(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-529529(P2021-529529A)
(43)【公表日】2021年11月4日
(54)【発明の名称】乳酸菌株の混合物を含むスターターカルチャー、そのようなスターターカルチャーを使用して製造された発酵製品、及びその発酵製品の使用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20211008BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20211008BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20211008BHJP
A23C 9/123 20060101ALI20211008BHJP
A23C 11/06 20060101ALI20211008BHJP
【FI】
C12N1/00 PZNA
C12N1/20 A
A23L33/135
A23C9/123
A23C11/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-573281(P2020-573281)
(86)(22)【出願日】2018年12月29日
(85)【翻訳文提出日】2021年2月25日
(86)【国際出願番号】IB2018060717
(87)【国際公開番号】WO2020008250
(87)【国際公開日】20200109
(31)【優先権主張番号】62/694,202
(32)【優先日】2018年7月5日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼ウェブサイトのアドレス: https://www.mdpi.com/2072−6643/10/7/862 ウェブサイトの掲載日:2018年7月4日
(71)【出願人】
【識別番号】520052639
【氏名又は名称】シンバイオ テック インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】ファン チー−チャン
(72)【発明者】
【氏名】リン ジン−セン
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4B065
【Fターム(参考)】
4B001AC06
4B001AC08
4B001AC20
4B001AC21
4B001AC22
4B001AC31
4B001BC14
4B001DC50
4B001EC05
4B018LB07
4B018MD86
4B018ME02
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF13
4B065AA30X
4B065AA49X
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
【解決手段】スターターカルチャー及び該スターターカルチャーにより製造される発酵製品を提供する。スターターカルチャーは、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)株LF26、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)株LH43、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)株LPC12、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)株LRH10、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)株ST30、の混合物を含む。また、疲労を軽減するための組成物、運動能力を向上するための組成物、腸内細菌叢を調整するための組成物のそれぞれの製造における該発酵製品の使用を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)に寄託された以下の5つの乳酸菌株の混合物を含む、発酵製品を製造するためのスターターカルチャー。
ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)株LF26
(受託番号DSM32784)、
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)株LH43
(受託番号DSM32787)、
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)株LPC12
(受託番号DSM32785)、
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)株LRH10
(受託番号DSM32786)、
ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)株ST30
(受託番号DSM32788)。
【請求項2】
液状、ペースト状、半固形状、固形状、及びこれらの複合状態からなる群から選ばれる1つの状態にある、請求項1に記載のスターターカルチャー。
【請求項3】
発酵性材料を請求項1または請求項2に記載のスターターカルチャーを用いて発酵処理にかけることを含む、発酵製品を製造する方法。
【請求項4】
前記発酵性材料は、乳製品、大豆材料、米材料、ナッツ材料、ココナッツ材料、果実材料、麦汁材料、生姜材料、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記発酵性材料が乳製品である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記発酵性材料は、乳、ホエイ、発酵乳、乳酸菌飲料、脱脂乳、脱脂粉乳、調製粉乳、粉乳、濃縮乳、濃縮脱脂乳、還元脱脂乳、練乳、脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記発酵性材料が還元脱脂乳である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記発酵処理の後に脱水処理を行うことを更に含む、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記脱水処理は、凍結乾燥、流動床乾燥、噴霧床乾燥、減圧乾燥、熱風乾燥、流動床造粒、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記脱水処理が凍結乾燥である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記発酵処理は、30℃〜43℃で8時間〜24時間行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
請求項3〜11のいずれか一項に記載の方法で製造された発酵製品。
【請求項13】
液状、ペースト状、半固形状、固形状、及びこれらの複合状態からなる群から選ばれる1つの状態にある、請求項12に記載の発酵製品。
【請求項14】
凍結状態、乾燥状態、凍結乾燥状態からなる群から選ばれる1つの状態にある、請求項12に記載の発酵製品。
【請求項15】
疲労を軽減するための組成物の製造における、請求項12〜14のいずれか一項に記載の発酵製品の使用。
【請求項16】
運動能力を向上するための組成物の製造における、請求項12〜14のいずれか一項に記載の発酵製品の使用。
【請求項17】
腸内細菌叢を調整するための組成物の製造における、請求項12〜14のいずれか一項に記載の発酵製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の乳酸菌株の混合物を含むスターターカルチャー、そのようなスターターカルチャーを使用して製造された発酵製品、及びその発酵製品の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルト、ヤクルト、ケフィアなどの発酵乳飲料は、栄養素とプロバイオティクスを含む飲料である。プロバイオティクスは、一般的には腸内細菌叢を改善または回復することによって健康にとって好ましい効果をもたらす微生物である。腸内微生物叢の組成の不利な変化は、各種疾患や障害、例えば、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、ME/CFS患者の免疫機能障害、ME/CFS患者における乳酸の著しい増加などを引き起こす可能性があることがわかっている。そこで、発酵乳飲料が、腸内細菌叢の組成を調整し、それに関連する生理学的状態を改善するために飲用されている。
【0003】
腸内微生物叢の組成の不利な変化によって引き起こされる疲労に加えて、運動中では多くのグルコースやグリコーゲンといったエネルギー源が使い果たされ、乳酸、アンモニア、血中尿素窒素(BUN)、ブドウ糖、クレアチンキナーゼ(CK)などのいくつかの生化学的指標に基づいて評価できる身体的疲労がもたらされる。特に、激しい運動は、活性酸素種と過酸化脂質の蓄積につながり、それによって臓器がダメージを受け、疲労を引き起こす。プロバイオティクスは、疲労からの回復を促進することで運動能力にプラスの効果をもたらし得るため、発酵乳飲料は、運動による身体的疲労を軽減できる。
【0004】
コーカサス山脈一帯を起源とするケフィアは、微量のアルコールを含む酸性発酵乳飲料である。ケフィアは伝統的には、山羊の皮でできた袋や、陶器のポットや、木桶の中で、ミルク(牛乳、山羊乳、羊乳、ラクダ乳、水牛乳)に、乳酸菌と酵母を含む比較的安定した特定のケフィアグレイン(スターターカルチャー)を接種して、室温で約1日発酵させることによって製造される。このような飲料は重要な機能性乳製品として、胃腸疾患、高血圧、虚血性心疾患、及びアレルギーの臨床治療に使用されている。更に、ケフィアは、抗菌、抗真菌、抗変異原性、抗酸化、抗糖尿病、抗腫瘍、免疫刺激効果、脂肪肝症候群に対する効果など、多くの生物学的活性を備えている。スターターカルチャーにおける使用のために、ケフィアグレイン及び発酵ケフィア製品から多数の細菌及び酵母がランダムに分離されている。しかし、通常は伝統的なケフィアから得られるケフィア調製用の従来のスターターカルチャーは、組成が時間によって更に場所によって異なり、組成を完全に特定することが難しいため、満足できる品質のケフィアをコンスタントに製造することは難しい。
【0005】
プロバイオティクスを含む発酵製品の開発に際して、本願出願人は、ケフィアから同定された各種の乳酸菌株の混合物を使用すると、優れた抗疲労能力を有し、腸内微生物叢の組成を調整することができ、且つ運動能力を向上する効果をも有する発酵製品をコンスタントに製造できることを予期せず発見した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、ドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)に寄託された以下に示す5つの乳酸菌株の混合物を含む、発酵製品を製造するためのスターターカルチャーを提供する。
ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)株LF26
(受託番号DSM32784)、
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)株LH43
(受託番号DSM32787)、
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)株LPC12
(受託番号DSM32785)、
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)株LRH10
(受託番号DSM32786)、
ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)株ST30
(受託番号DSM32788)。
【0007】
第2の態様によれば、本発明は、発酵製品を製造する方法を提供する。当該方法は、発酵性材料を上記スターターカルチャーを用いて発酵処理にかけることを含む。
【0008】
第3の態様によれば、本発明は、上記方法によって製造された発酵製品を提供する。この発酵製品は、疲労軽減、運動能力の向上、腸内細菌叢の調整に用いるのに適している。
【0009】
したがって、第4の態様によれば、本発明は、疲労を軽減するための方法を提供する。当該方法は、対象への上記発酵製品の投与、疲労を軽減するための組成物の製造における上記発酵製品の使用、または上記発酵製品を含む疲労を軽減するための組成物の製造を含む。
【0010】
第5の態様によれば、本発明は、運動能力を向上するための方法を提供する。当該方法は、対象への上記発酵製品の投与、運動能力を向上するための組成物の製造における上記発酵製品の使用、または上記発酵製品を含む運動能力を向上するための組成物の製造を含む。
【0011】
第6の態様によれば、本発明は、腸内細菌叢を調整するための方法を提供する。当該方法は、対象への上記発酵製品の投与、腸内細菌叢を調整するための組成物の製造における上記発酵製品の使用、または上記発酵製品を含む腸内細菌叢を調整するための組成物の製造を含む。
【0012】
疲労を軽減するための組成物、運動能力を向上するための組成物、及び腸内細菌叢を調整するための組成物は、例えば、医薬組成物、食品組成物、又は栄養補助食品組成物であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る発酵製品の効果を示すための、各投与量での遊泳時間(分)を示す図であり、符号「#」は、p<0.05であることを示す(対照群との比較)。
【
図2】本発明に係る発酵製品の効果を示すための、各投与量での前肢握力(グラム)を示す図であり、符号「#」は、p<0.05であることを示す(対照群との比較)。
【
図3A】本発明に係る発酵製品の効果を示すための、各投与量での10分間の水泳運動後で且つ20分間の休憩前の血清乳酸値(mmоl/L)を示す図であり、符号「#」は、p<0.05であることを示す(対照群との比較)。
【
図3B】本発明に係る発酵製品の効果を示すための、各投与量での20分間の休憩後の血清乳酸値(mmоl/L)を示す図であり、符号「#」は、p<0.05であることを示す(対照群との比較)。
【
図4A】本発明に係る発酵製品の効果を示すための、各投与量での10分間の水泳運動後で且つ20分間の休憩前の血清アンモニア値(μmоl/L)を示す図であり、符号「#」は、p<0.05であることを示す(対照群との比較)。
【
図4B】本発明に係る発酵製品の効果を示すための、各投与量での20分間の休憩後の血清アンモニア値(μmоl/L)を示す図であり、符号「#」は、p<0.05であることを示す(対照群との比較)。
【
図5】本発明に係る発酵製品の効果を示すための、各投与量での90分間の水泳運動及び60分間の休憩後の、血清尿素窒素(BUN)値を示す図であり、符号「#」は、p<0.05であることを示す(対照群との比較)。
【
図6】本発明に係る発酵製品の効果を示すための、各投与量での90分間の水泳運動及び60分間の休憩後の、血清クレアチンキナーゼ(CK)値を示す図であり、符号「#」は、p<0.05であることを示す(対照群との比較)。
【
図7A】本発明に係る発酵製品の効果を示すための、各投与量での肝グリコーゲン含量(mg/肝臓g)を示す図であり、符号「#」は、p<0.05であることを示す(対照群との比較)。
【
図7B】本発明に係る発酵製品の効果を示すための、各投与量での筋グリコーゲン含量(mg/筋肉g)を示す図であり、符号「#」は、p<0.05であることを示し(対照群との比較)、符号「*」は、p<0.05であることを示す(1X群、2X群との比較)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先行技術の刊行物が本明細書で参照される場合、そのような参照は、その刊行物が台湾または他の国において本技術分野における一般的な知識の一部を形成することを認めるものではないことを理解されたい。
【0015】
本明細書の目的のために、「含んでいる」という単語は「含めるがこれに限定されない」ことを意味し、「含む」という単語も同様の意味であることが明確に理解されよう。
【0016】
本明細書で使用されるすべての技術用語及び学術用語は、別段の定義がない限り、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。当業者は、ここに記載されたものと類似または同等の多くの方法及び材料が、本発明の実施において使用され得ることを認識するであろう。無論、本発明は記載された方法及び材料に限定されるものではない。
【0017】
研究の結果、本願出願人は、伝統的なケフィアから分離された特定の乳酸菌株の混合物を使用すると、意外にも優れた抗疲労能力を有し且つ腸内微生物叢の組成を調整することができる発酵製品を製造できることを発見した。
【0018】
したがって、本願発明は、発酵製品を製造するためのスターターカルチャーであって、以下の5つの乳酸菌株(Inhoffenstreet 7B, 38124, Braunschweig, Lower Saxony, Germanyにあるドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)に寄託)の混合物を含むスターターカルチャーを提供する。
ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)株LF26
(受託番号DSM32784、寄託日2018年4月3日)、
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)株LH43
(受託番号DSM32787、寄託日2018年4月3日)、
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)株LPC12
(受託番号DSM32785、寄託日2018年4月3日)、
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)株LRH10
(受託番号DSM32786、寄託日2018年4月3日)、
ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)株ST30
(受託番号DSM32788、寄託日2018年4月3日)。
【0019】
本明細書で使用される場合、「スターターカルチャー」という用語は、(高密度培養のために別個のまたは同じスターター培地で培養する過程を任意で経た後に)有機材料の発酵を引き起こすまたは誘起することができる生きた微生物を含む組成物を指す。また、スターターカルチャーは上記5種の乳酸菌株に加えて更に別の付加的な微生物を含むことができる。付加的な微生物としては例えば、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・デルブルッキイ亜種ラクティス(Lactobacillus delbrueckii ssp. lactis)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ジョーンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ケフィア(Lactobacillus kefir)、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス(Lactobacillus kefiranofaciens)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・クレモリス(Lactococcus cremoris)、ロイコノストック・メセンタロイド(Leuconostoc mesenteroides)、クルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが挙げられる。
【0020】
本発明によれば、スターターカルチャーは、濃縮または非濃縮、液体、ペースト状、半固形状、または固形状(例えば、ペレット、顆粒、または粉末)であってもよく、凍結、乾燥、または凍結乾燥(例えば、凍結乾燥形態、または噴霧/流動床乾燥形態)であってもよい。いくつかの実施形態では、スターターカルチャーは、乾燥粉末の形態である。
【0021】
本発明によれば、スターターカルチャーは、微生物に加えて、乳、豆乳、ホエイ、カゼイン、酵母エキス、穀物、種子、または栄養液などの培養培地を含んでもよい。更に、スターターカルチャーは、微生物に加えて、緩衝剤や成長促進栄養素(例えば、吸収可能な炭水化物や窒素源)、または防腐剤(例えば、凍結防止化合物)、または所望により糖類などの他の担体を含有していてもよい。
【0022】
また、本発明は、発酵製品を製造する方法を提供し、この方法は、発酵性材料を上記スターターカルチャーを用いて発酵処理にかけることを含む。本発明はまた、このような方法によって製造された発酵製品を提供する。
【0023】
ここでいう「発酵性材料」とは、スターターカルチャー中の微生物により発酵させることができる材料を意味する。
【0024】
本発明によれば、上記発酵性材料は、例えば、乳製品、大豆材料、米材料、ナッツ材料、ココナッツ材料、果実材料、麦汁材料、生姜材料である。いくつかの実施形態において、上記発酵性材料は乳製品である。乳製品の例としては、これらに限らないが、乳、ホエイ、発酵乳、乳酸菌飲料、脱脂乳、脱脂粉乳、調製粉乳、粉乳、濃縮乳、濃縮脱脂乳、還元脱脂乳、練乳、脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳などが挙げられる。例示的な実施形態において、上記発酵性材料は、還元脱脂乳である。
【0025】
発酵性材料が乳製品である場合、これにより得られる発酵製品は、例えば、ケフィア、ヨーグルト、バターミルク、サワークリームミルク、サワーミルク、発酵ホエイ、クワルク(quark)である。
【0026】
本発明によれば、発酵処理は、30℃〜43℃で、8時間〜24時間実施することができる。例示的な実施形態において、発酵処理は、37℃で16時間行われる。
【0027】
本発明によれば、上述の方法によって製造される発酵製品は、液状、ペースト状、半固形状、または固形状(例えば、ペレット、顆粒、または粉末)の形態であり得、また、凍結、乾燥、または凍結乾燥(例えば、凍結乾燥形態または噴霧/流動床乾燥形態)であり得る。
【0028】
本発明によれば、上述の方法は、発酵処理の後に脱水処理を行うことを更に含んでもよい。その結果、そのような方法によって製造された発酵製品は乾燥形態であり得る。脱水処理には、凍結乾燥、流動床乾燥、噴霧床乾燥、減圧乾燥、熱風乾燥、流動床造粒などが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な実施形態において、本発明に係る発酵製品は凍結乾燥形態にある。
【0029】
本発明に係る発酵製品は、様々な分野で使用することができ、例えば医薬品、健康食品、加工食品、栄養補助食品等に使用することができる。また、形態に特別な制限はないので、発酵製品は、調製品の形態で使用することができ、無菌粉末、錠剤、トローチ、ロゼンジ、ペレット、カプセル、分散性粉末または顆粒、溶液、懸濁液、乳濁液、シロップ、エリキシル、スラリー、ゼリーなど、一般に知られている方法で適切に調製することができる。更に、本発明に係る発酵製品は、様々な食品または飲料の成分としても使用することができる。
【0030】
以下の例において、上記方法で調製された発酵製品が、疲労に関連する生化学的指標を改善し、運動持久力と握力を高め、腸内微生物叢の組成を調整できることが確認された。そこで、本発明は、そのような発酵製品の下記の使用を提供する。
【0031】
第一に、本発明は、疲労を軽減する方法を提供する。当該方法は、対象への上記発酵製品の投与、疲労を軽減するための組成物の製造における上記発酵製品の使用、または上記発酵製品を含む疲労を軽減するための組成物の製造を含む。
【0032】
ここで、「疲労」とは、運動によって生じる身体的疲労、細胞内グリコーゲン蓄積、乳酸脱水素酵素活性、クエン酸合成酵素活性などによって誘発される身体的疲労、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)などの疾患や障害の生理的症状などを指す。
【0033】
第二に、本発明は、運動能力を向上するための方法を提供する。当該方法は、対象への上記発酵製品の投与、運動能力を向上するための組成物の製造における上記発酵製品の使用、または上記発酵製品を含む運動能力を向上するための組成物の製造を含む。
【0034】
ここで、運動能力とは、ランニングの速度及び持久力、筋力及び持久力、水泳の速度及び持久力、最大筋力、持ち上げる力及び持久力、引っ張る力及び持久力、及び投げる力及び持久力を含むが、これらに限定されるものではない。
【0035】
第三に、本発明は、腸内細菌叢を調整するための方法を提供する。当該方法は、対象への上記発酵製品の投与、腸内細菌叢を調整するための組成物の製造における上記発酵製品の使用、または上記発酵製品を含む腸内細菌叢を調整するための組成物の製造を含む。
【0036】
疲労を軽減するための組成物、運動能力を向上するための組成物、及び腸内細菌叢を調整するための組成物は、例えば、医薬組成物、食品組成物、又は栄養補助食品組成物であってもよい。
【0037】
本発明によれば、本発明に係る発酵製品またはそれを含む組成物の投与量及び投与頻度は、治療対象の状態、投与経路、及び達成されるべき所望の効果(即ち、抗疲労効果、運動能力向上効果、または腸内細菌叢調整効果)などに応じて変化し得る。例えば、本発明に係る発酵製品またはそれを含む組成物を経口投与する場合は、1日の投与量は、体重1kgあたり0.17g〜0.875gとすることができ、単回投与でもよく、複数回に分けて投与してもよい。
【0038】
本発明を、以下の各実施例によって更に詳しく説明する。但し、以下の各実施例は、単に例示を目的とするものであり、本発明を限定する意図で示すものではないことを理解されたい。
【実施例】
【0039】
実験材料:
1.実験動物
ICR(The Institute of Cancer Research)の雄マウス(生後6週齢、体重25g)をBioLASCO(Charles River licensee corporation、台湾宜蘭県)から購入した。ICRマウスは、室温(24℃±2℃)、制御湿度(65%±5%)、12時間明暗サイクルで2週間馴化させた。ICRマウスには、げっ歯類飼料5001(PMI Nutrition International、アメリカ合衆国ミズーリ州ブレントウッド)と蒸留水を不断給餌で与えた。以下に記載されているすべての動物実験は、国立台湾体育大学の研究所動物飼育及び使用委員会(IACUC)によって承認され、IACUC−10523のガイドラインに準拠した。
【0040】
基本手順:
1.統計解析
以下の実施例で得られた実験データは、全て平均値±SD(標準偏差)で表した。統計解析は、ダンカン検定を用いた一元配置分散分析(ANOVA)を用いて行った(統計的有意性はp<0.05で示す)。また、用量効果を調べるためにコクラン-アーミテージ傾向検定を適用した。
【0041】
<実施例1.各種乳酸菌株を組み合わせた本発明に係る発酵製品の製造>
5種の乳酸菌株、即ち、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)株LF26(受託番号DSM 32784)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)株LH43(受託番号DSM 32787)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)株LPC12(受託番号DSM 32785)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)株LRH10(受託番号DSM 32786)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)株ST30(受託番号DSM 32788)を、粉末形態のスターターカルチャを製造するために用いた。低温殺菌済みの9.2%還元脱脂乳に、上記スターターカルチャーを接種し、37℃で16時間発酵させた。得られた発酵乳は、本発明に係る発酵製品となる。
【0042】
上記発酵製品を、その後、100℃で30分間低温殺菌し、凍結乾燥した。凍結乾燥された発酵製品は、100gあたりの含量が、カロリー354.75kcal、タンパク質30g、脂肪0.75g、炭水化物57gであり、密閉容器に4℃で保存した。
【0043】
<実施例2.本発明に係る発酵製品の疲労軽減、運動能力向上、生物学的・生化学的特性改善に対する効果に対する評価>
各種乳酸菌株を組み合わせて調製した発酵製品が疲労回復、運動能力の向上、生物学的・生化学的特性の改善に有効であるかどうかを調べるために、以下の実験を行った。
【0044】
A.本発明に係る発酵製品の投与
2週間の馴化後、実験材料の第1項に記載のマウス(8週齢に成長)を、体重によって以下の4つのグループ(1グループあたりn=8)に分けた。4つのグループは、溶媒投与対照群(対照群と略記)、単回投与群(1X群と略記)、2回投与群(2X群と略記)、5回投与群(5X群と略記)である。マウスの初期体重を記録した。実施例1で得られた凍結乾燥した発酵製品を、1X群、2X群、5X群のマウスにそれぞれ一日当たり2.15g/kg体重、4.31g/kg体重、10.76g/kg体重の投与量で経口投与した。具体的には、実施例1で得られた凍結乾燥した発酵製品を水に溶解し、チューブを介して経口投与するための発酵製品溶液を調製した。対照群のマウスには、1X群、2X群、5X群に投与した発酵製品と同カロリーのグルコース水溶液を適量経口投与した。グルコース水溶液と発酵製品溶液を同量、1日1回、36日間(すなわち、マウスを犠牲にするまで)経口投与した。
【0045】
本実施例の項目Eに記載のマウスの犠牲まで、マウスの1日の食物摂取量及び水摂取量を記録した。
【0046】
B.消耗性水泳試験(exhaustive swimming test)
29日目の発酵製品水溶液またはグルコース水溶液投与を行った後、30分後に消耗性遊泳試験を行った。具体的には、27℃±1℃に保たれた円柱状のプール(半径28cm、水深25cm)にマウスを1匹ずつ入れた。各マウスの尾の付け根に体重の5%に相当する重量負荷をかけた。各マウスが浮かんだり、もがいたり、浮いたままでいたりするための動作(遊泳状態)を脱力して沈むまで行った時間を遊泳時間(消耗遊泳時間とも呼ぶ)とした。消耗は、それぞれのマウスの泳げなくなった状態(即ち、水面に留まることができなくなった状態)を観察することで判断した。持久力を評価するために、それぞれのマウスの泳ぎ始めから消耗するまでの遊泳時間を記録した。得られたデータは、上記基本手順の第1項に記載した方法に従って統計解析を行った。
【0047】
結果:
図1に示されるように、1X群、2X群、5X群のそれぞれの消耗遊泳時間は、対照群の消耗遊泳時間よりも有意に長くなっており、本発明に係る発酵製品は、抗疲労効果を示すことができ、したがって、水泳持久力性能を向上させることができることが示された。更に、水泳持久力性能に有意な、本発明に係る発酵製品の用量依存的効果が観察された(p<0.0001)。このように、本発明に係る発酵製品は、特に処置的な運動訓練を必要とせず、運動能力を向上させることができ、更に栄養素利用性を向上させることができることが明らかである。
【0048】
C.前肢の握力テスト
28日目の発酵製品水溶液またはグルコース水溶液投与を行った後、30分後に、各マウスの前肢握力(前肢絶対握力)を低力試験装置(型番RX-5、アイコーエンジニアリング、愛知県名古屋市)を用いて測定した。具体的には、金属棒(直径2mm、長さ7.5cm)を装着した力変換器を用いて、各マウスの引張力を測定した。測定中は、それぞれのマウスを尾の付け根で把持し、棒に向かって垂直に吊り下げた。各マウスは、両前肢を伸ばして棒をつかんだとき、尾によってわずかに後方に引っ張られ、それにより引っ張り力が発生する。引っ張り中にそれぞれのマウスが発揮した握力を測定し、握力計でグラム単位で記録した。最大握力を前肢握力とした。得られたデータは、基本手順の第1項に記載した方法に従って統計解析を行った。
【0049】
結果
図2に示されているように、1X群、2X群、及び5X群のそれぞれの前肢握力は、対照群よりも有意に大きく、本発明に係る発酵製品は、握力を向上させることができ、したがって、筋力を向上させることができることが示された。また、握力に有意な、本発明に係る発酵製品の用量依存的効果が観察された(p<0.0001)。このように、本発明に係る発酵製品は、特に処置的な運動訓練を必要とせず、運動能力を向上させることができ、更に栄養素利用性を向上させることもできることが明らかである。
【0050】
D.非消耗性水泳運動後の疲労関連生化学的指標の測定
本発明に係る発酵製品が、本実施例の項目Bで実施した消耗性水泳試験以外の水泳運動後の疲労関連生化学的指標に及ぼす影響を調べるために、以下の実験を行った。
【0051】
D−1.10分間の水泳運動及び20分間の休憩
31日目に、10分間の水泳運動の前後及びこの10分間の水泳運動の後の20分間の休憩後に、各マウスから血液サンプルを採取した。10分間の水泳運動の間、各マウスを本実施例の項目Bで使用した柱状プールに入れ、重量負荷をかけずに泳がせた。得られた血液サンプルを1500g、4℃で10分間遠心分離し、得られた上清を回収して血清とした。血清中の乳酸値、アンモニア値、グルコース値を自動分析装置(型番7060、日立社、東京都日立市)を用いて測定した。
【0052】
得られたデータは、基本手順の第1項に記載の方法に従って統計解析を行った。
【0053】
D−2.90分間の水泳運動及び60分間の休憩
更に、33日目に、各マウスに90分間の水泳運動とその後の60分間の休憩を与え、血清クレアチンキナーゼ(CK)値及び血清尿素窒素(BUN)値の疲労に伴う変化を評価した。90分間の水泳運動中、各マウスを本実施例の項目Bで使用した柱状プールに入れ、重量負荷をかけずに泳がせた。血清中のCK値及びBUN値は、乳酸値、アンモニア値、及びグルコース値を測定するための前述の手順に概ねしたがって測定した。
【0054】
得られたデータは、基本手順の第1項に記載の方法に従って統計分析を行った。
【0055】
結果
D−1.10分間の水泳運動及び20分間の休憩
10分間の水泳運動の前では、対照群、1X群、2X群、及び5X群の各群間で血清乳酸値の有意な差は見られなかった(データは特に示さない)。一方、
図3Aに示されているように、10分間の水泳運動後で且つ20分間の休憩前では、1X、2X、及び5Xの各群の血清乳酸値は、対照群よりも有意に低くなっている。これにより、本発明に係る発酵製品は、血中乳酸の除去及び利用を促進することができ、したがって、抗疲労効果を示すことが明らかになった。更に、10分間の水泳運動の後で且つ20分間の休憩の前では、本発明に係る発酵製品の血清乳酸値に対して有意な用量依存的効果が観察された(p=0.0037)。更に、
図3Bに示されているように、20分間の休憩後の、1X、2X、及び5Xの各群の血清乳酸値は、対照群に比べて有意に低い。これにより、本発明に係る発酵製品は、血中の乳酸の除去及び利用を更に促進することができ、したがって、運動後の休憩中に抗疲労効果を発揮することが明らかになった。更に、20分間の休憩の後、血清乳酸値に対する本発明に係る発酵製品の有意な用量依存的効果が観察された(p<0.0001)。
【0056】
図4Aに示されているように、10分間の水泳運動の後、1X、2X、及び5Xの各群の血中アンモニア値は、対照群よりも有意に低かった。これにより、本発明に係る発酵製品は、血中アンモニアの蓄積の減少を促進し、したがって、抗疲労効果を発揮することができることが示された。更に、10分間の水泳運動の後で且つ20分間の休憩の前で、本発明に係る発酵製品の血中アンモニア値に対する有意な用量依存的効果が観察された(p<0.0001)。更に、
図4Bに示されているように、20分間の休憩後、1X、2X、及び5Xの各群において、対照群に比べて、血中アンモニア値が有意に低下している。これにより、本発明に係る発酵製品は、血中アンモニアの蓄積の低減を更に促進することができ、したがって、運動後の休憩時に抗疲労効果を発揮することが示された。更に、20分間の休憩後において、本発明に係る発酵製品の血中アンモニア濃度に有意な用量依存的効果(p<0.0001)が観察された。
【0057】
以上のことから、本発明に係る発酵製品は、短時間の運動後の身体疲労を軽減し、運動後の回復を促進することができることが明らかである。
【0058】
また、10分間の水泳試験後で且つ20分間の休憩前、及び20分間の休憩後の血中グルコース値については、対照群、1X群、2X群、及び5X群の間で有意な差は認められなかった。したがって、本発明に係る発酵製品は、充分なエネルギー源として機能することができることがわかる。
【0059】
D−2.90分間の水泳運動及び60分間の休憩
図5Aに示されているように、90分間の水泳運動及び60分間の休憩の後では、1X、2X、及び5Xの各群の血中BUN値が対照群よりも有意に低く、本発明に係る発酵製品が血中のBUNを減少させ、したがって抗疲労効果を示すことが明らかになった。更に、90分間の水泳運動及び60分間の休憩の後において、血中BUN値に対する本発明に係る発酵製品の有意な用量依存的効果が観察された(p=0.0301)。
【0060】
図6に示されているように、90分間の水泳運動及び60分間の休憩後、1X、2X及び5Xの各群のそれぞれの血中CK値は、対照群に比べて有意に低下している。これにより、本発明に係る発酵製品は、血中のCK値を低下させることができ、したがって、抗疲労効果を提供し、筋肉を傷めることを防止することができることが明らかになった。また、90分間の水泳運動と60分間の休憩の後において、本発明に係る発酵製品の血中CK値に対する有意な用量依存的効果が観察された(p<0.0001)。
【0061】
以上のことから、本発明に係る発酵製品は、長時間の運動後の身体的疲労を緩和し、運動後の回復を促進することができることが明らかである。
【0062】
E.組織・臓器の重量測定、グリコーゲン含量の測定、組織学的染色、生化学的指標の評価、試験動物の犠牲後の腸内細菌叢の分析
36日目に、マウスの最終体重を記録した。全てのマウスを8時間の絶食後に95%二酸化炭素で窒息させて犠牲にした。その後、以下の実験を行った。
【0063】
E-1.組織・臓器重量の測定
各マウスの肝臓、腎臓、精巣上体脂肪パッド(EFP)、心臓、肺、筋肉(後肢後部の腓腹筋、ヒラメ筋を含む)、褐色脂肪組織(BAT)を切除し、その重量を測定して、本発明に係る発酵製品がこれらの組織・臓器に栄養上の悪影響を及ぼすかどうかを調べた。得られたデータは、基本手順の第1項に記載の方法に従って統計解析した。
【0064】
E-2.グリコーゲン含量の測定
本実施例の項目E-1で得られた各マウスの肝臓および筋肉に対して、Huang, C.C. et al. (2012), Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, 2012:364741に記載されている方法に従ってグリコーゲン含量の測定を行った。得られたデータは、基本手順の第1項に記載されている方法に従って統計分析した。
【0065】
E-3.組織学的染色
本実施例の項目E-1で得られた各マウスの肝臓、腎臓、EFP、心臓、肺、筋肉、BATを以下のように組織学的染色を行った。即ち、前記各臓器及び組織からそれぞれ組織サンプルを採取し、10%ホルマリンを用いて固定した。ホルマリン固定後、各組織サンプルをパラフィンに埋め込んだ後、形態学的、病理学的評価のために厚さ4μmのスライスに切断した。こうして得られた組織切片をヘマトキシリンおよびエオジンで染色し、CCDカメラを備えた光学顕微鏡(BX-51、オリンパス社、東京都)で200倍または100倍の倍率で観察した。
【0066】
E-4.生化学的指標の評価
血液を各マウスから心臓穿刺で採取し、次いで遠心分離し、得られた上清(血清)を採取した。採取した血清中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルブミン、クレアチニン、乳酸脱水素酵素(LDH)、CK、総蛋白(TP)、グルコース、総コレステロール(TC)、トリアシルグリセロール(TG)のレベルを、本実施例の項目Dで用いた自動分析装置を用いて評価した。得られたデータは、基本手順の第1項に記載の方法に従って統計解析を行った。
【0067】
E-5.腸内微生物叢の組成の分析
それぞれのマウスから盲腸サンプルを採取し、細菌DNA抽出のために直ちに−80℃で保存した。細菌DNAの抽出は、当分野で一般的に使用されているセチルトリメチルアンモニウムブロマイド/ドデシル硫酸ナトリウム(CTAB/SDS)法にしたがって行った。抽出したゲノムDNAを−80℃で保存した後、以下のようにして16S rRNAシークエンシングを行った。
【0068】
バーコーディングされたユニバーサルプライマー341F(フォワードプライマー、配列ID番号:1)および806R(リバースプライマー、配列ID番号:2)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を介して、抽出されたゲノムDNAから細菌性16S rRNA遺伝子のV3−V4超可変領域を増幅した。DNA濃度及び純度を1%アガロースゲル上でモニターした。アンプリコンDNAサンプルのライブラリー構築及び配列は、BIOTOOLS社(台湾新北市)により行われた。TruSeq PCRフリーDNAサンプル調製キット(イルミナ(Illumina)社、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を用いてペアエンドライブラリー(各サンプルの挿入サイズ450〜470bp)を構築し、Illumina HiSeq2500プラットフォーム上でハイスループットシーケンシングを行った。
【0069】
得られたデータは、ブレイ・カーティス(Bray-Curtis)距離測定による主座標解析、系統解析、線形判別分析効果量(LEfSe)によるクラドグラム(分岐図)解析を行った。
【0070】
結果
E-1.組織・臓器重量の測定
対照群、1X群、2X群、5X群の各群間で、初期体重、最終体重、食物摂取量及び水分摂取量に有意な差は認められなかった(データは特に示さず)。また、肝臓、腎臓、EFP、心臓、肺の重量についても対照群、1X群、2X群、5X群の各群間で有意差は認められなかった。よって本発明に係る発酵製品は、臓器・組織に栄養面で悪影響を及ぼすことがないことがわかった(データは特に示さず)。
【0071】
一方、下記の表1に示すように、1X群、2X群、および5X群の各群における筋肉およびBATの重量は、それぞれ対照群における重量よりも有意に大きかった。これにより、本発明に係る発酵製品は、筋肉およびBATを増加させることができ、よって筋力および脂肪燃焼を向上させることができることが示された。
【0072】
【表1】
【0073】
E-2.グリコーゲン含有量の測定
図7Aに示されているように、1X群、2X群、および5X群のそれぞれの肝グリコーゲン含量は、対照群の肝グリコーゲン含量よりも有意に高かった。このことから、本発明に係る発酵製品は肝グリコーゲン含量を増強し、よって抗疲労効果を発揮し、身体持久力をさらに向上させることができることが明らかになった。更に、本発明に係る発酵製品の肝グリコーゲン含量に対する有意な用量依存的効果(p=0.004)が観察された。
【0074】
図7Bに示されているように、1X群、2X群、および5X群のそれぞれの筋グリコーゲン含量は、対照群の筋グリコーゲン含量よりも有意に高かった。このことから、本発明に係る発酵製品は、筋グリコーゲン含量を高めることができ、したがって、抗疲労効果を発揮し、身体持久力を更に向上させることができることが明らかになった。更に、本発明に係る発酵製品の筋グリコーゲン含量に対する有意な用量依存的効果(p<0.0001)が観察された。
【0075】
以上のことから、本発明に係る発酵製品は、身体疲労を軽減し、身体持久力を向上させることができることが明らかになった。
【0076】
E-3.組織学的染色
1X群、2X群、5X群の各群に関する肝臓、筋肉、心臓、腎臓、肺、EFPおよびBATの組織学的観察は、対照群に関するものと相違しなかった(特にデータは示さず)。本発明に係る発酵製品の投与後に毒性を示す臨床徴候は観察されず、このような発酵製品は、用いられ得る各種用量において特に安全であることが示された。
【0077】
E-4.生化学的指標の評価
下記表2に示すように、1X群、2X群及び5X群のALT値及びCK値は、対照群のALT値及びCK値よりも有意に低かった。このことから、本発明に係る発酵製品は、血中ALTおよびCKを低下させることができることが示された(血中ALTが低下していることは、肝臓へのダメージがないことを意味し、血中CKが低下していることは、抗疲労効果があることを意味する)。AST、アルブミン、クレアチニン、LDH、TP、グルコース、TC、TGといった他の生化学的指標は、4群間で差がなかった(データは特に示さず)。このことからも、本発明に発酵製品は、用いられ得る各種用量において特に安全であることがわかる。
【0078】
【表2】
【0079】
E-5.腸内微生物叢の組成分析
主座標分析の結果(データは特に示さず)に基づくと、対照群、1X群、2X群、及び5X群がそれぞれ比較的明確なグループにクラスター化していることが判明した。このことにより、本発明に係る発酵製品は、腸内微生物叢を有意に変化させられることが示唆された。更に、菌門レベルで言うと、対照群、1X群、2X群、及び5X群のマウスの腸内マイクロバイオームの全体的な組成において、フィルミクテス門(Firmicutes)(対照群65%、1X群69%、2X群51%、5X群57%)及びバクテロイデス門(Bacteroidetes)(対照群28%、1X群25%、2X群43%、5X群39%)が優勢であった。4群の腸内細菌叢においては、フィルミクテス門とバクテロイデス門が優勢であったが(合わせて約90%)、2X群と5X群ではフィルミクテス門の割合が少なく、バクテロイデス門の割合が多かった。本発明に係る発酵製品は、バクテロイデス門を増加させる能力を有し、バクテロイデス門は分岐鎖アミノ酸の異化に関与するタンパク質の発現を増加させ、短鎖脂肪酸(SCFA)(炎症の軽減、満腹感の向上、及び全体的な代謝効果に関与する)の産生を増加させるため、本発明に係る発酵製品を十分な量で使用した場合、炎症の軽減、満腹感の向上、および有益な代謝効果を提供するのに有効といえる。
【0080】
また、5X群及び2X群のフィルミクテス門/バクテロイデス門(F/B)比(それぞれ1.46、1.19)は、1X群及び対照群におけるF/B比(それぞれ2.76、2.32)と比較して、いずれも低い値を示した。このF/B比の低下は、本発明に係る発酵製品が十分な量で使用された場合、満足のいくプレバイオティクス及びプロバイオティクスを提供し得ることを示唆している。
【0081】
以下に、クラドグラム分析の結果について説明する。腸内微生物叢の組成を対照群と1X群とで比較した結果(データは特に示さず)については、LEfSeにより、1X群の方が対照群よりも、腸内の健康維持に関連するルミノコッカス科(Ruminococcaceae)の細菌の数が多いことが示された。更に、腸内微生物叢の組成を対照群と2X群とで比較した結果(データは特に示さず)については、宿主に対する有益性があることが知られているバクテロイデス目(Bacteroidales)とバクテロイディア綱(Bacteroidia)のそれぞれの割合において2X群の方が対照群よりも高いのに対し、クロストリジウム目(Clostridiales)とクロストリジウム綱(Clostridia)のそれぞれの割合においては対照群の方が2X群よりも高いことが明らかになった。そして、腸内微生物叢の組成を対照群と5X群とで比較した結果(データは特に示さず)によっては、リケネルラセア属(Rikenellaceae)、バクテロイデス目(Bacteroidales)、バクテロイディア綱(Bacteroidia)の割合において5X群の方が対照群よりも高く、これに対しクロストリジウム綱(Clostridia)の割合においては対照群の方が5X群よりも高いことがわかった。以上のことから、本発明に係る発酵製品は、腸内微生物叢の組成を調整することができ、身体疲労を軽減し、運動能力を向上させる代謝ネットワークに寄与することができることが明らかである。
【0082】
本明細書で引用されたすべての特許および参考文献は、その全体が参考文献として本明細書に組み込まれる。矛盾がある場合には、定義を含めて本明細書における記載が優先する。
【0083】
本発明は、例示的な実施形態と考えられるものを記載したが、本発明は、開示された実施形態に限定されるものではなく、そのような修正および等価な設計をすべて包含するように、最も広い解釈の精神および範囲内に含まれる様々なアレンジを網羅することが意図されていることが理解されよう。
【国際調査報告】