(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-533527(P2021-533527A)
(43)【公表日】2021年12月2日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次バッテリーに使用するための有機カーボネート及び環状スルホキシドを含む液状電解質
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20211105BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20211105BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20211105BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20211105BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20211105BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20211105BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20211105BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20211105BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/052
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M12/08 K
H01M4/587
H01M4/505
H01M4/525
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2021-500381(P2021-500381)
(86)(22)【出願日】2019年7月20日
(85)【翻訳文提出日】2021年1月20日
(86)【国際出願番号】DE2019000195
(87)【国際公開番号】WO2020035098
(87)【国際公開日】20200220
(31)【優先権主張番号】102018006379.9
(32)【優先日】2018年8月11日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】オルディーゲス・クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ブルンクラウス・グンター
(72)【発明者】
【氏名】グリューネバウム・マリアノ
(72)【発明者】
【氏名】セキッチ−ラスコヴィッチ・イシドーラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンター・マルティン
【テーマコード(参考)】
5H029
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL07
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5H029AM07
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5H029HJ20
5H032AA02
5H032CC17
5H050AA02
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5H050BA17
5H050BA20
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5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA17
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
本発明は、再充電可能なリチウムイオンバッテリー、リチウム金属バッテリー及びリチウム硫黄バッテリーで使用するための新規の液状電解質を記載する。
溶媒としての有機系非線状カーボネート及び共溶媒としての環状スルホキシドを、少なくとも一種のリチウム塩と組み合わせて含む電解質混合物は、プロピレンカーボネートのみをベースとする電解質と比較して、高められた伝導性及び低められた粘度を示す。加えて、これらは、広い温度ウインドウ内で液状であり、かつ低温下でも良好な伝導性及び優れた安定性を示す。
上記溶媒は、様々なリチウム塩の高い溶解及び解離を可能とし、安価に製造でき、また同時にヒトの組織に対する懸念がない。
アノードとしての炭素ベースの電極及びカソードとしての遷移金属電極を備えたバッテリーにおいて本発明による電解質を使用した場合、効果的な、Li
+イオン透過性が高くかつ電子絶縁性の保護層が両電極上に形成され、これらは、可逆性の大きな放電容量を持って安定した充放電サイクルを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンバッテリー、リチウム金属バッテリー及びリチウム硫黄バッテリーに使用するための液状電解質であって、少なくとも一種の有機系非線状カーボネート及び少なくとも一種のリチウム塩の他に、少なくとも一種の環状スルホキシドを含むことを特徴とするが、但し、プロピレンカーボネート、テトラヒドロチオフェン−1−オキシド及びLiTFSIを含む液状電解質は除く、前記液状電解質。
【請求項2】
環炭素原子数が3〜10である環状スルホキシドを含む、請求項1に記載の液状電解質。
【請求項3】
次式(1)に従う環状スルホキシドを含む、請求項2に記載の液状電解質。
【化1】
nは、0、1、2、3、4、5、6、7であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、それぞれ同一かまたは互いに独立して、次のものからなる群から選択される:
− 炭素原子数1〜12の線状または分岐状アルキル基、
− 炭素原子数1〜12の線状または分岐状シクロアルキル基、
− 炭素原子数5〜6のアリール基、
− 炭素原子数5〜6のアリールオキシ基、
− 炭素原子数1〜12のアルコキシ基、特に最大5個までのエトキシ単位を有する(ポリ)アルコキシ基、
− 水素。
【請求項4】
前記環状スルホキシドの環が、一つ以上の炭素−炭素二重結合を有する、請求項1〜3のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項5】
− テトラヒドロチオフェン−1−オキシド、
− チエタン−1−オキシド、
− テトラヒドロ−2H−チオピラン−1−オキシド、
− チエパン−1−オキシド、
− 2−メチルテトラヒドロチオフェン−1−オキシド、
− 3−メチルテトラヒドロチオフェン−1−オキシド、
− 2−イソプロピルテトラヒドロチオフェン−1−オキシド、または
− 3−イソプロピルテトラヒドロチオフェン−1−オキシド、
を環状スルホキシドとして含む、請求項1〜4のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項6】
前記環状スルホキシドが、電解質の溶媒を基準にして10〜40モル%の濃度で電解質中に存在する、請求項1〜5のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項7】
プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネート、2,3−ペンチレンカーボネート、1,2−ヘキシレンカーボネート、1,2−オクチレンカーボネート、または1,2−ドデシレンカーボネートを有機系カーボネートとして含む、請求項1〜6のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項8】
25℃で3.6〜7.0mScm−1のイオン伝導率を有する、請求項1〜7のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項9】
−20℃で0.9〜1.6mScm−1のイオン伝導率を有する、請求項1〜8のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項10】
25℃で6.4〜10.0mPaの粘度を有する、請求項1〜9のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項11】
−20℃で28.1〜45.0mPaの粘度を有する、請求項1〜10のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項12】
炭素ベースの電極と適合性である、請求項1〜11のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項13】
遷移金属電極と適合性である、請求項1〜12のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項14】
少なくとも4.2vs.Li/Li+の電気化学的安定性を有する、請求項1〜13のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項15】
次のものからなる群から選択されるリチウム塩を含む、請求項1〜14のいずれか一つに記載の液状電解質。
− リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)、
− リチウムテトラフルオロボレート(LiBF4)、
− リチウムパークロレート(LiClO4)、
− リチウムヘキサフルオロアルセネート(V)(LiAsF6)、
− リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiCF3SO3)、
− リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタニド(Li−TFSM)、
− リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、
− リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF2C2O4)、
− リチウムニトレート(LiNO3)、
− リチウムフルオロアルキルホスフェート(LiPF3(CF2CF3)3)、
− リチウムビスパーフルオロエチスルホニルイミド(LiBETI)、
またはこれらの塩の任意の組み合わせ。
【請求項16】
前記リチウム塩が、単独でまたは混合物として、電解質中に0.01〜22モル/Lの濃度で、好ましくは0.1〜10モル/Lの濃度で存在する、請求項1〜15のいずれか一つに記載の液状電解質。
【請求項17】
アノード、カソード、セパレータ、及び請求項1〜16のいずれか一つに記載の液状電解質を含む、リチウム二次バッテリー。
【請求項18】
炭素ベースのアノード及び遷移金属ベースのカソードを含む、請求項17に記載のリチウム二次バッテリー。
【請求項19】
リチウムイオンバッテリー、充電式リチウム金属バッテリー、リチウム硫黄バッテリーまたはリチウム空気バッテリー、またはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属バッテリーを含む、請求項17または18に記載のリチウム二次バッテリー。
【請求項20】
少なくとも1Cの充電及び放電電流の場合に、少なくとも100回の充放電サイクルにわたって少なくとも95mAhg−1の比容量で、安定した充放電サイクルを有する、請求項17〜19のいずれか一つに記載のリチウム二次バッテリー。
【請求項21】
少なくとも1Cの充電及び放電電流の場合に、100回の充放電サイクルの後に、初期容量の少なくとも95%を有する、請求項17〜20のいずれか一つに記載のリチウム二次バッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン、リチウム金属及びリチウム硫黄バッテリーに使用することができかつ溶媒として非線形有機カーボネート、例えばプロピレンカーボネートを含む新規の非水系液状電解質を記載するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの商業的な再充填可能なリチウムイオンバッテリーに使用されている非水系の非プロトン性電解質は、例えばエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)などの有機カーボネートと、導電性塩としてのリチウムヘキサフルオロホスフェートを含む。ECの高い比誘電率、それに伴う良好なイオン溶媒和及び塩解離、並びに例えばグラファイトなどの炭素ベースの電極上に保護層を形成する能力は除いて、ECベースの電解質は重大な欠点を有する。ECの高い融点(Tm=36.6℃)(非特許文献1)は、低温での低いバッテリー性能を招き、そのため、例えばジメチルカーボネート(DMC)などの線状カーボネートが共溶媒として必要とされる。というのも、これらは、低い粘度を有し、従ってイオン輸送を容易にするからである。線状カーボネートの高い揮発性及び可燃性は原則的に安全上のリスクを招く。それ故、増加する分散型エネルギー生成の過程においてネットワークインフラストラクチャーの成長要素である例えば定置型エネルギー貯蔵設備などの規模の大きい用途に関しては特に、代替的な溶媒を探すことが必要である。個人の家庭では特に、電池の安全性に対する要求は非常に高い。
【0003】
代替的な溶媒は、リチウム塩の高い溶解および解離を可能にするために高い比誘電率を有するだけではなく、電極上の安定した保護層、すなわちカソードでの溶媒の不可逆的酸化およびアノードでの不可逆的還元を防止するために両方ともLi
+イオンを良好に透過するが、電子絶縁性である電子絶縁性であるアノード保護層(固形電解質インターフェース、SEI)及びカソード保護層(カソード電解質インターフェース、CEI)を形成できるべきである。同時に、この溶媒は、広い温度ウインドウ(少なくともΔT=−20〜80℃)内で液状であるべきである。この目的のために、電解質は、適切なイオン輸送を確実にするために、線状カーボネートの不在にもかかわらず、20℃で少なくとも5〜8mScm
−1の範囲のイオン伝導率を有することが望ましい。これは、比較的低い分極効果のために、バッテリーの可逆容量および長いカレンダー寿命を可能にするために重要である。
【0004】
プロピレンカーボネート(PC)は、ECと同様に環状カーボネートに属し、高い比誘電率(20℃でε
r=66.2)、及び加えて高い引火点(T
F=116℃)を有する(非特許文献2)。低い融点及び高い沸点(ΔT=−49〜242℃)(非特許文献3)は、低温化での優れた性能(可逆容量、長い寿命)をもたらし、そのため線状カーボネートの添加はもはや不要となり、これはバッテリーを大概は明らかにより安全なものとし、そして大規模な用途によってより興味深いものとする。しかし、リチウムイオンバッテリーにおける電解質溶媒としてのプロピレンカーボネートの以前の使用は、物質がそれだけでは電極上に安定な保護層を形成することができず、従って、例えばグラファイトなどの電極材料と非適合性であるため困難であった。プロピレンカーボネートの使用はグラファイトの剥脱を招く。加えて、プロピレンカーボネートは、広い温度ウインドウにもかかわらず、2.3mPa・sの比較的高い粘度を有し、これはイオン輸送を妨げる。比較のために:DMCは、30℃で0.5mPa・sの粘度を有する(非特許文献4)。
【0005】
プロピレンカーボネートを使用できるようにするためには、添加剤や、共溶媒を使用することができる。添加剤とは、通常は、溶媒の最大で5重量%または体積%までを占める物質のことを指す(非特許文献5)。割合がこれより多い場合は、共溶媒と称される。還元添加剤及び反応添加剤は区別される。還元添加剤は、溶媒と比べると比較的高い還元電位を有する。この添加剤は、最初の充電サイクルの間に還元され、その後に、溶媒が還元される。この際、これは不溶性の生成物を形成し、これは、電解質の表面上に堆積して保護層を形成する。すなわち、プロピレンカーボネートのためには、>0.8Vvs.Li/Li
+の還元電位を有する添加剤が考慮される。これらは更に、重合性物質と還元性物質に細分化することができる。重合性物質は、一つまたは複数の炭素−炭素結合を有し、そして電気化学的に誘発された重合によって保護層を形成する。ビニル基を有する以下の分子は、例えばプロピレンカーボネートと共に既に使用されている:
− ビニレンカーボネート(VC)、
− ビニルアセテート(VA)、
− ビニルエチレンカーボネート(VEC)、
− ビニルエチレンスルフィット(VES)、
− ビニルトリチオカーボネート(VTC)、
− 2−シアノフラン(2CF)、
− アクリロニトリル(AN)、
− ジビニルアジペート(ADV)、
− アリルメチルカーボネート(AMC)、
− N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)。
【0006】
還元性物質は、添加剤の還元生成物が、グラファイトの活性中心に対し高い親和性を有しそしてそこに体積することによって、SEI形成において助けとなる。この部類の大概の代表物は、硫黄ベースの物質である。以下の添加剤は、例えばプロピレンカーボネートと共に使用されている:
− エチレンスルフィット(ES)、
− プロピレンスルフィット(PS)、
− プロピ−1−レン−1,3−スルトン(PES)、
− エチレンスルフェート(DTD)、
− 1,3−プロパンスルトン(1,3−PS)、
− ブチレンスルフィット(BS)、
− ポリスルフィドS
x2−。
【0007】
これまでデータからは、添加剤の効果は分子中の硫黄含有率と共に高まることが推測できる。しかし、前記の硫黄ベースの添加剤の濃度は低く抑えるべきである、というのも、これらは、高電位(>4.2Vvs.Li/Li
+)ではアノード的に不安定であり、そして内部酸化還元シャトルが高い自己放電速度を招き得るためである。
【0008】
プロピレンカーボネートと共に使用された他の還元添加剤は、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びクロロエチレンカーボネート(CIEC)である。
【0009】
還元添加剤の他には、反応添加剤も成功裏に使用することができる。反応添加剤は、全充電サイクル中で還元されず、代わりに、溶媒還元の中間生成物を補足することができるか、または溶媒分子の分解生成物と反応でき、安定したSEIを形成する。還元添加剤の部類の代表物は、例えばCO
2及び芳香族エステルである。フェニルアセテート、4−ニトロフェニルアセテート、1−ナフチルアセテート、3−アセトキシピリジン及びメチルベンゾエートが、例えばプロピレンカーボネートと組み合わせて使用された。これらの化合物は、拡大された芳香族骨格(共役π系)を有し、これは、溶媒還元の中間段階として生じるラジカルアニオンを、電荷非局在化によって安定化することができる。
【0010】
幾つかのイソシアネートも同様に、添加剤としてプロピレンカーボネートと共に使用された。
− 4−ブロモベンジルイソシアネート(Br−BIC)、
− ベンジルイソシアネート(BIC)、
− フェニルイソシアネート(PI)、
− 2,4,6−トリメトキシフェニルイソシアネート(TMPI)、
− 2,4,6−トリフルオロフェニルイソシアネート(TFPI)、
− 2−ブロモエチルイソシアネート(BrEtNCO)、
− 2,4,6−トリメチルベンジルイソシアネート(TMBI)、
− ジエトキシホスフィニルイソシアネート(DOPI)、
− エチルイソシアネート(EtNCO)。
【0011】
リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)は、リチウム塩としても、また添加剤としても使用できる。
【0012】
アルカリ金属アセテートも同様に、プロピレンカーボネートをベースとする電解質のための添加剤として使用された。アルカリ金属イオンのイオン半径が大きいほど、プロピレンカーボネート還元の減少をもたらし、それ故、バッテリー性能の向上をもたらすことが推測される。
【0013】
ビス(2−メトキシエチル)エーテル(ジグリム)が更に別の添加剤として働く。ジグリムによって溶媒和されたリチウムイオンは、グラファイト電極中に優先的に沈積し、グラファイトの内部で分解し、そして保護層を形成する。
【0014】
例えば[12]クロン−4などの添加剤としてのクロネンエーテルは、プロピレンカーボネート還元を成功裏に抑制できる。これは、それらの極めて強いLi
+イオン溶媒和能の故であり得る。クロネンエーテルの存在下では、プロピレンカーボネート分子のLi
+イオン溶媒和は強く弱化され、その結果、プロピレンカーボネートは、Li
+イオンと共にグラファイト中に沈積されない。これは、プロピレンカーボネート還元の減少をもたらす。
【0015】
しかし、先に記載した全ての添加剤は、それらの量が少ないために(≦5重量%または体積%)、粘度及びイオン伝導性に対して決定的な作用を持たず、その結果、先に記載したようなプロピレンカーボネートの高い粘度がイオン輸送を更に困難にし、これは、バッテリーのカレンダー寿命に対して不利な作用を及ぼす。加えて、幾つかの添加剤は、ヒトの組織に対して健康上の懸念がある。これには、例えば1,3−プロパンスルトン(1,3−PS)が挙げられ、これは、REACH規則では特に懸念のある物質として分類されている、というのも、この物質は、発がん性及び有毒に作用するためである(非特許文献6)。ビニレンカーボネート(VC)も、例えば皮膚に触れると有毒である(非特許文献7)。
【0016】
入手可能な文献では、グラファイトとの適合性を達成することに重点が置かれているために、SEI添加剤に焦点が当てられている。しかし、カソードは、電解質溶媒の不可逆的な酸化、及びそれに伴うバッテリー性能の劣化を避けるために、同様に保護しなければならない。それ故、アノード上にもカソード上にも保護層を形成する添加剤または共溶媒が望ましい。これまでは、これらの特性は、一部の添加剤、例えばリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)またはビニレンカーボネート(VC)でしか確認できなかった。
【0017】
添加剤として既に使用されている幾つかの物質、例えばエチレンスルフェート(DTD)は、プロピレンカーボネートと共に共溶媒としても使用された。この物質は、非常に高い融点(95〜97℃)を有し、そのために、プロピレンカーボネートのみをベースとする電解質と比べると、プロピレンカーボネートとの組み合わせでは、低温下では、比較的高い粘度、比較的低い伝導性、及び中でも、比較的低いバッテリー性能が予期され得る。10重量%のDTD、90重量%のプロピレンカーボネート中の1M LiBF
4からなる調査された電解質は、20℃で約3.5mScm
−1のイオン伝導率しか持たず、これは、使用可能な電解質の望ましい導電性範囲内の値ではもはやない。
【0018】
同様に比較的高い融点(T
m=20〜26℃)を有する共溶媒としてのスルホランにも同じ効果が予期され得る。
【0019】
更に、長い線状アルキル鎖を有する環状カーボネート(炭素原子数≧4)(非特許文献8)を成功裏に共溶媒として使用することができる。確かに、安定したSEIが生じるが、30℃では、1MのLiPF
6を含む電解質混合物の伝導性は、プロピレンカーボネートのみをベースとする電解質のそれよりも遙かに低い(≦2.3mScm
−1)。これは、ヘキシレンカーボネート、オクチレンカーボネート及びドデシレンカーボネートにも当てはまる。
【0020】
プロピレンカーボネートをベースとする電解質のための共溶媒としてのメチルテトラフルオロ−2−(メトキシ)プロピオネートも同様に、プロピレンカーボネートのみをベースとする電解質と比べて高い粘度を招く(非特許文献9)。
【0021】
加えて、例えばDEC、DMC及びMECなどの75体積%の線状カーボネートの添加は、グラファイト上でのプロピレンカーボネートの分解を抑制することを示し得る(非特許文献10)。
【0022】
他の研究では、プロピレンカーボネートをベースとする電解質の粘度を下げるために、線状カーボネートも、VCなどの他の添加剤に加えて使用された。しかし、揮発性で易可燃性の物質の使用は、先に記載したように、健康上の理由から及び電池の耐用年数のためには、避けるべきである。
【0023】
添加剤及び共溶媒の使用の他に、プロピレンカーボネートの環化は、高い導電性塩濃度(c(LiTFSI)≧2.2モル/L)の添加によって達成できる(非特許文献11)。しかし、導電性塩濃度を高めることは(c>1モル/L)は、粘度を高めかつイオン伝導性を低めることが知られている。加えて、リチウム塩は通常は溶媒よりも高額であるため材料コストが高まる。
【0024】
上記のバリエーション(SEI添加剤、共溶媒及び高い塩濃度)のいずれも、プロピレンカーボネートの両方の既存の欠点を同時に償うことができない。保護層、好ましくは炭素ベースのアノード上での保護層の形成は、多くの物質によって達成できるが、プロピレンカーボネートの高い粘度は依存として残り、これはバッテリーのカレンダー寿命に対して負に作用する。
【0025】
溶媒としてのプロピレンカーボネート(PC)、共溶媒としてのテトラヒドロチオフェン−1−オキシド及び導電性塩としてのLiTFSIを含む電解質混合物では、電解質が良好な物理化学的特性の故に、アルミニウム製集電体の溶解を不利に招き、そのため、この問題を解消するために更に別の添加剤が必要であろうということが最近になって始めて判明している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Ding,M.S. and T.R. Jow,Properties of PC−EA Solvent and Its Solution of LiBOB Comparison of Linear Esters to Linear Carbonates for Use in Lithium Batteries.Journal of The Electrochemical Society,2005.152(6): p.A1199
【非特許文献2】Propylencarbonat;SDS No.310328[Online];Sigma−Aldrich Chemie GmbH:Steinheim,Germany,Nov 25,2014.http://www.sigmaaldrich.com/safety−center.html(accessed June 10, 2018)
【非特許文献3】Lee,W.H.,Cyclic carbonates.The Chemistry of Nonaqueous Solvents,ed.J.J.Logowski.Vol.4.1976,New York: Academic Press
【非特許文献4】Borodin,O. and G.D.Smith,Development of Many−Body Polarizable Force Fields for Li−Battery Components:1.Ether,Alkane,and Carbonate−Based Solvents.J.Phys.Chem.B,2006.110:p.6279−6292
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【非特許文献8】Zhao,H.,et al.,Propylene Carbonate (PC)−Based Electrolytes with High Coulombic Efficiency for Lithium−Ion Batteries.Journal of The Electrochemical Society,2014.161(1):p.A194−A200
【非特許文献9】Schmitz,R.,et al.,Methyl tetrafluoro−2−(methoxy) propionate as co−solvent for propylene carbonate−based electrolytes for lithium−ion batteries.Journal of Power Sources,2012.205:p.408−413
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【非特許文献16】Zhu,M.,J.Park, and A.M. Sastry,Particle Interaction and Aggregation in Cathode Material of Li−Ion Batteries:A Numerical Study.Journal of The Electrochemical Society,2011.158(10):p.A1155−A1159
【非特許文献17】http://ma.ecsdl.org/content/MA2018−02/6/454.abstract
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の課題は、幅広い温度ウインドウ(少なくともΔT=−150〜120℃)で液状であり、伝導性が良好であり、そして向上したイオン輸送特性と良好な充放電サイクル特性、すなわち可逆容量(>90mAhg
−1)とを兼ね備え、更に、長い寿命(>2000充放電サイクル)を(中でも炭素ベースの電極の使用時に)有する、リチウムイオン、リチウム金属及びリチウム硫黄バッテリーに使用するための新規の液状電解質を提供することである。この際、易揮発性で可燃性の物質、特に線状カーボネートの使用は、十分な安全性を保証するために避けるべきである。溶媒は、リチウム塩の高い溶解及び解離を可能とするために高い比誘電率を有するべきであり、及び電極上に安定した保護層、特に、溶媒の不可逆的な酸化及び還元を避けるために、両方とも良好なLi
+イオン透過性を有しかつ絶縁性であるアノード保護層(SEI)及びカソード保護層(CEI)を形成することができるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の前記の課題は、主請求項に記載の特徴を備えたプロピレンカーボネートベースの液状電解質によって解決される。該液状電解質の有利な態様は、前記主請求項を引用する請求項に記載される。
【0029】
本発明の枠内において、主溶媒としての少なくとも一種の非線状有機カーボネートと少なくとも一種の環状スルホキシドとを、少なくとも一種の導電性塩と組み合わせて含む液状混合物が、リチウムイオンバッテリーのための適当な液状電解質であることが見出された。この際、前記の環状スルホキシドは、電解質の溶媒を基準にして10〜40モル%の割合で共溶媒として役立つ。
【0030】
前記有機非線状カーボネートは、特に、非線状環形カーボネート、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネート、2,3−ペンチレンカーボネート、1,2−ヘキシレンカーボネート、1,2−オクチレンカーボネート、1,2−ドデシレンカーボネート、並びに前記の化合物の少なくとも二種の混合物である。
【0031】
(特にリチウムイオンバッテリーのための)本発明による液状電解質では、線状カーボネートの使用は明示的になしで済まされる、というのも、それの高い揮発性及び燃焼性が原則的に安全性の面でのリスクを招くためである。
【0032】
環状スルホキシドは、スルフィニル基(−S=O)を有するヘテロ環状化合物である。この際、環状スルホキシドは、n=3〜10個の環炭素原子数の可変の環の大きさを有し得る。硫黄の他には、該環状スルホキシドは更に別のヘテロ原子を環中に含まない。該環は、環炭素原子の数xに依存して、一つまたは複数の二重結合を有し得る。
【0033】
環状スルホキシドの典型的で特に有利な代表物はテトラヒドロチオフェン−1−オキシドである。これは、これまでリチウムイオンバッテリーに使用された添加剤及び共溶媒(ES、1,3−PS、スルホラン)に構造的に類似した五員環硫黄物質である。テトラヒドロチオフェン−1−オキシドは、従来は、リチウムイオン、リチウム金属及びリチウム硫黄バッテリーの電解質成分としては考慮されていなかった。
【0034】
テトラヒドロチオフェン−1−オキシドは、製造が簡単であり(室温下でのテトラヒドロチオフェンと過酸化水素及び触媒との反応)、それ故、原則的に安価に合成することができる。テトラヒドロチオフェンは、既に世界的に天然ガス中に付臭剤として使用されている。本発明による溶媒混合物は、溶媒としての少なくとも一種の非線状有機カーボネートと、通常、価格が低く抑えられている、例えばテトラヒドロチオフェン−1−オキシドなどの共溶媒としての環状硫黄物質とを含む二成分系のみである。
【0035】
溶媒としてのプロピレンカーボネート(PC)と、共溶媒としてのテトラヒドロチオフェン−1−オキシドとの組み合わせが、特に有利な電解質混合物として判明した。本発明による電解質混合物は、以下にプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシドの例に基づいてより詳細に説明するが、この点に関して、本発明によれば、他の全ての組み合わせ、特に有機系の非線状カーボネートと、一種または複数の環状スルホキシド類との混合物も含まれるべきことが明示的に言及される。
【0036】
溶媒としてのプロピレンカーボネート(PC)、共溶媒としてのテトラヒドロチオフェン−1−オキシド、及び導電性塩としてのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を含む電解質混合物の特定の組み合わせのみが、本発明による組み合わせから除外されるべきである、というのも、前記特定の組み合わせは技術水準(非特許文献17)に既に開示されており、またカソードからのアルミニウムの溶解を不利に促進するためである。
【0037】
本発明の特に好ましい実施例としてのプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド液状電解質は、全ての他の本発明の電解質混合物と同様に、リチウムイオンバッテリーに使用するための安全な電解質である。
【0038】
この実施例の溶媒並びに更に別の非線状有機カーボネートの双方とも、同等の高い引火点(T
F)及び沸点(T
b)を有する:
【0039】
【表1】
【0040】
これは、例えば、個人の家庭でも使用することができる定置型エネルギー貯蔵設備での使用を有利に可能にする。
【0041】
本発明によるプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド電解質は、他の全ての本発明による電解質混合物と同様に、常にヒトの組織に対する危険はない。
【0042】
好ましい実施例の溶媒並びに更に別の非線状有機カーボネートの双方とも、無害と分類される:
【0043】
【表2】
【0044】
すなわち、本発明の液状電解質を用いたリチウムイオンバッテリーは、バッテリーが損傷した場合にヒトに対する危険を電解質から生じさせること無しに、個人の家庭で問題無く取り扱うことができる。
【0045】
例えば30モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドをプロピレンカーボネートに加えることによって、LiPF
6の存在下に、イオン伝導性の明確な最大値(25℃で約7.0mS・cm
−1)を達成できる。
【0046】
この際、前記の伝導性は、30モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドとLiPF
6を含む系においても同様に最小値(25℃で約6.4mPa・s)を有する粘度の直接の結果である。
【0047】
リチウム塩としてのLiBF
4を用いた場合は、50モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドをプロピレンカーボネートに加えた時に最大値(25℃で約6.5mS・cm
−1)が現れる。
【0048】
この効果は、テトラヒドロチオフェン−1−オキシドは、プロピレンカーボネートよりも高い粘度を有するにもかかわらず観察され、そしてこれは、PFG−NMRデータからの個々の種のラマンデータ及び自己拡散係数を用いて説明することができる。スルフィニル基(−S=O)の高いLi
+イオン親和性に基づいて、プロピレンカーボネートは、テトラヒドロチオフェン−1−オキシドを少量添加するだけで既に錯体中で置換される。分子動力学シミュレーションはこの記述を支持する。
【0049】
以下の表1は、1M LiPF
6をベースとする電解質中のプロピレンカーボネート(PC)及びテトラヒドロチオフェン−1−オキシド(ここでは、THT1オキシドと省略される)の濃度と、分子動力学シミュレーションからのLi−PC−並びにLi−テトラヒドロチオフェン−1−オキシド錯体の配位数を示す。それから生じる可能な溶媒和錯体も同様に記載する。
【0050】
【表3】
【0051】
分子動力学シミュレーションは、溶液中に十分なテトラヒドロチオフェン−1−オキシド、すなわち1モルのLi
+に対して少なくとも1モルのテトラヒドロチオフェン−1−オキシドが存在すると直ぐに、テトラヒドロチオフェン−1−オキシドが錯体中のPCを置換することを確認する。スルフィニル(−S=O)基の高いLi
+親和性は、テトラヒドロチオフェン−1−オキシドの濃度を最大で30モル%まで高めた時に、テトラヒドロチオフェン−1−オキシドが他のPC分子も追い出すという結果に繋がる。30モル%を超えると、テトラヒドロチオフェン−1−オキシドは錯体を支配し、そして40モル%を超えると、PCは溶媒和錯体を離れ、その結果、それは、四つの溶媒分子のみからなるようになる。
【0052】
LiPF
6をベースとする電解質中に30モル%超のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドを加えると、この物質が過剰に存在するようになる。硫黄物質は、ゆっくりと、すなわち約7〜10
−11m
2・s
−1の速度で電解質中を移動するために、これは、他の存在する種の輸送を妨げる。すなわち、イオン伝導性は、>30モル%の濃度で通常、再び減少する。
【0053】
プロピレンカーボネートは、テトラヒドロチオフェン−1−オキシドが添加される場合、すなわち、主にLi
+イオンを含まない場合、炭素ベースの電極中にインターカレートし、これは、プロピレンカーボネートの還元を低減する。類似の効果は、クラウンエーテルの場合に技術水準において既に観察されている。
【0054】
纏めると、10〜40モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドを用いた場合に、本発明による液状電解質について改善されたイオン輸送を記録することができた。そのため、比較的小さい分極効果に基づいて、バッテリーの可逆容量及び高いカレンダー寿命を可能にし得る。
【0055】
この効果は、他の本発明による液状電解質についても確認され、その結果、電解質の溶媒を基準にして10モル%と40モル%との間、とりわけ15モル%と35モル%との間の共溶媒としての環状スルホキシドのための好ましい濃度が提案される。
【0056】
本発明による実施例のプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド電解質は、更に、低温下に顕著な物理化学的な挙動を示す。伝導性及び粘度の差は、低温度ほど遙かにより大きい。30モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドを用いた電解質は、プロピレンカーボネートのみをベースとする電解質よりも、−20℃でおおよそ1.5倍高い伝導性を示す。加えて、該混合物は、最大で−150℃の温度まで結晶化しない。
【0057】
これは、結晶性電解質はもはや必要なイオン輸送を提供せず、それ故、バッテリーがもはや機能しなくなるので、用途とって特に重要である。
【0058】
該液状電解質が低温でもなおも液状で存在し、そして高められたイオン伝導性を示すというこれらの特性は、同様に、本発明により特許請求される殆どの液状電解質で確認できた。
【0059】
それ故、低温でのこの挙動は、本発明による電解質を、低温地域、例えば極地における使用、または宇宙飛行におけるエネルギー貯蔵装置としての使用にとって興味深いものとする。高温下での電解質の分解は、リチウム塩によってのみ制限される。
【0060】
加えて、プロピレンカーボネート/テトラヒドロ−チオフェン−1−オキシド混合物を導電性塩と組み合わせて含む本発明による実施例は、炭素をベースとするアノード及び遷移金属酸化物をベースとするカソードを備えたリチウムイオンバッテリーにおいて、通常安定した充放電サイクルを可能とする。これに対し、単独の溶媒としてのプロピレンカーボネート及びテトラヒドロチオフェン−1−オキシドは前記の電極と適合性ではない、すなわちこれらの両溶媒は約0.8Vvs.Li/Li
+で分解し、これは、プロピレンカーボネートの場合はグラファイトの剥脱を招き、他方で、テトラヒドロチオフェン−1−オキシド分子及び/またはそれの分解生成物はリチウムのデカレーション/インターカレーションを抑制する。上記の電極上に効果的な保護層が、すなわち炭素ベースの電極上にアノード保護層(SEI)及び遷移金属電極上にカソード保護層(CEI)が形成することを証明できた。前記アノード保護層は、典型的には、走査電子顕微鏡で見える程度の大きい厚さ(約5nm)を有する。これに対して、エチレンカーボネート(EC)及びビニレンカーボネート(VC)をベースとする電解質は、通常は、最大でも3.3nm(非特許文献15)の層しかもたらされない。
【0061】
走査電子顕微鏡を用いた検査はこの点で困難となる、なぜならば、試料はほとんど電気伝導性ではなく、それ故、多量の二次電子流を得ることができないためである。すなわち、炭素ベースの電極上の保護層は低い電気伝導性を示し、これは、更なる電解質還元から有利に保護し、それ故、バッテリーの寿命を長くする。
【0062】
前記アノード保護層は、最初の三つのフォーメーションサイクルでほぼ完全に形成され、そして先ず電極表面全体を覆い、そして、更なる過程において、活性材料の個々の二次粒子の周りに付くようになる。二次粒子は1μmのオーダーの大きさの一次粒子からなり、そして一般的に1μm未満から100μmの大きさを有する(非特許文献16)。
【0063】
前記カソード保護層は、通常は、かなりより薄いが(約1nm)、フォーメーションの後にもほぼ完全に形成される。エーテル基を有するポリマーからなる両層の有機分は約66At.%であり、これは、溶媒和されたLi
+カチオンの透過性に関して優れている、というのも無機フィルムは透過性に劣るからである。
【0064】
XPSデータに基づいた場合、硫黄化合物は、アノード保護層の一部ではなく、カソード保護層の無機部分の一部のみを形成し、そこには金属硫化物及び金属硫酸塩を検出できる。これらの塩は、バッテリーに有利な影響を及ぼす。これらは、既知の電子絶縁体であり、そして溶媒分子の持続的な酸化を効果的に防ぐことができる。
【0065】
サイクリックボルタメトリー測定は、共溶媒として好ましいテトラヒドロチオフェン−1−オキシドは、プロピレンカーボネートよりも高い電位(>0.8Vvs.Li/Li
+)では還元されないことを示すことができる。テトラヒドロチオフェン−1−オキシドが、プロピレンカーボネートの分解からの生成物または中間生成物(ラジカル)が関与する重合反応を開始させると推察される。本発明の特別な実施例としての10〜40モル%の割合でテトラヒドロチオフェン−1−オキシドを含む全てのポリプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド電解質において安定した定電流充放電サイクルが可能である。
【0066】
これは、伝導性の上昇を記録できる領域に相当する。両電極上での安定した保護層の形成、及び炭素ベースの電極におけるLi
+イオンなしのプロピレンカーボネートインターカレーションに基づく低減されたプロピレンカーボネートの分解は、先に説明したように、高い可逆比放電容量(95〜110mAhg
−1)をもたらす。最大の比放電容量は、LiPF
6ベースの電解質中で15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドを用いて達成することができる。100充放電サイクル後に、放電容量は依然として初期容量の100%の測定誤差範囲内にある。2000回の充放電サイクル後では、初期容量のなおも少なくとも55%が存在する。
【0067】
第1の調査によれば、プロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド電解質の例示的な系について、少なくとも一種のリチウム塩を少なくとも0.01モル/Lで含む、15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドと85モル%のプロピレンカーボネートとの混合物が、特に有利なものとして提案される。この電解質は、炭素ベースの電極及び遷移金属電極を用いて最良の充放電サイクル特性、並びに向上したイオン輸送を示す。これは、広い温度ウインドウ(ΔT=−150〜120℃)において液状であり、かつ、低温化においても、プロピレンカーボネートのみをベースとする電解質よりも明らかに高いイオン伝導性を有する。
【0068】
導電性塩としては、特に以下のリチウム塩が、本発明による液状電解質での使用に、単独でまたは任意の混合物として適している。
−リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF
6)、
−リチウムテトラフルオロボレート(LiBF
4)、
−リチウムパークロレート(LiClO
4)、
−リチウムヘキサフルオロアルセネート(LiAsF
6)、
−リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiCF
3SO
3)、
−リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタニド(Li−TFSM)、
−リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、
−リチウムオキサリルジフルオロボレート(LiBF
2C
2O
4)、
−リチウムニトレート(LiNO
3)、
−リチウムフルオロアルキルホスフェート(LiPF
3(CF
2CF
3)
3)、
−リチウムビスパーフルオロエチスルホニルイミド(LiBETI)。
【0069】
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)などの塩の使用は不利なことに追加的な添加剤なしでは可能ではない。なぜならば、これらは、高電位(>3Vvs.Li/Li
+)ではカソードの集電体を構成するアルミニウムの溶解を促進することが知られているからである。
【0070】
好ましい環状スルホキシドとしてのテトラヒドロチオフェン−1−オキシドは、20℃で44.1の高い比誘電率を有する。プロピレンカーボネートは、20℃で66.2の非常に高い比誘電率を示す。これは、特に、本発明の好ましい実施例(プロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド溶媒)では、リチウム塩の高程度の溶解及び解離を可能にする。
【0071】
この際、前記の好ましい実施例だけでなく、特許請求される全ての液状電解質について、液状電解質を基準にして一般的に0.01〜22モル/Lの塩濃度、好ましくは0.1〜10モル/Lの塩濃度が適したものとして提案される。
【0072】
テトラヒドロチオフェン−1−オキシドが環状スルホキシドの好ましい例であるが、本発明の枠内において、単独でまたは混合物としての更に別の化合物も、既に存在する特性を更に向上させることができるようにするために適していることが確認された。本発明に包含される環状スルホキシドの変更は、一般式(1)に基づいて次のように表すことができる。
【0073】
【化1】
この際、この環状スルホキシドは、少なくとも3またはそれ超の環炭素原子xを有する。環炭素原子xの最大数は10に設定される、すなわちn=0、1、2、3、4、5、6または7である。
【0074】
環炭素原子xに配置される残基R
1、R
2、R
3乃至最大でR
10は、それぞれ同一かまたは互いに独立して、次のものからなる群から選択される:
− 炭素原子数1〜12の線状または分岐状アルキル基、
− 炭素原子数1〜12の線状または分岐状シクロアルキル基、
− 炭素原子数5〜6のアリール基、
− 炭素原子数5〜6のアリールオキシ基、
− 炭素原子数1〜12のアルコキシ基、特に最大5個までのエトキシ単位を有する(ポリ)アルコキシ基、
− 水素。
【0075】
環炭素原子が二重結合を結ばない場合には、これは、残基R
xの他に水素原子で飽和される。
【0076】
特に、以下に記載の環状スルホキシドが、本発明による電解質混合物中で共溶媒として特に適していることが判明した。なぜならば、これらは通常−20〜80℃で液状で存在し、比較的良好な伝導性を有し、加えて、向上したイオン輸送及び良好な充放電サイクル特性を有するからである。
− テトラヒドロチオフェン−1−オキシド;
− チエタン−1−オキシド;
− テトラヒドロ−2H−チオピラン−1−オキシド;
− チエパン−1−オキシド;
− 2−メチルテトラヒドロチオフェン−1−オキシド;
− 3−メチルテトラヒドロチオフェン−1−オキシド;
− 2−イソプロピルテトラヒドロチオフェン−1−オキシド;
− 3−イソプロピルテトラヒドロチオフェン−1−オキシド。
【0077】
上記の化合物の構造を
図14に示す。
【0078】
加えて、本発明による液状電解質が、良好な物理化学的特性の他に、炭素ベースの電極に対する非常に良好な耐性を有することが判明した。これは、サイクリックボルタンメトリー実験において、並びに炭素ベースのアノード及び遷移金属ベースのカソードと組み合わせた液状電解質の定電流充放電サイクルの場合に判明した。この際、それぞれの電極上に形成した保護層(SEI及びCEI)が、Li
+イオンを良好に透過することが分かったが、同時に十分な電子絶縁をもたらした。
【0079】
纏めると、本発明により最適化された液状電解質はリチウムイオンバッテリーでの使用のために示され、これは、従来のSEI添加剤及び粘度低下性共溶媒の利点を兼ね備え、この際、揮発性で易可燃性の物質は完全になしで済まされるということを述べることができる。この際、有利なことに、更に別の添加剤は不要であり、また企図されない。高められた安全性は、本発明の液状電解質を、中でも、規模の大きな使用及び個人の家庭のための使用に興味深いものとする。
【0080】
以下の有利な特性が、本発明による液状電解質を用いた場合に通常記載することできる。
− それらは安価に製造できる;
− それらは、高い引火点及び沸点を有する溶媒の使用に基づいて高い安全性を有する;
− それらは、ヒトの組織に対してリスクがない;
− それらは、プロピレンカーボネートのみをベースとする電解質と比べて、高められた伝導性及び低められた粘度を有する;
− それらは、電解質が液状で存在する広い温度ウインドウを供する;
− それらは、低温下でも、良好な伝導性並びに優れた安定性を示す;
− それらは、有利に、炭素ベースの電極及び遷移金属電極の両方の上に、効果的な、Li
+イオン透過性が高く及び電子絶縁性の保護層を形成する;
− それらは、大きくかつ可逆性の容量を有する良好な充放電サイクル特性を示す;
− それらは、多くの様々なリチウム塩を導電性塩として使用することを可能にする;
− それらは、リチウム塩の高程度の溶解及び良好な解離を示す。
【発明を実施するための形態】
【0081】
更に、本発明を、実施例、図面及び表に基づいて、特に導電性塩としてLiPF
6を用いたプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシドの好ましい実施例に基づいてより詳しく説明するが、これは、より幅の広い保護範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【
図1】本発明の実施形態のイオン伝導率(σ)及び粘度(η):溶媒を様々な割合で使用した、導電性塩としてLiPF
6を用いたプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド電解質。
【
図2】プロピレンカーボネート中の1M LiPF
6、テトラヒドロチオフェン−1−オキシド中の1M LiPF
6、及び15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシド及び85モル%のプロピレンカーボネート中の1M LiPF
6を含む電解質の、−150℃と120℃との間の熱流。
【
図3】溶媒を様々な割合で使用した、導電性塩としてLiPF
6を含む本発明によるプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド電解質のラマンスペクトル。
【
図4a】a)プロピレンカーボネート中の1M LiPF
6、b)テトラヒドロチオフェン−1−オキシド中の1M LiPF
6、及びc)15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシド及び85モル%のプロピレンカーボネート中の1M LiPF
6を含む、Li/グラファイト電池のサイクリックボルタモグラム。
【
図4b】a)プロピレンカーボネート中の1M LiPF
6、b)テトラヒドロチオフェン−1−オキシド中の1M LiPF
6、及びc)15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシド及び85モル%のプロピレンカーボネート中の1M LiPF
6を含む、Li/グラファイト電池のサイクリックボルタモグラム。
【
図4c】a)プロピレンカーボネート中の1M LiPF
6、b)テトラヒドロチオフェン−1−オキシド中の1M LiPF
6、及びc)15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシド及び85モル%のプロピレンカーボネート中の1M LiPF
6を含む、Li/グラファイト電池のサイクリックボルタモグラム。
【
図5a】a)プロピレンカーボネート中の1M LiPF
6、b)テトラヒドロチオフェン−1−オキシド中の1M LiPF
6、及びc)15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシド及び85モル%のプロピレンカーボネート中の1M LiPF
6を含む、Li/NCM111電池のサイクリックボルタモグラム。
【
図5b】a)プロピレンカーボネート中の1M LiPF
6、b)テトラヒドロチオフェン−1−オキシド中の1M LiPF
6、及びc)15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシド及び85モル%のプロピレンカーボネート中の1M LiPF
6を含む、Li/NCM111電池のサイクリックボルタモグラム。
【
図5c】a)プロピレンカーボネート中の1M LiPF
6、b)テトラヒドロチオフェン−1−オキシド中の1M LiPF
6、及びc)15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシド及び85モル%のプロピレンカーボネート中の1M LiPF
6を含む、Li/NCM111電池のサイクリックボルタモグラム。
【
図6】グラファイト/NCM111電池において溶媒を様々な量で用いた、導電性塩としてLiPF
6を含む本発明によるプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド電解質の定電流充放電サイクル。
【
図7】a)充放電サイクルの前、b)三回のフォーメーションサイクルの後及びc)103回の充放電サイクルの後の、グラファイト及びNCM111の走査電子顕微鏡検査の結果。
【
図8】LiPF
6を用いたPC/テトラヒドロチオフェン−1−オキシドの系の例についての、電解質中に存在する化学種の自己拡散係数。
【
図9a】a)グラファイト/グラファイト電池、b)NCMM11/NCM111電池及びc)グラファイト/NCM111電池における、24時間の開回路電圧後、3回のフォーメーションサイクル後及び更に100回の充放電サイクル後に電極上の保護層の抵抗を決定するための電気化学的インピーダンス測定。
【
図9b】a)グラファイト/グラファイト電池、b)NCMM11/NCM111電池及びc)グラファイト/NCM111電池における、24時間の開回路電圧後、3回のフォーメーションサイクル後及び更に100回の充放電サイクル後に電極上の保護層の抵抗を決定するための電気化学的インピーダンス測定。
【
図9c】a)グラファイト/グラファイト電池、b)NCMM11/NCM111電池及びc)グラファイト/NCM111電池における、24時間の開回路電圧後、3回のフォーメーションサイクル後及び更に100回の充放電サイクル後に電極上の保護層の抵抗を決定するための電気化学的インピーダンス測定。
【
図10a】a)グラファイトアノード及びb)NCM111カソードについての、電極上の保護層の組成及び層厚を求めるためのX線光電子分光測定。
【
図10b】a)グラファイトアノード及びb)NCM111カソードについての、電極上の保護層の組成及び層厚を求めるためのX線光電子分光測定。
【
図11】PC中のLiPF
6、PC/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド中のLiPF
6、及びテトラヒドロチオフェン−1−オキシド中のLiPF
6の熱重量分析(TGA)。
【
図12】溶媒を様々な割合で使用した、導電性塩としてLiBF
4を含むプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド電解質のイオン伝導率(σ)。
【
図13】グラファイト/NCM111電池において溶媒を様々な量で用いた、導電性塩としてLiBF
4を含む本発明によるプロピレンカーボネート/テトラヒドロチオフェン−1−オキシド電解質の定電流充放電サイクル。
【
図14】共溶媒としての選択された環状スルホキシドの構造式。
【実施例】
【0083】
テトラヒドロチオフェン−1−オキシドは、使用の前に分子篩で乾燥した(含水率<80ppm)。1M LiPF
6または1M LiBF
4、xモル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシド及び(100−x)モル%のプロピレンカーボネート(x=0、5、10、15、20、30、40、50、70、100)を含む電解質を、空気及び水の排除下に調製した。
【0084】
この前記電解質の改善された粘度を検査するために、粘度測定を、Anton Paar MCR 301レオメーターを用いて行った。この装置に、CTD450−温度システム及びCP50−0.5/TG測定システムを装備した。粘度は、10℃のステップで−20℃から50℃の温度範囲で、及び25℃で測定した。せん断速度は、温度を高めながら2000s
−1から9000s
−1に高めた。この検査の結果を
図1に示す。
【0085】
この前記の電解質のイオン伝導性を、MCS10インピーダンスベースの伝導性測定装置(BioLogic)を用いて測定した。この装置は、それぞれの測定の前に、KCl標準溶液を用いて25℃でキャリブレートした。最後に、この測定を、5℃のステップで−20℃から50℃の温度範囲で行った。この検査の結果も同様に
図1に示す。
【0086】
導電性塩として1M LiPF
6を使用した場合は、30モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドを用いて、7.0mScm
−1の最大伝導率及び6.4mPa・sの最低粘度が25℃で達成される。比較として、1M LiPF
6を含むプロピレンカーボネートは、共溶媒を使用しないと、6.2mScm
−1の伝導率及び7.3mPa.sの粘度を示す。選択された温度及びテトラヒドロチオフェン−1−オキシドの割合についての伝導率値は以下の表2に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
導電性塩として1M LiBF
4を含むテトラヒドロチオフェン−1−オキシド/プロピレンカーボネート電解質の、25℃でのイオン伝導率は
図12に示す。50モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドを用いた場合に、6.5mScm
−1の最大イオン伝導率を達成できた。−20℃では、最大イオン伝導率は依然として1.6mScm
−1であった。
【0089】
他の試験した液状電解質系では、それぞれ、6.0〜7.0mScm
−1の範囲の25℃での最大伝導率を確定できた。−20℃の温度では、イオン伝導率は総じて0.9〜1.6mScm
−1の範囲であった。
【0090】
最低粘度は、他の試験した液状電解質系では、25℃で6.4〜7.8mPa.sの範囲であった。−20℃では、28.1〜45.0mPa.sの範囲の粘度が確定された。
【0091】
動的示差熱量(DSC)測定は、DSC Q2000測定装置を用いて行った。試料は、密閉されたアルミニウム坩堝中で秤量した。25℃及び恒温ステップで2分間平衡させた後、熱流量を−150℃から120℃で三回測定した。ヘリウムを、25ml/分間で周囲ガスとして使用した。本発明による電解質は、所与の温度範囲で結晶化せず、従って、低温で優れた安定性を有することを示すことが可能であった。好ましい実施例についての結果は
図2に示す。
【0092】
粘度及びイオン伝導率に対する効果を理解するために、Bruker VERTEX 70分光分析器を用いたラマン測定を行った。これは、RAM IIラマンモジュール、1064nmの波長及び300mWの初期出力を有するNd:YAGレーザを備えた。Bruker OPUSソフトウェアを使用して、0から4000cm
−1のスペクトル範囲で2cm
−1の解像で1000回のスキャンを記録した。スルフィニル基(−S=O)の高いLi
+イオン親和性を確認できた。プロピレンカーボネートは、テトラヒドロチオフェン−1−オキシドを少量添加しただけで既に、Li−溶媒錯体中で置換される。上記の電解質のスペクトルは
図3に示す。
【0093】
更に、グラファイト及びLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2(NCM111)を備えた電池を、本発明によるテトラヒドロチオフェン−1−オキシド/プロピレンカーボネート電解質を用いて、3〜4.2Vの電位範囲で定電流で充放電した。この目的のために、乾燥室内で(含水率<30ppm)、セパレータとしてSeparion(登録商標)及び100μlの電解質を含むボタン電池を構築した。0.2Cでの三回のフォーメーションサイクルの後に、1Cでの前記電池の100サイクルの充放電を行った。1M LiPF
6(
図6)及び1M LiBF
4(
図13)について、充放電サイクル数に依存した比放電容量を示す。
【0094】
1M LiPF
6または1M LiBF
4、PC及び10〜40モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドを含む電解質の使用は、95〜110mAh/gの放電容量において、容量損失なしに安定した充放電を可能にする。15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドの割合は、約110mAh/gの最大放電容量をもたらす。100充放電サイクル後に、初期容量の約100%が依然として存在する。
【0095】
グラファイト及びNCM111に対する該電解質の安定性を示すために、サイクリックボルタメントリー実験をVMP3(BioLogic Science Instruments)を用いて行った。検査のために、作用電極としてのグラファイトまたはNCM111並びに対及び基準電極としてのリチウム金属を備えた3電極スウェージロック電池を使用した。グラファイトの安定性はOCP→0.005Vvs.Li/Li
+の電位範囲において、NCM111の安定性はOCP→4.2Vvs.Li/Li
+の範囲において、20μV/sのスキャン速度で測定した。それらの結果は、それぞれ
図4(Li/グラファイト電池について)及び
図5(Li/NCM111電池について)に見ることができる。
【0096】
本発明による電解質は、グラファイト(
図4c)及びNCM111(
図5c)に対して一般的に安定していることを示し得る。この際、プロピレンカーボネートよりも高い電位(>0.8Vvs.Li/Li
+)では分解は観察できなかった。単独の溶媒としてのプロピレンカーボネート及びテトラヒドロチオフェン−1−オキシドは、約0.8Vvs.Li/Li
+で分解し、これは、プロピレンカーボネートの場合にはグラファイトの剥脱を招き(
図4a)、他方で、テトラヒドロチオフェン−1−オキシド分子及び/またはそれの分解生成物は、リチウムの可逆的なデカレーション/インターカレーションを抑制する(
図4b)。単独の溶媒としてのプロピレンカーボネートは、NCM111と適合性であり(
図5a)、これは、テトラヒドロチオフェン−1−オキシドの場合はそうではない(
図5b)。
【0097】
充放電サイクルの前及び後のグラファイト電極及びNCM111電極の表面形態を分析するために、Carl Zeiss AURIGA SEM Mikroskop(Carl Zeiss Microscopy GmbH)を用いて走査電子顕微鏡写真を撮影した(
図7参照)。電極を電池から乾燥室(含水率<30ppm)に取り出し、そして500μlのジメチルカーボネートで三回洗浄した。
【0098】
走査電子顕微鏡を用いて、充放電サイクルの前のグラファイト電極上の活性材料の二次粒子を明確に見ることができ(
図7a)、他方で、充放電サイクルの後には、グラファイト電極上にアノード層(SEI)を観察できた。三回のフォーメーションサイクルの後、これは、電極全体の表面を覆い(
図7b)、他方で、これは、100回の充放電サイクルの後には、活性材料の個々の二次粒子の周りに付着していた(
図7c)。NCM111電極では、目に見える変化は認められなかった。
【0099】
該電極中に存在する化学種の自己拡散係数は、磁場勾配NMR分光法(パルス磁場勾配核磁気共鳴、PFG−NMR)を用いて決定した。これらの測定は、刺激エコーシーケンスを用いてBruker AVANCE III 200分光計で行い、この際、
7Li/
1H及び
19Fコイル(5mm)を装備したBruker Diff50プローブヘッドを25℃(±0.1℃に安定化)で使用した。勾配強度は5〜1800G/cmの範囲で変えた。勾配パルス長は1msであり、拡散時間は40msであった。結果を
図8に示す。プロピレンカーボネート分子は、最大の自己拡散係数を有し、そしてイオン伝導性と同じ傾向を示す、すなわちLiPF
6を用いた場合は、30モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドで1.95・10
−10m
2・s
−1の最大値、及びより多量のまたはより少量のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドまたはプロピレンカーボネートが含まれる場合には、減少する自己拡散係数を示す。PF
6−アニオンの自己拡散係数は同等の挙動を示すが、0〜30モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシドでは増加はそれほど顕著ではない。Li
+イオンは、電解質中で最も遅い種である。Li
+−及びPF
6−イオンの寄与は、イオン伝導性の観察された挙動をもたらす。
【0100】
更に、VMP3(BioLogic Science Instruments)を用いた電気化学的インピーダンス測定を行って、保護層の抵抗を調べた。この目的のために、対称的なグラファイト/グラファイト−(a)及びNCM111/NCM111−(b)ボタン電池並びにグラファイト−NCM111(c)−電池を作製し、これらを100kHz〜10mHzの周波数範囲で測定した。グラファイト−及びNCM111−電極は、24時間の開回路電圧(英語ではopen−circuit voltage,OCV)後、0.2Cでの三回のフォーメーションサイクル後または1Cでの更に100回の充放電サイクル後に、電池から取り出した。抵抗は、インピーダンス曲線をナイキストグラフに当てはめることにより得た。
図9aのナイキストグラフは、開回路電圧の後には、グラファイト電極上には保護層が存在しないことを明らかにしている。前記フォーメーションの後に、アノード保護層(SEI)がグラファイト電極上に形成した。層抵抗は、更に100回の充放電サイクルにおいて僅かに上昇する。すなわち、SEIは、化学的にではなく、定電流充放電サイクルによって初めて形成する。高い電荷移動抵抗は、層が電子絶縁性であり、それ故、有機分が多いことを示唆する。電荷移動抵抗の大きな上昇は、層厚の増加に起因し得るだけでなく、表面形態または層組成の変化にも起因し得る。
図9bは、カソード保護層(CEI)も定電流充放電サイクルによって形成され、そして充放電サイクル数が多くなるにつれて層厚がゆっくりと増すことを明らかにしている。この際、CEIの抵抗はSEIの抵抗よりも低い。同様に、電荷移動抵抗も高まる。グラファイト/NCMIII−電池のインピーダンス測定の結果(
図9c)は、総抵抗に対する両層の影響を示す。
【0101】
X線光電子分光測定を行って、電極上の保護層の組成及び層厚を決定した。この目的のために、電極をXPS装置(Axis Ultra DLD、Kratos,U.K.)に導入し、そして12時間真空下に維持した。1486.3eVのエネルギー及び0°(カソード)または45°(アノード)の放出角を有するAl Kα線を使用した。
【0102】
アノードのスパッタリング深さプロフィルは、測定範囲の10倍の大きさのスパッタリングクレータを有する多原子イオン源(コロネン)を用いて行った。スパッタリングは、60秒間、120秒間及び600秒間行った。各試料について、二つまたは三つのデータ点を、700×300mmの横方向分解能で記録し、そして算術計算した。生じたスペクトルを、CasaXPSソフトウェア(バージョン2.3.16 PR1.6、Casa Software Ltd.U.K.)を用いて適合させた。この際、結合エネルギーのキャリブレーションのための内部標準としてC 1s C−H/C−C−ピーク(284.5eV)を使用した。
図10は、a)グラファイトアノードについての及びb)NCM111カソードについての確定された組成、並びに層厚を示す。SEIは約5nm厚(三回の充放電サイクルの後では5.5±0.6nm、103回の充放電サイクルの後では4.9±0.1nm)であり、他方で、CEIは、約1nm(三回の充放電サイクルでは1.0±0.3nm、103回の充放電サイクルの後では1.4±0.1nm)で明らかにより薄い。
【0103】
これらの層は、フォーメーションサイクルの間にほぼ完全に形成される、というのも、3回の充放電サイクルと103回の充放電サイクルとの間の層厚の大きな変化は観察されなかったからである。両層の有機分は約66At%であり、これは、Li
+イオンの良好な透過性の証である。これは、エーテル基を有するポリマーからなる。SEIは硫黄物質を含まず、他方で、CEIの無機部分は中でも硫化金属及び金属硫酸塩を含み、これらは電子絶縁性である。
【0104】
熱重量分析(TGA)は、TGA Q5000測定装置を用いて行った。試料は、密閉したアルミニウム坩堝中で秤量した。温度は、一分間あたり10℃ずつ30℃から600℃に高め、そして試料の重量を測定した。周囲ガスとしては窒素を使用した。
図11は、全ての電解質(PC中の1M LiPF
6、テトラヒドロチオフェン−1−オキシド中の1M LiPF
6、並びに15モル%のテトラヒドロチオフェン−1−オキシド及び85モル%のPC中の1M LiPF
6)の分解が約120℃で始まることを示す。
【国際調査報告】