特表2021-529232(P2021-529232A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-529232デンプン系の接着剤の粘性及びゲル化温度を制御するためのミクロフィブリル化セルロース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-529232(P2021-529232A)
(43)【公表日】2021年10月28日
(54)【発明の名称】デンプン系の接着剤の粘性及びゲル化温度を制御するためのミクロフィブリル化セルロース
(51)【国際特許分類】
   C09J 103/04 20060101AFI20211001BHJP
   C09J 101/00 20060101ALI20211001BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20211001BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20211001BHJP
【FI】
   C09J103/04
   C09J101/00
   C09J7/30
   C08B15/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2020-571803(P2020-571803)
(86)(22)【出願日】2019年7月5日
(85)【翻訳文提出日】2021年2月3日
(86)【国際出願番号】EP2019068074
(87)【国際公開番号】WO2020008023
(87)【国際公開日】20200109
(31)【優先権主張番号】18182239.6
(32)【優先日】2018年7月6日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】513013182
【氏名又は名称】ボレガード アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】ホルタン, シノーバ
(72)【発明者】
【氏名】リアピス, カテリーナ
(72)【発明者】
【氏名】バーグ, ジャン
【テーマコード(参考)】
4C090
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090AA08
4C090BA24
4C090BD05
4C090BD08
4C090BD19
4C090CA01
4C090DA08
4J004AA04
4J004BA02
4J004CB02
4J004DB02
4J004FA06
4J040BA021
4J040BA022
4J040BA111
4J040BA112
4J040BA121
4J040BA122
4J040HA146
4J040HA316
4J040JA03
4J040KA04
4J040LA03
4J040MA09
4J040NA07
(57)【要約】
本発明はミクロフィブリル化セルロース(「MFC」)を含むデンプン系の接着剤組成物に関する。これらの接着剤組成物は、ミクロフィブリル化セルロースに加えて、少なくとも一つのデンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体を含む。添加剤としてMFCを含まない接着剤組成物と比較し、前記接着剤組成物は、苛性ソーダの含有量が低い。ホウ砂又はホウ酸(その誘導体)は、ミクロフィブリル化セルロースで部分的に又は完全に代替でき、その際、驚くべきことに、MFCは(ホウ砂と異なり)全接着剤のゲル化温度に顕著な影響を及ぼさない。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 全接着剤組成物中5%w/w〜60%w/wの量の、少なくとも一つのデンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体と、
− 全接着剤組成物中、30%w/w〜95%w/wの量の、少なくとも一つの溶媒、好ましくは水を含むか又はそれからなる前記溶媒と、
− 全接着剤組成物中、0.001%w/w〜10%w/wの量の、好ましくは、0.01%w/w〜10%w/wの量のミクロフィブリル化セルロースと、
− 全接着剤組成物中、0.05%w/w〜0.8%w/w、好ましくは0.1%w/w〜0.5%w/w、更に好ましくは0.1.%w/w〜0.3%w/wの全含有量の、及び/又は、全接着剤組成物の全デンプン含有量に対して測定したとき、0.1%w/w〜2.7%w/w、好ましくは0.1%w/w〜2.2%w/w、好ましくは0.3%w/w〜1.5%w/w、更に好ましくは0.3%w/w〜1.3%w/wの全含有量の、アルカリ、好ましくはアルカリ水酸化物、更に好ましくはNaOHと、
を含む接着剤組成物。
【請求項2】
前記接着剤組成物中のミクロフィブリル化セルロースの含有量が、組成物の全重量に対して、0.02%w/w〜8%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜5%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜2%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜0.5%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜0.15%w/wであり、及び/又は、ミクロフィブリル化セルロースの含有量が、接着剤組成物中の全デンプン含有量に対して測定したとき、0.02%w/w〜20%w/w、好ましくは0.04%w/w〜4%w/w、又は0.1%w/w〜2%w/w、更に好ましくは0.2%w/w〜1.4%w/wである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物中の全デンプンの含有量が、全接着剤組成物中、15%w/w〜50%w/w、好ましくは25%w/w〜48%w/w又は22%w/w〜35%w/w、好ましくは30%w/w〜48%w/w、更に好ましくは35%w/w〜45%w/wである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも一つのデンプンが、天然のデンプンであるか、又は化学的若しくは物理的に修飾されたデンプンであるか、又はそれらの混合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
接着剤組成物のpH値が、8〜14、好ましくは10〜13、更に好ましくは11.5〜12.5である、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、ホウ酸又はその誘導体を含まないか又はトレース量でのみ含み、具体的にはホウ砂を含まないか又はトレース量でのみ含み、該トレース量が、全て合わせて1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、更に好ましくは200ppm未満、更に好ましくは100ppm未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ミクロフィブリル化セルロースが、溶媒としてのポリエチレングリコール(PEG)中で、0.65%のMFCの固形分含有量で、明細書において説明される測定方法により測定したとき、2000Pa・s以上、好ましくは3000Pa・s以上、好ましくは4000Pa・s以上、又は5000Pa・s以上、更に好ましくは6000Pa・s以上、更に好ましくは7000Pa・s以上、のゼロ剪断粘度(η)を有するゲル様の分散液となることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ミクロフィブリル化セルロースが、MFCサンプルを0.3%の固形分含有量に水で希釈し、次に、15分間1000Gでサンプルを遠心分離し、その後、透明な水相を沈殿物から分離し、沈殿物を秤量することで測定したとき、30以上、好ましくは40以上、好ましくは50以上、好ましくは60以上又は70以上又は75以上、より好ましくは80以上又は90以上、より好ましくは100以上の保水能力、またしばしば称されるところの水保持能力、により特徴づけられ、保水能力が(mV/mT)−1で算出され、式中、mVが沈殿物湿重量であり、mTが分析されるMFCの乾物重量であり、その測定方法が、明細書において記載されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
デンプン系の接着剤又はデンプン誘導体系の接着剤を調製するための方法であって、以下のステップ:
(a)少なくとも一つのデンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体、又はその混合物を、少なくとも一つの溶媒、特に水を含むか又はそれからなる溶媒と混合するステップと、
(b)任意に、(a)から得た混合物に一つ以上の添加剤を添加するステップと、
(c)ステップ(a)の間若しくは後に、又は、任意のステップ(b)の間若しくは後に、好ましくは溶媒中に、好ましくは水を含むか又は本質的にそれからなる溶媒中に存在するミクロフィブリル化セルロースを添加するステップと、
(d)アルカリを、好ましくはアルカリ水酸化物を、更に好ましくはNaOHを、(a)の混合物及び/又は(b)の混合物及び/又は(c)の混合物に対し、アルカリ、好ましくはアルカリ水酸化物、更に好ましくはNaOHを乾物重量として、好ましくはデンプン乾物重量に対して、0.1%w/w〜3%w/w、更に好ましくは0.5%w/w〜2%w/wの比率で添加するステップと、
(e)任意に、更なる量の少なくとも一つの溶媒、特に水を含むか又はそれからなる溶媒を、(b)及び/又は(c)及び/又は(d)の混合物に対して添加するステップと、
(f)任意に、更なる量の少なくとも一つのデンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体、又はそれらの混合物、及び/又は更なる量のミクロフィブリル化セルロースを、(b)、(c)及び/又は(d)の混合物に対して添加するステップと、
(g)均一な混合物が得られるまで、(c)、(d)、(e)又は(f)の混合物を分散させるステップと、を含む方法。
【請求項10】
混合物の粘度が、ステップ(c)において、ステップ(a)又はステップ(b)の混合物の粘度に対して、10%以上、好ましくは25%以上、更に好ましくは35%以上増加する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(a)〜(g)のいずれかにおいて、ホウ酸又はその誘導体が添加されないか又はトレース量でのみ添加され、具体的にはホウ砂が添加されないか又はトレース量でのみ添加され、該トレース量が、全て合わせて1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、更に好ましくは200ppm未満、更に好ましくは100ppm未満である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(a)において最初に第1デンプンを、所定の粘度が得られるまで、所定量で溶媒に添加し、次に、ステップ(b)において、又はその後で、第2デンプン、すなわち同一の又は異なる第2の量のデンプン又はデンプン誘導体を添加する、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
デンプン及び/又はデンプン誘導体を含む接着剤における、ゲル化温度安定化剤としての及び/又は粘度安定剤としての、ミクロフィブリル化セルロースの使用。
【請求項14】
デンプン系接着剤における、ホウ酸又はその誘導体の完全な又は部分的な代替としての、具体的にはホウ砂の完全な又は部分的な代替としての、ミクロフィブリル化セルロースの使用。
【請求項15】
デンプン系接着剤における、ホウ酸又はその誘導体の部分的な又は完全な代替として、具体的にはホウ砂の代替としての、ミクロフィブリル化セルロースの使用であって、部分的に又は完全に、ミクロフィブリル化セルロースによりホウ酸又はその誘導体を置き換えることにより、ミクロフィブリル化セルロースと同じ量においてそのホウ酸又は誘導体を含むが、ミクロフィブリル化セルロースを含まないか又はそれより少ない量で含む以外は同じ組成物と比較し、組成物の粘度が上昇する、前記使用。
【請求項16】
(i)ミクロフィブリル化セルロースにより完全に又は部分的にホウ酸又はその誘導体を代替することにより、ホウ酸もその誘導体もMFCも含まない同じデンプン系接着剤の全体のゲル化温度と比較し、2K以上、更に好ましくは1K以上異ならない、デンプン系接着剤の全体のゲル化温度をもたらすか、又は、
(ii)ホウ酸(又はその誘導体)の同一量をMFCの同一量で完全に又は部分的に代替することにより、全組成物のゲル化温度を、1K以上、好ましくは2K以上低下させる、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
デンプン系接着剤の全重量に対し、ホウ酸又はその誘導体、具体的にはホウ砂が、0.05%w/w以上、好ましくは0.1%w/w以上又は0.2%w/w以上、0.3%w/w以上又は0.4%w/w以上、更に好ましくは0.5%w/w以上又は0.7%w/w以上、更に好ましくは1%w/w以上、ミクロフィブリル化セルロースで代替される、請求項13から16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
ボール紙の製造方法であって、
請求項1から8のいずれか一項に記載のデンプン系接着剤組成物を準備するステップと
少なくとも一つの面に、好ましくは両面に、波形紙のフルートの少なくとも一部のチップに前記デンプン系接着剤を塗布するステップと、
波形紙において、該波形紙上へ少なくとも一つのライナーを貼り付ける、好ましくは波形紙の反対側上に更なるライナーを貼り付けるステップと、
単層、二層、三層又は更なる多層の壁を有するボール紙を、好ましくは連続工程において調製するステップと、を含む方法。
【請求項19】
少なくとも一つのフルートと、請求項1から8のいずれか一項に記載のデンプン系接着剤組成物を含む少なくとも一つのライナーと、を有する波形板又はボール紙。
【請求項20】
請求項1から8のいずれか一項に記載のデンプン系接着剤組成物の、波形板又はボール紙の製造における使用。
【請求項21】
前記組成物中のミクロフィブリル化セルロースの含有量が、組成物の全重量に対して、0.001%w/w〜10%w/w、好ましくは0.01%w/w〜10%w/w、好ましくは0.02%w/w〜8%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜5%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜2%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜0.5%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜0.15%w/wであり、及び/又は、ミクロフィブリル化セルロースの含有量が、接着剤組成物のデンプンの全含有量に対して測定したとき、0.02%w/w〜20%w/w、好ましくは0.04%w/w〜4%w/w、好ましくは0.1%w/w〜2%w/w、更に好ましくは0.2%w/w〜1.4%w/wである、請求項9から20のいずれか一項に記載の方法又は使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広義には、ミクロフィブリル化セルロース(「MFC」)を含むデンプン系の接着剤組成物に関する。これらの接着剤組成物は、ミクロフィブリル化セルロースに加えて、少なくとも一つの(天然の)デンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体(加工デンプン)を含む。
【0002】
本発明はまた、MFC−加工デンプン(誘導体)−ベースの接着剤を製造するための方法、ボール紙を製造するための方法、ならびにデンプン系接着剤組成物を含むボール紙に関する。
【0003】
本発明は広義には、接着剤組成物、特に少なくとも一つのデンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体を含む接着剤組成物におけるレオロジーを調製するための添加剤としてのMFCの使用に関する。これらのMFC修飾されたデンプン系接着剤の波形板の製造への使用が特に好ましい。
【0004】
具体的には、本発明は、接着剤組成物、特に少なくとも一つのデンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体を含む接着剤組成物のゲル化温度を制御及び/又は安定化するためのMFCの使用に関する。
【0005】
驚くべきことに、デンプン系の接着剤にMFCを添加することにより、全組成物のアルカリ(特に苛性ソーダ)含有量を減少させ、また全接着剤組成物のゲル化温度をより良好に制御することが可能になることを見出した。ゲル化温度は、デンプン系の接着剤の塗布及び硬化の間に制御されることを要する重要な工程パラメータである。
【0006】
MFC修飾されたデンプン系接着剤の波形板(の製造)への使用が特に好ましい。
【0007】
更に、他の好ましい実施形態では、前記組成物は、ホウ酸又はその誘導体を含まないか又はトレース量のみで含み、具体的には、ホウ砂を含まないか又はトレース量でのみ含む。
【0008】
好ましい実施形態では、前記「トレース」とは、まとめると、1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、更に好ましくは200ppm未満、更に好ましくは100ppm未満である。
【0009】
ホウ酸又はその誘導体(具体的にはホウ砂)を、部分的に又は完全にMFCで置換することにより、ゲル化温度という重要な工程パラメータの調節が改善される。理論により拘束されないが、ホウ酸又はその誘導体(具体的にはホウ砂)が、デンプンベースの接着剤から部分的に又は完全に除去される場合、ゲル化温度を顕著に制御するか又は影響を及ぼす化学的パラメータが、本質的にアルカリの含有量(例えば苛性ソーダ(NaOH)の含有量)のみとなると考えられる。したがって、これらの好ましい実施形態、並びに混合タンクの予め設定された温度、反応時間及び機械的剪断速度の条件下では、ゲル化温度は、アルカリの含有量(のみ)を調節することにより制御/調節することができる。ホウ砂が存在する場合、ホウ砂は処理の間、アルカリ性と反応し、それによりゲル化温度に影響を及ぼす。以下に詳細に述べるように、MFCはアルカリと顕著に反応せず、したがって、処理の間、ゲル化温度に顕著に影響を及ぼさない。
【0010】
本発明はまた、組成物に関し、該組成物は具体的には、デンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体のゲル化温度付近のゲル化温度を有し、該組成物では、水酸化物、具体的には水酸化ナトリウム(「苛性ソーダ」)の含有量が、MFCの存在のために低減される。また、前記組成物中のデンプンの含有量は、MFCを含まない以外は同等の組成物におけるよりも高い量で調節されうる。
【背景技術】
【0011】
デンプン系の接着剤(又はデンプン誘導体系の接着剤)は、一般に、特に製紙業の関係者にとり公知である。
【0012】
例えば、特許文献1は、適切な液体担体中の、生の又は未処理のデンプンの懸濁液を開示している。例えば、生のトウモロコシ、タピオカ又はジャガイモデンプンを、最大40重量%で接着剤中に含有させ、水、並びに小量の処理済みデンプン、ホウ砂及び苛性ソーダからなる担体中に懸濁させたものを、典型的な生のデンプン製剤として構成している。この状態では、デンプンの接着特性は限定されたものであるか、又はかかる特性を有さない。しかしながら、特定の温度、利用されるデンプンのタイプ、並びに担体中に溶解させる添加剤の種類及び量に依存し、デンプン粒子は、懸濁液中から可能な限りの液体を吸収し膨張し、懸濁液をゲル化させる。この状態において、デンプンは高い粘着力を有し、紙を含む多くの基材の間で結合を形成する。
【0013】
特許文献2及び特許文献3は、耐水性又は防水性の高いデンプン系の波形板用接着剤が製造できることを開示する。これらの2つの特許は、アルカリ条件下で、ペースト状のデンプンの存在下で、フェノール化合物(例えばレゾルシノール)をアルデヒド(例えばホルムアルデヒド)と反応させることにより、in situでフェノール−アルデヒド樹脂−デンプンの反応生成物が形成されることを開示する。これらの2つの特許文献の教示はこれまで、耐水性及び防水性の高い波形板及び積層ボール紙製品の、産業的スケールでの製造に採用されてきた。特許文献4は、ホウ砂を一般的なフェノール−アルデヒド−デンプン組成物へ添加し、同時にフェノール化合物の濃度を低下させることにより、経費が削減され、高い水抵抗性を必要としない特定の波形ボール紙製品の場合に機械の動作速度を増加させることを教示する。
【0014】
しかしながら、デンプン系の接着剤(又はデンプン誘導体系の接着剤)の製剤化に関する更なる開発にもかかわらず、公知技術で鍵となる添加剤、例えばホウ砂及び水酸化ナトリウム(「苛性ソーダ」)はゲル化温度に影響を及ぼす。具体的には、水酸化ナトリウムは一般にゲル化温度を低下させる一方、ホウ砂は一般に、しばしば十分に制御できない態様で、デンプン系の接着剤のゲル化温度を上昇させる。
【0015】
更に、ゲル化温度は一般に、デンプン(例えば穀物、小麦、タピオカ、ジャガイモ及びエンドウ)の濃度及び給源に依存し、デンプンが天然か又は加工されているかによっても、デンプンのアルカリ感受性、水の温度、反応時間、撹拌速度及び貯蔵期間に依存する。ゲル化温度は接着剤の処理の間、制御されることを要する重要なパラメータであるため、ゲル化温度に影響を及ぼしうる添加剤又は成分の存在が少ない程、工程の制御にとりより望ましい。
【0016】
また、特にゲル化温度に影響を及ぼさずに、デンプン系の接着剤の安定性及び処理性を改良する添加剤が求められている。
【0017】
更に、デンプン系接着剤の粘度は通常、長期間にわたって、特に長期間の貯蔵において十分安定せず、また高剪断中でも安定しない。これは、様々な領域の用途において、特に段ボールの製造、すなわち異なる紙シートの接着工程において、デンプン(誘導体)系接着剤を使用する際の課題である。
【0018】
ボール紙に使用される紙は典型的に、他の目的で使用される紙より吸収性を有し、これはすなわち、この種の紙を接着するために一緒に用いられるいかなる接着剤の含水量も、理想的には比較的低くなければならないこと、及び/又は、該接着剤が吸収性のある基材に過度に浸透しないよう調製されるべきことを意味する。この必要性は、更に接着剤の全体の粘度及びゲル特性を制御するという必要性につながりうるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第3,434,901号
【特許文献2】米国特許第2,884,389号
【特許文献3】米国特許第2,886,541号
【特許文献4】米国特許第3,294,716号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記で概説した課題に基づき、また従来技術に鑑み、本願発明の課題は、鍵となる工程パラメータ、例えばゲル化温度及び粘度の制御を改善し、また上記で概説したいずれかの欠点を回避又は最小化することを可能にする、デンプン系接着剤(又はデンプン誘導体系接着剤)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様に従い、この課題及び他の課題は、
− 全接着剤組成物中5%w/w〜60%w/wの量の、少なくとも一つのデンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体と、
− 全接着剤組成物中、30%w/w〜95%w/wの量の、少なくとも一つの溶媒、好ましくは水を含むか又はそれからなる前記溶媒と、
− 全接着剤組成物中、0.001%w/w〜10%w/wの量の、好ましくは、0.01%w/w〜10%w/wの量のミクロフィブリル化セルロースと、
− 全接着剤組成物中、0.05%w/w〜0.8%w/w、好ましくは0.1%w/w〜0.5%、更に好ましくは0.1.%w/w〜0.3%w/wの全含有量の、及び/又は、全接着剤組成物の全デンプン含有量に対して測定したとき、0.1%w/w〜2.7%w/w、好ましくは0.1%w/w〜2.2%w/w、好ましくは0.3%w/w〜1.5%、更に好ましくは0.3%w/w〜1.3%w/wwの全含有量の、アルカリ、好ましくはアルカリ水酸化物、更に好ましくはNaOHと、を含む接着剤組成物により解決される。
【0022】
本発明の実施形態では、前記接着剤組成物中ミクロフィブリル化セルロースの含有量は、組成物の全重量に対して、0.02%w/w〜8%w/w、好ましくは0.05%w/w〜5%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜2%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜0.5%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜0.15%w/wであり、及び/又は、ミクロフィブリル化セルロースの含有量は、接着剤組成物のデンプンの全含有量に対して測定したとき、0.02%w/w〜20%w/w、好ましくは0.04%w/w〜4%w/w、好ましくは0.1%w/w〜2%w/w、更に好ましくは0.2%w/w〜1.4%w/wである。
【0023】
本発明の実施形態では、前記接着剤組成物中のミクロフィブリル化セルロースの含有量は、組成物の全重量に対して、0.001%w/w〜0.03%w/w、好ましくは0.003%w/w〜0.03%w/w、更に好ましくは0.007%w/w〜0.03%w/w、更に好ましくは0.01%w/w〜0.03%w/wであり、及び/又は、ミクロフィブリル化セルロースの含有量は、接着剤組成物中の全デンプン含有量に対して測定したとき、0.003%w/w〜22%w/w、好ましくは0.2%w/w〜0.6%w/w、好ましくは0.003%w/w〜0.09%w/w、更に好ましくは0.008%w/w〜0.08%w/w、更に好ましくは0.02%w/w〜0.08%w/wである。
【0024】
本発明の実施形態では、前記接着剤のミクロフィブリル化セルロースの含有量は、接着剤組成物の全デンプン含有量に対して測定したとき、0.02%w/w〜0.09%w/wである。
【0025】
本発明者らは、驚くべきことに、比較的低い量(例えば10%w/w以下、又は5%w/w以下)のMFCであっても、MFCが有する添加剤としての、本願明細書全体において開示する有利性を発揮させつつ、デンプン系接着剤において用いることができることを見出した。通常、当業者は、必要となる添加剤の量をできるだけ低く抑えることを望む。理論に拘束されないが、接着剤組成物全体の特性に顕著に影響を及ぼす添加剤として小量のMFCを使用することによる効果は、MFCのネットワーク形成(架橋結合)能によると考えられる。通常、あまりに低いMFCの量(例えば0.001%w/w以下)が選択される場合、架橋ネットワークの強度が不十分となりうる。あるいは、フィブリルの量が少ない量であれば、架橋ネットワークの形成が不十分になりうると考えられる。一方、例えば10%w/w以上の多量のMFCが存在する場合、粘度は高くなり過ぎ、組成物全体として加工が困難となりうる。
【0026】
本発明に従うMFCは(また)、接着剤において架橋剤として作用する。MFCは(また)、粘度調整剤及び安定剤として、特にチキソトロピー添加剤として作用する。
【0027】
本発明において、ミクロフィブリル化セルロースは「乾物重量」(また「固形分含有量」)で示すこともあるが、その量は、溶媒、MFC、デンプン、アルカリ及び任意の更なる添加剤を含む全組成物の重量に対する、ミクロフィブリル化セルロース(及び/又はデンプン)の重量として測定される。MFCの含有量の測定及び決定のための方法に関する詳細については、実施例2を参照されたい。
【0028】
特に断りのない限り、本発明の組成物の成分の量に対して用いられる全ての範囲又は数値は、接着剤組成物の全重量に対する当該成分の重量%(「w/w」)として表すものとする。
【0029】
他の好ましい実施形態では、前記組成物は、ホウ酸又はその誘導体、具体的にはホウ砂をトレース量でのみ含み、該トレース量とは、全て合わせて1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、更に好ましくは200ppm以下、更に好ましくは100ppm以下であることをいう。
【0030】
本発明によれば、「ホウ砂」及びホウ酸は通常、同じ化合物ではないと理解されるが(ホウ砂はホウ酸の塩、すなわち、ホウ砂はナトリウム(テトラ)ボレートである一方、ホウ酸は水素化ホウ酸である)、用語「ホウ砂」を用いるときは、該用語はホウ酸及びそのアルカリ金属塩を指す。具体的には、主にそれらの結晶水含量において異なる多くの関連する無機的又は化学的化合物を「ホウ砂」と称し、本発明の範囲内に含めるものとする(具体的には10水和物)。市販のホウ砂は、典型的には部分的に脱水される。本発明によれば、用語「ホウ砂」にはまた、ホウ酸又はホウ砂の誘導体、例えば化学的又は物理的に修飾されたホウ酸又はホウ砂が包含される。
【0031】
具体的には、本発明のホウ砂は、それらの結晶水含量において異なる以下の無機化合物又は化学物質を含むか、又は基本的にそれらからなる:
− ホウ砂無水物(Na
− ホウ砂5水和物(Na・5HO)
− ホウ砂10水和物(Na・10HO)
又はそれらの組み合わせ。
【0032】
10水和物は、Na[B(OH)]・8HOとしても記載されるが、これはホウ砂が[B(OH)2−イオンを含むためである。「ホウ砂」はホウ酸及び他のボレートに変換されることもあり、それらは多くの用途を有する。塩酸との反応によるホウ酸の形成は、以下の通りである:
Na・10HO+2HCl→4HBO+2NaCl+5H
【0033】
ホウ酸は、ホウ化水素(hydrogen borate)、ホウ酸(boracic acid)、オルトホウ酸(orthoboric acid)及びacidum boricumとしても公知である。
【0034】
更なる実施形態では、前記組成物は好ましくは、ホウ酸、グリオキサール、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、クエン酸又は(ポリ)カルボン酸、ジカプロキシプロピレンスクシネート、アルデヒドベースの若しくは酸化された多糖、ビス−ベンジジン−2,2’−ジスルホン酸、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン、ジメチルアジペート、有機パーオキシド、クエン酸3ナトリウム、オキシ塩化リン、クロルヒドリン、トリメタリン酸ナトリウムなどのトリメタホスフェート(TMF)の塩又は誘導体、トリポリリン酸ナトリウム、ポリメタホスフェート(例えばヘキサメタ−ホスフェート)、POCl、ビフェニル化合物、N,N−ジメチロール−イミダゾリジノン−2(DMEU)、塩化シアヌル、アジペート、アジピン酸の酢混合無水物、アジピン酸/酢酸、エピクロロヒドリン、アルミン酸ナトリウム、ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、又はそれらの塩を含まないか、又はトレース量(上記の通り)のみ含む。
【0035】
本発明の実施形態では、溶媒の含有量は、全接着剤組成物中、30%w/w〜80%w/w、更に好ましくは55%w/w〜70%w/wである。
【0036】
本発明の実施形態では、前記組成物中の全デンプン含有量は、全接着剤組成物中、15%w/w〜50%w/w、好ましくは25%w/w〜48%w/w、又は22%w/w〜35%w/wであり、より好ましくは30%w/w〜46%w/w、更に好ましくは35%w/w〜45%w/wである。
【0037】
本発明者らは、驚くべきことに、MFCを含まない以外は同じ組成物と比較し、MFCも含むデンプン系接着剤組成物では、より多量のデンプンを用いることが可能であることを見出した。理論に拘束されないが、より多くのデンプンを組成物全体に導入できるというこの可能性は、MFCのチキソトロピー(剪断減粘)能によると考えられる。貯蔵の間、MFCは分散液を安定化させ、それにより安定な(高い)粘度が維持される。(例えばボール紙のフルート又はライナー上に接着剤を塗布する)工程において、MFCは、その剪断減粘特性により、組成物がたとえ多量のデンプンを含み、連続工程が困難になるような場合であっても、それを塗り広げることを可能にする。
【0038】
本発明の実施形態では、少なくとも一つのデンプンは、天然のデンプンであるか、又は化学的若しくは物理的に修飾されたデンプンであるか、又はそれらの混合物である。
【0039】
本発明による接着剤組成物は、例えば樹脂、耐水化剤、多糖、浸透剤、粘着付与剤、表面張力剤、消泡剤、充填剤、色素又は防腐剤などの他の成分を含んでもよい。
【0040】
本発明によれば、「接着剤」とは、複数の物品の表面に塗布されて接着的な結合を介してこれらの表面を永久的に結合させる材料であると解される。接着剤はこれらの2つの部分に対する結合を形成できる物質であり、最終的には一緒に接着された2つのセクションからなる物体となる。接着剤の特徴としては、最終的な物体の重量と比較しその必要とされる量が比較的小さいことである。
【0041】
本発明によれば、デンプンは、α−グリコシド結合により連結された多数のグルコース単位からなる炭水化物である。デンプンの好適な給源としては、特にジャガイモ、小麦、トウモロコシ(コーン)、米、エンドウ、タピオカ及びサゴが挙げられる。
【0042】
本発明によれば、修飾されたデンプンとは、例えば加水分解もしくは酵素反応により、化学的もしくは物理的に修飾されたデンプンである。本発明の実施形態における修飾されたデンプンの例は、デキストリン又は架橋デンプンである。
【0043】
本発明の実施形態では、デンプンは、好ましくは修飾されていない小麦又はコーンデンプンであるが、接着剤において一般的に用いられるデンプンのいずれであってもよく、すなわち、それらと他の反応物質との間で共重合反応を生じさせるだけの充分な利用可能なヒドロキシル基を含む限り、いずれのデンプン及び誘導体であってもよい。
【0044】
ミクロフィブリル化セルロース(「網状」セルロースとして、又は「スーパーファイン」セルロースとして、又は特に「セルロースナノフィブリル」としても知られる)は、セルロース系生成物であり、例えば、米国特許第4481077号、第4374702号及び第4341807号明細書に記載されている。本発明によれば、ミクロフィブリル化セルロースは、非ミクロフィブリル化セルロースと比較し、長さスケール(直径、繊維長)のうちの少なくとも一つが小さい。(非フィブリル化)セルロース、すなわち、ミクロフィブリル化セルロースを生産するための出発原料(典型的には「セルロースパルプ」として存在)において、個別的な及び「分離された」セルロース「フィブリル」部分は、存在しないか、又は少なくとも顕著に存在しないか、又は検出されない。木部繊維中のセルロースは、フィブリルの凝集体である。セルロース(パルプ)において、基本フィブリルは、更により大きいフィブリル束であるミクロフィブリルに集積し、最後にセルロース繊維に集積される。木部繊維の直径は、典型的には、10〜50μmの範囲(これらの繊維の長さは、更に大きい)である。セルロース繊維がマイクロミクロフィブリル化されるとき、「放出された」フィブリルの不均一な混合物は、その横断面寸法及び長さがnm〜μmとなりうる。フィブリル及びフィブリルの束は、その結果得られるミクロフィブリル化セルロースと共に存在しうる。本発明のミクロフィブリル化セルロースの直径は、典型的にはnmの範囲である。
【0045】
本開示の全体にわたり記載されるミクロフィブリル化セルロース(「MFC」)において、個々のフィブリル又はフィブリル束は、典型的には従来公知の光学顕微鏡又は電子顕微鏡観察により同定できる。
【0046】
実施形態では、本発明のミクロフィブリル化セルロースは、特に、以下の特徴の少なくとも一つにより特徴づけられる。
【0047】
前記ミクロフィブリル化セルロースを、溶媒としてのポリエチレングリコール(PEG)中で、0.65%のMFCの固形分含有量で測定したとき、2000Pa・s以上、好ましくは3000Pa・s以上、好ましくは4000Pa・s以上、好ましくは5000Pa・s以上、好ましくは6000Pa・s以上、更に好ましくは7000Pa・s以上、のゼロ剪断粘度(η)を有するゲル様の分散液となる。
【0048】
ゼロ剪断粘度(η)(「静止時粘度」)は、ゲル様分散液を形成する三次元ネットワークの安定性に関する測定値である。
【0049】
本願明細書に開示され、また特許請求される「ゼロ剪断粘度」は、以下にて説明するように測定される。具体的には、MFC分散液の流動学的な特性評価(「比較例」及び「本発明に従う例」)は、溶媒としてPEG400を用いて実施した。「PEG400」は、380〜420g/molの分子量を有するポリエチレングリコールであり、医薬用途で広く用いられ、したがって、一般に公知であり、入手可能である。
【0050】
流動学的特性は、特にゼロ剪断粘度は、Anton Paar Physica MCR301タイプのレオメータで測定した。全ての測定温度は25℃とし、「プレート−プレート」ジオメトリーを用いた(直径:50mm)。流体力学的測定は、分散液の構造の程度を振動測定(振幅スイープ)として行い評価し、また回転性粘度測定を行い、そこでは粘度を剪断速度の関数として測定し、静止時の粘度(剪断力→0)、並びに分散液の剪断減粘特性を評価した。測定方法は更に、国際出願第PCT/EP2015/001103号(欧州特許出願公開第3149241号)にも記載されている。
【0051】
実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースは、30以上、好ましくは40以上、好ましくは50以上、好ましくは60以上、好ましくは70以上、好ましくは75以上、好ましくは80以上、好ましくは90以上、更に好ましくは100以上の保水能力(水保持能力)を有する。保水能力はMFC構造の中で水を保持するMFCの能力を意味し、これはまた、アクセス可能な表面積に関する。保水能力は、水中に0.3%の固形分含有量となるようにMFCサンプルを希釈し、次に15分間1000Gでサンプルを遠心分離することで測定される。透明な水相を沈殿物から分離し、沈殿物を秤量した。保水能力は、mVが沈殿物の湿重量であり、mTが分析するMFCの乾燥重量である、(mV/mT)−1として表される。測定方法は更に、国際出願第PCT/EP2015/001103号(欧州特許出願公開第3149241号)にも記載されている。
【0052】
理論に拘束されないが、デンプンとMFCとの間で形成されるネットワークを含む、MFCの良好な水保持特性は、処理の間にボール紙への接着剤からの水の浸出を回避するのに有利である。
【0053】
本発明の実施形態では、MFCは95以下、好ましくは90以下の、EN ISO 5267−1(1999年バージョン)において定義される基準に従い得られるショッパー=リーグラー(Schopper−Riegler、SR)値を有するか、あるいは、MFC線維が小さ過ぎ、これらの線維の大部分のフラクションがSR法において定義したスクリーンを通過してしまうことから、ショッパー=リーグラー法に従い適切に測定することができない。
【0054】
本発明の実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースは、未変性(天然)のミクロフィブリル化セルロースであり、好ましくは植物材料、好ましくは木材由来の未変性ミクロフィブリル化セルロースである。
【0055】
実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースは、1000nm以下、好ましくは800nm以下、更に好ましくは500nm以下の直径を有する。
【0056】
実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースは、1〜1000nm、好ましくは1〜800nm、更に好ましくは1〜500nmの直径を有する。
【0057】
本発明の実施形態では、MFCは、50超の、好ましくは70超の、更に好ましくは100超の平均アスペクト比(長さ/直径)を有する。
【0058】
本発明の実施形態では、MFCは、ISO5351に定義される標準に従い、方程式[η]=2.28*Dp^0.76を用いたとき、400超の、好ましくは600超の、更に好ましくは800超の、更に好ましくは1000超の重合度(DP)を有する。
【0059】
本発明の実施形態では、接着剤組成物のpH値は、8〜14、好ましくは10〜13、更に好ましくは11.5〜12.5である。
【0060】
本発明の更なる態様に従い、上記の課題及び他の課題は、デンプン系接着剤又はデンプン誘導体系接着剤の調製方法により解決され、該方法は、以下ステップを含む:
(a)少なくとも一つのデンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体、又はその混合物を、少なくとも一つの溶媒、特に水を含むか又はそれからなる溶媒と混合するステップと、
(b)任意に、(a)から得た混合物に一つ以上の添加剤を添加するステップと、
(c)ステップ(a)の間若しくは後に、又は、任意のステップ(b)の間若しくは後に、好ましくは溶媒中に、好ましくは水を含むか又は本質的にそれからなる溶媒中に存在するミクロフィブリル化セルロースを添加するステップと、
(d)アルカリを、好ましくはアルカリ水酸化物を、更に好ましくはNaOHを、(a)の混合物及び/又は(b)の混合物及び/又は(c)の混合物に対し、アルカリ、好ましくはアルカリ水酸化物、更に好ましくはNaOHを乾物重量として、好ましくはデンプン乾物重量に対して、0.1%w/w〜3%w/w、更に好ましくは0.5%w/w〜2%w/wの比率で添加するステップと、
(e)任意に、更なる量の少なくとも一つの溶媒、特に水を含むか又はそれからなる溶媒を、(b)及び/又は(c)及び/又は(d)の混合物に対して添加するステップと、
(f)任意に、更なる量の少なくとも一つのデンプン及び/又は少なくとも一つのデンプン誘導体、又はそれらの混合物、及び/又は更なる量のミクロフィブリル化セルロースを、(b)、(c)及び/又は(d)の混合物に対して添加するステップと、
(g)均一な混合物が得られるまで、(c)、(d)、(e)又は(f)の混合物を分散させるステップ。
【0061】
前記方法は、いかなる順序で、いかなる更なるステップを含んでもよく、ステップ(a)から(g)の一部又は全部のいかなる反復を含んでもよい。
【0062】
特に、ステップ(d)の後に更にアルカリを添加してもよく、及び/又は、更なる添加剤をステップ(c)から(f)の一部又は全部の後に添加してもよい。
【0063】
組成物に関して上記で開示した全ての実施形態はまた、具体的にはMFC、デンプン及び溶媒の特性及び相対的な量に関して、必要な変更を加えた形で、前記方法にもあてはまる。
【0064】
本発明の実施形態では、混合物の粘度は、ステップ(c)において、ステップ(a)又はステップ(b)の混合物の粘度に対して、10%以上、好ましくは25%以上、更に好ましくは35%以上増加する。
【0065】
粘度は、「秒」を単位とする「ロリー粘度」として測定され、以下の方法で測定される。ロリー粘度は、ASTM D 1084−D又はASTM D4212標準によりロリー粘度カップ(Elcometer 2215/1)により測定される。この装置は、底部に固定されたニードルを有する円筒形のカップからなる。最初にカップを接着剤に浸漬し、次に液抜き穴から排出させて空にする。ニードルの先端が現れるやいなや、流動時間を測定する。全ての測定は室温で実施する。
【0066】
本発明の実施形態では、ステップ(a)〜(g)のいずれにおいても、ホウ酸又はその誘導体を添加しないか又はトレース量でのみ、具体的にはホウ砂を添加しないか又はトレース量でのみ、添加し、ここでトレース量とは、合計して好ましくは1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、更に好ましくは200ppm以下、更に好ましくは100ppm以下である。
【0067】
本発明の実施形態では、ステップ(a)において最初に第1デンプンを、所定の粘度が得られるまで、所定量で溶媒に添加し、次に、ステップ(b)において、又はその後で、第2デンプン、すなわち同一の又は異なる第2の量のデンプン又はデンプン誘導体を添加する。
【0068】
本発明の実施形態では、上記方法で得られる最終的な接着剤組成物のpH値は、8〜14、好ましくは10〜13、更に好ましくは11.5〜12.5である。
【0069】
本発明の更なる態様に従い、デンプン及び/又はデンプン誘導体を含む接着剤のレオロジー修飾剤及び安定化剤として、ミクロフィブリル化セルロースを、特にホウ砂の代わりに提供することにより、上述及び他の課題が解決され、すなわち、MFCでホウ砂を代替することにより、(ホウ砂を含みMFCを含まない以外は同じ組成物と比較し)組成物の粘性を増加及び安定させ、及び/又は、MFCでホウ砂を代替することにより、ゲル化温度に顕著な影響を及ぼさない。
【0070】
更なる態様において、本発明は、デンプン及び/又はデンプン誘導体を含む接着剤におけるゲル化温度又は粘度の、又は両方の安定剤としての、ミクロフィブリル化セルロースの使用に関する。
【0071】
更なる態様において、本発明は、デンプン系の接着剤における、ホウ酸又はその誘導体の完全な又は部分的な代替としての、特にホウ砂の完全な又は部分的な代替としての、ミクロフィブリル化セルロースの使用に関する。
【0072】
実施形態では、本発明は、デンプン系の接着剤における、ホウ酸又はその誘導体の部分的な又は完全な代替として、特にホウ砂の代替としての、ミクロフィブリル化セルロースの使用に関し、該使用では、部分的に又は完全に、ミクロフィブリル化セルロースによりホウ酸又はその誘導体を置き換えることにより、ミクロフィブリル化セルロースと同じ量においてそのホウ酸又は誘導体を含むが、ミクロフィブリル化セルロースを含まないか又はそれより少ない量で含む以外は同じ組成物と比較し、組成物の粘度が上昇する。
【0073】
本発明の実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースにより完全に又は部分的にホウ酸又はその誘導体を代替することにより、ホウ酸もその誘導体もMFCも含まない同じデンプン系接着剤の全体のゲル化温度と比較し、2K以上、更に好ましくは1K以上異ならない、デンプン系接着剤の全体のゲル化温度がもたらされる。
【0074】
あるいは、ホウ酸(又はその誘導体)の同一量をMFCの同一量で完全に又は部分的に代替することにより、全組成物のゲル化温度を、1K以上、好ましくは2K以上低下させる。
【0075】
実施形態では、デンプン系の接着剤の全重量に対し、ホウ酸又はその誘導体、特にホウ砂は、0.05%w/w以上、好ましくは0.1%w/w以上又は0.2%w/w以上、0.3%w/w以上又は0.4%w/w以上、更に好ましくは0.5%w/w以上又は0.7%w/w以上、更に好ましくは1%w/w以上、ミクロフィブリル化セルロースで代替される。
【0076】
接着剤組成物及び該組成物の調製方法に関して上記で開示した全ての実施形態はまた、具体的にはMFC、デンプン及び溶媒の特性及び相対的な量に関して、必要な変更を加えた形で、前記使用にもあてはまる。
【0077】
理論に拘束されないが、ミクロフィブリル化セルロースのデンプン(誘導体)系の接着剤への添加が、水素結合により、ミクロフィブリル化セルロース単位とデンプン(誘導体)単位との間の物理的及び/又は化学的相互作用に基づくネットワークを構築させると考えられる。ミクロフィブリル化セルロースは、極性溶媒系、特に水において効果的な増粘剤であり、水素結合により安定化するフィブリルの大きな三次元ネットワークを構築すると考えられる。この安定化ネットワークは、安定なゲル構造を支持すると考えられる。
【0078】
これらのフィブリルは、デンプン接着剤全体の高いpHで表面上のヒドロキシル基が解離(O)し、これにより分子内及び分子間に特異的な相互作用をもたらす。上記の通り、デンプンは、アミロース及びアミロペクチンから構成される。アミロースは、(1→4)−結合したD‐グルコース単位から構成される螺旋型の直鎖状ポリマーであり、そのヘリックスの外側にヒドロキシル基が向いている。ミクロフィブリル化セルロースのフィブリルのネットワークは、それらの基による水素結合を介して相互作用し、アミロース鎖周辺で保護層を確立し、それにより、デンプンを高剪断分解から保護して粘度を安定させると考えられる。全体として、MFCは、デンプン分子に入り込むことができ、それによりデンプン組成物を強化及び/又は安定化できる、絡み合ったフィブリルのネットワークである。
【0079】
更に、ここでも理論に拘束されないが、ミクロフィブリル化セルロースの保水能力は、紙に対し、また紙を通って水が移動することを防止すると考えられる。したがって、デンプン(誘導体)系の接着剤にミクロフィブリル化セルロースを添加することは、特に、接着剤から紙への水の移動が最終的なボール紙製品を不安定にし、それは特にゆがみ及び剥がれにつながりうる、段ボールの製造において有用である。
【0080】
更に、ここでも理論に拘束されないが、ホウ砂とは異なり、ミクロフィブリル化セルロースはNaOHと反応しないか、又はホウ砂よりも低い程度でNaOHと反応するだけである。この理由のため、ホウ砂がNaOHと反応することから、ミクロフィブリル化セルロースの存在は、ゲル化温度に顕著な影響を及ぼさないか、又は少なくともゲル化温度への影響はホウ砂よりも低い程度である。また、ホウ砂は貯蔵の間、アルカリ(特にNaOH)と反応し続けるが、これはすなわち、ホウ砂が組成物に存在する場合、接着剤のゲル化温度の増加が時間経過と共に観察されることを意味する。
【0081】
更なる態様において、本発明は、波形ボール紙又はボール紙の製造方法に関し、前記方法は、少なくとも、上記で開示される実施形態のいずれか一つに従うデンプン系接着剤組成物を準備するステップと、
少なくとも一つの面に、好ましくは両面に、波形紙のフルートの少なくとも一部のチップに前記デンプン系接着剤を塗布するステップと、
波形紙において、該波形紙上へ少なくとも一つのライナーを貼り付ける、好ましくは波形紙の反対側上に更なるライナーを貼り付けるステップと、
単層、二層、三層又は更なる多層の壁を有する(ボール)紙を、好ましくは連続工程において調製するステップと、を含む。
【0082】
更なる態様において、本発明は、上記で開示される実施形態のいずれか一つに従うデンプン系接着剤組成物を含む少なくとも一つのフルート及び少なくとも一つのライナーを有する、波形ボール紙又はボール紙に関する。
【0083】
更なる態様において、本発明は、波形ボール紙又はボール紙の製造における、上記で開示される実施形態のいずれかのデンプン系接着剤組成物の使用に関する。
【0084】
本発明の実施形態では、前記接着剤組成物中のミクロフィブリル化セルロースの含有量は、組成物の全重量に対して、0.01%w/w〜10%w/w、好ましくは0.02%w/w〜8%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜5%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜2%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜0.5%w/w、更に好ましくは0.05%w/w〜0.15%w/wであり、及び/又は、ミクロフィブリル化セルロースの含有量は、接着剤組成物のデンプンの全含有量に対して測定したとき、0.02%w/w〜20%w/w、好ましくは0.04%w/w〜4%w/w、好ましくは0.1%w/w〜2%w/w、更に好ましくは0.2%w/w〜1.4%w/wである。
【0085】
本発明の実施形態では、前記接着剤組成物中のミクロフィブリル化セルロースの含有量は、組成物の全重量に対して、0.001%w/w〜0.03%w/w、好ましくは0.003%w/w〜0.03%w/w、更に好ましくは0.007%w/w〜0.03%w/w、更に好ましくは0.01%w/w〜0.03%w/wであり、及び/又は、ミクロフィブリル化セルロースの含有量は、接着剤組成物中のデンプンの全含有量に対して測定したとき、0.003%w/w〜22%w/w、好ましくは0.2%w/w〜0.6%w/w、好ましくは0.003%w/w〜0.09%w/w、更に好ましくは0.008%w/w〜0.08%w/w、更に好ましくは0.02%w/w〜0.08%w/wである。
【0086】
「フルート付きの」(「波形の」)紙、すなわち熱又は蒸気又はその両方と接触した紙、の概略図を例示するが、そこでは波形の(「フルート付きの」)形状が図17に示されており、またそこでは、フルートのチップに接着剤が塗布されている。本発明の実施形態では、接着剤は、全てのチップに沿って、又は、その一部のみに沿って塗布することができる。
【0087】
図17中、フルート付きの紙の上下のチップ上へ適用される上下のライナーが例示されており、それらは板のシングルフェーサ及びダブルバッカーと呼ばれており、それらは単一の壁状のボール紙を形成する。
【0088】
本発明では、波形ボール紙又はボール紙の製造において、本発明による組成物又は本発明の方法で得られる組成物を用いて得られる波形板紙又はボール紙においても明らかとなる、以下の利点の少なくとも1つ、好ましくは以下の利点の基本的に全てが得られる:
− ミクロフィブリル化セルロースは、デンプン(誘導体)系の接着剤において分散性が高い
− ミクロフィブリル化セルロースを用いることにより、最終的な接着剤の粘度を調整し、時間経過において、特に貯蔵の間、また高剪断下の抵抗性に関して、粘度を安定化させる
− ミクロフィブリル化セルロースは、いかなる工程段階においても柔軟な粘度調整を提供する
− ミクロフィブリル化セルロースは、チキソトロピーの性質を有し(すなわち剪断減粘を示し)、全体として高い粘度が維持される
− ミクロフィブリル化セルロースは、有害な添加剤、特にホウ砂の添加を不必要とし、また添加されるNaOH(「苛性ソーダ」)の含有量を減少させる
− ミクロフィブリル化セルロースは、ホウ砂を代替し、NaOH含有量を減少させることにより、重要な工程パラメータである全組成物のゲル化温度を、デンプン系接着剤のゲル化温度に近づける
− ミクロフィブリル化セルロースは、ホウ砂を代替し、NaOH含有量を減少させることにより、重要な工程パラメータであるゲル化温度の良好な制御を可能にする
− ミクロフィブリル化セルロースは、剪断減粘を示し、それにより接着剤の塗布特性性が改善される
− ミクロフィブリル化セルロースは、接着剤の貯蔵弾性率を(硬化前の液相時、及び接着剤硬化後の両方において)増加させる
− ミクロフィブリル化セルロースは、特に長期間にわたる貯蔵の際、時間経過における粘度安定性を提供する
− ミクロフィブリル化セルロースは、高剪断衝撃下で粘度安定性を提供する
− 段ボールの製造ラインにおける実験により、(実施例のセクションで後述する)ミクロフィブリル化セルロースを含むデンプン系接着剤を用いることで、37%の製造スピードの上昇を実現させつつ、同等又はより良好な品質のボール紙の製造を可能にすることを示した
− 工場試験は、(後述の実施例のセクションで記載するように)ミクロフィブリル化セルロースを含むデンプン系接着剤を用いて、接着剤の消費量を33%削減できることを示した
【0089】
− ミクロフィブリル化セルロースは、水が原因となる欠陥を減少させ、すなわちボール紙への水の浸透を防止することにより、板の質を改善し、これはすなわち、より平坦な板が得られ、工程段階後の(印刷、カット、スタッキング)の速度が上昇することを意味する
− ミクロフィブリル化セルロースは、波形板の製造の間、工程の制御を改善し、その際、デンプン系接着剤中のミクロフィブリル化セルロースは、熱及び圧力を調整することにより、オンラインでのゆがみ及び水による欠陥を除くことがより容易となる
− ミクロフィブリル化セルロースは、板の接着強度を増加させることにより、板の質を改善する
− 全体として、本発明の接着剤組成物を使用することにより、例えばピン粘着力試験PATにより測定したときのより強度の高い板をもたらす。
【0090】
以下に、本発明及びその態様を図を用いて例示するが、それは本発明を例示するものであり、それを限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】同じ質のボードに対する(ピン接着強度試験(PAT)に従う)粘着力を示すが、一方は、本発明に係るMFCデンプン系接着剤で処理され、他方は、本発明に係らない、参照のホウ砂(のみの)接着剤、すなわちMFCを含まない接着剤で処理されたものである。
図2】同じ質のボードに対するエッジクラッシュ試験(ECT)及び捩り強さ(剛性)を示すが、一方は、本発明に係るMFCデンプン系接着剤で処理され、他方は、本発明に係らない、参照のホウ砂接着剤(MFCなし)により処理されたものである。
図3】MFCでなく、添加剤としてホウ砂を含む、本発明に係らない接着剤(すなわち当技術分野で公知であるMinocar天然小麦澱粉接着剤)の粘性挙動(安定性の欠如)を示す。
図4】添加剤としてMFCを含む、本発明に係る接着剤、すなわちMinocar天然小麦澱粉接着剤の粘性挙動を示す。
図5】本発明の(すなわちMFCを含む)デンプン系接着剤の(貯蔵タンク中での)貯蔵期間中の時間経過に伴うロリー粘度及び温度を示す。
図6】本発明に係る接着剤(右カラム、それぞれ)と、当技術分野で公知の接着剤(左カラム、それぞれ)とを、段ボールにおいて用いて比較した時の、坪量及び接着強度の比較結果を示す。
図7】デンプン系の接着剤の添加剤としてMFCを使用することにより、どのように未硬化接着剤の貯蔵弾性率が増加するかを示す。
図8】MFCがホウ砂より効率的なデンプン系接着剤の濃縮剤であることを示す。
図9】同程度のNaOH含有量で、それぞれ0.1%乾燥重量から0.5%乾燥重量までMFC含有量を変化させたときであっても、デンプン系接着剤にMFCを添加し、ホウ砂を完全に除去することにより、どのように56℃〜58℃の間にゲル化温度を安定させるかを示す。
図10】MFCを有するデンプン系接着剤のゲル化温度に対するNaOHの効果、並びに、天然のコーンスターチを用い、Stein−Hallプロセスに従い調製した、MFCデンプン系接着剤とホウ砂デンプン系接着剤との間のゲル化温度の違いを示す。
図11】MFCを含む異なるタイプのトウモロコシ及び小麦デンプンにおける、ゲル化温度のNaOH含有量への依存性を示す。
図12】修飾小麦デンプンを用い、Corrtechプロセスに従い調製したデンプン系接着剤のゲル化温度及び貯蔵弾性率に対するMFCの効果を示す。
図13】デンプン系接着剤の貯蔵弾性率及び硬化プロファイルに対する、温度依存的なMFC及びホウ砂の効果を示す。
図14】デンプン系接着剤のα化速度に対するMFC濃度の効果を示す(Stein−Hall、天然の小麦)。
図15】デンプン系接着剤の貯蔵弾性率に対するMFC濃度の効果を示す(Stein−Hall、天然の小麦)。
図16】段ボール(シングルフェーサ)を製造するための連続的製造ラインを図式的に表す。
図17】粘着剤でコーティングされているフルートチップを有する1枚の層の段ボール紙、並びに上下のライナーを有する層状の段ボールを図式的に表す。
図18】BB24b品質段ボールのダブルバッカー側の接着強度に対する、ホウ砂による参照ボードの接着強度と比較したMFCの効果を示し、具体的に、MFCデンプン(Stein−Hall)接着剤を有するボードは、ホウ砂によるデンプン(Stein−Hall)接着剤を有する参照ボードよりも高い製造速度で製造される。
図19】BB24b品質段ボールの製造の際の接着剤の消費に対する、低い製造速度で稼働させたときのホウ砂による参照接着剤の消費と比較したMFCの効果を示す。
図20】厚さ、エッジクラッシュ抵抗及び波形(BB24b)ボードのねじれ強度(剛性)に対する、低い製造速度で稼働させたときのホウ砂を含んでいる参照接着剤と比較したMFCの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0092】
本発明、並びにSTM D 907−82「Standard Definitions of Terms Relating to Adhesives, published in Volume 15.06 − Adhesives, 1984 Annual Book of ASTM Standards」において更に特定されるように、「接着剤」とは、物品の表面に塗布されて、永久的にこれらの表面を接着結合工程によりつなぐ材料であると理解される。接着剤はこれらの2つの部分に対する結合を形成できる物質であり、それにより、最終的には一緒に接着された2つのセクションからなる物体となる。接着剤の特徴としては、最終的な物体の重量と比較し必要とされる量が比較的小さいことである。
【0093】
本発明によれば、デンプン(また「アムルム(amylum)」として公知)は、グリコシド結合により連結された多数のグルコース単位からなる重合体である。デンプンは、食品(例えばジャガイモ、小麦、トウモロコシ(コーン)、米、エンドウマメ、タピオカ及びサゴ)中に多量に存在する。デンプンには典型的には、直鎖状及び螺旋状のアミロースと、分枝状のアミロペクチンと、の2種類の分子が含まれる。植物の違いにもよるが、デンプンは一般に、重量ベースで20〜25%のアミロース及び75〜80%のアミロペクチンを含む。
【0094】
アミロペクチンは、冷水中に可溶形態で供給できるのに対し、アミロースは通常不溶性である。アミロースは、例えばホルムアルデヒドとの処理により、又は圧力下150〜160℃での水中での処理により、強アルカリ下で溶解させることができる。冷却又は中和により、かかるアミロース分散液は、典型的には2%より高い濃度でゲルを形成し、また2%より低い濃度では沈殿する。アミロース画分は水に決して溶解せず、水素結合により遅滞なく、老化又はセットバックとして公知のプロセスにより結晶性の凝集体を形成する。老化は、上記の粘度不安定性の原因となり、デンプン系接着剤において多かれ少なかれ見られる。アミロペクチンはより可溶性であり、老化の傾向がない。
【0095】
本発明の実施形態では、デンプンは、好ましくは修飾されていない小麦デンプン又はトウモロコシデンプンであるが、接着剤の分野において一般的に用いられるデンプンのいずれであってもよく、すなわち、それらと他の2つの反応物質との間で共重合反応を生じさせるだけの充分な利用可能なヒドロキシル基及び/又は官能性基を含む限り、いずれのデンプン及び誘導体であってもよい。
【0096】
修飾されたデンプンとは、例えば加水分解により化学的に修飾されたデンプンであり、それにより該デンプンは、処理又は貯蔵(例えば高熱、高剪断、高pH、凍結/解凍及び冷却)の間に頻繁に遭遇する条件下で適切に機能できる。本発明の実施形態における好適な修飾されたデンプンは、デキストリンである。
【0097】
デキストリンは、デンプン又はグリコーゲンの加水分解により産生される低分子量の炭水化物の一種である。デキストリンは、α−(1→4)又はα−(1→6)グリコシド結合により連結されるD‐グルコース単位の重合体の混合物である。デキストリンは、アミラーゼなどの酵素を使用し、又は、例えば酸性条件下で乾熱を加える(熱分解させる)ことにより、デンプンから製造できる。熱により製造されるデキストリンはまた、ピロデキストリンとして公知である。デキストリンは、部分的又は完全に水溶性であり、典型的には低粘度の溶液となる。
【0098】
上記で概説したように、第2の態様において、本発明は、デンプン系接着剤又はデンプン誘導体系接着剤を調製する方法に関する。
【0099】
大部分のデンプンは20〜30重量%のアミロースを含むが、特定のタイプのものとして、0%程度含むものでも、又は80%程度の高濃度を含むものでもよい。アミロース画分のため、冷水中に懸濁するデンプンは、デンプンが結晶領域において非常に強固に結合されることから、接着剤として機能することがそもそもできない。これらの顆粒は、処理を行い融解させて、接着性の結合を取得する必要がある。水中での加熱は、デンプン粒子の構造を崩壊させる最も単純な方法である。水中での加熱において、デンプン粒子は最初に膨張し、次に壊れて融解し、その結果、懸濁液の粘性が増加する。この懸濁液の増粘が開始される温度は、ゲル化温度と呼ばれる。
【0100】
本発明の実施形態では、ステップ(a)で到達する最大温度は42℃である。本発明の実施形態では、ステップ(e)で到達する最大温度は32℃である。
【0101】
上記の方法は、以下を含みうる。第1の実施形態では、塩(好ましくは例えばカルシウム、マグネシウム及び亜鉛金属などの塩化物)を溶媒中のデンプン(誘導体)の懸濁液に添加し、温度及び撹拌時間を制御して粘度を制御することにより、接着剤を製造する。
【0102】
アルカリ、特に苛性ソーダをデンプン懸濁液に添加するため、工程後の懸濁液を酸(緩衝液)により中和してもよい。
【0103】
粘着ラインの脆弱さを制御し、乾燥速度を調整するため、可塑剤を用いる場合もある。一般的な可塑剤としては、グリセリン、グリコール、ソルビトール、グルコース及び糖が挙げられる。この種の可塑剤は、フィルムの乾燥速度を減少させる吸湿剤として機能しうる。樹液、ポリエチレングリコール及びスルホン化油脂誘導体に基づく可塑剤は、乾燥した接着剤内で層を潤滑化し、それにより柔軟性を付与する。尿素、硝酸ナトリウム、サリチル酸及びホルムアルデヒドは、乾燥した接着剤と共に固体状の溶液を形成することにより可塑化機能を発揮する。これらの添加剤の全て、それらのいずれかの組み合わせ、又はかかる添加物の一つのみは、ステップ(a)又はステップ(b)、又はステップ(c)、又はステップ(d)において、又はこれらのいずれかのステップの後で添加されうる。
【0104】
本発明の実施形態では、更に、例えば塩化カルシウム、尿素、硝酸ナトリウム、チオ尿素及びグアニジン塩などの添加剤を、粘度を低下させるための液化剤として用いてもよい。これらの添加剤は、乾燥デンプンに対して約5〜20%で添加しうる。ポリビニルアルコール又はポリ酢酸ビニルの混合物を添加することにより、冷水耐性を改善しうる。これらの接着剤はまた、温水に溶解させてもよく、それは有利であることが多い。
【0105】
最適な水分耐性は、熱硬化性樹脂(例えば尿素ホルムアルデヒド又はレゾルシノールホルムアルデヒド)の添加により得られる。
【0106】
コストを減少し多孔性基材への浸透を制御するために、例えばカオリンクレー、炭酸カルシウム及び酸化チタン(IV)などの鉱物質の充填剤を、ステップ(a)、ステップ(b)、ステップ(c)、ステップ(d)、ステップ(e)、ステップ(f)又はステップ(g)において、又はこれらのステップのいずれかの後に、これらのステップの全部又はいずれかの組合せにおいて添加してもよい。これらの添加剤は、5〜50%の濃度で添加しうる。
【0107】
ステップ(a)、ステップ(b)、ステップ(c)、ステップ(d)、ステップ(e)、ステップ(f)又はステップ(g)において、又はこれらのステップのいずれかの後に、これらのステップの全部又はいずれかの組合せにおいて添加しうる他の添加剤としては、限定されないが、防腐剤、漂白剤及び消泡剤が挙げられる。微生物活性を防止するのに好適な防腐剤として、0.02〜1.0%のホルムアルデヒド(35%固体)、約0.2%の硫酸銅、硫酸亜鉛、ベンゾエート、フッ化物及びフェノール化合物が挙げられる。好適な漂白剤としては、重亜硫酸ナトリウム、水素化及び過酸化ナトリウム及び過ホウ酸ナトリウムが挙げられる。有機溶剤を添加することにより、ワックスを塗布された表面の粘着力を改善することができる。
【0108】
上記で述べたように、接着剤、特にデンプン系(又はデンプン誘導体系)接着剤のレオロジーを調整するために、特にゲル化温度を制御するために、ミクロフィブリル化セルロースを好適に用いることができる。ゲル化温度の制御の可能性は、接着剤が各種の層に、特に波形板紙の層のフルートピークに、制御された方法で塗布されて、次にα化反応により紙間に強い接着を形成する必要があるため、段ボール(ボール紙)の製造のために特に重要である。α化が緩徐に又は迅速に起こる場合、接着剤の紙への浸透が不十分(過度に低いゲル化温度)又は過剰(過度に高いゲル化温度)となるため、接着及びボードの質が低下する。更に、ミクロフィブリル化セルロースを用いることで、貯蔵期間にわたりゲル化温度が安定化する意味で、段ボールの製造において重要性が高く、すなわち、製造品質及び能力を向上させる一方で、同じコルゲータ設定での稼働において、金曜日のものと同じ接着剤を月曜日にも使用できる。
【0109】
カートンを製造するための大部分の波形ボール紙(段ボール)は、デンプン系接着剤により接着される。接着剤を調製するために必要なデンプンの一部(担体と称する)は、腐食剤水溶液により膨潤させるか、又はゼラチン化する。これを、生のデンプンの濃縮懸濁液と混合する。ペーストを波形フルート及びライナーに塗布し、接着させる。次の熱に対する曝露の際、デンプン粒子は膨張及び崩壊し、強力な接着剤を形成する。
【0110】
波形ボール紙の製造ラインにおける実験(後記参照)では、ミクロフィブリル化セルロースを含むデンプン系接着剤を使用することにより、特に(後述するように実施例のセクションに記載する)以下の利点がもたらされた:
− 最高37%の製造速度の上昇と共に、同等若しくはより上質のボール紙が得られ、その結果、より平坦な板であることにより、時間の節約及び工程後のステップが容易になる。
− 板のフルートとライナーとの間の接着強度が増加する。
− 従来の(ホウ砂を含む)接着剤を用いるボール紙と同じ強度及び性能を有するボール紙を得るために必要となる接着剤の量が減少する。
【0111】
これは、時間及び製造コストの節約につながる(すなわち、少ない接着剤が塗布されることで、蒸発させる水が少なくなり、硬化させるために必要な熱(エネルギー)を節減でき、工程中及び工程後における水による衝撃/欠陥/ゆがみを減少させ、ボール紙より平坦なものとしうる)。
【0112】
本発明では、「ミクロフィブリル化セルロース」(MFC)とは、機械的処理により、断面(直径)及び/又は長さに関して、セルロース繊維の比表面が増加し、及びサイズが減少したセルロース繊維を指すものと解し、前記のサイズの減少により、好ましくは、nm範囲の直径及びμm範囲の長さを有する「フィブリル」が得られる。
【0113】
ミクロフィブリル化セルロース(「網状」セルロースとして、又は「スーパーファイン」セルロースとして、又は特に「セルロースナノフィブリル」としても知られる)は、セルロース系生成物であり、例えば、米国特許第4481077号、第4374702号及び第4341807号明細書に記載されている。米国特許第4374702号(「Turbak」)によれば、同文献において開示される機械的処理を受けないセルロース製品と比較し、ミクロフィブリル化セルロースは特有の特性を有する。具体的には、これらの文献に記載されるミクロフィブリル化セルロースは、小さい長さスケール(直径、繊維長)、改善された水保持力及び調節可能な粘弾性特性を有する。特定の用途のためにテーラーメードされた、更に改善された一つ以上の特性を有するMFCは、特に国際公開第2007/091942号及び第2015/180844号パンフレットから公知である。
【0114】
セルロース、すなわち、ミクロフィブリル化セルロースを生産するための出発原料(典型的には「セルロースパルプ」として存在)において、個別的な及び「分離された」セルロース「フィブリル」部分は、存在しないか、又は少なくとも顕著に存在しないか、又は検出されない。木部繊維中のセルロースは、フィブリルの凝集体である。セルロース(パルプ)において、基本フィブリルは、更により大きいフィブリル束であるミクロフィブリルに集積し、最後にセルロース繊維に集積される。木部繊維の直径は、典型的には、10〜50μmの範囲(これらの繊維の長さは、更に大きい)である。セルロース繊維がマイクロミクロフィブリル化されるとき、「放出された」フィブリルの不均一な混合物は、その横断面寸法及び長さがnm〜μmとなりうる。フィブリル及びフィブリルの束は、その結果得られるミクロフィブリル化セルロースと共に存在しうる。
【0115】
本開示の全体にわたり記載されるミクロフィブリル化セルロース(「MFC」)において、個々のフィブリル又はフィブリル束は、従来公知の光学顕微鏡による観察により、例えば40倍の倍率で、又は電子顕微鏡観察により容易に同定でき、識別することができる。
【0116】
原則として、元のセルロースパルプに存在する線維の束がMFCの製造工程の際に十分に崩壊し、得られた繊維/フィブリルの平均直径がnm範囲となり、それにより、元のセルロース材料に存在する表面と比較し、セルロースベースの材料全体の表面積が多く形成される限り、いかなるタイプのミクロフィブリル化セルロース(MFC)も本発明において用いることが可能である。MFCは、上記の[背景技術]のセクションにおいて具体的に引用された先行技術などの、当業者に公知のいずれの方法に従い調製してもよい。
【0117】
本発明によれば、セルロースの、及びすなわちミクロフィブリル化セルロースの由来に関しては特に限定されない。原則として、セルロースミクロフィブリルの原料は、いずれのセルロース系材料であってもよく、具体的には木、一年生植物、綿、アマ、わら、ラミー、バガス(糖茎由来)、適切な藻類、ジュート、糖ビート、柑橘類果実、食品加工業又は資源作物由来の廃棄物、又は細菌性由来若しくは動物由来のセルロース(例えば被嚢類由来)であってもよい。
【0118】
好ましい実施形態では、木系の材料が原料として用いられ、それは硬材又は軟材又は両方(混合物)であってもよい。更に好ましくは、軟材が原料として用いられ、それは単一の種類又は異なる軟材タイプの混合物であってもよい。また、比較的高い純度のため、細菌由来のミクロフィブリル化セルロースも、好ましい。
【0119】
原則として、本発明のミクロフィブリル化セルロースは、その官能基に対する変更(修飾)を施さなくてもよいが、物理的に修飾しても、又は化学的に修飾してもよく、又はその両方であってもよい。好ましい実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースは、未変性であるか又は物理的に修飾され、好ましくは未変性である。
【0120】
セルロースミクロフィブリルの表面の化学的修飾は、セルロースミクロフィブリルの表層官能基の、具体的にはヒドロキシ基を含む官能基の、各種の考えられる反応により、好ましくは酸化、シリル化反応、エーテル化反応、イソシアネートによる凝縮、アルキレンオキサイドによるアルコキシ化反応、又はグリシジル誘導体による凝縮若しくは置換反応により実施することができる。化学的修飾は、脱フィブリル化ステップの前後に行いうる。
【0121】
セルロースミクロフィブリルは、原則的に、表面への吸着若しくは噴霧により、又はコーティングにより、又はミクロフィブリルの封入により、物理的方法で修飾しうる。修飾ミクロフィブリルは、好適には少なくとも一つの化合物の物理吸着により得ることが可能である。MFCは、両親媒性化合物(界面活性剤)との会合により修飾してもよい。
【0122】
しかしながら、他の好ましい実施形態では、ミクロフィブリル化セルロースは、物理的に修飾されない。
【0123】
本発明の好ましい実施態様において、上記で開示されるミクロフィブリル化セルロースは、少なくとも、
(1)セルロースパルプを、少なくとも一つの機械的前処理に供するステップと、
(2)ステップ(1)において機械的前処理されたセルロースパルプを均一化して、ステップ(1)の機械的前処理されたセルロースパルプに存在するセルロース繊維と比較し、小さい長さ及び直径のフィブリル及びフィブリル束を得るステップと、
を含む方法により調製され、前記ステップ(2)によりミクロフィブリル化セルロースが得られ、均一化ステップ(2)は、ステップ(1)からのセルロースパルプを圧縮し、セルロースパルプを減圧下に置くことを含む。
【0124】
機械的処理前のステップは、好ましくは精製(refining)ステップであるか、又はそれを含む。機械的前処理の目的は、セルロースパルプを「打撃」し、それにより細胞壁のアクセス性を向上させる、すなわち表面積を増加させることである。
【0125】
機械的前処理のステップで好適に用いられる精製装置は、少なくとも一つの回転ディスクを備える。そこにおいて、セルロースパルプのスラリーは、少なくとも一つの回転ディスクと少なくとも一つの静止ディスクとの間で剪断力が印加される。
【0126】
機械的前処理のステップの前に、又は機械的前処理のステップに加えて、セルロースパルプの酵素的(前)処理のステップを任意に追加することで、幾つかの用途において好ましくなる場合もある。セルロースをミクロフィブリル化することに関連する酵素の前処理に関して、国際公開第2007/091942号パンフレットの関連する内容を、参照により本願明細書に援用する。化学的前処理を含む他のタイプのいかなる前処理も、本発明の範囲内である。
【0127】
(機械的)処理前ステップの後に実施される均一化ステップ(2)において、ステップ(a)からのセルロースパルプスラリーは、例えば参照によりその内容を本願明細書に援用する国際特許出願第PCT/EP2015/001103に記載のように、少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回、ホモジナイザーを通過する。
【実施例】
【0128】
実施例1:ミクロフィブリル化セルロース(MFC)の調製
本発明の組成物に用いられるMFCは市販されており、例えば、ノルウェーのトウヒ(軟材)由来のセルロースパルプを主成分とする「Exilvaミクロフィブリル化セルロースPBX 01−V」として、Borregaard社から市販されている。
【0129】
実施例において使用するMFCは、ペーストとして存在し、9〜11%の固形分含有量を有し、すなわち、MFCペースト中のミクロミクロフィブリル化繊維の乾物含有量は9〜11%である一方、残りの約90%は水とし、それは本実施例では唯一の溶媒とした。
【0130】
実施例2:ホウ砂を含むStein−Hallデンプン系接着剤の調製(比較例)
本技術分野で公知のデンプン系接着剤は、以下の成分に基づき、以下の工程を用いて調製した:
400kgの原料水
42kgの原料デンプン(小麦)
15秒間、温度42℃で撹拌、以下を添加:
70kgの水
19kgの原料苛性ソーダ(31%)
1200秒間撹拌
650kgの第2原料水
殺菌剤:2kg
32℃の温度
400kgの第2原料デンプン(小麦)
4.3kgのホウ砂を添加
1100秒間撹拌
粘度の制御 最終:40秒間
NaOH/デンプンの比を1.3%w/wとした。
【0131】
ロリー粘性はロリー粘度カップ(本例ではElcometer 2215)により測定した。この装置は、底部に固定されたニードルを有する円筒形のカップからなる。最初にカップを接着剤に浸漬し、次に液抜き穴から排出させて空にする。ニードルの先端が見えるやいなや、流動時間を測定する。
【0132】
第2の非膨潤デンプンの添加及び混合後に、ホウ砂を添加した。最終組成物中のホウ砂の濃度は0.27%であった。ホウ砂を含むデンプン接着剤のロリー粘度は、高剪断で混合時間の経過により直ちに減少した。
【0133】
(本発明に係る)ミクロフィブリル化セルロースを含むStein−Hallデンプン系接着剤の調製
MFCを含むデンプン系の波形ボール紙用接着剤を調製する工程を、以下に示す。幾つかの工程ステップにおける粘度を、粘度計によりオンラインで測定し、またロリー粘性を測定することにより手動で制御した。
【0134】
本発明による接着剤は、以下の成分に基づき調製し、以下の工程に基づき製造した:
400kgの原料水
55kgの原料デンプン(小麦)
15秒間、温度42℃で撹拌、以下を添加:
70kgの水
12kgの原料苛性ソーダ(31%)
1200秒間撹拌
630kgの第2原料水
殺菌剤:2kg
32℃の温度
400kgの第2原料デンプン(小麦)
20kgのミクロフィブリル化セルロース(Exilva PXB 01〜V) 9%の乾物含有量
1100秒間撹拌
粘度の制御 最終:40秒間
【0135】
最終的な接着剤のpHは11.9であった。必要となる苛性ソーダ濃度は、参照ホウ砂接着剤と比較し37%減少した。NaOH/デンプンの比を0.8%w/wとした。
【0136】
特に断りのない限り、本願明細書に記載される全ての測定は、標準的な実験室条件、すなわち25℃の温度、標準圧力の大気圧及び50%の周囲湿度の下で行った。
【0137】
接着剤は、大部分の粒子が完全に膨潤した原料デンプン部、すなわち担体からなり、そこでは未処理の生の原料デンプンが懸濁していた。
【0138】
未膨張のデンプンの第2の部分を添加、混合した後、高速で撹拌(1500rpm)しながらミクロフィブリル化セルロースを添加した。ミクロフィブリル化セルロースは、混合物中に容易に分散された。最終組成物中のMFC(乾物)の濃度は0.12%であった。MFC架橋剤の乾燥質量割合は、0.4%(架橋剤としてのMFCに対するポリマーの比率は228〜1)であった。
【0139】
ミクロフィブリル化セルロースの存在に基づき、接着剤のロリー粘度は安定なままであり、高い剪断速度での混合時間の増加により低下しなかった。存在するアルカリ条件下で、MFCは水素結合によりデンプン多糖を架橋結合し、更に絡み合ったフィブリルから構成される物理的ネットワークを形成することにより混合物を安定化させ、これにより、高い剪断力による分解から、更には苛性ソーダによる更なる反応から、デンプンを保護する。
【0140】
ボードのシングルフェーサ(SF)及びダブルバッカー(DB)の表面において、本発明のStein−Hallデンプン系接着剤による段ボールHB26c(c−フルート)の製造品品質を試験し、ボードの特性について、同じ日に製造されたホウ砂による参照ボードの特性と比較した。コルゲータの設定は、両試験において同じとした。両デンプン系接着剤を用いる工程において、製造速度及びギャップは、それぞれ205m/分及び0.13mmとした。苛性ソーダ濃度の低い本発明のMFC接着剤のゲル化温度は56℃であり、一方、ホウ砂を用いた参照におけるゲル化温度は54℃であった。固形分含有量は、それぞれ26.3及び24%であった。
【0141】
ピン接着強度試験(PAT)により測定される接着強度は、図1に示すように、MFCデンプン系接着剤によるボードでは、ホウ砂による参照ボードと比較し、顕著に高かった。実際、MFCを用いることで、ダブルバッカーの接着強度は22%増加し、一方、ボードのシングルフェーサ表面では5%の増加と測定された(図1)。更に、エッジクラッシュ抵抗(ECT)及びねじれ強度は、図2に示すように、MFCデンプン系接着剤によるボードでは、ホウ砂による参照接着剤と比較し幾らか高かった。PAT及びECTは、表4に示す標準に従い測定した。ねじれ強度/剛性(TSmd、bpi)は、GTm34024に従い測定した。
【0142】
実施例3:時間経過に伴う接着安定性:実験室試験
0.15%のホウ砂を含むMinocar(天然小麦)デンプン系接着剤(参照接着剤)、及び0.12%のMFCの添加を有する同接着剤(本発明に係る接着剤)を用い、ロリー粘度及びブルックフィールド粘度を、実験室条件下、すなわち20℃及び標準的な周囲条件下で、最初の時点及び時間経過において測定した。サンプルを撹拌せずにベンチ上に静置した。参照接着剤では、最初のロリー粘度は36秒であった。1時間後に、粘度は137秒(臨界粘度)となり、参照接着剤はもはやプロペラミキサーにより30秒間事前に撹拌せずに、ロリー粘度を測定することができなかった。4時間後、参照接着剤の粘度は、事前に30秒撹拌した場合でさえ、ロリー粘度の測定にはあまりに高かった(図3を参照)。
【0143】
本発明のデンプン系接着剤(すなわちMFCを含む接着剤)の場合、最初のロリー粘度は34であり、調製後1及び2時間では43秒まで増加するだけであった。更に、ロリー粘度は調製の22.5時間後にも未だ測定可能であり、また調製後25時間以前にロリー粘度の測定のための臨界的な粘度制限に到達しなかった。25時間後には、測定の前に30秒間のプロペラミキサーによる事前の撹拌を実施しなければならなかった。ロリー粘度の最終的な測定は、接着剤の調製の94時間後に実施した(図4を参照)。
【0144】
参照デンプン系接着剤及びMFCを含むデンプン系接着剤のブルックフィールド粘度測定は同様に、デンプン系接着剤に添加されたMFCにより、時間経過に対する遅い粘度上昇を示す(図3及び4を参照)。ブルックフィールド粘度は、ブルックフィールド粘度計(RVTモデル、スピンドルno.4)により測定した。
【0145】
全体として、粘度測定の結果、ミクロフィブリル化セルロースを含むデンプン系接着剤は、ミクロフィブリル化セルロースを含まない参照デンプン系接着剤と比較し、粘度及び時間経過のいずれに関しても安定であることをここでも証明するものである。
【0146】
時間経過に伴う接着安定性:段ボールにおける本発明のデンプン系接着剤の試験
MFCを含むデンプン系接着剤のロリー粘度及び温度を、貯蔵タンクにおいて時間経過と共に測定した(図5を参照)。接着剤は、沈殿を防止しデンプン系接着剤の粘度を低下させるために、毎時5分間撹拌する。MFCを含むデンプン系接着剤を用い、撹拌のための十分な時間を試験した:貯蔵の最初の24時間、接着剤を毎時5分間撹拌し、24〜48時間後に、撹拌を3時間毎に5分間行い、48〜72時間後に、接着剤を4時間毎に5分間撹拌した。参照デンプン系接着剤と比較し、貯蔵の間、MFCを含む接着剤の場合、撹拌頻度が著しく減少した。
【0147】
MFCを含むデンプン系接着剤のロリー粘度はタンク内での72時間の貯蔵後に48秒と測定され、またデンプン系接着剤は、波形板の製造の際、水分調整を行わずに直接使用することが可能であった。タンク内でのデンプン系接着剤の温度は37℃であった(図5を参照)。
【0148】
MFCを含むデンプン系接着剤(72時間後)及び参照デンプン系接着剤(調製直後)を、品質BB25bに関して試験した(180g/mのEKライナー/110g/mのSCフルーティング/180g/mのEKライナー)。
【0149】
【表1】
【0150】
段ボールの製造において、幾つかの紙をまとめて連続工程で一重、二重又は三重層の壁板を形成するように設計された一組の機械としてコルゲータを用いた。工程では、最初に、コルゲータロール上で熱及び蒸気で紙シートを前処理し、フルート付きのシングルフェーサの形状とした。
【0151】
次にデンプン系接着剤をフルートの片面のチップに塗布し、内側ライナーをそのフルートに接着する(かかる方法の模式図について、図16及び17を参照)。次に1枚のライナー(シングルフェーサ)が接着した波形の中間フルートを、外側ライナーに移動させ、シングルフェーサに接着してダブルバッカーとする。
【0152】
図6は、それぞれ219m/分で移動させた参照デンプン系接着剤(左カラム)及び300m/分で移動させたMFCを含むデンプン系接着剤(右カラム)を使用した、波形板の重量及び粘着力の比較を示す。
【0153】
試験した参照接着剤が、波形板の製造と同日に調製された新しい接着剤であり、一方で、MFCを含む接着剤が72時間経過後かつ水を添加せずに用いたことは注目に値する。
【0154】
図6から、MFCを含むデンプン系接着剤は、37%速く操作したときであっても、波形板に対し強力な粘着力(両側、内部及び外部ライナー、それぞれRV及びLV)を提供しうることが解る。ボール紙の重量が両接着剤で同等であったため、粘着力の改善を比較でき、またその改善がMFCを含むデンプン系接着剤の良好な性能に起因することが解った。また、MFCデンプン系接着剤により製造される板は、参照デンプン接着剤により製造される板よりも平坦であることが観察された。
【0155】
全体として、MFCを含むデンプン系接着剤の粘度は、粘度が1時間後には劇的に増加するMFCを含まないデンプン系接着剤と比較し、長期間にわたり、特に貯蔵(少なくとも72時間)の間、予想外に安定であった。
【0156】
更に、MFCを含むデンプン系接着剤は、72時間の貯蔵後であっても、波形板の製造に使用可能であり、高速での製造において、調製直後の参照よりも良好に機能した。したがって、速い速度で製造を行える一方で、より上質の及びより平坦な板が得られる。
【0157】
MFCを含む接着剤の安定した粘度はまた、接着剤の品質が完全に維持されるという理由から、時間経過に伴い更に水を添加する必要がないことを意味する。これはまた、固形分含有量が不変のままであり、接着剤の調製後、例えば数日又は数週間にわたる長期間保持されうることを意味する。これは、連続的な接着剤の製造ラインを構築する可能性を開くものである。
【0158】
最後に、図7(左カラム:非ミクロフィブリル化セルロース)から明らかなように、添加剤としてミクロフィブリル化セルロースを用いることにより、接着剤の貯蔵弾性率(25℃における振幅スイープにより測定)が増加する。
【0159】
実施例4:コーンスターチを用い、Stein−Hall工程に従い調製されるデンプン系接着剤のロリー粘性に対するMFCの効果
図8は、デンプン系接着剤のロリー粘度に対するMFCの効果、及びMFCがホウ砂よりも効果的な増粘剤であることを示す。デンプン系接着剤は、全ての接着剤において、天然コーンスターチを用い、等量の苛性ソーダ又はNaOH(全接着剤組成物の0.5w%)及び同じ固形分含有量(全接着剤組成物の25w%)で、Stein−Hall工程に従い調製した。ホウ砂によるデンプン系接着剤と同じ粘度を得るために必要なMFCは、72%(乾物)も少なかった。
【0160】
Stein−Hallコーンスターチ接着剤のゲル化温度に対するMFCの効果
図9から明らかなように、0.1%乾物から0.5%乾物までMFC含有量を変化させたときでも、添加剤としてMFCを添加(及びホウ砂を除去)することで、56℃〜58℃の間に接着剤組成物のゲル化温度が安定化される。苛性ソーダ濃度は、全ての接着剤組成物で等量とした。同じ量の苛性ソーダ及び0.5%のホウ砂(しかしMFCを含まない)を含む参照デンプン系接着剤(図中、白三角)は、61℃のゲル化温度を有した。
【0161】
図9から明らかなように、この濃度範囲でMFC含有量を変化させても、デンプン系接着剤のゲル化温度に顕著な影響が及ばない。接着剤の処理において、ゲル化温度は制御される必要があり、また顕著な範囲で変化してはならない鍵となる工程パラメータであるため、これは重要である。
【0162】
図10から明らかなように、0.1%のMFCを含む(ホウ砂を含まない)デンプン系接着剤において、接着剤のゲル化温度は、本質的に組成物中の苛性ソーダ(NaOH)濃度のみの関数である。線形回帰を用いることで、接着剤の所望のゲル化温度をもたらす苛性ソーダ濃度を容易に算出することができる。組成物中のMFCは更に、工程中及び貯蔵の間、接着剤のゲル化温度を安定化させる。
【0163】
MFCを含む、異なるタイプの穀物及び小麦デンプン(天然及び修飾)のゲル化温度のNaOH含有量依存性
図11は、デンプンの種類を変化させ、固形分含有量を変化させ、全てMFCを含有させて調製した、デンプン系接着剤のゲル化温度を示す。図11は、工程タイプ、製法パラメータ又はデンプンの性質に関わりなく、常にゲル化温度と苛性ソーダ含有量との間の比例関係が存在することを明らかにする。その結果、デンプン系接着剤のMFCを用いる(また少なくともいくつかの成分、好ましくは大部分のホウ砂を代替する)ことにより、線形回帰に基づき、所望のゲル化温度を得るために必要となる苛性ソーダの含有量を算出することが常に可能となる。
【0164】
実施例5:
レオメータ(Anton Paar Physica MCR 102)を用い、ホウ砂を有するデンプン系接着剤及びMFCを有するデンプン系接着剤の硬化温度の測定を行った。同心円筒ジオメトリーを用いた。硬化温度を測定するため、25℃から70℃への温度スイープを、線形粘弾性領域、すなわち0.1%の変形及び1Hzの周波数において行った。貯蔵弾性率は、温度の関数として測定した。ゲル化温度は、貯蔵弾性率の急な増加の開始温度として測定した。
【0165】
図12は、架橋剤としてMFCを含む接着剤が、架橋剤としてホウ砂を含む接着剤よりも低い硬化温度を有することを示す。苛性ソーダ濃度及び固形分含有量は、両接着剤において等しくした。ホウ砂をMFCで代替することにより、含まれる苛性ソーダはデンプン単位と反応する一方、MFCは物理的及び化学的にデンプンを安定化させ、それにより接着剤の粘度及びゲル化温度を安定化させる。
【0166】
MFC−デンプンゲル−ネットワークの形成は、強い分子間水素結合、並びに絡み合ったフィブリルネットワークによるデンプン分子の物理的トラップの結果であると考えられる。
【0167】
デンプン系接着剤の硬化の後、MFCによりこの新規なゲル構造がもたらされることは、自己完結型で冷却後にもろい粘弾性を有するヒドロゲルであるホウ砂架橋デンプンと比較し、このゲルが可鍛性を有し、ソフトであり、きめがあることから、明白であった。MFCによりもたらされる、波形ボードの製造工程の間のゆがみ及び水損失の調整ための長期にわたるオープンタイムは有益であり、段ボールの質を向上させる。
【0168】
図12は更に、修飾小麦デンプンを用い、Corrtechプロセスに従い調製したデンプン系接着剤のゲル化温度及び貯蔵弾性率に対するMFCの効果を示す。全接着剤組成物中に0.21%のMFCを含むデンプン系接着剤のゲル化温度は、0.28%のホウ砂を含む同様の苛性ソーダ含有量(全接着剤組成物中0.36%の苛性ソーダ)及びデンプン含有量(全接着剤組成物の28%)のデンプン系接着剤のそれより低い。MFCを含むデンプン系接着剤では、曲線の勾配で示されるα化速度がより穏やかであり、これは、これがホウ砂を含むデンプン系接着剤と比較して硬化にやや多くの時間を要することを意味する。それによる利点は、水の放出が遅くなり、すなわちオープンタイムが長くなり、その結果、乾燥時間の制御が容易になり、また安定なボードが得られる、ということである。
【0169】
それに加え、硬化したMFCを含むデンプン系接着剤の貯蔵弾性率は、ホウ砂を含むデンプン系接着剤のそれより高く、それはすなわち、加熱後のMFC−デンプン接着剤における水の遅い放出が、二次デンプンのα化を改善し、それがミクロフィブリル化セルロースと共に強力な接着力を提供することを示す。
【0170】
ホウ砂もMFCも含まないデンプン系接着剤を、MFCを含むデンプン系接着剤及びホウ砂を含むデンプン系接着剤と比較することにより、MFCの効果を更に試験した(図13)。苛性ソーダ含有量は、MFCを含むデンプン系接着剤及びホウ砂を含むデンプン系接着剤と同じである。但し、苛性ソーダ含有量は、図12に示す接着剤の調製において用いたものよりも少ない(全接着剤組成物中0.36%に対して、0.20%)。本試験から、この低い苛性ソーダ含有量の場合であっても、加熱により、MFCがデンプン系接着剤のα化反応の時間を幾らか伸ばすのに対し、ホウ砂がそれを短縮することが確認された。それに加え、硬化させたMFCを含むデンプン系接着剤の貯蔵弾性率は、この低い苛性ソーダ含有量で27%増加した。事実、図13は、MFCが、(ホウ砂とは異なり)液体の状態の接着剤の貯蔵時の(硬化前の)弾性率を増加させ、したがって、ホウ砂による参照接着剤と比較して強力なネットワーク構造を構築することを明らかに証明するものである。
【0171】
実施例6:α化速度及び硬化した接着剤の貯蔵弾性率に対するMFC濃度の効果
図14及び図15は、MFC濃度の、デンプン接着剤のα化速度及び硬化した接着剤の貯蔵弾性率に対する影響を示す。苛性ソーダ濃度及び固形分含有量は、3つの接着剤において同じである。MFC含有量を、全接着剤組成物に対して0.05〜0.25重量%で変化させる。
【0172】
MFC濃度が高くなると、硬化した接着剤の貯蔵弾性率が高くなり、また硬化した接着剤がより強くなり(図15を参照)、これらは、0.25%w/wまでの濃度のミクロフィブリル化セルロースが接着強度の強化に貢献していることを明らかに示す。それに加えて、MFCの濃度が高くなると、α化の速度が遅くなり、また接着剤を開封できる時間もより長くなる(図14を参照)。フルスケールでの製造における長い開封時間による利点は、板上のゆがみを調整するための時間が長くなり、それにより、より平坦かつより安定な板が得られることとなる。更に、「開封」時間が長くなると、第2のデンプンを完全にα化させるための時間、及び強力な絡み合ったミクロフィブリル化セルロース−デンプンのゲルネットワークの形成のための時間を長く得ることができる。実際、MFC濃度を変化させることで接着剤の接着強度並びにその開封時間を制御することが可能となり、それによりゆがみのより良好な制御及び波形板の全体的な品質向上が可能となる。
【0173】
実施例7:MFCを含むMinocar天然小麦接着剤の、ホウ砂参照との比較
24時間の貯蔵後、MFC(全組成物中0.12%w/w)を含むデンプン系接着剤及びホウ砂(全組成物中0.15%w/w)を含む参照接着剤の、粘度及び固形分含有量を測定し、その数値を表2に示す。苛性ソーダ濃度は、両接着剤において同じ(全組成物に対し0.3%w/w)とした。
【0174】
【表2】
【0175】
MFCを有するデンプン系接着剤は、37℃で24時間の貯蔵の後、安定な粘性を有し、更に水を添加せずに、ボール紙の製造にそのまま使用できた。貯蔵の間、MFCを有する接着剤を4時間毎に5分間撹拌した。対照的に、ホウ砂を有するデンプン系接着剤は安定性が低く、24時間の貯蔵の後、28秒から34秒まで粘度の増加を示し、接着剤の粘度を低下させ、沈降を防止するため、1時間毎に5分間撹拌しなければならなかった。
【0176】
両接着剤(MFCにより架橋されたデンプン系接着剤及びホウ砂により架橋されたデンプン系接着剤)を、BB25c品質の段ボールに用いた。両接着剤を同じ工程パラメータにより稼働させた。デンプン−MFC接着剤では、通常の速度ならびに高速度で稼働させた(表3を参照)。
【0177】
【表3】
【0178】
サンプルは、表4で示す標準試験法に従い、実験室において分析した。
【0179】
【表4】
【0180】
MFCで架橋されたデンプンを有する接着剤により、より平坦な段ボールが得られた。ピン接着法(PAT)を用い、段ボールのフルートとライナーとの間の粘着力を測定した。特に、デンプン−MFC接着剤は、(同程度の及び速い製造速度の両方において)より良好なボードの接着強度をもたらした。(207及び250m/分の稼働にて、BB25cボードに対するピン接着試験(PAT)により、参照ホウ砂接着剤と比較したMFC接着剤の接着強度を測定した)。
【0181】
実施例8:天然小麦を用いStein−Hall工程に従い調製した接着剤の、段ボールにおける試験
MFC(全組成物に対し0.13%w/w)により架橋されたデンプン系接着剤及びホウ砂(参照、全組成物に対し0.27%w/w)により架橋されたデンプン系接着剤(いずれもStein−Hall工程に従い調製)を、BB24b品質の段ボールに用いた。苛性ソーダの濃度は、両接着剤において同量(全組成物に対し0.4%w/w)とした。
【0182】
接着剤を、ダブルバッカー(DB)側(箱の外側)に塗布した。参照接着剤を有する段ボールの製造では232m/分で稼働させ、一方、MFCで架橋された接着剤を有するボードの製造では250m/分で稼働させた(表5を参照)。接着剤のギャップは、両接着剤において0.08mmに設定した。
【0183】
【表5】
【0184】
サンプルは、表6で示す標準試験法に従い、実験室において分析した。ホウ砂を有する参照接着剤及びMFCを有する接着剤において得られた値を、図18、19及び20に示す。
【0185】
【表6】
【0186】
MFCで架橋されたデンプンを有する接着剤により、より顕著に平坦な段ボールが得られた。ピン接着法(PAT)を用い、段ボールのフルートとライナーとの間の粘着力を測定した。図18から明らかなように、デンプン−MFC接着剤は、参照接着剤と比較しボードの接着強度が良好であった。事実、8%速い製造速度において、MFCを有するStein−Hall接着剤を用いたボードの接着強度は、参照接着剤を用いたボードの接着強度よりも27%高い。更に、デンプン系接着剤の架橋剤としてMFCを用いたとき、ホウ砂により架橋された参照接着剤と比較し、接着剤の消費が33%減少した(図19)。g/mで示す接着剤の消費量は、以下の方法及び式に従い、サンプル毎に6回の同時試験により算出した:空気乾燥(恒温及び湿度条件)した段ボールの重量−紙の理想的な重量=差異=接着剤の消費。図20から、MFC接着剤を有するボードは、8%速い製造速度で製造された場合であっても、厚さ、エッジクラッシュ抵抗(ECT)及びねじれ強度(剛性)が両接着剤において同等であることがわかる。
【0187】
本試験から、ミクロフィブリル化セルロースをデンプン系接着剤の架橋剤として用いることで、接着剤の塗布量を減少させ、また強力な接着を形成させることができ、ならびに、ホウ砂を有する参照接着剤と比較し製造速度を向上させ、より平坦なボードを提供できると結論付けることができる。
【0188】
まとめると、MFCを、デンプン系接着剤の架橋剤として用い、ホウ砂を完全に又は部分的に代替することで、以下の利点、すなわちこれらの利点の全部、又は少なくともその一部が観察されうると結論付けることができる:
− 効果的な及び即時のデンプン系接着剤の増粘
− 工程及び貯蔵の間の接着剤の安定な粘度及びゲル化温度
− 低い温度での波形付け工程が可能になること
− 貯蔵の間の接着剤の品質安定化(沈降が無いか少ない)
− 接着剤の塗布性の改善につながる、テクスチャー及び剪断減粘レオロジー挙動の改善
− 未硬化の(液体)及び硬化した(固体)デンプン系接着剤の高い貯蔵弾性率
− 接着剤のオープンタイムの増加
− 段ボールの接着強度の改善
− 高い製造速度
− コルゲータ及び後工程後のボードの平坦性及び高い安定性
− 接着剤の消費の低減
− 水損失の減少
− スペック範囲内での、同等又はより良好なECT及びねじれ強度値
− 製造能力の増加及び/又は廃棄物の減少。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【国際調査報告】