特表2022-501041(P2022-501041A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テヒニシェ ウニベルジテート ウィーンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2022-501041(P2022-501041A)
(43)【公表日】2022年1月6日
(54)【発明の名称】細胞スフェロイドの製造
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/06 20060101AFI20211210BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20211210BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20211210BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20211210BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20211210BHJP
【FI】
   C12M3/06
   G01N33/53 Y
   B01J19/00 321
   C12N9/16 B
   C12N9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2021-515583(P2021-515583)
(86)(22)【出願日】2019年9月20日
(85)【翻訳文提出日】2021年5月18日
(86)【国際出願番号】EP2019075362
(87)【国際公開番号】WO2020058490
(87)【国際公開日】20200326
(31)【優先権主張番号】18195997.4
(32)【優先日】2018年9月21日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】508258378
【氏名又は名称】テヒニシェ ウニベルジテート ウィーン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】アイレンベルガー,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】エルテル,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ロートバウアー,マリオ
【テーマコード(参考)】
4B050
4G075
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050DD13
4B050LL01
4G075AA13
4G075AA39
4G075EB50
4G075FA01
4G075FA12
4G075FB06
4G075FB12
4G075FC20
(57)【要約】
本発明は、細胞スフェロイドを製造するためのマイクロ流体装置(1;8)であって、チャンバ(2;9)に流体を導入するための流体入口(3)と、チャンバ(2,9)から前記流体を除去するための流体出口(4)とを含む少なくとも1つのチャンバ(2;9)を含み、前記少なくとも1つのチャンバ(2;9)は、基板(5,10)が流体と接触したときに生物細胞を含む流体を収集するための少なくとも2つの凹部(6;11)を含む基板(5;10)によって形成された基部を含み、少なくとも2つの凹部(6;11)のサイズは、少なくとも1つのチャンバ(2;9)の流体入口(3)から流体出口(4)まで減少することを特徴とする、マイクロ流体装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞スフェロイドを製造するためのマイクロ流体装置(1;8)であって、
チャンバ(2;9)内に流体を導入するための流体入口(3)と、チャンバ(2,9)から前記流体を除去するための流体出口(4)とを含む少なくとも1つのチャンバ(2;9)を含み、
前記少なくとも1つのチャンバ(2;9)は、基板(5,10)が流体と接触したときに生物細胞を含む流体を収集するための少なくとも2つの凹部(6;11)を含む基板(5;10)によって形成された基部を含み、
少なくとも2つの凹部(6;11)のサイズは、少なくとも1つのチャンバ(2;9)の流体入口(3)から流体出口(4)まで減少することを特徴とする、マイクロ流体装置。
【請求項2】
前記流体入口(3)および前記流体出口(4)は、前記流体入口(3)から前記チャンバ(2;9)を通って前記流体出口(4)に流れる流体を導くように配置されることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1;8)。
【請求項3】
前記基板(5;10)が、生体適合性材料を含むか、生体適合性材料からなるか、または生体適合性材料でコーティングされていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置(1;8)。
【請求項4】
前記生体適合性材料が、シリコーンまたはプラスチック材料またはガラスであることを特徴とする、請求項3に記載の装置(1;8)。
【請求項5】
前記生体適合性材料が、ポリスチレン、シクロオレフィンコポリマー、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)、ポリウレタン、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリエステルおよびチオール−エンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項3または4に記載の装置(1;8)。
【請求項6】
前記少なくとも2つの凹部(6;11)および/または前記基板(5;10)が少なくとも部分的に防汚層でコーティングされていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置(1;8)。
【請求項7】
前記防汚層が、
ポリエチレングリコール(PEG)ベースのポリマー、好ましくは、異なる長さを有し、約22〜450の繰り返し単位で変化し、および/または1000〜20000Daの範囲の分子量に対応する、PLL−g−PEGまたはPEGS、
ポリ(スルホベタイン)(PSB)またはポリ(カルボキシベタイン)(PCB)などのポリベタイン、
両性高分子電解質、
フッ素化ポリマー、
寒天またはアガロースなどの多糖類、
ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート(ポリ−HEMA)またはポリヒドロキシプロピルメタクリレート(ポリ−HPMA)などのポリヒドロキシポリマー、
ポリ(エチレンオキシド)、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、
ポリビニルアルコール(PVA)、
ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)、
ポリアクリル酸(PAA)、
デキストラン、
ヒドロキシルエチルセルロース(HEC)、
天然生体高分子(疎水性物質、S層タンパク質SbpA)、
高分子電解質多層(PEM)または自己組織化単層(SAM)などの防汚ナノ界面、
ポリオキシエチレンドデカノール、Tween−20、n−ドデシル−D−マルトシド(DDM)およびプルロニクス(トリブロックコポリマーPEO−b−ポリ(プロピレンオキシド)−b−PEO)などの非イオン界面活性剤、
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)および3−クロロプロピルトリクロロシラン(CPTMS)および(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)などのシラン
からなる群の材料から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の装置(1;8)。
【請求項8】
前記少なくとも2つの凹部(6;11)は、半球、球形キャップ、半楕円体、円錐、円錐台、テラス円錐、ピラミッド、角錐台、テラスピラミッド、トーラス、または楕円放物面の形状を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置(1;8)。
【請求項9】
球形キャップの形状を有する前記少なくとも2つの凹部(6;11)を用いて、球形キャップは、30°〜90°、好ましくは40°〜90°、より好ましくは50°〜90°、より好ましくは60°〜90°、より好ましくは70°〜90°、より好ましくは80°〜90°、より好ましくは85°〜90°の極角(α)を有することを特徴とする、請求項8に記載の装置(1;8)。
【請求項10】
楕円放物面の形状を有する前記少なくとも2つの凹部(6;11)を用いて、前記楕円放物面のシェル表面(18)の少なくとも一部が、空間内で回転される公式y=A×xを有する放物線によって形成され、ここで、Aは0.05〜10、好ましくは0.05、0.1、0.25、0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10であり、Bは、2、4または6であることを特徴とする、請求項8に記載の装置(1;8)。
【請求項11】
前記少なくとも2つの凹部(6;11)が、50μm〜1mm、好ましくは50μm〜800μm、より好ましくは50μm〜500μmの深さを有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の装置(1;8)。
【請求項12】
前記少なくとも2つの凹部(6;11)が、100μm〜2mm、好ましくは100μm〜1.5mm、より好ましくは100μm〜1mmの幅または直径を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の装置(1;8)。
【請求項13】
前記少なくとも2つの凹部(6;11)の深さ対幅の比率が、1:1〜1:3、好ましくは1:1〜1:2であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の装置(1;8)。
【請求項14】
前記少なくとも2つの凹部(6;11)が、異なるサイズおよび形状を有することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の装置(1;8)。
【請求項15】
前記少なくとも2つの凹部(6;11)が、10μm〜6mm、好ましくは20μm〜6mm、より好ましくは30μm〜6mm、より好ましくは50μm〜6mm、より好ましくは70μm〜6mm、より好ましくは100μm〜6mm、より好ましくは100μm〜5mm、より好ましくは100μm〜4mmの距離で互いに離間していることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の装置(1;8)。
【請求項16】
前記少なくとも2つの凹部(6;11)がグループ化され、各グループ(7a〜7e)の凹部(6;11)が同じサイズおよび/または同じ形状を有し、異なるグループ(7a〜7e)の凹部(6;11)が異なるサイズまたは異なるサイズおよび異なる形状を有することを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の装置(1;8)。
【請求項17】
凹部(6;11)の1つのグループ(7a〜7e)が、200μm〜10mmの距離で凹部(6;11)の別のグループと離間していることを特徴とする、請求項16に記載の装置(1;8)。
【請求項18】
前記少なくとも1つのチャンバ(9)は、前記流体入口(3)から前記流体出口(4)へと先細りになることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか1項に記載の装置(8)。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の少なくとも1つのマイクロ流体装置(1;8)を含むことを特徴とする、細胞スフェロイドの製造のためのシステム(13、20)。
【請求項20】
前記少なくとも1つのマイクロ流体装置の各々は、流体入口(3)を介してグラジエントジェネレータ(22)の流体出口(21)に流体接続されることを特徴とする、請求項19に記載のシステム(13、20)。
【請求項21】
前記グラジエントジェネレータ(22)は、少なくとも2つの流体入口(23)を含むことを特徴とする、請求項19または20に記載のシステム(13、20)。
【請求項22】
細胞スフェロイドの製造のための、請求項1〜18のいずれか1項に記載の装置(1;8)または請求項19〜21のいずれか1項に記載のシステム(13、20)の使用。
【請求項23】
細胞スフェロイドに対する種々の物質濃度の影響を決定するための、請求項19〜21のいずれか1項に記載のシステム(13、20)の使用。
【請求項24】
細胞スフェロイドの製造方法であって、
生物細胞を含む流体を、請求項1〜18のいずれか1項に記載の装置(1;8)の少なくとも1つのチャンバ(2;9)内に適用し、それによって前記流体を少なくとも2つの凹部(6;11)に提供する工程と、
少なくとも1つの細胞スフェロイドが前記少なくとも2つの凹部(6;11)内に形成されるまで、前記流体を含む装置(1;8)を少なくとも2時間インキュベートする工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項25】
前記流体を含む装置(1;8)が、最大6ヶ月間、好ましくは最大3ヶ月間、より好ましくは最大1ヶ月間、好ましくは最大14日間、好ましくは最大7日間、好ましくは最大96時間、好ましくは最大72時間、好ましくは最大48時間インキュベートされることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記流体を含む装置(1;8)が1〜7日間インキュベートされることを特徴とする、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
生物細胞を含む前記流体が、4μL/分〜8μL/分の範囲の速度で、前記少なくとも1つのチャンバ(2;9)内に適用されることを特徴とする、請求項24〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも2つの凹部(6;11)に形成された少なくとも1つの細胞スフェロイドが、細胞スフェロイドを溶出するのに十分な速度にて排出流体で少なくとも1つのチャンバ(2;9)をすすぐことによって溶出されることを特徴とする、請求項24〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
異なるサイズの少なくとも2つの凹部(6;11)を含む基板(5;10)を用いて、種々の速度にて排出流体で前記少なくとも1つのチャンバ(2;9)を連続的にすすぐことによって、細胞スフェロイドが溶出されることを特徴とする、請求項24〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞スフェロイドを溶出するための速度が、
0.5μL/分〜120μL/分の範囲であり、
好ましくは、
900μm〜1000μmの幅または直径を有する凹部については少なくとも100μL/分であり、
500μm〜700μmの幅または直径を有する凹部については少なくとも30μL/分であり、および/または、
150μm〜300μmの幅または直径を有する凹部については少なくとも20μL/分であることを特徴とする、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記少なくとも2つの凹部(6、1vfc1)内の細胞スフェロイドが、細胞スフェロイドを形成する生物細胞に特異的に結合する少なくとも1つの抗体(24)と共にインキュベートされることを特徴とする、請求項24〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1つの抗体(24)が、蛍光物質、ペルオキシダーゼ、好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたは放射性同位体で標識されることを特徴とする、請求項31に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞スフェロイドの製造のためのマイクロ流体装置、システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織および器官の形成、ならびにインビトロでの疾患を理解するために、従来の二次元(2D)細胞培養を使用して、これらの問題を解明する。しかし、2D細胞培養技術は、生物学が明らかに複雑な3Dシステムであるため、体内に存在する機械的および生化学的シグナルを忠実に複製することはない。2D技術では、細胞−表面間相互作用が、正常な細胞機能の基礎を形成する重要な細胞−細胞間および細胞−細胞外マトリックス(ECM)間相互作用よりも優勢である。しかしながら、過去20年間にわたり、細胞微小環境の関連性に対する認識が高まった。この新しい細胞培養パラダイムは、3D細胞培養と呼ばれ、急速に普及している。対照的に、三次元(3D)細胞培養物は、天然の微小環境を模倣する空間的に関連する様式で、ホモタイプまたはヘテロタイプの細胞培養物の製造を容易にする。3D細胞培養物を使用する利点は、細胞がその天然ECMによって取り囲まれ、互いに直接細胞接触している、改善されたインビボ様状況を含む。さらに、インビボの状況に類似した、広範な細胞−細胞間および細胞−ECM間相互作用の存在は、元の組織生物学の天然構造および機能のリカバリーを促進する。
【0003】
多細胞スフェロイドは、化学療法、細胞および抗体に基づく免疫療法、遺伝子療法および併用療法のような治療的処置を評価するための非常に有望なモデルである3D細胞凝集体である。3Dスフェロイドモデルは、組織への化合物の浸透および標的化のための送達システムを改善するために使用され得る。3Dスフェロイドは、スフェロイドサイズおよびその後の薬物スクリーニング研究に対するより良好な制御を可能にしたマイクロ流体技術の最近の進歩に対する適応応答を示している。マイクロ流体技術は、器官・オン・チップとも呼ばれ、分析研究所の手順を単一の装置または「チップ」に適応、小型化、集積化、自動化することである。
【0004】
細胞スフェロイドは、通常、懸濁液滴下法を用いて製造される。それによって、細胞(例えば、真核細胞、哺乳類細胞)を含有する流体が懸垂式で物体スライド上の個々の液滴に適用される(例えば、Foty R(J Vis Exp.2011;(51):2720を参照のこと)。細胞は互いに結合する傾向があり、それによって、細胞スフェロイドが、ある時間の後に液滴中に形成される。各液滴は、1つの細胞スフェロイドを含有する。細胞スフェロイドを製造するこのような方法は、いくつかの欠点を有する。表面張力は懸濁液滴下法によって調製される液滴の最大サイズを制限し、また、懸濁液滴下のサイズが小さいため、蒸発が大きな問題である。液滴内の水が蒸発するにつれて、培地中のタンパク質および塩などの可溶性成分の濃度が増加し、細胞を変化する浸透圧にさらし、したがって、それらの正常な形態および機能を損なう。液滴の脱水を回避するために、および円形スフェロイドのサイズを増大させるために追加の細胞および栄養素を液滴に供給するために、液滴は、時々注意深く再充填される必要がある。最も一般的には、水滴は、細い針を有するシリンジで再充填される。液滴の落下を避けるために、再充填は特別な注意を必要とするが、それは過剰充填または震えのために物体スライドから液滴が落下する危険性があるからである。いずれにしても、既に形成された細胞スフェロイドは破壊される。
【0005】
したがって、スフェロイドの培養者の技能およびその器用さに応じて、多くのスフェロイドが培養中に一度に失われる可能性がある。そのため、特に、より大きな細胞スフェロイドを製造する必要がある場合、製造は非常にフラストレーションがかかり、時間がかかる可能性がある。
【0006】
公知の製造方法の別の欠点は、物体スライドが十分に注意深く取り扱われていない場合に過度の損失を回避するために、各物体スライドに少量の液滴しか適用できないことである。したがって、十分な量の細胞スフェロイドを製造するためには、膨大な数の個々の物体スライドが必要である。また、単一のスフェロイドのサイズは、ほとんど影響を受けず、種々のサイズを有するスフェロイドをもたらす。
【0007】
Kwapiszewskaら(Lab Chip、2014、14、2096)は、例えば腫瘍細胞の細胞スフェロイドの培養のためのマイクロ流体チップを記載している。
【0008】
Zuchowskaら(Electrophoresis、2017、38、1206−1216)には、マイクロ流体システムを用いて製造された腫瘍細胞スフェロイドに対する異なる濃度の抗癌剤の効果が開示されている。
【0009】
Patraら(Microfluidics、2013、7、054114)は、例えば癌細胞からのスフェロイドの形成、培養および収集のためのマイクロ流体装置を記載している。
【0010】
米国特許出願公開第2016/097028号は、スフェロイドを培養し、前記装置から前記スフェロイドを回収するためのマイクロ流体装置を開示している。
【0011】
国際公開第2017/188890号パンフレットには、マイクロウェルを含む装置における希少血液細胞の濃縮および増殖が記載されている。
【0012】
国際公開第2018/067802号パンフレットは、多重化学物質のハイスループット分析のためのマイクロ流体装置を開示している。
【0013】
米国特許出願公開第2009/298116号は、三次元多細胞細胞クラスターの培養のためのマイクロウェルを含む細胞培養装置を記載する。
【0014】
Moshksayanら(Sensors and Actuators B、2018、263、151−176)は、スフェロイドの形成および培養のためのいくつかのマイクロ流体設計を概説している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、細胞スフェロイドの製造を増強および促進するための手段および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明は、細胞スフェロイドを製造するためのマイクロ流体装置であって、チャンバに流体を導入するための流体入口と、チャンバから前記流体を除去するための流体出口とを含む少なくとも1つのチャンバを含み、前記少なくとも1つのチャンバは、基板が流体と接触したときに生物細胞を含む流体を収集するための少なくとも2つの凹部を含む基板によって形成された基部を含み、少なくとも2つの凹部のサイズは、少なくとも1つのチャンバの流体入口から流体出口まで減少する、マイクロ流体装置に関する。
【0017】
本発明の別の態様は、細胞スフェロイドを製造するためのマイクロ流体装置であって、チャンバに流体を導入するための流体入口と、チャンバから前記流体を除去するための流体出口とを含む少なくとも1つのチャンバを含み、前記少なくとも1つのチャンバは、基板が流体と接触したときに生物細胞を含む流体を収集するための少なくとも1つの凹部を含む基板によって形成された基部を含む、マイクロ流体装置に関する。任意選択で、そのような装置は少なくとも2つの凹部を含み、少なくとも2つの凹部のサイズは、少なくとも1つのチャンバの流体入口から流体出口まで減少してもよい。
【0018】
本発明はまた、以下の工程を含む、細胞スフェロイドの製造方法に関する:
生物細胞を含む流体を、本発明による装置の少なくとも1つのチャンバ内に適用し、それによって前記流体を少なくとも1つの凹部に提供する工程と、
少なくとも1つの細胞スフェロイドが少なくとも1つの凹部内に形成されるまで、前記流体を含む装置を少なくとも2時間インキュベートする工程。
【0019】
本発明のさらなる態様は、本明細書に定義される少なくとも1つのマイクロ流体装置を含む細胞スフェロイドの製造のためのシステムに関する。
【0020】
本発明の別の態様は、細胞スフェロイドの製造のための、本明細書で定義されるような装置またはシステムの使用に関する。
【0021】
驚くべきことに、本発明のマイクロ流体装置は、基板の基部の少なくとも2つの凹部内に細胞スフェロイドを製造する優れた能力を示すことが判明した。本発明によるマイクロ流体装置および方法を用いて、再現性があり、信頼性があり、効率的な様式で、基板中の少なくとも1つの凹部中に細胞スフェロイドを製造することが可能である。
【0022】
本発明のマイクロ流体装置の1つの主要な利点は、規定されたサイズ/直径を有する細胞スフェロイドを製造することが、懸濁液滴下法細胞培養のような他の技術と比較して、はるかに再現性がある様式でできることである(例えば、Foty R(J Vis Exp.2011;(51):2720を参照のこと)。細胞スフェロイドを製造するために本発明のマイクロ流体装置を使用する別の利点は、製造中に単に培養培地の流れを提供するだけで、スフェロイド形成中に細胞に新鮮な培養培地を供給することができることである。
【0023】
本発明の装置の基板に少なくとも2つの凹部を設けることにより、1つのマイクロ流体装置内に任意の円形スフェロイドを製造することが可能になる。さらに、基板上に複数の凹部を設けることによって、細胞スフェロイドを非常に費用効率よく製造することができる。好ましくは、本発明によるマイクロ流体装置は、15〜30個の凹部を有する。
【0024】
少なくとも2つの凹部は、異なるサイズおよび形状を有する。これは、異なるサイズの細胞スフェロイドが1つの単一のマイクロ流体装置内で製造され得るという利点を有する。
【0025】
少なくとも2つの凹部のサイズは、流体入口から少なくとも1つのチャンバの流体出口まで減少する。したがって、最小の1つまたは複数の凹部は、流体出口に最も近いところに位置する。本明細書で説明するように、少なくとも1つのチャンバを異なる速度にて排出流体ですすぐ(ゆすぐ)(rinsing)ことによって、細胞スフェロイドを、それらのサイズに従って溶出することができる。最小の1つまたは複数の凹部が流体出口に最も近いところに配置され、残りの凹部が流体入口に向かって大きくなるように配置されており、したがって、最小の1つまたは複数の凹部から出発して、細胞スフェロイドのサイズに従って細胞スフェロイドを溶出することによって、溶出された細胞スフェロイドは、細胞スフェロイドをまだ含有している他の凹部に固着することがないという利点が得られる。
【0026】
「細胞スフェロイド」(cellular spheroid)は、本明細書中で使用される場合、スフェロイド(球状体、回転楕円体)の形態またはスフェロイド様の形態を有する三次元細胞凝集体である。このようなスフェロイドは「オルガノイド」とみなすこともできる。「細胞スフェロイド」は、真核細胞、特に哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)によって形成することができ、したがって、特に好ましい細胞は、哺乳動物の器官および組織に存在する細胞である。これらのスフェロイドは、1つ以上のタイプの細胞を含み得る。種々の種類の細胞の使用が、より複雑な「オルガノイド」または組織様構造を製造することを可能にする。
【0027】
本発明によるマイクロ流体装置は、チャンバ内に流体を導入するための流体入口と、チャンバから前記流体を除去するための流体出口とを含む少なくとも1つのチャンバを含む。前記少なくとも1つのチャンバは、基板が前記流体と接触したときに生物細胞を含む流体を収集するための少なくとも2つの凹部を含む基板によって形成された基部を含む。
【0028】
好ましくは、生物細胞を含む流体はまた、細胞に供給するための栄養素を含有する。
【0029】
本発明によるマイクロ流体装置の好ましい実施形態では、流体入口および流体出口は、流体入口からチャンバを通って流体出口に流れる流体を導くように配置される。流体入口および流体出口を用いて、生物細胞を含有する流体を、容易かつ制御可能な方法で少なくとも2つの凹部に供給することができ、それによって、少なくとも1つの凹部内で成長する円形スフェロイドを破壊する危険性が最小限に減少される。好ましくは、流体入口および流体出口は、流体入口および流体出口の接続性を強化するために、結合部を備える。結合部は例えば、ルアーロック接続(Luer Lock connection)または単純なルアー接続(Luer−connection)とすることができる。
【0030】
本発明のさらに好ましい実施形態では、マイクロ流体装置の基板が、生体適合性材料を含むか、生体適合性材料からなるか、または生体適合性材料でコーティングされる。好ましくは、生体適合性材料は、シリコーンまたはプラスチック材料またはガラスである。特に、生体適合性材料は、好ましくは、ポリスチレン、シクロオレフィンコポリマー、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)、ポリウレタン、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリエステルおよびチオール−エンからなる群から選択される。基板に生体適合性材料を使用すること、または基板を生体適合性材料でコーティングすることは、細胞スフェロイドの細胞が影響を受けず、したがっておそらく基板によって中毒されないという利点を有する。本発明によるマイクロ流体装置の別の好ましい実施形態では、少なくとも1つのチャンバ全体が生体適合性材料からなるか、または生体適合性材料でコーティングされる。
【0031】
本発明によるマイクロ流体装置の別の好ましい実施形態では、少なくとも2つの凹部および/または基板が少なくとも部分的に防汚層でコーティングされる。防汚層の使用は、培養培地または洗浄溶液中に存在する物質、ならびにマイクロ流体装置内の細胞の堆積を減少または防止する。
【0032】
好ましくは、防汚層は以下からなる群の材料から選択される:
ポリエチレングリコール(PEG)ベースのポリマー、好ましくは、異なる長さを有し、約22〜450の繰り返し単位で変化し、および/または1000〜20000Daの範囲の分子量に対応する、PLL−g−PEGまたはPEGS、
ポリ(スルホベタイン)(PSB)またはポリ(カルボキシベタイン)(PCB)などのポリベタイン、
両性高分子電解質、
フッ素化ポリマー、
寒天またはアガロースなどの多糖類、
ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート(ポリ−HEMA)またはポリヒドロキシプロピルメタクリレート(ポリ−HPMA)などのポリヒドロキシポリマー、
ポリ(エチレンオキシド)、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、
ポリビニルアルコール(PVA)、
ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)、
ポリアクリル酸(PAA)、
デキストラン、
ヒドロキシルエチルセルロース(HEC)、
天然生体高分子(疎水性物質、S層タンパク質SbpA)、
高分子電解質多層(PEM)または自己組織化単層(SAM)などの防汚ナノ界面、
ポリオキシエチレンドデカノール、Tween−20、n−ドデシル−D−マルトシド(DDM)およびプルロニクス(トリブロックコポリマーPEO−b−ポリ(プロピレンオキシド)−b−PEO)などの非イオン界面活性剤、
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)および3−クロロプロピルトリクロロシラン(CPTMS)および(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)などのシラン。
【0033】
防汚層は、少なくとも2つの凹部の表面上の少なくとも1つの細胞スフェロイドの付着と同様に、破片の付着を防止する。それによって、少なくとも2つの凹部は容易に洗浄することができるだけでなく、また、細胞スフェロイドが一旦所定のサイズに達すると、少なくとも2つの凹部から細胞スフェロイドを除去することがより容易になる。本発明によるマイクロ流体装置の別の好ましい実施形態では、少なくとも1つのチャンバはまた、少なくとも部分的に防汚層でコーティングされる。
【0034】
好ましくは、少なくとも2つの凹部は、半球、球形キャップ、半楕円体、円錐、円錐台、テラス円錐、ピラミッド、角錐台、テラスピラミッド、トーラス、または楕円放物面の形状を有する。特に、半球の形状の2つの凹部を用いて、本発明によるマイクロ流体を用いて、著しく丸い細胞スフェロイドを製造することができる。以下の実施例を参照されたい。
【0035】
球形キャップの形状を有する少なくとも2つの凹部を用いて、球形キャップは、30°〜90°、好ましくは40°〜90°、より好ましくは50°〜90°、より好ましくは60°〜90°、より好ましくは70°〜90°、より好ましくは80°〜90°、より好ましくは85°〜90°の極角αを有する。
【0036】
楕円放物面の形状を有する少なくとも2つの凹部を用いて、楕円放物面のシェル表面の少なくとも一部が、空間内で回転される公式y=A×xを有する放物線によって形成され、ここで、Aは0.05〜10、好ましくは0.05、0.1、0.25、0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10であり、Bは2、4または6である。
【0037】
上記に説明された構成による球形キャップまたは楕円放物面の形状を有する少なくとも2つの凹部では、真円度因子≧0.9を有する単一の丸い細胞スフェロイドが、少なくとも2つの凹部内に形成される。真円度因子(真円度係数、丸み因子、丸み係数)は、以下の式に従って計算される:
真円度因子=(4×面積)/(π×最大直径
ここで、面積は、上面図の細胞スフェロイドの2D画像で測定された面積に対応する面積であって、上面図の細胞スフェロイドの投影面積にも対応し、πはPIに対応し、最大直径は上面図の細胞スフェロイドの2D画像で測定された面積の最大直径に対応する。真円度因子は、スフェロイドの投影面積の真円度のインジケータである。
【0038】
有利には、少なくとも2つの凹部は、50μm〜1mm、好ましくは50μm〜800μm、より好ましくは50μm〜500μmの深さを有する。
【0039】
有利には、少なくとも2つの凹部は、100μm〜2mm、好ましくは100μm〜1.5mm、より好ましくは100μm〜1mmの幅または直径を有する。
【0040】
有利には、少なくとも2つの凹部の深さ対幅の比率は、1:1〜1:3、好ましくは1:1〜1:2である。
【0041】
実際には、少なくとも2つの凹部は、10μm〜6mm、好ましくは20μm〜6mm、より好ましくは30μm〜6mm、より好ましくは50μm〜6mm、より好ましくは70μm〜6mm、より好ましくは100μm〜6mm、より好ましくは100μm〜5mm、より好ましくは100μm〜4mmの距離で互いに離間している。
【0042】
本発明によるマイクロ流体装置の別の好ましい実施形態では、少なくとも2つの凹部がグループ化され、各グループの凹部は同じサイズおよび/または同じ形状を有し、異なるグループの凹部は異なるサイズまたは異なるサイズおよび異なる形状を有する。好ましくは各グループが少なくとも3つの凹部を含み、これらの凹部は有利には一行に配置される。
【0043】
好ましくは、凹部の1つのグループが、200μm〜10mmの距離で凹部の別のグループと離間される。
【0044】
好ましくは、少なくとも2つの凹部に形成された少なくとも1つの細胞スフェロイドが、細胞スフェロイドを溶出するのに十分な速度にて排出流体で少なくとも1つのチャンバをすすぐことによって溶出される。
【0045】
好ましくは、異なるサイズの少なくとも2つの凹部を含む基板を用いて、種々の速度にて排出流体で少なくとも1つのチャンバを連続的にすすぐことによって、細胞スフェロイドが溶出される。これは、細胞スフェロイドが溶出後にそれらのサイズに従って既に仕分けされているという利点を有する。したがって、後続の分離は必要ではない。特定のサイズのスフェロイドが基板の少なくとも1つの凹部から除去される排出流体の速度は、細胞の密度および細胞タイプに依存し得るので、以下に述べる範囲内で実験的に試験することができる。
【0046】
好ましくは、円形スフェロイドを溶出する速度は、それらのサイズ、幅または直径に従って細胞スフェロイドを溶出するように選択される。好ましくは、少なくとも1つの細胞スフェロイドを溶出するための速度は、0.5μL/分〜120μL/分の範囲である。より好ましくは、少なくとも1つの細胞スフェロイドを溶出するための速度は、900μm〜1000μmの幅または直径を有する凹部については少なくとも100μL/分であり、500μm〜700μmの幅または直径を有する凹部については少なくとも30μL/分であり、および/または、150μm〜300μmの幅または直径を有する凹部については少なくとも20μL/分である。
【0047】
本発明によるマイクロ流体装置の別の好ましい実施形態では、少なくとも1つのチャンバは、流体入口から流体出口へと先細りになる。これは、少なくとも1つのチャンバを通って流れる流体の速度をチャンバ内で変化させることができるという利点を有する。
【0048】
別の態様では、本発明は、生物細胞を含む流体を、本発明による装置の少なくとも1つのチャンバ内に適用し、それによって前記流体を少なくとも2つの凹部に提供する工程と、少なくとも1つの細胞スフェロイドが少なくとも2つの凹部内に形成されるまで、前記流体を含む装置を少なくとも2時間インキュベートする工程とを含む、細胞スフェロイドの製造に関する。
【0049】
好ましくは、本発明の方法において、生物細胞を含む前記流体を含むマイクロ流体装置は、最大6ヶ月間、好ましくは最大3ヶ月間、より好ましくは最大1ヶ月間、好ましくは最大14日間、好ましくは最大7日間、好ましくは最大96時間、好ましくは最大72時間、好ましくは最大48時間インキュベートされる。より好ましくは、生物細胞を含む前記流体を含む装置は、1〜7日間インキュベートされる。細胞スフェロイドの成長は本質的に、インキュベーション時間、供給される細胞の量、および/または凹部のサイズに依存する。
【0050】
本発明による方法の好ましい実施形態において、生物細胞を含む流体は、4μL/分〜8μL/分の範囲の速度で、少なくとも1つのチャンバ内に適用される。
【0051】
本発明の別の態様は、本発明による少なくとも1つのマイクロ流体装置を含む細胞スフェロイドの製造のためのシステムに関する。
【0052】
本発明によるシステムは、本発明による少なくとも1つのマイクロ流体装置、好ましくは本発明による複数のマイクロ流体装置を含む。これは、複数の細胞スフェロイドを、信頼性があり、費用効率のよい方法で製造することができるという利点を有する。本発明のシステムの一部は、本発明の装置内で流体を移動させるためのポンプおよび配管である。
【0053】
好ましくは、本発明によるシステムはグラジエントジェネレータ(gradient generator)を含み、少なくとも1つのマイクロ流体装置の各々は、流体入口を介してグラジエントジェネレータの流体出口に流体接続される。グラジエントジェネレータに別々の物質を独立して同時に提供するために、グラジエントジェネレータは、実際には少なくとも2つの流体入口を含む。
【0054】
グラジエントジェネレータを含む本発明によるシステムは、本発明の方法によって得られる細胞スフェロイド内の細胞への物質の影響の評価に使用することができる。特に、本発明のシステムおよび装置は、合成分子、天然産物または抽出物、通常は化学合成に由来する伝統的な小分子薬物、ならびに組み換えタンパク質、ワクチン、治療的に使用される血液産物(例えば、静脈内免疫グロブリン)、遺伝子治療、モノクローナル抗体および細胞治療(例えば、幹細胞治療)を含む生体医薬の化学ライブラリーのスクリーニングのために使用され得る。種々の濃度の化合物を細胞スフェロイドに適用することにより、物質が細胞スフェロイド内の細胞に有益な効果を有するかまたは負の効果を有するかを決定することができる。このような方法は例えば、細胞スフェロイドに対して、有益な、毒性の、阻害性の、および/または刺激性の、効果を有し得る化合物の投与量を特定するために使用され得る。したがって、本発明によるシステムは、細胞スフェロイドに対する種々の物質濃度の影響を決定するために使用することができる。
【0055】
本発明のさらなる態様は、細胞スフェロイドの製造のための、本発明による装置または本発明によるシステムの使用に関する。
【0056】
いくつかの用途、例えば、微小組織および器官スフェロイドのための免疫蛍光および生化学的染色プロトコルの特定のためには、スフェロイド、特にスフェロイドを形成する細胞が、前記細胞に特異的に結合する抗体またはその機能的断片で標識されることが有利である。したがって、本発明の特に好ましい態様において、少なくとも2つの凹部内のスフェロイドは、スフェロイドを形成する生物細胞に特異的に結合する少なくとも1つの抗体と共にインキュベートされる。少なくとも1つの抗体は、モノクローナル抗体、組み換え抗体およびポリクローナル抗体、それらのサブクラスの免疫グロブリンA、D、E、G、M、W、Y、アプタマー、および/またはヒトもしくは動物抗体(例えば、ラット、マウス、ヤギ、ウサギ、ウマ、ロバなど)であり得る。スフェロイドを抗体で標識するために、流体、好ましくは生理学的pHを示す緩衝液を含む抗体を本発明の装置に適用する。
【0057】
本発明の好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの抗体は以下のもので標識される:
蛍光物質;
ペルオキシダーゼ(POD、西洋ワサビペルオキシダーゼHRP);それによって、以下のペルオキシダーゼ基質の1つが、好ましくは前記抗体のスフェロイドおよびそれらのそれぞれの細胞への結合を検出するために使用され得る:
ABTS (2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸))、
AEC (3−アミノ−9−エチルカルバゾール)、
CN (4−クロロ−1−ナフトール)、
DAB (3,3’−ジアミノベンジジン)、
ルミノールおよび他のジオキセタン、
TMB(テトラメチルベンジジン)
アルカリホスファターゼ(AP);それによって、以下のホスファターゼ基質の1つが、好ましくはスフェロイドおよびそれらのそれぞれの細胞への前記抗体の結合を検出するために使用され得る:
5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシルホスフェート(BCIP)、
ナフトール−AS−MX−ホスフェート、
ニューフクシン
放射性同位体;放射性同位体は、好ましくは以下の同位体のうちの1つから選択される:
131iod
32リン
トリチウム。
【0058】
本発明のこれらおよびさらなる有利な実施形態は、以下の説明および添付の図面に基づいて説明される。当業者は、様々な実施形態を組み合わせることができることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明によるマイクロ流体装置の実施形態を模式的平面図で示す。
図2】本発明によるマイクロ流体装置の実施形態を模式的平面図で示す。
図3】本発明によるマイクロ流体装置の別の実施形態を模式的平面図で示す。
図4】本発明によるシステムの実施形態を模式的平面図で示す。
図5a】円筒形状の凹部を有する、図1に記載のマイクロ流体装置の実施形態の側断面図(断面側面図)を示す。
図5b図5aによるマイクロ流体装置の実施形態において形成された細胞構造の画像を平面図にて模式的に示す。
図6a】ディスク形状の凹部を有する、図1によるマイクロ流体装置の実施形態の側断面図を示す。
図6b図6aによるマイクロ流体装置の実施形態において形成された細胞構造の画像を平面図にて模式的に示す。
図7a】球形キャップの形状を有する凹部を有する、図1によるマイクロ流体装置の実施形態の側断面図を示す。
図7b図7aによるマイクロ流体装置の実施形態において形成された細胞構造の画像を平面図にて模式的に示す。
図8a】楕円放物面の形状を有する凹部を有する、図1に記載のマイクロ流体装置の実施形態の側断面図を示す。
図8b図8aによるマイクロ流体装置の実施形態において形成された細胞構造の画像を平面図にて模式的に示す。
図9a】半球形状の凹部を有する、図1によるマイクロ流体装置の実施形態の側断面図を示す。
図9b図9aによるマイクロ流体装置の実施形態において形成された細胞構造の画像を平面図および側断面図にて模式的に示す。
図10】凹部の直径にわたって、凹部当たりのスフェロイドの数を有するグラフを示す。
図11】異なる形状およびサイズの凹部にわたる細胞スフェロイドの真円度因子を示すグラフを示す。
図12】異なる形状の凹部にわたるスフェロイド直径を有するグラフを示す。
図13図1による6つのマイクロ流体装置およびグラジエントジェネレータを有する、本発明によるシステムの実施形態を模式的平面図で示す。
図14】抗体とのインキュベーション中の、図9aによるマイクロ流体装置における細胞スフェロイドを模式的な図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1および図2は、本発明によるマイクロ流体装置1の実施形態を模式的平面図で示す。マイクロ流体装置1は、チャンバ2内に流体を導入するための流体入口3と、チャンバ2から前記流体を除去するための流体出口4とを有するチャンバ2を備える。さらに、チャンバ2は基板5によって基部されたベースを備え、基板5は15個の凹部6を備える。
【0061】
凹部6はグループ7a〜7eにグループ化され、各グループ7a〜7eは一行に配置された3つの凹部6を含む。各グループ7a〜7eの凹部6は、同じサイズおよび同じ形状を有し、異なるグループ7a〜7eの凹部は、異なる大きさを有する。例えば、第1グループ7aの凹部6は200μmの直径を有し、第2グループ7bの凹部6は500μmの直径を有し、第3グループ7cの凹部6は700μmの直径を有し、第4グループ7dの凹部6は900μmの直径を有し、第5グループ7eの凹部6は1000μmの直径を有する。
【0062】
細胞スフェロイドを成長させるために、生物細胞を含む流体が、流体入口3を通ってチャンバ2内に適用される。その結果、基板5は流体と接触し、凹部6は流体で満たされる。細胞スフェロイドの必要とされるサイズに応じて、細胞スフェロイドがチャンバ2から溶出され得る前に、インキュベーション時間が満たされる必要がある。より小さい細胞構造は、2時間後にすでに形成されている。
【0063】
細胞スフェロイドを凹部から溶出するために、流体入口3を通じて排出流体を適用してチャンバ2をすすぐ。排出流体は、流体出口4を通って排出される。排出流体は、チャンバ2を通って方向12に流れる。図2を参照されたい。好ましくは、排出流体は、サイズに応じて、またはサイズに応じて各グループで、細胞スフェロイドを溶出するために、種々の速度で流体入口3を通して供給される。
【0064】
図2に示す例では、排出流体がグループ7aの凹部6から最初に最小の円形スフェロイドを溶出するのに十分な第1の低速度で流体入口3に供給される。第1の速度は、例えば20μL/分である。さらなる工程において、排出流体の速度は、第2の速度まで増加される。第2の速度は、例えば30μL/分である。これにより、グループ7bおよび7cの凹部6に形成された細胞スフェロイドが溶出する。速度を第3の速度、例えば100μL/分にさらに増加させることによって、グループ7dおよび7eの凹部6の円形スフェロイドの残りが溶出される。速度をより細かく目盛ると、グループ7bおよび7dに形成された細胞スフェロイドも、グループごとに個別に溶出することができることに注意されたい。図2に示された速度は単に例示的なものであり、凹部6のサイズに応じてこの値とは異なっていてもよいことに注意されたい。さらに、細胞スフェロイドの溶出のために、チャンバ2から全ての細胞スフェロイドを一度に溶出するのに十分な速度で、排出流体を流体入口3を通して適用することも可能であることに注意されたい。
【0065】
全ての細胞スフェロイドが溶出された後、マイクロ流体装置1は、洗浄流体で洗浄され、さらなる使用の準備が整う。
【0066】
好ましくは、生物細胞を含む流体は、流体入口3を通って連続的な様式でチャンバ2に適用され、そしてインキュベーションの間、流体出口4によってチャンバ2から排出される。これは、細胞に栄養素を連続的に供給することができて新しい細胞がマイクロ流体装置1に供給されるという利点を有する。
【0067】
図3は、本発明によるマイクロ流体装置8の別の実施形態を模式的平面図で示す。マイクロ流体装置8は、マイクロ流体装置2のチャンバ9が流体入口3から流体出口4へと本質的に先細りになる(テーパー状になる)という事実、および基板10が30個の凹部11につながる種々のサイズの凹部11の5つのさらなるグループ7f〜7jを含むという事実において、図1によるマイクロ流体装置1と区別される。先細りになることにより、チャンバ9を通ってすすぐ流体の速度が変化する。速度が速いほど、細胞スフェロイド上の剪断力が高くなる。したがって、種々の剪断力での細胞スフェロイドへの衝撃が、1つの単一のチャネルにおいてモニターされ得る。例えば、図3に示すマイクロ流体装置8の流体入口3で8μL/分の体積速度で流体を適用すると、チャンバ9のより広い部分間での剪断力は0.01dyn/cmであり、流体出口付近の剪断力は0.07dyn/cmである。したがって、流体出口付近の剪断力は、チャンバ9のより広い部分での剪断力の7倍である。
【0068】
マイクロ流体装置8の要素は図1によるマイクロ流体装置1の要素と同様であり、同じ参照番号で示されている。基板10は、異なる量の凹部11を含むこともできることに留意されたい。
【0069】
図4は、本発明によるシステム13の実施形態を模式的平面図で示す。システム13は図1による6つのマイクロ流体装置1を含み、システム13は、マイクロ流体装置1の個々のチャンバ2が収容される1つの基部14を有する。
【0070】
図5aは、円筒形状の凹部6を有する図1によるマイクロ流体装置1の実施形態の側断面図を示す。
【0071】
図5bは、図5aによるマイクロ流体装置1の実施形態において形成された細胞構造の画像を平面図にて模式的に示す。単純化の理由から、図5bは、各グループ7a〜7eの凹部当たりの細胞構造の一例を示すに過ぎない。どの画像がどのグループ7a〜7eに対応するかを示すために、画像はグループ参照番号で示される。
【0072】
図5bの画像に見られるように、円筒形の凹部6には球状の細胞構造はない。むしろ、円筒形の凹部6には、異なる形状の多数の細胞構造が形成されている。
【0073】
図6aは、ディスク形状の凹部6を有する図1によるマイクロ流体装置1の実施形態の側断面図を示す。
【0074】
図6bは、図6aによるマイクロ流体装置の実施形態において形成された細胞構造の画像を平面図にて模式的に示す。単純化の理由から、図6bは、各グループ7a〜7eの凹部当たりの細胞構造の一例を示すに過ぎない。どの画像がどのグループ7a〜7eに対応するかを示すために、画像はグループ参照番号で示される。
【0075】
図6bの画像に見られるように、円盤状の凹部6には球状の細胞構造はない。また、ディスク形状の凹部6を用いて、種々の形状の多数の細胞構造が凹部6内に形成される。
【0076】
図7aは、球形キャップの形状を有する凹部6を有する、図1によるマイクロ流体装置1の実施形態の側断面図を示す。球形キャップは、種々の角度αを有する。角度αは球形キャップの表面17上の例示的な点19における接線面15と基板5の水平面16との間の角度であり、点19において、球形キャップの表面17は、基板の水平面16と交差する。角度αは球形キャップの極角(polar angle)に対応するので、以下、αを極角と呼ぶ。
【0077】
異なるグループ7a〜7eの球形キャップは、同じ深さを有するが、その直径が変化し、したがって、極角αも変化する。例えば、最小の凹部6を含むグループ7aは90°の極角αを有し、グループ7eは、30°の極角αを有する。異なるグループ7a〜7eの球形キャップはまた、異なる極角αを有する同じ直径を有することができ、または同じ勾配角度αを有する、異なる深さおよび直径を有することもできることに留意されたい。
【0078】
図7bは、図7aによるマイクロ流体装置1の実施形態において形成された細胞構造の画像を平面図にて模式的に示す。単純化の理由から、図7bは、各グループ7a〜7eの凹部当たりの細胞構造の一例を示すに過ぎない。どの画像がどのグループ7a〜7eに対応するかを示すために、画像はグループ参照番号で示される。
【0079】
図7bの画像に見られるように、球形キャップ形状の凹部6に細胞スフェロイドが形成されている。
【0080】
図8aは、楕円放物面の形状を有する凹部6を有する、図1に記載のマイクロ流体装置1の実施形態の側断面図を示す。楕円放物面のシェル表面18は、空間的に回転された公式y=A×xを有する放物線によって形成される。異なるグループ7a〜7eの凹部6は同じ直径を有するが、深さが変化し、したがって楕円放物面形状が変化する。例えば、最小の凹部6であるグループ7aの凹部6は、空間的に回転されたy=0.1×xの公式を有する放物線によって形成され、グループ7eの凹部6は、空間的に回転されたy=2×xの公式を有する放物線によって形成される。異なるグループ7a〜7eの凹部6はまた、異なる楕円放物面形状で同じ深さを有することができ、または、同じ楕円放物面形状で異なる深さおよび/または直径を有することもできることに留意されたい。
【0081】
図8bは、図8aによるマイクロ流体装置の実施形態において形成された細胞構造の画像を平面図にて模式的に示す。単純化の理由から、図8bは、各グループ7a〜7eの凹部当たりの細胞構造の一例を示すに過ぎない。どの画像がどのグループ7a〜7eに対応するかを示すために、画像はグループ参照番号で示される。
【0082】
図8bの画像からわかるように、楕円放物面形状の凹部6に細胞スフェロイドが形成されている。
【0083】
図9aは、半球形状の凹部6を有する図1によるマイクロ流体装置1の実施形態の側断面図を示す。
【0084】
図9bは、図9aによるマイクロ流体装置1の実施形態において形成された細胞構造の画像を平面図および側断面図にて模式的に示す。単純化の理由から、図9bは、平面図および側断面図において、各グループ7a〜7eの凹部当たりの細胞構造の一例を示すに過ぎない。どの凹部6がどのグループ7a〜7eに属するかを示すために、凹部6はグループ参照番号で示されている。
【0085】
図9bに見られるように、半球形状の凹部6に完全に丸い細胞スフェロイドが形成されている。
【0086】
図10は、凹部の直径にわたって、凹部当たりのスフェロイドの数を有するグラフを示す。
【0087】
図11は異なる形状およびサイズの凹部6にわたる細胞スフェロイドの真円度因子を示すグラフを示し、凹部6のサイズ7a〜7eは、図12に従って編成される。
【0088】
図12は、異なるサイズを有する異なる形状の凹部にわたるスフェロイド直径を有するグラフを示す。
【0089】
図13は、図1による6つのマイクロ流体装置1およびグラジエントジェネレータ22を有する、本発明によるシステム20の実施形態を模式的平面図で示す。グラジエントジェネレータ22は6つの流体出口21を備え、各流体出口21はマイクロ流体装置1の流体入口3に接続される。さらに、グラジエントジェネレータ22は、2つの流体入口23を備え、流体入口23を介して、物質Aおよび物質Bをグラジエントジェネレータに供給することができる。
【0090】
物質Aと物質Bを同じ圧力で流体入口23に供給することによって、マイクロ流体装置1は物質Aと物質Bの異なる化合物ですすがれる。図13に見られるように、化合物は、100%のAと0%のBの化合物と、0%のAと100%のBの化合物との間で変化する。システム20を用いて、細胞スフェロイドに対する種々の物質濃度の影響を決定することが可能である。
【0091】
グラジエントジェネレータ22は、より多くの流体入口23および/またはより多くのまたはより少ない流体出口21を有することもできることに留意されたい。
【0092】
図14は、抗体24とのインキュベーション中の、図9aによるマイクロ流体装置1における細胞スフェロイドを模式的な図で示し、図14は、マイクロ流体装置1の一部のみを示す。
【0093】
〔実施例〕
〔材料および方法〕
〔マイクロ流体装置1の作製〕
図5a〜図9aに示されるマイクロ流体装置1は、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)の二重キャスティング(double casting)によって作製された。凹状のマイクロウェルおよびチャネルを含む第1のマトリックスは、CNCマイクロミリング(micromilling)を用いてポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)中で作製される。PDMSは、プレポリマーと硬化剤とを10:1の重量比率で混合することによって調製される。混合物をPMMA構造体上に注ぎ、75℃で3時間硬化させる。その後、構造体をPMMAマトリックスから剥がし、100℃で48時間オーブンに入れる(熱エージング工程)。その結果、凸パターンを持つ第二のマトリックスが得られた。熱エージングされたPDMSマスターを次のレプリカ成形(replica molding)手順に使用し、このようにして、マイクロシステムのPDMS底部層を得た。管(流体入口および流体出口)用の穴をガラススライドに穿孔し、酸素プラズマ活性化を用いて90Wで1分間、底部PDMS層に不可逆的に結合させた。PDMSとガラス層との間の結合は、位置合わせ後、70℃で1時間、マイクロ流体装置1を裏打ちすることによって促進された。
【0094】
〔細胞培養〕
肝細胞癌細胞(ATCC、米国)を、10%ウシ胎仔血清(FBS、Gibco、米国)、1%GlutaMax(商標)(Life technologies、Thermo Fisher Scientific、米国)および1%抗生物質/抗真菌剤溶液(Sigma−Aldrich、オーストリア)を補充した最小必須培地(MEM)中で培養した。この細胞を、接着性単層として、37℃、5%CO加湿大気中、標準的な細胞培養条件下で、75cm細胞培養フラスコにて培養した。80%のコンフルエンシー(confluency)で、細胞をリン酸緩衝液(PBS、Sigma−Aldrich、オーストリア)ですすぎ、37℃で10分間トリプシン処理して酵素分離した。相補的MEMを添加してトリプシン(GE Healthcare、オーストリア)を不活性化し、細胞懸濁液を1250rpmで5分間遠心分離し、沈殿したペレットを新鮮な培地に再懸濁した。細胞を計数し、播種前に自動細胞カウンター(Nano En Tek、韓国)を用いてトリパンブルー試薬に対して生存率を実施した。
【0095】
〔細胞播種および細胞スフェロイド生成〕
作製後、図5a〜図9aに示されるマイクロ流体装置1のチャンバ2を、シリンジポンプ(KD Scientific、米国)を使用して、70%エタノールを用いて4μL・分−1の流速で1時間潅流した。滅菌dHOで洗い流した後、チャンバ2に、1μL・分−1の流速で防汚タンパク質溶液を装填し、室温で一晩インキュベートして、それによって、細胞接着を防止してそれぞれの凹部6において制御された細胞スフェロイド生成を誘導する、ナノバイオインターフェースを作製した。タンパク質溶液を細胞培養培地のフローインジェクションによって除去し、続いて細胞播種工程を行う。6×10細胞mL−1の密度の単一の細胞懸濁液を、シリンジポンプを用いて、4μL・分−1の流速で10分間、チャンバ2に装填した。1時間インキュベートした後、捕捉されていない細胞を、10μL・分−1の流速で細胞培養培地によって溶出した。凹部6内での細胞スフェロイド培養は、37℃、5%COで、4μL・分−1の一定流速で行われる。
【0096】
〔画像分析〕
図5a〜図9bに示すマイクロ流体装置1の顕微鏡画像を、画像処理および分析フリーウェア(ImageJ、NIH、米国)を用いて分析した。デジタルカメラ(DS−Qi1MC、ニコン、日本)を装備した倒立蛍光光学顕微鏡(TE2000、ニコン,日本)で3日間にわたりスフェロイド培養をモニターした。BioVoxxel Image Processing and Analysis Toolbox for ImageJ (Biovoxxel、ドイツ)を用いて、スフェロイドの面積、周囲の長さ、剛性および真円度(丸み)を測定した。データは平均±標準偏差(SD)で表した。全ての実験は、独立して三重に行った。
【0097】
〔結果〕
再現性があって均一なサイズの単一のHepG2細胞スフェロイドの正確なサイズ制御のための凹部6の最適な形状を評価するために、様々な凹部の形状およびサイズを試験した。特に、円筒(深さ100μmおよび500μm)、球形キャップ、楕円放物面および半球の形状の凹部6を試験した。播種後3日後、HepG2細胞スフェロイドの形態を評価した。図10は、凹部の直径に応じた、生成されたHepG2細胞スフェロイドの数に対する凹部の形状の影響を示す。結果は、半球形凹部が、凹部直径とは無関係に凹部の各々の内部に単一のスフェロイドの形成をもたらしたことを示している。対照的に、種々の曲率を有する凹部は、円筒形状と同様に、各凹部に複数のスフェロイドを形成する、より高い可能性を示し、したがって、スフェロイド製造の歩留まりと精度を減少させた。
【0098】
スフェロイド形態の品質に対する凹部形状の影響を評価するために、円筒(深さ100μmおよび500μm)、球形キャップおよび半球の形状を有する凹部について、各微小組織の真円度因子を測定した。図11は、半球形状および球形キャップ形状が、各ウェルの直径において再現性がある丸いHegG2スフェロイドの形成を誘導したことを示す。さらに、公式y=A×x、A=0.14〜0.3、B=2〜4を有する放物線によって形成される放物面のシェル表面を有する楕円放物面形状は、半球形状および球形キャップ形状の凹部に匹敵する丸い単一のHepG2スフェロイドの形成をもたらしたが、一方、それとは異なるシェル表面を有する楕円放物面形状の凹部では、真円度の減少が観察された。0.9を超える真円度因子を有するスフェロイドは、文献に記載されるように、規則的な球形の微小組織と考えられる(Zanoniら(Sci Rep.2016;(6):19103を参照のこと)。
【0099】
対照的に、両方の円筒形状は、不規則な非円形のHepG2スフェロイドをもたらした。これらの効果をより詳細に調べるために、半球形、楕円放物面、球形キャップ形状を持つ凹部に対するスフェロイドサイズ制御性を評価した。半球形の凹部は、図12に示すように、スフェロイドのサイズを、再現性がある方法で調節する能力を示した。半球形状は、単一のマイクロチャネル内でスフェロイドのサイズの直線的な増加をもたらしたが、楕円放物面形状および球形キャップ形状の凹部は、スフェロイドの不規則で制御性の低い(直線的な増加および相関がない)形成をもたらした。
【0100】
〔結論〕
ここでは、マイクロ流体装置における凹部形状と直径の影響に基づく単一のマイクロチャネル内の細胞スフェロイド生成のサイズ制御のための新規な方法と装置を示す。円筒形の凹部は、複数の非規則的な細胞スフェロイドの形成を可能にし、したがって、これらの形状は、正確な微小組織サイズ制御のための予測できない構造と考えることができることを示した。楕円放物面、球形キャップおよび半球形凹部としてのさらなる凹部形状を、最適な細胞捕捉効率ならびに結果としてのサイズ調整可能な丸い細胞スフェロイドの形成に関して評価した。結論として、半球形凹部は、スフェロイドのサイズおよび形態において高い制御性を有して、100%の収率で、各個々の凹部において再現性がある単一の細胞スフェロイドの生成をもたらす。
【0101】
本発明のマイクロ流体装置は、信頼性があって強固な(robust)データの基礎である、毒物学的スクリーニング、幹細胞研究、組織工学および生化学的染色プロトコルのための、最適なスフェロイドサイズを決定するための迅速な評価ツールである。要約すると、本発明によるマイクロ流体装置は、マイクロ凹部の幾何学的制御によって生成される種々のサイズのスフェロイドをスクリーニングするための容易なツールであり、これは、広範囲の用途に最適なスフェロイドサイズを実証する。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6a
図6b
図7a
図7b
図8a
図8b
図9a
図9b
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】