲内にある分布が好ましい。
【0027】
マイクロダイヤモンドは、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせ(例:複合体)の総重量に基づいて、又は収着剤の総重量に基づいて、5重量%〜80重量%の範囲内の量で存在していてよい。マイクロダイヤモンドの最大量は、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせ又は収着剤の総重量に基づいて、75重量%、70重量%、65重量%、又は60重量%以下であってよい。マイクロダイヤモンドの最小量は、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせ又は収着剤の総重量に基づいて、少なくとも10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、又は55重量%であってよい。いずれの最大値及び最小値を組み合わせて範囲を形成してもよい。存在するマイクロダイヤモンドの量は、適切には、用いられるマイクロダイヤモンドの密度及び/又は粒子サイズに基づいて選択されてよい。いくつかの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせの総重量に基づいて、30重量%〜60重量%、又は35重量%〜60重量%の範囲内の量で存在する。いくつかの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、収着剤の総重量に基づいて、15重量%〜60重量%、又は30重量%〜60重量%、又は35重量%〜60重量%の範囲内の量で存在する。
【0028】
ポリマーは、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせ(例:複合体)の総重量に基づいて、又は収着剤の総重量に基づいて、30重量%〜95重量%の範囲内の量で存在していてよい。最大量は、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせ又は収着剤の総重量に基づいて、90重量%、85重量%、80重量%、75重量%、70重量%、65重量%、又は60重量%以下であってよい。最小量は、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせ又は収着剤の総重量に基づいて少なくとも35重量%、40重量%、又は45重量%であってよい。いずれの最大値及び最小値を組み合わせて範囲を形成してもよい。いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせ又は収着剤の総重量に基づいて、30重量%〜60重量%、好ましくは35重量%〜60重量%の範囲内の量で存在する。上記のマイクロダイヤモンド及び/又はポリマーの量は、ポリマー及びマイクロダイヤモンドの組み合わせの製造に用いられる組成物の総重量に対して定められてもよいことには留意されたい。組成物は、硬化剤など、ポリマー及びマイクロダイヤモンド以外の成分を含んでいてもよい。
【0029】
収着剤がポリマー−マイクロダイヤモンド複合体のみから成る場合、複合体中のマイクロダイヤモンドの(及び同様にポリマーの)重量パーセントの計算は、全収着剤中のマイクロダイヤモンドの重量パーセントの計算と同じとなる。しかし、いくつかの実施形態では、収着剤は、追加の成分を含有する可能性があることには留意されたく、この場合、複合体に対する(例えば)マイクロダイヤモンドの量は、収着剤全体に対するマイクロダイヤモンドの量と比較して異なる(より高い)ことになる。
【0030】
いくつかの実施形態では、収着剤(又はポリマー、又は特にポリマー−マイクロダイヤモンド複合体)は、特定の溶媒中で沈む。例えば、溶媒が水である実施形態では、ポリマーは、約1.0g・cm
−3超の密度を有する。いくつかの実施形態では、ポリマー(又は、特に複合体)は、約0.7g・cm
−3超の、又は約1.0g・cm
−3超の密度を有する。マイクロダイヤモンドの量及び密度が、収着剤の密度に対して影響を与える一方で、これらは、収着剤が特定の溶媒中で沈むかどうかを決定する唯一の因子ではないことには留意されたい。
【0031】
収着剤のポリマー−マイクロダイヤモンド複合体は、上記で述べた材料に加えてさらなる材料を含んでよい。ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体は、必要とされるマイクロダイヤモンド及びポリマーに加えて、1又は複数の充填剤を含んでよい。マイクロダイヤモンドは、本出願の文脈において、「充填剤」として見られ得るものではあるが、それは、収着剤の効果のために不可欠な成分であることから、「充填剤」とは見なされない。「充填剤」の用語は、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、及びナノダイヤモンドなどのカーボン系材料(マイクロダイヤモンド以外)、二酸化ケイ素及び酸化亜鉛などの無機酸化物、並びに塩化ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムなどの塩を意味する。これらの充填剤は、ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体の追加成分を構成し得る。これらの実施形態では、そのような充填剤の量は、好ましくは、マイクロダイヤモンドの重量未満(複合体の総重量に対して)である。量は、複合体中のマイクロダイヤモンドの重量パーセントと比較して、好ましくは、60重量%、50重量%、40重量%、30重量%、20重量%、10重量%、又は5重量%未満である。したがって、例として、マイクロダイヤモンドの量が複合体の40重量%である場合、充填剤は、存在する場合、複合体の24重量%未満(すなわち、マイクロダイヤモンドの量40%の60%)を構成するべきである。充填剤が存在し、充填剤がナノダイヤモンドを含む又はナノダイヤモンドから成る実施形態では、ナノダイヤモンドは、好ましくは、収着剤の総重量に基づいて、10重量%、7重量%、5重量%、3重量%、2重量%、又は1重量%未満の量で存在する。他の実施形態では、収着剤は、好ましくは、ナノダイヤモンドを含まない、又はナノダイヤモンドを実質的に含まない。
【0032】
充填剤に加えて、ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体は、ポリマーの製造に関与する残留試薬及び/又は架橋プロセスの副生物を含有する場合があり、加えて、界面活性剤を含む場合もある。
【0033】
本出願の方法で用いられる収着剤(又は、特にポリマー/ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体)は、多孔性であっても、又は非多孔性であってもよい。しかし、いくつかの実施形態では、ポリマー(複合体)は、多孔性でなければならない。収着剤に関連する「多孔性」の用語は、収着剤の表面及び全体にわたって細孔が存在することを意味する。ポリマーが「多孔性」であるという定義を満たすかどうか(そして、収着剤の表面及び全体にわたって細孔が存在するかどうか)については、2つの主要な方法のうちの1つによって判断することができる。第一の技術は、ポロゲンを含めることなどによって細孔がポリマー中に特に形成されているかどうかを判断するために、製造方法を評価することを含む。第二の技術は、収着剤を通した断面のSEM画像を撮影し、本技術分野において利用可能である適切なソフトウェアを用いてSEM画像を調べて、細孔の存在及び位置/分布を識別することを含む。そのような技術に精通する者であれば、収着剤が表面及び収着剤全体にわたって細孔を有するという要件を満たすように特定の製品が細孔の充分な分布を有しているかどうかを推定することができるであろう。収着剤中での細孔のサイズ及び分布は、SEM画像から、Image Jソフトウェア(National Institute of Health,USA)を例とする適切な分析技術を用いることによって特定することができる。収着剤の多孔率は、以下の式から推計することができ:
多孔率=A
p/A
T
式中、A
p=収着剤のSEM画像の各断面における細孔の総面積であり、A
T=各断面の総面積であり、Zargar et al.(Zargar, R., J. Nourmohammadi, and G. Amoabediny, Preparation, characterization, and silanization of 3D microporous PDMS structure with properly sized pores for endothelial cell culture. Biotechnology and Applied Biochemistry, 2016, 63(2), p. 190-199)に記載の通りである。多孔率は、この測定を用いて、1%超であり、典型的には、70%未満である。いくつかの実施形態では、多孔率は、10%、20%、又は30%超である。いくつかの実施形態では、多孔率は、70%、65%、又は60%未満である。いずれの最大値及び最小値を組み合わせて範囲を形成してもよい。有利には、多孔性収着剤(すなわち、多孔性ポリマー、及び多孔性ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体)は、非多孔性の類似体と比較して増加された表面積を有し、それによって、収着剤の上及び/又は収着剤の中への有機化合物の収着、並びに有機化合物の抽出を改善することができる。
【0034】
収着剤の形態、及び収着剤を備えた収着デバイス
収着剤は、所望されるいかなる形状に構成されてもよく、又は溶液から溶質を収着(吸収及び/又は吸着)するための適切ないかなる装置中に組み込まれてもよい。収着剤は、例えば、中実ロッド若しくは中空ロッド、球体、ディスク、膜、フィルム、繊維、コーティング、又は粒子の形態であってよい。いくつかの実施形態では、収着剤(又は、特に収着デバイス)は、粒子の形態ではない。したがって、そのような実施形態では、収着剤の個々のピース又はユニットの各々は、少なくとも0.1gの重量である。
【0035】
いくつかの実施形態では、収着剤は、収着デバイスの形態であり、又は収着剤は、収着デバイスの構成成分を形成する。
したがって、本出願は、上記で述べた収着剤を備えた収着デバイスに拡張される。収着デバイスは、流体から有機化合物を抽出するために有用であり、流体からの化合物の抽出又は予備濃縮のために用いることができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、収着デバイスは、実質的に収着剤から成る。すなわち、収着剤は、少なくとも収着デバイスの90重量%、95重量%、又は98重量%を構成する。収着デバイスは、いくつかの実施形態では、収着剤のみから成っていてよい。別の方法で表現すると、収着デバイスは、ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体のみから成っていてよい。これらの実施形態では、「収着デバイス」の表現は、「収着剤」と交換可能に用いることができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、収着デバイスは、中実基材を備える。これらの実施形態では、収着剤は、基材上のコーティングとして存在してよい。例えば、複合体は、ロッド、チャネル、繊維、カラム、プレート、又はそれ以外の形態の基材上のコーティングの形態であってよい。基材は、ガラス(溶融シリカを含む)、金属(ステンレス鋼及び白金を含む)、磁化金属、又はそれ以外などの適切ないかなる材料から形成されていてもよい。
【0038】
収着デバイスは、いかなる形状又は幾何学的形態であってもよい。収着デバイスは、例えば、中実ロッド若しくは中空ロッド、カラム、球体、ディスク、膜、フィルム、フィルター、繊維、又は粒子の形態であってよい。好ましい実施形態では、収着デバイスは、収着デバイスの特定の用途に適する形態又は形状を有する。例えば、スターバー収着抽出に用いる場合、収着デバイスは、ロッドの形態であってよい。ロッドは、中実又は中空であってよい。ロッドの形態の収着デバイスは、スターバー収着抽出に有用であり得る。加えて、ロッドの形態(中実又は中空のいずれか)の収着デバイスは、熱脱着ユニットのためのプラットフォームとしてのガラスインサート又はチューブの内部で用いられ得る。いくつかの実施形態では、収着デバイスは、球体の形態である。実質的に球形状である収着デバイスが、「球体」の用語に包含される。球体の形態である収着デバイスは、水溶液からの分析物の受動的サンプリングに有用であり得る。収着デバイスがフィルム又は膜の形態である実施形態では、それは、薄膜抽出に有用であり得る。収着デバイスが繊維の形態である実施形態では、それは、固相マイクロ抽出に有用であり得る。収着デバイスが粒子の形態である実施形態では、粒子は、規則的な又は不規則な形状であってよい。粒子の形態の収着デバイスは、充填収着剤によるマイクロ抽出(MEPS)などの粒子層抽出(particle bed extraction)に有用であり得る。
【0039】
収着剤又は収着デバイス(又は、特にポリマー/ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体)は、好ましくは、窒素雰囲気下で約500℃の温度に10分間、及び/又は空気中で約425℃の温度に10分間、約10%未満の重量喪失で耐えることができる。例に示す実施形態では、ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体は、良好な熱安定性、熱伝導性、及び機械的堅牢性を有することが示される。この結果は、複合体が、分解を起こすことなく、熱脱着での使用に適していることを示している。驚くべきことに、これは、多孔性複合体に当てはまる。例に示されるように、多孔性PDMSベースの収着剤は、単一の抽出手順の後に崩壊することが示されたが、一方多孔性PDMS−マイクロダイヤモンド収着剤は、複数回の手順後も、その剛性及び完全性を維持することが示された。機械的堅牢性及び熱安定性の利点は、収着デバイスを、収着効率を維持しながら過度な分解を起こすことなく、持ち越されるいかなる影響もなく、複数の収着−脱着手順に複数回再利用可能であることである。
【0040】
収着剤の製造
収着剤(又は、特にポリマー−マイクロダイヤモンド複合体)は、1又は複数のポリマー前駆体、マイクロダイヤモンド、及び硬化剤を含む組成物から適切に製造することができる。複合体は、ポリマーベースのための本技術分野において公知の技術を用い、マイクロダイヤモンド粒子の組み込みを可能とする適切な修飾によって、技術的な問題なしに製造することができる。
【0041】
複合体は、ポリマー前駆体、マイクロダイヤモンド、及び硬化剤を組み合わせること(例:1又は複数のポリマー前駆体とマイクロダイヤモンドとを混合し、混合物に硬化剤を添加することによって)、混合物を所望される形態に成形すること(例:単に所望される形態に混合物を注型成形すること又は混合物を成形することによって)、混合物を硬化すること、及び混合物を乾燥して収着デバイスを提供すること、によって製造することができる。硬化及び乾燥は、一緒に行われても、又は別々に行われてもよい。複合体は、複合体の注型成形に用いられる型に応じて、様々な形状又は形態に製造されてよい。複合体は、好ましくは、少なくとも0.1gの乾燥重量を有するユニットに成形される。したがって、各ユニット中に単一又は少数のマイクロダイヤモンド粒子しか含有しない粒子状材料の製造は避けることが好ましい。
【0042】
ポリマー(複合体)が多孔性である実施形態では、複合体は、ポリマー前駆体、マイクロダイヤモンド、硬化剤、及びポロゲンを組み合わせること(例:1又は複数のポリマー前駆体とマイクロダイヤモンドとを混合し、混合物に硬化剤を添加し、混合物にポロゲンを添加することによって)、混合物を注型成形すること、混合物を硬化すること、硬化した混合物からポロゲンを除去すること、及び硬化した混合物を乾燥して多孔性収着デバイスを提供すること、によって製造することができる。ポリマー前駆体、マイクロダイヤモンド、硬化剤、及びポロゲンは、適切には、混合物全体にわたってポロゲンが均一に分布することが確保されるような方法で組み合わされ、それによって、最終ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体製品全体にわたる細孔の形成が引き起こされる。混合物中でのポロゲンの均質な分布により、複合体のコアから周辺部までにわたって細孔を含有する多孔性ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体の形成が可能となる。また、ポロゲンの使用により、細孔サイズ及び複合体の多孔率の制御も可能とすることができる。適切なポロゲンとしては、無機塩及び糖が挙げられ、これらは、例えば、粒子の形態であってよい。適切な無機塩としては、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、塩化リチウム、炭酸カルシウム、炭酸水素アンモニウム、及びこれらの混合物が挙げられる。無機塩は、収着デバイス中に細孔を形成するために適するいかなるサイズであってもよい。例えば、無機塩は、1〜300μm、50〜300μm、50〜200μm、100〜300μm、50〜200μm、10〜100μm、66〜100μm、1〜50μm、1〜20μm、1〜10μm、又は1〜5μmの範囲内の粒子サイズを有していてよい。無機塩は、硬化した混合物から浸出又は溶解によって除去されてよく、例えば、硬化した混合物を酸(例:塩酸などの強酸)に浸漬させ、続いて水中で煮沸することによる。糖粒子も、硬化した混合物を水中に浸漬することによって、硬化した混合物から除去することができる。
【0043】
多孔性ポリマーは、別の選択肢として、Wu, D., et al., Design and preparation of porous polymers, Chemical Reviews, 2012, 112(7): p. 3959-4015に記載の方法を用いることを例とする、本技術分野で公知の他の方法を用いて製造されてもよい。
【0044】
好ましい実施形態では、ポリマー前駆体は、シリコーンエラストマーベースなどのPDMS前駆体である。例に示される実施形態では、ポリマー複合体は、Sylgard 184(Dow Corning,USA)ベース及び硬化剤を用いて製造される。これらの実施形態では、マイクロダイヤモンドは、凝集する傾向のあるナノダイヤモンドとは異なり、PDMS前駆体との安定で均一な懸濁液を形成する。硬化剤は、該当するポリマーの効果に適することが本技術分野において公知であるいかなる硬化剤から選択されてもよい。
【0045】
ポリマー−マイクロダイヤモンド複合体の製造は、洗浄工程をさらに含んでもよい。洗浄工程は、アルコール(例:メタノール)などの適切な溶媒中に、2、3、又は4時間など、少なくとも1時間浸漬することを含んでよい。浸漬時間は、約24時間、約48時間、又はそれ以上の長さであってもよい。浸漬温度は、周囲温度以上であってよく、好ましくは、高められた温度である。温度は、溶媒の沸点近辺であってよい。適切な温度は、60℃〜80℃であり得る。洗浄工程は、メタノール、トルエン、又はこれらの組み合わせ中でのソックスレー抽出を含んでよい。時間は、約48時間又は72時間であってよい。
【0046】
複合体の製造は、さらに(又はソックスレー抽出による洗浄工程の代わりに)、複合体の熱処理を含んでよい。熱処理は、高められた温度に、少なくとも30分間、45分間、又は少なくとも約60分間など、少なくとも15分間にわたって曝露することを含んでよい。高められた温度は、少なくとも100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃、又は400℃であってよい。温度は、約280℃、又は300℃超であってよい。これは、窒素ガス雰囲気又はヘリウムガス雰囲気中など、不活性ガス雰囲気中で行われてよい。熱処理は、その後の収着/脱着プロセスでの複合体の使用時に複合体から考え得るシロキサンの不純物が放出されることを低減することが見出された。
【0047】
収着デバイスの適用
本明細書では、流体からの1又は複数の有機化合物の抽出のための方法並びに上記で述べた収着剤及び収着デバイスの使用が記載される。また、分析のための1又は複数の有機化合物を含有するサンプルを調製するための方法も本明細書で記載される。収着デバイスは、スターバー収着抽出、固相マイクロ抽出、粒子層抽出、及び薄膜抽出などの様々なサンプル調製技術に用いることができる。収着デバイスは、特に、固相マイクロ抽出サンプル調製に有用である。収着剤は、収着剤がカラムの固定相を形成するクロマトグラフィカラムなど、クロマトグラフィシステムに用いることができる。
【0048】
本明細書においてキャリア流体とも称される1又は複数の有機化合物を含有する流体は、有機化合物の少なくとも1つの種の分子を含有する流体を意味する。「流体」の用語は、溶媒などの液体、及び気体を包含する。キャリア流体が有機化合物の2つの種を含有する実施形態では、収着デバイスは、種のうちの一方のみを、又は両方の種を収着することが可能であり得る。キャリア流体が有機化合物の3つ以上の種を含有する実施形態では、収着デバイスは、種のうちの一つのみを、種のうちの一部を、又はすべての種を収着することが可能であり得る。有機化合物の種は、極性化合物及び/又は非極性化合物を含んでよい。収着デバイスのポリマーは、極性化合物、非極性化合物、又は両方を収着するように適切に選択することができる。
【0049】
本出願の方法は、抽出工程を含み、これは、1又は複数の有機化合物を含有するキャリア流体(溶媒又はガスであってよい)と上記で述べた収着剤を備えた収着デバイスとを、前記1又は複数の有機化合物(すなわち、キャリア流体中の有機化合物の1つの種、いくつかの種、又はすべての種)が収着デバイスの上又は収着デバイスの中に収着されるように接触させることを含む。この抽出工程は、キャリア流体がキャリア溶媒である実施形態、及びキャリア流体がキャリアガスである実施形態に対して同等に適用される。したがって、以下で述べるさらなる工程の1又は複数を含む本出願の方法の実施形態では、これらのさらなる工程は、抽出工程が収着剤とキャリア流体又はキャリアガスとを接触させることを含むかどうかに関わらずに適用される。さらに、収着剤が、溶媒から1又は複数の有機化合物を収着することができるとして本明細書で記載される場合、収着剤が、気体から1又は複数の有機化合物を収着することができることは理解される。
【0050】
好ましい実施形態では、キャリア流体は、キャリア溶媒である。キャリア溶媒は、1又は複数の有機化合物を含有するのに適しているいかなる溶媒であってもよい。キャリア溶媒は、極性溶媒又は非極性溶媒であってよい。有利には、PDMSなどのポリマーは、極性溶媒中で最小限の膨潤を呈する。いくつかの実施形態では、キャリア溶媒は、水である。キャリア溶媒としては、例えば、生物学的流体、河川水又は海水サンプル、及び食品又は飲料品サンプルが挙げられ得る。
【0051】
したがって、いくつかの実施形態では、抽出工程は、1又は複数の有機化合物を含有するキャリア溶媒と上記で述べた収着剤を備えた収着デバイスとを接触させることを含む。いくつかの実施形態では、接触工程は、キャリア溶媒と収着デバイスとを混合することを含む。いくつかの実施形態では、接触工程は、キャリア溶媒を収着デバイスを通して通過させる又は流すことを含み、例えば、収着デバイスがクロマトグラフィシステムの固定相である実施形態の場合である。接触の他の適切ないずれかの形態が、代わりに用いられてもよい。
【0052】
他の実施形態では、キャリア流体は、キャリアガスである。したがって、いくつかの実施形態では、抽出工程は、1又は複数の有機化合物を含有するキャリアガスと上記で述べた収着剤を備えた収着デバイスとを接触させることを含む。キャリアガスは、識別されるべき有機化合物が、元は固体又は液体サンプル中に存在して、その固体又は液体サンプルと接触しているガスに移るという移行環境であってよく、その後、そのガスから収着剤の中又は収着剤の上へ収着される。1つの具体的な例では、収着のモードは、「ヘッドスペース収着」として記載され得る。ヘッドスペース収着は、固体又は液体サンプルを、サンプルの揮発性有機化合物がヘッドスペース(すなわち、サンプルの上にある気相)に入って1又は複数の有機化合物を含有するキャリアガスを提供する密閉又は気密容器中に提供すること、及びキャリアガスと上記で述べた収着剤とを接触させること、を含む。有機化合物が得られる(及び化合物がキャリアガス中に移る)固体又は液体サンプルとしては、例えば、河川若しくは海洋の水又は堆積物サンプル、食品及び飲料品サンプル、並びに動物源又は植物源由来のサンプル(例:葉などの植物物質)が挙げられ得る。
【0053】
本出願の方法は、脱着工程も含んでよく、これは、有機化合物(すなわち、収着デバイスの上又は収着デバイスの中に収着された有機化合物の分子)を収着デバイスから脱着して、分析のための有機化合物を含有するサンプルを提供することを含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、脱着工程は、有機化合物が気化し、それによって収着デバイスから脱着されるように、収着デバイスを加熱することを含む(熱脱着)。有利には、収着デバイスは、automated Gerstel Thermal Desorption Unit又は他の市販の熱脱着ユニット(TDUは、Markes International、Agilent Technologiesなどの他の企業からも市販されている)などの市販の熱脱着ユニットに用いるのに適するように適合させることができる。例えば、ロッドの形態の収着デバイスは、ガラスインサート又はチューブの内部で用いることができ、それによって、分析物の気化物のヘッドスペースへの注入、及び続いてのガスクロマトグラフィ−質量分析のためのプラットフォームが提供される。脱着は、したがって、収着された有機化合物をガス中へ放出することによって行われ得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、脱着工程は、収着デバイスを脱着溶媒と、例えば混合によって接触させることを含み、それによって、有機化合物は、収着デバイスから脱着溶媒中へ脱着される。そのような技術は、液体脱着又は溶媒逆抽出と称され得る。脱着溶媒は、収着デバイスから有機化合物を脱着するために適するいかなる溶媒であってもよい。脱着溶媒は、極性又は非極性であってよい。有利には、PDMSなどのポリマーは、非極性溶媒中で最大限の膨潤を呈する。非極性又は実質的に非極性である溶媒は、PDMS中での溶解性が高く、それによって、これらの溶媒は、PDMSマトリックス中に浸透することができる。これらの特性は、収着デバイスからの化合物のより効果的な脱着を可能とする。脱着溶媒は、したがって、非極性又は実質的に非極性である溶媒であってよい。いくつかの実施形態では、脱着溶媒は、メタノール、エタノール、ニトロメタン、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ペンタン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン、クロロホルム及びトリクロロエチレンなどのハロゲン化溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、及びテトラヒドロフランなどのエーテル、ジイソプロピルアミン、並びにトリエチルアミンから選択される。適切な脱着溶媒の選択は、上記に挙げた脱着溶媒のいずれか1又は複数の群であってよい。いくつかの実施形態では、脱着溶媒は、メタノールである。
【0056】
本出願の方法は、さらに、分析工程を含んでよく、これは、有機化合物を含有するサンプルを分析することを含む。いくつかの実施形態では、分析工程は、サンプル中に2つ以上の種の有機化合物が存在する場合、有機化合物を分離することを含み、例えば、液体クロマトグラフィ又はガスクロマトグラフィなどのクロマトグラフィを用いることによる。いくつかの実施形態では、分析工程は、有機化合物の存在を検出することを含み、例えば、質量分析又は水素炎イオン化検出器(FID)を用いることによる。いくつかの実施形態では、分析工程は、有機化合物を分離すること及び有機化合物の存在を検出することの両方を含み、例えば、ガスクロマトグラフィ−質量分析(GC−MS)、液体クロマトグラフィ−質量分析(LC−MS)、又は水素炎イオン化検出を伴うガスクロマトグラフィ分析(GC−FID)を用いることによる。
【0057】
収着剤又は収着デバイスは、複数回にわたって再利用することができる。これを可能とするためには、収着剤又は収着デバイスは、分析される1つの混合物から次の混合物への有機化合物の汚染(すなわち、連続する抽出間の汚染)を回避するために、洗浄可能であることが必要である。収着剤又は収着デバイスが、完全な洗浄を行う単純で比較的迅速な手順によって洗浄可能であることは、主要な利点である。洗浄は、残留有機化合物レベル(汚染物)を分析装置の検出可能レベル未満に低下させるのに充分であることが必要である。本明細書で述べる実施形態の収着剤/収着デバイスは、この特徴を有する。
【0058】
したがって、サンプル調製のための方法は、収着デバイスを複数回にわたって再利用して、複数サンプルの調製を完了することを含んでよい。
方法は、収着デバイスを洗浄すること、及び洗浄された収着デバイスを、分析のための続いてのサンプルの調製方法に再利用することを含んでよい。具体的には、方法は、工程(a)及び(b)を実施すること、デバイスを洗浄すること、並びにキャリア流体及び分析を必要とする有機化合物の別の組み合わせで工程(a)及び(b)を繰り返すこと、を含んでよい。キャリア流体とキャリア流体から分離されるべき有機化合物との組み合わせは、簡潔さのために「検体」の用語で称され得る。したがって、方法は、第一の検体を用いて工程(a)及び(b)を実施すること、洗浄すること、並びに第二の検体を用いて工程(a)及び(b)を実施すること、を含んでよい。
【0059】
洗浄は、熱処理を含んでよい。複合体は、熱処理のみで効果的に洗浄することができることが見出された。熱処理は、収着剤の製造の文脈において上記で述べた通りであってよい(すなわち、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも約280℃、又は300℃超の温度で、少なくとも15分間にわたる熱処理)。洗浄は、いかなるソックスレー抽出工程も行うことなく、効果的に実現することができる。収着剤/収着デバイスを熱処理のみによって洗浄可能であることは、環境にやさしくないソックスレー溶媒を必要とするいくつかの先行技術の製品と比較した場合の利点を提供する。デバイスが熱処理の複数の段階(すなわち、少なくとも1つの熱処理)に、分解することなく耐えることができることは、デバイスの費用対効果にも寄与する。
【0060】
本明細書で述べる収着剤、収着デバイス、及び方法は、サンプルの分析を含む複数の用途分野で用いることができ、環境科学、バイオテクノロジー及び医薬、薬物スクリーニング及び科学捜査、食品及び飲料品、消費者製品、化学物質及びポリマー、物質排出、香味料及び香料が挙げられる。
【0061】
実施例
本発明を、以降で、以下の限定されない例を参照して記載する。
マイクロダイヤモンドあり又はなしでのPDMSロッドの製造
マイクロダイヤモンドあり(サンプル1、3〜8、及び11)及びマイクロダイヤモンドなし(比較サンプル2及び9〜10)の多孔性及び非多孔性PDMSロッドを、表1に記載の組成に従って製造した。
【0063】
表1のロッドを製造するために、以下の材料を用いた。Sylgard 184シリコーンエラストマーベース及び硬化剤は、Dow Corning Corporation(Midland,MI,USA)から入手した。マイクロダイヤモンド(MD、粒子サイズ2〜4μm、密度=3.5g・cm
−3)は、Real Tech Superabrasive & Tool Co. Ltd.(Changsha,Hunan,China)から入手した。塩化ナトリウム(NaCl)、L−(+)−酒石酸、酢酸イソアミル、ヘキサン酸エチル、オクタン酸エチル、デカン酸エチル、酢酸フェネチル、及び2−オクタノールは、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO,USA)から入手した。炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)、水酸化ナトリウム(NaOH)、アセトン、アセトニトリル(ACN)、ジクロロメタン(DCM)、n−ペンタン、及びトルエンは、Chem−Supply Pty Ltd(Gillman,SA,Australia)から入手した。塩酸(HCl)は、Merck(Darmstadt,Hessen,Germany)から入手した。HPLCグレードメタノールは、Fisher Chemical(Fair Lawn,NJ,USA)から入手した。無水エタノールは、LabServ,Thermo Fisher Scientific Australia Pty Ltd(Scoresby,VIC,Australia)から入手した。Milli−Qシステム(Millipore,Melbourne,Australia)を用いて脱イオン水(DIW)を得た。ポリ(塩化ビニル)(PVC)管(品番:PV00−3062C、内径3mm)を、Value Plastics(USA)から購入した。
【0064】
表1の多孔性PDMS−MD複合体ロッド(サンプル3〜7及び11)を、以下の手順に従って製造した。プラスチック容器中、MDをシリコーンエラストマーベースと混合し、続いて混合物を、超音波浴中で30分間超音波処理した(部分A)。次に、この混合物に硬化剤を添加し(ベース対硬化剤比 約10:1)、真空中で30分間脱気した。NaCl及びNaHCO
3の結晶を、乳鉢と乳棒とを用いて手作業で粉砕し、100〜300μm、50〜200μm、又は66〜100μmの範囲の篩を通して篩に掛け、又は機械的粉砕機を用いて粉砕し、光学顕微鏡(デジタル顕微鏡カメラLeica DMC 400で調整したLeica DM LM,Leica Microsystems,Wetzlar,Germany)を用いて測定した4〜7μmの粒子サイズ範囲とした。次に、NaCl(65重量%)及びNaHCO
3(35重量%)の粒子の混合物を、プラスチック容器中でホモジナイズした(部分B)。部分Aと部分Bとを手作業で充分に混合した後、この混合物を、3cmのPVC管中で注型成形し、オーブン中110℃で30/60分間硬化した。硬化後、PVC型に高圧空気を適用して、管から複合体ロッドを取り出した。埋め込まれた無機塩粒子を、ガラスビーカー中の1MのHCl中で24時間エッチングし、続いて脱イオン水中で5時間煮沸することによって、ポリマー−ダイヤモンドベースから除去した。最後に、ロッドをオーブン中100℃で1時間乾燥させた結果、市販のPDMS抽出スターバーに類似の寸法である長さ10mm、直径3.0mmのロッド形状が得られた。MDなしのサンプルの場合(比較サンプル2、9、及び10)、MDを添加しなかった以外は類似の手順を用いた。非多孔性サンプルの場合は(サンプル1及び8、並びに比較サンプル2及び10)、無機塩を添加しなかった。
【0065】
各サンプルの密度は、ロッドの算出体積(V=πR
2L)と乾燥ロッドの実験での測定質量との比に基づいて特定した。各サンプルの平均密度は、3つのサンプルの密度に基づいて算出した。
【0066】
サンプル1及び比較サンプル2は、非多孔性ロッドである。これらのサンプルは、同じ量のPDMS前駆体及び硬化剤を用いて製造したが、サンプル1はMDを含有しており、一方比較サンプル2はMDを含有していない。比較サンプル2は、水溶液中で浮遊することが見出され(
図1a)、平均密度は1.17g・cm
−3と算出された。比較サンプル2は、水よりも高い算出密度を有するが、PDMSマトリックスの比較的高い疎水性により、水溶液中でのこのサンプルの浮遊が引き起こされた可能性があることには留意されたい。サンプル1は、水溶液中で沈むことが見出され(
図1b)、平均密度は1.58g・cm
−3と算出された。したがって、約35.7%(重量/重量)のMDをサンプル1のPDMSマトリックス中に組み込んだ結果、約35%の密度の増加が得られた。これらの結果は、MDをPDMSへ添加することで、水溶液中で複合体を沈ませるのに充分なレベルまで複合体の密度を増加させることができることを示している。
【0067】
PDMS−MD複合体中に細孔を形成するためにNaCl及びNaHCO
3を用いて、様々な多孔サンプルを製造した。サンプル3は、100〜300μmの範囲内の粒子サイズを有するNaCl及び50〜200μmの範囲内の粒子サイズを有するNaHCO
3を用いて製造した。このサンプルは、0.62g・cm
−3の密度を有すると算出された。サンプル4〜7は、66〜100μmの粒子サイズがより小さいNaCl及びNaHCO
3を用いて製造した。サンプル4は、サンプル3よりも僅かに少ないMDを含有するが、サンプル3の密度よりも大きい0.85g・cm
−3の密度を有すると算出された。この密度の違いは、サンプル4の細孔の形成に用いた無機塩の粒子サイズ範囲の方が小さいことに基づいて、サンプル4の細孔がサンプル3の細孔よりも小さい細孔サイズを有することに起因する可能性がある。サンプル5〜7では、MDの増加及び無機塩の量の減少の効果を調べた。サンプル7が最も緻密であることが見出され、平均密度は1.60g・cm
−3と算出された。サンプル8は、請求項7の非多孔性類似体であり、1.98g・cm
−3の平均密度を有すると算出された。サンプル11は、4〜7μmの粒子サイズを有するNaCl及びNAHCO
3を用いて製造した。このサンプルは、1.51g・cm
−3の平均密度を有すると算出された。
【0068】
サンプル7及びサンプル8は、それぞれ、製造した多孔性及び非多孔性PDMS−MD複合体の中で、最も緻密であることが見出された。これらの両サンプルは、水溶液中で沈むことが見出された。比較サンプル9及び10(
図2a)は、それぞれ、MDを含有しないサンプル7(
図2b)及び8(
図2c)の類似体である。これらの比較サンプルは、より低い平均密度(それぞれ、0.59g・cm
−3及び1.18g・cm
−3)を有すると算出され、水溶液中で浮遊することが見出された。比較サンプル10は、水よりも高い算出密度を有するが、PDMSマトリックスの比較的高い疎水性により、水溶液中でのこのサンプルの浮遊が引き起こされた可能性があることには留意されたい。したがって、約60%(重量/重量)のMDをサンプル7及び8のPDMSマトリックス中に組み込んだ結果、それぞれ、約170%及び約70%の複合体密度の増加が得られた。複合体中のMDの量(重量%として)の算出は、ポリマー前駆体、硬化剤、及びマイクロダイヤモンドの総量に対してであり、ポロゲン(これは後に除去される)の量は算出に含まれていないことには留意されたい。サンプル11(
図2d)は、やはり高い密度であることが見出された多孔性PDMS−MD複合体である。サンプル11は、サンプル中に細孔を形成するために用いた無機塩の粒子サイズ範囲がより小さいことに基づいて、多孔性サンプルの中で最も小さい細孔サイズを有する。サンプル11は、水溶液中で沈むことが見出された。
【0069】
上記の結果は、多量のMDをPDMSマトリックス中に組み込むことが可能であることを示している。これは、比較的少量(複合体の3重量%未満)しか組み込むことができないナノダイヤモンドとは異なっている。この結果はまた、MDをPDMSマトリックス中へ組み込むことで、水溶液中で複合体を沈ませるのに充分なレベルまで複合体の密度を増加させることができることも示している。
【0070】
PDMS−MD複合体の形態
サンプル7、8、及び11の表面形態を、Hitachi SU−70(日立製作所、千代田区、東京、日本)電界放出走査型電子顕微鏡(SEM)及び1.5KeVの電子ビームを用いて調べた。
図2は、サンプル7(
図2e)及びこの多孔性PDMS−MD複合体の一部の拡大(
図2f)SEM画像、サンプル8のSEM画像(
図2g)、並びにサンプル11のSEM画像(
図2h)を示す。比較のために、非多孔性PDMSのみのサンプルのSEM画像も示す(
図2i)。これらの図は、PDMS−MD複合体が、均質な構造を有すること、並びにMDが、多孔性及び非多孔性複合体の両方で良好に分散されていることを示している。これは、複合体中にナノダイヤモンドの凝集体を含有する傾向にあるPDMS−ナノダイヤモンド複合体とは対照的である。これは、MDの中程度の疎水性に起因する可能性があり、そのことによって、MDは、重合の過程で凝集することなく疎水性PDMSポリマー全体に分散された状態を維持することができ得る。
図2fはまた、サンプル7が、このサンプルのためにテンプレートとして用いた塩粒子のサイズ範囲(66〜100μm)を反映する細孔を有していることも示す。サンプル7の平均細孔サイズは、約39μmであることが見出された(
図3a)。サンプル11の平均細孔サイズは、約5μmであることが見出され(
図3b)、これは、このサンプルのためにテンプレートとして用いた塩粒子のサイズ範囲(4〜7μm)を反映している。このことは、複合体の細孔サイズを、細孔の形成に用いられる無機塩粒子のサイズに応じて制御可能であることを示唆している。サンプル7は、40.5%の多孔率を有すると算出され、サンプル11は、56.5%の多孔率を有すると算出された。
【0071】
形態の異なるPDMS−MD複合体の製造
PDMS−MD複合体は、様々な形態で製造することができる。
図4は、異なる形態で製造されたPDMS−MD複合体を示しており、非多孔性ロッド(
図4a)、多孔性ロッド(
図4b)、非多孔性ディスク(
図4c)、多孔性ディスク(
図4d)、非多孔性フィルム(
図4e)、多孔性フィルム(
図4f)、非多孔性中空ロッド(
図4g)、多孔性中空ロッド(
図4h)、繊維(
図4i)、及び熱脱着ユニットのためのプラットフォームとして用いることができるガラスインサート内部に設置された中空ロッド(
図4j)を含む。中実ロッドは、PVC管(長さ3cm、内径3mm)内で混合物を注型成形することによって製造した。中空ロッドは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)管(外径3/16インチ)をPVC管中に挿入し、混合物の硬化後にPEEK管を取り除くことによって製造した。中空ロッドの製造時に、混合物の一部がPEEK管に入り、これは、硬化後に細い繊維(PEEK管の内径に類似)を形成した。ディスクは、中実ロッドから、このロッド複合体を鋭利なブレードでスライスすることによって製造した。薄フィルムは、複合体混合物のスピンコーティングによって製造した。
図4a、4c、4g、及び4iに示すPDMS−MD複合体は、表1のサンプル7に類似の組成を有している。
図4b、4d、4h、及び4jに示すPDMS−MD複合体は、表1のサンプル8に類似の組成を有している。
図4eに示すPDMS−複合体は、6gのPDMS、0.6gの硬化剤、及び5.39gのMDを用いて製造した。
図4fに示すPDMS−複合体は、これらの原材料、さらには細孔を形成するために5.36gのNaCl及び2.89gのNaHCO
3を用いて製造した。
【0072】
図5は、ある特定の用途に有用である異なる形態のPDMS−MD複合体の模式図を示す。
図5aは、ガスクロマトグラフィに用いるためのガスクロマトグラフィキャピラリーカラムを示す。カラム1は、ポリイミド樹脂カラム13の溶融シリカ層12の上に、PDMS−MD複合体の内部コーティング11を固定相として有する。カラム1は、約10〜100mの長さ、0.1〜0.53mmの内径、及び約0.5〜5μmの固定相フィルム厚さを有し得る。
図5bは、SPMEに用いるための固相マイクロ抽出(SPME)繊維ホルダーを示す。繊維ホルダー2は、ニードル23のロッド又は溶融繊維22の上にPDMS−MD複合体のコーティング21を有する。PDMS−MD複合体コーティング21は、約1〜2cmであってよい。ロッド又は溶融繊維22は、溶融シリカ、ステンレス鋼、及び/又は白金から作られていてよい。
図5cは、MEPSに用いるための充填収着剤によるマイクロ抽出(MEPS)用バレルインサート3を示す。MEPSバレルインサート3は、2つのフリット32の間にPDMS−MD複合体の充填収着剤層31を含有する。充填層31は、約1〜2mgのPDMS−MD複合体を含有し得る。PDMS−MD複合体は、多孔性であってよい。使用時、ローディングされたサンプル溶液は、プランジャによってニードル33を通して充填収着剤層31中へと押し込まれ、ニードルのバレルへと押し出される。MEPSバレルインサート3は、エンドプラグ34及びシールリング35を含んでよい。
【0073】
PDMS−MD複合体の構造安定性に対するMD含有量の効果
MDを含めることによるPDMS−MD複合体の構造安定性に対する効果を評価するために、ジクロロメタン(DCM)中でのサンプル8及び対応する比較サンプル10の膨潤比を、Lee et al. (Lee, J.N., C. Park, and G.M. Whitesides, Solvent Compatibility of Poly(dimethylsiloxane)-Based Microfluidic Devices. Analytical Chemistry, 2003. 75(23): p. 6544-6554)に記載の手順に従って特定した。簡潔に述べると、ロッドを、密封容器中、DCMに24時間浸漬した。複合体の膨潤比(S)は、以下の式に基づいて算出し:
S=L/L
0、
式中、Lは、DCM中でのロッドの長さであり、L
0は、乾燥ロッドの長さである。
【0074】
比較サンプル10に対して得られた膨潤比は、1.27であり、これは、Lee et al.及びOchiai et al.(Ochiai, N., et al., Solvent-assisted stir bar sorptive extraction by using swollen polydimethylsiloxane for enhanced recovery of polar solutes in aqueous samples: Application to aroma compounds in beer and pesticides in wine. Journal of Chromatography A, 2016. 1455: p. 45-56)に過去に報告された値に類似していた。サンプル8に対して得られた膨潤比は、1.13であり、これは、比較サンプル10の値よりも約12%低い。これらの結果は、MDを組み込むことによって、有機溶媒中でのPDMS−MD複合体の剛性を高めることができることを示している。
【0075】
サンプル7及び11、並びに対応する比較サンプル9の剛性及び完全性も、ロッドをワインサンプルからの有機化合物の抽出に用いた後に評価した。サンプル7(
図6a)及びサンプル11は、複数回の抽出後に、それらの剛性及び完全性を維持したことが見出された。しかし、サンプル9は、単一回の抽出後に、軽く触れることで崩壊した(
図6b)。これらの結果は、MDを組み込むことによって、PDMS−MD複合体の構造安定性を向上することができることを示している。これらの結果はまた、PDMS−MD複合体が再利用に適していることも示している。
【0076】
PDMS−MD複合体の熱安定性に対するMD含有量の効果
MDを組み込むことによるPDMS−MD複合体の熱安定性に対する効果を評価するために、サンプル1及び対応する比較サンプル2の熱重量分析(TGA)を、窒素(N
2)中及び空気中の両方で、以下のようにして行った。
(i)N
2中のサンプル1;
(ii)N
2中の比較サンプル2;
(iii)空気中のサンプル1;及び
(iv)空気中の比較サンプル2
TGAは、Labsys Evo装置(Setaram,Caluire,France)を用い、25℃から550℃まで10℃/分の昇温速度を維持して行った。TGAは、Chen et al.(Chen et al. Thermal stability, mechanical and optical properties of novel addition cured PDMS composites with nano-silica sol and MQ silicone resin. Composites Science and Technology, 2015, 117:307-314)の手順に従い、これを僅かに改変して行った。簡潔に述べると、およそ10mgのPDMS−MD複合体サンプルを、N
2雰囲気中及び空気雰囲気中の両方で、アルミニウム製坩堝中、25℃から550℃まで10℃/分の昇温速度を維持して加熱した。
【0077】
結果を
図7に示し、図中、熱安定性プロットは
図7aに示し、分解プロットは、
図7bに示す。以下の表2にデータも示す。
【0079】
サンプル1及び比較サンプル2は、空気中よりもN
2中でより高い熱安定性を有することを示した。サンプル1及び比較サンプル2はいずれも、N
2中よりも空気中でより高い分解速度を有していた。加えて、表2に示されるように、サンプル1及び比較サンプル2はいずれも、N
2中では、300℃未満で重量喪失をまったく示さなかったが、空気中では、この温度で重量喪失を示した。
【0080】
サンプル1は、N
2中及び空気中の両方で、比較サンプル2よりも高い熱安定性を有することを示した。N
2中及び空気中でのサンプル1の重量喪失パーセントは、それぞれ、比較サンプル2の場合の重量喪失パーセントよりも低かった。加えて、表2に示されるように、N
2中及び空気中でのサンプル1の場合の重量喪失に対する温度は、それぞれ、比較サンプル2の場合の温度よりも高かった。サンプル1の場合と比較サンプル2の場合との間の空気中での重量喪失に対する温度の差異は、5%、10%、及び15%の重量喪失において、それぞれ、10℃、17℃、及び26℃であった。サンプル1と比較サンプル2との間の差異は、N
2中においてより顕著であり、5%、10%の重量喪失において、温度の差異はそれぞれ62℃及び66℃であった。この差異は、15%の重量喪失に対する温度では、26℃にまで減少した。これらの結果は、MDを組み込むことによって、PDMS−MD複合体の熱安定性を向上することができることを示している。これらの結果はまた、PDMS−MD複合体が熱脱着での使用に適していることも示している。
【0081】
PDMS−MD複合体の熱伝導性に対するMD含有量の効果
MDを組み込むことによるPDMS−MD複合体の熱伝導性に対する効果を評価するために、サンプル7及び比較サンプル2の熱伝導性を、C−Therm TCi Thermal Conductivity Analyser(C−Therm Technologies Ltd.,Canada)を用いて特定した。
【0082】
比較サンプル2の熱伝導性は、0.385W・m
−1・K
−1として特定された。サンプル7の熱伝導性は、0.804W・m
−1・Kとして特定され、これは、比較サンプル2よりも約108%高い。これらの結果は、MDを組み込むことによって、PDMS−MD複合体の熱伝導性を向上することができることを示している。MDをナノダイヤモンドよりも非常に高い充填率でPDMSマトリックス中に組み込むことができることにより(例:ナノダイヤモンドの場合の3重量%未満と比較して、サンプル7では60重量%)、並びに比較的高い表面極性及び非極性マトリックス中での凝集の増加と合わせて、熱伝導性の著しい改善を実現することができる。
【0083】
PDMS−MD複合体の洗浄及び質量モニタリング
PDMS−MD複合体の精製及び洗浄方法を評価した。この方法は、PDMS−MD複合体をメタノール中に浸漬すること、及び続いて水素炎イオン化検出器(FID)及びBP5クロマトグラフィカラム(15m×250μm(外径)×0.25μm(内径))を備えたAgilent 7890A GCシステムを用いて浸出物を分析することを含む。分析は、キャリアガスとしてのH
2流(1.6ml/分)中で行った。カラムオーブンの温度プログラムは、以下の通りとした:初期温度50℃(1分間保持)、昇温20℃/分で最終温度300℃とする(3分間保持)。FID検出器のパラメータは、温度(300℃)、H
2流(30ml/分)、及び空気流(340ml/分)として設定した。注入モードは、スプリットレスとし、フロント注入口の温度を250℃に設定した。
【0084】
PDMS−MD複合体を熱処理することの効果を評価するために、熱処理サンプル及び熱未処理サンプルを評価した。第一のセットの実験では、PDMS−MDロッド(サンプル7)を、1mm厚のディスクにカットし、これを、N
2流と共に炉中で280℃で8時間加熱することによって熱処理した。さらなる分析のために、1時間ごとに1つのディスクを炉から取り出した。次に、熱処理したディスクの各々をメタノール中に1時間浸漬し、続いてGC−FIDによって浸出物を分析した。第二のセットの実験では、8個の熱未処理PDMS−MDディスクを、別々のガラスバイアル中でメタノール中に浸漬した。1時間ごとに、各バイアルからの浸出物溶液をGC−FIDによって分析した。
【0085】
図8は、熱処理なしでメタノール中に1時間浸漬後のサンプル(クロマトグラムa)、並びに1時間の熱処理及びメタノール中に1時間浸漬後のサンプル(クロマトグラムb)から浸出したシロキサン(
*)のGC−FIDクロマトグラムを示す。
図8は、熱処理を受けていないクロマトグラムaにおいて、低分子量シロキサンが検出されたことを示す。浸出したシロキサンは、熱処理を受けなかった他の複合体のクロマトグラムでも、メタノール中に8時間の浸漬の後でも検出された。他方、
図8のクロマトグラムbから明らかなように、1時間の熱処理を受け、続いてメタノール中に1時間浸漬したサンプルでは、シロキサンは観察されなかった。同様に、1時間のメタノール中での浸漬の前に2、3、4、5、6、7、又は8時間の熱処理を受けた他の複合体のクロマトグラムでも、シロキサンは観察されなかった。これらの結果は、PDMS−MD複合体の熱処理によって、複合体からのシロキサン不純物の放出を低減することができることを示している。これらの結果はまた、PDMS−MD複合体の熱処理とメタノール浸漬との組み合わせが、複合体の洗浄のための適切な方法を提供し得ることも示唆している。
【0086】
第三のセットの実験では、熱未処理PDMSディスク(サンプル7)からの不純物浸出の動態を、10個のディスクを10mlのメタノール中に浸漬することによって調べた。1時間ごとに、50μlのアリコートを取り出し、GC−FIDによって分析した。
図9は、異なる時間にわたってメタノール中に浸漬した後に浸出したシロキサン不純物の動態を示す(□=不純物A、○=不純物B、△=不純物C)。各不純物の浸出の最大速度は、メタノール中に浸漬した約1時間後に観察された。浸出速度は、2時間後及び3時間後には低下したように見え、8時間後までは上下に変動していた。各不純物の最大量は、約48時間後に観察された。これらの結果は、PDMS−MD複合体をメタノール中に48時間浸漬することが、複合体の精製のために充分であり得ることを示唆している。
【0087】
第四のセットの実験では、PDMS−MDロッド(サンプル7及びサンプル8)を、メタノール中で48時間のソックスレー抽出、又はN
2気流中280℃で1時間の熱処理とメタノール中で48時間のソックスレー抽出との組み合わせのいずれかによって洗浄した。熱処理及び続いてのソックスレー抽出の組み合わせの方が、ソックスレー抽出単独よりも精製された材料を与えることが見出された。非多孔性であるサンプル8から除去された不純物の割合は、質量喪失に基づいて、組み合わせの手法を用いた場合は2.88%であり、ソックスレー抽出単独の方法を用いた場合は2.75%であった。多孔性であるサンプル7の場合、組み合わせの手法を用いた場合の質量喪失は、11.2%であり、これは、非多孔性のサンプル8よりも3倍超多い。多孔性複合体の場合に質量喪失が高いことは、表面積がより大きく、したがって非多孔性複合体と比較して、PDMSベースからの浸出物の放出のためのより良好な質量移動を提供し得る複合体の多孔性表面に関連する可能性がある。このことは、Toub(Toub, M., Factors affecting silicone volatile levels in fabricated silicone elastomers. Rubber world, 2002. 226(3): p. 36-39)による過去の報告によって支持されるものであり、報告によると、シリコーンエラストマーからの低分子量シリコーンの蒸発は、材料塊から表面へのその移動によって制限され、材料の幾何学的形状(例:厚さ)及び多孔度(表面積)と相関している。これらの結果は、N
2気流中280℃で1時間の熱処理とメタノール中で48時間のソックスレー抽出との組み合わせが、PDMS−MD複合体の洗浄のために適する方法であり得ることを示している。
【0088】
第五のセットの実験では、PDMS−MDロッド(サンプル7、8、10、及び11)を、トルエン中72時間のソックスレー抽出によって洗浄した。次に、ロッドを10mlのメタノール中に浸漬し、毎回新しいメタノールを用いて10分間ずつ3回の超音波処理を施し、続いて150℃のオーブンで6時間乾燥した。初期オーブン温度は、70℃に設定し(5分間保持)、10℃/分で昇温して最終温度150℃とした(6時間保持)。この方法は、組み合わせの手法(熱処理及びメタノール中でのソックスレー抽出)と比較して、未結合シロキサンの除去を増加させた。これらの結果は、トルエン中で72時間のソックスレー抽出が、PDMS−MD複合体の洗浄に適する方法であり得ることを示している。
【0089】
第六のセットの実験では、新しい多孔性及び非多孔性PDMS−MDロッドを製造した後(すなわち、複合体混合物を硬化させた直後)、ロッド(サンプル8及びサンプル11)を、He気流中(2.5mL/分)、350℃で12時間熱処理した。コントロールクロマトグラムに類似したサンプルのGC−FIDクロマトグラムにおいて、多孔性及び非多孔性PDMS−MD複合体からのシロキサンのブリードは観察されなかった。これらの結果は、He気流中350℃で12時間の熱処理が、PDMS−MD複合体の洗浄に適する方法であり得ることを示している。この熱処理法は、有利には、ソックスレー抽出を含む上記の方法よりも環境にやさしく、短時間の洗浄方法を提供し得る。
【0090】
有機化合物の抽出におけるPDMS−MD複合体の適用
収着デバイスとしてのPDMS−MD複合体の効果を評価するために、第一の実験では、PDMS−MDロッド(サンプル7及び8)を、白ワインサンプルからの有機化合物の抽出に用いた。比較のために、市販のPDMSデバイス、Gerstel PDMS Twisterも用いた。これらのデバイスを、以下のGerstelアプリケーションノート(Nie, Y. and E. Kleine-Benne, Using three types of twister phases for stir bar sorptive extraction of whisky, wine and fruit juice. Gerstel Application Note-3, 2011)に従い、これを少し改変して評価した。具体的には、デバイスを、5mlのソーヴィニョンブランワイン(11.5体積/体積% EtOH)と共に10mlの気密バイアルに60分間入れ、10分ごとに手で振とうした。次に、デバイスを新しい気密バイアルに移し、吸収された化合物を、0.5mlのメタノール中で30分間、5分ごとに手で振とうしながら逆抽出した。メタノール抽出物を、GC−MSシステムに直接注入することによって分析した。コントロールサンプルも、類似の手順に従い、デバイスを0.5mlのメタノールに曝露して評価した。
【0091】
結果を
図10に示す。
図10aは、サンプル7(クロマトグラムa)、サンプル8(クロマトグラムb)、又はGerstel PDMS Twister(クロマトグラムc)を用いた場合に検出された有機化合物(1=ヘキサン酸エチル、2=フェネチルアルコール、3=オクタン酸エチル、4=酢酸フェネチル、5=デカン酸エチル)のクロマトグラムを示す。
図10bは、サンプル7及びサンプル8を用いて得られた白ワイン化合物のクロマトグラフィピーク面積を、Gerstel PDMS Twisterと比較して示す。これらの結果は、サンプル7及び8の多孔性及び非多孔性PDMS−MD複合体がいずれも、Gerstel PDMS Twisterよりも高い吸収効果を有することが明らかであることを示している。例えば、サンプル8を用いて得られた抽出物中のヘキサン酸エチル、フェネチルアルコール、オクタン酸エチル、及びデカン酸エチルのピーク面積は、Gerstel PDMS Twisterを用いて得られたピーク面積よりも大きかった。加えて、サンプル7を用いて得られた抽出物中のヘキサン酸エチル、オクタン酸エチル、及びデカン酸エチルのピーク面積は、サンプル8又はGerstel PDMS Twisterのいずれかを用いて得られたピーク面積よりも非常に大きかった。これらの結果は、多孔性及び非多孔性PDMS−MD複合体のいずれも、サンプルからの有機化合物の抽出及び特定に用いることができることを示している。この結果はまた、PDMS−MD複合体が、ある特定の条件下では、PDMSベースの収着デバイスよりも効果的であり得ることも示している。
【0092】
第二の実験では、抽出、液体脱着(LD)、及びGC−FID分析を含む実験において、PDMS−MDロッド(サンプル7、8、及び11)を、合成白ワインサンプル及び本物の白ワインサンプルの両方からの有機化合物の抽出に用いた。市販のGerstel PDMS Twisterも、比較のために用いた。有機化合物としては、酢酸イソアミル(IA)、ヘキサン酸エチル(EH)、オクタン酸エチル(EO)、デカン酸エチル(ED)、及び酢酸フェネチル(PA)をモデル溶質として含めた。各試験溶質の個々の標準溶液を、重量基準で無水エタノール中で調製し、続いてすべての試験溶質を含有する全体ストック溶液(global stock solution)を、合成ワインマトリックス(12体積/体積%の無水エタノール、5g/Lの酒石酸、NaOH溶液の滴下によってpHを3.3に調節)中で、Perestrelo et al.(R. Perestrelo, J.M.F. Nogueira, and J.S. Camara, Potentialities of two solventless extraction approaches-Stir bar sorptive extraction and headspace solid-phase microextraction for determination of higher alcohol acetates, isoamyl esters and ethyl esters in wines. Talanta, 2009, 80, 622-630)に記載の通りに調製した。デバイスを、Gerstelアプリケーションノート、及びPerestrelo et al.に記載の手順に従い、これを少し改変して評価した。具体的には、すべての抽出実験において、各ロッドを5mlのワインサンプル中に浸漬し、200rpmで60分間撹拌した。抽出の後、ステンレス鋼のピンセット(メタノールで洗浄)を用いて、ロッドを透明のガラスバイアルから取り出した。取り出したロッドを、糸くずの出ないティッシュペーパーでやさしく清浄にし、次に1mlのメタノールを含有するガスクロマトグラフィ(GC)バイアル中に浸漬し、周囲温度で15分間超音波処理した。超音波処理後、ステンレス鋼フック(メタノールで洗浄済み)を用いて、ロッドをGCバイアルから取り出した。ロッドを、別々のガラスバイアル中、まずメタノールで、次にDIWで、各々5分間の超音波処理と共に洗浄した。次に、ロッドを糸くずの出ないティッシュペーパーで乾燥させ、続いてHe気流(2.5mL・分
−1)と共に、GC注入口で280℃30分間の熱処理を行った。持ち越し試験は、ロッドを再生した後に行った。ブランク(スパイクなしの合成ワイン)についても、同様の抽出及び逆抽出手順に従って行った。ワイン抽出物のクロマトグラフィ分析は、SGE Analytical Science(Trajan Scientific and Medical,VIC,Australia)から入手したThermo Trace GC−FID Ultraシステム及びBP20キャピラリーカラム(30m×250μm×0.25μm 長さ×外径×内径)を用いて行った。Heキャリアガスは、1.2mL/分の一定流量で維持した。注入量1μLでのスプリットレス注入(1分間)モードを、230℃で行った。オーブン温度プログラムは、以下のように設定した:初期温度40℃(2分間保持)、昇温7℃/分で最終温度220℃とする(2分間保持)。FIDパラメータは、ベース温度(260℃)、空気流量(350mL/分)、H
2流量(35mL/分)、及びN
2流量(40mL/分)として設定した。溶質のピーク面積は、Xcaliburソフトウェア(Thermo,USA)を用いて積分した。合成ワインサンプルからの試験溶質の回収率は、以下の式に基づいて算出し:
回収率(%)=(C
1−C
0/C
2)×100
式中、C
0は、合成ワインサンプル中に検出された有機化合物の濃度であり、C
1は、スパイクされた合成ワイン中に検出された有機化合物の濃度であり、C
2は、合成ワインサンプルに添加された(スパイクされた合成ワインサンプル調製のために)有機化合物の実際の濃度である。
【0093】
メタノールは、適切な液体脱着溶媒であることが見出された。
図11に示されるように、合成ワインサンプル中に存在する試験溶質の各々は、メタノールを脱着溶媒として用いた場合、サンプル8及びGerstel PDMS Twisterから脱着された。
【0094】
図12は、サンプル7、8、及び11を用いた3つの実験に対する、Gerstel PDMS Twisterと比較した合成ワインサンプルからの試験溶質の回収パーセントを示す。この結果は、すべての試験溶質に対して、算出された回収パーセントが約87%から100%超の範囲内であり、各ロッドが高い抽出効率を有していることを示している。多孔性PDMS−MD複合体のサンプル7及び11は、Gerstel PDMS Twisterと比較して、>10〜20%高い試験溶質の回収パーセントを呈した。サンプル7及び11はまた、非多孔性サンプル8よりも約20〜30%高い試験溶質の回収パーセントも呈した。加えて、サンプル7、8、及び11を用いた試験溶質の回収は、Perestrelo et al.及びCeolho et al.(E. Coelho, R. Perestrelo, N.R. Neng, J.S. Camara, M.A. Coimbra, J.M.F. Nogueira, S.M. Rocha, Optimisation of stir bar sorptive extraction and liquid desorption combined with large volume injection-gas chromatography-quadrupole mass spectrometry for the determination of volatile compounds in wines. Analytica Chimica Acta, 2008, 624, 79-89)に記載の過去の研究よりも高いことが見出された。
【0095】
図13は、サンプル7、8、及び11を用いて得られた白ワイン化合物のクロマトグラフィピーク面積を、Gerstel PDMS Twisterと比較して示す。これらの結果は、多孔性及び非多孔性PDMS−MD複合体がいずれも、Gerstel PDMS Twisterと同等又はそれよりも高い吸収効果を有することが明らかであることを示している。例えば、サンプル8を用いて得られた酢酸イソアミル、ヘキサン酸エチル、オクタン酸エチル、デカン酸エチル、及び酢酸フェネチルのピーク面積は、Gerstel PDMS Twisterを用いて得られたピーク面積と同等であった。加えて、サンプル7及び11を用いて得られた抽出物中のこれらの溶質のピーク面積は、サンプル8又はGerstel PDMS Twisterのいずれかを用いて得られたピーク面積よりも非常に大きかった。サンプル7、8、11、及びGerstel PDMS Twisterを用いて得られた白ワインサンプル中の有機化合物の量を、Coelho et al.及びPerestrelo et al.に記載の過去の研究と比較して以下の表3に示す。
【0097】
これらの結果は、多孔性及び非多孔性PDMS−MD複合体のいずれも、サンプルからの有機化合物の抽出及び特定に用いることができることを示している。この結果はまた、PDMS−MD複合体が、ある特定の条件下では、PDMSベースの収着デバイスよりも効果的であり得ることも示している。当業者であれば、広く記載される本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、具体的実施形態に示される本発明に対して数多くの変更及び/又は改変が成され得ることは理解される。本発明の実施形態は、したがって、あらゆる点において、限定的ではなく例示的なものとして見なされたい。
【0098】
いずれかの先行技術の刊行物が本明細書で言及される場合、そのような言及は、その刊行物が、オーストラリア又は他のいずれの国においても、本技術分野における共通の一般的な知識の一部を形成することを容認すると見なされるものではないことは理解されたい。
【国際調査報告】