(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-526544(P2021-526544A)
(43)【公表日】2021年10月7日
(54)【発明の名称】抗腫瘍の漢方薬組成物及びその揮発性油エキス
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20210910BHJP
A61K 36/61 20060101ALI20210910BHJP
A61K 36/9064 20060101ALI20210910BHJP
A61K 36/54 20060101ALI20210910BHJP
A61K 36/67 20060101ALI20210910BHJP
A61K 36/289 20060101ALI20210910BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20210910BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20210910BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210910BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20210910BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20210910BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20210910BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20210910BHJP
A61K 31/085 20060101ALI20210910BHJP
A61K 31/222 20060101ALI20210910BHJP
A61K 31/015 20060101ALI20210910BHJP
A61K 31/215 20060101ALI20210910BHJP
【FI】
A61K36/185
A61K36/61
A61K36/9064
A61K36/54
A61K36/67
A61K36/289
A61K36/9068
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P1/16
A61P1/04
A61P1/18
A61P11/00
A61K31/085
A61K31/222
A61K31/015
A61K31/215
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-570032(P2020-570032)
(86)(22)【出願日】2019年7月10日
(85)【翻訳文提出日】2020年12月10日
(86)【国際出願番号】CN2019095410
(87)【国際公開番号】WO2020147275
(87)【国際公開日】20200723
(31)【優先権主張番号】201910045120.6
(32)【優先日】2019年1月17日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520488517
【氏名又は名称】上海中華薬業有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI ZHONGHUA PHARMACEUTICAL CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】金家▲ファ▼
(72)【発明者】
【氏名】丁礼琴
(72)【発明者】
【氏名】曹無介
(72)【発明者】
【氏名】朱暁萍
【テーマコード(参考)】
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C088AB12
4C088AB26
4C088AB33
4C088AB36
4C088AB57
4C088AB81
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4C088ZA59
4C088ZA66
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4C088ZC41
4C206AA01
4C206AA02
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4C206CA27
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4C206DB57
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4C206NA14
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4C206ZA66
4C206ZA75
4C206ZB26
4C206ZC41
(57)【要約】
本発明は、漢方薬組成物及びその揮発性油エキスの、rasプロトオンコジーンが突然変異した後の過剰表現腫瘍を抑制する薬物への使用に関し、該漢方薬複方は、チョウジ、シュクシャ、トウシキミ、ニッケイ、シロコショウ、モッコウ、ショウキョウから構成される。該漢方薬組成物及びその揮発性油エキスは、let−60の突然変異によるrasプロトオンコジーンが過剰表現したカエノラブディティス・エレガンスの腫瘍様多重陰門の表現型を有意に抑制し、その多重陰門の表現型を正常な陰門を有する野生型の表現型に変換させる。上記の結果は、本発明で提供される漢方薬組成物及びその揮発性油エキスが、ras遺伝子の過剰表現による腫瘍を治療する効果を有し、rasプロトオンコジーンが突然変異した後の過剰表現を抑制する抗腫瘍薬の調製に使用され得ることが示される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョウジ5部、シュクシャ5部、トウシキミ3部、ニッケイ8部、シロコショウ3部、モッコウ3部、ショウキョウ5部の重量部の原料から調製されることを特徴とする漢方薬組成物。
【請求項2】
チョウジ5部、シュクシャ5部、トウシキミ3部、ニッケイ8部、シロコショウ3部、モッコウ3部、ショウキョウ5部から調製される漢方薬の揮発性油エキスであって、該漢方薬の揮発性油エキスの調製方法は、前記した割合のチョウジ、シュクシャ、トウシキミ、ニッケイ、シロコショウ、モッコウ、ショウキョウを取り、蒸留水を加え、水蒸気蒸留法により抽出し、揮発性油エキスの粗製品を得、前記の揮発性油エキス粗製品を有機溶剤で抽出し、得られた有機相を溶剤揮発させ、脱水・乾燥することにより、漢方薬の揮発性油エキスを得ることを特徴とする漢方薬の揮発性油エキス。
【請求項3】
前記の漢方薬の揮発性油エキスの特徴的な化学成分は、オイゲノール42.43〜59.19%、オイゲノールアセテート13.05〜15.28%、アネトール10.02〜13.11%、カリオフィレン2.07〜2.88%、ボルニルアセテート1.3〜1.71%を含むことを特徴とする請求項2に記載の漢方薬の揮発性油エキス。
【請求項4】
前記の漢方薬の揮発性油エキスの密度は、1.0〜1.1g/mLであることを特徴とする請求項3に記載の漢方薬の揮発性油エキス。
【請求項5】
請求項1に記載の漢方薬組成物の、抗腫瘍薬を調製するための使用。
【請求項6】
前記の腫瘍は、rasプロトオンコジーンが突然変異した後の過剰表現によるものであることを特徴とする請求項5に記載の漢方薬組成物の抗腫瘍薬を調製するための使用。
【請求項7】
前記の腫瘍は、肝臓がん、膵臓がん、肺がん、及び結腸がんであることを特徴とする請求項6に記載の漢方薬組成物の抗腫瘍薬を調製するための使用。
【請求項8】
請求項2に記載の漢方薬の揮発性油エキスの、抗腫瘍薬を調製するための使用。
【請求項9】
前記の腫瘍は、rasプロトオンコジーンが突然変異した後の過剰表現によるものであることを特徴とする請求項8に記載の漢方薬の揮発性油エキスの抗腫瘍薬を調製するための使用。
【請求項10】
前記の腫瘍は、肝臓がん、膵臓がん、肺がん、及び結腸がんであることを特徴とする請求項9に記載の漢方薬の揮発性油エキスの抗腫瘍薬を調製するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漢方薬組成物及びその揮発性油エキスの、rasプロトオンコジーンが突然変異した後の過剰表現を抑制する抗腫瘍薬への使用に関し、抗腫瘍薬の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
現在、悪性腫瘍は、人間の死因第1位の疾患となっており、人間の健康を深刻に害している。世界保健機関のデータによると、毎年世界中の腫瘍の発生人数は1000万人、死亡人数は約700万人であり、毎年中国での新たな症例数は200万件、がんによる死亡者数は約140万人である。中国の居住者では、5人の死者の中で1人ががんによることである(王明政、2017)。
【0003】
ヒト腫瘍の約30%は、rasプロトオンコジーンが突然変異した後のRASタンパクの過剰活性化に引き起こされる。ヒト腫瘍の30%にはras遺伝子の突然変異とRASタンパクの過剰活性化があり、その中で膵臓がんの約90%、結腸がんの50%程度、及び急性白血病の20%程度にはras遺伝子の突然変異がある(HaraandHan、1995)。遺伝性の非ポリポーシス大腸がんの40%にはKRAS突然変異が検出され、通常の濾泡性甲状腺がんの49%にはRAS突然変異があり、Hurthle細胞甲状腺腫瘍の48%にはRAS突然変異がある。膵臓がんの83%と胆管がんの85%にはKRASコドン12の突然変異が発生する。なお、肺がん、胃がん、乳がん、膀胱がん、及び黒色腫などのがんは、ras遺伝子の突然変異と密接に関わっている(楊麒巍ら、2018)。Ras−MAPKシグナル伝達経路の異常は、肝臓がんの進行に関与している。Rasシグナル経路をターゲットとする抗腫瘍治療も腫瘍治療学の研究の焦点となっているため、rasは関わる悪性がん薬物をスクリーニングするための標的となった(劉雪梅ら、2008)。Rasシグナル経路は、線虫からヒトまで高度に保存されており、カエノラブディティス・エレガンスでは、let−60遺伝子は、保存されたRASタンパクをコードしており、ヒトRASタンパクと83%の相同性がある。ras遺伝子が突然変異すると、カエノラブディティス・エレガンスでは線虫が多重陰門の生成を引き起し、ヒトでは細胞の悪性増殖を引き起すことにより、腫瘍が生ずる(李蕊ら、2016)。従って、モデル生物であるカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)のRas/MAPKシグナル経路過剰活性化型の突然変異体は、Ras経路の過剰活性化を抑制する抗腫瘍薬をスクリーニングするための腫瘍モデルとして幅広く使用されている(Hara and Han、1995。王ホウ、2005。劉雪梅ら、2008)。本発明では、カエノラブディティス・エレガンスをスクリーニングツールとして使用し、Ras/MAPKシグナル経路の過剰活性化を下方制御する抗腫瘍薬の候補をスクリーニングする。
【0004】
中国伝統の化学療法と手術、放射線療法などの併用は、多種の悪性腫瘍の治療成功率を高めることに成功したが、強い副作用と薬剤耐性のため、新たな腫瘍治療法を見つける研究が急務となった(張秀雲、2012)。がんの治療において、中国の漢方薬は、多方向的、多標的、薬剤耐性が生じにくいなどのメリットがあり、多因子や多段階というがんの疾患メカニズムに合うものである。漢方薬は、抗腫瘍の効果的な部位、有効成分、及び作用機序に対する研究が国内外の研究の焦点となっており、臨床腫瘍治療において一定の効果を挙げっており、且つ毒性が低いため、腫瘍の予防と治療に新たな道を切り開いた。近年、漢方薬及びその有効成分の抗腫瘍研究において一連の成果が得られ、一部の成果は臨床現場で広く使用されている抗腫瘍薬に転換されている(尹龍ら、2006。張秀雲、2012。朱元章ら、2017)。
【0005】
龍虎人丹は、もともと中国の古方「諸葛行軍散」であり、いくつかの改良がなされて、既存の処方を得た。龍虎人丹は、主にメントール、ボルネオール、チョウジ、シュクシャ、トウシキミ、ニッケイ、コショウ、モッコウ、ショウキョウ、カテキン、カンゾウから構成され、醒脳開竅(inducing resuscitation)、消暑化濁(dispel summerheat and resolve turbidity)、和中止嘔(harmonize the middle to check vomiting)することができ、主に熱中症による目まい、悪心・嘔吐、下痢、及び乗り物酔い・船酔いに用いられている。今まで、龍虎人丹では、抗腫瘍の活性があると報道される文献はない。
【0006】
本発明は、龍虎人丹に基づいて改良を行って、ras遺伝子の過剰活性化を抑制する漢方薬組成物及びその揮発性油エキスを見出し、該漢方薬組成物及びその揮発性油エキスは、rasプロトオンコジーンが過剰活性化した腫瘍を治療することに使用され得る。龍虎人丹に比べて、該漢方薬組成物及びその揮発性油エキスは、rasプロトオンコジーンが過剰活性化した腫瘍を治療することに使用され得る。
【0007】
本発明で提供される漢方薬組成物及びその揮発性油エキスは、いずれか一種の薬学上許容される補助剤と混合して様々な剤形とすることができ、rasプロトオンコジーンが過剰活性化した腫瘍を治療することに使用され得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
王明政、中国での悪性腫瘍の予防と制御策略に対する探索[J].中医薬管理雑志、2017、25(06):8−9
【0009】
劉雪梅、トウ平ら、Rasシグナル伝達経路に基づく薬剤標的に対する研究の進展[J]、薬学進展、2008、32(11):481−485
【0010】
王ホウ(2005)、線虫をモデル生物として使用して、がん遺伝子rasの活性を抑制できる薬物をスクリーニングする、復旦大学ポスドク研究報告、
【0011】
Hara M、Han M et al、Ras farnesyltransferase inhibitors suppress the phenotype resulting from an activated ras mutation in Caenorhabditis elegans、[J]、Developmental Biology、1995、92(4):3333−3337
【0012】
張秀雲ら、抗腫瘍漢方薬の有効な部位と化学成分に対する研究の進展[J]、科技視界、2012、7(3):177−178
【0013】
尹龍、徐亮ら、抗腫瘍漢方薬及びその有効成分の作用に対する研究の現状[J]、動物医学進展、2006、27(1):39−43
【0014】
朱元章、張貴彪ら、漢方薬の揮発性油の抗腫瘍メカニズムに対する研究の進展[J]、中国実験方剤学雑志、16(8):227−234
【0015】
楊麒巍、隋玉傑、杜珍武、張桂珍、実体腫におけるRAS遺伝子ファミリーの突然変異率に対する研究の進展[J]、中国立体鏡学と画像解析、2018(03):303−310.
【0016】
李蕊、宋威江、張少鵬、姚樹坤、肝臓がんの発病メカニズムにおけるRas−MAPK経路の作用[J]、中日友好病院学報、2016、30(01):47−49+54.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、チョウジ、シュクシャ、トウシキミ、ニッケイ、シロコショウ、モッコウ、ショウキョウから構成される漢方薬組成物を提供し、水蒸気蒸留法により抽出し、該漢方薬組成物の揮発性油エキスの粗製品を得、有機溶剤で抽出し、得られた有機相を溶剤揮発させ、脱水・乾燥することにより、該漢方薬の揮発性油エキスを得る。本発明は、該漢方薬組成物及びその揮発性油エキスの、rasプロトオンコジーンの過剰表現を抑制するための使用を提供するものであり、治療される具体的な腫瘍は、肝臓がん、膵臓がん、肺がん、及び結腸がんである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、次の態様で実施できる。
【0019】
本発明の目的は、漢方薬組成物を提供することであり、該漢方薬組成物は、チョウジ5部、シュクシャ5部、トウシキミ3部、ニッケイ8部、シロコショウ3部、モッコウ3部、ショウキョウ5部の重量部の原料から調製される。
【0020】
本発明のもう一つの目的は、漢方薬の揮発性油エキスを提供することであり、該漢方薬の揮発性油エキスは、チョウジ5部、シュクシャ5部、トウシキミ3部、ニッケイ8部、シロコショウ3部、モッコウ3部、ショウキョウ5部から調製され、その調製方法は、前記した割合のチョウジ、シュクシャ、トウシキミ、ニッケイ、シロコショウ、モッコウ、ショウキョウを取り、蒸留水を加え、水蒸気蒸留法により抽出し、揮発性油エキスの粗製品を得、前記の揮発性油エキスの粗製品を有機溶剤で抽出し、得られた有機相を溶剤揮発させ、脱水・乾燥することにより、漢方薬の揮発性油エキスを得る。
【0021】
該漢方薬の揮発性油エキスの特徴的な化学成分は、オイゲノール42.43〜59.19%、オイゲノールアセテート13.05〜15.28%、アネトール10.02〜13.11%、カリオフィレン2.07〜2.88%、ボルニルアセテート1.3〜1.71%を含む。
【0022】
該漢方薬の揮発性油エキスの密度は、1.0〜1.1g/mLである。
【0023】
本発明のもう一つの目的は、前記の漢方薬組成物及びその漢方薬の揮発性油エキスの、抗腫瘍薬を調製するための使用を提供することにある。
【0024】
前記の腫瘍は、rasプロトオンコジーンが突然変異した後の過剰表現によるものである。
【0025】
具体的に係る腫瘍は、肝臓がん、膵臓がん、肺がん、及び結腸がんである。
【0026】
Rasシグナル経路は、線虫からヒトまで高度に保存されているため、カエノラブディティス・エレガンスでは、let−60遺伝子は、保存されたRASタンパクをコードし、ヒトRASタンパクと83%の相同性がある。rasが突然変異すると、カエノラブディティス・エレガンスでは線虫が多重陰門の表現型を引き起こし、ヒトでは細胞の悪性増殖を引き起こすことにより、腫瘍が生ずる。従って、モデル生物であるカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditiselegans)のRas/MAPKシグナル経路の過剰活性化型の突然変異体は、Ras経路過剰活性化を抑制する抗腫瘍薬をスクリーニングするための腫瘍モデルとして幅広く使用されている。
【0027】
従って、本発明は、カエノラブディティス・エレガンスの突然変異体をrasプロトオンコジーン経路の過剰活性化を抑制する薬物を評価するためのモデルとして使用し、該漢方薬組成物及び漢方薬の揮発性油エキスはrasプロトオンコジーンの過剰表現を有意に下方制御する作用があり、rasプロトオンコジーン経路の過剰活性化を抑制すると結論つけた。また、該漢方薬組成物及び漢方薬の揮発性油エキスは、let−60の突然変異によるrasの過剰活性化によって引き起こされる腫瘍細胞にのみ作用し、lin−15欠失の突然変異による野生型rasの過剰活性化によって引き起こされる腫瘍細胞に作用しなく、適用が安全であり、すなわち、がん細胞にのみ作用し、正常な細胞に作用しなく、rasプロトオンコジーンの過剰表現を有意に下方制御し、遺伝子の突然変異を引き起こすことがなく、催奇形性がない。従って、該漢方薬組成物及び漢方薬の揮発性油エキスは、rasプロトオンコジーンが過剰表現した腫瘍を治療する薬物の調製に使用され得る。
【0028】
【発明の効果】
【0029】
本発明の漢方薬組成物及び漢方薬の揮発性油エキスは、rasプロトオンコジーンが突然変異した後の過剰表現を特異的に下方制御し、rasプロトオンコジーンが突然変異した後の過剰表現による悪性腫瘍を治療する薬物の調製のために使用され得、具体的に係る腫瘍は、肝臓がん、膵臓がん、肺がん、及び結腸がんである。該漢方薬組成物及び漢方薬の揮発性油エキスは、ras遺伝子が過剰表現した腫瘍に対する治療作用が幅広い細胞毒性に依存することではなく、rasプロトオンコジーンの過剰表現を特異的に下方制御することである。該漢方薬組成物及び漢方薬の揮発性油エキスは、let−60の突然変異によるras過剰活性化によって引き起こされる腫瘍細胞にのみ作用し、lin−15欠失の突然変異による野生型のras過剰活性化によって引き起こされる腫瘍細胞に作用しなく、すなわち、該漢方薬組成物及び漢方薬の揮発性油エキスは、がん細胞にのみ作用し、正常な細胞に作用しなく、催奇形性がなく、適用が安全である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の特許請求の範囲と明細書の保護範囲は、これらの実施例に制限されない。
【0031】
実施例1 漢方薬の揮発性油エキスの調製
【0032】
原料薬:チョウジ、シュクシャ、トウシキミ、ニッケイ、シロコショウ、モッコウ、ショウキョウ
【0033】
チョウジ7.5g、シュクシャ7.5g、トウシキミ4.5g、ニッケイ12g、シロコショウ4.5g、モッコウ4.5g、ショウキョウ7.5g。
【0034】
前記の原料薬を粉砕し、水を10倍量加え、水蒸気蒸留法により3時間抽出し、漢方薬の揮発性油エキス粗製品を得た。
【0035】
漢方薬の揮発性油エキスの粗製品をジエチルエーテルで2回抽出し、得られた有機相を合わせ、ジエチルエーテルを揮発させ、漢方薬の揮発性油エキスを得た。得られた漢方薬の揮発性油エキスは、薄黄色の油状物質である。
【0036】
揮発性油の成分解析:GC−MSにより揮発性油エキスの化学成分を解析し、42.43〜59.19%のオイゲノール、11.85〜15.28%のオイゲノールアセテート、10.02〜13.11%のアネトール、2.07〜2.88%のカリオフィレン、1.3〜1.71%のボルニルアセテートである。
【0038】
実施例2 漢方薬の揮発性油エキスのカエノラブディティス・エレガンスMT2124(let−60突然変異)に対する作用
【0039】
rasの過剰活性化については、線虫では線虫が多重陰門を生成することを引き起こし、ヒトでは細胞の悪性増殖を引き起こす。受検薬物が受検線虫の多重陰門の表現型の生成を抑制し、野生型への発達を促進できれば、薬物がRas経路に作用し、該経路の過剰活性化を下方制御しており、抗腫瘍活性があることを意味する。MT2124は、let−60/ras過剰活性化のカエノラブディティス・エレガンスであり、この株の線虫は多重陰門の表現型で、ヒトrasプロトオンコジーンの突然変異の難治性腫瘍に罹患してしたことに相当する。受検薬物によりカエノラブディティス・エレガンスMT2124を処置し、受検薬物が受検線虫の多重陰門の表現型の生成を抑制し、野生型への発達を促進できれば、薬物は、Ras経路に作用し、該経路の過剰活性化を下方制御して、抗腫瘍活性があることを意味する。受検線虫群れにおける野生型の線虫が占める割合が高いほど、受検薬物の作用効果がよいことを意味する。
【0040】
実験材料:カエノラブディティス・エレガンスMT2124、遺伝子型:let−60(n1046sd、gf)IV、CGCから購入;大腸菌OP50、ウラシル漏出の突然変異株、カエノラブディティス・エレガンスの食物としてCGCから購入。
【0041】
S基礎液:塩化ナトリウム2.925g、リン酸水素二カリウム0.5g、リン酸二水素カリウム3g、蒸留水500mLを振蕩して溶解させ、121℃で20min殺菌した。
【0042】
1Mのクエン酸緩衝液:クエン酸2g、クエン酸カリウム29.35g、蒸留水100mLを振蕩して溶解させ、121℃で20min殺菌した。
【0043】
微量溶液:EDTA 0.186g、FeSO
4・7H
2O 0.06g、MnCl
2・4H
2O 0.02g、CuSO
4・5H
2O 0.0025g、ZnSO
4・7H
2O 0.029g、蒸留水100mLを振蕩して溶解させ、121℃で20min殺菌した。
【0044】
1Mの硫酸マグネシウム溶液:MgSO
4・7H
2O 24.647g、蒸留水100mLを振蕩して溶解させ、121℃で20min殺菌した。
【0045】
1Mの塩化カルシウム溶液:CaCl
2・2H
2O 14.702g、蒸留水100mLを振蕩して溶解させ、121℃で20min殺菌した。
【0046】
5mg/mLのコレステロール溶液:コレステロール0.05g、無水エタノール10mLを振蕩して溶解させ、4℃で保存して予備した。
【0047】
S液培地:S基礎液100mL、1Mのクエン酸緩衝液1mL、微量溶液1mL、1Mの硫酸マグネシウム溶液0.3mL、1Mの塩化カルシウム溶液0.3mL、5mg/mLのコレステロール溶液0.1mLを均一に混合させてよい。
【0048】
M9緩衝液:塩化ナトリウム2.486g、リン酸水素二ナトリウム2.982g、リン酸二水素カリウム1.496g、硫酸マグネシウム0.06g、蒸留水500mLを振蕩して溶解させ、121℃で20min殺菌した。
【0050】
線虫の培養:線虫を大腸菌OP50が塗布された固形NGMプレート上に接して、20℃の培養器に入れて培養し、線虫が成虫に発達していた、かつプレート上に卵と線虫の幼虫がある時に、線虫の同調化を行う。
【0051】
線虫の同調化:フラットプレート上の線虫をM9緩衝液で洗い流し、洗液を遠心管に吸い込む。4000rpmで3min遠心し、上清を除去してから、大腸菌を洗浄するために、M9緩衝液を加えて遠心することを数回繰り返す。溶解液(最終濃度:3.2%NaClOと1MのNaOH)を加える。ボルテックスで7min振蕩し、線虫を破砕させ、卵を得る。4000rpmで3min遠心し、上清を除去し、沈殿物を集めて多数の線虫卵を得る。M9緩衝液で2回洗い流し、M9緩衝液1mLを加え、20℃の培養器に置いて48時間孵化した。
【0052】
薬液の配合:漢方薬の揮発性油エキスを次の濃度に希釈する:
【0053】
L:12.5μg/mL、M:25μg/mL、H:50μg/mL、HH:100μg/mL
【0054】
薬物の作用:同調化された線虫を80隻/20μL程度に希釈し、前記の線虫液20μL、S液120μL、10mg/mLの大腸菌OP50 20μL、5mg/mLのコレステロール20μL、薬液20μLを96ウェルプレートの各ウェルに加え、各濃度は5つのパラレルに設定する。ブランクコントロール群は、薬液を加えず、薬液を等体積のS液に換える。線虫を20℃の恒温で成熟に培養し、顕微鏡で線虫における野生型の割合を検出する(すなわち、正常な陰門が1つしかない線虫の割合)。ブランクコントロール群に比べて、野生型の割合が高いほど、薬物がras活性化を抑制する作用が強いことを意味する。その結果は下表に示される:
【0057】
表2によると、漢方薬の揮発性油エキスは、カエノラブディティス・エレガンスMT2124の野生型の割合を有意に増加させ、濃度依存的な関係を現すことがわかり、漢方薬の揮発性油エキスはRas経路に作用し、Ras/MAPK経路の過剰活性化を有意に下方制御する作用があり、突然変異体を野生型にすることを意味する。従って、本漢方薬の揮発性油エキスは、Ras経路に作用でき、該経路の過剰活性化を下方制御し、抗腫瘍活性があり、rasプロトオンコジーンの過剰表現腫瘍を治療する薬物の調製に使用され得る。
【0058】
実施例3 漢方薬の揮発性油エキスの、カエノラブディティス・エレガンスMT8189(lin−15突然変異)に対する作用
【0059】
lin−15は、rasの上流に位置し、rasの阻害遺伝子であり、lin−15欠失の突然変異後、rasに対する抑制作用がなくなり、線虫が多重陰門の表現型を現す。MT8189(lin−15)線虫には、野生型let60/rasコピーが含まれ、本発明の漢方薬の揮発性油エキスがカエノラブディティス・エレガンスMT2124(let−60)の野生型の割合を有意に増加させることができ、MT8189(lin−15)線虫の多重陰門の表現型を抑制できない場合、本発明の漢方薬の揮発性油エキスはlet−60の突然変異によるras過剰活性化によって引き起こされる腫瘍細胞にのみ作用し、lin−15欠失の突然変異による野生型のras過剰活性化によって引き起こされる腫瘍細胞に作用しないことを意味する。従って、本発明の漢方薬の揮発性油エキスは、let−60の突然変異によるras過剰活性化によって引き起こされる腫瘍細胞にのみ作用し、正常な細胞に作用しないことが証明された。
【0060】
実験材料:カエノラブディティス・エレガンスMT8189、多重陰門の表現型、遺伝子型:lin−15(n765ts)X、CGCから購入。大腸菌OP50、ウラシル漏出の突然変異株、カエノラブディティス・エレガンスの食物としてCGCから購入。
【0062】
【表3】
lin−15(n765)は、rasの上遊に位置し、合成多重陰門の遺伝子(SynMuv)とする
o
【0063】
表3に示すように、本発明の漢方薬の揮発性油エキスは、lin−15(n765)の多重陰門の表現型を抑制できず、遺伝的優位性の原則に基づいて、実施例2の実験結果は、本発明の漢方薬の揮発性油エキスがその下流のlet60/rasプロトオンコジーンの過剰活性化による多重陰門の表現型を逆転できること、すなわち、本発明の漢方薬の揮発性油エキスはlet60/ras上流の遺伝子lin−15(n765)の多重陰門の表現型を抑制できないことが示される。これは、lin−15(n765)線虫には野生型のlet60/rasコピーが含まれており、本発明の漢方薬の揮発性油エキスはlet−60の突然変異によるlet60/ras過剰活性化の腫瘍にのみ作用し、lin−15欠失の突然変異によるlet60/ras過剰活性化の腫瘍に感受性がない、すなわち、本発明の漢方薬の揮発性油エキスはlet−60の突然変異によるras過剰活性化によって引き起こされる腫瘍細胞にのみ作用し、正常な細胞に作用しないためである。
【0064】
実施例4 漢方薬の揮発性油エキスの、カエノラブディティス・エレガンスCB1275(lin−1欠失の突然変異)に対する作用
【0065】
lin−1は、rasの下流の遺伝子の一つとして、MAPKによってリン酸化され得る核内転写因子であり、かつ陰門発達の負の調節因子であり、let−60の下流にある陰門が発達するシグナル経路を調節できる。lin−1とlin−31は複合体を形成し、lin−1がETSファミリーメンバーをコードし、lin−31が翼があるトリヘリックス転写因子をコードする。rasシグナルが非活性化である時に、lin−1とlin−31は互いに作用して複合体となり、この複合体は産卵管の機能遺伝子のプロモーター部分と結合してそれらの表現を阻害する。lin−1欠失の突然変異後に、複合体は形成できない。そうなると、複合体は産卵管の機能遺伝子のプロモーター部分と結合できず、産卵管遺伝子が表現し、さらに偽陰門が発達して多重陰門の表現型を生成する(Ferguson、1989)。
【0066】
すなわち、lin−1は、rasの下流の遺伝子一つとして、陰門発達の負の調節因子であり、lin−1欠失の突然変異後に産卵管遺伝子が表現し、線虫が多重陰門の表現型を現し、漢方薬の揮発性油エキスがlin−1の多重陰門の表現型を抑制できない。これは、薬物の作用部位はlin−1ではなくlin−1の上流であること、すなわち、薬物は陰門細胞の発達を直接に抑制するではなく、rasの過剰活性化を下方制御することで作用する。
【0067】
実験材料:カエノラブディティス・エレガンスの遺伝子型:lin−1(e1275)IVはCGC(CaenorhabditisGeneticsCenter)からであり、CGCから購入。大腸菌OP50、ウラシル漏出の突然変異株、カエノラブディティス・エレガンスの食物としてCGCから購入。
【0069】
実施例2の結果は、薬物が線虫の多重陰門の表現型を抑制したことを示しているが、この結果は、薬物がlet−60/ras過剰活性化を有意に下方制御する部位がlet−60またはその下流に位置することを示唆している。MT2124(let−60突然変異)の多重陰門の表現型を抑制できる薬物で、同様にカエノラブディティス・エレガンスCB1275を処置し、その多重陰門の表現型を抑制できない場合は、薬物の作用部位がlin−1の上流に位置することを意味する。なお、lin−1は、核内転写因子であるため、lin−31と互いに作用して複合体となり、陰門細胞の発達過程を調節する。薬物は該遺伝子が不活化する突然変異の多重陰門の表現型に有意な抑制作用を有すれば、薬物が陰門前駆細胞の発達を直接抑制し、それらが多重陰門の表現型を生成することを阻害できること、すなわち、rasプロトオンコジーンが過剰表現する腫瘍を治療できることを意味する。
【0071】
表4に示すように、CB1275株の線虫の多重陰門の表現型が漢方薬の揮発性油エキスの影響を受けていないことは、薬物がRasシグナル経路に作用し、let−60の突然変異によるras過剰活性化によって生成する多重陰門の表現型を抑制し、lin−1欠失の突然変異による多重陰門の表現型を抑制できないことを示しており、本発明の漢方薬の揮発性油エキスは、lin−1ではなくrasに作用し、薬物が細胞の増殖分化を直接に抑制するではなくrasの過剰活性化を下方制御することによって作用すること、すなわち、本発明の漢方薬の揮発性油エキスは、幅広い細胞毒性ではなくRas経路メカニズム依存的に作用することが証明される。
【0072】
実施例5 漢方薬の揮発性油エキスと単一薬物の、カエノラブディティス・エレガンスMT2124(let−60突然変異)に対する作用
【0074】
各単一薬物の用量は、漢方薬の揮発性油エキスと生薬量で一致する。
【0084】
表6〜12に示すように、本発明に記載の調製方法により調製された漢方薬エキスの揮発性油は、その抗腫瘍活性が単一薬物の揮発性油の抗腫瘍活性よりも有意に高い。
【0085】
実施例5 漢方薬の揮発性油エキス及びオイゲノールの、カエノラブディティス・エレガンスMT2124(let−60突然変異)に対する作用
【0086】
先行技術を検索すると、オイゲノールは抗腫瘍活性があることを見出すため、本実施例は、漢方薬の揮発性油エキス及びオイゲノールのrasプロトオンコジーンが過剰活性化した腫瘍を抑制する作用について比較を行った。実験の結果は次のとおりである:
【0088】
表13に示すように、オイゲノールは、rasプロトオンコジーンの過剰表現を抑制する効果も示したが、本発明で開示される漢方薬の揮発性油エキスは、その抗腫瘍活性がオイゲノールの抗腫瘍活性よりも有意に高い。これは、本発明における合理的な配合と抽出処理により得られた漢方薬の揮発性油エキスは、相乗効果の技術効果を実現した。
【0089】
従って、本発明は、漢方薬組成物及びその揮発性油エキスの、rasプロトオンコジーンの過剰表現腫瘍を治療するための使用に関し、具体的に係る腫瘍は、肝臓がん、膵臓がん、肺がん、及び結腸がんである。該漢方薬組成物及び漢方薬の揮発性油エキスのras遺伝子の過剰表現腫瘍に対する治療作用は、幅広い細胞毒性に依存するではなく、rasプロトオンコジーンの過剰表現を特異的に下方制御することである。該漢方薬組成物及び漢方薬の揮発性油エキスは、let−60の突然変異によるras過剰活性化によって引き起こされる腫瘍細胞にのみ作用し、lin−15欠失の突然変異による野生型のras過剰活性化によって引き起こされる腫瘍細胞に作用しない、すなわち、本発明の漢方薬組成物及び漢方薬の揮発性油エキスは、がん細胞にのみ作用し、正常な細胞に作用しなく、催奇形性がなく、適用が安全である。
【国際調査報告】