特表2022-501050(P2022-501050A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2022-501050(P2022-501050A)
(43)【公表日】2022年1月6日
(54)【発明の名称】細胞のテロメアを伸長させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 13/00 20060101AFI20211210BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20211210BHJP
【FI】
   C12N13/00
   C12N5/071
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2021-516657(P2021-516657)
(86)(22)【出願日】2019年9月10日
(85)【翻訳文提出日】2021年3月23日
(86)【国際出願番号】KR2019011681
(87)【国際公開番号】WO2020071652
(87)【国際公開日】20200409
(31)【優先権主張番号】10-2018-0117265
(32)【優先日】2018年10月2日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0108764
(32)【優先日】2019年9月3日
(33)【優先権主張国】KR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】518320579
【氏名又は名称】ステムオン インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】STEMON INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン スン
【テーマコード(参考)】
4B033
4B065
【Fターム(参考)】
4B033NG05
4B033NH03
4B033NH04
4B033NJ03
4B033NJ04
4B033NJ05
4B033NJ10
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065BD08
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階と、前記細胞および培地の混合物を一定時間培養する段階と、を含み、前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と細胞を混合することである、細胞のテロメアを伸長させる方法と、物理的刺激によりテロメアが伸長された細胞と、を開示する。本発明による細胞のテロメアを伸長させる方法は、従来の方法に比べて、簡単であり、時間、コスト、効果の効率性、及び安全性の面で優れている。また、本発明の方法は、単にテロメアを伸長させるにとどまらず、細胞分裂を誘導し、抗老化効果を有するため、これによりテロメア長の短縮による問題だけでなく、老化に関連する様々な疾患や症状を改善および予防することができるものと期待できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階と、
前記細胞および培地の混合物を一定時間培養する段階と、
を含み、
前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と細胞を混合することである
ことを特徴とする細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項2】
前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つである
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項3】
前記細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階は、
細胞と培地を混合した後、前記混合物に物理的刺激を提供するか、
培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合するか、
細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合するか、
細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、
培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、
細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合するか、
細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか
の方式の中から選択されるいずれか一つの方式により行われる
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項4】
前記物理的刺激は超音波刺激であり、
前記直接的な超音波刺激は、強度が0.1〜3W/cmであり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴とし、
前記間接的な超音波刺激は、強度が1〜20W/cmであり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分である
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項5】
前記物理的刺激は熱刺激であり、
前記温度変化刺激は、細胞を40〜50℃の温度条件下で1〜10分露出させた後、0〜4℃の温度条件下で5〜10秒間露出させることにより加えられる
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項6】
前記物理的刺激は光刺激であり、
前記光刺激は、レーザー光または発光ダイオード(light−emitting diode)光のいずれか一方の、波長帯域300〜900nmのパルス型ビームを1〜10秒間照射することにより加えられる
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項7】
前記細胞は、それぞれ哺乳類由来の幹細胞、前駆細胞、繊維芽細胞、角質細胞、または器官内の組織細胞からなる群から選択される
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項8】
前記培地は、培養培地または分化誘導培地から選択される
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項9】
前記混合物の培養は、1時間〜10日間行われる
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項10】
前記培養後、前記細胞における、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が増加する
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項11】
前記培養後、前記細胞におけるテロメラーゼ活性が上昇することを特徴とする、請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項12】
前記培養後、前記細胞におけるβ−ガラクトシダーゼ活性が低下する
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させる方法。
【請求項13】
物理的刺激によりテロメアが伸長された
ことを特徴とする細胞。
【請求項14】
前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つである
請求項13に記載の細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞のテロメアを伸長させる方法に係り、さらに詳しくは、細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供して、前記細胞のテロメアを伸長させる方法、および、上記のような方法によりテロメアが伸長された細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
テロメア(telomere)は、染色体の両端にあるDNA繰り返し構造(ヒトではTTAGGG)である。テロメアは、シェルテリン(shelterin)複合体と結合して保護キャップを形成し、これは、細胞の増幅機能を調節し、細胞分裂時に染色体同士の結合と遺伝情報の消失を防止する役割を果たす。DNAポリメラーゼは3’末端すべてを増幅できないため、テロメアは、毎細胞分裂ごとに30〜200bpほど短くなる。テロメアが閾値よりも短くなり、コーディングDNAに近づいて、テロメアのループ(loop)構造を維持できなくなると、露出されたテロメアは、p53またはp16INK4aシグナル伝達システムにより認識され、細胞分裂が停止し、老化して死滅していく。
【0003】
テロメアは、逆転写酵素であるテロメラーゼ(telomerase)によって伸長することができるが、ヒトテロメラーゼ複合体は、テロメアの合成のテンプレート(鋳型)として作用するRNA分子であるTERC、触媒サブユニットであるTERT、DKC1及びTEP1などの補助タンパク質から構成されている。通常の場合、体細胞のテロメラーゼ活性はほとんど存在せず、活発な分裂能を必要とする幹細胞および前駆細胞でのみ高い活性が検出される。
【0004】
テロメアが短くなり、多数の細胞の分裂が停止すると、さまざまな問題が発生したり、特に、老化(aging)と変性(degeneration:退化)をはじめとする様々な症状が現れたりすることがある。皮膚組織変性の先天性角化異常症(dyskeratosis congenita)および血液細胞が不足する再生不良性貧血(aplastic anemia)などの骨髄細胞の再生に問題が生じる疾病は、テロメラーゼまたはこれを含むシェルテリン複合体関連遺伝子の変異などのテロメア維持機能の異常が原因で現れることが既に明らかになっている。最近の研究結果では、高血圧、代謝症候群、糖尿病、認知症などの老化関連疾患を患っている患者は、通常の人よりもテロメアが短いことが示されているため、テロメア長を長くすることによって老化を遅らせる可能性に関する研究が説得力を得ている。また、テロメラーゼ活性がほとんどないことが一般的に知られている体細胞では、テロメラーゼ活性を高めることで再生活動を活発に行えることが研究により示されており、特に、火傷、怪我(負傷)、老化、疾病による心筋、肝臓、角膜、皮膚、血管、軟骨、骨などの様々な組織、免疫細胞、血液細胞などを補う必要がある場合に効果があると報告されている。しかしながら、テロメア長を伸長させることができる遺伝子を継続的に過剰発現させたマウスでは癌細胞が多数発生するなど、長いテロメアが癌発症の危険因子である可能性があるという研究結果も出てきている。したがって、テロメアを一時的に伸張させることができれば、癌を引き起こすリスクなしに様々な老化及び変性に関連する症状を緩和し、特に再生医療分野でも有用であると予想されている。
【0005】
上記のように様々な効果が予想されるので、テロメアを伸長させるための様々な方法が考案されてきた。特許文献1には、テロメラーゼ活性を高めるための化合物を含む医薬組成物が開示されており、そのためには、化合物を合成する過程が必要であり、前記組成物が効果を出すためには時間がかかる。このような化合物は、その効果が相当時間持続することが示されたが、テロメラーゼ活性が持続的に高いと癌の発生リスクが存在することが知られている。特許文献2には、テロメラーゼをコーディングする核酸が開示しており、これも合成過程を必要とし、また、核酸は、親水性であるため、細胞内への送達には伝達体がさらに必要とされる。特許文献3には、テロメラーゼ由来ペプチドが開示されており、これもまた合成過程を必要とし、さらに週に3回、2ヶ月間注射し、1カ月後に測定した場合にのみ効果が奏するレベルなので、面倒であり、コスト面で問題になる可能性がある。したがって、合成等のコストと時間の観点から、より合理的で、安全で、効率の良いテロメア伸長方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国公開特許第2018−0280413号公報
【特許文献2】欧州公開特許第2959005号公報
【特許文献3】韓国公開特許第10−2018−0123512号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10−1855967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述した問題を解決するために案出されたものであり、本発明の一実施形態によるテロメアを伸長させる方法は、細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階と、前記細胞および培地の混合物を一定時間培養する段階と、を含み、前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と細胞を混合することであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一実施形態は、物理的刺激によりテロメアが伸長された細胞を提供する。
【0009】
本発明が成し遂げようとする技術的課題は、以上で言及した技術的課題に限定されるものではなく、言及していない他の技術的課題は、以下の記載から、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した技術的課題を達成するための技術的手段として、本発明の一態様による、テロメアを伸長させる方法は、細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階と、前記細胞および培地の混合物を一定時間培養する段階と、を含み、前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と細胞を混合することであることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0012】
前記細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階は、細胞と培地を混合した後、前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するかの方式の中から選択されるいずれか一つの方式により行われることを特徴としてもよい。
【0013】
前記物理的刺激は超音波刺激であり、前記直接的な超音波刺激は、強度が0.1〜3W/cmであり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴とし、前記間接的な超音波刺激は、強度が1〜20W/cmであり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴としてもよい。
【0014】
前記物理的刺激は熱刺激であり、前記温度変化刺激は、細胞を40〜50℃の温度条件下で1〜10分露出させた後、0〜4℃の温度条件下で5〜10秒間露出させることにより加えられることを特徴としてもよい。
【0015】
前記物理的刺激は光刺激であり、前記光刺激は、レーザー光または発光ダイオード(light−emitting diode)光のいずれか一方の、波長帯域300〜900nmのパルス型ビームを1〜10秒間照射することにより加えられることを特徴としてもよい。
【0016】
前記細胞は、それぞれ哺乳類由来の幹細胞、前駆細胞、繊維芽細胞、角質細胞、または器官内の組織細胞からなる群から選択されることを特徴としてもよい。
【0017】
前記培地は、培養培地または分化誘導培地から選択されることを特徴としてもよい。
【0018】
前記混合物の培養は、1時間〜10日間行われることを特徴としてもよい。
【0019】
前記培養後、前記細胞における、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が増加することを特徴としてもよい。
【0020】
前記培養後、前記細胞におけるテロメラーゼ活性が上昇することを特徴としてもよい。
【0021】
前記培養後、前記細胞におけるβ−ガラクトシダーゼ活性が低下することを特徴としてもよい。
【0022】
本発明の他の態様は、物理的刺激によりテロメアが伸長された細胞を提供する。
【0023】
ここで、前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0024】
上述した課題を解決する手段は、単に例示的なものであり、本発明を限定しようとするものと解釈されてはならない。上述した例示的な実施形態に加えて、図面及び発明の詳細な説明においてさらなる実施形態が存在することが可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させる方法は、前述の従来のテロメアを伸長させる方法に比べて、簡単であり、コスト面で優れている。すなわち、従来の方法は、化合物を投与する方式であり、この化合物を化学的または生物学的方法を用いて合成および精製する過程、ならびにこのための設備および継続的に投入される材料が必要である。化学合成の場合、特異性がなく、環境に有害であり、このような欠点を生合成により克服することができるが、生合成の場合、収率が低く、大量生産および品質保持が困難であり、汚染の可能性が高いため、それに対処するための設備と材料がさらに必要である。また、細胞は二重脂質膜に囲まれているため、精製された化合物の化学的性質によっては、このような化合物を細胞内に送達できる伝達体がさらに必要であり、この場合、伝達体に化合物をロードする段階が必要とされる。これに対し、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させる方法は、細胞への物理的刺激を直接処理することで効果を奏するので、合成、精製、伝達体考案・合成・調達などの過程をすべて省略することができ、刺激を与えることができる設備があれば実施が可能なので、低コストでテロメアを伸長させることができる。
【0026】
さらに、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させる方法は、従来のテロメアを伸長させる方法に比べて、時間および効率の面で優れている。従来技術のテロメアを合成する化合物を合成する過程では、原材料が投入され、これらのすべてが産出物を構成するわけではなく、副産物やバッファーなどの廃棄される部分が存在するのに対し、本発明の方法では、材料を合成する過程がなく、物理的刺激を加える方式であるため、そのような無駄はない。さらにまた、前述の化合物を用いたテロメア伸長方法は、十分な効果を生み出すために高濃度の化合物を複数回または長時間(ないし長期間)にわたって処理する必要があるのに対し、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを身長させる方法は、20分以内の短い物理的刺激を1回処理するだけでも効果が現れる。
【0027】
さらに、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させる方法は、高い安全性を有する。すなわち、化合物は、代謝過程での毒性などの追加のリスクを伴う可能性があり、前述した従来の技術では、化合物の処理量がmg/kgのレベルで非常に高く、合成過程においても、環境に負担を掛ける廃棄物等が発生するが、本発明による方法はこのような問題を伴わない。さらにまた、本発明による方法は、短時間の超音波処理によりテロメア伸長に関連するTERT遺伝子の発現の増加を一時的に誘導するが、前記遺伝子の持続的な発現は癌の発生と相関することが知られているので、このような遺伝子発現の増加効果が持続的ではない本発明の方法により、テロメアが伸長された細胞を治療目的で投入する場合、または、本発明を生体に適用する場合、癌発生のリスクの観点から、より安全であることが期待できる。
【0028】
さらにまた、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させる方法は、単にテロメアを伸長させるにとどまらず、細胞分裂を誘導し、抗老化効果を有することが確認されており、したがって、これによりテロメア長の短縮による問題だけでなく、老化に関連する様々な疾病や症状を改善および予防することができるものと期待できる。
【0029】
本発明の効果は、上記の効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明または特許請求の範囲に記載された発明の構成から推論できるすべての効果を含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施例1による超音波処理及び培養後の細胞の種類に応じたテロメア長の変化の分析データである。
図2】本発明の実施例1による超音波刺激処理、実施例2による熱刺激処理、実施例3による発光ダイオード光刺激処理、及び各培養後の各物理的刺激処理によるテロメア長の変化の分析データである。
図3】本発明の実施例5による間接超音波刺激処理及び培養後のテロメア長の変化の分析データである。
図4】本発明の実施例1による超音波処理及び培養後の培地の種類に応じたテロメア長の変化の分析データである。
図5】本発明の実施例1による超音波処理及び培養後の超音波刺激処理回数によるテロメア長の変化の分析データである。
図6】本発明の実施例1による超音波処理及び培養後の細胞の種類に応じたTERT遺伝子発現変化の分析データである。
図7】CB−HDF及びAdipo−MSCに対する、本発明の実施例1による超音波処理及び培養後のTERT遺伝子発現変化の分析データである。
図8】CB−HDF及びAdipo−MSCに対する、本発明の実施例1による超音波処理及び培養後のβ−カテニン遺伝子発現変化の分析データである。
図9】CB−HDF及びAdipo−MSCに対する、本発明の実施例1による超音波処理及び培養後のテロメラーゼ活性の変化の分析データである。
図10】CB−HDF及びAdipo−MSCに対する、本発明の実施例1による超音波処理及び培養後のテロメアFISH(fluorescence in situ hybridization:蛍光 in situ ハイブリダイゼーション)データである。
図11】CB−HDFに対する、本発明の実施例1による超音波処理及び培養後のTERTとKi67の細胞の蛍光染色データである。
図12】CB−HDFに対する、本発明の実施例1による超音波処理及び培養後の老化関連β−ガラクトシダーゼ活性の分析データである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の一態様によるテロメアを伸長させる方法は、細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階と、前記細胞および培地の混合物を一定時間培養する段階と、を含み、前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と細胞を混合することであることを特徴とする。
【0032】
ここで、前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0033】
前記細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階は、細胞と培地を混合した後、前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するかの方式の中から選択されるいずれか一つの方式により行われることを特徴としてもよい。
【0034】
前記物理的刺激は超音波刺激であり、前記直接的な超音波刺激は、強度が0.1〜3W/cmであり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴とし、前記間接的な超音波刺激は、強度が1〜20W/cmであり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴としてもよい。
【0035】
前記物理的刺激は熱刺激であり、前記温度変化刺激は、細胞を40〜50℃の温度条件下で1〜10分露出させた後、0〜4℃の温度条件下で5〜10秒間露出させることにより加えられることを特徴としてもよい。
【0036】
前記物理的刺激は光刺激であり、前記光刺激は、レーザー光または発光ダイオード(light−emitting diode)光のいずれか一方の、波長帯域300〜900nmのパルス型ビームを1〜10秒間照射することにより加えられることを特徴としてもよい。
【0037】
前記細胞は、それぞれ哺乳類由来の幹細胞、前駆細胞、繊維芽細胞、角質細胞、または器官内の組織細胞からなる群から選択されることを特徴としてもよい。
【0038】
前記培地は、培養培地または分化誘導培地から選択されることを特徴としてもよい。
【0039】
前記混合物の培養は、1時間〜10日間行われることを特徴としてもよい。
【0040】
前記培養後、前記細胞における、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が増加することを特徴としてもよい。
【0041】
前記培養後、前記細胞におけるテロメラーゼ活性が上昇することを特徴としてもよい。
【0042】
前記培養後、前記細胞におけるβ−ガラクトシダーゼ活性が低下することを特徴としてもよい。
【0043】
本発明の他の態様は、物理的刺激によりテロメアが伸長された細胞を提供する。
【0044】
ここで、前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、ここで説明する実施形態により限定されるものではなく、後述する特許請求の範囲により定義されるだけである。
【0046】
なお、本発明で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明するために使われるものであって、本発明を限定するものではない。単数の表現は、文脈上明らかに異なるものを意味しない限り、複数の表現を含む。本発明の明細書の全般に亘って、ある構成要素を「含む」とは、特に断りのない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含んでいてもよいということを意味する。
【0047】
また、本発明での遺伝子という名称で使用される各遺伝子の固有の名称は、公式に知られている遺伝子名、慣用的に使用される名称、またはその遺伝子の産物の名称、例えば、タンパク質をコードする遺伝子の場合、そのタンパク質である。
【0048】
本発明の発明者らによる特許文献4には、細胞及び培養培地の混合物に環境流入を促進できる物理的刺激を提供し、前記物理的刺激を提供された混合物を一定時間培養する場合、リプログラミングされた細胞を得ることができるということが開示されている。ここで、リプログラミングの方向は、細胞の種類とは関係なく、培地の組成に応じて異なることが示されている。前記細胞リプログラミング方法の効果を分析する過程において、物理的刺激を加えることにより、テロメア伸長に関連する遺伝子群の発現が増加することが確認された。これに関するさらなる研究により、開示の発明とは異なり、実験した細胞の種類ならびに培地の組成に関係なく、物理的刺激によってテロメアが伸長されることが確認され、その結果、環境流入よりも物理的刺激自体によってテロメア伸長が誘発されるという結論を出すことができ、これが新規発明として開示された。
【0049】
本発明の一態様による細部のテロメアを伸長させる方法は、細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階と、前記細胞および培地の混合物を一定時間培養する段階と、を含み、前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と細胞を混合することであることを特徴とする。
【0050】
前記物理的刺激の形態は、低周波、超音波、高周波、熱、光、 電氣波、電波、ストレッチ(stretch)、及び圧縮(compression)の中から選択されてもよく、好ましくは、超音波、熱、及び光の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0051】
前記細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階は、細胞と培地を混合した後、前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するかの方式の中から選択されるいずれか一つの方式により行われることを特徴としてもよい。このような物理的刺激は、細胞に直接的または間接的に1回以上提供されてもよく、回数が増加するほど、テロメア伸長効果が比例的に高くなる。このように物理的刺激を1回以上提供する場合は、各回の間に細胞が回復できるような時間間隔を設定することが好ましく、前記時間間隔を、好ましくは1日以上、より好ましくは2日以上と設定してもよい。
【0052】
前記物理的刺激は超音波刺激であり、前記直接的な超音波刺激は、強度が0.1〜3W/cmであり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴とし、前記間接的な超音波刺激は、強度が1〜20W/cmであり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴としてもよい。好ましくは、前記直接的な超音波刺激は、強度が0.5〜2W/cmであり、周波数が20kHz〜2MHzであり、持続時間が0.1秒〜10分であることを特徴とし、前記間接的な超音波刺激は、強度が2〜10W/cmであり、周波数が20kHz〜2MHzであり、持続時間が1秒〜15分であることを特徴としてもよい。
【0053】
前記物理的刺激は熱刺激であり、前記温度変化刺激は、細胞を40〜50℃の温度条件下で1〜10分露出させた後、0〜4℃の温度条件下で5〜10秒間露出させることにより加えられることを特徴としてもよい。
【0054】
前記物理的刺激は光刺激であり、前記光刺激は、レーザー光または発光ダイオード(light−emitting diode)光のいずらか一方の、波長帯域300〜900nmのパルス型ビームを1〜10秒間、好ましくは3〜7秒間照射することにより加えられること特徴としてもよい。
【0055】
本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させる方法は、様々な細胞に適用したとき、すべての各細胞のテロメアを伸長させることができることがわかった。前記細胞は、哺乳類由来の幹細胞、前駆細胞、繊維芽細胞、角質細胞、または器官内の組織細胞からなる群から選択されることを特徴としてもよい。前記テロメアが伸長された細胞を生体適用の目的で使用する場合、前記細胞は、自己(autologous)由来、同種(allogeneic)由来、または異種(heterologous)由来のいずれかであってもよく、異種由来である場合、哺乳類から得られるものであってもよい。免疫拒絶反応の可能性を低減するために、好ましくは同種由来、より好ましくは自己由来のものを使用してもよい。
【0056】
前記培地は、培養培地または分化誘導培地から選択されることを特徴としてもよい。ここで、「培養培地」とは、特定の細胞の均一性を維持しながらその細胞の生存に最適化された培地であり、均一な細胞の増殖に使用される培地を指す。一方、「分化誘導培地」とは、特定の細胞を他の分化能または機能を有する細胞に誘導するための培地を指す。
【0057】
前記混合物の培養は、1時間〜10日間、好ましくは1日〜5日間行われてもよい。これは、前述の物理的刺激を細胞に加えると、後述する様々な遺伝子の発現が増加し、この「遺伝子発現」は、転写やタンパク質合成などの生活性物質の合成と折り畳み(folding)、前記物質の細胞内の必要な位置への移動を含み、したがって、実際にテロメアの伸長が達成されるまでには時間がかかるからである。
【0058】
前記培養後、前記細胞における、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が増加することを特徴としてもよい。TERT(Telomerase reverse transcriptase:テロメラーゼ逆転写酵素)は、テロメラーゼの触媒活性を有するサブユニットであり、TERF1(Telomeric repeat binding factor 1:テロメア反復結合因子1)及びTERF2(Telomeric repeat binding factor 2:テロメア反復結合因子2)は、テロメア配列を認識する。DKC1(Dyskerin pseudouridine synthase 1:ジスケリンシュードウリジンシンターゼ1)、RFC1(Replication factor C subunit 1:複製因子Cサブユニット1)、TNKS1BP1(Tankyrase 1 binding protein 1:タンキラーゼ1結合タンパク質)、NBN(Nibrin:ニブリン)、HSPA1L(Heat shock protein family A member 1 like:熱ショックタンパク質ファミリーAメンバー1様)、PARP1(Poly ADP−ribose polymerase 1:ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ)、PTGES3(Prostaglandin E synthase 3:プロスタグランジンEシンターゼ)、SMG6(Smg6 homolog、Nonsense mediated mRNA decay factor:Smg−6ホモログ、ナンセンス変異依存mRNA崩壊因子)、XRCC5(X−ray repair cross complementing 5:X線修復交差補完5)、XRCC6(X−ray repair cross complementing 6:X線修復交差補完6)は、テロメアの安定化と維持に必要であると知られている。TERF2IP(TERF2 interacting protein:TERF2相互作用タンパク質)、RAD50(RAD50 Homolog、Double strand break repair protein;RAD50ホモログ、二本鎖切断修復タンパク質)は、テロメア組換えを阻害し、PINX1(PIN2/TERF1−interacting telomerase inhibitor 1:PIN2/TERF1相互作用テロメラーゼ阻害剤1)は、TERF1及びTERTの核小体(nucleolus)内の蓄積を媒介し、TRF1がテロメラーゼに結合することを助け、S期にテロメラーゼ活性を阻害するということが報告された。ACD(Adrenocortical Dysplasia protein homolog:副腎皮質異形成タンパク質ホモログ)、ERCC4(Excision repair cross−complementation group 4:切除修復交差補完グループ4)、PRKDC(Protein kinase、DNA−activated、catalytic subunit:タンパク質キナーゼ、DNA活性化、触媒サブユニット)は、テロメアの長さ調節及び保護に必要であり、BLM(Bloom syndrome protein:ブルーム症候群タンパク質)DNA合成時にテロメア増幅を助け、TEP1(Telomerase associated protein 1:テロメラーゼ関連タンパク質)は、テロメラーゼ複合体の一部を形成する。β−カテニンは、TERT発現を促進する転写調節因子である。前記のような遺伝子の発現を高めることができる本発明の一態様によるテロメア伸長方法は、後述する様々な用途に使用可能である。
【0059】
前記培養後、前記細胞におけるテロメラーゼ活性が上昇することを特徴としてもよい。このようなテロメラーゼ活性の増加は、培養2日後、培養前に比べて1.5倍以上であってもよく、このようにテロメラーゼの活性が高まるにつれてテロメア長が1.2倍以上増加してもよい。
【0060】
前記培養後、前記細胞におけるβ−ガラクトシダーゼ活性が低下することを特徴としてもよい。β−ガラクトシダーゼは、β−ガラクトシドの単糖類への加水分解を触媒する酵素であり、リソソームβ−ガラクトシダーゼは、老化した細胞(senescent cell)で過剰発現して蓄積する。その結果、老化した細胞では、β−ガラクトシダーゼの活性が高いことが報告されており、本発明の一実施形態による、細胞のテロメアを伸長させる方法によれば、前記酵素の活性が低下することが示され、抗老化効果を有することがわかった。
【0061】
本発明の他の態様は、物理的刺激によりテロメアが伸長された細胞を提供する。
【0062】
ここで、前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0063】
このような細胞は、前述した本発明の一態様による細胞のテロメアを伸長させる方法により製造されてもよい。
【0064】
本発明の発明者らは、物理的刺激の細胞への処理時、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンなどの、細胞のテロメラーゼ活性と関連する遺伝子の発現が増加するとともに、前記細胞のテロメアが伸長されるだけではなく、このような遺伝子のmRNAおよびタンパク質を含むエキソソームが多量に分泌されることを見つけた。mRNAおよびタンパク質などの各種因子を含むエキソソームは、血流に沿って移動し、前記因子を細胞に直接送達して治療効果を奏することができるので、前述した本発明の一態様による細胞のテロメアを伸長させる方法、本発明の他の態様による細胞、およびこのような細胞から由来したエキソソームは、このような遺伝子活性を必要とする個体の治療目的に使用されてもよい。例えば、まず、先天性角化異常症、再生不良性貧血、ウェルナー症候群(Werner syndrome)、ブルーム症候群(Bloom syndrome)、毛細血管拡張性運動失調(Ataxia−telangiectasia)、ナイミーヘン症候群(Nijmegen breakage syndrome)、毛細血管拡張性運動失調様症候群(Ataxia−telangiectasia−like syndrome)、肺線維症(Pulmonary fibrosis)などの、テロメア維持異常により発生することが知られている疾病の治療または改善に使用されてもよい。さらに、細胞の老化と消失による各種疾病と症状、例えば、認知症、運動失調、軟骨および骨の変性などの各種変性疾患(退行性疾患)、クローン病、慢性閉塞性肺疾患などを含む自己免疫疾患、高血圧、代謝症候群、糖尿病、皮膚老化、色素異常症、脱毛などの治療または改善に使用されてもよい。さらにまた、火傷、創傷、怪我(負傷)、臓器不全(organ failure)、臓器喪失、潰瘍などの様々な損傷の迅速な再生のために使用されてもよい。
【0065】
以下、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかしながら、本発明は、種々の異なる形態で実現可能であり、後述する実施例により限定されるものではない。
【0066】
本発明のすべての実施例及び実験例上のすべての細胞培養は、37℃、5%COの条件下で行われた。
【0067】
実施例1.直接超音波刺激による細胞のテロメア伸長誘導
1mlの培地中の1×10個の細胞に超音波刺激を直接1W/cmにて5秒間(20KHz)加えた細胞を、培養皿(culture dish)で同種の培地と共に1日以上培養した。
【0068】
実施例2.直接熱刺激による細胞のテロメア伸長誘導
1mlのhES培地中の1×10個の細胞を1.5mlチューブに入れ、50℃で5秒間露出後、0℃で10秒間露出させ、培養皿で同種の培地と共に1日以上培養した。
【0069】
実施例3.直接発光ダイオード光刺激による細胞のテロメア伸長誘導
1mlのhES培地中の1×10個の細胞に808nmの発光ダイオードレーザー光刺激(1W、500Hz/sec)を直接5秒間加えた細胞を、培養皿で同種の培地と共に1日以上培養した。
【0070】
実施例4.間接超音波刺激による細胞のテロメア伸長誘導
hES培地に0、3、5、10W/cmの超音波を10分間処理した後、これを超音波処理されていない細胞と混合して培養皿で1日以上培養した。
【0071】
実施例5.超音波刺激による細胞のテロメア伸長を誘導できるエキソソームの製造
1mlの培地中の1×10個の細胞に超音波刺激を直接1W、5秒間(20KHz)加えた細胞を、培養皿で同種の培地と共に1〜2日培養した。次に、培養液を回収し、3000rpmで5分間遠心分離して細胞やアポトーシス小体などを除去し、上澄み液だけを回収して0.2μmのフィルタでろ過し、0.2μm以下の成分のみを含むろ液を集め、100kDaフィルタにろ液を入れ、10000xgで30分間遠心分離して分子量100kDa以下の成分を除去し、濃縮エキソソームを得た。前記濃縮エキソソームを含む100kDaフィルタにPBSを入れ、10000xgで5分間洗浄過程を2回繰り返し、前記エキソソーム濃縮液中の培地成分を除去してエキソソームを得た。
【0072】
実験例1.細胞の種類に応じたテロメア伸長効果分析
細胞の種類に応じた実施例1の効果を比較するために、1mlのDMEM培地(繊維芽細胞培養培地)中の、1×10個のCB−HDF(細胞バイオ)、Adipo−MSC(韓国のファンドンヨン教授の研究室)、HDFa(Invitrogen)、HFF(韓国のCHA医科大学校)、Hef(韓国のCHA医科大学校)、GFP−HDF(GFP−HNDF、Angio−proteomie)、Skin Fibroblast(60歳の脳卒中患者サンプル、IRB経由)、HDP(細胞バイオ)、L132(ATCC)、h−PreAdipo(ATCC)、CB−HDF x/Entr及びMSC x/Entrのそれぞれに対して、実施例1により超音波刺激を加えた後、0、1及び2日間培養し、テロメア長を分析した(ここで、CB−HDF x/Entr及びMSC x/Entrは、本発明の発明者による研究(Lee et al.,An ultra−effective method of generating extramultipotent cells from human fibroblasts by ultrasound,Biomaterials,2017.)の超音波処理による多能性細胞の誘導方法を適用して、CB−HDF及びMSCからヒト胚性幹細胞培養培地で別々に誘導される多能性細胞である)。このとき、テロメア長を、キットを使用してqPCR法により分析した(Absolute Human Telomere Length Quantification qPCR Assay Kit,Cat No.8918,ScienCellTM)。その結果、図1および表1に示すように、細胞の種類に関係なく、いずれもテロメアが伸長していることがわかった。
【0073】
【表1】
【0074】
実験例2.物理的刺激の種類に応じたテロメア伸長効果分析
物理的刺激の種類に応じたテロメアの伸長効果を分析するために、ヒト胚性幹細胞培養培地及びCB−HDFを用いて実施例1〜3により各物理的刺激を加えた後、0、1および2日間培養し、テロメア長をqPCR法により分析した。その結果、図2に示すように、超音波、熱、および光刺激はいずれもテロメアを伸長させることがわかった。
【0075】
実験例3.間接超音波刺激によるテロメア伸長効果分析
直接物理的刺激ではなく間接物理的刺激によりテロメアが伸長されることを確認するために、実施例2によりCB−HDFに間接超音波刺激を加えた後、1日間培養し、テロメア長をqPCR法により分析した。その結果、図3に示すように、テロメア伸長効果は、使用される超音波の強度に比例することがわかった。
【0076】
実験例4.培地組成による超音波処理後のテロメア伸長効果分析
培地組成による実施例1の効果を比較するために、1mlのヒト胚性幹細胞培養培地、神経幹細胞培養培地、1次生殖細胞培養培地、DMEM培地のそれぞれ中の1×10個のCB−HDFに実施例1により超音波刺激を加えた後、0、1および2日間培養し、テロメア長をqPCR法により分析した。その結果、図4に示すように、培地組成に関係なく、いずれもテロメアが伸長していることがわかった。
【0077】
実験例5.超音波処理の回数に応じたテロメア伸長効果分析
実施例1による超音波処理を繰り返すときに違いが生じるかどうかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10個のCB−HDFに実施例1により超音波刺激を加え、1、3及び6日培養し、このとき、超音波刺激を最初1回加えるか、または2日おきに加え、テロメア長をqPCR法により分析した。その結果、図5に示すように、超音波処理の回数に関係なく、いずれもテロメア長が増加し、超音波処理の回数が多いほど、超音波処理のない対照群対比のテロメア長の増加幅が大きくなることがわかった。
【0078】
実験例6.細胞の種類に応じた超音波処理後のTERT遺伝子発現分析
細胞の種類に応じて、実施例1によるTERT遺伝子発現量に違いがあるかどうかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10個のCB−HDF、Adipo−MSC、HDFa HFF Hef、GFP−HDF、Skin Fibroblast(皮膚線維芽細胞)、HDP、L132、h−PreAdipo、CB−HDF x/Entr、及びMSC x/Entrのそれぞれに実施例1により超音波刺激を加え、0、1及び2日培養し、TERT遺伝子発現量の変化をqPCR法により分析した。その結果、図6および表2に示すように、細胞の種類に関係なく、いずれもTERT発現量が増加したことがわかった。また、図7に示すようにCB−HDF及びAdipo−MSCを用いた場合、TERTの発現量が、超音波処理後、培養1日目に大幅に増加したが、2日目には再び減少したことがわかった。TERTの継続的な発現は癌などの発生リスクを有しているため、一時的なTERT発現により、このようなリスクを低減し、しかもテロメアの短縮によって引き起こされる老化関連症状の改善を期待することができる。
【0079】
【表2】
【0080】
実験例7.超音波処理による細胞内のβ−カテニン遺伝子発現変化の分析
実施例1によるテロメア伸長方法がTERTの転写活性因子としてのβ−カテニン遺伝子にどのように影響するかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10個のCB−HDF及びAdipo−MSCに実施例1により超音波刺激を加え、0、1及び2日間培養し、β−カテニン遺伝子発現の変化をqPCR法により分析した。その結果、図8に示すように、実験した2種類の細胞ではいずれもβ−カテニン発現量が増加したことがわかった。
【0081】
実験例8.超音波処理による細胞内のテロメラーゼ活性の変化の分析
実施例1によるテロメア伸長方法がテロメラーゼ活性にどのように影響するかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10個のCB−HDF及びAdipo−MSCに実施例1により超音波刺激を加え、0、1及び2日間培養した後、テロメラーゼ活性を米国ScienCell社のTelomerase Activity Quantification qPCR Assay kit(TAQ:テロメラーゼ活性定量qPCRアッセイキット)により分析した。その結果、図9に示すように、実験した2種類の細胞ではいずれもテロメラーゼ活性が増加したことがわかった。
【0082】
実験例9.超音波処理された細胞のテロメアFISH
実施例1によるテロメア伸長方法によるテロメアの増加を別の方法で確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10個のCB−HDF及びAdipo−MSCに実施例1により超音波刺激を加え、1日培養した後、TelGテロメアプローブ(TTAGGGTTAGGGTTAGGG)を用いてFISH(fluorescence in situ hybridization:蛍光 in situ ハイブリダイゼーション)を行い、蛍光シグナルを共焦点顕微鏡で分析した。このとき、ヘキスト(Hoechst)33342で対比染色した。その結果、図10に示すように、実験した2種類の細胞ではいずれもテロメア量が増加したことがわかった。
【0083】
実験例10.超音波処理された細胞のKi67及びTERT細胞免疫蛍光染色
実施例1によるテロメア伸長方法によるTERT遺伝子発現がタンパク質発現の増加につながるかどうかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10個のCB−HDFに実施例1により超音波刺激を加え、1日間培養した後、抗Ki67および抗TERT抗体を用いて蛍光染色し、これを共焦点顕微鏡で分析した。このとき、同細胞をDAPI(4’,6−diamidino−2−phenylindole:4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)で対比染色した。その結果、図11に示すように、超音波処理時、TERTタンパク質ではいずれもテロメアが増加し、さらに細胞分裂マーカーであるKi67タンパク質の発現もまた増加したことがわかった。
【0084】
実験例11.老化関連β−ガラクトシダーゼ活性の分析
実施例1によるテロメア伸長方法による前述の変化が細胞老化にどのように影響するかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10個のCB−HDFに実施例1により超音波刺激を加え、1日及び3日間培養した後、細胞内の老化と相関関係があることが知られているβ−ガラクトシダーゼの活性に対する試験法を、X−galを用いて行い、これを位相差顕微鏡で分析した。このとき、超音波処理は、最初1回または2日おきに行われた。その結果、図12に示すように、β−ガラクトシダーゼ活性が低下していることが確認され、したがって、本発明によるテロメア伸長方法が抗老化効果を有することがわかった。
【0085】
実験例12.細胞分泌エキソソーム遺伝子RNA−seqによる細胞の遺伝子発現変化の分析
本発明の発明者らによる前述の先行発明の第10−1855967号公報では、超音波処理により、細胞における遺伝子発現変化およびエキソソーム分泌を誘導することが可能であった。分泌されたエキソソームは細胞内で発現される遺伝子産物を含むため、実施例1により、テロメアが伸長された細胞の遺伝子発現変化を、前記細胞から分泌されたエキソソームの遺伝子発現を通じて確認した。RNA−seqの結果、表3に示すように、実験群の細胞から分泌されたエキソソームでは、テロメラーゼ活性関連遺伝子、およびテロメア維持と保護に関連する遺伝子の発現が増加したことがわかった。
【0086】
【表3】
【0087】
前述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須特徴を変更することなく他の具体的な形態に容易に変形可能である。よって、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないことを理解しなければならない。例えば、単一型に説明されている各構成要素は分散して実施されてもよく、同様に、分散して説明されている構成要素も結合された形態で実施されてもよい。
【0088】
本発明の範囲は、後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導出される全ての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】