特表2021-529837(P2021-529837A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-529837低酸素関連組織損傷を治療するための投薬レジメン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-529837(P2021-529837A)
(43)【公表日】2021年11月4日
(54)【発明の名称】低酸素関連組織損傷を治療するための投薬レジメン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20211008BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 41/00 20060101ALI20211008BHJP
【FI】
   A61K31/198
   A61K38/05
   A61P43/00 105
   A61P41/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2021-523101(P2021-523101)
(86)(22)【出願日】2019年6月27日
(85)【翻訳文提出日】2021年2月16日
(86)【国際出願番号】IB2019000849
(87)【国際公開番号】WO2020008266
(87)【国際公開日】20200109
(31)【優先権主張番号】16/027,080
(32)【優先日】2018年7月3日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】521005890
【氏名又は名称】テンプル セラピューティクス ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】ロバートソン リン エム
【テーマコード(参考)】
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA14
4C084BA23
4C084MA56
4C084MA65
4C084NA14
4C084ZB21
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA76
4C206MA85
4C206NA14
4C206ZB21
(57)【要約】
本明細書には、対象の低酸素関連組織損傷を治療するための方法が記載されている。より具体的には、本方法は、外科的手技中に特定の投薬レジメンに従って対象の低酸素関連組織損傷を治療することに関する。具体的には、本方法は、外科的手技中に対象に投薬することを含む投薬レジメンであって、最初の用量は、外科的手技中に行われる最初の外科的切開後約120分以内に患者に投与される投薬レジメンに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科的手技を受けている対象の組織癒着を治療又は予防するための方法であって、前記外科的手技中に、治療有効量のグルタミン供給源を、前記対象の癒着形成の影響下ある組織に局所投与することを含み、前記グルタミン供給源の最初の用量は、前記外科的手技中の最初の外科的切開後約120分以内に投与される方法。
【請求項2】
前記グルタミン供給源の前記最初の用量は、前記最初の外科的切開後約90分以内に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グルタミン供給源の前記最初の用量は、前記最初の外科的切開後約30分〜約120分以内に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記グルタミン供給源の前記最初の用量は、前記最初の外科的切開後約30分〜約90分以内に投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記グルタミン供給源の前記最初の用量は、前記最初の外科的切開後約60分以内に投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記グルタミン供給源の1つ又は複数の追加の用量は、前記最初の用量後の特定の期間に、前記最初の用量後に一定の時間間隔で、及び/又は全ての外科的切開を閉じる直前に、前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記外科的手技は、前記対象の腹腔に影響を及ぼす、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記外科的手技は、前記対象の胸腔に影響を及ぼす、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記外科的手技は、前記対象の頭部、頸部、又は脊柱に影響を及ぼす、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記外科的手技は、前記対象の1つ又は複数の四肢に影響を及ぼす、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記グルタミン供給源は、グルタミン、アラニル−グルタミンジペプチド、グルタミル−グルタミンジペプチド、グリシル−グルタミンジペプチド、ジクロロアセチルグルタミン、アセチルグルタミン、ブチリルグルタミン、ピルビルグルタミン、グルタミンのカルボキシル官能基又はアミノ官能基とペプチド結合を形成することができるカルボキシル官能基又はアミノ官能基を含有する小分子に連結されているグルタミン、及びアミノエステル結合を介して任意の他の好適な有機酸にコンジュゲートされているグルタミンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記グルタミン供給源中の前記グルタミンは、L−グルタミンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
外科的手技を受けている対象の低酸素関連組織損傷を治療又は予防するための方法であって、前記外科的手技中に、治療有効量のグルタミン供給源を、前記対象の低酸素関連組織損傷の影響下にある組織に局所投与することを含み、前記グルタミン供給源の最初の用量は、前記外科的手技中の最初の外科的切開後約120分以内に投与される方法。
【請求項14】
前記グルタミン供給源の前記最初の用量は、前記最初の外科的切開後約90分以内に投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記グルタミン供給源の前記最初の用量は、前記最初の外科的切開後約30分〜約120分以内に投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記グルタミン供給源の前記最初の用量は、前記最初の外科的切開後約30分〜約90分以内に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記グルタミン供給源の前記最初の用量は、前記最初の外科的切開後約60分以内に投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記グルタミン供給源の1つ又は複数の追加の用量は、前記最初の用量後の特定の期間に、前記最初の用量後に一定の時間間隔で、及び/又は全ての外科的切開を閉じる直前に、前記対象に投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記外科的手技は、前記対象の腹腔に影響を及ぼす、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記外科的手技は、前記対象の胸腔に影響を及ぼす、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記外科的手技は、前記対象の頭部、頸部、又は脊柱に影響を及ぼす、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記外科的手技は、前記対象の1つ又は複数の四肢に影響を及ぼす、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記グルタミン供給源は、グルタミン、アラニル−グルタミンジペプチド、グルタミル−グルタミンジペプチド、グリシル−グルタミンジペプチド、ジクロロアセチルグルタミン、アセチルグルタミン、ブチリルグルタミン、ピルビルグルタミン、グルタミンのカルボキシル官能基又はアミノ官能基とペプチド結合を形成することができるカルボキシル官能基又はアミノ官能基を含有する小分子に連結されているグルタミン、及びアミノエステル結合を介して任意の他の好適な有機酸にコンジュゲートされているグルタミンからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
前記グルタミン供給源中の前記グルタミンは、L−グルタミンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
外科的手技を受けている対象の低酸素関連損傷組織中のHIF−1αを低減するための方法であって、前記外科的手技中に、治療有効量のグルタミン供給源を、前記対象の前記損傷組織に局所投与することを含み、前記グルタミン供給源の最初の用量は、前記外科的手技中の最初の外科的切開後約120分以内に投与される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年7月3日に出願された米国特許出願第16/027,080号の優先権を主張するものであり、この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
本発明は、対象の低酸素関連組織損傷を治療することに関する。より具体的には、本方法は、特定の投薬レジメンに従って外科的手技中に対象の低酸素関連組織損傷を治療することに関する。具体的には、本方法は、外科的手技中に対象に投薬することを含む投薬レジメンであって、最初の用量は、外科的手技中に行われる最初の外科的切開後約120分以内に患者に投与され、任意選択で最初の切開後に1回又は複数回患者に投薬され、及び/又は全ての外科的切開を閉じる直前に対象に再度投薬される投薬レジメンに関する。
【背景技術】
【0002】
術後癒着は、術後の痛み及び他の外科的合併症の重要な原因である。酸化ストレス及び低酸素状態は、癒着形成に重要な役割を果たす。低酸素状態は、最終的には癒着形成に結び付く応答の連鎖を誘発する。癒着の発生は、マクロファージ駆動性炎症応答、線維性滲出液の形成、活性化されて筋線維芽細胞を形成する線維芽細胞の動員、過剰なコラーゲン線維沈着、及びその後の血管新生を含む多段階プロセスである。こうしたプロセスは、炎症及び治癒の調節に重要である低酸素環境(低酸素状態)で生じる。分子レベルでは、低酸素状態に対する応答は、酸素依存性αサブユニット(HIF−1α、HIF−2α)及び酸素非依存性βサブユニットで構成される低酸素誘導因子(HIF)により調整される。HIF−αサブユニットは、構成的に発現され、正常酸素状態では急速に分解される。しかしながら、低酸素状態では、HIF−1α及びHIF−2αは安定化され、活性転写複合体を形成する。こうした複合体は、共同して低酸素状態に対する適応応答を開始させる数多くの下流標的遺伝子のプロモーター領域にある低酸素応答エレメント(HRE)に結合する。
正常酸素状態下では、グルコースが細胞内で異化されてピルビン酸が形成され、ピルビン酸は更に代謝されて、クエン酸回路(TCA回路)を介してアデノシン三リン酸(ATP)が産生される。逆に、低酸素条件下では、TCA回路へと入るピルビン酸の量が減少し、ピルビン酸は乳酸に変換される。糖分解酵素を変更することにより代謝を嫌気性解糖へとシフトさせる低酸素誘導因子(HIF)により、嫌気性解糖が活性化される。HIFは、ピルビン酸をアセチルCoAへと変換するピルビン酸デヒドロゲナーゼを阻害し、ピルビン酸を乳酸へと変換する乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を刺激する。したがって乳酸の産生増加がもたらされる。乳酸は、VEGF及びコラーゲン等、癒着形成に関与する他の因子の刺激による癒着形成に重要であり得る。
【0003】
米国特許第9,011,883号明細書には、患者の腹膜の癒着を治療又は低減するための方法であって、患者の腹膜に影響を及ぼす外科的手技中に又は後に、有効量のL−グルタミン、又はアラニル−グルタミンを含むジペプチドを投与することを含む方法が記載されている。
最近、HIF−1α阻害剤(20mg/kg)を用いた単回術中洗浄が、マウスモデルにおいて癒着形成を低減させたことが報告された。Strowitzkiら、「Pharmacological HIF−inhibition attenuates postoperative adhesion formation」、Sci.Rep.7巻(1号):13151頁(2017年)。このin vivoでの結果は細胞レベルでも確認され、マイクロモル用量のHIF−1α阻害剤でin vitro治療すると、正常マウス腹膜線維芽細胞においてHIF−1α及びTGF−βを含む炎症の幾つかのバイオマーカーの低酸素上方制御が鈍化した。
当技術分野では、癒着、より具体的には低酸素関連組織損傷を治療及び予防するための化合物及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書には、対象の低酸素関連組織損傷を治療するための方法が記載されている。ある特定の実施形態では、組織損傷は、外科的手技の結果である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態では、本発明は、外科的手技を受けている対象の組織癒着を治療又は予防するための方法であって、外科的手技中に有効量のグルタミン供給源を、対象の癒着形成の影響下にある組織に局所投与することを含み、グルタミン供給源の最初の用量は、外科的手技中の最初の外科的切開後約120分以内に投与される方法を提供する。
別の実施形態では、本発明は、外科的手技を受けている対象の低酸素関連組織損傷を治療又は予防するための方法であって、外科的手技中に有効量のグルタミン供給源を、対象の低酸素関連組織損傷の影響下にある組織に局所投与することを含み、グルタミン供給源の最初の用量は、外科的手技中の最初の外科的切開後約120分以内に投与される方法を提供する。
別の実施形態では、本発明は、外科的手技を受けている対象の低酸素関連損傷組織中のHIF−1αを低減するための方法であって、外科的手技中に有効量のグルタミン供給源を、対象の損傷組織に局所投与することを含み、グルタミン供給源の最初の用量は、外科的手技中の最初の外科的切開後約120分以内に投与される方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下の段落には、本明細書に記載の本発明の実施形態がより詳細に定義されている。当業者であれば、本明細書に記載の本発明、実施形態、又は具体的な態様の範囲から逸脱することなく、好適な改変及び改造をなすことができることが直ちに明白になるため、以下の実施形態は、本発明を限定すること又はその範囲を狭めることを意味するものではない。本明細書で引用された全ての特許及び刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
「グルタミン供給源」又は「グルタミンの供給源」という用語は、グルタミン及びその生理学的に許容される塩、並びに本明細書で更に記載されるようなグルタミンコンジュゲート及びグルタミンを含むペプチドを含む。
「投薬量」又は「用量」又は「剤形」という用語は、本明細書で使用される場合、単回投与又は複数回投与で療法効果を生み出すのに十分な量を含有するグルタミン供給源の任意の形態又は製剤を指す。
「外科的切開」という用語は、本明細書で使用される場合、腹腔鏡又は他の低侵襲性外科的技法のために作られた切開又は進入点を含む、外科的手技の前又は最中に、メス、レーザー、又は他の切断器具等の切断器具により作られた創傷を意味する。
「〜を予防する」という用語は、本明細書で使用される場合、低減させるという意味を含む。低減量は、約0.001%〜約100%であってもよい。
「有効量」という用語は、所望の効果を達成する量である。例えば、本発明では、1つ又は複数のグルタミン供給源の有効量は、1つ又は複数の投与後に、低酸素関連組織損傷を低減又は予防する量である。一部の実施形態では、有効量は、1つ又は複数の組織における癒着を予防又は低減するグルタミン供給源の有効量である。
「薬物負荷」という用語は、本明細書で使用される場合、剤形の合計質量に対するグルタミン供給源の質量%を指す。
「製剤」又は「組成物」という用語は、本明細書で使用される場合、1つ又は複数の薬学的に許容される希釈剤及び/又は賦形剤と組み合わされたグルタミン供給源を指す。
「長期放出」又は「持続放出」という用語は、本明細書で使用される場合、生理学的条件下又はin vitro試験において、長期間にわたり所望のプロファイルに従って活性成分を放出する組成物を指す。「長期間」とは、少なくとも約1時間、約2時間、約4時間、約6時間、約8時間、約10時間、約12時間、約14時間、約16時間、約18時間、約20時間、約24時間、又はそれよりも更に長期の、具体的には生理学的条件下又はin vitroアッセイにおいて約18時間の期間にわたる連続した期間を意味する。
「遅延」放出という用語は、本明細書で使用される場合、活性成分が初期に放出されないように、例えば数分間又は数時間の期間後に、活性成分を放出する組成物を指す。遅延放出組成物は、例えば、生理学的条件下で又はin vitro試験において、ある特定の期間後に剤形からの薬物又は有効成分の放出を提供することができる。
【0007】
「治療」という用語は、障害に関連する状態、症状、障害、又はパラメーター、又はそれらの起こり易さを改善する(例えば、療法効果)ために有効な量、様式、又はモードで療法を施すことを指す。一部の実施形態では、「治療する」という用語は、外科手術後の癒着形成を治療又は予防することを指す。他の実施形態では、「治療する」という用語は、外科的手技を受けている患者の低酸素関連組織損傷を治療又は予防することを指す。
「予防的に処置する」という用語は、障害に関連する状態、症状、障害、又はパラメーターを被る前にある量での療法を施すこと、又はそれらの起こり易さを低減することを指す。
「対象」という用語は、動物及びヒトを含むあらゆる哺乳動物を指す。対象は、その治療を必要とする医学的な患者であってもよい。一実施形態では、対象はヒトである。
「予防する」又は「低減する」という用語は、統計的に有意な程度又は当業者が検出可能な程度のいずれかまで、癒着等の障害の進行を予防又は低減することを指す。
「実質的に」という用語は、本明細書で使用される場合、完全ではないが、著しい程度であることを意味する。
「a」又は「an」は、本明細書で使用される場合、別様の指定がない限り、1つ又は複数を意味する。
「含む(include)」「含むこと(including)」、「含有する(contain)」、「含有すること(containing)」、及び「有すること(having)」等の用語は「含むこと(comprising)」を意味する。
【0008】
本明細書には、低酸素関連組織損傷を治療するための、特に外科的手技中になされる最初の外科的切開後の特定の時点で、又は手技がある特定の期間を超える場合は外科的手技中の複数の時点でグルタミン供給源を投与することにより、外科的手技を受けている患者の癒着形成を予防又は治療するための方法が記載されている。外科手術を含む、組織に対する損傷は、炎症応答を引き起こし、線維素沈着及びそれに続く線維素性癒着がもたらされる。この癒着が、外科手術又は他の傷害に起因する傷害の直後に防止又は解体されないと、線維芽細胞を含む修復性細胞が増殖して線維素マトリックスになり、恒久的な線維性癒着に変わってしまう。特定の理論に束縛されないが、本発明者らは、驚くべきことに、低酸素状態の開始後約60〜約120分以内にグルタミン供給源を投与すると、低酸素状態の影響下の細胞中のHIF−1αタンパク質の量が低減されることを見出した。グルタミン供給源のより早期又はより後期での投与は、HIF−1αタンパク質のレベルにある程度の効果を示すが、低酸素状態の開始後約60〜約120分以内にグルタミン供給源を投与すると、より大きな効果が見られる。
【0009】
したがって、本明細書には、外科的手技を受けている対象の癒着、低酸素関連組織損傷を治療又は予防するための、又は低酸素関連損傷組織中のHIF−1αを低減するための方法であって、外科的手技中に、治療有効量のグルタミン供給源を、対象の低酸素症関連組織損傷の影響下にある組織に局所投与することを含み、グルタミン供給源の最初の用量は、外科的手技中の最初の外科的切開後約120分以内に投与される方法が記載される。ある特定の実施形態では、グルタミン供給源の最初の用量は、外科的手技中の最初の外科的切開後約90分以内に投与される。別の実施形態では、グルタミン供給源の最初の用量は、約30分〜約120分以内、約60分〜約120分以内、約30分〜約90分以内、又は約30分〜約60分以内に投与される。更なる実施形態では、グルタミン供給源は、約60分以内に投与される。
【0010】
本明細書に記載の方法は、対象に、グルタミン供給源を指定の期間内で少なくとも1回投与することを含む。ある特定の実施形態では、グルタミン供給源は、対象に1回よりも多く投与される。例えば、対象は、指定の期間内にグルタミン供給源の最初の用量を受け、続いて、指定の期間に、一定の時間間隔で、及び/又は全ての外科的切開を閉じる直前に、グルタミン供給源の1つ又は複数の追加の用量を受けてもよい。グルタミン供給源の追加用量数は、外科医の裁量であってもよいが、一般に、グルタミン供給源の用量数は、外科手術の全体的長さ又は患部組織が低酸素関連損傷の影響下にある時間の長さに依存する。一実施形態では、グルタミン供給源の追加用量は、全ての外科的切開を閉じる直前に対象に投与される。ある特定の実施形態では、グルタミン供給源の追加の1つ又は複数の用量は、一定の時間間隔で投与される。時間間隔は、任意の時間間隔であってもよいが、グルタミン供給源の最初の用量の時点後、約15分〜約120分、約30分〜約120分、約30分〜約90分、約30分〜60分、又はより具体的には約90分毎、約60分毎、約45分毎、若しくは約30分毎の時間間隔が好ましい。
【0011】
グルタミンは、吸収性が良好であり、創傷治癒を促進し、好中球、マクロファージ、及びリンパ球の機能を調節する条件付き必須アミノ酸である。グルタミンは、抗酸化グルタチオンを産生するための基質としての役目も果たす。異化ストレス(外傷、敗血症、火傷)の期間中、グルタミンは、貯蔵場所の筋肉から血清へと放出され、筋肉におけるグルタミンの細胞内レベルが低下する。特に内臓器官の組織はグルタミンを急速に取り込み、その後グルタミンの血清濃度は低下する。以前の研究により、ラットモデルにおける腹膜癒着形成の予防におけるグルタミン含有溶液の有効性が実証されている。米国特許第9,011,883号明細書を参照されたい。
加えて、グルタミンは、安全であり、吸収性が良好であり、副作用は確認されていない。グルタミンは、創傷治癒を増強することが知られている。グルタミン及びそのジペプチドは、重症患者及び他の臨床設定において非経口及び経腸補給成分として使用されている。グルタミン供給源の最初の使用は、経腸投与(例えば、栄養補助食品で)又は静脈内経路による非経口投与のいずれかにより使用されている。少なくとも1つの研究には、グルタミンが脈管構造により容易に吸収される腹膜等の高度に血管化された領域へのグルタミンの投与が記載されている。こうした箇所において、L−グルタミンは、脱血管新生及び癒着形成を引き起こす腹膜縫合による血管新生の喪失を防止した。このように、グルタミンは、管脈構造でのグルタミンの取り込み及び血管新生喪失の防止により、線維症及び癒着形成を予防することができると考えられていた。
【0012】
本明細書に記載の一部の実施形態は、外科的手技を受けている対象の癒着形成又は低酸素関連組織損傷を治療又は低減するための方法である。本明細書で企図される例示的で非限定的な外科的手技としては、対象の頭部若しくは頸部、骨盤腔、腹腔、胸腔、又は対象の四肢の1つ若しくは複数に影響を及ぼす外科手術及び手技が挙げられる。骨盤腔に影響を及ぼす外科手術の例としては、これらに限定されないが、筋腫析出術、卵巣摘出術、子宮摘出術、子宮内膜症の除去、尿細管結紮、つまり、これらに限定されないが、子宮、卵巣、管、前立腺、尿道を含む生殖器官、並びに膀胱、骨盤結腸、及び直腸のいずれかに関与する任意の腹腔鏡、腹壁切開、又は開放外科手術又は手技(拡張及び掻爬、IVF等、子宮の膣内手技を含む)、骨盤腔の主要な動脈、静脈、筋肉、及び神経、膜、靭帯、又は内臓に関与する任意の外科手術が挙げられる。腹腔に影響を及ぼす外科手術の例としては、これらに限定されないが、胆嚢摘出、肝臓切除、ラップバンド外科手術、結腸吻合、虫垂切除術、つまり、胃、肝臓、膵臓、脾臓、胆嚢、腎臓、並びに小腸及び大腸のほとんどに関与する任意の外科手術、腹腔の主要な動脈、静脈、筋肉、及び神経、膜、靭帯、又は内臓に関与する任意の外科手術が挙げられる。胸腔に影響を及ぼす外科手術の例としては、これらに限定されないが、腹腔鏡又は腹壁切開又は開胸心血管外科手術及び手技、肺外科手術、肝臓外科手術、胆嚢外科手術、胸腔の主要な動脈、静脈、筋肉、及び神経、膜、靭帯、骨、又は内臓に関与する任意の外科手術が挙げられる。対象の四肢の1つ又は複数に影響を及ぼす外科手術の例としては、これらに限定されないが、四肢の主要な動脈、静脈、筋肉、及び神経、膜、靭帯、骨、又は内臓に関与する任意の外科手術を含む、腕、脚、肘、肩、脊柱に関与する腹腔鏡、腹壁切開、又は開放手術が挙げられるが、それらに限定されない。頭頸部に影響を及ぼす外科手術の例としては、これらに限定されないが、脳眼外科手術又は手技、耳、鼻咽喉、歯、歯茎、及び顎の外科手術又は手技、顔、頭部、及び頸部の美容再建外科手術及び手技、歯、歯茎、及び顎の美容整形手技、頭頸部の主要な動脈、静脈、筋肉、及び神経、膜、靭帯、骨、又は内臓に関与する任意の外科手術を含む、腹腔鏡又は腹壁切開又は開放外科手術及び手技が挙げられる。
【0013】
L−グルタミン及びL−グルタミンを含むジペプチドの静脈内投与に関する以前の研究に基づくと、特定のグルタミン供給源の用量は、1日当たり患者1キログラムにつき約0.01g〜約1.0gのL−グルタミンを提供することができる。しかしながら、用量は、こうした上限量及び下限量の範囲外に入るように選択してもよい。アラニル−グルタミンが使用される典型的な用量は、約0.02g〜約0.5gのジペプチド/kg/日の範囲であってもよい。外科的手技中にグルタミン供給源を投与する場合、平均的な成人患者の典型的な用量は、約0.02g〜約2.0g又は約0.3g〜約1.5gのL−グルタミン又はL−アラニル−L−グルタミンを提供してもよい。グルタミンは無害なアミノ酸であるため、大量に投与することができ、副作用は予想されない。
【0014】
一部の実施形態では、グルタミン供給源は、グルタミン又はその任意の薬学的に許容される塩を含む。一部の実施形態では、グルタミンの供給源は、L−グルタミンを含むか又はL−グルタミンである。L−グルタミンは比較的水溶性が低く(すなわち、室温で約40g/L)、保管中の安定性が低いことが知られている。したがって、グルタミンの供給源は、更なる担体アミノ酸を共に含んでいてもよく、又はグルタミンは、L−グルタミンの溶解度及び安定性の一方又は両方を増加させることができるオリゴペプチドの一部として組み込まれていてもよい。オリゴペプチドは、任意の天然に存在する又は天然に存在しないアミノ酸を含んでいてもよい。好適なオリゴペプチドは、L−グルタミンを含み、代謝されてL−グルタミンを提供することが可能である。好ましくは、そのようなペプチドは、L−グルタミンの水溶性の増加及び安定性の増加を呈するだろう。多くの場合、そのようなペプチドは、滅菌及び保管中の分解に対する耐性の増加も呈するだろう。L−グルタミンを含むオリゴペプチドは、当技術分野で公知の切断可能なリンカーペプチド部分を更に含んでいてもよい。Bohme及びBeck−Sickinger、「Drug delivery and release systems for targeted tumor therapy」、J.Pept.Sci.21巻(3号):186〜200頁(2015年)を参照されたい。こうした切断可能なリンカーを、種々のスキャフォールド及びインプラントへの付着のために、及び本明細書に記載の投与方法のために使用することができる。
【0015】
一部の実施形態では、グルタミンの供給源は、ジペプチドの一部として組み込まれているL−グルタミンである。そのようなペプチドは、L−グルタミンと、L−アラニン、L−グルタミン、又はL−グリシンの1つとを含むジペプチドである。L−アラニル−L−グルタミン(L−Ala−L−Gln)ジペプチド(C末端位置がグルタミン残基)は、水への溶解度が高い(568g/L)。L−グリシル−L−グルタミン(L−Gly−L−Gln)ジペプチド(C末端位置がグルタミン)も、グルタミンと比較して水への溶解度の増強を示す(154g/L)。グルタミル−グルタミン(L−Glu−L−Gln)ジペプチドも使用することができる。したがって、一実施形態では、グルタミンの供給源は、L−アラニル−L−グルタミンを含む。一部の実施形態では、グルタミンの供給源は、グルタミンを含むオリゴペプチドの一部として提供され、グルタミンの供給源の水溶解度及び水安定性は、グルタミン単独と同じか又はそれよりも高い。他の実施形態では、グルタミン供給源は、少なくとも1つのグルタミン残基がアミノエステル結合を介して化合物に結合されているグルタミンコンジュゲートである。そのようなグルタミン供給源の例としては、これらに限定されないが、ジクロロアセチルグルタミン、アセチルグルタミン、ブチリルグルタミン(butryrlglutamine)、ピルビルグルタミン、ペプチド結合により任意の他のアミノ酸に連結されているグルタミン、グルタミンのカルボキシル官能基又はアミノ官能基の1つとペプチド結合を形成することができるカルボキシル官能基又はアミノ官能基を含有する小分子に連結されているグルタミン、及びアミノエステル結合を介して任意の他の好適な有機酸にコンジュゲートされているグルタミンが挙げられる。
L−グルタミン及びL−グルタミン含有ペプチド(L−アラニル−L−グルタミンを含む)の薬学的に許容される調製物は、市販されている。加えて、本明細書に記載の方法に使用するためのL−グルタミン含有ペプチドは、公知の方法論に従って合成することもでき、医薬使用のために精製及び滅菌することができる。
【0016】
一部の実施形態では、グルタミンの供給源は、1つ又は複数の追加の活性医薬成分と共に投与される。追加の活性医薬成分は、グルタミンの供給源と同じように、又は異なる好適な非経口法若しくは経腸法により投与することができる。一部の実施形態では、追加の1つ又は複数の活性医薬成分は、グルタミンの供給源の投与前に、投与と同時に、又は投与後に、同じ投与経路によりグルタミンの供給源と共に投与される。他の実施形態では、追加の1つ又は複数の活性医薬成分は、グルタミンの供給源の投与前に、投与と同時に、又は投与後に、異なる投与経路によりグルタミンの供給源と共に投与される。
【0017】
一部の実施形態では、グルタミンの供給源を含む製剤は、水相に溶解されたL−グルタミン供給源を含む液体、ペースト、又はゲルであってもよい。本明細書に記載の組成物は、乾燥形態、部分水和形態、又は完全水和形態であってもよく、グルタミン供給源に加えて、滅菌蒸留水、滅菌等張溶液、滅菌生理食塩溶液、又は希釈時にそのような希釈剤成分を形成する乾燥緩衝剤及び/若しくは塩混合物又は凝縮製剤等の薬学的に許容される担体成分及び/又は希釈剤成分を含む。組成物中のグルタミン供給源の量は、投与中に完全に可溶化されたアミノ酸又はペプチドを提供するように選択されることになる。更に、投与のために製剤化される場合、組成物から利用可能なL−グルタミンの量及び/又は投与される製剤の合計量は、好適な用量のL−グルタミンを患者に提供するように熟練の医療提供者により選択されることにある。
【0018】
ある特定の実施形態では、グルタミン供給源製剤は、製剤が静脈内注射に好適な典型的な液体製剤よりも高い粘度を呈することになるように増粘されることになる。そのような増粘された製剤は、外科的手技中に、選択された組織又は領域に直接塗布することができるペースト又はゲルの形態であろう。好適な薬学的に許容される増粘剤は公知であり、それらを使用することができる。好ましくは、そのような作用剤は、水和されるとヒドロゲルを形成することになるか、又は好適な架橋剤に供され、水和されるとヒドロゲルを形成することになる。そのようなゲル形成成分は、それらが生体適合性であるように選択され、再吸収性であってもよい。医薬製剤に使用されている当業者に公知の好適な増粘剤及びゲル形成剤の例としては、コラーゲン等の親水性成分を有するポリマー;ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びポリヒドロキシエチルメタクリレート等のポリオキシアルキレンポリマー;ヒアルロン酸;並びにアルブミン等の種々のタンパク質等が挙げられる。線維素原又は線維素を含有するものを含む止血ゲルも使用することができる。
【0019】
ヒドロゲル製剤は、例えば、L−グルタミン、又は少なくとも1つのグルタミン残基を含有するジペプチド若しくはトリペプチドを含む好適な薬物の長期送達を可能にする。ヒドロゲルは、典型的には、薬物の高濃度塗布を更に可能にするデポーを形成する。グルタミンの供給源を含むヒドロゲルを投与前に生成し、更なる移植のためにグルタミンの供給源を含浸させてもよい。或いは、ヒドロゲルは、pH及び温度を含む環境変化後にin situで形成される。in situでのヒドロゲル形成のための種々の物理的及び化学的架橋ポリマーが当技術分野で公知である。例示的で非限定的なヒドロゲルとしては、プロピレンオキシド(PPO)、ポリ(ラクチド−co−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(プロピレンフマレート)、及びポリ(カプロラクトン)等の構造単位を含むコポリマーを挙げることできる。例えば、Hoare及びKohane、「Hydrogels in drug delivery:Progress and challenges」、Polymer 49巻(8号):1993〜2007頁(2008年)を参照されたい。また、好適なヒドロゲルは、天然に存在するタンパク質及びペプチドから生成してもよい。例えば、Jonkerら、「Peptide− and Protein−Based Hydrogels」、Chem.Mater.24巻(5号):759〜773頁(2011年)を参照されたい。特定のヒドロゲル製剤は、塗布部位により決定することができる。
【0020】
一部の実施形態では、グルタミンの供給源は、グルタミンの供給源を含有する移植可能なフィルムの一部として製剤化される。グルタミン供給源は、外科的移植可能フィルム又は他の外科的インプラントに塗布又は含浸されていてもよい。例えば、グルタミンの供給源を、ゲルの一部として製剤化し、インプラントの外部に付着させてもよい。Ethicon社からINTERCEED(登録商標)として市販されている再吸収性セルロース織布等の材料で構成されるインプラントに、本発明の液体製剤又はゲル製剤を含浸させてもよい。企図される他のフィルムとしては、ポリエステルアミドに基づくフィルム(PEA−III)が挙げられる。例えば、国際公開第2014/053542号A1パンフレットを参照されたい。一部の他の実施形態では、グルタミンの供給源は、局所投与、経皮投与、又はイオントフォレーシス投与用に製剤化されている。
【0021】
一部の実施形態では、剤形内のグルタミン供給源の薬物負荷は、指定の範囲内の各整数を含む、約2%〜約90%である。一部の実施形態では、薬物負荷は、約10%〜約80%である。一部の実施形態では、薬物負荷は、約20%〜約60%である。一部の実施形態では、薬物負荷は、約20%〜約50%である。一部の実施形態では、薬物負荷は、約20%〜約40%である。一部の実施形態では、薬物負荷は、約1%、約2%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、又は約90%である。
一部の実施形態では、薬物は、移植可能なフィルムに含浸されている。一部の実施形態では、移植可能なフィルムの薬物負荷は、指定の範囲内の各整数を含む、約2%〜約90%である。一部の実施形態では、移植可能なフィルムの薬物負荷は、約10%〜約80%である。一部の実施形態では、移植可能なフィルムの薬物負荷は、約20%〜約60%である。一部の実施形態では、移植可能なフィルムの薬物負荷は、約20%〜約50%である。一部の実施形態では、移植可能なフィルムの薬物負荷は、約20%〜約40%である。一部の実施形態では、移植可能なフィルムの薬物負荷は、約1%、約2%、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、又は約90%である。一実施形態では、移植可能なフィルムの薬物負荷は、約30%である。別の実施形態では、移植可能なフィルムの薬物負荷は、約50%である。
【0022】
一部の実施形態では、グルタミンの供給源を含む剤形は、数か月間又は数年間にわたって安定である。一部の実施形態では、本明細書に記載のグルタミン供給源の医薬剤形は、25℃及び60%相対湿度(RH)にて、約1か月間、約2か月間、約3か月間、約4か月間、約5か月間、約6か月、約9か月間、約10か月間、約11か月間、約12か月間、又はそれよりも更に長期間にわたって安定である。別の実施形態では、剤形は、2〜8℃等の冷蔵条件で保管することができ、最大で約1か月間、約2か月間、約3か月間、約4か月間、約5か月間、約6か月間、約9か月間、約10か月間、約11か月間、約12か月間、又は例えば約数年間、約3年間、若しくは最大で約5年間までの任意の期間等の、それよりも更に長期間にわたって安定であってもよい。
【実施例】
【0023】
正常な腹膜線維芽細胞(NPF)の初代培養を確立し、低酸素前の試料を採取して、一過性の低酸素環境に曝す前に正常酸素条件下でHIF−1α及び1型コラーゲン(COL1A1)のレベルを決定した。培養細胞を、低酸素状態のエピソード(2%O2;0.5、1、2、又は4、12、24、及び48時間)に曝し、続いて正常酸素状態(20%O2)に回復させ、L−Ala−L−Gln(0、1、2、又は10mM)で直ちに処置した。HIF−1α及びCOL1A1のレベルを、低酸素状態開始の12時間後及び24時間後に測定した。全ての処置を三重重複で完了させた。
【0024】
HIF−1α及びCOL1A1レベルを、それぞれELISA(HIF−1α ELISA(Thermo−Fisher Scientific社)又はCOL1A1 ELISA(LifeSpan Biosciences社)で、製造業者のプロトコールに従って決定した。データを、一元配置ANOVAで、続いてボンフェローニ補正を伴うチューキー検定で分析した。HIF−1αの結果を表1〜3に示す。
【表1】

【表2】

【表3】
【0025】
表3に示されているように、L−Ala−L−Glnで処置した細胞は、低酸素状態の全期間にわたって未処置細胞と比較して、12時間及び24時間の時点でHIF−1αの低減を示した。COL1A1でも同様の結果が得られた(データ非表示)。HIF−1αの低下に対する最大の効果は60分の時点で見られたが、全ての時点にてある程度の効果が見られ、30分〜120分でより著しい効果が見られた。L−Ala−L−Glnの濃度は全て有効であると考えられるが、幾らかより低い用量(例えば、1.0mM及び2.0mM)が、より高い(例えば、10.0mM)用量よりもわずかに良好であると考えられる。
【0026】
本発明のある特定の実施形態が例示及び説明されているが、本発明は、本明細書に記載の実施形態に限定されないことは明らかだろう。当業者であれば、数多の改変、変更、変異、置換、及び等価物が、特許請求の範囲に記載の本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに明白であろう。
【国際調査報告】