特表2021-526286(P2021-526286A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-526286非脆性固体電解質を備えた溶融流体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-526286(P2021-526286A)
(43)【公表日】2021年9月30日
(54)【発明の名称】非脆性固体電解質を備えた溶融流体装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20210903BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20210903BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20210903BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210903BHJP
   H01M 10/39 20060101ALI20210903BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M4/40
   H01M4/38 Z
   H01M10/052
   H01M10/39 Z
   H01M10/39 A
   H01M10/39 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-561623(P2020-561623)
(86)(22)【出願日】2019年4月12日
(85)【翻訳文提出日】2020年10月28日
(86)【国際出願番号】US2019027344
(87)【国際公開番号】WO2019221857
(87)【国際公開日】20191121
(31)【優先権主張番号】15/982,475
(32)【優先日】2018年5月17日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520421950
【氏名又は名称】ビサーズ バッテリー コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】特許業務法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビサーズ、ダニエル、アール
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK11
5H029AL12
5H029AM11
5H029AM12
5H029HJ14
5H050AA15
5H050BA16
5H050CA17
5H050CB12
(57)【要約】
少なくとも電極と電解質が動作温度にあるときに固体電解質で分離された流体負極と流体正極を含む、電池。該固体電解質が、該流体負極を形成する負極材料のイオンを含み、固体ベータ-アルミナ電解質(BASE)セラミックスよりも低い柔軟度を有する。一例では、該流体負極はリチウム(Li)を含み、該流体正極は硫黄(S)を含み、かつ該固体電解質はヨウ化リチウム(LiI)を含む。
【選択図】【図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極材料を含み、かつ少なくとも装置の動作温度の範囲内において流体である、流体負極、
少なくとも前記装置の動作温度の範囲内において流体である、流体正極、及び
前記流体負極と前記流体正極との間に配置され、前記負極材料の陽イオンを含み、かつ少なくとも前記装置の動作温度の範囲内において固体状態である、(ここで、該装置の動作温度の範囲は、前記固体電解質の絶対融点の30%とその絶対融点の98%との間の範囲内である)固体電解質
を含む、装置。
【請求項2】
前記動作温度の範囲は、前記固体電解質の絶対融点の40%と該絶対融点の95%との間の範囲内に含まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記動作温度の範囲は、前記固体電解質の絶対融点の50%と該絶対融点の95%との間の範囲内に含まれる、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記動作温度の範囲は、前記固体電解質の絶対融点の70%と該絶対融点の95%との間の範囲内に含まれる、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記動作温度の範囲は、前記固体電解質の絶対融点の80%と該絶対融点の95%との間の範囲内に含まれる、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記動作温度の範囲は、前記固体電解質の絶対融点の89%と該絶対融点の95%との間の範囲内に含まれる、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記動作温度の範囲の上限温度は、前記流体正極の正極沸点と前記流体負極の負極沸点のうちの最低沸点よりも低い、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記動作温度範囲の上限温度は、前記流体正極の正極絶対沸点及び前記流体負極の負極絶対沸点の最低絶対沸点の95%未満である、請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記動作温度範囲の上限温度は、前記流体正極の正極絶対沸点及び前記流体負極の負極沸点の最低絶対沸点の95%未満である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
少なくとも前記装置の動作温度内において流体であるリチウムを含む、流体負極、
少なくとも前記装置の動作温度内において流体である硫黄を含む、流体正極、及び
前記流体負極と流体正極との間に配置され、リチウム陽イオンを含み、かつ少なくとも前記装置の動作温度内において固体である、固体ヨウ化リチウム電解質
を含む、装置。
【請求項11】
前記装置の動作温度の範囲は、365℃〜444℃の範囲に含まれる、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記装置の動作温度の範囲は、375℃〜425℃の範囲に含まれる、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記装置の動作温度の範囲は、390℃-410℃の範囲に含まれる、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
流体負極、流体正極及び固体ヨウ化リチウム電解質を前記装置の動作温度に加熱するように配列及び構成された加熱システムをさらに含む、請求項10に記載の装置。
【請求項15】
リチウム陽イオンを含む固体ヨウ化リチウム電解質によって負極領域から分離された負極領域及び正極領域を有し、かつ反応チャンバの温度が少なくとも電池の動作温度の範囲内であるときに固体状態である、反応チャンバ、
前記負極領域内に収容され、リチウムを含み、かつ少なくとも前記反応チャンバの温度が電池の動作温度の範囲内であるときに流体状態である、流体負極、及び
前記正極領域内に収容され、硫黄を含み、かつ少なくとも前記反応チャンバの温度が電池の動作温度の範囲内であるときに流体状態である、流体正極
を含む、熱リチウム電池。
【請求項16】
前記装置の動作温度の範囲は、365℃〜444℃の範囲内に含まれる、請求項15に記載の電池。
【請求項17】
前記装置の動作温度の範囲は、375℃〜425℃の範囲内に含まれる、請求項16に記載の電池。
【請求項18】
前記装置の動作温度の範囲は、390℃〜410℃の範囲内に含まれる、請求項17に記載の電池。
【請求項19】
前記反応チャンバを前記電池の動作温度の範囲内の動作温度に加熱するように配列され、かつ構成された加熱システムをさらに含む、請求項15に記載の電池。
【請求項20】
前記正極材料がリン(P)を含む、請求項15に記載の電池。
【請求項21】
負極材料を含み、かつ少なくとも装置の動作温度の範囲内において流体である、流体負極、
少なくとも装置の動作温度の範囲内において流体である、流体正極、及び
前記流体負極と前記流体正極との間に配置され、前記負極材料の陽イオンを含み、少なくとも前記装置の動作温度の範囲内において固体であり、かつ少なくとも前記装置の動作温度の範囲内において固体ベータ-アルミナ電解質(BASE)セラミックよりも低い柔軟度を有する、固体電解質
を含む、装置。
【請求項22】
前記装置の動作温度の範囲は、365℃〜444℃の範囲内に含まれる、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記装置の動作温度の範囲は、375℃〜425℃の範囲内に含まれる、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記装置の動作温度の範囲は、390℃〜410℃の範囲内に含まれる、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記負極材料がリチウム(Li)を含み、前記正極材料が硫黄(S)を含み、かつ前記固体電解質がリチウム(Li)陽イオンを含む、請求項21に記載の装置。
【請求項26】
前記固体電解質がヨウ化リチウム(LiI)を含む、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記正極材料がリン(P)を含む、請求項25に記載の装置。
【請求項28】
前記流体負極、流体正極及び固体電解質を前記装置の動作温度に加熱するように配列され、かつ構成された加熱システムをさらに含む、請求項21に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【優先権の主張】
【0001】
本願は、シリアル番号15/982,475の米国特許出願「非脆性固体電解質を備えた溶融流体装置」(2018年5月17日に出願、代理人の整理番号VBC002)の優先権の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【政府援助の研究開発に関する陳述】
【0002】
本発明は、エネルギー部門によって授与された契約番号DE-AC02-06CH11357のもとで政府援助を受けて行ったものである。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【発明の技術分野】
【0003】
本発明は、一般的には熱電池に関し、また、より具体的には溶融流体電極及び非脆性固体電解質を含む方法、装置及びシステムに関する。
【発明の背景】
【0004】
一般的には、電池は正極(cathode)、負極(anode)及び電解質を含む。典型的には、電池はその電極内に電池の端子に電流を導く集電体を含む。電極材料を加熱し、一方または両方の電極が流体状態に維持される電極として流体を使用する試みがなされてきた。これらの電池は、しばしば熱電池または高温電池と呼ばれる。例えば、その装置が、しばしば液体-金属電池及び再充電可能な液体-金属電池と呼ばれる。残念ながら、数十年の研究開発において、例えば、ナトリウムと硫黄、またはリチウムと硫黄のような高重量エネルギー密度(kWh/kg)の電気化学的結合を利用した安全でかつ信頼できる熱電池は製造されていない。
【図面の簡単な説明】
【0005】
該図面は単に例示のためのものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。さらに、該図面中の構成要素は必ずしも縮尺どおりではない。該図面には、同様の参照番号は異なる視点からの対応部分を示す。
【0006】
図1】は、非脆性固体電解質によって分離された流体電極を有する反応チャンバを含む電池の一例のブロック図である。
【0007】
図2】は、固体ヨウ化リチウム(LiI)電解質によって分離された流体電極を有する反応チャンバを含む電池の一例のブロック図である。
【0008】
図3】は、非脆性固体電解質を有する流体電極の電池を動作させる方法の一例のフローチャートである。
【発明の詳細な説明】
【0009】
熱電池は、他種の電池よりもいくつかの利点を有する。熱電池(高温電池)は、その比較的低いコスト、高いエネルギー密度、及び高い電力密度を有するため、該種の電池のいくつかの用途にとっては非常に魅力的である。残念ながら、これらの装置は、安全性に問題があり、広く採用されていない。高エネルギー化学のため、熱電池には火災や爆発の危険性がある。従来の熱電池は、第3材料によって分離された2つの流体(即ち、溶融)材料のプールを含むように設計されている。この第3材料が故障し、溶融した材料が混合して反応すれば、膨大な量の熱エネルギーが短時間で放出される。この状態はしばしば、危険な火災または爆発をもたらす。第二次世界大戦中に熱電池が登場した以来、安全な熱電池に対する需要はずっとあるが、この厳しい制限は、依然として今日にも続いている。数十年の試みは、この問題に対する適切な解決策をもたらさなかった。例えば、いくつかの試みの中、重力フロー電池の利用が含まれる。その設計として、溶融活性物質の1つが、より小さな反応チャンバの物理的に上方に位置する大きなリザーバに含まれ、該反応チャンバの壁が固体電解質である。該固体電解質の他方の側には、他の溶融活性物質の大きなリザーバがある。固体電解質が故障し、2つの溶融活性物質が混合できる場合には、これらの混合で起きる化学反応によって形成される固体生成物が、他の溶融活性物質の他の大きなリザーバと物理的に上に位置する大きなリザーバからの活性物質の流れを制限することが期待される。しかし、この重力フロー電池を設計した試みは失敗した。なぜなら、上部リザーバからの流れを遮断するように意図された固体生成物が、熱電池の動作温度における流れを遮断することができる凝集塊に形成しないためである。従って、該設計により2つの溶融活性物質の混合はただ遅れるだけで、熱暴走の事象を防ぐには不十分である。他の試みとして、固体電解質の故障が熱暴走の事象を引き起こさないように、化学的に溶融活性材料を金属ハロゲン化物に変更することが含まれる。残念ながら、該技術は、特定のエネルギー密度(kWh/kg)及び体積エネルギー密度(kWh/l)を減少させるコストになるため、多くの用途にとって熱電池が実行可能な解決策ではなくなった。
【0010】
熱電池に関する研究はこの高い危険性に拒まれてきた。例えば、1993年ある大手自動メーカーが熱ナトリウム-硫黄電池を使用した電気自動車車両を開発した。試験中、充電中に車両2両が炎上した。この火災のため、該メーカーは熱ナトリウム-硫黄電池のプログラムを終了させた。また、安全な熱電池が電気自動車産業及び他の産業に提供され、多大な利点を有することにもかかわらず、米国エネルギー部門が熱電池に関する研究への援助を終了させた。火災の危険性を抑えることができれば、熱電池が比較的な軽量及び低コストであるため、これらの装置は、明らかに電気自動車への応用の最良の選択である。
【0011】
熱電池は、他の電池よりもいくつかの利点を提供する。例えば、低コストで高い重量エネルギー密度(kWh/kg)、高い体積エネルギー密度、高い重量電力密度、及び高い体積電力密度を示す。しかし、流体電極を有する従来の熱電池は、安全面において大きな制限を受けている。従来の熱電池に用いられる電解質分離器としては、溶融塩等の液体電解質、及びセラミックやガラス等の脆性の固体電解質が含まれる。液体電解質は、いくつかの面において制限される。例えば、該種の電池は、動作中に電極材料の化学種が生成され、電解質が減少し、性能が低減する。最終的に、電解質中のこれらの副生成物は、電池の動作停止をもたらす。一方、セラミック及びガラスの電解質は、構造が脆弱であるために故障し易い。上述したように、固体電解質分離器が破損した後、溶融電極材料が互いに接触した時に重大な火災や爆発が発生する。
【0012】
数十年にわたる研究開発にもかかわらず、非脆性で割れにくい固体電解質を含む流体電極を備えた熱電池はまだ提案されていない。ガラスまたはセラミックを含む固体電解質は、流体電極を有する熱電池に使用するために提案された唯一の固体電解質であった。これらの材料は、電極の融点よりもかなり高い融点を有する。その結果、一方または両方の電極材料が、ガラスまたはセラミック電解質の融点に近い温度で気相に入ることができる。
【0013】
本明細書に記載の技術によれば、比較的非脆性の固体電解質を用いて流体電極を分離することで熱電池の安全性を最大限にする。電池の動作温度の範囲内において、該電解質材料は、セラミック及びガラスに比べて、比較的に軟質で、脆性の弱い固体構造を有することで、従来の熱電池よりも亀裂や割れの影響を著しく受けにくくなる。該電解質は、負極材料の陽イオン及び陰イオンを含む。本明細書の例では、該陰イオンが、比較的大きくて反応チャンバ内の材料に対して化学的に安定であるように選択される。従って、実施例では、該陰イオンは、負極材料、正極材料及び該材料から生成された任意の種に対して安定である。以下に述べる具体例では、該負極はリチウムを含み、該固体電解質はリチウム陽イオン(Li+)及びヨウ化物陰イオン(I-)からなるLiIである。いくつかの状況では、該電解質は、他の元素及び添加剤を含んでもよい。該添加剤が脆弱な構造を有していても、本明細書に記載の技術による固体電解質の全体的な構造は、脆弱でなく、セラミック電解質及びガラス電解質よりも亀裂の影響を受けにくい。LiI電解質の融点に近くで、より低い温度で電池を動作させることにより、該電解質は柔らかくなり、亀裂や破断の影響を受けにくくなる。融点がかなり高い電解質材料にこのような技術を応用することで、電池の複雑さ及びコストが大幅に増加する。なぜなら、このような実装は、気相中の電極材料及びこれらの高温における材料の腐食が増加することを考慮する必要がある。従って、固体リチウムヨウ化物の電解質を有するリチウム硫黄熱電池の例は、電気自動車を含む様々な用途に使用するための高いエネルギー密度を有するより安全で安価な熱電池を提供する。
【0014】
以下に説明する実施例では、正極及び負極は、電池がその動作温度の範囲内の温度にあるときに流体状態である。しかし、いくつかの実施形態では、電池温度が動作温度の範囲内にあるとき、一方の電極は固体状態であってもよい。言い換えると、動作温度の範囲内において、正極または負極のみが流体状態であり、他方が固体である。また、いくつかの状況では、動作温度の範囲は、両方の電極が流体である温度、及び一方の電極のみが流体である温度を含んでもよい。材料が流体状態にあるとき、それは流体であり、材料が非流体状態にあるとき、それは非流体である。本明細書で説明する実施例では、電極材料は、加熱によって非流体状態から流体状態に移行する。これを溶融電極材料及び溶融流体電極材料と呼ぶことができる。
【0015】
図1は、電池装置100の一例のブロック図である。これは、固体電解質108によって分離された流体電極104と106を有する反応チャンバ102を含む。図1は、本実施例の一般的な原理を示しているが、具体的な形状、相対的な寸法や距離、または示された構成要素の他の構造的な詳細を必ずしも表すものではない。いくつかの状況では、2つ以上のブロックの構造は、単一の構成要素または構造で実施することができる。また、図1の単一のブロックで実施するように記載された機能は、別の構造において実施してもよい。
【0016】
本明細書で検討されるように、材料が、ある領域から別の領域へと流れることを可能にするため、十分に液化された持続性を有するときに、流体状態にある。言い換えると、流体材料の粘度は、該材料がある領域から別の領域へと誘導され、ポンピングされ、または流れることができるようなものである。しかし、流体材料は、少なくとも部分的に固体であるいくつかの成分を有してもよく、一方、他の成分は液相にある。その結果、流体材料は、必ずしも全てが液相にある必要はない。本明細書で検討されるものとして、材料は、それが流れないように十分に固化されている非流体の状態にある。言い換えると、非流体状態にある材料の粘度は、該材料が、ある領域から別の領域へと誘導されないか、ポンピングされないか、または流れないようなものである。しかし、非流体材料は、他の成分が固相にあることと同時に、液相にもあるいくつかの成分を有してもよい。本明細書で参照されるように、固体電解質は、固体相にある電解質構造を形成する任意の材料、混合物、化合物、または他の材料との組み合わせである。該固体電解質は動作温度の範囲内において固相にあるが、温度がその融点に近づく場合、該電解質材料が軟化する可能性がある。従って、固体電解質108をその融点付近で動作させ、応力を与えるときに、これは破断前の少なくとも一部のエネルギーを吸収でき、ガラスやセラミックスよりも塑性変形が大きい。言い換えると、固体電解質108は、ガラス及びセラミックスと比べて、より軟質であり、電池の動作温度においてより高いクリープ速度を示す。
【0017】
電池100は、少なくとも、負極領域110を有する反応チャンバ102及び固体電解質108で負極領域110から分離された正極領域112を有する。負極領域110は負極材料114を含み、正極領域112は正極材料116を含む。また、電池100は、動作中に反応チャンバ102内の正負の電極材料を十分に加熱するための加熱システム118を含む。固体電解質108を固体状態に維持しながら、電極材料114と116を加熱して電池100を動作させる際に、電極材料114と116が流体状態に維持される。これにより、反応チャンバの動作温度は固体電解質108の融点以下となる。図1の例では、加熱システム118は、反応チャンバ102の加熱を容易にし、電極材料114と116を放置し、かつ流体状態に維持するようにする1つ以上の加熱要素を含む電気加熱システムである。いくつかの状況では、他種の加熱システム118を使用することができる。該加熱システムは、固体電解質108が固体状態に維持されながら、負極材料114及び正極材料116が流体状態にあるように反応チャンバを加熱する。
【0018】
固体電解質108は、少なくとも負極材料114の陽イオン及び陰イオンが反応チャンバ102内の材料に対して化学的に安定であるように選択される陰イオンを含む。負極材料114のいくつかの例として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムが含まれる。陰イオンのいくつかの例として、塩素、臭素及びヨウ素の陰イオンが含まれる。いくつかの状況では、他の材料を使用することができる。
【0019】
負極領域110における流体負極材料114は、電池100の流体負極104を形成する。正極領域112における流体正極材料116は、電池100の流体正極106を形成する。流体電極104と106及び電極材料は、1つ以上の要素を含んでもよい。例えば、正極領域112は、電池100内の反応から生じるいくつかの反応生成物を含んでもよい。第1集電体120は、流体負極104内に配置され、第2集電体122は、流体正極106内に配置される。電極104と106内にそれぞれ適切に配置された集電体120と122により、固体電解質108を介して、流体負極104と流体正極106との間の電池内で発生する電気化学反応から電気エネルギーを利用することができる。従って、図1の例における反応チャンバ102の動作は、従来の熱電池の動作と同様である。しかし、従来の熱電池に優る顕著な利点として、熱電池に使用される従来の固体電解質と比較して、亀裂及び破壊に対してはるかに耐性のある固体電解質を含むことである。固体電解質が提案されてきたが、従来の技術はいずれも、セラミックまたはガラス以外の固体電解質を使用することを考慮していない。上述したように、このような脆い電解質材料は、危険な結果を伴う亀裂及び故障を受けやすい。
【0020】
電池装置100は、異なる材料及び電気化学結合を用いて実施することができる。図2を参照した後述する例では、負極はリチウム(Li)を含み、正極は硫黄(S)を含む。他の例では、ナトリウム-硫黄(NaS)電池は、ナトリウム(Na)を含む流体負極及び硫黄(S)を含む流体正極を包含する。また、他の材料を電極に使用してもよい。さらに、いくつかの状況では、電極材料は、複数の元素を含む混合物または化合物を含有してもよい。例えば、いくつかの液体金属電池では、流体正極には硫黄とリンの溶融混合物を用いることができる。
【0021】
負極領域及び正極領域の動作温度または温度範囲は、いくつかの要因に基づいて選択することができる。該要因としては、例えば、負極材料の融点、正極材料の融点、負極材料の沸点、正極材料の沸点、正極材料と生成された化学種の共晶点、及び固体電解質の融点等が挙げられる。本明細書で説明する実施例では、加熱システム118は、固体電解質108にわたる温度の変化を避けるために、反応チャンバ102の負極領域110及び正極領域112を同じ温度に維持する。いくつかの状況では、該反応チャンバの2つの領域を異なる温度に維持してもよい。
【0022】
本明細書において説明される実施例の利点の1つは、電池の動作温度において柔軟性のある電解質材料を有し、亀裂及び破断を最小限にすることである。周知のように、応力下で融点に近い温度において、材料は一般に軟質になり、その柔軟性及びクリープ速度を増大する。電池の動作温度範囲よりも著しく高くない融点を有する電解質を含むことにより、電解質は良好な封止性及び高い柔軟性を示しながら、固体形態に維持される。従って、電解質は、機械的な振動または力による故障の機会を最小にしながら、2つの流体電極を互いに分離して封止する分離器として良好に機能する。これは、流体電極を有する熱電池に使用される従来の電解質材料よりも著しい利点をもたらす。ガラス電解質は、約1,700℃の融点を有し、BASEセラミックスは、2,000℃近くの融点を有する。これらの融点は、熱電池における高い電力及びエネルギー密度を示す電極材料の沸点よりも著しく高い。上述のように、例えば、リチウム硫黄熱電池は、高いエネルギー及び電力密度を有する。硫黄の沸点は444.6℃であり、ガラス及びBASEセラミックスの融点よりも著しく低い。従来の電解質の融点付近の温度でリチウム硫黄電池を動作させると、硫黄を気相中に放置し、該設計を複雑にする。しかし、以下の実施例で説明したように、従来の熱電池の電解質材料よりも融点が低く、柔軟性が大きく、封止性が良好な電解質材料を用いることにより、電解質が故障する危険性を最小限に抑えつつ、熱リチウム硫黄電池の利点を実現することができる。
【0023】
図2は、電池200の一例のブロック図である。これは、流体リチウム(Li)負極202及び固体ヨウ化リチウム(LiI)電解質206で分離された流体硫黄(S)正極204を含む。従って、電池200は、リチウム-硫黄(LiS)電池と呼ぶことができる。これは、流体負極202がリチウムを含み、流体正極204が硫黄を含み、固体電解質206がヨウ化リチウム(LiI)を含む電池100の一例である。図2中の図は、本例の一般的な原理を示しているが、具体的な形状、相対的な寸法や距離、または示された構成要素の他の構造的詳細を必ずしも表すものではない。いくつかの状況では、2つ以上のブロックの構造は、単一の構成要素または構造で実施することができる。また、図2の単一のブロックで実施するように記載された機能は、別の構造において実施してもよい。
【0024】
融点、柔軟度及びコストを考慮することに加えて、LiS熱電池用の電解質材料を選択するには、イオン伝達特性及びリチウム、硫黄及びLi2Sm種に対する化学的安定性を評価することも含まれる。本発明者が行った実験により、ヨウ化リチウムが、高温でリチウム、硫黄及びLi2Sm種に対して化学的に安定であることが明らかになった。
【0025】
LiS電池200の動作は、図1の電池100を参照して説明した動作に従う。加熱システム118は、反応チャンバ102を適切な温度に維持し、ヨウ化リチウム電解質206を介して硫黄とリチウムとの間の所望の反応を促進する。図2の例では、負極領域114及び正極領域112の温度は、摂氏400度(℃)に維持される。上述のように、該動作温度は、電極材料の特性及び固体電解質を含むいくつかの要因に基づくことができる。図2の例では、考えられるいくつかの特性として、ヨウ化リチウムの融点(469℃)、硫黄の沸点(444.6℃)、及びリチウムポリスルフィド生成物(LinSm)の共晶融点(365℃)が含まれる。リチウムポリスルフィド生成物の共晶融点以上であるが、LiIの融点より低い温度範囲は、いくつかの状況において使用できる365℃〜469℃の温度範囲を提供する。硫黄の沸点以下の温度を維持することは有用であり、他の状況で使用できる365℃〜444℃の範囲を提供する。しかし、好適な温度範囲は375℃〜425℃の温度を含む。さらに他の状況では、115.21℃〜469℃の広い温度範囲を使用することもできる。本明細書の実施例では、負極領域114及び正極領域112の温度は、ほぼ同じ温度に維持される。他の利点として、このようなスキームは、固体LiI電解質206にわたる温度の変化を回避する。しかし、いくつかの状況では、温度は、電極領域間で異なっていてもよい。電極材料が流体であり、かつ電解質が固体である限り、他の温度範囲及びスキームを使用することができる。その結果、正極領域112の温度を硫黄の融点(115.21℃)以上とすべきであり、負極領域114の温度をリチウムの融点(180.5℃)以上とすべきである。
【0026】
電池200の動作中に、反応は他の化合物または生成物を形成する可能性がある。例えば、硫黄を含む正極領域に加えて、この領域は、ジ-リチウムポリスルフィド種(Li2Sm、nは2以上)及びジ-硫化リチウム(Li2S)も含んでもよい。典型的には、電解質にわたる反応は、Li2Sm(mは1以上の整数)のようないくつかの異なる化学種をもたらす。任意の数の化学種が生じる可能性があり、例えば、生成物LiS、Li2S2、Li2S4及びLi2S6ならびに他のいくつかの状況を含むことができる。
【0027】
いくつかの状況では、追加の材料を正極材料及び/または負極材料に添加してもよい。例えば、リンは、正極材料に含まれることができる。その結果、流体リン-硫黄正極が得られる。従って、流体電極電池装置100のもう一つの例は、リチウムリン-硫黄(LiPS)電池である。従って、一例では、該正極材料は硫黄を含む。別の例では、該正極材料は硫黄及びリンを含む。LiPS電池用のリザーバ及び反応チャンバのための適切な温度範囲の例として、図2のLiS電池200を参照した上述の範囲が挙げられる。
【0028】
従って、図2を参照して説明した例では、固体ヨウ化リチウム(LiI)電解質を用いることでリチウム熱電池の火災の危険性が最小限に抑えられた。LiIは、リチウムの融点、硫黄の融点、及びリチウムポリスルフィド生成物(LinSm)の共晶融点を十分に上回る融点を有しながら、LiS電池のようなリチウム熱電池における電解質として使用するための適切な電気化学的特性を提供する。また、該LiI電解質は、リチウム及び硫黄、並びにLi2Sm種に対して化学的に安定である。動作温度の範囲内では、該LiI電解質は固体のままであるが、その動作温度がその融点よりもはるかに近いため、ガラスやBASEのようなセラミックよりも多くの塑性変形を示す。
【0029】
従って、いくつかの状況では、熱電池に使用するために、材料及び動作温度範囲の選択は、少なくとも電解質材料の融点にある程度基づく。材料の温度に関する有用な比率は相応温度THである。相応温度は、材料の絶対温度とその絶対融点温度との比である。材料が加熱されたときに類似した挙動を示すため、相応温度は非常に有用である。例えば、材料の温度がその融点温度よりもはるかに低い場合、典型的には、該材料が硬く、応力下でのクリープ速度は無視できる。しかし、材料の温度がその融点に近づくと、材料は軟化し、応力下でのクリープ速度は増加する。一例として、350℃で動作するナトリウム-硫黄電池におけるBASE及びホウ酸ナトリウムガラス固体電解質の相応温度は、それぞれ0.27TMP及び0.32TMPである。これらの相応温度では、BASE及びホウ酸ナトリウムガラスは硬質であり、応力下では無視できるクリープ速度を示す。少なくとも1つの電極が流体であり、電解質材料がその融点より低いが相対的に近い温度にある動作温度になる材料の組み合わせを選択することにより、固体電解質は脆弱でなく、より効果的に電極材料を互いに分離して封止する。ほとんどの状況では、動作温度範囲の最低値は、固体電解質の絶対融点の少なくとも35%以上である(即ち、固体電解質のTHは、0.35TMPである)。動作温度範囲の最低値が上昇すると、電解質の柔軟性が増大し、脆性が低下する傾向がある。従って、該最低値は、電解質の絶対融点の50%、60%、70%、または80%を超えてもよい(即ち、TH = 0.5TMP、0.6TMP、0.7TMP、0.8TMP)。多くの状況では、動作温度範囲の最高値は、1つの電極材料の沸点に制限されることがある。電極が気相に入ることを回避するために、動作温度範囲の最高値は、少なくとも、正極材料及び負極材料のうちの低い方の沸点よりも低いべきである。いくつかの状況では、該最高値は、最低の電極材料の絶対沸点の98%未満であってもよい。さらに他の状況では、該最高値は、最低の電極材料の絶対沸点の95%未満であってもよい。
【0030】
これらの関係をリチウム硫黄電池に適用すると、適切な動作温度の範囲は、上述のものに従う。例えば、固体LiI電解質を用いたLiS電池を動作させるときの温度範囲390℃〜410℃は、ヨウ化リチウムの絶対融点の89%(即ち、TH = 0.89TMP)から硫黄の絶対沸点の95%までの範囲である。
【0031】
図3は、流体電極電池を動作させる方法の一例のフローチャートである。図3のステップは、図示されたステップとは異なる順序で実施することができ、また、複数のステップを一つのステップに組み合わせることができる。追加のステップを実施してもよく、また、いくつかのステップを省略してもよい。例えば、多くの状況では、ステップ302、ステップ304及びステップ306は同時に実施される。本法は、適切な構造、構成要素及び材料を有する任意の装置で実施することができるが、図3を参照して説明した実施例は、図1を参照して説明した電池100、または図2を参照して説明した電池200のような熱電池において実施される。
【0032】
ステップ302では、反応チャンバの負の領域における負極材料を加熱し、該負極材料を流体状態にする。反応チャンバの負の領域を適切に加熱することにより、加熱された負極材料から流体負極が形成される。
【0033】
ステップ304では、反応チャンバの正の領域における正極材料を加熱し、該正極材料を流体状態にする。反応チャンバの正の領域を適切に加熱することにより、加熱された正極材料から流体正極が形成される。
【0034】
ステップ306では、電解質を固体状態に維持する。電解質を溶融させることなく、電極材料を適切に加熱するように反応チャンバは加熱される。固体電解質は、固体状態であるが、ガラス及びセラミックスよりも脆性が低い。従って、固体電解質は、熱電池の動作温度の範囲内において、ガラス及びセラミックスより多くの塑性変形を示す。なぜなら、該動作温度が固体電解質の融点に非常に近いためである。
【0035】
理解されるべきこととして、実施例によって、本明細書に記載された方法のいずれかの特定の行為または事象は、異なる順序で実施したり、追加したり、合併したり、または完全に除外したりすることができる(例えば、方法の実施には、記載された全ての行為または事象が必要であるわけではない)。また、ある例では、行為または事象は、逐次的にまたは逆でもなく、同時に実施されてもよい。さらに、本開示の特定の態様は、明確にするために単一のモジュールまたは構成要素によって実施されるものとして記載されているが、理解されるべきこととして、本開示に記載された機能は、構成要素の任意の適切な組み合わせによって実施されてもよい。
【0036】
明らかに、当業者は、これらの教示に鑑みて、本発明の他の実施形態及び修正を容易に行うであろう。以上の記載は例示であり、限定的なものではない。本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。該特許請求の範囲は、上記明細書及び添付図面に関連して見たときに、そのような実施形態及び修正を全て含む。従って、本発明の範囲は、上記の記載を参照して決められるべきではなく、その代わりに、添付の特許請求の範囲及びそれに相当する全ての物を参照して決められるべきである。
図1
図2
図3
【国際調査報告】