【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]:GPS:Ce2.5%の作製と評価
下記一般式(1)において、A=Gd、B=Ce、及びx=0.025の組成、すなわち(Gd
0.975Ce
0.025)
2Si
2O
7の組成の単結晶を得ることを目標に、以下の方法により単結晶を作製した。
(A
1−xB
x)
2Si
2O
7 (1)
【0045】
具体的には、酸化ガドリニウム(Gd
2O
3、純度4N)、酸化ケイ素(SiO
2、純度5N)、及び酸化セリウム(CeO
2、純度4N)の原料粉末を湿式混合し、乾燥機中で乾燥させ、約350gの混合粉末を得た。アパタイト相の晶出を防ぐため、SiO
2は上記量論組成より1.3mol%過剰とした。混合粉末をラバーチューブ内に封入し、静水圧プレス(1000kg/cm
3)を用いてφ50×50mmのIr製るつぼに収まる形に成形した。成形した混合粉末を大気雰囲気中1650℃で6時間焼結した後、Ir製るつぼ内にいれ、高周波加熱型のチョクラルスキー炉TA−0261(株式会社テクノサーチ製、製品名)内に設置した。種結晶には、別途引き上げ法で作製したGPS:Ceの単結晶部分を用いた。原料を約1750℃に加熱して融液とし、種結晶を融液につけ、回転しながら引き上げた。
【0046】
引き上げ速度と種結晶回転速度はそれぞれ0.3〜0.5mm/h、20〜50rpmの条件とし、概ね窒素雰囲気中で単結晶作製を行った。その他の諸条件に関しては、数多くの単結晶育成実験を繰り返す中で最適化を図った。
【0047】
図2は、実施例1にて得られた単結晶の外観写真である。得られた単結晶の大部分は、従来課題であったクラック及び白濁のない無色透明な良質な単結晶であり、その良質部分の寸法は約φ23.5mm×50mmであった。
【0048】
[結晶構造の同定]
得られた単結晶の一部を粉砕し、粉末X線回折法を用いて結晶構造を同定した。X線回折装置としてはJDX−3500(日本電子株式会社製、製品名)を用い、回折パターンを結晶構造データベース(Joint Committee on Powder Diffraction Standards,JCPDS)と比較することで構造同定を行った。
図3は、実施例1〜3にて得られた単結晶のXRD回折パターンを示す図である。なお、同図中、実施例1は「x=0.025」と付記されたパターン、実施例2は「x=0.010」と付記されたパターン、実施例3は「x=0.10」と付記されたパターンを示した。同定の結果、実施例1にて得られた単結晶は斜方晶(空間群Pna21)構造であることが分かった。
【0049】
[発光特性評価]
シンチレータとしての発光特性評価のため、得られた単結晶から5mm×5mm×5mm程度の単結晶試料を切り出し、全面に機械研磨を施した。単結晶に黄色い着色が見られたため管状炉を用いて窒素雰囲気中1200℃で12時間のアニールを行った。
図4は、実施例1にて得られた単結晶試料のアニール後の外観写真である。
図4から、本試料は多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であることがわかる。以下、得られた本試料を「試料GPS:Ce2.5%」と呼ぶ。
【0050】
試料GPS:Ce2.5%のシンチレータ特性の評価を目的に、
137Csからの662keVのγ線に対するパルス波高スペクトル測定を行った。光検出器にはフォトマルH7195(浜松ホトニクス株式会社製、製品名)を用い、印加電圧は−1800Vとした。
図5は、アニール前後の試料GPS:Ce2.5%のパルス波高スペクトルを示す図である。
図5には、比較のために同時に測定したNaI:Tl単結晶(応用光研工業株式会社製、寸法φ1インチ×1インチ、パイレックス窓(パイレックスは登録商標))の結果も示されている。なお、光電子増倍管からの信号を直接オシロスコープで記録し、積分することにより発光量を求めると、アニール前の発光量は435ch、エネルギー分解能は7.9%であり、アニール後の発光量は633ch、エネルギー分解能は6.3%であり、いずれも優れた結果が得られた。また、アニール後の試料GPS:Ce2.5%はNaI:Tl単結晶に対して1.6倍の発光量を示した。
【0051】
図5の波高スペクトルからわかるように、試料GPS:Ce2.5%は光電ピークの高さがコンプトンピークの高さより十分低く、また光電ピークとコンプトンピークとの間の谷がゼロチャンネルに近い。この結果は、本試料GPS:Ce2.5%が放射線吸収能に優れる実用的なシンチレータであることを示している。本試料の寸法が5×5×5mm程度という実用的な寸法であることも、実用的なシンチレータとなり得る理由のひとつである。
【0052】
試料GPS:Ce2.5%の発光量の温度依存性を測定した。
図6は、単結晶シンチレータの発光量の温度依存性を測定するための装置の模式図である。
図6に示すように、同装置は、シンチレータ(単結晶試料)20を載置するためのアルミブロック21、アルミブロック21の温度を測定するための熱電対22、ヒーター(室温〜300℃まで可変)23を備える銅ブロック24、
137Cs線源25及びこれらを覆う真空チャンバー50と、測定系(アンプ:Ortec460、ストレッチャー:Ortec542、MCA:WE7562(Yokogawa))に接続された光電子増倍管60(H7195)と、これらを接続する石英ライトガイド55とを備えている。
【0053】
測定に当たっては、まず、試料GPS:Ce2.5%(単結晶試料)を、
図6に示すようにアルミブロック上に載置した後、ロータリーポンプ及びターボ分子ポンプで真空チャンバーを真空排気した。シンチレータは、銅ブロック及びアルミニウムブロックを通じてヒーターと熱的に接合されており、真空チャンバー及び石英ライトガイドとは真空断熱されている。PID制御されたヒーターにより25℃刻みで昇温を行い、室温(25℃)〜300℃の範囲で、
137Cs線源からの662keVのγ線に対する発光量の測定を行った。
【0054】
図7は、実施例及び比較例にて得られた単結晶シンチレータと、比較試料であるGSO単結晶シンチレータ(日立化成株式会社製、試料GSO:Ce1.0%)の発光量の温度依存性を示す図である。縦軸は、試料GPS:Ce1.0%の25℃における発光量を100としたときの相対値である。なお、各シンチレータの減衰時間は50〜100ns程度であり、ディレイラインアンプの積分時定数を250nsとしたことから、全吸収ピークのチャンネルに相当する。
【0055】
図7からわかるように、試料GPS:Ce2.5%の発光量は、室温から300℃の温度範囲全般においてGSO単結晶シンチレータよりも高く、優れたシンチレータ特性を示した。比較試料のGSO単結晶シンチレータは、温度が上がるに従って発光量が減少し、例えば室温と比べて150℃で25%以上発光量が減少した。これに対して、試料GPS:Ce2.5%の発光量は、150℃でも室温に対して減少することなく、200℃までは発光量が増加した。結果として、50℃〜250℃の温度範囲で室温より高い発光量を示した。また、試料GPS:Ce2.5%は、300℃においても室温比74%の発光量を達成した。
【0056】
[透過率測定]
得られた単結晶から、厚みが10mmとなるように評価サンプル(単結晶試料)を切り出し、両面を鏡面研磨して透過率を測定した。透過率の測定には、真空紫外分光測定システムである極紫外分光システム KV−201(分光計器株式会社製、製品名)を用いた。
【0057】
図8は、実施例1にて得られた単結晶試料の透過率を示す図である。
図8からわかるように、得られたGPS:Ce単結晶(厚み10mm)の透過率は、波長350nm付近に吸収端があり、波長400nmの光に対して約56%の透過率を示した。
【0058】
[実施例2]:GPS:Ce1.0%の作製と評価
上記一般式(1)において、A=Gd、B=Ce、及びx=0.01の組成、すなわち(Gd
0.99Ce
0.01)
2Si
2O
7の組成の単結晶を得ることを目標に、実施例1と同様の方法により単結晶を作製した。単結晶作製条件の詳細に関しては、実施例1の最適化された条件を基本とし、本組成に適した若干の変更を加えた。その結果、良質な単結晶が得られた。
【0059】
得られた単結晶の一部を粉砕し、粉末X線回折法を用いて結晶構造を同定したところ、単結晶は斜方晶(空間群Pna21)構造であることが分かった(
図2参照)。
【0060】
実施例1と同様に、得られた単結晶から単結晶試料を切り出し、アニールを行った。得られた単結晶試料は、実施例1と同様に多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であった。以下得られた本試料を「試料GPS:Ce1.0%」と呼ぶ。
【0061】
試料GPS:Ce1.0%の発光量の温度依存性を、実施例1と同様の方法で測定した。
図7からわかるように、試料GPS:Ce1.0%の発光量は、室温から300℃の温度範囲全般においてGSO単結晶シンチレータよりも高く、優れたシンチレータ特性を示した。また、試料GPS:Ce1.0%の発光量は、150℃でも室温に対して減少することなく、200℃までは発光量が増加した。結果として、50℃〜250℃の温度範囲で室温より高い発光量を示した。
【0062】
[実施例3]:GPS:Ce10%の作製と評価
上記一般式(1)において、A=Gd、B=Ce、及びx=0.1の組成、すなわち(Gd
0.9Ce
0.1)
2Si
2O
7の組成の単結晶を得ることを目標に、実施例1と同様の方法により単結晶を作製した。単結晶作製条件の詳細に関しては、実施例1の最適化された条件を基本とし、本組成に適した若干の変更を加えた。その結果、良質な単結晶が得られた。
【0063】
得られた単結晶の一部を粉砕し、粉末X線回折法を用いて結晶構造を同定したところ、単結晶は三斜晶(空間群P1)構造であることが分かった(
図2参照)。
【0064】
実施例1と同様に、得られた単結晶から単結晶試料を切り出し、アニールを行った。得られた単結晶試料は、実施例1と同様に多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であった。以下得られた本試料を「試料GPS:Ce10%」と呼ぶ。
【0065】
試料GPS:Ce10%の発光量の温度依存性を実施例1と同様の方法で測定した。
図7からわかるように、試料GPS:Ce10%の発光量は、室温から300℃の温度範囲全般においてGSO単結晶シンチレータよりも高く、優れたシンチレータ特性を示した。また、試料GPS:Ce10%の発光量は、150℃でも室温に対して減少することなく増加した。結果として、50℃〜200℃の温度範囲で室温より高い発光量を示した。
【0066】
[実施例4]:YPS:Ce2.0%の作製と評価
上記一般式(1)において、A=Y、B=Ce、及びx=0.02の組成、すなわち(Y
0.98Ce
0.02)
2Si
2O
7の組成の単結晶を得ることを目標に、実施例1と同様の方法により単結晶を作製した。単結晶作製条件の詳細に関しては、実施例1の最適化された条件を基本とし、本組成に適した若干の変更を加えた。その結果、良質な単結晶が得られた。
【0067】
実施例1と同様に、得られた単結晶から単結晶試料を切り出し、アニールを行った。得られた単結晶試料は、実施例1と同様に多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であった。以下得られた本試料を「試料YPS:Ce2.0%」と呼ぶ。
【0068】
試料YPS:Ce2.0%の発光量の温度依存性を、実施例1と同様の方法で測定した。
図7からわかるように、試料YPS:Ce2.0%の発光量は、室温から300℃の温度範囲全般においてGSO単結晶シンチレータよりも高く、優れたシンチレータ特性を示した。また、試料YPS:Ce2.0%の発光量は、150℃でも室温に対して減少することなく、250℃までは発光量が増加した。結果として、50℃〜300℃の温度範囲で室温より高い発光量を示した。
【0069】
[実施例5]:GPS−La10%:Ce2.0%の作製と評価
上記一般式(1)において、A=Gd
0.88La
0.1、B=Ce、及びx=0.02の組成、すなわち(Gd
0.88La
0.1Ce
0.02)
2Si
2O
7の組成の単結晶を得ることを目標に、実施例1と同様の方法により単結晶を作製した。単結晶作製条件の詳細に関しては、実施例1の最適化された条件を基本とし、本組成に適した若干の変更を加えた。
【0070】
実施例1と同様に、得られた単結晶から単結晶試料を切り出し、アニールを行った。得られた単結晶試料は、実施例1と同様に多結晶部分、小さな粒界、クラック等の見られない、ほぼ無色透明な良質な単結晶であった。以下得られた本試料を「試料GPS−La10%:Ce2.0%」と呼ぶ。
【0071】
試料GPS−La10%:Ce2.0%の発光量の温度依存性を実施例1と同様の方法で測定した。
図7からわかるように、試料GPS−La10%:Ce2.0%の発光量は、室温から300℃の温度範囲全般においてGSO単結晶シンチレータよりも高く、優れたシンチレータ特性を示した。また、試料GPS−La10%:Ce2.0%の発光量は、150℃までは室温とほぼ同等であった。
【0072】
上記実施例1〜5は、いずれも一般式(1)で表される組成においてBとしてCeを選んだ場合の実施例であるが、BとしてCe以外の希土類元素を選んだ場合(ただし、Y、La及びGdを除く)も、室温から高温環境にかけて高精度の放射検出が期待できる。
【0073】
以上の結果から、本実施例で得られた単結晶は、従来(例えばGSO単結晶)に比べて発光量が高く、放射線検出用途として実用的な寸法の単結晶であった。これを備える放射線検出器によれば、従来の放射線検出器では不可能であった、室温から高温環境にかけて高精度の放射検出が可能となる。
【0074】
[比較例1]
上記一般式(1)において、A=Gd、B=Ce、及びx=0.025の組成、すなわち(Gd
0.975Ce
0.025)
2Si
2O
7の組成の単結晶を得ることを目標に、以下の従来技術で単結晶を作製した。
【0075】
具体的には、酸化ガドリニウム(Gd
2O
3、純度4N)、酸化ケイ素(SiO
2、純度5N)、及び酸化セリウム(CeO
2、純度4N)の原料粉末を湿式混合し、乾燥機中で乾燥させ、約350gの混合粉末を得た。アパタイト相の晶出を防ぐため、SiO
2は上記量論組成より1.3mol%過剰とした。混合粉末をラバーチューブ内に封入し、静水圧プレス(1000kg/cm
3)を用いてφ50×50mmのIr製るつぼに収まる形に成形した。成形した混合粉末を大気雰囲気中1650℃で6時間焼結した後、Ir製るつぼ内にいれ、高周波加熱型のチョクラルスキー炉TA−0261内に設置した。種結晶には、別途引き上げ法で作製したGPS:Ceの単結晶部分を用いた。原料を約1750℃に加熱して融液とし、種結晶を融液につけ、回転しながら引き上げた。
【0076】
引き上げ速度と種結晶回転速度はそれぞれ0.3〜0.5mm/h、15〜20rpmの条件とし、概ね窒素雰囲気中で単結晶作製を行った。その他の諸条件に関しては、数多くの単結晶作製実験を繰り返す中で最適化を図った。
【0077】
図9は、比較例1にて得られた単結晶の外観写真である。得られた単結晶の大部分は白濁しており、かつクラックが多かった。この単結晶から厚み10mmのサンプルを切り出し、両面を鏡面研磨して実施例1と同様にして透過率を測定した。
図10は、比較例1にて得られた単結晶試料の透過率を示す図である。
図10からわかるように、従来技術に相当するGPS:Ce単結晶(厚み10mm)の透過率は、波長365nm付近に吸収端があり、波長400nmの光に対してはわずか約4%の透過率しか示さなかった。