(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-532174(P2021-532174A)
(43)【公表日】2021年11月25日
(54)【発明の名称】慢性外傷性脳症の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4706 20060101AFI20211029BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20211029BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20211029BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20211029BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20211029BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20211029BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20211029BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20211029BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20211029BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20211029BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20211029BHJP
【FI】
A61K31/4706
A61P25/28
A61K9/20
A61K9/08
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/26
A61K47/38
A61K47/10
A61K47/44
A61K47/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2021-523563(P2021-523563)
(86)(22)【出願日】2019年7月10日
(85)【翻訳文提出日】2021年2月24日
(86)【国際出願番号】US2019041119
(87)【国際公開番号】WO2020014301
(87)【国際公開日】20200116
(31)【優先権主張番号】62/695,989
(32)【優先日】2018年7月10日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】521013138
【氏名又は名称】シーテック エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】CTEC LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュッケ−ウォルド,ブランドン
(72)【発明者】
【氏名】ターナー,ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ログスドン,アリック
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA36
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4C086NA14
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4C086ZC75
(57)【要約】
【解決手段】
本発明は、外傷性脳損傷(TBI)及び慢性外傷性脳症(CTE)を効果的に治療するための化合物、組成物及び方法に関する。3-フェニル-N-[2,2,2-トリクロロ-1-[[(8-キノリニルアミノ)チオキソメチル]アミノ]エチル]-2-プロペンアミド及び/又はグアナベンツを治療有効量で投与した結果、外傷性脳損傷の影響が緩和され、及び/又は慢性外傷性脳症の発症が減少又は抑制される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおける外傷性脳損傷を軽減する又は慢性外傷性脳症の発症を軽減する方法において、
以下の構造I
【化7】
を有する3-フェニル-N-[2,2,2-トリクロロ-1-[[(8-キノリニルアミノ)チオキソメチル]アミノ]エチル]-2-プロペンアミド又は薬学的に許容されるその塩を、治療有効量でヒトに投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
投与は、注射、非経口及び経口からなる群から選択される1又は複数の手法を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
治療有効量は1日投与量である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
治療有効量は1乃至100mgの用量である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
外傷性脳損傷を軽減する又は慢性外傷性脳症の発症を軽減する方法において、
医薬組成物を調製する工程であって、
以下の構造I
【化8】
を有する3-フェニル-N-[2,2,2-トリクロロ-1-[[(8-キノリニルアミノ)チオキソメチル]アミノ]エチル]-2-プロペンアミド又は薬学的に許容されるその塩の活性化合物を得る工程と、
前記活性化合物を薬学的に許容される担体又は賦形剤と組み合わせる工程と、
外傷性脳損傷及び慢性外傷性脳症の少なくとも一方を有するヒトに、治療有効量の前記医薬組成物を投与する工程と、
を含む方法。
【請求項6】
前記薬学的に許容される担体又は賦形剤は、固体及び液体からなる群から選択される形態である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記担体又は賦形剤は、不活性充填剤、希釈剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、吸収剤、着色剤、及び、それらの混合物又は組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記結合剤は、デンプン、ゼラチン、グルコース、β-ラクトース、トウモロコシ甘味料、アカシア、トラガカント、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス、及び、それらの混合物又は組合せからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記医薬組成物は錠剤の形態である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記医薬組成物は、前記活性化合物を0.05重量%乃至95重量%含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記医薬組成物は、薬剤、医薬品、アジュバント、希釈剤、ビヒクル、及び、それらの混合物又は組合せからなる群から選択される添加剤を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
ヒトにおける外傷性脳損傷を軽減する又は慢性外傷性脳症の発症を軽減する方法において、
(i)以下の構造I
【化9】
を有する3-フェニル-N-[2,2,2-トリクロロ-1-[[(8-キノリニルアミノ)チオキソメチル]アミノ]エチル]-2-プロペンアミド、又は薬学的に許容されるその塩、及び
(ii)下記の構造II
【化10】
を有するグアナベンツ、又は薬学的に許容されるその塩
からなる群から選択された少なくとも1つの化合物をヒトに投与する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本願は、2018年7月10日に出願された米国仮出願第62/695,989号、発明の名称「TREATMENT OF CHRONIC TRAUMATIC ENCEPHALOPATHY」について、35 U.S.C.§119(e)に基づく優先権の利益を主張しており、その内容は、参照により本明細書の一部となる。
<技術分野>
本発明は、慢性外傷性脳症(CTE)の治療に関するものであり、より詳細には、CTE、特に外傷性脳損傷(TBI)の患者におけるCTEの発生及び/又は進行を安定させる、後退させる、又は妨げるための化合物、組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外傷性脳損傷(TBI)は深刻な健康被害をもたらし、毎年3,000万人を超えるアメリカ人がTBIを経験している。TBIの最も一般的な形態である、微小で恐らく無害である軽度のTBIでさえ、長期的な影響を及ぼし、莫大な医療費の一因となり得る。最近まで、損傷が時間とともに拡大及び進行する機構はよく理解されていなかった。研究における技術の進歩により、認知機能低下の長期的な臨床症状に何が寄与している可能性があるのかを調べられるようになってきた。
【0003】
TBIの症状は、CTEとして知られる疾患に現れる。CTEは神経変性性で進行性の疾患である。この疾患は誰にでも発症する可能性があり、特に兵士やアスリートなど、反復性頭部外傷の影響を受けやすい人に発症する可能性がある。CTEの持続的な症状には、衝動性、攻撃性、運動機能障害などがある。長期的な症状には、記憶喪失や認知機能の低下が挙げられる。CTE患者の脳の死後評価では、脳の別々の領域や溝の深部内にてタウ神経原線維変化が血管周囲に蓄積していることが認められている。タウ神経原線維変化は、微小管構造を制御する過リン酸化タウタンパク質の凝集体である。
【0004】
脳震とう又は脳震とうに至らない程度の(sub-concussive)反復性損傷の結果としてのCTEの発症については、これまでほとんど理解されていなかった。前述のように、CTEは、凝集したタウ神経原線維変化の存在を特徴としている。しかしながら、TBIがどのようにして過リン酸化タウの発生とCTEへの進行とを引き起こすのかは不明である。従って、TBIがどのようにしてCTEに繋がるのかを解明し、ひいてはTBIのCTEへの進行を最小限に抑える又は阻止するために、タウのリン酸化と脱リン酸化(夫々、キナーゼとホスファターゼ)を制御する機構を解明する差し迫った必要が存在している。
【0005】
タウリン酸化制御に関与する機構は、アルツハイマー病(AD)におけるタンパク質凝集について行われた研究で明らかにされている。タンパク質凝集によって誘発される機構の一つは、小胞体(ER)ストレスとして知られる細胞ストレス応答である。ERストレスのマーカーは、ADのモデルにおいて上昇することが示されており、神経原線維変化の発生前に、過リン酸化タウと共局在化するか、又は同じ細胞内に存在することが示されている。一旦変化が形成されると、恐らく不可逆的なステップを示す変化の形成に起因して、ERストレスとの関連は失われる。治療の観点からは、早期の時点でのERストレスの調節は、妥当な治療介入と保護戦略とを提示する可能性がある。ADの前臨床試験では、サルブリナールがERストレスの調節に関して有望な結果を示している。サルブリナールは、elF2α(真核生物の翻訳開始因子2αサブユニット)ホスファターゼ酵素の特異的な阻害剤として作用し、ERストレス誘導アポトーシスの特異的阻害剤である。
【0006】
当該分野では、CTEの進行を治療又は緩和するために、TBIの影響を治療又は緩和するのに有効な方法を開発する必要性がある。更に、TBI及びCTEの発症を防止するために又はその影響を緩和するために、過リン酸化タウが最小化される又は抑制されるような、タウのリン酸化及び脱リン酸化を調節する機構を開発する必要性がある。
【発明の概要】
【0007】
ある態様において、本発明は、ヒトにおける外傷性脳損傷を緩和する又は慢性外傷性脳症の発症を減少させる方法に関する。当該方法は、以下の構造Iを有する3-フェニル-N-[2,2,2-トリクロロ-1-[[(8-キノリニルアミノ)チオキソメチル]アミノ]エチル]-2-プロペンアミド、又はその薬学的に許容される塩を治療有効量でヒトに投与する工程を含む。
【化1】
【0008】
ヒトに投与する工程は、注射、非経口及び経口からなる群から選択される1又は複数の手法を含んでよい。
【0009】
特定の実施形態では、治療有効量は1日投与量である。
【0010】
特定の実施形態では、治療有効量は、静脈内注射で10mg、腹腔内注射で50mg、経口で100mgの用量である。
【0011】
別の態様では、本発明は、外傷性脳損傷を緩和する又は慢性外傷性脳症の発症を減少させる方法に関する。当該方法は、医薬組成物を調製する工程を含み、当該工程は、以下の構造Iを有する3-フェニル-N-[2,2,2-トリクロロ-1-[[(8-キノリニルアミノ)チオキソメチル]アミノ]エチル]-2-プロペンアミド、又はその薬学的に許容される塩の活性化合物を得る工程と、
【化2】
当該活性化合物を薬学的に許容される担体又は賦形剤と組み合わせる工程と、医薬組成物の治療有効量を、外傷性脳損傷及び慢性外傷性脳症のうちの少なくとも1つを有するヒトに投与する工程とを含む。
【0012】
薬学的に許容される担体又は賦形剤は、固体及び液体からなる群から選択される形態であってもよい。好ましい賦形剤は固体である。
【0013】
好ましい賦形剤は、1,4-ジヒドロ-N-メチルニコチン酸(ジヒドロトリゴネリン)であって、これは血液脳関門透過性を高めるために選択される。
【0014】
担体又は賦形剤は、不活性充填剤、希釈剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、吸収剤、着色剤、及び、それらの混合物又は組合せからなる群から選択されてよい。結合剤は、デンプン、ゼラチン、グルコース、β-ラクトース、トウモロコシ甘味料、アカシア、トラガカント、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス、及びそれらの混合物又は組合せからなる群から選択されてよい。好ましい混合物は、脳への浸透性を高めるために親油性である。
【0015】
本発明の医薬組成物は、錠剤の形態であってよい。
【0016】
特定の実施形態では、医薬組成物は、0.05重量%乃至95重量%の活性化合物を含んでよい。
【0017】
医薬組成物は、薬剤、医薬品、アジュバント、希釈剤、ビヒクル、及びそれらの混合物又は組合せからなる群から選択される添加剤を含んでよい。
【0018】
本発明の更に別の態様は、ヒトにおける外傷性脳損傷を緩和する又はCTEの発生を減少させる方法である。当該方法は、(i)下記構造Iを有する3-フェニル-N-[2,2,2-トリクロロ-1-[[(8-キノリニルアミノ)チオキソメチル]アミノ]エチル]-2-プロペンアミド、又はその薬学的に許容される塩、
【化3】
及び
(ii)下記の構造IIを有するグアナベンツ、又はその薬学的に許容される塩、
【化4】
からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を治療有効量でヒトに投与する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の更なる理解は、添付の図と併せて読むと、好ましい実施形態の以下の説明から得ることができる。
【0020】
【
図1】
図1は、CTEと診断されたナショナルフットボールリーグ(NFL)選手、CTEと診断されたWWEレスラー、及び対照(CTRL)サンプルにおけるUPR脳のERストレスカスケードの増加を示す画像及びグラフである。Xbox結合タンパク質1(XBP1)はアーム2を示し、p-eIF2はアーム1を示し、ATF6はアーム3を示す。
【0021】
【
図2】
図2は、ERストレスマーカーイノシトール要求性酵素(inositol requiring enzyme)1α(IRE1)が、
図1と同じCTEサンプルにおいて神経原線維変化マーカーAT270と有意に共局在化していることを示す画像である。
【0022】
【
図3】
図3は、病理学的タウリン酸化と同じ領域におけるタウキナーゼGSK3の増加を示す画像である。
【0023】
【
図4】
図4は、データを生成するために使用したラットの空気加速損傷モデル(air acceleration injury model)を示す画像及びグラフである。
【0024】
【
図5】
図5は、単一の爆風損傷の24時間後にサルブリナールがCHOP及びGADD34(ERストレスのマーカー)を有意に減少させたこと示すグラフである。
【0025】
【
図6】
図6は、免疫組織化学による爆風後(post-blast)サルブリナール投与の保護効果を示す画像及びグラフである。
【0026】
【
図7】
図7は、ERストレスカスケードを変化させることにより、受傷後24時間でサルブリナールが酸化ストレスを減少させたことを示す画像及びグラフである。
【0027】
【
図8】
図8は、サルブリナールが、ERストレスカスケードを効果的に終了させることにより、受傷後24時間後に神経炎症を減少させたことを示す画像である。
【0028】
【
図9】
図9は、爆風の繰り返しが、コントラクー(contre-coup)脳半球(対側)における最終的な損傷の後1ヶ月で、タウオパチーマーカーAT8及びAT270の増加を引き起こしたことを示す画像及びグラフである。
【0029】
【
図10】
図10は、ERストレスの広域阻害剤(DHA)が、損傷の繰り返し後3週間で、ERストレス活性化因子BiP及びタウキナーゼGSK3を阻害したことを示す画像及びグラフである。
【0030】
【
図11】
図11は、1回の損傷の7日後にサルブリナールが衝動様行動(impulsive-like behavior)を減少させたこと示す画像及びグラフである。
【0031】
【
図12】
図12は、サルブリナールが、損傷の繰り返し後72時間に、高架式十字迷路のオープンアームで過ごす時間を妨げることで衝動様行動を減少させたことを示す画像及びグラフである。
【0032】
【
図13】
図13は、ERストレス阻害が、モリス水迷路で測定した損傷後の認知学習を改善し(パネルD)、そして、探索試行で測定した学習イベントの保持力を向上させた(パネルE)ことを示す画像及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、慢性外傷性脳症(CTE)の発症を治療し、減少させ、又は予防するための化合物、組成物及び方法に関する。外傷性脳損傷(TBI)がCTEの発症及び進行をもたらす可能性があることが分かっている。従って、本発明の目的は、TBIの進行を緩和し、CTEの発症又は進行をできるだけ少なくすることである。
【0034】
CTEは、過リン酸化タウタンパク質及び神経原線維変化の存在によって特徴付けられ得る。従って、過リン酸化が低減される又は妨げられるようにタウタンパク質のリン酸化を調節又は制御する機構を特定することで、CTEの発症又は進行を低減又は予防することができる。しかしながら、一般的に、タンパク質のリン酸化は、実質的に全ての生物学的プロセスを調節しており、そして、タンパク質キナーゼはよく知られた薬物標的であるが、タンパク質ホスファターゼを標的とすることは困難であることが証明されている。
【0035】
特定の理論に拘束されることは意図しないが、小胞体(ER)ストレスがTBIやCTEの発症及び進行に関与していると考えられる。ERは、タンパク質フォールディングを司る細胞小器官である。新たに合成されたアンフォールド又はミスフォールドタンパク質がER内腔に蓄積されることでERがストレスを受けると、アンフォールドタンパク質応答(UPR)が活性化される。UPRは、ERストレスに応答して真核細胞で活性化されるシグナル伝達機構である。UPRは、ER内の恒常性を回復及び維持して細胞の生存を促進し、ERストレスが軽減されないままである場合にはアポトーシスを誘導する。
【0036】
神経炎症及びERストレスは、多くの神経疾患と関連している。故に、ヒト、例えばTBI患者に、治療有効量のERストレス阻害化合物を投与して、ERストレスを調節又は阻害し、例えばERストレスを減少させ又は防止し、ひいてはCTEを安定させ、後退させ、又は妨げることが本発明の目的である。
【0037】
本発明によれば、神経原線維変化の発生を導く機構が特定され、その変化に寄与する経路、即ちERストレスが標的化され、それにより、CTE患者における短期的及び長期的な症状及び性状が低減される。ERストレスには、様々な形態の摂動後における急性細胞恒常性(acute cellular homeostasis)の回復に役割を果たす3つの異なるアーム、即ちシグナル伝達ブランチがある。第1のアーム、第2のアーム、第3のアームは以下の通りである。(1)タンパク質キナーゼR(PKR)様小胞体キナーゼ(PERK)、(2)イノシトール要求性酵素1(IRE-1)、(3)活性化転写因子6(ATF6)である。
【0038】
一般に、ERストレスは、ERシャペロンBiPとER内腔内のミスフォールドタンパク質との結合を増加させ、ERストレストランスデューサーPERK、IRE-1及びATF6からBiPを解離させ、それらの活性化を引き起こす。活性化された(リン酸化された)PERKはeIF2αをリン酸化し、それによってタンパク質翻訳を減弱させ、ストレス時のER負荷を軽減する。並行して、eIF2αのリン酸化はATF4の翻訳を促進する。ATF4は、シャペロン及びCHOPの転写を誘導する。CHOPは、GADD34の発現を誘導する。IRE-1の活性化(リン酸化)は、XBP1 mRNAのスプライシングを引き起こして、転写因子sXBP1を生成する。
【0039】
ERストレスが持続する又は慢性的に活性化すると、タウキナーゼGSK3βは過剰活性化し、タウの過リン酸化、その後の凝集、細胞蓄積の触媒として機能する。この経路は最終的には神経炎症を助長し、それによって損傷が持続し、時間の経過とともに進行し、進行性の神経変性をもたらす可能性がある。
【0040】
本発明によって、CTEを有するヒトの脳では、CTEを有しないヒトの脳と比較して、UPRのERストレスカスケードの3つのアーム全てが増加する可能性があることが明らかになった。
【0041】
本発明の一実施形態では、サルブリナールが、ヒト、例えば患者に投与され、TBIの影響を治療又は緩和し、CTE発症の可能性を予防又は低減し、CTEの進行を治療又は緩和する。一般に、サルブリナールは、eIF2の作用に関連した真核細胞におけるストレス応答を研究するために、主に実験的に使用されてきた。サルブリナールは、eIF2の脱リン酸化の選択的阻害剤である。サルブリナールは、骨粗鬆症を治療し、骨の治癒を促進する可能性があるという研究がある。「サルブリナール」は、市販薬の商品名として使用されている。本発明で使用される「サルブリナール」の化学名は、3-フェニル-N-[2,2,2-トリクロロ-1-[[(8-キノリニルアミノ)チオキソメチル]アミノ]エチル]-2-プロペンアミド(C
21H
17Cl
3N
4OS)であり、化学構造は以下の通りである。
【化5】
【0042】
本発明によれば、化学構造I(化合物I)又はその薬学的に許容される塩は、治療有効量で患者に投与され、ERストレス経路を安全且つ選択的に標的化するために使用される。TBI及びCTEの治療としての化合物Iの投与により、患者における発症及び進行を安定させ、後退させ、減少させ、又は妨げることができる。
【0043】
当業者によって理解されるように、治療有効量の化合物Iは、限定ではないが、注射、非経口及び経口を含む当該分野で知られている任意の手段によって患者に投与することができる。個々の患者について治療有効量を構成するであろう投与量とこの投与量の頻度を決定することは、当該分野において実践している者の技能の範囲内であろう。
【0044】
幾つかの実施形態では、化合物1の治療有効量は、1乃至100mgの用量である。幾つかの実施形態では、化合物1の治療有効量は、静脈内(IV)注射で10mg、腹腔内(IP)注射で50mg、又は経口で100mgとして投与される。更に、投与量は1日単位であってよい。
【0045】
本発明の化合物は、医薬組成物として調合されてよく、当該組成物は、通常、従来の医薬担体又は賦形剤と、活性剤としての化合物1(又はその薬学的に許容される塩)とを含む。更に、組成物は、他の薬剤、医薬品、担体、アジュバント、希釈剤、ビヒクル、又はそれらの組合せを含んでよい。このような薬学的に許容される賦形剤、担体、又は添加剤と、様々なモード又は投与のための医薬組成物を製造する方法とは、当業者にはよく知られている。使用される担体又は賦形剤は、組成物の他の成分と相溶性があるという観点で許容され、患者に有害であってはならない。担体又は賦形剤は、固体又は液体、或いはその両方であってよく、好ましくは、本発明の化合物を単位用量組成物、例えば錠剤として調製し、活性化合物を0.05重量%から95重量%まで含有してよい。このような担体又は賦形剤としては、不活性充填剤又は希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、吸収剤、及び着色剤が挙げられる。適切な結合剤としては、デンプンと、ゼラチンと、グルコース又はβ-ラクトースなどの天然糖と、トウモロコシ甘味料と、アカシア、トラガカント又はアルギン酸ナトリウムなどの天然及び合成ガムと、カルボキシメチルセルロースと、ポリエチレングリコールと、ワックスと、これらと同類のものとが挙げられる。滑沢剤としては、オレイン酸ナトリウムと、ステアリン酸ナトリウムと、ステアリン酸マグネシウムと、安息香酸ナトリウムと、酢酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、これらと同類のものとが挙げられる。崩壊剤としては、デンプンと、メチルセルロースと、寒天と、ベントナイトと、キサンタンガムと、これらと同類のものとが挙げられる。
【0046】
薬学的に許容される担体及び賦形剤は、前述の全ての添加剤等を含む。
【0047】
幾つかの実施形態では、薬学的に許容される賦形剤は、固体の形態であるのが好ましい。
【0048】
幾つかの実施形態では、好ましい賦形剤は、1,4-ジヒドロ-N-メチルニコチン酸(ジヒドロトリゴネリン)であって、血液脳関門透過性を高めるために選択される。
【0049】
本明細書で提供される説明は、主に化合物1に焦点を当てている。しかしながら、本発明は化合物1の使用に限定されない。化合物1と同じ又は類似の阻害活性(ERストレス経路を標的とする)を提供する他の化合物又は組成物を、化合物1の代替物又は置換物として、或いは、化合物1と相補的に使用してもよいことは理解及び予期される。例えば、本発明はまた、以下の化学構造を有するグアナベンツ(C
8H
8C
l2N
4)、又はその薬学的に許容される塩の使用を含む。
【化6】
【0050】
この化合物は、商品名WYTENSINとして入手可能である。化合物IIは、α-2アドレナリン受容体のαアゴニストであり、抗高血圧薬と呼ばれる医薬品の一般的なクラスに属する。特定の神経経路に沿った神経インパルスを制御し、血管を弛緩させ、血液がより容易に通るようにすることで、高血圧を治療するために化合物IIを使用することが知られている。
【0051】
本発明の特定の実施形態が詳細に記載されているが、本開示の全体的な教示に照らして、これらの詳細に対する様々な変更例及び代替例を開発できることは、当業者には理解されるであろう。従って、開示された特定の実施形態は、例示的であることを意図しており、添付の特許請求の範囲及びその全ての均等物の完全な範囲を与えられるべき本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0052】
<TBI及びCTEにおけるERストレスの役割>
TBIの評価には動物モデルを用い、CTEの評価には神経病理学的標本(脳損傷研究所の脳バンクから提供された)を用いた。TBIは、動物モデルにおいて爆風誘発された。爆風誘発性TBI(bTBI)に関して、ERストレスが急激に、即ち受傷後24時間以内に上昇していることが試験データから示された。受傷後、サルブリナールを動物モデルに投与した。ERストレスは、サルブリナールの使用により調節された。サルブリナールの投与は、神経変性及びアポトーシスのマーカーを減少させることが分かった。
【0053】
bTBI前にサルブリナールを投与することも動物モデルで評価された。サルブリナールの使用は、高架式十字迷路テスト/プロトコルで測定された衝動様行動と、モリス水迷路テスト/プロトコルで測定された空間記憶の形で神経精神損傷を改善した。
【0054】
CTEの神経病理学的サンプルを用いると、試験データは、CTEのない脳、即ち対照(「CTRL」)脳と比較してERストレスが有意に上昇することを示し、ERストレスが過リン酸化タウと共局在化していることが分かった。
【0055】
bTBI動物モデル及びCTE神経病理学的標本の結果は、ERストレスがTBIとCTEの発症との間の機構的リンクを示していることを実証した。更に、サルブリナールを用いたERストレスの調節は、TBIの影響を緩和して、CTEの発症及び進行の可能性を抑制する又は減少させるための治療的アプローチとなる。
【0056】
<実施例1>
死後CTEと診断されたアスリートの嗅内皮質からヒトの脳標本を採取した。標本は、ERストレスのマーカーのみについて染色され、タウオパチーのマーカーと共局在化していた。ERストレス及び病理学的タウに特異的な一次抗体と、付随する(accompanying)蛍光性二次抗体とを用いて、従来の免疫組織化学を行った。共局在化ソフトウェア(即ち、ImageJ)を用いて、重複する領域を検出した。補正総細胞蛍光分析(corrected total cell fluorescence analysis)にはANOVAを使用した。P<0.05は統計的に有意と判断された。(
*=p<0.05、
**=p<0.01、及び
***=p<0.001)。
【0057】
結果は、ヒトCTE標本では、ERストレス経路の3つのアーム全てが増加していることを明らかにした。更に、タウオパチーが観察された同じ部位でERストレスが増加していることが発見され、ERストレスを疾患過程に関与させていることが示唆された。これは、ERストレスに関連する触媒的タウキナーゼであるグリコーゲン合成酵素キナーゼβであるGSK3を染色し、タウマーカーと共局在化していることを確認することで確かめられた。
【0058】
図1は、免疫組織化学の結果を画像A-F、画像H-M、及び画像O-Tと、夫々に対応するグラフG、グラフN、及びグラフUとで示しており、CTEを発症していないヒトの対照(CTRL)サンプルと比較して、CTEと診断されたナショナルフットボールリーグ(NFL)選手の脳とCTEと診断されたWWEレスラーの脳とにおいて、アンフォールドタンパク質応答のERストレスカスケードの3つのアーム全てが増加したことを示している。A-Gは、ヒトCTRLサンプルと比較して、CTEサンプル(ERストレス経路の第2のアーム)においてX-box結合タンパク質1(XBP1)が増加したことを示す。H-Nは、リン酸化伸長開始因子(phosphorylated elongation initiation factor)2α(p-eIF2α)が、ヒトCTRLサンプルと比較して、CTEサンプル(ERストレス経路の第1のアーム、そして、サルブリナールの標的)において増加したことを示す。更に、活性化転写因子6(ATF6)も、O-Uで示されているCTEサンプル(ERストレス経路の第3のアーム)において、ヒトCTRLサンプルと比較して増加した。p-eIF2は阻害の主要な標的であるため、重要である。
【0059】
図2の画像M-R及びA-Fは、イノシトール要求性酵素1α(IRE1)が、小胞体ストレスのマーカーであり、NFL選手及びWWEレスラーの同じCTEサンプルとヒトCTRLサンプルの夫々において、神経原線維変化マーカーであるAT270と有意に共局在化していたことを示している。オーバーレイパネルの画像Aa-Ddにおける染色は、ERストレスが同じ神経細胞のタウオパチーと関連していることを示唆している。オーバーラップ係数は、NFL選手及びWWEレスラーの両方のCTE症例の脳において約0.9であり、細胞内における共局在性が高いことを示している。
【0060】
図3の画像M-R及びA-Fは夫々、病理学的タウリン酸化(AT100)が観察された同じ領域において、タウキナーゼGSK3が有意に増加したことを示す。オーバーレイパネルの画像Aa-Ddの染色は、タウキナーゼとリン酸化の関連性を示唆している。オーバーラップ係数は0.88であり、細胞内における共局在性が高いことを示している。一般に、タウキナーゼはタウの過リン酸化を引き起こし、その結果、コンフォメーション形状を変化させ、細胞内に蓄積させる。
【0061】
<実施例2>
本実施例は、TBI後のERストレスのターゲッティングの成功を評価した。
図4の画像A及びBに示すように、卓上空気加速損傷モデルを開発した。Sprague Dawley(登録商標)ラットを、末梢臓器の損傷を防ぐために保護管に配置して、加速波を発生させてラットの頭蓋骨に衝突させた。加圧窒素ガスで破裂させる膜の厚さを減少又は増加させることで、損傷の度合を段階的に調節した。50PSIの損傷パラダイムが選択された。これは、CTEに繋がりがある損傷の最も一般的なタイプである人間の脳震とうと相関する。
図4において、グラフDのピークは、50PSIの圧力波を示している。Sprague Dawleyラットには、1回の損傷、又は2週間にわたって6回の損傷の何れかを与えた。ERストレスとタウオパチーのマーカーを見るために、様々な殺害時点を選択した。
【0062】
ERストレスを標的として、損傷後のラットにサルブリナールを投与した。サルブリナールは、1mg/kgの用量で損傷後30分後にIP注射で投与された。サルブリナールは、GADD34を阻害してERストレスを変化させ、死誘発(pro-death)シグナルCHOPの急増を抑制し、GSK3活性を低下させ、初期のタウオパチーカスケードを抑制することが分かった。サルブリナールを介したCHOPの減少は、切断された場合に、ERを介したアポトーシス又は細胞死と関連しているカスパーゼ12のプロフォーム(pro-form)の保存と関連している可能性がある。サルブリナールによるCHOPの減少はまた、持続的な酸化ストレス及び神経炎症の減少をもたらす可能性がある。
【0063】
図5乃至9に示すように、ウエスタンブロット分析、免疫組織化学、及びPCRを、受傷後の様々な時点で使用した。LICORウエスタンブロットプロトコル、IHCワールド免疫組織化学プロトコル、及びApplied BiosystemsのPCRプロトコルをアッセイに使用した。ANOVAは分析のために使用され、p<0.05を統計的に有意とした。
*=p<0.05、
**=p<0.01、
***=p<0.001であった。薬剤群と損傷群を比較した場合、#=p<0.05、##=p<0.01、##=p<0.001であった。
【0064】
図5のグラフは、サルブリナール(SAL+bTBI)が、1回の爆風損傷(bTBI24h)の24時間後に、ERストレスのマーカーであるCHOP(グラフCを参照)及びGADD34(グラフEを参照)を有意に減少させて、ERストレス応答を効果的に終了させたことを示す。
【0065】
図6は、免疫組織化学の結果により、爆風損傷後サルブリナール投与(SAL-bTBI)の保護効果を確認する画像及びグラフを示す。CHOPは有意に減少し、これはまた、切断されたカスパーゼ3(アポトーシスに関連する活性型)の減少と関連していた。このように、爆風誘発性TBI(bTBI)と、bTBI後にサルブリナールを投与した場合(SAL-bTBI)のグラフA及びグラフCに示されているように、サルブリナールは、CHOPと、プロアポトーシスマーカーであるカスパーゼ-3とを減少させた。
【0066】
図7の画像及びグラフは、サルブリナールが、ERストレスカスケードを変化させることで、受傷後24時間時点にて酸化ストレス減少させたことを示す。測定された成分には、カルボニル(グラフA)、スーパーオキシド(グラフB)、活性酸素種(ROS)(グラフC)、及びNADPHオキシダーゼ4(NOX4)(グラフD)が挙げられる。グラフA、B及びDに夫々示すように、サルブリナール(sTBI+SAL)の投与は、タンパク質カルボニル、スーパーオキシド、及び総酸化ストレス産生を減少させた。
【0067】
図8のグラフは、サルブリナールが、ERストレスカスケードを効果的に終了させることにより、損傷後24時間後にて神経炎症を減少させたことを示す。測定された成分には、NFκB(グラフA)、誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)(グラフB)、インターロイキン1β(IL-1β)(グラフC)、及び腫瘍壊死因子α(TNFα)(グラフD)が挙げられる。グラフA、C及びDに夫々示されているように、サルブリナール投与(sTBI+SAL)は、プロ炎症性マーカーNFB、IL-1及びTNFを減少させた。
【0068】
図9の画像及びグラフは、爆風の繰り返しが、1ヶ月後及び最終的な損傷後に、コントルクープ脳半球(対側)におけるタウオパチーマーカーAT8(グラフA及びグラフB)及びAT270(グラフE及びグラフF)の増加を引き起こしたことを示す。
【0069】
図10の画像及びグラフは、ERストレスの広域阻害剤(DHA)が、反復損傷後3週間にてERストレス活性化因子BiP及びタウキナーゼGSK3を阻害したことを、グラフA及びグラフBにおいて夫々示す。
【0070】
<実施例3>
この実施例では、損傷モデルと、モリス水迷路及び高架式十字迷路の標準プロトコルとを用いて、行動改善におけるERストレスを標的化(オフにする)することによる効果を調べた。モリス水迷路では認知能力の低下を検出し、高架式十字迷路では衝動様行動を評価した。その結果は、ERストレスを標的とする場合、受傷後にもたらされると、衝動様行動が減少し、認知パフォーマンスが改善することを示した。統計解析にはANOVAを用い、
*=p<0.05、
**=p<0.01、
***=p<0.001とした。薬剤群を損傷群と比較した場合では、#=p<0.05、##=p<0.01、###=p<0.001であった。
【0071】
図11の画像及びグラフは、高架式十字迷路のオープンアームでの時間の減少によって測定されたように、受傷後のサルブリナール投与(SAL+bTBI)が、1回の損傷の7日後に衝動様行動を減少させたことを示す。グラフAは、オープンアームでの時間の減少、例えば移動を示している。
【0072】
図12の画像及びグラフは、受傷後のサルブリナール投与(rTBI+SAL)が、損傷の繰り返し後72時間後において高架式十字迷路のオープンアームで過ごす時間を抑制することで、衝動様行動を減少させたことを示す。
【0073】
図13のグラフは、ERストレス(DHA)阻害が、モリス水迷路で測定した受傷後の認知学習を改善したこと(パネルD)と、プローブトレイルで測定した学習事象の保持力を向上させたこと(パネルE)とを示す。
【0074】
<結果/結論>
ERストレスが、ヒトにおけるTBI後の慢性神経変性の発生の重要な経路として特定された。実施例では、この経路をげっ歯類モデル(bTBI)で標的化し、その結果は、その後における酸化ストレス及び神経炎症の活性化が抑制されることを示した。サルブリナールを投与してERストレス経路を効果的に遮断(終止)することで、行動が改善された。特に、ERストレスカスケードを阻害することで、衝動様障害及び認知機能の低下が有意に減少した。サルブリナールを投与してERストレスを標的とすることの利点は、TBI患者の診断及び治療法としての可能性を提供する。
【国際調査報告】