(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-151362(P2015-151362A)
(43)【公開日】2015年8月24日
(54)【発明の名称】変形性関節症改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/48 20060101AFI20150728BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20150728BHJP
【FI】
A61K35/78 J
A61P19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-26063(P2014-26063)
(22)【出願日】2014年2月14日
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 裕和
(72)【発明者】
【氏名】野村 義宏
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB60
4C088AC05
4C088AC11
4C088AC13
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA12
4C088CA23
4C088NA14
4C088ZA96
(57)【要約】
【課題】効果が高く、安全な変形性関節症改善剤を提供することを目的とする。
【解決手段】甘草の中性乃至アルカリ性水抽出液を酸処理することにより生成した沈殿物を、エタノール処理した後のエタノール不溶部を有効成分として含有する変形性関節症改善剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘草の中性乃至アルカリ性水抽出液を酸処理することにより生成した沈殿物を、エタノール処理した後のエタノール不溶部を有効成分として含有する変形性関節症改善剤。
【請求項2】
変形性膝関節症改善剤である請求項1記載の変形性関節症改善剤。
【請求項3】
エタノール不溶部中のタンパク質含有量が、5〜50質量%(固形分)である請求項1又は2記載の変形性関節症改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の甘草抽出物を有効成分として含有する変形性関節症改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症は、筋力低下、加齢、肥満等をきっかけとして起きる症状であり、特に、変形性膝関節症(osteoarthritis of knee:膝OA)は、膝関節の機能が低下して、骨や半月板のかみ合わせが緩んだり、変形や断裂を起こし、多くが炎症による痛みを伴う病気である。40歳以上の男女の6割が罹患しているというデータもあり、患者数は約700万人にのぼる関節疾患の中で最も頻繁に見られる疾患の一つであるといえる。
【0003】
変形性関節症は、健康寿命を短くする要因となっているが、その細胞・分子メカニズムはほとんど解明されていない。その治療法は、対症療法に留まるものであり、NSAIDsやステロイド等の消炎鎮痛剤の投与、ヒアルロン酸やグルコサミン、コンドロイチン硫酸等の軟骨基質成分の補充等がされている。しかしながら、これらの方法よりも効果が高く、安全な変形性関節症改善剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本臨床栄養学会雑誌,20(1),41−47(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、効果が高く、安全な変形性関節症改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の甘草抽出物、つまり、甘草の中性乃至アルカリ性水抽出液を酸処理することにより生成した沈殿物を、エタノール処理した後のエタノール不溶部が、変形性関節症に対して顕著な改善効果を有することを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は、甘草の中性乃至アルカリ性水抽出液を酸処理することにより生成した沈殿物を、エタノール処理した後のエタノール不溶部を有効成分として含有する変形性関節症改善剤を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、効果が高く、安全な変形性関節症改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】試験例のMankin法の結果を示すグラフである。
【
図2】試験例のOARSI法の結果を示すグラフである。
【
図3】試験例のCOMPの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の変形性関節症改善剤の原料となる甘草は、マメ科グリチルリイザ(Glycyrrihiza)属に属する植物で、例えば、グリチルリイザ グラブラ(G.glabra)、グリチルリイザ ウラレンシス(G.uralensis)、グリチルリイザ インフラータ(G.inflata)等が使用可能であるが、グリチルリイザ グラブラ(G.glabra)及びグリチルリイザ インフラータ(G.inflata)を使用することが好ましい。また、使用部位は根、根茎、葉、茎のいずれの部位でも原料として使用することができるが、根及び/又は根茎を原料として使用することが好ましい。また、これらは生のものを使用しても乾燥させたものを使用してもよいが、工業的に製造されているグリチルリチンの抽出原料となっている乾燥根及び乾燥根茎を、原料として使用することもできる。なお、甘草は生産地の名前を冠して呼ばれることが多く、例えば、東北甘草、西北甘草、新疆甘草、モンゴル産甘草、ロシア産甘草、アフガニスタン産甘草などを挙げることができる。
【0011】
抽出液を得るための抽出条件としては、上記の甘草に対し中性及至アルカリ性下で水抽出するが、通常、水抽出液のpHは6〜14、さらに9〜11が好ましく、抽出温度は、冷水、温水及び熱水いずれでもよいが、5〜100℃、さらに50〜100℃が好ましい。pHの調整には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。抽出時間は抽出温度によって異なるが、通常1〜72時間であり、特に2〜24時間が好ましい。
【0012】
次に、上記抽出液を酸処理することにより得られる沈殿物をエタノール処理し、エタノール不溶部を得る。酸処理は、硫酸、塩酸、硝酸等の酸性溶液にて、pH1.5〜4.0の酸性で析出処理を行い、グリチルリチン酸等を沈殿させる。濾過により沈殿物と濾液に分ける。得られた沈殿物100質量部に対して2〜10倍量のエタノールを加えて抽出後、濾過によりエタノール不溶部を得る。エタノール可溶部にはグリチルリチン酸等が含まれる。濾過は、濾紙や濾布等を用いることができ、濾過助剤にケイソウ土や二酸化ケイ素、酸性白土、カオリン、ベントナイト、タルク、砂等が挙げられる。
【0013】
このようにして得られたエタノール不溶部は、そのまま使用することもでき、さらに、常法により乾燥させることにより、褐色の粉末又は固形物として用いることもできる。本発明のエタノール不溶部のタンパク質含有量は、5〜50質量%(固形分)が好ましく、20〜40質量%(固形分)がより好ましい。本発明のエタノール不溶部のタンパク質含量は、従来の甘草抽出物と比較して2〜100倍程度であり、高含量である。また、上述したように、グリチルリチン酸はエタノール可溶部に含まれるため、エタノール不溶部中にグリチルリチン酸は0.5〜5.0質量%(固形分)であり、1.0〜3.0質量%(固形分)の範囲、さらに、0質量%とすることもできる。
【0014】
本発明の変形性関節症改善剤は、上記エタノール不溶部を有効成分として含有するものである。そのエタノール不溶部の投与量(固形分として)は、成人一人あたり一日0.01g〜1gが好ましく、0.03〜0.3gがより好ましい。
【0015】
投与方法としては、注射剤、軟膏、ローション剤、クリーム剤、湿布剤、貼付剤等の外用剤等の非経口剤等、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等の経口剤等が挙げられるが、経口剤が好ましい。経口剤とする場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤等の賦形剤、滑沢剤、香料、矯味剤(甘味料、酸味料等)等を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の変形性関節症改善剤は、特に、変形性膝関節症に有効であり、医薬品、医薬部外品、機能性食品等に適宜用いることができる。また、エタノール不溶部を有効成分として含有する変形性関節症治療剤、変形性膝関節症治療剤とすることもできる。
【実施例】
【0017】
以下、調製例、試験例及び配合例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%、比率は質量比を示す。
【0018】
[調製例1]
下記方法で甘草抽出物を得た。
甘草(グリチルリイザ グラブラ:Glycyrrhiza glabra)の根茎を粉砕し、チップ状にした。この甘草チップ1.0kgを10Lの3%アンモニア水(pH10)で一晩抽出した後、固液分離した。得られた抽出液に対し、1%硫酸溶液により酸性析出処理を行い、グリチルリチン酸等を沈殿させ、濾過により沈殿物及び抽出濾液に分けた。この内、沈殿物にエタノール1Lを加え、常温で1時間攪拌し、濾過を行った。ろ物を回収し乾燥させることで、20gの褐色抽出物粉末であるエタノール不溶部(甘草抽出物)を得た。このエタノール不溶部(甘草抽出物)のタンパク質含量は35%であった。得られたエタノール不溶部(甘草抽出物)について、変形性関節症動物モデルであるSTR/ortマウスを用いて、変形性関節症の評価に用いられるMankin法及びOARSI法、関節軟骨分解マーカーであるCOMPを用いて、下記試験を行った。
【0019】
[試験例1]
<マウス群>
(1)(−)control群:変形性関節症非発症群(n=9)
ノーマルマウス(雌マウス)
(2)(+)control群:変形性関節症発症群(n=9)
変形性関節症動物モデルであるSTR/ortマウス(雄マウス)
(3)エタノール不溶部(甘草抽出物):変形性関節症発症群(n=7)
変形性関節症動物モデルであるSTR/ortマウス(雄マウス)
<サンプル投与量>
(1)(−)control群:サンプル無投与
(2)(+)control群:サンプル無投与
(3)エタノール不溶部(甘草抽出物)群:23mg/kg(体重),
サンプル投与は胃ゾンデにより、毎日1ヵ月間行なう。投与開始週齢(31〜34週齢)に達した個体から投与を順次開始した。投与開始から1ヵ月後、解剖を行う。解剖時の週齢が揃うように解剖を行なった。
【0020】
<評価>
[病理切片]
投与開始から一カ月後に解剖を行い、マウスの血液、尿、両後肢を採取した。病理用左脚は大腿骨骨端から脛骨骨端を採取し、マイルドホルムにて固定する。その後、パラフィン固定切片を作製する。切片はヘマトキシリン・エオシン染色、サフラニン−O染色で染色し、病理切片における関節軟骨の組織学的変性度について、Mankin法及びOARSI法で評価し、スコア化した。
[血清]
血清中の関節軟骨分解マーカーであるCOMPの測定を行った。血清は解剖時に採血した物を、−4℃で24時間静置した後、回収した。回収した血清は−80℃で保存し、分析に用いた。COMPの分析はELISA Kit(96well)Animal COMP ELISA(AMM社)のものを用いた。結果を
図1〜3に示す。
【0021】
Mankin score、OARSI scoreを評価した結果、エタノール不溶部(甘草抽出物)投与群は、変形性関節症状を改善することが示された。また、血中COMP濃度分析により、エタノール不溶部(甘草抽出物)投与群におけるCOMP濃度の低下傾向が確認された。このことより、軟骨の分解が抑えられていることが示唆された。
【0022】
上記エタノール不溶部(甘草抽出物)を用いて、下記製剤を製造した。
[配合例1]
常法により、以下の組成を有する錠剤を製造した。
エタノール不溶部(甘草抽出物) 50.0mg
ヒアルロン酸 50.0mg
マルチトール 185.0mg
ショ糖脂肪酸エステル 15.0mg
合計 300.0mg
【0023】
[配合例2]
常法により、以下の組成を有する錠剤を製造した。
エタノール不溶部(甘草抽出物) 10.0mg
グルコサミン 200.0mg
デキストリン 125.0mg
ショ糖脂肪酸エステル 15.0mg
合計 350.0mg
【0024】
[配合例3]
常法により、以下の組成を有するカプセル剤を製造した。なお、カプセルとしては、1
号ハードゼラチンカプセルを使用した。
<1カプセル(1錠200mg)中の組成>
エタノール不溶部(甘草抽出物) 30.0mg
コーンスターチ 70.0mg
乳糖 80.0mg
乳酸カルシウム 10.0mg
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L) 10.0mg
合計 200.0mg
【0025】
[配合例4]
常法により、以下の組成を有する経口液状製剤を製造した。
<1アンプル(1本100mL)中の組成>
エタノール不溶部(甘草抽出物) 0.1質量%
果糖ぶどう糖液糖 12.0質量%
トレハロース 3.0質量%
香料 0.5質量%
ステビア抽出物 0.1質量%
ビタミンC 0.1質量%
安息香酸ナトリウム 0.1質量%
精製水 残部
合計 100.0質量%