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特開2015-145325中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-145325(P2015-145325A)
(43)【公開日】2015年8月13日
(54)【発明の名称】中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/28 20060101AFI20150717BHJP
【FI】
   C01F5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-19365(P2014-19365)
(22)【出願日】2014年2月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼ 刊行物名 化学工学会 第45回 秋季大会講演要旨集 発行年月日 2013年8月16日 ▲2▼ 集会名 化学工学会 第45回 秋季大会 開催日 2013年9月16日から2013年9月18日(公開日は2013年9月16日) ▲3▼ 刊行物名 粉体工学会 2013年度 秋期研究発表会講演要旨集 発行年月日 2013年10月8日 ▲4▼ 集会名 粉体工学会 2013年度 秋期研究発表会 開催日 2013年10月8日から2013年10月9日(公開日は2013年10月9日) ▲5▼ 集会名 粉体工業展 大阪2013 開催日 2013年10月9日から2013年10月11日 ▲6▼ 刊行物名 化学工学会中国四国支部大学院生発表会 講演要旨集 発行年月日 2013年12月13日 ▲7▼ 集会名 化学工学会中国四国支部大学院生発表会 開催日 2013年12月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000238164
【氏名又は名称】扶桑化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻 崇
(72)【発明者】
【氏名】奥山 喜久夫
(72)【発明者】
【氏名】アセプ バユ ダニ ナンディヤント
(72)【発明者】
【氏名】中永 陽
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA05
4G076AB04
4G076BA11
4G076BD02
4G076CA02
4G076CA06
4G076CA10
4G076DA11
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】中空フッ化マグネシウム粒子を容易に製造することができ、得られる中空フッ化マグネシウム粒子の粒径、及びフッ化マグネシウムの膜厚を制御することができる中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法であって、
(1)溶媒に、負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子、マグネシウム源、及びフッ素源を添加撹拌して溶液を調製することにより、前記溶液中で、前記ポリスチレン粒子をコアとし、前記ポリスチレン粒子を被覆したフッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子を形成する工程1、及び
(2)前記コアシェル粒子のコアである、前記ポリスチレン粒子を除去する工程2
を含む、中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法であって、
(1)溶媒に、負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子、マグネシウム源、及びフッ素源を添加撹拌して溶液を調製することにより、前記溶液中で、前記ポリスチレン粒子をコアとし、前記ポリスチレン粒子を被覆したフッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子を形成する工程1、及び
(2)前記コアシェル粒子のコアである、前記ポリスチレン粒子を除去する工程2
を含む、中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項2】
前記マグネシウム源は、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム及び酢酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項3】
前記マグネシウム源は、塩化マグネシウムである、請求項1に記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項4】
前記フッ素源は、フッ化水素、及び化学式NRFで示されるフッ化アンモニウム(式中、各Rは、それぞれ独立に、水素又は低級アルキル基を表す。)からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれかに記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素源は、NHFである、請求項4に記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項6】
前記溶液中のマグネシウムイオンの濃度は、4.5〜8.0mmol/Lである、請求項1〜5のいずれかに記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項7】
フッ素原子とマグネシウム原子のモル比F/Mgが、0.20〜0.40である、請求項1〜6のいずれかに記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項8】
前記ポリスチレン粒子の平均粒子径は、80〜400nmである、請求項1〜7のいずれかに記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話等の液晶ディスプレイの表面に反射防止フィルムが用いられている。反射防止フィルムには、低屈折材料としてフッ化マグネシウム(MgF)や二酸化ケイ素(SiO)等の低屈折率無機化合物が用いられており、より屈折率を低下させることが要求されている。
【0003】
MgFの屈折率は1.38であり、屈折率が1.42であるSiOよりも低い屈折率を示す。また、MgFの微粒子を中空構造化することで、更に屈折率が低い低屈折材料とすることができる。このため、MgFの中空粒子を容易に製造できる製造方法が求められている。
【0004】
MgFの粒子の製造方法として、液相法及び気相法が用いられているが、液相法は、均一な粒子が合成し易く、省エネルギーかつ環境に優しい点で、MgF粒子の製造に適している。
【0005】
液相法により中空のMgF粒子を製造する方法として、少なくとも疎水性溶媒、親水性溶媒、界面活性剤を混合し、上記疎水性溶媒中に上記親水性溶媒の液滴が分散した溶液、または、上記親水性溶媒中に上記疎水性溶媒の液滴が分散した溶液を作製する工程と、上記溶液中に、フッ素化合物とマグネシウム化合物のうちのいずれか一方を混合し、疎水性溶媒と親水性溶媒のうちのいずれか一方に、上記混合したフッ素化合物とマグネシウム化合物のうちのいずれか一方を溶解させる工程と、上記いずれか一方を溶解させた溶液中に、上記フッ素化合物とマグネシウム化合物の残りのもう一方をさらに混合する工程と、を有することを特徴とする中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、このような中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法においては、中空フッ化マグネシウム粒子の粒径や、フッ化マグネシウムの膜厚を制御することについては、十分に検討されていない。中空フッ化マグネシウム粒子においては、粒子の形状、粒径、フッ化マグネシウムの膜厚を制御することで、所望の屈折率を示す低屈折材料とすることができる。
【0007】
低屈折材料として用いるのに適した所望の粒径、及び所望のフッ化マグネシウムの膜厚を示す中空フッ化マグネシウム粒子を容易に得ることができる製造方法は、未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−76967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、中空フッ化マグネシウム粒子を容易に製造することができ、得られる中空フッ化マグネシウム粒子の粒径、及びフッ化マグネシウムの膜厚を制御することができる中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(1)溶媒に、負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子、マグネシウム源、及びフッ素源を添加撹拌して溶液を調製することにより、上記溶液中で、上記ポリスチレン粒子をコアとし、上記ポリスチレン粒子を被覆したフッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子を形成する工程1、及び(2)上記コアシェル粒子のコアである、上記ポリスチレン粒子を除去する工程2を含む中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法に関する。
1.中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法であって、
(1)溶媒に、負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子、マグネシウム源、及びフッ素源を添加撹拌して溶液を調製することにより、前記溶液中で、前記ポリスチレン粒子をコアとし、前記ポリスチレン粒子を被覆したフッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子を形成する工程1、及び
(2)前記コアシェル粒子のコアである、前記ポリスチレン粒子を除去する工程2
を含む、中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
2.前記マグネシウム源は、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム及び酢酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種である、上記項1に記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
3.前記マグネシウム源は、塩化マグネシウムである、上記項1に記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
4.前記フッ素源は、フッ化水素、及び化学式NRFで示されるフッ化アンモニウム(式中、各Rは、それぞれ独立に、水素又は低級アルキル基を表す。)からなる群から選択される少なくとも一種である、上記項1〜3のいずれかに記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
5.前記フッ素源は、NHFである、上記項4に記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
6.前記溶液中のマグネシウムイオンの濃度は、4.5〜8.0mmol/Lである、上記項1〜5のいずれかに記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
7.フッ素原子とマグネシウム原子のモル比F/Mgが、0.20〜0.40である、上記項1〜6のいずれかに記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
8.前記ポリスチレン粒子の平均粒子径は、80〜400nmである、上記項1〜7のいずれかに記載の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法。
【0012】
以下、本発明の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造方法は、(1)溶媒に、負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子、マグネシウム源、及びフッ素源を添加撹拌して溶液を調製することにより、上記溶液中で、上記ポリスチレン粒子をコアとし、上記ポリスチレン粒子を被覆したフッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子を形成する工程1、及び(2)上記コアシェル粒子のコアである、上記ポリスチレン粒子を除去する工程2を含む中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法である。
【0014】
上記製造方法では、工程1において、溶媒に、負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子を添加してコアシェル粒子のコアとして用いている。ここで、フッ化マグネシウムの一次粒子、及びマグネシウムイオンは正のゼータ電位を有するため、これらが溶液中に存在すると、負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子の表面に電気的に引き寄せられるので、ポリスチレン粒子の表面にフッ化マグネシウムの一次粒子が付着したり、フッ化マグネシウムが生成したりして、これらが成長することにより、ポリスチレン粒子をコアとし、フッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子を形成できる。当該コアシェル粒子から、ポリスチレン粒子を除去することにより、中空フッ化マグネシウム粒子を容易に製造することができる。
【0015】
また、本発明の製造方法によれば、工程1において溶液中に界面活性剤を必須成分として用いることなくコアシェル粒子を形成することができるので、シェルであるMgF中に界面活性剤の分子が実質的に存在しない構成とすることも可能である。この場合、工程2においてポリスチレン粒子を熱分解した際に、MgF中の界面活性剤が分解されることに起因する中空フッ化マグネシウム粒子の孔(欠損)の生成が抑制される。
【0016】
更に、本発明の製造方法は、ポリスチレン粒子の粒径を調整することにより、中空フッ化マグネシウム粒子の粒径を制御することができ、また、溶液中のマグネシウムイオン、及びフッ素イオンの濃度(モル比)を調整することにより、中空フッ化マグネシウム粒子の膜厚を制御することができるので、得られる中空フッ化マグネシウム粒子の粒径、及びフッ化マグネシウムの膜厚を低屈折材料として用いるのに適した範囲に制御することができる。
【0017】
1.工程1
工程1は、溶媒に、負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子、マグネシウム源、及びフッ素源を添加撹拌して溶液を調製することにより、溶液中で、上記ポリスチレン粒子をコアとし、上記ポリスチレン粒子を被覆したフッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子を形成する工程である。
【0018】
<ポリスチレン粒子>
上記ポリスチレン粒子は、負のゼータ電位を有する。上記ポリスチレン粒子は、負のゼータ電位を有するものであれば特に限定されないが、アニオン性重合開始剤と、スチレンモノマーと、溶媒とを含む溶液中で、スチレンモノマーの重合反応を行う製造方法により製造され、粒子中に、界面活性剤の分子を実質的に含まないポリスチレン粒子が好適に用いられる。以下、このようなポリスチレン粒子について、例示的に説明する。
【0019】
(スチレンモノマー)
上記スチレンモノマーとしては、ポリスチレン粒子を製造することができれば特に限定されないが、アルキル(メタ)アクリレート等の疎水性モノマーに由来する構成単位、その他の共重合可能なモノマー構成単位を含んでいるものが好ましい。その好適例としてば、炭素数3〜22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートスチレン、2−メチルスチレン等が挙げられる。
【0020】
上記ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶液中のスチレンモノマーの濃度は特に限定されないが、上記溶液100質量%に対して0.1〜15質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましく、0.4〜2質量%であることが更に好ましい。上記濃度に設定することにより、得られるポリスチレン粒子の平均粒子径、及び最終生成物である中空フッ化マグネシウム粒子の平均粒子径を80〜400nm程度に制御することができる。
【0021】
なお、本明細書において、ポリスチレン粒子の平均粒子径、及び中空フッ化マグネシウム粒子の平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡:S−5000、S−5200、日立製、20kVの条件)にて特定される値である。
【0022】
(アニオン性重合開始剤)
アニオンチオン性重合開始剤は、負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子を得ることができれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。上記アニオン性重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;アゾビス(イソブチロニトリルスルホン酸塩);4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等が挙げられる。上記過硫酸カリウムとしては、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)が挙げられる。中でも、過硫酸塩が好ましく、過硫酸カリウムがより好ましく、KPSが更に好ましい。
【0023】
上記ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶液中のアニオン性重合開始剤の濃度は特に限定されないが、上記溶液を100質量%として、0.4〜4.0質量%が好ましく、0.4〜2.0質量%がより好ましい。上記濃度に設定することにより、得られるポリスチレン粒子の平均粒子径、及び最終生成物である中空フッ化マグネシウム粒子の平均粒子径を80〜400nm程度、好ましくは80〜300nm程度に制御することができ、得られるポリスチレン粒子に、適度な負のゼータ電位を付与することができる。
【0024】
(溶媒)
上記ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶媒としては、水が好ましい。また、上記溶媒としては、親水性溶媒、又は疎水性溶媒を用いることができる。親水性溶媒としては、アルコールが挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を用いることができる。中でも、エタノールが好ましい。
【0025】
疎水性溶媒としては、100℃で100g当たり約1g未満の水溶性を有する有機炭化水素系溶媒が挙げられる。このような疎水性溶媒としては、炭素数6〜10の直鎖状又は分岐状又は環状のアルカン、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタンを用いることができる。
【0026】
上記溶媒として、水及び疎水性溶媒を混合して用いてもよい。疎水性溶媒/水の質量比は限定されないが、0.01〜2.0程度が好ましく、0.04〜1.0程度がより好ましい。特に溶媒がオクタンである場合には、上記質量比を0.05〜0.84に設定することが好ましい。
【0027】
溶媒として、上述の溶媒を用いることにより、最終生成物である中空フッ化マグネシウム粒子の外径を80〜400nm程度に制御し易い。
【0028】
(重合反応)
上記ポリスチレン粒子は、上記アニオン性重合開始剤と、上記スチレンモノマーと、上記溶媒とを含む溶液中で、スチレンモノマーの重合反応を行うことにより得られるものを用いることが好ましい。重合反応は、上記ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶媒中に上記スチレンモノマーと、上記アニオン性重合開始剤とを添加して得られた溶液を、混合撹拌することにより行うことができる。
【0029】
上記ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶液は、界面活性剤を実質的に含まないことが好ましい。このような構成とすることで、粒子中に、界面活性剤の分子を実質的に含まないポリスチレン粒子を製造することができ、このようなポリスチレン粒子を用いることで、シェルを形成するフッ化マグネシウムが界面活性剤の分子を含まない構成とすることができ、最終生成物である中空フッ化マグネシウム粒子の孔の形成を抑制することができる。
【0030】
ここで、本明細書で言う界面活性剤とは、一分子内に親水基と疎水基とを有する化合物で、一般に界面活性剤として認識されている化合物を意味している。上記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が該当する。また、界面活性剤を実質的に含まないとは、溶液に界面活性剤が積極的に添加されていないことを意味する。従って、上記ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶液が不可避不純物として界面活性剤を含む場合を除外する意味ではない。更に、本明細書で言う、粒子中に、界面活性剤の分子を実質的に含まないポリスチレン粒子とは、上記界面活性剤が積極的に添加されていない溶液を用いて製造されたポリスチレン粒子を意味する。
【0031】
上記ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶液の、重合反応の際の温度は特に限定されないが、40℃以上、上記溶媒の沸点以下であることが好ましく、また、50〜90℃であることがより好ましく、60〜80℃が更に好ましい。上記反応温度が低過ぎると、反応速度が遅くなるおそれがあり、高過ぎると、溶媒が蒸発してしまい、重合反応を継続できなくなるおそれがある。上記溶液の重合反応の際の温度は、上述の範囲内で温度を高くするとポリスチレン粒子の平均粒子径を小さくすることができ、温度を低くすると、ポリスチレン粒子の平均粒子径を大きくすることができるので、上記溶液の重合反応の際の温度を調整することにより、得られるポリスチレン粒子の平均粒子径を制御することができ、これにより、最終生成物である中空フッ化マグネシウム粒子の平均粒子径を制御することが可能となる。
【0032】
上記重合反応の反応時間は特に限定されないが1〜720分であることが好ましく、10〜600分であることがより好ましい。上記反応時間が短過ぎると、反応が不十分となるおそれがある。
【0033】
上記ポリスチレン粒子のゼータ電位は、−60〜−40mVであることが好ましく、−55〜−45mVであることがより好ましい。上記ゼータ電位が低すぎると、正のゼータ電位を有するフッ化マグネシウムの一次粒子、及びマグネシウムイオンがポリスチレン粒子の周囲に凝集し難く、ポリスチレン粒子をコアとし、当該ポリスチレン粒子を被覆したフッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子を形成し難いおそれがある。なお、上記ゼータ電位は、Malvern社製のゼーターサイザーナノZを用いて、水溶媒中で濃度0.01wt%以下の条件により測定することができる。
【0034】
本発明の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法は、以上説明したポリスチレン粒子の製造方法により製造された、負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子を好適に用いることができる。
【0035】
<マグネシウム源>
上記工程1に用いられるマグネシウム源としては、溶液中でマグネシウムイオンを供給できるものであれば特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。上記マグネシウム源としては、溶媒に可溶性のものが好ましく、例えば、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、又は酢酸マグネシウムが挙げられる。中でも、溶媒への可溶性に優れる点で、塩化マグネシウムが好ましい。これらのマグネシウム源は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
マグネシウム源は、溶液中でマグネシウムイオンを供給する。溶液中のマグネシウムイオンの濃度は、4.5〜8.0mmol/Lが好ましく、4.6〜7.5mmol/Lがより好ましい。
【0037】
<フッ素源>
上記工程1には、フッ素源が用いられる。フッ素源としては、上記マグネシウム源と反応してフッ化マグネシウムを生成することができれば特に限定されず、例えば、フッ化水素、又は、化学式NRFで示されるフッ化アンモニウムが挙げられる。上記式中、各Rは、それぞれ独立に、水素又は低級アルキル基を表す。上記低級アルキル基は、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が更に好ましい。上記フッ素源としては、NHFが好適に用いられる。
【0038】
上記フッ素源は、フッ素原子とマグネシウム原子のモル比F/Mgが、0.20〜0.40となるように溶液中に添加することが好ましい。上記モル比となるようにフッ素源を添加することで、整った形状の中空フッ化マグネシウム粒子を得ることができる。
【0039】
<溶媒>
上記工程1で用いられる溶媒としては、水を用いることが好ましい。水を用いることにより、安価で、且つ安全にコアシェル粒子を形成することができる。上記溶媒としては、また、疎水性溶媒を用いることができる。疎水性溶媒としては、100℃で100g当たり約1g未満の水溶性を有する有機炭化水素系溶媒が挙げられる。このような疎水性溶媒としては、炭素数6〜10の直鎖状又は分岐状又は環状のアルカン、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタンを用いることができる。その中でもオクタンがより好ましい。
【0040】
上記溶媒として、水及び疎水性溶媒を混合して用いてもよい。疎水性溶媒/水の質量比は限定されないが、0.01〜2.0程度が好ましく、0.04〜1.0程度がより好ましい。特に溶媒がオクタンである場合には、上記質量比を0.05〜0.84に設定することにより、得られる中空フッ化マグネシウム粒子の平均粒子径を、80〜400nm程度に制御し易い。
【0041】
上記工程1では、上記溶媒に、上記負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子、上記マグネシウム源、及び上記フッ素源を添加撹拌して溶液を調製することにより、上記溶液中で、上記ポリスチレン粒子をコアとし、上記ポリスチレン粒子を被覆したフッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子を形成することができる。
【0042】
上記溶液は、界面活性剤を実質的に含まないことが好ましい。このような構成とすることで、シェルであるフッ化マグネシウム中に界面活性剤の分子が実質的に存在しない構成とすることができ、後述する工程2においてポリスチレン粒子を熱分解した際に、フッ化マグネシウム中の界面活性剤が分解されることに起因する中空フッ化マグネシウム粒子の孔(欠損)の生成を抑制することができる。
【0043】
ここで、本明細書において、上記工程1に用いられる溶液が界面活性剤を実質的に含まないとは、溶液に界面活性剤が積極的に添加されていないことを意味する。従って、上記溶液が不可避不純物として界面活性剤を含む場合を除外する意味ではない。
【0044】
上記工程1における溶液の温度は特に限定されないが、25℃以上、上記溶媒の沸点以下であることが好ましく、また、40〜75℃であることがより好ましい。上記温度が低過ぎると、反応速度が遅くなるおそれがあり、高過ぎると、中空フッ化マグネシウム粒子に孔(欠損)が生じて表面が平滑にならないおそれがあり、また、溶媒が蒸発してしまうおそれがある。
【0045】
上記工程1における撹拌時間は特に限定されないが1〜720分であることが好ましく、10〜600分であることがより好ましい。上記撹拌時間が短過ぎると、反応が不十分となるおそれがある。
【0046】
以上説明した工程1により、上記ポリスチレン粒子をコアとし、上記ポリスチレン粒子を被覆したフッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子が形成される。
【0047】
上記工程2は、工程1により得られたコアシェル粒子のコアであるポリスチレン粒子を除去する工程である。上記コアシェル粒子の内部は、コアとしてポリスチレン粒子が充填されている状態であるので、これを除去することによりシェル内を中空とし、低屈折材料等の高機能性材料として使用し得る中空フッ化マグネシウム粒子を製造することができる。
【0048】
工程2において、ポリスチレン粒子を除去する方法としては、シェルであるフッ化マグネシウムを破壊しなければ特に限定されず、例えば、熱分解による除去、又は溶剤により溶解することによる除去が挙げられる。
【0049】
上記ポリスチレン粒子を熱分解により除去する方法における熱分解としては、特に限定されないが、例えば、焼成が挙げられる。焼成による場合、焼成温度が低すぎると中空フッ化マグネシウム粒子内にポリスチレン粒子および他の有機成分が残存するおそれがあり、また焼成温度が高すぎるとシェルであるフッ化マグネシウムが破壊されるおそれがある。このため、焼成によるポリスチレン粒子の除去方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。すなわち、工程1により得られた溶液から、遠心分離機を用いて未反応物及び不純物を分離させ、コアシェル粒子を含んだ沈降溶液を得る。当該沈降溶液を乾燥させてコアシェル粒子を得る。得られたコアシェル粒子を坩堝に入れて電気炉内で5℃/minの条件で500℃まで昇温させ、続いて500℃で10分間保持して加熱処理することにより、ポリスチレン粒子を除去する方法が挙げられる。
【0050】
また、焼成によるポリスチレン粒子の除去方法としては、例えば、超音波霧化器、二流体ノズル等を用いて、工程1により調製した溶液を電気炉内に噴霧し、電気炉内で好ましくは350〜650℃、より好ましくは450〜650℃、更に好ましくは480〜650℃の高温度領域で焼成する方法が挙げられる。この方法によりポリスチレン粒子を除去するのに十分な時間をかけて焼成することによって、シェルであるフッ化マグネシウムを殆ど破壊することなく、コアシェル粒子からポリスチレン粒子を除去することができる。
【0051】
また、工程1により調製した溶液を電気炉内に噴霧して焼成することにより、ポリスチレン粒子の除去を行う場合には、電気炉の高温度領域の手前に、150〜250℃程度の温度範囲の低温度領域を設け、噴霧された溶液が当該低温度領域を通過してから、高温度領域に噴霧されるようにすることが好ましい。噴霧された溶液が低温度領域を通過することにより、溶液中の溶媒が徐々に蒸発するので、これにより噴霧液の液滴内での中空フッ化マグネシウム粒子の形成が促進される。上記低温度領域を設けない場合、中空フッ化マグネシウム粒子の形成が不十分となり、中空フッ化マグネシウム粒子の形状が、いびつになるおそれがある。
【0052】
上記ポリスチレン粒子を溶剤により溶解して除去する方法としては特に限定されないが、例えば、工程1で得られた溶液に、ポリスチレン粒子を溶解する溶剤を添加する方法が挙げられる。当該方法によりポリスチレン粒子を除去した場合、工程2の後に、溶液をろ過して中空フッ化マグネシウム粒子を採取し、加熱等により乾燥する工程を行うことにより、最終生成物である中空フッ化マグネシウム粒子を得てもよい。
【0053】
上記溶剤としては、ポリスチレン粒子を溶解できれば特に限定されないが、例えば、トルエン、メチルエチルケトン等が挙げられる。中でも、ポリスチレン粒子の溶解性に優れる点で、トルエンが好ましい。
【0054】
上記工程2を経て得られる中空フッ化マグネシウム粒子の粒子径は、80〜400nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0055】
本発明の製造方法によれば、中空フッ化マグネシウム粒子を容易に製造することができ、得られる中空フッ化マグネシウム粒子の粒径、及びフッ化マグネシウムの膜厚を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本発明の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法に用いるコアであるポリスチレン粒子の合成において、溶液中のスチレンモノマーの濃度及び溶液の温度がポリスチレン粒子の平均粒子径に及ぼす影響を示すSEM像である。
図2】本発明の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法に用いるコアであるポリスチレン粒子の合成において、溶液中のスチレンモノマーの濃度、アニオン性重合開始剤(KPS)の濃度、及び溶液の温度がポリスチレン粒子の平均粒子径に及ぼす影響を示す図である。
図3】本発明の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法における、コアであるポリスチレン粒子、ポリスチレン/フッ化マグネシウムのコアシェル粒子、及び中空フッ化マグネシウム粒子のSEM像、XRD解析、及びEDX解析を示す図である。
図4】本発明の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法における溶液の温度が中空フッ化マグネシウム粒子の表面形状に及ぼす影響を示すSEM像である。
図5】本発明の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法における、コアであるポリスチレン粒子の平均粒子径が、中空フッ化マグネシウム粒子の平均粒子径に及ぼす影響を示すSEM像である。
図6】本発明の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法における溶液中のマグネシウムイオンの濃度が中空フッ化マグネシウム粒子の形状に及ぼす影響を示すSEM像である。
図7】本発明の中空フッ化マグネシウム粒子の製造方法における、マグネシウム原子とフッ素原子とのモル比(Mg/F)が中空フッ化マグネシウム粒子の膜厚に及ぼす影響を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0058】
実施例1
(ポリスチレン粒子の製造)
負のゼータ電位を有するポリスチレン粒子を製造した。スチレンモノマー(アルドリッチ社製)、溶媒として超純水(ミリポア社製)、アニオン性重合開始剤として、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)(Sigma−Aldrich,US社製)を用い、界面活性剤を添加せずにバッチ式の反応系により合成した。
【0059】
具体的には、先ず、300mLの四ツ口フラスコ、マグネティックスタラー、マントルヒーター、冷却装置を備える反応装置を用意し、四ツ口フラスコに窒素ガスを封入した。
【0060】
次に、超純水を四ツ口フラスコに注入し、窒素雰囲気中で600rpmの撹拌条件で撹拌しながら15分間加温して、超純水中に低濃度で溶解している酸素を除去した。酸素を除去した後、スチレンモノマーを超純水中に添加し、更に10分間撹拌してスチレンモノマーを均一に分散させた。なお、スチレンモノマーは、予め2.5M−NaOHで洗浄して安定剤を除去したものを使用した。
【0061】
次いで、超純水と、スチレンモノマーとの混合液に、予め超純水に溶解させたKPSを添加して溶液を調製し、重合反応を開始した。窒素雰囲気下で10時間重合反応を行った後、室温まで冷却してポリスチレン粒子を製造した。
【0062】
製造したポリスチレン粒子の平均粒子径をSEM(走査型電子顕微鏡:S−5000、S−5200、日立製、20kVの条件)にて特定した。また、製造したポリスチレン粒子のゼータ電位をゼータ―サイザーナノZ(Malvern社製)を用いて、水溶媒中で、濃度0.01wt%の条件により測定した。
【0063】
(中空フッ化マグネシウム粒子の製造)
100mLの二ツ口フラスコ、マグネティックスタラー、マントルヒーター、冷却装置を備える反応装置を用意した。二ツ口フラスコ内に、25mlの超純水と、上記で製造した0.4wt%のポリスチレン粒子の溶液5mlとを投入した。40℃の温度に保ちながら、500rpmで30分間強撹拌して、溶媒としてのイオン交換水中にポリスチレン粒子を均一に分散させた。
【0064】
30分撹拌後、マグネシウム源としてMgClと、フッ素源としてNHFとを添加して3時間撹拌することにより溶液を調製し、室温まで冷却して、溶液中で、ポリスチレン粒子をコアとし、ポリスチレン粒子を被覆したフッ化マグネシウムをシェルとするコアシェル粒子を形成した。
【0065】
得られた溶液を、遠心分離機を用いて15000rpm、30分間の条件で、未反応物及び不純物を分離させた。コアシェル粒子を含む、沈降した部分の溶液を乾燥させてコアシェル粒子を得た。得られたコアシェル粒子の形状及び粒子径をSEM(走査型電子顕微鏡:S−5000、S−5200、日立製、20kVの条件)、及びTEM(透過型電子顕微鏡:JEM−300F(日本電子製、300kVの条件)、JEM−2010(日本電子製、200kVの条件))にて特定した。中空フッ化マグネシウム粒子の元素マッピング及び化学組成を、エネルギー分散型X線分析装置(EDX;TEMに装着)を用いて解析した。また、得られたコアシェル粒子をXRD(X線回折装置:RINT2000、株式会社リガク製、Cu−Kα線 2θ=20°〜80°の条件)及びEDX(エネルギー分散型X線分光装置:Genesis XM2、エダックス・ジャパン社製)により分析した。
【0066】
上述のようにして得られたコアシェル粒子を500℃の温度で熱処理することにより、ポリスチレン粒子、及びその他の有機化合物を除去して、中空フッ化マグネシウム粒子を製造した。
【0067】
製造した中空フッ化マグネシウム粒子の形状及び粒子径を上記コアシェル粒子と同一の条件によりSEM及びTEMにて特定した。また、中空フッ化マグネシウム粒子の元素マッピング及び化学組成を、上記条件によりエネルギー分散型X線分析装置(EDX;TEMに装着)を用いて解析した。更に、得られた中空フッ化マグネシウム粒子について、上記条件でXRD及びEDXにより分析を行った。
【0068】
<結果>
コアであるポリスチレン粒子をSEMを用いて解析した(図1)。溶液の温度が80℃の条件下でポリスチレン粒子を合成すると(図1上段「スチレン濃度の影響(T=80℃)」)、ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶液中のスチレンモノマーの濃度が溶液を100質量%として、0.4質量%である場合、ポリスチレン粒子の平均粒子径は109nmであった(図1上段の0.4wt%)。また、スチレンモノマーの濃度が0.8質量%である場合、ポリスチレン粒子の平均粒子径は138nmであり(図1上段の0.8wt%)、スチレンモノマーの濃度が2.0質量%である場合、ポリスチレン粒子の平均粒子径は204nmであった(図1上段の2.0wt%)。このことから、温度が同一であれば、溶液中のスチレンモノマーの濃度を低くするとコアであるポリスチレン粒子の平均粒子径を小さく制御することができ、濃度を高くするとポリスチレン粒子の平均粒子径を大きく制御することができることが分かった。
【0069】
ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶液中のスチレンモノマーの濃度が溶液を100質量%として2.0質量%の条件下でポリスチレン粒子を合成すると(図1下段「操作温度の影響(スチレン濃度=2.0wt%)」)、溶液の温度が45℃の場合、ポリスチレン粒子の平均粒子径が249nmであった(図1下段のT=45℃)。また、溶液の温度が60℃の場合、ポリスチレン粒子の平均粒子径は332nmであり(図1下段のT=60℃)、溶液の温度が80℃の場合、ポリスチレン粒子の平均粒子径は204nmであった(図1下段のT=80℃)。このことから、ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶液中のスチレンモノマーの濃度が同一であれば、溶液の温度を60℃付近とすることでコアであるポリスチレン粒子の平均粒子径を最大に制御できることが分かった。
【0070】
ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶液中のスチレンモノマーの濃度及びKPSの濃度がポリスチレン粒子の平均粒子径に与える影響、並びに、当該溶液の温度がポリスチレン粒子の平均粒子径に与える影響を評価した(図2)。
【0071】
上述のように、温度が同一であれば、溶液中のスチレンモノマーの濃度を低くするとコアであるポリスチレン粒子の平均粒子径を小さく制御することができ、濃度を高くするとポリスチレン粒子の平均粒子径を大きく制御することができることが示されている。また、アニオン性重合開始剤であるKPSの濃度は、ポリスチレン粒子の平均粒子径への影響が少ないことが分かった(図2左の「Temp.=80℃」)。
【0072】
また、上述のように、ポリスチレン粒子の製造に用いられる溶液中のスチレンモノマーの濃度が同一であれば、溶液の温度を60℃付近とすることでコアであるポリスチレン粒子の平均粒子径を最大に制御できることが示されている。これは、溶液の温度が低くなると反応速度が低速となりポリスチレン粒子の平均粒子径が大きくなるが、溶液の温度が40〜50℃程度まで低温になると、一部のスチレンモノマーが未反応のまま残るので、粒子の成長が十分でないために、スチレンモノマーの平均粒子径が小さくなるためであると考えられる(図2右の「KPS=2.00wt% Reaction time=10h」)。
【0073】
コアであるポリスチレン粒子、ポリスチレン/フッ化マグネシウムのコアシェル粒子、及び中空フッ化マグネシウム粒子の形状をSEMを用いて解析した(図3上段)。また、これらの粒子のXRD解析(図3下段左)、及びEDX解析(図3下段右)を行った。SEM像から、コアであるポリスチレン粒子(図3上段左「PSL」)、ポリスチレン/フッ化マグネシウムのコアシェル粒子(図3上段中「PSL/MgF」)、及び中空フッ化マグネシウム粒子(図3上段右「中空MgF」)が生成していることが分かった。また、XRD解析(図3下段左)及びEDX解析(図3下段右)から、コアであるポリスチレン粒子を用いてポリスチレン/フッ化マグネシウムのコアシェル粒子が形成され、加熱処理によりポリスチレン粒子が除去され、中空フッ化マグネシウム粒子が形成されていることが確認された(図3下段)。
【0074】
中空フッ化マグネシウム粒子を製造する際の溶液の温度が中空フッ化マグネシウム粒子の表面形状に及ぼす影響をSEMを用いて評価した(図4)。溶液の温度が40℃の条件下で合成された中空フッ化マグネシウム粒子は、より孔が少なく、表面が整っていることが分かった(図4右「40℃」、「Smooth surface」)。これに対し、溶液の温度が75℃の条件で合成された中空フッ化マグネシウム粒子は、40℃の条件下で合成した場合に比べて、孔が多く、表面が粗いことが分かった(図4左「75℃」、「Rough surface」)。これは、フッ化マグネシウム粒子の反応速度の違いが影響していると考えられ、75℃での反応は反応速度が速いので、フッ化マグネシウムのモノマーから核粒子が生成、成長し、当該成長した核粒子がポリスチレン粒子表面に付着するため、比較的表面が粗く孔も多くなったと考えられる。これに対し、40℃での反応は反応速度が遅いので、フッ化マグネシウムのモノマーがモノマーの状態でポリスチレン粒子表面に付着し、当該ポリスチレン粒子表面で成長することとなり、隙間が少なく表面の整った粒子が合成されたと考えられる。以上より、中空フッ化マグネシウム粒子は40℃程度の低温で合成可能であり、且つ、低温で合成すると、より孔が少なく、表面の緻密な中空フッ化マグネシウム粒子が得られることが分かった。
【0075】
コアであるポリスチレン粒子の平均粒子径が中空フッ化マグネシウム粒子の平均粒子径に及ぼす影響を評価した(図5)。コアとして、平均粒子径が106〜332nmのポリスチレン粒子を用いると、ポリスチレン粒子の大きさに対応して平均粒子径が115〜341nmの中空フッ化マグネシウム粒子が得られており、コアとして用いるポリスチレン粒子の平均粒子径を調整することで、中空フッ化マグネシウム粒子の平均粒子径を制御できることが分かった。
【0076】
溶液中のマグネシウムイオンの濃度が中空フッ化マグネシウム粒子の形状に及ぼす影響を評価した(図6)。具体的には、平均粒子径が100nmのポリスチレン粒子を用い、溶液中のフッ素イオンの濃度を5.6mmol/Lとし、溶液中のマグネシウムイオンの濃度を1.4〜7.5mmol/Lとして、中空フッ化マグネシウム粒子を製造した。マグネシウムイオンの濃度が1.4〜7.5mmol/Lに亘って中空フッ化マグネシウム粒子が形成されていたが、特に4.6〜7.5mmol/Lの場合に形状が整った中空フッ化マグネシウム粒子が形成されることが分かった(図6の「Mg=4.6mmol/L」〜「Mg=7.5mmol/L」)。
【0077】
マグネシウム原子とフッ素原子とのモル比(Mg/F)が中空フッ化マグネシウム粒子の膜厚に及ぼす影響を評価した(図7)。具体的には、上述の図6の評価において、溶液中のマグネシウムイオンの濃度が4.6mmol/L(Mg/F=3.3)の条件、及び6.8mmol/L(Mg/F=5.5)の条件で製造した中空フッ化マグネシウム粒子の膜厚をSEM像を解析することにより測定した。Mg/F=3.3の条件で合成された中空フッ化マグネシウム粒子の膜厚は22nmであり(図7の「Mg=4.6mmol/L」)、Mg/F=5.5の条件で合成された中空フッ化マグネシウム粒子の膜厚は11nmであり(図7の「Mg=6.8mmol/L」)、Mg/Fの値が大きいほど膜厚が薄くなった。これは、Mg/Fの値が小さい場合、フッ化マグネシウム粒子が成長した状態でポリスチレン粒子の表面にコーティングされたため、膜厚が大きくなったと考えられる。上記結果から、Mg/Fの値を大きくすると中空フッ化マグネシウム粒子の膜厚が薄くなり、Mg/Fの値を小さくすると中空フッ化マグネシウム粒子の膜厚が厚くなることが分かった。以上より、マグネシウム原子とフッ素原子とのモル比を調整することで、中空フッ化マグネシウム粒子の膜厚を制御できることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7