特表2021-529554(P2021-529554A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-529554精子機能を亢進させるための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-529554(P2021-529554A)
(43)【公表日】2021年11月4日
(54)【発明の名称】精子機能を亢進させるための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/076 20100101AFI20211008BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20211008BHJP
   A61K 35/52 20150101ALN20211008BHJP
【FI】
   C12N5/076
   C12Q1/02
   A61K35/52
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】91
(21)【出願番号】特願2021-522059(P2021-522059)
(86)(22)【出願日】2019年11月27日
(85)【翻訳文提出日】2021年4月16日
(86)【国際出願番号】US2019063687
(87)【国際公開番号】WO2020113061
(87)【国際公開日】20200604
(31)【優先権主張番号】62/773,448
(32)【優先日】2018年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/773,453
(32)【優先日】2018年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/773,462
(32)【優先日】2018年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/773,471
(32)【優先日】2018年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/773,433
(32)【優先日】2018年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/773,440
(32)【優先日】2018年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】16/282,204
(32)【優先日】2019年2月21日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】16/282,217
(32)【優先日】2019年2月21日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】16/282,224
(32)【優先日】2019年2月21日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/914,803
(32)【優先日】2019年10月14日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】521164924
【氏名又は名称】オハナ バイオサイエンシーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】セイブ, キャスリーン イネズ
(72)【発明者】
【氏名】ソラノ, フェリペ エー. ナバレテ
(72)【発明者】
【氏名】ファーファイン, エリック スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】パーレイ, クリストファー アール.
(72)【発明者】
【氏名】サントス, ニコラス ダ シルバ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR72
4B063QR77
4B063QR90
4B063QS36
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB09
4B065BB15
4B065BD50
4B065CA44
4C087AA10
4C087BB60
(57)【要約】
本開示は、とりわけ、精子機能を改善する方法及び関連する受精方法を、活性化又は増強された精子の調製液と共に提供する。本開示によって提供される方法は、一部の実施形態において、エネルギー枯渇と、その後の異なるエネルギー源の段階的再導入とを伴う。本開示は、本発明によって提供される方法を実施するのに好適な製品を更に提供する。本発明は、一部の実施形態では、IVF又はIUIのために精子を分離し、且つ精子を処理及び調製するためのキットを提供する。また、精子を調製するのに有用な栄養素不含試薬も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受精を増進させる方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、前記哺乳類精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること、及び
(c)ステップ(b)から得られた前記哺乳類精子に、受精を増進させる条件下において、卵子への到達手段を提供すること
を含み、前記有効量は、改善された精子機能を誘導するのに十分な量である、方法。
【請求項2】
曲線速度、頭部振幅、オートファジー、精子受精能獲得、超活性化精子の割合、中間運動能精子の割合並びに超活性化精子及び中間運動能精子の割合から選択される1つ以上の精子機能は、前記増強された哺乳類精子が前記第1のエネルギー源及び前記第2のエネルギー源の一方のみを提供されるか、又は前記第1のエネルギー源及び前記第2のエネルギー源を同時に提供される方法と比べて改善される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のエネルギー源は、解糖系エネルギー源であり、及び前記第2のエネルギー源は、糖新生基質であるか、又は前記第1のエネルギー源は、前記糖新生基質であり、及び前記第2のエネルギー源は、前記解糖系エネルギー源であり、更に、ステップ(a)の前記哺乳類精子は、ヒト精子である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
体外で実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(c)は、ステップ(b)からの前記哺乳類精子の腟内又は子宮内授精(IUI)での人工授精により、雌対象の生殖路において体内で実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b)の前記第2のエネルギー源を提供することは、有効量の前記第1のエネルギー源を提供された前記増強された哺乳類精子の子宮内授精(IUI)により、雌対象の生殖路において体内で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のエネルギー源は、ピルビン酸である糖新生基質であり、及び前記第2のエネルギー源は、解糖系エネルギー源である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(c)は、ステップ(b)からの前記哺乳類精子を前記卵子と共にインキュベートするか、又はステップ(b)からの前記哺乳類精子を前記卵子の細胞質に注入して、前記卵子の体外受精を増進させることを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
受精を増進させることは、胚であって、好適な対照精子によって発生された胚と比べて向上した生存能及び/又は改善された着床を呈する胚の発生を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
受精を増進させることは、少なくとも2細胞期発育段階、胚盤胞期発育段階又は子孫まで発育する胚の発生を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、精子減少症の対象又は低受精能の対象からのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ又はマウス精子である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、ヒト精子である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、非低温又は低温貯蔵から回収された精子である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、2回分以上の射精液のプールとして提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、ステップ(a)前に密度勾配遠心法、スイムアップ法又はマイクロフルイディクスによって精液から濃縮される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
200〜280mOsm/kgの範囲の重量オスモル濃度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(b)は、少なくとも前記第1のエネルギー源又は前記第2のエネルギー源と組み合わせて、解糖系の上流又は下流の1つ以上の成分を前記哺乳類精子に提供することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記第1のエネルギー源は、(i)グルコース、又は(ii)ピルビン酸から選択され、及び前記第2のエネルギー源は、(i)グルコース、又は(ii)ピルビン酸から選択され、前記第1及び第2のエネルギー源は、異なる、請求項3に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(a)のエネルギー枯渇条件下での前記インキュベーションは、少なくとも10分にわたるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
向上した精子機能を誘導する方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第1のエネルギー源を提供すること、及び
(c)その後、ステップ(b)からの前記哺乳類精子に、有効量の、(i)前記解糖系エネルギー源、又は(ii)前記糖新生基質から選択される第2のエネルギー源を提供することであって、提供される前記第2のエネルギー源は、ステップ(b)で選択されない、提供すること
を含み、前記有効量は、向上した精子機能を誘導するのに十分な量である、方法。
【請求項22】
前記向上した精子機能は、好適な対照精子と比べて向上しており、前記好適な対照精子は、未処理の哺乳類精子、有効量の前記解糖系エネルギー源又は前記糖新生基質を独立に提供されている、ステップ(a)の前記増強された哺乳類精子、有効量の前記解糖系エネルギー源及び前記糖新生基質を同時に提供されている、ステップ(a)の前記増強された哺乳類精子又は標準受精能獲得培地(C−HTF)で処理された精子である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
体外で実施される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(c)は、ステップ(b)からの前記哺乳類精子の腟内又は子宮内授精(IUI)での人工授精により、雌対象の生殖路において体内で実施される、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記向上した精子機能は、コンピュータ支援精液分析(CASA)によって測定される運動能の向上を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記運動能の向上は、前記哺乳類精子の曲線速度の向上、超活性化精子の割合の向上、中間運動能精子の割合の向上又はこれらの組み合わせを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記向上した精子機能は、精子−透明帯結合検査によって測定される精子受精能獲得の向上を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記向上した精子機能は、精子侵入検査によって測定される、卵子を受精させる前記哺乳類精子の能力の向上を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記向上した精子機能は、好適な対照精子で発生された胚と比べて向上した生存能、改善された着床、少なくとも2細胞期発育段階、胚盤胞期発育段階又は子孫まで発育する向上した能力を有する胚の発生を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記哺乳類精子は、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ又はマウス精子である、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
前記哺乳類精子は、ヒト精子である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記解糖系エネルギー源は、グルコースであり、及び前記糖新生基質は、ピルビン酸である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
請求項21に記載の方法によって調製される、向上した精子機能を有する前記哺乳類精子を含む精子調製液。
【請求項34】
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること
のプロセスによって調製される、向上した割合の超活性化精子を含む精子調製液であって、前記有効量は、1つ以上の精子機能の向上を誘導するのに十分な量であり、向上した割合の超活性化精子を含む前記精子調製液は、
未処理の哺乳類精子、有効量の前記第1のエネルギー源又は前記第2のエネルギー源を独立に提供されている、ステップ(a)の前記増強された哺乳類精子、有効量の前記第1のエネルギー源及び前記第2のエネルギー源を同時に提供されている、ステップ(a)の前記増強された哺乳類精子又は標準受精能獲得培地(C−HTF)で処理された哺乳類精子
から選択される好適な対照精子と比べて1つ以上の精子機能の向上を含む、精子調製液。
【請求項35】
向上した精子機能を誘導する方法であって、
(a)緩衝剤を含み、且つ約6〜7のpH及び約300〜400mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する保存培地に哺乳類精子を提供すること、
(b)前記哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、前記哺乳類精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(c)ステップ(b)からの前記増強された哺乳類精子に有効量の(i)解糖系エネルギー源、及び/又は(ii)糖新生基質を提供すること
を含み、それにより好適な対照精子と比較して向上した精子機能を誘導する、方法。
【請求項36】
受精を増進させる方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、前記精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすることであって、前記インキュベーション前に、前記哺乳類精子は、緩衝剤を含み、且つ弱酸性pH及び約300〜400mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する保存培地に貯蔵される、インキュベートすること、
(b)ステップ(a)からの前記増強された精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること、
(c)ステップ(a)の前記増強された哺乳類精子に有効量の前記第1のエネルギー源又は前記第2のエネルギー源を独立に提供するか、又は有効量の前記第1のエネルギー源及び前記第2のエネルギー源を同時に提供することによって得られるものを上回るレベルまで精子機能の1つ以上を向上させること、及び
(d)向上した機能を有する前記哺乳類精子に、受精を増進させる条件下において、卵子への到達手段を提供すること
を含む方法。
【請求項37】
a)緩衝化精子増強用エネルギー枯渇組成物を含む第1の組成物を含む第1の容器、及び
b)哺乳類精子に好適な少なくとも第1のエネルギー源を含む第2の組成物を含む第2の容器
を含むキットであって、
前記哺乳類精子を前記第1の組成物中で好適な時間にわたってインキュベートすると、増強された哺乳類精子を生じさせ、
前記増強された哺乳類精子に有効量の少なくとも前記第1のエネルギー源を提供すると、好適な対照と比べて、前記増強された哺乳類精子の機能を向上させる、キット。
【請求項38】
少なくとも5%の超活性化精子を含む超活性化精子調製液であって、任意選択で、超活性化に基づいて事前に選別されておらず、任意選択で、前記超活性化精子及び/又は中間精子は、好適な対照と比べて、細胞内RNA濃度(マイクロRNAを含む低分子非コードRNA濃度など)の10、15、20、25、30、35、40、45、50%又はそれを超える(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10倍又はそれを超える)低下を有する、超活性化精子調製液。
【請求項39】
a.正常精子の雄、低受精能の雄又は精子減少症の雄、例えば低受精能(精子減少症を含む)の雄などの雄対象の精液から精子を濃縮すること、
b.前記精子を、エネルギー枯渇下において、前記精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
c.前記増強された精子に、有効量の解糖系エネルギー源又は有効量の糖新生基質から選択されるが、但し有効量の解糖系エネルギー源及び糖新生基質の両方ではない、第1のエネルギー源を提供すること
によって調製される精子調製液。
【請求項40】
緩衝剤を含み、且つ弱酸性pH及び約300〜400mOsm/kg、例えば約300〜380、320〜370、330〜370、340〜360、例えば約320、330、340、350、360、370又は380、例えば約350の重量オスモル濃度を有する精子保存培地であって、有意な量の卵黄を含まないか、又は一部の実施形態では一切の卵黄を含まない精子保存培地。
【請求項41】
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること
によって調製される精子調製液であって、ステップ(b)の前記精子は、好適な対照精子と異なるエピジェネティックプロファイルを含む、精子調製液。
【請求項42】
改善された適応度を有する子孫を作製する方法であって、
(a)精子試料を、エネルギー枯渇下において、増強された精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
(b)前記増強された精子に有効量の第1のエネルギー源を提供すること、及び
(c)その後、ステップ(b)からの前記精子に有効量の第2のエネルギー源を提供すること、
(d)ステップ(c)からの前記精子を卵子に受精させて、胚を発生させること、及び
(e)雌対象において前記胚を成長させて、前記改善された適応度を有する子孫を作製すること
を含み、前記改善された適応度は、病態を発症する低下したリスクを含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本願は、2018年11月30日に出願された米国仮特許出願第62/773,448号明細書、2018年11月30日に出願された米国仮特許出願第62/773,453号明細書、2018年11月30日に出願された米国仮特許出願第62/773,462号明細書、2018年11月30日に出願された米国仮特許出願第62/773,471号明細書、2018年11月30日に出願された米国仮特許出願第62/773,433号明細書、2018年11月30日に出願された米国仮特許出願第62/773,440号明細書、2019年10月14日に出願された米国仮特許出願第62/914,803号明細書、2019年2月21日に出願された米国特許出願公開第16/282,204号明細書、2019年2月21日に出願された米国特許出願公開第16/282,217号明細書及び2019年2月21日に出願された米国特許出願公開第16/282,224号明細書の利益を主張するものであり、これらの出願の各々は、全体として参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
妊娠困難なカップルの約50%は、男性因子が原因である。生殖補助の重要な側面は、雄性配偶子(精子)の機能を最大限引き出して、受精が最大となることを促進することである。従って、精子機能を向上させるための、例えばそれにより生殖補助を促進する培地、組成物及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、とりわけ、精子機能を向上させるための、例えばそれにより生殖補助を促進する培地、組成物及び方法を提供する。
【0004】
本明細書では、受精を増進させる方法であって、(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、哺乳類精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、(b)ステップ(a)からの増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること、及び(c)ステップ(b)から得られた哺乳類精子に、受精を増進させる条件下において、卵子への到達手段を提供することを含み、有効量は、改善された精子機能を誘導するのに十分な量である、方法が提供される。
【0005】
本明細書では、向上した精子機能を誘導する方法であって、(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、(b)ステップ(a)からの増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第1のエネルギー源を提供すること、及び(c)その後、ステップ(b)からの哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第2のエネルギー源を提供することであって、提供される第2のエネルギー源がステップ(b)で選択されないことを含み、有効量は、向上した精子機能を誘導するのに十分な量である、方法が提供される。
【0006】
本明細書では、(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び(b)ステップ(a)からの増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供することのプロセスによって調製される、向上した割合の超活性化精子を含む精子調製液であって、有効量は、1つ以上の精子機能の向上を誘導するのに十分な量であり、向上した割合の超活性化精子を含む精子調製液は、未処理の哺乳類精子、有効量の第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源を独立に提供されている、ステップ(a)の増強された哺乳類精子、有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に提供されている、ステップ(a)の増強された哺乳類精子又はC−HTFなどの標準受精能獲得培地で処理された哺乳類精子から選択される好適な対照精子と比べて1つ以上の精子機能の向上を含む、精子調製液が提供される。
【0007】
本明細書では、向上した精子機能を誘導する方法であって、(a)緩衝剤を含む、且つ約6〜7のpH及び約300〜400mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する保存培地に哺乳類精子を提供すること、(b)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、哺乳類精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び(c)ステップ(b)からの増強された哺乳類精子に有効量の(i)解糖系エネルギー源、及び/又は(ii)糖新生基質を提供することを含み、それにより好適な対照精子と比較した向上した精子機能を誘導する、方法が提供される。
【0008】
本明細書では、受精を増進させる方法であって、(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすることであって、インキュベーション前に、哺乳類精子は、緩衝剤を含み、且つ弱酸性pH及び約300〜400mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する保存培地に貯蔵される、インキュベートすること、(b)ステップ(a)からの増強された精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること、(c)ステップ(a)の増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源を独立に提供するか、又は有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に提供することによって得られるものを上回るレベルまで精子機能の1つ以上を向上させること、及び(d)向上した精子機能を有する哺乳類精子に、受精を増進させる条件下において、卵子への到達手段を提供することを含む方法が提供される。
【0009】
本明細書では、a)緩衝化精子増強用エネルギー枯渇組成物を含む第1の組成物を含む第1の容器、及びb)哺乳類精子に好適な少なくとも第1のエネルギー源を含む第2の組成物を含む第2の容器を含むキットであって、哺乳類精子を第1の組成物中で好適な時間にわたってインキュベートすると、増強された哺乳類精子を生じさせ、増強された哺乳類精子に有効量の少なくとも第1のエネルギー源を提供すると、好適な対照と比べて、増強された哺乳類精子の機能を向上させる、キットが提供される。
【0010】
本明細書では、少なくとも5%の超活性化精子を含む超活性化精子調製液であって、任意選択で、超活性化に基づいて事前に選別されておらず、任意選択で、超活性化精子及び/又は中間精子は、好適な対照と比べて、細胞内RNA濃度(マイクロRNAを含む低分子非コードRNAなど)の10、15、20、25、30、35、40、45、50%又はそれを超える(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10倍又はそれを超える)低下を有する、超活性化精子調製液が提供される。
【0011】
本明細書では、a.正常精子の雄、低受精能の雄又は精子減少症の雄、例えば低受精能(精子減少症を含む)の雄などの雄対象の精液から精子を濃縮すること、b.精子を、エネルギー枯渇下において、精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、c.増強された精子に、有効量の解糖系エネルギー源又は有効量の糖新生基質から選択されるが、但し有効量の解糖系エネルギー源及び糖新生基質の両方ではない、第1のエネルギー源を提供することによって調製される精子調製液が提供される。
【0012】
本明細書では、緩衝剤を含み、且つ弱酸性pH及び約300〜400mOsm/kg、例えば約300〜380、320〜370、330〜370、340〜360、例えば約320、330、340、350、360、370又は380、例えば約350の重量オスモル濃度を有する精子保存培地であって、有意な量の卵黄を含まないか、又は一部の実施形態では一切の卵黄を含まない精子保存培地が提供される。
【0013】
本明細書では、(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び(b)ステップ(a)からの増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供することによって調製される精子調製液であって、ステップ(b)の精子は、好適な対照精子と異なるエピジェネティックプロファイルを含む、精子調製液が提供される。
【0014】
本明細書では、改善された適応度を有する子孫を作製する方法であって、(a)精子試料を、エネルギー枯渇下において、増強された精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、(b)増強された精子に有効量の第1のエネルギー源を提供すること、及び(c)その後、ステップ(b)からの精子に有効量の第2のエネルギー源を提供すること、(d)ステップ(c)からの精子を卵子に受精させて、胚を発生させること、及び(e)雌対象において胚を成長させて、改善された適応度を有する子孫を作製することを含み、改善された適応度は、病態を発症する低下したリスクを含む、方法が提供される。
【0015】
本明細書に記載される様々な方法、培地、調製液及びキットは、組み合わせて使用することができる。例えば、本発明により提供される精子保存培地で保存される精子調製液は、一部の実施形態では、本発明により提供される様々な方法(例えば、精子機能を亢進させる、受精を増進させる、改善された適応度を有する子孫を作製する等)であって、一部の実施形態では、本発明により提供される様々なキットを使用して実施することができ、従って特定の実施形態では、本発明により提供される精子調製液が作製されることになる方法及び/又は生殖補助方法を含めた受精方法など、本発明により提供される更なる方法において使用することができる。
【0016】
本明細書に記載される方法、培地、精子調製液及びキットの特徴には、以下に挙げる実施形態の態様の1つ以上が含まれ、これらの実施形態は、組み合わせ及び挿入することができるものであり、具体的に提供されない限り、組み合わせ又は修飾を受け入れない狭義の具体的な実施形態と見なされてはならない。本開示の例は、以下に挙げる実施形態に容易に適合させることのできる非限定的な例示を提供する。
【0017】
1.受精を増進させる方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、哺乳類精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
(b)ステップ(a)からの増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること、及び
(c)ステップ(b)から得られた哺乳類精子に、受精を増進させる条件下において、卵子への到達手段を提供すること
を含み、有効量は、改善された精子機能を誘導するのに十分な量である、方法。
【0018】
2.曲線速度、頭部振幅(amplitude of lateral head displacement)、オートファジー、精子受精能獲得、超活性化精子の割合、中間運動能精子の割合並びに超活性化精子及び中間運動能精子の割合から選択される1つ以上の精子機能は、増強された哺乳類精子が第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源の一方のみを提供されるか、又は第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に提供される方法と比べて改善される、実施形態1の方法。
【0019】
3.第1のエネルギー源は、解糖系エネルギー源であり、及び第2のエネルギー源は、糖新生基質であるか、又は第1のエネルギー源は、糖新生基質であり、及び第2のエネルギー源は、解糖系エネルギー源であり、更に、ステップ(a)の哺乳類精子は、ヒト精子である、実施形態1の方法。
【0020】
4.体外で実施される、実施形態3の方法。
【0021】
5.ステップ(c)は、ステップ(b)からの哺乳類精子の腟内又は子宮内授精(IUI)での人工授精により、雌対象の生殖路において体内で実施される、実施形態3の方法。
【0022】
6.ステップ(b)の第2のエネルギー源を提供することは、有効量の第1のエネルギー源を提供された増強された哺乳類精子の子宮内授精(IUI)により、雌対象の生殖路において体内で実施される、実施形態1の方法。
【0023】
7.第1のエネルギー源は、ピルビン酸である糖新生基質であり、及び第2のエネルギー源は、解糖系エネルギー源である、実施形態6の方法。
【0024】
8.ステップ(c)は、ステップ(b)からの哺乳類精子を卵子と共にインキュベートするか、又はステップ(b)からの哺乳類精子を卵子の細胞質に注入して、卵子の体外受精を増進させることを含む、実施形態4の方法。
【0025】
9.受精を増進させることは、胚であって、好適な対照精子によって発生された胚と比べて向上した生存能及び/又は改善された着床を呈する胚の発生を含む、実施形態1の方法。
【0026】
10.受精を増進させることは、少なくとも2細胞期発育段階、胚盤胞期発育段階又は子孫まで発育する胚の発生を含む、実施形態1の方法。
【0027】
11.ステップ(a)の哺乳類精子は、精子減少症の対象又は低受精能の対象からのものである、実施形態1の方法。
【0028】
12.ステップ(a)の哺乳類精子は、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ又はマウス精子である、実施形態1の方法。
【0029】
13.ステップ(a)の哺乳類精子は、ヒト精子である、実施形態12の方法。
【0030】
14.ステップ(a)の哺乳類精子は、非低温又は低温貯蔵から回収された精子である、実施形態1の方法。
【0031】
15.ステップ(a)の哺乳類精子は、2回分以上の射精液のプールとして提供される、実施形態1の方法。
【0032】
16.ステップ(a)の哺乳類精子は、ステップ(a)前に密度勾配遠心法、スイムアップ法又はマイクロフルイディクスによって精液から濃縮される、実施形態1の方法。
【0033】
17.200〜280mOsm/kgの範囲の重量オスモル濃度で実施される、実施形態1の方法。
【0034】
18.ステップ(b)は、少なくとも第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源と組み合わせて、解糖系の上流又は下流の1つ以上の成分を哺乳類精子に提供することを更に含む、実施形態1の方法。
【0035】
19.第1のエネルギー源は、(i)グルコース、又は(ii)ピルビン酸から選択され、及び第2のエネルギー源は、(i)グルコース、又は(ii)ピルビン酸から選択され、第1及び第2のエネルギー源は、異なる、実施形態3の方法。
【0036】
20.ステップ(a)のエネルギー枯渇条件下でのインキュベーションは、少なくとも10分にわたるものである、実施形態1の方法。
【0037】
21.向上した精子機能を誘導する方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
(b)ステップ(a)からの増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第1のエネルギー源を提供すること、及び
(c)その後、ステップ(b)からの哺乳類精子に、(i)有効量の、解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第2のエネルギー源を提供することであって、提供される第2のエネルギー源は、ステップ(b)で選択されない、提供すること
を含み、有効量は、向上した精子機能を誘導するのに十分な量である、方法。
【0038】
22.向上した精子機能は、好適な対照精子と比べて向上しており、好適な対照精子は、未処理の哺乳類精子、有効量の解糖系エネルギー源又は糖新生基質を独立に提供されている、ステップ(a)の増強された哺乳類精子、有効量の解糖系エネルギー源及び糖新生基質を同時に提供されている、ステップ(a)の増強された哺乳類精子又は標準受精能獲得培地(C−HTF)で処理された精子である、実施形態21の方法。
【0039】
23.体外で実施される、実施形態21の方法。
【0040】
24.ステップ(c)は、ステップ(b)からの哺乳類精子の腟内又は子宮内授精(IUI)での人工授精により、雌対象の生殖路において体内で実施される、実施形態21の方法。
【0041】
25.向上した精子機能は、コンピュータ支援精液分析(CASA)によって測定される運動能の向上を含む、実施形態21の方法。
【0042】
26.運動能の向上は、哺乳類精子の曲線速度の向上、超活性化精子の割合の向上、中間運動能精子の割合の向上又はこれらの組み合わせを含む、実施形態25の方法。
【0043】
27.向上した精子機能は、精子−透明帯結合検査によって測定される精子受精能獲得の向上を含む、実施形態21の方法。
【0044】
28.向上した精子機能は、精子侵入検査によって測定される、卵子を受精させる哺乳類精子の能力の向上を含む、実施形態21の方法。
【0045】
29.向上した精子機能は、好適な対照精子で発生された胚と比べて向上した生存能、改善された着床、少なくとも2細胞期発育段階、胚盤胞期発育段階又は子孫まで発育する向上した能力を有する胚の発生を含む、実施形態21の方法。
【0046】
30.哺乳類精子は、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ又はマウス精子である、実施形態21の方法。
【0047】
31.哺乳類精子は、ヒト精子である、実施形態30の方法。
【0048】
32.解糖系エネルギー源は、グルコースであり、及び糖新生基質は、ピルビン酸である、実施形態31の方法。
【0049】
33.実施形態21の方法によって調製される、向上した精子機能を有する哺乳類精子を含む精子調製液。
【0050】
34.(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(b)ステップ(a)からの増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること
のプロセスによって調製される、向上した割合の超活性化精子を含む精子調製液であって、有効量は、1つ以上の精子機能の向上を誘導するのに十分な量であり、向上した割合の超活性化精子を含む精子調製液は、
未処理の哺乳類精子、有効量の第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源を独立に提供されている、ステップ(a)の増強された哺乳類精子、有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に提供されている、ステップ(a)の増強された哺乳類精子又は標準受精能獲得培地(C−HTF)で処理された哺乳類精子
から選択される好適な対照精子と比べて1つ以上の精子機能の向上を含む、精子調製液。
【0051】
35.第1のエネルギー源は、解糖系エネルギー源であり、及び第2のエネルギー源は、糖新生基質であるか、又は第1のエネルギー源は、糖新生基質であり、及び第2のエネルギー源は、解糖系エネルギー源である、実施形態34の精子調製液。
【0052】
36.ステップ(a)の哺乳類精子は、2回分以上の射精液のプールとして提供される、実施形態34の精子調製液。
【0053】
37.ステップ(a)の哺乳類精子は、低受精能の雄又は精子減少症の雄からのものである、実施形態34の精子調製液。
【0054】
38.ステップ(a)の哺乳類精子は、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ又はマウス精子である、実施形態34の精子調製液。
【0055】
39.ステップ(a)の哺乳類精子は、ヒト精子である、実施形態38の精子調製液。
【0056】
40.減少した細胞内RNAを更に含む、実施形態34の精子調製液。
【0057】
41.向上した精子機能を誘導する方法であって、
(a)緩衝剤を含み、且つ約6〜7のpH及び約300〜400mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する保存培地に哺乳類精子を提供すること、
(b)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、哺乳類精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(c)ステップ(b)からの増強された哺乳類精子に有効量の(i)解糖系エネルギー源、及び/又は(ii)糖新生基質を提供すること
を含み、それにより好適な対照精子と比較して向上した精子機能を誘導する、方法。
【0058】
42.解糖系エネルギー源と糖新生基質とは、同時に提供される、実施形態41の方法。
【0059】
43.解糖系エネルギー源と糖新生基質とは、順次提供される、実施形態41の方法。
【0060】
44.向上した精子機能は、曲線速度、頭部振幅、オートファジー、精子受精能獲得、超活性化精子の割合、中間運動能精子の割合又はこれらの組み合わせの向上を含む、実施形態41の方法。
【0061】
45.向上した精子機能は、超活性化精子及び中間運動能精子の割合の向上である、実施形態41の方法。
【0062】
46.ステップ(a)の哺乳類精子は、2回分以上の射精液のプールとして提供される、実施形態41の方法。
【0063】
47.保存培地は、卵黄を含まない、実施形態41の方法。
【0064】
48.保存培地は、抗生物質を更に含む、実施形態41の方法。
【0065】
49.保存培地は、血清アルブミンを更に含む、実施形態41の方法。
【0066】
50.緩衝剤は、HEPES、MOPS又はこれらの組み合わせである、実施形態41の方法。
【0067】
51.保存培地は、約6.6〜6.9のpH及び約330〜370mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する、実施形態41の方法。
【0068】
52.保存培地は、グルコース、フルクトース、マンノース及びスクロースからなる群から選択される1つ以上の炭素源を更に含む、実施形態41の方法。
【0069】
53.保存培地中の哺乳類精子は、ステップ(a)前に非低温条件下で貯蔵される、実施形態41の方法。
【0070】
54.受精を増進させる方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすることであって、インキュベーション前に、哺乳類精子は、緩衝剤を含み、且つ弱酸性pH及び約300〜400mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する保存培地に貯蔵される、インキュベートすること、
(b)ステップ(a)からの増強された精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること、
(c)ステップ(a)の増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源を独立に提供するか、又は有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に提供することによって得られるものを上回るレベルまで精子機能の1つ以上を向上させること、及び
(d)向上した精子機能を有する哺乳類精子に、受精を増進させる条件下において、卵子への到達手段を提供すること
を含む方法。
【0071】
55.ステップ(a)の哺乳類精子は、2回分以上の射精液のプールとして提供される、実施形態54の方法。
【0072】
56.1つ以上の精子機能は、曲線速度、頭部振幅、オートファジー、精子受精能獲得、超活性化精子の割合、中間運動能精子の割合並びに超活性化精子及び中間運動能精子の割合から選択される、実施形態54の方法。
【0073】
57.体外で実施される、実施形態54の方法。
【0074】
58.ステップ(d)は、ステップ(c)からの、向上した精子機能を有する哺乳類精子の子宮内授精(IUI)により、雌対象の生殖路において体内で実施される、実施形態54の方法。
【0075】
59.ステップ(b)の第2のエネルギー源を提供することは、ステップ(b)からの、有効量の第1のエネルギー源を提供された増強された哺乳類精子の子宮内授精(IUI)により、雌対象の生殖路において体内で実施される、実施形態54の方法。
【0076】
60.ステップ(d)は、向上した精子機能を有する哺乳類精子を卵子と共にインキュベートするか、又は向上した精子機能を有する哺乳類精子を卵子の細胞質に注入して、卵子の体外受精を増進させることを含む、実施形態57の方法。
【0077】
61.a)緩衝化精子増強用エネルギー枯渇組成物を含む第1の組成物を含む第1の容器、及び
b)哺乳類精子に好適な少なくとも第1のエネルギー源を含む第2の組成物を含む第2の容器
を含むキットであって、
哺乳類精子を第1の組成物中で好適な時間にわたってインキュベートすると、増強された哺乳類精子を生じさせ、
増強された哺乳類精子に有効量の少なくとも第1のエネルギー源を提供すると、好適な対照と比べて、増強された哺乳類精子の機能を向上させる、キット。
【0078】
62.緩衝化精子増強用エネルギー枯渇組成物を含む第1の組成物は、栄養素不含合成ヒト卵管液である、実施形態61のキット。
【0079】
63.増強された哺乳類精子の機能は、曲線速度、頭部振幅、オートファジー、精子受精能獲得、超活性化精子の割合、中間運動能精子の割合、超活性化精子及び中間運動能精子の割合又はこれらの組み合わせである、実施形態61〜62のいずれか1つのキット。
【0080】
64.緩衝化精子増強用エネルギー枯渇組成物は、約0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03mM未満又はそれより低いグルコース濃度を含む、実施形態61〜63のいずれか1つのキット。
【0081】
65.緩衝化精子増強用エネルギー枯渇組成物は、約0.15、0.10、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.005、0.003、0.002mM未満又はそれより低いピルビン酸濃度を含む、実施形態61〜64のいずれか1つのキット。
【0082】
66.好適な時間は、少なくとも約10、20、30、40、45、50、55、60、90、120、150又は180分である、実施形態61〜65のいずれか1つのキット。
【0083】
67.緩衝化精子増強用エネルギー枯渇組成物は、約200〜280mOsm、例えば約220〜260、225〜255、230〜250mOsmの範囲の容量オスモル濃度を含む、実施形態61〜66のいずれか1つのキット。
【0084】
68.増強された哺乳類精子に有効量の少なくとも第1のエネルギー源を提供することは、少なくとも約270、275、280、285、290又は295mOsmの容量オスモル濃度におけるものである、実施形態61〜67のいずれか1つのキット。
【0085】
69.第1の組成物は、7.5〜12.5mMなど、例えば約5〜20mMのHEPES、90〜100mMなど、例えば約80〜120mMの塩化ナトリウム、4〜7mM mMなど、例えば約3〜8mMの塩化カリウム、1.5〜2.5mMなど、例えば約1〜5mMの塩化カルシウム、0.3〜0.4mMなど、例えば約0.1〜0.5mMのリン酸カリウム、0.16〜0.35mMなど、例えば0.1〜0.5mMの硫酸マグネシウム、15〜30mMなど、例えば約10〜50mMの重炭酸ナトリウムの1つ以上を含む、実施形態61〜68のいずれか1つのキット。
【0086】
70.第1の組成物は、例えば、約0.0001%、0.0002%、0.0003%、0.0004%、0.0005%、0.0006%、0.0007%、0.0008%、0.0009%又は0.001%のフェノールレッドを更に含む、実施形態61〜69のいずれか1つのキット。
【0087】
71.第1の組成物及び/又は第2の組成物は、例えば、約1〜20μg/ml、2〜18μg/ml、4〜16μg/ml、6〜14μg/ml又は8〜12μg/mlの濃度のゲンタマイシンなどの抗生物質を更に含む、実施形態61〜70のいずれか1つのキット。
【0088】
72.第1のエネルギー源は、解糖系エネルギー源又は糖新生基質である、実施形態61〜71のいずれか1つのキット。
【0089】
73.少なくとも第1のエネルギー源を含む第2の組成物が入った第2の容器は、緩衝化精子増強用エネルギー枯渇組成物を更に含む、実施形態61〜72のいずれか1つのキット。
【0090】
74.第1の組成物、第2の組成物又は第1の組成物と第2の組成物との両方は、例えば、滅菌ろ過によって事前に滅菌されている滅菌水溶液などの水溶液である、実施形態61〜73のいずれか1つのキット。
【0091】
75.第1の組成物及び/又は第2の組成物は、凍結乾燥組成物である、実施形態61〜73のいずれか1つのキット。
【0092】
76.哺乳類精子に好適な少なくとも第2のエネルギー源を含む第3の組成物を含む第3の容器を更に含み、増強された哺乳類精子に有効量の第2のエネルギー源を提供すると、精子の機能を向上させ、有効量の第2のエネルギー源は、第1のエネルギー源の有効量と同時に又は逐次的に提供される、実施形態61〜75のいずれか1つのキット。
【0093】
77.第3の組成物は、例えば、滅菌ろ過によって事前に滅菌されている滅菌水溶液などの水溶液である、実施形態76のキット。
【0094】
78.第3の組成物は、凍結乾燥組成物である、実施形態76のキット。
【0095】
79.哺乳類精子に好適な少なくとも第2のエネルギー源を含む第3の組成物を含む第3の容器は、緩衝化精子増強用エネルギー枯渇組成物を更に含む、実施形態76〜78のいずれか1つのキット。
【0096】
80.第3の組成物は、例えば、約1〜20μg/ml、2〜18μg/ml、4〜16μg/ml、6〜14μg/ml又は8〜12μg/mlの濃度のゲンタマイシンなどの抗生物質を更に含む、実施形態76〜79のいずれか1つのキット。
【0097】
81.第2のエネルギー源は、解糖系エネルギー源又は糖新生基質であり、第2のエネルギー源は、第1のエネルギー源として選択されないものである、実施形態76〜80の1つのキット。
【0098】
82.解糖系エネルギー源は、例えば、約100mM〜1M、200〜900mM、300〜800mM、400〜600mM又は500mM、例えば少なくとも約100、200、300、400、500、600、700、800、900mM又は1Mの濃度のグルコースである、実施形態72〜81のいずれか1つのキット。
【0099】
83.糖新生基質は、例えば、約10〜50mM、15〜45mM、20〜40mM又は25〜35mM、例えば少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45又は50mMの濃度のピルビン酸である、実施形態72〜82のいずれか1つのキット。
【0100】
84.第1のエネルギー源又は任意選択で第2のエネルギー源は、有効量のグルコースであり、グルコースの有効量は、希釈剤への導入時に約0.6mM〜10.0mM、例えば約1.0〜7.0mM、2.5〜7.0mM、3.5〜6.5mM又は約5mM、例えば少なくとも約1、2、3又は4mMである、実施形態71〜83のいずれか1つのキット。
【0101】
85.第1のエネルギー源又は任意選択で第2のエネルギー源は、有効量のピルビン酸であり、ピルビン酸の有効量は、希釈剤への導入時に約0.15〜0.66mM、例えば約0.20〜0.50mM、0.25〜0.40mM又は約0.30mMである、実施形態71〜83のいずれか1つのキット。
【0102】
86.第1のエネルギー源は、任意選択で、ピルビン酸ナトリウムの形態のピルビン酸である、実施形態71〜85のいずれか1つのキット。
【0103】
87.第2のエネルギー源は、グルコースである、実施形態76〜86のいずれか1つのキット。
【0104】
88.第1の組成物は、例えば、約1〜10mg/ml、2〜8mg/ml又は3〜7mg/mlの濃度のヒト血清アルブミンを含む、実施形態71〜87のいずれか1つのキット。
【0105】
89.ヒト血清アルブミンを含む更なる容器を含む、実施形態71〜88のいずれか1つのキット。
【0106】
90.第1及び/又は第2の組成物は、例えば、約97.8mMの濃度のNaCl、例えば約4.7mMの濃度のKCl、例えば約2mMの濃度のCaCl、例えば約0.37mMの濃度のKHPO、例えば約0.2mMの濃度のMgSO.7HO、例えば約4mg/mlの濃度のHSA、例えば約10μg/mlの濃度のゲンタマイシン、例えば約10mMの濃度のHEPES及び例えば約0.0006%の濃度のフェノールレッドから本質的になる、実施形態71〜89のいずれか1つのキット。
【0107】
91.第3の組成物は、例えば、約97.8mMの濃度のNaCl、例えば約4.7mMの濃度のKCl、例えば約2mMの濃度のCaCl、例えば約0.37mMの濃度のKHPO、例えば約0.2mMの濃度のMgSO・7HO、例えば約4mg/mlの濃度のHSA、例えば約10μg/mlの濃度のゲンタマイシン、例えば約10mMの濃度のHEPES及び例えば約0.0006%の濃度のフェノールレッドから本質的になる、実施形態76〜90のいずれか1つのキット。
【0108】
92.マイクロ流体デバイス、密度勾配溶液、精子単離マトリックス(シラン化シリカなど、任意選択で栄養素不含合成ヒト卵管液に懸濁される)又はこれらの組み合わせから選択される精子の選択手段を更に含む、実施形態71〜91のいずれか1つのキット。
【0109】
93.飢餓−レスキュー法/飢餓−再栄養法など、本明細書に記載されるとおりの方法の実施に関する説明書などの使用説明書を更に含む、実施形態71〜92のいずれか1つのキット。
【0110】
94.哺乳類ドナーからの哺乳類精子の試料を採取するための採取容器を更に含む、実施形態71〜93のいずれか1つのキット。
【0111】
95.第1の容器及び/又は第2の容器は、ボトル、バイアル、シリンジ又は試験管である、実施形態71〜94のいずれか1つのキット。
【0112】
96.第3の容器は、ボトル、バイアル、シリンジ又は試験管である、実施形態76〜95のいずれか1つのキット。
【0113】
97.第1の容器及び/又は第2の容器は、多目的容器である、実施形態71〜96のいずれか1つのキット。
【0114】
98.第3の容器は、多目的容器である、実施形態76〜97のいずれか1つのキット。
【0115】
99.精子機能を向上させる方法であって、
i)精子を、エネルギー枯渇下において、精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
ii)増強された精子に、解糖系エネルギー源又は糖新生基質から選択されるが、但し有効量の解糖系エネルギー源及び有効量の糖新生基質の両方ではない、有効量の第1のエネルギー源を提供すること、及び
iii)その後、有効量の糖新生基質及び解糖系エネルギー源の両方を提供するように、精子に有効量の第2のエネルギー源を提供すること
を含み、それにより精子機能を向上させる、方法。
【0116】
100.エネルギー枯渇は、例えば、約0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03mM未満のグルコース又はそれより低い、約0.02又は0.01mM未満など、例えば約0.01mM未満の低グルコース濃度を含む、実施形態99の方法。
【0117】
101.エネルギー枯渇は、例えば、約0.15、0.10、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.005、0.003、0.002mM未満又はそれより低い低ピルビン酸濃度を含む、実施形態99又は実施形態100の方法。
【0118】
102.エネルギー枯渇は、少なくとも約10、20、30、40、50、60分、例えば少なくとも約30、40、45、50、55、60、90、120、150若しくは180分又は1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5若しくは10時間にわたるものである、実施形態99〜101のいずれか1つの方法。
【0119】
103.精子の増強後に有効量の第1のエネルギー源を提供することと、有効量の第2のエネルギー源を提供することとの間の時間は、少なくとも約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55又は60分、例えば少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20分、例えば少なくとも約5〜15分である、実施形態99〜102のいずれか1つの方法。
【0120】
104.糖新生基質は、例えば、約0.15〜0.66mM、例えば約0.25〜0.40mM又は約0.30mMなど、約0.20〜0.50mMの濃度のピルビン酸である、実施形態99〜103のいずれか1つの方法。
【0121】
105.解糖系エネルギー源は、例えば、約0.6mM〜10.0mM、1.0〜7.0mM、2.5〜7.0mM、3.5〜6.5mM又は5mM、例えば少なくとも約1、2、3又は4mMの濃度のグルコースである、実施形態99〜104のいずれか1つの方法。
【0122】
106.第1のエネルギー源は、グルコースなどの解糖系エネルギー源である、実施形態99〜105のいずれか1つの方法。
【0123】
107.第2のエネルギー源は、グルコースなどの解糖系エネルギー源である、実施形態99〜105のいずれか1つの方法。
【0124】
108.第1のエネルギー源は、ピルビン酸などの糖新生基質である、実施形態99〜105のいずれか1つの方法。
【0125】
109.第2のエネルギー源は、ピルビン酸などの糖新生基質である、実施形態99〜105のいずれか1つの方法。
【0126】
110.精子は、哺乳類精子(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ又は霊長類精子、例えばヒト精子)である、実施形態99〜109のいずれか1つの方法。
【0127】
111.エネルギー枯渇中、約200〜280mOsm、例えば約220〜260、225〜255、230〜250mOsmの範囲の容量オスモル濃度で実施され、任意選択で、有効量の第1及び/又は第2のエネルギー源を添加すると、容量オスモル濃度は、少なくとも約270、275、280、285、290又は295mOsmに増加する、実施形態99〜110のいずれか1つの方法。
【0128】
112.例えば、CASA又はDNA断片化(例えば、TUNELによる)、脂質過酸化、活性酸素種若しくはこれらの組み合わせを測定することによる、精子の運動能又は品質の1つ以上の定量的評価を更に含む、実施形態99〜111のいずれか1つの方法。
【0129】
113.治療前に、精子は、低温貯蔵から回収される、前出の実施形態のいずれか1つの方法。
【0130】
114.治療前に、精子は、非低温貯蔵から回収される、実施形態99〜112のいずれか1つの方法。
【0131】
115.精子は、2回分以上の射精液(例えば、2、3、4、5、6回分又はそれを超える射精液)からプールされる、実施形態99〜114のいずれか1つの方法。
【0132】
116.精子は、例えば、1ミリリットル当たりの精子が約1500万個未満の精子数である低受精能の雄又は精子減少症の雄から入手される、実施形態99〜115のいずれか1つの方法。
【0133】
117.エネルギー枯渇前に、精子は、例えば、密度勾配遠心法、スイムアップ法又はマイクロフルイディクスによって精液から濃縮される(又は単離される)、実施形態99〜116のいずれか1つの方法。
【0134】
118.精子を雌生殖路に提供することを更に含み、任意選択で、有効量の第2のエネルギー源は、雌生殖路に提供される、実施形態99〜117のいずれか1つの方法。
【0135】
119.体外で実施される、実施形態99〜118のいずれか1つの方法。
【0136】
120.向上した機能を有する精子を、受精を増進させる条件下で卵子と接触させることを更に含む、実施形態119の方法。
【0137】
121.実施形態99〜117のいずれか1つの方法によって調製された精子に、卵子を受精させるのに十分な時間にわたり、卵子への到達手段(例えば、ICSIによることを含む)を提供することを含む、受精方法。
【0138】
122.好適な対照と比べて、超活性化精子及び/又は中間運動能精子の少なくとも約30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95若しくは100%の増加又はそれより大きい、約1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、3、4、5倍の増加などであるか又はそれより大きい、約1.2倍を含む増加がある、実施形態99〜121のいずれか1つの方法。
【0139】
123.少なくとも第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源と組み合わせて、NADH、NAD+、クエン酸、AMP又はADPなどの解糖系の上流又は下流の1つ以上の成分を精子に提供するステップを更に含む、実施形態99〜122のいずれか1つの方法。
【0140】
124.少なくとも5%の超活性化精子を含む超活性化精子調製液であって、任意選択で、超活性化に基づいて事前に選別されておらず、任意選択で、超活性化精子及び/又は中間精子は、好適な対照と比べて、細胞内RNA濃度(マイクロRNAを含む低分子非コードRNAなど)の10、15、20、25、30、35、40、45、50%又はそれを超える(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10倍又はそれを超える)低下を有する、精子調製液。
【0141】
125.a.正常精子の雄、低受精能の雄又は精子減少症の雄、例えば低受精能(精子減少症を含む)の雄などの雄対象の精液から精子を濃縮すること、
b.精子を、エネルギー枯渇下において、精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
c.増強された精子に、有効量の解糖系エネルギー源又は有効量の糖新生基質から選択されるが、但し有効量の解糖系エネルギー源及び糖新生基質の両方ではない、第1のエネルギー源を提供すること
によって調製される精子調製液。
【0142】
126.実施形態125の調製液に、卵子を受精させるのに十分な時間にわたり、有効量の糖新生基質及び解糖系エネルギー源の両方を提供するように、第2のエネルギー源の有効量及び卵子への到達手段を提供することを含む、受精方法。
【0143】
127.体外で実施される、実施形態126の方法。
【0144】
128.雌の生殖路(腟又は子宮)において体内で実施される、実施形態126の方法。
【0145】
129.精子は、精子減少症の対象又は低受精能の(例えば、精子運動能が低い)対象からのものである、実施形態125の調製液。
【0146】
130.実施形態99〜120のいずれか1つの方法によって調製される、実施形態125の調製液。
【0147】
131.i)精子との接触時にエネルギー枯渇を誘導する精子増強溶液、
ii)有効量の解糖系エネルギー源又は有効量の糖新生基質から選択されるが、但し有効量の解糖系エネルギー源及び糖新生基質の両方ではない、第1のエネルギー源を提供する溶液、及び
iii)有効量の第2のエネルギー源を提供する溶液
を含む製品。
【0148】
132.精子単離マトリックスを更に含む、実施形態131の製品。
【0149】
133.精子単離マトリックスは、シラン化シリカであり、任意選択で、シラン化シリカは、いかなる解糖系エネルギー源又は糖新生基質も実質的に含まない培地中にある、実施形態132の製品。
【0150】
134.緩衝剤を含み、且つ弱酸性pH及び約300〜400mOsm/kg、例えば約300〜380、320〜370、330〜370、340〜360、例えば約320、330、340、350、360、370又は380、例えば約350の重量オスモル濃度を有する精子保存培地であって、有意な量の卵黄を含まないか、又は一部の実施形態では一切の卵黄を含まない精子保存培地。
【0151】
135.炭素源を更に含み、任意選択で、炭素源は、グルコース、フルクトース、マンノース、スクロース又はこれらの組み合わせから選択される、実施形態134の精子保存培地。
【0152】
136.炭素源は、グルコースである、実施形態135の精子保存培地。
【0153】
137.グルコースは、約0.1〜0.4Mの濃度、約0.2〜0.4Mなど、例えば約0.30〜0.36M又は約0.33Mの濃度で存在する、実施形態136の精子保存培地。
【0154】
138.緩衝剤は、両性イオン緩衝剤であり、緩衝剤濃度は、約1〜100mM、例えば1〜50mM、1〜40mM、1〜30mM、1〜20mM、5〜15mM、例えば約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20mM、例えば約10mMである、実施形態134〜137のいずれか1つの精子保存培地。
【0155】
139.緩衝剤は、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)又はこれらの組み合わせである、実施形態138の精子保存培地。
【0156】
140.抗生物質を更に含む、実施形態134〜139のいずれか1つの精子保存培地。
【0157】
141.抗生物質は、アミノグリコシドである、実施形態140の精子保存培地。
【0158】
142.抗生物質は、ゲンタマイシンである、実施形態140又は141の精子保存培地。
【0159】
143.ゲンタマイシンは、約5〜20μg/ml、例えば約10μg/mlの濃度で存在する、実施形態142の精子保存培地。
【0160】
144.血清アルブミンを更に含む、実施形態131〜143のいずれか1つの精子保存培地。
【0161】
145.血清アルブミンは、ウシ血清アルブミン(BSA)若しくはヒト血清アルブミン(HSA)又はこれらの組み合わせであり、より詳細には、血清アルブミンは、約1.5〜4.5%(W/V)、例えば約2〜4%、2.5〜3.5%又は3%の濃度で存在する、実施形態144の精子保存培地。
【0162】
146.約340〜360mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する、実施形態134〜145のいずれか1つの精子保存培地。
【0163】
147.約6〜7、例えば6.6〜6.9のpHを有する、実施形態134〜146のいずれか1つの精子保存培地。
【0164】
148.ステロール、抗酸化剤又は抗炎症剤の1つ以上を更に含む、実施形態134〜147のいずれか1つの精子保存培地。
【0165】
149.両性イオン緩衝剤及び約6.6〜6.9のpH、約0.25〜0.36Mの濃度のグルコース、約320〜380mOsm/kgの重量オスモル濃度を含む精子保存培地であって、有意な量の卵黄を含まないか、又は一部の実施形態では一切の卵黄を含まない精子保存培地。
【0166】
150.抗生物質を更に含み、任意選択で、抗生物質は、ゲンタマイシンである、実施形態149の精子保存培地。
【0167】
151.pHは、約6.8であり、グルコース濃度は、約0.330mMであり、重量オスモル濃度は、約350mOsm/kgであり、及び血清アルブミンは、BSA及び/又はHSAであり、任意選択で、BSA及び/又はHSAは、約2〜4%(W/V)の濃度で存在する、実施形態149又は実施形態150の精子保存培地。
【0168】
152.緩衝剤は、HEPES、MOPS又はこれらの組み合わせである、実施形態151の精子保存培地。
【0169】
153.滅菌製剤として任意選択で密閉滅菌容器に提供される、実施形態149〜152のいずれか1つの精子保存培地。
【0170】
154.凍結乾燥される、実施形態153の精子保存。
【0171】
155.液体製剤である、実施形態153の精子保存培地。
【0172】
156.保存培地中に約4℃で最長4、5、6、7、8、9、10、11、12日間又はそれを超えて貯蔵された精子は、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも約40、45、50、55、60、65、70、75、80%又はそれを超える運動精子を維持する、実施形態149〜155のいずれか1つの精子保存培地。
【0173】
157.保存培地中に約4℃で7日間にわたって貯蔵された精子は、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも約40、45、50、55、60、65、70、75、80%又はそれを超える運動精子を有する、実施形態149〜156のいずれか1つの精子保存培地。
【0174】
158.保存培地中に約4℃で4、5、6、7、8、9、10、11、12日間又はそれを超えて貯蔵された精子は、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも約75%の運動精子を有する、実施形態149〜157のいずれか1つの精子保存培地。
【0175】
159.保存培地中に約4℃で7日間にわたって貯蔵された精子は、受精能獲得培地への移し替え時、保存培地中にある貯蔵前の対照精子と比べて1、2、5、10、15又は20%以下だけ低下した運動精子率である、実施形態149〜158のいずれか1つの精子保存培地。
【0176】
160.培地中に貯蔵した精子は、
低温貯蔵した細胞と比べて少なくとも30、40、50、55、60、65、70、80、85、90、95%又はそれを超えるTUNEL染色の減少、
低温貯蔵した細胞と比べて少なくとも30、40、50、55、60、65、70、80、85、90、95%又はそれを超える脂質過酸化の減少、
低温貯蔵した細胞と比べて少なくとも30、40、50、55、60、65、70、80、85、90、95%又はそれを超える活性酸素種の減少、又は
1つ、2つ又は3つ全てを含めた前述の組み合わせ
の1つ以上を呈する、実施形態156〜159のいずれか1つの精子保存培地。
【0177】
161.約6.7〜6.9のpHを有し、両性イオン緩衝剤、約0.25〜0.35Mの濃度のグルコース、抗生物質、約340〜360mOsm/kgの重量オスモル濃度、約2〜4%(W/V)の濃度のBSA又はHSAから本質的になる滅菌液体精子保存培地であって、この保存培地中に4℃で最長12日間にわたって貯蔵された精子は、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも60%の運動精子を維持し、任意選択で、この培地は、卵黄を含有しない、滅菌液体精子保存培地。
【0178】
162.前出の実施形態のいずれか1つの精子保存培地を含む組成物であって、生存精子を更に含み、任意選択で、精子は、精液から(例えば、密度勾配遠心法、スイムアップ法、ろ過又はマイクロフルイディクスによって)濃縮される、組成物。
【0179】
163.精子は、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウサギ、ネコ、イヌ又はヒトなどの霊長類精子など、哺乳類精子である、実施形態162の組成物。
【0180】
164.哺乳類精子は、精子数の減少した、例えば1ミリリットル当たり約1500万個未満の精子を有する対象からのものである、実施形態163の組成物。
【0181】
165.約4℃で最長4、5、6、7、8、9、10、11、12日間又はそれを超えて貯蔵したとき、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも約40、45、50、55、60、65、70、75、80%又はそれを超える精子は、運動能を有する、実施形態162〜164のいずれか1つの組成物。
【0182】
166.(i)精子、例えばヒト精子、及び
(ii)緩衝剤
を含む組成物であって、5〜7(例えば、6〜7又は6.6〜6.9)のpH及び約300〜400mOsm/kg(例えば、約300〜380、320〜370、330〜370、340〜360、例えば約320、330、340、350、360、370又は380、例えば約350)の重量オスモル濃度を有し、培地は、任意選択で、有意な量の卵黄を含まないか、又は一部の実施形態では一切の卵黄を含まない、組成物。
【0183】
167.組成物の非精子部分は、実施形態134〜161のいずれか1つの精子保存培地である、実施形態166の組成物。
【0184】
168.ヒト精子と液体精子保存培地とを含む組成物であって、液体精子保存培地は、約6.7〜6.9のpHを有し、両性イオン緩衝剤、約0.25〜0.35Mの濃度のグルコース、約340〜360mOsm/kgの重量オスモル濃度、抗生物質、約2〜4%(W/V)の濃度のBSA又はHSAから本質的になり、4℃で最長12日間にわたって貯蔵したとき、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも60%の精子は、運動能を有し、任意選択で、培地は、卵黄を含有しない、組成物。
【0185】
169.精子は、2回分以上の射精液(例えば、2、3、4、5、6回分又はそれを超える射精液)からプールされる、実施形態134〜168のいずれか1つの組成物。
【0186】
170.精子を、実施形態134〜161のいずれか1つの培地と接触させることを含む、精子を保存する方法。
【0187】
171.実施形態162〜169のいずれか1つの組成物を雌レシピエントの生殖器官(例えば、腟又は子宮)に導入することを含む受精方法であって、任意選択で、雌レシピエントの生殖器官への導入前に、精子は、組成物から単離されて受精能獲得培地に置かれる、方法。
【0188】
172.実施形態162〜169のいずれか1つの組成物を卵子に接触させること(例えば、ISCIによるなど、注入によることを含む)を含む受精方法であって、任意選択で、卵子に接触させる前に、精子は、組成物から単離されて受精能獲得培地に置かれる、方法。
【0189】
173.(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(b)ステップ(a)からの増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること
によって調製される精子調製液であって、ステップ(b)の精子は、好適な対照精子と異なるエピジェネティックプロファイルを含む、精子調製液。
【0190】
174.好適な対照精子は、未処理の哺乳類精子、有効量の第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源を独立に提供されている、ステップ(a)の増強された哺乳類精子、有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に提供されている、ステップ(a)の増強された哺乳類精子又は標準受精能獲得培地(C−HTF)で処理された精子である、実施形態173の精子調製液。
【0191】
175.異なるエピジェネティックプロファイルは、DNAメチル化、DNAアセチル化、RNAメチル化、タンパク質(例えば、ヒストン)メチル化、タンパク質(例えば、ヒストン)アセチル化又はこれらの組み合わせの変化したレベルを含む、実施形態173〜174のいずれか1つの精子調製液。
【0192】
176.ステップ(b)の精子は、好適な対照精子と比べて減少したRNAレベルを更に含む、実施形態173〜175のいずれか1つの精子調製液。
【0193】
177.減少したRNAレベルは、非コードRNA(ncRNA)の減少を含む、実施形態176の精子調製液。
【0194】
178.非コードRNAは、miRNAである、実施形態177の精子調製液。
【0195】
179.改善された適応度を有する子孫を作製する方法であって、
(a)精子試料を、エネルギー枯渇下において、増強された精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
(b)増強された精子に有効量の第1のエネルギー源を提供すること、及び
(c)その後、ステップ(b)からの精子に有効量の第2のエネルギー源を提供すること、
(d)ステップ(c)からの精子を卵子に受精させて、胚を発生させること、及び
(e)雌対象において胚を成長させて、改善された適応度を有する子孫を作製すること
を含み、改善された適応度は、病態を発症する低下したリスクを含む、方法。
【0196】
180.改善された適応度を有する子孫は、病態を発症しない、実施形態179の方法。
【0197】
181.ステップ(c)の精子は、好適な対照精子と異なるエピジェネティックプロファイルを含む、実施形態179〜180のいずれか1つの方法。
【0198】
182.ステップ(c)の精子は、好適な対照精子と比べて減少した細胞内RNAレベルを含む、実施形態179〜181のいずれか1つの方法。
【0199】
183.病態は、肥満又は肥満関連障害(例えば、2型糖尿病、心血管疾患、呼吸器疾患、不妊症又は癌)である、実施形態179〜182のいずれか1つの方法。
【0200】
184.第1のエネルギー源は、解糖系エネルギー源であり、及び第2のエネルギー源は、糖新生基質である、実施形態179〜183のいずれか1つの方法。
【0201】
185.第1のエネルギー源は、糖新生基質であり、及び第2のエネルギー源は、解糖系エネルギー源である、実施形態179〜183のいずれか1つの方法。
【図面の簡単な説明】
【0202】
図1】対照及び飢餓(グルコース、ピルビン酸及び乳酸不含)条件における超活性及び中間運動能精子の割合の棒グラフである。
図2】対照及び飢餓(グルコース、ピルビン酸及び乳酸不含)条件における、グルコース及びピルビン酸の両方(飢餓/レスキュー同時)、グルコースのみ(飢餓/グルコースレスキュー)、ピルビン酸のみ(飢餓/ピルビン酸のみ)、1時間グルコース+15分ピルビン酸(飢餓/グルコースレスキュー+15分ピルビン酸)又は1時間ピルビン酸+15分グルコース(飢餓/ピルビン酸レスキュー+15分グルコース)の添加後の超活性及び中間運動能精子の割合の棒グラフである。
図3】本発明により提供される方法の特定の例示的実施形態と組み合わせた密度勾配法による精子単離の説明図である。
図4】本発明により提供される方法の特定の例示的実施形態と組み合わせたスイムアップ法による精子単離の説明図である。
図5A】7人の異なるドナーにおける中間運動能精子の割合±SEMの棒グラフである。N=20、:t検定によって決定したとき、対照に対してp<0.05。精液試料は、健常ボランティアから入手した。
図5B】7人の異なるドナーにおける超活性運動能精子の割合±SEMの棒グラフである。N=20、:t検定によって決定したとき、対照に対してp<0.05。精液試料は、健常ボランティアから入手した。
図6A】中間運動能精子の割合±SEMの棒グラフである。N=5、:t検定によって決定したとき、対照に対してp<0.05。精液試料は、不妊症の治療を求める男性から入手した。
図6B】超活性運動能精子の割合±SEMの棒グラフである。N=5、:t検定によって決定したとき、対照に対してp<0.05。精液試料は、不妊症の治療を求める男性から入手した。
図7】IVF及びIUIの一般的な実施技法を説明する。IVFの精子処理(左)は、概して、密度勾配遠心法(ここに図示されている)などの分離ステップと、続く洗浄ステップとからなる。代替的な分離手段としてスイムアップ法(図示せず)が用いられることもある。IUIの精子処理(右)は、洗浄ステップのみで済むが、クリニックによっては、密度勾配遠心法(図示されている)又はスイムアップ法(図示せず)のいずれかによる初期分離ステップを含めることを好む。
図8】本発明の例示的キットを用いたIVFのための精子処理の概要を提供する。1つの例示的なIVF適用では、栄養素不含密度勾配遠心のためのキットを栄養素不含洗浄、インキュベーション及び逐次的栄養素添加のためのキットと共に利用することができる。これにより、栄養素不含分離、洗浄及びインキュベーションと、続くグルコース及びピルビン酸の段階的再添加とで精子調製液を調製することが可能となる。最終的なグルコースインキュベーション後、試料を遠心し、卵母細胞とのコインキュベーション前に適切な容量の受精培地(これは、例えば、クリニックの好みの受精培地であり得る)に再懸濁する。
図9】本発明の例示的キットを用いたIUIのための精子処理の概要を提供する。1つの例示的なIUI適用では、栄養素不含密度勾配遠心のためのキットを栄養素不含洗浄、インキュベーション及び単一栄養素添加のためのキットと共に利用することができる。これにより、栄養素不含分離、洗浄及びインキュベーションと、続くピルビン酸の段階的再添加とで精子調製液を調製することが可能となる。IUIについては、子宮内にグルコースが存在するため、授精前にグルコースが再導入されない。
図10】飢餓−レスキュープロトコルの効果を示す。初めに、ヒト精子をグルコース及びピルビン酸の非存在下でインキュベートする飢餓−レスキュープロトコルを一般的な精子調製液と比較した。グルコース及びピルビン酸を再導入した後間もなく(C)、より高い割合の精子が中間及び超活性化運動能表現型を呈した(差し込み図に各々の代表的な軌跡を示す)。N=20(7個体からの試料)。p=0.0084。
図11】得られた2細胞期胚及び胚盤胞期胚の数を示す。N=4(C57BL/6Jマウス:低受精能マウス系統)、P<0.005、**P=0.17。これらの胚を雌に移植するとまた、3倍を超える生児出生率の増加が生じた。
図12】IVF用キット及びIUI用キットの一構成品である、スイムアップ法プロトコル精子分離のための栄養素不含sHTF(ここでは「sHTF培地」又は「sHTF洗浄緩衝液」として図示される)を使用した精子処理の概要を提供する。一般的な実施技法に倣い、ピペットで慎重にsHTF培地の下に精液の層を作り、インキュベートすることにより、精液を泳ぎ出て上方に向かう運動精子を上層の培地に入らせる。インキュベーション後、運動精子を含有する上部のsHTF培地をIVF用キット又はIUI用キットの洗浄ステップに慎重に移し替えると、精子調製が完了となる。
図13A】4℃で貯蔵した後に回収された運動精子の割合の折れ線グラフである。x軸に指示される時間にわたって供試保存培地又はEFMのいずれかに貯蔵した精子を回収し、受精能獲得後の運動能を測定した。データは、時間0における(試料処理直後に取得された)総運動精子に対する割合として示す。
図13B】4℃で貯蔵した後に回収された運動精子割合の折れ線グラフである。x軸に指示される時間にわたって4℃で供試保存培地又は冷蔵培地に貯蔵した精子を回収し、受精能獲得後の運動能を測定した。データは、時間0における(試料処理直後に取得された)総運動精子に対する割合として示す。
図14A】供試培地(保存培地)に4℃で7日間貯蔵した後又は凍結保存後のTUNEL染色によって決定したときのDNA断片化を有する精子の割合の棒グラフである。
図14B】凍結保存(CRYO)と比較した、供試培地(保存培地)に4℃で7日間貯蔵した後に回収された運動精子割合の散布図である。精子を回収し、受精能獲得後の運動能について評価した。データは、時間0における総運動精子に対する割合として示され、各データ点が個々の測定値を表す。
【発明を実施するための形態】
【0203】
妊娠困難なカップルの約50%は、男性因子が原因である。低精子数は、広く認められている男性不妊症の要因である。世界保健機関は、低精子数(精子減少症)を1ミリリットル当たり1500万個未満の精子として定義している(Cooper et al.,Human Reproduction Update,16(3),231−245,2009)。男性不妊症又は低受精能の他の原因としては、低運動能又は形態異常が挙げられる。生殖補助の重要な側面は、雄性配偶子(精子)の機能を最大限引き出して、受精が最大となることを促進することである。受精前、精子は、卵子を受精させることが可能となるための一連の変化、精子受精能獲得と呼ばれる過程を経なければならない。体外受精能獲得培地は、3つの成分(アルブミン、カルシウム及び重炭酸)を含み、精子受精能獲得を惹起する。精子は、最初にほぼ対称的な鞭毛運動で直進的に泳ぐ。種に応じた様々な時間が経った後、この直線的な精子運動は、「超活性化」として知られる定位置でのらせん運動に取って代わる。精子を活性化させる方法が存在するが、そうした方法は、最大限の精子活性化を実現することができず、従って不妊症における男性因子の影響に十分に対処するものではない。従って、精子機能を向上させるための、例えばそれにより生殖補助を促進する培地、組成物及び方法が必要とされている。
【0204】
本開示は、とりわけ、精子の保存方法、精子機能を向上させる方法、受精を増進させる方法、かかる方法を実施するためのキット、精子調製液及び製品を提供する。本発明は、少なくとも一部には、飢餓期間後に異なるエネルギー源を段階的に再導入すると優れた精子活性化が実現するという本出願人の驚くべき発見に基づく。
【0205】
定義
本開示の理解を促すため、以下に多くの用語及び語句を定義する。
【0206】
用語「向上した」、「向上させる」、「向上している」若しくは「亢進させる」又は「増進させる」は、全て本明細書において概して向上を意味して用いられる。誤解を避けるために言えば、用語「向上した」、「向上させる」又は「亢進させる」は、好適な対照と比較したときの少なくとも5%、例えば少なくとも10%の向上、例えば好適な対照と比較したときの少なくとも約10%、少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%の向上、又は100%以下の向上、又は10〜100%の任意の向上、又は好適な対照と比較したときの少なくとも約2倍、又は少なくとも約3倍、又は少なくとも約4倍、又は少なくとも約5倍、又は少なくとも約10倍の向上、又は2倍〜10倍、又はそれを超えるものの間の任意の向上を意味する。向上は、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%又はそれを超えるものであり得、好ましくは所与の疾患(例えば、精子機能異常又は精子減少症に起因する男性不妊症)を有しない哺乳類雄対象からの正常な精子の範囲内として認められているレベルになることである。
【0207】
用語「減少させる」、「低減する」、「低減」、「低下させる」若しくは「低下」又は「阻害する」は、全て本明細書において概して減少を意味して用いられる。例えば、「減少させる」、「低減する」、「低減」又は「阻害する」は、好適な対照と比較したときの少なくとも5%、例えば10%の減少、例えば好適な対照と比較したときの少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%の減少、又は100%以下の減少(例えば、好適な対照と比較したとき存在しないレベル又は検出不能レベル)、又は10〜100%にある任意の減少を意味する。減少は、例えば、所与の疾患を有しないある個体についての正常範囲と比べて少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%又はそれを超え得る。
【0208】
本明細書で使用されるとき、用語「有効量」は、哺乳類精子の検出可能な機能(例えば、精子運動能、曲線速度、頭部振幅、オートファジー、精子受精能獲得、超活性化精子の割合、中間運動能精子の割合並びに超活性化精子及び中間運動能精子の割合、卵子を受精させる能力並びに胚の発生)に変化を生じさせるのに十分な第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源の1つ又は複数の活性成分の総量を意味する。単独で投与される個々のエネルギー源に適用されるとき、この用語は、そのエネルギー源単独について参照する。組み合わせに適用されるとき、この用語は、組み合わせて投与されるか、順次投与されるか、又は同時に投与されるかに関わらず、効果を生じる第1のエネルギー源と第2のエネルギー源との組み合わせの量を指す。
【0209】
用語「有効量」は、その意味の範囲内において、所望の効果を提供するのに十分な量のエネルギー源(例えば、糖新生基質又は解糖系エネルギー源)を含む。本開示に関係するとき、所望の効果とは、1つ以上の精子機能の向上又は受精の向上であり得る。必要とされる厳密な量は、治療下の哺乳類精子種、例えば精子が低受精能の哺乳類対象から入手される場合に哺乳類精子の入手元の雄対象の年齢及び全般的状態などの要因に応じて変わることになる。従って、厳密な「有効量」を規定することはできない。しかしながら、どのような場合でも、適切な「有効量」は、当業者がルーチンに過ぎない実験を用いて決定し得る。
【0210】
用語「精子(spermatozoon)」は、雄哺乳類からの生存生殖細胞を指す。用語「精子(spermatozoa)」は、複数の生存雄性生殖細胞を指す。文脈上特に要求されない限り、複数形及び単数形は、同義的である。用語「精子(sperm)」が略語として使用され、これは、少なくとも1つの精子を指す。
【0211】
本明細書で使用されるとき、用語「卵子を受精させる能力」は、精子(例えば、哺乳類精子)が未受精卵(卵細胞)に侵入してそれらの遺伝子材料の組み合わせを生じさせ、その結果、接合体を形成する能力を指す。本開示に関係するとき、卵子を「受精させる能力」とは、体外及び/又は体内で受精させる能力であり得る。一部の実施形態において、体外で受精させる能力は、自然妊娠、腟内授精、子宮内授精又は卵細胞質内精子注入法(ICSI)による受精を含む。
【0212】
用語「胚」は、本明細書では、二倍体全能性細胞、例えば受精卵を形成するための哺乳類精子による未受精卵の受精時に形成される接合体と、続いて細胞分裂を起こして2細胞期以降まで発育する胚(例えば、4細胞期、16細胞期、32細胞期、胚盤胞期(分化した栄養外胚葉及び内部細胞塊を伴う)又は子孫への発育)との両方を指して使用される。
【0213】
本明細書で使用されるとき、用語「発育する能力」は、胚が成長又は発育する能力又は潜在的可能性を指す。これらの用語は、胚が少なくとも2細胞期発育段階、胚盤胞期発育段階に達し、子宮内に着床して、完全な子孫に発育するか、又は生きて生まれる能力又は潜在的可能性を指し得る。用語「子孫(offspring)」は、本明細書で使用されるとき親の子孫(progeny)を指し、ここで、子孫は、出生前の胎児又は新生児である。
【0214】
用語「胚盤胞」は、受精5又は6日後の胚を指し、胚全体の由来である内部細胞塊と、栄養外胚葉と呼ばれる外側細胞層と、内部細胞塊を収容する体液によって満たされた胞胚腔とを有する。栄養外胚葉は、胎盤の前駆体である。胚盤胞は、透明帯に取り囲まれており、透明帯は、続いて、胚盤胞が「孵化」するときに脱落する。糖タンパク質の外被で構成される透明帯は、発育段階の1細胞期から胚盤胞期まで卵母細胞を取り囲む。胚が付着し、着床する前に、透明帯は、タンパク質分解を含めた幾つもの機構によって胚から脱落する。透明帯は、最初に2つ以上の精子が卵母細胞に侵入することを防ぐ役割を果たし、次に後に胚が子宮に到着する前に早まって接着することを防ぐ役割を果たす。
【0215】
本明細書で使用されるとき、用語「濃縮された」は、濃縮のない最終産物又は調製液中でその種が天然に存在するレベルと比べて目標種の濃度が実質的に高くなるように目標種が部分的に精製されている組成物又は画分又は調製液を指す。
【0216】
用語「生殖補助技術」、又は「ART」、又は「補助受精」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、人工的な又は部分的に人工的な手段によって妊娠を実現するために用いられる方法を指す。生殖補助技術には、限定はされないが、古典的体外受精(IVF)、卵細胞質内精子注入法(ICSI)、子宮内授精(IUI)及び頸管内授精が含まれる。
【0217】
用語「子宮内授精」又は「IUI」は、子宮中への精子(sperm)又は精子(spermatozoa)の直接的な子宮内注入を指す。
【0218】
用語「体外受精」又は「IVF」は、インビトロで生体の外部で卵母細胞を精子によって受精させる方法を指す。IVFは、不妊症において体内での妊娠が成功しなかった場合の主要な治療法である。
【0219】
用語「卵細胞質内精子注入法」又は「ICSI」は、単一の精子を卵子の細胞質に直接注入する体外受精手技を指す。この手技は、最も一般的には、男性不妊症因子を克服するために用いられているが、卵母細胞が精子の侵入を受け難い場合にも及びときに体外受精方法として用いられることもある。
【0220】
全体を通して開示される幾つかの数値は、例えば、「Xは、少なくとも又は少なくとも約100又は200[又は任意の数値]である」と表現される。この数値は、その数字自体及び以下の全てを含む:
i.Xは、少なくとも100であり、
ii.Xは、少なくとも200であり、
iii.Xは、少なくとも約100であり、及び
iv.Xは、少なくとも約200である。
【0221】
全体を通して開示される数値により、これらの異なる組み合わせの全てが企図される。開示される数値の全ては、それが治療剤の投与を指すか、又は日数、月数、年数、重量、投薬量等を指すかに関わらず、特にそうでない旨が具体的に指示されない限りこのように解釈されるべきである。
【0222】
全体を通して開示される範囲は、例えば、「Xは、1〜2若しくは2〜3[若しくは任意の数値範囲]日目又は約その日数目に投与される」と表現されることもある。この範囲は、その数字自体(例えば、範囲の端点)及び以下の全てを含む:
i.Xは、1日目〜2日目に投与され、
ii.Xは、2日目〜3日目に投与され、
iii.Xは、約1日目〜2日目に投与され、
iv.Xは、約2日目〜3日目に投与され、
v.Xは、1日目〜約2日目に投与され、
vi.Xは、2日目〜約3日目に投与され、
vii.Xは、約1日目〜約2日目に投与され、及び
viii.Xは、約2日目〜約3日目に投与される。
【0223】
全体を通して開示される範囲により、これらの異なる組み合わせの全てが企図される。開示される範囲の全ては、それが治療剤の投与を指すか、又は日数、月数、年数、重量、投薬量等を指すかに関わらず、特にそうでない旨が具体的に指示されない限りこのように解釈されるべきである。
【0224】
精子機能
一部の実施形態において、本明細書では、精子機能を向上させる方法が提供される。本方法は、哺乳類精子を、エネルギー枯渇下において、哺乳類精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第1のエネルギー源を提供すること、及びその後、ステップ(b)からの哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第2のエネルギー源を提供することであって、提供されるエネルギー源は、第1のエネルギー源として選択されないものである、提供することを含み、それにより好適な対照精子と比較して向上した精子機能を誘導する。一部の実施形態において、本方法は、体外で実施される。一部の実施形態において、第2のエネルギー源の提供は、体内で、例えば事前にエネルギー枯渇下でインキュベートされ、且つ第1のエネルギー源が提供されている精子の頸管内又は子宮内授精によって実施される。向上した精子機能としては、集団中でCASAnovaにより評価したとき、超活性化及び/又は中間運動能を呈する精子の割合など、向上した運動能(Goodson et al.,2017,Biol.Reprod.97:698−708;doi:10.1093/biolre/iox120を参照されたい)、向上したオートファジー、向上した受精能獲得及び向上した受精率、例えば少なくとも2細胞期までの発育、胚盤胞発育又は生児出生の1つ以上が挙げられる。従って、一部の実施形態において、精子機能は、精子運動能、曲線速度、頭部振幅、オートファジー、精子受精能獲得、超活性化精子の割合、中間運動能精子の割合並びに超活性化精子及び中間運動能精子の割合、卵子を受精させる能力、胚の発生であり得る。一部の実施形態において、向上した機能を有する精子によって発生された胚は、生存能の向上、着床の向上、発育が少なくとも2細胞期発育段階、胚盤胞期発育段階、子孫 − 即ち生児出生まで至る能力の向上又は改善された適応度(例えば、病態の発症リスクの低下を含む改善された適応度)の子孫から選択される1つ以上の特性を含む。
【0225】
一部の実施形態において、第1及び第2のエネルギー源は、順次提供される(例えば、第1のエネルギー源を提供し、続いて第2のエネルギー源を提供する)。一部の実施形態において、第1及び第2のエネルギー源は、同時に提供される。本明細書で企図されるとおりの1つ以上の精子機能の向上は、好適な対照精子と比べた1つ以上の精子機能の向上に相当する。一部の実施形態において、1つ以上の精子機能は、少なくとも又は少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、75%、80%、90%若しくは100%、200%、300%又はそれを超えて向上し得る。一部の実施形態において、1つ以上の精子機能は、10%〜200%、25%〜150%、50%〜100%又は70%〜90%向上し得る。
【0226】
本明細書では、精子機能を向上させる方法及び好適な対照精子と比べて向上した機能を含む精子の調製が提供される。本開示に関係するとき、精子の「活性」及び/又は「機能」は、例えば、精子運動能、精子向性(即ち精子が特定の刺激に向かって動こうとするか又はそれから遠ざかろうとする性質)及び卵子を受精させる能力など、生理学的過程を包含する。用語「活性」及び/又は「機能」には、受精及び/又は卵子(又はその膜/層)との相互作用前、その最中に起こる過程(かかる過程としては、例えば、精子受精能獲得及び先体活性を挙げることができる)及び/又は卵子の受精後の過程、例えば胚の形成も更に含まれ得る。一部の実施形態において、胚は、生存の向上(長期化)、着床の改善及び/又は2細胞期、胚盤胞期まで、又は子孫まで発育して生児出生をもたらす能力を呈する。
【0227】
精子機能の向上を測定する例示的方法は、運動能、粘液貫通性、卵母細胞受精又は続く胚発育などにより評価され得る。精子機能を決定する方法は、当技術分野において周知であり、例えばSS.Vasan Indian J Urol.2011 Jan−Mar;27(1):41−48を参照されたい。
【0228】
精子運動能
精子運動能について、当業者は、用語「運動能」が一般的な運動に関するのみならず、例えば精子細胞の運動速度及び/又はいずれか所与の集団中における動いている精子細胞の比率の任意の増加又は減少など、運動能の他の側面にも適用され得ることを理解するであろう。そのため、本明細書に開示される方法は、精子運動能を向上させるためのみならず、精子細胞の運動速度及び/又はいずれか所与の精子集団中における動いている細胞の比率(割合)を向上させるためにも用いられ得る。
【0229】
精子の運動能は、総運動精子率又は運動能のある精子の速度として表される。これらの測定は、種々の検査法により行われ得るが、好都合には2つの方法の一方で検査される。位相差顕微鏡を使用して、精子が血球計算板又は顕微鏡スライドに置かれているときに主観的目視測定が行われるか、又はコンピュータ支援精液分析器が使用されるかのいずれかである。位相差顕微鏡下では、運動精子数及び総精子数のカウントが行われ、速度は、速い、中程度又は遅いとして評価される。精子運動能を評価する2つ目の方法は、コンピュータ支援精液分析器(Hamilton Thorn、Beverly,Mass.)を使用することによるものであり、試料中にある個々の精子細胞の運動能特性が客観的に決定される。簡潔に言えば、その分析器のために設計されたスライド又はチャンバに精子試料が置かれる。分析器が個々の精子細胞を追跡し、精子の運動能及び速度を決定する。データは、運動率として表され、経路速度及び軌跡速度についての測定値も入手される。
【0230】
従って、用語「運動能」は、運動精子の割合を包含し、これは、Cooper et al.Human Reproduction update,Vol 16,No 3 pp 231−245,2010に考察されるとおり、速度又は方向性に関わらず、世界保健機関(WHO)による「運動能なし」に指定されるカテゴリを除く全ての運動能カテゴリに当てはまると評価された総精子数の割合であり得る。手動カウントにより、精子細胞を、定性的主観的選択基準を用いて4つのカテゴリに分類する(不動、局所運動性、非直線運動性及び直線運動性)。
【0231】
用語「運動能」は、運動精子の割合、即ち集団中においてコンピュータ支援精子分析に基づいて直進運動能、超活性化運動能及び/又は中間運動能を呈すると評価された総精子数の割合を包含する(例えば、CASAnovaにより評価したとき;Goodson et al,2017,Biol.Reprod.97:698−708を参照されたい)。
【0232】
本明細書に開示される方法は、直進運動能のある精子の割合、即ち本来非直進性の精子、即ち動きがあっても、前方への進行をなさない精子と比べて、頭部の回転が、90度未満のある点から別の点への直線的な動きを呈する精子の割合を増加させることができる。一部の実施形態において、本明細書に開示される方法は、中間運動能精子の割合を増加させることができる。中間運動能精子は、直進性の活発な運動能に類似しているが、しかし、経路からの変動がより大きく、首振り運動など、約90度の精子頭部の回転を呈する運動によって特徴付けられる。一部の実施形態において、向上した運動能は、超活性化精子としても知られる活性化された超活性精子の割合の向上を含む。超活性化精子運動能は、振幅の大きい非対称な鞭打ちパターンの鞭毛を有する精子によって特徴付けられる。超活性化運動能は、多くが十分に定義付けられた前進経路のない一見ランダムな変動及び90度より大きい精子頭部の回転を伴う活発な運動によって特徴付けられる。超活性化精子運動能は、より活発であり、直進運動能より短時間である。生物学的には、超活性化精子運動能は、成熟卵の受精に先立ち精子が卵子の外被を通り抜けることが可能となるのに重要である。一部の実施形態において、本明細書に開示される方法は、所与の精子集団中における超活性化精子及び中間運動能精子の割合を向上させることができる。
【0233】
精子運動能パラメータの他の標準化された尺度も使用され得ることが理解されなければならない。他の精子運動能尺度としては、「速度」及び「直線性」が挙げられ、これらは、自動精液分析器を用いて評価することができる。一部の実施形態において、本明細書に開示される方法は、平均経路速度(VAP)、直線速度(VSL)、曲線速度(VCL)、頭部振幅(ALH)及び頭部振動数(BCF)又は当業者に公知の他のパラメータを含めた精子の運動パラメータの向上を含め、精子機能を向上させることができる。曲線速度(VCL)は、所与の時間にわたる精子頭部の重心の移動速度の尺度である。平均経路速度(VAP)は、精子の平均経路に沿った速度である。直線速度(VSL)は、細胞の直線速度又は直進速度である。直進性(LIN)は、VCLに対するVSLの比であり、パーセンテージとして表される。精子頭部の頭部振幅(ALH)は、細胞の進路軸又は平均経路に対するその横方向へのずれの振幅から計算される。CASAによる精子運動能の測定方法は、当技術分野において周知であり、例えば国際公開第2012061578A2号パンフレットを参照されたい。精子運動能の向上とは、本明細書で企図されるとき、好適な対照精子と比べた精子の運動能の向上に相当する。
【0234】
一部の実施形態において、運動能が向上した精子が提供され、これは、精子をエネルギー枯渇条件でインキュベートして精子を増強すること、その後、増強された精子に第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を提供することを含む方法の産物である。一部の実施形態において、第1及び第2のエネルギー源は、同時に提供される。一部の実施形態において、第1及び第2のエネルギー源は、順次提供される。一部の実施形態において、精子運動能の向上は、好適な対照精子と比べて約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は99%超であり得る。一部の実施形態において、精子運動能の向上は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%であり得る。一部の実施形態において、精子運動能の向上は、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1,000倍、少なくとも10,000倍であり得る。一部の実施形態において、精子運動能は、10%〜200%、25%〜150%、50%〜100%又は70%〜90%向上し得る。一部の実施形態において、向上した精子機能又は向上した精子運動能は、超活性化精子の割合の向上であり得る。一部の実施形態において、向上した精子機能又は精子運動能の向上は、中間運動能精子の割合の向上であり得る。一部の実施形態において、向上した精子機能又は向上した精子運動能は、直進運動能精子の割合の向上であり得る。一部の実施形態において、向上した精子機能又は向上した精子運動能は、超活性化精子及び中間運動能精子の割合の向上であり得る。一部の実施形態において、超活性化精子、直進運動能精子、中間運動能精子又はこれらの組み合わせのレベルは、超活性化精子、直進運動能精子、中間運動能精子又はこれらの組み合わせが調製液中の全精子の少なくとも約5%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%、12.0%、12.5%、13.0%、13.5%、14.0%、14.5%、15.0%、15.5%、16.0%、16.5%、17.0%、17.5%、18.0%、18.5%、19.0%、19.5%、20.0%、20%、25%、30%、35%、40%、50%又はそれを超えるものを占めるように向上する。精子運動能の向上は、向上した精子機能を指し示している。
【0235】
精子受精能獲得
一部の実施形態において、向上した精子機能は、精子受精能獲得の向上を含む。「精子受精能獲得」とは、先体の開口分泌並びに未受精卵の透明帯への結合及びそれを通した侵入を行う能力を有する精子を指す。受精能獲得の完了は、精子が透明帯に結合し、リガンド誘導性の先体反応を起こす能力に現れる。精子受精能獲得の判定方法は、当技術分野において公知であり、例えば、現在利用されている最も一般的な精子−透明帯結合試験は、半透明帯検査(又はHZA)及び競合的インタクト透明帯結合検査である。半透明帯検査は、精子が受精能獲得を起こして卵母細胞に結合する能力を測定する。卵母細胞の無細胞性外被である透明帯に囲まれた死細胞の卵母細胞と共に精子をインキュベートする。受精能を獲得した精子は、透明帯に結合し、精子結合数を顕微鏡下でカウントする。この数は、試料中における正常に受精能を獲得した精子の数及び精子試料の受精能と相関する。例えば、Cross NL et al.Gamete Res.1986;15:213−26を参照されたい。
【0236】
一部の実施形態において、受精能獲得が向上した精子が提供され、これは、精子をエネルギー枯渇条件でインキュベートして精子を増強すること、その後、増強された精子に第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に又は順次提供することを含む方法の産物である。一部の実施形態において、精子受精能獲得の向上は、好適な対照精子と比べて約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は99%超であり得る。一部の実施形態において、精子受精能獲得の向上は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%であり得る。一部の実施形態において、精子受精能獲得の向上は、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1,000倍、少なくとも10,000倍であり得る。一部の実施形態において、精子受精能獲得は、10%〜200%、25%〜150%、50%〜100%又は70%〜90%向上し得る。一部の実施形態において、精子受精能獲得レベルは、受精能を獲得した精子が調製液中の全精子の少なくとも約5%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%、12.0%、12.5%、13.0%、13.5%、14.0%、14.5%、15.0%、15.5%、16.0%、16.5%、17.0%、17.5%、18.0%、18.5%、19.0%、19.5%、20.0%、20%、25%、30%、35%、40%、50%又はそれを超えるものを占め得るように向上する。精子受精能獲得の向上は、向上した精子機能を指し示している。
【0237】
受精能力
一部の実施形態において、精子機能は、精子が卵子を受精させる能力を含む。精子の受精能力は、例えば、精子侵入検査により決定することができる。精子侵入検査(SPA)は、ゴールデンハムスター卵子を利用し、この卵子は、その透明帯を除去すると、卵子侵入に対するあらゆる種特異性が失われる点で珍しい。この試験を行うことにより、精子が卵母細胞に侵入する能力が決定される(Rogers et al.,Fert.Ster.32:664,1979)。簡潔に言えば、市販の透明帯のないハムスター卵母細胞を使用することができる(Fertility Technologies、Natick,Mass.)。いかなる種の精子についても、この検査法には、ハムスター卵母細胞が好適である。精子をハムスター卵母細胞と3時間インキュベートする。インキュベーション後、卵母細胞をアセトラクモイド又は均等な染色剤で染色し、各卵母細胞に侵入する精子の数を顕微鏡下でカウントする。精子受精能力の別のパラメータは、頸管粘液に侵入する能力である。この侵入試験は、均等なインビトロ又はインビボのいずれでも行うことができる。簡潔に言えば、インビトロでは、頸管粘液(Tru−Trax、Fertility Technologies、Natick,Mass.)、典型的にはウシ頸管粘液が入った市販のキットを調製する。精子を走路の一端に置き、所与の時間後に精子が粘液中に侵入した距離を決定する。代わりに、精子の粘液侵入は、雌の体内で測定され得る。ある実施形態において、受精能力が向上した精子が提供され、これは、精子をエネルギー枯渇条件でインキュベートして精子を増強すること、その後、増強された精子に第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に又は順次提供することを含む方法の産物である。一部の実施形態において、受精能力の向上は、好適な対照精子と比べて約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は99%超であり得る。一部の実施形態において、受精能力の向上は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%であり得る。一部の実施形態において、受精能力の向上は、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1,000倍、少なくとも10,000倍であり得る。一部の実施形態において、受精能力は、10%〜200%、25%〜150%、50%〜100%又は70%〜90%向上し得る。一部の実施形態において、受精能力レベルは、卵子を受精させることが可能な精子の数が調製液中の全精子の少なくとも約5%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%、12.0%、12.5%、13.0%、13.5%、14.0%、14.5%、15.0%、15.5%、16.0%、16.5%、17.0%、17.5%、18.0%、18.5%、19.0%、19.5%、20.0%、20%、25%、30%、35%、40%、50%又はそれを超えるものとなるように向上する。受精能力の向上は、向上した精子機能及び向上した受精を指し示している。
【0238】
胚の発生
一部の実施形態において、精子機能は、胚の発生を含む。一部の実施形態では、本明細書の方法により調製される、向上した機能を有する精子に卵子への到達手段を提供することにより、受精を増進させ、ここで、受精を増進させることは、胚の発生を含み得る。一部の実施形態では、本明細書の方法により調製される、向上した機能を有する精子に体外で卵子への到達手段を提供し、従って、胚は、体外で発生する。一部の実施形態では、本明細書に開示される方法により調製される、向上した機能を有する精子に、精子のIUIによって体内で卵子への到達手段を提供し、従って、胚は、体内で発生する。一部の実施形態では、エネルギー欠損条件下でインキュベートされ、且つ第1のエネルギー源を提供された精子を雌対象の生殖路において授精させ、そのため、第2のエネルギー源を提供し、且つ卵子への到達手段を提供して胚を発生させることは、体内で行われることになる。一部の実施形態において、胚を体外で発生させる場合、胚は、後の使用のために凍結保存され得るか、又は更に体外培養されて胚の発育を可能にし得る。一部の実施形態において、胚は、凍結保存前及び/又は雌対象への注入前に少なくとも2細胞期まで発育させる。一部の実施形態において、胚は、更なる処理前に体外で2細胞期より後の発育段階まで発育させる。一部の実施形態において、胚は、更なる処理(例えば、凍結保存又は完全な子孫に発育させるための雌対象への注入)前に体外で胚盤胞期まで発育させる。生殖補助技術(ART)手技による間の胚の体外インキュベーション及び培養には、様々な好適な培地を利用可能であり、その種類及び組成は、当業者に周知である。好ましくは、培養培地は、少なくとも水、塩、栄養素、必須アミノ酸、ビタミン及びホルモンを含有し、1つ以上の成長因子も含み得る。種々の好適な培養培地、例えばアール培地、HamのF10培地及びヒト卵管液(HTF)培地が市販されている。本開示は、当技術分野において公知の方法による「フィーダー細胞」層上での胚の体外共培養も企図する。共培養に適切な「フィーダー細胞」としては、例えば、ウシ卵管細胞又はヒト卵管上皮細胞を挙げることができる。
【0239】
当業者は、本明細書に開示される方法により調製される、向上した機能を有する精子がもたらす利点が受精の向上に限られないことを理解するであろう。むしろ、本発明の方法及び調製液は、胚が生殖補助技術(ART)によって体外で作り出されるか、又は動物の生殖路において作り出されるかに関わらず、受精を増進させる治療としても等しく適用可能である。本発明の方法は、生殖補助による妊娠又は他の生殖補助なしの妊娠における受精、胚生存能、胚着床及び妊娠率の改善に適用可能である。本開示の実施形態は、雄動物の精子の受精能力を向上させる方法も提供する。
【0240】
本明細書に関連して、用語「生存能が向上した胚」及び「生存能が長期化した胚」とは、好適な対照精子によって発生した1つ又は複数の胚の生存可能性と比較した、本明細書に開示される方法及び調製の哺乳類精子、例えば1つ以上の向上した精子機能を有する哺乳類精子によって発生した1つ又は複数の胚の生存可能性の向上又は亢進を意味する。一部の実施形態において、胚は、生殖補助技術、例えばIVF又はICSIにより発生する。一部の実施形態において、胚は、人工授精により、雌哺乳類対象の生殖路において体内で発生する。
【0241】
本開示の目的上、胚生存能は、幾つもの指標に反映され得る。例えば、向上した胚生存能は、受精後の胚着床率の向上、着床前及び着床後胚致死率の低下、臨床妊娠率の向上又は出生率の向上をもたらし得る。従って、本開示は、胚のアポトーシス又は発育遅延を防止する方法及び動物における妊娠率を向上させる方法にも関する。胚生存能とは、体外又は体内での胚の生存能を指し得る。
【0242】
一部の実施形態において、生存能が向上した胚を発生させる能力を有する精子が提供され、これは、精子をエネルギー枯渇条件でインキュベートして精子を増強すること、その後、増強された精子に第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に又は順次提供することを含む方法の産物である。一部の実施形態では、向上した機能を有する精子に卵子への到達手段を提供することにより、受精を増進させる。一部の実施形態において、受精を増進させることは、生存能が向上した1つ又は複数の胚の発生を含む。一部の実施形態において、本明細書の方法により調製された精子によって卵子への到達時に発生する胚の生存能の向上は、好適な対照精子によって発生する胚と比べて約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は99%超であり得る。一部の実施形態において、胚生存能の向上は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%であり得る。一部の実施形態において、胚生存能の向上は、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1,000倍、少なくとも10,000倍であり得る。一部の実施形態において、胚生存能は、10%〜200%、25%〜150%、50%〜100%又は70%〜90%向上し得る。一部の実施形態において、生存能が向上した胚を発生させることのできる精子のレベルは、調製液中にある全精子の少なくとも約5%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%、12.0%、12.5%、13.0%、13.5%、14.0%、14.5%、15.0%、15.5%、16.0%、16.5%、17.0%、17.5%、18.0%、18.5%、19.0%、19.5%、20.0%、20%、25%、30%、35%、40%、50%又はそれを超える。生存能が向上した胚の発生は、向上した精子機能及び/又は向上した受精を指し示している。
【0243】
典型的には、胚の卵割段階は、培養の最初の3日間で起こる。体外発生させた胚は、胚移植により雌対象に移植される。「胚移植」は、1つ以上の胚及び/又は胚盤胞を子宮内又はファロピウス管内に置く手技である。従来のIVF法では、胚は、各胚が4細胞期になる受精2日後、又は胚が8細胞期になる受精3日後、又は胚が胚盤胞期になる受精5日後に子宮腔に移植される。培養5〜7日目に達したときの胚盤胞期の胚を使用することが望ましいであろうと認識されている。本開示によれば、一連の胚/胚盤胞発育に沿った任意の時点で胚移植が可能である。顕微鏡法の使用によるなどの目視観察を通して、胞胚腔が明らかに見てとれ、胚の容積の50%超を占めるようになったとき、胚盤胞又は胚は、子宮に移植できる状態にあると見なされる。体内環境であれば、この段階は、通常、受精後4〜5日で、胚がファロピウス管を通り抜けて子宮に到達して間もなく実現され得る。胚の発育段階は、顕微鏡法(例えば、Nikon Eclipse TE 2000−S顕微鏡)を使用した胚の目視観察により決定することができ、胚は、子宮への移植前に特定の決まった物理的又は形態学的特徴を同時に呈することになる。胚盤胞の成熟状態は、Gardner et al.,1998の分類に基づいて範囲II AB〜VI AAと決定されることになる。
【0244】
本明細書に開示される方法によれば、2細胞期発育段階、胚盤胞期発育段階まで発達する率又は子孫に発育する率及び生児出生率が向上した胚が発生する。一部の実施形態において、正常な発育段階(例えば、2細胞期、胚盤胞期、子孫への発育及び生児出生)を経て発育する能力を有する胚を発生させることのできる精子が提供され、これは、精子をエネルギー枯渇条件でインキュベートして精子を増強すること、その後、増強された精子に第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に又は順次提供することを含む方法の産物である。一部の実施形態では、向上した機能を有する精子に卵子への到達手段を提供することにより、受精を増進させる。一部の実施形態において、受精を増進させることは、正常な発育段階(例えば、2細胞期、胚盤胞期、子孫への発育及び生児出生)を経て発育する能力が向上した胚の発生を含む。一部の実施形態において、方法により調製された精子によって発生する、正常な発育段階を経て発達する胚の比率の向上は、好適な対照精子によって発生する胚と比べて約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は99%超であり得る。一部の実施形態において、正常な発育段階を経て発達する胚の比率の向上は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%であり得る。一部の実施形態において、正常な発育段階を経て発達する胚の比率の向上は、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1,000倍、少なくとも10,000倍であり得る。一部の実施形態において、正常な発育段階を経て発達する胚の比率は、10%〜200%、25%〜150%、50%〜100%又は70%〜90%向上し得る。一部の実施形態において、正常な発育段階を経て発達する能力を有する胚を発生させることのできる精子のレベルは、調製液中にある全精子の少なくとも約5%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%、12.0%、12.5%、13.0%、13.5%、14.0%、14.5%、15.0%、15.5%、16.0%、16.5%、17.0%、17.5%、18.0%、18.5%、19.0%、19.5%、20.0%、20%、25%、30%、35%、40%、50%又はそれを超える。1つ以上の正常な発育段階を経て発達する能力を有する胚の発生は、向上した精子機能及び/又は向上した受精を指し示している。
【0245】
体内では、胚は、子宮の壁に付着又は着床し、胎盤を作り出し、妊娠期間中に分娩時まで胎児子孫に発育する。1つ以上の胚が子宮内膜に着床したかどうか、即ち手技によって妊娠開始に成功したかどうかを決定するための検査は、移植から2週間後、例えばb−hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)に関する血液検査及び当技術分野において一般に公知の他の技法を用いて実施される。Zer et al.に対する米国特許第4,315,908号明細書は、ラジオイムノアッセイによる尿中hCGの検出方法を説明している。O’Connor et al.に対する米国特許第8,163,508号明細書は、試料中における初期妊娠関連アイソフォームのhCGの量を決定することによるhCG法による対象の妊娠予測方法及びキットを提供する。かかる診断法及び他の方法は、本開示の範囲内で有用である。
【0246】
一部の実施形態において、着床率が改善した又は妊娠率が改善した胚を発生させる能力を有する精子が提供され、これは、精子をエネルギー枯渇条件でインキュベートして精子を増強すること、その後、増強された精子に第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に又は順次提供することを含む方法の産物である。一部の実施形態では、向上した機能を有する精子に卵子への到達手段を提供することにより、受精を増進させる。一部の実施形態において、受精を増進させることは、着床率が改善した又は妊娠率が改善した胚の発生を含む。一部の実施形態において、本明細書の方法により調製された精子によって発生する胚の着床率又は胚の着床時の妊娠率の向上は、好適な対照精子によって発生する胚と比べて約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は99%超であり得る。一部の実施形態において、胚着床率又は妊娠率の向上は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%であり得る。一部の実施形態において、胚着床率又は妊娠率の向上は、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1,000倍、少なくとも10,000倍であり得る。一部の実施形態において、胚着床率又は妊娠率は、10%〜200%、25%〜150%、50%〜100%又は70%〜90%向上し得る。一部の実施形態において、着床率が向上した又は妊娠率が改善した胚を発生させることのできる精子のレベルは、調製液中にある全精子の少なくとも約5%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%、12.0%、12.5%、13.0%、13.5%、14.0%、14.5%、15.0%、15.5%、16.0%、16.5%、17.0%、17.5%、18.0%、18.5%、19.0%、19.5%、20.0%、20%、25%、30%、35%、40%、50%又はそれを超える。着床が改善した(即ち着床率が向上した)又は着床時の妊娠率が向上した胚の発生は、向上した精子機能及び/又は向上した受精を指し示している。
【0247】
オートファジー
一部の実施形態において、向上した精子機能は、オートファジーの向上を含む。オートファジーの向上を決定する方法は、当技術分野において公知である。例えば、オートファジーの向上は、オートファジーマーカータンパク質の1つ以上の向上によって決定することができる。マーカータンパク質の向上の検出は、イムノブロッティングなどの従来方法によって行うことができる。オートファジーマーカータンパク質の非限定的な例としては、Atg 5、Atg 16、p62、LC3−II、AMPK、m−TOR及びベクリン1が挙げられる。LC3−IIは、オートファジーの研究に広く使用されており、哺乳類のオートファゴソームマーカーと考えられている。LC3−II/LC3−I比をオートファジー向上の決定因子として用いることができる。1つ以上のオートファジーマーカータンパク質(例えば、Atg 5、Atg 16、p62及びLC3−II、AMPK、m−TOR及びベクリン1)のレベルの向上及び/又はLC3−II/LC3−I比の向上は、精子機能の向上を指し示すものであり得る。一部の実施形態において、オートファジーの向上は、細胞RNAレベル(マイクロRNAを含む低分子非コードRNAなど)の低下によって指示され得る。
【0248】
一部の実施形態において、オートファジーが向上した精子が提供され、これは、精子をエネルギー枯渇条件でインキュベートして精子を増強すること、その後、増強された精子に第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を同時に又は順次提供することを含む方法の産物である。一部の実施形態において、オートファジーの向上は、好適な対照精子と比べて約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は99%超であり得る。一部の実施形態において、精子オートファジーの向上は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%であり得る。一部の実施形態において、精子オートファジーの向上は、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも1,000倍、少なくとも10,000倍であり得る。一部の実施形態において、精子オートファジーは、10%〜200%、25%〜150%、50%〜100%又は70%〜90%向上し得る。一部の実施形態において、精子オートファジーレベルは、オートファジーが向上した精子が調製液中の全精子の少なくとも約5%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%、12.0%、12.5%、13.0%、13.5%、14.0%、14.5%、15.0%、15.5%、16.0%、16.5%、17.0%、17.5%、18.0%、18.5%、19.0%、19.5%、20.0%、20%、25%、30%、35%、40%、50%又はそれを超えるものを占め得るように向上する。精子オートファジーの向上は、向上した精子機能を指し示している。
【0249】
飢餓
「エネルギー枯渇」は、枯渇によるか、低減(有効量を下回るまで)によるか、或いはかかるエネルギー源の除去又は酵素機構若しくは取込み輸送機構の阻害によるかに関わらず、細胞のエネルギー産生量を抑制又は制限することを意味する。一部の実施形態において、エネルギー枯渇では、解糖、糖新生、クレブス回路又は酸化的リン酸化の1つ以上が阻害され、詳細な実施形態では、エネルギー枯渇には、解糖系エネルギー枯渇が含まれる。例示的な解糖系エネルギー枯渇条件には、精子の培地中にあるグルコース(他の実施形態としては、マンノース、フルクトース、デキストロース、スクロース及びグルコースとの組み合わせを含めたこれらの組み合わせを挙げることができる)などの解糖され易い糖を実質的に全て除去すること、又は解糖され易い糖の濃度を低減すること、又は解糖、糖新生若しくは解糖され易い糖の取込み輸送体の阻害薬を使用することが含まれる。精子の主要なエネルギー源は、グルコースであるため、好ましい実施形態において、エネルギー枯渇は、グルコースエネルギー枯渇(飢餓を含む)であり、これは、糖新生基質(例えば、ピルビン酸又は一部の実施形態では乳酸(これは、乳酸デヒドロゲナーゼによってピルビン酸に変換され得る)を含む)及びクレブス回路基質(アセチルCoA、クエン酸、イソクエン酸、α−ケトグルタル酸、スクシニル−CoA、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸及びオキサロ酢酸)の枯渇(飢餓を含む)を更に伴う。
【0250】
一部の実施形態において、エネルギー枯渇は、例えば、約0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03mM未満のグルコース又はそれより低い、約0.02又は0.01mM未満など、例えば約0.01mM未満の低グルコース濃度を含む。一部の実施形態において、エネルギー枯渇とは、実質的にグルコース不含の条件を意味する。本発明は、有効量の第1及び第2のエネルギー源の段階的提供を伴う方法を提供し、当業者は、本発明の範囲内に包含される一部の実施形態では無効量の解糖系エネルギー源がエネルギー枯渇であり、例えばかかる実施形態では前述の低グルコース濃度をエネルギー枯渇として用い得ることを理解するであろう。
【0251】
一部の実施形態において、エネルギー枯渇は、例えば、約0.15、0.10、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.005、0.003、0.002mM未満又はそれより低い低ピルビン酸濃度を含む。一部の実施形態において、エネルギー枯渇とは、実質的にピルビン酸不含の条件を意味する。上記に指摘し、且つ解糖系エネルギー源についてグルコースで例示したとおり、当業者は、本発明の範囲内に包含される一部の実施形態では無効量の糖新生基質がエネルギー枯渇であり、例えばかかる実施形態では前述の低ピルビン酸濃度をエネルギー枯渇として用い得ることも理解するであろう。
【0252】
一部の詳細な実施形態において、エネルギー枯渇は、低グルコース濃度及び低ピルビン酸濃度などの実質的に炭素源を含まない条件、例えば実質的にグルコース不含且つ実質的にピルビン酸不含の条件を含む。
【0253】
一部の実施形態において、エネルギー枯渇は、少なくとも約10、20、30、40、50、60分、例えば少なくとも約30、40、45、50、55、60、90、120、150又は180分又は1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は10時間にわたる。
【0254】
本発明に従うエネルギー枯渇は、精子を増強する。精子を「増強する」又は「増強すること」とは、好適な誘導時、例えばエネルギー枯渇を取り除くか又は元に戻して、例えば精子を受精能獲得条件又は段階的エネルギー再導入でインキュベーションしたとき、超活性化精子、中間精子又は直進運動能精子の比率の向上(又は2つ(超活性化と中間など)若しくは3つ全ての組み合わせの比率の向上)及び/又は曲線速度の向上の1つ以上など、精子が運動能を急速に回復するように精子を条件付けることを意味する。
【0255】
段階的エネルギー再導入
精子の増強に十分なエネルギー枯渇後、増強された精子に有効量の第1のエネルギー源、次に有効量の第2のエネルギー源が提供される。一部の実施形態において、精子の増強後に有効量の第1のエネルギー源を提供することと、有効量の第2のエネルギー源を提供することとの間の時間は、少なくとも約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55又は60分、例えば少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20分、例えば少なくとも約5〜15分である。一部の実施形態において、精子の増強後に有効量の第1のエネルギー源を提供することと、有効量の第2のエネルギー源を提供することとの間の時間は、より長く、例えば少なくとも2、3、4若しくは5時間などであるか又はそれを超える。
【0256】
一部の実施形態において、糖新生基質は、例えば、約0.15〜0.66mM、例えば約0.20〜0.50mM、例えば約0.25〜0.40mMなど、又は約0.30mMの濃度のピルビン酸である。前述の濃度は、例えば、本発明により提供される方法において第1又は第2のいずれかのエネルギー源として提供されるときの糖新生基質の例示的有効量である。当業者は、本発明の教示に従い、精子機能を向上させるその能力に基づいて糖新生基質の他の有効量を認識するであろう。一部の実施形態では、第1のエネルギー源がピルビン酸などの糖新生基質である。一部の実施形態では、第2のエネルギー源がピルビン酸などの糖新生基質である。
【0257】
一部の実施形態において、解糖系エネルギー源は、例えば、約0.6mM〜10.0mM、1.0〜7.0mM、2.5〜7.0mM、3.5〜6.5mM又は5mM、例えば少なくとも約1、2、3又は4mMの濃度のグルコースである。前述の濃度は、例えば、本発明により提供される方法において第1又は第2のいずれかのエネルギー源として提供されるときの解糖系エネルギー源の例示的有効量である。当業者は、本発明の教示に従い、精子機能を向上させるその能力に基づいて解糖系エネルギー源の他の有効量を認識するであろう。一部の実施形態では、第1のエネルギー源がグルコースなどの解糖系エネルギー源である。一部の実施形態では、第2のエネルギー源がグルコースなどの解糖系エネルギー源である。一部の実施形態では、第1のエネルギー源がグルコースなどの解糖系エネルギー源である一方、第2のエネルギー源がピルビン酸などの糖新生基質である。
【0258】
本発明により提供される方法の一部の実施形態において調節される追加的な条件は、容量オスモル濃度(mOsm)又は重量オスモル濃度(mOsm/kg)である。一部の実施形態において、本方法は、エネルギー枯渇中、約200〜280mOsm(mOsm/kg)、例えば約220〜260、225〜255、230〜250mOsm(mOsm/kg)の範囲の容量オスモル濃度(又は重量オスモル濃度)で実施され、任意選択で、第1又は第2のエネルギー源を添加すると、容量オスモル濃度(又は重量オスモル濃度)は、少なくとも約270、275、280、285、290又は295mOsm(mOsm/kg)に増加する。
【0259】
本開示の方法における使用に好適な糖新生基質としては、限定はされないが、ピルビン酸、乳酸、コハク酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、グリセロール、アセチルCoA、イソクエン酸、α−ケトグルタル酸、スクシニル−CoA、オキサロ酢酸又は糖新生基質の生理学的に許容可能な誘導体、塩、エステル、ポリマー若しくはα−ケト類似体が挙げられる。任意の糖新生アミノ酸又はその生理学的に許容可能な誘導体、塩、エステル、若しくはポリマー、若しくはα−ケト類似体も糖新生基質として好適である。糖新生アミノ酸の非限定的な例としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、シスチン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、メチオニン、プロリン、セリン、スレオニン及びバリンが挙げられる。ピルビン酸の薬学的に許容可能な塩の非限定的な例は、ピルビン酸リチウム、ピルビン酸ナトリウム、ピルビン酸カリウム、ピルビン酸マグネシウム、ピルビン酸カルシウム及びピルビン酸亜鉛である。一部の実施形態において、ピルビン酸は、ピルビン酸ナトリウムである。乳酸の塩の非限定的な例としては、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸マグネシウム、乳酸カルシウム、乳酸亜鉛及び乳酸マンガンが挙げられる。本明細書に開示される方法の糖新生基質は、上記に挙げた糖新生基質のいずれか1つであり得る。
【0260】
本開示の方法における使用に好適な解糖系エネルギー源としては、限定はされないが、解糖の炭素源が挙げられる。本明細書に開示される方法において有用な解糖系エネルギー源の非限定的な例としては、単糖類(フルクトース、グルコース、ガラクトース及びマンノースなど)及び二糖類(スクロース、ラクトース、マルトース及びトレハロース)並びに多糖類、ガラクトース、オリゴ糖類、そのポリマーが挙げられる。
【0261】
本発明により提供される方法の一部の実施形態において、精子に追加的な成分が提供される。例えば、少なくとも第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源と組み合わせて、NADH、NAD+、クエン酸、AMP、ADP又はこれらの組み合わせなど、解糖系の上流及び下流の他の成分が添加される。
【0262】
本発明により提供される方法の一部の実施形態は、精子の評価を含む。例えば、一部の実施形態において、本方法は、例えば、CASAによる精子運動能の1つ以上の定量的評価及び/又はDNA断片化(例えば、TUNELによる)、脂質過酸化、活性酸素種又はこれらの組み合わせなど、精子品質を測定することを含む。
【0263】
本発明により提供される方法は、向上した精子機能を実現する。一部の実施形態では、好適な対照精子と比べたものである。一部の実施形態において、好適な対照は、飢餓ステップのない標準受精能獲得培地(C−HTF)中の精子である一方、一部の実施形態において、好適な対照は、3時間の飢餓後の − 例えば、飢餓及びエネルギー源の再導入を段階的に分けない有効量のエネルギー源の再導入後の − 標準受精能獲得培地(C−HTF)中の精子である。
【0264】
哺乳類精子
本明細書に開示される方法は、精子の1つ以上の機能を向上させることを含む。本開示は、受精を増進させることにも関する。向上した機能を有する精子の調製液も提供される。本明細書で使用されるとき、精子は、脊椎動物、好ましくは哺乳類からのものであり得る。従って、本開示の精子は、哺乳類精子であり得る。
【0265】
哺乳類としては、限定なしに、ヒト、霊長類、げっ歯類、野生の又は家畜化された動物であって、野生化動物、農業動物、競技用動物及びペットを含むものが挙げられる。げっ歯類としては、例えば、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギ及びハムスターが挙げられる。家畜動物及び狩猟動物としては、例えば、雌ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、スイギュウ、ネコ科動物種、例えばイエネコ及びイヌ科動物種、例えばイヌ、キツネ、オオカミ、鳥類種、例えばニワトリ、エミュー、ダチョウ及び魚類、例えばマス、ナマズ及びサケが挙げられる。哺乳類精子は、偶蹄目の有蹄類(例えば、ブタ、ペッカリー、カバ、ラクダ、ラマ、マメジカ(ネズミジカ)、シカ、キリン、プロングホーン、レイヨウ、ヤギ亜科のレイヨウに類する動物(goat−antelope)(これには、ヒツジ、ヤギなどが含まれる)又はウシ)又は奇蹄目の有蹄類(例えば、ウマ、バク及びサイ)などの有蹄類、非ヒト霊長類(例えば、サル、チンパンジー、カニクイザル、クモザル及びマカク、例えばアカゲザル)、イヌ科(Canidae)(例えば、イヌ)又はネコを含めた非ヒト哺乳類からのものであり得る。哺乳類精子は、ローラシア獣上目(Laurasiatheria)のメンバーからのものであり得る。ローラシア獣上目(Laurasiatheria)としては、Waddell et al.,“Towards Resolving the Interordinal Relationships of Placental Mammals”.Systematic Biology 48(1):1−5(1999)に記載されるとおりの一群の哺乳類を挙げることができる。ローラシア獣上目(Laurasiatheria)のメンバーとしては、真無盲腸目(Eulipotyphla)(ハリネズミ、トガリネズミ及びモグラ)、奇蹄目(Perissodactyla)(サイ、ウマ及びバク)、食肉目(Carnivora)(肉食動物)、鯨偶蹄目(Cetartiodactyla)(偶蹄類及びクジラ類)、翼手目(Chiroptera)(コウモリ)及び鱗甲目(Pholidota)(センザンコウ)を挙げることができる。ローラシア獣上目(Laurasiatheria)のメンバーは、有蹄類、例えば奇蹄目の有蹄類又は偶蹄目の有蹄類であり得る。有蹄類は、ブタであり得る。哺乳類精子は、ネコ又はイヌなど、食肉目(Carnivora)のメンバーからのものであり得る。一部の実施形態において、哺乳類精子は、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ又はマウス精子である。一部の実施形態において、哺乳類精子は、ヒト精子である。
【0266】
一部の実施形態において、哺乳類精子は、健常雄哺乳類からのものである。一部の実施形態において、哺乳類精子は、精子機能不全、例えば低精子数、精子運動能の低下及び精子の形態異常を患っている雄からのものである。一部の実施形態において、哺乳類精子は、低受精能の雄又は精子減少症の雄からのものであり得る。哺乳類精子は、例えば、精子減少症、奇形精子症、精子無力症又は乏精子・精子無力・奇形精子症を患っている雄からのものであり得る。精子減少症とは、2000万/ml未満の精子濃度によって特徴付けられる病態を指す。精子無力症とは、精子運動能の低下によって特徴付けられる病態を指す。奇形精子症とは、形態異常のある精子の存在によって特徴付けられる病態を指す。乏精子・精子無力・奇形精子症とは、乏精子症(精子数が少ない)、精子無力症(精子の運動不良)及び奇形精子症(異常な精子形状)を含む病態を指す。一部の実施形態において、精子は、例えば、精子数が1ミリリットル当たり約2000万、1900万、1800万、1800万、1600万、1500万、1400万、1300万、1200万、1100万、1000万、900万、800万、700万、600万、500万、400万、300万、200万個を下回る精子、例えば1ミリリットル当たり1500万個未満の精子である低受精能のヒト男性又は精子減少症のヒト男性から入手される。
【0267】
一部の実施形態において、エネルギー枯渇に先立ち精子が精液から濃縮される(又は単離される)。密度勾配遠心法、スイムアップ法、マイクロフルイディクス又はこれらの組み合わせを含め、本発明に従って任意の精子濃縮又は単離方法を用いることができる。
【0268】
本発明により提供される方法では、新鮮な精子又は保存ストックからの精子のいずれも使用され得る。例えば、一部の実施形態において、精子は、治療前に低温貯蔵から回収される。一部の実施形態において、精子は、治療前に非低温貯蔵から回収される。一部の実施形態において、精子は、治療前に保存培地に提供される。一部の実施形態において、保存培地中の精子は、エネルギー枯渇条件下でのインキュベーション前に低温条件に貯蔵される。一部の条件では、保存培地中の精子は、エネルギー枯渇条件下でのインキュベーション前に非低温条件に貯蔵される。
【0269】
一部の実施形態において、保存培地は、弱酸性pHを含み、且つ約300〜400mOsm/kg、例えば約300〜380、320〜370、330〜370、340〜360、例えば約320、330、340、350、360、370又は380、例えば約350mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する緩衝溶液である。一部の実施形態において、本発明により提供される保存培地の重量オスモル濃度は、約320〜340mOsm/kgである。「弱酸性」pHとは、7未満5超を意味する。一部の実施形態において、弱酸性pHは、約6〜7、例えば約6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.7、6.8、6.9であるか又はそれより高く、且つ7.0より低い(6.99など)、例えば約6.5〜6.99、例えば約6.7〜6.9など、例えば約6.8である。一部の実施形態において、保存培地は、約6.7〜6.9のpHを有し、両性イオン緩衝剤、約0.25〜0.35Mの濃度のグルコース、抗生物質、約340〜360mOsm/kgの重量オスモル濃度、約2〜4%(W/V)の濃度のBSA又はHSAを含む(又はそれから本質的になる)緩衝溶液であり、ここで、この保存培地中に4℃で最長12日間にわたって貯蔵された精子は、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも60%の運動精子を維持し、任意選択で、培地は、卵黄を含有しない。
【0270】
本発明により提供される方法では、1回の射精液の分割量又は射精液全量を含め、様々な分量の精子を使用することができる。一部の実施形態において、精子は、2回分以上の射精液(例えば、2、3、4、5、6回分又はそれを超える射精液)からプールされる。
【0271】
保存培地
一態様において、本発明は、精子保存培地を提供する。本発明により提供されるこれらの保存培地は、有利には、本発明により提供される方法(例えば、向上した精子機能を誘導する、受精を増進させる、改善された適応度を有する子孫を作製する等)であって、一部の実施形態では、本発明により提供される様々なキットを使用して実施することができ、従って特定の実施形態では、本発明により提供される精子調製液が作製されることになる方法及び/又は生殖補助方法を含めた受精方法など、本発明により提供される更なる方法における使用に取り入れることができる。本発明により提供されるこれらの保存培地は、有利には、本発明により提供されるキットに取り入れることができ、これらのキットは、一部の実施形態では、本発明により提供される様々な方法であって、従って特定の実施形態では、本発明により提供される精子調製液が作製されることになる方法の実施に有用であり、且つ/又は向上した精子機能を誘導する、受精を増進させる、改善された適応度を有する子孫を作製するなどの本発明により提供される更なる方法、生殖補助方法を含めた受精方法において有用であり得る。一部の実施形態において、本明細書に開示される方法の実施に先立ち保存培地から精子が回収される。一部の実施形態において、保存培地からの精子の回収は、例えば、本明細書に開示されるとおりのキット又はその構成品を使用した精子試料の濃縮、洗浄又は希釈を含む。一部の実施形態において、本開示の精子又は精子調製液は、本明細書に記載される方法であって、例えば本明細書に開示されるキットを使用して実施される方法の実施後、保存培地に貯蔵することができる。
【0272】
本発明により提供される保存培地は、弱酸性pHを含み、且つ約300〜400mOsm/kg、例えば約300〜380、320〜370、330〜370、340〜360、例えば約320、330、340、350、360、370又は380、例えば約350mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する緩衝溶液を含む。特定の他の実施形態において、本発明により提供される保存培地の重量オスモル濃度は、約320〜340mOsm/kgである。「弱酸性」pHとは、7未満5超を意味する。一部の実施形態において、弱酸性pHは、約6〜7、例えば約6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.7、6.8、6.9であるか又はそれより高く、且つ7.0より低い(6.99など)、例えば約6.5〜6.99、例えば約6.7〜6.9など、例えば約6.8である。これらの保存培地は、以下に記載する実施形態を含め、「本発明により提供される1つ又は複数の保存培地」又は「本発明により提供される1つ又は複数の精子保存培地」などと称される。
【0273】
「精子保存」は、例えば、精子の受精能獲得を誘導することが公知の条件で運動能を回復する能力によって評価したとき、時間が経っても精子の生存能及び機能を維持することを指す。本発明により提供される保存培地及び本発明により提供される前記保存培地に精子を保存することを含む方法は、有利には、かかる精子機能を保存すること、精子の損傷及び分解を抑えること又はこれらの組み合わせの1つ以上を行い得る。特定の実施形態において、Molina et al.2018(doi.org/10.3389/fcell.2018.00072)に開示されるものなど、当技術分野において公知の技法を用いて受精能獲得が誘導され、測定される − 簡潔に言えば、受精能獲得は、5mg/mlヒト血清アルブミン及び25mM重炭酸ナトリウムを補足した変法ヒト卵管液(mHTF)培地(HEPES 21mM、NaCl 97.8mM、KCl 4.7mM、KHPO 0.37mM、MgSO 0.2mM、CaCl 2mM、グルコース2.78mM、ピルビン酸0.33mM、乳酸21.4mM)において37℃及び5%COで4時間実施される。一部の実施形態において、精子保存は、静止状態を急速に(例えば、4℃で貯蔵してから約1、2、3、4、8、12、16、20又は24時間以内、一部の実施形態では、4℃で貯蔵してから約24時間以内に誘導することを伴い、その間、受精能獲得条件(前掲)で運動精子を急速に(例えば、約1、2、3若しくは4時間以内又はそれ未満、一部の実施形態では約30、40、50又は60分以内に)回復する能力、例えば保存前の運動精子数の、即ち対照と比べて60、65、70、75、80、85、90、95%又はそれを超える、例えば96、97、98、99%を回復する能力が保持されている。従って、一部の実施形態において、静止状態の急速誘導後、本発明により提供される保存培地は、5mg/mlヒト血清アルブミン及び25mM重炭酸ナトリウムを補足した変法ヒト卵管液(mHTF)培地において37℃及び5%COでインキュベートしたとき、精子濃縮後、静止前に取った対照試料と比べて高い割合(例えば、60、65、70、75、80、85、90、95%又はそれを超える)の運動精子数を提供する。
【0274】
特定の実施形態において、本発明により提供される保存培地は、卵黄、添加電解質(緩衝剤、炭素源、任意選択で血清アルブミン又は任意選択で抗生物質に帰されるもの以外)、グリセロール、レシチン又はデキストロースの1つ以上(即ち1、2、3、4つ又は5つ全て)を(完全に又はかなりの量)欠いている。他の実施形態において、保存培地は、グリセロールなどの凍結保護物質を含み得る。特定の実施形態において、本発明により提供される精子保存培地は、オスモライト(カルシウムなどのイオン成分を含む)、脂質、粘度調整剤、ステロール、抗酸化剤(トレハロースなど)、抗炎症剤(例えば、ドキシサイクリン)及び前述の組み合わせを更に含む追加的な成分も含み得る。
【0275】
一部の実施形態において、本発明により提供される精子保存培地は、グルコース、フルクトース、マンノース、スクロース又はこれらの組み合わせ(例えば、1、2、3つ又は4つ全て)などの炭素源を含む。一部の実施形態において、炭素源は、グルコースを含む。特定の実施形態において、グルコースが主要な(50%超の)又は実質的に唯一の炭素源である。特定の実施形態において、本発明により提供される保存培地中において、グルコースは、約0.1〜0.7M、例えば約0.2〜0.5Mなど、例えば約0.25〜0.36、0.25〜0.35、0.30〜0.36若しくは0.3〜0.33M又は約0.20、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.30、0.31、0.32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37Mの濃度で存在する。一部の実施形態において、本発明により提供される保存培地中では、グルコースなどの炭素源が主要な(例えば、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98%又はそれを超えるものなど、50%超の)オスモライトであるが、しかし、主要なオスモライトの濃度は、本発明に従う重量オスモル濃度、例えば300〜400mOsm/kgが維持されるように容易に調整することができる。
【0276】
本発明により提供される精子保存は、弱酸性条件の調節を促進するための緩衝剤を含む。一部の実施形態において、緩衝剤は、重炭酸緩衝剤でない。特定の実施形態において、緩衝剤は、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)又はこれらの組み合わせなど、両性イオン緩衝剤である。1つ又は複数の緩衝剤成分の濃度は、様々であり得、例えば約1〜100mM、例えば1〜50mM、1〜40mM、1〜30mM、1〜20mM、5〜15mM、例えば約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20mM、例えば約10mMであり得る。特定の詳細な実施形態において、緩衝剤は、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)又はこれらの組み合わせである。一部の実施形態において、緩衝剤は、HEPESである。他の実施形態において、それは、MOPSである。なおも他の実施形態において、緩衝剤は、HEPESとMOPSとの混合物である。かかる実施形態において、HEPES及びMOPSは、10:90、20:80、30:70、40:60、50:50、60:40、70:30、80:20又は90:10の比率において、例えば10mMの緩衝剤中、HEPES及びMOPSの各々が5mMで存在するHEPESとMOPSとの50:50混合物で使用される。
【0277】
本発明により提供される精子保存培地は、一部の実施形態において、抗生物質を含む。種々の抗生物質が本発明での使用に好適である1つの例示的なクラスは、ゲンタマイシンなどのアミノグリコシドである。これらの詳細な実施形態において、ゲンタマイシンは、本発明により提供される保存培地中に約5〜20μg/ml、例えば約10μg/mlの濃度で存在し得る。
【0278】
本発明により提供される保存培地の追加的な成分は、一部の実施形態において、血清アルブミンである。本発明に従って複数の血清アルブミン源が有用であるが、一部の実施形態では、血清アルブミンは、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)又はこれらの組み合わせである。血清アルブミンが存在するとき、特定の実施形態において、血清アルブミン(例えば、BSA、HSA又は組み合わせ)は、約1.5〜4.5%(W/V)、例えば約2〜4%、約2.5〜3.5%又は約3%の濃度で存在する。
【0279】
特定の実施形態において、本発明により提供される精子保存培地は、両性イオン緩衝剤(上述のとおり)並びに約6.6〜6.9のpH、約0.25〜0.36Mの濃度のグルコース及び約320〜380mOsm/kgの重量オスモル濃度を含み、ここで、詳細な実施形態では、培地は、卵黄を含まない。本明細書の教示に従えば、これらの実施形態は、ゲンタマイシンなどの抗生物質も更に含み得る。一部の実施形態において、保存培地は、pHが約6.8であり(例えば、HEPES、MOPS又はこれらの組み合わせを使用する)、グルコース濃度が約0.330mMであり、重量オスモル濃度が約350mOsm/kgであり、ここで、血清アルブミンは、BSA又はHSAであり、任意選択で、BSA又はHSAは、約2〜4%(W/V)の濃度で存在する。
【0280】
上述のとおり、理論によって拘束されるものではないが、本発明により提供される精子保存培地は、有利には、精子損傷を最小限に抑えつつ、高レベルの精子機能を保つ。本発明により提供される精子保存培地の特定の実施形態において、保存培地中に約4℃で最長4、5、6、7、8、9、10、11、12日間又はそれを超えて貯蔵された精子は、受精能獲得条件でインキュベートした後、保存及び冷蔵前に試料中に存在する総運動精子数など、好適な対照と比べて少なくとも約40、45、50、55、60、65、70、75、80%又はそれを超える運動精子を維持する。例えば、特定の実施形態において、本発明により提供される保存培地中に約4℃で7日間貯蔵された精子は、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも約40、45、50、55、60、65、70、75、80%又はそれを超える運動精子を有する。一部の実施形態において、本発明により提供される保存培地中に約4℃で4、5、6、7、8、9、10、11、12日間又はそれを超えて貯蔵された精子は、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも約75%の運動精子を有する。一部の実施形態において、本発明により提供される保存培地中に約4℃で7日間貯蔵された精子は、保存培地中での貯蔵前の運動精子率と比べて1%、2、5%、10%、15%又は20%以上低い運動精子率を有する。
【0281】
精子機能の保持に加えて、特定の実施形態では、対照冷蔵又は凍結保存試料と比べた本発明により提供される保存培地中に貯蔵された精子の品質は、7日間のインキュベーション後、例えばTUNEL染色の減少、脂質過酸化の減少及び活性酸素種の減少又はこれらの組み合わせにより明らかである。例えば、一部の実施形態において、本発明により提供される保存培地中に貯蔵された精子は、例えば、本発明により提供される培地又は凍結保存培地(ゲンタマイシン及び12%グリセロール含有TYB)のいずれかにおける7日間の貯蔵及び解凍/回復後、低温貯蔵した細胞と比べて少なくとも:30、40、50、55、60、65、70、80、85、90、95%又はそれを超えるTUNEL染色の減少を呈する。特定の実施形態において、TUNEL染色は、Simon et al.(Hum Reprod.2014 May;29(5):904−17の方法を用いて実施される。Gorczyca et al.Int J Oncol 1(6):639−48(1992)による追加的なアッセイを用い得る。特定の実施形態において、本発明により提供される保存培地中に貯蔵された精子は、例えば、本発明により提供される培地又は凍結保存培地(ゲンタマイシン及び12%グリセロール含有TYB)のいずれかにおける7日間の貯蔵及び解凍/回復後、BODIPY C11を使用したフローサイトメトリーにより測定したとき、低温貯蔵した細胞と比べて少なくとも:30、40、50、55、60、65、70、80、85、90、95%又はそれを超える脂質過酸化の減少を呈する。特定の実施形態において、脂質過酸化は、Naguib,Anal Biochem.265(2):290−8(1998)又はPap et al.,FEBS Lett.453(3):278−82(1999)の方法によって判定される。特定の実施形態において、本発明により提供される保存培地中に貯蔵された精子は、例えば、本発明により提供される培地又は凍結保存培地(ゲンタマイシン及び12%グリセロール含有TYB)のいずれかにおける7日間の貯蔵及び解凍/回復後、低温貯蔵した細胞と比べて少なくとも:30、40、50、55、60、65、70、80、85、90、95%又はそれを超える活性酸素種の減少を呈する。
【0282】
特定の実施形態において、本発明により提供される任意の培地が滅菌製剤として提供される。かかる滅菌製剤は、密閉滅菌容器内にあり得る。特定の実施形態において、滅菌製剤は、液体製剤である。他の実施形態において、培地は、凍結乾燥される。当業者が理解するであろうとおり、凍結乾燥製剤は、実質的に水を含まないが、例えば滅菌蒸留水による再構成時にその製剤が本発明により提供される培地、特に本発明に従うpH、重量オスモル濃度及び他の成分濃度のものとなるように製剤化される。
【0283】
従って、特定の例示的実施形態において、本発明は、約6.7〜6.9のpHを有し、両性イオン緩衝剤、約0.25〜0.35Mの濃度のグルコース、約340〜360mOsm/kgの重量オスモル濃度、抗生物質、約2〜4%(W/V)の濃度のBSA又はHSAを含む(又はそれから本質的になる)滅菌液である精子保存培地を提供し、ここで、この保存培地中に4℃で最長14日間貯蔵された精子は、受精能獲得条件への移し替え時、好適な対照、時間0における運動精子数と比べて少なくとも60%の運動精子を維持する。ここで、詳細な実施形態に例示されているが、本発明により提供されるかかる詳細な保存培地の成分は、特定の実施形態において本発明により提供されるかかる保存培地が卵黄を含まず、且つ任意選択で上掲の指摘される他の成分を欠き得る(又は含み得る)ことを含め、上記の例示のとおり様々であり得る。
【0284】
本発明の関連する態様は、一部の実施形態では生存精子を含む追加的な成分と共に、本発明により提供される保存培地を含む組成物である。一部の実施形態において、精子は、精液から濃縮される(又は単離される)。種々の精子濃縮又は単離手段は、遠心(密度勾配遠心法など)、スイムアップ法、ろ過、マイクロフルイディクス又はこれらの組み合わせによることを含めて可能である。特定の実施形態において、生存精子は、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウサギ、ネコ、イヌ又は霊長類精子など、哺乳類精子である。特定の実施形態において、精子は、ヒトからのものである。一部の実施形態において、ヒト対象は、精子数の減少を呈し、例えば精子減少症であり、例えば精子数が1ミリリットル当たり約2000万、1900万、1800万、1800万、1600万、1500万、1400万、1300万、1200万、1100万、1000万、900万、800万、700万、600万、500万、400万、300万、200万個を下回る精子、例えば1ミリリットル当たり1500万個未満の精子である。一部の実施形態において、精子は、2回分以上の射精液、例えば2、3、4、5、6回分又はそれを超える射精液からのものである。
【0285】
従って、本発明により提供される保存培地に従えば、特定の例示的実施形態において、本発明は、一部の実施形態では生存精子を含む追加的な成分と共に液体精子保存培地を含む組成物を提供し、この液体精子保存培地は、約6.7〜6.9のpHを有し、両性イオン緩衝剤、約0.25〜0.35Mの濃度のグルコース、約340〜360mOsm/kgの重量オスモル濃度、抗生物質、約2〜4%(W/V)の濃度のBSA又はHSAから本質的になり、ここで、4℃で最長12日間貯蔵したとき、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも60%の精子が運動性を有する。ここで、詳細な実施形態に例示されているが、一部の実施形態では生存精子を含む追加的な成分と共に液体精子保存培地を含む組成物の成分は、本発明により提供される保存培地について例示されるとおり様々であり得る。従って、特定の実施形態において、精子保存培地を含む組成物は、卵黄を含有せず、任意選択で上掲の保存培地について指摘した他の成分を欠き得る(又は含み得る)。
【0286】
本明細書に提供される保存培地及び保存培地を含む組成物を所与として、本発明は、精子の保存方法の関連する態様も提供する。かかる方法は、高濃度化又は単離された精子を含め、精子を、本発明により提供される保存培地に接触させることを伴う。上述のとおり、精子減少症のヒト男性からの精子などのヒト精子を含め、種々の精子を使用することができる。精子は、複数回分の射精液からプールされ得る。特定の実施形態において、精子の保存方法は、保存培地と精子とを含む組成物を例えば約4℃である期間、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12日間又はそれを超えて貯蔵することであって、その間、特定の実施形態では、受精能獲得時に好適な対照と比べて少なくとも40、45、50、55、60、65、70、75、80%又はそれを超える運動精子が保たれている、貯蔵することを伴う。
【0287】
一部の実施形態において、精子を卵子と接触させる前、例えば体外で接触させるか、又は精子を雌レシピエントの生殖器官に導入することによって体内で接触させる前に、本発明により提供される保存培地から精子を単離することができる。一部の実施形態において、保存培地からの精子の単離後、精子は、受精能獲得培地に置くことができる。
【0288】
精子試料の入手方法
生存精子の様々な採取方法が公知である。かかる方法としては、例えば、滅菌容器内への自慰、手袋をはめた手による方法、人工腟の使用及び電気射精が挙げられる。動物の精液は、人工腟を使用するか、電気射精装置によるか、又は動物の膨大部を手でマッサージすることにより採取することができる。また、外科手技を用いた精巣若しくは精巣上体の穿刺又は精巣若しくは精巣上体を摘出して周囲媒質中の精子を採取するなど、種々の方法論を用いて、精巣内精子及び精巣上体頭部、体部又は尾部から得られる精子を含め、雄生殖路の任意の部分から直接採取することもできる。精子は、好ましくは、採取されるか、又は生理的温度(典型的には約35℃〜約39℃)からの急激な温度変化を避けるために断熱容器に速やかに移し替えられる。射精液には、典型的には、種及び詳細な動物に応じて1ミリリットル当たり約5億〜150億個の精子が含まれる。この数字は、低受精能の雄又は精子機能不全を患っている雄から入手した場合に低くなり得る。
【0289】
精子は、供給源動物(例えば、哺乳類)から新鮮に採取された試料であり得るか、又は事前に解凍若しくは凍結保存された試料であり得る。採取時点において又はそれに続いて、採取された精子は、TCA、HEPES、PBSなど、精子と適合性のある幾つもの様々な緩衝剤のいずれか又は米国特許出願公開第2005/0003472号明細書(その内容は、本明細書によって参照により本明細書に援用される)に開示される他の緩衝剤のいずれかと組み合わされ得る。例えば、1ミリリットル当たり約5億〜約100億個の精子細胞が典型的に含まれるウシ精液試料は、供給源哺乳類から緩衝剤が入ったベッセルに直接採取して、精子懸濁液を形成し得る。精子懸濁液には、精子の生存を維持するため様々な他の添加剤も含まれ得る。例示的添加剤としては、タンパク質源、抗生物質、成長因子及び細胞内及び/又は細胞外での酸化/還元反応を調節する組成物が挙げられる。これらの添加剤の各々の例は、例えば、米国特許出願公開第20070092860A1号明細書及び同第20050244805A1号明細書(これらの各々の内容は、本明細書によって参照により本明細書に援用される)の開示に実証されるとおり、当技術分野において周知である。代わりに、精液試料は、空の容器に採取して、次に続いて採取から数分〜数時間以内に緩衝剤と接触させて精子懸濁液を形成し得る。一部の実施形態において、精子細胞は、エネルギー枯渇下でのインキュベーションのために、エネルギー枯渇培地(例えば、グルコース、ピルビン酸及び乳酸を欠くHTF培地)が入った容器に直接採取することができる。一部の実施形態において、精子細胞は、空の容器に採取して、続いてエネルギー枯渇条件下でインキュベートすることができる。
【0290】
一部の実施形態において、精子採取は、本明細書に開示される方法を行う前に精子細胞を洗浄することを含む。概して、洗浄は、希釈用洗浄培地中で精液又は解凍精子試料を遠心することを伴い、これにより精子に富んだペレットの採取が可能となる。精子洗浄工程後又は代わりに、試料からの運動精子の特別な単離手順を行うことができる。
【0291】
一部の実施形態において、精子は、本明細書に開示される方法における使用前に精液から単離される。一部の実施形態において、本明細書に開示される方法により調製した精子から、向上した機能を有する精子を更に濃縮することができる(例えば、運動能が向上した精子の濃縮)。概して、精子は、運動精子を泳がせて、死滅精子、非運動精子及び残屑から引き離すことによるか(精子スイムアップ法)、精子を密度勾配中で遠心することによるか、又は死滅精子及び残屑を結合するカラムに精子を通すことにより単離又は濃縮される。精液からの精子の単離(又は濃縮)は、洗浄及びスピン法、沈降法、直接的スイムアップ法、ペレット及びスイムアップ法及び浮遊密度勾配法から選択される方法により実施される。これらの方法は、当技術分野において周知である。これらは、従来、生殖補助技術に用いられており、“A textbook of In vitro Fertilization and Assisted Reproduction,The Bourn Hall guide to clinical and laboratory practice,editor:Peter R.Brinsden,The Parthenon Publishing Group”(1999)に詳細に記載されている。一部の実施形態において、本明細書に開示される方法により調製される精子は、沈降法、直接的スイムアップ法、ペレット及びスイムアップ法及び浮遊密度勾配法などの単離手順によって運動精子を更に濃縮することができる。
【0292】
直接的スイムアップ法とは、運動精子の自己選択を含意し、本質的には、培地のアリコートを精液試料又は本明細書に開示される精子調製液の上に重ねること及びそれを室温で一定期間静置させておくことを含む。運動精子細胞は、上層(培地)に遊走することになり、そこから回収することができる。この方法は、1回又は複数回の遠心ステップも含み得る。「スイムアップ法」により選択された精子の利点は、試料中に存在する運動能のある細胞が単離及び濃縮されること及び形態学的に正常な精子の比率が向上することである。
【0293】
この方法は、試料中の運動能のある細胞の量に応じて変更し、且つ更なる単離/分離技法と組み合わされ得る。例えば、スイムアップ手順は、試験管内で1mlの下層の精液液体上に1mlのアルブミン含有培地の層を重ねることにより実施され得る。37℃で空気中又は5%CO2において1時間インキュベートした後、運動能特性がより良好な精子が遊走した上相の培地を収集する。この技法は、遠心ステップ、例えばパーコール勾配遠心を含み得るか又はそれと組み合わされ得る。典型的な適用では、精子を含有する溶液を勾配材料、好ましくは0.05%ペクチンと混合した30〜90%のパーコールの上に重ね、次に遠心にかけることにより、向上した機能に関して濃縮された精子が収集される。分離、単離又は濃縮された精子は、次に、本明細書に開示される方法において使用されるか、又は例えば更に処理することになるまで凍結保存され得る。本明細書の方法により調製される精子調製液の場合、それは、濃縮ステップ後にIVF、ICSI又は人工授精に使用することができるか、又は例えば後の使用のために凍結保存され得る。従って、これらの単離又は濃縮方法のいずれについても、試料は、精液、部分的に精製された精子、精製された精子又は本明細書の方法により調製される、向上した機能を有する精子であり得る。一部の実施形態において、運動能のある細胞の割合は、直接的スイムアップ法、ペレット及びスイムアップ法及び浮遊密度勾配法などの単離方法を用いた精子の単離又は濃縮後、未処理の精液試料又は濃縮されていない精子調製液と比較して少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%又は約100%向上する。
【0294】
一部の実施形態において、単離、濃縮及び洗浄後、精子ペレットは、保存培地、培養のためのHTF培地、エネルギー枯渇条件のための培地(例えば、グルコース、乳酸及びピルビン酸を欠くHTF)を含め、更なる処理に好適な培地に再懸濁することができる。本明細書に開示される方法により調製される、向上した機能を有する精子に関するとき、精子調製液は、保存培地、培養のためのHTF培地、授精用、本明細書に記載されるとおりの受精可能性検査用、体外受精用、凍結用、子宮内授精用、子宮頸管キャップ授精用などの培地に再懸濁することができる。精子が培地に加えられ得るか、又は培地が精子に加えられ得る。培地は、TES、HEPES、PIPESなどの両性イオン緩衝剤又は重炭酸ナトリウムなどの他の緩衝剤を含有し得る平衡塩類溶液であり得る。一般に、精子の希釈用培地又は精子、卵母細胞、胚若しくは胚性幹細胞の培養用培地は、M199、合成卵管液、PBS、BO、Test−卵黄、タイロード液、HBSS、HamのF10、HTF、MenezoのB2、MenezoのB3、HamのF12、DMEM、TALP、アール緩衝塩、CZB、KSOM、BWW培地及びemCare培地(PETS、Canton,Tex.)などの平衡塩類溶液である。一部の実施形態において、精子培養培地にTALP又はHTFが使用され、胚培養培地にCZBが使用される。本開示の精子又は胚は、凍結保護物質を含む低温培地に保存することができる。
【0295】
一部の実施形態において、エネルギー枯渇条件でのインキュベーションに先立ち精子が保存培地に提供又は採取される。一部の実施形態において、保存培地は、弱酸性pHを含み、且つ約300〜400mOsm/kg、例えば約300〜380、320〜370、330〜370、340〜360、例えば約320、330、340、350、360、370又は380、例えば約350mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する緩衝溶液である。一部の実施形態において、本発明により提供される保存培地の重量オスモル濃度は、約320〜340mOsm/kgである。「弱酸性」pHとは、7未満5超を意味する。一部の実施形態において、弱酸性pHは、約6〜7、例えば約6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.7、6.8、6.9であるか又はそれより高く、且つ7.0より低い(6.99など)、例えば約6.5〜6.99、例えば約6.7〜6.9など、例えば約6.8である。一部の実施形態において、保存培地は、約6.7〜6.9のpHを有し、両性イオン緩衝剤、約0.25〜0.35Mの濃度のグルコース、抗生物質、約340〜360mOsm/kgの重量オスモル濃度、約2〜4%(W/V)の濃度のBSA又はHSAを含む(又はそれから本質的になる)緩衝溶液であり、ここで、この保存培地中に4℃で最長12日間にわたって貯蔵された精子は、受精能獲得培地への移し替え時に好適な対照精子と比べて少なくとも60%の運動精子を維持し、任意選択で、培地は、卵黄を含有しない。一部の実施形態において、精子は、エネルギー枯渇条件でのインキュベーションに先立ち保存培地に約2時間、約3時間、約4時間、約24時間、約10日間、約1ヵ月間、約6ヵ月間、約10ヵ月間、約1年間又はそれを超えて貯蔵される。一部の実施形態において、保存培地中の精子は、洗浄され、遠心でペレットにされ、エネルギー枯渇培地に再懸濁される。一部の実施形態において、本明細書に開示される方法により調製される、向上した機能を有する精子は、上記に記載される保存培地に更に貯蔵される。
【0296】
好適な対照精子
好適な対照精子は、対照条件下、即ちヒト卵管液(「HTF」)培地又は変法HTF培地などの対照緩衝剤中において、エネルギー枯渇条件でない中でインキュベートされた精子であり得る。HTFは、重炭酸ナトリウム緩衝系を含み、インキュベーション中に二酸化炭素雰囲気を必要とする用途に利用し得る。変法HTFは、重炭酸ナトリウムとHEPES([4−2(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸])との組み合わせ緩衝剤を含む。HTF培地又は変法HTF培地の好適な例としては、Irvine Scientific、Santa Ana,Californiaから市販されているものが挙げられる。一部の実施形態において、エネルギー枯渇条件でインキュベートすることは、グルコース、乳酸及びピルビン酸が除かれているHTF培地をインキュベートすることであり得る。精子は、精子の運動能(又は他の特性)の測定可能な変化をもたらすのに十分な期間にわたってインキュベートされ得、この方法の具体的な実施形態において、インキュベーションは、1分〜24時間、15分〜3時間、30分〜1.5時間、約1時間又はその任意の部分的範囲若しくは部分的値である。一部の実施形態において、好適な対照精子は、エネルギー枯渇条件でインキュベートされ、続いて第1のエネルギー源(例えば、糖新生基質又は解糖系基質から選択される)又は第2のエネルギー源(例えば、糖新生基質又は解糖系基質から選択されるが、第1のエネルギー源と同じでない)によって独立に処理される精子である。一部の実施形態において、好適な対照精子は、エネルギー枯渇条件でインキュベートされ、続いて糖新生基質又は解糖系基質によって独立に処理される精子である。一部の実施形態において、好適な対照は、エネルギー枯渇条件でインキュベートされ、続いて第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源によって同時に処理される精子である。一部の実施形態において、好適な対照精子は、エネルギー枯渇条件でインキュベートされ、続いて糖新生基質及び解糖系基質によって同時に処理される精子である。一部の実施形態において、好適な対照精子は、未処理の精子である。好適な対照精子は、少なくとも1つの精子又は精子の集団、例えば精子調製液又は精子懸濁液であり得ることが理解される。好適な対照は、対照条件下、即ち対照緩衝剤中でインキュベートされた精子であり得る。対照条件は、例えば、標準的な受精能獲得条件下で精子をインキュベートすることを含み得る。「標準的な受精能獲得条件」は、本明細書で使用されるとき、標準的な受精能獲得培地で精子をインキュベートすることを指す。
【0297】
精子調製液
一部の実施形態において、本発明は、活性化された精子(例えば、飢餓状態に置いた後、続いて有効量の第1及び第2のエネルギー源の両方を導入した、超活性化精子及び中間精子が濃縮されている精子)、部分的に活性化された精子(飢餓状態に置き、有効量の第1のエネルギー源のみと接触させた精子)又は増強された精子の調製液など、精子調製液を提供する。これらは、まとめて、「本発明により提供される精子調製液」又は「本発明により提供される調製液」である。一部の実施形態において、本発明は、少なくとも5%の超活性化精子、例えば少なくとも約5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、15.5、16.0、16.5、17.0、17.5、18.0、18.5、19.0、19.5、20.0%又はそれを超えるもの、例えば約5〜20、8.5〜20、10〜20又は12.5〜20%の超活性化精子を含む超活性化精子調製液を提供する。一部の実施形態において、この調製液は、少なくとも約5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、12、14、15、16、18、20、22、24、25、26、28又は30%、例えば約20.5〜約30%、約22.5〜約30%の中間運動能精子も含有する。従って、一部の実施形態において、超活性化精子と中間運動能精子との合計割合は、少なくとも10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、15.5、16.0、16.5、17.0、17.5、18.0、18.5、19.0、19.5、20.0、21.0、21.5、22.0、22.5、23.0、23.5、24.0、24.5、25、26、27、28、29、30、35、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50%又はそれを超えるもの、例えば約10〜50、30.5〜50、32.5〜50である。当業者が理解するであろうとおり、精子は、超活性化(及び/又は中間)表現型に基づいて分離され得るが、一部の実施形態では、前述の割合は、活性化されていない調製液に基づいて、次に超活性化に基づいて選別される(しかしながら、一部の実施形態では、精子調製液は、例えば、ある種の不規則な精子を含めた他の精液成分から精子を分離又は他に濃縮するために前処理されていることができる)。一部の実施形態において、調製液中の超活性化(又は中間運動能若しくは超活性化及び中間運動能)精子は、好適な対照と比べて、細胞内RNA濃度(マイクロRNAを含む低分子非コードRNAなど)が10、15、20、25、30、35、40、45、50%又はそれを超えて(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10倍又はそれを超えて)低下している。一部の実施形態において、本発明により提供される調製液中の精子は、(バルク平均メトリック又はカテゴリ内での割合のいずれかによって評価したとき)精子頭部形態の変化、尾部運動(例えば、振幅)の増加又はこれらの組み合わせによって特徴付けられる。
【0298】
一部の実施形態において、本開示は、好適な対照精子と異なるエピジェネティックプロファイルを含む精子調製液を提供する。
【0299】
「エピジェネティックプロファイル」とは、ヌクレオチド配列の変化を伴わないDNA、RNA又はタンパク質修飾(例えば、メチル化又はアセチル化)として定義される。修飾の非限定的な例としては、メチル化、及び/又はアセチル化、及び/又は非コードRNAの結合、及び/又はヒストン修飾が挙げられる。非コードRNA(例えば、miRNA、piRNA、snoRNA、エンドsiRNA)結合は、スプライシングされたイントロン又はエクソンRNAの遺伝子シグナル伝達及びRNAi様実体を含めた一本鎖又は二本鎖RNA実体の生成を包含する。「エピジェネティックプロファイル」には、タンパク質修飾、例えばタンパク質メチル化、タンパク質アセチル化が含まれ得、例えばアセチル化、メチル化及び他の変化などのヒストン修飾が含まれ得る。
【0300】
一部の実施形態において、本明細書に開示される方法によって処理された精子は、好適な対照(例えば、好適な対照精子)と比べて異なる又は変化したエピジェネティックプロファイルを呈する。本明細書で使用されるとき、用語「異なるエピジェネティックプロファイル」は、DNA、RNA及び/又はタンパク質に対する1つ以上の修飾のパターンの変化を指す。一部の実施形態において、パターンの変化は、好適な対照精子のものと比べて精子のDNA、RNA又はタンパク質上の特定の部位に修飾(例えば、メチル化又はアセチル化)が存在することを含む。一部の実施形態において、パターンの変化は、好適な対照精子のものと比べて精子のDNA、RNA又はタンパク質上の特定の部位に修飾(例えば、メチル化又はアセチル化)が存在しないことを含む。一部の実施形態において、パターンの変化は、1つ以上の修飾の変化したレベルを含む。一部の実施形態において、パターンの変化は、1つ以上の修飾のレベルの増加を含む。一部の実施形態において、パターンの変化は、1つ以上の修飾のレベルの低下を含む。例えば、1つ以上の修飾の変化したレベルは、メチル化レベル、アセチル化レベルなどの増加又は低下を含み得る。一部の実施形態において、異なるエピジェネティックプロファイルは、変化したDNAメチル化及び/又はDNAアセチル化レベルを含む。一部の実施形態において、異なるエピジェネティックプロファイルは、特定のDNA部位にメチル化が存在すること及び/又は存在しないことを含む。一部の実施形態において、異なるエピジェネティックプロファイルは、特定のDNA部位にアセチル化が存在すること及び/又は存在しないことを含む。エピジェネティック変化を測定する方法は、当技術分野において周知である。例えば、Stephens K.E.et al.,Biol Res Nurs.2013 Oct;15(4):373−381及びDeAngelis T.J. Mol Biotechnol.2008 Feb;38(2):179−183(これらは、全体として参照により本明細書に援用される)を参照されたい。
【0301】
一部の実施形態において、精子試料における対照精子と比べて異なるエピジェネティックプロファイルは、生理的条件、形質、表現型又は状態に関連する。例えば、異なるエピジェネティックプロファイルは、肥満(又は癌若しくは糖尿病などの肥満関連障害)などの病態が存在しないこと、又は産乳量の向上などの望ましい形質が存在すること、又は受精能の低下などの望ましくない形質が存在しないことに関連し得る。従って、本明細書に開示される方法によって処理された精子は、雄又は雌のいずれであれ、親と比べて改善された適応度を有する子孫の産生に有用であり得る。
【0302】
一部の実施形態において、本発明は、本発明により提供される方法のいずれか1つにより調製される精子調製液を提供する。
【0303】
一部の実施形態において、本発明は、正常精子の雄、低受精能の雄又は精子減少症の雄、例えば低受精能(精子減少症を含む)の雄などの雄対象の精液から精子を濃縮すること、精子を、エネルギー枯渇下において、精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること及び有効量の解糖系エネルギー源又は有効量の糖新生基質から選択されるが、但し有効量の解糖系エネルギー源及び糖新生基質の両方ではない、第1のエネルギー源を精子に提供することによって調製される精子調製液を提供する。
【0304】
本発明により提供される調製液のいずれについても、精子は、任意の雄対象、例えば哺乳類など、及び一部の実施形態ではヒトからのものであり得る。一部の実施形態において、ヒトは、正常精子の男性であるか、又は他の実施形態において、雄は、精子減少症又は低受精能(例えば、低精子運動能)の対象である。
【0305】
一部の実施形態において、本明細書に記載される精子調製液は、本発明により提供される精子保存培地で保存することができる。一部の実施形態において、本明細書に提供される精子調製液は、本発明により提供される様々な方法(例えば、精子機能を亢進させる、受精を増進させる等)であって、一部の実施形態では、本発明により提供される様々なキットを使用して実施することができ、従って特定の実施形態では、本発明により提供される精子調製液が作製されることになる方法により、且つ/又は生殖補助方法を含めた受精方法など、本発明により提供される更なる方法において調製することができる。
【0306】
受精の増進
本明細書に開示される方法により調製される、向上した機能を有する精子の調製液は、受精を増進させるのに有用であり得る。従って、本開示は、受精を増進させる方法にも関する。本方法は、エネルギー枯渇条件下で精子をインキュベートして精子を増強すること、増強された精子に第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供して1つ以上の精子機能を向上させること及び向上した機能を有する精子に、受精を増進させる条件下において、卵子への到達手段を提供することを含む。向上した機能を有する精子の調製液は、ヒトにおけるIVF、ICSI、人工授精(例えば、子宮内授精)、並びにヒト疾患(不妊症、精子機能不全)の動物モデルの生物医学研究産業、並びに育種及び農産業において適用することができる。本明細書に開示される方法により調製される、向上した機能を有する精子は、精子と同じ種の未受精卵子への到達手段を提供されることにより体外受精、ICSIを増進することができるか、又は例えば精子と同じ種の雌対象の子宮内授精を含めた人工授精に使用することができる。
【0307】
体内受精
本明細書に開示される方法により調製される、向上した機能を有する精子は、向上した機能を有する精子に、例えば精子と同じ種の雌対象の生殖路にある卵子への到達手段を提供することにより、体内での受精を増進させるのに有用であり得る。体内受精は、精子の人工授精、例えば頸管内授精又は子宮内授精によって行うことができる。標準的な人工授精及び子宮内授精並びに他の方法は、当業者に周知である。一部の実施形態では、向上した機能を有する精子に、前記精子の子宮内授精によって雌対象の生殖路にある卵子への到達手段を提供することにより、卵子の受精が増進される。他の実施形態では、精子に、エネルギー枯渇条件下でインキュベートされ、且つ体外で第1のエネルギー源が提供された哺乳類精子の子宮内授精によって体内で卵子への到達手段及び第2のエネルギー源が提供され得る。注入される精子は、好適な液体中に保持されたまま使用され得る。この目的で使用される液体は、通常、人工授精のための培地として使用される液体であり得る。
【0308】
体外受精
本明細書に開示される本方法及び精子調製液は、生殖補助技術による受精、例えばART、詳細にはIVF後の胚生存能を増進させるのに有用である。本開示を適用可能な他の好適なART技法としては、限定はされないが、配偶子卵管内移植(GIFT)、接合子卵管内移植(ZIFT)、胚盤胞移植(BT)、卵細胞質内精子注入法(ICSI)、配偶子、胚及び細胞凍結保存、胚生検のための胚の体外調製並びに核移植による胚の形成及びトランスジェニック株及び遺伝子修飾株の作製を含めた他の形態の胚顕微操作が挙げられる。これは、胚性幹細胞株の作製にも適用可能である。
【0309】
一部の実施形態において、本明細書に開示される方法により調製される、向上した機能を有する精子は、例えば、卵細胞質内精子注入法(ICSI)を含めた顕微注入法及び当業者に周知の他の方法によるなど、卵子の体外受精に使用することができる。典型的には、IVFでは、受精後に細胞を胚盤胞期まで成長させて、次に移植する。本明細書に開示される方法により、生存がより長く、且つ2細胞期、胚盤胞期に発育する能力が向上した胚の形成が向上する。従って、本明細書に開示される精子調製液は、例えば、ICSIを含めた体外受精手技において有用であり得る。
【0310】
本開示の方法は、本明細書の方法により調製された精子に卵子への到達手段を提供して体外受精を増進することを包含する。精子に体外での卵子への到達手段を提供することは、適切な培地中で行われ得る。この目的で使用される培地は、通常体外受精のための培地として使用される培地、例えばHTF培地であり得る。到達手段を提供するための温度条件は、体外受精に用いられる一般的な温度であり得、例えば哺乳類の平均体温又はそれに近い温度であり得る。到達手段を提供する時間は、一般的に体外受精に必要な任意の時間であり得るが、特に限定はされず、好ましくは6〜24時間である。体外受精率は、1つ以上の精子を成熟卵母細胞と約24時間インキュベートすることにより決定し得る。次に、卵母細胞を1%アセトオルセイン染色剤で染色して受精率を決定するか、又は培養下に置いておくことにより分割させて、形成された胚の数をカウントする。卵母細胞は、50μg黄体形成ホルモン/ml含有M199培地において体外で成熟させることができる(Brackett and Zuelke,Theriogenology 39:43,1993)。
【0311】
受精用途
本明細書に開示されるこれらの方法及び精子調製液は、概して、ヒト、ウシ、イヌ、ウマ、ブタ、ヒツジ、鳥類、げっ歯類などを含め、多くの種に適用可能である。本方法は、受精が所望される場合に常に有用であるが、受精機能不全を呈する動物及びヒトにおいて受胎可能性を向上させるための特別な用途がある。かかる機能不全には、低精子数、精子運動能の低下及び精子の形態異常が含まれる。従って、本明細書に開示される方法は、不妊症クリニックにおいて、その体外受精又は子宮内授精における使用に先立ち、向上した機能を有する精子を調製するのに有用であり得る。本明細書に記載される方法は、外来種及び/又は絶滅危惧種における人工授精、IVF又はICSIの改善に使用することができる。このように本方法は、動物園において飼育下で管理されている動物の受精を増進させるための、且つ世界で絶滅の危機に瀕している動物の繁殖の改善を目的とする保護計画での用途が見出され得る。例えば、本開示の方法及び精子調製液は、畜産業における農業的価値のある種についての、且つ保護を目的として繁殖される種における受精率及び妊娠率を改善するために使用することができる。
【0312】
加えて、本発明の方法及び組成物は、例えば、商業的育種における人工授精手技に有用である。本方法は、飼い慣らされた動物、特に家畜類からの精子並びに野生動物(例えば、絶滅危惧種)からの精子で行うことができる。例えば、本明細書に開示されるとおり、本開示の方法及び組成物の実施形態は、ウシの繁殖に適用が見出される。本方法及び調製液は、家畜類に特定の遺伝的に決定された形質を導入することにより1つ以上の好ましい特性又は形質を有する子孫、例えば特定の性別の子孫、産乳量が亢進した子孫、高品質肉産生のための子孫に向けて成績に影響を与えることが望ましい畜産産業における人工授精に有用であり得る。本明細書に記載される方法を使用することにより、妊娠率が改善することになる。哺乳類精子は、高頻度で凍結及び解凍によって損傷を受け、受精能が低下する結果となる。本明細書に開示される方法により調製される精子は、生存精子の性能を改善することにより、授精への使用時に性周期当たりの妊娠率の上昇を増進し得るため、受胎を確実にするのに必要なサイクル数が削減され、従って全体的な人工授精費用が削減され得る。
【0313】
極めて望ましい形質を有する動物からの精液であれば、それをより多くの雌の授精に使用し得、なぜなら、任意の1匹の雌において受胎を確実にするために必要なサイクル数が少なくて済むためである。かかる適用について、精液は、所望の特性を有する雄から入手される。得られる子孫の性別成績に影響を与えるために、精子調製液は、X染色体及びY染色体担持細胞に選別され、且つ/又は本明細書に開示される1つ以上の向上した精子機能を有する精子に関して濃縮され得る。精子は、例えば、Johnson et al.(米国特許第5,135,759号明細書)に記載されるとおりの一般的に用いられる方法により、フローサイトメーター/セルソーターを使用してX染色体及びY染色体担持精子濃縮集団に選別され得る。本明細書に開示される方法により調製される精子は、一定のX染色体担持又はY染色体担持精子細胞率を含む集団となるように選別することができる。例えば、これらの集団の1つにおける精子は、少なくとも約65%のX染色体担持又はY染色体担持精子細胞、少なくとも約70%のX染色体担持又はY染色体担持精子細胞、少なくとも約75%のX染色体担持又はY染色体担持精子細胞、少なくとも約80%のX染色体担持又はY染色体担持精子細胞、少なくとも約85%のX染色体担持又はY染色体担持精子細胞、少なくとも約90%のX染色体担持又はY染色体担持精子細胞又は更に少なくとも約95%のX染色体担持又はY染色体担持精子細胞を含み得る。一部の実施形態において、選別は、本明細書に開示されるとおりの向上した機能を有する精子の調製前に行うことができる。一部の実施形態において、選別は、向上した機能を有する精子に、IVF、ICSI又はAIの場合のような受精のための卵子への到達手段を提供する前に行うことができる。
【0314】
本発明により提供される方法及び調製液は、ICSI(卵細胞質内精子注入法)によるものを含め、IVFなどの補助受精において使用することができる。一部の実施形態において、本発明により提供される方法のいずれも、精子を雌生殖路に提供するステップを含むことができ、任意選択で、雌生殖路は、有効量の第2のエネルギー源を提供される。一部の実施形態において、本発明により提供される(向上した精子機能を有する)精子調製液に、卵子を受精させるのに十分な時間にわたり、卵子への到達手段を提供することができ、この卵子は、体外にあり得るか(例えば、ICSIを含めたIVF)、又は一部の実施形態では雌生殖路内にあり得る。かかる方法は、一部の実施形態では、続く雌保卵者における受精卵の着床を伴う。
【0315】
一部の実施形態において、本発明は、有効量の第2のエネルギー源と接触させていない本発明により提供される調製液に、卵子を受精させるのに十分な時間にわたり、有効量の糖新生基質及び解糖系エネルギー源の両方を提供するように、第2のエネルギー源の有効量及び卵子への到達手段を提供することを含む受精方法を提供する。一部の実施形態において、本方法は、体外で実施される。他の実施形態において、本方法は、雌の生殖路(腟又は子宮)において体内で実施される。
【0316】
一部の実施形態において、本発明は、異なるエピジェネティックプロファイルを有する精子の調製液を提供することを含む受精方法を提供する。一部の実施形態において、精子試料における対照精子と比べて異なるエピジェネティックプロファイルは、生理的条件、形質、表現型又は状態に関連する。例えば、異なるエピジェネティックプロファイルは、肥満などの病態(又は癌若しくは糖尿病などの肥満関連障害)が存在しないこと、又は産乳量の増加などの望ましい形質が存在すること、又は受精能の低下などの望ましくない形質が存在しないことに関連し得る。従って、本明細書に開示される方法によって処理された精子は、雄親対象と比べて改善された適応度を有する子孫の作製に有用であり得る。一態様において、本明細書では、雄親対象と比べて改善された適応度を有する子孫を作製する方法であって、本明細書に開示される方法により雄親からの精子試料を処理すること、及び処理した精子を卵子に受精させて、胚を発生させること、及び雌対象において胚を成長させて、改善された適応度を有する子孫を作製することを含む方法が提供される。用語「改善された適応度を有する子孫」は、生理的条件、形質、表現型又は状態について親対象と比べて望ましい変化又は改善を呈する子孫を指す。例えば、望ましい変化には、肥満などの病態(又は癌、心血管疾患、不妊症などの肥満関連障害)が存在しないことが含まれ得る。例えば、改善には、産乳量の増加などの望ましい形質が存在することが含まれ得る。
【0317】
製品
一部の実施形態において、本発明は、例えば、本発明により提供される方法のいずれかの実施又は本発明により提供される調製液のいずれかの調製に好適な製品及びキットも提供する。例えば、一部の実施形態において、本発明は、精子との接触時にエネルギー枯渇を誘導する精子増強溶液、有効量の解糖系エネルギー源又は有効量の糖新生基質から選択されるが、但し有効量の解糖系エネルギー源及び糖新生基質の両方ではない、第1のエネルギー源を提供する第1の溶液及び有効量の第2のエネルギー源を提供する第2の溶液を含む製品を提供する。一部の実施形態において、本製品は、一部の実施形態では、精子単離マトリックスなど、精子を単離又は濃縮する手段を更に含む。一部の実施形態において、精子単離マトリックスは、シラン化シリカであり、任意選択で、シラン化シリカは、いかなる解糖系エネルギー源又は糖新生基質も実質的に含まない培地中にある。一部の実施形態において、本キットは、本明細書に開示される方法の実行に関する説明書を含む。本キットは、洗浄用培地、保存培地、培養培地(例えば、HTF)、希釈剤なども含み得る。本キットには、必要に応じてアジュバント、試薬及び緩衝剤が更に含まれ得る。
【0318】
特定の実施形態において、本明細書に開示されるキットの全ての成分及び試薬は、少なくともその成分についての米国薬局方(USP)モノグラフグレード純度に適合する。一部の成分についてUSPモノグラフが利用可能でないこともあり、従って、特定の実施形態では、その成分の好適な医薬品グレード参照標準純度が用いられる。一部の実施形態において、キットの成分の純度は、約95%の純度である。成分及び試薬は、より詳細には、少なくとも約95%、より詳細には少なくとも約98%、より詳細には少なくとも約99%の純度を有する。一部の実施形態において、キットの成分及び試薬は、実質的に無菌であるか、実質的にパイロジェンフリーであるか、又は実質的に無菌且つ実質的にパイロジェンフリーである。
【0319】
一部の実施形態において、キットの試薬中に含まれる成分は、実質的に純粋である。本明細書で使用されるとき、実質的に純粋とは、任意の適切な方法、例えばカラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動又はHPLCにより決定したときに容易に検出可能な不純物を含まないように見えるだけの十分な均一性があることを意味する。用語「実質的に純粋」は、少なくとも60重量%(乾燥重量)が目的成分(例えば、グルコース又はピルビン酸)である配合物を意味する。詳細な実施形態において、配合物は、少なくとも75重量%、より詳細には少なくとも90重量%、更により詳細には少なくとも99重量%が目的成分である。配合物が2つ以上の目的成分を含む場合、「実質的に純粋な」配合物とは、全ての目的成分の総重量(乾燥重量)が総乾燥重量の少なくとも60%である配合物を意味する。同様に、2つ以上の目的成分を含有するかかる配合物について、2つ以上の目的成分の総重量は、配合物の総乾燥重量の少なくとも75%、より詳細には少なくとも90%、更により詳細には少なくとも99%である。一部の実施形態において、本開示は、例えば、本発明により提供される方法のいずれかの実施又は本発明により提供される調製液のいずれかの調製に好適な製品及びキットも提供する。
【0320】
例えば、一部の実施形態において、本開示は、精子との接触時にエネルギー枯渇を誘導して増強された哺乳類精子を生じさせる精子増強用エネルギー枯渇組成物を含む第1の容器を含むキットを提供する。
【0321】
一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、例えば、約0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03mM未満のグルコース又はそれより低い、例えば約0.02又は0.01mM未満、例えば約0.01mM未満の低グルコース濃度を含む。一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、実質的にグルコース不含である。一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、例えば、約0.15、0.10、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.005、0.003、0.002mM未満又はそれより低い低ピルビン酸濃度を含む。一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、実質的にピルビン酸不含である。
【0322】
一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、低グルコース濃度及び低ピルビン酸濃度など、実質的に炭素源を含まず、例えば実質的にグルコース不含且つ実質的にピルビン酸不含である。一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、緩衝剤を含む。一部の実施形態において、緩衝剤は、HEPES、MOPS又はこれらの組み合わせである。一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、約1mM〜50mM、2〜40mM、3〜30mM、5〜20mM、7〜15mM又は7.5〜12.5mMの濃度のHEPESを含む。一部の実施形態において、HEPESは、約1、2、5、6、7、8、9、10、11、12、15、20、25、30、35、40、45又は50mMの濃度である。一部の実施形態において、HEPESは、少なくとも約1、2、5、6、7、8、9、10、11、12、15、20、25、30、35、40、45又は50mMの濃度である。一部の実施形態において、HEPESは、10mMの濃度である。
【0323】
一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、血清アルブミン、例えばヒト血清アルブミン、ウシ胎仔血清又はウシ血清アルブミンを更に含む。一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、例えば、約1〜10mg/ml、2〜8mg/ml又は3〜7mg/mlの濃度のヒト血清アルブミン(HSA)を含む。一部の実施形態において、HSAは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10mg/mlの濃度である。一部の実施形態において、HSAは、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10mg/mlの濃度である。一部の実施形態において、HSAは、4mg/mlの濃度である。一部の実施形態において、ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミンは、濃縮ストック溶液など、別個の溶液中に提供され、本発明により提供されるキット中の組成物の1つ以上に希釈される。
【0324】
一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、抗生物質を更に含む。一部の実施形態において、抗生物質は、精子増強用エネルギー枯渇組成物中に約1〜20μg/ml、2〜18μg/ml、4〜16μg/ml、6〜14μg/ml又は8〜12μg/mlの濃度で存在する。一部の実施形態において、抗生物質は、約1、2、4、6、8、10、12、14、16、18又は20μg/mlの濃度である。一部の実施形態において、抗生物質は、少なくとも約1、2、4、6、8、10、12、14、16、18又は20μg/mlの濃度である。一部の実施形態において、抗生物質は、10μg/mlの濃度である。一部の実施形態において、抗生物質は、ゲンタマイシン又はペニシリンである。
【0325】
一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、1つ以上の塩、例えばNaCl、KCl、CaCl、KHPO、MgSO・7HO、NaHCOを更に含む。
【0326】
一部の実施形態において、NaClは、約50〜150mM、60〜140mM、70〜130mM、80〜120mM又は90〜100mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、NaClは、約50、60、70、80、90、95、96、97、97.1、97.2、97.3、97.4、97.5、97.6、97.8、97.9、98、98.5、99、99.5、100、110、120、130、140又は150mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、NaClは、少なくとも約50、60、70、80、90、95、96、97、97.1、97.2、97.3、97.4、97.5、97.6、97.8、97.9、98、98.5、99、99.5、100、110、120、130、140又は150mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、NaClは、97.8mMの濃度で存在する。
【0327】
一部の実施形態において、KClは、約1〜10mM、1.5〜9.5mM、2〜9mM、2.5〜8.5mM、3〜8mM、3.5〜7.5mM、4〜7mM、4.5〜6.5mM、4.5〜6mM又は4.5〜5mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、KClは、約1、2、3、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、5.5、6、7、8、9又は10mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、KClは、少なくとも約1、2、3、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、5.5、6、7、8、9又は10mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、KClは、4.7mMの濃度で存在する。
【0328】
一部の実施形態において、CaClは、約1〜5mM、1.1〜4.5mM、1.2〜4mM、1.3〜3.5mM、1.4〜3mM又は1.5〜2.5mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、CaClは、約1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2、2.2、2.4、2.6、2.8、3、3.5、4、4.5又は5mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、CaClは、少なくとも約1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2、2.2、2.4、2.6、2.8、3、3.5、4、4.5又は5の濃度で存在する。一部の実施形態において、CaClは、2mMの濃度で存在する。
【0329】
一部の実施形態において、KHPOは、約0.1〜0.6mM、0.15〜0.55mM、0.2〜0.5mM、0.25〜0.45mM又は0.3〜0.4mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、KHPOは、約0.1、0.15、0.2、0.22、0.25、0.26、0.3、0.32、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.4、0.45、0.5又は0.6mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、KHPOは、少なくとも約0.1、0.15、0.2、0.22、0.25、0.26、0.3、0.32、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.4、0.45、0.5又は0.6mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、KHPOは、0.37mMの濃度で存在する。
【0330】
一部の実施形態において、NaHCOは、約10〜50mM、12〜45mM又は15〜30mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、NaHCOは、約10、12、14、16、18、20、22、24、26、30、35、40、45又は50mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、NaHCOは、少なくとも約10、12、14、16、18、20、22、24、26、30、35、40、45又は50mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、NaHCOは、20mMの濃度で存在する。
【0331】
一部の実施形態において、MgSO.7HOは、約0.1〜0.5mM、0.12〜0.45mM、0.14〜0.4mM、0.16〜0.35又は0.18〜0.3mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、MgSO.7HOは、約0.1、0.12、0.14、0.16、0.18、0.2、0.22、0.24、0.26、0.28、0.3、0.35、0.4、0.45又は0.5mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、MgSO.7HOは、少なくとも約0.1、0.12、0.14、0.16、0.18、0.2、0.22、0.24、0.26、0.28、0.3、0.35、0.4、0.45又は0.5mMの濃度で存在する。一部の実施形態において、MgSO.7HOは、0.2mMの濃度で存在する。
【0332】
一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、例えば、約0.0001〜0.001%、0.0002〜0.009%、0.0003〜0.0008%、0.0004〜0.0007%又は0.0005〜0.00065%の濃度のpH指示薬、例えばフェノールレッドを含む。一部の実施形態において、フェノールレッドは、約0.0001%、0.0002%、0.0003%、0.0004%、0.0005%、0.0006%、0.0007%、0.0008%、0.0009%又は0.001%の濃度で存在する。一部の実施形態において、フェノールレッドは、少なくとも約0.0001%、0.0002%、0.0003%、0.0004%、0.0005%、0.0006%、0.0007%、0.0008%、0.0009%又は0.001%の濃度で存在する。一部の実施形態において、フェノールレッドは、0.0006%の濃度で存在する。
【0333】
一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、弱酸性pHを含み、且つ約200〜280mOsm(mOsm/kg)、例えば約220〜260、225〜255、230〜250mOsm(mOsm/kg)の重量オスモル濃度を有する緩衝溶液であり、任意選択で、第1又は第2のエネルギー源を加えると、容量オスモル濃度(又は重量オスモル濃度)は、少なくとも約270、275、280、285、290又は295mOsm(mOsm/kg)に増加する。「弱酸性」pHとは、7未満5超を意味する。一部の実施形態において、弱酸性pHは、約6〜7、例えば約6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.7、6.8、6.9であるか又はそれより高く、且つ7.0より低い(6.99など)、例えば約6.5〜6.99、例えば約6.7〜6.9など、例えば約6.8である。
【0334】
一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、栄養素不含合成ヒト卵管液である。一部の実施形態において、栄養素不含合成ヒト卵管液は、例えば、97.8mMの濃度のNaCl、例えば4.7mMの濃度のKCl、例えば2mMの濃度のCaCl、例えば0.37mMの濃度のKHPO、例えば0.2mMの濃度のMgSO.7HO、例えば4mg/mlの濃度のHSA、例えば10μg/mlの濃度のゲンタマイシン、例えば10mMの濃度のHEPES及び例えば0.0006%の濃度のフェノールレッドを含む。一部の実施形態において、栄養素不含合成ヒト卵管液は、例えば、97.8mMの濃度のNaCl、例えば4.7mMの濃度のKCl、例えば2mMの濃度のCaCl、例えば0.37mMの濃度のKHPO、例えば0.2mMの濃度のMgSO.7HO、例えば4mg/mlの濃度のHSA、例えば10μg/mlの濃度のゲンタマイシン、例えば10mMの濃度のHEPES及び例えば0.0006%の濃度のフェノールレッドから本質的になる。一部の実施形態において、栄養素不含合成ヒト卵管液は、例えば、97.8mMの濃度のNaCl、例えば4.7mMの濃度のKCl、例えば2mMの濃度のCaCl、例えば0.37mMの濃度のKHPO、例えば0.2mMの濃度のMgSO.7HO、例えば4mg/mlの濃度のHSA、例えば10μg/mlの濃度のゲンタマイシン、例えば10mMの濃度のHEPES及び例えば0.0006%の濃度のフェノールレッドからなる。一部の実施形態において、栄養素不含合成ヒト卵管液は、低グルコース濃度、低乳酸濃度及び低ピルビン酸濃度など、実質的に炭素源を含まず、例えば実質的にグルコース不含、実質的に乳酸不含且つ実質的にピルビン酸不含である。
【0335】
一部の実施形態において、本キットは、解糖系エネルギー源又は糖新生基質から選択されるが、但し解糖系エネルギー源及び糖新生基質の両方ではない、第1のエネルギー源を含む第2の組成物を含む第2の容器を更に含む。一部の実施形態において、本キットは、解糖系エネルギー源又は糖新生基質から選択される第2のエネルギー源を含む第3の組成物を含む第3の容器を更に含み、選択される第2のエネルギー源は、第1のエネルギー源として選択されないものである。
【0336】
一部の実施形態において、解糖系エネルギー源は、グルコースである。一部の実施形態において、糖新生基質は、ピルビン酸である。一部の実施形態において、本キットは、第1のエネルギー源を含む第1の溶液のみを含む。一部の実施形態において、第1のエネルギー源は、糖新生基質(例えば、ピルビン酸)である。一部の実施形態において、第1のエネルギー源は、解糖系エネルギー源(例えば、グルコース)である。一部の実施形態において、本キットは、第1の溶液と第2の溶液との両方を含み、ここで、例えば、第1のエネルギー源がグルコースであり、及び第2のエネルギー源がピルビン酸である。一部の実施形態において、本キットは、第1の溶液と第2の溶液との両方を含み、ここで、例えば、第1のエネルギー源がピルビン酸であり、及び第2のエネルギー源がグルコースである。一部の実施形態において、解糖系エネルギー源は、例えば、約100mM〜1M、200〜900mM、300〜800mM、400〜600mM又は500mM、例えば少なくとも約100、200、300、400、500、600、700、800、900mM又は1Mの濃度のグルコースである。一部の実施形態において、糖新生基質は、例えば、約10〜50mM、15〜45mM、20〜40mM又は25〜35mMの濃度のピルビン酸である。一部の実施形態において、ピルビン酸は、約10、15、20、25、30、35、40、45又は50mM、例えば約31、32、33、34、35、36、37、38、39又は40mMの濃度である。一部の実施形態において、ピルビン酸は、少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100mMの濃度である。
【0337】
一部の実施形態において、本キットは、マイクロ流体デバイス、密度勾配溶液又は精子単離マトリックスなど、精子を濃縮又は単離する手段を更に含む。一部の実施形態において、精子単離マトリックスは、シラン化シリカであり、任意選択で、シラン化シリカは、いかなる解糖系エネルギー源又は糖新生基質も実質的に含まない培地中にある。一部の実施形態において、精子増強用エネルギー枯渇組成物は、シラン化シリカを含む。一部の実施形態において、シラン化シリカは、適切な希釈剤、例えば栄養素不含合成ヒト卵管液に懸濁される。
【0338】
一部の実施形態において、本キットは、本明細書に開示される方法の実行に関する説明書を含む。本キットは、洗浄用培地、保存培地、培養培地(例えば、HTF)、希釈剤なども含み得る。本キットには、必要に応じてアジュバント、試薬及び緩衝剤が更に含まれ得る。必要に応じて、他の添加剤(例えば、アミノ酸(例えば、グルタミン酸)又はフリーラジカル捕捉剤)が存在し得る。更に、ホルモン又は他のタンパク質が加えられ得る。かかるホルモン及びタンパク質としては、黄体形成ホルモン、エストロゲン、プロゲステロン、卵胞刺激ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、成長因子、卵胞液及びオビダクチン、アルブミン及びアミノ酸が挙げられる。典型的には、グリセロールは、3%〜15%で添加され、当技術分野において公知の方法により他の好適な濃度を容易に決定し得る。他の薬剤は、典型的には約0.1%〜5%の範囲の濃度で添加される。脱脂乳、ゼラチン、カゼイン又はオビダクチンなどのタンパク質も添加され得る。
【0339】
本発明に従う他のキットには、例えば、1つ以上の(1つ、2つ又は3つ全ての)試薬中に抗生物質を含まなくてもよいもの(又はゲンタマイシン以外の抗生物質を提供する)及び/又はフェノールレッドを含んでも又は含まなくてもよいものが含まれる。全体として本開示によって記載されるパラメータに従って成分を置き換えるキットが本発明の一部であることは、容易に理解されるであろう。実質的に同様のキットが具体的に想定され、ここで、「実質的に同様」のキットは、成分の1つ以上(即ち1、2、3、4、5、6、7、8つ又は該当する場合には9つの成分)が、これらの詳細な実施形態に記載されるモル濃度と最大約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15%異なるものを包含する。液体溶液(例えば、精製水を含むもの、例えばHCl及び/又はNaOHによるpHの調整を伴う)及び凍結乾燥組成物の両方がこれらの詳細な例示に包含される。
【0340】
本キットは、バイアル、チューブなどの1つ以上の容器を受け入れるように区切られている運搬手段、包装又は容器も含むことができ、1つ又は複数の容器の各々は、本明細書に記載される方法で使用されることになる精子増強組成物、第1のエネルギー源を含む第2の組成物及び第2のエネルギー源を含む第3の組成物など、別個の要素の1つを含む。好適な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ及び試験管が挙げられる。こうした容器は、ガラス又はプラスチックなど、種々の材料で形成され得る。本明細書に提供される製品は、包装材料を含む。医薬品包装材料の例としては、限定はされないが、ブリスターパック、ボトル、チューブ、バッグ、容器、ボトル及び本明細書に開示される方法における使用に好適な任意の包装材料が挙げられる。キットは、典型的には、内容物を掲載したラベル及び/又は使用説明書並びに使用説明書に伴う添付文書を含む。説明書一式も含まれ得る。
【0341】
本明細書に開示されるキットは、限定はされないが、IVF及びIUIのための精子の処理を含め、種々の適用に有用であり得る。本開示のキットは、本明細書に開示される方法の実施に有用である。本明細書では、精子増強用エネルギー枯渇組成物、例えば栄養素不含合成HTFを含むキットが開示される。一部の実施形態において、本開示のキットは、栄養素不含合成HTFに希釈されたシラン被覆シリカを含む。かかるキットは、例えば、密度勾配法又はスイムアップ法により精子を精子試料と分離する処理に有用であり得る。本開示のキットは、精子増強用エネルギー枯渇組成物(例えば、栄養素不含合成HTFを含む)と、第1のエネルギー源(例えば、グルコース)を含む第2の組成物とを含む。かかるキットの1つの例示的な使用は、IUIのための精子の調製である。密度勾配法又はスイムアップ法により分離された精子は、精子増強用エネルギー枯渇組成物、例えば栄養素不含合成HTFを使用して洗浄するか又は希釈することができる。精子増強用エネルギー枯渇組成物と共に好適な時間にわたってインキュベートした精子に有効量の第1のエネルギー源(例えば、糖新生基質又は解糖系エネルギー源)を提供してIUIのための精子を調製することができる。一部の実施形態では、精子増強用エネルギー枯渇組成物と共に好適な時間にわたってインキュベートした精子に有効量の第1のエネルギー源、例えばピルビン酸又はその塩などの糖新生基質を提供してIUIのための精子を調製することができる。他の実施形態では、第1のエネルギー源を含む第2の組成物に加えて、本明細書に開示されるキットは、第2のエネルギー源を含む第3の組成物を含む第3の容器を含む第3の容器を含むことができる。一部の実施形態において、第1のエネルギー源は、糖新生基質(例えば、ピルビン酸)であり、及び第2のエネルギー源は、解糖系エネルギー源(例えば、グルコース)である。他の実施形態において、第1のエネルギー源は、解糖系エネルギー源(例えば、グルコース)であり、及び第2のエネルギー源は、糖新生基質(例えば、ピルビン酸)である。かかるキットは、例えば、IVFに有用であり得る。精子増強用エネルギー枯渇組成物(例えば、栄養素不含合成HTFを含む)と共に好適な時間にわたってインキュベートした精子に更に有効量の第1のエネルギー源を提供し、逐次的に又は同時に有効量の第2のエネルギー源を提供して、IVFのための精子を調製することができる。
【0342】
キットの成分は、解糖系エネルギー源(例えば、グルコース)又は糖新生基質(例えば、ピルビン酸)を含有しない栄養素不含合成HTF中での精子の初期インキュベーションを提供し、次に後に解糖系エネルギー源又は糖新生基質が同時に又は逐次的に添加されることにより、精子機能が改善されることになる。糖新生基質とは、糖新生過程に用いられる非炭水化物炭素源を意味する。糖新生基質は、糖新生経路の基質としての役割を果たし、更に糖新生を促進する役割を果たす。本開示のキットにおける使用に好適な糖新生基質としては、限定はされないが、ピルビン酸、乳酸、コハク酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、グリセロール、アセチルCoA、イソクエン酸、α−ケトグルタル酸、スクシニル−CoA、オキサロ酢酸又は糖新生基質の生理学的に許容可能な誘導体、塩、エステル、ポリマー若しくはα−ケト類似体が挙げられる。任意の糖新生アミノ酸又はその生理学的に許容可能な誘導体、塩、エステル、若しくはポリマー、若しくはα−ケト類似体も糖新生基質として好適である。糖新生アミノ酸の非限定的な例としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、シスチン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、メチオニン、プロリン、セリン、スレオニン及びバリンが挙げられる。ピルビン酸の薬学的に許容可能な塩の非限定的な例は、ピルビン酸リチウム、ピルビン酸ナトリウム、ピルビン酸カリウム、ピルビン酸マグネシウム、ピルビン酸カルシウム及びピルビン酸亜鉛である。一部の実施形態において、ピルビン酸は、ピルビン酸ナトリウムである。乳酸の塩の非限定的な例としては、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸マグネシウム、乳酸カルシウム、乳酸亜鉛及び乳酸マンガンが挙げられる。キットのピルビン酸成分は、上記に挙げた任意の他の糖新生基質に置き換えることができる。
【0343】
解糖系エネルギー源には、解糖の炭素源が含まれる。解糖系エネルギー源の非限定的な例としては、単糖類(フルクトース、グルコース、ガラクトース及びマンノースなど)及び二糖類(スクロース、ラクトース、マルトース及びトレハロース)並びに多糖類、ガラクトース、オリゴ糖類、そのポリマーが挙げられる。キットのグルコース成分は、上記に挙げた任意の他の解糖系エネルギー源に置き換えることができる。
【0344】
一部の実施形態において、本キットは、追加的な成分を含み、例えば少なくとも第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源と組み合わせて、NADH、NAD+、クエン酸、AMP、ADP又はこれらの組み合わせなど、解糖系の上流及び下流の他の成分が添加される。
【0345】
生理学的に許容可能とは、精子、卵母細胞又は胚にとって無毒であり、加えて体外及び体内でのハンドリング及び操作時にその機能及び生存を改善するものを意味すると理解される。
【0346】
本キットの精子増強用エネルギー枯渇組成物の非限定的な使用としては、例えば、スイムアップ法を用いた精子の単離への使用、希釈剤としての使用、例えば密度勾配のためのシラン被覆シリカの希釈への使用及び精子の洗浄への使用が挙げられる。精子試料は、例えば、精子増強用エネルギー枯渇組成物での分離又は洗浄により処理することができ、次に不妊症検査及び精子毒性検査を含めた種々の診断又は研究プロトコルにおいて使用することができる。不妊症検査の例としては、精子運動能、生存精子率、精子数、膜機能、侵入率及び体外受精率の検査が挙げられる。詳細な精子細胞型及び詳細な診断又は研究適のために好適である、当技術分野で利用可能なプロトコルが用いられ得る。一部の実施形態において、精子を精子増強用エネルギー枯渇組成物と共にインキュベートすると、精子が増強される。一部の実施形態において、増強された精子に有効量の第1のエネルギー源を提供すると、精子機能が向上し、IUIのための精子が調製される。一部の実施形態において、増強された精子に有効量の第1のエネルギー源を提供し、同時に又は逐次的に有効量の第2のエネルギー源を提供すると、精子機能が向上し、IVFのための精子が調製される。
【0347】
一部の実施形態において、本キットの組成物及び溶液は、プレフィルドチューブに所定の容積で提供される。この製品は、特定の適用向けのディスペンサー内の溶液中にも提供され得る。一実施形態では、遠心管が提供される。本キットは、冷蔵下又は室温下で貯蔵され得る。
【0348】
一部の実施形態において、本明細書に記載されるキットは、本発明により提供される保存培地を含む。本発明により提供されるキットは、本発明の方法(例えば、向上した精子機能を誘導する、受精を増進させる、改善された適応度を有する子孫を作製する等)であって、一部の実施形態では、本発明により提供される様々なキットを使用して実施することができ、従って特定の実施形態では、本発明により提供される精子調製液が作製されることになる方法の実施に有用であり、且つ/又は生殖補助方法を含めた受精方法など、本発明により提供される更なる方法において有用である。一部の実施形態において、本明細書に提供されるキットは、本開示の精子調製液の作成に有用である。
【実施例】
【0349】
以下の具体的な例を用いて本開示を更に詳細に説明する。以下の例は、例示を目的として提供され、いかなる方法によっても本発明を限定するように意図するものではない。当業者は、本発明にかかる代替的実施形態をもたらすために変更又は修正することのできる種々の決定的でないパラメータを容易に認識するであろう。本明細書に挙げる全ての特許、特許出願及び刊行物は、全体として参照により本明細書に援用される。
【0350】
実施例1:材料及び方法
培地
ヒト精子受精能獲得のための培地は、5%CO2で平衡化した、97.8mM NaCl、4.7mM KCl、2mM CaCl2、0.37mM KH2PO4、0.2mM MgSO4.7H2O、25.1mM NaHCO3−、0.33mMピルビン酸Na、2.78mMグルコース、乳酸21.4mM及び5mg/mLヒト血清アルブミン(HSA)、10μg/mLゲンタマイシン及びフェノールレッド0.0006%を含有するpH7.4のヒト卵管液(完全HTF又はC−HTF)培地であった。精子飢餓処理については、上記のHTF培地からグルコース、乳酸及びピルビン酸を除いた(F−HTF、供試培地)。
【0351】
精液試料
精液試料は、健常男性又は不妊症の治療を求める男性から滅菌容器内への自慰によって入手した。射精液は本実験の処理に先立ち最長2時間にわたって液状化した。液状化後、射精液の容積をF−HTF(供試)条件又はC−HTF(対照条件)の処理のために等分した。精液試料を密度勾配遠心法又は直接的スイムアップ法のいずれかにより処理して生存精子細胞を収集した。
【0352】
精子処理
密度勾配遠心法
液状化後、各射精液の全容積を2つの異なる勾配条件に等分した。供試試料は、リン酸緩衝生理食塩水中45〜90%パーコール(Sigma、P−1644))勾配を用いて調製した。対照試料は、ヒト卵管液中のIsolate勾配(Irvine Scientific、Santa Ana、CA;99264)を用いて調製した。両方の試料とも500×gで20分間遠心した。遠心後、上清を除去し、ペレットを10ml培地で洗浄した。供試試料は、F−HTFで洗浄し、対照試料は、C−HTFで洗浄した。
【0353】
精子スイムアップ法
液状化後、先述のとおり各射精液の全容積を供試試料と対照試料とに分割した。供試試料を2.5mlのF−HTFと穏やかに層状にした。対照試料は、C−HTF培地と層状にした。チューブを45°の角度に慎重に傾け、37℃、5%COで1時間インキュベートした。上清を慎重に収集してF−HTFで洗浄し、対照試料は、C−HTFで洗浄した。
【0354】
精子運動能の分析
供試精子及び対照精子の精子懸濁液(6μl)を1つの事前に温めたチャンバースライド(深さ、20μm)(Lejaスライド、Spectrum Technologies)にロードし、37℃で顕微鏡ステージに置いた。CEROS IIコンピュータ支援精液分析(CASA)システム(Hamilton Thorne Research、Beverly,MA)を使用して精子運動能を調べた。以下の設定を用いて1秒間の軌道を捕捉した:毎秒60フレーム、60フレーム取得、最低コントラスト=80、最小サイズ=3ピクセル、デフォルト細胞サイズ=6ピクセル、デフォルト細胞強度=160、遅い細胞を運動能があるものとしてカウントする、低VAPカットオフ=10μm/s、低VSLカットオフ=0μm/s、最小強度ゲート=0.18、最大強度ゲート=1.21、最小サイズゲート=0.56ピクセル、最大サイズゲート=2.63ピクセル、最小延長ゲート=0ピクセル及び最大延長ゲート=99ピクセル。CASAnovaパラメータを用いて生データを選別し、分析した(Goodson et al.,2018、前掲)。各実験において、最低でも500個の精子に対応する少なくとも20個の顕微鏡視野を分析した。
【0355】
実施例2:実験結果
本例は、栄養素枯渇後にエネルギー源を順次再導入すると精子の超活性化が向上することを示す。
【0356】
図1に示されるとおり、グルコース、ピルビン酸及び乳酸不含培地で精子を3時間インキュベートしたところ、運動能が低下した。異なるエネルギー基質で精子運動能のレスキューを試験した。精子を3時間飢餓状態に置き、完全HTFでレスキューしたとき、対照処理と比較して精子超活性化及び中間運動能が上昇した(図2)。対照的に、グルコース(5mM)又はピルビン酸(0.33mM)単独で処理した精子は、対照と比較して精子超活性化が改善しなかった(図2)。ピルビン酸単独の再導入は、飢餓状態からの精子運動能に何ら影響を与えなかったが、しかしながら、グルコース単独の再導入は、運動能を対照レベルまで回復させたことから(図2)、グルコースが精子超活性化に必要な主要なエネルギー源であることが示唆される。意外にも、グルコース処理した精子にピルビン酸を添加したとき又はピルビン酸処理した精子にグルコースを添加したとき、それが対照条件又はピルビン酸及びグルコースの両方を同時に精子に再導入したときと比べて超活性化運動能の有意な上昇を引き起こした。
【0357】
実施例3:活性化の亢進
C−HTFの容量オスモル濃度は、約290mOsmであり、ここで、F−HTFは、約243mOsmである。低張条件が精子にストレスを与え、従って元に戻したときに精子運動能及び機能の上昇が引き起こされることを明らかにするため、トレハロース、デキストラン又は他の長鎖糖など、精子によって効率的に代謝されない炭素源の存在下において、低張性、等張性又は高張性の異なる条件で精子をインキュベートし、低張条件でのインキュベーション時及び等張条件に戻した後の運動能に与える影響をCASA分析によって観察する。これには、増強段階中にカルシウム、ナトリウム及びカリウムなどの様々なイオンの濃度を調整すること、C−HTFに戻した後の運動能を判定することが含まれる。加えて、増強段階及びレスキュー段階の両方中にカルシウム、ナトリウム及びカリウムなどのイオンの濃度が増加又は低下する影響について、自然妊娠中に女性生殖路で起こるイオン周期を模倣するためのイオンの段階的添加と同じく試験する。運動能に加えて、カルシウムイオン流束を評価する。これらの操作は、単独でも又は記載されるグルコース及びピルビン酸の操作と併せても、超活性又は中間運動能を実現する精子の割合を亢進させる。
【0358】
ヒト精子は、これらの処理の飢餓段階で運動能の低下を呈するが、精子が完全に動きを停止することはなく、細胞がグリコーゲンなどの内部エネルギー源を利用しているか、又は脂質、タンパク質若しくはRNAなどの細胞成分を分解していることが示唆される。飢餓段階に曝露された精子について、全脂質含量、RNA含量及びタンパク質含量を評価する。精子運動能状態に関連する細胞内変化を明らかにするため、飢餓段階後、第1のエネルギー源の添加後及び第2のエネルギー源の添加後にプロテオミクス、メタボロミクス及びリピドミクス分析を実施する。実施例2に示すとおり対照条件で処理した精子及び試験条件で処理した精子中の全RNA(mRNA又はマイクロRNAなどの低分子非コードRNAなど、ある種の細画分を含む)を測定する。この分析の結果は、精子によってRNAがエネルギー源として用いられていることを示すものとなる。
【0359】
栄養素枯渇及び再導入は、精子適応度及び/又は子孫の健康及び適応度を改善する方式で精子のDNA、RNA及びタンパク質のメチル化及びアセチル化パターンも変化させ得る。DNAメチル化分析は、バルク細胞又は単一細胞のいずれかの精子からのDNAのバイサルファイトシーケンシングによって実施することができる。栄養枯渇後及び各栄養素再導入後の精子DNAメチル化の変化を評価することになる。
【0360】
解糖の上流炭素源(グルコース、マンノース、フルクトース、デキストロース又はスクロースなど)及び下流代謝産物(ピルビン酸、乳酸、コハク酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸など)を段階的に導入すると、AMPからATPへの変換速度が変化し、そのため、同時の添加と比較して精子運動能及び機能が改善される。飢餓後、第1のエネルギー源の導入後及び第2のエネルギー源の導入後に精子中のATP及びAMPレベルを測定する。飢餓後に栄養素を段階的に導入すると、AMPからATPへの変換が向上する。
【0361】
実施例4
本例は、エネルギー源を段階的に再導入すると精子が活性化することの追加的なエビデンスを提供する。
【0362】
不妊治療クリニックから、不妊症の治療を求める男性の精子試料を入手した。これらの試料には、正常な受精能の精子及び低受精能の精子が含まれた。精子の質を改善するため、試料を実施例1に記載されるとおり密度勾配遠心法によって調製した。液状化後、各射精液の全容積を等分し、2つの異なる密度勾配条件に供した。供試試料は、最終的なpHが7.4である、栄養素を欠いているリン酸緩衝生理食塩水溶液中に希釈した45〜90%パーコール(Sigma、P−1644)勾配を用いて調製した(F−PERCOLL)。対照試料は、最終的なpHが7.4である、(乳酸、グルコース及びピルビン酸)などの栄養素を含有するリン酸緩衝生理食塩水溶液中に希釈した45〜90%パーコール勾配を用いて調製した(C−PERCOLL)。両方の試料とも500×gで20分間遠心した。遠心後、上清を除去し、ペレットを10ml培地で洗浄した。供試試料は、F−HTFで洗浄し、対照試料は、C−HTFで洗浄した。
【0363】
試料を実施例1に記載されるとおりC−HTF培地で処理するか、又は栄養素不含培地中の密度勾配によって分離し、F−HTFで洗浄した。F−HTFによる精子、A)F−HTF中で1時間のインキュベーション、続いてグルコース(5mM)、ピルビン酸(0.33mM)及び乳酸を添加して1時間15分のインキュベーション、B)F−HTF中で1時間のインキュベーション、1時間のピルビン酸添加、次に15分間のグルコース添加、又はC)F−HTF中で1時間のインキュベーション、1時間のグルコース添加、次に15分間のピルビン酸添加。試料を実施例1に概説するとおりCASAによって分析した。結果は、図5A及び図5B並びに図6A及び図6Bに示す。各試験条件により、対照と比べて中間及び超活性運動能を有する精子の数が増加し、処理B及びCで最も高い活性化レベルが観察された。
【0364】
飢餓状態を高速化するため、精子を栄養素不含培地中での密度勾配により分離し、10ml F−HTFで洗浄した。図3に描かれるとおり、F−HTF中で1時間インキュベートした後、図1で見られたとおりの運動能の低下と同様の運動能の低下があった精子をピルビン酸(0.33mM)又はグルコース(5mM)のいずれかで1時間プライミングし、次に(B)グルコース(5mM)又は(C)ピルビン酸(0.33mM)のいずれかで15分間レスキューした。図2に示される結果と同様に、この高速/飢餓プロトコルも、図5に示される精子運動能パラメータを有意に改善した。
【0365】
実施例5
本例は、IUIを受けるヒト対象の受精能を改善するための本発明の特定の実施形態により処理した精子の使用について記載する。
【0366】
対象は、反復性の妊娠損失歴のない成人女性(例えば、18〜35歳)であり、過去にIUIを試みたことがあっても又はなくてもよい。対象を標準的な医療(例えば、クロミッド製剤、適応があればHcg誘発注射を伴う)で治療し、C−HTF又はF−HTFのいずれかで精液を希釈及び遠心し、細胞をC−HTF又はF−HTFのいずれかに収集及び再懸濁することにより調製した精子のIUIを受けるように無作為に割り付ける。代わりに、精子は、密度勾配遠心法と、C−HTF又はF−HTFによる細胞の洗浄及び再懸濁とによって収集することができる。精子は、F−HTFで(例えば、1時間)処理し、次にピルビン酸又はグルコースのいずれかを添加し、精子を(例えば、1時間)インキュベートし、次にその精子を、女性を授精させるために使用する。精子は、C−HTFで(例えば、2時間)処理し、次にその精子を、女性を授精させるために使用する。定期的フォローアップで妊娠をモニタする。グルコース(例えば、5mM)又はピルビン酸(例えば、0.33mM)の非存在下でインキュベートし、続いてグルコース又はピルビン酸を段階的に添加した精子を受け取った女性は、改善した受精能、例えば向上した妊娠率、胎児心拍数(例えば、7週時点での)、妊娠の継続(例えば、10週時点での)及び/又は生児出生率のパラメータを呈するものと予想される。
【0367】
実施例6
本例は、IVFを受けるヒト対象の受精能を改善するための本発明の特定の実施形態により処理した精子の使用について記載する。
【0368】
対象は、反復性の妊娠損失歴のない成人女性(例えば、18〜37歳)であり、過去にIVFを試みたことがあっても又はなくてもよい。対象を標準的な医療(例えば、排卵抑制と、続く排卵刺激、適応があればヒト絨毛性ゴナドトロピン誘発注射とを伴う)で治療した後、採卵する。採卵時、対象の卵子は、対照条件又は治療条件を用いて処理した精子による授精に無作為に割り付ける。対照群では、精子を密度勾配遠心法によって収集し、精子洗浄培地、C−HTF又は受精培地のいずれかに再懸濁する。市販の受精培地の非限定的な例としては、Global Total for fertilization(Origio)、Continuous Single Culture(登録商標)−NX Complete(Irvine)、Sydney IVF受精培地(Cook Medical)、Irvine Scientific Sperm Wash(Irvine)が挙げられる。治療群では、精子を密度勾配遠心法によって収集し、精子を増強させるのに十分なインキュベーション時間(例えば、1時間)にわたってF−HTFで洗浄及び再懸濁する。このインキュベーション後、ピルビン酸(0.33mM)又はグルコース(5mM)のいずれかを添加し、精子を(例えば、1時間)インキュベートする。このインキュベーション後、グルコース(5mM)又はピルビン酸(0.33mM)のいずれか(最初のステップで添加しなかった方)を添加し、精子を(例えば、少なくとも15分間)インキュベートする。治療群及び対照群のいずれでも、精子は、卵子と体外でインキュベートし、受精率及び胚の発育をモニタすることになる。胚(例えば、5日目における)を女性に移植することになり、血液検査によって(例えば、2週間後に)妊娠を判定することになる。定期的フォローアップで妊娠をモニタする。グルコース及びピルビン酸の非存在下でインキュベートした後、続いてグルコース及びピルビン酸を段階的に添加した精子で発生された胚は、改善した受精能パラメータ、例えば向上した受精率、胚盤胞発育を呈するものと予想される。グルコース及びピルビン酸の非存在下でインキュベートした後、続いてグルコース及びピルビン酸を段階的に添加した精子で発生された胚を受け取った女性は、向上した妊娠率、胎児心拍数(例えば、7週時点での)、妊娠継続(例えば、10週時点での)及び/又は生児出生率を呈するものと予想される。
【0369】
実施例7 キット
本明細書に開示されるキットは、栄養素不含sHTF中の2つの栄養素を順序付けることによってIUI又はIVFのための精子を調製するものであり、結果として中間及び超活性運動能を呈する精子の比率が向上する。キットの成分は、グルコース又はピルビン酸を含有しない栄養素不含合成HTF中での精子の初期インキュベーションを提供し、次に後にグルコース及びピルビン酸が逐次的に添加される。この飢餓−再栄養方法により、標準的な精子調製液と比較してより高い比率の中間精子及び超活性化精子が生じる(図10)。
【0370】
低受精能系統のマウスの精巣上体から単離した精子を、グルコース又はピルビン酸を含有しない栄養素不含合成HTF中でインキュベートし、次に後にグルコース及びピルビン酸を逐次的に提供すると、超活性運動能を呈する精子の比率が向上し、続いて受精率、胚盤胞への発育及び生児出生率が向上した(図11)。マウス精子又はヒト精子においてこの栄養素の順序付けの結果としての異常な運動能表現型は、認められず、マウスにおいて胚発育又は子の異常も認められなかった。結果及び精子運動能と受精との既知の関連性に基づき、本明細書に開示されるキットの使用により、IVF及びIUIを受けているカップルについて妊娠及び生児出生の確率を向上させることができる。
【0371】
本明細書に記載されるキットは、IVF及びIUIのための精子の処理及び調製に有用である。本キットは、別個のキットとして管理され得るか又は組み合わされ得る。例えば、密度勾配分離用キットは、IVF用キット又はIUI用キットと分けられ得るか、又は密度勾配分離用キットは、IVF又はIUI用キットと組み合わされ得る。かかる組み合わされたキットの実施形態において、IVF用キットは、別個のキットからの成分、即ち密度勾配分離のための成分及びIVFのための成分を含み得る。密度勾配のためのキットは、密度勾配法によって射精液から精子を分離するプロセスで使用される。IVF用キットは、栄養素不含sHTFからなる。この試薬は、IVFにおける受精ステップのための精子を調製するための精子の洗浄に有用であり、精子分離において、(1)スイムアップ法による運動生存精子の単離、又は(2)密度勾配分離用キットの試薬の希釈のいずれかに使用することができる。密度勾配分離用キットは、栄養素不含sHTF中のシラン被覆シリカを含む。
【0372】
IUI用キットは、栄養素不含sHTFを含む。この成分は、精子の洗浄、IUI手技のための精子の保持に用いることができ、IVFと同じく、精子分離において、(1)スイムアップ法による運動生存精子の単離、又は(2)キットの密度勾配成分の希釈のいずれかに使用することができる。キットの密度勾配試薬は、栄養素不含sHTF中のシラン被覆シリカであり得る。キットの例示的組成を以下の表1〜表5に提供する。これらの表は、個々の試薬の例示的成分及びその濃度を提供する。
【0373】
【表1】
【0374】
【表2】
【0375】
【表3】
【0376】
【表4】
【0377】
【表5】
【0378】
キットの成分は、解糖系エネルギー源(例えば、グルコース)又は糖新生基質(例えば、ピルビン酸)を含有しない栄養素不含合成HTF中での精子の初期インキュベーションを提供し、次に後に解糖系エネルギー源又は糖新生基質が同時に又は逐次的に添加されることにより、精子機能が改善されることになる。糖新生基質とは、糖新生過程に用いられる非炭水化物炭素源を意味する。糖新生基質は、糖新生経路の基質としての役割を果たし、更に糖新生を促進する役割を果たす。本開示のキットにおける使用に好適な糖新生基質としては、限定はされないが、ピルビン酸、乳酸、コハク酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、グリセロール、アセチルCoA、イソクエン酸、α−ケトグルタル酸、スクシニル−CoA、オキサロ酢酸又は糖新生基質の生理学的に許容可能な誘導体、塩、エステル、ポリマー若しくはα−ケト類似体が挙げられる。任意の糖新生アミノ酸又はその生理学的に許容可能な誘導体、塩、エステル、若しくはポリマー、若しくはα−ケト類似体も糖新生基質として好適である。糖新生アミノ酸の非限定的な例としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、シスチン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、メチオニン、プロリン、セリン、スレオニン及びバリンが挙げられる。ピルビン酸の薬学的に許容可能な塩の非限定的な例は、ピルビン酸リチウム、ピルビン酸ナトリウム、ピルビン酸カリウム、ピルビン酸マグネシウム、ピルビン酸カルシウム及びピルビン酸亜鉛である。一部の実施形態において、ピルビン酸は、ピルビン酸ナトリウムである。乳酸の塩の非限定的な例としては、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸マグネシウム、乳酸カルシウム、乳酸亜鉛及び乳酸マンガンが挙げられる。キットのピルビン酸成分は、上記に挙げた任意の他の糖新生基質に置き換えることができる。
【0379】
解糖系エネルギー源には、解糖の炭素源が含まれる。解糖系エネルギー源の非限定的な例としては、単糖類(フルクトース、グルコース、ガラクトース及びマンノースなど)及び二糖類(スクロース、ラクトース、マルトース及びトレハロース)並びに多糖類、ガラクトース、オリゴ糖類、そのポリマーが挙げられる。キットのグルコース成分は、上記に挙げた任意の他の解糖系エネルギー源に置き換えることができる。
【0380】
一部の実施形態において、本キットは、追加的な成分を含み、例えば少なくとも第1のエネルギー源又は第2のエネルギー源と組み合わせて、NADH、NAD+、クエン酸、AMP、ADP又はこれらの組み合わせなど、解糖系の上流及び下流の他の成分が添加される。
【0381】
生理学的に許容可能とは、精子、卵母細胞又は胚にとって無毒であり、加えて体外及び体内でのハンドリング及び操作時にその機能及び生存を改善するものを意味すると理解される。
【0382】
実施例8 密度勾配用キット
密度勾配用キットは、密度勾配遠心法を用いて運動精子を射精液と分離するのに有用である。これは、密度勾配試薬、即ち栄養素不含sHTF中のシラン化シリカの懸濁液で構成される。密度勾配分離用キットは、2つ以上の濃度のシラン化シリカを含み、これは、例えば、特にIVFクリニックの技師の中での使用者の好みに基づいて提供される。加えて、IVF用キット及びIUI用キットの栄養素不含sHTF成分は密度勾配試薬の希釈に使用することができるため、使用者は、シラン化シリカの濃度をカスタマイズ可能である。
【0383】
密度勾配用キットは、使用説明書も含み、これは、現行の密度勾配による臨床業務を映し出すものとなり得る。一般には、精液試料を密度勾配の表面に加え、遠心する。チューブの底にあるペレットからピペットで運動精子を収集する。従って、試料は、随時洗浄できる状態になる。
【0384】
密度勾配試薬は、後に精子洗浄中にIVF用キット又はIUI用キットから添加されることになる栄養素を欠いている。
【0385】
密度勾配用キットは、IVF用キット及びIUI用キットの使用者に好都合となるように、栄養素を含まず設計される。栄養素不含密度勾配がなかったならば、技師は、IVF用キット及びIUI用キットを用いて提供される栄養素の段階的導入のための精子を調製するのに精子をより多くの回数にわたって洗浄しなければならず、より多くの時間及びリソースが費やされることになる。密度勾配試薬は、約7.4のpHを有する。
【0386】
実施例9 IVF用キット
IVF用キットは、精子の洗浄、スイムアップ法による運動生存精子の単離及び密度勾配試薬の希釈に有用である。本キットは、IVFにおける受精ステップのための精子を調製する。IVF用キットには、3つの試薬:栄養素不含sHTF並びにピルビン酸及びグルコースの濃縮溶液が入っている(表1〜表5)。本キットは、使用説明書も含む。使用説明書は、洗浄ステップの実行に関する説明書を含み、またピルビン酸及びグルコースの時限式逐次添加に関する説明書も含む。本キットの一般的な使用を以下に説明する。
【0387】
精子分離:スイムアップ法
多くのクリニックでは、分離方法としてスイムアップ法よりも密度勾配遠心法が好まれている。しかしながら、使用者の好みに対応するため、栄養素不含sHTF試薬がスイムアップ法による運動生存精子の単離に使用され得る(図12)。初めに、少量の栄養素不含sHTFの下に精液試料の層を重ねる。次に、精子が栄養素不含sHTF中に泳ぎ上がるのに十分な時間を与える。最後に、上部の栄養素不含sHTF層を収集し、遠心する。
【0388】
精子分離:密度勾配試薬の希釈
密度勾配試薬の希釈に使用する場合、栄養素不含sHTFを密度勾配試薬に添加して所望の濃度を実現する。密度勾配培地中におけるシラン化シリカの好ましい濃度は、クリニック毎に異なり得る。このIVF用キットによれば、使用者は、その必要性に合わせて密度勾配試薬濃度をカスタマイズすることが可能である。
【0389】
精子の洗浄
精子分離後、ペレット化した精子を栄養素不含sHTFで1回洗浄し、短時間インキュベートする。キットの説明書に詳述されるとおり、グルコースを添加し、精子をインキュベートする。次に、キットの説明書に詳述されるとおり、ピルビン酸を添加し、精子をインキュベートした後、最後に1回遠心する。試料は、卵母細胞とのコインキュベーションのため受精培地に再懸濁できる状態となる。
【0390】
IVF用キットは、IVFにおける受精ステップのための精子を調製する。IVF用キットは、栄養素の段階的導入を可能にする3つの試薬 − 栄養素不含sHTF、グルコース含有試薬及びピルビン酸含有試薬 − を含む。グルコース及びピルビン酸は、事前に混合されるのでなく、むしろ逐次的に添加するものとして存在する。表2及び表5に、グルコースを含有する試薬の例示的組成を提供する。表2及び表4に、ピルビン酸を含有する試薬の例示的組成を提供する。
【0391】
実施例10 IUI用キット
IUI用キットは、精子の洗浄、スイムアップ法による運動生存精子の単離、密度勾配試薬の希釈及びIUI手技のための精子の保持に使用される。IUI用キットは、グルコースを含まないが、他の点ではIVF用キットと同じである。IVF及びIUIキットの使用説明書も概して同じであり、主な違いは、IUI用キットの説明書がグルコースの添加ステップを含まない点である。説明書は、子宮内授精のための調製液の準備ができたところで終わる。グルコースは、IVF用キットの栄養素不含sHTF−グルコース−ピルビン酸混合物中の最終グルコース濃度以上の濃度で子宮内に存在する。従って、調製された試料中の精子は、子宮内注入時に超活性化を誘導するのに十分なグルコースに曝露される。
【0392】
IUI用キットは、2つの試薬 − 栄養素不含sHTF及びピルビン酸含有試薬 − を含み、体外でのピルビン酸(別個の試薬として含まれる)及び天然でのグルコース(子宮内曝露を通して)の段階的導入を可能にする。IUI用キットでは、グルコース及びピルビン酸は、最初に培地に存在しない。初期栄養素不含インキュベーション後にピルビン酸が添加される。グルコースは、エキソビボで添加されず、精子の子宮内授精時に提供される。これには、ピルビン酸への曝露によって引き起こされる精子超活性化が子宮内注入のタイミングと同期するという付加的な利益がある。表2及び表5に、グルコースを含有する試薬の例示的組成を提供する。表2及び表4に、ピルビン酸を含有する試薬の例示的組成を提供する。
【0393】
実施例11 − 使用上の指示
密度勾配用キット
密度勾配用キットは、密度勾配遠心法を用いて運動精子を射精液と分離するのに有用である。これは、IVF用キット又はIUI用キットと併せた使用が指示される。
【0394】
IVF用キット
IVF用キットは、精子の洗浄、スイムアップ法による運動生存精子の単離及び密度勾配分離用キット中の密度勾配試薬の希釈に有用である。
【0395】
本キットは、IVFにおける受精ステップのための精子を調製する。IVF用キットを使用した精子の調製前に密度勾配遠心法を実施して精子を精液と分離するとき、密度勾配用キットを使用することができる。
【0396】
IUI用キット
IUI用キットは、精子の洗浄、スイムアップ法による運動生存精子の単離、密度勾配用キット中の密度勾配試薬の希釈及びIUI手技のための精子の保持に有用である。IUI用キットを使用した精子の調製前に密度勾配遠心法を実施して精子を精液と分離するとき、密度勾配分離用キットを使用することができる。
【0397】
実施例12 − 子孫の代謝適応度の改善
肥満については、2型糖尿病、心血管疾患、呼吸器疾患、関節炎及び癌を含めた多くのヒト疾患とのその関連性を理由として世界的に公衆衛生上の懸念が高まりつつある。ほとんどの肥満症例は、遺伝的素因と相まって、エネルギー摂取量とエネルギー消費量との釣り合いがとれないことによって生じる。古典的なリスク遺伝子の遺伝的継承に加えて、エピジェネティクスメッセージが精子に取り込まれ得る。本例は、本発明により提供される方法に供された精子が子孫の代謝適応度に及ぼす効果について明らかにする。
【0398】
食事性肥満モデルを使用して、肥満マウスからの精子の飢餓/レスキュー処理が受精能及び子孫体重に与える影響を試験する。雄C57BL/6マウスに通常の固形飼料又は高脂肪食を与える。精子を採取し、対照条件下において(C−HTF、対照)又は実施例2に記載される飢餓/レスキュー手順後(F−HTF、グルコース及びピルビン酸の段階的再導入を伴う、供試)、受精能を獲得させる。運動能、全RNA(並びにマイクロRNAを含む低分子非コードRNA)含量並びにDNA、RNA及びタンパク質メチル化に関して対照条件と試験条件との間で精子を分析する。RNAseqを実施して、マイクロRNAを含む低分子非コードRNAなどのRNAの変化を判定する。バイサルファイトシーケンシングを実施して、DNAメチル化の変化を判定する。対照条件及び試験条件からの精子を使用して体外受精を実施し、受精卵数、胚盤胞形成及び生児出生を判定する。最後に、各実験条件からの2細胞期胚に対してRNA seq及びDNAメチル化に関するバイサルファイトシーケンシングを実施する。加えて、各条件からの子孫の体重を12ヵ月間モニタし、且つ定期的血液化学分析を行う。試験条件に供した精子は、対照と比較してRNAレベル(マイクロRNAを含む)の減少及び/又はDNAメチル化の変化を示し、対応する子は、対照と比べて肥満の減少を示す。
【0399】
肥満又は過体重の男性から入手された精子に関して、栄養枯渇及び再導入がRNA含量並びにDNA、RNA及びタンパク質のメチル化及びアセチル化に及ぼす効果を評価することになる。精子を単離し、対照条件又は飢餓/レスキュー手順(F−HTF、グルコース及びピルビン酸の段階的再導入を伴う、供試)に曝露する。飢餓段階及び各栄養素の再導入後のRNA含量、DNA、RNA及びタンパク質メチル化及びアセチル化の変化に関して試料を分析することになる。
【0400】
実施例13 例示的保存培地
試料及び方法
精液試料及び精子調製液
本研究のために、あるコホートの任意抽出ドナーが精液試料を供給した。試料は、滅菌容器内への自慰によって産生され、射精から1時間以内に研究室に届けられた。密度勾配遠心法(Isolate、Irvine Scientific)により精液試料の分画を実現した。Tarchala SM,et al.,53rd Annual Meeting of the American Society for Reproductive Medicine,Cincinnati,Ohio;P−116,1998を参照されたい。300×gで20分間遠心した後、精漿画分及び低密度層を取り除き、生存能、運動能及び正常形態の割合が高い精子を主に含有する高密度画分を適切な貯蔵培地で2回洗浄した。
【0401】
精子の貯蔵
Riel et al.(Biol Reprod.2011 Sep;85(3):536−47)により記載されるとおり電解質不含培地(EFM)を調製した。供試保存培地又は供試培地は、pHが6.8に調整された滅菌細胞培養品質水中、0.33Mグルコース、3%ウシ血清アルブミン、10mM HEPES、10μg/mlゲンタマイシンからなった。冷蔵培地(RM)は、ゲンタマイシン(Sigma−Aldrich G1272)含有TYB(TESトリス及び卵黄緩衝液)からなった。洗浄した精子試料を0.5〜1.0mLの培地(EFM、RM又は供試保存培地)に再懸濁し、冷却インキュベーター(Benchmark Scientific)に4℃で貯蔵した。凍結保存については、試料を凍結用培地(グリセロール及びゲンタマイシン含有TYB)(FM、Irvine Scientific、カタログ番号90128)と共に混合し(1:1試料培地比)、4℃でゆっくりと(0.5℃/分)冷却し、次に製造者の推奨に従って液体窒素の気相中に凍結及び貯蔵した。
【0402】
コンピュータ支援精子運動能分析(CASA)
Goodson et al.(Biol Reprod.2017 Nov 1;97(5):698−708)によって推奨されるプロトコルに従い、Hamilton ThorneからのCEROS IIシステムで精液及び貯蔵精子試料のコンピュータ支援精子運動能分析(CASA)を入手した。停止精子及び運動精子の相対的分布並びに曲線速度(VCL)を少なくとも500個の精子で決定した。精子は、CASA前に、受精能獲得を誘導することが公知の条件、5mg/mLヒト血清アルブミン、25mM重炭酸ナトリウム、pH7.3の変法ヒト卵管液(mHTF)において4時間回復させた。使い捨て20μmチャンバースライド(Leja Products SC 20−01−02−B)に6μlの精子懸濁液をロードし、CASAのための映像を取得した(1秒、毎秒60フレーム)。
【0403】
末端デオキシヌクレオチド転移酵素dUTPニック末端標識(TUNEL)
3×10細胞に対して、Simon et al.(Hum Reprod.2014 May;29(5):904−17)によって推奨されるプロトコルに従い、APO−DIRECTキット(BD Biosciences 556381)を使用してDNA断片化を測定した。CytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter Life Sciences)で遊離3’−OH基の存在を測定した。
【0404】
脂質過酸化アッセイ
1×10細胞に対して、脂質過酸化センサBODIPY C11(Thermo Fisher Scientific D3861)を使用して精子の過酸化損傷を評価した。CytoFLEXフローサイトメーターで陽性対照(80uM硫酸第一鉄とインキュベートした試料)及び陰性対照(色素なし)と比べた蛍光発光ピークのシフトを測定した。
【0405】
データ処理
フローサイトメトリー生データは、FlowJo v10(FlowJo、LLC)で処理した。CASA及びフローサイトメトリーデータは、統計的分析のためにPrism 8(GraphPad)にインポートした。
【0406】
結果
電解質不含培地(EFM)、冷蔵培地(RM)又は供試保存培地に4℃で短期間貯蔵したときの複数のn人のドナーからのヒト精子の運動能を、CASAを用いて評価した。供試保存培地に7日間貯蔵した後、当初の精子運動能の最高80%が保たれ、これは、EFMでの貯蔵(図13A、供試培地では75%であるのに対して、EFMでは35%)及びRMでの貯蔵(図13B、供試培地では80%であるのに対して、EFMでは60%)と比べて大幅な改善に相当した。供試保存培地に14日間貯蔵した後、当初の精子運動能の最高50%が保たれた。
【0407】
供試保存培地での短期貯蔵は、精子DNA損傷の防止の点で凍結保存と比べて遜色がない。新鮮なヒト精子試料を供試培地に4℃で7日間貯蔵するか、又はIrvine凍結用培地に希釈して液体窒素中に凍結した。7日後、供試培地に保存した精子及び凍結保存精子の運動能パラメータ(CASAにより評価した)に有意な差はなかった(図14A)。しかしながら、TUNEL分析によれば、供試培地に保存した精子では、凍結保存して解凍した精子と比べてDNA断片化が有意に低かったことが明らかになり(図14B)、短期貯蔵に関して4℃における供試培地(供試保存培地)での貯蔵は凍結保存よりも精子にとって有害性が低いことが示唆される。
【0408】
「約」、「少なくとも」、「未満」及び「超」など、本願において一部のパラメータを表現する全ての数値境界について、その表現は、記載される値によって境界される任意の範囲も必然的に包含することが理解されなければならない。従って、例えば、表現「少なくとも1、2、3、4又は5」は、とりわけ、範囲1〜2、1〜3、1〜4、1〜5、2〜3、2〜4、2〜5、3〜4、3〜5及び4〜5なども表現する。
【0409】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許及び特許出願は、各個別の刊行物、特許又は特許出願が参照によって援用されることが具体的且つ個別に示されたのと同程度に、あらゆる目的のために全体として参照により本明細書に援用される。例えば、本明細書で言及される全ての刊行物及び特許は、本明細書に説明される方法、キット及び組成物に関連して使用される可能性のある、それらの刊行物に説明されているキット、組成物及び方法論を説明及び開示する目的で全体として参照により本明細書に援用される。本明細書で考察される文献は、本願の出願日より前のそれらの開示のみ提供される。本明細書のいかなる事項も、先行発明であることを理由として又は任意の他の理由で本明細書に記載される本発明者らがかかる開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されてはならない。参照によって援用される文献と本開示との間に何らかの矛盾がある場合、本開示が優先するものとする。
【0410】
本願において使用される見出しは、便宜上に過ぎず、本願の解釈に影響を及ぼすことはない。見出しは、決して本発明を限定するために用いられてはならない。例えば、精子機能という見出しの下に説明される方法は、その方法を精子運動能という見出しの下に説明されるとおりに実施することができないか、又は保存培地という見出しの下に開示される試薬で実施することができないというように限定されてはならない。むしろ、様々な見出しの下に開示及び説明される方法及び試薬が全面的に置き替え可能であり、当業者であれば、本明細書における本発明の説明の任意の一部分から開示を選択して、本明細書における本発明の説明の任意の他の一部分と組み合わせることが可能であり得るように任意の組み合わせで実施し得ることが意図される。
【0411】
本発明により提供される態様(例えば、培地、組成物、調製液及び方法)の各々の好ましい特徴は、本発明の他のあらゆる態様に適宜修正して適用可能であり、限定なしに、従属請求項によって例示され、また実際に行った実施例を含め、本発明の詳細な実施形態及び態様の個別の特徴(例えば、数値の範囲を含めた要素及び例示的実施形態)の組み合わせ及び並べ替えも包含する。例えば、実際に行った実施例に例示される詳細な実験パラメータは、本発明から逸脱することなく、特許請求される本発明における使用に断片的に適合させることができる。例えば、開示される材料について、それらの化合物の様々な個別の及びまとめた組み合わせ及び並べ替えの各々の具体的な言及は、明示的に開示されないこともあるが、本明細書では各々が具体的に企図され、記載される。従って、要素A、B及びCのクラスが開示されると共に、要素D、E及びFのクラス及び要素A−Dの組み合わせ例も開示される場合、従って各々が個別に記載されない場合でも、各々が個別に及びまとめて企図される。従って、この例では、組み合わせA−E、A−F、B−D、B−E、B−F、C−D、C−E及びC−Fの各々が具体的に企図され、A、B及びC;D、E及びF;並びに例示的組み合わせA−Dの開示から開示されると見なされるべきである。同様に、これらの任意の部分集合又は組み合わせも具体的に企図され、開示される。従って、例えばA−E、B−F及びC−Eのサブ群が具体的に企図され、A、B及びC;D、E及びF;並びに例示的組み合わせA−Dの開示から開示されると見なされるべきである。この概念は、物質の組成物の要素並びにその組成物を作製又は使用する方法のステップを含め、本願の全ての態様に適用される。
【0412】
本明細書の教示に従い、当業者が認識するとおりの本発明の前述の態様は、それらが先行技術に鑑みて新規且つ非自明である範囲において任意の組み合わせ又は並べ替えで特許請求することができる − 従って、ある要素が当業者に公知の1つ以上の参考文献に記載される範囲において、それらは、とりわけ特徴又は特徴の組み合わせの否定的な但し書き又はディスクレーマーにより、特許請求される本発明から除外され得る。

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
【手続補正書】
【提出日】2021年4月16日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
向上した精子機能を誘導するin vitroの方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第1のエネルギー源を提供すること、及び
(c)その後、ステップ(b)からの前記哺乳類精子に、有効量の、(i)前記解糖系エネルギー源、又は(ii)前記糖新生基質から選択される第2のエネルギー源を提供することであって、提供される前記第2のエネルギー源は、ステップ(b)で選択されない、提供すること
を含み、前記有効量は、向上した精子機能を誘導するのに十分な量である、in vitroの方法。
【請求項2】
前記向上した精子機能は、標準受精能獲得培地(完全ヒト卵管液)で処理された精子と比べて向上している、請求項に記載のin vitroの方法。
【請求項3】
前記向上した精子機能は、コンピュータ支援精液分析(CASA)によって測定される運動能の向上を含む、請求項1または2に記載のin vitroの方法。
【請求項4】
前記運動能の向上は、前記哺乳類精子の曲線速度の向上、超活性化精子の割合の向上、中間運動能精子の割合の向上又はこれらの組み合わせを含む、請求項に記載のin vitroの方法。
【請求項5】
前記哺乳類精子は、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ又はマウス精子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項6】
前記哺乳類精子は、ヒト精子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項7】
前記解糖系エネルギー源は、グルコースであり、及び前記糖新生基質は、ピルビン酸である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項8】
前記ピルビン酸の濃度は、0.15mM〜0.66mMであり、前記グルコースの濃度は、0.6mM〜10mMである、請求項7に記載のin vitroの方法。
【請求項9】
前記精子を増強した後、有効量の第1のエネルギー源を提供してから有効量の第2のエネルギー源を提供するまでの時間は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、または60分である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項10】
前記第1のエネルギー源は、糖新生基質である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項11】
前記第1のエネルギー源は、ピルビン酸である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項12】
前記第2のエネルギー源は、解糖系エネルギー源である、請求項1〜11のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項13】
前記第2のエネルギー源は、グルコースである、請求項1〜12のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項14】
ステップ(a)の前記哺乳類精子は:
(i)精子減少症の対象または低受精能の対象に由来する、
(ii)非低温貯蔵または低温貯蔵から回収された精子である;且つ/又は、
(iii)2回分以上の射精液のプールとして提供される、
請求項1〜13のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項15】
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、密度勾配遠心法、スイムアップ法、マイクロフルイディクス、又はこれらの組み合わせにより、ステップ(a)の前に精液から濃縮されている、請求項1〜14のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項16】
200mOsm/kg〜280mOsm/kgの範囲の重量オスモル濃度で実施される、請求項1〜15のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項17】
ステップ(a)のエネルギ枯渇条件下での前記インキュベートは、少なくとも30、40、45、50、55、60、90、120、150、又は180分にわたる、請求項1〜16のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項18】
ステップ(a)は、実質的にグルコース不含、且つ実質的にピルビン酸不含である精子増強用エネルギー枯渇組成物中で、前記哺乳類精子をインキュベートすることを含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項19】
前記精子増強用エネルギー枯渇組成物は、HEPESを含む、請求項18に記載のin vitroの方法。
【請求項20】
HEPESは、3〜30mMの濃度である、請求項19に記載のin vitroの方法。
【請求項21】
前記精子増強用エネルギー枯渇組成物は、NaCl、KCl、CaCl、KHPO、MgSO・7HO、及びNaHCOから選択される1つ以上の塩を更に含む、請求項18〜20のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項22】
NaClは、50〜150mMの濃度で存在し;KClは、1〜10mMの濃度で存在し;CaClは、1〜5mMの濃度で存在し;KHPOは、0.1〜0.6mMの濃度で存在し;MgSO・7HOは、0.1〜0.5mMの濃度で存在し;NaHCOは15〜30mMの濃度で存在する、請求項21に記載のin vitroの方法。
【請求項23】
ステップ(b)から得られた前記哺乳類精子に、受精を増進させる条件下において、卵子への到達手段を提供することを更に含む、請求項1〜22のいずれか一項に記載のin vitroの方法。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか一項に記載のin vitroの方法によって調製される、向上した精子機能を有するヒト精子を含む調製液。
【請求項25】
5%〜20%、8.5%〜20%、10%〜20%、又は12.5%〜20%の超活性化精子を含む、請求項23に記載の調製液。
【請求項26】
向上した精子機能を誘導するin vitroの方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすることを含み、
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第1のエネルギー源を提供すること、及び
(c)その後、ステップ(b)からの前記哺乳類精子に、有効量の、(i)前記解糖系エネルギー源、又は(ii)前記糖新生基質から選択される第2のエネルギー源を提供することであって、提供される前記第2のエネルギー源は、ステップ(b)で選択されず、前記有効量は、向上した精子機能を誘導するのに十分な量である、提供すること
と組み合わせて実施されることを特徴とし、
ステップ(a)、(b)、および(c)は、この順番で実施される、in vitroの方法。
【請求項27】
向上した精子機能を誘導するin vitroの方法であって、
(b)増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第1のエネルギー源を提供することを含み、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、前記増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(c)ステップ(b)からの前記増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)前記解糖系エネルギー源、又は(ii)前記糖新生基質から選択される第2のエネルギー源を提供することであって、提供される前記第2のエネルギー源は、ステップ(b)で選択されず、前記有効量は、向上した精子機能を誘導するのに十分な量である、提供すること
と組み合わせて実施されることを特徴とし、
ステップ(a)、(b)、および(c)が、その順番で実施される、in vitroの方法。
【請求項28】
向上した精子機能を誘導するin vitroの方法であって、
(c)増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第2のエネルギー源を提供することであって、前記有効量は、向上した精子機能を誘導するのに十分な量である、提供することを含み、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、前記増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第1のエネルギー源を提供することであって、ステップ(b)の前記増強された哺乳類精子を生じさせ、前記増強された提供される前記第2のエネルギー源は、ステップ(b)で選択されない、提供すること
と組み合わせて実施されることを特徴とし、
ステップ(a)、(b)、および(c)は、この順番で実施される、in vitroの方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0412
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0412】
本明細書の教示に従い、当業者が認識するとおりの本発明の前述の態様は、それらが先行技術に鑑みて新規且つ非自明である範囲において任意の組み合わせ又は並べ替えで特許請求することができる − 従って、ある要素が当業者に公知の1つ以上の参考文献に記載される範囲において、それらは、とりわけ特徴又は特徴の組み合わせの否定的な但し書き又はディスクレーマーにより、特許請求される本発明から除外され得る。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
受精を増進させる方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、前記哺乳類精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること、及び
(c)ステップ(b)から得られた前記哺乳類精子に、受精を増進させる条件下において、卵子への到達手段を提供すること
を含み、前記有効量は、改善された精子機能を誘導するのに十分な量である、方法。
(項目2)
曲線速度、頭部振幅、オートファジー、精子受精能獲得、超活性化精子の割合、中間運動能精子の割合並びに超活性化精子及び中間運動能精子の割合から選択される1つ以上の精子機能は、前記増強された哺乳類精子が前記第1のエネルギー源及び前記第2のエネルギー源の一方のみを提供されるか、又は前記第1のエネルギー源及び前記第2のエネルギー源を同時に提供される方法と比べて改善される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記第1のエネルギー源は、解糖系エネルギー源であり、及び前記第2のエネルギー源は、糖新生基質であるか、又は前記第1のエネルギー源は、前記糖新生基質であり、及び前記第2のエネルギー源は、前記解糖系エネルギー源であり、更に、ステップ(a)の前記哺乳類精子は、ヒト精子である、項目1に記載の方法。
(項目4)
体外で実施される、項目3に記載の方法。
(項目5)
ステップ(c)は、ステップ(b)からの前記哺乳類精子の腟内又は子宮内授精(IUI)での人工授精により、雌対象の生殖路において体内で実施される、項目3に記載の方法。
(項目6)
ステップ(b)の前記第2のエネルギー源を提供することは、有効量の前記第1のエネルギー源を提供された前記増強された哺乳類精子の子宮内授精(IUI)により、雌対象の生殖路において体内で実施される、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記第1のエネルギー源は、ピルビン酸である糖新生基質であり、及び前記第2のエネルギー源は、解糖系エネルギー源である、項目6に記載の方法。
(項目8)
ステップ(c)は、ステップ(b)からの前記哺乳類精子を前記卵子と共にインキュベートするか、又はステップ(b)からの前記哺乳類精子を前記卵子の細胞質に注入して、前記卵子の体外受精を増進させることを含む、項目4に記載の方法。
(項目9)
受精を増進させることは、胚であって、好適な対照精子によって発生された胚と比べて向上した生存能及び/又は改善された着床を呈する胚の発生を含む、項目1に記載の方法。
(項目10)
受精を増進させることは、少なくとも2細胞期発育段階、胚盤胞期発育段階又は子孫まで発育する胚の発生を含む、項目1に記載の方法。
(項目11)
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、精子減少症の対象又は低受精能の対象からのものである、項目1に記載の方法。
(項目12)
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ又はマウス精子である、項目1に記載の方法。
(項目13)
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、ヒト精子である、項目12に記載の方法。
(項目14)
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、非低温又は低温貯蔵から回収された精子である、項目1に記載の方法。
(項目15)
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、2回分以上の射精液のプールとして提供される、項目1に記載の方法。
(項目16)
ステップ(a)の前記哺乳類精子は、ステップ(a)前に密度勾配遠心法、スイムアップ法又はマイクロフルイディクスによって精液から濃縮される、項目1に記載の方法。
(項目17)
200〜280mOsm/kgの範囲の重量オスモル濃度で実施される、項目1に記載の方法。
(項目18)
ステップ(b)は、少なくとも前記第1のエネルギー源又は前記第2のエネルギー源と組み合わせて、解糖系の上流又は下流の1つ以上の成分を前記哺乳類精子に提供することを更に含む、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記第1のエネルギー源は、(i)グルコース、又は(ii)ピルビン酸から選択され、及び前記第2のエネルギー源は、(i)グルコース、又は(ii)ピルビン酸から選択され、前記第1及び第2のエネルギー源は、異なる、項目3に記載の方法。
(項目20)
ステップ(a)のエネルギー枯渇条件下での前記インキュベーションは、少なくとも10分にわたるものである、項目1に記載の方法。
(項目21)
向上した精子機能を誘導する方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に、有効量の、(i)解糖系エネルギー源、又は(ii)糖新生基質から選択される第1のエネルギー源を提供すること、及び
(c)その後、ステップ(b)からの前記哺乳類精子に、有効量の、(i)前記解糖系エネルギー源、又は(ii)前記糖新生基質から選択される第2のエネルギー源を提供することであって、提供される前記第2のエネルギー源は、ステップ(b)で選択されない、提供すること
を含み、前記有効量は、向上した精子機能を誘導するのに十分な量である、方法。
(項目22)
前記向上した精子機能は、好適な対照精子と比べて向上しており、前記好適な対照精子は、未処理の哺乳類精子、有効量の前記解糖系エネルギー源又は前記糖新生基質を独立に提供されている、ステップ(a)の前記増強された哺乳類精子、有効量の前記解糖系エネルギー源及び前記糖新生基質を同時に提供されている、ステップ(a)の前記増強された哺乳類精子又は標準受精能獲得培地(C−HTF)で処理された精子である、項目21に記載の方法。
(項目23)
体外で実施される、項目21に記載の方法。
(項目24)
ステップ(c)は、ステップ(b)からの前記哺乳類精子の腟内又は子宮内授精(IUI)での人工授精により、雌対象の生殖路において体内で実施される、項目21に記載の方法。
(項目25)
前記向上した精子機能は、コンピュータ支援精液分析(CASA)によって測定される運動能の向上を含む、項目21に記載の方法。
(項目26)
前記運動能の向上は、前記哺乳類精子の曲線速度の向上、超活性化精子の割合の向上、中間運動能精子の割合の向上又はこれらの組み合わせを含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記向上した精子機能は、精子−透明帯結合検査によって測定される精子受精能獲得の向上を含む、項目21に記載の方法。
(項目28)
前記向上した精子機能は、精子侵入検査によって測定される、卵子を受精させる前記哺乳類精子の能力の向上を含む、項目21に記載の方法。
(項目29)
前記向上した精子機能は、好適な対照精子で発生された胚と比べて向上した生存能、改善された着床、少なくとも2細胞期発育段階、胚盤胞期発育段階又は子孫まで発育する向上した能力を有する胚の発生を含む、項目21に記載の方法。
(項目30)
前記哺乳類精子は、ヒト、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ又はマウス精子である、項目21に記載の方法。
(項目31)
前記哺乳類精子は、ヒト精子である、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記解糖系エネルギー源は、グルコースであり、及び前記糖新生基質は、ピルビン酸である、項目31に記載の方法。
(項目33)
項目21に記載の方法によって調製される、向上した精子機能を有する前記哺乳類精子を含む精子調製液。
(項目34)
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること
のプロセスによって調製される、向上した割合の超活性化精子を含む精子調製液であって、前記有効量は、1つ以上の精子機能の向上を誘導するのに十分な量であり、向上した割合の超活性化精子を含む前記精子調製液は、
未処理の哺乳類精子、有効量の前記第1のエネルギー源又は前記第2のエネルギー源を独立に提供されている、ステップ(a)の前記増強された哺乳類精子、有効量の前記第1のエネルギー源及び前記第2のエネルギー源を同時に提供されている、ステップ(a)の前記増強された哺乳類精子又は標準受精能獲得培地(C−HTF)で処理された哺乳類精子
から選択される好適な対照精子と比べて1つ以上の精子機能の向上を含む、精子調製液。
(項目35)
向上した精子機能を誘導する方法であって、
(a)緩衝剤を含み、且つ約6〜7のpH及び約300〜400mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する保存培地に哺乳類精子を提供すること、
(b)前記哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、前記哺乳類精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(c)ステップ(b)からの前記増強された哺乳類精子に有効量の(i)解糖系エネルギー源、及び/又は(ii)糖新生基質を提供すること
を含み、それにより好適な対照精子と比較して向上した精子機能を誘導する、方法。
(項目36)
受精を増進させる方法であって、
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇条件下において、前記精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすることであって、前記インキュベーション前に、前記哺乳類精子は、緩衝剤を含み、且つ弱酸性pH及び約300〜400mOsm/kgの重量オスモル濃度を有する保存培地に貯蔵される、インキュベートすること、
(b)ステップ(a)からの前記増強された精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること、
(c)ステップ(a)の前記増強された哺乳類精子に有効量の前記第1のエネルギー源又は前記第2のエネルギー源を独立に提供するか、又は有効量の前記第1のエネルギー源及び前記第2のエネルギー源を同時に提供することによって得られるものを上回るレベルまで精子機能の1つ以上を向上させること、及び
(d)向上した機能を有する前記哺乳類精子に、受精を増進させる条件下において、卵子への到達手段を提供すること
を含む方法。
(項目37)
a)緩衝化精子増強用エネルギー枯渇組成物を含む第1の組成物を含む第1の容器、及び
b)哺乳類精子に好適な少なくとも第1のエネルギー源を含む第2の組成物を含む第2の容器
を含むキットであって、
前記哺乳類精子を前記第1の組成物中で好適な時間にわたってインキュベートすると、増強された哺乳類精子を生じさせ、
前記増強された哺乳類精子に有効量の少なくとも前記第1のエネルギー源を提供すると、好適な対照と比べて、前記増強された哺乳類精子の機能を向上させる、キット。
(項目38)
少なくとも5%の超活性化精子を含む超活性化精子調製液であって、任意選択で、超活性化に基づいて事前に選別されておらず、任意選択で、前記超活性化精子及び/又は中間精子は、好適な対照と比べて、細胞内RNA濃度(マイクロRNAを含む低分子非コードRNA濃度など)の10、15、20、25、30、35、40、45、50%又はそれを超える(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10倍又はそれを超える)低下を有する、超活性化精子調製液。
(項目39)
a.正常精子の雄、低受精能の雄又は精子減少症の雄、例えば低受精能(精子減少症を含む)の雄などの雄対象の精液から精子を濃縮すること、
b.前記精子を、エネルギー枯渇下において、前記精子を増強するのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
c.前記増強された精子に、有効量の解糖系エネルギー源又は有効量の糖新生基質から選択されるが、但し有効量の解糖系エネルギー源及び糖新生基質の両方ではない、第1のエネルギー源を提供すること
によって調製される精子調製液。
(項目40)
緩衝剤を含み、且つ弱酸性pH及び約300〜400mOsm/kg、例えば約300〜380、320〜370、330〜370、340〜360、例えば約320、330、340、350、360、370又は380、例えば約350の重量オスモル濃度を有する精子保存培地であって、有意な量の卵黄を含まないか、又は一部の実施形態では一切の卵黄を含まない精子保存培地。
(項目41)
(a)哺乳類精子を、エネルギー枯渇下において、増強された哺乳類精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、及び
(b)ステップ(a)からの前記増強された哺乳類精子に有効量の第1のエネルギー源及び第2のエネルギー源を順次提供すること
によって調製される精子調製液であって、ステップ(b)の前記精子は、好適な対照精子と異なるエピジェネティックプロファイルを含む、精子調製液。
(項目42)
改善された適応度を有する子孫を作製する方法であって、
(a)精子試料を、エネルギー枯渇下において、増強された精子を生じさせるのに好適な時間にわたってインキュベートすること、
(b)前記増強された精子に有効量の第1のエネルギー源を提供すること、及び
(c)その後、ステップ(b)からの前記精子に有効量の第2のエネルギー源を提供すること、
(d)ステップ(c)からの前記精子を卵子に受精させて、胚を発生させること、及び
(e)雌対象において前記胚を成長させて、前記改善された適応度を有する子孫を作製すること
を含み、前記改善された適応度は、病態を発症する低下したリスクを含む、方法。
【国際調査報告】