【実施例】
【0110】
実施例1:ハイブリッド培養培地Aおよびホルモンシグナル伝達
序論
増殖効率および産物収率を高めることは学界だけでなく産業にとっても関心が高い。理論に拘束されるつもりはないが、必要不可欠な増殖に関係するパラメータを操作および追跡することが可能な場合がある。微細藻類を用いた研究から、サイトカイニン(CK)は増殖制御因子として働くことが示唆された。ユーグレナ・グラシリスにおけるリサイクル培養培地の使用、ならびにバイオマス蓄積、細胞数、pH、グルコース消費、上清枯渇、細胞数、およびCKに及ぼす、その影響が本明細書において説明される。
【0111】
方法と材料
予備的培養増殖条件
ユーグレナ・グラシリスを、糖蜜(3g/L)、酵母エキス(5g/L)、リン酸一アンモニウム(ammonium phosphate monobasic)(2g/L)、植物油(2g/L)、およびエタノール(2g/L)を含有するオートクレーブ済み新鮮培地に入れて、バッチ培養で従属栄養的に増殖させた。ユーグレナ・グラシリスを通気性ソリッドキャップ(ajar solid cap)付2L培養フラスコに入れて、29.0℃で、振盪速度100分
-1に設定したAdolf Kuhner AG (Model, ISF-4-V)インキュベーターに置いて培養した。
【0112】
実験的増殖条件
ユーグレナ・グラシリスを、インキュベートされた予備的培養物からの細胞濃縮物として回収し、実験物を増殖させるのに使用した。それぞれの一連の実験では同じ新鮮培地を使用した。リサイクル上清を、フェドバッチ法を用いて、供給源培養物から、75%使用済み培地と25%新鮮培地の比で再循環させた(ハイブリッド培養培地-75%が生じる)。
【0113】
実験1および2の培養条件およびデータ回収
予備的培養からの細胞濃縮物を使用して、5x500mL(4つの試験レプリケートおよび1つの対照)の、バッフル付ベント付培養フラスコに2x10
6細胞/mLの密度で接種した。実験1では、使用済み培地の回収および再循環を4日ごとに行い、これに対して実験2では3日ごとに回収を行った。250mLのオリジナル培養物を回収し、5mLを超える量についてはThermo Scientific Sorvall ST 16遠心機を用いて5000rpmで5分間、遠心沈殿した。オリジナル培養フラスコの中にある残りの250mLに、遠心分離した上清125mLを添加し、125mLの新鮮培地を補った。これにより、組み合わされた供給源から500mLとなった。サイクルを開始するたびに、新鮮培地と、予備的培養からの濃縮細胞を厳密に対照に使用した。ある決まった時間(例えば、9:00am)で、次のサイクルのためにフラスコを回収および分割した。これを5つの回収サイクルにわたって繰り返した。フラスコをThermo Scientific Max Q 6000(Model, 4359)に入れて、29.0℃で、振盪速度125rpmで保持した。
【0114】
各フラスコから、毎日、ある決まった時間(例えば、2:00pm)に採取した2mL試料を用いてデータを収集した。5mLより少ない試料については、Thermo Scientific Heraceus Picoを用いて2000xgで5分間遠心分離した、2mL試料の遠心分離後に、湿重量と上清およびペレットの体積を得た。遠心分離した試料1mLを秤量し、60℃のLindberg/Blue(Model, G01330A-1)Ovenに入れて一晩乾燥させた。パーセント水分および最終乾燥産物重量も計算した。各サイクルの終了時に100mLの培養を遠心分離し、さらなる消費分析のためにペレットと50mLの上清を収集した。
【0115】
実験3の培養条件およびデータ回収
実験デザインにおける試料: 対照100%、再利用率A、再利用率B、再利用率C、およびサイクルデザインを、
図1に図示した。これは、5つのサイクル:0、1、2、3、および4にわたって行われる。予備的(母)培養物からの細胞濃縮物を使用して、バッフル付ベント付培養フラスコの中に入っている8x500mL新鮮培地に2x10
6細胞/mLの密度で接種し、増殖前サイクル(サイクル0)として3日間そのままにした。全てのフラスコを、29.0℃で、振盪速度100min-1に設定したAdolf Kuhner AG(Model, ISF-4-V)インキュベーターに入れて保持した。実験群を以下で説明する。
【0116】
対照100%: 3日後に、4個のフラスコについて、遠心分離によって、5000rpm、室温で5分間、沈殿させた。細胞ペレットおよび上清を捨てた。新たな増殖培地を4個のフラスコに添加し、2x10
6個の細胞/mLの細胞接種材料を添加した。これらの細胞をサイクル1のために3日間増殖させ、次いで、サイクル2〜4のためにプロセスを繰り返した。
【0117】
再利用率A: 3日間増殖させた後、サイクル0の1個のフラスコについて、遠心分離によって5000rpm、室温で5分間、沈殿させた。次いで、上清を使用して、ハイブリッド培養培地-25%(75%新鮮増殖培地と25%使用済み培地を用いる)を生成した。これをサイクル1の4個のフラスコのためのハイブリッド培養培地として使用した。培養物を3日間増殖させ、次いで、沈殿させ、サイクル2のための使用済み培地として使用した。サイクル2〜4をサイクル1と同じように設定した。
【0118】
再利用率B: 3日間増殖させた後、サイクル0の2個のフラスコについて、遠心分離によって5000rpm、室温で5分間、沈殿させた。次いで、上清を使用して、ハイブリッド培養培地-50%(50%新鮮増殖培地と50%使用済み培地を用いる)を生成した。これをサイクル1の4個のフラスコのためのハイブリッド培養培地として使用した。培養物を3日間増殖させ、次いで、沈殿させ、サイクル2のための使用済み培地として使用した。サイクル2〜4をサイクル1と同じように設定した。
【0119】
再利用率C: 3日間増殖させた後、サイクル0の3個のフラスコについて、遠心分離によって5000rpm、室温で5分間、沈殿させた。次いで、上清を使用して、ハイブリッド培養培地-75%(25%新鮮増殖培地と75%使用済み培地を用いる)を生成した。これをサイクル1の4個のフラスコのためのハイブリッド培養培地として使用した。培養物を3日間増殖させ、次いで、沈殿させ、サイクル2のための使用済み培地として使用した。サイクル2〜4をサイクル1と同じように設定した。
【0120】
乾燥バイオマス重量
各フラスコから、5mLを採取した接種後の日(Day Post Inoculation)(DPI)1を除いて、毎日、ある決まった時間(すなわち、2:00pm)に採取した25mL試料を用いてデータを収集した。細胞ペレット重量を求めるために5mLを使用した。細胞ペレットを、5000rpm、室温で5分間の遠心分離によって形成した。さらなる分析のために上清を収集した。ペレットを脱イオン水で2回洗浄した。細胞ペレットを、5000rpm、室温で5分間の遠心分離によって回収した。試料を細胞湿重量のために秤量し、次いで、凍結乾燥させて細胞乾燥重量を求めた。試料の凍結乾燥は、細胞ペレットを-80℃で10分〜12時間まで凍結すること、次いで、減圧下で凍結乾燥機に入れることからなった。これによって、凍結した水分子が除去され、乾燥バイオマスが残った。次いで、試料の重量を求めるために、乾燥した細胞/バイオマスを秤量した。細胞が多いほど、または細胞内にある細胞成分、すなわち、タンパク質、脂質、脂肪酸、および/もしくは炭水化物が多いほど、重量が重くなる。
【0121】
乾燥上清重量
上清試料を使用して、溶解状態で残っている溶質の量を測定した。5mLの試料を培養物から収集し、細胞をペレット化するために、5000rpm、室温で5分間遠心分離した。上清を収集し、次いで、3μmより小さな粒子を保持することができる4.25cm直径のFisherbrand Glass Fiber filter circle, G6で濾過した。次いで、濾過した上清を凍結乾燥させ、乾燥バイオマスと同じように測定した。
【0122】
ABAおよびCKの抽出および精製
凍結乾燥した細胞ペレットおよび上清を抽出緩衝液(CH
3OH:H
2O:HCOOH[15:4:1, v/v/v])で再懸濁し、試料に、内部標準(144ngの
2H
4-ABA(PBI, Saskatchewan, Canada)および10ngのそれぞれの重水素化内部標準CK(OlChemim Ltd, Olomouc, Czech Republic; 表1)を加え、次いで、ステンレス鋼シリンダー(RetschMM300; 5min, 25 Hz)と酸化ジルコニウム研磨ビーズ(Comeau Technique Ltd., Vaudreuil-Dorion, Canada)を用いて4℃でホモジナイズし(ボールミル, Retsch MM300)、徹底的にボルテックスし、1分間超音波処理した。試料を受動的に-20℃で一晩(約12時間)抽出した。試料を1000rpmで10分間遠心分離し、上清を収集した。ペレットを1mLの抽出緩衝液で-20℃で30分間再抽出した。プールした上清を高速真空濃縮機に入れて35℃で乾燥させた。
【0123】
(表1)高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(HPLC-MS/MS)によってスキャンされた植物ホルモン(サイトカイニン(CK)およびアブシジン酸(ABA))ならびに関連する標識された標準物質
【0124】
全CKの完全なプロトン化を確実にするために、抽出残渣を1mLの1Mギ酸(pH1.4)に溶解して再構成した。各抽出物を混合モード、逆相、陽イオン交換カートリッジ((Canadian Life Sciences; IRIS MCX 6mL; 25〜35μ 200mg, Peterborough, ON, Canada)で精製した。カートリッジを5mLのHPLCグレードメタノールを用いて活性化し、5mLの1Mギ酸(pH1.4)を用いて平衡化した。平衡化後に各試料をロードし、5mLの1Mギ酸(pH1.4)で洗浄した。ABAおよびCKを化学的特性に基づいて溶出させた。最初に5mLのHPLCグレードメタノールを用いてABAを溶出させた。5mLの0.35M水酸化アンモニウムを用いてヌクレオチド画分(NT)を溶出させた。遊離塩基(FB)およびリボシド(RB)は電荷および疎水特性に基づいて保持された。従って、これらを、60%メタノールに溶解した0.35M水酸化アンモニウム5mLを用いて最後に溶出させた。全ての試料を高速真空濃縮機に入れて35℃で蒸発するまで蒸発させ、すぐに-20℃で保管した。1mLの0.1Mエタノールアミン-HCl(pH10.4)に溶解した3単位の細菌アルカリホスファターゼを用いてNTを37℃で12時間、脱リン酸した。結果として生じたRBを高速真空濃縮機に入れて35℃で乾燥させた。逆相C18カラム(Canadian Life Sciences; C18/14%, 6ml, 500mg; Peterborough, ON, Canada)でさらに精製するために、試料を1.5mLの2回蒸留水(double-distilled water)(DDW)に溶解して再構成した。カラムを、3mLのHPLCグレードメタノールを用いて活性化し、6mLの2回蒸留水で平衡化した。試料をC18カートリッジにロードし、重力によってカラムに通した。吸着剤を3mLのDDWで洗浄し、分析物を、1.25mLのHPLCグレードメタノールを用いて溶出させた。全ての試料溶出液を高速真空濃縮機に入れて35℃で乾燥させ、さらに処理するまで-20℃で保管した。高速液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(HPLC-ESI MS/MS)分析の前に、全ての乾燥試料を1.5mLの開始条件(CH
3COOH:CH
3CN:ddH
2O[0.08:5.0:94.92, vol/vol/vol]に溶解して再構成した。
【0125】
CKおよびABAの定量および分析
ホルモンをHPLC(ESI)MS/MSによって特定および定量した。25μLの試料体積を、QExactive Orbitrap質量分析計(Thermo Scientific)と連結したDionex Ultimate 3000 HPLCに注入した。逆相C18カラム(Kinetex 2.6u C18 100 A, 2.1×50mm; Phenomenex, Torrance, CA, USA)を用いて化合物を分離した。全てのホルモン画分を、成分B:アセトニトリル(CH
3CN)と0.08%CH
3CO
2Hと混合した、成分A:水(H
2O)と0.08%酢酸(CH
3CO
2H)の多段階勾配を用いて、ABAについては0.3mL/分、CKについては0.4mL/分の流速で溶出させた。初期条件は、2分にわたって5%Bから10%Bへの直線的な増加に続いて、6.5分にわたる95%Bへの増加であった。95%Bを1.5分間にわたって一定に保った後に、5分間にわたって開始条件に戻した。CK試料を、加熱エレクトロスプレーイオン化(heated electrospray ionization)(HESI)源を備えるThermo Fisher Scientific QExactive Orbitrap(Santa Clara, CA, USA)を用いて分析し、ポジティブイオンモードで操作した。ABA試料をネガティブイオンモードで操作した。並列反応モニタリング(PRM)モードでのスキャニングの開始時間と終了時間を決定するために、フルスキャンモードでの質量範囲(mass range)はm/z150〜550であり、分解能を35,000に設定した。HESIプローブおよびキャピラリーの温度はそれぞれ450℃および250℃であり、スプレー電圧は3.9kVであった。シースガス(sheath gas)、補助ガス(auxiliary gas)、およびスペアガス(spare gas)をそれぞれ30、8、および0任意単位で操作した。S-lens RFレベルは60であった。PRMパラメータには、1・10
6の自動利得制御(automatic gain control)(AGC)と128msecの最大注入時間(IT)が含まれた。前駆体単離ウインドウ幅(precursor isolation window width)はm/z 1.2であり、各化合物に個々に最適化された、基準化された衝突エネルギー(normalized collision energy)(NCE)は化合物に応じて28〜40eVであった。LC-MS/MS分析中に収集した生データファイルを、Thermo Fisher Scientific Xcaliburソフトウェア(v.3.0.63; Santa Clara, CA, USA)を用いて処理した。2種類の最も強いフラグメントイオンの正確な質量と3ppmの質量許容誤差(mass tolerance)を用いてピークを抽出した。ピーク積分では5つのスムージングポイント(smoothing point)と0.5の信号対雑音(S/N)閾値を使用した。定量は
2H標識内部標準の回収に基づいた同位体希釈分析によって行った。
【0126】
有機培地(培地ブランク)中にある既存の内因性ホルモンのバックグラウンドレベルを除くことによって内因性CK分析を調整し、CK濃度を、Xcaliburソフトウェアパッケージを用いて細胞乾燥ペレット重量に従って計算した。購入した内部標準を分析に使用した(表1)。
【0127】
グルコース消費
試料中のグルコース量を求めるために上清試料を採取し、YSI分析機器(YSI2700)によって測定した。具体的には、YSI機器によって測定される範囲に試料を(8倍)希釈するために、250μLの上清を1.75mLの脱イオン水に添加した。この機器には、0.05g/L〜9g/Lのグルコースを検出することができる標準物質がある。この機器は実験試料中のグルコースを測定し、存在するグルコースの量を求めるために標準物質と比較する。
【0128】
結果と考察
異なる再利用率および対照からの細胞湿重量および細胞乾燥重量を経時的(サイクル)に求めた(
図2)。一般的に、細胞湿重量が増加した再利用率BおよびCの264時間を除いて、時間が長くなるにつれて細胞湿重量は減少した。乾燥重量はもっと変化に富んでいたが、概して、対照は(264時間を除いて)他のものより多かった。このことから、再利用率全体にわたってバイオマス生成レベルはかなり一貫性があることが分かる。
【0129】
異なる実験群の上清乾燥重量を求めた。対照と、使用したリサイクル培養培地栄養素が少ない再利用率Aの上清を再利用率BおよびCと経時的に比較した(
図3)。
【0130】
異なるリサイクル培養培地率の細胞数を経時的に求めた(
図4)。細胞数は各サイクルの中でかなり似ている。このことから、細胞分裂は、試験した最も高い再利用率でも制限されないことが分かる。
【0131】
それぞれの再利用率およびサイクルについて培地からのグルコース消費を求めた(
図5A)。消費データから、後ろのサイクルの細胞で用いられる糖は少ないことが分かる。このことから、これらの細胞は代謝が活発でないことが分かる。pH追跡(
図5B)から、再利用率が増えるにつれてpHも上昇し、サイクル中にも上昇することが分かる。このことから、対照培地および再利用率Aの培地は緩衝能を保持しているが、再利用率BおよびCの培地は保持していないことが分かる。
【0132】
全ホルモンデータが、培養に使用した新鮮培地中に存在するCKおよびABAのパーセントに対して補正されている。これは、実験ブランクを採取し、植物ホルモンレベルを分析し、次いで、リサイクル培地における希釈率に基づいて、これらのレベルを差し引くことで行った。結果として得られた、報告されたホルモンレベルは、ユーグレナ属細胞そのものによって合成または処理されたホルモンを代表するものであろう。しかしながら、培地中におけるホルモンの外因的存在が、ユーグレナ属細胞ペレットの内因性プロファイル全体ならびに/または後のサイクル回で用いられる上記培地および無細胞使用済み培地に排出されるホルモンに影響を及ぼす可能性があることは無視できない。
【0133】
培地ブランクおよび全ての再利用率からの上清のABA分析を行った(
図6)。培地ブランクは全ホルモンプロファイルの約25%を占めた。異なる再利用率の下で増殖させた培養物の上清からのABAデータから、サイクル1では、再利用率が増えるにつれて培養培地中のABAレベルは増加することが分かった。このことから、ユーグレナ属はABAを周囲環境に分泌する能力を有する可能性があると示唆される。サイクル1の終了時に、全ての再利用率においてABAレベルは開始値の>25%低下した。他の再利用率と比べて、サイクル1の開始時および終了時ならびにサイクル4の開始時および終了時に75%のABAレベルが最も多かった。ABAは細胞周期の阻害または遅れを引き起こすことができ、脂質などの他の代謝産物産生を増やす可能性があるので、このことは、細胞乾燥重量が他の再利用率と比べて少ないことを説明しているのかもしれない。
【0134】
サイトカイニン(CK)はそのタイプまたは型に基づいて大きく分類することができる。CKタイプにはDZ、cZ、tZ、およびiPが含まれ、CK型には、ヌクレオチド、リボシド、遊離塩基、グルコシド、およびメチルチオールが含まれる。大まかに、CKタイプには、様々な型、すなわち、DZタイプ:DZNT、DZR、DZ;cZタイプ:cZNT、cZR、cZ;tZタイプ:tZNT、tZR、tZ、およびiPタイプ:iPNT、iPR、iPが含まれる。CK型は様々なCKタイプを組み込んでいる。CK分析は、全ての再利用率の上清のCKプロファイルを調べ、CKタイプおよび型に基づいて分析を提供する。
【0135】
培地ブランク中の全サイトカイニンレベルならびに培地ブランク中のサイトカイニンタイプを求めた(
図7)。培地ブランクの全CK濃度ならびに存在するタイプおよび型を求めた。存在するCKの大多数はヌクレオチド型であり、遊離塩基およびリボシド型が続いた。優勢なCKタイプにはiPおよびDZが含まれた。
【0136】
サイトカイニン測定値を、上清測定値については表2〜3で、細胞ペレットサイトカイニン測定値については表4〜5で報告する。
【0137】
(表2)無細胞使用済み培地の様々な再利用率で増殖させたユーグレナ・グラシリス培養物の上清に由来するサイトカイニン濃度およびABA濃度(pmol/mL)。値は、増殖サイクルの開始時(DPI0)および終了時(DPI2)に、サイクル1の培養中の特定の時点で選んだ平均(n=3)である。空欄のセルは分析物の0の値を示す。
【0138】
(表3)無細胞使用済み培地の様々な再利用率で増殖させたユーグレナ・グラシリス培養物の上清に由来するサイトカイニン濃度およびABA濃度(pmol/mL)。値は、増殖サイクルの開始時(DPI0)および終了時(DPI2)に、サイクル4の培養中の特定の時点で選んだ平均(n=3)である。空欄のセルは分析物の0の値を示す。
【0139】
(表4)無細胞使用済み培地の様々な再利用率で増殖させたユーグレナ・グラシリス培養物のペレットに由来するサイトカイニン濃度およびABA濃度(pmol/gDCW)。値は、増殖サイクルの開始時(DPI0)および終了時(DPI2)に、サイクル1の培養中の特定の時点で選んだ平均(n=3)である。空欄のセルは分析物の0の値を示す。
【0140】
(表5)無細胞使用済み培地の様々な再利用率で増殖させたユーグレナ・グラシリス培養物のペレットに由来するサイトカイニン濃度およびABA濃度(pmol/gDCW)。値は、増殖サイクルの開始時(DPI0)および終了時(DPI2)に、サイクル4の培養中の特定の時点で選んだ平均(n=3)である。空欄のセルは分析物の0の値を示す。
【0141】
培地上清中ならびに細胞ペレット中の全サイトカイニンレベルを試験した。一般的に、サイクル開始時に多くのリボシドが観察され、サイクル終了時にグルコシド型(貯蔵型)が見出される。グルコシドではcZタイプが増加する。これも主にcZ型およびiP型である。
【0142】
サイクル終了時にグルコシド型が増加するので、次のサイクルの開始時には、再利用率が高いほど、サイクル開始時に存在するグルコシドが多くなる。最もよくあるサイトカイニンタイプはDZ型グルコシドであり、再利用率B(50%)および率C(75%)のサイトカイニンレベルが高かった。しかしながら、サイクルの期間にわたって、これらのレベルは低下する。
【0143】
100%対照上清中のサイトカイニンレベルを求めた(
図8〜9)。全サイトカイニンレベルはサイクル1からサイクル4にかけて減少した。100%新鮮培地対照におけるCKレベルをユーグレナ・グラシリス培養増殖中に求め、さらなる計算から、培地ブランクからのバックグラウンドCKレベルを取り除いた。全CKはサイクル1およびサイクル4の開始と終了の間に減少した。サイクル1での減少は、優勢なiPタイプCK、特に、iPRの低減を示した。cZタイプの増加は主にcZRおよびcZの増加によるものであった。サイクル1の開始時にはCK型はリボシドが優勢であるのに対して、サイクル1の終了時にはリボシドが減少し、グルコシド比率が増加した。これは、DZRおよびiPRが低減し、tZOGおよびcZOGが増加したことが原因である可能性が高い。tZOGおよびcZOGは貯蔵型として働くので、これらは、非結合型、すなわち、サイクル1の開始と終了の間に増加することが見出されたcZおよびtZの増加と共に増加することが分かる。サイクル4は、全CKが減少する同様の傾向と、iP CKタイプの同様の低減に従った。
【0144】
再利用率A(25%ハイブリッド培養培地)上清からの培地中の全CKレベルを求めた(
図8〜9)。全CKレベルはサイクル1の開始からサイクル1の終了にかけて減少した。この傾向はサイクル4にも反映された。ユーグレナ・グラシリス増殖と共にCKプロファイルが変化し、全CKリボシドがサイクル1の開始から終了にかけて低減した。これはiP CKタイプが低減し、iPおよびiPRが低減したことが原因である。このプロファイルではCKグルコシドおよびCKRB型は等量になる。DZおよびtZタイプを含む他のCKタイプもサイクル1の開始から終了にかけて低減した。この傾向はサイクル4にも反映される。しかしながら、cZタイプはサイクル1の開始と終了の間に増加する。これはcZの存在量が増加したことが原因である。cZグルコシドの増加は、サイクル1の開始から終了にわたるcZ型の増加を相殺する可能性が高い。
【0145】
再利用率B(50%ハイブリッド培養培地)からの上清中の全CKレベルを求めた(
図8〜9)。全CKレベルはサイクル1の開始から終了にかけて減少した。この傾向はサイクル4に反映されなかった。cZタイプが増加し、cZが増加し、それに加えて、cZタイプグルコシド(cZOGおよびcZROG)が増加した。
【0146】
他の再利用率で見られたようにiP CKタイプは低減した。しかしながら、DZタイプの形をとる高レベルのグルコシドがある。これはサイクル1の開始から終了にかけて低減するが、CKプロファイルにおいて優勢なタイプである。
【0147】
これらの全CK型優勢の違いは、この処理において認められたCKプロファイル変化と関連する可能性があるDCWを含む増殖傾向と相関関係があるかもしれない。
【0148】
再利用率C(75%ハイブリッド培養培地)からの上清中の全CKレベルを求めた(
図8〜9)。全CKレベルはサイクル1の開始から終了にかけて増加し、サイクル4については、より少ない変化が認められた。他の再利用率で見られたようにiPタイプの特徴的な低減はない。iPタイプと比べて他のCKタイプが増加する。サイクル1におけるCKグルコシド型ならびにリボシド型の増加。これらの増加はサイクル4に反映されなかった。
【0149】
全体の傾向は、再利用率A、B、およびCからの異なる培地について異なるCKプロファイルを示す。バックグラウンド基本培地ホルモンプロファイル補正を組み込むと、培地ブランクレベルはリサイクル培養培地および対照試料における測定レベルより少なかったと認められる。さらに、CKプロファイルの変化の分析は様々な培養条件において傾向が保存されることを強調している。全体として、培養時間が長くなるにつれて、iPタイプを含むリボシド型が減少し、cZタイプが増加する傾向がある。このことから、ユーグレナ・グラシリスは、ある特定のCKを合成し、培地に排出できることが分かる。さらに、サイクルの終了時にCKグルコシドが増加して優勢になる。このことから、ユーグレナ・グラシリスはCKを安定なグルコシド型に処理する能力があることが分かる。
【0150】
プロファイルから、産生を導くのに役立つデータが得られる。ホルモンデータと突き合わせ、最も生産的なプロファイルと一致するようにユーグレナ・グラシリスのアウトプットを変更すると培養の条件および技法が導かれる。理想的には、パラメータはグルコシド存在量を低減させ、増殖プロセスにおけるiPおよびcZタイプCKの重要性も強調する。
【0151】
ペレットの全CKに着目した場合、内因性サイトカイニンはサイクル終了までに増加する。高再利用率(50%および75%)は高レベルのサイトカイニンを示す(
図10)。ABAはどのペレット試料でも検出されなかった。
【0152】
100%新鮮培地からのペレット中の全CKレベルを求めた(
図10〜11)。全CKレベルはサイクル1の開始から終了にかけて全体的に増加した。DZタイプの減少がサイクル1および4の開始と終了の間に見出された。これはDZRおよびDZNT型が低減したことが原因である。tZタイプはサイクル1および4において減少し、tZNTが低減した。cZタイプは増加し、cZおよびcZNTが増加した。このcZタイプ増加はサイクル4でも見られた。iPタイプは増加した。これは、iPNTの存在量が原因であるが、iPRおよびiPが全体的に低減した。メチルチオールCKのうち2MeSiPがサイクル1およびサイクル4での増殖中に50%低減した。CKグルコシド型はサイクル1および4の開始と終了の間に低減した。興味深いことに、この内因的低減は、対応する上清試料中にあるCKグルコシドの外因的増加と対になる可能性がある。
【0153】
再利用率A(25%ハイブリッド培養培地)からのペレット中の全CKレベルを求めた(
図10〜11)。CKレベルはサイクル1およびサイクル4の開始から終了にかけて増加した。この増加はcZおよびiP CKタイプの増加が原因であった。特に、cZ、cZNT、およびiPNTが増殖サイクルにわたって蓄積する。メチチオール(methythiol)CKのうち2MeSiPはサイクル1の開始と終了の間に低減したのに対して、サイクル4の開始と終了の間に増加した。サイクル4中の、この蓄積増加は、再利用率Aのサイクル4中の全バイオマス減少と相関する。再利用率BおよびCもサイクル4において同様の2MeSiP増加を示す。これはDCWと相関関係があるかもしれない。グルコシドも再利用率Aのペレット中で検出され、増殖中にはっきりとした変化はなかった。
【0154】
再利用率B(50%ハイブリッド培養培地)からのペレット中の全CKレベルを求めた(
図10〜11)。再利用率Bのペレット中で全CKレベルは増加した。これは、CK iP CKタイプが増加したことが原因であった。主なiP CKタイプ蓄積はiPNTに続いてiPRおよびiPであった。cZタイプは減少した。これは、100%新鮮培地および再利用率Aで見られたものとは異なる。cZ CKタイプの減少はcZが減少したことが原因であったが、cZNT(前駆体型)は増加した。
【0155】
再利用率C(75%ハイブリッド培養培地)からのペレット中の全CKレベルを求めた(
図10〜11)。全CKはサイクル1およびサイクル4の開始と終了の間に増加した。CK型、特に、ヌクレオチド型ならびにメチルチオールCKの増加が見られた。増加はサイクル1および4の開始から終了にかけてcZNTおよびiPNTならびに2MeSiPおよび2MeSZRにおいて見ることができた。サイクル1ではcZおよびiPも減少し、これは再利用率Bでも見られた。
【0156】
全体として、再利用率全体を通してサイクルの開始と終了の間に内因性CKが増加した。100%新鮮および再利用率AではcZレベルは増加したのに対して、BおよびCではcZレベルはサイクル1では全体的に低減した。これは、これらの細胞で見られる増殖の違いと相関するかもしれない。
【0157】
全体として、iPNTの形をとる、ペレット中のiPタイプの蓄積が増加した。これらのiPタイプは細胞内で産生されたか(NT)、または周囲培地から細胞に取り込まれ、細胞により処理された可能性がある。
【0158】
さらに、メチルチオールCKは培養の全増殖速度において役割を果たしているかもしれない。2MeSiPはサイクル1および4の100%新鮮培地中で減少した。再利用率Aでは、メチルチオール2MeSiPはサイクル1の開始と終了の間に低減したのに対して、サイクル4の開始と終了の間に増加した。サイクル4中の、この蓄積増加は、サイクル4中の再利用率Aの全バイオマス減少と相関する。再利用率BおよびCもサイクル4での同様の2MeSiP増加を示す。これはDCWと相関関係があるかもしれない。
【0159】
高再利用率ではcZタイプのサイトカイニンが低減する。これは、上清観察で認められたように、cZ型が培地に分泌されたことと相関するかもしれない。全ての率で、ペレット中でiPタイプ、特に、ヌクレオチド型が増加する。理論に拘束されるつもりはないが、これは、iPタイプがNTの形で細胞内に産生されたか、または細胞に取り込まれ、細胞により処理されたことが原因であるかもしれない。
【0160】
実施例2:ハイブリッド培養培地B
序論
炭水化物供給源として糖蜜を使用した実施例1に加えて、特定の糖供給源としてグルコースも試験した。
【0161】
方法と材料
ユーグレナ・グラシリス株Z
ユーグレナ・グラシリス株Zを細胞培養物として使用した。出発細胞培養物:グルコース、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、様々な微量金属、硫酸アンモニウム、ならびにビタミンであるビオチン(B7)、チアミンHCl(B1)、B6、およびB12(表6を参照されたい)を含有する増殖培地中に、細胞を2x10
6細胞/mLの濃度で接種した。
【0162】
(表6)ユーグレナ・グラシリスを増殖させるのに使用した新鮮増殖培地の成分。pHを3.2に調整した
【0163】
リサイクル培養培地の生成
グルコースが枯渇する(培地中で約0g/Lに達する)まで細胞を3〜4日間増殖させた。これによって、1回目の再利用増殖サイクル(サイクル1)用のリサイクル培養培地を作製するのに使用する第1の使用済み培地を生成した。
【0164】
試験条件
この実験では4つの異なる条件を試験した:
【0165】
条件1: 母培養物からの細胞(200万個の細胞/mLの開始濃度)を新鮮増殖培地の中でインキュベートし、3日間増殖させた。フラスコを、新鮮増殖培地と新鮮な細胞接種材料を用いて再開し、サイクル2を開始した。再度、このサイクル2は3日後に終了した。サイクル3を同じように繰り返した(
図12)。
【0166】
条件2: 母培養物からの細胞(200万個の細胞/mLの開始濃度)をリサイクル増殖培地の中でインキュベートし、サイクル1のために3日間増殖させた(
図13を参照されたい)。リサイクル増殖培地は使用済み増殖培地と新鮮増殖培地から1:1比で構成された。サイクル2のために、サイクル1からの使用済み増殖培地を新鮮増殖培地と1:1比で混合して、サイクル2用のリサイクル培養培地を生成した。新鮮な細胞をリサイクル培養培地に接種し(200万個の細胞/mL)、細胞を3日間増殖させた。サイクル3のために、サイクル2からの使用済み増殖培地を新鮮増殖培地と1:1比で混合して、サイクル3用のリサイクル培養培地を生成した。新鮮な細胞をリサイクル培養培地に接種し(200万個の細胞/mL)、細胞を3日間増殖させた。当業者は、追加サイクルを同様に実施できると容易に認めることができる。
【0167】
条件3: 条件1下でのサイクル1の終了からの細胞を、新鮮増殖培地に導入する接種細胞として使用した。このインキュベーションを条件3のサイクル1と呼ぶ。200万個の細胞/mLを新鮮培地に接種し、3日間増殖させた。次いで、サイクル2のために、サイクル1の終了時の細胞を200万個の細胞/mLで新鮮培地に接種し、3日間増殖させた。サイクル3をサイクル2と同じように繰り返した。
図14を参照されたい。
【0168】
条件4: 条件1下でのサイクル1の終了からの細胞を、リサイクル培養培地に導入する接種細胞として使用した(
図15)。リサイクル増殖培地は、使用済み増殖培地と新鮮増殖培地から1:1比で構成された。200万個の細胞/mLの細胞を接種し、培養物を3日間培養させた。サイクル2のために、サイクル1の終了時の細胞を、200万個の細胞/mLで、サイクル1からの使用済み増殖培地と新鮮増殖培地の1:1混合物を含むリサイクル培養培地に接種した。培養物を3日間培養させた。サイクル3のために、サイクル2からの使用済み増殖培地を新鮮増殖培地と1:1比で混合して、サイクル3用のリサイクル培養培地を生成した。サイクル2の終了からの細胞をリサイクル培養培地に接種し(200万個の細胞/mL)、細胞を3日間増殖させた。当業者は、追加サイクルを同様に実施できると容易に認めることができる。
【0169】
全細胞を、400mLの作業体積がある、ベントキャップ付1Lフラスコに入れて、暗所で増殖させた。細胞を28℃で、120rpmで振盪しながらインキュベートした。それぞれの条件およびフラスコについて乾燥バイオマス重量、乾燥上清重量、およびグルコース消費を測定した。全ての条件を2回繰り返して行い、各条件を3連続サイクルにわたって増殖させた。各サイクルは3日であり、サイクル1の開始からサイクル3の終了までの全日数は9日であった。
【0170】
乾燥バイオマス重量
乾燥バイオマスとは、試料から水分子を除去するために凍結乾燥されているバイオマスを指す。乾燥バイオマスの調製は実施例1において説明された通りであった。当業者は、バイオマスを乾燥させるのに適した様々な方法を容易に認めることができる。例えば、オーブン乾燥が用いられる場合がある。ある期間(日)にわたる、培養物の細胞バイオマス乾燥重量は細胞増殖の尺度である。細胞増殖は、細胞が増えたこと、すなわち、複製によるものでもよく、細胞の組成が変化したこと、すなわち、細胞内に炭水化物、タンパク質、または脂質が生成したことによるものでもよい。
【0171】
乾燥上清重量
上記の実施例では、ペレット化細胞から上清をデカントし、凍結乾燥することによってペレット化細胞から上清を取り出した。このプロセスは、細胞上清を-80℃で10分〜12時間凍結した後に、試料を減圧下で凍結乾燥機に入れることを伴う。これによって、凍結した水分子が除去される。残留物は、培地に残った溶質が乾燥したものである。溶質は、化合物、すなわち、培地に由来する成分ならびに細胞に由来する潜在的な排出された材料、すなわち、老廃物であろう。経時的に、培地の成分、例えば、主な炭素供給源であるグルコースが用いられるので溶質レベルは減少する。
【0172】
効率の決定
変換効率は培地効率の尺度である。変換効率は、生成されたバイオマスの量を、培地中にある消費された溶質の全量で割ったものと定義される。生成されたバイオマスは、サイクル終了時のバイオマスの全質量を測定し、開始時の培養物中にあった初期全バイオマスを差し引くことによって計算する。消費された溶質の全量は、開始時の培養物中にあった全溶質-最終日の全溶質として計算する。
変換効率は以下のように求める:
変換効率=(サイクル終了時の生成された全バイオマス/サイクル終了時の消費された全溶質)
*100%
【0173】
生成された全バイオマス
生成された全バイオマス/サイクルは以下のように求める:
生成された全バイオマス/サイクル=サイクル終了時の全乾燥バイオマス重量-サイクル開始時の全乾燥バイオマス重量
【0174】
消費された全溶質
消費された全溶質/サイクルは以下のように求める:
消費された全溶質/サイクル=サイクル開始時の初期溶質重量-サイクル終了時の最終溶質重量
【0175】
全収率
全収率は、どれくらいのインプットがバイオマスに変換されたかという尺度である。この計算では、1サイクルで生成されたバイオマスの量は、グラムで示される、各サイクル終了時の乾燥バイオマスから、グラムで示される、サイクル開始からの初期乾燥バイオマス重量を差し引くことによって求める。次いで、これを、グラムで示される、使用したインプット、すなわち、増殖培地中にある全ての成分の総質量で割る。細胞乾燥重量は乾燥バイオマス重量と定義される。全収率は以下のように求める:
全収率(gDCW/gインプット)=サイクルで生成されたバイオマスの総質量(細胞乾燥重量)(gDCW)/使用したインプットの総質量(gインプット)
【0176】
サプリメント収率
サプリメント収率を全収率と同様に計算した。しかしながら、これは、使用したインプットの総質量ではなく、新鮮培地補充に由来するハイブリッド培地中の総質量である。この計算では、1サイクルで生成されたバイオマスの量は、グラムで示される、各サイクル終了時の乾燥バイオマスから、グラムで示される、サイクル開始からの初期乾燥バイオマス重量を差し引くことによって求める。次いで、これを、グラムで示される、使用した補充インプット、すなわち、添加した新鮮増殖培地中にある全ての成分の総質量で割る。細胞乾燥重量は乾燥バイオマス重量と定義される。サプリメント収率は以下のように求める:
サプリメント収率(gDCW/gSインプット)=サイクルで生成されたバイオマスの総質量(細胞乾燥重量)(gDCW)/サイクルで使用した新鮮増殖培地に由来するインプットの総質量(gSインプット)
【0177】
グルコースに基づいた収率
グルコースは主な炭素供給源であり、質量の点で培地の2/3を占めるので、グルコース利用に着目した場合の収率も報告する。これは、1サイクルで生成された乾燥バイオマス重量を、そのサイクルで使用したグルコース量で割ったものと定義される。これは、培養または増殖培地の質量(すなわち、グラム)として、またはグラム/リットル(濃度)によって測定される。グルコース(濃度)に基づいた収率は以下のように求める:
グルコース(濃度)に基づいた収率=(サイクル終了時の細胞濃度(g/L)-サイクル開始時の細胞濃度(g/L))/(サイクル開始時のグルコース濃度(g/L)-サイクル終了時のグルコース濃度(g/L))
【0178】
結果と考察
表7および表8は、それぞれ、条件1および条件2の下で培養したユーグレナ属細胞からのサプリメント収率およびグルコース濃度に基づいた収率の概要を示す。DCWは細胞乾燥重量の略語である。gDCWは細胞乾燥重量のグラムである。各サイクルの(サイクル1〜3)結果をサプリメント収率およびグルコース濃度に基づいた収率について個々に示した。各サイクルから、いくつかの要素を示した。第1の要素は、各サイクルから蓄積したバイオマスの最終質量である。表は、3つ全てのサイクルで生成された総質量を、3つ全てのサイクルの新鮮増殖培地インプットの合計で割ったものに基づいた全サイクルのサプリメント収率も示す。最後に、表はグルコースに基づいた収率の平均も示す。
【0179】
条件1の下で、全収率はサイクル1および2が0.26と最も高く、それに対して、サイクル3はわずかに少なかった(0.24)。しかしながら、グルコース濃度に基づく収率はサイクル2が0.45と最も高く、サイクル3が0.41と最も低かった。条件2の下で、サプリメント収率はサイクル1が0.40と最も高く、それに対して、サイクル2および3は低いままであった(それぞれ、0.34および0.29)。しかしながら、グルコース濃度に基づく収率はサイクル1が0.61と最も高く、サイクル3が0.45と最も低かった。
【0180】
(表7)条件1の全収率およびグルコースに基づいた収率の概要
【0181】
(表8)条件2のサプリメント収率およびグルコース濃度に基づいた収率の概要
【0182】
条件1(母培養物細胞を含む新鮮増殖培地)を、条件2(母培養物細胞を含む、50%リサイクル増殖培地と50%新鮮培地を含有するハイブリッド培養培地)と比較した時、ハイブリッド培養培地のサプリメント収率およびグルコース濃度に基づいた収率の方が高い。このことから、補充したインプットまたは使用したグルコースの総量に基づいた、生成されたバイオマスの量は条件2の方が多いことが分かる。理論に拘束されるつもりはないが、ハイブリッド培養培地の収率の方が高く、これは、ユーグレナ属細胞のユニークな代謝が原因であるかもしれない。ユーグレナ属によって排出された可能性がある「老廃」産物、例えば、酢酸、乳酸、またはコハク酸は代謝可能であり、増殖の供給源として有用な可能性がある。理論に拘束されるつもりはないが、ハイブリッド培養培地には、より多くの「老廃」産物が蓄積し、主な炭素供給源であるグルコースが乏しいので、細胞は、生き残るために培地中にある「老廃物」を使用することができる。
【0183】
表9および表10は、それぞれ、条件3および条件4の下で培養したユーグレナ属細胞からの全収率、サプリメント収率、およびグルコース濃度に基づいた収率の概要を示す。DCWは細胞乾燥重量の略語である。gDCWは細胞乾燥重量のグラムである。各サイクルの(サイクル1〜3)結果を、全収率、サプリメント収率、およびグルコース濃度に基づいた収率について個々に示した。各サイクルから、いくつかの特徴が認められた。第1の特徴は、各サイクルから蓄積したバイオマスの最終質量である。表5はまた、全サイクルのサプリメント収率が、3つ全てのサイクルで生成された総質量を、3つ全てのサイクルの全インプットの合計で割ったものに基づくことも示す。最後に、グルコースに基づいた収率の平均も示す。
【0184】
条件3の下で、全収率はサイクル1が0.28と最も高く、それに対して、サイクル2および3は低いままであった(0.25)。グルコース濃度に基づく収率はサイクル1が0.49と最も高く、サイクル3が0.42と最も低かった。条件4の下で、サプリメント収率はサイクル1が0.42と最も高く、それに対して、サイクル2および3は依然としてほぼ同じであった(それぞれ、0.33および0.32)。しかしながら、グルコース濃度に基づく収率はサイクル1が0.68と最も高く、サイクル3が0.48と最も低かった。
【0185】
(表9)条件3の全収率およびグルコース濃度に基づいた収率の概要
【0186】
(表10)条件4のサプリメント収率およびグルコース濃度に基づいた収率の概要
【0187】
条件3(再接種された培養細胞、すなわち、母培養物以外の以前の培養物に由来する細胞を含む新鮮増殖培地)を、条件4(再接種された培養細胞を含む、50%リサイクル培養培地と50%新鮮増殖培地を含有するハイブリッド培養培地)を比較した時に、サプリメント収率(全収率と比較した)およびグルコース濃度に基づいた収率はハイブリッド培養培地の方が高い。このことから、補充されたインプットおよび使用したグルコースの総量に基づく、生成されたバイオマスの量は条件4の方が多いことが分かる。これは、条件1および2を比較した時に観察されたものと同じ傾向である。条件1および3ならびに条件2および4の間の結果がユーグレナ属細胞の供給源の点でしか異ならないので、このことから、細胞の出発接種材料がインプットの消費に影響を及ぼさないことが分かる。条件1および3と条件2および4との間で、補充された濃度およびグルコース濃度の両方について収率間に差があるので、データから、補充されたインプットをバイオマスにより多く変換する因子がハイブリッド培養培地に存在することが分かる。理論に拘束されるつもりはないが、ユーグレナ属細胞のユニークな代謝が変換において役割を果たしている可能性があり、この場合、ユーグレナ属によって排出された「老廃」産物、例えば、酢酸、乳酸、またはコハク酸が代謝され、増殖の供給源として用いられる。理論に拘束されるつもりはないが、ハイブリッド培養培地には、より多くの「老廃」産物が蓄積し、主な炭素供給源であるグルコースが乏しいので、細胞は、生き残るために培地中にある「老廃物」を使用することができる。
【0188】
同様の傾向が
図16〜18に示された。これらの図は、サイクル1、2、および3の増殖曲線およびグルコース消費結果を示す。これらの図のパネルAは、条件2および4が、条件1および3と比較して3つ全てのサイクルの2日目まで同様に増殖することを示す。2日目の後に、条件2および4のユーグレナ属の増殖は3日目でほぼ同じになったが、条件1および3では増殖は増加した。グルコース消費に着目した場合に(
図16〜18のパネルB)、条件2および4は条件1および3よりも少ないグルコース濃度(ほぼ半分)から開始する。従って、2日目までに、条件2および4はハイブリッド増殖培地に存在するグルコースの大多数を消費している(<0.2g/L)。条件1および3の下では、3日目までに、約2g/Lグルコースが依然として残っている。このことから、これらの条件下では、全ての炭素供給源が細胞によって利用されるわけではないことが分かる。
【0189】
表11は変換効率の概要を示す。各条件の各サイクルについて変換効率(蓄積した全バイオマスを、消費された供給源培地中にある溶質の全量で割ったもの)を報告した。条件1および3は、新鮮培地条件の下で培養したユーグレナ属細胞からの結果を示し、条件2および4は、ハイブリッド培養培地条件の下でのユーグレナ属細胞からの結果を示す。各条件下での全サイクルの変換効率の平均を示した。
【0190】
(表11)変換効率の概要
【0191】
変換効率は培地効率の尺度である。変換効率は、生成されたバイオマスの量を、培地中にある消費された溶質の全量で割ったものと定義される。溶質は、供給源培地中で測定された成分と定義される。特に、溶質は、水が除去された後に供給源培地中にあるものの測定値である。生成されたバイオマスが多いと変換効率が高くなる。消費される溶質が多いが、生成されるバイオマスが多くなければ、この数は小さくなる。従って、ここで示したように、ハイブリッド培養培地中で増殖されたユーグレナ属細胞による変換効率は新鮮培地の変換効率と非常に似ている。新鮮増殖培地の平均とハイブリッド培養培地の平均を比較した時に、変換効率は互いの2%の範囲内にある(新鮮培地では39%、リサイクル培地では38%)。新鮮培地が対照効率だとすると、リサイクル培地は全体で97%の効率で働いた。
【0192】
さらに、結果から、ハイブリッド培養培地の変換効率は新鮮培地と比較して高いことが分かる。例えば、サイクル2では、条件2および4の変換効率は条件3より高く、条件4は条件1とほぼ同じであった(両方とも46%)。サイクル3では、条件4の変換効率は条件3よりわずかに高かった。これらの結果から、ハイブリッド培養培地-50%(50%リサイクル培養培地と50%新鮮培地)は供給源培地中にある成分からバイオマスへの変換を制限しないことが分かる。
【0193】
(表12)4日増殖サイクルの細胞乾燥重量
【0194】
(表13)3日増殖サイクルの細胞乾燥重量
【0195】
表12および表13は、2つの異なるサイクル長を用いたバイオマス変化を示す。3日サイクルは、4日サイクルと同じ程度で経時的に増殖変化を示す。
【0196】
図19および
図20は4日増殖サイクルと3日増殖サイクルの違いを示す。
図19はまた、増殖サイクルが長く、細胞を後期から定常期で接種する培地再利用例でもある。
図20では、増殖サイクルが短く、対数期の間に接種が行われる。
【0197】
実施例3:リサイクル培養培地を用いた追加研究
(a)ユーグレナ属培養における制限因子グルコースの補充
培地中のグルコースレベルが、増殖、変換効率、および再使用される培地の容量を制限するかどうか確かめるために試験を行う。濃度を新鮮増殖培地対照に戻すために、グルコースをリサイクル培養培地に補充する。これを3回の3日サイクルにわたってフラスコスケールで行う。
【0198】
方法および材料
ユーグレナ・グラシリス株Zを細胞培養物として使用した。細胞培養に使用する前にオートクレーブした表14に示した増殖培地に細胞を接種した。3個の、ベントキャップ付バッフル付2Lフラスコに、1Lの体積で2x10
6細胞/mLを播種し、28℃、120rpmで、従属栄養条件下で振盪しながらインキュベートした。3日後に、増殖培地を無菌条件下で細胞塊から遠心分離によって分離し、さらなるサイクルで使用するための再利用培地供給源として働くように一緒に組み合わせた。これによって、サイクル1用のリサイクル培地ハイブリッドを作製するのに使用する第1の使用済み培地を生成した。種培養ペレットも組み合わせ、均一に混合した後にサイクル1のフラスコに播種した。
【0199】
(表14)実施例3の実験で使用した新鮮増殖培地。pHを3.2に調整し、オートクレーブした。
【0200】
供給源培養物も、表14に列挙した培地中で、28℃、120rpmで、従属栄養的に維持した。実験全体を通して、全処理の実験の母供給源または種供給源として役立った。
【0201】
試験条件
実験的処理を、ベントキャップ付バッフル付1Lフラスコの中で、500mLの培養体積で行った。従属栄養増殖のために、培養物をKuhner Shakerインキュベーターに入れて、28℃、120rpmで振盪しながら3日/サイクルにわたってインキュベートした。実験的処理したものを約2x10
6細胞/mLを播種した。条件をn=2で行い、サイクル1の開始からサイクル3の終了までの実験の総日数は10日であった。連続サイクルの間、毎日測定を行った。サイクル1の3日目はサイクル2の0日目であった。リサイクル培地ハイブリッドにおいて使用するための無細胞使用済み培地の回収および再使用を無菌条件下で行った。
【0202】
実験的処理は以下を含んだ:
条件1: 100%新鮮増殖培地。この場合、表14に列挙した培地500mLに、シードストックから2x10
6細胞/mLのユーグレナ・グラシリス細胞を接種した。各サイクルの開始時に新鮮培地を用いてフラスコを開始し、サイクル2および3の開始時に再接種した。試料サイズn=2。
【0203】
条件2: リサイクル培地ハイブリッド。この場合、培地供給源の約50%を以前の増殖サイクルからの無細胞使用済み培地から入手し、50%を新鮮増殖培地から入手し、2x10
6細胞/mLを接種した。この培地は、以前のサイクルからの使用済み増殖培地と新鮮増殖培地の1:1比で構成された。サイクル2のために、サイクル1からの使用済み増殖培地を新鮮増殖培地と1:1比で混合した。サイクル3をサイクル2と同じように繰り返した。細胞を3日間増殖させた。試料サイズn=2。
【0204】
条件3: グルコース補充済み50%リサイクル培地。この場合、培地供給源の約50%を以前の増殖サイクルからの無細胞使用済み培地から入手し、50%を新鮮増殖培地から入手した。リサイクル培地のグルコース濃度が0g/Lであり、50%新鮮培地のグルコース濃度が7.5g/Lだと仮定して、約15g/Lのグルコースとなるように40%(w/v)の濃グルコースストックを用いて各サイクルの0日目に培地にグルコースを補充した。各サイクルの開始時に、この処理したものに約9.375mLの40%(w/v)濃グルコースストックを添加した。試料サイズn=2。
【0205】
無細胞培地
無細胞培地を、ベントキャップ付バッフル付250mLフラスコに入れて、100mLの体積で前記と同じパラメータ下でインキュベートした。100%新鮮培地を維持し、各サイクルの開始時に補給した。50%リサイクル無細胞培地ハイブリッドを、以前のサイクルの対応する50%リサイクル処理フラスコから入手し、1:1比で新鮮培地と混合した。すなわち、サイクル2のために50%無細胞培地をサイクル1の50%リサイクル処理液から入手した。各サイクルの開始時に光学顕微鏡によって無細胞培地をモニタリングし、細胞が無いことを確実にした。増殖はどの無細胞培地処理でも検出されなかった。各処理を3回繰り返し、実験条件中に分解があったかどうか観察するためにグルコースレベルならびに有機酸を測定した。
【0206】
データ回収
バイオマスおよび上清を50mLファルコンチューブに入れて、5000rpm、10分の遠心分離によって回収し、様々なパラメータおよび凍結乾燥後の対応する乾燥重量のために重量を記録した。グルコース消費を、実施例1および実施例2に概説しものと同じ方法でYSI分析機器;YSI2950によって測定した。
【0207】
各サイクルの0日目および3日目の無細胞対照/無細胞培地については、以下の測定を無菌条件下で行った。20mLの培養物を5000rpmで遠心分離し、凍結乾燥後の上清乾燥重量を求めるために5mL、グルコース分析のために1.5mL、有機酸プロファイリングのために5mL、残りをpH測定のために採取した。1日目および2日目に7mLを5000rpmで遠心沈殿し、グルコース測定およびpH測定に使用した。
【0208】
0日目および3日目の実験的処理については、各処理から25mLの培養物を無菌条件下で等分した。毎日、細胞数を求めるためにアリコートを使用した。10mLの培養物を5000rpmで遠心分離し、上清分析のために5mLを取り出した後に、凍結乾燥した。残りの上清を取り出し、ペレットを秤量した後に凍結乾燥した。残りの培養物を前記のように遠心分離し、グルコース分析に1.5mL、有機酸プロファイリングに5mL、pH測定のために残りを使用した。1日目および2日目については8mLの培養物を無菌条件下で取り出した。細胞数のために1mLを使用し、残りを前記のように遠心分離し、グルコースのために1.5mLを使用し、残りをpH測定のために使用した。
【0209】
乾燥バイオマス重量を実施例2において概説したように行った。
【0210】
乾燥上清重量を実施例2に記載のように行った。
【0211】
さらに、実施例2で求めたパラメータも計算した。
【0212】
有機酸分析
5mLの上清を各処理から収集し、分析を行うことができるまで-80℃で保管した。2mLの試料を0.2umフィルターと1cc注射器で濾過し、運転中のバイアルに入れた。
【0213】
HPLCを用いて有機酸含有量を検出した。DADとHPX-87HのAminex HPLCカラム(300x8.7mm)を備えるAgilent HPLC-1260 infinity systemを使用した。移動相は5mM硫酸であり、流速は0.35mL/minであり、40℃に加熱した。DAD検出器を210nmに設定した。オートサンプラーを経由して0.2umシリンジフィルターで濾過した後に、10μLの試料を直接注入した。フマル酸;IC用のリンゴ酸標準物質、IC用のコハク酸標準物質、ピルビン酸(Sigma Aldrich)を用いて作製した標準較正曲線から得た較正曲線を用いて個々の有機酸濃度を計算した。
【0214】
結果と考察
サイクル中の培養増殖を細胞数と細胞乾燥重量によって測定した(
図21〜23)。サイクル1では試料全体にわたって細胞数は似ていた(
図21)。サイクル2(
図22)の間、50%リサイクル培地(50)と、補充されたグルコース補充を含む50%リサイクル培地(G50)(条件2および3)の細胞数はサイクル終了までに100%新鮮増殖培地(100)(条件1)の細胞数と比べて減少した。サイクル3(
図23)については、50%リサイクル培地(50)(条件2)しか、サイクル終了までに、100%新鮮増殖培地(100)(条件1)の細胞数と比べて細胞数の低減を示さなかった。バイオマスに着目した場合に、全サイクルにわたってグルコース補充済みリサイクル培地は100%新鮮増殖培地(11)とほぼ同じ量のバイオマスを生成した(
図21〜23)。全サイクルにわたって50%リサイクル培地は対照のほぼ半分の量のバイオマスを生成した(
図21〜23)。
【0215】
実験中に、いくつかの注目すべきpH変化があった(
図24)。100%新鮮増殖培地条件(100)は50%リサイクル(50)およびグルコース補充済み条件(G50)よりも高いpHを示した。100%新鮮増殖培地のpHは経時的に減少したのに対して、50%(50)およびグルコース補充済みリサイクル培地(G50)条件のpHは経時的に安定していた。無細胞対照(100NCおよび50NC)は両方ともpHはほとんど変化しなかった。
【0216】
この実験で試験した全条件の変換効率を計算した(表15)。平均して、グルコース補充済み培地の変換効率(37%)が最も高く、サイクル1(41%)が最も高かった。50%リサイクル培地の全サイクル平均は32%と最低であったが、これは、サイクル2での変換効率が20%と低かったことが原因である。50%リサイクル培地のサイクル1およびサイクル3での変換効率は39%であった。これは100%新鮮培地対照より高く、グルコース補充済み50%リサイクル培地試料の全サイクル平均よりも高かった。100%新鮮増殖培地の全サイクル変換効率は平均34と同等であった。50%リサイクル培地の平均変換効率は100%新鮮培地の平均変換効率の94%であり、グルコース補充済み50%リサイクル培地の平均変換効率は100%新鮮培地の平均変換効率の109%であった。
【0217】
(表15)実施例3a条件の変換効率の概要
【0218】
(表16)100%新鮮増殖培地の全収率およびグルコース濃度に基づいた収率の概要
【0219】
(表17)50%リサイクル培地のサプリメント収率およびグルコース濃度に基づいた収率の概要
【0220】
(表18)グルコース補充50%リサイクル培地のサプリメント収率およびグルコース濃度に基づいた収率の概要
【0221】
表16〜18は、変換効率と同様の傾向を示す、全収率、サプリメント収率、およびグルコースに基づいた収率を示す。グルコース補充ハイブリッド培地のサプリメント収率が0.344と最も高く、グルコースに基づいた収率が0.57と最も高かった。100%新鮮培地が全収率0.263、グルコースに基づいた収率0.51と次に高かった。50%再利用率のハイブリッド培地のサプリメント収率が0.221、グルコースに基づいた収率が0.43と最も低かった。全測定値にわたってハイブリッド培地のサイクル2が低かった。しかしながら、サイクル1および3の方が100%新鮮培地で見られた平均に匹敵するものであった。実施例3bは、バイオマス生成に対するグルコース補充の効果をさらに調べるために行った。
【0222】
上記の時点にわたって培地中で酸が分解されるかどうか確かめるために、有機酸分析を全試料タイプならびに無細胞対照に対して行った。文献と入手可能な標準物質:ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、フマル酸、および酢酸に基づいて6種類の有機酸を調べた。
図30〜35は実験条件ごとに全種類の有機酸を示す。
図25は100%新鮮増殖培地対照を表す。
図26は50%リサイクル培地試料を表す。
図27はグルコース補充済み50%リサイクル培地を表す。
図28は100%無細胞対照を表す。
図29は50%リサイクル培地無細胞対照を示す。はっきりとした傾向から、全条件においてコハク酸が最も多く、フマル酸および酢酸は、それより少ない培地中に排出された有機酸である。
図30〜35は全試料にわたる有機酸を示す。酢酸(
図30)は興味深い傾向があり、100%新鮮増殖培地対照では、各サイクルの開始時に存在し、サイクルの終了までに検出されなくなる。50%リサイクル培地の場合、サイクル2の開始時に酢酸が存在したが、サイクルの終了時には存在しなかった。50%リサイクル培地およびグルコース補充済みリサイクル培地の両方において酢酸はサイクル3の終了時に検出された。しかしながら、標準誤差を考慮に入れると、これらのレベルは非常に低いレベルである。一般的に、無細胞対照は各サイクルの開始時および終了時にほぼ同じレベルの酢酸を示し、ユーグレナ属が有機酸を活発に利用している時の100%試料と、50%リサイクル培地のサイクル2で見られるレベルをさらに裏付けている。
【0223】
図31は、全処理および無細胞対照におけるフマル酸を示す。無細胞対照は各サイクルの中で一定したレベルを示す。100%新鮮増殖培地試料は、サイクル1および2では、培地中に排出されるフマル酸が大幅に増加するのに対して、サイクル3ではほとんど変化しない。50%リサイクル培地の場合、サイクル1ではサイクルの終了までにフマル酸がわずかに増加し、サイクル2で大幅に増加し、サイクル3ではフマル酸レベルが劇的に減少する。グルコース補充済み50%リサイクル培地は50%リサイクル培地と同様の傾向を示す。
【0224】
図32は乳酸の結果を示す。無細胞対照および実験条件の両方でほぼ同じレベルの乳酸が見られた。しかしながら、注目すべきことに、100%新鮮増殖培地のサイクル1ではサイクルの終了時に乳酸が減少し、これは無細胞対照では反映されなかった。50%リサイクル培地例ではサイクル3の3日目でも同じわずかな減少が示される場合がある。これらの結果から、一般的にユーグレナ属は培地から乳酸を取り込まず、2つの例だけ乳酸レベルがわずかに減少することが分かる。乳酸レベルは各サイクルの終了時に培地中で増加していないので、このことから、培養物は嫌気性の状態または代謝になっていないことも示唆される。なぜなら、乳酸は嫌気性呼吸の一般的な副産物だからである。
【0225】
図33は前記条件におけるコハク酸レベルを表し、無細胞対照を含む全処理において高レベルが観察された。100%新鮮増殖培地ではサイクル2および3においてサイクル終了時にコハク酸が増加した。50%リサイクル培地ではサイクル3終了時に有機酸がわずかに減少した。グルコースが補充された50%リサイクル培地ではサイクル2においてサイクル終了時に有機酸が増加した。
【0226】
図34は全処理におけるリンゴ酸レベルを示す。100%新鮮増殖培地処理においてサイクル3終了時にリンゴ酸がわずかに増加した。50%リサイクル培地ではサイクル1終了時にリンゴ酸が増加し、グルコース補充済み50%リサイクル培地では観察可能な差異が見られなかった。
【0227】
最後に、
図35は全試料におけるピルビン酸レベルを示す。一般的に、実験条件の大多数は各サイクル終了時にピルビン酸の減少を示す。無細胞対照での変化はわずかであり、ピルビン酸レベルの増加はわずかであるので、このことから、ユーグレナ属はピルビン酸を代謝していることが示唆される。ピルビン酸は、従属栄養条件下でユーグレナ・グラシリスを増殖する際に用いられてきた炭素供給源である。ピルビン酸は、ユーグレナ属代謝においてよく用いられる分子であり、好気性条件下で使用することができる。サイトゾルのピルビン酸はクレブス回路でのエネルギー利用のためにミトコンドリアに直接移入されてもよく、最初にサイトゾル中で乳酸に変換され、次いで、ミトコンドリアに移入されてもよい。
【0228】
いくつかの細胞外代謝産物グループ:植物ホルモン、有機酸などが培地に排出されるという証拠がある。本発明者らは、上記の結果から、ユーグレナ・グラシリスが有機酸を排出し、増殖中に潜在的に利用できることを知っている。バイオプラスチックの供給源としてコハク酸および乳酸がよく用いられる。使用した増殖条件を考えると、有機酸プロファイルに多量のコハク酸がある。さらなる処理および用途のために、この有機酸を潜在的に単離および利用できるかもしれない。
【0229】
さらに、あらゆる処理の培地での有機酸の蓄積または存在から阻害作用は観察されなかった。このことから、3サイクルにわたる有機酸蓄積はバイオマス蓄積または基質利用の阻害因子でないことが分かる。
【0230】
(b)対照培地の比較
本研究では、培地変化の影響、特に、全体のユーグレナ属バイオマス産生および変換効率に及ぼす溶質インプットの影響。グルコースだけを添加することで、新鮮培地と同じように増殖を増大させるかどうか、またはハイブリッド培地も影響を及ぼすかどうかも調べた。
【0231】
方法と材料
表14において報告した基本培地を100%新鮮培地対照に使用した。少量の溶質を比較するために、表19に示したように100%新鮮培地対照と比較して、グルコースが全量あるグルコース補充ハイブリッド培地の対照として、以下の表19に示したようにインプットが半分の50%新鮮培地溶液を作製した。1サイクルのために、50%ハイブリッドリサイクル培地およびグルコース補充済みハイブリッド培地を実施例3aに記載のように生成した。
【0232】
(表19)実施例3bで使用した100%、50%、およびグルコース補充済み50%新鮮増殖培地。pHを3.2に調整し、オートクレーブした。
【0233】
実験的処理を、ベントキャップ付250mLフラスコの中で、100mLの培養体積で行った。従属栄養増殖のために、培養物をKuhner Shakerインキュベーターに入れて、28℃、120rpmで振盪しながら1サイクルにつき3日間インキュベートした。実験的処理したものを約2x10
6細胞/mLで播種した。条件をn=2で行った。
【0234】
バイオマスおよび上清を50mLファルコンチューブに入れて、5000rpm、10分の遠心分離によって回収し、様々なパラメータと、凍結乾燥後の対応する乾燥重量のために重量を記録した。グルコース消費を、実施例1および実施例2に概説しものと同じ方法でYSI分析機器;YSI2950によって測定した。
【0235】
0日目および3日目の試料については、各処理から12mLの培養物を無菌条件下で等分した。毎日、細胞数を求めるためにアリコートを使用した。11mLの培養物を5000rpmで遠心分離し、上清分析のために5mLを取り出した後に凍結乾燥した。残りの上清を取り出し、ペレットを秤量した後に凍結乾燥した。残りの培養物を前記のように遠心分離し、グルコース分析に1.5mL、有機酸プロファイリングに5mL、pH測定のために残りを使用した。1日目および2日目については、7mLの培養物を無菌条件下で取り出した。細胞数のために1mLを使用し、残りを前記のように遠心分離し、グルコースのために1.5mLを使用し、残りをpH測定のために使用した。
【0236】
乾燥バイオマス重量を実施例2において概説したように行った。
【0237】
乾燥上清重量を実施例2に記載のように行った。
【0238】
さらに、実施例2で求めたパラメータも計算した。
【0239】
結果と考察
図36では、細胞数および細胞バイオマスについて細胞増殖パラメータを測定した。100%新鮮増殖培地の細胞数が最も多く、サイクルにわたるバイオマス蓄積が最も多いものの1つであった。3日サイクルにわたって50%新鮮増殖培地の細胞数が最も少なく、生成されたバイオマスの量は最も少なかった。3日目には、グルコース補充50%新鮮増殖培地の細胞数およびバイオマス生成は50%新鮮増殖培地よりも多かったが、100%新鮮増殖培地対照ほどではなかった。50%ハイブリッド培地を比較した時に、ハイブリッド培地の細胞数およびバイオマスは50%新鮮培地対照と比較して増加した。グルコース補充済みハイブリッド培地とグルコース補充済み50%新鮮増殖培地に注目した場合に、細胞数は新鮮培地対照とほぼ同じであった。しかしながら、バイオマス生成は全試料において観察されたものの中で、100%新鮮培地対照でさえ最も高いものであった。バイオマス生成は100%新鮮増殖培地増殖より高いか、またはそれに匹敵するものであったので、このことは、同様のバイオマス生成となるために再利用成分が必要であったことを示唆している。50%新鮮培地対照と比較して50%ハイブリッド培地について同様の傾向が観察されたが、グルコース補充済み50%ハイブリッド培地と同じ程度ではなかった。
【0240】
図37ではpH測定値を観察した。実施例3aで示されたように、100%新鮮増殖培地のpHは経時的に低下し、全試料にわたってpH減少が最も大きかった。50%新鮮培地およびグルコース補充済み50%新鮮培地の傾向は100%新鮮増殖培地と同様であった。2種類のハイブリッド培地は、pHレベルが低い使用済み培地を含んでいたので低pHで開始した。そのためpH減少はわずかであった。全体的に見て、3日目までに全培養物のpHは同じになった。
【0241】
表20は、実施例3bで試験した異なる条件の変換効率を示す。全体的に見て、グルコース補充済みハイブリッド培地の変換効率が22.9%と最も高かった。これは100%新鮮増殖培地対照(13.7%)、50%新鮮培地(15.3%)、グルコース補充済み50%新鮮増殖培地(15.9%)、および50%ハイブリッド培地(13.9%)よりも高い。効率がグルコース補充済み50%新鮮培地よりも高いので、このことは、リサイクル培地が変換効率に影響を及ぼすことを示唆している。同様にリサイクル培地を用いている50%ハイブリッド培地よりも高いので、このことは、変換効率にプラスの影響を及ぼす、高濃度のグルコースとリサイクル培地の併用効果であることを示唆している。50%ハイブリッド培地はまた100%新鮮培地対照試料に匹敵し、これに対して、他の新鮮培地対照(50%およびグルコース補充済み)はわずかに高い。
【0242】
(表20)実施例3bの変換効率概要
【0243】
本願が実施例に関連して説明されたが、クレームの範囲は、実施例に示された態様によって限定されてはならず、説明全体と一致する最も広い解釈が与えられるべきだと理解しなければならない。
【0244】
刊行物、特許、および特許出願は全て、それぞれ個々の刊行物、特許、または特許出願が、その全体が参照により組み入れられるように詳細かつ個々に示されるのと同程度に、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。本願における用語が、本明細書において参照により組み入れられる文書において異なって定義されていると判明した場合、本明細書において提供される定義が、その用語の定義となる。