【実施例】
【0076】
次の実例は、本明細書に記載される組成物及び方法の実施形態を代表するものであり、決して制限的であることが意図されない。
【0077】
実施例1−LIFに特異的なラット抗体の産生
ヒトLIFのアミノ酸23〜202をコードするcDNAを、発現プラスミド(Aldevron GmbH,Freiburg,Germany)にクローニングした。実験用ラット(Wistar)の群に、微粒子撃ち込み(particle bombardment)(「遺伝子銃(gene gun)」)のための手持ち型装置を使用するDNAコーティングされた金粒子の皮内適用によって、免疫化した。一過性トランスフェクトしたHEK細胞上の細胞表面発現を、LIFタンパク質のN末端に付加されたタグを認識する抗タグ抗体を用いて確認した。一連の免疫化後に、血清試料を収集し、前述の発現プラスミドを用いて一過性トランスフェクトしたHEK細胞に対してフローサイトメトリーで試験した。抗体産生細胞を単離し、標準の手順に従って、マウス骨髄腫細胞(Ag8)と融合させた。上に記載した通りにフローサイトメトリー分析においてスクリーニングを行うことによって、LIFに特異的な抗体を産生するハイブリドーマを特定した。RNA保護剤(ThermoFisher ScientificによるRNAlater,cat.#AM7020)を使用して、陽性のハイブリドーマ細胞の細胞ペレットを調製し、抗体の可変ドメインの配列決定のためにさらに処理した。
【0078】
実施例2−LIFに特異的なマウス抗体の産生
ヒトLIFのアミノ酸23〜202をコードするcDNAを、発現プラスミド(Aldevron GmbH,Freiburg,Germany)にクローニングした。実験用マウス(NMRI)の群に、微粒子撃ち込み(「遺伝子銃」)のための手持ち型装置を使用するDNAコーティングされた金粒子の皮内適用によって、免疫化した。一過性トランスフェクトしたHEK細胞上の細胞表面発現を、LIFタンパク質のN末端に付加されたタグを認識する抗タグ抗体を用いて確認した。一連の免疫化後に、血清試料を収集し、前述の発現プラスミドを用いて一過性トランスフェクトしたHEK細胞に対してフローサイトメトリーで試験した。抗体産生細胞を単離し、標準の手順に従って、マウス骨髄腫細胞(Ag8)と融合させた。上に記載した通りにフローサイトメトリー分析においてスクリーニングを行うことによって、LIFに特異的な抗体を産生するハイブリドーマを特定した。RNA保護剤(ThermoFisher ScientificによるRNAlater,cat.#AM7020)を使用して、陽性のハイブリドーマ細胞の細胞ペレットを調製し、抗体の可変ドメインの配列決定のためにさらに処理した。
【0079】
実施例3−LIFに特異的なラット抗体のヒト化
それに続くヒト化のために、ラット免疫化(5D8)からの1つのクローンを選択した。ヒト化は、標準のCDRグラフティング方法を使用して行った。重鎖及び軽鎖領域を、標準の分子クローニング技術を使用して、5D8ハイブリドーマからクローニングし、サンガー法によって配列決定した。次いで、ヒト重鎖及び軽鎖可変配列に対して、BLAST検索を行い、それぞれからの4つの配列を、ヒト化のためのアクセプターフレームワークとして選択した。これらのアクセプターフレームワークを脱免疫原性化して、T細胞応答エピトープを除去した。5D8の重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を、4つの異なる重鎖アクセプターフレームワーク(H1からH4)、及び4つの異なる軽鎖フレームワーク(L1からL4)にクローニングした。次いで、16個の異なる抗体をすべて、CHO−S細胞(Selexis)における発現;LIF誘発STAT3リン酸化の阻害;及び表面プラズモン共鳴(SPR)による結合親和性について試験した。これらの実験を、以下にまとめて示す。
【0080】
【表1】
【0081】
トランスフェクトした細胞の発現性能を、エルレンマイヤーフラスコ(3×10
5細胞/mL播種、200mL培養体積)中で、流加培養で、10日の細胞培養後に、比較した。この時点で、細胞を回収し、分泌された抗体をプロテインAカラムを使用して精製し、次いで定量化した。H3重鎖を使用するものを除いて、すべてのヒト化抗体が発現した。H2及びL2可変領域は、他の可変領域と比較して、良い成果を果たした(配列番号15及び配列番号19)。
【0082】
チロシン705でのLIF誘発STAT3リン酸化の阻害を、ウエスタンブロットによって決定した。U251神経膠腫細胞を、100,000細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートにプレーティングした。細胞を、あらゆる処理の前に、完全培地で24時間培養し、その後、細胞を、8時間、血清飢餓状態にした。その後、細胞を、10μg/mlの濃度の指示された抗体で、一晩処理した。処理後、ホスファターゼ及びプロテアーゼ阻害剤を含有する放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)溶解緩衝液中でタンパク質を得、定量化し(BCA−タンパク質定量法、Thermo Fisher Scientific)、ウエスタンブロットに使用した。ウエスタンブロットについては、メンブレンを、5%脱脂粉乳−TBST中で1時間ブロッキングし、一次抗体と共に一晩(p−STAT3、catalog#9145、Cell Signaling若しくはSTAT3、catalog#9132、Cell Signaling)又は30分(β−アクチン−ペルオキシダーゼ、catalog#A3854、Sigma−Aldrich)インキュベートした。次いで、メンブレンをTBSTで洗浄し、二次抗体と共にインキュベートし、再び洗浄した。タンパク質を、化学発光(SuperSignal Substrate、catalog#34076、Thermo Fisher Scientific)によって検出した。これらの結果を、
図1に示す。pSTAT3バンドの色が濃いほど、存在する阻害が小さい。阻害は、5D8(非ヒト化ラット)、A(H0L0)、C(H1L2)、D(H1L3)、及びG(H2L2)と標識が付けられたレーンでは高かった;阻害は、H(H2L3)、O(H4L2)、及びP(H4L3)では中程度であった;阻害は、B(H1L1)、E(H1L4)、F(H2L1)、I(H2L4)、N(H4L1)、及びQ(H4L4)では存在しなかった。
【0083】
次いで、LIF誘発STAT3リン酸化の阻害を呈する抗体を、SPRによって分析して、結合親和性を決定した。簡単に言うと、アミンカップリングhLIFに対するA(H0L0)、C(H1L2)、D(H1L3)、及びG(H2L2)、H(H2L3)及びO(H4L2)ヒト化抗体の結合を、Biacore(商標)2002装置を使用して観察した。速度定数及び親和性を、6つのリガンド濃度でのすべてのセンサーチップ表面上でもたらされたすべてのセンサーグラムの数学的センサーグラムフィッティング(ラングミュア相互作用モデル[A+B=AB])によって決定した。各濃度の最も適合する曲線(最小カイ二乗)を、速度定数及び親和性の算出のために使用した。表1を参照されたい。
【0084】
実験手順は、検体として二価抗体を使用したので、ヒト化抗体の標的結合機構へのより詳細な洞察を得るために、最も適合するセンサーグラムをまた、二価検体フィッティングモデル[A+B=AB;AB+B=AB2]に基づいて分析した。二価フィッティングモデル[A+B=AB;AB+B=AB2]を使用するセンサーグラム動態解析によって、mAb試料の相対的親和性順位が確認された。
【0085】
その高い結合親和性、及び回分培養からの高い収率により、より掘り下げた分析のために、H2及びL2を含むヒト化5D8を選択した。
【0086】
実施例4−クローン5D8のヒト化はLIFに対する結合を向上させる
さらなる分析のために、H2L2クローン(h5D8)を選択し、SPRによって、結合を、親ラット5D8(r5D8)及びマウスクローン1B2と比較した。1B2抗体は、以前にDeutsche Sammlung von Mikroorganismen and Zellkulturen GmbH(DSM ACC3054)に寄託された、以前に開示されたマウス抗LIF抗体であり、比較目的で含められた。それぞれ大腸菌(E.coli)及びHEK−293細胞から精製された組換え型ヒトLIを、リガンドとして使用した。ヒト又は大腸菌(E.coli)起源からのLIFを、アミンカップリング化学を使用して、Biacore光学センサーチップの表面に共有結合させ、速度定数から結合親和性を算出した。
【0087】
材料及び方法
大腸菌(E.coli)由来のヒトLIFは、Millipore(参照記号LIF 1010)から入手し;HEK−293細胞由来のヒトLIFは、ACRO Biosystems(参照記号LIF−H521b)から入手した。LIFを、Biacore Amine Coupling Kit(BR−1000−50;GE−Healthcare,Uppsala)を使用して、センサーチップにカップリングさせた。試料は、CM5光学センサーチップ(BR−1000−12;GE−Healthcare,Uppsala)を使用するBiacore(商標)2002装置に流した。機械の稼働中、Biacore HBS−EP緩衝液を使用した(BR−1001−88;GE−Healthcare,Uppsala)。結合センサーグラムの動態解析を、BIAevaluation 4.1ソフトウェアを使用して実施した。速度定数及び親和性を、漸増する検体濃度でのすべてのセンサーチップ表面上でもたらされたすべてのセンサーグラムの数学的センサーグラムフィッティング(ラングミュア相互作用モデル[A+B=AB])によって決定した。決定されたラングミュア抗体−標的親和性に対する二価の寄与(例えば、結合活性の寄与)についての見積もりをもたらすために、センサーグラムをまた、主成分分析を含めて、二価検体センサーグラムフィッティングモデル[A+B=AB;AB+B=AB2]に基づいて分析した。各濃度の最も適合する曲線(最小カイ二乗)を、速度定数及び親和性の算出のために使用した。これらの親和性実験の概要を、表2(大腸菌(E.coli)において作られたヒトLIF)及び表3(HEK293細胞において作られたヒトLIF)に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
この一連の実験から、ラングミュア1:1センサーグラムフィッティングモデルは、ヒト化5D8(h5D8)抗体が、マウス1B2及びr5D8よりも約10〜25倍高い親和性で、ヒトLIFに結合したことを示す。
【0091】
次に、h5D8抗体を、SPRによって、複数の種のLIFに対して試験した。h5D8 SPR結合速度解析を、異なる種及び発現系由来の組換え型LIF検体:ヒトLIF(大腸菌(E.coli)、HEK293細胞);マウスLIF(大腸菌(E.coli)、CHO細胞);ラットLIF(大腸菌(E.coli));カニクイザルLIF(酵母、HEK293細胞)について実施した。
【0092】
材料及び方法
h5D8抗体を、非共有結合性の、Fc特異的な捕捉によって、センサーチップ表面に固定した。LIF検体に対する抗LIF抗体の立体的に均一且つフレキシブルな提示を可能にする、組換え型の、Ig(Fc)特異的な黄色ブドウ球菌(S.aureus)プロテインA/Gを、捕捉剤として使用した。LIF検体の供給源は、次の通りである:ヒトLIF(大腸菌(E.coli)より;Millipore参照記号LIF 1050);ヒトLIF(HEK細胞よりACRO Biosystems LIF−H521);マウスLIF(大腸菌(E.coli);Millipore Cat.No NF−LIF2010);マウスLIF(CHO細胞より;Reprokine Catalog# RCP09056);サルLIF(酵母 Kingfisher Biotech Catalog# RP1074Y);HEK−293細胞において産生されるサルLIF。全h5D8が、いくつかの種由来のLIFに対する結合を呈した。この親和性実験の概要を、表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
実施例5−ヒト化クローン5D8は、STAT3のLIF誘発リン酸化をインビトロで阻害する
h5D8の生物学的活性を決定するために、LIF活性化の細胞培養モデルにおいて、ヒト化及び親型を試験した。
図2Aは、神経膠腫細胞株をヒトLIFと共にインキュベートした場合に、ヒト化クローンが、STAT3リン酸化(Tyr 705)の阻害の増大を呈したことを示す。
図2Bは、異なる希釈のh5D8抗体を用いて再び行った、
図2Aと同じ手順を用いた実験を示す。
【0095】
方法
U251神経膠腫細胞を、150,000細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートにプレーティングした。細胞を、あらゆる処理の前に、完全培地で24時間培養した。その後、細胞を、10μg/mlの濃度のr5D8抗LIF抗体又はh5D8抗LIF抗体で、一晩処理した、又はしなかった(対照細胞)。
【0096】
処理後、ホスファターゼ及びプロテアーゼ阻害剤を含有する放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)溶解緩衝液中でタンパク質を得、定量化し(BCA−タンパク質定量法、Thermo Fisher Scientific)、ウエスタンブロットに使用した。ウエスタンブロットについては、メンブレンを、5%脱脂粉乳−TBST中で1時間ブロッキングし、一次抗体と共に一晩(p−STAT3、catalog#9145、Cell Signaling若しくはSTAT3、catalog#9132、Cell Signaling)又は30分(β−アクチン−ペルオキシダーゼ、catalog#A3854、Sigma−Aldrich)インキュベートした。次いで、メンブレンをTBSTで洗浄し、必要であれば二次抗体と共にインキュベートし、再び洗浄した。タンパク質を、化学発光(SuperSignal Substrate、catalog#34076、Thermo Fisher Scientific)によって検出した。
【0097】
実施例6−U−251細胞における内在レベルのLIFに対するh5D8抗体処理のIC
50値
U−251細胞において、血清飢餓条件下で、h5D8についての生物学的阻害に対する490ピコモル濃度(
図3A)と低いIC
50が決定された。代表的な結果
図3A及び3B及び表5を参照されたい。
【0098】
【表5】
【0099】
方法
U−251細胞を、(条件あたり)6cmプレートあたり600,000細胞で蒔いた。細胞を、対応する濃度(段階希釈(titration))のh5D8で、血清飢餓(0.1% FBS)下で37℃で一晩処理した。pSTAT3についての陽性対照として、組換え型LIF(R&D #7734−LF/CF)を使用して、1.79nMで、37℃で10分間、細胞を刺激した。pSTAT3の陰性対照として、JAK I阻害剤(Calbiochem #420099)を、1μMで、37℃で30分間使用した。次いで、Meso Scale Discovery Multi−Spot Assay System Total STAT3(Cat# K150SND−2)及びPhospho−STAT3(Tyr705)(Cat# K150SVD−2)キットのプロトコルに従って、細胞を、ライセートのために氷上に回収して、MSD Meso Sector S600によって、検出可能なタンパク質レベルを測定した。
【0100】
実施例7−ヒトLIFに特異的に結合する追加の抗体
ヒトLIFと特異的に結合する他のラット抗体クローン(10G7及び6B5)を特定し、その結合特性の概要を、下の表6に示す(クローン1B2は比較としての役割を果たす)。
【0101】
方法
検体として、組換え型LIF標的タンパク質[ヒトLIF(大腸菌(E.coli));Millipore Cat.No.LIF 1010及びヒトLIF(HEK293細胞);ACRO Biosystems Cat.No.LIF−H521b]を適用して、CM5光学センサーチップの表面上に固定された抗LIF mAbs 1B2、10G7、及び6B5について、リアルタイム結合動態解析を実施した。
【0102】
速度定数及び親和性は、グローバルフィッティング(センサーグラムセットの同時フィッティング)並びに単一曲線フィッティングアルゴリズムを適用して、ラングミュア1:1結合モデルを使用する数学的センサーグラムフィッティングによって得た。グローバルフィットの妥当性を、k
obs解析によって評価した。
【0103】
【表6】
【0104】
実施例8−STAT3のLIF誘発リン酸化をインビトロで阻害する追加の抗LIF抗体
追加のクローンを、細胞培養において、STAT3のLIF誘発リン酸化を阻害するその能力について試験した。
図4に示す通り、クローン10G7及び以前に詳述したr5D8は、1B2クローンと比較して、LIF誘発STAT3リン酸化の高い阻害を呈した。抗LIFポリクローナル抗血清(pos.)は、陽性対照として含まれていた。6B5は、阻害を呈さなかったが、これは、この実験で使用された非グリコシル化LIFに対する6B5結合が存在しない可能性によって説明することができる。
【0105】
方法
患者由来の神経膠腫細胞を、150,000細胞/ウェルの密度で、6ウェルプレートにプレーティングした。細胞を、あらゆる処理の前に、B27(Life Technologies)、ペニシリン/ストレプトマイシン、及び増殖因子(20ng/ml EGF及び20ng/ml FGF−2[PeproTech])を添加したNeurobasal培地(Life Technologies)から構成されるGBM培地中で、24時間培養した。次の日、細胞を、大腸菌(E.coli)において産生された組換え型LIF、又は組換え型LIFプラス指示された抗体の混合物で、15分間処理した、又はしなかった(抗体については10μg/mlの最終濃度、及び20ng/mlの組換え型LIF)。処理後、ホスファターゼ及びプロテアーゼ阻害剤を含有する放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)溶解緩衝液中でタンパク質を得、定量化し(BCA−タンパク質定量法、Thermo Fisher Scientific)、ウエスタンブロットに使用した。ウエスタンブロットについては、メンブレンを、5%脱脂粉乳−TBST中で1時間ブロッキングし、一次抗体と共に一晩(p−STAT3、catalog#9145、Cell Signaling)又は30分(β−アクチン−ペルオキシダーゼ、catalog#A3854、Sigma−Aldrich)インキュベートした。次いで、メンブレンをTBSTで洗浄し、必要であれば二次抗体と共にインキュベートし、再び洗浄した。タンパク質を、化学発光(SuperSignal Substrate、catalog#34076、Thermo Fisher Scientific)によって検出した。
【0106】
実施例9−LIFは複数の腫瘍型にわたって高度に過剰発現される
複数のヒト腫瘍型に対して免疫組織化学を行って、LIF発現の程度を決定した。
図5に示す通り、LIFは、多形神経膠芽腫(GBM)、非小細胞肺癌(NSCLC)、卵巣癌、結腸直腸癌(CRC)、及び膵腫瘍において高度に発現される。
【0107】
実施例10−ヒト化クローンh5D8は非小細胞肺癌のマウスモデルにおいて腫瘍増殖を阻害する
ヒト化5D8クローンがLIF陽性癌をインビボで阻害する能力を決定するために、この抗体を、非小細胞肺癌(NSCLC)のマウスモデルにおいて試験した。
図6は、この抗体で治療されたマウスにおける、賦形剤の陰性対照と比較した腫瘍増殖の減少を示す。
【0108】
方法
高いLIFレベルを有するマウス非小細胞肺癌(NSCLC)細胞株KLN205を、インビボでの生物発光モニタリングのために、ホタルルシフェラーゼ遺伝子を発現するレンチウイルスに安定に感染させた。マウスモデルを発病させるために、5×10
5個のKLN205非小細胞肺癌(NSCLC)細胞を、8週齢の免疫適格性の同系移植DBA/2マウスの左肺に、肋間穿刺によって同所性移植した。マウスを、対照賦形剤で又は15mg/kg若しくは30mg/kgのh5D8抗体で(週2回、腹腔内に)治療し、腫瘍増殖を生物発光によってモニタリングした。生物発光画像化のために、マウスは、1〜2%吸入イソフルラン麻酔下で0.2mLの15mg/mL D−ルシフェリンの腹腔内注射を受けた。生物発光シグナルは、高感度冷却CCDカメラから構成されるIVISシステム2000シリーズ(Xenogen Corp.,Alameda,CA,USA)を使用してモニタリングした。Living Imageソフトウェア(Xenogen Corp.)を使用して、画像化データをグリッド処理し、囲まれた各領域内の全生物発光シグナルを統合した。データは、対象領域(ROI)内の全光子束放射(光子/秒)を使用して解析した。結果は、h5D8抗体での治療が、腫瘍退縮を促進することを実証する。データは、平均値±SEMとして示される。
【0109】
実施例11−h5D8は多形神経膠芽腫のマウスモデルにおいて腫瘍増殖を阻害する
ルシフェラーゼ発現ヒト細胞株U251を使用する、同所移植GBM腫瘍モデルでは、腹腔内(IP)注射によって300μg r5D8及びh5D8を週2回投与したマウスにおいて、r5D8は、腫瘍体積を有意に低下させた。この研究の結果を、
図7Aに示す(治療後第26日に定量化)。この実験をまた、200μg又は300μgで治療されるヒト化h5D8マウスを使用して行い、治療の7日後の腫瘍の統計的に有意な低下が示された。
【0110】
方法
ルシフェラーゼを安定に発現するU251細胞を収集し、PBS中で洗浄し、400gで5分間遠心分離し、PBSに再懸濁し、自動セルカウンター(Countess,Invitrogen)を用いて計数した。最適な生存能を維持するために、細胞を氷上に維持した。マウスを、ケタミン(Ketolar50(登録商標))/キシラシン(Xylacine)(Rompun(登録商標))(それぞれ75mg/kg及び10mg/kg)の腹腔内投与で麻酔した。各マウスを、注意深く定位装置に入れ、固定した。脱毛クリームを用いて頭部から毛を除去し、メスで頭部皮膚を切断して、頭蓋骨を露出させた。ラムダに対して横方向1.8mm且つ前方向1mmの座標に、穿孔器を用いて小さい切開部を注意深く作成した。右線条体に、2.5mmの深さでHamilton 30Gシリンジを使用して、5μLの細胞を接種した。Hystoacryl組織接着剤(Braun)を用いて頭部切開部を閉じ、マウスに皮下鎮痛薬メロキシカム(Metacam(登録商標))(1mg/kg)を注射した。各マウスに移植された最終細胞数は、3×10
5個であった。
【0111】
マウスを、腹腔内に投与されるh5D8で週2回治療した。治療は、腫瘍細胞接種の直後、第0日に開始した。マウスは、h5D8又は賦形剤対照の合計2回の投与を受けた。
【0112】
体重及び腫瘍体積:体重は、2回/週、測定し、腫瘍増殖は、第7日に生物発光(Xenogen IVIS Spectrum)によって定量化した。生物発光活性をインビボで定量化するために、マウスを、イソフルオラン(isofluorane)を使用して麻酔し、ルシフェリン基質(PerkinElmer)(167μg/kg)を腹腔内注射した。
【0113】
生物発光(Xenogen IVIS Spectrum)によって求められた腫瘍サイズを、第7日に評価した。個々の腫瘍測定値、及び各治療群についての平均値±SEMを算出した。統計的有意性は、対応のないノンパラメトリックなマン・ホイットニーのU検定によって決定した。
【0114】
実施例12−h5D8は卵巣癌のマウスモデルにおいて腫瘍増殖を阻害する
r5D8の有効性を、2つの他の同系移植腫瘍モデルにおいて評価した。卵巣同所移植腫瘍モデルID8では、300μg r5D8(週2回)のIP投与は、腹部体積によって測定された場合に、腫瘍増殖を有意に阻害した(
図8A及び8B)。
図8Cにおける結果は、h5D8はまた、200μg以上の用量でも腫瘍体積を低下させたことを示す。
【0115】
方法
ID8細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)(Gibco,Invitrogen)、40U/mLペニシリン及び40μg/mLストレプトマイシン(PenStrep)(Gibco,Invitrogen)、及び0.25μg/mLプラスモシン(Plasmocin)(Invivogen)を添加した、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Gibco,Invitrogen)中で培養した。
【0116】
ID8細胞を収集し、PBS中で洗浄し、400gで5分間遠心分離し、PBSに再懸濁した。最適な生存能を維持するために、細胞を氷上に維持し、200μLの細胞懸濁液を、27G針を用いて腹腔内に注射した。マウスに移植された最終細胞数は、5×10
6個であった。
【0117】
マウスは、指示された通りの異なる用量でip投与されるh5D8で週2回治療した。体重は、2回/週、測定し、腫瘍増悪は、ノギス(Fisher Scientific)を使用して腹囲を測定することによってモニタリングした。
【0118】
実施例13−r5D8は結腸直腸癌のマウスモデルにおいて腫瘍増殖を阻害する
皮下結腸CT26腫瘍を有するマウスでは、r5D8(週2回300μgをIP投与される)は、腫瘍増殖を有意に阻害した(
図9A及び9B)。
【0119】
方法
CT26細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)、40U/mLペニシリン及び40μg/mLストレプトマイシン(PenStrep)、及び0.25μg/mLプラスモシン(Plasmocin)を添加した、ロズウェルパーク記念研究所培地(Roswell Park Memorial Institute medium)(RPMI[Gibco,Invitrogen])中で培養した。
【0120】
CT26細胞(8×10
5)を、トリプシン処理し、PBSですすぎ、400gで5分間遠心分離し、100μL PBSに再懸濁した。細胞は、細胞死を回避するために氷上に維持した。CT26細胞を、27G針を使用する皮下注射を介して、マウスに投与した。
【0121】
300μg r5D8、又は賦形剤対照を、CT26細胞移植後、第3日から、週2回、腹腔内注射(IP)を介してマウスに投与した。
【0122】
体重及び腫瘍体積は、1週間に3回測定した。腫瘍体積は、ノギス(Fisher Scientific)を使用して測定した。
【0123】
実施例14−r5D8は腫瘍モデルにおいて炎症性浸潤を減少させる
U251 GBM同所移植モデルでは、CCL22、すなわちM2極性化マクロファージのマーカーの発現は、
図10Aに示した通り、r5D8で治療された腫瘍において有意に低下した。この所見はまた、r5D8を使用する、生理学的に関連する器官型組織片培養モデルにおいても確認され、ここでは、3つの患者試料は、
図10Bに示した通り、治療後に、CCL22及びCD206(MRC1)発現(同様にM2マクロファージのマーカー)の有意な低下を示した(MRC1とCCL22の両方について、上(対照)を下(治療)と比較されたい)。さらに、r5D8はまた、免疫適格性マウスにおける同系移植ID8(
図10C)及びCT26(
図10D)腫瘍において、CCL22
+M2マクロファージを減少させた。
【0124】
実施例15−r5D8は非骨髄性エフェクター細胞を増加させる
さらなる免疫機構を調べるために、腫瘍微小環境内でのT細胞及び他の非骨髄性免疫エフェクター細胞に対するr5D8の効果を評価した。卵巣同所移植ID8同系移植モデルでは、r5D8治療は、
図11Aに示した通り、腫瘍内NK細胞の増加及び全部の及び活性化されたCD4
+及びCD8
+T細胞の増加をもたらした。同様に、結腸同系移植CT26腫瘍モデルでは、r5D8は、
図11Bに示した通り、腫瘍内NK細胞を増加させ、CD4
+及びCD8
+T細胞を増加させ、また、CD4
+CD25
+FoxP3
+T−reg細胞を減少させる傾向があった。CD4
+CD25
+FoxP3
+T−reg細胞の減少の傾向はまた、
図11Cに示した通り、r5D8治療後の同系移植同所移植KLN205腫瘍モデルにおいても観察された。有効性を媒介するためのT細胞の必要性と一致して、CT26モデルにおけるCD4
+及びCD8
+T細胞の枯渇は、
図12に示した通り、r5D8の抗腫瘍有効性を阻害した。
【0125】
T細胞枯渇のための方法
CT26細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS[Gibco,Invitrogen])、40U/mLペニシリン及び40μg/mLストレプトマイシン(PenStrep[Gibco,Invitrogen])、及び0.25μg/mLプラスモシン(Plasmocin)を添加した、RPMI培養培地(Gibco,Invitrogen)中で培養した。CT26細胞(5×10
5)を、収集し、PBSですすぎ、400gで5分間遠心分離し、100μL PBSに再懸濁した。細胞は、細胞死を回避するために氷上に維持した。CT26細胞を、27Gシリンジを使用する皮下注射を介して、マウスの両側腹部に投与した。マウスは、研究デザインにおいて指示された通り、腹腔内投与されるr5D8で週2回治療した。賦形剤対照(PBS)、ラットr5D8、及び/又は抗CD4及び抗CD8を、研究デザインにおいて記述した通り、週2回、腹腔内注射(IP)を介してマウスに投与した。すべての抗体治療は、同時に施された。
【0126】
実施例16−ヒトLIFとの複合体におけるh5D8の結晶構造
h5D8の結晶構造を、h5D8が結合するLIF上のエピトープを決定する、また、結合に関与するh5D8の残基を決定するために、3.1オングストロームの分解能に対して解析した。共結晶構造から、LIFのN末端ループが、h5D8の軽鎖可変領域と重鎖可変領域との間の中心に位置することが明らかになった(
図13A)。さらに、h5D8は、LIFのヘリックスA及びC上の残基と相互作用し、それによって、不連続且つ立体構造的エピトープを形成する。結合は、いくつかの塩橋、H結合、及びファンデルワールス相互作用によって推進される(表7、
図13B)。LIFのh5D8エピトープは、gp130との相互作用の領域に及ぶ。Boulanger,M.J.,Bankovich,A.J.,Kortemme,T.,Baker,D.&Garcia,K.C. Convergent mechanisms for recognition of divergent cytokines by the shared signaling receptor gp130.Molecular cell 12,577−589(2003)を参照されたい。これらの結果を、下の表7にまとめて示し、また、
図13に表す。
【0127】
【表7】
【0128】
方法
LIFは、HEK 293S(Gnt I
−/−)細胞において一過性発現させ、Ni−NTA親和性クロマトグラフィー、それに続いてゲル濾過クロマトグラフィー(20mM Tris pH8.0及び150mM NaCl中)を使用して精製した。組換え型h5D8 Fabは、HEK 293F細胞において一過性発現させ、KappaSelectアフィニティクロマトグラフィー、それに続いて陽イオン交換クロマトグラフィーを使用して精製した。精製されたh5D8 FabとLIFを、1:2.5のモル比で混合し、室温で30分間インキュベートし、その後EndoHを使用して脱グリコシル化を行った。続いて、ゲル濾過クロマトグラフィーを使用して、複合体を精製した。この複合体を、20mg/mLに濃縮し、低密度マトリックススクリーン(tesparse matrix screen)を使用する結晶化試行のために準備した。19%(v/v)イソプロパノール、19%(w/v)PEG 4000、5%(v/v)グリセロール、0.095Mクエン酸ナトリウム(pH5.6)を含有する条件で、4℃で結晶を形成させた。この結晶を、Canadian Light Source(CLS)の08ID−1ビームラインで、3.1Åの分解能まで回折させた。データを収集し、Kabsch et al.Xds.Acta crystallographica.Section D,Biological crystallography 66,125−132(2010)の通りにXDSを使用して処理及びスケーリングした。構造は、McCoy et al.Phaser crystallographic software.J Appl Crystallogr 40,658−674(2007)の通りに、Phaserを使用して、分子置換によって決定した。構造が許容されるR
work及びR
freeに収束するまで、Coot及びphenix.refineを使用して、数回繰り返されるモデル構築及び精密化を実施した。Emsley et al.Features and development of Coot.Acta crystallographica.Section D,Biological crystallography 66,486−501(2010);及びAdams,et al.PHENIX:a comprehensive Python−based system for macromolecular structure solution.Acta crystallographica.Section D,Biological crystallography 66,213−221(2010)をそれぞれ参照されたい。図は、PyMOL(The PyMOL Molecular Graphics System,Version 2.0 Schroedinger,LLC)で作成した。
【0129】
実施例17−h5D8はLIFに対する高い特異性を有する
目的は、h5D8の他のLIFファミリーメンバーに対する結合を試験して、結合特異性を決定することであった。Octet96解析を使用すると、ヒトLIFに対するh5D8結合は、LIFと最も高い相同性のIL−6ファミリーメンバーオンコスタチンM(OSM)に対する結合よりもおよそ100倍強い(どちらのタンパク質も大腸菌(E.coli)において産生される場合)。どちらのタンパク質も哺乳類系において産生される場合、h5D8は、OSMに対する結合は呈しない。データを、表8にまとめて示す。
【0130】
【表8】
【0131】
方法
Octet結合実験:試薬は、製造者によって提供されたマニュアルの通りに使用及び調製した。基本の速度解析実験(Basic Kinetics Experiment)は、Octet Data Acquisitionソフトウェアver.9.0.0.26を次の通りに使用して実施した:センサー/プログラムの設定:i)平衡化(60秒);ii)負荷(15秒);iii)ベースライン(60秒);iv)結合(180秒);及びv)解離(600秒)。
【0132】
サイトカインに対するh5D8のOctet親和性:基本の速度解析実験(Basic Kinetics Experiment)は、Octet Data Acquisitionソフトウェアver.9.0.0.26を次の通りに使用して実施した:アミン反応性第2世代バイオセンサー(Amine Reactive 2ndGeneration Biosensors)(AR2G)を水中で最低15分間含水させた。バイオセンサーに対するh5D8のアミン結合を、アミンカップリング第2世代キット(Amine Coupling Second Generation Kit)を使用して、ForteBio Technical Note 26(参考文献を参照されたい)に従って実施した。浸漬ステップは、30℃、1000rpmで、次の通りに実施した:i)水中での60秒の平衡化;ii)20mM ECD、10mMスルホ−NHS(水中)中での300秒の活性化;iii)10mM酢酸ナトリウム(pH6.0)中での10μg/ml h5D8の600秒の固定化;iv)1Mエタノールアミン(pH8.5)中での300秒の反応停止(Quench);v)水中での120秒のベースライン。次いで、30℃、1000rpmでの次の浸漬及び読み取りステップを伴う速度解析実験を実施した:vi)1X速度解析緩衝液中での60秒のベースライン;vii)サイトカインの1X速度解析緩衝液中での適切な段階希釈物の180秒の結合;viii)1X速度解析緩衝液中での300秒の解離;ix)それぞれ10mMグリシン(pH2.0)と1X速度解析緩衝液とを交代させる3回の再生/中和サイクル(3回のサイクルについてそれぞれ5秒)。再生後、バイオセンサーを、その後の結合分析のために再利用した。
【0133】
哺乳類細胞から産生されるヒト組換え型LIFは、ACROBiosystems(LIF−H521b)によるものであった;哺乳類細胞において産生されるヒト組換え型OSMは、R&D(8475−OM/CF)によるものであった;大腸菌(E.coli)細胞において産生されるヒト組換え型OSMは、R&D(295−OM−050/CF)によるものであった。
【0134】
実施例18−h5D8 fabの結晶構造
広範囲の化学的条件下でのh5D8 Fabの5つの結晶構造を決定した。これらの構造の高い分解能は、CDR残基の立体構造が、わずかな自由度しか伴っておらず、異なる化学環境でも高度に類似であることを示す。この抗体の固有の特徴は、可変重鎖領域の第100位における非カノニカルなシステインの存在である。構造分析により、システインが不対であり、溶媒に大いに近づきにくいことが示される。
【0135】
H5D8 Fabは、そのIgGのパパイン消化、それに続く、標準のアフィニティ、イオン交換、及びクロマトグラフィー技術を使用する精製によって得た。結晶は、蒸気拡散法を使用して得、分解能が1.65Å〜2.0Åの範囲である5つの結晶構造を決定することが可能になった。5つの異なるpHレベル:5.6、6.0、6.5、7.5、及び8.5にわたる範囲である結晶化条件にもかかわらず、すべての構造が、同じ結晶学的空間群内で、且つ類似の単位格子寸法を伴って(P212121、a 約53.8Å、b 約66.5Å、c 約143.3Å)解析された。したがって、これらの結晶構造は、人工産物を詰め込んだ結晶によって邪魔されない、また、広範囲の化学的条件にわたる、h5D8 Fabの三次元配置の比較が可能である。
【0136】
すべての相補性決定領域(CDR)残基について、電子密度を観察し、続いて、これをモデル化した。注目すべきことに、LCDR1及びHCDR2は、細長い立体構造をとり、これは、浅いLCDR3及びHCDR3領域と共に、パラトープの中心の結合溝を形成していた(
図14A)。5つの構造は、すべての残基にわたって高度に類似であり、すべての原子の平均二乗偏差は、0.197Å〜0.327Åの範囲である(
図14A)。これらの結果は、CDR残基の立体構造が、5.6〜8.5の範囲であるpHレベル及び150mM〜1Mの範囲であるイオン強度を含めた様々な化学環境において維持されることを示した。h5D8パラトープの静電表面の分析から、正及び負に帯電した領域が、親水特性に等しく寄与し、広く行きわたる疎水性パッチは存在しないことが明らかになった。h5D8は、HCDR3の基部に(Cys100)、非カノニカルなシステインというあまり見られない特徴を有する。5つすべての構造において、この遊離のシステインが配列され、ジスルフィドスクランブルをまったく形成しない。さらに、これは、Cys(システイン付加(cysteinylation))又はグルタチオン(グルタチオン付加(glutathiolation))の付加によって改変されず、重鎖のLeu4、Phe27、Trp33、Met34、Glu102、及びLeu105の主鎖及び側鎖原子と共にファンデルワールス相互作用(3.5〜4.3Å距離)を生じる(
図14B)。最後に、Cys100は、CDR1及びHCDR3の立体構造を媒介するのに関与するように見える圧倒的に埋没した構造の残基である。したがって、本発明者らの5つの結晶構造におけるこの領域の均一な配置によって観察される場合に、他のシステインとの反応性を有する可能性が低い。
【0137】
方法
H5D8−1 IgGは、Catalent Biologicsから入手し、25mMヒスチジン、6%スクロース、0.01%ポリソルベート80中でpH6.0で調製した。調製されたIgGを、10K MWCO濃縮器(Millipore)を使用して、大規模にPBSに緩衝液交換し、その後、37℃で1時間、1:100マイクログラムのパパイン(Sigma)(PBS、1.25mM EDTA、10mMシステイン中)を用いて消化を行った。パパインで消化されたIgGを、AKTA Startクロマトグラフィーシステム(GE Healthcare)を使用して、プロテインAカラム(GE Healthcare)に流した。h5D8 Fabを含有するプロテインA素通り画分を回収し、10K MWCO濃縮器(Millipore)を使用して、20mM 酢酸ナトリウム(pH5.6)に緩衝液交換した。得られた試料を、AKTA Pureクロマトグラフィーシステム(GE Healthcare)を使用して、Mono S陽イオン交換カラム(GE Healthcare)に負荷した。1M塩化カリウムのグラジエントを用いる溶離は、顕著なh5D8 Fabピークをもたらし、これを回収し、濃縮し、20mM Tris−HCl、150mM塩化ナトリウム中で、pH8.0で、Superdex 200 Increaseゲル濾過カラム(GE Healthcare)を使用して精製して、大きさを均一にした。還元及び非還元条件下でのSDS−PAGEによって、高純度のh5D8 Fabが確認された。
【0138】
精製されたh5D8 Fabを、10K MWCO濃縮器(Millipore)を使用して25mg/mLに濃縮した。Oryx 4ディスペンサー(Douglas Instruments)を使用して、20℃で低密度マトリックス96−コンディションズ(conditions)市販のスクリーンJCSG TOP96(Rigaku Reagents)及びMCSG−1(Anatrace)を用いる蒸気拡散結晶化実験の準備をした。次の5つの結晶化条件:1)0.085Mクエン酸ナトリウム、25.5%(w/v)PEG 4000、0.17M酢酸アンモニウム、15%(v/v)グリセロール(pH5.6);2)0.1M MES、20%(w/v)PEG 6000、1M塩化リチウム(pH6.0);3)0.1M MES、20%(w/v)PEG 4000、0.6M塩化ナトリウム(pH6.5);4)0.085M HEPESナトリウム、17%(w/v)PEG 4000、8.5%(v/v)2−プロパノール、15%(v/v)グリセロール(pH7.5);及び5)0.08M Tris、24%(w/v)PEG 4000、0.16M塩化マグネシウム、20%(v/v)グリセロール(pH8.5)において、4日後に結晶を得、収集した。液体窒素中で瞬間凍結させる前、結晶を含有する母液を、必要に応じて5〜15%(v/v)グリセロール又は10%(v/v)エチレングリコールと共に添加した。結晶に、先端放射光施設(Advanced Photon Source)でのX線シンクロトロン放射、ビームライン23−ID−D(Chicago,IL)を施し、回折パターンを、Pilatus3 6M検出器で記録した。XDSを使用してデータを処理し、Phaserを使用して分子置換によって構造を決定した。Cootでのモデル構築と共に、PHENIXでの精密化を実施した。図は、PyMOLで作成した。すべてのソフトウェアは、SBGridを通してアクセスした。
【0139】
実施例19−h5D8のシステイン100での変異は結合を維持する
h5D8の分析から、重鎖の可変領域における第100位での遊離のシステイン残基(C100)が明らかになった。ヒト及びマウスLIFに対する結合及び親和性を特徴付けるために、C100をそれぞれ天然に存在するアミノ酸と置換することによって、H5D8バリアントを作製した。ELISA及びOctetアッセイを使用して、結合を特徴付けた。結果を表9にまとめて示す。ELISA EC50曲線は、
図15に示す(
図15A ヒトLIF及び
図15B マウスLIF)。
【0140】
【表9】
【0141】
方法
ELISA:ヒト及びマウスLIFに対するh5D8 C100バリアントの結合を、ELISAによって決定した。組換え型ヒト又はマウスLIFタンパク質を、1μg/mLで、4℃で一晩、Maxisorp 384ウェルプレート上にコーティングした。プレートを、室温で2時間、1×ブロッキング緩衝液でブロッキングした。各h5D8 C100バリアントの段階希釈物(titration)を添加し、室温で1時間結合させた。プレートを、PBS+0.05% Tween−20で3回洗浄した。HRP結合抗ヒトIgGを添加し、室温で30分間結合させた。プレートを、PBS+0.05% Tween−20で3回洗浄し、1×TMB基質を使用して顕色させた。1M HClを用いて反応を停止させ、450nmでの吸収を測定した。図の作成及び非線形回帰分析は、Graphpad Prismを使用して実施した。
【0142】
Octet RED96:ヒト及びマウスLIFに対するh5D8 C100バリアントの親和性を、Octet RED96システムを使用して、BLIによって決定した。h5D8 C100バリアントを、1×速度解析緩衝液中での30秒のベースライン後に、7.5μg/mLで、抗ヒトFcバイオセンサーに負荷した。ヒト又はマウスLIFタンパク質の段階希釈物(titration)を、90秒間、負荷されたバイオセンサーに結合させ、300秒間、1×速度解析緩衝液中で解離させた。KDは、1:1グローバルフィットモデルを使用して、データ分析ソフトウェアによって算出した。
【0143】
実施例20−h5D8はLIFのgp130への結合をインビトロで阻止する
h5D8が、LIFがLIFRと結合するのを妨げるかどうかを決定するために、Octet RED 96 プラットフォームを使用する分子結合アッセイを実施した。H5D8を、抗ヒトFc捕捉によってAHCバイオセンサーに負荷した。次いで、バイオセンサーをLIFに浸漬させ、予想通り、結合が観察された(
図16A、3分割の中央)。続いて、バイオセンサーを、異なる濃度のLIFRに浸漬させた。用量依存性の結合が観察された(
図16A、3分割の右側)。対照実験は、この結合がLIF特異的であり(図示していない)、LIFRとh5D8との、又はバイオセンサーとの非特異的な相互作用に起因しないことを実証した。
【0144】
h5D8とLIFとの結合をさらに特徴付けるために、一連のELISA結合実験を行った。H5D8とLIFをプレインキュベートし、次いで、組換え型ヒトLIFR(hLIFR)又はgp130でコーティングしたプレートに導入した。h5D8/LIF複合体とコーティング基質との間の結合の欠如は、h5D8が、LIFの受容体への結合を何らかの方法で妨害したことを示すであろう。さらに、LIFと結合しない対照抗体((−)で示されるアイソタイプ対照)、又は知られている結合部位でLIFと結合する対照抗体(B09は、LIF結合について、gp130ともLIFRとも競合しない;r5D8は、h5D8のラット親型である)も使用した。ELISA結果は、h5D8/LIF複合体が、hLIFRと結合することが可能である(r5D8/LIF複合体もそうである)ことを実証し、これらの抗体がLIF/LIFR結合を妨げないことが示された(
図16A)。対照的に、h5D8/LIF複合体(及びr5D8/LIF複合体)は、組換え型ヒトgp130と結合することが可能ではなかった(
図16B)。これは、LIFがh5D8に結合した場合に、LIFのgp130結合部位が影響を受けたことを示す。
【0145】
実施例21−ヒト組織におけるLIF及びLIFR発現
LIF及びLIFRの発現レベルを決定するために、多くの異なる種類のヒト組織に対して、定量的リアルタイムPCRを実施した。
図17A及び17Bに示した平均発現レベルは、100ngの全RNAあたりのコピー数として示される。ほとんどの組織は、100ngの全RNAあたり少なくとも100コピーを発現した。LIF mRNA発現は、ヒト脂肪組織(腸間膜−回腸[1])、血液−血管組織(脈絡膜−神経叢[6]及び腸間膜[8])、及び臍帯[68]組織において最も高く、脳組織(皮質[20]及び黒質[28])において最も低かった。LIFR mRNA発現は、ヒト脂肪組織(腸間膜−回腸[1])、血管組織(肺[9])、脳組織[11−28]、及び甲状腺[66]組織において最も高く、PBMC[31]において最も低かった。カニクイザル組織におけるLIF及びLIFR mRNA発現レベルは、ヒト組織において観察されるものと同様であり、ここでは、LIF発現は、脂肪組織において高く、また、LIFR発現は、脂肪組織において高く、PBMCにおいて低かった(データは示していない)。
【0146】
図17A及び
図17Bについての組織番号付けは、以下である:1−脂肪(腸間膜−回腸);2−副腎;3−膀胱;4−膀胱(三角部);5−血液−血管(大脳:中大脳−動脈);6−血管(脈絡膜−神経叢);7−血管(冠動脈);8−血管(腸間膜(結腸));9−血管(肺);10−血管(腎臓);11−脳(扁桃体);12−脳(尾状核);13−脳(小脳);14 脳−(皮質:帯状皮質−前);15−脳(皮質:帯状皮質−後);16−脳(皮質:前頭皮質−外側部);17−脳(皮質:前頭皮質−内側部);18−脳(皮質:後頭);19−脳(皮質:頭頂葉);20−脳(皮質:側頭);21−脳(背側縫線核);22−脳(海馬);23−脳(視床下部:前部);24−脳(視床下部:後部);25−脳(青斑核);26−脳(延髄);27−脳(側坐核);28−脳(黒質);29−乳房;30−盲腸;31−末梢血単核球(PBMC);32−結腸;33−後根神経節(DRG);34−十二指腸;35−ファロピウス管;36−胆嚢;37−心臓(左心房);38−心臓(左心室);39−回腸;40−空腸;41−腎臓(皮質);42−腎臓(髄質);43−腎臓(骨盤);44−肝臓(実質);45−肝臓(気管支:主);46−肝臓(気管支:3次);47−肺(実質);48−リンパ腺(扁桃);49−筋肉(骨格筋);50−食道;51−卵巣;52−膵臓;53−松果体;54−脳下垂体;55−胎盤;56−前立腺;57−直腸;58−皮膚(包皮);69−脊髄;60−脾臓(実質);61−胃(前庭部);62−胃(体部);63−胃(底部);64−胃(幽門管);65−精巣;66−甲状腺;67−気管;68−臍帯;69−尿管;70−子宮(頸部);71−子宮(筋層);及び72−精管。
【0147】
実施例22−用量選択、用量増大、及び一定投薬
抗LIF抗体の用量選択、用量増大、及び一定投薬を、以下に記載する。h5D8の安全性評価については、マウス及びカニクイザルを使用した。
【0148】
100mg/kgまでのIV投薬を毎週受けたマウス及びサルにおける4週のGLP毒性研究において、非治療関連有害作用が認められた。したがって、重篤な毒性が発現しない最大用量(highest non−severely toxic dose)(HNSTD)は、>100mg/kgであり、無毒性量(NOAEL)は、この研究の条件下で、どちらの種においても100mg/kg(IV)として確立された。投薬量をスケール調節して、ヒト等価用量(HED)を確立した。HEDの推定については、体表面積(BSA)に基づくスケール調節手法を採用した。これらのGLP毒性研究に基づくと、推奨される最大開始用量(maximum recommended starting dose)(MRSD)は、以下に示した通りに推定された:
・マウスNOAELからの10倍の安全係数を用いた0.81mg/kg(IV)HED
・マウスにおける重篤な毒性が発現する用量(severely toxic dose)の1/10に基づいた>10mg/kg(IV)
・カニクイザルNOAELからの10倍の安全係数を用いた3.2mg/kg(IV)HED
・HNSTDの1/6に基づいた>16.7mg/kg(IV)
毒性研究に基づき、また、第1相研究における進行癌患者集団について保守的な手法を取り、1mg/kg(又は75mg一定用量)(IV)のMRSDを、データによって裏付けた。
【0149】
MRSDの設定においては、薬理学的作用量(pharmacologically active dose)(PAD)も考慮されている。今日までに利用可能なマウス薬理学モデルにおける薬理学、PK、及びLIF安定化データに基づいて、次の手法を使用して、PADを推定した。U251マウス異種移植モデルにおける用量反応に基づくと、最適な有効用量は、約300μg(IP 週2回)であると考えられ;この用量レベルは、約230μg/mLの最終投与の前のトラフ血清レベルと関連していた。血清LIFレベルの最大の安定化が、このモデルにおけるこの300μg用量で得られるという証拠が存在しており、これはまた、10、30、及び100mg/kgの用量でのマウスGLP毒性研究における血清LIF安定化データによって裏付けられた。サルPKデータに適合させ、ヒトのためにスケール調節した2−コンパートメントモデルに基づくPKモデルを使用すると、3週ごとの1500mgの臨床用量は、約500μg/mLのC
トラフを提供するであろう。同様に、このU251マウス異種移植モデルにおける20μg(週2回)の最小有効量は、約20μg/mLの最終投与の前のトラフ血清レベルと関連していた;マウスPK−忍容性研究における0.5mg/kg(IV)の用量での最小LIF安定化の証拠によって裏付けられる、最大血清LIF安定化のわずか約50%が、この20μg用量で得られるという証拠が存在していた。3週ごとの75mgの臨床用量は、約25μg/mLのC
トラフを提供するであろう。マウス同系移植モデルから入手できる追加のPK−PD(LIF安定化)データによって、U251マウス異種移植モデルから得られるPADが裏付けられた。
【0150】
したがって、75mg(i.v.)の開始用量は、マウス及びサルにおける毒性データとマウス異種移植モデルにおける最小有効用量との両方に基づいて、適切であると考えられた。1500から2000mgの最大臨床用量は、毒性データによって裏付けられた。試験物関連の有害所見がないことと併せて、動物モデルにおける線形PKの知見に基づくと、一定投薬手法が適切であった。
【0151】
実施例23−異なる癌におけるLIF発現
癌型とは関係なくLIFレベルに基づいて治療を設定することは、異なる癌型におけるLIF発現の不均一性が存在する場合にふさわしい方法であろう。
図18は、ある種の癌が、このように、より高頻度の高LIF mRNAレベルを有することを示す。比較的高頻度の低LIF発現を有する癌であっても、抗LIF治療から恩恵を受けるであろう個人の亜集団を有する。
【0152】
方法
22種の適応症にわたる7,769本の試料に対するRNAシークエンシングデータは、The Cancer Genome Atlasリポジトリから入手した。LIF転写物発現を、すべての試料にわたって算出されたLIF発現の上、中の上、中の下、及び下の4分割に基づいて、高、中−高、中−低、及び低に閾値設定した。
【0153】
実施例24−LIF発現は異なる癌においてT制御性ケモカインと相関する
以前に記述した通り、LIF阻害は、マウス及びヒトエクスビボモデル(
図10A〜10D)における免疫抑制性マクロファージ集団(例えば、M2マクロファージ)を減少させる、及びNSCLCのマウスモデル(
図11C)における制御性CD4+T細胞、及び浸潤を減少させる効果を有する。したがって、骨髄細胞又はM2マクロファージによって分泌されるLIFとT制御性ケモカインの両方が高レベルである癌は、抗LIF治療に反応する可能性が高い個人の亜集団を定義することができる。制御性T細胞は、免疫抑制性CD4+細胞であり、M2マクロファージは、炎症促進性環境を支えるM1マクロファージとは対照的に、組織における抗炎症性の免疫抑制性環境を支えるマクロファージである。
図19Aから19Dは、LIF mRNAと、様々なT制御性ケモカインCCL7(
図19A)、CCL2(
図19B)、CCL3(
図19A)、及びCCL22(
図19A)のmRNAとの発現の相関を示す。同様に、
図20Aは、LIF mRNAと、M2マクロファージ特性を定義するmRNAとの発現の相関を示す。これらは、LIF発現を有する個人(低又は中−低のLIFを有する個人であっても)の集団を、(例えば、M2マーカーの発現、T制御性ケモカイン、又は制御性T細胞に基づいて)免疫抑制特性が存在する場合に抗LIF治療用抗体に対する潜在的な反応者として分けるための根拠を提供する。
【0154】
ヒトGBMと卵巣癌(
図20B)との両方のTCGAデータセットの解析において、LIFと、CCL2、CD163、及びCD206との間に、有意に正の相関が見られた。LIFとCXCL9との間に相関は認められなかった(データは示していない)が、腫瘍すべてにわたって比較的に低いレベルのCXCL9 mRNAが認められた。これらの結果は、20人のGBM患者のコホートを分析し、腫瘍のLIF、CXCL9、CCL2、CD163、及びCD206 IHCを実施することによって、タンパク質レベルで実証された。LIFと、CCL2、CD163、及びCD206との間に、強い正の相関が認められた(
図20C)。CXCL9は、細胞の孤立クラスター(isolated cluster)において発現され、これは、腫瘍に存在する低レベルのCXCL9 mRNAを説明している。特に、CXCL9は、ヒトGBMにおいてLIFとの逆相関を示した(
図20C)。
【0155】
CXCL9及びCCL2は、CD8
+T細胞腫瘍浸潤、及びそれぞれTAMとTregの動員にとって重要なケモカインとして際立っていた。TAM(CD11b
+Ly6G
−Ly6C
−)におけるLIFの中和によるCXCL9及びCCL2調節が確認された(
図20D)。TAMの免疫染色及び単離により、CXCL9、CCL2、CD206、及びCD163が、主としてTAM中で発現され(
図20E)、抗LIF(h5D8)での治療が、その発現を調節することが示された(
図20D、20E)。CXCR3(CXCL9受容体)、CCR2(CCL2受容体)、及びLIFRは、TAM及びCD8
+T細胞において発現された(
図20F)。
【0156】
CXCL9及びCCL2ノックアウト(CXCL9
−/−、CCL2
−/−)マウスモデルを使用して、LIF発癌作用におけるCXCL9及びCCL2の調節の関連性について試験した。これらのマウスモデルにおける腫瘍を、CXCL9及びCCL2に対するブロッキング抗体で治療した。興味深いことに、LIFの阻害に対する抗腫瘍反応は、CXCL9
−/−マウスでは弱められたが、CCL2
−/−マウスでは弱められなかった(
図20G)。同様に、CXCL9中和抗体は、抗LIF(h5D8)に対する抗癌反応を減じたが、CCL2抗体は減じなかった(
図20G)。これらの結果は、抗LIF(h5D8)反応の主要メディエータが、CXCL9であることを示した。予想通り、CXCL9の遮断は、抗LIF(h5D8)に反応するCD8
+T細胞腫瘍浸潤を低下させた(
図20H)。
【0157】
LIFが、実際の癌患者からの腫瘍において、CXCL9の抑制を通じて免疫細胞腫瘍浸潤を調節することを確認するために、患者から新たに得られたGBM検体から、器官型組織培養物を産生した。これらの器官型モデルは、患者の腫瘍の組織構造及び間質(免疫細胞が含まれる)を維持する、腫瘍の切片の短期培養を可能にする。その腫瘍細胞が高レベルのLIFを発現した3人の患者からの器官型組織培養物(
図20I)。3つすべての培養物において、Iba1マーカーによって検出される場合のTAMの大きな浸潤が存在しており、TAMの大部分は、CCL2、CD163、及びCD206を発現した。興味深いことに、LIFに対する中和抗体での、器官型培養物の3日の治療は、CCL2、CD163、及びCD206の減少、及びCXCL9発現の増大を促進した(
図20I)。
【0158】
抗LIF(h5D8)で治療されたヒトマクロファージにおける上記の観察と同様に、抗LIF(h5D8)治療を観察して、CT26腫瘍におけるM2マーカーCD206及びCD163の下方調節を誘発した(
図20J)。対照的に、抗LIF(h5D8)治療は、CXCL9、CXCL10、及びPD−L1を含めた免疫刺激M1マーカーの発現の増大を誘発した(
図20J)。これらの知見を、抗LIF(h5D8)治療されたMC38腫瘍におけるTAM表現型も検討することによって、さらに拡張した。治療された腫瘍が、総骨髄又はTAM集団の全頻度の違いを示さないことが観察されたが、抗LIF(h5D8)治療は、MHCIIを発現するTAMの割合と、MHCIIの全発現レベルとの両方の増大を誘発した(
図20K)。MC38 TAMが、CD206、すなわち、CT26モデルにおけるM2マクロファージの表現型を決定するために使用される重要なマーカーを発現しなかったので、CT26及びMC38モデルを通したM1/M2歪度(skewing)の並行比較は可能ではなかった。まとめると、これらのデータは、2つの独立した前臨床腫瘍モデルにおいて、抗LIF治療が腫瘍増殖を阻害することを実証する。この分析は、抗LIF治療が、TAM表現型に影響を与えるが、TAMの全体数又は総骨髄細胞には影響を与えないことを実証し、この観察される有効性は、おそらく、ある程度、抗腫瘍免疫性へ向かうTAMのリプログラミングを通じて生じることが示唆される。
【0159】
方法
RNAシークエンシングデータは、The Cancer Genome Atlasリポジトリから入手した。LIF発現と、種々の制御性T細胞ケモカイン(CCL7、CCL2、CCL3、及びCCL22)との間の関連は、膀胱、脳、乳房、結腸、頭頸部、腎臓、肺、黒色腫、卵巣、膵臓、前立腺、及び子宮癌試料について、ピアソン相関に基づいて算出した。LIF発現と、M2マクロファージとなる転写特性との間の関連は、膀胱、脳、乳房、結腸、頭頸部、腎臓、肺、黒色腫、卵巣、膵臓、前立腺、及び子宮癌試料について、ピアソン相関に基づいて算出した。
【0160】
mRNA抽出(RNeasy Mini又はMicro Kit、Qiagen)、逆転写(retrotranscription)(iScript Reverse Supermix、BioRadから、mRNA用)のために細胞を溶解し、製造者の推奨に従ってApplied BiosystemsからのTaqmanプローブを使用してqRT−PCRを実施した。パラフィン包埋切片に対して、High Pure FFPET RNA単離キット(Roche)を使用し、且つ製造者の指示書に従ってRNAを得た。反応は、CFX384 TouchTMリアルタイムPCR Detection System(Bio−Rad)で実施し、結果は、対照試料に対してCt法によって算出された変化(倍)として表した。マウス又はヒトのACTB又はGAPDHを、内部規準化(internal normalization)対照として使用した。
【0161】
RNAを、Mouse Gene 2.1 STを用いるAffymetrixマイクロアレイプラットフォーム上で分析にかけた。次に、これを、Robust−Microarray Average(RMA)に基づいて正規化した。limma Bioconductorパッケージを使用して、対応のあるデータを考慮するベイズ線形回帰を介して、抗LIF治療マウスにおいて特異的に発現される遺伝子を特定した。
【0162】
マウス実験では、核をDAPIで対比染色し、共焦点レーザー走査型NIKON Eclipse Ti顕微鏡を使用して画像を取り込んだ。ImageJを用いて免疫蛍光の定量化を実施し、各マウス(3〜5匹/群)の2つ〜3つの異なる範囲のCD11b、Iba1、又はCD3について陽性のすべて又は最大100個の細胞をカウントし、Iba1(GL261Nモデルについて)又はCD68/CD11b(ID8モデルについて)陽性の集団の中のCCL2、CD206、及びCD163について陽性の細胞のパーセンテージを算出した。CXCL9については、全細胞集団の中の、このサイトカインのシグナルによって囲まれた細胞のパーセンテージを算出した。器官型切片については、各患者(n=3)の3つ〜4つの範囲を定量化した。器官型組織免疫蛍光のために、条件あたり5つの異なるZスタック画像をFiji−Image Jソフトウェアで処理した。CD8+T細胞については、全集団の中でCD8+T細胞のパーセンテージを算出した。グラフ内のデータは、平均値±SEMとして表す。
【0163】
免疫蛍光抗体:ヒト/マウス CCL2(Novus Biologicals、1:200)、ヒト/マウス CD11b(AbCam;1:2000)、ヒト/マウス Iba1(Wako;1:1000)、マウス CD68(AbCam;1:200)、ヒト/マウス CD206(Abcam;1:500)、マウス CD163(Abcam;1:200)、CXCL9(マウス Novus Biologicals 1:200;ヒト Thermo Fischer Scientific;1:200)、及びヒト CD8(DAKO;1:200)。
【0164】
ヒトGBM検体は、Vall d’Hebron University Hospital and Clinic Hospitalから入手した。臨床プロトコルは、Vall d’Hebron Institutional Review Board and Clinic Hospital(CEIC)によって承認され、すべての対象からインフォームドコンセントを得た。
【0165】
GBM器官型切片培養物は、次の通りに産生した。切除後、摘出検体をメスで長さ5〜10mm、幅1〜2mmの四角形のブロックに切断し、6ウェルプレート内の0.4μm膜カルチャーインサート(Millipore)にそれぞれ移した。インサートを6ウェルプレートに入れる前に、各ウェルに、B27(Life Technologies)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies)、及び増殖因子(20ng/ml EGF及び20ng/ml FGF−2)(PeproTech)を添加した1.2mlのNeurobasal培地(Life Technologies)を入れた。培養物は、一定湿度、95%空気及び5% CO
2と共に、37℃に維持した。1日後、切片を、ラット抗マウス/ヒトLIFブロッキング抗体(h5D8)(抗LIFと称される)(社内で開発されたもの)で、又はその対応する正常IgG(10μg/ml)で、3日間処理した。ブロッキングCXCL9研究については、ヒトCXCL9に対する中和するマウスモノクローナル抗体(R&D Systems)を、1.5μg/mlで、培養物に添加した。ある種の場合には、0.1ng/mlのヒトrIFNγ(R&D Systems)を、24時間添加した。並行して、同じ患者の全血から、Lymphosep(Biowest)を使用して、密度勾配遠心分離(centrifuge density separation)によって、末梢血単核球(PBMC)を得た。PBMCは、10%非働化済みFBS及び10% DMSOを添加したRPMI培地中で、使用まで凍結保存した。免疫細胞浸潤アッセイのために、対照又は抗LIF切片を、Matrigel(Corning)に包埋し、続いて、1×106PBMCを、24ウェルプレートの完全RPMI培地に添加した。さらに、上清を収集し、器官型切片をMatrigelから回収し、IF及びフローサイトメトリーのためにさらに処理した。ある種の条件では、PBMCを10
6細胞/mlの濃度でPBSで再懸濁し、5μM Cell Trace CFSE(Invitrogen)と共に20分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を、RPMIで洗浄し、Matrigelに包埋された切片に加えた。24時間後、Matrigelへの蛍光PBMC侵入を、各条件につき5つの異なる領域内の、移動している細胞を計数することによって、顕微鏡下で評価した。
【0166】
スライドを、脱パラフィン処理し、水和させた。抗原賦活化を、pH6又はpH9 Citrate Antigen Retrieval Solution(DAKO)、10分の10%ペルオキシダーゼ(H2O2)、及びブロッキング溶液(2% BSA)を室温で1時間使用して実施した。検出システムとして、EnVision FLEX+(DAKO)を、製造者の指示書に従って使用し、それに続いてヘマトキシリンでの対比染色、脱水、及びマウンティング(DPX)を行った。患者からのGBM腫瘍におけるLIF、CCL2、CD163、CD206、及びCXCL9染色の定量化は、0から300の範囲を与えるHスコア(3×強い染色のパーセンテージ+2×中程度の染色のパーセンテージ+弱い染色のパーセンテージ)として表した。p−STAT3、Ki67、CC3、及びCD8の定量化は、ImageJを用いて実施し、マウス(5匹/群)あたり3つの異なる範囲の総細胞数をカウントし、陽性細胞のパーセンテージを算出した。グラフ内のデータは、平均値±SEMとして表す。
【0167】
免疫組織化学的抗体:ヒト LIF(Atlas;1:200)、マウス LIF(AbCam;1:200)、マウス p−STAT3(Cell Signaling;1:50)、マウス Ki67(AbCam;1:200)、マウス Cleaved−Caspase3(CC3)(Cell Signaling;1:500)、マウス CD8(Bioss;1:200)、ヒト/マウス CCL2(Novus Biologicals、1:200)、ヒト CXCL9(Thermo Fischer Scientific;1:100)、及びヒト CD163(Leica Novacastra;1:200)。
【0168】
実施例25−LIFはII型(M2)マクロファージ極性化を誘発する
二重の(dual)LIF−免疫抑制特性層別化は、潜在的に、抗LIF治療薬治療に特に反応しやすい個人を特定するための頑強な方式である。これについてのさらなる証拠を、
図21A及び21B、22、並びに23に示す。
図21A及び21Bは、ヒト初代マクロファージが、単球を50ng/ml M−CSFと共に7日間培養した後に、LIF受容体を上方調節することを示す。3人の異なる個人からの細胞が示される。
図22及び23は、初代ヒトマクロファージが、LIFを伴う72時間の培養後に、マクロファージ表面マーカーCD206及びCD163(
図22)、並びにCCL22の分泌(
図23)を上方調節することをさらに示す。興味深いことに、CCL22分泌は、M2極性化マクロファージにおけるものよりもはるかに頑強である(
図23、右下)。このデータは、LIF発現と、免疫抑制特性の存在との間の機構的関連を提供し、患者治療を選択するための二重のLIF−免疫抑制特性が、すべての癌型に、またすべての組織に適用できることが示される。
【0169】
方法
マクロファージは、10%熱失活FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、及び50ng/ml M−CSFと共に、RPMI−1640培地中で7日間培養することによって、CD14+末梢ヒト単球から分化させた。いくつかの実験では、これに続いて、20nM LIF、又はPBS(対照について)、又は100ng/ml LPS及び25ng/ml IFNγ(M1極性化について)、又は各20ng/mlのIL−4、IL−10、及びTGFβ(M2極性化について)が添加された同じ培地中で、示されたさらなる時間、培養を行った。
【0170】
実施例26−異なる癌からの骨髄細胞上でのLIF受容体発現
腫瘍増殖及び癌の生存にとって重要なものとしての二重のLIF−免疫抑制特性の見通しのための追加の裏付けは、ヒト腫瘍関連マクロファージが、実際、LIF受容体を確かに発現することである。
図24及び25は、卵巣癌及び肺癌の、4個のうちの3個の解離された腫瘍細胞から単離されたマクロファージが、LIF受容体を発現することを示す(
図24)。さらに、LIF受容体は、腫瘍関連骨髄由来抑制細胞、単球系の骨髄由来抑制細胞(M−MDSC)と腫瘍多形核細胞系の骨髄由来抑制細胞(PMN−MDSC)の両方の細胞表面上に発現される(
図25)。
【0171】
本発明の好ましい実施形態を、本明細書に提示及び記載してきたが、こうした実施形態が、ほんの一例として提供されるに過ぎないことが、当業者には明らかであろう。本発明から逸脱しない多数の変更、改変、及び置換が、当業者には直ちに思い浮かぶであろう。本明細書に記載される本発明の実施形態に対する種々の代替物を、本発明を実施する際に用いることができることが理解されよう。
【0172】
本明細書において言及したすべての刊行物、特許出願、発行された特許、及び又は文書は、それぞれ個々の刊行物、特許出願、発行された特許、及び他の文書が、あたかも具体的且つ個々にその全体を参照によって組み込まれることが示されるがごとく、参照により本明細書に組み込む。参照によって組み込まれる本文に含有される定義は、それらがこの開示における定義と矛盾する限りは除外される。
【0173】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語は、本発明が属する分野の技術者当分野の技術者によって共通に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈によってそうではないと明確に指示されない限り、複数の指示物が含まれる。本明細書での「又は」に対するあらゆる言及は、他に規定されない限り、「及び/又は」を包含することが意図される。
【0174】
本明細書で使用する場合、他に示されない限り、用語「約」は、少なくとも10%の差の、規定した量に近い量を指す。
【0175】
【表10】
【0176】
【表11】
【0177】
【表12】
【0178】
【表13】