特表2021-526513(P2021-526513A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-526513(P2021-526513A)
(43)【公表日】2021年10月7日
(54)【発明の名称】ティピファニブの合成
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/06 20060101AFI20210910BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALN20210910BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210910BHJP
【FI】
   C07D401/06
   A61K31/4709
   C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2020-564572(P2020-564572)
(86)(22)【出願日】2019年5月17日
(85)【翻訳文提出日】2021年1月8日
(86)【国際出願番号】US2019032765
(87)【国際公開番号】WO2019222565
(87)【国際公開日】20191121
(31)【優先権主張番号】62/673,693
(32)【優先日】2018年5月18日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】516098524
【氏名又は名称】クラ オンコロジー, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ピングダ レン
(72)【発明者】
【氏名】シャオフ デング
(72)【発明者】
【氏名】ワンピング マイ
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
4H039
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB04
4C063CC25
4C063DD14
4C063EE01
4C086AA04
4C086BC38
4C086GA07
4C086GA13
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC20
4C086ZC41
4H039CJ20
(57)【要約】
本明細書で提供されるのは、それ以外にはティピファニブとして公知の、所望される鏡像異性体6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノンを調製する方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ティピファニブの所望される鏡像異性体を調製するための方法であって、
(i)所望される鏡像異性体においてエナンチオピュアではないティピファニブを含む出発材料を得るステップと;
(ii)ステップ(i)からの出発材料をティピファニブのラセミ混合物に変換するステップと;
(iiii)ステップ(ii)のティピファニブのラセミ混合物から、ティピファニブの所望される鏡像異性体を回収するステップと
を含む前記方法。
【請求項2】
前記ティピファニブの所望される鏡像異性体が、(R)-(+)-ティピファニブである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ステップ(i)の前記出発材料が、結晶化プロセス由来の母液を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ステップ(i)の前記出発材料が、ティピファニブの鏡像体過剰の所望されない鏡像異性体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ティピファニブの所望されない鏡像異性体が、(S)-(-)-ティピファニブである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ステップ(i)の前記出発材料が、酸を用いて形成されるティピファニブの塩を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記酸が、エナンチオピュアなキラルな有機酸である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記酸が、キラル分割剤である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記酸が、(-)-ジベンゾイル-L-酒石酸である、請求項6記載の方法。
【請求項10】
ステップ(ii)が、
(ii)(a)出発材料を反応溶媒中で亜硝酸ナトリウムと反応させて、生成物混合物を与えるステップと;
(ii)(b)ステップ(ii)(a)の生成物混合物から式(II)のラセミアルコール
【化1】
を回収するステップと;
(ii)(c)ステップ(ii)(b)のラセミアルコールをティピファニブのラセミ混合物に変換するステップと
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
ステップ(ii)(a)の前記反応溶媒が、有機溶媒、水、又はそれらの混合物である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
ステップ(ii)(a)の前記反応溶媒が、有機溶媒と水との混合物である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記混合物が、20:1から3.5:1までの範囲の有機溶媒と水との体積比を有する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記有機溶媒と水との体積比が、4:1である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記有機溶媒が、水との混和性がある、請求項11〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記有機溶媒が、アセトン、アセトニトリル、メタノール、tert-アミルアルコール、又はそれらの混合物である、請求項11〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記有機溶媒が、アセトンである、請求項11〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記有機溶媒が、アセトニトリルである、請求項11〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
ステップ(ii)(a)が、約20℃から約75℃までの範囲の温度で行われる、請求項10記載の方法。
【請求項20】
ステップ(ii)(a)が、約20℃の温度で行われる、請求項10記載の方法。
【請求項21】
ステップ(ii)(a)が、添加剤の存在下で行われる、請求項10記載の方法。
【請求項22】
前記添加剤が、酸である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記酸が、硫酸である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記酸が、塩酸である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
ステップ(ii)(b)が、
前記生成物混合物のpHを塩基で調整することと;
該生成物混合物を抽出溶媒で抽出することと;
前記ラセミアルコールを結晶化させることと
を含む、請求項10記載の方法。
【請求項26】
前記生成物混合物のpHが、約5から約10までの範囲に調整される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記生成物混合物のpHが、約10に調整される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
前記塩基が、水酸化ナトリウム又は水酸化アンモニウムである、請求項25記載の方法。
【請求項29】
前記塩基が、水酸化ナトリウムである、請求項25記載の方法。
【請求項30】
前記抽出溶媒が、酢酸イソプロピル又は2-メチルテトラヒドロフランである、請求項25記載の方法。
【請求項31】
前記抽出溶媒が、酢酸イソプロピルである、請求項25記載の方法。
【請求項32】
前記ラセミアルコールが、塩酸塩として結晶化される、請求項25記載の方法。
【請求項33】
ステップ(ii)が、
(ii)(a)出発材料を反応溶媒中で加熱して、生成物混合物を与えるステップと;
(ii)(b)ステップ(ii)(a)の生成物混合物から式(II)のラセミアルコール
【化2】
を回収するステップと;
(ii)(c)ステップ(ii)(b)のラセミアルコールをティピファニブのラセミ混合物に変換するステップと
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項34】
ステップ(ii)(a)の前記反応溶媒が、有機溶媒、水、又はそれらの混合物である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
ステップ(ii)(a)の前記反応溶媒が、有機溶媒と水との混合物である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記混合物が、6:1から2:1までの範囲の有機溶媒と水との体積比を有する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記有機溶媒と水との体積比が、2:1である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記有機溶媒が、水との混和性がある、請求項34〜37のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記有機溶媒が、アセトニトリル、メチルエチルケトン、アセトン、DMF、又はそれらの混合物である、請求項34〜37のいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
前記有機溶媒が、メチルエチルケトンである、請求項34〜37のいずれか1項記載の方法。
【請求項41】
前記有機溶媒が、アセトニトリルである、請求項34〜37のいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
ステップ(ii)(a)が、約60℃から約80℃までの範囲の温度で行われる、請求項33記載の方法。
【請求項43】
ステップ(ii)(a)が、約80℃の温度で行われる、請求項42記載の方法。
【請求項44】
ステップ(ii)(a)が、約76℃の温度で行われる、請求項42記載の方法。
【請求項45】
ステップ(ii)(a)が、添加剤の存在下で行われる、請求項33記載の方法。
【請求項46】
前記添加剤が、酸である、請求項45記載の方法。
【請求項47】
前記酸が、硫酸である、請求項46記載の方法。
【請求項48】
ステップ(ii)(b)が、
前記生成物混合物のpHを塩基で調整することと;
該生成物混合物を抽出溶媒で抽出することと;
前記ラセミアルコールを結晶化させることと
を含む、請求項33記載の方法。
【請求項49】
前記生成物混合物のpHが、約8に調整される、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記塩基が、水酸化ナトリウムである、請求項48記載の方法。
【請求項51】
前記抽出溶媒が、酢酸イソプロピルである、請求項48記載の方法。
【請求項52】
前記ラセミアルコールが、塩酸塩として結晶化される、請求項48記載の方法。
【請求項53】
ステップ(iii)が、
(iii)(a)キラル分割剤の存在下で、ティピファニブのラセミ混合物からティピファニブの所望される鏡像異性体を結晶化させることと;
(iii)(b)母液からティピファニブの所望される鏡像異性体の結晶を分離することと
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項54】
ステップ(iii)(a)の前記キラル分割剤が、(-)-ジベンゾイル-L-酒石酸である、請求項53記載の方法。
【請求項55】
ステップ(iii)(a)の前記母液が、ティピファニブの鏡像体過剰の所望されない鏡像異性体を含む、請求項53記載の方法。
【請求項56】
前記方法が、
(iv)ステップ(i)における出発材料として使用されることとなるステップ(iii)(b)の母液を再利用すること
をさらに含む、請求項53記載の方法。
【請求項57】
前記ステップ(i)から(iv)を、複数サイクル実行することができる、請求項56記載の方法。
【請求項58】
ティピファニブの所望される鏡像異性体を調製するための方法であって、
(i)所望される鏡像異性体においてエナンチオピュアではないティピファニブを含む出発材料を得るステップと;
(ii)(a)出発材料を亜硝酸ナトリウムと反応させて、生成物混合物を与えるステップと;
(ii)(b)ステップ(ii)(a)の生成物混合物から式(II)のラセミアルコール
【化3】
を回収するステップと;
(ii)(c)ステップ(ii)(b)のラセミアルコールをティピファニブのラセミ混合物に変換するステップと;
(iii)(a)キラル分割剤の存在下で、ステップ(ii)(c)のティピファニブのラセミ混合物からティピファニブの所望される鏡像異性体を結晶化させるステップと;
(iii)(b)ステップ(iii)(a)の母液からティピファニブの所望される鏡像異性体の結晶を分離するステップと;
(iv)ステップ(i)における出発材料として使用されることとなるステップ(iii)(b)の母液を再利用するステップと
を含む前記方法。
【請求項59】
ティピファニブの所望される鏡像異性体を調製するための方法であって、
(i)ティピファニブのラセミ混合物を調製するステップと;
(ii)キラル分割剤の存在下で、ステップ(i)のティピファニブのラセミ混合物からティピファニブの所望される鏡像異性体を結晶化させるステップと;
(iii)母液からティピファニブの所望される鏡像異性体の結晶を分離するステップと;
(iv)ステップ(iii)からの母液中のあらゆる残存するティピファニブを、式(II)のラセミアルコール
【化4】
に変換するステップと;
(v)ステップ(iv)のラセミアルコールを、ティピファニブのラセミ混合物に変換するステップと;
(vi)ステップ(v)のティピファニブのラセミ混合物をステップ(i)に戻して再利用するステップと
を含む前記方法。
【請求項60】
式(IV)の鏡像異性的に濃縮されたアミンを変換するための方法であって、
(i)式(IV)の鏡像異性的に濃縮されたアミン又はその塩を、アセトンと水との20℃の4:1混合物中で亜硝酸ナトリウムと反応させて、生成物混合物をもたらすことと;
(ii)該生成物混合物のpHを、水酸化ナトリウムで、約10に調整することと;
(iii)該生成物混合物を酢酸イソプロピルで抽出することと;
(iv)1.5当量の濃塩酸を添加することと;
(v)結晶化によって式(IIa)のラセミアルコールを回収することとを含む前記方法
【化5】
【請求項61】
式(IV)の鏡像異性的に濃縮されたアミンを変換するための方法であって、
(i)式(IV)の鏡像異性的に濃縮されたアミン又はその塩を、メチルエチルケトンと水との76℃の2:1混合物中で加熱して、生成物混合物をもたらすことと;
(ii)該生成物混合物のpHを、水酸化ナトリウムで、約8に調整することと;
(iii)該生成物混合物を酢酸イソプロピルで抽出することと;
(iv)濃塩酸を添加することと;
(v)結晶化によって式(IIa)のラセミアルコールを回収することと
を含む前記方法
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(I.分野)
本明細書で提供されるのは、それ以外にはティピファニブとして公知の6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノンの所望される鏡像異性体を調製するための方法である。
【背景技術】
【0002】
(II.背景)
ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤は、Rasタンパク質の主要な翻訳後修飾を阻止し、したがって、原形質膜の内側表面へのRasタンパク質の局在化、及びそれに続く下流エフェクターの活性化を妨げる。ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤は、最初は、癌におけるRasを標的にするための戦略として開発されたが、その後、GTP結合タンパク質、キナーゼ、セントロメア結合タンパク質、及びおそらく他のファルネシル化されたタンパク質を伴う、Rasの範囲を超える可能性がある、追加のより複雑な機構によって作用するものと認識されている。
【0003】
記載されてきたある特定のファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤は、それ以外にはR115777又は(R)-(+)-ティピファニブとして公知の(R)-(+)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノンである。その開示の全体が参照によって本明細書に組み込まれるWO 97/21701を参照のこと。(R)-(+)-ティピファニブは、ファルネシルトランスフェラーゼの強力且つ選択的且つ経口的に生体利用可能な阻害剤である。これは、臨床開発中であると現在報告されているファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤の最も進歩したものの1つであり、第III相研究に進んでいる薬剤の1つである。
【0004】
(R)-(+)-ティピファニブは、新生物疾患に対する非常に強力な活性を有することが判明している。固形腫瘍における、並びに血液系腫瘍における抗新生物活性が観察されている。
【0005】
元々はWO 97/21701に記載されていた(R)-(+)-ティピファニブの合成を、スキーム1に示す。
スキーム1
【化1】
【0006】
この合成では、ティピファニブは、最初にラセミ体として合成される(ステップ3)。次いで、鏡像異性体が分離されて、(R)-(+)-ティピファニブが与えられるが、わずか32.5%の収率である。
【0007】
先に記載した手法では、ラセミ体の分割に基づく方法の特徴的な欠点が強調される。すなわち、所望されない(S)-(-)-鏡像異性体は廃棄され、低い収率及びさらなる製造コストがもたらされる。したがって、(R)-(+)-ティピファニブを合成する改良された方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
(III.概要)
本明細書で提供されるのは、それ以外にはティピファニブとして公知の6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノンの所望される鏡像異性体を調製するための方法である。一実施態様は、ラセミ体ティピファニブを合成し、ラセミ体から所望される鏡像異性体を晶出させ、母液から所望される鏡像異性体の結晶を分離し、母液中の所望されない鏡像異性体をラセミ化及び再利用することを含む。
【0009】
一実施態様を、スキーム2にまとめて表す。スキーム2は、ティピファニブのラセミ合成、ティピファニブのラセミ混合物を分割するための結晶化、並びに母液をラセミ合成における中間段階に戻すラセミ化及び再利用を利用する、(R)-(+)-ティピファニブの調製のための合成スキームである。
スキーム2
【化2】
【0010】
スキーム3に概説する別の実施態様では、母液(VIb)をラセミ合成における中間段階に戻して再利用するための代替合成手順が利用される。
スキーム3
【化3】
【発明を実施するための形態】
【0011】
(IV.詳細な説明)
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術及び科学用語は、当分野の技術者によって共通に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に引用されたすべての刊行物及び特許の全体を、参照によって本明細書に組み込む。
【0012】
(A.定義)
以下に提供する用語法の説明は、本明細書で使用される場合の且つ他に指定されない限りの用語に適用される。
【0013】
用語「立体化学式」とは、それ自体としての又は投影図における分子の3次元図をいう。一対の立体化学式は、単なる平行移動及び剛体回転のみによって一致することができる場合、「重ね合わせ可能」である。
【0014】
用語「キラリティー」とは、その鏡像に対して重ね合わせ不可能であるという、原子の空間配置などの剛体の幾何学的特性をいう。剛体が、その鏡像に対して重ね合わせ可能であるならば、その剛体は、アキラルであると記載される。
【0015】
用語「鏡像異性体」とは、互いに鏡像であり且つ重ね合わせ不可能である、一対の分子的実体の一方をいう。
【0016】
用語「光学活性」とは、材料のサンプルが、透過される平面偏光の放射の偏光面を回転させる能力をいう。この旋光性は、不均等な量の対応する鏡像異性体を含有する系の特徴を識別するのに十分ではあるが必須ではない。特定の条件下で、接近する光線に向かう方向で見た場合に時計回り方向の回転を引き起こす鏡像異性体は、右旋性と呼ばれ、その化学名又は式は、接頭辞(+)で表され;反対方向の回転を引き起こすものは、左旋性であり、接頭辞(-)で表される。
【0017】
鏡像異性体は、カーン・インゴルド・プレローグ順位則(Cahn-Ingold-Prelog priority rule)、すなわち、R. S. Cahn、C. K. Ingold、及びV. Prelogらの文献「Angew. Chem. 78, 413-447(1966)」、「Angew. Chem. Internat. Ed. Eng. 5, 385-415, 511(1966)」;並びにV. Prelog及びG. Helmchenの文献「Angew. Chem. 94, 614-631(1982)」、「Angew. Chem. Internat. Ed. Eng.21, 567-583(1982)」に掲載されている権威ある記述の適用によって推定される接頭辞(R)又は(S)で表すこともできる。
【0018】
用語「エナンチオピュアな」又は「鏡像異性的に純粋」とは、その分子のすべてが検出限界内で同じキラリティー方向を有するサンプルをいう。
【0019】
用語「ラセミ混合物」又は「ラセミ体」とは、一対の鏡像異性体の等モルの混合物をいう。ラセミ混合物は、光学活性を呈さない。
【0020】
用語「鏡像体過剰の」とは、組成物中の2つの対立する鏡像異性体のモル分率の差をいう。鏡像体過剰は、しばしば、パーセンテージとして表される。
【0021】
用語「酸」とは、ブレンステッド酸とルイス酸の両方をいう。ブレンステッド酸は、ヒドロンをブレンステッド塩基に供与する能力がある分子的実体である。ルイス酸は、電子対受容体であり、したがってルイス塩基によって与えられる電子対を共有することによって、ルイス塩基と反応してルイス付加物を形成することが可能である、分子的実体である。
【0022】
用語「塩基」とは、ブレンステッド塩基とルイス塩基の両方をいう。ブレンステッド塩基は、ヒドロンをブレンステッド酸から受容する能力がある分子的実体である。ルイス塩基は、一対の電子を提供することが可能であり、したがって、ルイス酸への配位、それによってルイス付加物を生じる能力がある、分子的実体である。
【0023】
用語「ヒドロン」は、水素実体の核の質量にかかわらず使用される、陽イオンH+についての一般名である。
【0024】
用語「塩」とは、陽イオンと陰イオンとの集合(assembly)からなる化学的複合体をいう。
【0025】
用語「キラル分割剤」とは、鏡像異性体の混合物を、通常、十分に結晶化しているジアステレオマー塩の形成によって、ジアステレオマーに転換するために使用される試薬をいう。
【0026】
用語「溶媒」とは、溶質がそれに溶解して溶液を形成する液体をいう。
【0027】
用語「混和性」とは、混合物が単相を形成する能力をいう。混和性は、ある種の範囲の温度、圧力、及び組成物に限定される可能性がある。
【0028】
用語「プロセス」及び「方法」は、化合物調製のための本明細書に開示した方法をいうために互換的に使用される。当業者に周知である、本明細書に開示したプロセス及び方法(例えば、出発材料、試薬、保護基、溶媒、温度、反応時間、及び/又は精製)に対する改変も、本開示に包含される。
【0029】
用語「分割」、「光学分割」、又は「キラル分割」は、ラセミ混合物がそれによってその2つの構成要素である鏡像異性体に分離されるあらゆるプロセスをいうために互換的に使用される。
【0030】
用語「結晶化」とは、一般に温度を下げることによる又は溶媒の蒸発による、溶液、融解物、蒸気、又は別の固相からの、結晶性固体の形成をいう。
【0031】
用語「母液」とは、溶液からの結晶化後に残されている溶液の部分をいう。これは、形成された結晶を濾過して取り除くことによって得られる液体である。
【0032】
用語「抽出」とは、物質を、いずれかの基質から適切な液相に移すプロセスをいう。より具体的には、これは、溶質を、液相から、それと接触する別の非混和性の又は部分的に混和性の液相に移すプロセスである液液抽出をいう。
【0033】
用語「反応させること」は、ある反応物、試薬、溶媒、触媒、又は反応性の基を、別の反応物、試薬、溶媒、触媒、又は反応性の基と接触させることを指すために使用される。他に指定されない限り、反応物、試薬、溶媒、触媒、及び反応性の基は、個々に、同時に、又は別々に添加することができ、及び/又は任意の順序で添加することができる。これらは、加熱の存在又は非存在下で添加することができ、場合によっては、不活性雰囲気(例えば、N2又はAr)中で添加することができる。ある種の実施態様では、用語「反応させること」はまた、インサイチュー形成、又は反応性の基が同じ分子内にある分子内反応を指すこともできる。
【0034】
用語「約」又は「およそ」は、当業者によって決定される特定の値についての許容できる誤差を意味し、これは、値がどのように測定又は決定されたかということに、ある程度依存する。ある種の実施態様では、用語「約」又は「およそ」は、1、2、3、又は4標準偏差内を意味する。ある種の実施態様では、用語「約」又は「およそ」は、所与の値又は範囲の50%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、又は0.05%以内を意味する。
【0035】
用語「化合物」には、塩、溶媒和物(例えば水和物)、共結晶、及びその多形体が含まれる。
【0036】
用語「溶媒和物」とは、化学量論又は非化学量論量で存在する、溶質の1以上の分子、例えば本明細書で提供される化合物と、溶媒の1以上の分子とによって形成される複合体又は集合体をいう。好適な溶媒には、限定はされないが、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、及び酢酸が含まれる。ある種の実施態様では、溶媒は、医薬として許容し得るものである。一実施態様では、複合体又は集合体は、結晶形態である。別の実施態様では、複合体又は集合体は、非結晶形態である。溶媒が水である場合、溶媒和物は水和物である。水和物の例としては、限定はされないが、半水和物、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物、及び五水和物が挙げられる。
【0037】
用語「多形体」とは、固体結晶形態の化合物又はその複合体をいう。同じ化合物の異なる多形体が、異なる物理的、化学的、及び分光学的特性を呈する可能性がある。
【0038】
構造又はその部分の立体構造が、(例えば太線又は破線を用いて)示されないならば、構造又はその部分は、その構造のすべての立体異性体を包含すると解釈されるべきである。
【0039】
(B.調製の方法)
ある種の実施態様では、本明細書で提供されるのは、ティピファニブの所望される鏡像異性体を調製するための方法であって、(i)所望される鏡像異性体においてエナンチオピュアではないティピファニブを含む出発材料を得るステップと;(ii)ステップ(i)からの出発材料をティピファニブのラセミ混合物に変換するステップと;(iiii)ステップ(ii)のティピファニブのラセミ混合物から、ティピファニブの所望される鏡像異性体を回収するステップとを含む前記方法である。一実施態様では、この方法は、スキーム2に示される。一実施態様では、この方法は、スキーム3に示される。
【0040】
一実施態様では、ティピファニブの所望される鏡像異性体は、(R)-(+)-ティピファニブである。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、ティピファニブの所望される鏡像異性体は、(R)-(+)-ティピファニブである。スキーム3に示される通りの別の実施態様では、ティピファニブの所望される鏡像異性体は、(R)-(+)-ティピファニブである。
【0041】
ある種の実施態様では、ステップ(i)の出発材料は、結晶化プロセス由来の母液を含む。ある種の実施態様では、ステップ(i)の出発材料は、ティピファニブの鏡像体過剰の所望されない鏡像異性体を含む。一実施態様では、ティピファニブの所望されない鏡像異性体は、(S)-(-)-ティピファニブである。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、ティピファニブの所望されない鏡像異性体は、(S)-(-)-ティピファニブである。スキーム3に示される通りの別の実施態様では、ティピファニブの所望されない鏡像異性体は、(S)-(-)-ティピファニブである。
【0042】
ある種の実施態様では、ステップ(i)の出発材料は、酸を用いて形成されるティピファニブの塩を含む。ある種の実施態様では、酸は、エナンチオピュアなキラルな有機酸である。ある種の実施態様では、酸は、キラル分割剤である。一実施態様では、酸は、(-)-ジベンゾイル-L-酒石酸である。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、酸は、(-)-ジベンゾイル-L-酒石酸である。スキーム3に示される通りの別の実施態様では、酸は、(-)-ジベンゾイル-L-酒石酸である。
【0043】
ある種の実施態様では、出発材料をティピファニブのラセミ混合物に変換するステップ(ii)は、(ii)(a)出発材料を反応溶媒中で亜硝酸ナトリウムと反応させて、生成物混合物(product mixture)を与えるステップと;(ii)(b)ステップ(ii)(a)の生成物混合物から式(II)のラセミアルコールを回収するステップと;(ii)(c)ステップ(ii)(b)のラセミアルコールをティピファニブのラセミ混合物に変換するステップとを含む。一実施態様では、このステップは、スキーム2に示される。
【0044】
ある種の実施態様では、出発材料をティピファニブのラセミ混合物に変換するステップ(ii)は、(ii)(a)出発材料を水性の反応溶媒中で加熱して、生成物混合物を与えるステップと;(ii)(b)ステップ(ii)(a)の生成物混合物から式(II)又は(IIa)のラセミアルコールを回収するステップと;(ii)(c)ステップ(ii)(b)のラセミアルコールを式(IV)のティピファニブのラセミ混合物に変換するステップとを含む。一実施態様では、このステップは、スキーム3に示される。
【0045】
ある種の実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応溶媒は、有機溶媒、水、又はそれらの混合物である。一実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応溶媒は、有機溶媒と水との混合物である。ある種の実施態様では、この混合物は、20:1から3.5:1までの範囲の有機溶媒と水との体積比を有する。別の実施態様では、有機溶媒と水との体積比は、4:1である。スキーム2に示される通りの一実施態様では、有機溶媒と水との体積比は、4:1である。ある種の実施態様では、この混合物は、6:1から2:1までの範囲の有機溶媒と水との体積比を有する。一実施態様では、有機溶媒と水との体積比は、2:1である。スキーム3に示される通りの別の実施態様では、有機溶媒と水との体積比は、2:1である。
【0046】
ある種の実施態様では、有機溶媒は、水との混和性がある。いくつかの実施態様では、有機溶媒は、アセトン、アセトニトリル、メタノール、tert-アミルアルコール、又はそれらの混合物である。一実施態様では、有機溶媒は、アセトンである。別の実施態様では、有機溶媒は、アセトニトリルである。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、有機溶媒は、アセトンである。いくつかの実施態様では、有機溶媒は、アセトニトリル、メチルエチルケトン、アセトン、DMF、又はそれらの混合物である。一実施態様では、有機溶媒は、メチルエチルケトンである。スキーム3に示される通りの一実施態様では、有機溶媒は、メチルエチルケトンである。
【0047】
ある種の実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、約20℃から約75℃までの範囲の温度で行われる。一実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、約20℃の温度で行われる。別の実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、約20℃の温度で行われる。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、この反応は、20℃の温度で行われる。ある種の実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、約60℃から約80℃までの範囲の温度で行われる。一実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、約80℃の温度で行われる。別の実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、約76℃の温度で行われる。スキーム3に示される通りの別の実施態様では、この反応は、約76℃の温度で行われる。
【0048】
ある種の実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、添加剤の存在下で行われる。ある種の実施態様では、添加剤は、酸である。一実施態様では、酸は、硫酸である。別の実施態様では、酸は、塩酸である。別の実施態様では、酸は、50%硫酸である。別の実施態様では、酸は、37%塩酸である。
【0049】
ある種の実施態様では、ステップ(ii)(b)は、塩の形態の式(II)のラセミアルコールを回収する。一実施態様では、ステップ(ii)(b)は、塩酸塩の形態の式(II)のラセミアルコールを回収する。別の実施態様では、ステップ(ii)(b)は、式(IIa)の塩を回収する。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、式(IIa)の塩が回収される。スキーム3に示される通りの別の実施態様では、式(IIa)の塩が回収される。
【0050】
ある種の実施態様では、ステップ(ii)(a)の生成物混合物から式(II)のラセミアルコールを回収するステップ(ii)(b)は、生成物混合物のpHを塩基で調整するステップと;この生成物混合物を抽出溶媒で抽出するステップと;式(II)のラセミアルコールを結晶化させるステップとを含む。
【0051】
ある種の実施態様では、生成物混合物のpHは、約5から約10までの範囲に調整される。一実施態様では、生成物混合物のpHは、約10に調整される。一実施態様では、生成物混合物のpHは、約8に調整される。別の実施態様では、生成物混合物のpHは、10に調整される。
【0052】
ある種の実施態様では、塩基は、水酸化ナトリウム又は水酸化アンモニウムである。一実施態様では、塩基は、水酸化ナトリウムである。別の実施態様では、塩基は、10%水酸化ナトリウム水溶液である。
【0053】
ある種の実施態様では、抽出溶媒は、酢酸イソプロピル又は2-メチルテトラヒドロフランである。一実施態様では、抽出溶媒は、酢酸イソプロピルである。
【0054】
ある種の実施態様では、ラセミアルコールは、塩酸塩として結晶化される。スキーム2に示される通りの一実施態様では、ラセミアルコールは、式(IIa)の塩酸塩として結晶化される。スキーム3に示される通りの別の実施態様では、ラセミアルコールは、式(IIa)の塩酸塩として結晶化される。
【0055】
ある種の実施態様では、出発材料をティピファニブのラセミ混合物に変換するステップ(ii)は、(ii)(a)出発材料を反応溶媒中で亜硝酸ナトリウムと反応させて、生成物混合物を与えるステップと;(ii)(b)ステップ(ii)(a)の生成物混合物から式(II)のラセミアルコールを回収するステップと;(ii)(c)ステップ(ii)(b)のラセミアルコールをティピファニブのラセミ混合物に変換するステップとを含む。一実施態様では、このステップは、スキーム2に示される。
【0056】
ある種の実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応溶媒は、有機溶媒、水、又はそれらの混合物である。一実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応溶媒は、有機溶媒と水との混合物である。ある種の実施態様では、この混合物は、20:1から3.5:1までの範囲の有機溶媒と水との体積比を有する。別の実施態様では、有機溶媒と水との体積比は、4:1である。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、有機溶媒と水との体積比は、4:1である。
【0057】
ある種の実施態様では、有機溶媒は、水との混和性がある。いくつかの実施態様では、有機溶媒は、アセトン、アセトニトリル、メタノール、tert-アミルアルコール、又はそれらの混合物である。一実施態様では、有機溶媒は、アセトンである。別の実施態様では、有機溶媒は、アセトニトリルである。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、有機溶媒は、アセトンである。
【0058】
ある種の実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、約20℃から約75℃までの範囲の温度で行われる。一実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、約20℃の温度で行われる。別の実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、約20℃の温度で行われる。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、この反応は、20℃の温度で行われる。
【0059】
ある種の実施態様では、ステップ(ii)(a)の反応は、添加剤の存在下で行われる。ある種の実施態様では、添加剤は、酸である。一実施態様では、酸は、硫酸である。別の実施態様では、酸は、塩酸である。別の実施態様では、酸は、50%硫酸である。別の実施態様では、酸は、37%塩酸である。
【0060】
ある種の実施態様では、ステップ(ii)(b)は、塩の形態の式(II)のラセミアルコールを回収する。一実施態様では、ステップ(ii)(b)は、塩酸塩の形態の式(II)のラセミアルコールを回収する。別の実施態様では、ステップ(ii)(b)は、式(IIa)の塩を回収する。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、式(IIa)の塩が回収される。
【0061】
ある種の実施態様では、ステップ(ii)(a)の生成物混合物から式(II)のラセミアルコールを回収するステップ(ii)(b)は、生成物混合物のpHを塩基で調整するステップと;この生成物混合物を抽出溶媒で抽出するステップと;式(II)のラセミアルコールを結晶化させるステップとを含む。
【0062】
ある種の実施態様では、生成物混合物のpHは、約5から約10までの範囲に調整される。一実施態様では、生成物混合物のpHは、約10に調整される。別の実施態様では、生成物混合物のpHは、10に調整される。
【0063】
ある種の実施態様では、塩基は、水酸化ナトリウム又は水酸化アンモニウムである。一実施態様では、塩基は、水酸化ナトリウムである。別の実施態様では、塩基は、10%水酸化ナトリウム水溶液である。
【0064】
ある種の実施態様では、抽出溶媒は、酢酸イソプロピル又は2-メチルテトラヒドロフランである。一実施態様では、抽出溶媒は、酢酸イソプロピルである。
【0065】
ある種の実施態様では、ラセミアルコールは、塩酸塩として結晶化される。スキーム2に示される通りの一実施態様では、ラセミアルコールの塩酸塩(IIa)が結晶化される。
【0066】
ある種の実施態様では、ラセミ混合物からティピファニブの所望される鏡像異性体を回収するステップ(iii)は、(iii)(a)キラル分割剤の存在下で、ティピファニブのラセミ混合物からティピファニブの所望される鏡像異性体を結晶化させることと;(iii)(b)母液からティピファニブの所望される鏡像異性体の結晶を分離することとを含む。一実施態様では、このステップは、スキーム2に示される。別の実施態様では、このステップは、スキーム3に示される。
【0067】
ある種の実施態様では、ステップ(iii)(a)のキラル分割剤は、エナンチオピュアなキラルな有機酸である。一実施態様では、ステップ(iii)(a)のキラル分割剤は、(-)-ジベンゾイル-L-酒石酸である。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、ステップ(iii)(a)のキラル分割剤は、(-)-ジベンゾイル-L-酒石酸である。スキーム3に示される通りの別の実施態様では、ステップ(iii)(a)のキラル分割剤は、(-)-ジベンゾイル-L-酒石酸である。
【0068】
ある種の実施態様では、ステップ(iii)(a)の母液は、ティピファニブの鏡像体過剰の所望されない鏡像異性体を含む。一実施態様では、ティピファニブの所望されない鏡像異性体は、(S)-(-)-ティピファニブである。スキーム2に示される通りの別の実施態様では、ティピファニブの所望されない鏡像異性体は、(S)-(-)-ティピファニブである。スキーム3に示される通りの別の実施態様では、ティピファニブの所望されない鏡像異性体は、(S)-(-)-ティピファニブである。
【0069】
ある種の実施態様では、この方法は、(iv)ステップ(i)における出発材料として使用されることとなるステップ(iii)(b)の母液を再利用することをさらに含む。ある種の実施態様では、ステップ(i)から(iv)は、複数サイクル実行することができる。一実施態様では、この方法は、スキーム2に示される。別の実施態様では、この方法は、スキーム3に示される。
【0070】
ある種の実施態様では、本明細書で提供されるのは、ティピファニブの所望される鏡像異性体を調製するための方法であって、(i)所望される鏡像異性体においてエナンチオピュアではないティピファニブを含む出発材料を得るステップと;(ii)(a)出発材料を亜硝酸ナトリウムと反応させて、生成物混合物を与えるステップと;(ii)(b)ステップ(ii)(a)の生成物混合物から式(II)のラセミアルコールを回収するステップと;(ii)(c)ステップ(ii)(b)のラセミアルコールをティピファニブのラセミ混合物に変換するステップと;(iii)(a)キラル分割剤の存在下で、ステップ(ii)(c)のティピファニブのラセミ混合物からティピファニブの所望される鏡像異性体を結晶化させるステップと;(iii)(b)ステップ(iii)(a)の母液からティピファニブの所望される鏡像異性体の結晶を分離するステップと;(iv)ステップ(i)における出発材料として使用されることとなるステップ(iii)(b)の母液を再利用するステップとを含む前記方法である。一実施態様では、この方法は、スキーム2に示される。
【0071】
ある種の実施態様では、本明細書で提供されるのは、ティピファニブの所望される鏡像異性体を調製するための方法であって、(i)ティピファニブのラセミ混合物を調製するステップと;(ii)キラル分割剤の存在下で、ステップ(i)のティピファニブのラセミ混合物からティピファニブの所望される鏡像異性体を結晶化させるステップと;(iii)母液からティピファニブの所望される鏡像異性体の結晶を分離するステップと;(iv)ステップ(iii)からの母液中のあらゆる残存するティピファニブを、式(II)のラセミアルコールに変換するステップと;(v)ステップ(iv)のラセミアルコールを、ティピファニブのラセミ混合物に変換するステップと;(vi)ステップ(v)のティピファニブのラセミ混合物をステップ(i)に戻して再利用するステップとを含む前記方法である。一実施態様では、この方法は、スキーム2に示される。一実施態様では、この方法は、スキーム3に示される。
【0072】
ある種の実施態様では、本明細書で提供されるのは、式(IV)の鏡像異性的に濃縮されたアミンを変換するための方法であって、(i)式(IV)の鏡像異性的に濃縮されたアミン又はその塩を、アセトンと水との20℃の4:1混合物中で亜硝酸ナトリウムと反応させて、生成物混合物をもたらすことと;(ii)生成物混合物のpHを、水酸化ナトリウムで、約10に調整することと;(iii)生成物混合物を酢酸イソプロピルで抽出することと;(iv)1.5当量の濃塩酸を添加することと;(v)結晶化によって式(IIa)のラセミアルコールを回収することとを含む前記方法である。一実施態様では、本明細書で提供される方法は、式(VII)の主な不純物の形成を抑制する。別の実施態様では、この方法は、スキーム2に示される。
【化4】
【0073】
ある種の実施態様では、本明細書で提供されるのは、式(IV)の鏡像異性的に濃縮されたアミンを変換するための方法であって、(i)式(IV)の鏡像異性的に濃縮されたアミン又はその塩を、メチルエチルケトンと水との76℃の2:1混合物中で加熱して、生成物混合物をもたらすことと;(ii)生成物混合物のpHを、水酸化ナトリウムで、約8に調整することと;(iii)生成物混合物を酢酸イソプロピルで抽出することと;(iv)濃塩酸を添加することと;(v)結晶化によって式(IIa)のラセミアルコールを回収することとを含む前記方法である。一実施態様では、この方法は、スキーム3に示される。
【実施例】
【0074】
(V.実施例)
ある種の実施態様を、次の非限定的な例によって例示する。以下の考察は、本発明のある種の態様を例示するために提供され、本発明の範囲を限定する意図はない。以下の詳細な説明に照らして、これらの実施態様に変更を施すことができる。具体的実施態様を、例示の目的で本明細書に記載してきたが、当業者に明らかである、本開示を実施するための本明細書に記載した様式の種々の改変は、特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。本明細書に引用したすべての刊行物、特許、及び特許出願を、それぞれのこうした刊行物、特許、又は特許出願が、あたかも具体的且つ個々に参照によって本明細書に組み込まれることが示されるかのように、参照によって本明細書に組み込む。
【0075】
以下、「eq.」又は「X」は当量(1又は複数)を意味し;「h」は時間(1又は複数)を意味し;「IPC」は工程内管理(in process control)を意味し;「N.D.」は検出されないことを意味し;「RT」は保持時間を意味し;「temp.」は温度を意味し;「V」は体積(1又は複数)を意味する。
【0076】
(実施例A1)
((±)-4-(3-クロロフェニル)-6-[(4-クロロフェニル)ヒドロキシ(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-1-メチル-2(1H)-キノリノン一塩酸塩(IIa)の合成)
スキーム2に例示した通り、6-(4-クロロベンゾイル)-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(I)から(±)-4-(3-クロロフェニル)-6-[(4-クロロフェニル)ヒドロキシ(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-1-メチル-2(1H)-キノリノン一塩酸塩(IIa)への変換は、2つの連続的ステップから構成される。
【0077】
第1のステップは、溶媒としてテトラヒドロフランを使用する、n-ブチルリチウム(23%ヘキサン中)及びクロロトリエチルシランの存在下での、6-(4-クロロベンゾイル)-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(I)と1-メチル-イミダゾールとの縮合であった。反応の完了後、反応混合物を、水で希釈し、酢酸で中和した。層の分離後、有機層に水を添加し、これを水酸化ナトリウムで中和した。層を分離し、有機層を蒸発させた。
【0078】
第2のステップでは、残渣を2-プロパノンで希釈した。塩酸の添加によって、塩酸塩(IIa)の形成を実施した。この生成物を結晶化させた。沈殿を単離し、2-プロパノンで洗浄し、乾燥させた。
【0079】
具体的には、塩酸塩(IIa)は、次の通りに調製した:
【0080】
1. 反応器に、最低1.7Lのテトラヒドロフラン及び1.75モルの1-メチルイミダゾールを装入し、撹拌し、冷却する。
【0081】
2. 0.11kg n-ブチルリチウム(23%ヘキサン中)(1.75モル)を添加し、撹拌する。
【0082】
3. 0.27kgクロロトリエチルシラン(1.8モル)を添加し、撹拌する。
【0083】
4. -75℃から-68℃の0.10kg n-ブチルリチウム(23%ヘキサン中)(1.55モル)を添加し、撹拌する。
【0084】
5. 別の反応器に、1モルのケトン(I)と最低2Lのテトラヒドロフランを装入する。
【0085】
6. ケトン(I)が完全に溶解するまで撹拌及び加熱する。
【0086】
7. 冷却し、この溶液を、温度を-75℃から-68℃に維持しながらステップ4の反応混合物に添加し、撹拌する。
【0087】
8. 水を添加し、撹拌する。
【0088】
9. 氷酢酸を添加し、撹拌する。
【0089】
10. 層を沈降させる。層を分離する。水層を捨てる。
【0090】
11. 有機層に水と29%水酸化ナトリウムを添加し、撹拌する。
【0091】
12. 層を沈降させる。層を分離する。水層を捨てる。
【0092】
13. 有機層を蒸発させる。
【0093】
14. 2-プロパノンを添加し、蒸発させる。
【0094】
15. ステップ14を2回繰り返す。
【0095】
16. 蒸発させた残渣に最低4Lの2-プロパノンを添加し、撹拌し、冷却する。
【0096】
17. 塩酸を添加し、撹拌する。
【0097】
18. 沈殿を遠心分離し、この生成物を2-プロパノンで洗浄する。
【0098】
19. この生成物を、好適な乾燥ユニット中で乾燥させる。
【0099】
先に記載したプロセスを、549から822モルのケトン(I)に適合させるようにスケール変更した。このプロセスは、45〜69%のアルコール(IIa)をもたらした。
【0100】
(実施例A2)
((±)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(IV)の合成)
スキーム2に例示した通り、(±)-4-(3-クロロフェニル)-6-[(4-クロロフェニル)ヒドロキシ(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-1-メチル-2(1H)-キノリノン一塩酸塩(IIa)から(±)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(IV)への変換は、2つの連続的ステップから構成される。
【0101】
第1のステップは、溶媒としての1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン中での、塩化チオニルでのアルコール(IIa)の塩素化であった。
【0102】
第2のステップは、アンモニアのメタノール溶液を使用する、インサイチューの中間体クロライド(III)(スキーム2に示されない)の、アミン(IV)へのアミノ化であった。生成物を、水の添加によって結晶化させた。沈殿を単離し、水で洗浄し、乾燥させた。
【0103】
具体的には、アミン(IV)は、次の通りに調製した:
【0104】
1. 反応器に、2Lの1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと1モルの塩酸塩(IIa)を装入し、撹拌する。
【0105】
2. 温度を45℃未満に維持しながら、最低0.26kgの塩化チオニル(2.2モル)を添加する。
【0106】
3. 20〜45℃で、少なくとも3時間撹拌する。
【0107】
4. 別の反応器に、最低1.71Lのアンモニア(メタノール中)(12モル)を装入し、撹拌し、冷却する。
【0108】
5. 温度を45℃未満に維持しながら、ステップ3からの反応混合物を添加する。
【0109】
6. 12〜45℃で、少なくとも15時間撹拌する。
【0110】
7. 最大5Lの水を添加し、撹拌する。
【0111】
8. 生成物を遠心分離し、各遠心荷重物(centrifuge load)を水で洗浄する。
【0112】
9. この生成物を、好適な乾燥ユニット中で乾燥させる。
【0113】
先に記載したプロセスを、480から720モルのアルコール(IIa)に適合させるようにスケール変更した。このプロセスは、65〜85%のアミン(IV)をもたらした。
【0114】
(実施例A3)
([R-(R*,R*)]-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)ブタン二酸(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(2:3)(VIa)の合成)
スキーム2に例示した通り、(±)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(IV)から[R-(R*,R*)]-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)ブタン二酸(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(2:3)(VIa)への変換は、溶媒として2-プロパノンを使用する、[R-(R*,R*)]-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)-ブタン二酸一水和物を用いるアミン(IV)の[R-(R*,R*)]-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)-ブタン二酸塩の形成から構成されていた。生成物を単離し、2-プロパノンで洗浄し、乾燥させた。
【0115】
具体的には、塩(VIa)は、次の通りに調製した:
【0116】
1. 反応器に、最低3.6Lの2-プロパノンと、1モルのアミン(IV)と、最低2.8 モルの[R-(R*,R*)]-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)ブタン二酸一水和物を装入し、25℃の最大温度で撹拌する。
【0117】
2. 生成物を遠心分離し、各遠心荷重物を2-プロパノンで洗浄する。
【0118】
3. 母液(VIb)として濾液を収集した。
【0119】
4. 生成物を、好適な乾燥ユニット中で乾燥させる。
【0120】
先に記載したプロセスを、460から1255モルのアミン(IV)に適合させるようにスケール変更した。このプロセスは、27〜37%の塩(VIa)をもたらした。
【0121】
(実施例A4)
(「未精製の」(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(V)の合成)
スキーム2に例示した通り、[R-(R*,R*)]-2,3-ビス (ベンゾイルオキシ)ブタン二酸(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(2:3) (VIa)から「未精製の」(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(V)への変換は、溶媒として水とエタノールの混合物を使用する、水酸化アンモニウムを用いる塩(VIa)の塩基の遊離から構成されていた。生成物を、冷却することによって結晶化させた。沈殿を単離し、水で洗浄し、乾燥させた。
【0122】
具体的には、「未精製の」(R)-(+)-ティピファニブ(V)は、次の通りに調製した:
【0123】
1. 反応器に、変性無水エタノールと1モルの塩(VIa)を装入し、撹拌する。
【0124】
2. 水酸化アンモニウムを添加する。
【0125】
3. 水を添加し、還流まで加熱し、最大150分還流させる。
【0126】
4. 冷却し、撹拌する。
【0127】
5. 生成物を遠心分離し、各遠心荷重物を水で洗浄する。
【0128】
6. この生成物を、好適な乾燥ユニット中で乾燥させる。
【0129】
先に記載したプロセスを、147から706モルの塩(VIa)に適合させるようにスケール変更した。このプロセスは、70〜95%の「未精製の」(V)をもたらした。
【0130】
(実施例A5)
(「粉砕されていない」(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(V)の合成)
スキーム2に例示した通り、「未精製の」(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(V)を、エタノールに溶解し、活性炭で処理した。滴虫土(infusorial earth)を通した濾過後、反応混合物を、ある程度まで蒸発させた。生成物を、冷却することによって結晶化させた。沈殿を単離し、エタノールで洗浄した。この湿った生成物を、再びエタノールに溶解し、活性炭で処理した。滴虫土を通した濾過後、反応混合物を、ある程度まで蒸発させた。この生成物を、冷却することによって結晶化させた。沈殿を単離し、エタノールで洗浄し、乾燥させた。
【0131】
具体的には、「粉砕されていない」(R)-(+)-ティピファニブ(V)は、次の通りに調製した:
【0132】
1. 反応器に、変性無水エタノール、1モルの未精製の(V)、最低12.5gの活性炭(norit A supra型)、滴虫土を装入し、撹拌する。
【0133】
2. 還流まで加熱し、撹拌しながら還流させる。
【0134】
3. 反応混合物を濾過して別の反応器に入れ、フィルターを変性無水エタノールで洗浄し、撹拌し、最大24時間という時間をかけて、最大5.72Lの溶媒を蒸発させる。
【0135】
4. 冷却し、撹拌する。
【0136】
5. 生成物を遠心分離し、各遠心荷重物を変性無水エタノールで洗浄する。
【0137】
6. 反応器に、変性無水エタノール、ステップ5からの湿った生成物、最低12.5gの活性炭(norit A supra型)、滴虫土を装入し、撹拌する。
【0138】
7. 還流まで加熱し、撹拌しながら還流させる。
【0139】
8. 反応混合物を濾過して別の反応器に入れ、フィルターを変性無水エタノールで洗浄し、撹拌し、最大24時間という時間をかけて、最大5.43Lの溶媒を蒸発させる。
【0140】
9. ステップ4及び5を繰り返す。
【0141】
10. この生成物を、乾燥時の喪失≦0.20%w/wの間、好適な乾燥ユニット中で乾燥させる。
【0142】
先に記載したプロセスを、392から588モルの「未精製の」(V)に適合させるようにスケール変更した。このプロセスは、69〜84%の「粉砕されていない」(V)をもたらした。
【0143】
(実施例A6)
((R)-(+)-ティピファニブ(V)の合成)
スキーム2に例示した通り、「粉砕されていない」(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(V)を粉砕し、任意にふるいにかけ、均質化した。
【0144】
粉砕は、半連続的なフロースループロセスであるので、典型的なバッチサイズは存在しなかった。このプロセスは、90%以上の(V)をもたらした。
【0145】
(実施例B1)
(母液の回収に関する実現可能性研究)
母液中の酒石酸ジベンゾイル塩(VIb)の形態の所望されない鏡像異性体を回収する、且つ、所望されない鏡像異性体の塩(VIb)からアルコール(IIa)への変換(スキーム2参照)を実現するために、いくつかの実験を行って、提案される回収及び変換プロセスの実現可能性を研究した。実験の詳細を、表1、2、及び3にまとめて示す。これらの実験は、最初に、所望される鏡像異性体の塩(VIa)を使用して行った。
表1.NaNO2を用いないVIaのラセミ化
【表1】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0146】
実験T1-1では、溶媒として10体積のメタノールと3体積の水を使用し、反応は、40℃及び75℃で行った。実験T1-2では、溶媒として20体積の水を使用した。実験T1-3では、添加剤として0.1mLの濃塩酸を使用した。実験T1-4では、溶媒として1体積の水と20体積のアセトンを使用した。最後の3つの実験T1-2/3/4は、50℃で行った。
【0147】
実験T1-1からのデータは、塩(VIa)からアルコール(II)への転換が実現可能であることを示す。さらに、キラルクロマトグラフィーを用いるアルコール(II)の分析により、キラル中心の完全なラセミ化が実証される。しかし、この反応条件はかなりの量の不純物の形成をもたらす。
【0148】
実験T1-2/3/4からのデータは、亜硝酸ナトリウムを用いないラセミ化が、50℃の酸の助けを借りても、低い転換率を有することを示す。例えば、実験T1-3では、50℃での24時間の撹拌後に、わずか約30%のアルコール(II)しか認められなかった。
【0149】
さらなる実験は、反応転換及び純度プロフィールを向上させるための試みで、酸化剤として亜硝酸ナトリウムを用いた。実験の詳細を、表2にまとめて示す。
表2.NaNO2を用いるVIaのラセミ化
【表2】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0150】
塩(VIa)を使用して5つの実験を行い、反応試薬として1.5当量の亜硝酸ナトリウムを使用した。実験T2-2では、溶媒として、20体積のtert-アミルアルコールと1体積の水を使用した。実験T2-3では、溶媒として、20体積のアセトンと1体積の水を使用した。実験T2-4では、溶媒として、20体積のアセトニトリルと1体積の水を使用した。実験T2-5では、溶媒として、20体積のアセトニトリルと1体積の水を使用し、追加の添加剤として、2.0当量の硫酸を使用した。実験T2-2/3/4/5は、20℃で行った。
【0151】
表2におけるデータが明らかにする通り、亜硝酸ナトリウムは、所望される鏡像異性体塩(VIa)を、20℃という温和な温度でアルコール(II)に転換することができる。特に、実験T2-5におけるほとんどすべての出発材料が、20℃での2時間の撹拌後、アルコール(II)に転換された。さらに、キラルクロマトグラフィーを用いるアルコール(II)の分析により、キラル中心の完全なラセミ化が実証される。
【0152】
さらなる実験は、塩(VIb)を含有する母液を用いて、回収プロセスを直接的に検討した。これらの実験の詳細を、表3にまとめて示す。
表3.NaNO2を用いる母液のラセミ化
【表3】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0153】
実験T3-1では、溶媒として20mLのアセトンと1mLの水を使用した。実験T3-2では、溶媒として20mLのアセトニトリルと1mLの水を使用し、添加剤として2.0当量の硫酸を使用した。これらの実験はどちらも、20℃で行った。
【0154】
表3にまとめて示した通り、ほとんどすべての出発材料が、どちらの実験においても、20℃での18時間の撹拌後、アルコール(II)に転換された。キラルHPLCにより、どちらの実験においても、生成物アルコール(II)がラセミであることが確認された。溶媒としてアセトン又はアセトニトリルを使用することにより、同様の工程内管理結果が与えられた。
【0155】
(実施例B2)
(ラセミ化反応を後処理(work up)するための工程パラメータを検討すること)
反応を後処理するための好適な方法を見つけるために、T2-5からの溶液を使用して、いくつかの実験を行った。これらの実験の詳細を、表4にまとめて示す。ここでは、「DBTA」は、ジベンゾイル酒石酸を指す。
表4.ラセミ化反応を後処理するための工程パラメータ
【表4】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0156】
実験T4-1/2/3では、反応混合物を、2体積の酢酸イソプロピルと1体積の水で希釈し、次いで、10%水酸化ナトリウムで処理して、混合物のpH値を調整した。実験T4-4では、反応混合物を、2体積の酢酸イソプロピルと1体積の水で希釈し、次いで、水酸化アンモニウムで処理して、混合物のpHを約10に調整した。実験T4-5では、反応混合物を、2体積の2-メチルテトラヒドロフランと1体積の水で希釈し、次いで、10%水酸化ナトリウムで処理して、混合物のpHを約10に調整した。
【0157】
表4における実験データから、いくつかの所見を述べることができる。第1に、有機層中に16.70%ものDBTAが残存していることから、pH5は、後処理に適したpH点ではない。約7から約10までのpH値で、良好な分離が得られ、ここでは、有機層中の残留DBTAの量は、酢酸イソプロピルが使用される場合、1%未満である。第2に、水層中のあらゆる残留アルコール(II)は、水層の逆抽出によって回収することができる。最後に、2-メチルテトラヒドロフランを使用することにより、有機層中の3.77%の残留DBTAがもたらされた。
【0158】
これらの実験から、酢酸イソプロピル及び10%水酸化ナトリウムが、後処理手順に最適な材料であり、且つ約10へのpH調整が、DBTAの有効な除去を確実にすることができることが決定される。
【0159】
(実施例B3)
(回収プロセスの最適化)
反応条件をさらに最適化するために、異なる温度で、及び異なる溶媒を用いて、6つの実験を行った。これらの実験の詳細を、表5及び6にまとめて示す。ここでは、「DBTA」は、ジベンゾイル酒石酸を指す。
表5.反応条件の検討
【表5】
【0160】
6つの実験はすべて、大規模製造から得られた母液(VIb)を使用して行った。母液を濃縮し、次いで、この反応混合物に水を装入した。反応の挙動を観察し、表5に記した。次に、この反応混合物に、亜硝酸ナトリウム及び硫酸(必要ならば)を添加し、反応をHPLCによってモニタリングした。
【0161】
実験T5-1では、反応混合物の体積は、反応器の全容量に近かった。水の添加後、反応混合物は透明な溶液であった。しかし、反応中に大量の固体が沈殿した。この反応混合物は、反応の完了後に依然として撹拌することができたが、いくらかの固体が、反応器の内壁に張り付いた。
【0162】
反応器容量を増大させるために、その次の2つの実験は、より小さい体積の溶媒を用いた。実験T5-2では、14体積のアセトンを使用した。実験T5-3では、7体積のアセトンを使用した。どちらの実験でも、大量の固体が沈殿した。特に、14体積の溶媒を使用する実験T5-2では、反応混合物は、はるかに悪い撹拌挙動を呈した。この実験は、水がDBTAを溶解するのに役立つことを示す。
【0163】
実験T5-4は、反応温度を40℃に上昇させることによって撹拌挙動を改善する試みであった。しかし、これは、所望される結果を達成しなかった。
【0164】
実験T5-5では、2体積の水を使用した。反応の完了後も、反応混合物は依然として透明な溶液であり、これは、このプロセスを頑強にすることができた。
【0165】
実験T5-6では、反応溶媒を、2体積の水を伴うアセトニトリルに切り替えた。しかし、反応混合物は、透明な溶液に到達するために約30分間撹拌することを必要としていた。反応混合物は、反応が完了した時に、やはり透明な溶液であった。
【0166】
6つの実験の工程内管理データを、表6に示す。
表6.反応条件の検討
【表6】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0167】
表6における実験結果から、いくつかの所見を述べることができる。第1に、20℃での反応は、18時間の撹拌後に、同様の結果をもたらすが、反応温度を40℃に上げることにより、より低い生成物純度がもたらされる。第2に、より小さい体積の溶媒(したがって、高濃度の反応物)を使用することにより、より高い反応速度がもたらされた。例えば、実験T5-5では、2時間の撹拌後に、約7%の塩(VIb)しか残存していなかった。最後に、溶媒としてアセトン又はアセトニトリルを使用することにより、同様の結果が与えられる。
【0168】
(実施例B4)
(回収プロセスのさらなる検討)
3つの実験を、20グラム規模で行って、反応条件をさらに検討した。実験の詳細を、表7、8、及び9にまとめて示す。
表7.反応条件の検討
【表7】
【0169】
3つの実験はすべて、大規模製造から得られた母液(VIb)を使用して行った。母液を濃縮し、次いで、この反応混合物に水を装入した。反応の挙動を観察し、表7に記した。次に、この反応混合物に、亜硝酸ナトリウム及び硫酸(必要ならば)を添加し、反応をHPLCによってモニタリングした。
【0170】
実験T7-1では、反応は、母液を濃縮せずに直接的に使用して行った。水の添加後、反応混合物は透明な溶液であった。しかし、反応中に大量の固体が沈殿し、これにより反応混合物は撹拌することが難しくなった。
【0171】
実験T7-2では、アセトニトリル中の溶液を得るために、溶媒切り替えを最初に実施した。反応混合物は、最初は粘着性の溶液であったが、水を添加して30分間撹拌した後、透明な溶液になった。反応の過程中、DBTAの固体は沈殿せず、反応混合物は透明のままであった。
【0172】
実験T7-3では、反応物を6体積に濃縮した。水の添加後、反応混合物は透明な溶液になった。反応の過程中、DBTAの固体は沈殿せず、反応が完了した時にも反応混合物は透明な溶液であった。
【0173】
これらの3つの実験の工程内管理結果を、表8にまとめて示す。
表8.反応条件の検討
【表8】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0174】
3つの実験から得られたアルコール(II)の純度は、ほぼ同じであった。キラルHPLCにより、3つすべての実験が、ラセミ混合物としてアルコール(II)を生成したことが確認された。しかし、濃縮を行わない反応(実験T7-1)は、すべての出発材料を生成物に転換するために、より長い時間を必要とした。
【0175】
実験T7-2/3では、より低い体積(したがって、より高い濃度)の溶媒を使用することにより、より高い反応速度がもたらされた。2時間の撹拌後、約1%の出発材料(VIb)しか残存しなかった。
【0176】
3つすべての実験を、後処理及び結晶化手順を伴って、さらに継続した。実験T7-1/2では、反応混合物を、100mLの酢酸イソプロピルと100mLの水で希釈し、次いで、10%水酸化ナトリウム水溶液で処理して、混合物のpH値を約10に調整した。実験T7-3では、反応混合物を、100mLの酢酸イソプロピルで希釈し、次いで、約80mLの10%水酸化ナトリウム水溶液で処理して、混合物のpH値を約10に調整した。高い回収率を達成するために、水層を、100mLの酢酸イソプロピルで逆抽出した。合わせた有機層を使用して、最初に溶媒を10体積のアセトンに切り替えることによって、塩(IIa)を結晶化させ、次いで、1.5当量の37% HClで酸性化した。
【0177】
塩(IIa)の乾燥ケークについての最終結果を、表9に示す。RTは、HPLC保持時間を表す。RT 7.5分での主な不純物は特定され、十分に特徴付けられた。その化学構造を、表9中でVIIとして割り当てる。
表9.結晶化研究からの結果
【表9】
【0178】
アセトンでの結晶化後、最終生成物において、アルコール(IIa)の純度は、ほぼ98%である。
【0179】
(実施例B5)
(不純物(VII)の検討)
不純物(VII)の形成を研究するために、8つの実験を行った。これらの実験の詳細を、表10にまとめて示す。
表10.不純物(VII)の検討
【表10】
【0180】
表10中の実験データは、反応混合物中の水が多いほど、高い含有量の不純物(VII)がもたらされることを示す。これは、特に、6体積の水が1.04%の不純物をもたらす実験T10-8に当てはまる。しかし、低体積の水が、純度プロフィールに関するより良い結果をもたらすことができる一方で、同時に、低体積の水が、混合の問題を引き起こす可能性があることに留意するべきである。これは、反応混合物中に水がないので反応混合物をほとんど撹拌できない実験T10-1に当てはまる。
【0181】
実験T10-5(0.5体積の水を含む6体積のアセトン溶液)は、3グラム規模の反応において、わずか0.17%の不純物(VII)しかもたらさなかった。このプロセスをさらに検証するために、3つのさらなる実験において、実験T10-5と同じ手順を、より大きな規模で繰り返した。3つの実験の詳細を、表11及び12にまとめて示す。
表11 回収プロセスのさらなる検討
【表11】
†母液中に含有される塩(VIb)の算出された質量。
表12 回収プロセスのさらなる検討
【表12】
【0182】
20g規模での実験(実験T11-1)では、反応の完了時に、多量の固体(DBTA)が沈殿したが、反応混合物は、依然として撹拌することができた。しかし、このプロセスは、40g又は100gの規模に拡大した場合、混合の問題に直面した。反応混合物は、反応の完了時に、粘度が高すぎて撹拌できなかった。これは、ほぼゼリー様であった反応混合物の上部では、特にそうである。
【0183】
さらに、不純物(VII)の含有量も、スケールアップした反応では、通常(約0.2%)よりも高かった。
【0184】
プロセスをさらに最適化するための試みでは、60g規模で、異なる量のアセトン及び水を用いて、さらに別の3つの実験を行った。これらの実験の詳細を、表13にまとめて示す。
表13.回収プロセスのさらなる検討
【表13】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
†母液中に含有される塩(VIb)の算出された質量。
【0185】
表13における結果は、低体積の水(0.75及び1体積)を用いる反応が、特に長時間の撹拌後に、混合の問題を有することを示す。1.5体積の水を用いる反応は、常に、反応の完了後であっても透明な溶液を与えるが、これは、より高いレベルの不純物をもたらした。
【0186】
異なる温度(30及び40°C)でT13-1における手順を用いて、2つの実験を行った。これらの実験の詳細を、表14にまとめて示す。
表14.回収プロセスのさらなる研究
【表14】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
†母液中に含有される塩(VIb)の算出された質量。
【0187】
表14における実験結果が実証する通り、高温(30℃及び40℃)での反応は、特に長時間の撹拌後に、やはり混合の問題に直面した。さらに、不純物(VII)の含有量も、20℃(20℃、RT 7.5分 約0.2%)よりも高かった。
【0188】
こちらの実験結果から、6体積のアセトンと1.5体積の水を使用することが、混合の問題を最小限にし、且つ最終回収プロセスにおける最適な結果を提供することが決定される。
【0189】
(実施例B6)
(キロラボ(kilo lab)でのデモバッチ(demo batch))
母液回収プロセスのデモバッチを、30リットル反応器を用いるキロラボにおいて、1.445kg規模で行った。デモバッチの詳細を、表15及び16にまとめて示す。この実験では、大規模製造からの母液の複数のバッチが組み合わせられ、その総体積は約20リットルであった。
【0190】
この母液を6体積に濃縮し、1.5体積の水を添加した。次に、この反応器に、反応混合物を40℃未満の温度に維持しながら、1.8当量の亜硝酸ナトリウムをゆっくりと装入した。反応の完了後、5体積の酢酸イソプロピルを添加し、水酸化ナトリウムの10%水溶液を装入して、混合物をpH10に調整した。次いで、相カット(phase cut)後の水層を、5体積の酢酸イソプロピルで再抽出した。最後に、1.5当量の濃塩酸を反応混合物に装入して、溶媒切り替え後に生成物を結晶化させた。
表15.キロラボでのデモバッチ
【表15】
†母液中に含有される塩(VIa)及び(VIb)の算出された総質量。
表16.キロラボでのデモバッチからの結果
【表16】
【0191】
この実験では、反応混合物は、一晩撹拌した後も、透明な溶液であった。プロセス全体は、反応、後処理、及び結晶化を含めたデモバッチの種々の段階で、優れた挙動を示した。最終の単離された生成物では、塩(IIa)の純度は97.10%であり、不純物(VII)の含有量は0.73%であった。さらに、この再利用プロセス後に単離された生成物である塩(IIa)は、ラセミである。
【0192】
母液(VIb)中の(S)-(-)ティピファニブの量に基づくと、結晶化による収率低下は5%であり、回収プロセス全体についての収率は97%であった。
【0193】
(実施例C1)
(亜硝酸ナトリウムを用いない再利用プロセス)
亜硝酸ナトリウムを使用しない回収プロセスをさらに研究するために、高温の様々な溶媒を用いて、4つの実験を実施した。これらの実験を、表17及び18に詳述する。すべての実験は、塩(VIa)の乾いた固体を使用した。溶媒を添加した後、水を添加した後、及び反応混合物を48時間撹拌した後に、反応の挙動を観察し、記録した。
表17.反応溶媒の検討:反応準備。
【表17】
表18.反応溶媒の検討:実験結果。
【表18】
【0194】
反応溶媒としてMeCNが使用される実験T17-1では、80℃での6時間の撹拌後、7.70%の転換されていないアミン(IV)しか残存していなかった。しかし、その後、反応の反応は、より遅くなり、24時間の撹拌後に、4.01%の転換されていないアミン(IV)が依然として残存していた。反応溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)が使用される実験T17-2では、80℃での6時間の撹拌後に、22.43%の転換されていないアミン(IV)が残存していた。転換されていないアミン(IV)の量は、24時間の撹拌後に、約2%にさらに低下した。反応溶媒としてDMFが使用される実験T17-4では、別の溶媒を使用する他の実験ほど良い結果をもたらさなかった。
【0195】
生成物溶液中のアルコール(II)の鏡像異性体組成を調べ、これは、測定誤差内でラセミであった。
【0196】
(実施例C2)
(水の体積の検討)
6つのさらなる実験を実施して、異なる体積の水の影響を検討した。これらの実験を、表19及び20に詳述する。すべての実験は、塩(VIa)の乾いた固体を使用した。溶媒を添加した後、異なる体積の水を添加した後、及び反応混合物を48時間撹拌した後に、反応の挙動を観察し、記録した。
表19.水の体積の検討:反応準備。
【表19】
表20.水の体積の検討:実験結果。
【表20】
【0197】
表19及び20における実験結果から、1.0体積から3.0体積まで水の量を増大させることは、増大された量の水が、反応中に沈殿したいずれかの固体を可溶化することができることから、反応速度を適度に増大させることを結論付けることができる。しかし、それにもかかわらず、24時間の撹拌後におよそ3%から6%の転換されていないアミン(IV)が存在していた。
【0198】
表19及び20における実験結果から、特に6時間での結果に注目した場合に、MeCNが、MEKよりも優れた溶媒であるように見えたことも結論付けることができる。
【0199】
(実施例C3)
(酸添加剤の検討)
4つのさらなる実験を実施して、反応の速度に対する酸添加剤、すなわち5重量%硫酸の促進的効果を検討した。この実験は、80℃で、同じ溶媒/水の比(6.0V対3.0V)を用いて、母液(VIb)を使用して行った。実験を、表21及び22にまとめて示す。
表21.酸添加剤の検討:反応準備。
【表21】
†母液中に含有される塩(VIb)の算出された質量。
表22.酸添加剤の検討:実験結果。
【表22】
【0200】
ラセミ化反応において、母液(VIb)を直接的に使用する場合、反応の速度は、溶媒としてMEKよりもMeCNを使用する場合に、はるかに速かった。MeCNでは、出発材料(IV)のほとんどすべてが、4時間以内にアルコール(II)に転換したのに対して、MEKでは、類似の条件下でおよそ16時間かかった。
【0201】
この酸添加剤(5重量%硫酸)は、反応の速度に対する限られた促進的効果を有するように見えた。酸添加剤の存在と非存在下での実験結果は、大いに類似している。
【0202】
(実施例C4)
(製造手順)
母液(VIb)からアルコール塩酸塩(IIa)への変換は、次の手順で実施することができる:
【0203】
1. 反応器に、1.64kg(1.6mol)の塩(VIa)及び(VIb)を含有する母液(VIb)を装入する。
【0204】
2. 5L(3.0V)に濃縮し、次いで、7.3kg(4.5×)のメチルエチルケトン及び4.5kg(2.7×)の工程水を装入する。
【0205】
3. 得られた二相性混合物を、76℃で14時間撹拌する。
【0206】
4. 比IV/(IV+II)が2%以下になるまで、UPLCによって反応をモニタリングする。
【0207】
5. 3.8kg(2.3×)の工程水を添加する。
【0208】
6. 反応混合物がpH≧8を有するように、2.4kgの30w/w% NaOH溶液を添加する。
【0209】
7. 層を分離する。
【0210】
8. 水層をIPAc(6.0kg、3.7×)で抽出する。
【0211】
9. 組み合わせられた有機層に、4.5kg(2.7×)の工程水を添加する。
【0212】
10. 得られた混合物を、20℃で12時間、エイジングさせる。
【0213】
11. この混合物を、体積がおよそ 9L(5.5V)になるまで、減圧下で50℃で濃縮する。
【0214】
12. 3.3kg(2.0×)IPAcを添加する。
【0215】
13. 得られたスラリーを、20℃で12時間、エイジングさせる。
【0216】
14. スラリーを濾過し、湿ったケークを1.3kg(0.8×)のアセトンですすぐ。
【0217】
15. 湿ったケークにアセトン(4.7×、6V)を装入する。
【0218】
16. 35% HCl溶液(224g、2.1mol、0.14×)を、20℃で5時間かけて添加し、14時間、エイジングさせる。
【0219】
17.濾過し、アセトン(3.3kg、2.0×)ですすぎ、80℃で72時間、真空中で乾燥させる。
【0220】
先に記載したプロセスは、およそ80〜90%という典型的収率を有する。
【国際調査報告】