(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2022-501052(P2022-501052A)
(43)【公表日】2022年1月6日
(54)【発明の名称】細胞のテロメアを伸長させる組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20211210BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20211210BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20211210BHJP
【FI】
C12N5/071
A61P43/00 107
A61K35/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2021-516687(P2021-516687)
(86)(22)【出願日】2019年9月19日
(85)【翻訳文提出日】2021年3月23日
(86)【国際出願番号】KR2019012150
(87)【国際公開番号】WO2020071665
(87)【国際公開日】20200409
(31)【優先権主張番号】10-2018-0117265
(32)【優先日】2018年10月2日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0115381
(32)【優先日】2019年9月19日
(33)【優先権主張国】KR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】518320579
【氏名又は名称】ステムオン インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】STEMON INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン スン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BA30
4B065BD04
4B065BD15
4B065BD18
4B065BD50
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087CA12
4C087CA16
4C087NA14
4C087ZB22
(57)【要約】
細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム、これを含む組成物及びその製造方法に係り、さらに詳しくは、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子産物を含むことを特徴とする、細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム、これを含む組成物、および、細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供し、前記細胞からテロメアを伸長させるエキソソームを誘導する方法を開示する。このようなエキソソームを含む組成物は、従来の組成物に比べて、低濃度で非侵襲的に生体に適用された場合でも効果を発揮することができ、安全性が高いだけでなく、テロメアを単に伸長させるにとどまらず、細胞分裂を誘導し、抗老化、組織再生、創傷治癒、および瘢痕治癒などの効果を有することができる。また、本発明によるテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、従来のテロメア伸長用組成物の製造方法に比べて、製造が簡単であり、歩留まり(収率)が高く、環境負担を低減することができるという効果を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子のRNAまたはタンパク質を含む
ことを特徴とする細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項2】
前記エキソソームは、細胞に物理的刺激を提供して誘導された
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項3】
前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つである
請求項2に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項4】
前記物理的刺激は、細胞に直接的または間接的に提供されるものであり、
前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と前記細胞を混合することである
請求項2に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項5】
前記エキソソームを誘導できる物理的刺激を提供する過程は、
細胞と培地を混合した後、前記混合物に物理的刺激を提供するか、
培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合するか、
細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合するか、
細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、
培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、
細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合するか、
細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか
の方式の中から選択されるいずれか一つの方式により行われる
請求項2に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項6】
前記物理的刺激は超音波刺激であり、
前記直接的な超音波刺激は、強度が0.1〜3W/cm2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴とし、
前記間接的な超音波刺激は、強度が1〜20W/cm2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分である
請求項2に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項7】
前記物理的刺激は熱刺激であり、
前記熱刺激は、細胞を40〜50℃の温度条件下で1〜10分露出させた後、0〜4℃の温度条件下で5〜10秒間露出させることにより加えられる
請求項2に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項8】
前記物理的刺激は光刺激であり、
前記光刺激は、レーザー光または発光ダイオード(light−emitting diode)光のいずれか一方の、波長帯域300〜900nmのパルス型ビームを1〜10秒間照射することにより加えられる
請求項2に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項9】
前記エキソソームは、エキソソーム1×108個の粒子内に全RNAが150ng以上含まれている
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項10】
前記エキソソームは、エキソソーム1×108個の粒子内に全タンパク質が1μg以上含まれている
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項11】
前記エキソソームの細胞への処理時、前記細胞のテロメラーゼ活性が上昇する
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項12】
前記エキソソームの細胞への処理時、前記細胞のβ−ガラクトシダーゼ活性が低下する
請求項1に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム。
【請求項13】
請求項1のエキソソームを含む
ことを特徴とする細胞のテロメア伸長用組成物。
【請求項14】
前記組成物は、前記エキソソームが106〜1014個/mlの濃度で含まれている
請求項13に記載の細胞のテロメア伸長用組成物。
【請求項15】
細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階と、
前記細胞および培地の混合物を一定時間培養する段階と、
前記混合物からエキソソームを分離する段階と、
を含み、
前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と前記細胞を混合することである
ことを特徴とする細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項16】
前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つである
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項17】
前記細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する過程は、
細胞と培地を混合した後、前記混合物に物理的刺激を提供するか、
培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合するか、
細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合するか、
細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、
培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、
細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合するか、
細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか
の方式の中から選択されるいずれか一つの方式により行われる
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項18】
前記物理的刺激は超音波刺激であり、
前記直接的な超音波刺激は、強度が0.1〜3W/cm2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴とし、
前記間接的な超音波刺激は、強度が1〜20W/cm2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分である
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項19】
前記物理的刺激は熱刺激であり、
前記熱刺激は、細胞を40〜50℃の温度条件下で1〜10分露出させた後、0〜4℃の温度条件下で5〜10秒間露出させることにより加えられる
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項20】
前記物理的刺激は光刺激であり、
前記光刺激は、レーザー光または発光ダイオード(light−emitting diode)光のいずれか一方の、波長帯域300〜900nmのパルス型ビームを1〜10秒間照射することにより加えられる
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項21】
前記細胞は、それぞれ哺乳類由来の幹細胞、前駆細胞、繊維芽細胞、角質細胞、または器官内の組織細胞からなる群から選択される
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項22】
前記培地は、培養培地または分化誘導培地から選択される
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項23】
前記混合物の培養は、1時間〜10日間行われる
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項24】
前記エキソソームを分離する段階は、超遠心分離、密度勾配、ろ過、サイズ排除クロマトグラフィー、免疫親和性分離、沈殿、及びマイクロ流体による分離の方法のうちの少なくとも一つを用いる
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項25】
前記エキソソームを分離する段階は、
前記培養後の混合物を遠心分離して上澄み液を得る段階と、
前記上澄み液をフィルタでろ過してろ液を得る段階と、
前記ろ液を濃縮する段階と、を含む
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項26】
前記分離されたエキソソームは、前記製造方法に入る前の細胞から分泌されたエキソソームに比べて、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現量が高い
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項27】
前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞のテロメラーゼ活性が上昇する
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項28】
前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞のβ−ガラクトシダーゼ活性が低下する
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項29】
前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞の細胞移動性が増加する
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項30】
前記分離されたエキソソームの組織への処理時、前記組織の再生が促進される
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項31】
前記分離されたエキソソームの創傷への処理時、前記創傷の治癒が促進される
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項32】
前記分離されたエキソソームの瘢痕への処理時、前記瘢痕の治癒が促進される
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【請求項33】
前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞に抗老化効果を有する
請求項15に記載の細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム、これを含む組成物及びその製造方法に係り、さらに詳しくは、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、 HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つ遺伝子のRNAまたはタンパク質を含むことを特徴とする、細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム、これを含む組成物、および、細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供して、前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームを誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テロメア(telomere)は、染色体の両端にあるDNA繰り返し構造(ヒトではTTAGGG)である。テロメアは、シェルテリン(shelterin)複合体と結合して保護キャップを形成し、これは、細胞の増幅機能を調節し、細胞分裂時に染色体間の結合と遺伝情報の消失を防止する役割を果たす。DNAポリメラーゼは3’末端すべてを増幅できないため、テロメアは、毎細胞分裂ごとに30〜200bpほど短くなる。テロメアが閾値よりも短くなり、コーディングDNAに近づいて、テロメアのループ(loop)構造を維持できなくなると、露出されたテロメアは、p53またはp16INK4aシグナル伝達システムにより認識され、細胞分裂が停止し、老化して死滅していく。
【0003】
テロメアは、逆転写酵素であるテロメラーゼ(telomerase)によって直接伸長することができるが、ヒトテロメラーゼ複合体は、テロメアの合成のテンプレート(鋳型)として作用するRNA分子であるTERC、触媒サブユニットであるTERT、DKC1及びTEP1などの補助タンパク質から構成されている。通常の場合、体細胞のテロメラーゼ活性はほとんど存在せず、活発な分裂能を必要とする幹細胞および前駆細胞でのみ高い活性が検出される。
【0004】
テロメアが短くなり、多数の細胞の分裂が停止すると、さまざまな問題が発生したり、特に、老化(aging)と変性(degeneration:退化)をはじめとする様々な症状が現れたりすることがある。皮膚組織変性の先天性角化異常症(dyskeratosis congenita)および血液細胞が不足する再生不良性貧血(aplastic anemia)などの骨髄細胞の再生に問題が生じる疾病は、テロメラーゼまたはテロメアを保護するシェルテリン複合体関連遺伝子の変異などのテロメア維持機能の異常が原因で現れることが既に明らかになっている。一方、最近の研究結果では、高血圧、代謝症候群、糖尿病、認知症などの老化関連疾患を患っている患者は、通常の人よりもテロメアが短いことが示されているため、テロメア長を長くすることによって老化を遅らせる可能性に関する研究が説得力を得ている。また、テロメラーゼ活性がほとんどないことが一般的に知られている体細胞では、テロメラーゼ活性を高めることで再生活動を活性化できることが研究により示されており、特に、火傷、怪我(負傷)、老化、疾病による心筋、肝臓、角膜、皮膚、血管、軟骨、骨などの様々な組織、免疫細胞、血液細胞などを補う必要がある場合に効果があると報告されている。しかしながら、テロメア長を伸長させることができる遺伝子を継続的に過剰発現させたマウスでは癌細胞が多数発生するなど、長いテロメアが癌発症の危険因子である可能性があるという研究結果も出てきている。したがって、テロメア伸長を限られた時間にのみ活性化できれば、癌を引き起こすリスクなしに様々な老化及び変性に関連する症状を緩和することができる。このような技術は、上記の遺伝的欠陥によって引き起こされるテロメアの異常だけでなく、他の再生医療分野でも有用であると予想されている。
【0005】
上記のように様々な効果が予想されるので、テロメアを伸長させるための組成物が考案されてきた。特許文献1には、テロメラーゼ活性を高めるための化合物を含む医薬組成物が開示されており、そのためには、化合物を合成および精製する過程が必要であり、また、化学合成により得られる前記組成物は、合成に必要な出発原料(starting material)が精製された状態である必要があり、合成過程で環境に有害な様々な副産物が生成され、しかも、化合物は、生体内の代謝過程で副産物を生成するなどのリスクがある。特許文献2には、テロメラーゼをコーディングするRNAが開示しており、これも合成及び精製過程を必要とし、また、RNAは、親水性であるため、細胞内への送達には伝達体がさらに必要とされる。したがって、より簡単に製造でき、有害性が少なく、効率の良いテロメア伸長用組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国公開特許第2018−0280413号公報
【特許文献2】欧州公開特許第2959005号公報
【特許文献3】韓国登録特許第10−1855967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述した問題を解決するために案出されたものであり、本発明の一実施形態によるエキソソームは、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つ遺伝子のRNAまたはタンパク質を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の他の実施形態は、前記エキソソームを含む細胞のテロメア伸長用組成物を提供する。
【0009】
また、本発明のまた他の実施形態による細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階と、前記細胞および培地の混合物を一定時間培養する段階と、前記混合物からエキソソームを分離する段階と、を含み、前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と前記細胞を混合することであることを特徴とする。
【0010】
本発明が成し遂げようとする技術的課題は、以上で言及した技術的課題に限定されるものではなく、言及していない他の技術的課題は、以下の記載から、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者に明確に理解される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した技術的課題を達成するための技術的手段として、本発明の一態様による、細胞のテロメアを伸長させるエキソソームは、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子のRNAまたはタンパク質を含むことを特徴とする。
【0012】
ここで、前記エキソソームは、細胞に物理的刺激を提供して誘導されたことを特徴としてもよい。
【0013】
前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0014】
前記物理的刺激は、細胞に直接的または間接的に提供されるものであり、前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と前記細胞を混合することであってもよい。
【0015】
前記エキソソームを誘導できる物理的刺激を提供する過程は、細胞と培地を混合した後、前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するかの方式の中から選択される少なくともいずれか一つの方式により行われることを特徴としてもよい。
【0016】
前記物理的刺激は超音波刺激であり、前記直接的な超音波刺激は、強度が0.1〜3W/cm
2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴とし、前記間接的な超音波刺激は、強度が1〜20W/cm
2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴としてもよい。
【0017】
前記物理的刺激は熱刺激であり、前記熱刺激は、細胞を40〜50℃の温度条件下で1〜10分露出させた後、0〜4℃の温度条件下で5〜10秒間露出させることにより加えられることを特徴としてもよい。
【0018】
前記光刺激は、レーザー光または発光ダイオード(light−emitting diode)光のいずれか一方の、波長帯域300〜900nmのパルス型ビームを1〜10秒間照射することにより加えられることを特徴としてもよい。
【0019】
前記エキソソームは、エキソソーム1×10
8個の粒子内に全RNAが150ng以上含まれていることを特徴としてもよい。
【0020】
前記エキソソームは、エキソソーム1×10
8個の粒子内に全タンパク質が1μg以上含まれていることを特徴としてもよい。
【0021】
前記エキソソームの細胞への処理時、前記細胞のテロメラーゼ活性が上昇することを特徴としてもよい。
【0022】
前記エキソソームの細胞への処理時、前記細胞のβ−ガラクトシダーゼ活性が低下することを特徴としてもよい。
【0023】
本発明の他の態様による細胞のテロメア伸長用組成物は、前述したエキソソームを含む。
【0024】
ここで、前記組成物は、前記エキソソームが10
6〜10
14個/mlの濃度で含まれている可能性があります。
【0025】
本発明のまた他の態様による、細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階と、前記細胞および培地の混合物を一定時間培養する段階と、前記混合物からエキソソームを分離する段階と、を含み、前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と前記細胞を混合することである。
【0026】
ここで、前記物理的刺激の形態は、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0027】
前記細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する過程は、細胞と培地を混合した後、前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するかの方式の中から選択される少なくともいずれか一つの方式により行われることを特徴としてもよい。
【0028】
前記物理的刺激は超音波刺激であり、前記直接的な超音波刺激は、強度が0.1〜3W/cm
2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴とし、前記間接的な超音波刺激は、強度が1〜20W/cm
2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴としてもよい。
【0029】
前記物理的刺激は熱刺激であり、前記熱刺激は、細胞を40〜50℃の温度条件下で1〜10分露出させた後、0〜4℃の温度条件下で5〜10秒間露出させることにより加えられることを特徴としてもよい。
【0030】
前記物理的刺激は光刺激であり、前記光刺激は、レーザー光または発光ダイオード(light−emitting diode)光のいずれか一方の、波長帯域300〜900 nmのパルス型ビームを1〜10秒間照射することにより加えられることを特徴としてもよい。
【0031】
前記細胞は、それぞれ哺乳類由来の幹細胞、前駆細胞、繊維芽細胞、角質細胞、または器官内の組織細胞からなる群から選択されることを特徴としてもよい。
【0032】
前記培地は、培養培地または分化誘導培地から選択されることを特徴としてもよい。
【0033】
前記混合物の培養は、1時間〜10日間行われることを特徴としてもよい。
【0034】
前記エキソソームを分離する段階は、超遠心分離、密度勾配、ろ過、サイズ排除クロマトグラフィー、免疫親和性分離、沈殿、及びマイクロ流体による分離の方法のうちの少なくとも一つを用いることを特徴としてもよい。
【0035】
前記エキソソームを分離する段階は、前記培養後の混合物を遠心分離して上澄み液を得る段階と、前記上澄み液をフィルタでろ過してろ液を得る段階と、前記ろ液を濃縮する段階と、を含んでいてもよい。
【0036】
前記分離されたエキソソームは、前記製造方法に入る前の細胞から分泌されたエキソソームに比べて、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現量が高いことを特徴としてもよい。
【0037】
前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞のテロメラーゼ活性が上昇することを特徴としてもよい。
【0038】
前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞のβ−ガラクトシダーゼ活性が低下することを特徴としてもよい。
【0039】
前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞の細胞移動性が増加することを特徴としてもよい。
【0040】
前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記分離されたエキソソームの組織への処理時、前記組織の再生が促進されることを特徴としてもよい。
【0041】
前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記分離されたエキソソームの創傷への処理時、前記創傷の治癒が促進されることを特徴としてもよい。
【0042】
前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記分離されたエキソソームの瘢痕への処理時、前記瘢痕の治癒が促進されることを特徴としてもよい。
【0043】
前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞に抗老化効果を有することを特徴としてもよい。
【0044】
上述した課題を解決する手段は、単に例示的なものであり、本発明を限定しようとするものと解釈されてはならない。上述した例示的な実施形態に加えて、図面及び発明の詳細な説明においてさらなる実施形態が存在することが可能である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させる組成物は、前述したテロメアを伸長させる組成物に比べて製造が簡単である。すなわち、従来の組成物中の化合物は化学的に合成される必要があるが、これには特異性がなく、長く複雑な工程を必要とする。一方、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させる方法は、物理的刺激を細胞に与えるだけで、テロメア伸長に関連する様々な因子の発現及び前記因子を含むエキソソームの生産を促進することができ、このように分泌されたエキソソームを、前記細胞を培養した培地から分離する過程で構成されるので、その工程が簡単である。また、細胞は、二重脂質膜に囲まれているため、細胞内に送達できる伝達体がないと、親水性の核酸が効果を得る前に必要な細胞内流入工程を行うことが困難であり、伝達体に核酸をロードする段階をさらに必要とする。これに対し、本発明のエキソソーム製造方法によれば、脂質膜に囲まれた状態のテロメア伸長関連因子が得られるため、さらにロードを行う必要がない。
【0046】
また、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させる組成物は、従来の組成物に比べて、効率及び適用方法においてより優れている。すなわち、前述したテロメラーゼ活性を高める化合物は、十分な効果を発揮するために高濃度で体内に注入する必要がある。これに対し、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させるエキソソームは、少量を、局部塗布などの非侵襲的な方法で適用することで効果を示すことができる。
【0047】
さらに、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させるエキソソームは、テロメア伸長関連因子を大量含有するエキソソームを大量分泌できるように誘導するので、有用な物質を含む細胞のエキソソームを生産するという観点から歩留り(収率)が高い。
【0048】
さらにまた、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させるエキソソームは、高い安全性を有する。すなわち、化合物は、代謝過程での毒性などの追加のリスクを伴う可能性があり、特に、前述した従来の技術では、化合物の処理量が対象動物の単位重量(kg)当たりmgのレベルで非常に高く、化学合成過程においても、環境に負担を掛ける廃棄物等が発生するが、本発明による方法は、このような負担が比較的少ない。
【0049】
さらにまた、本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させるエキソソームは、単にテロメアを伸長させるにとどまらず、細胞分裂を誘導し、抗老化及び組織再生効果を有することが確認されており、したがって、これにより単にテロメア長の短縮による問題だけでなく、老化や組織再生に直結する様々な疾病や症状を改善および予防することができるものと期待できる。
【0050】
本発明の効果は、上記の効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明または特許請求の範囲に記載された発明の構成から推論できるすべての効果を含む。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明の実施例1による直接超音波刺激処理及び培養後の細胞の種類に応じたテロメア長の変化の分析データである。
【
図2】本発明の実施例1による超音波刺激処理、実施例2による熱刺激処理、実施例3による発光ダイオード光刺激処理、及び各培養後の各物理的刺激処理によるテロメア長の変化の分析データである。
【
図3】本発明の実施例5による間接超音波刺激処理及び培養後のテロメア長の変化の分析データである。
【
図4】本発明の実施例1による超音波刺激処理及び培養後の培地の種類に応じたテロメア長の変化の分析データである。
【
図5】本発明の実施例1による超音波刺激処理及び培養後の超音波刺激処理回数によるテロメア長の変化の分析データである。
【
図6】本発明の実施例1による超音波刺激処理及び培養後の細胞の種類に応じたTERT遺伝子発現変化の分析データである。
【
図7】CB−HDF及びAdipo−MSCに対する、本発明の実施例1による超音波刺激処理及び培養後のTERT遺伝子発現変化の分析データである。
【
図8】CB−HDF及びAdipo−MSCに対する、本発明の実施例1による超音波刺激処理及び培養後のβ−カテニン遺伝子発現変化の分析データである。
【
図9】CB−HDF及びAdipo−MSCに対する、本発明の実施例1による超音波刺激処理及び培養後のテロメラーゼ活性の変化の分析データである。
【
図10】CB−HDF及びAdipo−MSCに対する、本発明の実施例1による超音波刺激処理及び培養後のテロメアFISH(fluorescence in situ hybridization:蛍光 in situ ハイブリダイゼーション)データである。
【
図11】CB−HDFに対する、本発明の実施例1による超音波刺激処理及び培養後のTERTとKi67の細胞の蛍光染色データである。
【
図12】CB−HDFに対する、本発明の実施例1による超音波刺激処理及び培養後の老化関連β−ガラクトシダーゼ活性の分析データである。
【
図13】本発明の実施例5により超音波処理されたCB−HDFでのエキソソームマーカー発現の分析データである。
【
図14】本発明の実施例5によりCB−HDFから分泌されたエキソソームの粒子サイズ別ナノサイト分析データである。
【
図15】本発明の実施例5によりCB−HDFから分泌されたエキソソームの総数のナノサイト分析データである。
【
図16】本発明の実施例5により製造されたエキソソーム内の全RNA量および全タンパク質量の分析データである。
【
図17】本発明の実施例5により製造されたエキソソーム内の全RNAの遺伝子オントロジー分析データである。
【
図18】本発明の実施例5により製造されたエキソソーム内の全RNAのRNA−seq分析データである。
【
図19】本発明の実施例5により製造されたエキソソーム内の細胞増殖、テロメア増加および抗老化関連の一部RNAに対するqPCR分析データである。
【
図20】本発明の実施例5により製造されたエキソソーム内のTERTタンパク質に対する免疫蛍光分析データである。
【
図21】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理によるテロメア長の変化の分析データである。
【
図22】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理による細胞の種類別テロメア長の変化の分析データである。
【
図23】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理後の当該細胞内のテロメアqFISH分析データである。
【
図24】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理後の当該細胞内のTel−seq分析データである。
【
図25】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理後の当該細胞内のRNAの遺伝子オントロジー分析データである。
【
図26】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理後の当該細胞内のRNAのRNA−seq分析データである。
【
図27】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理後の当該細胞内のTERT RNA及びタンパク質の発現分析データである。
【
図28】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理後の当該細胞内の細胞分裂マーカー分析データである。
【
図29】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理後の当該細胞内のエキソソーム濃度別細胞分裂マーカー分析データである。
【
図30】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理後の当該細胞内のβ−ガラクトシダーゼ活性の分析データである。
【
図31】本発明の実施例5により製造されたエキソソームのマウス耳の塗布後の当該部位のエキソソーム濃度別テロメア長及びTERT RNA発現量分析データである。
【
図32】本発明の実施例5により製造されたエキソソームのマウス耳の塗布後の当該部位のエキソソーム処理時間別テロメアFISH分析データである。
【
図33】本発明の実施例5により製造されたエキソソームのマウス耳の塗布後の当該部位のエキソソーム処理時間別細胞増殖関連遺伝子のRNA及びタンパク質の発現分析データである。
【
図34】本発明の実施例5により製造されたエキソソームのマウス耳の塗布後の当該部位のエキソソーム処理時間別TERT免疫蛍光分析データである。
【
図35】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの細胞処理濃度別創傷治癒アッセイデータである。
【
図36】本発明の実施例5により製造されたエキソソームのin vivo処理濃度別創傷治癒アッセイデータである。
【
図37】本発明の実施例5により製造されたエキソソームのマウス皮膚塗布時の組織浸透分析データである。
【
図38】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの早老症患者由来の細胞の処理時にテロメア関連分析データである。
【
図39】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの早老症患者由来の細胞の処理時の細胞増殖関連分析データである。
【
図40】本発明の実施例5により製造されたエキソソームの早老症患者由来の細胞の処理時のβ−ガラクトシダーゼ活性の分析データである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、ここで説明する実施形態により限定されるものではなく、後述する特許請求の範囲により定義されるだけである。
【0053】
なお、本発明で使用される用語は、単に特定の実施形態を説明するために使われるものであって、本発明を限定するものではない。単数の表現は、文脈上明らかに異なるものを意味しない限り、複数の表現を含む。本発明の明細書の全般に亘って、ある構成要素を「含む」とは、特に断りのない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含んでいてもよいということを意味する。
【0054】
また、本発明での遺伝子という名称で使用される各遺伝子の固有の名称は、公式に知られている遺伝子名、慣用的に使用される名称、またはその遺伝子の産物の名称、例えば、タンパク質をコードする遺伝子の場合、そのタンパク質である。
【0055】
本発明の発明者らによる特許文献3には、細胞及び培養培地の混合物に環境流入を促進できる物理的刺激を提供し、前記物理的刺激を提供された混合物を一定時間培養して前記細胞をリプログラミングすることができ、前記混合物から得られたエキソソームを細胞に処理する場合、リプログラミングされた細胞を得ることができるということが開示されている。ここで、リプログラミングの方向は、物理的刺激を受ける細胞またはエキソソームが処理される細胞の種類とは関係なく、物理的刺激の際、培地の組成に応じて異なるということが明らかになっている。その後、前記細胞リプログラミング方法の効果を分析する過程において、細胞に物理的刺激を加えることにより、テロメア伸長に関連する遺伝子群の発現が増加することが確認された。これに関するさらなる研究により、開示の発明とは異なり、実験した細胞の種類ならびに培地の組成に関係なく、物理的刺激によってテロメアが伸長されることが確認され、その結果、環境流入よりも物理的刺激自体によってテロメア伸長が誘発されるという結論を出すことができた。このとき、テロメア伸長に関連する因子の発現が増加するだけでなく、これらの因子を含むエキソソームの分泌も大幅に増加することが確認され、これが新規発明として開示された。
【0056】
本発明の一態様による細胞のテロメアを伸長させるエキソソームは、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子のRNAまたはタンパク質を含むことを特徴とする。最も好ましくは、前記エキソソームは、前記すべての遺伝子のRNAまたはタンパク質を含んでいてもよい。
【0057】
ここで、TERT(Telomerase reverse transcriptase:テロメラーゼ逆転写酵素)は、テロメラーゼの触媒活性を有するサブユニットであり、TERF1(Telomeric repeat binding factor 1:テロメア反復結合因子1)及びTERF2(Telomeric repeat binding factor 2:テロメア反復結合因子2)は、テロメア配列を認識する。DKC1(Dyskerin pseudouridine synthase 1:ジスケリンシュードウリジンシンターゼ1)、RFC1(Replication factor C subunit 1:複製因子Cサブユニット1)、TNKS1BP1(Tankyrase 1 binding protein 1:タンキラーゼ1結合タンパク質)、NBN(Nibrin:ニブリン)、HSPA1L(Heat shock protein family A member 1 like:熱ショックタンパク質ファミリーAメンバー1様)、PARP1(Poly ADP−ribose polymerase 1:ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ)、PTGES3(Prostaglandin E synthase 3:プロスタグランジンEシンターゼ)、SMG6(Smg6 homolog、Nonsense mediated mRNA decay factor:Smg−6ホモログ、ナンセンス変異依存mRNA崩壊因子)、XRCC5(X−ray repair cross complementing 5:X線修復交差補完5)、XRCC6(X−ray repair cross complementing 6:X線修復交差補完6)は、テロメアの安定化と維持に必要であると知られている。TERF2IP(TERF2 interacting protein:TERF2相互作用タンパク質)、RAD50(RAD50 Homolog、Double strand break repair protein;RAD50ホモログ、二本鎖切断修復タンパク質)は、テロメア組換えを阻害し、PINX1(PIN2/TERF1−interacting telomerase inhibitor 1:PIN2/TERF1相互作用テロメラーゼ阻害剤1)は、TERF1及びTERTの核小体(nucleolus)内の蓄積を媒介し、TRF1がテロメラーゼに結合することを助け、S期にテロメラーゼ活性を阻害するということが報告された。ACD(Adrenocortical Dysplasia protein homolog:副腎皮質異形成タンパク質ホモログ)、ERCC4(Excision repair cross−complementation group 4:切除修復交差補完グループ4)、PRKDC(Protein kinase、DNA−activated、catalytic subunit:タンパク質キナーゼ、DNA活性化、触媒サブユニット)は、テロメアの長さ調節及び保護に必要であり、BLM(Bloom syndrome protein:ブルーム症候群タンパク質)DNA合成時にテロメア増幅を助け、TEP1(Telomerase associated protein 1:テロメラーゼ関連タンパク質)は、テロメラーゼ複合体の一部を形成する。β−カテニンは、TERT発現を促進する転写調節因子である。前記因子はいずれも、テロメアの伸長及び安定化効果を有することが報告されている。上記のような遺伝子産物を含む、本発明の一態様によるテロメアを伸長させるエキソソームは、後述する様々な効果のために使用可能である。
【0058】
前記エキソソームは、細胞に物理的刺激を提供して誘導されたことを特徴としてもよい。
【0059】
前記物理的刺激の形態は、低周波、超音波、高周波、熱、光、電氣波、電波、ストレッチ(stretch)、及び圧縮(compression)の中から選択されてもよく、好ましくは、超音波、熱、及び光の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0060】
前記物理的刺激は、細胞に直接的または間接的に提供されるものであり、前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と前記細胞を混合することであり得る。
【0061】
前記エキソソームを誘導できる物理的刺激を提供する過程は、細胞と培地を混合した後、前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するかの方式の中から選択される少なくともいずれか一つの方式により行われることを特徴としてもよい。このような物理的刺激は、前記方式の中から選択される一つ以上の組み合わせにより、細胞に直接的または間接的に1回以上提供されてもよく、回数が増加するほど、エキソソームのテロメア伸長効果が比例的に高くなる。このように物理的刺激を1回以上提供する場合は、各回の間に細胞が回復できるような時間間隔を設定することが好ましく、前記時間間隔を、好ましくは1日以上、より好ましくは2日以上と設定してもよい。
【0062】
前記物理的刺激は超音波刺激であり、前記直接的な超音波刺激は、強度が0.1〜3W/cm
2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴とし、前記間接的な超音波刺激は、強度が1〜20W/cm
2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴としてもよい。好ましくは、前記直接的な超音波刺激は、強度が0.5〜2W/cm
2であり、周波数が20kHz〜2MHzであり、持続時間が0.1秒〜10分であることを特徴とし、前記間接的な超音波刺激は、強度が2〜10W/cm
2であり、周波数が20kHz〜2MHzであり、持続時間が1秒〜15分であることを特徴としてもよい。
【0063】
前記物理的刺激は熱刺激であり、前記熱刺激は、細胞を40〜50℃の温度条件下で1〜10分露出させた後、0〜4℃の温度条件下で5〜10秒間露出させることにより加えられることを特徴としてもよい。
【0064】
前記光刺激は、レーザー光または発光ダイオード(light−emitting diode)光のいずらか一方の、波長帯域300〜900nmのパルス型ビームを1〜10秒間、好ましくは3〜7秒間照射することにより加えられること特徴としてもよい。
【0065】
前記エキソソームは、エキソソーム1×10
8個の粒子内に全RNAが100ng以上、好ましく150ng以上、より好ましくは180ng以上含まれていることを特徴としてもよい。
【0066】
前記エキソソームは、エキソソーム1×10
8個の粒子内に全タンパク質が0.5μg以上、好ましく1μg以上、より好ましく1.2μg以上含まれていることを特徴としてもよい。
【0067】
前記エキソソームの細胞への処理時、前記細胞のテロメラーゼ活性が上昇することを特徴としてもよい。このようなテロメラーゼ活性の増加は、細胞への処理後にテロメア長の伸張及び細部の分裂促進につながる可能性がある。
【0068】
前記エキソソームの細胞への処理時、前記細胞のβ−ガラクトシダーゼ活性が低下することを特徴としてもよい。β−ガラクトシダーゼは、β−ガラクトシドの単糖類への加水分解を触媒する酵素であり、リソソームβ−ガラクトシダーゼは、老化した細胞(senescent cell)で過剰発現して蓄積する。その結果、老化した細胞では、β−ガラクトシダーゼの活性が高いことが報告されており、本発明の一実施形態による、細胞のテロメアを伸長させるエキソソームを細胞に処理すると、前記酵素の活性が低下することが示され、前記エキソソームは抗老化効果を有すると判断できる。
【0069】
本発明の他の態様による細胞のテロメア伸長用組成物は、前述のエキソソームを含む。
【0070】
前記エキソソームは、前述のテロメア伸長及び安定化機能を有する様々な因子の遺伝子産物を含み、エキソソームは、血流に沿って移動し、前記因子を細胞に直接送達して治療効果を奏することができるので、このようなエキソソーム含有組成物は、このような遺伝子活性を必要とする個体の治療目的に使用されてもよい。例えば、まず、先天性角化異常症、再生不良性貧血、ウェルナー症候群(Werner syndrome)、ブルーム症候群(Bloom syndrome)、毛細血管拡張性運動失調(Ataxia−telangiectasia)、ナイミーヘン症候群(NBS:Nijmegen breakage syndrome)、毛細血管拡張性運動失調様症候群(Ataxia−telangiectasia−like syndrome)、肺線維症(Pulmonary fibrosis)などの、テロメア維持異常により発生することが知られている疾病の治療または改善に使用されてもよい。さらに、細胞の老化と消失による各種疾病と症状、例えば、認知症、運動失調、軟骨および骨の変性などの各種変性疾患(退行性疾患)、クローン病、慢性閉塞性肺疾患などを含む自己免疫疾患、高血圧、代謝症候群、糖尿病、皮膚老化、色素異常症、脱毛などの治療または改善に使用されてもよい。さらにまた、火傷、創傷、怪我(負傷)、臓器不全(organ failure)、臓器喪失、潰瘍などの様々な損傷の迅速な再生のために使用されてもよい。
【0071】
ここで、前記組成物は、前記エキソソームが少なくとも10
2個/mlの濃度、好ましくは10
6〜10
14個/mlの濃度で含まれていてもよい。
【0072】
前記組成物は、経口投与、静脈投与、筋肉投与、皮膚投与、硬膜投与、及び経皮投与から選択されるいずれかの方法により投与されてもよいことを特徴としてもよい。好ましくは、前記組成物は、皮膚投与または経皮投与であってもよい。前記組成物は、前述のような有効投与量のエキソソームに加えて、希釈剤、防腐剤、溶解剤、乳化剤、アジュバント(adjuvant)、緩衝剤および担体を薬学的に含んでいてもよい。前記組成物に含み得る成分としては、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水などの緩衝液、グルコース、マンノース、スクロース、デキストラン、マンニトールなどの炭水化物、ポリペプチド、グリシンなどのアミノ酸、抗酸化剤、EDTA、グルタチオンなどのキレート試薬、アルミニウムヒドロキシドなどのアジュバント、及び保存剤などがある。
【0073】
前記投与経路の選択ならびに各投与経路による追加の成分及びその組成は、本発明の分野の通常の技術者に知られているので、それについての詳細な説明は省略する。
【0074】
本発明のまた他の態様による細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、細胞に直接的または間接的に物理的刺激を提供する段階と、前記細胞および培地の混合物を一定時間培養する段階と、前記混合物からエキソソームを分離する段階と、を含み、前記直接的に刺激を提供することは、細胞を含む培地に物理的刺激を加えることであり、前記間接的に刺激を提供することは、細胞を含まない培地に物理的刺激を加えた後、前記培地と前記細胞を混合することである。
【0075】
ここで、前記物理的刺激の形態は、低周波、超音波、高周波、熱、光、電氣波、電波、ストレッチ(stretch)、及び圧縮(compression)の中から選択されてもよく、好ましくは、超音波、熱、および光の中から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0076】
前記細胞に物理的刺激を直接的または間接的に提供する過程は、細胞と培地を混合した後、前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合するか、細胞に物理的刺激を提供した後、前記細胞と培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、培地に物理的刺激を提供した後、前記培地と細胞を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合するか、細胞と培地にそれぞれ物理的刺激を提供した後、前記細胞および前記培地を混合し、次いで前記混合物に物理的刺激を提供するかの方式の中から選択される少なくともいずれか一つの方式により行われることを特徴としてもよい。このような物理的刺激は、前記方式の中から選択される一つ以上の組み合わせにより、細胞に直接的または間接的に1回以上提供されてもよく、回数が増加するほど、エキソソームのテロメア伸長効果が比例的に高くなる。このように物理的刺激を1回以上提供する場合は、各回の間に細胞が回復できるような時間間隔を設定することが好ましく、前記時間間隔を、好ましくは1日以上、より好ましくは2日以上と設定してもよい。
【0077】
前記物理的刺激は超音波刺激であり、前記直接的な超音波刺激は、強度が0.1〜3W/cm
2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴とし、前記間接的な超音波刺激は、強度が1〜20W/cm
2であり、周波数が20kHz〜20MHzであり、持続時間が0.1秒〜20分であることを特徴としてもよい。好ましくは、前記直接的な超音波刺激は、強度が0.5〜2W/cm
2であり、周波数が20kHz〜2MHzであり、持続時間が0.1秒〜10分であることを特徴とし、前記間接的な超音波刺激は、強度が2〜10W/cm
2であり、周波数が20kHz〜2MHzであり、持続時間が1秒〜15分であることを特徴としてもよい。
【0078】
前記物理的刺激は熱刺激であり、前記熱刺激は、細胞を40〜50℃の温度条件下で1〜10分露出させた後、0〜4℃の温度条件下で5〜10秒間露出させることにより加えられることを特徴としてもよい。
【0079】
前記物理的刺激は光刺激であり、前記光刺激は、レーザー光または発光ダイオード(light−emitting diode)光のいずらか一方の、波長帯域300〜900nmのパルス型ビームを1〜10秒間、好ましくは3〜7秒間照射することにより加えられること特徴としてもよい。
【0080】
本発明の一実施形態による細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、様々な細胞に適用したとき、すべての各細胞のテロメアを伸長させることのできるエキソソーム分泌を誘導することがわかった。前記細胞は、哺乳類由来の幹細胞、前駆細胞、繊維芽細胞、角質細胞、または器官内の組織細胞からなる群から選択されることを特徴としてもよい。前記テロメアを伸長させるエキソソームを生体適用の目的で使用する場合、前記細胞は、自己(autologous)由来、同種(allogeneic)由来、または異種(heterologous)由来のいずれかであってもよく、異種由来である場合、好ましくは哺乳類から得られるものであってもよい。免疫拒絶反応の可能性を低減するために、好ましくは同種由来、より好ましくは自己由来のものを使用してもよい。前記細胞は、それぞれ哺乳類由来の幹細胞、前駆細胞、繊維芽細胞、角質細胞、または器官内の組織細胞からなる群から選択されることを特徴としてもよい。
【0081】
前記培地は、培養培地または分化誘導培地から選択されることを特徴としてもよい。ここで、「培養培地」とは、特定の細胞の均一性を維持しながらその細胞の生存に最適化された培地であり、均一な細胞の増殖に使用される培地を指す。一方、「分化誘導培地」とは、特定の細胞を他の分化能を有する細胞に誘導するための培地を指す。
【0082】
前記混合物の培養は、1時間〜10日間、好ましくは1日〜5日間行われてもよい。このように培養時間を必要とする理由は、前述の物理的刺激を細胞に加えると、後述する様々な遺伝子の発現が増加し、この「遺伝子発現」は、転写やタンパク質合成などの生活性物質の合成と折り畳み(folding)、前記物質の細胞内の必要な位置への移動を含み、したがって、実際にテロメアの伸長効果を有する生活性物質がロードされたエキソソームが生成されるまでには時間がかかるからである。さらに、超音波処理後、時間の経過に応じてエキソソームの生成が減少することが示されるので、過剰な培養時間は、エキソソームの製造効率に役立たない可能性がある。
【0083】
前記エキソソームを分離する段階は、超遠心分離、密度勾配、ろ過、サイズ排除クロマトグラフィー、免疫親和性分離、沈殿、及びマイクロ流体による分離の方法のうちの少なくとも一つを用いることを特徴としてもよい。
【0084】
前記エキソソームを分離する段階は、前記培養後の混合物を遠心分離して上澄み液を得る段階と、前記上澄み液をフィルタでろ過してろ液を得る段階と、前記ろ液を濃縮する段階と、を含んでいてもよい。
【0085】
前記分離されたエキソソームは、前記製造方法に入る前の細胞から分泌されたエキソソームに比べて、TERT、TERF2、DKC1、TERF2IP、RFC1、RAD50、TERF1、PINX1、TNKS1BP1、ACD、NBN、HSPA1L、PARP1、PTGES3、SMG6、BLM、XRCC5、XRCC6、ERCC4、PRKDC、TEP1、及びβ−カテニンの中から選択される少なくとも一つの遺伝子の発現量が高いことを特徴としてもよい。前記遺伝子は、テロメア伸長、安定化、保護などの機能を有することが知られており、前記製造方法により製造されたエキソソームは、細胞への処理時、テロメア伸長だけでなく、細胞成長を促進し、抗老化効果を有することがわかった。
【0086】
前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞のテロメラーゼ活性が上昇することを特徴としてもよい。このようなテロメラーゼ活性の増加は、細胞への処理後にテロメア長の伸張及び細部の分裂促進につながる可能性がある。
【0087】
前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞のβ−ガラクトシダーゼ活性が低下することを特徴としてもよい。前述したように、前記酵素は、老化細胞で過剰発現し、リソソームに蓄積して高い活性を示し、本発明の一実施形態による製造方法により製造されたエキソソームの細胞への処理時、前記酵素の活性が低下することがわかった。
【0088】
前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞の細胞移動性が増加することを特徴としてもよい。
【0089】
前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記分離されたエキソソームの組織への処理時、前記組織の再生が促進されることを特徴としてもよい。後述するように、前記エキソソームは、細胞の移動性及び増殖を高めることができ、テロメア関連遺伝子に加えて、多数の細胞周期、増殖、および代謝関連遺伝子の発現を高めることができる。このような再生は、物理的損傷と化学的損傷の両方をカバーできる。
【0090】
前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記分離されたエキソソームの創傷への処理時、前記創傷の治癒が促進されることを特徴としてもよい。
【0091】
前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記分離されたエキソソームの瘢痕への処理時、前記瘢痕の治癒が促進されることを特徴としてもよい。
【0092】
前記細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記分離されたエキソソームの細胞への処理時、前記細胞に抗老化効果を有することを特徴としてもよい。前述したように、本発明の一実施形態による製造方法により製造されたエキソソームの細胞への処理時、細胞のβ−ガラクトシダーゼ活性が低下することはもとより、細胞の移動性及び増殖が高まることがわかった。このような効果は、正常細胞だけでなく、テロメア伸長に問題がある早老症患者の細胞にも現れるので、前記のようなエキソソームは、老化を遅延及び防止したり、早老症などの加速された老化を治療したりするために使用できる。
【実施例】
【0093】
以下、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかしながら、本発明は、種々の異なる形態で実現可能であり、後述する実施例により限定されるものではない。
【0094】
本発明のすべての実施例及び実験例上のすべての細胞培養は、37℃、5%CO
2の条件下で行われた。
【0095】
実施例1.直接超音波刺激による細胞のテロメア伸長誘導
1mlの培地中の1×10
6個の細胞に超音波刺激を直接1W/cm
2にて5秒間(20KHz)加えた細胞を、培養皿(culture dish)で同種の培地と共に1日以上培養した。
【0096】
実施例2.直接熱刺激による細胞のテロメア伸長誘導
1mlのhES培地中の1×10
6個の細胞を1.5mlチューブに入れ、50℃で5秒間露出後、0℃で10秒間露出させ、培養皿で同種の培地と共に1日以上培養した。
【0097】
実施例3.直接発光ダイオード光刺激による細胞のテロメア伸長誘導
1mlのhES培地中の1×10
6個の細胞に808nmの発光ダイオードレーザー光刺激(1W、500Hz/sec)を直接5秒間加えた細胞を、培養皿で同種の培地と共に1日以上培養した。
【0098】
実施例4.間接超音波刺激による細胞のテロメア伸長誘導
hES培地に0、3、5、10W/cm
2の超音波を10分間処理した後、これを超音波処理されていない細胞と混合して培養皿で1日以上培養した。
【0099】
実施例5.超音波刺激を用いた、細胞のテロメア伸長を誘導できるエキソソームの製造
1mlの培地中の1×10
6個の細胞に超音波刺激を直接1W、5秒間(20KHz)加えた細胞を、培養皿で同種の培地と共に1〜2日培養した。次に、培養液を回収し、3000rpmで5分間遠心分離して細胞やアポトーシス小体などを除去し、上澄み液だけを回収して0.2μmのフィルタでろ過し、0.2μm以下の成分のみを含むろ液を集め、100kDaフィルタにろ液を入れ、10000xgで30分間遠心分離して分子量100kDa以下の成分を除去し、濃縮エキソソームを得た。前記濃縮エキソソームを含む100kDaフィルタにPBSを入れ、10000xgで5分間洗浄過程を2回繰り返し、前記エキソソーム濃縮液中の培地成分を除去してエキソソームを得た。
【0100】
実施例6.細胞のテロメア伸長を誘導できるエキソソームを用いた細胞のテロメア伸長
実施例5により製造されたエキソソーム(reprosome:リプロソーム)を1×10
9個/mlで培地に添加して細胞を培養した。
【0101】
実験例1.細胞の種類に応じたテロメア伸長効果分析
細胞の種類に応じた実施例1の効果を比較するために、1mlのDMEM培地(繊維芽細胞培養培地)中の、1×10
6個のCB−HDF(細胞バイオ)、Adipo−MSC(韓国のファンドンヨン教授の研究室)、HDFa(Invitrogen)、HFF(韓国のCHA医科大学校)、Hef(韓国のCHA医科大学校)、GFP−HDF(GFP−HNDF、Angio−proteomie)、Skin Fibroblast(60歳の脳卒中患者サンプル、IRB経由)、HDP(細胞バイオ)、L132(ATCC)、h−PreAdipo(ATCC)、CB−HDF x/Entr及びMSC x/Entrのそれぞれに対して、実施例1により超音波刺激を加えた後、0、1及び2日間培養し、テロメア長を分析した(ここで、CB−HDF x/Entr及びMSC x/Entrは、本発明の発明者による研究(Lee et al.,An ultra−effective method of generating extramultipotent cells from human fibroblasts by ultrasound,Biomaterials,2017.)の超音波処理による多能性細胞の誘導方法を適用して、CB−HDF及びMSCからヒト胚性幹細胞培養培地で別々に誘導される多能性細胞である)。このとき、テロメア長を、キットを使用してqPCR法により分析した(Absolute Human Telomere Length Quantification qPCR Assay Kit,Cat No.8918,ScienCell
TM)。その結果、
図1および表1に示すように、細胞の種類に関係なく、いずれもテロメアが伸長していることがわかった。
【0102】
【表1】
【0103】
実験例2.物理的刺激の種類に応じたテロメア伸長効果分析
物理的刺激の種類に応じたテロメアの伸長効果を分析するために、ヒト胚性幹細胞培養培地及びCB−HDFを用いて実施例1〜3により各物理的刺激を加えた後、0、1および2日間培養し、テロメア長をqPCR法により分析した。その結果、
図2に示すように、超音波、熱、および光刺激はいずれもテロメアを伸長させることがわかった。
【0104】
実験例3.間接超音波刺激によるテロメア伸長効果分析
直接物理的刺激ではなく間接物理的刺激によりテロメアが伸長されることを確認するために、実施例2によりCB−HDFに間接超音波刺激を加えた後、1日間培養し、テロメア長をqPCR法により分析した。その結果、
図3に示すように、間接的超音波の場合、テロメア伸長効果は、使用される超音波の強度に比例することがわかった。
【0105】
実験例4.培地組成による超音波処理後のテロメア伸長効果分析
培地組成による実施例1の効果を比較するために、1mlのヒト胚性幹細胞培養培地、神経幹細胞培養培地、1次生殖細胞培養培地、DMEM培地のそれぞれ中の1×10
6個のCB−HDFに実施例1により超音波刺激を加えた後、0、1および2日間培養し、テロメア長をqPCR法により分析した。その結果、
図4に示すように、培地組成に関係なく、いずれもテロメアが伸長していることがわかった。
【0106】
実験例5.超音波処理の回数に応じたテロメア伸長効果分析
実施例1による超音波処理を繰り返すときに違いが生じるかどうかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10
6個のCB−HDFに実施例1により超音波刺激を加え、1、3及び6日培養し、このとき、超音波刺激を最初1回加えるか、または2日おきに加え、テロメア長をqPCR法により分析した。その結果、
図5に示すように、超音波処理の回数に関係なく、いずれもテロメア長が増加し、超音波処理の回数が多いほど、超音波処理のない対照群対比のテロメア長の増加幅が大きくなることがわかった。
【0107】
実験例6.細胞の種類に応じた超音波処理後のTERT遺伝子発現分析
細胞の種類に応じて、実施例1によるTERT遺伝子発現量の変化に違いがあるかどうかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10
6個のCB−HDF、Adipo−MSC、HDFa HFF Hef、GFP−HDF、Skin Fibroblast(皮膚線維芽細胞)、HDP、L132、h−PreAdipo、CB−HDF x/Entr、及びMSC x/Entrのそれぞれに実施例1により超音波刺激を加え、0、1及び2日培養し、TERT遺伝子発現量の変化をqPCR法により分析した。その結果、
図6および表2に示すように、細胞の種類に関係なく、いずれもTERT発現量が増加したことがわかった。また、
図7に示すようにCB−HDF及びAdipo−MSCを用いた場合、TERTの発現量が、超音波処理後、培養1日目に大幅に増加したが、2日目には再び減少したことがわかった。TERTの継続的な発現は癌などの発生リスクを有しているため、一時的なTERT発現により、このようなリスクを低減し、しかもテロメアの短縮によって引き起こされる老化関連症状の改善を期待することができる。
【0108】
【表2】
【0109】
実験例7.超音波処理による細胞内のβ−カテニン遺伝子発現変化の分析
実施例1によるテロメア伸長方法がTERTの転写活性因子としてのβ−カテニン遺伝子にどのように影響するかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10
6個のCB−HDF及びAdipo−MSCに実施例1により超音波刺激を加え、0、1及び2日間培養し、β−カテニン遺伝子発現の変化をqPCR法により分析した。その結果、
図8に示すように、実験した2種類の細胞ではいずれもβ−カテニン発現量が増加したことがわかった。
【0110】
実験例8.超音波処理による細胞内のテロメラーゼ活性の変化の分析
実施例1によるテロメア伸長方法がテロメラーゼ活性にどのように影響するかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10
6個のCB−HDF及びAdipo−MSCに実施例1により超音波刺激を加え、0、1及び2日間培養した後、テロメラーゼ活性を米国ScienCell社のTelomerase Activity Quantification qPCR Assay kit(TAQ:テロメラーゼ活性定量qPCRアッセイキット)により分析した。その結果、
図9に示すように、実験した2種類の細胞ではいずれもテロメラーゼ活性が増加したことがわかった。
【0111】
実験例9.超音波処理された細胞のテロメアFISH
実施例1によるテロメア伸長方法によるテロメアの増加を別の方法で確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10
6個のCB−HDF及びAdipo−MSCに実施例1により超音波刺激を加え、1日培養した後、TelGテロメアプローブ(TTAGGGTTAGGGTTAGGG)を用いてFISH(fluorescence in situ hybridization:蛍光 in situ ハイブリダイゼーション)を行い、蛍光シグナルを共焦点顕微鏡で分析した。このとき、ヘキスト(Hoechst)33342で対比染色した。その結果、
図10に示すように、実験した2種類の細胞ではいずれもテロメア量が増加したことがわかった。
【0112】
実験例10.超音波処理された細胞のKi67及びTERT細胞免疫蛍光染色
実施例1によるテロメア伸長方法によるTERT遺伝子発現がタンパク質発現の増加につながるかどうかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10
6個のCB−HDFに実施例1により超音波刺激を加え、1日間培養した後、抗Ki67および抗TERT抗体を用いて蛍光染色し、これを共焦点顕微鏡で分析した。このとき、同細胞をDAPI(4’,6−diamidino−2−phenylindole:4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)で対比染色した。その結果、
図11に示すように、超音波処理時、TERTタンパク質ではいずれもテロメアが増加し、さらに細胞分裂マーカーであるKi67タンパク質の発現もまた増加したことがわかった。
【0113】
実験例11.超音波処理された細胞の老化関連β−ガラクトシダーゼ活性の分析
実施例1によるテロメア伸長方法による前述の変化が細胞老化にどのように影響するかを確認するために、1mlのDMEM培地中の1×10
6個のCB−HDFに実施例1により超音波刺激を加え、1日及び3日間培養した後、細胞内の老化と相関関係があることが知られているβ−ガラクトシダーゼの活性に対する試験を、X−galを用いて行い、これを位相差顕微鏡で分析した。このとき、超音波処理は、最初1回または2日おきに行われた。その結果、
図12に示すように、β−ガラクトシダーゼ活性が低下していることが確認され、したがって、本発明によるテロメア伸長方法が抗老化効果を有することがわかった。
【0114】
実験例12.超音波処理を用いた製造方法によるエキソソームの生産効率及び前記エキソソーム内の成分分析
実施例5によりエキソソームを製造し、エキソソームの生産効率を分析した。まず、24時間の超音波処理後、HDFのエキソソームマーカー(CD63)の発現を免疫蛍光染色により分析した結果(この場合、対照染色にはDAPIを用いた)、エキソソームを処理しない群に比べて大幅に増加したことが確認できた(
図13)。前記マーカーの発現が実際のエキソソーム分泌につながったかどうかを確認するために、ナノサイト(Nanosight)LM10顕微鏡を用いて分析した。その結果、超音波処理群では、特に直径30〜200nmのエキソソームが大量に分泌され、特にエキソソームの総数が9.02±0.47×10
8個/mlであり、超音波処理しない群(1.5±0.43×10
8個/ml)に比べて5倍以上増加したことが確認できた(
図14および
図15)。
【0115】
次に、実施例5のように超音波処理して分泌誘導されたエキソソーム内のRNAおよびタンパクの総量に変化があるかどうかを分析した。全RNAを、TRIzol(RNAi、タカラ、大津、日本)を使用してエキソソームから抽出し、Agilent 2100 Bioanalyzer(Agilent、サンタクララ、カリフォルニア、米国)を使用して定量した。その結果、1×10
6個の細胞から分泌されたエキソソーム内の全RNA量は、実施例5のように超音波処理して製造した場合、1003.5±167.6ngであり、超音波処理していない場合(186.3±17.3ng)に比べて5倍以上増加したことが確認できた。このとき、同数のエキソソーム(1×10
8個のエキソソーム)対比全RNA量は222.4±37.1ngであり、超音波処理していない場合(241.5±22.5 ng)と同様のレベルを示した(
図16および表3)。BCA法により総タンパク質を定量した結果、1×10
6個の細胞から分泌されたエキソソーム内の総タンパク質量は、実施例5のように超音波処理して製造した場合、6.11±0.058μgであり、超音波処理していない場合(0.15±0.009μg)に比べて約40倍増加したことが確認できた。このとき、同数のエキソソーム(1×10
8個のエキソソーム)対比総タンパク質量は1.35±0.013μgであり、超音波処理していない場合(0.20±0.012μg)に比べて6倍以上増加したことがわかった(
図16および表3)。
【0116】
【表3】
【0117】
実験例13.超音波処理により細胞から分泌誘導されたエキソソーム内の全RNA及びタンパク質の分析
実施例5により製造されたエキソソーム内の全RNAを同定するためにRNA−seqを行い、遺伝子オントロジー分析を行った。その結果、テロメア維持および組成、細胞周期および増殖、DNA修復および増幅に関連する多くの遺伝子が存在し(
図17−18)、特に、表4に示すように、実験群細胞から分泌されたエキソソームでは、テロメラーゼ活性関連遺伝子、およびテロメア維持と保護に関連する遺伝子の発現が増加したことがわかった。
【0118】
【表4】
【0119】
また、エキソソーム内の細胞増殖、テロメア増加および抗老化関連RNAをqPCRにより分析した結果、細胞増殖に関連するサイクリンD1(cyclin D1)及びPCNA、テロメアの増加と関連したCtnnb1、TERT及びSTAT3、抗老化に関連するTEP1、MMP1、MMP2、MMP9、エラスチン(Elastin)、ケラチン(Keratin)、HYAL1、ラミニン(Laminin)、フィラグリン(Filaggrin)、インボルクリン(Involucrin)などのRNAが、検出が困難なレベルの対照群に比べて大きく増加したことが確認できた(
図19)。
【0120】
超音波刺激により分泌されたエキソソーム内のTERTタンパク質を確認するために、エキソソームマーカーとTERTタンパク質に対する免疫蛍光染色を行った結果、二つのシグナルが重なる部分を多数確認できた(
図20)。これを前記エキソソーム内の全RNA分析結果と総合してみると、実施例5により製造されたエキソソームには大量のテロメアの増加、細胞増殖および抗老化などに関連するRNAおよびタンパク質が含まれているようである。
【0121】
実験例14.超音波処理により分泌誘導されたエキソソームが処理された細胞のテロメア分析
実施例5により製造されたエキソソームの使用が細胞のテロメア伸長にどのように影響するかを確認するために、細胞を、前記エキソソームを含む培養液で2日間培養し、次いでテロメア長をqPCR法により分析した。その結果、エキソソーム処理前の細胞(con)およびエキソソーム処理せずに2日培養した群(non)に比べて、エキソソーム処理濃度が高くなるにつれて、テロメア長が有意に長くなったことがわかった(
図21)。
【0122】
次に、前記エキソソームのテロメア伸長効果が細胞ごとに異なるかどうかを確認するために、HDF、HEK、HDP及びAdipo−MSCを、実施例6により前記エキソソームを1×10
9個/mlの濃度で含む培養液でそれぞれ0、1及び2日間培養し、テロメア長及びテロメラーゼ活性を分析した。その結果、実験した4種類の細胞ではいずれもテロメアが有意に伸長され、テロメラーゼ活性もまた高いことがわかった(
図22)。まとめると、本発明の製造方法により製造されたエキソソームは、細胞に処理時、細胞の種類に関係なくテロメア伸長効果を有することができることが確認できた。
【0123】
テロメア伸長をさらに検証するために、テロメア反復配列であるTTAGGG配列に相補的であり、Cy3で標識されたPNAテロメアプローブ及びHoechst33342を用いて染色した。このとき、実験前の前処理として、コルセミド(Colcemid)を培地に48時間処理して、細胞核内の染色体(chromosome)が生成される分裂中期の状態で固定し、低浸透圧培地と固定液などを用いて細胞核内の染色体(chromosome)をスライドグラスに貼り付けた後、ハイブリダイゼーションバッファー(hybridization buffer)とPNAプローブを混合した溶液(予め90℃に加温)を染色体に加え、85℃で10分間培養した後、室温(RT)で1時間徐々に冷却し、2×SSCバッファーを用いて洗浄し、核染色試薬Hoechst 33342を用いて染色し、その後、マウントして、共焦点レーザー(Confocal laser)顕微鏡を1000倍以上の倍率で染色体対比テロメア蛍光発現を分析した。その結果、
図23aに示すように、前記エキソソームを1×10
9個/mlの濃度で含む培養液で2日間培養した細胞群では、エキソソームを処理していない対照群に比べて、Cy3蛍光がより強く現れる頻度が高いことがわかった。次に、実験群と対照群において染色体(Hoechst33342)対比のテロメア蛍光強度の差を比較した結果(
図23b)、及び、このように分析された数値の平均からテロメア長を分析したテロメアqFISH結果(
図23c)、テロメアが有意に伸長されたことが確認できた。
【0124】
次に、全ゲノム配列解読(whole genome sequencing)によりテロメア末端の反復配列の頻度を分析した。まず、TTAGGG配列の頻度を分析した結果、前記エキソソームを1×10
9個/mlの濃度で含む培養液で2日間培養した細胞群では、エキソソームを処理していない対照群に比べて、TTAGGG配列の出現頻度が高いことが確認できた(
図24a)。複雑な構造を有するテロメアは、シーケンシング中にさまざまな配列として現れる可能性があり、可能な反復配列の頻度をさらに分析した結果、すべての可能な配列が実験群で高かった(
図24bおよび表5)。
【0125】
【表5】
【0126】
実験例15.超音波処理により分泌誘導されたエキソソームが処理された細胞の遺伝子発現分析
実施例6によりエキソソーム処理された細胞内RNAを同定するためにRNA−seqを行い、遺伝子オントロジー分析を行った。その結果、テロメア伸長、テロメラーゼ活性、細胞周期および増殖、代謝などに関連する遺伝子が多数存在することが確認できた(
図25−26)。特に、表3に示すように、実験群の細胞から分泌されたエキソソームでは、テロメラーゼ活性関連遺伝子、およびテロメア維持と保護に関連する遺伝子の発現が増加したことがわかった。
【0127】
次に、実施例6によりエキソソーム処理された細胞内TERT発現を確認するために、エキソソーム処理0、1及び2日後にそれぞれqPCR及び免疫蛍光染色を行い、その結果、TERT RNAおよびタンパク質の量が、エキソソーム処理時間が長いほど増加することがわかった(
図27)。
【0128】
実験例16.超音波誘導エキソソームが処理された細胞のKi67細胞免疫蛍光染色
超音波誘導されたエキソソームが処理された細胞の遺伝子発現の変化が細胞増殖にどのように影響するかを確認するために、実施例6によりエキソソームを含む培地でHDFを0、1及び2日間培養した後、抗Ki67抗体を用いて蛍光染色し、共焦点顕微鏡で分析した(この際、同細胞はヘキスト(Hoechst)で対比染色した)。その結果、
図28に示すように、エキソソームの共培養期間が長くなるにつれて、細胞分裂マーカーであるKi67タンパク質の発現が増加したことがわかった。
【0129】
さらに、前記エキソソームの濃度が細胞増殖にどのように影響するかを確認するためには、HDFをそれぞれ0、1、2、4(×10
9個/ml)のエキソソームを含む培地で2日間培養した後、抗Ki67抗体を用いて蛍光染色し、共焦点顕微鏡で分析した(この際、同細胞はヘキストで対比染色した)。その結果、
図29および表6に示すように、実験したエキソソームのすべての範囲では、対照群に比べて、細胞分裂マーカーであるKi67タンパク質を発現する細胞の数が有意に増加したことがわかった。
【0130】
【表6】
【0131】
実験例17.超音波誘導エキソソームが処理された細胞の老化関連β−ガラクトシダーゼ活性の分析
超音波誘導されたエキソソームが処理された細胞の遺伝子発現の変化が細胞の老化にどのように影響するかを確認するために、実施例6によりエキソソームを含む培地でHDFを0、1及び2日間培養した後、細胞内老化と相関関係があることが知られているβ−ガラクトシダーゼの活性に対する試験を、X−galを用いて行い、位相差顕微鏡を用いて分析した。その結果、
図30に示すように、β−ガラクトシダーゼ活性が低下し、したがって、本発明により製造されたエキソソームは抗老化効果を有することが確認された。
【0132】
実験例18.超音波誘導されたエキソソームの生体適用によるテロメア伸長効果およびTERT遺伝子発現変化の分析
超音波誘導されたエキソソームの動物への塗布時にテロメア長にどのような効果を示すかを調べるために、10週齢のICRマウスに一方の耳に、実施例5により製造されたエキソソーム1×10
9個および1×10
10個を週3回塗布し、それぞれ1週目と2週目に耳のサンプルを回収してテロメア長、TERT RNA発現量を分析した。このとき、対照群としては、前記エキソソームを希釈したD−PBSを塗布した他方の耳を用い、これを
図31に0として示した。実験の結果、エキソソームを塗った耳のテロメア長は時間の経過とともに増加し、特に、エキソソーム塗布量が多いほどテロメア長の増加幅が大きくなり、エキソソーム処理群では、TERTの発現が相対的に増加したこと明らかになった(
図31)。実施例5により製造されたエキソソーム1×10
9個を処理した耳組織に対してテロメアFISH及びTERTの免疫蛍光染色を行った結果もまた、それぞれの蛍光信号強度及び頻度が経時的に高くなったことが確認できた(
図32および34)。さらに、細胞増殖に関連する遺伝子であるPCNA、サイクリンD1およびN−カドヘリンのRNA発現をqPCRにより確認した結果、前記三遺伝子のRNA発現量が増加したことがわかり、Ki67に対する免疫蛍光染色の結果もまた、蛍光信号強度および頻度が経時的に高くなったことが確認できた(
図33)。
【0133】
実験例19.超音波誘導されたエキソソームの適用による皮膚再生、創傷及び瘢痕の治癒効果の分析
前述したように、本発明の製造方法により製造されたエキソソームは、テロメア伸長及び細胞増殖などの効果を有することが明らかにされており、このような効果は細胞再生との関連性が高いことから、このようなエキソソームが皮膚再生、創傷及び瘢痕の治癒にどのように影響するかを確認した。まず、細胞の移動にどのような影響があるかを調べるために、実施例5のエキソソーム製造方法により製造したエキソソームを培地に添加し、HDFを、プレートを充填するほど培養し、次いで、20μlイエローチップ(yellow tip)で線を引いて細胞間の距離を形成した後、エキソソームを0、5、10、20(×10
9)個/mlの濃度で処理して培養する創傷治癒アッセイ(wound hearing assay)を行った。その結果、エキソソーム濃度が高いほど比較的迅速に空きスペースを埋めることができ(
図35)、本発明の製造方法により製造されたエキソソームが細胞の移動を増加させることが確認できた。
【0134】
次に、前記エキソソームの効果を in vivoで確認するために、6週齢のC57マウスの皮膚にをパンチで6mmの創傷を発生させ、前記エキソソームをそれぞれ0、5、10、20(×10
9)個/mlの濃度でPBSで希釈し、創部(創傷部位)に週2回塗布した。その結果、1週間後、エキソソームを処理したマウスの場合、外部に露出した創傷(opening)のサイズが、エキソソームを処理していないマウスに比べて、有意に縮小されたことがわかった。また、1週間および2週間後、それぞれ創部組織の断面をH&E染色で確認した結果、エキソソームを処理していないマウスの創傷の大きさに比べて、エキソソームを処理マウスの創傷の大きさが小さいことから、皮膚の再生、創傷及び瘢痕の治癒が迅速に行われたことが確認できた。特に、創部に10及び20(×10
9)個/mlの濃度のエキソソームを処理した場合、2週目に皮膚組織が完全に回復して、皮膚組織を構成する表皮と真皮層、脂肪層、筋肉層が明確に区別できるように再生され、真皮層と脂肪層に、創部と周辺部位間に差がないように、皮膚付属組織である毛のうが形成されたことがわかった(
図36)。
【0135】
さらに、前記エキソソームをVybrantDiD細胞標識溶液(Cell−Labeling Solution)を用いて染色して皮膚に処理し、2週間後、前記染色されたエキソソームを処理した部位を蛍光顕微鏡で分析した結果、前記エキソソームが創部全体に浸透し、このような全体的な浸透により前記のような効果が発揮されると推測できる(
図37)。次に、0、5、10、20(×10
9)個/mlの濃度でエキソソームを処理した創部において、組織再生及び創傷治癒関連遺伝子であるCol1α1、Col3α1、ELN、N−カドヘリン、及びサイクリン−D1の発現をqRT−PCRにより分析した。その結果、実験群の場合、対照群に比べて、前記遺伝子のうちの少なくとも一つの遺伝子の発現が概ね高かった(
図37)。このとき、濃度の違いによって最も増加する遺伝子が異なり、濃度と発現の増減の相関関係を確認することは困難であった。
【0136】
まとめると、本発明の製造方法により製造されたエキソソームは、in vitroだけでなくin vivoにおいても、皮膚の再生、創傷及び瘢痕の治癒効果を有することができることが確認された。
【0137】
実験例20.超音波誘導されたエキソソームの早老症患者由来細胞への適用による効果の分析
前述したように、本発明の製造方法によるエキソソームは、抗老化に関連する様々な遺伝子の発現を誘導することが明らかにされているが、老化が加速された細胞においてもこのようなエキソソームが効果を発揮できるかどうかを確認するために、前記エキソソームを早老症患者由来の繊維芽細胞に処理した後、テロメア長、テロメラーゼ活性、TERT発現、細胞増殖、Ki67発現、及び老化関連β−ガラクトシダーゼ活性を確認した。ここで使用された細胞は、ハッチンソン・ギルフォード早老症候群(Hutchinson−Gilford progeria syndrome、HGPS)患者(白人/8歳/男性)の大腿部の皮膚から採取された細胞である(AG06297、コーリエル医学研究所(Coriell Institute)、カムデン、米国)。エキソソームを1×10
9個/mlで処理し、最初の処理の14日後に細胞を分析した。最初の1回処理した実験群(Reprosome×1)と、培地を交換するたびに前記濃度のエキソソームを含む培地を継続的に使用した実験群(Reprosome×∞ 、14日間4回処理)とに分けて実験した。
【0138】
その結果、エキソソームを最初の1回処理した実験群と継続的に処理した実験群との両方では、テロメアが伸長され、テロメラーゼ活性が増加し、TERT遺伝子発現が増加し(
図38)、細胞増殖が増加し、Ki67タンパク質の発現が増加し(
図39)、β−ガラクトシダーゼ活性が低下する(
図40)ことから、早老症患者の細胞における加速された老化に対して、1回の処理だけで全体的な抗老化効果を奏することが確認できた。
【0139】
前述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須特徴を変更することなく他の具体的な形態に容易に変形可能であるということが理解できる。よって、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではない。例えば、単一型に説明されている各構成要素は分散して実施されてもよく、同様に、分散して説明されている構成要素も結合された形態で実施されてもよい。
【0140】
本発明の範囲は、後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導出される全ての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明による細胞のテロメアを伸長させるエキソソーム及びこれを含む組成物は、テロメア伸長だけでなく細胞分裂をも誘導し、抗老化及び組織再生効果を有するため、テロメア長が短くなって生じる問題はもとより、老化及び組織再生に関連する様々な疾患と症状を直接的に予防、改善および治療できる薬物として使用することができる。前記のようなエキソソーム及びこれを含む組成物は、非侵襲的な方法で少量を適用するだけでも効果を発揮することができる。
【0142】
また、本発明による細胞のテロメアを伸長させるエキソソームの製造方法は、前記のような効果を有する様々な因子を、物理的刺激を細胞に処理するだけで細胞内の浸透が可能な形態のエキソソームにロードすることができる方法であり、このような方法により、高濃度の有効成分を含むエキソソームを高収率で得ることができる。
【国際調査報告】