特表2021-528486(P2021-528486A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-528486新規な抗がん薬候補としての非常に強力なTACC3阻害剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-528486(P2021-528486A)
(43)【公表日】2021年10月21日
(54)【発明の名称】新規な抗がん薬候補としての非常に強力なTACC3阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 413/12 20060101AFI20210924BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20210924BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210924BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210924BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210924BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20210924BHJP
【FI】
   C07D413/12CSP
   A61K31/5377
   A61K45/00
   A61P43/00 111
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2021-516520(P2021-516520)
(86)(22)【出願日】2019年3月14日
(85)【翻訳文提出日】2021年1月15日
(86)【国際出願番号】TR2019050164
(87)【国際公開番号】WO2020018039
(87)【国際公開日】20200123
(31)【優先権主張番号】2018/07464
(32)【優先日】2018年5月25日
(33)【優先権主張国】TR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521278232
【氏名又は名称】オンコキューブ セラピューティクス エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】521278243
【氏名又は名称】エーツーエー ファーマシューティカルズ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バノグル,エルデン
(72)【発明者】
【氏名】カリスカン,ブルク
(72)【発明者】
【氏名】サヒン,オズグル
(72)【発明者】
【氏名】レンゲルリ,デニズ
(72)【発明者】
【氏名】アクブルト,オズゲ
【テーマコード(参考)】
4C063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB09
4C063CC51
4C063DD29
4C063EE01
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZC411
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC73
4C086GA07
4C086GA09
4C086GA12
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC41
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、乳がん及び潜在的には他のがんを治療するための有糸分裂遮断薬として高い効力を有する、TACC3タンパク質を標的にする新たな阻害剤化学種3-(4-メトキシフェニル)-N-(2-モルホリノピリミジン-4-イル)イソオキサゾール-5-アミン(BO-264)に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)による化合物若しくは薬学的に許容される塩、又はその溶媒和物。
【化1】
【請求項2】
TACC3タンパク質阻害剤である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
がんの治療に使用するための請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
標的にされるがんが、NCI-60パネルの乳がん、結腸がん、メラノーマ、肺がん、中枢神経系がん、卵巣がん、白血病、腎臓がん及び前立腺がんの細胞株である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
有糸分裂停止、アポトーシス及びDNA損傷を誘導する構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
式(1)によって表される化合物が、モルホリンと中間体化合物の4,N-(2-クロロピリミジン-4-イル)-3-(4-メトキシフェニル)イソオキサゾール-5-アミンとの反応により合成される、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物を含有する組成物。
【請求項8】
薬学的に許容される化学療法剤をさらに含む、請求項7に記載の化合物を含有する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスフォーミング酸性コイルドコイル含有タンパク質3 (transforming acidic coiled-coil protein 3, TACC3)を標的にする新たな阻害剤化学種3-(4-メトキシフェニル)-N-(2-モルホリノピリミジン-4-イル)イソオキサゾール-5-アミン(BO-264)に関する。本発明はまた、TACC3阻害剤分子、BO-264の抗がん剤の役割にも関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、無制御な細胞分裂を特徴とする複雑な疾患である。がんタイプの中で、乳がんは女性の間で最も一般的ながんであり、がん死の主な理由の1つである。腫瘍生物学の理解の下に、患者生存率を上げるために標的薬物療法が絶えず開発されている。
【0003】
食品医薬品局(FDA)は、乳がんの治療に使用されるおよそ二十数種の薬物を承認しているが、全世界で毎年50万人の乳がん死が依然として認められる。特に、現在利用可能な化学療法剤の副作用を考慮して、近年では毒性が少ない標的療法の開発が主要な焦点となっている。がんは、身体の他の部分に侵入又は拡散する可能性がある異常で制御不能な細胞増殖、又は悪性腫瘍として特徴付けられるため、腫瘍細胞の増殖及び生存に関与する特定の巨大分子の機能を標的にし、阻害する薬物又は物質が乳がん標的療法において使用される。
【0004】
微小管再構築は、細胞分裂中の重要なステップであるため、このプロセスを妨げる薬物ががん研究の主要な焦点となっている。有糸分裂阻害薬は、紡錘体形成チェックポイント(SAC)を活性化することによって微小管の重合動態を破壊し、分裂中期から分裂後期への移行を防ぐ。結果として、細胞は分裂を止め、これらの有糸分裂停止細胞は最終的に死滅する。有糸分裂事象の機構の持続的な探求は、新たな標的タンパク質候補及び/又は経路をもたらす可能性があり、これは、より効果的な治療選択肢をがん患者に提供するために非常に重要である。微小管阻害剤、例えばビンカアルカロイド、メイタンシノイド及びタキサンは、様々な腫瘍の化学療法剤として広く使用されているそのような薬物の例である(Marzo & Naval、2013)。しかし、これらの薬物についての重大な懸念は、重篤な副作用をもたらす、非腫瘍原性細胞に対する薬物毒性である。
【0005】
薬物耐性もまた、これらの薬物に対する患者の応答を非常に予測不可能にする別の主要な問題である(Gascoigne & Taylor、2009)。これらの問題を克服し、化学療法応答を改善するために、有糸分裂特異的キナーゼ及び微小管運動タンパク質を標的にする抗有糸分裂性のがん特異的療法が同定された(Dominguez-Brauerら、2015)。重要なことには、リン酸化は細胞周期制御及び紡錘体形成の重要なステップであることから、これらのプロセスに関与するキナーゼが潜在的な標的として長い間研究されてきた。これらのうち、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)、オーロラキナーゼ及びポロ様キナーゼ(PLK)に対する特異的阻害剤が開発され、臨床試験されている(Sanchez-Martinez、Gelbert、Lallena、& de Dios、2015; Strebhardt & Ullrich、2006; Tangら、2017)。微小管阻害剤と比べて、これらの有糸分裂阻害薬はいずれも、その低い毒性プロファイルにもかかわらず目覚ましい臨床転帰を示しておらず、臨床効率の限定につながった(Chan、Koh、& Li、2012)。故に、分裂がん細胞を選択的及び効果的に標的にする代わりの標的分子は、いまだに解明及び開発されていない。
【0006】
TACCメンバーの1つ、TACC3は、非キナーゼ微小管結合タンパク質であり、中心体制御に主要な役割を果たし、微小管安定性を確保する(Singh、Thomas、Gireesh、& Manna、2014)。このTACC3遺伝子はまた、中心体微小管の核形成にも重要な役割を有する。そのレベル上昇が、前立腺がん、肝細胞癌、非小細胞肺がん及び乳がんを含む多くのがんタイプで観察されている。したがって、TACC3のノックダウンは、腎細胞癌(RCC)における腫瘍形成及び細胞増殖を抑制する(Guo & Liu、2018)。TACC3機能の破壊はまた、有糸分裂停止をもたらす多極紡錘体形成(Yaoら、2012)、カスパーゼ依存性アポトーシスをもたらす染色体配置異常(Schneiderら、2007)及び、場合によっては、老化(Schmidtら、2010)を含む一連の異なる細胞転帰も引き起こす。これらの研究は、TACC3ががん細胞の紡錘体形成に参加する重大な分子であり、これによりTACC3はがん標的療法の重要な潜在的標的になることを示している。
【0007】
小分子TACC3阻害剤、KHS101は、ラットにおける神経分化を促進するために最初に同定された(Wurdakら、2010)。神経膠芽腫(GBM)異種移植片の腫瘍増殖は、KHS101処置により抑制された(Polsonら、2018)が、低い全身安定性及び高い作用用量のため、臨床に移すには薬理学的に最適化されることが必要である(Wurdakら、2010)。別のTACC3阻害剤、SPL-Bは、卵巣がん細胞の中心体微小管核形成を阻害し、卵巣がん異種移植片の腫瘍増殖を抑制することが示されている(Yaoら、2014)。結論として、現在利用可能なTACC3阻害剤、KHS101及びSPL-Bは、それぞれ神経膠芽腫及び卵巣がん異種移植片の腫瘍増殖を低減することが示された。しかし、これらの阻害剤はいずれも、高いIC50 (50%阻害濃度)又は低い全身安定性のためにまだ臨床段階に達しておらず、臨床に移される見込みがある新規で強力なTACC3阻害剤の開発が促される。
【0008】
がん治療において一般的な有糸分裂遮断薬として使用することができる、インビトロ及びインビボ系でTACC3機能を弱める新規な化学種に対する最近のスクリーニングアプローチの枠組内で、化合物5 (3-(4-メトキシフェニル)-N-(2-モルホリノピリミジン-4-イル)イソオキサゾール-5-アミン、BO-264)が同定された。BO-264は、JIMT-1乳がん細胞株の増殖を有意に阻害した(IC50=232nM)が、この細胞株は、マウスモデル及びいくつかのヒト細胞培養系の両方で高いTACC3タンパク質レベルを発現し、進行が十分に文献上実証された腫瘍原性を示す(Saatciら、2018; Tannerら、2004) 。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Akbani, R., Ng, P. K., Werner, H. M., Shahmoradgoli, M., Zhang, F., Ju, Z., . . . Mills, G. B. (2014). A pan-cancer proteomic perspective on The Cancer Genome Atlas. Nat Commun, 5, 3887. doi:10.1038/ncomms4887
【非特許文献2】Barok, M., Isola, J., Palyi-Krekk, Z., Nagy, P., Juhasz, I., Vereb, G., . . . Szollosi, J. (2007). Trastuzumab causes antibody-dependent cellular cytotoxicity-mediated growth inhibition of submacroscopic JIMT-1 breast cancer xenografts despite intrinsic drug resistance. Mol Cancer Ther, 6(7), 2065-2072. doi:10.1158/1535-7163.MCT-06-0766
【非特許文献3】Campo, L., & Breuer, E. K. (2018). Inhibition of TACC3 by a small molecule inhibitor in breast cancer. Biochem Biophys Res Commun, 498(4), 1085-1092. doi:10.1016/j.bbrc.2018.03.125
【非特許文献4】Chan, K. S., Koh, C. G., & Li, H. Y. (2012). Mitosis-targeted anti-cancer therapies: where they stand. Cell Death Dis, 3, e411. doi:10.1038/cddis.2012.148
【非特許文献5】Curtis, C., Shah, S. P., Chin, S. F., Turashvili, G., Rueda, O. M., Dunning, M. J., . . . Aparicio, S. (2012). The genomic and transcriptomic architecture of 2,000 breast tumours reveals novel subgroups. Nature, 486(7403), 346-352. doi: 10.1038/nature10983
【非特許文献6】Dominguez-Brauer, C., Thu, K. L., Mason, J. M., Blaser, H., Bray, M. R., & Mak, T. W. (2015). Targeting Mitosis in Cancer: Emerging Strategies. Mol Cell, 60(4), 524-536. doi:10.1016/j.molcel.2015.11.006
【非特許文献7】Gascoigne, K. E., & Taylor, S. S. (2009). How do anti-mitotic drugs kill cancer cells? J Cell Sci, 122(Pt 15), 2579-2585. doi:10.1242/jcs.039719
【非特許文献8】Guo, F., & Liu, Y. (2018). Knockdown of TACC3 Inhibits the Proliferation and Invasion of Human Renal Cell Carcinoma Cells. Oncol Res, 26(2), 183-189. doi:10.3727/096504017X14837020772250
【非特許文献9】Gyorffy, B., Lanczky, A., Eklund, A. C., Denkert, C., Budczies, J., Li, Q., & Szallasi, Z. (2010). An online survival analysis tool to rapidly assess the effect of 22,277 genes on breast cancer prognosis using microarray data of 1,809 patients. Breast Cancer Res Treat, 123(3), 725-731. doi:10.1007/s10549-009-0674-9
【非特許文献10】Gyorffy, B., Surowiak, P., Budczies, J., & Lanczky, A. (2013). Online survival analysis software to assess the prognostic value of biomarkers using transcriptomic data in non-small-cell lung cancer. PLoS One, 8(12), e82241. doi:10.1371/journal.pone.0082241
【非特許文献11】Kimura, M., Yoshioka, T., Saio, M., Banno, Y., Nagaoka, H., & Okano, Y. (2013). Mitotic catastrophe and cell death induced by depletion of centrosomal proteins. Cell Death Dis, 4, e603. doi:10.1038/cddis.2013.108
【非特許文献12】Lin, J. H., & Lu, A. Y. (1998). Inhibition and induction of cytochrome P450 and the clinical implications. Clin Pharmacokinet, 35(5), 361-390. doi:10.2165/00003088-199835050-00003
【非特許文献13】Ma, X. J., Salunga, R., Tuggle, J. T., Gaudet, J., Enright, E., McQuary, P., . . . Sgroi, D. C. (2003). Gene expression profiles of human breast cancer progression. Proc Natl Acad Sci U S A, 100(10), 5974-5979. doi:10.1073/pnas.0931261100
【非特許文献14】Martinez Molina, D., Jafari, R., Ignatushchenko, M., Seki, T., Larsson, E. A., Dan, C., . . . Nordlund, P. (2013). Monitoring drug target engagement in cells and tissues using the cellular thermal shift assay. Science, 341(6141), 84-87. doi:10.1126/science.1233606
【非特許文献15】Marzo, I., & Naval, J. (2013). Antimitotic drugs in cancer chemotherapy: promises and pitfalls. Biochem Pharmacol, 86(6), 703-710. doi:10.1016/j.bcp.2013.07.010
【非特許文献16】Mutlu, M., Saatci, O., Ansari, S. A., Yurdusev, E., Shehwana, H., Konu, O., . . . Sahin, O. (2016). miR-564 acts as a dual inhibitor of PI3K and MAPK signaling networks and inhibits proliferation and invasion in breast cancer. Sci Rep, 6, 32541. doi:10.1038/srep32541
【非特許文献17】Polson, E. S., Kuchler, V. B., Abbosh, C., Ross, E. M., Mathew, R. K., Beard, H. A., . . . Wurdak, H. (2018). KHS101 disrupts energy metabolism in human glioblastoma cells and reduces tumor growth in mice. Sci Transl Med, 10(454). doi:10.1126/scitranslmed.aar2718
【非特許文献18】Saatci, O., Borgoni, S., Akbulut, O., Durmus, S., Raza, U., Eyupoglu, E., . . . Sahin, O. (2018). Targeting PLK1 overcomes T-DM1 resistance via CDK1-dependent phosphorylation and inactivation of Bcl-2/xL in HER2-positive breast cancer. Oncogene, 37(17), 2251-2269. doi:10.1038/s41388-017-0108-9
【非特許文献19】Sanchez-Martinez, C., Gelbert, L. M., Lallena, M. J., & de Dios, A. (2015). Cyclin dependent kinase (CDK) inhibitors as anticancer drugs. Bioorg Med Chem Lett, 25(17), 3420-3435. doi:10.1016/j.bmcl.2015.05.100
【非特許文献20】Schmidt, S., Schneider, L., Essmann, F., Cirstea, I. C., Kuck, F., Kletke, A., . . . Piekorz, R. P. (2010). The centrosomal protein TACC3 controls paclitaxel sensitivity by modulating a premature senescence program. Oncogene, 29(46), 6184-6192. doi:10.1038/onc.2010.354
【非特許文献21】Schneider, L., Essmann, F., Kletke, A., Rio, P., Hanenberg, H., Wetzel, W., . . . Piekorz, R. P. (2007). The transforming acidic coiled coil 3 protein is essential for spindle-dependent chromosome alignment and mitotic survival. J Biol Chem, 282(40), 29273-29283. doi:10.1074/jbc.M704151200
【非特許文献22】Singh, P., Thomas, G. E., Gireesh, K. K., & Manna, T. K. (2014). TACC3 protein regulates microtubule nucleation by affecting gamma-tubulin ring complexes. J Biol Chem, 289(46), 31719-31735. doi:10.1074/jbc.M114.575100
【非特許文献23】Song, H., Liu, C., Shen, N., Yi, P., Dong, F., Li, X., . . . Huang, T. (2018). Overexpression of TACC3 in Breast Cancer Associates With Poor Prognosis. Appl Immunohistochem Mol Morphol, 26(2), 113-119. doi:10.1097/PAI.0000000000000392
【非特許文献24】Strebhardt, K., & Ullrich, A. (2006). Targeting polo-like kinase 1 for cancer therapy. Nat Rev Cancer, 6(4), 321-330. doi:10.1038/nrc1841
【非特許文献25】Szasz, A. M., Lanczky, A., Nagy, A., Forster, S., Hark, K., Green, J. E., . . . Gyorffy, B. (2016). Cross-validation of survival associated biomarkers in gastric cancer using transcriptomic data of 1,065 patients. Oncotarget, 7(31), 49322-49333. doi:10.18632/oncotarget.10337
【非特許文献26】Tang, A., Gao, K., Chu, L., Zhang, R., Yang, J., & Zheng, J. (2017). Aurora kinases: novel therapy targets in cancers. Oncotarget, 8(14), 23937-23954. doi:10.18632/oncotarget.14893
【非特許文献27】Tanner, M., Kapanen, A. I., Junttila, T., Raheem, O., Grenman, S., Elo, J., . . . Isola, J. (2004). Characterization of a novel cell line established from a patient with Herceptin-resistant breast cancer. Mol Cancer Ther, 3(12), 1585-1592.
【非特許文献28】Thakur, H. C., Singh, M., Nagel-Steger, L., Prumbaum, D., Fansa, E. K., Gremer, L., . . . Piekorz, R. P. (2013). Role of centrosomal adaptor proteins of the TACC family in the regulation of microtubule dynamics during mitotic cell division. Biol Chem, 394(11), 1411-1423. doi:10.1515/hsz-2013-0184
【非特許文献29】Wurdak, H., Zhu, S., Min, K. H., Aimone, L., Lairson, L. L., Watson, J., . . . Schultz, P. G. (2010). A small molecule accelerates neuronal differentiation in the adult rat. Proc Natl Acad Sci U S A, 107(38), 16542-16547. doi:10.1073/pnas.1010300107
【非特許文献30】Yao, R., Kondoh, Y., Natsume, Y., Yamanaka, H., Inoue, M., Toki, H., . . . Noda, T. (2014). A small compound targeting TACC3 revealed its different spatiotemporal contributions for spindle assembly in cancer cells. Oncogene, 33(33), 4242-4252. doi:10.1038/onc.2013.382
【非特許文献31】Yao, R., Natsume, Y., Saiki, Y., Shioya, H., Takeuchi, K., Yamori, T., . . . Noda, T. (2012). Disruption of Tacc3 function leads to in vivo tumor regression. Oncogene, 31(2), 135-148. doi:10.1038/onc.2011.235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主な目的は、がん療法で利用可能な特定の阻害剤より少量のTACC3阻害剤を使用することにより望ましくない副作用を低減することである。
【0011】
本発明の目的は、TACC3タンパク質を標的にすることによって、乳がん及び潜在的には他のがんを治療するための有糸分裂遮断薬として高い効力を有する新規なTACC3阻害剤を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、がんの治療に使用するための新たな化学種BO-264を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
BO-264は、正常な乳房細胞株に対しては少ない効果を有する一方、サブタイプが異なる種々の乳がん細胞株では公知のTACC3阻害剤よりも優れた抗増殖効果を示した。乳がん細胞に加えて、BO-264は、NCI-60パネルの結腸がん、メラノーマ、肺がん、中枢神経系がん、卵巣がん、白血病、腎臓がん及び前立腺がんの細胞株を含む複数のがんタイプに対して非常に効果的な細胞傷害性(約90%が1μM未満のGI50値を有する)を示した。
【0014】
さらに、BO-264は、他の2つのTACC3阻害剤と比べてより低用量で有糸分裂停止、アポトーシス及びDNA損傷を誘導することが見出された。意義深いことに、BO-264の経口投与は、免疫不全マウスにおける乳がん異種移植片の腫瘍増殖を抑制した。したがって、本発明は、乳がん及び潜在的には他のがんを治療するための有糸分裂遮断薬として高い効力を有する新規なTACC3阻害剤である。
【0015】
本発明は、(i)乳がん細胞株におけるBO-264の包括的分析を提供し、(ii)この化合物が、他の利用可能なTACC3阻害剤よりも様々な細胞プロセス、例えば有糸分裂停止、DNA損傷及びアポトーシスに対する優れた効果を示したことを明らかにし、並びに(iii)乳がん異種移植片におけるBO-264の経口毒性がない抗腫瘍有効性を示し、BO-264が乳がんを治療するための有糸分裂遮断薬として使用され得ることを潜在的に示唆する。
【0016】
TACC3-BO-264結合は、ターゲットエンゲージメントアッセイ(target engagement assay)及び等温滴定熱量測定(ITC)法により検証された。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1-1】TACC3が様々ながんタイプで上方制御され、その高いレベルが種々のがんタイプにおけるより悪い全生存率と関連していることを示す図である。(A) Reads Per Kilobase Million (RPKM)(log2)値として表されたTCGA患者の腫瘍組織と正常組織の間のTACC3の差次的mRNA発現プロット。***: p<0.001。(BLCA:膀胱尿路上皮癌、BRCA:浸潤性乳癌、ESCA:食道癌、HNSC:頭頸部扁平上皮癌、KIPAN:汎腎臓コホート(Pan Kidney Cohort) (KICH+KIRC+KIRP)、KIRC:淡明細胞型腎細胞癌、LIHC:肝細胞癌、LUAD:肺腺癌、LUSC:肺扁平上皮癌(Lung Squamus Cell Carcinoma)、STAD:胃腺癌、STES:胃食道癌、UCEC:子宮体内膜癌)。
図1-2】TACC3が様々ながんタイプで上方制御され、その高いレベルが種々のがんタイプにおけるより悪い全生存率と関連していることを示す図である。(B) KMプロッターデータベース(Gyorffy、Lanczkyら、2010; Gyorffy、Surowiakら、2013; Szasz、Lanczkyら、2016)からの乳がん(B-1)、肺がん(B-2)、及び胃がん(B-3)患者の全生存率に対するTACC3レベルの効果。
図2-1】有糸分裂及びDNA修復プロセスはTACC3レベルが高い患者で強化され、並びにTACC3阻害は有糸分裂停止、DNA損傷及びアポトーシスを誘導することを示す図である。(A) TACC3発現レベルに関する、乳がんMETABRIC Validationデータセット(n=995) (Curtisら、2012)の有糸分裂及びDNA修復関連の遺伝子セットの遺伝子セット濃縮分析(GSEA)。データの有意性は、正規化された濃縮スコア(NES)及びFDR (q)値として表される。
図2-2】有糸分裂及びDNA修復プロセスはTACC3レベルが高い患者で強化され、並びにTACC3阻害は有糸分裂停止、DNA損傷及びアポトーシスを誘導することを示す図である。(B)乳がん細胞株におけるTACC3特異的siRNAのノックダウン効率を示すqRT-PCR。TACC3に対する2つの異なるsiRNA 20nMを細胞にトランスフェクトし、トランスフェクションの48時間後にTACC3 mRNAレベルを調べた。グラフ上のパーセンテージはノックダウン効率を示す。*: p<0.05、**: p<0.01、***: p<0.001。
図2-3】有糸分裂及びDNA修復プロセスはTACC3レベルが高い患者で強化され、並びにTACC3阻害は有糸分裂停止、DNA損傷及びアポトーシスを誘導することを示す図である。(C) 2つの異なるsiRNAによるTACC3ノックダウン時の乳がん細胞の増殖。TACC3を標的にするsiRNAを細胞にトランスフェクトし、トランスフェクションの72時間後に細胞生存率を測定した。*: p<0.05、**: p<0.01、***: p<0.001。
図2-4】有糸分裂及びDNA修復プロセスはTACC3レベルが高い患者で強化され、並びにTACC3阻害は有糸分裂停止、DNA損傷及びアポトーシスを誘導することを示す図である。(D) TACC3ノックダウン時の乳がん細胞における有糸分裂停止、アポトーシス及びDNA損傷マーカーのウエスタンブロット分析。GAPDHをタンパク質ローディング対照として使用した。*: p<0.05、**: p<0.01、***: p<0.001。
図3】TACC3の新規阻害剤: BO-264の化学構造を示す図である。
図4】BO-264の合成スキームを示す図である。試薬及び条件: (a) SOCl2、EtOH、還流、3時間; (b) NaH、MeCN、トルエン、還流、2時間; (c) H2N.OH HCl、NaOH、H2O、還流、4時間; (d) t-BuOK、2,4-ジクロロピリミジン、t-BuOH、室温、24時間; (e)モルホリン、n-ブタノール、還流、5時間。
図5】BO-264がTACC3に結合する新規なTACC3阻害剤であることを示す図である。(A)インタクトなJIMT-1細胞におけるTACC3タンパク質へのBO-264のターゲットエンゲージメント。JIMT-1細胞を溶媒、BO-264 (1uM)又はSPL-B (1uM) (陽性対照として)で6時間処置し、細胞を回収し、示された温度で加熱し、次いで溶解した。上清中の可溶性タンパク質をウエスタンブロットに供し、TACC3タンパク質レベルを検出した。ウエスタンブロットの同じ曝露時間を使用して3つの処置群を比較した。ポンソー染色をローディング対照として使用した。CETSA曲線は相対バンド強度%を示し、処置群間のシフトを示す。画像は、2つの独立した実験の代表である(n=2)。(B)等温滴定熱量測定を使用したTACC3及びBO-264相互作用の決定。上部のトレースは生データを示すが、下部のトレースはBO-264へのTACC3の滴定からの統合データを示す(シリンジ中10倍高い濃度)。ITC200機器と一緒に提供されたOrigin 7ソフトウェアを使用して、単一相互作用モデルのモデルフィッティングを適用した。
図6-1】BO-264が、現在利用可能なTACC3阻害剤、SPL-B及びKHS101よりも強力であることを示す図である。(A) 3つの異なる阻害剤によるTACC3の薬理学的阻害、及び乳がん細胞株の細胞生存率に対するそれらの効果(IC50:阻害濃度50%)。細胞生存率を、以下の細胞生存率実験全てでCell Titer Gloキットによって三連で測定した。
図6-2】BO-264が、現在利用可能なTACC3阻害剤、SPL-B及びKHS101よりも強力であることを示す図である。(B) 3つの異なるTACC3阻害剤で12日間処置したJIMT-1細胞のコロニー形成アッセイ。コロニーをクリスタルバイオレットで染色した。ImageJソフトウェアを使用してコロニー数をカウントし、分析した(下のパネル)。データは平均±SDとして表されている。(C)有糸分裂停止、DNA損傷及びアポトーシスマーカーに対する用量応答の効果をテストするための、BO-264、SPL-B又はKHS101で処置したJIMT-1細胞のウエスタンブロット分析。同じ量のタンパク質及び同じ曝露時間をウエスタンブロット実験で使用して、これらのマーカーに対する3つの薬物の効果を比較した。*: p<0.05、**: p<0.01、***: p<0.001。
図7】NCI-60 5用量スクリーニングが、いくつかの異なる腫瘍タイプにおけるBO-264の著しい抗がん活性を明らかにすることを示す図である。(A) BO-264に関するNCI-60 5用量スクリーニングから決定した平均GI50値(M)。水平な点線は1μM閾値を示す。(B) NCI-60ヒトがん細胞株パネルにわたるBO-264のGI50濃度を表すヒートマップデータ。
図8】BO-264は、がん細胞を特異的及び効率的に標的にするが、低レベルTACC3発現を有する正常な細胞を標的にしないことを示す図である。(A) 3つの異なるTACC3阻害剤の漸増用量で72時間処置した正常な乳房細胞株、MCF-12Aの用量応答。(B)正常な乳房細胞株及び乳がん細胞株のTACC3タンパク質レベル。TACC3タンパク質レベルをウエスタンブロットによって分析した。ベータアクチンをローディング対照として使用した。下のパネルは、B-アクチンに対して正規化したTACC3バンド強度を示す。
図9】BO-264は、腫瘍増殖を同じ低用量及び投与経路でSPL-Bよりも良好に阻害することを示す図である。(A)同じ投与量及び投与経路によるBO-264群及びSPL-B群の適用後の腫瘍体積変化。(B)同じ投与量及び投与経路によるBO-264群及びSPL-B群により処置経過中のマウス体重変化。
図10】BO-264の低用量及び異なる投与経路が、マウス体重に影響を与えることなくインビボJIMT-1異種移植片での腫瘍増殖を阻害することを示す図である。(A)異なる投与量及び投与経路による3つのBO-264群全ての適用後の腫瘍体積変化。(B)異なる投与量及び投与経路による処置経過中のマウス体重変化。
図11】BO-264が、マウス体重に影響を与えることなくインビボ異種移植片での腫瘍増殖を効果的に阻害することを示す図である。(A)溶媒又はBO-264による処置後の腫瘍体積変化。処置腫瘍が約90〜100mm3に達したら、処置を開始した。(B)溶媒又はBO-264で処置したマウスから単離した腫瘍重量。(C)処置経過中のマウス体重変化。**: p<0.01、***: p<0.001
【0018】
【表1】
【0019】
表1は、薬物に特有の物理化学的特性の概要を示す表である。a pH7.4、25℃、2時間後のリン酸ナトリウム緩衝液中の動力学的溶解度(Buttarら、2010)。b LogD:オクタノール/リン酸ナトリウム緩衝液(50mM、pH7.4)中の分布係数(Ungerら、1978)。c PPB:ヒト、37℃での平衡透析により評価した血漿タンパク質結合(Buttarら、2010)。d T1/2:マウス及びヒト肝ミクロソーム中の半減期(それぞれMLM及びHLM) (Kalvassら、2001)。e Clint: MLM及びHLMでの固有クリアランス(Kalvassら、2001)。f CYP: HLMで評価したBO-264によるチトクロムP450アイソザイム阻害(Bourrieら、1996)。g Papp: Caco-2細胞単層での見かけの透過係数(Camenischら、1998)。
【0020】
本発明の成分及び部分の記載
新規なTACC3阻害剤BO-264並びにその合成及び分析をより良く説明するために作成した、図に示された成分を別々に付番し、各数字の説明を以下に示す。
(1)エチル4-メトキシベンゾエート
(2) 3-(4-メトキシフェニル)-3-オキソプロパンニトリル
(3) 3-(4-メトキシフェニル)イソオキサゾール-5-アミン
(4) N-(2-クロロピリミジン-4-イル)-3-(4-メトキシフェニル)イソオキサゾール-5-アミン
(5) 3-(4-メトキシフェニル)-N-(2-モルホリノピリミジン-4-イル)イソオキサゾール-5-アミン
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、他のTACC3阻害剤の5分の1の用量で使用して、がん療法における全身作用を低減する新規なTACC3阻害剤に関する。
【0022】
TACC3レベルの上昇は多くの異なるがんタイプで観察されており、がん療法の非常に魅力的な標的になる。TACC3は、微小管及び中心体の制御並びに紡錘体安定性の維持に重要な役割を有している(Schneiderら、2007; Thakurら、2013)。種々の腫瘍タイプにおけるTACC3レベルの役割をさらに調べるために、本発明では、最初に、多くの異なるがんタイプ及びそれらの正常な組織対応物におけるTACC3レベルを分析した(図1A)。TACC3は、乳がんを含む多くの異なるがんタイプで有意に過剰発現されることが見出された。次いで、KMプロッターツールを使用して種々の患者生存率データセットを分析した。高いTACC3レベルは、乳がん、肺がん及び胃がんのより悪い全生存率と有意に相関することが見出された(図1B)。これらの患者データ分析は、TACC3発現レベルが、疾患の重症度及び患者生存率を定義する重要な因子であることを示している。それ故に、TACC3阻害をもたらす介入は、乳がん患者の生存率を改善するための有望な治療戦略となり得る。
【0023】
Hela細胞におけるTACC3レベルの低下は、有糸分裂停止(Schneiderら、2007)及びカスパーゼ依存性アポトーシス(Kimuraら、2013)を引き起こすことが示されている。本発明では、高いTACC3レベルを発現する乳がん患者には、乳がん発生におけるTACC3の発癌の役割を支持する有糸分裂進行及びDNA修復遺伝子の濃縮があることが見出された(図2A)。次に、種々の乳がん細胞株の細胞生存率に対するTACC3枯渇の効果をテストした。分子サブタイプが異なる4つの異なる乳がん細胞株モデルを利用した。JIMT-1はHER2陽性乳がん細胞株であるが、BT-474 T-DM1R (T-DM1耐性)は、高いTACC3レベルを有することが示されたLuminal Bサブタイプ乳がん細胞株である(Saatciら、2018)。一方、MDA-MB-436及びMDA-MB-157は両方とも、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞株である。本発明では、最初に低分子干渉RNA (siRNA)を使用してこれらの細胞株のTACC3レベルを低下させた。図2Bは、全体的なTACC3レベルが全ての細胞株でsiRNA処置の48時間後におよそ60〜70%低下したことを示している。これと一致して、TACC3ノックダウンは、乳がん細胞の有意な増殖阻害をもたらすことが観察された(図2C)。次いで、TACC3ノックダウンが引き起こし得る可能性のある関連機構を調べた。全てのテストした乳がん細胞株におけるsiRNAによるTACC3レベルの抑制は、有糸分裂停止、アポトーシス及びDNA損傷を活性化した(図2D)。
【0024】
前に述べたように、利用可能なTACC3阻害剤、例えばKHS101及びSPL-Bはいずれも、まだ臨床試験に進んでいない。それ故に、本発明の目的は、TACC3を標的にする新規ながん治療用のより強力な阻害剤を開発することである。このために、TACC3が異常に発現されている乳がん細胞(Maら、2003; Songら、2018)で一連の小分子の抗増殖効果をテストすることによって、内部スクリーニングを行った。具体的には、他のテストした乳がん細胞株と比べて高いTACC3タンパク質レベル及びインビボ腫瘍原性のために、JIMT-1細胞株を細胞生存率における化合物の効果のスクリーニングに選択した(Saatciら、2018; Tannerら、2004) (それぞれ、図8及び9〜10で論じられる)。
【0025】
本発明では、内部スクリーニングの試みにより、可能性のあるTACC3阻害剤として232nMの有意に低いIC50を有するBO-264の同定に至った(図3)。BO-264の合成の一般的な手順は、図4に示されている。
【0026】
BO-264がTACC3を標的にするかどうかを決定するために、本発明では温度の上昇による薬物標的安定化に基づくターゲットエンゲージメントアッセイを行った(Martinez Molinaら、2013)。このために、JIMT-1細胞を溶媒、BO-264又はSPL-B (陽性対照として)としばらくの間インキュベートし、次いで細胞溶解物を回収した。BO-264によるJIMT-1乳がん細胞の処置は、温度上昇時に細胞TACC3をかなり安定化させ、BO-264がJIMT-1細胞でTACC3と特異的に相互作用し得ることを示した(図5A)。タンパク質熱融解曲線(細胞サーマルシフトアッセイ、CETSA)もまた、溶媒処置バンド強度とBO-264処置バンド強度の間の熱シフトを示している。この相互作用を、等温滴定熱量測定(ITC)により検証した。BO-264へのTACC3の滴定を実施し、熱量測定の変化及び熱変化を記録することによってモニターした。図5Bに示されているように、25℃でTACC3に結合するBO-264の熱力学パラメーター(K: 6.23E8、ΔH: 4.929E7 cal/mol、ΔS: 1.65E5 cal/mol/deg、N: 0.704)は、これらの2つの分子間の相互作用を示している。
【0027】
その後、細胞生存率に対するTACC3阻害剤、BO-264の相対的効果を、利用可能なTACC3阻害剤、KHS101及びSPL-Bと比較した。JIMT-1、MDA-MB-436、MDA-MB-157及びBT-474 T-DM1R細胞株を、これら3つの薬物に対するその応答に関してテストした。BO-264は、テストした全ての細胞株で2つの利用可能なTACC3阻害剤より有意に低いIC50値を有することが見出された(図6A)。さらに、乳がんモデルの種々の分子サブタイプにおいてBO-264でより低いIC50値を得ることは、本発明者らの新規の阻害剤が分子サブタイプに関係なく乳がんに対して有望な抗がん効果を有することを示す。KHS101及びSPL-Bと比べた、BO-264で処置した種々のがん細胞株の細胞生存率のこの著しい減少を、JIMT-1細胞を使用してコロニー形成アッセイでも検証した。結果として、BO-264で処置したJIMT-1細胞の平均コロニー数は、同じ用量で他の2つの阻害剤で処置したものより有意に低かった(図6B)。したがって、Cell Titer Gloアッセイにより検出した低い細胞生存率、及びJIMT-1細胞の低いコロニー数は、BO-264が他の2つのTACC3阻害剤、KHS101及びSPL-Bよりもインビトロで効果的、かつ強力であることを示している。乳がん細胞株でのsiTACC3処置の場合と同じように、有糸分裂停止、アポトーシス及びDNA損傷プロセスの誘導を、BO-264、SPL-B及びKHS101処置時にさらにテストした。siTACC3誘導有糸分裂停止、DNA損傷及びアポトーシスは、BO-264によって用量依存的に再現され得ることが示された(図6C)。一方、SPL-B及びKHS101処置によるこれらのマーカーの同様の誘導レベルは、BO-264処置細胞と比較してかなり高用量で観察された。他者によって使用されたより高いKHS101用量が含まれたが(Campo & Breuer、2018)、これらのマーカーの誘導は、非常に高用量でのみ観察された。明らかに、これらの結果は、3つの阻害剤による処置により得られた細胞生存率データ及びIC50値と一致している(図6A参照)。これらの結果は、1) nM範囲作用用量に関するBO-264の高い効力、及び2) siRNAを使用したTACC3下方制御によって得られる同様の分子変化に関する特異度をさらに実証する。
【0028】
乳がん細胞株でのこれらの有望な結果は、BO-264を他のがんタイプでテストするよう本発明者らを促した。それ故に、BO-264を、NCI-60ヒト細胞株で抗増殖活性についてスクリーニングした。5つの用量スクリーニングの分析は、ほぼ全ての細胞株がBO-264処置に感受性であり、50%増殖阻害(GI50)値は1μM未満であることが見出され、他のがんタイプにおけるBO-264の可能性のある適用を示唆したことを明らかにしている(図7A)。各NCI-60細胞株のGI50濃度を視覚化するために、ヒートマップを構築した(図7B)。概して、種々のがんタイプは、BO-264に関する非常に類似した生存率プロファイルを示した。
【0029】
次に、正常な細胞と比べたがん細胞株に対するBO-264の特異度をテストした。それ故に、BO-264に対する正常な乳房上皮細胞、MCF-12Aの感受性を調べた。驚くべきことに、高用量のBO-264 (5、10μM)による処置でさえ、細胞の50%増殖阻害に達しなかった(図8A)。換言すれば、BO-264は腫瘍細胞を特異的に標的にするが、正常な乳房細胞では効果がない。図8Bに示されているように、MDA-MB-157、MDA-MB-436、JIMT-1及びBT-474 T-DM1R細胞は高レベルのTACC3を発現するが、正常な乳房細胞株MCF-12A細胞は低いTACC3レベルを発現する。これは、BO-264に対する感受性が、がん細胞における異常なTACC3発現レベルと相関することを示す。その上、低いTACC3レベルは、MCF-12A細胞がなぜ低用量のTACC3阻害剤のいずれにも応答しなかったのかを説明し得る。
【0030】
上記の結果は、高いTACC3レベルを発現する乳がん細胞が、本発明の新規のTACC3阻害剤、BO-264にインビトロでより感受性であることを示した。それ故に、免疫不全マウスにおける腫瘍原性の高い細胞株JIMT-1 (Barokら、2007; Tannerら、2004)の腫瘍増殖に対するBO-264の効果を、SPL-Bと比べてテストした。このために、メスのヌードマウスにJIMT-1細胞を乳腺脂肪体(MFP)に注射し、その後、溶媒又は5mg/kg (経口) BO-264若しくはSPL-Bで処置した。薬物処置は2日ごとに30日間行った。BO-264は、SPL-Bと比較して腫瘍増殖の有意な低減を示し、マウスの体重に対するマイナス効果はなかったと結論付けられた(図9)。
【0031】
次いで、低用量BO-264の種々の用量及び投与経路を、JIMT-1異種移植片を使用してテストした。2日ごとに30日間、BO-264 2mg/kg (経口又はi.v)又は5mg/kg (経口)をマウスへ投与した(図10)。対照群と比較した場合、全ての3つのBO-264投与群の腫瘍増殖率は低下し、これらの群のうち、5mg/kg (経口)は、腫瘍増殖に対する最も有意な効果を示した(図10A)。BO-264の適用は、マウスの体重に対するマイナス効果を全く有していなかったことが図10Bに示されている。
【0032】
さらに、以前の実験と比べて、腫瘍増殖に対するより高いBO-264用量の効果をテストして、より良好な抗腫瘍効果を得、その忍容性をテストするために、メスのヌードマウスにJIMT-1細胞を乳腺脂肪体(MFP)に注射し、その後、溶媒又はBO-264 (25mg/kg経口)で23日間処置した(図11)。BO-264は、溶媒処置マウスと比べて腫瘍増殖の非常に有意な低減を示した(図11A)。腫瘍重量は、溶媒群の腫瘍重量と比べて有意に低かった(図11B)。重要なことには、処置がマウス体重に影響を与えなかったことから、BO-264は忍容性が良好であった(図11C)。
【0033】
全体的なプロファイルに基づき、BO-264をその生理化学的特性及び代謝安定性について評価した。BO-264は、log D7.4が2.3の中程度の脂溶性を有し、ヒト及びマウス肝ミクロソームの両方での低い溶解度及び低い安定性、並びに比較的高い血漿タンパク質結合(1.13%の非結合画分)を示したが、低い流出比(AB=190×10-6nm/s、比=<2.0) (表1)により良好なCaco-2透過性を示した。これに一致して、潜在的な薬物-薬物相互作用を評価するために(Lin & Lu、1998)、ヒト肝ミクロソームでのBO-264によるチトクロムP450阻害も特徴付けした(表1)。よって、BO-264は、CYP2C9 (IC50=2.63μM)及びCYP3A (基質としてテストステロン、IC50=8.59μM)の中等度の阻害剤であった一方、CYP2CD6 (IC50=18.46μM)及びCYP3A (IC50=基質としてミダゾラム、30.04μM)の弱い阻害剤であるか、又は阻害剤ではなかった。これは、BO-264が、テストしたP450チトクロムにおいて低い活性を有することを示す。
【0034】
材料及び方法
細胞培養及び試薬
MDA-MB-436、MDA-MB-157及びMCF-12A細胞株をATCCから入手した。T-DM1耐性HER2陽性乳がん細胞株BT-474 T-DM1Rを開発し、以前に記載されているように特徴付けた(Saatciら、2018)。細胞を、10%ウシ胎仔血清(Lonza)、1%非必須アミノ酸及び50U/mlペニシリン/ストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(Lonza、NJ、USA)で培養した。BT-474 T-DM1R細胞に0.1%インスリン(Sigma Aldrich、MO、USA)も補充した。さらに、MCF-12A細胞を、20ng/ml上皮増殖因子(EGF)及び500ng/mlヒドロコルチゾン含有培地で増殖させた。全ての細胞株を、MycoAlert Mycoplasma Detection Kit (Lonza)を使用して定期的にテストした。
【0035】
BO-264の合成及び分析
BO-264の合成のために、図4に概説した合成手順を利用した。4-メトキシ安息香酸から出発し、カルボン酸基のエステル化によりエチル4-メトキシベンゾエート(1)を生成した。図4の記載された条件に従って、3-(4-メトキシフェニル)-3-オキソプロパンニトリル(2)を得た。次いで、3-(4-メトキシフェニル)-3-オキソプロパンニトリル(2)中間体を、ヒドロキシルアミンで処理して3-(4-メトキシフェニル)イソオキサゾール-5-アミン(3)を得た。5-アミノイソオキサゾール中間体(3)は、2,4-ジクロロピリミジンと芳香族求核置換反応させて、N-(2-クロロピリミジン-4-イル)-3-(4-メトキシフェニル)イソオキサゾール-5-アミン(4)を得た。最後に、化合物4をモルホリンで処理して、最終化合物3-(4-メトキシフェニル)-N-(2-モルホリノピリミジン-4-イル)イソオキサゾール-5-アミン(5、BO-264)を得た。
【0036】
・エチル4-メトキシベンゾエート(1)
塩化チオニル(SOCl2) (34.4mmol、2.27当量)を、室温で無水エタノール(25 ml)中4-メトキシ安息香酸(15.15mmol、1当量)の溶液に滴下添加した。反応物を80℃で3時間撹拌した。反応が終了した後、得られた混合物を減圧下で濃縮して無色の液体を得た。収率: 86%。HRMS (m/z): C10H13O3について計算した[M+H]+: 181.0865、実測値:181.0858。
【0037】
・3-(4-メトキシフェニル)-3-オキソプロパンニトリル(2)
水素化ナトリウム(NaH) (ミネラルオイル中60%分散) (27.501mmol、3当量)及びアセトニトリル(MeCN) (27.501mmol、3当量)を、室温でエチル4-メトキシベンゾエート(1) (9.167mmol、1当量)の乾燥トルエン溶液に添加し、次いで窒素雰囲気下で2時間還流した。得られた混合物を室温に冷却した。得られた塩を石油エーテルで洗浄し、次いで真空濾過した。塩を水に溶解し、次いで濃塩酸(HCl)で酸性にした。得られた固体を濾過し、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)の溶液で粉砕し、次いで濾過して薄黄色の固体を得た。収率: 77%。MP: 127.5〜129.4℃。HRMS (m/z): C10H8NO2について計算した[M-H]-: 174.0561、実測値: 174.0564。
【0038】
・3-(4-メトキシフェニル)イソオキサゾール-5-アミン(3)
3-(4-メトキシフェニル)-3-オキソプロパンニトリル(2) (2.8571mmol、1当量)及び塩酸ヒドロキシルアミン(H2NOH.HCl) (2.8856mmol、1.05当量)を、水酸化ナトリウム(NaOH) (5.8570mmol、2.05当量)水溶液に添加した。反応混合物を4時間還流した。得られた混合物を室温に冷却した後、水で希釈し、ジクロロメタン(DCM)で抽出した。有機層を乾燥し、濾過し、蒸発させて粗生成物を得、これを、ヘキサン中0〜60%酢酸エチル(EtOAc)の勾配で溶出するシリカゲル(24g)での自動フラッシュクロマトグラフィーによって精製した。収率59%。MP: 135.4〜137.2℃。HRMS (m/z): C10H11N2O2について計算した[M+H]+: 191.0821、実測値:191.0812。
【0039】
・N-(2-クロロピリミジン-4-イル)-3-(4-メトキシフェニル)イソオキサゾール-5-アミン(4)
カリウムtert-ブトキシド(t-BuOK) (2.4025mmol、2.5当量)を3-(4-メトキシフェニル)イソオキサゾール-5-アミン(3) (0.961mmol、1当量)のtert-ブタノール溶液に添加し、混合物を室温で1時間撹拌した。2,4-ジクロロピリミジン(1.441mmol、1.5当量)を反応混合物に添加し、室温で24時間撹拌した。反応が終了した後、混合物を水性塩化アンモニウム(NH4Cl)溶液によって反応停止し、次いでEtOAcで抽出した。有機層を乾燥し、濾過し、蒸発させて粗生成物を得、これを、DCM中0〜60%EtOAcの勾配で溶出するシリカゲル(24g)での自動フラッシュクロマトグラフィーによって精製した。収率: 42%。MP: 197〜198.8℃(分解)。HRMS (m/z): C14H12N4O2Clについて計算した[M+H]+: 303.0649、実測値: 303.0645。
1H NMR (400 MHz, DMSO): δ 3.82 (3H, s), 6.68 (1H, s), 7.01 (1H, d, J=5.8 Hz), 7.07 (2H, d, J=8.6 Hz), 7.77 (2H, d, J=8.6 Hz ), 8.40 (1H, d, J=5.8 Hz), 11.73 (1H, s). 13C NMR (100 MHz, DMSO): δ 55.22, 85.54, 106.48, 114.42, 121.06, 127.86, 158.60, 158.72, 159.40, 160.69, 161.51, 162.26.
【0040】
・3-(4-メトキシフェニル)-N-(2-モルホリノピリミジン-4-イル)イソオキサゾール-5-アミン(5) (BO-264)
モルホリン(1.0746mmol、3当量)をN-(2-クロロピリミジン-4-イル)-3-(4-メトキシフェニル)イソオキサゾール-5-アミン(4) (0.3582mmol、1当量)のn-ブタノール溶液に添加した。反応混合物を窒素雰囲気下で5時間還流した。反応が終了した後、混合物を室温に冷却し、次いで氷水によって反応停止して薄黄色の固体を得た。得られた固体を濾過し、乾燥して粗生成物を得、これを、DCM中0〜60%EtOAcの勾配で溶出するシリカゲル(24g)での自動フラッシュクロマトグラフィーによって精製した。収率: 70%。MP: 192.5〜194.2℃。HRMS (m/z): C18H20N5O3について計算した[M+H]+: 354.1566、実測値: 354.1572。
1H NMR (400 MHz, DMSO): δ 3.68-3.70 (8H, m), 3.80 (3H, s), 6.24 (1H, d, J=5.6 Hz), 6.54 (1H, s), 7.04 (2H, d, J=9.0 Hz), 7.74 (2H, d, J=9.0 Hz), 8.11 (1H, d, J=5.6 Hz), 10.98 (1H, s). 13C NMR (100 MHz, DMSO): δ 44.10, 55.24, 65.99, 84.03, 97.00, 114.43, 121.43, 127.87, 157.38, 157.45, 160.61, 161.37, 162.13, 162.61.
【0041】
ターゲットエンゲージメントアッセイ
インタクトな細胞でのBO-264 (5)とTACC3の間の相互作用を分析するために、細胞サーマルシフトアッセイ(CETSA)を、若干変更して以前に記載されているように行った(Martinez Molinaら、2013)。簡単には、JIMT-1細胞を溶媒、BO-264 (5)又はSPL-Bと6時間インキュベートした。処置後、細胞ペレットを、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤を含有するTris緩衝生理食塩水(TBS)に再懸濁した。細胞懸濁液を6つのPCRチューブに分け、45、46、47、48、49、50℃に5分間加熱した。その後、液体窒素を用いた凍結-解凍サイクルを3回繰り返すことによって細胞を溶解した。20,000g、4℃で20分間、遠心分離により可溶性タンパク質を回収し、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)とその後のウエスタンブロット分析によって分析した。
【0042】
等温滴定熱量測定(ITC)
精製TACC3組換えタンパク質(TP310754; Origene、MD、USA)及びBO-264 (5)を、25mM Tris.HCl、pH7.3、100mMグリシン、10%グリセロール溶液で調製した。BO-264 (5)を試料細胞にロードし、二連の実験においてTACC3タンパク質(シリンジ中10倍高い濃度)で滴定した。滴定は、25℃でMicrocal 200装置(GE Healthcare、オーストリア)を使用して実施した。各滴定に対して、6分間隔で10回の注入を行った。リファレンスパワーを2μcal/秒に設定し、試料細胞を500rpmで連続撹拌した。薬物とタンパク質の間の結合効率を評価するために、緩衝液に注入したタンパク質のみによって得られたバックグラウンドデータを実験的等温線から差し引いた。ITC200と一緒に提供されるOrigin 7ソフトウェアを使用してデータを分析し、結合パラメーター、例えば結合定数(Ka)、結合部位の数(N)及びエンタルピー(ΔH)を計算した。
【0043】
阻害剤処置及び細胞生存率アッセイ
KHS101及びSPL-Bを100%DMSOに溶解して、50mMのストック濃度を得た。BO-264を100%DMSOに溶解して、10mMのストック濃度を得た。細胞生存率アッセイに関して、JIMT-1 (3×103細胞/ウェル)、BT-474 T-DM1R (6×103細胞/ウェル)、MDA-MB-436 (4×103細胞/ウェル)、MDA-MB-157 (3×103細胞/ウェル)及びMCF-12A (5×103細胞/ウェル)細胞を播種し、細胞播種24時間後に阻害剤処置を異なる濃度で行った。細胞生存率を、処置72時間後にCell Titer Gloアッセイを用いて製造者によって推奨されているように測定した。ウエスタンブロッティングに関して、異なる濃度のKHS101、SPL-B又はBO-264を、JIMT-1細胞(1.5×105細胞/ウェル)に24時間与えた。
【0044】
siRNAによる一過性トランスフェクション
細胞生存率アッセイのために、JIMT-1 (3×103細胞/ウェル)、BT-474 T-DM1R (6×103細胞/ウェル)、MDA-MB-436 (4×103細胞/ウェル)及びMDA-MB-157 (3×103細胞/ウェル)細胞を、P/Sフリー増殖培地で96ウェルプレートに播種した。播種24時間後、TACC3を標的にする2つの異なるsiRNA (Dharmacon、CO、USA)を、Lipofectamine 2000TM (Invitrogen、CA)トランスフェクション試薬を使用して以前に記載されているように(Mutluら、2016)、20nMの最終濃度で細胞にトランスフェクトした(siTACC3#1: D-004155-03及びsiTACC3#2: D-004155-02)。トランスフェクション72時間後、細胞生存率をCell Titer Gloアッセイを使用して測定した。siRNAトランスフェクション時のTACC3ノックダウンレベルを評価するために、JIMT-1 (1.5×105細胞/ウェル)、BT-474 T-DM1R (2×105細胞/ウェル)、MDA-MB-436 (1.5×105細胞/ウェル)及びMDA-MB-157 (1.5×105細胞/ウェル)細胞に、2つの異なるTACC3 siRNAを48時間トランスフェクトした。mRNA及びタンパク質レベルでのノックダウン効率を、それぞれ定量的リアルタイムPCR (qRT-PCR)及びウエスタンブロッティングによって分析した。
【0045】
コロニー形成アッセイ
単層培養のために、JIMT-1細胞(3×103細胞/ウェル)の単一細胞懸濁液を12ウェルプレートにプレーティングした。6時間インキュベーション後、細胞を異なる用量のBO-264 (5)、SPL-B及びKHS101で処置した。両方の実験セットアップに関して、培地を4日ごとに更新し、細胞を12日間インキュベートした。次いで細胞を2%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、1%クリスタルバイオレット(Merck、ダルムシュタット、ドイツ)を用いて室温で15分間染色した。生存コロニー(少なくとも50個の細胞から構成される)を、ImageJソフトウェア(NIH)を用いてカウントした。
【0046】
NCI-60がん細胞株パネルスクリーニング
種々のがんタイプ由来の60種のヒトがん細胞株からなる、NCI-60ヒト細胞株スクリーニングのために、BO-264 (5)を国立がん研究所に提出した(NCI番号S807620)。BO-264 (5)は、最初に、各細胞株の増殖阻害パーセンテージを決定する10μMの濃度での単一用量スクリーニングに承認された。次いで、BO-264 (5)は、60種の細胞株のGI50 (50%増殖阻害)値、TGI (全増殖阻害)値及びLC50 (50%細胞死を含む致死用量濃度)値を決定する、10nM〜100μMの範囲の用量の5用量NCI-60スクリーニングに選択された。詳細なスクリーニング方法は、https://dtp.cancer.gov/discovery_development/nci-60/methodology.htm webpageからアクセスすることができる。簡単には、96ウェルプレートに細胞を播種した24時間後、細胞を5-logM濃度範囲の化合物で2日間処置した。スルホローダミンB (SRB)アッセイを使用して細胞傷害性を評価した。
【0047】
乳がん異種移植片実験
6〜8週齢のメスの胸腺欠損ヌードマウスを、温度制御された12時間明/12時間暗サイクルの環境で収容した。この試験は、Bilkent大学の施設内動物管理使用委員会に従って実施され、施設内ガイドライン及び動物研究指針に則り行われた。インビボ腫瘍増殖に関して、4×106 JIMT-1細胞を、150μlの1:1 DMEM及びマトリゲル(Corning、NY、USA)、v/vで調製し、メスのヌードマウスの乳腺脂肪体(MFP)に注入した。マウス体重及び腫瘍体積をノギスを使用して毎日測定した。腫瘍体積は、長さ×幅2×0.5として計算した。腫瘍体積が約90〜100mm3に達したら、異種移植片を各群に無作為に割り付けた。動物を、溶媒(ddH2O及び10%Tween-80中0.75%HPMC (ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、又はBO-264 (種々の用量及び投与方法で1日おき)で処置した。腫瘍増殖に対するBO-264の効果もSPL-Bと比較した。処置開始20〜30日後にマウスを屠殺し、腫瘍を回収し、その後の分析のために保存した。
【0048】
バイオインフォマティクス分析
種々の腫瘍組織及び正常な組織におけるTACC3発現を、http://firebrowse.org/からダウンロードしたThe Cancer Genome Atlas (TCGA)データ(Akbaniら、2014)を使用して分析した。TACC3発現と患者全生存率の間の関連を、乳がん1402例(Gyorffyら、2010)、肺がん1926例(Gyorffy、Surowiak、Budczies、& Lanczky、2013)及び胃がん876例(Szaszら、2016)の患者の全生存率に関する情報を含むカプランマイヤープロッターデータベースを使用して分析した。Broad Instituteウェブサイト(http://software.broadinstitute.org/gsea/index.jsp)で入手可能な有糸分裂及びDNA修復関連遺伝子セットの遺伝子セット濃縮分析(GSEA)の分析を、TACC3発現レベルに基づき患者が2群(高vs.低)に分けられた乳がんMETABRIC Validationデータセット(n=995)を使用して行った。
【0049】
統計解析
データをGraphPad Prismソフトウェア(GraphPad Software, Inc)を使用して解析し、3つの独立した実験からの平均±標準偏差として表した。統計学的有意性を両側スチューデントt検定によって決定した。0.05未満のp値及び補正p (q)値を統計的に有意とみなした。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3
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図6-1】
図6-2】
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【国際調査報告】