【実施例】
【0076】
A−材料及び方法
試薬及び抗体
AM−001及び構造類似体(AM−002;AM−003;AM−004;AM−005;AM−006;AM−007;AM−008;AM−009;AM−010)をAmbinterから、下記照会番号:Amb1781597(AM−001)、Amb2193172(AM−002)、Amb2654874(AM−003)、Amb2675718(AM−004)、Amb1858954(AM−005)、Amb695840(AM−006)、Amb5842163(AM−007)、Amb3443920(AM−008)、Amb2823810(AM−009)及びAmb6326948(AM−010)で購入した。
【0077】
AM−001、AM−004、AM−005、AM−006、AM−007、AM−008及びAM−009は上記されたとおりであり、本発明の式(I)で示される化合物である。一方、AM−002、AM−003及びAM−010は、本発明の化合物ではない。
【化8】
【0078】
Epac1阻害剤であるCE3F4を以前に発表された方法(Courilleau D, Bisserier M, Jullian JC, Lucas A, Bouyssou P, Fischmeister R, Blondeau JP, Lezoualc'h F (2012) Identification of a tetrahydroquinoline analog as a pharmacological inhibitor of the cAMP-binding protein Epac. J Biol Chem 287:44192-44202)に従って合成した。
【0079】
cAMP、8−CPT−N6−フェニル−cAMP(8−CPT−N6)、8−(4−クロロフェニルチオ)−2’−O−メチルアデノシン−3’,5’−環状モノホスファート、アセトキシメチルエステル(8−CPT−AM)及びSp−8−CPT(Sp−8−pCPT−2’−O−Me−cAMPS(Sp−8−CPT:8−(4−クロロフェニルチオ)−2’−O−メチルアデノシン−3’,5’−環状モノホスホロチオアート、Sp−異性体)をBioLog(Bremen, Germany)から購入した。
【0080】
グアノシン 5’−二リン酸、BODIPY FL、2’−(又は3’)−O−(N−(2−アミノエチル)ウレタン)、ビス(トリエチルアンモニウム)塩(bGDP)をInvitrogenから入手した。
【0081】
抗体及びそれらの供給元は、抗GAPDH、抗Rap1、抗Epac1、抗Epac2及び抗GRK2(1/1000)(Cell Signaling);抗チューブリン(1/5000)(Sigma-Aldrich);抗GRK5(1/1000)(Santa Cruz);西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体(Santa Cruz)とした。
【0082】
細胞培養
全ての手法を実験動物のケア及び使用に関するガイドに従って行い、獣医委員会に、使用された心筋細胞単離プロトコールについて情報提供した。
【0083】
新生仔ラット心室筋細胞(NRVM)単離:1〜2日齢の新生仔ラットを断頭により安楽死させた。心臓を切除し、心房を除去した。続けて、NRVMの初代培養を以前に記載されたように(Morel E, Marcantoni A, Gastineau M, Birkedal R, Rochais F, Garnier A, Lompre AM, Vandecasteele G, Lezoualc'h F (2005) cAMP-binding protein Epac induces cardiomyocyte hypertrophy. Circ Res 97:1296-1304)行った。
【0084】
成体マウス心筋細胞単離:ペントバルビタール(300mg/kg)及びヘパリン(150単位)の腹腔内注射後、WT及びEpac1
−/−からの心臓を迅速に単離し、氷冷Tyrodeカルシウム非含有バッファー(130mmol/L NaCl、5.4mmol/L KCl、1.4mmol/L MgCl
2、0.4mmol/L NaH
2PO
4、4.2mmol/L HEPES、10mmol/L グルコース、20mmol/L タウリン及び10mmol/L クレアチン一水和物、pH7.2)に入れた。続けて、成体マウス心筋細胞の初代培養を以前に記載されたように(Fazal L, Laudette M, Paula-Gomes S, Pons S, Conte C, Tortosa F, Sicard P, Sainte-Marie Y, Bisserier M, Lairez O, Lucas A, Roy J, Ghaleh B, Fauconnier J, Mialet-Perez J, Lezoualc'h F (2017) Multifunctional Mitochondrial Epac1 Controls Myocardial Cell Death. Circ Res 120(4):645-657)行った。
【0085】
ヒト胚性腎臓細胞系統(HEK293):HEK293細胞を、FBS(10%)及びペニシリン−ストレプトマイシン(1%)を含む最少必須培地で維持した。細胞培養に使用された全ての培地、血清及び抗生物質をInvitrogenから購入した。
【0086】
プラスミド構築物及びトランスフェクション
Epac1−BRETセンサーであるCAMYELをpQE30−CAMYEL原核生物発現ベクター(Dr L. I. Jiangから提供された)から、以前に記載されたように(Courilleau D, Bisserier M, Jullian JC, Lucas A, Bouyssou P, Fischmeister R, Blondeau JP, Lezoualc'h F (2012) Identification of a tetrahydroquinoline analog as a pharmacological inhibitor of the cAMP-binding protein Epac. J Biol Chem 287:44192-44202)構築した。ヒトEpac1/Epac2発現ベクターは、Dr J. L. Bosから提供された。細胞を、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を使用して、製造メーカーの説明書に従ってトランスフェクションした。HEK293細胞をFBS(ウシ胎児血清;10%)及びペニシリン−ストレプトマイシン(1%)を含むMEMで維持した。細胞培養に使用された全ての培地、血清及び抗生物質をInvitrogen(Cergy Pontoise, France)から購入した。一過性トランスフェクション実験を、Lipofectamine 2000(Invitrogen Life Technologies)により、製造メーカーの説明書に従って、種々の量のプラスミド構築物の存在下で行った。
【0087】
動物
全ての動物手法を動物実験に関する施設ガイドライン及びフランス農業省の許可に従って行った。さらに、この調査は、欧州議会の指令2010/63/EUにより公表された実験動物のケア及び使用のためのガイドに準拠した。マウスを、病原体を含まない施設で飼育し、全ての動物実験は、トゥールーズ大学の動物のケア及び使用委員会により承認された。
【0088】
心筋I/R in vivo、リスク領域及び梗塞サイズの評価
マウスを腹腔内ケタミン(60mg/kg)及びキシラジン(6mg/kg)で麻酔し、挿管し、機械的に換気した。麻酔を1.5% イソフルランにより、外科手術の間にわたって維持した。体温を37℃に維持した。7−0プロレン糸を左冠動脈の周囲に45分間置くことにより冠動脈閉塞を可能にするために、左開胸術を行った。続けて、24時間再潅流した。マウスを再灌流の5分前に、冠動脈への静脈内注射により、AM−001(10mg/kg)又は滅菌生理食塩水のボーラスで処置した。心筋虚血を局所チアノーゼの存在により確認した。再潅流を充血反応の可視化により確認した。この時点で、胸部を重ねて閉じた。再潅流の24時間後、マウスを再度麻酔し、冠動脈を前の部位で再閉塞させ、心臓をエバンスブルー潅流後に切除した。リスク領域及び梗塞領域をそれぞれ、エバンスブルー及び2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)染色により決定した。リスク領域を非青色領域として特定し、% 左心室重量として表現した。梗塞領域をTTC陰性ゾーンとして特定し、% リスク領域として表現した。
【0089】
ISOの慢性注入
浸透圧ミニポンプ(Alzet)を、イソフルラン(1%)で麻酔されたマウスの皮下に埋め込んだ。ポンプにISO又は無菌生理食塩水を満たし、ISOを60mg/kg/日で14日間送るように設定して、心肥大を誘引させた。AM−001処置(10mg/kg/日、10% DMSO/20% Kolliphor/70% 無菌生理食塩水中で希釈)をISO注入の3日目から与える。続けて、マウスをバルビツラート過剰用量(ペントバルビタール、150mg/kg、i.p.)で安楽死させ、完全な拡散を確認するために,ミニポンプの重量を測定した。
【0090】
心エコー検査
心エコー検査を軽く麻酔され(空気中1% イソフルラン)、加熱パッド上に置かれたマウスに行った。左心室寸法を、Vevo2100 ivid7エコーグラフ及び4014MHzトランスデューサー(M550i13L、VisualsonicsGE Healthcare)を使用して、乳頭筋の中心室レベルでの傍胸骨短軸ビューからのTimeMouvementモード取得中に得た。画像を移し、VevolabソフトウェアEchoPAC(GE Healthcare)により、オフラインで分析した。オペレーターは、マウスの処置群遺伝子型に対して盲検とした。
【0091】
線維症の判定
心臓を厚み10μmで横方向に切断し、4% パラホルムアルデヒドで固定し、Sirius Redで染色した。スライドをNanoZoomer(Hamamatsu v1.2)でスキャンし、線維症をSirius Redによる陽性染色面積として測定し、ImageJソフトウェア(RSB)を使用して、% 総面積として表現した。
【0092】
ヘマトキシリン及びエオシン染色
心臓を回収し、4% パラホルムアルデヒド中で固定し、脱水し、OCT組織包埋コンパウンド(Tissue Tek, EMS)中に包埋した。長手方向切断を厚み10μmで行い、組織学的検査のためにヘマトキシリン及びエオシンにより染色した。
【0093】
肝毒性分析
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)を血清中で測定して、ScienCell Research Laboratoriesから購入した特定のキットを使用して、製造メーカーの説明書に従って細胞毒性を決定した。
【0094】
データ分析
データを平均±S.E.M.として表現する。定量変数の差異を、一元配置又は二元配置分散分析、続けて、Graphpad Prismを使用するBonferroni補正事後検定により調べた。統計的有意差は、p<0.05に設定した。EC
50値及びIC
50値を、3パラメータ用量応答モデルに従って計算し、Graphpad Prismを使用して、余分な二乗和(extra sum−of square)F検定に基づいて比較した。
【0095】
B−結果
1.cAMPのためのEpac1ベースのBRETセンサーの阻害
CAMYELは、Epac1−BRET(生物発光共鳴エネルギー移動)センサー(Jiang LI, Collins J, Davis R, Lin KM, DeCamp D, Roach T, Hsueh R, Rebres RA, Ross EM, Taussig R, Fraser I, Sternweis PC (2007) Use of a cAMP BRET sensor to characterize a novel regulation of cAMP by the sphingosine 1-phosphate/G13 pathway. J Biol Chem 282(14):10576-10584)に基づく確立されたin vitroアッセイ系であり、様々な社内化学物質コレクションをスクリーニングするのに使用されている。CAMYELプローブは、ウミシイタケルシフェラーゼとシトリン(citrine)との間に挿入されたEpac1から構成され、Epac1活性化を評価するための手段として、cAMPの結合時に誘引されるEpac1のコンホーメーション変化を利用する。cAMPが結合すると、Epac1は、シトリンから離れるシフェラーゼによるエネルギー移動の減少をもたらすコンホーメーション変化を受ける。
【0096】
「AM−001」とも名付けられた化合物1は、3−アミノ−N−(4−フルオロフェニル)−4−フェニル−6−(チオフェン−2−イル)チエノ[2,3−b]ピリジン−2−カルボキサミドであり、cAMP誘引CAMYELコンホーメーション変化の新規な阻害剤として特定されている。AM−001(20μM)は、以前の実験において標準として使用されたEpac1非競合的阻害剤である(R)−CE3F4(20μM)と同オーダーで、100μM cAMPにより誘引されるBRET変化を阻害した(約50%減少)(
図1)。AM−001により、BRET最大応答は、濃度依存的に低下したが、最大半量応答を与えたcAMPの有効濃度は低下しなかった(EC
50=30.7±1.0μM)(
図2)。さらに、cAMPの濃度上昇によっては、AM−001の最大半量阻害濃度(IC
50)は変化しなかった(53.7±1.0μM)。このことは、AM−001がEpac1の非競合的阻害剤として挙動することを示唆している(
図3)。
【0097】
2.AM−001は、in vitroでEpac1触媒活性を阻害するが、Epac2触媒活性は阻害しない
次に、AM−001の効果を、Epac GEF活性アッセイ(Courilleau D, Bisserier M, Jullian JC, Lucas A, Bouyssou P, Fischmeister R, Blondeau JP, Lezoualc'h F (2012) Identification of a tetrahydroquinoline analog as a pharmacological inhibitor of the cAMP-binding protein Epac. J Biol Chem 287:44192-44202)を使用して、in vitroでのEpac1及びEpac2の触媒活性について調査した。この方法は、過剰の非蛍光GDPの存在下でのリコンビナントRap1からの蛍光b−GDPのEpac刺激解離に基づいている。蛍光の減衰の初速度は、交換活性を反映している。まず、本発明者らは、AM−001の物理化学的性質がEpac GEFアッセイに適合するかどうかを分析した。本発明者らは、AM−001吸光度と濃度との間の線形相関を見出した。このことは、AM−001が交換反応バッファー中において、60μMまで可溶性であることを示している。加えて、種々の濃度でのAM−001のUVスペクトルから、この化合物は、bGDPの蛍光励起/発光ウィンドウにおいて吸収しないことが示しされた。重要なことに、bGDPの発光蛍光強度は、AM−001を60μMまでの濃度で使用した場合に影響を受けなかった。まとめると、これらのデータから、AM−001の物理化学的性質は、Epac GEFアッセイに適合していることが示された。
【0098】
種々の濃度のSp−8−CPT(8−(4−クロロフェニルチオ)−2’−O−メチルアデノシン−3’,5’−環状モノホスホロチオアート、Sp−異性体)(強力なPDE抵抗性膜透過型Epacアゴニスト)での交換の初速度の測定から、Epac1及びEpac2それぞれについて、7.5±1.1μM及び5.6±1.1μMのEC
50値が与えられた。加えて、cAMP EC
50値は、Epac1及びEpac2それぞれについて、13.1±1.1μM及び2.8±1.1μMであった。その結果、Epac1の見かけの親和性は、cAMPよりSp−8−CPTの方が1.7倍高く、Sp−8−CPT活性化Epac1のVmaxは、cAMP活性化Epac1のVmaxより2.5倍高かった。対照的に、Epac2の見かけの親和性は、Sp−8−CPTよりcAMPの方が2倍高く、cAMP活性化Epac2のVmaxは、Sp−8−CPT活性化Epac2のVmaxより1.3倍高かった。したがって、Sp−8−CPTの飽和濃度(30μM)を、その後の阻害実験に選択した。両Epacイソフォームともに、30μM Sp−8−CPTの存在下において、蛍光の急速な減少を誘引した(
図4及び
図6)。以前に報告されたように、アゴニスト(30μM Sp−8−CPT)により誘引されたEpac1の交換活性は、(R)−CE3F4(20μM)により低下した(
図4及び
図5)。AM−001により、Epac1 GEF活性が阻害されたが(
図4、
図5及び
図8)、Epac2 GEF活性に対する阻害効果はなかった(
図6、
図7及び
図8)。飽和濃度のSp−8−CPTの存在下において、AM−001 IC50値は、Epac1については48.5±1.0μMであったが、Epac2については定量できなかった(IC
50>>1000μM)。このことは、AM−001がEpac2 GEF活性をサプレッションするのに無効であったことを示している(
図7)。同様の結果(Epac1についてのAM−001 IC50=47.8±1.1μM対Epac2についてのIC50>>1000μM)を各EpacアイソフォームについてのEC50に対応する濃度のSp−8−CPTを使用して得た。AM−001によるEpac1阻害のIC50が、アゴニスト濃度とは無関係であったという事実から、AM−001の非競合的挙動が確認された。加えて、AM−001により、濃度依存的に最大Epac1 GEF活性が低下したが、Sp−8−CPTのEC50は低下しなかった。これらの結果から、AM−001がBRETセンサー実験により既に示唆されているように、Epac1非競合的阻害剤として作用することが確認された(
図2及び
図3)。
【0099】
また、本発明者らは、AM−001(30μM)が10μM cAMPの存在下及び非存在下において、I型及びII型PKAホロ酵素活性化に影響を及ぼさず、Epac1に対するこの化合物の特異性をさらに強化することも見出した。最後に、タンパク質変性のモニタリングを可能にする熱シフトアッセイを使用して、AM−001の添加により、アゴニストであるSp−8−CPTが存在するか否かにかかわらず、漸増濃度のAM−001の存在下において、Epac1の融解温度Tm(熱変性の中間点と定義される)は変化しないことが観察された。それにより、AM−001の任意の非特異的タンパク質変性作用を除外する。
【0100】
3.Epac1活性化に対するAM−001誘導体の特異性
ついで、いくつかの市販のAM−001の類似体又は誘導体を、CAMYELアッセイ系を使用して、Epac1活性化に対するそれらの阻害作用について研究した。
【0101】
式(I)で示される化合物についての結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0102】
フッ素原子をN−フェニル基から4−フェニル基に交換すること(AM−005)と、これらのフェニル基にフッ素原子が何ら存在しないこと(AM−004)とは、化合物の阻害効力に顕著な影響を及ぼさなかった。4−フェニル基を欠く(AM−009)又はN−フェニル基(AM−006)を欠く化合物の阻害活性は低下したが、消失はしなかった。一方、N−イソプロピル基によるN−フェニル基の置換(AM−003)により、阻害効果が消失した。AM−010の低い活性から、阻害活性には6−チエニル基の存在が重要であることが指摘される。最後に、顕著な阻害活性は、AM−002では観察されなかった。AM−002は、2−カルボキサミド結合が自由に回転できず、AM−001の第一級アミノ基が追加のチエノ[3,2−d]ピリミジン足場に関与する化合物である。この予備的構造活性研究から、フェニル基及び6−チエニル基が、その阻害活性を発揮するために、AM−001に必須であることが示された。したがって、これらのデータから、cAMP誘引Epac1コンホーメーション変化を減少させる能力において、この化合物ファミリーには化学的特異性があることが示された。
【0103】
4.AM−001は、培養細胞においてEpac1シグナル伝達を阻害する
AM−001により、新生仔ラット心室筋細胞を含む種々のタイプの培養細胞において明らかな細胞傷害性は示されなかった。AM−001が培養細胞において効率的なEpac1アイソフォーム特異的アンタゴニストであることを確認するために、本発明者らは、HEK293細胞において、Epac下流エフェクターであるRap1の活性化を遮断するその能力をさらに試験した(
図9〜
図13)。この細胞系統は、異所的に発現されたEpac1及びEpac2アイソフォームの細胞シグナル伝達に対するEpac薬理学的モデュレーターの評価に一般的に使用されている。高度に膜透過性で代謝活性化可能なEpacアゴニストである8−CPT−AM(8−(4−クロロフェニルチオ)−2’−O−メチルアデノシン−3’,5’−環状モノホスファート,アセトキシメチルエステル)により、Epac1を過剰発現する細胞において、Rap1の堅牢な活性化が誘引された。Epac1 BRETセンサー及びEpac1交換反応によりin vitroで得られたデータと一致して、AM−001により、Epac1誘引Rap1活性化が阻害されたが、不活性類似体であるAM−002及びAM−003では阻害されなかった(
図9〜
図11)。次に、本発明者らは、2つのEpac2スプライス変異体であるEpac2A及びEpac2Bに対する8−CPT−AMの効果を調査した(
図12〜
図13)。以前に特徴付けられた特異的Epac2阻害剤であるESI−05(Tsalkova T, Mei FC, Cheng X (2012) A Fluorescence-Based High-Throughput Assay for the Discovery of Exchange Protein Directly Activated by Cyclic AMP (EPAC) Antagonists. PLoS One 7(1): e30441)とは対照的に、AM−001により、Epac2A誘引Rap1活性化は阻害されなかった(
図12)。さらに、AM−001は、Epac2Bトランスフェクション細胞において、S−220により誘引されるRap1−GTP量の増加を阻害する効果がなかった。全体として、これらのデータから、AM−001は、培養細胞におけるEpac1誘引Rap1活性化の防止に効率的かつ特異的であることが示された。
【0104】
5.AM−001は、虚血−再潅流(I/R)傷害を防止する
次に、本発明者らは、AM−001が生理学的に関連する系において、Epac1の活性に影響を及ぼすことができるかどうかを試験した。Epac1の遺伝子除去が、虚血状態中の心筋細胞死を防止することが以前に示されている(Fazal L, Laudette M, Paula-Gomes S, Pons S, Conte C, Tortosa F, Sicard P, Sainte-Marie Y, Bisserier M, Lairez O, Lucas A, Roy J, Ghaleh B, Fauconnier J, Mialet-Perez J, Lezoualc'h F (2017) Multifunctional Mitochondrial Epac1 Controls Myocardial Cell Death. Circ Res 120(4):645-657)。本発明者らは、低酸素−再酸素化(HX+R)傷害に対するAM−001の潜在的保護作用を試験した。対照細胞と比較して、AM−001により、HX+R条件におけるLDH放出によりアッセイされるように、心筋細胞生存が顕著に増加した(
図14)。さらに、AM−001により、膜透過型Epac1特異的アゴニストである8−pCPT−2’−O−MecAMP−AM(8−CPT−AM)の心筋細胞死及び肥大に対する作用が阻害された(
図14)。このことは、AM−001のEpac1有害作用に対抗する能力を強調している。
【0105】
ついで、AM−001の急性投与の治療効力を急性心筋I/R傷害のマウスモデルで調査した。AM−001(8mg/kg)又は媒体の単回ボーラスを再潅流の5分前に静脈内注射した。リスク領域に対する梗塞サイズの比は、AM−001処置動物において、媒体処置マウスのそれ(50±3%)と比較して、有意に小さくなった(36±3%)(
図15)。興味深いことに、(R)−CE3F4は、BRETセンサーアッセイにおいて、AM−001よりIC50が低く、種々の細胞モデルにおいて、in vitroでのEpac1依存性生物学的作用を効率的かつ選択的に阻害することが示されていたが、この阻害剤(8mg/kg 体重)では、梗塞サイズを小さくすることができなかった。このことは、CE3F4が、AM−001と比較して、in vivoでのバイオアベイラビリティが劣る可能性があることを示唆している(
図16)。まとめると、これらの結果から、AM−001の急性注射は、心筋再潅流傷害を予防するのに効率的であることが実証される。
【0106】
6.AM−001により、慢性β−AR活性化中の心機能が改善された
次に、本発明者らは、AM−001が慢性β−AR活性化中の心機能の改善及びリモデリングを提供できるかどうかを決定するのを試みた。この目的で、野生型C57BL/6マウスをAM−001(10mg/kg i.p.3日目から14日目)又はその媒体の存在下において、非選択的β−ARアゴニストであるイソプロテレノール(ISO)(60mg/kg/日)又は媒体のいずれかで14日間処置した。AM−001処置マウスからの肝臓及び腎臓組織サンプルは、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色により実証されたように、明らかな組織学的変化を何ら示さなかった。加えて、肝毒性を示すアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の血漿濃度は、各群で同等であった(
図17)。さらに、左心室内径短縮率(FS)及び脛骨長に対する左心室重量(LVW)の比(LVW/TL)並びに心拍数は、媒体処置マウス及びAM−001処置マウスにおいて、ベースライン時と同様であった(
図18)。したがって、AM−001の慢性注射は、動物において毒性作用を示さず、使用された実験条件下では、基礎心機能を変化させなかった。
【0107】
ISOの慢性注入により、対照媒体と比較して、LVW/TL比が有意に大きくなった(
図18)。逆に、アドレナリン作動性ストレスの開始3日後でのAM−001の注射により、このパラメータはさらに低下した(
図18)。加えて、線維化は、AM−001処置マウスにおいて大きく減少した(1.1±0.5%vs媒体+ISO処置マウスにおける3.0±1.1%)(
図19)。重要なことに、14日間のISO注入後、AM−001の効果は、心機能の改善と関連していた。このことは、AM−001処置マウスにおけるFSが媒体処置マウスにおけるより高かったことにより実証されている(
図20、上部パネル)。一貫して、ISO処置中にAM−001存在下で観察されたこのより良好な収縮性は、左心室収縮末期内径(LVID)及び左心室拡張末期内径(LVIDd)が小さくなることと相関していた(
図20、下部パネル)。最後に、本発明者らは、AM−001がGプロテインレセプターキナーゼ2(GRK2)及びGRK5の発現レベルを変化させることができるかどうかを調査した。実際に、これらの両GRKにより、β−ARが脱感作し、心臓ストレス状態におけるそのアップレギュレーションは、有害なリモデリング及び収縮機能不全に関与する(24)。予想どおり、ISO処理により、GRK2及びGRK5発現が増加した(
図21)。興味深いことに、GRK5のアップレギュレーションは、AM−001処置動物において、顕著に低下したが、GRK2のアップレギュレーションは低下しなかった。
【0108】
まとめると、これらのデータから、AM−001により、β−ARの慢性的な活性化に応答して、心肥大及び線形症が緩和され、おそらく、β−AR応答性の回復を通じて心機能が改善されることが示されている。
【0109】
まとめると、これらの結果は、in vitro及びin vivoの両方で機能するEpac1の特異的薬理学的阻害剤としての新規なチエノ[2,3−b]ピリジン類似体の特定に関する。これらのことは、この化合物がEpac1によりレギュレーションされるシグナル伝達経路に関連する生理学的及び病理学的プロセスを探索するための価値ある薬理学的ツールであるだけでなく、関連するヒト疾患のための新規な分子治療剤(molecular therapeutic)として開発される大きな可能性を有することを示している。