前記酸化性雰囲気が、酸素プラズマ、酸素ラジカル、および、オゾンからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項5に記載のシリコンオキシナイトライド膜。
表面のXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy;光電子分光測定)分析したときのO1s結合エネルギーのピーク値が532.0eVより大きい、請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリコンオキシナイトライド膜。
前記転化工程の後、前記転化工程で得られた膜の表面に対して、酸化性雰囲気下にて酸化処理を施す酸化工程をさらに含む、請求項12または13に記載のシリコンオキシナイトライド膜の製造方法。
前記酸化性雰囲気が、酸素プラズマ、酸素ラジカル、および、オゾンからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項14に記載のシリコンオキシナイトライド膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のシリコンオキシナイトライド膜およびその製造方法、該シリコンオキシナイトライド膜を含むトランジスタの好適態様について説明する。
まず、本発明の従来技術と比較した特徴点としては、FT−IR測定で得られる吸収スペクトルにおける、Si−N結合由来の吸収強度(I
Si-N)と、Si−O結合由来の吸収強度(I
Si-O)との比(I
Si-N/I
Si-O)を所定の範囲に調整した点が挙げられる。つまり、シリコンオキシナイトライド膜中に含まれるSi−N結合の割合が多いことにより、所望の効果が得られることを見出している。
なお、後述するように、該シリコンオキシナイトライド膜は、塗膜を形成した後、溶媒を除去することなく(つまり、乾燥工程を設けることなく)、紫外線照射および/または加熱処理を実施することにより製造できる。該処理を実施することにより、シリコンオキシナイトライド膜の酸化を抑制しつつ、Si−N結合の比率を高めることができる。上述した特許文献1においては、塗膜を形成した後、溶媒を除去する工程を実施しているため、所望の比(I
Si-N/I
Si-O)を示すシリコンオキシナイトライド膜が得られない。
【0011】
以下では、まず、シリコンオキシナイトライド膜(以後、適宜「SiON膜」とも称する)の製造方法について詳述し、後段において得られるシリコンオキシナイトライド膜の特性について詳述する。
シリコンオキシナイトライド膜の製造方法は、所定の成分を含む塗膜を形成する塗布工程と、塗膜に対して、溶媒の除去をすることなく、紫外線を照射する、および/または、加熱処理を施す転化工程とを備える。
以下、各工程で使用される材料およびその手順について詳述する。
【0012】
<塗布工程>
塗布工程は、基板表面にシラザン化合物および溶媒を含む塗膜形成用組成物を塗布して、塗膜を形成する工程である。本工程を実施することにより、後述する転化工程にて紫外線照射および/または加熱処理が施される塗膜が得られる。
以下では、まず、本工程で使用される材料(シラザン化合物、溶媒など)について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0013】
(シラザン化合物)
シラザン化合物とは、その構造内にケイ素と窒素の結合(−SiN−)をもった化合物であり、SiON膜を形成する際の出発原料となる化合物である。
シラザン化合物としては、低分子化合物でも高分子化合物(所定の繰り返し単位を有するポリマー)であってもよい。低分子系のシラザン化合物としては、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジメチルアミノトリメチルシラン、トリシラザン、シクロトリシラザン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメテルシクロトリシラザンなどが挙げられる。
高分子系のシラザン化合物(ポリシラザン化合物)の種類は特に制限されないが、例えば、特開平8−112879号公報に記載の下記の一般式(1)で表される単位からなる主骨格を有する化合物であることが好ましい。
【0015】
上記一般式において、R
1、R
2、およびR
3は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、またはアルコキシ基を表す。
【0016】
ポリシラザンとしては、SiON膜の絶縁特性がより優れる点で、R
1、R
2、およびR
3のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザン(以下、「PHPS」とも称する)であることが好ましい。
【0017】
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6員環および8員環を中心とする環構造が存在する構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)であり、液体または固体の物質でありうる(分子量によって異なる)。当該パーヒドロポリシラザンは、市販品を使用してもよく、当該市販品としては、アクアミカNN120、NN120−20、NN110、NAX120、NAX120−20、NAX110、NL120A、NL120−20、NL110A、NL150A、NP110、NP140(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)等が挙げられる。
【0018】
ポリシラザンの別の例としては、上記一般式で表されるポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(例えば、特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(例えば、特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(例えば、特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(例えば、特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(例えば、特開平7−196986号公報)等が挙げられる。
【0019】
ポリシラザン化合物の分子量は特に限定されないが、例えば、ポリスチレン換算平均分子量が1,000〜20,000の範囲にあるものが好ましく、1,000〜10,000の範囲にあるものがより好ましい。これらのポリシラザン化合物は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
(溶媒)
塗膜形成用組成物には、溶媒が含まれる。溶媒としては、用いられるシラザン化合物を溶解し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましい溶媒の具体例としては、次のものが挙げられる。
(a)芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、
(b)飽和炭化水素化合物、例えば、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、i−デカン等、
(c)脂環式炭化水素化合物、例えば、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、リモネン等、
(d)エーテル類、例えば、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル(以下、MTBEという)、アニソール等、および(e)ケトン類、例えば、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)等。
これらのうち、(b)飽和炭化水素化合物、(c)脂環式炭化水素化合物、(d)エーテル類、および(e)ケトン類が好ましい。
【0021】
塗膜形成用組成物中におけるシラザン化合物と溶媒との質量比(シラザン化合物の質量/溶媒の質量)は特に制限されず、塗膜の厚みに応じて適宜最適な質量比が選択されるが、塗布性に優れる点で、0.01〜0.50が好ましく、0.05〜0.20がより好ましい。
【0022】
上記塗膜形成用組成物は、必要に応じてその他の添加剤成分を含有することもできる。そのような成分として、例えば、粘度調整剤、架橋促進剤等が挙げられる。
【0023】
(基板)
使用される基板の形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。基板の構造は単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
基板の材質としては特に限定はなく、例えば、ガラス、YSZ(イットリウム安定化ジルコニウム)等の無機材料、樹脂材料や、その複合材料等を用いることができる。なかでも、軽量である点、可撓性を有する点から樹脂基板やその複合材料が好ましい。
基板としては、具体的には、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンズアゾール、ポリフェニレンサルファイド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂、液晶ポリマー、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アイオノマー樹脂、シアネート樹脂、架橋フマル酸ジエステル、環状ポリオレフィン、芳香族エーテル、マレイミドーオレフィン、セルロース、エピスルフィド化合物等の合成樹脂基板、酸化珪素粒子と合成樹脂との複合プラスチック材料基板、金属ナノ粒子、無機酸化物ナノ粒子、無機窒化物ナノ粒子等と合成樹脂との複合プラスチック材料基板、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等と合成樹脂との複合プラスチック材料基板、ガラスフレーク、ガラスファイバー、ガラスビーズ等と合成樹脂との複合プラスチック材料基板、粘土鉱物や雲母派生結晶構造を有する粒子と合成樹脂との複合プラスチック材料基板、薄いガラスと上記単独有機材料との間に少なくとも1回の接合界面を有する積層プラスチック材料基板、無機層と有機層を交互に積層することで、少なくとも1回以上の接合界面を有するバリア性能を有する複合材料基板、ステンレス基板或いはステンレスと異種金属を積層した金属多層基板、アルミニウム基板或いは表面に酸化処理(例えば陽極酸化処理)を施すことで表面の絶縁性を向上させた酸化皮膜付きのアルミニウム基板等を用いることができる。また、樹脂基板は、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、加工性、低通気性、または低吸湿性等に優れていることが好ましい。樹脂基板は、水分や酸素の透過を防止するためのガスバリア層や、樹脂基板の平坦性や下部電極との密着性を向上するためのアンダーコート層等を備えていてもよい。
また、本発明における基板の厚みに特に制限はないが、50〜1000μmが好ましく、50〜500μmがより好ましい。基板の厚みが、50μm以上であると、基板自体の平坦性がより向上する。また、基板の厚みが500μm以下であると、基板自体の可撓性がより向上し、フレキシブルデバイス用基板としての使用がより容易となる。
【0024】
(工程の手順)
基板表面に対して塗膜形成用組成物を塗布する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、インクジェット法、スリットコート法、スクリーン印刷法、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、転写法などが挙げられる。
塗布後の塗膜の厚さは、後述する紫外線照射および/または加熱処理の際に効率的に硬化(転化)できるように薄いことが好ましい。このために、塗膜の厚さは1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。一方、塗膜の厚さに下限はないが、成膜性の点から、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
また、基板として可撓性基板を用いる際は、塗膜形成用組成物の塗布後にSiON膜へ転化する際に発生する体積収縮による基板の反りを抑制するために、基板の両面に塗膜形成用組成物を塗布してもよい。
【0025】
<転化工程>
転化工程は、上記塗布工程で得られた塗膜に含まれる溶媒を除去することなく、非酸化性雰囲気下にて、塗膜に紫外線を照射する、および/または、塗膜を加熱する(加熱処理を施す)工程である。該処理を実施することにより、シラザン化合物から簡便の所望のSiON膜への転化が進行する。特に、本工程では、上記塗布工程で得られた塗膜に含まれる溶媒を除去することなく、上記処理(紫外線照射処理、および、加熱処理からなる群から選択される少なくとも一方の処理を含む転化処理)を実施する。言い換えると、塗布工程で得られた塗膜に対して、溶媒を除去するための乾燥処理を施すことなく、上記処理を実施する。つまり、「溶媒を除去することなく」塗膜に紫外線を照射する(または、加熱処理を施す)とは、溶媒由来の成分が残存している塗膜に対して紫外線を照射する(または、加熱処理を施す)ことを意味する。シラザン化合物は酸素および水分の存在下で加熱処理を施すことで、酸化が促進されてしまう材料である。それ故に乾燥処理を実施した場合、Si−O結合の生成が進行してしまい、所望の比(I
Si-N/I
Si-O)のSiON膜を得ることができない。以下、本工程の手順について詳述する。
【0026】
上述したように、転化工程においては、塗布工程で得られた塗膜に含まれる溶媒を除去することなく、塗膜に対して紫外線照射をする、および/または、塗膜に対して加熱処理を実施する。つまり、塗布工程の後、別途、塗膜中の過剰の溶媒を除去するための乾燥工程を設けることなく、塗膜に対して紫外線照射処理および/または加熱処理を実施する。該工程を実施することにより、塗膜中においてSi−O結合が生成する程度抑制することができ、結果として所望の比(I
Si-N/I
Si-O)のSiON膜を得ることができる。
なお、上記乾燥工程の定義としては、50℃以上150℃以下の温度条件にて乾燥処理を施す工程を意図する。本発明では、該乾燥工程を実施することなく、後述する紫外線照射または加熱処理を実施する。
【0027】
紫外線照射および/または加熱処理を行う雰囲気は、非酸化性雰囲気下である。非酸化性雰囲気にて、上記処理を実施することにより、Si−N結合の割合が高いSiON膜を得ることができる。非酸化性雰囲気とは、酸化反応が進行しない程度の低酸素濃度である状態を意図し、酸素濃度が体積比で0.1%以下である雰囲気が好ましい。より具体的には、上記酸素濃度(0.1%以下)とした減圧状態;窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性雰囲気;真空、二酸化炭素、水素、アンモニアなどの還元性雰囲気などが挙げられ、なかでも窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0028】
紫外線照射の条件は、形成させようとするSiON膜の厚さ、組成、硬度などに応じて適切に選択されるが、一般的には下記のような範囲で選択される。
照射する紫外線の波長は特に制限されないが、450nm以下が好ましく、150〜300nmがより好ましい。
【0029】
紫外線照射時間は特に制限されないが、3分以上が好ましく、20分以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、生産性の点から、60分以下が好ましい。
必要な照射エネルギーは、塗膜に含まれるシラザン化合物がシリコンオキシナイトライドに充分に転化する量であり、特に限定されないが、0.5J/cm
2以上であることが好ましく、1.0J/cm
2以上であることがより好ましい。なお、上限は特に制限されないが、生産性および経済性の点から、1000J/cm
2以下の場合が好ましい。
このような紫外線光源は、種々のものが知られており、任意のものを用いることができるが、例えばキセノン放電管、水銀放電管、エキシマーランプ、紫外線LEDなどを挙げることができる。
なお、紫外線は、塗膜の片面(一方の主面)にのみ照射してもよいし、塗膜の両面(2つの主面)に照射してもよい。特にシラザン化合物を両面に塗布した場合は、可撓性基板の反りを抑制するために、両面から同時に紫外線照射をすることが好ましい。
【0030】
加熱処理の条件は特に制限されず、使用されるシラザン化合物の種類に応じて適宜最適な条件が選択されるが、得られるSiON膜の絶縁特性がより優れる点で、温度条件としては、非酸化性雰囲気中で100〜500℃が好ましく、150℃超400℃以下がより好ましい。加熱時間は、得られるSiON膜の絶縁特性がより優れる点で、10分以上が好ましく、20分以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、生産性の点から、60分以下が好ましい。
【0031】
なお、上記紫外線照射の際には、必要に応じて、加熱処理を合わせて実施してもよい。加熱処理の条件としては、150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0032】
<任意の工程>
上記SiON膜の製造方法においては、上述した塗布工程および転化工程以外の工程を含んでいてもよい。
例えば、上記転化工程の後に、転化工程で得られた膜の表面に対して、酸化性雰囲気下にて酸化処理を施す酸化工程をさらに含むことが好ましい。該酸化工程を実施することにより、SiON膜中の表面近傍領域においてSi−O結合の割合が増加する。結果として、該酸化工程が施されたSiON膜の表面では、酸化物半導体層との界面の接合特性がより優れ、結果としてトランジスタの信頼性がより向上する。
【0033】
酸化性雰囲気としては、例えば、酸素、酸素イオン、オゾン、酸素プラズマ、酸素ラジカル、水、水酸化物イオン、および、水酸基ラジカルの少なくともいずれか1つを含むことが挙げられる。なかでも、酸化が進行しやすい点から、オゾン、酸素プラズマ、または、酸素ラジカルが好ましく、オゾンがより好ましい。また、オゾン雰囲気中におけるオゾン濃度は、500ppm以上が好ましい。
なお、本明細書において、「オゾン処理」とは、オゾン雰囲気下にて酸化処理を実施することを意図する(なお、オゾン雰囲気下にて加熱処理を施す場合も、「オゾン処理」に含まれる)。
酸化処理の方法としては、上記転化工程にて得られた膜に対して、酸化性雰囲気中にて加熱処理および/または光照射処理を施す方法や、オゾン、酸素プラズマ、または、酸素ラジカルなどの酸化性雰囲気中での酸化処理を行う方法、などが挙げられる。なかでも、上記転化工程で得られた膜の表面の酸化がより効率的に進行する点で、オゾン雰囲気下にて、加熱処理を施す方法が好ましい。
なお、加熱処理の条件は特に制限されないが、酸化が効率的に進行する点および膜の分解が抑制される点で、50℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
【0034】
なお、上述した塗布工程および転化工程(特に、紫外線照射処理)は、酸化を防ぐために、上述した塗布工程と実施する塗布装置、転化工程を実施する紫外線照射装置をインラインで備えるSiON膜形成装置で実施することが好ましい。また、上記酸化工程を実施する場合は、酸化工程を実施する表面酸化装置をさらにインラインで備えるSiON膜形成装置で実施することが好ましい。なお、ここでインラインとは、搬送ベルトを使用して連続して、上記装置を通す処理を意図する。
【0035】
<シリコンオキシナイトライド膜(SiON膜)>
上記工程を経てることにより、塗膜中のシラザン化合物がシリコンオキシナイトライド膜に転化される。シリコンオキシナイトライド膜は、主に、酸素、ケイ素、および、窒素などの原子を含む膜である。該膜には、発明の効果を損なわない範囲で他の原子(水素、炭素など)が含まれていてもよい。
該シリコンオキシナイトライド膜は、FT−IR測定で得られる吸収スペクトルにおける、Si−N結合由来の吸収強度(I
Si-N)と、Si−O結合由来の吸収強度(I
Si-O)との比(I
Si-N/I
Si-O)が1.00以上であり、SiON膜の絶縁特性がより優れる点で、1.39以上が好ましく、1.79以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、通常、5.00以下の場合が多い。
上記比(I
Si-N/I
Si-O)が1.00未満の場合、絶縁特性に劣ると共に、該膜を含む薄膜トランジスタのTFT特性も劣る。
なお、FT−IRのATR法により求めた、800〜860cm
-1の範囲内におけるSi−N結合由来の吸収強度の極大値を「Si−N結合由来の吸収強度(I
Si-N)」とし、1000〜1060cm
-1の範囲内におけるSi−O結合由来の吸収強度の極大値を「Si−O結合由来の吸収強度(I
Si-O)」とする。
FT−IR測定は、以下のように実施する。具体的には、サーモフィッシャー社のフーリエ変換赤外分光光度計をもちい、試料(膜)に赤外光を照射し、透過した光量を測定する(透過法)。SiON膜の任意の3箇所にて測定を実施して、各測定箇所で求められる比(I
Si-N/I
Si-O)を算術平均する。
【0036】
SiON膜の膜厚は特に制限されないが、絶縁特性に優れる点で、70nm以上が好ましく、90nm以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、塗布工程で得られる塗膜の厚みの調整がしやすい点から、500nm以下の場合が多い。
なかでも、SiON膜を可撓性基板上で製造する場合に、得られるSiON膜と可撓性基板との積層体の反りが抑制される点で、SiON膜の厚みは200nm以下が好ましく、100〜150nmが好ましい。
【0037】
SiON膜には水素が含まれていてもよく、その含有比率としては、水素が15atomic%以上含まれていてもよい。上限は特に制限されないが、30atomic%以下の場合が多い。
また、SiON膜には炭素が含まれていてもよく、その含有比率としては、炭素が1atomic%以下含まれていてもよい。下限は特に制限されないが、0.001atomic%以上の場合が多い。
なお、これら水素や炭素は、溶媒やシラザン化合物原料由来の場合がある。
【0038】
SiON膜の表面は一部が酸化されていてもよく、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy;光電子分光測定)分析により測定したSiON膜の表面の酸素の含有量は、60atomic%以上であることが好ましく、64atomic%以上であることがより好ましい。上記範囲内であれば、酸化物半導体層との界面の接合特性がより優れる。なお、上限は特に制限されないが、66.67atomic%以下の場合が多い。
XPS測定は、島津製作所Kratos AXIS−ULTRA DLDを用いて実施する。
【0039】
SiON膜の少なくとも一方の表面には、シリコン酸化膜が含まれることが好ましい。つまり、SiON膜の少なくとも一方の表面から深さ方向にわたった表層領域(表面から所定の深さ位置までの領域)が酸化シリコンで形成されていることが好ましい(言い換えれば、SiON膜の表層領域にN原子が含まれず、Si原子およびO原子が含まれることが好ましい)。上記態様であれば、酸化物半導体層との界面の接合特性がより優れる。
なお、上記シリコン酸化膜の厚みは特に制限されないが、25nm以下が好ましく15nm以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、5nm以上の場合が多い。つまり、SiON膜の少なくとも一方の表面から深さ方向25nm以下の位置まで、酸化シリコンで形成されていることが好ましい。
【0040】
本発明のSiON膜としては、得られる膜の絶縁特性が優れると共に、酸化物半導体層との界面の接合特性がより優れる点から、表面に対して上述した酸化工程が施されたSiON膜が好ましい。
上記酸化工程を実施した場合、酸化工程が施されたSiON膜の表面にはSi−O結合が多く存在している。より具体的には、酸化工程が施された表面を、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy;光電子分光測定)分析したときのO1s結合エネルギーのピーク値が532.0eVより大きいことが好ましい。
【0041】
本発明のSiON膜は、種々の用途に好適に用いることができる。例えば、トランジスタのゲート絶縁膜、層間絶縁膜、ガスバリア膜、光学薄膜などが挙げられる。
【0042】
上述したように、本発明のSiON膜はトランジスタ(特に、薄膜トランジスタ)のゲート絶縁膜に好適に使用することができ、特に、酸化物半導体層との接合特性がより優れる点で、ボトムゲート型のトランジスタに好適に使用できる。
本発明のSiON膜を含む薄膜トランジスタの一態様について図面を参照して説明する。
図1は、薄膜トランジスタの一態様の断面模式図である。
図1において、薄膜トランジスタ100は、基板10と、基板10上に配置されたゲート電極20と、ゲート電極20上に配置されたゲート絶縁膜30と、ゲート絶縁膜30上に配置された酸化物半導体層40と、酸化物半導体層40上に配置されたソース電極50およびドレイン電極60とを少なくとも備える。ここで、ゲート絶縁膜30は、上述したSiON膜で形成されたものである。薄膜トランジスタ100は、ボトムゲート型の薄膜トランジスタである。以下では、ボトムゲート型の薄膜トランジスタについてのみ詳述するが、トップゲート型の薄膜トランジスタのゲート絶縁膜に本発明のSiON膜を適用してもよい。ゲート絶縁膜30は酸化物半導体層40に隣接して配置され、本発明のSiON膜を使用すれば、酸化物半導体層40との界面特性がより向上し、薄膜トランジスタとしての性能がより向上する。
なお、上述した酸化工程が施されたSiON膜を使用する場合は、上記酸化工程が施された表面を酸化物半導体層40側に配置することが好ましい。
また、
図1においては、酸化物半導体層を用いた酸化物薄膜トランジスタの態様について詳述するが、本発明のSiON膜は有機半導体材料を含む有機半導体層を用いた有機薄膜トランジスタのゲート絶縁膜としても好適に使用できる。
以下、基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、酸化物半導体層、ソース電極、ドレイン電極について詳述する。
【0043】
<基板>
基板は、後述するゲート電極、ソース電極、ドレイン電極などを支持する役割を果たす。基板の種類は特に制限されず、上述した塗布工程で使用される基板などが挙げられる。
【0044】
<ゲート電極>
ゲート電極の材料としては、例えば、金(Au)、銀、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、コバルト、チタン、白金、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属;InO
2、SnO
2、ITO等の導電性の酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料などが挙げられる。なかでも、金属であることが好ましく、銀、アルミニウムであることがより好ましい。
ゲート電極の厚みは特に制限されないが、10nm以上1000nm以下が好ましく、50nm以上500nm以下がより好ましい。
ゲート電極を形成する方法は特に制限されないが、例えば、基板上に、電極材料を真空蒸着またはスパッタする方法、電極形成用組成物を塗布または印刷する方法などが挙げられる。また、電極をパターニングする場合、パターニングする方法としては、例えば、フォトリソグラフィー法;インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法;マスク蒸着法などが挙げられる。
【0045】
<ゲート絶縁膜>
ゲート絶縁膜は、上記SiON膜より形成される。
ゲート絶縁膜の膜厚は特に制限されないが、70〜1000nmであることが好ましい。
なお、
図1においては、ゲート絶縁膜がSiON膜である態様を示すが、その態様には限定されず、例えば、SiON膜と他のゲート絶縁膜とを積層した積層絶縁膜であってもよい。その場合、酸化物半導体層と接している部分が本発明のSiON膜であることが好ましい。
上記他のゲート絶縁膜としては、例えば、絶縁材料としてポリマーを含むポリマー絶縁膜が挙げられる。例として、ビニル系高分子、スチレン系高分子、アクリル系高分子、エポキシ系高分子、エステル系高分子、フェノール系高分子、イミド系高分子、および、シクロアルケン(Cycloalkene)で構成されたポリマーからなる群から選択される少なくとも一つのポリマーを含むポリマー絶縁膜であることが好ましい。
【0046】
更に詳細には、ポリマー絶縁膜としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン(PS)、ポリアクリルレート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリカーボネート(PC)、ポリテレフタル酸エチレン(PET)、パリレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリベンゾシクロブテン(BCB)、ポリシクロペンテン(CyPe)、および、ポリシルセスキオキサンからなる群から選択される少なくとも一つのポリマーを含むポリマー絶縁膜であることも好ましい。
【0047】
<酸化物半導体層>
酸化物半導体層は、活性層(チャネル)として機能するものであり、例えば、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)および亜鉛(Zn)等のうちの1種または2種以上の混合物の酸化物よりなる。このような酸化物としては、例えば、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO,InGaZnO)が挙げられる。酸化インジウムガリウム亜鉛以外にも、In−Al−Zn−O系、In−Sn−Zn−O系、In−Zn−O系、In−Sn−O系、Zn−O系、Sn−O系などを用いてもよい。
酸化物半導体層の厚みは、特に制限されないが、5〜300nmが好ましい。
酸化物半導体層を形成する方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、スピンコート、インクジェット、ディスペンサー、スクリーン印刷、凸版印刷または凹版印刷等を用いることができる。また、スパッタ法や、蒸着法などの気相法を採用することもできる。
【0048】
<ソース電極、ドレイン電極>
ソース電極およびドレイン電極の材料の具体例は、上述したゲート電極と同じである。
ソース電極およびドレイン電極を形成する方法は特に制限されないが、例えば、ゲート電極とゲート絶縁膜とが形成された基板上に、電極材料を真空蒸着またはスパッタする方法、電極形成用組成物を塗布または印刷する方法などが挙げられる。パターニング方法の具体例は、上述したゲート電極と同じである。
ソース電極およびドレイン電極のチャネル長は特に制限されないが、0.01〜1000μmであることが好ましい。
ソース電極およびドレイン電極のチャネル幅は特に制限されないが、0.01〜5000μmであることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
(SiON膜の製造)
NN120−20(AZエレトロニクスマテリアル製)をAZ-Thinnerにて4倍希釈し、溶液Xを作製した。その後、大気下にて、基板上にスピンコート2000rpmで溶液Xを塗布し、ポリシラザン塗膜を形成させた。ポリシラザン塗膜の膜厚は、150nmであった。
なお、基板としては、結合状態評価のためのFT-IR測定を行うためにノンドープのシリコン基板を、電気測定評価(絶縁特性評価、TFT特性評価)を行うためにP型シリコン基板をそれぞれ使用した。
得られたポリシラザン塗膜に対して、乾燥処理を施すことなく、SAMCO-UV300H(紫外光源:低圧水銀ランプ(185nmおよび254nm))を用いて、光源との距離を1cmとし、紫外線を30分間照射し、SiON膜(膜厚:90nm)を得た。照射エネルギーは100J/cm
2であった。紫外線照射雰囲気は、窒素(N
2)雰囲気にて実施した。なお、後述するように、得られたSiON膜に対しては各種評価を実施した。
【0051】
(酸化物半導体層の形成(TFT作製))
上記で得られたSiON膜上に、スパッタ成膜にてIGZO(膜厚20nm)を成膜した。成膜条件は、DC:200W、Ar:97sccm、O
2:4.6sccmとした。得られたIGZO膜に対して、一般的なフォトリソプロセスにてパターニングを行った。具体的には、TSMR8900LBのポジレジストを用いレジストパターンを形成し、ITO06Nでウェットエッチングし、その後アセトンにてレジスト剥離を実施した。
【0052】
(電極パターンの形成(TFT作製))
リフトオフプロセスを用いてレジストパターンを形成した。ポジネガ反転レジスト(AZ5214E)を用い、酸化物半導体層上にリフトオフパターンを形成し、スパッタ(DC:300W、Ar:58.5sccm)にてソース電極およびドレイン電極に該当するAl電極(厚み:100nm)をそれぞれ形成し、その後、アセトン超音波にてレジスト剥離を実施し、チャネル長20μm、チャネル幅100μmの薄膜トランジスタを得た。得られた薄膜トランジスタに対して、200℃にて30分間でポストアニールを実施した。
【0053】
(組成評価)
上述したSiON膜に対して、RBS/HFS/NRA(ラザフォード後方散乱分析/水素前方散乱分析/核反応分析)により組成分析を実施したところ、各元素の組成比は以下の表1の通りだった。また、得られたSiON膜の膜厚方向での組成分布は
図2のようになっており、表面がSiO
2層で形成されており、内部がSiONであることが確認された。
【0054】
【表1】
【0055】
(結合エネルギー評価)
上述したSiON膜に対してXPS測定を実施し、SiON膜表面でのO1s結合エネルギーのピーク値を測定したところ、532.0eVであった。
また、SiON膜表面での酸素の含有量は、63atomic%であった。
【0056】
(FT−IR測定)
上述したSiON膜に対して、Termofisher製Nicoletを用いてFT−IR測定を行い、上述した方法にて、上述した比(I
Si-N/I
Si-O)を算出した。結果を表3に示す。
【0057】
(絶縁特性評価)
SiON膜上にAl電極を作製して、半導体パラメータアナライザーHP4156Cを用いて、5MV/cm印加時のリーク電流密度(A/cm
2)の大きさを測定し、以下の基準に従って、評価した。
「A」:1E
-8A/cm
2未満
「B」:1E
-8A/cm
2以上1E
-7A/cm
2未満
「C」:1E
-7A/cm
2以上
【0058】
(TFT特性評価)
前述のプロセスで作製した薄膜トランジスタを、半導体パラメータアナライザーHP4156Cを用いて、Vds=1V、Vg=−15V〜15Vの範囲でヒステシス(Foward特性とReverse特性)を含む評価を実施した。なお、本実施例1および後述する実施例2並びに比較例1〜3において作製した薄膜トランジスタはすべて良好なOn特性(μ>10cm
2/V.s)を示したが、Vg=−5V時のオフ電流の値、ヒステリシス(ハンプ特性含む)の有無の観点で各々違いが生じた。そこで、オフ特性評価およびヒステリシス評価を以下の基準にて評価した。
(オフ特性評価(Ioff(Vg=−5V))
「A」:Ioff(Vg=−5V)=1E
-12A未満
「B」:Ioff(Vg=−5V)=1E
-12A以上〜1E
-11A未満
「C」:Ioff(Vg=−5V)=1E
-11A以上
(ヒステリシス評価)
「A」:ヒステリシス無、ハンプ無
「B」:ヒステリシス無、ハンプ有
「C」:ヒステリシス有、ハンプ有
更に負のゲートバイアスを印加したストレス信頼性評価を実施した。印加ストレス条件は、Vg=−15V,Vds=0V、1800secとした。ストレス印加後のVthシフトの量を以下の基準に従って評価した。
(ストレス信頼性評価)
「A」:ΔVth<1V
「B」:1V≦ΔVth<5V
「C」:ΔVth≧5V
なお、上記(オフ特性評価(Ioff(Vg=−5V))、(ヒステリシス評価)、(ストレス信頼性評価)においては、実用上「C」でないことが好ましい。
【0059】
<実施例2>
紫外線照射後に、さらにオゾン雰囲気下にて200℃の加熱処理を30分間施した以外は、実施例1と同様の手順に従って、SiON膜および薄膜トランジスタを作製した。
【0060】
(組成評価)
上述したSiON膜に対して、RBS/HFS/NRA(ラザフォード後方散乱分析/水素前方散乱分析/核反応分析)により組成分析を実施したところ、各元素の組成比は以下の表2の通りだった。また、得られたSiON膜の膜厚方向での組成分布は
図3のようになっており、表面がSiO
2層で形成されており、内部がSiONであることが確認された。
【0061】
【表2】
【0062】
(結合エネルギー評価)
上述したSiON膜に対してXPS測定を実施し、上記オゾン処理が施されたSiON膜表面でのO1s結合エネルギーのピーク値を測定したところ、532.5eVであった。
また、上記オゾン処理が施されたSiON膜表面での酸素の含有量は、64atomic%であった。
【0063】
上記(FT−IR測定)、(絶縁特性評価)、(TFT特性評価)の結果は、表3にまとめて示す。
【0064】
<比較例1>
ポリシラザン塗膜を形成した後で紫外線照射を実施する前に、ポリシラザン塗膜を表面に有する基板をホットプレート上にて70℃で30分間乾燥させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、SiON膜および薄膜トランジスタを作製した。なお、該態様は、特許文献1の実施例欄の態様に該当する。
得られたSiON膜または薄膜トランジスタを用いて、上記(FT−IR測定)、(絶縁特性評価)、(TFT特性評価)を実施した。結果は、表3にまとめて示す。
【0065】
<比較例2>
窒素雰囲気下での紫外線照射を、酸素雰囲気下での紫外線照射に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、SiON膜および薄膜トランジスタを作製した。
得られたSiON膜または薄膜トランジスタを用いて、上記(FT−IR測定)、(絶縁特性評価)、(TFT特性評価)を実施した。結果は、表3にまとめて示す。
【0066】
<比較例3>
窒素雰囲気下での紫外線照射を、酸素雰囲気下での加熱処理(500℃、2時間)に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、SiON膜および薄膜トランジスタを作製した。
得られたSiON膜または薄膜トランジスタを用いて、上記(FT−IR測定)、(絶縁特性評価)、(TFT特性評価)を実施した。結果は、表3にまとめて示す。
【0067】
【表3】
【0068】
なお、表3中の「〜0」とは、ほぼ値が0であることを意図する。
【0069】
表1に示すように、所定の比(I
Si-N/I
Si-O)を示すSiON膜においては、所望の効果が得られた。特に、酸化工程が実施された実施例2においては、より優れた効果が得られた。
一方、所定の比(I
Si-N/I
Si-O)を満たさない比較例1〜3においては、絶縁特性およびTFT特性に劣っていた。特に、特許文献1にて具体的に開示されている態様に該当する、乾燥工程を設けた比較例1においては、所望の効果が得られなかった。
【0070】
なお、上述した実施例1の塗膜の厚みを変更して得られるSiON膜の厚みを70nmなるように塗布条件を変更した場合、得られたSiON膜の比(I
Si-N/I
Si-O)は1.39であり、150nmとなるように塗布条件を変更した場合、得られたSiON膜の比(I
Si-N/I
Si-O)は2.14であり、SiONの膜の厚みを210nmとなるように塗布条件を変更した場合、得られるSiON膜の比(I
Si-N/I
Si-O)は2.38であった。これらのSiON膜を使用して上記(絶縁特性評価)および(TFT特性評価)を実施した所、いずれの場合も実施例1と同程度の絶縁特性およびTFT特性が得られた。
【0071】
また、SiON膜の厚みを150nmなるように塗布条件を変更した場合にて得られたSiON膜の断面TEM像を
図4に示す。150nmとなるように塗布条件を設定した場合、表層のSiO
2層が25nmであることが確認された。
【0072】
さらに、基板としてPEN基板(100nm)を使用して、実施例1と同様の手順に従って、SiON膜および薄膜トランジスタを作製したところ、実施例1と同程度の絶縁特性およびTFT特性が得られた。
なかでも、SiON膜の厚みを変更した際、その厚みが150nm未満の場合、基板とSiON膜との積層体の反りの発生がより抑制された。