特表2021-534747(P2021-534747A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-534747アポトーシス感受性細胞のモジュレーション
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-534747(P2021-534747A)
(43)【公表日】2021年12月16日
(54)【発明の名称】アポトーシス感受性細胞のモジュレーション
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20211119BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20211119BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211119BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20211119BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20211119BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20211119BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALI20211119BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20211119BHJP
   C07K 17/02 20060101ALN20211119BHJP
【FI】
   C12N5/071
   A61K35/17 Z
   A61P35/00
   A61P37/06
   C12N5/078
   C12N5/0775
   C12N5/0781
   C12N5/0783
   C07K17/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2021-508321(P2021-508321)
(86)(22)【出願日】2019年8月22日
(85)【翻訳文提出日】2021年3月22日
(86)【国際出願番号】IL2019050945
(87)【国際公開番号】WO2020039446
(87)【国際公開日】20200227
(31)【優先権主張番号】62/720,988
(32)【優先日】2018年8月22日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】516104799
【氏名又は名称】セレクト バイオセラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ヤルコニ,シャイ
(72)【発明者】
【氏名】レヴィ−バルザニ,ヒリト
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065BD39
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB08
4C087ZB26
4H045BA60
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、非活性/非成熟細胞、特に非活性化/非成熟Tおよび/またはB細胞、任意選択的に遺伝子改変Tおよび/またはB細胞が富化された細胞の集団を製造する方法に関する。方法は、哺乳動物細胞の不均質な集団をアポトーシス誘導性リガンドと接触させることであって、前記接触させることが、非活性/成熟細胞がアポトーシスシグナルに対して抵抗性であるままとしながら、活性/成熟細胞のアポトーシスを誘導する、前記接触させることを含む。本発明はまた、富化された細胞集団の治療的使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非活性/非成熟細胞が富化された細胞の集団を製造する方法であって、
a.哺乳動物細胞の不均質な集団を含む生物学的試料を得ること、および
b.前記得られた哺乳動物細胞の不均質な集団を容器中でアポトーシス誘導性リガンドと接触させることであって、
前記接触させることが、非活性/成熟細胞がアポトーシスシグナルに対して抵抗性であるままとしながら、活性/成熟細胞のアポトーシスを誘導し、それにより、非活性/非成熟細胞が富化された細胞の集団が単離される、前記接触させること
を含む、方法。
【請求項2】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物細胞が、免疫細胞および複能性間質/間葉幹細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記非活性/非成熟細胞が免疫細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記非活性/非成熟細胞がナイーブ免疫細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ナイーブ免疫細胞が富化された細胞の集団を製造する方法であって、
a.哺乳動物免疫細胞の不均質な集団を含む生物学的試料を得ること、
b.前記得られた哺乳動物免疫細胞の不均質な集団を容器中でアポトーシス誘導性リガンドと接触させることであって、前記接触させることが、ナイーブ細胞がアポトーシスシグナルに対して抵抗性であるままとしながら、成熟細胞のアポトーシスを誘導し、それにより、ナイーブ細胞が富化された細胞の集団が単離される、前記接触させること
を含む、方法。
【請求項7】
前記ナイーブ免疫細胞がナイーブT細胞またはナイーブB細胞である、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記生物学的試料が、動員末梢血細胞、末梢血単核細胞(PBMC)、富化されたCD3T細胞、富化されたCD4またはCD8T細胞、富化されたB細胞、臍帯血細胞および骨髄細胞からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫細胞が、患者に対して自己であり、または患者に対して同種である、請求項3〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記アポトーシス誘導性リガンドが、前記容器の内側表面上または前記容器中に含まれるビーズもしくはフィルム上に固定化される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記アポトーシス誘導性リガンドが、TNF−α、FasL、TRAILおよびTWEAKからなる群から選択される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
アポトーシス誘導性リガンドとの前記接触ステップが約1時間〜約48時間行われる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記接触ステップが約2時間行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アポトーシス誘導性リガンドがFasLであり、かつ前記FasLが約1〜約800ng/mlの濃度で投与される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
FasLが約10ng/mlまたは100ng/mlの濃度で投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記成熟細胞が、T1/T1、T17、TSCM、TCM、TEM、およびTeff細胞集団からなる群から選択される成熟T細胞である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法により調製された、ナイーブT細胞が富化された細胞の集団。
【請求項18】
前記細胞が、CCR7CD45RACD95−LFA1lowとして特徴付けられる、請求項17に記載のナイーブT細胞が富化された細胞の集団。
【請求項19】
がんおよび自己免疫疾患の治療において使用するための、請求項17または請求項18に記載のナイーブT細胞が富化された細胞の集団。
【請求項20】
患者において自己免疫疾患を治療する方法であって、前記患者に、請求項7〜16のいずれか1項に記載の方法により調製されたナイーブT細胞が富化された細胞の集団を投与することを含む、方法。
【請求項21】
前記成熟細胞が、メモリーおよび形質芽球B細胞集団からなる群から選択される成熟B細胞である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法により調製された、ナイーブB細胞が富化された細胞の集団。
【請求項23】
前記細胞が、CD27CD38として特徴付けられる、請求項22に記載のナイーブB細胞が富化された細胞の集団。
【請求項24】
がんまたは自己免疫疾患、または炎症性疾患の治療において使用するための、請求項22または請求項23に記載のナイーブB細胞が富化された細胞の集団。
【請求項25】
患者において自己免疫疾患を治療する方法であって、前記患者に、請求項1〜15および21〜23のいずれか1項に記載の方法により調製されたナイーブB細胞が富化された細胞の集団を投与することを含む、方法。
【請求項26】
自己免疫疾患を治療する方法であって、
a.TおよびB細胞を含む哺乳動物免疫細胞の不均質な集団をアポトーシス誘導性リガンドと接触させることであって、前記接触させることが、前記TおよびB細胞の活性化レベルを低減する、前記接触させること、ならびに
b.前記ステップ(a)において得られた細胞の集団をそれを必要とする患者に投与すること
を含む、方法。
【請求項27】
患者においてがんを治療する方法であって、請求項17または18のいずれか1項に記載のナイーブT細胞が富化された細胞の集団を投与することを含み、前記細胞がそれらの抗がん活性を保存している、方法。
【請求項28】
キメラ抗原受容体(CAR)−T細胞を製造する方法であって、
a.生物学的試料から単核細胞を単離すること、
b.前記細胞を少なくとも1つのT細胞活性化剤と接触させることにより前記細胞を活性化させること、および
c.前記細胞にCAR構築物を形質導入すること
を含み、
前記方法が、前記活性化ステップ(b)の前および/または前記形質導入ステップ(c)の後に前記細胞をアポトーシス誘導性リガンドと接触させ、それにより、CAR−T細胞を得ることをさらに含む、
方法。
【請求項29】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記生物学的試料が、末梢血単核細胞(PBMC)、富化されたCD3T細胞、富化されたCD4T細胞、富化されたCD8T細胞、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞がPBMCである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記T細胞活性化剤が抗CD3および抗CD28抗体である、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記アポトーシス誘導性リガンドが、FasL、TNF−α、TRAILおよびTWEAKからなる群から選択される、請求項28〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
アポトーシス誘導性リガンドとの前記接触ステップが約1時間〜約48時間行われる、請求項28〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記接触ステップが約2時間行われる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記アポトーシス誘導性リガンドがFasLであり、かつ前記FasLが約1〜約800ng/mlの濃度で投与される、請求項28〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
FasLが、約10ng/ml、約50ng/mlまたは約100ng/mlの濃度で投与される、請求項36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞療法の分野におけるものである。
【背景技術】
【0002】
本開示の主題の背景として関連すると考えられる参考文献を以下に列記する:
1.Watkinsら、「Tracking the T−cell repertoire after adoptive therapy」、Clinical & Translational Immunology 6、e140(2017).
2.Turtleら、「CD19 CAR−T cells of defined CD4+:CD8+ composition in adult B cell ALL patients」、J.Clin Invest.126(6):2123−38(2016).
3.Lambら、「Ex vivo T−cell depletion in allogeneic hematopoietic stem cell transplant:past,present and future」、Bone Marrow Transplantation 52、1241−1248(2017).
4.Baecher−Allanら、「Multiple Sclerosis:Mechanisms and Immunotherapy」、Neuron、97:742−768(2018).
5.Mazar Jら、Cytotoxicity mediated by the Fas ligand(FasL)−activated apoptotic pathway in stem cells.J.Biol.Chem.2009;284:22022−22028.
6.Knight JC、Scharf EL、Mao−Draayer Y.Fas activation increases neural progenitor cell survival.J.Neurosci.Res.2010 Mar;88(4):746−57.
7.Lockeら、「Phase 1 Results of ZUMA−1:A Multicenter Study of KTE−C19 Anti−CD19 CAR T Cell Therapy in Refractory Aggressive Lymphoma」、Molecular Therapy 25;1(2017).
8.Sommermeyerら、Chimeric antigen receptor−modified T cells derived from defined CD8+ and CD4+ subsets confer superior antitumor reactivity in vivo.Leukemia.30、492−500(2016).
9.Bonifantら、「Toxicity and management in CAR T−cell therapy」、Molecular Therapy Oncolytics 20;3:16011(2016).
10.Kimら、「Human CD34 hematopoietic stem/progenitor cells express high levels of FLIP and are resistant to Fas−mediated apoptosis」、Stem Cells;20:174−182(2002).
11.SprentおよびTough、「T Cell Death and Memory」、Science、293(5528):245−8、(2001).
12.Strasserら、「The Many Roles of FAS Receptor Signaling in the Immune System」、Immunity、30(2):180−92、(2009)
13.Zhangら、「Host−reactive CD8 memory stem cells in graft−versus−host disease」、Nat Med.(2005).
14.Robertoら、「Role of naive−derived T memory stem cells in T−cell reconstitution following allogeneic transplantation」、Blood、125:2855−2864(2015).
15.Nashiら、「The Role Of B Cells in Lupus Pathogenesis」、Int J Biochem Cell Biol.42(4):543−550、(2010).
16.Bakerら、「Memory B Cells are Major Targets for Effective Immunotherapy in Relapsing Multiple Sclerosis」、EBioMedicine、16:41−50、(2017).
17.Hackettら、Mol.Ther.(2010)18(4):674−683.
18.MacDonald KPら、「Biology of graft−versus−host responses: recent insights」、Biol Blood Marrow Transplant.19(1):S10−S14、(2013).
19.Grahamら、「Allogeneic CAR−T Cells:More than Ease of Access?」、Cells(2018)Oct;7(10):155.
20.Xu Yら、「Closely related T−memory stem cells correlate with in vivo expansion of CAR.CS19−T cells and are presented by IL−7 and IL−15」、Blood.(2014);3750−3760.
本明細書における上記の参考文献の承認は、これらが何らかの意味で本開示の主題の特許性に関連するという意味として推測されるべきではない。
【0003】
背景
特にがん療法における、自己または同種の複数の細胞療法製品は、原材料として細胞の異種遺伝子性(heterogenic)混合物に基づく(Watkinsら、2017;Turtleら、2016)。移植された細胞集団の毒性を低減するために現在利用されている単離および富化技術は、枯渇技術の非選択的な性質に起因して所望の生物学的活性の一部を欠いた、より定義された最終製品を結果としてもたらすことがある(Lambら、2017)。これらの単離技術は機械的なまたは表現型上の特徴を利用するが、多くの場合にあまりに大雑把で、細胞集団内の所望の細胞および望ましくない細胞を区別するために十分な感度ではない。定義された生物学的活性を有する、よく特徴付けられており、かつ再現性のある最終製品を得るために、細胞ベースの製品の生産のために使用される出発材料を標準化する新たな方法が要求される。好ましくは、この方法は、副作用を低減しかつアウトカムを向上させるために、細胞製品を用いる患者治療の前にエクスビボで使用される。
【0004】
例えば自己免疫疾患療法の分野における、選択的な枯渇のための細胞療法における別の主要な目標は、活性化可能性および炎症促進性反応を低減するための有効な治療戦略を開発することである(Baecher−Allanら、2018)。
【0005】
細胞療法における追加の課題は、再生医療の分野におけるものであり、出発材料が不均質な集団である場合、有効でない細胞が細胞療法製品の効力を減少させることである(Mazar J、2009;Knight、2010)。
【0006】
細胞療法における異種遺伝子性集団の使用における困難の例は、キメラ抗原受容体遺伝子操作型T(CAR−T)細胞の場合である。様々な抗腫瘍治療のために研究されてきたCAR−T細胞を利用する養子T細胞療法(ACT)は、いくつかのがんを治療するための有効な方法を提供し得るが、何故ならば、CAR−T細胞は、抗原性が別個の腫瘍集団を特異的に認識するように遺伝子操作され得るからである(例えば、Lockeら、2017を参照)。これらのT細胞ベースの療法は、高度に難治性のB細胞悪性腫瘍に対して顕著に有望であることが臨床試験において示されている。しかしながら、ほとんどの報告された試験において、患者は、T細胞サブセットのランダムな組成を含むT細胞製品を与えられているため、各患者は異なる治療剤を与えられており、それがT細胞療法の有効性に影響を及ぼして、異なる患者間および試験間のアウトカムの比較を複雑にした可能性がある。ALL患者におけるRiddleおよびMaloneyのグループによる最近の研究は、定義されたT細胞サブセットから生成されたCAR−T細胞製品は、表現型組成において異なる非選択T細胞に由来する製品と比較して均一な効力を提供できることを示唆する。(Turtleら、2016;およびSommermeyerら、2016)。
【0007】
CAR−T細胞免疫療法は、毒性管理において大きな課題を提示する。CAR−T細胞療法を用いて最も一般的に観察される2つの毒性は、CAR−T細胞関連脳症症候群(CRES)およびサイトカイン放出症候群(CRS)であり、CRSは、軽度から生命を脅かすものまでの範囲に及び、細胞投与の通常第1週以内のサイトカインの上昇および1〜2週以内のピークの結果としてもたらされ、かつT細胞活性化および増殖と関連付けられる、一連の炎症症状である(Bonifantら、2016)。毒性のリスクは、CAR−T細胞治療の広い展開を制限している。CAR−T細胞療法に関する毒性を低減するための現行の医療戦略としては、治療後の抗炎症性モダリティーが挙げられる。例えば、抗IL6受容体またはIL6受容体アンタゴニスト、およびコルチコステロイドの両方のモダリティーは炎症応答を抑制し、したがって、細胞療法と関連付けられるCRSおよびCRESの管理において有効である。しかしながら、その欠点は、これらの治療は免疫応答を下方調節することであり、T細胞活性化を遮断し、臨床的利益を妨げる可能性が懸念となる。毒性管理における課題は、有効性を損なうことなく症状を制御することである(Bonifantら、2016)。
【0008】
追加の課題は形質導入効率である。形質導入効率はT細胞の品質に影響される。T細胞の活性化は効率的な形質導入のための必要条件であり、というのも、初代ヒトT細胞はインビトロで分裂しない静止状態の細胞であるからである。追加的に、化学療法を受けた患者のT細胞の品質は損なわれる。T細胞機能障害は一般的であり、生産プロセスの間に十分に逆転し得ないことが頻繁である(Grahamら、2018)。
【0009】
別の課題は、治療後の免疫下方調節に関する。CAR改変T細胞は抑制性腫瘍微環境に入ると有効でなくなる可能性がある。これは、固形腫瘍に対するCAR−T細胞療法を開発する試みにおいて殊に重要である。腫瘍環境内のアポトーシスシグナル伝達は、全ての免疫エフェクター細胞を下方調節する。
【0010】
エフェクターメモリーT細胞(EM)などの成熟エフェクター細胞は、早期分化型の、より成熟していないT細胞、大抵はナイーブおよびセントラルメモリー(CM)から生産されたCAR−T細胞よりも、インビボでのT細胞の拡大増殖、生存、持続および抗腫瘍活性において効率性がより低いCAR−T細胞であることを研究は示唆している(Sommermeyer D、2016、およびXu Y、2014)。
【0011】
国際公開第2013/132477号は、免疫細胞集団をアポトーシス誘導性リガンドに曝露することを含む、アポトーシスシグナル伝達抵抗性細胞を選択するためのデバイスおよび方法を開示する。
【発明の概要】
【0012】
その第1の態様では、本発明は、非活性/非成熟細胞が富化された細胞の集団を製造する方法であって、
a.哺乳動物細胞の不均質な集団を含む生物学的試料を得ること、
b.得られた哺乳動物細胞の不均質な集団を容器中でアポトーシス誘導性リガンドと接触させることであって、前記接触させることが、非活性/成熟細胞がアポトーシスシグナルに対して抵抗性であるままとしながら、活性/成熟細胞のアポトーシスを誘導し、それにより、非活性/非成熟細胞が富化された細胞の集団が単離される、前記接触させること
を含む、方法を提供する。
【0013】
一実施形態では、前記哺乳動物細胞はヒト細胞である。
【0014】
別の実施形態では、前記哺乳動物細胞は、免疫細胞および複能性(multipotential)間質/間葉幹細胞からなる群から選択される。
【0015】
一実施形態では、前記非活性/非成熟細胞は免疫細胞である。
【0016】
一実施形態では、前記非活性/非成熟細胞はナイーブ免疫細胞である。
【0017】
一実施形態では、前記容器は、生理溶液および/もしくは増殖培地、ならびに/または自己もしくは非自己ヒト血漿を含む。
【0018】
特有の実施形態では、本発明は、ナイーブ免疫細胞が富化された細胞の集団を製造する方法であって、
a.哺乳動物免疫細胞の不均質な集団を含む生物学的試料を得ること、および
b.得られた哺乳動物免疫細胞の不均質な集団を容器中でアポトーシス誘導性リガンドと接触させることであって、前記接触させることが、ナイーブ細胞がアポトーシスシグナルに対して抵抗性であるままとしながら、成熟細胞のアポトーシスを誘導し、それにより、ナイーブ細胞が富化された細胞の集団が単離される、前記接触させること
を含む、方法を提供する。
【0019】
一実施形態では、前記ナイーブ免疫細胞はナイーブT細胞またはナイーブB細胞である。
【0020】
別の実施形態では、前記生物学的試料は、動員末梢血細胞、末梢血単核細胞(PBMC)、富化されたCD3 T細胞、富化されたCD4またはCD8 T細胞、富化されたB細胞、臍帯血細胞および骨髄細胞からなる群から選択される。
【0021】
一実施形態では、前記免疫細胞は、患者に対して自己であり、または患者に対して同種である。
【0022】
一実施形態では、前記容器は、生理溶液および/もしくは増殖培地、ならびに/または自己もしくは非自己ヒト血漿を含む。
【0023】
一実施形態では、アポトーシス誘導性リガンドは、容器の内側表面上または容器中に含まれるビーズもしくはフィルム上に固定化される。
【0024】
一実施形態では、アポトーシス誘導性リガンドは、TNF−α、Fasリガンド(FasL)、TRAILおよびTWEAKからなる群から選択される。
【0025】
一実施形態では、アポトーシス誘導性リガンドとの前記接触ステップは約1時間〜約48時間行われる。
【0026】
一実施形態では、前記接触ステップは約2時間行われる。
【0027】
一実施形態では、前記アポトーシス誘導性リガンドはFasLであり、かつ前記FasLは約1〜約800ng/mlの濃度で投与される。
【0028】
一実施形態では、FasLは約100ng/mlの濃度で投与される。
【0029】
一実施形態では、FasLは約10ng/mlの濃度で投与される。
【0030】
一実施形態では、前記成熟細胞は、T1/T1、T17、TSCM、TCM、TEM、およびTeff細胞集団からなる群から選択される成熟T細胞である。
【0031】
別の態様では、本発明は、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法により調製されたナイーブT細胞が富化された細胞の集団を提供する。
【0032】
一実施形態では、ナイーブT細胞が富化された前記細胞は、CCR7CD45RACD95−LFA1lowとして特徴付けられる。
【0033】
別の態様では、本発明は、がんおよび自己免疫疾患の治療において使用するための、本発明のナイーブT細胞が富化された細胞の集団を提供する。
【0034】
別の態様では、本発明は、がんおよび自己免疫疾患の治療において使用するための、遺伝子改変の必要条件としての活性化可能性を維持するT細胞が富化された細胞の集団を提供する。
【0035】
別の態様では、本発明は、患者において自己免疫疾患を治療する方法であって、前記患者に、本発明の方法により調製されたナイーブT細胞が富化された細胞の集団を投与することを含む、方法を提供する。
【0036】
一実施形態では、前記成熟細胞は、メモリーおよび形質芽球B細胞集団からなる群から選択される成熟B細胞集団である。
【0037】
別の態様では、本発明は、本発明の方法により調製されたナイーブB細胞が富化された細胞の集団を提供する。
【0038】
一実施形態では、前記ナイーブB細胞は、CD27CD38として特徴付けられる。
【0039】
別の態様では、本発明は、がん、自己免疫疾患、または炎症性疾患の治療において使用するための、本発明のナイーブB細胞が富化された細胞の集団を提供する。
【0040】
別の態様では、本発明は、患者において自己免疫疾患を治療する方法であって、前記患者に、本明細書に記載の発明の方法により調製されたナイーブB細胞が富化された細胞の集団を投与することを含む、方法を提供する。
【0041】
別の態様では、本発明は、自己免疫疾患を治療する方法であって、
a.TおよびB細胞を含む哺乳動物免疫細胞の不均質な集団をアポトーシス誘導性リガンドと接触させることであって、前記接触させることが、前記TおよびB細胞の活性化レベルを低減する、前記接触させること、ならびに
b.ステップ(a)において得られた細胞の前記集団をそれを必要とする患者に投与すること
を含む、方法を提供する。
【0042】
別の態様では、本発明は、患者においてがんを治療する方法であって、本発明の非成熟T細胞が富化された細胞の集団を投与することを含み、前記細胞がそれらの抗がん活性を保存している、方法を提供する。
【0043】
別の態様では、本発明は、CAR−T細胞を製造する方法であって、
a.生物学的試料から単核細胞を単離すること、
b.前記細胞を少なくとも1つのT細胞活性化剤と接触させることにより前記細胞を活性化させること、および
c.前記細胞にCAR構築物を形質導入すること
を含み、
前記方法が、前記活性化ステップ(b)の前および/または前記形質導入ステップ(c)の後に前記細胞をアポトーシス誘導性リガンドと接触させ、それにより、CAR−T細胞を得ることをさらに含む、
方法を提供する。
【0044】
一実施形態では、前記哺乳動物細胞はヒト細胞である。
【0045】
一実施形態では、前記生物学的試料は、末梢血単核細胞(PBMC)、富化されたCD3T細胞、富化されたCD4T細胞、富化されたCD8T細胞およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0046】
一実施形態では、前記細胞はPBMCである。
【0047】
一実施形態では、前記T細胞活性化剤は抗CD3および抗CD28抗体である。
【0048】
一実施形態では、アポトーシス誘導性リガンドは、FasL、TNF−α、TRAILおよびTWEAKからなる群から選択される。
【0049】
一実施形態では、アポトーシス誘導性リガンドとの前記接触ステップは約1時間〜約48時間行われる。
【0050】
一実施形態では、前記接触ステップは約2時間行われる。
【0051】
一実施形態では、前記アポトーシス誘導性リガンドはFasLであり、かつ前記FasLは約1〜約800ng/mlの濃度で投与される。
【0052】
一部の実施形態では、FasLは、約10ng/ml、50ng/mlまたは100ng/mlの濃度で投与される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
本明細書に開示される主題をより良好に理解するためおよびそれがどのように実施され得るのかを例示するために、添付の図面を参照して、単に非限定的な例として実施形態がこれより記載される。
図1図1は、T細胞サブタイプの表面上のCD95(FasR)の発現レベルを示すグラフのセット(1A〜1G)である。G−CSF動員末梢血細胞(MPBC)移植片に由来するT細胞(CD3)をフローサイトメトリーにより特徴付けた。(A)CD3細胞;(B)CD4細胞;(C)様々なCD4サブタイプ:ナイーブ、T幹細胞メモリー(TSCM)、セントラルメモリー(CM)、エフェクターメモリー(EM)、エフェクター(eff);(D)サブタイプTH1、TH17の成熟T細胞;(E)CD8細胞;(F)様々なCD8サブタイプ:ナイーブ、TSCM、CM、EM、eff;(G)サブタイプTC1の成熟T細胞。
図2図2は、グラフのセット(2A〜2Q)であり、(A〜G)において、MPBC対照と比較したFas−L処理MPBCにおけるT細胞サブタイプ集団パーセンテージの免疫表現型ベースのプロファイリングを示す。7AAD(壊死/後期アポトーシス)細胞は解析から除外した。(A)CD4Tヘルパー(TH);(B)様々なCD4サブタイプ:ナイーブ、TSCM、CM、EMおよびeff;成熟炎症促進性T細胞(C)TH1(D)TH17;(E)CD8T細胞傷害性(TC);(F)様々なCD8サブタイプ;(G)成熟炎症促進性T細胞:TC1。(H〜N)は、アネキシンV7AAD染色を使用してフローサイトメトリーにより評価し、対照MPBCと比較したFas−L処理細胞の早期アポトーシスレベルを示すグラフである。3連での3つの独立した実験からの代表的な実験の平均+SDとして結果を提示している。(H)CD4細胞;(I)様々なCD4サブタイプ:ナイーブ、TSCM、CM、EM、eff;(J)サブタイプTH1の成熟T細胞;(K)サブタイプTH17の成熟T細胞;(L)CD8細胞;(M)様々なCD8サブタイプ:ナイーブ、TSCM、CM、EM、eff;(N)サブタイプTC1の成熟T細胞。(O)および(P)は、フローサイトメトリーを使用し、MPBC対照と比較して、FasL処理Tヘルパー(CD4CD25)細胞(O)、およびT細胞傷害性(CD8CD25)細胞(P)において測定した場合のCD25受容体(活性化マーカー)の発現を示すグラフである。(Q)MPBC対照と比較した、FasL処理後のCD4CD25活性化ヘルパーT細胞のうちの制御性T細胞(Treg)(CD127)のパーセンテージ。平均+SEM、n=11の独立した移植片。統計解析は、ノンパラメトリックな、対応のあるスチューデントのT検定を使用して行った。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。
図3図3は、インビトロ活性化に応答したFas−L処理Tリンパ球の活性化の低減を示すグラフのセットである。Fasリガンド処理された動員末梢血細胞および対照細胞から単離されたTリンパ球を0.75×10細胞/mlでインキュベートし、1:10のビーズ:細胞比でCD3/CD28活性化ビーズを使用して24または48時間刺激した。CD25high受容体発現をFas−L処理Tヘルパー(CD4CD25high)(A)およびT細胞傷害性(CD8CD25high)細胞(B)において測定し、フローサイトメトリーを使用してMPBC対照と比較した。(C)Fas−L処理および対照細胞によるIFNγ分泌をELISAを使用して測定した。結果は、2つの独立した研究の代表的なものである。平均+SD、n=3の複製物として提示したデータ。対応のないパラメトリックt検定を使用して統計解析を行った。(D)Fas−L処理ヒトMPBC(5×10)を3コホートの亜致死照射(2Gy)NSGマウスに移植し、MPBC対照(n=8〜10/群)またはビヒクル(移植緩衝液、n=2/群)と比較した。3つの終了時点(移植後3、7および14日目)における脾臓中の絶対的なhCD3 T細胞数(フローサイトメトリーにより検出された場合のhCD3 T細胞パーセンテージを、各組織から回収された細胞の絶対数と掛け合わせることにより算出した)。(E)カプラン・マイヤー(Kaplan Maier)生存曲線(移植片対宿主病(GvHD)の生存曲線)。(F)移植後14日目におけるIFN−γの血清レベル。結果は、2つの独立した研究の代表的なものである(n=8〜10のレシピエント/群)。平均+SEMとして提示したデータ。マン・ホイットニー検定を使用して行った統計解析;*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001、****P≦0.001。
図4図4は、Fas−L処理、それに続く成熟細胞集団の低減は、インビトロおよびインビボの両方で移植片対白血病活性に影響しないことを示すグラフのセットである。(A)U937(B)MV4−11白血病細胞系に対するMPBC対照またはFas−L処理MPBCの細胞傷害活性アッセイ。2×10個のCFSE標識化白血病細胞/ウェルを96ウェルプレート中で培養し、拡大増殖したT細胞(抗CD3および組換えIL2と共に12日間培養)を上昇させた白血病:T細胞の比で加えた。生存CFSE白血病細胞をFACSにより共培養の24時間後に評価した。平均+SD、n=3の複製物として提示したデータ。(C)NOD−scid IL2Rガンマ−ヌル(NSG)マウスを(−1)日目にγ照射(200cGy)し、10×10^6個のMV4−11白血病細胞を0日目に静脈内(IV)ボーラス注射により投与した。4〜6時間後に、3×10^6個のMPBCまたはFasL処理MPBCをIVボーラス注射により投与した。動物を週に2回スコア付けした。ヒト造血細胞生着(CD45CD123)および白血病負荷(CD45CD123)の評価を(D)脾臓、(E)骨髄および(F)血液においてフローサイトメトリーにより移植後3週目に評価した。平均±SEM、n=7の雌NSGマウス/群として提示したデータ。2つの独立した実験のうちの1つの代表的な結果。*P<0.05、**P<0.01、対ビヒクル処理群および#P<0.05、##P<0.01、対MPBC対照群(マン・ホイットニー検定)。
図5図5は、インビトロおよびインビボの両方での抗原提示細胞(APC)−B細胞および骨髄細胞に対するFas−L処理の効果を示すグラフのセットである。(A)MPBC対照細胞のFasR(CD95)発現のレベルをフローサイトメトリーを使用して測定した(n=3)。(B)アポトーシス細胞パーセンテージ(アネキシンV染色細胞、n=8)およびHLA−DRhi発現細胞のパーセンテージ(3連、n=1)を対照MPBCと比較してFasL処理MPBCにおいて検出した。(C)CD19細胞のうちのHLA−DRのパーセンテージおよびD)CD33細胞のうちのHLA−DRのパーセンテージ。(E〜L)NSGマウスにFasL処理MPBCまたはMPBC対照(5×10個の総有核細胞(TNC)/マウス)を移植した(n=8〜10/群)。各指し示した終了時点(3/7/14日目)において、脾臓および骨髄を収集し、B細胞および骨髄細胞の絶対数を脾臓(E)および(F)、ならびに骨髄(I)および(J)において検出した。MPBC対照移植マウスと比較した、FasL処理MPBC移植マウスの脾臓(G)および(H)ならびに骨髄(K)および(L)におけるHLA−DRhi発現Bおよび骨髄細胞のパーセンテージ。平均+SEMとして提示したデータ。スチューデントのt検定を使用して統計解析を行った:(B、対応のあるノンパラメトリック);(C、D 対応のないパラメトリック)(E〜L、対応のないノンパラメトリック);*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。
図6図6は、G−CSF動員PBC移植片におけるB細胞サブタイプの分布、それらのFasRの発現およびFas−Lによるアポトーシス誘導に対する応答を示すグラフのセットである。(A)G−CSF動員末梢血試料において成熟ステージ(移行期/ナイーブ/メモリーおよび形質芽球)によるB細胞サブタイプ上のFasR(CD95)発現のレベルをフローサイトメトリーを使用して測定した。(B)Fas−L処理MPBCにおけるB細胞サブタイプの早期アポトーシスレベルをアネキシンV7AAD染色を使用してフローサイトメトリーにより評価し、対照MPBCと比較した。(C)Fas−L処理MPBCおよび対照MPBCの両方のB細胞サブタイプの免疫表現型プロファイリング。7AAD(壊死/後期アポトーシス)細胞は解析から除外した。3連の平均+SDとして提示したデータ。対応のないパラメトリックt検定を使用して統計解析を行った;*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図7図7は、異なる処理後の漸増用量のFasLを用いて処理された末梢血単核細胞を示すグラフのセットである。FasLとの2hのインキュベーション − 単核(monunuclear)細胞を異なる濃度のFasLと2時間インキュベートした。FasLとの2hのインキュベーション+48hの活性化−単核細胞を異なる濃度のFasLと2時間インキュベートし、次に抗CD3および抗CD28抗体を用いて48時間活性化させた。48hの活性化+FasLとの2hのインキュベーション−単核細胞を抗CD3および抗CD28抗体を用いて48時間活性化させ、次にFasLと2hインキュベートした。(A)異なる処理後の生存CD3細胞、(B)異なる処理後のCD25を発現する活性化CD3細胞(%CD3/CD25)、(C)CD3細胞の早期アポトーシス(%CD3/アネキシンV)。
図8図8は、全CD3細胞集団のうちの生存GFP細胞のパーセントにより測定された場合の形質導入効率および形質導入T細胞の生存に対するFas−Lの効果を示すグラフである。3つの異なる細胞群:活性化前にFas−Lを与えられたもの、活性化後にFas−Lを与えられたものおよび形質導入後にFas−Lを与えられたものにおいて、50ng/mlおよび100ng/mlの2つの濃度のFas−Lを調べ、Fas−L無し(0ng/ml)と比較した。標準CAR−Tは、CAR−T細胞生産の標準的な手順の通りに処理された細胞である。
図9図9は、それらの抗原MDA−MB−231細胞への曝露により刺激されたErbB2−CAR−T細胞によるIFN−γ分泌(pg/ml)およびGFP発現により測定された場合の形質導入効率を示すグラフである。1−活性化前の0ng/mlのFas−L;2−活性化前の50ng/mlのFas−L;3−活性化前の100ng/mlのFas−L;4−活性化後の0ng/mlのFas−L;5−活性化後の50ng/mlのFas−L;6−活性化後の100ng/mlのFas−L;7−形質導入後の0ng/mlのFas−L;8−標準CAR−T;UT−対照非処理細胞。
図10図10は、全CD3細胞集団のうちの生存GFP細胞の%により測定された場合のCAR−T細胞の数(A)および細胞集団のうちの生存GFPCD25細胞の%により測定された場合のそれらの活性化状態(B)に対する、1、10、および50ng/mlの濃度での形質導入後のFas−L処理の効果を示すグラフのセットである。グラフは、CD3細胞、CD8細胞およびCD4細胞における結果を比較している。
図11図11は、CD4およびCD8 T細胞サブタイプナイーブ、セントラルメモリー(CM)、エフェクターメモリー(EM)およびエフェクター(eff)細胞に対する形質導入後に加えられた漸増濃度のFas−L(0、1、10、50ng/ml)の効果を示すグラフのセットである。(A)生存CD8形質導入細胞(GFP CD8)サブタイプの組成;(B)生存CD8C1細胞;(C)生存CD4形質導入細胞(GFP CD4)サブタイプの組成。(D)生存CD4サブタイプT1およびT17。全ての細胞は、Fas−L処理およびIL−2を用いた4日の回復後に、CAR−T製造プロセスの終わりに解析した。2連の平均+SDとして結果を提示している。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明は、免疫細胞、例えば、ヒトドナーのG−CSF動員末梢血試料から得られた細胞の不均質な集団の、アポトーシス誘導性リガンドFas−Lへの曝露は、試料中に存在する細胞の組成および活性化状態におけるシフトを引き起こすという驚くべき発見に基づく。特に、処理により影響される細胞は、いずれも可変レベルのFas(CD95)受容体を発現する、成熟したアポトーシス感受性のT細胞サブタイプ、B細胞および骨髄細胞である。
【0055】
アポトーシスは、TNFスーパーファミリーのメンバー(例えば、FasL(FasLおよびFas−Lという用語は本明細書において交換可能に使用される)、TNFα、TRAIL、TWEAKを含む)の特有の受容体により媒介され得るプログラム細胞死である。これらの受容体は様々な細胞集団上、大抵は成熟した活性化細胞上に発現され、それらにおけるこれらの特有の受容体の発現は、制御された細胞死と相関し、それらをアポトーシス感受性細胞とするが、ナイーブ細胞は非感受性である。他の細胞種は、細胞内機構に起因して、デスリガンド受容体発現にもかかわらず、デスリガンド誘導性のアポトーシスに対して抵抗性であり得る(Kimら、2002)。誘導性の細胞死に対する差次的な感受性は、選択ツールとして使用され得る。
【0056】
成熟TおよびB細胞はFas受容体を発現し、Fasリガンドのアポトーシス効果に対して感受性である(SprentおよびTough、2001;Strasserら、2009)。本発明において提唱されるように、Fas−L処理は、健常ドナーの血液中に定常状態でより低いレベルにおいて見出される他に、自己免疫患者または炎症性疾患を有する患者の血液中に高いレベルにおいて見出されるこれらのアポトーシス感受性の反応性細胞を排除するためにこのFas−Fasリガンド機構を使用し、それにより、急性の、望ましくない、炎症促進性反応を低減し得る。
【0057】
G−CSF動員末梢血細胞中のT細胞の中で、ヘルパーT細胞(T)(すなわち、CD4細胞)は細胞傷害性T細胞(T)(すなわち、CD8)よりも高いレベルのFas受容体(FasR)を発現すること、ならびにTおよびT細胞の両方の成熟サブタイプ(メモリーおよびエフェクターT細胞、およびT1/T1およびT17細胞を含む)の他に、T幹細胞メモリー(TSCM)細胞は、ナイーブT細胞と比較した場合に大規模なレベルのFasRを発現することを本発明の発明者らは実証する。
【0058】
さらには、アポトーシス誘導因子(例えば、FasL)とインキュベートされたG−CSF動員末梢血細胞中で、CD4細胞およびCD8細胞の両方の有意な低減が起こったことを本発明者らは示す。さらには、FasLは、TおよびT細胞の両方の特有のサブタイプ、すなわち、ヘルパーおよび細胞傷害性TSCM集団を選択的に枯渇させた。
【0059】
ナイーブT細胞由来のTSCM細胞は、ナイーブT細胞の特有のサブタイプである。TSCMは、活性化されると、T細胞の再構成および炎症促進性応答において重大な役割を果たすメモリーおよびエフェクターT細胞にさらに分化することを現行の研究は指し示している(Zhangら、2005、およびRobertoら、2015)。TSCMサブタイプは、高いレベルのFasRを発現し、それにより、大抵はFas−L処理に対して感受性であるナイーブ集団の画分であることが本発明者らにより示された。
【0060】
T細胞に加えて、B細胞および骨髄細胞などの他の免疫細胞もまた、FasL処理により影響される。
【0061】
よって、本発明は、免疫細胞集団などの混合細胞集団を、より低分化の免疫細胞(例えば、T細胞、B細胞および骨髄細胞)を含むように改変する方法であって、免疫細胞集団をアポトーシス誘導性リガンドに曝露することによる、方法を提供する。そのような改変された免疫細胞集団は、移植片からのアポトーシス感受性細胞の排除が、アポトーシス感受性細胞、例えば、TまたはBまたは骨髄細胞の炎症促進性反応を低減することにより移植の有用性を増加させ得る免疫細胞移植を含む任意の方法において使用することができる。
【0062】
したがって、その第1の態様では、本発明は、非活性/非成熟細胞が富化された細胞の集団を製造する方法であって、
a.哺乳動物細胞の不均質な集団を含む生物学的試料を得ること、および
b.得られた哺乳動物細胞の不均質な集団を容器中でアポトーシス誘導性リガンドと接触させることであって、前記接触させることが、非活性/成熟細胞がアポトーシスシグナルに対して抵抗性であるままとしながら、活性/成熟細胞のアポトーシスを誘導し、それにより、非活性/非成熟細胞が富化された細胞の集団が単離される、前記接触させること
を含む、方法を提供する。
【0063】
一実施形態では、哺乳動物細胞の前記不均質な集団は、免疫細胞の集団である。前記不均質な集団は、アポトーシス感受性T細胞および/またはアポトーシス感受性B細胞を含む、アポトーシス抵抗性およびアポトーシス感受性免疫細胞を含む。
【0064】
本明細書において使用される場合、「アポトーシス感受性T細胞」という用語はCD95T細胞サブタイプを包含し、これには、T1/T1、T17、TSCM、TCM、TEM、およびTeffが含まれるがそれに限定されない。ある特定の実施形態では、これらのT細胞サブタイプは、以下のようにある特定のマーカーの発現プロファイルにより定義される:
SCM(CCR7CD45RACD95LFA1high)、
CM(CCR7CD45RA CD95LFA1high)、
EM(CCR7CD45RA CD95LFA1high),
eff(CCR7CD45RA CD95LFA1high)、
1/T1(CD3CD4CXCR3)、
17(CD3CD4CCR6CXCR3)。
【0065】
本明細書において使用される場合、「ナイーブT細胞」という用語は、CD95である細胞を包含する。一実施形態では、ナイーブT細胞は、以下の発現プロファイルにより定義される:CCR7CD45RACD95LFA1low
【0066】
本明細書において使用される場合、「アポトーシス感受性B細胞」という用語は、CD95B細胞サブタイプを包含し、これには、形質芽球(Plasma blast)、メモリー細胞、移行期またはナイーブB細胞が含まれるがそれに限定されない。ある特定の実施形態では、これらのB細胞サブタイプは、以下のようにある特定のマーカーの発現プロファイルにより定義される:
B移行期(CD27CD38
Bナイーブ(CD27CD38
Bメモリー細胞(CD27CD38
B形質芽球(CD27CD38
【0067】
一実施形態では、前記容器は生体適合性材料から作られている。一実施形態では、前記アポトーシス誘導性リガンドは、容器の内側表面に固定化されている。
【0068】
別の実施形態によれば、前記アポトーシス誘導性リガンドは、容器内に存在するビーズの表面に固定化されている。
【0069】
別の実施形態によれば、容器は、バッグ、カラム、チューブ、ボトル、バイアルおよびフラスコからなる群から選択される。
【0070】
一実施形態では、アポトーシス誘導性リガンドは、TNF−α、Fasリガンド(FasL)、TRAILおよびTWEAKからなる群から選択される。
【0071】
特有の実施形態では、アポトーシス誘導性リガンドはFas−Lである。
【0072】
養子細胞療法の既存の技術は、改変、活性化または操作された自己細胞を使用する。自己ベースの療法の制限の1つは、各個々の患者のために腫瘍特異的リンパ球を生成する必要があることであり、これは技術的および経済的に課題となっている。しかしながら、同種養子導入は移植片対宿主病(GvHD)の危険に直面する。GvHD惹起性細胞を低減するための、投与される活性化T細胞の予備選択は、オフ腫瘍損傷のリスクが無い、腫瘍特異的な治療を結果としてもたらし得る。
【0073】
したがって、一実施形態では、本発明の方法は、高いレベルのサイトカイン放出のリスクを低減しながら、組換えB細胞抗原受容体を発現する自己細胞集団の調製、例えば、CAR−T細胞移植において用いることができる。
【0074】
別の実施形態では、本発明の方法は、高いレベルのサイトカイン放出のリスクを低減し、かつ追加的にGvHDのリスクを軽減しながら、組換えB細胞抗原受容体を発現する同種細胞集団の調製、例えば、CAR−T細胞移植において用いることができる。
【0075】
別の実施形態では 本発明の方法は、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、自己免疫糖尿病、1型および2型糖尿病、SLE(全身性ループスエリテマトーデス)、重症筋無力症(Myestenia gravis)、進行性全身性硬化症、橋本甲状腺炎、グレーブス病、自己免疫性溶血性貧血、原発性胆汁性胆管炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、リウマチ性脊椎炎、変形性関節症、痛風性関節炎、関節炎状態、炎症性関節、湿疹、炎症性皮膚状態、炎症性眼状態、結膜炎、発熱、炎症の結果としてもたらされる組織壊死、アトピー性皮膚炎、B型肝炎抗原陰性慢性活動性肝炎、気道炎症、喘息ならびに気管支炎が挙げられるがそれに限定されない、T細胞媒介性自己免疫および炎症性疾患などにおいて、自己反応性を有する炎症惹起性細胞を低減するために用いることができる。
【0076】
一実施形態では、本発明の方法は、自己免疫性多発性硬化症(MS)において自己免疫反応を上昇させることが公知(Baecher−Allanら、2018)である炎症促進性T1およびT17集団を低減することにより免疫学的活性を減少させるために用いることができる。すなわち、本発明の一実施形態によれば、MS患者の末梢単核細胞は一時的に除去され、アポトーシス誘導性リガンド(例えば、FasL)を用いて処理されて自己免疫負荷の低下が結果としてもたらされ、自己反応性クローンが除去されたものが患者に再移植される。
【0077】
別の実施形態では、本発明の方法は、ループスエリテマトーデス(Nashiら、2010)、多発性硬化症(Bakerら、2017)などであるがそれに限定されない自己免疫疾患において、自己抗体産生性B細胞またはB細胞抗原提示を低減するために用いることができる。
【0078】
一実施形態では、本発明の方法は、選択された集団の投与に起因するアウトカムの向上において、再生医療において複能性間質/間葉幹細胞、神経前駆細胞および内皮前駆細胞などの前駆細胞を使用するために用いることができる。
【0079】
別の実施形態では、本発明の方法は、造血幹細胞移植の方法としての二重臍帯血の使用の促進、すなわち、GvHDおよび1つの臍帯単位(cord unit)の細胞の他の臍帯単位の細胞への相互攻撃の低下において用いることができる。
【0080】
別の実施形態では、ドナー細胞の不均質な集団(例えば、健常な、同意している幹細胞ドナーのアフェレーシスから得られるG−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)動員末梢血細胞)が得られる。細胞は、アポトーシス誘導性リガンド(例えば、Fasリガンド)とインキュベートされる。FasLは、例えば、1つまたはより多くの洗浄ステップにより、細胞培養物から除去される。一実施形態では、さらなる単離ステップは行われない。
【0081】
ある特定の実施形態では、アポトーシス誘導性リガンド(例えば、FasL)とのインキュベーションは、その表面にFasLが取り付けられたデバイス中で行われてもよい。
【0082】
本発明は、アポトーシス感受性細胞の特有のサブタイプが枯渇した細胞集団を製造する方法を開示する。方法は、不均質な細胞集団からの、生着、抗腫瘍活性などの所望の活性をサポートする免疫細胞、組織再生をサポートする細胞の陽性選択、および、生命を脅かすレベルのサイトカインの放出などの有害な効果を有する細胞、自己抗原を標的とする細胞、移植片対宿主病(GvHD)を引き起こす鍵となるプレーヤーである細胞、炎症惹起性プロファイルまたは他の効果を有する細胞の陰性選択を同時に可能にする。
【0083】
免疫細胞集団は、アポトーシスシグナル伝達抵抗性細胞およびアポトーシスシグナル伝達感受性細胞を含む。方法は、不均質な細胞集団を含む試料を提供すること、該細胞をアポトーシス誘導性リガンドとインキュベートし、それにより、試料からより高いアポトーシス感受性の細胞(例えば、成熟エフェクター細胞)を排除し、かつアポトーシスシグナル伝達抵抗性細胞(例えば、ナイーブTもしくはBもしくは骨髄もしくはCD34細胞または他の前駆体)を含む集団を富化することを含む。
【0084】
より低い毒性およびGvHDまたは他の毒性の活性を有する、遺伝子改変T細胞、例えば、キメラ抗原受容体を発現するT細胞、または一部の他の活性化T細胞などの、細胞の集団を調製する方法が記載される。方法は、例えば、治療用細胞調製の様々なステップの間に、例えば、組換え抗原受容体を発現するT細胞集団の培養および拡大増殖の前または後に、細胞をアポトーシス誘導性リガンドと接触させることを伴う。
【0085】
キメラ抗原受容体(CAR)は、標的細胞の細胞表面上に存在する標的分子、例えば、B細胞上のCD19抗原に特異的に結合できる組換え生体分子である。CAR分子の非限定的な例としては、キメラT細胞受容体、人工T細胞受容体または遺伝子操作型受容体が挙げられる。これらの受容体は、所望の細胞、例えば、T細胞へのモノクローナル抗体またはその結合性部分の特異性を賦与するために使用することができる。CARは、MHC拘束とは独立して、抗原に結合し、T細胞活性化を伝達することができる。そのため、CARは、HLA遺伝子型にかかわらず抗原陽性腫瘍を有する患者の集団を治療できる「普遍的」な免疫受容体である。腫瘍特異的CARを発現するTリンパ球を使用する養子免疫療法は、がんの治療のための強力な治療戦略であり得る。
【0086】
CARコーディング配列は、当該技術分野において公知の任意の手段により製造することができるが、好ましくは、組換えDNA技術を使用して製造される。キメラ受容体のいくつかの領域をコードする核酸は、当該技術分野において公知の分子クローニングの標準的な技術(ゲノムライブラリースクリーニング、PCR、プライマー補助ライゲーション、部位特異的突然変異誘発など)により調製し、完全なコーディング配列にアセンブルさせることができる。結果としてもたらされるコーディング領域は、好ましくは、発現ベクターに挿入され、好適な発現宿主細胞、好ましくはTリンパ球を形質転換するために使用される。ウイルスまたは非ウイルストランスフェクションベクターを使用して遺伝子を宿主ゲノムに挿入するためのいくつかの利用可能な技術がある。例えば、核酸は、遺伝子改変細胞を製造するために、細胞の核エンベロープを通じて直接的に核内に注入されてもよく、またはウイルスベクターを使用して細胞に投与されてもよい。
【0087】
ウイルスベクターを用いるトランスフェクションは、T細胞などの遺伝子改変細胞を製造するための一般的な技術である。この技術は、ウイルス形質導入として公知である。核酸は、当該技術分野において周知の方法を使用して、担体としてレンチウイルスもしくはアデノウイルスなどのウイルス、またはプラスミドを使用して細胞に導入される。
【0088】
末梢血単核細胞の他に、富化されたT細胞集団(例えば、CD4+およびCD8+ T細胞)は、様々な方法により単離し、CAR発現用のベクターを用いて形質導入し、本明細書に記載の方法により培養することができる。
【0089】
本明細書において使用される場合、「CAR−T」または「CAR−T細胞」という用語は、CAR構築物を形質導入されたT細胞を指す。
【0090】
本明細書において使用される場合、「CAR構築物」という用語は、所望のCARをコードする遺伝子を含み、任意選択的に前記遺伝子の発現のために要求される追加の核酸配列をさらに含み、かつ任意選択的にCAR機能を増進するためのアクセサリー分子をコードする追加の成分をさらに含む、ベクターを指す。
【0091】
本明細書において使用される場合、「単核細胞」という用語は、丸い核を有する任意の血液細胞を指す。これらの細胞は、リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)および単球からなる。「末梢血単核細胞」という用語は、末梢血中に見出される単核細胞を指す。
【0092】
PBMCは、当該技術分野において周知の方法を使用して、例えば、フィコール、血液の層を分離する親水性多糖、ならびに血液を血小板を含む血漿の上層、続いて単核細胞の層および多形核細胞(例えば、好中球および好酸球)および赤血球の底画分に分離する勾配遠心分離を使用して、全血から単離することができる。
【0093】
例えば、T細胞は、勾配分離、エルトリエーションまたはアフィニティー精製により末梢血から単離することができる。細胞はアポトーシス誘導性リガンドとインキュベートされ、それにより、細胞集団はより未熟な状態にシフトする。次に、例えば、CAR(例えば、CD19またはHER2特異的CAR)の発現を指令するSINレンチウイルスベクターを用いて、細胞への形質導入を行うことができる。遺伝子改変T細胞をインビトロで拡大増殖させ、次に凍結保存することができ、または即時の使用のために新鮮なまま提供することができる。代替的に、例えば、CAR(例えば、CD19またはHER2特異的CAR)の発現を指令するSINレンチウイルスベクターを用いて、T細胞への形質導入を行うことができ、次に細胞はアポトーシス誘導性リガンドとインキュベートされ、それにより、細胞集団はより未熟な状態にシフトする。選択された遺伝子改変T細胞をインビトロで拡大増殖させ、次に凍結保存することができ、または即時の使用のために新鮮なまま提供することができる。
【0094】
以下の実施例において実証されるように、抗CD3/CD28抗体を用いる活性化前のFasLへの末梢血単核細胞の曝露は、CAR発現細胞の数によりおよび標的抗原への曝露でこれらの細胞により分泌されるIFNγのレベルにより測定された場合に、効率的に形質導入されてCAR−T細胞となる可能性がより高い細胞の選択を結果としてもたらした。
【0095】
したがって、CAR−T製造の手順の間(および特に細胞の活性化ステップの前)のFasLへの曝露のステップは、以下に限定されないが特に、形質導入効率が例えば以前の化学療法治療に起因して損なわれている自己CAR−T移植の状況において、向上した形質導入を結果としてもたらし得る。
【0096】
追加的に、以下の実施例において実証されるように、形質導入後のFasL処理は、潜在的な炎症促進性CAR T細胞およびそれらの活性化状態を減少させ得る。したがって、形質導入ステップ後のFasLへの曝露のステップは、同種CAR−T移植の状況においてサイトカイン放出ストームの低減、またはGvHD発症の軽減を結果としてもたらし得る。
【0097】
したがって、その別の一態様では、本発明は、CAR−T細胞を製造する方法であって、
a.生物学的試料から単核細胞を単離すること、
b.前記細胞をT細胞活性化剤(例えば、抗CD3/CD28抗体)と接触させることにより前記細胞を活性化させること、
c.前記細胞にCAR構築物を形質導入すること
を含み、
前記方法が、前記活性化ステップ(b)の前および/または前記形質導入ステップ(c)の後に前記細胞をアポトーシス誘導性リガンドと接触させ、それにより、CAR−T細胞を得ることをさらに含む、
方法を提供する。
【0098】
ある特定の実施形態では、前記方法は、向上した形質導入効率の取得を結果としてもたらす。ある特定の実施形態では、前記方法は、同種CAR−T移植の状況において、サイトカイン放出ストームの低減、または患者におけるGvHDの低減を結果としてもたらす。
【0099】
一実施形態では、前記単離される単核細胞は末梢血単核細胞である。一部の実施形態では、前記単核細胞は、CD3、CD4および/またはCD8T細胞が富化されている。
【0100】
一実施形態では、前記活性化ステップ(b)は約1〜3日の期間行われる。1つの特有の実施形態では、前記活性化ステップは約48時間(2日)行われる。
【0101】
「形質導入」または「形質導入する」という用語は、本明細書において使用される場合、CAR転写物の細胞への組込みを結果としてもたらす、ベクターによってCAR構築物をT細胞に移入する方法を指す。一般的な技術は、ウイルスによる感染、ウイルスベクター、エレクトロポレーション、プロトプラスト融合、トランスポゾン/トランスポザーゼシステム(例えば、Hackettら(2010)を参照)、および細胞透過性を増加させるための化学試薬、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクションを使用する。遺伝子療法のために一般的に使用されるウイルスは、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルスまたはレンチウイルスである。
【0102】
本明細書の開示における用語は、本明細書に照らして読まれた場合に、そのままの通常の意味を与えられるべきである。当業者は、本明細書全体を考慮して使用された用語を理解する。
【0103】
本明細書において使用される場合、「a」または「an」は、1つまたは1つより多くを意味し得る。
【0104】
本明細書において使用される場合、「約」という用語は、値が、本来備わっている誤差の変動、例えば、10%の変動を含むことを指し示す。
【実施例】
【0105】
実施例1:FasL処理は異なるT細胞サブタイプに対して差次的な効果を有する
この実験は、健常な、同意している幹細胞ドナーのアフェレーシスから得られたG−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)動員末梢血細胞(MPBC)の試料を用いて行った。白血球アフェレーシスの前に4〜5日の期間にわたりドナーにG−CSF(10〜12μg/kg/日)を与えた。細胞をEDTAを含有する緩衝液を用いる2回の洗浄ステップに付し、100ng/mlの濃度の組換えヒトFasリガンド(Mega FasL、Adipogen)を含むCellGro SCGM培地(CellGenix)中100±20×10細胞/mlの濃度で5%のCOの加湿インキュベーター中37℃で2時間インキュベートした。FasLとのインキュベーション後、細胞を2回の追加の洗浄ステップに供して未結合のFasLを除去した。さらなる単離ステップは行わなかった。対照非処理試料は、同じドナーからの元々の非処理のMPBCからなるものであった。
【0106】
以下の抗体(Miltenyi):CD4、CD8、CCR7、CD45RA、LFA1、CD95、CXCR3およびCCR6を使用してフローサイトメトリーによりT細胞サブタイプの免疫表現型解析を行った。フローサイトメーター(MACSquant、Miltenyi)を使用して試料からのデータを獲得した(図1)。受容体発現にしたがって以下の集団を決定した:Tヘルパー(T、CD4)、T細胞傷害性(T、CD8)、それらのサブタイプ:ナイーブT細胞(CCR7CD45RACD95LFA1low)、TSCM(CCR7CD45RACD95LFA1high)、TCM(CCR7CD45RA)、TEM(CCR7CD45RA)、Teff(CCR7CD45RA)、T1/T1(CXCR3)、T17(CCR6CXCR3)。これらのT細胞サブタイプの表面上のFasR(CD95)の発現レベルを解析した。
【0107】
図1に記載のFasR(CD95)発現プロファイルは、ヘルパーT(T)細胞(CD4)は細胞傷害性T(T)細胞(CD8)よりも高いレベルを発現すること、ならびにTおよびT細胞の両方の成熟サブタイプ(メモリーおよびエフェクターT細胞、およびTH1/TC1およびTH17細胞を含む)の他に、TSCM細胞は、ナイーブT細胞と比較した場合に大規模なレベルのFasRを発現することを明らかにする。
【0108】
実施例2:T細胞サブタイプの集団パーセンテージおよびアポトーシス
収集の24時間以内に健常ドナーのアフェレーシスから得られたG−CSF MPBCの試料を閉じた注入バッグシステム中でFasリガンド有りまたは無しでインキュベートした。簡潔に述べれば、細胞を計数し、EDTAを含有する緩衝液を用いて2回洗浄し、100ng/mlの濃度のアポトーシスメディエーターFasリガンド(MegaFasL、Adipogen)の存在下でCellGro SCGM培地(CellGenix)中100±20×10細胞/mlの濃度で5%のCOの加湿インキュベーター中37℃で2時間インキュベートし、次に2回洗浄して未結合のFasLを除去した。製造者のプロトコールにしたがって磁気ヒトT細胞単離ビーズ(EasySep、StemCell、17951)を使用して、Fasリガンドまたは対照MPBCとのインキュベーション後のMPBCからT細胞を単離した。以下のMiltenyi Ab:CD4、CD8、CCR7、CD45RA、LFA1、CD95、CXCR3およびCCR6を使用してフローサイトメトリーにより、単離されたT細胞サブタイプの免疫表現型解析を行った。フローサイトメーター(MACSquant、Miltenyi)を使用して試料からのデータを獲得した。受容体発現にしたがって以下の集団を決定した:Tヘルパー(T、CD4)、T細胞傷害性(T、CD8)、ナイーブT細胞(CCR7CD45RACD95LFA1low)、TSCM(CCR7CD45RACD95LFA1high)、TCM(CCR7CD45RA)、TEM(CCR7CD45RA)およびTeff(CCR7CD45RA)、T1/T1(CXCR3)、T17(CCR6CXCR3)。追加的に、アネキシンV染色(eBiosciences BMS500FI)および7AAD(eBiosciences 00−6993)染色を使用してT細胞サブタイプのアポトーシスおよび壊死レベルを評価し、アネキシンV7AAD細胞を早期アポトーシスとして定義し、7AAD細胞の全てを後期アポトーシス/壊死細胞と考え、生存細胞の解析からゲートアウトした。
【0109】
FasL処理は、ヘルパーおよび細胞傷害性T細胞サブセットの両方を選択的に枯渇させた。図2A〜2Gに見ることができるように、ヘルパーおよび細胞傷害性TSCMおよびTEM細胞のパーセンテージは、FasLとのインキュベーションで減少した。追加的に、T17およびT1およびT1細胞のパーセンテージは、FasLとのインキュベーションの結果として有意に減少し、FasL処理は、T1、T1およびT17集団においてアポトーシスを優先的に誘導したが(それぞれ45%、48%および92%、P<0.0001)、ナイーブTおよびTc細胞はより影響されなかった。
【0110】
図2A〜2Gに示され、以下においてさらに詳しく述べられるように、アポトーシス誘導因子(FasL)とインキュベートされたMPBCは、CD4細胞(10.7%、P<0.001)およびCD8細胞(14.0%、P<0.05)の両方の有意な低減を示した。さらには、FasLは、TおよびT細胞の両方の特有のサブタイプを選択的に枯渇させた。本明細書において提供される結果は、ヘルパー(23.2% P<0.01)および細胞傷害性(41.8%、P<0.01)TSCM集団の統計的に有意な低減をさらに実証する。
【0111】
アポトーシス誘導性リガンドFas−Lへの曝露は、Tヘルパー(T)細胞を選択的に枯渇させ、メモリーT細胞サブセットは低減するが、ナイーブTでは、細胞の小さい比率のみがFasRを発現し(すなわち、TSCMサブセット)、この特有のサブセットはアポトーシス負荷に影響されることを結果は指し示す。さらに、Fas−Lへの曝露は、炎症促進性T1、T1およびT17集団においてアポトーシスを優先的に誘導するようである(図2H〜2N)。
【0112】
理論により縛られることを望まないが、アポトーシス誘導性リガンドFas−Lとのインキュベーションは、アポトーシス感受性の成熟したヘルパーT細胞の排除を結果としてもたらし、より低分化状態の亜集団を残すことをそのような結果は指し示す。
【0113】
追加的に、FasLを用いる前処理もまた、エフェクターメモリーTヘルパー(THEM)サブタイプの他に、エフェクターメモリーT細胞傷害性(TCEM)およびエフェクター(TCeff)サブタイプ(それぞれ、26.0%、P<0.0001、16.4%、P<0.01;13.6%、P<0.01)を有意に低減したが、ナイーブTサブタイプでは効果は無く、ナイーブT細胞ではわずかな低減のみが示された(6.0%、P<0.01)。さらには、炎症促進性成熟T細胞、T1、T1およびT17のレベルは、MPBC対照と比較した場合に大きく低減した(それぞれ、55.1%、47.9%および91.8%;P<0.0001)。T細胞の各サブタイプの生存集団パーセンテージにおける低減に加えて、早期アポトーシスレベルがFasL処理後に増加することが示された。図2H〜2Nは、CD4ヘルパーT(T)早期アポトーシスレベルの1.93倍の増加(P<0.05)の他に、CD8細胞傷害性T細胞(T)の2.48倍の増加(P=0.08)を提示する。追加的に、早期アポトーシスレベルは、MPBCと比較した場合にTおよびTの両方のそれぞれTSCM(2.00倍、P<0.01;2.42倍、P<0.01)、CM(1.87倍、P<0.01;3.78倍、P<0.001)、およびEM(2.89倍、P<0.01;6.09倍、P<0.01)サブタイプにおいて有意に上昇しているが、ナイーブT細胞の早期アポトーシスレベルにおいて変化は無かった。さらには、炎症促進性成熟T細胞、T1、T1およびT17の早期アポトーシスレベルは、MPBC対照と比較した場合に有意に上昇した(それぞれ、3.6倍、P<0.01;3.4倍、P<0.05;および11.4倍、P<0.01)。図2O〜2Qにおいて、CD25活性化マーカーを発現するヘルパーおよび細胞傷害性T細胞のパーセンテージは有意に低減している。CD25受容体は、T細胞活性化の間に上方調節されることが公知である。追加的に、全CD25 Tヘルパー細胞中の、抗炎症反応の原因となる制御性T細胞(Treg)の割合は、有意な上昇を示した。
【0114】
全体として、現在使用されている完全なT細胞枯渇方法とは異なり、FasLを用いる前処理は、特有の亜集団を選択的に枯渇させ、活性化を低減することをこれらのデータは示唆する。したがって、理論により縛られることを望まないが、FasLなどのアポトーシス誘導性リガンドを用いる処理は、アポトーシス感受性の成熟T細胞の排除を結果としてもたらして、より低分化状態、より低い活性化のままとし、抗炎症性のT細胞亜集団を維持するようである。
【0115】
実施例3:インビトロ活性化に応答したFas−L前処理T細胞サブタイプの活性化の低減
次に、細胞活性化のマーカーであるCD25受容体の発現レベルを活性化T細胞サブタイプにおいて評価した。T細胞をFasL前処理MPBC、およびMPBC対照から単離し、抗CD3/CD28活性化ビーズと1または2日インキュベートした。図3A〜3Bに見られるように、上記の結果と合致して、活性化の1および2日後に、対照T細胞と比較した場合に、CD25high発現FasL前処理CD4細胞(それぞれ、39.7%および24.3%;P<0.05およびP<0.001)ならびにCD8細胞(それぞれ、53.3%および33.9%;P<0.01およびP<0.001)の有意な低減があった。さらには、図3Cに示される炎症促進性サイトカインIFNγ分泌は、インキュベーション後1および2日目に有意により低く(それぞれ、56.1% P<0.05、および52.1%、P<0.001)、MPBC対照T細胞と比較した場合のFasL前処理T細胞のより活性化されていない状態を指し示した。図3D〜3Fの結果は、GvHDマウスモデルにおける炎症の低減を提示する。γ照射IL2Rγ−ヌル(NSG)マウスにFas−L処理または対照MPBCを移植した。移植後3、7および14日目に、FasL処理MPBCを移植されたマウスから回収された脾臓においてCD3 Tリンパ球の絶対的な細胞数の低減があった(図3D)。GvHDの進行はMPBC移植群において致死性であり、移植後28日目を越えて生存するマウスはいなかった。対照的に、FasL処理MPBCの移植は、マウスの生存を有意に長期化させ(P<0.0001)、60日のフォローアップの間に死亡が見出された動物はおらず(図3E)、MPBC対照マウスの血清中で検出された高いレベルのIFNγと比較して、14日目に血清中にIFNγサイトカインは検出されなかった(図3F)。FasL処理MPBCは、T細胞サブタイプのより低分化かつより低活性化のプロファイルを示して刺激後の活性化の低減に繋がるという図2に示される結果をこれらの結果はサポートする。
【0116】
これらの実験において、MPBC対照およびFas−LとインキュベートされたMPBCから単離されたT細胞を計数し、RPMI完全培地(10%のFCS、1%のL−グルタミン、1%のPen−Strep、1%の非必須アミノ酸および1%のピルビン酸ナトリウムを添加した)中で0.75×10細胞/mlでインキュベートし、1:10のビーズ:細胞比で活性化ビーズ(Dynabeads(商標)Human T−Activator CD3/CD28 Gibco 111.32D)を使用して24/48時間刺激した。T細胞サブタイプの解析のために、実施例2において上記した全てのAbを用いて細胞を染色した。追加的に、CD25活性化受容体発現についてフローサイトメトリー分析を行った。さらには、製造者のプロトコール(R&D systems、Quantikine ELISA kit DIF−50)にしたがってELISAを使用してIFNγサイトカイン分泌を行った。
【0117】
上記のデータにおいて実証されるように、アポトーシス感受性の成熟細胞の排除の他に、活性化状態の低減がT細胞集団の他の属性に影響していないことに留意することは重要である。MPBCのFasL処理は移植片対白血病活性に影響しないことを図4は明らかにする(以下の実施例4における詳細を参照)。
【0118】
実施例4:FasL処理はインビトロおよびインビボで移植片対白血病細胞傷害活性に影響しない
24ウェルプレート中の30μg/mlの抗CD3(eBioscience、16−0037、OKT3)および1000U/mlの組換えIL2(hr−IL−2 R&D systems、202IL−500)を添加した完全RPMI培地(10%のFCS、1%のL−グルタミン、0.2%のβ−メルカプトエタノール、1%のPen/Strep、1%のピルビン酸ナトリウムおよび1%の非必須アミノ酸を含有する)中、1×10^6細胞/mlの濃度でのインキュベーションによりFas−L処理MPBCまたは対照細胞を拡大増殖させた。4日目に、培地を完全な新鮮な培地(抗CD3およびIL−2を含有する)で置き換え、細胞を計数し、6ウェルプレート中に5×10^6細胞/mlで再播種した。一日おきに細胞を計数し、培地を置き換えた。拡大増殖の12日目に、2つの異なる種類の白血病細胞系MV4−11およびU937細胞を2μMのCFSE(eBioscience、65−0850)で標識し、96ウェルプレート中2×10^4/100μlで完全RPMIに播種した。
【0119】
拡大増殖されたFas−L処理MPBCまたは対照細胞を洗浄し、計数し、標識された白血病細胞と上昇濃度において終夜共培養した(1:1、1:5、1:10および1:30のMPBC:白血病細胞比)。インキュベーションの終わりに、死細胞の検出のために細胞をヨウ化プロピジウムで染色し、FACSCalibur Flow Cytometer(BD Biosciences、San Jose、CA、USA)を使用して生存CFSE白血病細胞の数を解析し、BD CellQuestソフトウェア(バージョン3.3;BD Biosciences)を使用してデータを解析した(図4A〜4B)。
【0120】
さらには、インビボマウスモデルを使用して白血病細胞を殺傷するMPBCの能力もまた評価した。このモデルにおいて、MV4−11白血病細胞をγ照射NSGマウスに0日目に投与し(10×10細胞/マウス)、FasL処理および対照MPBC移植片(3×10個の総有核細胞(TNC)/マウス)を4〜6時間以内に注射した(図4C)。移植の3週後に、両方のマウス群において、ビヒクルと比較した場合に共移植されたマウスの脾臓、BM、および血液から白血病細胞は同様に減少した(P<0.01)(図4D〜4F)。要約すると、FasL処理MPBCおよび対照MPBC移植マウスは同一の移植片対白血病活性を呈する一方、FasL処理MPBCは、GvHDにおける低減を追加的に表し示す。
【0121】
実施例5:FasL処理はAPC活性化を低減する
T細胞のアロ反応性は、数ある中でも、骨髄細胞(樹状細胞および単球)の他に、抗原提示細胞として働くB細胞の抗原提示に依存する(MacDonaldら、2013)。T細胞集団に加えて、APCはCD95を発現し、FasLに曝露もされるので、それらはGvHDにおいて役割を果たし、その低減に寄与し得るという仮説を立てた。非処理MPBCにおけるCD95発現の評価は、B細胞集団における中等度のレベルおよび骨髄細胞における高いレベルを明らかにした(図5A)。アポトーシス細胞パーセンテージの有意な上昇がFasL処理MPBC中のBおよび骨髄細胞の両方において検出され(図5B)、これは両方の細胞集団において、抗原提示の原因となるMHCクラスII細胞表面受容体、HLA−DRの有意なそれぞれ0.36倍(P<0.001)および0.62倍(P<0.0001)の低減と関連付けられた(図5C〜5D)。図3Dは、3、7および14日目のFasL処理MPBC移植マウスの脾臓における有意に低減したヒトT細胞数を示すインビボ実験の結果を記載した。有意に低い数のヒトB細胞およびヒト骨髄細胞がこれらのFasL処理MPBC移植マウスの脾臓中にさらに見出され(図5E〜5F)、それは極めて低いレベルのHLA−DRhi抗原提示メディエーターを発現しており、これらの細胞の活性化レベルの低減を指し示した(図5G〜5H)。類似した結果は、FasL処理MPBCを移植されたこれらのマウスの骨髄中でも見出され、有意に低減した数のヒトBおよび骨髄細胞、ならびに有意により低いレベルのHLA−DRhi発現細胞を示した(図5I〜5L)。
【0122】
実施例6:B細胞サブタイプはFasRを発現し、アポトーシス誘導に応答する
抗CD95抗体(Miltenyi)を使用して、MPBC対照細胞のFasR(CD95)発現をB細胞サブタイプにおいて測定した。B細胞サブタイプの解析は、以下の抗体:抗CD19、抗CD27および抗CD38を使用して行った。フローサイトメーター(MACSquant、Miltenyi)を使用して試料からのデータを獲得した。受容体発現にしたがって以下のB細胞亜集団を決定した:移行期(CD27CD38)、ナイーブ(CD27CD38)、メモリー(CD27CD38)、および形質芽球(CD27CD38)。追加的に、アネキシンV(eBiosciences BMS500FI)および7AAD(eBiosciences 00−6993)染色を使用してB細胞サブタイプの早期アポトーシスを評価し、アネキシンV7AAD細胞を早期アポトーシスとして定義し、7AAD細胞の全てを後期アポトーシス/壊死細胞と考え、生存細胞の解析からゲートアウトした。
【0123】
図6は、FasLとの2時間のインキュベーション後および対照細胞におけるFasR発現レベル(A)、早期アポトーシス細胞のパーセンテージ(B)およびB細胞サブタイプのパーセンテージ(C)を表し示す。B細胞の最も成熟したサブタイプであり、表面上にFasRを発現する形質芽球B細胞サブタイプの割合は、早期分化型B細胞である移行期/ナイーブ細胞と比較して最も高いことを図6Aに見ることができる。高いFasR発現と合致して、この集団は、FasLとのインキュベーション後に最も強い早期アポトーシスシグナルを示した(図6B)。他のB細胞サブタイプもまたFasL処理により影響され、早期アポトーシス細胞のパーセンテージは上昇し、集団はFasL処理後に低減し(図6C)、上で言及したB細胞サブタイプの全てにおいてアポトーシス感受性B細胞が存在することを指し示した。
【0124】
実施例7:ヒト間葉幹細胞(MSC)はFasRを発現し、アポトーシス誘導に応答する
ヒトMSCを培地中でナイーブ未分化状態に維持し、コンフルエンスに達したら継代する。MSCに対するFasLの効果を評価するために、細胞を6ウェルプレート中5×10細胞/cmの密度でプレーティングし、異なる用量のFasL(1〜50ng/ml)を用いて処理する。異なる日に細胞を剥離し、血球計または自動化細胞計数器を使用して計数する。培養上清を収集し、血管新生サイトカイン(例えば、bFGF、FGF2、HGF、IL−8、TIMP−1、TIMP−2およびVEGF)ならびに炎症促進性サイトカイン/ケモカイン(IL−6、CCL2、CCL7およびCCL8)の分泌についてアッセイする。
【0125】
実施例8:インビボでのGvHDの軽減に対するFasLを用いるヒトMSCのインビトロ処理の効果
FasL有りまたは無しでの培養で生育させたヒトMSCをインビボでのGvHDの軽減について試験する。NOD.SCID IL2Rgnull(NSG)マウスを全身γ照射(TBI)に供する。GvHDを動員末梢血細胞(MPBC)の投与により誘導する。FasL処理または非処理MSCを1〜10日後に静脈内(IV)ボーラス注射により投与する。体重変化の他に、GvHD症状の進展を週に2回評価する。死または安楽死までマウスを追跡する。生存曲線およびメジアン生存時間を各治療群について算出する。
【0126】
実施例9:CAR−T細胞の生産プロセスおよびアウトカムに対するFasL効果の評価
先行する実施例に示されるように、アポトーシスメディエーターFasリガンド(FasL)とのG−CSF動員末梢血細胞の短いインキュベーション(例えば、2時間)後に、T細胞組成は変更された。エフェクターのパーセンテージの減少およびナイーブ細胞のパーセンテージの増加により表されるように、FasL処理は、成熟した活性化されたT細胞のパーセンテージを低減した。さらに、FasLへの曝露後に、(CD25マーカーを発現するT細胞の数により認められるように、)集団中の活性細胞の割合は低減した。追加的に、抗CD3/CD28ビーズを使用したFasL処理T細胞のインビトロ活性化で、より低い数のCD25発現T細胞の他に、IFNγ分泌のレベルの低減および分化速度の低減が検出され、より低い成熟および活性のT細胞組成を指し示した。
【0127】
したがって、CAR−T細胞生産プロセスにおいてFasLを組み合わせることが、サイトカイン放出症候群(CRS)の可能性を低減し、キメラ抗原受容体の形質導入効率を向上させ、CAR−Tの生存および抗腫瘍活性を維持しまたは寄与さえし得るかどうかを試験するために、以下の実施例に着手した。
【0128】
I.T細胞活性化の前および後のPBMCに対する漸増濃度のFasLの効果の試験
以下の実験は、末梢血単核細胞(PBMC)試料における、T細胞アポトーシスの誘導、分化および活性化可能性に対する効果についての、FasL濃度範囲の決定のために意図した予備研究であった。
【0129】
末梢血単核細胞(PBMC)をFicoll勾配上でバフィコートから分離した。PBMCを細胞の活性化の前または後に漸増用量のFasLを用いて処理した。抗CD3/CD28抗体でコーティングした24ウェルディッシュ中で活性化を行った。調べたFasL濃度は、0、1、5、10、25、50または100ng/mlのFasLであった。
【0130】
3群の細胞を解析した:
1)1〜100ng/mlの濃度のFasL(MegaFasL Adipogen)と2hインキュベートされた細胞。
2)1〜100ng/mlの濃度のFasL(MegaFasL Adipogen)と2hインキュベートされ、次に抗CD3/CD28抗体を用いる48hの活性化に供された細胞(FasLとの2hのインキュベーション+48hの活性化)。
3)最初に抗CD3/CD28抗体を用いて48h活性化され、次にFasLと2時間インキュベートされた細胞(48hの活性化+2hのFasLとのインキュベーション)。
【0131】
次に、フローサイトメトリーを使用して各群の細胞を解析した。
【0132】
T細胞生存能に対するFasLの効果:50および100ng/mlの濃度のFasLを用いて処理され、続いて活性化条件中(抗CD3/CD28抗体有り)で48hインキュベートされたT細胞において、生存T細胞(CD37AAD細胞)のパーセンテージの有意な低減が検出された(群2、図7A)。
【0133】
T細胞の活性化状態に対するFasLの効果:CD25発現T細胞のパーセンテージは、漸増濃度のFasLを用いて群2において有意に低減したが、大抵は25ng/mlより高い濃度において、群1においてはかろうじて有意に低減し、群3では有意に低減しなかった(図7B)。
【0134】
早期アポトーシス誘導に対するFasLの効果:フローサイトメトリー分析をFasL処理の直後に行った場合に、漸増濃度のFasLを用いた処理後に早期アポトーシスレベル(アネキシンV T細胞)における用量依存性の上昇が検出された(群1および3、図7C)。活性化条件での追加の48hのインキュベーション後に、早期アポトーシスレベルは有意により低かった(群2、図7C)。
【0135】
これらの結果に基づいて、FasLの濃度範囲が明確化された。
【0136】
II.CAR−T細胞生産プロセスの間の異なるステージにおけるFasLの効果の試験
PBMCをFicoll勾配上でバフィコートから分離した。抗CD3/CD28抗体でコーティングされた24ウェルディッシュ中で活性化を行った。この場合はErbB2 CARを用いて、CAR−T生産プロセスの間の異なるステージ:活性化前(群1)、活性化後(群2)、およびCAR−T形質導入後(群3)において、FasLを用いて細胞を処理した。FasLは、0、50および100ng/mlの濃度で使用した。CAR−T形質導入は、標準的な手順にしたがってレンチウイルスベクターを用いて行った(例えば、Zhangら、2017 Biomark.Res.5:22;Fesnakら、Nature Protocols,Stem cell Technologies、「Production of chimeric antigen receptor T cells」を参照)。
【0137】
CAR形質導入プロセスの終わり(10日のインキュベーション後)に、フローサイトメトリーにより以下のパラメーター:生存能(7AAD細胞)、CAR形質導入の有効性(GFP細胞のパーセントの上昇により検出)、T細胞サブタイプ(ナイーブ/CM/EM/eff細胞)により指し示されるような分化状態を評価し、活性化状態(CD25)を解析した。
【0138】
追加的に、標的抗原(ヒト腫瘍細胞系:MDA−MB−231)との各処理群のT細胞のインキュベーションにより特異性アッセイを行った。ErbB2−CAR−T細胞は腫瘍細胞を認識し、炎症促進性反応が開始され、その間に細胞はIFNγを培地に放出する。培地を収集し、ELISAを使用してIFNγのレベルを評価した。
【0139】
この実験の結果は以下を実証した:
活性化前のFasLへの細胞の曝露は、標準CAR−Tと比較して向上したCAR形質導入を結果としてもたらした(図8)。この実験において、0ng/mlのFasL(FasL無し)試料は形質導入の高いバックグラウンドを与えた。
【0140】
CAR形質導入後の高濃度のFasL(50〜100ng/ml)への曝露は、50ng/mlのFasLとインキュベートされた細胞において細胞死の上昇(生存形質導入細胞の減少)を結果としてもたらした。100ng/mlのFasLを用いた形質導入後、処理後に生存した細胞は無かった(図8)。
【0141】
類似した発見がCD4およびCD8細胞について得られた。
【0142】
ErbB2−CAR−T細胞の形質導入後に、細胞をそれらの標的腫瘍細胞(MDA−MB−231ヒト細胞系)と共培養した。活性化前にFasLに曝露された細胞は、標準CAR−Tおよび活性化後にFasLに曝露された細胞と比較して高いレベルのIFNγを分泌した(図9)。INFγの分泌の上昇は、FasLの濃度の上昇と相関するようである(図9)。GFP染色により測定された場合の形質導入の有効性(図8)は、INFγ分泌と相関していた。
【0143】
上記の結果を要約すると、活性化前のFasL処理は、より良好なCAR形質導入を結果としてもたらす(図8)。結果は、標準CAR−Tと比較した場合にこの群におけるより高いGFP細胞パーセンテージを示す。
【0144】
CAR形質導入における向上はまた、標的腫瘍細胞を用いるCAR−T細胞の刺激を測定したアッセイに反映される。活性化前にFasLに曝露され、標的細胞とインキュベートされた細胞は、標準CAR−Tおよび活性化後にFasLに曝露された細胞と比較して高いレベルのIFNγを分泌した(図9)。INFγの分泌の上昇は、FasLの濃度の上昇と相関しているようである(図9)。
【0145】
これらの結果は、活性化ステップの前のFasLとのインキュベーションがCAR−T細胞の形質導入効率、および抗原に対するCAR−T細胞の応答の増加に対して有し得る有益な役割を指摘する。
【0146】
III.CAR−T細胞形質導入後の低いFasL濃度の効果の試験
形質導入されたCAR−T細胞を、異なるFasL濃度(0、1、10、50ng/ml)と共に2時間インキュベートした。FasLを用いた処理後に、解析前のさらなる回復のために、CAR−T細胞をIL−2の存在下でさらに4日間インキュベートした。
【0147】
染色パネルは、T細胞サブタイプ(ナイーブ/CM/EM/eff細胞)、ならびに(CRSおよびGvHDの間の)炎症促進性反応の増悪に寄与するIFNγおよびIL17を分泌するT1、T17、およびT1炎症促進性サブタイプの追加のパネルを含んでいた。
【0148】
実験IIにおいて得られた結果に類似して、10および50ng/mlのFasLを用いた形質導入後のCAR−T細胞の処理は、用量依存的な方式で形質導入細胞(GFP)の数の低減に繋がった(図10A)。回復期間の間に、細胞を活性化剤無しでIL−2とインキュベートし、したがって、細胞の全般的な活性化状態は低かった(図10B)。FasL処理は、標準CAR−Tと比較して、形質導入CD3細胞の(CD25の発現により明示された場合の)活性化状態をさらに低減し(図10B)、この効果はCD4亜集団において最も明らかであった。CD25を発現するGFP細胞の割合により測定された場合に、50ng/mlのFasLへの曝露後の残留GFP CD8細胞は高度に活性であった(図10B)。異なるT細胞サブタイプ(ナイーブ、セントラルメモリー(CM)エフェクターメモリー(EM)およびエフェクター(eff)に対するFas処理の効果は図11に描写される。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
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図5-1】
図5-2】
図6
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図8
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図10
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【国際調査報告】