特表2021-529311(P2021-529311A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティ・オブ・タスマニアの特許一覧

特表2021-529311電気分離シリンジおよび電気分離シリンジを使用する分析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-529311(P2021-529311A)
(43)【公表日】2021年10月28日
(54)【発明の名称】電気分離シリンジおよび電気分離シリンジを使用する分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20211001BHJP
【FI】
   G01N27/447 331Z
   G01N27/447 331H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2020-571585(P2020-571585)
(86)(22)【出願日】2019年6月27日
(85)【翻訳文提出日】2021年2月19日
(86)【国際出願番号】AU2019050675
(87)【国際公開番号】WO2020000047
(87)【国際公開日】20200102
(31)【優先権主張番号】2018902309
(32)【優先日】2018年6月27日
(33)【優先権主張国】AU
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】504427673
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・タスマニア
【氏名又は名称原語表記】University of Tasmania
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100117640
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 達己
(72)【発明者】
【氏名】ミハイル,イブラーム・エマド
(72)【発明者】
【氏名】ブレッドモア,マイケル・チャールズ
(57)【要約】
本出願は、溶液中の化合物の分布を変更するための方法であって、化合物を含む溶液を、シリンジバレル、プランジャおよびシリンジバレルに含有される溶液全体に電圧を印加するように配置された電極を含む電気分離シリンジに引き込むステップと、シリンジバレルの溶液全体に電圧を印加して、シリンジバレルに含有される溶液内の化合物の分布を変更するステップとを含む、方法に関する。方法は、分析方法の一部として実施されてもよい。さらに、そのような方法を実施するための電気分離シリンジ、および試料を分析するための装置であって、シリンジバレル、プランジャ、およびシリンジバレル内に含有される任意の液体全体に電圧が印加されることを可能にするように配置された一組の電極を含む電気分離シリンジ、または電気分離シリンジを受容するための受容器、電圧電位を供給するための電源、液体を引き上げてシリンジバレルに配給するプランジャの操作のためのプランジャ制御器、分析器に送出された液体を分析するための分析器、分析に供される溶液を保持するための試料リザーバ、電気分離シリンジと流体接続したバルブであり、電気分離シリンジと分析器の間の流体の流れ、および電気分離シリンジと試料リザーバの間の流体の流れを可能にするバルブ、ならびに電極に対する電源の操作、液体をシリンジバレルに引き込み、液体をシリンジバレルから配給するプランジャの操作を制御し、流体の流れの方向を制御するためのバルブ設定を制御するための制御器を含む、装置が記載される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の化合物の分布を変更するための方法であって、
前記化合物を含む前記溶液を、シリンジバレル、プランジャ、および前記シリンジバレルに含有される溶液全体に電圧を印加するように配置された電極を含む電気分離シリンジ内に引き込むステップと、
前記シリンジバレルの前記溶液全体に電圧を印加して、前記シリンジバレルに含有される前記溶液内の前記化合物の分布を変更するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記化合物が分析物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シリンジバレルに含有される前記溶液内の前記分析物の分布を変更するステップが、
前記シリンジバレルに含有される前記溶液の領域内で前記分析物の濃度を集束させるステップ、または
前記溶液中の前記分析物の濃度が増加された領域を前記溶液内に生成するステップであって、前記分析物が正味の中性分子である、ステップ、または
前記分析物を、同じく前記溶液内に含有される正味の中性化合物から分離するステップであって、前記分析物が荷電化合物である、ステップ
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液が前記化合物および分析物を含み、前記シリンジバレルに含有される前記溶液内の前記化合物の分布を変更するステップが、前記溶液の1つの領域内で増加された濃度の前記化合物を集束させて、前記化合物の濃度が減少した、前記分析物を含有する溶液の別の領域を創出するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶液を分析器に投入して、前記分析物の分析を可能にするステップ
を含む、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶液に印加される前記電圧が、−1.23V〜約−5000Vの範囲内、または+1.23V〜約5000Vの範囲内の電圧である、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液を前記分析器に投入するステップの間に第2の電圧が印加される、請求項2から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の電圧が、−約1.23V〜約−1000Vの範囲、または約+1.23V〜約+1000Vの範囲内の電圧である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液全体に前記電圧を印加する前に、前記電気分離シリンジのバレル内の圧力が増加される、請求項2から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電気分離シリンジが、前記バレルの排出端に付随するバルブを含み、前記バルブが閉じられているときに前記電気分離シリンジの前記プランジャに圧力を印加することによって圧力が増加される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記分析物が両親媒性分析物である、または
前記分析物が中性分析物もしくは荷電分析物であり、前記溶液が両親媒性分子を含む、
請求項2から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記両親媒性分析物または両親媒性分子が、タンパク質、ペプチドおよびアミノ酸から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記溶液が、アンモニウム塩、カルボン酸、カルボン酸塩、アミンおよびこれらの1種または複数の組合せからなる群から選択されるバックグラウンド電解質を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
水溶液中の分析物の濃度を決定するための方法であって、
c.電気分離シリンジ中の分析物およびバックグラウンド電解質を含む前記水溶液全体に電圧を印加するステップであり、前記電気分離シリンジが、シリンジバレル、プランジャ、および前記シリンジバレル中の前記水溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む、ステップと、
d.前記水溶液を分析器に投入するステップと
を含む、方法。
【請求項15】
水溶液中の分子の濃度を集束させるための方法であって、
a.電気分離シリンジ中の前記分子およびバックグラウンド電解質を含む前記水溶液全体に電圧を印加して、前記溶液中の増加された濃度の前記分子を含む領域を生成するステップであり、前記電気分離シリンジが、シリンジバレル、プランジャ、および前記水溶液全体に前記電圧を印加するように配置された一組の電極を含む、ステップ
を含む、方法。
【請求項16】
荷電化合物を両親媒性化合物から分離するための方法であって、シリンジバレル、プランジャ、および水溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む電気分離シリンジ中の、前記荷電化合物、前記両親媒性化合物、およびバックグラウンド電解質を含む前記水溶液全体に前記電圧を印加するステップを含む、方法。
【請求項17】
シリンジバレル、プランジャ、および一組の電極を含む電気分離シリンジであって、前記電極が、使用時に前記シリンジバレル内に含有される溶液と電気接触し、電圧が前記シリンジバレルに含有される溶液全体に長手方向に印加されることを可能にするように構成される、電気分離シリンジ。
【請求項18】
前記一組の電極が、
第1の電源コネクタを含むカソード、および
第2の電源コネクタを含むアノード
を含む、請求項17に記載の電気分離シリンジ。
【請求項19】
前記シリンジバレルが、排出端およびプランジャ受容端を有し、前記カソードまたは前記アノードの一方が前記バレルの前記排出端に配置される、請求項18に記載の電気分離シリンジ。
【請求項20】
前記プランジャが前記電極の一方を含む、請求項17から19のいずれか一項に記載の電気分離シリンジ。
【請求項21】
前記電極の一方が針の形態である、請求項17から20のいずれか一項に記載の電気分離シリンジ。
【請求項22】
前記シリンジバレルが内部コーティングを含む、請求項17から21のいずれか一項に記載の電気分離シリンジ。
【請求項23】
前記バレルの前記排出端に付随するバルブを含む、請求項17から22のいずれか一項に記載の電気分離シリンジ。
【請求項24】
0.5μl〜20μの間など、0.5μl〜1mlの間の容量を有する、請求項17から23のいずれか一項に記載の電気分離シリンジ。
【請求項25】
試料を分析するための装置であって、
シリンジバレル、プランジャ、および前記シリンジバレル内に含有される任意の液体全体に電圧が印加されることを可能にするように配置された一組の電極を含む電気分離シリンジ、または電気分離シリンジを受容するための受容器、
電圧電位を供給するための電源、
液体を引き上げて前記シリンジバレルに配給する前記プランジャの操作のためのプランジャ制御器、
前記分析器に送出された液体を分析するための分析器、
分析に供される溶液を保持するための試料リザーバ、
前記電気分離シリンジと流体接続したバルブであり、前記電気分離シリンジと前記分析器の間の流体の流れ、および前記電気分離シリンジと前記試料リザーバの間の流体の流れを可能にするバルブ、ならびに
前記電極に対する前記電源の操作、液体を前記シリンジバレル内に引き込み、液体を前記シリンジバレルから配給する前記プランジャの操作を制御し、流体の流れの方向を制御するためのバルブ設定を制御するための制御器
を含む、装置。
【請求項26】
前記電気分離シリンジが、請求項17から22のいずれか一項に記載の電気分離シリンジである、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
請求項1から16のいずれか一項に記載の方法を実施するために使用される場合の、請求項25または請求項26に記載の装置。
【請求項28】
シリンジバレル、プランジャ、および使用時に、前記シリンジバレルに含有される水溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む、電気分離シリンジ、
前記電極と接続するように構成された電源、ならびに
前記電気分離シリンジから分析物を受容して分析するように適合された分析器
を含む、分析システム。
【請求項29】
前記電気分離シリンジが、請求項17から22のいずれか一項に記載の電気分離シリンジである、請求項28に記載の分析システム。
【請求項30】
請求項2から16のいずれか一項に記載の方法を実施するために使用される場合の、請求項28に記載の分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[1]本発明は、分析方法の一部を形成しうる、溶液中の化合物の分布を変更するための方法に関する。本発明はまた、電気化学技術が関与するシステム、およびそのような方法の実施に使用される機器に関する。
【背景技術】
【0002】
[2]分析物、特に生物学的試料などの複雑なマトリックス中の分析物の分析には課題が残されている。例えば、生物分析では、マトリックス中に内在的に存在する共溶出化合物は、現行の分析技術の再現性および効率に悪影響を及ぼす。この再現性および効率の損失は、一般的に「マトリックス効果」と称される。例えば、血漿アルブミンおよび様々な免疫グロブリンは、他の豊富な血漿タンパク質と共に、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)において顕著なイオンサプレッションを引き起こし、結果として、存在量が低い分析物の検出および定量に干渉する。
【0003】
[3]干渉タンパク質を血漿試料から分離するための現行の方法として、タンパク質沈殿(PPT)、液−液抽出(LLE)および固相抽出(SPE)技術が挙げられる。PPTは、アセトニトリル水溶液、メタノールおよびアセトニトリル−メタノール混合物などの有機溶媒水溶液へのタンパク質の低い溶解度に基づく、非特異的方法である。LLEは、分析物を、水または緩衝溶液と、ヘキサン、ジエチルエーテルおよびトルエンなどの有機溶媒との間などの2種の非混和性液体に分配することを伴う。SPEは、ある特定の固定相に対する特定の分析物の親和性に依存する。分析物および固定相の特性に応じて、標的の分析物が保持されると同時に、望まれない血漿マトリックス成分が溶媒とともに溶出されるか、または干渉するマトリックス成分が保持され、標的の分析物が溶媒とともに溶出されるかのいずれかが生じる。SPE条件の最適化は、分析物の物理化学的特性および試料中のマトリックス成分の性質に左右されるため、典型的に、長期間の方法の開発を必要とする。PPT、LLEおよびSPEなどの従来の技術は、自動化が困難であり、大量の溶媒を使用し、時間がかかる、かつ/または複数のステップを伴うことが多い。したがって、マトリックス効果に対処するための代替的な技術の開発に対する継続的な必要性が存在する。
【0004】
[4]電気泳動は、分子を、それらのサイズ、電荷または結合パートナー(例えば、リガンドまたは受容体のいずれか)への結合親和性などの好適な性質に基づいて、電場または電流の影響下で分離する強力な方法である。電気泳動は、種々の分析物、最も顕著には、ペプチドまたはタンパク質などの大きな生体分子の分析に用いられている。電気泳動技術として、キャピラリー電気泳動(CE)、ミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)、ゲル電気泳動およびマイクロチップ電気泳動が挙げられる。しかし、電気泳動もまた、一部の複雑なマトリックスに関して、マトリックス効果の問題がある。
【0005】
[5]等電点電気泳動(IEF)は、両親媒性分子を、印加電圧の影響下で、それらの等電点(pI)に応じて分離する技術である。最も一般的な種類のIEFは、両性担体(CA)をゲルまたは溶液に組み込み、pH勾配をもたらすことによって行われる。しかし、CAは高価であり、特別なインターフェースまたは分析前のCA除去のいずれかがなければ、質量分析(MS)分析と不適合である。
【0006】
[6]CAを使用せずにpH勾配を生成する方法が探索されている。これらの方法は、CAフリー等電点電気泳動(CA−free isoelectic focussing)(CAF−IEF)戦略と称される場合がある。CAF−IEF技術は、広範な結合質量分析(MS)方法およびラボオンチップ用途に適用されている。
【0007】
[7]1つのCAF−IEF戦略は、分離カラムの両側の電極チャンバからのHおよびOHイオンの制御された流れを使用して、両親媒性分子をそれらのマトリックスから濃縮し、分離することを伴う。加溶媒分解性イオンは分離カラムの中心に流れ、反応して水分子を再形成する。Hイオンの流れは低pHゾーンを創出し、OHイオンの流れは高pHゾーンを創出する。HおよびOHイオンの反応が生じるゾーンはpHの急激な変化を経験し、典型的にほぼ中性のpH(約pH7)を有する。この中性ゾーンは、中和反応界面(NRB)と称される場合がある。NRBの周囲の高/低pHゾーンのpHの間のpI値を有する両親媒性分子は、NRBに集束する。次いで、NRBに集束した両性電解質は、分離カラムのみを使用して、またはキャピラリー電気泳動などのさらなる分離ステップにおいてさらに分離されてもよく、またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析に好適なマトリックスに組み込まれてもよい。
【0008】
[8]ラボインシリンジ(Lab−in−a−Syringe)(LIS)システムは、シリンジ内で様々な分析ステップを統合するための最近の手法である。近年、水試料およびソフトドリンク中のローダミンBの定量のための、自動化された分散液−液マイクロ抽出LISシステムと、組み込み型分光光度検出を統合したLISシステムが導入された。LISシステムは既に、電熱原子吸光分光分析、誘導結合プラズマ分光分析法およびガスクロマトグラフィー−質量分析などの種々の分析技術との結合の前に、標的の分析物を事前濃縮するための価値あるツールとみなされている。さらに、免疫センシングバイオマーカーおよびアラニンエナンチオマーの比色識別のための、金ナノ粒子に基づくLISシステムが開発された。現行のLISシステムは主に、有機溶媒の過剰な使用、労働強度、エマルジョン形成が必要であること、および自動化の困難を含む、多くの欠点に悩まされる液−液抽出(LLE)技術に基づく。現行のLISシステムはいずれも、電気分離技術に基づくものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[9]したがって、電気分離技術を用いるLISシステムを提供することが有益である。また、代替的なLISシステム内のCAS−IEF戦略を提供することが有益である。さらに、生物学的試料の分析のための有用な代替物となりうる、電気分離技術を利用する方法を提供することが有益である。また、分析前の荷電種から正味の中性分子を分離することができるLISシステムを提供することが本発明の実施形態に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[10]本発明者らは、電気分離シリンジを利用する分析方法およびシステムを開発した。方法およびシステムは、溶液中の分析物の量をより効果的に分析するために使用することができる。これらの方法およびシステムは、既存のシステムおよび方法論より低濃度の分析物の正確かつ再現可能な分析、または少量の試料の分析を可能にしうる。方法およびシステムは、電気分離シリンジ内で実行されるように適合された電気化学技術を利用する。技術は、分析器への投入前に、荷電分子が正味の中性分子から分離される分離ステップを含んでもよい。この分離は、生物学的試料の分析など、複雑なマトリックス中の分析物の分析に特に有益でありうる。例えば、分離ステップを用いて、干渉する荷電種を正味の中性分析物から分離し、マトリックス効果の影響を低減させ、増強した感度で分析物のより再現可能な分析を可能にすることができる。また、プロセスおよび方法を使用して、分析物(荷電または正味の中性)の濃度を溶液の領域に集束させ、分析器による検出の感度の向上を支援することができる。
【0011】
[11]一実施形態によると、溶液中の化合物の分布を変更するための方法であって、
− 化合物を含む溶液を、シリンジバレル、プランジャおよびシリンジバレルに含有される溶液全体に電圧を印加するように配置された電極を含む電気分離シリンジに引き込むステップと、
− シリンジバレルの溶液全体に電圧を印加して、シリンジバレルに含有される溶液内の化合物の分布を変更するステップと
を含む、方法が提供される。
【0012】
[12]化合物は、分析物であってもよい。化合物は、方法の後続の段階で分析に供される場合、分析物と記載されてもよい。
[13]化合物または分析物の分布を変更することは、分布を均一な分布から変化させること、シリンジバレルの溶液の体積全体もしくはアリコートにわたって化合物を分散すること、または溶液中の他の成分の分布を変更して、溶液に存在する他の物質に対する化合物(分析物)の相対量(すなわち、分布)を変化させることを指す。これは、溶液の1つの領域(すなわち、ゾーン、エリアまたは部分)の濃度を増加させ、溶液の別の領域の濃度を減少させることによるものであってもよい。多数の非限定的な例を提示すると、シリンジバレルに含有される溶液内の化合物(例えば、分析物)の分布の変更は、以下を含んでもよい:
− シリンジバレルに含有される溶液の領域内で化合物(例えば、分析物)の濃度を集束させるステップ、または
− 溶液中の化合物(例えば、分析物)の濃度が増加された領域を溶液内に生成するステップであって、化合物(分析物)が正味の中性分子である、ステップ、または
− 化合物(例えば、分析物)を、同じく溶液内に含有される正味の中性化合物から分離するステップであって、化合物(分析物)が荷電化合物である、ステップ、または
− 溶液が化合物(例えば、「マトリックス化合物」)および分析物を含む場合、溶液の1つの領域内で化合物の濃度を集束させて、化合物の量が減少した、分析物を含有する溶液の別の領域を創出するステップ。
【0013】
[14]上記の4つの例のそれぞれは、本発明の別個の実施形態の主題である。
[15]最後の例が実証するように、溶液の1つの領域で集束または濃縮される化合物は必ずしも分析物である必要はなく、分析される分析物は、溶液全体に電圧を印加した後も溶液に均一に分布したままである、溶液中の別の種であってもよい。この例では、マトリックス化合物と記載される場合がある、溶液に存在する1種または複数の別の化合物は、1つの領域に分析物を元の濃度で含む、マトリックス化合物の濃度が比較的高い領域と、分析物を元の濃度で含む、マトリックス化合物の濃度が比較的低い別の領域が存在するように再分布される。他の化合物の濃度を低減させることによって分析物を分析する能力を向上させる、この試料を「クリーンアップ」する形態は、複雑な(多成分)試料中の少量の分析物の分析を支援することもできる。
【0014】
[16]方法はさらに、
− 溶液を分析器に投入して、分析物の分析(例えば、分析物の濃度の決定)を可能にするステップ
を含みうる。
【0015】
[17]方法が実施されるときに化合物または分析物が存在する溶液は、実行溶液と記載される場合がある。典型的な実施形態における溶液は、水溶液である。溶液は、水性溶媒(すなわち、水)と1種または複数の有機溶媒(例えばアセトニトリル)の組合せを含みうる。代替的な実施形態では、溶液は、極性有機溶媒を含む有機溶液である可能性がある。
【0016】
[18]一態様では、本発明は、溶液中の分析物の濃度を決定するための方法であって、
a.電気分離シリンジ中の分析物およびバックグラウンド電解質を含む溶液全体に電圧を印加するステップであり、電気分離シリンジが、シリンジバレル、プランジャ、およびシリンジバレル中の溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む、ステップと、
b.溶液を分析器に投入するステップと
を含む、方法を提供する。
【0017】
[19]この態様の特定の例では、本出願は、水溶液中の分析物の濃度を決定するための方法であって、
a.電気分離シリンジ中の分析物およびバックグラウンド電解質を含む水溶液全体に電圧を印加するステップであり、電気分離シリンジが、水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む、ステップと、
b.水溶液を分析器に投入するステップと
を含む、方法を提供する。
【0018】
[20]別の態様では、本発明は、溶液中の分子の濃度を集束させるための方法であって、電気分離シリンジ中の分子およびバックグラウンド電解質を含む溶液全体に電圧を印加して、溶液中の増加された濃度の分子を含む領域を生成するステップであり、電気分離シリンジが、シリンジバレル、プランジャ、および水溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む、ステップを含む方法を提供する。
【0019】
[21]この態様の特定の例では、水溶液中の正味の中性分子の濃度を集束させるための方法であって、電気分離シリンジ中の正味の中性分子、1種または複数の荷電分子およびバックグラウンド電解質を含む水溶液全体に電圧を印加して、溶液中の増加された濃度の正味の中性分子を含む領域を生成するステップであり、電気分離シリンジが、水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む、ステップを含む方法が提供される。
【0020】
[22]さらなる態様では、本出願は、荷電化合物を正味の中性化合物(例えば、両親媒性化合物)から分離するための方法であって、シリンジバレル、プランジャ、および水溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む電気分離シリンジ中の、荷電化合物、正味の中性化合物(または両親媒性化合物)およびバックグラウンド電解質を含む溶液全体に電圧を印加するステップを含む、方法を提供する。
【0021】
[23]このさらなる態様の特定の例では、本出願は、荷電化合物を正味の中性化合物から分離するための方法であって、水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む電気分離シリンジ中の、荷電化合物、正味の中性化合物およびバックグラウンド電解質を含む水溶液全体に電圧を印加するステップを含む、方法を提供する。
【0022】
[24]これらの方法の一部の実施形態では、溶液は水溶液である。一部の実施形態では、水溶液は生物学的溶液である。
[25]別の態様では、本発明は、シリンジバレル、プランジャおよび一組の電極を含む電気分離シリンジであって、電極が、使用時にシリンジバレル内に含有される溶液と電気接触し、電圧がシリンジバレルに含有される溶液全体に長手方向に印加されることを可能にするように構成される、電気分離シリンジを提供する。
【0023】
[26]別の様態で表現すると、本発明の電気分離シリンジは、排出端および受容端を有するバレル、プランジャ、第1の電源コネクタを含むカソード、ならびに第2の電源コネクタを含むアノードを含んでもよく、カソードおよびアノードは、バレル内に含有される溶液全体に電圧をもたらすように構成される。
【0024】
[27]1つの電極は、シリンジバレルの一端に接続される導電性金属針の形態であってもよい。別の電極は、針に対してシリンジバレルの対向端にある導電性金属プランジャであって、使用時に、シリンジバレル内に含有される溶液が導電性金属プランジャと直接接触するように、シリンジバレルの内部への直接接触をもたらすように構成された、導電性金属プランジャの形態であってもよい。結果として、通常、プランジャをシリンジバレル内に保持される溶液から電気的に隔離する導電性シール材(少なくとも1つの領域における)は存在しない。
【0025】
[28]電気分離シリンジは、パーツまたは全体で供給されてもよい。電気分離シリンジを構成するために必要とされるパーツのサブセットが供給されてもよい。したがって、1つの例では、針に接続するための針コネクタを含むシリンジバレル、および電極を含むプランジャであって、使用時にシリンジバレル内に配置されるとき、シリンジバレル内に含有される溶液と、プランジャの電極との間に直接電気接触が存在するように構成されるプランジャを含む、電気分離シリンジキットが提供されうる。キットは針をさらに含んでもよく、針は別個に供給されてもよい。針は、第2の電極を含んでもよい。
【0026】
[29]またさらなる態様では、本発明は、
− シリンジバレル、プランジャ、および使用時に、シリンジバレルに含有される水溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む、電気分離シリンジ、
− 電極と接続するように構成された電源、ならびに
− 電気分離シリンジから分析物を受容して分析するように適合された分析器
を含む、分析システムを提供する。
【0027】
[30]別の言い方を使用すると、このシステムは、
電気分離シリンジに含有される水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む、電気分離シリンジ、
アノードおよびカソードと接続するように構成された電源、ならびに
電気分離シリンジから分析物を受容して分析するように適合された分析器
を含む。
【0028】
[31]別の態様では、本発明は、
電気分離シリンジに含有されたときに、水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む電気分離シリンジから投入された水溶液の受容器、ならびに
アノードおよびカソードと接続するように構成された電源
を含む、システムを提供する。
【0029】
[32]別の態様では、本発明は、試料を分析するための装置であって、
− シリンジバレル、プランジャ、およびシリンジバレル内に含有される任意の液体全体に電圧が印加されることを可能にするように配置された一組の電極を含む電気分離シリンジ、または電気分離シリンジを受容するための受容器、
− 電圧電位を供給するための電源、
− 液体を引き上げてシリンジバレルに入れ、シリンジバレルから液体を射出するプランジャの操作のためのプランジャ制御器、
− 分析器に送出された液体を分析するための分析器、
− 分析に供される溶液を保持するための試料リザーバ、
− 電気分離シリンジと流体接続したバルブであり、電気分離シリンジと分析器の間の流体の流れ、および電気分離シリンジと試料リザーバの間の流体の流れを可能にするバルブ、ならびに
− 電極に対する電源の操作、液体をシリンジバレルに引き込み、液体をシリンジバレルから射出するプランジャの操作を制御し、流体の流れの方向を制御するためのバルブ設定を制御するための制御器
を含む、装置を提供する。
【0030】
[33]さらなる態様では、本発明は、
(i)所定量の、アンモニウム塩、カルボン酸、カルボン酸塩およびアミンまたはこれらの組合せから選択されるバックグラウンド電解質、ならびに
(ii)所定量の基準分析物、ならびに必要に応じて、
(iii)所定体積の溶媒
を含む、試薬キットを提供する。
【0031】
[34]本発明を詳述する前に、本発明は、当然ながら変化しうる特定の例示的な実施形態に限定されないことが理解されるべきである。本明細書に記載され、特許請求される本発明は、これらに限定されないが、包括的であることが意図されないこの要約セクションに示される、または記載される、または言及されるものを含む、多くの特質および実施形態を有する。本明細書に記載され、特許請求される本発明は、概要の例示のみを目的として含まれるのであって限定を目的として含まれるではない、この要約セクションにおいて明確にされる特色もしくは実施形態に限定されず、またはそれによって限定されない。
【0032】
[35]任意の先行技術刊行物が本明細書で言及される場合、そのような言及は、刊行物が、オーストラリアまたは任意の他の国における、当技術分野の一般常識の一部を形成することを認めるものではないことが理解されるべきである。
【0033】
[36]本発明は、添付の図面を参照して、例示のみを目的としてさらに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】電気分離シリンジ内のNRBの形成機序を示す概略図である。
図2】(a)図2aは、エレクトロスプレーイオン化質量分析計(ESI−MS)と結合された、本発明の一実施形態の電気分離シリンジを含むシステムを示す概略図である。(b)図2bは、電気分離シリンジを示すより詳細な概略図である。
図3】電解条件下での、電気分離シリンジでの万能指示薬の経時的な色パターンの変化を示す一連の画像を示す図である。
図4】(a)図4aは、電圧の印加から5分以内のNRB内の、2種の異なるchromeo(商標)色素で標識されたBSA(pI4.7、100.0μg/mL)の等電点電気泳動(IEF)の一連の画像を示す図である。(b)図4bは、様々なタンパク質;R−フィコエリスリン(RPE−pI4.2)、(40.0μg/mL)およびヘモグロビン(HGB−pI6.9)、(350.0μg/mL)、ならびにchromeo(商標)488で標識されたBSA(100μg/mL)とHGB(350.0μg/mL)の混合物を集束させる、開発された方法の能力を示す一連の画像を示す図である。
図5】(a)図5aは、実施例3の方法によって得られた、ヒスチジンの最終添加濃度が4.0、8.0および16.0μg/mLである、スパイクされていない、およびスパイクされた尿試料のピーク高さ(EIE;m/z 156.0±0.1)のプロットを示すグラフである。(b)図5bは、尿試料におけるヒスチジン濃度の推定のための、統合された方程式を用いた二次適合較正曲線を示すグラフである。
図6】(a)図6aは、IEFステップによって比較的高いシグナル強度および感度が得られることを示すプロットを示すグラフである。ヒスチジンの最終添加濃度が16.0μg/mLであるスパイクされた尿試料の、IEFステップ適用後とIEFステップの適用なしでのEIE(m/z 156.0±0.1)の比較を示す。(b)図6bは、IEFステップ適用後の、8.5の濃縮率が達成された、移動時間(2.2分)での、ヒスチジンの最終添加濃度が16.0μg/mLであるスパイクされた尿試料の統合された質量スペクトルを示す図である。(c)図6cは、IEFステップの適用なしでの、2.2分での統合された質量スペクトルを示す図である。
図7】(a)図7aは、酸性媒体(例えば、50mMのギ酸、pH2.5)を使用して、血漿タンパク質を正に荷電する一方、酸性化合物がそれらのpKa値に基づいて、中性になる、部分的に負に荷電する、または完全に負に荷電する、電気分離シリンジで実行される分離前の概略図である。(b)図7bは、酸性媒体(例えば、50mMのギ酸、pH2.5)を使用して、血漿タンパク質を正に荷電する一方、酸性化合物がそれらのpKa値に基づいて、中性になる、部分的に負に荷電する、または完全に負に荷電する、電気分離シリンジで実行される分離後の概略図である。
図8】30%(v/v)アセトニトリル中の50mMのギ酸(pH2.5)からなるBGE、および−2000Vの印加電圧を使用した、200.0μg/mLのChromeo(商標)488で標識されたヒト血清アルブミン(HSA)の、カソードとしてのプランジャへの集束対弱酸性色素(エオシンB、100.0μg/mL)の一定性を実証する一連の画像を示す図である。
図9】(a)図9aは、エレクトロスプレーイオン化質量計分析器(ESI−MS)と結合された電気分離シリンジ(ES)を使用した、同じ混合物に含有されるナプロキセン(NAP)(8.0μg/mL)およびHSA(3.0mg/mL)の、注入時間にわたる強度を示すグラフである。(電気分離ステップは、−2000Vを640秒間印加することによって達成された。)(b)図9bは、NAPおよびHSAの平均強度対ESI−MS分析前のESステップの時間のプロットを示すグラフである。HSAおよびナプロキセンの平均強度は、「0〜3.75分」の全実行の統合された質量スペクトルから得られた。
図10】実施例5に記載される、内部標準(IS)としてバルプロ酸を使用した、ナプロキセン(●)とパラセタモール(◆)の平均m/zピーク強度比対濃度の較正曲線を示すグラフである。
図11】(a)図11aは、(A)ニート標準溶液、(B)電気分離ステップ適用後のニート標準、(C)電気分離ステップ(クリーンアップステップ)適用後の予備スパイクされた血清試料、および(D)各試料が水溶液で15倍希釈される、電気分離ステップなしの予備スパイクされた血清中の、16.0μg/mLのナプロキセンのEIE(m/z229.1、[M−1])を示すグラフである。(b)図11bは、(A)ニート標準溶液、(B)電気分離ステップ適用後のニート標準、(C)電気分離ステップ(クリーンアップステップ)適用後の予備スパイクされた血清試料、および(D)電気分離ステップなしの予備スパイクされた血清中の、12.0μg/mLのパラセタモールのEIE(m/z150.2、[M−1])を示すグラフである。
図12】(a)図12aは、電気分離ステップ後のスパイクされた血清試料の質量スペクトルを示す図である。(b)図12bは、電気分離ステップなしのスパイクされた血清試料の質量スペクトルを示す図である。
図13】(a)図13aは、塩基性媒体(例えば、300mMの水酸化アンモニウム、pH11.4)を使用して、血漿タンパク質を負に荷電する一方、塩基性化合物が、それらのpKa値に基づいて、中性になる、部分的に正に荷電する、または完全に正に荷電する、電気分離シリンジで実行される分離前の概略図である。(b)図13bは、塩基性媒体(例えば、300mMの水酸化アンモニウム、pH11.4)を使用して、血漿タンパク質を負に荷電する一方、塩基性化合物が、それらのpKa値に基づいて、中性になる、部分的に正に荷電する、または完全に正に荷電する、電気分離シリンジで実行される分離後の概略図である。
図14】電気分離シリンジを使用したクリーンアップ後およびクリーンアップステップなしの、スパイクされた血清試料中のクロミプラミン(80.0ng/mL)、クロルフェナミン(10.0ng/mL)、ピンドロール(50ng/mL)およびアテノロール(250ng/mL)の、それぞれ315>86のm/z、275>230のm/z、249>116のm/z、および267>190のm/zのEIEを示すグラフである。
図15a】電気分離シリンジを使用したクリーンアップステップ後およびクリーンアップステップなしの、スパイクされた血清試料中のクロミプラミン(80.0ng/mL)のMS/MSスペクトルを示す図である。
図15b】電気分離シリンジを使用したクリーンアップステップ後およびクリーンアップステップなしの、スパイクされた血清試料中のクロルフェナミン(10.0ng/mL)、のMS/MSスペクトルを示す図である。
図15c】電気分離シリンジを使用したクリーンアップステップ後およびクリーンアップステップなしの、スパイクされた血清試料中のピンドロール(50ng/mL)のMS/MSスペクトルを示す図である。
図15d】電気分離シリンジを使用したクリーンアップステップ後およびクリーンアップステップなしの、スパイクされた血清試料中のアテノロール(250ng/mL)のMS/MSスペクトルを示す図である。
図16図16aは、6ポートバルブに基づく、本出願の方法を実施するための装置の構成要素を示す概略図である。図16bは、8ポートバルブに基づく、本出願の方法を実施するための装置の構成要素を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
定義
[37]本明細書で使用される場合、用語「正味の中性分析物」または「正味の中性化合物」は、用いられる分離条件下で、全体的に中性電荷を有する任意の化合物を含む。それに応じて、正味の中性分子は、中性分子、両親媒性分子、または本発明の方法に存在する電気化学的条件下で、全体的に中性電荷を有する分子であってもよい。
【0036】
[38]分子との関連での用語「両親媒性」は、分子の全体的な電荷が中性であるように、正電荷と負電荷の両方の部分を含む分子を意味することが意図される。両親媒性分析物は、一部の条件(例えば、変更されたpH条件)下で荷電されてもよいことが認識される。両親媒性分析物は、本明細書で両性電解質と称される場合がある。
【0037】
[39]用語「シリンジバレル」は、筒状構造体または他のものの中にあってもよい、囲まれた流体通路を広範に包含すると理解される。用語「プランジャ」は、シリンジバレル内で移動可能なクロージャを指すように広範に使用される。プランジャは、シリンジバレルが1つの開放端および1つの閉鎖端を有するように、シリンジバレル内にクロージャを創出する。したがって、プランジャは、シリンジバレルの一端(プランジャ受容端)から開放端の方へ移動してシリンジバレルに保持される液体を射出し、かつシリンジバレルの開放端から(プランジャ受容端の方へ)離れて、シリンジバレルの開放端から液体を引き込むことができる、移動可能クロージャと記載されてもよい。
【0038】
[40]用語「アノード」は、電圧を印加すると酸化が生じる電極を指すことが意図される。アノードは、電気分離シリンジ内にある。
[41]用語「カソード」は、電圧を印加すると還元が生じる電極を指す。カソードは、電気分離シリンジ内にある。
【0039】
[42]用語「電極」は、任意の極性の電極を指し、接地された電極を含む。一組の電極は、カソードとアノード、または接地された電極、およびアノード、カソードのいずれか、もしくはアノードとカソードの間で切替可能な第2の電極を含んでもよい。
【0040】
[43]用語「溶液」は、溶媒の溶液中の化合物(例えば、分析物)を含有する溶媒を指すように広範に使用される。溶液は、実行溶液と記載されてもよい。典型的な実施形態における溶液は、水溶液である。用語「水溶液」は、水を含む任意の溶液を含む。水溶液は、追加の好適な溶媒および/または担体、典型的に、極性溶媒および/または担体などの、水と混和性のものを含んでもよい。水溶液およびその成分は、以下でさらに詳細に記載される。
【0041】
[44]化合物という用語は、溶媒以外の化学物質を指すように使用される。化合物は、検出されることが所望され、選択される分析技術によって検出されることが可能な物質である分析物であってもよい。一部の実施形態では、分析物は、電気泳動の影響を受けにくい物質であり、試料に存在する他の化合物は、電気泳動の影響を受けやすく、本明細書に記載される技術によって再分布される上記化合物(または複数の化合物)を構成する。他の実施形態では、分析物が、電気泳動の影響を受けやすい化合物である。有機化合物は、再分布に供される化合物として特定の関心対象である。
【0042】
[45]本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」「an」および「the」は、文脈が別段明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「化合物」への言及は複数の化合物を含みうる、などである。
【0043】
[46]名詞の後に続く用語「(s)」は、単数形もしくは複数形、または両方を企図する。
[47]用語「および/または」は、「および」または「または」を意味しうる。
【0044】
[48]文脈が別段要求しない限り、本明細書で言及されるすべての百分率は、組成の重量百分率である。
[49]本発明の種々の特色は、ある特定の値または値の範囲に関して記載および/または特許請求される。これらの値は、種々の適切な測定技術の結果に関連することが意図され、したがって、任意の特定の測定技術に固有の誤差の範囲を含むと解釈されるべきである。本明細書で言及される値のいくつかは、この変動を少なくとも部分的に説明するように用語「約」によって表される。用語「約」は、値を記載するために使用される場合、その値の±10%、±5%、±1%または±0.1%内の量を意味しうる。
【0045】
[50]別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様または同等の任意の材料および方法が、本発明を実施または試験するために使用することができ、種々の材料および方法の最も良く知られた実施形態が記載されることが理解される。
【0046】
[51]用語「含む(comprising)」(または「含む(comprise)」もしくは「含む(comprises)」などの変形)は、本明細書で使用される場合、文脈が明示的な文言または必然的な暗示によって別段要求する場合を除き、包括的な意味で、すなわち、記述される特色の存在を指定するが、本発明の種々の実施形態のさらなる特色の存在または付加を除外しないように使用される。
実施形態の説明
[52]本発明は、溶液中の分析物などの化合物の分布を変更することを伴う多数の関連する方法を提供する。
【0047】
[53]方法の一形態は、分析物およびバックグラウンド電解質を含む水溶液中の分析物の濃度を決定するためのものである。方法は、(a)電気分離シリンジの水溶液全体に電圧を印加するステップ、および(b)水溶液を分析器に投入するステップを含む。
【0048】
[54]溶液中の分析物を分析する(例えば、分析物の濃度を決定する)ための方法は、
− 分析物を含む溶液を、シリンジバレルおよびプランジャ、およびシリンジバレルに含有される液体全体に電圧を印加するように配置された電極を含む電気分離シリンジに引き込むステップ、
− シリンジバレルの溶液全体に電圧を印加して、シリンジバレルに含有される溶液の領域内で分析物の濃度を集束させるステップ、および
− 溶液を分析器に投入するステップ
を含みうる。
【0049】
[55]プランジャは、溶液を電気分離シリンジに引き込み、溶液を電気分離シリンジから分析器に投入するように操作される。
[56]これらの方法で使用される電気分離シリンジは、シリンジバレル内の水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードなどの2つの電極を含む。一部の実施形態では、方法は、金属製プランジャおよび金属製針を含む既存のマイクロシリンジとともに使用されてもよいが、シリンジバレル内の内容物全体の電流の流れを妨げるまたは実質的に妨げるように通常存在する、シリンジ内の電気絶縁性成分を除去または変更するためのシリンジの変更が必要とされる場合がある。好適な電気分離シリンジの実施形態が以下に記載される。
【0050】
[57]本発明者らは、驚くべきことに、ラボインシリンジ手法を使用して、別個の電気化学チャンバを必要とすることなく安定した中和反応界面(NRB)が形成されうることを見出した。したがって、本発明の実施形態の電気分離シリンジは、単一の電気化学チャンバを含む、または別個の電気化学チャンバを有さない。
【0051】
[58]本発明の方法およびシステムは、シリンジ内に含有される溶液の領域内で、分析物の濃度を集束させるために使用されてもよい。分析物は、NRBの内部で濃縮されてもよく、外部で濃縮されてもよい。分析物が両親媒性分子である場合、典型的にNRB内に集束されるが、一方で分析物が荷電分子である場合、NRBの周囲の酸性または塩基性ゾーンのいずれかに集束される。酸性または塩基性分子などの一部の分析物は、一部の条件下で荷電されてもよく、かつ異なるpH条件下などの他の条件下で正味の中性であってもよい。例えば、カルボン酸は、低pH条件下では正味の中性であり、水溶液のpHが酸のpKを超える場合は負に荷電する。本明細書に記載される方法では、異なる条件下で荷電されうるまたは正味の中性になりうる分析物は、水溶液の条件(pHなど)に応じて水溶液の異なるゾーンに集束されてもよい。したがって、一部の実施形態では、溶液全体に電圧を印加するステップは集束ステップと称されてもよく、これはNRBの生成により、分析物の濃度が電気分離シリンジ内の溶液の領域(またはゾーン)に集束されるためである。
【0052】
[59]一部の実施形態では、溶液が水溶液であり、かつ分析物およびバックグラウンド電解質に加えて少なくとも1種の追加の化合物(干渉する化合物など)を含む場合、水溶液全体への電圧の印加は、分離ステップでもある。この分離は、電気分離シリンジ内の電気液動方法を伴う。したがって、水溶液全体への電圧の印加は、1つは水溶液に存在する分子の電荷によるものであり、2つ目は溶液の分子のpHによるものである、2段階の分離を生じうる。
【0053】
[60]水溶液全体への電圧の印加は、アノードおよびカソードで水の電解を生じ、電気分離シリンジ内にHおよびOHの流動を創出する。本発明者らは、電圧が印加されると、電気分離シリンジ内に中和反応界面(NRB)が形成されることを示した(例えば、図1、3および4を参照されたい)。その位置、長さ、方向、速度および境界面にわたるpHの差、すなわちpHギャップなどのこのNRBの特色は、システム内部の電流、試料の性質および濃度、バックグラウンド電解質の濃度、分離時間、粘度を変化させる添加剤、ならびに水溶液中の分析物および/または夾雑物の溶解度の影響を受ける可能性がある。したがって、方法は、水溶液の性質、溶液に印加される電圧、ならびにアノードおよびカソードの場所を調整して、NRBの特色を制御することを含みうる。このNRB形成により、生物学的試料などの複雑な試料の分析に関して、マトリックス効果が低減されうる。
【0054】
[61]方法は、以下の半方程式1および2に従い、それぞれの電極において水溶液に含有される水を電解することにより、電気分離シリンジのバレル内にNRBの形成をもたらす(図1)。
【0055】
2H(l) + 2e → H2(g) + 2OH(水溶液) 方程式(1)
2H(l) → O2(g) + 4H(水溶液) + 4e 方程式(2)
[62]方程式1はOHイオンを生成するカソードで生じ、方程式2はHイオンを生成するアノードで生じる。これにより、カソードで低pHゾーン、およびアノードで高pHゾーンが生成する。カソードで生成されるOHイオンの一部はアノードの方へ移動し、アノードで生成されるHイオンの一部はカソードの方へ移動する。NRBは、移動するHイオンが移動するOHイオンと衝突し、反応して水を再形成する場所で形成する、すなわち、移動するH/OHイオンが会合する界面が中和反応が起こる場所であり、このためNRBと呼ばれる。したがって、NRBには急激なpHの変化が存在する。さらに、移動するHおよびOHイオンはまた、電極からNRBまでの距離にわたってpH勾配を創出し、いずれかの電極で最も極端なpHが生じる。
【0056】
[63]したがって、電極(例えば、カソードおよびアノード)全体に印加される圧力は、好ましくは水を電解するのに十分である。したがって、電圧は、アノードとカソードの間に少なくとも1.23Vの電位差を確立するのに十分であってもよい。しかし、電圧は典型的に、水の電解の過電圧をもたらすのに十分である、すなわち、電極間の電圧差は、1.23Vより高い大きさを示す。これは、電圧を電極の一方に供給し、他方をグランドに接続することによって達成されてもよく、またはカソードとアノードの両方を回路内で接続することによって達成されてもよい。電圧は、水溶液の分子の濃度を集束させるために印加されるため、本明細書で集束電圧と称される場合がある。
【0057】
[64]一部の実施形態では、集束電圧の大きさは、1.23V〜約5000Vである。電圧の符号は正であっても負であってもよい。これは、約−5000V〜約5000V、例えば、約−3000V〜約3000V、約−2500V〜約2500V、または約−2200V〜約2200Vのアノードとカソードなどの一組の電極間の電圧差を確立することによって達成されてもよいが、ただし、集束電圧は−1.23V〜+1.23Vの範囲を除外する。
【0058】
[65]集束電圧は既定の期間印加され、一部の実施形態では、投入ステップの前で停止される。典型的に、電圧は、最大約1時間、例えば、最大約45分、約30分、約25分、約20分、約15分、約10分、約5分、約2分、約1分以下印加される。電圧は典型的に、少なくとも約1秒、少なくとも約5秒、少なくとも約10秒、少なくとも約15秒、少なくとも約20秒、少なくとも約30秒、少なくとも約1分、または少なくとも約5分印加される。これらの最低時間のいずれかを上記の最大時間のいずれかと組み合わせて範囲を形成してもよいが、ただし最低時間は最大時間未満である。集束電圧印加の持続時間は、例えば、5秒〜10分の間、5秒〜5分の間、5秒〜2分の間、10秒〜10分の間などであってもよい。
【0059】
[66]集束ステップに続き、溶液が分析器に投入(または注入)される。一部の実施形態では、溶液の部分が分析器に投入され、部分は、分析物を含む溶液の領域を含む。一部の実施形態では、増加された濃度の分析物を含む領域は、NRBである。他の実施形態では、増加された濃度の分析物を含む領域はNRBではない、例えば、この場合分析物が荷電され、NRBは、干渉する両親媒性または中性化合物を含有する。一部の実施形態では、分析物を含有しない溶液の部分は処分される。
【0060】
[67]一部の実施形態では、溶液は、多くの場合既定の期間によって隔てられる部分でシリンジから吐出される。部分は、溶液の体積によって既定されてもよく、例えば、各部分は、体積で1〜5μlであってもよく、または各部分は、電解された溶液の酸性、NRBおよび/または塩基性ゾーンに対応してもよい。一部の実施形態では、部分は、分析器に投入または注入されてもよく、廃棄物として処分されてもよく、または画分として収集されてもよい。既定の期間は典型的に、溶液の各部分の内容物の個別の分析を可能にするのに十分であり、したがって選択される分析器に依存してもよい。一部の実施形態では、期間は約1分〜約30分である。
【0061】
[68]シリンジバレルに引き込まれる(かつその後分析器に投入される)溶液の総体積は、0.5μl〜1mlの間、好ましくは0.5μl〜20μlの間であってもよい。体積は、0.5μl〜10μlの間、または0.5〜5μlの間、または1〜5μlの間であってもよい。
【0062】
[69]一部の実施形態では、溶液は、シース液の流れに投入される。分析技術と適合性がある任意の好適なシース液が使用されてもよい。このシース液は、溶液と同じバックグラウンド電解質を含んでもよい(以下で考察される)。
【0063】
[70]電気分離シリンジから溶液を受容し、分析物を分析することができる任意の分析器が使用されてもよい。好適な分析器として、質量分析計(MS)、紫外線可視分光光度計、赤外分光計、ラマン分光計、または高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーおよびエレクトロスプレーイオン化(ESI)などのさらなる技術と結合されたこれらのうちのいずれか、またはこれらの組合せが挙げられる。好ましくは、分析器は質量分析計である。任意の種類の質量分析計が使用されてもよいが、ESI−MSが本発明の方法に好都合な分析技術である。分析器は、オンライン分析に適合されてもよい。
【0064】
[71]一部の実施形態では、電圧は、投入ステップの間に溶液に印加される。この電圧(本明細書で注入電圧と称される場合もある)は、集束電圧と同じ符号および大きさのものであってもよい。集束電圧の溶液への印加が停止されると、溶液の分子が分散しやすくなる。十分な時間が経過すると(典型的には数時間)、溶液は平衡に戻る。したがって、電圧が停止されると、NRBの正味の中性分子の濃度は溶液中に分散し、荷電分子が電極から離れて拡散する。したがって、投入ステップの間に電圧を維持することは、NRBを維持する一助となり、溶液の領域内の正味の中性分子のより集束された濃度をもたらす可能性がある。
【0065】
[72]一部の実施形態では、アノードとカソードの間の注入電圧差は、約−5000V〜約5000V、例えば、約−3000V〜約3000V、約−2500V〜約2500V、または約−2200V〜約2200Vである。
【0066】
[73]一部の実施形態では、集束電圧は、増加された圧力下で印加される。圧力の増加は、電気分離シリンジのバレルの排出端にバルブを備えることによって達成されてもよい。アノードおよびカソードでの水の電解の間に水素および酸素ガスが放出され、このときバルブが閉じると、シリンジ内の圧力が上昇する。さらに、バルブが閉じた状態で、例えば、シリンジポンプを前進させて、または手動でプランジャが押し下げられると、電気分離シリンジのバレル内の溶液(例えば、水溶液)の圧力が増加しうる。驚くべきことに、増加された圧力下で実行される方法は、分析結果の向上を実証する。理論に束縛されることを望むことなく、結果の向上は、増加された圧力下での生成されたガスの溶解度の増強により、電気分離ステップの間のシリンジバレル内部の気泡形成が大きく抑制されることによって達成されると考えられる。
【0067】
[74]方法は、目的の分析物の濃度を決定するために使用されてもよく、または溶液を分析し、溶液中の分析物の同一性を決定するために使用されてもよい。典型的に、分析物の同一性は検出前に知られており、分析によって決定されることが所望されるのは濃度である。
【0068】
[75]方法は、溶液を電気分離シリンジに引き込む(または吸引する)ステップをさらに含んでもよい。試験溶液として水溶液の例を使用すると、水溶液は単独で、または異なる溶液の間でシリンジに吸引されてもよい。異なる溶液の前および/または後の水溶液の吸引は、例えば、pHを調整する、内部標準を導入する、または干渉タンパク質などの水溶液に含有される分析物もしくは他の分子に化学修飾(例えば、アルキル化、アセチル化、エステル化または他の酸性もしくは塩基性部分の変換)を実施するために使用されてもよい。この引き込みステップは、水溶液のアリコートを電気分離シリンジに引き込むことをさらに含んでもよい。電気分離シリンジ中の水溶液の体積を把握することは、分析物の濃度を計算する一助となる。体積表示を含む電気分離シリンジの使用は、シリンジに引き込まれるアリコートの体積を決定する一助となる。代替的に、シリンジポンプは、シリンジバレルに引き込まれる溶液(試験溶液、ならびに必要に応じて試験溶液前および/または後の異なる溶液を含む)の体積を計算することができる制御システムによって操作されてもよく、この場合、体積表示は必須でなくてもよい。
【0069】
[76]溶液のアリコート(すなわち、規定の体積)中の分析物の濃度は、選択される分析器を使用して、対象の分析物の濃度曲線と比較することによって定量化されてもよい。溶液の既知の体積中に存在する分析物の量の決定は、バルク溶液(例えば、バルク水溶液)の分析物の濃度の計算を可能にする。
【0070】
[77]さらに、本明細書では、水溶液などの溶液の分子の濃度を集束させるための方法であって、電気分離シリンジ中の分子およびバックグラウンド電解質を含む溶液全体に電圧を印加して、溶液中の増加された濃度の分子を含む領域を生成するステップであり、電気分離シリンジが、溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極、例えば、アノードおよびカソードを含む、ステップを含む方法が提供される。水溶液を含む一部の実施形態では、分子は、NRBに対応する水溶液の領域に濃縮される両親媒性分子である。一部の実施形態では、分子は、NRBではない水溶液の領域に濃縮される荷電分子である。一部の実施形態では、分子は、電気分離シリンジから分析器に投入される分析物である。
【0071】
[78]本明細書に記載される溶液(例えば、水溶液)、バックグラウンド電解質、電圧および電気分離シリンジのいずれも、この方法で使用することができる。この方法は、本明細書に記載される他の方法のステップのいずれかをさらに含んでもよい。したがって、溶液中の分析物の濃度を決定するための方法に関して上記に記載されたステップは、溶液中の化合物/分子の濃度を集束させるための、より一般的に設計される方法にも同等に適用される。
【0072】
[79]さらに、本明細書では、両親媒性化合物から荷電化合物を分離するための方法であって、電気分離シリンジ中の荷電化合物、両親媒性化合物およびバックグラウンド電解質を含む溶液(例えば、水溶液)全体に電圧を印加することを含む方法が提供される。電気分離シリンジは、水溶液全体に電圧を印加するように配置された、アノードとカソードであってもよい一組の電極を含む。一部の実施形態では、この方法は、荷電および/または両親媒性化合物を、それらの分離後に単離することをさらに含む。一部の実施形態では、荷電および/または両親媒性化合物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などのさらなる分離ステップに供された後に単離される。
【0073】
[80]本明細書に記載される溶液(例えば、水溶液)、バックグラウンド電解質、電圧および電気分離シリンジのいずれも、この方法で使用することができる。この方法は、本明細書に記載される他の方法のステップのいずれかをさらに含んでもよい。したがって、溶液中の分析物の濃度を決定するための方法に関して上記に記載されたステップは、溶液中の両親媒性化合物から荷電化合物を分離するために設計される方法にも同等に適用される。分離は、まずシリンジバレル内の溶液の異なる領域へと行われ、次に溶液のこれらの領域が2つの物理的に別個の試料へと分離されてもよい(すなわち、単離される)。
溶液
[81]本発明の方法は、溶液全体への電圧の印加を必要とする。溶液は、導電性溶液である。溶液は、好適には溶媒および電解質を含む。水溶液の場合、水溶液は、水およびバックグラウンド電解質を含む。
【0074】
[82]一部の実施形態では、水溶液は、血液、尿、毛髪、糞便または組織試料などの生物学的試料を含む。典型的に、生物学的試料は、必要に応じて処理され、その後以下に記載される水溶液の他の成分で希釈される。したがって、分析を必要とする化合物は、生物学的化合物でありうる。
【0075】
[83]水溶液は、電極で生じる電解のために十分な濃度の水を含む。水溶液は、少なくとも約10vol%、例えば、少なくとも約15vol%、約20vol%、約25vol%、約30vol%、約35vol%、約40vol%、約45vol%、約50vol%、約55vol%、約60vol%、約70vol%、約80vol%、約90vol%、約95vol%、約99vol%または約99vol%の水を含んでもよい。一部の実施形態では、水溶液は、水ではない溶媒を実質的に含まない。
【0076】
[84]一部の実施形態では、水溶液は、水に加えて溶媒(すなわち、有機溶媒)を含む。溶媒は、好ましくは水に混和性である。好適な溶媒として、アセトニトリル(ACN)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)またはこれらの組合せが挙げられる。一部の実施形態では、水溶液は、最大約90vol%、例えば、最大約80vol%、約70vol%、約60vol%、約50vol%、約40vol%または約30vol%の量の極性溶媒を含む。
【0077】
[85]水溶液はまた、バックグラウンド電解質を含む。
[86]バックグラウンド電解質は、アノードおよびカソードで水の電気泳動によって生じるH/OH流動の電荷およびイオンの流れの平衡を保つように作用する。好ましくは、バックグラウンド電解質は、分析器に干渉しない、または別の言い方をすると、分析器によって検出されない。
【0078】
[87]バックグラウンド電解質は、約0.01mM〜約1000mM、例えば、約0.05mM〜約250mM、または約0.1mM〜約150mMの濃度で水溶液に含まれてもよい。
【0079】
[88]バックグラウンド電解質は、典型的にはイオン種である。分析方法で使用される場合、選択される分析器と適合性がある任意のイオン種が使用されてもよい。例えば、質量分析計分析器では、好適なクラスのバックグラウンド電解質として、アンモニウム塩、カルボン酸、炭酸塩、カルバミン酸塩、チオ炭酸塩(モノ−、ジ−およびトリ−チオ炭酸塩を含む)、ホウ酸塩、カルボン酸塩およびアミン、またはこれらの組合せが挙げられる。特定のバックグラウンド電解質種の一部の例として、酢酸アンモニウム、ギ酸、水酸化アンモニウム、酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、トリエチルアミンまたはこれらの組合せが挙げられる。蛍光分析器では、上記に記載された質量分析による分析に好適である、好適なバックグラウンド電解質のすべて、さらにナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩などを含む、非蛍光性の任意のイオン種が使用されてもよい。
【0080】
[89]本明細書に記載される分析方法では、水溶液は分析物を含む。分析物は典型的に、正味の中性分析物である。したがって、分析物は、中性分析物であってもよく、または両性分析物であってもよい。しかし、一部の実施形態では、分析物は、荷電(カチオン性またはアニオン性のいずれか)分子であってもよい。
【0081】
[90]中性分析物は、電荷を持つことができない化合物、または水溶液に存在する条件下で電荷を持たない化合物を含む。例えば、中性分析物は、弱酸および塩基を含む。弱酸分析物として、カルボン酸、カルバミン酸塩、炭酸塩、チオ炭酸塩、チオカルボン酸、アルコール、フェノールおよびチオール、またはこれらの組合せが挙げられる。弱塩基分析物として、アミン(第一級、第二級、および第三級)が挙げられる。
【0082】
[91]分析物が正味の中性分析物である場合、水溶液全体への電圧の印加により、水溶液の領域(例えば、NRB内)に分析物の濃度が集束する。
[92]分析物が荷電種である場合、電圧の印加により、分析物が正に荷電されるか負に荷電されるかに応じて、アノードまたはカソードの一方の付近に分析物の濃度が集束する。干渉する正味の中性分子が水溶液に存在する場合、それらも溶液の領域(例えば、NRB)内に集束されうる。
【0083】
[93]分析物が弱酸である場合、水溶液は、好ましくは、分析物のpKaより低いpHを有する。したがって、水溶液のpHは、分離ステップの間に弱酸が非荷電形態のままであることを確実にするために、酸を添加することによって調整することができる。さらに、水溶液に添加される酸は、好ましくは、分析器によって検出されない。例えば、質量分析による分析を用いる方法では、水溶液のpHは、ギ酸、酢酸および炭酸またはこれらの組合せから選択される酸を添加することによって調整することができる。典型的に、水溶液は、約0.2〜5vol%の酸を含む。量は、およそ0.5〜2vol%、例えば約1vol%の酸であってもよい。
【0084】
[94]分析物が弱塩基である場合、水溶液は、好ましくは、分析物のpKaより高いpHを有する。したがって、水溶液のpHは、分離ステップの間に弱塩基が非荷電形態のままであることを確実にするために、塩基を添加することによって調整することができる。さらに、水溶液に添加される塩基は、好ましくは、分析器によって検出されない。例えば、質量分析による分析を用いる方法では、水溶液のpHは、アンモニア(NHOH)、メチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、アニリン、ピロリジン、N−メチルピロリジン、無機水酸化物塩(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなど)、無機炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウムなど)、またはこれらの組合せから選択される塩基を添加することによって調整することができる。典型的に、水溶液は、約0.2〜5vol%の液体塩基、または0.2〜5wt%の固体塩基溶液を含む。量は、およそ0.5〜2vol%、例えば約1vol%の液体塩基もしくは固体塩基溶液(例えば、無機水酸化物または炭酸塩などの固体塩基の1M溶液)、または0.5〜2wt%、例えば1wt%の固体塩基であってもよい。
【0085】
[95]一部の実施形態では、分析物は両性分析物である。両性分析物は、タンパク質、ペプチドおよびアミノ酸ならびにこれらの組合せを含む、1種または複数の弱酸性部分および1種または複数の弱塩基性部分を含む任意の分子を含む。一部の実施形態では、両性分析物は正味の中性分析物であり、一方で他の実施形態では、両性分析物は、水溶液の条件に応じて荷電分析物であってもよい。
【0086】
[96]水溶液は、1種または複数の追加の成分を含んでもよい。例えば、水溶液は、基準分析物、界面活性剤、レオロジー改質剤、指示薬、カオトロピック剤、酸化剤および還元剤またはこれの組合せを含んでもよい。
【0087】
[97]基準分析物は、較正目的のために溶液(例えば、水溶液)に含まれてもよい。任意の正味の中性分子が基準分析物として使用されてもよい。基準分析物は、所定の濃度で水溶液に添加される。典型的に、基準分析物としてのその選択の前に、基準分析物の較正曲線が作成される。一部の実施形態では、基準分析物は、約1μg/ml〜約100μg/mlの濃度で水溶液に含まれてもよい。基準分析物は、分析物と同じクラスの分析物(例えば、同様のpIを有する両性電解質)のものであってもよい。
【0088】
[98]水溶液は、界面活性剤をさらに含んでもよい。界面活性剤は、シリンジでの微粒子の凝集を防ぎ、複雑な試料中の溶解度が低い成分の可溶化を支援することができる。電解および選択される分析技術と適合性がある任意の好適な界面活性剤が使用されてもよい。界面活性剤は、非イオン性、カチオン性またはアニオン性界面活性剤から選択されてもよい。界面活性剤の好適な例として、硫酸ドデシルナトリウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム(cetyltrimethlammonium bromide)、エトキシル化ソルベート(例えば、Tween20およびTween80)、エトキシル化フェノール(例えば、TritonX)またはこれらの組合せが挙げられる。典型的に、界面活性剤は、0.01μg/ml〜1000mg/mlの濃度で含まれてもよい。
【0089】
[99]水溶液は、レオロジー改質剤をさらに含んでもよい。レオロジー改質剤は、水溶液の粘度および流れ特性を変える。電解および選択される分析技術と適合性がある任意の好適なレオロジー改質剤が使用されてもよい。
【0090】
[100]水溶液は、指示薬をさらに含んでもよい。電解および選択される分析技術と適合性がある任意の好適な指示薬が使用されてもよい。例えば、指示薬はpH指示薬であってもよい。pH指示薬の添加は、NRB形成を観察するのに有用でありうる。一部の実施形態では、指示薬は、条件の最適化を支援するために方法の最初の実行に含まれ、方法のその後の実行から除外されてもよい。
【0091】
[101]カオトロピック化合物は、タンパク質間とタンパク質内の両方の水素結合および疎水性相互作用を破壊する。これらは、好適な濃度で使用される場合、タンパク質の可溶化を増強することができる。好適なカオトロピック化合物として、尿素、置換尿素およびグアジニウム塩が挙げられる。
【0092】
[102]水溶液は、電解方法を制御するための、例えば、水または標的の分析物の前に還元または酸化される酸化または還元剤を含んでもよい。還元剤の例として、アスコルビン酸、チオ硫酸塩および還元糖が挙げられる。酸化剤の例として、過酸化物(過酸化水素および過酸化アルキルなど)およびキノン類が挙げられる。
【0093】
[103]生物学的試料などの試料のために、希釈剤として使用される予備混合水溶液を与えることが好都合でありうる。この予備混合水溶液は、上記に記載された水溶液の成分のいずれかを所定量で含んでもよい。例えば、一実施形態では、(i)所定量のバックグラウンド電解質、(ii)所定量の基準分析物、および(iii)所定体積の溶媒を含む溶液が提供される。溶媒は水であってもよく、または上記で記載された他の溶媒のいずれかであってもよい。溶液が水を含まない場合、本発明の方法で使用される水溶液を形成するために水が添加される。
【0094】
[104]さらに、本明細書では、(i)所定量のバックグラウンド電解質、(ii)所定量の基準分析物、および必要に応じて(iii)所定体積の溶媒を含む試薬(パーツ)のキットが提供される。
【0095】
[105]さらに、本明細書では、(i)所定量のバックグラウンド電解質と所定量の基準分析物の組合せ、および(ii)所定体積の溶媒を含む試薬(パーツ)のキットが提供される。
【0096】
[106]試薬キットは、本明細書に記載されるキットの別個のパーツのいずれか、またはさらなる別個のパーツに組み合わされた、上記で記載された界面活性剤、レオロジー改質剤、指示薬、カオトロピック剤、還元化合物および酸化化合物のうちの1種または複数をさらに含んでもよい。
電気分離シリンジ
[107]本明細書に記載される方法は、電気分離シリンジとして、導電性針および導電性プランジャを含む市販のマイクロシリンジを用いることができる。市販のマイクロシリンジは、典型的に、金属製針、シリンジバレル(典型的にガラスバレル)および金属プランジャを含む。以下の節に記載されるように、そのようなマイクロシリンジは通常、金属プランジャと、シリンジバレル内に保持される液体内容物との間の接触を妨げる電気絶縁性嵌合体をさらに含み、これは本明細書に記載される用途で使用するのに適するように変更を必要とする場合がある。
【0097】
[108]従来の市販のマイクロシリンジのプランジャは、典型的に、プランジャの端(本明細書でプランジャヘッドと称される)に面する溶液上に、プランジャが定位置にあるとき、バレルの内部壁とシールを形成する非絶縁性嵌合体を含む。嵌合体は、プラスチックまたはゴム様材料などの電気絶縁性材料から形成されてもよい。この嵌合体は典型的に、プランジャヘッドの周囲に延び、金属プランジャヘッドとシリンジバレルの内部表面との間に摺動表面を形成し、プランジャヘッドはこの中を摺動する。嵌合体は、シリンジバレル内にぴったり嵌合し、漏出がないことを確実にする。嵌合体はまた、電気絶縁をもたらし、シリンジバレルに引き込まれる液体を介して金属針とプランジャとの間に意図しない電気回路が完成するのを妨げる。そのような従来のマイクロシリンジを本出願で使用するために適合させるために、シリンジは、使用時に、シリンジバレルの液体内容物と、金属プランジャ(金属プランジャが存在する場合)または電気分離シリンジのプランジャ端にある電極のいずれかとの間に電気接触をもたらすように構成または調整されなければならない。これは、嵌合体を、プランジャヘッドとシリンジ本体に引き込まれる際の任意の液体との間の接触を可能にする開口部を含有するように変更すること、または嵌合体を、そのような接触を可能にする変更された嵌合体と交換することによって達成することができる。
【0098】
[109]市販のマイクロシリンジはまた、本明細書に記載される方法によって要求される、水溶液への電圧の印加に必要である電源コネクタを含まない。
[110]本出願は、シリンジバレル、プランジャ、および一組の電極を含む電気分離シリンジであって、電極が、使用時にバレル内に含有される溶液と電気接触し、バレルに含有される溶液全体に長手方向に電圧が印加されることを可能にするように構成される、電気分離シリンジを提供する。
【0099】
[111]用語「プランジャ」は、シリンジバレル内で移動可能なクロージャを指すように広範に使用される。プランジャは、シリンジバレルが1つの開放端および1つの閉鎖端を有するように、シリンジバレルの一端にクロージャを創出する。したがって、プランジャは、シリンジバレルの一端(プランジャ受容端、これは、閉鎖端が、ほんの少しプランジャ受容端側にある場合があることを意味する)から開放端の方へ移動して、シリンジバレルに保持される液体を射出する、かつシリンジバレルの開放端から(プランジャ受容端の方へと)離れて、シリンジバレルの開放端から液体を引き込むことができる、移動可能なクロージャと記載されてもよい。プランジャは、シリンジバレルの内側壁との水密係合の中で摺動可能である。シリンジバレル内のプランジャの移動によって、プランジャは、液体をシリンジバレルに水力学的に引き込む、または液体をシリンジバレルから吐出することができる。
【0100】
[112]電極は、好ましくは、使用時に、バレルに含有される溶液全体への圧力の印加を可能にする、電源への接続のための電源コネクタをそれぞれ含む。一組の電極は、カソードおよびアノードを含んでもよい。電極は、代替的に、カソードおよび接地された電極、または接地された電極およびアノードであってもよい。印加される電圧電位に応じて、電極の極性が変化させることが可能である(正または負)。
【0101】
[113]電極は、それぞれ、以下でさらに詳細に記載されるように、シリンジの機能またはシリンジに嵌合されたニードルによって形成されてもよい。
[114]本出願の電気分離シリンジは、完全なユニットとして供給されてもよく、または本明細書で特定される電気分離シリンジの機能の一部またはすべてを含むパーツのキットとして供給されてもよいことが理解される。したがって、一実施形態では、電気分離シリンジは、電極の一方を伴わずに供給されてもよく(例えば、1つの電極が針によって構成される場合)、針は別個に供給されうる。
【0102】
[115]別の実施形態では、電気分離シリンジは、
− 排出端および受容端(すなわち、プランジャを受容する端)を有するバレル(すなわち、シリンジバレル)、
− プランジャ、
− 第1の電源コネクタを含むカソード、ならびに
− 第2の電源コネクタを含むアノード
を含み、カソードおよびアノードは、バレルに含有される溶液全体に電圧をもたらすように構成される。電気分離シリンジは、バレルの排出端に開口部(出口と記載される場合がある)をさらに含んでもよい。開口部は、針を含みうる。針は、バレルの排出端に直接接続されてもよく、または針アセンブリを介して排出端に接続されてもよい。
【0103】
[116]電極のそれぞれ(例えば、アノードおよびカソード、ただし接地された電極も同様である)は、任意の好適な電極材料を含みうる、またはそれからなりうる。各電極は、電気分離シリンジの一部(例えば、バレル、プランジャ、針または針アセンブリ)に統合されてもよく、または電気分離シリンジの一部内に付着される、または埋め込まれる追加の構成要素であってもよい。一部の実施形態では、電気分離シリンジの全部分(プランジャまたは針など)が導電性材料からなり、したがって全部分がアノードまたはカソードとみなされてもよい。それに応じて、一実施形態では、電極の一方はプランジャによって構成される。代替的に、シリンジのプランジャを受容する端にある電極は、プランジャの一部を形成する導電性嵌合体によって形成されてもよく、またはシリンジの受容端に、(使用時に)シリンジバレル内に保持される液体と接触するように配置される。一実施形態では、電極の一方は、針によって構成される。電気分離シリンジは、針と組み合わされた形態で供給されてもよく、またはシリンジの排出端に、針を受容するように適合された針受容器を含んでもよい。この実施形態の変形では、電気分離シリンジの針端にある電極は、シリンジバレルの排出端の金属嵌合体によって形成されてもよい。金属嵌合体は、針を受容するように成形されてもよく、別様に成形されてもよい。要求される電極を構成するために、金属嵌合体は、使用時にシリンジバレル内に含有される液体と接触する必要がある。さらに別の変形では、液体がその中を通ってシリンジに引き込まれ、シリンジから排出される、シリンジバレルの端にある電極は、金属プレート、ディスク、コーティング、ロッド、または排出端において、シリンジバレルの内部に収まる任意の他の形状の嵌合体の形態であってもよい。金属プレート/ディスクの場合、電極は、液体がその中を通ってシリンジに引き込まれる、中央アパーチャを含有してもよい。
【0104】
[117]用語「針」は、中央孔を有する、本明細書に記載される実施形態で典型的に金属である、細長い管を指すように広範に使用される。鋭さは、針を構成するために金属管に要求される特色であると解釈されるべきではない。
【0105】
[118]従来のマイクロシリンジにおける金属針および金属プランジャの従来の使用を考慮して、一部の実施形態では、プランジャは1つの電極を構成し、かつ電気分離シリンジとともに供給される、または電気分離シリンジに嵌合される針は、電極の他方を構成する。
【0106】
[119]導電性材料がアノードであるかカソードであるか、または接地された電極であるかは、各電極がどのように電源に接続されるかに依存し、これは電源が、水の還元を駆動するためにカソードに電子を供給するためである。したがって、本明細書に記載される電気分離シリンジのいずれかの実施形態では、アノードおよびカソードの場所は交換されてもよい。一部の実施形態では、第2の電源コネクタを介してカソードに負電圧が印加される場合、第1の電源コネクタは、アノードをグランドに接続してもよい。代替的に、第1の電源コネクタを介して正電圧がアノードに印加される場合、第2の電源コネクタは、カソードをグランドに接続してもよい。
【0107】
[120]アノードおよびカソードのそれぞれは電源コネクタを含む。第1の電源コネクタを含むカソードおよび第2の電源コネクタを含むアノード。電源コネクタは、アノードおよび/またはカソードを電源に接続する任意の手段を含む。第1および第2の電源コネクタは、同じであっても異なってもよい。一部の実施形態では、第1および/または第2の電源コネクタは、電源からそれぞれカソードおよび/またはアノードに延びるワイヤ(またはリード)であってもよい。他の実施形態では、第1および/または第2の電源コネクタは、電源とインターフェースするように適合された電極の部分であってもよく、例えば、電源コネクタは、例えばワイヤまたはリードを用いた接続によって電源に接続するように成形される、アノードおよび/またはカソードからの導電性の延長部を含んでもよい。
【0108】
[121]電源は、直接電流(DC)電力をもたらす。任意の好適なDC電源が使用されてもよい。例えば、電源は、図2に示されるUSB電源であってもよい。電源は、高電圧電源であってもよい。
【0109】
[122]一部の実施形態では、カソードまたはアノードの一方は、バレルの排出端に配置される。例えば、アノードは針または針アセンブリ内に含まれてもよい。
[123]一部の実施形態では、プランジャは、カソードまたはアノードの一方を含んでもよい。プランジャが、金属などの導電性材料からなる場合、プランジャ全体がアノードまたはカソードを形成しうる。代替的に、プランジャは、電極部分を構成する、プランジャの溶液と接触する部分に配置される導電性部分を含んでもよい。プランジャは代替的に、接地された電極を含んでもよい。
【0110】
[124]一部の実施形態では、アノードまたはカソードは、電気分離シリンジのバレル内に配置されてもよい。したがって、バレルは、排出端もしくはその付近にある、かつ/または電気分離シリンジのバレル内の、バレルの排出端からバレルの受容端の方へ間隔を空けた場所に配置された電極を含んでもよい。2つの電極は、溶液がシリンジのバレル内に含有され、電圧が電極全体に印加されるとき、電圧が溶液を通過するように、電気分離シリンジ内に配置される。したがって、アノードおよびカソードは、溶液がシリンジのバレルに含有されるとき、すなわち、プランジャがバレルから受容端の方へ引き抜かれるときに触れるように配置されない。アノードおよびカソードは、プランジャがバレルの排出端の方に完全に押し下げられるときなど、溶液がシリンジに含有されないときに互いに接触してもよい。
【0111】
[125]一部の実施形態では、シリンジバレルは、内部コーティングを含んでもよい。内部コーティングは、シリンジバレルの内部壁全体を覆ってもよく、またはシリンジバレルに引き込まれる溶液に接触する内部壁の部分を覆ってもよい。内部コーティングは、非導電性および/または化学的に不活性の材料を含んでもよい。例えば、内部コーティングは、セルロースエーテル(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース)、アクリル酸ポリマー(例えば、ポリメタクリル酸およびメタクリル酸アミノエステルコポリマー)、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよびワックス、またはこれらの組合せもしくはコポリマーなどの、膜形成ポリマーまたはコポリマーを含んでもよい。内部コーティングは、膜形成ポリマーまたはコポリマーおよび溶媒を含む溶液と、バレルの内部壁を接触させ、溶媒を除去することによって塗布されてもよい。
【0112】
[126]シリンジバレルの容量(すなわち、シリンジバレルに取り込まれてもよい最大体積)は、0.5μl〜1mlであってもよい。容量は、好ましくは、最小で1μl、2μl、3μl、4μlまたは5μlである。容量は、好ましくは、100μl、50μl、20μl、15μlまたは10μl以下である。任意の最大および最小容量を組み合わせて、1μl〜15μlの容量範囲などの範囲を形成してもよい。この体積の液体内の化合物/分析物の分離または再分布が、(試料が正式な分析のために他の分析機器に投入される前に)電気泳動技術を使用してシリンジで実施されるという事実は、本発明の顕著な態様である。液体の体積が大きいほど熱生成が多いため、当業者は、過剰な熱を回避するために、電気泳動による分離を実施する際に電圧電位を下げる傾向にあることに留意されたい。この潜在的な障害にもかかわらず、本出願人らは、シリンジバレルでこの体積の液体を使用し、高い電圧電位を用いて分離を実施する。シリンジでこの種の前処理ステップを実施することにより、本出願人らは、全体的な分析方法の向上を達成した。完全な分析測定を実施する前に、前処理が前分析分解ステップの形態としてシリンジそれ自体で実施されることは、本発明の独特な特色である。前処理ステップが気泡形成を抑制する圧力下で実施され、これが分析結果の向上の達成につながることは、好ましい実施形態のさらなる独特な特色である。この前処理ステップにより、この前処理ステップを伴わずに実施される分析に比べ、全体的な分析結果の驚くべき向上が示される。
【0113】
[127]一部の実施形態では、電気分離シリンジは、バレルの排出端に付随するバルブをさらに含む。バルブは、シリンジバレルの排出端に位置してもよい。バルブは代替的に、流体通路によってシリンジバレルの排出端に流体接続されてもよい。電気分離シリンジの排出端からの液体および/またはガスの放出を制御するために好適な任意のバルブが使用されてもよい。バルブは、集束電圧が印加されるとき、水溶液の圧力が増加されることを可能にする。驚くべきことに、水溶液の圧力が増加されると、電解ステップおよびNRB形成がより良好になることが見出された。
【0114】
[128]さらに、本明細書では、排出端およびプランジャ端(またはプランジャ受容端)を有するバレル、プランジャ、カソード、アノードおよびバレルの排出端に位置するバルブを含む電気分離シリンジであって、カソードおよびアノードが、バレルに含有される溶液全体に電圧をもたらすように構成される、電気分離シリンジが提供される。
【0115】
[129]電気分離シリンジは、体積表示、例えば、バレルの外部壁に沿った刻印またはエッチングを含んでもよい。本明細書に記載される分析方法は、分析物の定性分析をもたらすために使用されてもよいが、水溶液中の分析物の濃度に関する定量的データを提供するために、分析される溶液の体積が把握されなければならない。電気分離シリンジに体積表示を備えることにより、本発明の方法に供される水溶液の体積の即座の決定が可能になる。
【0116】
[130]本明細書に記載される電気分離シリンジのいずれかが、本発明の分析および/または分離方法に使用されてもよい。
[131]電気分離シリンジの一実施形態が図2bに図示される。この電気分離シリンジは、以下で詳細に考察される図2aのシステムに組み込まれてもよい。
【0117】
[132]すべての図面にわたって、以下の参照番号が使用される:
【0118】
【表1】
【0119】
[133]電気分離シリンジ(1)は、シリンジバレル(6)、プランジャ(3)および針(2)を含む。溶液(7)は、シリンジバレル(6)の排出端(6a)にある針(2)からシリンジバレルに引き込まれる。プランジャは、シリンジバレルの受容端(6b)に配置される。プランジャ(3)は、プランジャヘッド(3a)および中央軸(3b)を含む。プランジャヘッドは、その周縁部に、シリンジバレル(6)の内側壁に接触する非導電性弾性材嵌合体を含み、溶液(7)の漏出を防止する。シリンジバレル(6)内で溶液(7)全体に長手方向に電圧を印加する、1つの電極を構成するプランジャ(3)のプランジャヘッド(3c)の露出エリア、および第2の電極を構成する針(2)が存在し、1つはカソード、他方はアノードである。針は、針嵌合体(20)を介してシリンジバレルに接続される。この近辺には、開閉して、溶液がシリンジバレル(6)から吐出されるときに溶液の圧力を増加させるバルブ(詳細には図示されない)も存在する。シリンジバレル(6)は、内部コーティング(示されず)、およびシリンジバレルの溶液の体積を示すように付けられた表示を有する。
システム
[134]さらに、本明細書では、
− シリンジバレル、プランジャ、および使用時にシリンジバレルに含有される水溶液中に電圧を印加するように配置された一組の電極(例えば、アノードおよびカソード)を含む電気分離シリンジ、
− アノードおよびカソードと接続するように構成された電源、ならびに
− 電気分離シリンジから分析物を受容し、分析するように適合された分析器
を含む分析システムが提供される。
【0120】
[135]電気分離シリンジは、本明細書に記載される任意の電気分離シリンジであってもよい。電気分離シリンジが第1および第2の電源コネクタを含む場合、電源は、コネクタを通してアノードおよびカソードと接続してもよい。
【0121】
[136]このシステムの一実施形態が図2aに示される。電気分離シリンジ(1)は、2つの電源コネクタを通して電力源(11)などの電源に接続され、第1の電源コネクタは、電力源(11)と電気分離シリンジの1つの電極(カソードでありうるが、図2aではアノードとして印が付される)との間に延び、第2の電源コネクタは、電力源(11)と、電気分離シリンジ(1)のアノードとの間に延びる。電力源(11)は、USB接続を通して制御器に接続される。図2aに示されるように、制御器は、電力源に物理的に接続されるラップトップであるが、他の実施形態では、制御器は、IR、Wi−FiまたはBluetoothなどのワイヤレス技術を使用してインターフェースされた電源から遠隔であってもよい。
【0122】
[137]電気分離シリンジは、シリンジ(1)に含有された溶液を所望の時間に所望の速度で投入するようにプログラムされうるシリンジポンプ(12a)に接続される。一部の実施形態では、シリンジポンプはさらに、電源のものと同じ制御器(15)であってもよい制御器(15)によって制御される。シリンジ(1)の排出端にある針は、受容器または嵌合体(14)に接続される。受容器/嵌合体は、シリンジ(1)から溶液を受容する入口、および受容された溶液を分析器(7、8)に供給するコネクタ(15)を含む。図2aに示されるコネクタ(15)は、内径50.0μmの毛細管であるが、任意の好適なコネクタが使用されてもよい。
【0123】
[138]図2aに示されるように、分析器はESI−MS(19)であるが、他の実施形態では、分析器は本明細書に記載されるもののいずれかであってもよい。試料は、噴霧器(18)によって質量分析計(19)に噴霧される。図2aには、第2のシリンジポンプ(12a)に接続されたシース液注入のための第2のシリンジ(16)がさらに示される。第2のシリンジ(16)は、シース液を、第2のシリンジポンプによって制御される速度で分析器に与えるために用いられる。一部の実施形態では、第2のシリンジポンプは、電源のものと同じ制御器であってもよい制御器によって制御されうる。
【0124】
[139]さらに、本明細書では、
− 電気分離シリンジに含有されたときに、水溶液中に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む電気分離シリンジから投入された水溶液のための受容器、ならびに
− アノードおよびカソードと接続するように構成された電源
を含むシステムが提供される。
【0125】
[140]電気分離シリンジは、本明細書に記載される任意の電気分離シリンジであってもよい。電気分離シリンジが第1および第2の電源コネクタを含む場合、電源は、コネクタを通してアノードおよびカソードと接続してもよい。
【0126】
[141]このシステムの実施形態もまた、示される全体的な分析システムのサブシステムとして図2aに示される。このシステムの実施形態は、受容器および電力源(11)を含む。受容器は、入口(マイクロタイト嵌合体(14)として与えられる)およびコネクタ(毛細管(13)として与えられる)を含んでもよい。受容器は、シリンジの針と係合されると液密シールを形成し、受容された水溶液を分析器に供給するように適合されてもよい。一部の実施形態では、このシステムの受容器は、嵌合体(14)に加えて管(13)の一部分のみを含んでもよく、または分析器とインターフェースするのに好適な電気分離シリンジのための嵌合体のみを含んでもよい。代替的に、このシステムの受容器は、例えば、電気分離シリンジが針を含まない実施形態では、シリンジ(1)のバレルの排出端に直接付着してもよい。
【0127】
[142]さらに図2aに示されるように、電力源(11)は、電気分離シリンジ(1)から電力源(11)の端子まで延びるワイヤによって形成される第1および第2の電源コネクタと接続するように構成される。
【0128】
[143]一部の実施形態では、システムは、上記で記載された分析器などの分析器をさらに含む。
[144]さらに、本明細書では、試料を分析するための装置であって、
− シリンジバレルおよびプランジャ、およびシリンジバレル内に含有される任意の液体全体に電圧が印加されることを可能にするように配置された一組の電極を含む電気分離シリンジ、または別個の電気分離シリンジを受容するための受容器、
− 電圧電位を供給するための電源、
− 液体を引き上げてシリンジバレルに配給するプランジャの操作のためのプランジャ制御器(例えば、ポンプ)、
− 分析器に送出された液体を分析するための分析器、
− 分析器に供される水溶液を保持するための試料リザーバ、
− 電気分離シリンジと流体接続したバルブであり、電気分離シリンジと分析器の間の流体の流れ、および電気分離シリンジと試料リザーバの間の流体の流れを可能にするバルブ、ならびに
− 電極に対する電源の操作、液体をシリンジバレルに引き込み、液体をシリンジバレルから配給するプランジャの操作を制御し、流体の流れの方向を制御するためのバルブ設定を制御するための制御器
を含む、装置が提供される。
【0129】
[145]バルブは、好適には、電気分離シリンジの液体全体への電圧電位の印加の間に、圧力が印加されること(すなわち、シリンジ中の流体をシリンジの開放端から排出する間に印加される圧力よりも高く)を可能にするシーケンスで、シリンジの入口/出口端の開閉を制御するように、装置内で操作される。制御器は、好適には、シリンジの入口/出口の協調閉鎖、およびシリンジの液体全体への電圧電位の印加の間の、シリンジの液体全体に圧力を印加するプランジャの操作(例えば、押し下げ、前進または作動)を制御する。上記で示されたように、驚くべきことに、増加された圧力下で方法が実行されると、分析結果の向上が達成されることが見出された。理論に束縛されることを望むことなく、結果の向上は、増加された圧力下での生成されたガスの溶解度の増強により、電気分離ステップの間のシリンジバレル内部の気泡形成が大きく抑制されることによって達成されると考えられる。バルブ、ならびに電圧電位の印加の間に圧力を印加するバルブおよびプランジャの操作を制御するための制御システムを含むこれらの機器の機能を有する装置は、要求される増加された圧力の印加により、この方法の実施を可能にする。理論に束縛されることを望むことなく、結果の向上は、増加された圧力下での生成されたガスの溶解度の増強により、電気分離ステップの間のシリンジバレル内部の気泡形成が大きく抑制されることによって達成されると考えられる。
【0130】
[146]上記で指摘されたように、装置は、統合された電気分離シリンジを備えてもよく、または装置は、電気分離シリンジの電源および装置の他の構成要素への接続を可能にするように、別個に供給される電気分離シリンジが挿入される受容器を含んでもよい。装置とともに供給される場合でも、電気分離シリンジは取り外し可能であってもよい。電気分離シリンジを受容するのに好適な任意の好適なクリップ、コネクタまたは嵌合体が使用されてもよい。
【0131】
[147]電源は、使用時にシリンジバレル内に含有される液体全体に電圧電位を供給することを可能にし、したがって、電気分離シリンジの電極へのコネクタを含む。装置が電気分離シリンジのための受容器を含有する実施形態では、シリンジが操作前に定位置に挿入されるために、電源は、電気分離シリンジが受容器に受容されるときに電源と電気分離シリンジの電極との間に電気接続が存在するように、受容器に付随するコネクタを含む。
【0132】
[148]装置は少なくとも1つのリザーバを含有するが、リザーバの1つとして試料リザーバを含む、複数のリザーバを含んでもよい。他のリザーバは、バックグラウンド電解質、廃棄物および洗浄溶液のためのものであってもよい。洗浄溶液は、別個の分析の間にシリンジを洗浄するためのものである。複数の試料リザーバが存在してもよい。この文脈では、用語「リザーバ」は、流体受け部への接続を可能にする任意の容器または開口部を指すように広範に使用される。したがって、リザーバは、試験される試料を含有する試料管(例えば、試験管)に挿入される流体管または毛細管を含んでもよい。
【0133】
[149]この種の2つのシステムが図16aおよび16bに図示される。これらの図には、以下の機能が示される:
− 入力電圧モジュール(25)を含む電源(11)。
− シリンジバレル(6)、および1つ(5)はシリンジバレルの出口(または入口/出口端)にあり、他方(21/4)はプランジャに付随する電極(5、21/4)を含むシリンジ(1)。
− 高電圧印加のための組み込み点(接続)を有するポンプ(12b)。
− 6ポートバルブ(22a)または8ポートバルブ(22b)のいずれかであるバルブ。それぞれの図には、バルブ設定のそれぞれを示すバルブの第2の断面図がある。各場合において、異なる流体リザーバ、プラグ、または分析器の接続に関連付けられる、A〜FまたはA〜Hと印が付されたバルブ設定が存在し、これには以下が含まれる:バックグラウンド電解質リザーバ(A)、試料リザーバ(B)、プラグ(C)、廃棄物リザーバ(D)、分析器への流体接続(E)、この場合はESi−MS分析器(19)、洗浄溶液(F)、ならびに必要に応じた追加の洗浄溶液(G)および(H)。
− 電源、ポンプおよびバルブの操作を制御するコンピュータ(マザーボード付き)の形態の制御器(23)。制御器はまた、分析器によって実施される分析を操作する、または結果を表示してもよく、かつ分析器と統合されてもよく、それと別個であってもよい。
− 分析器、この場合は質量分析計(MS)(19)。
【0134】
[150]任意の形態の流体通路または毛細管がシステムの種々の構成要素を接続してもよい。さらに、印加される電圧の極性を反転させるように働く、図示される実施形態のシリンジに印が付されたボタン(24)が存在する。代替の配置構成では、これは存在しない。
【0135】
[151]図16aに図示される実施形態では、以下の寸法が適用される:シリンジの入口/出口は、長さ35mm、内径0.2mmの針を含む。シリンジの最大容量または容積は1.10μLである。バルブ容積は、6ポートバルブでは0.415μL、8ポートバルブでは0.37μLである。試料リザーバの流体通路は、長さ10cm、内径150μmであり、1.77μLの体積を保持する。バルブ位置における分析器への流体通路5は、長さ25cm、内径50μmであり、0.49μLの体積を保持する。MSへの総死容積は、図16aで2.01μL、図16bで1.96μLであり、BGEバイアルまたは試料バイアルへの総死容積は、図16aで3.29μL、図16bで3.24μLである。
【0136】
[152]図示される実施形態では、また一般的に、図示されない本発明の他の実施形態に関して、制御器は、試料の分析間にシリンジを洗浄するようにステップのシーケンスの操作を制御してもよい。
【0137】
[153]この目的のために、制御器は、シリンジの洗浄溶液への制御された開閉、および洗浄溶液を引き上げ、吐出して廃棄するポンプの操作によって、試料の分析間にシリンジを洗浄するステップを実施するように操作されうる。次いで、制御器は、試料溶液をシリンジバレルに引き込むポンプおよびバルブの操作を制御するように動作する。追加の溶液(例えば、バックグラウンド電解質溶液)もまた、所望の分離を実施するために要求される配置構成でシリンジに引き込まれてもよい(例えば、試料溶液の量は、BGE溶液の量の間に挟まれてもよい)。その後、制御器は、電極全体に電圧電位を印加し、試料中の分析される分析物の分布を変化させるように動作する。次に、制御器は、バルブおよびポンプ、ならびに必要に応じて電源も操作し、バルブ位置Eを介して試料溶液の分析器への配給を制御する。シリンジバレルの内容物の一部分のみが分析器に通過し、他の部分はバルブ位置Dにおける廃棄に向けられてもよい。バルブはまた、流体が、シリンジから配給される際に通る必要がある開口部のサイズを制御し、シリンジバレルから分析器に配給される試料の圧力を増加させるように操作されてもよい。
【実施例】
【0138】
[154]本発明は、非限定的な実施例を用いてさらに記載される。本発明の技術分野の当業者には、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多数の変更がなされてもよいことが理解される。
【実施例1】
【0139】
NRB形成
[155]この実験は、電気分離シリンジ内でのNRBの形成を確認する。この実験はまた、NRB形成の機序を確認する。
【0140】
[156]シリンジバレルを1.0%(w/v)のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)で動的にコーティングした後、シリンジに、80%(v/v)の万能指示薬およびpH7の5.0mMのNHAcを含有する溶液10.0μLを充填した。−50Vを印加すると、グランドからH流動(赤色)、およびカソードからOHイオン流動(紫色)が発生した。言及された条件を使用して3分以内に好適なNRBが形成された。この実験の結果を図3に示す。
【実施例2】
【0141】
電気分離シリンジを使用するタンパク質の集束
[157]実施例1に記載のものと同様の手順を用いて、−50Vの印加電圧、バックグラウンド電解質として5.0mMのNHAc(pH8)、およびHPMC(1.0%(w/v))でコーティングされた電気分離シリンジを使用して、Chromeo(商標)で標識されたウシ血清アルブミン(pI4.7)のNRBへの集束を示した。
【0142】
[158]図4aは、この実験の結果を示しており、ここで実験の開始時(時間(分:秒)=0:00)に、蛍光が溶液中で実質的に一定である一方で、BSAがシリンジに含有された水溶液中に均一に分布する。−50Vの電圧をシリンジの針(左側)に印加する。電圧が印加されると、溶液の蛍光領域が、5分以内に両端からシリンジの4〜5μLの印の間の単一バンドへと、内側に集束することが観察される。
【0143】
[159]異なるpI値を有する異なるタンパク質の集束に対して同様の結果が得られ、図4bは、R−フィコエリスリン(RPE、pI4.2、40.0μg/mL)、ヘモグロビン(HGB、pI6.9、350.0μg/mL)、およびchromeo(商標)488で標識されたBSA(100μg/mL)とHGB(350.0μg/mL)の混合物の集束を示す。
【実施例3】
【0144】
電気分離シリンジを使用するヒスチジン濃度の検出のための分析方法
[160]電気分離シリンジ(ES)をESI−MSシステムと結合させ、標準溶液およびスパイクされた尿試料でヒスチジンを定量した。ES−ESI−MSシステムを用いたヒスチジンの定量のための実験条件を表1(以下)に要約する。
【0145】
【表2】
【0146】
[161]この方法の結果を図5a、5bおよび6a〜cに示す。この実施例で使用される分析器は、ESI−MS検出器である。集束されたヒスチジンはおよそ2.25分で溶出し(図5a)、検出強度は、試料にスパイクされたヒスチジンの濃度と相関する(図5b)。標準溶液におけるヒスチジンの定量では、ピーク高さ(EIE、m/z156.0+0.1)対較正物質濃度のプロットを、非線形二次方程式(y=−1922000+1450000x+51918)によって4.0〜64.0μg/mLの範囲および相関係数(r)=0.9998で適合した。方法の確度および精度データは、3回の反復を使用して4.0、8.0、16.0、32.0および64.0μg/mLで決定し、表2(以下)に示されるように、確度は91.86%〜102.16%であり、精度は誤差%が6%未満であることが実証された。開発されたES手法により、スパイクされた尿試料におけるヒスチジン定量のための非常に簡素化されたプロトコールが可能になり、ここではESを使用して尿試料をバックグラウンド電解質(BGE)で10回希釈し、ヒスチジンを集束させてESI−MSに注入する。尿試料におけるヒスチジン定量の二次適合較正曲線を構築し(y=1343000+58975x+80831)(r=0.9997)(図5b)、確度は88.25%〜102.16%の範囲であった。精度データは、相対標準偏差(RSD)が11%未満および誤差%が7%未満で良好であることが見出された(表2)。
【0147】
[162]この実施例はまた、図6に図示されるように、開発された電気分離シリンジ−ESI−MS手法を使用して、スパイクされた尿試料におけるヒスチジンの定量で、8.5倍の濃縮率が達成されたことを示す。図6aは、ヒスチジンの最終添加濃度が16.0μg/mLである、スパイクされた尿試料の抽出イオン電気泳動図(EIE)(m/z156.0±0.1)を示し、(A)は本発明の方法の集束ステップに供した後、および(B)は集束ステップなしである。図6bは、図6a(A)に示されるEIEからの、時間=2.25におけるピークから得られた質量スペクトルを示し、図6cは、図6a(B)に示されるEIEからの、時間=2.25におけるピークから得られた質量スペクトルを示す。感度の増強は、標的の目的物を予備濃縮し、マトリックス抑制を低減させる本発明の方法の重要性を示す。
【0148】
【表3】
【実施例4】
【0149】
電気分離シリンジの荷電分析物の検出への適用(電気分離シリンジを使用する生物学的試料のクリーンアップ)
[163]干渉タンパク質からの血清試料のクリーンアップは、ESを使用して、ある特定のpH値を有する水溶液で希釈した際の、血清タンパク質と標的の分析物とのイオン化の差に基づく。この実施例では、水溶液は50mMのギ酸を含み、pHは2.5である。このpHは、ほぼすべての血清タンパク質のpIより低く、血清タンパク質が正に荷電されることを確実にし、さらにすべての酸性化合物が、それらのpKa値に基づいて荷電されない、部分的に負に荷電される、または完全に負に荷電されることを確実にする。電圧を印加すると、すべての正に荷電した血清タンパク質がシリンジプランジャ付近に集束して凝集する一方、弱酸性化合物は集束しない、または針の方へ部分的に集束する。この方法は、図7の概略図に示される。
【0150】
[164]図8は、30%(v/v)アセトニトリル中50mMのギ酸(pH2.5)を含む水溶液を使用した、200.0μg/mLのChromeo(商標)488で標識されたヒト血清アルブミン(HSA)(pI4.7)の、カソードとしてのプランジャへの集束対弱酸性色素(エオシンB、100.0μg/mL、pKa値=2.2および3.7)の一定性を示す。
【0151】
[165]この実施例は、本発明の方法を使用して、2つの異なる分子を水溶液の異なる領域に分離する能力を示す。少なくとも1種の分析物または干渉分子の濃度を別個のゾーンに集束させることにより、分子が分離される。
【実施例5】
【0152】
スパイクされた生物学的試料における、両親媒性分子(HSA)の存在下の中性分析物(ナプロキセン(NAP)およびパラセタモール(PCM))の検出ための分析方法
[166]この実施例は、本発明の方法が、マトリックス効果を最小限に抑えて種々の分析物を検出するために使用されうることを示す。
【0153】
[167]電気分離ステップなし、および電気分離ステップを異なる時間間隔にわたって適用した後のNAP/HSA混合物のESI−MS分析により、本発明を使用した、弱酸性の標的化合物を含有する試料からの血清タンパク質の排除の概念を検証した。NAPでは、EIEは分子イオン[M−1]−1(m/z229.1)について得られ、HSA分析では、ソース誘起フラグメンテーション(source−induced fragmentation)を使用して、毛細管の排出口とスキマーとの電圧差が335Vになるように調整することによって定量化を達成した。得られたb244+フラグメントイオン(最も存在度が高いフラグメント、m/z685.1)を、イオン化のポジティブモードを利用して検出した。図9aは、−2000Vの印加を10分間維持することにより、HSAがプランジャの方へ集束し、凝集することを示す(EIE:ポジティブモード、m/z685.1)。HSAが溶液のこの部分から除去されると、NAPのシグナル強度(EIE:ネガティブモード、m/z229.1)が増加した。質量スペクトルを統合し、平均シグナル強度対時間をプロットした後のこの実験の概要を図9bに図示する。NAPシグナルは、約320秒まで電気分離ステップの時間とともに増加し、この期間にわたるタンパク質の漸進的な除去を示唆する。320〜640秒の間の電圧印加は、NAPシグナルの有意な変化をもたらさなかった。したがって、この実施例での電気分離ステップに使用される時間として、320秒が選択された。さらに、図9bは、HSAによって生じるイオン化抑制に起因する、NAPシグナルとHSAシグナルの平均強度の間の反比例関係を示す。
【0154】
[168]ESI−MSと結合された電気分離シリンジを使用する血清スパイクおよび分析のプロトコール:
1− 健康な成人ボランティアの指先を穿刺し、血液試料を収集する。
2− 血液を室温で30分間静置することによって凝固させる。
3− 6400RPMで10分間遠心分離し、血餅を除去する。
4− 液体成分(血清)を清潔なエッペンドルフチューブに移す。
5− 特定の体積のNAPおよびPCMの標準溶液を血清試料に添加し、それぞれ4.0、8.0、16.0、32.0および64.0μg/mLのNAP、ならびに3.0、6.0、12.0、24.0および48.0μg/mLのPCMの最終濃度を得ることにより、スパイクされた血清試料を調製した。各血清試料を、内部標準(IS)として160.0μg/mLのバルプロ酸でさらにスパイクし、最後に30秒間渦流混合した。
6− バックグラウンド電解質(BGE)は、32.0(v/v)のACN中53.3mMのギ酸を含み、最終BGE組成は30.0%(v/v)アセトニトリル中50.0mMのギ酸になる(BGEでのスパイクされた血清の15倍希釈後)
7− BGE4.0〜11.0μLの間に1.0μLのスパイクされた血清を吸引することにより、スパイクされた血清をBGEで15倍希釈する。
8− クリーンアップステップ(タンパク質の電気分離):−2000Vで320秒間。
9− 流量4μL/分で、シース液:ISP80%(v/v)、流量10μL/分とともにESI−MSに注入する。
【0155】
[169]開発されたES−ESI−MS手法は、バルプロ酸をISとして使用してスパイクされた血清試料におけるNAPおよびPCMの同時定量のための簡素化されたプロトコールを提供した。
【0156】
[170]スパイクされた血清試料のクリーンアップステップおよびESI−MS分析に使用されるパラメータを表3に要約する。
[171]図10に示されるように、平均強度比(各薬物/IS)対添加された薬物濃度をプロットすることにより、線形相関が達成された。対応する回帰方程式は、NAPについてy=0.0279+0.0328x、およびPCMについてy=−0.0075+0.0099xであり、回帰相関係数は、NAPについて(r)=0.9994、およびPCMについて(r)=0.9982であった。
【0157】
[172]構築された較正曲線を、スパイクされていない血清試料に加え、NAPについて4.0〜64.0μg/mL、およびPCMについて3.0〜48.0μg/mLの濃度範囲を示す5つの濃度レベルに基づいて展開した。NAPおよびPCMの定量化下限(LLOQ)値は、the U.S. Department of Health and Human Services, Center for Drug Evaluation and Research, Center for Veterinary Medicine, Guidance for Industry, Bioanalytical Method Validation [Draft Guidance], September 2013に提示されるFDAのガイダンスに従い、血清ブランクのレスポンスの5倍より多くのレスポンスを示すように選択された。
【0158】
[173]スパイクされた血清試料におけるNAPおよびPCMの同時定量のために開発された方法の確度を、実測値と添加濃度の比を計算することによって、5つの異なる濃度レベル;NAPについて4.0、8.0、16.0、32.0および64.0μg/mL、およびPCMについて3.0、6.0、12.0、24.0および48.0μg/mLで評価した(n=3)。方法の精度(日内および日間)は、各濃度のアッセイされた三つ組の標準偏差および平均を使用して、相関標準偏差(RSD)および誤差%によって表した。表4に示されるように、方法の確度は、NAPについて81.23%〜104.79%、およびPCMについて90.98%〜115.52%であり、方法の精度は、誤差%がNAPおよびPCMについてそれぞれ11%および10%未満であった。
【0159】
[174]プロセス効率およびイオンサプレッションを、4つの試料セットを使用して評価した;セットAは、ESを用いて水溶液中で15倍希釈され、ESI−MSに注入されたニート標準溶液を含み、セットBは、セットAと同様の、ただし電気分離ステップ適用後のニート標準溶液を含み、セットCは、電気分離ステップ適用後の予備スパイクされた血清試料を含み、セットDは、水溶液中で希釈され、電気分離ステップなしで投入された、予備スパイクされた血清試料を含んだ。すべてのセットは、NAPおよびPCMの定量範囲内の3つの異なる濃度レベル;それぞれ、NAPについて4.0、16.0、64.0μg/mL、およびPCMについて3.0、12.0、および48.0μg/mLの三つ組で作製された。4つのセットを表すEIEを図11に要約し、図11aは、4つのセット(A〜D)における16.0μg/mLのNAPのEIE(m/z229.1、[M−1])を表し、図11bは12.0μg/mLのPCMのEIE(m/z150.2、[M−1])を表す。
【0160】
[175]プロセス効率(%PE)を、セットCとセットAの間の全実行の平均強度を比較することによって評価した:PE(%)=C/A×100。
[176]血清マトリックスによるイオンサプレッション(マトリックス効果の低減を示す測定基準)を以下のように評価した:イオンサプレッション=(100−(D/A×100))。クリーンアップステップのプロセス効率および血清マトリックスによるイオンサプレッションは、表5に要約されるように、各薬物の3つの濃度レベルで評価した。NAPの平均プロセス効率は39.91%であることが見出され、クリーンアップステップなしのスパイクされた血清の注入より6.8倍高いシグナルを示す(クリーンアップステップなしの平均イオンサプレッション=94.09%)。同様に、PCMの平均プロセス効率は36.09%であり、PCMシグナルは、イオンサプレッションが93.91%であったクリーンアップステップなしの注入に比べ、クリーンアップステップ後で5.9倍高かった。
【0161】
[177]図12aおよび図12bに示される質量スペクトルを比較することにより、質量スペクトルの感度に対するクリーンアップステップの影響が観察でき、図12aは、クリーンアップステップ後に得られた質量スペクトルを示し、図12bは、試料へのクリーンアップステップなしでの結果を示す。
【0162】
【表4】
【0163】
【表5】
【0164】
【表6】
【実施例6】
【0165】
タンデム質量分析による、スパイクされた血清試料中の、両親媒性分子(血清タンパク質)の存在下での中性分析物(クロミプラミン、クロルフェナミン、ピンドロールおよびアテノロール)の検出のための分析方法
[178]この実施例では、水溶液は、300mMの水酸化アンモニウムおよび30%(v/v)のアセトニトリルを含み、11.4のpHを有する。このpHは、ほぼすべての血清タンパク質のpIより高く、血清タンパク質が負に荷電されることを確実にし、さらにすべての塩基性化合物が、それらのpKa値に基づいて荷電されない、部分的に正に荷電される、または完全に正に荷電されることを確実にする。針をカソードとして、かつプランジャをアノードとして使用して電圧を印加すると、すべての負に荷電した血清タンパク質がシリンジプランジャ付近に集束して凝集する一方、弱塩基性化合物(クロミプラミン、クロルフェナミン、ピンドロールおよびアテノロール)は集束しない。この方法は、図13の概略図に示される。
【0166】
[179]50msのフラグメンテーション時間、4質量単位の単離幅、ならびにクロミプラミン、クロルフェナミンおよびアテノロールについて0.5V、ならびにピンドロールについて0.4Vのフラグメンテーション振幅を使用して、ポジティブモードでMS/MSスキャンを行った。多重反応モニタリング(MRM)を用いて、それぞれ315>86のm/z、275>230のm/z、249>116のm/z、および267>190のm/zを使用して、クロミプラミン、クロルフェナミン、ピンドロールおよびアテノロールを検出した。
【0167】
[180]特定の体積の標準溶液を添加し、それぞれ80.0、10.0、50.0、250.0ng/mLのクロミプラミン、クロルフェナミン、ピンドロールおよびアテノロールのスパイクされた濃度を得ることにより、スパイクされた血清試料を調製した(スパイクは、すべての薬物の最大血漿濃度より低いレベルで行った)。各血清試料をBGEで5回希釈した。10μLの希釈された血清を電気分離シリンジによって吸引し、プランジャをアノードとして、かつ針をカソードとして使用して800Vを90秒間印加し、血清タンパク質から血清試料をクリーンアップし、続いて200Vの印加を維持しながら、5μL/分の流量でESI−MSに注入した。75%(v/v)のメタノール中0.5%(v/v)のギ酸のシース液を、流量5μL/分で噴霧器に同軸注入した。
【0168】
[181]図14では、電気分離ステップ後と電気分離ステップなしの各薬物のEIEを比較することにより、電気分離シリンジを使用したクリーンアップステップの重要性を示す(n=3)。1.4〜1.6の時間間隔を使用して、シグナル強度を、クロミプラミンでは11倍、クロルフェナミンでは68倍、ピンドロールでは20倍、およびアテノロールでは24倍増強させた。
【0169】
[182]図15a〜dは、電気分離シリンジを使用したクリーンアップステップ後、およびクリーンアップステップなしの、クロミプラミン、クロルフェナミン、ピンドロールおよびアテノロールのそれぞれのMS/MSスペクトルを示す。
項目
1.溶液中の化合物の分布を変更するための方法であって、
− 化合物を含む溶液を、シリンジバレル、プランジャおよびシリンジバレルに含有される溶液全体に電圧を印加するように配置された電極を含む電気分離シリンジに引き込むステップと、
− シリンジバレルの溶液全体に電圧を印加して、シリンジバレルに含有される溶液内の化合物の分布を変更するステップと
を含む、方法。
2.化合物が分析物である、項目1に記載の方法。
3.シリンジバレルに含有される溶液内の分析物の分布を変更するステップが、
− シリンジバレルに含有される溶液の領域内で分析物の濃度を集束させるステップ、または
− 溶液中の分析物の濃度が増加された領域を溶液内に生成するステップであって、分析物が正味の中性分子である、ステップ、または
− 分析物を、同じく溶液内に含有される正味の中性化合物から分離するステップであって、分析物が荷電化合物である、ステップ
を含む、項目2に記載の方法。
3a.溶液が化合物および分析物を含み、シリンジバレルに含有される溶液内の化合物の分布を変更するステップが、溶液の1つの領域内で増加された濃度の化合物を集束させて、化合物の濃度が減少した、分析物を含有する溶液の別の領域を創出するステップを含む、項目1に記載の方法。
4.− 溶液を分析器に投入して、分析物の分析を可能にするステップ
を含む、項目2〜3aのいずれか1つに記載の方法。
5.溶液に印加される電圧が、−1.23V〜約−5000Vの範囲内、または+1.23V〜約5000Vの範囲内の電圧である、項目2〜4のいずれか1つに記載の方法。
6.溶液を分析器に投入するステップの間に第2の電圧が印加される、項目2〜5のいずれか1つに記載の方法。
7.第2の電圧が、−約1.23V〜約−1000Vの範囲、または約+1.23V〜約+1000Vの範囲内の電圧である、項目6に記載の方法。
8.水溶液全体に電圧を印加する前に、電気分離シリンジのバレル内の圧力が増加される、項目2〜7のいずれか1つに記載の方法。
9.電気分離シリンジが、バレルの排出端に付随するバルブを含み、バルブが閉じられているときに電気分離シリンジのプランジャに圧力を印加することによって圧力が増加される、項目8に記載の方法。
10.− 分析物が両親媒性分析物である、または
− 分析物が中性分析物もしくは荷電分析物であり、溶液が両親媒性分子を含む、
項目2〜9のいずれか1つに記載の方法。
11.両親媒性分析物または両親媒性分子が、タンパク質、ペプチドおよびアミノ酸から選択される、項目10に記載の方法。
12.溶液が、アンモニウム塩、カルボン酸、カルボン酸塩、アミンおよびこれらの1種または複数の組合せからなる群から選択されるバックグラウンド電解質を含む、項目1〜11のいずれか1つに記載の方法。
13.水溶液中の分析物の濃度を決定するための方法であって、
a.電気分離シリンジ中の分析物およびバックグラウンド電解質を含む水溶液全体に電圧を印加するステップであり、電気分離シリンジが、シリンジバレル、プランジャ、およびシリンジバレル中の水溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む、ステップと、
b.水溶液を分析器に投入するステップと
を含む、方法。
14.水溶液中の分子の濃度を集束させるための方法であって、
a.電気分離シリンジ中の分子およびバックグラウンド電解質を含む水溶液全体に電圧を印加して、溶液中の増加された濃度の分子を含む領域を生成するステップであり、電気分離シリンジが、シリンジバレル、プランジャ、および水溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む、ステップ
を含む方法。
15.荷電化合物を両親媒性化合物から分離するための方法であって、シリンジバレル、プランジャ、および水溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む電気分離シリンジ中の、荷電化合物、両親媒性化合物およびバックグラウンド電解質を含む水溶液全体に電圧を印加するステップを含む、方法。
16.シリンジバレル、プランジャおよび一組の電極を含む電気分離シリンジであって、電極が、使用時にシリンジバレル内に含有される溶液と電気接触し、電圧がシリンジバレルに含有される溶液全体に長手方向に印加されることを可能にするように構成される、電気分離シリンジ。
17.一組の電極が、
− 第1の電源コネクタを含むカソード、および
− 第2の電源コネクタを含むアノード
を含む、項目16に記載の電気分離シリンジ。
18.シリンジバレルが、排出端およびプランジャ受容端を有し、カソードまたはアノードの一方がバレルの排出端に配置される、項目17に記載の電気分離シリンジ。
19.プランジャが電極の一方を含む、項目16〜18のいずれか1つに記載の電気分離シリンジ。
20.電極の一方が針の形態である、項目16〜19のいずれか1つに記載の電気分離シリンジ。
21.シリンジバレルが内部コーティングを含む、項目16〜20のいずれか1つに記載の電気分離シリンジ。
22.バレルの排出端に付随するバルブを含む、項目16〜21のいずれか1つに記載の電気分離シリンジ。
23.0.5μl〜20μの間など、0.5μl〜1mlの間の容量を有する、項目16〜22のいずれか1つに記載の電気分離シリンジ。
24.試料を分析するための装置であって、
− シリンジバレル、プランジャ、およびシリンジバレル内に含有される任意の液体全体に電圧が印加されることを可能にするように配置された一組の電極を含む電気分離シリンジ、または電気分離シリンジを受容するための受容器、
− 電圧電位を供給するための電源、
− 液体を引き上げてシリンジバレルに配給するプランジャの操作のためのプランジャ制御器、
− 分析器に送出された液体を分析するための分析器、
− 分析に供される溶液を保持するための試料リザーバ、
− 電気分離シリンジと流体接続したバルブであり、電気分離シリンジと分析器の間の流体の流れ、および電気分離シリンジと試料リザーバの間の流体の流れを可能にするバルブ、ならびに
− 電極に対する電源の操作、液体をシリンジバレルに引き込み、液体をシリンジバレルから配給するプランジャの操作を制御し、流体の流れの方向を制御するためのバルブ設定を制御するための制御器
を含む、装置。
25.電気分離シリンジが、項目16〜21のいずれか1つに記載の電気分離シリンジである、項目24に記載の装置。
26.項目1〜15のいずれか1つに記載の方法を実施するために使用される場合の、項目24または項目25に記載の装置。
27.− シリンジバレル、プランジャ、および使用時に、シリンジバレルに含有される水溶液全体に電圧を印加するように配置された一組の電極を含む、電気分離シリンジ、
− 電極と接続するように構成された電源、ならびに
− 電気分離シリンジから分析物を受容して分析するように適合された分析器
を含む、分析システム。
28.電気分離シリンジが、項目16〜21のいずれか1つに記載の電気分離シリンジである、項目27に記載の分析システム。
29.項目2〜15のいずれか1つに記載の方法を実施するために使用される場合の、項目27または項目28に記載の分析システム。
30.上記に記載される、かつ実質的に図面の1つまたは複数を参照して本明細書に記載される通りの、方法、電気分離シリンジ、装置またはシステム。
31.水溶液中の分析物の濃度を決定するための方法であって、
a.電気分離シリンジ中の分析物およびバックグラウンド電解質を含む水溶液全体に電圧を印加するステップであり、電気分離シリンジが、水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む、ステップと、
b.水溶液を分析器に投入するステップと
を含む、方法。
32.分析物が両親媒性分析物である、項目31に記載の方法。
33.分析物が中性分析物もしくは荷電分析物である、項目31に記載の方法。
34.溶液が両親媒性分子をさらに含む、項目31または33に記載の方法。
35.両親媒性分析物または両親媒性分子が、タンパク質、ペプチドおよびアミノ酸から選択される、項目32または34に記載の方法。
36.バックグラウンド電解質が、アンモニウム塩、カルボン酸、カルボン酸塩、およびアミンまたはこれらの組合せを含む、項目31〜35のいずれか1つに記載の方法。
37.溶液に印加される電圧が、約−5000V〜約5000Vである、項目31〜36のいずれか1つに記載の方法。
38.溶液を分析器に投入するステップの間に第2の電圧が印加される、項目31〜37のいずれか1つに記載の方法。
39.第2の電圧が、約−1000V〜約1000Vである、項目38に記載の方法。
40.水溶液全体に電圧を印加する前に、電気分離シリンジのバレル内の圧力が増加される、項目31〜39のいずれか1つに記載の方法。
41.電気分離シリンジが、バレルの排出端にバルブをさらに含み、バルブが閉じられているときに電気分離シリンジのプランジャを押し下げることによって圧力が増加される、項目40に記載の方法。
42.水溶液中の分子の濃度を集束させるための方法であって、
a.電気分離シリンジ中の分子およびバックグラウンド電解質を含む水溶液全体に電圧を印加して、溶液中の増加された濃度の分子を含む領域を生成するステップであり、電気分離シリンジが、水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む、ステップ
を含む、方法。
43.荷電化合物を両親媒性化合物から分離するための方法であって、水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む電気分離シリンジ中の、荷電化合物、両親媒性化合物およびバックグラウンド電解質を含む水溶液全体に電圧を印加するステップを含む、方法。
44.− 排出端および受容端を有するバレル、
− プランジャ、
− 第1の電源コネクタを含むカソード、ならびに
− 第2の電源コネクタを含むアノード
を含み、
カソードおよびアノードが、バレルに含有される溶液全体に電圧をもたらすように構成される、電気分離シリンジ。
45.カソードまたはアノードの一方がバレルの排出端に配置される、項目44に記載の電気分離シリンジ。
46.プランジャがカソードまたはアノードの一方を含む、項目44または45に記載の電気分離シリンジ。
47.バレルが内部コーティングを含む、項目44〜46のいずれか1つに記載の電気分離シリンジ。
48.バレルの排出端に位置するバルブを含む、項目44〜47のいずれか1つに記載の電気分離シリンジ。
49.− 電気分解シリンジに含有される水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む、電気分離シリンジ、
− アノードおよびカソードと接続するように構成された電源、ならびに
− 電気分離シリンジから分析物を受容して分析するように適合された分析器
を含む、分析システム。
50.− 電気分離シリンジに含有されたときに、水溶液全体に電圧を印加するように配置されたアノードおよびカソードを含む電気分離シリンジから投入された水溶液の受容器、ならびに
− アノードおよびカソードと接続するように構成された電源
を含む、システム。
51.− シリンジバレル、
− 針を受容するように適合された、シリンジバレルの排出端にある針受容器、および
− シリンジバレル内に配置された電極を含むプランジャであって、電極が、使用時にシリンジバレル内に含有される溶液と電気接触するように構成される、プランジャ
を含み、
使用時に、第2の電極がシリンジバレルの排出端に配置され、電極全体に印加される電圧が、シリンジバレルに含有される溶液全体に長手方向に印加される電圧になる、シリンジ。
52.針が第2の電極を構成する、項目51に記載のシリンジ。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15a
図15b
図15c
図15d
図16(a)】
図16(b)】
【国際調査報告】