特表2021-529838(P2021-529838A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-529838ミエロペルオキシダーゼ(MPO)発現を調節するための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-529838(P2021-529838A)
(43)【公表日】2021年11月4日
(54)【発明の名称】ミエロペルオキシダーゼ(MPO)発現を調節するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20211008BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20211008BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20211008BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20211008BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20211008BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20211008BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20211008BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20211008BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20211008BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211008BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20211008BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20211008BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211008BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20211008BHJP
【FI】
   A61K35/28
   C12N15/09 100
   C12N15/09 110
   C12N15/53ZNA
   C12N15/55
   C12N15/85 Z
   C12N5/10
   C12N5/078
   C12N15/62 Z
   C12N9/02
   C12N9/22
   A61P43/00 111
   A61K31/7088
   A61P43/00 121
   A61K48/00
   A61P25/00
   A61P11/00
   A61P43/00 105
   A61P9/00
   A61P25/28
   A61P25/16
   A61P37/06
   A61P29/00
   A61P9/10 101
   A61P19/02
   A61P29/00 101
   A61P9/12
   A61P35/00
   C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】111
(21)【出願番号】特願2021-523134(P2021-523134)
(86)(22)【出願日】2019年7月4日
(85)【翻訳文提出日】2021年2月26日
(86)【国際出願番号】IL2019050745
(87)【国際公開番号】WO2020008466
(87)【国際公開日】20200109
(31)【優先権主張番号】260445
(32)【優先日】2018年7月5日
(33)【優先権主張国】IL
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】521006233
【氏名又は名称】レンポ セラピューティクス リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】507253749
【氏名又は名称】ラモット アット テル アビブ ユニバーシティ, リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】カハナ,アナット
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルクマン,ロテム
(72)【発明者】
【氏名】ガーティ,ベン ジオン
(72)【発明者】
【氏名】オフェン,ダニエル
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD02
4B050DD07
4B050DD11
4B050LL01
4B064AG01
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
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4B065AA94Y
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4C087ZB26
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4C087ZC20
4C087ZC41
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、対象の未分化骨髄(BM)細胞中のMPOレベルおよび/または活性をエクスビボおよび/またはインビボで調節することにより、哺乳動物対象におけるミエロペルオキシダーゼ(MPO)の発現および/または活性を調節する方法に関する。本発明は、MPO関連障害を治療するための治療方法および組成物をさらに提供する。
【選択図】図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物対象においてミエロペルオキシダーゼ(MPO)の発現および/または活性を調節する方法であって、
(a)前記対象の少なくとも1種の未分化骨髄(BM)細胞中のMPOの発現および/または活性を調節するように適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および
(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、
の少なくとも1種の有効量を前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記未分化BM細胞が、造血幹細胞(HSC)または前駆細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の遺伝子編集化合物が、少なくとも1種のプログラム可能遺伝子改変ヌクレアーゼ(PEN)、前記PENをコードする配列を含む任意の核酸分子、前記少なくとも1種のPENを含む、任意のキット、組成物またはビークル、または前記PENをコードする核酸分子の少なくとも1種を含む、請求項1および2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記PENが、少なくとも1種のクラスター化され規則的にに間隔を置かれる配短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR結合(cas)タンパク質システムを含み、かつ
(a)少なくとも1種のCRISPR/Casタンパク質、または前記Casタンパク質をコードする任意の核酸分子、および
(b)前記MPO遺伝子内のプロトスペーサーを標的とする少なくとも1種のガイドRNA(gRNA)を含む少なくとも1種の核酸配列、または前記gRNAをコードする任意の核酸配列、
または(a)および(b)の少なくとも1種を含む任意のキット、組成物またはビークル、
の少なくとも1種の有効量を前記対象に投与するステップを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記gRNAが、配列番号33、配列番号34、配列番号35配列番号42、配列番号47、配列番号50、配列番号55、配列番号60、配列番号63、配列番号66、配列番号71、配列番号74、配列番号77、配列番号80、配列番号85、配列番号88および配列番号91のいずれか1つにより表される核酸配列を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記未分化BM細胞集団が、前記細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入されたまたは遺伝子導入されたBM細胞集団である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記未分化BM細胞集団が、自己源由来または同種間源由来である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記未分化BM細胞集団が、MPOの抑制されたまたは除去された発現および/または活性を示す同種対象のBM細胞集団である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記MPOの発現および/または活性の調節が、前記対象におけるMPOの発現および/または活性を抑制することまたは除去することを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物対象においてMPO関連状態を治療する、防止する、回復させる、抑制するまたはその発症を遅らせるための方法であって、
(a)前記対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節するために適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および
(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、
の少なくとも1種の治療的有効量を前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項11】
前記未分化BM細胞集団が、前記細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入されたまたは遺伝子導入されたBM細胞集団である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記未分化BM細胞集団が、自己源由来または同種間源由来である、請求項10および11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記未分化BM細胞集団が、MPOの抑制されたまたは除去された発現および/または活性を示す同種対象のBM細胞集団である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記遺伝子編集化合物が、少なくとも1種のPEN、前記PENをコードする配列を含む任意の核酸分子、前記少なくとも1種のPENを含む任意のキット、組成物またはビークル、または前記PENをコードする任意の核酸配列の少なくとも1種を含む、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1種のPENが、少なくとも1種のCRISPR/Casシステムを含み、かつ
(a)少なくとも1種のCasタンパク質を含む少なくとも1種のポリペプチド、または前記Casタンパク質をコードする任意の核酸分子を含む少なくとも1種のポリペプチド、および
(b)前記MPO遺伝子内のプロトスペーサーを標的とする少なくとも1種のgRNA、または前記gRNAをコードする任意の核酸配列、
または(a)および(b)の少なくとも1種を含む任意のキット、組成物またはビークル、
の有効量を前記対象に投与するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記gRNAが、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号42、配列番号47、配列番号50、配列番号55、配列番号60、配列番号63、配列番号66、配列番号71、配列番号74、配列番号77、配列番号80、配列番号85、配列番号88および配列番号91のいずれか1つにより表される核酸配列を含む、請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記MPO関連状態が、神経変性疾患、免疫関連障害、呼吸障害、増殖性障害、血管障害またはこれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである、請求項10〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)のいずれか1つである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記免疫関連障害が、自己免疫疾患および炎症性疾患の少なくとも1つである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記自己免疫疾患が、多発性硬化症(MS)、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連障害、および全身性エリテマトーデス(SLE)のいずれか1つである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記炎症性疾患が、アテローム性動脈硬化症および関節リウマチ(RA)のいずれか1つである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記呼吸障害が、肺動脈高血圧症(PAH)である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記増殖性障害が、癌である、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
(a)それを必要としている対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節するように適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および
(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、
の少なくとも1種の治療有効量を含む医薬組成物であって、薬学的に許容可能な担体、希釈剤および/または賦形剤の少なくとも1種を任意選択でさらに含む、医薬組成物。
【請求項25】
前記遺伝子編集化合物が、少なくとも1種のCRISPR/Casシステムを含む少なくとも1種のPENであり、前記CRISPR/Casシステムが、
(a)少なくとも1種のCRISPR/Casタンパク質、または前記Casタンパク質をコードする任意の核酸分子、および
(b)前記MPO遺伝子内のプロトスペーサーを標的とする少なくとも1種のgRNAを含む少なくとも1種の核酸配列、または前記gRNAをコードする任意の核酸配列、
または(a)および(b)の少なくとも1種を含む任意のキット、組成物またはビークル、
の少なくとも1種を含む、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記gRNAが、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号42、配列番号47、配列番号50、配列番号55、配列番号60、配列番号63、配列番号66、配列番号71、配列番号74、配列番号77、配列番号80、配列番号85、配列番号88および配列番号91のいずれか1つにより表される核酸配列を含む、請求項24または25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記未分化BM細胞集団が、前記細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入されたまたは遺伝子導入されたBM細胞集団である、請求項24〜26のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記未分化BM細胞集団が、自己源由来または同種間源由来である、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記未分化BM細胞集団が、MPOの抑制されたまたは除去された発現および/または活性を示す同種対象のBM細胞集団である、請求項24〜28のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
哺乳動物対象においてMPO関連状態または疾患を治療する、防止する、回復させる、抑制するまたはその発症を遅延させるための方法での使用のための、請求項24〜29のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記MPO関連状態が、神経変性疾患、免疫関連障害、呼吸障害、増殖性障害、血管障害またはこれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである、請求項30に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記神経変性疾患が、ADおよびPDのいずれか1つである、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記免疫関連障害が、自己免疫疾患および炎症性疾患の少なくとも1つである、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記神自己免疫疾患が、MS、ANCA関連障害およびSLEのいずれか1つである、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記呼吸障害が、PAHである、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記増殖性障害が、癌である、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入されたまたは遺伝子導入された少なくとも1種の未分化BM細胞。
【請求項38】
前記細胞が、MPO関連状態を罹患している対象由来である、請求項37に記載の細胞。
【請求項39】
哺乳動物対象におけるMPOの発現および/または活性を調節するための方法での使用のための、請求項37または38に記載の細胞。
【請求項40】
哺乳動物対象におけるMPO関連状態または疾患を治療する、防止する、回復させる、抑制するまたはその発症を遅延させる方法での使用のための、請求項37〜39のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項41】
(a)前記対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節するように適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および
(b)哺乳動物対象におけるMPO関連状態を治療する、防止する、回復させる、抑制するまたはその発症を遅延させる方法での使用のための、MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、
の少なくとも1種の治療的有効量。
【請求項42】
請求項41に記載の使用のための、前記(a)の少なくとも1種の遺伝子編集化合物および前記(b)の未分化BM細胞集団の少なくとも1種の治療的有効量であって、前記未分化BM細胞集団が、前記細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入されたまたは遺伝子導入されたBM細胞集団である、治療的有効量。
【請求項43】
請求項41または42に記載の使用のための、前記(a)の少なくとも1種の遺伝子編集化合物および前記(b)の未分化BM細胞集団の少なくとも1種の治療的有効量であって、前記遺伝子編集化合物が、少なくとも1種のCRISPR/Casシステムを含む少なくとも1種のPENであり、前記CRISPR/Casシステムが、
(a)少なくとも1種のCRISPR/Casタンパク質、または前記Casタンパク質をコードする任意の核酸分子、および
(b)前記MPO遺伝子内のプロトスペーサーを標的とする少なくとも1種のgRNAを含む少なくとも1種の核酸配列、または前記gRNAをコードする任意の核酸配列、
または(a)および(b)の少なくとも1種を含む任意のキット、組成物またはビークル、
の少なくとも1種を含む、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項44】
哺乳動物対象においてネトーシスおよび関連状態を抑制する方法であって、
(a)前記対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節するように適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および
(b)調節されたMPOの発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、
の少なくとも1種の治療的有効量を前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項45】
前記遺伝子編集化合物が、少なくとも1種のCRISPR/Casシステムを含む少なくとも1種のPENであり、前記CRISPR/Casシステムが、
(a)少なくとも1種のCRISPR/Casタンパク質、または前記Casタンパク質をコードする任意の核酸分子、および
(b)前記MPO遺伝子内のプロトスペーサーを標的とする少なくとも1種のgRNAを含む少なくとも1種の核酸配列、または前記gRNAをコードする任意の核酸配列、または(a)および(b)の少なくとも1種を含む任意のキット、組成物またはビークル、
の少なくとも1種を含む、請求項44に記載の医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)発現を調節するための方法および組成物、ならびにMPO関連状態の治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術文献
背景技術として本明細書で開示の主題に関連すると考えられる文献を下記に挙げる:
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[20]国際公開第2015148716号。
[21]Van Der Veen BS,Myeloperoxidase:molecular mechanisms of action and their relevance to human health and disease.Antioxidants & redox signaling,2009,11.11:2899−2937.
[22]YU,Guoliang;SHIKAN ZHENG,Hao Zhang.Inhibition of myeloperoxidase by N−acetyl lysyltyrosylcysteine amide reduces experimental autoimmune encephalomyelitis−induced injury and promotes oligodendrocyte regeneration and neurogenesis in a murine model of progressive multiple sclerosis.Neuroreport,2018,29.3:208.
本明細書における上記文献の承認により、これらが本明細書で開示の主題の特許性に多少なりとも関連することを意味するものと推測されるべきではない。
【0003】
発明の背景
好中球は、血流全体に広がる食作用顆粒含有細胞であり、自然免疫応答の中心的メディエーターとして知られている。細菌感染症または組織損傷から生じる早期の炎症開始シグナルにより、好中球は、血流から、内皮細胞バリアーを通って損傷部位に向けて移動し、早期炎症応答を媒介する。この応答は主に、細菌細胞または外来性物質の食作用、ならびにタンパク分解性酵素および活性酸素種(ROS)を含むサイトカインおよび顆粒の放出に起因する[1]。最近になって確証された好中球の特徴は、好中球細胞外トラップ(NET)を形成するそれらの能力である。NETの産生(ネトーシスとして知られる)は、厳密に制御された機序であり、それにより、クロマチン脱凝縮後に、DNAが複数の殺菌性タンパク質と一緒に細胞から放出されて網状トラップを形成する[2]。
【0004】
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は、いくつかの骨髄性細胞により発現されるヘム含有ペルオキシダーゼであり、好中球により発現される最も一般的なタンパク質である(好中球の純量の5%を構成する)。MPOは、毒性物質次亜塩素酸(HClO)ならびに他の酸化性物質の形成を触媒する[3]。近年、マウス好中球のMPOタイトレーションは、クロマチン脱凝縮およびNET形成を促進することが示された。またさらに、MPO欠損のヒトドナー由来の好中球はNETを産生できないことが明らかになり、MPOがNET形成に不可欠であることが示された。
【0005】
MPOは、心臓血管疾患、炎症性疾患、神経変性疾患、腎疾患および免疫介在疾患などの多くの状態の主要因であることが示された[5〜6]。Van Der Beenらは、いくつかの疾患、特に、急性または慢性炎症を特徴とする疾患におけるMPOの密接な関わりについて報告している[21]。
【0006】
さらに具体的には、アルツハイマー病(AD)および認知症は、記憶、見当識、判断、および論理的思考を含む全般的認知機能の低下を特徴とする進行性神経変性疾患であり、高齢者における認知症の最も一般的な形態である。免疫細胞は、AD病因に関与することが以前から知られており、および反応性グリア細胞は、Alois Alzheimerにより以前に記述された。星状膠細胞およびミクログリア細胞は、ADとの関連で広く研究され、アミロイドβプラークの周りでクラスター形成することが知られている。これらの細胞が活性化されると、それらは、種々の炎症性メディエーターを分泌し、神経および周辺血管組織に対する酸化的損傷を生じる可能性があり、慢性炎症を促進する。以前は、脳生理機能および病態には関連が少ないと見なされたが、ADにおける周辺免疫細胞の役割は、近年ますます研究されている。この役割は、骨髄性細胞により発現された免疫関連遺伝子内の複数の座位をAD感受性座位として特定する、昨年実施されたゲノムワイド関連解析により強力に裏付けられた。近年、Zenaroと共同研究者は、脳侵入好中球は、炎症促進性サイトカインIL−17を放出することにより、およびNETを産生することにより、2つのマウスモデルでAD様病態を促進することを報告した。好中球枯渇またはCNS中への好中球遊走の抑制は、認知および記憶の改善ならびに神経炎症およびAβ量の減少を生じた。最後には、彼らはまた、NET形成好中球は、健常者とは対照的に、AD患者の脳内で上昇することを報告した[7]。さらに、好中球からのNET放出はまた、アミロイドフィブリルにより誘発されることが示され、神経変性脳中でのNETの形成[8]を裏付け、さらに、MPO免疫反応性細胞は、ADおよびPD患者の脳中の、特定の神経変性領域中で報告された[9]。さらに、脳侵入好中球は、炎症促進性サイトカインIL−17の放出に付随して、およびNETを産生することにより、2つのADマウスモデルでAD様病態を促進することが示された。他方では、抗LY6Gを用いた好中球枯渇またはCNS中への好中球遊走の抑制は、認知および記憶の改善ならびに神経炎症およびアミロイドβレベルの減少を生じた。つい最近には、ADモデルマウスの脳中で、脳血流を低下させる、皮質毛細血管中の好中球接着の増大が報告された。
【0007】
またさらに、若年成人の最もよく認められる神経変性疾患である多発性硬化症(MS)は、脳血液関門(BBB)を通したT細胞浸潤により主に媒介される脳および脊髄中のミエリン鞘の免疫攻撃を特徴とする、慢性自己免疫疾患である。MSの病因論は、非自己免疫性神経変性疾患とは異なり、自然および後天性免疫細胞を含むが、いくつかの証拠は、好中球媒介組織損傷の関与を示している。MS由来の好中球は、増大した脱顆粒およびNET形成および高められた酸化バーストに加えて、プライミングされた表現型を示す[10]。複数の証拠はまた、MSの実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスモデルにおける好中球の関与を示す[11]。EAEの間、好中球は、脳脈管構造に動員され[12]、CNSに浸潤し[13]、脱髄および軸索損傷領域内に蓄積する[14]。さらに、好中球は、BBBおよび脳脊髄関門(BSCB)の破壊に結び付けられ、抗好中球抗体の投与は、EAE発生を妨害することが示された[15]。
【0008】
好中球による内皮バリアー破壊は、白血球のCNSへの侵入を可能にし、EAE/MS病変を促進し得る。好中球は、臨床症状の発症の少し前にCNS中に蓄積し、病変局在化と相関することが示された[13]。好中球による内皮バリアー破壊は、活性酸素種(ROS)の放出により起こることが示唆された[16]。従って、EAEの間のMPOの抑制は、BBBの完全性を回復し、疾患重症度を改善することが示された[17]。しかし、前臨床単一用量抗体媒介による好中球枯渇は、実験的自己免疫性脳脊髄炎の発症を遅らせ、連続的な枯渇は、その発生を弱めるが、ミエリン特異的T細胞応答の生成は、影響を受けないままであった。この研究では、ミエロペルオキシダーゼおよび好中球エラスターゼなどの好中球関連酵素は、それぞれのノックアウトマウスおよび阻害剤を用いた分析によると、CNS炎症の発生に寄与しないことがさらに明らかになった[18〜19]。
【0009】
活性MPOを阻害するために、以前にいくつかの方策が用いられた。例えば、アジド、ヒドラジドおよびヒドロキサム酸を用いて、ヘム部位を修飾することによりMPOを阻害した[7]。またさらに、Yuらは、EAEマウスモードを用いる、多発性硬化症の治療のためのMPOの特異的阻害剤、N−アセチル リシルチロシルシステインアミド(KYC)について記載している[22]。国際公開第2015148716号は、小分子薬物およびサイトカイン/成長因子の組み合わせを用いる、造血細胞のエクスビボ増殖のための方法および組成物を開示している。複数の遺伝子、特にMPOが影響を受けた[20]。
【0010】
MPOのヘム活性部位の修飾を目的にする場合、先行技術の阻害剤は、MPOの他のドメインにより媒介される望ましくない作用に対処できない。さらに、このような阻害剤の使用は、ADなどの病態での血管炎に繋がり得る抗MPO抗体の形成を防止できない。従って、MPO関連状態を罹患している対象においてMPO、およびその種々の活性を特異的におよび効率的に標的にするための、安全で、効率的でかつ特異的な方法および組成物を提供する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0011】
第1の態様では、本開示は、哺乳動物対象中のミエロペルオキシダーゼ(MPO)の発現および/または活性を調節する方法を提供する。より具体的には、本発明の方法は、(a)対象の少なくとも1種の未分化骨髄(BM)細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できるまたはその調節に適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、の少なくとも1種の有効量を対象に投与するステップを含み得る。代わりにまたは追加して、方法は、対象に(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団を投与し得る。(a)および(b)または(a)および(b)の少なくとも1種を含む任意の組成物またはキットの投与も本発明の方法に包含されることに留意されたい。
【0012】
さらなる態様では、本開示は、哺乳動物対象におけるMPO関連状態を治療、防止、回復、抑制またはその発症を遅らせる方法を提供する。本発明の方法は、(a)対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種の治療有効量を対象に投与するステップを含み得る。(a)および(b)または(a)および(b)の少なくとも1種を含む任意の組成物またはキットの投与も本発明の方法に包含される。
【0013】
そのいくつかのさらなる態様では、本発明は、(a)対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる、またはその調節に適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種を含むキットを提供する。
【0014】
そのいくつかのさらなる態様では、本開示は、(a)対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる、またはその調節に適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種の治療有効量を含む医薬組成物を提供する。組成物は任意選択で、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、および/または賦形剤の少なくとも1種をさらに含み得る。
【0015】
本発明のまたさらなる態様は、未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入または遺伝子導入された少なくとも1種の上記細胞に関する。
【0016】
本発明の他の態様は、MPOの発現および/または活性を調節するための方法での使用のための本発明の組成物、キットおよび細胞の少なくとも1種に関する。本発明のまたさらなる態様は、哺乳動物対象のMPO関連状態を治療、防止、回復、抑制するまたはその発症を遅延させるための治療方法での使用のための本発明の組成物、キットおよび細胞の少なくとも1種を提供する。
【0017】
またいくつかのさらなる態様では、本発明は、哺乳動物対象のMPO関連状態を治療、防止、回復、抑制するまたはその発症を遅延させるための方法で使用するための、(a)前記対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性の調節に適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種の治療有効量を提供する。本発明は、ネトーシスおよび関連状態を抑制するための方法をさらに提供する。これらのおよび他の本発明の態様は、以下の説明により明らかになるであろう。
本明細書で開示される主題をよりよく理解するために、また、本発明をどのようにして実施し得るかを例示するために、以降で単なる非限定的例として添付の図面を参照しながら実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】C57BL/6マウスでの実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルの樹立。示したミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質35−55(MOG35−55)および百日咳毒素(PT)濃度でEAE疾患に誘導したC57BL/6雌マウスの臨床スコア。群当たり4匹以上のマウス。
図2】骨髄(BM)移植は照射C57BL/6マウスの致死を救済する。致死放射線量(9Gy)に晒した後、WTマウス由来のBM細胞、Lin濃縮BM細胞、または生理食塩水を移植した2月齢の雄C57/BL6マウスの体重追跡調査。
図3A-3F】5xFADマウスへのMPOTm1/Lus由来のBMの移植。 図3Aは、照射およびWTマウス由来のBMの移植を受けた2月齢非遺伝子導入同腹仔の体重追跡調査を示すグラフである。 図3Bは、照射およびMpoTm1/Lusマウス由来のBMの移植を受けた2月齢非遺伝子導入同腹仔の体重追跡調査を示すグラフである。 図3Cは、照射およびWTマウス由来のBMの移植を受けた2月齢5xFAD遺伝子導入マウスの体重追跡調査を示すグラフである。 図3Dは、照射およびMpoTm1/Lusマウス由来のBMの移植を受けた2月齢5xFAD遺伝子導入マウスの体重追跡調査を示すグラフである。 図3Eは、WT−BM移植マウスの血液のペルオキシダーゼ活性アッセイである。 図3Fは、MpoTm1/Lus−BM移植マウスの血液のペルオキシダーゼ活性アッセイである。
図4A-4C】MPO欠損骨髄を有する5XFADマウスの生成。図4Aは、次記マウス群の処理の模式図である。8週齢5XFADマウスおよびそれらの非遺伝子導入同腹仔に致死量照射し、WT C57BL/6またはMPOTm1/Lusマウス由来骨髄を移植した。各群のマウスの数を、括弧で示す。 図4Bは、10月齢マウス由来の骨髄細胞のMPO mRNA発現分析である。データは、平均±SEMである。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。両側t検定。 図4Cは、実験計画のスケジュール概略図である。
図5A-5E】MPOの欠損は5XFADマウスでの不安関連行動の増大を抑制する。 図5Aは、オープンフィールド迷路試験に供した7月齢マウスのコーナーでの滞在時間を示すグラフである。 図5Bは、オープンフィールド迷路試験に供した7月齢マウスの中央での滞在時間を示すグラフである。 図5Cは、マウスが移動した総距離を示すグラフである。 図5Dは、高架式十字迷路試験に供したマウスのオープンアームでの滞在時間を示すグラフである。 図5Eは、高架式十字迷路試験に供したマウスのクローズドアームでの滞在時間を示すグラフである。 データは、平均±SEMである。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。両側t検定。
図6A-6E】MPO欠損は5XFADマウスにおいて学習および記憶低下を保護することを示す。 図6Aは、2種のY迷路試行を用いる7月齢マウスの新規アーム探索相対回数を示すグラフである(短期空間記憶を示す)。 図6Bは、2種のY迷路試行を用いる7月齢マウスの新規アーム探索時間を示すグラフである(短期空間記憶を示す)。 図6Cは、モリス水迷路試験における8月齢マウスの逃避潜時を示すグラフである(空間学習を示す)。 図6Dは、モリス水迷路試験における8月齢マウスの総移動距離を示すグラフである(空間学習を示す)。 図6Eは、9月齢マウスの恐怖条件づけテストにおけるフリージング行動を示すグラフである。 データは、平均±SEMである。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。両側t検定。
図7A-7E】MPO欠損は5XFADマウス中のアミロイドβプラーク量に影響を与えない。 図7Aは、WT骨髄細胞を移植したWTマウスのDAPI/ThioSで染色した海馬切片の代表的画像である。スケールバー=200μm。 図7Bは、WT骨髄細胞を移植した5XFADマウスのDAPI/ThioSで染色した海馬切片の代表的画像である。スケールバー=200μm。 図7Cは、MPO−KO骨髄細胞を移植したWTマウスのDAPI/ThioSで染色した海馬切片の代表的画像である。スケールバー=200μm。 図7Dは、MPO−KO骨髄細胞を移植した5XFADマウスのDAPI/ThioSで染色した海馬切片の代表的画像である。スケールバー=200μm。 図7Eは、ThioSプラーク密度の定量化を示すグラフである。データは、平均±SEMである。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。両側マン・ホイットニー検定。
図8A-8N】5XFAD MPO KOマウスにおける低S100β発現。 図8Aは、WT骨髄細胞を移植したWTマウスのDAPIで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Bは、WT骨髄細胞を移植した5XFADマウスのDAPIで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Cは、MPO−KO骨髄細胞を移植したWTマウスのDAPIで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Dは、MPO−KO骨髄細胞を移植した5XFADマウスのDAPIで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Eは、WT骨髄細胞を移植したWTマウスのS100βで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Fは、WT骨髄細胞を移植した5XFADマウスのS100βで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Gは、MPO−KO骨髄細胞を移植したWTマウスのS100βで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Hは、MPO−KO骨髄細胞を移植した5XFADマウスのS100βで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Iは、WT骨髄細胞を移植したWTマウスのDAPI/S100βで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Jは、WT骨髄細胞を移植した5XFADマウスのDAPI/S100βで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Kは、MPO−KO骨髄細胞を移植したWTマウスのDAPI/S100βで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Lは、MPO−KO骨髄細胞を移植した5XFADマウスのDAPI/S100βで染色した海馬切片の代表的画像である。 図8Mは、S100β平均強度の定量化を示すグラフである。 図8Nは、海馬試料のS100β mRNA発現分析を示すグラフである。データは、平均±SEMである。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。両側マン・ホイットニー検定。
図9A-9E】5XFAD MPO KOマウスにおける低レベルの炎症性マーカー。 図9Aは、海馬試料でのIL−1βのmRNA発現分析を示すグラフである。 図9Bは、海馬試料でのCXCL10のmRNA発現分析を示すグラフである。 図9Cは、海馬試料でのCCL2のmRNA発現分析を示すグラフである。 図9Dは、海馬試料でのTNFαのmRNA発現分析を示すグラフである。 図9Eは、海馬試料でのVCAM1のmRNA発現分析を示すグラフである。 データは、平均±SEMである。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。両側マン・ホイットニー検定。
図10A-10C】5XFAD MPO KOマウスにおける低APOEレベル。 図10Aは、抗APOE抗体を用いて検出した海馬細胞ライセートのウェスタンブロット分析の写真である。 図10Bは、WT−WT群平均に対する各試料の%として表したウェスタンブロット分析データを示すグラフである。 図10Cは、海馬試料でのAPOEのmRNA発現分析を示すグラフである。 データは、平均±SEMである。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。両側マン・ホイットニー検定。
図11A-11N】プラスミドクローニングおよびレンチウィルス作製。 図11Aは、24時間後の単離非形質導入Lin細胞のFACS分析である。 図11Bは、24時間後のGFPコード粒子で形質導入した10μLの単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Cは、24時間後のMPO遺伝子中のgRNA2(配列番号5)を標的とする10μLのCRISPR/Ca9コードレンチウィルス粒子で形質導入した単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Dは、24時間後のMPO遺伝子中のgRNA6(配列番号6)を標的とする10μLのCRISPR/Ca9コードレンチウィルス粒子で形質導入した単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Eは、48時間後の単離非形質導入Lin細胞のFACS分析である。 図11Fは、48時間後のGFPコード粒子で形質導入した2μlの単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Gは、48時間後のMPO遺伝子中のgRNA2(配列番号5)を標的とする2μlのCRISPR/Ca9コードレンチウィルス粒子で形質導入した単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Hは、48時間後のMPO遺伝子中のgRNA6(配列番号6)を標的とする2μlのCRISPR/Ca9コードレンチウィルス粒子で形質導入した単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Iは、48時間後のGFPコード粒子で形質導入した5μlの単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Jは、48時間後のMPO遺伝子中のgRNA2(配列番号5)を標的とする5μlのCRISPR/Ca9コードレンチウィルス粒子で形質導入した単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Kは、48時間後のMPO遺伝子中のgRNA6(配列番号6)を標的とする5μlのCRISPR/Ca9コードレンチウィルス粒子で形質導入した単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Lは、48時間後のGFPコード粒子で形質導入した10μlの単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Mは、48時間後のMPO遺伝子中のgRNA2(配列番号5)を標的とする10μlのCRISPR/Ca9コードレンチウィルス粒子で形質導入した単離Lin細胞のFACS分析である。 図11Nは、48時間後のMPO遺伝子中のgRNA6(配列番号6)を標的とする10μlのCRISPR/Ca9コードレンチウィルス粒子で形質導入した単離Lin細胞のFACS分析である。
図12】MPO切断のT7分析。 完全長DNAおよび切断産物のT7分析の生成物を示すアガロースゲルの写真である。ゲルは、使用したそれぞれのcrRNAに対し、Cas9およびcrRNA:tracrRNAで編集した未処理細胞および選別細胞または非選別細胞を示す。 レーンA:未処理293細胞、H502座位周辺のプライマーで増幅。 レーンB:RNP抗T173で処理した293細胞。 レーンC:RNP抗D260で処理した293細胞。 レーンD:RNP抗H502で処理した293細胞。 レーンE:RNP抗T173で処理した293細胞、蛍光標識tracrRNAを濃縮。 レーンF:RNP抗D260で処理した293細胞、蛍光標識tracrRNAを濃縮。 レーンG:RNP抗H502で処理した293細胞、蛍光標識tracrRNAを濃縮。 レーンH:T7陰性対照。 レーンI:T7陽性対照。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は、感染症に対する生体防御機序に関与するヘム含有タンパク質であり、主に好中球の顆粒中に位置している。MPOは、種々の免疫介在疾患、神経変性疾患および炎症性疾患に関与している。
【0020】
MPO RNAは、骨髄でのみ検出され、これは、身体中の種々の標的組織に到達する唯一のMPOタンパク質である。骨髄中で起こるMPO遺伝子のこの転写は、骨髄細胞分化の筋芽細胞段階中の早期に開始され、骨髄前駆物質が分化誘導される時点で停止される。
【0021】
本発明者らにより、骨髄の原始未成熟細胞中のMPOの遺伝子発現に特異的影響を与えることにより、MPO発現およびその後のMPO活性を調節し、調節されたMPOを有する好中球(MPO発現および/または活性を除去する/抑制する、あるいは確立する/増大させる)を最終的にもたらすことが可能であることが示唆された。未成熟細胞中のMPOの特異的骨髄遺伝子のその場での調節は従って、好中球および/またはマクロファージまたは任意の他の免疫系またはその成分に関連する細胞中で、効果的で、選択的で正確な、MPO発現およびその後の活性に影響を与える方法として、本発明者らにより提案される。興味深いことに、いくつかの病態は、身体中の脳などの種々の臓器中のMPOの蓄積に関連するが、本明細書に記載のMPOの調節は、未分化BM、細胞中のMPOコード遺伝子または転写物の遺伝子編集により実施され、標的臓器(例えば、脳または任意のその成分)中では実施されない。従って、インビボまたはエクスビボでの遺伝子編集経由の、BM細胞の好中球および/またはマクロファージ中のMPOタンパク質調節の本明細書で記載の方法は、特定の標的組織に限定されない広範な調節方法を提供する。換言すれば、BM細胞中のMPOを特異的に調節する(例えば、枯渇させる)こと、したがって対象の免疫系を調節することにより、本発明は、免疫系に直接的に関連するとは限らない他の臓器または組織に影響を与える障害を治療する強力な方法を提供する。
【0022】
このような本明細書で記載の方法は、例えば、アジド、ヒドラジドおよびヒドロキサム酸などのMPOタンパク質阻害剤を用いる他の方法より、種々の理由で有利であることがさらに示唆される。第1に、既知のMPOタンパク質阻害剤を用いるMPO活性の実質的調節は、MPOを発現する好中球および/またはマクロファージの持続的な形成に対処するために持続的投与が必要である。第2に、既知のMPOタンパク質阻害剤は通常、MPO活性部位(例えば、ヘモグロビン結合部位)に結合し、それにより、タンパク質活性、特にペルオキシダーゼ活性に影響を与えるように設計されている。従って、この手法は、その活性部位により媒介されるMPO機能に限定される。この方法では、他のMPO活性の調節、例えば、以降でさらに詳述するネトーシスの抑制、または本発明で開示のMPOの他の活性、特に、MPO活性部位により媒介されない活性は対処されない。換言すれば、結合部位以外の、他のMPO部位により媒介されるMPO活性は、既知のMPO阻害剤を用いて調節できない。さらに、このような阻害剤の使用は、ADなどの病態での血管炎に繋がり得る抗MPO抗体の形成を防止できない。
【0023】
従って、本開示は、必要としている対象においてMPOを調節するために、およびさらに、転写部位で、すなわち、骨髄および特に、原始、未成熟未分化骨髄細胞中のMPO遺伝子発現を調節する化合物の開発のために、未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節する新規概念に基づく。従って、MPOのレベル、活性または発現を特異的に調節する(例えば、除去)ことによる対象の免疫系の標的化調節により、本発明は、他の臓器または組織(例えば、脳)中のMPOレベルおよび/または活性に影響を与える方法、およびMPO発現および/または活性(強化された、低減されたあるいは正常レベルの)に直接的にまたは間接的に関連する障害の効果的治療のためのその使用を提供する。より具体的には、治療される対象の免疫系をインビボで操作することにより、または上記免疫系を、調節されたMPO発現を示す細胞(例えば、分化して好中球および/またはマクロファージを形成するBM細胞)で置換することにより、本発明は、治療された対象の他の臓器および組織中のMPO発現および/または活性に影響を与え、それにより異なる臓器または組織中のMPO発現および/または活性に関連し得るまたはそれにより影響を受け得る障害または状態を治療するためのツールを提供する。
【0024】
本発明により示されるように、調節されたMPO発現を有する骨髄細胞は、同種間または自己骨髄移植の効率的プラットフォームとしての機能を果たすことができる。
【0025】
加えて、本明細書で開発された化合物ならびに調節された骨髄細胞集団は、MPO発現および/または活性と直接的にまたは間接的に関連する種々の状態の治療に使用できる。例えば、低MPO発現および/または活性に関連する障害または状態、高MPO発現および/または活性に関連する状態、あるいは、正常レベルのMPO発現および/または活性を示すが、MPOレベル、発現または活性を高めるまたは低下させることにより影響を受ける可能性がある状態。
【0026】
従って、第1の態様では、本開示は、哺乳動物対象におけるミエロペルオキシダーゼ(MPO)の発現および/または活性を調節する方法を提供する。より具体的には、本発明の方法は、(a)対象の少なくとも1種の未分化骨髄(BM)細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できるおよび/またはその調節に適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種の有効量を対象に投与するステップを含み得る。本発明の方法は、哺乳動物対象中のミエロペルオキシダーゼ(MPO)の発現および/または活性を調節する方法の使用のために、(a)対象の少なくとも1種の未分化骨髄(BM)細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できるおよび/またはその調節に適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種の有効量をさらに提供することをさらに理解されたい。
【0027】
本発明は、MP1の発現および/または活性を調節するための、方法、組成物、細胞、キットおよびシステムを提供する。本明細書で使用される場合、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は、好中球のアズール親和性顆粒中で見出される最も毒性の高い酵素である。MPOは、H2O2を利用して次亜塩素酸(HClO)および他の反応性部分を生成し、これは、感染中に病原体を死滅させる。
【0028】
MPO遺伝子は、染色体17の長腕部分q12〜24上に位置し、この遺伝子の一次転写産物は、11イントロンおよび12エクソンからなる。MPO mRNAの選択的スプライシングは、3.6および2.9kBの2つの転写物を生ずる。一次転写産物は、80kDaの前駆体タンパク質であり、シグナルペプチドの切断、N結合型グリコシル化、および限定的な脱グリコシル化を含む一連の修飾を受けて触媒的に不活性なMPO前駆物質(apoproMPO)を形成する。次のステップでは、MPOは、鉄−ヘム分子の触媒中心への組み込みにより触媒活性を獲得する。ヘムは、2つのエステル結合および、ヘム含有酵素としてはユニークな、1つのヘム分子を酵素ポケットに特異的に配向させる第3のスルホニウム結合により共有結合される。ヘム部分のユニークな配置は、MPOに極めて高い酸化潜在能力を付与し、生理学的pHでの塩素化を可能にする。proMPOの切断は、59kDaのα−サブユニットおよび13.5kDaのβ−サブユニットを生じ、これらは、ヘム部分を介して共有結合される。ジスルフィド架橋は、成熟150kDのMPO中で2つの重−軽プロトマーを連結する。MPO発現レベルは、プロモーター領域中のアレル多型に依存する。位置−463(G−463A)でのGからAへの置換は、MPO転写の25倍の減少をもたらす。この置換は、Alu受容体応答エレメント(AluRRE)内で起こり、これは、核受容体結合部位のクラスターである。この置換は、Sp1転写因子のコンセンサス配列を変化させ、これは高められたMPO転写にとって不可欠である。MPO転写の低減をもたらすGからAへの置換は、位置−129(G−129A)でも認められる。好中球は、MPOの主供給源であり、MPOはこの細胞の乾燥重量の5%を占め、MPOを好中球中で最も豊富なタンパク質にしている。MPOは、骨髄での好中球分化中に前骨髄球中でのみ転写される。MPO発現は、G−CSFにより誘導され、G−CSFは、転写因子C−EBPおよびPU.1を調節することにより多能性前駆細胞の顆粒球への分化を促進する。C−EBPおよびPU.1は、顆粒球−マクロファージ前駆細胞の好中球およびマクロファージへの拘束を亢進する。好中球分化は、低減したMPO転写をもたらし、これは、成熟細胞では検出できない。
【0029】
前骨髄球中で、MPOは、いくつかの他の抗菌性タンパク質、セリンプロテアーゼおよびリソソーム加水分解酵素と一緒にアズール親和性顆粒中に詰め込まれる。アズール親和性顆粒中のタンパク質の詰め込みは、アズール親和性顆粒の異種集団の非同期的な形成である。前骨髄球では、アズール親和性顆粒の少なくとも3つの分類が存在する。低電子密度の有核アズール親和性顆粒は、均一なMPO分布を有し、一方、大きな球状顆粒のMPOは、顆粒外周部で検出される。
【0030】
加えて、MPOは、前骨髄単球により合成され、この場合、これは、総細胞タンパク質の1%を占める。循環中に放出される単球は、MPO合成を停止させ、これは、それらのマクロファージへの分化中にさらに下方制御される。
【0031】
本開示に関連して、特に指示がない限り、「MPO」は、MPO遺伝子およびMPOタンパク質の両方を包含することをさらに理解されたい。ヒトMPO遺伝子は、受入番号:NC_000017.11により提供される配列を有する。またいくつかのさらなる特定の実施形態では、このような配列は、配列番号1により表される核酸配列を含み得る。またいくつかのさらなる実施形態では、ヒトMPOタンパク質は、受入番号:NP_000241により表される。またさらにいくつかの実施形態では、MPOタンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み得る。またさらにいくつかの他の特定の実施形態では、本発明は、受入番号NC_000077で表されるマウスMPOコード配列をさらに提供する。これは、いくつかの実施形態では、配列番号15で表される核酸配列を含み得る。またいくつかのさらなる実施形態では、マウスMPOタンパク質は、受入番号:NP_034954により表される。またさらにいくつかの実施形態では、マウスMPOタンパク質は、配列番号16で表されるアミノ酸配列を含み得る。
【0032】
本発明の方法は、対象の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節する(インビボまたはエクスビボで)遺伝子編集システムの提供による、必要とする対象におけるMPOレベルおよび/または活性の調節に基づく。あるいは、このような調節は、調節されたMPO発現および/または活性を有するBM細胞(特に、同種対象から取得された)を提供することにより実施され得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「未分化骨髄細胞または未成熟骨髄細胞」という用語は、特定の特性を有する分化した細胞型に変わる能力を有する骨髄中の細胞を指す。骨髄(BM)は、骨の内部の空洞中で認められる柔らかく、海綿状でゼラチン状の組織であり、リンパ系、特に血液系の細胞の発生において、重要な役割を果たす。
【0034】
いくつかの実施形態では、未分化BM細胞は、造血幹細胞(HSC)であり得る。HSCは、BM中の原始未成熟未分化細胞であり、自己複製および分化することができる。HSCは、骨髄前駆細胞およびリンパ系前駆細胞を介して、それぞれ骨髄および血液細胞のリンパ系へと分裂し、循環中に認められる3種類の血液細胞:白血球(white blood cell)(白血球(leukocyte))、赤血球(red blood cell)(赤血球(erythrocyte))、および血小板(platelet)(血小板(thrombocyte))を含む全ての成熟血液細胞を産生する。いくつかの実施形態では、未分化BM細胞は前駆細胞である。前駆細胞は、骨髄の主要な機能性成分であり、血液に成熟する運命にある前駆細胞およびリンパ系細胞を含む。いくつかの実施形態では、未分化BM細胞は骨髄系共通前駆細胞(CMP)である。CMPはまた、骨髄幹細胞としても表記され、HSC後の細胞分化の最初の分岐である。骨髄およびリンパ系の両方は、樹状細胞形成に関与する。骨髄性細胞は、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、および巨核球から血小板までを含む。リンパ系細胞は、T細胞、B細胞、および(ナチュラルキラー細胞)を含む。
【0035】
HSCおよび前駆細胞は例えば、いくつかの異なる細胞表面マーカーの組み合わせを使うことにより、フローサイトメトリーの使用により特定または単離できる。例えば、HSCは、成熟血液細胞マーカーの発現を欠く。さらに、HSCおよび前駆細胞の両方は例えば、表面抗原分類(CD)として表される特異的分子により特定または単離できる。
【0036】
さらに具体的には、本明細書で使用される場合、表面抗原分類は、細胞の免疫表現型検査のための標的を提供する、表面分子の特定および検査に使用される命名法プロトコルを指す。CD分子は、細胞に重要な細胞受容体またはリガンドとして機能する。
【0037】
いくつかの実施形態では、未分化BM細胞は、CD34陽性細胞(CD34)であることを特徴とし得る。表面抗原分類34(CD34)は、細胞表面糖タンパク質として造血幹細胞上に存在する膜貫通リン糖タンパク質であり、骨髄移植のための造血幹細胞の選択と濃縮に関連する。加えて、CD34は、細胞−細胞接着因子として機能し、造血幹細胞の骨髄細胞外マトリックスへの結合または間質細胞への直接的結合の媒介もし得る。またいくつかの実施形態では、未分化BM細胞は、CD38陽性細胞(CD38)であることを特徴とし得る。表面抗原分類38(CD38)は、環状ADPリボース加水分解酵素としても知られ、多くの免疫細胞の表面上で見つかる糖タンパク質であり、白血病の予後マーカーとして使用されてきた。
【0038】
いくつかの実施形態では、未分化BM細胞は、HSCまたは前駆細胞であり得る。いくつかの実施形態では、未分化BM細胞は、HSCと前駆細胞の任意の組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、未分化BM細胞は、HSCとCMPの任意の組み合わせを含み得る。またさらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物は、好中球へと成熟し得るCD34中のMPO発現、レベルおよび/または活性を調節し得る。またいくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物は、マクロファージへと成熟し得るCD34中のMPO発現、レベルおよび/または活性を調節し得る。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物は、マクロファージおよび/または好中球の活性および機能の調節を提供することを理解されたい。
【0039】
本開示では、哺乳動物対象は、BM細胞中のMPO発現および/または活性を調節し、それによりMPOのインビボ調節を提供できる遺伝子編集システム、または代わりに、もしくは追加して、改変されたMPOの発現または活性を示し、それによりエクスビボ調節を提供する細胞、を投与され得る。本発明は、インビボおよびエクスビボ手法およびいずれかのこれらの組み合わせを含む、対象におけるMPO調節をさらに包含することに留意されたい。このような投与は、対象中のMPOの発現および/または活性の調節をもたらす。本明細書で使用される場合、遺伝子編集化合物は、体内で少なくとも単一遺伝子を調節できる化合物を指す。用語の「調節」は、特定の状態下で決定される発現/活性の対照のまたは正常なまたはベースラインのレベルと比較して、発現および/または活性の増大または低減などの体内での少なくとも1種の遺伝子中の何らかの変化または改変を包含する。いくつかの実施形態では、対象に投与される遺伝子編集化合物またはシステム、あるいは未分化BM細胞集団は、対象中のMPOの発現および/または活性の抑制または除去をもたらし得る。
【0040】
いくつかの代替実施形態では、対象に投与される遺伝子編集化合物/システム、あるいは未分化BM細胞集団は、対象中のMPOの発現および/または活性の樹立、強化または増大をもたらし得ることに留意されたい。従って、対象の免疫系の標的化操作により、対象の種々の臓器および組織中のMPOの活性および/またはレベルおよび発現の全般的操作が達成される。さらに、対象の免疫系の特異的および標的化操作により、MPOに関連する障害が治療される。
【0041】
さらに特定の実施形態では、少なくとも1種の遺伝子編集化合物またはシステムが、対象中のMPOの活性および/または発現を調節するために投与され得る。遺伝子編集化合物は、種々の機序によりMPOの発現および/または活性を調節できる。例えば、遺伝子編集化合物は、ノックダウン細胞、生物などを生ずる染色体DNAの遺伝子改変によりMPO発現および/または活性を調節する。加えて、遺伝子編集化合物/システムは、一過的/一時的な改変(一過性ノックダウン)によりMPO発現および/または活性を調節する。
【0042】
本発明の方法(ならびに、以下に記載の組成物、細胞、キットおよび使用)により使用される遺伝子編集化合物またはシステムは、いくつかの実施形態では、天然化合物(酵素、短鎖DNAまたはRNAオリゴヌクレオチドなど)、合成化合物または化合物であり得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の遺伝子編集化合物は、オリゴヌクレオチドであり得る。このようなオリゴヌクレオチドは、活性遺伝子またはその任意の転写物に結合し、例えば、転写の阻止(アンチセンスオリゴヌクレオチドによる遺伝子結合の場合)、mRNA転写物の分解(例えば、低分子干渉RNA(siRNA)、またはRNアーゼ−H依存性アンチセンスによる)、またはmiRNAを含むmRNA翻訳、プレmRNAスプライシング部位、または他の機能性RNAの成熟のために使用されるヌクレアーゼ切断部位の遮断により(例えば、モルホリノオリゴまたは他のRNアーゼ−H独立アンチセンスにより)、低減された発現を生じさせ得る。
【0043】
いくつかのさらなる実施形態では、本発明の遺伝子編集化合物は、任意の核酸モディファイヤータンパク質および少なくとも1種の標的認識配列を含み得る。より具体的には、またいくつかのさらなる実施形態では、本発明で適用可能な遺伝子編集システムは、少なくとも1種の核酸モディファイヤータンパク質および少なくとも1種の標的認識配列を含み得る。このような認識配列は、いくつかの実施形態では、モディファイヤータンパク質を標的遺伝子、特に、MPOコード遺伝子に特異的に向ける核酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、核酸モディファイヤータンパク質は、コードまたは非コード核酸配列を改変する任意のタンパク質またはタンパク質複合体を含み得る。いくつかのまたさらなる実施形態では、上記モディファイヤータンパク質により引き起こされる改変は、このようなモディファイヤーの標的核酸配列によりコードされる、あるいは制御されるMPOタンパク質産物の発現を調節し得る。あるいは、本発明で適用可能なモディファイヤーは、このようなMPOの安定性または活性を調節し得る。このような改変は、核酸分解切断(例えば、ヌクレアーゼによる)、メチル化、脱メチル化、(制御配列などのコードまたは非コード配列の)タンパク質発現の活性化または抑制などを含む。従って、いくつかの実施形態では、核酸モディファイヤーは、ヌクレアーゼ、メチルトランスフェラーゼ、脱メチル化酵素、転写因子、転写リプレッサー、それらの任意の融合タンパク質、および前記モディファイヤーの少なくとも1種を含む任意の複合体およびそれらの任意の組み合わせの少なくとも1種であり得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、本発明のモディファイヤータンパク質は、少なくとも1種のヌクレアーゼを含み得る。本明細書で使用される場合、用語の「ヌクレアーゼ」は、いくつかの実施形態では、核酸分解活性を有する活性ヌクレアーゼに関することを理解されたい。しかし、いくつかの実施形態では、本明細書で使用される場合、用語の「ヌクレアーゼ」は、ヌクレアーゼの構造的特徴を有するが、任意の核酸分子、特にDNAまたはRNAに対し、低減された、不完全な核酸分解活性を示すまたは核酸分解活性のない分子(本明細書においては、不活性ヌクレアーゼと称する)をさらに包含することを理解されたい。本明細書で使用される場合、不活性ヌクレアーゼは、不活性ヌクレアーゼの任意のフラグメント、変異体または融合タンパク質をさらに包含する。より具体的には、任意の他のタンパク質、例えば、本明細書の以後で詳述されるような、転写因子またはリプレッサー、メチルトランスフェラーゼ、脱メチル化酵素との不活性ヌクレアーゼの融合タンパク質である。
【0045】
より具体的には、本明細書で使用される場合、「ヌクレアーゼ」という用語は、いくつかの実施形態では、核酸分解活性を示す、特に、核酸(例えば、DNAおよび/またはRNA)モノマー間のリン酸ジエステル結合を切断できる酵素である。ヌクレアーゼは、それらの標的分子中で、一本鎖および二本鎖破壊を種々引き起こす。活性の座位を基準にして2つの第一次分類が存在する。エキソヌクレアーゼは、両端から核酸を消化する。エンドヌクレアーゼは、標的分子の中ほどの領域に作用する。それらは、デオキシリボヌクレアーゼおよびリボヌクレアーゼとして、さらに下位分類される。前者は、DNAに作用し、後者は、RNAに作用する。ヌクレアーゼは、分子を切断する前に核酸と結合する必要があり、ある程度の認識を与える。ヌクレアーゼは、ホスホジエステラーゼ、リパーゼおよびホスファターゼと同様に、加水分解酵素の亜群のエステラーゼに属する。このグループはエキソヌクレアーゼを含み、これは、ポリヌクレオチド鎖の末端(エキソ)から一つずつヌクレオチドを切断することにより機能する酵素である。リン酸ジエステル結合を切断する加水分解反応が3’または5’末端で起こる。真核生物および原核生物は、mRNAの通常の代謝回転に関与する3種のエキソヌクレアーゼ:5’→3’エキソヌクレアーゼ(Xrn1)、これは依存性脱キャップタンパク質である;3’→5’エキソヌクレアーゼ、独立したタンパク質;およびポリ(A)特異的3’→5’エキソヌクレアーゼ、を有する。このファミリーのメンバーは、5’−ホスホモノエステルを産生するエキソデオキシリボヌクレアーゼ、5’−ホスホモノエステルを産生するエキソリボヌクレアーゼ、3’−ホスホモノエステルを産生するエキソリボヌクレアーゼおよびリボ−またはデオキシ−の両方で活性なエキソヌクレアーゼを含む。このファミリーのメンバは、エキソヌクレアーゼ、II、III、IV、V、VI、VII、およびVIIIを含む。上述のように、エンドヌクレアーゼは、ポリヌクレオチド鎖内でリン酸ジエステル結合を切断する酵素である。デオキシリボヌクレアーゼIなどのいくつかのエンドヌクレアーゼは、比較的非特異的にDNAを切断し(配列と関係なく)、一方で制限エンドヌクレアーゼまたは制限酵素と呼ばれるものの多くは、極めて特異的なヌクレオチド配列のみで切断する。
【0046】
いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼは、上で明記したように、核酸分解活性を有する活性酵素であり得る。いくつかの代替実施形態では、ヌクレアーゼは、欠陥酵素であり得る。
【0047】
欠陥酵素(例えば、欠陥変異体、バリアントまたはフラグメント)は、活性ヌクレアーゼと比較して、約1%、2%、3%、4%、5%〜約100%、具体的には、約5%〜約10%、約10%〜約15%、約15%〜約20%、約20%〜約25%、約25%〜約30%、約35%〜約40%、約40%〜約45%、約45%〜約50%、約50%〜約55%、約55%〜約60%、約65%〜約70%、約75%〜約80%、約80%〜約85%、約85%〜約90%、約90%〜約95%、約95%〜約99.9%低下した活性、より具体的には、活性ヌクレアーゼと比較して、約98%〜約100%低下した活性を示す酵素に関連し得る。
【0048】
上に示したように、本発明の遺伝子編集システムは、少なくとも1種の標的認識配列をさらに含む。本明細書で使用される場合、「標的認識配列」は、核酸モディファイヤータンパク質、例えば、ヌクレアーゼを、核酸配列内の特異的標的位置に向ける核酸配列(RNAまたはDNA)である。標的認識配列による標的の認識は、いくつかの実施形態では、塩基対相互作用により促進される。これらの標的認識配列は、誘導型ヌクレアーゼの場合には特に重要である。いくつかの実施形態では、核酸分解活性を示すヌクレアーゼの場合、そのヌクレアーゼを特異的部位に向けることは、いくつかの実施形態では、その特異的破壊をもたらす核酸(例えば、DNAおよび/またはRNA)モノマー間のリン酸ジエステル結合の切断をもたらし得る。またいくつかの代替実施形態では、非活性ヌクレアーゼ、特にその融合タンパク質が使われる場合、認識配列によるこのような欠陥ヌクレアーゼの方向付けは、標的により標的化された標的核酸配列の標的化調節(例えば、活性化または抑制、メチル化または脱メチル化)をもたらし得る。標的認識配列は、約10ヌクレオチド〜70ヌクレオチド以上を含み得ることに留意されたい。またいくつかのさらなる実施形態では、標的認識配列は、以下のスペーサーとして指定されるような多数のヌクレオチドを含み得る。特定の実施形態では、本発明の方法により使用されるヌクレアーゼは、誘導型ヌクレアーゼであり得る。またいくつかの他の実施形態では、遺伝子編集化合物は、ポリペプチド、特に酵素を含み得る。いくつかの実施形態では、遺伝子編集化合物は、少なくとも1種のプログラマブル遺伝子改変ヌクレアーゼ(PEN)またはその任意のバリアントまたはタンパク質を含み得る。本明細書で使用される場合、用語の「プログラマブル遺伝子改変ヌクレアーゼ(PEN)」は、「分子DNAハサミ」としても知られ、高度標的化方式で、配列を置換、除去または改変するために使用される合成または天然酵素を指す。PENは、DNA配列などの特異的ゲノム配列(認識配列)を標的とし、切断する。少なくとも1種のPENは、天然のヌクレアーゼから誘導され、または人工酵素であり得、全て二本鎖DNA損傷のDNA修復に関与し、直接的ゲノム編集を可能にし得る。いくつかの代替または追加の実施形態では、本開示による遺伝子編集化合物はまた、少なくとも1種のPENをコードする核酸配列を含む任意の核酸分子、または少なくとも1種のPENまたはPENをコードする任意の核酸配列を含む任意のキット、組成物またはビークルを包含する。いくつかの実施形態では、少なくとも1種のPENは、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターベースヌクレアーゼ(TALEN)、Fok1ヌクレアーゼ、またはクラスター化され規則的に間隔を置かれる短い回文配列リピート(CRISPR/Cas)システム、またはこれらの任意の融合タンパク質またはキメラの少なくとも1種であり得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種のPENは、メガヌクレアーゼであり得る。メガヌクレアーゼは、大きな認識部位(12〜40塩基対の二本鎖DNA配列)を特徴とするエンドデオキシリボヌクレアーゼであり、そのため、この部位は通常、任意の所与のゲノム中で1回のみ発生する。メガヌクレアーゼは、特異的な天然の制限酵素であり、特に、真核生物の単細胞生物のミトコンドリアおよび葉緑体中で主に認められる、ホーミングエンドヌクレアーゼのLAGLIDADGファミリーを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1種のPENは、メガTALであり得る。メガTALは、LAGLIDADGファミリーなどのホーミングエンドヌクレアーゼをTALENのモジュールDNA結合ドメインと組み合わせた融合タンパク質である。
【0050】
特定の実施形態では、本発明の方法および組成物により使用されるヌクレアーゼは、誘導型ヌクレアーゼであり得る。またいくつかの特定の実施形態では、ヌクレアーゼは、少なくとも1種の転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)である。TALENは、DNAの特異的配列を切断するように遺伝子改変できる制限酵素である。それらは、TALエフェクターDNA結合ドメインをヌクレアーゼのDNA切断ドメインに融合することにより作製される。より具体的には、TALENは、TAL(転写活性化因子様)エフェクター(TALE)タンパク質から得られたDNA結合ドメイン(それぞれ約34個のアミノ酸からなる複数のほぼ同一の反復)をFokIエンドヌクレアーゼの切断ドメインに融合することにより設計された人工エンドヌクレアーゼである。各TALE反復は、反復が結合部位のヌクレオチド配列を直線的に表すように、2つの可変残基[反復可変ジ残基(RVD)と呼ばれる]を有するその対応するヌクレオチド(nt)塩基を独立に認識する。
【0051】
またいくつかのさらなる代替実施形態では、本発明の方法および組成物により使用される誘導型ヌクレアーゼは、少なくとも1種のジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)であり得る。ZFNは、ジンクフィンガーDNA結合ドメインをDNA切断ドメイン切断ドメインに融合することにより生成された人工制限酵素である。ジンクフィンガードメインは、特異的所望DNA配列を標的にするように遺伝子改変でき、これは、ジンクフィンガーヌクレアーゼが複合体ゲノム内のユニークな配列を標的にすることを可能にする。より具体的には、ZFNは、小さいジンクフィンガー(ZF;約30アミノ酸)DNA結合/認識ドメイン(CysHis)を、FokI制限酵素由来のIIS型非特異的DNA切断ドメインと組み合わせることにより生成された人工エンドヌクレアーゼである。しかし、FokIエンドヌクレアーゼの切断活性は、ダイマー化を必要とする。ZFモジュールは3bp配列を認識するので、各ZFNモノマー中の複数のフィンガーがより長いDNA標的配列を認識し、それに結合するための前提条件が存在する。
【0052】
またいくつかの他の実施形態では、本発明の方法および組成物により使用される誘導型ヌクレアーゼは、以下で考察されるように、Fok1ヌクレアーゼまたはその任意の融合タンパク質であり得る。酵素Fok1(Fok−1)は、天然では、フラボバクテリウム・オケアノコイテス中で見出され、N末端DNA結合ドメインおよびC末端の非特異的DNA切断ドメインからなる細菌性IIS型制限エンドヌクレアーゼである。本発明のいくつかの実施形態では、Fok1は、標的認識配列によりその標的(例えば、MPO遺伝子での)に向けられ得る。上で考察したこのような標的認識配列は、いくつかの実施形態では、Fok1を標的部位に特異的に向ける核酸配列であり得る。認識配列は、直接的にまたは間接的に(すなわち、リンカーを介して)Fok1に結合され得る。従って、タンパク質が標的認識配列を介して二本鎖DNAに結合されると、DNA切断ドメインは活性化され、標的部位の再近接ヌクレオチドの第1鎖の9ヌクレオチド下流、および第2鎖の13ヌクレオチド上流を切断する。より具体的には、Fok1が本発明の核酸モディファイヤータンパク質として使用される場合には、MPOコード配列に対する特異的標的化は、特異的に標的部位にハイブリダイズする少なくとも1種の核酸配列(例えば、RNAまたはDNA)であり得る、少なくとも1種の標的認識配列をFok1に直接的または間接的(例えば、リンカーを介して)に結合することにより実現し得る。またさらに、いくつかの実施形態では、少なくとも1種のPENは、クラスター化され規則的に間隔を置かれる短い回文配列リピート(CRISPR/Cas)システムであり得る。いくつかの実施形態では、本明細書記載の方法は、CRISPRシステムをMPO発現および/または活性を調節するためのPENとして使用する。クラスター化され規則的に間隔を置かれる短い回文配列リピート(CRISPR)システムは、ゲノムエンジニアリング用に改変された細菌性免疫系である。
【0053】
いくつかの特定の実施形態では、本明細書記載の方法は、少なくとも1種のクラスター化されて規則的に間隔を置かれる短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR結合(cas)タンパク質システムを含み得るPENを使用し得る。従って、さらに特定の実施形態では、本発明の方法は、(a)少なくとも1種のCRISPR/casタンパク質、または上記Casタンパク質をコードする任意の核酸分子、および(b)MPO遺伝子内のプロトスペーサーを標的とする少なくとも1種のガイドRNA(gRNA)を含む少なくとも1種の核酸配列、または前記gRNAをコードする任意の核酸配列、の少なくとも1種の有効量を上記対象に投与するステップを含み得る。本発明の方法は任意選択で、(a)および(b)の少なくとも1種を含む任意のキット、組成物またはビークルの使用を含み得る。
【0054】
本発明のCRISPR/Casシステムの両方の配列が核酸配列として提供される場合、それらは、2つ以上の核酸分子として別々に、あるいは両方の配列を含む単一の核酸分子、特に,(a)および(b)の両方を含む構築物、ベクターまたは任意のビークルとして一緒に提供され得ることに留意されたい。
【0055】
上で示したように、本発明は、そのいくつかの実施形態では、遺伝子編集システムの配列(例えば、gRNAおよび/またはCasタンパク質)、または少なくともその一部を核酸配列または分子として提供し得る。用語の「核酸」、「核酸配列」、または「ポリヌクレオチド」および「核酸分子」は、ヌクレオチドのポリマーを指し、限定されないが、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、規則的におよび/または不規則に交互するデオキシリボシル部分およびリボシル部分(すなわち、交互のヌクレオチド単位は、糖部分の2’位置に、−OH、次に−H、次に−OH、次に−H、等々を有する)を含むDNA/RNAハイブリッド、およびこれらのポリヌクレオチド類の修飾物を含み、任意の位置でのヌクレオチド単位への種々の物質または部分の結合が含まれる。この用語は、ヌクレオチド類似体から作製され、記載の実施形態に適用可能なRNAまたはDNAの等価物、類似体として、一本鎖(センスまたはアンチセンスなど)および二本鎖のポリヌクレオチドを含むことも理解されるべきである。核酸の作製は、当該技術分野においてよく知られている。本発明による核酸分子(またはポリヌクレオチド)は、化学合成により、または組換えDNA技術により製造できることに留意されたい。核酸分子の製造方法は当該技術分野において周知である。本発明による核酸は、可変ヌクレオチド長であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、本発明による核酸分子は、1〜100ヌクレオチド、例えば、約10、20、30、40、50、60、70、80、90または100ヌクレオチドを含む。他の実施形態では、本発明による核酸分子は、100〜1,000ヌクレオチド、例えば、約100、200、300、400、500、600、700、800、900または1000ヌクレオチドを含む。さらなる実施形態では、本発明による核酸分子は、約1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000または10,000ヌクレオチドを含む。またさらなる実施形態では、本発明による核酸分子は、10,000ヌクレオチド超、例えば、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000または100,000ヌクレオチドを含む。
【0056】
上述のように、構築物、ベクターまたは任意の他のビークル中に含まれる核酸分子が本発明で提供され得る。本明細書で使用される場合、ベクターは、宿主細胞中に導入され、それにより形質転換された宿主細胞を産生する特定の配列の核酸分子である。ベクターは、宿主細胞中でそれを複製可能にする、複製起点などの核酸配列を含み得る。ベクターはまた、1種または複数の選択可能マーカー遺伝子および核酸発現を誘導するプロモーター配列を含む当該技術分野で既知の他の遺伝子配列を含み得る。核酸を標的細胞、特にBM細胞に移入するのに有用な多くのベクター、例えば、プラスミド、コスミド、ミニサークル、ファージ、ウィルス(下記で詳述)が本発明で適用可能であり得る。核酸を含むベクターは、エピソーム的に、例えば、プラスミド、ミニサークルDNA、トランスポゾン、サイトメガロウィルス、アデノウィルスなどのウィルスとして維持され得るか、またはそれらは、相同組換えまたはランダムインテグレーションにより標的細胞ゲノム中に一体化され得る(例えば、レンチウィルス、AAV、MMLV、HIV−1、ALVなどのレトロウィルス由来ベクター)。より具体的には、いくつかの実施形態では、ベクターは、ウィルスベクターであり得る。またいくつかの特定の実施形態では、このようなウィルスベクターは、組換えアデノ随伴ベクター(rAAV)、一本鎖AAV(ssAAV)、自己相補的fAAV(scAAV)、サル空胞ウィルス40(SV40)ベクター、アデノウィルスベクター、ヘルパー依存性アデノウィルス、レトロウィルスベクターおよびレンチウィルスベクターのいずれか1種であり得る。
【0057】
より具体的には、上で示したように、いくつかの実施形態では、ウィルスベクターは、本発明で適用可能である。用語の「ウィルスベクター」は、複製可能または複製欠損性ウィルス粒子を指し、核酸分子を宿主中に移入できる。
【0058】
用語の「ウィルス」は、タンパク質合成機序またはエネルギー生成機序を持たない細胞内絶対寄生生物のいずれかを指す。ウィルスゲノムは、脂質膜タンパク質のコート構造体に包まれたRNAまたはDNAであり得る。本発明での実施に有用なウィルスの例としては、バキュロウィルス科、パルボウィルス科、ピコルノウィルス科(picornoviridiae)、ヘルペスウィルス科、ポックスウィルス科、アデノウィルス科、ピコトマウィルス科(picotmaviridiae)が挙げられる。用語の組換えウィルスは、キメラ(あるいはマルチマー)ウィルス、すなわち、2種以上のウィルスサブタイプ由来の相補的コード配列を用いて構築したベクターを含む。
【0059】
またいくつかの特定の実施形態では、レンチウィルスベクターが本発明で使用され得る。レンチウィルスベクターは、レトロウィルスのサブクラスであるレンチウィルス由来である。よく使われるレトロウィルスベクターは、「欠陥がある」、すなわち、増殖感染に必要なウィルスタンパク質を産生できない。むしろ、ベクターの複製は、パッケージング細胞株中での増殖を必要とする。本発明の核酸配列を含むウィルス粒子を生成するために、パッケージング細胞株により、核酸を含むレトロウィルス核酸がウィルスカプシド中にパッケージされる。異なるパッケージング細胞株は、異なるカプシド中に組み込まれるエンベロープタンパク質(同種志向性、両種性または異種指向性)を提供し、このエンベロープタンパク質は、細胞に対する特異性を決定する(マウスおよびラットに対しては同種志向性;ヒト、イヌおよびマウスを含むほとんどの哺乳動物細胞型に対しては両種性;およびハツカネズミ細胞を除くほとんどの哺乳動物細胞型マウス細胞に対しては異種指向性)。適切なパッケージング細胞株を使用して、パッケージされたウィルス粒子により細胞が標的化されることを確実にし得る。本発明の核酸配列を含むレトロウィルスベクターをパッケージング細胞株中に導入する方法、およびパッケージング株により生成されるウィルス粒子を収集する方法は、当該技術分野において周知である。
【0060】
またさらなるいくつかの実施形態では、本発明で適用可能なウィルスベクターは、アデノ随伴ウィルス(AAV)であり得る。用語の「アデノウィルス」は、用語「アデノウィルスベクター」と同義である。AAVは、パルボウィルス科のファミリーに属する小さい(約20nm)タンパク質カプセルを有する一本鎖DNAウィルスであり、特に、アデノウィルス属のウィルスを指す。用語のアデノウィルス科は、ひとまとめにして、マストアデノウィルス属の動物アデノウィルスを指し、限定されないが、ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、ブタ、マウスおよびサルアデノウィルス亜属を含む。特に、ヒトアデノウィルスは、A〜F亜属ならびにその個別の血清型を含み、個別の血清型およびA〜F亜属は、限定されないが、ヒトアデノウィルス型1、2、3、4、4a、5、6、7、8、9、10、11(Ad IIAおよびAd IIP)、12、13、14、15、16、17、18、19、19a、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、34a、35、35p、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、および91を含む。
【0061】
ヘルパーウィルス共感染(通常、アデノウィルスまたはヘルペスウィルス感染)の非存在下で複製できないので、AAVは、多くの場合、ディペンドウィルスと呼ばれる。AAV感染は、緩やかな免疫応答のみを生成し、非病原性であると見なされ、この事実は、他のよく使われるベクター系と比較して、組換えAAV(rAAV)を取り扱う場合のバイオセーフティレベル要件の低下としても反映される。その低免疫原性および細胞傷害性応答の非存在のため、AAVベース発現系は、静止細胞中で数ヶ月間にわたり目的の遺伝子を発現させる可能性を提供する。
【0062】
rAAVベクターの作製システムは通常、目的のDNAを含むDNAベースベクターからなり、目的のDNAは末端逆位配列に隣接される。構築物サイズは、約4.7〜5.0kbに限定され、これは、野性型AAVゲノムの長さに対応する。rAAVは、細胞株中で産生される。発現ベクターは、ウィルス複製に重要なAAV rep遺伝子の発現を媒介するヘルパープラスミドおよびカプシド形成タンパク質をコードするcap遺伝子と同時遺伝子導入される。組換えアデノ随伴ウィルスベクターは、分裂および非分裂細胞に形質導入でき、異なるrAAV血清型は、多様な細胞型に形質導入し得る。これらの一本鎖DNAウィルスベクターは、高い形質導入率を有し、宿主ゲノム中の二本鎖DNAを破壊することなく、内在性相同組換えを刺激するユニークな性質を有する。
【0063】
本発明は、そのいくつかの実施形態では、MPO遺伝子の特異的調節のためにCRISPRシステムを利用する。上に示したように、本発明の遺伝子編集システムは、特に、送達ベクターまたはビークル中の核酸分子として提供され得る。しかし、使用されるいずれかの遺伝子編集システムはまた、本発明の場合に適用可能な特定の遺伝子編集システムに関連して以下に考察されるように、タンパク質として、あるいは、リボ核タンパク質複合体として、投与される場合もあることを理解されたい。
【0064】
上記で示したように、いくつかの実施形態では、本発明に適用可能な遺伝子編集システムは、CRISPR−Casシステムである。CRISPR−Casシステムは、2つのクラスに分類される。クラス1システムは、複数のCasタンパク質の複合体を用いて外来性核酸を分解する。クラス2システムは、同じ目的のために単一の大きなCasタンパク質を用いる。より具体的には、クラス1は、I、III、およびIV型に分類され得、クラス2は、II、V、およびVIに分類され得る。
【0065】
従って、いくつかの実施形態では、Casタンパク質は、クラス1およびクラス2のCRISPR結合システムの少なくとも1つのメンバーであり得る。いくつかの実施形態では、casタンパク質は、II型、I型、III型、IV型、V型およびVI型のいずれか1つのCRISPR結合システムの少なくとも1つのメンバーであり得る。本明細書で使用される場合、SPIDR(スペーサー散在型ダイレクトリピート(Spacer Interspersed Direct Repeats))としても知られるCRISPRアレイは、通常、特定の細菌種に特異的なDNA座位ファミリーを構成する。CRISPRアレイは、大腸菌中で最初に認められた別個のクラスの散在型の短配列リピート(interspersed short sequence repeats:SSR)である。その後の数年間に、類似のCRISPRアレイが結核菌、ハロフェラックス・メディテラネイ、タノカルドコックス・ヤンナスキイ、サーモトガ・マリティマならびに他の細菌および古細菌中で見つかった。本発明は、いずれか既知のCRISPRシステム、特に、本明細書で開示のいずれかのCRISPRシステムの使用を意図していることを理解されたい。CRISPR−Casシステムは、原核生物でファージ攻撃および外来性DNAまたはRNA標的化による望ましくないプラスミド複製に対し保護するために発展した。CRISPR−Casシステムは、反復間に存在するスペーサーと呼ばれる短い相同DNA配列に基づいてDNA分子を標的にする。これらのスペーサーは、CRISPR結合(Cas)タンパク質を外来性DNA内のプロトスペーサーと呼ばれるマッチング(および/または相補)配列に誘導し、これはその後切断される。スペーサーは、任意のDNA配列、例えば、MPO遺伝子配列を標的にするように合理的に設計できる。さらに、この認識配列は、任意の所望の標的を別々に認識および標的化するように設計し得る。
【0066】
いくつかの特定の実施形態では、本発明のシステムのRNA誘導型DNA結合タンパク質ヌクレアーゼは、CRISPRクラス2システムであり得る。またいくつかのさらなる特定の実施形態では、このようなクラス2システムは、CRISPR II型システムであり得る。
【0067】
II型CRISPR−Casシステムは、HNH型システム(連鎖球菌様;髄膜炎菌血清型A株Z2491、またはCASS4の場合にはNmeniサブタイプとも呼ばれる)を含み、広く分布するCas1およびCas2に加えて、単一の非常に大きなタンパク質のCas9は、crRNA生成および標的DNAの切断に十分であると思われる。Cas9は、少なくとも2つのヌクレアーゼドメイン、アミノ末端近くのRuvC様ヌクレアーゼドメインおよびタンパク質の中ほどのHNH(またはMcrA様)ヌクレアーゼドメインを含むが、これらのドメインの機能は、まだ明らかになっていない。しかし、HNHヌクレアーゼドメインは制限酵素に富み、標的切断に関与するエンドヌクレアーゼ活性を有する。
【0068】
またさらに、II型システムは、Cas9、Cas1,Cas2、csn2、およびCas4遺伝子の少なくとも1つを含むことに留意されたい。任意のII型CRISPR−Casシステム、特に、II−AまたはB型のいずれか1つは、本発明に適用可能であることを理解されたい。従って、またいくつかのさらなるおよび代替実施形態では、本発明の方法、組成物、細胞、キット、使用およびシステムで使われる少なくとも1種のcas遺伝子は、II型CRISPRシステム(II−A型またはII−B型)の少なくとも1種のcas遺伝子であり得る。さらに特定の実施形態では、本発明の方法およびシステムで使われるII型CRISPRシステムの少なくとも1種のcas遺伝子は、cas9遺伝子であり得る。このようなシステムは、Cas1,Cas2、csn2、およびCas4遺伝子の少なくとも1つをさらに含み得ることを理解されたい。従って、いくつかの特定の実施形態では、本発明の方法により使用されるCasタンパク質は、Cas9またはその任意のフラグメント、変異体、バリアンまたは誘導体であり得る。
【0069】
Cas9による二本鎖DNA(dsDNA)切断は、「II型CRISPR−Cas」免疫系の特徴である。CRISPR結合タンパク質Cas9は、標的部位(プロトスペーサー)に対し相補的なRNA:DNAを使用するRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼである。Cas9と標的配列との間を認識後、二重鎖DNA(dsDNA)の切断が起こり、二本鎖破壊(DSB)が生ずる。
【0070】
本明細書で使用されるCRISPR II型システムは、2つの不可欠な要素:「ガイド」RNA(gRNA)および非特異的CRISPR結合エンドヌクレアーゼ(Cas9)の包含を必要とする。gRNAは、Cas9結合に必要な「足場」配列(tracrRNAとも呼ばれる)および、改変されるゲノム標的を決定する約20ヌクレオチド長の「スペーサー」または「ターゲティング」配列から構成される短い合成RNAである。本明細書で使用されるガイドRNA(gRNA)は、内在性tracrRNAとターゲティング配列(crRNAとも呼ばれる)との合成融合体を指し、Cas9ヌクレアーゼおよび標的化特異性のための足場/結合能力の両方を提供する。また、「シングルガイドRNA」または「sgRNA」とも呼ばれる。
【0071】
CRISPRは、元々、種々の細胞型および生物での標的遺伝子の「ノックアウト」のために採用されたが、Cas9酵素に対する改変は、CRISPRの応用を標的遺伝子の「ノックイン」、標的遺伝子の選択的活性化または抑制、DNAの特異的領域の精製、およびさらには蛍光顕微鏡法を使用する生細胞中のDNAの画像形成に拡張した。さらに、gRNA生成の容易さは、CRISPRを最も規模拡大可能なゲノム編集技術の1つにし、最近では、ゲノムワイドスクリーニングに利用されている。ほとんどのCRISPRシステムでは、編集されるべきゲノム内の標的配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の直ぐ上流に存在する必要がある。III型などの他のシステムでは、PAMは存在しない。
【0072】
CRISPR II型のようなPAM配列認識に基づくCRISPRシステムでは、PAMは標的結合のために絶対に必要であり、その正確な配列はCas9の種に依存する(化膿性連鎖球菌Cas9の場合には5’NGG3’)。いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用される核酸モディファイヤータンパク質はCas9である。特定の実施形態では、化膿レンサ球菌由来のCas9は、本発明の方法およびシステムで使用され得る。しかし、任意の既知のCas9も適用可能であり得ることを理解されたい。本開示で有用なCas9の非限定的例としては、限定されないが、化膿性連鎖球菌(SP)(本明細書ではSpCas9としても示される)、黄色ブドウ球菌(SA)(本明細書ではSaCas9としても示される)、髄膜炎菌(NM)(本明細書でNmCas9としても示される)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(ST)(本明細書でStCas9としても示される)、およびトレポネーマ・デンティコラ(TD)(TdCas9としても示される)が挙げられる。またさらに、本開示のいくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、メタン産生古細菌C7、ジフテリア菌、コリネ菌YS−314、グルタミン酸産生菌(ATCC13032)、グルタミン酸産生菌R、コリネバクテリウム・クロッペンステッティイ(DSM44385)、マイコバクテリウム・アブセサス(ATCC19977)、ノカルジア・ファルシニカIFM10152、ロドコッカス・エリスポリスPR4、ロドコッカス・ジョスティイRFIA1、ロドコッカス・オパカスB4(uid36573)、アシドサーマス・セルロリティクス11B、アルスロバクター・クロロフェノリカスA6、クリベラ・フラビダ(DSM17836)、サーモモノスポラ・クルバータ(DSM43183)、ビフィドバクテリウム・デンティウムBd1、ビフィドバクテリウム・ロンガムDJO10A、スラッキア・ヘリオトリニレデューセンス(DSM20476)、パーセフォネラ・マリナEX H1、バクテロイデス・フラジリスNCTC9434、カプノシトファガ・オクラチエ(DSM7271)、フラボバクテリウム・サイクロフィルムJIP02 86、アッカーマンシア・ムシニフィラ(ATCC BAA835)、ロゼイフレクサス・キャステンホルツィイ(DSM13941)、ロゼイフレクサスRS1、シネコシスティスPCC6803、エルシミクロビウム・ミヌトゥムPei191、未培養シロアリグループ1細菌ファイロタイプRs D17、フィブロバクター・サクシノゲネスS85、バチルス・セレウス(ATCC10987)、リステリア・イノキュア、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバシラス・ラムノーサス ラムノーサスGG、ラクトバチルス・サリバリウスUCC118、ストレプトコッカス・アガラクチア−5−A909、ストレプトコッカス・アガラクチアNEM316、ストレプトコッカス・アガラクチア2603、ストレプトコッカス・ディスガテクティアエ亜種エクイシミリスGGS124、ストレプトコッカス・エクイ亜種ズーエピデミカスMGCS10565、ストレプトコッカス・ガロリチカスUCN34(uid46061)、ストレプトコッカス・ゴルドニイ Challis subst CH1、ストレプトコッカス・ミュータンスNN2025(uid46353)、ストレプトコッカス・ミュータンス、化膿性連鎖球菌M1 GAS、化膿性連鎖球菌MGAS5005、化膿性連鎖球菌MGAS2096、化膿性連鎖球菌MGAS9429、化膿性連鎖球菌MGAS10270、化膿性連鎖球菌MGAS6180、化膿性連鎖球菌MGAS315、化膿性連鎖球菌SSI−1、化膿性連鎖球菌MGAS10750、化膿性連鎖球菌NZ131、ストレプトコッカス好熱性細菌CNRZ1066、ストレプトコッカス好熱性細菌LMD−9、ストレプトコッカス好熱性細菌LMG18311、ボツリヌス菌A3 Loch Maree、ボツリヌス菌B Eklund 17B、ボツリヌス菌Ba4 657、ボツリヌス菌F Langeland、クロストリジウム・セルロリティカムH10、フィネゴルディア・マグナ(ATCC29328)、ユーバクテリウム・レクタレ(ATCC33656)、マイコプラズマ・ガリセプチカム、マイコプラズマ・モービレ163K、マイコプラズマ・ペネトランス、マイコプラズマ・シノビエ53、ストレプトバシラス・モニリフォルミス(DSM12112)、ブラディリゾビウムBTAil、ニトロバクター・ハンブルゲンシスX14、ロドシュードモナス・パルストリスBisB18、ロドシュードモナス・パルストリスBisB5、パルビバクラム・ラバメンティボランスDS−1、ディノロセオバクター・シバエDFL12、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクスPal 5 FAPERJ、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクスPal 5 JGI、アゾスピリルムB510(uid46085)、ロドスピリラム・ラブラム(ATCC11170)、ディアフォロバクターTPSY(uid29975)、フェルミネフォロバクター・エイセニアエEF01−2、髄膜炎菌053442、髄膜炎菌 アルファ14、髄膜炎菌Z2491、デスルホビブリオ・サレキシゲンスDSM2638、カンピロバクター・ジェジュニdoylei26997、カンピロバクター・ジェジュニ81116、カンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・ラリRM2100、ヘリコバクター・ヘパティカス、ウォリネラ・サクシノゲネス、トルモナス・アウエンシスDSM9187、シュードアルテロモナス・アトランティカT6c、シューワネラ・ペアレアナ(ATCC700345)、レジオネラ・ニューモフィラParis、アクチノバチルス・サクシノゲネス130Z、シューワネラ・ペアレアナ、フランシセラ・ツラレンシス亜種ノビシダU112、フランシセラ・ツラレンシス亜種ハラークティカ、フランシセラ・ツラレンシスFSC198、フランシセラ・ツラレンシス亜種ツラレンシス、フランシセラ・ツラレンシスWY963418、またはトレポネーマ・デンティコラ(ATCC35405)由来のまたはそれらから発現されるCas9、Cas13、Cas6、Cpf1、CMS1タンパク質、またはその任意のバリアントであり得る。
【0073】
いくつかの特定の非限定的実施形態では、化膿性連鎖球菌M1 GAS、特に、タンパク質id:AAK339636.1のCas9は、本発明の方法、組成物、細胞、キット、使用およびシステムで適用可能であり得る。いくつかの実施形態では、Cas9タンパク質は、配列番号3で表される核酸配列によりコードされ得る。さらなる特定の実施形態では、Cas9タンパク質は、配列番号4で表されるアミノ酸配列、またはその誘導体、変異体、バリアントまたは任意の融合タンパク質を含み得る。 いったん発現されると、本発明の方法および組成物により提供されるCas9タンパク質およびgRNAは、gRNA「足場」ドメインと、Cas9上の表面に露出した正帯電溝との間の相互作用を介してリボたんぱく質複合体を形成する。Cas9は、gRNA結合時に、不活性な非DNA結合構造から活性なDNA結合構造へ変化する立体構造変化を起こす。重要なことに、gRNAの「スペーサー」配列は標的DNAと相互作用するように遊離状態のまま残される。Cas9−gRNA複合体は、PAMを有する任意の標的ゲノム配列を結合するが、gRNAスペーサーが標的DNAに一致する程度により、Cas9が切断するか、あるいは、触媒的に不活性なCas9を含む融合タンパク質の場合いずれか他の操作を行うかが決定される。またいくつかの特定の実施形態では、塩基エディター酵素が、本発明の組成物および方法により使用され得る。より具体的には、Cas9ベース塩基エディターは、酵素、特に、合成のおよび非天然の酵素であり、特異的ヌクレオチド置換を触媒する酵素に融合された触媒的に不活性なCas9を利用する。既知の塩基エディターは、CからTに、AからGに、TからCに、およびGからAに置換できる。「塩基編集」酵素は、プログラム可能な方式で、dsDNA骨格の切断またはドナーテンプレートを必要とせずに、1つの標的DNA塩基の別の塩基への直接不可逆変換を可能にする。より具体的には、これらのキメラ酵素(本明細書では、融合タンパク質とも呼ばれる)は、CRISPR/Cas9と、ガイドRNAにより標的化される能力を保持するがdsDNAの破壊を誘導できないシチジンデアミナーゼ酵素との融合体をベースにする。従って、これらの酵素は、シチジンのウリジンへの直接変換を媒介し、それにより、C→T(またはG→A)置換を行う。またさらに、Cas9−gRNA複合体が推定上のDNA標的を結合すると、gRNAターゲティング配列の3’末端の「シード」配列が標的DNAへのアニールを開始する。シードと標的DNA配列が一致する場合、gRNAは3’から5’方向での標的DNAへのアニールを継続する。
【0074】
Cas9は、gRNAスペーサーと標的配列との間に十分な相同性が存在する場合、標的を切断するのみである。またさらに、Cas9ヌクレアーゼは、2つの機能性エンドヌクレアーゼドメイン:RuvCおよびHNHを有する。Cas9は、標的結合時に、ヌクレアーゼドメインを標的DNAの逆ストランドを切断するように配置する、第2の立体構造変化を起こす。Cas9媒介DNA切断の最終成果は、PAM配列の約3〜4ヌクレオチド上流で起こる標的DNA内の二本鎖破壊(DSB)である。
【0075】
得られたDSBは、その後、2つの通常の修復経路、効率的であるがエラーが発生しやすい非相同末端結合(NHEJ)経路および効率で劣るが高忠実度の相同組み換え修復(HDR)経路の1つにより修復され得る。ゲノム編集のためのプログラム可能な遺伝子改変ヌクレアーゼ(PEN)戦略は、特異的二重鎖DNA切断後のHDR機序の細胞活性化(ノックインシステム)またはNHEJ機序(ノックアウトシステム)に基づき得る。
【0076】
いくつかの特定の実施形態では、ノックアウトされる標的化遺伝子、特に、MPO遺伝子は、NHEJ経路により修復され、ほとんどの場合、標的遺伝子の機能不全(欠失/挿入/ナンセンス変異、など)を生ずる。前に考察したように、Cas9は、2つのヌクレアーゼドメイン、RuvCおよびHNHの組み合わせた活性により二本鎖破壊(DSB)を起こす。エンドヌクレアーゼ活性に重要な各ヌクレアーゼドメイン中の正確なアミノ酸残基は既知であり(化膿レンサ球菌Cas9の場合、HNHではD10AおよびRuvCではH840A)、1個のみの活性触媒ドメインのみを含むCas9酵素の改変型(「Cas9ニッカーゼ」と呼ばれる)が生成された。Cas9ニッカーゼは、gRNAに基づいてまだDNAを特異的に結合するが、ニッカーゼは、DNA鎖の1つを切断できるのみであり、その結果DSBではなく、「ニック」、または一本鎖切断を生ずる。DNAニックは、テンプレートとして無傷の相補的DNA鎖を用いてHDR(相同組み換え修復)により急速に修復される。従って、2つのニッカーゼ標的化逆ストランドが標的DNA内のDSB生成に必要である(多くの場合、「ダブルニック」または「二重ニッカーゼ」CRISPRシステムと呼ばれる)。この要件は、標的特異性を劇的に増大させる。理由は、DSBを生じさせるのに十分に近接した範囲内で2つのオフターゲットニックが生成される可能性が低いためである。従って、本発明は、特異性を増大させかつオフターゲット効果を低減するために、ダブルニック誘導DSBを生成する二重ニッカーゼ手法を含むCas9の任意の変異体、バリアントまたは誘導体の使用をさらに包含することを理解されたい。従って、本発明は、本発明の方法、細胞および組成物において、特異性を増大させかつオフターゲット効果を低減するために、ダブルニック誘導DSBを生成する二重ニッカーゼ手法の使用をさらに包含することを理解されたい。特異性を増大させる具体例は、標的化gRNAに対しリンカーとして機能するdCas9に融合されたFok1などのヌクレアーゼの使用である。より具体的には、よく特徴づけられたダイマー化依存性FokIヌクレアーゼドメインがRNA誘導型触媒的不活性Cas9(dCas9)タンパク質に融合され、それによりFok1のヌクレアーゼ活性に必要なダイマー化に起因して、高められた特異性を提供する。さらに別の実施形態では、本発明は、同じまたは異なる標的、特にMPO遺伝子を標的にし得るいくつかの最終gRNA産物へと処理され得るプレcrRNAを提供する選択肢をさらに包含する。またいくつかのより特定の実施形態では、本発明のgRNA内に含まれるcrRNAは、標的ゲノムDNA配列に相補的な一本鎖リボ核酸(ssRNA)配列であり得る。いくつかの特定の実施形態では、MPO遺伝子内の標的ゲノムDNA配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の直ぐ上流およびさらに上流に位置し得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、細胞、キット、使用およびシステムにより使用されるgRNAまたはcrRNAは、ヒトMPO遺伝子の配列番号43、44、45、46、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105および106のいずれか1つで表される核酸配列、またはそのいずれかのフラグメントを含むプロトスペーサーを標的にし得る。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法、組成物、細胞、キット、使用およびシステムにより使用されるgRNAは、ヒトMPO遺伝子の配列番号5、6、8、9、10、11、12、13、14のいずれか1つで表される核酸配列、またはそのいずれかのフラグメントを含むプロトスペーサーを標的にし得る。またさらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用されるgRNAは、MPOタンパク質、特にヒトMPO遺伝子およびタンパク質中の種々のドメインをコードするMPO遺伝子中の種々の部位に対応する核酸配列を含むプロトスペーサーを標的にし得る。
【0078】
いくつかの特定の実施形態では、MPO遺伝子中の標的化特異的部位は、HDRがMPO遺伝子内の特異的残基または配列の置換に使用される場合は特に、全体MPO分子のノックアウトをもたらし得る、あるいはその機能および活性を調節し得る。いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用されるgRNAは、MPOの活性部位に対応する核酸配列を含むプロトスペーサーを標的にし得る。さらに特定の実施形態では、本発明のgRNAは、ヒトMPOタンパク質、レベル、発現および/または活性を調節するように誘導される場合に特に、MPOの異なるドメインに位置するプロトスペーサーを標的にし得る。いくつかの特定の実施形態では、ヒトMPOは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む。このようなドメインまたは配列は、プロトマー生合成およびプロセッシングに必要なドメインまたは配列、ヒトMPO欠損を模倣するドメインまたは特異的残基、プロトマーヘム結合に必要なドメインまたは配列、および適切なタンパク質グリコシル化に必要なドメインまたは配列、を含み得る。さらに特定の実施形態では、本発明の方法で使用されるgRNAは、ドメインにより包含されるプロトスペーサーまたはプロトマー生合成およびプロセッシングに必要な残基をコードする核酸配列を含むプロトスペーサーを標的にし得る。このような配列は、MPO、特に配列番号2で表されるヒトMPOアミノ酸配列の残基120〜190または/および残基320〜380の間に存在する残基または配列を含むドメインをコードし得る。このような残基をコードするこのようなドメインまたは配列内に含まれるいずれかのプロトスペーサーを標的とするgRNAは従って、タンパク質の立体構造変化またはプロトマー生合成およびプロセッシングの変化をもたらす。さらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用されるgRNAは、ドメインにより包含されるプロトスペーサーまたはヒトMPO欠損置換を模倣する残基をコードする核酸配列を含むプロトスペーサーを標的にし得る。このようなプロトスペーサーは、配列番号2で表されるヒトMPOの残基150〜260および/または配列番号2で表されるヒトMPOの残基480〜580をコードする核酸配列内に位置し得る。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法で使用されるgRNAは、ドメインにより包含されるプロトスペーサーまたはプロトマーヘム結合に必要な残基をコードする核酸配列を含むプロトスペーサーを標的にし得る。いくつかの特定の実施形態では、このようなプロトスペースは、配列番号2で表されるヒトMPOの残基250〜270および/または残基390〜510をコードする核酸配列内に位置し得る。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法で使用されるgRNAは、ドメインにより包含されるプロトスペーサーまたは適切なタンパク質グリコシル化に必要な残基をコードする核酸配列を含むプロトスペーサーを標的にし得る。このようなプロトスペーサーは、配列番号2で表されるヒトMPOの残基300〜360をコードする核酸配列内に位置し得る。いくつかの特定の実施形態では、本発明で使用されるgRNAまたはcrRNAは、ヒトMPO遺伝子中の特異的プロトスペースを標的にする。本発明の方法、組成物、キットで標的化され得るヒトMPO遺伝子内の追加の標的部位は、配列番号2により表されるヒトMPOの残基C167、C180、C319、C158、R128、N355、T173、M251、R569、R499、G501、Q257、D260、M409、E408、H261、H502およびN355を含み得る。本発明は、本明細書で考察される標的としてのこれらの残基のいずれか1つの使用を包含することに留意されたい。いくつかのさらなる特定の実施形態では、本発明で標的認識配列として使われるcrRNA(gRNA)は、ヒトMPO内の対応する標的プロトスペースを標的とする配列番号33(本明細書においては、T173と称する)、配列番号34(本明細書においては、D260と称する)、配列番号35(本明細書においては、H502と称する)、および配列番号42(本明細書においては、C319と称する)のいずれか1つにより表される核酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、本発明の配列番号33のcrRNA配列は、配列TGCACATCCCGGTGATGGTG(配列番号43としても表される)を含む配列を標的にし得る。いくつかのさらなる実施形態では、本発明の配列番号34のcrRNA配列は、配列CAGGGGTGAAGTCGAGGTCG(配列番号44としても表される)を含む配列を標的にし得る。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の配列番号35のcrRNA配列は、配列GGATGAGGGTGTGGCCGTAG(配列番号45としても表される)を含む配列を標的とし得る。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の配列番号42のcrRNA配列は、配列GGATGGTGATGTTGCTCCCGGGG(配列番号46としても表される)を含む配列を標的とし得る。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明による標的認識配列として使用されるcrRNA(gRNA)は、47、50、55、60、63、66、71、74、77、80、85、88および91のいずれか1つにより表される核酸配列を含み得る。またいくつかのさらなる実施形態では、これらのgRNAは、ヒトMPO核酸配列内のプロトスペーサーを標的とする。さらに特定の実施形態では、これらのプロトスペーサーは、それぞれ、配列番号94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、および106により表される核酸配列を含む。
【0079】
またいくつかの他の特定の実施形態では、本発明で使用されるgRNAまたはcrRNAは、マウスMPO遺伝子中の特異的プロトスペースを標的にする。いくつかの実施形態では、本発明のgRNA配列は、配列CCCCAACGATCAGCTGACCA(配列番号5としても表される)を含むプロトスペーサー配列を標的にし得る。いくつかの実施形態では、本発明のgRNA配列は、配列CAGCGGGGTGTACGGCAGCG(配列番号6としても表される)を含む配列を標的にし得る。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明のgRNA配列は、配列GCACTCATGTTCATGCAGTG(配列番号8としても表される)を含む配列を標的にし得る。いくつかのさらなる実施形態では、本発明のgRNA配列は、配列TGCGATACTTGTCATTCGGT(配列番号9としても表される)を含む配列を標的にし得る。いくつかのさらなる実施形態では、本発明のgRNA配列は、配列AGTAAAACAGGAGCTCCGTG(配列番号10としても表される)を含む配列を標的にし得る。いくつかのさらなる実施形態では、本発明のgRNA配列は、配列ACGCTTCCAAGACAATGGCA(配列番号11としても表される)を含む配列を標的にし得る。いくつかのさらなる実施形態では、本発明のgRNA配列は、配列ACGCCATCTTCATACTCTGC(配列番号12としても表される)を含む配列を標的にし得る。いくつかのさらなる実施形態では、本発明のgRNA配列は、配列ATCAAGCGGAGCCTCCAAAG(配列番号13としても表される)を含む配列を標的にし得る。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明のgRNA配列は、配列AGAGTACCTGTAACATTGAA(配列番号14としても表される)を含む配列を標的にし得る。いくつかの実施形態では、gRNAは、マウスMPOの上記で定義のプロトスペーサー配列を標的にする配列番号5、配列番号6、配列番号8および配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14のいずれか1つで表される核酸配列を含む。いくつかのさらなる実施形態では、本発明による標的認識配列として使用されるcrRNAは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号42、ならびに配列番号47、50、55、60、63、66、71、74、77、80、85、88および91のいずれか1つにより表される核酸配列を含み得る。
【0080】
本明細書で示すように、本発明の導入遺伝子により転写されるgRNAは、標的ゲノムDNA、特にMPO遺伝子内のいずれかのプロトスペーサーに対し、少なくとも部分的に相補的であり得る。特定の実施形態では、「相補性」は、それぞれロックアンドキー方式の、2つの構造体間の関連性を指す。天然では、相補性は、それが2つのDNAまたはRNA配列間で共有される性質であるため、DNA複製および転写の基本原理であり、そのため、それらが相互に逆平行に整列される場合、それらの配列中のそれぞれの位置でのヌクレオチド塩基は相補的である(例えば、AとTまたはU、CとG)。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法で使用されるgRNAまたはcrRNAは、標的プロトスペーサーの少なくとも一部の核酸配列を含み得る。
【0081】
上で示したように、いくつかの特定の実施形態では、本発明のシステムのgRNAにより標的化されるゲノムDNA配列は、PAM配列の直ぐ上流に位置し得る。
【0082】
いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、細胞、キット、使用およびシステムは、いくつかのgRNA、特に2つ以上のgRNAを含み得る。従って、いくつかの実施形態では、本発明のgRNAをコードするポリヌクレオチドは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100個のまたはそれより多い、特に、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200個のまたはそれより多いスペーサーを含み得る。すなわち、いくつかの実施形態では、gRNAまたはcrRNAコード配列は、MPOコード配列上の少なくとも2つ以上の異なる位置を標的にする1〜200個のまたはそれより多い同じまたは異なるgRNAをコードし得る。本発明のgRNAをコードする核酸配列のスペーサーは、同じまたは異なるスペーサーであり得ることをさらに理解されたい。さらなる実施形態では、これらのスペーサーは、MPO遺伝子内の同じまたは異なる標的プロトスペーサーを標的にし得る。またいくつかの他の実施形態では、このようなスペーサーは、MPO遺伝子内の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100個のまたはそれより多い標的プロトスペーサーを標的にし得る。これらの標的配列は、MPO遺伝子の単一領域または一部から誘導され得る、あるいはMPO遺伝子またはコード配列のいくつかの標的領域または部分から誘導され得る。
【0083】
本明細書で使用される場合、「スペーサー」という用語は、特異的配列を標的にするように設計された非反復または反復スペーサー配列を指す。いくつかの特定の実施形態では、スペーサーは、約15〜約50個のヌクレオチド、特に、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50個のまたはそれより多いヌクレオチドを含み得る。より具体的には、スペーサーは20〜35個のヌクレオチドを含み得る。
【0084】
一般に、本発明のCRISPRシステムによりコードされるガイドまたは標的化RNAは、CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化RNA(tracrRNA)を含み得る。しかし、Cpf1ベースCRISPR−CasシステムおよびCRISPR I型〜E型などのいくつかの特定のCRISPRシステムでは、ガイドRNAはtracrRNAを含まないことに留意されたい。CRISPRスペーサーによりコードされる標的化RNAの配列は、それがMPO遺伝子内の標的配列(本明細書では「プロトスペーサー」とも呼ばれる)に向けられること(すなわち、標的配列に同じまたは相補的であるセグメントを有する)に対する要件以外は、特に限定されない。このようなプロトスペーサーは、本発明により提供される方法、組成物、細胞、キット、使用およびシステムのgRNAをコードする核酸配列内に含まれるCRISPRスペーサーによりコードされる標的化RNAに対し十分な相補性を有する核酸配列を含む。従って、いくつかの実施形態では、コードされたgRNAまたはcrRNAは、標的プロトスペーサーの核酸配列に少なくとも1部は同じである配列を含む。いくつかの他の実施形態では、本発明のシステムのRNA誘導型DNA結合タンパク質ヌクレアーゼは、新規に特定されたシステムのクラスター化され規則的に間隔を置かれる短い回文配列リピート(CRISPR)のいずれか1つであり得る。本発明は、Cas9、特に配列番号4で表されるアミノ酸配列、またはそのいずれかのフラグメント、バリアント、誘導体および変異体、またはそのいずれかのキメラもしくは融合タンパク質を含むCas9の任意のフラグメント、誘導体、またはバリアントを提供することを理解されたい。本発明の方法、組成物、細胞、キットおよびシステムは、そのいくつかの実施形態では、遺伝子編集システムとして、Casタンパク質、特にCas9タンパク質を提供することを理解されたい。「アミノ酸配列」または「ペプチド配列」は、ペプチド結合により結合されるアミノ酸残基がペプチドおよびタンパク質の鎖中で位置する順番であることに留意されたい。配列は通常、遊離アミノ基含有N末端からアミド含有C末端へ報告される。アミノ酸配列は、タンパク質の一次構造を表す場合、多くの場合、ペプチド、タンパク質配列と呼ばれるが、しかし、タンパク質は、特異的三次元配置へと折り畳まれたアミノ酸配列として定義され、通常、リン酸化、アセチル化、グリコシル化、マノシル化、アミド化、カルボキシル化、スルフヒドリル結合形成、切断などの翻訳後修飾を受けているので、用語「アミノ酸配列」または「ペプチド配列」および「タンパク質」の間で区別する必要がある。「フラグメントまたはペプチド」は、上記Cas9タンパク質の一部を意味する。本発明のアミノ酸配列のいずれかなどの分子の「フラグメント」は、Cas9タンパク質の任意のアミノ酸サブセットを指す。これはまた、その「バリアント」または「誘導体」も含み得る。「ペプチド」は、機能活性を有する特定のアミノ酸サブセットを指すことが意図される。「機能的」は、同じ生物学的機能を有する、例えば、特異的RNA誘導型ヌクレアーゼ反応を行う能力を有することを意味する。
【0085】
本発明は、本発明のCas9タンパク質の任意のバリアントまたは誘導体および実質的に同一またはホモログである任意のポリペプチドを包含することを理解されたい。用語の「誘導体」は、元のポリペプチドの活性を変えない、アミノ酸配列(ポリペプチド)に対する挿入、欠失、置換および修飾のいずれかを有するアミノ酸配列(ポリペプチド)を定義するために使用される。これに関連して、本発明により使用されるCas9タンパク質の誘導体またはフラグメントは、Cas9タンパク質の活性を低減させないまたは変えない、特に配列番号4により表されるCas9タンパク質のいずれかの誘導体またはフラグメントであり得る。用語の「誘導体」は、その同族体、バリアントおよび類似体も指す。タンパク質オルソログまたは同族体は、本発明による目的のタンパク質に対し配列相同性または同一性を有し、特に本発明による目的のタンパク質、例えば、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むCas9タンパク質の全配列に比較して、少なくとも50%、少なくとも60%および特に、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%、またはそれ超を共有し得る。特に、ホモログは、配列番号4に対して、特に配列番号4により表される全配列に対して、少なくとも50%、少なくとも60%および特に65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれを超えて同一であるアミノ酸配列を含むまたはそれからなる。
【0086】
いくつかの実施形態では、誘導体は、ポリペプチドを指し、これは、本発明中でアミノ酸残基の挿入、欠失または置換により特に定義されるポリペプチドとは異なる。本明細書で使用される場合、用語の「挿入」、「欠失」または「置換」は、それぞれ、本発明で開示の、1〜50個のアミノ酸残基、20〜1個のアミノ酸残基、および特に、1〜10個のアミノ酸残基のポリペプチドに対する任意の付加、欠失または置換を意味することを理解されたい。より具体的には、挿入、欠失または置換は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸のいずれか1つであり得る。本発明により包含される挿入、欠失または置換は、改変ペプチドの任意の位置、ならびにそのN’またはC’末端のいずれかで発生し得ることに留意されたい。
【0087】
アミノ酸配列に関して、当業者は、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列に対する、コード配列中の単一アミノ酸または小さいパーセンテージのアミノ酸の変化、付加または欠失をもたらす個別の置換、欠失または付加は、「保存的改変バリアント」であり、変化は化学的に類似のアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらすことを理解するであろう。機能的に類似のアミノ酸をもたらす保存的置換表は、当該技術分野において周知である。このような保存的改変バリアントは、本発明の多形性バリアント、種間相同体、種間相同体、およびアレルに追加するものであり、これらを排除するものではない。例えば、置換は、脂肪族アミノ酸(G、A、I、LまたはV)がグループの別のメンバーにより置換される場合、または1個の極性残基の別の残基による置換、アルギニンによるリシンの置換、グルタミン酸によるアスパラギン酸の置換、またはグルタミンによるアスパラギンの置換などの置換の場合に実施され得る。次の8つのグループのそれぞれは、相互に保存的置換である他の代表的アミノ酸を含む:1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リシン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、トレオニン(T);および8)システイン(C)、メチオニン(M)。従って、いくつかの実施形態では、本発明は、Cas9タンパク質またはそのいずれかの誘導体、特に、配列番号4により表されるアミノ酸配列に対し、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個のまたはそれより多い保存的置換を含む誘導体を包含する。より具体的には、アミノ酸「置換」は、1個のアミノ酸の、類似の構造的および/または化学的特性を有する別のアミノ酸による置き換え、すなわち、保存的アミノ酸置き換えの結果である。アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒特性を基準にして実施され得る。例えば、非極性「疎水性」アミノ酸は、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、システイン(C)、アラニン(A)、チロシン(Y)、ヒスチジン(H)、トレオニン(T)、セリン(S)、プロリン(P)、グリシン(G)、アルギニン(R)およびリシン(K)からなるグループより選択され、「極性」アミノ酸は、アルギニン(R)、リシン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)からなるグループより選択され、「正に帯電した」アミノ酸は、アルギニン(R)、リシン(K)およびヒスチジン(H)からなるグループより選択され、「酸性」アミノ酸は、アスパラギン酸(D)、アスパラギン(N)、グルタミン酸(E)およびグルタミン(Q)からなるグループより選択される。
【0088】
本発明のポリペプチドのバリアント、特に本発明により使用されるCas9は、アミノ酸レベルで、本発明の種々のポリペプチドなどの目的のタンパク質に対し、少なくとも80%の配列類似性または同一性、多くの場合少なくとも85%の配列類似性または同一性、90%の配列類似性または同一性、または少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の配列類似性または同一性を有し得る。上で示したように、ヌクレアーゼおよび特に、本発明の方法、組成物、細胞、キット、使用およびシステムで使用されるCas9などの誘導型ヌクレアーゼは、いくつかの実施形態では、MPOのレベル、発現および/または活性のさらなる操作を可能にし得る本発明で開示の触媒的に不活性なヌクレアーゼまたはそのいずれかの融合タンパク質であり得る。このような場合、標的配列の標的化操作のために、これらの誘導型ヌクレアーゼの標的化特性のみが使用される(例えば、gRNAを用いる標的核酸配列の標的化)。このような場合には核酸分解活性は望ましくない。いくつかの実施形態では、核酸分解活性を持たない誘導型ヌクレアーゼが使用され得る。従って、いくつかの特定の実施形態では、本発明のシステムのために使用されるCas9酵素は、全ての核酸分解活性を欠くCas9、例えば、dCas9などの欠陥酵素であり得る。dCas9は、ヌクレオチド鎖切断を欠く変異体Cas9である。このような変異体の非限定的例は、D10A(位置10でアスパラギン酸からアラニンへ)およびH840A(位置840でヒスチジンからアラニンへ)の少なくとも1つに点変異を有する変異体であり得る。このような変異体は、細胞中で高度に特異的な様式でDNAに異なるタンパク質エフェクターを動員するためのモジュールRNA誘導型プラットフォームとして使用できる(Qi et al.,Cell 152:1173−1183(2013))。抑制的なおよび活性化する両エフェクターをdCas9に融合して、遺伝子発現をそれぞれ抑制あるいは活性化できる。従って、いくつかの実施形態では、dCas9および活性化エフェクター(例えば、転写因子または脱メチル化酵素)の融合タンパク質またはdCas9とリプレッサーの融合を本発明の方法、組成物、細胞、キット、使用およびシステムで使用し得る。より具体的には、活性化または抑制は、相同塩基対のみに基づいて標的DNA配列を認識するsgRNAにより決定され得る。dCas9による抑制は、裸の変異導入タンパク質が標的に誘導されるときに達成される。この抑制は、ガイドがdCas9を所望の遺伝子、特にMPO遺伝子のプロモーター領域に向ける場合、およびガイド配列が遺伝子の非テンプレート鎖に相補的である場合に、より効果的である。しかし、これは必須ではなく、いくつかの事例では、遺伝子中の異なる領域への誘導、または逆テンプレートも同様に効率的に抑制できる。
【0089】
dCas9による抑制は、dCas9を既知のリプレッサーに融合することにより高めることができる。このようなリプレッサーの非限定的例は、標的の抑制を強化するKruppel関連ボックス(KRAB)ドメインであり得る(Gilbert et al.,Cell 154:442−451(2013))。またいくつかの代替実施形態では、MPOの発現および/または活性の強化が望ましい場合には、dCas9による活性化は、転写活性化因子がそれに融合される場合に達成し得る。このような活性化剤の非限定的例は、VP16としても知られる単純ヘルペスウィルスタンパク質vmw65であり得る(Gilbert et al.,Cell 154:442−451(2013))。あるいは、ガイドRNAそれ自体を、活性化剤またはリプレッサーを動員するように、従って、裸のdCas9を動員し、結果を指示するように改変できる(dCas9の代わりにまたはそれに追加して)(Zalatan et al.,Cell 160:339−350(2015))。例えば、ガイドは、特異的結合タンパク質を動員するRNAドメインをコードできる。このRNA結合タンパク質は活性化剤(例えば、VP16)またはリプレッサー(例えば、Krab)に融合され得、従って、リプレッサーまたは活性化剤とdCas9全部の動員は、所望の結果、特にMPO遺伝子の抑制または活性化をもたらす。
【0090】
遺伝子編集システムが、本発明によりMPOのレベル、発現および/または活性を操作するために使用される場合、このようなシステムは、このシステムの成分、例えば、Cas9および特異的gRNAをコードする核酸配列を含む構築物をコードする核酸配列として、送達され得ることを理解されたい。しかし、本発明は、そのいくつかの実施形態では、機能性複合体として送達される精製Cas9および精製gRNAを含むCas9/gRNAリボ核タンパク質複合体(Cas9 RNP)を使用する選択肢をさらに包むことを理解されたい。いくつかの特定の実施形態では、精製gRNAは、アニールされたgRNAオリゴのPCR増幅またはプラスミド(Addgeneプラスミド42250など)を含む直線化gRNAのインビトロ転写により生成できる。Cas9(または本明細書で考察されるCas9のいずれかのバリアント)は、細菌性Cas9発現プラスミドの使用により細菌から精製できる。またいくつかのさらなる実施形態では、標的細胞へのCas9 RNP送達は、いくつかの特定の非限定的実施形態では、脂質媒介遺伝子導入または電気穿孔を介して実施され得る。
【0091】
上で示したように、本発明の方法、組成物、細胞、キット、使用およびシステムは、RNAを切断するヌクレアーゼの使用をさらに包含し得る。従って、いくつかの実施形態では、本発明により使用され得る誘導型RNAヌクレアーゼは、RNAを標的とするCRISPR−Casシステムであり、好都合である場合がある(例えば、CRISPR−Cas II−A型および新規特定CRISPR−Cas C2c2)。上で示したように、本発明の方法は、本明細書で記載の遺伝子編集システムの使用、あるいは、調節されたMPO発現および/または活性を示す未分化BM細胞の使用を伴い得る。従って、いくつかの実施形態では、細胞が本発明の方法により使用される場合、本明細書で適用可能な未分化BM細胞集団は、これらの細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入または遺伝子導入されたBM細胞集団であり得る。いくつかの実施形態では、このような未分化BM細胞集団は、自己源あるいは同種間源あるいは同系源由来であり得ることに留意されたい。またさらなる代替実施形態では、本発明の方法は、抑制されたまたは除去されたMPO発現および/または活性を示す同種対象の未分化BM細胞集団を使用し得る。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、MPO発現および/または活性を除去するように遺伝子操作された未分化BM細胞集団を使用し得る。
【0092】
従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法に好適な細胞は、自己源由来であり得る。細胞の起源に関連する場合、用語の「自己」は、本発明の方法により治療される同じ対象から誘導または導入された細胞を指す。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法に好適な細胞は、自己源由来の細胞であり得る。細胞の起源に関連する場合、用語の「同種間」は、同じ種の、本明細書でドナーとして言及される、異なる対象から誘導または導入された細胞を指す。
【0093】
より具体的には、上で示したように、本発明の方法はまた、MPO遺伝子の改変がエクスビボで、対象の細胞に(自己源の細胞)あるいは同種源の細胞に対し実施され得る選択肢を包含することを理解されたい。またいくつかの他の代替実施形態では、調節されたMPO発現および/または活性を示す同種未分化BM細胞を使用し得る。従って、自己または同種(あるいは同系)起源由来の細胞は、養子移入により対象に投与され得る。本明細書で定義される用語の「養子移入」は、免疫系の成分、特に、すでに特異的免疫応答を開始できる細胞の導入からなる全ての治療法に当てはまる。またさらに、いくつかの実施形態では、本出願に好適な細胞は、固定化HSPであり得る。造血幹細胞(HSC)は通常、骨髄中に存在するが、末梢血中の多数のHSCを採取するために使用される骨髄可動化と呼ばれるプロセスにより、強制的に血液中に入れることができる。本発明に最適の稼働化剤(mobilizing agent)の1種は、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)であり得る。得られたHSCは、さらに可動化(mobilized)HSCと呼ばれる。
【0094】
骨髄注射の場合、標的細胞はHSPCであり得、全身注射の場合、標的細胞は、可動化HSPCであり得る(患者が固定化の前処理に供される場合)。遺伝子編集化合物の骨髄注射、およびいくつかの実施形態では、全身注射は、対象中のMPOのインビボ操作に特に好適であり得ることに留意されたい。
【0095】
本発明は、インビボで、本発明の遺伝子編集システムを用いて、またはエクスビボで改変された、特に低減されたMPOの発現、レベルおよび/または活性を示すBM細胞を移植(例えば、養子移入)することにより、未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を単に調節することにより、対象中の、特に上記対象のいずれかの組織または臓器中のMPOのレベル、発現および活性を調節する、特に低減するための方法および組成物を提供する。従って、意外にも本発明により示されるように、特定の組織、例えば、PDおよびADの神経変性により冒された脳領域におけるMPO免疫反応性細胞の顕著な増大を示し得る脳組織のMPOレベルおよび/または活性の効果的調節が、BM細胞中のMPOレベルおよび/または活性を調節することにより達成され得る。より具体的には、いくつかの実施形態では、上記調節が標的脳組織またはその任意の成分、例えば、星状膠細胞、ミクログリアおよび/または神経中で実施されなかった場合、MPOの調節は、BM細胞中で実施された。本明細書に記載のように、本発明の方法は、治療される対象のBM細胞中でのMPO発現および/または活性をインビボ調節できる少なくとも1種の遺伝子編集/システム、例えば、上記のCRISPR/Cas9であるPENを投与することにより、あるいは、調節されたMPO発現および/または活性を示す未分化BM細胞(エクスビボ操作またはMPO欠損同種間対象から得た)を投与することにより、MPOの発現および/または活性を調節することを含む。同様に本明細書で記載のように、用語の調節は、MPO発現および/または活性の増大または低減などの、MPOの元の非調節発現および/または活性または対照または特定の条件下で測定したMPO発現/活性の通常もしくはベースラインレベルと比べて、何らかの変化または改良を指す。
【0096】
従って、いくつかの実施形態では、MPOの発現および/または活性の調節は、上記対象中のMPOのレベル、発現および/または活性の抑制または除去を含み得る。いくつかの実施形態では、MPOの発現またはレベルまたは活性の「低減」または「抑制」が示される場合、このような低減または抑制は、MPOの発現、レベル、安定性および/または活性の約10%〜100%の低下または減少であり得ることが意図される。本明細書で使用される場合、用語の「低減」または「抑制」は、連続的により小さなサイズ、量、数、または強度になる作用に関する。特にMPO発現、レベル、安定性および/または活性の、好適な対照、例えば、健康な対象の細胞中の、特に、MPOの正常なレベルおよび/または活性を示す健康な対象の細胞中の好適な対照に比べて、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または約100%のまたはそれを超えるMPO発現、レベル、安定性および/または活性の低下、減少、除去、減弱化または抑制に関する。
【0097】
しかし、MPOの発現および活性を調節する方法、組成物、細胞、キットおよびシステムを提供することにより、本発明は、そのいくつかの代替実施形態では、それを必要とする対象中のMPOの発現および/または活性の強化、確立または増大を含み得るMPOの発現および/または活性の調節をさらに包含することを理解されたい。
【0098】
いくつかの実施形態では、MPOの発現またはレベルまたは活性の「増大」または「強化」を示す場合、このような増大または強化は、MPOの発現、および/または安定性の約10%〜100%の増大または強化であり得ることが意図される。本明細書で使用される場合、用語の「増大」、「増強」または「強化」は、連続的により大きなサイズ、量、数、または強度になる作用に関する。特に、好適な対照に比べて、MPOの発現、レベル、安定性および/または活性の、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、70%、800%、900%、1000%のまたはそれを超える増大に関する。増大または上昇はまた、約2〜10倍のまたはそれを超える増大であり得ることにさらに留意されたい。またさらに、MPOの発現、レベル、安定性および/または活性の増大は、前記MPOの翻訳または安定性、および/または上記MPOの活性におけるものであり得ることを理解されたい。上記の場合、例えば、10%、50%、120%、500%などのパーセンテージ値が提供される場合、これは、「倍率変化」値、すなわち、それぞれ、0.1、0.5、1.2、5、などと交換可能であることを理解されたい。従って、用語の増大は、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000倍のまたはそれを超える増大を指す。
【0099】
上で示したように、本発明は、MPOの発現および/または活性を調節する(例えば、低減させるあるいは強化する)ための、方法、組成物、細胞、キットおよびシステムを提供する。本明細書で使用される場合、MPO発現はまた、タンパク質の安定性を反映し得る。より具体的には、本明細書で使用される場合、「発現」は通常、遺伝子、特にMPO遺伝子コード情報が、細胞中に存在しおよび機能する構造体に変換されるプロセスを指す。従って、本発明では、遺伝子の「発現」は、特に、ポリヌクレオチドへの転写、タンパク質への翻訳、あるいはタンパク質の翻訳後修飾を指し得る。本明細書で使用される場合、タンパク質安定性は、タンパク質の物理的(熱力学的)安定性、および化学的安定性を指し、タンパク質がその天然の折り畳み構造にあるかまたは変性状態にあるかを決定するネットバランスに関する。より具体的には、細胞中のMPOなどのタンパク質のレベルは、上で考察した合成速度によるのみでなく、細胞内のタンパク質の分解速度および数分から数日間にわたり広く変動する半減期によっても決定される。真核細胞では、2つの主要な経路、前に本明細書で言及したユビキチン−プロテアソーム経路、およびリソソームタンパク質分解、がタンパク質分解を媒介する。
【0100】
またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法は、MPOの活性を調節(低減あるいは強化)し得る。より具体的には、本明細書で使用される場合、MPO活性は、MPOにより実施される任意の活性、例えば、次亜塩素酸(HOCl)、次亜臭素酸(HOBr)、および次亜チオシアン酸(HOSCN)、チロシルラジカルなどの反応性中間体、および過酸化水素(H)および塩化物アニオン(Cl)、ブロミド(Br)、チオシアネート(SCN)、チロシンおよび亜硝酸塩から活性窒素中間体の産生を触媒するペルオキシダーゼ活性を指し得る。またいくつかのさらなる実施形態では、MPO活性は、MPO/HOCl系を介した好中球による細菌(例えば、緑膿菌)および真菌(例えば、カンジダ・アルビカンス)の細胞内死滅に関連し得る。
【0101】
またいくつかのさらなる実施形態では、MPO活性はまた、MPOにより、少なくとも部分的に、引き起こされる、または直接的にまたは間接的に媒介されるいずれかのプロセスにも関する。以前に本明細書で示したように、このような活性は、MPOのヘムドメインにより、または任意の他のMPOドメインにより媒介され得ることを理解されたい。このような活性の非限定的実施形態は、MPOにより媒介されるネトーシスに関する。より具体的には、好中球細胞外トラップ(NET)は、主に、病原体を結合する好中球由来のDNAから構成される細胞外繊維のネットワークである。NETは、好中球が細胞外病原体を死滅させるのを可能にすると同時に、宿主細胞への損傷を最小限にする。
【0102】
NETの活性化および放出、すなわち、ネトーシスは、2つの形式、特攻隊型NET放出(suicidal NETosis)およびサバイバル型NET放出(vital NETosis)がある動的プロセスである。全体として、プロセスの主要成分の多くは、両方のネトーシスのタイプについて類似しているが、しかし、刺激、タイミング、および最終的な結果の活性化経路に重要な違いが存在する−このプロセスは反応性酸素種(ROS)中間体を介するタンパク質−アルギニンデイミナーゼ4(PAD4)のNADPHオキシダーゼ活性化から始まる。PAD4は、好中球中のヒストンのシトルリン化に関与し、クロマチンの脱凝縮をもたらす。次に、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)および好中球エラスターゼ(NE)などのアズール親和性顆粒タンパク質が核およびその後、脱凝縮プロセスに侵入し、核膜の破壊をもたらす。未縮合のクロマチンは、細胞質に侵入し、そこで、追加の顆粒および細胞質タンパク質が初期段階NETに付加される。プロセスの最終結果は、どのネトーシス経路が活性化されるかに依存する。特攻隊型NET放出は、アポトーシスまたはネクローシスとは異なる経路によるNETの放出が好中球死を生ずることを指摘した研究で最初に記載された。特攻隊型NET放出では、細胞内のNET形成に細胞膜の破壊が続き、それを細胞外間隙中に放出する。このネトーシス経路は、トール様受容体(TLR)、Fc受容体、および補体受容体の抗体、PMAなどの種々のリガンドによる活性化により開始できる。これらの受容体の活性化時に、下流シグナル伝達により、小胞体からカルシウムが放出される。このカルシウムの細胞内流入は次に、NADPHオキシダーゼを活性化し、上述のネトーシス経路が活性化される。サバイバル型NET放出は、TLR2リガンドと並行して、細菌性リポ多糖類(LPS)、他の細菌産物、TLR4活性化血小板、または補体タンパク質により刺激され得る。サバイバル型NET放出は、核の小疱形成により可能になり、エキサイトーシスによって放出されるDNA充填小胞を生じ、細胞膜を無傷のまま残す。その急速な形成および放出は、好中球死を生じないが、しかし、細胞はDNAがなく、DNAのない細胞を生きていると見なすことができるかどうかという疑問が生ずる。好中球は、サバイバル型NET放出後に、病原菌を貪食し死滅させ続けることができ、好中球の抗菌万能性を明確に示していることに留意されたい。上で詳述したように、MPO活性は、MPO触媒活性とは別である機序(「非酵素的作用」)により媒介され得る。いくつかの他の実施形態では、用語のMPO活性は、MAPKおよびNFkB活性、ROS産生、表面インテグリン発現上昇、および脱顆粒、ならびに肺中の増大した炎症に繋がるアポトーシスの低減、の少なくとも1つを指す。いくつかの特定の実施形態では、用語のMPO活性は、ヒト好中球のアポトーシスの抑制を指す。いくつかの実施形態では、用語のMPO活性は、MPOのCD11b/CD18インテグリンへの結合から生じるプロセスを包含する/プロセスに関連する。いくつかの実施形態では、MPO活性は、多形核好中球(PMN)シグナル伝達経路のPMN活性を誘導するためのシミュレーションを指す。いくつかの他の実施形態では、MPO活性は、MPOの好中球のための生存シグナルとしての役割を果たし、それにより炎症の延長に寄与する能力を指す。いくつかの他の実施形態では、用語のMPO活性は、内皮細胞活性化を指す。またいくつかの他の実施形態では、用語のMPO活性は、樹状細胞(DC)機能および適応免疫の抑制を指す。DCは、哺乳動物免疫系の抗原提示細胞(アクセサリー細胞としても知られる)であり、それらの機能は、抗原物質を処理し、それを免疫系のT細胞に対し細胞表面上で提示することである。DCは、自然免疫系と適応免疫系の間のメッセンジャーとして機能する。
【0103】
いくつかの実施形態では、MPO活性は、MPOの因子H(FH)への結合を介するFHの補体調節活性の効果を指す。MPO−FH相互作用は、補体活性化副経路の活性化へ寄与することにより、(ANCA)関連血管炎(AAV)の病因に関与し得ることが示唆された。いくつかの実施形態では、MPO活性は、脈管構造中の高グルコース誘導内皮機能障害の増幅を指す。いくつかの実施形態では、MPO活性は、ヒト血小板への結合、アクチン細胞骨格再構成の誘導、およびヒト血小板の機械的剛性に影響を及ぼすことを指す。これは、次に、ストア作動性Ca2+流入(SOCE)の増強およびアゴニスト誘導ヒト血小板凝集をもたらす。いくつかの実施形態では、MPO活性は、内皮NO合成酵素(eNOS)のリン酸化の低下を指す。これは、さらにNO産生の低下を起こし得、これは、そのニトロシル化を低減させることにより、結果的にカルパイン活性を高める。いくつかの実施形態では、MPO活性は、MPOの赤血球(RBC)膜への結合を指す。
【0104】
またいくつかのさらなる実施形態では、MPO活性は、本明細書で前に示した脂質過酸化を指し、いくつかの実施形態では、特にLDL過酸化を指す。いくつかの実施形態では、MPO活性は、脂質カルバミル化を指し得る。またいくつかのさらなる実施形態では、MPO活性は、糖衣結合を指し得る。
【0105】
従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法、細胞、組成物およびキットは、上で特定したMPO活性、またはそのいずれかの組み合わせの少なくとも1つを調節、特に、抑制、減少または低減し得る。本発明の方法は、特に、対象の未分化BM細胞内のインビボMPO発現および/または活性の操作をもたらす遺伝子編集ツールを対象に適用することにより、対象のMPO発現、レベルおよび/または活性の調節、特に低減または増大を可能にする。代わりにまたは追加して、対象は、必要とされるMPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団を投与され得る。操作はエクスビボで起こり得、同種または自己源のBM細胞が本発明により提供される編集ツールと接触させられる場合、かつMPO発現および/または活性の操作後直ちに、細胞は対象に導入される(自己細胞の場合には、再導入される)ことに留意されたい。治療される対象へのこのようなBM細胞の導入は、対象中のMPOの発現および/または活性の操作をもたらす。あるいは、同様に実施例により示されるように、調節された(増大または低減された)MPOの発現および/または活性を示す同種対象のBM細胞は対象に導入され、対象中のMPOの操作をもたらし得る。従って、いくつかの実施形態では、このような操作は、本明細書で後に記載されるように、MPOの発現および/または活性のインビボ(すなわち、哺乳動物の身体中で)またはエクスビボ(すなわち、身体から取り出された細胞中で)操作を包含する。
【0106】
いくつかの実施形態では、方法は、少なくとも1種の遺伝子編集化合物を、それを必要としている対象へ投与し、それにより対象の未分化BM細胞中のMPOのインビボ操作を可能にすることを含み得る。このような投与方法は、当技術分野において既知であり、以降でさらに詳述されることに留意されたい。
【0107】
いくつかの実施形態では、方法はエクスビボ適用を含む。本開示との関連で、エクスビボは、本発明で提供される少なくとも1種の遺伝子編集化合物またはシステムを対象から取り出した、回収したまたは取得したBM細胞と接触させるステップを指す。これらの細胞は、細胞中のMPOの発現および/または活性を調節するのに好適な条件下で、遺伝子編集システムと接触させられ得る。本明細書で使用される場合、用語の「接触」は、一緒にする、寄せ集める、一緒にインキュベートするまたは混合することを意味する。従って、例えば、それらを相互に接触させるまたは混合することにより、第1の項目と第2の項目が一緒にされるまたは寄せ集められる場合、第1の項目が第2の項目と接触させられる。本発明との関連で、用語の「接触」は、本発明の遺伝子編集化合物と、細胞または、インビボで実施される場合は調節される対象との間の相互作用を可能にする全ての手段またはステップを含む。いくつかの実施形態では、接触ステップの前にまたは後で、BM細胞は、選別を受けて、未分化細胞を単離し得る。未分化BM細胞を、対象から取り出された、回収されたまたは取得されたBMから単離するステップは、任意のステップであることに留意されたい。いくつかの実施形態では、BM細胞は、少なくとも1種の遺伝子編集化合物、特に本発明により開示されるいずれかの遺伝子編集化合物またはシステムと接触させられ得る。いくつかの実施形態では、HSCおよび/または前駆細胞を含む単離未分化BM細胞集団は、少なくとも1種の遺伝子編集化合物と接触させられ得る。いくつかの代替実施形態では、BM細胞は、少なくとも1種の遺伝子編集化合物と接触させられ、HSCおよび/または前駆細胞を含む未分化BM細胞集団は単離される。
【0108】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の遺伝子編集化合物はBM細胞集団、特に未分化BM細胞集団と、MPOの調節を可能にしかつ改変されたBM細胞集団を作製できる十分な時間にわたり接触させることができる。
【0109】
従って、いくつかのその態様では、本開示は、改変されたBM細胞集団を提供し、いくつかの実施形態では、このようなBM細胞集団中で、少なくとも一部の細胞(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%、60%、70%、80%、90%以上、あるいは100%)、および好ましくは、ほとんどの細胞が、調節されたMPO発現および/または活性を示す。いくつかの実施形態では、改変されたBM細胞集団は、未分化BM細胞、特に、調節されたMPO発現および/または活性を示すHSCおよび/または前駆細胞を含み得る。いくつかの実施形態では、改変されたBM細胞集団は、調節されたMPO発現および/または活性を有するHSCを含み得る。本発明では、用語の「改変されたBM細胞」または「改変されたBM細胞集団」は、MPO発現および/または活性を調節することによりエクスビボで改変されたBM細胞を表すために使用される。
【0110】
上で示したように、本発明は、特に、対象の未分化BM細胞中のMPOを標的化し、それにより上記対象の任意の組織および臓器中のMPOレベルの操作をもたらすことにより、対象の免疫系を操作する方法を提供する。次の態様で示すように、本発明は治療適用のために、特にMPO関連状態の治療のために、このような調節をさらに使用する。従って、いくつかの特定の非限定的実施形態では、本発明は、調節されたMPOのレベル、発現および/または活性を示すために、対象の、特に対象のBM細胞の免疫系を操作することにより、対象のMPOのレベル、発現および/または活性を調節するための方法、組成物およびキットを提供することを理解されたい。換言すれば、操作された免疫系(自己または同種または同系源の)を提供することにより、あるいは、本明細書で提供される遺伝子編集システムを使って対象の免疫系をインビボ操作すること(例えば、遺伝子編集システムの化合物を対象に投与すること)により、上記対象のBM細胞集団は調節されたMPOレベル、発現および/または活性を示す。従って、本発明のキットおよび組成物は、上記対象の任意の組織および臓器中のMPOの発現および/または活性を調節するための先駆的戦略を提供する。この戦略は、明確な効果的治療適用を示す。またいくつかのさらなる特定の実施形態では、対象の免疫系のこのような操作は、MPOの調節されたレベル、発現、および/または活性を示すBM細胞をそれを必要としている、いくつかの実施形態では、移植の前に免疫アブレーションを受ける対象に移植することにより達成され得る。MPOの調節された(例えば、低減されたまたは除去された)レベル、発現または活性を示すBM細胞を移植することにより、移植された対象は、任意の組織および臓器中の調節されたMPOの発現を示す。本発明により詳細に説明されるように、移植されるBM細胞は、同じ対象から取得され、本発明の遺伝子編集システムを用いてエクスビボ操作されて、MPOのレベル、発現または活性を調節した自己BM細胞であり得ることを理解されたい。例えば、いくつかの特定の実施形態では、対象から取得されたBM細胞は、MPOレベル、発現および/または活性の除去および低減をもたらし得る本発明の遺伝子編集システムにエクスビボで供され得る。あるいは、調節されたMPOレベル、発現および/または活性を示す(天然で、または本発明の遺伝子編集システムを適用することにより)同種または同系源の未分化BM細胞を使用し得る。MPO欠損のこのような自己または同種BM細胞は、免疫アブレーション化合物で処理され得る対象に再導入され、それにより、これらの操作され移植されたBM細胞が対象の免疫系を置換する。この手順は、対象の任意の臓器または組織中のMPOの枯渇を生ずる。MPO枯渇BM細胞は、対象あるいは同種間対象から取得され得ることを理解されたい。より具体的には、これらの自己または同種BM細胞の対象への移植、または換言すれば、対象の免疫系細胞の、調節されたMPOレベル、発現および/または活性(例えば、除去されたまたは低減されたMPOレベル、発現および/または活性)を示すBM細胞による置換は、上記対象の全ての組織および臓器中のMPOレベル、発現および/または活性の調節をもたらす。MPOは、Mpo−/−マウスでの高められたT細胞媒介皮膚遅延型過敏症および抗原誘導関節炎の2つのモデルにより示される適応免疫応答の抑制に関与する。機構的には、好中球から放出されたMPOは、低減されたIL−12産生および結果としてのCD86発現により測定される、LPS誘導DC活性化を抑制し、T細胞増殖性および炎症促進性サイトカイン産生を制限する。対照的に、自己免疫性炎症を促進するMPOの病原的役割は、MPO欠損マウスを用いて、低減された疾患重症度を示すK/BxN関節炎およびコラーゲン誘発関節炎(CIA)モデルで実証された。また、高められたMPOレベルおよび活性は、多発性硬化症(MS)および関節リウマチ(RA)を含む多くの炎症状態および自己免疫疾患で観察された。MPOは、アテローム性動脈硬化症などの慢性血管疾患に関連する脈管構造機能の調節に関与する。細胞外マトリックス(ECM)中では、MPOは、内皮弛緩をもたらすNOを消費する一酸化窒素(NO)除去剤として機能する。アテローム血栓性組織中に存在するMPOおよびその酸化性種は、脂質過酸化、LDLの高取込みアテローム生成型への変換を促進し、より劣化を受けやすい機能障害性HDL粒子を生成するアポリポタンパク質A−I(apo−I)を選択的に調節し、コレステロール流出を促進するapoA−Iの能力を低下させる。さらに、高い全身レベルのMPOおよびその酸化生成物は、増大した心臓血管リスクと関連する。上で示したように、MPOは、種々の病態に結び付けられてきており、そのMPO発現の調節は、それにより引き起こされる障害または状態を治療するための特異的治療手段を提供する。
【0111】
本発明は、そのいくつかの実施形態では、少なくとも1つのMPO関連状態を罹患している対象のMPO発現および/または活性を調節する方法をさらに包含する。方法は、本明細書で上記した通りである。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明は、本発明で開示のように、特に、それを必要としている対象の少なくとも1つのMPO関連障害の治療および抑制のための、MPOレベルおよび/または活性の調節方法の使用も包含する。
【0112】
従って、さらなる態様では、本開示は、哺乳動物対象におけるMPO関連状態を治療、防止、回復、抑制するまたはその発症を遅らせる方法を提供する。より具体的には、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、(a)対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる、またはそれに適合された、少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種の治療有効量を上記対象に投与するステップを含み得る。本明細書で記載の方法は、MPO関連状態を罹患している対象を(a)、(b)またはこれらの任意の組み合わせで治療することを包含することを理解されたい。またさらに、いくつかのその態様では、本発明は、哺乳動物対象のMPO関連状態の治療、防止、回復、抑制または発症の遅延化方法で使用するための、(a)前記対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる、またはそれに適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種の治療有効量を提供することを理解されたい。
【0113】
本明細書に記載のように、BM細胞集団および特に、未分化BM細胞集団は、いくつかの実施形態では、未分化未成熟BM細胞、特に、MPOの発現および/または活性が調節されるHSCを指し得る。いくつかの実施形態では、細胞が本発明の方法により使用される場合、未分化BM細胞集団は、MPO遺伝子が調節されるように、細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入または遺伝子導入される。
【0114】
未分化BM細胞集団は、それを必要としている対象に投与され、異常なMPO発現および/または活性を有する対象、特にMPO関連状態を示す対象中のBM細胞を置換する。いくつかの実施形態では、治療される対象のBM細胞集団の置換は、調節されたMPOの発現、レベル、および/または活性を示すBM細胞による対象の細胞集団の約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%あるいは100%の対象の細胞集団の置換を含み得ることを理解されたい。理解されるように、未分化BM細胞集団の投与は、本明細書のいくつかの実施形態では、骨髄移植と呼ばれる。
【0115】
いくつかの実施形態では、BM細胞集団および特に未分化BM細胞集団は、自己源から、あるいは同種間源から取得され得る。いくつかの実施形態では、骨髄移植は、自己骨髄移植であり得る。用語の自己骨髄移植は、BM細胞が対象から取り出され、回収されまたは取得され、その後同じ対象に移植される移植を指す。本開示との関係で、自己骨髄移植は、いくつかの実施形態では、次の:(a)対象からBM細胞を回収または取得するステップ;(b)BM細胞を少なくとも1種の遺伝子編集化合物と、特に、MPO発現および/または活性の操作に好適な条件下で接触させるステップ;および(c)BM細胞を同じ対象に移植する(または再導入する)ステップ、を含み得る。いくつかの実施形態では、上記ステップ(a)は、HSCおよび/または前駆細胞の単離を続けて行い得る。いくつかの代替実施形態では、上記ステップ(b)は、HSCおよび/または前駆細胞の単離を続けて行い得る。いくつかの特定の実施形態では、自己骨髄移植は、次の:(a)対象からBM細胞を取り出す、回収するまたは取得するステップ;(b)BM細胞からHSCおよび/または前駆細胞などの未分化細胞を単離するステップ;(c)未分化細胞を少なくとも1種の遺伝子編集化合物と接触させるステップ;および(d)未分化細胞を同じ対象に移植するステップ、を含み得る。いくつかの実施形態では、骨髄移植は、同種骨髄移植であり得る。用語の同種骨髄移植は、BM細胞が対象(本明細書においては、ドナーと称する)から取り出され、その後異なる対象(本明細書においては、レシピエントと称する)に移植される移植を指す。
【0116】
本開示との関係で、同種骨髄移植は、次の:(a)ドナーからBM細胞を取り出す、回収するまたは取得するステップ;(b)任意選択で、BM細胞を本発明の少なくとも1種の遺伝子編集化合物と接触させるステップ;および(c)BM細胞をレシピエントに移植するステップ、を含み得る。いくつかの実施形態では、上記ステップ(a)は、HSCおよび/または前駆細胞の単離を続けて行い得る。いくつかの代替実施形態では、上記ステップ(b)は、HSCおよび/または前駆細胞の単離を続けて行い得る。いくつかの特定の実施形態では、同種骨髄移植は、次の:(a)ドナー対象からBM細胞を取り出す、回収するまたは取得するステップ;(b)BM細胞からHSCおよび/または前駆細胞などの未分化細胞を単離するステップ;(c)未分化細胞を少なくとも1種の遺伝子編集化合物と、MPO操作を可能とする好適条件下で接触させるステップ;および(d)未分化細胞をレシピエントに移植するステップ、を含み得る。
【0117】
自己骨髄移植および同種骨髄移植は、同じまたは異なる対象への移植ステップの前に、BM細胞または未分化BM細胞を貯蔵するステップを含み得ることに留意されたい。さらに別の代替ステップでは、BM細胞は、移植の前にさらに消費され得る。
【0118】
いくつかの実施形態では、自己骨髄移植ならびに同種骨髄移植は、移植された対象の元(非調節)のMPO発現および/または活性と比べて、調節されたMPO発現および/または活性を特徴とすることに留意されたい。換言すれば、移植されるBM細胞または移植される未分化BM細胞は、移植プロセスにより置換されるべきBM細胞または未分化BMと比べて、異なる、調節されたMPO発現および/または活性を有することを特徴とする。
【0119】
本開示による同種骨髄移植は、調節されたMPO発現および/または活性を示すドナーから取得されたBM細胞の移植を包含する。いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、キットおよびシステムにより同種骨髄移植に使用されるBM細胞は、細胞中のMPOの発現および/または活性を調節するために適合される少なくとも1種の遺伝子編集剤とBM細胞とを接触させることにより得られる調節されたMPO発現および/または活性を有する未分化BM細胞であり得る。従って、いくつかの特定の実施形態では、同種骨髄移植の方法は、ドナーからBM細胞を取り出す、回収するまたは取得するステップ、その細胞(任意選択で、未分化細胞、特に、HSCおよび/または前駆細胞)を少なくとも1種の遺伝子編集化合物と接触させて、調節されたBM細胞を産生するステップを含み得る。いくつかの実施形態では、MPO調節BM細胞は、レシピエント対象に移植され得る。またいくつかの代替実施形態では、同種骨髄移植用のBM細胞または同種移植片は、異常なMPO発現および/または活性(調節された発現および/または活性)を示す対象から取得されたBM細胞集団であり得る。これらのBM細胞は、移植の前にさらに選別して、未分化BM細胞を単離できる。いくつかの特定の実施形態では、同種骨髄移植のための本発明の方法により使用される骨髄細胞は、抑制されたまたは除去されたMPO発現および/または活性を示す対象から取得されたBM細胞集団であり得る。これは、移植された対象中のMPO発現および/または活性の低減または抑制をもたらす。またいくつかの代替実施形態では、同種骨髄移植用の骨髄細胞は、検出可能なまたは高められたMPO発現および/または活性を示す対象から取得されたBM細胞集団であり得る。これは、移植された対象のMPO発現および/または活性の増大または上昇をもたらす。
【0120】
本発明は、特に、調節されたMPO発現および/または活性を可能にするように任意選択で操作される、遺伝的に同一である同じ種の対象の同系未分化BM細胞の使用をさらに包含することを理解されたい。
【0121】
いくつかの実施形態では、同種骨髄移植用のBM細胞は、異常なMPO発現および/または活性(調節された発現および/または活性)を示す対象から取得されたBM細胞集団(任意選択で、未分化BM細胞)であり得、および調節されたBM細胞を産生するために細胞(任意選択で、未分化細胞:HSCおよび/または前駆細胞)を少なくとも1種の遺伝子編集化合物と接触させることによりさらに調節され得る。
【0122】
これに関連して、BM細胞は、レシピエントと組織型適合性を示す必要があることに留意されたい。いくつかの実施形態では、本明細書で記載の方法は、投与の前に、特に、BM細胞の移植の前に、レシピエント対象に対する、化学療法剤および/または照射の適用、および/または抗体および/またはキメラ抗原受容体(CAR)結合アブレーションの使用など、またはこれらのいずれかの組み合わせをさらに含み得る。またいくつかのさらなる実施形態では、ドナーからBM細胞を取得するために、方法は、本明細書で後に考察するように、細胞の固定化ステップをさらに含み得る。
【0123】
本開示との関連では、取得または移植は、当該技術分野における任意の既知の方法、例えば、骨髄生検および/または骨髄吸引により実施できる。骨髄吸引は、局所または全身麻酔下で実施できる。加えて、BM移植は、注入などの、当該技術分野で既知の任意の方法により実施できる。
【0124】
またさらに、骨髄注射の場合、標的細胞はHSPCであり得、全身注射の場合、標的細胞は、可動化HSPCであり得る(患者が固定化の前処理に供される場合)。骨髄注射ならびに全身注射(例えば、静脈内IV)の両方は、MPO発現および/または活性を操作する本発明の遺伝子編集化合物によるBM細胞のインビボ操作および標的化に特に好適であり得ることに留意されたい。
【0125】
またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法により治療される患者は、免疫アブレーションを含み得る前処理に供され得る。癌、自己免疫疾患などのいくつかのタイプの病状の治療は多くの場合、患者自身の免疫系を除去するために、例えば、骨髄細胞移植片の移植の前に、免疫アブレーションを伴う。免疫アブレーションは、全身照射または高用量化学療法、抗体の使用、キメラ抗原受容体(CAR)結合アブレーションなど、またはこれらの任意の組み合わせにより実現できる。従って、用語の「免疫アブレーション(immune ablation)」または「免疫アブレーション(immunoablation)」は、医学的目的のための患者の免疫耐性の破壊を指す。またさらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法により治療される患者は、ステロイドによる前処理に供され得る。いくつかの実施形態では、このような処理は、ステロイド投与であり得、免疫応答を抑制するためにも使用される。薬理的(超生理学的)投与において、グルココルチコイドなどのステロイドが、種々のアレルギー疾患、炎症疾患、および自己免疫疾患を抑制するために使用される。
【0126】
本明細書で上記したように、本発明の方法、組成物およびキットで使用される遺伝子編集化合物は、処理される対象の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または発現をインビボで、あるいは自己または同種BM細胞中のMPOの発現および/または発現をエクスビボで調節し得る。本発明の方法では、少なくとも1種の遺伝子編集化合物は、少なくとも1種のPEN、上記PENをコードする配列を含む任意の核酸分子または少なくとも1種のPENまたはこのようなPENをコードする核酸配列を含む任意のキット、組成物またはビークルを含み得る。
【0127】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種のPENは、少なくとも1種のCRISPR/Casシステムを含み得る。このような実施形態では、本発明の方法は、(a)少なくとも1種のCasタンパク質を含む少なくとも1種のポリペプチド、または上記Casタンパク質をコードする任意の核酸配列、および(b)MPO遺伝子内のプロトスペーサーを標的とする少なくとも1種のgRNAを含む少なくとも1種の核酸配列、または上記gRNAをコードする任意の核酸配列、の有効量を上記対象に投与するステップを含み得る。本発明の方法は、(a)および(b)の少なくとも1種を含むキット、組成物またはビークルを使用し得る。
【0128】
本明細書に記載のように、いくつかの実施形態では、本発明の方法に適用可能なCasタンパク質は、クラス1およびクラス2のCRISPR結合システムの少なくとも1つのメンバーであり得る。いくつかの特定の実施形態では、本発明の方法で使用され得るCasタンパク質は、クラス2のCRISPR結合システムII型のメンバーであり得る。またいくつかのさらなる特定の実施形態では、Casタンパク質は、Cas9またはその任意のフラグメント、変異体、バリアンまたは誘導体であり得る。本発明の他の態様に関連して本明細書で記載される全ての遺伝子編集システムは、本態様にも適用可能であることを理解されたい。
【0129】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、CRISPR/Casシステムの要素として、少なくとも1種のgRNAまたはcrRNAを提供する。いくつかの実施形態では、crRNAは、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、ならびに配列番号94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、および106のヒトMPO遺伝子、またはそれらの任意のフラグメントのいずれか1つにより表される核酸配列を含む少なくとも1種のプロトスペーサーを標的にし得る。このようなcrRNAは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号42、配列番号47、配列番号50、配列番号55、配列番号60、配列番号63、配列番号66、配列番号71、配列番号74、配列番号77、配列番号80、配列番号85、配列番号88および配列番号91のいずれか1つにより表される核酸配列を含む。またいくつかのさらなる特定の実施形態では、本発明の方法で使用されるgRNAは、マウスMPO遺伝子を標的にし得る。いくつかの特定の実施形態では、このようなgRNAは、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13および配列番号14、またはこれらの任意のフラグメントにより表される核酸配列を含むマウスMPO内のプロトスペーサーを標的にする。またいくつかのさらなる特定の実施形態では、本発明の方法により提供されるgRNAは、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13および配列番号14により表される核酸配列を含み得る。
【0130】
本発明により提供される治療方法は、MPO関連状態に罹患している対象の治療に特に適用可能であり得る。本明細書で使用される場合、MPO関連状態または疾患という用語は、MPOの増大、欠損または低減した異常な発現および/または活性に関連する状態を含む。換言すれば、本明細書記載の方法は、欠損または低減したMPO発現に関連する状態および/または活性あるいは、高められたMPO発現および/または活性に関連する状態の治療において効果的である。理解されるように、MPO発現および/または活性を説明する相対的用語の「増大した」、「欠損した」、「減少した」または「低減した」は、特定の状態下で決定される発現/活性の対照または正常またはベースラインレベルに対比するものである。
【0131】
交換可能に使用される用語の「関連する(associated)」、「関連する(linked)」および「関連する(related)」は、本明細書で病態に言及する場合、少なくとの1つの共有する因果関係が偶発的な回数より多く同時に存在する、または少なくとも1種の疾患、障害状態または病態が第2の疾患、障害、状態または病態の原因である場合の疾患、状態、または任意の病態を意味することを理解されたい。いくつかの特定の実施形態では、本発明の方法は、増大した(上昇した)MPO発現および/または活性に関連するMPO関連状態に適用可能であり得る。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、通常の(上昇していないおよび低減されない)レベルのMPOを示し得る対象に適用可能であり得るが、しかし、MPOの量の低減は、MPOレベルに関連すると限らない上記対象のいずれかの状態または障害に有益な効果を示し得ることを理解されたい。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法によるMPOの調節は、MPO発現および/または活性の抑制または低減をもたらし、それにより増大したまたは上昇したMPO発現に関連する状態を回復し得る。いくつかの実施形態では、本発明の方法により治療可能なMPO関連状態は、免疫関連障害、神経変性疾患、呼吸障害、増殖性障害、血管障害またはこれらの任意の組み合わせの少なくとも1つであり得る。
【0132】
いくつかの実施形態では、MPO関連状態は、免疫関連障害であり得る。本明細書で使用される場合、「免疫関連障害」または「免疫介在障害」は、より具体的には、免疫系の抑制または活性化を介して、対象の免疫系に関連する任意の状態、または対象の、適応または自然免疫応答などの免疫応答の特定の成分の分解を低減することにより治療、防止または回復できる任意の状態を包含する。免疫関連障害は、感染性状態(例えば、ウィルス感染症)、代謝障害、自己免疫疾患、血管炎、炎症および増殖性障害、特に癌を含み得る。いくつかの実施形態では、免疫関連状態は、自己免疫疾患であり得る。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、自己免疫疾患の治療において適用可能である。自己免疫疾患は、正常な体部位に対する異常な免疫応答から生ずる状態である。自己免疫疾患の例としては、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、全身性エリテマトーデス(ループス)、1型糖尿病、乾癬/乾癬性関節炎、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、および血管炎が挙げられる。
【0133】
いくつかの特定の実施形態では、本発明の方法は、特に、多発性硬化症(MS)、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連障害、および全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患に適用可能である。
【0134】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、MSおよび任意の関連状態またはそれに関連する症状に適用可能である。本明細書で定義される用語の「多発性硬化症」(MS)は、ミエリン、乏突起膠細胞および軸索を破壊する中枢神経系の慢性炎症性神経変性疾患である。MSは、若年成人の間で最もよくある神経疾患であり、通常、20〜40才の間に現れる。MSの症状は、片方の眼の失明、複視などの視力障害の出現から筋力低下疲労、疼痛、痺れ、硬直および震え、協調運動障害および振戦、眩暈、不明瞭発語、嚥下困難、および情緒障害などの他の症状まで変化する。疾患が進行するのに伴い、患者は歩行運動能力を失い、認知機能低下、日々の活動の自己管理の喪失が生じ、重度障害および依存性になり得る。
【0135】
免疫系要素が脳細胞、特にグリアおよび/または神経を攻撃し、軸索の保護ミエリン鞘を損傷するので、MS症状は進行する。これらの攻撃が起こる領域は、脳を経由するメッセージの伝達を破壊する病変と呼ばれる。多発性硬化症は、疾患進行により特徴付けられる4つのタイプに分類される:(1)再発寛解型MS(RRMS)、これは、再発(症状の悪化の発作)に続く、寛解(安定化および起こり得る回復の期間;ある寛解では、完全回復があり、他の寛解では部分的な回復があるかまたは回復がない)を特徴とする。RRMSの症状は、軽度〜重度で多様であり得、再発は数日間または数ヶ月間続き得る。MSの80%を超える人が再発―寛解の循環から始まる;(2)二次性進行型MS(SPMS)は再発寛解型MSの人で発症する。SPMSでは、再発が起こるが、かなりの期間にわたる寛解(安定化)はなく、身体障害は継続的に悪化する;(3)一次進行型MS(PPMS)、これは、その発症からゆっくりと、着実に進行し、MS症例の20%未満を占める。寛解の期間はなく、症状は通常、強度が低下しない:および(4)進行再発型MS(PRMS)。このタイプのMSでは、ヒトは、症状の着実な悪化および寛解期間中の発作を経験する。本発明の方法は、MS患者のいずれかのタイプ、段階または状態に適用可能であることを理解されたい。本発明の方法を用いる治療は、いくつかの実施形態では、いずれかの症状の回復および/または発作間の寛解期間の延長をもたらし得る。
【0136】
またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法は、SLEおよび任意の関連状態またはそれに関連する症状に適用可能である。より具体的には、全身性エリテマトーデス(SLE)は、単にループスとしても知られる、自己免疫疾患である。症状は、人ごとに変化し、軽度から重度まであり得る。共通の症状としては、有痛性および、発熱、胸部痛、脱毛、口腔内潰瘍、リンパ節腫脹、疲労感、および顔面上の最もよくある赤い発疹が挙げられる。疾患は、紅斑と呼ばれる疾病の期間を特徴とし、寛解の期間中は、ほとんど症状がない。
【0137】
SLEの原因は明確ではないが、しかし、環境要因と共に遺伝に関連すると考えられている。円板状エリテマトーデス、新生児ループスおよび亜急性皮膚エリテマトーデスを含む多数の他のタイプのエリテマトーデスが存在する。本発明は、それぞれのこれらのタイプを包含することを理解されたい。
【0138】
またさらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、他の自己免疫疾患に関連し得る。例えば、ANCA関連障害の治療に関連し得る。本明細書で使用される場合、抗好中球細胞質抗体(ANCA)は、主にMPOまたはEGPAを標的とし、従って、MPO−ANCAとしても知られる核周辺抗好中球細胞質抗体(P−ANCA);主にプロテイナーゼ3(PR3)タンパク質を標的にし、従って、PR3−ANCAとしても知られ、主に、GPAに関連する細胞質抗好中球細胞質抗体(c−ANCA);およびx−ANCAとしても知られ、主にIgGタイプの好中球顆粒球(白血球の最もよくあるタイプ)および単球の細胞質中の抗原に対する自己抗体のグループである非定型ANCA(a−ANCA)を含む。p−ANCAはまた、いくつかの病状と関連し、これは、かなり特異的であるが、潰瘍性大腸炎;原発性硬化性胆管炎の大部分;巣状壊死性および半月体形成性糸球体腎炎;および関節リウマチに対し感受性でない。
【0139】
またさらに、これらのANCAは、膜結合型PR3/MPO結合により好中球および単球を活性化するのみでなく、内皮と相互作用して、接着因子の発現を高める。いくつかの研究は、血管炎寛解中の疾患再発の予測のANCA力価を調査したが、ANCA力価と、AAVの活性期での永久的透析要件との間の関連は十分に立証されなかった。アジアの国々では、MPO−ANCA関連血管炎は、PR3−ANCA関連血管炎よりも一般的である。それらは、多数の自己免疫疾患の血液検査として検出されるが、特に所謂ANCA関連血管炎(AAV)である全身性血管炎に関連し、これは、多発血管炎を伴う肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎、一次性微量免疫型壊死性半月体形成性糸球体腎炎(腎限局性顕微鏡的多発血管炎の1つのタイプ)、多発血管炎を伴うエオシン好性肉芽腫症(以前には、チャーグ・ストラウス症候群として知られる)および薬剤誘発性血管炎を含む。PR3誘導c−ANCAは、多発血管炎を伴う肉芽腫症の80〜90%に、顕微鏡的多発血管炎の20〜40%に、微量免疫型半月体形成性糸球体腎炎の20〜40%に、および多発血管炎を伴うエオシン好性肉芽腫症の35%に存在する。c−ANCA(非定型)は、嚢胞性線維症(標的抗原としてBPIを有する)の80%に、ならびに炎症性腸疾患、原発性硬化性胆管炎および関節リウマチ(複数の抗原性標的に対する抗体を有する)にも存在する。MPO特異性を有するp−ANCAは、顕微鏡的多発血管炎の50%に、一次性微量免疫型壊死性半月体形成性糸球体腎炎の50%に、および多発血管炎を伴うエオシン好性肉芽腫症の35%に認められる。他の抗原に対する特異性を有するp−ANCAは、炎症性腸疾患、関節リウマチ、薬剤誘発性血管炎、自己免疫性肝疾患、薬剤誘発性症候群および寄生虫感染に関連する。非定型ANCAは、薬剤誘発性全身性血管炎、炎症性腸疾患および関節リウマチに関連する。
【0140】
より具体的には、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AVV)は、小血管の炎症およびネクローシスを特徴とする全身性疾患であり、複数臓器損傷および機能不全を生ずる。腎臓は、最も高頻度に冒される臓器であり、微量免疫型分節性壊死性半月体形成性糸球体腎炎をもたらし、これはANCA関連糸球体腎炎(AAGN)と呼ばれる。
【0141】
臨床的および実験的証拠は、ANCAがヒトの微量免疫型壊死性半月体形成性糸球体腎炎(NCGN)および全身性血管炎小血管を引き起こすことを示す。
【0142】
いくつかの特定の実施形態では、本発明により開示された本発明の方法、ならびに組成物、細胞およびキットは、P−ANCA関連障害に適用可能である。
【0143】
より具体的には、抗好中球細胞質抗体の主要な標的抗原の1つは、MPOである。MPO−ANCAは、単一エピトープを標的にしないが、むしろ、主に重鎖のカルボキシ末端中の少数のMPO領域を標的にする。従って、MPOの発現、レベル、および/または活性を除去することにより、本発明の方法、組成物、細胞およびキットは、MPO中の自己抗体標的化エピトープのばらつきに対処する。
【0144】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、ANCA関連血管炎であるP−ANCA関連障害に適用可能である。AAVは、臨床的特徴に応じて、4つのカテゴリー:顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎を伴う肉芽腫症(GPA)、エオシン好性GPA(EGPA)および腎限局性血管炎(RLV)に分類される。臓器病変は、AAVの種々のカテゴリーに多くの変化を生じ、臨床症状は特異性に欠ける。
【0145】
集団レベルでは、微量免疫型GNの疫学および結果についてほとんど知られていない。PICGは、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)の症例の最大80%であり、米国では、その発生率は、1年当たり、百万人当たり7〜10症例であると推定される。微量免疫型GN(PICG)は、黒人に比べて、白人で好発し、男性と女性ではほぼ等しく現れる。
【0146】
治療しないと、微量免疫型GN−PICGは、80%の1年死亡率である。しかし、積極的な免疫抑制を行うと、5年生存は最大75%である。加齢、透析依存性、および肺出血は全て、生存の確率を悪化させる。例えば、不可逆性透析依存性腎不全は、5年生存率を35%に低下させる。腎臓転帰の観点から、患者の約25%は末期腎疾患(ESRD)とも呼ばれる腎不全に進行し、これは、慢性腎疾患の末期である。
【0147】
従って、いくつかの実施形態では、ANCA関連または関連障害は、限定されないが、ANCA関連血管炎(AAV)、ANCA関連糸球体腎炎(AAGN)、半月体形成性糸球体腎炎(NCGN)、および急速進行性糸球体腎炎(RPGN)を含む。さらに、本発明の方法、組成物、細胞およびキットは、いくつかの実施形態では、本明細書で開示のP−ANCA関連障害のいずれかの治療に適用可能である。
【0148】
またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法は、炎症性疾患などの免疫関連障害の治療に適用可能である。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、炎症性疾患の治療に適用可能である。用語の「炎症性疾患」または「炎症性関連状態」は、炎症性パラメーター、例えば、IFNガンマおよびIL−2などの誘導、およびIL−6レベルの低減の少なくとも1つの低減から恩恵を受けるいずれかの疾患または病理学的状態を指す。状態は、炎症に(主に)起因し得る、または炎症は別の生理学的原因により引き起こされる疾患の症状の1つであり得る。いくつかの実施形態では、本発明の方法に適用可能な炎症性疾患は、アテローム性動脈硬化症、関節リウマチ(RA)および炎症性腸疾患(IBD)のいずれか1つであり得る。実施例により開示されるように、本発明は、MPO欠損5XFADが、MPO発現5XFADマウスに比べて、優れた行動成績を示し、従って、制限された認知機能低下を反映していることを示す。本発明はまた、星状膠細胞活性化、APOE発現レベルの低減、およびいくつかの炎症促進性サイトカインのレベルの低減に反映される、これらのマウスの脳でのより低い炎症反応も示す。
【0149】
従って、特定の実施形態では、本発明は、必要としている対象において認知機能低下を抑制または低減するための、方法、組成物、細胞およびキットを提供する。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明は、それを必要としている対象、特に、ADを罹患している対象に対し、脳の炎症反応の抑制または低減を実施するための方法、組成物、細胞およびキットを提供する。またさらに、いくつかの実施形態では、本発明は、必要としている対象において、星状膠細胞活性化のレベルの抑制または低減を実施するための方法、組成物、細胞およびキットを提供する。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明は、必要としている対象において、APOE発現の抑制または低減を実施するための、方法、組成物、細胞およびキットを提供する。またさらに、いくつかの実施形態では、本発明は、必要としている対象において、いくつかの炎症促進性サイトカインのレベルの抑制または低減を実施するための方法、組成物、細胞およびキットを提供する。このようなサイトカインは、いくつかの実施形態では、IL−1ベータ、CXCL10、CCL2およびTNFアルファの少なくとも1種である。いくつかの実施形態では、このような対象は、神経変性疾患を罹患している対象であり得る。またいくつかのさらに特定の実施形態では、このような神経変性疾患はADであり得る。
【0150】
またさらに、好中球機能の中核を成し、神経変性でのその役割が長期にわたり疑われてきた、MPOは、ADの好中球損傷の顕著なメディエーターとして存在する。実際に、MPOのADとのいくつかの関連性が過去に報告されてきた。ヒトMPOのプロモーター中の463G/A座位の、MPO発現の増大に関連する多型は、晩発性ADを発症するリスクを上昇させた。さらに、MPOとAPOE ε4アレル(晩発性ADの最もよくある遺伝的リスク因子)の間の相互作用が特定された。しかし、調査後、463G/A多型のADとの関係性に関する矛盾する調査結果を示した。Greenと共同研究者は、その酸化生成物の増大した発生率に伴う、AD患者の皮質における上昇したMPO免疫反応性および活性を報告した。しかし、その調査でのMPO発現は、神経に帰された。Reynoldsおよび共同研究者は、アミロイドβプラークの周りのCD68発現細胞中にMPO発現を検出し、従って、それをミクログリア/マクロファージに帰した。最近になって、MPO発現は、AD患者の脳中でアミロイドβプラークと関連して報告された。興味深いことに、これらの脳中ではMPO mRNA発現は検出されず、観察されたMPOの起源は、末梢の骨髄特質によるものであることを示唆する。これらの観察は、AD病因におけるMPOの関与に対する有力な証拠を提供するが、発明者らの知る限りでは、本発明は、ADの実験モデルでのMPO欠損の効果の最初の調査である。本発明は、造血枯渇および再増殖法を利用して、CNS由来MPOに影響を与えることなく、末梢骨髄性細胞中のMPOの欠損を樹立することにより、主に、好中球由来の末梢MPOに注力する。酸化ストレスおよび血管損傷は、ADの病因の重要なイベントであると見なされる。これらは、血液脳関門機能不全、低減した脳血流、およびCNS内の実質的酸化性および炎症性の損傷に繋がる可能性がある。神経変性における好中球機能に関する最近の示唆は、過剰活性化および老化、皮質毛細血管での高められた接着、脳実質中の血管外漏出および脱顆粒ならびに重度の炎症反応に繋がるNETの形成を含む。本発明により開示されるデータはまた、血液学的MPO欠損は炎症反応を制限することを示す。加えて、MPO枯渇後の認知機能低下に対する重度の保護は、ADにおける病理の重要な部分と見なされる好中球由来の酸化的損傷の低減を説明する。これに関連して、本明細書で開示の結果は、好中球枯渇後のADマウスモデルの機能性保護を示すZenaroらおよびCruz−Hernandezらによる最近の報告と一致する(Zenaro,E.et al.Neutrophils promote Alzheimer’s disease−like pathology and cognitive decline via LFA−1 integrin.Nat.Med.21,880−886(2015)、およびCruz Hernandez,J.C.et al.Neutrophil adhesion in brain capillaries reduces cortical blood flow and impairs memory function in Alzheimer’s disease mouse models.Nat.Neurosci.(2019).doi:10.1038/s41593−018−0329−4)。
【0151】
MPO機能は、心臓血管および腎疾患との関連で内皮機能障害および血管損傷に結びつけられている。活性化好中球により分泌される正に帯電したMPOは、アニオン性糖衣とのその相互作用を介して、内皮および内皮下腔に沿って蓄積する。結合MPO由来の酸化剤は、糖衣の厚さを減らし、内皮に損傷を与えることが示され、一方でMPOは好中球動員および血管外移動を促進することも示された。これは、増幅されたMPO応答、およびインサイツ好中球蓄積を生じ得る。興味深いことに、発明者らは、MPO欠損5XFADマウスの海馬試料中のVCAM1発現の減少を見出し、内皮の炎症の増大が示唆された。しかし、MPO欠損の毛細血管の内皮中の好中球動員に対する影響および毛細血管停止および脳血流、ならびに好中球遊走に対するその影響はまだ決定されていない。
【0152】
本発明により提示される結果は、好中球由来MPOが、5XFADマウスでのAD様病因において中心的な役割を果たすことを明確に示す。これらの結果は、MPO抑制をAD治療のための新規の治療標的として提案する。
【0153】
従って、またいくつかのさらなる実施形態では、MPO関連状態は、神経変性疾患であり得る。いくつかの特定の実施形態では、本発明の方法は、神経変性疾患の治療に適用可能である。いくつかの実施形態では、神経変性疾患は、炎症性および/または血管性原因をさらに含み得る。
【0154】
神経変性は、神経の構造体または機能の進行性消失のための包括的用語であり、シナプス機能不全およびニューロンの死を含む。アルツハイマー病およびパーキンソン病を含む多くの神経変性疾患は、神経変性プロセスに関連する。本明細書でまた適用可能な神経変性の他の例としては、フリードライヒ運動失調症、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、多発性硬化症、前頭側頭型認知症、大脳皮質基底核変性症、進行性核上麻痺、多系統萎縮症、遺伝性痙性対麻痺、アミロイドーシス、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、およびシャルコー・マリー・トゥース病が挙げられる。正常な老化過程は、進行性神経変性、特に加齢関連認知機能低下(ACD)を含み、軽度認知障害(MCI)はまた、本発明において適用可能であることを見落すべきではない。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法、キット、組成物および細胞は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、またはその任意の関連状態に適用可能である。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法、キット、組成物および細胞は、Becker筋ジストロフィーに適用可能である。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法、キット、組成物および細胞は、結節性硬化症(TSC)に適用可能である。
【0155】
さらなる特定の実施形態では、本発明の方法は、アルツハイマー病またはパーキンソン病などの神経変性疾患の治療に適用可能である。
【0156】
本明細書で使用される場合、アルツハイマー病(AD)は通常、診断後3〜9年内に死亡に至る、記憶および他の認知ドメインの悪化を伴う障害を指す。アルツハイマー病の主要なリスク因子は年齢である。疾患の発生率は、65才以降、5年ごとに2倍になる。疾患を有するヒトの最大5%が早期発症型AD(若年発症としても知られる)であり、40〜50才で発症する。アルツハイマー病では多くの分子損傷が検出されているが、データから現れる重要な主題は、加齢脳中で誤って折り畳まれたタンパク質の蓄積が酸化性および炎症性損傷をもたらし、これが、次に、エネルギー不足およびシナプス機能不全をもたらすことである。より具体的には、Aβの蓄積が、アルツハイマー病の患者の脳から単離された構造的に損傷されたミトコンドリア中で示された。
【0157】
アルツハイマー病は、主に、シナプスの障害である。海馬シナプスは、軽度認知障害(限定された認知障害で、認知症に先行することが多い)の患者で減少し始める。この患者では、残っているシナプスの特性は、シナプスサイズの代償的な増大を示す。軽度アルツハイマー病では、シナプス前の小胞タンパク質シナプトフィジンの約25%の減少がある。進行性疾患では、シナプスは、ニューロンに比較して不釣合いに失われ、この損失は、認知症と良好に相関する。加齢それ自体は、シナプスの減少を引き起こし、これは特に、海馬の歯状領域に影響する。
【0158】
アルツハイマー病を開始および推進し得るイベントまたは経路の既知の単一線形連鎖は存在しない。ADは進行性疾患であり、認知症症状は長年にわたり徐々に悪化する。その初期段階では、記憶喪失は軽度であるが、後期ADでは、個人は、会話を続ける能力および彼らの環境に応答する能力を失う。ADの人は、それらの症状が他人に気付かれるようになった後に平均8年間生存するが、生存は、年齢および他の健康状態に応じて、20年までの範囲である。
【0159】
ADの変化は通常、学習および記憶に影響を与える脳の一部で始まるため、ADの最もよくある初期症状は、新しく学習した情報の想起の困難である。ADが脳全体に進行すると、それは、見当識障害;気分および行動の変化;イベント、時間および場所に関する混乱の深化;家族、友人および職業介護人に対する濡れ衣;より深刻な記憶喪失および行動変化;および会話、嚥下および歩行の障害、を含む重い症状に次第に進行する。
【0160】
国立神経障害およびコミュニケーション障害および脳卒中(NINCDS)研究所ならびにアルツハイマー病および関連障害協会(ADRDA、現在は、アルツハイマー病協会として知られる)は、最も一般的に使用されているNINCDS−ADRDAアルツハイマー診断基準を1984年に規定し、2007年に広範に更新した。これらの基準は、認知機能障害の存在、および認知症症候群の疑いが、可能なまたは確度の高いADの臨床診断のための神経心理学テストにより確認されることを必要とする。脳組織の顕微鏡検査を含む病理組織学的確認が確定診断のために必要である。良好な統計的信頼性および妥当性が診断基準と確定的病理組織学的確認の間で示された。次の8つの認知ドメインが、ADで最もよく傷害される:記憶、言語、知覚能力、注意力、構成能力、見当識、問題解決能力および機能的能力。これらのドメインは、米国精神医学会により発表された精神障害の診断と統計のためのマニュアル(DSM−IV−TR)に記載のNINCDS−ADRDAアルツハイマー病基準と等価である。認知症症状の悪化を一時的に遅らせるための対症療法以外に、ADは現在の治療法がなく、現在の治療薬はADの進行を止めることができない。本発明の方法ならびに本発明により提供される組成物、細胞およびキット、使用およびシステムは、本明細書で考察したMPO関連状態のいずれかのADに関連する任意のステージ、状態または症状に適用可能であることを理解されたい。いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、細胞およびキットは、AD患者における疾患の任意のステージ、タイプ、症状または程度に適用可能であることをさらに理解されたい。
【0161】
図5および6により示されるように、MPO−KO BM細胞のAD動物(5XFAD)への養子移入は、空間学習および記憶、連合学習ならびに不安/リスク評価行動を明確に改善した。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、細胞およびキットは、AD患者における疾患の空間学習の改善および強化に適用可能である。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法、組成物、細胞およびキットは、AD患者における疾患の記憶の改善および強化に適用可能である。またさらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、細胞およびキットは、AD患者における連合学習の改善および強化に適用可能である。いくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法、組成物、細胞およびキットは、AD患者における不安/リスク評価行動の改善および強化に適用可能である。
【0162】
上で示したように、ADは、タンパク質ミスフォールディング(例えば、Aβペプチド)を伴う状態とみなされる。従って、またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法、組成物、システム、キットおよび使用は、タンパク質ミスフォールディングに関連するいずれかの状態、例えば、シヌクレイン病およびタウオパチーに適用可能である。より具体的には、「αシヌクレイン病態障害」または「シヌクレイノパチー」は、ニューロンおよびグリアの選択的集団の細胞質中のαシヌクレインタンパク質の繊維状凝集体を特徴とする一群の神経変性疾患の命名に使用される。単量体、オリゴマー中間体を含むαシヌクレイン凝集体、または原繊維型は、パーキンソン病(PD)および他の多系統萎縮症(MSA)およびレビー小体型認知症(DLB)などのαシヌクレイノパチーの病因の重要なステップに関与すると考えられている。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、システム、キットおよび使用は、本明細書で開示のいずれかのシヌクレイノパチーに適用可能である。またさらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、システム、キットおよび使用は、タウタンパク質の蓄積に関連するいずれかの状態に適用可能である。より具体的には、本明細書で使用される場合、「タウタンパク質」は、神経原線維濃縮体を指し、これは、錐体ニューロン中の繊維状封入体であり、タウオパチーと呼ばれるアルツハイマー病および他の神経変性疾患に特徴的なものである。それらの形成の機序の解明は、将来の治療法の標的をもたらし得る。対形成らせん状細線維としての高リン酸化タウタンパク質の錐体ニューロン中の蓄積は、アルツハイマー病の主要な特徴である。過剰リン酸化に加え、架橋などのタウタンパク質の他の改変は、タンパク分解に対するそれらの不溶性および耐性を含む対形成らせん状細線維の特徴に寄与する可能性がある。これらの神経原線維濃縮体は、高リン酸化および凝集型の微小管関連タンパク質タウからなる。
【0163】
実施例2で示すように、未分化MPO KO BM細胞の養子移入は、ADにおける認知機能障害の明確な抑制をもたらし、認知機能および連合学習を改善した。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、システム、キットおよび使用は、認知機能低下または障害に関連するいずれかの状態に適用可能である。いくつかの実施形態では、本発明は、MCIに適用可能である。本明細書で使用される場合、「加齢に伴う軽度認知障害(MCI)」は、認知変化を生じさせる状態である。主に記憶に影響を与えるMCIは「健忘型MCI」として分類され得、この場合、対象は、最近のイベント、約束または会話または最近のイベントに関係する情報の記憶の障害を経験する。記憶以外の思考能力に影響を与えるMCIは、「非健忘型MCI」として知られる。非健忘型MCIにより影響を受け得る思考能力は、正しい判断、複雑な作業を完結するために必要なステップの時間または順序を判断する能力、または視覚認知をおこなう能力を含む。
【0164】
通常の加齢は、多くの認知作業での種々の記憶能力の低下に関連し、現象は、加齢関連記憶障害(AMI)、加齢に伴う記憶障害(AAMI)または加齢に伴う認知機能低下(ACD)として知られる。イベントまたは事実の新しい記憶および作業記憶をコードする能力は、横断調査および縦断調査の両方で低下を示す。エピソード記憶、意味記憶、短期記憶および刺激に対する加齢の影響を比較する調査は、エピソード記憶が通常の加齢で特に障害され、いくつかのタイプの短期記憶も障害されることを明らかにした。障害は、最近処理した情報をリフレッシュする能力で認められる障害に関連し得る。通常、言語能力、いくつかの計算能力および一般知識などのいくつかの精神機能では加齢に伴う低下はほとんど存在しないが、他の精神能力は、中年以降、あるいはより早期から低下する。後者は、記憶、実行機能、処理速度および推論の側面を含む。従って、いくつかの実施形態では、本発明は、任意の認知機能低下、特に、年齢、特に、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95およびそれを超える年齢に関連する認知機能低下の治療のための方法および組成物を提供することを理解されたい。
【0165】
またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法、組成物、システム、キットおよび使用は、DLBに適用可能である。本明細書で使用される場合、「レビー小体型認知症(DLB)」は、比較的共通の原因による認知症であり、認知症症例の最大30%を占めると推定され、75才を超える人の最大5%が罹患する。病理学的には、これは、脳中のレビー小体を含むαシヌクレインの存在により定義されるが、それらの分布は、新皮質、大脳辺縁系および脳幹を冒す。臨床的には、DLBは、顕著な幻視および妄想を伴う進行性認知症、および動作緩慢および筋固縮を伴うが通常、振戦は最小限であるパーキンソニズムを特徴とする。顕著な認知変動は、この状態の共通の特徴であり、数時間の間にほぼ正常状態に戻り得る錯乱、過度の傾眠、および滅裂性言語の発症がある。
【0166】
いくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法、組成物、システム、キットおよび使用は、PDに適用可能である。本明細書で使用される場合、「パーキンソン病(PD)」は、中脳ドーパミンニューロンの変性および生存ニューロン中のレビー小体含有α−シヌクレインの蓄積から生じる神経変性疾患である。PDの診断は、他の病原学的状態の非存在下での基本的な運動性特徴に基づく。これらの運動性特徴は、古典的な三徴候:動作緩慢、安静時の丸薬をまるめるような運動(resting pill−rolling tremor)、および筋固縮(通常は、仮面様顔貌、発声不全、小字症および姿勢調節障害と共に)を含む。PDの非運動性特徴は、その診断に先行することさえあり、前駆期または前運動期PDを構成する。これらの前運動期特徴は、嗅覚、便秘、気分および睡眠に関連する障害を含み、それらは、PDの臨床診断後にさらに顕著になり得る。認知障害および認知症はまた、通常、PDで発症し、診断から10年間までに、ほぼ50%を冒す。しかし、αシヌクレイノパチーのいくらかの個体では、顕著な認知障害がパーキンソニズム運動症状の発症に先行し、これらの症例は、臨床的にレビー小体型認知症の診断に分類される。これらの2つの状態の間には、臨床的および病理学的の両方で、明確に大きなオーバーラップが存在するが、現時点では、臨床的区別は、運動症状と認知症の発症の間の時間間隔に基づき、PDの診断には、レビー小体認知症(DLB)とは対照的に、最小で1年間の間隔が必要である。またさらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、システム、キットおよび使用は、MSAに適用可能である。「多系統萎縮症(MSA)」は、黒質線条体および乏突起膠細胞中の原繊維のαシヌクレインを含むグリア細胞質封入体の形態をとるオリーブ橋小脳構造体中の細胞消失および神経膠症を含む神経病理学である。それは、種々の組み合わせのパーキンソニズムおよび小脳機能不全に加えて自律神経障害と共に存在し、その症状が主に小脳(MSA−C)であるか、または主にパーキンソニズム(MSA−P)であるとして臨床的に分類される。
【0167】
またさらに、上で示したように、神経変性疾患は、明確に血管および虚血状態に関連する。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、システム、キットおよび使用は、いずれかの血管および/または虚血状態に適用可能である。より具体的には、脳虚血(または大脳虚血、脳血管虚血)は、脳の代謝需要を満たすには不十分な血流しかない状態である。これは、不十分な酸素供給または低酸素脳症をもたらし、従って、脳組織の死または脳梗塞/虚血性脳卒中をもたらす。それは、くも膜下出血および脳内出血と共に、脳卒中のサブタイプである。虚血は、脳代謝の変化、代謝率の低減、およびエネルギー危機をもたらす。次の2つのタイプの虚血が存在する:局所虚血、これは脳の特定の領域に限定される;および全虚血、これは脳組織の広い領域を包含する。
【0168】
主症状は、視覚、身体の動き、および発話の障害を伴う。脳虚血の原因は、鎌状赤血球貧血から先天性心疾患まで多様である。脳虚血の症状は、意識喪失、失明、協調に関する障害、および身体の脱力を含み得る。脳虚血から生じ得る他の影響は、脳卒中、心肺停止、および不可逆性脳損傷である。
【0169】
虚血性脳卒中では、脳の一部への血液供給路が低下し、その領域の脳組織の機能不全をもたらす。虚血性脳卒中に対し、次の4つの主要な原因が存在する:血栓症(局所的血餅形成による血管の閉塞)、塞栓症(身体の他の場所からの塞栓に起因する閉塞)、全身性低潅流(例えば、ショックによる血液供給路の全般的減少)、および脳静脈洞血栓症。
【0170】
急性虚血性脳卒中について種々の分類システムが存在する。オックスフォードコミュニティー脳卒中プロジェクト分類(OCSP、BamfordまたはOxford分類としてもしられる)は、主に、初期症状に依存し、症状の程度を基準にして、脳卒中発症は、脳全前部循環梗塞(TACI)、脳部分前部循環梗塞(PACI)、ラクナ梗塞(LACI)または脳後部循環梗塞(POCI)として分類される。これらの4つの要素は、脳卒中の程度、影響を受けた脳の面積、根底にある原因、および予後を予測する。TOAST(急性脳卒中治療におけるOrg 10172の試験)分類は、臨床症状ならびにさらに検査結果を基準にし;脳卒中を、(1)大動脈のアテローム性動脈硬化症による血栓症または塞栓症、(2)心臓に起源を持つ塞栓症、(3)小血管の完全閉塞、(4)他の確定された原因、(5)未確定原因(2つの可能な原因、原因未特定、または不完全な検査)に起因するとして分類する。
【0171】
小さい慢性脳内出血(<5〜10mm直径)は、脳微小出血と命名される(CMH;微小出血(microbleed)、多巣性シグナル損失病変(multifocal signal loss lesion)、点状出血とも呼ばれる)。CMHは、小動脈、細動脈、および/または毛細管の破裂に起因する(ヒトCMHでは、破裂血管の直径は、200μm未満と推定され、細動脈および毛細管レベルで多くの出血が発生する)。CMHは、局在型ヘモシデリン沈着に対応する小さい楕円形低信号病変に見え、これは、T2強調グラジエントリコールエコー(T2−GRE)MRIシーケンスを用いて最も良く検出できる。
【0172】
年齢は、CMHの最も重要な独立リスク因子である。CMHの発生率は、若い対象では低く、年齢と共に次第に増加する。CMHほとんどの調査は、高齢患者では、CMHの発生率は24%〜56%であることを報告している。高血圧は、CMHの別の大きな独立リスク因子である。脳アミロイド血管症およびアルツハイマー病(AD)はまた、CMHの重要なリスク因子を構成する。増殖糖尿病網膜症の1型糖尿病患者では、CMHの増大した発生率が報告され、全身性細小血管症が脳および網膜の両方の毛細血管傷害の一因であり得ることを示唆している。CMHはまた、皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)に罹患している個体の半数近くでも見つかっており、これは、ノッチ3遺伝子の変異に起因する成人発症遺伝性脳卒中障害である。
【0173】
またさらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法、組成物、システム、キットおよび使用は、cSVDに適用可能である。脳小血管病(cSVD)は、小動脈、細動脈、毛細管、および小静脈を含む脳の小血管を冒す異なる病理過程に対して使用される用語である。cSVDは、ラクナ性脳梗塞および深層出血もしくは皮質下出血において重要な役割を有する。認知機能低下および認知症に加えて、歩行障害もまた、cSVDと高頻度に関連する。約1/5の症候性脳卒中がラクナ脳卒中症候群であり、これは、より過酷な種類の脳卒中である場合が多く、すなわち、自然発生的実質脳出血(PBH)である。これらはcSVDに関連する。しかし、散発性cSVDはPBHの主要な原因ではあるが、根底にある毛細血管病態のトポグラフィーは、それぞれの症例で異なる。cSVDは、2つの主要形態に分類される。第1は、アミロイド型であり、これには、慢性変性疾患である脳アミロイド血管症(CAA)が含まれる。第2の形態は、cSVDの非アミロイド型として特徴付けられ、高齢、高血圧、糖尿病、および多くの他の因子などの共通の血管リスク因子に関連することが多い。
【0174】
脳アミロイド血管症(CAA)は、コンゴーレッド親和性血管障害としても知られ、血管障害の1形態であり、中枢神経系の血管壁中にアミロイド沈着物が生ずる。コンゴーレッド親和性という用語は、コンゴーレッドと呼ばれる特別な染色剤の適用後に脳組織の顕微鏡検査により異常なアミロイド凝集体の存在が示され得るため、使用される。アミロイド物質は、脳中でのみ見つかり、従って、この疾患は、他の形態のアミロイドーシスとは関連しない。
【0175】
CAAは、cSVDの共通のアミロイド型である。CAAの発生率は、ほとんどが、高齢と関連する。それは、皮質壁および軟髄膜小動脈中のβアミロイドの進行性沈着に起因し、これは、血管機能不全および脳実質傷害をもたらす。βアミロイドの沈着は、血管閉塞および破裂に関与すると考えられる。CAA関連脈管障害は、フィブリノイド壊死、平滑筋細胞の減少、壁肥厚化、毛細血管瘤形成、および結果として生じる生成物沈着を伴う血管周囲血液分解などの特徴を含む。アミロイド沈着の特定の場所およびアレル差異に基づいて、少なくとも2つのCAAの病理学的サブタイプが特定された:皮質毛細血管中のアミロイドを特徴とするCAA 1型、およびアミロイド沈着が軟髄膜および皮質動脈に限定され、毛細管中にはないCAA 2型。後頭葉中の低減した皮質灰色物質および脳底動脈中の低減したフラックスが、アミロイドーシスオランダ型の症候性遺伝性脳出血(HCHWA−D)の患者で確認された。HCHWA−Dの患者における皮質菲薄化の外観は、血管アミロイドが皮質萎縮に対する独立した寄与因子であることを示す。CAA関連皮質萎縮は、血管機能不全により促進され、アルツハイマー病の非存在下でさえも観察された。さらに、アポリポタンパク質E(APOE)遺伝子多型は、2つのサブタイプのCAAに関連する。APOE ε4アレルおよびAPOE ε2は、合理的に、1型および2型疾患にそれぞれ関連する。
【0176】
従って、本発明の方法、組成物、システム、キットおよび使用は、いずれかの虚血状態、特に、本明細書で開示のいずれかの状態に適用可能であることを理解されたい。
【0177】
またさらに、好中球は、病原体を貪食し死滅させる、および宿主を感染から保護する炎症応答を開始する自然免疫細胞として長期にわたり知られてきた。好中球細胞外DNAトラップ(NET)の形成は、炎症および免疫中の好中球に対する新しい役割を明確にしたが、癌生物学および血栓症を含む病的状態、ならびに関連状態(例えば、トルソー症候群)においても、同様である。好中球クロマチンの放出は、腫瘍増殖、血管新生、転移および免疫抑制を含む腫瘍成長の異なるステップに影響を与えることが示された。上で示したように、MPOは、好中球におけるNET形成に関与する。従って、調節により、特にMPO発現、レベルおよび/または活性を抑制することにより、本発明は、対象のNET形成を調節および抑制のための戦略を提供し、それにより、癌および関連障害の治療のための手法を提供する。従って、いくつかの実施形態では、高められたMPO発現または活性を伴い得るMPO関連状態は、増殖性障害であり得る。従って、いくつかの特定の実施形態では、本発明の方法は、増殖性障害の治療に適用可能である。本発明のいくつかの実施形態での増殖性障害は、癌および/または転移などの任意の関連病態であり得る。本明細書で使用される場合、「癌」、「腫瘍」および「悪性腫瘍」は全て、組織または臓器の過形成に等しく関連する。組織がリンパまたは免疫系の一部である場合、悪性細胞は、循環細胞の非固形腫瘍を含み得る。他の組織または臓器の悪性腫瘍は、固形腫瘍を産生し得る。一般に、本発明の方法および組成物は、非固形および固形腫瘍の治療において使用され得る。本発明で意図される悪性腫瘍は、癌腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、骨髄腫および肉腫のいずれか1種であり得る。
【0178】
本明細書で使用される場合、癌腫は、形質転換された上皮細胞からなる侵襲的悪性腫瘍を指す。あるいは、それは、未知の組織発生の形質転換細胞から構成される悪性腫瘍を指すが、これは、上皮細胞に関連する特定の分子または、サイトケラチンまたは細胞間架橋の生成などの組織学的特徴を有する。
【0179】
本明細書で使用される場合、黒色腫は、メラノサイトの悪性腫瘍である。メラノサイトは、暗色顔料のメラニンを生成する細胞であり、皮膚の色に関与する。それらは、主に、皮膚で発生するが、腸および眼を含む身体の他の部分でも認められる。黒色腫は、メラノサイトを含む身体の任意の部分で発生し得る。
【0180】
白血病は、血液形成臓器の進行性悪性疾患を指し、通常、血液および骨髄中の白血球およびそれらの前駆物質の歪んだ増殖および発達を特徴とする。白血病は通常、(1)疾患の期間と特性−急性または慢性;(2)関与する細胞の型;骨髄(骨髄性)、リンパ性(リンパ向性)、または単球性;および(3)異常細胞の数の増加または非増加−白血病性または無白血病性(亜白血病性)、を基準にして臨床的に分類される。
【0181】
肉腫は、形質転換結合組織細胞から生じる癌である。これらの細胞は、胚性中胚葉、または中間層が起源であり、これは、骨、軟骨、および脂肪組織を形成する。これは、上皮中に起源を持つ癌腫と対照的である。上皮は、身体全体の構造体の表面を覆い、乳癌、結腸癌、および膵臓癌の起源である。本明細書で言及される骨髄腫は、プラズマ細胞の癌であり、通常、抗体の産生に関与する白血球の1つの型である。異常細胞の集まりは、骨中に蓄積して、そこで骨病変を生じ、および骨髄中に蓄積して、そこで正常な血液細胞の産生を妨害する。ほとんどの骨髄腫の症例はまた、腎臓障害を起こし正常抗体の産生を妨害し免疫不全をもたらし得る異常抗体のパラプロテインの産生を特徴とする。多くの場合、高カルシウム血症(高カルシウムレベル)が起こる。リンパ腫は、免疫系のリンパ細胞の癌である。通常、リンパ腫は、リンパ系細胞の固形腫瘍として存在する。これらの悪性細胞は、多くの場合、リンパ節を起源に持ち、ノードの拡大として現れる(腫瘍)。それは、他の臓器にも影響を与え、その場合、節外性リンパ腫と呼ばれる。リンパ腫の非限定的例としては、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫およびバーキットリンパ腫が挙げられる。
【0182】
本発明により治療または抑制され得る悪性腫瘍のさらなる非限定的例としては、非固形癌、例えば、全てのタイプの白血病、例えば、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄異形成症候群(MDS)、マスト細胞白血病、毛様細胞性白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫および多発性骨髄腫などの造血悪性腫瘍が挙げられる。本発明により治療または抑制され得る固形腫瘍の非限定的例としては、唇および口腔、咽頭、喉頭、副鼻腔、大唾液腺、甲状腺、食道、胃、小腸、結腸、結腸直腸、肛門管、肝臓、胆嚢、肝外胆管、ファーター膨大部、膵臓外分泌部、肺、胸膜中皮腫、骨、軟部肉腫、癌腫、および皮膚の悪性黒色腫、乳房、外陰、膣、子宮頸部、子宮体、卵巣、卵管、妊娠性絨毛性腫瘍、陰茎、前立腺、精巣、腎臓、腎盂、尿管、膀胱、尿道、眼瞼の癌腫、結膜の癌腫、結膜の悪性黒色腫、ぶどう膜の悪性黒色腫、網膜芽細胞腫、涙腺の癌腫、眼窩の肉腫、脳、脊髄、脈管構造、血管肉腫、およびカポジ肉腫の腫瘍が挙げられる。いくつかの実施形態では、癌は固形腫瘍である。いくつかの実施形態では、固形腫瘍は乳癌である。
【0183】
MPOは、アテローム性動脈硬化症および心臓血管疾患、腎疾患、肺炎症、関節リウマチ、皮膚炎症、神経疾患、および代謝症候群を含む複数の炎症性疾患の病因である。より具体的には、糸球体のおよび尿細管間質性疾患において、多形核−および単球−由来活性酸素種は、タンパク質、脂質、および核酸の酸化修飾の一因であり得る。一部には、活性酸素種により誘発されるプロセスは、アテローム性動脈硬化症の発生に繋がるイベントに匹敵する。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物は、アテローム性動脈硬化症、ならびに心臓血管疾患、例えば、内毒血症、心筋梗塞/虚血、血管機能不全および心房細動に適用可能である。
【0184】
またさらに、塩化物イオンの存在下で過酸化水素から次亜塩素酸/次亜塩素酸塩(HOCl/OCl)を生成するMPOの能力は、ユニークであり、この酵素を特徴的付ける活性である。MPO−過酸化水素−塩化物系は、種々の塩素化タンパク質および脂質付加物をもたらし、これらは、次に、腎臓の異なるコンパートメント中の細胞の機能不全を引き起こし得る。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物は、種々の腎疾患に適用可能であり、これは、慢性腎疾患、虚血/再潅流傷害、糸球体腎炎およびループス腎炎を含み得る。
【0185】
またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法、組成物、細胞およびキットは、少なくとも1種の呼吸状態に適用可能である。本明細書で使用される場合、呼吸状態または疾患は、気道の一部である臓器および組織に影響を与える病的状態を包含する。これらの状態は、気管、気管支、細気管支、肺胞、胸膜、胸膜空洞、および呼吸神経および筋肉を含む気道の状態を含む。呼吸器疾患は、軽度および自然治癒するものから、命に関わる疾患にまで及び、慢性および急性状態を含む。慢性呼吸器疾患(CRD)は、肺の気道および他の構造体の疾患である。それらは、高炎症細胞動員(好中球)および/または有害な感染サイクルを特徴とする。呼吸器疾患は、関与する臓器または組織により、関連徴候および症状のタイプとパターンにより、または疾患に原因により、などの多くの異なる方法により分類され得る。
【0186】
いくつかの実施形態では、本発明により包含される呼吸状態としては、限定されないが、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および慢性肉芽腫性疾患(GCD)の少なくとも1種が挙げられる。より具体的には、Klinkeら(Klinke et al.(2018)JCI Insight;3(11):e97530)は、MPOと機能不全肺性血管機能との間の機構的関連を示し、肺動脈高血圧症がMPO抑制により回復され得ることを示唆した。具体的には、彼らは、MPOが肺動脈高血圧症の患者中で上昇し、それが続いて生じる有害転帰と相関することを示した。加えて、彼らは、高MPOレベル(>583pmol/L)の患者は、低MPOレベルの患者に比べて、65週の中央値に比較して生存が減少した(P=0.023)。さらに、欠損MPOマウス(MPO−/−)は、野生型マウスに比べて、低酸素時の右心室圧の増大が少なかった。Rhoキナーゼ経路−血管収縮および構造的血管再構築に関与する重要な細胞内シグナル伝達経路−の低酸素誘導活性化はMPO−/−マウスで弱められた。従って、この研究は、MPO、Rhoキナーゼの活性化と、有害な肺血管機能との間の明確な機構的関連を示す。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、PAHを罹患している対象のMPOレベルの低減に適用可能である。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法は、PAHを罹患している対象の治療に適用可能である。
【0187】
本明細書で使用される場合、肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、治癒のない、肺動脈の再構築および狭小化を特徴とする進行性疾患であり、これは、右心室圧の上昇、心不全、および死亡に繋がる。白血球由来ヘム酵素ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は、血管壁の体液性機能不全の中枢メディエーターとして明確に確証されているので、PAHの潜在的メディエーターとなる。
【0188】
またさらに、ミエロペルオキシダーゼは、効力の高い抗菌およびアテローム生成促進特性を有する、好中球の一次顆粒中に貯蔵された、強力な酸化剤である。 ミエロペルオキシダーゼは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病因に結びつけられてきた。より具体的には、増大した血清ミエロペルオキシダーゼレベルは、COPD患者の急速肺機能低下および不十分な心臓血管の転帰と関連し、これは、COPD進行の病因におけるミエロペルオキシダーゼの新たに現れた役割を裏付ける。
【0189】
またさらに、ミエロペルオキシダーゼは、好中球顆粒中の主要なペルオキシダーゼ酵素であり、嚢胞性線維症の炎症性肺損傷の原因に結びつけられている。遊離ミエロペルオキシダーゼは、嚢胞性線維症肺液中に存在し、次亜塩素酸を生成する。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物は、嚢胞性線維症、COPD、敗血症誘導性傷害、インフルエンザウィルス誘導性傷害、アスベスト誘発傷害および急性肺炎症を含む種々の肺炎症状態に適用可能である。
【0190】
本発明に起用可能な他の炎症性疾患は、関節リウマチおよび皮膚炎症を含む。必要としている対象中のMPO発現、レベル、および活性の調節のための方法および組成物の提供において、本発明は、減少したまたは低減したMPO発現および/または活性に関連する障害、または代わりにもしくは追加して、他の因子に関連するが、MPO発現および/または活性の調節により回復し得るまたは影響を及ぼし得る障害または状態の治療の提供をさらに包含する。いくつかの実施形態では、このような状態または障害は、本明細書においては、MPOと間接的に関連すると称される。本発明の方法を用いて、MPOレベルを調節および高めることにより、本明細書は、例えば、ROS欠損および/またはMPO欠損に関連する状態の治療のための方法をさらに提供する。従って、いくつかの実施形態では、本発明の方法が適用可能なMPO関連状態は、低減または欠損ROSレベルに関連し得る。他の因子、例えば、ROSに関連する障害の非限定例は、慢性肉芽腫性疾患(GCD)であり、これは、活性酸素種(ROS)産生貪食細胞NADPHオキシダーゼNOX2中の遺伝子欠損として定義される。このような症例では、MPOのレベルを高めることが、ROSの上昇をもたらし、それにより、ROS関連障害を治療するためのツールを提供し得る。
【0191】
従って、いくつかの特定の実施形態では、本発明は、ROS障害に関連し得る慢性肉芽腫性疾患(CGD)にさらに適用可能である。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、MPO欠損関連状態またはMPO枯渇により直接的または間接的に引き起こされるいずれかの状態に適用可能である。
【0192】
本発明は、MPOに関連する障害、例えば、AD、MS、P−ANCA関連障害およびPAH、または本発明により開示のいずれかの障害を、対象の未分化BM細胞中のMPOレベルを除去するまたは低減させることにより治療するための治療方法を提供することを理解されたい。上で開示のように、本発明は、特に、対象の未分化BM細胞中のMPOを標的化し、それにより、上記対象の任意の組織および臓器中のMPOレベルの操作に繋げることにより、対象の免疫系を操作する治療方法、組成物、キットおよび細胞を提供する。この態様で示されるように、このような調節は、治療適用のために、特に、AD、MS、P−ANCA関連障害およびPAHなどのMPO関連状態の治療のために、本発明により効果的に使用される。従って、いくつかの特定の非限定的実施形態では、本発明は、調節されたMPOのレベル、発現および/または活性を示すために、対象の、特に対象のBM細胞の免疫系を操作することにより、MPO関連状態、例えば、AD、MS、P−ANCA関連障害およびPAHを罹患している対象を治療するための方法、組成物およびキットを提供することを理解されたい。より具体的には、本発明の治療方法は、操作された免疫系(自己または同種または同系源の)の提供に基づいている。あるいは、対象の免疫系は、本明細書で提供される遺伝子編集システムを用いてインビボで操作され得(例えば、遺伝子編集システムの化合物を対象への投与)、それにより、上記対象のBM細胞集団は調節されたMPOレベル、発現および/または活性を示す。従って、本発明の治療方法、キットおよび組成物は、このような病態を治療するための効果的な治療戦略を提供する。またいくつかのさらなる特定の実施形態では、このような治療戦略は、MPOの調節されたレベル、発現、および/または活性を示すBM細胞をMPO関連状態、例えば、MSまたはADを罹患している対象、いくつかの実施形態では、移植前に免疫アブレーションに供された対象、に移植することにより、実施され得る。MPOの調節された(例えば、低減されたまたは除去された)レベル、発現または活性を示すBM細胞を移植することにより、移植された対象は、任意の組織および臓器中の調節されたMPOの発現を示す。本発明により詳細に説明されるように、移植されるBM細胞は、同じ対象から取得され、MPOのレベル、発現または活性を調節するために本発明の遺伝子編集システムを用いてエクスビボ操作された自己BM細胞であり得ることを理解されたい。例えば、いくつかの特定の実施形態では、対象から取得されるBM細胞は、本発明の遺伝子編集システムにエクスビボで供され得る。これは、MPOレベル、発現および/または活性の除去および低減をもたらし得る。あるいは、調節されたMPOレベル、発現および/または活性を示す(天然で、または本発明の遺伝子編集システムを適用することにより)同種または同系源の未分化BM細胞を使用し得る。MPO欠損のこのような自己または同種BM細胞は、いくつかの実施形態では、免疫アブレーション化合物で処理され得る対象に再導入され、それによりこれらの操作され、移植されたBM細胞が対象の免疫系の、少なくとも一部を置換する。この手順は、対象の任意の臓器または組織中のMPOの枯渇を生ずる。上で示したように、MPO枯渇BM細胞は、対象あるいは同種間または同系対象から取得され得る。より具体的には、これらの自己または同種BM細胞の対象への移植、または、換言すれば、対象の免疫系細胞の、調節されたMPOレベル、発現および/または活性(例えば、除去されたまたは低減されたMPOレベル、発現および/または活性)を示すBM細胞による置換は、上記対象の全ての組織および臓器中のMPOレベル、発現および/または活性の調節に繋がり、それにより、任意のMPO関連障害または状態、特に、AD、MS、P−ANCA関連障害およびPAH、または本発明により開示されるいずれかの障害または状態の治療のための新規および独創的な手法を提供する。
【0193】
上述のように、本発明は、上で指定した障害を治療する方法を提供する。本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、疾患に関連する望ましくない症状を回復するために効果的な、治療量の本発明の組成物、特に、上述のCRISPRシステムまたは調節されたMPO発現を示すBM細胞を、このような症状をそれらが発症する前に予防するために、その疾患の進行を遅らせるために、症状の悪化を遅らせるために、寛解期間の開始を促進するために、その疾患の進行性慢性段階に生じる不可逆的損傷を遅らせるために、上記進行性段階の開始を遅らせるために、重症度を下げるまたはその疾患を治癒させるために、生存率を改善するまたはより急速に回復させるために、またはその疾患の発生または上記の2つ以上の組み合わせを防止するために、投与することを指す。治療は、免疫関連自己免疫性、神経変性、呼吸性、炎症性または増殖性状態が最初に発生するときに行われ得る、または例えば、1日2回以上、1〜7日毎、7〜15日毎、15〜30日毎、毎月〜2ヶ月毎、2ヶ月毎〜6ヶ月毎の、あるいはそれを超える投与による、継続投与であり得る。
【0194】
上述のように、本発明は、対象中のMPOの発現および/または活性に基づいて、疾患の何らかの症状の出現の前であっても、MPO関連障害を防止するための予防的ツールをさらに提供する。用語の「予防」は、研究者、獣医師、医師または他の臨床医により、組織、システム、動物またはヒト中で防止されることが求められる、生物学的または医学的イベントの発生のリスク、特に、免疫関連、自己免疫性、神経変性、炎症性状態、を防止または減らすことを指し、および用語の「予防有効量」は、投与される有効成分の量がこの目的を達成することを意味することが意図されている。従って、特定の実施形態では、本発明の方法は、特に、予防に、すなわち、本明細書で考察される、免疫関連、自己免疫性、神経変性、炎症性または増殖性障害に関連する状態の防止に効果的である。従って、本発明の方法により治療される、または組成物を投与される対象は、上記神経変性、血管および/または炎症性疾患に関連する症状を経験する可能性は少ない。また、過去にそれらを既に経験した対象では、それらが再発生する可能性は同様に低い。
【0195】
本明細書において言及される場合、用語の「回復」は、症状の低減、および本発明による組成物および方法により生じた対象の状態の改善を指し、上記改善は、本明細書で記載の免疫関連、自己免疫性、神経変性、炎症性または増殖性障害に関連する病的プロセスの抑制、それらの大きさの有意な低下、または病気の対象の生理学的状態の改善の形で顕在化し得る。
【0196】
用語の「抑制」およびこの用語の全ての変形は、病的症状または病的プロセスの進行、前記病的プロセス症状またはそれに関連するプロセスの進行および増悪の制限または禁止を包含することが意図されている。
【0197】
用語の「除去」は、任意選択で、本明細書で記載の本発明の方法による、病的症状および、場合により、病因の実質的根絶または除去に関する。
【0198】
用語の「遅延」または「発症の遅延」およびその全ての変形は、本発明による治療の非存在下の場合よりも遅く出現させるための、免疫関連、自己免疫性、神経変性、炎症性または増殖性障害およびそれらの症状に関連する障害の進行および/または増悪の遅延化、それらの進行、さらなる増悪または発生の遅延化を包含することが意図されている。
【0199】
上述のように、治療または防止は、疾患の発生の防止または遅延化、症状の発生の防止または遅延化および/または進展するまたは進展が予測されるこのような症状の重症度の低減を含む。これらは、既存の症状の回復、追加の症状の防止、および根底にある症状の代謝性原因の回復または防止をさらに含む。本明細書において言及される場合、用語の「抑制」、「軽減」、「低減」または「減弱化」は、プロセス、特に、免疫関連、自己免疫性、神経変性、炎症性または増殖性障害のいずれかの、約1%〜99.9%、特に、約1%〜約5%、約5%〜10%、約10%〜15%、約15%〜20%、約20%〜25%、約25%〜30%、約30%〜35%、約35%〜40%、約40%〜45%、約45%〜50%、約50%〜55%、約55%〜60%、約60%〜65%、約65%〜70%、約75%〜80%、約80%〜85%約85%〜90%、約90%〜95%、約95%〜99%、または約99%〜99.9%、100%のまたはそれを超えるいずれか1つの遅延、制限または縮小に関することを理解されたい。
【0200】
本発明は、それを必要としている対象、または患者の治療に関する。「患者」または「必要としている対象」は、上記状態を罹患し得るおよび本明細書で記載の防止および予防組成物および方法が望ましい任意の生物を意味する。より具体的には、本発明の組成物、キットおよび方法は、哺乳動物の病態を防止することが意図されている。「哺乳動物対象」は、提案された療法が望ましい、ヒト、イヌおよびネコ対象、ウシ、サル、ウマおよびマウス対象およびげっ歯類などの家畜および非家畜哺乳動物を含む任意の哺乳動物を意味する。具体的には、非ヒト対象の場合には、本発明の方法は、注射、飲料水、餌、噴霧、経口洗浄液による投与、および対象の消化管への直接の投与により実施され得ることに留意されたい。
【0201】
任意の全身性のまたは局所投与法が、本発明において適用可能であることを理解されたい。本発明のMPO標的化CRISPRシステムもしくはその任意の組成物または本発明のBM細胞集団もしくはその任意の組成物の投与経路としては、限定されないが、ポンプデバイスを用いて、または用いずに、頭蓋内または脊椎内針および/またはカテーテルを介する送達による、直接BM注射または移植、脳内、脳室内、側脳室内、くも膜下腔内、嚢内、脊髄内および/または脊椎周辺投与経路が挙げられる。いくつかの実施形態では、任意のさらなる投与方法、例えば、腹腔内(IP)、静脈内(IV)および皮内、皮下、経鼻、肺性、経口および筋肉内投与が適用可能であることを理解されたい。
【0202】
またさらなる態様では、本発明は、遺伝子編集化合物、特に、本発明により提供される、遊離形態で、治療される対象に直接投与される、少なくともMPO標的化CRISPRシステムを含む医薬組成物に関する。あるいは、いくつかのさらなる実施形態では、本発明は、BM細胞集団および特に、すべてが調節されたMPO発現および/または活性を有する、調節されたMPO発現および/または活性を示すHSCなどの未分化BM細胞を含む医薬組成物を提供する。従って、いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、(a)それを必要としている対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる、またはそれに適合された、少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種の治療有効量を含み得る。本発明の組成物は、任意選択で、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、および/または賦形剤の少なくとも1種をさらに含み得ることに留意されたい。
【0203】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、本発明の態様に従って、本明細書で上記した遺伝子編集化合物の少なくとも1種の治療有効量を含み得る。より具体的には、いくつかの実施形態では、少なくとも1種の遺伝子編集化合物は、少なくとも1種のPEN、または上記PENをコードする配列を含む任意の核酸分子または少なくとも1種のPENまたはこのようなPENをコードする任意の核酸分子を含む任意のキット、組成物またはビークルである。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、少なくとも1種のCRISPR/Casシステムを含む少なくとも1種のPENであり得る遺伝子編集化合物を含み得る。さらに特定の実施形態では、本発明の組成物中に含まれるCRISPR/Casシステムは、(a)少なくとも1種のCRISPR/casタンパク質、または上記Casタンパク質をコードする任意の核酸分子、および(b)MPO遺伝子内のプロトスペーサーを標的とする少なくとも1種のgRNAを含む少なくとも1種の核酸配列、または前記gRNAをコードする任意の核酸配列、の少なくとも1種を含み得る。本発明の組成物は、(a)および(b)の少なくとも1種を含む任意のキット、組成物またはビークルを含み得ることを理解されたい。
【0204】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物のcasタンパク質は、クラス1およびクラス2のCRISPR結合システムの少なくとも1つのメンバーであり得る。いくつかの特定の実施形態では、本発明の組成物中に含まれるCasタンパク質は、クラス1およびクラス2、特に、II型、I型、III型、IV型、V型およびVI型のいずれか1つのCRISPR結合システムの少なくとも1つのメンバーであり得る。さらに特定の実施形態では、このようなcasタンパク質は、CRISPR結合システムクラス2のII型のメンバーであり得る。またさらに、いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、Casタンパク質として、Cas9またはその任意のフラグメント、変異体、バリアンまたは誘導体を含み得る。
【0205】
従って、いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、CRISPR/Cas遺伝子編集システムを含み得る。このシステムは、いくつかの実施形態では、2つの要素:少なくとも1種のgRNA、および少なくとも1種のCas9、またはその任意の変異体、フラグメントまたはバリアントを含み得る。両要素は、gRNAおよびポリペプチド(cas9)として、またはこれらの要素をコードする核酸配列として提供され得ることを理解されたい。いくつかの実施形態では、gRNAをコードする核酸配列は、単独でまたはCas9ポリペプチドをコードする核酸配列も含む核酸分子で、特に単一核酸分子またはベクターで、提供され得る。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の組成物は、任意選択で、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、および/または賦形剤の少なくとも1種をさらに含み得る。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の組成物は、MPO遺伝子内のプロトスペーサーを標的とする少なくとも1種のgRNAを含み得る。より具体的には、いくつかの実施形態では、本発明のgRNAまたはcrRNAは、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、ならびに配列番号94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、および106のヒトMPO遺伝子、またはそれらの任意のフラグメントにより表される核酸配列を含むプロトスペーサーを標的にし得る。またいくつかの特定の実施形態では、本発明の組成物に有用なcrRNA(gRNA)は、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号42、47、ならびに配列番号50、55、60、63、66、71、74、77、80、85、88および91のいずれか1つにより表される核酸配列を含み得る。またいくつかのさらなる実施形態では、マウスMPO遺伝子中のプロトスペーサーを標的とするgRNAが使用され、このようなgRNAは、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13および配列番号14のいずれか1つにより表される核酸配列を含み得る。上述のように、いくつか代替実施形態では、本発明の医薬組成物は、治療有効量のBM細胞集団、特に、未分化BM細胞集団を含み、MPOの調節された発現および/または活性を示し得る。本発明の組成物は、上述した遺伝子編集化合物と共に、細胞集団またはその任意の組み合わせを含むキットを含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は、任意選択で、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、および/または賦形剤の少なくとも1種をさらに含み得る。
【0206】
本明細書で上記したように、調節されたMPOの発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団は、単離HSCおよび/または前駆細胞を含み得る。またさらに、いくつかの実施形態では、本発明の組成物の未分化BM細胞は、上記細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入または遺伝子導入されたBM細胞集団であり得る。いくつかの実施形態では、未分化BM細胞集団は、自己源または同種間源由来であり得ることを理解されたい。同系源の細胞の使用も、本発明により包含される。
【0207】
またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の組成物方中に含まれる未分化BM細胞集団は、抑制されたまたは除去されたMPO発現および/または活性を示す同種対象のBM細胞集団であり得る。本発明のいずれか他の態様に関連して本明細書で以前に開示の細胞のいずれかはまた、本態様に関連して、同様に適用可能であることを理解されたい。
【0208】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、本明細書に記載の哺乳動物対象のMPO関連状態または疾患の治療、防止、回復、抑制または発症の遅延化方法での使用に適用可能である。より具体的には、いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、免疫関連障害、神経変性疾患、増殖性障害、呼吸障害、血管障害またはこれらの任意の組み合わせの少なくとも1つであり得るMPO関連状態の治療での使用に好適であり得る。またいくつかのさらに特定の実施形態では、このような免疫関連障害は、自己免疫疾患および炎症性疾患の少なくとも1種であり得る。特定の実施形態では、本発明は、MS、ANCA状態、特に、AAV、AAGN、NCGN、およびRPGN、およびSLEのいずれか1つなどの自己免疫疾患の治療での使用のための組成物を提供する。またいくつかのさらなる特定の実施形態では、本発明の組成物は、神経変性疾患、いくつかの特定の実施形態では、ADまたはPDなどの神経変性疾患に適用可能である。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明の医薬組成物は、増殖性障害、特に癌の治療に適用可能である。またさらなる本発明の実施形態は、炎症性疾患、特に、アテローム性動脈硬化症、RAおよびIBDのいずれか1つの治療のための本発明の医薬組成物の使用を提供する。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明は、呼吸器疾患の治療、特に、PAHの治療のための、本発明の医薬組成物の使用を提供する。いくつかの代替実施形態では、本発明は、MPOの発現および/または活性の増大に繋がる医薬組成物の提供を包含する。いくつかの実施形態では、本発明は、特に本明細書で前に考察したように、例えば、Hレベルの上昇を伴うMPO欠損に関連する障害の治療に使用するための組成物をさらに提供する。本発明の他の態様に関連して本発明により開示される障害または状態、またはそれに伴う任意の段階、症状のいずれかは、この態様にも、特に本発明の組成物に関連して同様に適用可能であることを理解されたい。
【0209】
本発明の医薬組成物は、投与前に、薬学的に許容可能な担体中に混合され得る。治療製剤は、任意の従来の剤形で投与され得る。製剤は通常、上で定義の少なくとも1種の有効成分を、他の成分と適合し、患者に有害ではないという意味で薬学的におよび生理学的に許容可能な1種または複数の担体と共に含む。いくつかの特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、注射に好適であり得る。注射による使用に好適な医薬品形態は、滅菌水溶液または滅菌分散液、および注射可能な滅菌溶液または滅菌分散液の即時の作製用の滅菌粉末を含む。全ての場合において、形態は無菌でなければならず、容易に注射可能な程度の流体でなければならない。ミセル製剤、リポソームおよびナノ粒子、例えば、金ナノ粒子を用いるナノスケール薬物送達システムは、合理的な薬物送達のためのエマージングテクノロジーであり、改善された薬物動態学的特性、薬物の制御および持続放出および、さらに重要な、より低い全身毒性を提供する。従って、いくつかの実施形態では、ナノ粒子ベース送達を本発明のCRISPRシステムの送達に使用し得る。特に望ましい方策は、カプセル化化合物の放出の外部からの誘発を可能にする。外部からの制御放出は、ミセル、リポソーム高分子電解質多層カプセルなどの薬物送達担体がナノ粒子(NP)操作装置を組み込めば、達成できる。より具体的には、制御薬物送達システム(DDS)は、従来の形式の薬物に比べて、いくつかの利点を有する。
【0210】
従って、本発明は、ミセル製剤、リポソーム、ポリマー、デンドリマー、金属、特に金、ケイ素または炭素材料、高分子ナノ粒子および磁気ナノ粒子を含む種々のナノ構造体の、薬物送達システムの担体としての使用をさらに包含することを理解されたい。用語の「ナノ構造体」または「ナノ粒子」は、本明細書では、約100nm直径より小さい任意の顕微鏡的粒子を表すために使用される。いくつかの他の実施形態では、担体は、脂質の組織化された集合体である。本発明の医薬組成物は通常、緩衝剤、そのモル浸透圧濃度を調節する薬剤、および任意選択で、1種または複数の薬学的に許容可能な担体、賦形剤および/または当技術分野において既知の添加物を含む。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容可能な担体」は、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、などを含む。医薬活性物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は、当該技術分野において既知である。任意の従来の媒体または薬剤が有効成分と相いれない場合を除き、治療用組成物中へのそれらの使用が意図されている。経口投与用の組成物および製剤としては、粉末または顆粒、懸濁液または、水溶液または非水性媒体中溶液、カプセル、サッシェ、または錠剤が挙げられる。増粘剤、香味剤、希釈剤、乳化剤、分散剤または結合剤が望ましい場合がある。
【0211】
またいくつかのさらなる実施形態では、インビボ適用(例えば、CRISPR/Casシステムまたはこれをコードする核酸配列)が開示される場合には特に、種々の投与方法が適用可能であり、従って、本発明の組成物は、本発明で開示されるいずれかの投与方法、特に、腹腔内(IP)、静脈内(IV)、非経口、および皮内、皮下、局所、経鼻、肺性、経口、髄内、筋肉内、舌下、頬側、直腸、腟、投与に適合され得る。またいくつかのさらなる実施形態では、特に、呼吸障害のために、肺内投与が好ましい投与方法と見なされる。用語の「投与」は、呼吸障害の治療に関連する場合、液体噴霧器、エアロゾルベース定量吸入器(MDI)、もしくは乾燥粉末分散装置などの経口吸入による、または腹腔内注射による肺送達が好ましい。あるいは、投与は、舌下、頬側、非経口、静脈内、筋肉内、皮下、髄内、または経皮のいずれか1種であり得る。
【0212】
またさらに、別の態様では、本発明は、哺乳動物対象のMPO関連状態の治療、防止、回復、抑制または発症の遅延化方法で使用するための、(a)上記対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性の調節に適合された少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種の治療有効量を提供する。いくつかの実施形態では、未分化BM細胞は、細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入または遺伝子導入されたBM細胞集団である。
【0213】
またいくつかのさらなる実施形態では、遺伝子編集化合物は、少なくとも1種のCRISPR/casシステムを含む少なくとも1種のPENであり、上記CRISPR/casシステムは、(a)少なくとも1種のCRISPR/casタンパク質、または上記Casタンパク質をコードする任意の核酸分子、および(b)MPO遺伝子内のプロトスペーサーを標的とする少なくとも1種のgRNAを含む少なくとも1種の核酸配列、または上記gRNAをコードする任意の核酸配列、または(a)および(b)の少なくとも1種を含むキット、組成物またはビークルのいずれか、の少なくとも1つを含む。
【0214】
またいくつかのさらなるその態様では、本発明は、哺乳動物対象のMPO関連状態または疾患の治療、防止、回復、抑制または発症の遅延化のための組成物の作製において、上記対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集の治療有効量の使用を提供する。
【0215】
またいくつかのさらなるその態様では、本発明は、哺乳動物対象のMPO関連状態または疾患の治療、防止、回復、抑制または発症の遅延化のための組成物の作製において、調節されたMPOの発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団の治療有効量の使用を提供する。
【0216】
またさらなる態様では、本発明は、(a)必要としている対象の少なくとも1種の未分化BM細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物、および(b)MPOの調節された発現および/または活性を示す未分化BM細胞集団、の少なくとも1種を含む治療キットを提供する。
【0217】
またさらに、いくつかの他の態様では、本発明は、細胞中のMPOの発現および/または活性を調節できる少なくとも1種の遺伝子編集化合物で形質導入または遺伝子導入された少なくとも1種の未分化BM細胞に関する。
【0218】
いくつかの特定の実施形態では、細胞は、MPO関連状態を罹患している対象由来であり得る。またいくつかのさらに代替物障害では、細胞は、同種または同系対象由来であり得る。本発明により開示されるいずれかの細胞およびいずれかの遺伝子編集化合物は、この態様にも同様に適用可能である。
【0219】
またいくつかのさらなる実施形態では、本発明は、哺乳動物対象のMPOの発現および/または活性の調節のための方法における使用のために、本明細書で開示の細胞のいずれかを提供する。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明は、哺乳動物対象のMPO関連状態の治療、防止、回復、抑制または発症の遅延化のための方法における使用のために、本明細書で開示の細胞のいずれかを提供する。
【0220】
本発明で開示のMPO障害のいずれかは、本態様にも同様に適用可能であることを理解されたい。またさらに、本発明の態様いずれかの態様に関連して本発明で開示の全ての細胞、遺伝子編集システムはまた、本発明で開示の任意の別の態様に適用可能であることを理解されたい。
【0221】
上で示したように、MPOは、ネトーシスに関与し、従って、MPOのレベル、発現および/または機能を調節することにより、本発明は、ネトーシスを調節するための手法をさらに提供する。従って、またいくつかのさらなる態様では、本発明は、特に対象において、ネトーシスを調節するための方法を提供する。またさらに、MPO発現および/または活性を抑制する方法を提供することにより、本発明は、そのいくつかの実施形態では、特に必要としている対象においてネトーシスを抑制する、除去するまたは低減させるための方法および組成物をさらに提供する。またいくつかのさらなる実施形態では、本発明は、対象において任意のネトーシス関連障害および状態を治療および防止するための方法および組成物を提供することを理解されたい。刺激時に、好中球は急速にNADPHオキシダーゼを活性化し、過酸化水素(H2O2)に不均化する高度に反応性分子である超酸化物を生成する。H2O2は、MPOにより消費されて、次亜塩素酸(HOCl)および他の酸化剤を産生する。MPOはまた、完全MPO欠損のドナーで示されるように、NET形成にも必要であるが、その役割は不明確なままである。ROSは細胞傷害性であるが、それらはまた、特定のアミノ酸残基の酸化を介してタンパク質機能を調節する重要なシグナル伝達メディエーターでもある。しかし、ROSは、高度に反応性で短寿命分子あるために、それらがどのように特定細胞応答を産生できるのかは不明確である。特に、NET形成の間に、ROSがどのようにNEの顆粒から核への選択的移動を調節するかは知られていない。さらに、核は、NET形成中に脱凝縮を始めるので、好中球走化性は、未知の機序により停止される。従って、またさらなるその態様では、本発明は、好中球細胞の特性および機能を調節する方法を提供する。
【0222】
本明細書で使用される場合、用語の「約」は、最大1%、さらに特に5%、さらに特に10%、さらに特に15%、いくつかの事例では、参照される値より最大20%高くまたは低く逸脱してもよい値を示し、逸脱範囲は、整数値、該当する場合は、非整数値も含んで連続的な範囲を構成する。いくつかの実施形態では、用語の「約」は、±10%を指す。
【0223】
用語の「含む(comprises、comprising、includes、including)」、「有する(having)」、およびそれらの同根語は、「含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。この用語は、「からなる」および「から本質的になる」という用語を包含する。「から本質的になる」という表現は、組成物または方法に追加成分および/またはステップ、および/または部分が含まれ得ることを意味するが、その追加成分および/またはステップは、特許請求される組成物または方法の基本的かつ新規の特徴を実質的に変化させないものに限る。文脈上異なる解釈を要する場合を除き、本明細書および以下に続く実施例および請求項の全体を通して、用語の「含む(comprise)」、ならびに「含む(comprises)」および「含むこと(comprising)」などの変形は、記述される整数もしくはステップまたは複数の整数もしくはステップの群を含むが、いかなる他の整数もしくはステップまたは複数の整数もしくはステップの群も除外するものではないことを暗示すると理解されよう。
【0224】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、特に明示的に示されない限り、不定冠詞の「a」および「an」は、「少なくとも1つの」を意味するものと理解されるべきである。本明細書および添付の請求項で使用される単数形「a」、「an」および「the」は、文脈で明確に示されていない限り、複数の参照対象を含むことに留意されたい。
【0225】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、語句の「および/または(and/or)」は、このように結合された要素の「一方または両方」、すなわち、いくつかの事例では接続的に存在する要素、その他の事例では離接的に存在する要素を意味すると理解されるべきである。「および/または」を用いて列挙される複数の要素は、同様に、すなわち、そのように結合された「1つまたは複数」の要素と解釈されるべきである。「および/または」節により具体的に特定された要素以外の、その他の要素は、特に特定されたこれらの要素に関連してもまたは非関連であっても、任意に存在してよい。したがって、非限定的例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む」などのオープンエンド用語と共に使用される場合、一実施形態では、Aのみ(任意選択で、B以外の要素を含む);別の実施形態では、Bのみ(任意選択で、A以外の要素を含む);さらに別の実施形態では、AおよびBの両方(任意選択で、その他の要素を含む);などを指すことができる。
【0226】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「または(or)」は、上で定義の「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト中の項目を分離する場合、「または(or)」または「および/または」は、包括的であると解釈されるべきである、すなわち、少なくとも1つの数の要素またはリストの要素を含むと解釈されるべきであるが、また2つ以上の数の要素またはリストの要素、および任意選択で、追加の非リスト項目を含むと解釈されるべきである。それと反対に、「ただ1つの」または「正確に1つの」などの明確に示された「唯一(only)」、または特許請求の範囲で使用される場合の「からなる(consisting of)」という用語は、正確に1つの要素の数または1つのリストの要素を指す。一般に、本明細書で使用される場合、用語の「または(or)」は、「どちらか」、「〜の1つ」、「〜の1つのみ」、または「正確に1つの」などの排他的用語が先行する場合、排他的選択肢(すなわち、「1つまたはもう一方であるが両方ではない」)を示すとのみ解釈されるものとする。特許請求の範囲で使われる場合、「本質的になる」は、特許法の分野で使用されるその通常の意味を有するものとする。
【0227】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、1つまたはそれを超える要素のリストに関連して、語句の「少なくとも1つの」は、要素のリスト中のいずれか1つまたはそれを超える要素から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、少なくとも1つのそれぞれのおよびすべての、要素のリスト内に具体的にリストされた要素を必ずしも含むとは限らず、要素のリスト中の要素の任意の組み合わせを排除しないと理解されるべきである。この定義はまた、語句の「少なくとも1つの」が指す要素リスト内で具体的に特定された要素以外の、これらの具体的に特定された要素に関連した、または関連していない要素が、任意選択で存在してもよいことを許容する。したがって、非限定的例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または、同じ意味で、「AまたはBの少なくとも1つ」、または同じ意味で、「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、一実施形態では、少なくとも1つの、任意選択で、2つ以上のAを含みBが存在しない(および任意選択でB以外の要素を含む)を指し;別の実施形態では、少なくとも1つの、任意選択で2つ以上のBを含みAが存在しない(および任意選択でA以外の要素を含む);さらに別の実施形態では、少なくとも1つの、任意選択で2つ以上の、Aを含み、および少なくとも1つの、任意選択で、2つ以上のB(および任意選択でその他の要素を含む)を含む;などを指すことができる。
【0228】
別義が明確に指示されない限り、2つ以上のステップを含む本明細書で請求された任意の方法では、ステップまたは行為の順序は、方法のステップまたは行為が記述された順序に限定されるとは限らないことも理解されるべきである。
【0229】
本明細書中で上に描かれるような、および、下記の請求項のセクションにおいて特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、実験的裏付けを下記の実施例において見出す。
【0230】
開示されかつ記述されるように、本発明は、本明細書に開示される特定の実施例、方法のステップ、および組成物に限定されるものではなく、このような方法のステップおよび組成物は、いくらか変わり得ると理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲とその均等物によってのみ限定されることから、本明細書で用いた専門用語は、特定の実施形態を説明する目的でのみ用いられ、かつ限定することを意図しないことも理解されるべきである。
【0231】
以下の実施例は、本発明の態様を実施する際に本発明者らによって用いられた技術の代表例である。これらの技術は本発明の実行のための好適な実施形態の好例であり、本開示を踏まえて、当業者は多数の修正が本発明の趣旨および意図する範囲から逸脱することなく行われ得ることは理解されるべきである。
【0232】
実施例
試薬
MOG35−55(Blavatnik center,Tel Aviv University)
IFA(Sigma)
結核菌(MTB、H37Ra、Difco)
百日咳毒素(PT、Sigma)
ケタミン(Bremer)
キシラジン(Phibro)
アジ化ナトリウム(Sigma、USA)
Evans Blue色素(Sigma)
リポフェクタミン2000(Invitrogen)
【0233】
制限酵素
BsmBI(NEB)
T4 DNAリガーゼ(NEB)
【0234】
プラスミド
pL−CRISPR.EFS.GFP(Addgene、カタログ番号#57818)
【0235】
キット
磁気細胞分離キット(Miltenyi Biotech)
DNeasy(Qiagen)
ViraPower Promoterless Lentiviral Gateway Kit(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)
Lenti−X p24 Rapid Titer Kit(Clontech,Mountain View,CA,USA)
【0236】
抗体
マウス抗ミエロペルオキシダーゼ(abcam);ウサギ抗好中球エラスターゼ(abcam);ウサギ抗Iba1(abcam);ラット抗GFAP(Invitrogen);ラット抗CD3(R&D Systems);マウス抗TAU(abcam);マウス抗アミロイドベータ(Covance);マウス抗乏突起膠細胞(Merck)
【0237】
細胞
コンピテント大腸菌細胞(JM109,Promega)、293T細胞(ATCC,CRL−3216(登録商標))
【0238】
培地およびサプリメント
Stemspam SFEM培地(Stem cell technologies)、TPO、SCF(Peprotech)
【0239】
動物
C57BL/6(Arlan);
MpoTm1/Lus(4265,Jackson labs)、これらの変異体マウスは、ミエロペルオキシダーゼ欠損のため殺真菌活性障害を示す。高脂血症状態下で、変異体マウスは、対照マウスより大きな動脈硬化病変を発生する。これらのマウスは、病原体に対する全身性炎症の防御の研究のために有用である。
5XFADマウス(34840、Jackson labs)
【0240】
実験手順
動物ハウジング
C57BL/6、MpoTm1/Lusおよび5XFADマウスを光制御環境(12時間の明暗周期)中に置き、個別換気ケージ(IVC)に収容し、食物および水を自由に与えた。全ての動物調査は、Tel Aviv Universityの動物管理使用審査委員会(補足資料B−承認番号01−17−069および01−18−010)により認可された。
【0241】
マウス照射および細胞移植
レシピエントマウスは、ガンマ線照射源(Biobeam GM)から9Gy(3Gy/分)の全身致死性照射を受けた。照射の24時間後、2x10個の新しく単離した骨髄細胞または5000個のレンチウィルス形質導入HSCを、27標準規格注射針を用いて、レシピエントマウスの尾静脈を介して静脈内注射した。次の8週間にわたり、1日置きにマウスを監視および秤量した。
【0242】
血液試料のMPO分析
MPOノックダウンの確認のために、移植の8週後に顔面静脈から200μlの血液を採取した。ADVIA2120i(Siemens)血液検査システムを用いて、血液試料のペルオキシダーゼ活性を分析した。
【0243】
骨髄単離およびHSC濃縮
C57BL/6(Arlan)またはMpoTm1/Lus(Jackson labs)ドナーマウスを屠殺し、27標準規格注射針を用いて大腿骨、脛骨および上腕骨から骨髄を回収した。赤血球を溶解し、細胞を直ちに移植するか、または磁性細胞分離キット(Miltenyi Biotech)を用いて系統細胞用に濃縮した。細胞を50ng/mlのTPOおよび100ng/mlのSCF(Peprotech)を補充したStemspam SFEM培地(Stem Cell Technologies)中で培養した。
【0244】
EAEモデルの誘導
14〜16週齢のC57BL/6マウスの3箇所の注射部位に、4mg/mlの結核菌(MTB、H37Ra、Difco)を補充したIFA(Sigma)中で乳化したMOG35−55(配列番号7で表されるMEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK、Blavatnik center,Tel Aviv University)の300μgで皮下に免疫した。免疫後の0および2日目に、200μlのリン酸緩衝食塩水(PBS)中の300ngの百日咳毒素(PT、Sigma)を腹腔内投与した。疾患重症度を毎日監視し、EAE臨床疾患を次のスケールに従ってスコア化した:0、運動麻痺なし;0.5、尾部弾力性の部分的喪失;1、尾部弾力性の完全喪失;2、後肢脱力および後肢部分的運動麻痺;3、後肢完全運動麻痺;4、後肢運動麻痺および前肢脱力または部分的な前肢運動麻痺;5、瀕死状態;6、死亡。
【0245】
行動試験
7月齢から開始して行動試験を実施した。試験の開始の2週前に、マウスを逆転光環境に順化させた。各試行の前に、試行順化の開始の30分前にマウスを行動試験室に移した。試行の順序は、4種の治療および遺伝子型間で均衡させた。試行間に、迷路を、Virusolveを用いて洗浄した。自動化追跡システム(Ethovision,Noldus)により、オープンフィールド、高架式十字迷路、Y迷路およびモリス水迷路試験を記録、監視および解析した。
【0246】
オープンフィールド試験を実施して、リスク評価/不安関連行動を評価した。試験を、白色パースペクスの空の活動領域(50x50x40cm)中で実施した。マウスは活動領域の中央に置かれ、15分間探索可能であった。移動した総距離、ならびに迷路の中央および迷路のコーナーで滞在した時間を測定した。
【0247】
高架式十字迷路試験を実施して、リスク評価/不安関連行動を評価した。試験を、床から40cm持ち上げた、交差した形状の4本の白色パースペクスアーム(35x5cm)からなる装置で実施した。相互に対面する2つのアームを15cmの高い壁で囲い、一方、他の2つのアームは、オープンであった。マウスはクローズドアームの方に向いて迷路の中央に置かれ、7分間記録された。迷路のオープンまたはクローズドアームに滞在した時間が測定された。オープンアームから落下したマウスは、解析から除外された。
【0248】
Y−迷路:2種の試行のY−迷路を実施し、空間記憶を評価した。試験を、アーム長さが38cm、幅が5cm、高さが15cmの白色パースペクスY形状装置で行った。試験は、見本試行およびテスト試行からなる。見本試行では、壁の方向に向いた迷路1つのアームの末端にマウスを置き、同時に、迷路の1つのアームが遮断され、迷路の2つのアームは5分間探索可能であった。見本試行後に、5分間の試行間間隔を置いた。テスト試行では、マウスは迷路に戻され、全てのアームがさらに5分間開かれた。新規アーム進入(新規アーム進入の数/総アーム進入)および新規アーム探索時間(新規探索時間/総アーム探索時間)がテスト試行の最初の1分間測定された。
【0249】
モリス水迷路を実施し、空間学習を評価した。試験を、スキムミルクで不透明にした水を満たしたプール(150cm直径、30cm深さ)中で実施した。黒色矩形、三角形および円形の目印をプール壁上に置いた。水温は27±1℃であった。透明プラットフォーム(12cmx12cm)をプールの1象限の中央で、水面の約2cm下に置いた。各マウスは、プラットフォームを含まない3つの象限の異なる象限から毎日出発して、1日に4回の試行を5日間連続して受けた。各試行では、マウスを水中に置き、隠れたプラットフォームを60秒間見つけさせた。マウスが60秒以内にプラットフォームを見つけられない場合には、ラットはプラットフォームに誘導され、そこに10秒間留められた。各マウスについて、隠れたプラットフォームを60秒以内に見つけるための潜時、ならびに移動した総距離を記録した。プラットフォームを見つけられなかったマウスは、60秒でプラットフォームに到達したとしてスコア化した。
【0250】
恐怖条件づけテストを実施し、連想記憶を評価した。試験を、恐怖条件づけチャンバー(Ugo Basile、17x17x25cm)中で実施した。1日目に、馴化のために、マウスをチャンバー中に5分間置いた。2日目に、マウスを再度チャンバー中に3.5分間置いた。2分後に、マウスは2回のフットショック(0.8mA、2秒)を1分間隔で受けた。3日目に、マウスをチャンバー中に3分間置いた。恐怖条件づけを、すくみ行動(呼吸以外の全ての運動の存在しない状態)をスコア化することにより評価した。
【0251】
組織学的検査
マウスにケタミン/キシラジン(それぞれ、100m/kgおよび10mg/kg)を腹腔内注射する。その後、電気ポンプを用いて、マウスの心臓内をPBS、続けて氷冷したPBS中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)で潅流する。脳を取り出し、4℃で4%PFAを用いて24時間後固定した後、30%スクロース中で凍結保存する。その後、脳を0.02%アジ化ナトリウム(Sigma,USA)含有PBS中、4℃で免疫組織化学的処理まで保存する。スクロース処理脳を乾燥後、液体窒素中の2−メチルブタン中で急速凍結する。クライオスタットを用いて脳の切片(10μm)を作り、分析のためにスライドに直接取り付ける。切片をブロックし、10%の正常ヤギ血清、1%のウシ血清アルブミンおよび0.5%のトリトン100を補充したPBSを用いて1時間透過処理し、一次抗体と一晩インキュベートし、続けて、二次抗体と1時間インキュベートする。
【0252】
免疫染色
脳を液体窒素で冷却した2−メチルブタン中で急速凍結し、OCTコンパウンド中に埋め込んだ後に切断した。凍結滑走式ミクロトーム(Leica CM1850)を用いて、冠状切片(10μm)を切り取り、使用するまで−20℃で貯蔵した。S100β免疫染色法のために、スライドをPBSで2回洗浄し、ブロックし、1%ウシ血清アルブミン、5%ヤギ血清(Biological Industries,Israel)および0.05%トリトンX(Sigma−Aldrich)を補充したPBSで1時間透過処理し、S100β抗体(1:500、ab66028,Abcam)と共に4℃で一晩インキュベートした。スライドをPBSで3回洗浄し、二次ヤギ抗マウス抗体(1/700、Alexa−Flour)と共に室温で1時間インキュベートした。DNAをDAPI(1:1000、Sigma−Aldrich)で染色した。チオフラビンS(ThioS)染色のために、スライドを50%エタノール中の0.01%ThioS溶液と共に8分間インキュベートした。その後、切片を手短に2回10秒間80%のエタノールと共にインキュベートし、再蒸留水(DDW)で2回洗浄した。
【0253】
共焦点画像化
蛍光像を共焦点顕微鏡LSM710(Carl Zeiss Micro Imaging)を用いて取得した。共焦点画像を10xおよび20x対物レンズ(それぞれ、NA=0.3、0.8、Plan−Apochromat)を用いて捕捉した。EGFPおよびCY3についてそれぞれAr488および543nmのレーザー線から生じた蛍光発光を、製造業者により供給されたフィルターセットを用いて検出した。 DAPI検出のために、我々は、我々は、モードロックTi:サファイア、フェムト秒パルスの多光子レーザー(Chameleon Ultra II,Coherent,Inc.)を720nmの波長で使用した。Zeiss ZEN 2011ソフトウェア(Carl Zeiss,Inc.)を用いて画像を生成した。全ての画像をTIFで出力し、それらのコントラストおよび輝度を、ImageJを用いて最適化した。S100β平均強度およびThioSプラーク密度を、ImageJを用いて解析した。
【0254】
RNAおよびタンパク質分析用の組織収集
RNAおよびタンパク質分析のために、ケタミン/キシラジンでマウスを麻酔し、直ちにPBSで潅流した。脳を取り出し、海馬を切開し、左と右半球に分割し、液体窒素中で急速凍結し、使用するまで−80℃で貯蔵した。骨髄RNA分析のために、大腿骨を採取し、27標準規格注射針でPBS中に流水式洗浄することにより、骨髄を抽出した。骨髄細胞をTri−Reagent(Sigma)中で凍結し、使用するまで−80℃で貯蔵した。
【0255】
タンパク質抽出およびウェスタンブロット
海馬を解凍し、リシスバッファー(200mMのHEPES、プロテアーゼ阻害剤(Roche)を補充した5mMのEDTA、1%のノニデットP−40、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、1mMのNa2VO4、150mMのNaClおよび50mMのNaF)中でホモジナイズした。細胞を4℃で1時間インキュベートした。タンパク質を4℃、14,000xgで20分間の遠心分離により清澄化した。Pierce(登録商標)BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific)を用いて、タンパク質濃度を定量化した。各試料からの25μgのタンパク質をSDS−PAGE中で分離した。ニトロセルロース転写膜を、5%ウシ血清アルブミンを含む0.1%ツイーン20含有PBSと共に1時間ブロックし、ヤギ抗APOE抗体(1:10,000、Chemicon)を用いて4℃で一晩検出し、ヤギ抗ACTIN抗体(1:5000、MAB1501、Milipore)を用いて室温で1時間検出後、続いて、ヤギ抗マウス二次抗体(1:5,000、Licor)を用いて室温で1時間インキュベーションした。バンド強度の可視化および分析をOdyssey system(Licor)およびImage Studio Lite 5.2ソフトウェアを用いて実施した。各試料について、APOE結果をACTINに対し正規化した。
【0256】
RNA抽出およびリアルタイムPCR
海馬RNAをRNeasy Mini Kit(Qiagen)を使って抽出した。以前記載したように、骨髄試料からRNAを抽出し、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を使って洗浄した。verso cDNA synthesis kit(Thermo−Scientific)を用いて、RNAを相補DNA(cDNA)に逆転写した。Syber−Green Master mix(Thermo−Scientific)および注文設計プライマーを用いて、半定量的PCRをStep−One Real time PCR systemで実施した。限界サイクル値を、3回繰り返して決定し、Actinと比較して、平均として提示した。倍率変化を2−ΔΔCT法を使って計算した。
【0257】
プライマーセットのリスト(全てマウス遺伝子用)
APOE順方向、5′−GAGCTGATCTGTCACCTCCG−3′(配列番号17)および逆方向5′−GACTTGTTTCGGAAGGAGC−3′(配列番号18);CCL2順方向、5′−GGGATCATCTTGCTGGTGAA−3′(配列番号19)および逆方向5′−AGGTCCCTGTCATGCTTCTG−3′(配列番号20);CXCL10順方向、5′−AACTGCATCCATATCGATGAC−3′(配列番号21)および逆方向5′−GTGGCAATGATCTCAACAC−3′(配列番号22);IL1β順方向、5′−GGAGAACCAAGCAACGACAAAATA−3′(配列番号23)および逆方向5′−TGGGGAACTCTGCAGACTCAAAC−3′(配列番号24);MPO順方向、5′−TGGTGGCCTGCAGAGTATGA−3′(配列番号25)および逆方向5′−GTTGAGGCCAGTGAAGAAGG−3′(配列番号26);S100β順方向、5′−TTGCCCTCATTGATGTCTTCCA−3′(配列番号27)および逆方向5′−TCTGCCTTGATTCTTACAGGTGAC−3′(配列番号28);TNFα順方向、5′−AGGGTCTGGGCCATAGAACT−3′(配列番号29)および逆方向5′−CCACCACGCTCTTCTGTCTAC−3′(配列番号30);VCAM1順方向、5′−GGAGCCTGTCAGTTTTGAGAATG−3′(配列番号31)および逆方向5′−TTGGGGAAAGAGTAGATGTCCAC−3′(配列番号32)。
【0258】
統計分析
全データは平均±SEMとして表される。GraphPad Prism7を使って統計分析を行った。行動データならびに骨髄MPO mRNAレベルを、独立スチューデントt−検定を用いて分析した。他のmRNA分析、ブロッティング定量化、S100β強度定量化およびThioSプラーク密度を、マン・ホイットニーノンパラメトリック検定を用いて分析した。全ての検定に対し、統計的有意性閾値をp<0.05に設定した。
【0259】
BBB透過性アッセイ
エバンスブルー色素の生理食塩水中の2%溶液(4ml/kg体重)をマウスの腹腔内に注射した。注射の1時間後に、マウスをPBSで潅流し、脳および脊髄を採取し、ホモジナイズした。ホモジネート由来の上清を、エバンスブルー侵入を示す610での吸光度について測定した。
【0260】
MPO CRISPR/Cas9プラスミドクローニング
マウスMPO標的化ガイドRNA(gRNA)の配列番号5で表されるgRNA−3(CCCCAACGATCAGCTGACCA)および配列番号6で表されるgRNA−4(CAGCGGGGTGTACGGCAGCG)、ならびに配列番号8で表されるgRNA−2(GCACTCATGTTCATGCAGTG)および配列番号9で表されるgRNA−6(TGCGATACTTGTCATTCGGT)は、Azimuth2.033ツールを用いて設計された。pL−CRISPR.EFS.GFPプラスミド(Benjamin Ebertから譲り受けた、addgeneプラスミド#57818)をBsmBI(NEB)で消化し、gRNA配列をT4 DNAリガーゼ(NEB)を用いて結合した。結合したプラスミドをコンピテント大腸菌細胞(JM109、Promega)中に形質転換し、アンピシリンを使って選択し、サンガー塩基配列決定法によりインサートの結合を確認した。MPO標的化を、293T細胞への遺伝子導入と、これに続くDNA抽出(DNeasy、Qiagen)およびサンガー塩基配列決定法により評価した。
【0261】
レンチウィルス粒子産生
結合プラスミドを、ViraPower Promoterless Lentiviral Gateway Kit(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を用いてクローン化した。プラスミド(3μg)を、パッケージングプラスミド(9μg):pLP1、pLP2、およびpLP/VSVGと共にリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて293T産生細胞株に同時遺伝子導入した。Lenti−X p24 Rapid Titer Kitおよび製造業者(Clontech,Mountain View,CA,USA)の推奨手順を用いて、レンチウィルス力価を決定した。
【0262】
単離HSCのレンチウィルス形質導入
単離の24時間後に、4μg/mlのポリブレンおよび1μg/mlのラパマイシンの存在下で、HSCにMPO CRISPR/Cas9レンチウィルスを形質導入した。形質導入細胞を直ちに致死量照射マウス中に移植するか、または、CRISPR/Cas9活性分析のためにエクスビボ増殖させた。GFP発現は、培養物中で1日後に明らかであった。
【0263】
実施例1
多発性硬化症のEAEモデル中のMPOの標的化
EAE、すなわち、実験的アレルギー性脳脊髄炎は、ヒトCNS脱髄性疾患の動物モデルとして広く受け入れられている中枢神経系(CNS)の誘導された炎症性脱髄性疾患であり、これは、限定されないが、多発性硬化症(MS)および急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を含む。EAEは、マウス、ラット、モルモット、ウサギおよび霊長類を含む、多くの種で誘導できる。疾患の誘導は通常、種々の抗原への動物の暴露により行われる。最も一般的に使用されている抗原は、脊髄ホモジネート(SCH)、精製ミエリン、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンプロテオリピドタンパク質(PLPまたはリポフィリン)、およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)などのミエリンタンパク質、またはこれらのタンパク質のペプチドであり、全ては免疫学および病態の両方に関して異なる疾患特性を有する別個のモデルを生成する。
【0264】
動物の使われる抗原および遺伝的要因に応じて、げっ歯類は、EAEの一相性の発作、再発寛解型、または慢性EAEを示すことができる。典型的な、影響を受けやすいげっ歯類は、免疫化のほぼ2週後に臨床症状を初めて現し、再発寛解型疾患の症状を呈する。多発性硬化症のモデル化は、C57BL/6雌マウスを用いて実施され得、疾患は、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質ペプチド(MOG)で誘導される。このモデルは、進行型(慢性とも呼ばれる)の疾患を表す。実験操作で示される採点指標は、MPO発現および/または活性を調節する、特に低減または抑制する本発明の組成物のおよびキットの治療効果を測定するために疾患の重症度および再発の開始の監視のために使用される。
【0265】
EAEモデルの確立
MSのEAEモデルを、百日咳毒素(PT)による2種の免疫化と一緒に、MOG35−55ペプチドを含むアジュバントを用いて成体雌マウスの免疫化により誘導した。EAEモデルの確立に必要なこれらの物質の最小限の量を決定するために、C57BL/6雌マウスを200ngのMOG35−55および200μgのPT、200μgのMOG35−55および300ngのPTまたは300μgのMOG35−55および300ngのPTで免疫した。最初の2種の投与量の間でマウス臨床スコアの差異は示されなかったが、より高い投与量の300μgのMOG35−55および300ngのPTは、全ての免疫マウスで重度の疾患を誘発した(図1)。この結果は、この投与量がEAE疾患を高めるのに最も好適であることを示す。
【0266】
BM移植は照射C57BL/6マウスの致死を救済する
照射線量死亡率およびBM細胞移植の造血再構成能力を特定するために、7匹の8週齢雄C57BL/6マウスに照射(9Gy)し、そのうちの5匹に100万個の新しく単離したBMを、尾静脈を介して移植した。予測通り、全てのマウスは、48時間後に、4〜10%の体重の低下を示した(図2)。全ての移植マウスは、急激な回復を示し、2週間でそれらの初期体重への復帰を示したが、非移植マウスは、悪化し、13〜15日後に、死亡した。これらの結果は、9Gy照射が致死性であることを示す。さらに、BM細胞を移植された全ての5匹のマウスは、14日後に回復でき、実際に完全な造血再構成が移植時に確立されたことを示す。
【0267】
CRISPR−Cas9媒介KO実験用により多くの均質細胞集団を樹立するために、BM細胞の造血前駆細胞をさらに濃縮した。これは、磁気活性化細胞分離(MACS)を用いて、成熟造血細胞のマーカーを発現しないBM細胞(すなわち、Lin細胞)を濃縮することにより実施された。これらの細胞が造血再構成潜在能力を保持することを確認するために、これらの細胞も致死量照射C57BL/6マウスに移植した。BM移植マウスと同様に、これらのマウスも48時間後に体重の急激な低下と、それに続く回復および生存を示した(図2)。この結果は、Lin造血前駆細胞がそれらの造血再構成潜在能力を保持し、CRISPR−Cas9 KO実験に好適であることを暗示する。
【0268】
MPOTm1/Lus由来のBMのEAEマウスへの移植
EAEマウスMSモデル中の骨髄MPO欠損の影響を評価するために、28匹の雌C57BL/6マウスを上述のように致死量照射し、正常にMPOを発現するWT C57BL/6マウス、またはMPOノックアウトMpoTm1/Lusマウス由来のBM細胞(200μl中の1x10個)を、照射したEAEマウスに移植した。表1は、この実験で使用された実験群をまとめる。
【表1】
【0269】
EAE疾患経過に対するMPO欠損の影響を、実験手順で記載のように疾患臨床スコアを測定することにより評価する。全ての実験群のマウスはまた、ニューロンの欠損、シナプスの減少および小神経膠細胞症ならびにBBB透過性、CNS中への白血球浸潤、小神経膠細胞症およびネトーシス率などのEAE関連の側面を調査する死後分析によっても評価される。
【0270】
実施例2
アルツハイマー病(AD)のFADモデルにおけるMPOの標的化
MPOTm1/Lus由来のBMの5xFADマウスへの移植−ペルオキシダーゼ活性試験
ADの5XFADマウスモデルにおける骨髄MPO欠損の影響を評価するために、70匹の雄5XFADならびにそれらの非遺伝子導入同腹仔を致死量照射し、正常にMPOを発現するWT C57BL/6マウス、またはMPOノックアウト(KO)MpoTm1/Lusマウス由来のBM細胞(200μl中の1x10個)を、照射したADマウスに移植した。実験群を表2にまとめる。移植の4週後に、84%のマウスが生存し、それらの初期体重に戻った(図3A〜3D)。移植の8週後に、WTまたはMPO KO BM細胞移植を受けたマウス由来の血液試料中のペルオキシダーゼ活性を測定した。実際に、MPO KOマウスから取得したBM細胞の移植を受けたマウスの血液試料は、より低いペルオキシダーゼ活性(図3E〜3F)を示し、これらのマウスにおけるMPO KO細胞のMPO KO造血再構成を確証した。
【表2】
【0271】
MPOTm1/Lus由来のBMの5XFADマウスへの移植−MPO−mRNAレベル試験
成体5XFADマウスおよび非遺伝子導入同腹仔において血液学的MPOの欠損が生成された。骨髄破壊的照射に暴露することにより、2月齢のマウスを造血アブレーションに供し、MPO−KOまたはWT C57BL/6マウス由来の骨髄(BM)細胞を再増殖させた。これは、4種の実験群を形成した:(1)WT BMを有するWT(WT−WT)、(2)MPO−KO BMを有するWT(WT−MPO KO)、(3)WT BMを有する5XFADマウス(5XFAD−WT)、(4)MPO−KO BMを有する5XFAD(5XFAD−MPO KO)(図4A)。MPO−KO BMを注射したマウスでのMPO減少を確認するために、MPO−mRNA発現分析を行った。WT−MPO KOおよび5XFAD−MPO KOマウス由来のBM中では、対照中の高レベルに比べて、ほぼ検出不能のMPO−mRNAレベルが検出され、移植マウス中の造血集団の効率的な交換を示している(図4B)。
【0272】
MPO欠損は5XFADマウスにおいて認知機能障害を抑制する
5XFADマウスにおける認知機能障害に対するMPO KOの影響を調査した。この目的のために、移植マウスを7月齢から始まる一連の行動試験に供した(図4C)。オープンフィールド試験では、5XFADマウスは、迷路の末端ではなく、迷路の中央でのより長い時間の滞在により反映される機能不全リスク評価を示すことが知られている。実際に、5XFAD−WTマウスは、WT−WTマウスに比べて、迷路のコーナーで有意に短い時間滞在し、迷路の中央でより長い時間滞在した。対照的に、5XFAD−MPO KOマウスは、5XFAD−WTマウスに比べて、迷路の中央で有意により短い時間滞在し、対照WTマウス群と同等の行動を示した(図5A〜5B)。特に、4つの実験群間で、総移動距離の差異は測定されず、類似の移動能力を示した(図5C)。
【0273】
高架式十字迷路試験では、WTマウスは、迷路のクローズドアーム中でより長い時間滞在する傾向があり、一方、5XFADマウスは、オープンな、露出したアームに向かう傾向があり、機能不全リスク/不安関連評価を反映している。この実験では、5XFAD−WTおよび5XFAD−MPO KOマウスは、オープンアーム中で有意に長い時間滞在し、混乱したリスク評価行動を反映している。しかし、5XFAD−MPO KOマウスは、5XFAD−WTマウスに比べて、迷路のオープンアーム中に有意により短い時間滞在した(図5D〜5E)。まとめると、これらの結果は、5XFADマウスで、MPO KOがリスク評価/不安関連行動を減らすことを示す。
【0274】
次に、MPO欠損が5XFADマウスで見られる認知機能低下を抑制するかどうかを試験した。Y迷路試験では、5XFAD−WTマウスは、WT−WTに比べて、減少した探索時間および新規アームへのより少ない進入を示し、一方、5XFAD−MPO KOマウスは、5XFAD−WTに比べて、約50%多い迷路の新規アームへの進入を示した(図6A)。5XFAD−WTと5XFAD−MPO KOマウスとの間で、探索時間の有意差は測定されなかった(図6B)。その後、モリス水迷路試験でこれらのマウスの空間学習能力を試験した。試行の5日間の間、5XFAD−WTは、3日目からプラットフォームを見つけ出すのに有意により長い潜時を示し、機能不全空間学習を反映している(図6C)。しかし、5XFAD−MPO KOマウスは、より良好な顕著な学習能力を示し、5日目にプラットフォームを見つけ出すのに、5XFAD−WTマウスに比べて、有意により短い潜時を示した(図6C)。WTマウスの学習の改善は、早期にこれらのマウスが後の日より長い距離を移動したので、マウスによる総移動距離にも反映され得る。5XFAD−WTマウスは、試行を通して比較的一定の移動距離を示したが、5XFAD−MPO KOマウスは、WT群と同様に、試験が進行するに伴いより短い移動距離を示した(図6D)。最後に、連合学習を、恐怖条件づけテストを用いて評価した。この試験では、有害なフットショックでの条件づけ後1日目にフリージング行動を測定した。WT−WTおよびWT−MPO KOマウスは、約40%のフリージング行動を示し、妥当な連想記憶再統合を反映したが、5XFAD−WTマウスは、有意に少ないフリージング行動を示した。特に、MPO欠損マウスは、5XFADマウス中で2.45倍多いフリージング行動を示す(図6E)。従って、血液学的MPOの欠損は、5XFAD ADモデルの認知機能障害を抑制することが、5種の異なる行動試験で実証された。
【0275】
MPO KOマウス群は類似のアミロイドβプラーク量を示す
行動試験後に、マウスを屠殺し、脳切片にThioS染色を行って、プラーク密度に対するMPO KOの影響を測定した。WTマウス群は、検出可能なThioS染色を示さなかったが、5XFAD−WTおよび5XFAD−MPO KOマウス群は、同等の高レベルのアミロイドβプラークを示し、MPO KOは、5XFADマウスの脳中のアミロイドβ生成および蓄積に対し影響がないことを示す(図7A〜7E)。
【0276】
5XFAD−MPO KOマウスは低減された炎症を示す
脳炎に対するMPO欠損の影響を評価するために、海馬切片をS100βに対する抗体で染色した。このタンパク質は、活性化星状膠細胞中で過剰発現されることが知られており、ADの変性神経突起形成に結びつけられてきた。予測通り、5XFAD−WTマウスは、WT−WTマウスと比較すると、それらの海馬中で有意に高いS100β発現を示した(図8A〜8M)。しかし、5XFAD−MPO KOマウスは、5XFAD−WTマウスと同等の低いS100βレベルを示し、これらのマウス中でのより限られた炎症応答を示している。海馬mRNA試料のリアルタイムPCR(RT−PCR)分析もまた、MPO欠損5XFADマウス中の限定的な発現パターンにより反映される、WT−WTマウスと比較して5XFAD−WTマウスでのS100β発現の有意な発現上昇も示した。
【0277】
炎症に対するMPO欠損の影響をさらに試験するために、RT−PCRを使って、いくつかの認識された炎症性マーカーの海馬mRNA発現を分析した。MPO欠損5XFADマウスは、有意に減少された炎症促進性メディエーターIL−1βおよびCXCL10の発現レベル(図9A〜9B)およびある程度低減されたCCL2およびTNFα発現を示す(図9C〜9D)。興味深いことに、5XFAD−WTマウス中で強化されたVCAM1レベルは、5XFAD−MPO KOマウス中で減少した(図9E)。VCAM1の内皮障害との既知の関連を考慮すると、この結果は、MPO KOの5XFADマウス中の内皮健全性に与えるMPO KOの有益な効果を示唆し得る。
【0278】
MPO欠損は5XFADマウスにおけるAPOE発現を低減する
APOE遺伝子型のε4アレルは、孤発性成人発症型ADの最大遺伝的リスク因子と見なされている。ADにおけるAPOEの正確な役割はまだ議論中であるが、APOEは、明確に、AD進行に中心的な役割を果たし、アミロイド代謝および凝集ならびにタウ病態を含むADに関連する多くの病理過程に結びつけられてきた。興味深いことに、APOE発現は、5XFADマウスの脳中で大幅に増大することが明らかになった。実際に、海馬タンパク質溶解物のウェスタンブロット分析は、WT−WTマウスに比べて、5XFAD−WTマウスの脳中のAPOEレベルの有意な増大を示したが、5XFAD−MPO KOマウス中では、APOEレベルは有意に低かった(図10A図10B)。この結果は、RNAレベルに関しさらに確証され(図10C)、MPO欠損はCNS内のAPOE上昇を防止したことを示す。
【0279】
実施例3
CRISPR/Cas9技術を用いる単離HSCにおけるMPOノックアウト
CRISPR/Cas9ベース遺伝子変化は、遺伝子ベース療法のための効率的プラットフォームと考えられる。標的細胞の単離およびエクスビボ培養は、この手法の造血系関連疾患に対する利用を促進する。従って、発明者らは、単離HSC中のレンチウィルス媒介MPOノックアウトのためにこのプラットフォームを利用する。この目的のために、骨髄細胞を単離し、磁気ベース細胞選別を用いてHSCを濃縮する。これらの細胞は、Cas9タンパク質、GFPおよびMPO標的化ガイドRNA(gRNA)を発現しているレンチウィルスベクターで形質導入される。培養の24時間後に、GFP陽性細胞はFACS選別され、致死量照射モデル動物中に注射される。MPO標的化レンチウィルスベクターの生成のために、種々のgRNAプライマーを設計し、pL−CRISPR.EFS.GFPプラスミド中に挿入した。適切なライゲーションを、サンガー塩基配列決定法を用いて検証した。次に、これらのプラスミドを、Virapower lentiviral packaging kit(Invitrogen)を用いるレンチウィルス粒子の生成に使用した。適切なレンチウィルスの構築および造血幹細胞(HSC)への統合を、単離HSCを漸増濃度(200,00個の細胞当たり、0.5、2および10μl)で形質導入することにより評価した。対照として、GFP発現レンチウィルスを使用した。形質導入の24および48時間後のGFP分析により、HSCが実際に、形質導入され(図11)、試験した最大濃度下で、培養の24および48時間後に、それぞれ、33%および45%のGFP+細胞を示すことが確かめられた。これらの結果は、単離HSCが形質導入でき、照射マウスへの移植の24時間後にFACS選択できることを示す。
【0280】
GFP陽性細胞はFACS選別され致死量照射モデル動物中に注射される。
【0281】
レンチウィルス形質導入HSCを用いる次の動物実験が、EAEモデルおよび5XFADモデルの両方で実施される。gRNAを発現していないレンチウィルスベクターが、これらの実験の対照として使用される。これらの実験のための分類は表3(EAE実験)および表4(5XFAD実験)に記載される。
【表3】
【表4】
【0282】
実施例4
CRISPR/Cas9技術を用いるヒト細胞(HEK293)におけるMPOノックアウト
ヒトHEK293細胞に、Cas9タンパク質、蛍光標識tracrRNAおよびヒトMPOコード配列(配列番号33〜35および42)および対応するプロトスペーサー(それぞれ、配列番号43〜46)(PAMは太字で表示)を標的とする次記のcrRNA配列のそれぞれを含むリボ核タンパク質(RNP)複合体を遺伝子導入した:
T173:配列番号33で表される、TGCACATCCCGGTGATGGTG;
D260:配列番号34で表される、CAGGGGTGAAGTCGAGGTCG;
H502:配列番号35で表される、GGATGAGGGTGTGGCCGTAG;
C319:配列番号42で表される、GGATGGTGATGTTGCTCCCG;
T173:配列番号43で表される、TGCACATCCCGGTGATGGTGCGG;
D260:配列番号44で表される、CAGGGGTGAAGTCGAGGTCGTGG;
H502:配列番号45で表される、GGATGAGGGTGTGGCCGTAGCGG;および
C319:配列番号46で表される、GGATGGTGATGTTGCTCCCGGGG。
【0283】
次の実施例5により示されるように、これらの特定の標的はまた、MPO遺伝子のノックアウトのための標的に加えて、タンパク質の立体構造変化またはプロトマー生合成およびプロセッシングの変化を形成するアミノ酸置換(C319A)、ヒトMPO欠損置換を模倣する置換(T173C)、プロトマーヘム結合D260AおよびH502Aを妨害するアミノ酸置換をもたらすHDR標的としても使用される。遺伝子導入は、製造業者のプロトコル(Integrated DNA Technologies,Inc.,USA)に従い、Alt−Rシステムを用いて実施された。遺伝子導入の72時間後に、細胞をDNA抽出用に採取した、またはtracrRNAで標識され、細胞の濃縮のためにFACS選別し、さらに72時間培養後、DNA抽出用に採取した。DNA試料は、製造業者のプロトコル(Integrated DNA Technologies,Inc.,USA)に従い、T7エンドヌクレアーゼI(T7EI)ミスマッチ検出アッセイを用いて分析された。より具体的には、T7EIアッセイを使って、編集される細胞集団中の所与のガイドRNA標的部位のCRISPR−Cas9試薬の遺伝子編集効率を評価した。
【0284】
以下のプライマーをT7EIアッセイに使用した:
1.T173 gRNA用:
Fwプライマー(約182bp下流):T173_T7−Fw:配列番号36で表される、TCTTCCTCCAGGGAGTCTCA。
Rvプライマー(約673bp下流)T173_T7_Rv:配列番号37で表される、GCAGGAAGGAGACAGGTCAT。
アンプリコンサイズ:915
2.D260 gRNA用:
Fwプライマー(約621bp下流):D260_T7−Fw:配列番号36で表される、TCTTCCTCCAGGGAGTCTCA。
Rvプライマー(約234bp下流):D260_T7_Rv:配列番号37で表される、GCAGGAAGGAGACAGGTCAT。
アンプリコンサイズ:915
3.C319 gRNA用:
Fwプライマー(約263bp下流):C319_T7_Fw:配列番号38で表される、CCAGGTTCCCAGTTCAGTGT。
Rvプライマー(約558bp下流):C319_T7_Rv:配列番号39で表される、CCACAGCGTTCTCTGTCCTT。
アンプリコンサイズ:881
4.H502 gRNA用:
Fwプライマー(約297bp下流):H502_T7_Fw:配列番号40で表される、ATGCCTCTCAGTGCCACTCT。
Rvプライマー(約566bp下流):H502_T7_Rv:配列番号41で表される、AGCCAGGTCAGGGGAAGTAT。
アンプリコンサイズ:923。
【0285】
図12に示されるように、MPOの切断がヒト細胞、特に、選別細胞で示されるように、H502を遺伝子導入した(27.3)およびT173を遺伝子導入した(19.8%)crRNAで観察された。これらの結果は、特異的および効果的なヒト細胞中のMPOの標的化の実現性を明確に示している。
【0286】
実施例5
ヒトMPO機能およびレベルを操作するためのCRISPR/Cas9システムの使用
本発明の遺伝子編集システムを用いたヒト細胞中のMPOのノックアウトの成功に勇気づけられて、発明者らは、次に、CRISPR/Cas9システムを、MPO生合成および機能の変化を誘発するヒトMPO中の特定のアミノ酸残基を置換するツールとして使用する。特定の標的アミノ酸残基は、次のグループに細分される:
1.タンパク質における立体構造変化またはプロトマー生合成およびプロセッシングにおける変化を形成するアミノ酸置換−C167A、C180A、C319A、C158A、R128A、N355A。
2.ヒトMPO欠損置換を模倣するアミノ酸置換−T173C、M251T、R569W、R499C、G501S。
3.プロトマーヘム結合を妨げるアミノ酸置換−Q257A、D260A、M409A、E408A、H261A、H502A。
4.適切なタンパク質グリコシル化を妨げるアミノ酸−N355A。
本明細書で指定される標的残基は、配列番号2で表されるヒトMPOアミノ酸配列に関する。
【0287】
システイン167
システイン167は、C180とジスルフィド架橋を形成するMPOの軽鎖中の保存的アミノ酸である。このアミノ酸の中性アミノ酸による置換は、ジスルフィド架橋の形成を防止する。
システインからアラニンへの置換、C167A(TGCのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、本明細書に記載のように行われる。
システイン167のコドン配列内のCas9媒介二重鎖切断(DSB)は、次のgRNA配列を用いて実施される:
C167A−1:配列番号47で表される、GGACGTGGGGGTGACTT^GCC。このgRNAは、配列番号94で表される、核酸配列GGACGTGGGGGTGACTT^GCCCGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号48で表される、CAGGACGTGGGGGTGACTTGC167CGGAGCAGGACAAA。
切断後:配列番号48で表される、CAGGACGTGGGGGTGACTT^GC167CGGAGCAGGACAAA。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0288】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
C167A用のテンプレートssODNオリゴは、次記を含む:
配列番号49で表される、GTTGTCCAAGTCAAGCGGCTGCGCCTACCAGGACGTGGGGGTGACTGCC167CTGAGCAGGACAAATACCGCACCATCACCGGGATGTGCAACAACAGGTGCGGC。
【0289】
システイン180
システイン180は、C167とジスルフィド架橋を形成するMPOの軽鎖中の保存的アミノ酸である。このアミノ酸の中性アミノ酸による置換は、ジスルフィド架橋の形成を防止する。
システインからアラニンへの置換C180A(TGCのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、システイン180のコドン配列内でCas9媒介DSBにより実施される:
C180A−1:配列番号50により表される、TCACCGGGATGTGCAAC^AAC。このgRNAは、配列番号95で表される、核酸配列TCACCGGGATGTGCAAC^AACAGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号51で表される、ACCATCACCGGGATGTGC180AACAACAGGTGCGGCTGGCTG。
切断後:配列番号51で表される、ACCATCACCGGGATGTGC180AAC^AACAGGTGCGGCTGGCTG。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0290】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
C180A用のテンプレートssODNオリゴは、次記を含む:
配列番号52で表される、CTTGCCCGGAGCAGGACAAATACCGCACCATCACCGGGATGGCC180AACAACAGCTGCGGCTGGCTGGGGGTGGCTGCAGGAACCGGGCTCAGAGAGGCGTCCCG。
【0291】
チロシン173
システインへの置換を生じるチロシン173のコドンのミスセンス変異は、MPO欠損をもたらし、その分解に繋がる異常なタンパク質プロセッシングを引き起こすことが以前に報告された。
従って、実施例4により示されるように、チロシンからシステイン置換Y173C(TACのTGT/TGCへの変更)は、次のgRNA配列を使って、チロシン173のコドン配列内でCas9媒介DSBにより実施される:
Y173C−1:配列番号43で表される核酸配列:TGCACATCCCGGTGATG^GTGCGGを含むプロトスペーサーを標的とする、配列番号33で表される、TGCACATCCCGGTGATG^GTG。
切断前:配列番号53で表される、TGCCCGGAGCAGGACAAATA173CGCACCATCACCGGG。
切断後:配列番号53で表される、TGCCCGGAGCAGGACAAATA173CGCAC^CATCACCGGG。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0292】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用された。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入された。
Y173C用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号54で表される、GGCTGCGCCTACCAGGACGTGGGGGTGACTTGCCCGGAGCAGGACAAATG173CGCACCATCACCGGGATGTGCAACAACAGGTGCGGCTGGCTGGGGGTGGCTG。
【0293】
グルタミン257
グルタミン257は、ヘム空洞と水素結合を形成し、かつハロゲン化物結合に関与すると報告された。このアミノ酸の中性アミノ酸による置換は、そのカルボニル残基の水分子に対する相互作用および水素結合の形成を防止する。
グルタミンからアラニンへの置換、Q257A(CAGのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、グルタミン257のコドン配列内でCas9媒介DSBにより実施される:
Q257A−1:配列番号55で表される、CATGCAATGGGGCCAGC^TGT。このgRNAは、配列番号96で表される、核酸配列CATGCAATGGGGCCAGC^TGTTGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号56で表される、CATGTTCATGCAATGGGGCCAG257CTGTTGGACCACGA。
切断後:配列番号56で表される、CATGTTCATGCAATGGGGCCAG257C^TGTTGGACCACGA。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0294】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
Q257A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号57で表される、GACTCCGGACCAGGAGCGCTCACTCATGTTCATGCAATGGGGCGCG257CTGTTTGACCACGACCTCGACTTCACCCCTGAGCCGGCCGCCCGGGCCTCCTTCGTC。
【0295】
アスパラギン酸260
アスパラギン酸260は、ヘムのピロール基とエステル結合を形成し、おそらく、MPO軽鎖のヘム基への唯一の共有結合である。このアミノ酸残基の中性アミノ酸による置換は、タンパク質−ヘム相互作用を防止する。
アスパラギン酸からアラニンへの置換、D260A(GACのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、アスパラギン酸260のコドン配列内でCas9媒介DSBを用いて、実施例4で開示のように実施された:
D260A−1:配列番号44で表される核酸配列:CAGGGGTGAAGTCGAGG^TCGTGGを含むプロトスペーサーを標的とする、配列番号34で表される、CAGGGGTGAAGTCGAGG^TCG。
切断前:配列番号58で表される、GCAATGGGGCCAGCTGTTGGA260CACGACCTCGACTTCACCCCT。
切断後:配列番号58で表される、GCAATGGGGCCAGCTGTTGGA260CACGA^CCTCGACTTCACCCCT。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0296】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用された。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入された。
Q260A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号59で表される、CCGGACCAGGAGCGCTCACTCATGTTCATGCAATGGGGCCAGCTGTTGGC260CACGACCTCGACTTCACCCCTGAGCCGGCCGCCCGGGCCTCCTTCGTCACTG。
【0297】
メチオニン409
メチオニン409は、ヘムのピロール基とエステル結合を形成し、おそらく、MPO軽鎖のヘム基への唯一の共有結合である。このアミノ酸残基の中性アミノ酸による置換は、このタンパク質−ヘム相互作用を防止する。
メチオニンからアラニンへの置換、M409A(ATGのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、メチオニン409のコドン配列内でCas9媒介DSBにより実施される:
M409A−1:配列番号60で表される、GGTGAGCTCGGGCATCT^CAC。このgRNAは、配列番号97で表される核酸配列:GGTGAGCTCGGGCATCT^CACTGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号61で表される、AGGGGACACCCGTTCCAGTGAGATG409CCCGAGCTCACCTCCA。
切断後:配列番号61で表される、AGGGGACACCCGTTCCAGTG^AGATG409CCCGAGCTCACCTCCA。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0298】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
M409A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号62で表される、GAGGCCTTAAGAATGACAGTGGCTTTTGCCTCCCCAAGGGGACACCCGTTACAGTGAGGCG409CCCGAGCTCACCTCCATGCACACCCTCTTACTTCGGGAGCAC。
【0299】
グルタミン酸408
グルタミン酸408は、ヘムのピロール基とエステル結合を形成する。このアミノ酸残基の中性アミノ酸による置換は、このタンパク質−ヘム相互作用を防止する。
グルタミン酸からアラニンへの置換、e408a(GAGのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、グルタミン酸408のコドン配列内でCas9媒介DSBにより実施される:
E408A−1:配列番号63で表される、GGTGAGCTCGGGCATCT^CAC。
このgRNAは、配列番号98で表される核酸配列:GGTGAGCTCGGGCATCT^CACTGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号64で表される、AGGGGACACCCGTTCCAGTGAG408ATGCCCGAGCTCACCTCCA。
切断後:配列番号64で表される、AGGGGACACCCGTTCCAGTG^AG408ATGCCCGAGCTCACCTCCA。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0300】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
E408A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号65で表される、GAGGCCTTAAGAATGACAGTGGCTTTTGCCTCCCCAAGGGGACACCCGTTACAGTGCG408ATGCCCGAGCTCACCTCCATGCACACCCTCTTACTTCGGGAGCAC。
【0301】
ヒスチジン261
ヒスチジン261は、ヘム鉄に配位結合する遠位リガンドである。このアミノ酸残基の中性アミノ酸による置換は、このタンパク質−ヘム相互作用を防止する。
ヒスチジンからアラニンへの置換、H261A(CACのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、ヒスチジン261のコドン配列内でCas9媒介DSBにより実施される:
H261A−1:配列番号66で表される、CAGGGGTGAAGTCGAGG^TCG。このgRNAは、配列番号99で表される核酸配列:CAGGGGTGAAGTCGAGG^TCGTGGCAGGGGTGAAGTCGAGG^TCGTGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号67で表される、GCAGCGCAGCAGGGACCA261GACCTCCCAGGTGAGGGGCT。
切断後:配列番号67で表される、GCAGCGCAGCAGGGACCA261GA^CCTCCCAGGTGAGGGGCT。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0302】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
H261A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号68で表される、ATGAGGATTGGGCTGGACCTGCCTGCTCTGAACATGCAGCGCAGCAGGGAGCC261GACCTCCCAGGTGAGGGGCTGCAGGAGTCTCCCCTGATGCTCACCTCCCC。
【0303】
システイン319
システイン319は、MPOホモダイマーを含む2つのプロトマー間で唯一のジスルフィド架橋を形成する。システイン319のアラニンへの置換変異は、MPO生合成を妨害し、そのペルオキシダーゼ活性を漸減させる。
システインからアラニンへの置換、C319A(TGCのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、システイン319のコドン配列内でCas9媒介DSBを用いて、実施例4で示したように実施された:
C319A−1:配列番号46で表される核酸配列GGATGGTGATGTTGCTC^CCGGGGを含むプロトスペーサーを標的とする、配列番号42で表される、GGATGGTGATGTTGCTC^CCG。
切断前:配列番号69で表される、CCTGGCCCAGATCTCATTGC319CCCGGATCATCTGCGACAA。
切断後:配列番号69で表される、CCTGGCCCAGATCTCATTGC319CCCGG^ATCATCTGCGACAA。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0304】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用された。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入された。
C319A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号70で表される、GGGTGTGTTCAGCATGCAGCAGCGACAGGCCCTGGCCCAGATCTCATGCC319ACCGGATCATCTGCGACAACACAGGCATCACCACCGTGTCTAAGAACAACAT。
【0305】
メチオニン251
トレオニンへの置換を生ずるメチオニン251のコード領域中のミスセンス変異は、遺伝性MPO欠損を生じさせる。インビトロデータは、M251T置換が、MPOプロセッシングに影響を及ぼし、ペルオキシダーゼ活性を低減することを示唆する。
メチオニンからトレオニンへの置換、M251A(ATGのACC/ACA/ACT/ACGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、メチオニン251のコドン配列内でCas9媒介DSBを使って実施される:
M251A−1:配列番号71で表される、GCTCACTCATGTTCATG^CAA。このgRNAは、配列番号100で表される核酸配列:GCTCACTCATGTTCATG^CAATGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号72で表される、GAGCGCTCACTCATG251TTCATGCAATGGGGCCAGCTGTTG。
切断後:配列番号72で表される、GAGCGCTCACTCATG251TTCATG^CAATGGGGCCAGCTGTTG。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0306】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
M251A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号73で表される、CCACTGATCAGCTGACTCCGGACCAGGAGCGCTCACTCACG251TTCATGCAATGTGGCCAGCTGTTGGACCACGACCTCGACTTCACCCCTGAGCCGGCCGCCCG。
【0307】
アルギニン569
トリプトファンへの置換を生ずるアルギニン569のコード領域中のミスセンス変異は、遺伝性MPO欠損を生じさせる。インビトロデータは、R569W置換が、MPOプロセッシングに影響を及ぼし、ヘム組み込みを妨害し、ペルオキシダーゼ活性を漸減させることを示唆する。
アルギニンからトレオニンへの置換、R569W(CGGからTGGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、アルギニン569のコドン配列内でCas9媒介DSBを使って実施される:
R569W−1:配列番号74で表される、AATTGCAGTGGATGAGA^TCCGGG。このgRNAは、配列番号101で表される核酸配列:AATTGCAGTGGATGAGA^TCCGGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号75で表される、GCAGTGGATGAGATCCGG569AGCGATTGTTTGAGCAGG。
切断後:配列番号75で表される、GCAGTGGATGAGA^TCCGG569AGCGATTGTTTGAGCAGG。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0308】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
R569W用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号76で表される、CACCCCTGCCAAGCTGAATCGTCAGAACCAAATTGCAGTGGATGAGATCTGA569AGCGATTGTTTGAGCAGGTCATGAGGATTGGGCTGGACCTGCCTGCTCTG。
【0309】
アルギニン499
位置499のアルギニンのシステインへの遺伝性置換変異は、MPO欠損を生じる。アルギニン499は、不可欠のヒスチジン502の安定化に重要であることが示された。
アルギニンからシステインへの置換、R499C(CGCからTGT/TGCへの変更)は、次のgRNA配列を使って、アルギニン499のコドン配列内でCas9媒介DSBを使って実施される:
R499C−1:配列番号77で表される、TTCACCAATGCCTTCCG^CTA。このgRNAは、配列番号102で表される核酸配列:TTCACCAATGCCTTCCG^CTACGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号78で表される、ACCAATGCCTTCCGC499TACGGCCACACCCTCATC。
切断後:配列番号78で表される、ACCAATGCCTTCCG^C499TACGGCCACACCCTCATC。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0310】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
R499C用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号79で表される、GACTCAGTGGACCCACGCATCGCCAACGTCTTCACCAATGCCTTCTGC499TACCGCCACACCCTCATCCAACCCTTCATGTTCCGCCTGGACAATCGGTACCAGC。
【0311】
グリシン501
位置501のグリシンのセリンへの遺伝性置換変異は、MPO欠損を生じる。アルギニン501は、不可欠のヒスチジン502の安定化に重要であることが示された。
グリシンからセリンへの置換、G501S(GGCのAGT/AGCへの変更)は、次のgRNA配列を使って、グリシン501のコドン配列内でCas9媒介DSBにより実施される:
G501S−1:配列番号80で表される、TTCACCAATGCCTTCCG^CTA。このgRNAは、配列番号103で表される核酸配列:TTCACCAATGCCTTCCG^CTACGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号81で表される、ACCAATGCCTTCCGCTACGG501CACACCCTCATC。
切断後:配列番号81で表される、ACCAATGCCTTCCG^CTACGG501CACACCCTCATC。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0312】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
G501S用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号82で表される、GACTCAGTGGACCCACGCATCGCCAACGTCTTCACCAATGCCTTCCGCTACAG501CACACCCTCATCCAACCCTTCATGTTCCGCCTGGACAATCGGTACCAGCC。
【0313】
ヒスチジン502
ヒスチジン502は、ヘム鉄に配位結合する近位リガンドである。ヒスチジン502は、MPOヘム結合に不可欠である。
ヒスチジンからアラニンへの置換、H502A(CACのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、ヒスチジン502のコドン配列内でCas9媒介DSBを用いて、実施例4で示したように実施された:
H502A−1:配列番号45で表される核酸配列GGATGAGGGTGTGGCCG^TAGCGGを含むプロトスペーサーを標的とする、配列番号35で表される、GGATGAGGGTGTGGCCG^TAG。
切断前:配列番号83で表される、ACCAATGCCTTCCGCTACGGCCAC502ACCCTCATCCA。
切断後:配列番号83で表される、ACCAATGCCTTCCGCTA^CGGCCAC502ACCCTCATCCA。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0314】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用された。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入された。
H502A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号84で表される、TACAATGACTCAGTGGACCCACGCATCGCCAACGTCTTCACCAATGCCTTACGCTACGGCGCC502ACCCTCATCCAACCCTTCATGTTCCGCCTGGACAATCGGT。
【0315】
システイン158
システイン158は、プロペプチド中でシステイン319とジスルフィド架橋を形成し、その変異はMPOプロセッシングおよび放出を妨害する。
システインからアラニンへの置換C158A(TGCのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、システイン158のコドン配列内でCas9媒介DSBにより実施される:
C158A−1:配列番号85で表される、GTCAAGCGGCTGCGCCT^ACC。このgRNAは、配列番号104で表される核酸配列:GTCAAGCGGCTGCGCCT^ACCAGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号86で表される、GTCCAAGTCAAGCGGCTGC158GCCTACCAGGACGTGGGG。
切断後:配列番号86で表される、GTCCAAGTCAAGCGGCTGC158GCCT^ACCAGGACGTGGGG。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0316】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
C158A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号87で表される、GACGCCCGCCCAGCTGAATGTGTTGTCCAAGTCAAGCGGCGCC158GCCTACCATGACGTGGGGGTGACTTGCCCGGAGCAGGACAAATACCGCACCATCACCGGG。
【0317】
アスパラギン355
アスパラギン355は、グリコシル化されることが知られている6個のアスパラギン残基の1個である。アスパラギン355の脱グリコシル化は、MPO酵素活性を低下させることが示された。
アスパラギンからアラニンへの置換、N355A(AACのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、アスパラギン355のコドン配列内でCas9媒介DSBを用いて実施される:
N355A−1:配列番号88で表される、GCTGGTTGGACATGTTG^CGC。このgRNAは、配列番号105で表される核酸配列:GCTGGTTGGACATGTTG^CGCAGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号89で表される、CCCTGGCCAGGAACCTGCGCAAC355ATGTCCAACCAGCTG。
切断後:配列番号89で表される、CCCTGGCCAGGAACCTGCG^CAAC355ATGTCCAACCAGCTG。
(PAM配列は下線が引かれ、^は切断部位を示し、太字は置換されるコドンを示す)。
【0318】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
N355A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号90で表される、TTCGTGGACGCCAGCATGGTGTACGGCAGCGAGGAGCCCCTGGCCAGGAATCTGCGCGCC355ATGTCCAACCAGCTGGGGCTGCTGGCCGTCAACCAGCGCTTCC。
【0319】
アルギニン128
スブチリシン様プロペプチドコンバターゼによるMPOプロペプチド切断は、MPO生合成のために必要である。アルギニン128は、スブチリシン様プロペプチドコンバターゼ認識部位の一部であり、別のアミノ酸によるその置換は、プロペプチド切断を防ぐはずである。
アルギニンからアラニンへの置換、R128A(AGGのGCC/GCA/GCT/GCGへの変更)は、次のgRNA配列を使って、アルギニン128のコドン配列内でCas9媒介DSBを用いて実施される:
R128A−1:配列番号91で表される、TGGCTCTAGACCTGCTG^GAGAGG。このgRNAは、配列番号106で表される核酸配列:TGGCTCTAGACCTGCTG^GAGAGGを含むプロトスペーサーを標的とする。
切断前:配列番号92で表される、TAGACCTGCTGGAGAGG128AAGCTGCGGTCCCTG。
切断後:配列番号92で表される、TAGACCTGCTG^GAGAGG128AAGCTGCGGTCCCTG。
(PAM配列および置換されるコード配列は下線が引かれ、^は切断部位を示す)。
【0320】
一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)は、HDR用のテンプレートとして使用される。ssODNは、新しいコドン配列に隣接する2つの相同性アームを含む。相同性アームは対称であり、PAMの両端から50塩基を有する。
さらに、CRISPR再切断を防ぐために、PAMブロッキング変異がPAM配列に導入される。
R128A用のテンプレートssODNオリゴ:
配列番号93で表される、CGGCGGTGAGGGCCGCTGACTACCTGCACGTGGCTCTAGACCTGCTGGAGGCG128AAGCTGCGGTCCCTGTGGCGAAGGCCATTCAATGTCACTGATGTGCTGAC。
【0321】
実施例6
CRISPR媒介遺伝子編集と組み合わせた造血幹細胞移植(HSCT):臨床試験
患者適格性の評価
患者は、年齢、病状、臨床評価およびカルノフスキーパフォーマンススコアなどの機能評価に基づいて、HSCTに対する身体的適格性を評価される。患者はまた、MPO標的化gRNA配列に対する遺伝的適合性を確認するために、MPO座位で配列決定される。
【0322】
CD34+可動化およびアフェレーシスによる採取
HSPCは、腸骨稜骨髄吸引物から抽出されるまたは化学療法剤と顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)とを組み合わせた末梢血可動化法(peripheral mobilization regimen)を用いて可動化でき、CD34+細胞が採集され、アフェレーシスにより赤血球および白血球から単離され、注入バッグ中に貯蔵される。収集された細胞の1kg当たり、2x10個の臨界数の細胞を予備として20%DMSOで凍結保存した。
【0323】
CD34+遺伝子編集および遺伝子導入細胞の濃縮
濃縮CD34+細胞は、サイトカインで予備刺激され、MPO遺伝子標的化遺伝子編集ベクターで処理され、例えば、適切なcrRNAおよび蛍光標識蛍光標識tracrRNAと複合化したCRISPR−Cas9リボ核タンパク質を用いて電気穿孔処理される。RNP複合体のインキュベーション後に、CD34+細胞は、tracrRNA由来またはベクター由来蛍光により、または他の適用可能な選択方法により濃縮される。
【0324】
編集されたCD34+細胞の品質試験
MPO編集CD34+細胞は、細菌または真菌混入、エンドトキシンおよびマイコプラズマの確認、ならびに細胞生存率の評価のために検査される。CD34+細胞内のHSPC長期再増殖能力は、フローサイトメトリーにより評価され得る。
【0325】
遺伝子編集された細胞の拡張
MPO編集CD34+細胞は、サイトカイン、金属キレート剤または小分子などの化合物を用いてエクスビボ拡張され、これは、移植のための臨界細胞数を得るために必要である、または生着率を改善するため好ましい場合がある。
【0326】
移植前処置
遺伝子編集HSPCの注入の前に、患者は、骨髄細胞を抑制しドナー幹細胞の拒絶を防止するために、全身照射をしないでまたは全身照射に加えて、化学療法剤およびATG(抗胸腺細胞グロブリン)を含む移植前処置を受ける。この手順は、骨髄破壊的または非骨髄破壊的治療計画を伴い得る。自己幹細胞移植の場合には、G−CSFによるCD34細胞の可動化およびCD34+細胞のアフェレーシス後に、全身照射をしてまたはしないで、シトキサンおよびATGによる前処置が実施される。
【0327】
細胞投与
HSPC評価および移植前処置後に、患者は、少なくともkg当たり、2x10個の用量の細胞を静脈内投与される。
【0328】
移植後処理および監視
シクロスポリンタクロリムスなどの薬物を使用して、移植後免疫抑制療法が移植片対宿主病(GVHD)の防止のために適用される。予防的薬物投与が重度感染症の予防のために適用される。患者は、集中的看護で監視され、HSCTまたは免疫抑制の起こり得る合併症、例えば、感染症、GVHDなど、および治療の起こり得る副作用に対し治療がなされる。造血回復および生着率が評価され、成長因子を用いて促進される。
【0329】
実施例7
肺動脈高血圧症(PAH)の治療におけるMPOノックアウト
さらなるMPO関連状態に対する有望な療法として提案されたMPO KO未分化骨髄細胞の適用性を評価するために、次に、ラットのPAHなどの血管障害に対するMPO KOの効果を調査した。具体的には、ラットのSugen5416/低酸素誘導(SuHx誘導)肺高血圧症モデルが使用される。SuHxは、肺小動脈(PA)の血管筋肉化(RVSP)の顕著な増大、右心室の収縮期圧(RVSP)および右心室肥大(RVH)の増大を引き起こす。
【0330】
より具体的には、SuHxラットを、骨髄破壊的照射に暴露することにより、造血アブレーションに供し、続いて、MPO−KOまたはWTラット由来の骨髄(BM)細胞を再増殖させる。これにより、次の4種の実験群が生ずる:(1)WT BMを有するWT(WT−WT)、(2)MPO−KO BMを有するWT(WT−MPO KO)、(3)WT BMを有するSuHxラット(SuHx−WT)および(4)MPO−KO BMを有するSuHxラット(SuHx−MPO KO)。並行実験で、MPO−KO BMの効果を、本発明の遺伝子編集システムを用いて操作される未分化MPO−KO BM細胞を使って、このラットPHAモデルで評価する。
【0331】
PHAに対する未分化MPO−KO BM細胞の効果を評価するために、多形核好中球(PMN)の活性化および脱顆粒を上に示した4種の実験群で測定する。またさらに、肺動脈圧(PA圧力)およびRVSPを測定し、肺組織中の炎症関連遺伝子のmRNAも全実験群のラット由来の肺ホモジネート中で定量する。
【0332】
血管収縮作用に対するMPO KOの効果もまた、各実験群から得た単離肺動脈(PA)セグメントのプロスタグランジンFα(PGFα)への暴露により試験する。PAHのMPO依存性血管収縮の役割が、右心室圧−容積ループからの実効大動脈弾性率(E)を評価することにより、さらに調査される。実効Eは、脳室後負荷の定着パラメーターであり、従って、血管抵抗および血管コンプライアンスを反映している。
【0333】
免疫組織化学的試験を行って、4種全ての実験群で、肺細動脈の増大した血管の筋肉化の存在を比較する。
【0334】
実施例8
半月体形成性糸球体腎炎(CGN)の治療におけるMPOノックアウト
さらなるMPO関連状態に対する有望な療法として提案されたMPO KO未分化骨髄細胞の適用性を評価するために、次に、ラットモデルで、腎機能の急激な低下により表される症候群である、半月体形成性糸球体腎炎(CGN)に対するMPO KOの効果を調査する。具体的には、ヒトMPO−ANCAで予備免疫化され、その後、リソソーム抽出物およびHで潅流されるラットは、CGNを発症することが知られている。ヒトMPO−ANCAによる予備免疫化は、IgGおよびC3沈着を起こし、かつ組織学的糸球体傷害が観察される場合があり、これは、IgG免疫沈着物の量に比例する。
【0335】
より具体的には、予備免疫化ラットを、骨髄破壊的照射に暴露することにより造血アブレーションに供し、続いて、MPO−KOまたはWTラット由来の骨髄(BM)細胞を再増殖させる。これにより、次の4種の実験群が生ずる:(1)WT BMを有するWT(WT−WT)、(2)MPO−KO BMを有するWT(WT−MPO KO)、(3)WT BMを有する予備免疫化ラット(Preimm−WT)および(4)MPO−KO BMを有する予備免疫化ラット(Preimm−MPO KO)。並行実験で、MPO−KO BMの効果を、本発明の遺伝子編集システムを用いて操作される未分化MPO−KO BM細胞を使って、このラットCGNモデルで評価する。
【0336】
CGNに対する未分化MPO−KO BM細胞の効果を評価するために、上で指定した4種の実験群で、ラットの腎臓をアブレーションし、IgGおよびC3沈着ならびに組織学的糸球体傷害を調査する。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図11H
図11I
図11J
図11K
図11L
図11M
図11N
図12
【手続補正書】
【提出日】2021年3月22日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【国際調査報告】