特表2021-533083(P2021-533083A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-533083新規置換N9−アデニン誘導体、これを含有する医薬組成物、およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-533083(P2021-533083A)
(43)【公表日】2021年12月2日
(54)【発明の名称】新規置換N9−アデニン誘導体、これを含有する医薬組成物、およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6561 20060101AFI20211105BHJP
   C07F 9/6568 20060101ALI20211105BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20211105BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211105BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20211105BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20211105BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20211105BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20211105BHJP
【FI】
   C07F9/6561 ZCSP
   C07F9/6568
   A61K31/675
   A61P43/00 111
   A61P3/06
   A61P3/04
   A61P3/10
   A61P3/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-569123(P2020-569123)
(86)(22)【出願日】2018年6月27日
(85)【翻訳文提出日】2021年1月26日
(86)【国際出願番号】ES2018070457
(87)【国際公開番号】WO2020002718
(87)【国際公開日】20200102
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520483866
【氏名又は名称】シリオ オリバー,イヴァン
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】シリオ オリバー,イヴァン
【テーマコード(参考)】
4C086
4H050
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA38
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA70
4C086ZA94
4C086ZA96
4C086ZC03
4C086ZC08
4C086ZC19
4C086ZC21
4C086ZC33
4C086ZC35
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB20
(57)【要約】
本発明は、AMPK活性化が重要な役割を果たす障害および疾患の治療薬の生産に好適である、新規の置換N9−アデニン誘導体、これらの誘導体を含有する医薬組成物、ならびにこの新規誘導体およびAMPK活性化剤としてこれを含有する医薬組成物の使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I)を有するAMPK活性化剤である置換N9−アデニン誘導体であって:
【化1】
上式で、
・Rが、5もしくは6員環アリール基または5もしくは6員環ヘテロアリール基であり、アリールまたはヘテロアリールが、その自由位置で、ジュウテリウム、ハロゲン原子、−OH、−CH、−CN、−OCH、OCHCH、−CHCOOH、−CHCOOCH、−COOH、−COCH、−COHから選択される、1つまたは複数の、同一または異なる置換基で置換されている可能性があり、
・RおよびRが、H、直鎖もしくは分岐の(C1−22)アルキル基、(C2−22)アルケニル基、(C2−22)アルキニル基、(C3−7)シクロアルキル基、(C3−22)−COOHアルキル基、(C5−6)−COOHアリール基、カチオン性アミノ酸、好ましくはアラニン基、セリン基もしくはアルギニン基、グリセロール基、コリン基、もしくはスフィンゴミエリン基から互いに独立して選択される;またはこれらが、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属カチオン、特にナトリウムもしくはマグネシウムから互いに独立して選択され、かつ遷移金属カチオンもしくは任意の許容可能なカチオンであることもでき、
このとき以下のように理解される:
− 「アリール基」が5または6員環芳香族炭化水素基であり、アリールが、ハロゲン原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルおよびシクロプロピル、ジュウテリウムおよびヒドロキシルからなる群から独立して選択される、同一または異なる置換基で、非置換または一置換または多置換されている可能性があり、
− 「ヘテロアリール基」が、少なくとも1つの環炭素がN、O、S、P、またはSeで置き換えられている5または6員環芳香族炭化水素基であり、
− ホスホニル基
【化2】
が、別の置換基で置換されていないアリールまたはヘテロアリール環の任意の炭素原子と結合することができる置換N9−アデニン誘導体。
【請求項2】
Rが、以下の式(Ia〜d)の、フェニルまたはシクロペンタジエニルから選択されるアリール基であり、RおよびRが請求項1に定義するとおりである、請求項1に記載の置換N9−アデニン誘導体。
【化3】
【請求項3】
Rが、以下の式(Ie〜p)の、ピリジン、ピリミジン、ピロリル、ピラゾリル、ピラニル、フラニル、チオフェニル、ホスホロイル、またはセレノフェニルから選択されるヘテロアリール基であり、RおよびRが請求項1に定義するとおりである、請求項1に記載の置換N9−アデニン誘導体。
【化4】
【請求項4】
N9−フェニル−3−ホスホニル−アデニンである、請求項1または2に記載の置換N9−アデニン誘導体。
【請求項5】
N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンである、請求項1または2に記載の置換N9−アデニン誘導体。
【請求項6】
N9−(2−フラニル)−5−ホスホニル−アデニンである、請求項1または3に記載の置換N9−アデニン誘導体。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の少なくとも1つの化合物を、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含有する医薬組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の化合物が、治療対象の体重1kg当たり1μg〜1,000mgの有効投与量で存在する、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の化合物が、体重1kg当たり1〜300mgの有効投与量で存在する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
AMPK活性化薬の製造に使用するための、請求項7〜9のうちいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
高コレステロール血症、肥満、2型糖尿病、もしくはメタボリックシンドロームなどの代謝疾患から選択される障害および疾患の治療ならびに/または予防のため、筋骨格機能、内分泌機能、細胞恒常性、環境ストレスに対する適応のため、ならびにAMPKホロ酵素活性化によって管理および/または逆行させることができる皮膚科病態の治療または予防のための薬剤の製造に使用する、請求項10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の置換N9−アデニン誘導体、これらの誘導体を含有する医薬組成物、ならびにこの新規誘導体の使用およびAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)活性化剤としてこれを含有する医薬組成物の使用に関する。したがって、本発明の誘導体、およびこれを含有する組成物は、AMPK活性化が重要な役割を果たす障害および疾患の治療を目的とする薬剤の製造に好適である。
【背景技術】
【0002】
エネルギーを消費する細胞プロセスの大部分は、ATPをADPに変換することによって推進される。ストレスを受けてこの関係性が低下すると、例えば運動中、虚血時、また糖尿病など、血液中にグルコースがあるにもかかわらず細胞内に取り込まれないために細胞のエネルギーが不足すると、AMPの細胞内含有量が増加し、AMPKが活性化される。AMPKは一旦活性化されると、多数のタンパク質をリン酸化して、高分子生合成、細胞成長および増殖といった特定のエネルギー消費同化経路の非活性化を引き起こすと同時に、解糖や脂肪酸酸化などのATP産生経路を活性化する。これは、対応する経路の調節に直接関与する酵素のリン酸化を介する、または細胞の遺伝子発現の調節を介することで可能となる(非特許文献1)。
【0003】
AMPK活性化は細胞内のさまざまなプロセスを調節できる。特に代謝水準において、中でも脂肪酸、グルコース、およびタンパク質合成の代謝に作用する。脂肪酸の代謝水準では、AMPKは脂質の酸化を増加させ、そのデノボ合成を抑制することによって介入する。AMPKは、β酸化に関与するタンパク質をコードする遺伝子の転写に関与するPPAR−αのレベルを増加させるため、脂質酸化の増加は部分的に生じる(非特許文献2)。同様に、AMPKがPPAR−αを直接リン酸化できることが報告されているものの、このリン酸化の生理的関連性はわかっていない。またAMPKは、翻訳と翻訳後の両方のレベルで脂肪酸および脂質のデノボ合成を抑制することによっても作用する。つまり、転写因子SREBPとChREBPの調節により、脂肪形成に関与する酵素の合成を減少させることによって作用する(非特許文献3)。また、脂肪酸合成酵素(FASN)にも直接作用できる。Ser77およびSer79でACC1を、Ser219およびSer221でACC2をリン酸化し、また場合によってはこれらを抑制することによってFASNをリン酸化する(非特許文献4)。こうして脂肪形成が減少し、さらにβ−酸化が増加する。グルコース代謝のレベルで、AMPKは解糖の増加および糖新生の抑制によって作用する。例えば、Glut−4の転写に関与するGEFに作用することによって解糖を調節することが報告されている。AMPKはGlut−4プロモーターに対する親和性を高め、その転写レベルを向上させるという方法でGEFをリン酸化する(非特許文献5〜7)。同様にAMPKは、転写因子PGC1αを主要なエフェクターとするミトコンドリア代謝も調節する。AMPKは、酸化的リン酸化およびミトコンドリア新生に関与する遺伝子の転写に関与するこの転写因子を直接リン酸化し、活性化する。
【0004】
周知の抗糖尿病薬の間接的な標的としてAMPKが同定され、近年、より効果的で特異的なAMPK活性化剤の開発が増加している。
【0005】
そのため、多くの研究で新たなAMPK活性化剤の探索が行われており、AMPKの間接的な活性化剤とみなされる薬剤、つまりミトコンドリアATPの生成を阻害し、細胞内のAMP:ATP比を変化させることで代謝障害の治療に影響を及ぼす薬剤について説明されている(非特許文献8)。例えば、ビグアナイド誘導体(例えばメトホルミン)、チアゾリジンジオン、および植物性化学物質などである。AMPKホロ酵素の3種類のサブユニット(α、β、γ)に直接結合する直接活性化剤も研究されている。
【0006】
例えば特許文献1は、直接AMPK活性化剤としてチエノピリドン誘導体について、特にアロステリック機構を介し、トレオニンにおける脱リン酸化を阻害することによりAMPKを活性化するステップについて記載している。この場合、誘導体で処理したマウスで観察されたグルコースおよび脂質の代謝への影響は、主に肝臓でAMPKを刺激することによってもたらされた。
【0007】
特許文献2は化合物5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミドリボシド(AICAR)をAMPKの活性化剤として記載している。これはアデノシンキナーゼ(AK)によって代謝され、AMP類似体であるZMPになる。ZMPはAMPKγサブユニットに結合し、AMPKキナーゼのアロステリック活性化に対するAMPの作用を模倣し、動物モデルにおいて抗糖尿病作用を有する。しかしながら、AICARはバイオアベイラビリティが低く、また主に消化管吸収が低いうえに、AMPKに対して活性を持たない多数の代謝産物に急速に変換されることから、効果的な投与には高用量を静脈内投与する必要がある。
【0008】
上述したAMPKの間接的な活性化剤、つまりビグアナイド誘導体である既知の活性成分メトホルミンの場合、投与の際に高用量の活性成分が使用され、乳酸アシドーシスなどの望ましくない副作用が生じる。
【0009】
こうしたことから、特に、AMPKγサブユニットのタンデムにおけるBatemanドメインのアゴニスト(2つのCBS[シスタチオンβ合成酵素]モチーフによって形成された構造)として、加齢に伴う腫瘍性病態、神経変性病態、または代謝病態などAMPK活性化関連障害の治療または予防において有用な新たなAMPK活性化剤がなおも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0287356号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/103040号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S.Fragoso et al.,“AMPK AND ENERGY HOMEOSTASIS”,REB,2008,27(1):3−8
【非特許文献2】Barish GD,et al.,“PPAR delta:a dagger in the heart of the metabolic syndrome”,J Clin Invest,2006,116:590−7
【非特許文献3】Kawaguchi T,et al.,“Mechanism for fatty acid “sparing” effect on glucose−induced transcription:regulation of carbohydrateresponsive element−binding protein by AMPactivated protein kinase”,J Biol Chem,2002,277:3829−35
【非特許文献4】An Z,et al.,“Nicotine−induced activation of AMP−activated protein kinase inhibits fatty acid synthase in 3T3L1 adipocytes:a role for oxidant stress”,J Biol Chem,2007,282:26793−801
【非特許文献5】Holmes BF,et al.,“Regulation of muscle GLUT4 enhancer factor and myocyte enhancer factor 2 by AMP−activated protein kinase”,Am J Physiol Endocrinol Metab,2005,289:E1071−6
【非特許文献6】Screaton RA,et al.,“The CREB coactivator TORC2 functions as a calcium− and cAMPsensitive coincidence detector”,Cell,2004,119:61−74
【非特許文献7】Jorgensen SB,et al.,“Role of AMPKalpha2 in basal,training−,and AICAR−induced GLUT4 hexokinase II,and mitochondrial protein expression in mouse muscle”,Am J Physiol Endocrinol Metab,2007,292:E331−9
【非特許文献8】Hawley SA,et al.,“Use of cells expressing gamma subunit variants to identify diverse mechanisms of AMPK activation”,Cell Metab,2010;11(6):554−65
【非特許文献9】Wu,CL et al.,“Role of AMPK in UVB−induced DNA damage repair and growth control”,Oncogene,2013,32,2682−9
【非特許文献10】Yue,Y.,et al.,“Copper−catalyzed cross−coupling reactions of nucleobases with arylboronic acids:An efficient access to N−arylnucleobases”,European J.Org.Chem,2005,5154−5157
【非特許文献11】Morellato,L.,et al.,“Synthesis of novel 9−aryl and heteroarylpurine derivatives via copper mediated coupling reaction”,Tetrahedron Lett,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の化合物は、γサブユニットのヌクレオチド結合部位に結合するAMP模倣物として設計される。AMPKはグルコースおよびグリコーゲンの代謝、ならびに脂質およびコレステロールの生合成に影響を与える多くの下流標的を有する。このためこれらの化合物は、高コレステロール血症、肥満、2型糖尿病、またはメタボリックシンドローム(シンドロームXとも呼ばれる)といった代謝疾患の治療および/または予防の有力な候補となっている。したがって本発明の化合物は、低い有効量で、つまり技術水準から既知であるAICAR誘導体またはビグアナイド誘導体のEC50(半数効果濃度)よりもはるかに低いEC50で、この種の障害を治療および/または予防するのに特に適している。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様に従って、本発明は次の一般式(I)のAMPK活性化剤であるアデニンN9−[アリール、ヘテロアリール]ホスホン酸誘導体に関する:
【0014】
【化1】
【0015】
上式で、
・Rが、5もしくは6員環アリール基または5もしくは6員環ヘテロアリール基であり、アリールまたはヘテロアリールが、その自由位置で、ジュウテリウム、ハロゲン原子、−OH、−CH、−CN、−OCH、OCHCH、−CHCOOH、−CHCOOCH、−COOH、−COCH、−COHから選択される、1つまたは複数の、同一または異なる置換基で置換されている可能性があり、
・RおよびRが、H、直鎖もしくは分岐の(C1−22)アルキル基、(C2−22)アルケニル基、(C2−22)アルキニル基、(C3−7)シクロアルキル基、(C3−22)−COOHアルキル基、(C5−6)−COOHアリール基、アミノ酸、好ましくはアラニン基、セリン基もしくはアルギニン基、グリセロール基、コリン基、もしくはスフィンゴミエリン基から互いに独立して選択される;またはこれらが、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属カチオン、特にナトリウムもしくはマグネシウムから互いに独立して選択され、かつ遷移金属カチオンもしくは任意の許容可能なカチオンであることもでき、
かつこのとき:
− 「アリール基」が5または6員環芳香族炭化水素基であり、アリールが、ハロゲン原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルおよびシクロプロピル、ジュウテリウムおよびヒドロキシルからなる群から独立して選択される、同一または異なる置換基で、非置換または一置換または多置換されている可能性があり、
− 「ヘテロアリール基」が、少なくとも1つの環炭素がN、O、S、P、またはSeで置き換えられている5または6員環芳香族炭化水素基であり、
− ホスホニル基
【0016】
【化2】
【0017】
が、例えば6員ヘテロアリールの場合、アデニンに対してオルト位、メタ位、またはパラ位で、別の置換基で置換されていないアリールまたはヘテロアリール環の任意の炭素原子と結合することができる。
【0018】
本発明の文脈において、用語アルキル(C1−22)基、アルケニル(C2−22)基、またはアルキニル(C2−22)基は、1〜22個、または場合によっては2〜22個の炭素原子の脂肪族炭化水素基であり、アルケニルまたはアルキニルの場合、それぞれ少なくとも1つのC=C結合またはC≡C結合を含むと理解される。
【0019】
式(I)の好ましい化合物は、Rが、以下の式(Ia〜d)の、フェニルまたはシクロペンタジエニルから選択されるアリール基であり、RおよびRが上記で定義するとおりである:
【0020】
【化3】
【0021】
Rが、以下の式(Ie〜p)の、ピリジン、ピリミジン、ピロリル、ピラゾリル、ピラニル、フラニル、チオフェニル、ホスホロイル(phospholoyl)、またはセレノフェニルから選択されるヘテロアリール基であり、RおよびRが上記で定義するとおりである式(I)の化合物も同様に好ましい:
【0022】
【化4】
【0023】
本発明の化合物のうち特に好ましいのは、N9−フェニル−3−ホスホニル−アデニン、つまりRおよびRがともに水素である化合物(Ia)の特定の例であり、N9−(2−フラニル)−5−ホスホニル−アデニン、つまりRおよびRがともに水素である化合物(Il)および(Im)の特定の例であり、N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニン、つまりRおよびRがともにエチル基である化合物(Ia)の特定の例である。
【0024】
また本発明は、治療有効量の上述の化合物を、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含有する医薬組成物に関し、さらに、AMPK活性化が重要な役割を果たす障害および疾患、例えば、高コレステロール血症、肥満、2型糖尿病、もしくはメタボリックシンドローム(シンドロームXとも呼ばれる)などの代謝疾患の治療ならびに/または予防に、筋骨格機能、内分泌機能、細胞恒常性、環境ストレスに対する適応に、ならびにAMPKホロ酵素活性化によって管理および/または逆行させることができる皮膚科病態の治療または予防に有用な薬剤の生産のための該医薬組成物の使用にも関する。
【0025】
本発明による医薬組成物のうち、特に言及されるのは、経口、非経口、筋肉内および静脈内、経皮(percutaneousまたはtranscutaneous)、経鼻、直腸、舌下、点眼、呼吸器投与に好適な医薬品、より具体的には、単純な錠剤、舌下錠(sublingual tabletまたはperlingual tablet)、硬カプセル、カプセル、トローチ、注射、噴霧剤、座薬、皮膚クリーム、軟膏、またはゲルの形態の医薬品である。
【0026】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は経口投与される。
【0027】
本発明による医薬組成物は、本発明の化合物に加えて、希釈剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、防腐剤、吸収剤、着色剤、甘味料、香料などから選択される1つまたは複数の賦形剤または担体を含有し、これらの賦形剤は、医薬組成物の最終的な剤形に基づいて選択される。
【0028】
非限定的な例として、以下が挙げられる:
− 希釈剤として:乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、微結晶性セルロース、グリセリン;
− 潤滑剤として:シリカ、タルク、ステアリン酸ならびにそのマグネシウム塩およびカルシウム塩、ポリエチレングリコール;
− 結合剤として:ケイ酸アルミニウムマグネシウム、デンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびポリビニルピロリドン;
− 崩壊剤として:寒天、アルギン酸およびそのナトリウム塩、発泡性混合物;
− 可溶化剤として:シクロデキストリン、ポリビニルカプロラクタム、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール。
【0029】
有用な投与量は、患者の性別、年齢、体重、投与経路、障害の性質、および任意の関連治療によって異なり、1日1回または複数回用量として、治療対象の体重1kg当たり本発明による化合物1μg〜1,000mg、好ましくは体重1kg当たり1〜300mgである。
【0030】
本発明の文脈において、治療対象はヒトまたは哺乳動物である。
【0031】
例えば、Rがフェニル基であり、RおよびRがともにエチル基である化合物(I)の特定の例であるアデニン誘導体N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンを含む本発明による医薬組成物の場合、本発明の該化合物は、経口投与用に適切な賦形剤とともに圧縮して錠剤化またはカプセルに充 した特定の形態で、前述の用量で投与され、本発明の化合物が、胃の酸性pHで酸加水分解により放出され、さらにプロドラッグにより吸収され、エステラーゼ酵素を介して細胞内で、小腸では細胞外で、またわずかではあるが、生理学的水性媒体中で加水分解によって活性化される。
【0032】
軟膏の形態で局所投与するための、例えばAMPKホロ酵素活性化によって管理および/または逆行させることができる皮膚科病態を治療するための医薬組成物の別の実施例において、本発明の化合物は、軟膏1g当たり0.1mgから2.0mgの重量濃度で該医薬組成物に含まれ、医薬組成物は、好適な賦形剤として、セチルアルコール、蒸留水、ステアリン酸グリセロール、流動パラフィン、ポリソルベート60、ポリソルベート80、プロピレングリコール、およびアスコルビン酸ナトリウムを含む。局所投与用医薬組成物の別の実施例において、本発明の化合物は、ポリエチレングリコール300、1500、および4000、ならびにアスコルビン酸ナトリウムの混合物に溶解することになる。
【0033】
本発明において、AMPKホロ酵素活性化によって管理および/または逆行させることができる皮膚科病態として検討されるものに、例えば色素性乾皮症、ならびにメラノーマおよび基底細胞がんを含むがこれらに限定されない皮膚がんがある(非特許文献9)。
【0034】
実施例
以下の実施例において、式(I)の化合物、特にN9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンの好ましい実施形態の一例の合成手順について記述し、本発明をさらに説明していくが、これは本発明を限定するものと解釈してはならない。この式(I)の化合物の特定の例において、Rがフェニル基であり、RおよびRがともにエチル基である。
【0035】
式(I)の化合物の一般的な合成
一般的な合成機構は、非特許文献10に記載されるように、中性アデニンとハロアリールボロン酸、例えば3−ブロモフェニルボロン酸または4−ブロモフェニルボロン酸の間で化学量論量の銅(II)塩によって媒介されるChan−Lamカップリングによって制御される。カラムクロマトグラフィー精製によりカップリング生成物、例えば9−(3−ブロモフェニル)アデニンおよび9−(4−ブロモフェニル)アデニンを得るために、ジアルキルホスフィンを、根岸カップリングに類似した条件下で、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン(trifefilphosphine))−パラジウム(0)、塩基としてトリエチルアミン、および溶媒として無水ジメチルホルムアミドを用いてカップリングさせる。その後で、ホスホン酸塩の2つのエステル結合を、塩酸水溶液を用いて酸性媒体中で加水分解させて、対応するホスホン酸誘導体を得た後、続いて、塩、例えば二ナトリウムに変換し、水性媒体中で水酸化ナトリウムと反応させることができる。
【0036】
別法として、非特許文献11に記載されるように、6−クロロプリンおよび対応するハロヘテロアリールボロン酸を、非ベンジル型ヘテロアリール誘導体を生成するために使用する基礎とし、次いで、所望のジアルキルホスフィンを、根岸カップリングに類似した条件下で、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(0)、塩基としてトリエチルアミン、および溶媒として無水ジメチルホルムアミドを用いてカップリングさせる。
【0037】
N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンの合成
【0038】
【化5】
【0039】
化合物N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンは以下の2ステップ工程に従ってアデニンから得る:
ステップ1:3−ブロモフェニル−N9−アデニン
このステップは非特許文献10を適用する。
【0040】
簡潔に説明すると、5mmolのアデニンを、5mmolの酢酸銅(II)一水和物、10mmolのN,N,N′,N′−テトラメチルエチルエンジアミン、および10mmolの3−ブロモフェニルホウ酸を含有する500mLのメタノール:水(4:1)混合液に添加した。混合液は1Lフラスコで室温、空気雰囲気下で1時間攪拌した。フラスコ内の溶液にメタノールを添加し、混合液をセライトでろ過したのち、溶媒を蒸発させた。得られた固形物は、シリカゲルを用い、溶離液としてCHCl:MeOH(20:1)およびCHCl:MeOH(10:1)を添加してフラッシュクロマトグラフィーで精製した。r=0.25の表題生成物を白色結晶性固体として得た。収率50%。純度>98%。
【0041】
ステップ2:N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニン
2mmolの3−ブロモフェニル−N9−アデニン、3mmolのトリエチルアミン、0.1mmolのテトラキス(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(0)、および3mmolの亜リン酸ジエチルを50mL丸底フラスコに入れた。次いで、10mLの無水ジメチルホルムアミドを添加し、混合液を100℃で1時間攪拌した。ジメチルホルムアミドを蒸発させ、得られた固形物を、シリカゲルと溶離液としてCHCl:MeOH(10:1)を用いてクロマトグラフィーで精製した。r=0.20の所望の生成物N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンを白色/ベージュ結晶性固体として得た。収率90%。純度>98%。融点104℃。
【0042】
分光分析:
IR(KBr)、cm−1:3297ms、3102ms、1676s、1599s、1487ms、1307s、1050ms、1022s、656m、562m(ms=中強、s=強、m=中)。
H−NMR(300MHz、dmso−d6):δ(ppm)=8.67s(1H、H8アデニン)、8.30dd(1H、H1、JPH=16.6Hz、J=1.2Hz)、8.23s(1H2ade CH)、8.17−8.14m(1H、H2)、7.79−7.75m(2H、H3+H4)、7.43bs(2H、NH2)、4.08dq(4H、CH2、JP−H=15.3Hz、JH−H=7.2Hz)、1.29−1.25t(6H CH3、JH−H=7.2Hz)ppm.
HRMS(ESI)[M+H]+[C1518PO+H]:計算m/z=348.1218;測定m/z=348.1220。
【0043】
AMPK活性化アッセイ
マウス筋芽細胞腫細胞株(Sigma−Aldrich社)のC2C12細胞を96ウェルプレートの200μLの増殖培地(高グルコースDMEM、10%ウシ胎児血清(PBS)、ペニシリン、およびストレプトアビジン)に10,000細胞/ウェルの細胞密度で播種した。細胞はコンフルエンスまで増殖させ、アッセイの日に、100μLの増殖培地で関心の化合物とともにインキュベーターで37℃、5%COで1〜24時間インキュベートした。全条件を4回くり返して試験した。化合物は、さまざまな濃度の滅菌無水ジメチルスルホキシドに加えて溶解した。AMPK活性化の陽性対照として、終濃度が100μLのアデノシン一リン酸(AMP)溶液を用いた。対応する回数の後、培地を除去し、室温でPBSを用いて細胞を慎重に3回洗浄し、ELISAキット(Abcam社)を用いてリン酸化α−AMPK:総α−AMPKの比を定量化した。メーカーの指示に従い、Licor Odissey(登録商標)スキャナーを用いて信号を定量化した。4時間インキュベートした後、化合物N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンは、30ナノモルという低濃度でAMP陽性対照よりも高いAMPK活性を示した。
【0044】
具体的には、化合物N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンは、4時間インキュベートした後、30ナノモルという低濃度でAMP陽性対照を用いて得られる活性の500%よりも高いAMPK活性を示した。EC50が1マイクロモル未満で、AMP対照に対する活性化が80%超であるこれらの化合物は、所望の活性化合物と考えられる。上述の基準に従ってAMPK活性化剤として選択される化合物を、グルコース消費試験およびMTT細胞生存試験に用いる。
【0045】
グルコース消費試験
マウス筋芽細胞腫細胞株(Sigma−Aldrich社)のC2C12細胞を、照度計の使用に対応したホワイト96ウェルプレートに10,000細胞/ウェルの細胞密度で播種した。細胞は200μL/ウェルの増殖培地(高グルコースDMEM、10%ウシ胎児血清(PBS)、ペニシリン、およびストレプトアビジン)で37℃、5%COのインキュベーターで5日間増殖させた。培地は2日ごとに交換した。その後、培地を分化培地(低グルコースDMEM、2%N−ヒドロキシスクシンイミド、ペニシリン、およびストレプトアビジン)に交換し、3日間にわたって細胞を筋管に分化させた。培地は毎日交換した。試験の前日に細胞を血清飢餓状態にした(低グルコースDMEM、ペニシリン、およびストレプトアビジン)。次いで、培地を、グルコースを含まないDMEM培地に交換し、化合物N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンをさまざまな濃度で1時間インキュベートし、各条件を4回くり返した。陽性対照は100ナノモルのヒトインスリン溶液(Sigma)であった。Promegaのグルコース消費キットをメーカーの指示に従って使用した。キットは、グルコースの化学的類似体である2−デオキシグルコースの細胞内取り込みに基づき、ルシフェリン・ルシフェラーゼ(発光酵素)アッセイと組み合わせたもので、得られた結果が該グルコース類似体の細胞内濃度に比例するという事実に関連する。
【0046】
Biotek MX発光プレートリーダーで総発光を測定した。化合物N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンは、30ナノモルという低濃度でインスリン対照と比べて同等以上のグルコース消費活性を示した。N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンに対する対照の輝度(%)(30ナノモル):125±9%。
【0047】
MTT細胞生存/増殖アッセイ
MTTレドックスアッセイは、ミトコンドリア酵素コハク酸デヒドロゲナーゼによって生成される3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾール(MTT)の臭化物の代謝還元に基づき、ホルマザン色素(青色)の呈色により、処理した細胞のミトコンドリア機能を決定できる。
【0048】
C2C12細胞を、照度計の使用に対応したホワイト96ウェルプレートに10,000細胞/ウェルの細胞密度で播種した。細胞は200μL/ウェルの増殖培地(高グルコースDMEM、10%FBS、ペニシリン、およびストレプトアビジン)で5日間増殖させ、培地は2日ごとに交換した。その後、培地を分化培地(低グルコースDMEM、2%NHS、ペニシリン、およびストレプトアビジン)に交換し、3日間にわたって細胞を筋管に分化させ、培地は毎日交換した。すべての工程において、細胞は細胞インキュベーターで37℃、5%COでインキュベートした。化合物N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンは血清を含まない低グルコースDMEMで24時間および48時間インキュベートした。インキュベートした化合物の濃度は10ナノモルから1ミリモルの範囲であった。AMP活性化の陽性対照として、終濃度が100μLのAMP溶液を用いた。インキュベーション後、10μLのMTT試薬(Abcam社)を各ウェルに添加し、インキュベーションの30分後、45分後、および60分後に、490nmの吸光度をBiotek MX発光プレートリーダーを用いて光度計で測定した。読み取りは、細胞の酸化還元酵素に依存するNAD(P)H酵素の間接的な測定となる。
【0049】
化合物N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンは、ナノモル濃度で、対照と比べて有意に高い信号を示した。N9−(3−ジエチルホスホニル)フェニル−アデニンに対する対照の輝度(%)(30ナノモル、48時間インキュベーション):157±5%。
【0050】
本発明による医薬組成物の例
ヒト成人を対象として1日経口用量で薬剤を処方するための医薬組成物の一例に、本発明による化合物20mgを賦形剤(微結晶性セルロース、カルボキシメチルスターチナトリウムのタイプA(ジャガイモ由来)、無水コロイドシリカ、およびステアリン酸マグネシウム)とともに圧縮粒子形態にしたものがある。
【国際調査報告】