【解決手段】 酸化ニッケル及び有機物が被覆したニッケル粒子であって、真空下の200〜500℃の温度領域における昇温脱離質量スペクトル(TPD−MSスペクトル)における、二酸化炭素の発生モル数に対する水の発生モル数の比(水/二酸化炭素)が、1以上5以下の範囲内であり、前記昇温脱離質量スペクトルにおける水の発生量が、ニッケル元素1g当たり、1.0×10
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ニッケル粒子]
本実施の形態のニッケル粒子は、酸化ニッケル及び有機物が被覆したニッケル粒子である。本実施の形態のニッケル粒子の粒子表面には、酸素元素、炭素元素及び水素元素が存在している。酸素元素は、主に、酸化ニッケル(NiO)として、炭素元素及び水素元素は、有機物として存在している。
【0014】
本実施の形態のニッケル粒子は、ニッケル元素を含有する。ニッケル元素の含有量は、その使用目的に応じて適宜選択すればよいが、ニッケル元素の量を、ニッケル粒子100質量部に対し、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上とすることがよい。ニッケル以外の金属としては、例えば、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、シリコン、アルミニウム、リン等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、ネオジウム、ニオブ、ホロニウム、ディスプロヂウム、イットリウム等の貴金属、希土類金属を挙げることができる。これは、単独で又は2種以上含有していてもよい。また、本実施の形態のニッケル粒子は、窒素、硫黄、ボロン等の金属元素以外の元素を含有していてもよいし、これらの合金であってもよい。
【0015】
<酸化物被膜>
本実施の形態のニッケル粒子は、酸化ニッケルの被膜を有している。酸化ニッケルは、不動体被膜を形成し、ニッケル粒子の熱収縮特性に寄与する。酸化ニッケルの被膜は、ニッケル粒子を構成する金属ニッケルの粒子表面に部分的に存在する被膜でもよいし、該粒子の全表面に亘る被膜でもよい。このような酸化ニッケルの被膜により、ニッケル粒子の表面活性が抑制され、脱バインダーの低温燃焼又は急激な熱分解を抑制することができる。ニッケル粒子における酸化ニッケルの被膜が還元されて存在しなくなると、ニッケル粒子の焼結が開始される。
【0016】
水酸化ニッケルの被膜も同様に、熱収縮特性に寄与するが、水酸化ニッケルの被膜が多くなると、例えば非極性溶媒へのニッケル粒子の分散性が低下する原因ともなり、また、酸化ニッケルに比べて熱収縮が大きくなるばかりか、脱バインダー時の水蒸気などのガス発生の原因ともなり、MLCC製造の熱処理工程での剥離やクラック等の欠陥を生じやすい。このような観点から、本実施の形態のニッケル粒子は、拡散反射法による赤外線吸収スペクトルにおける波数が3600〜3700cm
−1において吸収ピークを有しないことが好ましい。拡散反射法による赤外線吸収スペクトルにおける3600〜3700cm
−1の波数領域で観察される吸収ピークは、ニッケル粒子の表面に物理的に吸着した水に起因するものではなく、水酸化ニッケルに起因するものである。また、本実施の形態の好ましいニッケル粒子は、上記のように赤外線吸収スペクトルに波数3644cm
−1付近の強いピークを有しないものであり、このピークには、例えば細かいノイズピーク等は含まれず、ベースラインを引いたときに、そのピークの強度又は面積が測定可能であるようなピークのことを意味する。
【0017】
本実施の形態のニッケル粒子における酸素元素の含有量は0.2〜2.5質量%の範囲内であり、好ましくは0.5〜2.0質量%の範囲内がよい。酸素元素の含有量が、0.2質量%未満であると、ニッケル粒子の表面活性を抑制する効果が小さくなる傾向があり、2.5質量%を超えると、焼結時に体積変化が生じやすくなる傾向がある。この酸素含有量は、ニッケル粒子の元素分析により確認することができる。このような酸素含有量は、ニッケル粒子の表面に部分的に存在する酸化物の被膜に含有される酸素元素に由来するものと考えられる。このことは、ニッケル粒子における酸化物の被膜の厚みが、平均粒子径の大小によらず殆ど大差がないのに対し、ニッケル粒子の平均粒子径が小さくなるにつれ、酸素元素の含有量が高くなる傾向があることから推察される。すなわち、ニッケル粒子の平均粒子径が小さいほど、その総表面積(全てのニッケル粒子の合計の表面積)が大きいので、ニッケル粒子全体に占める酸素元素の含有量が相対的に大きくなると考えられる。
【0018】
<有機物被膜>
本実施の形態のニッケル粒子において、有機物の被膜は、ニッケル前駆体(ニッケル塩)又は有機溶媒に由来する。有機物の被膜は、ニッケル粒子の分散性向上に寄与する。有機物の被膜を有することによって、特に非極性溶剤への分散性が向上する。熱収縮特性の改善と分散性の改善を両立させる為には、ニッケル粒子が含有する酸素と有機物に由来する炭素とを適切な量で存在させることが重要である。炭素元素の含有量は、ニッケル粒子に対し、好ましくは0.1〜1.5質量%の範囲内であり、より好ましくは0.5〜1.0質量%の範囲内である。この炭素元素の量は、ニッケル粒子の元素分析により確認することができる。炭素元素は、ニッケル粒子の表面に存在する有機化合物に由来するものであるが、炭素元素の一部がニッケル粒子の内部に存在していてもよい。ニッケル粒子の表面に存在する炭素元素は、ニッケル粒子の凝集を抑制し、分散性向上に寄与し、ニッケル粒子に含有する酸素元素の還元を促進させる。従って、炭素元素が0.1質量%未満では、ニッケル粒子の凝集が生じやすくなり、1.5質量%を超えると、焼結時に炭化して残炭となり、これがガス化することによって粒子の膨れの原因となる。
【0019】
また、本実施の形態のニッケル粒子は、酸化ニッケル及び有機物が被覆して(有機物被膜を有して)いるが、このようなニッケル粒子を不活性雰囲気又は真空下で加熱すると、水と二酸化炭素が発生する。本発明の実施の形態のニッケル粒子は、真空下の200〜500℃の温度領域における昇温脱離質量スペクトル(TPD−MSスペクトル)における、二酸化炭素の発生モル数に対する水の発生モル数の比(水/二酸化炭素)が、1以上5以下の範囲内である。水の二酸化炭素は、主としてニッケル粒子の表面に存在する酸化ニッケルと有機物との反応により発生するものであり、上記の範囲内とすることで、ニッケル粒子の分散性の向上と熱収縮性の向上を両立させることができる。ニッケル粒子の表面に被覆する有機物が少ない場合は、特に非極性溶媒中でのニッケル粒子の分散性が低下し、過剰の場合は、脱バインダー工程時において、多量のガス(例えば二酸化炭素、一酸化炭素、炭化水素など)が発生して剥離の原因になるばかりか、炭素が残留し、これがガス化することにより、剥離やボイドの原因となる。
【0020】
また、上記加熱によって発生する水は、ニッケル元素1g当たり、1.0×10
20〜5.0×10
20個の範囲内である。水の発生量が、ニッケル元素1g当たり、1.0×10
20個未満の場合は、ニッケル粒子の熱収縮性の低下の原因となり、5.0×10
20個を超えると、脱バインダー時に多量のガスが発生し、剥離やボイドの原因となるほか、ニッケル粒子の熱収縮が大きくなる。
【0021】
本実施の形態に係るニッケル粒子は、走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が30〜180nmの範囲内、好ましくは40〜150nmの範囲内がよい。別の観点から、BET測定による平均粒子径が30〜180nmの範囲内、好ましくは40〜150nmの範囲内がよい。ニッケル粒子の平均粒子径が上記下限値を下回ると、脱バインダー時の加熱でニッケル粒子同士が凝集又溶融しやすくなり、また酸素を取り込みやすくなるため、ニッケル粒子の体積膨張や収縮変化が大きくなる。一方、ニッケル粒子の平均粒子径が上記上限値を上回ると、最小径の粒子及び最大径の粒子の分布幅が大きくなり、ニッケル粒子をMLCCの電極に利用した場合に、巨大粒子の存在によりショート不良を起こしやすい。
【0022】
本実施の形態に係るニッケル粒子は、粒子径の変動係数(標準偏差/平均粒子径;CV)が0.2以下であることが好ましい。変動係数を0.2以下とすることで、ペースト塗布後の乾燥塗膜の表面平滑性が得られやすい。
【0023】
[ニッケル粒子の製造方法]
次に、本実施の形態のニッケル粒子の製造方法について説明する。
【0024】
本実施の形態のニッケル粒子は、気相法や液相法などの方法により得られるが、その製造方法については特に限定されない。気相法では、例えば、気化部、反応部、冷却部を有する反応装置を用いるとともに、原料として塩化ニッケルを用い、この塩化ニッケルを気化部で加熱気化した後にキャリアガスで反応部に移送し、ここで水素と接触させることによって粒子状に金属を析出させ、その後、得られたニッケル粒子を冷却部で冷却するようにして得ることができる。反応温度は、例えば950℃〜1100℃程度に制御すればよい。
【0025】
この方法におけるニッケル粒子の粒径制御は、例えばキャリアガスの流速を制御することによって実施できる。一般に、キャリアガスの流速を上昇させれば、得られるニッケル粒子の粒径は小さくなる傾向がある。また、得られたニッケル粒子は、例えば遠心力を用いた分級手段などを用いることによって変動係数を制御することもできる。
【0026】
気相法は液相法に比べて製造コストが高価になりがちであるので、液相法を適用することは有利である。液相法のなかでも、粒子径分布が狭いニッケル粒子を短時間で容易に製造する方法として、下記の工程A〜C;
A)金属ニッケルの前駆体であるニッケル塩を有機溶媒に溶解して、ニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程、
B)錯化反応液を、マイクロ波照射によって加熱して、ニッケル粒子のスラリーを得る工程、
C)ニッケル粒子のスラリーからニッケル粒子を単離する工程、
を具える方法が好ましい。
【0027】
工程A)錯化反応液生成工程:
ニッケル前駆体(ニッケル塩)としては、例えば塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、カルボン酸ニッケル、Ni(acac)
2(β−ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等を挙げることができる。ここで、カルボン酸ニッケルとしては、例えば炭素数が1〜12のカルボン酸ニッケルを用いることができる。カルボン酸ニッケルは、カルボキシ基が1つのモノカルボン酸であってもよく、カルボキシ基が2つ以上のカルボン酸であってもよい。また、非環式カルボン酸であってもよく、環式カルボン酸であってもよい。好ましいカルボン酸ニッケルとして、例えばギ酸ニッケル、酢酸ニッケル等を用いることができる。
【0028】
有機溶媒は、ニッケル塩を溶解できるものであれば、特に限定されず、例えばエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、金属塩に対して還元作用があるエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類等の有機溶媒が好ましい。このなかでも特に、1級の有機アミン(以下、「1級アミン」と略称する。)は、ニッケル塩との混合物を溶解することにより、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮しやすく、加熱による還元温度が高温のニッケル塩に対して有利に使用できる。1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。
【0029】
常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級の有機アミンであっても、加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0030】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するニッケル粒子の粒径を制御することができる。ニッケル粒子の粒径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるニッケル粒子の粒径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。
【0031】
1級アミンは、還元反応後の生成したニッケル粒子の固体成分と溶剤または未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からは室温で液体のものが好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元してニッケル粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。1級アミンの量は、ニッケル塩1molに対して1mol以上用いることが好ましく、1.2mol以上用いることがより好ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られるニッケル粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは20mol以下とすることが好ましい。
【0032】
均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンとニッケルイオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0033】
錯形成反応は室温に於いても進行することができるが、十分且つ、より効率の良い錯形成反応を行うために、例えば100℃〜165℃の範囲内に加熱して反応を行う。この加熱は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、上記上限を適宜設定することができる。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0034】
工程B)ニッケル粒子スラリー生成工程:
本工程では、ニッケル塩と有機溶媒との錯形成反応によって得られた錯化反応液を、マイクロ波照射によって加熱し、錯化反応液中のニッケルイオンを還元して金属ニッケルを生成させ、ニッケル粒子のスラリーを得る。マイクロ波照射による錯化反応液の加熱は、該反応液内の均一加熱を可能とし、かつエネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行なうことができる。これにより、反応液全体を所望の温度に均一にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、結果として粒子径分布の狭い単分散な粒子を短時間で容易に製造することができる。特に、走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が30〜180nmの範囲内にあるニッケル粒子を製造するのに好適である。マイクロ波照射によって加熱する温度は、得られるニッケル粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは170℃以上、より好ましくは180℃以上とすることがよい。加熱温度の上限は特にないが、処理を効率的に行う観点からは例えば270℃以下とすることが好適である。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。
【0035】
均一な粒径を有するニッケル粒子を生成させるには、錯化反応液生成工程の加熱温度を特定の範囲内で調整し、ニッケル粒子スラリー生成工程におけるマイクロ波による加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、錯化反応液生成工程で加熱温度が高すぎるとニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し異種の金属種が発生することで、ニッケル粒子スラリー生成工程での粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、ニッケル粒子スラリー生成工程の加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)への還元反応速度が遅くなり核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、ニッケル粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0036】
ニッケル粒子スラリー生成工程においては、必要に応じ、前述した有機溶媒を加えてもよい。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることは、本発明の好適な実施の形態である。
【0037】
工程C)ニッケル粒子単離工程:
本工程では、マイクロ波照射によって加熱して得られるニッケル粒子スラリーを、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、ニッケル粒子が得られる。
【0038】
[プラズマ処理]
上記工程A〜Cによって製造したニッケル粒子に対し、プラズマ処理による表面改質を行うこともできる。ニッケル粒子のプラズマ処理は、プラズマ生成用ガスと、酸素含有ガスを含む処理ガスを、ニッケル粒子が収容された処理容器内に導入し、好ましくは大気圧でグロー放電を発生させることにより行うことができる。大気圧グロー放電を利用することによって、ニッケル粒子に対し、低温で、均一かつマイルドなプラズマ処理を行うことができる。また、大気圧グロー放電では、処理装置に真空設備を必要としないため、簡素な構成でプラズマ処理を実施できる。また、大気圧グロー放電では、ニッケル粒子を処理容器内に供給・排出しながらプラズマ処理を行う連続処理も可能になる。なお、ニッケル粒子のプラズマ処理は、減圧状態であっても、加圧状態であっても可能であり、減圧状態でのプラズマ処理の場合、圧力の下限値を0.1Paとすることが好ましい。この下限値を下回る場合、酸素濃度が極端に低くなり、ニッケル粒子の表面に所望の酸化被膜を形成することが困難となる。一方、加圧状態でのプラズマ処理の場合、圧力の上限値を10気圧(1MPa)とすることが好ましい。この上限値を上回る場合、大電力電源が必要になり、設備コストが著しく高くなるため好ましくない。
【0039】
プラズマ処理に用いるプラズマ生成用ガスとしては、例えばHe、Ar、Xe、Krなどの希ガスを用いることができる。
【0040】
酸素含有ガスとしては、O
2ガス、O
2ガスを含有するガス(例えば空気)のほか、例えばO
3、H
2O(水蒸気)、N
2Oなどを用いることができる。
【0041】
大気圧グロー放電における酸素含有ガスの濃度は、処理ガスの全流量に対し、0.01体積%以上10体積%以下の範囲内とすることが好ましい。酸素含有ガスの濃度が0.01体積%未満では、酸化力が弱く、ニッケル粒子表面での酸化物の被膜形成が不十分になりやすい。一方、酸素含有ガスの濃度が10体積%を超えると、酸化力が強くなりすぎてニッケル粒子表面の酸化物の被膜が厚くなりすぎる場合があり、また、安定したグロー放電が困難になることがある。
【0042】
大気圧グロー放電におけるプラズマ処理の温度は、ニッケル粒子の熱収縮を抑制しながら効率的な酸化処理を行うため、例えば5℃以上200℃以下の範囲内とすることが好ましく、20℃以上150℃以下の範囲内とすることがより好ましい。プラズマ処理の温度が5℃未満では、プラズマ装置内を冷却しなければならず、高コストとなり、200℃を超えるとニッケル粒子同士の凝結又は凝集が進行する傾向となる。ここで、プラズマ処理の温度とは、放射温度計で測定した場合のニッケル粒子の表面の温度を表すものである。
【0043】
大気圧グロー放電を生じさせるため高周波電力は、例えば50W以上500W以下の範囲内とすることが好ましい。高周波電力が、50W未満では、グロー放電が十分に発生しないため、ニッケル粒子の表面改質が不十分となり、500Wを超えると発熱が生じ、ニッケル粒子同士の凝結又は凝集が進行する傾向となる。このような観点から、高周波出力として、周波数は、例えば200Hz以上1MHz以下の範囲内とすることが好ましく、1kHz以上100kHz以下の範囲内とすることがより好ましい。
【0044】
プラズマ処理におけるプラズマ照射時間は、プラズマ出力と関係し、プラズマ出力が高ければプラズマ処理時間を短くすることができる。例えば高周波電力が50W以上500W以下の範囲内にある場合、プラズマ照射時間は、3分〜120分の範囲内とすることが好ましい。照射時間が3分未満では、ニッケル粒子の表面改質が不十分となり、照射時間が120分を超えると、ニッケル粒子の酸化が進行しすぎる恐れがある。また、例えば1kW程度の高周波電力でプラズマ処理を行う場合、プラズマ照射時間を1分程度と短くすることができる。このような観点から、プラズマ出力と照射時間を制御して、発熱を抑制することができる。なお、プラズマ処理は、連続的なプラズマ照射であってもよいし、間欠的なプラズマ照射であってもいが、ニッケル粒子の温度上昇を抑制するという観点から、間欠的なプラズマ照射が好ましい。
【0045】
上記条件でプラズマ処理を行うことによって、ニッケル粒子の表面の水酸化物被膜が酸化物被膜に改質される。すなわち、水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)のOH基が酸化されて酸化ニッケル(NiO)に変化する。
【0046】
次に、ニッケル粒子のプラズマ処理に好ましく利用できる処理装置について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、大気圧グロー放電によるプラズマを利用してニッケル粒子の表面改質処理を行うプラズマ処理装置1の一態様の概略構成を示している。このプラズマ処理装置1は、下部電極2及び上部電極3からなる上下一対の電極と、これら電極の間に配置される一対のガラス板4及びガラス板5と、これらガラス板4,5の間に介在するスペーサー6と、を備えている。また、プラズマ処理装置1は、ガラス板4とガラス板5の間の内部空間Sに処理ガスを供給するガス供給部7と、内部空間Sからガスを排気するガス排気部8と、を備えている。上部電極3は、高周波電源9と電気的に接続されており、下部電極2は接地されている。
【0047】
図1に示すように、ガラス板4,5とスペーサー6とによってニッケル粒子10を処理する処理室が形成され、その内部空間Sが、大気圧グロー放電によるプラズマ生成空間となっている。
【0048】
図1に示したプラズマ処理装置1では、ニッケル粒子10は、載置部を兼ねる下側のガラス板4上に配置される。そして、ガス供給部7から酸素含有ガスを含む処理ガスを導入し、ガス排気部8から排気を行いながら、上部電極3に高周波電力を供給することにより、下部電極2及び上部電極3からなる上下一対の電極間に電圧を印加し、グロー放電を発生させる。このグロー放電によって、内部空間Sでは酸素含有ガスのプラズマが生成し、ニッケル粒子10に対するプラズマ処理が行われる。大気圧グロー放電によるプラズマは、酸素ラジカルによるマイルドな酸化力を有しており、ニッケル粒子10の表面に存在する水酸化物の被膜を酸化物の被膜に変化させる。
【0049】
なお、
図1に例示したプラズマ処理装置1は、バッチ式であるが、ニッケル粒子10の内部空間Sへの供給と、表面改質後のニッケル粒子10の取り出しを連続的に行う連続方式の装置を用いることも可能である。
【0050】
以上のようにして製造されるニッケル粒子は、粒子表面の状態、特に酸素及び有機物に由来する炭素の含有量が適切に制御されている。そのため、脱バインダー時に被膜から速やかに水分が脱水されることにより、粒子の急激な温度上昇を抑制し、400℃以下の低温での粒子の焼結や凝集を防ぐことができる。また、焼結時にはニッケル粒子の内部への急激な酸化を抑制できるので、デラミネーションやクラック等の欠陥の発生を回避できる。このようなニッケル粒子は、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極の材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0052】
[平均粒子径の測定]
SEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの粒子径を求め、平均粒子径を算出した。具体的には、抽出した微粒子のそれぞれについて面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径とした。
【0053】
[熱機械分析(TMA)、熱重量分析(TGA)、5%熱収縮温度]
ニッケル粒子を5Φ×2mmの円柱状成型器に入れ、プレス成型して得られるペレット状の成型体を作製し、窒素ガス(水素ガス3%含有)の雰囲気下で、熱機械分析(TMA)および熱重量分析(TGA)を行った。また、熱機械分析装置(TMA)により測定される5%熱収縮の温度を5%熱収縮温度とした。
【0054】
[分散性]
ニッケル粒子の分散性は、DHT(ジヒドロターピネオール)溶媒でのエチルセルロースをバインダーとしたペースト化を行い、ガラスに塗布して表面平滑性(平均粗さRa)で評価した。
【0055】
[熱収縮特性]
ニッケル粒子の熱収縮特性は、5%熱収縮率の温度で評価した。
【0056】
[昇温脱離ガス分析試験]
測定には、電子科学株式会社 WA1000S/W型を使用した。測定条件は、SCANモード測定(スキャン幅 1〜200amu)、測定温度は50〜600℃(昇温速度 30℃/min)として、200〜500℃での留出されるガス量を測定した。
【0057】
実施例1
<溶解工程>
酢酸ニッケル四水和物120.0g(480mmmol)にオレイルアミン690g(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって酢酸ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。
【0058】
<還元工程>
次いで、その溶液にマイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分保持することによってニッケル粒子スラリーを得た。
【0059】
<洗浄・乾燥工程>
ニッケル粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄し、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル粒子を得た。
【0060】
<表面改質工程>
図1に示したプラズマ処理装置1と同様の構成の処理装置を用い、上記平均粒径140nmのニッケル粒子を10g装置内に投入した後、Heガスを5L/min、O
2ガスを0.2L/minの流量で混合して供給し、装置内を十分に混合ガスで置換した。そして、200Wの出力で5分間、大気圧グロー放電によりプラズマを発生させ、ニッケル粒子に対してプラズマ処理(プラズマ照射時間;5分間、放射温度計によるニッケル粒子の表面温度;25〜130℃)を行った。その後、プラズマ処理を間欠的に5回(プラズマ照射時間の合計;25分間、放射温度計によるニッケル粒子の表面温度;30〜150℃)もしくは10回(プラズマ照射時間の合計;50分間、放射温度計によるニッケル粒子の表面温度;30〜150℃)繰り返すことで表面改質されたニッケル粒子(SEMによる平均粒子径;140nm、BET値;5.8m
2/g、C;0.33%、O;0.8%)を得た。
【0061】
実施例2
実施例1において、酢酸ニッケル四水和物60.0g(241mmmol)にした以外は、実施例1と同様な処理をして表面改質されたニッケル粒子(SEMによる平均粒子径;95nm、BET値;8.3m
2/g、C;0.68%、O;1.6%)を得た。
【0062】
実施例3
実施例1において、酢酸ニッケル四水和物30.0g(120mmmol)にした以外は実施例1と同様な処理をして表面改質されたニッケル粒子(SEMによる平均粒子径;62nm、BET値;10.4m
2/g、C;0.87%、O;1.9%)を得た。
【0063】
実施例4
実施例1において、酢酸ニッケル四水和物60.0g(241mmmol)にし、硝酸銀0.11g(0.65mmol)を添加した以下は実施例1と同様な処理をして表面改質されたニッケル粒子(SEMによる平均粒子径;38nm、BET値;17.4m
2/g、C;1.12%、O;2.9%)を得た。
【0064】
比較例1
実施例1の溶解工程から洗浄乾燥工程までを行って得られたニッケル粒子を水溶媒で加熱1時間還流して、150℃で24時間真空乾燥した。粒子径は140nmを維持していた。BET値;5.9m
2/g、C;0.30%、O;1.3%であった。
【0065】
比較例2
実施例2の溶解〜洗浄乾燥で得られた粒子を水と60%水加ヒドラジンを2:8で混合した液中で70℃で3時間加温し、水洗して、150℃で24時間真空乾燥した。粒子径は95nmを維持していた。BET値;8.2m
2/g、C;0.60%、O;0.7%であった。
【0066】
比較例3
実施例2の溶解〜洗浄乾燥で得られた粒子を220℃で6時間窒素下で加熱した。粒子径は95nmを維持していた。BET値;8.1m
2/g、C;0.42%、O;1.0%であった。
【0067】
比較例4
塩化ニッケル水溶液にヒドラジン水和物を添加し、その後水酸化ナトリウムを添加し、するという公知の方法を用いて平均粒子径;143nm、BET値;5.4m
2/g、C;0.03%、O;1.0%)を得た。
【0068】
比較例5
比較例4の粒子を220℃で6時間、窒素下で加熱した。粒子径は143nmを維持していた。
【0069】
以上の結果をまとめて表1及び表2に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。