(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-533337(P2021-533337A)
(43)【公表日】2021年12月2日
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用の改良型電極
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20211105BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20211105BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20211105BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20211105BHJP
【FI】
G01N27/30 A
G01N33/543 511A
G01N33/53 N
G01N33/53 E
G01N33/53 D
G01N27/30 B
G01N27/327
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2021-501117(P2021-501117)
(86)(22)【出願日】2019年3月25日
(85)【翻訳文提出日】2020年11月6日
(86)【国際出願番号】IB2019052388
(87)【国際公開番号】WO2019186354
(87)【国際公開日】20191003
(31)【優先権主張番号】201811012008
(32)【優先日】2018年3月29日
(33)【優先権主張国】IN
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】521017608
【氏名又は名称】エーギルバイオ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】スリヴァスタヴァ,スーダ
(72)【発明者】
【氏名】サクセナ,ラフル
(57)【要約】
本開示は、本開示の発明者らが、グラフェン−ポリピロール系ナノ複合体が付着した電極が電極の導電率を大幅に向上させることができ、ひいては、試料中の生物学的標的の定量的検出を可能にする電気化学デバイスの検出限界(LOD)を0.5fg/mLまで大幅に改善することができることを思いがけず気付いたという前提に基づくものである。したがって、本開示の一態様は、試料中の生物学的標的を検出することができる電気化学デバイス用の改良型電極であって、電極の表面の少なくとも一部にグラフェン−ポリピロール系複合体が付着し、グラフェン−ポリピロール系複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する、改良型電極に関する。さらに、本開示の態様は、本発明の有利な電極、有利な電極を含む電気化学デバイスの製造方法、および生物学的標的の検出方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の生物学的標的を検出することができる電気化学デバイス用の改良型電極であって、前記電極の表面の少なくとも一部にグラフェン−ポリピロール系複合体が付着し、前記グラフェン−ポリピロール系複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する、改良型電極。
【請求項2】
前記生物学的標的は、抗体、抗体誘導体、ハプテン、抗原、ホルモン、タンパク質、多糖類、脂質、ポリヌクレオチド、代謝物、チロキシン(T4)、トリヨードチロニン(T3)、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)のいずれか、または組み合わせから選択される、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記グラフェン−ポリピロール系複合体は、グラフェン−ポリピロール系ナノ複合体を含む、請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記電極の前記表面の少なくとも一部は、前記グラフェン−ポリピロール系複合体で被覆される、請求項1に記載の電極。
【請求項5】
前記電極の前記表面の少なくとも一部は、前記グラフェン−ポリピロール系複合体との共有結合を形成することができる1つまたは複数のアミノ基で機能化される、請求項1に記載の電極。
【請求項6】
前記少なくとも1つの生物学的標的化部分は、前記生物学的標的を選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含む、請求項1に記載の電極。
【請求項7】
前記少なくとも1つの生物学的標的化部分は、前記生物学的標的を非選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含む、請求項1に記載の電極。
【請求項8】
前記少なくとも1つの生物学的標的化部分は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれか、または組み合わせから選択される、請求項1に記載の電極。
【請求項9】
前記グラフェン−ポリピロール系複合体には、アミド結合を介して前記少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する、請求項1に記載の電極。
【請求項10】
前記グラフェン−ポリピロール系複合体は、前記抗T3抗体、前記抗T4抗体、および前記抗TSH抗体のいずれかのFc領域とのアミド結合を形成することができる1つまたは複数のアミノ基で機能化される、請求項1に記載の電極。
【請求項11】
試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスであって、表面を画定する少なくとも1つの電極を備え、前記電極の前記表面の少なくとも一部にグラフェン−ポリピロール系複合体が付着し、前記グラフェン−ポリピロール系複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する、電気化学デバイス。
【請求項12】
前記生物学的標的は、抗体、抗体誘導体、ハプテン、抗原、ホルモン、タンパク質、多糖類、脂質、ポリヌクレオチド、代謝物、チロキシン(T4)、トリヨードチロニン(T3)、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)のいずれか、または組み合わせから選択される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記電極の前記表面の少なくとも一部は、前記グラフェン−ポリピロール系複合体で被覆され、前記グラフェン−ポリピロール系複合体は、グラフェン−ポリピロール系ナノ複合体を含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記少なくとも1つの生物学的標的化部分は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれか、または組み合わせから選択される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項15】
前記グラフェン−ポリピロール系複合体には、アミド結合を介して前記少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する、請求項11に記載のデバイス。
【請求項16】
前記グラフェン−ポリピロール系複合体は、前記抗T3抗体、前記抗T4抗体、および前記抗TSH抗体のいずれかのFc領域とのアミド結合を形成することができる1つまたは複数のアミノ基で機能化される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項17】
前記少なくとも1つの電極は、感知電極である、請求項11に記載のデバイス。
【請求項18】
前記電気化学デバイスは、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、チロキシン(T4)、およびトリヨードチロニン(T3)のそれぞれについて、0.001uIU/mL、0.5fg/mL、および0.5fMの検出限界(LOD)を示す、請求項11に記載のデバイス。
【請求項19】
電気化学デバイスは、20分以内に前記甲状腺刺激ホルモン(TSH)、前記チロキシン(T4)、および前記トリヨードチロニン(T3)の組み合わせのいずれかの定量的検出を行う、請求項11に記載のデバイス。
【請求項20】
電気化学デバイス用の作用電極の製造方法であって、
作用電極を取り出すステップと、
前記作用電極の表面の少なくとも一部を機能化することができる作用物質で処理して機能化作用電極を形成するステップと、
前記機能化作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体と共にインキュベートして表面改質作用電極を形成するステップと、
前記表面改質作用電極を前記グラフェン−ポリピロール複合体の表面の少なくとも一部を機能化することができる作用物質で処理するステップと、
前記グラフェン−ポリピロール複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分を付着させて前記電気化学デバイス用の作用電極を実現するステップと
を含む、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学デバイス用の改良型電極に関する。特に、本開示は、試料中の生物学的標的の検出を可能にする電気化学デバイス用の改良型電極を提供する。また、本開示の態様は、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスを提供する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の記述には、本発明を理解するのに有用であり得る情報が含まれる。背景技術の記述は、本明細書で提供される情報のいずれかが従来技術であるか、もしくは現在請求されている発明に関連する情報であること、または具体的もしくは暗黙的に参照される刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0003】
診断機器は、1950年代までは放射免疫測定法(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光ベース免疫吸着測定法(FIA)、化学発光ベース免疫吸着測定法(CLIA)、および生物発光ベース免疫吸着測定法のような多数の機器/技術に利用可能である1つの間接測定法を用いて、過去50年にわたって進化してきた。健常者の甲状腺ホルモンは、2.3〜4.2pg/mL(フリーT3)、0.8〜2.0ng/ml(トータルT3)、0.008〜0.018ng/mL(フリーT4)、0.045〜0.125ug/mL(トータルT4)、および0.3〜3.04uIU/mL(TSH)の範囲である。The National Academy of Clinical Biochemistry(NACB)の推奨によれば、TSH測定法の最小検出可能濃度(LOD)は、0.02mIU/L以下にすべきである。このことにより、甲状腺機能正常症候群(non−thyroid illness)の患者は原発性甲状腺機能亢進症の患者と区別することができる。
【0004】
RIAベースの測定法は、高い感度および検出の範囲を有する(T3:0.08〜8ng/mL、T4:0.11〜2.49ng/mL、TSH:0.1〜90uIU/mL)。しかしながら、放射性同位体関連放射線障害が、その使用を制限する。一方、比較的低い検出範囲(T3:0.2〜10ng/mL、T4:0.044〜0.108ug/mL、TSH:0.2〜40uIU/mL)を有するにもかかわらず、安全かつコスト効率の良いELISAが診断市場の90%を超えている。現在、ほとんどの研究室は、酵素、蛍光または化学発光分子をシグナルとして使用して自動プラットフォーム上で実施される競合免疫測定法によって、T4およびT3濃度を測定する。CLIAの感度および検出範囲は、RIAの感度および検出範囲に匹敵し(T3:0.02〜7.5ng/mL、T4:0.001〜0.25ug/mL、TSH:0.2〜100uIU/mL)、同時に、放射線障害の無い自動化測定法の手順が幅広い人気の原因である。CLIAは、CLIA機器の資本コストが高いために、ELISAベースの測定法の市場を引き継ぐことができなかった。
【0005】
これらの方法は、高感度ではあるが、研究室への試料の輸送、熟練した人的資源が必要であり、かつ時間がかかる。コストおよび可搬性の問題は、甲状腺機能低下症血清試料のTSH(5uIU/mLを超える)の半定量的推定のために開発されたラテラルフロー免役クロマトグラフィー測定法(LFA)を用いるポイントオブケア(POC)装置によって十分に対処されている。しかしながら、正常な範囲または甲状腺機能亢進症の血清試料では、LFAは適用できなかった。過去5年間は、TSHの検出限界を0.31uIU/mLまで低く改善する携帯電話インターフェース読出システムによってLFAデバイスの性能が大きく変動した年であった(Youおよびその他、Biosensors&Bioelectronics、40巻、180〜185)。LFIA試験の再現性は、膜バッチ、温度、湿度、熱、空気、および太陽光の変動により損なわれる。さらに、多くの試験方式では、重要な干渉物質が存在する場合に、試料の前処理が必須となる。とりわけ、これらのプラットフォームの検出限界の制限により、これらのプラットフォームの使用は試験される試料中に非常に豊富に存在する分析物(TSH)の決定に制限されるが、おそらく臨床的に関連のある低い濃度のために、LFAはT3およびT4に対しては利用可能ではない。
【0006】
LFAベースのPOCのこれらの欠点は、感度、迅速性、簡潔性、安価なコストおよび可搬性などの利点により、POCのプラットフォームとしてかなり有望である電気化学的バイオセンサによって解決され得る。櫛型電極およびサンドイッチ免疫測定方式を採用した電気化学免疫センサは、TSHについて、RIAおよびCLIAベースのキットでは0.1uIU/mLおよび0.2uIU/mLであるのに対して、0.012uIU/mLのLODであることを示した。第3世代電気化学発光測定法(ECLIA)Elecsys2010は、0.005uIU/mLのLODを達成することができた(Kazerouniおよびその他、Caspian J Intern Med.、2012年春、3(2)巻、400〜104)。
【0007】
公開されている米国特許文献(米国特許第20150247816号)は、(a)結合剤・分析物複合体を形成するために分析物に特異的に結合することができる結合剤が表面に付着した感知電極であって、結合剤への分析物の結合が感知電極表面における電子移動性を変化させ、そのことにより、結合剤・分析物複合体の数に比例して感知電極表面における電気化学応答を変化させる、感知電極と、(b)感知電極表面における電気化学応答を測定することができる試験装置とを備える電気化学バイオセンサを開示している。しかしながら、開示されているバイオセンサは、10pg/mLの検出限界(LOD)を示す。
【0008】
したがって、電気化学デバイスの感度および特異性を向上させることができる改良型電極の必要性が依然として残る。特に、電気化学デバイスが試料中のフェムトグラムスケールで存在する生体分子(生物学的標的)を検出するのを可能にする電極が必要であると思われる。本開示は、既存の必要性を満たし、特に、他の必要性を満たし、改良型電極および改良型電極を含む電気化学デバイスを提供する。
【0009】
本明細書内に記載されている全ての刊行物は、個々の刊行物または特許出願が具体的かつ個別に参照により引用されると示されているのと同程度に、参照により本明細書に引用したものとする。引用される参照文献内の用語の定義または使用が本明細書内に示されている該用語の定義に矛盾する、または反する場合、本明細書内に示されている該用語の定義が適用され、参照文献内の該用語の定義は適用されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、電気化学デバイス用の改良型電極を提供することである。
【0011】
本開示の別の目的は、試料中の生物学的標的を検出することができる電気化学デバイス用の改良型電極を提供することである。
【0012】
本開示の別の目的は、試料中のフェムトグラムスケールで存在する生体分子(生物学的標的)を検出することができる電気化学デバイスを提供することである。
【0013】
本開示の別の目的は、甲状腺ホルモン(複数を含む)を検出するための電気化学デバイスを提供することである。
【0014】
本開示の別の目的は、甲状腺ホルモン(複数を含む)の定量的検出のための電気化学デバイスを提供することである。
【0015】
本開示のさらに別の目的は、電気化学デバイス用の改良型電極の製造方法を提供することである。
【0016】
本開示のさらに別の目的は、試料中の生体分子(生物学的標的)を検出するための電気化学デバイスの製造方法を提供することである。
【0017】
本開示のさらに別の目的は、試料中の生体分子(生物学的標的)の定量的検出の方法を提供することである。
【0018】
本開示のさらに別の目的は、試料中のチロキシン(T4)、トリヨードチロニン(T3)、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)のいずれか、または組み合わせの定量的検出の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本開示は、電気化学デバイス用の改良型電極に関する。特に、本開示は、試料中の生物学的標的の検出を可能にする電気化学デバイス用の改良型電極を提供する。また、本開示の一態様は、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスを提供する。
【0020】
本開示の一態様は、試料中の生物学的標的を検出することができる電気化学デバイス用の改良型電極であって、電極の表面の少なくとも一部にグラフェン−ポリピロール系複合体が付着し、グラフェン−ポリピロール系複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する、改良型電極を提供する。一実施形態では、生物学的標的は、抗体、抗体誘導体、ハプテンおよび抗原のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、生物学的標的は、ホルモン、タンパク質、多糖類、脂質、ポリヌクレオチド、および代謝物のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、生物学的標的は、チロキシン(T4)、トリヨードチロニン(T3)、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態において、グラフェン−ポリピロール系複合体は、グラフェン−ポリピロール系ナノ複合体を含む。一実施形態では、電極の表面の少なくとも一部は、グラフェン−ポリピロール系複合体で被覆される。一実施形態では、電極の表面の少なくとも一部は、グラフェン−ポリピロール系複合体との共有結合を形成することができる1つまたは複数のアミノ基で機能化される。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、生物学的標的を選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含む。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、生物学的標的を非選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含む。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、グラフェン−ポリピロール系複合体には、アミド結合を介して少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する。一実施形態では、グラフェン−ポリピロール系複合体は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれかのFc領域とのアミド結合を形成することができる1つまたは複数のアミノ基で機能化される。
【0021】
本開示の別の態様は、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスであって、表面を画定する少なくとも1つの電極を備え、電極の表面の少なくとも一部にグラフェン−ポリピロール系複合体が付着し、グラフェン−ポリピロール系複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する、電気化学デバイスを提供する。一実施形態では、生物学的標的は、抗体、抗体誘導体、ハプテンおよび抗原のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、生物学的標的は、ホルモン、タンパク質、多糖類、脂質、ポリヌクレオチド、および代謝物のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、生物学的標的は、チロキシン(T4)、トリヨードチロニン(T3)、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態において、グラフェン−ポリピロール系複合体は、グラフェン−ポリピロール系ナノ複合体を含む。一実施形態では、電極の表面の少なくとも一部は、グラフェン−ポリピロール系複合体で被覆される。一実施形態では、電極の表面の少なくとも一部は、グラフェン−ポリピロール系複合体との共有結合を形成することができる1つまたは複数のアミノ基で機能化される。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、生物学的標的を選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含む。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、生物学的標的を非選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含む。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、グラフェン−ポリピロール系複合体には、アミド結合を介して少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する。一実施形態では、グラフェン−ポリピロール系複合体は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれかのFc領域とのアミド結合を形成することができる1つまたは複数のアミノ基で機能化される。一実施形態では、少なくとも1つの電極は、感知電極である。一実施形態では、電気化学デバイスは、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、チロキシン(T4)、およびトリヨードチロニン(T3)のそれぞれについて、0.001uIU/mL、0.5fg/mL、および0.5fMの検出限界(LOD)を示す。一実施形態では、電気化学デバイスは、20分以内に甲状腺刺激ホルモン(TSH)、チロキシン(T4)、およびトリヨードチロニン(T3)の組み合わせのいずれかの定量的検出を行う。
【0022】
本開示のさらに別の態様は、電気化学デバイス用の作用電極の製造方法であって、作用電極を取り出すステップと、作用電極の表面の少なくとも一部を機能化することができる作用物質で作用電極を処理して機能化作用電極を形成するステップと、機能化作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と共にインキュベートして表面改質作用電極を形成するステップと、表面改質作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体の表面の少なくとも一部を機能化することができる作用物質で処理するステップと、グラフェン−ポリピロール複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分を付着させて電気化学デバイス用の作用電極を実現するステップと、を含む、作用電極の製造方法に関する。
【0023】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様および利点は、以下の好適な実施形態の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の一実施形態に従って実現された改良型電極を示す例示的な図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスを示す例示的な図である。
【
図3】本開示の一実施形態に従って実現された、改良型電極を含む、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスを示す例示的な図である。
【
図4A-4B】本開示の実施形態に係る、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用した例示的なTSH定量化曲線および対応する較正プロットである。
【
図5A-5B】本開示の実施形態に係る、クロノアンペロメトリー法を使用した例示的なTSH定量化曲線および対応する較正プロットである。
【
図6A-6E】本開示の実施形態に係る、クロノクーロメトリー法を使用した例示的なTSH定量化曲線および対応する較正プロットである。
【
図7A-7B】本開示の実施形態に係る、クロノアンペロメトリー法を使用した例示的なT3定量化を示す図である。
【
図8A-8B】本開示の実施形態に係る、クロノクーロメトリー法を使用した例示的なT3定量化を示す図である。
【
図9A-9B】本開示の実施形態に係る、クロノアンペロメトリー法を使用した例示的なT4定量化を示す図である。
【
図10A-10B】本開示の実施形態に係る、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用した例示的なT4定量化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下は、本発明の実施形態の詳細な説明である。実施形態は、非常に詳細であるので、本開示を明確に伝えることができる。しかしながら、提示される詳細の度合いは、実施形態の予想される変形形態を制限することを意図しておらず、むしろ、添付の請求項によって定義される本開示の精神および範囲内にある全ての修正形態、均等物、および代替物を網羅するものとする。
【0026】
文脈上他の意味に解釈すべき場合を除いて、以下の明細書全体を通して、「comprise(備える)」およびその変化形、例えば、「comprises」および「comprising」という単語は、「含むが、これに限定されない」という意味のような開放的で包括的な意味で解釈されるべきである。
【0027】
本明細書を通して「一実施形態(one embodiment)または(an embodiment)」の表現は、実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造または特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な場所における「一実施形態において(in one embodiment)または(in an embodiment)」という句は、必ずしも全てが同じ実施形態について説明しているとは限らない。さらに、特定の特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の好適な方法で組み合わされてもよい。
【0028】
本明細書内の説明および以下の請求項全体で使用される場合、「a」、「an」、および「the」の意味は、文脈が明らかに別段の意味を示す場合を除いて、複数のものを含む。また、本明細書内の説明で使用される場合、「in」の意味は、文脈が明らかに別段の意味を示す場合を除いて、「in」および「on」を含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、本発明の特定の実施形態を説明および請求するために使用される、成分の量、濃度のような特性などを表す数字は、場合によっては、「約」という用語によって修飾されるものと理解されるべきである。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載されている数値パラメータは、特定の実施形態によって得られることが求められる所望の特性に応じて変化し得る近似値である。いくつかの実施形態では、数値パラメータは、報告有効桁数を考慮して、通常の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。本発明のいくつかの実施形態の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値ではあるが、特定の実施例に記載されている数値は、可能な限り正確に報告されている。
【0030】
本明細書における値の範囲の列挙は、単に、その範囲内にある個々の値を個別に言及するための簡単な方法としての役割を果たすことを意図している。本明細書において別段の指示がない限り、個々の値は、本明細書に個別に列挙されているかのように、本明細書に組み込まれるものとする。
【0031】
本明細書に記載されている全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または別の形で文脈によって明らかに矛盾しない限り、適切な順序で実施され得る。本明細書の特定の実施形態に関して示されている任意のおよび全ての例、または例示的な言葉(例えば、「のような」)の使用は、単に本発明をより十分に説明することを意図しており、それ以外に請求される本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書内のいかなる言葉も、本発明の実施に不可欠な任意の非請求要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0032】
本明細書内に示されている本発明の見出しおよび要約は、便宜上のものに過ぎず、実施形態の範囲または意味を説明するものではない。
【0033】
本明細書内では、様々な用語が使用されている。請求項で使用される用語が以下で定義されていない限り、その用語は、関連技術に係る当業者が出願時に刊行物および交付済み特許内に示されている用語としてその用語を解釈する、最も広義の定義で解釈されるべきである。
【0034】
本開示は、電気化学デバイス用の改良型電極に関する。特に、本開示は、試料中の生物学的標的の検出を可能にする電気化学デバイス用の改良型電極を提供する。また、本開示の一態様は、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスを提供する。
【0035】
本開示は、本開示の発明者らが、グラフェン−ポリピロール系複合体が付着した(好ましくは、グラフェン−ポリピロール系複合体で被覆された)電極が電極の導電率を大幅に向上させることができ、ひいては、試料中の生物学的標的の定量的検出を可能にする電気化学デバイスの検出限界(LOD)を0.5fg/mLまで大幅に改善することができることを思いがけず気付いたという前提に基づくものである。
【0036】
したがって、本開示の一態様は、試料中の生物学的標的を検出することができる電気化学デバイス用の改良型電極であって、電極の表面の少なくとも一部にグラフェン−ポリピロール系複合体が付着し、グラフェン−ポリピロール系複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分に付着する、改良型電極に関する。
図1は、本開示の一実施形態に従って実現された改良型電極を示す例示的な図である。図から分かるように、電極100にグラフェン−ポリピロール系複合体102が付着し、グラフェン−ポリピロール系複合体102に少なくとも1つの生物学的標的化部分104が付着する。
【0037】
本開示の別の態様は、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスであって、表面を画定する少なくとも1つの電極を備え、電極の表面の少なくとも一部にグラフェン−ポリピロール系複合体が付着し、グラフェン−ポリピロール系複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する、電気化学デバイスを提供する。
図2は、本開示の一実施形態に係る、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスを示す例示的な図である。図から分かるように、電気化学デバイス200は、参照電極202と、対電極204と、作用電極206とを含む。
図3は、本開示の一実施形態に従って実現された、改良型電極を含む、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスを示す例示的な図である。図から分かるように、電気化学デバイス200は、作用電極302を含み、その表面の少なくとも一部にグラフェン−ポリピロール系複合体304が付着し、グラフェン−ポリピロール系複合体304に少なくとも1つの生物学的標的化部分306が付着する。
【0038】
グラフェン−ポリピロール系複合体、特に、本発明で使用されるグラフェン−ポリピロール系ナノ複合体は、周囲温度(約30℃)で適度な速度で攪拌することによって反応容器中でピロールモノマーを適当な溶媒と混合して第1の溶液を作製し、その後、得られた反応混合物を連続的に撹拌しながら第1の溶液に酸化グラフェン−、過硫酸アンモニウム(APS)およびテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を添加してグラフェン−ポリピロール系ナノ複合体を形成するという方法を使用して形成され得る。しかしながら、関連技術に係る当業者に周知である、または当業者によって認識されている任意の他の方法を利用して、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、グラフェン−ポリピロール系ナノ複合体を実現することができることを理解されたい。一実施形態では、本明細書内で利用される酸化グラフェン−は、当業者に周知である、または当業者によって認識されている任意の方法によって作製することができ、好ましくは、酸化グラフェン−は、改良ハマーズ(Hummers)法によって作製される。
【0039】
一実施形態では、生物学的標的は、抗体、抗体誘導体、ハプテンおよび抗原のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、生物学的標的は、ホルモン、タンパク質、多糖類、脂質、ポリヌクレオチド、および代謝物のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、生物学的標的は、チロキシン(T4)、トリヨードチロニン(T3)、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)のいずれか、または組み合わせから選択される。しかしながら、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者に周知である、または当業者によって認識されている任意の他の生物学的標的が検出可能である。
【0040】
一実施形態では、電極は、任意の導電性材料から作製される。関連技術に係る当業者は、電気化学デバイス用の電極(特に、作用電極または感知電極)の製造に有用であり得る材料に十分に精通しており、したがって、簡略化のために、このことに関して、これ以上詳細に説明しない。好適な実施形態では、電極は、炭素または炭素質材料から作製される。しかしながら、電極の製造のための任意の他の材料の利用は、完全に本開示の範囲内にある。
【0041】
一実施形態において、グラフェン−ポリピロール系複合体は、グラフェン−ポリピロール系ナノ複合体を含む。一実施形態では、電極の表面の少なくとも一部は、グラフェン−ポリピロール系複合体で被覆される。好ましくは、電極の表面全体は、グラフェン−ポリピロール系複合体で被覆される。
【0042】
一実施形態では、電極の表面の少なくとも一部は、グラフェン−ポリピロール系複合体とのイオン結合を形成することができる1つまたは複数のアミノ基で機能化される。関連技術に係る当業者は、1つまたは複数のペンダントアミノ基による電極表面の機能化に有用であり得る材料に十分に精通しており、したがって、簡略化のために、このことに関して、これ以上詳細に説明しない。このような機能化のために使用され得る例示的な化合物としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)が挙げられるが、これに限定されない。ペンダントアミノ基で機能化された電極表面は、グラフェン−ポリピロール系複合体との共有結合を形成して、電極表面とグラフェン−ポリピロール系複合体との付着を可能にし得る。
【0043】
一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、生物学的標的を選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含む。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、生物学的標的を非選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含む。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、抗体、抗体誘導体、ハプテンおよび抗原のいずれか、または組み合わせを選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含む。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、抗体、抗体誘導体、ハプテンおよび抗原のいずれか、または組み合わせを非選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含む。しかしながら、生物学的標的化部分は、デバイスの特異性および信頼性を向上させるために、生物学的標的を選択的に捕捉することができる1つまたは複数の作用物質を含むことが好ましい。
【0044】
一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれか、または組み合わせから選択される。本開示の電極は、特に、試料中に存在する甲状腺ホルモン(T3、T4、およびTSH)のいずれか、または組み合わせの定量的検出を可能にし得る電気化学デバイスの感知電極として有用であり得る。
【0045】
一実施形態では、グラフェン−ポリピロール系複合体には、アミド結合を介して少なくとも1つの生物学的標的化部分が付着する。一実施形態では、グラフェン−ポリピロール系複合体は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれかのFc領域とのアミド結合を形成することができる1つまたは複数のアミノ基で機能化される。関連技術に係る当業者は、1つまたは複数のペンダントアミノ基によるグラフェン−ポリピロール系複合体の機能化に有用であり得る材料に十分に精通しており、したがって、簡略化のために、このことに関して、これ以上詳細に説明しない。このような機能化のために使用され得る例示的な化合物としては、シスタミン二塩酸塩が挙げられる。しかしながら、任意の他の材料の使用は、完全に本開示の範囲内にある。
【0046】
一実施形態では、電気化学デバイスは、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、チロキシン(T4)、およびトリヨードチロニン(T3)のそれぞれについて、0.001uIU/mL、0.5fg/mL、および0.5fM/mLの検出限界(LOD)を示す。一実施形態では、電気化学デバイスは、20分以内、より好ましくは10分以内に、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、チロキシン(T4)、およびトリヨードチロニン(T3)の組み合わせのいずれかの定量的検出を可能にする。
【0047】
本開示の別の態様は、電気化学デバイス用の作用電極の製造方法であって、作用電極を取り出すステップと、作用電極の表面の少なくとも一部を機能化することができる作用物質で作用電極を処理して機能化作用電極を形成するステップと、機能化作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と共にインキュベートして表面改質作用電極を形成するステップと、表面改質作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体の表面の少なくとも一部を機能化することができる作用物質で処理するステップと、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分を付着させて電気化学デバイス用の作用電極を実現するステップと、を含む、作用電極の製造方法に関する。
【0048】
一実施形態では、電気化学デバイス用の作用電極の製造方法は、作用電極を取り出すステップと、作用電極を、作用電極の表面の少なくとも一部を1つまたは複数のペンダントアミノ基で機能化することができる、作用物質で処理して機能化作用電極を形成するステップと、機能化作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と共にインキュベートして表面改質作用電極を形成するステップと、表面改質作用電極を、1つまたは複数のペンダントアミノ基でグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体の表面の少なくとも一部を機能化することができる、作用物質で処理するステップと、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分を付着させて電気化学デバイス用の作用電極を実現するステップとを含む。
【0049】
一実施形態では、電気化学デバイス用の作用電極の製造方法は、作用電極を取り出すステップと、随意選択で、作用電極を脱イオン(DI)水で洗浄するステップと、作用電極を3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)で処理して作用電極の表面の少なくとも一部を1つまたは複数のペンダントアミノ基で機能化するステップと、随意選択で、機能化作用電極を脱イオン(DI)水で洗浄するステップと、機能化作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と共にインキュベートするステップと、表面改質作用電極をシスタミン二塩酸塩で処理して1つまたは複数のペンダントアミノ基でグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体の表面の少なくとも一部を機能化するステップと、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分を付着させて電気化学デバイス用の作用電極を実現するステップとを含む。
【0050】
一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と付着する前に、それらのアニオン性対応物に変換される。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、1つまたは複数の抗体を含む。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、1つまたは複数の抗体は、それに負の変化を付与するのに十分なアルカリ性pHを有する緩衝液の1つまたは組み合わせで処理される。一実施形態では、緩衝液は、重炭酸塩および/または炭酸塩系緩衝液を含む。しかしながら、本開示に記載されている意図された目的を果たすための任意の他の緩衝液の使用は、完全に本開示の範囲内にある。
【0051】
一実施形態では、電気化学デバイス用の電極の製造方法は、スクリーン印刷を使用して電極を作製するステップと、随意選択で、電極を不活性液体で洗浄するステップと、電極を1つまたは複数のペンダントアミノ基で電極の表面の少なくとも一部を機能化することができる作用物質で処理して機能化電極を形成するステップと、随意選択で、機能化電極を不活性液体で洗浄するステップと、機能化電極をグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と共にインキュベートして表面改質電極を形成するステップと、表面改質電極を1つまたは複数のペンダントアミノ基でグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体の表面の少なくとも一部を機能化することができる作用物質で処理するステップと、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分を付着させて本開示の有利な電極を実現するステップとを含む。
【0052】
一実施形態では、電気化学デバイス用の電極の製造方法は、スクリーン印刷を使用して炭素系電極を作製するステップと、随意選択で、電極を脱イオン(DI)水で洗浄するステップと、電極を3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)で処理して電極の表面の少なくとも一部を1つまたは複数のペンダントアミノ基で機能化するステップと、随意選択で、機能化電極を脱イオン(DI)水で洗浄するステップと、機能化電極をグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と共にインキュベートするステップと、表面改質電極をシスタミン二塩酸塩で処理して1つまたは複数のペンダントアミノ基でグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体の表面の少なくとも一部を機能化するステップと、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分を付着させて本開示の有利な電極を実現するステップとを含む。
【0053】
一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と付着する前に、それらのアニオン性対応物に変換される。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、1つまたは複数の抗体を含む。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、1つまたは複数の抗体は、それに負の変化を付与するのに十分なアルカリ性pHを有する緩衝液の1つまたは組み合わせで処理される。一実施形態では、緩衝液は、重炭酸塩および/または炭酸塩系緩衝液を含む。しかしながら、本開示に記載されている意図された目的を果たすための任意の他の緩衝液の使用は、完全に本開示の範囲内にある。
【0054】
本開示のさらに別の態様は、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスの製造方法であって、少なくとも1つの電極が感知(または作用)電極として機能するスクリーン印刷多電極システムを製造するステップと、随意選択で、作用電極を不活性液体で洗浄するステップと、作用電極を作用電極の表面の少なくとも一部を機能化することができる作用物質で処理して機能化作用電極を形成するステップと、随意選択で、機能化作用電極を不活性液体で洗浄するステップと、機能化作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と共にインキュベートして表面改質作用電極を形成するステップと、表面改質作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体の表面の少なくとも一部を機能化することができる作用物質で処理するステップと、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分を付着させて本開示の有利な電気化学デバイスを実現するステップとを含む、電気化学デバイスの製造方法に関する。
【0055】
一実施形態では、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスの製造方法は、少なくとも1つの電極が感知(または作用)電極として機能するスクリーン印刷3電極システムを製造するステップと、随意選択で、作用電極を不活性液体で洗浄するステップと、作用電極を、1つまたは複数のペンダントアミノ基で作用電極の表面の少なくとも一部を機能化することができる、作用物質で処理して機能化作用電極を形成するステップと、随意選択で、機能化作用電極を不活性液体で洗浄するステップと、機能化作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と共にインキュベートして表面改質作用電極を形成するステップと、表面改質作用電極を、1つまたは複数のペンダントアミノ基でグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体の表面の少なくとも一部を機能化することができる、作用物質で処理するステップと、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分を付着させて本開示の有利な電気化学デバイスを実現するステップとを含む。
【0056】
一実施形態では、試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスの製造方法は、少なくとも1つの電極が感知(または作用)電極として機能するスクリーン印刷3電極システムを製造するステップと、随意選択で、作用電極を脱イオン(DI)水で洗浄するステップと、作用電極を3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)で処理して、1つまたは複数のペンダントアミノ基で作用電極の表面の少なくとも一部を機能化するステップと、随意選択で、機能化作用電極を脱イオン(DI)水で洗浄するステップと、機能化作用電極をグラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と共にインキュベートするステップと、表面改質作用電極をシスタミン二塩酸塩で処理して、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体の表面の少なくとも一部を1つまたは複数のペンダントアミノ基で機能化するステップと、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体に少なくとも1つの生物学的標的化部分を付着させて本開示の有利な電気化学デバイスを実現するステップとを含む。
【0057】
一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、グラフェン−ポリピロール複合体またはナノ複合体と付着する前に、それらのアニオン性対応物に変換される。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、1つまたは複数の抗体を含む。一実施形態では、少なくとも1つの生物学的標的化部分は、抗T3抗体、抗T4抗体、および抗TSH抗体のいずれか、または組み合わせから選択される。一実施形態では、1つまたは複数の抗体は、それに負の変化を付与するのに十分なアルカリ性pHを有する緩衝液の1つまたは組み合わせで処理される。一実施形態では、緩衝液は、重炭酸塩および/または炭酸塩系緩衝液を含む。しかしながら、本開示に記載されている意図された目的を果たすための任意の他の緩衝液の使用は、完全に本開示の範囲内にある。
【0058】
上記説明は本開示の様々な実施形態を開示しているが、本発明の他のさらなる実施形態が本開示の基本的な範囲から逸脱せずに考案されてもよい。本発明は、記載されている実施形態、バージョンまたは実施例に限定されない。これらは、当業者に利用可能な情報および知識と組み合わせれば、当業者が本発明を作製および使用することができるように挙げられている。
実施例
【0059】
グラフェン−ポリピロール(GO−PPy)ナノ複合体の合成
【0060】
酸化グラフェン−ポリピロールナノ複合体は、酸化グラフェン−ナノシートおよびピロールモノマーを使用した化学重合法を使用して合成された。酸化グラフェン−ナノシートは、周囲温度(約30℃)で30分間、硫酸(4.2mL)中に黒鉛粉末(0.2グラム(gm))および硝酸ナトリウム(0.1gm)を連続的に撹拌しながら溶解させることによって、改良Hummers法によって合成された。次いで、溶液を氷浴中で15分間冷却し、続いて過マンガン酸カリウム(0.6gm)をゆっくりと添加した。フラスコを一定撹拌下において氷浴中で30分間インキュベートし、次いで35℃の雰囲気へ1時間移動させた。これに続いて、16mLの沸騰水を添加することによって懸濁液を希釈した。過酸化水素(2mL)を添加することによって過剰な過マンガン酸塩を除去し、このことにより、溶液の色がチョコレート色から黄色へ変化し、酸化グラフェン−の層状構造が破壊されたことが示された。最後に、溶液の洗浄を濃塩酸および蒸留水で行った。これに続いて、酸化グラフェン−ナノシートの完全な分離を確実にするために、45分間超音波処理を行った。
【0061】
ピロールモノマー溶液を、フラスコ内で5mLの水中に200uLのピロールモノマーを混合することによってピロールモノマー溶液を作製し、室温(約30℃)でマグネチックスターラによって適度に撹拌した。次に、500uLの酸化グラフェン−ナノシートを100uLの10%過硫酸アンモニウム(APS)および10uLテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)と一緒に連続的に攪拌しながら、ピロールモノマー溶液に添加し、残りの4.19mLの水を添加することによって、フラスコ内で最終溶液体積を10mLにした。これに続いて、酸化グラフェン−ポリピロールナノ複合体を作製するために、10分間超音波処理を行った。
【0063】
作用電極として炭素を有するスクリーン印刷電極を取り出し、DI水で洗浄した。その後、作用電極表面を5mMの3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)により機能化して、電極表面上にNH
2基を得た。次いで、この機能化電極をDI水で洗浄し、グラフェン−ポリピロールナノ複合体と共にインキュベートした。このステップの後、シスタミン二塩酸塩で処理して、グラフェン−ポリピロールナノ複合体の表面上にNH
2基を得た。電極を作製した後、0.1ugの抗TSH抗体を電極上に固定化した。固定化の前に、抗体を100mMの重炭酸塩/炭酸塩被覆緩衝液(pH9.0)中で希釈した。この高いpHでは、抗体が負に帯電し、抗体のFc領域のCOO
−基が電極表面上に存在するにNH
2基とのアミド結合を形成する。最後に、抗体固定化電極を、非特異的相互作用を回避するために、1%BSAでブロッキング処理した。
【0065】
TSH/T3/T4の定量化の前に、センサの応答関数に影響を及ぼす緩衝液のインキュベーション温度、時間およびpHのような様々なパラメータを最適化した。最大限度の免疫複合体形成のための緩衝液の最適な時間、温度およびpHはそれぞれ、10分、室温、および7.4であることが判明した。
【0067】
最適な時間、温度、およびpH条件下で、異なる濃度のT3/T4/TSH抗原を作用電極上でインキュベートすることによって、甲状腺ホルモンの定量化を実施した。
【0068】
PBS(pH7.4)試料中のTSH/T3/T4の定量化
【0069】
異なる抗原濃度をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水中で調製した。2uLの抗原濃度を作用電極上に添加し、室温で10分間インキュベートした。10分後、ピペットを使用して2〜3回電極上にPBS(pH7.4)を100uL添加することによって、電極をPBS(pH7.4)で洗浄した。最後に、0.01MのPBS(pH7.4)中の5mMのフェリシアン化物/フェロシアン化物100uLを全ての3つの作用電極、参照電極、および補助電極を覆う電極表面に添加した。これに続いてクロノアンペロメトリー分析を行った。このようにして得られた電流を記録し、抗原濃度の関数として電流応答の較正プロットをプロットした。TSHについて観察された検出限界(LOD)は、0.001uIU/mLであり、検出範囲は0.001〜150uIU/mLであった。T3ホルモンの場合も同様に、LODは0.5fg/mLであり、検出範囲は0.0005〜100pg/Mlであるが、T4のLODは0.5fM(0.388fg/mL)であり、検出範囲は0.0004〜777pg/mLであることが判明した。
【0070】
血清試料中のTSH/T3/T4の定量化
【0071】
PBS(pH7.4)試料中のTSH/T3/T4の定量化のために実施した実験全体を、市販の血清中でTSH/T3/T4の濃度を調製した後に繰り返した。免疫複合体形成のための最適条件は、PBS中で同様である、すなわち、10分および室温であることが判明した。異なる抗原濃度をスパイクした血清中の電流応答曲線を記録した後にプロットされた較正曲線は、同じLOD(TSH:0.001uIU/mL、T3:0.5fg/Ml、T4:0.388fg/mL)および検出範囲(TSH:0.001〜150uIU/mL、T3:0.0005〜100pg/mL、T4:0.0004〜777pg/mL)を示した。しかし、血清中の測定の感度は、PBSの感度と異なっていた。
【0072】
図4Aおよび
図4Bは、本開示の実施形態に係る、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用した例示的なTSH定量化曲線および対応する較正プロットである。
図5Aおよび
図5Bは、本開示の実施形態に係る、クロノアンペロメトリー法を使用した例示的なTSH定量化曲線および対応する較正プロットである。
図6A〜
図6Eは、本開示の実施形態に係る、クロノクーロメトリー法を使用した例示的なTSH定量化曲線および対応する較正プロットである。
図7Aおよび
図7Bは、本開示の実施形態に係る、クロノアンペロメトリー法を使用した例示的なT3定量化を示す図である。
図8Aおよび
図8Bは、本開示の実施形態に係る、クロノクーロメトリー法を使用した例示的なT3定量化を示す図である。
図9Aおよび
図9Bは、本開示の実施形態に係る、クロノアンペロメトリー法を使用した例示的なT4定量化を示す図である。
図10Aおよび
図10Bは、本開示の実施形態に係る、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用した例示的なT4定量化を示す図である
【0073】
本開示の改良型電極を含む電気化学デバイスは、TSHについて、CLIAベースのキットでは0.013uIU/mL、および電気化学発光(ECL)では0.005uIU/mLであるのに対して、0.001uIU/mLのLODであることを示している。同様に、本開示の改良型電極を含む電気化学デバイスは、T3について、0.5fg/mLのLODを示すが、CLIAのLODは0.094ng/mLである。本開示の改良型電極を含む電気化学デバイスは、T4について、0.388fg/mLのLODを示すが、CLIAのLODは0.1.0pg/mLである。これらの実験から、本開示の有利な電極および試料中の生物学的標的を検出するための電気化学デバイスの製造のためのその電極の利用は、感度およびLOD値を大幅に高めると結論付けることができた。
[発明の効果]
【0074】
本開示は、電気化学デバイス用の改良型電極を提供する。
【0075】
本開示は、試料中の生物学的標的を検出することができる電気化学デバイス用の改良型電極を提供する。
【0076】
本開示は、試料中のフェムトグラムスケールで存在する生体分子(生物学的標的)を検出することができる電気化学デバイスを提供する。
【0077】
本開示は、甲状腺ホルモン(複数を含む)を検出するための電気化学デバイスを提供する。
【0078】
本開示は、甲状腺ホルモン(複数を含む)の定量的検出のための電気化学デバイスを提供する。
【0079】
本開示は、電気化学デバイス用の改良型電極の製造方法を提供する。
【0080】
本開示は、試料中の生体分子(生物学的標的)を検出するための電気化学デバイスの製造方法を提供する。
【0081】
本開示は、試料中の生体分子(生物学的標的)の定量的検出の方法を提供する。
【0082】
本開示は、試料中のチロキシン(T4)、トリヨードチロニン(T3)、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)のいずれか、または組み合わせの定量的検出の方法を提供する。
【国際調査報告】