【解決手段】電力変換回路2は、多相交流電源を入力とし、この多相交流電源の相毎に接続される複数の双方向スイッチを有する。スイッチング制御回路4は、双方向スイッチの状態を制御し、電力変換回路2から負荷側に出力する相間電圧にかかる多相交流電源の2つの相の組み合わせを切り替える。共振回路3は、電力変換回路の出力側に接続している。そして、スイッチング制御回路4は、負荷側に相間電圧を出力する2つの相の組み合わせの切り替え時に、この切り替えにかかる双方向スイッチの状態をソフトスイッチングで行う。
前記共振回路は、その共振周波数を、前記スイッチング制御回路による前記双方向スイッチの状態制御によって前記電力変換回路から負荷側に出力する相間電圧の周波数に応じて定めている、請求項1に記載の電力変換装置。
前記双方向スイッチは、逆並列接続した2つのスイッチング素子を有し、前記コンデンサを前記スイッチング素子のコレクタ−エミッタ間に接続している、請求項3、または4に記載の電力変換装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マトリックスコンバータは、双方向スイッチのオン/オフにかかる切り替えがハードスイッチングで行われることがあった。双方向スイッチは、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等のパワー半導体デバイスで構成されている。双方向スイッチのオン/オフにかかる切り替えがハードスイッチングで行われると、パワー半導体デバイスで生じるスイッチング損失が大きくなり、変換効率を低下させる。また、パワー半導体デバイスにかかるストレスも大きい。
【0006】
また、スイッチング損失が大きいと、負荷側に出力する出力電圧の周波数を高くするにつれて変換効率が低下するので、実用的な範囲での出力電圧の高周波化が困難であった。
【0007】
この発明の目的は、スイッチング損失を抑えて変換効率を向上させるとともに、双方向スイッチにかかるストレスを低減して信頼性を向上させた電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の電力変換装置は、上記目的を達するために、電力変換回路と、スイッチング制御回路と、共振回路と、を備えている。
【0009】
電力変換回路は、多相交流電源を入力とし、この多相交流電源の相毎に接続される複数の双方向スイッチを有する。スイッチング制御回路は、双方向スイッチの状態を制御し、電力変換回路から負荷側に出力する相間電圧にかかる多相交流電源の2つの相の組み合わせを切り替える。共振回路は、電力変換回路の出力側に接続している。
【0010】
そして、スイッチング制御回路は、負荷側に相間電力を出力する2つの相の組み合わせの切り替え時に、この切り替えにかかる双方向スイッチの状態をソフトスイッチングで行う。ソフトスイッチングとは、スイッチの切り替えタイミングで、電流または電圧のいずれかがゼロからゆっくり立ち上がることで電圧電流の時間積分で計算される電力損失を低減するものである。
【0011】
この構成では、共振回路を設けたことで、電力変換回路の出力電圧に対して出力電流の位相が遅れるので、双方向スイッチの状態をゼロ電流シーケンス(ZCS)によるソフトスイッチングで行える。したがって、スイッチング損失を抑えて変換効率を向上させることができるとともに、双方向スイッチにかかるストレスを低減して信頼性を向上させることができる。
【0012】
さらに、電力変換回路の出力電圧の周波数を、共振回路の共振周波数と略同じにすることによって、出力電圧の実用的な範囲での高周波化が行える。すなわち、電力変換回路の出力電圧の周波数に応じて、共振回路の共振周波数を定めればよい。
【0013】
また、コンデンサを双方向スイッチに並列に接続してもよい。このコンデンサが、スナバコンデンサとして機能するので、双方向スイッチの状態をゼロ電圧シーケンス(ZVS)によるソフトスイッチングで行える。したがって、スイッチング損失を抑えて変換効率を向上させることができるとともに、双方向スイッチにかかるストレスを低減して信頼性を向上させることができる。
【0014】
また、双方向スイッチは、逆並列接続した2つのスイッチング素子を有し、コンデンサをスイッチング素子のコレクタ−エミッタ間に接続した構成とし、スイッチング制御回路が、負荷側に相間電力を出力する2つの相の組み合わせの切り替え時に、この切り替えにかかる双方向スイッチが有するスイッチング素子を順番にソフトスイッチングで状態の切り替えを行う。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、スイッチング損失を抑えて変換効率を向上させることができるとともに、双方向スイッチにかかるストレスを低減して信頼性を向上させることができる。
【0016】
スイッチング損失を抑え、変換効率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施形態である電力変換装置について説明する。
【0019】
図1は、この例にかかる電力変換装置の回路構成を示す概略図である。この電力変換装置1は、電力変換回路2と、共振回路3と、スイッチング制御回路4と、を備えている。
【0020】
この電力変換装置1は、三相交流電源を入力とし、単相の交流電圧を出力する。電力変換装置1は、交流から交流に直接変換する。
【0021】
この例にかかる電力変換回路2は、双方向スイッチを6つ備える。入力である三相交流電源の各相には、2つの双方向スイッチが並列に接続されている。双方向スイッチは、逆導通しない構造をもつ2つのスイッチと、2つのダイオードと、1つのコンデンサとで構成している。6つの双方向スイッチは、同じ構成である。
【0022】
この双方向スイッチについて説明する。ここでは、
図1に示すスイッチング素子S1、S2と、ダイオードD1、D2と、コンデンサC1で構成される双方向スイッチを例にして説明する。スイッチング素子S1、S2は、逆導通しない構造をもつ半導体スイッチであり、例えば絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ(IGBT)や、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。この双方向スイッチは、2つのスイッチング素子S1、S2を逆並列接続している。また、スイッチング素子S1、S2のコレクタには、ダイオードD1、D2が順方向に接続されている。さらに、逆並列接続しているスイッチング素子S1、S2のコレクタ−エミッタ間にコンデンサC1を接続している。なお、
図1に示す他の5つの双方向スイッチも同じ回路構成である。コンデンサC1〜C6は、スナバコンデンサとして機能する。
【0023】
この電力変換回路2は、マトリックスコンバータ(MC)である。電力変換回路2は、入力である三相交流電源のいずれか2相の相間電圧を出力する。電力変換回路2が出力する相間電圧にかかる三相交流電源の2相の選択は、スイッチング素子S1〜S12のオン/オフによって行われる。後述するスイッチング制御回路4が、スイッチング素子S1〜S12のオン/オフを制御する。
【0024】
共振回路3は、コンデンサC31と、コイルL31とを直列に接続したLC回路である。この共振回路3は、電力変換回路2の出力に接続している。共振回路3の共振周波数は、電力変換回路2から出力する交流電圧の周波数に応じて定めている。具体的には、共振回路3は、後述するトランス5のリアクタンス成分も含めた共振周波数が、電力変換回路2から出力する交流電圧の周波数と略同じになるように、コンデンサC31、およびコイルL31の大きさを定めている。
【0025】
スイッチング制御回路4は、電力変換回路2が備えるスイッチング素子S1〜S12のオン/オフ状態を個別に制御することにより、電力変換回路2における転流動作を制御する。転流動作とは、公知のように、電流が流れている任意の相から別の相へ電流を切り替える動作である。スイッチング制御回路4は、各スイッチング素子S1〜S12に対して個別に生成したゲート信号を与える。スイッチング制御回路4は、入力である三相交流電源の各相の電圧や、負荷回路10の両端電圧等を入力とし、これらに基づいて各スイッチング素子S1〜S12に対するゲート信号を生成する。スイッチング制御回路4は、電力変換回路2から出力する交流電圧の周波数に応じたスイッチング周波数でスイッチング素子S1〜S12を制御する。
【0026】
電力変換装置1の出力は、トランス5の一次側に接続されている。また、トランス5の二次側には、負荷回路10が接続されている。
【0027】
図2は、入力である三相交流電源の各相の電圧波形を示す図である。各相の電圧波形e
r、e
s、e
tは、位相が2/3π(120°)ずつずれている。スイッチング制御回路4は、各相の電圧の大小関係で分類した6パターンの区間(
図2に示す、A〜Fの区間)毎に、その区間に応じた制御パターンで電力変換回路2の6つの双方向スイッチの状態(スイッチング素子S1〜S12のオン/オフ状態)を制御する。すなわち、スイッチング制御回路4による双方向スイッチの状態の制御パターン(スイッチング素子S1〜S12のオン/オフ状態の制御パターン)は、各相の電圧の大小関係で分類した6パターンの区間毎に異なる。
【0028】
図3は、
図2示す区間Dにおけるスイッチング素子S1〜S12の制御パターンを示す図である。この区間Dは、e
t≧e
r≧e
sの状態である。
図3では、双方向スイッチを構成する2つのスイッチング素子を同じタイミングでオン/オフするものとして図示しているが、実際には、電源短絡を防止し、且つ負荷電流が還流する経路を確保するために、双方向スイッチを構成する2つのスイッチング素子をオン/オフするタイミングは異なっている(詳細については、後述する。)。
図3では、スイッチング素子S1〜S12のオン区間をハッチングで示している。
【0029】
図3に示すように、スイッチング制御回路4は、電力変換回路2から出力される相間電圧が(e
t−e
r)→(e
t−e
s)→(e
r−e
s)→(e
r−e
t)→(e
s−e
t)→(e
s−e
r)→(e
t−e
r)・・・の順に繰り返し変化するように、スイッチング素子S1〜S12のオン/オフの切り替えを繰り返し行う(T1〜T6におけるスイッチング素子S1〜S12のオン/オフの切り替えを繰り返し行う。)。電力変換回路2の出力電圧は、
図3に示すT1〜次のT1までの時間に応じた周波数になる。言い換えれば、スイッチング制御回路4は、電力変換回路2から出力する相間電圧(出力電圧(Vout)の周波数に応じて定まる時間に基づいてT1〜次のT1までの時間(1周期の時間)を定めている。また、T1〜T6の各タイミングは、ある程度の時間幅を有する。
【0030】
T1〜T6は、いずれかの双方向スイッチの状態(スイッチング素子S1〜S12のオン/オフ状態)を変化させるタイミングである。すなわち、T1〜T6は、電力変換回路2から出力する相間電圧の組み合わせを切り替えるタイミングであって、時刻ではない。双方向スイッチの状態を保持する時間(T1−T2間、T2−T3間、T3−T4間、T4−T5間、T5−T6間、T6−T1間)は、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
図3では、これらの時間を一定にして図示している。
【0031】
図4は、
図2示す区間Dにおける電力変換回路の出力電圧の波形を示す図である。この区間Dにおける電力変換回路2の出力電圧である相間電圧は、
【0034】
図5は、電力変換回路の出力電圧と、出力電流との関係を示す図である。上述したように、電力変換回路2の出力には、共振回路3が接続されている。このため、電力変換回路2の出力電流(Iout)の位相は、
図5に示すように電力変換回路2の出力電圧(Vout)に対して、位相角θに相当する時間だけ遅れる。
【0035】
なお、この
図5においては、
図3と異なり、双方向スイッチの状態を保持する時間(T1−T2間、T2−T3間、T3−T4間、T4−T5間、T5−T6間、T6−T1間)は一定ではない。ただし、
図3に示すT1〜T6と、
図5に示すT1〜T6と、は対応している。
【0036】
図6(A)は、電力変換回路の出力側を示し、
図6(B)は、
図6(A)の等価回路を示す。共振回路3は、共振状態で使用するので、特性インピーダンスは、
【0040】
である。そして、共振回路3の減衰係数ζは、
【0043】
共振回路3は、共振周波数f
0を電力変換回路2の出力電圧(Vout)の周波数と略同じにするので、[数3]で示す共振周波数f
0と電力変換回路2の出力電圧(Vout)の周波数とが略同じで、[数4]で示す減衰係数ζが小さくなるように、コイルL31、およびコンデンサC31の値を決めればよい。
【0044】
図5に戻って、電力変換回路2の出力電圧(Vout)に対する、電力変換回路2の出力電流(Iout)の位相遅れθ、および遅れ時間t
delayは、
【0047】
ここで、電力変換回路2の転流にかかるスイッチング制御回路4による双方向スイッチの状態の切り替え動作について説明する。ここでは、
図3、および
図5に示したタイミングT5における双方向スイッチの状態の切り替え動作を例にして説明する。
【0048】
このタイミングT5では、スイッチング素子S1、S2をオン状態からオフ状態に切り替え、スイッチング素子S3、S4をオフ状態からオン状態に切り替える。上述したように、各スイッチング素子S1〜S4の状態を切り替えるタイミングは同じタイミングではない。
【0049】
図7、および
図8は、電力変換回路の転流動作におけるスイッチング素子の状態変化を示す図である。また、
図9は、電力変換回路の転流動作におけるスイッチング素子の状態変化を示すタイムチャートである。スイッチング制御回路4は、以下に示すt1、t2、t3、およびt4の4つのタイミングで、1つずつスイッチング素子S1〜S4の状態を切り替える。
図3や
図5に示したT5のタイミングが、t1〜t4の区間に相当する。
【0050】
図9に示すVcrは、スイッチング素子S1、S2のコレクタ−エミッタ間に接続されたコンデンサC1の両端電圧であり、Vcsは、スイッチング素子S3、S4のコレクタ−エミッタ間に接続されたコンデンサC2の両端電圧である。また、IrはR相を流れる電流であり、Isは、S相を流れる電流である。
【0051】
まず、スイッチング制御回路4は、
図3、および
図5に示したタイミングT5になった直後のタイミングt1において、スイッチング素子S4をオフ状態からオン状態に切り替える。このスイッチング素子S4の状態の切り替え時には、電流がS相を流れていないので(Is=0)、t1におけるスイッチング素子S4の状態の切り替えがゼロ電流シーケンス(ZCS)で行われる。すなわち、t1におけるスイッチング素子S4の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。また、スイッチング素子S4をオン状態にしたことにより、S相を流れる電流Isが増加し、これにともなって、R相を流れる電流Irが減少する。また、このタイミングでコンデンサC2の放電が開始される。
【0052】
次に、スイッチング制御回路4は、タイミングt2において、スイッチング素子S2をオン状態からオフ状態に切り替える。このスイッチング素子S2の状態の切り替え時には、コンデンサC1の両端電圧が0Vであるので、t2におけるスイッチング素子S2の状態の切り替えがゼロ電圧シーケンス(ZVS)で行われる。すなわち、t2におけるスイッチング素子S2の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。また、スイッチング素子S2をオフ状態にしたことにより、R相の電流Irが0になるとともに、コンデンサC1の充電が開始される。
【0053】
スイッチング制御回路4は、タイミングt3において、スイッチング素子S3をオフ状態からオン状態に切り替える。このスイッチング素子S3の状態の切り替え時には、コンデンサC2の両端電圧が0Vであるので、t3におけるスイッチング素子S3の状態の切り替えがゼロ電圧シーケンス(ZVS)で行われる。すなわち、t3におけるスイッチング素子S3の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。
【0054】
なお、コンデンサC1〜C6の容量は、共振回路3の共振周波数、および負荷回路10の負荷の大きさに基づいて、t1〜t3までの間に放電を完了し、t2〜t3までの間に充電を完了する大きさに設定している。実際には、コンデンサC1〜C6の容量は、t2〜t3までの間に充放電を完了する大きさに設定している。
【0055】
スイッチング制御回路4は、タイミングt4において、スイッチング素子S1をオン状態からオフ状態に切り替える。このスイッチング素子S1の状態の切り替え時には、電流がR相を流れていないので(Ir=0)、t4におけるスイッチング素子S4の状態の切り替えがゼロ電流シーケンス(ZCS)で行われる。すなわち、t4におけるスイッチング素子S1の状態の切り替えは、ソフトスイッチングで行われる。
【0056】
このように、電力変換回路2の転流動作にかかるスイッチング素子S1〜S12の状態の切り替えが、全てソフトスイッチングで行われ、ハードスイッチングで行われることがない。また、スイッチング制御回路4は、t1、t2、t3、およびt4の4つのタイミングで、1つずつスイッチング素子S1〜S4の状態を切り替えることによって、電源短絡の防止、および負荷電流の還流経路の確保を行っている。
【0057】
また、
図7〜
図9にかかる説明では、特定のタイミングT5における電力変換回路2の転流動作にかかるスイッチング素子S1〜S12の状態の切り替えを説明したが、他のタイミングT1、T2、T3、T4、T6においても、電力変換回路2の転流動作にかかるスイッチング素子S1〜S12の状態の切り替えが、同様の切り替え手法により、全てソフトスイッチングで行われ、ハードスイッチングで行われることがない。
【0058】
したがって、スイッチング損失を抑え、変換効率を向上させることができる。また、スイッチング素子S1〜S12にかかるストレスを低減することができるので、信頼性の向上が図れる。
【0059】
また、上記の説明では、電力変換回路2の出力を単相の交流電圧としたが、多相の交流電圧にしてもよい。例えば、出力をU、V、Wの三相の交流電源にする場合、電力変換回路2に、入力電源である三相交流電源の各相R、S、Tに接続する双方向スイッチを3つ追加し(電力変換回路2は、合計で9個の双方向スイッチを備える。)、位相を2/3π(120°)ずつずらした、相間電圧をU、V、Wの三相として出力すればよい。この場合、共振回路3は、U、V、Wの各相に設ける。