特表2021-531832(P2021-531832A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-531832液体生検多重癌遺伝子バイオマーカーを用いた乳癌の早期診断および治療後のモニタリング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-531832(P2021-531832A)
(43)【公表日】2021年11月25日
(54)【発明の名称】液体生検多重癌遺伝子バイオマーカーを用いた乳癌の早期診断および治療後のモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20211029BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20211029BHJP
   C12N 15/10 20060101ALN20211029BHJP
【FI】
   C12Q1/686 Z
   C12Q1/6886 Z
   C12N15/10 100Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2021-529217(P2021-529217)
(86)(22)【出願日】2019年6月28日
(85)【翻訳文提出日】2021年1月29日
(86)【国際出願番号】KR2019007906
(87)【国際公開番号】WO2020027446
(87)【国際公開日】20200206
(31)【優先権主張番号】10-2018-0090451
(32)【優先日】2018年8月2日
(33)【優先権主張国】KR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】521044578
【氏名又は名称】エクソジェン プライベート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EXOGEN PTE. LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ジ ヨン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】本発明は、液体生検遺伝子多重バイオマーカーを用いた乳癌分子サブタイプ別の早期診断および治療後のモニタリング方法に関し、エクソソームを用いた乳癌および乳癌の分子サブタイプ別の早期診断および治療後のモニタリングのための非侵襲的方法等に関する。
【解決手段】すなわち、本発明者らは、エクソソーム内部にあるmRNAを分析する技術を開発し、前記技術を通じて診断の正確性および再現性を高めることができると判断したところ、前記乳癌分子サブタイプ別の早期診断に適用可能な最小限の多重癌遺伝子バイオマーカー技術を通じて、4つの分子サブタイプの乳癌の早期診断方法、発現程度によって乳癌進行程度を判断する方法等を提供することができるので、液体生検多重癌遺伝子バイオマーカーを用いた乳癌の早期診断方法および乳癌治療後の再発有無モニタリングのための遺伝子体外診断用医療機器の開発に広く活用され得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)正常人および被検者の生物学的試料から分離したエクソソーム(exosome)からmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2およびVDAC1遺伝子のmRNAレベルが正常人に比べて増加したとき、乳癌と判定する段階を含む、乳癌の早期診断のための情報提供方法。
【請求項2】
前記乳癌は、Luminal A、Luminal B、HER2 type、およびTriple negative/basal−likeよりなる分子サブタイプ(molecular subtype)群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の情報提供方法。
【請求項3】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2、VDAC1、およびHCCR1遺伝子のmRNAレベルがカベオリン−1、ベータ−カテニン、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプLuminal Aタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプLuminal Aタイプの乳癌の早期診断のための情報提供方法。
【請求項4】
前記分子サブタイプLuminal Aタイプは、ER陽性(Estrogen Receptor−positive)、PR陽性(Progesterone Receptor−positive)、およびHER2陰性(Human Epidermal growth factor Receptor 2−negative)であることを特徴とする、請求項3に記載の情報提供方法。
【請求項5】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2、VDAC1、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルがHCCR1、カベオリン−1、およびベータ−カテニン遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプLuminal Bタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプLuminal Bタイプの乳癌の早期診断のための情報提供方法。
【請求項6】
前記分子サブタイプLuminal Bタイプは、ER陽性、PR陽性、およびHER2陽性であることを特徴とする、請求項5に記載の情報提供方法。
【請求項7】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2、VDAC1、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルがHCCR1、カベオリン−1、およびベータ−カテニン遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプHER2 typeの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプHER2 typeの乳癌の早期診断のための情報提供方法。
【請求項8】
前記分子サブタイプHER2 typeは、ER陰性、PR陰性、およびHER2陽性であることを特徴とする、請求項7に記載の情報提供方法。
【請求項9】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記カベオリン−1遺伝子のmRNAレベルがANT2、VDAC1、HCCR1、ベータ−カテニン、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの乳癌の早期診断のための情報提供方法。
【請求項10】
前記分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプは、ER陰性、PR陰性、およびHER2陰性であることを特徴とする、請求項9に記載の情報提供方法。
【請求項11】
前記被検者は、乳癌患者であることを特徴とする、請求項3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項12】
前記生物学的試料は、血液または尿であることを特徴とする、請求項1、3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項13】
前記ANT2およびVDAC1遺伝子は、癌の生成および増殖に関与する遺伝子であることを特徴とする、請求項1、3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項14】
前記HCCR1遺伝子は、癌の進行に関与する遺伝子であることを特徴とする、請求項1、3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項15】
前記TGF−β3遺伝子は、腫瘍免疫反応に関与する遺伝子であることを特徴とする、請求項1、3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項16】
前記カベオリン−1およびベータ−カテニン遺伝子は、癌幹細胞および抗癌剤耐性に関与する遺伝子であることを特徴とする、請求項1、3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項17】
アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌の早期診断用組成物。
【請求項18】
前記エクソソームは、血液または尿から分離したことを特徴とする、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記mRNAレベルを測定する物質は、mRNAを増幅させることができるプライマーまたはプローブであることを特徴とする、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌の早期診断用キット。
【請求項21】
前記エクソソームは、血液または尿から分離したことを特徴とする、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記mRNAレベルを測定する物質は、mRNAを増幅させることができるプライマーまたはプローブであることを特徴とする、請求項20に記載のキット。
【請求項23】
(a)正常人および被検者の生物学的試料から分離したエクソソーム(exosome)からmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2およびVDAC1遺伝子のmRNAレベルが正常人に比べて増加したとき、乳癌が再発したものと判定する段階を含む、乳癌治療後の再発モニタリング方法。
【請求項24】
アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌治療後の再発モニタリングキット。
【請求項25】
(a)正常人および被検者の生物学的試料から分離したエクソソーム(exosome)からmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2およびVDAC1遺伝子のmRNAレベルが正常人に比べて増加したとき、乳癌と判定する段階を含む、乳癌の早期診断方法。
【請求項26】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2、VDAC1、およびHCCR1遺伝子のmRNAレベルがカベオリン−1、ベータ−カテニン、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプLuminal Aタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプLuminal Aタイプの乳癌の早期診断方法。
【請求項27】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2、VDAC1、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルがHCCR1、カベオリン−1、およびベータ−カテニン遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプLuminal Bタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプLuminal Bタイプの乳癌の早期診断方法。
【請求項28】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2、VDAC1、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルがHCCR1、カベオリン−1、およびベータ−カテニン遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプHER2 typeの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプHER2 typeの乳癌の早期診断方法。
【請求項29】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記カベオリン−1遺伝子のmRNAレベルがANT2、VDAC1、HCCR1、ベータ−カテニン、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの乳癌の早期診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重癌遺伝子バイオマーカーを用いた乳癌の早期診断および治療後のモニタリング方法に関し、より具体的には、エクソソーム内多重遺伝子発現分析を用いた乳癌の早期診断および治療後のモニタリングのための非侵襲的方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は、世界の女性癌発病率1位であり、韓国でも甲状腺癌の次に女性に最もありふれた癌であって、乳癌検診のためには、微細石灰化敏感度に優れたX線基盤の乳房撮影術(mammography)が主に使用されるが、乳癌発生の危険因子と知られた緻密型乳房を有する女性では、X線乳房撮影術の敏感度が顕著に低くなる限界点を有していて、追加的な乳房超音波検査を行わなければならず、超音波検査の特性上、検査時間が相対的に長く、検査者に対する依存度が大きいという短所がある。また、乳癌組織生検(tissue biopsy)を通した侵襲的方法(invasive method)の乳癌診断法は、検査者の苦痛、感染による副作用および入院と検査後に回復期間を必要とするという問題点を有している。したがって、液体生検(liquid biopsy)を用いた乳癌早期診断法の開発は非常に至急であり、これは、組織生検回数を減らし、X線乳房撮影術の低い敏感度を克服できるものと期待される。
【0003】
現在まで開発された液体生検を用いた乳癌診断法は、診断に使用されるバイオマーカーが極めて少数に過ぎず、大部分のバイオマーカーが乳癌4期だけで高い敏感度を示すので、癌早期診断に大きな困難があり、全世界的に体液を用いた新しい癌遺伝子診断法の開発が活発に行われている。代表的な液体生検を用いた乳癌遺伝子診断技術としては、血液内腫瘍細胞死滅の結果として腫瘍細胞から放出された血液内循環する腫瘍由来の循環DNA(ctDNA:circulating tumor DNA)を分析する遺伝子検査技術がある。この技術(ctDNA遺伝子分析法)は、主に特定遺伝子の突然変異(BRACA1/2 mutation)の有無を分析する方法であって、癌の早期診断よりは、未来の癌誘発可能性の予測にさらに適した技術であり、抗癌剤治療効果の予測(HER2 target therapy)により個人オーダーメード治療剤の選択に非常に効果的な技術である。ただし、初期段階の小さい腫瘍の場合、血液内ctDNAのhalf−lifeは、1時間内外であって、結果の安定性と再現性が低いだけでなく、ctDNAのレベルが個人ごとに異なり、検出することも難しいので(低い検出効率、低い純度、低い敏感度)、高感度検出方法の開発を必要とするのが現状である。
【0004】
一方、乳癌手術を受けた後にも、再発有無の確認のために定期検診を必要とするが、乳癌手術後の再発には、(1)局所再発と(2)全身再発(遠隔転移)の2つに分けられる。局所再発とは、手術部位および胸壁、脇のリンパ節等に再発したことを言い、全身再発とは、肺、骨、肝、脳、卵巣等人体の他の臓器に再発することを言う。再発は、大部分手術後5年以内に多く発生するので、5年間は、少なくとも6ヶ月に1回ずつ、その後は、一生の間に1年に1回ずつ定期検診を受けなければならない。乳癌定期検診項目としては、代表的に(1)医師の診察(乳房の他の部位および反対側の乳房に癌が新しく発生したか否かを観察)、(2)乳房の写真撮影、(3)腫瘍標識子(CA15−3)血液検査、(4)肝機能血液検査、(5)胸部の肺写真(肺に転移があるか否かを観察)、(6)全身同位元素骨スキャン(bone scan)(骨に転移があるか否かを観察するが、腫瘍標識子検査および肝機能検査で異常が発見されたり、骨の痛みのような症状がある場合に施行し、ただし、乳癌2期中盤以上の患者は、6ヶ月間隔で規則的に施行)、(7)肝超音波検査(検査が必要であると疑われる場合にのみ施行)、および(8)脳コンピュータ(CT)撮影(検査が必要であると疑われる場合にのみ施行)が含まれる。ただし、上記のように現在施行される乳癌再発モニタリングのための定期検診検査項目は、高費用だけでなく、検査者の不便さを招き、多くの時間を必要とするという短所がある。したがって、高い検出度、低費用で検査者の苦痛なしに簡単にかつ短時間に結果を得ることができる治療後のモニタリング方法を開発することが切実に要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような従来技術上の問題点を解決するためになされたものであって、エクソソーム内のmRNAを用いてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定して、乳癌および乳癌の分子サブタイプ別に早期診断する方法等を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、エクソソーム内のmRNAを用いてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定して、乳癌治療後の再発モニタリング方法を提供することを目的とする。
【0007】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、下記の記載から本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、(a)正常人および被検者の生物学的試料から分離したエクソソーム(exosome)からmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記ANT2およびVDAC1遺伝子のmRNAレベルが正常人に比べて増加したとき、乳癌と判定する段階を含む、乳癌の早期診断のための情報提供方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、(a)正常人および被検者の生物学的試料から分離したエクソソーム(exosome)からmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記ANT2およびVDAC1遺伝子のmRNAレベルが正常人に比べて増加したとき、乳癌と判定する段階を含む、乳癌の早期診断方法を提供する。
【0010】
本発明の一具現例において、前記乳癌は、Luminal A、Luminal B、HER2 type、およびTriple negative/basal−likeからなる分子サブタイプ(molecular subtype)群から選ばれ得る。
【0011】
また、本発明は、(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記ANT2、VDAC1、およびHCCR1遺伝子のmRNAレベルがカベオリン−1、ベータ−カテニン、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプLuminal Aタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプLuminal Aタイプの乳癌の早期診断のための情報提供方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記ANT2、VDAC1、およびHCCR1遺伝子のmRNAレベルがカベオリン−1、ベータ−カテニン、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプLuminal Aタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプLuminal Aタイプの乳癌の早期診断方法を提供する。
【0013】
本発明の一具現例において、前記分子サブタイプLuminal Aタイプは、ER陽性(Estrogen Receptor−positive)、PR陽性(Progesteron Receptor−positive)、およびHER2陰性(Human Epidermal growth factor Receptor 2−negative)である。
【0014】
また、本発明の他の具現例において、前記被検者は、乳癌患者である。
【0015】
また、本発明は、(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記ANT2、VDAC1、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルがHCCR1、カベオリン−1、およびベータ−カテニン遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプLuminal Bタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプLuminal Bタイプの乳癌の早期診断のための情報提供方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記ANT2、VDAC1、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルがHCCR1、カベオリン−1、およびベータ−カテニン遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプLuminal Bタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプLuminal Bタイプの乳癌の早期診断方法を提供する。
【0017】
本発明の一具現例において、前記分子サブタイプLuminal Bタイプは、ER陽性、PR陽性、およびHER2陽性である。
【0018】
また、本発明は、(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記ANT2、VDAC1、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルがHCCR1、カベオリン−1、およびベータ−カテニン遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプHER2 typeの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプHER2 typeの乳癌の早期診断のための情報提供方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記ANT2、VDAC1、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルがHCCR1、カベオリン−1、およびベータ−カテニン遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプHER2 typeの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプHER2 typeの乳癌の早期診断方法を提供する。
【0020】
本発明の一具現例において、前記分子サブタイプHER2 typeは、ER陰性、PR陰性、およびHER2陽性である。
【0021】
また、本発明は、(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記カベオリン−1遺伝子のmRNAレベルがANT2、VDAC1、HCCR1、ベータ−カテニン、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの乳癌の早期診断のための情報提供方法を提供する。
【0022】
また、本発明は、(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記カベオリン−1遺伝子のmRNAレベルがANT2、VDAC1、HCCR1、ベータ−カテニン、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの乳癌の早期診断方法を提供する。
【0023】
本発明の一具現例において、前記分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプは、ER陰性、PR陰性、およびHER2陰性である。
【0024】
また、本発明において前記生物学的試料は、血液および尿を含む。
【0025】
また、本発明のさらに他の具現例において、前記ANT2およびVDAC1遺伝子は、癌の生成および増殖に関与する遺伝子である。
【0026】
また、本発明のさらに他の具現例において、前記HCCR1遺伝子は、癌の進行に関与する遺伝子である。
【0027】
また、本発明のさらに他の具現例において、前記TGF−β3遺伝子は、腫瘍免疫反応に関与する遺伝子である。
【0028】
また、本発明のさらに他の具現例において、前記カベオリン−1およびベータ−カテニン遺伝子は、癌幹細胞および抗癌剤耐性に関与する遺伝子である。
【0029】
また、本発明は、アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌の早期診断用組成物を提供する。
【0030】
また、本発明は、アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌の早期診断用キットを提供する。
【0031】
本発明のさらに他の具現例において、前記mRNAレベルを測定する物質は、mRNAを増幅させることができるプライマーまたはプローブであり得る。
【0032】
また、本発明は、(a)正常人および被検者の生物学的試料から分離したエクソソーム(exosome)からmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記ANT2およびVDAC1遺伝子のmRNAレベルが正常人に比べて増加したとき、乳癌が再発したものと判定する段階を含む、乳癌治療後の再発モニタリング方法を提供する。
【0033】
本発明の一具現例において、前記被検者は、乳癌治療を受けたヒトであり得る。
【0034】
また、本発明は、アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌治療後の再発モニタリングキットを提供する。
【発明の効果】
【0035】
本発明者らは、血液内リボヌクレアーゼ(RNase;ribonuclease)から保護され得る二重脂質膜構造(lipids bilayer)のエクソソーム内部にあるmRNAを分析する技術を開発し、前記技術を通じて診断の正確性および再現性を高めることができると判断したところ、乳癌は、分子サブタイプ(molecular subtype)の分類が明確であり、標的治療が効果的に行われているので、本発明は、乳癌分子サブタイプ別の早期診断に適用可能な最小限の多重癌遺伝子バイオマーカー技術を通じて、4つの分子サブタイプの乳癌を早期診断することを可能にし、発現程度によって乳癌進行程度を判断することができ、高い検出感度の技術的特徴によりエクソソーム内多重遺伝子発現分析を用いて乳癌治療後の再発有無をモニタリングすることを可能にする。これに加えて、現在施行される乳癌再発モニタリングのための定期検診検査項目は、高費用だけでなく、検査者の不便さを招き、多くの時間を必要とするという短所があるが、本発明において開発される製品は、高い検出度で低費用で検査者の苦痛なしに簡単に且つ短時間に結果を得ることができるという点から非常に有用であるので、乳癌治療後に再発有無のモニタリングのための遺伝子体外診断用医療機器の開発に広く活用され得るものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】乳癌由来のエクソソームで選定された6個のバイオマーカー遺伝子(ANT2、VDAC1、HCCR1、caveolin−1、β−catenin、およびTGF−β3)を乳癌分子サブタイプ別に細胞株に処理して発現レベルを分析した結果を示す図である。
図2】乳癌由来のエクソソームで確保した5個のバイオマーカー遺伝子(ANT2、VDAC1、HCCR1、caveolin−1、およびTGF−β3)を健常者と乳癌患者poolingサンプルを対象に発現レベルを確認した図である。
図3】5×10個以上の乳癌細胞株(MDA−MB−231)が48時間の間分泌したエクソソームをスパイクテスト(Spike test)した場合に、real−time PCRのCt値を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明者らは、血液内リボヌクレアーゼ(RNase;ribonuclease)から保護され得る二重脂質膜構造(lipids bilayer)のエクソソーム内部にあるmRNAを分析する技術を開発し、前記技術を通じて診断の正確性および再現性を高めることができると判断したところ、これに基づいて液体生検多重癌遺伝子バイオマーカーを用いた乳癌の早期診断方法および乳癌治療後の再発有無のモニタリングのための遺伝子体外診断用医療機器の開発可能性があることを確認することによって、本発明を完成した。
【0038】
また、乳癌は、分子サブタイプ(molecular subtype)の分類が明確であり、標的治療が効果的に行われているので、本発明者らは、前記乳癌分子サブタイプ別の早期診断に適用可能な最小限の多重癌遺伝子バイオマーカーを発見し、4つの分子サブタイプの乳癌の早期診断方法、発現程度によって乳癌進行程度を判断する方法、高い検出感度の技術的特徴により乳癌治療後の再発有無を確認できるモニタリング、および特定遺伝子バイオマーカー発現レベルで高危険群と低危険群の癌患者に区分できる方法等を提供しようとする。
【0039】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0040】
本発明の一実施例では、乳癌細胞株由来のエクソソームを用いた実験を通じて選定された6個の遺伝子(ANT2、VDAC1、HCCR1、caveolin−1、β−catenin、およびTGF−β3)を、図1に示されたように、乳癌分子サブタイプ別の細胞株2個ずつ(MCF7、T47D/BT474、ZR−75−1/SK−BR3、MDA−MB453/MDA−MB−231、BT20)で独立して3回以上発現レベルを分析した。その結果、癌の生成および増殖において重要な役割をするANT2およびVDAC1の場合、ERおよびPR陽性とHER2陽性においてそれぞれ正の相関関係を示し、癌の進行に関与するHCCR1遺伝子の場合、ERおよびPR陽性と正の相関関係を示した。また、癌幹細胞と抗癌剤耐性に重要な機能をするcaveolin−1およびβ−cateninの場合、triple negative分子サブタイプ(ER−PR−HER2−)と深い相関関係を予想したが、期待とは異なって、caveolin−1のみがtriple negative分子サブタイプで特異的に高い発現が観察され、TGF−β3の場合は、HER2陽性と正の相関関係を確認した(実施例1参照)。
【0041】
本発明の他の実施例では、乳癌由来のエクソソームで確保した5個のバイオマーカー遺伝子を健常者と乳癌患者poolingサンプルを対象に発現レベルを確認した結果、ANT2とVDAC1が、乳癌分子サブタイプと関係なく、最も大きい差異を示すことを確認した(実施例2参照)。
【0042】
本発明のさらに他の実施例では、本発明が検出敏感度が高いことを実験を通じて明らかにし、乳癌再発モニタリングに有用であるという点を証明するために、正常血液に乳癌細胞株(MDA−MB−231:ER−/PR−/HER2−)をスパイクテストして検出可能な癌細胞数を予測した結果、5×10個以上の乳癌細胞株(MDA−MB−231)が48時間の間分泌したエクソソームをスパイクテストした場合に、real−time PCRのCt値が35未満であることを確認したところ、結果的に遺伝子検出可能な範囲であることを確認した(実施例3参照)。
【0043】
したがって、本発明は、(a)正常人および被検者の生物学的試料から分離したエクソソーム(exosome)からmRNAを抽出する段階;(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および(c)前記ANT2およびVDAC1遺伝子のmRNAレベルが正常人に比べて増加したとき、乳癌と判定する段階を含む、乳癌の早期診断のための情報提供方法を提供する。
【0044】
本発明に使用される用語「エクソソーム(exosome)」とは、細胞から分泌される二重脂質膜(lipid bilayer)を有している小さい形態の小胞体を包括的に意味し、エクソソームは、多様な細胞から分泌され、略30〜200nmの直径を有しているものと知られている。このようなエクソソーム内には、細胞に由来した多様な種類のタンパク質、DNA、mRNA、およびmiRNA等が含まれている。
【0045】
本発明に使用される用語「生物学的試料(biological sample)」とは、非侵襲的に獲得され得る試料であって、エクソソームを含んでいるすべての試料を意味し、好ましくは、血液、血しょう、血清、骨髄、組織、細胞、唾液、喀痰、髪の毛、尿等てあり得、より好ましくは、血液、尿等や、アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 1;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上の多重癌遺伝子バイオマーカーのmRNA量を測定できる試料であれば、これに制限されない。
【0046】
本発明に使用される用語「分子サブタイプ」とは、疾病の診断や治療等臨床に用いるための分子診断による分類タイプを意味し、最近、患者の身体を分子レベルでプロファイリングすることができることによって、それによる標的治療法の開発につながり、疾病の分類方式も変わっている傾向にある。前記分類による分子サブタイプは、癌治療および癌患者の予後と密接な関連があり、好ましくは、乳癌であり、それによる乳癌の分子サブタイプタイプは、Luminal A、Luminal B、HER2 type、およびTriple negative/basal−likeであるが、これに制限されない。
【0047】
また、前記分子サブタイプタイプのうちLuminal Aタイプは、ER陽性(Estrogen Receptor−positive)、PR陽性(Progesterone Receptor−positive)、およびHER2陰性(Human Epidermal growth factor Receptor 2−negative)であることを特徴とし、分子サブタイプLuminal Bタイプは、ER陽性、PR陽性、およびHER2陽性であることを特徴とし、分子サブタイプHER2 typeは、ER陰性、PR陰性、およびHER2陽性であることを特徴とし、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプは、ER陰性、PR陰性、およびHER2陰性であることを特徴とするが、これに制限されない。
【0048】
前記ANT2およびVDAC1遺伝子は、癌の生成および増殖に関与する遺伝子であることを特徴とし、前記HCCR1遺伝子は、癌の進行に関与する遺伝子であることを特徴とし、前記TGF−β3遺伝子は、腫瘍免疫反応に関与する遺伝子であることを特徴とし、前記カベオリン−1およびベータ−カテニン遺伝子は、癌幹細胞および抗癌剤耐性に関与する遺伝子であることを特徴とするが、これに制限されない。
【0049】
また、本発明は、アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌の早期診断用組成物を提供する。
【0050】
また、本発明は、アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌の早期診断用キットを提供する。
【0051】
前記エクソソームは、血液または尿から分離され得るが、これに制限されず、前記mRNAレベルを測定する物質は、mRNAを増幅させることができるプライマーまたはプローブであることを特徴とするが、これに制限されない。
【0052】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をさらに容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例により本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
実施例1.乳癌の早期診断用多重遺伝子バイオマーカー選別
1−1.分子サブタイプ別の乳癌細胞株培養
分子サブタイプ別の乳癌細胞株を下記表1のように韓国細胞株銀行から購買した後に培養した。
【0054】
【表1】
【0055】
培養条件は、10%FBS(Fetal Bovine Serum)と1%penicillin/streptomycinが含まれたDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s medium)を使用して5%CO、37℃の条件の細胞培養器で培養した。
【0056】
1−2.乳癌細胞株由来のエクソソーム抽出
乳癌細胞株が分泌するエクソソームを抽出するために、エクソソームが除去されたFBS(exosome−depleted FBS)が含まれた細胞培養液を使用した。培養液を交替する前に、PBS(Phosphate Buffered Saline,pH7.4)で2回洗浄(washing)し、培養液を交替した後、48時間の間5% CO、37℃条件の細胞培養器で培養することによって、エクソソーム濃縮を誘導し、amicon Ultra−15 centrifugal filter(ultracel−3K)を用いて培養液の体積を1/10に濃縮した後、SBI Exoquick TC試薬を用いてエクソソームを得た。
【0057】
1−3.エクソソーム内RNAs抽出
(株)ジェノリューションで生産販売するエクソソーム内RNA抽出試薬を使用してエクソソーム内RNAを抽出した。この際、エクソソーム内RNAを抽出する原理は、培養液内のエクソソームを分解(lysis)させ、エクソソームから流れ出たタンパク質、DNA、およびRNA(mRNA、miRNA、rRNA等)の中からRNAのみを分離し、この際、タンパク質とDNAが汚染されないように最適化して純度を高め、RNAs抽出濃度(RNA prep yield)を最大化できる抽出過程(protocol)を構築した。
【0058】
1−4.抽出したエクソソーム内RNA定量
乳癌細胞株培養液から抽出したエクソソーム内RNA濃度を定量するために、nano−drop(波長260nmで吸光度)を使用して濃度測定をし、260/280ratioと260/230ratioを通じてRNA純度および汚染度を確認して、正常範囲内に属するRNAを実験に使用した。
【0059】
1−5.qRT−PCR(quantitative Reverse Transcription−Polymerase Chain Reaction)
乳癌細胞株由来のエクソソームRNA100ngをtemplateとして逆転写反応(reverse transcription)とcDNA増幅過程(polymerase chain reaction)をone−stepで進めるBioline社製One−step qRT−PCR試薬(SensiFASTTM Probe Lo−ROX One−Step Kit)を使用し、各遺伝子probeは、IDT(Integrated DNA Technologies)社製品であって、情報は、下記表2の通りである。
【0060】
【表2】
【0061】
実験に使用されたreal−time PCR装備は、ABI社StepOne plus装備を使用し、すべてのサンプルは、結果の信頼度を高めるためにduplicateで進めた。
【0062】
1−6.選別および分析結果
乳癌の早期診断バイオマーカー候補として癌の生成および増殖(tumor initiation and proliferation)に関与する遺伝子、癌の進行(tumor progression)に関与する遺伝子、腫瘍免疫反応(tumor immune response)に関与する遺伝子、および癌幹細胞(cancer stem cells)と抗癌剤耐性(chemoresistant)遺伝子の中から約10個の候補遺伝子を選定し、癌細胞株由来のエクソソーム(cancer cell line−derived exosomes)を対象に予備実験を進め、RNAs濃度100ngを基準して、real−time qRT−PCR Ct値が35以上である遺伝子を除外させ、乳癌細胞株由来のエクソソームで一定レベル以上の発現を示す6個の遺伝子を選定した。
【0063】
前記6個の遺伝子のうちANT2およびVDAC1遺伝子は、癌の生成および増殖に関与し、HCCR1遺伝子は、癌の進行に関与し、TGF−β3は、腫瘍免疫反応に関与し、caveolin−1およびβ−catenin遺伝子は、癌幹細胞と抗癌剤耐性に関与する。
【0064】
前記選定された6個の遺伝子を乳癌分子サブタイプ別に細胞株2個ずつ(MCF7、T47D/BT474、ZR−75−1/SK−BR3、MDA−MB453/MDA−MB−231、BT20)で独立して3回以上発現レベルを分析した。この際、RNAs濃度を正規化(normalization)するためのinternal control(housekeeping gene)遺伝子としては、2個の遺伝子(b−actinおよび18S rRNA)を使用し、各遺伝子の発現が最も低い亜型の発現を1に定めて、相対的発現レベルを比較した。
【0065】
分析結果、繰り返して6個のターゲット遺伝子のうち5個の遺伝子が特定分子サブタイプで有意な差異を示す結果を得ることによって、乳癌分子サブタイプ別の早期診断に非常に有用なバイオマーカーとしての機能をするものと期待される。
【0066】
具体的に、図1に示されたように、癌の生成および増殖において重要な役割をするANT2およびVDAC1遺伝子の場合、ERおよびPR陽性とHER2陽性においてそれぞれ正の相関関係を示し、癌の進行に関与するHCCR1遺伝子の場合、ERおよびPR陽性と正の相関関係を示した。また、癌幹細胞と抗癌剤耐性に重要な機能をするcaveolin−1およびβ−cateninの場合、triple negative分子サブタイプ(ER−PR−HER2−)と深い相関関係を予想したが、期待とは異なってcaveolin−1のみがtriple negative分子サブタイプで特異的に高い発現が観察され、TGF−β3の場合は、HER2陽性と正の相関関係を示した。
【0067】
これを総合してみると、乳癌の分子サブタイプLuminal Aタイプ(ER+/PR+/HER2−)の場合、ERおよびPRのみが陽性であるから、ANT2、VDAC1、およびHCCR1遺伝子と正の相関関係を示し、したがって、前記3個の遺伝子がLuminal Aタイプ関連遺伝子マーカーであることを確認することができた。また、乳癌の分子サブタイプLuminal Bタイプ(ER+/PR+/HER2+)の場合、ERおよびPRは陽性であり、HER2も陽性であるから、HER2陰性である場合、HCCR1遺伝子は、正の相関関係が示さないので除外される代わりに、TGF−β3の場合は、HER2陽性と正の相関関係を示すので、ER、PR陽性とHER2陽性と正の相関関係にあるANT2、VDAC1およびTGF−β3遺伝子がLuminal Bタイプ関連遺伝子マーカーであることを確認することができた。
【0068】
また、乳癌の分子サブタイプHER2 type(ER−/PR−/HER2+)の場合、HER2のみが陽性であるから、HER2と正の相関関係にあるANT2、VDAC1およびTGF−β3遺伝子も、HER2 type関連遺伝子マーカーであることを確認することができ、そして、乳癌の分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの場合は、ER、PR、HER2が全部陰性であるから、caveolin−1遺伝子のみが特異的に高く発現されたところ、caveolin−1遺伝子がTriple negative/basal−likeタイプの遺伝子マーカーであることを確認することができた。
【0069】
最終的に、分子サブタイプ別に最も明確な差異を示す5個の遺伝子マーカーを下記表3に整理した。
【0070】
【表3】
【0071】
前記5個の遺伝子組合せは、分子サブタイプ別の乳癌の早期診断を可能にするだけでなく、高い検出感度の技術的特徴により乳癌治療後の再発有無をモニタリングするのに非常に有用に使用されるものと期待される。これに加えて、治療予後が最も悪いtriple negative分子サブタイプで特異的に発現する遺伝子バイオマーカーの発現レベルは、乳癌治療予後を間接的に予測できるものと期待される。
【0072】
実施例2.正常人と乳癌の早期診断用多重遺伝子バイオマーカーの比較
2−1.健常者と癌患者血液サンプルの準備
本研究で使用された健常者と癌患者の血液サンプルは、冷凍(−80℃)保管されたサンプルであって、SSTチューブに採血した血清(serum)を使用した。具体的に、健常者の場合、癌タンパク診断用バイオマーカーが正常範囲であるサンプルを使用し、癌患者の場合、大学病院で癌診断(確診)を受けたサンプルを使用した。エクソソーム内のRNAを抽出するために必要とする血清の最小体積は、200ulであり、サンプルは、乳癌患者poolingサンプルを下記のように準備した。
【0073】
【表4】
【0074】
上記のように準備されたサンプルは、200ulずつ分注して−80℃に保管し、すべてのサンプルが同一に1回のfreezingとthawingを経ることを原則とした。
【0075】
2−2.エクソソーム内のRNAs抽出
健常者と乳癌患者の血清を対象にエクソソーム内のRNAを抽出するためには、(株)ジェノリューションで生産販売する自動化装備であるNextractor(登録商標)NX−48を使用し、試薬は、装備に最も適合した同じ会社製品のエクソソーム内RNA抽出試薬を使用した。エクソソーム内RNAを抽出する原理は、実施例1−3に記載されたものと同一である。
【0076】
2−3.抽出したエクソソーム内のRNA定量
血清から自動化装備で抽出したエクソソーム内RNA濃度を定量する方法は、実施例1−4に記載されたものと同一である。
【0077】
2−4.qRT−PCR(quantitative Reverse Transcription−Polymerase Chain Reaction)
血清から抽出したexo RNA 100ngをtemplateとして実施例1−5と同じ方法でqRT−PCRを行った。
【0078】
2−5.比較結果
図2に示されたように、乳癌由来のエクソソームで確保した5個のバイオマーカー遺伝子を健常者と乳癌患者poolingサンプルを対象に発現レベルを確認した結果、正常人と乳癌患者との間で有意な差異を示す。
【0079】
この際、分子サブタイプ別のpoolingサンプルでなく、triple negativeに該当するcaveolin−1は、正常人と乳癌患者との間で相対的に低い差異を示す。したがって、分子サブタイプ別のサンプルで再び確認してみる必要があり、乳癌分子サブタイプと関係なく、最も大きい差異を示すANT2およびVDAC1が、乳癌の早期診断に有用なものと判断される。
【0080】
実施例3.多重遺伝子バイオマーカーを通した乳癌治療後の再発有無のモニタリングの可能性確認
この技術が乳癌再発のモニタリングに有用であるという科学的根拠となる検出敏感度を実験的に証明するために、正常血液に乳癌細胞株(MDA−MB−231:ER−/PR−/HER2−)をスパイクテストして検出可能な癌細胞数を予測してみた。
【0081】
体重60kgの女性の血液が3.6Lであると仮定するとき、1cmサイズの腫瘍(癌細胞数:1×10)が存在する場合、血液1mlには、2.22×10個の癌細胞が分泌するエクソソームが存在すると仮定した
【0082】
【表5】
【0083】
一般的に血液1mlを遠心分離すると、約0.5mlの血清を得ることができるので、1cmサイズの腫瘍が存在する人為的な条件で健常者の血清0.25mlに乳癌細胞株1×10〜1×10個が48時間の間分泌したエクソソームをスパイクテストしたとき、遺伝子分析が可能な範囲を確認してみた。
【0084】
【表6】
【0085】
スパイクテストに使用した乳癌細胞株由来のエクソソームは、MDA−MB−231(ER−/PR−/HER2−)細胞が分泌するエクソソームであるので、分析する遺伝子は、caveolin−1で実施した。
【0086】
その結果、図3に示されたように、5×10個以上の乳癌細胞株(MDA−MB−231)が48時間の間分泌したエクソソームをスパイクテストした場合に、real−time PCRのCt値が35未満であって、遺伝子検出可能な範囲であると判断された(一般的にreal−time PCRのCt値が35以上である場合は、遺伝子発現値を信頼しない)。実際に腫瘍を有している場合、血液内エクソソームは、48時間よりさらに長い時間の間蓄積されるので、実際に、この技術は、1cm未満のサイズの腫瘍を有している検査者を区別できる高い検出感度の技術であって、単純に乳癌の早期診断に活用され得るだけでなく、乳癌治療後の再発有無をモニタリングするのに非常に有用なものと予測される。
【0087】
以上、本発明内容の特定部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術は、単に好適な実施様態であるだけであり、これによって本発明の範囲が制限されるものではない点は明白である。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれらの等価物により定義されると言える。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の乳癌分子サブタイプ別の早期診断に適用可能な最小限の多重癌遺伝子バイオマーカー技術を用いる場合、4つの分子サブタイプの乳癌を早期診断することが可能であり、発現程度によって乳癌進行程度を判断することができ、高い検出感度の技術的特徴によりエクソソーム内多重遺伝子発現分析を用いて乳癌治療後の再発有無をモニタリングすることが可能である。これに加えて、現在施行される乳癌再発のモニタリングのための定期検診検査項目は、高費用だけでなく、検査者の不便さを招き、多くの時間を必要とするという短所があるが、本発明において開発される製品は、高い検出度で低費用で検査者の苦痛なしに簡単に且つ短時間に結果を得ることができるという点から非常に有用であるので、乳癌治療後に再発有無のモニタリングのための遺伝子体外診断用医療機器の開発に広く活用され得るものと期待される。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2021年1月29日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)正常人および被検者の生物学的試料から分離したエクソソーム(exosome)からmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2およびVDAC1遺伝子のmRNAレベルが正常人に比べて増加したとき、乳癌と判定する段階を含む、乳癌の早期診断のための情報提供方法。
【請求項2】
前記乳癌は、Luminal A、Luminal B、HER2 type、およびTriple negative/basal−likeよりなる分子サブタイプ(molecular subtype)群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の情報提供方法。
【請求項3】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2、VDAC1、およびHCCR1遺伝子のmRNAレベルがカベオリン−1、ベータ−カテニン、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプLuminal Aタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプLuminal Aタイプの乳癌の早期診断のための情報提供方法。
【請求項4】
前記分子サブタイプLuminal Aタイプは、ER陽性(Estrogen Receptor−positive)、PR陽性(Progesterone Receptor−positive)、およびHER2陰性(Human Epidermal growth factor Receptor 2−negative)であることを特徴とする、請求項3に記載の情報提供方法。
【請求項5】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2、VDAC1、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルがHCCR1、カベオリン−1、およびベータ−カテニン遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプLuminal Bタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプLuminal Bタイプの乳癌の早期診断のための情報提供方法。
【請求項6】
前記分子サブタイプLuminal Bタイプは、ER陽性、PR陽性、およびHER2陽性であることを特徴とする、請求項5に記載の情報提供方法。
【請求項7】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2、VDAC1、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルがHCCR1、カベオリン−1、およびベータ−カテニン遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプHER2 typeの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプHER2 typeの乳癌の早期診断のための情報提供方法。
【請求項8】
前記分子サブタイプHER2 typeは、ER陰性、PR陰性、およびHER2陽性であることを特徴とする、請求項7に記載の情報提供方法。
【請求項9】
(a)被検者の生物学的試料から分離したエクソソームからmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン、および形質転換成長因子ベータ3(TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記カベオリン−1遺伝子のmRNAレベルがANT2、VDAC1、HCCR1、ベータ−カテニン、およびTGF−β3遺伝子のmRNAレベルに比べて増加したとき、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの乳癌と判定する段階を含む、分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプの乳癌の早期診断のための情報提供方法。
【請求項10】
前記分子サブタイプTriple negative/basal−likeタイプは、ER陰性、PR陰性、およびHER2陰性であることを特徴とする、請求項9に記載の情報提供方法。
【請求項11】
前記被検者は、乳癌患者であることを特徴とする、請求項3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項12】
前記生物学的試料は、血液または尿であることを特徴とする、請求項1、3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項13】
前記ANT2およびVDAC1遺伝子は、癌の生成および増殖に関与する遺伝子であることを特徴とする、請求項1、3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項14】
前記HCCR1遺伝子は、癌の進行に関与する遺伝子であることを特徴とする、請求項1、3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項15】
前記TGF−β3遺伝子は、腫瘍免疫反応に関与する遺伝子であることを特徴とする、請求項1、3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項16】
前記カベオリン−1およびベータ−カテニン遺伝子は、癌幹細胞および抗癌剤耐性に関与する遺伝子であることを特徴とする、請求項1、3、5、7および9のいずれか1項に記載の情報提供方法。
【請求項17】
アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌の早期診断用組成物。
【請求項18】
前記エクソソームは、血液または尿から分離したことを特徴とする、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記mRNAレベルを測定する物質は、mRNAを増幅させることができるプライマーまたはプローブであることを特徴とする、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌の早期診断用キット。
【請求項21】
前記エクソソームは、血液または尿から分離したことを特徴とする、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記mRNAレベルを測定する物質は、mRNAを増幅させることができるプライマーまたはプローブであることを特徴とする、請求項20に記載のキット。
【請求項23】
(a)正常人および被検者の生物学的試料から分離したエクソソーム(exosome)からmRNAを抽出する段階;
(b)前記抽出されたmRNAを鋳型としてアデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する段階;および
(c)前記ANT2およびVDAC1遺伝子のmRNAレベルが正常人に比べて増加したとき、乳癌が再発したものと判定する段階を含む、乳癌治療後の再発モニタリング方法。
【請求項24】
アデニンヌクレオチド転位酵素2(Adenine nucleotide translocase 2;ANT2)、電位依存性陰イオン選択性チャネル1(Voltage−dependent anion−selective channel 1;VDAC1)、HCCR1(Human Cervical cancer oncogene)、カベオリン−1(caveolin−1)、ベータ−カテニン(β−catenin)、および形質転換成長因子ベータ3(transforming growth factor−beta 3;TGF−β3)遺伝子よりなる群から選ばれた1つ以上のmRNAレベルを測定する物質を含む、エクソソーム(exosome)を用いた乳癌治療後の再発モニタリングキット。
【国際調査報告】