特表2022-502453(P2022-502453A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2022-502453治療用腫瘍学薬剤との組み合わせにおける抗SSEA−4抗体を用いた組み合わせ療法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2022-502453(P2022-502453A)
(43)【公表日】2022年1月11日
(54)【発明の名称】治療用腫瘍学薬剤との組み合わせにおける抗SSEA−4抗体を用いた組み合わせ療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20211217BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211217BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20211217BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20211217BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20211217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211217BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20211217BHJP
【FI】
   A61K39/395 N
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61P35/04
   A61K39/395 D
   A61P37/04
   A61P43/00 107
   C07K16/30ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2021-518073(P2021-518073)
(86)(22)【出願日】2019年10月2日
(85)【翻訳文提出日】2021年5月26日
(86)【国際出願番号】US2019054221
(87)【国際公開番号】WO2020072593
(87)【国際公開日】20200409
(31)【優先権主張番号】62/740,373
(32)【優先日】2018年10月2日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】516080655
【氏名又は名称】オービーアイ ファーマ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユー,チュン−ダー・トニー
(72)【発明者】
【氏名】ライ,ジアン−シーウン
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ,イー−チェン
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、一般に、抗SSEA−4抗体を、単剤で又は腫瘍学における他の治療用薬剤との相加的及び/もしくは相乗的組み合わせで投与することによって、治療効力を増大し、それによって、相互作用が、ヒトシグレック−9又は哺乳動物シグレック−9を含むシグレック−9タンパク質のエピトープ結合を改変することを含む、治療方法及び組成物を指向し、ここで、このような抗SSEA−4組成物の使用は、がんを有する個体を予防し、危険を低減し、又は治療する際に有効である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SSEA−4抗原を発現するがん細胞を有する対象を治療する方法であって、抗SSEA−4抗体又はその断片を含む有効量の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
抗SSEA−4抗体のがん細胞に対する結合は、SSEA−4とシグレック−9との間の結合相互作用を低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
SSEA−4とシグレック−9との間の結合相互作用の低下は、シグレック−9のがん細胞に対する結合の低下をもたらす、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
シグレック−9のがん細胞に対する結合の低下は、シグレック−9/SSEA−4係合によって維持される免疫抑制(免疫−マスキング)の解放を誘導する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
抗SSEA−4抗体の投与は、細胞傷害性免疫細胞の活性を増大する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞傷害性免疫細胞は、単球、好中球、NK細胞、B細胞又はCD8+T細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗SSEA−4抗体は、OBI−898である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記がんは、肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、口腔がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がん、結腸がん、腎臓がん、子宮頸がん、卵巣がん及び前立腺がんから選択され、特定の実施形態においては、前記がんは、肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がん、又は膵臓がんであり、いくつかの好ましい実施形態においては、前記がんは、脳がん又は多形神経膠芽腫(GBM)がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
がん細胞上のSSEA−4抗原に結合したシグレック−9発現細胞傷害性免疫細胞の結合を阻害することによって先天細胞傷害性免疫応答を活性化する方法であって、細胞傷害性免疫細胞−がん細胞複合体を、SSEA−4のアンタゴニストに接触させ;そして、シグレック−9のSSEA−4に対する結合を破壊するか又は阻害することを含む、方法。
【請求項10】
前記アンタゴニストは、SSEA−4抗体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗SSEA−4抗体は、OBI−898である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞傷害性免疫細胞は、単球、好中球、NK細胞、B細胞又はCD8+T細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記がんは、肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、口腔がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がん、結腸がん、腎臓がん、子宮頸がん、卵巣がん及び前立腺がんから選択され、特定の実施形態において、前記がんは、肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がん、又は膵臓がんであり、いくつかの好ましい実施形態において、前記がんは、脳がん又は多形神経膠芽腫(GBM)がんである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
SSEA−4抗原を発現するがん細胞を有する対象を治療する方法であって、抗SSEA−4抗体またはその断片を含む有効量の医薬組成物を対象に投与することによって、シグレック−9のがん細胞に対する結合が阻害されることを含む、方法。
【請求項15】
シグレック−9のがん細胞に対する結合を低下させる方法であって、抗SSEA−4抗体又はその断片を含む有効量の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項16】
SSEA−4抗原を発現するがん細胞を有する対象を治療する方法であって、抗SSEA−4抗体又はその断片を含む有効量の医薬組成物を対象に投与することによって、細胞傷害性免疫細胞の活性を活性化させることを含む、方法。
【請求項17】
がんを有する対象における細胞傷害性免疫細胞の活性を増大する方法であって、抗SSEA−4抗体又はその断片を含む有効量の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項18】
前記抗SSEA−4抗体は、OBI−898である、請求項14〜17に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞傷害性細胞は、単球、好中球、NK細胞、B細胞又はCD8+T細胞である、請求項16〜17に記載の方法。
【請求項20】
前記がんは、肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、口腔がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がん、結腸がん、腎臓がん、子宮頸がん、卵巣がん及び前立腺がんから選択され、特定の実施形態において、前記がんは、肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がん、又は膵臓がんであり、いくつかの好ましい実施形態において、前記がんは、脳がん又は多形神経膠芽腫(GBM)がんである、請求項14〜17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年10月2日に提出された米国特許出願第62/740、373号の優先権を主張し、その開示は、本明細書中でその意全体が参考として組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、一般に、治療方法及び抗SSEA−4抗体、例えば、モノクローナル、キメラ、ヒト化抗体、抗体断片などを、単剤又は他の治療用腫瘍学薬剤との組み合わせのいずれかで含む組成物を指向する。この方法及び組成物は、Siglec−9タンパク質、例えば、ヒトSiglec−9又は哺乳動物Siglec−9の結合を相乗的に調節し得、そしてこの治療方法及び組成物の使用は、がんを有する個体を予防するか、危険性を低減するか、または治療する際に有用である。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
六糖(Neu5Acα2−3Galβ1−3GalNAcβ1−3Galα1−4Galβ1−4Glcβ)であるSSEA−4(ステージ特異的胎児抗原−4)は、一般に、多能性のヒト胚幹細胞についての細胞表面マーカーとして使用される;これはまた、間葉系幹細胞を単離し、そして神経前駆細胞を富化するためにも使用される(Kannagi et al.(1983)EMBO J.2:2355−236)。近年の研究は、SSEA−4が、がんの悪性、例えば、がん細胞の浸潤及び転移に関わっていることを示している(Kavitha et al.(2015 Glycobiology 25:902−917;Lou et al.(2014)Proc Natl Acad Sci USA.111:2482−2487)。
【0004】
SSEA−4の発現は、肺、腎臓、乳及び口腔がんの転移能力の増大及び予後の悪さに関連している(Kataguri et al.(2001)Glycoconj J.18:347−353; Gottschling et al.(2013)Eur Respir J.41:656−663;Hung et al.(2013)J Am Chem Soc.135:5934−5937)。しかし、正常な組織において、SSEA−4は、赤血球において及びいくつかの腺組織の上皮細胞上で、微量なGSLとして発言していることが報告されている(Kannagi et al.(1983)EMBO J.2:2355−236)。その特性に起因して、SSEA−4は、がん免疫療法のための有望な独自の標的として寄与し得る。
【0005】
シグレック(シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン)は、シアル酸に結合する細胞表面タンパク質のファミリーであり、主に免疫細胞上で見出だされる。14の異なる哺乳動物のシグレックが存在し、細胞表面受容体−リガンド相互作用に基づく、一連の異なる機能をもたらす(Pillai et al.(2012)Annual Review of Immunology.30:357−92)。大部分のシグレックは、そのITIM−含有細胞質領域に起因して、免疫細胞活性化を阻害する。シグレックは、SHPホスファターゼなどの阻害性タンパク質を、そのITIMドメインがそのリガンドに結合する際に、これを介して補充し(Avril et al.(2004)Journal of Immunology.173 (11):6841−9)、それによって、免疫細胞の不活性化をもたらす。したがって、シグレックとそのリガンドとの間の相互作用の中断は、抗腫瘍免疫を促進し得る。
【0006】
シアル酸結合免疫グロブリン(Ig)様レクチン、すなわちシグレック(例えば、CD33)、は、1型膜貫通タンパク質のファミリーであり、それぞれは、独自の発現パターンを、大抵は造血細胞における発明パターンを有する。シグレックのCD33様サブグループ(19q13.3−q13.4に局在する)は、2つの保存的細胞質チロシンベースモチーフを有する:免疫受容体チロシンベース阻害性モチーフ(すなわちITIM)及びシグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAM)において同定されたものと相同な、SLAM関連タンパク質(SAP)への結合を媒介するモチーフ。
【0007】
シアル酸結合Ig様レクチン−9(シグレック−9)は、未成熟な骨髄細胞及び成熟した骨髄細胞(例えば、単球、マクロファージ、樹状細胞、好中球、及び小膠細胞)ならびにリンパ細胞(例えば、ナチュラルキラー細胞、B細胞及びCD8T細胞の下位集団)を含む免疫細胞上及び造血細胞上に発現する、1型、免疫グロブリン様、膜貫通タンパク質である(Crocker et al.(2007)Nat Rev Immunol.7:255−266;O’Reilly and Paulson (2009)Trends in Pharm.Sci.30:5:240−248;及びMacauley et al.(2014)Nat.Rev.Imm.14:653−666)。シグレック−9は、糖タンパク質及び糖脂質のシアル酸残基に結合するレクチンのシグレックファミリーのメンバーである。Onepotentialforシグレックタンパク質についての見込みのある結合標的の1つは、ガングリオシドである;これは、シアル酸付加グリカンに結合したセラミドからなる糖脂質である。ほとんどのガングリオシドは、共通のラクト−セラミドコア及び1以上のシアル酸残基を持つ。シグレックリガンドにおける多様性は、分枝鎖状又は末端のいずれかの異なった結合での他の中性糖及びシアル酸の付加、及びシアル酸自体の修飾によってもたらされる。
【0008】
14のシグレックタンパク質は、ヒトにおいて、及びマウスにおいて9が同定されており、2〜17の細胞外Igドメイン(シアル酸結合部位を含むアミノ末端V−セットドメインが挙げられる)から構成される。シアル酸結合領域は、2つの芳香族残基及び全てのシグレックにおいて高度に保存的な1つのアルギニンモチーフを含む、V−セットIg様ドメインに配置されている(Crocker et al.(2007)Nat Rev Immunol.7:255−266;McMillan and Crocker (2008)Carbohydr Res.343:2050−2056;Von Gunten and Bochner (2008)Ann NY Acad Sci.1143:61−82;May et al.(1998)Mol Cell.1:719−728;Crocker et al.(1999)Biochem J.341:355−361;及びCrocker and Varki (2001)Trends Immunol.2:337−342)。シアル酸付加リガンドに対する結合部位は、リガンド結合あり又はなしで結晶構造によってマッピングされている(Attrill et al.(2006)J.Biol.Chem.281 32774−32783;Alphey et al.(2003)J.Biol.Chem.278:5 3372−3377;Varki et al.,Glycobiology,16 pp.1R−27R;及びMay et al.(1998)Mol.Cell 1:5:719−728)。細胞膜は、シアル酸が豊富であるので、シグレックによるリガンド結合は、シスおよびトランスで存在し得、どちらもその機能的特性に影響する。各シグレックは、哺乳動物細胞の表面上で見出だされる種々の型のシアル酸付加グリカンを結合するための別個の優先性を有する(Crocker et al.(2007)Nat Rev Immunol.7:255−266;及びCrocker et al.(2007)Nat Rev Immunol.7:255−266)。シグレック−9を含むほとんどのシグレックタンパク質は、その細胞質尾部に1つ以上の免疫受容体チロシンベース阻害性モチーフ(ITIM)配列を含み、それにより、チロシンホスファターゼSHP1及びSHP2の補充を通して、免疫機能の阻害性受容体及びネガティブレギュレーターとなることが可能になる(Crocker et al.(2007)Nat Rev Immunol.7:255−266;McMillan and Crocker (2008)Carbohydr Res.343:2050−2056;及びVon Gunten and Bochner (2008)Ann NY Acad Sci.1143:61−82)。特定のシグレックは、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)配列を、その細胞質尾部に含み、それにより、脾臓チロシンキナーゼの予測される補充を通して、免疫機能の活性化受容体及びポジティブレギュレーターとして作用することが可能になる(Syk)(Macauley SM.et al.(2014)Nature Reviews Immunology 14,653−666)。シグレックタンパク質ファミリーは、自己免疫、注射に対する感受性、多くの型のがん(リンパ腫、白血病及び急性骨髄白血病を含む)、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、神経変性障害、喘息、アレルギー、敗血症、慢性閉塞性肺疾患、移植片対宿主病、好酸球増加症、及び骨粗しょう症を含む、多数のヒト疾患に関連する(Macauley SM.et al.(2014)Nature Reviews Immunology 14,653−666)。
【0009】
シグレック−9は、2000年に、末梢血単核細胞からクローニングされ(Angata and Varki (2000)J.Biol.Chem.275:29:22127−22135)、選択的発現が、顆粒球及び単球において検出された。HL−60(ヒト前骨髄球性白血病)細胞から、シグレック−9の独立した一群が単離され、単球、好中球、NK細胞、B細胞及びCD8T細胞の小さな下位集団における発現が、示された(Zhang et al.(2000)J.Biol.Chem.275:29 22121−22126)。
【0010】
シグレック−9は、その細胞質ドメイン内に、細胞外N−末端Ig様(免疫グロブリン様)V型ドメイン、2つのIg様C2−セットドメインならびに2つの共通ITIMモチーフを含む。COS細胞におけるシグレック−9の発現は、赤血球のシアル酸依存性結合を示し、これは、末端a2−3又はa2−6のシアル酸結合によって媒介される(Angata and Varki (2000)J.Biol.Chem.275:22127−22135,Zhang et al.(2000)J.Biol.Chem.275:29 22121−22126)。シグレック−9は、内在性細胞シアル酸によって覆われ、細胞のシアリダーゼ処理の際にのみ外因性末端a2−3又はa2−6シアル酸プローブに結合することが、さらに確認された(Yamaji (2002)J.Biol.Chem.277:8 6324−6332)。シグレック−9のN−末端V−セットIg様ドメイン内におけるリガンド特異性は、シグレック−7をシグレック−9領域と、ならびにその逆を置き換えることによって、小領域であるAsn70−Lys75にマッピングされた。それらのアミノ酸残基内でのそれぞれのシグレックリガンド特異性の獲得は、リガンド特異性が可変C−C’ループにおける相互作用によって示されるという考えを支持する(Yamaji (2002)J.Biol.Chem.277:8 6324−6332).B群ストレプトコッカス(Streptococcus)がヒト好中球上でシグレック−9を結合し、それによって細菌(病原性のものであっても共生性のものであってもよい)に対する免疫応答を低減し得ることが報告されている「自己」システムとしてのシアル酸を、病原体は、あきらかに破壊している(Carlin et al (2009)Blood 113:3333−3336)。インビボシグレック−9シアル酸リガンドの他の供給源は、腫瘍分泌性のムチン(例えば、MUC1、MUC2、MUC16)である;シグレック−9は、がん患者の血清由来のムチンに結合することが示された(Ohta et al.(2010)Biochem.and Biophys.Res.Comm.402:663−669;Belisle et al.(2010)Mol.Cancer 9:118)。
【0011】
シグレック−9はチロシンキナーゼ(おそらくはc−Src又はLck)によるTyr−433及びTyr−456のリン酸化を受け、阻害性受容体として機能する(Avril et al.(2004)J.Imm.173:6841−6849)。ITIMドメインにおける近位のTyr−433に対するリン酸化後、シグレック−9は、SHP−2/PTPN11及びSHP−1/PTPN6に結合する。膜遠位ITIMモチーフは、突然変異がシグレック−9のチロシンリン酸化又は阻害性機能を妨げないので、有意に寄与していないとみられる。シグレック−9は、KIR(キラーIg様受容体)と呼ばれるNK細胞上に発現される阻害性受容体クラスを特徴づけるために以前に使用されてきた、ラット好塩基球白血病細胞におけるFcERI−媒介型活性を、阻害することが示された(Avril et al.(2004)J.Imm.173:6841−6849)。
【0012】
ホスファターゼ活性は、さらに、細胞内カルシウム移動の低下及び多くのタンパク質に対するチロシンリン酸化の低下と関連し(Ulyanova,T.,et al.(1999)Eur J lmmunol 29,3440−3449;Paul,S.P.,et al.(2000).Blood 96,483−490)、ならびに、部分的に、シグナル伝達及び免疫応答の、隣接する活性化受容体(ITAMモチーフ、パターン認識受容体、Toll様受容体及び損傷関連分子パターン(DAMP)受容体を含有するものを含む)に対するシグナル伝達分子の脱リン酸化を通したブロッキングに、関連する。ITIM含有シグレック受容体と活性化受容体との間の結合は、これらの受容体を結合しそして架橋する細胞外リガンドによって媒介され得ることが、提唱されてきた(Macauley SM.et al.(2014)Nature Reviews Immunology 14,653−666)。全てではないがいくつかのシグレックリガンドは、受容体下方制御を誘導する(Macauley SM.et al.(2014)Nature Reviews Immunology 14,653−666)。リガンド誘導型受容体分解は、チロシンキナーゼ受容体類(Monsonego−Oran et al.(2002)Febs letters 528,83−89;及びFasen et al.(2008)Cell & Molecular Biology 9.251−266)及びステロイド受容体類(Callige et al.(2005)Mol.Cell.Biol.25.4349−4358;及びPollenz et al.(2006)Chemico−Biological Interactions.164.49−59)について報告されてきた。シグレック−9は、急性骨髄白血病(AML)細胞において構成的にリサイクルされると考えられ、それらの細胞に対する抗シグレック−9モノクローナル抗体の迅速なエンドサイトーシスを媒介することが示されている(Biedermann et al.(2007)Leuk.Res.31:2:211−220)。しかし、シグレック−9の細胞レベルにおける低下は、AML又は正常な一次免疫細胞のどちらにおいても、報告されていない。同様に、no受容体リサイクリング又は抗体依存性受容体下方制御は、いかなる型の一次細胞においても報告されていない。シグレック−9の細胞表面上における発現は、発現系にわたって実施された突然変異分析にしたがうと、膜近位ITIMモチーフに部分的に依存するが、遠位モチーフには依存しない(Biedermann et al.(2007)Leuk.Res.31:2:211−220)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kannagi et al.(1983)EMBO J.2:2355−236
【非特許文献2】Kavitha et al.(2015 Glycobiology 25:902−917;Lou et al.(2014)Proc Natl Acad Sci USA.111:2482−2487
【非特許文献3】Kataguri et al.(2001)Glycoconj J.18:347−353
【非特許文献4】Gottschling et al.(2013)Eur Respir J.41:656−663
【非特許文献5】Hung et al.(2013)J Am Chem Soc.135:5934−5937
【非特許文献6】Pillai et al.(2012)Annual Review of Immunology.30:357−92
【非特許文献7】Avril et al.(2004)Journal of Immunology.173 (11):6841−9
【非特許文献8】Crocker et al.(2007)Nat Rev Immunol.7:255−266
【非特許文献9】O’Reilly and Paulson (2009)Trends in Pharm.Sci.30:5:240−248
【非特許文献10】Macauley et al.(2014)Nat.Rev.Imm.14:653−666
【非特許文献11】McMillan and Crocker (2008)Carbohydr Res.343:2050−2056
【非特許文献12】Von Gunten and Bochner (2008)Ann NY Acad Sci.1143:61−82
【非特許文献13】May et al.(1998)Mol Cell.1:719−728
【非特許文献14】Crocker et al.(1999)Biochem J.341:355−361
【非特許文献15】Crocker and Varki (2001)Trends Immunol.2:337−342
【非特許文献16】Attrill et al.(2006)J.Biol.Chem.281 32774−32783
【非特許文献17】Alphey et al.(2003)J.Biol.Chem.278:5 3372−3377
【非特許文献18】Varki et al.,Glycobiology,16 pp.1R−27R
【非特許文献19】May et al.(1998)Mol.Cell 1:5:719−728
【非特許文献20】Von Gunten and Bochner (2008)Ann NY Acad Sci.1143:61−82
【非特許文献21】Angata and Varki (2000)J.Biol.Chem.275:29:22127−22135
【非特許文献22】Zhang et al.(2000)J.Biol.Chem.275:29 22121−22126
【非特許文献23】Yamaji (2002)J.Biol.Chem.277:8 6324−6332
【非特許文献24】Carlin et al (2009)Blood 113:3333−3336
【非特許文献25】Ohta et al.(2010)Biochem.and Biophys.Res.Comm.402:663−669
【非特許文献26】Belisle et al.(2010)Mol.Cancer 9:118
【非特許文献27】Ulyanova,T.,et al.(1999)Eur J lmmunol 29,3440−3449
【非特許文献28】Paul,S.P.,et al.(2000).Blood 96,483−490
【非特許文献29】Monsonego−Oran et al.(2002)Febs letters 528,83−89
【非特許文献30】Fasen et al.(2008)Cell & Molecular Biology 9.251−266
【非特許文献31】Callige et al.(2005)Mol.Cell.Biol.25.4349−4358
【非特許文献32】Pollenz et al.(2006)Chemico−Biological Interactions.164.49−59
【非特許文献33】Biedermann et al.(2007)Leuk.Res.31:2:211−220
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の要旨
本開示は、ステージ特異的胚性抗原4(SSEA−4)が、シグレック−9に選択的結合することにより、免疫細胞に対する腫瘍呈示を調節するという驚くべき発見に基づく。具体的には、本開示は、SSEA−4−シグレック−9相互作用を調節することによって腫瘍免疫呈示が増大され、そしてNK細胞媒介型細胞傷害性が改善される、方法及びSSEA−4抗体を含む組成物を提供する。
【0015】
1つの局面において、本開示は、SSEA−4とシグレック−9との結合を調節し得る、SSEA−4に特異的な抗体又はその結合断片の特徴を有する。抗SSEA−4抗体は、Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcβ1→3Galα1→4Galβ1→4Glcβ1に結合する。
【0016】
1つの局面において、本開示は、抗SSEA−4抗体又はその断片を含む有効量の医薬組成物を対象に投与することを含む、SSEA−4抗原を発現する腫瘍細胞を有する対象を治療する方法を提供する。
【0017】
1つの実施形態において、抗SSEA−4抗体の腫瘍細胞に対する結合は、SSEA−4とシグレック−9との間の結合相互作用を低下させる。
【0018】
1つの実施形態において、SSEA−4とシグレック−9との間の結合相互作用における低下は、シグレック−9の腫瘍細胞に対する結合の低下をもたらす。1つの実施形態において、シグレック−9の腫瘍細胞に対する結合の低下は、シグレック−9/SSEA−4係合によって維持される免疫抑制(免疫−マスキング)の解放を誘導する。
【0019】
1つの実施形態において、抗SSEA−4抗体の投与は、細胞傷害性免疫細胞の活性を増大する。1つの実施形態において、細胞傷害性免疫細胞は、NK細胞である。
【0020】
特定の実施形態において、抗体又はその抗原−結合断片は、以下から選択される:
(a)免疫グロブリン分子全体;
(b)scFv;
(c)Fab断片;
(d)F(ab’);又は
(e)ジスルフィド結合したFv。
【0021】
特定の実施形態において、抗体は、ヒト化抗体である。
【0022】
特定の実施形態において、抗体は、IgG又はIgMである。
【0023】
特定の実施形態において、医薬組成物は、少なくとも1つの追加の治療用薬剤をさらに含む。
【0024】
1つの局面において、本開示は、がん細胞の増殖を阻害するための方法を提供し、この方法は、有効量の例示的な医薬組成物を、がん細胞の増殖の阻害を必要とする対象に投与することを含み、ここで、がん細胞の増殖が阻害される。SSEA−4を発現するがんとしては、限定しないが、肉腫、白血病、リンパ腫、神経膠芽腫、肺がん、乳がん、肺がん、食道がん、結腸直腸がん、胆道がん、肝臓がん、頬のがん、胃がん、結腸がん、鼻咽頭がん、中咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆管がん、胆嚢がん、膀胱がん、腸がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮体がん、膵臓がん、精巣がん、膀胱がん、頭頚部がん、口腔がん、神経内分泌がん、副腎がん、甲状腺がん、骨がん、皮膚がん、基底細胞癌、扁平上皮癌、黒色腫、又は脳腫瘍が挙げられる。
【0025】
特定の実施形態において、本開示は、対象におけるがんを治療する方法を提供する。本方法は、有効量の本明細書中で記載される例示的な抗体を、治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0026】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細が、以下の記載に示される。本発明の他の特徴及び/又は利点は、図面、いくつかの実施形態の詳細な説明、ならびに添付の特許請求の範囲から明らかとなる。
【0027】
図面の簡単な説明
本発明のより完全な理解は、添付の図面を参照することにより、以下の詳細な説明と組み合わせて考えた場合に、得られ得る。図面に図示された実施形態は、本発明を例示することのみを意図されるものであり、説明された実施形態に本発明を限定すると理解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】シグレック−9及びSSEA−4セラミドのELISA結合アッセイ。
図2】外因性のSSEA−4セラミドによる、肺がん細胞株(A549)に対するシグレック−9結合の増大。
図3】例示的抗SSEA−4 Fab(OBI−898)の添加による乳がん細胞株(MDA−MB231)に対するシグレック−9結合の低減。
図4】抗SSEA−4Fab(OBI−898)により、乳がん細胞株(MDA−MB231)に対するSSEA−4の結合は、ヒトPBMCの細胞内の細胞傷害性を増大した。
図5】抗SSEA−4Fab(OBI−898)により、卵巣がん細胞株(SKOV−3)に対するSSEA−4の結合は、ヒトPBMCの細胞内の細胞傷害性を増大した。
図6】抗SSEA−4Fab(OBI−898)により、卵巣がん細胞株(SKOV−3)に対するSSEA−4の結合は、Tecentriqの細胞内の細胞傷害性を増大した。
図7】免疫抑制を解放する、抗SSEA−4抗体(OBI−898)のシグレック−9に対する作用のメカニズムの図解。
図8】ステージ特異的胚性抗原4(SSEA−4)の構造。
図9】ヒトシアル酸結合免疫グロブリン型レクチン(シグレック)のグリカン結合特異性。
図10A】シアル酸結合Ig様レクチン−9(シグレック−9)の例示的リガンド。
図10B】シアル酸結合Ig様レクチン−9(シグレック−9)の例示的リガンド。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本開示は、ステージ特異的胚性抗原4(SSEA−4)が選択的にシグレック−9に結合することによって、免疫細胞に対する腫瘍呈示を調節することができるという、驚くべき発見に基づく。具体的には、本開示は、SSEA−4−シグレック−9相互作用を調節し、それによって腫瘍免疫呈示を増大しそしてNK細胞媒介型細胞傷害性を改善させるための、方法及びSSEA−4抗体を含む組成物を、提供する。
【0030】
本開示は、がん免疫療法における新規な免疫チェックポイントブロッキング療法としての、抗SSEA−4抗体の使用を記載する。SSEA−4は、シグレック−9についての新規な腫瘍関連炭水化物リガンドであることが、最初に証明された。抗SSEA−4抗体は、シグレック−9とSSEA−4との間の相互作用をブロッキングすることが発見された。インビトロアッセイは、抗SSEA−4抗体が、NK細胞に対するシグレック−9の阻害機能を強力に反転し、それによってその後の腫瘍細胞殺傷をもたらすことを示した。本明細書中の開示は、SSEA−4の腫瘍細胞に対する標的化は、SSEA−4とシグレック−9との間の係合をブロッキングすることにより、免疫細胞活性を解放し得ることを支持する。したがって、SSEA−4抗体は、単剤で、又は腫瘍学のために使用される他の試薬と組み合わせて、免疫チェックポイントブロッカーとして使用され得る。
【0031】
1つの局面において、本開示は、がん患者を治療するための、治療用腫瘍学薬剤との組み合わせでの抗SSEA−4抗体の使用に関する。特定の実施形態において、抗体は、OBI−898(抗SSEA−4モノクローナル抗体)である。OBI−898の例は、PCT特許出願公開(WO2017172990A1)、US特許出願公開(US2018339061A1)に記載され、これらの内容は、その全体が参考として組み込まれる。1つの局面において、本開示は、がん上のSSEA−4は、免疫細胞上のシグレックと相互作用して、免疫細胞の不活性化をもたらし得るという発見に基づく。抗SSEA−4抗体の添加によりSSEA−4とシグレックとの間の係合をブロッキングすることは、免疫細胞の細胞内の細胞傷害性を解放する。治療用腫瘍学薬剤は、腫瘍に対する免疫細胞の細胞傷害性を増大するために、抗SSEA−4抗体と組み合わせられてもよい。
【0032】
1つの局面において、本発明は、腫瘍学のために使用される治療用薬剤(例えば治療用抗体及び/又は化学療法剤)と組み合わせた抗SSEA−4抗体に関連する。本開示は、抗SSEA−4抗体を投与することによって、SSEA−4とシグレックとの係合によって誘導された免疫細胞不活性化を救し、抗がん効力を改善するという理論的根拠に基づき、例を提供した。
【0033】
シグレック−9は、サイトカイン産生に対する免疫調節効果を有すると記載されている。マクロファージ細胞株におけるシグレック−9の過剰発現及び同時のTLR刺激は、炎症促進性サイトカインTNF−アルファ及びIL−6の産生における減少、ならびにIL−10の上方制御と関連することが示されている(Ando et al.(2008)Biochem.And Biophys.Res.Comm.369:878−883)。また、腫瘍産生型のムチン類が、シグレック−9ならびに未成熟なDCに結合することが示されている(Ohta et al.(2010)Biochem.and Biophys.Res.Comm.402:663−669)。LPS及びムチンの存在下で、未成熟なDCは、より少ないIL−12しか産生しなかったが、IL−10産生は維持された。このことは、シグレック−9が、サイトカイン産生を炎症促進性から抗炎症性に変え、それによって、攻撃性の病原体、がん、又は他の病因のクリアランスに対立する耐性の免疫学的状態を、維持することを、示唆する。
【0034】
シグレック−9の阻害性の役割は、ナチュラルキラー細胞の機能及びリンパ細胞、例えばT細胞及び好中球の制御において、さらに性質決定されている(Crocker et al.(2012)Ann.N Y Acad.Sci.1253,102−111;Pillai et al.(2012)Annu.Rev.Immunol.30,357−392;von Gunten and Bochner (2008)Ann.N Y Acad.Sci.1143,61−82;Jandus et al.(2014)J.Clin.Invest.124(4)1810−1820;Ikehara et al.(2004)J.Biol.Chem.279:41 43117−43125;及びvon Gunten et al.(2005)Blood 106(4)1423−1431)。ナチュラルキラー細胞における機能研究は、シグレック−9結合シアル酸リガンドを発現している腫瘍細胞が、NK細胞活性化及び腫瘍細胞殺傷を阻害することが、実証されている。多くのヒト腫瘍は、シグレック−9に結合するシアル酸リガンドを強力に上方制御し、それによって、免疫回避及びがん進行を可能にする(Jandus et al.(2014)J.Clinic.Invest.124:4:1810−1820)。腫瘍におけるシアル酸上方制御は、ナチュラルキラー細胞免疫サーベイランスを強く阻害する、「超自己」状態を容易にすると考えられている(Macauley and Paulson (2014)Nat.Chem.Biol.10:1:7−8)。リンパ系細胞において、シグレック−9は、eT細胞受容体シグナル伝達を、ITIMチロシンリン酸化及びSHP−1結合を介して負に制御することが示されている。下流TCRシグナル伝達分子であるZAP−70は、低減されたTyr319におけるリン酸化及び低減されたNFAT転写活性を示した。TCRシグナル伝達に対するシグレック−9の阻害性効果は、シアル酸リガンド結合ドメインにおける保存的アルギニン残基の突然変異において低減した(Ikehara et al.(2004)J.Biol.Chem.279:41 43117−43125)。好中球において、シグレック−9係合は、アポトーシス機構及び非アポトーシス機構を介して、細胞死を媒介する。疾患のない者もしくは関節リウマチ患者、及び急性敗血症ショック患者に由来する好中球は、シグレック−9依存性の死を迎えたことが、抗体架橋によって示された。敗血症由来の又はRA患者由来の好中球は、シグレック−9ライゲーションの際に有意により多くの細胞死を実証した;このことは、炎症性サイトカインと共の短時間の事前インキュベーションによって模倣することができ、炎症は、シグレック−9の死の経路にお準備刺激をもたらすことを、示唆する(Belisle et al.(2010)Mol.Cancer 9:118)。
【0035】
シグレック−9のマウスホモログはシグレック−Eであり、これは、53%類似している。シグレック−Eは、シアル酸依存性の様式でヒト赤血球に結合し、そして機能的にシグレック−9に類似して、SHP−1及びSHP−2をITIMを介して補充し、免疫細胞における阻害性シグナル伝達を媒介することが示された(Yu et al Biochem.J.(2001)353,483−492)。マウスにおいて、シグレック−Eの遺伝的不活性化は、明らかな発生の、組織学的な、又は行動上の異常をもたらさない;そして、正常に交配したシグレック−E−欠損マウスは、シグレック−Eは必須な遺伝子ではなく、その機能は先天免疫を制限し得ることを示す(McMillan et al.(2013)Blood 121:11:2084−2094)。シグレック−E欠損マウスのエアロゾルLPSによるチャレンジの際、肺における増大した好中球補充が実証され、これは、132−インテグリンCD11bのブロッキングによって反転させることができた。シグレック−E欠損好中球は、CD11b依存性様式で、Syk及びp38 MAPKの増大したリン酸化を有することを示した。このことは、シグレック−Eが、急性肺炎症のモデルにおいて好中球補充を抑制するように機能することを示唆する(McMillan et al.(2013)Blood 121:11:2084−2094)。相乗的がんモデルにおいて、シグレック−E欠損マウス由来の好中球は、エキソビボで腫瘍細胞殺傷を拡大し、そして、増大したROS産生及びアポトーシス誘導性リガンド(例えば、TRAIL及びFasL)を実証した(Laubli et al.(2014)PNAS 111 (39)14211−14216)。
【0036】
腫瘍学において、シグレック−9は、大勢の患者の骨髄サンプルにおける前駆細胞には存在しないのにもかかわらず、原発性AML細胞において発現されることから、急性骨髄白血病についての治療標的であると示唆されている(Biedermann et al.(2007)Leuk.Res.31:2:211−220)。固形がんにおいて、上皮腫瘍細胞は、シグレック−9に結合する、重度にグリコシル化されたムチンを産生するが、このことは、増大したリガンド相互作用をブロッキングすることは、治療的に有益であることを示唆する(Ohta et al.(2010)Biochem.and Biophys.Res.Comm.402:663−669;Belisle et al.(2010)Mol.Cancer 9:118)。さらに、シグレック−9リガンドの強力な発現及び腫瘍浸潤性Sig1ec−9+免疫細胞を、結腸直腸がん、乳がん、卵巣がん、非小細胞肺がん、及び前立腺がんの組織学的切片において見出した(Laubli et al.(2014)PNAS 111 (39)14211−14216)。シアリルリガンド結合を低減する、天然に存在するシグレック−9 K131Q(A391C)多型(rs16988910)は、非小細胞肺がん患者における初期生存(2年未満)を有意に改善するが、効果は2年後に失われたことが、見出だされた(Laubli et al.(2014)PNAS 111 (39)14211−14216)。
【0037】
がん細胞上に発現したシアリル−糖タンパク質が、「活性化」シグナルを、シグレック−9結合を介して腫瘍細胞内に伝達し、接着斑キナーゼ(FAK)の崩壊ならびに細胞運動及び浸潤の増大をもたらすことが、近年に提唱されている(Sabit et al.(2013)J.Biol.Chem.288(49):35417−35427)。これらの結果は、シグレック−9−シアリルリガンド相互作用は、免疫系の多くの細胞型に対する阻害性効果に寄与するのみならず、がん細胞に対する直接効果を介して腫瘍転移をも拡大し得たことを、示唆する。
【0038】
したがって、シグレック−9と1以上のシグレック−9リガンドとの間のシグレック−9相互作用を特異的に調節する、及び/又は望ましくないシグレック−9活性に関連する1以上の疾患、障害、及び症状を治療するために1以上のシグレック−9活性を低減する、治療用抗体の需要が、存在する。
【0039】
定義
本発明の実施には、特に指示しない限り、当技術分野の技能の範囲内にある分子生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の慣用的な技術が使用される。このような技術は文献に十分に説明されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,2nd Ed.,ed.by Sambrook,Fritsch and Maniatis(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989);DNA Cloning,Volumes I and II(D.N.Glover ed.,1985);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney,Alan R. Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);B. Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);the treatise,Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller and M.P.Calos eds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology,Vols.154 and 155(Wu et al.eds.),Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987);Antibodies:A Laboratory Manual,by Harlow and Lane s(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1988);及びHandbook Of Experimental Immunology,Volumes I−IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.,1986)を参照されたい。
【0040】
本明細書で使用される場合、「グリカン」という用語は、多糖類又はオリゴ糖を指す。グリカンはまた、本明細書において、糖タンパク質、糖脂質、糖ペプチド、糖プロテオーム(glycoproteome)、ペプチドグリカン、リポ多糖又はプロテオグリカンなどの複合糖質の炭水化物部分を指すためにも使用される。グリカンは、通常、単糖間のO−グリコシド結合のみからなる。例えば、セルロースはβ−1,4−結合D−グルコースで構成されるグリカン(又はより具体的にはグルカン)であり、キチンはβ−1,4−結合N−アセチル−D−グルコサミンで構成されるグリカンである。グリカンは、単糖残基のホモポリマー又はヘテロポリマーであり得、直鎖状又は分枝状であり得る。グリカンは、糖タンパク質及びプロテオグリカンのように、タンパク質に結合して見られ得る。それらは一般的に、細胞の外面に見られる。O−及びN−結合グリカンは、真核生物において極めて一般的であり、原核生物においてもあまり一般的ではないが見出され得る。N結合型グリカンは、シークオンにおいてアスパラギンのR基窒素(N)に結合して見られる。シークオンは、Asn−X−Ser又はAsn−X−Thr配列であり、ここでXはプロリンを除く任意のアミノ酸である。
【0041】
本明細書で使用される場合、「抗原」という用語は、免疫応答を誘発することができる任意の物質として定義される。
【0042】
本明細書で使用される場合、「免疫原性」という用語は、免疫原、抗原又はワクチンが免疫応答を誘発する能力を指す。
【0043】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体又はT細胞受容体の抗原結合部位と接触する抗原分子の部分として定義される。
【0044】
本明細書で使用される場合、「ワクチン」という用語は、生物が引き起こす疾患に対する免疫を与えるために使用される、病原生物全体(死滅若しくは弱毒化)又はこのような生物の成分、例えばタンパク質、ペプチド又は多糖類からなる抗原を含有する調製物を指す。ワクチン調製物は、天然、合成又は組換え由来の調製物のいずれか1つを含んでも除外してもよい。組換え由来の調製物は、例えば、組換えDNA技術によって得ることができる。
【0045】
本明細書で使用される場合、「抗原特異的」という用語は、特定の抗原又は抗原のフラグメントの供給が特異的細胞増殖をもたらすような細胞集団の特性を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、「特異的結合」という用語は、結合対(例えば、抗体と抗原)間の相互作用を指す。種々の例で、特異的結合は、約10−6モル/リットル、約10−7モル/リットル若しくは約10−8モル/リットル又はそれ未満の親和定数によって具体化することができる。
【0047】
本明細書で使用される「実質的に類似」、「実質的に同じ」、「同等」又は「実質的に同等」という句は、当業者が2つの値の間の差を前記値によって測定される生物学的特徴(例えば、Kd値、抗ウイルス効果等)の状況内で生物学的及び/又は統計学的有意性がほとんど又は全くないとみなすような、2つの数値(例えば、一方が分子に関連し、他方が参照/比較分子に関連する)間の十分に高い程度の類似性を示す。前記2つの値の間の差は、例えば、参照/比較分子についての値の関数として約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満及び/又は約10%未満である。
【0048】
本明細書で使用される「実質的に減少した」又は「実質的に異なる」という句は、当業者が2つの値の間の差を前記値によって測定される生物学的特徴(例えば、Kd値)の状況内で統計学的に有意であるとみなすような、2つの数値(一般的に、一方が分子に関連し、他方が参照/比較分子に関連する)間の十分に高い程度の差を示す。前記2つの値の間の差は、例えば、参照/比較分子についての値の関数として約10%超、約20%超、約30%超、約40%超及び/又は約50%超である。
【0049】
本明細書で使用される「結合親和性」は、一般的に、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の全非共有結合相互作用の合計の強度を指す。特に指示しない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、結合対(例えば、抗体と抗原)のメンバー間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般的に、解離定数(Kd)によって表すことができる。親和性は、本明細書に記載されるものを含む当技術分野で公知の一般的な方法によって測定することができる。低親和性抗体は、一般的に、抗原にゆっくり結合し、容易に解離する傾向があるが、高親和性抗体は、一般的に、抗原に速く結合し、長く結合したままである傾向がある。結合親和性を測定する種々の方法が当技術分野で公知であり、そのいずれも本発明の目的のために使用することができる。具体的な例示的な実施形態を以下に記載する。
【0050】
特定の実施形態では、本発明による「Kd」又は「Kd値」が、以下のアッセイによって記載される目的の抗体のFabバージョン及びその抗原で行われる放射標識抗原結合アッセイ(RIA)によって測定される。非標識抗原の滴定系列の存在下で最少濃度の(125I)標識抗原でFabを平衡化し、次いで、結合抗原を抗Fab抗体コーティングプレートで捕捉することによって、Fabの抗原に対する溶液結合親和性を測定する(Chen,et al.,(1999)J. Mol Biol 293:865−881)。アッセイのための条件を確立するために、マイクロタイタープレート(Dynex)を50mM炭酸ナトリウム(pH9.6)中5μg/mLの捕捉抗Fab抗体(Cappel Labs)で一晩コーティングし、その後、室温(約23℃)で2〜5時間、PBS中2%(w/v)ウシ血清アルブミンでブロッキングする。非吸着プレート(Nunc、カタログ番号269620)において、100pM又は26pMの[125I]抗原を目的のFabの系列希釈と混合する(例えば、抗VEGF抗体、Fab−12の評価と一致、Presta et al.,(1997)Cancer Res.57:4593−4599)。次いで、目的のFabを一晩インキュベートする;しかしながら、確実に平衡に達するようにするために、インキュベーションがより長期間(例えば、65時間)続いてもよい。その後、混合物を、室温で(例えば、1時間)インキュベートするために、捕捉プレートに移す。次いで、溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%Tween−20で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μL/ウェルのシンチラント(scintillant)(MicroScint−20;Packard)を添加し、プレートをTopcountガンマカウンター(Packard)で10分間カウントする。最大結合の20%以下を与える各Fabの濃度を、競合結合アッセイに使用するために選択する。別の実施形態によると、約10応答単位(RU)で、固定化抗原CM5チップを用いて、25℃でBIAcore(商標)−2000又はBIAcore(商標)−3000(BIAcore,Inc.、Piscataway、N.J.)を使用する表面プラズモン共鳴アッセイを使用することによって、Kd又はKd値を測定する。簡潔には、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIAcore Inc.)を、供給業者の指示に従って、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。抗原を10mM酢酸ナトリウム、pH4.8で5μg/mL(約0.2μM)まで希釈した後、5μL/分の流量で注入して、約10応答単位(RU)の結合タンパク質を達成する。抗原の注入後、1Mエタノールアミンを注入して、未反応基をブロッキングする。各実験で、スポットを活性化し、タンパク質を固定化することなくエタノールアミンをブロッキングして、参照差し引きに使用した。動力学測定のために、約25μL/分の流量で、25℃で0.05%Tween20(PBST)を含むPBS中にFabの2倍系列希釈液(0.78nM〜500nM)を注入する。会合及び解離センサーグラムを同時に適合させることによって、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIAcore評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、会合速度(kon)及び解離速度(koff)を計算する。平衡解離定数(Kd)を、比koff/konとして計算する。例えば、Chen,Y.,et al.,(1999)J.Mol Biol 293:865−881を参照されたい。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによって会合速度が106M−1s−1を超えた場合、会合速度を、攪拌キュベットを用いて分光計、例えばストップフロー装備分光計(Aviv Instruments)又は8000シリーズSLM−Aminco分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される、漸増濃度の抗原の存在下で、PBS、pH7.2中20nM抗抗原抗体(Fab form)の25℃での蛍光発光強度の増加又は減少を測定する蛍光消光技術(励起=295nm;発光=340nm、16nmバンドパス)を使用することによって決定することができる。
【0051】
本発明による「会合速度(on−rate)」すなわち「会合の速度(rate of association)」すなわち会合速度(association rate)」すなわち「kon」を、固定化抗原CM5チップを用いて、25℃でBIAcore(商標)−2000若しくはBIAcore(商標)−3000(BIAcore,Inc.、Piscataway、N.J.)を用いて、上記の同じ表面プラズモン共鳴技術を用いて決定することもでき、又は本発明による「会合速度」若しくは「kon」を、供給業者の指示に従って、同じ表面プラズモンN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて決定することもできる。抗原を10mM酢酸ナトリウム、pH4.8で5μg/mL(約0.2μM)まで希釈した後、5μL/分の流量で注入して、約10応答単位(RU)の結合タンパク質を達成する。抗原の注入後、1Mエタノールアミンを注入して、未反応基をブロッキングする。動力学測定のために、約25μL/分の流量で、25℃で0.05%Tween20(PBST)を含むPBS中にFabの2倍系列希釈液(0.78nM〜500nM)を注入する。会合及び解離センサーグラムを同時に適合させることによって、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIAcore評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、会合速度(kon)及び解離速度(koff)を計算する。平衡解離定数(Kd)を、比koff/konとして計算した。例えば、Chen,Y.,et al.,(1999)J.Mol Biol 293:865−881を参照されたい。しかしながら、上記の表面プラズモン共鳴アッセイによって会合速度が106M−1s−1を超えた場合、会合速度を、攪拌キュベットを用いて分光計、例えばストップフロー装備分光計(Aviv Instruments)又は8000シリーズSLM−Aminco分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される、増加する濃度の抗原の存在下で、PBS、pH7.2中20nM抗抗原抗体(Fab form)の25℃での蛍光発光強度の増加又は減少を測定する蛍光消光技術(励起=295nm;発光=340nm、16nmバンドパス)を使用することによって決定することができる。
【0052】
本明細書で使用される「抗体」(Ab)及び「免疫グロブリン」(Ig)は、同じ構造特徴を有する糖タンパク質である。抗体は特異的抗原に対して結合特異性を示すが、免疫グロブリンは抗体と一般に抗原特異性を欠く他の抗体様分子の両方を含む。後者の種類のポリペプチドは、例えば、リンパ系によって低レベルで産生され、骨髄腫によって高レベルで産生される。
【0053】
本明細書で使用される「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、広義で互換的に使用され、モノクローナル抗体(例えば完全長又はインタクトモノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、一価、多価抗体、多重特異性抗体(例えば、それらが所望の生物学的活性を示す限り二重特異性抗体)を含み、本明細書でさらに詳細に記載される一定の抗体フラグメントも含み得る。抗体は、キメラ、ヒト、ヒト化及び/又は親和性成熟であり得る。
【0054】
本明細書で使用される抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。これらのドメインは、一般的に、抗体の最も可変性の部分であり、抗原結合部位を含有する。
【0055】
本明細書で使用される「可変」という用語は、可変ドメインの一定の部分が抗体間で配列が大きく異なり、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合及び特異性において使用されるという事実を指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均一に分布していない。それは、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの両方の相補性決定領域(CDR)又は超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに濃縮されている。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、βシート構造を連結するループを形成する、場合によってはβシート構造の一部を形成する3つのCDRによって連結された、βシート構造を主にとる4つのFR領域を含む。各鎖中のCDRは、FR領域によって近接して一緒に保持され、他の鎖由来のCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,National Institute of Health,Bethesda,Md.(1991)参照)。定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合に直接関与しないが、抗体依存性細胞傷害性における抗体の関与などの種々のエフェクター機能を示す。
【0056】
「Fv」は、完全な抗原認識及び結合部位を含有する最小限の抗体フラグメントである。2本鎖Fv種において、この領域は、緊密で非共有結合的に1つの重鎖及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv種では、1つの重鎖及び1つの軽鎖可変ドメインを、軽鎖及び重鎖が2本鎖Fv種のものと類似の「二量体」構造に会合することができるように、可撓性ペプチドリンカーによって共有結合させることができる。この構造において、各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、VH−VL二量体の表面上の抗原結合部位を規定する。まとめると、6つのCDRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でさえも、結合部位全体よりも親和性が低いが、抗原を認識し、抗原に結合する能力を有する。
【0057】
「Fab」フラグメントはまた、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)を含有する。Fab’フラグメントは、抗体ヒンジ領域由来の1個以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端における少数の残基の付加によってFabフラグメントとは異なる。Fab’−SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab’のための本明細書中の名称である。F(ab’)2抗体フラグメントは、もともと、それらの間にヒンジシステインを有するFab’フラグメントの対として産生された。抗体フラグメントの他の化学的カップリングも知られている。
【0058】
任意の脊椎動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」を、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明確に異なる型の1つに割り当てることができる。
【0059】
「完全長抗体」、「インタクト抗体」及び「全抗体」という用語は、本明細書で互換的に使用され、実質的にインタクトな形態の抗体を指し、以下に定義される抗体フラグメントを指さない。これらの用語は、特に、Fc領域を含有する重鎖を有する抗体を指す。
【0060】
本明細書で使用される「抗体フラグメント」は、インタクト抗体の一部分のみを含み、その部分は、インタクト抗体中に存在する場合にその部分に通常関連する機能の少なくとも1つ、及びほとんど又は全てを保持する。一実施形態では、抗体フラグメントがインタクト抗体の抗原結合部位を含み、したがって抗原に結合する能力を保持する。別の実施形態では、抗体フラグメント、例えばFc領域を含むものが、インタクト抗体中に存在する場合にFc領域に通常関連する生物学的機能、例えばFcRn結合、抗体半減期調節、ADCC機能及び補体結合の少なくとも1つを保持する。一実施形態では、抗体フラグメントが、インタクト抗体と実質的に類似のインビボ半減期を有する一価抗体である。例えば、このような抗体フラグメントは、フラグメントにインビボでの安定性を付与することができるFc配列に連結された抗原結合アームを含み得る。
【0061】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指す、すなわち、集団を構成する個々の抗体が、少量で存在し得る可能性のある天然の突然変異を除いて同一である。したがって、「モノクローナル」という修飾語句は、抗体の特徴が個別の抗体の混合物ではないことを示す。このようなモノクローナル抗体は、典型的には、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、標的結合ポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列からの単一標的結合ポリペプチド配列の選択を含む方法によって得られた。特定の実施形態では、モノクローナル抗体が天然配列を除外し得る。いくつかの態様では、選択方法が、ハイブリドーマクローン、ファージクローン又は組換えDNAクローンのプールなどの複数のクローンからのただ1つのクローンの選択であり得る。選択された標的結合配列を、例えば、標的に対する親和性を改善するため、標的結合配列をヒト化するため、細胞培養におけるその産生を改善するため、インビボでその免疫原性を低下させるため、多重特異性抗体を作製するためにさらに変化させることができること、及び変化した標的結合配列を含む抗体も本発明のモノクローナル抗体であることが理解されるべきである。異なる決定基(例えば、エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、典型的には他の免疫グロブリンによって汚染されていない点で有利である。「モノクローナル」という修飾語句は、抗体の実質的に均質な集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明により使用されるモノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、Kohler et al.(1975)Nature,256:495;Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988);Hammerling et al.Monoclonal Antibodies and T−Cell hybridomas 563−681(Elsevier,N.Y.,1981)、組換えDNA法(例えば、U.S.Pat.No.4,816,567参照)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clackson et al.(1991)Nature,352:624−628;Marks et al.(1992)J. Mol. Biol.222:581−597;Sidhu et al.(2004)J. Mol. Biol.338(2):299−310;Lee et al.(2004)J. Mol. Biol.340(5):1073−1093;Fellouse(2004)Proc. Natl. Acad.Sci.USA 101(34):12467−12472;及びLee et al.(2004)J. Immunol. Methods 284(1−2):119−132参照)及びヒト免疫グロブリン遺伝子座又はヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子の一部又は全部を有するヒト又はヒト様抗体を動物で産生する技術(例えば、WO98/24893;WO96/34096;WO96/33735;WO91/10741;Jakobovits et al.(1993)Proc. Natl. Acad.Sci.USA 90:2551;Jakobovits et al.(1993)Nature 362:255−258;Bruggemann et al.(1993)Year in Immunol.7:33;U.S.Pat.Nos.5,545,807;5,545,806;5,569,825;5,625,126;5,633,425;5,661,016;Marks et al.(1992)Bio.Technology 10:779−783;Lonberg et al.(1994)Nature 368:856−859;Morrison(1994)Nature 368:812−813;Fishwild et al.(1996)Nature Biotechnol.14:845−851;Neuberger(1996)Nature Biotechnol.14:826及びLonberg and Huszar(1995)Intern.Rev.Immunol.13:65−93参照)を含む種々の技術によって作製され得る。
【0062】
本明細書におけるモノクローナル抗体は、具体的には、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来する又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同であるが、鎖(複数可)の残りが、別の種に由来する又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一又は相同である「キメラ」抗体、並びに所望の生物学的活性を示す限り、このような抗体のフラグメントを含む(U.S.Pat.No.4,816,567;及びMorrison et al.(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855)。
【0063】
本発明の抗体はまた、本発明の抗体から生成されたキメラ化又はヒト化モノクローナル抗体も含む。
【0064】
抗体は、完全長であってもよく、又はそれだけに限らないが、Fab、F(ab’)2、Fab’、F(ab)’、Fv、単鎖Fv(scFv)、二価scFv(bi−scFv)、三価scFv(tri−scFv)、Fd、dAbフラグメント(例えば、Ward et al(1989)Nature,341:544−546)、CDR、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、直鎖抗体、単鎖抗体分子及び抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体を含む抗原結合部分を有する抗体の1つのフラグメント(又は複数のフラグメント)を含んでもよい。組換え法又は合成リンカーを使用して抗体フラグメントを連結することによって生成される単鎖抗体も本発明に包含される。Bird et al(1977).Science,1988,242:423−426.Huston et al(1988),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1988,85:5879−5883。
【0065】
本発明の抗体又はその抗原結合部分は、単一特異性、二重特異性又は多重特異性であり得る。
【0066】
IgG(例えば、IgG1、IgG、IgG、IgG)、IgM、IgA(IgA、IgA)、IgD又はIgEを含む全ての抗体アイソタイプが本発明に包含される(全てのクラス及びサブクラスが本発明に包含される)。抗体又はその抗原結合部分は、哺乳動物(例えば、マウス、ヒト)抗体又はその抗原結合部分であり得る。抗体の軽鎖はカッパ型又はラムダ型であり得る。
【0067】
したがって、本発明の抗体は、重鎖若しくは軽鎖可変領域と組み合わせて、本発明の抗体に組み込むことができる、非マウス起源の、好ましくはヒト起源の、重鎖若しくは軽鎖定常領域、フレームワーク領域又はそれらの任意の部分を含む。
【0068】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小の配列を含有するキメラ抗体である。一実施形態では、ヒト化抗体が、レシピエントの超可変領域由来の残基が、所望の特異性、親和性及び/又は能力を有するマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域由来の残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が対応する非ヒト残基によって置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体に見られない残基を含んでもよい。これらの改変は、抗体性能をさらに改良するためになされる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、超可変ループの全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに相当し、FRの全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体は、任意に、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含む。さらなる詳細については、Jones et al.(1986)Nature 321:522−525;Riechmann et al.(1988)Nature 332:323−329及びPresta(1992)Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596を参照されたい。以下の総説論文及びその中に引用されている参考文献も参照されたい:Vaswani and Hamilton(1998)Ann.Allergy,Asthma & Immunol.1:105−115;Harris(1995)Biochem.Soc.Transactions 23:1035−1038;Hurle and Gross(1994)Curr.Op.Biotech.5:428−433。
【0069】
「超可変領域」、「HVR」又は「HV」という用語は、本明細書で使用される場合、配列中で超可変である及び/又は構造的に規定されたループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体は6つの超可変領域を含む;3つはVH(H1、H2、H3)にあり、3つはVL(L1、L2、L3)にある。いくつかの超可変領域描写が使用されており、本明細書に包含される。Kabat相補性決定領域(CDR)は配列可変性に基づいており、最も一般的に使用されている(Kabat et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.)。Chothiaは、代わりに構造ループの位置に言及している(Chothia and Lesk(1987)J. Mol. Biol.196:901−917)。
【0070】
本明細書で使用される「フレームワーク」又は「FW」残基は、本明細書で定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0071】
「Kabatのような可変ドメイン残基の番号付け」又は「Kabatのアミノ酸位置の番号付け」という用語及びその変形は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)における抗体の編成の重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインに使用される番号付けシステムを指す。この番号付けシステムを使用して、実際の直鎖状アミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はHVRの短縮又は挿入に対応して、より少ないアミノ酸を含んでも又は追加のアミノ酸を含んでもよい。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後に単一アミノ酸インサート(例えば、Kabatによる残基52a)及び重鎖FR残基82の後に挿入残基(例えば、Kabatによる残基82a、82b及び82c等)を含み得る。所与の抗体について、その抗体の配列の相同性領域における「標準的」Kabat番号付け配列とのアラインメントによって、残基のKabat番号付けを決定することができる。
【0072】
本明細書で使用される「単鎖Fv」又は「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一ポリペプチド鎖に存在する。一般的に、scFvポリペプチドは、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする、VHドメインとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。scFvの総説については、Pluckthun,in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer−Verlag,New York,pp.269−315(1994)を参照されたい。
【0073】
本明細書で使用される「ダイアボディ」という用語は、同じポリペプチド鎖中の軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む、2つの抗原結合部位を有する小抗体フラグメント(VH−VL)を指す。同じ鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするには短すぎるリンカーを使用することによって、ドメインを別の鎖の相補的ドメインと対形成し、2つの抗原結合部位を形成させる。ダイアボディは、例えば、EP404,097;WO93/1161;及びHollinger et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448により十分に記載されている。
【0074】
本明細書中で使用される「ヒト抗体」は、ヒトによって産生される抗体のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列を有する、及び/又は本明細書に開示されるヒト抗体を作製するための技術のいずれかを使用して作製されたものである。ヒト抗体のこの定義は、具体的には、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を除外する。
【0075】
本明細書で使用される「親和性成熟抗体」は、変化(複数可)を有さない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性の改善をもたらすその1つ以上のHVRにおける1つ以上の変化を有するものである。一実施形態では、親和性成熟抗体が、標的抗原に対してナノモル濃度又はピコモル濃度の親和性を有する。親和性成熟抗体は、当技術分野で公知の手順によって産生される。Marks et al.(1992)Bio/Technology 10:779−783は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和性成熟を記載している。CDR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘発が、Barbas et al.(1994)Proc Nat.Acad.Sci.USA 91:3809−3813;Schier et al.(1995)Gene 169:147−155;Yelton et al.(1995)J. Immunol.155:1994−2004;Jackson et al.(1995)J. Immunol.154(7):3310−9;及びHawkins et al.(1992)J. Mol. Biol.226:889−896によって記載されている。
【0076】
本明細書で使用される「ブロッキング抗体」又は「アンタゴニスト抗体」は、それが結合する抗原の生物学的活性を抑制又は低減するものである。一定のブロッキング抗体又はアンタゴニスト抗体は、抗原の生物学的活性を実質的に又は完全に抑制する。
【0077】
本明細書で使用される「アゴニスト抗体」は、目的のポリペプチドの機能的活性の少なくとも1つを模倣する抗体である。
【0078】
本明細書中で使用される「障害」は、本発明の抗体による治療から利益を得るであろう任意の状態である。これには、哺乳動物を当の障害にかかりやすくする病理学的状態を含む慢性及び急性の障害又は疾患が含まれる。本明細書において治療される障害の非限定的な例としては、がんが挙げられる。
【0079】
本明細書で使用される「細胞増殖性障害」及び「増殖性障害」という用語は、ある程度の異常な細胞増殖と関連する障害を指す。一実施形態では、細胞増殖性障害が、がんである。
【0080】
本明細書で使用される「腫瘍」は、悪性であれ良性であれ、全ての新生物細胞の成長及び増殖、並びに全ての前がん性及びがん性の細胞及び組織を指す。「がん」、「がん性」、「細胞増殖性障害」、「増殖性障害」及び「腫瘍」という用語は、本明細書中で言及されるように互いに排他的ではない。
【0081】
本明細書で使用される「がん」及び「がん性」という用語は、典型的には未制御の細胞成長/増殖を特徴とする哺乳動物の生理学的状態を指す又は記載する。がんの例としては、それだけに限らないが、癌腫、リンパ腫(例えば、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫)、芽細胞腫、肉腫及び白血病が挙げられる。このようながんのより具体的な例としては、扁平上皮がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺癌、肺の扁平上皮癌、腹膜がん、肝細胞がん、胃腸がん、膵臓がん、膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝がん、膀胱がん、ヘパトーマ、乳がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜癌又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓がん、肝がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝癌、白血病及び他のリンパ増殖性障害、並びに様々な種類の頭頸部がんが挙げられる。
【0082】
本明細書で使用される場合、「治療」とは、治療される個体又は細胞の自然経過を変える試みにおける臨床的介入を指し、予防のために又は臨床病理学の経過の間に実施することができる。治療の望ましい効果には、疾患の発生又は再発の予防、症状の緩和、疾患の直接的又は間接的な病理学的結果の減少、炎症及び/又は組織/臓器の損傷の予防又は減少、疾患進行速度の減少、疾患状態の改善又は緩和及び寛解又は予後改善が含まれる。特定の実施形態では、本発明の抗体を使用して疾患又は障害の発達を遅延させる。
【0083】
本明細書で使用される場合、「抗体−薬物複合体(ADC)」とは、化学療法剤、薬物、成長抑制剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物若しくは動物起源の酵素的に活性な毒素又はそれらのフラグメント)又は放射性同位元素(すなわち、放射性コンジュゲート)などの細胞傷害剤と結合した抗体を指す。
【0084】
本明細書で使用される場合、「T細胞表面抗原」とは、MHC−関連ペプチド抗原の特異的認識のためにT細胞によって使用される全てのT細胞の原則的規定マーカーであるT細胞抗原受容体(TcR)を含む、当技術分野で公知の代表的なT細胞表面マーカーを含み得る抗原を指す。TcRに関連する例は、その同族MHC/抗原複合体とのTcR結合後の細胞内シグナルの伝達に関与するCD3として知られるタンパク質の複合体である。T細胞表面抗原の他の例は、CD2、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L及び/又はCD44を含む(又は除外する)ことができる。
【0085】
本明細書で使用される「個体」又は「対象」は脊椎動物である。特定の実施形態では、この脊椎動物は、哺乳動物である。哺乳動物には、それだけに限らないが、家畜(例えば、ウシ)、スポーツ動物、ペット(ネコ、イヌ及びウマなど)、霊長類、マウス及びラットが含まれる。特定の実施形態では、脊椎動物がヒトである。
【0086】
本明細書で使用される治療の目的のための「哺乳動物」とは、ヒト、飼育動物及び家畜並びに動物園の動物、スポーツ動物又はペット動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ等を含む哺乳動物として分類される任意の動物を指す。特定の実施形態では、哺乳動物がヒトである。
【0087】
本明細書で使用される「有効量」とは、所望の治療又は予防結果を達成するのに必要な投与量及び期間で有効な量を指す。
【0088】
本発明の物質/分子の「治療上有効量」は、個体の疾患状態、年齢、性別及び体重並びに物質/分子が個体において所望の応答を誘発する能力などの因子によって変化し得る。治療上有効量はまた、物質/分子の毒性又は有害効果を治療上有益な効果が上回るものである。「予防上有効量」とは、所望の予防結果を達成するのに必要な投与量及び期間で有効な量を指す。典型的には、必ずしもそうではないが、予防用量が疾患の前又は初期の対象において使用されるので、予防上有効量は治療上有効量未満となるだろう。
【0089】
本明細書で使用される「細胞傷害剤」という用語は、細胞の機能を抑制する若しくは妨げる及び/又は細胞の破壊を引き起こす物質を指す。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体)、化学療法剤(例えばメトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤)、酵素及びそれらのフラグメント、例えば核酸分解酵素、抗生物質及び毒素、例えば小分子毒素又は細菌、真菌、植物若しくは動物起源の酵素的に活性な毒素(そのフラグメント及び/又は変異体を含む)、及び以下に開示される種々の抗腫瘍又は抗がん剤を含むことを意図している。他の細胞傷害剤を以下に記載する。殺腫瘍剤は腫瘍細胞の破壊を引き起こす。
【0090】
本明細書中で使用される場合、治療用腫瘍学薬剤の例としては、限定されないが、化学療法剤及び抗体が挙げられる。本明細書で使用される「化学療法剤」は、がんの治療に有用な化学化合物である。化学療法剤の例としては、チオテパ及びCYTOXAN(R)シクロホスファミドなどのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファンなどのアルキルスルホネート;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)及びウレドーパ(uredopa)などのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド及びトリメチロールメラミンを含むエチレンイミン及びメチラメラミン(methylamelamines);アセトゲニン(特に、ブラタシン及びブラタシノン);δ−9−テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(R));β−ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成アナログトポテカン(HYCAMTIN(R))、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(R))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン及び9−アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン(callystatin);CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成類似体を含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸;テニポシド;クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW−2189及びCB1−TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコディクチイン(sarcodictyin);スポンジスタチン;クロラムブシル、クロラムファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビシン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン及びラニムスチンなどのニトロソ尿素;エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンγ1I及びカリケアマイシンωI1(例えば、Agnew(1994)Chem.Intl.Ed.Engl.33:183−186参照);ダインマイシン(dynemicin)Aを含むダインマイシン;エスペラマイシン;並びにネオカルジノスタチン発色団及び関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ADRIAMYCIN(R)ドキソルビシン(モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;メトトレキサート及び5−フルオロウラシル(5−FU)などの代謝拮抗薬;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなどの葉酸類似体;フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジンなどのピリミジン類似体;カルテストロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗副腎;フォリン酸(frolinic acid)などの葉酸補充剤;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキサート;デフォファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジコン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;マイタンシン及びアンサマイトシンなどのマイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール;ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメト(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(R)多糖類複合体(JHS Natural Products、Eugene、Oreg.);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T−2毒素、ベラクリンA、ロリジンA及びアンギジン);ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(R)、FILDESIN(R));ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara−C」);チオテパ;タキソイド、例えばTAXOL(R)パクリタキセル(Bristol−Myers Squibb Oncology、Princeton、N.J.)、ABRAXANE(商標)Cremophorフリー、パクリタキセルのアルブミン設計ナノ粒子製剤(American Pharmaceutical Partners、Schaumberg,Ill.)及びTAXOTERE(R)ドキセタキセル(Rhone−Poulenc Rorer、Antony、フランス);クロランブシル;ゲムシタビン(GEMZAR(R));6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン及びカルボプラチンなどの白金類似体;ビンブラスチン(VELBAN(R));白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン(ONCOVIN(R));オキサリプラチン;ロイコボビン;ビノレルビン(NAVELBINE(R));ノバントロン;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロネート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド;カペシタビン(XELODA(R));上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸又は誘導体;並びにCHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン及びプレドニゾロンの併用療法の略語)、FOLFOX(5−FU及びロイコボビンと組み合わせたオキサリプラチン(ELOXATIN(商標))による治療レジメンの略語)などの上記の2つ以上の組み合わせが挙げられる。
【0091】
SSEA−4を標的とする抗体
本開示の一態様は、SSEA−4関連抗原を標的とする新規な抗体を特徴とする。
【0092】
抗体の例としては、抗体断片、抗体バリアント、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体及び組換え抗体などが挙げられる。抗体は、マウス、ウサギ又はヒトにおいて産生されてもよい。
【0093】
mAb 1J1sは、ハイブリドーマ細胞株(ATCC受託番号PTA−122679)によって産生されるモノクローナル抗体である。本明細書に記載される抗体は、抗体1J1sと同じVH及びVL鎖を含有してもよい。1J1sと同じエピトープに結合する抗体も本開示の範囲内である。
【0094】
典型例並びにそれらのアミノ酸構造/配列及び核酸構造/配列を以下に提供する:
【0095】
【表1】
【0096】
mAb 1G1sは、ハイブリドーマ細胞株(ATCC受託番号PTA−122678)によって産生されるマウスモノクローナル抗体である。本明細書に記載される抗体は、抗体1G1sと同じVH及びVL鎖を含み得る。1G1と同じエピトープに結合する抗体も本開示の範囲内である。
【0097】
典型例並びにそれらのアミノ酸及び核酸構造/配列を以下に提供する:
【0098】
【表2】
【0099】
mAb 2F20sは、ハイブリドーマ細胞株(ATCC受託番号PTA−122676)によって産生されるモノクローナル抗体である。本明細書に記載される抗体は、抗体2F20sと同じVH及びVL鎖を含み得る。2F20sと同じエピトープに結合する抗体も本開示の範囲内である。
【0100】
典型並びにそれらのアミノ酸及び核酸構造/配列を以下に提供する:
【0101】
【表3】
【0102】
ヒト化抗SSEA4(OBI−898)配列を、以下に提供する:
【0103】
【表4】
【0104】
本開示の一態様は、SSEA−4に特異的な新規な抗体を特徴とする。抗SSEA−4抗体は、Neu5Acα2→3Galβ1→3GalNAcβ1→3Galα1→4Galβ1→4Glcβ1(SSEA−4六糖)に結合する。
【0105】
本明細書中に記載される抗体のいずれも、完全長抗体又はその抗原結合フラグメントであり得る。いくつかの例では、抗原結合フラグメントが、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント又は単鎖Fvフラグメントである。いくつかの例では、抗原結合フラグメントが、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント又は単鎖Fvフラグメントである。いくつかの例では、抗体がヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体又は単鎖抗体である。
【0106】
本明細書に記載される抗体のいずれも、(a)組換え抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体フラグメント、二重特異性抗体、単一特異性抗体、一価抗体、IgG1抗体、IgG2抗体又は抗体の誘導体である;(b)ヒト、マウス、ヒト化若しくはキメラ抗体、抗原結合フラグメント又は抗体の誘導体である;(c)IgG、IgM、IgA、IgE、IgDアイソタイプ及び/又はそのサブクラスの単鎖抗体フラグメント、マルチボディ、Fabフラグメント及び/又は免疫グロブリンである;(d)以下の特徴の1つ以上を有する:(i)がん細胞のADCC及び/又はCDCを媒介する;(ii)がん細胞のアポトーシスを誘導及び/又は促進する;(iii)がん細胞の標的細胞の増殖を抑制する;(iv)がん細胞の食作用を誘導及び/又は促進する;並びに/又は(v)細胞傷害剤の放出を誘導及び/又は促進する;(e)腫瘍特異的炭水化物抗原である腫瘍関連炭水化物抗原に特異的に結合する;(f)非がん細胞、非腫瘍細胞、良性がん細胞及び/又は良性腫瘍細胞上で発現される抗原に結合しない;並びに/又は(g)は、がん幹細胞及び正常がん細胞上で発現される腫瘍関連炭水化物抗原に特異的に結合する、の1つ以上の特徴を有する。
【0107】
好ましくは、抗体のそれぞれの抗原への結合が特異的である。「特異的」という用語は、一般的に、結合対の1つのメンバーが、その特異的結合対(複数可)以外の分子に有意な結合を示さない、例えば約30%未満、好ましくは20%、10%又は1%未満の本明細書で指定されるもの以外の他の分子との交差反応性を有する状況を指すために使用される。
【0108】
抗体は、高い親和性(低いKD値)で標的エピトープに適切に結合し、好ましくはKDはナノモル範囲以下である。親和性は、当技術分野で公知の方法、例えば、表面プラズモン共鳴によって測定することができる。
【0109】
本発明の抗SSEA−4抗体は、質量分析又は遺伝子操作を必要とせずに、免疫沈降、ELISA又は免疫顕微鏡などの直接的及び慣用的な生体分子アッセイにおけるエピトープの高感度でありかつ特異的な検出を可能にする。同様に、これは、これらの経路の正常な機能の観察と解明の両方、及び経路が異常に機能している場合の検出において、有意な利点を提供する。
【0110】
別の局面において、本発明の抗SSEA−4抗体は、種々の細胞型及び組織におけるがん症状の検出のための試薬としての用途を見出す。
【0111】
なお別の局面において、本発明の抗SSEA−4抗体は、本発明の対象の抗体に類似のパターンのブロッキング活性を有するSSEA−4アンタゴニストの開発のために、有用である。例えば、本発明の抗SSEA−4抗体は、同じSSEA−4結合特性及び/又はSSEA−4経路をブロッキングする能力を有する他の抗体を決定しそして同定するために、使用され得る。
【0112】
さらなる例として、本発明の抗SSEA−4抗体は、本明細書中で例示された抗体であるSSEA−4と実質的に同じ抗原決定基(単数又は複数)(直鎖状エピトープ及び構造エピトープを含む)に結合する、他の抗SSEA−4抗体を同定するために、使用されてもよい。
【0113】
本発明の抗SSEA−4抗体は、SSEA−4に対する1以上の結合パートナーの抗体がするような結合のブロッキングにおいて、類似の薬理学的効果を示すSSEA−4の低分子アンタゴニストについてスクリーニングするために、SSEA−4が関係する、生理学経路に基づくアッセイにおいて、使用され得る。
【0114】
医薬製剤
一実施形態では、本発明は、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合部分と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。別の実施形態では、医薬組成物が、本抗体又はその抗原結合部分をコードする核酸と、薬学的に許容される担体とを含む。薬学的に許容される担体には、生理学的に適合性である任意の及び全ての溶媒、分散媒、等張及び吸収遅延剤などが含まれる。一実施形態では、組成物が対象のがん細胞を抑制するのに有効である。
【0115】
本医薬組成物の投与経路には、それだけに限らないが、静脈内、筋肉内、鼻腔内、皮下、経口、局所、皮下、皮内、経皮、真皮下、非経口、直腸、脊髄又は表皮投与が含まれる。
【0116】
本発明の医薬組成物を、液体溶液若しくは懸濁液のいずれかとしての注射剤として、又は注射前に液体ビヒクル中の溶液若しくは懸濁液に適した固体形態として調製することができる。医薬組成物を、リポソームビヒクル又は持続的送達のために使用される他の粒子状担体にカプセル化された固体形態、乳化又は有効成分で調製することもできる。例えば、医薬組成物は、医薬組成物の徐放を可能にする、油エマルジョン、油中水型エマルジョン、水中油中水型エマルジョン、部位特異的エマルジョン、長滞留エマルジョン、粘着性エマルジョン、マイクロエマルジョン、ナノエマルジョン、リポソーム、マイクロ粒子、ミクロスフェア、ナノスフェア、ナノ粒子及び種々の天然又は合成ポリマー、例えば非吸収性不透過性ポリマー、例えばエチレン酢酸ビニルコポリマー及びHytrel(R)コポリマー、膨潤性ポリマー、例えばヒドロゲル、又は吸収性ポリマー、例えばコラーゲン及び一定のポリ酸又はポリエステル、例えば吸収性縫合を作製するために使用されるものの形態であり得る。
【0117】
本抗体又はその抗原結合フラグメントを、哺乳動物対象に送達するための医薬組成物に製剤化する。医薬組成物は、単独で及び/又は薬学的に許容されるビヒクル、賦形剤若しくは担体と混合して投与される。適切なビヒクルは、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセリン、エタノールなど及びそれらの組み合わせである。さらに、ビヒクルは、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、pH緩衝剤又はアジュバントなどの補助物質を含有することができる。薬学的に許容される担体は、本発明の医薬組成物の吸収速度又はクリアランス速度を、例えば、安定化する、又は増加若しくは減少させるように作用する生理学的に許容される化合物を含有することができる。生理学的に許容される化合物には、例えば、グルコース、スクロース若しくはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸若しくはグルタチオンなどの抗酸化剤、キレート剤、低分子量タンパク質、界面活性剤、リポソーム担体、又は賦形剤又は他の安定剤及び/又は緩衝剤が含まれ得る。生理学的に許容される他の化合物には、湿潤剤、乳化剤、分散剤又は保存剤が含まれる。例えば、the 21st edition of Remington’s Pharmaceutical Science,Mack Publishing Company,Easton,Pa.(「Remington’s」)を参照されたい。本発明の医薬組成物はまた、薬理学的作用物質、サイトカイン又は他の生物応答修飾物質などの補助物質を含むことができる。
【0118】
さらに、医薬組成物を、中性又は塩形態の医薬組成物に製剤化することができる。薬学的に許容される塩には、酸付加塩(活性ポリペプチドの遊離アミノ基で形成される)が含まれ、これは例えば、塩酸若しくはリン酸などの無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸で形成される。遊離カルボキシル基から形成される塩を、例えば水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は水酸化第二鉄などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することもできる。
【0119】
このような剤形を調製する実際の方法は、当業者に公知である又は明らかとなるだろう。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania,21st editionを参照されたい。
【0120】
医薬組成物を、対象の年齢、体重及び状態、使用される特定の組成物、並びに投与経路、組成物を予防的又は治癒的目的に使用するかどうかに適したスケジュール及び期間にわたって、単回投与治療又は複数回投与治療で投与することができる。例えば、一実施形態では、本発明による医薬組成物を、1ヶ月に1回、1ヶ月に2回、1ヶ月に3回、隔週(qow)、1週間に1回(qw)、1週間に2回(biw)、1週間に3回(tiw)、1週間週に4回、1週間に5回、1週間に6回、1日おきに(qod)、1日1回(qd)、1日に2回(qid)又は1日に3回(tid)投与する。
【0121】
本発明による抗体の投与期間、すなわち医薬組成物を投与する期間は、種々の因子、例えば対象の応答等のいずれかに応じて変化し得る。例えば、医薬組成物を、約1秒以上〜1時間以上、1日〜約1週間、約2週間〜約4週間、約1ヶ月間〜約2ヶ月間、約2ヶ月間〜約4ヶ月間、約4ヶ月間〜約6ヶ月間、約6ヶ月間〜約8ヶ月間、約8ヶ月間〜約1年間、約1年間〜約2年間若しくは約2年間〜約4年間、又はそれ以上に及ぶ期間にわたって投与することができる。
【0122】
投与の容易さ及び投与量の均一性のために、投薬単位形態の経口又は非経口医薬組成物を使用することができる。本明細書で使用される投与単位形態とは、治療される対象の単位投与量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要とされる薬学的担体と共に所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含有する。
【0123】
細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータを、ヒトで使用するための投与量の範囲を公式化する際に使用することができる。一実施形態では、このような化合物の投与量が、毒性がほとんど又は全くないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、使用される剤形及び利用される投与経路に応じて、この範囲内で変化し得る。別の実施形態では、治療上有効用量を最初に細胞培養アッセイから推定することができる。細胞培養で決定されるIC50(すなわち、症状の最大半数阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように、用量を動物モデルで製剤化することができる。Sonderstrup,Springer,Sem.Immunopathol.25:35−45,2003。Nikula et al.(2000)Inhal.Toxicol.4(12):123−53。
【0124】
本発明の抗体又は抗原結合部分の治療上又は予防上有効量についての代表的な非限定的な範囲は、約0.001〜約60mg/kg体重、約0.01〜約30mg/kg体重、約0.01〜約25mg/kg体重、約0.5〜約25mg/kg体重、約0.1〜約20mg/kg体重、約10〜約20mg/kg体重、約0.75〜約10mg/kg体重、約1〜約10mg/kg体重、約2〜約9mg/kg体重、約1〜約2mg/kg体重、約3〜約8mg/kg体重、約4〜約7mg/kg体重、約5〜約6mg/kg体重、約8〜約13mg/kg体重、約8.3〜約12.5mg/kg体重、約4〜約6mg/kg約4.2〜約6.3mg/kg体重、約1.6〜約2.5mg/kg体重、約2〜約3mg/kg体重又は約10mg/kg体重である。
【0125】
医薬組成物を、有効量の本抗体又はその抗原結合部分を含有するように製剤化し、その量は、治療される動物及び治療される状態に依存する。一実施形態では、本抗体又はその抗原結合部分を、約0.01mg〜約10g、約0.1mg〜約9g、約1mg〜約8g、約2mg〜約7g、約3mg〜約6g、約10mg〜約5g、約20mg〜約1g、約50mg〜約800mg、約100mg〜約500mg、約0.01μg〜約10g、約0.05μg〜約1.5mg、約10μg〜約1mgのタンパク質、約30μg〜約500μg、約40μg〜約300μg、約0.1μg〜約200μg、約0.1μg〜約5μg、約5μg〜約10μg、約10μg〜約25μg、約25μg〜約50μg、約50μg〜約100μg、約100μg〜約500μg、約500μg〜約1mg、約1mg〜約2mgに及ぶ用量で投与する。任意の特定の対象の具体的な用量レベルは、特定のペプチドの活性、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路及び排泄速度、薬物の組み合わせ及び治療を受けている特定の疾患の重症度に依存し、過度の実験をすることなく当業者によって決定され得る。
【0126】
本発明の抗体を含む治療用製剤は、所望の程度の純度を有する抗体を任意の生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定剤と混合することによって(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A. Ed.(1980))、水溶液、凍結乾燥又は他の乾燥製剤の形態で保管用に調製される。許容される担体、賦形剤又は安定剤は、使用される投与量及び濃度でレシピエントに非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;及びm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類及びグルコース、マンノース又はデキストランを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);及び/又はTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0127】
本明細書の製剤は、それだけに限らないが、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有するものを含む、治療している特定の適応症に必要な2種以上の活性化合物を含有することもできる。このような分子は、意図した目的に有効な量で組み合わせて適切に存在する。
【0128】
有効成分を、例えばコアセルベーション技術によって若しくは界面重合によって調製したマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチン−マイクロカプセル及びポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセル、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミン未クロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョンに封入することもできる。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0129】
インビボ投与に使用される製剤は無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通した濾過によって容易に達成される。
【0130】
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の適切な例としては、本発明の免疫グロブリンを含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは成形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(U.S.Pat.No.3,773,919)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸コポリマー及び酢酸リュープロリドで構成された注射可能なミクロスフェア)及びポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン−酢酸ビニル及び乳酸−グリコール酸などのポリマーは、100日超にわたる分子の放出を可能にするが、一定のヒドロゲルは、タンパク質をより短期間放出する。カプセル化免疫グロブリンが長時間体内に残っていると、それらは37℃で湿気にさらされた結果として変性又は凝集し、生物学的活性の喪失又は免疫原性の変化の可能性をもたらし得る。関与する機構に応じて、安定化のための合理的な戦略を考案することができる。例えば、凝集機構がチオ−ジスルフィド相互交換による分子間S−S結合形成であることが判明した場合、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥し、水分含量を制御し、適切な添加剤を使用し、特定のポリマーマトリックス組成物を開発することによって安定化を達成することができる。
【0131】
使用
本発明の抗体は、例えば、インビトロ、エキソビボ及びインビボの治療方法において、使用され得る。本発明の抗体は、インビトロ、エキソビボ及び/又はインビボで特異的抗原活性を部分的に又は完全に遮断するためのアンタゴニストとして使用することができる。さらに、本発明の抗体の少なくともいくつかは、他の種からの抗原活性を中和することができる。したがって、本発明の抗体を、本発明の抗体が交差反応する抗原を有するヒト対象又は他の哺乳動物対象(例えば、チンパンジー、ヒヒ、マーモセット、カニクイザル及びアカゲザル、ブタ又はマウス)において、例えば抗原を含有する細胞培養物中の特異的抗原活性を阻害するために使用することができる。一実施形態では、本発明の抗体を、抗原活性が阻害されるように抗体と抗原を接触させることによって抗原活性を阻害するために使用することができる。一実施形態では、抗原は、ヒトタンパク質分子である。
【0132】
一実施形態では、抗原活性が有害である障害に罹患している対象の抗原を阻害する方法であって、対象の抗原活性が阻害されるように本発明の抗体を対象に投与するステップを含む方法に、本発明の抗体を使用することができる。一実施形態では、抗原がヒトタンパク質分子であり、対象がヒト対象である。又は、対象が本発明の抗体が結合する抗原を発現する哺乳動物であってもよい。さらに、対象が、抗原が導入された哺乳動物(例えば、抗原の投与又は抗原導入遺伝子の発現により)であってもよい。本発明の抗体を、治療目的のためにヒト対象に投与することができる。さらに、本発明の抗体を、獣医学的目的のために又はヒト疾患の動物モデルとして、抗体が交差反応する抗原を発現する非ヒト哺乳動物(例えば、霊長類、ブタ又はマウス)に投与することができる。後者に関して、このような動物モデルは、本発明の抗体の治療有効性を評価するために有用であり得る(例えば、投与量及び投与の時間経過の試験)。本発明の抗体を使用して、それだけに限らないが、がん、筋肉障害、ユビキチン経路関連遺伝性障害、免疫/炎症性障害、神経学的障害及び他のユビキチン経路関連障害を含む、SSEA−4及びSSEA−4化タンパク質の異常な発現及び/又は活性に関連する疾患、障害又は状態を治療、抑制、進行を遅延、再発を予防/遅延、回復又は予防することができる。
【0133】
本発明の抗体を、単独で又は他の組成物と組み合わせて、治療に使用することができる。例えば、本発明の抗体を、別の抗体及び/又はアジュバント/治療剤(例えば、ステロイド)と同時投与することができる。例えば、本発明の抗体を、治療スキームにおいて、例えばがん、筋肉障害、ユビキチン経路関連遺伝性障害、免疫/炎症性障害、神経学的障害及び他のユビキチン経路関連障害を含む、本明細書に記載される疾患のいずれかの治療において、抗炎症剤及び/又は消毒剤と組み合わせることができる。上記の併用療法には、組み合わせ投与(2種以上の薬剤が同じ又は別個の製剤に含まれる)及び別個の投与(この場合、本発明の抗体の投与が、補助療法の投与前及び/又は後に行われ得る)が含まれる。
【0134】
本発明の抗体(及び補助治療剤)は、非経口、皮下、腹腔内、肺内及び鼻腔内、並びに局所治療のために所望される場合、病変内投与を含む任意の適切な手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内又は皮下投与が含まれる。さらに、抗体は、パルス注入によって、特に抗体の用量を減少させて、適切に投与される。投与は、部分的には、投与が短時間であるか慢性であるかに応じて、任意の適切な経路によって、例えば注射(例えば、静脈内又は皮下注射)によって行うことができる。
【0135】
本発明の抗体の結合標的の位置を、抗体の調製及び投与において考慮することができる。結合標的が細胞内分子である場合、本発明の特定の実施形態は、結合標的が位置する細胞内に導入される抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。一実施形態では、本発明の抗体を、細胞内抗体として細胞内で発現させることができる。本明細書で使用される「細胞内抗体」という用語は、Marasco,Gene Therapy 4:11−15(1997);Kontermann,Methods 34:163−170(2004);U.S.Pat.Nos.6,004,940及び6,329,173;米国特許出願公開第2003/0104402号明細書及びPCT公開番号WO2003/077945に記載されるように、細胞内で発現され、標的分子に選択的に結合することができる抗体又はその抗原結合部分を指す。細胞内抗体の細胞内発現は、所望の抗体又はその抗原結合部分(抗体又は抗原結合フラグメントをコードする遺伝子に通常付随する野生型リーダー配列及び分泌シグナルを欠く)をコードする核酸を標的細胞に導入することによって行われる。それだけに限らないが、微量注入、衝撃注入(ballistic injection)、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、リポソーム並びに目的の核酸を運ぶレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス及びワクシニアベクターによるトランスフェクションを含む、核酸を細胞に導入する標準的な方法を使用することができる。本発明の抗SSEA−4抗体の全部又は一部をコードする1つ以上の核酸を、SSEA−4への細胞内結合及び1つ以上のSSEA−4媒介細胞経路の調節が可能である1つ以上の細胞内抗体が発現されるように、標的細胞に送達することができる。
【0136】
本発明の抗体組成物は、良好な医療行為に合致した様式で製剤化、投薬及び投与される。これに関連して考慮すべき因子には、治療している特定の障害、治療している特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール及び医師に知られている他の因子が含まれる。抗体は、必ずしもそうである必要はないが、任意で、当の障害を予防又は治療するために現在使用されている1種以上の薬剤と共に製剤化される。このような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する本発明の抗体の量、障害又は治療の種類及び上で論じられる他の因子に依存する。これらは一般的に、本明細書に記載されるのと同じ投与量及び投与経路で、又は本明細書に記載される投与量の約1〜99%で、又は経験的/臨床的に適切であると決定される任意の投与量及び任意の経路で使用される。
【0137】
疾患の予防又は治療のために、本発明の抗体の適切な投与量(単独で又は化学療法剤などの他の薬剤と組み合わせて使用する場合)は、治療される疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体が予防又は治療目的で投与されるかどうか、以前の治療、患者の臨床歴及び抗体に対する応答、並びに主治医の裁量に依存する。抗体は、一度に又は一連の治療にわたって患者に適切に投与する。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば、1回以上の別個の投与によっても又は連続注入によっても、約1μg/kg〜15mg/kg(例えば、0.1mg/kg〜10mg/kg)の抗体が、患者に投与するための最初の候補投与量となり得る。1つの典型的な1日投与量は、疾患の予防又は治療のため約1μg、本発明の抗体の適切な投与量(条件に応じて数日又はそれ以上で)に及び、治療は一般的に疾患症状の所望の抑制が起こるまで持続されるだろう。抗体の1つの代表的な投与量は、約0.05mg/kg〜約10mg/kgの範囲であろう。よって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg又は10mg/kg(又はそれらの任意の組み合わせ)の1つ以上の用量を患者に投与することができる。このような用量を断続的に、例えば毎週又は3週間毎に投与することができる(例えば、患者が抗体の約2〜約20回、又は例えば約6回の投与を受けるように)。最初のより高い負荷用量に続いて、1回以上のより低い用量を投与することができる。代表的な投与レジメンは、約4mg/kgの初期負荷用量、引き続いて約2mg/kgの抗体の毎週の維持用量を投与することを含む。しかしながら、他の投与レジメンが有用であり得る。この療法の進行は、慣用的な技術及びアッセイによって容易に監視される。
【0138】
治療的適用
本明細書に記載される1つ以上の抗体を含む治療上有効量の組成物を、このような治療を必要とする対象に投与するステップを含む治療方法が本明細書に記載される。
【0139】
特定の実施形態では、治療を必要とする対象(例えば、ヒト患者)が、がんと診断されるか、がんを有する疑いがあるか又はがんのリスクがある。がんの例としては、それだけに限らないが、肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、口腔がん、食道がん、胃がん、肝がん、胆管がん、膵臓がん、結腸がん、腎臓がん、子宮頸がん、卵巣がん及び前立腺がんが挙げられる。特定の実施形態では、癌が肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がん又は膵臓がんである。いくつかの好ましい実施形態では、がんが脳がん又は多形性膠芽腫(GBM)がんである。いくつかの局面において、対象は、SSEA−4抗原を発現する腫瘍を有する。
【0140】
いくつかの実施形態において、本抗体は、がん又は腫瘍細胞上のSSEA−4に対する結合によって、SSEA−4発現がん細胞を標的することが可能である。特定の実施形態において、本抗体は、がん/腫瘍細胞上のSSEA−4の、免疫マスキングチェックポイント阻害剤(これは、いくつかの実施形態において、細胞傷害性又は細胞分裂阻害性の免疫細胞上で発現されたシグレック−9であってもよい)に対する結合を断絶又は阻害することができる。特定の実施形態において、がん/腫瘍細胞上のSSEA−4の、細胞傷害性免疫細胞上の免疫マスキングチェックポイント阻害剤に対する結合を断絶又は阻害することは、がん/腫瘍細胞を殺傷するか及び/又はがん/腫瘍細胞の増殖又は分裂を阻害する先天細胞傷害性応答を、活性化する。いくつかの実施形態において、免疫マスキングチェックポイント阻害剤は、シグレック7を除外する。
【0141】
治療は、腫瘍サイズの減少、悪性細胞の排除、転移の予防、再発の予防、播種性がんの減少若しくは死滅、生存の延長及び/又は腫瘍がん進行までの時間の延長をもたらす。
【0142】
特定の実施形態では、治療が、抗体の投与の前、間又は後に、前記対象に追加の療法を投与するステップをさらに含む。特定の実施形態では、追加の療法が化学療法剤による治療である。特定の実施形態では、追加の療法が放射線療法である。
【0143】
本発明の方法は、早期段階の腫瘍を治療及び予防し、それによってより進行した期への進行を予防して、進行がんに関連する罹患率及び死亡率の減少をもたらすことにおいて、特に有利である。本発明の方法はまた、腫瘍の再発若しくは腫瘍の再成長、例えば原発腫瘍の除去後に持続する潜伏腫瘍の予防、又は腫瘍の発生の減少若しくは予防においても有利である。
【0144】
特定の実施形態では、本明細書に開示される方法が、がんの治療又は予防に、例えばグロボH、SSEA−3及び/又はSSEA−4発現の増加を特徴とする場合に有用である。特定の実施形態では、がんが、がん幹細胞を含む。特定の実施形態では、がんが、前がん及び/又は悪性がん及び/又は治療耐性がんである。特定の実施形態では、がんが脳がんである。
【0145】
本発明の方法については、がんが、液性腫瘍、例えば白血病及びリンパ腫、固形腫瘍、例えば乳がん、結腸直腸がん、直腸がん、肺がん、腎細胞がん、神経膠腫(例えば、退形成性星細胞腫、退形成性乏突起星細胞腫、退形成性乏突起膠腫、多形性膠芽腫(GBM))、腎臓がん、前立腺がん、肝がん、膵臓がん、軟部組織肉腫、カルチノイド癌、頭頸部がん、黒色腫及び卵巣がんであり得る。一実施形態では、がんが脳がん又はGBMである。本明細書に開示される方法を実施するために、本明細書に記載される少なくとも1つの抗体を含有する有効量の上記の医薬組成物/製剤を、例えばボーラスとしての静脈内投与又は一定期間にわたる連続注入、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、関節滑液嚢内、髄腔内、経口、吸入又は局所経路などの適切な経路を介して、治療を必要とする対象(例えば、ヒト)に投与することができる。ジェットネブライザー及び超音波ネブライザーを含む液体製剤用の商業的に入手可能なネブライザーが投与に有用である。液体製剤は直接噴霧することができ、凍結乾燥粉末は再構成後に噴霧することができる。又は、抗体を、フルオロカーボン製剤及び定量吸入器を使用してエアゾール化する、又は凍結乾燥及び粉砕粉末として吸入することができる。
【0146】
本明細書に記載される方法によって治療される対象は、哺乳動物、より好ましくはヒトであり得る。哺乳動物には、それだけに限らないが、家畜、スポーツ動物、ペット、霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、マウス及びラットが含まれる。治療を必要とするヒト対象は、それだけに限らないが、乳がん、肺がん、食道がん、直腸がん、胆道がん、肝がん、頬側がん、胃がん、結腸がん、上咽頭がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、膵臓がん、精巣がん、膀胱がん、頭頸部がん、口腔がん、神経内分泌がん、副腎がん、甲状腺がん、骨がん、皮膚がん、基底細胞癌、扁平上皮癌、黒色腫又は脳腫瘍を含むがんを有するか、がんのリスクがあるか又はがんを有する疑いがある、ヒト患者であり得る。がんを有する対象は、慣用的な健康診断によって同定することができる。
【0147】
本明細書で使用される「有効量」とは、単独で又は1種以上の他の活性剤と組み合わせて、対象に治療効果を与えるのに必要な各活性剤の量を指す。有効量は、当業者によって認識されるように、治療される特定の状態、状態の重症度、年齢、健康状態、サイズ、性別及び体重を含む個々の患者パラメータ、治療の持続期間、ある場合には併用療法の性質、具体的な投与経路並びに医療従事者の知識及び専門技術内の同様の因子である特定の条件に応じて変化する。これらの因子は、当業者に周知であり、慣用的な実験のみで対処することができる。個々の成分又はそれらの組み合わせの最大用量、すなわち、信頼できる医学的判断による最高の安全な用量を使用することが一般的に好ましい。しかしながら、医学的理由、心理的理由又は事実上他の理由により、患者がより低い用量又は許容される用量を主張することができることが、当業者によって理解されるであろう。
【0148】
半減期などの経験的考察が、一般的に用量の決定に寄与する。例えば、ヒト免疫系と適合性である抗体、例えばヒト化抗体又は完全ヒト抗体を使用して、抗体の半減期を延長し、抗体が宿主の免疫系によって攻撃されるのを防ぐことができる。投与の頻度は、治療経過にわたって決定及び調節され得、一般的には、必ずしもそうではないが、がんの治療及び/又は抑制及び/又は改善及び/又は遅延に基づく。又は、本明細書に記載される抗体の持続連続放出製剤が適切となり得る。徐放を達成するための種々の製剤及び装置が当技術分野で公知である。
【0149】
一例では、本明細書に記載される抗体についての投与量を、抗体の1回以上の投与を与えられた個体において経験的に決定することができる。個体に漸増投与量の抗体を与える。抗体の有効性を評価するために、疾患(例えば、がん)の指標を慣用的診療により追跡することができる。
【0150】
一般的に、本明細書に記載される抗体のいずれかの投与について、初期候補投与量は約2mg/kgであり得る。本開示の目的のために、典型的な1日投与量は、上記の因子に応じて、約0.1μg/kg〜3μg/kg〜30μg/kg〜300μg/kg〜3mg/kg、〜30mg/kg〜100mg/kg以上となり得るだろう。数日以上にわたる反復投与については、状態に応じて、所望の症状抑制が起こるまで、又は十分な治療レベルが達成されてがん若しくはその症状を緩和するまで、治療を維持する。代表的な投与レジメンは、約2mg/kgの初期用量、引き続いて約1mg/kgの抗体の毎週の維持用量、又は引き続いて隔週での約1mg/kgの維持用量を投与することを含む。しかしながら、医師が達成したい薬物動態崩壊のパターンに応じて、他の投与レジメンが有用となり得る。例えば、1週間に1〜4回投与することが考えられる。特定の実施形態では、約3μg/mg〜約2mg/kgに及ぶ投与(例えば、約3μg/mg、約10μg/mg、約30μg/mg、約100μg/mg、約300μg/mg、約1mg/kg及び約2mg/kg)を使用することができる。特定の実施形態では、投与頻度が、毎週1回、2週間毎、4週間毎、5週間毎、6週間毎、7週間毎、8週間毎、9週間毎又は10週間毎;又は毎月1回、2ヶ月毎又は3ヶ月毎又はそれ以上である。この療法の進行は、慣用的な技術及びアッセイによって容易に監視される。使用される抗体を含む投与レジメンは、時間とともに変化し得る。
【0151】
本開示の目的のために、本明細書に記載される抗体の適切な投与量は、使用される特異的抗体(又はその組成物)、がんの種類及び重症度、抗体が予防又は治療目的で投与されるかどうか、以前の治療、患者の臨床歴及び抗体に対する応答、及び主治医の裁量に依存する。本明細書に記載される抗体の投与は、予め選択された期間にわたり本質的に連続的であってもよく、又は例えば、がんを発達する前、間若しくは後の一連の間隔を空けた投与であってもよい。
【0152】
本明細書で使用される場合、「治療すること」という用語は、がん、がんの症状又はがんの素因を治癒させる、癒す、緩和する、軽減する、変化させる、矯正する、回復する、改善する又は影響を及ぼす目的で、がん、がんの症状又はがんの素因を有する対象に1種以上の活性剤を含む組成物を施用又は投与することを指す。
【0153】
癌を緩和することは、がんの発達若しくは進行を遅延すること又はがんの重症度を減少させることを含む。癌を緩和することは必ずしも治癒結果を必要としない。そこに使用される場合、がんの発達を「遅延させること」とは、がんの進行を延期する、妨げる、遅くする、遅延させる、安定化する及び/又は延期することを意味する。この遅延は、がんの病歴及び/又は治療される個体に応じて、様々な長さの時間であり得る。がんの発達を「遅延させる」若しくは緩和する、又はがんの発達を遅延させる方法は、この方法を使用しない場合と比較して、所与の時間枠内でがんの1つ以上の症状を生じる可能性(リスク)を低下させる、及び/又は所与の時間枠内で症状の程度を減少させる方法である。このような比較は、典型的には、統計的に有意な結果をもたらすのに十分な数の対象を使用した臨床研究に基づく。
【0154】
がんの「発達」又は「進行」は、がんの初期徴候及び/又は続く進行を意味する。がんの発達は、当技術分野で周知の標準的な臨床技術を使用して検出可能であり、評価することができる。しかしながら、発達はまた、検出できない進行も指す。本開示の目的のために、発生又は進行は、症状の生物学的経過を指す。「発達」には、発生、再発及び発症が含まれる。本明細書で使用される場合、がんの「発症」又は「発生」には、初期発症及び/又は再発が含まれる。
【0155】
医学分野の当業者に公知の慣用的な方法を使用して、治療する疾患の種類又は疾患の部位に応じて、医薬組成物を対象に投与することができる。この組成物を、他の慣用的な経路を介して投与すること、例えば経口、非経口、吸入スプレーにより、局所、直腸、経鼻、頬側、経膣又は移植リザーバーを介して投与することもできる。本明細書で使用される「非経口」という用語は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、関節滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病変内及び頭蓋内注射又は注入技術を含む。さらに、それは、1ヶ月、3ヶ月又は6ヶ月のデポー注射可能又は生分解性材料及び方法を使用するなどの注射可能なデポー投与経路を介して対象に投与することができる。
【0156】
注射用組成物は、植物油、ジメチルラクトアミド、ジメチルホルムアミド、乳酸エチル、炭酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール及びポリオール(グリセリン、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)などの種々の担体を含有し得る。静脈内注射については、水溶性抗体をドリップ法によって投与することができ、それによると抗体及び生理学的に許容される賦形剤を含有する医薬製剤が注入される。生理学的に許容される賦形剤には、例えば、5%デキストロース、0.9%生理食塩水、リンガー溶液又は他の適切な賦形剤が含まれ得る。筋肉内製剤、例えば、抗体の適切な可溶性塩形態の滅菌製剤を、注射用水、0.9%生理食塩水又は5%グルコース溶液などの医薬賦形剤に溶解し、投与することができる。
【実施例】
【0157】
実施例1.シグレック−9及びSSEA−4セラミドのELISA結合アッセイ
エタノール中に溶解したSSEA−4セラミド(0.2μg)を、氷上で96ウェルプレートの各ウェルにコーティングし、そしてコーティングしたプレートを、室温で一晩インキュベートした。プレートを、1ウェルあたり100μLのブロッキング緩衝液でブロッキングし、そして室温(25℃)で1時間インキュベートした。ブロッキング工程の後、ブロッキング緩衝液をアスピレーションによって除去し、そして各ウェルを200μLの洗浄緩衝液(0.05% Tween20含有1×TBS)で3回洗浄した。50μLのシグレック−9の、サンプル希釈剤(1%BSA中0.05% tween20含有1×TBS)による30μg/mLからの2倍希釈系列を、インキュベートしたプレートのウェルに移し、次いで、このプレートを室温で2時間にわたりインキュベートした。インキュベーション後、未結合のシグレック−9をアスピレーションによって除去し、そしてウェルを、200μLの洗浄緩衝液で3回洗浄した。サンプル希釈剤によって1:200に希釈した50μLの二次抗体(抗ヒトIgG Fc−AP)を、プレートの各ウェルに添加し、そして室温で1時間にわたりインキュベートした。二次抗体を、インキュベーション完了後にアスピレーションした;全てのウェルを、200μLの洗浄緩衝液で4回洗浄した。100μLの基質溶液を、各ウェルに添加し、20分間37℃にて発色させた。反応を、50μLの停止溶液の添加によって停止させた。プレートを、軽く混合し、そして405nmにてELISAプレートリーダーによって読み取った。図1は、ヒトシグレック−9が、ELISA結合アッセイにおいてSSEA−4セラミドに結合し得ることを示した。
【0158】
実施例2.外因性SSEA−4セラミドによる、腫瘍細胞上のシグレック−9結合の増大
ヒトA549肺がん細胞を、20μM SSEA−4セラミド(SSEA4Cer)と共に、18〜24時間にわたって、24ウェル培養プレート中でプレインキュベートした。細胞を回収し、そして遠心分離して、次にシグレック−9で4℃にて30分間にわたり染色した。サンプルを洗浄し、そして遠心分離して、次に、FITCで標識した抗ヒトIgGで4℃にて30分間にわたり染色した。次いで、細胞を洗浄し、そして回収した。A549上のシグレック−9の結合を、FACS CANTO IIによって分析した。図2は、外因性のSSEA4Cerは、A549肺がん細胞に対するシグレック−9結合をわずかに増大することを示した。
【0159】
実施例3.抗SSEA−4Fabに添加による腫瘍細胞上のシグレック−9結合の低減
ヒトMDA−MB−231乳がん細胞を、OBI−898 Fab(抗SSEA−4抗体)と共に、染色緩衝液中で4℃にて30分間にわたり染色した。サンプルを洗浄し、そして遠心分離して、次に、シグレック−9で4℃で30分間にわたり染色した。サンプルを洗浄し、そして遠心分離して、次に、FITCで標識した抗ヒトIgGで4℃で30分間にわたり染色した。次いで、細胞を洗浄し、そして回収した。MDA−MB−231上のシグレック−9の結合を、FACS CANTO IIによって分析した。図3は、OBI−898 Fabが、MDA−MB−231乳がん細胞に対するシグレック−9結合を低減し得たことを示した。
【0160】
実施例4.抗SSEA−4 Fabによる乳がん細胞上のSSEA−4の結合は、ヒトPBMCの細胞内の細胞傷害性を拡大した。
標的ヒト乳がん細胞株であるMDA−MB−231を、DELFIA(Cat# PK−AD0116)で、PerkinElmerによって提供された技術マニュアルにしたがって標識した。標識後、5×10細胞を、20μg/mLのOBI−898 Fabと共に又はそれなしで、37℃にて1時間にわたりインキュベートした。次いで、5×10ヒトPBMCを加え、そして37℃にて2時間にわたり共にインキュベートした。アッセイプレートを遠心分離し、次いで、20μLの上清を、平底96ウェルプレートに移した。200μLのEu溶液を加え、そして15分間にわたり室温で振とう機上にてインキュベートした。蛍光を、時間分解フルオロメーターで測定した。特異的な放出百分率を、以下の式によって計算した:[(実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)]×100。図4は、腫瘍上のSSEA−4の、抗SSEA−4 Fabによるブロッキングが、免疫細胞が乳がんを殺傷する細胞内の細胞傷害性を効率的に救うことを示した。
【0161】
実施例5.抗SSEA−4 Fabによる卵巣がん細胞株上のSSEA−4の結合は、ヒトPBMCの細胞内の細胞傷害性を拡大した。
標的ヒト卵巣がん細胞株であるSKOV−3を、DELFIA(Cat# PK−AD0116)で、PerkinElmerによって提供された技術マニュアルにしたがって標識した。標識後、5×10細胞を、20μg/mLの抗SSEA−4(OBI−898)Fabと共に又はそれなしで、37℃にて1時間にわたりインキュベートした。次いで、5×10ヒトPBMCを加え、そして37℃にて4時間にわたり共にインキュベートした。アッセイプレートを遠心分離し、次いで、20μLの上清を、平底96ウェルプレートに移した。200μLのEu溶液を加え、そして15分間にわたり室温で振とう機上にてインキュベートした。蛍光を、時間分解フルオロメーターで測定した。特異的な放出百分率を、以下の式によって計算した:[(実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)]×100。図5は、腫瘍上のSSEA−4の、抗SSEA−4 Fabによるブロッキングが、免疫細胞が卵巣がんを殺傷する細胞内の細胞傷害性を効率的に救うことを示した。
【0162】
実施例6.抗SSEA−4 Fabによる卵巣がん細胞株上のSSEA−4の結合は、Tecentriqの細胞内の細胞傷害性を拡大した。
標的ヒト卵巣がん細胞株であるSKOV−3を、DELFIA(Cat# PK−AD0116)で、PerkinElmerによって提供された技術マニュアルにしたがって標識した。標識後、5×10細胞を、20μg/mLの抗SSEA−4 OBI−898 Fabと共に又はそれなしで、37℃にて1時間にわたりインキュベートした。次いで、5×10ヒトPBMCを、20μg/mLのTecentriqと合わせて加え、そして37℃にて4時間にわたり共にインキュベートした。アッセイプレートを遠心分離し、次いで、20μLの上清を、平底96ウェルプレートに移した。200μLのEu溶液を加え、そして15分間にわたり室温で振とう機上にてインキュベートした。蛍光を、時間分解フルオロメーターで測定した。特異的な放出百分率を、以下の式によって計算した:[(実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)]×100。図6は、腫瘍上のSSEA−4の、抗SSEA−4 Fabによるブロッキングが、Tecentriqががんを殺傷する細胞傷害性を拡大することを示した。
【0163】
図7は、OBI−898(抗SSEA−4抗体)が、シグレック−9の腫瘍に対する係合をブロッキングし得、そして免疫細胞の細胞傷害性を解放し得ることを示した。
【0164】
他に規定されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語ならびに任意の頭字語は、本発明の分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書中で記載されるものと類似の又は均等の任意の組成物、方法、キット、及び情報伝達のための手段が、本発明の実施のために使用されてもよいが、好ましい組成物、方法、キット、及び情報伝達のための手段が、本明細書中に記載される。
【0165】
本明細書中で挙げられる全ての参考文献は、法律で認められる全範囲で、本明細書中に参考として組み込まれる。これらの参考文献の議論は、単に、それらの著者によってなされた主張をまとめることを意図するにすぎない。いかなる参考文献(又はいかなる参考文献の部分)をも、先行技術として妥当であると認めることはない。出願人は、任意の挙げられた引用文献の正確性及び適切性に抗議する権利を留保する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
【配列表】
2022502453000001.app
【手続補正書】
【提出日】2021年8月2日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SSEA−4抗原を発現するがん細胞を有する対象を治療する方法において使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が抗SSEA−4抗体又はその断片を含み、前記方法が有効量の前記医薬組成物を対象に投与することを含む、医薬組成物
【請求項2】
抗SSEA−4抗体のがん細胞に対する結合は、SSEA−4とシグレック−9との間の結合相互作用を低下させる、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
SSEA−4とシグレック−9との間の結合相互作用の低下は、シグレック−9のがん細胞に対する結合の低下をもたらす、請求項2に記載の医薬組成物
【請求項4】
シグレック−9のがん細胞に対する結合の低下は、シグレック−9/SSEA−4係合によって維持される免疫抑制(免疫−マスキング)の解放を誘導する、請求項3に記載の医薬組成物
【請求項5】
抗SSEA−4抗体の投与は、細胞傷害性免疫細胞の活性を増大する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記細胞傷害性免疫細胞は、単球、好中球、NK細胞、B細胞又はCD8+T細胞である、請求項5に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記抗SSEA−4抗体は、OBI−898である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記がんは、肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、口腔がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がん、結腸がん、腎臓がん、子宮頸がん、卵巣がん前立腺がん又は多形神経膠芽腫(GBM)がんである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項9】
がん細胞上のSSEA−4抗原に結合したシグレック−9発現細胞傷害性免疫細胞の結合を阻害することによって先天細胞傷害性免疫応答を活性化する方法において使用するための組成物であって、前記組成物がSSEA−4のアンタゴニストを含み、前記方法が細胞傷害性免疫細胞−がん細胞複合体を、前記組成物に接触させ;そして、シグレック−9のSSEA−4に対する結合を破壊するか又は阻害することを含む、組成物
【請求項10】
前記アンタゴニストは、SSEA−4抗体である、請求項9に記載の組成物
【請求項11】
前記抗SSEA−4抗体は、OBI−898である、請求項10に記載の組成物
【請求項12】
前記細胞傷害性免疫細胞は、単球、好中球、NK細胞、B細胞又はCD8+T細胞である、請求項9〜11のいずれか一項に記載の組成物
【請求項13】
前記がんは、肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、口腔がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がん、結腸がん、腎臓がん、子宮頸がん、卵巣がん前立腺がん又は多形神経膠芽腫(GBM)がんである、請求項9〜12のいずれか一項に記載の組成物
【請求項14】
SSEA−4抗原を発現するがん細胞を有する対象を治療する方法において使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が抗SSEA−4抗体またはその断片を含み、前記方法が、有効量の前記医薬組成物を対象に投与することによって、シグレック−9のがん細胞に対する結合が阻害されることを含む、医薬組成物
【請求項15】
シグレック−9のがん細胞に対する結合を低下させる方法において使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が抗SSEA−4抗体またはその断片を含み、前記方法が、有効量の前記医薬組成物を対象に投与することを含む、医薬組成物。
【請求項16】
SSEA−4抗原を発現するがん細胞を有する対象を治療する方法において使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が抗SSEA−4抗体またはその断片を含み、前記方法が、有効量の前記医薬組成物を対象に投与することによって、細胞傷害性免疫細胞の活性を活性化させることを含む、医薬組成物
【請求項17】
がんを有する対象における細胞傷害性免疫細胞の活性を増大する方法において使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が抗SSEA−4抗体またはその断片を含み、前記方法が、有効量の前記医薬組成物を対象に投与することを含む、医薬組成物。
【請求項18】
前記抗SSEA−4抗体は、OBI−898である、請求項14〜17のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項19】
前記細胞傷害性細胞は、単球、好中球、NK細胞、B細胞又はCD8+T細胞である、請求項16又は17に記載の医薬組成物
【請求項20】
前記がんは、肉腫、皮膚がん、白血病、リンパ腫、脳がん、肺がん、乳がん、口腔がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がん、結腸がん、腎臓がん、子宮頸がん、卵巣がん前立腺がん又は多形神経膠芽腫(GBM)がんである、請求項14〜17のいずれか一項に記載の医薬組成物
【国際調査報告】