(但し、AはMnおよびCo、BはP、0<x<4、0<y<1.5、0<z<1.5)で表される電極活物質を主成分とし、ニッケルを含有してなる電極材料であり、電極活物質の粒子表面が炭素質膜で被覆されており、かつ、ニッケルの含有量が1ppm以上かつ100ppm以下であり、マンガンの含有量が240ppm以上4610ppm以下であり、ニッケルの含有量および前記マンガンの含有量は、それぞれ電極材料における原子の重量の比率である電極材料。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[電極材料]
本実施形態の電極材料は、Li
xFe
yA
zBO
4(但し、AはMnおよびCoからなる群から選択される1種または2種以上、BはP、SiおよびSからなる群から選択される1種または2種以上、0≦x<4、0<y<1.5、0≦z<1.5)で表される電極活物質を主成分とし、ニッケルを含有してなる電極材料であって、電極活物質の粒子表面が炭素質膜で被覆されており、かつ、ニッケルの含有量が1ppm以上かつ100ppm以下である。
本実施形態の電極材料は、マンガンの含有量が5000ppm以下が好ましく、1ppm以上かつ5000ppm以下がより好ましい。
また、本実施形態の電極材料は、コバルトの含有量が80ppm以下が好ましく、1ppm以上かつ80ppm以下がより好ましい。
【0016】
本実施形態の電極材料は、導電性をより高めるために、Li
xFe
yA
zBO
4(但し、AはMnおよびCoからなる群から選択される1種または2種以上、BはP、SiおよびSからなる群から選択される1種または2種以上、0≦x<4、0<y<1.5、0≦z<1.5)で表される電極活物質の粒子表面が炭素質膜で被覆されている。
【0017】
本実施形態の電極材料では、電極材料の全体に対するニッケルの含有量が1ppm以上かつ100ppm以下であり、1ppm以上かつ85ppm以下が好ましく、より好ましくは1ppm以上かつ60ppm以下である。
ここで、ニッケルの含有量が上記の範囲内であるのが好ましい理由は、ニッケルの含有量が上記の範囲外であると、次のような現象が生じるからである。鉄を含有する電極活物質(Li
xFe
yA
zBO
4)を主成分とする電極材料におけるニッケルの含有量が1ppm未満では、電極材料の電子伝導性を高められない。一方、ニッケルの含有量が100ppmを超えると、結晶構造中に欠陥を生じ、充放電時に電解液中にニッケルが溶解し、負極上に再析出、成長する。そのため、負極の活性を低下させるばかりではなく、正極と負極の間に導電経路を形成し、短絡を引き起こす。
【0018】
本実施形態の電極材料では、電極材料の全体に対するニッケルの含有量を1ppm以上かつ100ppm以下とすることにより、この電極材料を用いて形成された電極を正極として備えたリチウムイオン電池を、長期の充放電サイクルにおいても、負極へのダメージや安全性への影響を事実上無視できる。すなわち、鉄を含有する電極活物質(Li
xFe
yA
zBO
4)を主成分とする電極材料に、ニッケルを1ppm以上かつ100ppm以下含有することにより、電子伝導性と安定性(溶解耐性)の両方に優れた電極材料が得られる。
【0019】
一般に使用される工業グレードの鉄原料には、不純物としてニッケルが含有されており、特に、産廃鉄を利用して製造される鉄原料では、産廃鉄の種類によりニッケルを多く含有することもあり、鉄を含有する電極活物質(Li
xFe
yA
zBO
4)の鉄原料に使用することが不適当である場合があった。
本実施形態の電極材料では、電池における性能評価を行うことなく、電極材料中のニッケル含有量を1ppm以上かつ100ppmに管理することにより、電子伝導性と安定性(溶解耐性)に悪影響を与えることのない工業グレードや再生原料の鉄原料を用いることができる。また、電極材料の製造コストを低減することもできる。
また、ニッケルは通常のステンレス鋼に含まれるから、反応を伴う加熱工程を含む電極材料の合成においては、加熱時およびそれ以前の工程において、容器等の原料に接触する部材の材質にステンレス鋼を用いることにより、電極材料にニッケルを添加できる。よって、製造設備の低価格化、ひいては、製品の低コスト化に繋がるばかりでなく、それによる性能の向上も期待できる。
【0020】
前述のように、鉄を含有する電極活物質(Li
xFe
yA
zBO
4)を主成分とする電極材料中に、ニッケルを固溶させることは容易であるが、結晶構造中に100ppmを超えてニッケルが存在すると、ニッケルはもとより、鉄自体の溶出も加速される。これは、格子中に固溶したニッケルに起因する格子ひずみが溶解の起点となるためと考えられる。
【0021】
電極活物質の表面に炭素質被膜を形成する過程において、微量のニッケルを添加可能である。炭素源となる有機物とリン酸塩系電極活物質と微量のニッケルとを含む混合物、あるいは、電極活物質が炭化負触媒性を示すマンガン、コバルトの量が多い場合においては、微量のニッケルおよび鉄では不足する炭化触媒能を補うための鉄を炭素質被膜の前駆体である有機物中にさらに混合した混合物を、非酸化性雰囲気下で熱処理することにより、より高性能で、特に負荷特性、サイクル特性に優れた電極活物質材料が得られる。
この場合、例えば、有機物とリン酸塩系電極活物質の混合設備にステンレス鋼を用い、混合条件を調整することにより、新たなニッケル源の追加を省略することも可能である。
【0022】
本実施形態の電極材料は、微量のニッケルを含む鉄ポリアニオン系の電極材料、とりわけオリビン構造を有するリン酸塩系電極活物質からなるリチウムイオン電池の電極材料である。すなわち、本実施形態の電極材料は、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)やLi[MnFe]PO
4といった電極材料であって、良好な電子伝導性とサイクル安定性を付与するために、微量のニッケルを導入するとともに、ニッケル含有量を1ppm以上かつ100ppm以下に管理することにより、電子伝導性に優れ、しかも、ニッケルに起因する格子ひずみを起点とした溶出による悪影響を、事実上無しにした電極材料である。
【0023】
すなわち、本実施形態の電極材料は、鉄を含有するLi
xFe
yA
zBO
4で表される電極活物質を主成分とし、ニッケルを含有させて、ニッケルの含有量を1ppm以上かつ100ppm以下とした。これにより、本実施形態の電極材料は、電子伝導性を高められる。また、本実施形態の電極材料を用いて形成された電極を備えたリチウムイオン電池において、充放電時に電解液中にニッケルが溶解し、負極上に再析出、成長することにより、負極の活性が低下するのを防止できる。したがって、本実施形態の電極材料を用いて形成された電極を正極として備えたリチウムイオン電池では、電子伝導性に優れ、長期の充放電サイクルにおいても、負極へのダメージや安全性への影響を事実上無視することができるリチウムイオン電池にできる。また、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性および高速充放電特性を有するリチウムイオン電池を実現できる。よって、長期のサイクル安定性および信頼性を有するリチウムイオン電池を実現できる。
【0024】
[電極材料の製造方法]
本実施形態の電極材料は、電極活物質と、ニッケル源と、炭素源となる有機物とを混合した後、非酸化性雰囲気下にて熱処理することにより、得られる。
なお、本実施形態の電極活物質は、固相反応法、水熱合成法等により作製することができるが、水熱合成法を用いて高圧下で合成すれば、固相反応法と比べて低温で目的の物質を得ることができ、単分散性に優れた微粒子を得ることができるので、好ましい。
【0025】
次に、電極材料の製造方法について詳細に説明する。
まず、電極活物質と、ニッケル源と、炭素源となる有機物とを、溶媒に溶解あるいは分散させて、均一なスラリーとする。この溶解あるいは分散の際には、分散剤を加えてもよい。
本実施形態の電極材料を製造するには、電極活物質等の原料に、最終的に得られる電極材料の全体に対するニッケルの含有量が1ppm以上かつ100ppm以下となるように、ニッケル源を加えるか、原料の一部にニッケルを不純物として含む原料を用いる。あるいは、電極材料の合成において、加熱時およびそれ以前の工程において用いられる設備にステンレス鋼等のニッケルを含む材料を適用する。
【0026】
Li
xFe
yA
zBO
4(但し、AはMnおよびCo、BはP、0<x<4、0<y<1.5、0<z<1.5)で表される電極活物質としては、固相法、液相法、気相法等の従来の方法により製造した電極活物質が用いられる。
【0027】
電極活物質(Li
xFe
yA
zBO
4)としては、例えば、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩、あるいは水酸化リチウム(LiOH)からなる群から選択されたLi源と、塩化鉄(II)(FeCl
2)、酢酸鉄(II)(Fe(CH
3COO)
2)、硫酸鉄(II)(FeSO
4)等の2価の鉄塩と、リン酸(H
3PO
4)、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)等のリン酸化合物と、微量のニッケル原料(例えば、塩化ニッケル(II)(NiCl
2)、酢酸ニッケル(II)(Ni(CH
3COO)
2)、硫酸ニッケル(II)(NiSO
4)等のニッケル塩)と必要に応じて硫酸マンガン(MnSO
4)、硫酸コバルト(CoSO
4)といったA源(上記一般式Li
xFe
yA
zBO
4におけるAの原料)と、水とを混合して得られるスラリー状の混合物を、耐圧密閉容器を用いて水熱合成し、得られた沈殿物を水洗してケーキ状の前駆体物質を生成し、このケーキ状の前駆体物質を焼成して得られた化合物(Li
xFe
yA
zBO
4粒子)が好適に用いられる。
最終的に得られる電極材料の全体に対するニッケルの含有量が1ppm以上かつ100ppm以下となるように管理することにより、上記の各原料は純度の高い試薬グレードを使用し、微量のニッケル原料を添加してもよく、また、工業グレードや再生原料を使用することができる。
【0028】
Li
xFe
yA
zBO
4粒子は、結晶性粒子であっても非晶質粒子であってもよく、結晶質粒子と非晶質粒子が共存した混晶粒子であってもよい。ここで、Li
xFe
yA
zBO
4粒子が非晶質粒子でもよいとする理由は、この非晶質のLi
xFe
yA
zBO
4粒子は、500℃以上かつ1000℃以下の非酸化性雰囲気下にて熱処理すると、結晶化するからである。そのため、電子伝導性をより高めるための炭素質被膜を形成する場合においては、非晶質のLi
xFe
yA
zBO
4粉体が好適に用いられる。
【0029】
Li
xFe
yA
zBO
4粒子(1次粒子)の大きさは、特に限定されないが、平均粒径は0.01μm以上かつ20μm以下が好ましく、より好ましくは0.02μm以上かつ5μm以下である。
【0030】
ここで、電極活物質の1次粒子の平均粒径が上記の範囲内であるのが好ましい理由は、電極活物質の1次粒子の平均粒径が上記の範囲外であると、次のような現象が生じるからである。電極活物質の1次粒子の平均粒径が0.01μm未満では、電極材料を結着するためのバインダー樹脂を多く必要とし、電極板中の電極活物質の割合が低くなってしまう。その結果、容量が低下するばかりでなく、電子伝導性をより高めるための良好な炭素質被膜を形成することが困難となり、高速充放電における放電容量が低くなる。そのため、充分な充放電レート性能を実現することが困難となる。一方、電極活物質の1次粒子の平均粒径が20μmを超えると、1次粒子の内部抵抗が大きくなり、高速充放電における放電容量が不充分となる。
【0031】
なお、本実施形態における平均粒径とは、個数平均粒径のことである。この電極活物質の1次粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定できる。
【0032】
電極活物質の形状は、特に限定されないが、球状、特に真球状の2次粒子からなる電極材料が生成し易いため、この電極活物質からなる1次粒子の形状も、球状、特に真球状が好ましい。
ここで、電極活物質の1次粒子の形状として球状、特に真球状が好ましいさらなる理由は、電極活物質と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して電極(正極)作製用ペーストを調製する際に、溶媒の量を低減できるとともに、この電極(正極)作製用ペーストの集電体への塗工も容易となるからである。
【0033】
また、炭素源となる有機物の平均分子量は20万以下が好ましく、より好ましくは10万以下である。
ここで、炭素源となる有機物の平均分子量が20万を超えると、この有機物の水に対する溶解度が小さくなる。また、この有機物を水に溶解させたとしても、得られた溶液の粘度が高くなり、この高粘度が作業性の低下を招く虞があるので好ましくない。
このような有機物としては、グルコース、スクロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ヒドロキシ酸等が挙げられる。これらの有機物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
溶媒としては、水が好ましいが、水の他、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
上記の電極活物質と、炭素源となる有機物とを、溶媒に溶解あるいは分散させる方法としては、電極活物質または電極活物質の前駆体が均一に分散し、かつ有機物が溶解または分散する方法であれば、特に限定されない。電極材料の原料を、溶媒に溶解あるいは分散させる方法としては、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の媒体粒子を高速で攪拌する媒体攪拌型分散装置を用いる方法が好ましい。
【0036】
この溶解あるいは分散の際には、電極活物質を1次粒子として分散させ、その後、有機物とを溶解するように攪拌することにより均一なスラリーが調製できるため、好ましい。このようにすれば、電極活物質の1次粒子の表面が有機物で被覆され、その結果として、電極活物質の1次粒子の間に有機物由来の炭素が均一に介在するようになる。
【0037】
次いで、このスラリーを高温雰囲気中、例えば、70℃以上かつ250℃以下の大気中に噴霧し、乾燥させる。
ここで、噴霧の際の条件、例えば、スラリー中の電極活物質またはその前駆体の濃度、有機化合物の濃度、噴霧圧力、速度、更に、噴霧後に乾燥させる際の条件、例えば、雰囲気温度、滞留時間等を適宜調整する。これにより、平均粒径が0.5μm以上かつ100μm以下、好ましくは0.5μm以上かつ20μm以下の乾燥物が得られる。
【0038】
次いで、この乾燥物を、非酸化性雰囲気下、すなわち不活性雰囲気下または還元性雰囲気下にて、400℃以上かつ1000℃以下、好ましくは550℃以上かつ850℃以下の温度にて熱処理する。
不活性雰囲気としては、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる雰囲気が好ましく、より酸化を抑えたい場合には水素(H
2)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気が好ましい。
【0039】
ここで、熱処理温度を400℃以上かつ1000℃以下とした理由は、熱処理温度が前記の範囲外であると、次のような現象が生じるからである。熱処理温度が400℃未満では、炭素源となる有機物の分解・反応が充分に進行せず、炭素源となる有機物の炭化が不充分となった場合、生成する分解・反応物は高抵抗の炭素質電子伝導性物質からなる薄層となる。一方、熱処理温度が1000℃を超えると、電極活物質を構成するLi
xFe
yA
zBO粒子の成分、例えば、リチウム(Li)が蒸発して組成にずれが生じる。加えて、Li
xFe
yA
zBO粒子の粒成長が促進し、高速充放電レートにおける放電容量が低くなり、充分な充放電レート性能を実現することが困難となる。
また、熱処理時間は、炭素源となる有機物が充分に炭化される時間であればよく、特に制限はないが、例えば、0.5時間以上かつ48時間以下の時間が挙げられる。
以上により、本実施形態の電極材料を得ることができる。
【0040】
本実施形態の電極材料の製造方法によれば、電極活物質と、ニッケル源と、炭素源となる有機物とを混合した後、非酸化性雰囲気下にて熱処理するので、電子伝導性の向上と、負荷特性の向上とを同時に満足し、しかも、電解液中にニッケルが溶解し、負極上に再析出、成長して、負極の活性が低下するのを抑制可能な電極材料を容易かつ安価に製造できる。すなわち、本実施形態の電極材料の製造方法によれば、より低コスト、低環境負荷、低装置ダメージで、電子伝導性、負荷特性およびサイクル特性に優れた電極材料を容易に実現可能である。
【0041】
[電極]
本実施形態の電極は、本実施形態の電極材料を用いて形成された電極である。
本実施形態の電極を作製するには、上記の電極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、電極形成用塗料または電極形成用ペーストを調製する。この際、必要に応じてカーボンブラック等の導電助剤を添加してもよい。
【0042】
上記の結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
上記の電極材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、例えば、電極材料100質量部に対してバインダー樹脂を1質量部以上かつ30質量部以下、好ましくは3質量部以上かつ20質量部以下とする。
【0043】
電極形成用塗料または電極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよく、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
次いで、電極形成用塗料または電極形成用ペーストを、金属箔の一方の面に塗布し、その後、乾燥し、上記の電極材料とバインダー樹脂との混合物からなる塗膜が一方の面に形成された金属箔を得る。
次いで、この塗膜を加圧圧着し、乾燥して、金属箔の一方の面に電極材料層を有する電極を作製する。
このようにして、本実施形態の電極を作製することができる。
【0045】
本実施形態の電極によれば、本実施形態の電極材料を用いて形成されたので、電子伝導性を高められるとともに、充放電時に電解液中にニッケルが溶解し、負極上に再析出、成長して、負極の活性が低下するのを防止できる。したがって、電子伝導性に優れ、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性および高速充放電特性を有する電極を実現でき、その結果、長期のサイクル安定性および信頼性を有する電極を実現できる。
【0046】
[リチウムイオン電池]
本実施形態のリチウムイオン電池は、本実施形態の電極からなる正極と、金属Li、Li合金、Li
4Ti
5O
12、炭素材料等からなる負極と、電解液とセパレータあるいは固体電解質を備えている。
【0047】
本実施形態のリチウムイオン電池によれば、本実施形態の電極からなる正極を備えているので、電子伝導性、負荷特性およびサイクル特性を向上させることができる。したがって、耐久性、高放電容量、充分な充放電レート性能を有し、長期のサイクル安定性および信頼性を有するリチウムイオン電池を提供することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例1〜6および比較例1〜3により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
実施例および比較例に共通して用いられる電極活物質および炭化触媒溶液を作製した。
(電極活物質)
(1)LiFePO
4は、水熱合成法にて作製した。
まず、Li源として水酸化リチウム(LiOH)、P源としてリン酸(H
3PO
4)、Fe源として硫酸鉄7水和物(FeSO
4・7H
2O)を用い、これらをモル比でLi:Fe:P=2:1:1となるように純水中に投入して混合し、200mlの前駆体スラリーを作製した。
【0050】
次いで、この前駆体スラリーを耐圧容器に入れ、170℃にて24時間水熱合成を行った。この反応後に室温(25℃)になるまで自然冷却し、沈殿しているケーキ状の反応生成物を得た。この沈殿物を蒸留水で複数回十分に水洗し、乾燥しないように含水率30%に保持してケーキ状物質とした。
このケーキ状物質から測定用試料を若干量採取し、70℃にて2時間真空乾燥させ、得られた粉体をX線回折で同定したところ、単相のLiFePO
4が生成していることが確認された。
【0051】
(2)Li[MnFe]PO
4は、水熱合成法にて作製した。
Li源として水酸化リチウム(LiOH)、P源としてリン酸(H
3PO
4)、Fe源として硫酸鉄7水和物(FeSO
4・7H
2O)、Mn源として硫酸マンガン5水和物(MnSO
4・5H
2O)を用い、これらをモル比でLi:Fe:Mn:P=2:1:1:1となるように純水中に投入して混合した以外は、LiFePO
4の場合と同様にして、ケーキ状物質を得た。
【0052】
(3)Li[CoFe]PO
4は、水熱合成法にて作製した。
Li源として水酸化リチウム(LiOH)、P源としてリン酸(H
3PO
4)、Fe源として硫酸鉄7水和物(FeSO
4・7H
2O)、Co源として硫酸コバルト7水和物(CoSO
4・7H
2O)を用い、これらをモル比でLi:Fe:Co:P=2:1:1:1となるように純水中に投入して混合した以外は、LiFePO
4の場合と同様にして、ケーキ状物質を得た。
【0053】
(炭化触媒溶液)
有機物の炭化負触媒であるMnを含むLi[MnFe]PO
4活物質およびCoを含むLi[CoFe]PO
4活物質に炭素被覆するための炭化触媒溶液を調製した。
ここでは、炭酸リチウム、硝酸鉄(III)、リン酸をそれぞれ水に1molずつ加え、全体量が1kgとなるように調製し、次いで、撹拌・溶解し、炭化触媒溶液を得た。
この炭化触媒溶液中のLiFePO
4に換算した濃度は15.78質量%、モル濃度で1mol/kgであった。
【0054】
[実施例1]
上記のLiFePO
4の合成工程において、原料に硫酸鉄7水和物(FeSO
4・7H
2O)を用い、硫酸ニッケル(NiSO
4)を微量(電極活物質中ニッケル含有量10ppm相当)添加して、LiFePO
4からなる正極活物質を得た。
上記のLiFePO
420gと、炭化触媒溶液をLiFePO
4換算で1gとを混合し、次いで、この混合液にポリビニルアルコール4.0gを添加し、さらに水を添加して全体量を100gとし、この混合物を、直径5mmのジルコニアボール150gとともにボールミルにて粉砕混合し、スラリーを得た。
得られたスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒し、その後、窒素(N
2)雰囲気下にて、700℃にて5時間、熱処理を行い、実施例1の炭素被覆で被覆された電極材料A1を得た。
【0055】
[実施例2]
硫酸ニッケル(NiSO
4)を、電極活物質中のニッケル含有量80ppmに相当するように添加した以外は実施例1と同様にして、LiFePO
4からなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にして、実施例2の炭素被覆で被覆された電極材料A2を得た。
【0056】
[実施例3]
硫酸ニッケル(NiSO
4)を、電極活物質中のニッケル含有量50ppmに相当するように添加した以外は実施例1と同様にして、LiFePO
4からなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にして、実施例3の炭素被覆で被覆された電極材料A3を得た。
【0057】
[実施例4]
硫酸ニッケル(NiSO
4)を、電極活物質中のニッケル含有量1ppmに相当するように添加した以外は実施例1と同様にして、LiFePO
4からなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にして、実施例4の炭素被覆で被覆された電極材料A4を得た。
【0058】
[実施例5]
硫酸鉄7水和物(FeSO
4・7H
2O)の一部を、電極活物質中のマンガン含有量4500ppmに相当するように、硫酸マンガン5水和物(MnSO
4・5H
2O)に置き換えた以外は実施例1と同様にして、Li[MnFe]PO
4からなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にして、実施例5の炭素被覆で被覆された電極材料A5を得た。
【0059】
[実施例6]
硫酸鉄7水和物(FeSO
4・7H
2O)の一部を、電極活物質中のコバルト含有量80ppmに相当するように、硫酸コバルト7水和物(CoSO
4・7H
2O)に置き換えた以外は実施例1と同様にして、Li[CoFe]PO
4からなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にして、実施例6の炭素被覆で被覆された電極材料A6を得た。
【0060】
[実施例7]
LiFePO
4の合成工程において、原料に硫酸鉄7水和物(FeSO
4・7H
2O)を用い、硫酸ニッケル(NiSO
4)を微量(電極活物質中のニッケル含有量10ppmに相当)添加して、LiFePO
4からなる正極活物質を得た。
上記のLiFePO
420gと、ポリビニルアルコール4.0gを添加し、さらに水を添加して全体量を100gとし、この混合物を、直径5mmのジルコニアボール150gとともにボールミルにて粉砕混合し、スラリーを得た。
得られたスラリーを、スプレードライヤーを用いて乾燥、造粒し、その後、窒素(N
2)雰囲気下にて、700℃にて5時間、熱処理を行い、実施例7の炭素被覆で被覆された電極材料A7を得た。
【0061】
[比較例1]
硫酸鉄7水和物(FeSO
4・7H
2O)を純水に溶解した後、再結晶させて、不純物を取り除いた。
この不純物を取り除いた硫酸鉄7水和物(FeSO
4・7H
2O)を用い、硫酸ニッケル(NiSO
4)を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、LiFePO
4からなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にして、比較例1の炭素被覆で被覆された電極材料B1を得た。
【0062】
[比較例2]
硫酸ニッケル(NiSO
4)を電極活物質中ニッケル含有量120ppm相当添加した以外は実施例1と同様にして、LiFePO
4からなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質を用い、実施例1と同様にして、比較例2の炭素被覆で被覆された電極材料B2を得た。
【0063】
[比較例3]
実施例1と同様にして、LiFePO
4からなる正極活物質を得た。
得られた正極活物質を窒素(N
2)雰囲気下にて、700℃にて5時間、熱処理を行い、比較例3の炭素被覆で被覆されてない電極材料B3を得た。
【0064】
[リチウムイオン電池の作製]
実施例1〜7および比較例1〜3にて得られた各々の電極材料を用いて、実施例1〜7および比較例1〜3各々のリチウムイオン電池を作製した。
まず、上記の電極材料と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)と、結着材(バインダー)としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比が電極材料:AB:PVdF=90:5:5となるように混合し、さらに溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を加えて流動性を付与し、正極材料ペーストとした。
【0065】
次いで、この正極材料ペーストを厚み30μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥した。その後、所定の密度となるように圧着し、電極板とした。
次いで、得られた各電極板を、直径16mmの円板状に打ち抜き、実施例1〜7および比較例1〜3各々の試験電極(正極)を作製した。
【0066】
一方、負荷特性評価用として、金属リチウムからなる対極(負極)を用いた。
また、サイクル特性評価用として、人造黒鉛からなる対極(負極)を用いた。この人造黒鉛からなる対極を以下のように作製した。
人造黒鉛と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)と、結着材(バインダー)としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比が電極材料:AB:PVdF=93:2:5となるように混合し、さらに溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を加えて流動性を付与し、対極材料ペーストとした。
次いで、この対極材料ペーストを厚み30μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥した。その後、所定の密度となるように圧着し、電極板とした。
次いで、得られた各電極板を、直径16mmの円板状に打ち抜き、実施例1〜7および比較例1〜3各々のサイクル特性評価用の対極(負極)を作製した。
【0067】
セパレータとしては、多孔質ポリプロピレン膜を用いた。
また、非水電解質である非水電解質溶液として、1mol/LのLiPF
6溶液を用いた。なお、このLiPF
6溶液に用いられる溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルを体積比で1:1に混合したものを用いた。
そして、以上の様にして作製された試験電極(正極)、対極(負極)および非水電解質溶液と、2016型のコインセルを用いて、実施例1〜7および比較例1〜3各々のリチウムイオン電池を作製した。
【0068】
[電極材料のニッケル、鉄、マンガン、コバルトの定量]
実施例1〜7および比較例1〜3にて得られた各々の電極材料を、大気中、750℃にて5時間、熱処理を行った後、熱処理後の電極材料を塩酸で全量溶解した溶液を、ICP原子発光分光分析により定量し、電極材料のニッケル、マンガン、コバルト含有量を定量した。
また、サイクル試験後のリチウムイオン電池を解体し、対極(負極)を構成する人造黒鉛を、大気中、750℃にて5時間、熱処理を行った後、熱処理後の残渣を塩酸で全量溶解した溶液を、ICP原子発光分光分析により定量し、人造黒鉛のニッケル含有量および鉄含有量を定量した。
これらの測定結果を表1に示す。表1中、「tr.」は、検出下限未満の極微量であることを示す。
【0069】
[充放電試験]
実施例1〜7および比較例1〜3各々のリチウムイオン電池について、充放電試験を実施した。それぞれのリチウムイオン電池について、0.1Cの電流で定電流充電を行い、各電流で放電容量を測定した。
電圧範囲は、正極活物質がLiFePO
4の場合2−4.2V、正極活物質がLi[MnFe]PO
4の場合2−4.5V、正極活物質がLi[CoFe]PO
4の場合2−4.8Vとした。
サイクル試験は、1Cの電流で2−4.2Vで行った。1000サイクル後の放電容量を、5サイクル目の放電容量で除して、容量維持率を求めた。
これらの測定結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
以上の結果によれば、実施例1〜7の電極材料A1〜7を用いたリチウムイオン電池では、いずれも良好な負荷特性とサイクル特性を示した。
一方、比較例1のニッケルをほとんど含まない電極材料B1を用いたリチウムイオン電池では、実施例1〜7よりも負荷特性が劣っていた。また、比較例2のニッケルの含有量が100ppmを超える電極材料B2を用いたリチウムイオン電池では、実施例1〜7よりもサイクル特性が劣っていた。
【0072】
なお、実施例1〜7および比較例1〜3では、導電助剤としてアセチレンブラックを用いたが、これに限定されるものではなく、カーボンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料を用いてもよい。
また、実施例1〜7および比較例1〜3では、負荷特性評価用として、金属リチウムからなる対極を用い、サイクル特性評価用として、人造黒鉛からなる対極を用いたが、これに限定されるものではなく、対極として、天然黒鉛、コークスのような他の炭素材料、Li
4Ti
5O
12やLi合金等の負極材料を用いてもよい。
【0073】
また、実施例1〜7および比較例1〜3では、非水電解質である非水電解質溶液として、1mol/LのLiPF
6溶液を含む炭酸エチレンと炭酸ジエチルを体積比で1:1に混合したものを用いたが、これに限定されるものではなく、LiPF
6の代わりにLiBF
4やLiClO
4を用いてもよく、炭酸エチレンの代わりにプロピレンカーボネートやジエチルカーボネートを用いてもよい。
また、実施例1〜7および比較例1〜3では、電解液とセパレータを用いたが、これに限定されるものではなく、電解液とセパレータの代わりに固体電解質を用いてもよい。
記ニッケルの含有量が1ppm以上かつ100ppm以下であり、前記マンガンの含有量が240ppm以上4610ppm以下であり、前記ニッケルの含有量および前記マンガンの含有量は、それぞれ前記電極