【解決手段】金属張積層体は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された金属層とを備えている。絶縁樹脂層は、a)周波数3GHzにおける誘電率が3.2以下、b)周波数3GHzにおける誘電正接が0.005未満、c)23℃、50%RHでの吸湿率が0.7質量%以下、d)厚さ20μmにおける40℃、90%RHでの透湿率が100g/m
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
[金属張積層体]
本実施の形態の金属張積層体は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された金属層と、を有する。なお、金属層は絶縁樹脂層の両面に積層されていてもよい。金属張積層体の好ましい具体例としては、例えば銅箔と絶縁樹脂層とを積層した銅張積層体(CCL)を挙げることができる。
【0018】
<絶縁樹脂層>
本実施の形態の金属張積層体において、絶縁樹脂層は、単層又は複数層のポリイミド層を有することが好ましい。この場合、金属張積層体に優れた高周波特性と湿度に対する安定性を付与するために、ポリイミド層の少なくとも1層が、芳香族テトラカルボン酸無水物を含む酸無水物成分と、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン及び芳香族ジアミンを含むジアミン成分と、を反応させて得られるポリイミド(以下、「低誘電率ポリイミド」と記すことがある)を用いて形成されていることが好ましい。低誘電率ポリイミドは、非熱可塑性ポリイミドでもよいし、熱可塑性ポリイミドであってもよい。本実施の形態の金属張積層体においては、絶縁樹脂層の全部が、非熱可塑性の低誘電率ポリイミド及び/又は熱可塑性の低誘電率ポリイミドを用いて形成されていることが好ましい。
【0019】
また、絶縁樹脂層と金属層との接着性を高めるため、絶縁樹脂層における金属層に接する層は、熱可塑性のポリイミド層であることが好ましい。例えば、非熱可塑性のポリイミド層をP1、熱可塑性のポリイミド層をP2、金属層をM1とすると、絶縁樹脂層を2層とする場合には、P1/P2/M1の順に積層することが好ましい。また、絶縁樹脂層を3層とする場合には、P2/P1/P2/M1の順、又は、P1/P1/P2/M1の順に積層することが好ましい。なお、P1、P2のいずれかの層は、低誘電率ポリイミド以外のポリイミドによって構成されていてもよい。絶縁樹脂層の材料として好ましく使用できる低誘電率ポリイミドについては後で詳しく説明する。
【0020】
(誘電率)
本実施の形態の金属張積層体は、FPC等の回路基板に使用した際のインピーダンス整合性を確保するために、絶縁樹脂層全体として、3GHzにおける誘電率が3.2以下であることが重要である(構成a)。絶縁樹脂層の3GHzにおける誘電率が3.2を超えると、FPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0021】
(誘電正接)
また、本実施の形態の金属張積層体は、FPC等の回路基板に使用した際のインピーダンス整合性を確保するために、絶縁樹脂層全体として、3GHzにおける誘電正接が0.005未満であることが重要である(構成b)。絶縁樹脂層の3GHzにおける誘電正接が0.005以上であると、FPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0022】
(吸湿率)
また、本実施の形態の金属張積層体は、FPC等の回路基板に使用した際の湿度による影響を低減するために、絶縁樹脂層を構成する樹脂材料の23℃、50%RHでの吸湿率が0.7質量%以下であることが重要である(構成c)。この絶縁樹脂層の吸湿率は、0.7質量%未満であることが好ましい。絶縁樹脂層の吸湿率が0.7質量%を超えると、FPC等の回路基板に使用した際に、湿度の影響を受けやすくなり、高周波信号の伝送速度の変動などの不都合が生じやすくなる。つまり、絶縁樹脂層の吸湿率が上記範囲を上回ると、誘電率の高い水を吸収しやすくなるので、誘電率及び誘電正接の上昇を招き、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0023】
(透湿率)
また、本実施の形態の金属張積層体は、FPC等の回路基板に使用した際の湿度による影響を低減するために、絶縁樹脂層を構成する樹脂材料の厚さ20μmにおける40℃、90%RHでの透湿率が100g/m
2・24h以下であることが重要である(構成d)。この絶縁樹脂層の透湿率は、60g/m
2・24h以下であることが好ましい。絶縁樹脂層の透湿率が100g/m
2・24hを超えると、FPC等の回路基板に使用した際に、湿度の影響を受けやすくなり、高周波信号の伝送速度の変動などの不都合が生じやすくなる。また、絶縁樹脂層、特にその表層近傍の透湿率が大きいと、内部に水分、ガス等が透過して導体など他の材料の劣化を促進する可能性がある。そのため、絶縁樹脂層に、ガス、水分子などに対する適切なバリア機能を持たせるために、透湿率を上記範囲としている。
【0024】
(熱膨張係数)
また、本実施の形態の金属張積層体は、反りの発生や寸法安定性の低下を防止するために、絶縁樹脂層全体として、熱膨張係数(CTE)が10ppm/K以上30ppm/K以下の範囲内であることが重要である(構成e)。絶縁樹脂層の熱膨張係数(CTE)は、10ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内が好ましい。熱膨張係数(CTE)が10ppm/K未満であるか、又は30ppm/Kを超えると、金属張積層体に反りが発生したり、寸法安定性が低下したりする。
【0025】
本実施の形態の金属張積層体において、絶縁樹脂層の厚みは、例えば6μm以上60μm以下の範囲内が好ましく、9μm以上55μm以下の範囲内であることがより好ましい。絶縁樹脂層の厚さが6μmに満たないと、金属張積層体の製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがあり、一方、絶縁樹脂層の厚さが60μmを超えると金属張積層体の製造時の寸法安定性や屈曲性等において問題が生じるおそれがある。なお、絶縁樹脂層を複数層から形成する場合には、その合計の厚みが上記範囲内になるようにすればよい。
【0026】
<金属層>
本実施の形態の金属張積層体における金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。なお、後述する回路基板における配線層の材質も金属層と同様である。
【0027】
(表面粗度)
金属層の絶縁樹脂層に接する面の表面粗度は、二乗平均粗さRqが0.05μm以上0.5μm未満の範囲内であることが好ましく、0.1μm以上0.4μm以下の範囲内がより好ましい。ここで定義される二乗平均粗さ(Rq)は、JIS B0601:2001に基づくものである。
【0028】
信号配線に高周波信号が供給されている状態では、その信号配線の表面にしか電流が流れず、電流が流れる有効断面積が少なくなって直流抵抗が大きくなり、信号が減衰するという問題(表皮効果)がある。金属層の絶縁樹脂層に接する面の表面粗度を下げることで、この表皮効果による信号配線の抵抗増大を抑制できる。しかし、電気性能要求基準を満足させるために表面粗度を下げると、金属層と絶縁樹脂層との接着力(剥離強度)が弱くなる。そこで、電気性能要求を満足させることが可能であり、絶縁樹脂層との接着性を確保するという観点から、表面粗さのパラメータとして、二乗平均粗さ(Rq)を制御することが好ましい。すなわち、二乗平均粗さ(Rq)は、他の表面粗さの指標に比べ、表皮効果によって金属層表面を流れる電流に対して、金属層表面の微細な凹凸が与える影響をより的確に反映しているものと推察される。従って、金属層における絶縁樹脂層と接する面の表面粗さの指標として、二乗平均粗さ(Rq)を使用し、この二乗平均粗さ(Rq)を上記範囲内に規定することによって、絶縁樹脂層との接着性の確保と、配線の抵抗増大の抑制というトレード・オフの関係にある要求を同時に満足させることができる。
【0029】
また、金属層の絶縁樹脂層に接する面の表面粗度は、算術平均高さRaが0.2μm以下であることが好ましく、十点平均粗さRzが1.5μm以下であることが好ましい。
【0030】
本実施の形態の金属張積層体において、金属層の厚みは5μm以上20μm以下の範囲内が好ましく、8μm以上15μm以下の範囲内がより好ましい。金属層の厚みが5μmに満たないと、金属張積層体の製造時、例えば、金属層上に絶縁樹脂層を形成する工程において金属層自体の剛性が低下し、その結果、金属張積層体上にシワ等が発生する場合がある。また、金属層の厚みが20μmを超えると、金属張積層体(又はFPC)を折り曲げた際の金属層(又は配線層)に加わる曲げ応力が大きくなることにより耐折り曲げ性が低下する場合がある。
【0031】
本実施の形態の金属層は、上記特性を充足するものであれば特に限定されるものではなく、市販されている銅箔などの金属箔を用いることができる。
【0032】
<作用>
本実施の形態の金属張積層体は、上記構成a)〜e)を具備することによって、FPC等の回路基板に加工した際に、高周波領域におけるインピーダンス整合性と湿度に対する安定性とを両立させることができる。高周波領域におけるインピーダンス整合性と湿度に対する安定性の改善によって、回路基板において、高速信号伝送を行う際の信頼性を高めることができる。すなわち、上記構成a)〜e)を満たす本実施の形態の金属張積層体は、絶縁樹脂層に低誘電率ポリイミドを使用することによって、絶縁樹脂層の空孔率を高めることなく、低誘電率化が実現されている。しかも、上記構成a)〜e)を満たす金属張積層体は、熱膨張係数が適正な範囲に抑えられているため、寸法安定性に優れ、反りの発生も抑制できる。従って、本実施の形態の金属張積層体は、例えば、高速信号伝送を必要とする電子機器において、FPC等の回路基板に特に好適に用いることができる。
【0033】
<金属張積層体の調製方法>
本実施の形態の金属張積層体は、例えば絶縁樹脂層となる樹脂フィルムを用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えばメッキによって金属層を形成することによって調製してもよい。
【0034】
また、金属張積層体は、例えば、絶縁樹脂層となる樹脂フィルムを用意し、これに金属箔を熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。
【0035】
さらに、金属張積層体は、金属箔の上に樹脂溶液をキャストし、乾燥、固化させて絶縁樹脂層を形成してもよい。例えば、絶縁樹脂層の材料としてポリイミドを用いる場合は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含有する塗布液を金属箔上にキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化し、ポリイミド層を形成することによって調製することができる。
【0036】
[銅張積層体及びその調製]
以下、好ましい実施の形態として、絶縁樹脂層がポリイミド層、金属層が銅箔である銅張積層体(CCL)を例に挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
<ポリイミド>
本実施の形態で絶縁樹脂層の材料として使用するポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸無水物を含む酸無水物成分と、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン及び芳香族ジアミンを含むジアミン成分と、を反応させて得られる低誘電率ポリイミドを含むことが好ましい。この場合、ダイマー酸型ジアミンは、全ジアミン成分に対し、4〜40モル%の範囲内にあることが好ましい。このような低誘電率ポリイミドを用いることによって、ポリイミド層の吸湿率と透湿率を増加させることなく、誘電率と誘電正接を低く抑えることが可能になるため、高周波領域におけるインピーダンス整合性と湿度に対する安定性の両立を図ることができる。
【0038】
本実施の形態で使用する低誘電率ポリイミドは、下記の一般式(1)及び(2)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0039】
【化1】
[式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、R
1はダイマー酸型ジアミンから誘導される2価のダイマー酸型ジアミン残基、R
2は芳香族ジアミンから誘導される2価の芳香族ジアミン残基をそれぞれ表し、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.04〜0.4の範囲内、nは0.6〜0.96の範囲内である]
【0040】
基Arは、例えば下記の式(3)又は式(4)で表されるものを挙げることができる。
【0041】
【化2】
[式中、Wは単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO
2−、−NH−若しくは−CONH−から選ばれる2価の基を示す]
【0042】
特に、ポリイミドの極性基を減らし、誘電特性を向上させるという観点から、基Arとしては、式(3)、又は式(4)中のWが単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−で表されるものが好ましく、式(3)、又は式(4)中のWが単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−CO−で表されるものがより好ましい。
【0043】
なお、上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位は、単独重合体中に存在しても、共重合体の構成単位として存在してもよい。構成単位を複数有する共重合体である場合は、ブロック共重合体として存在しても、ランダム共重合体として存在してもよい。
【0044】
ポリイミドは、一般に、酸無水物とジアミンとを反応させて製造されるので、酸無水物とジアミンを説明することにより、低誘電率ポリイミドの具体例が理解される。上記一般式(1)及び(2)において、基Arは酸無水物の残基ということができ、基R
1及び基R
2はジアミンの残基ということができるので、好ましい低誘電率ポリイミドを酸無水物とジアミンにより説明する。
【0045】
基Arを残基として有する酸無水物としては、例えば無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が好ましく例示される。また、酸無水物として、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、例えば1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等が挙げられる。
【0046】
基R
1はダイマー酸型ジアミンから誘導される2価のダイマー酸型ジアミン残基である。ダイマー酸型ジアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(‐COOH)が、1級のアミノメチル基(‐CH
2‐NH
2)又はアミノ基(‐NH
2)に置換されてなるジアミンを意味する。
【0047】
ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11〜22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20〜54の他の重合脂肪酸を含有する。本実施の形態では、ダイマー酸は分子蒸留によってダイマー酸含有量を90質量%以上にまで高めたものを使用することが好ましい。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、本実施の形態では、更に水素添加反応して不飽和度を低下させたものもダイマー酸に含めるものとする。
【0048】
ダイマー酸型ジアミンの特徴として、ダイマー酸の骨格に由来する特性を付与することができる。すなわち、ダイマー酸型ジアミンは、分子量約560〜620の巨大分子の脂肪族であるので、分子のモル体積を大きくし、ポリイミドの極性基を相対的に減らすことができる。このようなダイマー酸型ジアミンの特徴は、ポリイミドの耐熱性の低下を抑制しつつ、誘電特性を向上させることに寄与すると考えられる。また、2つの自由に動く炭素数7〜9の疎水鎖と、炭素数18に近い長さを持つ2つの鎖状の脂肪族アミノ基とを有するので、ポリイミドに柔軟性を与えるのみならず、ポリイミドを非対象的な化学構造や非平面的な化学構造とすることができるので、ポリイミドの低誘電率化を図ることができると考えられる。
【0049】
ダイマー酸型ジアミンの仕込み量は、全ジアミン成分に対し、4〜40モル%の範囲内、好ましくは4〜30モル%の範囲内、より好ましくは4〜15モル%の範囲内がよい。ダイマー酸型ジアミンが4モル%未満であると、ポリイミドの誘電特性が低下する傾向になり、40モル%を超えると、ポリイミドのガラス転移温度の低下によって耐熱性が悪化する傾向となる。
【0050】
ダイマー酸型ジアミンは、市販品が入手可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、コグニスジャパン社製のバーサミン551(商品名)、同バーサミン552(商品名)等が挙げられる。
【0051】
また、基R
2は、例えば下記の式(5)〜式(7)で表されるものを挙げることができる。
【0052】
【化3】
[式(5)〜式(7)において、R
3は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、Zは単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO
2−、−NH−若しくは−CONH−から選ばれる2価の基を示し、n
1は独立に0〜4の整数を示す]
【0053】
特に、ポリイミドの極性基を減らし、誘電特性を向上させるという観点から、基R
2としては、式(5)〜式(7)中のZが単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、R
3が炭素数1〜6の1価の炭化水素基、n
1が0〜4の整数であることが好ましい。
【0054】
基R
2を残基として有するジアミンとしては、例えば4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4''-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等が挙げられる。
【0055】
誘電特性を踏まえ、低誘電率ポリイミドの前駆体の調製に好適に用いられる芳香族テトラカルボン酸無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)等を挙げることができる。その中でも、特に好ましい酸無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)等を挙げることができる。これらの芳香族テトラカルボン酸無水物は、2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0056】
また、誘電特性を踏まえ、低誘電率ポリイミドの前駆体の調製に好適に用いられる芳香族ジアミンとしては、例えば、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等を挙げることができる。その中でも、特に好ましいジアミン成分としては、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)等を挙げることができる。これらの芳香族ジアミンは、2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0057】
上記酸無水物及びジアミンはそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。また、上記一般式(1)及び(2)に含まれないその他のジアミン及び酸無水物を上記の酸無水物又はジアミンと共に使用することもでき、この場合、その他の酸無水物又はジアミンの使用割合は好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下とすることがよい。酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等を制御することができる。
【0058】
一般式(1)及び(2)で表わされる構成単位を有する低誘電率ポリイミドは、上記芳香族テトラカルボン酸無水物、ダイマー酸型ジアミン及び芳香族ジアミンを溶媒中で反応させ、前駆体樹脂を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることで低誘電率ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜30質量%の範囲内、好ましくは10〜20質量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶剤の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5〜30質量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0059】
合成された前駆体は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、前駆体は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。前駆体をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0060】
上記の低誘電率ポリイミドから形成されるポリイミド層の中でも、低接着性であって、低熱膨張性のポリイミド層は、ベースフィルム層(絶縁樹脂層の主層)としての適用が好適である。具体的には、熱線膨張係数が10ppm/K以上30ppm/K以下の範囲内、好ましくは10ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内、より好ましくは15ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内にある低熱膨張性の低誘電率ポリイミドをベースフィルム層に適用すると大きな効果が得られる。一方、上記熱線膨張係数を超える低誘電率ポリイミド層も、例えば金属層や他の樹脂層などとの接着層としての適用が好適である。このような接着性ポリイミド層として好適に用いることができる低誘電率ポリイミドとして、そのガラス転移温度が、例えば360℃以下であるものが好ましく、200〜320℃の範囲内にあるものがより好ましい。
【0061】
低熱膨張性の低誘電率ポリイミド層を形成するポリイミドとしては、一般式(1)及び(2)で表される構造単位を有するポリイミドが好ましい。一般式(1)及び(2)において、基Arは式(3)又は式(4)で表される4価の芳香族基を示し、基R
1はダイマー酸型ジアミンから誘導される2価のダイマー酸型ジアミン残基、基R
2は式(5)又は式(7)で表される2価の芳香族基を示し、R
3は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、W又はZは独立に単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO
2−、−NH−若しくは−CONH−から選ばれる2価の基を示し、n
1は独立に0〜4の整数を示す。このような構造単位を有する低熱膨張性の低誘電率ポリイミドの中で、好適に利用できるポリイミドは、非熱可塑性の低誘電率ポリイミドである。
【0062】
上記一般式(1)及び(2)において、基Arは酸無水物の残基、基R
1はダイマー酸型ジアミン残基、基R
2はジアミンの残基ということができるので、好ましい非熱可塑性の低誘電率ポリイミドをジアミンと酸無水物により説明する。しかし、非熱可塑性の低誘電率ポリイミドは、ここで説明するジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
【0063】
非熱可塑性の低誘電率ポリイミドの形成に好適に用いられる酸無水物としては、上記の低誘電率ポリイミドの説明で挙げた酸無水物を挙げることができる。この中でも、特に好ましい酸無水物としては、無水ピロメリット酸(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)から選ばれる1種以上の酸無水物が挙げられる。
【0064】
非熱可塑性の低誘電率ポリイミドの形成に好適に用いられる芳香族ジアミンとしては、上記の低誘電率ポリイミドの説明で挙げたジアミンを挙げることができる。この中でも、特に好ましいジアミンとしては、耐熱性及び寸法安定性の観点から、分子内にフェニレン基又はビフェニレン基を有するものが好ましく、例えば、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選ばれる1種以上のジアミンが挙げられる。
【0065】
接着性の低誘電率ポリイミド層を形成するポリイミドとしては、一般式(1)及び(2)で表される構造単位を有するポリイミドが好ましい。一般式(1)及び(2)において、基Arは、式(3)又は式(4)で表される4価の芳香族基を示し、基R
2は、式(5)、式(6)又は式(7)で表される2価の芳香族基を示し、R
3は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、W及びZは独立に単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−、−SO
2−若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、n
1は独立に0〜4の整数を示す。このような構造単位を有する接着性の低誘電率ポリイミドの中で、好適に利用できる低誘電率ポリイミドは、熱可塑性の低誘電率ポリイミドである。
【0066】
上記一般式(1)及び(2)において、基Arは酸無水物の残基、基R
1はダイマー酸型ジアミン残基、基R
2はジアミンの残基ということができるので、好ましい熱可塑性の低誘電率ポリイミドをジアミンと酸無水物により説明する。しかし、熱可塑性の低誘電率ポリイミドは、ここで説明するジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
【0067】
熱可塑性の低誘電率ポリイミドの形成に好適に用いられる酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物等が挙げられる。その他、上記の低誘電率ポリイミドの説明で挙げた酸無水物を挙げることができる。この中でも、特に好ましい酸無水物としては、無水ピロメリット酸(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)から選ばれる1種以上の酸無水物が挙げられる。
【0068】
熱可塑性の低誘電率ポリイミドの形成に好適に用いられる芳香族ジアミンとしては、耐熱性及び接着性の観点から、分子内にフェニレン基又はビフェニレン基を有するもの、あるいは、分子内に酸素元素又は硫黄元素を含む2価の連結基を有するものが好ましく、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。その他、上記の低誘電率ポリイミドの説明で挙げたジアミンを挙げることができる。この中でも、特に好ましいジアミン成分としては、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2-ジメチルプロパン(DANPG)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、パラフェニレンジアミン(p−PDA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DAPE34)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DAPE44)から選ばれる1種以上のジアミンを挙げることができる。
【0069】
ポリイミド層の形成方法については特に限定されないが、例えば、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を銅箔もしくは任意の基材上に塗布した後に熱処理(乾燥、硬化)を施して銅箔上もしくは基材上にポリイミド層(又はポリアミド酸層)を形成する方法を挙げることができる。ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を銅箔もしくは基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。多層のポリイミド層の形成に際しては、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を銅箔もしくは基材に塗布、乾燥する操作を繰り返す方法が好ましい。銅箔以外の基材を用いる場合は、熱処理後、剥離してポリイミドフィルムとし、このポリイミドフィルムを銅箔とラミネートすればよい。
【0070】
本実施の形態では、必要に応じて、ポリイミド層中に無機フィラーを含有してもよい。具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0071】
<銅箔>
金属層として銅箔を用いる場合、市販の銅箔を使用できる。銅箔は圧延銅箔でもよいし、電解銅箔でもよい。例えば、圧延銅箔としては、JX日鉱日石金属株式会社製のBHY−22B−T(商品名)、同GHY5−93F−T(商品名)などが挙げられ、電解銅箔としては、古河電気工業株式会社製のF1−WS(商品名)、日本電解株式会社製のHLS(商品名)、同HLS−Type2(商品名)、同HLB(商品名)、JX日鉱日石金属株式会社製のAMFN(商品名)などが挙げられる。
【0072】
本実施の形態の銅張積層体の好ましい製造方法は、以下の工程(1)〜(3)を含むことができる。
工程(1):
工程(1)は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の樹脂溶液を得る工程である。この工程は、上記のとおり、原料のダイマー酸型ジアミン及び芳香族ジアミンを含むジアミン成分と酸無水物成分を適宜の溶媒中で反応させることにより行うことができる。
【0073】
工程(2):
工程(2)は、銅箔上に、ポリアミド酸の樹脂溶液を塗布し、塗布膜を形成する工程である。銅箔は、カットシート状、ロール状のもの、又はエンドレスベルト状などの形状で使用できる。生産性を得るためには、ロール状又はエンドレスベルト状の形態とし、連続生産可能な形式とすることが効率的である。さらに、回路基板における配線パターン精度の改善効果をより大きく発現させる観点から、銅箔は長尺に形成されたロール状のものが好ましい。
【0074】
塗布膜を形成する方法は、ポリアミド酸の樹脂溶液を銅箔の上に直接塗布するか、又は銅箔に支持されたポリイミド層の上に塗布した後に乾燥することで形成できる。塗布する方法は特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0075】
ポリイミド層は、単層でもよいし、複数層からなるものでもよい。ポリイミド層を複数層とする場合、異なる構成成分からなる前駆体の層の上に他の前駆体を順次塗布して形成することができる。前駆体の層が3層以上からなる場合、同一の構成の前駆体を2回以上使用してもよい。層構造が簡単である2層又は単層は、工業的に有利に得ることができるので好ましい。また、前駆体の層の厚み(乾燥後)は、例えば、3〜100μmの範囲内、好ましくは3〜50μmの範囲内にあることがよい。また、単層又は複数層の前駆体の層を一旦イミド化して単層又は複数層のポリイミド層とした後に、更にその上に前駆体の層を形成することも可能である。
【0076】
ポリイミド層を複数層とする場合、ベースフィルム層(絶縁樹脂層の主層)として、低接着性であって、低熱膨張性のポリイミド層を適用することが好適である。具体的には、熱線膨張係数が10ppm/K以上30ppm/K以下の範囲内、好ましくは10ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内、より好ましくは15ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内にある低熱膨張性のポリイミドをベースフィルム層に適用すると、寸法安定性の維持と反りの抑制に大きな効果が得られる。非熱可塑性ポリイミド層は、低誘電率ポリイミドでもよいし、低誘電率ポリイミド以外のポリイミドで構成してもよい。
【0077】
また、ポリイミド層を複数層とする場合、銅箔層に接するポリイミド層が熱可塑性ポリイミド層となるように前駆体の層を形成することが好ましい。熱可塑性ポリイミドを用いることで、銅箔層との密着性を向上させることができる。このような熱可塑性ポリイミドは、ガラス転移温度(Tg)が360℃以下であるものが好ましく、より好ましくは200〜320℃である。熱可塑性ポリイミド層は、低誘電率ポリイミドでもよいし、低誘電率ポリイミド以外のポリイミドで構成してもよい。
【0078】
工程(3):
工程(3)は、塗布膜を熱処理してイミド化し、絶縁樹脂層を形成する工程である。イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。銅箔層の酸化を抑制するため、低酸素雰囲気下での熱処理が好ましく、具体的には、窒素又は希ガスなどの不活性ガス雰囲気下、水素などの還元ガス雰囲気下、あるいは真空中で行うことが好ましい。熱処理により、塗布膜中のポリアミド酸がイミド化し、ポリイミドが形成される。
【0079】
以上のようにして、ポリイミド層(単層又は複数層)と銅箔層とを有する銅張積層体を製造することができる。
【0080】
[回路基板及びその調製]
本実施の形態の回路基板は、絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層上に形成された配線層と、を有する。本実施の形態の回路基板において、絶縁樹脂層は、単層又は複数層のポリイミド層を有することができる。この場合、回路基板に優れた高周波特性と湿度に対する安定性を付与するためには、ポリイミド層の少なくとも1層が、上記非熱可塑性の低誘電率ポリイミド又は熱可塑性の低誘電率ポリイミドを用いて形成されていることが好ましく、ポリイミド層の全部が、上記非熱可塑性の低誘電率ポリイミド及び/又は上記熱可塑性の低誘電率ポリイミドを用いて形成されていることが好ましい。また、絶縁樹脂層と配線層との接着性を高めるため、絶縁樹脂層における配線層に接する層が、熱可塑性のポリイミド層であることが好ましい。例えば、非熱可塑性のポリイミド層をP1、熱可塑性のポリイミド層をP2、配線層をM2とすると、絶縁樹脂層を2層とする場合には、P1/P2/M2の順に積層することが好ましい。また、絶縁樹脂層を3層とする場合には、P2/P1/P2/M2の順、又は、P1/P1/P2/M2の順に積層することが好ましい。なお、P1、P2のいずれかの層は、低誘電率ポリイミド以外のポリイミドによって構成されていてもよい。
【0081】
本実施の形態において、回路基板を作成する方法は問われない。例えば、絶縁樹脂層と金属層で構成される金属張積層体を用意し、金属層を所定形状にエッチングすることによってパターン形成し、配線を形成するサブトラクティブ法でもよい。エッチングは、例えばフォトリソグラフィー技術などを利用する任意の方法で行うことができる。
【0082】
なお、以上の説明では、回路基板の製造方法の特徴的工程のみを説明した。すなわち、回路基板を製造する際に、通常行われる上記以外の工程、例えば前工程でのスルーホール加工や、後工程の端子メッキ、外形加工などの工程は、常法に従い行うことができる。
【0083】
以上のようにして、インピーダンス整合性と湿度に対する安定性に優れた金属張積層体及び回路基板を製造することができる。本発明によれば、FPCに代表される回路基板において、電気信号の伝送特性を改善できるので、回路基板の信頼性を向上させることができる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0085】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から250℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、240℃から100℃までの平均熱膨張係数(線熱膨張係数)を求めた。
【0086】
[吸湿率の測定]
吸湿率は、以下の手順で測定した。熱膨張係数(CTE)の評価と同様にして調製したフィルム状のサンプルから、試験片(幅4cm×長さ20cm)を3枚用意し、120℃で1時間乾燥した。乾燥後直ちに23℃/50%RHの恒温恒湿室に入れ、24時間以上静置し、その前後の重量変化から次式により求めた。
吸湿率(質量%)=[(吸湿後重量−乾燥後重量)/乾燥後重量]×100
【0087】
[透湿率の測定]
透湿率は、JIS Z0208に準拠したカップ法により測定した。透過面積2.826×10
−3m
2のアルミニウム製の透湿カップ内に吸湿剤として塩化カルシウム(無水)を入れ、上記フィルム状のサンプルによって封入した。その後、40℃、90%RHの試験条件下で24時間毎の秤量操作を繰り返し、カップの質量増加を水蒸気の透過量として評価した。評価は、透湿率が60g/m
2・24h以下の場合を◎(優良)、60g/m
2・24hを超えて100g/m
2・24h以下の場合を○(良)、100g/m
2・24hを上回る場合を×(不良)とした。
【0088】
[誘電率及び誘電正接の測定]
誘電率及び誘電正接は、空洞共振器摂動法誘電率評価装置(Agilent社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363B)を用い、所定の周波数における樹脂シート(硬化後の樹脂シート)の誘電率および誘電正接を測定した。なお、測定に使用した樹脂シートは、温度;24〜26℃、湿度;45〜55%の条件下で、24時間放置したものである。
【0089】
[銅箔の表面粗さの測定]
1)二乗平均粗さ(Rq)の測定
触針式表面粗さ計(株式会社小坂研究所製、商品名;サーフコーダET−3000)を用い、Force;100μN、Speed;20μm、Range;800μmの測定条件によって求めた。なお、表面粗さの算出は、JIS−B0601:2001に準拠した方法により算出した。
2)算術平均高さ(Ra)の測定
触針式表面粗さ計(株式会社小坂研究所製、商品名;サーフコーダET−3000)を用い、Force;100μN、Speed;20μm、Range;800μmの測定条件によって求めた。なお、表面粗さの算出は、JIS−B0601:1994に準拠した方法により算出した。
3)十点平均粗さ(Rz)の測定
触針式表面粗さ計(株式会社小坂研究所製、商品名;サーフコーダET−3000)を用い、Force;100μN、Speed;20μm、Range;800μmの測定条件によって求めた。なお、表面粗さの算出は、JIS−B0601:1994に準拠した方法により算出した。
【0090】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
(A)ポリイミド原料
DDA:ダイマー酸型ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074、炭素数;36、アミン価;205mgKOH/g、ダイマー成分の含有量;95質量%以上)
m‐TB:2,2’‐ジメチル‐4,4’‐ジアミノビフェニル
BAPP:2,2‐ビス(4‐アミノフェノキシフェニル)プロパン
MABA:4,4’−ジアミノ−2’−メトキシベンズアニリド
DAPE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BTDA:3,3',4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
【0091】
(B)銅箔
銅箔(1):電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂積層側の表面粗度Rq;0.14μm、Rz;0.64μm、Ra;0.10μm)
銅箔(2):電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂積層側の表面粗度Rq;0.19μm、Rz;1.06μm、Ra;0.16μm)
銅箔(3):電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂積層側の表面粗度Rq;0.35μm、Rz;1.51μm、Ra;0.28μm)
【0092】
合成例1
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、4.193gのDDA(0.0079モル)、14.994gのm‐TB(0.0706モル)及び212.5gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、4.618gのBPDA(0.0157モル)及び13.694gのPMDA(0.0628モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液aを得た。ポリアミド酸溶液aの溶液粘度は24,000cpsであった。
【0093】
合成例2〜10
表1及び表2に示す原料組成とした他は、合成例1と同様にしてポリアミド酸溶液b〜jを調製した。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
[実施例1]
銅箔2に、ポリアミド酸溶液fを硬化後の厚みが約2〜3μmとなるように均一に塗布した後、85℃〜110℃まで段階的な加熱処理にて乾燥し溶媒を除去した。次に、その上にポリアミド酸溶液aを硬化後の厚みが、約42〜46μmとなるように均一に塗布し、85℃〜110℃まで段階的な加熱処理にて溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液fを硬化後の厚みが約2〜3μmとなるように均一に塗布した後、85℃〜110℃まで段階的な加熱処理にて溶媒を除去した。このようにして、3層のポリアミド酸層を形成した後、120℃から320℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結して、銅張積層板1を得た。得られた銅張積層板1のポリイミド絶縁層側に、銅箔1を重ね合わせ、温度380℃、圧力6.7MPaの条件で15分間熱圧着して、銅張積層板1’を得た。得られた銅張積層板1’について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、厚さが約50μmのポリイミドフィルム1を得た。
ポリイミドフィルム1のCTE、吸湿率、透湿率、誘電率及び誘電正接を求めた。CTEは18.6ppm/K、吸湿率は0.50質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.06、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0029であった。
【0097】
[実施例2]
実施例1におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液gを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム2を得た。
得られたポリイミドフィルム2のCTEは17.8ppm/K、吸湿率は0.50 質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.06、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0029であった。
【0098】
[実施例3]
実施例1におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液hを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム3を得た。
得られたポリイミドフィルム3のCTEは16.7ppm/K、吸湿率は0.51質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.06、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0030であった。
【0099】
[実施例4]
実施例1におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液iを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム4を得た。
得られたポリイミドフィルム4のCTEは15.1ppm/K、吸湿率は0.52質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.06、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0030であった。
【0100】
[実施例5]
実施例1におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液jを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム5を得た。
得られたポリイミドフィルム5のCTEは15.1ppm/K、吸湿率は0.55質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.06、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0031であった。
【0101】
[実施例6]
実施例1におけるポリアミド酸溶液aの代わりにポリアミド酸溶液bを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム6を得た。
得られたポリイミドフィルム6の吸湿率は0.56質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.10、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0033であった。
【0102】
[実施例7]
実施例6におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液gを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム7を得た。
得られたポリイミドフィルム7のCTEは16.3ppm/K、吸湿率は0.56質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.10、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0033であった。
【0103】
[実施例8]
実施例6におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液hを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム8を得た。
得られたポリイミドフィルム8のCTEは15.1ppm/K、吸湿率は0.57質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.10、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0034であった。
【0104】
[実施例9]
実施例6におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液iを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム9を得た。
得られたポリイミドフィルム9のCTEは13.5ppm/K、吸湿率は0.58質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.10、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0035であった。
【0105】
[実施例10]
実施例6におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液jを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム10を得た。
得られたポリイミドフィルム10のCTEは13.5ppm/K、吸湿率は0.61質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.10、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0036であった。
【0106】
[実施例11]
実施例1におけるポリアミド酸溶液aの代わりにポリアミド酸溶液cを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム11を得た。
得られたポリイミドフィルム11のCTEは14.3ppm/K、吸湿率は0.62質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.12、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0044であった。
【0107】
[実施例12]
実施例11におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液gを使用したこと以外、実施例11と同様にしてポリイミドフィルム12を得た。
得られたポリイミドフィルム12のCTEは13.6ppm/K、吸湿率は0.63質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.13、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0044であった。
【0108】
[実施例13]
実施例11におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液hを使用したこと以外、実施例11と同様にしてポリイミドフィルム13を得た。
得られたポリイミドフィルム13のCTEは12.4ppm/K、吸湿率は0.64質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.13、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0045であった。
【0109】
[実施例14]
実施例11におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液iを使用したこと以外、実施例11と同様にしてポリイミドフィルム14を得た。
得られたポリイミドフィルム14のCTEは10.8ppm/K、吸湿率は0.67質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.13、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0045であった。
【0110】
[実施例15]
実施例11におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液jを使用したこと以外、実施例11と同様にしてポリイミドフィルム15を得た。
得られたポリイミドフィルム15のCTEは10.8ppm/K、吸湿率は0.67質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、周波数3GHzにおける誘電率は3.13、周波数3GHzにおける誘電正接は0.0045であった。
【0111】
[合成例11、12]
表3に示す原料使用料(重量部)で、以下の方法によってポリアミド酸溶液A、Bを合成した。500mlのセパラブルフラスコの中で、攪拌しながら溶剤DMAc340gにジアミノ化合物を溶解させた。次いで、窒素気流下で無水物成分を加えた。その後、溶液を室温に戻し、3時間攪拌を続けて重合反応を行い、A、Bの粘稠なポリアミド酸溶液を得た。
【0112】
【表3】
【0113】
[比較例1]
18μm厚みの銅箔を使用し、この銅箔上に合成例12で調製したポリアミド酸溶液Bを25μmの厚みで均一に塗布したのち、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。次に、その上に積層するように合成例11で調製したポリアミド酸溶液Aを195μmの厚みで均一に塗布し、70℃〜130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、ポリアミド酸A層上に合成例12で調製したポリアミド酸溶液Bを37μmの厚みで均一に塗布し、140℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、室温から360℃まで約5時間かけて熱処理しイミド化させ、3層のポリイミド層からなる合計厚み約25μmの絶縁樹脂層が銅箔上に形成された積層体M1を得た。銅箔上に塗布したポリイミド前駆体の乾燥後厚みは、銅箔側からB/A/Bの順に、約2.5μm/約19μm/約3.5μmである。
積層体M1を用い、150秒で外層側からポリイミドエッチングを行った。ポリイミドエッチング後、銅箔エッチングにより銅箔を除去し、残されたポリイミドフィルムの誘電率と水蒸気透湿率の測定を行った。その結果、19.5GHzにおける誘電率は2.92、透湿率は×(181g/m
2・24h)、CTEは15ppm/Kであった。
【0114】
[比較例2]
実施例1で得られた積層体M1を用い、170秒で外層側からポリイミドエッチングを行った。ポリイミドエッチング後、銅箔エッチングにより銅箔を除去し、残されたポリイミドフィルムの誘電率と水蒸気透湿率の測定を行った。その結果、19.5GHzにおける誘電率は2.63、透湿率は×(735g/m
2・24h)、CTEは14ppm/Kであった。
【0115】
[比較例3]
実施例1におけるポリアミド酸溶液aの代わりにポリアミド酸溶液dを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム16を得た。
得られたポリイミドフィルム16のCTEは11.5ppm/K、吸湿率は0.75質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、誘電率は3.20、誘電正接は0.0070であった。
【0116】
[比較例4]
実施例1におけるポリアミド酸溶液aの代わりにポリアミド酸溶液eを使用したこと以外、実施例1と同様にしてポリイミドフィルム17を得た。
得られたポリイミドフィルム17のCTEは9.0ppm/K、吸湿率は1.01質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、誘電率は3.25、誘電正接は0.0104であった。
【0117】
[比較例5]
比較例3におけるポリアミド酸溶液fの代わりにポリアミド酸溶液jを使用したこと以外、比較例3と同様にしてポリイミドフィルム18を得た。
得られたポリイミドフィルム18のCTEは5.7ppm/K、吸湿率は1.06質量%、透湿率は◎(60g/m
2・24h以下)、誘電率は3.25、誘電正接は0.0106であった。
【0118】
[比較例6]
反応容器内を窒素置換した後、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール450質量部と5−アミノ−2−(m−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール50質量部とを仕込んだ。次いで、N,N−ジメチルアセトアミド5100質量部を加えて完全に溶解させた後、ピロメリット酸二無水物485質量部を加え、25℃の反応温度で40時間攪拌し、褐色で粘調なポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を基材に塗布し、90℃にて60分間乾燥した後剥離してポリアミド酸フィルムを得た。このポリアミド酸フィルムを、170℃にて3分間熱処理した後、450℃まで、約70℃/分にて昇温し、450℃にて10分間熱処理し、5分間かけて室温まで冷却することによって、厚み25μmのポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得た。このポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、CTE6ppm/K、周波数100GHzにおける誘電率2.9であった。
【0119】
[比較例7]
ポリアミド酸フィルムを、200℃にて3分間熱処理した後、480℃まで約60℃/分にて昇温し、さらに、480℃にて15分間熱処理した以外は、比較例1と同様にしてポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得た。このポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、CTEが6ppm/K、周波数100GHzにおける誘電率が2.7であった。
【0120】
以上のように、構成a)〜e)を具備する実施例の銅張積層板は、ポリイミド層の誘電率及び誘電正接が低く、インピーダンス整合性に優れるとともに、吸湿率及び透湿率が低く、湿度に対する安定性も優れたものであった。
【0121】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。