【実施例】
【0074】
(V.実施例)
ある種の実施態様を、次の非限定的な例によって例示する。以下の考察は、本発明のある種の態様を例示するために提供され、本発明の範囲を限定する意図はない。以下の詳細な説明に照らして、これらの実施態様に変更を施すことができる。具体的実施態様を、例示の目的で本明細書に記載してきたが、当業者に明らかである、本開示を実施するための本明細書に記載した様式の種々の改変は、特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。本明細書に引用したすべての刊行物、特許、及び特許出願を、それぞれのこうした刊行物、特許、又は特許出願が、あたかも具体的且つ個々に参照によって本明細書に組み込まれることが示されるかのように、参照によって本明細書に組み込む。
【0075】
以下、「eq.」又は「X」は当量(1又は複数)を意味し;「h」は時間(1又は複数)を意味し;「IPC」は工程内管理(in process control)を意味し;「N.D.」は検出されないことを意味し;「RT」は保持時間を意味し;「temp.」は温度を意味し;「V」は体積(1又は複数)を意味する。
【0076】
(実施例A1)
((±)-4-(3-クロロフェニル)-6-[(4-クロロフェニル)ヒドロキシ(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-1-メチル-2(1H)-キノリノン一塩酸塩(IIa)の合成)
スキーム2に例示した通り、6-(4-クロロベンゾイル)-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(I)から(±)-4-(3-クロロフェニル)-6-[(4-クロロフェニル)ヒドロキシ(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-1-メチル-2(1H)-キノリノン一塩酸塩(IIa)への変換は、2つの連続的ステップから構成される。
【0077】
第1のステップは、溶媒としてテトラヒドロフランを使用する、n-ブチルリチウム(23%ヘキサン中)及びクロロトリエチルシランの存在下での、6-(4-クロロベンゾイル)-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(I)と1-メチル-イミダゾールとの縮合であった。反応の完了後、反応混合物を、水で希釈し、酢酸で中和した。層の分離後、有機層に水を添加し、これを水酸化ナトリウムで中和した。層を分離し、有機層を蒸発させた。
【0078】
第2のステップでは、残渣を2-プロパノンで希釈した。塩酸の添加によって、塩酸塩(IIa)の形成を実施した。この生成物を結晶化させた。沈殿を単離し、2-プロパノンで洗浄し、乾燥させた。
【0079】
具体的には、塩酸塩(IIa)は、次の通りに調製した:
【0080】
1. 反応器に、最低1.7Lのテトラヒドロフラン及び1.75モルの1-メチルイミダゾールを装入し、撹拌し、冷却する。
【0081】
2. 0.11kg n-ブチルリチウム(23%ヘキサン中)(1.75モル)を添加し、撹拌する。
【0082】
3. 0.27kgクロロトリエチルシラン(1.8モル)を添加し、撹拌する。
【0083】
4. -75℃から-68℃の0.10kg n-ブチルリチウム(23%ヘキサン中)(1.55モル)を添加し、撹拌する。
【0084】
5. 別の反応器に、1モルのケトン(I)と最低2Lのテトラヒドロフランを装入する。
【0085】
6. ケトン(I)が完全に溶解するまで撹拌及び加熱する。
【0086】
7. 冷却し、この溶液を、温度を-75℃から-68℃に維持しながらステップ4の反応混合物に添加し、撹拌する。
【0087】
8. 水を添加し、撹拌する。
【0088】
9. 氷酢酸を添加し、撹拌する。
【0089】
10. 層を沈降させる。層を分離する。水層を捨てる。
【0090】
11. 有機層に水と29%水酸化ナトリウムを添加し、撹拌する。
【0091】
12. 層を沈降させる。層を分離する。水層を捨てる。
【0092】
13. 有機層を蒸発させる。
【0093】
14. 2-プロパノンを添加し、蒸発させる。
【0094】
15. ステップ14を2回繰り返す。
【0095】
16. 蒸発させた残渣に最低4Lの2-プロパノンを添加し、撹拌し、冷却する。
【0096】
17. 塩酸を添加し、撹拌する。
【0097】
18. 沈殿を遠心分離し、この生成物を2-プロパノンで洗浄する。
【0098】
19. この生成物を、好適な乾燥ユニット中で乾燥させる。
【0099】
先に記載したプロセスを、549から822モルのケトン(I)に適合させるようにスケール変更した。このプロセスは、45〜69%のアルコール(IIa)をもたらした。
【0100】
(実施例A2)
((±)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(IV)の合成)
スキーム2に例示した通り、(±)-4-(3-クロロフェニル)-6-[(4-クロロフェニル)ヒドロキシ(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-1-メチル-2(1H)-キノリノン一塩酸塩(IIa)から(±)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(IV)への変換は、2つの連続的ステップから構成される。
【0101】
第1のステップは、溶媒としての1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン中での、塩化チオニルでのアルコール(IIa)の塩素化であった。
【0102】
第2のステップは、アンモニアのメタノール溶液を使用する、インサイチューの中間体クロライド(III)(スキーム2に示されない)の、アミン(IV)へのアミノ化であった。生成物を、水の添加によって結晶化させた。沈殿を単離し、水で洗浄し、乾燥させた。
【0103】
具体的には、アミン(IV)は、次の通りに調製した:
【0104】
1. 反応器に、2Lの1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと1モルの塩酸塩(IIa)を装入し、撹拌する。
【0105】
2. 温度を45℃未満に維持しながら、最低0.26kgの塩化チオニル(2.2モル)を添加する。
【0106】
3. 20〜45℃で、少なくとも3時間撹拌する。
【0107】
4. 別の反応器に、最低1.71Lのアンモニア(メタノール中)(12モル)を装入し、撹拌し、冷却する。
【0108】
5. 温度を45℃未満に維持しながら、ステップ3からの反応混合物を添加する。
【0109】
6. 12〜45℃で、少なくとも15時間撹拌する。
【0110】
7. 最大5Lの水を添加し、撹拌する。
【0111】
8. 生成物を遠心分離し、各遠心荷重物(centrifuge load)を水で洗浄する。
【0112】
9. この生成物を、好適な乾燥ユニット中で乾燥させる。
【0113】
先に記載したプロセスを、480から720モルのアルコール(IIa)に適合させるようにスケール変更した。このプロセスは、65〜85%のアミン(IV)をもたらした。
【0114】
(実施例A3)
([R-(R*,R*)]-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)ブタン二酸(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(2:3)(VIa)の合成)
スキーム2に例示した通り、(±)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(IV)から[R-(R*,R*)]-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)ブタン二酸(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(2:3)(VIa)への変換は、溶媒として2-プロパノンを使用する、[R-(R*,R*)]-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)-ブタン二酸一水和物を用いるアミン(IV)の[R-(R*,R*)]-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)-ブタン二酸塩の形成から構成されていた。生成物を単離し、2-プロパノンで洗浄し、乾燥させた。
【0115】
具体的には、塩(VIa)は、次の通りに調製した:
【0116】
1. 反応器に、最低3.6Lの2-プロパノンと、1モルのアミン(IV)と、最低2.8 モルの[R-(R*,R*)]-2,3-ビス(ベンゾイルオキシ)ブタン二酸一水和物を装入し、25℃の最大温度で撹拌する。
【0117】
2. 生成物を遠心分離し、各遠心荷重物を2-プロパノンで洗浄する。
【0118】
3. 母液(VIb)として濾液を収集した。
【0119】
4. 生成物を、好適な乾燥ユニット中で乾燥させる。
【0120】
先に記載したプロセスを、460から1255モルのアミン(IV)に適合させるようにスケール変更した。このプロセスは、27〜37%の塩(VIa)をもたらした。
【0121】
(実施例A4)
(「未精製の」(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(V)の合成)
スキーム2に例示した通り、[R-(R*,R*)]-2,3-ビス (ベンゾイルオキシ)ブタン二酸(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(2:3) (VIa)から「未精製の」(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(V)への変換は、溶媒として水とエタノールの混合物を使用する、水酸化アンモニウムを用いる塩(VIa)の塩基の遊離から構成されていた。生成物を、冷却することによって結晶化させた。沈殿を単離し、水で洗浄し、乾燥させた。
【0122】
具体的には、「未精製の」(R)-(+)-ティピファニブ(V)は、次の通りに調製した:
【0123】
1. 反応器に、変性無水エタノールと1モルの塩(VIa)を装入し、撹拌する。
【0124】
2. 水酸化アンモニウムを添加する。
【0125】
3. 水を添加し、還流まで加熱し、最大150分還流させる。
【0126】
4. 冷却し、撹拌する。
【0127】
5. 生成物を遠心分離し、各遠心荷重物を水で洗浄する。
【0128】
6. この生成物を、好適な乾燥ユニット中で乾燥させる。
【0129】
先に記載したプロセスを、147から706モルの塩(VIa)に適合させるようにスケール変更した。このプロセスは、70〜95%の「未精製の」(V)をもたらした。
【0130】
(実施例A5)
(「粉砕されていない」(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(V)の合成)
スキーム2に例示した通り、「未精製の」(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(V)を、エタノールに溶解し、活性炭で処理した。滴虫土(infusorial earth)を通した濾過後、反応混合物を、ある程度まで蒸発させた。生成物を、冷却することによって結晶化させた。沈殿を単離し、エタノールで洗浄した。この湿った生成物を、再びエタノールに溶解し、活性炭で処理した。滴虫土を通した濾過後、反応混合物を、ある程度まで蒸発させた。この生成物を、冷却することによって結晶化させた。沈殿を単離し、エタノールで洗浄し、乾燥させた。
【0131】
具体的には、「粉砕されていない」(R)-(+)-ティピファニブ(V)は、次の通りに調製した:
【0132】
1. 反応器に、変性無水エタノール、1モルの未精製の(V)、最低12.5gの活性炭(norit A supra型)、滴虫土を装入し、撹拌する。
【0133】
2. 還流まで加熱し、撹拌しながら還流させる。
【0134】
3. 反応混合物を濾過して別の反応器に入れ、フィルターを変性無水エタノールで洗浄し、撹拌し、最大24時間という時間をかけて、最大5.72Lの溶媒を蒸発させる。
【0135】
4. 冷却し、撹拌する。
【0136】
5. 生成物を遠心分離し、各遠心荷重物を変性無水エタノールで洗浄する。
【0137】
6. 反応器に、変性無水エタノール、ステップ5からの湿った生成物、最低12.5gの活性炭(norit A supra型)、滴虫土を装入し、撹拌する。
【0138】
7. 還流まで加熱し、撹拌しながら還流させる。
【0139】
8. 反応混合物を濾過して別の反応器に入れ、フィルターを変性無水エタノールで洗浄し、撹拌し、最大24時間という時間をかけて、最大5.43Lの溶媒を蒸発させる。
【0140】
9. ステップ4及び5を繰り返す。
【0141】
10. この生成物を、乾燥時の喪失≦0.20%w/wの間、好適な乾燥ユニット中で乾燥させる。
【0142】
先に記載したプロセスを、392から588モルの「未精製の」(V)に適合させるようにスケール変更した。このプロセスは、69〜84%の「粉砕されていない」(V)をもたらした。
【0143】
(実施例A6)
((R)-(+)-ティピファニブ(V)の合成)
スキーム2に例示した通り、「粉砕されていない」(R)-6-[アミノ(4-クロロフェニル)(1-メチル-1H-イミダゾール-5-イル)メチル]-4-(3-クロロフェニル)-1-メチル-2(1H)-キノリノン(V)を粉砕し、任意にふるいにかけ、均質化した。
【0144】
粉砕は、半連続的なフロースループロセスであるので、典型的なバッチサイズは存在しなかった。このプロセスは、90%以上の(V)をもたらした。
【0145】
(実施例B1)
(母液の回収に関する実現可能性研究)
母液中の酒石酸ジベンゾイル塩(VIb)の形態の所望されない鏡像異性体を回収する、且つ、所望されない鏡像異性体の塩(VIb)からアルコール(IIa)への変換(スキーム2参照)を実現するために、いくつかの実験を行って、提案される回収及び変換プロセスの実現可能性を研究した。実験の詳細を、表1、2、及び3にまとめて示す。これらの実験は、最初に、所望される鏡像異性体の塩(VIa)を使用して行った。
表1.NaNO
2を用いないVIaのラセミ化
【表1】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0146】
実験T1-1では、溶媒として10体積のメタノールと3体積の水を使用し、反応は、40℃及び75℃で行った。実験T1-2では、溶媒として20体積の水を使用した。実験T1-3では、添加剤として0.1mLの濃塩酸を使用した。実験T1-4では、溶媒として1体積の水と20体積のアセトンを使用した。最後の3つの実験T1-2/3/4は、50℃で行った。
【0147】
実験T1-1からのデータは、塩(VIa)からアルコール(II)への転換が実現可能であることを示す。さらに、キラルクロマトグラフィーを用いるアルコール(II)の分析により、キラル中心の完全なラセミ化が実証される。しかし、この反応条件はかなりの量の不純物の形成をもたらす。
【0148】
実験T1-2/3/4からのデータは、亜硝酸ナトリウムを用いないラセミ化が、50℃の酸の助けを借りても、低い転換率を有することを示す。例えば、実験T1-3では、50℃での24時間の撹拌後に、わずか約30%のアルコール(II)しか認められなかった。
【0149】
さらなる実験は、反応転換及び純度プロフィールを向上させるための試みで、酸化剤として亜硝酸ナトリウムを用いた。実験の詳細を、表2にまとめて示す。
表2.NaNO
2を用いるVIaのラセミ化
【表2】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0150】
塩(VIa)を使用して5つの実験を行い、反応試薬として1.5当量の亜硝酸ナトリウムを使用した。実験T2-2では、溶媒として、20体積のtert-アミルアルコールと1体積の水を使用した。実験T2-3では、溶媒として、20体積のアセトンと1体積の水を使用した。実験T2-4では、溶媒として、20体積のアセトニトリルと1体積の水を使用した。実験T2-5では、溶媒として、20体積のアセトニトリルと1体積の水を使用し、追加の添加剤として、2.0当量の硫酸を使用した。実験T2-2/3/4/5は、20℃で行った。
【0151】
表2におけるデータが明らかにする通り、亜硝酸ナトリウムは、所望される鏡像異性体塩(VIa)を、20℃という温和な温度でアルコール(II)に転換することができる。特に、実験T2-5におけるほとんどすべての出発材料が、20℃での2時間の撹拌後、アルコール(II)に転換された。さらに、キラルクロマトグラフィーを用いるアルコール(II)の分析により、キラル中心の完全なラセミ化が実証される。
【0152】
さらなる実験は、塩(VIb)を含有する母液を用いて、回収プロセスを直接的に検討した。これらの実験の詳細を、表3にまとめて示す。
表3.NaNO
2を用いる母液のラセミ化
【表3】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0153】
実験T3-1では、溶媒として20mLのアセトンと1mLの水を使用した。実験T3-2では、溶媒として20mLのアセトニトリルと1mLの水を使用し、添加剤として2.0当量の硫酸を使用した。これらの実験はどちらも、20℃で行った。
【0154】
表3にまとめて示した通り、ほとんどすべての出発材料が、どちらの実験においても、20℃での18時間の撹拌後、アルコール(II)に転換された。キラルHPLCにより、どちらの実験においても、生成物アルコール(II)がラセミであることが確認された。溶媒としてアセトン又はアセトニトリルを使用することにより、同様の工程内管理結果が与えられた。
【0155】
(実施例B2)
(ラセミ化反応を後処理(work up)するための工程パラメータを検討すること)
反応を後処理するための好適な方法を見つけるために、T2-5からの溶液を使用して、いくつかの実験を行った。これらの実験の詳細を、表4にまとめて示す。ここでは、「DBTA」は、ジベンゾイル酒石酸を指す。
表4.ラセミ化反応を後処理するための工程パラメータ
【表4】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0156】
実験T4-1/2/3では、反応混合物を、2体積の酢酸イソプロピルと1体積の水で希釈し、次いで、10%水酸化ナトリウムで処理して、混合物のpH値を調整した。実験T4-4では、反応混合物を、2体積の酢酸イソプロピルと1体積の水で希釈し、次いで、水酸化アンモニウムで処理して、混合物のpHを約10に調整した。実験T4-5では、反応混合物を、2体積の2-メチルテトラヒドロフランと1体積の水で希釈し、次いで、10%水酸化ナトリウムで処理して、混合物のpHを約10に調整した。
【0157】
表4における実験データから、いくつかの所見を述べることができる。第1に、有機層中に16.70%ものDBTAが残存していることから、pH5は、後処理に適したpH点ではない。約7から約10までのpH値で、良好な分離が得られ、ここでは、有機層中の残留DBTAの量は、酢酸イソプロピルが使用される場合、1%未満である。第2に、水層中のあらゆる残留アルコール(II)は、水層の逆抽出によって回収することができる。最後に、2-メチルテトラヒドロフランを使用することにより、有機層中の3.77%の残留DBTAがもたらされた。
【0158】
これらの実験から、酢酸イソプロピル及び10%水酸化ナトリウムが、後処理手順に最適な材料であり、且つ約10へのpH調整が、DBTAの有効な除去を確実にすることができることが決定される。
【0159】
(実施例B3)
(回収プロセスの最適化)
反応条件をさらに最適化するために、異なる温度で、及び異なる溶媒を用いて、6つの実験を行った。これらの実験の詳細を、表5及び6にまとめて示す。ここでは、「DBTA」は、ジベンゾイル酒石酸を指す。
表5.反応条件の検討
【表5】
【0160】
6つの実験はすべて、大規模製造から得られた母液(VIb)を使用して行った。母液を濃縮し、次いで、この反応混合物に水を装入した。反応の挙動を観察し、表5に記した。次に、この反応混合物に、亜硝酸ナトリウム及び硫酸(必要ならば)を添加し、反応をHPLCによってモニタリングした。
【0161】
実験T5-1では、反応混合物の体積は、反応器の全容量に近かった。水の添加後、反応混合物は透明な溶液であった。しかし、反応中に大量の固体が沈殿した。この反応混合物は、反応の完了後に依然として撹拌することができたが、いくらかの固体が、反応器の内壁に張り付いた。
【0162】
反応器容量を増大させるために、その次の2つの実験は、より小さい体積の溶媒を用いた。実験T5-2では、14体積のアセトンを使用した。実験T5-3では、7体積のアセトンを使用した。どちらの実験でも、大量の固体が沈殿した。特に、14体積の溶媒を使用する実験T5-2では、反応混合物は、はるかに悪い撹拌挙動を呈した。この実験は、水がDBTAを溶解するのに役立つことを示す。
【0163】
実験T5-4は、反応温度を40℃に上昇させることによって撹拌挙動を改善する試みであった。しかし、これは、所望される結果を達成しなかった。
【0164】
実験T5-5では、2体積の水を使用した。反応の完了後も、反応混合物は依然として透明な溶液であり、これは、このプロセスを頑強にすることができた。
【0165】
実験T5-6では、反応溶媒を、2体積の水を伴うアセトニトリルに切り替えた。しかし、反応混合物は、透明な溶液に到達するために約30分間撹拌することを必要としていた。反応混合物は、反応が完了した時に、やはり透明な溶液であった。
【0166】
6つの実験の工程内管理データを、表6に示す。
表6.反応条件の検討
【表6】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0167】
表6における実験結果から、いくつかの所見を述べることができる。第1に、20℃での反応は、18時間の撹拌後に、同様の結果をもたらすが、反応温度を40℃に上げることにより、より低い生成物純度がもたらされる。第2に、より小さい体積の溶媒(したがって、高濃度の反応物)を使用することにより、より高い反応速度がもたらされた。例えば、実験T5-5では、2時間の撹拌後に、約7%の塩(VIb)しか残存していなかった。最後に、溶媒としてアセトン又はアセトニトリルを使用することにより、同様の結果が与えられる。
【0168】
(実施例B4)
(回収プロセスのさらなる検討)
3つの実験を、20グラム規模で行って、反応条件をさらに検討した。実験の詳細を、表7、8、及び9にまとめて示す。
表7.反応条件の検討
【表7】
【0169】
3つの実験はすべて、大規模製造から得られた母液(VIb)を使用して行った。母液を濃縮し、次いで、この反応混合物に水を装入した。反応の挙動を観察し、表7に記した。次に、この反応混合物に、亜硝酸ナトリウム及び硫酸(必要ならば)を添加し、反応をHPLCによってモニタリングした。
【0170】
実験T7-1では、反応は、母液を濃縮せずに直接的に使用して行った。水の添加後、反応混合物は透明な溶液であった。しかし、反応中に大量の固体が沈殿し、これにより反応混合物は撹拌することが難しくなった。
【0171】
実験T7-2では、アセトニトリル中の溶液を得るために、溶媒切り替えを最初に実施した。反応混合物は、最初は粘着性の溶液であったが、水を添加して30分間撹拌した後、透明な溶液になった。反応の過程中、DBTAの固体は沈殿せず、反応混合物は透明のままであった。
【0172】
実験T7-3では、反応物を6体積に濃縮した。水の添加後、反応混合物は透明な溶液になった。反応の過程中、DBTAの固体は沈殿せず、反応が完了した時にも反応混合物は透明な溶液であった。
【0173】
これらの3つの実験の工程内管理結果を、表8にまとめて示す。
表8.反応条件の検討
【表8】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
【0174】
3つの実験から得られたアルコール(II)の純度は、ほぼ同じであった。キラルHPLCにより、3つすべての実験が、ラセミ混合物としてアルコール(II)を生成したことが確認された。しかし、濃縮を行わない反応(実験T7-1)は、すべての出発材料を生成物に転換するために、より長い時間を必要とした。
【0175】
実験T7-2/3では、より低い体積(したがって、より高い濃度)の溶媒を使用することにより、より高い反応速度がもたらされた。2時間の撹拌後、約1%の出発材料(VIb)しか残存しなかった。
【0176】
3つすべての実験を、後処理及び結晶化手順を伴って、さらに継続した。実験T7-1/2では、反応混合物を、100mLの酢酸イソプロピルと100mLの水で希釈し、次いで、10%水酸化ナトリウム水溶液で処理して、混合物のpH値を約10に調整した。実験T7-3では、反応混合物を、100mLの酢酸イソプロピルで希釈し、次いで、約80mLの10%水酸化ナトリウム水溶液で処理して、混合物のpH値を約10に調整した。高い回収率を達成するために、水層を、100mLの酢酸イソプロピルで逆抽出した。合わせた有機層を使用して、最初に溶媒を10体積のアセトンに切り替えることによって、塩(IIa)を結晶化させ、次いで、1.5当量の37% HClで酸性化した。
【0177】
塩(IIa)の乾燥ケークについての最終結果を、表9に示す。RTは、HPLC保持時間を表す。RT 7.5分での主な不純物は特定され、十分に特徴付けられた。その化学構造を、表9中でVIIとして割り当てる。
表9.結晶化研究からの結果
【表9】
【0178】
アセトンでの結晶化後、最終生成物において、アルコール(IIa)の純度は、ほぼ98%である。
【0179】
(実施例B5)
(不純物(VII)の検討)
不純物(VII)の形成を研究するために、8つの実験を行った。これらの実験の詳細を、表10にまとめて示す。
表10.不純物(VII)の検討
【表10】
【0180】
表10中の実験データは、反応混合物中の水が多いほど、高い含有量の不純物(VII)がもたらされることを示す。これは、特に、6体積の水が1.04%の不純物をもたらす実験T10-8に当てはまる。しかし、低体積の水が、純度プロフィールに関するより良い結果をもたらすことができる一方で、同時に、低体積の水が、混合の問題を引き起こす可能性があることに留意するべきである。これは、反応混合物中に水がないので反応混合物をほとんど撹拌できない実験T10-1に当てはまる。
【0181】
実験T10-5(0.5体積の水を含む6体積のアセトン溶液)は、3グラム規模の反応において、わずか0.17%の不純物(VII)しかもたらさなかった。このプロセスをさらに検証するために、3つのさらなる実験において、実験T10-5と同じ手順を、より大きな規模で繰り返した。3つの実験の詳細を、表11及び12にまとめて示す。
表11 回収プロセスのさらなる検討
【表11】
†母液中に含有される塩(VIb)の算出された質量。
表12 回収プロセスのさらなる検討
【表12】
【0182】
20g規模での実験(実験T11-1)では、反応の完了時に、多量の固体(DBTA)が沈殿したが、反応混合物は、依然として撹拌することができた。しかし、このプロセスは、40g又は100gの規模に拡大した場合、混合の問題に直面した。反応混合物は、反応の完了時に、粘度が高すぎて撹拌できなかった。これは、ほぼゼリー様であった反応混合物の上部では、特にそうである。
【0183】
さらに、不純物(VII)の含有量も、スケールアップした反応では、通常(約0.2%)よりも高かった。
【0184】
プロセスをさらに最適化するための試みでは、60g規模で、異なる量のアセトン及び水を用いて、さらに別の3つの実験を行った。これらの実験の詳細を、表13にまとめて示す。
表13.回収プロセスのさらなる検討
【表13】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
†母液中に含有される塩(VIb)の算出された質量。
【0185】
表13における結果は、低体積の水(0.75及び1体積)を用いる反応が、特に長時間の撹拌後に、混合の問題を有することを示す。1.5体積の水を用いる反応は、常に、反応の完了後であっても透明な溶液を与えるが、これは、より高いレベルの不純物をもたらした。
【0186】
異なる温度(30及び40°C)でT13-1における手順を用いて、2つの実験を行った。これらの実験の詳細を、表14にまとめて示す。
表14.回収プロセスのさらなる研究
【表14】
*HPLCグラフのピーク面積積分によって決定された。
†母液中に含有される塩(VIb)の算出された質量。
【0187】
表14における実験結果が実証する通り、高温(30℃及び40℃)での反応は、特に長時間の撹拌後に、やはり混合の問題に直面した。さらに、不純物(VII)の含有量も、20℃(20℃、RT 7.5分 約0.2%)よりも高かった。
【0188】
こちらの実験結果から、6体積のアセトンと1.5体積の水を使用することが、混合の問題を最小限にし、且つ最終回収プロセスにおける最適な結果を提供することが決定される。
【0189】
(実施例B6)
(キロラボ(kilo lab)でのデモバッチ(demo batch))
母液回収プロセスのデモバッチを、30リットル反応器を用いるキロラボにおいて、1.445kg規模で行った。デモバッチの詳細を、表15及び16にまとめて示す。この実験では、大規模製造からの母液の複数のバッチが組み合わせられ、その総体積は約20リットルであった。
【0190】
この母液を6体積に濃縮し、1.5体積の水を添加した。次に、この反応器に、反応混合物を40℃未満の温度に維持しながら、1.8当量の亜硝酸ナトリウムをゆっくりと装入した。反応の完了後、5体積の酢酸イソプロピルを添加し、水酸化ナトリウムの10%水溶液を装入して、混合物をpH10に調整した。次いで、相カット(phase cut)後の水層を、5体積の酢酸イソプロピルで再抽出した。最後に、1.5当量の濃塩酸を反応混合物に装入して、溶媒切り替え後に生成物を結晶化させた。
表15.キロラボでのデモバッチ
【表15】
†母液中に含有される塩(VIa)及び(VIb)の算出された総質量。
表16.キロラボでのデモバッチからの結果
【表16】
【0191】
この実験では、反応混合物は、一晩撹拌した後も、透明な溶液であった。プロセス全体は、反応、後処理、及び結晶化を含めたデモバッチの種々の段階で、優れた挙動を示した。最終の単離された生成物では、塩(IIa)の純度は97.10%であり、不純物(VII)の含有量は0.73%であった。さらに、この再利用プロセス後に単離された生成物である塩(IIa)は、ラセミである。
【0192】
母液(VIb)中の(S)-(-)ティピファニブの量に基づくと、結晶化による収率低下は5%であり、回収プロセス全体についての収率は97%であった。
【0193】
(実施例C1)
(亜硝酸ナトリウムを用いない再利用プロセス)
亜硝酸ナトリウムを使用しない回収プロセスをさらに研究するために、高温の様々な溶媒を用いて、4つの実験を実施した。これらの実験を、表17及び18に詳述する。すべての実験は、塩(VIa)の乾いた固体を使用した。溶媒を添加した後、水を添加した後、及び反応混合物を48時間撹拌した後に、反応の挙動を観察し、記録した。
表17.反応溶媒の検討:反応準備。
【表17】
表18.反応溶媒の検討:実験結果。
【表18】
【0194】
反応溶媒としてMeCNが使用される実験T17-1では、80℃での6時間の撹拌後、7.70%の転換されていないアミン(IV)しか残存していなかった。しかし、その後、反応の反応は、より遅くなり、24時間の撹拌後に、4.01%の転換されていないアミン(IV)が依然として残存していた。反応溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)が使用される実験T17-2では、80℃での6時間の撹拌後に、22.43%の転換されていないアミン(IV)が残存していた。転換されていないアミン(IV)の量は、24時間の撹拌後に、約2%にさらに低下した。反応溶媒としてDMFが使用される実験T17-4では、別の溶媒を使用する他の実験ほど良い結果をもたらさなかった。
【0195】
生成物溶液中のアルコール(II)の鏡像異性体組成を調べ、これは、測定誤差内でラセミであった。
【0196】
(実施例C2)
(水の体積の検討)
6つのさらなる実験を実施して、異なる体積の水の影響を検討した。これらの実験を、表19及び20に詳述する。すべての実験は、塩(VIa)の乾いた固体を使用した。溶媒を添加した後、異なる体積の水を添加した後、及び反応混合物を48時間撹拌した後に、反応の挙動を観察し、記録した。
表19.水の体積の検討:反応準備。
【表19】
表20.水の体積の検討:実験結果。
【表20】
【0197】
表19及び20における実験結果から、1.0体積から3.0体積まで水の量を増大させることは、増大された量の水が、反応中に沈殿したいずれかの固体を可溶化することができることから、反応速度を適度に増大させることを結論付けることができる。しかし、それにもかかわらず、24時間の撹拌後におよそ3%から6%の転換されていないアミン(IV)が存在していた。
【0198】
表19及び20における実験結果から、特に6時間での結果に注目した場合に、MeCNが、MEKよりも優れた溶媒であるように見えたことも結論付けることができる。
【0199】
(実施例C3)
(酸添加剤の検討)
4つのさらなる実験を実施して、反応の速度に対する酸添加剤、すなわち5重量%硫酸の促進的効果を検討した。この実験は、80℃で、同じ溶媒/水の比(6.0V対3.0V)を用いて、母液(VIb)を使用して行った。実験を、表21及び22にまとめて示す。
表21.酸添加剤の検討:反応準備。
【表21】
†母液中に含有される塩(VIb)の算出された質量。
表22.酸添加剤の検討:実験結果。
【表22】
【0200】
ラセミ化反応において、母液(VIb)を直接的に使用する場合、反応の速度は、溶媒としてMEKよりもMeCNを使用する場合に、はるかに速かった。MeCNでは、出発材料(IV)のほとんどすべてが、4時間以内にアルコール(II)に転換したのに対して、MEKでは、類似の条件下でおよそ16時間かかった。
【0201】
この酸添加剤(5重量%硫酸)は、反応の速度に対する限られた促進的効果を有するように見えた。酸添加剤の存在と非存在下での実験結果は、大いに類似している。
【0202】
(実施例C4)
(製造手順)
母液(VIb)からアルコール塩酸塩(IIa)への変換は、次の手順で実施することができる:
【0203】
1. 反応器に、1.64kg(1.6mol)の塩(VIa)及び(VIb)を含有する母液(VIb)を装入する。
【0204】
2. 5L(3.0V)に濃縮し、次いで、7.3kg(4.5×)のメチルエチルケトン及び4.5kg(2.7×)の工程水を装入する。
【0205】
3. 得られた二相性混合物を、76℃で14時間撹拌する。
【0206】
4. 比IV/(IV+II)が2%以下になるまで、UPLCによって反応をモニタリングする。
【0207】
5. 3.8kg(2.3×)の工程水を添加する。
【0208】
6. 反応混合物がpH≧8を有するように、2.4kgの30w/w% NaOH溶液を添加する。
【0209】
7. 層を分離する。
【0210】
8. 水層をIPAc(6.0kg、3.7×)で抽出する。
【0211】
9. 組み合わせられた有機層に、4.5kg(2.7×)の工程水を添加する。
【0212】
10. 得られた混合物を、20℃で12時間、エイジングさせる。
【0213】
11. この混合物を、体積がおよそ 9L(5.5V)になるまで、減圧下で50℃で濃縮する。
【0214】
12. 3.3kg(2.0×)IPAcを添加する。
【0215】
13. 得られたスラリーを、20℃で12時間、エイジングさせる。
【0216】
14. スラリーを濾過し、湿ったケークを1.3kg(0.8×)のアセトンですすぐ。
【0217】
15. 湿ったケークにアセトン(4.7×、6V)を装入する。
【0218】
16. 35% HCl溶液(224g、2.1mol、0.14×)を、20℃で5時間かけて添加し、14時間、エイジングさせる。
【0219】
17.濾過し、アセトン(3.3kg、2.0×)ですすぎ、80℃で72時間、真空中で乾燥させる。
【0220】
先に記載したプロセスは、およそ80〜90%という典型的収率を有する。