(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2021-536520(P2021-536520A)
(43)【公表日】2021年12月27日
(54)【発明の名称】硬化作用剤における又は硬化作用剤に関する改善
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20211129BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20211129BHJP
【FI】
C08G59/40
C08J5/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2021-510909(P2021-510909)
(86)(22)【出願日】2019年8月30日
(85)【翻訳文提出日】2021年2月26日
(86)【国際出願番号】EP2019073285
(87)【国際公開番号】WO2020043917
(87)【国際公開日】20200305
(31)【優先権主張番号】1814139.0
(32)【優先日】2018年8月30日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】504132032
【氏名又は名称】ヘクセル コンポジッツ、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メイソン、クリス
(72)【発明者】
【氏名】バージ、ニコラス
【テーマコード(参考)】
4F072
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB06
4F072AB09
4F072AB10
4F072AD28
4F072AE02
4F072AG03
4J036AA01
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4J036DA06
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4J036DB23
4J036DC04
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4J036DC25
4J036DC35
4J036DC40
4J036DC41
4J036DC46
4J036FA01
4J036FA02
4J036HA05
4J036JA11
(57)【要約】
アジピン酸ジヒドラジド及び/又はイソフタル酸ジヒドラジドと、クラスレートのゲスト化合物がイミダゾール、イミダゾリン又はジアザビシクロアルカン(DBCA)を含むクラスレートとの組合せを含む硬化系。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジピン酸ジヒドラジド及び/又はイソフタル酸ジヒドラジドと、クラスレートとの組合せを含む硬化性組成物であって、前記クラスレートのゲスト化合物がイミダゾール、イミダゾリン又はジアザビシクロアルカン(DBCA)を含む、硬化性組成物。
【請求項2】
ホスト成分と、次式で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物から選択されるゲスト成分とを含む前記クラスレートを含有する、硬化性組成物であって、
【化1】
ここで、R
1は水素原子、C
1−C
10アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、又はシアノエチル基を表し、R
2〜R
4はそれぞれ独立して水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、C
1−C
20アルキル基を表し、C
1−C
20アルキル基は、水酸基、アリール基、アリールアルキル基、又はC
1−C
20アシル基で置換され、破線を付した部分は単結合又は二重結合を表し、[1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン]などのジアザビシクロアルカン(DBCA)
及びアジピン酸ジヒドラジド又はイソフタル酸ジヒドラジドを表す
請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記クラスレートの前記ホスト成分が単一のカルボン酸基又はカルボン酸エステル基を含む、請求項1又は請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記クラスレート中の前記ゲスト成分に対する前記ホスト成分のモル比が、好ましくは0.5〜2、好ましくは0.7〜1.7、より好ましくは0.9〜1.5、より好ましくは0.95〜1.4又は0.95〜1.1の範囲である、請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記組成物が尿素系促進剤を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の硬化性組成物及び熱硬化性樹脂を含む樹脂配合物。
【請求項7】
多官能エポキシ樹脂を含み、また数週間保存することができ、150℃において約100秒で硬化することができ、ASTM E1356に従って測定したときに、145〜165℃、好ましくは155〜165℃の範囲で硬化Tgを提供する、請求項6に記載の樹脂配合物。
【請求項8】
請求項7又は請求項6に記載の樹脂配合物に由来する硬化樹脂。
【請求項9】
繊維強化複合材料のマトリックスとしての、請求項7又は請求項6に記載の樹脂配合物の使用。
【請求項10】
プリプレグにおける、又は請求項6又は7の樹脂配合物とともに金型内に敷設された乾燥繊維材料の樹脂注入による、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
請求項6又は7に記載の樹脂配合物の熱硬化によって得られる繊維強化複合材料。
【請求項12】
請求項6又は請求項7に記載の熱硬化性樹脂組成物を繊維強化材料と組み合わせて含む成形材料。
【請求項13】
好ましい繊維材料が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド及びそれらの混合物から選択される、請求項12に記載の成形材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性配合物、特に熱硬化性樹脂の硬化に有用な硬化性配合物に関する。
【0002】
複合材料は様々な形で製造される。硬化性樹脂マトリックス配合物を含浸させた繊維層は、本明細書ではプリプレグとして知られている。これらの材料の樹脂マトリックス配合物は、未硬化であっても、部分的に硬化していてもよい。成形コンパウンドは、一般に、熱硬化性樹脂マトリックス配合物と組み合わせて、細断された、等方性又は準等方性の形態の繊維材料を含む。
【0003】
樹脂マトリックス配合物は、幅広い重合性成分及び添加剤から選択することができる。一般的な重合性成分には、エポキシ、ポリエステル、ビニルエステル、ポリイソシアネート、及びフェノール類が含まれる。これらの成分を含む配合物は、一般に、それぞれエポキシ配合物、ポリエステル配合物、ビニルエステル配合物、ポリイソシアネート配合物、及びフェノール配合物と呼ばれる。
【0004】
複合材料に必要な特性は、硬化する際に必要なガラス転移温度(Tg)を有し、使用目的に必要な機械的特性も備えていることである。特定の用途では、Tgが湿った又は湿潤条件下で保持されることが重要である(「湿潤Tg」)。熱硬化性材料は、熱可塑性プラスチックに比べて優れた機械的性能と耐クリープ性を備えているため、構造部品に使用される。これらの用途では、熱硬化性マトリックスは、硬化温度で離型できるように十分に高い初期硬化Tgを備えている必要がある。より高い硬化Tg能力により、より高い硬化温度での樹脂の硬化が可能になり、より高い硬化温度を用いると、温度とともに反応性が増大するため、より速い硬化サイクルが可能になるという利点がある。
【0005】
硬化Tgは、デジタル走査熱量測定(Digital Scanning Calorimetry)(DSC)を用いてASTM E1356に従って測定される。保持又は湿潤Tgは、ニート樹脂配合物を150℃で2分間等温硬化させ、硬化した配合物を70℃の水に14日間曝した後、同じ測定標準であるASTM E1356を用いてサンプルのTgを測定した後に測定される。
【0006】
熱硬化性樹脂配合物には、触媒及び/又は硬化剤が含まれ、これらは、樹脂の性質、製造される製品、及び必要とされる樹脂の硬化サイクルに従って選択される。自動車部品の製造など、大量生産率を支える複合材料の硬化サイクルには、非常に短い硬化サイクルが必要である。2.5分の硬化サイクルを有する樹脂配合物が知られており、それらは金型あたり年間約166,000部品の製造速度を提供することができる(30秒のアンロード−再ローディング時間及び95%の稼働率を想定)。しかしながら、そのような硬化サイクル時間を短縮することが望ましいであろう。
【0007】
さらに、熱可塑性プラスチックに比べて優れた機械的性能と耐クリープ性を備えているため、構造部品には熱硬化性材料を使用することが望ましい。熱硬化性マトリックスは、硬化温度で離型できるように十分に高い初期硬化Tgを有していなければならない。したがって、本発明は、硬化時に急速な硬化及び高いTgを有するそのような樹脂配合物を提供しようとする。自動車産業で使用される材料は、様々な環境条件にも耐性がなければならない。
【0008】
2成分(2k)混合樹脂系では、低温での非常に急速な硬化を実現できるが、これらの材料を混合/計量して適用するために必要な機器は、非常に大量の製造に使用するには実用的ではない。さらに、そのような方法は、追加の先行工程で、その後に混合樹脂系で射出又は注入されるドライプリフォームの構築を必要とする。このドライプリフォームは、製造に時間がかかり、特に複雑な形状の場合、金型に正確に配置するのが難しい場合がある。さらに、そのような系は保存安定性が低いので、急速に硬化する高Tg樹脂系が、冷却を必要とせずに数週間の待ち時間で完全に混合された配合物として存在できれば有益であろう。そのような樹脂系は、その製造時点で繊維強化材料中に存在してもよく、自動処理でカット配向と積重ねができる予備含浸材料(プリプレグ)を形成し、エンドユーザによる金型内への配置を容易にして最終硬化用の複合部品を製造することができる。
【0009】
常温で安定(潜在性)であり、かつ硬化が速い熱硬化性マトリックス配合物は、通常、硬化時間がウロン(urone)によって加速される潜在性アミンを使用する。これらは初期硬化には有効だが、潜在性アミンとウロンの組合せは高レベルの吸水とマトリックスの可塑化の影響を受けやすいため、これらの硬化剤は使用Tg温度を低くする可能性がある。
【0010】
イミダゾール系硬化剤は、熱硬化性樹脂の硬化に広く使用されている。残念ながら、これらの硬化剤は反応性が非常に高いので、樹脂とこれらの硬化剤の混合物は、硬化の早期開始を示すという問題があり、また組成物が輸送中又は保存中に増粘、ゲル化、及び硬化するであろうという理由により使用される時点で製造され、次いで送達される単一成分エポキシ樹脂組成物として使用できない。
【0011】
したがって、繊維強化材と樹脂組成物マトリックスの両方を含み、また完全に配合され、冷却を必要とせずに数週間の待ち時間又は可使用期間(outlife)で混合されて存在し得る成形材料は、複合部品の製造に有利であろう。
【0012】
エポキシ樹脂配合物は、複合材料に広く使用されている。これらの配合物中のエポキシ成分は、使用される硬化サイクル及び製造される完成品の性質に従って、広範囲のエポキシ含有材料から選択される。エポキシ樹脂は、固体、液体又は半固体であってもよく、その官能性及びエポキシ当量によって特徴付けられる。エポキシ樹脂の官能性とは、反応して硬化して硬化構造を形成するために利用できる、分子あたりの反応性エポキシ部位の数である。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は2の官能性を有しているが、特定のグリシジルアミンは4を超える官能性を有していてもよい。エポキシ樹脂の反応性は、そのエポキシ当量(EEW)で示され、EEWが低いほど反応性が高まる。EEWは、エポキシ基を1グラム/mol含むエポキシ樹脂材料のグラム単位の重量である。
【0013】
エポキシ配合物はまた、触媒及び/又は硬化剤を含み、これらはまた、エポキシ樹脂の性質、製造される製品、及び必要とされる硬化サイクルに従って選択される。
【0014】
複合成形材料のマトリックス配合物では、イミダゾール系硬化剤又はイミダゾリン系硬化剤が、エポキシ樹脂と容易に反応して硬化エポキシ樹脂マトリックスを形成するので広く使用されている。残念ながら、これらの硬化剤は反応性が非常に高いので、エポキシ樹脂とこれらの硬化剤の混合溶液は、硬化の早期開始を示すという問題があり、また使用される時点で製造され、次いで送達される単一成分エポキシ樹脂組成物として使用できない。
【0015】
この問題を克服するために、イミダゾールをヒドロキシ安息香酸に添加して塩を形成した。この塩は、硬化速度を低下させるために、エポキシ樹脂組成物に硬化剤として添加されている(特公平4−2638号公報参照)。
【0016】
成形コンパウンド、接着剤及びプリプレグ中の樹脂マトリックス組成物中の硬化性組成物として使用できるホスト成分及びゲスト成分を含むクラスレート組成物は、PCT公開WO2016/087935及び米国特許出願公開第2010/0022744号明細書に記載されている。クラスレートは、ホスト化合物と、ゲスト成分としてのイミダゾール硬化剤又はイミダゾリン硬化剤からなる。例えば、WO2008/075427は、イソフタル酸系ホスト化合物のクラスレート成分及びゲスト化合物としてのイミダゾールを使用する硬化性樹脂組成物を開示している。米国特許出願公開第2012/0088920号明細書は、硬化剤がカルボン酸及びイミダゾールに基づくクラスレートである硬化性エポキシ樹脂組成物を開示している。米国特許出願公開第2010/0179250号明細書は、カルボキシル基が芳香族基に直接結合しているモノカルボン酸の形態のホスト化合物を開示し、WO2016/087935はまた、イミダゾール硬化剤又はイミダゾリン硬化剤と組み合わせた様々なカルボン酸に基づくクラスレートの使用を開示している。
【0017】
アジピン酸ジヒドラジドとイソフタル酸ジヒドラジドは、エポキシ樹脂配合物の硬化剤として知られている。それらは、米国特許第4404356号及び米国特許第4507445号に開示されているように、尿素系材料などの促進剤と一緒に使用できることが示唆されている。しかしながら、硬化前の樹脂配合物の保存安定性と、高いガラス転移温度(Tg)を有する硬化樹脂を生成するための急速な硬化との組合せを可能にし、また特に高温で水分に曝された場合に、ある期間にわたってTgを保持する硬化剤が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、前述の問題を克服すること、及び/又は一般的に改善を提供することを目的とする。
【0019】
本発明の1つの目的は、優れた保存安定性と、硬化の急速化を含む強化された硬化特性とを有し、優れた機械的特性を有する硬化生成物を提供する硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することである。
【0020】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲のいずれか一項に定義されるような硬化系、樹脂配合物、硬化樹脂、用途、複合材料、及び成形材料が提供される。
【0021】
アジピン酸ジヒドラジド及び/又はイソフタル酸ジヒドラジドを、ゲスト化合物が熱硬化性樹脂組成物用の硬化剤としてのイミダゾール、イミダゾリン又はDBCAであるクラスレートとともに使用すると、高いガラス転移温度(Tg)と良好なTg保持とを組み合わせた急速硬化性樹脂配合物を達成できることが見出された。また、クラスレートのホスト化合物はイミダゾール硬化剤又はイミダゾリン硬化剤の遊離のタイミングや条件を制御するために使用可能であるので、クラスレートを使用することにより、熱硬化性樹脂組成物に保存安定性を付与することができる。
【0022】
したがって、本発明は、アジピン酸ジヒドラジド及び/又はイソフタル酸ジヒドラジドと、ゲスト化合物がイミダゾール、イミダゾリン又はジアザビシクロアルカン(DBCA)を含むクラスレートとの組合せを含む硬化系を提供する。
【0023】
本発明はさらに、熱硬化性樹脂を含む樹脂配合物と硬化系とを提供する。本発明はまた、そのような樹脂に由来する硬化樹脂を提供する。
【0024】
硬化剤は、重合性樹脂の重合反応を開始又は進行させるように適合された化合物である。硬化剤という用語は、重合反応(又は「硬化」)を増強する化学化合物である促進剤と、重合性樹脂の重合反応を開始する化学化合物である硬化作用剤とを含む。
【0025】
硬化剤には、硬化作用剤、促進剤、又はこれら化合物の両方が含まれ得る。
【0026】
さらなる実施形態において、本発明は、プリプレグであってもよく、又は樹脂配合物とともに金型内に敷設された乾燥繊維材料の樹脂注入によって得られてもよい繊維強化複合材料におけるマトリックスとしての本発明の樹脂配合物の使用を提供する。本発明はさらに、そのような樹脂マトリックスの熱硬化によって得られる繊維強化複合材料を提供する。
【0027】
本発明に従った熱硬化性樹脂系における硬化剤の組合せの使用によって、顕著な硬化なしに数週間保存することができ、150℃で加熱することにより約100秒で硬化することができ、120〜200℃、好ましくは145〜165℃、より好ましくは155〜165℃の範囲で硬化Tgを提供する材料が製造された。
【0028】
硬化反応中に放出される熱は、完全に硬化するための全熱に関連しており、以下のようにデジタル走査熱量測定を用いて測定できる。基準樹脂サンプルを10℃/分の速度で10℃から250℃に加熱して完全に硬化(100%)させ、発生した熱ΔHiを記録する。次に、基準樹脂サンプルと同じ組成の特定の樹脂サンプルの硬化度は、サンプルを所望の温度、所望の速度、及び所望の時間で加熱することでサンプルを硬化させ、この硬化反応により発生する熱ΔHeを測定することにより、測定することができる。次に、硬化度(Cure%)が次式により定義される。
Cure%=ΔHe)/ΔHi×100[%]
ここで、ΔHiは、10℃から250℃で完全に硬化するまで加熱された未硬化樹脂によって発生した熱であり、ΔHeは、所望の温度と速度まで加熱されたある程度硬化した樹脂によって発生した熱である。
【0029】
損失弾性率E’は、動的機械分析(DMA)を使用してASTM D7028に準拠して測定される。ホットウェット係数E’wは、硬化組成物を70℃の温度で14日間水に浸した後、同じ標準を使用して測定される。
【0030】
本発明において、「クラスレート」という用語は、共有結合以外の結合を介して2個以上の分子が結合した化合物を指す。より好ましくは、2つ以上の分子が、それらの分子相互作用、例えば水素結合を介して結合している結晶性化合物を指す。1つ又は複数の他の化合物を含む化合物は、ホスト化合物と呼ばれ、ホスト化合物に含まれる1つ又は複数の化合物は、ゲスト化合物と呼ばれる。ホスト化合物とゲスト化合物は、クラスレート化合物又はクラスレート構造を形成する。
【0031】
本発明で使用されるクラスレートのゲスト成分は、硬化作用剤又は硬化促進剤として作用し得、加熱によりホスト成分から速やかに放出され得、次いで、樹脂成分との架橋反応を受けることになる。
【0032】
成分が促進剤である場合、放出された硬化促進剤は、硬化作用剤及び樹脂成分の硬化触媒として作用し、それにより、硬化された配合樹脂マトリックスを形成する。硬化作用剤又は硬化促進剤がクラスレートから放出される温度は、以下の項目に従って制御することができる。
−ゲスト成分のタイプ(化学構造)、
−ホスト成分のタイプ(化学構造)、及び
−ゲスト対ホストの混合比、
−熱硬化性樹脂への溶解度
したがって、使用する熱硬化性樹脂及び所望の硬化条件に適合する適切なホスト成分及びゲスト成分を選択することによって、ゲスト成分の放出を制御できる。
【0033】
本発明の樹脂配合物において、クラスレートのホスト化合物は、ゲスト化合物を放出した後に樹脂と反応することができ、それによって架橋剤として作用する。これは、ホスト化合物がカルボン酸である場合に特に当てはまり、その結果、可撓性が向上し、耐衝撃性及び接着性が向上した硬化樹脂配合物の生成物を得ることができる。
【0034】
ホスト化合物
本発明の一実施形態では、ホスト成分(A)は、式(I)によって定義され得る。
【化1】
ここで、nは0又は1であり、
Arは任意に置換されたアリール基であり、
Xは、H、OH、任意に置換されたアルキル基及び任意に置換されたアリール基から独立して選択され、
Yは、H、OH、任意に置換されたアルキル基、任意に置換されたアリール基、及びZとともに取られ、式IのC及びRで環を形成する−C(=O)O−から独立して選択され、
Zは、1)R’が水素、任意に置換されたヒドロカルビル基から選択されるC(=O)O−R’、任意に置換されたヒドロカルビル基、及び2)YとCを含む環構造から選択され、
又はホスト成分(A)はフェノールフタレインである。
【0035】
好ましくは、ホスト成分(A)は、フェノール及びカルボン酸の両方又はエステル官能基を含み、これらは両方とも、イミダゾールとクラスレートを形成することができる。例えば、好ましいコスト成分は、フェノール及びカルボン酸官能基の両方を含む4,4’−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)バレリアン酸(BHPVA)である。好ましくは、クラスレートは、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)で形成される。
【0036】
ホスト成分(A)はまた、ビスフェノール及びモノカルボン酸官能基を含むフェノールフタリン(PhPh)であってもよく、これらは両方ともイミダゾールとクラスレートを形成することができる。好ましくは、クラスレートは、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)で形成される。
【0037】
別のクラスレートでは、ホスト成分(A)は、イミダゾールとクラスレートを形成することができるフェニル及びモノカルボン酸官能基を含むベンジル酸(BA)であり得る。この場合も、好ましくは、クラスレートは、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)で形成される。
【0038】
さらなるクラスレートでは、ホスト成分(A)は、アミノフェニル及びモノカルボン酸官能基を含む4−アミノフェニル酢酸(APAA)であり得、これらは両方とも、イミダゾールとクラスレートを形成することができる。これらのカルボン酸系のクラスレートのエステルも選択することができる。
【0039】
ゲスト化合物
単一のゲスト化合物の代わりに、2つ以上の異なるゲスト化合物がクラスレートに存在してもよい。クラスレートホストは、促進剤ゲスト化合物及び/又は硬化作用剤ゲスト化合物などの同じ配合物中に異なるゲスト化合物を含み得る。
【0040】
ゲスト化合物は、イミダゾール化合物、イミダゾリン化合物、又はDBCAである。ゲスト化合物はまた、促進剤又は硬化剤と促進剤の組合せを含み得る。
【0041】
ゲスト成分は、式(II)及び/又はDBCAによって表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物から選択され得る。
【化2】
ここで、R
1は水素原子、C
1−C
10アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、又はシアノエチル基を表し、R
2〜R
4はそれぞれ独立して水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、C
1−C
20アルキル基を表し、C
1−C
20アルキル基は、水酸基、アリール基、アリールアルキル基、又はC
1−C
20アシル基で置換され、破線を付した部分は単結合又は二重結合を表し、[1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン]などのジアザビシクロアルカン(DBCA)を表す。
【0042】
一実施形態では、式(II)において、R
1は、水素原子、C
1−C
10アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、又はシアノエチル基を表すが、好ましくは水素原子を表す。
【0043】
C
1−C
10アルキル基は、好ましくはC
1−C
6アルキル基であり、任意に置換基を有する。C
1−C
10アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、ノニル基、i−ノニル基、及びデシル基が挙げられる。アリール基とは、単環式又は多環式のアリール基を意味する。ここで、多環式アリール基の場合、アリール基は、完全不飽和基に加えて、部分的飽和基も包含する。その例には、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、インデニル基、インダニル基、及びテトラリニル基が挙げられる。これらの基の中で、C
6−C
10アリール基が好ましい。さらに、アリール基は任意に置換基を有する。
【0044】
アリールアルキル基は、アリール基とアルキル基が互いに結合した基である。その例には、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニル−n−プロピル基、1−フェニル−n−ヘキシル基、ナフタレン−1−イルメチル基、ナフタレン−2−イルエチル基、1−ナフタレン−2−イル−n−プロピル基、及びインデン−1−イルメチル基が挙げられる。これらの基の中で、C
6−C
10アリール基/C
1−C
6アルキル基が好ましい。さらに、アリールアルキル基は任意に置換基を有する。
【0045】
R
2〜R
4はそれぞれ独立して水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、C
1−C
20アルキル基、水酸基で置換されたC
1−C
20アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、又はC
1−C
20アシル基を表す。
【0046】
C
1−C
20アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、ノニル基、i−ノニル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、パルミチル基、ヘプタデシル基、及びステアリル基が挙げられる。C
1−C
10アルキル基が好ましい。
【0047】
アリール基及びアリールアルキル基は、R
1の基と同じ基を含む。
【0048】
C
1−C
20アシル基とは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基等がカルボニル基と結合した基を意味する。アシル基の例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオンイル基、ブチロイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、3−メチルノナノイル基、8−メチルノナノイル基、3−エチルオクタノイル基、3,7−ジメチルオクタノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基、1−メチルペンタデカノイル基、14−メチルペンタデカノイル基、13,13−ジメチルテトラデカノイル基、ヘプタデカノイル基、15−メチルヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、1−メチルヘプタデカノイル基、ノナデカノイル基、エイコサノイル基、ヘネリコサノイル基などのアルキルカルボニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリルカルボニル基、シンナモイル基などのアルケニルカルボニル基、エチニルカルボニル基、プロピニルカルボニル基などのアルキニルカルボニル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、ビフェニルカルボニル基、アントラニルカルボニル基などのアリールカルボニル基、及び2−ピリジルカルボニル基、チエニルカルボニル基などのヘテロアリールカルボニル基が挙げられる。これらの基の中で、C
1−C
20(カルボニル基を含む)アシル基が好ましく、C
1−C
6アシル基が特に好ましい。
【0049】
さらなる実施形態において、ゲスト化合物は、式(II)で表されるイミダゾール化合物の具体例から選択されてもよく、これにはイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、及び2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールが含まれ、イミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、又は2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールが好ましい。
【0050】
式(II)によって表されるイミダゾリン化合物の例としては、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン、2−エチルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、及び2−フェニル−4−メチルイミダゾリンが挙げられ、2−メチルイミダゾリン又は2−フェニルイミダゾリンが好ましい。
【0051】
イミダゾール化合物又はイミダゾリン化合物及び/又はDBCAが低沸点の物質であるか、蒸気圧の高い物質である場合、これらの物質の蒸気をホスト化合物に適用することにより、目的のクラスレートを得ることができる。
【0052】
また、2種類以上のゲスト化合物をホスト化合物と反応させることにより、3成分以上からなるクラスレートを得ることもできる。さらに、目的のクラスレートは、最初に、特定の化合物を用いてホスト化合物のクラスレートを生成し、次に、得られたクラスレートを上記のような方法で異なる化合物と反応させることにより得ることができる。
【0053】
得られたクラスレートの構造は、熱分析(TGA−DSC、同時熱重量分析及び示差走査熱量測定)、赤外線吸収スペクトル(IR)、X線回折パターン、NMRスペクトルなどによって検証することができる。さらに、クラスレートの組成物は、熱分析、
1H−NMRスペクトル、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、元素分析などによって検証することができる。
【0054】
促進剤
尿素系促進剤(又は「ウロン」)もまた、硬化性組成物中に存在し得る。尿素系促進剤には、N,N−ジメチル尿素の誘導体が含まれ得、そのような尿素誘導体の例としては、例えば、N,N−ジエチル尿素、N,N−ジプロピル尿素、及びN,N−ジメチル尿素が挙げられる。好ましい尿素誘導体は、N,N−ジメチル尿素である。具体的な例としては、1,1−ジメチル尿素又は1,1−ジエチル尿素が挙げられる。
【0055】
他のウロンには、1,1−ジアルキル−3−アリール尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1、1−ジメチルウレア(ジウロン)、3−フェニル−1、1−ジメチル尿素、トルイル−ビス−1、1−ジメチル尿素、(1,1’−メチレンジ−p−フェニレン)ビス(3,3−ジメチル尿素)、1,1−(4−メチル−m−フェニレン)ビス(3,3ジメチル尿素)、N,N−ジメチルフェニル尿素、4,4−メチレンジフェニレンビス(N,N−ジメチル尿素)が含まれ得る。
【0056】
好ましいウロンは、組成物の総重量に対して2〜20重量%、より好ましくは3〜12重量%、最も好ましくは4〜8重量%の量で組成物中に存在する、4,4−メチレンジフェニレンビス(N,N−ジメチル尿素)である。
【0057】
本発明の別の実施形態では、本発明の熱硬化性樹脂組成物と繊維強化材料との組合せを含む成形材料が提供される。繊維強化材料は、プリプレグを形成するための織布又は多軸布として、トウプレグを形成するための樹脂組成物を含浸させるための個々の繊維トウとして、あるいは成形コンパウンドを形成するための細断繊維、短繊維又は単繊維として提供されてもよい。好ましい繊維材料は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド及びそれらの混合物から選択される。
【0058】
本発明のさらなる実施形態において、少なくとも1つの充填剤と組み合わせた本発明の熱硬化性樹脂組成物を含む接着剤が提供される。
【0059】
本発明の組成物は、保存安定性があり、迅速な硬化が可能である一方で、Tg、保持されたTg及び機械的特性によって、産業構造用途、特に自動車及び航空宇宙構造部品、並びにスポーツ用品及び風力タービン部品における硬化樹脂組成物の使用が可能になる。
【0060】
本発明の組成物には、耐衝撃性改良剤、充填剤、酸化防止剤などの熱硬化性樹脂に使用される他の典型的な添加剤が含まれ得る。
【0061】
耐衝撃性改良剤
組成物には、耐衝撃性改良剤が含まれ得る。耐衝撃性改良剤は、固有の脆性と亀裂伝播を補償する目的で、硬化樹脂組成物の衝撃強度を改善するために広く使用されている。耐衝撃性改良剤には、CTBNゴム(カルボキシル末端ブタジエン−アクリロニトリル)などのゴム粒子、又はポリマーシェルに包まれたゴム又は他のエラストマー化合物を含むコアシェル粒子が含まれ得る。ゴム粒子に対するコアシェル粒子の利点は、効果的な強化のためにゴムコアの粒子サイズが制御されており、グラフトポリマーシェルによってエポキシ樹脂組成物との接着性及び相溶性が保証されることである。そのようなコアシェルゴムの例は、EP0985692及びWO2014/062531に開示されている。
【0062】
代替の耐衝撃性改良剤には、メチルアクリレート系ポリマー、ポリアミド、アクリル、ポリアクリレート、アクリレートコポリマー、フェノキシ系ポリマー、及びポリエーテルスルホンが含まれ得る。
【0063】
充填剤
さらに、組成物には、組成物の流動特性を高めるために1つ又は複数の充填剤が含まれ得る。好適な充填剤には、タルク、マイクロバルーン、フロック、ガラスビーズ、シリカ、ヒュームドシリカ、カーボンブラック、繊維、単繊維及びリサイクル誘導体、及び二酸化チタンが含まれ得る。
【0064】
配合物
本発明の熱硬化性樹脂配合物の硬化において、硬化剤は、化学的、物理的、又は両方の組合せであり得るトリガー放出によってクラスレートから放出される。
【0065】
化学的放出には、成分の一方又は両方の組成物を化学的に変化させることによってクラスレートのホスト成分とゲスト成分との間の相互作用に影響を与える放出が含まれ得る。
【0066】
物理的放出には、各成分の組成物を化学的に変化させることなくクラスレートのホスト成分とゲスト成分との間の相互作用に影響を与える放出が含まれ得る。物理的放出の例としては、ホスト成分の溶解、温度の上昇、ホスト成分の相変化、溶解又は放射が挙げられる。
【0067】
カルボン酸及び/又は二価のヒドロカルビル基によってカルボン酸基又はエステル基に結合された芳香族基を含むエステルを含むホスト化合物に基づき、かつゲスト化合物として硬化剤を含むクラスレートは、特に一成分マトリックス系の硬化樹脂に特に好適である。必須ではないが、本発明においてそのようなクラスレートを使用することは、周囲温度での硬化開始までの長い時間(可使用期間として知られている)とともに、硬化条件の良好な制御を有する樹脂配合物を提供することが見出されているので、好ましい。これらのクラスレートを使用すると、ガラス転移温度(Tg)が高く、Tg保持が良好な硬化樹脂も得られる。このようなクラスレートで有用な二価の任意に置換されたヒドロカルビル基の例には、二価の芳香族基又は二価の脂肪族基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
本発明の別の態様によれば、ホスト成分と、次式で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物から選択されるゲスト成分とを含むクラスレートを含有する硬化性組成物が提供される。
【化3】
ここで、R
1は水素原子、C
1−C
10アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、又はシアノエチル基を表し、R
2〜R
4はそれぞれ独立して水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、C
1−C
20アルキル基を表し、C
1−C
20アルキル基は、水酸基、アリール基、アリールアルキル基、又はC
1−C
20アシル基で置換され、破線を付した部分は単結合又は二重結合を表し、[1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン]などのジアザビシクロアルカン(DBCA)
及びアジピン酸ジヒドラジド又はイソフタル酸ジヒドラジドを表す。
【0069】
好ましいクラスレートでは、ホスト成分は、好ましくは、単一のカルボン酸基又はカルボン酸エステル基を含む。
【0070】
クラスレート中のゲスト成分に対するホスト成分のモル比は、好ましくは0.5〜2、好ましくは0.7〜1.7、より好ましくは0.9〜1.5、より好ましくは0.95〜1.4又は0.95〜1.1の範囲であり、及び/又はこれらの比率の組合せである。
【0071】
熱硬化性樹脂、好ましくはエポキシ樹脂の硬化作用剤及び/又は硬化促進剤としてのヒドラジドと一緒にこのようなクラスレートを使用することにより、反応性の高い硬化剤を含む一成分樹脂マトリックス系の長期保存を可能にする選択された硬化開始温度を有する硬化剤が得られることが見出された。
【0072】
本発明のさらなる実施形態では、エポキシ、ポリイソシアネート、及びフェノール樹脂、特にエポキシ樹脂などの少なくとも1つの樹脂成分と組み合わせて、本発明の硬化性組成物を含む樹脂配合物が提供される。樹脂配合物は、好ましくは、使用前に成分をさらに混合する必要のない一成分樹脂配合物の形態である。
【0073】
別の実施形態では、硬化剤、樹脂成分、及びホスト成分とゲスト成分とを含むクラスレート組成物を含む樹脂配合物が提供され、ゲスト成分は、硬化剤の硬化反応を増強するための硬化促進剤である。硬化剤は、アジピン酸ジヒドラジド又はイソフタル酸ジヒドラジドを含み、ゲスト成分は、ヒドラジド系硬化剤との組合せで促進剤として作用するイミダゾール、イミダゾリン、又はDBCA系成分である。樹脂はエポキシ樹脂が好ましい。
【0074】
さらなる実施形態では、強化材料と本発明の樹脂配合物とを含む成形材料、及びそのような成形材料から作製される物品が提供される。成形材料は、樹脂配合物を含み、繊維強化層と組み合わされたキャスト樹脂フィルムから構築することができる。好ましくは、樹脂フィルムは繊維強化材を含浸するが、これは、樹脂の層を繊維材料に押し付けることによって、又は金型内の繊維材料に樹脂を注入することによって達成され得る。
【0075】
樹脂がエポキシ樹脂である場合、それは単官能又は多官能であってもよく、好ましくは少なくとも二官能である。一実施形態では、エポキシ樹脂成分(A)は、従来から知られている様々なポリエポキシ化合物から選択することができる。その例には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、フロログルシノールトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシビフェニルトリグリシジルエーテル、テトラグリシジルベンゾフェノン、ビスレゾルシノールテトラグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールCジグリシジルエーテル、ビスフェノールヘキサフルオロプロパンジグリシジルエーテル、1,3−ビス[1−(2,3−エポキシプロポキシ)−1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチル]ベンゼン、1,4−ビス[1−(2,3−エポキシプロポキシ)−1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロメチル]ベンゼン、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)オクタフルオロビフェニル、フェノールノボラック型ビスエポキシ化合物などの芳香族グリシジルエーテル化合物、脂環式ジエポキシアセタール、脂環式ジエポキシアジペート、脂環式ジエポキシカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシドなどの脂環式ポリエポキシ化合物、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジメチルグリシジルフタレート、ジメチルグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジル−p−オキシベンゾエート、ジグリシジルシクロペンタン−1,3−ジカルボキシレート、ダイマー酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステル化合物、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ジグリシジルトリブロモアニリンなどのグリシジルアミン化合物、ジグリシジルヒダントイン、グリシジルグリシドキシアルキルヒダントイン、トリグリシジルイソシアヌレートなどの複素環式エポキシ化合物、及びそのオリゴマー化合物が挙げられる。
【0076】
液体エポキシ樹脂の例としては、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどのポリアルキレンエーテル型エポキシ化合物、ダイマー酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルなどのグリシジルエステル型エポキシ化合物、及びグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのホモポリマー又はこれらモノマーと他の軟質不飽和モノマーとのコポリマーが挙げられる。ここで、軟質不飽和モノマーとは、60℃未満のガラス転移温度を有するホモポリマーを含むモノマーを指す。軟質不飽和モノマーの例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリルメタクリレートが挙げられる。
【0077】
本発明の液状硬化性エポキシ樹脂組成物は、保存安定性と硬化特性の両方に優れ、優れた特性、特に耐有機溶剤性を有する硬化生成物を提供する一成分液状エポキシ樹脂プリプレグマトリックス樹脂配合物として特に有用である。
【0078】
本発明のエポキシ樹脂組成物をプリプレグ樹脂配合物として使用する場合、充填剤、粘度調整剤、強化剤、顔料、チキソトロピー剤、難燃剤などの既知の添加剤を配合物に任意に混合して、硬化時の機械的性能と流動挙動を向上させることができる。
【0079】
本発明のプリプレグ樹脂配合物は、ポットミル、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、ホモジナイザー、スーパーミル、ホモディスパー、ユニバーサルミキサー、バンバリーミキサー、ニーダーなどを使用して、本発明のクラスレート、樹脂及び他の添加剤を均一に混合することによって調製することができる。
【0080】
本発明のプリプレグ樹脂配合物は、高い保存安定性と優れた熱硬化性の両方を有する一成分型タイプとすることができるので、長期保存や常温の無条件施設での保存が必要な用途に好適に使用することができる。
【0081】
本発明は、以下の材料が使用された以下の例を参照することによって説明される。
アジピン酸ジヒドラジド(ADH/ADH−J)
4,4’−メチレンジフェニレンビス(N,N−ジメチル尿素)(ウロン促進剤)
エポキシフェノールノボラック樹脂(ノボラック)
ビスフェノールAジグリシジルエーテル樹脂(BADGE)
ビスフェノールA(BPA)
4,4’−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)バレリアン酸−2E4MZクラスレート(BHPVA−2E4MZ)
フェノールフタリン−IMZクラスレート(PhPh−IMZ)
4,4−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸−2E4MZクラスレート(BHPPA−2E4MZ)
2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)
【0082】
以下のパラメータが、以下の基準及びプロトコルに従って測定された。
パラメータ(単位) 説明
Tg(度) Tgは、示差走査熱量測定(DSC)を用いてAST M E1356「Standard Test Me thod for Assignment of t he Glass Transition Temp erature by Differential Scanning Calorimetry」に従っ て、150℃で等温硬化した組成物について測定され る。
可使用期間@23℃(週) 樹脂組成物を23℃で保管し、半週間隔でサンプリン グし、デジタル走査熱量測定(DSC)を用いてIS O 11357−1:2016に従ってTgを測定す る。未硬化樹脂のTg測定値が23℃の保管温度以上 になると、毎週の測定で可使用期間が確認される。
150℃で硬化するまでの時間 メトラートレド示差走査熱量計(DSC)、モデルD SC−1を用いて、時間に対する組成物の総反応エン タルピーを測定し、95%硬化に達するまでにかかる 時間を確認した。150℃での等温硬化時の樹脂組成 物の総反応エンタルピーを確認するために、組成物を この温度で30分間保持し、累積熱エンタルピー出力 の変化を示さないことによって証明される完全硬化を 確実にした。総熱エンタルピーが確認されると、95 %硬化までの時間は、時間に対する累積熱エンタルピ ーから容易に導き出すことができる。
【0083】
例1から7
ADHと組み合わせて様々な量のイミダゾールをそれぞれ含有する、様々な硬化系を有する以下の配合物を調製した。成分のすべての量は、組成物の総重量に対する重量%(wt%)である。
【表1】
【0084】
材料は23℃で保存され、硬化の開始までの時間が測定された。クラスレート及びアジピン酸ジヒドラジドを含む配合物を、アジピン酸、ジヒドラジド及び遊離イミダゾールを含む配合物と比較した。すべての場合において、クラスレートを含む配合物(例3〜7)の硬化開始までの時間は、遊離イミダゾールを含む配合物(例1及び2)の時間の約2倍であった。
【0085】
樹脂配合物を150℃の温度に曝して組成物を等温硬化させ、ピーク発熱に達するまでの時間及び95%硬化に達するまでの時間を測定した。クラスレートを含む配合物(例3〜7)では、150℃に加熱した場合の硬化の開始から95%硬化までの時間は、遊離イミダゾリンを含む配合物(例1及び2)に必要な時間の半分未満であったが、Tgは、ほとんどの場合、クラスレートを含む配合物で少なくとも30%高かった。
【0086】
例8から11
二官能性エポキシ樹脂成分と様々な硬化系を用いて基本配合物を調製した。イミダゾールの有効量は、それぞれがADHを含む様々な硬化系で変化した。これらの配合物は、150℃で等温的に再び硬化された。
【表2】
【0087】
硬化系の効果を、150℃で硬化するまでの時間とTgに関して、以下を含む硬化系との関係で同じ樹脂成分の配合物について比較した。
(i)ウロンとアジピン酸ジヒドラジド
(ii)アジピン酸ジヒドラジドとイミダゾール
(iii)アジピン酸ジヒドラジドとクラスレート
(iv)ウロンとクラスレート
【0088】
アジピン酸ジヒドラジドクラスレートの組合せを含む配合物は、150℃に加熱した場合に95%硬化に達するまでの時間が最短であり、157℃の最高の硬化Tgももたらされた。
【国際調査報告】