特表2021-534791(P2021-534791A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-534791(P2021-534791A)
(43)【公表日】2021年12月16日
(54)【発明の名称】改良されたレンチウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20211119BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20211119BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20211119BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20211119BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20211119BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20211119BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211119BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20211119BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20211119BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20211119BHJP
【FI】
   C12N15/867 ZZNA
   C12N15/62 Z
   C12N5/10
   C07K19/00
   C12N7/01
   A61K35/17 Z
   A61P35/00
   C12N15/12
   C12N5/0783
   C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2021-510858(P2021-510858)
(86)(22)【出願日】2019年4月28日
(85)【翻訳文提出日】2021年4月23日
(86)【国際出願番号】CN2019084828
(87)【国際公開番号】WO2020042648
(87)【国際公開日】20200305
(31)【優先権主張番号】201810986752.8
(32)【優先日】2018年8月28日
(33)【優先権主張国】CN
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】520420377
【氏名又は名称】法▲羅▼斯疫苗株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520420366
【氏名又は名称】北京永泰瑞科生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲賢▼秀
(72)【発明者】
【氏名】▲鄭▼ 南哲
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲ユ▼
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA40
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、改良されたレンチウイルスベクター、その製造方法及びその使用を開示する。具体的には、本発明は、治療用T細胞の製造に適したレンチウイルスベクターを開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンチウイルスベクターであって、
目的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の宿主細胞における発現を指導するためのトランケートEF1αプロモーター、たとえば、SEQ ID NO:13で示されるヌクレオチド配列を含むEF1αコアプロモーターを含み、
前記レンチウイルスベクターは非複製型レンチウイルスベクターであり、
前記レンチウイルスベクターは、操作可能に連結された、5’LTR、ψエレメント、RREエレメント、cPPT/CTSエレメント、前記トランケートEF1αプロモーター、WPREエレメント、及び3’LTR、及び場合によって、目的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を挿入するためのマルチクローニング部位を含む、レンチウイルスベクター。
【請求項2】
前記5’LTRはSEQ ID NO:3又は11で示されるヌクレオチド配列を含み、前記ψエレメントはSEQ ID NO:4又は12で示されるヌクレオチド配列を含み、前記RREエレメントはSEQ ID NO:5で示されるヌクレオチド配列を含み、前記cPPT/CTSエレメントはSEQ ID NO:6で示されるヌクレオチド配列を含み、前記WPREエレメントはSEQ ID NO:9又は14で示されるヌクレオチド配列を含み、前記3’LTRはSEQ ID NO:10又は15で示されるヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項3】
操作可能に連結された、SEQ ID NO:11で示されるヌクレオチド配列を含む5’LTR、SEQ ID NO:12で示されるヌクレオチド配列を含むψエレメント、SEQ ID NO:5で示されるヌクレオチド配列を含むRREエレメント、SEQ ID NO:6で示されるヌクレオチド配列を含むcPPT/CTSエレメント、SEQ ID NO:13で示されるヌクレオチド配列を含むトランケートEF1αプロモーター、SEQ ID NO:14で示されるヌクレオチド配列を含むWPREエレメント、SEQ ID NO:15で示されるヌクレオチド配列を含む3’LTR、及び場合によって、目的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を挿入するためのポリクローニング部位を含む、請求項1〜2のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項4】
目的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項5】
前記目的ポリペプチドは、複数のタンパク質を含む融合ポリペプチドであり、前記融合ポリペプチド中の前記複数のタンパク質は、自己切断ペプチドによって分離されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項6】
前記目的ポリペプチドは、第1のタンパク質と第2のタンパク質とを含む融合ポリペプチドであり、前記融合ポリペプチドは、第1のタンパク質と第2のタンパク質との間に自己切断ペプチドを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項7】
前記自己切断ペプチドは2Aポリペプチドであり、たとえばP2A、F2A、E2A又はT2Aポリペプチド、又はその機能的バリアントから選択される、請求項5又は6のレンチウイルスベクター。
【請求項8】
前記第1のタンパク質は、癌関連抗原特異的受容体タンパク質、たとえばT細胞受容体(TCR)又はキメラ型抗原受容体(CAR)である、請求項6又は7に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項9】
前記第2タンパク質は優性ネガティブTGF-βII型受容体である、請求項6〜8のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項10】
前記優性ネガティブTGF-βII型受容体は、TGF-βII型受容体の細胞内シグナル伝達ドメインを欠失しており、たとえば、前記優性ネガティブTGF-βII型受容体は、SEQ ID NO:18で示されるアミノ酸配列を含む、請求項9に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項11】
レンチウイルスベクター粒子の製造方法であって、
請求項1〜10のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクター、Gag及び/又はPolを発現する1種又は複数種のパッケージングベクター、VSV−Gなどのエンベロープタンパク質を発現するエンベロープベクターを適切な宿主細胞に共トランスフェクションさせるステップa)と、
トランスフェクションされた前記宿主細胞を培養して、前記レンチウイルスベクターをレンチウイルスベクター粒子にパッケージングングするステップb)と、
ステップb)で生成されたレンチウイルスベクター粒子を取得するステップc)と、を含む製造方法。
【請求項12】
レンチウイルスベクター粒子であって、
請求項1〜10のいずれか1項に記載のレンチウイルスベクターを含むか、又は請求項11の方法により製造されるレンチウイルスベクター粒子。
【請求項13】
治療用T細胞の製造における、請求項12に記載のレンチウイルスベクター粒子の使用であって、
前記治療用T細胞は、癌関連抗原特異的受容体タンパク質、たとえばT細胞受容体(TCR)又はキメラ型抗原受容体(CAR)、及び場合によって優性ネガティブTGF-βII型受容体を発現する使用。
【請求項14】
請求項12に記載のレンチウイルスベクター粒子をT細胞に形質導入することを含む、治療用T細胞の製造方法。
【請求項15】
前記治療用T細胞は、前記レンチウイルスベクター粒子の形質導入により、癌関連抗原特異的受容体タンパク質、たとえばT細胞受容体(TCR)又はキメラ型抗原受容体(CAR)、及び場合によって優性ネガティブTGF-βII型受容体を発現する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオ医薬品の分野に属する。具体的には、本発明は、改良されたレンチウイルスベクター、その製造方法及びその使用に関する。具体的には、本発明は、治療用T細胞の製造に特に適したレンチウイルスベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞は腫瘍細胞殺傷とウイルス感染細胞殺傷を体内で行う重要な免疫細胞である。近年、インビトロ誘導や腫瘍浸潤リンパ球由来の抗原特異的T細胞、遺伝子改変キメラ型抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)、遺伝子改変T細胞受容体T細胞(TCR-T細胞)を含むT細胞を用いて悪性腫瘍の治療を行ったところ、一部の臨床患者において顕著な腫瘍除去や制御作用を示した。しかしながら、患者体内の腫瘍の免疫逃避作用により、一部の腫瘍患者は輸液したT細胞に対して抵抗作用を産生し、T細胞が期待の抗腫瘍作用を発揮できないことを招く。
【0003】
インビボ及びインビトロ研究の両方により、TGF-βは重要なT細胞抑制因子であり、標的細胞に対するT細胞の殺傷作用を弱めたり消失させたりすることが示された。臨床上、TGF-βは多くの腫瘍組織に広く発現し、腫瘍細胞に対する腫瘍特異的T細胞の殺傷活性を著しく抑制し、免疫治療が失敗する重要な原因である。一方、優性ネガティブTGF-βII型受容体(dominant negative TGF-βreceptor type II、DNRII)はTGF-βのネガティブ調節受容体であり、T細胞に対するTGF-βの抑制作用を抑制することができる。動物体内では、T細胞特異的なDNRIIを投与又は発現させたり、可溶性TGF-β RIIを投与してTGF-βシグナル経路を妨害したりすることにより、腫瘍に対するT細胞の殺傷作用を有意に高めることができる。米国ベイラー医科大学のCatherin M Bollard氏が率いる研究チームは、EBウイルスに特異的なT細胞(EBV−CTL)治療を患者に与えると、EBV感染によるホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の両方に一定の効果があることを発見した。しかしながら、これらの疾患では、腫瘍組織がTGF-βを発現するため、EBV-CTLの治療効果が阻害される。この研究チームは、再発したホジキンリンパ腫の治療のために、EBV−CTL細胞の表面にDNRIIを遺伝子形質導入により発現させた。評価可能な7人の患者のうち、4人が完全寛解を得ており、そのうち2人は完全寛解が4年間持続し、そのうち1人はDNRII遺伝子で修飾されていないEBV-CTL治療後に完全寛解を得られなかった患者であった。しかしながら、これらのEBV-CTLは、DNRIIという外来タンパク質しか発現していない。
【0004】
現在、臨床的に応用されているCAR-T細胞及びTCR-T細胞の治療においても、腫瘍細胞がTGF-βを発現し、CAR-T細胞及びTCR-T細胞の機能が抑制されるという問題に直面している。本分野においても、CAR-T細胞及びTCR-T細胞へのDNRIIの導入が期待される。しかしながら、これまで、CAR/TCRとDNRIIを同一T細胞に共発現させ、腫瘍治療に用いた報告はない。これは、既存の発現系が2種の蛋白に対する共発現効率が低いため、臨床のニーズを満たすことが困難であるためであると考えられる。
【0005】
この課題を解決するために、2種以上のタンパク質の効率的な共発現に特に適した新規な改良された発現ベクター、たとえば改良されたレンチウイルスベクターが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
別段の指示又は定義がない限り、使用される用語はすべて当業者に理解される本分野における通常の意味を有する。たとえば、Sambrook et al.,「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」;Lewin,「Genes VIII」;及びRoitt et al.,「Immunology」(第8版)などの標準マニュアル、及び本明細書に引用された一般的な先行技術を参照する。さらに、特に明記されていない限り、特に詳細に説明されていないすべての方法、ステップ、技術、及び操作は、当業者に理解される、知られている方法で実行されてもよい。たとえば、標準マニュアル、上述の一般的な従来技術や本明細書に引用されたその他の参考文献も参照できる。
【0007】
本発明者らは、意外にも、ロングEF1αプロモーター(たとえばSEQ ID NO:7)を含むレンチウイルスベクターをT細胞などの細胞に形質導入すると、そのプロモーター領域に異常が生じ、細胞に導入された外来遺伝子(特にCAR又はその融合タンパク質をコードする遺伝子)の発現率が低下することを見出した。さらに意外なことに、トランケートEF1αプロモーターを用いることで、この現象を回避し、導入された外来遺伝子の発現率を著しく向上できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の態様において、本発明は、目的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の宿主細胞における発現を指導するためのトランケートEF1αプロモーターを含むレンチウイルスベクターを提供する。いくつかの実施形態では、前記トランケートEF1αプロモーターは、SEQ ID NO:13で示されるヌクレオチド配列を含むEF1αコアプロモーターである。
【0009】
本発明の範囲では、「レンチウイルスベクター」とは、シス作用レンチウイルスRNA又はDNA配列を含むトランスジェニックを宿主細胞に形質導入することに用いられ、レンチウイルスタンパク質(たとえばGag、Pol及び/又はEnv)をトランスの形で提供する必要があるための非複製型ベクターを指す。レンチウイルスベクターは機能性Gag、Pol及びEnv蛋白のコード配列を欠失している。レンチウイルスベクターは、前記レトロウイルスベクターの産生又は発達の段階に応じて、RNA又はDNA分子の形態で存在し得る。
【0010】
レンチウイルスベクターは、プラスミド(たとえば、トランスファープラスミドベクター)のような組換えDNA分子の形態であってもよい。レンチウイルスベクターは、レンチウイルスと他のタンパク質との複合体におけるRNA分子のようなレンチウイルス粒子ベクターの形態であってもよい。通常、修飾又は組換えされたレンチウイルス粒子に対応するレンチウイルスベクターは、2つの一本鎖RNAコピーからなるゲノムを含む。これらのRNA配列は、宿主細胞ゲノムに挿入された二本鎖DNA配列(プロトウイルスベクターDNA)から転写することにより得られるか、又は形質転換宿主細胞におけるプラスミドDNA(プラスミドベクターDNA)の一過性発現により得られる。レンチウイルスベクターは宿主細胞に組み込まれたDNA配列を指すこともできる。
【0011】
レンチウイルスベクターは、レンチウイルス、特にヒト免疫不全ウイルス(HIV-1又はHIV-2)、猿免疫不全ウイルス(SIV)、馬伝染性脳炎ウイルス(EIAV)、ヤギ関節炎−脳炎ウイルス(CAEV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)及びネコ免疫不全ウイルス(FIV)に由来することができ、病原性に関わる遺伝的決定クラスターを除去し、外来発現カセットに導入するように修飾されている。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記レンチウイルスベクターは、5’LTR、ψエレメント、RREエレメント、cPPT/CTSエレメント、目的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を挿入するためのマルチクローニング部位、WPREエレメント、及び3’LTRから選択される少なくとも1つのエレメントをさらに含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記レンチウイルスベクターは、動作可能に連結された5’LTR、ψエレメント、RREエレメント、前記cPPT/CTSエレメント、トランケートEF1αプロモーター、WPREエレメント、及び3’LTR、及び場合によって、目的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を挿入するためのマルチクローニング部位を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記5’LTRは、SEQ ID NO:3又は11で示されるヌクレオチド配列を含み、前記ψエレメントは、SEQ ID NO:4又は12で示されるヌクレオチド配列を含み、前記RREエレメントは、SEQ ID NO:5で示されるヌクレオチド配列を含み、前記cPPT/CTSエレメントは、SEQ ID NO:6で示されるヌクレオチド配列を含み、前記WPREエレメントは、SEQ ID NO:9又は14で示されるヌクレオチド配列を含み、ここで、前記3’LTRは、SEQ ID NO:10又は15で示されるヌクレオチド配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記レンチウイルスベクターは、操作可能に連結された、SEQ ID NO:11で示されるヌクレオチド配列を含む5’LTR、SEQ ID NO:12で示されるヌクレオチド配列を含むψエレメント、SEQ ID NO:5で示されるヌクレオチド配列を含むRREエレメント、SEQ ID NO:6で示されるヌクレオチド配列を含むcPPT/CTSエレメント、SEQ ID NO:13で示されるヌクレオチド配列を含むトランケートEF1αプロモーター、SEQ ID NO:14で示されるヌクレオチド配列を含むWPREエレメント、SEQ ID NO:15で示されるヌクレオチド配列を含む3’LTR、及び場合によって、目的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を挿入するためのポリクローニング部位を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記レンチウイルスベクターはSEQ ID NO2から誘導される。ここで、SEQ ID NO:2の2,042〜3,499位のCAR-19をコードするヌクレオチド配列は、他の目的ポリペプチドのコード配列に置換されていてもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記レンチウイルスベクターは、目的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記目的ポリペプチドは、複数のタンパク質を含む融合ポリペプチドであり、前記融合ポリペプチド中の前記複数のタンパク質は、自己切断ペプチドによって分離される。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記目的ポリペプチドは、第1のタンパク質と第2のタンパク質とを含む融合ポリペプチドであり、前記融合ポリペプチドは、第1のタンパク質と第2のタンパク質との間に自己切断ペプチドを含む。
【0020】
したがって、いくつかの実施形態では、前記レンチウイルスベクターは、自己切断ペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含む。前記自己切断ペプチドをコードするヌクレオチド配列は、前記レンチウイルスベクターを介して2種以上の異なるタンパク質を共発現することに用いられる。
【0021】
本明細書で使用される「自己切断ペプチド」とは、細胞内で自己切断ができるペプチドを意味する。たとえば、前記自己切断ペプチドは、細胞内のプロテアーゼによって認識され、特異的に切断されるようにプロテアーゼ認識部位を含むことができる。
【0022】
あるいは、前記自己切断ペプチドは2Aポリペプチドであってもよい。2Aポリペプチドは、翻訳中に自己切断が起こるウイルス由来の短いペプチドの一種である。2つの異なる目的タンパク質を2Aポリペプチドで連結して同一のコードフレームで発現させると、2つの目的タンパク質がほぼ1:1の割合で生成される。一般的に使用されている2Aポリペプチドはブタテスコウイルス(porcine techovirus−1)由来のP2A、ゾーシー・アシグナウイルス(Thosea asigna virus)由来のT2A、馬鼻炎Aウイルス(equine rhinitis A virus)由来のE2A、及び口蹄疫ウイルス由来のF2Aである。これらのうち、P2Aの切断効率が最も高いので、好ましい。本分野では、これら2Aポリペプチドの機能的バリアントの多くも知られており、これらの変異体も本発明に使用できる。
【0023】
たとえば、第1のタンパク質と第2のタンパク質とを2Aポリペプチドで分離し、同一のオープンコードフレームに配置し、同一のプロモーターで発現を駆動することにより、得られた形質導入細胞が2種のタンパク質を同時に発現することを最大限に確保することができる。2種のタンパク質が異なるベクターでそれぞれ細胞に形質導入されると、一部の細胞は第1のタンパク質のみを発現し、一部の細胞は第2のタンパク質のみを発現する可能性があり、その結果、2種のタンパク質を共発現する細胞の割合は非常に低くなるからである。また、2種のタンパク質の発現が同一ベクター中の異なるプロモーターによって駆動されると、プロモーター効率の違いにより、2種のタンパク質を同時に発現する細胞の割合は同様に低下する。
【0024】
いくつかの実施形態では、前記第1のタンパク質は、癌関連抗原特異的受容体タンパク質である。いくつかの実施形態では、前記第2のタンパク質は、優性ネガティブTGF-βII型受容体である。
【0025】
本発明で使用される「優性ネガティブTGF-βII型受容体」とは、TGF-βリガンド(たとえば、TGF-β1)にTGF-βRIIと競合的に結合することができるが、TGF-βRIIのシグナル伝達機能を実行できないTGF-βII型受容体のバリアントを指す。いくつかの実施形態では、前記優性ネガティブTGF-βII型受容体は、細胞内シグナル伝達ドメインが突然変異され、それによって細胞内シグナル伝達能力が失われる。いくつかの実施形態では、前記優性ネガティブTGF-βII型受容体は、TGF-βII型受容体の細胞内シグナル伝達ドメインを欠失している。いくつかの特定の実施形態では、前記優性ネガティブTGF-βII型受容体は、SEQ ID NO:18で示されるアミノ酸配列を含む。
【0026】
本発明に記載の「癌関連抗原特異的受容体タンパク質」は、T細胞受容体(TCR)又はキメラ型抗原受容体(CAR)であってもよい。
【0027】
前記癌関連抗原は、CD16、CD64、CD78、CD96、CLL1、CD116、CD117、CD71、CD45、CD71、CD123、CD138、ErbB2(HER2/neu)、がん胎児抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮成長因子受容体(EGFR)、EGFRバリアントIII(EGFRvIII)、CD19、CD20、CD30、CD40、ジシアロガングリオシドGD2、乳管上皮ムチン、gp36、TAG−72、スフィンゴ糖脂質、グリオーマ関連抗原、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、α−胎児グロブリン(AFP)、外来レクチン反応性AFP、サイログロブリン、RAGE−1、MN−CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシエステラーゼ、mut hsp70−2、M-CSF、プロスターゼ(prostase)、プロスターゼ特異的抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGA-1a、p53、Prostein、PSMA、生存及びテロメラーゼ、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インスリン成長因子(IGF1)-I、IGF-II、IGFI受容体、メソテリン、腫瘍特異的ペプチドエピトープを提示する主要組織適合性複合体(MHC)分子、5T4、ROR1、Nkp30、NKG2D、腫瘍間質抗原、フィブロネクチンの追加ドメインA(EDA)及び追加ドメインB(EDB)、テネイシン-CのA1ドメイン(TnC A1)、線維芽細胞関連タンパク質(fap)、CD3、CD4、CD8、CD24、CD25、CD33、CD34、CD133、CD138、Foxp3、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、GM-CSF、サイトカイン受容体、内皮因子、BCMA(CD269、TNFRSF17)、TNFRSF17(UNIPROT Q02223)、SLAMF7(UNIPROT Q9NQ25)、GPRC5D(UNIPROT Q9NZD1)、FKBP11(UNIPROT Q9NYL4)、KAMP3、ITGA8(UNIPROT P53708)、及びFCRL5(UNIPROT Q68SN8)を含むが、これらに制限されない。
【0028】
「T細胞受容体(TCR)」はT細胞抗原受容体とも呼ばれ、T細胞が抗原ペプチド−MHC分子を特異的に認識し結合する分子構造であり、通常CD3分子と複合体の形でT細胞表面に存在する。多くのT細胞のTCRはαとβペプチド鎖からなり、少数のT細胞のTCRはγとδペプチド鎖からなる。たとえば、前記TCRは、癌関連抗原に特異的に結合するTCR(通常はα及びβ鎖を含む)である。
【0029】
「キメラ型抗原受容体(CAR)」は人工T細胞受容体、キメラ型T細胞受容体、キメラ型免疫受容体とも呼ばれ、人工的に設計された受容体であり、免疫エフェクター細胞にある特異性を付与できる。一般的に、この技術はT細胞に腫瘍表面抗原を特異的に認識する特性を与えることに用いられる。このような方法により、多数の標的腫瘍キラー細胞を産生することができる。
【0030】
前記CARは、癌関連抗原に対する細胞外抗原結合ドメインを含み得る。前記細胞外抗原結合ドメインは、たとえば、モノクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、抗体一本鎖可変領域(scFV)、及びその抗原結合断片であり得る。たとえば、前記細胞外抗原結合ドメインは、商業的に入手可能な抗体を含む1種以上の既知の抗体、たとえば、FMC63、リツキシマブ(rituximab)、アレムツズマブ(alemtuzumab)、エプラツズマブ(epratuzumab)、トラスツズマブ(trastuzumab)、ビバツズマブ(bivatuzumab)、セツキシマブ(cetuximab)、ラベツズマブ(labetuzumab)、パリビズマブ(palivizumab)、セビルマブ(sevirumab)、ツビルマブ(tuvirumab)、バシリキシマブ(basiliximab)、ダクリズマブ(daclizumab)、インフリキシマブ(infliximab)、オマリズマブ(omalizumab)、エファリズマブ(efalizumab)、ケルキシマブ(Keliximab)、シプリズマブ(siplizumab)、ナタリズマブ(natalizumab)、クレノリキシマブ(clenoliximab)、ペムツモマブ(pemtumomab)、エドレコロマブ(Edrecolomab)、カンツズマブ(Cantuzumab)等に由来することができる。
【0031】
本発明の各態様のいくつかの実施形態では、前記CARは、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインをさらに含む。本発明に係るCARの細胞内シグナル伝達ドメインは、細胞外リガンド結合ドメインが標的に結合した後の細胞内シグナル伝達を担当し、免疫細胞の活性化及び免疫応答をもたらす。細胞内シグナル伝達ドメインは、CARを発現する免疫細胞の少なくとも1つの正常エフェクター機能を活性化する能力を有する。たとえば、T細胞のエフェクター機能は、細胞溶解活性又はサイトカインの分泌を含む補助活性であり得る。
【0032】
CAR用の細胞内シグナル伝達ドメインは、細胞質配列、たとえばT細胞受容体及び共通受容体(これらは抗原受容体の結合後にシグナル伝達を開始するように一貫して機能する)の細胞質配列、及びこれらの配列のいずれかの誘導体又は変異体、並びに同じ機能的能力を有するいずれかの合成配列であってもよいが、これらに限定されない。細胞内シグナル伝達ドメインは、抗原依存的な一次活性化を開始する配列と、抗原非依存的に作用して二次刺激シグナル又は共刺激シグナルを提供する配列との2つの異なるタイプの細胞質シグナル伝達配列を含む。一次細胞質シグナル伝達配列は、ITAMと呼ばれる免疫受容体チロシン活性化モチーフのシグナル伝達モチーフを含むことができる。本発明で使用されるITAMの非限定的な例は、TCRζ、FcRγ、FcRβ、FcRε、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dから誘導されるものを含むことができる。いくつかの実施形態では、CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを含むことができる。いくつかの実施形態では、本発明のCARの細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記共刺激ドメインは、41BB共刺激ドメイン又はCD28共刺激ドメインから選択される。
【0033】
CARは細胞の表面で発現する。したがって、CARは膜貫通ドメインを含むことができる。本発明のCARの適切な膜貫通ドメインは、以下の能力を有する。a)細胞の表面、好ましくは、たとえばリンパ球又はナチュラルキラー(NK)細胞を含むが、これらに制限されない免疫細胞で発現し、b)リガンド結合ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインと相互作用して、所定の標的細胞に対する免疫細胞の細胞応答を指導する。膜貫通ドメインは、天然由来又は合成由来であってもよい。膜貫通ドメインは、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質から誘導することができる。非限定的な例として、膜貫通ドメインはT細胞受容体のαサブユニット、βサブユニット、γ又はδサブユニット、CD3複合体を構成するポリペプチド、IL-2受容体のp55(α鎖)、p75(β鎖)又はγ、Fc受容体のサブユニット鎖、特にFcγ受容体III又はCDタンパク質から誘導することができる。あるいは、膜貫通ドメインは合成されていてもよく、ロイシンやバリンなどの疎水性残基を主に含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインはヒトCD8α鎖から誘導される。膜貫通ドメインは、細胞外リガンド結合ドメインと膜貫通ドメインとの間に位置するヒンジ領域をさらに含んでもよい。前記ヒンジ領域は、たとえば、CD8、CD4、又はCD28の細胞外領域から由来する。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、ヒトCD8α鎖の一部である。
【0034】
いくつかの特定の実施形態では、本発明で使用されるCARは、scFv、CD8ヒンジ及び膜貫通ドメイン、CD3ζシグナル伝達ドメイン、及び4-1BB共刺激ドメインなど、癌関連抗原に特異的に結合する細胞外抗原結合ドメインを含むことができる。
【0035】
いくつかの特定の実施形態では、前記CARはCD19に対する細胞外抗原結合ドメインを含む。いくつかの特定の実施形態では、前記CARは、SEQ ID NO:16で示されるアミノ酸配列を含む。
【0036】
T細胞受容体(TCR)又はキメラ型抗原受容体(CAR)と優性ネガティブTGF-βII型受容体とをT細胞に共発現させることにより、TGF-βによるT細胞の阻害を解除し、腫瘍殺傷活性など、TCR-T細胞又はCAR-T細胞の活性を著しく向上させることができる。実施形態で示されるように、本発明のレンチウイルスベクターは、T細胞受容体(TCR)又はキメラ型抗原受容体(CAR)と優性ネガティブTGF-βII型受容体とをT細胞で共発現させるのに特に適している。
【0037】
別の態様では、本発明は、レンチウイルスベクター粒子の製造方法を提供し、前記方法は、本発明のレンチウイルスベクター、Gag及び/又はPolを発現する1種又は複数種のパッケージングベクター、VSV−Gなどのエンベロープタンパク質を発現するエンベロープベクターを適切な宿主細胞に共トランスフェクションさせるステップa)と、
トランスフェクションされた前記宿主細胞を培養して、前記レンチウイルスベクターをレンチウイルスベクター粒子にパッケージングングするステップb)と、
ステップb)で生成されたレンチウイルスベクター粒子を取得するステップc)とを含む。
【0038】
Gag及び/又はPolを発現する1種又は複数種の適切なパッケージングベクター、VSV-G等のエンベロープタンパク質を発現するエンベロープベクターは本分野で知られており、当業者により容易に入手できる。いくつかの実施形態では、前記ベクターはプラスミドである。
【0039】
レンチウイルスベクター粒子を製造するための適切な宿主細胞は、293T細胞を含むが、これに限定されない。
【0040】
別の態様では、本発明のレンチウイルスベクターを含むか、又は本発明の上記方法によって製造されたレンチウイルスベクター粒子を提供する。
【0041】
別の態様では、本発明は、治療用T細胞の製造における本発明のレンチウイルスベクター粒子の使用を提供し、前記治療用T細胞は、癌関連抗原特異的受容体タンパク質、たとえばT細胞受容体(TCR)又はキメラ型抗原受容体(CAR)、及び場合によって優性ネガティブTGF-βII型受容体を発現する。
【0042】
別の態様では、本発明のレンチウイルスベクター粒子をT細胞に形質導入することを含む、治療用T細胞の製造方法を提供する。前記治療用T細胞は、前記レンチウイルスベクター粒子の形質導入により、癌関連抗原特異的受容体タンパク質、たとえばT細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)、及び場合によって優性ネガティブTGF-βII型受容体を発現する。
【0043】
本発明のT細胞は、末梢血単核球、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、腹水、胸水、脾臓組織や腫瘍を含む多くの非制限的なソースから、様々な非制限的な方法によって取得することができる。いくつかの実施形態では、細胞は、健康なドナー又は癌と診断された患者から誘導されてもよい。いくつかの実施形態では、細胞は、異なる表現型の特徴を示す細胞の混合集団の一部であってもよい。たとえば、T細胞は末梢血単核細胞(PBMC)を分離し、特異的抗体で活性化、増幅することで得ることができる。
【0044】
本発明の各態様のいくつかの実施形態では、前記T細胞は、対象の自己細胞から誘導される。本明細書で使用される「自己」とは、治療対象に使用される細胞、細胞株、又は細胞集団が前記対象に由来することを意味する。いくつかの実施形態では、前記T細胞は異種細胞から誘導され、たとえば、前記対象となるヒト白血球抗原(HLA)と適合性のあるドナーに由来する。ドナー由来の細胞は、標準プロトコルを用いて非同種異系反応性細胞に形質転換され、必要に応じて複製され、それにより、1人以上の患者に投与され得る細胞を産生することができる。
【0045】
別の態様では、本発明のレンチウイルスベクター、適切なパッケージングングベクター、適切なエンベロープベクター、及び/又は293T細胞のような適切な宿主細胞を含むレンチウイルスベクター粒子を産生するためのキットを提供する。前記キットは、細胞トランスフェクション試薬をさらに含み得る。別の態様では、本発明のレンチウイルスベクター粒子を含む目的ポリペプチドを細胞内で発現させるためのキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】CAR-19を発現するためのレンチウイルスベクターの構造及び完全性の同定戦略を示す。(A):PEF1α-L(ロングプロモーター、531bp)を含む旧ベクターpPVLV1;(B):PEF1α-S(ショートプロモーター、212bp)を含む新ベクターpPVLV2。ランダム6量体プライマーを用いて逆転写されたcDNAから所望のPCR産物(F1-F5:PCR断片)を生成し、ウイルスベクターの完全性を同定する。
図2】pPVLV1とpPVLV2の違いを示す。(A):ウイルスゲノムの逆転写cDNAから所望のDNA断片を増幅する。PEF1α-Lを含有するウイルス遺伝子断片に欠陥遺伝子座が観察された。予期しないサイズのDNA断片(左)を矢印で示す。(B):CAR-19を発現する細胞の百分率と、(C):293T細胞形質導入48時間後の各ベクターの力価とを比較する。
図3】CAR-19-Flucの構造とルシフェラーゼ活性を示す。(A):及び(B):P2A−Flucカセットの上流にクローニングされたCAR−19をコードするジシストロン構築物を使用する。(C):発現したCAR-19及びFluc分子の模式図。(D):レンチウイルスベクターを293T細胞に形質導入してから48時間後に測定したルシフェラーゼの活性。
図4】CAR−19-DNRIIの構造及びウイルスベクターを示す。(A)及び(B):トランケートTGFBRII(DNRII)を共発現するCAR-19のベクターマップを示す。(C):共発現したCAR−19及びDNRII分子の構造模式図。
図5】形質導入された293T細胞におけるCAR-19及びDNRII発現の形質導入効率を示す。図中の数字は、形質導入されていない293T細胞の陰性対照に対するCAR−19(上)又はDNRII(下)の陽性細胞の百分率を示す。10個の独立した実験の代表的な実験結果を示した。
図6】形質導入されたT細胞におけるCAR-19及びDNRIIの発現を示す。活性化T細胞をレンチウイルスベクターで形質導入してCAR-19又はCAR-19-DNRIIを発現させ、フローサイトメトリーにより評価する。図中の数字は、形質導入されていないT細胞の陰性対照に対する、CAR−19(上)又はDNRII(下)の陽性細胞の百分率を示す。結果は3つの独立した実験を表す。
図7】CAR−19又はCAR−19−DNRIIベクター形質導入後の細胞生存率及びカウントを示す。データは平均値±SDで表される。
図8】DNRIIがTGF-β1によって誘導されるSMAD2リン酸化を減少させることを示す。
図9】CAR-T-19及びCAR-T-19-DNRII細胞におけるIFN-γ及びTNF-αのmRNAレベルを示す。データは平均値±SEMで表される。
図10】TGF-β1の存在下でのCAR-T-19及びCAR-T-19-DNRII細胞のCD19+腫瘍細胞に対する抗原特異的な殺滅を示す。CAR Tで細胞を初期活性化12日後、DELFIA(R)EuTDA細胞毒性測定法により細胞溶解活性を測定する。測定3日前にT細胞を採取し、rhTGF-β1(10ng/ml)で72時間培養する。標的細胞をBATDA試薬で15分間標識した後、エフェクター細胞として形質導入T細胞を特定のE:T比で添加する。4時間インキュベートした後、溶解を測定する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
実施例
実施例における統計学的分析は、GraphPadソフトウェア(GraphPad Prism v5.0;GraphPad Software,San Diego,CA,USA)を使用して行う。対応のあるt検定を行った後、Newman-Keuls検定を行ってデータを解析する。結果を平均値±SEMとして示す。p値<0.05が有意であると考えられる。
【0048】
実施例1、CAR発現用レンチウイルスベクターの最適化
CAR形質導入用レンチウイルスベクターは、所望のCARトランスジェニックを含み、細胞内で発現できるものでなければならない。それぞれ旧ベクターpPVLV1(図1A)と新ベクターpPVLV2(図1B)である、CARを発現するための第三世代レンチウイルスベクターを2種類設計した。pPVLV1は531bpの長いヒト伸長因子1α(EF1α)プロモーターを含み、pPVLV1は212bpの短いヒトEF1αプロモーターを含む。2種類のベクターに含まれる各エレメント及びその説明は、次の表1に記載される。
【0049】
本出願の実施例では、発現対象のCARは、CD19を標的とするscFv、ヒトCD8のヒンジ及び膜貫通ドメイン、細胞内ドメイン4-1BB及びCD3ζを含む。このCD19を標的とするCARのアミノ酸はSEQ ID NO:16で示され、ヌクレオチド配列はSEQ ID NO:8で示される。
【0050】
【表1-1】
【表1-2】
【0051】
gag/polパッケージングプラスミド、VSV-Gエンベローププラスミド、及び上述したレンチウイルスベクター配列を含むトランスフェクション構築物を用いて293T細胞をトランスフェクションすることにより、レンチウイルス上澄みを産生した。簡単に言えば、DNA混合物をOpti−MEM(Life Technologies、Gaithersburg、MD、USA)に混合し、Lipofectamine 3000(Life Technologies)を含有する同体積のOpti−MEMと混合した。室温で15分間インキュベートした後、得られた混合物を293T細胞に適用した。トランスフェクションの24時間後にレンチウイルスを含有する培地を収集した。収集するたびに、上澄みをPVDF膜(0.45μm)でろ過した。レンチウイルス取得物を合併し、4℃で貯蔵した後、20,000xgで1時間30分超遠心分離した。レンチウイルス粒子をPBSに再懸濁させた。
【0052】
図1は、2種のレンチウイルスベクターの構造模式図、及び重複PCR産物を介してレンチウイルスの完全性を検査するためのストラテジーを示す。適当なプライマーを設計し、ランダムプライマーを用いて逆転写されたcDNAから重複断片F1〜F5を増幅した。予想される大きさのPCR産物は、レンチウィルスの完全性を証明することができる。
【0053】
図2Aは、ウイルスゲノムから逆転写されたcDNAから増幅された各DNA断片を示す。意外なことに、PEF1α-L(ロングプロモーター)を含むウイルス遺伝子断片に重複欠陥遺伝子座が観察された。矢印は、所望ではないDNA断片があることを示す(左)。PEF1α-S(ショートプロモーター)を含むウイルス遺伝子断片にはこの現象は観察されなかった。このような欠失ウイルスゲノムは力価及び形質導入効率に影響を与える可能性がある。
【0054】
そのため、2種のレンチウイルスの力価と形質導入効率を試験した。レンチウイルス滴定において、2×10個の293T細胞を6ウェルプレートの各ウェルに接種し、一連の体積の濃縮のレンチウイルスを用いて形質導入した。形質導入してから48時間後、293T細胞をプレートから分離した。Alexa Fluor 488で標識されたヤギ抗ヒトIgGF(ab)を用いてフローサイトメトリーによりCARの存在を検出した。従来のPCRを用いて、5’LTR〜3’LTRのウイルスゲノムRNAを検査した。
【0055】
結果を図2B図Cに示す。PEF1α−Lを有するウイルス(pPVLV1ベクターに基づく)の形質導入効率(CARを発現している細胞の割合)はわずか9.95%であり、PEF1α−Sを有するウイルス(pPVLV2ベクターに基づく)の70.4%を大きく下回っている。さらに、PEF1α-Lを有するウイルス(pPVLV1ベクターに基づく)の力価も、PEF1α-Sを有するウイルス(pPVLV2ベクターに基づく)のレンチウイルスに比べて有意に低かった。pPVLV2ベクターはpPVLV1ベクターより優れており、これは異なる長さのEF1αプロモーターによる可能性があることを示した。
【0056】
実施例2、CAR遺伝子の形質導入及び発現に対するプロモーターの影響
異なるプロモーターの影響をさらに証明するために、図3の2種のCAR-ルシフェラーゼレポーターベクターはpPVLV2に基づいて構築され、それらの違いはトランスジェニック発現を駆動するプロモーターのみであり、ここで、CAR−19はP2A−Fluc(ホタルルシフェラーゼ)カセットの上流にクローニングされ、ジシストロンを形成している(図3AとB)。
【0057】
前記ベクターを細胞に形質導入した後、P2A自己切断ペプチドのコード配列が存在するため、同じ細胞でCAR−19とルシフェラーゼの2つの分子が約1:1の割合で発現し、蛍光強度はCAR−19形質導入効率を反映することができる(図3Cの原理模式図を参照)。図3Dは、293T細胞に2種のレンチウイルスベクターを形質導入して48時間後に測定したルシフェラーゼ活性を示す。その結果、PEF1α-Sを有するレンチウイルスベクターで形質導入された細胞は、PEF1α-Lを有するレンチウイルスベクターで形質導入された細胞よりも蛍光が有意に強いことが示された。さらに、PEF1α-Sが細胞におけるトランスジェニック発現を有意に改善したことが証明された。
【0058】
本実施例は、従来の強力なプロモーターである531bpのEF1αプロモーターが、レンチウイルスベクターでタンパク質発現に使用された場合、意外に低い形質導入効率をもたらすことを証明した。トランケートEF1αプロモーター(212bp)を使用することにより、形質導入効率を著しく向上させ、CARなどの外来タンパク質の細胞内での発現を改善することができる。
【0059】
実施例3、細胞におけるCARとDNRIIの共発現
TGF-βは重要なT細胞抑制因子であり、標的細胞に対する治療用T細胞の殺傷作用を弱めたり消失させたりする可能性がある。臨床上、TGF-βは多くの腫瘍組織に広く発現し、腫瘍細胞に対する腫瘍特異的T細胞の殺傷活性を著しく抑制し、免疫治療が失敗する重要な原因である。一方、優性ネガティブTGF-βII型受容体(dominant negative TGF-βreceptor type II、DNRII)はTGF-βのネガティブ調節受容体であり、T細胞に対するTGF-βの抑制作用を抑制する。以下の実施例は、T細胞におけるCARとDNRIIの共発現の効果を検討する。DNRIIのアミノ酸配列はSEQ ID NO:17で示され、そのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:18で示される。
【0060】
まず、実施例2と同様に、pPVLV2に基づいて、図4(A及びB)の2種のCAR-19-DNRIIベクターを構築し、これらの違いは、トランスジェニック発現を駆動するプロモーターのみである。ここで、CAR-19とDNRIIは同一のオープンコードフレームに位置し、中間に2Aポリペプチドコード配列を含む。図4Cは、CAR-19及びDNRII分子の構造模式図を示す。DNRIIはTGFBRIIの細胞内セリン/スレオニンキナーゼドメインを欠失し、下流にシグナルを伝導できない。
【0061】
CAR−19とDNRIIのコード配列を2Aコード配列で分離し、同一のオープンコードフレームに配置し、同一のプロモーターで発現を駆動することにより、得られた形質導入細胞がCAR−19とDNRIIを同時に発現することを最大限に確保することができる。CAR−19とDNRIIが異なるベクターでそれぞれ細胞に形質導入されると、一部の細胞はCAR−19のみを発現し、一部の細胞はDNRIIのみを発現する可能性があり、その結果、2種のタンパク質を共発現する細胞の割合は非常に低くなるからである。また、2種のタンパク質の発現が同一ベクター中の異なるプロモーターによって駆動されると、プロモーター効率の違いにより、2種のタンパク質を同時に発現する細胞の割合は同様に低下する。
【0062】
2種のCAR−19−DNRIIレンチウイルスベクターを同等のMOI(多重感染度)で293T細胞に形質導入した。標識されたヤギ抗ヒトIgGF(ab)又は抗DNRII抗体を用いて、MACSQuantアナライザ10を用いてフローサイトメトリーによりCAR又はDNRIIの発現を検出し、FlowJoソフトウェアを用いてデータを解析した。
【0063】
図5の結果に示すように、PEF1α−Sを有するレンチウイルスベクターで形質導入された293T細胞におけるCAR-19及びDNRIIの発現は、PEF1α−Lを有するレンチウイルスベクターで形質導入された293T細胞よりも有意に高かった。
【0064】
さらに、2種のCAR−19レンチウイルスベクター、及び2種のCAR−19−DNRIIレンチウイルスベクターをT細胞に形質導入した後のCAR−19及びDNRIIの発現も試験した。
【0065】
健康ドナー由来のヒト末梢血単核細胞(PBMC)を抗CD3/CD28 Dynabeads磁気ビーズで2日間活性化し(ビーズ:細胞=3:1)、1×10個細胞/mlでrhIL-2(200IU/mL)を補充したIMSF100無血清培地(LONZA、ベルギー)に重懸濁させた。CAR-19及びCAR-19-DNRIIレンチウイルス上澄みをそれぞれ添加して形質導入した。その後、32℃で2時間1,200×gで遠心分離した。24時間後、ウイルスベクターを含有する上澄み液を除去した。rhIL-2(200IU/mL)を含む培地に細胞を3×10個細胞/mLで懸濁させ、2〜3日毎に新鮮な培地を入れ替えて12日間増幅培養することにより、CAR-19分子を発現するCAR-T-19細胞、及びCAR-19分子とDNRII分子とを共発現するCAR-T-19-DNRII細胞を得た。同じ培養条件で培養したが遺伝子形質導入を行わなかったPBMCを対照(NC)とした。形質導入して得られたCAR-T細胞の各タンパク質分子の発現をフローサイトメーターにより検出した。2〜3日ごとにヨウ化プロピリジン(PI)染色を行い、フローサイトメーターにより細胞活性を検出した。細胞培養中は、2〜3日ごとにトリパンブルー染色法を用いて細胞数をカウントし(サンプルごとに3回繰り返し)、細胞数(平均値±SD)を算出した。
【0066】
図6の結果に示すように、形質導入されていない細胞(NC)はCAR−19やDNRIIを発現しなかった。PEF1α-Sを含むpPVLV2ベクターのCAR-T-19を用いてCAR-19を発現させ(発現率67.4%)、CAR-T-19-DNRII細胞は、CAR-19(発現率62.9%)とDNRII(発現率62.3%)の両方を発現した。CAR-T-19-DNRII細胞におけるCAR-19とDNRIIは共発現であり、形質導入効率はCAR-19単独形質導入の場合と同等であることが示された。PEF1α-Lベクターを用いた場合、CAR-T-19-DNRII細胞においてもCAR-19とDNRIIは共発現したが、発現率は有意に低下した。CAR-T-19細胞においてもCAR-19の発現率は有意に低下した。
【0067】
また、図7に示すように、CAR-T-19-DNRII細胞の活性と数はCAR-T-19と差がなかった。
【0068】
したがって、本実施例は、pPVLV2ベクターの骨格(PEF1α-Sを含む)が、細胞、たとえばT細胞におけるCARの発現、特にCARとDNRIIのような他のタンパク質との共発現に特に適していることを判定した。さらに、CARとDNRIIのコード配列を同一のオープンリードコードフレームに配置することにより、2種の分子の高い共発現率を実現できる。
【0069】
実施例4、DNRIIの発現によるTFG-β1誘導SMAD2分子のリン酸化低下
T細胞に対するTFG-βの抑制作用は、TFG-βがその受容体に結合した後、SMAD2分子のリン酸化を行うことにより達成される。
【0070】
形質導入9日後のCAR-T-19細胞とCAR-T-19-DNRII細胞を組換えヒトTFG-β1(10ng/ml)とともに24時間インキュベートし、リン酸化されたSMAD2(pSMAD2)の発現レベルの解析を行った。GAPDHとリン酸化されていないSMAD2分子を対照とし、Western blotによりpSMAD2分子の相対定量を行った。
【0071】
具体的には、Bradford測定キット(Sigma−Aldrich)を用いて全細胞溶解物のタンパク質濃度を測定した。同量のタンパク質をSDS-PAGEゲルの細孔に装填し、分離したタンパク質をPVDF膜(Thermo Scientific)に移した。TBST中の10%(w/v)脱脂ミルクで膜を密閉させ、次に、一次抗体(抗pSMAD2と抗SMAD2;Cell signaling Technologies、Danvers、MA、USA;すべて1:1000で希釈)と一緒に4℃で一晩インキュベートした。その後、TBSTで膜を洗浄し、HRPコンジュゲートのヤギ抗ウサギIgG(1:2000で希釈;Cell Signaling Technologies)を室温で2時間インキュベートした。その後、膜をECL試薬(Thermo Scientific)に曝露し、得られた信号を発光画像分析装置(LAS−4000、Fuji Film、Tokyo、Japan)を用いて検出した。
【0072】
図8の結果に示すように、CAR−T−19-DNRII細胞におけるpSAMD2のレベルはCAR−T−19細胞と比較して有意に低下した。DNRIIの発現はTGF-βシグナル経路のキーシグナル伝達分子SMAD2のリン酸化を抑制することを示した。
【0073】
実施例5、組換えヒトTGF-β1で処理されたCAR-T-19-DNRII細胞及びCAR-T-19細胞におけるIFN-γとTNF-αの発現
IFN-γとTNF-αはT細胞が標的細胞を殺傷するマーカーサイトカインである。この2種のサイトカインの発現レベルが高いことは、標的細胞に対するT細胞の殺傷能力が高いことを示し、逆の場合は、殺傷能力が低いことを示している。
【0074】
形質導入9日後のCAR-T-19細胞及びCAR-T-19-DNRII細胞を、組換えヒトTGF-β1(10ng/ml)と、又は組換えヒトTGF-β1(10ng/ml)と共培養しないで24時間培養した後、2種の細胞のそれぞれを、CD19分子を発現するCD19−K562標的細胞と共培養した。IFN-γとTNF-αのmRNAレベルを定量するために、各混合細胞を採取し、PureLink RNA Miniキット(Thermo Scientific、Waltham、MA、USA)を用いて全RNAを抽出した。DNaseの消化とAgilent 2100生物分析装置(Agilent Technologies、Palo Alto、USA)による濃度測定を行った後、特異的プライマーとOne-step SensiFAST SYBR Low-ROXキット(Bioline、Maryland、USA)を用いて、QuantStudio3リアルタイムPCR検出系(Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)を用いて、全RNAサンプルについてリアルタイム定量RT-PCR分析を行った。18s rRNAを増幅し、内部コントロールとした。ΔΔCt法により発現レベルを計算し、式2-ΔΔCtを用いて発現倍数を得た。すべての実験は3回行われた。
【0075】
その結果、組換えヒトTGF-β1処理後、CAR-T-19-DNRII細胞におけるIFN-γとTNF-αの発現がCAR-T-19細胞より有意に高かった(図9)。
【0076】
実施例6、組換えヒトTGF-β1で処理されたCAR-T-19-DNRII細胞とCAR-T-19細胞による腫瘍標的細胞への特異的殺傷
12日間形質導入したCAR-T-19細胞とCAR-T-19-DNRII細胞を用いて標的細胞殺傷実験を行った。
【0077】
TDA放出測定を行うことで、TGF-β1の存在下のK562又はCD19−K562に対するCAR−T-19細胞及びCAR−T-19-DNRII細胞の細胞傷害活性を決定した。CAR-T-19細胞及びCAR-T-19-DNRII細胞を組換えヒトTGF-β1(10ng/ml)とそれぞれ72時間インキュベートした。標的細胞をBA-TDA(Perkin Elmer、Norwalk、Connecticut、USA)で15分間標識した後、それぞれ20:1、10:1、5:1、2.5:1のエフェクター細胞(T細胞):標的細胞(腫瘍細胞)割合でエフェクター細胞と混合し、計4時間インキュベートした後、TDAの放出を検出した(標的細胞溶解)。時間分解蛍光(TRF)リーダー(Thermo Scientific)を用いて上澄み液のTDA放出を測定した。特異的溶解は、%溶解=(実験的溶解-自発的溶解)/(最大溶解-自発的溶解)×100で算出される。
【0078】
図10の結果に示すように、組換えヒトTGF-β1処理後、CAR−T−19細胞はCD19を発現するK562標的細胞に対する殺傷作用がCAR−T細胞を添加しないバックグラウンドレベルまで低下した(図10A)。一方、CAR−T−19−DNRII細胞は、CD19を発現するK562標的細胞に対する殺傷作用がほとんど低下せず、CAR−Tを添加しない細胞と有意な差があった(図10B)。DNRIIはT細胞殺傷に対するTGF-βの抑制作用を有効に逆転させたことが示された。
【0079】
配列表
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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【国際調査報告】