【課題】薄型・軽量・フレキシブル化が可能であって、有機発光素子の継時的に生じる熱の分布を均一に拡散させ外部に放出することで、ディスプレイ表面の残像や焼き付きを防止し、長寿命で良好な素子特性を示すことができる熱伝導性有機発光素子基板を提供する。
【解決手段】有機発光素子を備えた有機発光装置に用いられる熱伝導性有機発光素子基板であって、樹脂とフィラーを含んでなることを特徴とする熱伝導性有機発光素子基板である。
少なくとも平面方向の熱伝導率λxyが0.7W/mK以上であると共に、厚み方向の熱伝導率λzが0.3W/mK以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性有機発光素子基板。
熱伝導性有機発光素子基板が少なくとも2層以上のポリイミド樹脂からなる多層構造であり、少なくとも1層が熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性フィラー層であると共に、有機発光素子を備える側の層が、表面が平滑な平滑層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性有機発光素子基板。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、フラットパネルディスプレイ、液晶表示機用バックライトや照明用光源等に用いられている。この有機発光素子は、一対の電極間に有機発光層、および必要に応じてその他の機能を有する層を積層した構造を有し、これを基板の上に設けて形成されているものであり、一対の電極のうち少なくとも一方の電極を光透過性とすることで、当該電極を通して有機発光層で発生した光を素子外に取り出すことが可能である。そして、基板が光透過性である場合には、基板上の電極を光透過性のものとすることで基板を通して光を取り出し、基板が不透明である場合には、基板上の電極と対向する電極を光透過性のものとして基板と反対側に光を取り出す構造が一般に用いられている。
【0003】
有機発光素子は電圧が電極間に印加されて表示パターンに対応した電流が発光素子に流れることで発光するが、現状では発光の際に一部が熱エネルギーに変換され、有機発光素子がジュール熱などにより発熱してしまうことがある。有機発光素子の発熱は、輝度などの発光特性の低下や、有機発光素子自体の劣化を招く場合があるとされている。また、有機発光素子の温度が高くなるほど、有機発光素子の特性劣化を引き起こしやすい傾向がある。
【0004】
素子の過度な発熱が引き起こす問題として、例えば残像や焼き付き現象が挙げられる。前記の通り、表示パターンに対応した電流が発光素子に流れるため、表示パターンによって電流が多く流れる部分とほとんど流れない部分が生じ、表示パターンにより発熱量が異なることになる。このため、固定パターンを長時間にわたり表示し続けると、局部的に有機発光素子の発熱量が異なり、ディスプレイ表示画面に残像や焼き付きが発生する。残像は徐々に固定パターンが消えていくが、焼き付きは永久に固定パターンが消えない。このため、固定パターンの残像や焼き付きは、画質の低下を招く結果となる。そのため、局部的な発熱量の違いを防止するために、熱を迅速に拡散し、有機発光素子全体の発熱を均一に拡散し放熱効率を上げる必要があり、有機発光素子が発する熱を素子外に効率よく放熱する方策が種々検討されている。
【0005】
素子の過度な発熱が引き起こすもう一つの問題として、例えば輝度のバラツキが挙げられる。例えば、画面全体を長時間に渡り白表示した場合、有機発光素子構造や有機発光素子を格納する筐体構造等の違いにより放熱されやすい部分とされにくい部分が生じる。その結果、局所的な温度差で発光特性に差が生じる結果を招き、表示画面の輝度にバラツキが生じることがある。表示画面の輝度を均一にするためには、局部的に発生した熱を均一に拡散させ、外部へ放出することが必要である。
【0006】
これら素子の過度な発熱が引き起こす問題を解決するために様々な手法がとられてきた。
【0007】
例えば、放熱性を改善する手法として、ガラスや金属、セラミックス材料を用いた高熱伝導性基板や、ファン又は水冷による放熱、凹凸による表面積の増大、被膜またはシートなどによる層を設けることにより、基板から外界への熱放射を大幅に向上させ、有機発光素子の温度上昇を抑制する手法がある。
【0008】
一般にガラスの熱伝導率は、1W/m・Kと低いために、発生した熱はガラスの内側から外側まで伝導しにくい。また、ガラスは熱が均一に拡散しにくいため、ガラス基板内で熱分布の偏りを生じ、有機発光素子やこれを実装する装置において、輝度バラツキ、寿命の経時変化などの特性に差が生じてしまう場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
例えば、特許文献2に記載されるように、支持体に金属基板を使った検討も行われているが、その実施例では、厚さ2mmのCu基板を使用しており、フレキシブル化や薄型化が困難となる。また、この特許文献2では凹凸による表面積の増大を利用した放熱の検討も行われているが、放熱性は構造が複雑化し、生産効率が低下してしまう。
【0010】
また、これまでに、セラミックス基板を有機発光素子基板として用いた検討も行われたが、フレキシブルなデバイスには対応できないという欠点がある(例えば、特許文献3参照)。一方で、フィラーを添加することも考えられるが(例えば、特許文献4参照)、これまでに有機発光素子基板としての検討は行われていない。すなわち、寸法安定性や製造中の剥離に関与する熱膨張係数について、特許文献4では十分な検討がなされておらず、また、面方向と縦方向の熱伝導度の異方性ついても記載されていない。
【0011】
一般にフラットパネルの支持基材はガラス基板が用いられている。前記の通り、有機発光装置は、専らガラス基板上に薄膜トランジスタ(以下、TFT)を形成し、電極、発光層、電極を順次形成し、最後に別途ガラス基板や多層薄膜等で気密封止して作られる。有機発光装置の構造には、支持基材であるガラス基板側から光を取り出すボトムエミッション構造と、支持基材であるガラス基板と逆側から光を取り出すトップエミッション構造とが有り、用途により使い分けられている。
【0012】
ここで、フラットパネルの支持基材について、従来のガラス基板から樹脂へと置き換えることにより、薄型・軽量・フレキシブル化が可能になり、有機発光装置の用途を更に広げることができる。しかしながら、樹脂は一般にガラスと比較して寸法安定性、透明性、耐熱性、耐湿性、ガスバリア性等に劣るため、種々の検討がなされている。
【0013】
例えば、特許文献5は、フレキシブルディスプレー用プラスチック基板として有用なポリイミド、及びその前駆体に係る発明に関し、シクロヘキシルフェニルテトラカルボン酸等のような脂環式構造を含んだテトラカルボン酸類を用いて、各種ジアミンと反応させたポリイミドが透明性に優れることを報告している。しかしながら、ここで得られるポリイミドの熱伝導性については何ら検討されておらず、放熱に対する方策が示されていない。加えて、得られたポリイミドの熱膨張係数(CTE)は、いずれも50〜60ppm/K程度で、ガスバリア性を付与するためにガスバリア層を設けた場合に、ガスバリア層との界面で剥離やクラックが発生するなど、形状安定性に優れた有機発光装置を得るのが難しい場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の熱伝導性有機発光素子基板について詳細に説明する。
【0026】
本発明の熱伝導性有機発光素子基板は、樹脂とフィラーとを含んでなる熱伝導性有機発光素子基板である。
【0027】
本発明では、樹脂とフィラーを含んで熱伝導性有機発光素子基板を形成することで、有機発光素子が発する熱を素子外に効率よく放熱することができる。その際、熱伝導率の値は、高ければ高い程好ましく、具体的には平面方向の熱伝導率λxyが0.7W/mK以上、厚み方向の熱伝導率λzが0.3W/mK以上であることが好ましく、更に、平面方向の熱伝導率λxyが1.0W/mK以上、厚み方向の熱伝導率λzが0.4W/mK以上であることがより好ましい。加えて、厚み方向(縦方向)の熱伝導率は、平面方向(横方向)の熱伝導率よりも低いようにするのが望ましい。厚み方向(縦方向)の熱伝導率が平面方向(横方向)の熱伝導率よりも高いと、熱が発光領域のみに蓄積し、発光領域にある素子の性能が低下する場合がある。そのため、縦方向よりも横方向に熱を拡散させることにより、局部的な熱の蓄積を抑制できる。
【0028】
また、熱伝導性有機発光素子基板の熱膨張係数は30ppm以下が好ましく、より好ましくは15ppm以下であるのがよい。熱膨張係数が大きくなれば、有機発光素子やバリア層といった、隣接する部材との剥離が生じる。例えば、有機発光素子基板において、基板と他の部材間における熱膨張係数の差が大きいと、有機発光素子装置製造工程中に部材間で剥離が生じてしまう場合があり、正常に有機発光素子装置を製造することができないおそれがある。熱膨張係数を小さくする手段としては、上述したようなフィラーを添加する方法のほか、樹脂の骨格を剛直にする方法がある。後述する熱伝導性フィラーの熱膨張係数は1〜15ppmと小さく、フィラーの含有量を高くすることで熱膨張係数を小さくできる。また、樹脂としてポリイミド樹脂を用いる場合には、ポリイミド樹脂に剛直な構造、例えばビフェニル骨格を導入することで、熱膨張係数を小さくできる。好適には、樹脂単独での熱膨張係数としては、寸法安定性の観点から、0〜25ppm/Kの範囲であるのがよい。有機発光素子基板において、熱や湿度等の外部影響により寸法の変化が生じる場合があり、寸法の変化が大きいと、積層する部材間の密着性悪化や部材の変形が生じてしまう場合がある。
【0029】
ここで、上記熱膨張係数の測定方法については、例えば樹脂のみあるいは樹脂とフィラーを配合した前駆体樹脂溶液を支持体上に塗布し、乾燥・硬化した後支持体より剥離したフィルム材を3mm×15mmのサイズに切断し、熱機械分析(TMA)装置にて5gの荷重を加えながら一定の昇温速度(20℃/min)で30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、温度に対するサンプルの伸び量から熱膨張係数(ppm/K)(C.T.E.)を測定したものである。
【0030】
熱伝導性有機発光素子基板は、単層で形成されるようにしてもよく、複数層から形成されるようにしてもよく、複数層の場合、少なくとも1層にフィラーを含む層を有し、有機発光素子を形成する側に設けられる1層は、表面が平滑な平滑層であることが好ましい。すなわち、平滑層をなす層は、フィラーを含有させずに、或いはフィラーを含有させる場合でもその粒径を極めて小さくして、有機発光素子の下地の層を平滑にするのがよい。
【0031】
詳しくは、熱伝導性有機発光素子基板が少なくとも2層以上のポリイミド樹脂からなる多層構造であり、少なくとも1層が熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性フィラー層であると共に、有機発光素子と接する側の層は、表面が平滑な平滑層であるのが好ましい。
【0032】
熱伝導性フィラー層におけるフィラーは、高熱伝導性を有するフィラーであることが好ましく、熱伝導性フィラー層における熱伝導性フィラーの含有割合は、30〜80wt%の範囲であるのがよく、40〜70wt%の範囲が好ましい。熱伝導性フィラー層におけるフィラーの含有割合が30wt%に満たないと、有機発光素子基板等の電子部材とした際の放熱特性が十分でなく、反対に、80wt%を超えると脆弱なフィルム特性になる場合があり、有機発光素子やバリア層といった隣接する部材を積層する際に破損したり、カールしてしまう恐れがある。
【0033】
熱伝導性フィラーとしては、高熱伝導性のフィラーが好ましく、具体的には、アルミニウム、銅、ニッケル、シリカ、ダイヤモンド、アルミナ、マグネシア、ベリリア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等からなるフィラーが挙げられる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種類のフィラーが好ましい。フィラー形状は、特に制限されるものではなく球状、板状、針状、棒状等のいずれでも良い。熱伝導性フィラーの含有量を高め、熱伝導性などの特性とのバランスを考慮すると球状フィラーと板状フィラーを併用することも好ましい。平滑層を10μm以下または、平滑層を用いない場合は、板状フィラーを用いることが好ましい。なお、フィラーの種類によっては微量ながらも金属不純物を含んでおり、この金属不純物が有機発光素子装置の製造工程内に混入してしまうと、不具合を生じることが懸念されるため、高純度なフィラーを使用することが好ましい。
【0034】
熱伝導性フィラーの粒子サイズは、熱伝導性フィラー層の厚み方向にフィラーを均一に分散させる観点から、平均粒子径が0.01〜25μmの範囲にあることが好ましく、1〜8μmの範囲にあることがより好ましい。フィラーの平均粒子径が0.01μmに満たないと、個々のフィラー内部での熱伝導が小さくなり、結果として熱伝導性有機発光素子基板の熱伝導率が向上しないばかりでなく、粒子同士が凝集を起こしやすくなり、均一に分散させることが困難となる恐れがある。一方、25μmを超えると、熱伝導性フィラー層への可能な充填率が低下し、かつフィラー界面により熱伝導性有機発光素子基板が脆くなる傾向にある。なお、ここで言う平均粒径とは、レーザー回折・散乱法(測定装置:マイクロトラックMT3300EX)により測定した粒子径分布において、粒子の全体積を100%としたとき粒子径の体積分率の累積カーブにおいて50%累積となるときの粒子径をいう。
【0035】
本発明に用いる球状フィラーの最適なものは、平均粒径が0.5〜3.0μmの範囲内のフィラーであって、なかでも、酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムを用いることが好ましい。また、本発明に用いる板状フィラーの最適なものは、平均粒径が0.1〜15μmの範囲であり、特に好ましくは0.5〜8μmの範囲である。板状フィラーとしては窒化ホウ素を用いることが好ましい。平均粒径が0.1μmに満たないと、熱伝導率が低くなり、板状の効果が小さくなってしまう。また、15μmを超えると製膜時に配向させることは困難となる。
【0036】
一方、樹脂と熱伝導性フィラーを含んだ熱伝導性フィラー層の表面に、さらにもう一層の平滑層を設ける場合、平滑層の表面粗度(Ra)は100nm以下が好ましい。これ以上粗度が大きくなれば、凹凸が発光素子に影響し、画質の低下を招く場合がある。平滑層は樹脂だけで形成してもよく、フィラーを含んでもよい。平滑層にフィラーを含む場合は、形成される表面が平滑になるようにナノフィラーを用いることが好ましい。なお、表面粗度(Ra)はボリイミドフィルムの大気に接する面を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面観察をタッピングモードで10μm角の視野観察を4回行い、それらの平均値を求めた算術平均粗さ(JIS B0601-1991)を表す。
【0037】
平滑層に用いるナノフィラーの平均粒子径は200nm以下の範囲にあることが好ましく、さらに100nm以下の範囲にあることがより好ましい。ナノフィラーの平均粒子径が200nmを超えると、表面が粗くなることにより、平滑性が低下する恐れがある。これ以上粗度が大きくなれば、凹凸が発光素子に影響し、画質の低下を招く場合がある。ただし、入手可能なナノフィラーの平均粒子径は実質的には10nmが下限である。ナノフィラーとしては、特に限定はないが、具体的には、アルミニウム、銅、ニッケル、シリカ、ダイヤモンド、アルミナ、マグネシア、ベリリア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素が挙げられる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種類のナノフィラーが好ましい。フィラー形状は、特に制限されるものではなく板状、針状、棒状のいずれでも良い。ナノフィラーは表面処理されたものを使用するのが好ましい。ナノフィラーの平均粒子径については、熱伝導性フィラーにおける平均粒子径の場合と同様に、レーザー回折・散乱法(測定装置:マイクロトラックMT3300EX)により測定した粒子径分布において、粒子の全体積を100%としたとき粒子径の体積分率の累積カーブにおいて50%累積となるときの粒子径を意味する。
【0038】
平滑層にナノフィラーを含有する場合、熱伝導性フィラー層の熱伝導フィラーの含有割合よりも小さいことが好ましい。また、その含有割合は1〜50wt%の範囲であることが好ましく、10〜40wt%の範囲がより好ましい。平滑層におけるナノフィラーの含有割合が50wt%を超えると、隣接する部材に対する接着性が劣るだけでなく、平滑層の強度も低下する。
【0039】
上述したように、多層構造の場合は熱伝導性有機発光素子基板を構成する全ての層がフィラーを含有していてもよいし、少なくとも1層以上がフィラーを含有した層であればフィラーを含有しない層を含んでいてもよい。その場合、最も膜厚が厚い層がフィラーを含有した層であることが好ましい。すなわち、上記の例で言えば、熱伝導性フィラー層の厚みは1μm〜100μmであるのがよく、好ましくは5μm〜50μmであるのが良い。また、平滑層の厚みは0.1μm〜30μmであるのがよく、好ましくは2μm〜5μmであるのが良い。
【0040】
熱伝導性有機発光素子基板に用いられる樹脂に限定はないが、熱膨張係数を小さくするという観点からポリイミド樹脂が好ましい。ポリイミド樹脂は直鎖構造が好ましく、面方向の熱伝導性が縦方向の熱伝導率に比べて高いため、直鎖状構造が好ましい。より好ましくは下記一般式(1)で示されるポリイミド樹脂構造が好ましい。一般式(1)で表される構造単位を10〜95モル%、好ましくは50〜95モル%含有することが好ましい。
【化2】
【0041】
一般式(1)中、Ar
1は芳香環を1個以上有する4価の有機基であり、Rは炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、又はハロゲンである。Ar
1は、ポリイミド原料である芳香族テトラカルボン酸の残基と見ることができるので、芳香族テトラカルボン酸の具体例を示すことにより、Ar
1が理解される。また、Rはポリイミド原料である芳香族ジアミンの残基の一部と見ることができる。
【0042】
芳香族テトラカルボン酸の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3'',4,4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3'',4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1, 2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物などが挙げられる。
【0043】
一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位としては、ポリイミド原料である芳香族テトラカルボン酸の残基と芳香族ジアミンの残基とに分けて説明すると、芳香族テトラカルボン酸の残基としては、上記Ar
1で説明したと同様な芳香族テトラカルボン酸の残基を挙げることができる。
【0044】
芳香族ジアミンの残基としては、次に示すような芳香族ジアミンの残基が挙げられる。例えば、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4'-メチレンジ-o-トルイジン、4,4'-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4'-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、3,3'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシベンジジン、4,4'-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3'-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,7-ジアミノジベンゾフラン、1,5-ジアミノフルオレン、ジベンゾ-p-ジオキシン-2,7-ジアミン、4,4’-ジアミノベンジルなどが挙げられる。
【0045】
熱伝導性フィラー層を構成するポリイミド樹脂を合成する場合、ジアミン、酸無水物はそれぞれその1種のみを使用してもよく、2種以上を併用することもできるが、ジアミン及び酸無水物の少なくとも一方は2種以上を使用する。有利には、ジアミンとして2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニルのような一般式(1)で表わされる構造単位を与えるジアミンを使用し、その他に一般式(1)では表わされない構造単位を与える他のジアミンを併用することがよい。
【0046】
本発明では、熱伝導性フィラー層に熱伝導性フィラーを含有するため、ポリイミド樹脂の優れた耐熱性や寸法安定性を維持しながら、その機械的強度を保持させる必要がある。そのような観点から、上記他のジアミンとしては、一般式(1)で表わされる構造単位を与えるジアミンより剛直性の少ない構造を有する芳香族ジアミンが適する。有利には、ジアミン成分に2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニルを主成分とし、これに1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル及び4,4'-ジアミノジフェニルエーテルから選択される少なくとも1種のジアミンを他のジアミンとして併用し、酸無水物にピロメリット酸二無水物を主成分として用いることがよい。他のジアミンの使用割合は5〜50モル%の範囲が好ましい。
【0047】
平滑層を形成するポリイミド樹脂は、好適には、熱伝導性フィラー層を形成するポリイミド樹脂よりもガラス転移温度(Tg)が低い必要があるが、200℃以上のTgを有する熱可塑性のポリイミド樹脂の層が好ましい。より好ましくは、Tgが200〜350℃の範囲にある熱可塑性樹脂であって、熱伝導性フィラー層を構成するポリイミド樹脂より20℃以上Tgが低い層であることがよい。一方、熱伝導性フィラー層は、熱伝導性有機発光素子基板の50%以上の厚みを有するベース層となるためTgも高いことが好ましく、310℃以上であることが好ましく、350〜450℃の範囲にあることがより好ましい。平滑層を構成するポリイミド樹脂は、上記物性を満足する限り、公知のポリイミド樹脂を用いることができ、上記した酸二無水物成分とジアミン成分から得ることができる。
【0048】
ここで、平滑層を製造するために用いられる酸二無水物成分としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)などの芳香族酸二無水物が例示される。また、ジアミン成分としては、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン(BAPS)、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-DAPE)、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DAPE)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1, 3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2-ジメチルプロパン(DANPG)などの芳香族ジアミンが好ましいものとして例示される。
【0049】
平滑層は主に基板に平滑性を持たせるために設けられるため、その厚みは薄いことが好ましく、熱伝導性有機発光素子基板の大きさや発光素子の発熱量にもよるが、上述したように、およその目安として好ましくは30μm以下、より好ましくは5μm以下であることがよい。これ以上厚みが厚くなれば、熱伝導性が低下する場合がある。
【0050】
2層以上の複数層からなる熱伝導性有機発光素子基板については、例えば、それぞれのポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸(正式名;ポリアミド酸、以下同じ。)溶液を、適当な支持体上に直接塗布し、乾燥及び硬化することによって形成することができる(いわゆるキャスト法)。支持体としてガラス板、金属箔等を使用して積層体を形成し、ポリイミド樹脂層を剥離等の手段で支持体から除去すれば熱伝導性ポリイミドフィルムとすることもできる。支持体からの除去は、公知の方法で行うことができるが、好ましくは機械的な手法で除去することが好ましい。
【0051】
また、支持体から除去することなく一体として用いることもできる。この場合、熱伝導性フィラー層と接する支持体を金属層とすることで熱伝導性・放熱性を向上させることができる。金属種は特に限定しないが、好ましくはアルミニウム、銅もしくはそれらを主成分とする合金が好ましい。
【0052】
ポリアミック酸溶液の塗布は、公知の方法で行うことができ、例えば、バーコード方式、グラビアコート方式、ロールコート方式、ダイコート方式等から適宜選択して採用することができる。
【0053】
少なくとも熱伝導性フィラー層を形成する場合について、熱伝導性フィラーを含有するポリアミック酸溶液は、例えば、予め重合して得られた溶媒を含むポリアミック酸溶液に熱伝導性フィラーを一定量添加し、攪拌装置などで分散させることで調製する方法や、溶媒中に熱伝導性フィラーを分散させながらジアミンと酸無水物を添加し重合を行い調製する方法が挙げられる。どちらの方法を用いてもよいが、粘度が高いポリアミック酸を用いる場合は、重合前にあらかじめ溶媒中に熱伝導フィラーを混合することが好ましく、粘度の低いポリアミック酸を用いる場合は重合後、ポリアミック酸溶液中に熱伝導性フィラーを混合することが好ましい。
【0054】
ポリアミック酸は、芳香族ジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸二無水物成分とを実質的に等モル使用し、溶媒中で重合する公知の方法によって製造することができる。すなわち、窒素気流下N,N−ジメチルアセトアミドなどの溶媒に上記ジアミンを溶解させた後、芳香族テトラカルボン酸二無水物を加えて、室温で3時間程度反応させることにより得られる。ポリイミド樹脂層を形成するに適したポリアミック酸の好ましい重合度は、その粘度範囲で表したとき、溶液粘度が5〜2,000Pの範囲であり、10〜300Pの範囲がより好ましい。溶液粘度の測定は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計によって行うことができる。なお、上記溶媒には、N,N−ジメチルアセトアミドの他、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらを1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0055】
本発明における熱伝導性有機発光素子基板は、有機発光装置、つまりフラットパネルディスプレイ、液晶表示機用バックライトや照明用光源の基板として用いられることが好ましく、さらに好ましくは、有機発光装置のトップエミッション方式に構成される基板として用いることが好ましい。トップエミッション方式は発光素子側に放熱に寄与する部材がないために、蓄熱しやすいため、熱伝導性の高い基板を用いることが好ましい。また、熱伝導性有機発光素子基板は有機発光装置を構成する部材であって、熱伝導性有機発光素子基板上に、薄膜トランジスタ、電極層、有機EL発光層、電子インク、カラーフィルターのいずれか、または二つ以上を形成することが好ましい。また、本発明における有機発光素子は、自家発光する有機物質からなる素子を意味し、例えば有機エレクトロルミネッセンス素子が挙げられる。有機エレクトロルミネッセンス素子の構成は発光層、電極、電子注入層などの必要な機能を有した層からなり、発光する化合物を含有する発光層を、陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子のことである。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0057】
本実施例に用いた略号は以下の化合物を示す。
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
4,4'‐DAPE:4,4‘‐ジアミノジフェニルエーテル
TPE‐R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸ニ無水物
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0058】
また、実施例において評価した各特性については、下記評価方法に従った。
【0059】
[粘度の測定]
ポリアミック酸溶液の粘度は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計(トキメック社製)にて、25℃で測定した。
【0060】
[厚み方向熱伝導率(λzTC)]
ポリイミド樹脂フィルムを30mm×30mmのサイズに切り出し、周期加熱法による厚み方向の熱拡散率(アルバック理工製FTC‐1装置)、DSCによる比熱、水中置換法による密度をそれぞれ測定し、これらの結果をもとに熱伝導率(W/m・K)を算出した。
【0061】
[面方向熱伝導率(λxyTC)]
ポリイミド樹脂フィルムを30mm×30mmのサイズに切り出し、光交流法による面方向の熱拡散率(アルバック理工製Laser PIT装置)、DSCによる比熱、水中置換法による密度をそれぞれ測定し、これらの結果をもとに熱伝導率(W/m・K)を算出した。
【0062】
[熱膨張係数(CTE)]
3mm×15mmのサイズのポリイミド樹脂フィルムを、熱機械分析(TMA)装置にて5gの荷重を加えながら一定の昇温速度(20℃/min)で30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、温度に対するポリイミドフィルムの伸び量から線膨張係数(ppm/K)を測定した。
【0063】
[ガラス転移温度(Tg)]
ポリイミド樹脂フィルム(10mm×22.6mm)を動的熱器械分析装置(正式名;動的粘弾性測定装置(DMA))にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度(tanδ極大値:℃)を求めた。
【0064】
[180度ピール強度]
積層体の銅箔層を幅1.0mm、長さ180mmの長矩形にパターンエッチングし、そのパターンが中央になるように、幅20mm、長さ200mmに試験片を切り抜き、IPC−TM−650.2.4.19により180°引剥し試験を行った。
【0065】
合成例1〜18
ポリアミド酸溶液Aを合成するため、窒素気流下で、m−TB(32g、0.90mol)及びTPE−R(4.8g、0.10mol)を1000mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc425g中に溶解させた。次いで、BPDA(9.7g、0.197mol)、PMDA(28.5g、0.788mol)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、茶褐色の粘稠なポリアミド酸溶液Aを得た(合成例1)。
以下、表1に示した組成に基づき、上記と同様の方法で、ポリアミド酸溶液B〜Dを合成した(合成例2〜4)。
【0066】
ポリアミド酸溶液A〜Dはポリアミド酸と溶媒DMAcからなり、ポリアミド酸溶液について粘度と熱膨張係数、ガラス転移温度をそれぞれ測定した(表1)。
【0067】
【表1】
【0068】
次に、固形分濃度15wt%のポリアミド酸溶液Aを43.5重量部と、酸化アルミニウム[球状、平均粒径3μm]を3.25重量部と、窒化ホウ素[板状、平均粒径4.5μm]を3.25重量部とを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸とフィラーの混合溶液を得た(サンプルE:合成例5)。
以下、表2及び3に示した組成に基づき、上記と同様の方法で、残りのサンプルF〜Rを合成した(合成例6〜18)。この時、ポリアミド酸溶液Bにおける固形分濃度は15wt%、ポリアミド酸溶液C及びDにおける固形分濃度は12wt%として用いた。また、ポリアミド酸溶液AおよびBを用いる場合(合成例5〜15)は、粘度調整のためDMAcをポリアミド樹脂溶液に対して20%(8.72重量部)添加し、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合した。なお、表1〜3中のジアミン、テトラカルボン酸二無水物、ポリアミド酸溶液及びフィラーの数値は、各成分の重量部を表す。
【0069】
E〜Rは表1のポリアミド酸溶液A〜Dと熱伝導性のフィラーを表2の配合表に基づき混合した混合溶液である。熱伝導性のフィラーとして、全部で5種類のフィラーを用いた。Al
2O
3は平均粒径3μmと平均粒径0.6μmの2種類の球状フィラー、BNは平均粒径4.5μmと平均粒径2.3μmの2種類の板状フィラー、AlNは平均粒径1.1μmの球状フィラーを用いた。なお、ここでの平均粒径は、レーザー回折・散乱法(測定装置:マイクロトラックMT3300EX)により測定した粒子径分布において、粒子の全体積を100%としたとき粒子径の体積分率の累積カーブにおいて50%累積となるときの粒子径を表す。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
実施例1
合成例3で得たポリアミド酸樹脂溶液Cを硬化後の厚みが約2μmとなるようにガラス基板に塗布し、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に合成例5で得たポリアミド酸樹脂Eの溶液を硬化後の厚みが約21μmとなるように塗布し、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。さらに、その上に合成例3で得たポリアミド酸樹脂溶液Cを硬化後の厚みが約2μmとなるように塗布し、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120〜360℃の温度範囲で、段階的に30分かけて昇温加熱して、ガラス上に3層のポリイミド樹脂層(C/E/C)からなる熱伝導性有機発光基板用積層体M1を作製した。ポリイミド樹脂層の特性を評価するために、ガラス基板から積層体M1を剥離して、ポリイミド樹脂フィルムを作製した。このポリイミド樹脂フィルムのCTE、熱伝導率を評価した。以下の実施例及び比較例においても同様の方法により、ガラス基板上でポリイミド樹脂フィルムを作成した後、CTE、熱伝導率を評価した。結果を表4に示す。
【0073】
ここで、表4に示したM1〜M6は、ポリイミド樹脂とフィラーからなるフィルムとポリイミド樹脂からなるフィルムとの積層体フィルムである。M7〜M14はポリイミド樹脂とフィラーからなる単層のフィルムである。M15はデュポン社の熱伝導性ポリイミド樹脂フィルムである。M16〜M17は組成の異なるポリイミド樹脂フィルムからなる積層体である。M18〜M21は組成の異なるポリイミド樹脂からなる単層フィルムである。フィルムの層構成及び厚み構成は表4の通りである。M1〜M21について、熱膨張係数と縦方向と横方向の熱伝導率、表面粗度を測定した。M3の熱膨張係数に関しては、機械的強度不足のため測定ができなかった。
【0074】
【表4】
【0075】
実施例2〜14
使用するポリアミド酸樹脂溶液の種類、及び、ポリイミド樹脂層の構成を変更した以外は実施例1と同様の方法により、ガラス基板上でポリイミド樹脂フィルムを作成した後、CTE、熱伝導率を評価した。結果を表4に示す。
【0076】
実施例15
デュポン社の熱伝導性ポリイミドフィルム(カプトン(登録商標)MT:厚み43μm)を用いた。
【0077】
実施例16〜17、比較例7
M22〜M23はポリイミドにフィラーを配合した樹脂層と銅箔を積層したものである。M22はポリアミド酸溶液Dとフィラーの混合溶液Qを銅箔の上に塗布しイミド化した積層フィルムであり、M23はポリアミド酸溶液Dとフィラーの混合溶液Rを銅箔の上に塗布しイミド化した積層フィルムである。M24はポリアミド酸溶液Bを銅箔の上に塗布しイミド化した積層フィルムである。これらの積層フィルムを作成した後、180度ピール強度を評価した。結果を表5に示す。
M22、M23はM24と比べ、銅箔からの樹脂フィルムの剥離性が向上している。
【0078】
【表5】
【0079】
比較例1〜6
使用するポリアミド酸樹脂溶液の種類、及び、ポリイミド樹脂層の構成を変更した以外は実施例1と同様の方法により、ガラス基板上でポリイミド樹脂フィルムを作成した後、CTE、熱伝導率を評価した。結果を表4に示す。
【0080】
上記実施例及び比較例について、実施例1〜15は比較例1〜6に対し、フィラーを入れることで熱伝導率が上がっただけでなく、フィラーの量や種類を最適な条件にしたことで、横方向の熱伝導率を飛躍的に高めることができた。すなわち、比較例の縦方向と横方向の熱伝導率の差に比べ、実施例の同方向の熱伝導率差が大きいため、焼き付きや残像の原因となっていた、蓄積された熱を速やかに拡散することができる。また、実施例16〜17は比較例7に対し、ピール強度が低いという点が優れている。これは、樹脂層においてフィラーの有無により、ガラスや銅箔等の支持体からの剥離特性が異なること、そして樹脂単独の層よりも樹脂とフィラーからなる層の方が支持体からの剥離性が良好である点から、表示装置の製造において、支持体との適度な密着を保持したまま有機発光素子を形成し、その後に容易に支持体を剥離することができるため、薄膜・軽量・フレキシブル化に優れた有機発光装置を製造するに最適な材料である。