特表2021-527094(P2021-527094A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-527094早産新生児の低酸素性虚血性脳症の治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-527094(P2021-527094A)
(43)【公表日】2021年10月11日
(54)【発明の名称】早産新生児の低酸素性虚血性脳症の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20210913BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20210913BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20210913BHJP
【FI】
   A61K38/17
   A61P9/10
   A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-569108(P2020-569108)
(86)(22)【出願日】2019年6月7日
(85)【翻訳文提出日】2021年2月10日
(86)【国際出願番号】EP2019064914
(87)【国際公開番号】WO2019238550
(87)【国際公開日】20191219
(31)【優先権主張番号】18177287.2
(32)【優先日】2018年6月12日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】515288959
【氏名又は名称】ユニフェルシテイト マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT MAASTRICHT
(71)【出願人】
【識別番号】517079054
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ウォルフス、ティム ギヨーム アンナ マリー
(72)【発明者】
【氏名】ロイテリングスペルガー、クリスティアーン ペーテル マリーア
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA18
4C084MA02
4C084MA65
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
(57)【要約】
本発明は医療の分野である。本発明は、新生児の呼吸停止による急性または亜急性の脳損傷の治療手段および方法を提供する。本発明では、アネキシンA1を含む組成物をそのような治療を必要とする対象に投与することによって、低酸素性虚血性脳症を効果的に治療し得ることが見出された。したがって、本発明は、アネキシンA1を含む組成物を早産新生児に投与することによる新生児の低酸素性虚血性脳症の治療に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アネキシンA1またはその等価物を含む、虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物であって、前記アネキシンA1またはその等価物を含む前記組成物は、虚血事象後24時間以内に新生児に投与され、但し、前記組成物は、間葉幹細胞(MSC)、成体多能性幹細胞(MAPC)またはそれらに由来する細胞外小胞(EV)を含まず、前記等価物は、ヒトアネキシンA1、切断アネキシンA1、および少なくとも1つの他のヒトアネキシンとヒトアネキシンA1とのキメラからなる群より選択されることを特徴とする虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【請求項2】
前記組成物は医薬上許容可能な担体を含む請求項1に記載の虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【請求項3】
前記等価物は、アネキシンA1とアネキシンA5とを含むキメラである請求項1または2に記載の虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【請求項4】
治療が静脈内投与を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【請求項5】
治療が虚血事象の12時間以内に生じる請求項1〜4のいずれか1項に記載の虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【請求項6】
前記アネキシンA1またはその等価物は、1μg〜10mg/kg体重の用量で投与される請求項1〜5のいずれか1項に記載の虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【請求項7】
前記アネキシンA1またはその等価物は、1ボーラス/24時間として非経口投与される請求項6に記載の虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【請求項8】
前記アネキシンA1またはその等価物は、1時間当たり0.1μg〜1mg/kg体重の用量の持続点滴として投与される請求項6に記載の虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【請求項9】
前記組成物が無傷の細胞を含まない請求項1〜8のいずれか1項に記載の虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【請求項10】
前記細胞が幹細胞である請求項9に記載の虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【請求項11】
前記幹細胞が間葉幹細胞である請求項10に記載の虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療分野に関する。本発明は、早産新生児の呼吸停止による急性または亜急性脳損傷の治療手段および方法を提供する。より詳細には、本発明は、低酸素性虚血性脳症の治療を提供する。
【背景技術】
【0002】
周産期呼吸停止は、より適切には低酸素性虚血性脳症(HIE)と知られており、呼吸停止による急性または亜急性脳損傷の臨床および研究室の証拠によって特徴付けられる。この状態の一番の原因は、全身性の低酸素血症および/または脳血流(CBF)の減少である。出産呼吸停止は、世界中のすべての新生児死亡のうちの840,000または23%で生じている[1,2,3]。
【0003】
新生児低酸素性虚血性脳症は、不十分な酸素供給により、新生児の脳の細胞に損傷を引き起こす神経系疾患である。全身性の低酸素血症および脳血流(CBF)の減少による脳の低酸素症および虚血は、新生児にて生じる灰質および白質の障害に伴う新生児HIEをもたらす主な理由である。新生児HIEは、新生児期における死亡を引き起こし得るか、または発達遅延、精神遅滞、または脳性麻痺(CP)と後に認められるものを生じ得る。たとえ異なる治療戦略が近年開発されたとしても、新生児HIEは、満期近い新生児、早期新生児および満期新生児において多くの死亡および罹患率をもたらす深刻な状態のままであり、したがって、依然として周産期医学の課題である。
【0004】
低酸素虚血(HI)によって誘導される脳損傷を患う満期新生児は、現在、冷却治療で治療される。しかしながら、この治療は軽症でのみ効果的なものであり、早産新生児では、いずれの治療から除外される悪い転帰を伴う。
【0005】
最近、本発明者らは、静脈内投与した間葉幹細胞(MSC)、成体多能性幹細胞(MAPC)またはそれらに由来する細胞外小胞(EV)が、広範囲の低酸素虚血(HI)後の早産脳損傷の翻訳のヒツジモデルにおいて神経を保護したことを見出した[4]。そのような治療は、真核細胞の培養、および真核細胞またはそれに由来する生成物の対象への投与を必要とする。これは、特にそのような細胞を生きたまま投与する場合に、治療の安全に関する問題、並びに手順のコストおよび物流に懸念を生じる。
【0006】
それ故に、より優れており、安全であり、信頼性のある、手頃なHIE治療が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
アネキシンA1またはその等価物を含む組成物を投与することによって、低酸素性虚血性脳症を効果的に治療し得ることが見出された。それ故に、本発明は、アネキシンA1またはその等価物を含む、虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物に関し、アネキシンA1またはその等価物を含む組成物は、虚血事象後24時間以内に新生児に投与され、但し、組成物は、間葉幹細胞(MSC)、成体多能性幹細胞(MAPC)またはそれらに由来する細胞外小胞(EV)を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】HI後7dの血管から脳柔組織へのアルブミン漏出(矢印)(+)およびコントロールの血管内のアルブミン(−)の代表的な組織学的画像である。
図1B】再灌流の7日後に、コントロールと比較して34%の漏出増加がHI処置動物にて見られた図である。これらの結果は、漏れやすい血管を示すアルブミン溢出のパーセンテージとして記載されている。
図2A】HI後の経時的な脳血管系(A)のアネキシンA1免疫活性を示す図である。X軸は日(d)、Y軸はアネキシンA1免疫活性の相対スコアである。
図2B】HI後の経時的な上衣ライニング(B)のアネキシンA1免疫活性を示す図である。X軸は日(d)、Y軸はアネキシンA1免疫活性の相対スコアである。
図3】アネキシンA1が、FPR1およびFPR2受容体によってBBB完全性を改善することを示す図である。0時間にて、OGDの開始前にベースラインTEERを測定した。OGDから4時間後、細胞をアネキシンA1および/またはFPR阻害剤で処置し、処置後3、6、12および24時間にて追跡調査した。より詳細には、胎児のラット内皮細胞を4時間OGD状態にし、再灌流の開始時に、組み換えアネキシンA1と、WRW4と、シクロスポリンHと(WRW4およびシクロスポリンHはFPR2およびFPR1アンタゴニスト)を含む組成物で処置した。処置後3h、6h、12hおよび24hにおいて、TEER(Ω)を測定した。0時点は、実験の開始および実験状態の開始(OGD前のTEER測定)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施例1に記載の確立したHIEの生体内ヒツジモデルシステムを採用した。ここでは、臍帯周囲の空気注入式血管閉塞栓を用いて臍帯を閉塞して、広範囲の一時的な低酸素虚血(HI)を誘導した。
【0010】
本明細書に記載の実験研究は、血液脳関門(BBB)の透過性が、内皮細胞の密着接合タンパク質組成およびアルブミン溢出の変化を伴って、HI後4〜6時間で増加したことを示した。
【0011】
HIが脳柔組織へのアルブミン漏出を増加させ、この漏出が虚血事象後に連続的に増加したことを見出した。
【0012】
これは、アルブミン染色の分析が動物当たり10画像(200x倍率)の類似の大きさの血管で行われた本明細書に記載の実験から結論づけられた。BBBの完全性を評価するために、アルブミン溢出を、(+)陽性アルブミン染色が血管の周囲の脳組織に存在する場合と、(−)アルブミンが 脳柔組織に存在しない場合とで記録した(図1)。
【0013】
実験モデル(実施例1)では、再灌流の7日後に、コントロールと比較して、HI処置動物にて34%の漏出増加が見られた(図1B)。これらの結果は、漏れやすい血管を示すアルブミン溢出のパーセンテージとして記載されている。これは図1Aに示され、左のパネルは、ヒツジアルブミンの100%が血管内に含まれているコントロールのヒツジの右のパネルと比較して、漏れやすい血管(17%のアルブミンが血管の外側にある)を示す。その漏出は、再灌流の3日目に約28%に、7日目に56%にそれぞれ増加した。これらの実験から、HIが血液脳関門(BBB)の崩壊をもたらすと結論付けた。
【0014】
BBBは、末梢系と、周皮細胞、ニューロン、星状膠細胞などの中枢神経系の細胞との間を、接着結合および輸送体構造を介して連絡する内皮細胞から構成される。この高度に分化した構造は、脳の恒常性を調整し、潜在的に有害な浸潤性免疫細胞および炎症性分子から中枢神経系(CNS)を保護するのに極めて重要である。これらの血行性メディエーターの流入は、小グリアの活性化と、その後、発達する脳を傷つける炎症性サイトカインおよび反応性酸素種の分泌とによって、神経炎症を持続させる。
【0015】
また、アネキシンA1と特異的に反応する抗体を用いて、胎児の脳切片上の免疫組織化学を実施した(実施例2)。アネキシンA1免疫活性(IR)の強度の定量化のために、アネキシンA1の免疫活性強度を評価する採点システム(1−3)を設計した。ここで、スコア1は小さい免疫活性、スコア2は中程度の免疫活性、スコア3は強い免疫活性である。採点を領域割合の分析によって補完し、Leica Qwin Pro V3.5.1.ソフトウェア(Leica,Rijswijk,オランダ国)で決定した標準閾値強度を用いて、全領域に対する陽性染色のパーセンテージとして表した。また、アネキシンA1の陽性染色した脳室周囲領域の厚さをImageJ Software version1.48で測定した。小グリア細胞でのアネキシンA1免疫活性の評価を、細胞表現型およびアネキシンA1免疫活性と共局在化するIBA−1での隣接した切片の染色に基づいて決定した。
【0016】
広範囲のHIから1日後、アネキシンA1免疫活性が、コントロールと比較して血管および上衣ライニング細胞にて顕著に減少した一方で、3日後および7日後にアネキシンA1の発現は正常化したことを見出した(図2Aおよび図2B)。
【0017】
BBBがHIに際だって侵されやすく、3日目でのアネキシンA1の発現増加にもかかわらず、血管外の内因性ヒツジアルブミンの存在の経時的な増加によって明らかなように、既に損傷が起きていると結論付けた。これは、多くても3日間、好ましくは48時間、さらにより好ましくは24または12時間、6、5、4、3、2、または1時間またはそれ未満などの処置の機会を医師に残す。虚血事象後直ちに処置することが最も好ましい。
【0018】
BBB完全性に対する効果が、アネキシンA1によって仲介されるかどうかを評価するために、出生後3日目のラットの脳から単離した一次胎児内皮細胞(EC)のBBB完全性のための一般に認められているモデルを使用した。
【0019】
内皮細胞(EC)の細胞単層を、半透性フィルターインサート(Transwell、3460 Corning)で培養した。それぞれ、電圧測定用の銀−塩化銀ペレットと、電流通過用の銀ペレットとを含む2つのチョップスティック型電極を有するEpithelial Voltohmmeter(EVOM2)を用いて、以前に記載したバリア完全性のための確立された定量的読み出し(Srinivasanら.,J.Lab Autom.2015(2)107−126)として、経表皮電気抵抗(TEER)を測定した。一方の電極を上部区画に、残りの電極をより下の区画に配置することによって、細胞層を横切る抵抗(Ω)の測定を半透膜で行った。測定をインサート当たり2連で実施し、数日間一貫して行い、培養から30分後培地を変更し、すべての測定前および測定中、温度を37℃に保持した。値がプラトーに達したら、膜はコンフルエンシーに達し、更なる実験を実施し得る(ベースライン測定)。
【0020】
ECがtranswell内でコンフルエンシーに達した際に、細胞を、酸素グルコース喪失(OGD)または酸素正常状態にランダムに割り当てた。培養培地をグルコースおよびグルタミンがないDMEM(A1443001 Thermofisher)と変更し、ECを低酸素室の0%酸素に37℃で4時間曝すことによって、OGDを実施した。酸素正常/OGDの4時間後、培地を培養培地に変更し、TEERを測定し(T0)、続いて以下の濃度および条件で処置した:アネキシンA1(3μM)、FPR1/2受容体ブロッカーWRW4(10μM)およびシクロスポリンH(1μM)。レチノイン酸(10μM)をBBB完全性増大の陽性コントロールとして使用した(Leoniら.,J.Clin.Invest.2013(123(1)443−454;,Lippmannら.,Sci.Rep.2014(4)4160)。
【0021】
続いて、酸素正常/OGD後、1時間、3時間、6時間、12時間および24時間において、すべての群でのTEERを測定した。この設定は、以下の処置群(n=2/実験):(1)無処置、(2)アネキシンA1、(3)WRW4、(4)WRW4+アネキシンA1、(5)シクロスポリンHおよび(6)シクロスポリンH+アネキシンA1になる。酸素正常コントロールは、培地を変更せずに正常な培養条件のままとした。細胞培養実験を繰り返して、再現性を調べた。
【0022】
実験継続前、培養下の内皮細胞のベースラインTEER値は約150Ω/インサートであった。OGD後1時間で、TEER値はそれぞれの処置群で有意に減少した。その後、アネキシンA1処置はTEERを着実に増加させ、値が130Ωでプラトーに達した(図3)。際だっていたのは、無処置またはシクロスポリンHおよびWRW4でのFPR1またはFPR2受容体の阻害によって、TEER値が100〜110Ωまで連続的に低下した(図3)。
【0023】
それ故に、BBB回復の確立されたモデルを用いて、アネキシンA1が、酸素グルコース喪失後に内皮抵抗性および/またはバリア完全性を回復することが示された。要するに、これは、HI攻撃後直ちに、またはHI攻撃後まもなく、BBB完全性を強化することは、内因性修復メカニズムを刺激するによって脳損傷を防ぐことを示唆する。
【0024】
それ故に、本発明は、アネキシンA1またはその等価物を含む、虚血事象による新生児低酸素脳症の治療用組成物であって、アネキシンA1またはその等価物を含む組成物は、虚血事象後24時間以内に新生児に投与され、但し、組成物は、間葉幹細胞(MSC)、成体多能性幹細胞(MAPC)またはそれらに由来する細胞外小胞(EV)を含まない組成物に関する。アネキシンA1は、市販されているものであり得、好ましくはヒト起源由来である。ヒト組み換えアネキシンA1(Kustersら.,Plos one 10(6)e0130484 DOI:10.1371)などの組み換えアネキシンA1を使用することがさらにより好ましい。
【0025】
好ましい実施形態では、上記用途の組成物は、医薬上許容可能な担体を含む。
【0026】
アネキシンA1の等価物は、好ましくは、ヒトアネキシンA1、切断アネキシンA1または他のヒトアネキシンとのキメラまたはこれらの組み合わせからなる群より選択される。キメラは好ましくはアネキシンA1とアネキシンA5とを含む融合タンパク質である。さらに好ましい実施形態では、組成物は静脈内投与される。
【0027】
上記の処置は、好ましくは、虚血事象の12時間以内、好ましくは6時間以内、5、4、3、2、または1時間またはそれ未満、虚血事象後直ちに実施される。
【0028】
好ましくは、アネキシンA1またはその等価物は、非経口で、1ボーラス/24時間として1μg〜10mg/kg体重の用量で、または1時間当たり0.1μg〜1mg/kg体重の持続点滴として、投与される。
【0029】
本明細書で、治療薬の「治療に有効な量」とは、疾患および/または状態に罹るか、または罹りやすい対象に投与した際に、疾患、障害、および/または状態の1つまたは複数の症状を治療するか、診断するか、防ぐか、および/またはそれらの開始を遅らせるのに十分な量を意味する。当業者であれば、治療に有効な量は、少なくとも1つの単位用量を含む投薬計画によって典型的には投与されることを理解するものである。
【0030】
本明細書で、「治療薬」は、対象に投与した際に、治療効果を有するか、および/または望ましい生物学的および/または薬理学的効果を誘発するいずれの剤も指す。
【0031】
本明細書で、「治療する(treat)」「治療(treatment)」または「治療する(treating)」は、特定の疾患、疾患、および/または状態の1つ以上の症状または特徴を、部分的にまたは完全に軽減するから、改善するか、緩和するか、妨げるか、防ぐか、それらの開始を遅らせるか、それらの重症度を減少させるか、かつ/または発生を減少させるのに使用されるいずれの方法も指す。
【0032】
本明細書で、「早産」は、妊娠の正常な期間の終わりより前の子供の誕生を指す。ヒトでは、早産児は、妊娠37週より前の出生児である。「満期」は、妊娠の正常な期間の終わりの、またはその後の子供の誕生を指す。ヒトでは、満期出生児とは、妊娠37週またはその後の出生児である。
【実施例】
【0033】
実施例1:生体内ヒツジモデル
実験手順および研究設計は、動物実験企業ガイドラインに従い、オランダ国のAnimal Ethics Committee of Maastricht Universityによって承認された。テセル種妊娠雌羊の個々の胎児(n=37)に、ランダムに閉塞栓を与えないか(n=18)、または閉塞栓を与えた(n=19)。
【0034】
すべての胎児は、先に記載したように(Opheldersら.,Stem Cell Transl.Med.20165(6)754−763)、102日間の妊娠期間(満期は妊娠期間の~147日)で計測された。簡潔に、一時的な広範囲の低酸素虚血の誘導のために、空気注入式血管閉塞栓を臍帯周囲に挿入した。さらに、血圧の測定およびMSC−EVの投与ために、臍帯血管カテーテルを大腿動脈および上腕静脈に置いた。4日間の回復期間後、血管閉塞栓の急速な膨張によって、胎児の疑似閉塞または臍帯閉塞(UCO)を25分間行った。(疑似)UCOから1日後(n=10)、3日後(n=8)または7日後(n=19)、胎児を屠殺した。調査員を行う(疑似)臍帯閉塞、組織サンプリングおよび事後分析は、処置の割当が見えないように行った。
【0035】
実施例2:試料調製、免疫組織化学および分析
固定後、側脳室、脳室周囲白質および大脳基底核を含む所定の領域をパラフィンに封入し、連続の冠状断面(4μM)をLeica RM2235ミクロトームで切断した。冠状断面を、BBB漏出マーカーとしてのアルブミン、一般の小グリアマーカーとしてのイオン化カルシウム結合アダプター分子1(IBA−1)、およびアネキシンA1について染色した。最初に、切片を脱パラフィン化し、水で戻した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、トリス緩衝食塩水(TBS)溶解した0.3%過酸化水素でのインキュベーションによって失活させた。抗原回復は、電子レンジを用いてクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で組織を煮沸して行った。次に、一次ポリクローナルウサギ抗アネキシンA1(AB137745,Abcam;1:100)、抗アルブミン(NY11590,Westbury;1:2000)、抗IBA−1(019−19741,Wako chemicals;1:1000)抗体で、4℃で、切片を一晩インキュベートした後、二次ポリクローナルブタ抗ウサギビオチン(E0353、Dako;1:200)でインキュベートした。Vectastain ABCペルオキシダーゼelite キット(PK−6200,Vector Laboratories,Burlingame,CA)で、抗体特異的な染色を増大した後、3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)染色を行った。Mayerのヘマトキシリンで核を染色した。
【0036】
Leica Qwin Pro version 3.4.0.ソフトウェアを備えたLeica DM2000顕微鏡(Leica Microsystems,Mannheim,ドイツ国)を用いて、デジタル画像を撮影した後、免疫組織化学染色の分析を行った。アネキシンA1およびIBA−1の画像を100xの倍率で撮影した。所定の領域は、血管と、上衣ライニング細胞と、IBA−1で染色した小グリア細胞を含む白質と、を含んでいた。Leica QWin Pro V3.4ソフトウェアを画像処理に使用した。
【0037】
アネキシンA1免疫活性の強度の定量化のために、アネキシンA1の免疫活性強度を評価する採点システム(1−3)を設計した。スコア1は小さい、スコア2は中程度、スコア3は強い免疫活性である。領域割合の分析によって採点を補完し、Leica Qwin Pro V3.5.1.ソフトウェア(Leica,Rijswijk,オランダ国)で決定した標準閾値強度を用いて、全領域に対する陽性染色のパーセンテージとして表した。また、アネキシンA1の陽性染色した脳室周囲領域の厚さをImageJ ソフトウェア version1.48で測定した。BBBの評価のために、小グリア細胞でのアネキシンA1免疫活性を、細胞表現型、およびアネキシンA1免疫活性と共局在化するIBA−1での隣接した切片の染色に基づいて決定した。
【0038】
アルブミン染色の分析を、動物当たり類似の大きさの血管の10画像(200x倍)で行った。BBBの完全性を評価するために、アルブミン溢出を、(+)陽性アルブミン染色が血管の周囲の脳組織に存在する場合と、(−)アルブミンが 脳柔組織に存在しない場合とで記録した(図1)。これらの結果を、漏れやすい血管を示すアルブミン溢出のパーセンテージとして示した。
【0039】
実施例3:経皮内移動電気抵抗(TEER)分析用の細胞の調製
以下の通り、細胞を単離し、培養した。出生後の3日目(P3)で頸部転位によって屠殺した余剰の仔ラットは、Department of Neuroscience of the Maastricht Universityから受け取った。出生後3日目の齧歯類の脳発達段階は、ヒト早産児と同等である(KinneyおよびVolpe;Neurol.Res.Int.2012,10.1155/2012/295389.Epub 2012 May 23)。Bernasら(Nat Protoc.2010 Jul; 5(7): 1265−1272.published online 2010 Jun 10.DOI:10.1038/nprot.2010.76)から細胞単離プロトコルを調整した。簡単に言うと、頭蓋骨から脳を切り出し、髄膜および大きい血管を除去した後、断片を減少するピペットチップに通過させることによって、組織を粉砕した。細胞懸濁液を500μM濾過器に通すことによって、大きい断片を除いた。通過した細胞を30μM濾過器で回収し、その後51x gで10分間遠心した。生じたペレットを、10%熱不活性化胎児ウシ血清(FBS)(F7524,Sigma)、1%抗生物質−抗真菌薬溶液(A5955,Sigma)、50μg/ml内皮細胞増殖サプリメント(ECGS)(354006,BD Biosciences)、1mg/mlヘパリン(L6510,Biochrom)およびヒドロコルチゾン500nM(07904,Stemcell technologies)を添加したDMEM−F12−glutamax(10565018,Thermofisher)に再懸濁し、I型コラーゲンで予め被覆したT25フラスコ(354236,Corning)に移した。培養拡大が約1ヶ月間認められて、周皮細胞による最小のコンタミネーション(<5%)(免疫細胞化学によって決定)を示す高度に密集した内皮細胞を得た。
【0040】
細胞集団の純度を評価するために、培養の細胞のキャラクタリゼーションを免疫細胞化学によって実施した。ガラススライドで細胞を増殖させ、内皮細胞のマーカーとしてフォン・ヴィレブランド因子(vWF)(A0082,Dako)、zona−Occludens 1(ZO−1)(61−7300,Invitrogen)およびオクルディン(71−1500,Invitrogen)、周皮細胞のマーカーとしてα−平滑筋アクチン(α−sma)asマーカーfor(A5228,Sigma)について染色した。byインキュベーションin4%パラホルムアルデヒド(抗体)またはMeOH(抗体)中でのインキュベート後、リン酸緩衝食塩水(PBS)中ウシ血清アルブミン(BSA)、正常ヤギ血清(NGS)またはFBSでブロッキングすることによって、細胞を固定した。次に、細胞を一次抗体(1:100/200)と4℃で一晩インキュベートした後、適切なalexa−fluor標識二次抗体(1:200)とインキュベートした。DAPIで核を染色し、カバースリップを蛍光封入剤(Dako)を用いて封入した。
【0041】
実施例4:経表皮電気抵抗(TEER)分析
内皮細胞(EC)の細胞単層を半透性フィルターインサート(Transwell)(3460Corning)で培養した。それぞれ、電圧測定用の銀−塩化銀ペレットと、電流通過用の銀ペレットとを含む2つのチョップスティック型電極を有するEpithelial Volt−ohmmeter(EVOM2)を用いて、バリア完全性の確立した定量的読み出しとして、TEERを測定した(Srinivasanら.,J.Lab Autom..J Lab Autom.2015Apr;20(2):107−126、published online2015Jan13.DOI:10.1177/2211068214561025)。一方の電極を上部区画に、残りの電極をより下の区画に配置することによって、細胞層を横切る抵抗(Ω)の測定を半透膜で行った。測定をインサート当たり2連で実施し、数日間一貫して行い、培養から30分後培地を変更し、すべての測定前および測定中、温度を37℃に保持した。値がプラトーに達したら、膜はコンフルエンシーに達し、更なる実験を実施し得る(ベースライン測定)。
【0042】
ECがtranswell内でコンフルエンシーに達した際に、細胞を、酸素グルコース喪失(OGD)または酸素正常状態にランダムに割り当てた。培地をグルコースおよびグルタミンがないDMEM(A1443001Thermofisher)に変更し、ECを低酸素室の0%酸素に37℃で4時間曝すことによって、OGDを実施した。酸素正常/OGDの4時間後、培地を培養培地に変更し、TEERを測定し(T0)、続いて以下の濃度および条件で処置した:アネキシンA1(3μM)、FPR1/2受容体ブロッカーWRW4(10μM)およびシクロスポリンH(1μM)。レチノイン酸(10μM)をBBB完全性増大の陽性コントロールとして使用した(Leoniら.,J.Clin.Invest.2013(123(1)443−454;Lippmannら.,Sci.Rep.2014(4)4160)。
【0043】
その後、酸素正常/OGD後、1時間、3時間、6時間、12時間および24時間において、すべての群でのTEERを測定した。この設定によって、以下の処置群(n=2/実験):(1)無処置、(2)アネキシンA1、(3)WRW4、(4)WRW4+アネキシンA1、(5)シクロスポリンHおよび(6)シクロスポリンH+アネキシンA1がもたらされた。酸素正常コントロールは、培地を変更せずに正常な培養条件のままとした。細胞培養実験を繰り返して、再現性を調べた。
【0044】
実験継続前、培養下の内皮細胞のベースラインTEER値は約150Ω/インサートであった。OGD後1時間で、TEER値はそれぞれの処置群で有意に減少した。その後、アネキシンA1処置はTEERを着実に増加させ、値が、12時間から130Ωでプラトーに達した。際だっていたのは、無処置、またはシクロスポリンHおよびWRW4でのFPR1またはFPR2受容体の阻害によって、TEER値が100〜110Ωまで連続的に低下した(図3)。
【0045】
実施例5:統計学的分析
免疫組織化学:すべての値を、95%の信頼区間(CI)または標準偏差(SD)で平均として示した。異なる実験の群の間の比較は分散分析(ANOVA)で行った。
【0046】
TEER測定値からのデータを、それぞれ処置群当たりn=2で実施した2つの独立した実験から得た。半透膜での内皮細胞層を横切る抵抗(Ω)は、半透膜の有効面積(cm)の時間を測定した。これらの調整した抵抗測定値は、対応する平均の調整した抵抗測定に対する比として表した。結果として、正規化した値を異なる実験群の間で比較した。データをGraphPad Prism 5を用いて示し、対応のないサンプルのt−試験で有意性について試験した。
【0047】
統計学的分析をIBM SPSS Statistics Version 22.0(IBM Corp.,Armonk,NY,USA;SPSS)で実施した。図式設計をGraphPad Prism 5を用いて実施した。正確なp値を記録し、統計学的有意性をp<0.05で許容した。
【0048】
参考文献
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2. Perlman JM. Brain injury in the term infant. Semin Perinatol. Dec 2004;28(6):415-24.
3. Grow J, Barks JD. Pathogenesis of hypoxic-ischemic cerebral injury in the term infant: current concepts. Clin Perinatol. Dec 2002;29(4):585-602, v.
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6. Ludwig et al., Int. J. Biochem Cell Biol (2012) 44: 11-15.
7. Jellema et al., J. Neuroinflamm. (2013) 10: 13.
8. Kumar et al., Pediatrics (2008) 122(3): e722-727
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
【国際調査報告】