特表2021-527761(P2021-527761A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-527761(P2021-527761A)
(43)【公表日】2021年10月14日
(54)【発明の名称】織物の着色方法及び着色した織物
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20210917BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20210917BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20210917BHJP
【FI】
   C23C14/14 D
   C23C14/06 A
   C23C14/06 B
   C23C14/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2021-520265(P2021-520265)
(86)(22)【出願日】2019年6月18日
(85)【翻訳文提出日】2020年12月22日
(86)【国際出願番号】CN2019091638
(87)【国際公開番号】WO2019242594
(87)【国際公開日】20191226
(31)【優先権主張番号】201810654518.5
(32)【優先日】2018年6月22日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520505940
【氏名又は名称】クワントン ライジング ウェル サイエンス アンド テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GUANGDONG RISING WELL SCIENCE & TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユイ ロンジャン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ チョンシ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン シン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジョンユ
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA04
4K029BA02
4K029BA03
4K029BA04
4K029BA07
4K029BA08
4K029BA09
4K029BA11
4K029BA12
4K029BA17
4K029BA18
4K029BA35
4K029BA43
4K029BA55
4K029BA58
4K029CA05
4K029DC39
4K029EA01
4K029EA03
4K029EA08
(57)【要約】
本願は、織物の着色方法及び着色した織物を提供し、そのうち、該織物の着色方法は、基布に対して放射による乾燥処理を実行するステップと、真空蒸着により、放射による乾燥後の基布表面で次第に接着層と少なくとも1層の発色層とを形成させ、そのうち、接着層の構成にTi、Cr、Si及びNi元素のうちの少なくとも1種が含まれるようにさせ、厚さが1〜2000nmであるようにさせ、発色層の構成にAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au及びMg元素のうちの少なくとも1種が含まれるようにさせ、発色層の総厚さが1〜4000nmであるようにさせるステップと、を含む。本願による着色方法により、豊かな色を生み出し、着色した織物は、よい耐変色性があるようにさせると同時に、膜層の厚さに対する着色した織物のカラーの感度を低下させるため、産業的操作可能性を向上させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物の着色方法であって、
基布に対して放射による乾燥処理を実行するステップと、
真空蒸着により、放射による乾燥後の基布表面で次第に接着層と少なくとも1層の発色層とを形成させ、そのうち、
前記接着層の構成にTi、Cr、Si及びNi元素のうちの少なくとも1種が含まれるようにさせ、前記接着層の厚さが1〜2000nmであるようにさせ、
前記発色層の構成にAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au及びMg元素のうちの少なくとも1種が含まれるようにさせ、前記発色層の総厚さが1〜4000nmであるようにさせるステップと、を含むことを特徴とする織物の着色方法。
【請求項2】
前記接着層がTi、Cr、Si又はNiの単体層であるか、またはTi、Cr、Si又はNiの酸化物層又は窒化物層であるか、またはTi、Cr、Si及びNiのうちの少なくとも1種含有の合金層であることを特徴とする請求項1に記載の着色方法。
【請求項3】
前記接着層表面で2層以上の発色層を形成し、隣接する2層の発色層は、構成が異なるようにさせることを特徴とする請求項1に記載の着色方法。
【請求項4】
前記発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au又はMgの単体層であるか、または、
前記発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au又はMgの酸化物層、窒化物層又は炭化物層であるか、または、
前記発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au及びMgのうちの少なくとも1種の元素含有の合金層であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の着色方法。
【請求項5】
最も外にある発色層の構成にTi、Zn、Fe及びCu元素のうちの少なくとも1種が含まれるようにさせることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の着色方法。
【請求項6】
前記放射による乾燥は、マイクロ波による乾燥であり、マイクロ波の周波数を2.45GHz±25MHzに、乾燥温度を200℃以下に制御することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の着色方法。
【請求項7】
マグネトロンスパッタリングを採り、放射による乾燥後の基布表面で次第に前記接着層と少なくとも1層の発色層とを形成し、そのうち、ターゲットベース距離を2〜20cmに、車速を0.5〜10m/minに、背景真空を4.0×10-3Pa以下に、作業真空を2.0×10-1Pa以下に制御することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の着色方法。
【請求項8】
真空蒸着を行う前に、また、
前記放射による乾燥後の基布に対して真空加熱処理を実施し、圧力を3.0×10-3Pa未満に、加熱温度を60〜120℃に制御するステップを含むことを特徴とする請求項1、請求項6〜請求項7のいずれか1項に記載の着色方法。
【請求項9】
さらに、前記基布に対して前処理及び/又は後仕上げを行うステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の着色方法。
【請求項10】
着色した織物であって、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の着色方法を採り、基布表面で着色して得られるものであることを特徴とする着色した織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、織物の着色技術に関し、具体的に、織物の着色方法及び着色した織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のカラーシステムにおいて、発色原理に遵って区別すると、主に色素の色と構造の色という2種類の発色方法がある。色素の色は、主に物質分子中の化学結合次第であり、一部の化学結合にある電子が特定の波長の可視光を吸収しやすい状態である一方、残る他の波長が反射されて異なるカラーとして呈するようになっている。このような効果を果たすことができる物質は色素であり、このようなカラーは色素の色と呼ばれる。色素の色は、素材の1つの固有プロパティと理解することができる。
【0003】
構造の色はまた、物理色とも呼ばれており、物体表面の特殊な構造により、光波が屈折したり、拡散反射したり、回折したり又は干渉したりして、光の成分が変えられ、光スペクトルの特定な波長の一部の光強度を増加するのに対して、一部が弱まっていくようになり、最終的に、物体が異なるカラーを呈するようになるわけである。甲虫の体壁表面の金属のような色艶と光などが典型的な構造の色である。
【0004】
織物の伝統的な着色は、主に色素の色による発色に依存しており、具体的に、化学工業用染料による染色であり、主に染料を基布に与えて発生する。現在、染色及び仕上げ業界全体的の染色及び仕上げプロセスは、大体前処理、染色、柄染及び仕上げといったステップを含む。しかしながら、伝統的な染色方法は、
1、染色及び仕上げ業界が現在国内で厳しく規制されている産業に属し、百メートルあたりの布の染色に消耗する水の量が2〜4トンであり、水の総消費量に占める廃水量が60〜80%である。同時に、染料の調製および生産中でいずれも揮発性の汚染物質が生成されるようになっている欠点、
2、従来の化学工業用染料による染色は、主に、染色グループと織物繊維との間の吸着と定着とに頼るが、該プロセスでは、繊維の構造に対する依存性が非常に高いため、異なる織物生地の場合では、異なる染色剤と助剤とに合わせて使用する必要があり、例えば、ナイロン織物は、主に酸性染料を使用し、アクリル織物は、主にカチオン性染料又は分散染料を使用して染色し、酢酸繊維織物は、主に分散染料を使用しているが、不溶性アゾ染料を使用して染色することもあるから、顔料の普遍的適応性が劣っている欠点、
3、伝統的な染色は、主に液体染剤によって着色され、編み方の違いによる織物のシュリンクやカーリングの程度には大きな差があるため、編み方が異なる織物の染色に使用する機器も異なる欠点、の存在が明らかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
伝統的な化学工業用染料による染色には上記の欠陥が存在することに鑑みて、紡織素材でいかにして構造の色を効果的に構築するかは、すでに紡織染色及び仕上げ業界の注目と研究するイッシュとなっている。例えば、マグネトロンスパッタリング技術を利用し、織物ベース(基布)に対して無線周波数スパッタリングを行い、基布表面でSiOとTiOと交互の周期膜を形成する。光に照らされると、着色した織物が明るくて鮮やかな色を呈するようになる。該着色技術は、主に屈折率の低いSiO膜と屈折率の高いTiO膜が交互して周期的に配置されることによって発生する光の干渉を利用し、着色した織物が明るくて鮮やかなカラーを呈するようにさせるわけである。
【0006】
上記着色技術により、廃水の排出がなくなるから、水資源の浪費および環境への汚染も免れるようになっていると同時に、基布に対する適応性が広くなり、基布の繊維がマルベリー正絹などの天然タンパク質繊維であってもよく、ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維であってもよい。しかしながら、周期的二酸化チタンとシリカによる2種類の膜層のみの光に対する干渉作用を用いて発色を実現する該着色技術であるため、最終的に呈するカラーの種類が大幅に制限を受けているとともに、膜の厚さに極めて敏感なこの着色技術によっては、実際の生産で理想的な歩留まりを達成するには非常に困難であるため、該着色技術による産業化の普及は、多大に制限されており、また、該着色技術による織物の耐変色性が保証できない。
【0007】
現在、真空蒸着技術を採り、繊維表面で他の金属単体、さらに合金を蒸着させることにより、色の豊かさを少し増やす方法は、少量の文献で報道されたが、該方法は、炭素繊維、ポリイミドなど少数のいくつかの特殊な繊維の着色に限定され、伝統的な棉、正絹などの繊維には適用されない。それは、主に着色した織物が均一に着色されておらず、一部のエリアでは膜層の蒸着がないから、国の基準に達していない耐変色性に反映されている。
【0008】
よって、織物が豊かな色を生み出すようにさせるだけではなく、得られた着色した織物が非常によい耐変色性を備えるようにさせると同時に、産業の生産要件が満たされる、織物繊維に対する普遍的適応性がよいである着色方法を開発することは、現在、早急な解決が待たれる課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記欠陥に対し、本開示の実施例では、織物の着色方法が提供され、該着色方法は、豊かな色を生み出せるだけではなく、膜層の厚さに対するカラーの感度を低下させるため、産業的操作可能性を向上させる。同時に、繊維に対する該着色方法の普遍的適応性がよくなり、いずれも着色した織物の耐変色性が抜群であるようにさせることができ
【0010】
本開示の実施例では、また上記の着色方法によって調製される着色した織物が提供され、該着色した織物は、豊かな色やよい耐変色性を備えられるだけではなく、産業化した方法によって調製して得ることもできる。
【0011】
上記の目的を実現するために、本開示の実施例では、織物の着色方法が提供され、前記方法は、
基布に対して放射による乾燥処理を実行するステップと、
真空蒸着により、放射による乾燥後の基布表面で次第に接着層と少なくとも1層の発色層とを形成させ、そのうち、
接着層の構成にTi、Cr、Si及びNi元素のうちの少なくとも1種が含まれるようにさせ、厚さが1〜2000nmであるようにさせ、
発色層の構成にAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au及びMg元素のうちの少なくとも1種が含まれるようにさせ、発色層の総厚さが4〜2000nmであるようにさせるステップと、を含む。
【0012】
本開示の実施例で提供される着色方法に従い、真空蒸着技術を応用し、基布表面で接着層や発色層が含まれる発色膜層を形成し、光に対する、異なる素材や異なる厚さのナノ膜層の吸收、反射や屈折などの総合作用を利用して、得られる着色した織物が異なるカラーを呈するようにさせる。
【0013】
それに、上記接着層や発色層に使用される素材、各膜層の厚さ及び膜層の配置方式などを変えると、着色した織物のカラーも相応に変わるようになるから、着色した織物には、カラーがより豊かに、および色がより多くなる可能性を与える。よって、必要とされる織物のカラーに応じ、上記の少なくとも1種の要素に対して適当な調整や配置を行うことにより、膜層の厚さに対する織物のカラーの依存性を大幅に低下させることができ、織物着色産業化の実現に有利である。
【0014】
同時に、該着色方法により、水に対する耐変色性、発汗に対する耐変色性、摩擦に対する耐変色性、ソーピングに対する耐変色性、ドライクリーニングに対する耐変色性、光に対する耐変色性などを含む着色した織物の耐変色性が、いずれもレベル4又はレベル4〜レベル5に達し、一級品、さらに優級品に対するGB/T2660-2017「シャツ」基準の要件を満たしている。
【0015】
発明者の研究により、基布繊維に対する該着色方法は、適応性がよく、着色用の基布繊維は、伝統的な化学工業用染料で染色しにくい炭素繊維であってもよく、ポリイミドなど合成繊維であってもよく、現在よく見られるポリエステル、ナイロン、スパンデックスなどの化学繊維であってもよく、伝統的な棉、リネン、シルクなどの天然繊維であってもよいことが発見された。
【0016】
それに、基布の編み方に対する該着色方法は適応性もよく、ニッティングか、またはタティングによって得られる基布は、いずれも上記の着色方法を使用して発色することができるとともに、耐変色性がよい。
【0017】
発明者は、上記の現象に基づいてその発生原因について、本着色方法は、主に発色膜層と基布が高エネルギーイオンの協力下で形成する高エネルギーボンディングに頼り、この種のボンディングが主に基布表面エネルギーの強弱及び接着層中の原子移動の易さから影響を受け、基布の繊維種類や編み方には敏感しないため、該着色方法は、繊維が異なる基布及び編み方が異なる基布に対し、しずれも適用すると分析した。
【0018】
本開示の実施例で提供される着色方法とセットして使用される着色機器は、普遍的適応性も非常に高く、編み方が異なる基布のために対応する染色機器を設計する必要がないから、産業的操作可能性をさらに向上することを理解するには難しくない。
【0019】
本開示の実施例に係る技術的解決手段により、接着層は、基布表面と発色層との間の付着力を向上させるためのものである。具体的に、接着層は、一般的に拡散性能が良好のTi、Cr、Si、Niなどの元素を選択することができる。本開示の実施例の具体的な実施過程において、接着層は、
1、接着層がTi、Cr、Si又はNiの単体層である形態、即ち、Ti元素、Cr元素、Si元素又はNi元素を基布表面に蒸着することにより、接着層を形成する形態である。例えば、マグネトロンスパッタリング技術及びチタンターゲットを採り、アルゴン雰囲気で蒸着し、基布表面で単体金属Ti層を形成するようになる形態、
2、接着層がTi、Cr、Si又はNiの酸化物層である形態、酸化チタン、酸化クロム(三酸化クロム)、酸化シリコン又は酸化ニッケル(NiN、Ni及びNiを含む)を基布表面に蒸着して接着層を形成する形態である。例えば、マグネトロンスパッタリング技術を採ってチタンターゲットを使用すると同時に継続的に酸素をコーティングルームへ注入し、基布表面で酸化チタン層を形成するにようになる形態、
3、接着層がTi、Cr、Si又はNiの窒化物層である形態、窒化チタン、窒化クロム、窒化シリコン又は窒化ニッケルを基布表面に蒸着して接着層を形成する形態である。例えば、マグネトロンスパッタリング技術を採ってチタンターゲットを使用すると同時に継続的に窒素をコーティングルームへ注入し、基布表面で窒化チタン層を形成する形態、
4、接着層がTi、Cr、Si及びNiのうちの少なくとも1種含有の合金層である形態、例えば、マグネトロンスパッタリング技術を採って316ステンレス鋼(そのうち、質量含有量16.0〜18.5%のCr、質量含有量10.0〜14.0%のNi、質量含有量1.0%以下のSi)のターゲット素材を使用する形態、のような4種類の形態の1つを任意に選択することができる。
【0020】
本開示の実施例では、接着層表面で発色層を1層形成してもよく、接着層表面で次第に重なる発色層を2層以上形成してもよい。例えば、接着層表面では、裏から外へ次第に単体金属マグネシウム層、単体金属アルミニウム層、単体金属銅層及び窒化銅層の4層の発色層がある。
【0021】
特に、接着層表面で発色層が2層以上あるとき、隣接する2層の発色層は、構成が異なる方が最善である。
【0022】
上記の隣接する発色層は、構成が異なるとは、2層の発色層は、構成が違うか、又は完全に同じではないことを指し、
1、発色層を形成する元素の構成が異なる状況、例えば、2層の元素が、それぞれAgとTiとである状況、
2、発色層を形成する元素の存在形が異なる状況、例えば、2層に、同種の元素の単体、酸化物、窒化物又は合金形(TiやTiOを含む2層の構成が異なると見なす)がそれぞれ含まれる状況、を含むことができる。
【0023】
上記の各層の構成形式は、いずれも真空蒸着工程を制御することによって実現することができる。例えば、上記の状況1では、異なるターゲット素材を選択することができ、例えば、まずシルバーターゲットを選択して単体金属シルバー層を形成し、そして、チタンターゲットを選択して単体金属チタン層を形成する。状況2では、同じターゲット素材を選択するが異なるガスを注入する。例えば、真空蒸着は、2回ともチタンターゲットを選択するが、1回目でコーティングルームにアルゴンを注入し、単体金属チタン層を形成するようにさせ、2回目でコーティングルームに酸素を注入し、二酸化チタン層を形成するようにさせる。
【0024】
具体的に、発色層ごとに、
1、発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au又はMgの単体層である形態、
2、発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au又はMgの酸化物層、窒化物層又は炭化物層である形態、
3、発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au及びMgのうちの少なくとも1種の元素含有の合金層である形態、のような3種類の形態の1つを任意に選択することができる。
【0025】
発明者の研究により、他の条件を変えずに維持して、単にとある発色層の厚さを増やすと、着色した織物が最終的に呈するカラーは、発色層の厚さの変化につれて変化することが発見された。しかしながら、該発色層の厚さがあるクリティカル値に達したとき、最終的な着色した織物によって反射される波長帯は、ほとんど変化を見せていない。発色層ごとの厚さを1〜200nmのように制御するのが一般的である。
【0026】
本開示の実施例では、最も外にある発色層は、発色膜層を全体的に保護や隔離するように作用し、環境中の酸素、水、酸又はアルカリなどからの発色膜に対する影響を免れ、着色した織物の耐久性を向上することができるため、最も外にある発色層は、一般的に耐摩耗性能、抗酸化性能又は耐酸性及び耐アルカリ性が良好な素材を選択し、一般的に最も外にある発色層には、Ti、Zn、Fe及びCu元素のうちの少なくとも1種が含まれ、具体的に、最も外にある発色層の元素の構成は、織物製品への実際の要求に応じて合理的に選択されることができる。
【0027】
具体的に、最も外にある発色層は、
1、最も外にある発色層がTi、Zn、Fe又はCuの酸化物層又は窒化物層である形態、例えば、最も外にある発色層として酸化銅層又は窒化銅層を採り、実際の真空蒸着中に、銅ターゲットを選択して酸素又は窒素をコーティングルームへ注入する形態、
2、最も外にある発色層がTi、Zn、Fe及びCuのうちの少なくとも1種の元素含有の合金層である形態、例えば、真空蒸着中に、ターゲット素材としてチタン亜鉛合金を採る形態、のような2種類の形態の1つを任意に選択することができる。
【0028】
発色層の総数、および、各層の元素の構成、厚さ、配置手順の変化は、いずれも最終的な着色した織物が異なるカラーを呈するようにさせるとともに、発色層とする素材の選択可能な範囲が非常に広くなり、各発色層の配置方式や配置手順もより柔軟であるようになるため、着色した織物に色がより多くなる可能性を与えると理解することができる。
【0029】
同時に、着色した織物のカラーが上記要素の1種又は数種類を調整することによって実現できるため、発色膜層の厚さに対するカラーの依存性が低下するようになり、歩留まりや産業的操作可能性を大幅に向上させる。
【0030】
当然ながら、幾つかの特殊な状況では、同時に接着層と発色層とされることが可能な素材がある。例えば、基布表面で窒化チタン層又は二酸化チタン層を一層真空蒸着すると、着色した織物に美しいカラー又は所定や期待の色が与えられるようになる。
【0031】
また、本開示の実施例で使用される素材の選択可能な範囲がより広いであるため、着色した織物が伝統的な織物にはない性能を備えるようにさせることができる。例えば、選択可能な素材は、金属、金属酸化物、金属窒化物、合金を主としているため、着色した織物の抵抗率の低下を可能にさせるようになり、帯電防止性能がある織物製品、即ち、帯電防止織物の入手に有利である。または、着色層でAgが使用される場合、織物製品によい抗菌性が与えられることも可能になる。または、選択される素材及び発色膜層の配置方式や配置の厚さなどの要素を変えると、織物の反射光の波長帯を調整できるようになるため、紫外線防止織物又は赤外線防止織物を得ることもできるようになる。よって、本開示の実施例で提供される着色方法を採ると、特殊な要件に応じる織物製品の加工や調製に適用することができる。
【0032】
それに、本開示の実施例で提供される着色方法により、着色した織物に耐変色性は、非常に高くなることに対応し、着色した織物の帯電防止性能などの他の関連性能も、通常の真空蒸着方法によって得られる着色した織物より優れている。
【0033】
同時に、接着層や発色層の形成用の上記素材は、いずれも放射性や毒性がないため、着色した織物の安全性が確保される。
【0034】
本開示の実施例は、上記接着層や発色層の形成方式を特に限定しないが、選択される素材及び膜の厚さなどの要素に応じ、適合な真空蒸着方式を合理に選択することができ、原子層の堆積、蒸発コーティング、マグネトロンスパッタリングなどが含まれるが、これらに限定されない。本開示の具体的な実施過程では、基布表面で上記の接着層や少なくとも1層の発色層を形成するマグネトロンスパッタリングを採っている。
【0035】
具体的に、ターゲット素材の選択及びコーティングルーム(作業室)へ注入されるガス(酸素、窒素、アルゴンなど)により、接着層と発色層との構成を制御する。マグネトロンスパッタリングプロセスでパワー、ターゲットベース距離、車速、ガスフローなどの条件を制御することにより、接着層と発色層との厚さを制御する。また、瞬時のパワーの変化を制御することによって発色膜層の厚さを調整し、これで同一織物の異なる位置に異なるカラーがあるようになり、グラデーションカラーがあるように織物の色がより豊かになる。
【0036】
本開示の具体的な実施過程では、マグネトロンスパッタリングでのパワーは、使用されるターゲット素材の状況に応じて合理的に設定することができる。一般的に、ターゲットベース距離を2〜20cmに、車速を0.5〜10m/minに、バックグラウンド真空(バックグラウンド真空)を4.0×10-3Pa以下に、作業真空を2.0×10-1Pa以下に制御している。上記の条件下で完成られるマグネトロンスパッタリングにより、性能がよい着色した織物を得ることができる。
【0037】
上記の車速は、基布の移動速度を指し、蒸着の厚さを影響する要素の1つである。車速を合理的に制御することにより、蒸着される膜の厚さがより均一であるようにさせることができると理解することができ、一般的に、車速を0.5〜5m/minに制御しており、そうすれば織物着色の連続生産を実現し、生産率を確保することができるようになると同時に、膜の厚さが均一であるように確保することもでき、最終的な着色した織物のカラーが比較的均一であるようにさせる。
【0038】
発明者は、従来、真空蒸着技術による織物着色はポリイミド、炭素繊維などの少数のいくつかの特殊な繊維に限定され、伝統的な繊維には適用しない局限性について研究して分析した結果、その原因が、上記のいくつかの特殊な繊維自身の水含有量が少ないのに対し、伝統的な棉、リネンなどの植物繊維、及びポリエステル、スパンデックスなどの合成繊維の場合、真空蒸着プロセスでは、高エネルギー粒子の衝撃により、基布内のガスが逃げてガス層が形成され、膜層の蒸着が妨げられ、最終的に耐変色性が劣るようになることであると考えられる。
【0039】
上記の発見や分析に基づき、発明者は、伝統的な染色及び仕上げ業界での熱風乾燥工程、またはガラス、PEコーティングでの脱水工程などの複数の乾燥処理工程を試し、基布の水気及びアンモニアなどを徹底的にとろうとしていた。しかしながら、伝統的な染色及び仕上げ業界の着色メカニズムと真空蒸着による着色メカニズムは全然違うため、伝統的な染色及び仕上げ業界では、基布に対する乾燥処理は熱風を採って行っており、ヤーンの強度やふかふかさを向上する目的であるが、織物の耐変色性に明らかな利点がない。ガラス、PEなどの水分及びガスが含まれないマトリックス材料の場合、コーティングプロセス中に水分及びガスが逃げることによって形成されるガス層はなく、それに、ガラスコーティングで常用のイソプロパノール脱水工程も織物に大きなダメージを与える。普通の加熱による乾燥処理を採っても着色した織物の耐変色性は基準要件に達していない。
【0040】
放射による乾燥は、農業生産分野での新興乾燥技術であり、具体的に、赤外線、マイクロ波などの電磁波を熱源として、放射で熱を乾燥対象とする素材に送り乾燥する方法である。発明者は、放射による乾燥技術を織物着色分野に導入し、基布中の水分とガス(アンモニアなど)を効果的にとることができ、その後の真空蒸着プロセスで、繊維内部の水気又はアンモニアの放出によって形成されるガス層から着色した織物の耐変色性への影響が免れられるようになり、着色した織物の耐変色性が関連基準要件に達するようになるだけではなく、各種の繊維に対する該着色技術の適応性もよいであるようになる。
【0041】
上記放射による乾燥は、具体的に赤外線放射による乾燥であってもよい。例えば、赤外線放射ランプ又は赤外線放射ランプグループなどを採って基布を照らしたり、マイクロ波で乾燥したりすることができる。本開示の具体的な実施プロセスでは、マイクロ波による乾燥方式を採り、周波数2.45GHz±25MHzのマイクロ波を選択し、乾燥温度を200℃以下にしている。マイクロ波による乾燥は、大気環境(常圧環境)又は真空環境で完成されてもよい。
【0042】
上記のマイクロ波による乾燥の温度を織物の耐温度Tより少し低くするべきである。例えば、織物の耐温度(T-10)℃以下にし、繊維の脆化現象を免れると理解することができる。基布によって対応する乾燥温度を合理的に設定することができる。
【0043】
それに、熱風による乾燥又は電気による乾燥などを採る伝統的な乾燥方式に比べて、マイクロ波による乾燥方式は、短時間で、低エネルギー消費で汚染なし、均一な乾燥などの利点もあり、繊維にダメージを与えられない。
【0044】
さらに、上記の真空蒸着を行う前に、放射による乾燥後の基布に対して真空加熱処理を実施することもでき、一般的に、加熱温度を60〜120℃に、圧力を3.0×10-3Pa未満に制御している。上記の真空加熱処理を実施することにより、さらに水分とガス、特に表面の水分及びガスをとり、織物の水分の往復を免れ、基布と、接着層及び発色層との間の付着力を向上することができる。
【0045】
一般的に、基布に対する乾燥加熱のプロセスでは、基布の移動速度をその後の真空蒸着での車速と同じであるように制御することにより、着色過程全体の連続や順調な生産を実現することができる。
【0046】
具体的に、上記の織物着色プロセスを真空蒸着生産ラインで完成してもよい。生産フローの手順に従い、該生産ラインは、1つの巻き戻し室、1つの放射乾燥室、1つの真空加熱室、1つ又は複数のシリアル接続のコーティングルーム(作業室)及び1つの巻き取り室を含む。また、該生産ラインは、また伝動装置を含み、伝統的な染色及び仕上げ工程で使用される伝動装置を採ってもよく、又は巻き戻し室、コーティングルーム及び巻き取り室の実際の状況に基づいて適応的に調整してもよい。
【0047】
そのうち、巻き戻し室の機能は、各種の柔らかの基布をこの室に保管し、ガイドローラーの作用で、コンベヤーベルトを始動し、基布を後ろのコーティングルームに伝送することである。巻き戻し室は常圧環境であってもよく、又は真空環境であってもよい。
【0048】
放射乾燥室は、放射による乾燥処理を実施するためのものであり、赤外線放射装置又はマイクロ波放射装置が内設されている。本開示の具体的な実施過程では、通常、マイクロ波放射装置を使用しており、一般的に、マイクロ波の周波数として2.45GHz±25MHzを選択しており、乾燥温度を200℃以下にしている。放射乾燥室は、大気と直接に連通することができ、またはセットにするように真空排気機器を設け、真空環境を達成することもできる。
【0049】
真空加熱室は、放射による乾燥後の基布に対して真空加熱処理を実施するためのものであり、一般的に、真空加熱室にベーキングユニットなどの加熱機器および真空排気機器が内設されており、これで、真空加熱室内の温度が60〜120℃であるように保持され、真空度が3.0×10-3Pa以下であるようになる。
【0050】
コーティングルームの機能は、基布表面で接着層及び発色層を形成することである。コーティング工程の要求に応じ、各コーティングルームで対応するターゲット素材を取り付ける。一般的に、酸素、窒素などの反応ガスを注入するか、またはアルゴンなどの保護ガスを注入するように、コーティングルーム内で独立したガス通路が設けられている。
【0051】
真空蒸着完成後の基布は、コーティングルームより巻き取り室に収納され、ガイドローラーの回転に伴って巻き取りされ、着色過程全体が完成されるようになる。
【0052】
特別に説明する必要があるものとして、コーティングルームで真空蒸着を行うとき、使用されるターゲット素材の純度が絶対な100%に達する可能性がないため、一般的に、ターゲット素材の純度が99.99%である。本開示の実施例では、ターゲット素材での免れない不純物が無視にされている。例えば、使用されるターゲット素材がチタンターゲットであり、コーティングルームへ注入されるガスがアルゴンであると、真空蒸着によって単体金属チタン層が形成されると見なされる。
【0053】
さらに、織物を発色させると同時に柄染を同期実現し、さらに織物着色の効率を向上するように、上記の真空蒸着の生産ラインでマスク伝動装置を配置することもできる。
【0054】
さらに、基布を真空蒸着の生産ラインに装入する前に、基布表面を前処理することもでき、具体的に、洗浄処理をし、基布上の汚れ、油汚れ、他の不純物などを取り除ければよい。
【0055】
本開示の実施例で提供される着色方法により、基布は、毛の効果、白色度、pH値、光沢度などに関する伝統的な染色工程の要件を満たすように要求されていないため、上記要件を満たすために行う対応する前処理の過程が必要でなくなり、前仕上げパートでも、精製やシルケット加工処理を必要としないため、前処理の工程やパート、及びそこから生じるエネルギー消費、水消費、化学物質消費、及び廃水の問題を大幅に削減する。
【0056】
真空蒸着の生産ラインから得られる着色した織物に対し、さらに後仕上げ処理を実施してもよく、主に物理的な仕上げの方法を使用し、さらに衣料、アパレルの類の生地の柔らかさを実現するようにさせる。この過程は、伝統的な染色及び仕上げプロセスの後仕上げ工程を参照することができ、繰り返して説明しない。
【0057】
本開示の実施例では、さらに着色した織物が提供され、上記の着色方法を採って基布表面で着色することによって得られるものである。
【0058】
上記の着色用の基布は、棉、リネンなどの天然繊維であってもよく、ポリエステル、スパンデックスなどの合成繊維であってもよい。本開示の実施例では、ここで特に限定されない。特に、該基布は、また伝統的な化学工業用染料による染色が発生しにくい炭素繊維、ポリイミド、ガラス繊維などの高性能繊維であってもよい。
【0059】
上記基布の編み方は、ニッティングか、タティングか、または、他の編み方であってもよく、本開示の実施例では、特に限定されない。
【0060】
以上のように、本開示の実施例で提供される着色方法を採って調製される着色した織物は、カラーがより豊かなで、耐変色性がよりよくなると同時に、産業化による量産を実現することもできるようになっている。
【0061】
同時に、該着色した織物は、普通の織物並みの通気性や透湿性を備えると同時に、伝統的な織物にはない特徴的ポイント、例えば、帯電防止性能、紫外線放射防止、防水性能及び抗菌性などを備えることもできるため、応用の見通しがより広くなっている。
【発明の効果】
【0062】
本開示の実施例で提供される織物の着色方法は、以下のような利点がある。
【0063】
1、真空蒸着技術を採ることにより、基布表面で接着層や発色層が形成され、光に対する、異なる素材や異なる厚さのナノ膜層の吸收、屈折や反射作用を利用し、織物の着色効果を達成しており、それに、異なる素材を選択したり、各膜層の配置手段や各膜層の厚さを変えたりすることにより、織物が異なるカラーを呈するようにさせ、カラーの豊かさを大幅に向上する。
【0064】
2、本着色方法を採ると、織物のカラーの調整や変化が素材的の選択又は膜層の配置手段によって実現できるため、膜層の厚さに対するカラーの感度や依存性が大幅に低下し、このため、産業的操作可能性や実施可能性も向上する。
【0065】
3、本着色技術により、着色した織物は非常に良い耐変色性を備えることができるようになり、水に対する耐変色性(GB/T5713-2013)、発汗に対する耐変色性(GB/T3922-2013)、摩擦に対する耐変色性(GB/T3920-2008)、ソーピングに対する耐変色性(GB/T3921-2008)、ドライクリーニングに対する耐変色性(GB/T5711-1997)、光に対する耐変色性(GB/T8427-2008)などを含む耐変色性が、いずれもレベル4又はレベル4〜レベル5に達し、一級品に対するGB/T2660-2017「シャツ」基準の規制を満たしている。
【0066】
4、本着色技術は、普遍的適応性が非常に強く、伝統的な染料が着色できない高性能繊維などを含む特殊な繊維織物、および伝統的な天然繊維や合成繊維織物に適用することができ、織物が異なる基布に対して異なる着色手段を設計する必要がなくなると同時に、該着色技術は、異なる編み方に対する普遍的適応性も非常に強いため、異なる編み方に対してセットになる機器を設計する必要がなくなるから、産業的操作可能性や実施可能性をさらに向上する。
【0067】
5、本着色技術を採ることにより、得られる着色した織物は、普通の織物並みの通気性や透湿性を備えるようになるだけではなく、本着色技術に使用される素材により、着色した織物は、伝統的な織物にはない独特な性能を備えることができるようになる。例えば、
(1)本着色技術に膜層を適用して発色することにより、織物繊維に対する膜層のカバー性能を利用して織物の先端放電効果を大幅に低減することができるとともに、膜層の金属層が起用する導電効果により、織物の静電気をさらに低減することができる。よって、本発色技術により、織物の帯電防止効果を向上させることができ、電磁シールド機能も果たすことができる。
(2)本技術に係る発色膜層は、合理的な設計により、光波の紫外線エリア又は赤外線エリアに対する吸収と反射を強化し、日焼け防止又はある程度の赤外線遮蔽機能を果たすことができる。
(3)発色膜表層のコンパクトさや疎水性効果により、織物によい防水効果が与えられることができる。
【0068】
6、着色全体のプロセスでは、布と同期して動くマスクを適用することで、柄染と染色の同期実現を実現し、生産過程を大幅に削減することができる。
【0069】
7、本着色技術により、基布は、毛の効果、白色度、pH値、光沢度などに関する伝統的な染色工程の要件を満たすように要求されておらず、前仕上げパートでも、精製やシルケット加工処理を必要としておらずに、油の除去、糊抜き、洗浄しかを行わないから、前処理の工程やパート、及びそこから生じるエネルギー消費、水消費、化学物質消費、及び廃水の問題を大幅に削減する。
【0070】
8、着色プロセス全体は、水なしで、化学物質なしで行われているから、伝統的な染色技術と比較し、水資源が大幅に節約され、生産中にも廃液、ヘドロや毒ガスの排出がないため、環境にやさしい利点がある。
【0071】
本開示の実施例で提供される着色した織物は、色がより豊かになり、産業化によって製造して得られることもできる。
【0072】
それに、該着色した織物は、普通の織物並みの通気性や透湿性を基本的に備えるため、現在の伝統的な織物の使用シーンを満たすことができる。同時に、該着色した織物は、また伝統的な織物にはない特徴的ポイント、例えば、帯電防止性能、紫外線放射防止、防水性能や抗菌性などを備えることもできるため、応用の見通しがより広くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】本開示の実施例1〜実施例3で提供される着色した織物の光反射スペクトルである。
図2】本開示の実施例1で提供される着色した織物表面の写真である。
図3】本開示の比較例1で提供される着色した織物表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本開示の実施例の目的、技術的解決手段及び利点をより明確にするために、以下、本開示の実施例における技術的解決手段について、明確的且つ完全に説明し、当然ながら、説明される実施例は、本開示の実施例の一部にすぎない。
【0075】
以下の実施例では、織物を着色するプロセスは、大体、前処理(表面洗浄)、放射による乾燥処理、真空加熱、真空蒸着、後仕上げ、テスト、検出、完成品を次第に含み、そのうち、
前処理は、具体的に、脱イオン水を使用して基布を洗浄し、そして熱による初期乾燥をし、基布表面がきれいであるように確保することである。
【0076】
放射による乾燥、真空加熱及び真空蒸着を真空蒸着の生産ラインで完成し、生産フロー手順に従うと、該生産ラインは、1つの巻き戻し室、1つの放射乾燥室、1つの真空加熱室、1つ又は複数のコーティングルーム(作業室)及び1つの巻き取り室を含む。また、該生産ラインは、また伝動装置を含み、伝統的な染色及び仕上げで使用される伝動装置を使用しており、基布又は着色した織物の半製品が巻き戻し室から次第に放射乾燥室、真空加熱室及びコーティングルームを通過して巻き取り室に到達するようにさせる。
【0077】
ロールされた基布に対し、まず放射による乾燥処理を行い、基布の水分及びガスをとってから、真空加熱室を通過して基布表面の水分及びガスをとり、前述の2回の加熱処理を経てから、基布と、接着層及び発色層との間の付着力がよりよくなる。
【0078】
実際の要求に応じ、各コーティングルーム(作業室)に1つ又は複数のターゲット素材を配置し、マグネトロンスパッタリングのプロセスでは、ターゲット素材の番号に従って次第に基布表面で対応する膜を形成する。例えば、1つのコーティングルームに4種類のターゲット素材を配置し、それぞれターゲット素材1、ターゲット素材2、ターゲット素材3及びターゲット素材4と記し、このように、上記手順に従って次第にマグネトロンスパッタリングを行い、対応する4層の膜を得ることができる。
【0079】
後仕上げは、着色した織物の実際の状況に応じて合理的に選択することができ、主に衣料、アパレル類用の生地に対し、例えば物理的な仕上げなどの方式を採ってその柔らかさを実現するが、他の種類の着色した織物の場合、特殊な要件がない限り、後仕上げ処理を行わなくてもよい。
【0080】
着色した織物は、後仕上げ、そしてその後の一連のテストや検出を通過すれば、生産フロー全体を完成し、最終的な完成品を得ることができる。
【0081】
実施例1
【0082】
本実施例では、織物の着色方法が提供され、使用される基布がポリエステル綿混紡であり、編み方がニッティングであり、その具体的な加工工程を、以下、表1に示している。
【0083】
上記の加工後、最終的に得られる着色した織物は、均一な黄緑色を呈し、200〜2000nm波長範囲内の反射スペクトルを図1に示している。
【0084】
図2は、上記の着色した織物表面の写真である。図2により、着色した織物表面で非常に均一な膜層が蒸着されることが分けられる。肉眼でも観察できるように、着色した織物表面全体ではいずれも膜層が蒸着され、均一に着色されていない問題は発見されなかった。
【0085】
本実施例に係る着色した織物に対して耐変色性テストを行った結果、水に対する耐変色性(GB/T5713-2013)、発汗に対する耐変色性(GB/T3922-2013)、摩擦に対する耐変色性(GB/T3920-2008)、ソーピングに対する耐変色性(GB/T3921-2008)、ドライクリーニングに対する耐変色性(GB/T5711-1997)、光に対する耐変色性(GB/T8427-2008)などを含む耐変色性が、いずれもレベル4又はレベル4〜レベル5に達し、一級品に対するGB/T2660-2017「シャツ」基準の規制を満たしていることが分けられる。
【0086】
【表1】
【0087】
比較例1
【0088】
本比較例では、織物の着色方法が提供され、使用される基布が実施例1と完全に一致する。該着色方法が実施例1との区別は、基布に対してマイクロ波による乾燥処理を行わなかったことしかない。
【0089】
上記の加工後、最終的に得られる着色した織物の一部エリアは、黄緑色を呈するようになる。図3は、該着色した織物表面の写真であり、図3から、着色した織物の一部エリアでは膜層が蒸着されておらず、基布本来のカラーと表現され、織物表面の膜層の不均一が表されることが分けられる。
【0090】
膜層の蒸着があるエリアに対して耐変色性テストを行った結果、その耐変色性がレベル1〜レベル2のみであり、合格品(レベル3で合格)に対するGB/T2660-2017「シャツ」基準の規制には達していない。
【0091】
実施例1と比較例1から、基布に対してマイクロ波による乾燥処理を行うことにより、基布表面に蒸着される膜層がより均一になり、耐変色性を大幅に向上させることが分けられる。
【0092】
実施例2
【0093】
本実施例では、織物の着色方法が提供され、使用される基布がポリエステルであり、編み方がタティングであり、具体的な加工工程を、以下、表2に示している。
【0094】
上記の加工後、最終的に得られる着色した織物は、赤ブラウン色を呈し、その200〜2000nm波長範囲内の反射スペクトルを図1に示している。
【0095】
本実施例に係る着色した織物に対して耐変色性テストを行った結果、水に対する耐変色性(GB/T5713-2013)、発汗に対する耐変色性(GB/T3922-2013)、摩擦に対する耐変色性(GB/T3920-2008)、ソーピングに対する耐変色性(GB/T3921-2008)、ドライクリーニングに対する耐変色性(GB/T5711-1997)、光に対する耐変色性(GB/T8427-2008)などを含む耐変色性が、いずれもレベル4又はレベル4〜レベル5に達し、一級品に対するGB/T2660-2017「シャツ」基準の規制を満たしていることが分けられる。
【0096】
該着色した織物に対して紫外線防止性能、通気性、表面撥水性、透水性など一連の検出を行い、伝統的な染色方法を採って得られる赤ブラウン布地を対照とし、関連テストの項目及びテストの結果を、以下、表3に示している。
【0097】
表面撥水性に対するテストは、平行する織物のサンプルを3つ選出してテストし、それぞれサンプル1#、サンプル2#及びサンプル3#と記す。
【0098】
表3のテストの比較結果により、紫外線防止性能、撥水効果及び耐水性の面では、本実施例に係る着色した織物は、明らかに伝統的な染色方法で得られる布地より優れているが、通気性や透湿性の面では、両者のテスト結果がほぼ同じである。
【0099】
よって、本実施例に係る着色方法を採ることは、最終的な着色した織物の通気性や透湿性などの性能に影響を与えていないとともに、着色した織物により独特な性能、例えば、紫外線防止性能、撥水効果や耐水性などが与えられる。
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
実施例3
【0103】
本実施例では、織物の着色方法が提供され、使用される基布がガラス繊維であり、編み方がタティングであり、具体的な加工工程を、以下、表4に示している。
【0104】
【表4】
【0105】
上記の加工後、最終的に得られる着色した織物は、青緑色を呈し、その200〜2000nm波長範囲内の反射スペクトルを図1に示している。
【0106】
本実施例に係る着色した織物に対して耐変色性テストを行った結果、水に対する耐変色性(GB/T5713-2013)、発汗に対する耐変色性(GB/T3922-2013)、摩擦に対する耐変色性(GB/T3920-2008)、ソーピングに対する耐変色性(GB/T3921-2008)、ドライクリーニングに対する耐変色性(GB/T5711-1997)、光に対する耐変色性(GB/T8427-2008)などを含む耐変色性が、いずれもレベル4又はレベル4〜レベル5に達し、一級品に対するGB/T2660-2017「シャツ」基準の規制を満たしていることが分けられる。
【0107】
該着色した織物に対して帯電防止性能の一連の検出を行い、また、比較として2種類の生地を提供し、そのうち、比較生地1として白色の織布(ガラス繊維)を採り、比較生地2の加工工程が上記ガラス繊維との相違点は、基布に対してマイクロ波による乾燥処理を行わなかったことしかない。
【0108】
上記の3種類の生地に関連するテスト項目及びテスト結果を、以下、表5に示している。
【0109】
【表5】
【0110】
表5のテスト結果により、本実施例で得られる着色した織物は、その摩擦による帯電電圧や表面抵抗率が、いずれも明らかに比較生地より低いであることが分けられる。これにより、本実施例に係る着色方法を採って得られる着色した織物は、帯電防止性能が非常に抜群であることが見えてくる。
【0111】
肉眼でも観察できるように、本実施例で得られる着色した織物表面に蒸着される膜層が非常に均一であり、カラーも比較的に均一であるが、比較生地2の一部のエリアでは膜層の蒸着がなく、異なるエリアのカラーの差異が比較的に明らかである。
【0112】
最後に説明すべきなのは、以上の各実施例は、本開示の技術的解決手段を説明するためのものだけであり、これを制限するものではなく、前述の各実施例を参照しながら本開示を詳細に説明したが、当業者であれば、依然として前述の各実施例に記載の技術的解決手段を修正するか、又はそのうちの一部またはすべての技術的特徴に対して等価置換を行うことができ、これらの修正または置換は、対応する技術的解決手段の本質を本開示の各実施例の技術的解決手段の範囲から逸脱しないと理解すべきである。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2021年2月3日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物の着色方法であって、
基布に対して放射による乾燥処理を実行するステップと、
真空蒸着により、放射による乾燥後の基布表面で、接着層と少なくとも1層の発色層とを順次形成するステップとを含み、但し
前記接着層の構成にTi、Cr、Si及びNi元素のうちの少なくとも1種が含まれ、前記接着層の厚さが1〜2000nmであるようにし
前記発色層の構成にAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au及びMg元素のうちの少なくとも1種が含まれ、前記発色層の総厚さが1〜4000nmであるようにすることを特徴とする織物の着色方法。
【請求項2】
前記接着層がTi、Cr、Si又はNiの単体層であるか、またはTi、Cr、Si又はNiの酸化物層又は窒化物層であるか、またはTi、Cr、Si及びNiのうちの少なくとも1種を含有する合金層であることを特徴とする請求項1に記載の着色方法。
【請求項3】
前記接着層の表面に2層以上の発色層を形成し、隣接する2層の発色層は、構成が異なるようにすることを特徴とする請求項1に記載の着色方法。
【請求項4】
前記発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au又はMgの単体層であるか、または、
前記発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au又はMgの酸化物層、窒化物層又は炭化物層であるか、または、
前記発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au及びMgのうちの少なくとも1種の元素を含有する合金層であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の着色方法。
【請求項5】
最も外にある発色層がTi、Zn、Fe及びCu元素のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の着色方法。
【請求項6】
前記放射による乾燥は、マイクロ波による乾燥であり、マイクロ波の周波数を2.45GHz±25MHzに、乾燥温度を200℃以下に制御することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の着色方法。
【請求項7】
マグネトロンスパッタリングを用い、放射による乾燥後の基布表面に前記接着層と少なくとも1層の発色層とを順次形成し、そのとき、ターゲットベース距離を2〜20cmに、伝送速度を0.5〜10m/minに、背景真空を4.0×10−3Pa以下に、作業真空を2.0×10−1Pa以下に制御することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の着色方法。
【請求項8】
真空蒸着を行う前に、
前記放射による乾燥後の基布に対して真空加熱処理を実施し、このとき圧力を3.0×10−3Pa未満に、加熱温度を60〜120℃に制御するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1、請求項6〜請求項7のいずれか1項に記載の着色方法。
【請求項9】
前記基布に対して前処理及び/又は後仕上げを行うステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の着色方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、織物の着色技術に関し、具体的に、織物の着色方法及び着色した織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のカラーシステムにおいて、発色原理に従って区別すると、主に色素の色と構造色という2種類の発色方法がある。色素の色は、主に物質分子中の化学結合次第であり、一部の化学結合にある電子が特定の波長の可視光を吸収しやすい状態である一方、残る他の波長が反射されて異なるカラーとして呈するようになっている。このような効果を果たすことができる物質は色素であり、このようなカラーは色素の色と呼ばれる。色素の色は、素材の1つの固有プロパティと理解することができる。
【0003】
構造色はまた、物理色とも呼ばれており、物体表面の特殊な構造により、光波が屈折したり、拡散反射したり、回折したり又は干渉したりして、光の成分が変えられ、光スペクトルの特定な波長の一部の光強度を増加するのに対して、一部が弱まっていくようになり、最終的に、物体が異なるカラーを呈するようになるわけである。甲虫の体壁表面の金属のような色艶と光などが典型的な構造色である。
【0004】
織物の伝統的な着色は、主に色素の色による発色に依存しており、具体的に、化学工業用染料による染色であり、主に染料を基布に与えて発生する。現在、染色及び仕上げ業界全体的の染色及び仕上げプロセスは、大体前処理、染色、柄染及び仕上げといったステップを含む。しかしながら、伝統的な染色方法には、以下の欠点の存在が明らかである。
1、染色及び仕上げ業界が現在国内で厳しく規制されている産業に属し、百メートルあたりの布の染色に消耗する水の量が2〜4トンであり、水の総消費量に占める廃水量が60〜80%である。同時に、染料の調製および生産中でいずれも揮発性の汚染物質が生成されるようになっているという欠点。
2、従来の化学工業用染料による染色は、主に、染色グループと織物繊維との間の吸着と定着とに頼るが、該プロセスでは、繊維の構造に対する依存性が非常に高いため、異なる織物生地の場合では、異なる染色剤と助剤とに合わせて使用する必要があり、例えば、ナイロン織物は、主に酸性染料を使用し、アクリル織物は、主にカチオン性染料又は分散染料を使用して染色し、酢酸繊維織物は、主に分散染料を使用しているが、不溶性アゾ染料を使用して染色することもあるから、顔料の普遍的適応性が劣っているという欠点。
3、伝統的な染色は、主に液体染剤によって着色され、編み方の違いによる織物のシュリンクやカーリングの程度には大きな差があるため、編み方が異なる織物の染色に使用する機器も異なるという欠点。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
伝統的な化学工業用染料による染色には上記の欠陥が存在することに鑑みて、紡織素材でいかにして構造色を効果的に構築するかは、すでに紡織染色及び仕上げ業界の注目および研究の対象となっている。例えば、マグネトロンスパッタリング技術を利用し、織物ベース(基布)に対して無線周波数スパッタリングを行い、基布表面でSiOとTiOと交互の周期膜を形成する。光に照らされると、着色した織物が明るくて鮮やかな色を呈するようになる。該着色技術は、主に屈折率の低いSiO膜と屈折率の高いTiO膜が交互して周期的に配置されることによって発生する光の干渉を利用し、着色した織物が明るくて鮮やかなカラーを呈するようにさせるわけである。
【0006】
上記着色技術により、廃水の排出がなくなるから、水資源の浪費および環境への汚染も免れるようになっていると同時に、基布に対する適応性が広くなり、基布の繊維がマルベリーシルクなどの天然タンパク質繊維であってもよく、ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維であってもよい。しかしながら、二酸化チタンとシリカによる2種類の膜層のみの光に対する周期干渉作用を用いて発色を実現する着色技術であるため、最終的に呈するカラーの種類が大幅に制限を受けているとともに、膜の厚さに極めて敏感なこの着色技術によっては、実際の生産で理想的な歩留まりを達成するには非常に困難であるため、該着色技術による産業化の普及は、多大に制限されており、また、該着色技術による織物の耐変色性が保証できない。
【0007】
現在、真空蒸着技術を用い、繊維表面で他の金属単体、さらに合金を蒸着させることにより、色の豊かさを少し増やす方法は、少量の文献で報道されたが、該方法は、炭素繊維、ポリイミドなど少数のいくつかの特殊な繊維の着色に限定され、伝統的な綿、正絹などの繊維には適用されない。それは、主に着色した織物が均一に着色されておらず、一部のエリアでは膜層の蒸着がないから、国の基準に達していない耐変色性に反映されている。
【0008】
よって、織物が豊かな色を生み出すようにさせるだけではなく、得られた着色した織物が非常によい耐変色性を備えるようにさせると同時に、産業の生産要件が満たされる、織物繊維に対する普遍的適応性のよい着色方法を開発することは、現在、早急な解決が待たれる課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記欠陥に対し、本開示の実施形態では、織物の着色方法が提供され、該着色方法は、豊かな色を生み出せるだけではなく、膜層の厚さに対するカラーの感度を低下させるため、産業的操作可能性を向上させる。同時に、繊維に対する該着色方法の普遍的適応性がよくなり、いずれも着色した織物の耐変色性が抜群であるようにさせることができる。
【0010】
本開示の実施形態では、また上記の着色方法によって調製される着色した織物が提供され、該着色した織物は、豊かな色やよい耐変色性を備えられるだけではなく、産業化した方法によって調製して得ることもできる。
【0011】
上記の目的を実現するために、本開示の実施形態では、織物の着色方法が提供され、前記方法は、
基布に対して放射による乾燥処理を実行するステップと、
真空蒸着により、放射による乾燥後の基布表面で接着層と少なくとも1層の発色層とを順次形成させるステップとを含み、但し
接着層の構成にTi、Cr、Si及びNi元素のうちの少なくとも1種が含まれ、その厚さが1〜2000nmであるようにし
発色層の構成にAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au及びMg元素のうちの少なくとも1種が含まれ、発色層の総厚さが1〜4000nmであり、好ましくは、4〜2000nmであるようにするステップと、を含む。
【0012】
本開示の実施形態で提供される着色方法に従い、真空蒸着技術を応用し、基布表面で接着層や発色層が含まれる発色膜層を形成し、異なる素材や異なる厚さのナノ膜層による光の吸收、反射や屈折などの総合作用を利用して、得られる着色した織物が異なるカラーを呈するようにさせる。
【0013】
それに、上記接着層や発色層に使用される素材、各膜層の厚さ及び膜層の配置方式などを変えると、着色した織物のカラーも相応に変わるようになるから、着色した織物には、カラーがより豊かに、および色がより多くなる可能性を与える。よって、必要とされる織物のカラーに応じ、上記の少なくとも1種の要素に対して適当な調整や配置を行うことにより、膜層の厚さに対する織物のカラーの依存性を大幅に低下させることができ、織物着色産業化の実現に有利である。
【0014】
同時に、該着色方法により、水に対する耐変色性、発汗に対する耐変色性、摩擦に対する耐変色性、ソーピングに対する耐変色性、ドライクリーニングに対する耐変色性、光に対する耐変色性などを含む着色した織物の耐変色性が、いずれもレベル4又はレベル4〜レベル5に達し、一級品、さらに優級品に対するGB/T26602017「シャツ」基準の要件を満たしている。
【0015】
発明者の研究により、基布繊維に対する該着色方法は、適応性がよく、着色用の基布繊維は、伝統的な化学工業用染料で染色しにくい炭素繊維であってもよく、ポリイミドなど合成繊維であってもよく、現在よく見られるポリエステル、ナイロン、スパンデックスなどの化学繊維であってもよく、伝統的な綿、リネン、シルクなどの天然繊維であってもよいことが発見された。
【0016】
それに、基布の編み方に対する該着色方法は適応性もよく、ニッティングか、またはタティングによって得られる基布は、いずれも上記の着色方法を使用して発色することができるとともに、耐変色性がよい。
【0017】
発明者は、上記の現象に基づいてその発生原因について、本着色方法は、主に発色膜層と基布が高エネルギーイオンの協力下で形成する高エネルギーボンディングに頼り、この種のボンディングが主に基布表面エネルギーの強弱及び接着層中の原子移動の易さから影響を受け、基布の繊維種類や編み方には敏感しないため、該着色方法は、繊維が異なる基布及び編み方が異なる基布に対し、しずれも適用すると分析した。
【0018】
本開示の実施形態で提供される着色方法とセットして使用される着色機器は、普遍的適応性も非常に高く、編み方が異なる基布のために対応する染色機器を設計する必要がないから、産業的操作可能性をさらに向上することを理解するには難しくない。
【0019】
本開示の実施形態に係る技術的解決手段により、接着層は、基布表面と発色層との間の付着力を向上させるためのものである。具体的に、接着層は、一般的に拡散性能が良好のTi、Cr、Si、Niなどの元素を選択することができる。本開示の実施形態の具体的な実施過程において、接着層は、以下のような4種類の形態の1つを任意に選択することができる。
1、接着層がTi、Cr、Si又はNiの単体層である形態、即ち、Ti元素、Cr元素、Si元素又はNi元素を基布表面に蒸着することにより、接着層を形成する形態であって、例えば、マグネトロンスパッタリング技術及びチタンターゲットを用い、アルゴン雰囲気で蒸着し、基布表面で単体金属Ti層を形成するようになる形態
2、接着層がTi、Cr、Si又はNiの酸化物層である形態、酸化チタン、酸化クロム(三酸化クロム)、酸化シリコン又は酸化ニッケル(NiN、Ni及びNiを含む)を基布表面に蒸着して接着層を形成する形態であって例えば、マグネトロンスパッタリング技術を用いてチタンターゲットを使用すると同時に継続的に酸素をコーティングルームへ注入し、基布表面で酸化チタン層を形成するにようになる形態
3、接着層がTi、Cr、Si又はNiの窒化物層である形態、窒化チタン、窒化クロム、窒化シリコン又は窒化ニッケルを基布表面に蒸着して接着層を形成する形態であって、例えば、マグネトロンスパッタリング技術を用いてチタンターゲットを使用すると同時に継続的に窒素をコーティングルームへ注入し、基布表面で窒化チタン層を形成する形態
4、接着層がTi、Cr、Si及びNiのうちの少なくとも1種含有の合金層である形態、例えば、マグネトロンスパッタリング技術を用いて316ステンレス鋼(但し、質量含有量16.0〜18.5%のCr、質量含有量10.0〜14.0%のNi、質量含有量1.0%以下のSi)のターゲット素材を使用する形態。
【0020】
本開示の実施形態では、接着層表面で発色層を1層形成してもよく、接着層表面で次第に重なる発色層を2層以上形成してもよい。例えば、接着層表面では、裏から外へ次第に単体金属マグネシウム層、単体金属アルミニウム層、単体金属銅層及び窒化銅層の4層の発色層がある。
【0021】
特に、接着層表面で発色層が2層以上あるとき、隣接する2層の発色層は、構成が異なる方が最善である。
【0022】
上記の隣接する発色層構成が異なるとは、2層の発色層は、構成が違うか、又は完全に同じではないことを指し、
1、発色層を形成する元素の構成が異なる状況、例えば、2層の元素が、それぞれAgとTiとである状況、
2、発色層を形成する元素の存在形が異なる状況、例えば、2層に、同種の元素の単体、酸化物、窒化物又は合金形(TiやTiOを含む2層の構成が異なると見なす)がそれぞれ含まれる状況、を含むことができる。
【0023】
上記の各層の構成形式は、いずれも真空蒸着工程を制御することによって実現することができる。例えば、上記の状況1では、異なるターゲット素材を選択することができ、例えば、まずシルバーターゲットを選択して単体金属シルバー層を形成し、そして、チタンターゲットを選択して単体金属チタン層を形成する。状況2では、同じターゲット素材を選択するが異なるガスを注入する。例えば、真空蒸着は、2回ともチタンターゲットを選択するが、1回目でコーティングルームにアルゴンを注入し、単体金属チタン層を形成するようにさせ、2回目でコーティングルームに酸素を注入し、二酸化チタン層を形成するようにさせる。
【0024】
具体的に、発色層ごとに、次のような3種類の形態の1つを任意に選択することができる。
1、発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au又はMgの単体層である形態、
2、発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au又はMgの酸化物層、窒化物層又は炭化物層である形態、
3、発色層がAl、Ti、Cu、Fe、Mo、Zn、Ag、Au及びMgのうちの少なくとも1種の元素含有の合金層である形態。
【0025】
発明者の研究により、他の条件を変えずに維持して、単にとある発色層の厚さを増やすと、着色した織物が最終的に呈するカラーは、発色層の厚さの変化につれて変化することが発見された。しかしながら、該発色層の厚さがある臨海値に達したとき、最終的な着色した織物によって反射される波長帯は、ほとんど変化を見せていない。発色層ごとの厚さを1〜200nmのように制御するのが一般的である。
【0026】
本開示の実施形態では、最も外にある発色層は、発色膜層を全体的に保護や隔離するように作用し、環境中の酸素、水、酸又はアルカリなどからの発色膜に対する影響を免れ、着色した織物の耐久性を向上することができるため、最も外にある発色層は、一般的に耐摩耗性能、抗酸化性能又は耐酸性及び耐アルカリ性が良好な素材を選択し、一般的に最も外にある発色層には、Ti、Zn、Fe及びCu元素のうちの少なくとも1種が含まれ、具体的に、最も外にある発色層の元素の構成は、織物製品への実際の要求に応じて合理的に選択されることができる。
【0027】
具体的に、最も外にある発色層は、次のような2種類の形態の1つを任意に選択することができる。
1、最も外にある発色層がTi、Zn、Fe又はCuの酸化物層又は窒化物層である形態、例えば、最も外にある発色層として酸化銅層又は窒化銅層を用い、実際の真空蒸着中に、銅ターゲットを選択して酸素又は窒素をコーティングルームへ注入する形態、
2、最も外にある発色層がTi、Zn、Fe及びCuのうちの少なくとも1種の元素含有の合金層である形態、例えば、真空蒸着中に、ターゲット素材としてチタン亜鉛合金を用いる形態。
【0028】
発色層の総数、および、各層の元素の構成、厚さ、配置手順の変化は、いずれも最終的な着色した織物が異なるカラーを呈するようにさせるとともに、発色層とする素材の選択可能な範囲が非常に広くなり、各発色層の配置方式や配置手順もより柔軟であるようになるため、着色した織物に色がより多くなる可能性を与えると理解することができる。
【0029】
同時に、着色した織物のカラーが上記要素の1種又は数種類を調整することによって実現できるため、発色膜層の厚さに対するカラーの依存性が低下するようになり、歩留まりや産業的操作可能性を大幅に向上させる。
【0030】
当然ながら、幾つかの特殊な状況では、同時に接着層と発色層とされることが可能な素材がある。例えば、基布表面で窒化チタン層又は二酸化チタン層を一層真空蒸着すると、着色した織物に美しいカラー又は所定や期待の色が与えられるようになる。
【0031】
また、本開示の実施形態で使用される素材の選択可能な範囲がより広いであるため、着色した織物が伝統的な織物にはない性能を備えるようにさせることができる。例えば、選択可能な素材は、金属、金属酸化物、金属窒化物、合金を主としているため、着色した織物の抵抗率の低下を可能にさせるようになり、帯電防止性能がある織物製品、即ち、帯電防止織物の入手に有利である。または、着色層でAgが使用される場合、織物製品によい抗菌性が与えられることも可能になる。または、選択される素材及び発色膜層の配置方式や配置の厚さなどの要素を変えると、織物の反射光の波長帯を調整できるようになるため、紫外線防止織物又は赤外線防止織物を得ることもできるようになる。よって、本開示の実施形態で提供される着色方法を用いると、特殊な要件に応じる織物製品の加工や調製に適用することができる。
【0032】
それに、本開示の実施形態で提供される着色方法により、着色した織物に耐変色性は、非常に高くなることに対応し、着色した織物の帯電防止性能などの他の関連性能も、通常の真空蒸着方法によって得られる着色した織物より優れている。
【0033】
同時に、接着層や発色層の形成用の上記素材は、いずれも放射性や毒性がないため、着色した織物の安全性が確保される。
【0034】
本開示の実施形態は、上記接着層や発色層の形成方式を特に限定しないが、選択される素材及び膜の厚さなどの要素に応じ、適合な真空蒸着方式を合理に選択することができ、原子層の堆積、蒸発コーティング、マグネトロンスパッタリングなどが含まれるが、これらに限定されない。本開示の具体的な実施過程では、基布表面で上記の接着層や少なくとも1層の発色層を形成するマグネトロンスパッタリングを用いている。
【0035】
具体的に、ターゲット素材の選択及びコーティングルーム(作業室)へ注入されるガス(酸素、窒素、アルゴンなど)により、接着層と発色層との構成を制御する。マグネトロンスパッタリングプロセスでパワー、ターゲットベース距離、伝送速度、ガスフローなどの条件を制御することにより、接着層と発色層との厚さを制御する。また、瞬時のパワーの変化を制御することによって発色膜層の厚さを調整し、これで同一織物の異なる位置に異なるカラーがあるようになり、グラデーションカラーがあるように織物の色がより豊かになる。
【0036】
本開示の具体的な実施過程では、マグネトロンスパッタリングでのパワーは、使用されるターゲット素材の状況に応じて合理的に設定することができる。一般的に、ターゲットベース距離を2〜20cmに、伝送速度を0.5〜10m/minに、バックグラウンド真空(バックグラウンド真空)を4.0×10−3Pa以下に、作業真空を2.0×10−1Pa以下に制御している。上記の条件下で完成られるマグネトロンスパッタリングにより、性能がよい着色した織物を得ることができる。
【0037】
上記の伝送速度は、基布の移動速度を指し、蒸着の厚さを影響する要素の1つである。伝送速度を合理的に制御することにより、蒸着される膜の厚さがより均一であるようにさせることができると理解することができる。一般的に、伝送速度を0.5〜5m/minに制御しており、そうすれば織物着色の連続生産を実現し、生産率を確保することができるようになると同時に、膜の厚さが均一であるように確保することもでき、最終的な着色した織物のカラーが比較的均一であるようにさせる。
【0038】
発明者は、従来、真空蒸着技術による織物着色はポリイミド、炭素繊維などの少数のいくつかの特殊な繊維に限定され、伝統的な繊維には適用しない局限性について研究して分析した結果、その原因が、上記のいくつかの特殊な繊維自身の水含有量が少ないのに対し、伝統的な綿、リネンなどの植物繊維、及びポリエステル、スパンデックスなどの合成繊維の場合、真空蒸着プロセスでは、高エネルギー粒子の衝撃により、基布内のガスが逃げてガス層が形成され、膜層の蒸着が妨げられ、最終的に耐変色性が劣るようになることであると考えられる。
【0039】
上記の発見や分析に基づき、発明者は、伝統的な染色及び仕上げ業界での熱風乾燥工程、またはガラス、PEコーティングでの脱水工程などの複数の乾燥処理工程を試し、基布の水気及びアンモニアなどを徹底的にとろうとした。しかしながら、伝統的な染色及び仕上げ業界の着色メカニズムと真空蒸着による着色メカニズムは全然違うため、伝統的な染色及び仕上げ業界では、基布に対する乾燥処理は熱風を用いて行っている。これはヤーンの強度やかさ高さを向上する目的であるが、織物の耐変色性に明らかな利点がない。ガラス、PEなどの水分及びガスが含まれないマトリックス材料の場合、コーティングプロセス中に水分及びガスが逃げることによって形成されるガス層はなく、それに、ガラスコーティングで常用のイソプロパノール脱水工程も織物に大きなダメージを与える。普通の加熱による乾燥処理を用いても着色した織物の耐変色性は基準要件に達していない。
【0040】
放射による乾燥は、農業生産分野での新興乾燥技術であり、具体的に、赤外線、マイクロ波などの電磁波を熱源として、放射で熱を乾燥対象とする素材に送り乾燥する方法である。発明者は、放射による乾燥技術を織物着色分野に導入し、基布中の水分とガス(アンモニアなど)を効果的に除くことができ、その後の真空蒸着プロセスで、繊維内部の水気又はアンモニアの放出によって形成されるガス層から着色した織物の耐変色性への影響が免れられるようになり、着色した織物の耐変色性が関連基準要件に達するようになるだけではなく、各種の繊維に対する該着色技術の適応性もよいであるようになる。
【0041】
上記放射による乾燥は、具体的に赤外線放射による乾燥であってもよい。例えば、赤外線放射ランプ又は赤外線放射ランプグループなどを用いて基布を照らしたり、マイクロ波で乾燥したりすることができる。本開示の具体的な実施プロセスでは、マイクロ波による乾燥方式を用い、周波数2.45GHz±25MHzのマイクロ波を選択し、乾燥温度を200℃以下にしている。マイクロ波による乾燥は、大気環境(常圧環境)又は真空環境で完成されてもよい。
【0042】
上記のマイクロ波による乾燥の温度を織物の耐温度Tより少し低くするべきである。例えば、織物の耐温度(T−10)℃以下にし、繊維の脆化現象を免れると理解することができる。基布によって対応する乾燥温度を合理的に設定することができる。
【0043】
それに、熱風による乾燥又は電気による乾燥などを用いる伝統的な乾燥方式に比べて、マイクロ波による乾燥方式は、短時間で、低エネルギー消費で汚染なし、均一な乾燥などの利点もあり、繊維にダメージを与えられない。
【0044】
さらに、上記の真空蒸着を行う前に、放射による乾燥後の基布に対して真空加熱処理を実施することもでき、一般的に、加熱温度を60〜120℃に、圧力を3.0×10−3Pa未満に制御している。上記の真空加熱処理を実施することにより、さらに水分とガス、特に表面の水分及びガスを除き、織物の水分の往復を免れ、基布と、接着層及び発色層との間の付着力を向上することができる。
【0045】
一般的に、基布に対する乾燥加熱のプロセスでは、基布の移動速度をその後の真空蒸着での伝送速度と同じであるように制御することにより、着色過程全体の連続や順調な生産を実現することができる。
【0046】
具体的に、上記の織物着色プロセスを真空蒸着生産ラインで完成してもよい。生産フローの手順に従い、該生産ラインは、1つの巻き戻し室、1つの放射乾燥室、1つの真空加熱室、1つ又は複数のシリアル接続のコーティングルーム(作業室)及び1つの巻き取り室を含む。また、該生産ラインは、また伝動装置を含み、伝統的な染色及び仕上げ工程で使用される伝動装置を用いてもよく、又は巻き戻し室、コーティングルーム及び巻き取り室の実際の状況に基づいて適応的に調整してもよい。
【0047】
但し、巻き戻し室の機能は、各種の柔らかの基布をこの室に保管し、ガイドローラーの作用で、コンベヤーベルトを始動し、基布を後ろのコーティングルームに伝送することである。巻き戻し室は常圧環境であってもよく、又は真空環境であってもよい。
【0048】
放射乾燥室は、放射による乾燥処理を実施するためのものであり、赤外線放射装置又はマイクロ波放射装置が内設されている。本開示の具体的な実施過程では、通常、マイクロ波放射装置を使用しており、一般的に、マイクロ波の周波数として2.45GHz±25MHzを選択しており、乾燥温度を200℃以下にしている。放射乾燥室は、大気と直接に連通することができ、またはセットにするように真空排気機器を設け、真空環境を達成することもできる。
【0049】
真空加熱室は、放射による乾燥後の基布に対して真空加熱処理を実施するためのものであり、一般的に、真空加熱室にベーキングユニットなどの加熱機器および真空排気機器が内設されており、これで、真空加熱室内の温度が60〜120℃であるように保持され、真空度が3.0×10−3Pa以下であるようになる。
【0050】
コーティングルームの機能は、基布表面で接着層及び発色層を形成することである。コーティング工程の要求に応じ、各コーティングルームで対応するターゲット素材を取り付ける。一般的に、酸素、窒素などの反応ガスを注入するか、またはアルゴンなどの保護ガスを注入するように、コーティングルーム内で独立したガス通路が設けられている。
【0051】
真空蒸着完成後の基布は、コーティングルームより巻き取り室に収納され、ガイドローラーの回転に伴って巻き取りされ、着色過程全体が完成されるようになる。
【0052】
特別に説明する必要があるものとして、コーティングルームで真空蒸着を行うとき、使用されるターゲット素材の純度100%に達する可能性がなく、一般的に、ターゲット素材の純度99.99%であるため、本開示の実施形態では、ターゲット素材から除くことのできない不純物は無視されている。例えば、使用されるターゲット素材がチタンターゲットであり、コーティングルームへ注入されるガスがアルゴンであると、真空蒸着によって単体金属チタン層が形成されると見なされる。
【0053】
さらに、織物を発色させると同時に柄染を同期実現し、さらに織物着色の効率を向上するように、上記の真空蒸着の生産ラインマスク伝動装置を配置することもできる。
【0054】
さらに、基布を真空蒸着の生産ラインに装入する前に、基布表面を前処理することもできる。具体的に、洗浄処理をし、基布上の汚れ、油汚れ、他の不純物などを取り除ければよい。
【0055】
本開示の実施形態で提供される着色方法により、基布は、毛細管効果、白色度、pH値、光沢度などに関する伝統的な染色工程の要件を満たすように要求されていないため、上記要件を満たすために行う対応する前処理の過程が必要でなくなり、前仕上げパートでも、精製やシルケット加工処理を必要としない。よって、前処理の工程やパート、及びそこから生じるエネルギー消費、水消費、化学物質消費、及び廃水の問題が大幅に削減される
【0056】
真空蒸着の生産ラインから得られる着色した織物に対し、さらに後仕上げ処理を実施してもよく、このような処理は衣料、アパレルの類の生地の柔らかさを実現するために主に物理的な仕上げ方法を使用する。この過程は、伝統的な染色及び仕上げプロセスの後仕上げ工程を参照することができ、ここで繰り返して説明しない。
【0057】
本開示の実施形態では、さらに着色した織物が提供され、上記の着色方法を用いて基布表面で着色することによって得られるものである。
【0058】
上記の着色用の基布は、綿、リネンなどの天然繊維であってもよく、ポリエステル、スパンデックスなどの合成繊維であってもよい。本開示の実施形態では、ここで特に限定されない。特に、該基布は、また伝統的な化学工業用染料による染色が発生しにくい炭素繊維、ポリイミド、ガラス繊維などの高性能繊維であってもよい。
【0059】
上記基布の編み方は、ニッティングか、タティングか、または、他の編み方であってもよく、本開示の実施形態では、特に限定されない。
【0060】
以上のように、本開示の実施形態で提供される着色方法を用いて調製される着色した織物は、カラーがより豊かなで、耐変色性がよりよくなると同時に、産業化による量産を実現することもできるようになっている。
【0061】
同時に、該着色した織物は、普通の織物並みの通気性や透湿性を備えると同時に、伝統的な織物にはない特徴的ポイント、例えば、帯電防止性能、紫外線放射防止、防水性能及び抗菌性などを備えることもできるため、応用の見通しがより広くなっている。
【発明の効果】
【0062】
本開示の実施形態で提供される織物の着色方法は、以下のような利点がある。
【0063】
1、真空蒸着技術を用いることにより、基布表面で接着層や発色層が形成され、光に対する、異なる素材や異なる厚さのナノ膜層による光の吸收、屈折や反射作用を利用し、織物の着色効果を達成している。さらに、異なる素材を選択したり、各膜層の配置手段や各膜層の厚さを変えたりすることにより、織物が異なるカラーを呈するようにさせ、カラーの豊かさを大幅に向上する。
【0064】
2、本着色方法を用いると、織物のカラーの調整や変化が素材的の選択又は膜層の配置手段によって実現できるため、膜層の厚さに対するカラーの感度や依存性が大幅に低下するため、産業的操作可能性や実施可能性も向上する。
【0065】
3、本着色技術により、着色した織物は非常に良い耐変色性を備えることができるようになり、水に対する耐変色性(GB/T57132013)、発汗に対する耐変色性(GB/T39222013)、摩擦に対する耐変色性(GB/T39202008)、ソーピングに対する耐変色性(GB/T39212008)、ドライクリーニングに対する耐変色性(GB/T57111997)、光に対する耐変色性(GB/T84272008)などを含む耐変色性が、いずれもレベル4又はレベル4〜レベル5に達し、一級品に対するGB/T26602017「シャツ」基準の規制を満たしている。
【0066】
4、本着色技術は、普遍的適応性が非常に強く、伝統的な染料では着色できない高性能繊維などを含む特殊な繊維織物、および伝統的な天然繊維や合成繊維織物に適用することができ、異なる布地に対して異なる着色手段を設計する必要がなくなると同時に、該着色技術は、異なる編み方に対する普遍的適応性も非常に強いため、異なる編み方に対してセットになる機器を設計する必要がなくなるから、産業的操作可能性や実施可能性をさらに向上する。
【0067】
5、本着色技術を用いることにより、得られる着色した織物は、普通の織物並みの通気性や透湿性を備えるようになるだけではなく、本着色技術に使用される素材により、着色した織物は、伝統的な織物にはない独特な性能を備えることができるようになる。例えば、
(1)本着色技術膜層を適用して発色することにより、織物繊維に対する膜層のカバー性能を利用して織物の先端放電効果を大幅に低減することができるとともに、膜層の金属層が起用する導電効果により、織物の静電気をさらに低減することができる。よって、本発色技術により、織物の帯電防止効果を向上させることができ、電磁シールド機能も果たすことができる。
(2)本技術に係る発色膜層は、合理的な設計により、光波の紫外線エリア又は赤外線エリアに対する吸収と反射を強化し、日焼け防止又はある程度の赤外線遮蔽機能を果たすことができる。
(3)発色膜表層のコンパクトさや疎水性効果により、織物によい防水効果が与えられることができる。
【0068】
6、着色全体のプロセスでは、布と同期して動くマスクを適用することで、柄染と染色の同期実現を実現し、生産過程を大幅に削減することができる。
【0069】
7、本着色技術により、基布は、毛細管効果、白色度、pH値、光沢度などに関する伝統的な染色工程の要件を満たすように要求されておらず、前仕上げパートでも、精製やシルケット加工処理を必要としておらずに、油の除去、糊抜き、洗浄しかを行わないから、前処理の工程やパート、及びそこから生じるエネルギー消費、水消費、化学物質消費、及び廃水の問題を大幅に削減する。
【0070】
8、着色プロセス全体は、水なしで、化学物質なしで行われているから、伝統的な染色技術と比較し、水資源が大幅に節約され、生産中にも廃液、ヘドロや毒ガスの排出がないため、環境にやさしい利点がある。
【0071】
本開示の実施形態で提供される着色した織物は、色がより豊かになり、産業化によって製造して得られることもできる。
【0072】
それに、該着色した織物は、普通の織物並みの通気性や透湿性を基本的に備えるため、現在の伝統的な織物の使用シーンを満たすことができる。同時に、該着色した織物は、また伝統的な織物にはない特徴的ポイント、例えば、帯電防止性能、紫外線放射防止、防水性能や抗菌性などを備えることもできるため、応用の見通しがより広くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】本開示の実施例1〜実施例3で提供される着色した織物の光反射スペクトルである。
図2】本開示の実施例1で提供される着色した織物表面の写真である。
図3】本開示の比較例1で提供される着色した織物表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本開示の実施形態の目的、技術的解決手段及び利点をより明確にするために、以下、本開示の実施形態における技術的解決手段について、明確的且つ完全に説明し、当然ながら、説明され実施形態は、本開示の実施形態の一部にすぎない。
【0075】
以下の実施例では、織物を着色するプロセスは、大体、前処理(表面洗浄)、放射による乾燥処理、真空加熱、真空蒸着、後仕上げ、テスト、検出、完成品を含み、但し
前処理は、具体的に、脱イオン水を使用して基布を洗浄し、そして熱による初期乾燥をし、基布表面がきれいであるように確保することである。
【0076】
放射による乾燥、真空加熱及び真空蒸着を真空蒸着の生産ラインで完成し、生産フロー手順に従うと、該生産ラインは、1つの巻き戻し室、1つの放射乾燥室、1つの真空加熱室、1つ又は複数のコーティングルーム(作業室)及び1つの巻き取り室を含む。また、該生産ラインは、また伝動装置を含み、伝統的な染色及び仕上げで使用される伝動装置を使用しており、基布又は着色した織物の半製品が巻き戻し室から次第に放射乾燥室、真空加熱室及びコーティングルームを通過して巻き取り室に到達するようにさせる。
【0077】
巻き取られたロールされた基布に対し、まず放射による乾燥処理を行い、基布の水分及びガスを除いてから、真空加熱室を通過して基布表面の水分及びガスを除き、前述の2回の加熱処理を経ると、基布と、接着層及び発色層との間の付着力がよりよくなる。
【0078】
実際の要求に応じ、各コーティングルーム(作業室)に1つ又は複数のターゲット素材を配置し、マグネトロンスパッタリングのプロセスでは、ターゲット素材の番号に従って順次、基布表面で対応する膜を形成する。例えば、1つのコーティングルームに4種類のターゲット素材を配置し、それぞれターゲット素材1、ターゲット素材2、ターゲット素材3及びターゲット素材4と記し、このように、上記手順に従って順繰りにマグネトロンスパッタリングを行い、対応する4層の膜を得ることができる。
【0079】
後仕上げは、着色した織物の実際の状況に応じて合理的に選択することができ、主に衣料、アパレル類用の生地に対し、例えば物理的な仕上げなどの方式を用いてその柔らかさを実現するが、他の種類の着色した織物の場合、特殊な要件がない限り、後仕上げ処理を行わなくてもよい。
【0080】
着色した織物は、後仕上げ、そしてその後の一連のテストや検査を通過すれば、生産フロー全体を完了し、最終的な完成品を得ることができる。
【0081】
実施例1
本実施例では、織物の着色方法が提供され、使用される基布がポリエステル綿混紡であり、編み方ニッティングであり、その具体的な加工工程を、以下、表1に示している。
【0082】
上記の加工後、最終的に得られる着色した織物は、均一な黄緑色を呈し、その200〜2000nm波長範囲内の反射スペクトルを図1に示している。
【0083】
図2は、上記の着色した織物表面の写真である。図2により、着色した織物表面で非常に均一な膜層が蒸着されることが分かる。肉眼でも観察できるように、着色した織物表面全体に膜層が蒸着され、着色むらの問題は発見されなかった。
【0084】
本実施例に係る着色した織物に対して耐変色性テストを行った結果、水に対する耐変色性(GB/T57132013)、発汗に対する耐変色性(GB/T39222013)、摩擦に対する耐変色性(GB/T39202008)、ソーピングに対する耐変色性(GB/T39212008)、ドライクリーニングに対する耐変色性(GB/T57111997)、光に対する耐変色性(GB/T84272008)などを含む耐変色性が、いずれもレベル4又はレベル4〜レベル5に達し、一級品に対するGB/T26602017「シャツ」基準の規制を満たしていることが分かる
【0085】
【表1】
【0086】
比較例1
本比較例では、織物の着色方法が提供され、使用される基布が実施例1と完全に一致する。該着色方法が実施例1との違いは、基布に対してマイクロ波による乾燥処理を行わなかったことのみである
【0087】
上記の加工後、最終的に得られる着色した織物の一部分は、黄緑色を呈するようになる。図3は、該着色した織物表面の写真であり、図3から、着色した織物の一部分では膜層が蒸着されておらず、基布本来のカラーが見られ、織物表面の膜層が不均一である。
【0088】
膜層の蒸着のある部分に対して耐変色性テストを行った結果、その耐変色性がレベル1〜レベル2のみであり、合格基準(レベル3で合格)となるGB/T26602017「シャツ」基準の規定を満たしていない
【0089】
実施例1と比較例1から、基布に対してマイクロ波による乾燥処理を行うことにより、基布表面に蒸着される膜層がより均一になり、耐変色性を大幅に向上させることができることが分かる
【0090】
実施例2
本実施例では、織物の着色方法が提供され、使用される基布はポリエステルであり、編み方タティングである。具体的な加工工程を、以下、表2に示している。
【0091】
上記の加工後、最終的に得られる着色した織物は、赤茶色を呈し、その200〜2000nm波長範囲内の反射スペクトルを図1に示している。
【0092】
実施形態に係る着色した織物に対して耐変色性テストを行った結果、水に対する耐変色性(GB/T57132013)、発汗に対する耐変色性(GB/T39222013)、摩擦に対する耐変色性(GB/T39202008)、ソーピングに対する耐変色性(GB/T39212008)、ドライクリーニングに対する耐変色性(GB/T57111997)、光に対する耐変色性(GB/T84272008)などを含む耐変色性が、いずれもレベル4又はレベル4〜レベル5に達し、一級品に対するGB/T26602017「シャツ」基準の規制を満たしていることが分かる
【0093】
該着色した織物に対して紫外線防止性能、通気性、表面撥水性、透水性など一連の試験を行い、伝統的な染色方法を用いて得られる赤茶布地を対照とした。関連テストの項目及びテストの結果を、以下、表3に示している。
【0094】
表面撥水性に対するテストは、平行する織物のサンプルを3つ選出してテストし、それぞれサンプル1#、サンプル2#及びサンプル3#と記す。
【0095】
表3のテストの比較結果により、紫外線防止性能、撥水効果及び耐水性の面では、本実施例に係る着色した織物は、明らかに伝統的な染色方法で得られる布地より優れているが、通気性や透湿性の面では、両者のテスト結果がほぼ同じである。
【0096】
よって、本実施例に係る着色方法を用いることは、最終的な着色した織物の通気性や透湿性などの性能に影響を与えないだけでなく、着色した織物により独特な性能、例えば、紫外線防止性能、撥水効果や耐水性などが与えられる。
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
実施例3
本実施例では、織物の着色方法が提供され、使用される基布ガラス繊維であり、編み方タティングである。具体的な加工工程を、以下、表4に示している。
【0100】
【表4】
【0101】
上記の加工後、最終的に得られる着色した織物は、青緑色を呈した。その200〜2000nm波長範囲内の反射スペクトルを図1に示している。
【0102】
本実施例に係る着色した織物に対して耐変色性テストを行った結果、水に対する耐変色性(GB/T57132013)、発汗に対する耐変色性(GB/T39222013)、摩擦に対する耐変色性(GB/T39202008)、ソーピングに対する耐変色性(GB/T39212008)、ドライクリーニングに対する耐変色性(GB/T57111997)、光に対する耐変色性(GB/T84272008)などを含む耐変色性が、いずれもレベル4又はレベル4〜レベル5に達し、一級品に対するGB/T26602017「シャツ」基準の規制を満たしていることが分かる
【0103】
該着色した織物に対して帯電防止性能の一連の試験を行った。また、比較として2種類の生地を提供し、但し、比較生地1として白色の織布(ガラス繊維)を用い、比較生地2は、加工工程における上記ガラス繊維との相違点、基布に対してマイクロ波による乾燥処理を行わなかったことのみである
【0104】
上記の3種類の生地に関連するテスト項目及びテスト結果を、以下、表5に示している。
【0105】
【表5】
【0106】
表5のテスト結果により、本実施例で得られる着色した織物は、その摩擦による帯電電圧や表面抵抗率が、いずれも明らかに比較生地より低いであることが分かる。これにより、本実施例に係る着色方法を用いて得られる着色した織物は、帯電防止性能が非常に抜群であることが見てとれる
【0107】
肉眼でも観察できるように、本実施例で得られる着色した織物表面に蒸着される膜層が非常に均一であり、カラーも比較的に均一であるが、比較生地2の一部には膜層の蒸着がなく、異なる部分間のカラーの差異が比較的に明らかである。
【0108】
最後に説明すべきなのは、以上の各実施例は、本開示の技術的解決手段を説明するためのものだけであり、これを制限するものではない。前述の各実施例を参照しながら本開示を詳細に説明したが、当業者であれば、依然として前述の各実施形態に記載の技術的解決手段を変更するか、又はそのうちの一部またはすべての技術的特徴等価置換可能であり、これらの変更または置換は、対応する技術的解決手段の本質を本開示の各実施形態の技術的解決手段の範囲から逸脱しないと理解すべきである。
【国際調査報告】