特表2021-534407(P2021-534407A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナショナル ヘルス リサーチ インスティチューツの特許一覧

特表2021-534407自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体
<>
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000012
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000013
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000014
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000015
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000016
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000017
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000018
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000019
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000020
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000021
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000022
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000023
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000024
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000025
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000026
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000027
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000028
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000029
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000030
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000031
  • 特表2021534407-自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体 図000032
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-534407(P2021-534407A)
(43)【公表日】2021年12月9日
(54)【発明の名称】自己免疫疾患及びIL−17A関連疾患のためのバイオマーカー及び治療標的としてのAhR−ROR−γt複合体
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20211112BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20211112BHJP
   G01N 33/542 20060101ALI20211112BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20211112BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20211112BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20211112BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20211112BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20211112BHJP
   C12N 15/85 20060101ALN20211112BHJP
【FI】
   G01N33/50 ZZNA
   G01N33/53 D
   G01N33/542 A
   C12Q1/02
   C12Q1/68
   C12N15/12
   C12N15/54
   C12N15/62 Z
   C12N15/85 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2021-507926(P2021-507926)
(86)(22)【出願日】2019年8月16日
(85)【翻訳文提出日】2021年3月31日
(86)【国際出願番号】US2019046849
(87)【国際公開番号】WO2020037224
(87)【国際公開日】20200220
(31)【優先権主張番号】62/719,416
(32)【優先日】2018年8月17日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518148216
【氏名又は名称】ナショナル ヘルス リサーチ インスティチューツ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タン,テ−ホワ
(72)【発明者】
【氏名】チュアン,ホワイ−チア
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045CB01
2G045DA36
2G045FB03
2G045FB12
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QQ27
4B063QQ43
4B063QQ44
4B063QQ61
4B063QQ79
4B063QR07
4B063QR33
4B063QR48
4B063QR77
4B063QR80
4B063QS33
4B063QS36
4B063QS38
4B063QX02
(57)【要約】
(a)培養物中の細胞がAhRタンパク質及びホスホRORγtタンパク質を発現する細胞培養物を用意するステップ、(b)細胞培養物を試験薬の存在下でインキュベートするステップ、(c)AhRホスホRORγtタンパク質複合体のレベルを試験薬の存在下でアッセイするステップ、(d)試験薬の存在下でのAhRホスホRORγtタンパク質複合体のレベルを対照と比較するステップ、並びに(e)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下でAhRホスホRORγtタンパク質複合体のレベルが低下することを示す場合、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定するステップを含む、AhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質を同定するための方法。また、GLK-IQGAP1タンパク質複合体阻害物質を同定するための方法も開示される。また、疾患を治療するための医薬の製造における、同定された阻害物質の使用も開示される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)培養物中の細胞が、アリール炭化水素受容体(AhR)タンパク質及びホスホレチノイン酸受容体関連オーファン核内受容体ガンマt(RORγt)タンパク質を発現する、細胞培養物を用意するステップ、
(b)細胞培養物を試験薬の存在下でインキュベートするステップ、
(c)AhRホスホRORγtタンパク質複合体のレベルを試験薬の存在下でアッセイするステップ、
(d)試験薬の存在下でのAhRホスホRORγtタンパク質複合体のレベルを対照と比較するステップ、並びに
(e)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下においてAhRホスホRORγtタンパク質複合体のレベルが低下することを示す場合、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定するステップ
を含む、AhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質を同定するための方法。
【請求項2】
アッセイするステップが、抗ホスホRORγt[Ser489]抗体を使用する免疫ブロッティングを実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞が、Lck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞、TCR活性化T細胞、及びAhR+RORγt+IKKβ高発現細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(i)用意するステップが、CFP-AhR、YFP-RORγt及びIKKβプラスミドが共導入されている細胞を用意し、
(ii)アッセイするステップが、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイを実施し、並びに
(iii)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下でYFP-RORγtにより発せられる蛍光強度が低下することを示す場合、同定するステップが、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(i)用意するステップが、エピトープタグ化AhR、Myc-RORγt及びIKKβプラスミドが共導入されている細胞を用意し、
(ii)アッセイするステップが、抗Myc抗体コンジュゲートアクセプタービーズ及び抗エピトープ抗体コーティングドナービーズを用いるALPHAアッセイを使用して実施され、並びに
(iii)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下で抗Myc抗体コンジュゲートアクセプタービーズにより発せられるシグナルが低下することを示す場合、同定するステップが、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定し、
前記エピトープが配列番号1の配列からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
(i)用意するステップが、Lck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞、TCR活性化T細胞、及びAhR+RORγt+IKKβ高発現細胞からなる群から選択される細胞を用意し、
(ii)アッセイするステップが、1次抗体として抗AhR抗体及び抗RORγt又は抗ホスホRORγt[Ser489]抗体、PLAプローブとして2次抗体、並びにシグナル検出のための蛍光標識相補オリゴヌクレオチドプローブを使用して、in situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)を実施し、並びに
(iii)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下で蛍光シグナルが減少することを示す場合、同定するステップが、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(i)用意するステップが、Myc-AhR、エピトープタグ化RORγt及びIKKβプラスミドが共導入されている細胞を用意し、
(ii)アッセイするステップが、抗エピトープアガロースビーズ又は抗Mycアガロースビーズとともに細胞抽出物をインキュベートしてAhRホスホRORγtタンパク質複合体を沈降させ、抗Myc又は抗エピトープ抗体を用いて免疫沈降されたAhRホスホRORγt複合体を免疫ブロットすることにより、共免疫沈降アッセイを実施し、並びに
(iii)比較結果が、対照と比較したときに試験薬の存在下でシグナルが減少することを示す場合、同定するステップが、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定し、
前記エピトープが配列番号1の配列からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(i)用意するステップが、Lck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞、TCR活性化T細胞、及びAhR+RORγt+IKKβ高発現細胞からなる群から選択される細胞を用意し、
(ii)アッセイするステップが、抗RORγt抗体を使用してAhRホスホRORγtタンパク質複合体を免疫沈降させ、IL-17AプロモーターDNA配列中にAhR結合部位ヌクレオチド配列を含む1対のプライマーを使用してPCR産物を得るPCRを実施するクロマチン免疫沈降(ChIP)-DNAシーケンシングアッセイを実施し、並びに
(iii)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下でPCR産物の量が減少することを示す場合、同定するステップが、試験薬をAhRホスホRORγt複合体の阻害物質として同定する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
(a)培養物中の細胞がGLKタンパク質及びIQGAP1タンパク質を発現する細胞培養物を用意するステップ、
(b)試験薬の存在下で細胞培養物をインキュベートするステップ、
(c)試験薬の存在下でGLK-IQGAP1タンパク質複合体のレベルをアッセイするステップ、
(d)試験薬の存在下でのGLK-IQGAP1タンパク質複合体のレベルを対照と比較するステップ、並びに
(e)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下でGLK-IQGAP1タンパク質複合体のレベルが低下することを示す場合、試験薬をGLK-IQGAP1タンパク質複合体の阻害物質として同定するステップ
を含む、GLK-IQGAP1タンパク質複合体の阻害物質を同定するための方法。
【請求項10】
(i)用意するステップが、GLK遺伝子導入マウス、GLK高発現細胞、及びGLK+IQGAP1高発現細胞からなる群から選択される細胞を用意し、
(ii)アッセイするステップが、1次抗体として抗IQGAP1抗体及び抗GLK又は抗ホスホIQGAP1[Ser480]抗体、PLAプローブとして2次抗体、並びにシグナル検出のための蛍光標識相補オリゴヌクレオチドプローブを使用する、in situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)を実施し、並びに
(iii)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下で蛍光シグナルが減少することを示す場合、同定するステップが、試験薬をGLK-IQGAP1タンパク質複合体の阻害物質として同定する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アッセイするステップが、抗ホスホIQGAP1[Ser480]抗体を使用する免疫ブロッティングを実施する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
それを必要とする対象におけるIL-17A関連疾患を治療するための医薬の製造における、請求項1に記載の方法により同定されたAhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質の有効量の使用。
【請求項13】
AhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質が、ベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
IL-17A関連疾患が、自己免疫疾患、GLK高発現がん細胞転移、及びGLK高発現がん細胞再発からなる群から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
IL-17A関連疾患が自己免疫疾患であり、AhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質が、ベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
IL-17A関連疾患がGLK高発現がん細胞転移であり、AhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質が、ベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩である、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
IL-17A関連疾患がGLK高発現がん細胞転移であり、AhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質がベルテポルフィンである、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
それを必要とする対象におけるGLK高発現がん細胞転移を治療するための医薬の製造における、請求項9に記載の方法により同定されたGLK-IQGAP1タンパク質複合体の阻害物質の有効量の使用。
【請求項19】
GLK-IQGAP1タンパク質複合体の阻害物質が、ベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
GLK-IQGAP1タンパク質複合体の阻害物質が、ベルテポルフィンである、請求項18に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に自己免疫疾患に関し、より具体的にはIL-17産生及びIL-17媒介疾患のための治療標的としてのGLK誘導AhR-RORガンマT複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、免疫系の過剰活性化から生じる。Tヘルパー17細胞(Th17、IL-17A産生CD4+T細胞)及びIL-17Aは、自己免疫疾患の病態形成において重要な役割を果たす。転写因子RORγtは、IL-17Aプロモーターに結合し、IL-17A遺伝子転写を制御する。アリール炭化水素受容体(AhR)は、Th17分化の間のIL-17A転写の誘導及び負の制御因子STAT1の阻害を介してTh17の極性化を促進する。T細胞特異的AhRノックアウトマウスは、Th17分化が障害され、Th17媒介実験的自己免疫関節炎に抵抗性である。種々の病原性Th17亜集団は、種々の条件下でin vitroで得られ得る。自己免疫疾患の病態形成における特徴的なこのようなTh17亜集団のin vivoでの役割は、不明なままである。
【0003】
MAP4K3(GLKとも名付けられる)は、哺乳動物Ste20様セリン/スレオニンキナーゼである。自己免疫疾患、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)又は成人スティル病(AOSD)を有する患者由来の臨床試料は、T細胞におけるGLK発現の劇的な増加を示す。しかし、GLK高発現が複数のヒト自己免疫疾患にどのように寄与するかは、不明なままである。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、本発明は、(a)培養物中の細胞が、アリール炭化水素受容体(AhR)タンパク質及びホスホレチノイン酸受容体関連オーファン核内受容体ガンマt(RORγt)タンパク質を発現する、細胞培養物を用意するステップ、(b)細胞培養物を試験薬の存在下でインキュベートするステップ、(c)AhRホスホRORγtタンパク質複合体のレベルを試験薬の存在下でアッセイするステップ、(d)試験薬の存在下でのAhRホスホRORγtタンパク質複合体のレベルを対照と比較するステップ、並びに(e)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下でAhRホスホRORγtタンパク質複合体のレベルが低下することを示す場合、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定するステップを含む、AhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質を同定するための方法に関する。
【0005】
一実施形態では、アッセイするステップは、抗ホスホRORγt[Ser489]抗体を使用して免疫ブロッティングを実施する。
【0006】
別の実施形態では、細胞は、Lck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞、TCR活性化T細胞、及びAhR+RORγt+IKKβ高発現細胞からなる群から選択される。
【0007】
別の実施形態では、(i)用意するステップは、CFP-AhR、YFP-RORγt及びIKKβプラスミドが共導入されている細胞を用意し、(ii)アッセイするステップは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイを実施し、並びに(iii)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下でYFP-RORγtにより発せられた蛍光強度が低下することを示す場合、同定するステップは、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定する。
【0008】
別の実施形態では、(i)用意するステップは、エピトープタグ化AhR、Myc-RORγt及びIKKβプラスミドが共導入されている細胞を用意し、(ii)アッセイするステップを、抗Myc抗体コンジュゲートアクセプタービーズ及び抗エピトープ抗体コーティングドナービーズを用いるALPHAアッセイを使用して実施し、(iii)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下で抗Myc抗体コンジュゲートアクセプタービーズにより発せられるシグナルが低下することを示す場合、同定するステップは、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定し、エピトープは配列番号1の配列からなる。
【0009】
別の実施形態では、(i)用意するステップは、Lck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞、TCR活性化T細胞、及びAhR+RORγt+IKKβ高発現細胞からなる群から選択される細胞を用意し、(ii)アッセイするステップは、1次抗体として抗AhR抗体及び抗RORγt又は抗ホスホRORγt[Ser489]抗体、PLAプローブとして2次抗体、並びにシグナル検出のための蛍光標識相補オリゴヌクレオチドプローブを使用する、in situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)を実施し、並びに(iii)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下で蛍光シグナルが減少することを示す場合、同定するステップは、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定する。
【0010】
別の実施形態では、(i)用意するステップは、Myc-AhR、エピトープタグ化RORγt及びIKKβプラスミドが共導入されている細胞を用意し、(ii)アッセイするステップは、抗エピトープアガロースビーズ又は抗Mycアガロースビーズとともに細胞抽出物をインキュベートしてAhRホスホRORγtタンパク質複合体を沈降させ、抗Myc又は抗エピトープ抗体を用いて免疫沈降させたAhRホスホRORγt複合体を免疫ブロットすることにより共免疫沈降アッセイを実施し、並びに(iii)比較結果が、対照と比較したときに試験薬の存在下でシグナルが減少することを示す場合、同定するステップは、試験薬をAhRホスホRORγtタンパク質複合体の阻害物質として同定し、エピトープは配列番号1の配列からなる。
【0011】
別の実施形態では、(i)用意するステップは、Lck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞、TCR活性化T細胞、及びAhR+RORγt+IKKβ高発現細胞からなる群から選択される細胞を用意し、(ii)アッセイするステップは、抗RORγt抗体を使用してAhRホスホRORγtタンパク質複合体を免疫沈降させ、IL-17AプロモーターDNA配列中にAhR結合部位ヌクレオチド配列を含む1対のプライマーを使用するPCRを実施してPCR産物を得る、クロマチン免疫沈降(ChIP)-DNAシーケンシングアッセイを実施し、並びに(iii)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下でPCR産物の量が減少することを示す場合、同定するステップは、試験薬をAhRホスホRORγt複合体の阻害物質として同定する。
【0012】
別の態様では、本発明は、(a)培養物中の細胞がGLKタンパク質及びIQGAP1タンパク質を発現する細胞培養物を用意するステップ、(b)試験薬の存在下で細胞培養物をインキュベートするステップ、(c)試験薬の存在下でGLK-IQGAP1タンパク質複合体のレベルをアッセイするステップ、(d)試験薬の存在下でのGLK-IQGAP1タンパク質複合体のレベルを対照と比較するステップ、並びに(e)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下でGLK-IQGAP1タンパク質複合体のレベルが低下することを示す場合、試験薬をGLK-IQGAP1タンパク質複合体の阻害物質として同定するステップを含む、GLK-IQGAP1タンパク質複合体の阻害物質を同定するための方法に関する。
【0013】
一実施形態では、(i)用意するステップは、GLK遺伝子導入マウス、GLK高発現細胞、及びGLK+IQGAP1高発現細胞からなる群から選択される細胞を用意し、(ii)アッセイするステップは、1次抗体として抗IQGAP1抗体及び抗GLK又は抗ホスホIQGAP1[Ser480]抗体、PLAプローブとして2次抗体、並びにシグナル検出のための蛍光標識相補オリゴヌクレオチドプローブを使用するin situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)を実施し、並びに(iii)比較するステップが、対照と比較したときに試験薬の存在下で蛍光シグナルが減少することを示す場合、同定するステップは、試験薬をGLK-IQGAP1タンパク質複合体の阻害物質として同定する。
【0014】
別の実施形態では、アッセイするステップは、抗ホスホIQGAP1[Ser480]抗体を使用して免疫ブロッティングを実施する。
【0015】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象におけるIL-17A関連疾患を治療するための医薬の製造における、本発明の方法により同定されたAhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質の有効量の使用に関する。
【0016】
一実施形態では、AhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質は、ベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩である。
【0017】
別の実施形態では、IL-17A関連疾患は、自己免疫疾患、GLK高発現がん細胞転移、及びGLK高発現がん細胞再発からなる群から選択される。
【0018】
一実施形態では、IL-17A関連疾患は、自己免疫疾患であり、AhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質は、ベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩である。
【0019】
別の実施形態では、IL-17A関連疾患は、GLK高発現がん細胞転移であり、AhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質は、ベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩である。
【0020】
別の実施形態では、IL-17A関連疾患は、GLK高発現がん細胞転移であり、AhRホスホRORγtタンパク質複合体阻害物質は、ベルテポルフィンである。
【0021】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象におけるGLK高発現がん細胞転移を治療するための医薬の製造において、本発明の方法により同定されたGLK-IQGAP1タンパク質複合体阻害物質の有効量の使用に関する。
【0022】
一実施形態では、GLK-IQGAP1タンパク質複合体の阻害物質は、ベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩である。
【0023】
また、本発明は、それを必要とする対象におけるGLK高発現がん細胞転移を治療するための医薬の製造における、有効量のベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】Lck-GLK遺伝子導入マウスが自己免疫表現型及び血清IL-17Aレベルの選択的上昇を呈することを示す図である。(A)マウス由来の示された臓器のヘマトキシリン及びエオシン染色切片である。矢印は浸潤性免疫細胞である。バーは100μmである。(B)マウス由来の血清自己抗体のレベルをELISAアッセイにより決定した。レベルは、野生型マウスのものの値と比較して示す。(C)マウスにおけるサイトカインの血清レベルをELISAアッセイにより決定した。(D)Lck-GLK及びLck-GLK/IL-17A KOマウスにおける自己抗体の血清レベルをELISAアッセイにより決定した。レベルは、Lck-GLKマウスのものの値と比較して示す。(E)IL-17A発現がGLK shRNAにより減弱した。マウス初代脾臓T細胞にGFPヒトGLK shRNA及び対照GFPベクターをトランスフェクトした。トランスフェクトしたT細胞を抗マウスCD3抗体で3時間刺激し、次いで、トランスフェクション後3日目にフローサイトメトリーにより決定した。データは、IL-17A産生T細胞(緑色蛍光タンパク質(GFP)ゲート)の頻度を示す。WTは野生型同腹仔対照、Lck-GLKはT細胞特異的GLK遺伝子導入マウス。Lck-GLK/IL-17A KOはLck-GLK;IL-17A欠損マウス。ANAは抗核抗体、α-dsDNAは抗dsDNA抗体、RFはリウマチ因子。*はP値<0.05、**はP値<0.01(両側ステューデントt検定)。
図2】GLKによりIL-17A発現がAhR及びRORγtの誘導を介して増強されることを示す図である。(A)マウス由来の末梢血T細胞におけるマウスIL-17A mRNAレベルをリアルタイムPCRにより解析した。IL-17Aの発現レベルは、Mrpl32レベルに対して正規化した。倍率変化は、野生型マウスの値と比較して表す。平均±SEMを示す。(B)IL-17Aプロモーターのルシフェラーゼレポーター活性である。ジャーカットT細胞に、GLK又はGLKキナーゼ不活性(GLK-K45E)変異体をコードするプラスミドに加えてIL-17Aプロモーター(2kb)構築物を共導入した。平均±SEMを示す。(C)IL-17Aプロモーター上の転写因子の模式図である。(D)マウス由来のT細胞におけるAhR、RORγt、STAT3、IRF4、KLF4又はBATFのIL-17Aプロモーターへの結合は、個々の免疫沈降実験からの免疫複合体を使用したChIP-PCRにより解析した。(E)IL-17A変異体プロモーターのルシフェラーゼレポーター活性である。ジャーカットT細胞に、空のベクター又はGLKプラスミドに加えてAhR、RORγt(-877)又はSTAT3に対する変異結合エレメントを含むIL-17Aプロモーター構築物を共導入した。(F)空のベクター又はGLKをコードするプラスミドを共導入したジャーカットT細胞におけるAhR、RORγt(-877)及びSTAT3応答エレメントのルシフェラーゼレポーター活性(XRE-Luc、RORγt-Luc及びSIE-Luc)である。XREは異物応答エレメント、SIEはsis誘導性エレメント。WTは野生型同腹仔対照、Lck-GLKはT細胞特異的GLK遺伝子導入マウス。3つの独立的実験の平均±SEMを示す(b)、(e)及び(f)。*はP値<0.05、**はP値<0.01(両側ステューデントt検定)。
図3】PKCθによりAhRがリン酸化され、その核移行が誘導されることを示す図である。(A)示されているマウス由来のサイトカインの血清レベルをELISAアッセイにより決定した。平均±SEMを示す。WTは野生型同腹仔対照、Lck-GLKはT細胞特異的GLK遺伝子導入マウス。Lck-GLK;AhRf/f;CD4-CreはAhR条件付きノックアウト(cKO)マウスと交配したT細胞特異的GLK遺伝子導入マウス。*はP値<0.05、**はP値<0.01(両側ステューデントt検定)。(B)刺激なしのマウス脾臓T細胞におけるAhRの細胞内局在の共焦点顕微鏡法である。原拡大率は×630、バーは10μm。(C)WT及びLck-GLK Tgマウス由来の初代脾臓T細胞の細胞質及び核分画におけるAhR、GAPDH及びヒストン3の免疫ブロッティングである。(D)WT及びLck-GLK Tgマウスの初代脾臓T細胞におけるp-AhR(Ser-36)、AhR及びGLKの免疫ブロッティングである。(E)個々にトランスフェクトしたHEK293T細胞から単離したFlag-GLK、Flag-PKCθ、Flag-IKKβ、Flag-IKKα及びHA-AhRを(基質として)使用したin vitroでのキナーゼアッセイにおけるAhRリン酸化及び示されているキナーゼの免疫ブロッティングである。(F)刺激なしのWT及びLck-GLKマウス由来の初代脾臓T細胞のライセートからのPKCθとの内因性AhRの共免疫沈降(co-IP)である。(G)野生型又はLck-GLK Tgマウス由来の末梢血T細胞における内因性PKCθ及びAhRの相互作用のPLAである。赤色の各点は、直接相互作用を表す。T細胞核は、DAPI(青色)で染色した。(H)精製HAタグ化AhRに加えてMycタグ化PKCθ WT又はPKCθキナーゼ不活性(K409W)変異体のいずれかのタンパク質のin vitroでのキナーゼアッセイである。(I)WT、Lck-GLK Tg及びPKCθ KOマウスと交配したLck-GLK Tgマウスの初代脾臓T細胞におけるリン酸化AhR(Ser-36)、AhR、GLK及びPKCθの免疫ブロッティング解析である。(J)示されているマウスの初代脾臓T細胞におけるAhR及びPKCθの細胞内局在の共焦点顕微鏡法である。原拡大率は×630、バーは10μm、WTは野生型同腹仔対照、Lck-GLKはT細胞特異的GLK遺伝子導入マウス、Lck-GLK;PKCθ-/-はPKCθノックアウトマウスと交配したLck-GLK遺伝子導入マウス。
図4】GLKにより、AhR及びRORγtの相互作用を介するIL-17AプロモーターへのRORγtの結合が誘導されることを示す図である。(A)示されているマウス由来のT細胞におけるIL-17AプロモーターへのRORγtの結合をChIP-PCRにより解析した。(B)いかなる刺激もないWT及びLck-GLKマウス由来の初代脾臓T細胞のライセートを使用したRORγtとの内因性AhRの共免疫沈降(co-IP)である。(C)示されているマウスの初代T細胞におけるAhR及びRORγtの細胞内局在の共焦点顕微鏡法である。原拡大率は×630、バーは10μm。(D)マウス由来のT細胞におけるIL-17AプロモーターへのAhR及びRORγtの結合を、抗RORγt免疫複合体を使用したChIP-PCRにより解析した。(E)示されているマウス由来の末梢血T細胞における内因性AhR及びRORγtの相互作用についての近接ライゲーションアッセイ(PLA)の共焦点顕微鏡法である。(F)GLK-CFP、PKCθ-Myc、IKKβ-CFP又はIKKα-Mycプラスミドを共導入したHEK293T細胞のライセートを使用したHAタグ化AhR及びFlagタグ化RORγtの共免疫沈降(IP)である。(G)精製Flagタグ化RORγt及びGSTタグ化AhRタンパク質のGSTプルダウンアッセイである。Flagタグ化RORγtタンパク質を、Flag-RORγtに加えてCFP-IKKβ又はベクターのいずれかを共導入したHEK293T細胞のライセートを使用してFlagペプチドにより溶出した。原拡大率は×630、バーは10μm。
図5】IKKβによりRORγt Ser-489がリン酸化されて、AhRへのRORγtの結合が生じることを示す図である。(A)野生型、Lck-GLK Tg及びLck-GLK;IKKβf/f;CD4-Creマウス由来の末梢血T細胞における内因性AhR及びRORγtの相互作用についてのPLAの共焦点顕微鏡解析である。(B)野生型、Lck-GLK Tg及びLck-GLK;IKKβf/f;CD4-Creマウスの初代脾臓T細胞におけるAhR及びRORγtの細胞内局在の共焦点顕微鏡法である。原拡大率は×630、バーは10μm。(C)マウスにおけるサイトカインの血清レベルをELISAアッセイにより決定した。平均±SEMを示す。*はP値<0.05(両側ステューデントt検定)。(D)RORγt及びIKKβの組換えタンパク質間の直接相互作用である。精製Hisタグ化RORγt及びGSTタグ化IKKβタンパク質のGST又はHisプルダウンアッセイである。(E)個々のHEK293Tトランスフェクタントから免疫沈降させたFlagタグ化RORγt及びIKKβ又はIKKβキナーゼ不活性(K44M)変異体のいずれかのタンパク質のin vitroでのキナーゼアッセイである。(F)Ser-489のリン酸化を含むRORγtのトリプシンペプチドの質量分析(MS)/MS断片化スペクトルである。(G)抗ホスホRORγt(Ser-489)の抗体特異性を、CFPタグ化IKKβに加えてFlagタグ化RORγt WT又はRORγt-S489A変異体のいずれかを共導入したHEK293T細胞を使用する免疫ブロッティングにより実証した。(H)示されているマウスの初代脾臓T細胞におけるp-RORγt(Ser-489)、RORγt、p-IKKβ(Ser-180/181)及びIKKβの免疫ブロッティングである。(I)ベクター又はIKKβ-CFPプラスミドを共導入したHEK293T細胞のライセートを使用したHAタグ化AhR及びFlagタグ化RORγt WT又はRORγt-S489A変異体のいずれかの共免疫沈降(co-IP)である。WTは野生型同腹仔対照、Lck-GLKはT細胞特異的GLK遺伝子導入マウス。Lck-GLK;IKKβf/f;CD4-CreはIKKβ条件付きノックアウトマウスと交配したT細胞特異的GLK遺伝子導入マウス。原拡大率は×630、バーは10μm。
図6】TCRシグナル伝達によりRORγtリン酸化及び後続のAhR-RORγt相互作用が誘導されることを示す図である。(A)初代脾臓T細胞におけるp-RORγt(Ser-489)、RORγt、p-IKKβ(Ser-180/181)及びIKKβの免疫ブロッティングである。T細胞を抗CD3抗体に加えてストレプトアビジンで刺激した。(B)抗CD3抗体に加えてストレプトアビジンで刺激したマウス初代脾臓T細胞のライセートからのRORγtとの内因性AhRの共免疫沈降(co-IP)である。(C)IKKβf/f又はCD4-Cre;IKKβf/fマウスの初代脾臓T細胞におけるp-RORγt(Ser-489)、RORγt及びIKKβの免疫ブロッティングである。T細胞を抗CD3抗体に加えてストレプトアビジンで刺激した。(D)示されているマウスの初代T細胞における内因性AhR及びRORγt(左のパネル)又はAhR及びSer-489リン酸化RORγt(右のパネル)の相互作用についての近接ライゲーションアッセイ(PLA)の共焦点顕微鏡法である。T細胞を(C)のように刺激した。原拡大率は×630、バーは10μm。(E及びF)示されているマウス由来の初代脾臓T細胞の上清における種々のサイトカインのELISAである。T細胞をプレート結合抗CD3抗体で3日間刺激した。平均±SDを示す。(G)示されているマウスの初代脾臓T細胞由来のRORγt及びGAPDHタンパク質の免疫ブロッティングである。(H)GLK高発現又はTCR刺激T細胞においてAhR-RORγt複合体により誘導されたIL-17A転写の模式的モデルである。T細胞特異的GLK遺伝子導入(Lck-GLK Tg)マウスのT細胞におけるGLK高発現により、PKCθを介してAhR Ser-36リン酸化が誘導され、IKKβを介してRORγt Ser-489リン酸化も誘導される。RORγtがリン酸化されると、RORγtがAhRと直接相互作用する。リン酸化AhRは、RORγtの細胞核への移行の原因である。AhR-RORγt複合体は、IL-17AプロモーターのRORγt結合エレメント(-877〜-872)及びAhR結合エレメント(-254〜-249)の両方に結合すると、IL-17A転写が誘導される。正常T細胞では、T細胞受容体(TCR)刺激によっても、GLKキナーゼ活性及びIKKβ活性化、RORγt Ser-489リン酸化、及びAhR-RORγt相互作用を含む下流のシグナル伝達が誘導される。NF-κBに加えて、重要な他の転写因子(例えばNFAT1又はAP-1)も、T細胞におけるIL-2、IFN-γ、IL-4、IL-6及びTNF-αの転写活性化に必要とされる。「その他」は、重要な他の転写因子を表す。NF-κBは、複数のサイトカインのTCR誘導産生に必要とされるが、GLK-IKKβ-NF-κBカスケード単独は、複数のサイトカインの誘導に十分ではない。まとめると、GLK高発現又はTCRシグナル伝達により、T細胞においてAhR及びRORγtを介してIL-17A転写が誘導される。
図7】SLE患者においてGLK+Th17細胞の頻度が増加することを示す図である。(a〜d)健常対照6人及びSLE患者18人の末梢血白血球由来のGLK+及びIL-17+T細胞(CD3ゲート、CD3に加えてCD4ゲート、CD3に加えてCD8ゲート、又はCD3に加えてCD4-CD8-(二重陰性(DN))ゲート)のフローサイトメトリーであり、代表的健常対照(HC)及び代表的SLE患者(SLEDAI=12)由来の結果を左のパネルに示す。SLEDAIは全身性エリテマトーデス疾患活動性指数を表す。(e)健常対照群及びSLE患者群におけるGLK+IL-17+T細胞の統計学的解析を示す。(f)SLEDAI並びにすべてのSLE患者(赤色)及び健常対照(青色)由来のCD4+TサブセットにおけるGLK+IL-17+T細胞の頻度の間の正の相関及び有意な回帰である(ピアソン相関係数:r=0.729、P=0.000053)。(g)活性SLE(SLEDAI≧12)の検出のためのT細胞サブセット(CD3+、CD4+、CD8+又はDNサブセット)におけるGLK+IL-17+細胞の頻度の受信者動作特性(ROC)曲線である。CD3+T細胞におけるGLK+IL-17+亜集団の曲線下面積(AUC)値(0.935、P=0.002)、CD4+Tサブセット(0.944、P=0.001)、CD8+Tサブセット(0.792、P=0.036)及びDN Tサブセット(0.759、P=0.062)。
図8】リン酸化RORγtがヒト自己免疫T細胞においてAhRと相互作用することを示す図である。(A)増幅発光近接均一アッセイ(ALPHA)により決定されたHEK293T細胞のライセートにおけるMyc-AhR及びFlag-RORγtの相互作用(<200nm)のシグナルである。平均±SDを示す。p-RORγtペプチドはS489リン酸化RORγtペプチド、482-LFSTDVE{pS}PEGLSK-495を表す。(B)SLE患者3人、RA患者1人及びHC 3人から新鮮に単離した末梢血T細胞におけるp-RORγt(Ser-489)及びRORγtの免疫ブロッティングである。(C)SLE患者5人、RA患者3人及び健常対照2人から新鮮に単離した、末梢血T細胞におけるAhR及びRORγtの相互作用についてのPLAの共焦点顕微鏡法である。(D)SLE患者2人、RA患者2人、及び健常対照1人由来の末梢血T細胞における内因性AhR及びリン酸化RORγtの相互作用についてのPLAの共焦点顕微鏡法である。SLEは全身性エリテマトーデス、RAは関節リウマチ、HCは健常対照。原拡大率は×630、バーは10μm。
図9】GLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)によりAhR-RORγt複合体が遮断されることを示す図である。(A)示されている濃度下のGLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)で処理又は非処理の安定なGLKトランスフェクトCHO-K1細胞におけるNF-κB駆動レポーターアッセイのルシフェラーゼ活性である。倍率変化は、ベクター対照の値と比較して表す。(B)GLKキナーゼドメインの組換えタンパク質に加えてGSTタグ化キナーゼ不活性PKCθ(K409W)の組換えタンパク質を、GLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)の存在又は非存在下でin vitroでのキナーゼアッセイに供した。平均±SDを示す。*はP値<0.05、**はP値<0.01(両側ステューデントt検定)。(C)AhR-RORγt複合体は、GLK阻害物質により阻害された。C1(ベルテポルフィン)(5μM)で30分間処理した末梢血T細胞におけるAhR及びRORγt又はホスホRORγt(S489)のいずれかとの相互作用についての近接ライゲーションアッセイ(PLA)の共焦点顕微鏡法である。T細胞は、SLE患者4人及びRA患者1人から新鮮に単離した。C1はベルテポルフィンを表し、C2はアレキシジン二塩酸塩を表す。(D)(C)のPLAシグナルの定量である。(E)CFP-AhR、YFP-RORγt及びIKKβプラスミドを共導入したHEK293T細胞のFRETアッセイである。
図10】GLK誘導AhR-RORγt複合体の阻害物質により、マウスにおいてIL-17産生及び自己免疫応答が抑制されることを示す図である。(A〜C)Lck-GLK Tgマウスにおける血清IL-17A及び自己抗体に対するGLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)投与(0.556nmole/gを3日毎30日間)の作用である。(B)C1(ベルテポルフィン)又はPBSで処置したLck-GLK Tgマウスにおける示されている血清サイトカインのELISAである。(C)C1(ベルテポルフィン)又はPBSで処置したLck-GLK Tgマウスにおける血清自己抗体のELISAである。平均±SEMを示す。(D)PBS又はGLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)及びC2で処置した野生型マウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の誘導である。臨床スコアは、1〜5のスケール上に表す(左のパネル)。16日目のMOG免疫化マウス由来の血清におけるIL-17AのELISAである(右のパネル)。(E)GLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)又はPBSで処置した野生型マウスにおけるコラーゲン誘発関節炎(CIA)の誘導である。臨床スコアは、1〜16のスケール上に表す(左のパネル)。28日目のコラーゲン免疫化マウス由来の血清におけるIL-17AのELISAである。平均±SEMを示す。*はP値<0.05、**はP値<0.01、***はP値<0.001(両側ステューデントt検定)。C1はベルテポルフィンを表し、C2はアレキシジン二塩酸塩を表す。
図11】ベルテポルフィンによりTh17分化は阻害されるが、Treg分化は増強されることを示す図である。(A)IL-17A産生CD4+T細胞のフローサイトメトリーである。脾臓T細胞を、in vitroでのTh17分化の間にベルテポルフィン(C1)(1又は5μM)で同時処理した。(B)IL-17A産生CD4+T細胞のフローサイトメトリーである。マウスin vitro分化Th17細胞をPMAに加えてイオノマイシンで刺激し、ベルテポルフィン(C1)(1又は5μM)で30分間同時処理した。(C)Foxp3産生CD4+T細胞のフローサイトメトリーである。脾臓T細胞を、in vitroでのTreg分化の間にベルテポルフィン(C1)(5μM)で同時処理した。(D)野生型又はLck-GLK遺伝子導入マウスのCD4+T細胞から分化したFoxp3産生CD4+T細胞のフローサイトメトリーである。
図12】GLK誘導AhR-RORγt複合体の阻害物質によりヒトT細胞のIL-17産生が遮断されることを示す図である。(a)抗CD3/CD28で刺激し、C1(ベルテポルフィン)(5μM又は10μM)で3日間処理したマウス初代T細胞の上清における種々のサイトカインのELISAである。平均±SDを示す。(b)ヒトT細胞の上清におけるIL-17AのELISAである。T細胞を抗CD3/CD28で刺激し、C1(ベルテポルフィン)(1μM又は5μM)又はC2(1μM又は5μM)で3日間処理した。HCは健常対照、SLEは全身性エリテマトーデス、RAは関節リウマチ、ASは強直性脊椎炎、PsAは乾癬性関節炎、PSSは原発性シェーグレン症候群。平均±SDを示す。C1はベルテポルフィンを表し、C2はアレキシジン二塩酸塩を表す。
図13】GLKにより肺がんの遠隔転移が誘導されることを示す図である。(A)Pol II-GLK遺伝子導入構築物の模式図である。GLK遺伝子導入マウスでは、ヒトGLK cDNAは、マウスRNAポリメラーゼII(POl II)プロモーターにより駆動した。(B)マウス由来のマウス末梢血細胞における遺伝子導入ヒトGLK(hGLK)mRNAレベルのリアルタイムPCRである。ヒトGLK mRNAレベルは、マウスSrp72 mRNAレベルに対して正規化した。平均±SEMを示す。WTは野生型同腹仔対照、Pol II-GLKはPol II-GLK遺伝子導入マウス。(C)8か月齢の野生型(WT)、SPA-EGFRdel遺伝子導入、又はSPA-EGFRdel;Pol II-GLK遺伝子導入マウス由来の肺組織における、肺がんメーカーである増殖細胞核抗原(PCNA)又はH&E染色の代表的免疫組織化学である。スケールバーは100μm。(D及びE)1歳の示されているマウス由来の肺(D)、頸部リンパ節(E)、脳(E)、又は肝臓(E)におけるEGFR欠失変異体発現又はH&E染色の代表的免疫組織化学である。LNは頸部リンパ節。スケールバーは100μm。
図14】GLK阻害物質により示されているがん由来の細胞の遊走が遮断されることを示す図である。GLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)(a、2μM又は5μM)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)(b、2μM又はμM)で処理したヒト神経膠腫U87細胞、ヒト膵がんPanc-1細胞、マウス肺がんLL2細胞、又はヒト肝細胞腫Huh-7細胞のトランスウェル遊走アッセイである。C1はベルテポルフィンを表し、C2はアレキシジン二塩酸塩を表す。
図15】GLK阻害物質により、肺がん異種移植モデルにおける腫瘍増殖が抑制されることを示す図である。(A)マウスTC-1肺がん細胞を野生型マウスの右腹側に皮下接種して、TC-1異種移植モデルを確立した。TC-1細胞接種マウスにPBS、C1(ベルテポルフィン)(10μM)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)(17μM)を3日毎15日間静脈内注射した。(B)PBS、C1(ベルテポルフィン)(10μM)又はC2(17μM)処理を受けた後に切除したTC-1肺がんの写真である。(C)腫瘍の増殖(平均腫瘍量)を15日間測定した。C1又はC2の投与後の経時的なTC1腫瘍サイズの進行である。N.D.は検出不可能。C1はベルテポルフィンを表し、C2はアレキシジン二塩酸塩を表す。
図16】GLK阻害物質によりマウスにおける肺がん転移が抑制されることを示す図である。(A)GLKキナーゼドメイン構造のC1(ベルテポルフィン)との分子ドッキングである。3次元構造モデルでは、リン酸化Ser-170を含む予想したGLKキナーゼドメインへのC1の結合を示す。推定結合親和性は、-7.4kcal/molであった。(B)GLKキナーゼドメイン構造のC2(アレキシジン二塩酸塩)との分子ドッキングである。3次元構造モデルでは、リン酸化Ser-170を含む予想したGLKキナーゼドメインへのC2の結合を示す。推定結合親和性は、-7.0kcal/molであった。(C)Flag-GLK及びGFP-GLKプラスミドを共導入したHEK293T細胞のライセートを使用したFlagタグ化GLK及びGFP融合GLKの共免疫沈降(co-IP)である。細胞をC1(ベルテポルフィン)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)で処理した。(D)LLC/luc転移肺がんマウスモデルにおける3日毎30日間のGLK阻害物質C1(0.556nmole/g)又はC2(0.085nmole/g)の投与である。(E)C1(ベルテポルフィン)、C2(アレキシジン二塩酸塩)又はビヒクルで処置したマウスにおけるルシフェラーゼ活性をIVIS Spectrumにより検出した。(F)(e)の画像におけるLLC/luc細胞から発せられた光子の発光強度を定量した。(G)C1(ベルテポルフィン)、C2又はビヒクルで処置したマウス由来の肺組織におけるH&Eの代表的免疫組織化学検査である。スケールバーは0.5cmである。(H)LLC/luc転移肺がんマウスモデルにおける、C1(ベルテポルフィン)、C2(アレキシジン二塩酸塩)又はビヒクルで処置したマウス由来の肺組織におけるGLK及びIQGAP1(上のパネル)又はリン酸化IQGAP1 Ser-480(下のパネル)との相互作用のin situでのPLAアッセイである。原拡大率は×40。
図17】GLK欠損マウスが寿命の延長を呈することを示す図である。(A)野生型マウス10匹又はGLK欠損マウス15匹の生存曲線は、生命表法により算出した。GLK欠損マウスは、野生型マウスと比較して寿命の有意な延長を示した(ウィルコクソン検定、P=0.001)。(B)16か月齢野生型マウスは灰色毛を呈したが、38か月齢GLK欠損マウスは健常な毛をなお呈した。(C)4.5か月齢野生型、20か月齢野生型、又は20か月齢GLK欠損マウスの血清における種々のサイトカインのELISAである。平均±SEMを示す。WTは野生型マウス、GLK KOはGLK欠損マウス。*はP値<0.05、**はP値<0.01(両側ステューデントt検定)。
図18】GLKがIQGAP1と直接相互作用することを示す図である。(A)チロシンホスファターゼ阻害物質過バナジン酸(25μM)の存在又は非存在下で空のベクター又はFlagタグ化GLKをトランスフェクトしたHEK293T細胞からの抗Flag免疫沈降物の銀染色ゲルである。矢印は、GLK又はGLK相互作用タンパク質の位置を示す。(B)GLKタンパク質の4つの過バナジン酸誘導チロシンリン酸化残基を列挙した。(C及びD)Flagタグ化GLK、Mycタグ化IQGAP1又は両方のプラスミドをトランスフェクトしたHEK293T細胞のライセートからの抗Flag(C)又は抗Myc(D)免疫複合体の共免疫沈降である。免疫沈降前のホールセルライセート免疫ブロット(IP前)は、各パネルの下部に示す。βチューブリンをローディングコントロールとして使用した。(E)Flagタグ化GLK又はFlagタグ化GLK変異体(Y366F、Y379F、Y574F又はY735F)のいずれかをトランスフェクトしたHEK293T細胞のライセートからの抗Flag免疫複合体の共免疫沈降である。HEK293T細胞を25μMの過バナジン酸で2時間処理した。(F)空のベクター、3×Flagタグ化GLK、Mycタグ化IQGAP1又はGLKをIQGAP1プラスミドとともにトランスフェクトしたHEK293T細胞のin situでのPLAである。矢印はPLAシグナル(赤色の点)を示す。原拡大率は×40。スケールバーは10μm。(G)1視野あたりの各群の相対PLAシグナルは、プロット上に示す。(H)CFP及びYFP融合GLK及びIQGAP1タンパク質をコードする示されているプラスミドをトランスフェクトしたHEK293T細胞のFRETアッセイである。FRETシグナルは、C1(ベルテポルフィン)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)の処理により阻害された(右のパネル)。(I)精製したFlagタグ化GLK及びMycタグ化IQGAP1タンパク質の共免疫沈降(Co-IP)である。HEK293T細胞ライセート由来のFlagタグ化GLK及びMycタグ化IQGAP1タンパク質を、Flag及びMycペプチドによりそれぞれ溶出した。**はP値<0.01、***はP値<0.001。
図19】GLKによるIQGAP1のSer-480におけるリン酸化により、肺がん細胞遊走が制御されることを示す図である。(A)精製した野生型GLK、キナーゼ不活性GLK及びIQGAP1のin vitroでのキナーゼアッセイ及び免疫ブロッティングである。次いで、IQGAP1のリン酸化をTyphoon scanner(GE社)により定量した。(B)活性(GTP結合)Cdc42タンパク質を、Cdc42及びGLKに加えてIQGAP1又はIQGAP1(S480A)変異体のいずれかを共導入したHEK293T細胞のライセートから免疫沈降させた後、免疫ブロッティング解析を行った。下のパネルは、IQGAP1及びCdc42との間の共免疫沈降(相互作用)を示した。(C)活性(GTP結合)Rac1タンパク質を、Rac1及びGLKに加えてIQGAP1又はIQGAP1(S480A)変異体のいずれかを共導入したHEK293T細胞のライセートから免疫沈降させた後、免疫ブロッティング解析を行った。下のパネルは、IQGAP1及びRac1との間の共免疫沈降(相互作用)を示した。(D及びE)(B)又は(C)と同様に細胞ライセートにおけるCdc42又はRac1酵素活性を、G-LISA Activation Assay Biochem Kitを使用して決定した。陽性はアッセイキットの陽性対照。SAはIQGAP1(S480A)変異体。(F)Flagタグ化GLK又はGLK(P436/437A;P478/479A)プラスミドに加えてMycタグ化IQGAP1、IQGAP1(S480A)又はIQGAP1(ΔWW)を発現するプラスミドをトランスフェクトしたHCC827細胞の遊走アッセイである。原拡大率は×10。スケールバーは20μm。(G)1視野あたりの遊走した細胞の相対数をプロット上に示す。(H)示されているプラスミドをトランスフェクトしたHCC827細胞由来のGLK及びIQGAP1タンパク質の免疫ブロッティングである。(I)Flagタグ化活性型GLK(E351K)に加えてMycタグ化IQGAP1 WT又はIQGAP1-S480A変異体のいずれかを共導入したHEK293T細胞におけるホスホIQGAP1(Ser-480)の免疫ブロッティングである。*はP値<0.05。
図20】GLKにより肺がんの遠隔転移が誘導されることを示す図である。(A)恒常的活性化GLK(E351K)変異体により、野生型GLKよりも高いIKKのリン酸化レベルが誘導される。示されているプラスミドをトランスフェクトしたジャーカットT細胞由来のホスホIKK及びGLKタンパク質の免疫ブロッティングである。チューブリンをローディングコントロールとして使用した。(B)GLK又はGLK(E351K)変異体タンパク質のADPベースキナーゼアッセイである。Flagタグ化GLK又はGLK(E351K)タンパク質を、トランスフェクトしたHEK293T細胞ライセートから免疫沈降させた。(C)Pol II-GLK-E351K遺伝子導入構築物の模式図である。恒常的活性化ヒトGLK(E351K)変異体cDNAをマウスRNAポリメラーゼII(POl II)プロモーターにより駆動した。(D)マウス由来のマウス末梢血細胞における遺伝子導入ヒトGLK-E351K(hGLKE351K)mRNAレベルのリアルタイムPCRである。ヒトGLK mRNAレベルは、マウスSrp72 mRNAレベルに対して正規化した。WTはn=4、POl II-GLKE351Kはn=4。平均±SEMを示す。WTは野生型同腹仔対照、Pol II-GLKE351KはGLKE351K遺伝子導入マウス。(E)SPA-EGFRdel遺伝子導入マウス及びSPA-EGFRdel;Pol II-GLKE351K遺伝子導入マウス由来の肺がんにおけるGLK発現の免疫組織化学である。スケールバーは100μm。(F)7か月齢SPA-EGFRdel;Pol II-GLKE351K遺伝子導入マウス及びSPA-EGFRdel;Pol II-GLKE351K;IQGAP1-/-マウス由来の肺がんにおけるEGFR欠失変異体発現及びH&E染色の代表的免疫組織化学である。スケールバーは100μm。(G)7か月齢SPA-EGFRdel;Pol II-GLKE351K遺伝子導入マウス及びSPA-EGFRdel;Pol II-GLKE351K;IQGAP1-/-マウス由来の脳及び肝臓におけるEGFR欠失変異体発現又はH&E染色の代表的免疫組織化学である。スケールバーは100μm。個々の群由来の組織におけるEGFR欠失変異体発現の比較である(下のパネル)。
図21】GLK-IQGAP1複合体がヒトNSCLCの低い生存と相関することを示す図である。(A)代表的患者由来の正常隣接組織、扁平上皮癌(NSCLCの1種)組織、腺癌(NSCLCの1種)組織、小細胞肺癌(SCLC)組織におけるGLK及びIQGAP1の相互作用のin situでのPLAアッセイである。原拡大率は×40。(B)1組織あたりの各群のGLK及びIQGAP1の相互作用のPLAシグナルをプロット上に示す。NSCLCは、扁平上皮癌(SCC、n=56)、腺癌(ADC、n=17)、細気管支肺胞上皮癌(BC、n=11)及び大細胞癌(LCC、n=8)を含んだ。正常隣接(NA)組織はn=68。小細胞肺癌(SCLC)はn=3。(C)NSCLC(n=66)のGLK-IQGAP1 PLAシグナル(高PLAシグナル対低PLAシグナル)による生存のカプラン・マイヤー推定である。P値は、ログ・ランク検定を使用して算出した。(D)肺、リンパ節、及び骨組織の転移性NSCLC細胞におけるGLK及びIQGAP1の相互作用のin situでのPLAである。PCNA染色(緑色、FITC)を使用して肺がん細胞を標識した。点線は、肺組織における血管の血管壁を示す。(E)IQGAP1及びホスホIQGAP1(Ser-480)に対応するPLAプローブ対の組合せを使用した、代表的扁平上皮癌患者及び代表的腺癌患者由来の腫瘍組織におけるリン酸化IQGAP1 Ser-480のin situでのPLAである。PCNA染色(緑色、FITC)を使用して肺がん細胞を標識した。原拡大率は×40。(F)1組織あたりの各群のGLK及びIQGAP1の相互作用のPLAシグナルをプロット上に示す。NSCLCは、扁平上皮癌(SCC、n=53)、腺癌(ADC、n=17)、細気管支肺胞上皮癌(BC、n=11)及び大細胞癌(LCC、n=8)を含んだ。正常隣接(NA)組織はn=68。小細胞肺癌(SCLC)はn=3。(G)NSCLC(n=63)のp-IQGAP1(Ser-480)PLAシグナル(高PLAシグナル対低PLAシグナル)による生存のカプラン・マイヤー推定である。組織アレイの中でも、組織アレイスライド上のSCC組織3つが損傷し、このため、66種の組織のうちの63種のみを解析した。P値は、ログ・ランク検定を使用して算出した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
用語「抗ホスホRORγt[Ser489]抗体」は、「ホスホペプチド(例えば、マウスRORγtエピトープ:483FSTDVE[pS]PEGLSK495;配列番号5)によるウサギの免疫化により生成し得る、リン酸化RORγtセリン489に対する抗体」を指す。
【0026】
用語「AhR+RORγt+IKKβ高発現細胞」は、AhR、RORγt及びIKKβをそれぞれコードする3つの異なるプラスミドが共導入(コトランスフェクト)され、細胞において3つのタンパク質の高発現を示す細胞を指す。
【0027】
用語「PLAプローブとしての2次抗体」は、1対のオリゴヌクレオチド標識2次抗体を指し、これはDUOLINK(登録商標)抗ウサギPLUS及び抗マウスMINUS PLAプローブである。これらのプローブは、抗マウスIgG及び抗ウサギIgGである。
【0028】
略語:シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、DYKDDDDK(配列番号1、FLAG(商標)ペプチド)、アリール炭化水素受容体(AhR;配列番号29)、レチノイン酸受容体関連オーファン核内受容体ガンマt(RORγt)(又はRAR関連オーファン受容体ガンマ、転写物変異体2;配列番号30)、ras GTPアーゼ活性化様タンパク質IQGAP1(配列番号28)、Mus IL17Aプロモーター配列(配列番号31)。
【0029】
発明者らは、GLKシグナル伝達により、AhR及びホスホRORγtの新規の相互作用がPKCθ及びIKKβを介して誘導されてIL-17A転写活性化及び自己免疫応答が生じることを見出した。本発明は、次のように当技術分野に寄与した:(1)RORγtセリン489リン酸化部位、(2)AhR/ホスホRORγt複合体、(3)IKKβによりRORγtセリン489がリン酸化される、(4)GLK-PKCθ-IKKβ-AhR/RORγt-IL-17A、(5)GLKシグナル伝達によりIL-17A転写が選択的に誘導される、(6)TCR刺激によってもRORγtセリン489リン酸化が誘導される、(7)ヒト自己免疫患者のT細胞におけるGLK高発現により誘導されたRORγtセリン489リン酸化及びAhR/ホスホRORγt複合体、並びに(8)AhR/ホスホRORγt複合体、IL-17A産生、又は自己免疫応答を抑制する2つの低分子GLK阻害物質の同定。発明者らの知見は、GLK又はAhR/RORγt複合体形成の阻害物質(例えば、ベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩)をIL-17A媒介自己免疫疾患のためのIL-17A遮断薬として使用し得ることを示唆する。
【実施例】
【0030】
方法
マウス。すべての動物実験は、国家衛生研究院(NHRI)のAAALAC公認動物飼育設備において実施した。すべてのマウスは、NHRIの動物実験委員会により認可されたプロトコール及びガイドラインに従って使用した。フロックスAhRマウス(JAX0062003)、IL-17A欠損マウス(JAX016879)、フロックスRORγtマウス(JAX008771)、及びフロックスIKKβマウス(EMMA001921)をジャクソン研究所又は欧州マウスミュータントアーカイブ(EMMA)から購入した。前述の3つのマウス系統は、C57BL/6背景に対して10世代に亘って戻し交配した。この試験において示すデータは、同性別で4〜26週齢の同腹仔について実施したものである。T細胞発生解析では、5週齢で同性別のマウスを使用した。この試験において使用したすべてのマウスは、温度制御された無菌のケージにおいて維持した。
【0031】
Lck-GLK遺伝子導入マウス及びPKCθノックアウトマウスの作製。完全長ヒトGLKコード配列をlck近位プロモーターの下流に配置した。C57BL/6背景のLck-GLK Tgマウスを、前核マイクロインジェクションを使用して作製した。2つの独立なLck-GLK Tgマウス系統を使用した。PKCθノックアウトマウスは、TALEN媒介遺伝子標的化により作製した。PKCθイントロン1及びエクソン2のヌクレオチド
は、変異アレルにおいて欠失させた。マウスにおけるTALEN媒介遺伝子標的化では、TALEN mRNAの胚マイクロインジェクションを実施した。
【0032】
Pol II-GLK遺伝子導入マウス及びIQGAP1ノックアウトマウスの作製。C57BL/6背景のPol II-GLK Tgマウス及びPol II-GLKE351K Tgマウスを、NHRI遺伝子導入マウスコアによる前核マイクロインジェクションを使用して作製した。完全長ヒトGLKコード領域(野生型又はE351K変異体)をRNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーターの下流に配置した。C57BL/6背景のIQGAP1ノックアウトマウスを、NHRI遺伝子導入マウスコアによるTALEN mRNAの胚マイクロインジェクションを使用して作製した。IQGAP1エクソン1のヌクレオチド(nt)161のグアニンを変異アレルにおいて欠失させた。
【0033】
細胞。ヒトジャーカットT白血病細胞(TIB-152)は、10%のウシ胎仔血清に加えてペニシリン(1mlあたり10ユニット)及びストレプトマイシン(1mlあたり10mg)を含むRPMI-1640培地(Invitrogen社)中で培養した。HEK293T細胞は、10%のFCSに加えてペニシリン(1mlあたり10ユニット)及びストレプトマイシン(1mlあたり10mg)を含むダルベッコ改変イーグル培地中で培養した。使用したすべての細胞株は、試験してマイコプラズマに対して陰性であることを確認した。初代マウスT細胞は、CD11b、B220、CD49b、CD235、及びTER-119(MACS)に対する磁気結合抗体を使用してマウスの脾臓、リンパ節、又は末梢血から負の選択を行った。3日培養したT細胞のIL-17A産生を誘導するために(図1E)、初代T細胞を、ビオチンコンジュゲート抗CD3抗体(1mlあたり3μg)及びストレプトアビジン(1mlあたり3μg)により37℃で3時間刺激した。
【0034】
試薬及び抗体。GLK抗体(α-GLK-N)は、ペプチド(マウスGLKエピトープ:4GFDLSRRNPQEDFELI19、配列番号3;ヒトGLKタンパク質配列4〜19と同一)によるウサギの免疫化により生成し、図2E、3D〜E及び4Fに使用した。抗GLKモノクローナル抗体(クローンC3)は、ペプチド(マウスGLKエピトープ:514EQRGTNLSRKEKKDVPKPI533、配列番号4)によるマウスの免疫化により生成し、図3F、3Iに使用した。リン酸化RORγt Ser-489に対する抗体は、ホスホペプチド(マウスRORγtエピトープ:483FSTDVE[pS]PEGLSK495、配列番号5;ヒトRORγtタンパク質配列485FSTETE[pS]PVGLSK497、配列番号6に対応)によるウサギの免疫化により生成した。抗Myc(クローン9E10)、抗Flag(クローンM2)、及び抗HA(クローン12CA5)抗体は、Sigma社から購入した。抗p-AhR(Ser-36、#A0765)抗体は、Assay Biotechnology社から購入した。抗AhR(クローンRPT9)、抗p-IKKβ(Ser-180/181、#ab55341)、及び抗GAPDH(クローンmAbcam9484、カタログ#ab9482)抗体は、Abcam社から購入した。抗PKCθ(#3551-1)及び抗アクチン(クローンE184)抗体は、Epitomics社から購入した。抗p-PKCθ(Thr-538、#ab63365)、抗p-STAT3(Tyr-705、クローンD3A7)、抗IKKα(#2682)、抗IKKβ(#2678)、抗p-SGK1(Thr-256、#2939)、抗SGK1(クローンD27C11)、抗ヒストン3(#9715S)、抗IRF4(#4964S)、及び抗BATF(#8638S)抗体は、Cell Signaling社から購入した。抗STAT3(#06-596)及び抗RORγt(クローン6F3.1)抗体は、Millipore社から購入した。抗KLF4(#AF3158)及び抗IL-23受容体(#bs-1460)抗体は、R&D社及びBioss社からそれぞれ購入した。
【0035】
プラスミド及び組換えタンパク質。GLK及びGLKキナーゼ不活性変異体(GLK-K45E)のための発現プラスミドは、これまでに報告されていた。CFPタグ化PKCθ、YFPタグ化AhR、CFPタグ化AhR、Mycタグ化PKCθ、HAタグ化AhR、及びFlagタグ化PKCθプラスミドは、個々のcDNAをpCMV6-AC-CFP、pCMV6-AC-YFP、pCMV6-AC-Myc、pCMV6-AC-HA、又はpCMV6-AC-Flagベクターにサブクローニングすることにより構築した。FLAG(商標)タグ化RORγt及びYFPタグ化RORγtプラスミドは、RORγt cDNAをpCMV6-AN-Flag又はpCMV6-AN-YFPベクターにサブクローニングすることにより構築した。HAタグ化IKKβプラスミドは、IKKβ cDNAをpRC-HAベクターにサブクローニングすることにより構築した。HAタグ化AhR-S36A変異体及びMycタグ化PKCθ-K409W(キナーゼ不活性)変異体プラスミドは、部位特異的変異誘発により生成した。また、GSTタグ化PKCθ及びGSTタグ化PKCθ-K409Wプラスミドは、pGEX4Tベクターにサブクローニングすることにより個別に構築した。ヒトGLK shRNA(5'-GTGCCACTTAGAATGTTTGAAA-3'、配列番号7)は、pSUPER-GFPベクター(OligoEngine社)にサブクローニングした。IL-17Aレポータープラスミドは、Dr.Warren Stroberから寄贈された(Addgeneプラスミド#20124)。AhR、RORγt(-877)、RORγt(-120)、又はSTAT3に対する変異結合エレメントを含むIL-17Aプロモーター構築物は、製造者のプロトコールに従ってPHUSION(商標)DNAポリメラーゼ(Thermo Fisher社)を使用した部位特異的変異誘発により生成した。次のプライマーを変異誘発に使用した(変異ヌクレオチドは、太字で示す):
。変異体構築物は、DNAシーケンシングにより確認した。プラスミドpGL4.43-Luc2P-XRE(AhR応答性XRE-Luc)、pGL4.47-Luc2P-SIE(STAT3応答性SIE-Luc)、pGL4.32-Luc2P-NF-κB-RE-Hygro、及びpGL4ルシフェラーゼレポーターベクターは、Promega社から購入した。RORγt(-877)応答エレメント駆動レポーターのためのプラスミドは、RORγt(-877)応答エレメントの4つのコピーをpGL4.43ルシフェラーゼレポーターベクターにクローニングすることにより構築した。in vitroでの結合アッセイでは、精製したAhRタンパク質は、HA-AhRトランスフェクトHEK293T細胞から単離した後、HAペプチドによる溶出を行った。精製した組換えGST-PKCθ及びGST-IKKβタンパク質は、SignalChem社から購入した。精製した組換え6xHis-RORγtタンパク質は、MyBioSource社から購入した。GSTタグ化PKCθ K409Wタンパク質の組換えタンパク質は、大腸菌(E.coli)(BL21)から単離し、次いで、GSTプルダウンアッセイにより精製した。精製したFlagタグ化RORγtタンパク質は、免疫沈降させ、次いで、Flag-RORγtに加えてCFP-IKKβ又はベクターのいずれかを共導入したHEK293T細胞のライセートからFlagペプチドにより溶出させた。GSTタグ化AhRの精製した組換えタンパク質は、Abnova社から購入した。
【0036】
ルシフェラーゼレポーターアッセイ。2kbのIL-17Aプロモーター駆動ホタルルシフェラーゼレポータープラスミド及びウミシイタケルシフェラーゼ制御プラスミド(pRL-TK)は、ジャーカットT細胞に共導入した。24時間後、106細胞を回収してPBSで洗浄し、RPMI培地60μlに加えて溶解バッファー60μlに再懸濁した。データは、ホタルルシフェラーゼ活性のウミシイタケルシフェラーゼ活性に対する比の平均を表す。
【0037】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)。IL-1β、IL-4、IL-6、IL-12、IL-17F、IL-21、IL-22、IL-23、IFN-γ、TNF-α、及びTGF-βの血清レベルは、eBioscience社から購入した個々のELISAキットにより解析した。IL-17Aレベルは、Biolegend社のELISAキットを使用して決定した。抗核抗体(ANA)、抗dsDNA抗体、及びリウマチ因子(RF)の血清レベルは、Alpha Diagnostic International社から購入したELISAキットにより解析した。
【0038】
増幅発光近接均一アッセイ(ALPHA)。ALPHA技術/タンパク質間相互作用アッセイを、Perkin Elmer Life Sciences社による製造者のプロトコールに従って実施した。タンパク質ドナー対が、200nm以内である場合、発光シグナルは、EnVision 2104 Multilabel Readerにより検出された。
【0039】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ。生細胞におけるFRETシグナルは、EnVision 2104 Multilabel Plate Reader(Perkin Elmer社)により検出した。反応は、430nmのフィルター(バンド幅8nm)を通過する光により励起され、530nmのフィルター(バンド幅8nm)を通過する発せられた蛍光の強度を記録した。タンパク質とタンパク質の対が、極めて近接している場合(1〜10nm)、530nmのシグナルが検出される。FRET効率は、次の式:FRET効率=((FRET-CFP×a-YFP×b)/YFP)×100%を使用して算出し、式中、FRET、CFP及びYFPは、FRET、CFP及びYFPフィルターセットを通ってそれぞれ得られた蛍光強度に対応し、a及びbは、それぞれドナー放出及びアクセプター励起クロストーク比である。
【0040】
AhR-RORγt複合体についてのin situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)。PLAアッセイは、製造者の指示に従ってDUOLINK(登録商標)In Situ Red Starter kit(Sigma社)を使用して実施した。簡潔には、細胞は、各分子対(AhRに加えてPKCθ、AhRに加えてRORγt、又はFlagに加えてMyc)に対するウサギ又はマウス1次抗体、その後、オリゴヌクレオチドとコンジュゲートした種特異的2次抗体(PLAプローブ)とともにインキュベートした。ライゲーション及び増幅反応の後、極めて近接した(<40nm)PLAプローブの各対からのPLAシグナルを、蛍光顕微鏡(Leica DM2500)又は共焦点顕微鏡(Leica TCS SP5II)により赤色の個々の点として可視化した。赤色の各点は、直接相互作用を表す。
【0041】
GLK-IQGAP1複合体及びリン酸化IQGAP1についてのin situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)。
無菌のカバースライドに播種した細胞は、Flagタグ化GLK及びMycタグ化IQGAP1発現プラスミドを共導入した後、固定、透過処理、及びブロッキングを行った。GLK-IQGAP1複合体のin situでのPLAアッセイは、製造者の指示に従ってDUOLINK(登録商標)In Situ-Red kit(Sigma社)を使用して実施した。
【0042】
ヒト肺組織を使用する実験では、組織切片は、脱パラフィン処理、抗原賦活化、及び非特異的結合をブロッキングした後、IQGAP1(1:4,000、CUSABIO社)に加えてGLK(1:3,000、mAbクローンC3)又はホスホIQGAP1 Ser-480(1:2,000、Allibio Science社)のいずれかに対する1次抗体を使用してin situでのPLAアッセイを行った。リン酸化IQGAP1 Ser-480に対するモノクローナル抗体は、ホスホペプチド(ヒトIQGAP1エピトープ:473NTVWKQL[pS]SSVTGLT487、配列番号32)によるマウスの免疫化により生成した。次いで、組織切片は、オリゴヌクレオチドとコンジュゲートした種特異的2次抗体(PLAプローブ)とともにインキュベートした後、ライゲーション及び増幅反応を行った。1組織あたり(3.14mm2)のGLK-IQGAP1複合体又はリン酸化IQGAP1についてのPLAシグナルの数を計数した。
【0043】
クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイ。マウスの末梢血T細胞を1%のホルムアルデヒドにより室温で10分間架橋させた。ライセートは、氷上で超音波処理して(3×9秒)ランダムDNA断片(200〜1,000bp)を生成した。細胞抽出物は、5μgの抗RORγt、抗AhR、又は抗STAT3抗体に加えてプロテインG DYNABEADS(商標)(Invitrogen社)を用いて回転ホイール上4℃で4時間免疫沈降させた。3回洗浄後、ランダムDNA断片(IL-17Aプロモーター断片を含む)と転写因子(例えばRORγt、AhR又はSTAT3)の免疫複合体を94℃で15分間インキュベートして逆架橋させ、次いで、プロテアーゼKで処理した。DNA断片は、PCR精製キットを使用して精製し、35サイクルのPCRに供した。RORγt結合部位(-877〜-872)及び(-120〜-115)、AhR結合部位(-254〜-249)、STAT3結合部位(-150〜-145)、IRF4結合部位(-429〜-421)、KLF4結合部位(-1097〜-1083)又はBATF(-243〜-176)を含むIL-17Aプロモーターのプライマーは、
であった。
【0044】
免疫沈降、GST/Hisプルダウン、及び免疫ブロッティング解析。免疫沈降は、タンパク質ライセート0.5〜1mgを抗体1μgとともに4℃で1時間プレインキュベーションすることにより実施した後、プロテインA/G-SEPHAROSE(登録商標)ビーズ20μlを3時間加えた。GST及びHisプルダウンアッセイでは、GSTタグ化タンパク質及びHisタグ化タンパク質に加えてこれらと相互作用するタンパク質を、それぞれグルタチオン-SEPHAROSE(登録商標)ビーズ及びNi-SEPHAROSE(登録商標)ビーズとともに3時間インキュベートした。免疫複合体又はGST/Hisプルダウン複合体は、溶解バッファー(1.5mMのMgCl2、0.2%のNP40、125mMのNaCl、5%のグリセロール、25mMのNaF、50mMのTris-HCl及び1mMのNa3VO4)により4℃で3回洗浄した後、5×ローディングバッファー中95℃で3分間煮沸した。免疫ブロッティング解析を実施した。
【0045】
in vitroGLKキナーゼアッセイ。GLKキナーゼ活性は、ADP-GLO(商標)Kinase Assayキットを使用してin vitroキナーゼ反応におけるADP産生率を測定することにより決定した。キナーゼ反応では、GLKキナーゼドメインの組換えタンパク質(1μg)は、キナーゼ不活性PKCθの組換えタンパク質(K409W、0.15μg)に加えてATP(0.1mM)又はミエリン塩基性タンパク質(MBP)に加えてATP(0.1mM)とともに、キナーゼバッファー(40mMのTris-HCl、pH7.5、20mMのMgCl2、0.1mg/mlのBSA、10mMのDTT及び0.1mMのNa3VO4)中、室温で30分間インキュベートした。
【0046】
GLK阻害物質についての細胞ベースのハイスループットスクリーニング及びin vitroキナーゼスクリーニング。細胞ベースのハイスループットスクリーニングは、約10μMの100,000分子の代表ライブラリーに対して行った。GLK及びNF-κB-ルシフェラーゼレポーターを発現するCHO-GLK-Luc細胞を使用した。反応量は、1,536ウェルプレートにおいて1ウェルあたり5μl(500細胞)であった。陽性対照は、存在しなかった。このハイスループットスクリーニングキャンペーンは、0.57〜0.60に定めたZ'因子を用いて成功した。しかし、細胞は、非常に感受性であり、スクリーニングでは、総計17,884の潜在的ヒットが生じ、これらは、採取され、再スクリーニングして確認した。最終的に、1,392種の化合物がCHO-GLK-Luc細胞のGLK誘導NF-κBルシフェラーゼ活性について高阻害率(>80%)であると同定した。このような1,392種の化合物は、GLKキナーゼ活性の阻害について、キナーゼ不活性PKCθタンパク質を基質として使用したin vitroでのキナーゼアッセイによりさらにスクリーニングした。スクリーニングにより、2つの潜在的低分子GLK阻害物質(IC50<10μM)を同定した。
【0047】
上記の100,000分子に加えて、FDA認可薬物ライブラリーの1,200種の化合物をまた、同一の細胞ベース(>90%阻害)及びin vitroでのスクリーニングの手法を使用して試験した。両ライブラリー(化合物101,200種)から、最も有効な阻害物質は、ベルテポルフィン(本明細書においてC1とも呼ぶ)であり、これは、眼の黄斑変性のためのFDA認可薬物である(Newman、2016)。ベルテポルフィンの式はC41H42N4O8である。ベルテポルフィンは、網膜治療のための光活性化薬であるが、ベルテポルフィン(C1)は、この試験において、いかなる光化学的プロセスもなく使用した。
【0048】
細胞トランスフェクション、T細胞刺激、PKCθ又はIKKβについてのin vitroでのキナーゼアッセイ、及びフローサイトメトリー解析。これらの実験をこれまでに記載のように実施した。
【0049】
免疫蛍光及び共焦点イメージング。細胞を低温メタノール中に2分間固定した。0.25%のTriton X-100による1時間の透過後、細胞を5%のウシ血清アルブミン(BSA)により2時間ブロッキングした。細胞を1次抗体(1:200希釈)とともに24時間、次いで、2次抗体(1:500希釈)とともに2時間インキュベートした。2次抗体ロバ抗ウサギIgG-Alexa Fluor 568及びヤギ抗マウスIgG-Alexa Fluor 488をAbcam社及びlife technologies社からそれぞれ購入した。カバースライドは、FLUOROSHIELD(商標)中にDAPI(GeneTex社)により封入し、Leica TCS SP5共焦点顕微鏡を使用して解析した。
【0050】
in vitroでのT細胞分化アッセイ。CD4+脾臓T細胞をマウスから精製した。細胞(5×105)は、抗CD3(2μg/ml)及び抗CD28(3μg/ml)抗体でコーティングした48ウェルプレートのRPMI培地1ml中で培養した。Th17分化では、脾臓CD4+細胞は、IL-23組換えタンパク質(50ng/ml、R&D社)、IL-6組換えタンパク質(20ng/ml、R&D社)、TGF-β組換えタンパク質(5ng/ml、R&D社)、抗IL-4(5μg/ml、Biolegend社)、及び抗IFN-γ(5μg/ml、Biolegend社)抗体を含む培地中で培養した。Th1の分化では、CD4+脾臓細胞は、IL-12組換えタンパク質(5ng/ml、R&D社)及び抗IL-4抗体(1μg/ml、Biolegend社)を含む培地中で培養した。
【0051】
細胞遊走アッセイ。初代細胞遊走アッセイでは、10%のFBSを加えたIMDM 200ml中の2×105細胞をトランスウェル(孔径8μm、Corning社)の上のチャンバー内に播種し、下のチャンバーには、20%のFBSを加えたIMDM 500μmを搭載した。がん細胞遊走アッセイでは、10%のFBSを加えたRPMI1640 200μl中の5×104細胞をトランスウェル(孔径8μm、Corning社)の上のチャンバー内に播種し、下のチャンバーには、10%のFBSを加えたRPMI1640 500mmを搭載した。37℃で24時間のインキュベーション後、下のチャンバーへの細胞遊走を撮像し、無水メタノールによる固定及び1%のクリスタルバイオレット溶液による染色後に明視野顕微鏡法により計数した。
【0052】
液体クロマトグラフィー質量分析。in vitroでのキナーゼアッセイ後、Flagタグ化RORγtのタンパク質バンドをINSTANTBLUE(商標)染色SDS-PAGEゲルから採取した。タンパク質は、これまでに記載のように、トリプシンにより分解し、LTQ-Orbitrap Eliteハイブリッド質量分析計によるLC-MS/MS解析に供した。
【0053】
統計解析。すべての実験は、少なくとも3回繰り返した。データは、平均±SEMとして表す。2つの独立した群間の統計学的有意性は、両側ステューデントt検定を使用して解析した。0.05未満のP値は、統計学的に有意であると考える。
【0054】
細胞培養物及び種々のアッセイは、本発明の作製及び実行、例えば、以下において使用し得る。
【0055】
細胞ベースアッセイ:IL-17A ELISA、IL-17A転写レポーターアッセイ又は免疫ブロッティングにより決定されたLck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞又は活性化T細胞を使用した薬物スクリーニング。
【0056】
GLK高発現安定細胞を確立する。ジャーカット細胞にGLKプラスミド及び2kbのIL-17Aプロモーター駆動ホタルルシフェラーゼレポータープラスミドをNeon Transfection System(Invitrogen Corporation社)を使用してトランスフェクトした。GLK高発現安定細胞を選択するために、ネオマイシンを含むRPMI-1640中で細胞を少なくとも2週間培養した。
【0057】
IL-17A酵素結合免疫吸着アッセイ。Lck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞、又はTCR活性化T細胞をRPMI培地(200ml)中で72時間インキュベートした。上清中のIL-17Aのレベルは、IL-17Aについての酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により決定した。
【0058】
IL-17Aプロモーター活性についてのルシフェラーゼレポーターアッセイ。GLK高発現安定ジャーカット細胞106個は、RPMI培地60μlに加えて溶解/ルシフェラーゼバッファー60μl中に再懸濁した。データは、ホタルルシフェラーゼ活性の平均を、標準誤差(SEM)エラーバーとともに示す。
【0059】
RORγtセリン489リン酸化。Lck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞、又はTCR活性化T細胞は、抗ホスホRORγt[S489]抗体を使用して免疫ブロッティングに供した。
【0060】
タンパク質間相互作用アッセイ:蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ、増幅発光近接均一アッセイ(ALPHA、PerkinElmer社)、近接ライゲーションアッセイ(PLA)、及びクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイ。
【0061】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ。HEK293T細胞にCFP-AhR、YFP-RORγt及びIKKβプラスミドを共導入し、蛍光強度をENSPIRE(商標)2300 Multilabel Readerを使用して24時間後に検出した。CFPは、432nmで励起させ、485nmで発せられた蛍光強度の結果を測定した。YFPは、485nmで励起させ、540nmで発せられた蛍光強度の結果を測定した。FRETシグナルは、432nmで励起させ、540nmで発せられた蛍光強度の結果を測定した。
【0062】
増幅発光近接均一アッセイ(ALPHA)。AlphaScreen結合アッセイは、384ウェルで白色のProxiplate、総量20μlにおいて行った。AlphaScreen Flag検出キットは、PerkinElmer Life Science社のものである。AlphaScreenドナービーズをFlagコーティングビーズとして添加し、アクセプタービーズは、抗Myc抗体にコンジュゲートさせた。Flagタグ化AhRタンパク質及びリン酸化Mycタグ化RORγtタンパク質は、384ウェルプレート(5μl/ウェル)内でともに混合した。HEK293Tトランスフェクタント(Flag-AhR、Myc-RORγt及びIKKβプラスミドを共導入した細胞)を使用する場合、1ウェルあたりライセート0.2μgを加えた。GLK-IQGAP1相互作用の検出では、細胞にFlag-GLK及びMyc-IQGAP1を共導入した。アクセプタービーズ(5μl/ウェル)を加えて30分間インキュベートした。引き続いてドナービーズ(5μl/ウェル)を加えて3時間インキュベートした後、EnVisionマルチラベルリーダー(PerkinElmer life Science社)により測定した。ドナー及びアクセプタービーズの最終濃度は、20μg/mlであった。すべての希釈は、HEPESバッファー(10mMのHEPES、150mMのNaCl、0.05%のTween-20、0.5mMのDTT)を用いて作製した。
【0063】
in situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)。Lck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞、活性化T細胞又はAhR+RORγt+IKKβ高発現細胞を使用した。PLAアッセイは、製造者の指示に従ってDUOLINK(登録商標)in situ Red Starterキットを使用して実施した。簡潔には、細胞を各分子対に対するウサギ又はマウス1次抗体(抗AhR抗体+抗RORγt抗体又は抗AhR抗体+抗ホスホRORγt[Ser489]抗体)の後、オリゴヌクレオチドとコンジュゲートした種特異的2次抗体(PLAプローブ)とともにインキュベートした。ライゲーション及び増幅反応の後、極めて近接した(<40nm)PLAプローブの各対からのPLAシグナルを蛍光又は共焦点顕微鏡により赤色の個々の点として可視化した。赤色の各点は、直接相互作用について表す。
【0064】
共免疫沈降アッセイ。HEK293T細胞は、Myc-AhR、Flag-RORγt及びIKKβプラスミドを共導入した。免疫沈降では、細胞抽出物は、溶解バッファー中の抗Flagアガロースビーズ又は抗Mycアガロースビーズとともに、持続回転により4℃で2時間インキュベートした。生じた免疫沈降物は、溶解バッファーで3回洗浄し、抗Myc又は抗Flagを用いて免疫ブロットした。
【0065】
クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイ(IL-17Aプロモーター上のAhR結合部位へのRORγtの結合を検出するため)。Lck-GLK遺伝子導入マウスのT細胞、GLK高発現T細胞、活性化T細胞、又はAhR+RORγt+IKKβ高発現細胞は、1%のホルムアルデヒドにより室温で10分間架橋させた。ライセートは、氷上で超音波処理して(3×9秒)、200〜1,000bpのDNA断片を生成した。細胞抽出物は、5μgの抗RORγt抗体に加えてプロテインG DYNABEADS(商標)を用いて回転ホイール上4℃で4時間免疫沈降させた。3回の洗浄後、免疫複合体を94℃で15分間インキュベートして逆架橋させ、次いで、プロテアーゼKで処理した。DNA断片は、PCR精製キットを使用して精製し、35サイクルのPCRに供した。AhR結合部位(-254〜-249)を含むIL-17Aプロモーターのプライマーは、
であった。
【0066】
結果
Lck-GLK遺伝子導入マウスにIL-17Aにより自己免疫疾患を発症させる
in vivoでのGLK高発現の結果を試験するために、発明者らは、T細胞特異的GLK遺伝子導入(Lck-GLK Tg)マウスを生成した。Lck-GLK Tgマウスは、T細胞及びB細胞の正常発生を呈したが、マウスは、8〜16週齢で後肢及び尾の麻痺、眼の混濁、又は直腸炎及び皮膚炎の症候を呈した。また、Lck-GLK Tgマウスは、肝脾腫並びにリンパ節及び腎臓の肥大を示した。組織染色により、これらのマウスにおいて肺炎、腎炎、及び脾臓の異常の誘導が示された(図1A)。また、Lck-GLK Tgマウスにおける血清自己抗体の誘導は(図1B)、これらのマウスにおける自己免疫応答の発生を示唆する。Lck-GLK Tgマウスにおける自己免疫疾患にどの炎症促進性サイトカインが寄与するのかを試験するために、血清サイトカインをELISAにより決定した。驚くべきことには、IL-17Aのみが4週齢Lck-GLK Tgマウスの血清において選択的に誘導されたが(図1C)、炎症促進性サイトカインIFN-γ及びTNF-αは誘導されなかった。一貫して、Lck-GLK Tg T細胞のin vitroでのTh17分化は、野生型T細胞の分化と比較して増加したが、Lck-GLK Tg T細胞のin vitroでのTh1分化は、影響されなかった。その上、IL-17A産生は、Lck-GLK Tgマウスの非刺激T細胞において、野生型マウスの産生と比較して誘導された。導入遺伝子の潜在的位置効果を除外するために、第2のLck-GLK Tgマウス系統(Lck-GLK #2)をまた、特性決定した。また、Lck-GLK Tgマウスの第2の系統は、T細胞におけるGLKの高発現及び血清IL-17Aレベルの誘導を呈した。これらのデータは、T細胞におけるGLKの高発現によりマウスにおけるIL-17A産生が誘導されることを示唆する。
【0067】
Lck-GLK TgマウスにおけるIL-17Aの病因的役割を実証するために、Lck-GLK TgマウスをIL-17A欠損マウスと交配した。GLKにより誘導された血清IL-17AレベルはIL-17Aの欠損により有意に低下したが、他の炎症性サイトカインレベルは影響されなかった。その上、自己抗体レベルも、Lck-GLK Tg/IL-17A欠損マウスにおいて、Lck-GLK Tgマウスにおけるレベルと比較して有意に低下した(図1D)。Lck-GLK Tg/IL-17A欠損マウスは、腎臓、肝臓及び肺における浸潤性炎症細胞の減少を呈し、さらに、脾臓における白色髄及び赤色髄は、Lck-GLK Tgマウスにおける分布と比較して正常な分布を示した。データは、IL-17AがLck-GLK Tgマウスにおける自己免疫応答に寄与することを示唆する。IL-17Aの誘導がGLK高発現に起因することをさらに実証するために、発明者らは、Lck-GLK T細胞をGLK shRNAで処理した。IL-17A高発現は、Lck-GLK Tgマウスから精製したT細胞におけるGLK shRNAノックダウンにより消失した(図1E)。これらの結果は、GLK高発現により、IL-17A高産生及び後続の自己免疫表現型がマウスにおいて誘導されることを実証する。
【0068】
GLKによりAhR及びRORγtの活性化を介してIL-17A転写が誘導される
IL-23受容体及びリン酸化STAT3のレベルはLck-GLK TgマウスのT細胞において上昇せず、IL-17A高発現がIL-23シグナル伝達又はIL-6/STAT3シグナル伝達の増強に起因しないことを示唆した。IL-17Aタンパク質レベルと一致して、IL-17AのmRNAレベルは、Lck-GLK Tgマウスの精製T細胞において、野生型マウスのレベルと比較して有意に上昇した(図2A)。発明者らは、IL-17A高発現がIL-17Aプロモーターの転写活性化に起因するかどうかを試験した。ジャーカットT細胞におけるIL-17Aプロモーター活性は、GLK高発現によって増強されたが、GLKキナーゼ不活性(K45E)変異体によっては増強されなかった(図2B)。次いで、個々のIL-17A転写因子のIL-17Aプロモーターへの結合を試験した(図2C〜D)。クロマチン免疫沈降(ChIP)解析では、AhR及びRORγt(-877)のIL-17Aプロモーターへの結合はLck-GLK TgマウスのT細胞において誘導されたが(図2D)、STAT3、IRF4、KLF4及びBATFのIL-17Aプロモーターへの結合は増強されなかったことが示された(図2D)。興味深いことには、RORγtのIL-17Aプロモーターの-120領域への結合は顕著には誘導されず(図2D)、類似の知見が他に報告されていた(Jainら、2016; Zhangら、2008)。ChIPのデータと一致して、GLK増強IL-17Aレポーター活性は、AhR結合エレメント又はRORγt結合部位(-877)の変異により消失したが、GLK誘導IL-17Aレポーター活性は、STAT3結合部位(図2E)又はRORγt(-120)結合部位の変異により影響されなかった。注目すべきことには、AhR応答エレメント駆動レポーター(XRE-Luc)活性はGLK高発現により誘導されたが(図2F)、RORγt(-877)又はSTAT3応答エレメント駆動レポーター(RORγt-Luc又はSIE-Luc)活性は影響されなかった(図2F)。これらの結果は、GLKシグナル伝達によりIL-17A転写がAhR及び恐らくはRORγtの活性化を介して誘導されることを示唆する。
【0069】
GLKによりAhRを介してIL-17A産生及び自己免疫応答が制御される
Lck-GLK TgマウスのIL-17A産生の促進におけるAhRの役割をさらに実証するために、発明者らは、Lck-GLK TgマウスをT細胞特異的AhRノックアウト(AhR cKO:AhRf/f;CD4-Cre)マウスと交配した。血清IL-17Aレベルは、Lck-GLK/T-AhR cKO(Lck-GLK;AhRf/f;CD4-Cre)マウスにおいて大幅に低下したが、血清TNF-α及びIFN-γレベルは、AhR欠損により影響されなかった(図3A)。また、抗核抗体(ANA)、抗dsDNA抗体、及びリウマチ因子(RF)のレベルは、Lck-GLK/AhR cKOマウスにおいて、Lck-GLK Tgマウスにおけるレベルと比較して低下した(Chuang Huai-Chiaら「MAP4K3/GLK promotes lung cancer metastasis by phosphorylating and activating IQGAP1」Cancer Research、2019、図S5A)。組織染色により、Lck-GLK Tgマウスにおける腎炎及び脾臓の異常の誘導がAhRノックアウトにより消失したことが示された。また、Lck-GLK Tgマウスの肝臓における炎症性免疫細胞の浸潤が、AhRノックアウトにより抑制された。データは、AhRがLck-GLK TgマウスのIL-17A高発現及び自己免疫応答において重要な役割を果たすことを示す。
【0070】
PKCθによりAhRがSer-36においてリン酸化され、AhR核移行が誘導される
共焦点画像(2つの異なる抗AhR抗体を使用、図3B)及び細胞内分画実験(図3C)は、AhR核移行がLck-GLK TgマウスのT細胞において増強されたことを示した。加えて、発明者らは、GLKシグナル伝達により、AhRのリン酸化の促進を介してAhR核移行が誘導されるかどうかを調べた。ホスホSer-36 AhRを検出する唯一の市販の抗ホスホAhR抗体が存在するが、AhR核移行におけるSer-36リン酸化の役割は、実証されていない。興味深いことには、AhRリン酸化についての抗ホスホAhR抗体を使用する免疫ブロッティング解析では、Lck-GLK TgマウスのT細胞においてだけでなく抗CD3刺激T細胞においてもAhR Ser-36リン酸化が増強されたことが示された(図3D)。これらのデータは、GLK高発現(及びTCRシグナル伝達)により、AhR Ser-36リン酸化及び核移行の増強を介してAhR活性がT細胞において誘導され得ることを示唆する。
【0071】
発明者らは、GLK TgマウスのT細胞におけるAhRのリン酸化及び核移行にどのキナーゼが原因となるのかを試験した。SGK1は、Th17集団を安定化させることができる(Wuら、2013)。基礎又はTCR誘導SGK1活性は、Lck-GLK T細胞において変化せず、SGK1がGLK誘導AhRリン酸化に関与しないことを示唆した。T細胞におけるGLKシグナル伝達により、PKCθ、IKKα及びIKKβのキナーゼ活性が誘導される。AhRをどのキナーゼがリン酸化するのかを決定するために、GLK、PKCθ、IKKα、IKKβ及びAhRを、個々にトランスフェクトしたHEK293T細胞からそれぞれ免疫沈降させ、in vitroでのキナーゼアッセイに供した。データは、AhR Ser-36リン酸化がPKCθによりin vitroで大幅に誘導されたことを示した(図3E)。AhR Ser-36リン酸化に対する抗体の特異性は、野生型AhR又はS36A変異トランスフェクタントを使用して免疫ブロッティングにより確認した。免疫蛍光及び共焦点イメージング解析によって、ジャーカットT細胞及びHEK293T細胞においてPKCθ高発現によりAhR核移行が増強されたが、AhR-S36A変異体は、PKCθ高発現細胞においても細胞質に留まったことが示された。データは、AhRのPKCθ媒介Ser-36リン酸化によりAhR核移行が刺激されることを示す。PKCθ及びAhRの相互作用が、Lck-GLK Tgマウスの精製T細胞において誘導された(図3F)。その上、タンパク質間相互作用/ALPHA技術アッセイにより、PKCθ及びAhRの相互作用(<200nm)が示されたが、GLK及びAhRの相互作用は示されなかった。さらに、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)解析では、PKCθ/AhR共導入ジャーカットT細胞においてPKCθ及びAhRの直接相互作用(1〜10nm)が示された。細胞内局在及びタンパク質相互作用(<40nm)をin vivoで試験するために、発明者らは、PKCθ及びAhRに対応するプローブを使用したin situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)を実施した。PLAデータは、Lck-GLK Tgマウス由来のT細胞の細胞質における強力なシグナルを示した(図3G)。Myc及びFlagタグに対応するプローブを使用したin situでのPLAにより、Myc-PKCθ及びFlag-AhR高発現HEK293T細胞において類似の結果が示された。精製PKCθ及びAhRタンパク質を用いたin vitroでの結合アッセイにより、この直接相互作用がさらに確認された。さらに、精製PKCθによりAhRのリン酸化がSer-36において誘導されたが、PKCθの精製キナーゼ不活性(K409W)変異体によっては誘導されなかった(図3H)。これらのデータは、PKCθがAhRと直接相互作用し、Ser-36においてAhRをリン酸化して、AhR核移行が生じることを実証する。
【0072】
AhR核移行におけるPKCθの役割及びin vivoでのこの機能を確認するために、発明者らは、TALEN技術を使用してPKCθノックアウト(KO)マウスを作製した。次いで、Lck-GLK TgマウスをPKCθKOマウスと交配してLck-GLK;PKCθ-/-マウスを作製した。予想したように、T細胞におけるGLK誘導AhR Ser-36リン酸化は、PKCθノックアウトにより消失した(図3I)。免疫蛍光及び共焦点イメージング解析では、AhRがLck-GLK Tgマウス由来のT細胞の核において大量に検出されたことが示された(図3J)。対照的に、AhR発現が、野生型及びLck-GLK遺伝子導入/PKCθノックアウト(Lck-GLK;PKCθ-/-)マウス由来のT細胞の細胞質において検出されたが、核においては検出されなかった(図3J)。IL-17A及び自己抗体の血清レベルは、Lck-GLK;PKCθ-/-マウスにおいて、Lck-GLK Tgマウスにおけるレベルと比較して顕著に低下した。その上、炎症性表現型は、Lck-GLK遺伝子導入/PKCθノックアウトマウスにおいて消失した。まとめると、これらの結果は、GLKによりIL-17A産生がPKCθ-AhRシグナル伝達の活性化を介してT細胞において誘導されることを示す。
【0073】
AhRはRORγtと相互作用し、RORγtを核に移行させる
逆説的に、AhR結合及びRORγt結合の両エレメントは、GLK誘導IL-17Aレポーター活性に必要とされるが(図2E)、GLKによりRORγtではなくAhR応答エレメントの活性が誘導された(図2F)。発明者らは、AhRがRORγt活性の誘導を促進し得るのではないかと考えた。発明者らは、GLKによりIL-17AプロモーターへのRORγtの結合がAhRを介して誘導されるかどうかをはじめに試験した。クロマチン免疫沈降(ChIP)データは、GLKにより誘導された、IL-17AプロモーターへのRORγtの結合が、AhRノックアウトT細胞において消失したことを実際に示した(図4A)。データは、AhRによりRORγtのIL-17Aプロモーターへの結合が促進されることを示唆する。次いで、発明者らは、AhRがRORγtと相互作用するかどうかを試験した。内因性AhR及びRORγtの相互作用が、Lck-GLK TgマウスのT細胞において大幅に増強された(図4B)。共焦点イメージング解析では、Lck-GLK Tgマウス由来のT細胞の核におけるAhR及びRORγtの共局在が示された(図4C)。また、抗RORγt抗体を使用したChIP解析では、IL-17AプロモーターのAhR結合エレメントへのRORγtの結合がLck-GLKマウスのT細胞において示され(図4D)、RORγtがAhR結合エレメントにAhR-RORγt複合体形成を介して結合することを示唆した。その上、AhR及びRORγtに対応するプローブを用いたin situ近接ライゲーション(PLA)により、Lck-GLK Tgマウス由来のT細胞の核において、野生型マウスのシグナルよりも強力な相互作用シグナルが示された(図4E)。これらのデータは、Lck-GLK Tgマウス由来のT細胞の核におけるAhR及びRORγtの直接相互作用を示す。加えて、AhR核移行と同様に、GLK誘導RORγt核移行が、PKCθノックアウトにより消失した(図4C)。データは、PKCθリン酸化AhRによりRORγtが核に動員されることを支持する。AhR媒介RORγt核移行がAhRノックアウトによってさらに確認され、RORγtは、機能性PKCθの存在下であってもLck-GLK;AhRf/f;CD4-CreマウスのT細胞の細胞質において専ら局在した(図4C、下のパネル)。したがって、この結果により、PKCθによってRORγt核移行が直接制御される可能性が除外される。まとめると、これらの結果は、AhRがRORγtと直接相互作用し、GLK高発現T細胞の核にRORγtを移行させることを示す。
【0074】
AhR-RORγt相互作用がIKKβ媒介RORγt Ser-489リン酸化により誘導される
驚くべきことに、in situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)により、Lck-GLK;PKCθ-/-T細胞の細胞質においてもAhR及びRORγtの相互作用が示された(図4E)。この結果は、AhR及びRORγtの相互作用がAhRリン酸化により制御されないことを示唆する。AhR及びRORγtの相互作用が、Lck-GLK;PKCθ-/-T細胞においてやはり検出可能であり(図4E)、この結果は、PKCθノックアウトマウスにおける補償性シグナル伝達現象のためであり得る。AhR及びRORγtの相互作用を刺激するキナーゼを同定するために、発明者らは、AhR-RORγt相互作用の誘導におけるGLK、IKKα又はIKKβの潜在的役割をはじめに試験した。キナーゼGLK、PKCθ、IKKα又はIKKβは、AhRに加えてRORγtをHEK293T細胞に共導入した後、共免疫沈降アッセイを行った。データは、IKKβ高発現によりAhR及びRORγtの相互作用が増強されたが、GLK、PKCθ及びIKKαの高発現によっては増強されなかったことを示した(図4F)。次いで、発明者らは、IKKβによりRORγtリン酸化が刺激され、次いで、RORγtのAhRとの相互作用が誘導されるかどうかを試験した。Flagタグ化RORγtは、RORγtに加えてIKKβ又はベクターのいずれかを共導入したHEK293T細胞から精製した。GSTプルダウンアッセイにより、精製GSTタグ化AhR組換えタンパク質が、RORγtに加えてIKKβを共導入した細胞由来の精製RORγtタンパク質と強力に相互作用することが示された(図4G)。データは、IKKβによりAhR及びRORγtの直接相互作用がRORγtリン酸化の誘導を介して刺激されることを示唆する。反対に、PLAデータは、Lck-GLK TgマウスのT細胞におけるAhR及びRORγtのGLK誘導相互作用が、IKKβノックアウトにより消失したことを示す(図5A)。加えて、共焦点イメージング解析では、GLK遺伝子導入T細胞においてAhRではなくRORγtの核移行がIKKβノックアウトによって特異的に消失したことが示された(図5B)。一貫して、血清IL-17Aレベルはまた、Lck-GLK;IKKβf/f;CD4-Creマウスにおいて、Lck-GLK Tgマウスにおけるレベルと比較して低下した(図5C)。次いで、発明者らは、IKKβがRORγtと直接相互作用するかどうかを試験した。精製された組換えGSTタグ化IKKβ及びHisタグ化RORγtタンパク質を使用したGSTプルダウン及びHisプルダウンアッセイにより、IKKβ及びRORγtの直接相互作用が示された(図5D)。
【0075】
IKKβによりRORγtがリン酸化されるかどうかを試験するために、Flagタグ化RORγt、IKKβ及びIKKβキナーゼ不活性(K44M)変異体をHEK293Tトランスフェクタントから個々に免疫沈降させ、次いで、in vitroでのキナーゼアッセイに供した。データは、RORγtリン酸化がIKKβによりin vitroで誘導されたが、IKKβ-K44M変異体によっては誘導されなかったことを示した(図5E)。IKKβ標的RORγtリン酸化部位を同定するために、in vitroでリン酸化されたFlagタグ化RORγtを単離した後、質量分析を行った。Ser-489が、IKKβによるRORγtリン酸化部位として同定された(図5F)。RORγt Ser-489部位のリン酸化を実証するために、発明者らは、抗ホスホRORγt(Ser-489)抗体を生成し、これは、IKKβを共導入した場合、RORγt WTを特異的に認識したが、S489A変異体は認識しなかった(図5G)。このホスホ抗体を使用する免疫ブロッティングにより、RORγt Ser-489リン酸化がLck-GLK TgマウスのT細胞において誘導され、リン酸化がIKKβノックアウトにより消失したことが示された(図5H)。一貫して、RORγt-S489A変異体は、IKKβ高発現下でAhRと相互作用しなかった(図5I)。まとめると、GLK高発現T細胞では、IKKβは、RORγtをSer-489においてリン酸化してAhRとのこの相互作用を誘導し、次いで、RORγtを核に移行し、RORγtと協同してIL-17A転写を刺激する。
【0076】
リン酸化RORγtは、TCR誘導又はヒト自己免疫T細胞においてAhRと相互作用する
発明者らは、リン酸化RORγt媒介AhR-RORγt相互作用がまた、TCRシグナル伝達により誘導されるかどうかを問うた。発明者らは、IKKβ活性化の後、マウスT細胞におけるRORγt Ser-489リン酸化が、抗CD3刺激により実際に誘導されたことを見出した(図6A)。その上、共免疫沈降アッセイ及びPLAにより、内因性RORγt及びAhRの相互作用がTCRシグナル伝達により誘導されたことが示された(図6B)。AhR及びSer-489リン酸化RORγtの相互作用はまた、TCRシグナル伝達により刺激された。反対に、T細胞におけるTCR誘導RORγt Ser-489リン酸化(図6C)及びAhR-RORγt相互作用(図6D)は、IKKβの条件付きノックアウトにより消失した。これらのデータは、IKKβ媒介RORγtリン酸化及び後続のAhR-RORγt相互作用が、T細胞活性化において誘導されることを示唆する。IKKβ媒介RORγtリン酸化によりIL-17A産生がTCR刺激後に実際に制御されるかどうかを試験するために、抗CD3刺激T細胞から分泌されたサイトカインをELISAにより決定した。これまでの報告と一致して(Gomez-Rodriguezら、2009; Liuら、2005)、TCRシグナル伝達によりT細胞においてIL-17A産生が誘導された(図6E〜F)。T細胞におけるTCR誘導IL-17A産生は、IKKβ条件付きノックアウトにより消失し(図6E)、TCR活性化IKKβにより正常T細胞においてIL-17A産生が誘導されることを支持した。予想したように、いくつかのIKKβ/NF-κB媒介サイトカイン(IL-2、IFN-γ、IL-4、IL-6及びTNF-α)のTCR誘導レベルはまた、IKKβ条件付きノックアウトマウスのT細胞において低下した(図6E)。IKKβ-RORγt-IL-17A経路をさらに確認するために、T細胞特異的RORγt条件付きノックアウトマウス由来の初代脾臓T細胞を使用した。IKKβ条件付きノックアウトとは異なり、RORγt条件付きノックアウトのみにより、TCR刺激下でIL-17A産生を消失させた(図6F)。RORγt cKOマウスのT細胞におけるRORγt発現の消失は、免疫ブロッティング解析により確認された(図6G)。データは、IKKβ-RORγt活性化により、TCRシグナル伝達においてIL-17A産生が主に誘導されるが、IKKβ-NF-κB活性化により、IL-2、IFN-γ、IL-4、IL-6及びTNF-αを含む複数のサイトカインの産生が制御されることを示唆する(図6H)。
【0077】
GLK+IL-17A+T細胞は、活性SLEの診断バイオマーカーである
GLK高発現によりSLE患者のT細胞においてIL-17A産生が誘導されることを確認するために、発明者らは、SLE患者18人及び健常対照6人由来のT細胞を、フローサイトメトリーを使用して特性決定した(表1)。フローサイトメトリーデータは、すべてのSLE患者のT細胞においてGLK高発現が専らIL-17A産生と共存したことを示した(図7A)。その上、CD4+T細胞におけるGLK+IL-17A+細胞の頻度は、すべてのSLE患者18人において、健常対照における頻度と比較して大幅に上昇したが(図7B、E)、CD8+T細胞における頻度は、中程度に増加した(図7C、E)。対照的に、CD4-CD8-(二重陰性、DN)T細胞におけるGLK+IL-17A+細胞の頻度は、SLE群において、健常対照群と比較して有意に上昇せず、SLE患者3人のみが、非常にわずかな上昇を示した(図7D〜E)。これらの結果は、SLE患者のGLK+IL-17A+T細胞が、主にCD4+T細胞であり、これにより、これらのCD4+T細胞は、GLK+Th17細胞であったことを示した。その上、GLK+IL-17A+T細胞集団が、活性SLE(SLEDAI≧12)の有用な診断バイオマーカーであるかどうかを試験するために、GLK+IL-17A+T細胞サブセットの頻度の診断的有用性を線形回帰及び受信者動作特性(ROC)曲線分析により解析した(図7F〜G)。CD4+T細胞におけるGLK+IL-17A+細胞の頻度は、SLEDAIと相関した(r=0.729、P=0.00053)(図7F)。ROC曲線の座標によれば、CD4+T細胞集団におけるGLK+IL-17A+細胞の頻度の最高のカットオフ値は、15.5%であった。その上、CD4+T細胞におけるGLK+IL-17A+細胞の頻度は、活性SLE患者の同定について100%の感受性、及び88.9%の特異性を有した(図7G)。したがって、GLK+Th17細胞は、活性SLEの診断バイオマーカーである。注目すべきことには、CD4+T細胞におけるGLK+IL-17A+頻度の曲線下面積(AUC)値(0.939、P<0.001)は、CD8+又はDN T細胞における値より有意に高かった。まとめると、これらの結果は、T細胞におけるGLK高発現によりIL-17A産生及び病原性Th17細胞が誘導され、SLE患者亜集団の病態形成に寄与することを示唆する。
【0078】
表1は、図1に使用したSLE患者及び健常対照の人口動態及び疾患特性を示す。人口動態特性は、SLE診断の初期のみにおいて決定した。期間は、SLE診断後の罹病期間の長さを指す。プラスマイナス値は、平均±SDである。
【0079】
略語:SLEは全身性エリテマトーデス、HCは健常対照、SLEDAIはSLE疾患活動性指数、WBCは白血球、HgBはヘモグロビン、dcDNAは二重鎖DNA、WHOは世界保健機関、C3及びC4は補体成分3及び成分4、NAは適用不可能。
【0080】
【表1】
【0081】
GLKによりヒト自己免疫患者T細胞においてRORγt Ser-489リン酸化及びAhR-RORγt複合体が誘導される
発明者らのこれまでの報告は、GLK高発現によりRORγt Ser-489リン酸化及びAhR-RORγt複合体が誘導されることを実証する。また、発明者らは、AhR及びRORγtの相互作用がS489リン酸化RORγtペプチドにより遮断され得ることを見出した(図8A)。データは、RORγt S489リン酸化によりAhR-RORγt複合体の形成が制御されることをさらに支持する。次いで、発明者らは、RORγt Ser-489リン酸化及びAhR-RORγt複合体がヒト自己免疫患者のT細胞において生じるかどうかを、免疫ブロッティング及びPLAを使用してさらに試験した。免疫ブロッティングデータは、RORγt Ser-489リン酸化が、SLE及びRA患者から新鮮に単離された非刺激末梢血T細胞において大幅に増強されたことを示した(図8B)。さらに、ヒトSLE及びRA患者由来の非刺激末梢血T細胞は、AhRとRORγt(図8C)又はAhRとリン酸化RORγtとの(図8D)多数のPLA相互作用シグナルを呈した。したがって、GLK-PKCθ/IKKβ-AhR/RORγtシグナル伝達カスケードは、TCR刺激又は自己免疫T細胞におけるIL-17A誘導の一般的機構である。
【0082】
ヒト自己免疫患者T細胞におけるGLK誘導AhR-RORγt複合体に対する低分子阻害物質の同定
AhR-RORγt複合体がGLKシグナル伝達により誘導されるため、発明者らは、GLK-PKCθ-IKKβシグナル伝達の阻害物質により、AhR-RORγt複合体が遮断されるかどうかを試験した。発明者らは、GLK阻害物質処理を例として使用した。市販のGLK阻害物質が存在しないため、発明者らは、化合物101,200種をスクリーニングして、ルシフェラーゼレポーターアッセイ及びin vitroでのキナーゼアッセイの両方を使用してGLK阻害物質を同定した。細胞株においてGLKシグナル伝達を効率的に阻害した化合物の中でも、2つの化合物(ベルテポルフィン及びアレキシジン二塩酸塩、それぞれC1及びC2と称する)により、細胞株においてGLKシグナル伝達とGLKキナーゼ活性の両方がin vitroで効率的に阻害された(図9A〜B)。GLK阻害物質C1では、SLE及びRA患者由来のT細胞においてAhR-RORγt複合体が遮断された(図9C)。PLAシグナル(図9D)及びFRETシグナル(図9E)は、C1(ベルテポルフィン)処理により阻害された。
【0083】
GLK誘導AhR-RORγt複合体の阻害物質により、マウスにおいてIL-17A産生及び自己免疫応答が抑制される
GLK誘導AhR-RORγt複合体により、マウスにおいてIL-17産生及び自己免疫応答が制御されるため、発明者らは、AhR-RORγt複合体を遮断するGLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)により、T細胞特異的GLK遺伝子導入(Lck-GLK Tg)マウスにおいてもIL-17産生及び自己免疫応答が阻害されるかどうかを試験した。3日毎30日間の静脈内注射によるGLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)処置(0.556nmole/g)後(図10A)、Lck-GLK Tgマウスにおける血清IL-17Aレベルは、C1(ベルテポルフィン)処置により、PBS処置のレベルと比較して有意に低下した(図10B)。その上、Lck-GLK Tgマウスにおける自己抗体の高産生もC1(ベルテポルフィン)処置により消失した(図10C)。このような結果は、GLK高発現により、IL-17A高産生及び自己抗体産生が誘導されることを実証する。GLK阻害物質がIL-17A媒介動物モデルにおいても作用することをさらに検証するために、発明者らは、野生型マウスにC1(ベルテポルフィン)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)を、EAE及びCIA誘導において曝露させた。C1(ベルテポルフィン)処置(0.556nmole/g)とC2(アレキシジン二塩酸塩)処置(0.085nmole/g)の両方により、EAE誘導におけるマウスの疾患重症度及び血清IL-17Aレベルが有意に抑制された(図10D)。また、C1(ベルテポルフィン)処置により、CIA誘導におけるマウスの疾患重症度及び血清IL-17Aレベルが阻害された(図10E)。データは、ベルテポルフィン(C1)処置により、3つすべての自己免疫疾患モデルにおいてIL-17A高産生が優先的に阻害されたことを示した。加えて、ベルテポルフィン(C1)処置により、in vitroでの分化Th17細胞からのTh17分化とIL-17A産生の両方が阻害された(図11A〜B)。対照的に、ベルテポルフィン(C1)処置により、in vitroでのTreg(Fox3発現CD4+T細胞)分化が増強され(図11C)、一貫して、Lgk-GLK遺伝子導入マウスのTreg分化が、野生型マウスの分化と比較して減少した(図11D)。これらの結果は、GLK阻害物質により、Th17細胞集団は減少するが、Treg細胞集団は増加することを示す。
【0084】
GLK誘導AhR-RORγt複合体の阻害物質によりヒトT細胞のIL-17産生が遮断される
発明者らは、IL-17A産生が、ヒト及びマウスT細胞においてGLK誘導AhR-RORγt複合体の阻害物質により消失するかどうかをさらに試験した。発明者らは、TCRシグナル伝達(抗CD3に加えて抗CD28抗体)により刺激したマウスT細胞を使用して阻害物質実験をはじめに試験した。発明者らは、マウスT細胞のTCR誘導IL-17A産生はC1(ベルテポルフィン)処理により大幅に消失したが、TCR誘導IL-17B、IL-17E及びIL-17Fレベルは低下しなかったことを見出した(図12A)。TCR誘導TNF-α及びIFN-γレベルは、C1(ベルテポルフィン)処理により部分的に低下した(図12A)。この低下は、C1(ベルテポルフィン)処理によるNF-κB活性化の阻害のためである可能性が高い。次いで、発明者らは、ヒト末梢血T細胞を使用したC1(ベルテポルフィン)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)の処理によるIL17産生の遮断作用を試験した。TCR誘導IL-17A産生は、健常対照由来の末梢血T細胞におけるC1(ベルテポルフィン)処理により有意に減少した(図12B)。ヒト自己免疫疾患患者の抗CD3/CD28刺激T細胞におけるIL-17A産生は、C1(ベルテポルフィン)処理又はC2(アレキシジン二塩酸塩)により大幅に阻害された(図12B)。まとめると、GLK阻害物質(ベルテポルフィン及びアレキシジン二塩酸塩)により、ヒト自己免疫患者T細胞においてGLK誘導AhR-RORγt複合体及びIL-17A産生だけでなく自己免疫動物モデルの疾患重症度も阻害される。したがって、GLK、GLKシグナル伝達又はGLK誘導AhR-RORγt複合体は、自己免疫疾患のための有望な治療標的であり得る。
【0085】
GLK阻害物質によりがん細胞遊走及びがん転移/再発が遮断される
がん転移/再発におけるGLKの役割を試験するために、発明者らは、RNAポリメラーゼII(POl II)プロモーター駆動ヒトGLK cDNAを使用して全身GLK遺伝子導入(Pol II-GLK Tg)マウスを作製した(図13A)。GLK高発現は、リアルタイムPCRにより確認した(図13B)。がんの進行に対するGLKの作用を試験するために、Pol II-GLK Tgマウスを遺伝子改変肺がんマウス系統である、肺特異的肺サーファクタントタンパク質A(SPA)プロモーター駆動EGFR欠損変異遺伝子導入(SPA-EGFRdel Tg)マウス系統と交配した。1歳のSPA-EGFRdel Tgマウスのすべてでは(9/9)、実際、肺がんが進行し(PCNA陽性)(図13C)、SPA-EGFRdel;Pol II-GLK Tgマウス(15/15)でも同様に進行した(図13C)。抗EGFR欠失変異抗体を使用する免疫組織化学的解析では、EGFRdel発現細胞がSPA-EGFRdel TgマウスとSPA-EGFRdel;Pol II-GLK Tgマウスの両方の肺がんにおいて検出されることが示された(図13D)。次いで、発明者らは、GLK導入遺伝子により、SPA-EGFRdel;Pol II-GLK Tgマウスにおいて他の臓器への肺がん(EGFRdel陽性)転移が誘導されるかどうかを試験した。発明者らは、野生型及び3つの異なる遺伝子導入マウス由来の頸部リンパ節、肝臓、及び脳の組織に対して抗EGFR欠失変異抗体を使用する免疫組織化学検査を実施した。頸部リンパ節への局所転移では、SPA-EGFRdel;Pol II-GLK Tgマウスの1匹を残してすべてが(14/15)、頸部リンパ節におけるEGFRdel発現肺がん細胞の多数の転移を呈した。対照的に、9匹のSPA-EGFRdel Tgマウスのうちの3匹のみが、頸部リンパ節におけるEGFRdel発現肺がん細胞の少数の転移を示した(図12E)。遠隔転移では、すべてのSPA-EGFRdel;Pol II-GLK Tgマウスが、EGFRdel発現肺がん細胞の脳(14/15)又は肝臓(15/15)への転移を呈した(図13E及び表2)。対照SPA-EGFRdel Tgマウス9匹では、SPA-EGFRdel Tgマウス1匹のみにおいて(1/9)脳転移と肝臓転移の両方が進行し、1匹のみにおいて(1/9)肝臓転移が進行し、残りの7匹においては、検出可能ないかなる遠隔転移も進行しなかった(図13E及び表2)。これらの結果は、GLKにより肺がんの脳及び肝臓への遠隔転移が誘導されることを示唆する。表2は、個々の群由来の示されている組織におけるEGFR欠失変異発現の比較を示す。
【0086】
【表2】
【0087】
発明者らは、また、GLK阻害物質によりがん細胞遊走が抑制されるかどうかを試験した。トランスウェル遊走アッセイでは、神経膠腫、膵がん、肺がん、又は肝細胞腫由来の細胞の遊走が、C1(ベルテポルフィン)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)の処理により阻害されたことが示された(図14)。その上、C1(ベルテポルフィン)とC2(アレキシジン二塩酸塩)の両方の処理により、TC-1肺がん細胞を使用した異種移植マウスモデルにおいて腫瘍の成長が抑制された(図15)。GLK欠損が肺がん転移の減少を生じるかどうかを試験するために、発明者らは、ルシフェラーゼ発現LLC(LLC/luc)細胞の尾静脈注射による転移性ルイス肺癌(LLC)マウスモデルを使用した。発明者らは、細胞ベースアッセイ及びin vitroでのキナーゼアッセイを使用して2つのGLK阻害物質(ベルテポルフィン及びアレキシジン二塩酸塩)を同定した。C1(ベルテポルフィン)及びC2のGLKキナーゼ活性に対するIC50は、それぞれ1.15及び10.05nMであった(表3)。分子ドッキング解析では、GLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)及びC2(アレキシジン二塩酸塩)が、活性GLKキナーゼドメイン(ホスホGLK[Ser-170])に、GLK二量体の界面及びGLKキナーゼドメインの活性部位においてそれぞれ安定に結合することが示された(図16A〜B)。Flagタグ化GLKタンパク質及びGFP-GLK融合タンパク質の二量体形成は、C1(ベルテポルフィン)処置により実際に遮断された(図16C)。発明者らは、LLC/luc細胞を含むマウスをGLK阻害物質C1(ベルテポルフィン)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)で静脈内注射により3日毎に30日間処置した(図16D)。マウスにおけるLLC/luc細胞のルシフェラーゼ活性が、in vivoイメージングシステムにより検出された。切除した肺は、秤量してH&E染色に供した。注射したマウスの肺におけるLLC/luc細胞のルシフェラーゼ活性は、C1(ベルテポルフィン)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)の処置により低下した(図16E〜F)。一貫して、免疫組織化学的解析ではまた、C1(ベルテポルフィン)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)処置マウスにおけるがんコロニーの減少が示された(図16G)。その上、肺組織におけるGLK及びIQGAP1の相互作用が、C1(ベルテポルフィン)又はC2(アレキシジン二塩酸塩)の処置により阻害され(図16H、上のパネル)、肺組織におけるIQGAP1リン酸化が、阻害された(図16H、下のパネル)。まとめると、データは、GLKが肺がん転移において重要な役割を果たすことを示唆する。これらの結果は、GLK阻害物質により、がん転移及びがんの進行が遮断されることを示す。表3は、MAP4Kについてのベルテポルフィン又はアレキシジン二塩酸塩の最大半量阻害濃度(IC50)を示す。GLK(MAP4K3)又は他のMAP4Kのキナーゼ活性の阻害は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)を基質として使用したin vitroでのキナーゼアッセイにより決定した。種々のMAP4Kのキナーゼドメインの組換えタンパク質を使用した。C1はベルテポルフィン;C2はアレキシジン二塩酸塩。
【0088】
【表3】
【0089】
GLK欠損マウスが寿命の延長を呈する
GLKの阻害により任意の自然疾患が生じ得るかどうかを試験するために、発明者らは、野生型及びGLK欠損の両マウスをそれらの生存期間において監視した。驚くべきことには、GLK欠損マウスは、野生型マウスと比較して、寿命の有意な延長を呈した(図17A)。最年長のGLK欠損マウスは、40.8か月齢であった。高齢GLK欠損マウス(26.0〜40.8か月)では、いかなる腫瘍又は識別可能な疾患も生じなかった。興味深いことには、高齢GLK欠損マウスは、健常な毛をなお呈したが、高齢野生型マウスは、灰色毛を呈した(図17B)。これまでの論文では、抗原誘導IFN-γ、IL-2、IL-17A産生を含むT細胞媒介免疫応答が、GLK欠損T細胞において減少することを示している。その上、Th1/Th2/Th17分化は、GLK欠損により減少する。また、GLK欠損マウスは、MOG誘導実験自己免疫脳脊髄炎の誘発に対して抵抗性である。GLK欠損マウスの長寿命は、GLK欠損による炎症応答の阻害に起因し得る。この見解は、20か月齢のGLK欠損マウスにおける炎症促進性サイトカインIL-6、IL-17A、TNFα、IFN-γ及びIL-1βの血清レベルが、同齢野生型マウスのレベルと比較して大幅に低下したというデータにより支持される(図17C)。Th1サイトカイン(IFN-γ)及びTh17サイトカイン(IL-17A)に加えて、Th2サイトカイン(IL-4)レベルも、高齢GLK欠損マウスの血清において低下した(図17C)。データは、GLKの阻害によっていかなる有害作用も生じず、むしろ炎症を予防し得ることを示唆する。
【0090】
発明者らの知見は、GLK誘導AhR-RORγt複合体が、バイオマーカーであり、IL-17A媒介自己免疫疾患のための治療標的であることを示す。加えて、GLK阻害物質(ベルテポルフィン及びアレキシジン二塩酸塩)は、潜在的治療薬である。
【0091】
GLKはIQGAP1と直接相互作用する
GLKの免疫沈降の後、GLK相互作用タンパク質をSDS-PAGEにより分離して銀染色により可視化した(図18A)。GLKトランスフェクト細胞において増強された最も顕著なタンパク質バンド7つをスライスし、次いで、トリプシンにより分解し、生じるタンパク質ペプチドを質量分析に供した。その上、GLKタンパク質上の過バナジン酸誘導チロシンリン酸化部位4つ(Tyr-366、Tyr-379、Tyr-574及びTyr-735)を質量分析により同定した(図18B)。発明者らは、ミオシン、IQGAP1、ビメンチン、ドレブリン及び熱ショックタンパク質70(HSP70)(データベース検索スコアにより最も高いものから最も低いものへの順序)を含むいくつかの推定GLK相互作用タンパク質を同定した。これらのタンパク質の中でも、細胞遊走の正の制御因子であるIQGAP1は、さらなる試験のために選択されたが、ミオシン、熱ショックタンパク質及び細胞骨格タンパク質は、質量分析により検出可能な一般的夾雑タンパク質である。次いで、発明者らは、相互共免疫沈降アッセイを使用してGLK及びIQGAP1の相互作用を確認した(図18C〜D)。GLKは、Flagタグ化IQGAP1タンパク質を用いて抗Flag抗体を用いて共免疫沈降させた(図18C〜D)。GLKとIQGAP1とのこの共免疫沈降は、GLK(Y735F)変異により消失し(図18E)、GLKタンパク質のTyr-735リン酸化がGLK及びIQGAP1の相互作用に重要であることを示唆した。Flag(Flagタグ化GLK)及びMyc(Mycタグ化IQGAP1)に対応するPLAプローブの組合せを用いたin situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)では、両タンパク質を高発現する細胞において、それぞれを単独で高発現する細胞よりも強力なPLAシグナルが示された(図18F〜G)。PLAシグナルは、GLK及びIQGAP1の直接相互作用(<40nm)を示唆する。その上、CFPタグ化GLK及びYFPタグ化IQGAP1融合タンパク質を使用した蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイでは、これらの2つの分子の直接相互作用(1〜10nm)が示された(図18H)。GLK-IQGAP相互作用のFRETシグナルは、C1(ベルテポルフィン)による処理によって阻害された(図18H、右のパネル)。直接相互作用をさらに確認するために、共免疫沈降実験を、精製タンパク質を使用して実施した。HEK293T細胞ライセートから、Flagタグ化GLK及びMycタグ化IQGAP1タンパク質を、それぞれFlag及びMycペプチドにより免疫複合体を溶出させることにより精製した。共免疫沈降アッセイでは、精製GLK及びIQGAP1タンパク質の相互作用が示された(図18I)。種々の手法(PLA、FRET及び精製タンパク質)によるデータは、GLKがIQGAP1と直接相互作用することを示唆する。
【0092】
GLKによってIQGAP1のSer-480におけるリン酸化による細胞遊走が促進される
GLKがIQGAP1に直接結合するため、発明者らは、GLKがIQGAP1媒介細胞遊走を制御するキナーゼであり得ると推測した。GLKによりIQGAP1がリン酸化されるかどうかを決定するために、in vitroでのキナーゼアッセイを、GLKの精製タンパク質、GLKキナーゼ不活性(K45E)変異体、及びIQGAP1を使用して行った。IQGAP1リン酸化は、GLKにより誘導されたが、GLKキナーゼ不活性(K45E)変異体によっては誘導されなかった(図19A)。SDS-PAGE分画及び質量分析の後、Ser-480をIQGAP1上のGLKリン酸化残基として同定した。次いで、発明者らは、GLK誘導IQGAP1 Ser-480リン酸化によって、Cdc42又はRac1の活性化だけでなくCdc42又はRac1とのIQGAP1の相互作用も制御されるかどうかを試験した。免疫沈降データは、活性(GTP結合)Cdc42タンパク質がGLKに加えてIQGAP1の高発現細胞において増加し、反対に、活性Cdc42タンパク質レベルがGLKに加えてIQGAP1(S480A)変異体の高発現により減弱したことを示した(図19B、下のパネル)。対照的に、活性(GTP結合)Rac1タンパク質レベルは、GLKに加えてIQGAP1の高発現により上昇しなかった(図19C、下のパネル)。これらの結果は、Cdc42及びRac1活性化のELISA結果によりさらに支持された(図19D〜E)。加えて、共免疫沈降データは、Cdc42又はRac1のいずれかとのIQGAP1の相互作用が、IQGAP1(S480A)変異により影響されなかったことを示した(図19B〜Cの上のパネル)。IQGAP1媒介細胞遊走におけるIQGAP1 Ser-480リン酸化の役割を評価するために、HCC827細胞に、IQGAP1(S480A)リン酸化欠損変異体及びGLKプラスミドを共導入した。トランスウェル遊走アッセイでは、GLK高発現細胞の遊走した細胞数がIQGAP1(S480A)変異体の高発現により減少したことが示された(図19F、最上右のパネル;図19G〜H)。反対に、2つのIQGAP1 Ser-480リン酸化模倣(S480D及びS480E)変異体の高発現により、HCC827肺がん細胞におけるIQGAP1又はIQGAP1(S480A)変異体の高発現のそれよりも高い細胞遊走能が誘導された。これらの結果は、IQGAP1 Ser-480リン酸化がIQGAP1活性化及びIQGAP1/Cdc42媒介細胞遊走の原因であることを示唆する。
【0093】
発明者らの結果は、GLKがIQGAP1と相互作用してIQGAP1をリン酸化することを示唆する。次いで、発明者らは、GLKプロリン領域及びIQGAP1 WWドメインの相互作用により、GLK-IQGAP1誘導細胞遊走が実際に制御されるかどうかを試験した。GLK及びIQGAP1を共導入したHCC827肺がん細胞は、ベクター対照細胞のそれよりも遊走の増強を呈したが、GLKに加えてIQGAP1(ΔWW)変異体の共導入により細胞遊走の増強が抑止された(図19F〜G)。GLK(P436/437A)、(P478/479A)又は(P436/437A;P478/479A)変異体の高発現により、GLK誘導細胞遊走が減弱した(図19F〜G)。GLK及びIQGAP1の高発現は、免疫ブロッティング解析により確認した(図19H)。IQGAP1 Ser-480残基のリン酸化を実証するために、発明者らは、抗ホスホIQGAP1(Ser-480)モノクローナル抗体を生成し、これはIQGAP1 WTを特異的に認識したが、S480A変異体は認識しなかった(図19I)。
【0094】
IQGAP1はGLK誘導がん転移を媒介する
次いで、発明者らは、GLKによりIQGAP1媒介がん細胞遊走を介して肺がんの転移が促進されるかどうかを試験した。SPA-EGFRdel;POl II-GLK Tgマウスにおける肺がん転移の進行に必要とされる時間(12か月)を短縮するために、発明者らは、GLK変異遺伝子導入マウス系統(Pol II-GLKE351K Tg)を作製し、これは、恒常的活性化GLK(E351K)変異体を発現した(図20A〜C)。注目すべきことには、GLK(E351K)変異は、これまでの論文の補足情報において報告されていたが、GLK(E351K)変異の機能的因果関係は、本試験までには実証されていなかった(図20A〜B)。GLK(E351K)変異体の高発現は、リアルタイムPCRにより確認した(図20D)。次いで、発明者らは、Pol II-GLKE351K TgマウスをSPA-EGFRdel Tgマウスと交配して、SPA-EGFRdel;Pol II-GLKE351K Tgマウスを作製し、これは、SPA-EGFRdel Tgマウスのレベルと比較して、肺におけるGLKタンパク質レベルの増強を呈した(図20E)。SPA-EGFRdel;Pol II-GLKE351K Tgマウス(8/8)では、肺がん(図20F)及び局所/遠隔転移が、SPA-EGFRdel;Pol II-GLK Tgマウスのそれよりも若年(7か月齢)において実際に進行した。すべての7か月齢SPA-EGFRdel;Pol II-GLKE351K Tgマウスは、EGFRdel発現肺がん細胞の脳及び/又は肝臓への遠隔転移を呈した(脳及び肝臓の両方[6/8]、脳のみ[1/8]並びに肝臓のみ[1/8])(図19G及び表4)。対照的に、すべてのSPA-EGFRdel;Pol II-GLKE351K;IQGAP1-/-マウスでは、7か月齢において、いかなる遠隔転移も進行しなかった(3/3)(図20G及び表4)。これらのデータは、SPA-EGFRdel肺がんモデルにおいて、GLKによりIQGAP1を介して遠隔転移が誘導されることを示唆する。この見解を検証するために、発明者らは、GLK及びIQGAP1の相互作用だけでなくIQGAP1 Ser-480リン酸化もヒト非小細胞肺がん(NSCLC)の組織において試験した。
【0095】
【表4】
【0096】
GLK-IQGAP1複合体はヒトNSCLCの低い生存と相関する
NSCLC組織におけるIQGAP1とのGLKの相互作用を試験するために、発明者らは、肺切除を受けたヒトNSCLC患者7人から臨床肺組織を採取した。また、発明者らは、NSCLC組織85種(扁平上皮癌49種、腺癌17種、細気管支肺胞上皮癌11種及び大細胞癌8種を含む)及び正常な隣接組織68種だけでなく小細胞肺癌組織3種も含む市販の肺組織アレイを利用した。これらの組織は、GLK及びIQGAP1に対応するPLAプローブ対の組合せを用いたin situ近接ライゲーションアッセイ(PLA)に供した。データは、NSCLC組織のほとんど(81/92)において複数の強力なPLAシグナルを示したが、いかなる小細胞癌組織においてもそうではなかった(図21A〜B)。NSCLC患者由来の正常な隣接組織のほとんど(61/68)は、いかなるPLAシグナルをも呈しなかったが、68種の正常な隣接組織のうちの7種は、はるかに低いPLAシグナルを示した。NSCLC患者の正常な隣接組織におけるわずかなPLAシグナルは、原病変から遊走する転移性がん細胞であり得る。これらの結果は、肺組織におけるGLK-IQGAP1複合体が、NSCLCの診断バイオマーカーであり得ることを示唆する。次いで、発明者らは、GLK-IQGAP1複合体が、NSCLCの潜在的予後バイオマーカーとして作用し得るかどうかを試験した。生存データが利用可能なNSCLC(扁平上皮癌及び腺癌)患者は、クラスター解析の後に4つのPLAシグナル亜群に分けられた。最も高いPLAシグナルを有する2つの亜群は、わずかに1人及び2人の患者をそれぞれ含み、このため、このような2つの亜群は、さらなる解析から除外した。残りの2つの亜群(n=63)は、生存データ(提供者から利用可能)を使用したカプラン・マイヤー生存解析に供した。高いPLAシグナルを有するNSCLC患者は、追跡期間において低い生存を示した(n=63、高PLAシグナル対低PLAシグナル、P=0.069)(図21C)。より高いP値(P=0.069)は、最も高いPLAシグナルを有する3つのデータを除外したことに起因し得る。それにもかかわらず、さらなるGLK-IQGAP1複合体を有するNSCLC患者は、少ないGLK-IQGAP1複合体を有する患者のそれよりも低い生存率を有する。40%〜60%のNSCLC患者が、
がん切除後にがんの再発により死亡するため、発明者らは、GLK-IQGAP1複合体がNSCLC転移と関連するかどうかを試験した。GLK-IQGAP1複合体を有するがん細胞は、肺の血管壁上/付近に特に蓄積し(図21D)、また、GLK-IQGAP1複合体陽性細胞は、血管の管腔に存在した(図21D)。その上、転移性癌を有する骨、リンパ節、又は軟部組織切片は、GLK-IQGAP1複合体陽性細胞を呈し(図21D)、がん細胞は、PCNA(増殖細胞核抗原)染色を使用して検証した(図21D)。統合画像は、これらの組織におけるGLK-IQGAP1複合体陽性細胞が、実際にがん細胞であったことを示す(図21D)。データは、GLK-IQGAP1複合体を有する肺がん細胞が、転移性である傾向があることを示唆する。次いで、発明者らは、ヒトNSCLC組織におけるGLK誘導IQGAP1 Ser-480リン酸化を調べた。いくつかの試みの失敗後、発明者らは、IQGAP1 Ser-480リン酸化に対するモノクローナル抗体(mAb)を最終的に得た。しかし、ホスホIQGAP1 mAbを使用する免疫染色シグナルは、識別可能なシグナルをもたらすのに十分に強力ではなかった。抗ホスホIQGAP1 mAbの特異性及び染色シグナルを増強するために、発明者らは、IQGAP1及びホスホIQGAP1 Ser-480と対応するPLAプローブ対の組合せを用いてポリメラーゼ連鎖反応のようにリン酸化シグナルを増幅するPLAを実施した。抗体特異性は、IQGAP1 S480A変異体発現細胞及びIQGAP1ノックアウト肺がん組織(SPA-EGFRdel;Pol II-GLKE351K;IQGAP1-/-)を使用して実証された。ヒトNSCLC組織を使用して、発明者らは、試験した腫瘍組織の82.7%(72/87)においてIQGAP1 Ser-480リン酸化の複数のPLAシグナルを見出した(図21E〜F)。ホスホIQGAP1 PLAシグナルは、同一細胞においてPCNA染色と共存した(図21E)。その上、NSCLC(扁平上皮癌及び腺癌)患者は、クラスター解析の後に高PLAシグナル及び低PLAシグナルの亜群に分けられた。カプラン・マイヤー生存解析では、高いホスホIQGAP1 PLAシグナルを有するNSCLC患者が、追跡期間において低い生存を有したことが示された(n=63、高PLAシグナル対低PLAシグナル、P=0.037)(図21G)。まとめると、発明者らの知見は、GLKによってIQGAP1への直接結合及びIQGAP1のリン酸化を介して細胞遊走及びがん転移が促進されることを示唆する。
【0097】
本明細書において引用及び考察するすべての参考文献は、各参考文献を参照により個々に組み込む場合と同一の程度まで、それらの全体を参照により本明細書に組み込む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
【配列表】
2021534407000001.app
【国際調査報告】