特表2021-535370(P2021-535370A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2021-535370心房細動および抗凝固療法の評価における循環TFPI−2(組織因子経路阻害剤2)
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-535370(P2021-535370A)
(43)【公表日】2021年12月16日
(54)【発明の名称】心房細動および抗凝固療法の評価における循環TFPI−2(組織因子経路阻害剤2)
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20211119BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20211119BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20211119BHJP
【FI】
   G01N33/68
   G01N33/53 D
   C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2021-507899(P2021-507899)
(86)(22)【出願日】2019年8月16日
(85)【翻訳文提出日】2021年4月14日
(86)【国際出願番号】EP2019071999
(87)【国際公開番号】WO2020035588
(87)【国際公開日】20200220
(31)【優先権主張番号】18189328.0
(32)【優先日】2018年8月16日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(71)【出願人】
【識別番号】503285519
【氏名又は名称】ユニベルシテイト マーストリヒト
(71)【出願人】
【識別番号】517079054
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】カストナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ツィーグラー,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ビーンヒューズ−テレン,ウルスラ−ヘンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ビンツェント
(72)【発明者】
【氏名】ディートリッヒ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ショッテン,ウルリヒ
【テーマコード(参考)】
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA36
2G045FB03
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA75
4H045EA50
4H045FA71
(57)【要約】
本発明は、対象における心房細動を評価するための方法であって、前記方法が、対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、およびTFPI−2の量を参照量と比較する工程を含み、それにより、心房細動を評価する、方法に関する。さらに、本発明は、抗凝固療法を評価するための方法、および対象の脳卒中のリスクを予測するための方法に関する。前記方法は、対象からのサンプル中のTFPI−2の量の決定に基づいている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における心房細動を評価する方法であって、
a)前記対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)前記バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、心房細動を評価する、
方法。
【請求項2】
前記サンプルが血液、血清もしくは血漿サンプルであり、かつ/または前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記心房細動の評価が心房細動の診断であり、好ましくは、前記参照量を超えるTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/または前記参照量を下回るTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に罹患していない対象の指標であり、
または
前記対象が心房細動に罹患しており、前記心房細動の評価が、発作性心房細動と持続性心房細動との区別であり、好ましくは、前記参照量を超えるTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、持続性心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/または前記参照量を下回るTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、発作性心房細動に罹患している対象の指標である、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記心房細動の評価が、心房細動に関連する脳卒中のリスクの予測であり、好ましくは、
前記参照量を超えるTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に関連する脳卒中を患うリスクがある対象の指標であり、かつ/または前記参照量を下回るTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に関連する脳卒中を患うリスクがない対象の指標である、請求項1および2に記載の方法。
【請求項5】
対象における脳卒中のリスクを予測する方法であって、
(a)前記対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
(b)前記対象の臨床的脳卒中リスクスコアを評価する工程、および
(c)工程a)およびb)の結果に基づいて、脳卒中のリスクを予測する工程を含む、
方法。
【請求項6】
対象の抗凝固療法の有効性を評価する方法であって、
b)前記対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)前記バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、前記抗凝固療法の有効性を評価する、
方法。
【請求項7】
少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であるか、または強化抗凝固療法に適格である対象を特定するための方法であって、
a)前記対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定すること、および
b)前記バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較すること、および任意選択で、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較することを含み、それにより、前記少なくとも1つの薬剤の投与または強化抗凝固療法に適格である対象を特定する、
方法。
【請求項8】
強化抗凝固療法に適格である対象が、現在投与されている抗凝固剤の用量の増加、または現在投与されている抗凝固剤の、より効果的な抗凝固剤への置き換え、例えば現在投与されているワルファリンもしくはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬の、経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンもしくはアピキサバンへの置き換えに適格である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抗凝固療法をモニタリングする方法であって、
(a)前記対象からの第1のサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
(b)前記第1のサンプルの後に対象から採取された第2のサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
(c)前記第1のサンプル中のTFPI−2の量を前記第2のサンプル中のTFPI−2の量と比較する工程、および任意選択で、前記第1のサンプル中の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記第2のサンプル中の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量と比較する工程を含み、それにより抗凝固療法をモニタリングする、
方法。
【請求項10】
前記対象が、心房細動に罹患している、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
心房細動の評価を支援する方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルを提供する工程、
b)工程a)で提供された少なくとも1つのサンプルにおいて、前記バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
c)前記バイオマーカーTFPI−2の決定された量、および任意選択で、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供する工程を含み、それにより心房細動の評価を支援する、
方法。
【請求項12】
心房細動の評価を支援する方法であって、
a)前記バイオマーカーTFPI−2のアッセイ、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択されるさらなるバイオマーカーの少なくとも1つのさらなるアッセイを提供すること、および
b)心房細動の前記評価における前記アッセイによって得られた、または得られ得るアッセイ結果の使用のための指示を提供することを含む、
方法。
【請求項13】
心房細動を評価するためのコンピュータ実装方法であって、
a)対象からのサンプルにおいて決定されたTFPI−2の量の値、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量の少なくとも1つのさらなる値を処理装置で受け取ること、
b)前記処理装置によって、工程(a)で受け取った1つまたは複数の前記値を1つまたは複数の参照と比較すること、および
c)比較工程b)に基づいて心房細動を評価することを含む、
方法。
【請求項14】
TFPI−2に特異的に結合する薬剤と、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤とを含むキット。
【請求項15】
インビトロでの使用であって、
i)前記バイオマーカーTFPI−2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー、および/または
ii)TFPI−2に特異的に結合する少なくとも1つの薬剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤の、
a)心房細動の評価、b)対象の脳卒中のリスク予測、c)臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度の向上、対象の抗凝固療法の有効性の評価、d)少なくとも1つの抗凝固薬剤の投与に適格であるか、または強化抗凝固療法に適格である対象の特定、および/またはe)抗凝固療法のモニタリングのための、
インビトロでの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における心房細動を評価するための方法であって、前記方法が、対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、およびTFPI−2の量を参照量と比較する工程を含み、それにより心房細動を評価する、方法に関する。さらに、本発明は、抗凝固療法を評価するための方法、および対象の脳卒中のリスクを予測するための方法に関する。前記方法は、対象からのサンプル中のTFPI−2の量の決定に基づいている。
【背景技術】
【0002】
心房細動(AF)は、最も一般的なタイプの心不整脈であり、高齢者の間で最も蔓延している状態の1つである。心房細動は、不規則な心臓の拍動を特徴とし、短時間の異常な拍動から始まることが多く、時間の経過とともに増加し、永続性の状態となる可能性がある。米国では推定270〜610万人が心房細動を発症し、全世界で約3300万人が心房細動を発症している(Chugh S.S.et al.,Circulation 2014;129:837−47)。
【0003】
心房細動などの心不整脈の診断には、通常、不整脈の原因の特定、および不整脈の分類が含まれる。米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、および欧州心臓病学会(ESC)による心房細動の分類のガイドラインは、主に単純性および臨床的関連性に基づいている。第1のカテゴリーは、「最初に検出されたAF」と呼ばれる。このカテゴリーの人々は、初めてAFと診断され、過去に検出されなかったエピソードがあったかどうかは不明である。最初に検出されたエピソードは1週間未満で自然に止まるが、その後に別のエピソードが続く場合、カテゴリーは「発作性AF」へと変わる。このカテゴリーの患者のエピソードは最大7日間続くが、発作性心房細動のほとんどの症例では、エピソードは24時間未満で止まる。エピソードが1週間を超えて続く場合は、「持続性AF」に分類される。そのようなエピソードが、電気的または薬理学的除細動によって止められず、1年を超えて続く場合、分類は「永続性AF」に変更される。
【0004】
心房細動は、脳卒中および全身性塞栓症の重要な危険因子であるため、心房細動の早期診断が強く望まれている(Hart et al.、Ann Intern Med 2007;146(12):857−67;Go AS et al.JAMA 2001;285(18):2370−5)。脳卒中は、高所得国における失われた障害調整生存年数の原因として、また世界中の死因として、虚血性心疾患に次いで、2番目となっている。脳卒中のリスクを低減するためには、抗凝固療法が最も適切な治療法と考えられる。
【0005】
TFPI2、PP5、REF1としても知られるTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)は、TFP−1の同族列であり、3つのクニッツ型ドメインおよび塩基性C末端領域を含む。それは、20を超えるメンバーの1つ以上のクニッツ型ドメインを含むセリンプロテイナーゼ阻害剤を含有するクニッツ型ファミリーに属し、ウシ膵臓トリプシン阻害剤(アプロチニン)、組織因子経路阻害剤(TFPI−1)およびその同族体、タイプ2組織因子経路阻害剤、またはTFPI−2を含む。ヒトTFPI−2は、元々、胎盤タンパク質5(PP5)と呼ばれる30〜36kDaの糖タンパク質として胎盤組織から単離された。
【0006】
TFPI−2は、様々な細胞によって合成され、細胞外マトリックス(ECM)に方向的に分泌され、そこでプラスミンを介したECMの分解およびリモデリングを調節すると考えられているセリンプロテイナーゼ阻害剤である(Chand et al.による概説)。このタンパク質は、第VIIa因子/組織因子、第Xa因子、プラスミン、トリプシン、キモトリプシン、血漿カリクレイン、特定のマトリックスメタロプロテイナーゼを含む様々なセリンプロテアーゼを阻害することができる。
【0007】
TFPI−2をコードする遺伝子は、いくつかのタイプの癌における腫瘍抑制遺伝子としても特定されている。TFPI−2は、神経膠腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、乳癌、黒色腫、結腸直腸癌、膵臓癌、および肝細胞癌などの最も侵襲性の強い腫瘍でダウンレギュレーションされる。このようなサイレンシングは、主にTFPI−2プロモーターの高メチル化およびヒストン脱アセチル化によって誘発されるエピジェネティックな変化によるものである。TFPI−2の高メチル化は、例えば、胃/結腸直腸癌で検出された。(Hu et al.Oncotarget,2017,Vol.8,(No.48),pp:84054−84065)。
【0008】
TFPI−2は、さらに凝固の調節での役割を果たし、血餅の線維素溶解を阻害する。Vadivel et al.(J Biol Chem 2014;289:31647−31661)は、血小板が巨核球に由来するTFPI−2を含み、線維素溶解を阻害することを示す。TFPI−2は、凝固およびtPA誘発性線維素溶解を調節し、血餅の安定化を促進する。
【0009】
アテローム性動脈硬化症におけるTFPI−2の役割は、例えば、Crawley et al.によって記述されている(Arterioscler Thromb Vasc Biol.2002;22:218−224)。健康なヒト血管では、TFPI−2は、血管内皮で検出された。ヒトの動脈硬化組織では、TFPI−2発現は、マクロファージ、T細胞、内皮細胞、および平滑筋細胞に割り当てられていた。
【0010】
さらに、Herman et al.(J.Clin.Invest.2001,107:1117−1126)は、TFPI−2がマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤として機能し、関節硬化症に影響を与えることを報告している。
【0011】
Latini R.et al.(J Intern Med.2011 Feb;269(2):160−71)は、心房細動患者の様々な循環バイオマーカー(hsTnT、NT−proBNP、MR−proANP、MR−proADM、コペプチン、およびCT−プロエンドセリン−1)を測定した。
【0012】
心房細動の診断、心房細動患者のリスク階層化(脳卒中の発生など)、心房細動の重症度の評価、および心房細動患者における治療の評価を含む、心房細動の評価のための信頼できる方法が必要である。
【0013】
本発明の根底にある技術的な課題は、上述のニーズに対応する方法の提供としてとらえることができる。この技術的な課題は、以下の特許請求の範囲および本明細書において特徴付けられる実施形態によって、解決される。
【0014】
有利なことに、本発明の研究の文脈において、対象からのサンプル中のTFPI−2の量の決定が、心房細動の評価の改善を可能にすることが見出された。本発明によって、例えば、対象が心房細動に罹患しているか否かを診断できる。本発明はまた、脳卒中予測のための方法を提供する。さらに、例えば、心房細動に罹患した対象において、発作性心房細動と持続性心房細動とを区別することができる。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、対象における心房細動を評価するための方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、心房細動を評価する方法に関する。
【0016】
本発明はさらに、対象の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
(a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
(b)前記対象の臨床的脳卒中リスクスコアを評価する工程、および
(c)工程a)およびb)の結果に基づいて、脳卒中のリスクを予測する工程を含む方法に関する。
【0017】
本発明はさらに、対象の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)既知の臨床的リスク脳卒中リスクスコアを有する対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM−1、ANGT2、IGFBP7を含む1つ以上のバイオマーカーの量の値を、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程を含み、それにより前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法に関する。
【0018】
本発明はさらに、対象の抗凝固療法の有効性を評価する方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
a)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、抗凝固療法の有効性を評価する方法に関する。
【0019】
本発明はさらに、少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であるか、または強化抗凝固療法に適格である対象を特定する方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、前記少なくとも1つの薬剤の投与または強化抗凝固療法に適格である対象を特定する方法に関する。
【0020】
本発明はさらに、抗凝固療法をモニタリングする方法であって、
(a)対象からの第1のサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
(b)前記第1のサンプルの後に対象から得た第2のサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
(c)第1のサンプル中のTFPI−2の量を前記第2のサンプル中のTFPI−2の量と比較する工程、および任意選択で、第1のサンプル中の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記第2のサンプル中の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量と比較する工程を含み、それにより抗凝固療法をモニタリングする方法に関する。
【0021】
本発明はさらに、心房細動の評価を支援する方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルを提供する工程、
b)工程a)で提供された少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
c)バイオマーカーTFPI−2の決定された量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供し、それにより心房細動の評価を支援する方法に関する。
【0022】
本発明はさらに、心房細動の評価を支援する方法であって、
a)バイオマーカーTFPI−2のアッセイ、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択されるさらなるバイオマーカーの少なくとも1つのさらなるアッセイを提供する工程、および
b)心房細動の評価において、前記アッセイによって得られた、または得られ得るアッセイ結果を使用するための指示を提供する工程、を含む方法に関する。
【0023】
本発明はさらに、心房細動の評価の支援のためのコンピュータ実装方法であって、
a)対象からのサンプルにおいて決定されたTFPI−2の量の値、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量の少なくとも1つのさらなる値を処理装置で受け取る工程、
b)前記処理装置によって、工程(a)で受け取った1つまたは複数の値を1つまたは複数の参照と比較する工程、および
c)比較工程b)に基づいて心房細動を評価する工程を含む方法に関する。
【0024】
本発明はさらに、TFPI−2に特異的に結合する薬剤と、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤とを含むキットに関する。
【0025】
本発明はさらに、
i)バイオマーカーTFPI−2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー、および/または
ii)TFPI−2に特異的に結合する少なくとも1つの薬剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤の、
a)心房細動の評価、b)対象の脳卒中のリスク予測、c)臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度の向上、対象の抗凝固療法の有効性の評価、d)少なくとも1つの抗凝固薬剤の投与に適格であるか、または強化抗凝固療法に適格である対象の特定、および/またはe)抗凝固療法のモニタリングのための、インビトロでの使用に関する。
【0026】
一実施形態では、心房細動の評価は、心房細動の診断である。
【0027】
一実施形態では、参照量を超えるTFPI−2の量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量は、心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/または参照量を下回るTFPI−2の量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量は、心房細動に罹患していない対象の指標である。
【0028】
本発明の一実施形態では、心房細動の評価は、発作性心房細動と持続性心房細動との間の区別である。
【0029】
本発明の一実施形態では、参照量を超えるTFPI−2の量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量は、持続性心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/または参照量を下回るTFPI−2の量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量は、発作性心房細動に罹患している対象の指標である。
【0030】
本発明の一実施形態では、心房細動の評価は、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測である。
【0031】
本発明の一実施形態では、心房細動に関連する有害事象は、心房細動の再発および/または脳卒中である。
【0032】
本発明の一実施形態では、参照量を超えるTFPI−2の量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量は、心房細動に関連する有害事象に罹患するリスクを有する対象の指標であり、かつ/または参照量を下回るTFPI−2の量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量は、心房細動に関連する有害事象に罹患するリスクを有さない対象の指標である。
【0033】
本発明の一実施形態では、心房細動の評価は、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定である。
【0034】
本発明の詳細な概要および定義
本発明は、対象における心房細動を評価するための方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程を含み、それにより、心房細動を評価する方法に関する。
【0035】
本発明の方法の一実施形態では、この方法は、工程a)の対象からのサンプル中の、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量の決定、および工程b)での、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量と参照量との比較をさらに含む。
【0036】
したがって、本発明は、対象における心房細動を評価する方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、心房細動を評価する方法に関する。
【0037】
心房細動(AF)の評価は、比較工程b)の結果に基づくものとする。
【0038】
したがって、本発明の方法は、好ましくは、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程、および
c)比較工程b)の結果に基づいて心房細動を評価する工程を含む。
【0039】
本発明によって言及される方法は、本質的に上述の工程からなる方法、またはさらなる工程を含む方法、を含む。さらに、本発明の方法は、好ましくは、エクスビボ、より好ましくはインビトロの方法である。さらに、それは、上記で明示的に述べられたものに加えた工程を含んでもよい。例えば、さらなる工程は、さらなるマーカーの決定、および/またはサンプルの事前処理、または方法で得られた結果の評価に関してもよい。この方法は、手動で実行しても、自動化によって支援してもよい。好ましくは、工程(a)、(b)および/または(c)は、全体的または部分的に、自動化によって、例えば、工程(a)における決定または工程(b)におけるコンピュータを実装した計算のため、適切なロボットおよび感覚的機器によって、支援されてもよい。
【0040】
本発明によれば、心房細動が評価されるものとする。本明細書で使用される「心房細動の評価」という用語は、好ましくは、心房細動の診断、発作性心房細動と持続性心房細動との区別、心房細動に関連する有害事象(脳卒中など)のリスクの予測、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定、または心房細動の治療の評価を指す。
【0041】
当業者によって理解されるように、本発明の評価は、通常、試験される対象の100%について正しいことを意図するものではない。この用語は、好ましくは、対象の統計的に有意な部分に対して、正しい評価(例えば、本明細書でいう治療の診断、区別、予測、識別、または評価)を行うことができること、を必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン−ホイットニー検定などの様々な周知の統計評価ツールを使用して、当業者がすぐさま決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research、John Wiley&Sons、New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.4、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0042】
様々な疾患や障害において、バイオマーカーが増加し得ることは、当該技術分野において公知である。これは、例えば癌患者に増加することが知られている、TFPI−2にも当てはまる。しかしながら、これは当業者により考慮される。
【0043】
したがって、「心房細動の評価」という表現は、心房細動の評価の援助として、したがって心房細動の診断での援助、発作性心房細動と持続性心房細動との区別での援助、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測での援助、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定での援助、または心房細動の治療の評価での援助として理解される。最終的な診断は、原則として医師が行うであろう。
【0044】
本発明の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、心房細動の診断である。したがって、対象が心房細動に罹患しているか否かが診断される。
【0045】
したがって、本発明は、対象の心房細動を診断するための方法を想定しており、方法は、
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量を参照量と比較する工程を含み、それにより心房細動が診断される。
【0046】
一実施形態では、前述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、心房細動が診断される。
【0047】
好ましくは、心房細動を診断する方法に関連して試験される対象は、心房細動の罹患が疑われる対象である。しかしながら、対象がすでにAFに罹患していると以前に診断されていること、および以前の診断が本発明の方法の実施によって確認されることも企図される。
【0048】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、発作性心房細動と持続性心房細動との間の区別である。したがって、対象が発作性心房細動または持続性心房細動に罹患しているかどうかが判定される。
【0049】
したがって、本発明は、対象における発作性心房細動と持続性心房細動とを区別するための方法を想定しており、方法は、
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量を参照量と比較する工程を含み、それにより、発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する。
【0050】
一実施形態では、前述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程し、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する。
【0051】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、心房細動に関連する有害事象(脳卒中など)のリスクの予測である。したがって、対象が前記有害事象のリスクを有するか、および/またはリスク有さないかどうかが予測される。
【0052】
したがって、本発明は、対象における心房細動に関連する有害事象のリスクを予測するための方法を想定しており、方法は、
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量を参照量と比較する工程を含み、それにより、心房細動に関連する有害事象のリスクを予測する。
【0053】
一実施形態では、前述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、心房細動に関連する有害事象のリスクが予測される。
【0054】
様々な有害事象を予測することができると考えられる。好ましくは、予測される有害事象は脳卒中である。
【0055】
したがって、本発明は、具体的には、対象の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量を参照量と比較する工程を含み、それにより脳卒中のリスクを予測する方法を企図する。
【0056】
前述の方法は、工程b)の比較結果に基づいて脳卒中を予測する工程c)をさらに含み得る。したがって、工程a)、b)、c)は、好ましくは、
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量を参照量と比較する工程、および
c)工程b)の比較結果に基づいて脳卒中を予測する工程である。
【0057】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、心房細動の治療の評価である。
【0058】
したがって、本発明は、対象における心房細動の治療を評価するための方法を想定しており、方法は、
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量を参照量と比較する工程を含み、それにより心房細動の治療を評価する。
【0059】
一実施形態では、前述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、心房細動の治療を評価する。
【0060】
好ましくは、前述の区別、前述の予測、および心房細動の治療の評価に関連する対象は、心房細動に罹患している、特に心房細動に罹患していることが知られている(したがって、既知の心房細動の病歴を有する)対象である。しかしながら、前述の予測方法に関して、対象が心房細動の既知の病歴を有していないことも想定される。
【0061】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定ある。したがって、対象は、心電図検査を受けるべきか否かを特定される。
【0062】
したがって、本発明は、心電図検査を受けるべき対象を特定するための方法を想定しており、方法は、
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量を参照量と比較する工程を含み、それにより心電図検査を受けるべき対象を特定する。
【0063】
一実施形態では、前述の方法は、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、心電図検査を受けるべき対象を特定する。
【0064】
好ましくは、心電図検査を受けるべき対象を特定する前述の方法に関連する対象は、心房細動の既知の病歴を有さない対象である。「心房細動の既知の病歴がない」という表現は、本明細書の他の場所で定義されている。
【0065】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、対象の抗凝固療法の有効性の評価である。したがって、前記療法の有効性が評価される。この方法による対象は、心房細動に罹患していても、していなくてもよい。
【0066】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、対象の抗凝固療法のモニタリングである。この方法による対象は、心房細動に罹患していても、していなくてもよい。
【0067】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、対象における脳卒中のリスクの予測である。したがって、本明細書で言及される対象が脳卒中のリスクがあるかどうかが予測される。
【0068】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であるか、または強化抗凝固療法に適格である対象の特定である。したがって、対象が前記投与および/または前記投与量の増加に適格であるかどうかが評価される。
【0069】
本発明の別の好ましい実施形態では、心房細動の評価は、抗凝固療法のモニタリングである。したがって、対象が前記療法に反応するかどうかが評価される。
【0070】
「心房細動」(「略称」AFまたはAFib)という用語は、当技術分野でよく知られている。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、結果として心房の機械的機能の悪化を伴う非協調的な心房興奮を特徴とする、上室性頻脈性不整脈を指す。特に、この用語は、急速で不規則な鼓動を特徴とする異常な心臓のリズムを指す。それは、心臓の2つの上部房と関連する。正常な心臓のリズムでは、洞房結節によって生成されたインパルスが心臓全体に広がり、心筋の収縮と血液のポンピングを引き起こす。心房細動では、洞房結節の規則的な電気インパルスが、不規則な心拍を引き起こす、無秩序で急速な電気インパルスに置き換えられる。心房細動の症状は、心臓の動悸、失神、息切れ、または胸痛である。しかしながら、ほとんどのエピソードには症状がない。心電図では、心房細動は、振幅、形状、およびタイミングが変化する急速な振動または細動波による均一なP波の置換を特徴とし、心房室伝導が正常な場合に、不規則に頻繁に心室応答が速くなることに関連する。
【0071】
米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、および欧州心臓病学会(ESC)は、次の分類システムを提案する。(これとともに、その全体が参考として組み込まれるFuster V.et.al.、Circulation 2006;114(7):e257−354を参照のこと、例えば、書類中図3を参照のこと):最初に検出されたAF、発作性AF、持続性AF、および永続性AF。
【0072】
AFがあるすべての人々は、病初では、最初に検出されたAFと呼ばれるカテゴリーに属する。ただし、対象は、以前に検出されなかったエピソードを持っている場合と持っていない場合があってもよい。心房細動が1年を超えて持続し、特に洞調律への転換が起こらない場合(または医学的介入がある場合のみ)、対象は永続性心房細動に罹患している。AFが7日を超えて続く場合、対象は持続性AFを患う。心房細動を止めるには、対象は、薬理学的または電気的介入のいずれかを必要とする場合がある。好ましくは、持続性AFはエピソードで発生するが、不整脈は、通常自然的に(つまり、医学的介入なしで)洞調律へ戻るよう転換されない。発作性心房細動は、好ましくは、最大7日間続く心房細動の断続的なエピソードを指す。発作性AFのほとんどの場合、エピソードが続くのは、24時間未満である。心房細動のエピソードは自然に、つまり医学的介入なしに終了する。したがって、発作性心房細動のエピソードは、好ましくは自然に終了するが、持続性心房細動は、好ましくは自然に終了しない。好ましくは、持続性心房細動は、終了させるために、電気的もしくは薬理学的電気除細動、またはアブレーション治療などの他の方法を必要とする(Fuster V.et al.,Circulation 2006;114(7):e257−354)。持続性AFおよび発作性AFの両方が再発する可能性があり、それにより発作性AFと持続性AFとの区別がECG記録によって提供される。患者が2回以上のエピソードを有した場合、AFは再発と見なされる。不整脈が自然に終了する場合、AF、特に再発性AFは、発作性に指定される。AFが7日間を超えて続く場合、持続性に指定される。
【0073】
本発明の好ましい実施形態では、「発作性心房細動」という用語は、自然に終了するAFのエピソードとして定義され、前記エピソードは24時間未満続く。他の実施形態では、自然に終了するエピソードは、最大7日間続く。
【0074】
本明細書でいう「対象」は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物としては、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、および齧歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、対象は、ヒト対象である。
【0075】
好ましくは、試験される対象は、任意の年齢であり、より好ましくは、試験される対象は、50歳以上、より好ましくは60歳以上、最も好ましくは65歳以上である。さらに、試験される対象は、70歳以上であることが想定される。
【0076】
加えて、試験される対象は、75歳以上であることが想定される。また、対象は、50歳から90歳の間であってよい。
【0077】
心房細動を評価する方法の好ましい実施形態では、試験される対象は、心房細動に罹患しているものとする。したがって、対象は、心房細動の既知の病歴を有するものとする。したがって、対象は、試験サンプルの採取の前に心房細動のエピソードを経験したものとし、以前の心房細動のエピソードの少なくとも1つが、例えばECGによって診断されたものとする。例えば、心房細動の評価が発作性心房細動と持続性心房細動との区別である場合、または心房細動の評価が心房細動に関連する有害事象のリスクの予測である場合、または心房細動の評価が心房細動の治療の評価である場合、対象は心房細動に罹患していることが想定される。
【0078】
心房細動を評価する方法の別の好ましい実施形態では、例えば心房細動の評価が心房細動の診断、または心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定である場合、試験される対象は、心房細動に罹患していると疑われる。
【0079】
好ましくは、心房細動に罹患していることが疑われる対象は、心房細動を評価するための方法を実施する前に、心房細動の少なくとも1つの症状を示した対象である。上記の症状は通常一過性であり、数秒で発生し、同じくらい早く消える可能性がある。心房細動の症状には、めまい、失神、息切れ、特に心臓の動悸が含まれる。好ましくは、対象は、サンプルを入手する前の6ヶ月以内に心房細動の少なくとも1つの症状を示した。
【0080】
代替的または追加的に、心房細動に罹患していることが疑われる対象は、70歳以上の対象であるものとする。
【0081】
好ましくは、心房細動に罹患していることが疑われる対象は、心房細動の既知の病歴を有さないものとする。
【0082】
本発明によれば、心房細動の既知の病歴を有さない対象は、好ましくは、過去に、すなわち本発明の方法を実施する前(特に対象からサンプルを採取する前)に心房細動に罹患していると診断されていない対象である。しかしながら、対象は、過去に検出されなかった心房細動のエピソードを有しても、有さなくてもよい。
【0083】
好ましくは、「心房細動」という用語は、すべてのタイプの心房細動を指す。したがって、この用語は、発作性、持続性、または永続性心房細動を包含することが好ましい。
【0084】
しかしながら、本発明の一実施形態では、試験される対象は、永続性心房細動に罹患していない。この実施形態では、「心房細動」という用語は、発作性心房細動および持続性心房細動のみを指す。
【0085】
しかしながら、本発明の別の実施形態では、試験される対象は、発作性心房細動および永続性心房細動に罹患していない。この実施形態では、「心房細動」という用語は、持続性心房細動のみを指す。
【0086】
上記のように、バイオマーカーTFPI−2は、心房細動以外の様々な疾患および障害において増加し得る。本発明の一実施形態では、対象がこのような疾患および障害に罹患していないことが想定される。例えば、対象が癌および/または膵炎に罹患していないことが想定されている。対象は妊娠していない。
【0087】
試験される対象は、サンプルの採取時に心房細動のエピソードを経験しても、しなくてもよい。したがって、心房細動の評価の好ましい実施形態では(例えば心房細動の診断では)、対象は、サンプルの採取時に心房細動のエピソードを経験しない。この実施形態では、対象は、サンプルの採取時に正常な洞調律を有するものとする(したがって、洞調律であるものとする)。したがって、心房細動(一時的な)不在下でも心房細動の診断が可能である。本発明の方法によれば、本明細書で言及されるバイオマーカーの上昇は、心房細動のエピソード後に維持されるものとし、したがって、心房細動に罹患した対象の診断を提供する。本発明の方法を実施した後(またはより正確には、サンプルが採取された後)、約3日以内、約1ヶ月以内、約3ヶ月以内、または約6ヶ月以内のAFの診断が好ましい。好ましい実施形態では、エピソード後約6ヶ月以内の心房細動の診断が実行可能である。好ましい実施形態では、エピソード後約6ヶ月以内の心房細動の診断が実行可能である。したがって、本明細書で言及される心房細動の評価、特に心房細動の評価に関連して本明細書で言及される診断、リスクの予測、または区別は、心房細動の最後のエピソードから好ましくは約3日後、より好ましくは約1ヶ月後、さらにより好ましくは約3ヶ月後、最も好ましくは約6ヶ月後に実施される。したがって、試験されるサンプルは、心房細動の最後のエピソードの好ましくは約3日後、より好ましくは約1ヶ月後、さらにより好ましくは約3ヶ月後、最も好ましくは約6ヶ月後に採取されることが想定される。したがって、心房細動の診断は、サンプルの採取前の好ましくは約3日以内、より好ましくは約3ヶ月以内、最も好ましくは約6ヶ月以内に発生した心房細動のエピソードの診断も包含することが好ましい。
【0088】
しかしながら、サンプルの採取時に(例えば、脳卒中の予測に関して)、対象が心房細動のエピソードを経験することも想定される。
【0089】
本発明の方法は、より多くの対象の集団のスクリーニングにも使用できる。したがって、少なくとも100人の対象、特に少なくとも1000人の対象が心房細動に関して評価されることが想定される。したがって、バイオマーカーの量は、少なくとも100人の、または特に少なくとも1000人の対象からのサンプルで決定される。さらに、少なくとも1万人の対象が評価されることが想定される。
【0090】
「サンプル」という用語は、体液のサンプル、分離された細胞のサンプル、または組織もしくは器官からのサンプルを指す。体液のサンプルは、周知の技術によって採取することができ、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、またはその他の体分泌物もしくはその派生物のサンプルが含まれる。組織または器官のサンプルは、例えば生検によって、任意の組織または器官から採取してもよい。分離された細胞は、体液または組織または器官から、遠心分離または細胞選別などの分離技術によって、採取してもよい。例えば、バイオマーカーを発現または産生する細胞、組織、器官から、細胞、組織、器官のサンプルを採取してもよい。サンプルは、凍結されても、生であっても、固定(例えば、ホルマリン固定)されても、遠心分離および/または包埋(例えば、パラフィン包埋)されてもよい。もちろん、細胞サンプルは、サンプル中のバイオマーカーの量を評価する前に、様々な周知の収集後の分取および保管技術(例えば、核酸および/またはタンパク質の抽出、固定、保管、凍結、限外濾過、濃縮、蒸発、遠心分離など)を実施され得る。
【0091】
本発明の好ましい一実施形態では、サンプルは、血液(すなわち、全血)、血清または血漿サンプルである。血清とは、血液が血餅になった後に採取される全血の液体分画のことである。血清を採取するためには、遠心分離によって血餅を除去して、それから上清が収集される。血漿は、血の無細胞流動部分である。血漿サンプルを得るために、全血は、抗凝固剤処理されたチューブ(例えば、クエン酸塩処理またはEDTA処理されたチューブ)で収集される。遠心分離により細胞をサンプルから除去し、それから上清(すなわち、血漿サンプル)を採取する。
【0092】
上記のように、サンプルが採取された時点で、対象は洞調律であっても、または心房細動のエピソードを有していてもよい。
【0093】
TFPI−2(組織因子経路阻害剤−2)は、当技術分野でよく知られている。このタンパク質は、クニッツ型セリンプロテイナーゼ阻害剤ファミリーのメンバーである。このタンパク質は、第VIIa因子/組織因子、第Xa因子、プラスミン、トリプシン、キモトリプシン、および血漿カリクレインを含む様々なセリンプロテアーゼを阻害することができる。
【0094】
バイオマーカーTFPI−2遺伝子は、ヒト染色体7q22に位置し、短いアミノ末端領域、3つのタンデムクニッツ型ドメイン、および正に帯電したカルボキシ末端テールからなる、32kDaのマトリックス関連クニッツ型セリンプロテイナーゼ阻害剤である。このタンパク質は、第VIIa因子/組織因子、第Xa因子、プラスミン、トリプシン、キモトリプシン、および血漿カリクレインを含む様々なセリンプロテアーゼを阻害することができる。この遺伝子は、いくつかのタイプの癌における腫瘍抑制遺伝子として特定されている。
【0095】
本発明の好ましい実施形態では、ヒトTFPI−2ポリペプチドの量は、対象からのサンプルにおいて決定される。ヒトTFPI−2ポリペプチドの配列は当技術分野で周知であり、例えば、Uniprotデータベースによって評価され得る。UniProtKB−P48307(TFPI2_HUMAN)を参照されたい。
【0096】
ヒトでは、TFPI−2遺伝子は、7q22領域の7番染色体に位置する。ヒトTFPI−2遺伝子は、8164ヌクレオチド塩基にまたがり、5つのエクソンおよび4つのイントロンから成る。各クニッツ型ドメインは、単一のエクソンによってコードされる。ヒトTFPI−2遺伝子は、5’隣接領域の追加のエクソン、またはクニッツ型ドメイン間に存在する接続領域をコードするエクソンを含まない。TFPI−2は、終止コドン(TAA)の約390 bp下流(+4321)に1つの転写終結部位を有するが、翻訳開始部位(ATG)の75 bp(13)、56 bp(11)、および38bp上流に3つの転写開始部位を有する。
【0097】
選択的スプライシングは、TFPI−2の複数の転写変異体をもたらす。この遺伝子は、3つの転写物(スプライス変異体)、91のオルソログおよび8つのパラログを有する。
【0098】
好ましい実施形態では、TFPI−2転写物のアイソフォーム1、すなわちアクセッション番号ENST00000222543.9の下に示されるような配列を有するアイソフォーム1の量が決定される。
【0099】
別の好ましい実施形態では、TFPI−2転写物のアイソフォーム2、すなわち、アクセッション番号ENST00000451238.1の下に示されるような配列を有するアイソフォーム2の量が決定される。
【0100】
別の好ましい実施形態では、TFPI−2転写物のアイソフォーム3、すなわち、アクセッション番号ENST00000461482.1(http://www.ensembl.org)の下に示されるような配列を有するアイソフォーム3の量が決定される。
【0101】
別の好ましい実施形態では、TFPI−2転写物のアイソフォーム−1、2および3、すなわち全TFPI−2の量が決定される。
【0102】
「ナトリウム利尿ペプチド」という用語は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)型ペプチドおよび脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)型ペプチドを含む。したがって、本発明によるナトリウム利尿ペプチドは、ANP型ペプチドおよびBNP型ペプチドおよびそれらの変異体を含む(例えば、Bonow RO.et al.,Circulation 1996;93:1946−1950を参照のこと)。
【0103】
ANP型ペプチドは、pre−proANP、proANP、NT−proANP、およびANPを含む。
【0104】
BNP型ペプチドは、pre−proBNP、proBNP、NT−proBNP、およびBNPを含む。
【0105】
pre−proペプチド(pre−proBNPの場合は134アミノ酸)は、酵素的に切断されてプロペプチド(proBNPの場合は108アミノ酸)を放出する短いシグナルペプチドを含む。proペプチドはさらに、N末端proプロペプチド(NT−proペプチド、NT−proBNPの場合は76アミノ酸)と活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸、ANPの場合は28アミノ酸)とに切断される。
【0106】
本発明による好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT−proANP、ANP、NT−proBNP、BNPである。ANPおよびBNPは活性ホルモンであり、それぞれの不活性な対応物であるNT−proANPおよびNT−proBNPよりも半減期が短い。BNPは血中で代謝されるが、NT−proBNPは無傷の分子として血中を循環し、腎臓で除去される。
【0107】
本発明による最も好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT−proBNPおよびBNP、特にNT−proBNPである。上で簡単に論じたように、本発明に従って言及されるヒトNT−proBNPは、好ましくは、ヒトNT−proBNP分子のN末端部分に対応する長さ76アミノ酸を含むポリペプチドである。ヒトBNPおよびNT−proBNPの構造は、先行技術、例えば、国際公開第02/089657号、国際公開第02/083913号、およびBonow RO.Et al.,New Insights into the cardiac natriuretic peptides.Circulation 1996;93:1946−1950にて、すでに詳細に記載されている。好ましくは、本明細書で使用されるヒトNT−proBNPは、欧州特許第 0 648 228 B1号に開示されるヒトNT−proBNPである。
【0108】
IGFBP−7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞から分泌されることが知られている30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Ono,Y.,et al、Biochem Biophys Res Comm 202(1994)1490−1496)。好ましくは、「IGFBP−7」という用語は、ヒトIGFBP−7を指す。タンパク質の配列は、当該技術分野で周知であり、例えば、UniProt(Q16270、IBP7 HUMAN)、またはGenBank(NP 001240764.1)を介してアクセスできる。バイオマーカーのIGFBP−7の詳細な定義は、例えば、国際公開第2008/089994号に提供されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。IGFBP−7には2つのアイソフォーム、アイソフォーム1および2があり、これらは選択的スプライシングによって生成される。本発明の一実施形態では、両方のアイソフォームの総量が測定される(配列については、UniProtデータベースエントリ(Q16270−1およびQ16270−2)を参照のこと)。
【0109】
バイオマーカー内皮細胞特異的分子1(略してESM−1)は、当技術分野でよく知られている。そのバイオマーカーは、エンドカンと呼ばれることが多い。ESM−1は分泌タンパク質であり、主にヒトの肺および腎臓組織の内皮細胞で発現する。パブリックドメインのデータは、甲状腺、肺、腎臓だけでなく、心臓組織での発現も示唆しており、例えば、Protein Atlas database(Uhlen M.et al.,Science 2015;347(6220):1260419)のESM−1のエントリを参照されたい。この遺伝子の発現は、サイトカインによって調節される。ESM−1は、20kDaの成熟ポリペプチドおよび30kDaのO−結合型グリカン鎖で構成されるプロテオグリカンである(Bechard D et al.、J Biol Chem 2001;276(51):48341−48349)。
【0110】
本発明の好ましい実施形態では、ヒトESM−1ポリペプチドの量は、対象からのサンプルにおいて決定される。ヒトESM−1ポリペプチドの配列は当技術分野で周知であり(例えば、Lassale P.et al.,J.Biol.Chem.1996;271:20458−20464を参照のこと。例えば、Uniprotデータベースによって評価することができ、エントリQ9NQ30(ESM1_HUMAN)を参照されたい)。ESM−1の2つのアイソフォーム、すなわちアイソフォーム1(Uniprot識別子Q9NQ30−1を有する)およびアイソフォーム2(Uniprot識別子Q9NQ30−2を有する)は、選択的スプライシングによって生成される。アイソフォーム1は、184アミノ酸長を有する。アイソフォーム2では、アイソフォーム1のアミノ酸101〜150が欠落している。アミノ酸1〜19は、シグナルペプチド(切断され得る)を形成する。
【0111】
好ましい実施形態では、ESM−1ポリペプチドのアイソフォーム1、すなわち、UniProtアクセッション番号Q9NQ30−1の下に示されるような配列を有するアイソフォーム1の量が決定される。
【0112】
別の好ましい実施形態では、ESM−1ポリペプチドのアイソフォーム2、すなわち、UniProtアクセッション番号Q9NQ30−2の下に示されるような配列を有するアイソフォーム2の量が決定される。
【0113】
別の好ましい実施形態では、ESM−1ポリペプチドのアイソフォーム−1およびアイソフォーム2の量、すなわちESM−1総量が決定される。
【0114】
例えば、ESM−1の量は、ESM−1ポリペプチドのアミノ酸85〜184に対するモノクローナル抗体(マウス抗体など)、および/またはヤギポリクローナル抗体を用いて決定され得る。
【0115】
バイオマーカーであるアンジオポエチン−2(「Ang−2」と略され、しばしばANGPT2とも呼ばれる)は、当該技術分野において周知である。これは、天然に存在するAng−1とTIE2の両方に対する拮抗薬である(例えば、Maisonpierre et al.,Science 277(1997)55−60を参照のこと)。タンパク質は、ANG−1の不存在下で、TEK/TIE2のチロシンのリン酸化を誘導できる。VEGFなどの血管新生誘発物質が存在しない場合、ANG2を介した細胞マトリックス接触の緩みにより、結果として生じる血管退縮を伴う内皮細胞アポトーシスが誘発されることがある。VEGFと連携して、内皮細胞の遊走と増殖を促進することがあり、それ故に許容的な血管新生シグナルとして機能する。ヒトのアンジオポエチンの配列は、当該技術分野において周知である。Uniprotは、アンジオポエチン−2の3つのアイソフォームを記載する:アイソフォーム1(Uniprot識別子:O15123−1)、アイソフォーム2(識別子:O15123−2)およびアイソフォーム3(O15123−3)。好ましい一実施形態では、アンジオポエチン−2の総量が決定される。この総量は、好ましくは複合型および遊離型のアンジオポエチン−2の量の合計である。
【0116】
本明細書で言及されるバイオマーカー(TFPI−2またはナトリウム利尿ペプチドなど)の量を「決定する」という用語は、バイオマーカーの定量化、例えば、本明細書の他の場所に記載されている適切な検出方法を使用して、サンプル中のバイオマーカーのレベルを測定することを指す。「測定する」および「決定する」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0117】
一実施形態では、バイオマーカーの量は、サンプルをバイオマーカーと特異的に結合する作用物質と接触させ、それにより作用物質と上記バイオマーカーとの間に複合体を形成し、形成された複合体の量を検出し、それから上記バイオマーカーの量を測定することにより、決定される。
【0118】
本明細書で言及されるバイオマーカー(TFPI−2など)は、当該技術分野で一般的に知られている方法を使用して検出することができる。検出方法は、一般に、サンプル中のバイオマーカーの量を定量化する方法(定量的方法)を包含する。以下の方法のどれがバイオマーカーの定性的および/または定量的検出に適しているかは、当業者に一般に知られている。サンプルは、例えば、ウエスタン法およびELISA、RIA、蛍光および発光ベースの免疫学的検定法のような免疫学的検定法、ならびに市販されている近接拡張アッセイを使用して、タンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するためのさらに適切な方法は、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、例えば、その正確な分子量またはNMRスペクトルなどを測定することを含む。上記方法は、例えば、バイオセンサー、免疫学的検定法と連結した光学装置、バイオチップ、分析装置、例えば質量分析計、NMR分析器、またはクロマトグラフィー装置を含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化またはロボット免疫学的検定(Elecsys(商標)アナライザーなどで利用可能)、CBA(酵素的Cobalt Binding Assay、Roche−Hitachi(商標)アナライザーなどで利用可能)、およびラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche−Hitachi(商標)アナライザーで使用可能)が含まれる。
【0119】
本明細書でいうバイオマーカータンパク質の検出については、そのようなアッセイ形式を使用する幅広い免疫学的測定技術が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号明細書、第4,424,279号明細書、および第4,018,653号明細書を参照されたい。これらは、従来の競合結合アッセイだけでなく、非競合タイプの1部位および2部位または「サンドイッチ」アッセイの両方を含む。これらのアッセイは、標識された抗体の標的バイオマーカーへの直接結合も含む。
【0120】
電気化学発光標識を用いる方法は、周知である。そのような方法は、特殊な金属錯体の能力を利用して、酸化によって、励起状態となり、そこから基底状態へ減衰して、電気化学発光の放出を得る。概説については、Richter,M.M.,Chem.Rev.2004;104:3003−3036を参照のこと。
【0121】
一実施形態において、バイオマーカーの量を測定するのに使用される検出抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム化(ruthenylated)またはイリジウム化(iridinylated)されている。したがって、抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム標識を含むものとする。一実施形態において、上記ルテニウム標識は、ビピリジン−ルテニウム(II)錯体である。あるいは、抗体(またはその抗原結合断片)は、イリジウム標識を含むものとする。一実施形態では、上記イリジウム標識は、国際公開第2012/107419号で開示される錯体である。
【0122】
TFPI−2の決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、(捕捉抗体として)TFPI−2に特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体、および検出抗体としてTFPI−2と特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナルのF(ab’)2−断片を含む。2つの抗体は、サンプル中のTFPI−2とサンドイッチ免疫学的測定複合体を形成する。
【0123】
ナトリウム利尿ペプチドの決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、ナトリウム利尿ペプチドに(捕捉抗体として)特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体、および利尿ペプチドに検出抗体として特異的に結合する第2のモノクローナル抗体のルテニル化されたF(ab')2−断片を含む。2つの抗体は、サンプル中のナトリウム利尿ペプチドとサンドイッチ免疫学的測定複合体を形成する。
【0124】
ポリペプチド(例えば、TFPI−2またはナトリウム利尿ペプチド)の量の測定は、好ましくは、(a)ポリペプチドを上記ポリペプチドと特異的に結合する薬剤と接触させる工程、(b)(任意選択で)結合していない薬剤を除去する工程、(c)結合した結合剤、すなわち工程(a)で形成された薬剤の複合体の量を測定する工程を含み得る。好ましい実施形態によれば、上記接触工程、除去工程および測定工程は、分析装置ユニットにより実施してもよい。一部の実施形態によれば、上記工程は、上記システムの単一の分析装置ユニット、または互いに作動可能に連絡した2つ以上の分析装置ユニットにより実施してもよい。例えば、特定の実施形態によれば、本明細書で開示される上記システムは、上記接触工程および除去工程を実施するための第1の分析装置ユニット、ならびに上記測定工程を実施する、輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により、上記第1の分析装置ユニットに作動可能に接続された第2の分析装置ユニットを含んでよい。
【0125】
バイオマーカーと特異的に結合する薬剤(本明細書では「結合剤」とも呼ばれる)は、結合した薬剤の検出および測定を可能にする標識に、共有結合または非共有結合をしてよい。標識は、直接または間接の方法により行ってもよい。直接標識は、標識を結合剤に直接(共有結合または非共有結合により)結合させることを伴う。間接標識は、第2の結合剤を第1の結合剤に(共有結合または非共有結合により)結合させることを伴う。第2の結合剤は、第1の結合剤に特異的に結合するものとする。上記第2の結合剤は、適切な標識と結合され得、および/または第2の結合剤に結合する第3の結合剤の標的(受容体)となり得る。好適な第2の、およびより高次の結合剤は、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン−ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含んでよい。結合剤または基質は、当該技術分野で公知の1つまたは複数のタグで「タグ付け」されていてもよい。そうすることで、このようなタグは、より高次の結合剤の標的となり得る。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His−タグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc−タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質などが挙げられる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端および/またはC末端にある。好適な標識は、適切な検出方法で検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性および超常磁性標識を含む)、および蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が挙げられる。検出のための好適な基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン、NBT−BCIP(Roche Diagnosticsから既成品の保存溶液として入手可能な4−ニトロブルーテトラゾリウム塩化物および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸塩)、CDP−Star(商標)(Amersham Bio−sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素−基質の組み合わせにより、着色された反応産物、蛍光または化学発光が生じてもよく、これは、当該技術分野で公知の方法に従って(例えば感光膜または適切なカメラシステムを使用して)、決定することができる。酵素反応の測定に関しては、上記の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa 568)が挙げられる。さらなる蛍光標識が、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が企図される。放射性標識は、公知かつ好適な、例えば感光膜またはホスホイメージャー(phosphor imager)などの任意の方法により検出され得る。
【0126】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下の通り測定することもできる:(a)本明細書の別の箇所で記載されるようなポリペプチド用の結合剤を含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含むサンプルと接触させ、(b)支持体に結合したペプチドまたはポリペプチドの量を測定する。支持体を製造するための物質は、当該技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム物質、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェルおよび壁、プラスチックチューブなどが挙げられる。
【0127】
さらなる一態様では、結合剤と少なくとも1種のマーカーとの間で形成された複合体から、形成された複合体の量の測定前に、サンプルが除去される。したがって、一態様では、結合剤は固体支持体に固定されてもよい。さらなる態様では、洗浄溶液を使用することによって、固体支持体上で形成された複合体からサンプルが除去され得る。
【0128】
「サンドイッチアッセイ」は、最も有用かつ通常使用されるアッセイに含まれ、サンドイッチアッセイ技術のいくつかの変形形態を包含する。簡潔に言うと、典型的なアッセイでは、未標識の(捕捉)結合剤が固定化されている、または固体基質上に固定化され得る、それから試験されるサンプルを、捕捉結合剤との接触にいたらせることができる。結合剤−バイオマーカー複合体を形成させるのに十分な期間のため、適切なインキュベート期間の後、検出可能なシグナルを生成できるレポーター分子で標識化された第2の(検出)結合剤が添加され、インキュベートされ、結合剤−バイオマーカー−標識化された結合剤という別の複合体の形成に十分な時間を確保する。未反応の物質は洗い流されてよく、バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの観察により、判定される。結果は、可視シグナルの単純な観察による定性的なものでもよく、既知量のバイオマーカーを含む対照サンプルとの比較による定量的なものであってもよい。
【0129】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーション工程は、必要に応じて適切であるように変更することができる。このような変更には、例えば、2種以上の結合剤およびバイオマーカーがともにインキュベートされる同時インキュベーションが含まれる。例えば、分析されるサンプルおよび標識化された結合剤の両方が同時に、固定化された捕捉結合剤に添加される。また、分析されるサンプルおよび標識化された結合剤を最初にインキュベートし、その後、固相に結合した抗体、または固相に結合することができる抗体を添加することもできる。
【0130】
特異的な結合剤とバイオマーカーの間で形成される複合体は、サンプル中に存在するバイオマーカーの量に比例するものとする。適用される結合剤の特異性および/または感度が、サンプル中に含まれる、特異的に結合されうる少なくとも1種のマーカーの割合の程度を規定することと理解されるであろう。測定を実行する方法の詳細については、本明細書の別の箇所にも記載されている。形成された複合体の量は、サンプル中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量に変換されるものとする。
【0131】
「結合剤」、「特異的な結合剤」、「検体に特異的な結合剤」、「検出剤」および「バイオマーカーに特異的に結合する薬剤」という用語は、本明細書では互換可能に使用される。好ましくは、それは、対応するバイオマーカーと特異的に結合する結合部分を含む薬剤に関する。「結合剤」、「検出剤」、「薬剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学物質である。好ましい薬剤は、決定されるバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。本明細書で使用される「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の抗原結合活性を示す限り抗体断片(すなわちその抗原結合断片)を含むが、これらに限定されず、様々な抗体構造を包含する。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体(または、それからの抗原結合断片)である。より好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体(またはその抗原結合断片)であり、したがって、本明細書の他の箇所で説明するように、(サンドイッチ免疫学的検定において)TFPI−2の異なる位置で結合する2つのモノクローナル抗体が使用されることが想定される。したがって、TFPI−2の量を決定するために少なくとも1つの抗体が使用される。
【0132】
一実施形態では、少なくとも1つの抗体は、マウスモノクローナル抗体である。別の実施形態では、少なくとも1つの抗体は、ウサギモノクローナル抗体である。さらなる実施形態では、抗体は、ヤギポリクローナル抗体である。さらに別の実施形態では、抗体は、ヒツジポリクローナル抗体である。
【0133】
「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、結合する対の分子が、その他の分子に有意に結合しない条件下で、互いに結合することを示す結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、バイオマーカーとしてのタンパク質またはペプチドに関する場合、好ましくは結合剤が、対応するバイオマーカーに少なくとも10−1の親和性(「会合定数」K)で結合する結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、標的分子に対して、好ましくは少なくとも10−1、またはさらにより好ましくは少なくとも10−1の親和性を指す。「特異的な」または「特異的に」という用語は、サンプル中に存在するその他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。
【0134】
一実施形態では、本発明の方法は、ヒトTFPI−2および非ヒトまたはキメラTFPI−2特異的結合剤を含むタンパク質複合体を検出することに基づいている。そのような実施形態では、本発明は、対象における心房細動を評価するための方法について読み、前記方法は、(a)前記対象からのサンプルを非ヒトTFPI−2特異的結合剤とともにインキュベートする工程、(b)(a)で形成されたTFPI−2特異的結合剤およびTFPI−2間の複合体を測定する工程、および(c)測定された複合体の量を参照量と比較する工程を含む。参照量を超える複合体の量は、心房細動の診断(したがって存在)、持続性心房細動の存在、ECGを受けるべき対象、または有害事象のリスクを有する対象の指標である。参照量を下回る複合体の量は、心房細動の不存在、発作性心房細動の存在、ECGを受けなくてもよい対象、または有害事象のリスクを有さない対象の指標である。
【0135】
本明細書で使用される「量」という用語は、本明細書で言及されるバイオマーカー(例えば、TFPI−2またはナトリウム利尿ペプチド)の絶対量、上記バイオマーカーの相対量または濃度、およびそれらと相関するまたはそれらから導き出され得る任意の値またはパラメータを包含する。このような値またはパラメータは、直接測定により上記ペプチドから得られる、特定の物理的または化学的特性すべてに由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトルまたはNMRスペクトルでの強度値を含む。さらに、本明細書の別の箇所で明示される間接測定により得られる値またはパラメータすべて、例えば、特異的に結合したリガンドから得られるペプチドまたは強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答量、が包含される。上述の量またはパラメータに相関する値は、すべての標準的な数学的演算によっても得られるということを理解されたい。
【0136】
本明細書で使用される「比較する」という用語は、対象からのサンプル中のバイオマーカー(TFPI−2、およびNT−proBNPまたはBNPなどのナトリウム利尿ペプチドなど)の量を、本明細書の別の箇所で明示されるバイオマーカーの参照量と比較することを指す。比較する、は本明細書で使用される場合、通常、対応するパラメータまたは値の比較を指すということを理解すべきであり、例えば、絶対量は絶対参照量と比較され、濃度は参照濃度と比較され、サンプル中のバイオマーカーから得られる強度シグナルは第1のサンプルから得られる同じタイプの強度シグナルと比較される。比較は、手作業またはコンピュータを利用して実施してもよい。したがって、比較は、計算装置により実施してもよい。対象からのサンプル中のバイオマーカーの決定量または検出量、および参照量についての値は、例えば、互いに比較することができ、また上記比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施されうる。上記評価を実施するコンピュータプログラムは、好適なアウトプット様式で、所望の評価を提供することになる。コンピュータを利用した比較において、決定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な参照に対応する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価できる、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の評価を自動的に提供する。コンピュータを利用した比較において、決定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な参照に対応する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価できる、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の評価を自動的に提供する。
【0137】
本発明によれば、バイオマーカーTFPI−2の量、および任意選択でナトリウム利尿ペプチドの量を参照と比較するものとする。参照は、好ましくは参照量である。「参照量」という用語は、当業者によく理解されている。参照量は、本明細書に記載の心房細動の評価を可能にしなければならないことを理解されたい。例えば、心房細動を診断するための方法に関連して、「参照量」は、好ましくは、対象を(i)心房細動を患う対象のグループ、または(ii)心房細動を患わない対象のグループのいずれかに割り当てることを可能にする量を指す。好適な参照量は、試験サンプルとともに、すなわち同時にまたは連続して分析される第1のサンプルから決定されてもよい。
【0138】
TFPI−2の量は、TFPI−2の参照量と比較され、一方、ナトリウム利尿ペプチドの量は、ナトリウム利尿ペプチドの参照量と比較されることが理解されるべきである。2つのマーカーの量が決定される場合、TFPI−2および少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量に基づいて、併用スコアが計算されることもまた想定される。次の工程では、このスコアが参照スコアと比較される。
【0139】
参照量は、原則として、統計学の標準的方法を適用することにより、所定のバイオマーカーの平均または平均値に基づいて、上記で特定したように対象のコホートに対し算出され得る。特に、事象の診断を目的とする方法などの試験精度は、レシーバー動作特性(ROC)により最もよく説明される(特に、Zweig MH.et al.,Clin.Chem.1993;39:561−577を参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、すべての感度対特異性のペアのプロットである。診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち対象を特定の予後または診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1−特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重複を示す。y軸は、感度、すなわち真陽性率であり、真陽性試験結果の数および偽陰性試験結果の数の積に対する、真陽性試験結果の数の比率として定義される。それは影響を受けるサブグループからのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、または1−特異性であり、これは、真陰性の数および偽陽性結果の数の積(product)に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。これは特異性の指標であり、影響を受けないサブグループから全体的に計算される。真陽性および偽陽性率は、2つの異なるサブグループからの試験結果を使用して完全に別々に算出されるため、ROCプロットはコホートにおける事象罹患率とは無関係である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する感度/1−特異性のペアを表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重複がない)試験は、左上隅を通るROCプロットを有し、真陽性率は1.0、または100%(完全な感度)、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つのグループでの結果の分布が同一である)試験における理論上のプロットは、左上隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間にある。ROCプロットが45°対角線を完全に下回る場合、これは、「陽性」の基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることで、容易に修正される。性質的に、プロットが左上隅に近いほど、試験の全体的な精度が高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導き出すことができ、これにより、感度および特異性それぞれの適切なバランスを備えた所定の事象についての診断が可能になる。したがって、本発明の方法に使用される参照、すなわち心房細動を評価することを可能にする閾値は、好ましくは、上記のように前記コホートのROCを確立し、またそこから閾値量を導出することによって、生成され得る。診断方法における所望の感度および特異性に応じて、ROCプロットは、好適な閾値を導出することができる。心房細動罹患から対象を除外する(すなわちルールアウト)ための最適な感度が所望され、対象が心房細動に罹患していると評価(すなわちルールイン)されるための最適な特異性が想定されることが理解されるだろう。一実施形態では、本発明の方法によって、対象が心房細動に関連する有害事象、例えば心房細動の発生もしくは再発および/または脳卒中のリスクを有するか、予測することができる。
【0140】
好ましい実施形態では、本明細書の「参照量」という用語は、所定の値を指す。前記所定の値は、心房細動の評価、したがって心房細動の診、発作性心房細動と持続性心房細動との区別、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定、または心房細動の治療の評価を可能にするものとする。参照量は、評価の種類によって異なり得ることを理解されたい。例えば、AFの区別用のTFPI−2の参照量は、通常、AFの診断用の参照量よりも高いであろう。しかしながら、これは当業者により考慮されるであろう。
【0141】
上記のように、「心房細動の評価」という用語は、好ましくは、心房細動の診断、発作性心房細動と持続性心房細動との区別、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測、心電図検査(ECG)を受けるべき対象の特定、または心房細動の治療の評価を指す。以下では、本発明の方法のこれらの実施形態をより詳細に説明する。上記の定義は適宜適用される。
【0142】
心房細動の診断方法
本明細書で使用される「診断する」という用語は、本発明の方法に従って言及される対象が、心房細動(AF)に罹患しているか否かを評価することを意味する。一実施形態では、対象はAFに罹患していると診断される。好ましい実施形態では、対象は発作性心房細動に罹患していると診断される。代替の実施形態では、対象はAFに罹患していないと診断される。
【0143】
本発明によれば、すべてのタイプのAFを診断することができる。したがって、心房細動は、発作性、持続性、または永続性AFであり得る。好ましくは、持続性心房細動は、特に永続性心房細動に罹患していない対象において診断される。
【0144】
対象がAFに罹患しているか否かの実際の診断は、診断の確認(例えば、Holter−ECGなどのECGによる)などのさらなる工程を含み得る。したがって、本発明は、患者の心房細動罹患の可能性を評価することを可能にする。参照量を超えるTFPI−2の量を有する対象は、心房細動罹患の可能性が高いが、参照量を下回るTFPI−2の量を有する対象は、心房細動罹患の可能性が低い。したがって、本発明の文脈における「診断する」という用語は、対象が心房細動に罹患しているか否かを評価するために医師を支援することも包含する。
【0145】
好ましくは、試験対象からのサンプル中のTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)が、1つまたは複数の参照量と比較して増加していることは、心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/またはTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)が、1つまたは複数の参照量と比較して減少していることは、心房細動に罹患していない対象の指標である。
【0146】
好ましい実施形態では、参照量、すなわち参照量TFPI−2、および決定されれば、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量は、心房細動に罹患している対象と心房細動に罹患していない対象との区別を可能にするものとする。好ましくは、前記参照量は、予め決められた値である。
【0147】
一実施形態では、本発明の方法は、心房細動に罹患する対象の診断を可能にする。好ましくは、TFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)が参照量を上回る場合、対象はAFに罹患している。一実施形態では、TFPI−2の量が参照量の特定のパーセンタイル(例えば、99パーセンタイル)の参照上限(URL)を超える場合、対象はAFに罹患している。
【0148】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法は、対象が心房細動に罹患していないという診断を可能にする。好ましくは、TFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)が参照量(特定のパーセンタイルURLなど)を下回る場合、対象はAFに罹患していない。したがって、一実施形態では、「心房細動を診断する」という用語は、「心房細動をルールアウトする」ことを指す。
【0149】
心房細動をルールアウトすることは、ECG試験などの心房細動診断のためのさらなる診断試験を回避できるため、特に興味深い。したがって、本発明によって、不必要な医療費を回避することができる。
【0150】
したがって、本発明はまた、心房細動をルールアウトするための方法であって、
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量を参照量と比較する工程を含み、それにより心房細動をルールアウトする方法に関する。
【0151】
好ましくは、対象のサンプル中のバイオマーカーTFPI−2の量の、参照量(心房細動をルールアウトするための参照など)と比較した減少は、心房細動に罹患していない対象、したがって、対象の心房細動をルールアウトする指標である。例えば、TFPI−2の参照量は、AFに罹患していない対象からのサンプル、またはそのグループのサンプルから決定され得る。
【0152】
バイオマーカーTFPI−2およびナトリウム利尿ペプチドの組み合わせで決定すると、さらに信頼性の高いルールアウトが達成され得る。したがって、工程a)およびb)は、好ましくは以下の通りである。
【0153】
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量およびナトリウム利尿ペプチドの量を決定すること、および
b)TFPI−2およびナトリウム利尿ペプチドの量を参照量と比較することにより、心房細動をルールアウトすること。
【0154】
好ましくは、対象のサンプル中の両方のバイオマーカーの量、すなわちバイオマーカーTFPI−2の量および少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、それぞれの参照量(心房細動をルールアウトするための参照量など)と比較して減少していることは、心房細動に罹患していない対象、したがって対象の心房細動をルールアウトする指標である。例えば、ナトリウム利尿ペプチドの参照量は、AFに罹患していない対象からのサンプル、またはそのグループのサンプルから決定することができる。
【0155】
心房細動を診断する方法の一実施形態では、前記方法は、診断の結果に基づいて心房細動の治療を推奨および/または開始する工程をさらに含む。好ましくは、対象がAFに罹患していると診断された場合、治療が推奨または開始される。心房細動の好ましい治療は、本明細書の他の箇所に開示されている。
【0156】
発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する方法
本明細書で使用される「区別する」という用語は、対象における発作性心房細動と持続性心房細動とを区別することを意味する。本明細書で使用される用語は、好ましくは、対象における発作性および持続性心房細動を区別して診断することを含む。したがって、本発明の方法は、心房細動を有する対象が、発作性心房細動または持続性心房細動に罹患しているかどうかを評価することを可能にする。実際の区別は、区別の確認などのさらなる工程を含み得る。したがって、本発明の文脈における「区別」という用語は、発作性心房細動と持続性心房細動とを区別するために医師を支援することも包含する。
【0157】
好ましくは、対象からのサンプル中のTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)が、1つまたは複数の参照量と比較して増加していることは、持続性心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/またはTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)が、1つまたは複数の参照量と比較して減少していることは、発作性心房細動に罹患している対象の指標である。両方のAFタイプ(発作性および持続性)において、TFPI−2の量は、非AF対象の参照量と比較して増加している。
【0158】
好ましい実施形態では、参照量は、発作性心房細動を患っている対象と持続性心房細動を患っている対象との区別を可能にするものとする。好ましくは、前記参照量は、予め決められた値である。
【0159】
発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する上記の方法の実施形態では、対象は永続性心房細動に罹患していない。
【0160】
心房細動に関連する有害事象のリスクを予測する方法
本発明の方法はまた、有害事象のリスクを予測するための方法を企図する。
【0161】
一実施形態では、本明細書に記載の有害事象のリスクは、心房細動に関連する任意の有害事象の予測であり得る。好ましくは、前記有害事象は、心房細動の再発(電気的除細動後の心房細動の再発など)および脳卒中から選択される。したがって、対象(心房細動に罹患)が将来、有害事象(脳卒中または心房細動の再発など)を患うリスクが予測される。
【0162】
さらに、心房細動に関連する前記有害事象は、心房細動の既知の病歴を有さない対象における心房細動の発生であると想定される。
【0163】
特に好ましい実施形態では、脳卒中のリスクが予測される。
【0164】
したがって、対象の脳卒中のリスクを予測するための本発明の方法は、
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量を参照量と比較する工程を含み、それにより脳卒中のリスクを予測する。
【0165】
特に、本発明は、対象の脳卒中のリスクを予測するための方法であって、
(a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
(b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、脳卒中のリスクを予測する方法に関する。
【0166】
好ましくは、本明細書で使用される「リスクを予測する」という用語は、対象が本明細書で言及される有害事象(例えば脳卒中)を患うであろう確率を評価することを指す。典型的には、対象が前記有害事象を患うリスクがある(よってリスクが高い)か、リスクがない(よってリスクが低い)かどうかが予測される。したがって、本発明の方法は、前記有害事象を患うリスクのある対象と、リスクのない対象とを区別することを可能にする。さらに、本発明の方法は、対象のリスクを低い、平均、または高い、に区別することを可能にすることが想定される。
【0167】
上記のように、特定の時間ウィンドウ内に前記有害事象を患うリスク(および確率)が予測されるものとする。本発明の好ましい実施形態では、予測ウィンドウは、約3ヶ月、約6ヶ月、または特に、約1年の期間である。このように、短期的なリスクが予測される。
【0168】
別の好ましい実施形態では、予測ウィンドウは、約5年の期間である(例えば、脳卒中の予測のため)。さらに、予測ウィンドウは、約6年の期間であってもよい(例えば、脳卒中の予測のため)。あるいは、予測ウィンドウは、約10年であってもよい。また、予測ウィンドウは、1〜3年の期間であることが想定される。したがって、1〜3年以内に脳卒中を患うリスクが予測される。また、予測ウィンドウは、1〜10年の期間であることが想定される。したがって、1〜10年以内に脳卒中を患うリスクが予測される。
【0169】
好ましくは、前記予測ウィンドウは、本発明の方法の完了から計算される。より好ましくは、前記予測ウィンドウは、試験されるサンプルが採取された時点から計算される。当業者によって理解されるように、リスクの予測は、通常、対象の100%について正しいことを意図するものではない。しかしながら、この用語は、予測が統計的に有意な部分の対象について、適切かつ正確な方法で行われることを要する。部分が統計的に有意であるかどうかは、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン−ホイットニー検定などの様々な周知の統計評価ツールを使用して、当業者がすぐさま決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research、John Wiley&Sons、New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0170】
好ましい実施形態では、「前記有害事象を患うリスクを予測する」という表現は、本発明の方法によって分析される対象が、前記有害事象を患うリスクのある対象のグループ、または前記有害事象(脳卒中など)を患うリスクがない対象のグループのいずれかに割り当てられることを意味する。したがって、対象が前記有害事象を患うリスクがあるかどうかが予測される。本明細書で使用される「前記有害事象を患うリスクがある対象」は、好ましくは前記有害事象を患うリスクが高い(好ましくは、予測ウィンドウ内)。好ましくは、上記リスクは、対象のコホートにおける平均リスクと比較して上昇する。本明細書で使用される場合、「前記有害事象を患うリスクがない対象」は、好ましくは、前記有害事象を患うリスクが低い(好ましくは予測ウィンドウ内)。好ましくは、上記リスクは、対象のコホートにおける平均リスクと比較して低下する。前記有害事象を患うリスクがある対象は、好ましくは、約1年の予測ウィンドウ内で、少なくとも20%、またはより好ましくは少なくとも30%の前記有害事象、例えば心房細動の再発または発生などを患うリスクを有する。前記有害事象を患うリスクがない対象は、好ましくは1年の予測ウィンドウ内で、好ましくは12%未満、より好ましくは10%未満の前記有害事象を患うリスクを有する。
【0171】
脳卒中の予測に関して、前記有害事象を患うリスクがある対象は、好ましくは約5年、または特に約6年の予測ウィンドウ内で、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも13%の前記有害事象を患うリスクを有する。前記有害事象を患うリスクがない対象は、好ましくは約5年、または特に約6年の予測ウィンドウ内で、好ましくは10%未満、より好ましくは8%未満、最も好ましくは5%未満の前記有害事象を患うリスクを有する。対象が抗凝固療法を受けていない場合、リスクは上昇し得る。しかしながら、これは当業者により考慮されるだろう。
【0172】
好ましくは、対象からのサンプル中のTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した増加は、心房細動に関連する有害事象のリスクがある対象の指標であり、かつ/または対象からのサンプル中のTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した減少は、心房細動に関連する有害事象のリスクがない対象の指標である。
【0173】
好ましい実施形態では、1つまたは複数の参照量は、本明細書で言及されるような有害事象のリスクがある対象と、前記有害事象のリスクがない対象とを区別することを可能にするものとする。好ましくは、前記参照量は、予め決められた値である。
【0174】
本発明の方法によれば、脳卒中のリスクが予測されるものとする。「脳卒中」という用語は、当該技術分野において周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、虚血性脳卒中、特に脳虚血性脳卒中を指す。本発明の方法によって予測される脳卒中は、脳細胞への酸素の供給不足をもたらす、脳またはその部分への血流の減少によって引き起こされるものとする。特に、脳卒中は、脳細胞死によって、不可逆的な組織損傷をもたらす。脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。虚血性脳卒中は、主要な大脳動脈のアテローム血栓症または塞栓症によって、凝固障害または非アテローム性血管疾患によって、または全体的な血流の減少につながる心虚血によって引き起こされる可能性がある。上記虚血性脳卒中は、アテローム血栓性脳卒中、心塞栓性脳卒中および小窩性卒中からなる群から選択されることが好ましい。好ましくは、予測される脳卒中は、急性虚血性脳卒中、特に心塞栓性脳卒中である。心塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性または血栓塞栓性脳卒中とも呼ばれる)は、心房細動によって引き起こされ得る。
【0175】
好ましくは、前記脳卒中は、心房細動に関連しているものとする。より好ましくは、脳卒中は、心房細動によって引き起こされるものとする。しかしながら、対象が心房細動の病歴を有さないことも想定されている。
【0176】
好ましくは、脳卒中と心房細動のエピソードとの間に時間的関係がある場合、脳卒中は心房細動と関連している。より好ましくは、脳卒中が心房細動によって引き起こされる場合、脳卒中は心房細動と関連している。最も好ましくは、脳卒中が心房細動によって引き起こされ得る場合、脳卒中は心房細動と関連している。例えば、心塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性または血栓塞栓性脳卒中とも呼ばれる)は、心房細動によって引き起こされ得る。好ましくは、AFに関連する脳卒中は、経口抗凝固療法によって予防することができる。
【0177】
また好ましくは、試験される対象が心房細動に罹患している、および/またはその既知の病歴を有する場合、脳卒中は心房細動に関連していると見なされる。また、一実施形態では、対象が心房細動に罹患していると疑われる場合、脳卒中は心房細動に関連していると見なしてもよい。
【0178】
「脳卒中」という用語は、好ましくは、出血性脳卒中を含まない。対象が、脳卒中、特に虚血性脳卒中を患っているかどうかは、周知の方法によって判定することができる。さらに、脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。例えば、脳卒中の症状としては、顔、腕、脚、特に体の片側の突然のしびれや脱力、突然の混乱、会話や理解の障害、片目または両目の突然の見えづらさ、突然の歩行困難、めまい、バランスまたは調整の喪失などが挙げられる。
【0179】
「比較する」、「量」、「対象」、および「決定する」などの用語は、本明細書の他の場所で定義されている。定義は状況に応じて適用される。例えば、サンプルは、好ましくは、血液、血清または血漿サンプルである。
【0180】
有害事象(脳卒中など)を予測する前述の方法の好ましい実施形態では、試験される対象は、心房細動を患っている。より好ましくは、対象は、心房細動の既知の病歴を有する。有害事象を予測するための方法によれば、対象は、好ましくは永続性心房細動、より好ましくは持続性心房細動、最も好ましくは発作性心房細動を患っている。
【0181】
有害事象を予測する方法の一実施形態では、心房細動を患う対象は、サンプルの採取時に心房細動のエピソードを経験している。有害事象を予測する方法の別の実施形態では、心房細動を患う対象は、サンプルの採取時に心房細動のエピソードを経験していない(したがって、正常な洞調律を有するものとする)。さらに、リスクが予測される対象は、抗凝固療法を受けていてもよい。
【0182】
有害事象(脳卒中など)を予測する前述の方法の別の好ましい実施形態では、試験される対象は、脳卒中の病歴を有する。
【0183】
有害事象(脳卒中など)を予測する前述の方法の別の好ましい実施形態では、試験される対象は、血栓塞栓症の病歴を有する。
【0184】
有害事象を予測する方法の別の実施形態では、試験される対象は、心房細動の既知の病歴を有していない。特に、対象は心房細動に罹患していないことが想定される。
【0185】
本発明の方法は、個別化医療を支援することができる。好ましい一実施形態では、対象の脳卒中のリスクを予測する方法は、対象が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合に、i)抗凝固療法を推奨する工程、またはii)抗凝固療法の強化を推奨する工程をさらに含む。
【0186】
別の好ましい実施形態では、対象の脳卒中のリスクを予測する方法は、(本発明の方法によって)対象が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合、i)抗凝固療法を開始する工程、またはii)抗凝固療法を強化する工程をさらに含む。
【0187】
対象が抗凝固療法を受けている場合、および(本発明の方法により)対象が脳卒中を患うリスクがないと特定された場合、抗凝固療法の投与量を減らすことができる。したがって、投与量の削減を推奨することができる。投与量を減らすことで、副作用(出血など)に苦しむリスクが低減され得る。
【0188】
本明細書で使用される「推奨する」という用語は、対象に適用できる治療法の提案を確立することを意味する。推奨される治療は、本発明の方法によって提供される結果に依存する。
【0189】
特に、以下が適用される。
【0190】
試験される対象が抗凝固療法を受けていない場合、対象が脳卒中を患うリスクがあると特定されていれば、抗凝固療法の開始が推奨される。このように、抗凝固療法を開始するものとする。
【0191】
試験される対象がすでに抗凝固療法を受けている場合、対象が脳卒中を患うリスクがあると特定されていれば、抗凝固療法の強化が推奨される。このように、抗凝固療法を強化するものとする。
【0192】
好ましい実施形態では、抗凝固療法は、抗凝固剤の投与量、すなわち、現在投与されている凝固剤の投与量を増加させることによって強化される。
【0193】
特に好ましい実施形態では、抗凝固療法は、現在投与されている抗凝固剤の、より効果的な抗凝固剤への置き換えを増やすことによって強化される。このように、抗凝固剤の置き換えが推奨される。
【0194】
Hijazi at al、The Lancet 2016 387,2302−2311(図4)に示されているように、高リスク患者のより良い予防は、ビタミンK拮抗薬ワルファリンと比較して経口抗凝固剤アピキサバンで達成されることが記載されている。
【0195】
したがって、試験される対象は、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬で治療される対象であることが想定される。対象が脳卒中を患うリスクがあると(本発明の方法により)特定された場合、ビタミンK拮抗薬の経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンまたはアピキサバンによる置き換えが推奨される。したがって、ビタミンK拮抗薬による治療が中止されることにより、経口抗凝固剤による治療が開始される。
【0196】
本発明の基礎となる研究では、TFPI−2の決定により、対象の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善できることがさらに示されている。したがって、臨床的脳卒中リスクスコアの決定およびTFPI−2の決定を組み合わせることにより、TFPI−2のみの決定または臨床的脳卒中リスクスコアのみの決定と比較して、より信頼性の高い脳卒中の予測が可能になる。(実施例3を参照)
【0197】
したがって、脳卒中のリスクを予測するための方法は、TFPI−2の量および臨床的脳卒中リスクスコアの組み合わせをさらに含んでもよい。TFPI−2の量および臨床的リスクスコアの組み合わせに基づいて、対象の脳卒中のリスクが予測される。
【0198】
前述の方法の一実施形態では、この方法は、TFPI−2の量と参照量との比較をさらに含む。この場合、比較の結果は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。
【0199】
したがって、本発明は、特に、対象の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)対象からのサンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程を含み、それにより前記対象の脳卒中のリスクを予測する、方法に関する。
【0200】
本発明の方法によれば、対象は、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する対象であることが想定される。したがって、臨床的脳卒中リスクスコアの値は、対象について既知である。
【0201】
あるいは、この方法は、臨床的脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。好ましくは、値は数値である。一実施形態では、臨床的脳卒中リスクスコアは、医師が利用できる臨床ベースのツールの1つによって生成される。好ましくは、その値は、対象の臨床的脳卒中リスクスコアの値を決定することによって提供されたものである。より好ましくは、値は、患者記録データベースおよび対象の病歴から得られる。したがって、スコアの値は、対象の病歴データまたは公開データを使用して決定することもできる。
【0202】
本発明によれば、TFPI−2の量は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、TFPI−2の量の値が、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。したがって、これらの値は、対象が脳卒中を患うリスクを予測するために機能的に組み合わされる。値を組み合わせることにより、単一の値を計算でき、それ自体を上記予測に使用することができる。
【0203】
臨床的脳卒中リスクスコアは、当該技術分野において周知である。例えば、前記スコアは、Kirchhof P.et al.、(European Heart Journal 2016;37:2893−2962)に記載されており、その開示内容全体について、参照により本明細書に組み込まれる。一実施形態では、スコアは、CHADS−VASc−スコアである。別の実施形態では、スコアは、CHADSスコア(Gage BF.Et al.,JAMA,285(22)(2001),pp.2864−2870)およびABCスコア(Hijazi Z.et al.、Lancet 2016;387(10035):2302−2311)である。
【0204】
臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法
本発明はさらに、対象の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)サンプル中のTFPI−2の量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量の値を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程を含み、それにより、臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法に関する。
【0205】
この方法は、工程b)の結果に基づいて上記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する、さらなる工程c)を含んでもよい。
【0206】
好ましい実施形態では、前述の方法の工程a)およびb)は、以下の通り、
a)既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)TFPI−2の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM−1、Ang2、IGFBP7を含む1つ以上のバイオマーカーの量の値を、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせる工程であり、それにより前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する。
【0207】
本明細書での上記の定義および説明は、心房細動の評価方法、特に有害事象(脳卒中など)のリスクを予測する方法に関連して、好ましくは、上述の方法にも適用され、なお、例えば、対象は、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する対象であることが想定される。あるいは、この方法は、臨床的脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。
【0208】
本発明によれば、TFPI−2の量は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、TFPI−2の量の値が、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。その結果、これらの値を機能的に組み合わせて、臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を向上させる。
【0209】
心電図検査(ECG)を受けるべき対象を特定する方法
本発明の方法のこの実施形態によれば、バイオマーカーで試験される対象は、心電図検査(ECG)、すなわち心電図評価を受けるべきかどうかが評価されるものとする。前記評価は、前記対象において、診断のために、すなわち、AFの存在または欠如を検出するために実施されるものとする。
【0210】
本明細書で使用される「対象を特定する」という用語は、好ましくは、対象のサンプル中のTFPI−2の量に関して生成された情報またはデータを使用して、ECGを受けるべき対象を特定することを指す。特定された対象は、AFに罹患している可能性が高い。ECG評価は、確認として行われる。
【0211】
心電図検査(略してECG)は、好適なECGによって心臓の電気的活動を記録するプロセスである。ECG装置は、心臓によって生成され、体全体から皮膚に広がる電気信号を記録する。電気信号の記録は、対象の皮膚をECG装置に含まれる電極と接触させることによって達成される。記録を取得するプロセスは、非侵襲的であり、リスクがない。ECGは、心房細動を診断するために、すなわち、対象における心房細動の存在または欠如を評価するために実行される。本発明の方法の実施形態では、ECG装置は、1リード装置(1リードハンドヘルドECG装置)である。別の好ましい実施形態では、ECG装置は、ホルターモニターなどの12リードECG装置ある。
【0212】
好ましくは、試験対象からのサンプル中のTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した増加しは、ECGを受けるべき対象の指標であり、かつ/またはTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した減少は、ECGを受けなくてもよい対象の指標である。
【0213】
好ましい実施形態では、参照量は、ECGを受けるべき対象と、ECGを受けなくてもよい対象との区別を可能にするものとする。好ましくは、前記参照量は、予め決められた値である。
【0214】
心房細動の治療の評価方法
本明細書で使用される場合、「心房細動の治療を評価する」という用語は、好ましくは、心房細動を治療することを目的とする治療の評価を指す。好ましい実施形態では、前記治療は抗凝固療法である。したがって、本発明は、抗凝固療法を評価するための方法を包含する。
【0215】
例えば、治療(例えば、抗凝固療法)の有効性が評価されるものとする。心房細動の治療の評価には、治療(例えば、抗凝固療法)のモニタリングが含まれる。さらに、心房細動の治療の評価には、少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であるか、または強化抗凝固療法に適格である対象の特定が含まれる。心房細動の治療の評価による対象は、心房細動に罹患していても、またはしていなくてもよい。
【0216】
評価される治療は、心房細動を治療することを目的とする任意の治療であり得る。好ましくは、前記治療は、少なくとも1つの抗凝固剤の投与(すなわち、抗凝固療法)、リズムコントロール、レートコントロール、電気的除細動およびアブレーションからなる群から選択される。前記治療は当技術分野でよく知られており、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Fuster V et al.Circulation 2011;123:e269−e367にて概説されている。
【0217】
一実施形態では、治療は、少なくとも1つの抗凝固剤の投与、すなわち抗凝固療法である。抗凝固療法は、好ましくは、上記対象における抗凝固のリスクを低減することを目的とする治療である。少なくとも1つの抗凝固剤を投与することは、血液の凝固および関連する脳卒中を低減または防止することを目的とする。好ましい一実施形態では、少なくとも1つの抗凝固剤は、ヘパリン、クマリン誘導体(すなわち、ビタミンK拮抗薬)、特にワルファリンまたはジクマロール、経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンまたはアピキサバン、組織因子経路阻害剤(TFPI)、アンチトロンビンIII、第IXa因子阻害剤、第Xa因子阻害剤、第Va因子と第VIIIa因子の阻害剤、およびトロンビン阻害剤(抗IIa型)からなる群から選択される。したがって、対象は上記の少なくともいずれか1つの薬剤を服用することが想定される。
【0218】
好ましい実施形態では、抗凝固剤は、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬である。ワルファリンやジクマロールなどのビタミンK拮抗薬は、安価だが、不便で扱いにくく、また治療範囲において時間変動を伴う信頼性の低い治療が多いため、患者のコンプライアンスを向上する必要がある。NOAC(新しい経口抗凝固剤)は、直接第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン)、直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン)およびPAR−1拮抗薬(ボラパクサル、アトパキサール)を含む。
【0219】
別の好ましい実施形態では、抗凝固剤は、経口抗凝固剤、特にアピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、ボラパクサル、またはアトパキサールである。
【0220】
したがって、試験される対象は、試験時(すなわち、サンプルを受け取る時)に、経口抗凝固剤またはビタミンK拮抗薬による治療を受けている可能性がある。
【0221】
好ましい実施形態では、心房細動の治療の評価は、前記治療のモニタリングである。この実施形態では、参照量は、好ましくは、本明細書で第1のサンプルとも呼ばれる、先に採取されたサンプル(すなわち、工程aの試験サンプルより前に採取されたサンプル)中のTFPI−2の量である。
【0222】
任意選択で、本明細書で言及される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、TFPI−2の量に加えて決定される。
【0223】
したがって、本発明は、対象において、抗凝固療法をモニタリングする方法など、心房細動の治療をモニタリングする方法であって、
(a)対象からの第1のサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
(b)前記第1のサンプルの後に対象から得た第2のサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
c)第1のサンプル中のTFPI−2の量を前記第2のサンプル中のTFPI−2の量と比較する工程、および任意選択で、第1のサンプル中の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記第2のサンプル中の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量と比較する工程を含み、それにより抗凝固療法などの治療法をモニタリングする方法に関する。
【0224】
上記方法の一実施形態では、対象は心房細動に罹患している。上記方法の別の実施形態では、対象は心房細動に罹患していない。
【0225】
本明細書で使用される「モニタリング」という用語は、好ましくは、本明細書の他の場所で言及される治療の効果を評価することに関する。したがって、治療(抗凝固療法など)の有効性がモニタリングされる。
【0226】
前述の方法は、工程c)で実行された比較工程の結果に基づいて治療をモニタリングする、さらなる工程を含み得る。当業者によって理解されるように、リスクの予測は、通常、対象の100%について正しいことを意図するものではない。しかしながら、この用語は、予測が統計的に有意な部分の対象について、適切かつ正確な方法で行われることを要する。したがって、実際のモニタリングは、確認などのさらなる工程を含み得る。
【0227】
好ましくは、本発明の方法を実施することにより、対象が前記治療に反応するか否かを評価することができる。対象の状態が、第1と第2のサンプル採取の間に改善した場合、対象は治療に反応する。好ましくは、第1と第2のサンプル取得の間に状態が悪化した場合、対象は治療に反応しない。
【0228】
治療が心房細動の再発のリスクを低減する場合、対象は、好ましくは、治療に反応すると見なされる。治療が心房細動の再発のリスクを低減しない場合、対象は、好ましくは、治療に反応しないと見なされる。
【0229】
あるいは、抗凝固療法に反応する対象は、好ましくは、第1と第2のサンプル採取の間に脳卒中のリスクが低下する対象である。抗凝固療法に反応しない対象は、好ましくは、第1と第2のサンプル採取の間に脳卒中のリスクが増加する、または変化しない対象である。脳卒中のリスクが増加するか、減少するか、または変化しないかどうかは、例えば、対象の臨床的脳卒中リスクスコアを評価することによって決定され得る。好ましいスコアは、本明細書の他の場所に開示されている。
【0230】
好ましくは、第1のサンプルは、前記治療の開始前に採取される。より好ましくは、サンプルは、前記治療の開始前の1週間以内に、特に2週間以内に採取される。しかしながら、第1のサンプルは、前記治療の開始後(ただし、第2のサンプルが採取される前)に採取され得ることも企図される。この場合、進行中の治療がモニタリングされる。
【0231】
したがって、第2のサンプルは、第1のサンプルの後に採取されるものとする。第2のサンプルは、前記治療の開始後に採取されなければならないことを理解されたい。
【0232】
さらに、第2のサンプルは、第1のサンプル採取後、合理的な期間の後に採取されることが特に企図される。本明細書で言及されるバイオマーカーの量は、即座に(例えば、1分または1時間以内)変化しないことを理解されたい。したがって、この文脈における「合理的」は、バイオマーカーの調整を可能にする、第1および第2のサンプルの採取間隔を指す。したがって、第2のサンプルは、好ましくは、前記第1のサンプルの少なくとも1ヶ月後、前記第1のサンプルの少なくとも3ヶ月、または特に、少なくとも6ヶ月後に採取される。
【0233】
第1のサンプル中のバイオマーカーの量と比較した、第2のサンプル中のバイオマーカー、すなわちTFPI−2および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドの量の、好ましくは減少、より好ましくは有意な減少、最も好ましくは統計的に有意な減少は、治療法に反応する対象の指標である。したがって、治療は有効である。また、好ましくは第2のサンプル中のTFPI−2濃度の無変化、またはバイオマーカー量の、第1のサンプル中のバイオマーカー量と比較した増加、より好ましくは有意な増加、最も好ましくは統計的に有意な増加は、治療法に反応しない対象の指標である。したがって、治療は有効でない。
【0234】
「有意」および「統計的に有意」という用語は、当業者に知られている。したがって、増加または減少が有意であるか、または統計的に有意であるかは、様々な周知の統計評価ツールを使用して当業者によってさらに苦労することなく決定することができる。例えば、有意な増加または減少は、少なくとも10%、特に少なくとも20%の増加または減少である。
【0235】
一実施形態では、対象が治療に反応しない場合、治療法の強度が上げられる。さらに、対象が治療に反応する場合、治療の強度が下げられることが想定される。あるいは、対象が治療に反応した場合、治療は同じ強度で継続することができる。
【0236】
例えば、治療の強度は、投与される薬剤の用量を増やすことによって上げることができる。例えば、治療法の強度は、投与される薬剤の用量を減らすことによって下げることができる。同じ強度で治療を継続する場合、投与される薬剤および用量を変えなくてもよい。抗凝固療法の強度の増加に関しては、対象の抗凝固療法の有効性の評価に関連してなされた説明など、本明細書の他の場所でなされた説明を参照されたい。
【0237】
別の好ましい実施形態では、心房細動の治療の評価は、心房細動の治療のガイダンスである。本明細書で使用される「ガイダンス」という用語は、好ましくは、治療中のバイオマーカー、すなわちTFPI−2の決定に基づく、経口抗凝固剤の用量の増加または減少など、治療の強度を調整することに関する。
【0238】
さらに好ましい実施形態では、心房細動の治療の評価は、心房細動の治療の階層化である。したがって、心房細動の一定の治療に適格な対象が特定されるものとする。本明細書で使用される「階層化」という用語は、好ましくは、個別のリスク、特定された分子経路、および/または個別の薬物もしくは手順の予想される有効性に基づいて、適切な治療を選択することに関する。検出されたリスクに応じて、特に不整脈に関連する症状が極小またはまったくない患者は、心室レートコントロール、電気的除細動またはアブレーションに適格となり、そうでなければ抗血栓療法のみを受けることになるだろう。
【0239】
本発明の方法は、対象の抗凝固療法の有効性を評価するために使用することができる。一実施形態では、抗凝固療法の有効性は、以下の工程を実行することによって評価される。
【0240】
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程。それにより、抗凝固療法の有効性が評価される。
【0241】
好ましくは、試験対象からのサンプル中のTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した増加は、治療が有効でないことを示し、かつ/またはTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した減少は、治療が有効であることを示す。
【0242】
対象が抗凝固療法を受けており、かつ上記の方法で治療が有効でないことが示された場合は、抗凝固療法の強化が推奨される。したがって、抗凝固療法が強化されるか、または抗凝固剤の交換が推奨されるものとする。
【0243】
本発明の方法は、少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であるか、または強化抗凝固療法に適格である対象を特定するために使用することができる。これは、以下の工程を実行することで達成することができる。
【0244】
a)対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程。それにより、前記少なくとも1つの薬剤の投与または強化抗凝固療法に適格である対象を特定する。
【0245】
好ましくは、試験対象からのサンプル中のTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)の、1つまたは複数の参照量と比較した増加は、対象が少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であるか、または強化抗凝固療法に適格であることを示す。対象からのサンプル中のTFPI−2の量(および任意選択で、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7および/またはナトリウム利尿ペプチドなどの少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量)が、1つまたは複数の参照量と比較して減少すると、対象は少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格でないか、または強化抗凝固療法に適格でない。試験対象が抗凝固療法を受けており、かつ対象が少なくとも1つの抗凝固薬の増加に適格でないと特定された場合、抗凝固療法の投与量をさらに減らすことができる。
【0246】
参照量は、少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格である対象と、少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格ではない対象との間の区別を可能にするものとする。代替的または追加的に、参照量は、抗凝固療法の強化に適格である対象と、抗凝固療法の強化に適格ではない対象との間の区別を可能にするものとする。
【0247】
特に、以下が適用される。
【0248】
試験される対象が抗凝固療法を受けていない場合、前述の方法は、少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格である対象を特定するために実行される。対象が少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であると特定された場合、少なくとも1つの抗凝固薬の投与が推奨される。したがって、少なくとも1つの抗凝固薬の投与による治療を開始するものとする。
【0249】
試験される対象が、すでに抗凝固療法(すなわち、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬の投与などの薬物療法)を受けている場合、抗凝固療法の強化に適格である対象を特定するために前述の方法が実行される。対象が抗凝固療法の強化に適格であると特定された場合、抗凝固療法の強化が推奨される。
【0250】
一実施形態では、抗凝固療法は、抗凝固剤の投与量、すなわち現在投与されている抗凝固剤の投与量を増加させることによって強化される。
【0251】
別の実施形態では、抗凝固療法は、現在投与されている抗凝固剤をより効果的な抗凝固剤で置き換えることによって強化される。このように、抗凝固剤の置き換えが推奨される。
【0252】
上記のように、高リスク患者のより良い予防は、Hijazi at al,The Lancet 2016 387,2302−2311,(図4)に示されているように、ビタミンK拮抗薬ワルファリンと比較して、経口抗凝固剤アピキサバンで達成されることが記載されている。
【0253】
したがって、試験される対象は、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬で治療される対象であり得ることが想定される。対象が抗凝固療法の強化に適格であると特定された場合、対象は、ビタミンK拮抗薬を経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバン、またはアピキサバンに置き換えるのに適格である。したがって、ビタミンK拮抗薬による治療が中止されることにより、経口抗凝固剤による治療が開始される。
【0254】
本発明はさらに、心房細動の評価を支援する方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルを提供する工程、
b)工程a)で提供された少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
c)バイオマーカーTFPI−2の決定された量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供する工程を含み、それにより心房細動の評価を支援する方法に関する。
【0255】
医師は主治医、すなわちバイオマーカーの決定を要求した医師であるものとする。上記方法は、心房細動の評価において主治医を支援するものとする。したがって、この方法は、心房細動を評価する方法に関連して上記で言及された診断、予測、モニタリング、区別、特定を含有しない。
【0256】
サンプルを採取する上記方法の工程a)は、対象からのサンプルの抽出を包含しない。好ましくは、サンプルは、上記対象からサンプルを受け取ることによって採取する。このように、サンプルは引き渡される可能性がある。
【0257】
一実施形態では、上記の方法は、脳卒中の予測を支援する方法であり、前記方法は、
a)心房細動を評価する方法に関連して、特に心房細動を予測する方法に関連して、本明細書で言及される対象からの少なくとも1つのサンプルを提供する工程、
b)バイオマーカーTFPI−2の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
c)バイオマーカーTFPI−2の決定された量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供する工程を含み、それにより脳卒中の評価を支援する。
【0258】
本発明はさらに、
a)バイオマーカーTFPI−2のアッセイ、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択されるさらなるバイオマーカーの少なくとも1つのさらなるアッセイを提供する工程、および
b)心房細動の評価において、前記アッセイによって得られた、または得られるアッセイ結果を使用するための指示を提供する工程を含む、方法に関する。
【0259】
前述の方法の目的は、好ましくは、心房細動の評価を支援することである。
【0260】
本明細書に記載されるように、上記指示は、心房細動を評価する方法を実行するためのプロトコルを含むものとする。さらに、指示は、TFPI−2の参照量の少なくとも1つの値、および任意選択でナトリウム利尿ペプチドの参照量の少なくとも1つの値を含むものとする。
【0261】
「アッセイ」は、好ましくは、バイオマーカーの量を決定するために構成されたキットである。「キット」という用語については、以下で説明する。例えば、前記キットは、バイオマーカーTFPI−2用の少なくとも1つの検出剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤を含むものとする。したがって、1〜4つの検出剤が存在し得る。1〜4つのバイオマーカー用の検出剤は、単一のキットまたは個別のキットで提供され得る。
【0262】
上記試験により得られた試験結果または得ることができる試験結果は、バイオマーカーの量の値である。
【0263】
一実施形態では、工程b)は、(本明細書の他の箇所で記載されるように)脳卒中の予測における上記試験によって得られたまたは得ることができる試験結果を使用するための指示を提供することを含む。
【0264】
本発明はさらに、心房細動を評価するためのコンピュータ実装方法であって、
d)対象からのサンプルにおいて決定されたTFPI−2の量の値、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量の少なくとも1つのさらなる値を処理装置で受け取る工程、
e)前記処理装置によって、工程(a)で受け取った1つまたは複数の値を1つまたは複数の参照と比較する工程、および
f)比較工程b)に基づいて心房細動を評価する工程を含む方法に関する。
【0265】
上記の方法は、コンピュータ実装方法である。好ましくは、コンピュータ実装方法のすべての工程は、コンピュータ(またはコンピュータネットワーク)の1つまたは複数の処理装置によって実行される。したがって、工程(c)の評価は、処理装置によって実行される。好ましくは、前記評価は、工程(b)の結果に基づく。
【0266】
工程(a)で受け取った1つまたは複数の値は、本明細書の他の場所で説明されているように、対象からのバイオマーカーの量の決定から導き出されるものとする。好ましくは、値は、バイオマーカーの濃度の値である。値は通常、値を処理装置にアップロードまたは送信することによって、処理装置で受け取られる。あるいは、ユーザーインターフェースを介して値を入力することにより、処理装置で値を受け取ることができる。
【0267】
前述の方法の一実施形態では、工程(b)に示される1つまたは複数の参照は、メモリから確立される。好ましくは、参照の値はメモリから確立される。
【0268】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の実施形態では、工程c)で行われた評価の結果は、結果を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される。
【0269】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の実施形態では、この方法は、工程c)で行われた評価に関する情報を対象の電子医療記録に転送するさらなる工程を含み得る。
【0270】
さらに、本発明は、
i)バイオマーカーTFPI−2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー、および/または
ii)TFPI−2に特異的に結合する少なくとも1つの薬剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤の
a)心房細動の評価、b)対象の脳卒中のリスクの予測、c)臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度の向上、対象の抗凝固療法の有効性の評価、d)少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であるか、または抗凝固療法の強化(または、例えば、少なくとも1つの抗凝固薬の投与量を減らすことによる抗凝固療法の軽減)に適格である対象の特定、および/またはe)抗凝固療法のモニタリング、のための使用(特に、例えば、対象からのサンプルにおけるインビトロ使用)に関する。
【0271】
特に、本発明は、
i)バイオマーカーTFPI−2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー、および/または
ii)TFPI−2に特異的に結合する少なくとも1つの薬剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤の
脳卒中を予測するための使用(特に、例えば、対象のサンプルにおけるインビトロでの使用)に関する。
【0272】
本発明はさらに、
i)バイオマーカーTFPI−2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー、および/または
ii)対象からのサンプル中で、TFPI−2に特異的に結合する少なくとも1つの薬剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤の、
臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせた、
対象の脳卒中を患うリスクを予測するための使用に関する。
【0273】
また、本発明は、
i)バイオマーカーTFPI−2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー、および/または
ii)TFPI−2に特異的に結合する少なくとも1つの薬剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤の
臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための使用(特に、例えば、対象のサンプルにおけるインビトロ使用)に関する。
【0274】
「サンプル」、「対象」、「検出剤」、「特異的結合」、「心房細動」、および「心房細動を評価する」などの前述の使用に関連して言及された用語は、心房細動の評価方法に関連して定義されている。定義および説明は、状況に応じて適用される。
【0275】
好ましくは、前述の使用はインビトロ使用である。さらに、検出剤は、好ましくは、モノクローナル抗体(またはその抗原結合断片)などの抗体である。
【0276】
本発明はまた、キットに関する。一実施形態では、本発明のキットは、TFPI−2に特異的に結合する薬剤、ならびにナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤を含む。
【0277】
好ましくは、前記キットは、本発明の方法、すなわち心房細動を評価する方法を実行するために適合されている。任意選択で、前記キットは、前記方法を実行するための説明書を含む。
【0278】
本明細書で使用される「キット」という用語は、好ましくは、別個にまたは単一の容器内に提供される、前述の構成要素の集合を指す。容器はまた、本発明の方法を実行するための説明書を含む。これらの説明書は、マニュアルの形式であっても、またはコンピュータもしくはデータ処理装置に実装されると、しかるべき評価または診断を確立する、本発明の方法で言及される計算および比較を実行できるコンピュータプログラムコードで提供されてもよい。コンピュータプログラムコードは、データ記憶媒体または光記憶媒体(例えば、コンパクトディスク)などの装置上に、またはコンピュータまたはデータ処理装置上に直接提供され得る。さらに、キットは、好ましくは、キャリブレーション目的のバイオマーカーTFPI−2の標準量を含み得る。好ましい実施形態では、キットは、キャリブレーション目的のナトリウム利尿ペプチドの標準量をさらに含む。
【0279】
一実施形態では、前記キットは、インビトロで心房細動を評価するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0280】
図は、以下を示す。
図1】マッピング研究におけるTFPI−2の測定:探索的AFibパネル:開胸手術を受ける心房細動の病歴を有する患者および発作性AF、持続性AFまたはSRの心外膜マッピング(マッピング研究)。心房組織のRNA発現プロファイルを評価した。
図2a】マッピング研究におけるTFPI−2の測定:探索的AFibパネル:開胸手術を受ける心房細動の病歴を有する患者および発作性AF、持続性AFまたはSRの心外膜マッピング(マッピング研究)。循環TFPI−2レベルを評価した。
図2b】Beat AF研究におけるTFPI−2の測定:脳卒中転帰を含むAFibパネル:様々なタイプの心房細動、発作性AF、持続性AF、および永続性AFを有する患者。循環TFPI−2レベルを評価した。
図3】脳卒中のリスクの予測 TFPI−2(Beat AF研究):図3は、TFPI−2の力価の上昇が脳卒中のリスクの増加に関連していることを示す。TFPI−2は、いくつかの臨床的リスクスコアのC−Indexを改善した。
図4】Beat AFにおけるNTproBNPとESM−1との相関:図4は、TFPI−2が、確立されたマーカー(NTproBNPおよびChadsVasc)ならびにESM−1との相関が低いことを示す。a)TFPI−2対NTproBNPの相関係数=0.22、b)TFPI−2対ESM1の相関係数=0.32 c)TFPI−2対CHADsVAScの相関係数=0.13。これらのデータは、TFPI−2が補足的な情報を提供すること、ならびにTFPI−2および/またはNTproBNPおよび/またはESM1および/またはCHADsVAScマーカーの組み合わせが、各マーカー単独と比較して、脳卒中のリスクが高い患者の検出に改善をもたらし得ることを示唆している。
図5】経口抗凝固剤の摂取によって分類した、BEAT−AF研究で観察されたTFPI−2値:リバーロキサバンを使用する患者は、残りの患者と比較して、TFPI−2の濃度の低下を示す。
【実施例】
【0281】
本発明は、以下の実施例によって単に例示される。上記実施例は、いかなる場合でも、本発明の範囲を限定する方法で解釈されないものとする。
【0282】
実施例1:AF患者の心臓組織におけるTFPI−2の差次的発現
差次的TFPI−2発現レベルは、n=38人の患者の右心耳からの心筋組織サンプルで決定した。
【0283】
RNAseq分析
心房組織は、CABGまたは弁手術のための開胸手術中にサンプル採取した。AFまたはSR(対照)のエビデンスは、同時の内部心外膜高密度活性化(Endo−Epicardial High Density Activation)マッピングを使用して手術中に生成した。AFおよび対照の患者は、性別、年齢、併存疾患に関して一致させた。
【0284】
以下について、心房組織サンプルを調製した。
・ AF患者;n=9人の患者
・ SRの対照患者;n=29人の患者
【0285】
TFPI−2の差次的発現は、アルゴリズムRSEMおよびDESEQ2を利用するRNAseq分析で測定した。
【0286】
図1に示すように、TFPI−2の発現は、発作性AFの9人の患者の分析された心房組織で、29人の対照患者に対してアップレギュレーションされていることが見出された。
【0287】
発現の倍数変化(FC)は、1.221であった。
【0288】
TFPI−2の発現の変化は、損傷した末端器官である心房組織で測定した。TFPI−2 mRNAレベルを心房組織の高密度マッピングの結果と比較した。上昇したTFPI−2mRNAレベルは、電気的マッピングによって特徴付けられるように、伝導障害を伴う心房組織サンプルで検出された。コンダクタンス障害は、脂肪浸潤または間質性線維症によって引き起こされ得る。心房細動に罹患している患者の心房組織で観察されたTFPI−2の差次的発現は、TFPI−2が心筋、特に右心耳から循環中に放出され、血清/血漿力価の上昇がAFのエピソードの検出を支援することを裏付ける。
TFPI−2は心臓から血中に放出され、AFエピソードの検出を助け、AF関連脳卒中の発症リスクを予測することができる、と結論付けられる
【0289】
実施例2:循環TFPI−2によるAFの評価
開胸手術を受ける患者に関連するマッピング研究サンプルを麻酔および手術の前に採取した。患者を、多電極アレイを使用した高密度心外膜マッピング(高密度マッピング)を使用して電気生理学的に特徴付けた。
【0290】
循環TFPI−2レベルは、(年齢、性別、併存疾患について)可能な限り一致させた12人の発作性心房細動患者、16人の持続性心房細動患者、および30人の対照で決定した。TFPI−2は、マッピング研究のサンプルで決定した。
【0291】
測定は、30人の洞調律(SR)患者、12人の発作性心房細動(parAF)患者、および16人の持続性心房細動(persAF)で行った。
【0292】
図2aは、SR患者と比較して、persAFの患者でTFPI−2が有意に増加していることを示す(AUC 0.71)。したがって、TFPI−2は、persAFの診断を支援するために使用できる。高いTFPI−2値は、persAFの可能性が高いことを示す。
【0293】
図2aは、マッピング研究のparAF患者において、SR患者と比較したTFPI−2値はAFグループで依然として高いが(AUC 0.55)、もはや有意ではないことを示す。
【0294】
AF患者のベースラインサンプルに関連するBeat AF研究では、脳卒中の転帰を6年間追跡した。
【0295】
図2bは、Beat AF研究の患者において、様々なタイプのAF患者で同等の循環TFPI−2力価が検出されたことを示す。Beat AF研究のAF患者で観察されたTFPI−2力価は、SRのマッピング研究の患者と比較して上昇した。
【0296】
実施例3:脳卒中の予測
分析アプローチ
脳卒中の発症リスクを予測する循環TFPI−2の能力は、心房細動が確認された患者の、予想される多中心的レジストリ(multicentric registry)において評価された(Conen D.,Forum Med Suisse 2012;12:860−862)。TFPI−2は、Borgan(2000)に記載されている階層化症例コホートデザインを使用して測定した。
【0297】
追跡中に脳卒中(「事象」)を経験した70人の患者のそれぞれについて、1人の対応する対照を選択した。対照は、年齢、性別、高血圧の病歴、心房細動のタイプ、心不全の病歴(CHFの病歴)の人口統計学的および臨床的情報に基づいて対応させた。
【0298】
TFPI−2、NTproBNP、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7の結果は、事象を有する67人の患者および事象を有さない66人の患者で利用可能であった。
【0299】
TFPI−2は、Olinkプラットフォームを使用して測定されたため、絶対濃度値は入手できず、報告できない。結果は、任意のシグナルスケール(NPX)で報告する。
【0300】
NTproBNP、Ang−2、およびIGFBP−7は、Elecsysプラットフォームを使用して測定し、ESM−1は、Elisaマイクロタイタープレートを使用して測定した。
【0301】
TFPI−2の一変量予後値を定量化するために、比例ハザードモデルを転帰脳卒中で使用した。
【0302】
TFPI−2の一変量予後性能は、TFPI−2によって与えられた予後情報の2つの異なる組み込みによって評価された。
【0303】
最初の比例ハザードモデルには、中央値(221 NPX)で二値化されたTFPI−2が含まれていたため、TFPI−2が中央値以下の患者のリスクを、TFPI−2が中央値を超える患者と比較した。
【0304】
2番目の比例ハザードモデルは、元のTFPI−2レベルが含んだが、log2スケールに変換した。log2変換は、モデルキャリブレーションを改善するために実行された。
【0305】
症例対照コホートのナイーブ比例ハザードモデルからの推定値には偏りがあるため(症例と対照との比率の変化による)、加重比例ハザードモデルを使用した。重みは、Mark(2006)で説明されているように、症例対照コホートに選択される各患者の逆確率に基づく。
【0306】
二分されたベースラインTFPI−2測定値(<=221 NPXか、>221 NPXか)に基づいて、2つのグループの絶対生存率の推定値を得るために、Mark(2006)に記載されているようにカプランマイヤープロットの加重バージョンを作成した。
【0307】
TFPI−2の予後値が、既知の臨床的および人口統計学的リスク因子から独立しているかどうかを評価するために、年齢、性別、CHF病歴、高血圧の病歴、脳卒中/TIA/血栓塞栓症の病歴、血管疾患の病歴、糖尿病の病歴を追加して含む、加重比例コックスモデルが、計算された。
【0308】
脳卒中の予後に関する既存のリスクスコアを改善するTFPI−2の能力を評価するために、CHADS、CHADS−VAScおよびABCスコアをTFPI−2(log2変換)によって拡張した。拡張は、TFPI−2およびそれぞれのリスクスコアを独立変数として含む、分割したハザードモデルを作成することによって行った。NTproBNP、ESM−1、Ang−2、およびIGFBP−7を、CHADS−VAScスコアを改善する能力について評価した。
【0309】
CHADS、CHADS−VASc、およびABCスコアのc−インデックスを、これらの拡張モデルのc−インデックスと比較した。症例コホート設定でのc−indexの計算には、Ganna(2011)で提案されているように、c−indexの加重バージョンを使用した。
【0310】
結果
表1は、二値化またはlog2変換されたTFPI−2を含む、2つの一変量加重比例ハザードモデルの結果を示す。脳卒中を経験するリスクとTFPI−2のベースライン値との関連は、両モデルともに非常に有意である。二値化されたTFPI−2のハザード比は、ベースラインTFPI−2>=221 NPXの患者グループは、ベースラインTFPI−2<221 NPXの患者グループに対して、脳卒中のリスクが2.36倍高くなることを意味する。log2変換線形リスク予測因子としてTFPI−2を含む比例ハザードモデルの結果は、log2変換値TFPI−2が脳卒中を経験するリスクに比例することを示唆する。ハザード比2.52は、TFPI−2の2倍の増加が、脳卒中のリスクの2.52の増加に関連すると解釈され得る。
【0311】
これに関連して、TFPI−2レベルと特定の経口抗凝固剤(OAK)の摂取量との相関に注目することは、興味深い。図5は、リバーロキサバンを使用する患者が、残りの患者と比較してTFPI−2の濃度の低下を示すことを示している。しかし、リバーロキサバンを摂取する患者の一部も、221 NPXを超えるCES値を有する。これは、TFPI−2を使用して、OAK摂取の有効性をモニタリングできることを示している可能性がある。
【表1】
表1:二値化およびlog2変換されたTFPI−2含む、一変量加重比例ハザードモデルの結果
【0312】
表2は、臨床的および人口統計学的変数を組み合わせたTFPI−2(log2変換)を含む、比例ハザードモデルの結果を示す。これは、関連する臨床的および人口統計学的変数の予後効果を調整すると、TFPI−2の予後効果が依然として安定していることを明確に示す。
【表2】
表2:TFPI−2および関連する臨床的およびと人口統計学的変数を含む多変量比例ハザードモデル
【0313】
表3は、CHADSスコアに、TFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、TFPI−2は、予後情報をCHADSスコアに追加できる。
【表3】
表3:CHADSスコアに、TFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデル
【0314】
表4は、CHADS−VAScスコアに、TFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、TFPI−2は、予後情報をCHADS−VAScスコアに追加できる。
【表4】
表4:CHADS−VAScスコアに、TFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデル
【0315】
表5は、ABCスコアにTFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、TFPI−2は、予後情報をリスクスコアに追加できる。
【表5】
表5:ABCスコアにTFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデル
【0316】
表6は、TFPI−2単独、CHADS、CHADS−VASc、ABCスコア、およびCHADS、CHADS−VASc、ABCスコアとTFPI−2(log2)を組み合わせた加重比例ハザードモデルの、症例コホート選択に対する推定c−indexを示す。TFPI−2の追加により、3つのリスクモデルすべてのc−indexが改善されることがわかる。CHADS、CHADS−VASc、ABCスコアの改善は、それぞれ0.0646、0.0432、および0.0671である。
【0317】
表6は、NTproBNP単独、ESM−1単独、Ang−2単独、IGFBP−7単独、CHADS−VAScスコアの、およびCHADS−VAScスコアをNTproBNP(log2)、ESM−1(log2)、ANG−2(log2)、IGFBP−7(log2)と組み合わせた加重比例ハザードモデルの、症例コホート選択に対する推定c−indexを示す。すべてのバイオマーカーを追加すると、CHADS−VAScスコアのc−indexが改善することがわかる。CHADS−VAScスコアの改善は、NTproBNP、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7でそれぞれ0.002、0.064、0.036、および0.006である。
【表6】
表6:TFPI−2、NTproBNP、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7、CHADS−VAScスコア、およびCHADS−VAScスコアとTFPI−2、NTproBNP、ESM−1、Ang−2、IGFBP−7との組み合わせのC−index、ならびにCHADSおよびABCスコア、およびそれらのTFPI−2との組み合わせのC−index
【0318】
実施例4:バイオマーカーの測定
TFPI−2は、組織因子阻害剤−2(TFPI−2)用の市販のO−link多マーカーパネル、O−link(スウェーデン)による近接伸長アッセイで測定した。
【0319】
実施例5:脳卒中の予測
分析アプローチ
脳卒中の発症リスクを予測する循環TFPI−2の能力は、心房細動が確認された患者の、予想される多中心的レジストリ(multicentric registry)で検証した(実施例3を参照して)(Conen D.,Swiss Med Wkly 2017 Jul 10;147−w14467)。TFPI−2は、Borgan(2000)に記載されている階層化症例コホートデザインを使用して測定した。
【0320】
追跡中に脳卒中(「事象」)を経験した68人の患者(ステータス2019年4月)それぞれについて、事象のない2319人の患者から1人の対応する対照をランダムに選択した。
【0321】
TFPI−2の結果は、事象を有する62人の患者および事象を有さない61人の患者で利用可能であった。
【0322】
TFPI−2は、Olinkプラットフォームを使用して測定されたため、絶対濃度値は入手できず、報告できない。結果は、任意のシグナルスケール(NPX)で報告する。したがって、バイオマーカーの濃度および分布(中央値など)に関して、実施例3と比較できないことに注意されたい。
【0323】
TFPI−2の一変量予後値を定量化するために、比例ハザードモデルを転帰脳卒中で使用した。
【0324】
TFPI−2の一変量予後性能は、TFPI−2によって与えられた予後情報の2つの異なる組み込みによって評価された。
【0325】
最初の比例ハザードモデルには、中央値(748 NPX)で二値化されたTFPI−2が含まれていたため、TFPI−2が中央値以下の患者のリスクを、TFPI−2が中央値を超える患者と比較した。
【0326】
2番目の比例ハザードモデルは、元のTFPI−2レベルが含んだが、log2スケールに変換した。log2変換は、モデルキャリブレーションを改善するために実行された。
【0327】
症例対照コホートのナイーブ比例ハザードモデルからの推定値には偏りがあるため(症例と対照との比率の変化による)、加重比例ハザードモデルを使用した。重みは、Mark(2006)で説明されているように、症例対照コホートに選択される各患者の逆確率に基づく。
【0328】
二分されたベースラインTFPI−2測定値(<=748 NPXか、>748 NPXか)に基づいて、2つのグループの絶対生存率の推定値を得るために、Mark(2006)に記載されているようにカプランマイヤープロットの加重バージョンを作成した。
【0329】
TFPI−2の予後値が、既知の臨床的および人口統計学的リスク因子から独立しているかどうかを評価するために、可変年齢、および脳卒中/TIA/血栓塞栓症の病歴を追加して含む、加重比例コックスモデルが計算された。これらは、コホート全体(すべての対照を含む)で唯一の有意な臨床的リスク予測因子であった。
【0330】
脳卒中の予後に関する既存のリスクスコアを改善するTFPI−2の能力を評価するために、CHADS、CHADS−VAScおよびABCスコアをTFPI−2(log2変換)によって拡張した。拡張は、TFPI−2およびそれぞれのリスクスコアを独立変数として含む、分割したハザードモデルを作成することによって行った。
【0331】
CHADS、CHADS−VASc、およびABCスコアのc−インデックスを、これらの拡張モデルのc−インデックスと比較した。症例コホート設定でのc−indexの計算には、Ganna(2011)で提案されているように、c−indexの加重バージョンを使用した。
【0332】
結果
表7は、二値化またはlog2変換されたTFPI−2を含む、2つの一変量加重比例ハザードモデルの結果を示す。脳卒中を経験するリスクとTFPI−2のベースライン値との関連は、両モデルともに非常に有意である。二値化されたTFPI−2のハザード比は、ベースラインTFPI−2>=748 NPXの患者グループは、ベースラインTFPI−2<748 NPXの患者グループに対して、脳卒中のリスクが2.04倍高くなることを意味する。log2変換線形リスク予測因子としてTFPI−2を含む比例ハザードモデルの結果は、log2変換値TFPI−2が脳卒中を経験するリスクに比例することを示唆する。ハザード比2.54は、TFPI−2の2倍の増加が、脳卒中のリスクの2.54の増加に関連すると解釈され得る。
【表7】
表7:二値化およびlog2変換されたTFPI−2含む、一変量加重比例ハザードモデルの結果
【0333】
表8は、臨床的および人口統計学的変数を組み合わせたTFPI−2(log2変換)を含む、比例ハザードモデルの結果を示す。これは、関連する臨床的および人口統計学的変数の予後効果を調整すると、TFPI−2の予後効果が依然として安定していることを明確に示す。
【表8】
表8:TFPI−2および関連する臨床的およびと人口統計学的変数を含む多変量比例ハザードモデル
【0334】
表9は、CHADSスコアに、TFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、TFPI−2は、予後情報をCHADSスコアに追加できる。
【表9】
表9:CHADSスコアに、TFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデル
【0335】
表10は、CHADS−VAScスコアに、TFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、TFPI−2は、予後情報をCHADS−VAScスコアに追加できる。
【表10】
表10:CHADS−VAScスコアに、TFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデル
【0336】
表11は、ABCスコアにTFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、TFPI−2は、予後情報をリスクスコアに追加できる。
【表11】
表11:ABCスコアにTFPI−2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデル
【0337】
表12は、TFPI−2単独、CHADS、CHADS−VASc、ABCスコア、およびTFPI−2(log2)と組み合わせたCHADS、CHADS−VASc、ABCスコア加重比例ハザードモデルの、症例コホート選択に対する推定c−indexを示す。TFPI−2の追加により、3つのリスクモデルすべてのc−indexが改善されることがわかる。改善は、CHADS、CHADS−VASc、ABCスコアでそれぞれ0.057、0.047、および0.022である。
【表12】
表12:TFPI−2、CHADS−VAScスコア、およびCHADS−VAScスコアとTFPI−2との組み合わせのC−index、ならびにCHADSおよびABCスコア、およびそれらとTFPI−2との組み合わせのC−index
【0338】
実施例6:症例研究
心房細動のない患者においても虚血性脳卒中のリスクを知り、低減することに関心が高まっている(Yao X et al、Am Heart J.2018;199:137−143)。例えば、脳卒中リスクを予測することは、脳卒中リスクの高いこれらの患者を特定し、経口抗凝固療法を用いた薬物研究に含めることにより、最適な治療戦略を確立するために不可欠である。例えば、CHADS−VAScスコアによって、心房細動のない患者でも虚血性脳卒中の発生率は予測されるが、絶対事象率は低い(Mitchell LB et al、Heart.2014;100:1524−30)。したがって、心房細動のないこれらの患者が、どのCHADS−VAScスコアにおいて、どの投与量で経口抗凝固療法(OAC)を受けるべきか比較的不明確であり、そのためTFPI2などのバイオマーカーは、OACの治療の必要性および有効性を評価するのに役立つ。
【0339】
高血圧で心房細動の病歴のない76歳の女性患者が、洞調律を示す。TFPI2は、患者から採取したEDTA血漿サンプルで測定する。CHADS−VAScスコアの臨床情報(高齢および高血圧)は、特定の脳卒中リスクを示しており、さらにTFPI2値は、参照値を上回る。TFPI2力価の上昇は、脳卒中を経験するリスクが高いことを示す。結果として、患者は抗凝固療法を受けることができる。
【0340】
心房細動の病歴のない65歳の男性患者が、診療所での診察を依頼する。洞調律を示すが、構造的心臓疾患と診断される。脳卒中の病歴および全体的に高いCHADS−VAScスコアのため、患者はすでに経口抗凝固療法(低用量)を受けている。脳卒中の現在のリスクを決定し、最終的な治療法の変更を結論付けるために、患者から採取された血清サンプル中のTFPI2を測定した。観察されたTFPI2値は、参照値を上回る。他のリスクパラメータ(脳卒中の病歴)と組み合わせたTFPI2力価の上昇は、残存脳卒中リスクが、出血リスク(他の臨床情報で評価)よりも高いことを示す。結果として、抗凝固療法の投与量が増加される。
【0341】
糖尿病で駆出率の低下を伴う心不全の68歳の肥満女性患者が、息切れの急性症状を示す。以前の来院では、患者に心房細動の病歴はない。全体的に高いCHADS−VAScリスクスコアにより、医師は、AFibがなくても経口抗凝固療法(低用量)を開始することを決定した。TFPI2レベルは、抗凝固療法の開始前後に決定した。患者は現在、抗凝固療法が有効であるか、まだ必要であるかどうか疑問に思っている。脳卒中の現在のリスクを特定するために、患者から採取されたEDTAサンプル中のTFPI2を決定する。観察されたTFPI2値は、参照値を下回り、治療開始と比較して低下する。TFPI2力価の低下は、有効な抗凝固療法の指標である。結果として、抗凝固療法は継続される。
【0342】
概要:本発明の基礎となる研究は、TFPI−2を使用して、AFを診断し、AFを分類し、AFの重症度を評価し、治療を指導し(治療の強化/軽減を目的で)、疾患の転帰を予測し(リスク予測、例えば、脳卒中)、治療をモニタリングし、治療を階層化(治療オプションの選択)することができることを示す。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2020年9月17日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における心房細動を評価する方法であって、
a)前記対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定すること、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、心房細動を評価する、
方法。
【請求項2】
前記サンプルが血液、血清もしくは血漿サンプルであり、かつ/または前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記心房細動の評価が心房細動の診断であり、好ましくは、前記参照量を超えるTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/または前記参照量を下回るTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に罹患していない対象の指標であり、
または
前記対象が心房細動に罹患しており、前記心房細動の評価が、発作性心房細動と持続性心房細動との区別であり、好ましくは、前記参照量を超えるTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、持続性心房細動に罹患している対象の指標であり、かつ/または前記参照量を下回るTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、発作性心房細動に罹患している対象の指標である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記心房細動の評価が、心房細動に関連する脳卒中のリスクの予測であり、好ましくは、
前記参照量を超えるTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に関連する脳卒中を患うリスクがある対象の指標であり、かつ/または前記参照量を下回るTFPI−2の量、および任意選択で前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量が、心房細動に関連する脳卒中を患うリスクがない対象の指標である、請求項1および2に記載の方法。
【請求項5】
対象における脳卒中のリスクを予測する方法であって、
(a)前記対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定すること、および
(b)前記対象の臨床的脳卒中リスクスコアを評価する工程、および
(c)工程a)およびb)の結果に基づいて、脳卒中のリスクを予測する工程を含む、
方法。
【請求項6】
対象の抗凝固療法の有効性を評価する方法であって、
a)前記対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
a)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、抗凝固療法の有効性を評価する、
方法。
【請求項7】
少なくとも1つの抗凝固薬の投与に適格であるか、または強化抗凝固療法に適格である対象を特定するための方法であって、
a)前記対象からの少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
b)バイオマーカーTFPI−2の量をTFPI−2の参照量と比較する工程、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの参照量と比較する工程を含み、それにより、前記少なくとも1つの薬剤の投与または強化抗凝固療法に適格である対象を特定する、
方法。
【請求項8】
強化抗凝固療法に適格である対象が、現在投与されている抗凝固剤の用量の増加、または現在投与されている抗凝固剤の、より効果的な抗凝固剤への置き換え、例えば現在投与されているワルファリンもしくはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬の、経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンもしくはアピキサバンへの置き換えに適格である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抗凝固療法をモニタリングする方法であって、
(a)対象からの第1のサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
(b)前記第1のサンプルの後に対象から得た第2のサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2(アンジオポエチン2)およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、
(c)第1のサンプル中のTFPI−2の量を前記第2のサンプル中のTFPI−2の量と比較する工程、および任意選択で、第1のサンプル中の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を、前記第2のサンプル中の前記少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量と比較する工程を含み、それにより、抗凝固療法をモニタリングする、
方法。
【請求項10】
前記対象が、心房細動に罹患している、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
心房細動の評価を支援する方法であって、
a)対象からの少なくとも1つのサンプルを提供する工程、
b)工程a)で提供された少なくとも1つのサンプルにおいて、バイオマーカーTFPI−2(組織因子経路阻害剤2)の量、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量を決定する工程、および
c)バイオマーカーTFPI−2の決定された量、および任意選択で、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの決定された量に関する情報を医師に提供し、それにより、心房細動の評価を支援する、
方法。
【請求項12】
心房細動の評価を支援する方法であって、
a)バイオマーカーTFPI−2のアッセイ、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択されるさらなるバイオマーカーの少なくとも1つのさらなるアッセイを提供する工程、および
b)心房細動の評価において、前記アッセイによって得られた、または得られ得るアッセイ結果を使用するための指示を提供する工程を含む、
方法。
【請求項13】
心房細動を評価するためのコンピュータ実装方法であって、
a)対象からのサンプルにおいて決定されたTFPI−2の量の値、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの量の少なくとも1つのさらなる値を処理装置で受け取る工程、
b)前記処理装置によって、工程(a)で受け取った1つまたは複数の値を1つまたは複数の参照と比較する工程、および
c)比較工程b)に基づいて心房細動を評価する工程を含む、
方法。
【請求項14】
TFPI−2に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントと、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント、ESM−1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント、Ang2に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント、およびIGFBP7に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントからなる群から選択される少なくとも1つのさらなる抗体またはその抗原結合フラグメントとを含むキット。
【請求項15】
インビトロでの使用であって、
i)バイオマーカーTFPI−2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM−1(エンドカン)、Ang2およびIGFBP7(インスリン様成長因子結合タンパク質7)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー、および/または
ii)TFPI−2に特異的に結合する少なくとも1つの薬剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する薬剤、ESM−1に特異的に結合する薬剤、Ang2に特異的に結合する薬剤およびIGFBP7に特異的に結合する薬剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる薬剤の、
a)心房細動の評価、b)対象の脳卒中のリスク予測、c)臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度の向上、対象の抗凝固療法の有効性の評価、d)少なくとも1つの抗凝固薬剤の投与に適格であるか、または強化抗凝固療法に適格である対象の特定、および/またはe)抗凝固療法のモニタリングのための、
インビトロでの使用。
【国際調査報告】