(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-530625(P2021-530625A)
(43)【公表日】2021年11月11日
(54)【発明の名称】CVDによるダイヤモンド合成の方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/517 20060101AFI20211015BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20211015BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20211015BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20211015BHJP
H01L 21/314 20060101ALI20211015BHJP
【FI】
C23C16/517
C23C16/27
H05H1/46 A
H01L21/205
H01L21/314 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2021-521888(P2021-521888)
(86)(22)【出願日】2019年6月18日
(85)【翻訳文提出日】2021年2月22日
(86)【国際出願番号】EP2019066079
(87)【国際公開番号】WO2020007605
(87)【国際公開日】20200109
(31)【優先権主張番号】2018/5473
(32)【優先日】2018年7月5日
(33)【優先権主張国】BE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】521005926
【氏名又は名称】ダイアロテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】テレス オリヴァ オラシオ
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本発明は、化学気相堆積による合成、特にダイヤモンド合成の改善に関する。本発明によれば、活性種間の衝突の機会を増加させるために、堆積用の基板近傍でプラズマを圧縮することで、ダイヤモンド層堆積のための所要時間を低減させることが提唱される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相堆積チャンバにおいて、2つのプラズマ生成電極の間の合成基板上で物質を合成する方法であって、
合成される物質の原子を含有するキャリアガスが前記チャンバに導入され、
前記合成される物質の原子を含有する前記キャリアガスの原子を活性化するようにプラズマが前記基板近傍で作製される方法であって、
前記基板近傍で活性化原子の体積密度を増加させ、それによって前記合成される物質の堆積速度を上げるように、前記プラズマが圧縮されることを特徴とする方法。
【請求項2】
2つの前記電極間に、直流(DC)及び高周波(RF)交流を印加することによって、前記プラズマが作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化学気相堆積チャンバにおいて、2つのプラズマ生成電極の間の合成基板上で物質を合成する方法であって、
合成される物質の原子を含有するキャリアガスが前記チャンバに導入され、
前記合成される物質の原子を含有する前記キャリアガスの原子を活性化するようにプラズマが前記基板近傍で作製される方法であって、
2つの前記電極間に、直流(DC)及び高周波(RF)交流を印加することによって、前記プラズマが作製されることを特徴とする方法。
【請求項4】
前記基板近傍に磁場が印加される、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記合成される物質がダイヤモンドであり、前記合成される物質の原子を含有する前記キャリアガスが炭素原子含有キャリアガスであり、かつ
反応性炭素原子を生成するようにプラズマ(28)が前記基板近傍で作製される、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記DC/RF比が、合成の間、調整できる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法を実施するため、ガス導入口(2)及び排気口(3)を備え、直流(DC)供給源(6)に接続された2つのプラズマ(28)生成電極(4、5)が、その内部に設置される化学気相堆積チャンバ(1)であって、2つの前記電極(4、5)の間に前記プラズマを圧縮する手段(20)が提供されることを特徴とする、化学気相堆積チャンバ(1)。
【請求項8】
2つの前記電極(4、5)が高周波(RF)交流の供給源(46)にさらに接続される、請求項7に記載のチャンバ。
【請求項9】
2つの前記電極が、アノード(4)、及びカソード(5)、即ちダイヤモンド(45)堆積のための基板(5)を形成するカソードである、請求項7又は8に記載のチャンバ。
【請求項10】
前記基板(5)近傍に磁場を生成する手段(50)を含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載のチャンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相堆積(chemical vapour deposition)による、ダイヤモンド、又は炭素のその他任意の同素体の合成に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素は、地球上において固体状態で自然に見られるいくつかの同素体、即ち無定形炭素と、3つの結晶化形態(グラファイト、ダイヤモンド及びロンズデーライト)とを有する物質である。ダイヤモンドは主にsp
3混成炭素原子で構成され、一方でグラファイトは主にsp
2混成炭素で構成される。その他の同素体は、例えばDLCなどの合成された形態で存在する。
【0003】
ダイヤモンドは、例えば耐摩耗性、熱伝導性又は電気絶縁性などの性質をユニークな組合せで備える物質であり、これらの性質は多くの技術的用途にとって極めて有用である。天然ダイヤモンドは、その希少性と価格のために大規模に使用することが不可能であり、高級な宝石としての使用に制限されている。しかしここ数十年間で、技術的用途のために本物質をより大規模に利用することを目指して、ダイヤモンドの合成方法が開発されている。
【0004】
DLC、即ち「ダイヤモンドライクカーボン」もまた有用な物質であり、sp
3混成炭素中のsp
2混成炭素(最大60%の割合)がダイヤモンドとは異なる。
【0005】
基板上にダイヤモンド又はDLCの薄層を合成する好ましい方法は、低圧での化学気相堆積、即ちCVDである。この方法では、チャンバ中に炭素原子含有キャリアガスが導入され、エネルギー供給源によってガスがプラズマに変換されると、チャンバ中に載置された基板上でダイヤモンドが結晶形で堆積する。
【0006】
プラズマ形成のためには、例えば直流、アーク、熱フィラメント又はマイクロ波及びその他のいくつかの方法など、複数の技術を使用できる。現在市場を占有している装置では、マイクロ波又は熱フィラメントが使用される。
【0007】
これらの方法の主な欠点は、ダイヤモンド堆積の速度が極めて遅いことである。熱フィラメント技術は、1時間で約1μmのダイヤモンド層を形成できる。また、これらのダイヤモンド層は、フィラメントの成分によって汚染されることも多い。マイクロ波では、堆積速度が1時間あたり約45μmに改善されるが、マイクロ波の波長のために、堆積直径が約16mmに技術的に制限される。従って、極めて薄いダイヤモンド薄層を形成するのに著しく長い反応時間が必要となる。そのため、エネルギー費、装置の作業時間の効率性、そしてそれゆえに製造費用の観点から、これらの方法を産業的に展開することが不可能となる。既存の方法におけるこれらの制限は、A.タライレ(Tallaire)著『C.R.物理学 14(C.R.Physique 14)』(2013年)169〜184ページに詳細に提供される。従って、合成して薄層にしたダイヤモンドは、さしあたって鉱業分野又は石油掘削分野での用途に限定されたままである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多くの技術的用途において、ダイヤモンドを技術的かつ経済的に利用可能とするために、出願人は、堆積速度が改善されたダイヤモンド合成の方法を提唱することが必要だと考えた。この問題のために、本出願の本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明は第1に、気相堆積チャンバにおいて、2つのプラズマ生成電極の間の合成基板上でダイヤモンドを合成する方法であって、
− 炭素原子含有キャリアガスがチャンバに導入され、
− 反応性炭素原子を生成するようにプラズマが基板近傍で作製される方法であって、
基板近傍で反応性炭素原子の体積密度を増加させ、それによって堆積速度を上げるように、プラズマが圧縮されることを特徴とする方法に関する。
【0010】
本発明はまた、気相堆積チャンバ(1)において、2つのプラズマ生成電極(4、5)の間の合成基板(5)上にダイヤモンドを合成する方法であって、
− 炭素原子含有キャリアガスがチャンバ(1)に導入され、
− 反応性炭素原子を生成するようにプラズマ(28)が基板近傍で作製される方法であって、
2つの電極間に直流(DC)(6)及び高周波(RF)(46)交流を印加することによってプラズマが作製されることを特徴とする方法に関する。
【0011】
最後に、本発明はまた、気相堆積チャンバ(1)において、2つのプラズマ生成電極(4、5)の間の合成基板(5)上にダイヤモンドを合成する方法であって、
− 炭素原子含有キャリアガスがチャンバ(1)に導入され、
− 反応性炭素原子を生成するようにプラズマ(28)が基板近傍で作製される方法であって、
磁場(51)が基板近傍に印加されることを特徴とする方法に関する。
【0012】
用語ダイヤモンドは、本明細書全体を通じて、sp
3混成炭素を含有するあらゆる同素体、特にあらゆる結晶形のダイヤモンド、又はDLCを表す。
【0013】
本発明の第1の実施に関して、反応性炭素原子は、通常「活性化」形態、即ちラジカル又はイオンでの炭素原子である。また、本明細書においてこの表現は、活性化形態、即ちラジカル又はイオンでの炭素含有分子も意味する。
【0014】
プラズマの圧縮は、プラズマの濃度を高め、それによってラジカル間で反応衝突が起こる確率を高めるために、両電極間に作製されたラジカル及びイオンなどの反応性プラズマ種を、2つの電極間に制限された領域中に導くこと又は集中させることからなる。また、衝突回数の増加により、UVC又は赤外光子さえも生成され、それら自体がさらなる反応性原子を生成する。これらの効果の組合せにより、基板上でのダイヤモンド堆積の速度が著しく向上する。
【0015】
本発明の第2の実施に関して、プラズマが生成される両電極は、一般に直流(DC)の供給源によって供給される。このエネルギー供給源は、ダイヤモンドの堆積を開始するのに効果的である。しかし、形成される層の厚みが大きくなる、例えば25〜30μmになると、一般的なチャンバ内の温度、例えば300〜1600℃では、ダイヤモンド層は、両電極間のエネルギーの流れを著しく低減させるのに十分な電気絶縁体となり、それによってダイヤモンド合成の速度が低下する。
【0016】
この影響を補填するために、出願人はエネルギー生成のハイブリッド化を提唱し、さらに高周波(RF)による電源と、直流(DC)の供給源とを組み合わせ、このようにして2つの電極間に直流及び高周波(RF)交流を印加することでプラズマを作製することを提唱する。直流(DC)供給源は、連続的又は断続的であることができる。
【0017】
合成の間、DC/RF比は、特にすでに合成されたダイヤモンドの厚みに応じて、ダイヤモンドの堆積速度を一定に保てるように調整できる。
【0018】
また、DC/RF比が、形成されるダイヤモンドの結晶構造(単結晶、変更可能かつ調整可能な粒度の多結晶)に影響を及ぼすことも、予期せぬことに見出されている。
【0019】
本発明の第3の実施に関して、プラズマ中の反応性炭素原子の分布を均質化するために、基板近傍に磁場を印加できる。両電極間の直接経路をたどる代わりに、反応性原子はさらにループ又はらせん状の動きを獲得する。このようにして反応性原子はより長い経路を移動し、より速い速度を獲得する。これによって原子の衝突確率が上昇し、ダイヤモンドの特性であるsp3混成のC−C結合が生成され、従って合成速度が高まる。磁場の印加は、形成されたダイヤモンド層又は膜におけるアーク及び空孔を回避するのにさらに役立つ。
【0020】
磁場の印加は単独であっても、ダイヤモンド堆積の速度を高めることができる。しかし、磁場の印加は、プラズマの圧縮及び/又はDC/RFエネルギー供給源のハイブリッド化と有利に組み合わせることができる。
【0021】
従って、本発明の方法の第1〜第3の実施は、経済的な理由のために合成速度を高めるという、同一の、独特の問題を解決することを目的とすることもまた実証されている。換言すれば、本出願の本発明は、3つの異なる方法で解決される問題についての発明であり、それらの方法はさらに組み合わせることができる。
【0022】
従って、特許出願された本発明の一意性要件は完全に満たされている。
【0023】
実際は、出願人は、出願の範囲をダイヤモンド合成に限定することを意図しない。本発明の方法は、例えば、ケイ素及びゲルマニウム−キャリアガス、又は窒化ケイ素若しくは酸化ケイ素含有キャリアガスから作製されるSi−Ge系半導体などの、化学気相堆積によって合成できる、任意のその他の物質に有効であり得る。従って、本発明は、第1に請求項1〜3の方法に関する。
【0024】
ダイヤモンドに関しては、本明細書における本発明は、純粋なダイヤモンドに限定されず、ダイヤモンドのドーピングにも適用できる。例えば、ダイヤモンドはホウ素によってドープできる。炭素原子含有キャリアガスに加えて、トリメチルボラン、三塩化ホウ素又はジボランなどのホウ素−キャリアガスが、続いてチャンバに導入される。ダイヤモンドはまた、窒素によってドープできる。従って、炭素原子含有キャリアガスに加えて、二窒素、アンモニア又はメチルアミンなどの窒素キャリアガスがチャンバに導入される。
【0025】
上記方法の実施のために、本発明はまた、ガス導入口及び排気口を備え、直流(DC)供給源に接続される2つのプラズマ生成電極が、その内部に設置される気相堆積チャンバであって、2つの電極間にプラズマを圧縮する手段が提供されることを特徴とする気相堆積チャンバに関する。
【0026】
特定の実施形態によれば、2つの電極はまた、高周波(RF)交流の供給源に接続される。
【0027】
好ましくは、2つの電極は、アノードとカソードであるべきであり、カソードはダイヤモンド堆積のための基板を形成する。
【0028】
また、チャンバ内において、基板近傍で磁場を生成する手段を提供することも可能である。
【0029】
本発明は、本発明の好ましい実施形態に関する以下明細書を用いて、添付の図面を参照することでよりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】先行技術の気相堆積チャンバの概略図である。
【
図2】本発明による気相堆積チャンバの概略図である。
【
図4】本発明による気相堆積チャンバの概略図である。
【
図5】本発明による気相堆積チャンバの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1を参照すると、気相堆積(CVD)チャンバ1は、ガス導入口2と、減圧のための排気口3と、直流電源6の端子に接続される電極、即ちアノード4及びカソードを形成している基板5と、を含み、回路は地面7に接続されている。
【0032】
ダイヤモンド合成の実施には、炭素原子含有キャリアガス、例えばメタン又はエタンを導入口2から導入し、排気口3に真空を適用してチャンバ1内を減圧し、電極4と電極5との間に電圧を印加する。両電極間の電圧の影響下で、炭素原子含有キャリアガスの分子が活性化され、多量の体積8のプラズマを形成する。プラズマの体積8は両電極間の領域を越えて拡大する。
【0033】
両電極間に印加されたエネルギーは、特に特定の結合、例えばC−H結合などを切り離し、それによって炭素ラジカル及び水素ラジカルなどの反応種を生成する。これらのラジカルは、続いて水素ラジカルと再結合するか、又はその他の炭素ラジカルと再結合して、結果としてC−C結合を形成する。水素ラジカルはまた、互いに結合して水素ガスを形成でき、水素ガスは排気口3を通じてチャンバから排気され得る。
【0034】
C−C結合のエネルギーはC−H結合のエネルギーより弱いため、反応の平衡は、全てのC−H結合がC−C結合によって置換される方向に移動する(即ちダイヤモンドの形成)。C−C結合が大きくなるほど、化学種の揮発性は小さくなり、形成された分子は重力の影響下で基板上で堆積する。基板はまた、接触時にC−C結合の形成を開始できる化学種を含有してもよい。フリーラジカルは、ガス状の媒体において極めて長い寿命を有する、不安定な化学種である。ラジカルのペンダント型結合からの分子結合の形成は、エネルギーの観点から極めて有利であるが、運動量の保存が可能となるためには、3分子の衝突が必要となる。それゆえに極めて珍しい現象である。表面上では全く異なり、ガス状のラジカルは、フォノンによって運動量の保存が確保できるため、表面のラジカル中心と容易に結合する。
【0035】
あるいは、特定の寸法に堆積するように、又は電極上への直接的な堆積を避けるために、試料トレイを基板上に置くことができる。
【0036】
反応性炭素原子間の衝突の確率は、2つの電極4と電極5との間に印加されるエネルギーと関連がある、ゾーン8における、これらの反応性炭素原子の原子の体積密度と正比例する。
【0037】
図2及び
図3を参照すると、同一の要素には
図1での番号付けを再利用し、電極4及び電極5は、ここでは平行なディスクであり、その中心はAA’軸に沿って配置される。グリル20は、シリンダの外周をAA’軸に合わせて、チャンバ内の電極4と電極5との間に置かれる。グリル20は直流の供給源に接続される。
【0038】
電極4はその他の形状を有し得る。例えば、電極4はAA’軸沿いの方向を持った球状の末端部を備える、単一の又は一組の先端で構成され得る。電極4は、凹面、凸面又は平らな形状を有することができる
【0039】
ダイヤモンドの合成を実施するため、チャンバ1は、ガス導入口2を開き、排気口3から陰圧を印加することで、炭素原子含有キャリアガスを含んで低圧下(大気圧より低い圧力)に置かれる。電極4と電極5との間に直流が印加され、両電極間に反応性炭素原子プラズマが生成される。同時に、グリル20によって定められたシリンダ周辺に電界を発生させるために、グリル20に直流を印加する。これは、電極4と電極5との間に定められ、かつグリル20によって形成されたシリンダ内側に幅が制限されたゾーン28内で、プラズマの反応性炭素原子の位置決めをする効果を有する。ダイヤモンドが均質層の形態で、基板5上に徐々に堆積する。
【0040】
図1及び
図2の装置において、電極4と電極5との間に印加されるのは同じエネルギーであり、即ち同じ量の反応性炭素原子と推測されるため、グリル20の存在下ではプラズマ拡大ゾーンは小さくなり、プラズマは圧縮され、それによって反応性炭素原子の体積密度が高まる。このようにして反応性炭素原子間の、及び反応性炭素原子と表面との衝突の確率は高まり、その後のダイヤモンド形成、及び基板上の又は基板上に載置された試料トレイ上への堆積速度が高まる。
【0041】
好ましくは、グリルは高い電子放出率を有する1種以上の材料から作製されるべきである。より長いグリルの耐用期間を得られ、グリルが到達し得る温度のために変形するのを制限できるように、グリルには、例えばモリブデン又はタングステンなどの耐火材を使用するのが有利である。これらの耐火材を、例えばトリウムによってドープし、耐火材の電子放出率を高めることが可能である。グリルの全表面上で、及び構成部分の各々によって発生するピーク効果のために、グリルはより大きな電子放出表面を有する構造体となる。
【0042】
本明細書において示されるグリル20は円形断面であるが、任意のその他の断面も考慮され得る。特に、グリルの形状は入手したいダイヤモンドの形状に応じて選択できる。また、グリルのメッシュ及び/又は高さも、チャンバ、電極及び/又はチャンバの寸法及び/又は特性に応じて変更できる。グリルの高さは、断面の周囲全体で同一であることができ、あるいは角などにおいては、不均質なダイヤモンド堆積につながり得る電子効果を補填するために、変えることもできる。
【0043】
同様に、グリルの代わりに、1つ以上のリングの使用も可能である。リングは同じ直径又は異なる直径を有してよく、リングの中心がAA’軸上に位置合わせされるであろう。また、チューブの使用も可能である。
【0044】
このように定義されたグリル、リング又はチューブは、プラズマ圧縮の手段であり、以下の機能を有する。
− ダイヤモンドが堆積する必要がある基板周辺又は特定ゾーン周辺のプラズマを均質化する。
− このゾーンの反応性炭素原子の体積密度を高める。
− UVC又はさらにはIR光子を生成し、場合によっては電子を放出して、追加のエネルギーを提供しプラズマの密度を高める。
【0045】
ダイヤモンドは絶縁体であるため、基板上に堆積したダイヤモンドの層が厚くなるにつれて、特にダイヤモンドの層が25〜30μmの厚みになると、電極4と電極5との間を通過する直流にとっての障壁が形成される。従って、同じ印加電圧では、プラズマ中の反応性炭素原子の体積密度は、ダイヤモンド層の厚みに応じて小さくなる。ダイヤモンド堆積の速度は、すでに形成された層の厚みが増大するにつれて小さくなる。
【0046】
数十ミクロンより厚い層を形成できるように、出願人は、直流(DC)の供給源と高周波(RF)による電流の供給源とを組み合わせ、それによって直流及び高周波(RF)交流を印加することでプラズマを作製することを提唱する。
【0047】
図4を参照すると、共通部品には前出の図の番号付けを使用し、電極4及び電極5は、高周波交流の供給源46及び地面47と、直流の供給源6を含む回路と並列に接続される。
【0048】
供給源6の直流が供給源46に逆流することを防止するために、高周波交流の供給源46は、好ましくは、アウトレットにフィルターを備えるべきである。また供給源46の高周波交流が供給源6に逆流することを防止するために、直流の供給源6は、好ましくは、アウトレットにフィルターを備えるべきである。
【0049】
合成の間、この構成において、直流及び高周波交流が電極4と電極5との間に印加される。
【0050】
2つの電流の比、即ちDC/RF比は、合成の間一定であることができる。しかし予期せぬことに、DC/RF比が、基板上に堆積したダイヤモンドの結晶形に影響を及ぼすことが観察された。例えば、DC電流のみの印加によって基板上に超ナノ結晶質ダイヤモンドの形成が可能となる構成では、RF/DC電源の比率が0.05〜0.3でのRF電流の印加は、より大きな結晶、即ち数十ミクロンのサブミクロンサイズの結晶で形成される堆積を得るのに役立つ。
【0051】
合成の間、2つの電流間の比、即ちDC/RF比は、合成速度を最適化するために変えることもできる。例えば、堆積するダイヤモンド層が厚くなるにつれて、直流からRF電流に段階的に切り替えることもできる。DC/RF比はまた、例えば堆積のために望ましい性質に応じて選択され得る。
【0052】
プラズマ生成電極用のハイブリッド電力供給装置は従って、すでに堆積したダイヤモンドの電気絶縁効果を補填することによってダイヤモンド堆積の速度を向上させる。また、例えば堆積物の構造及び性質などの特性を変えることも可能である。
【0053】
さらに、RF電源は、直流電源と並列にグリル20に接続できる。これらの供給源は電極の供給源と同じであってもよく、又は別々の供給源であってもよい。あるいは、これらの供給源の各々は、グリルに供給されるDC/RF電力比を制御するために、電力調整器を介して接続できる。これによって、グリルからの電子の放出が促進される。
【0054】
プラズマ中の正電荷及び負電荷の分布を均質化するために、好ましくは基板近傍でプラズマに磁場を印加することができる。これによって、形成されたダイヤモンド層/膜における空孔の存在を減少させる、又はさらには防止することが可能となる。
【0055】
代わりとして又は追加として、アノード4近傍に磁石を置くこともできる。
【0056】
図5を参照すると、共通部品には前出の図の番号付けを使用し、磁場51(点線で表される)を生成する永久磁石50は、基板電極5の下に置かれる。磁石(又は電磁石)は、磁場の半径方向若しくは縦方向の成分、又は両方の成分を最大化できるように選択される又は置かれる。本明細書において図示される電極4及び電極5は、直流のみで供給される。本明細書においては、直流とRF電流とを組み合わせることも可能である。
【0057】
ここでは、基板5の下に単一の磁石が示されているが、アノード4近傍に磁石を置くこともできる。また複数の磁石、特に基板5近傍に1つとアノード4近傍に1つ置かれてもよい。
【0058】
合成の間、プラズマ28の帯電した原子は、アノード4とカソード5との間に作製された電界の影響下で両電極間を移動し、さらには基板5近傍で磁場51にさらされる。帯電した原子の経路は、ローレンツ力の作用の下でこのようにして逸脱し、各帯電した原子/反応性原子に2つのフィールドの効果が加算される。帯電した原子は、続いて単一フィールドの存在下での経路より長いらせん状経路をたどる傾向があり、磁力線周辺でループを形成する。また、電界と磁場の2つのフィールドの効果が加算されることにより、反応性原子の移動が加速されるだろう。
【0059】
より長い経路をより速く移動する反応性原子は、その後の衝突の確率がより高くなり、結果として、活性化した炭素濃度の向上、そして最終的にダイヤモンド形成の速度及び基板上への堆積速度の向上につながる。
【0060】
本明細書では永久磁石が記載されているが、永久磁石かどうかに関わらず、基板近傍で適切な磁場を生成するものであれば、任意の形状の磁石を使用できる。
【0061】
アノードと基板/カソードとの間の距離は、堆積を最適化するように調整できる。
【0062】
従って、本発明の3要素、即ちプラズマ圧縮の手段、電源のハイブリッド化、及び基板近傍での磁場の印加の各々が、ダイヤモンド形成速度及び堆積速度に個別にプラスの影響を有し、独特の発明概念によってこれらの3要素が結びつけられている。この影響は、これらの2つの手段よりも、次の例に示すように3つの手段が組み合わされて使用される場合にいっそう強くなる。
【0063】
上述のように、プラズマにおいてその場で生成したUVCは、プラズマが形成されるように試薬の結合解離を促進することによって、反応の効率性を高めるのに役立つ。さらに、同一の場所による効果を得るために、プラズマが形成される基板近傍においてUVCを適用することも可能である。UVCランプを、化学気相堆積チャンバ内に置くこともできる。
【0064】
同様に、合成反応の効率性、特にこの反応の特異性をさらに高めるために、国際公開第2017121892号パンフレットに記載されている原理を適用できる。特に、合成される物質の吸収周波数及び/又は試薬の吸収周波数に相当する、特定の周波数及び/又はエネルギーの光子を基板に送達し、物質形成の速度を高めることができる。
【0065】
例
直径260mm及び高さ160mmのCVDチャンバは、カソードを形成する15mm×15mmのシリコン基板の上方、約35mmに置かれた直径3.2mmのタングステン製アノードを収容する。
【0066】
グリルを使用する場合、グリルはモリブデンから作製され、5cmの直径、約1cmの高さ及び1mmのメッシュを有する。
【0067】
磁石を使用する場合、0.02Tの直交磁界が電磁石から発生する。
【0068】
DC/RFのハイブリッドエネルギー供給源を使用するとき、堆積の持続時間全体にわたって、2つの供給源を同時に印加する。
【0069】
チャンバに導入する炭素キャリアガスは、97%の水素と3%のメタンとの混合物からなる。プラズマの安定性を確保するために、圧力を約300mbarにし、安定させる。
【0070】
合成中のチャンバ内の温度は約950℃である。これはシリコン基板上への堆積において最適温度に相当する。
【0071】
印加する直流は、約1200W(±100W)の電力を有する735Vの直流である。
【0072】
グリル有り又はグリル無しで、基板の下に配置する磁石有り又は無しで、直流又はハイブリッドDC/RF電流を印加することによって、1時間でいくつかのダイヤモンド堆積物を調製した。結果を下表に示す。
【表1】
【0073】
グリルの存在のみで堆積の速度が2倍になり、膜の質が均質化されている。グリルとハイブリッドDC/RF電源との組合せにより、堆積速度は6倍を超えて加速する。
【0074】
本明細書において印加される磁場は、時折のアークの結果として起こり、かつダイヤモンド堆積において空孔につながる放電を防止し、さらに堆積速度をほぼ2倍にする。
【0075】
モリブデン基板でも同様の結果が観察されている。
【0076】
上記の説明はダイヤモンド合成について記載している。また、純粋なダイヤモンドと、特定の性質、例えば半導体の性質などを有するダイヤモンドを得るための、窒素原子によってドープされたダイヤモンドとの両方に関するものであった。そのために、好適なガスが適切量で気相堆積チャンバに導入され得る。
【0077】
また予期せぬことに、基板が例えば、ケイ素、モリブデン、タングステン、チタン又は石英でできているかどうかに応じて、基板の質がダイヤモンドの結晶形に影響を及ぼすことも観察された。
【0078】
本明細書における方法の利点はダイヤモンド合成用として示されているが、プラズマ圧縮の手段は、大気圧での又は低圧での化学気相堆積による、その他のあらゆる種類の合成に、堆積速度を高めるために適用できる。DC/RFハイブリッド化及び/又は基板近傍での磁場の印加についても同じことが言える。
【国際調査報告】