特表2021-527071(P2021-527071A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-527071EPAC阻害剤としてのチエノ[2,3−B]ピリジン誘導体及びその医薬用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-527071(P2021-527071A)
(43)【公表日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】EPAC阻害剤としてのチエノ[2,3−B]ピリジン誘導体及びその医薬用途
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/04 20060101AFI20210913BHJP
   A61K 31/4365 20060101ALI20210913BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20210913BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20210913BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20210913BHJP
【FI】
   C07D495/04 105A
   C07D495/04CSP
   A61K31/4365
   A61P9/00
   A61P9/06
   A61P9/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2020-568471(P2020-568471)
(86)(22)【出願日】2019年6月6日
(85)【翻訳文提出日】2021年2月3日
(86)【国際出願番号】EP2019064886
(87)【国際公開番号】WO2019234197
(87)【国際公開日】20191212
(31)【優先権主張番号】18305685.2
(32)【優先日】2018年6月6日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】510139564
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ−サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS−SACLAY
(71)【出願人】
【識別番号】520476569
【氏名又は名称】サピエンツァ・ウニヴェルシタ・ディ・ローマ
【氏名又は名称原語表記】SAPIENZA UNIVERSITA DI ROMA
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ブロンドー,ジャン−ポール
(72)【発明者】
【氏名】コルチア,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ローデット,マリオン
(72)【発明者】
【氏名】ルズーアオ,フランク
【テーマコード(参考)】
4C071
4C086
【Fターム(参考)】
4C071AA01
4C071BB01
4C071CC01
4C071CC21
4C071DD12
4C071EE13
4C071FF06
4C071GG01
4C071GG06
4C071HH17
4C071JJ01
4C071JJ07
4C071LL01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB29
4C086GA04
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
(57)【要約】
本発明は、炎症、ガン、血管疾患、腎疾患、認知障害、疼痛、感染症、肥満及び心疾患からなる群より選択される疾患の治療及び/又は予防に使用するためのチエノ[2,3−b]ピリジン誘導体に関する。実際、本発明者らは、本発明のチエノ[2,3−b]ピリジン誘導体がEpacタンパク質の阻害剤であり、したがって、Epacタンパク質が関与する疾患の予防及び/又は治療に有用であり得ることを見出した。特に、本発明者らは、本発明のチエノ[2,3−b]ピリジン誘導体がEpacの強力で非競合的な阻害剤であることを示し、また、それらが細胞中のRap1等のEpac下流エフェクターの活性化を阻害することも実証した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Epacタンパク質が関与する疾患の治療及び/又は予防に使用するための、下記式(I):
【化1】

[式中、
は、
− H、
− (C〜C20)アルキル、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、該アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており、
は、
− H、
− (C〜C20)アルキル、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択されるか、
又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成しており、
ここで、該アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており、
は、
− H、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、該シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており、
は、H、−OH、−NRxRy及び−C(O)ORzからなる群より選択され、
Rx、Ry及びRzは、それぞれ独立して、H又は(C1〜C10)アルキルであるか、
又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成している]
を有する化合物であって、
ここで、該疾患が、心肥大、心不整脈、弁膜症、拡張機能障害、慢性心不全、虚血性心不全、心筋虚血、再潅流傷害、心筋炎、肥大型及び拡張型心筋症からなる群より選択される心疾患である、化合物、又はその薬学的に許容し得る塩、水和物若しくは水和塩又はその多形結晶構造体、ラセミ体、ジアステレオマー若しくはエナンチオマー。
【請求項2】
が、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、該シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基が、場合により置換されている、請求項1記載の使用のための式(I)で示される化合物。
【請求項3】
が、
− H、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、該アリール及びヘテロアリール基が、−NR(式中、R及びRが、それぞれ独立して、(C〜C10)アルキル又はHから選択される)、(C〜C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1つ以上の置換基により場合により置換されている、請求項1又は2記載の使用のための式(I)で示される化合物。
【請求項4】
が、
− H、
− (C〜C20)アルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択されるか、
又はR及びRが、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成しており、
ここで、該アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基が、(C〜C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1つ以上の置換基により場合により置換されている、請求項1〜3のいずれか一項記載の使用のための式(I)で示される化合物。
【請求項5】
が、(C〜C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より好ましくは選択される1つ以上の置換基により場合により置換されている(C〜C10)アリールである、請求項1〜4のいずれか一項記載の使用のための式(I)で示される化合物。
【請求項6】
が、Hであるか、又はR及びRが、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C)シクロアルキル基を形成している、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用のための式(I)で示される化合物。
【請求項7】
が、フェニル基であり及び/又はRが、チエニル基であり、該フェニル基及びチエニル基が、場合により置換されている、請求項1〜6のいずれか一項記載の使用のための式(I)で示される化合物。
【請求項8】
が、
− (C〜C20)アルキル、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、該アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基が、場合により置換されており、
が、
− H、
− (C〜C20)アルキル、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択されるか、
又はR及びRが、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成しており、
ここで、該アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基が、場合により置換されている、請求項1記載の使用のための式(I)で示される化合物。
【請求項9】
下記式(II):
【化2】

[式中、
Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rx、Ry及びRzが、H、−OH、ハロゲン原子、−C(O)OH、(C〜C10)アルキル、(C〜C10)アルコキシ及び−NRからなる群より選択され、
ここで、R及びRが、それぞれ独立して、(C〜C10)アルキル又はHから選択され、
が、H、−OH、−NH及び−C(O)OHからなる群より選択され、
が、請求項1で定義されたとおりである]
により特徴付けられる、請求項1記載の使用のための式(I)で示される化合物。
【請求項10】
下記式:
【化3】

のうちの1つを有する、請求項1記載の使用のための式(I)で示される化合物。
【請求項11】
下記式:
【化4】

を有する、請求項1記載の使用のための式(I)で示される化合物。
【請求項12】
少なくとも1種の薬学的に許容し得る賦形剤と関連して、請求項1〜11のいずれか一項で定義されるその使用のための式(I)を有する化合物を含む、医薬組成物。
【請求項13】
Epacタンパク質が関与する疾患の予防及び/又は治療の方法であって、
該方法が、薬学的に許容し得る量の請求項1で定義される式(I)で示される化合物を、それを必要とする患者に投与することを含み、
該疾患が、心肥大、心不整脈、弁膜症、拡張機能障害、慢性心不全、虚血性心不全、心筋虚血、再潅流傷害、心筋炎、肥大型及び拡張型心筋症からなる群より選択される心疾患である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Epac阻害剤として有用なチエノ[2,3−b]ピリジン誘導体及びその医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
二次情報伝達物質であるサイクリックAMP(cAMP)は、細胞増殖、透過性及び炎症を含む多様な生理学的プロセスをレギュレーションする。cAMPの主な細胞内機能は、プロテインキナーゼA(PKA)と、より最近特定されたExchange Proteins directly Activated by cAMP(以下、Epacと呼ばれる)とにより伝達される。
【0003】
Epacタンパク質には、Epac1及びEpac2という2つのアイソフォームが存在する。両タンパク質は、低分子量Gプロテイン、Rap1及びRap2のグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)として作用し、PKA非依存的に機能する。Epacの2つのアイソフォームは、Epac1が単一の環状ヌクレオチド結合(CNB)ドメインを有し、一方、Epac2がCNB−A及びCNB−Bと呼ばれる2つのCNBドメイン(これらは、DEPドメイン(Dishevelled,Egl−10 and Pleckstrinドメイン)の両側に位置している)を有する点で異なる。
【0004】
Epacは、炎症、ガン、血管疾患、腎疾患、認知障害、疼痛、感染症、肥満及び心疾患等の疾患に関連する種々の生理学的プロセスをレギュレーションする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、新規なEpac阻害剤を提供することが必要とされている。特に、より強力かつ/又はより選択的なEpac阻害剤が必要とされている。また、Epacが関与する疾患、例えば、炎症、ガン、血管疾患、腎疾患、認知障害、疼痛、感染症、肥満及び心疾患の予防及び/又は治療に使用することができるEpac阻害剤を提供することも必要とされている。
【0006】
本発明の目的は、新規なEpac阻害剤を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、in vitroにおいて既知のEpac阻害剤、例えば、化合物CE3F4又は8−CPT−N6−フェニル−cAMP(8−CPT−N6又は8−(4−クロロフェニルチオ)−N−フェニルアデノシン−3’,5’−環状モノホスファート)より、in vivoにおいて強力な、新規なEpac阻害剤を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、Epac下流エフェクターの活性化、特に、Epac1誘引Rap1活性化を妨げる、新規なEpac阻害剤を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、Epac1触媒活性を選択的に阻害する、新規なEpac阻害剤を提供することである。
【0010】
本発明の目的は、炎症、ガン、血管疾患、腎疾患、認知障害、疼痛、感染症、肥満及び心疾患の予防及び/又は治療に有用であることができる、新規なEpac阻害剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため、本発明は、Epacタンパク質が関与する疾患の治療及び/又は予防に使用するための、下記式(I):
【化1】

[式中、
は、
− H、
− (C〜C20)アルキル、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており、
は、
− H、
− (C〜C20)アルキル、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択されるか、
又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成しており、
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており、
は、
− H、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており、
は、H、−OH、−NRxRy及び−C(O)ORzからなる群より選択され、
Rx、Ry及びRzは、それぞれ独立して、H又は(C1〜C10)アルキルであるか、
又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成している]
を有する化合物、又はその薬学的に許容し得る塩、水和物若しくは水和塩又はその多形結晶構造体、ラセミ体、ジアステレオマー若しくはエナンチオマーに関する。
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、チエノ[2,3−b]ピリジン誘導体がEpacタンパク質を阻害することを発見した。この阻害により、Epac誘引Rap1活性化の阻害がもたらされる。また、本発明者らは、驚くべきことに、チエノ[2,3−b]ピリジン誘導体がcAMP及びEpacアゴニストの非競合的阻害剤であることも発見した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1:BRETアッセイ。cAMP(100μM)を加える前に、AM−001、(R)−CE3F4(20μM)又は媒体を細胞抽出物に加え、BRET比(3つのウェルの平均±S.E.M)を測定し、阻害剤を使用しない対照値に対するBRET比の% 変化としてプロットした。
図2図2及び図3:BRET比を漸増濃度のAM−001又はcAMPの存在下において、トリプリケートで測定した。データをcAMP(図2)又はAM−001(図2)濃度の関数としてプロットした。各条件下で得られた曲線を、Graphpad Prismを使用して分析し、最大BRET比応答(阻害剤を使用しない対照値に対するBRET比の% 変化として表現される)を得た。報告された値は、平均±S.E.M(トリプリケート;いくつかのエラーバーを記号によりマスクする)である。****p<0.0001対媒体。図2において、曲線aは、AM−001の不存在に対応し、曲線bは、濃度2μM AM−001に対応し、曲線cは、濃度5μM AM−001に対応し、曲線dは、濃度10μM AM−001に対応し、曲線eは、濃度20μM AM−001に対応し、曲線fは、濃度30μM AM−001に対応し、曲線gは、濃度60μM AM−001の濃度に対応する。
図3図3において、曲線aは、濃度1,000μM cAMPに対応し、曲線bは、濃度300μM cAMPに対応し、曲線cは、濃度100μM cAMPに対応し、曲線dは、濃度30μM cAMPに対応し、曲線eは、濃度10μM cAMPに対応し、曲線fは、濃度3μM cAMPに対応し、曲線gは、濃度1μM cAMPに対応する。
図4図4図8.Epac1(図4)及びEpac2(図6)の活性を、Sp−8−CPTの不存在下(■)又は30μM Sp−8−CPTの存在下において、単独(●)又は20μM (R)−CE3F4(△)若しくは20μM AM−001(◇)のいずれかで測定した。相対蛍光単位(RFU)の変化を時間の関数として試験し、単一指数関数に適合させた。
図5】報告された値は、平均±S.E.M(トリプリケート;いくつかのエラーバーを記号によりマスクする)である(図5及び7))。
図6】Epac1(図4)及びEpac2(図6)の活性を、Sp−8−CPTの不存在下(■)又は30μM Sp−8−CPTの存在下において、単独(●)又は20μM (R)−CE3F4(△)若しくは20μM AM−001(◇)のいずれかで測定した。相対蛍光単位(RFU)の変化を時間の関数として試験し、単一指数関数に適合させた。
図7】報告された値は、平均±S.E.M(トリプリケート;いくつかのエラーバーを記号によりマスクする)である(図5及び7))。
図8】結果を阻害剤の非存在下で測定された対照値(100%に設定)に対するEpac触媒GDP交換の初速度として表現した(図8)。Epac1(●)及びEpac2B(□)により誘引されたヌクレオチド交換の初速度を、飽和濃度のSp−8−CPT(50μM)及び漸増濃度のAM−001の存在下において、トリプリケートで測定した。結果を時間経過試験からのAM−001の非存在下で測定されたGDP交換の% 初速度として表現し、平均±S.E.M(いくつかのエラーバーを記号によりマスクする)として示す。**p<0.01、****p<0.0001対対照値又は指示値。
図9図9図13.Epac1(図9図11)、Epac2A(図12)又はEpac2B(図13)によりトランスフェクションされたHEK293細胞において、Rap1−GTPの量(各群n=5、平均値±S.E.M)を測定した。細胞をAM−001(図9図12及び図13)、AM−002(図10)又はAM−003(図11)(20μM、30分)とプレインキュベーションするか又はせず、ついで、8−CPT−AM(Epac1活性化については10μM及びEpac2A活性化については20μM)又はS−220(Epac2B活性化については50μM)で10分間処理するか又はしなかった。ESI−05をEpac2A阻害の陽性対照として使用した。代表的なイムノブロットを示す。p<0.01、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001対指示値、一元配置ANOVA、Bonferroni対比検定。
図10】Epac1(図9図11)、Epac2A(図12)又はEpac2B(図13)によりトランスフェクションされたHEK293細胞において、Rap1−GTPの量(各群n=5、平均値±S.E.M)を測定した。細胞をAM−001(図9図12及び図13)、AM−002(図10)又はAM−003(図11)(20μM、30分)とプレインキュベーションするか又はせず、ついで、8−CPT−AM(Epac1活性化については10μM及びEpac2A活性化については20μM)又はS−220(Epac2B活性化については50μM)で10分間処理するか又はしなかった。ESI−05をEpac2A阻害の陽性対照として使用した。代表的なイムノブロットを示す。p<0.01、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001対指示値、一元配置ANOVA、Bonferroni対比検定。
図11】Epac1(図9図11)、Epac2A(図12)又はEpac2B(図13)によりトランスフェクションされたHEK293細胞において、Rap1−GTPの量(各群n=5、平均値±S.E.M)を測定した。細胞をAM−001(図9図12及び図13)、AM−002(図10)又はAM−003(図11)(20μM、30分)とプレインキュベーションするか又はせず、ついで、8−CPT−AM(Epac1活性化については10μM及びEpac2A活性化については20μM)又はS−220(Epac2B活性化については50μM)で10分間処理するか又はしなかった。ESI−05をEpac2A阻害の陽性対照として使用した。代表的なイムノブロットを示す。p<0.01、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001対指示値、一元配置ANOVA、Bonferroni対比検定。
図12】Epac1(図9図11)、Epac2A(図12)又はEpac2B(図13)によりトランスフェクションされたHEK293細胞において、Rap1−GTPの量(各群n=5、平均値±S.E.M)を測定した。細胞をAM−001(図9図12及び図13)、AM−002(図10)又はAM−003(図11)(20μM、30分)とプレインキュベーションするか又はせず、ついで、8−CPT−AM(Epac1活性化については10μM及びEpac2A活性化については20μM)又はS−220(Epac2B活性化については50μM)で10分間処理するか又はしなかった。ESI−05をEpac2A阻害の陽性対照として使用した。代表的なイムノブロットを示す。p<0.01、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001対指示値、一元配置ANOVA、Bonferroni対比検定。
図13】Epac1(図9図11)、Epac2A(図12)又はEpac2B(図13)によりトランスフェクションされたHEK293細胞において、Rap1−GTPの量(各群n=5、平均値±S.E.M)を測定した。細胞をAM−001(図9図12及び図13)、AM−002(図10)又はAM−003(図11)(20μM、30分)とプレインキュベーションするか又はせず、ついで、8−CPT−AM(Epac1活性化については10μM及びEpac2A活性化については20μM)又はS−220(Epac2B活性化については50μM)で10分間処理するか又はしなかった。ESI−05をEpac2A阻害の陽性対照として使用した。代表的なイムノブロットを示す。p<0.01、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001対指示値、一元配置ANOVA、Bonferroni対比検定。
図14図14:単離された成人心筋細胞をAM−001(20μM、30分)で前処理するか又はせず、8−CPT−AM(10μM、30分)で刺激するか又はせず、正常酸素圧(NX)又は低酸素−再酸素化(HX+R)処理に供した。細胞生存率をNX又はHX+R条件下(n=6)での乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出により決定した。
図15図15図16:リスク領域(AAR)の定量を% 左心室サイズとして表現し、梗塞サイズを% AARのパーセンテージとして表現した。AM−001(図15)又はR−CE3F4(図16)により前処理するか又はしなかったマウスのエバンスブルー及びTTCで染色した代表的な断面を示す。統計学的有意差を二元配置ANOVA、続けて、Bonferroni事後検定又はt−検定にて決定した。p<0.01、**p<0.01、***p<0.001対指示値。
図16】リスク領域(AAR)の定量を% 左心室サイズとして表現し、梗塞サイズを% AARのパーセンテージとして表現した。AM−001(図15)又はR−CE3F4(図16)により前処理するか又はしなかったマウスのエバンスブルー及びTTCで染色した代表的な断面を示す。統計学的有意差を二元配置ANOVA、続けて、Bonferroni事後検定又はt−検定にて決定した。p<0.01、**p<0.01、***p<0.001対指示値。
図17図17:示された条件(左パネル)下で処置されたマウスの血清中のAST及びALT活性(各群n=7)。AM−001の有無における1日目と14日目との間での動物のFSの比較(右パネル)(各群n=12)。
図18図18:媒体又はAM−001による処置の14日後のマウスのLVW/TL比。
図19図19:棒グラフは、線維症の定量を示す(各群n=6〜8)。
図20図20:AM−001の有無における1日目と14日目との間でのISO処置動物におけるFS、LVID及びLVIDdの比較(各群n=18〜20)。
図21図21:Epac1、GRK2及びGRK5の代表的なイムノブロット。統計学的有意差を2元配置ANOVA、続けて、Bonferroni事後検定により決定した。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001対指示値。ns、有意差なし。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一実施態様では、式(I)で示される化合物は、選択的Epac阻害剤である。選択的Epac阻害剤は、Epacタンパク質に対して阻害効果を示し、他のタンパク質に対して中等度の阻害効果を示すか又は全く阻害効果を示さない化合物であることができる。一実施態様では、式(I)で示される化合物は、非競合阻害剤である。一実施態様では、式(I)で示される化合物は、プロテインキナーゼA(PKAとも呼ばれる)を阻害しない。別の実施態様では、式(I)で示される化合物によるEpacの阻害は、前記化合物の濃度に依存する。
【0015】
一実施態様では、式(I)で示される化合物は、Epac1阻害剤である。別の実施態様では、式(I)で示される化合物は、Epac1選択的阻害剤である。一実施態様では、Epac1選択的阻害剤は、Epac1アイソフォームに対して阻害効果を示す化合物である。とりわけ、一般的には、Epac1選択的阻害剤は、Epac1に対する阻害効果を示し、Epac2アイソフォームに対する中等度の阻害効果を示すか又は全く阻害効果を示さない。「選択的Epac1阻害剤」とは、Epac1阻害剤が、他のアイソフォームであるEpac2よりも優先して、特定のEpac1アイソフォームに影響を及ぼす能力と理解することができる。Epac1選択的阻害剤は、2つのEpacアイソフォームを識別する能力を有するため、本質的には、Epac1アイソフォームに影響を及ぼすことができる。
【0016】
「CE3F4」は、下記式:
【化2】

を有する化合物を指す。
【0017】
「(C〜C20)アルキル」又は「(C〜C20)アルキル」という用語は、直鎖又は分岐鎖であることができ、鎖中にそれぞれ1〜20個の炭素原子又は2〜20個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基を意味する。好ましいアルキル基は、鎖中に1〜5個の炭素原子を有し、好ましいアルキル基は、特に、メチル又はエチル基である。「分岐鎖」は、1つ又は低級アルキル基、例えば、メチル、エチル若しくはプロピルが直鎖アルキル鎖に付着していることを意味する。アルキル基は置換されている場合がある。
【0018】
「(C〜C10)シクロアルキル」とは、3〜10個の炭素原子を有し、ここで、置換可能な任意の炭素原子が置換基により置換されている場合がある、環状飽和炭化水素基を意味する。特に、シクロアルキル基は、シクロプロピル又はシクロヘキシル基である。
【0019】
「3〜10員のヘテロシクロアルキル」は、3〜10個の炭素原子を有し、ここで、1つ以上の炭素原子が1つ以上のヘテロ原子、例えば、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子;例えば、1つ若しくは2つの窒素原子、1つ若しくは2つの酸素原子、1つ若しくは2つの硫黄原子又は異なるヘテロ原子の組み合わせ、例えば、1つの窒素原子及び1つの酸素原子により置き換えられている、環状飽和炭化水素基を意味する。置換が可能な任意の環原子は、置換基により置換されている場合がある。好ましい3〜10員のヘテロシクロアルキルは、フラン、チオフェン、窒素環、例えば、ピロール若しくはピラゾール又はフルオロフェニル環である。
【0020】
「(C〜C10)アリール」という用語は、芳香族単環式、二環式又は三環式炭化水素環系であって、置換可能な環原子は、置換基により置換されている場合がある、炭化水素系を指す。アリール部分の例は、フェニルを含むが、これに限定されない。
【0021】
「5〜10員のヘテロアリール」という用語は、芳香族単環式、二環式又は三環式炭化水素環系であって、置換可能な任意の環原子が置換基により置換されている場合があり、ここで、1つ以上の炭素原子が1つ以上のヘテロ原子、例えば、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子;例えば、1つ若しくは2つの窒素原子、1つ若しくは2つの酸素原子、1つ若しくは2つの硫黄原子又は異なるヘテロ原子の組み合わせ、例えば、1つの窒素原子及び1つの酸素原子により置き換えられている。好ましいヘテロアリール基は、チエニル、ピリジル、ピリミジル及びオキサジル基、より好ましくは、チエニル基である。
【0022】
「ハロゲン」という用語は、周期表の17族の原子を指し、特に、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素原子、より好ましくは、フッ素、塩素及び臭素原子、例えば、フッ素を含む。
【0023】
「場合により置換されている」は、本発明の化合物のアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基が−OH、ハロゲン原子、−C(O)OH、−(C〜C10)アルキル、−(C〜C10)アルコキシ及び−NR基(ここで、R及びRは、それぞれ独立して、(C〜C10)アルキル又はHから選択される)からなる群より選択される1つ以上の置換基により、場合により置換されていることを意味することができる。
【0024】
好ましくは、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、1つ以上のハロゲン原子、より好ましくは、フッ素原子により場合により置換されている。
【0025】
「チエノ[2,3−b]ピリジン誘導体」という用語は、下記化学構造:
【化3】

から誘導される化合物を指す。
【0026】
本明細書に記載された化合物は、不斉中心を有する場合がある。不斉置換原子を含有する本発明の化合物は、光学活性体又はラセミ体で単離することができる。ラセミ体の分割又は光学活性出発物質からの合成等により、光学活性体を調製する方法は、当技術分野において周知である。立体化学又は異性体が特に示されない限り、化合物の全てのキラル、ジアステレオマーラセミ体及び全ての幾何異性体が意図される。
【0027】
「薬学的に許容し得る塩」という用語は、本発明の化合物の生物学的有効性及び特性を保持し、生物学的に又は他の点で望ましくなくはない塩を指す。薬学的に許容し得る酸付加塩は、無機酸及び有機酸から調製することができる。一方、薬学的に許容し得る塩基付加塩は、無機塩基及び有機塩基から調製することができる。薬学的に許容し得る塩のレビューについては、Berge, et al.((1977) J. Pharm. Sd, vol. 66, 1)を参照のこと。例えば、該塩は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸等から得られる塩並びに有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、フマル酸、メタンスルホン酸及びトルエンスルホン酸等から調製される塩を含む。
【0028】
「Epacタンパク質が関与する疾患」は、Epacタンパク質が発現している若しくは過剰発現しているかつ/又は突然変異している疾患を意味する。
【0029】
本発明の文脈において、本明細書で使用する場合、「処置する」又は「処置」という用語は、このような用語が適用される障害若しくは状態又はこのような障害若しくは状態の1つ以上の症状の進行を逆転させ、これらを軽減し、阻害することを意味する。
【0030】
本発明の文脈において、本明細書で使用する場合、「予防する」又は「予防」という用語は、このような用語が適用される障害若しくは状態又はこのような障害若しくは状態の1つ以上の症状の発症又は進行を回避することを意味する。
【0031】
また、本発明は、心肥大、心不整脈、弁膜症、拡張機能障害、慢性心不全、虚血性心不全、心筋虚血、再潅流傷害、心筋炎、肥大型及び拡張型心筋症からなる群より選択される心疾患の治療及び/又は予防に使用するための、下記式(I):
【化4】

[式中、
は、
− (C〜C20)アルキル、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており、
は、
− H、
− (C〜C20)アルキル、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択されるか、
又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成しており、
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており、
は、
− H、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており、
は、H、−OH、−NRxRy及び−C(O)ORzからなる群より選択され、
Rx、Ry及びRzは、それぞれ独立して、H又は(C1〜C10)アルキルであるか、
又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成している]
を有する化合物、又はその薬学的に許容し得る塩、水和物若しくは水和塩又はその多形結晶構造体、ラセミ体、ジアステレオマー若しくはエナンチオマーに関する。
【0032】
実施態様によれば、Rは、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されている。
【0033】
一般式(I)で示される化合物
一実施態様では、Rは、
− (C〜C10)シクロアルキル、
− 3〜10員のヘテロシクロアルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されている。
【0034】
特定の実施態様では、Rは、好ましくは、(C〜C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1つ以上の置換基により場合により置換されている(C〜C10)アリールである。一実施態様では、Rは、H又は(C〜C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1つ以上の置換基により場合により置換されている(C〜C10)アリールである。特定の実施態様では、Rは、H又は1つ以上のハロゲン原子により場合により置換されているフェニルである。特定の実施態様では、Rは、好ましくは、1つ以上のハロゲン原子により場合により置換されているフェニルである。
【0035】
別の実施態様では、Rは、
− H、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、前記アリール及びヘテロアリール基は、(C〜C10)アルキル、ハロゲン原子及び−NR基(式中、R及びRは、それぞれ独立して、(C〜C10)アルキル又はHから選択される)からなる群より選択される1つ以上の置換基により場合により置換されている。
【0036】
好ましくは、Rは、H又は1つ以上の置換基、例えば、(C〜C10)アルキル、ハロゲン原子及び−NR基(式中、R及びRは、それぞれ独立して、(C〜C10)アルキル又はHから選択される)からなる群より選択される置換基により場合により置換されている(C〜C10)アリールである。特定の実施態様では、Rは、H又は1つ以上のハロゲン原子、例えば、好ましくは、パラ位において1つのフッ素原子により場合により置換されているフェニルである。
【0037】
別の実施態様では、Rは、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択され、
ここで、前記アリール及びヘテロアリール基は、(C〜C10)アルキル、ハロゲン原子及び−NR基(式中、R及びRは、それぞれ独立して、(C〜C10)アルキル又はHから選択される)からなる群より選択される1つ以上の置換基により場合により置換されている。
【0038】
好ましくは、Rは、1つ以上の置換基、例えば、(C〜C10)アルキル、ハロゲン原子及び−NR基(式中、R及びRは、それぞれ独立して、(C〜C10)アルキル又はHから選択される)からなる群より選択される置換基により場合により置換されている(C〜C10)アリールである。特定の実施態様では、Rは、1つ以上のハロゲン原子、例えば、好ましくは、パラ位において1つのフッ素原子により場合により置換されているフェニルである。
【0039】
一実施態様では、Rは、
− H、
− (C〜C20)アルキル、
− (C〜C10)アリール、及び
− 5〜10員のヘテロアリール
からなる群より選択されるか、
又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成しており、
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、(C〜C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1つ以上の置換基により場合により置換されている。
【0040】
特定の実施態様では、Rは、(C〜C10)アルキル及び5〜6員のヘテロアリール基からなる群より選択されるか又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成しており、ここで、前記アルキル、シクロアルキル及びヘテロアリール基は、好ましくは、(C〜C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1つ以上の置換基により場合により置換されている。
【0041】
特定の実施態様では、Rは、5〜6員のヘテロアリール基からなる群より選択され、ここで、前記ヘテロアリール基は、好ましくは、(C〜C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1つ以上の置換基により場合により置換されている。特定の実施態様では、Rは、チエニル基である。
【0042】
特定の実施態様では、Rは、(C〜C10)アルキル及びチエニル環からなる群より選択されるか又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C)シクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基を形成している。
【0043】
一実施態様では、Rは、H、−OH、−NH及び−C(O)OHからなる群より選択されるか又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成している。一実施態様では、Rは、Hであるか又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C)シクロアルキル基を形成している。好ましくは、Rは、Hである。
【0044】
特定の実施態様では、Rは、フェニル基であり及び/又はRは、チエニル基であり、前記フェニル基及びチエニル基は、場合により置換されている。一実施態様では、R及びRのうちの少なくとも一方は、(C〜C10)アリール基又は5〜10員のヘテロアリール基である。
【0045】
好ましくは、上記式(I)において、Rは、(C〜C20)アルキル、(C〜C10)シクロアルキル、3〜10員のヘテロシクロアルキル、(C〜C10)アリール及び5〜10員のヘテロアリールからなる群より選択され、ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており、Rは、H、(C〜C20)アルキル、(C〜C10)シクロアルキル、(C〜C10)アリール及び5〜10員のヘテロアリールからなる群より選択されるか又はR及びRは、それらを担持している炭素原子と共に、(C〜C10)シクロアルキル基を形成しており、ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘアリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されている。
【0046】
特定の一実施態様では、本発明の化合物は、下記式(II):
【化5】

[式中、
Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rx、Ry及びRzは、
H、−OH、ハロゲン原子、−C(O)OH、(C〜C10)アルキル、(C〜C10)アルコキシ及び−NR
からなる群より選択され、
ここで、R及びRは、それぞれ独立して、(C〜C10)アルキル又はHから選択され、
は、H、−OH、−NH及び−C(O)OHからなる群より選択され、
は、上記定義されたとおりである]
により特徴付けられる。
【0047】
特定の実施態様では、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rx、Ry及びRzは、H、ハロゲン原子又は(C〜C10)アルキルの中から選択される。一実施態様では、Rx、Ry及びRzは、Hでありかつ/又はRa、Rb、Rd及びReは、Hである。好ましくは、Rcは、H又はハロゲン原子、例えば、フッ素原子である。
【0048】
一実施態様では、式(I)で示される化合物は、下記式:
【化6】

のうちの1つを有する。
【0049】
好ましくは、式(I)で示される化合物は、下記式:
【化7】

を有する。
【0050】
また、本発明は、式(I)で示される化合物自体に関する。
【0051】
医薬組成物及び使用
また、本発明は、少なくとも1種の薬学的に許容し得る賦形剤と関連して、上記定義されたその使用のための、式(I)を有する化合物を含む、医薬組成物に関する。
【0052】
また、本発明は、上記定義されたその使用のための、式(I)を有する化合物を含む、薬剤に関する。
【0053】
式(I)を有する化合物を単独で投与することは可能であるが、それらを医薬組成物として提示することが好ましい。本発明に従って有用で、獣医学的使用及びヒトに対する使用の両方のための医薬組成物は、1種以上の薬学的に許容し得る担体及びおそらく他の治療成分と共に、上記定義された式(I)を有する少なくとも1つの化合物を含む。
【0054】
特定の好ましい実施態様では、併用療法に必要な活性成分は、同時投与のために単一の医薬組成物中で組み合わせることができる。
【0055】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容し得る」及びその文法的変形例は、それらが組成物、担体、希釈剤及び試薬を言及する場合、互換的に使用され、該材料が望ましくない生理学的作用、例えば、吐き気、めまい、胃の不調等を生じさせることなく、ほ乳類に又はほ乳類上に投与可能であることを表わす。
【0056】
溶解され又は分散された活性成分を含有する薬理学的組成物の調製は、当技術分野において十分に理解されており、製剤に基づいて限定される必要はない。典型的には、このような組成物は、注射剤として、液剤又は懸濁剤のいずれかとして調製されるが、使用前に、液体中で液剤又は懸濁剤にするのに適した固体形態にも調製することができる。該調製物は、乳化させることもできる。特に、医薬組成物は、固体剤形、例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉末剤、糖衣錠又は顆粒剤に製剤化することができる。
【0057】
媒体の選択及び媒体中の活性物質の含量は、一般的には、活性化合物の溶解性及び化学的特性、特定の投与様式並びに薬務において遵守されるべき規定に従って決定される。例えば、賦形剤、例えば、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム並びに崩壊剤、例えば、デンプン、アルギン酸並びに潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びタルクと組み合わせた特定のシリカート複合体を、錠剤を調製するのに使用することができる。カプセル剤を調製するために、ラクトース及び高分子量ポリエチレングリコールを使用するのが有利である。水性懸濁剤が使用される場合、それらは、乳化剤又は懸濁を促進する作用剤を含有することができる。また、希釈剤、例えば、スクロース、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール及びクロロホルム又はそれらの混合物も使用することができる。
【0058】
該医薬組成物は、経口、直腸、鼻、頬、眼、舌下、経皮、直腸、局所、膣、非経口(皮下、動脈内、筋肉内、静脈内、皮内、髄腔内及び硬膜外を含む)、槽内及び腹腔内を含む局所投与又は全身投与により、ヒト及び動物に適した製剤で投与することができる。好ましい経路は、例えば、レシピエントの状態により変化する場合があることが理解されるであろう。
【0059】
該製剤は、薬学分野で周知の方法のいずれかにより、単位剤形に調製することができる。このような方法は、活性成分を1種以上の副次的成分を構成する担体と会合させる工程を含む。一般的には、該製剤は、活性成分を液体担体若しくは微細分割固体担体又はそれらの両方と均一かつ緊密に会合させること、ついで、必要に応じて、製品を成形することにより調製される。
【0060】
本発明は、炎症、ガン(メラノーマ、乳房、卵巣、子宮頸部、結腸、肺、膵臓及び胃のガン並びに線維肉腫)、血管疾患、腎臓疾患、認知障害、慢性疼痛、細菌及びウイルス感染症、肥満、肺(COPD、気道線維症)並びに心疾患の治療及び/又は予防に使用するための、上記定義された式(I)を有する化合物に関する。
【0061】
また、本発明は、炎症、ガン、血管疾患、腎臓疾患、認知障害、疼痛、感染症、肥満及び心疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、上記定義された式(I)を有する化合物の使用に関する。
【0062】
一実施態様では、心疾患は、心肥大、心不整脈、弁膜症、拡張機能障害、慢性心不全、虚血性心不全、心筋虚血、再潅流傷害、心筋炎、肥大型、拡張型及び糖尿病性心筋症からなる群より選択される。特定の実施態様では、前記心疾患は、肥大、心筋虚血及び再潅流傷害からなる群より選択される。特定の実施態様では、前記心疾患は、肥大、心筋虚血及び再潅流傷害からなる群より選択される。
【0063】
「炎症」は、人体が攻撃に対して自らを防御し、種々の症状、例えば、疼痛、腫脹、熱感又は皮膚の発赤においてそれ自体が生じる場合がある現象を意味する。
【0064】
「ガン」という用語は、固形腫瘍及び/若しくは播種性血液ガン並びに/又はそれらの転移を意味する。「転移」又は「転移性疾患」という用語は、別の箇所に移動した原発腫瘍由来の細胞により形成される二次腫瘍を指す。「血液ガン」という用語は、血液、骨髄及びリンパ節に影響を及ぼす種類のガン、例えば、骨髄腫、リンパ腫又は白血病を指す。特に、「ガン」という用語は、乳房、卵巣、子宮頸部、結腸、肺、膵臓、胃及び膵臓のガン、メラノーマ並びに線維肉腫を指す。
【0065】
「血管疾患」は、アテローム形成、アテローム性動脈硬化症及び血管形成術後再狭窄を意味することができる。
【0066】
「腎臓疾患」は、腎尿細管間質の病態、例えば、糖尿病性腎症を意味する場合があるが、多発性嚢胞腎疾患も意味する。
【0067】
認知障害は、主に、学習、記憶、知覚及び問題解決に影響を及ぼすメンタルヘルス障害のカテゴリーであり、健忘、認知症及びせん妄を含む。認知障害の中でも、アルツハイマー病に言及される場合がある。
【0068】
「疼痛」という用語は、疾患、傷害又は生物学的プロセス、例えば、炎症性疼痛による身体的苦痛又は苦痛を意味する。疼痛は、急性又は慢性、好ましくは慢性炎症性疼痛であることができる。
【0069】
「感染症」という用語は、ウイルス、細菌、寄生虫又は真菌の感染症を意味する。
【0070】
肥満は、過剰な体脂肪を特徴とする病態である。「肥満」という用語は、30kg/m2を超えるボディ・マス・インデックス(BMI)(すなわち、人間の体重(kg)を人間の身長(メートル)の二乗で割ることにより得られる計測値)を有する患者を意味することができる。
【0071】
心疾患は、より具体的には、心肥大、心不整脈、弁膜症、拡張機能障害、慢性心不全、虚血性心不全、心筋虚血、再潅流傷害、心筋炎、肥大型及び拡張型心筋症を指す。Rap1に加えて、Epac1は、初代心筋細胞を含む異なる細胞種において、低分子量GTPase H−Rasを活性化することが示されている(Keiper et al., 2004;Metrich et al., 2008;Metrich et al., 2010a, 2010b;Schmidt et al., 2001)ことに留意する必要がある。
【0072】
本明細書で使用する場合、「心不整脈」という用語は、一般的には、心拍数又は心リズムの異常として現れる心臓の電気的活動の障害と定義される。不整脈は、最も一般的には、心血管疾患、特に、虚血性心疾患に関連している。この用語は、洞性不整脈、期外収縮、心ブロック、心房細動、心房粗動、心室頻拍、心室細動、交互脈及び発作性頻拍を含む。
【0073】
また、本発明は、Epacタンパク質が関与する疾患の予防及び/又は治療の方法であって、それを必要とする患者に、薬学的に許容し得る量の上記定義された式(I)で示される化合物を投与することを含む、方法に関する。
【0074】
好ましくは、本発明は、炎症、ガン、血管疾患、腎臓疾患、認知障害、疼痛、感染症、肥満及び心疾患の予防及び/又は治療の方法であって、それを必要とする患者に、薬学的に許容し得る量の上記定義された式(I)で示される化合物を投与することを含む、方法に関する。
【0075】
とりわけ、本発明は、心肥大、心不整脈、弁膜症、拡張機能障害、慢性心不全、虚血性心不全、心筋虚血、再潅流傷害、心筋炎、肥大型及び拡張型心筋症の予防及び/又は治療の方法であって、それを必要とする患者に、薬学的に許容し得る量の上記定義された式(I)で示される化合物を投与することを含む、方法に関する。
【実施例】
【0076】
A−材料及び方法
試薬及び抗体
AM−001及び構造類似体(AM−002;AM−003;AM−004;AM−005;AM−006;AM−007;AM−008;AM−009;AM−010)をAmbinterから、下記照会番号:Amb1781597(AM−001)、Amb2193172(AM−002)、Amb2654874(AM−003)、Amb2675718(AM−004)、Amb1858954(AM−005)、Amb695840(AM−006)、Amb5842163(AM−007)、Amb3443920(AM−008)、Amb2823810(AM−009)及びAmb6326948(AM−010)で購入した。
【0077】
AM−001、AM−004、AM−005、AM−006、AM−007、AM−008及びAM−009は上記されたとおりであり、本発明の式(I)で示される化合物である。一方、AM−002、AM−003及びAM−010は、本発明の化合物ではない。
【化8】
【0078】
Epac1阻害剤であるCE3F4を以前に発表された方法(Courilleau D, Bisserier M, Jullian JC, Lucas A, Bouyssou P, Fischmeister R, Blondeau JP, Lezoualc'h F (2012) Identification of a tetrahydroquinoline analog as a pharmacological inhibitor of the cAMP-binding protein Epac. J Biol Chem 287:44192-44202)に従って合成した。
【0079】
cAMP、8−CPT−N6−フェニル−cAMP(8−CPT−N6)、8−(4−クロロフェニルチオ)−2’−O−メチルアデノシン−3’,5’−環状モノホスファート、アセトキシメチルエステル(8−CPT−AM)及びSp−8−CPT(Sp−8−pCPT−2’−O−Me−cAMPS(Sp−8−CPT:8−(4−クロロフェニルチオ)−2’−O−メチルアデノシン−3’,5’−環状モノホスホロチオアート、Sp−異性体)をBioLog(Bremen, Germany)から購入した。
【0080】
グアノシン 5’−二リン酸、BODIPY FL、2’−(又は3’)−O−(N−(2−アミノエチル)ウレタン)、ビス(トリエチルアンモニウム)塩(bGDP)をInvitrogenから入手した。
【0081】
抗体及びそれらの供給元は、抗GAPDH、抗Rap1、抗Epac1、抗Epac2及び抗GRK2(1/1000)(Cell Signaling);抗チューブリン(1/5000)(Sigma-Aldrich);抗GRK5(1/1000)(Santa Cruz);西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体(Santa Cruz)とした。
【0082】
細胞培養
全ての手法を実験動物のケア及び使用に関するガイドに従って行い、獣医委員会に、使用された心筋細胞単離プロトコールについて情報提供した。
【0083】
新生仔ラット心室筋細胞(NRVM)単離:1〜2日齢の新生仔ラットを断頭により安楽死させた。心臓を切除し、心房を除去した。続けて、NRVMの初代培養を以前に記載されたように(Morel E, Marcantoni A, Gastineau M, Birkedal R, Rochais F, Garnier A, Lompre AM, Vandecasteele G, Lezoualc'h F (2005) cAMP-binding protein Epac induces cardiomyocyte hypertrophy. Circ Res 97:1296-1304)行った。
【0084】
成体マウス心筋細胞単離:ペントバルビタール(300mg/kg)及びヘパリン(150単位)の腹腔内注射後、WT及びEpac1−/−からの心臓を迅速に単離し、氷冷Tyrodeカルシウム非含有バッファー(130mmol/L NaCl、5.4mmol/L KCl、1.4mmol/L MgCl、0.4mmol/L NaHPO、4.2mmol/L HEPES、10mmol/L グルコース、20mmol/L タウリン及び10mmol/L クレアチン一水和物、pH7.2)に入れた。続けて、成体マウス心筋細胞の初代培養を以前に記載されたように(Fazal L, Laudette M, Paula-Gomes S, Pons S, Conte C, Tortosa F, Sicard P, Sainte-Marie Y, Bisserier M, Lairez O, Lucas A, Roy J, Ghaleh B, Fauconnier J, Mialet-Perez J, Lezoualc'h F (2017) Multifunctional Mitochondrial Epac1 Controls Myocardial Cell Death. Circ Res 120(4):645-657)行った。
【0085】
ヒト胚性腎臓細胞系統(HEK293):HEK293細胞を、FBS(10%)及びペニシリン−ストレプトマイシン(1%)を含む最少必須培地で維持した。細胞培養に使用された全ての培地、血清及び抗生物質をInvitrogenから購入した。
【0086】
プラスミド構築物及びトランスフェクション
Epac1−BRETセンサーであるCAMYELをpQE30−CAMYEL原核生物発現ベクター(Dr L. I. Jiangから提供された)から、以前に記載されたように(Courilleau D, Bisserier M, Jullian JC, Lucas A, Bouyssou P, Fischmeister R, Blondeau JP, Lezoualc'h F (2012) Identification of a tetrahydroquinoline analog as a pharmacological inhibitor of the cAMP-binding protein Epac. J Biol Chem 287:44192-44202)構築した。ヒトEpac1/Epac2発現ベクターは、Dr J. L. Bosから提供された。細胞を、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を使用して、製造メーカーの説明書に従ってトランスフェクションした。HEK293細胞をFBS(ウシ胎児血清;10%)及びペニシリン−ストレプトマイシン(1%)を含むMEMで維持した。細胞培養に使用された全ての培地、血清及び抗生物質をInvitrogen(Cergy Pontoise, France)から購入した。一過性トランスフェクション実験を、Lipofectamine 2000(Invitrogen Life Technologies)により、製造メーカーの説明書に従って、種々の量のプラスミド構築物の存在下で行った。
【0087】
動物
全ての動物手法を動物実験に関する施設ガイドライン及びフランス農業省の許可に従って行った。さらに、この調査は、欧州議会の指令2010/63/EUにより公表された実験動物のケア及び使用のためのガイドに準拠した。マウスを、病原体を含まない施設で飼育し、全ての動物実験は、トゥールーズ大学の動物のケア及び使用委員会により承認された。
【0088】
心筋I/R in vivo、リスク領域及び梗塞サイズの評価
マウスを腹腔内ケタミン(60mg/kg)及びキシラジン(6mg/kg)で麻酔し、挿管し、機械的に換気した。麻酔を1.5% イソフルランにより、外科手術の間にわたって維持した。体温を37℃に維持した。7−0プロレン糸を左冠動脈の周囲に45分間置くことにより冠動脈閉塞を可能にするために、左開胸術を行った。続けて、24時間再潅流した。マウスを再灌流の5分前に、冠動脈への静脈内注射により、AM−001(10mg/kg)又は滅菌生理食塩水のボーラスで処置した。心筋虚血を局所チアノーゼの存在により確認した。再潅流を充血反応の可視化により確認した。この時点で、胸部を重ねて閉じた。再潅流の24時間後、マウスを再度麻酔し、冠動脈を前の部位で再閉塞させ、心臓をエバンスブルー潅流後に切除した。リスク領域及び梗塞領域をそれぞれ、エバンスブルー及び2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)染色により決定した。リスク領域を非青色領域として特定し、% 左心室重量として表現した。梗塞領域をTTC陰性ゾーンとして特定し、% リスク領域として表現した。
【0089】
ISOの慢性注入
浸透圧ミニポンプ(Alzet)を、イソフルラン(1%)で麻酔されたマウスの皮下に埋め込んだ。ポンプにISO又は無菌生理食塩水を満たし、ISOを60mg/kg/日で14日間送るように設定して、心肥大を誘引させた。AM−001処置(10mg/kg/日、10% DMSO/20% Kolliphor/70% 無菌生理食塩水中で希釈)をISO注入の3日目から与える。続けて、マウスをバルビツラート過剰用量(ペントバルビタール、150mg/kg、i.p.)で安楽死させ、完全な拡散を確認するために,ミニポンプの重量を測定した。
【0090】
心エコー検査
心エコー検査を軽く麻酔され(空気中1% イソフルラン)、加熱パッド上に置かれたマウスに行った。左心室寸法を、Vevo2100 ivid7エコーグラフ及び4014MHzトランスデューサー(M550i13L、VisualsonicsGE Healthcare)を使用して、乳頭筋の中心室レベルでの傍胸骨短軸ビューからのTimeMouvementモード取得中に得た。画像を移し、VevolabソフトウェアEchoPAC(GE Healthcare)により、オフラインで分析した。オペレーターは、マウスの処置群遺伝子型に対して盲検とした。
【0091】
線維症の判定
心臓を厚み10μmで横方向に切断し、4% パラホルムアルデヒドで固定し、Sirius Redで染色した。スライドをNanoZoomer(Hamamatsu v1.2)でスキャンし、線維症をSirius Redによる陽性染色面積として測定し、ImageJソフトウェア(RSB)を使用して、% 総面積として表現した。
【0092】
ヘマトキシリン及びエオシン染色
心臓を回収し、4% パラホルムアルデヒド中で固定し、脱水し、OCT組織包埋コンパウンド(Tissue Tek, EMS)中に包埋した。長手方向切断を厚み10μmで行い、組織学的検査のためにヘマトキシリン及びエオシンにより染色した。
【0093】
肝毒性分析
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)を血清中で測定して、ScienCell Research Laboratoriesから購入した特定のキットを使用して、製造メーカーの説明書に従って細胞毒性を決定した。
【0094】
データ分析
データを平均±S.E.M.として表現する。定量変数の差異を、一元配置又は二元配置分散分析、続けて、Graphpad Prismを使用するBonferroni補正事後検定により調べた。統計的有意差は、p<0.05に設定した。EC50値及びIC50値を、3パラメータ用量応答モデルに従って計算し、Graphpad Prismを使用して、余分な二乗和(extra sum−of square)F検定に基づいて比較した。
【0095】
B−結果
1.cAMPのためのEpac1ベースのBRETセンサーの阻害
CAMYELは、Epac1−BRET(生物発光共鳴エネルギー移動)センサー(Jiang LI, Collins J, Davis R, Lin KM, DeCamp D, Roach T, Hsueh R, Rebres RA, Ross EM, Taussig R, Fraser I, Sternweis PC (2007) Use of a cAMP BRET sensor to characterize a novel regulation of cAMP by the sphingosine 1-phosphate/G13 pathway. J Biol Chem 282(14):10576-10584)に基づく確立されたin vitroアッセイ系であり、様々な社内化学物質コレクションをスクリーニングするのに使用されている。CAMYELプローブは、ウミシイタケルシフェラーゼとシトリン(citrine)との間に挿入されたEpac1から構成され、Epac1活性化を評価するための手段として、cAMPの結合時に誘引されるEpac1のコンホーメーション変化を利用する。cAMPが結合すると、Epac1は、シトリンから離れるシフェラーゼによるエネルギー移動の減少をもたらすコンホーメーション変化を受ける。
【0096】
「AM−001」とも名付けられた化合物1は、3−アミノ−N−(4−フルオロフェニル)−4−フェニル−6−(チオフェン−2−イル)チエノ[2,3−b]ピリジン−2−カルボキサミドであり、cAMP誘引CAMYELコンホーメーション変化の新規な阻害剤として特定されている。AM−001(20μM)は、以前の実験において標準として使用されたEpac1非競合的阻害剤である(R)−CE3F4(20μM)と同オーダーで、100μM cAMPにより誘引されるBRET変化を阻害した(約50%減少)(図1)。AM−001により、BRET最大応答は、濃度依存的に低下したが、最大半量応答を与えたcAMPの有効濃度は低下しなかった(EC50=30.7±1.0μM)(図2)。さらに、cAMPの濃度上昇によっては、AM−001の最大半量阻害濃度(IC50)は変化しなかった(53.7±1.0μM)。このことは、AM−001がEpac1の非競合的阻害剤として挙動することを示唆している(図3)。
【0097】
2.AM−001は、in vitroでEpac1触媒活性を阻害するが、Epac2触媒活性は阻害しない
次に、AM−001の効果を、Epac GEF活性アッセイ(Courilleau D, Bisserier M, Jullian JC, Lucas A, Bouyssou P, Fischmeister R, Blondeau JP, Lezoualc'h F (2012) Identification of a tetrahydroquinoline analog as a pharmacological inhibitor of the cAMP-binding protein Epac. J Biol Chem 287:44192-44202)を使用して、in vitroでのEpac1及びEpac2の触媒活性について調査した。この方法は、過剰の非蛍光GDPの存在下でのリコンビナントRap1からの蛍光b−GDPのEpac刺激解離に基づいている。蛍光の減衰の初速度は、交換活性を反映している。まず、本発明者らは、AM−001の物理化学的性質がEpac GEFアッセイに適合するかどうかを分析した。本発明者らは、AM−001吸光度と濃度との間の線形相関を見出した。このことは、AM−001が交換反応バッファー中において、60μMまで可溶性であることを示している。加えて、種々の濃度でのAM−001のUVスペクトルから、この化合物は、bGDPの蛍光励起/発光ウィンドウにおいて吸収しないことが示しされた。重要なことに、bGDPの発光蛍光強度は、AM−001を60μMまでの濃度で使用した場合に影響を受けなかった。まとめると、これらのデータから、AM−001の物理化学的性質は、Epac GEFアッセイに適合していることが示された。
【0098】
種々の濃度のSp−8−CPT(8−(4−クロロフェニルチオ)−2’−O−メチルアデノシン−3’,5’−環状モノホスホロチオアート、Sp−異性体)(強力なPDE抵抗性膜透過型Epacアゴニスト)での交換の初速度の測定から、Epac1及びEpac2それぞれについて、7.5±1.1μM及び5.6±1.1μMのEC50値が与えられた。加えて、cAMP EC50値は、Epac1及びEpac2それぞれについて、13.1±1.1μM及び2.8±1.1μMであった。その結果、Epac1の見かけの親和性は、cAMPよりSp−8−CPTの方が1.7倍高く、Sp−8−CPT活性化Epac1のVmaxは、cAMP活性化Epac1のVmaxより2.5倍高かった。対照的に、Epac2の見かけの親和性は、Sp−8−CPTよりcAMPの方が2倍高く、cAMP活性化Epac2のVmaxは、Sp−8−CPT活性化Epac2のVmaxより1.3倍高かった。したがって、Sp−8−CPTの飽和濃度(30μM)を、その後の阻害実験に選択した。両Epacイソフォームともに、30μM Sp−8−CPTの存在下において、蛍光の急速な減少を誘引した(図4及び図6)。以前に報告されたように、アゴニスト(30μM Sp−8−CPT)により誘引されたEpac1の交換活性は、(R)−CE3F4(20μM)により低下した(図4及び図5)。AM−001により、Epac1 GEF活性が阻害されたが(図4図5及び図8)、Epac2 GEF活性に対する阻害効果はなかった(図6図7及び図8)。飽和濃度のSp−8−CPTの存在下において、AM−001 IC50値は、Epac1については48.5±1.0μMであったが、Epac2については定量できなかった(IC50>>1000μM)。このことは、AM−001がEpac2 GEF活性をサプレッションするのに無効であったことを示している(図7)。同様の結果(Epac1についてのAM−001 IC50=47.8±1.1μM対Epac2についてのIC50>>1000μM)を各EpacアイソフォームについてのEC50に対応する濃度のSp−8−CPTを使用して得た。AM−001によるEpac1阻害のIC50が、アゴニスト濃度とは無関係であったという事実から、AM−001の非競合的挙動が確認された。加えて、AM−001により、濃度依存的に最大Epac1 GEF活性が低下したが、Sp−8−CPTのEC50は低下しなかった。これらの結果から、AM−001がBRETセンサー実験により既に示唆されているように、Epac1非競合的阻害剤として作用することが確認された(図2及び図3)。
【0099】
また、本発明者らは、AM−001(30μM)が10μM cAMPの存在下及び非存在下において、I型及びII型PKAホロ酵素活性化に影響を及ぼさず、Epac1に対するこの化合物の特異性をさらに強化することも見出した。最後に、タンパク質変性のモニタリングを可能にする熱シフトアッセイを使用して、AM−001の添加により、アゴニストであるSp−8−CPTが存在するか否かにかかわらず、漸増濃度のAM−001の存在下において、Epac1の融解温度Tm(熱変性の中間点と定義される)は変化しないことが観察された。それにより、AM−001の任意の非特異的タンパク質変性作用を除外する。
【0100】
3.Epac1活性化に対するAM−001誘導体の特異性
ついで、いくつかの市販のAM−001の類似体又は誘導体を、CAMYELアッセイ系を使用して、Epac1活性化に対するそれらの阻害作用について研究した。
【0101】
式(I)で示される化合物についての結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0102】
フッ素原子をN−フェニル基から4−フェニル基に交換すること(AM−005)と、これらのフェニル基にフッ素原子が何ら存在しないこと(AM−004)とは、化合物の阻害効力に顕著な影響を及ぼさなかった。4−フェニル基を欠く(AM−009)又はN−フェニル基(AM−006)を欠く化合物の阻害活性は低下したが、消失はしなかった。一方、N−イソプロピル基によるN−フェニル基の置換(AM−003)により、阻害効果が消失した。AM−010の低い活性から、阻害活性には6−チエニル基の存在が重要であることが指摘される。最後に、顕著な阻害活性は、AM−002では観察されなかった。AM−002は、2−カルボキサミド結合が自由に回転できず、AM−001の第一級アミノ基が追加のチエノ[3,2−d]ピリミジン足場に関与する化合物である。この予備的構造活性研究から、フェニル基及び6−チエニル基が、その阻害活性を発揮するために、AM−001に必須であることが示された。したがって、これらのデータから、cAMP誘引Epac1コンホーメーション変化を減少させる能力において、この化合物ファミリーには化学的特異性があることが示された。
【0103】
4.AM−001は、培養細胞においてEpac1シグナル伝達を阻害する
AM−001により、新生仔ラット心室筋細胞を含む種々のタイプの培養細胞において明らかな細胞傷害性は示されなかった。AM−001が培養細胞において効率的なEpac1アイソフォーム特異的アンタゴニストであることを確認するために、本発明者らは、HEK293細胞において、Epac下流エフェクターであるRap1の活性化を遮断するその能力をさらに試験した(図9図13)。この細胞系統は、異所的に発現されたEpac1及びEpac2アイソフォームの細胞シグナル伝達に対するEpac薬理学的モデュレーターの評価に一般的に使用されている。高度に膜透過性で代謝活性化可能なEpacアゴニストである8−CPT−AM(8−(4−クロロフェニルチオ)−2’−O−メチルアデノシン−3’,5’−環状モノホスファート,アセトキシメチルエステル)により、Epac1を過剰発現する細胞において、Rap1の堅牢な活性化が誘引された。Epac1 BRETセンサー及びEpac1交換反応によりin vitroで得られたデータと一致して、AM−001により、Epac1誘引Rap1活性化が阻害されたが、不活性類似体であるAM−002及びAM−003では阻害されなかった(図9図11)。次に、本発明者らは、2つのEpac2スプライス変異体であるEpac2A及びEpac2Bに対する8−CPT−AMの効果を調査した(図12図13)。以前に特徴付けられた特異的Epac2阻害剤であるESI−05(Tsalkova T, Mei FC, Cheng X (2012) A Fluorescence-Based High-Throughput Assay for the Discovery of Exchange Protein Directly Activated by Cyclic AMP (EPAC) Antagonists. PLoS One 7(1): e30441)とは対照的に、AM−001により、Epac2A誘引Rap1活性化は阻害されなかった(図12)。さらに、AM−001は、Epac2Bトランスフェクション細胞において、S−220により誘引されるRap1−GTP量の増加を阻害する効果がなかった。全体として、これらのデータから、AM−001は、培養細胞におけるEpac1誘引Rap1活性化の防止に効率的かつ特異的であることが示された。
【0104】
5.AM−001は、虚血−再潅流(I/R)傷害を防止する
次に、本発明者らは、AM−001が生理学的に関連する系において、Epac1の活性に影響を及ぼすことができるかどうかを試験した。Epac1の遺伝子除去が、虚血状態中の心筋細胞死を防止することが以前に示されている(Fazal L, Laudette M, Paula-Gomes S, Pons S, Conte C, Tortosa F, Sicard P, Sainte-Marie Y, Bisserier M, Lairez O, Lucas A, Roy J, Ghaleh B, Fauconnier J, Mialet-Perez J, Lezoualc'h F (2017) Multifunctional Mitochondrial Epac1 Controls Myocardial Cell Death. Circ Res 120(4):645-657)。本発明者らは、低酸素−再酸素化(HX+R)傷害に対するAM−001の潜在的保護作用を試験した。対照細胞と比較して、AM−001により、HX+R条件におけるLDH放出によりアッセイされるように、心筋細胞生存が顕著に増加した(図14)。さらに、AM−001により、膜透過型Epac1特異的アゴニストである8−pCPT−2’−O−MecAMP−AM(8−CPT−AM)の心筋細胞死及び肥大に対する作用が阻害された(図14)。このことは、AM−001のEpac1有害作用に対抗する能力を強調している。
【0105】
ついで、AM−001の急性投与の治療効力を急性心筋I/R傷害のマウスモデルで調査した。AM−001(8mg/kg)又は媒体の単回ボーラスを再潅流の5分前に静脈内注射した。リスク領域に対する梗塞サイズの比は、AM−001処置動物において、媒体処置マウスのそれ(50±3%)と比較して、有意に小さくなった(36±3%)(図15)。興味深いことに、(R)−CE3F4は、BRETセンサーアッセイにおいて、AM−001よりIC50が低く、種々の細胞モデルにおいて、in vitroでのEpac1依存性生物学的作用を効率的かつ選択的に阻害することが示されていたが、この阻害剤(8mg/kg 体重)では、梗塞サイズを小さくすることができなかった。このことは、CE3F4が、AM−001と比較して、in vivoでのバイオアベイラビリティが劣る可能性があることを示唆している(図16)。まとめると、これらの結果から、AM−001の急性注射は、心筋再潅流傷害を予防するのに効率的であることが実証される。
【0106】
6.AM−001により、慢性β−AR活性化中の心機能が改善された
次に、本発明者らは、AM−001が慢性β−AR活性化中の心機能の改善及びリモデリングを提供できるかどうかを決定するのを試みた。この目的で、野生型C57BL/6マウスをAM−001(10mg/kg i.p.3日目から14日目)又はその媒体の存在下において、非選択的β−ARアゴニストであるイソプロテレノール(ISO)(60mg/kg/日)又は媒体のいずれかで14日間処置した。AM−001処置マウスからの肝臓及び腎臓組織サンプルは、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色により実証されたように、明らかな組織学的変化を何ら示さなかった。加えて、肝毒性を示すアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の血漿濃度は、各群で同等であった(図17)。さらに、左心室内径短縮率(FS)及び脛骨長に対する左心室重量(LVW)の比(LVW/TL)並びに心拍数は、媒体処置マウス及びAM−001処置マウスにおいて、ベースライン時と同様であった(図18)。したがって、AM−001の慢性注射は、動物において毒性作用を示さず、使用された実験条件下では、基礎心機能を変化させなかった。
【0107】
ISOの慢性注入により、対照媒体と比較して、LVW/TL比が有意に大きくなった(図18)。逆に、アドレナリン作動性ストレスの開始3日後でのAM−001の注射により、このパラメータはさらに低下した(図18)。加えて、線維化は、AM−001処置マウスにおいて大きく減少した(1.1±0.5%vs媒体+ISO処置マウスにおける3.0±1.1%)(図19)。重要なことに、14日間のISO注入後、AM−001の効果は、心機能の改善と関連していた。このことは、AM−001処置マウスにおけるFSが媒体処置マウスにおけるより高かったことにより実証されている(図20、上部パネル)。一貫して、ISO処置中にAM−001存在下で観察されたこのより良好な収縮性は、左心室収縮末期内径(LVID)及び左心室拡張末期内径(LVIDd)が小さくなることと相関していた(図20、下部パネル)。最後に、本発明者らは、AM−001がGプロテインレセプターキナーゼ2(GRK2)及びGRK5の発現レベルを変化させることができるかどうかを調査した。実際に、これらの両GRKにより、β−ARが脱感作し、心臓ストレス状態におけるそのアップレギュレーションは、有害なリモデリング及び収縮機能不全に関与する(24)。予想どおり、ISO処理により、GRK2及びGRK5発現が増加した(図21)。興味深いことに、GRK5のアップレギュレーションは、AM−001処置動物において、顕著に低下したが、GRK2のアップレギュレーションは低下しなかった。
【0108】
まとめると、これらのデータから、AM−001により、β−ARの慢性的な活性化に応答して、心肥大及び線形症が緩和され、おそらく、β−AR応答性の回復を通じて心機能が改善されることが示されている。
【0109】
まとめると、これらの結果は、in vitro及びin vivoの両方で機能するEpac1の特異的薬理学的阻害剤としての新規なチエノ[2,3−b]ピリジン類似体の特定に関する。これらのことは、この化合物がEpac1によりレギュレーションされるシグナル伝達経路に関連する生理学的及び病理学的プロセスを探索するための価値ある薬理学的ツールであるだけでなく、関連するヒト疾患のための新規な分子治療剤(molecular therapeutic)として開発される大きな可能性を有することを示している。
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【国際調査報告】