(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-535180(P2021-535180A)
(43)【公表日】2021年12月16日
(54)【発明の名称】パーキンソン病の処置の為のPDE11又はPDE2阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20211119BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20211119BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20211119BHJP
A61K 31/52 20060101ALI20211119BHJP
A61K 31/53 20060101ALI20211119BHJP
A61K 31/437 20060101ALI20211119BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20211119BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/16ZNA
A61P43/00 111
A61K31/52
A61K31/53
A61K31/437
A61P43/00 121
A61P43/00 105
C07K7/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2021-512542(P2021-512542)
(86)(22)【出願日】2019年9月5日
(85)【翻訳文提出日】2021年4月28日
(86)【国際出願番号】NL2019050578
(87)【国際公開番号】WO2020050722
(87)【国際公開日】20200312
(31)【優先権主張番号】18192799.7
(32)【優先日】2018年9月5日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】505432603
【氏名又は名称】ユニベルシテイト ファン アムステルダム
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】スミット,マールテン ピート
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル ハイデ,ラース フィリップ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC13
4C086CB05
4C086CB07
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZB21
4C086ZC20
4C086ZC75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA17
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA21
(57)【要約】
実施態様において、本発明は、パーキンソン病の処置の為の手段及び方法に関する。幾つかの態様において、該手段及び方法は、任意的にGUCY2Cアゴニストとともに、PDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせに関与する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病を有する個体の処置における使用の為の、ホスホジエステラーゼ11(PDE11)阻害剤、ホスホジエステラーゼ2(PDE2)阻害剤又はそれらの組み合わせ。
【請求項2】
前記処置が、グアニル酸シクラーゼ2C受容体(GUCY2C)アゴニストを含む、請求項1に記載の使用の為の、PDE11阻害剤、PDE2阻害剤又はそれらの組み合わせ。
【請求項3】
前記個体が、段階1、段階2、段階3又は段階4のパーキンソン病を有する、請求項1又は2に記載の使用の為の、PDE11阻害剤、PDE2阻害剤又はそれらの組み合わせ。
【請求項4】
前記PDE2阻害剤が、EHNA (エリスロ−9−(2−ヒドロキシ−3−ノニル)アデニン);BAY 60−7550 (2−[3,4−ジメトキシフェニル)メチル]−7−[(2R,3R)−2−ヒドロキシ−6−フェニルヘキサン−3−イル]−5−メチル−1H−イミダゾ[5,1−f][1,2,4]トリアジン−4−オン);PDP (9−(6−フェニル−2−オキソヘキサ−3−イル)−2−(3,4−ジメトキシベンジル)−プリン−6−オン;又はオキシインドール (2,3−ジヒドロインドール−2−オン)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用の為の、PDE11阻害剤、PDE2阻害剤又はそれらの組み合わせ。
【請求項5】
前記PDE11阻害剤が、BC11−15;BC11−19;BC11−28;BC11−38;BC11−38−1;BC11−38−2;BC11−38−3;又はBC11−38−4である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用の為の、PDE11阻害剤、PDE2阻害剤又はそれらの組み合わせ。
【請求項6】
前記GUCY2Cアゴニストが、グアニリン又はその機能的誘導体である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の使用の為の、PDE11阻害剤、PDE2阻害剤又はそれらの組み合わせ。
【請求項7】
前記GUCY2Cアゴニストが、配列NDDCELCVNVACTGCLL;NDCCELCCNVACTGCL;NDDCELCVNVVCTGCL;QEECEL[Abu]INMACTGY;QEECELCINMACTGCL;NTFYCCELCCNPACAGCY;NTFYCCELCCAPACTGCY;又はNTFYCCELCCNPaCAGCYを含む、請求項2〜6のいずれか1項に記載の使用の為の、PDE11阻害剤、PDE2阻害剤又はそれらの組み合わせ。
【請求項8】
ドーパミン作動性細胞によるヒトチロシンヒドロキシラーゼの位置40でのセリン残基(S40 Th)のリン酸化を増加させる方法であって、該細胞を、PDE11阻害剤、PDE2阻害剤又はそれらの組み合わせと接触させることを含む、前記方法。
【請求項9】
ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生を増加させる方法であって、該細胞を、PDE11阻害剤、PDE2阻害剤又はそれらの組み合わせと接触させることを含む、前記方法。
【請求項10】
前記細胞を、GUCY2Cアゴニストと接触させることを更に含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
パーキンソン病を有する個体又は該疾病を発生する危険性がある個体の処置の方法であって、PDE11阻害剤、PDE2阻害剤又はそれらの組み合わせを、上記処置を必要とする該個体に投与することを含む、前記方法。
【請求項12】
配列NDDCELCVNVACTGCLL;NDCCELCCNVACTGCL;NDDCELCVNVVCTGCL;QEECEL[Abu]INMACTGY;QEECELCINMACTGCL;NTFYCCELCCNPACAGCY;NTFYCCELCCAPACTGCY;又はNTFYCCELCCNPaCAGCYを含むGUCY2Cアゴニスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーパミン作動性細胞によるドーパミンの産生を誘発及び/又は高める為の手段及び方法に関する。本発明はまた、パーキンソン病を有する個体又はこの疾病を発症する危険性がある個体の処置の為の手段及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(PD:parkinson’s disease)は、アルツハイマーの病状の後に最もよく見られる神経障害である。その主要な特徴は、黒質緻密部(SNpc:substantia nigra pars compacta)におけるドーパミン作動性ニューロンの進行性変性である(Kalia LV and Lang AE, 2015)。この解剖学的領域は、発症の間に中脳から生じ、最終的に、脳基底核が構成される前脳区域の1つである背側線条体の方向に突起を作り出す(Smidt MP and Burbach JP, 2007;Baladron J and Hamker FH, 2015)。両方の構造の間の機能的接合(functional connectivity)は、黒質線条体路と広く称され、ドーパミンの放出に依存する(Ikemoto S et al., 2015)。この神経伝達物質は、黒質遠心路によって放出された後に線条体のシナプス後受容体と相互作用し、最終的に運動制御を調節する。従って、該SNpcにおけるニューロンの顕著な喪失があるPD患者において、結果として生じる線条体へのドーパミン放出の欠如は、運動症状の開始をもたらす。古典的には、これらのパーキンソン病の徴候は、動作緩慢又はゆっくりとした身体の動き、安静時の振戦、筋硬直及び歩行障害に分類されることができる(Kalia LV and Lang AE, 2015)。
【0003】
それにもかかわらず、運動障害だけは、該SNpcにおける変性が進行した段階(advanced stage)において生じる場合に現れ、そして、それらは、多くの場合、嗅覚機能障害、うつ状態又は便秘を包含する一連の非運動症状によって先行される(Mahlknecht P et al., 2015)。これらの初期症状の生理学的な原因は完全に理解されておらず、少なくとも部分的には、黒質線条体路の外側のネットワークの機能不全及びドーパミン以外の神経伝達物質の不均衡によって媒介されると考えられている(Kalia LV and Lang AE, 2015)。興味深いことに、前駆期の発生と運動徴候との間の潜伏期は、10年超である可能性がある(Postuma RB et al., 012)。それ故に、プレモーター期間(premotor period)は、医師に、該疾病の更なる発症を防ぐ為に利用される可能性がある一時的なウィンドウを提供するだろう。残念ながら、PDに対処する為にこの戦略を用いようとする場合に、2つの主な欠点が生じる:(1)非運動症状は、臨床眼(clinical eye)には微妙であり、この特定の疾病に必ずしも関連しない、及び(2)PDの分子的基礎の現在の理解は、完全には程遠く、該障害の基礎的病因を考慮することはめったになく、多くの場合、環境的因子及び遺伝的因子の複雑な相互作用を認める(Kalia LV and Lang AE, 2015;Mahlknecht P et al., 2015)。
【0004】
ドーパミン生合成は、複雑であり、且つ様々な他の生合成経路と統合される。ドーパミンは、2つの反応でL−チロシンから生成される。酵素であるチロシンヒドロキシラーゼ(Th:tyrosine hydroxylase)は、L−チロシンをL−ドーパに転化し、そして芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素(AADC:aromatic L-amino acid decarboxylase)は、L−ドーパを転化して、ドーパミンを形成する(Clarke CE, 2004)。両方の酵素はまた、2つの追加のカテコールアミン(すなわち、ノルエピネフリン及びエピネフリン)の合成に関与することが知られており、一方、後者だけがセロトニン産生と共有される(Purves D et al., 2001)。加えて、神経伝達物質の量によって調節されるネガティブフィードバックループ(negative feedback loop)は、該酵素の活性を負に調節する。その上、Thは、合成経路における律速段階(rate limiting step)として機能する。ドーパミンは、Thの触媒領域と相互作用して、その活性を低下させる(Dunkley PR et al., 2004)。ドーパミンはまた、分解に付される。酵素であるカテコール−O−メチル基転移酵素(COMT:catechol-O-methyltransferase)及びモノアミン酸化酵素B(MAOB:monoamine oxidase B)は、ドーパミンの分解に関与し、且つそれをホモバニリン酸に転化する(Clarke CE, 2004)。
【0005】
パーキンソン病の為の最も一般的な薬物は、レボドパ;末梢AADC阻害剤(例えば、カルビドパ)と組み合わせられたレボドパ;MAOB阻害剤、及びCOMT阻害剤である(Kalia LV and Lang AE, 2015)。これらの医薬は、経口で摂取されることができ、且つ中枢神経系(CNS:central nervous system)に達することができないカルビドパを除いて、血液脳関門(BBB:blood-brain barrier)を通過することが可能である(Ahlskog JE et al., 1989;Gershanik OS, 2015)。これらの処置の欠点は、それらが(重度の)副作用を示すことである。これらは、とりわけ、該薬物が十分に特異的ではないという事実によって、引き起こされると考えられている。
【0006】
例えば、該薬物が、SNpcの外側のドーパミン作動性ニューロン、例えば、腹側被蓋野又は一部の視床下核中のドーパミン作動性ニューロン、に影響を及ぼすことは知られている(Upadhya MA et al., 2016)。これらの標的細胞におけるドーパミン産生の刺激は、処置の副作用をもたらすことができる。その上、ドーパミン生合成酵素はまた、ドーパミン以外の化合物の産生にも関与する。レボドパ処置は、これらの他の化合物の合成を妨げることができ、且つノルアドレナリン作動性ニューロン及びセロトニン作動性ニューロンにおけるオフターゲット効果(off-target effects)を発揮することができる(Carta M et al., 2007;Navailles S et al., 2014)。
【0007】
PDを標的にする利用可能な薬物の非特異性、は回避できない副作用をもたらし、レボドパ誘発ジスキネジアが最も顕著である。経口投与されたレボドパは、BBBを通過することができ、そして脳に一旦入ると、背側線条体のドーパミン作動性末端内に取り込まれることができる。そこで、それは、AADCによってドーパミンに更に転化され、トランスポーターvMAT2によって小胞内に移入され、そして最終的にシナプス間隙に放出される。レボドパ処置のこの結果は、PDを有する患者におけるその有益な効果を説明している。しかしながら、レボドパはまた、AADCが等しく存在する線条体のセロトニン作動性末端内に取り込まれることができる。ドーパミン、すなわち「偽セロトニン」が、レボドパ投与に応じて、活性依存様式で、合成され、そして更にセロトニン作動性末端から放出されることができることが報告されている。6−OHDA誘発性パーキンソン病ラットにおいて行われた的確な実験において、レボドパ由来のジスキネジアは、背側線条体における該セロトニン作動性末端を除去することによって、又はセロトニン自己受容体のアゴニストにより神経伝達物質放出を抑制することによって、無効にされることができた(Carta M et al., 2007)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
パーキンソン病の処置の為の手段及び方法を提供することが本発明の目的である。ドーパミンの内因性産生を増加させる方向に向けることで、該処置は、レボドパでの現在の処置よりも少ない副作用が予想される。パーキンソン病の処置の為に、既知の化合物を使用すること及び新規の化合物を特定することが本発明の更なる目的である。本発明の処置は、パーキンソン病の初期段階(early stages)において特に有効である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、パーキンソン病を有する個体の処置における使用の為の、ホスホジエステラーゼ2(PDE2:phosphodiesterase 2)阻害剤、ホスホジエステラーゼ11(PDE11:phosphodiesterase 11)阻害剤又はそれらの組み合わせを、任意的にグアニル酸シクラーゼ2C受容体(GUCY2C:guanylate cyclase 2C receptor)アゴニストと一緒に、提供する。
【0010】
本発明は、パーキンソン病を有する個体の処置における使用の為の、GUCY2Cアゴニスト、及びPDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせからなる群から選択される化合物を更に提供する。
【0011】
本発明は、パーキンソン病を有する個体の処置における使用の為の、グアニル酸シクラーゼ2C受容体(GUCY2C)アゴニスト、並びにPDE2阻害剤、PDE11阻害剤、又はPDE2阻害剤及びPDE11阻害剤の組み合わせを提供する。
【0012】
該個体は、段階1度、段階2、段階3又は段階4のパーキンソン病を有することができる。
【0013】
該PDE2阻害剤は好ましくは、EHNA(エリスロ−9−(2−ヒドロキシ−3−ノニル)アデニン)、BAY 60−7550、PDP(9−(6−フェニル−2−オキソヘキサ−3−イル)−2−(3,4−ジメトキシベンジル)−プリン−6−オン、IC933又はオキシインドールである。
【0014】
該PDE11阻害剤は好ましくは、BC11−15;BC11−19;BC11−28;BC11−38;BC11−38−1;BC11−38−2;BC11−38−3;又はBC11−38−4である。
【0015】
該GUCY2Cアゴニストは好ましくは、グアニリン、リンホグアニリン若しくはウログアニリン、又はグアニリン、リンホグアニリン若しくはウログアニリンの機能的誘導体である。
【0016】
ドーパミン作動性細胞によるヒトチロシンヒドロキシラーゼの位置40でのセリン残基(S40 Th)のリン酸化を増加させる方法であって、該細胞を、PDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせと接触させることを含む、上記方法がまた提供される。
【0017】
ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生を増加させる方法であって、該細胞を、PDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせと接触させることを含む、上記方法が更に提供される。
【0018】
該方法は、上記細胞を、GUCY2Cアゴニストと接触させることを更に含むことができる。
【0019】
本発明は、パーキンソン病を有する個体又は該疾病を発生する危険性がある個体の処置の方法であって、PDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせを、上記処置を必要とする該個体に投与することを含む、上記方法を更に提供する。好ましい実施態様において、該方法は、GUCY2Cアゴニストを該個体に投与することを更に含む。
【0020】
本発明は、パーキンソン病を有する個体の処置における使用の為のGUCY2Cアゴニストを提供する。
【0021】
本発明は、ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生を増加させる方法であって、該細胞におけるグアニル酸シクラーゼ2C(GUCY2C)によるシグナル伝達を増加させることを含む、上記方法を更に提供する。
【0022】
ドーパミン作動性細胞におけるチロシンヒドロキシラーゼのSer40のリン酸化のレベルを増加させる方法であって、該細胞中のGUCY2Cによるシグナル伝達を増加させることを含む、上記方法がまた提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
グアニル酸シクラーゼ2C(GUCY2C)は、グアニリルシクラーゼファミリーのメンバーである。タンパク質の構造及び機能の様々な観点は、Vaandrager(Mol. Cell. Biochem. 2002; 230:73-83)によって記載されている。該タンパク質の遺伝子の発現及び機能は、高度に調節され、且つ研究された特定の細胞/組織に依存する。
【0024】
GUCY2C遺伝子及び該遺伝子によってコードされるタンパク質は、多くの別名で知られており、その中でも、STA受容体;腸グアニル酸シクラーゼ;グアニリルシクラーゼC;EC 4.6.1.2;GUC2C;HSTAR;STAR;GC−C;グアニル酸シクラーゼ2C;熱安定性エンテロトキシン受容体;EC 4.6.1;DIAR6;MECIL及びMUCILがある。GUCY2C遺伝子/タンパク質の為の外部IDは、HGNC:4688;Entrez遺伝子:2984;Ensembl:ENSG00000070019;OMIM:601330及びUniProtKB:P25092である。
【0025】
チロシンヒドロキシラーゼ又はチロシン3−モノオキシゲナーゼは、アミノ酸であるL−チロシンのL−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−DOPA)への転化を触媒する為の酵素である。L−DOPAは、ドーパミンの為の前駆体であり、それは、次に、重要な神経伝達物質であるノルエピネフリン(ノルアドレナリン)及びエピネフリン(アドレナリン)の為の前駆体である。チロシンヒドロキシラーゼは、カテコールアミンのこの合成における律速段階を触媒する。ヒトにおいて、チロシンヒドロキシラーゼは、TH遺伝子によってコードされ、且つ該酵素は、中枢神経系(CNS:central nervous system)、末梢交感神経ニューロン及び副腎髄質中に存在する。該タンパク質又は遺伝子は、多くの異なる名称、例えば、チロシン3−ヒドロキシラーゼ;EC 1.14.16.2;TYH;ジストニア;EC 1.14.16;DYT14;及びDYT5b;で知られている。該TH遺伝子又はタンパク質の為の外部IDは、HGNC:11782;Entrez遺伝子:7054;Ensembl:ENSG00000180176;OMIM:191290;及びUniProtKB:P07101である。
【0026】
GUCY2Cシグナル伝達は、増加した細胞の環状グアノシン−3’,5’−一リン酸(cGMP)を介して媒介される。多くのcGMPの下流のメディエーターがあり、それは、とりわけ、細胞型、組織及び/又はそれらの代謝状態に依存して、細胞内ホスホジエステラーゼ(PDE)、プロテインキナーゼ(PK)及び膜結合タンパク質並びにイオンチャネルを包含する。本明細書において、言及がドーパミン作動性ニューロンの文脈においてGUCY2Cシグナル伝達に対して行われる場合、言及が、増加したcGMPに対して行われる。
【0027】
ドーパミン作動性細胞は、ドーパミンを産生することができる細胞である。そのような細胞は典型的には、特殊化したニューロン細胞である。そのようなニューロン細胞は典型的には、該細胞中のドーパミンの組織化学的蛍光検出によって特徴付けられる。ドーパミン作動性細胞の様々なグループが識別されることができる。細胞グループA8は、そのようなグループの1つであり、それは、げっ歯類及び霊長類におけるドーパミン作動性細胞の小さなグループである。それは、赤核のレベルで且つ尾側で、黒質に対して背側の中脳網様体に位置している。マウスにおいて、それは、古典的な染色によって定義される赤核後部領域(retrorubral field)で特定される。細胞グループA9は、ドーパミン作動性細胞の密集したグループであり、且つげっ歯類及び霊長類の腹外側中脳に位置している。それは、ニッスル染色に基づいて定義される黒質の緻密部とほとんど同じである。細胞グループA10は、げっ歯類及び霊長類の腹側中脳被蓋におけるドーパミン作動性細胞の大きなグループである。該細胞は、腹側被蓋野の大部分、線状核、並びに霊長類において、左の動眼神経核複合体と右の動眼神経核複合体との間に位置する中脳の中心灰白質の一部に位置している。特許請求の範囲のドーパミン作動性細胞は、GUCY2C受容体を発現するドーパミン作動性細胞、例えば好ましくは、上記に記載されているグループA8、グループA9又はグループA10の細胞、である。様々な他のドーパミン作動性細胞が知られており、そのうちの一部が、本明細書の下記において列挙されている。グループA11は、マカク(macaque)における視床下部の後部周室核及び中間の周室核に位置しているドーパミン作動性細胞の小さなグループである。ラットにおいて、このグループに割り当てられた少数の細胞はまた、視床下部の後核、乳頭体上核領域及び結合核において見出される。グループA12は、霊長類における視床下部の弓状核中の細胞の小さなグループである。ラットにおいて、このグループに属する幾つかの細胞が、視床下部の傍室核の前腹側部分においても見られる。グループA13は、霊長類において、クラスター中に分布しており、該クラスターは、視床下部の乳頭視床路の腹側及び内側にあり、その少数は視床の結合核に延在している。マウスにおいて、A13は、不確帯における視床の乳頭視床路の腹側に位置している。グループA14は、霊長類の視索前周室核中及びその近くで観察される少数の細胞を有する。マウスにおいて、前背側視索前核における細胞は、このグループに割り当てられている。グループA16は、げっ歯類及び霊長類を包含する脊椎動物の嗅球に位置している。グループAaqは、霊長類における中脳の中心灰白質の吻側半分に位置する細胞のまばらなグループである。これは、マカクよりもリスザル(リスザル属(Saimiri))において目立つ。様々な他のグループが、霊長類、マウス及び他の種に存在する(Felten et al (1983). Brain Research Bulletin. 10 (2): 171−284及びDahlstrom A et al 1964 Acta Physiologica Scandinavica. 62: 1−55)。ドーパミン作動性細胞はまた、人工的に発生されることができる。それ故に、人工細胞は、必要な酵素、受容体及び/又はコード領域を与えられることができる。本発明の文脈において、HEK細胞は、Th及び/又はGUCY2Cを与えられている。該ドーパミン作動性細胞は好ましくは、ドーパミン作動性ニューロン細胞である。該ドーパミン作動性細胞は好ましくは、中脳又は線条体の細胞である。該ドーパミン作動性細胞は好ましくは、細胞膜においてGUCY2Cを発現するドーパミン作動性ニューロン細胞である。好ましくは、黒質細胞である。ニューロン細胞は、入ってくる突起及び出て行く突起の両方の非常に大きな突起を有することができる。該細胞は典型的には、該細胞の核の存在に依存して、脳の一セクションに割り当てられる。例えば、中脳のニューロン細胞は、該中脳に位置する核を有する細胞部分を有する。該細胞は、突起、例えば、脳、例えば線条体、の他の部分を通過する及び/又はそこで終わる軸索又は樹状突起、を有することができる。
【0028】
ホスホジエステラーゼ(PDE)は、ホスホジエステル結合を切断する酵素である。該語は通常、環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼを云う。しかしながら、ホスホジエステラーゼの多くの他のファミリー、例えばホスホリパーゼC及びD、オートタキシン、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ、DN分解酵素(DNases)、RN分解酵素(RNases)、及び(DNA又はRNAのホスホジエステル主鎖を全て切断する)制限エンドヌクレアーゼ、並びにあまり特徴付けられていない多数の低分子ホスホジエステラーゼを包含するホスホジエステラーゼの多くの他のファミリーが存在する。
【0029】
該環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼは、セカンドメッセンジャー分子のcAMP、cGMP又はその両方において該ホスホジエステル結合を分解する酵素のグループを含む。PDEは、これらのセカンドメッセンジャー分子によって媒介されるシグナル伝達の調節因子である。
【0030】
PDEの命名法は、アラビア数字でPDEファミリーを意味し、そして大文字はそのファミリー中の遺伝子を示し、そして2番目及び最後のアラビア数字は単一遺伝子に由来するスプライス変異体を示す(例えば、PDE1C3:ファミリー1、遺伝子C、スプライシング変異体3)。哺乳動物におけるPDE酵素のスーパーファミリーは、12のファミリー、すなわちPDE1〜PDE12に分類されている。同じファミリーの異なるPDEは、それらのアミノ酸配列がかなりの相違を示すことができるという事実にもかかわらず、機能的に関連付けられている。PDEは、異なる基質特異性を有する。幾つかは、既知のcAMP選択的加水分解酵素(PDE4、PDE7及びPDE8)であり、他のものは、cGMP選択的(PDE5、PDE6及びPDE9)であることが知られている。他のものは、cAMP及びcGMPの両方を加水分解することが知られている(PDE1、PDE2、PDE3、PDE10及びPDE11)。
【0031】
ホスホジエステラーゼ阻害剤は、酵素であるホスホジエステラーゼ(PDE)のサブタイプの1以上をブロックし、それによってそれぞれの1以上のPDEサブタイプによる細胞内セカンドメッセンジャーの環状アデノシン一リン酸(cAMP)及び環状グアノシン一リン酸(cGMP)の不活性化を防ぐ薬剤である。様々な選択的PDE阻害剤及び非選択的PDE阻害剤が知られている。中でも、該非選択的PDE阻害剤は、カフェイン、アミノフィリン、IBMX(3−イソブチル−1−メチルキサンチン)、パラキサンチン、ペントキシフィリン、及びテオフィリンである。これらの化合物は、非選択的であると言われるが、しかしながら、それらの活性は、依然として変わりうる。これは、好ましさにおける、とりわけ親和性及び/又は薬物動態における、相違の結果であることができる。PDE阻害剤は、非選択的阻害剤、例えばIBMX、であることができる。
【0032】
PDE活性を50%まで阻害する特定のPDE阻害剤のインビトロ(in vitro)の濃度は、IC50値として知られている。選択的PDE阻害剤はしばしば、最も特異的に阻害されるPDEのタイプによって言及される。PDE5阻害剤は、他のPDEのいずれかについてのIC50よりも低い、PDE5についてのIC50を有する。PDEについての化合物のIC50値を決定する為の好適なアッセイは、Ceyhan et al(2012: Chemistry & Biology 19, 155−163: DOI 10.1016/j.chembiol.2011.12.010)において与えられている。特定のPDEタンパク質についての化合物のIC50を決定する為のアッセイはまた、市販されており、例えば、BPS Bioscience(PDE2A=カタログ番号:60321)及びPDE11A=カタログ番号:60411)を参照されたい。
【0033】
PDE阻害剤化合物は、他のPDEアイソフォームがより高い濃度でのみ阻害されるという事実に基づいて、選択的と称されることができる。幾つかの化合物、例えばジピリダモール及びザルダベリン、は、限られた数のアイソフォームについて選択的である。複数のアイソフォームを標的にする幾つかの該阻害剤は、この特性の為に、有用でありうる。例えば、ジピリダモールは、脳卒中処置のAggrenox(アスピリン/徐放性ジピリダモール)の成分である。ジピリダモールは、0.4uMのPDE11についてのIC50を有し、且つ他のPDEaについてのわずかにより高いIC50を有し、例えば、PDE10について1uM、PDE7について0.6uM及びPDE5について0.9uMを有する(Bender and Beavo, 2006 Pharmacol. Rev. 58: 488-520)。ヒトPDEの少なくとも1つについてマイクロ(μ)モル濃度又はナノ(n)モル濃度であるIC50を有する場合、阻害剤は、PDE阻害剤である。該阻害剤が、5超の他のヒトPDE、好ましくは8超の他のヒトPDE、好ましくは全ての他のヒトPDE、についてのIC50よりも少なくとも10倍低いところのそれぞれのPDEについてのIC50を有する場合、該阻害剤は、選択的PDE阻害剤である。PDE2阻害剤は、5超の他のヒトPDE、好ましくは8超の他のヒトPDE、好ましくは全ての他のヒトPDE、についての化合物についてのIC50よりも少なくとも10倍低いところのIC50を有する。PDE11阻害剤は、5超の他のヒトPDE、好ましくは8超の他のヒトPDE、好ましくは全ての他のヒトPDE、についての化合物のIC50よりも少なくとも10倍低いところのIC50を有する。
【0034】
PDE2は、PDE2A遺伝子によってコードされる。3つのスプライス変異体、PDE2A1、PDE2A2及びPDE2A3、が見出されている(PDE2A2は、ラットにおいてのみ見出されている)。PDE2A1は、細胞質性であり、一方、PDE2A2及びPDE2A3は、膜結合性である。PDE2Aスプライス変異体が異なるにもかかわらず、それらの動態学的挙動における既知の相違はない。ヒトにおけるPDE11は、PDE11A遺伝子によってコードされている。該遺伝子は、二重特異性酵素である様々なアイソフォームをコードし、cAMP及びcGMPの両方を加水分解する(Ceyhan et al., 2012: Chemistry & Biology 19, 155-163)。PDEタンパク質及びそれらの特徴の幾つかの概要は、Bender and Beavo(2006 Pharmacol. Rev. 58: 488-520)において与えられている。
【0035】
該PDE2阻害剤は好ましくは、EHNA(エリスロ−9−(2−ヒドロキシ−3−ノニル)アデニン);BAY 60−7550;PDP(9−(6−フェニル−2−オキソヘキサ−3−イル)−2−(3,4−ジメトキシベンジル)−プリン−6−オン;IC933又はオキシインドールである(構造式が
図11に示されており、幾つかの化合物のIC50値が
図12に示されている)。一つの実施態様において、該PDE2阻害剤はEHNAである。一つの実施態様において、該PDE2阻害剤はBAY 60−7550である。別の実施態様において、該PDE2阻害剤はPDPである。
【0036】
該PDE11阻害剤は好ましくは、BC11−15;BC11−19;BC11−28又はBC11−38である。使用されることもできるBC11−38の変異体は;BC11−38−1;BC11−38−2;BC11−38−3;及びBC11−38−4である。BC11−..阻害剤、並びにそれらの活性及び選択の方法は、Ceyhan et al.(2012: Chemistry & Biology 19, 155-163)に記載されている。一つの実施態様において、該PDE11阻害剤は、BC11−38;BC11−38−1;BC11−38−2;BC11−38−3;又はBC11−38−4である。一つの実施態様において、該PDE11阻害剤は、BC11−38である。
【0037】
ペプチドのグアニリンファミリーは、細菌の熱安定性エンテロトキシン(ST)において見出される3つの分子内ジスルフィド結合、又はグアニリン及びウログアニリンにおいて観察される2つのジスルフィド、又はリンホグアニリンによって例示される単一のジスルフィドのいずれかを含むペプチドの3つのサブクラスを有する。これらのペプチドは、固有のグアニル酸シクラーゼ(GC)活性、例えばGUCY2C、を有する細胞表面受容体、に結合し且つ活性化する。
【0038】
グアニリンは、GUCY2Cの天然のアゴニスト性リガンドである。それは15アミノ酸のポリペプチドである。それは、結腸において杯細胞によって分泌される。グアニリンは、グアニリルシクラーゼ受容体GC−Cのアゴニストとして作用し、腸及び腎臓の上皮における電解質及び水の輸送を調節する。受容体が結合することに応じて、グアニリンは、cGMPの細胞内濃度を増加させ、塩化物の分泌を誘発し、そして腸液の吸収を減少させ、最終的に下痢を引き起こす。該ペプチドは、熱安定性エンテロトキシンと同じ受容体結合領域を通じて酵素を刺激する。それは、多くの名称で知られており、そのうちの幾つかは、グアニル酸シクラーゼ活性化因子2A;グアニル酸シクラーゼ活性化タンパク質1;グアニル酸シクラーゼ活性化タンパク質I;プレプロ−グアニリン;GCAP−I;GUCA2;グアニル酸シクラーゼ活性化因子2A及びSTARAである。該グアニリン遺伝子/タンパク質の為の外部IDは;HGNC:4682;Entrez遺伝子:2980;Ensembl:ENSG00000197273;OMIM:139392;及びUniProtKB:Q02747である。
【0039】
ウログアニリンは、GUCY2Cの天然のアゴニスト性リガンドである。それは、十二指腸及び近位小腸において細胞によって分泌される16個のアミノ酸ペプチドである。グアニリンは、該グアニリルシクラーゼ受容体GC−Cのアゴニストとして作用し、且つとりわけ、腸及び腎臓の上皮における電解質及び水の輸送を調節する。ヒトにおいて、ウログアニリンペプチドは、GUCA2B遺伝子によってコードされる。該遺伝子及びタンパク質は、多くの異なる名称、グアニル酸シクラーゼ活性化因子2B;プレプロ−ウログアニリン;GCAP−II;及びUGN、で知られている。該遺伝子及びタンパク質の為の外部IDは、HGNC:4683;Entrez遺伝子:2981;Ensembl:ENSG00000044012;OMIM:601271;及びUniProtKB:Q16661である。
【0040】
リンホグアニリンは、GUCY2Cの天然のアゴニスト性リガンドである。それは、とりわけ、Forte et al. Endocrinology. 1999 Apr;140(4):1800-6において記載されている。
【0041】
グアニリン、リンホグアニリン又はウログアニリンの機能的誘導体は、必ずしも量ではなく、種類において同じ活性を有する。機能的誘導体は好ましくは、グアニリン、ウログアニリン若しくはSThと同じアミノ酸配列を有するか、又はグアニリン、ウログアニリン若しくはSThと非常に類似する変更されたアミノ酸配列を有する。1つのそのような誘導体はリナクロチドである。リナクロチドは、内因性のグアニリン及びウログアニリンのペプチド模倣体である。それは、配列CCEYCCNPACTGCY(H−Cys−Cys−Glu−Tyr−Cys−Cys−Asn−Pro−Ala−Cys−Thr−Gly−Cys−Tyr−OH)を有する合成テトラデカペプチド(14個のアミノ酸のペプチド)である。リナクロチドは、Cys1とCys6との間(左から右へ番号付けする場合)、Cys2とCys10との間、並びにCys5とCys13との間にある3つのジスルフィド結合を有する;[9]。GUCY2Cの3つの類似のペプチドアゴニストは、臨床開発中のリナクロチド(Linzess(商標)、Forest Laboratories and Ironwood Pharmaceuticals,Inc.);SP−304(プレカナチド);及びSP−333(Synergy Pharmaceuticals,Inc.)である。機能的誘導体は、N末端及び/又はC末端に結合した化学基を有することができる。該化学基は、ペプチド結合中に1つ又は2つのアミノ酸を有することができる。該機能的誘導体は、1以上のアミノ酸残基の側鎖の化学修飾によって、グアニリン又はウログアニリンから誘導されうる。1つのそのような修飾基又は化学基は、血液脳関門の通過を更に容易にする為の修飾でありうる。血流に注入されたグアニリンは、迅速に脳に入る(国際公開第2013/016662号パンフレット)。グアニリンは、該血液脳関門(BBB)を通過することができる。脳送達は、薬物開発における挑戦であることができる。該血液脳関門は、多くの薬物がそれらの標的に達するのを防止するが、BBBシャトルとして知られている分子ベクターは、この厄介な障害を安全に克服する為の大きな保証を提供する。近年、ペプチドシャトルは、それらのより低いコスト、低減された免疫原性、並びに伝統的なトロイの木馬抗体(Trojan horse antibodies)及び他のタンパク質よりも高い化学的多用途性の為に、ますます注目を集めている。好適なBBBシャトルは、Oller-Salvia et al(Chem. Soc. Rev., 2016, 45, 4690-4707)において記載されており、それは、この目的の為に、参照により本明細書内に組み込まれる。好ましい実施態様において、機能的グアニリン又はウログアニリン誘導体は、Oller-Salvia et alの表1のペプチドBBBシャトルに融合されたグアニリン又はウログアニリンである。該融合は典型的には、ペプチド結合によって行われる。リンカーは、2つの機能的ユニットの間に導入されることができる。該リンカーは好ましくは、1〜20、好ましくは1〜15、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5、のアミノ酸残基のペプチドリンカーである。
【0042】
本発明は更に、配列H-NDDCELCVNVACTGCLL-OH(ペプチド2);H-NDCCELCCNVACTGCL-OH(ペプチド4);H-NDDCELCVNVVCTGCL-OH(ペプチド5);H-QEECEL[Abu]INMACTGY-OH(ペプチド6);H-QEECELCINMACTGCL-OH(ペプチド8);H-NTFYCCELCCNPACAGCY-OH(ペプチド9);H-NTFYCCELCCAPACTGCY-OH(ペプチド10);又はH-NTFYCCELCCNPaCAGCY-OHを含むGUCY2Cアゴニストを提供する。
【0043】
該GUCY2Cアゴニストは、ペプチドとして、コンジュゲート又は該ペプチドを含むタンパク質として、提供されうる。好ましい実施態様において、該GUCY2Cアゴニストは、Oller-Salvia et alの表1のペプチドBBBシャトルに融合された該ペプチドのコンジュゲートである。該融合は典型的には、ペプチド結合によって行われる。リンカーは、2つの機能的ユニットの間に導入されることができる。該リンカーは好ましくは、1〜20、好ましくは1〜15、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5、のアミノ酸残基のペプチドリンカーである。
【0044】
本発明は、パーキンソン病を有する個体の処置における使用の為の、配列H-NDDCELCVNVACTGCLL-OH(ペプチド2);H-NDCCELCCNVACTGCL-OH(ペプチド4);H-NDDCELCVNVVCTGCL-OH(ペプチド5);H-QEECEL[Abu]INMACTGY-OH(ペプチド6);H-QEECELCINMACTGCL-OH(ペプチド8);H-NTFYCCELCCNPACAGCY-OH(ペプチド9);H-NTFYCCELCCAPACTGCY-OH(ペプチド10);又はH-NTFYCCELCCNPaCAGCY-OHを含むGUCY2Cアゴニストと一緒に、PDE11阻害剤、PDE2阻害剤又はそれらの組み合わせを使用する方法を更に提供する。
【0045】
シグナル伝達は典型的には、受容体の天然リガンドのレベルに増加される。活性化は好ましくは、その他の点では同一の条件下(当然ながら、十分に飽和した条件下)で試験された該受容体の天然リガンドによって達成される活性化のレベルの少なくとも50%である。シグナル伝達の活性のレベルは典型的には、細胞内cGMPの産生を測定することによって測定される。それはまた、該細胞中のcGMPのレベルから生じる活性のレベルを測定することによって測定されることができる。
【0046】
GUCY2Cアゴニストは、GUCY2Cの細胞外部分に結合し且つタンパク質によるシグナル伝達を増加させる分子である。この文脈における増加させることとは、サイレントGUCY2C受容体によるシグナル伝達の誘発、及び該受容体の既存のシグナル伝達活性の上へのシグナル伝達の増加を包含する。既存のシグナル伝達活性の誘発又は増加は典型的には、多くの細胞、典型的には少なくとも10,000個の細胞のプール、の統合された結果を比較することによって測定される。そのような場合において、シグナル伝達の誘発は、検出不能から検出可能へのシグナルである。既存の活性の上への増加は、その他の点では同一の条件下で、アゴニストの非存在と比較してより高い活性である。従って、シグナル伝達の増加は、検出不能から検出可能なシグナル伝達のレベルへの増加を包含する。
【0047】
様々なアゴニストが当技術分野において知られている。最も周知であるものは、ペプチドの該グアニリンファミリーのメンバーである。これらは例えば、上記で挙げられた該ペプチド、及び該ST細菌ペプチド、例えば大腸菌(E.coli)STa、コレラ菌(V.cholera)ST及びエンテロコリチカ菌(Y.enterocolitica)を包含する(Fonteles et al 2011; Can. J. of Phys. And Pharmac. 89: 575-85)。米国特許第8,748,575号明細書(Wolfe等)は、様々な種由来のグアニリン及びウログアニリンタンパク質を記載する。Wolfe等はまた、GUCY2Cアゴニストである様々なグアニリン及びウログアニリン誘導体を記載する。上記で挙げられた該ペプチドの作用を模倣する様々な細菌ペプチドがまた記載されている。これらのペプチド及びそれらの変異体は、GUCY2Cアゴニストである。米国特許出願公開第2012/0108525号明細書(Curie等)は、様々なGUCY2Cアゴニスト、及び胃腸障害の処置におけるこれらのアゴニストの使用を記載する。国際公開第2013/016662号パンフレット(Ganat等)は、脳へのペイロードを標的にする該ペイロードを有するグアニリンコンジュゲートを記載する。それは特に、ペイロードL−ドーパの使用を記載する。
【0048】
ドーパミン生合成は、複雑であり、且つ様々な他の生合成経路と統合される。ドーパミンは、2つの反応でL−チロシンから生成される。酵素であるチロシンヒドロキシラーゼ(Th)は、L−チロシンをレボドパ(L−ドーパ)に転化し、そして芳香族L−アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)は、レボドパを脱炭酸して、ドーパミンを形成する(Clarke CE, 2004)。チロシンヒドロキシラーゼは、多くの別名、チロシン3−モノオキシゲナーゼ;チロシン3−ヒドロキシラーゼ;EC 1.14.16.2;TYH;ジストニア14;EC 1.14.16;DYT14;及びDYT5bで知られている。Thの為の外部IDは、HGNC:11782;Entrez遺伝子:7054;Ensembl:ENSG00000180176;OMIM:191290;及びUniProtKB:P07101である。
【0049】
語「ドーパミン産生をモジュレートすること」は、ドーパミンレベルの上方又は下方の調整を意味する。該産生は、ドーパミン作動性細胞によって行われる。従って、該産生をモジュレートすることは典型的には、該ドーパミン作動性細胞からのドーパミン放出を増加させることを目標で、ドーパミン作動性ニューロンにおけるドーパミンレベルの上方又は下方の調整を意味する。該放出は好ましくは、ドーパミン作動性中脳ニューロンの投射野、好ましくは黒質の投射野、においてである。該投射野は好ましくは、線条体である。GUCY2Cによるシグナル伝達をモジュレートすることによるドーパミン産生のモジュレーションは、該ドーパミン作動性細胞において行われることができる。該モジュレーションは好ましくは、該シグナル伝達の上方調整、すなわち、該ドーパミン作動性細胞におけるcGMPのレベルの上方調整である。該モジュレーションは典型的には、該細胞におけるチロシンヒドロキシラーゼ(Th)活性をモジュレートすることをもたらす。Thは、様々な方法で測定されることができる。自明な方法は、それに与えられる基質の文脈においてTh酵素産生物の産生を測定することである。Th活性は、セリンリン酸化に依存することが見出されている。本発明において、方法は、Th Ser40リン酸化のモジュレーションによりドーパミン産生をモジュレートするように開発された。本明細書において示されている通り、ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生は、該細胞におけるThの総レベルに関して測定された、該細胞におけるSer40リン光体Th(P−S40 Th)のレベルを増加させることによって増加される。典型的には、Ser40リン光体の該レベルは、Ser40におけるリン酸化されないThのレベルと比較される。これは典型的には、
図3〜
図5に関する実施例に記載されているアッセイにおいて行われる。
【0050】
本発明はまた、ドーパミン作動性細胞におけるチロシンヒドロキシラーゼのSer40のリン酸化のレベルをモジュレートする方法を提供する。該方法は、該細胞を、PDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせと接触させることを含む。好ましくは、GUCY2C活性はまた、好ましくはGUCY2Cアゴニストによって、上記細胞においてモジュレートされる。Ser40リン酸化の上方調整は典型的には、その他の点では同一の状況下で未調整の細胞におけるレベルと比較される場合、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、のP−S40 Thのレベルの増加である。上方調整の場合において、該P−S40 Thレベルは好ましくは、該未調整のレベルよりも、少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%、高くに調整される。
【0051】
該ドーパミンレベルの上方調整は典型的には、その他の点では同一の状況下で未調整の細胞におけるレベルと比較される場合、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、のドーパミンレベルのそれぞれの増加である。該ドーパミンレベルは好ましくは、該未調整のレベルよりも、少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%、高くに調整される。
【0052】
cGMPレベルの上方調整は典型的には、その他の点では同一の状況下で未調整の細胞におけるレベルと比較される場合、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、のcGMPレベルのそれぞれの増加である。該cGMPレベルは好ましくは、該未調整のレベルよりも、少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%、高くに調整される。
【0053】
好ましい実施態様において、本発明は、ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生をモジュレートする方法であって、該細胞中のグアニル酸シクラーゼ2C(GUCY2C)によるシグナル伝達をモジュレートすることを含む、上記方法を提供する。好ましい実施態様において、本発明は、ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生を増加させる方法であって、該細胞中のグアニル酸シクラーゼ2C(GUCY2C)によるシグナル伝達を増加させることを含む、上記方法を提供する。
【0054】
本発明はまた、ドーパミン作動性細胞におけるチロシンヒドロキシラーゼのSer40のリン酸化のレベルを増加させる方法であって、該細胞中のGUCY2Cによるシグナル伝達を増加させることを含む、上記方法を提供する。
【0055】
ドーパミンのレベルの増加は典型的には、その他の点では同一の状況下で未調整の細胞におけるレベルと比較される場合、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、のドーパミンレベルの増加である。該ドーパミンレベルは好ましくは、該未調整のレベルよりも、少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%、高くに増加される。
【0056】
ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生を増加させる方法は好ましくは、上記細胞中のグアニル酸シクラーゼ2C(GUCY2C)によるシグナル伝達を増加させることによって達成される。cGMPレベルは典型的には、その他の点では同一の状況下で未調整の細胞におけるレベルと比較される場合、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、まで増加される。好ましくは、該未調整のレベルよりも、少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%、高くに増加される。
【0057】
GUCY2Cのシグナル伝達は、様々な様式でモジュレートされることができる。1つの方法は、GUCY2CをコードするmRNAのレベルをモジュレートすることである。これは、GUCY2Cコード領域を有する発現カセットを上記細胞内に導入することによって行われることができる。該細胞中のGUCY2C mRNAのより高いレベルは、上記膜中により多くのGUCY2Cを、及び上記細胞中にGUCY2Cの増加されたシグナル伝達をもたらす。
【0058】
GUCY2Cシグナル伝達のレベルの上方調整は好ましくは、GUCY2Cを含む細胞にGUCY2Cアゴニストを与えることによって達成される。該アゴニストは好ましくは、該グアニリンファミリーのペプチドのメンバー、好ましくはグアニリン、ウログアニリン又はそれらの機能的誘導体、である。
【0059】
ドーパミン産生をモジュレートする、好ましくは増加させる、方法は好ましくは、該ドーパミン作動性細胞にPDE阻害剤を与えることを更に含む。一部の実施態様において、該PDE阻害剤は、非選択的阻害剤、例えばIBMX、である。
【0060】
ドーパミン作動性細胞におけるS40 Thのリン酸化を増加させることは、該細胞を、PDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせと接触させることによって達成されることができる。好ましくは、該細胞はまた、GUCY2Cアゴニストと接触される。該アゴニストは好ましくは、該グアニリンファミリーのペプチドのメンバー、好ましくはグアニリン、リンホグアニリン、ウログアニリン又はそれらの機能的誘導体、である。GUCY2Cシグナル伝達のレベルの上方調整はまた、細胞膜上のGUCY2C受容体の数を増加させることによって達成されることができる。1つの方法は、GUCY2Cコード領域を含む発現カセットを該ドーパミン作動性細胞に導入することによってである。該発現カセットは好ましくは、ウイルスベクターによって導入される。好適なベクターの非限定的な例は、アデノ随伴ウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである。
【0061】
P−S40 Thのレベルをモジュレートする、好ましくは増加させる、方法は好ましくは、該ドーパミン作動性細胞に、PDE阻害剤、好ましくはPDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせ、を与えることを更に含む。
【0062】
本発明は、パーキンソン病を有する個体の処置における使用の為の、実施態様においてGUCY2Cアゴニストととともに、PDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせを提供する。該個体は好ましくは、段階1、段階2、段階3又は段階4のパーキンソン病を有する。好ましい実施態様において、該個体は、段階1、段階2又は段階3、好ましくは段階1又は段階2、好ましくは段階1、のパーキンソン病を有する。本発明において、任意的にグアニリンアゴニストとともに、PDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせが、生理学的方法において、関連する細胞によるドーパミンの産生を刺激し、且つレボドパでの処置よりもはるかに少ない副作用を有することに留意されたい。該処置は、該疾病の初期段階において特に有効であり、ここで、該個体におけるドーパミン産生の制限は、軽度の症状の発現において当然明らかになる。そのような場合において、該個体は、典型的にはドーパミン作動性細胞の部分的な消失に対する事実に起因して、十分なドーパミン産生を有していない。しかしながら、特に該初期段階において、該個体は典型的には、本発明の該処置の際に、ドーパミンの適切な産生を提供する為に豊富な細胞を有する。処置は、該個体を無症状に戻すのに成功することができる。該アゴニストは好ましくは、グアニリン又はその機能的誘導体である。該処置は好ましくは、PDE阻害剤を該個体に投与することを更に含む。
【0063】
該GUCY2Cアゴニストは、それ自体が活性である。従って、本発明は、GUCY2Cアゴニスト及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物であって、該GUCY2Cアゴニストが、パーキンソン病の処置の為の唯一の薬学的活性成分である、上記医薬組成物を提供する。国際公開第2013/016662号パンフレットは、パーキンソン病の処置の為のペイロードへのGUCY2Cリガンドコンジュゲートを記載する。国際公開第2013/016662号パンフレットの発明者等は、ドーパミンの産生、及びパーキンソン病、特に初期段階の疾病、を有する個体の処置におけるGUCY2Cアゴニストの効果を認識していなかった。国際公開第2013/016662号パンフレットは、それが治療効果を有するペイロードであることを記載する。国際公開第2013/016662号パンフレットに従うと、該ペイロードは、治療部分又は診断部分であることができる。本発明において、該アゴニストは、そのような追加部分なしで提供される。これは、国際公開第2013/016662号パンフレットに記載されている診断部分又は治療部分なしで提供される。GUCY2Cアゴニスト単独の治療効果は、国際公開第2013/016662号パンフレットにおいて隠れたままである。本明細書に記載されているパーキンソン病の処置は好ましくは、上記細胞にPDE阻害剤を与えることを更に含む。一部の実施態様において、該PDE阻害剤は、非選択的阻害剤、例えばIBMX、である。この実施態様において、該GUCY2Cアゴニストは、追加のペイロードなしであり且つ診断目的又は検出目的の為の標識なしである。該GUCY2Cアゴニスト及び該PDE阻害剤は好ましくは、パーキンソン病の処置の為の医薬の唯一の薬学的活性成分である。
【0064】
本発明は、GUCY2Cアゴニスト、及びPDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせを含む医薬組成物を提供する。該GUCY2Cアゴニストは好ましくは、該グアニリンファミリーのペプチドのメンバー、好ましくはグアニリン、リンホグアニリン、ウログアニリン又はそれらの機能的誘導体、である。
【0065】
本発明はまた、ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生を増加させる方法であって、該細胞中のグアニル酸シクラーゼ2C(GUCY2C)によるシグナル伝達を増加させることを含む、上記方法を提供する。ドーパミン作動性細胞におけるチロシンヒドロキシラーゼのSer40のリン酸化のレベルを増加させる方法であって、該細胞中のGUCY2Cによるシグナル伝達を増加させることを含む、上記方法が更に提供される。GUCY2Cによる該シグナル伝達は好ましくは、上記細胞をGUCY2Cアゴニストと接触させることによって増加される。上記アゴニストは好ましくは、グアニリン又はその機能的誘導体である。該方法は好ましくは、上記細胞にPDE阻害剤を与えることを更に含む。上記細胞は好ましくは、ドーパミン作動性ニューロン、好ましくは中脳ドーパミン作動性ニューロン、である。
【0066】
例において、本発明は、化合物、好ましくはGUCY2Cリガンド、好ましくはGUCY2Cアゴニスト、が、GUCY2Cを活性化することができるか、又はチロシンヒドロキシラーゼのSer40リン酸化のレベルを増加させることができるか、又はドーパミン産生を増加させることができるかを決定する為の試験システムを記載する。そのような試験システムは好適には、ヒトGUCY2Cの異所性発現(ectopic expression)及び/又はヒトチロシンヒドロキシラーゼの異所性発現を含む単離されたヒト細胞又は組換えヒト細胞を含むことができる。そのような細胞は理想的には、天然GUCY2Cアゴニストと同様の特性又はそれよりも良好な特性を有するGUCY2Cアゴニストを特定する為の方法を行う為に適している。好ましい実施態様において、該細胞は、ヒトGUCY2Cの異所性発現及びヒトチロシンヒドロキシラーゼの異所性発現を含む。異所性発現は、そのような細胞が、インビトロ(in vitro)のスクリーニング系において良好な性能の為に選択されることができるので好ましい。Thを典型的には発現する神経細胞は、しばしば、最高の実行細胞ではなく、頑強、容易且つ迅速なインビトロ培養に好適である場合、結果の分析を妨げる特性を失っているか又は得ている。異所性発現系はまた、対照として働く化合物が容易に産生される経路の容易な特定/確認を可能にする(1以上のタンパク質の異所性発現がない同じ細胞)。後「異所性発現」は、それが通常は発現しない組織又は細胞における遺伝子の発現又はタンパク質の存在を意味する。様々な細胞がこの文脈において使用されることができる。これは好ましくは、不死化細胞である。好ましくは、インビトロ培養に適合した細胞である。好ましい実施態様において、該細胞は、霊長類細胞、好ましくはヒト細胞、である。特に好ましい実施態様において、該細胞はHEK細胞である。挙げられた細胞は、ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生を改変する為の候補化合物を特定する為に特に適している。従って、本発明はまた、ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生を改変する為の候補化合物を特定する為の方法であって、この段落で挙げられた細胞を培養すること、該細胞を該候補化合物と接触させること、そして該細胞中のチロシンヒドロキシラーゼの活性を決定することを含む、上記方法を提供する。Thの活性は、様々な方法で測定されることができる。好ましい実施態様において、該活性は、Thのリン酸化を測定することによって測定され、好ましくは、チロシンヒドロキシラーゼのser40のリン酸化が決定される。
【0067】
パーキンソン病を有する個体又は該疾病を発生する危険性がある個体の処置の方法であって、GUCY2Cアゴニストを、上記処置を必要とする該個体に投与することを含む、上記方法が更に提供される。好ましい実施態様において、該方法は、PDE阻害剤を該個体に投与することを更に含む。該PDE阻害剤は、PDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせであることができる。
【0068】
パーキンソン病を有する個体又は該疾病を発生する危険性がある個体の処置の方法であって、PDE2阻害剤、PDE11阻害剤又はそれらの組み合わせを、上記処置を必要とする該個体に投与することを含む、方法が更に提供される。該処置は任意的に、GUCY2Cアゴニストを該個体に投与することを更に含みうる。
【0069】
パーキンソン病を有する個体又は該疾病を発生する危険性がある該個体は好ましくは、ヒトである。GUCY2Cタンパク質及び/又は遺伝子は好ましくは、ヒトGUCY2Cタンパク質又は遺伝子である。該グアニリンファミリーのペプチドのメンバーは好ましくは、ヒトのメンバーである。グアニリン又はウログアニリンは好ましくは、ヒトのグアニリン又はウログアニリンである。グアニリン又はウログアニリンの機能的誘導体は好ましくは、ヒトのグアニリン又はウログアニリンの機能的誘導体である。
【0070】
該リガンド、例えばアゴニスト、該PDE阻害剤又はそれらの組み合わせ、は好ましくは、該個体の脳に投与される。
【0071】
パーキンソン病は典型的には、軽度の症状でゆっくりと始まる。該疾病は、ゆっくり又は速く進行することができる。この進行の間、該症状は悪化し、且つ新たな症状が明らかになることができる。黒質からのドーパミン作動性ニューロンの進行性の喪失と多かれ少なかれ相関する疾病の様々な段階が、特定されることができる。多くの場合、5つの段階が特定される。段階1は典型的には、一般に、日常活動を妨げない軽度の症状によって特徴付けられる。振戦及び他の運動症状は典型的には、身体の片側のみに起こる。友人及び家族は、姿勢、歩行及び顔の表情における変化に気が付きうる。段階2において、該症状は悪化し始める。振戦、硬直及び他の運動症状は、身体の両側に影響を及ぼす。歩行の問題及び悪い姿勢が明らかになりうる。この段階において、人は依然として一人で生きることが可能であるが、毎日の作業を完了するのがより困難になり、且つより時間がかかりうる。段階3は、該疾病の進行における中間段階と考えられる。平衡感覚障害及び動作緩慢は、このフェーズの特徴である。転倒がより一般的である。該人は依然として完全に自立しているが、症状は、日常生活動作、例えば着替え及び食事、を有意に損なう。パーキンソン病の症状は、段階4において、重症で且つ非常に制限される。支援なしで立つことは可能であるが、移動は歩行器を必要としうる。該人は、日常生活動作の助けを必要とし、一人で生きることはできない。段階5は、パーキンソン病の最も進行した衰弱した段階である。下肢のこわばりは、立つこと又は歩くことを不可能にしうる。該人は、車椅子を必要とするか又は寝たきりである。24時間の看護が、全ての活動の為に必要とされる。該人は、幻覚及び妄想を経験しうる。段階5は、運動症状に焦点を合わせているが、パーキンソン病のコミュニティは、同様に、多くの重要な非運動症状が存在することを認識している。
【0072】
パーキンソン病の文脈における医学的使用の為に且つパーキンソン病を有する個体の処置の為に、該個体は完全に進行した形態のパーキンソン病を有さないことが好ましい。そのような場合において、該黒質は、(ほぼ)完全に破壊されている。本発明について、該個体は、段階1、段階2、段階3又は段階4のパーキンソン病を有することが好ましい。好ましい実施態様において、該個体は、段階1、段階2又は段階3のパーキンソン病を有する。好ましくは、段階1又は段階2を有する。本発明の利点は、該疾病の初期段階が、現在の標準的治療に関連付けられた多くの副作用を誘発することなしに、適切に処置されることができることである。該黒質のドーパミン作動性ニューロンは、刺激されて、より多くのドーパミンを産生して、該黒質におけるドーパミン作動性細胞の喪失を代償し、一方で、それと同時に、ドーパミンを過剰産生せずに、又は非標的細胞、すなわち該黒質中に存在しないドーパミン作動性ニューロン、において過剰のドーパミン産生を有しない。
【0073】
好ましくは、本発明の該化合物は医薬として使用される。本発明の医薬は、パーキンソン病を有する個体又はパーキンソン病を有する危険性がある個体の処置の為に好適に使用されることができる。本発明の医薬組成物は、本明細書に記載されているドーパミン作動性細胞によるドーパミンの産生を増加させる為に、特に適している。
【0074】
送達方法
一旦製剤化されると、本発明の化合物又は組成物は、対象に直接投与されることができるか又はインビトロで細胞に送達されることができる。
【0075】
該組成物の対象への直接送達は一般に、皮下、腹腔内、静脈内若しくは筋肉内のいずれかの注射によって達成されるか又は組織の間質腔に送達される。投与の他の様式は、局所、経口、カテーテル挿入及び肺投与、坐剤、並びに経皮適用、針、及びパーティクルガン又は皮下噴射器を包含する。投薬処置は、単回投与スケジュール又は複数回投与スケジュールでありうる。送達は好ましくは、該個体の脳に対してである。投与の好ましい経路は、鼻部の上皮を介してである。
【0076】
一般に、エクスビボ(ex vivo)及びインビトロ(in vitro)適用の両方の為の核酸の送達は、例えば、当技術分野において全て周知である、ウイルスを含むベクター、デキストラン媒介トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、polybrene(商標)媒介トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、1以上のポリヌクレオチドのリポソームへのカプセル化、及びDNAの核への直接マイクロインジェクションを使用する遺伝子導入によって、達成されることができる。
【0077】
理論によって拘束されないが、パーキンソン病を有する個体又は該疾病を発生する危険性がある個体のドーパミン作動性細胞におけるGUCY2Cの該シグナル伝達のモジュレーション、好ましくはそれを増加させること、は、該細胞におけるTh活性をモジュレートする、好ましくは増加させる、と考えられる。該処置は、PDを有する個体又はその危険性がある個体における運動異常を軽減する。この酵素は、ドーパミン産生における律速段階を触媒することによって、生合成経路全体の全体的な速度を設定する。Thは、N末端の調節ドメイン、中央の触媒ドメイン及びC末端の四量体化ドメインを有する(Tekin I et al., 2014)。Th活性を増加させる為の最も魅力的なドメインは、N末端領域に位置し、それは、リン酸化の影響を受けやすい3つのセリン(すなわちSer19、Ser31及びSer40)を含む。これらの残基の調節の重要さは、それらの幅広い進化的保存に反映されている(
図1)。Ser31及びSer40の独立したリン酸化は、インビトロ及びインシチュ(in situ)でTh活性を増加させることが知られている。Ser31リン酸化は、その補助因子(すなわちBH4)の1つについてThの親和性を上昇させることによって独占的に作動する一方、Ser40は、ドーパミンとThの該触媒ドメインとの相互作用を遮断することによってネガティブフィードバックループも妨げる(Dunkley PR et al., 2004)。従って、Ser40は有望な標的であり、及び本発明者等は、そのリン酸化の強化が、レボドパ処置の重要な制限を解決すると考えている。
【0078】
本発明の目的は、中脳において特異的にSer40リン酸化を誘発することによって、Th活性を増加させることである。この残基をリン酸化することが知られている主なキナーゼは、cAMP依存性プロテインキナーゼ及びcGMP依存性プロテインキナーゼ(それぞれ、PKA及びPKG)である(Campbell DG et al., 1986; Roskoski R Jr et al., 1987)。両方の酵素は、調節領域と触媒中心との相互作用に起因して、基本的に不活性である。PKAの調節対応物及び触媒対応物は、個々のポリペプチドに対応するが、PKGは、両方のドメインを含む単一のアミノ酸鎖である。活性化される為に、両方のキナーゼは、対応する環状ヌクレオチドと該酵素の該調節領域との相互作用に依存し、従って、該触媒中心が異なる基質をリン酸化する為に放出される(Scholten A et al., 2008)。それらの様々な標的の中でも、ThにおけるSer40が、本発明における好ましい標的である。
【0079】
脳における粒子状のグアニリルシクラーゼ2C(GUCY2C)がGong R et al., 2011によって報告された。同一の観察が、Allen Brain Atlasに登録されている。GUCY2Cの発現は、A8〜A10ニューロンに制限される。10年未満前まで、この受容体は、消化管において独占的に発現され、これは、内因性リガンド、例えばグアニリン、ウログアニリン、又は大腸菌によって分泌される熱安定性毒素(ST毒素)、と相互作用すると考えられていた。活性化に応じて、この受容体はcGMPを産生し、そして最終的に、外向きの塩素チャネル(outward-chlorine channel)(CFTR)を刺激すること、及び内向きのナトリウムチャネル(inward-sodium channel)(NHE3)を阻害することによって、水分吸収を減少させる(Fiskerstrand T et al., 2012)。
【0080】
本発明は、GUCY2Cの活性化が、Ser40リン酸化、従って中脳において特異的にTh活性を増加させることを示す。理論によって拘束されないが、これは2つの機構によって達成されると考えられている。cGMPの産生は、PKGを活性化し、且つcAMPのその非環状形態への破壊に関与する酵素であるホスホジエステラーゼ3の阻害によってPKAを間接的に活性化する(
図2)(Fiskerstrand T et al., 2012)。
【0081】
本アプローチは、それが、黒質線条体路に影響を及ぼし、ドーパミン合成及びその最終的な放出を誘発する能力を維持するので、脳における特異性の問題に対処する。Thは、中脳においてGUCY2Cと共発現され、及びGUCY2Cノックアウトマウスは、それらの野生型(wt)同腹仔と比較して、線条体におけるより少ないドーパミン放出を示す(Gong R et al., 2011)。
【0082】
明確性且つ簡潔な記載の目的の為に、特徴が、同じ又は個々の実施態様の一部として本明細書に記載され、しかしながら、本発明の範囲は、記載されている該特徴の全て又は幾つかの組み合わせを有する実施態様を包含しうることが理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】異なる種にわたるTh調節ドメインの多重配列アライメント(Multiple sequence alignment)。3つの強調されたセリン残基(Ser19、Ser31及びSer40)は、リン酸化の影響を受けやすく、進化を通じて、十分に保存されている。Ser31及びSer40のリン酸化は、酵素の増加された活性と直接的に相関する。両方の残基の周囲のアミノ酸が事実上変化せず、それによってコンセンサス配列が保存され、なぜそれらのセリンが異なる生物体においてリン酸化されるかを説明することに留意されたい。「
*」は、最大の保存を表し、それに「:」及び「.」が続く。[Xenopus.laevis] アフリカツメガエル[Columba.livia カワラバト[Gallus.gallus] セキショクヤケイ[Pseudopodoces.humilis] ヒメサバクガラス[Zonotrichia.albicollis] ノドジロシトド[Orcinus.orca] シャチ[Ovis.aries] ヒツジ[Bos.taurus] ウシ[Mus.musculus] ハツカネズミ[Rattus.norvegicus] ドブネズミ[Pan.troglodytes] チンパンジー[Homo.sapiens] ヒト[Felis.catus] ネコ[Odobenus.rosmarus] セイウチ[Canis.lupus] オオカミ
【
図2】GUCY2Cの活性化が増加されたTh活性をもたらす可能性がある仮説上の経路。1つの代替は、cGMPによるPKGの直接的な活性化であり、一方、他の代替は、cAMPをその非環状形態への分解に関与する酵素であるPDE3のcGMPが媒介する阻害を介したPKAの間接的な活性化からなる。
【
図3A】HEK細胞は、GUCY2Cが誘発するSer40リン酸化を研究する為の好適なモデルである。(
図3A)インタクトHEK抽出物からのRT−qPCRデータ。インプット材料(Input material)は、10ngの総RNAであった。Cpは、発現が陽性とみなされ始めるサイクル数に相当する。(−)は、全ての場合において陰性である水対照を表す。
【
図3B】HEK細胞は、GUCY2Cが誘発するSer40リン酸化を研究する為の好適なモデルである。(
図3B)HEK培養物は、Thでトランスフェクションされ、プレーティングの48時間後にcGMP類似体で処置された。Ser40リン酸化における変化が研究された。グラフは統計分析を表す(n=6;平均±SEM)。対応のないスチューデントのt検定(Unpaired Student’s t-test)(p値:
****<0.0001)。ここで、「倍数変化」は比P−Ser40/総Thに対応する。
【
図4A】GUCY2Cの活性化は、Ser40リン酸化を増加させる。Th又はTh+GUCY2CでトランスフェクションされたHEK培養物の免疫細胞化学画像(
図4A)。
【
図4B】GUCY2Cの活性化は、Ser40リン酸化を増加させる。Th又はTh+GUCY2CでトランスフェクションされたHEK培養物のウェスタンブロッティング分析(
図4B)。
【
図4C】GUCY2Cの活性化は、Ser40リン酸化を増加させる。(
図4C)共トランスフェクションされたHEK細胞は、グアニリン(G)又はウログアニリン(UroG)で処置され、そしてSer40リン酸化における変化が研究された。グラフは統計分析を表す(対照についてn=3;グアニリンについてn=6;ウログアニリンについてn=9;平均±SEM)。対応のないスチューデントのt検定(p値:
**<0.01)。
【
図5A】Ser40リン酸化における増加は、GUCY2C刺激に応じてcGMPの産生された量に比例する。(
図5A)HEK培養物は、IBMXの存在下又は非存在下でグアニリンで処置された。グラフは統計分析を示す(対照±グアニリンについてn=3;IBMX±グアニリンについてn=6;平均±SEM)。対応のないスチューデントのt検定(p値:
****<0.0001、
**<0.01、
*<0.05)。
【
図5B】Ser40リン酸化における増加は、GUCY2C刺激に応じてcGMPの産生された量に比例する。(
図5B)HEK細胞は、Th、及びwtGUCY2C又は機能獲得変異体(gain-of-function mutant)(R792S)のいずれかで共トランスフェクションされた。Ser40リン酸化は、グアニリン処置(G)の後に研究された。グラフは統計分析を示す(wtについてn=4;wt+グアニリンについてn=4;R792S±グアニリンについてn=4;平均±SEM)。対応のないスチューデントのt検定(p値:
***<0.001、
**<0.01)。
【
図6】PDE2aは、MN9D細胞においてSer40リン酸化を調節する重要なエフェクターである。MN9D培養物は、PDE2A選択的阻害剤である、IBMX又はBAY−60−7550(50μM)で処置された。細胞は、Ser40のリン酸化、総Th及びアクチンについて、ウェスタンブロッティングで分析された。グラフは分析を示す(n=2、平均±SEM)。
【
図7】PDE2aは、MN9D細胞においてSer40リン酸化を調節する重要なエフェクターである。MN9D細胞(n=9、赤色)及びHEK細胞(n=4、青色)におけるBAY−60−7550の用量曲線及び代表例(平均±SEM)。細胞は、様々な濃度のBAY 60−7750で処置され、そしてSer40におけるThリン酸化、総Th及びアクチンについて分析された。ドーパミン作動性モデルにおけるIC50が、HEK細胞が何らかの効果をほとんど示さない濃度である1μMであることに留意されたい。
【
図8】ヒト前頭前野ニューロンとヒト中脳ドーパミンニューロンとの間でのRNA発現の相対的富化。負の値(Log2)は、中脳ドーパミンニューロンにおける転写物の過剰出現を表す。死後のRNAseq分析に由来する。
【
図9】PDE11aは、中脳ドーパミンニューロンを含む領域において富化される。全脳と比較した、ドーパミン作動性ニューロンを含む領域におけるPDE11Aの相対富化を示すグラフ。データは、公開的に利用可能なウェブサイトAllen Brain Atlas及びヒト対象のマイクロアレイデータのデータベースから収集された。3つのバーは、3つの異なるマイクロアレイプローブを示す。
【
図10】PDE11は、MN9D細胞においてSer40リン酸化を調節する重要なエフェクターである。MN9D(n=2)におけるBC 11−38の用量曲線及び代表例(平均±SEM)。IBMXは、対照としての役割を果たし、且つ100μMで用いられた。細胞は、Ser40におけるThのリン酸化について分析され、及び総Thは、リン酸化特異的効果を決定する為に、ローディング対照として用いられた。
【
図13A】BAY 60−7550及びグアニリンは相乗作用を与えて、Ser40リン酸化を誘発する。示された化合物で処置された線条体の切片の分析。セリン40におけるThのリン酸化を示すWESデータは、総Thレベル(a)と同様に示されている。左から右に、吻側(rostral)から尾側(caudal)への連続的な線条体の切片である。全ての切片は、左半球及び右半球に分けられ、化合物又はビヒクルのいずれかで処置される。左側に陽性対照(positive control:Ctrl+)及び陰性対照(negative control:Ctrl−)が示されている(Th又は空のベクターでトランスフェクションされたNeuro2a細胞)。
【
図13B】BAY 60−7550及びグアニリンは相乗作用を与えて、Ser40リン酸化を誘発する。示された化合物で処置された線条体の切片の分析。Th Ser40の量は、総Thの量に対して補正され、且つ棒グラフ(b)に示されている。それぞれの個々の切片は、異なる記号によって示されている。有意性が、両側の対応のあるt検定(2-tailed paired t-test)を用いて決定される。両側の対応のあるt検定:p=0.006。
【
図14A】BAY 60−7550及びグアニリンは相乗作用を与えて、Ser40リン酸化を誘発する。示された化合物で処置された線条体の切片の分析。セリン40におけるThのリン酸化を示すWESデータは、総Thレベル(a)と同様に示されている。左から右に、吻側から尾側への連続的な線条体の切片である。全ての切片は、左半球及び右半球に分けられ、化合物又はビヒクルのいずれかで処置される。左側に陽性対照及び陰性対照が示されている(Th又は空のベクターでトランスフェクションされたNeuro2a細胞)。
【
図14B】BAY 60−7550及びグアニリンは相乗作用を与えて、Ser40リン酸化を誘発する。示された化合物で処置された線条体の切片の分析。Th Ser40の量は、総Thの量に対して補正され、棒グラフ(b)に示されている。それぞれの個々の切片は、異なる記号によって示されている。有意性が、両側の対応のあるt検定を用いて決定される。両側の対応のあるt検定:p=0.403。
【
図15A】BAY 60−7550及びグアニリンは相乗作用を与えて、Ser40リン酸化を誘発する。示された化合物で処置された線条体の切片の分析。セリン40におけるThのリン酸化を示すWESデータは、総Thレベル(a)と同様に示されている。左から右に、吻側から尾側への連続的な線条体の切片である。全ての切片は、左半球及び右半球に分けられ、化合物又はビヒクルのいずれかで処置される。左側に陽性対照及び陰性対照が示されている(Th又は空のベクターでトランスフェクションされたNeuro2a細胞)。
【
図15B】BAY 60−7550及びグアニリンは相乗作用を与えて、Ser40リン酸化を誘発する。示された化合物で処置された線条体の切片の分析。Th Ser40の量は、総Thの量に対して補正され、棒グラフ(b)に示されている。それぞれの個々の切片は、異なる記号によって示されている。有意性が、両側の対応のあるt検定を用いて決定される。両側の対応のあるt検定:p=0.018。
【
図16A】BAY 60−7550及びグアニリンは相乗作用を与えて、Ser40リン酸化を誘発する。示された化合物で処置された線条体の切片の分析。セリン40におけるThのリン酸化を示すWESデータは、総Thレベル(a)と同様に示されている。左から右に、吻側から尾側への連続的な線条体の切片である。全ての切片は、左半球及び右半球に分けられ、化合物又はビヒクルのいずれかで処置される。左側に陽性対照及び陰性対照が示されている(Th又は空のベクターでトランスフェクションされたNeuro2a細胞)。
【
図16B】BAY 60−7550及びグアニリンは相乗作用を与えて、Ser40リン酸化を誘発する。示された化合物で処置された線条体の切片の分析。Th Ser40の量は、総Thの量に対して補正され、棒グラフ(b)に示されている。それぞれの個々の切片は、異なる記号によって示されている。有意性が、両側の対応のあるt検定を用いて決定される。両側の対応のあるt検定:p=0.073。
【
図17A】BAY 60−7550及びグアニリンは相乗作用を与えて、Ser40リン酸化を誘発する。示された化合物で処置された線条体の切片の分析。セリン40におけるThのリン酸化を示すWESデータは、総Thレベル(a)と同様に示されている。左から右に、吻側から尾側への連続的な線条体の切片である。全ての切片は、左半球及び右半球に分けられ、化合物又はビヒクルのいずれかで処置される。左側に陽性対照及び陰性対照が示されている(Th又は空のベクターでトランスフェクションされたNeuro2a細胞)。
【
図17B】BAY 60−7550及びグアニリンは相乗作用を与えて、Ser40リン酸化を誘発する。示された化合物で処置された線条体の切片の分析。Th Ser40の量は、総Thの量に対して補正され、棒グラフ(b)に示されている。それぞれの個々の切片は、異なる記号によって示されている。有意性が、両側の対応のあるt検定を用いて決定される。両側の対応のあるt検定:p=0.024。
【
図18A】GUCY2Cリガンド分析。潜在的なGUCY2Cリガンドは、GUCY2C及びThでトランスフェクションされたHEK−293細胞において試験され、そして引き続き、処置され、そして自動ウエスタン(WES)によって分析された。Th Ser40は、総Thに対して補正された。対照が、1に設定された。有意性は、n=3で、両側t検定によって決定される。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.005、
****p<0.001。A)グアニリン対照10μM。
【
図18B】GUCY2Cリガンド分析。潜在的なGUCY2Cリガンドは、GUCY2C及びThでトランスフェクションされたHEK−293細胞において試験され、その後処置され、自動ウエスタン(WES)によって分析された。Th Ser40は、総Thに対して補正された。対照が、1に設定された。有意性は、n=3で、両側t検定によって決定される。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.005、
****p<0.001。B)10μMの量におけるペプチド1〜ペプチド5。
【
図18C】GUCY2Cリガンド分析。潜在的なGUCY2Cリガンドは、GUCY2C及びThでトランスフェクションされたHEK−293細胞において試験され、その後処置され、自動ウエスタン(WES)によって分析された。Th Ser40は、総Thに対して補正された。対照が、1に設定された。有意性は、n=3で、両側t検定によって決定される。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.005、
****p<0.001。C)10μMの量におけるペプチド6〜ペプチド11。
【0084】
実施例
実施例1
材料及び方法
IBMX又はBAY−60−7550は、chemcruz biochemicalsから入手された。HEK細胞は、ATCCから入手された。
【0085】
細胞培養
HEK細胞は、100mmのペトリ皿において維持され、そしてL−グルタミン、ペニシリン−ストレプトマイシン(Pen&Strep)及び10%の熱失活されたウシ胎仔血清(HIFBS:heat-inactivated fetal bovine serum)で補充されたDMEM培地中で成長された。成長条件は、37℃及び5%のCO
2であった。1日おきの継代の為に、HEK培養物は、1:3希釈で分割された。金曜日から月曜日まで、分割割合は、全ての細胞株について2倍にされた。継代の為に、培養物は、PBSですすがれ、そして1mLのトリプシンと共に5分間インキュベートされた。細胞は、成長培地に再懸濁され、そして最後に、適した希釈に分割された。実験は、12ウェルプレートにおいて行われた。免疫細胞化学分析の為に、無菌の18mmカバースリップが、プレーティングの前に加えられた。500μLの細胞再懸濁物は、それぞれのウェルに播種された。実験がプレート調製の48時間後に行われるならば、1:5が、HEK細胞についての播種比であった。実験が、プレーティングの96時間後に行われる場合、1:7が、HEK細胞についての作業希釈であった。特に明記されない限り、HEK培養物は、プレーティングの96時間後に処理された。
【0086】
細胞トランスフェクション
マウスTh及びヒトGUCY2Cをコードするプラスミドは、pcDNA3.1バックボーン(backbone)を有していた。HEK細胞は、リン酸カルシウム法を用いて、トランスフェクションされた。12ウェルプレートは、トランスフェクションの前に、500μLの成長培地でリフレッシュされた。ウェルのそれぞれのペアについて、目的のプラスミドは、2.5μgを超えず、空のコンストラクトpBlueScriptで5μgまで満たされた。プラスミド混合物は、110μLの総体積中、250mMのCaCl
2の最終濃度に入れられた。補充チューブは、110μLのHEPES緩衝食塩水2X(HEBS 2X:1.5mMのNa
2HPO
4、50mMのHEPES pH7.05、280mMのNaCl)で満たされた。CaCl
2を有する該チューブは、該HEBSにピペットで滴下され、そして穏やかに混合された。60秒のインキュベーション後、55μLの最終混合物は、それぞれのウェルに添加された。該培地は、次の24時間以内に取り替えられた。
【0087】
化学処置
異なる化合物の投与の24時間前に、細胞は、L−グルタミン及びPen&Strepで補充されたDMEM培地で血清不足にされた。特に明記されない限り、異なる試薬の濃度は、表1において報告されており、及び該処置の時間は1時間であった。
【0088】
ウェスタンブロッティング
細胞は、150μLのLaemmli試料緩衝液(2%のSDS、10%のグリセロール、60mMのTris−Cl pH6.8、0.01%のブロモフェノールブルー、50mMの新たに添加されたDTT)中に採取された。ウェルは、2つ1組で重複され、そして変動を最小化する為に同じチューブにプールされた。試料は、3分間、最大効力で超音波処理され、95℃で5分間加熱され、そしてローディングの前に簡単に遠沈された。ランニングゲルは、GUCY2C検出を除いて10%のポリアクリルアミドであり、それは7%ゲル(375mMのTris−Cl pH8.8、0.1%のAPS、0.1%のSDS、0.04%のTEMED)において最適であった。スタッキングゲルは、5%ポリアクリルアミド(125mMのTris−Cl pH6.8、0.1%のAPS、0.1%のSDS、0.04%のTEMED)であった。
【0089】
最大で35μLの試料が、それぞれのスロットにロードされ、そしてtris−グリシン緩衝液及び0.1%のSDSの存在下で実行された。ランニング条件は、最初の20分間は100V、続いて泳動の先頭が該ゲルの下部に達するまで、160Vであった。移動は、tris−グリシン緩衝液及び20%のメタノールの存在下で、0.2μmのニトロセルロース膜において100Vで行われた。ブロッティングの時間は、0.1%のSDSの存在下で240分間移動されたGUCY2Cの検出を除いて、140分であった。次に、膜は、ブロッティング効率をチェックする為に、Ponceau S溶液(0.1%のPonceau S、5%の酢酸)に浸された。DEMI水による数回の洗浄後、ブロットは、5%の粉乳及びTBS−T(154mMのNaCl、49.5mMのTris−Cl pH7.4、0.1%のTween−20)の存在下で、1時間インキュベートされた。一次抗体とのインキュベーションは、TBS−T中、一晩、4℃で行われた(希釈及び種について表2を参考にされたい)。膜は、1時間TBS−T中ですすがれて、過剰の抗体が除去された。二次抗体とのインキュベーションは、室温で60分間行った(TBS−T中1:10,000希釈、1:20,000で希釈されたヤギ二次抗体を除く)。二次抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼと融合され、そして該一次抗体の宿主種に対して産生された。1時間の追加の洗浄後、ブロットは、強化された化学発光溶液に曝露され、シグナルは、Odysseyイメージャー(LI−COR)を用いて検出された。バンド濃度測定は、LI−COR Image Studio Liteで行われた。グラフの定量化の為に、「倍数変化」は、P−Ser40/総Thの比を表す。群のペアの間の統計比較は、GraphPad Prismで計算される対応のないスチューデントのt検定に相当する。アスタリスクは、以下のp値を表す:
*<0.05、
**<0.01、
***<0.001、
****<0.0001。
【0090】
免疫細胞化学
成長培地が、18mmのカバースリップを含む該12ウェルプレートから除去された。氷冷PBSでの洗浄工程の後、細胞は、4%のパラホルムアルデヒド中、20分間固定され、そして引き続き、PBS(137mMのNaCl、2mMのKH
2PO
4、100mMのNa
2HPO
4、2.7mMのKCl)で3回洗浄された。ブロッキングは、4%の胎仔ロバ血清及び0.2%のTriton X−100の存在下で、1時間行われた。次に、カバースリップは、PBS及び0.2%のTriton X−100に希釈された該一次抗体と共に、一晩、4℃でインキュベートされた(抗体の情報については表2を参照されたい)。該細胞をPBSで3回すすいだ後、該二次抗体とのインキュベーションを、室温で2時間行った(PBS中1:1,000希釈)。PBSによる追加の洗浄工程は、PBS中1:3,000で希釈されたDAPIとの5分間のインキュベーションに先行した。PBSによる最後のすすぎの後、カバースリップは、60×20mmのスライドにFluorosaveを用いて埋め込まれた。最終調製物は、蛍光顕微鏡(Leica)下で分析を行う前に、一晩、4℃で硬化された。
【0091】
RNA単離及びRT−qPCR
該成長培地は培養皿から廃棄され、そして1mLのトリゾールがそれぞれのウェルに添加された。細胞は、該プレート中で直接的に溶解され、エッペンドルフチューブ中に採取された。200μLのクロロホルムが添加され、そして混合物が、激しい振とう後に3分間インキュベートされた。試料は、12,000rcfで、4℃で15分間、遠心分離された。次に、上部水性相が、新しいチューブに集められ、下部相は廃棄された。10μgのグリコーゲン及び500μLのイソプロパノールが該調製物に添加された。10分のインキュベーション後、試料は、12,000rcfで、4℃で10分間、遠心分離された。上清は、該チューブから注意深く除去され、ペレットはその後、1mLの75%のエタノールですすがれた。簡易のボルテックス工程に続いて、12,000rcfで、4℃で5分間、遠心分離された。上清は廃棄され、そして該ペレットが適度に乾燥されると、再懸濁を30μLのRNAseを含まない水中で行った。RT−qPCR分析に関して、精製されたRNA試料は、2.6ng/μLの最終濃度に希釈された。それぞれの反応ウェルについて、該異なる試薬の体積は以下であった:5μLのSYBR Green緩衝液2X、0.1μLの逆転写酵素、0.1μLのRNAse阻害剤、0.5μLのフォワードプライマー10μM、0.5μLのリバースプライマー10μM、3.8μLの精製RNA 2.6ng/μL。反応は、QuantiTect SYBR Green RT-PCR handbook(Quiagen)に従い、LightCycler480(Roche)において行われた。リボソームRNA 18Sは、ローディング対照として用いられた。プライマーは、プライマー−BLASTを用いて設計され、及びそれらの特異性は、RT−qPCRが完了すると、1.5%のアガロースゲルにおいて試験された。
【0092】
結果
HEK細胞は、GUCY2C活性化に応じてSer40リン酸化の誘発を研究する為に用いられることができる。
【0093】
本発明者等は、インビトロでのGUCY2C活性化を介したThの調節を研究した。入手可能である様々な細胞株の中で、HEK細胞が、容易にトランスフェクション可能であり、cGMP産生におけるGUCY2Cの役割を研究する為に以前に使用されていたので、本発明者等は最初に、HEK細胞を利用した(Fiskerstrand T et al., 2012;Muller T et al., 2015)。本発明者等は、キナーゼをコードするmRNAの存在をチェックした。RT−qPCTデータは、PKGの異なるアイソフォーム(PRKG1及びPRKG2)の陽性の発現、及びPKA(PRKACA及びPRKACB)の触媒中心を示し、及びHEK細胞が本発明者等の目的の為に好適なモデルであることを示唆した(
図3A)。しかしながら、THもGUCY2Cも、この細胞株において内因性発現されない。cGMP誘発シグナル伝達がSer40リン酸化を促進することができるかをチェックする目的で、本発明者等は、ThをコードするプラスミドでHEK細胞をトランスフェクションし、そしてそれらを人工cGMP類似体(すなわち、8−ブロモ−cGMP)で処置した。予想通り、本発明者等は、化合物の投与に応じて、P−Ser40レベルの少ないが有意な増加を検出した(
図3B)。
【0094】
次に、Thリン酸化におけるGUCY2C活性化の潜在的な効果を研究する為に、本発明者等は、両方のタンパク質をコードする該プラスミドでの共トランスフェクションを行った。ウェスタンブロッティング分析は、Th及びGUCY2Cを発現するHEK培養物を明らかにした。Thでの単独トランスフェクションは、GUCY2C発現及び認識についての対照としての役割を果たした(
図4B)。免疫細胞化学分析は、本発明者等が、受容体及びSer40リン酸化の間の潜在的な関連を研究する為の必須の要件である、両方のタンパク質を共発現する個々の細胞を特定することを可能にした(
図4A)。最も重要なことには、Th及びGUCY2Cが共トランスフェクションされながら該キナーゼが内因性発現されるこの実験的パラダイム内で、本発明者等は、異なる受容体のリガンド(すなわち、グアニリン及びウログアニリン)のそれぞれの投与の際に、P−Ser40レベルを増加させることが可能であった(
図4C)。
【0095】
GUCY2C活性化に応じてのP−Ser40の誘発は、cGMPのレベルに比例する
該受容体の活性化がSer40リン酸化を誘発する可能性がある2つの方法に関して、両方ともcGMPの初期産生に依存する(Fiskerstrand T et al., 2012)。この仮定を試験する為に、本発明者等は、グアニリンをホスホジエステラーゼ(PDE)の一般的な阻害剤であるIBMXの投与と組み合わせた。この酵素のファミリーは、環状ヌクレオチドをそれらの非環状形態に破壊する(Bender AT and Beavo JA, 2006)。それ故に、環状変異体はPKA及びPKGを活性化することができるので、本発明者等は、PDEを阻害することで、GUCY2C刺激の際にP−Ser40の誘発を高めるであろうと仮説を立てた。驚くべきことに、IBMXによる処置は、グアニリン投与と比較して、Ser40リン酸化における増加を高めた(
図5A)。これらのデータは、HEK細胞における環状ヌクレオチドの基底プールが、大きく、且つネガティブフィードバック機構としてPDEによる分解に連続して付されることを示す。グアニリンのIBMXとの組み合わせ処置は、IBMX単独に関連するSer40リン酸化を更に増加させ、環状ヌクレオチドの該基底プール及びGUCY2C由来プールが相加効果を示すことを示唆した(
図5A)。
【0096】
しかしながら、IBMXは一般的なPDE阻害剤である故に、Ser40リン酸化に対するその効果は、cAMP及びcGMPの両方のレベルの増加から生じる。Ser40リン酸化の程度を該受容体によって産生されたcGMPの量だけと相関させる為に、本発明者等は、代替アプローチを考案した。以前の論文は、一連の機能獲得受容体を与えるGUCY2Cをコードする遺伝子において、ヒトの天然に存在する変異の存在を記載していた(Muller T et al., 2015)。これらの変異体は、グアニリンの存在下でwt形態よりも多くのcGMPを産生する。最も高い活性を有する変異体は、触媒ドメインの開始ポイントに位置する、792位におけるアルギニンのセリンへの置換(R792S)を含む。
【0097】
HEK培養物は、Thと、GUCY2Cの該wt又はR792S変異体のいずれかとをコードするプラスミドで共トランスフェクションされた。wt受容体と比較された場合、グアニリン処置の際のSer40リン酸化の上昇は、R792S変異体が共トランスフェクションされた場合よりも1.5倍高かった(
図5B)。
【0098】
IBMXは非選択的PDE阻害剤であり、それ故に、本発明者等は、Ser40リン酸化における特異的PDEを選択的に阻害する効果を調査した。Ser40リン酸化におけるPDE2A阻害の効果を研究する為に、本発明者等は、ドーパミン作動性細胞株のMN9DをBAY−60−7550で処置し、効果を分析した。BAY−60−7750は、Ser40のリン酸化の4倍を超える増加をもたらし、半分の濃度ではあるがIBMXよりも良好に機能した(
図6)。BAY 60−7750は、該ドーパミン作動性細胞株MN9Dにおいて非常に良好に機能した故に、本発明者等は、MN9D細胞におけるBAY 60−7750の効果を、Thでトランスフェクションされた非ドーパミン作動性HEK293細胞と比較した。BAY 60−7550で処置された細胞の用量反応曲線は、PDE2A阻害がMN9D細胞においてより完全な効果を有することを明確に示す。低濃度のBAY 60−7750は、Ser40リン酸化の増加の明確な倍数変化をもたらすが、HEK−293細胞においてほとんど効果は観察されず(
図7)、ドーパミン作動性細胞に対する特異性を示唆する。
【0099】
次に、本発明者等は、追加の選択的PDE阻害剤として、Ser40におけるThリン酸化に対するPDE11阻害剤の効果を調査した。allen brain atlas(https://www.brain-map.org/)から収集された発現データ、及びレーザーで捕捉されたドーパミンニューロンは、PDE11aがヒトドーパミン作動性中脳区域において発現されること、及びドーパミンニューロンにおいてまた富化されることを示す(
図8、
図9)。
【0100】
特異的PDE11阻害剤のBC 11−38でのMN9D細胞の処置は、総Thと比較して、Ser40におけるThのリン酸化の増加をもたらした(
図10)。用いられた最高濃度でのBC 11−38は、同様に同じ濃度で用いられた陽性対照のIBMXほどよく機能せず、それは、PDE2Aと比較してPDE11Aのより低いレベルに起因しうる。
【0101】
本発明は、黒質線条体路においてTh活性を特異的に増加させる方法を示す。本発明者等は、その調節ドメインのリン酸化に注目した。Ser40リン酸化は、そのような効果を促進することが報告されている(Dunkley PR et al., 2004)。
【0102】
本発明は、GUCY2Cリガンド、PDE阻害剤及び/又はそれらの組み合わせが、ドーパミン作動性細胞によるドーパミン産生を増加させる働きをすることを示す。この知見は、PDの為の治療として使用される。
【0103】
現在のレボドパ処置は、しばしば、脳に達することができないが、末梢組織においてドーパミン合成を予防するAADC阻害剤で補われる(Ahlskog JE et al., 1989)。本発明の該治療は、SNpcにおけるGUCY2Cの選択的な脳の発現を与えられる特異的成分、及びPDEの広範な発現によって提供される成分を提供する。PDEの阻害は、臨床処置に対する主な合併症ではない。実際に、幾つかの広く使用される薬物は、様々なオフターゲット組織において発現されるPDEの阻害剤である。代表的な例は、PDE5選択的阻害剤であるシルデナフィル(バイアグラ)である。このホスホジエステラーゼは、その効果を発揮することが意図される陰茎において発現されるが、心臓、膵臓、腎臓又は小脳においても発現される(Lin CS, 2004)。該ドーパミン作動性中脳において発現されるPDE、例えばPDE2A又はPDE11Aの特異的標的化は、該処置の特異性及び/又は有効性を増加させる方法として使用されることができる。
【0104】
実施例2
切片調製及び処置
平均5週齢の成体マウスが屠殺され、そして脳が素早く取り出され、そしてビブラトーム(vibratome)を用いて、250μmの冠状セクションに薄切された。線条体を含むセクションは、顕微解剖されて、非線条体構造が除去された。半球は分けられ、そして、一方の半球は化合物で処置され、一方、逆の半球はビヒクルで処置された。切片の処置は、炭化された人工脳脊髄液(aCSF)中で生じた。処置後、切片が、試料緩衝液を含むSDSに溶解され、超音波処理され、そして95℃で加熱された。試料は、製造者の指示に従って、WES自動化ウェスタンシステム(Protein Simple)において分析された。
【0105】
PDE2阻害及びGUCY2C活性化は、マウス線条体におけるチロシンヒドロキシラーゼ活性化を結果としてもたらす
マウス脳におけるPDE2阻害の効果を調査する為に、脳切片を使用するエクスビボ(ex-vivo)アプローチが利用された。マウス線条体の冠状切片が、調製され、そしてaCSFに希釈されたBAY−60 7550で処置され、そして引き続き、WES自動化ウェスタンシステムによって分析された。10μMのBAY 60−7550が、
図13aに示されている通り、Ser40リン酸化における増加を結果として生じた。BAY 60−7750はPDE2を標的にし、及び本発明者等は、阻害がThリン酸化に影響を与えることを観察したので、これは、両方のタンパク質が同じ細胞(コンパートメント(compartment))において発現されることを示す。従って、PDE2は、ドーパミン作動性ニューロンにおいて発現され、及びPDE2タンパク質及びThタンパク質は、中脳ドーパミン系から線条体に突出するニューロンのシナプス末端において存在する。1μMのBAY 60−7550の濃度は、Ser40リン酸化における有意な増加を結果として生じず、且つ
図14a及び14bに示された。Th活性化に対するGUCY2Cリガンドの効果を調査する為に、該マウス線条体の冠状切片は、調製され、グアニリンで処置され、そしてBAY−60−7550について行われた通り、Th Ser40リン酸化について分析された。10μMのグアニリンの適用は、
図15aに示されている通り、Ser40リン酸化の増加を結果として生じた。グアニリンは、線条体切片においてTh活性の増加を結果として生じたので、GUCY2C受容体は、該線条体に突出する中脳ドーパミンニューロンの該シナプス末端において発現される。従って、ドーパミンを産生する為の機構は、ドーパミンが放出される該シナプス末端に存在する。1μMのグアニリンは、Ser40リン酸化における有意な増加を結果として生じなかった(
図16a)。BAY 60−7550及びグアニリンは両方とも、10μMでThリン酸化を増加させたが、1μMでは増加させなかった故に、本発明者等は、BAY 60−7750及びグアニリンを組み合わせることの効果を1μMで調べた。グアニリン及びBAY 60−7550の組み合わせは、Thリン酸化における有意な増加を結果として生じ、両方の化合物の組み合わせがいずれかの化合物単独よりも有効であることを示した(
図17a)。該GUCY2C受容体、PDEタンパク質及び該Thタンパク質が、同じ細胞環境中に全て存在すること、並びに上流の産物/シグナルが、経路、例えばThリン酸化及びドーパミン産生、の下流の成分に影響を与えることが可能であることがまた示されている。
【0106】
GUCY2Cを活性化する新規ペプチド
本発明者等は、内因性GUCY2Cリガンドに関して、異なる活性を有する新規ペプチドを設計した(表3)。該ペプチドは、Th及びGUCY2CでトランスフェクションされたHEK−293細胞において分析され、そして引き続き、マウス線条体切片においてエクスビボ(ex-vivo)で試験された。市販のラット/マウスグアニリン(Chemcruz)は、
図18において見ることができる通り、HEK−293細胞におけるSer40リン酸化の中程度であるが有意な増加をもたらし、WESシステムが伝統的なウェスタンブロッティングによって得られた結果に匹敵することを示す。本発明者等は、ウログアニリン、及び合成されたペプチドについての対照としての熱安定性毒素を合成し、従って、それらは、市販のウログアニリン及び熱安定性毒素と異なる起源由来である。驚くべきことに、ペプチド1は、HEK−293細胞又はマウス線条体切片において試験された場合に何らの有意な効果を示さず、一方、ペプチド2、4、6、8、9、10及び11は、HEK−293細胞において有意な効果を示し、及びペプチド5、9、10は線条体切片において有意な効果を示した。ペプチド2は、線条体切片において有意ではなかったが、それは、最も大きな倍数変化を示した。おそらく、該ペプチドの効果は、刺激される該線条体における領域に依存して異なる可能性がある。
【0107】
引用文献
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【国際調査報告】