特表2021-533882(P2021-533882A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-533882多能性幹細胞及び生体適合性セルロースナノフィブリルを含むヒト脂肪吸引物由来脂肪組織を使用した三次元自家脂肪グラフトを作製するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-533882(P2021-533882A)
(43)【公表日】2021年12月9日
(54)【発明の名称】多能性幹細胞及び生体適合性セルロースナノフィブリルを含むヒト脂肪吸引物由来脂肪組織を使用した三次元自家脂肪グラフトを作製するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/38 20060101AFI20211112BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20211112BHJP
   A61L 27/60 20060101ALI20211112BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20211112BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20211112BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20211112BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20211112BHJP
【FI】
   A61L27/38 100
   A61L27/36 100
   A61L27/36 300
   A61L27/60
   A61L27/20
   A61L27/02
   A61L27/22
   A61L27/38 120
   A61L27/50 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2021-507583(P2021-507583)
(86)(22)【出願日】2019年8月16日
(85)【翻訳文提出日】2021年4月5日
(86)【国際出願番号】IB2019000922
(87)【国際公開番号】WO2020035734
(87)【国際公開日】20200220
(31)【優先権主張番号】62/719,162
(32)【優先日】2018年8月17日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】521263722
【氏名又は名称】オーシャン ツニセル エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ゲーテンホルム,ポール
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB13
4C081AB14
4C081AB19
4C081AB36
4C081AB37
4C081AB38
4C081BA12
4C081BA13
4C081CD022
4C081CD042
4C081CD31
4C081CD34
4C081CF112
4C081DA14
4C081EA02
(57)【要約】
【課題】自家脂肪移植等に関する。
【解決手段】自家3D脂肪移植、及び、所望の多孔率を有する3D形状へと成形可能な加工に適した分散液/エマルションを得るための生体適合性セルロースナノフィブリル(CNF)又はコラーゲンナノフィブリルを用いた幹細胞を多く含む脂肪組織脂肪吸引物の改質。成形済み3D構造物は更に、移植部位においてin situで又は移植前のいずれかにおいて架橋される。移植は、ヒト又は動物において、注入、モールディング、又は3Dバイオプリンティングを含むがこれらに限定されない再建手術及び審美手術を用いて、軟組織の輪郭変形を矯正するために、実施することができる。生体適合性のセルロースナノフィブリル又はコラーゲンナノフィブリルは、分離脂肪吸引物の分散剤/乳化剤として機能し、分散液を、栄養素の拡散及び血管新生のための多孔率を更にもたらす3D形状へと加工することを可能とする剪断減粘性をもたらす。本発明は、構造物の機械的安定性及びより大きな構造物として移植される能力を提供するための架橋剤を更に含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト又は動物の脂肪吸引物由来脂肪組織を使用した三次元自家脂肪グラフトを作製するための方法であって、前記脂肪吸引物は幹細胞を含み、前記脂肪吸引物は1種又は複数種の賦形剤と混合され、前記脂肪吸引物及び前記1種又は複数種の賦形剤の混合物は架橋される、方法。
【請求項2】
前記1種又は複数種の賦形剤は1種又は複数種の生体適合性材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1種又は複数種の生体適合性材料はナノフィブリルセルロースを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ナノフィブリルセルロースは、被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、0.1マイクロメートル〜5マイクロメートルの長さを有するフィブリルを含む分散液を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、1.5重量%超且つ4重量%未満の固体含有率を有する分散液を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、ヒトの免疫応答系に実質的に影響を及ぼす量より少ない量のヘミセルロースを有する分散液を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、検出可能なアグロメレートを有さない分散液を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、検出可能なバクテリア由来リポ多糖を有さない分散液を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、(a)アルギン酸塩、及び(b)カルシウムイオン、バリウムイオン、及び/又はストロンチウムイオンを加えることにより、架橋される、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、アルギン酸塩、及びポリリジン又はその他のポリカチオンを加えることにより、架橋される、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、フィブリノゲン及びトロンビンの溶液を加えることにより、架橋される、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化又は酸化されてから、カルシウムイオン、バリウムイオン、及び/又はストロンチウムイオン、又はポリリジン若しくはその他のポリカチオンを加えることにより、架橋される、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、多血小板血漿(PRP)を加えてからカルシウムイオンを加えることにより、架橋される、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
被嚢類、バクテリア、及び/又は植物に由来する前記ナノフィブリルセルロースは、リボフラビン5’−リン酸塩を加えてから紫外線に曝露することにより、架橋される、請求項4に記載の方法。
【請求項16】
ヒトの審美手術及び/又は再建手術に使用される、請求項1に記載の方法により得られる移植可能組成物。
【請求項17】
動物の審美手術及び/又は再建手術に使用される、請求項1に記載の方法により得られる移植可能組成物。
【請求項18】
創傷治癒に使用される、請求項1に記載の方法により得られる移植可能組成物。
【請求項19】
前記三次元自家脂肪グラフトは、多孔性であり、実質的な容積縮小を伴うことなく移植後も生存する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記三次元自家脂肪グラフトは、血管新生を生じるようになり、審美手術及び/又は再建手術に使用される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年8月17日出願の米国仮特許出願第62/719,162号明細書の開示に依拠し、当該仮特許出願の出願日の利益に対する優先権を主張する。その出願の開示全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は一般的に、自家脂肪移植に関し、より詳細には、多能性幹細胞及び生体適合性セルロースナノフィブリルを含むヒト脂肪吸引物由来脂肪組織を使用した三次元自家脂肪グラフトを作製するための方法に関する。
【0003】
関連技術の記載
自家脂肪移植は、脂肪組織が豊富に存在し比較的簡易な処置であることから、再建手術及び審美手術として確立されている。脂肪移植の用途としては、顔の若返り、手の若返り、乳房の再建及び容積増大、皮膚光老化の治療、輪郭変形の矯正、並びに老人性及び糖尿病性の足底脂肪体萎縮の改善が挙げられる。そのプロセスは一般的に、3つの工程、好適なドナー部位から脂肪組織を採取すること、脂肪吸引物を処理すること、及び精製済み脂肪組織を再注入すること、で構成される。しかしながら、効果は不十分且つ予測不可能なものである。自家脂肪組織移植後における主たる問題は時間の経過に伴うその吸収率であり、平均的には総移植容積の25%〜70%への縮小が生じている(Simonacci,F.,Bertozzi,N.,Grieco,M.P.,Grignaffini,E.and Raposio,E.,Procedure,applications,and outcomes of autologous fat grafting.Annals of Medicine and Surgery 20,49−60(2017)を参照のこと)。脂肪細胞が死滅して再吸収されると、貪食するためにその空間にマクロファージ及び多核細胞が浸潤する。移植脂肪細胞は虚血期に死滅する。脂肪画分が極めて小さい場合には血管新生が認められている。
【0004】
更に、脂肪組織は血管新生を多く生じ、脂肪細胞に加えて数種類の細胞を含有している。血管網の周囲には、周皮細胞、内皮前駆細胞、及び間葉系幹細胞である脂肪幹細胞の集団が存在している。脂肪吸引物からの間質血管細胞群(SVF)の単離は、数種類の酵素を用いた細胞外マトリックスの消化により可能であるが、その中でも一般的に、コラゲナーゼが最も重要である。SVFは、細胞外マトリックスを酵素消化してから洗浄及び分離を行う市販の自動制御装置(例としては、Cytori Celution 800/CRS System、Medi−KhanのLipokit、及びTissue GenesisのIcellatorが挙げられる)を使用した手動操作又は自動操作により、単離することができる。次に、SVF画分から脂肪由来幹細胞(ASC)を培養し、更に増殖させてもよい。SVFは、治癒能及び血管新生促進能を有する有力な細胞画分として認識されている。しかしながら、SVFの単離はまた、患者に悪影響を及ぼし得る消化酵素の使用を伴っており、本出願時点においてはまだ規制認可申請中である。酵素を使用しないその他の脂肪分離法としては、例えば、イタリアのLipogemsのデバイスに適用されている機械的処理が挙げられる(Bianchi,F.et al.,A new nonenzymatic method and device to obtain a fat tissue derivative highly enriched in pericyte−like elements by mild mechanical forces from human lipoaspirates.Cell Transplant.22,2063−2077(2013);Tremolada,C.,Colombo,V.& Ventura,C.,Adipose tissue and mesenchymal stem cells:state of the art and Lipogems(登録商標)technology development.Current stem cell reports 2,304−312(2016)を参照のこと)。
【0005】
本発明が対処する課題は脂肪グラフトの生存率を向上させることであり、それが達成可能となると、創傷治癒並びに再建手術及び審美手術に実際に利用することができる自家脂肪移植がもたらされる。
【0006】
本明細書の本発明によれば、脂肪グラフトの生存率を向上させるために実行可能な方法は、栄養素及び酸素の拡散能の付与に加えて血管新生を促進する多孔率をもたらすようなパターンで、脂肪グラフトをバイオポリマーマトリックス内に封入することであってもよい。数種類のバイオポリマーが一般的な組織工学用の足場及びバイオインクとして利用されているが(例えば、Domingues,R.M.A.,et al.,Development of Injectable Hyaluronic Acid/Cellulose Nanocrystals Bionanocomposite Hydrogels for Tissue Engineering Applications,Bioconjugate Chem.,2015,26(8),pp.1571−1581;Gatenholm,P.,Cellulose nanofibrillar bioink for 3d bioprinting for cell culturing,tissue engineering and regenerative medicine applications、国際公開第2016100856A1号パンフレットを参照のこと)、バイオマテリアルは単一種の細胞と混合されている。ポリマー溶液は剪断減粘性であり、それは剪断速度が増加するにつれて粘度が減少することを意味する。国際公開第2007066222A1号パンフレットに記載の組織工学に利用するためのセルロースナノ結晶からなるセルロース粉末が提案されているが、このような材料は十分なナノフィブリル構造をもたらさない。
【0007】
被嚢類から単離する、バクテリアが産生する、又は、植物の一次又は二次細胞壁から単離することができるセルロースナノフィブリル(CNF)は、直径8〜30nmであり、長さは最長で1マイクロメートルであり得る。セルロースナノフィブリルは親水性表面を有することから、その表面上で水と結合して、もはや固体含有率の低い(1〜2%)ハイドロゲルを形成する。CNFは剪断減粘性であり、高いゼロ剪断粘度を示す。水で覆われたCNF表面の親水性により、CNFがタンパク質に吸着するのが防止され、CNFを生体不活性にする。細胞はCNF表面を認識せず、そのことは、生体適合性ということにかけては、異物反応がほとんどない又は全くないことから、本明細書で教示する1つの利点である。様々なセルロースナノフィブリルの中でも被嚢類由来のナノフィブリルは、高い結晶性、及び、太いフィブリル径、1マイクロメートルを超え得るフィブリル長を有する。本明細書の本発明によれば、この特性が、力を分散させること及び粘弾性に関与している。架橋アルギン酸又はヒアルロン酸と混合したナノセルロースフィブリルが脂肪前駆細胞を分化させるための好適な足場として機能することが示されているが(例えば、Henriksson,I.,P.Gatenholm,and D.A.Hagg,Increased lipid accumulation and adipogenic gene expression of adipocytes in 3D bioprinted nanocellulose scaffolds.Biofabrication,2017,Feb 21;9(1);Krontiras,P.,P.Gatenholm,and D.A.Hagg,Adipogenic differentiation of stem cells in three−dimensional porous bacterial nanocellulose scaffolds.Journal of Biomedical Materials Research Part B−Applied Biomaterials,2015.103(1):p.195−203を参照のこと)、脂肪細胞との混合ではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本明細書の本発明は、多能性幹細胞及び生体適合性セルロースナノフィブリルを含むヒト脂肪吸引物由来脂肪組織を使用した三次元自家脂肪グラフトを作製するための方法を導入することにより、上記の課題を克服する。好ましい実施形態では、ヒト脂肪吸引物由来脂肪組織を使用した三次元自家脂肪グラフトは、多能性幹細胞及び生体適合性セルロースナノフィブリルを多く含む、すなわち、多い量又は含有量の多能性幹細胞及び生体適合性セルロースナノフィブリルを含む。
【0009】
本明細書の一実施形態は、多孔を有する三次元自家脂肪グラフトを作製するための方法を提供し、その三次元自家脂肪グラフトは、審美手術及び再建手術に使用するために、容積縮小を伴うことなく移植後生存し、血管新生を生じさせ、その三次元自家脂肪グラフトにおいて、脂肪吸引物、好ましくは幹細胞を多く含む脂肪吸引物は、被嚢類、バクテリア、又は植物に由来するナノフィブリルセルロースを含む1種又は複数種の賦形剤及び/又は生体適合性材料と混合され、架橋される。
【0010】
別の実施形態は、多孔を有する三次元自家脂肪グラフトを作製するための方法を提供し、その三次元自家脂肪グラフトは、審美手術及び再建手術に使用するために、容積縮小を伴うことなく移植後も生存し、血管新生を生じさせ、その三次元自家脂肪グラフトにおいて、脂肪吸引物、好ましくは幹細胞を多く含む脂肪吸引物は、被嚢類、バクテリア、又は植物に由来するナノフィブリルセルロースを含む1種又は複数種の生体適合性材料と混合され、架橋される。
【0011】
別の実施形態において、本明細書の本発明は、多孔を有する三次元自家脂肪グラフトを作製するための方法を含み、その三次元自家脂肪グラフトは、審美手術及び再建手術に使用するために、容積縮小を伴うことなく移植後も生存し、血管新生を生じさせ、その三次元自家脂肪グラフトにおいて、脂肪吸引物、好ましくは幹細胞を多く含む脂肪吸引物は、被嚢類に由来するナノフィブリルセルロースを含む1種又は複数種の賦形剤及び/又は1種又は複数種の生体適合性材料と混合され、架橋される。ある態様では、被嚢類に由来するナノフィブリルセルロースは、直径が15nm超で長さが0.5マイクロメートル〜5マイクロメートルのフィブリルを含む分散液の形態である。別の実施形態では、被嚢類に由来するナノフィブリルセルロースは、1.5重量%よりも高く且つ4重量%よりも低い固体含有率を有する分散液の形態である。被嚢類に由来するナノフィブリルセルロースは、ある態様では、免疫応答に影響を及ぼす検出可能なヘミセルロースを有しておらず、検出可能なアグロメレートをほとんど有していない又は全く有していない。一実施形態では、被嚢類に由来するナノフィブリルセルロースは、ある場合にはエンドトキシンとして知られる検出可能なバクテリア由来リポ多糖をほとんど含まない又は全く含まない分散液の形態である。
【0012】
別の実施形態では、被嚢類に由来するナノフィブリルセルロースは、アルギン酸塩、及びカルシウムイオン、バリウムイオン、及び/又はストロンチウムイオンを加えることにより、架橋される。別の実施形態では、被嚢類に由来するナノフィブリルセルロースは、アルギン酸塩及びポリリジンを加えることにより、架橋される。別の実施形態では、被嚢類に由来するナノフィブリルセルロースは、フィブリノゲン及び/又はトロンビンの溶液を加えることにより、架橋される。
【0013】
一実施形態では、被嚢類に由来するナノフィブリルセルロースは、多血小板血漿(PRP)を加えてからカルシウムイオンを加えることにより、又は、カルシウムイオンを加えてから多血小板血漿(PRP)を加えることにより、架橋される。別の実施形態では、被嚢類に由来するナノフィブリルセルロースは、リボフラビン5’−リン酸塩を加えてからUV(紫外線)光に曝露することにより、又は、UV(紫外線)光に曝露してからリボフラビン5’−リン酸塩を加えることにより、架橋される。
【0014】
別の実施形態は、ヒトの審美手術及び再建手術に使用するために調製された移植可能組織を含む。一実施形態では、移植可能組織は、ヒト又はその他の動物を含む動物の審美手術及び再建手術に使用するために調製される。別の実施形態では、移植可能組織は創傷治癒のために調製される。別の実施形態では、移植可能バイオマテリアルは、脂肪吸引物を加えることなく調製され、皮膚充填剤として使用される。
【0015】
本明細書の実施形態のこれら及びその他の態様は、以下の記述及び添付図面と共に考察した場合、より適切に認識及び理解される。しかしながら、以下の記述は、好ましい実施形態及び多数のその個々の詳細を示しているが、例示として示すものであり限定するものではないということを理解すべきである。本明細書の実施形態の趣旨を逸脱することなく本明細書の実施形態の範囲内の多くの変更及び修正を行ってもよく、本明細書の実施形態は全てのこのような修正を含む。
【0016】
図面の簡単な説明
添付図面は、本発明の実施形態の特定の態様を図示するものであり、本発明を限定するために使用されるべきではない。図面は、書面による記述と共に、本発明の特定の原理を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】脂肪吸引物の採取及び処理技術の様々な工程を示す。
図1B】脂肪吸引物の採取及び処理技術の様々な工程を示す。
図1C】脂肪吸引物の採取及び処理技術の様々な工程を示す。
図2】分離脂肪吸引物(L)、アルギン酸塩と混合した分離脂肪吸引物(LA)、アルギン酸塩及び被嚢類由来ナノセルロースと混合した分離脂肪吸引物(LT)のレオロジー特性を示す。
図3】架橋反応速度の測定値を示す。
図4A】3D成形実験の結果を示す。
図4B】3D成形実験の結果を示す。
図5A】in vivo実験の結果を示す。
図5B】in vivo実験の結果を示す。
図5C】in vivo実験の結果を示す。
図5D】in vivo実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
様々な実施形態の詳細な説明
これより、本発明の様々な例示的な実施形態について詳細を参照する。以下の例示的な実施形態の記述は本発明を限定することを意図しないということを理解されたい。むしろ、以下の記述は、本発明の特定の態様及び特徴についてのより詳細な理解を読者に与えるために提供されるものである。
【0019】
本明細書の実施形態並びにその様々な特徴及び有利な詳細について、添付図面において図示され以下の記述において詳細に記載されている非限定実施形態を参照して、より詳細に説明する。周知の構成要素及び処理技術についての記述は、本明細書の実施形態が不必要に不明瞭とならないように省略した。本明細書で使用する実施例は、本明細書の実施形態を実施可能とするような理解を容易にすること、及び本明細書の実施形態を当業者が実施することを更に可能とすること、を単に目的としたものである。それゆえ、本実施例は、本明細書の実施形態の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0020】
本明細書の実施形態は、幹細胞を多く含む機械的に分離させた脂肪吸引物をバイオポリマーと混合して部分的又は完全に均一な分散液を得てから、その混合物を処理/その混合物を使用して、多孔を有する三次元構造物を作製することに基づいた方法を含む。バイオポリマー材料は、ある態様において、分散剤/乳化剤として使用される。本発明による多孔は、栄養素及び/又は酸素の拡散を可能とし、脂肪細胞の生存に寄与するが、多孔はまた、前駆細胞の分化及び血管新生を可能とする。本発明による移植は、モールディング、3Dバイオプリンティング、又はヒト又は動物の体内への注入を含むがこれらに限定されない技術を用いて実施することができる。本明細書に記載のバイオポリマーは、ある態様において、2種類の異なる機能を有するが、第1の機能は剪断減粘性(擬塑性)を有する均一な分散液を提供することであり、第2の機能は架橋である。均一な分散液/エマルションは生体適合性セルロースナノフィブリル及び/又はその他の賦形剤を加えることにより得られ、架橋は、例えば、フィブリノゲン及びトロンビン、又はアルギン酸塩及びカルシウムを使用して、多血小板血漿(PRP)を加えてからカルシウムイオンを加える、及び/又は、リボフラビン5’−リン酸塩を加えてからUV光に曝露することにより得られる。セルロースナノフィブリル、とりわけ被嚢類から単離したセルロースナノフィブリルは、ある態様において、分散剤及び乳化剤として好ましいが、セルロースナノフィブリルはまた、低剪断応力において高粘度である剪断減粘性、及び3D脂肪グラフトの機械的安定性を提供し得る。セルロースナノフィブリルはまた、多孔率の向上を可能とし得、それにより、血管新生又は向上した血管新生がもたらされ得る。前述の3D自家脂肪グラフトは、好ましい実施形態において、移植後も生存し、医学的に有意な程度にまでは容積縮小しない。3D自家脂肪グラフトはまた、好ましい実施形態において血管新生を生じる。本発明は、このように、創傷を治癒するための、及び再建手術及び審美手術を用いた軟組織の矯正及び修復を可能とするための革新的な方法を提供する。
【実施例】
【0021】
実施例1(脂肪吸引物の採取及び処理)
Regional Ethics Committee of Gothenburgの承認(Dnr 624−16)を受けインフォームドコンセントへのサイン取得後に、健康な女性ドナーの腹部皮下組織から脂肪吸引物を採取した。イタリアのLipogemsデバイスを製造業者のプロトコルに従って用い、機械的な力により、酵素処理を何ら行わずに、脂肪吸引物を処理した。簡潔に説明すると、閉鎖系において、生理的電解質溶液(Ringer’s Acetate,Braun)で脂肪吸引物を洗浄し、金属ビーズを用いて5×20秒間振盪することにより乳化させてから、すすいだ。ドナー由来の合計160mlの脂肪吸引物を使用した。上記の処理済み脂肪吸引物由来脂肪組織を、4.5%マンニトール溶液中の3重量%アルギン酸塩溶液SLG100(Novamatrix,ノルウェー)と、90:10の容積比率で混合した。脂肪混合物を更に、ナノセルロース/アルギン酸塩(80:20)と、1:1の比率で混合した。図1Aは、単離済み脂肪吸引物を示し、図1Bは、Lipogemsデバイスを用いて処理した形態の脂肪吸引物(黄色)、及び、アルギン酸塩及び青色色素を加えた被嚢類由来セルロースナノフィブリルの分散液(青色)を示す。図1Cは、処理済み脂肪吸引物をセルロースナノフィブリル分散液と混合した際の、ペースト状の粘稠度を有する緑色の均一な分散液を示す。
【0022】
実施例2(レオロジー)
ペルチェプレートを装着したDiscovery HR−2レオメーター(TA Instruments,UK)を使用して、Lipogemsシステムを用いて調製した脂肪吸引物由来脂肪分離組織(L)、アルギン酸塩と混合した処理済み脂肪組織(LA)、及びアルギン酸塩及び被嚢類由来ナノセルロースと混合した処理済み脂肪組織(LT)のレオロジー特性及び架橋反応速度を解析した。全ての測定は25℃で実施した。剪断粘度は、0.01〜1500s−1の剪断速度、プレート−プレートの形状(20mm、ギャップ=500μm)で測定した。機械的処理済み脂肪吸引物由来脂肪組織(L)は不均一であり、脂肪組織のクラスター及び自由流動性液体で構成されていた。Lの粘度曲線は、原料の不均一性に起因して非線形であった(図2の上部の曲線を参照のこと)。アルギン酸塩を加えると、剪断減粘性を有するより均一な分散液がもたらされた(図2の最下部の曲線を参照のこと)。しかしながら、粘度は最適な3D成形用には低すぎた。被嚢類由来セルロースナノフィブリルを加えると、3D成形を可能とする剪断減粘性及び粘度がもたらされた(図2の曲線LTを参照のこと)。
【0023】
実施例3(架橋)
架橋実験を実施して、異なる架橋剤を評価し、架橋の反応速度についても評価を行った。図3は、アルギン酸塩を使用して0.1MのCaCl溶液を加えることにより架橋を実施した際の実験の結果を示す。測定したLVR領域内の応力及び0.1〜100rad/秒の範囲の周波数で、振動周波数測定を実施した。1.5%のひずみ及び1Hzの周波数で、振動時間測定を10分間実施した。測定開始から20秒後、貯蔵弾性率のデータを収集しつつ、1mlの0.1M CaCl2を測定中の脂肪吸引物分散液の周囲に分注した。図3の最下部の曲線は脂肪吸引物(L)であり、CaCl溶液の添加によって架橋しなかった。それに対し、アルギン酸塩を含む脂肪吸引物(LA)とアルギン酸塩及び被嚢類から単離したセルロースナノフィブリルを含む脂肪吸引物の両方は、t=40秒のCaClを加えた際の弾性率の急速な上昇から分かるように、60〜100秒以内に架橋した。被嚢類に由来するセルロースナノフィブリルを加えた場合の架橋脂肪吸引物の貯蔵弾性率がアルギン酸塩のみを含む架橋脂肪吸引物と比較してより高いということを、図3から理解することができる。アルギン酸塩及びCaClの溶液の代わりにフィブリノゲン及びトロンビンの溶液を加えて、別の架橋実験を実施した。分散液はトロンビンの添加後急速に架橋した。多血小板血漿(PRP)を加えてからカルシウムイオンを加えたものもまた架橋をもたらした。リボフラビン5’−リン酸塩を加えてからUVに曝露したものについても実施し、架橋がもたらされた。
【0024】
実施例4(3D成形:モールディング及び3Dバイオプリンティング)
単にLipogemsシステムを用いて処理した脂肪吸引物由来脂肪組織(L)、又はアルギン酸塩と混合した脂肪吸引物由来脂肪組織(LA)、及びアルギン酸塩及びナノセルロースと混合した脂肪吸引物由来脂肪組織(LT)の3D成形能を、空気圧押出式の3Dバイオプリンター「Inkredible」(Cellink AB,Sweden)を用いてモールド及びプリントすることにより、それぞれ評価した。円錐ノズル(直径800マイクロメートル)でグリッドデザインをプリントした。ノズルから材料を連続的に分注して、グリッドデザインが視覚的に感じられるプリント忠実度のプリント構造物を得る能力を評価した。脂肪吸引物単独(L)もアルギン酸塩を含む脂肪吸引物(LA)も3D構造物へと最適に成形することができなかった。図4において確認できるように、被嚢類に由来するセルロースナノフィブリルを加えた脂肪吸引物のみが、3D構造物へと最適に加工/成形された。図4Aは架橋前のグリッド構造物の結果を示し、図4Bは架橋後の結果を示す。好ましい実施形態では、3D構造物を取り外して移植することができる。
【0025】
実施例5(3Dグラフトの移植)
in vivo実験用に、半球体(10mmの直径、3mmの高さ)を3DバイオプリントしてからCaClで5分間架橋し、その後直ちにBALB/cヌードマウスに皮下移植した。図5Aは、3Dバイオプリントして架橋させた場合の3Dバイオプリント半球体を示す。図5Bは、マウス内における3日後の3D構造物を示しているが、移植半球体の3D形状はほとんど変化していない。図5Cは、移植後7日の3D構造物を示しているが、構造物の容積にはほとんど変化がなく、より弾力性に富んでいるかのように見える。移植片の表面上に若干の血管新生が認められた。図5Dは、移植後30日の3D構造物を示しているが、容積縮小はほとんどない又は全くない。逆に、構造物は、容積がわずかに増大し、弾力性に富み、より黄色へと色が変化し、部分的又は完全に血管新生を生じているように見える。
【0026】
特定の実施形態の上記の記述により、本明細書の実施形態の全容が完全に明らかとなることから、その他の者は、現行の知見を適用することにより、一般的な概念を逸脱することなく、このような特定の実施形態を容易に修正することができる、及び/又は、このような特定の実施形態を様々な用途へと容易に適合させることができ、その結果、このような適合及び修正は、開示実施形態の趣旨の範囲内及び等価物の範囲内において、理解されるべきであり、理解されることを意図している。本明細書で採用する表現又は用語は説明を目的としたものであり限定を目的としたものではないということを理解されたい。それゆえ、本明細書の実施形態は好ましい実施形態の観点から記載されているが、本明細書の実施形態を添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内の修正を行って実施可能であることを当業者は理解するであろう。
【0027】
様々な特徴を有する特定の実施形態を参照しつつ、本発明について記載してきた。上で提供した開示に鑑みて、本発明の実施に際し、本発明の範囲又は趣旨を逸脱することなく、様々な修正及び変化形態が実施可能であるということは、当業者には明白である。開示する特徴を、任意の用途又は設計の要件及び仕様に基づいて、単独で、任意の組み合わせで、又は省略して、使用してもよいということを当業者は理解するであろう。ある実施形態がある特定の特徴を「含む」ことを指す場合、その実施形態が代替的に、特徴のうちのいずれか1つ又は複数「からなる」又は「から本質的になる」であってもよいということを理解すべきである。本明細書で開示する方法のいずれかは、本明細書で開示する化合物及び/又は組成物のいずれか、又は任意のその他の化合物及び/又は組成物と共に使用することができる。同様に、開示する化合物及び/又は組成物のいずれかは、本明細書で開示する方法のいずれか、又は任意のその他の方法と共に使用することができる。本発明のその他の実施形態は、本明細書の考察及び本発明の実施から当業者には明白である。
【0028】
本明細書において数値の範囲を提供する場合、その範囲の上限と下限の間にあるそれぞれの数値の、開示する単位の10分の1までもまた明示的に開示されるということに特に留意されたい。開示する範囲内又は開示するその他の終点から導くことができる範囲内の任意のより狭い範囲もまたそれら自体明示的に開示される。同様に、開示する範囲の上限及び下限は独立して、その範囲に含まれ得る、又は、その範囲から除外され得る。単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上特に明確に定めない限り、複数の指示対象を含む。本明細書及び実施例が本質的に例示であるとみなされ、本発明の本質から逸脱しない変化形態が本発明の範囲内に含まれるということを意図する。更に、本開示において引用する参照文献の全ての全体はそれぞれ個別に参照により本明細書に組み込まれ、それ自体、本発明の実施可能要件を補うための効率的な方法を提供することに加えて、当業者のレベルを詳細に述べる予備知識を提供することを目的としている。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
【国際調査報告】